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懐中時計と未来を刻む音

#キマイラフューチャー #戦後 #【Q】

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#キマイラフューチャー
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#戦後
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#【Q】


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●機械仕掛けの心臓
 大小様々な歯車。小さな分針。金無垢のゼンマイ。
 懐中時計とは、その部品一つ一つが職人の緻密な技術によって作り上げられる、芸術の域にまで高められた技術の結晶だ。
 狂いの無い神業によってこの世に生み出される、機械仕掛けの心臓。
 懐中時計がこの世に生み出されて幾星霜。長きに渡る歴史を経て、懐中時計の種類もすっかり多彩になったけれど。
 種類やデザインが異なっても、共通点が一つだけ。
 それは、きっかり60秒で一周する機械仕掛けの心臓を持っていること。
 その機械仕掛けの心臓の音を、本物の心音のように狂ったり、跳ねたりしないのを浪漫とするか、機械的だと判断するかは――貴方次第。

●プレゼントの意味を調べたのなら
「ねぇねぇ、知っているかしら? 『懐中時計』を贈り物に贈る意味って。
『あなたと同じ時を歩みたい』ですって! とってもとってもロマンチックじゃない!」
 ゆらりと揺らぐ周囲の景色。グリモアベースが映し出す光景は、次々にその色を変えて。
 そんな、不安定な始まりの世界に突如として生まれ落ちた高音の津波は、瞬く間にグリモアベース全域に広がらんとする程だった。
 突然発生した大声に何事かと視線を向ければ、その小さな身体に見合わぬ声の大きさで、雑誌片手にきゃっきゃっとはしゃいでいる妖精が約一匹。
 恋に恋する妖精、ハーモニア・ミルクティー(太陽に向かって・f12114)だ。
「ほらほら、そろそろクリスマスシーズンじゃない? この『友人に! 恋人に! 最適なプレゼント特集!』によるとね?
 贈り物にも、意味があって……。腕時計や懐中時計は、『同じ時を歩みたい』って意味になるんですって!」
 ハロウィンさえも追い越して。妖精の視線の先にはきっと、白雪の降り積もったモミの木とプレゼントの山脈が見え隠れしているに違いない。
 彼女の言う「そろそろ」は、だいたいが何か月も先の話で。
 でも、何か月も先の話だと楽観的に構えていると、その「何か月」があっという間に迫ったりもして。
「それでね? タイミングの良いことに、キマイラフューチャーで『時計博覧会』が開催されるらしいの!
 ちょうど良い機会だし、あなたたちさえ良ければ皆で行ってみない?」
 本音を入ってしまえばきっと、自分が楽しみたいだけ。
 せっかくならば、皆を巻き込んでしまえばもっと楽しいだろうから。
 そんな軽いノリで、ハーモニアは猟兵たちへと誘いをかける。
「でも、贈り物の意味まで考えないといけないって、窮屈な世の中になったのね……。
 贈り物の意味なんて、だれが考えたのかしら?
 でもでも! 本当に大切なのは、意味なんかじゃ無くて相手を想う気持ちよね?
 まあ、贈り物の意味を真っ向から真剣に受け止める怪人さんなんて、現れないでしょうし――現れないわよね?――楽しんできてちょうだい!」
 思い付きと善は急げ。
 博覧会の案内パンフレットは現地に着けば貰えるからと、ニッコリ微笑んだハーモニアは転送を開始させた。
 今日は絶好のキマイラフューチャー日和。
 戦争の打ち上げとして、日常の延長として。少しくらい遊びやイベントを楽しんだって、誰も咎めやしないだろうから。


夜行薫

 お世話になっております。夜行薫です。
 万年筆と懐中時計はスケルトンモデルが好きです。何度目かの趣味極振りシナリオとなっております。
 今回は、キマフュでのお出かけ(&怪人討伐)シナリオです。
 キーワードは「懐中時計」や「時計」
 1章だけのご参加も大歓迎です。軽いノリでどうぞ。

●受付・進行について
 全章通して断章追加いたします。
 プレイング受付期間は、タグとMSページにてお知らせします。
 なるべく全員採用を目指したいところですが、キャパオーバーでプレイングをお返しすることになってしまったら申し訳ございません。
 ※オーバーロードは、需要があれば。

●『古今東西時計博覧会』
 全章通しての物語の舞台となっております。
 懐中時計が主な様ですが、置時計や腕時計も揃っています。
 砂時計から、デジタルでハイテク、近未来的な時計まで。世界がキマイラフューチャーですので、だいたいの時計はなんやかんやであるでしょう。

●第1章:日常『未来は夢いっぱい』
 お好きなように時計博覧会をお楽しみください。
 古いのも近未来的なのも、だいたいは揃っています。
 各種時計の販売、変わり種の展示、時計の歴史解説等色々なブースがあるようです。
 (腕時計・懐中時計は、オリジナルの刻印・名入れも受け付けているようです)

●第2章:ボス戦『リア充どもは爆発しろ怪人』
 贈り物の意味を妄信した怪人との戦闘です。詳細は2章断章にて。
 「時計選びにきたヤツ全員リア充だろ!? 爆発しろ!!」なムーブなのは確実です。
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第1章 日常 『未来は夢いっぱい』

POW   :    体力の続く限りはしゃぐ

SPD   :    うまくペース配分して楽しむ

WIZ   :    技術を学ぶつもりでじっくり観光

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●未来へと刻む
 ウサギ穴を彷彿させるぐるりと大きな円形の出入り口を潜れば、そこには時計の国が広がっていた。
 あちらこちらからカッチコッチとまるでオーケストラのように聞こえてくるのは、秒針が刻を刻む音で。
 頭上を見上げれば、キマイラフューチャー最先端の技術を惜しみなく費やした巨大なホログラムの時計が――時間で移り変わる景色と一緒に、現在時刻をデジタル式で表示している。
時にはひらりと花弁が舞い落ちたり、時には水が降り注いだり。木の葉が舞うことがあれば、雪が降ることだって。
 どうやら、頭上の巨大時計と同じ技術が使われているらしい。一定時間が経過する事に周囲に立体映像を振りまく置時計の周囲には、賑やかな人だかりが出来ていた。
 キマイラフューチャーの技術を時計に組み込んだ最先端な一角は、実に個性的なラインナップだろう。

 一方で、古くからの王道である懐中時計の面々も負けてはいない。
 銀無垢に金無垢や真鍮。一つ一つが手作りだというそれらは、芸術品もかくやの出来栄えだ。
 複雑な彫刻が蓋になされたデザイン性の高いものに、歯車の動きが透けて見えるスケルトンモデルにはずっと見ていたくなるような、不思議な魅力を放っている。
 時刻を気にする度に、蓋を開く手間とはさようなら。蓋無しのオープンフェイスは、実用性だって持っているから。
 せっかく蓋があるのに刻印がなくて、随分シンプル? 蓋の面に自由なデザインで刻印や名入れをお願いすれば、一瞬で世界に一つだけの懐中時計が生み出されるとか。
 古くからの歴史に、キマイラフューチャーの技術をちょっとだけ。どういう原理か、小さな文字盤のなかで大きく揺れ動くのは、海中や星空の姿。
 背景に自由に映り変わる海や宇宙を宿した彼らは、技術と歴史が出逢って生み出されたハイブリッドだった。懐中時計改め――『海中時計』と『懐宙時計』なんだとか。青空や深海などなど、種類も豊富に。
 並べられたそれら全てが唯一無二。あなたはどの子を選び出す?

 腕時計や置時計と行った定番商品は、色も種類も実に様々。
 一生のパートナーとして共に歩める高級品に。インテリアとして最適なお洒落な品まで。
 ありとあらゆる時計が揃っている。

 時計のなかに、ナイフだったり銃だったりを隠し込んだり。ピッキング道具にその他諸々、ギミック付きは男のロマン!
 ――でも。色々と搭載し過ぎた結果、造り手本人が何処をどうすれば何が発動するのか、分からなくなってしまったらしい。
 そんな訳アリの変わり種腕時計は、「どのスイッチがどのギミックを発動させるのか、全くの不明です!!」と何とも正直なポップと共に、大幅に値下げされていた。
 ノリや思い付きで作られた変わり種各種、複雑なからくり時計や砂時計、日時計といった種類もこの一角に。

 時計販売の他にも、時計の歴史の解説だったり、職人さんの技術がぎゅっと込められた作品が展示されていたり。
 今ばかりは刻を忘れて、時計の国を楽しもう。
花澤・まゆ
◆■
懐中時計って浪漫だよね
ぱかりと蓋を開けて、中が見えるスケルトンタイプ
時計の針だけじゃなく歯車が中で複雑怪奇に絡み合うのが見える
こっちの歯車と噛み合うと今度はあっちの歯車と
正直に言うと、何時間見てても飽きない

同じ時を歩みたい、かあ
好きな人からもらったデジタル時計には
そんな意味は込められてないだろうけど
…これがあるから、今日は時計は買わないで眺めるつもり……

眺めるつもりだったけど、これ!これ欲しい!
なにこれ、懐宙時計!?
歯車の奥に瞬く星々 きらりと光る流れ星
いやーん、浪漫が詰まってる!
銀色の、この子を連れて帰ろう
蓋に名前を刻印してもらえば
あたしだけの宇宙が手の中でちくたく




「懐中時計って浪漫だよね」
 技術が発展した今でも廃れていないのだから、人を魅了してやまない何かがあるに違いない。
 かちりかちりと少しの隙間もなく嚙み合った歯車や細かな部品が複雑怪奇に絡み合って、1秒も止まることなく歩みを進めている。
 花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)の見つめる先には、文字盤部分を始めとする懐中時計の一部にガラスが埋め込まれ、透けて見えるタイプの――所詮「スケルトン」と呼ばれる分類の懐中時計ばかりが並んでいた。
(「こっちの歯車と噛み合うと今度はあっちの歯車と……あ、そっちも動いた!?」)
 まるで一つの生き物みたい。正直に言うと、何時間見てても飽きない。
 歯車が花や星を模しているものもあったり、パーツ各種に何やら細かく複雑な装飾が刻まれているものもあったり。
 作り手の遊び心と技術が見え隠れして、ずっと見られるのは間違いなしだ。
(「同じ時を歩みたい、かあ。好きな人からもらったデジタル時計には、そんな意味は込められてないだろうけど」)
 時計を贈る意味を思い出し、それからまゆは自身の腕を彩るデジタル時計に視線を落とす。
 シンプルで扱いやすいデザインの腕時計は、ただただまゆのことを想って贈られた時計で。意味まではきっと、考えてはいなかっただろうけれども。
「……これがあるから、今日は時計は買わないで眺めるつもり……」
 買わない、つもり。
 それでも視線というのは正直で、自然と懐中時計の方へ吸い込まれてしまう。
「眺めるつもりだったけど……これ! これ欲しい! なにこれ、懐宙時計!?」
 くるり。チラッと視線を寄せた先に「懐宙時計」シリーズを見つけたまゆの決意が明後日の方向に飛んでいったのは、本当に一瞬のことだった。
 並べられたそのどれもが唯一無二の宙を持つ中、まゆが一目惚れをしたのは星空を宿した、銀色の懐宙時計だ。
 一見すると、ごく普通の懐中時計にも見えてしまう。しかし、ハンタータイプの蓋を開けると、その先に見えるのは無限に広がる星の空。
 歯車の間を揺蕩う星々が、浮かび上がったり沈んだり。隙間なく噛み合わさった小さなパーツに、広がる星空と、そこに浮かぶ12の数字。
 きらりと光る流れ星が時折流れたかと思えば、不意にまったく流れなくなったりもして。何の前触れもなく降り注ぐ流星嵐が訪れたり。星と空の気分次第でその空は移り変わっていく。
 ……あれ? 下へ下へと流れる流星に紛れて、上に行ったり斜めに飛んだり。スススッと移動する、UFOのような何かが文字盤を横切ったような。
 UFOと思しき何かは、降りてきた秒針にぶつかって何処かに弾き飛ばされてしまったけれども。
「いやーん、浪漫が詰まってる!」
 眺めていれば、もっと色々な発見があるかもしれない。小さくも大きな星空に、まゆはすっかり夢中になっていた。
(「銀色の、この子を連れて帰ろう」)
 決意が固まれば、まゆの行動は早かった。
 何も刻まれていなかった銀色の表蓋にお洒落なフォントで自分の名前を刻印してもらえば、まゆだけの宇宙が手のひらのなかでちくたくと刻を刻み始める。
 ずっしりとした重みを伴って、手のひら中に広がる宇宙の存在にまゆの表情も自然と緩んでしまうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
わぁ!こんなに沢山の時計を見るのは初めてです。
まるでアルダワの魔法みたいです。どういう仕掛けなのでしょう?

展示された時計はどれも目を引くものばかりで興味津々。
時計の中にいながら時間を忘れてしまいそう…っていけません。
時計展覧会を楽しむのももちろんですが、贈り物を選びに来たのでした。

懐中時計が展示されたコーナーへと引き返し、じっくり吟味。
アンティークなデザインも素敵ですし。背景が変わるのも素敵です…。
星空…。あ!月がデザインされたものってありますか?
それと名入れもお願いしたいです。
ええと「KtoK」でお願いします。
ハーモニア殿が読まれた雑誌で勉強しました。
狐珀から語さんへって意味になるのです!




「わぁ! こんなに沢山の時計を見るのは初めてです。まるでアルダワの魔法みたいです」
 アルダワ魔法学園がキマイラフューチャーの世界にまで出張してきたかのよう。
 思い思いのペースで刻を刻む時計たちをぐるりと見渡した吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は、数え切れないほどの時計が織りなすその光景にそっと息を飲んだ。
「どういう仕掛けなのでしょう?」
 短針が円形の頂点に到達した途端、壁掛け時計でもあるログハウスから飛び出してくるのは、子どもたちや鳩、犬や猫と行った動物たち。いったい、小さなログハウスの何処に隠れていたというのだろう。
 他にも、音楽がなるものだったり、人形たちが踊り出すものだったり。
 小さな身体に詰め込まれた機械の部品。使われている原理こそ簡単なものだが、それを実現させるとなると――複雑な仕掛けが必要になる。
 各種時計の内部構造が図解で解説されていたが、瞬時に理解することは難しそうだ。
「時計の中にいながら時間を忘れてしまいそう……っていけません。時計展覧会を楽しむのももちろんですが、贈り物を選びに来たのでした」
 ここに来た一番の目的は、贈り物を選ぶためなのだから!
 時計の国を気付けば一周しかけていた。狐珀が目的にしていた懐中時計のコーナーはかなり前に通り過ぎたはずだ。
 くるりと踵を返して、狐珀が舞い戻るは懐中時計コーナー。再び懐中時計へと相対した狐珀は、彼に最適な懐中時計をじっくりと吟味し始める。
「アンティークなデザインも素敵ですし。背景が変わるのも素敵です……」
 唯一無二の懐中時計を眺めながら、狐珀が想うは彼のこと。
 緑の似合う彼に最適な懐中時計はどれでしょうか、なんて。そんなこと考えながら悩み見る懐中時計のなかに、星空が美しいものを狐珀は見つけ出していた。
「星空……。あ! 月がデザインされたものってありますか?」
 狐珀の問いに「勿論」と笑顔で頷いてみせた店員は、並べられていた懐中時計のなかから月がデザインされたものを幾つか選び出し、狐珀の前に並べてくれる。
「どれも素敵なデザインですが……」
 選び出された中から狐珀の目に留まったのは、曇りない銀色が美しい懐中時計だ。
 表蓋には三日月と星々、それから絡む蔓と花の繊細な透かし彫刻が施されていて。
 星月夜と花に覆われた表蓋をそっと開けば、藍色の文字盤に寄り添うようにして、柔らかな光を抱く望月と目が合った。
 どのデザインも心惹かれたけれど、この月が一番綺麗に見えたから。
「それと名入れもお願いしたいです。ええと『KtoK』でお願いします」
 そっと選び出した懐中時計。その裏蓋に刻印を頼むことも忘れていない。
 某グリモア猟兵が読んでいた雑誌にも目を通し、言葉の意味もばっちり予習済み!
(「意味は、勿論――」)
 私から、いつも隣に居てくれる大切な人へ。
 自分と彼のイニシャルを刻んでもらえば、その想いはきっとそのまま彼の元へと届くだろうから。
(「渡す瞬間が待ち遠しいです」)
 どんな表情で受け取ってくれるのだろう。丁寧に包装された箱を受けとり、それから彼の反応を想像して。狐珀はそっとその頬を桃色に染め上げた。
 願うのはただ一つだけ。何十年先も、彼と同じ刻を歩めたら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ

時計というとクラシカルな懐中時計が身近ではあります。ですがこちらではいろんなタイプの時計が見られると言う事。すごく楽しみです。
中空に浮かび上がるホログラム時計は、目の前にあるのに現実感がない所がまるでサーカスの様ね。
一通りい見て回るけどやっぱりなじみ深い懐中時計に戻ってしまうわ。
スケルトンタイプの回り続ける歯車と行ったり来たりする……この部品の名前は何かしら?それらが組み合わされて時を刻む。初めてこの仕組みを作った人の発想に感心しちゃう。
これはは文字盤が動くタイプね。ムーンフェイズの物は見た事があるけど、これは宙?
懐宙時計……!買い物する予定はなかったけれど、ご褒美代わりに買おうかしら。




(「時計というとクラシカルな懐中時計が身近ではあるけど。ですがこちらではいろんなタイプの時計が見られると言う事で。すごく楽しみです」)
 サクラミラージュ生まれ、サクラミラージュ育ちの夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)にとっては懐中時計とは幼少期から見慣れた存在だった。
 普段慣れ親しんでいるものとは一風異なった時計に出逢えることに心を躍らせながら、藍の足取りは真っ直ぐにキマイラフューチャーの技術を時計に組み込んだ最先端な一角へ。
「目の前にあるのに現実感がない所がまるでサーカスの様ね」
 周囲を漂い、時には降り注ぐ立体映像に誘われるようにして。気が付けば、上空を占領する巨大なホログラム時計を真下から眺められる位置に来ていた。
 目の前にあるのに――はらりはらりと絶え間なく零れ落ちる桜の花弁に手のひらを滑り込ませても、その花弁は藍の手をすり抜けて消えてしまうだけ。
 電子の海から飛び出した巨大な鯨はゆったりとその身体を空中に泳がせながら、盛大に水をスプラッシュ!
 藍の顔を目掛けて勢い良く飛来した水飛沫に反射的に目を閉じたけれど、一向に水の冷たさは訪れなかった。
 現実のものなのに、夢だと思えてしまうような。ホログラムの時計に惹かれもしたけれど――やっぱり、自然と足が向かうのはなじみ深い懐中時計の一角で。
「スケルトンタイプの回り続ける歯車と行ったり来たりする……この部品の名前は何かしら?」
 時計の内部の動きが見られるのは、スケルトンタイプならではのこと。幾つかの部品が作り出す不思議な動きに、思わず釘付けにされてしまう。
  歯車の動きに合わせて行ったり来たりの往復運動をしている、円形の部品。近くに表示されていた解説によれば、「テンプ」と呼ばれる時計の心臓部分であるようだ。
(「初めてこの仕組みを作った人の発想に感心しちゃう」)
 キッチリ60秒で1分を刻む機械仕掛けの構造。小さな部品が合わさって時を刻む。どうしたら、こんな仕組みを思い付けるのだろう?
「これは文字盤が動くタイプね。ムーンフェイズの物は見た事があるけど、これは宙?」
 月の満ち欠けを表すムーンフェイズ。満ち欠けによって移り変わる月のシルエットは、文字盤を彩る良いアクセントになるのだが。
 興味のままに藍が手に取った懐中時計は、文字盤自体が移り変わるもののようだ。
「懐宙時計……! 買い物する予定はなかったけれど、ご褒美代わりに買おうかしら」
 小さな文字盤の向こう側に広がるのは、果ての無い宙の光景。藍交じりの闇に広がる、色とりどりの眩い星の輝き。
 文字盤は見知らぬ銀河や、恒星を映し出し――右へ右へとゆっくり移動していく。
 偶には自分へのご褒美も良いのかもしれない。
 手にした懐中時計が藍の日常を彩り始めるのは、今から少しした時分のことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◆
右を見ても左を見ても時計、時計
すごいね梓、俺こんなに沢山の時計に囲まれたの初めてだよ
ちょっとー、そんなロマンもへったくれも無いこと言ってたら
恋人が出来た時に幻滅されちゃうよー?
こういうのは実用性とかじゃないんだよ

意気揚々と向かったのはギミック付きの時計コーナー
これが気になって博覧会に来たと言っても過言ではない
仕込み刀とかもロマンの一つだもんね
懐中時計に仕込まれたナイフで通りすがりに
要人をザシュッとか格好いいよね~
この時計はどんな仕掛けがあるのかな?
ボタンらしきものを適当に触りまくる

あっ
時計から針か銃弾か何かが発射されて
ちょうどやって来た梓の頬スレスレを掠める
うわぁ、何これ格好いい


乱獅子・梓
【不死蝶】◆
確かにこれだけ時計が並んでいると壮観だな…
しかし、時間を確認したいだけなら
スマホのデジタル時計で大体事足りるし
せいぜい置時計や壁掛け時計くらいしか買うものが無くないか?
ぐぬぬ、綾に諭されてしまった…

ウィンドウショッピング感覚で色々と見て回る
海や宇宙の景色が閉じ込められたような懐中時計なんて
これもう時計というよりアートだなと感心
綾の言うロマンも少し分かってきただろうか…
せっかくだから一つくらい何か買おうかと
選んだのは洒落たデザインの砂時計
インテリアにもなるし、料理にも使えそうだなと

おーい、綾は何を見て……どわぁ!?
危うく博覧会で流血沙汰になるところだった
危ない玩具で遊ぶんじゃない!




 上を見たら、上空に浮かぶホログラムの時計から飛び出した大きな鯨が、ちょうど灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の頭上を泳いでいく最中だった。
 右を見たら、お洒落な腕時計がずらーっと並べられていて。
 左を見たら、壁掛け時計がカッチコッチとオーケストラのように刻を刻んでいる。
 それで後ろを見たら――ログハウス型のからくり時計に張り付く2匹の仔竜の姿が確認できた。
 『ポッポ♪』と機嫌良く歌いながら身体を出す鳩。そんな機械仕掛けの鳩さんに興味津々な焔と零を前に、「焔も零も可愛いな」と親バカを炸裂させているのは乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)で。
「すごいね梓、俺こんなに沢山の時計に囲まれたの初めてだよ」
「確かにこれだけ時計が並んでいると壮観だな……」
 半ば時計の国の住人となりつつあった梓に話しかければ、予想に反してしっかりとした返答が返ってくる。
 親バカを炸裂させつつも、「俺の話を聞き洩らさない辺りはやっぱり梓だよねぇ」とか。そんな呟きを漏らしながら。
 焔と零も興味を示していた鳩時計に、人形がクルクルと回るものや、文字盤が分かれて中から夜空が現れるものまで。
 ちょっとした遊び心が伴った壁掛け時計は、家に一つあるだけでとても映えるに違いない。
「しかし、時間を確認したいだけなら、スマホのデジタル時計で大体事足りるし。せいぜい置時計や壁掛け時計くらいしか買うものが無くないか?」
「ちょっとー、そんなロマンもへったくれも無いこと言ってたら、恋人が出来た時に幻滅されちゃうよー? こういうのは実用性とかじゃないんだよ」
「それもそう? か……? ぐぬぬ、綾に諭されてしまった……」
 興味津々とあちこちのからくり時計を突いて回る綾とは反対に、イマイチお洒落さやらデザイン性やらを理解しきれない梓が首を傾げつつ追いかける。
 眺めているだけでも色々あって面白い。ウィンドウショッピング感覚で、あっちを見たりこっちを見たりと。
 大きな会場のなかを2人と2匹は進んでいく。
「これもう時計というよりアートだな」
 ロマン云々が分からない梓でも、懐宙時計や海中時計が並べられた一角では自然と歩みを止めた。
 手のひらほどの大きさの時計に広がるのは、種類も風景も異なった海や宇宙、空の景色の数々。
 ゆっくりと時間をかけて移り変わる海や空の光景は、時間を忘れて見入ってしまいそうなほどだ。
「綾の言うロマンも少し分かってきただろうか……」
 先程綾の言っていた「ロマン」とは、きっとこういうことを差すに違いない。
 少しは分かってきた、と。感慨深げにしみじみと呟いてみせた梓だったが、常ならばすぐに帰ってくるはずの返事が返ってこない。
 しかし、懐宙時計と共に浪漫の大海を漂い始めた梓は、返事が無いという違和感にも、自分のすぐ背後で綾が「ギミック付き時計コーナー」に意気揚々と向かっていることにも気付いていないようだった。
「仕込み刀とかもロマンの一つだもんね」
 このギミック満載時計が綾の目的でもあったのだ。
 意気揚々と向かった先に展示されているのは、一目見ただけで「ロマン」を感じさせる時計の数々。
「懐中時計に仕込まれたナイフで通りすがりに要人をザシュッとか格好いいよね~」
 「防犯対策は万全ですので、ご自由にお触り下さい」とポップに記されている辺り、力作は見せたいキマイラフューチャーのノリだろうか。
 展示されていた懐中時計を手にして「ザシュッ」の動作を真似てみるだけで、綾のテンションは最高潮に。
 一見するとごく普通の懐中時計に見えるが、横のボタンを3回押すとスチャッと出てくる小さくも鋭利な刃。
 スパイ活動を想定して造られたというのだから、ロマンを感じられずにはいられなかった。
「この時計はどんな仕掛けがあるのかな?」
 最先端の未来を往くキマイラフューチャー。安全装置も作動するだろうから、と。
 軽いノリで、心の感じるままに。綾は手にしたまままの懐中時計のボタンやネジを、適当に触りまくる。
「あ、ドライバーが出てきた。すごいねぇ~」
 知らぬが何とやら。呑気に危険物を触りまくる綾を止めるはずの梓は……向かいのブースで、砂時計の吟味に熱中しているところだった。
「せっかくだから一つくらい何か買おうか」
 綾の言うロマンも段々と理解できるようになってきた。それに、博覧会に来た記念も欲しいところ。
 そんな梓が選んだのは、お洒落なデザインの砂時計だった。
「インテリアにもなるし、料理にも使えそうだな」
 サラサラサラ……と小波のような音を立てて硝子で作られた二重螺旋の滑り台を滑り落ちていくのは、青と赤の砂たちだ。
 絡み合うように伸びる二重螺旋の2本の滑り台。二重螺旋の中央を彩るようにして、紫色の液体がゆっくりと落ちて行っている。
 赤が3分で青が5分。紫は10分できっかり下に落ちきるらしい。料理にも十分使えそうな性能だった。
 砂時計を購入したところで、いつの間にか綾が居なくなっていることに気付いた梓。
 キョロキョロと探してみれば、真向いのブースで何やら興味津々と時計を触っている姿が目に入る。
「おーい、綾は何を見て……」
「あっ」
「どわぁ!?」
 綾の右肩から飛んできた、鈍色に光る鋭い何か。
 猟兵としての勘とも呼ぶべきか。自分へと向かってくる針を、梓は半ば反射的な動きで避けていた。
「うわぁ、何これ格好いい」
「危ない玩具で遊ぶんじゃない!」
「大丈夫だよ、きっと。ほら、そこに『安全装置が作動します』って書いてあるでしょ?」
 綾の示す先には注意書き。万一の事態を想定して、流血沙汰になりそうな時はシールドが展開される……らしい。
 らしいのだが。
「作動しなかったんだが、」
「まあ、この世界だし作動しないこともあるんじゃないかな?」
「サラッと恐ろしいことを言うなよ……」
 陽気なノリとその場の勢いで住民の大半が生きているような世界である。
 住民の気まぐれがそのまま反映されたかのような安全装置に、冷や汗が梓の頬を伝った。針が掠めるくらいで済んだが、もし直撃していたら……。
「ねえ、梓ー」
「買いません。買えません。戻してきなさい」
「今なら大特価だよ?」
「『どのギミックが作動するか分からない為、大幅値引き』って書いてあるんだが……」
「えー。そっちの方が面白いじゃん?」
「面白くない、面白くないからな!?」
 未だに「ギミック付き」へのロマンを捨てきれない綾の首根っこを引っ張りながら梓は目指すのは、別のブースだ。
 ここに居ては命が幾らあっても足りない。綾が余計なことをする前に!
 その日、博覧会のあちこちで真っ黒な男の一挙一動を見守る真っ白な男の姿が確認されたとか、されてないとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【彩夜】

周囲からカチコチ音がする!
どんな時計に出会えるかな
なゆさん、いきましょう!
手を差しのべて

立体映像の時計から降る花弁
わ、手をすり抜けっちゃった
大きな時計の振り子に目を回したり
廻って辿り着いたここは、購入もできるよう?

ね、なゆさん
ルーシーからひとつ贈り物をしてもいいかしら

金の懐中時計
牡丹一華の透かし蓋を開ければ
金環の内に朝焼け空の文字盤
先端に小さな柘榴石を飾る針が音をたて時を刻む

これを、なゆさんに
どうかその歩みが
この時計の様に軽やかなものでありますよう
そして少しでも多く
同じ時を歩めますよう

…きれい
これ、ルーシーに?
色の違う時計が
同じ1秒を刻んでる
…ふふ!ありがとう
早速しあわせ頂いちゃった!


蘭・七結
【彩夜】

軽やかな音色、高鳴る音色
数多の針音へと耳を傾けましょう
眸を閉じたならいっそう音色が響くよう

とびきりステキなものに出逢えるわ
差し伸べられた柔手へと指さきを導いて
そうと絡めたなら、ゆうるりと歩みましょう

ふしぎな光景だこと
触れられそうで触れられない景色
移ろう情景と四季を追うて、先へと

――まあ、ふふ。わたしに?
ありがとう、ルーシーさん
かけがえの無いさいわいに巡り逢えそうだわ
わたしも、ね
愛らしいあなたへと贈り物を

委ねるのは白金の懐中時計
円盤に咲き誇るのは勿忘草
針が交わる央に、耀く黄水晶をひと粒

『あなたがしあわせでありますように』
他の何れでも無い
ひとつきりのおまじない
ぎゅうと込めても、よいかしら?




 アリスになった気分で時計ウサギを追いかけて、大きな円形状の出入り口を潜り抜けたのなら。
 時計の国へと遊びに来た来客たちを出迎えるのは、一定間隔を保って響き合い、重なり合うのはチックタック、カチコチと広がる時計の音色。
 それから、歓迎するように頭上のホログラム時計から、雪や雨、花といった自然がふわりと降り注いでいる。
「周囲からカチコチ音がする! どんな時計に出会えるかな」
 眩しいくらいの照明の光を受けて。興味のままにキラリキラリと翻るのは、向日葵色のツインテール。会場の何処を見ても、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)の視界には時計たちが写り込む。
 キョロキョロするうちに懐中時計を抱えた白いウサギさんと目が合って、ルーシーは一層瞳の青色を瞬かせた。
(「眸を閉じたならいっそう音色が響くよう」)
 時計ウサギさんに挨拶しているルーシーの横で蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)はそうっと瞳を伏せて、刻を刻む針の音色に親しんでいた。
 音を刻む感覚はピッタリ同じでも、刻を刻む音については時計によって「個性」があるようで。
 弾むように楽しげに。或いは、静かにそうっと。
 瞳を閉じた分だけ、時計の国の住人である彼らとの距離が縮まったようで。より鮮明に、60秒を刻む音色が七結の耳元に届けられる。
 どの子もとても素敵。時計の数だけ異なる「機械仕掛けの心音」に、七結はふわりと表情を和らげた。
「なゆさん、いきましょう!」
「ええ。とびきりステキなものに出逢えるわ」
 時計ウサギさんに「またね」と告げたルーシーが、七結へと元気よく手を差し出せば。少しの間も置かずに、重ねられる白い手のひら。
 にこりと笑い合って、ルーシーの小さな手に絡められるのは、七結の白い手。
 指先を導いて絡め合い。「どんな子に出逢えるのだろう」って、これからの出逢いに胸を弾ませつつ、2人は同じ歩調で歩き出す。
「ふしぎな光景だこと」
 歩み出した2人にひらひらと降り注ぐのは、頭上のホログラムの時計から零れ落ちた桜の花弁だった。
 仄かに光り輝きながら舞い落ちるそれは、床に届く前にすぅっと吸い込まれるようにして消えてしまう。
 桜が若葉に、若葉が紅葉と銀杏に。それから、雪に。
 四季折々が降り注ぎ――そして、偶に小鳥たちが横を飛びぬけていったり、鯨の水飛沫が飛んできたり。
 移ろう四季の情景に感嘆の息を吐く七結の横で、ルーシーが一生懸命振ってくる落ち葉に手を伸ばしている。
「わ、手をすり抜けっちゃった」
 どうにかして掴もうとしても、掴めないのがホログラム。
 触れた先からすうっとすり抜けて、下に落ち切る前に消えてしまう。
「わあ、大きな振り子時計ね?」
 四季のトンネルを抜けたのなら、ルーシーと七結を出迎えたのは、左右にずらーっと並んだ振り子時計たちで。
 右へ左へ、ゆらゆらと。存在感抜群の振り子が、文字盤の真下で揺れている。
「まあ。ルーシーさんくらいなら、ぱくりと喰べられてしまいそうだわ」
「人食い時計さん!?」
 ルーシー2人分くらいはある大きな振り子時計をぺたぺたと触っていたら、ぽそーりと後ろから聞こえた七結の呟き。
 自分が丸呑みにされる光景を想像してしまって、思わず飛び上がってしまえば。
 潜むそうな、押し殺すようなクスリという笑い声に、揶揄われていたことに気が付いた。
「ここは、購入もできるのね?」
 時計の国を廻って辿り着いた先は、どうやら即売会も兼ねているらしい。
 数えきれないくらいに展示された時計たち。
 ならば。ここですることは、きっと一つだけ。
「ね、なゆさん。ルーシーからひとつ贈り物をしてもいいかしら」
 一緒に時計の国を旅したなゆさんへと。
 ルーシーが七結へと選んだのは、落ち着いた金色が美しい懐中時計だった。
「これを、なゆさんに」
「――まあ、ふふ。わたしに?」
 表蓋に花綻ぶのは、立体的な牡丹一華。
 重なり合う八重の花弁から下方で茂る葉っぱに至るまで。本物もかくやの緻密な透かし彫刻で、今にもふわりと風に誘われ、踊り出してしまいそう。
 金色の牡丹は和洋折衷の不思議な佇まいで、選ばれるその時をじぃっと心待ちにしていたらしい。
 牡丹の華をそうっと持ち上げて蓋を開ければ、金環に彩られた朝焼け空の文字盤が優しく微笑みかけてくる。
 橙、桃色、紫色に空色。微妙な色彩で移ろう空をクルクルと回る針の先端を彩るのは――小さな柘榴石だ。
「どうかその歩みが、この時計の様に軽やかなものでありますよう。そして少しでも多く、同じ時を歩めますよう」
「ありがとう、ルーシーさん。かけがえの無いさいわいに巡り逢えそうだわ」
 金色を贈った小さな手に。
 七結が委ねるのは、白銀色が目を引く子で。
「わたしも、ね。愛らしいあなたへと贈り物を」
 ぐるりと白差す銀色の勿忘草の花冠が彩る表蓋の真ん中は、ドーナツのようにポッカリと小さく穴が空いていて。
 世間一般では「デミハンター」と呼ばれるその懐中時計は、表蓋を開けずとも文字盤を眺められる優れもの。
「……きれい。これ、ルーシーに?」
 勿忘草の綻ぶ蓋をそっと開いたのなら、満開の青色が文字盤を彩っていた。
 円形に並ぶ12の数字に寄り添うように。文字盤のなかでも咲き誇る、勿忘草の青い色彩。
 三つの針の交差点。針が交わる央には、きらりと光り輝く黄水晶が一粒だけ。
 ルーシーの髪色を思わせる黄水晶は、小さな手の中でそっと輝きを放っていた。
「ひとつきりのおまじない。ぎゅうと込めても、よいかしら?」
 七結が願うはただ一つ――『あなたがしあわせでありますように』
 他の何れでも無い。
 白銀を添えた小さな手のひらを、白い両手がそうっと包み込んで。
 ぎゅうっと籠められるのは、ひとつきりのおまじない。黄水晶の似合う、彼女を想っての想い。
「……ふふ! ありがとう。早速しあわせ頂いちゃった!」
 色の違う懐中時計だけど。
 1から2へ。2から3へ。それを繰り返し12に辿り着いたのなら、再び1を目指して。金色と白銀色は双子のように、そっくり揃った同じ歩みで刻を刻んでいる。
 お互いに贈り合った時計を眺めて、それから――七結とルーシーはそっと微笑み合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
リグ殿(f10093)と

時を刻む時計
様々な形や種の全てに浪漫を感じるの
リグ殿も時計はお好き?

見て楽しむは勿論
今日はお迎えする子を探しに

妾は彼に贈る懐中時計と思うていたけど
ふたりの揃いにするも素敵じゃなぁ
揃いの柄も良いし
使う度相手の浮かぶ柄も、なんて
むむむと悩む眉間に皺

視線移せば
腕に添う其れを選ぶ友
並び眺めるのも楽しくて
お気に召すお品は在った?
わぁ!黒革の質感がお似合いじゃし
煌めく金色は其方の明るさのよう
ピッタリ!と笑む

己の品も決め包んで貰えば
もう一つ良い?と問い
お家時間を刻みゆく子も増やしたいの
目移りするけど
鳩のよに顔出す真白の梟と眸が合えば
この子にする!と即決めて

うむ!きっと会いにいらしてね


リグ・アシュリーズ
ティル(f07995)ちゃんと

時計、こんなに種類があるのね!
自分の持ってないから馴染みはないけど、
この博覧会できっと好きになるわ!

いろいろ見つつ、まずはティルちゃんのお目当てを探しに。
懐中時計、二人でおそろも素敵ね!
針を合わせてカチカチと、同じ時を刻めるのもロマンチックで。
私? そうね……この黒レザーの腕時計にしようかしら。
他はシンプルだけど、中の文字盤が金のメカニカルなの、かわいいなって。
似合うかしら、ありがとう!

もう一つの問いにはもちろん! と答え。
わ、この時計は仕掛けが梟なのね!
誰かさんを思わせる目つきに、ふふ、と微笑み。
お家時間を彩る時計、素敵!
また今度お邪魔した時に、会えるかしら!




 紀元前から用いられていた日時計や水時計、砂時計に。
 今でも現役の大先輩である懐中時計や腕時計。置時計や壁掛け時計も負けてはいない。
 そしてそこに、キマイラフューチャーの技術が使われた――最先端の時計たちが続く。
 一口に「時計」と言っても、その種類は何十にも及んで。細かな分類まで数え出したらキリがない。
「時計、こんなに種類があるのね!」
 天井から落ちてくる照明にパンフレットを透かすようにして眺めてみれば、時計ごとに分けられたブースやコーナー紹介が延々と並んでいる。
 手元のパンフレットと周囲を彩る色も形も様々な時計たちを見比べながら、リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)は亜麻色の瞳をまあるく瞬かせた。
「様々な形や種の全てに浪漫を感じるの。リグ殿も時計はお好き?」
 深みのある漆塗りの胴体に、あちこちに付いた大小様々な凹みや傷。見るからにアンティーク品と思いしき振り子時計は、作られてから何十年も経っているのだろう。それでも現役であることに、歴史と驚きを感じられた。
 キマイラフューチャーの技術を詰め合わせたホログラムや、一風変わった仕掛けの数々は真新しさと新時代の足音のようで。
 「どの時計も浪漫があるの」とゆっくり頷いてみせたティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)がリグへと尋ねれば、元気なウインクと共に「勿論よ!」と明るい返事が返っていた。
「自分の持ってないから馴染みはないけど、この博覧会できっと好きになるわ!」
 そうと決まれば、早速時計探しの旅へ。
 ティルの手を引きつつ、リグが弾むようにして向かった先は懐中時計を取り扱う一角だった。
 色々と見て回るのも勿論だけど、まずはティルが思い浮かべる「彼」へと贈る品を。
「妾は彼に贈る懐中時計と思うていたけど、ふたりの揃いにするも素敵じゃなぁ」
「懐中時計、二人でおそろも素敵ね!」
「しかし……揃いの柄も良いし、使う度相手の浮かぶ柄も、な」
 相手のことを想うほど、ティルの眉間に刻まれる皺も深さを増していく。
 ライラックが花咲く意匠の子に。鈴蘭が見上げる愛らしい鈍色の子も。
 二つのお揃いがお互いを想いあうように、そっくり刻を刻む姿はきっとロマンチックだろうから。
 数々の懐中時計と睨めっこするように、ティルがむむむと悩んでいる一方で――リグはフットワーク軽く、自身の腕を彩る腕時計を探して周囲一帯を歩き回っていた。 
「お気に召すお品は在った?」
「私? そうね……この黒レザーの腕時計にしようかしら」
 時計で溢れる大海とティルの傍を行ったり来たりするうちに。リグの目に留まったのは、黒いレザーが目を惹く腕時計の存在で。
「他はシンプルだけど、中の文字盤が金のメカニカルなの、かわいいなって」
 真っ黒なレザーのウォッチバンドの中央に輝くのは、金色の文字盤で。
 レザーと同じ漆黒を背景に一際明るく輝いているのは、幾重にも重なり合った歯車を始めとする時計を動かすためのパーツだった。
 明かりを反射させる金色は、素敵にリグの腕を彩っている。
「わぁ! 黒革の質感がお似合いじゃし、煌めく金色は其方の明るさのよう」
「似合うかしら、ありがとう!」
「ピッタリじゃよ!」
 腕時計を腕にポーズをとってみせたリグに、ティルは小さく拍手を送りながら笑みを深める。
 灰髪が美しい友のために誂えた腕時計と称しても過言ではないくらい様になっていたから。
「ティルちゃんも決まったかしら?」
「妾もばっちりじゃよ」
 リグの問いに、ティルは紙袋を掲げてみせた。
 彼に贈る為にお洒落に包装された小箱と、自分用の小箱が2つ仲良く並んでいる。
 悩みに悩んでティルが選び抜いたのは、春色の色彩が美しい銀色の懐中時計だった。
 風薫る透かし彫刻の紫丁香花が上辺を彩り、鈴蘭を始めとする春の華が下方に咲き乱れている。
 春色の美しい花畑に紛れるようにして、右下には薔薇色の宝石が一粒だけ。
 花がぐるりと囲う蓋を開けば、更に零れ咲く春の色。傷一つない硝子を隔てたすぐ向こうで、花を模した幾つもの歯車が、クルクルと回っているのだから。
「もう一つ良い?」
 互いの目的は果たしたけれど、ティルにはもう一つだけ選んでおきたいものがあった。
 寄り道の是非をリグへと尋ねれば、「もちろん!」と明るい肯定が返ってくる。
「お家時間を刻みゆく子も増やしたいの」
 肌身離さず彩る色彩を選んだのなら、次はお家時間を刻む子の捜索だ。
 「そうと決まれば!」でティルを先導するようにしてリグが辿り着いた先は、置時計や壁掛け時計が出迎える一角で。
 先程眺めて楽しんだ腕時計や懐中時計に負けず劣らず、置時計たちも個性豊かで魅力的。
 せっかくお家にお出迎えするのだから、お気に入りの子を。
 あれこれ見て回るけれど、一つには選びきれない。目移りするティルの視界に突然、『ホゥホゥ』という鳴き声と一緒に飛び込んできたのは――。
「わ、この時計は仕掛けが梟なのね!」
「真白い梟じゃの?」
 可愛らしいログハウスからぬっぬっと顔を覗かせたのは、定番の鳩――では無くて、真っ白な梟の姿だった。
 ゆっくりとした動作で鳴き声を上げ、時刻の変化を告げ終わると、これまたゆぅっくりとした動作で家の中へと戻っていく。
「この子にする!」
 梟が戻ったログハウスの時計に駆け寄って、即決したのはティルだった。
 梟と眸が重なり合ったあの一瞬。ティルの瞼の裏に浮かんだのは、梟そっくりな誰かさんの双眸で。
「ふふ、ティルちゃんはその子にするのね」
 ティルが誰を連想したのかは、リグにもお見通しだった模様。
 穏やかな梟の眸を思い返し、それからティルが想像したであろう誰かさんのことを想い浮かべて。リグは静かに微笑みかけた。
「お家時間を彩る時計、素敵! また今度お邪魔した時に、会えるかしら!」
「うむ! きっと会いにいらしてね」
 真白い梟の住まうログハウスを包んで貰えば、話題になるのは未来の約束。
 あの梟はきっと素敵にティルのお家を彩るだろうから。
 「遊びに行った時が楽しみね」と笑うリグに、「楽しみじゃのう」とティルも頬を緩ませるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アシュエル・ファラン
◎アドリブ大歓迎

あのトンチキ世界で展示会!?ちゃんとまともなモノ取り扱ってるんだろうな…!?いや、あそこのハイテク機器に長があるのは認めざるを得ないが…
おお、本当に色々な時計がある。少し見て回るか。時計ほど、手軽に入手出来るのにガジェットいじる時の参考になるものは無い。

それから…贈り物の意味、なー……あいつ几帳面なくせにメンタルがズボラだから、もらっても調べようともしないだろうが。
…こちらからではとても言えたものではないから、自発的に調べて欲しい、というのはワガママかね。…ワガママだろうなぁ…!

そうだな……色は贈り先の金の髪に似合いそうな白銀。素材は可能な限り限りくすまないもので、かつ耐震機構がついたものを。この辺りは技術力がいくら近代・未来だろうが構わない。
その上でデザインは、それらが一切表に出ない、出来る限りアンティーク調で。盤面に青の差し色でも入っていれば嬉しいところ。
――金に糸目は付けない。技術料もあるだろう、もういくらでも吹っ掛けてくれ。

……クリスマスのプレゼントにしたいんだ。




 年中無休で時間を問わずハチャメチャ大騒ぎなのが、このキマイラフューチャーという世界だ。
 その世界で「展示会」なんかが開かれるというのだから、思わず手元のパンフレットを二度見してしまうのも無理はないのかもしれない。
(「あのトンチキ世界で展示会!? ちゃんとまともなモノ取り扱ってるんだろうな……!?」)
 「何かの悪い冗談なんじゃないか」なんて。アシュエル・ファラン(盤上に立つ遊戯者・f28877)があの手この手でパンフレットの秘密を暴こうと悪戦苦闘しても――幸か不幸か、パンフレットは紛れもない本物の様だった。
(「いや、あそこのハイテク機器に長があるのは認めざるを得ないが……」)
 そのハイテク機器や最先端技術を惜しむことなく無駄遣いしてみせるのが、キマフュ民のノリである。
「ギミック付き時計コーナーもあるんだな……」
 「頼むから流血沙汰だけは止めてくれよ」と、心の中で祈りつつ、アシュエルはウサギ穴を彷彿とさせる出入り口を潜るのだ。
「おお、本当に色々な時計がある。少し見て回るか」
 興味本位で始めたガジェッティアだったが、気付けばどっぷりとその魅力にハマってしまっていた。
 折角技術を学ぶ機会が目の前に落ちているのだ。ガジェットの研究に余念のないアシュエルは、参考になりそうな作品は無いかと工夫の凝らせられた時計たちを見て回る。
「時計ほど、手軽に入手出来るのにガジェットいじる時の参考になるものは無いからな」
 小型ナイフにピッキングツール、メモの破片と小さなペン先、毒針に至るまで。
 無駄なスペースなく上手に詰め込んだのだろう。懐中時計に施された収納技術には目を見張るものがあり、寄木細工の秘密箱から着想を得たという、数種類の形に組み変えできるからくり時計にはガジェットに活かせそうなアイデアが得られた。
 そして、アシュエルの期待を裏切らず――爆弾を内蔵できるという置時計は「やっぱりか」と半目でそっと戻しておいた。
 ギミック付き時計を一通り見て回り、浮かび上がたアイデアや考えをメモに取れば、残るのは、あと一つの目的だけ。
 「ガジェット使いとして、時計展示会は参考になりそうだったから」というのは、表向きの言い訳で――アシュエルにとっては、こちらの方が本当の目的だったのかもしれない。
(「それから……贈り物の意味、なー……。あいつ几帳面なくせにメンタルがズボラだから、もらっても調べようともしないだろうが」)
 やっとの想いで辿り着いた懐中時計の一角を行ったり来たり。
 「あいつ」への贈り物を買うと決めたはずなのに、あと一歩が踏み出せないアシュエルだ。
(「……こちらからではとても言えたものではないから、自発的に調べて欲しい、というのはワガママかね」)
 ズボラだから、調べるはずもない。そもそも、贈り物に意味があることも知らずに生きていそうな生物だ。
 ――こちらから意味を教えたところで、「そうか。これからもよろしく頼む」という純度百パーセントの好意と共に、無垢な笑みを向けられて話題が終わる可能性が脳裏をチラついた事実は……全力で見ない振りを決め込んで。
(「……ワガママだろうなぁ……!」)
 色々な葛藤やら想いやらを詰め込んだ上で選び抜いた懐中時計を、「親友からのクリスマスプレゼント」の一言で片付けられたら、流石のアシュエルとて凹む自信がある。
 寧ろ、凹む自信しかない。
 大事なところに限ってポンコツでニブチンなズボラメンタルのことを恨めしく思いつつ、それでも、「もしも」に期待していることも事実で。
(「いつか贈り物の意味に気が付いて、一人でアレコレ悩めば良い……!」) 
 そうだ。気付かないのなら、気付かせれば良いだけの話だ。簡単じゃないか。
 贈り物の意味を載せた雑誌のページを開き、それとなーくリビングに置いておくのはどうだろうか。
 ズボラな一方で、妙に聡い一面もある。流石に気が付くはずである。
 贈り物の意味に気付き、それから贈られた懐中時計と雑誌を見比べて。顔を真っ赤にさせながら、勢い良く自分へと問い詰めてくる姿を想像し――。
 ふにゃりとだらしなくニヤけた頬を、慌てて右手で覆い隠した。
「そうだな……色は贈り先の金の髪に似合いそうな白銀が良い。素材は可能な限り限りくすまないもので、かつ耐震機構がついたものを頼む」
 「その時」を心待ちにしつつ、懐中時計の一角を担当していた店員へとアシュエルは吹っかける。
 アレやコレやと注文多くつけてしまうが、これも最高の懐中時計を「あいつ」に贈る為。
「デザインは、耐震機構やそれらが一切表に出ない出来る限りアンティーク調だと嬉しい。あと、可能ならば盤面に青の差し色も」
 ズボラだから、まともにメンテナンスには出さないだろう。だから、狂いにくく、高精度のものを。
 豪雨のように降り注ぐアシュエルの「注文」の数々に、店員はあっちへ行ったりこっちを探したり。
「――金に糸目は付けない。技術料もあるだろう、もういくらでも吹っ掛けてくれ」
 ……クリスマスのプレゼントにしたいんだ。
 気恥ずかしいのだろう。誰とも目を合わさぬように、明後日の方向を見て。最後にポソリと呟かれたのが、飾らないアシュエルの本心だった。
 注文の多さも、一心に相手の性格を想ってのこと。
 最後の呟きもしっかり拾い上げた店員は、ややあって満面の笑みを浮かべ――それから、「お任せください!」と頼もしい返事を返してくれた。
「……これなら、あいつでも」
 それから暫くして。
 アシュエルの前に差し出されたのは、注文をそっくりそのまま反映させたかのような品だった。
 雪を連想させる鮮やかな白銀色は、特殊塗装により何年経ってもくすむことが無いという。
 やや厚めの胴体には耐震機構やダイバーウォッチ並みの防水機能が施されていて――落としたって、戦闘に巻き込まれたって、きっと無傷で戻ってくる。
 装飾性の高い表蓋は、圧巻の一言に尽きた。複雑で細やかな彫刻のなかでも、人目を惹くのは真ん中に彫られた、剣を掲げた女神と翼を持つ雄々しい獅子の姿。美しい女神と立派な獅子を彩るようにして、蔦や花が躍っていた。
 盤面を見つめれば、ぐるりと澄んだ青色が白色を囲んでいる。時計としての精度も勿論高性能だ。
「お相手様とお揃いもいかがでしょうか?」
 白銀色の隣に並ぶのは、お揃いの意匠が眩しい銀色で。ニッコリと勧めてくる辺り、店員も抜かりが無い。
 アシュエルが誘われるがままに、「お揃い」を手に取ったかどうかは――親友想いの青年だけが知る結末だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

炎獄・くゆり
【獄彩】

イイですねえ、時計
機械仕掛けは仕組みが分かりやすくて好きですよお
解体して中身の隅々まで見たくなっちゃ~~う
わくわくと輝く瞳はあなたとお揃い

ウフフ
なんて愛らしい我儘
フィーちゃんの我儘なら勿論叶えてあげたいですけど
ってゆうかあたしの我儘でもあるんですけど!

でもでもソレだけでイイんです?
もっと欲張るのがフィーちゃんでしょう?

ちゃらんと取り出したのは、揃いのハートのチャーム
こんなコトもあろうかと準備してました~~~

先日、一人で飲みに出た帰りに買って渡そうとして
そのままポッケに入れっぱなしだったなんて
決してそんなコトは
ンフフ
コレでもっとお揃い!
さ、二人の赤が混ざった一つを探しに行きましょ~~~!


フィリーネ・リア
【獄彩】

くゆちゃん、くゆちゃん
時計がいっぱいだよって、くるくるご機嫌なお人形
機械仕掛けの心臓はフィーとお揃い
でも楽しいことにわくわくするのはくゆちゃんとお揃い
ふたつもお揃いなんて、フィーは贅沢だね

懐中時計の意味
『あなたと同じ時を歩みたい』なんだって
フィーたちとおんなじ
…ね、くゆちゃん我儘いってもいい?
揃いの懐中時計に、ふたりの名前を入れて交換してくれる?
同じ物でもあなたがくれる物がいい
それはどんな時も変わらないフィーの我儘

うふふ、くゆちゃんはフィーの欲しいをお見通しだね?
ハートのチャームは鮮やかなココロ色

大好きのカタチを足した我儘で贅沢なお揃い、素敵なの
ね、焔のような赤が混ざる時計はあるかな?




 「機械仕掛け」を共通点として留めるのならば。それならきっと、この時計の国の住人全員が「仲間」になるだろうから。
 旧友と再会したかのように、足取り軽くウサギ穴のような出入り口を潜り抜けるのは、炎獄・くゆり(不良品・f30662)だった。
「イイですねえ、時計。機械仕掛けは仕組みが分かりやすくて好きですよお」
 ユーレイやお化けみたいに仕組みも生態も全くの未知とは正反対な、機械仕掛けの時計たち。
 どの部品が何を担って、どんな配置で置かれているのかさえ知ることが出来れば、バラすのも組み立てるのも、改造するのも――その全部が思いのままに。
「くゆちゃん、くゆちゃん。時計がいっぱいだよ」
 時計の構造を透視するかのようにじぃっと覗き込んだくゆりの手を引いたのは、愛らしいドールのフィリーネ・リア(パンドラの色彩・f31906)で。
 くゆりだって機械仕掛けのレプリカント。そして、この場に集った時計たちも機械仕掛けで。
 そして――隣でにっこり笑むミレナリィドールのフィリーネだって例外ではなく。
 皆がお仲間。くるくるとご機嫌な足取りで、フィリーネの顔に煌めく二つの焔色は様々な時計の姿を万華鏡のように映し出していく。
「解体して中身の隅々まで見たくなっちゃ~~う」
 覗き込んでいた時計を、今度はコンコンとノックしてみるくゆり。
 くゆりに見つめられ過ぎて、「解体されるんじゃ……」と、時計が冷や汗をかいているのは気のせいだろうか。
「くゆちゃん、くゆちゃん。展示品だから、解体しちゃダメだよ?」
 ちょいちょいと裾を引っ張るフィリーネにそうっと言い聞かせられたのなら……流石のくゆりも諦めるしか選択肢が無かった。
 だって、フィーちゃん直々のお願いなんですもん。叶えてあげないと!
「まあ。解体できなくても、ワクワクで輝く瞳はフィーちゃんとお揃いですし~~~?」
「楽しいことにわくわくするのはくゆちゃんとお揃い。機械仕掛けの心臓もフィーとお揃いだよ。ふたつもお揃いなんて、フィーは贅沢だね」
 機械仕掛けの心臓に、楽しいことへのわくわくに。好きな色に――お揃いがたくさん集まって、とびきり幸せな気分になれるから。
 お揃いを指折り数え、ほわほわな幸せを感じるフィリーネに、くゆりは「ウフフ」と笑みを零した。
「懐中時計の意味、『あなたと同じ時を歩みたい』なんだって。フィーたちとおんなじ」
 ちらりとフィリーネの視線の先には、懐中時計のコーナーが。
 ほわほわ花舞うような幸せなオーラを纏ったまま、フィリーネはじいっとくゆりを見つめていて。
 何か切り出したそうな人形の表情に、くゆりが優しく続きを促すと。
「……ね、くゆちゃん我儘いってもいい? 揃いの懐中時計に、ふたりの名前を入れて交換してくれる?」
 同じ物を持つのだとしても、欲を言ってしまうのなら、大好きなあなたがその手でくれる物が良い。
 それは、どんな時でも変わらないフィリーネの我儘で。
 そんな愛らしいフィリーネの口から紡ぎ出された、これまたフィリーネと同じくらい可愛らしい「お願い」。
 「お揃い」の言葉に、くゆりはニッパリと破顔させる。
「なんて愛らしい我儘だこと。フィーちゃんの我儘なら勿論叶えてあげたいですけど。ってゆうかあたしの我儘でもあるんですけど!」
「我儘までお揃いだね。息ピッタリだよ」
「フィーちゃんとの呼吸が合わなかったことなんて、今までありましたっけ?」
「ないよ、一度だって。くゆちゃんとフィーは、いつだってピッタリの呼吸だもん」
「そうそう。フィーちゃんとあたしは、いつだって息ピッタリの仲良しコンビ! でもでもソレだけでイイんです? もっと欲張るのがフィーちゃんでしょう?」
 そう。欲しいものは手に入れないと気が済まない傾向にあるのが、くゆりもよく知る目の前の魔女様で。
 小さく愛らしい彼女の願いが懐中時計だけだなんて、いつものフィリーネからしてみれば、考えられない程だ。
「もしかして熱あります? フィーちゃんが欲張らないなんて!」
「大丈夫だよ。フィーは元気。うふふ、くゆちゃんはフィーの欲しいをお見通しだね?」
 ニッパリ笑ったかと思えば、不思議がって、今度は顔を青くさせて。
 百面相のようにコロコロと移り変わる、くゆりの表情。頬に両手を当ててこの世の終わりみたいな表情をしているくゆりを安心させるように、フィリーネは「大丈夫だよ」を繰り返した。
「も~~~。驚かせないでくださいよお~~~」
「いつもはくゆちゃんが大変かなって思って」
「フィーちゃんとってもイイコ! でもでも遠慮しなくてイイんですよ? さてさて、こんなコトもあろうかと準備してました~~~」
 ちゃらんと軽い音を響かせて。
 くゆりが「じゃじゃじゃじゃ~~ん!」と効果音を口遊みながらポケットから取り出したのは、真っ赤な赤が目を惹くお揃いのハートのチャームだった。
 ハートは大好きの形で。ハートを染め上げる鮮やかな赤色は2人の色で。
「先日、一人で飲みに出た帰りに買って渡そうとして、そのままポッケに入れっぱなしだったなんて。決してそんなコトは、」
「そんなコトは――あったのね?」
「さすがにフィーちゃんにウソはつけませんからねぇ~~~。ポッケに入れっぱなしにしてました、ゴメンナサイ!」
「良いよ。くゆちゃんだもん。赦してあげちゃう」
「さすがフィーちゃん! もっととってもイイコ!」
 膨れ上がった愛しさが突き動かすままにむぎゅっとフィリーネを抱きしめれば、「うふふ」と生まれた嬉しそうな笑い声。
 大好きをいっぱいくれる、一番大好きなくゆちゃんだから。魔女だって、何でも赦してあげたくもなっちゃうのだ。
「ンフフ。コレでもっとお揃い!」
「大好きのカタチを足した我儘で贅沢なお揃い、素敵なの。ね、焔のような赤が混ざる時計はあるかな?」
「さ、二人の赤が混ざった一つを探しに行きましょ~~~! この会場ぜーんぶ見渡して、それでも無かったら作って貰えばイイんですよお! そしたら世界で一つだけのお揃い! あれ、お揃いだから世界で二つだけ?」
「それってすごく贅沢なお揃いに変身するね」
「それとも、最初から『世界で二つだけ』を頼んじゃいましょうかぁ~~~!」
 あれにこれに。一度語り出してしまったら、話題はもう留まるところを知らない。
 一番の大好きと揃えるお揃いだから、少しの妥協だって許せないのだ。
 くゆりとフィリーネの「お気に入り」を。真っ赤なハートが似合う「お揃い」を探して。
 仲良く指先を絡め合い、2人は懐中時計の海へと歩み出していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花天】◆
友人に!恋人に!とか、あなたと同じ時をとか――いや~、微笑ましくて良いよネ~、こーいうの――ネ~?
(春にすご~くチラチラしてみるも――しってた!)
冗談デスヨ、ハイ
(大人しくして、改めてホログラムや時計達へと視線移し)
にしてもホント、この世界の技術は凄いな~
確かに飽きない毎日になりそーだ

…ん、何?
(示された方を見て――二度見して)
いやホントオレを何だと思ってんの!?可愛いケドも~!
(最終的にぴよ時計をガン見してちょっと心揺らぎつつ)
ねぇちょっと次から次へと何見つけてんの~!

全く!じゃあ春はコッチの桜の――も良いケド、変化球で猫耳生えてるのな!
お供達とも長く楽しく過ごせるよーにって事で!


永廻・春和
【花天】◆
ええ、贈り物選びは好いものです
呉羽様も早くその様なお相手が見つかると良いですね
ところで今は素敵な品々見て、貴重な一時を楽しむ場ですよ?
(視線は時計に釘付けで――時計の心臓宛らに、残念ながら時めいて跳ねる様な事はなさげな様子で、さらり)
そうですね個性豊かな時計達ばかりで
この様な時計が傍らにあれば、一日がより一層楽しくなりそうですね

(ふと目に留まった時に微笑み)
あら――呉羽様の日々に良く合いそうな時計が
(示す先には、鳩時計ならぬ雛時計
ぴよぴよ仕掛が愛らしく時を告げていて)
彼方の亀さん懐中時計(蓋が甲羅な遊び心ある一品)も愛らしくてお似合いになるかと

ふふ
良いですね
きっと良き時を刻めましょう




 家族連れに恋人同士、或いは友人たちと賑やかに。
 お揃いにしようか、とか。贈り物にするなら、とか。聞こえてくるのは、心の底から楽しそうな話し声ばかりで。
 会場に溢れかえる人波のなかには、そんな人々の姿もちらほらと見受けられていた。
「友人に! 恋人に! とか、あなたと同じ時をとか――いや~、微笑ましくて良いよネ~、こーいうの――ネ~?」
 幸せそうな人々の会話を小耳に挟んでいるだけで、自分の心までふわふわ暖かくなってしまうよう。
 恋人の為に必死になって贈り物を選んでいる初心な青年は応援したくなる程で、家族で家に置く置時計を選んでいる光景は微笑ましさを感じられた。
 乗るしかない。この「幸せで微笑ましい」ビックウェーブに!
 だから、あわよくば反応してくれないかな~とか。淡い期待を籠めながら、呉羽・伊織(翳・f03578)は先ほどから永廻・春和(春和景明・f22608)のことを、ひたすらチラッチラッと繰り返しチラ見しているのだが――……。
「ええ、贈り物選びは好いものです。呉羽様も早くその様なお相手が見つかると良いですね」
 非常に残念だが、脈は最初から存在していなかったのかもしれない。
 伊織の言葉に言外に含まれていた「微笑ましくて良いから、オレたちもどーよ?」という意図はバッサリ斬り捨てられて……何なら、博覧会の床に置き去りにされてしまっていた。
(「うん――しってた!」)
 「お相手が見つかると良いですね」発言が伊織の心にグザッと刺さり、意図が置き去りにされたことがトドメになって。
「ところで今は素敵な品々見て、貴重な一時を楽しむ場ですよ?」
「ソウデスヨネ。冗談デスヨ、ハイ」
 先程までの威勢は何処へやら。しょんもりトボトボ若干肩を落として歩く伊織に、容赦なくニッコリと無言の圧を加える春和。
 多少雑に扱ったくらいで目の前の男が凹まないことは、とっくの昔に知っていた。花より団子。伊織よりも時計。何度か伊織をさらっと切り捨てた以外は殆どずっと、春和の視線は時計に釘付けだ。
 伊織の甘言の数々にも、時計の心臓宛らに跳ねる様なことは無さげな様子。
 懐中時計を抱きしめる白ウサギにそうっと桜色の双眸を細めた春和を見――伊織も漸く諦めたのか、視線が春和からホログラムや時計たちの方へ。
「にしてもホント、この世界の技術は凄いな~。確かに飽きない毎日になりそーだ」
「そうですね。個性豊かな時計達ばかりで。この様な時計が傍らにあれば、一日がより一層楽しくなりそうですね」
「時計と一緒にオレもどーよ? 楽しくなるぞー」
「呉羽様は間に合っておりますので」
「デスヨネ!」
 懲りずにアタックするも瞬殺でポイポイされた伊織だが、今までもこれからも、彼が挫ける時が訪れることはないだろう。きっと。
 伊織の絡みを手馴れた動作でさらりと流した春和は、巡らせた視線の先に「誰かさん」を連想させて止まない時計を発見し――クスリを表情を和らげた。
「あら――呉羽様の日々に良く合いそうな時計が」
 春和の示す先には、鳩時計ならぬ雛時計。
 まるぅい卵型の上部が持ち上がったかと思ったら、ひょっこり顔を覗かせたふわもふぴよぴよが『ぴよっぴよっ♪』と愛らしく時を告げていた。
「……ん、何? ナニ!?」
 予想外の出逢いに、伊織は思わず二度見して。
 だって、伊織のバディペットである「ぴよこ」そっくりのひよこが居るんだもの。二度見するなという方が無理な話なのだから。
「いやホントオレを何だと思ってんの!? 可愛いケドも~!」
 とか何とか。よく回る口で色々言いつつも、伊織の視線は始終ぴよ時計に釘付けだ。
 だって、仕方がない。ぴよぴよ告げるもふふよがとっても愛くるしいんだもの。
『ぴよ♪』『ぴよよ!』『ぴぃ……』『ピヨッポー!』
「ねぇちょっと待って、最後なんか別の居なかった!?」
「呉羽様が凝視し続けているせいで、雛さんが恐がって隠れてしまったのでは?」
「オレの扱い!」
 いた。絶対に、なんか別のが居た。黄色くてかわゆいまるもふ3羽に交じって、シュっとしたハトみたいなのが。
 一瞬だけど、見逃さなかった。あれ、ぴよこじゃない。黄色く染まったハトさんだ。
「後は――彼方の亀さん懐中時計も愛らしくてお似合いになるかと」
 ニッコリ店員もかくやの極上スマイルを浮かべて、春和が掲げて見せたのは亀さん懐中時計。
 懐中時計からひょっこり生えているのは小さく可愛らしい手足と頭で、蓋が甲羅になっている。
 一風変わった、遊び心溢れる一品だった。
「ねぇちょっと次から次へと何見つけてんの~!」
 ぴよ時計に伸ばされかけたいた手が、今度はふわりと亀さん懐中時計の方へ。
「あら、鴉さんの目覚まし時計もありますね」
「それ以上見つけないで! 迷うから、悩むから!」
 春和は隠れん坊が得意なよう。ふふっと悪戯っ子のような表情を浮かべたまま、彼女が見つけ出すのは、どれも伊織の相棒や好きなものを連想させるデザインの時計ばかりで。
 あっちこっちから聞こえる誘いの声に、ウロウロ彷徨う伊織を春和が微笑ましそうに見守っていた。
「全く! じゃあ春はコッチの桜の――も良いケド、変化球で猫耳生えてるのな!」
 春和に負けじと、伊織も春和が好みそうな時計を探し出して。
 したり顔で示す先には、ひょっこり猫耳の生えた八割れにゃんこの懐中時計の存在が。
「で、こっちのふてぶてしいのは――」
「あら、ご本人様に伝えておかないといけませんね? 呉羽様がこう仰っていたと」
「待って! それは止めて!」
 ニコーっと春和が笑めば、すかさず入る「待った」の一言。
 気心の知れた仲間達やお供達を連想させる時計を見つけ出せば、話題の花もあっという間に満開を迎える。
「お供達とも長く楽しく過ごせるよーにって事で!」
「ふふ。良いですね。きっと良き時を刻めましょう」
 互いに選び抜いた「お供達」そっくりの時計たち。
 それぞれのお供にお披露目したら、果たしてどんな反応を返してくれるのだろう。
 機械仕掛けのお供が新しく仲間に加わったのなら、きっと更に楽しく賑やかな時が刻めるだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
【花面】

ご覧よシェルゥカ
素敵な時計が沢山並んでいるね
私はこういう精巧な作りのものを眺めるのは、とても、好きだよ
それに、私は花が好きだ。知っているだろう
だから、君に花の意匠の懐中時計を贈りたいと思ってね

君は、私が約束があれば生きていけると言ったね
ただ、私の約束は、君への約束だ
君を突き放したりはしない
勝手に死のうとしたりしない
…君が居ないのに成立する約束では、無いよ

君がそう感じたのは私の責任だろうけど
私の事が心配なのだろうけど
…だからって私が一世一代の決意でした約束をそんな風に捉えられるのは嫌だ

懐中時計を贈る意味を、聞いたろう
私は、「君と同じ時を歩みたい」
願いを込めて、君に、贈らせて貰えるかい


シェルゥカ・ヨルナギ
【花面】

どの時計も魅力的
一緒に見れて嬉しいなー
でもねエンティ

突き放す事はしないと言う君
確かに突き放さないけど
俺は君の『好ましい』
君は大体何でも好ましく、それは好きとは違うと言う

勝手に死のうとしないと言う君
けど独り勝手に死の淵を覗く
『好ましい』だけの俺は何も言えず
君も止めてくれるなと言う

約束があるから生きられると言う君
大切なのはその強制力や免罪符
一世一代の決意を要したのは君自身の生という対象の大きさ故

だから俺は居なくていいと思った
だって何も言えないし言われない

けれど
君と過ごす時間は好きなんだ
だから懐中時計を君に
俺の好きな星の意匠
これがあれば約束は確かにしたときっと思えるから
大丈夫
君は生きられるよ




 一つ一つに作り手の想いや情熱がありったけに籠められた、唯一無二の機械仕掛けの心臓たち。
 それが会場いっぱいに溢れ返って、来場客たちを出迎えている。
 人々に向かって、自慢の身体を披露するために。或いは、共に歩むパートナーに見つけてもらうために。
「ご覧よシェルゥカ。素敵な時計が沢山並んでいるね」
 精巧な造りを持つ物を眺めるのは好きだから。
 好きが目の前に沢山溢れているお陰か、常よりも少しだけ柔く流れる様な言葉遣いと共にエンティ・シェア(欠片・f00526)が示す先には、手作りのアンティーク品ばかりが並べられている。
 近未来的な技術に惹かれない訳ではないが、歴史を感じさせる繊細なアンティーク品の方がより好ましい。
「どの時計も魅力的。一緒に見れて嬉しいなー」
 綺麗なものを眺めるのは、例えそれが一人であったとしても自然と楽しくなってしまうこと。
 けれど、気心の知れた存在が傍にいたのなら、楽しさも嬉しさも全てが倍以上に膨れ上がるから。
 シェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)の口から滑り落ちるように紡がれたのは、エンティへと向けた嘘偽りない本心で。
 どの時計も魅力的であることには違いない。だけど、そのなかでも君の緑の眸が捉える品ばかり気になってしまうのは、ただの偶然なのだろうか。
「私はこういう精巧な作りのものを眺めるのは、とても、好きだよ。それに、私は花が好きだ。知っているだろう」
 シャラリとチェーンの持ちあがる涼やかで軽い音が、耳のなかを通り抜けて鼓膜を揺らす。
 台詞を暗唱するように淀みなく紡がれるエンティの言葉通り、彼が足を止めたり、触れたりするのは意匠に「花」の咲く時計ばかりだった。
 褪せたり枯れたりするのことのない、金属製の紛い物の花。それでも花で在ることに変わりはない。
「だから、君に花の意匠の懐中時計を贈りたいと思ってね」
 好きな物を好きな者へ。
 花綻ぶ懐中時計の背を撫ぜながら、エンティはシェルゥカへと柔い表情を向ける。
 その誘いは一等甘い誘いのようにも聞こえるけれど。
 シェルゥカの表情は、薄曇りのように微妙に晴れることなくて。
「君は、私が約束があれば生きていけると言ったね」
 シェルゥカの反応を知ってか知らずか、気付いてか気付かずか。
 エンティが語るのは、昔シェルゥカと交わした「嘗て」の話。
 エンティが生きていくのに必要なのは、エンティを縛る約束だけ。それだけがあれば生きていけるのだと。
 目の前の君は、いつの日だかにそう言っていた。
「ただ、私の約束は、君への約束だ。
 君を突き放したりはしない。勝手に死のうとしたりしない。
 ……君が居ないのに成立する約束では、無いよ」
 エンティの約束は、シェルゥカ無しには存在しない。
 他ならならぬシェルゥカ自身が居なければ、約束そのものが無効で無意味なものとなってしまうのだから。
 エンティの言葉が、シェルゥカ自身が必要なのだと言外に伝えていても。
「でもねエンティ」
 どうしてなのだろう。
 常ならば、「懐中時計を贈る」という提案は嬉しく面映ゆいはずなのに。
 「君無しには成立しえない約束」には、仄暗いほどの歓喜が巻き起こるはずなのに。
 愉しげに笑むエンティとは反対に、シェルゥカの心持は思考の海へとゆっくり深く沈んでいく。
「突き放す事はしないと言う君。確かに突き放さないけど――俺は君の『好ましい』。
 君は大体何でも好ましく、それは好きとは違うと言う」
 エンティにしてみたら、きっとこの会場に並ぶ大半の時計たちも『好ましい』の分類に分けられるのだろう。
 『好ましくない』に分類される存在を探す方が、難しいくらいだった。
 息を吐くように告げられる『好ましい』の感情は、エンティが語る『好き』とは確かに違う存在なのだという。
 この会場で大半を占める時計たちと、俺の存在は同列だったりするのだろうか。だって、どっちも――『好ましい』なのだから。
「勝手に死のうとしないと言う君。けど独り勝手に死の淵を覗く。
 『好ましい』だけの俺は何も言えず、君も止めてくれるなと言う」
 傍に居たかと思えば、不意の瞬間に居なくなる。
 そしてシェルゥカの預かり知れぬところで、勝手に死にかけては戻ってくる。
 自身の生を代償に、死の淵を覗くその行為。シェルゥカ自身も、エンティが「止めてくれるな」と言うせいで――何も言えず、何もできない。
 それが、もどかしくもあって。
「約束があるから生きられると言う君。大切なのはその強制力や免罪符。
 一世一代の決意を要したのは君自身の生という対象の大きさ故だ」
 本当に大切なのは、きっと俺自身じゃない。約束が齎す、強制力や免罪符なのだろう。
 俺じゃなくて強制力や免罪符があるから、エンティは生きられる?
「だから俺は居なくていいと思った。だって何も言えないし言われない」
 何も言えない、言われない。形ばかりで実体のない「約束相手」。
 居ても居なくても同じなら、居なくていいと。語るシェルゥカの顔に、陰が差していく。
「君がそう感じたのは私の責任だろうけど。私の事が心配なのだろうけど。
 ……だからって私が一世一代の決意でした約束をそんな風に捉えられるのは嫌だ」
 言葉と態度が原因で誤解を招いてしまったのなら。同じ言葉と態度で、誤解を解くしか方法はない。
 陰の落ちた顔。その持ち主の反応を伺うようにして。
 諭すように、語り掛けるエンティにやがてシェルゥカがゆっくりと顔を上げた。
「懐中時計を贈る意味を、聞いたろう。私は、『君と同じ時を歩みたい』」
 真っ直ぐに赤を射抜く、二つの緑色。
 シェルゥカが何度も覗き込んだ覚えのあるエンティのそれが、間近で煌めきを放っている。
「願いを込めて、君に、贈らせて貰えるかい」
 一言ずつ、ゆっくりと、区切るようにして。
 言葉と共に視界の端で輝くのは、キラリと光る金属色が美しい――シェルゥカへと差し出されたのは、花の意匠の懐中時計だった。
 目の前にあるそれと、何処か困ったように微笑むエンティを何度か見比べて。
 それからそっと、静かにシェルゥカの唇が弧を描いた。
「けれど、君と過ごす時間は好きなんだ。だから懐中時計を君に」
 俺は居なくてもいい。先程確かに、そう言った。
 けれど、エンティと共に過ごす時間は何物にも代えがたいものだから。
 シェルゥカがエンティに贈り返すのは、シェルゥカ自身が好きな星の意匠を施した懐中時計。
 勝手に独りで死の淵を覗く君へ。俺が傍に居ない時でも、君を導く一等星になるように――これがあれば約束は確かにしたときっと思えるから。
「大丈夫。君は生きられるよ」
 それはきっと、確定した未来。君が望み続ける限り、現実のものになるのだろう。
 不朽の花を手にした「俺」と、一等星を得た「私」。
 一寸先の未来は誰にも分からぬと云うのに、妙なところで確信を抱かせてくれる予感を胸に――互いの存在を眸に映し、そぅっと微笑み合うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラッツ・クルークハルト
◆■
愛するもの、に宛てて贈るならば
それは恋人相手でなくとも構わないだろうと思ったがゆえ
――息子に渡す時計をひとつ見繕いたいんだ
時計を売るスペースに立ち寄って、店員に相談を

腕時計、がいい
そっちの方が、遊び回っても失くす心配が少ないだろう
子どもが持っていても遜色のない、あまり厳めしくない、重くないもので
…ああ、でも、あまり子どもっぽくない意匠だと良い
そろそろ大人らしいものに憧れる年頃なんだ
まだずっと小さな子、なんだが
話すうちに頬が緩みそうになるのは、外套で口元隠して抑えながら
注文が多いのは済まないな
…ああ、その木製の、アンティークの時計なんかは丁度良いかもしれない

妻……は、いいんだ、もう亡くなっているから
それに、生前にすでに贈ったことがあるというか
まあ、そう、懐中時計を――そういう意味合いがあるとか聞いて、
……い、いや、この話は広げる必要はないな、忘れてくれ
口が重くとも、家族の話だけは淀みなく話せてしまうせいで
妙な惚気を余計に持ち出すところだった
…とにかく、贈り物が決まったなら、精算と礼を




 その定義はただの一つだけ――愛するもの。
 凡そならば、大半の人々は「恋人」や「伴侶」といった存在を思い浮かべるのだろう。
 しかしそこに、性別や年齢、人種や関係性といった決まりは本来ならば存在しないのではないか。
 ただ、己が愛するものに贈るのだ。照明の光を受けて仄明るい光をその身に宿す、機械仕掛けの心臓を。
(「愛するもの、に宛てて贈るならば」)
 それは恋人相手でなくとも構わないだろう。真の意味で愛している相手であるのならば。
 そう考えたブラッツ・クルークハルト(隘路に・f25707)が立ち寄ったのは、博覧会のなかの数あるブースのうち、時計を販売しているスペースであった。
 瞼の裏で思い描くのは、逢う度に大きく成長した姿を見せる息子の姿だ。
 危険な目に遭わせられぬからと、知人に預けて旅に出た。息子と別れたのは、果たしてどのくらい前のことだったか。
 あの頃はまだ、あれほど小さかったというのに。気が付けば、いつの間にやら随分と大きくなっていた気さえして。
「――息子に渡す時計をひとつ見繕いたいんだ」
 昼でも夜でも明るい世界。時折現れる怪人にさえ気を付けていたら、命の危機に瀕することは稀であり。食料が満ち溢れているのだから、飢えとも無縁の生活を送っている人々。
 何から何までがブラッツの「故郷」とは正反対のキマイラフューチャー。皆が幸せそうで。
 それにやや複雑な思いを抱きながらも、男は店員へと相談を持ち掛ける。
 口元を覆うガスマスクは外してはいるのも、無頓着な身なりはそのままだ。訝しがれていなければ良いのだが。
「お兄さん――もしかして、サバイバル・テクニックの動画とかアップされている系の人ですか!? 僕、ああいう動画をよく見るんですよ!」
 ブラッツの心境など露知らず。「世界の加護」の存在も効果を発揮しているのだろうが――目の前の店員は、何故だかキラキラとした憧れの表情で自分のことを見つめている。
 この反応は正直言って、予想外の範疇にあった。常ならば、仲間以外の人間には警戒して掛かるのが故郷の日常風景なのだから。
 アポカリプスヘルでの敵は……何も、オブリビオンだけではない。
 同族である人間ですら、時には「敵」へとなり得るのだ。資源や食料を取り合う、ただそれだけの為に。
(「そんなに無警戒で……」)
 ブラッツが「敵」であったのなら、店員の青年は既に事切れていたことであろう。
 しかし、警戒することも、訝しがることもせず。純粋に「尊敬」の念を向けてくる。
 店員の反応にまで、この世界の「当たり前」が反映されているようで。
 肯定も否定もせず、ブラッツは曖昧な表情で誤魔化した。
「ああ、すみません。僕ばかり話してしまって。
 それで、本日はどのような品をお探しで? 置時計ですか、腕時計? それとも、懐中時計でしょうか?」
「腕時計、がいい。そっちの方が、遊び回っても失くす心配が少ないだろう」
 ブラッツが腕時計を選択したのも、ひとえに息子を想ってのこと。
 大人に憧れる年頃であっても、まだまだ遊びたい盛りでもある。うっかり落としたり、無くしてしまったりすることが無いように。
 親心から、腕時計という選択肢に行き着いたのだ。
「子どもが持っていても遜色のない、あまり厳めしくない、重くないもので。……ああ、でも、あまり子どもっぽくない意匠だと良い。そろそろ大人らしいものに憧れる年頃なんだ」
「じゃあ、ヒーローっぽいものは候補から外しておきますね。代わりにもう少し本格的な……」
 如何にも「子供向け」な品から、気が付けば、「大人っぽいもの」へと憧れるようになっていた小さな息子。
 息子の成長を喜ばしく感じつつ、これから大人になるまでの間、息子の腕を彩る腕時計を想像し――ブラッツの双眸が、幾分か柔らかい光を宿す。
 折角だ。息子と共に成長できる、長年に渡って愛用できる品を。
 いつか、故郷が本当に平和になったのなら。再び息子と一緒に暮らすことができて――そのうち、すっかり大人になった息子と、「腕時計を贈ったことがあったな」と語り合える日が来るのかもしれない。
 今はまだ、遠き未来に想いを馳せながら。
「まだずっと小さな子、なんだが」
 まだこのくらい、と。息子の身長を手で示しつつ。
 話すうちに自然と緩みそうになる頬を自覚して、慌てて外套で口元を覆い隠す。
 溢れ出る笑みを、少しでも抑えられるように。
 それでも柔くなる口調は隠しきれなかったようで、「家族思いなんですね」と店員に微笑ましがられてしまったり。
「注文が多いのは済まないな。……ああ、その木製の、アンティークの時計なんかは丁度良いかもしれない」
「では、こちらで」
 あれやこれと並べられる品のなかから、ブラッツが選んだのは木製の腕時計だった。
 アンティーク品であるらしい。歴史を感じさせる深い色合いで、優しくブラッツのことを見上げている。
 使えば使い込むほど深みを増す木の色合いに、経年変化も楽しめることだろう。
 木製の腕時計が、息子のこれからを彩ることを願って。
 遠く離れていても、自分の代わりに息子の存在を見守ってくれるように。
 そしていつの日か、傍らで息子の成長を見守れる日が、くるように。
「折角ですし、奥様への贈り物を合わせてはいかがでしょうか?」
「妻……は、いいんだ、もう亡くなっているから」
「それは……! 大変失礼いたしました!」
 店員の言葉に、ブラッツの頭を過ったのは――妻と過ごした、日々のこと。
 もし生きていたら。妻と息子と。ただ「愛する人」の為に生きることが、赦されていたのなら。
 そんな「もしも」は……いや、考えたところで過去は変えられない。
 店員へと「いいから」と言葉を重ねて、ブラッツはそこで思考回路を打ち切った。
「それに、生前にすでに贈ったことがあるというか。まあ、そう、懐中時計を――そういう意味合いがあるとか聞いて、」
「ああ。『あなたと一緒の時間を歩みたい』という、あの――」
「……い、いや、この話は広げる必要はないな、忘れてくれ」
 随分と情熱的ですね。
 言葉にされなくとも分かる。店員の眼がそう語っている。
 故郷での日々がそうさせたのか――他者と会話する際に、どうしても口が重くなってしまう。
 余計なことを教えれば、それだけ命が尽きる可能性が高くなってしまうのだから。
 しかし、家族の話だけは例外だった。自分でも驚くほど口が周り、淀みなく話せてしまう。
(「……妙な惚気を余計に持ち出すところだった」)
 若気の至りと呼ぶべきか、若かりし頃の情熱的な恋愛と呼ぶべきか。
 妻との諸々について口を滑らせて、後で恥ずかしい思いをするのはブラッツ自身である。それだけは避けたかったから、慌てて話を切り上げた。
「……とにかく、助かった。お陰で贈り物が決まった。精算はどちらだ?」
「それなら、あちらですよ」
 店員に礼を告げ、案内された精算スペースの方へ。
 「どうか、息子さんと思い出に残る一時を」と挨拶を送る定員には――振り返らずに、ひらりと軽く手を振って返しておいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード

コノハ/f03130

カチコチとリズムを刻む
針の調べが心地いい
ホログラムの仕掛けにも
つい目を惹かれつつ

懐中時計、キレイだな
歯車が動く様なんてずっと眺められそうだ
――お、見てくれコノハ
文字盤のなかに宇宙が拡がってるぞ

俺はショップも気になってる
腕時計が欲しい

カチコチ回る歯車が覗く
アンティークな腕時計
――これにしよう
文字盤の代わりに描かれた
ホロスコープが洒落ている

一応、俺もマシンの端くれだ
時計機能は内蔵されてる
だから、見易さよりも
美麗で風変わりな外観に惹かれた
どれだけ眺めていても
これは飽きなさそうだしな

コノハはどれにするんだ?
へえ、夕焼けに染まる懐宙時計か
温かみがあって、キレイだ
俺も、結構好きだな


コノハ・ライゼ

ジャックちゃん/f16475

わぁ~、すっごい!時計がいっぱい!
ホログラムに歓声上げ、針の音に感嘆零し
あちこち興味津々

そういや身近な割にはあまり持ってないわね、時計
馴染みの薄い歯車仕掛けの時計とか心惹かれる
スケルトンモデルかっこいいし、蓋つき懐中時計とか紳士なイメージ!
え、懐宙時計!?
超ステキ、と穴が開く程覗き込んで

あ、オレも買い物する!
ジャックちゃんのは……へぇ、大人のオトコって感じ!
ねぇねぇ、ナンでそっちを選んだの?
だって身に着ける時計ってちょっと特別なカンジだもの、気になるじゃない?

オレ?オレはねぇ
さっきの懐宙時計……夕焼けの
大好きな色だった筈なんだ、ソレを忘れないように……ナンてね




 カチコチと一定間隔で響くのは、時計たちが刻を刻む音色。
 一切乱れることのない音の流れは、静かに響いて心地が良い。聞いているうちに、眠気が襲ってくるかもしれない。
 静かに広がる針の調べも気になるが、上空で存分にその存在を主張しているホログラムの時計だって見逃せない。
「わぁ~、すっごい! 時計がいっぱい!」
 歓迎の意を表すかのように、絶え間なく降り注ぐのは花の雨。
 名前の知っている花も、何処かで見たような覚えのある花も。或いは、今日初めて見る花も。
 一緒くたになって、ふわりとゆっくり落ちては消えていく。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)の視線は、会場内に入るなりあっちへこっちへの大騒ぎだ。視線の落ち着く場所が存在しないようで、ホログラムに歓声を上げたかと思えば、針の音に言葉にならぬ感嘆を零している。
 興味津々なコノハの様子を微笑ましく見守りながらも、ジャック・スペード(J♠️・f16475)もまた、ホログラムの時計から飛び出す鯨や小鳥といった存在についつい目がそちらの方へ。
 上空を遊泳する鯨と降り注ぐ花の雨に見守られながら、ジャックとコノハは海上の奥の方へと足を踏み入れる。
「懐中時計、キレイだな。歯車が動く様なんてずっと眺められそうだ」
 種類も用途も様々な時計が展示されているなか、ジャックが覗き込んだのは、「スケルトン」と呼ばれるタイプの懐中時計だった。
 時計の一部、或いは全面を覆う薄い硝子越しに見ることが出来るのは、歯車やら各種パーツやらが生き物のように規則正しく動く様だ。
 その光景は、不思議といつまで経っても見ていられる気がする。
 と、ジャックの声に引き寄せられたコノハが、「オレにも見せて!」とにょっきり横から生えてきた。
「そういや身近な割にはあまり持ってないわね、時計」
「一人で何個も持つようなものでもないからな」
 家に、街で、お店のなかで。
 至る所でその存在を見かけるが、個人で持つには一つも有れば十分だろう。
 日常生活に溶け込み過ぎているせいで、普段はそれほど気にも留めないが――改めてじっくり眺めてみると、心惹かれる「時計」の多いこと!
 特に、馴染みの薄い歯車仕掛けの時計はコノハの心を捉えて離さなかった。
「スケルトンモデルかっこいいし、蓋つき懐中時計とか紳士なイメージ!」
「――お、見てくれコノハ。文字盤のなかに宇宙が拡がってるぞ」
「え、懐宙時計!? 超ステキ!」
 あれやこれやと見て回るコノハの後ろを、ゆっくりとジャックが付いていく。
 そのうちに、ジャックの金の眸が文字盤のなかに拡がる宇宙を捉えて。
 ゆっくりと移り変わる濃紺色の宇宙に、浮かんでいるのは大きさも色も様々な恒星たち。
 そのことを空好きなコノハに教えてやれば、即座にジャックの元まで舞い戻ってきた。
 じぃっと穴が空きそうなほど懐宙時計を眺めるコノハに、ジャックも思わず小さく苦笑を零す。
(「これは当分、ここから動きそうにないな」)
 懐宙時計の宇宙を楽しむこと、何分後か。ひとしきり楽しんだコノハは、広げたパンフレットをジャックに見せて。
「次はどっちしようかしら?」
「俺はショップも気になってる。腕時計が欲しい」
「あ、オレも買い物する!」
 腕時計が欲しいと話すジャックに、コノハも乗り気で「買い物したい!」と名乗り出て。
 2人で向かうのは、各種時計の購入が出来るスペースだった。
 展示されていた品が実際に購入出来て、自分の日常を彩るのだと考えると――少しばかり、足取りも軽くなってなんとも不思議な心地に。
「――これにしよう」
 宣言通り、腕時計を見て回るジャックの表情は真剣そのものだった。
 どれが良いかとか、デザインはどうかとか。細かなあれこれを考えながら、気になった品と品を比較して。
 そして、静かに一つを選び出した。
 ジャックが選んだのは、アンティークな腕時計だ。
 盤面の一部に月を象ったガラスが埋め込まれ、そこからカチコチと回る歯車が姿を覗かせている。
 文字盤の代わりに盤面を彩るのは、12個の星座のマークたちを始めとする――お洒落なホロスコープだ。
 時刻を表示する3つの針は太陽や星の形を模していて、12星座の周りをクルクルと回っている。
「ジャックちゃんのは……へぇ、大人のオトコって感じ!」
 ジャックの選んだお洒落な腕時計を、キラキラとした表情で眺めるコノハ。
 大人の魅力が感じられて、「イケメン」なイメージにぴったりだ。
「ねぇねぇ、ナンでそっちを選んだの? だって身に着ける時計ってちょっと特別なカンジだもの、気になるじゃない?」
 誰かに贈る時計が特別ならば、自身が身につける時計も特別だろうから。
 何を選ぶ基準にしたのか、それが気になって。好奇心のままに尋ねてくる。
「一応、俺もマシンの端くれだ。時計機能は内蔵されてる」
 そう。ジャックは、ウォーマシン。時計機能は内蔵されている。
 時計は必ずしも必要な道具ではないのだ。だから。
「だから、見易さよりも美麗で風変わりな外観に惹かれた。どれだけ眺めていても、これは飽きなさそうだしな」
 カチコチ回る歯車に、ゆっくりと移り変わるのは、ホロスコープの上に浮かぶ星の位置。
 装飾性の高いソレは、どれだけ眺めていても飽きることはないだろう。
「コノハはどれにするんだ?」
「オレ?オレはねぇ。さっきの懐宙時計……夕焼けの」
 コノハが選んだのは、先ほど穴が空きそうなくらい見つめていた懐宙時計シリーズのうちの――夕焼け空が浮かび上がるものだった。
 燃えるようなオレンジ色、溶けてしまいそうなピンク色に、薄く揺らぐ空色、そっと広がる紫。真っ赤な夕陽を背に、白く輝いているのは一番星だろうか。
 丸く切り取られた美しい夕焼け空が、コノハの手の中に納まっている。
「へえ、夕焼けに染まる懐宙時計か。温かみがあって、キレイだ」
「大好きな色だった筈なんだ、ソレを忘れないように……ナンてね」
 コノハの髪の色と似たような色彩を宿す、夕焼けの色。大好きだったはずの色を、忘れないようにと。
 しんみりとした雰囲気を纏い、そっと瞳を伏せたのも一瞬のこと。次の瞬間にはウインクしつつ、「ナンてね」とおどけてみせるコノハがそこに居る。
「俺も、結構好きだな」
 だから、あえて深く聞くことはせず。
 ジャックは、コノハの手の中で揺れる夕焼け空を少しの間楽しむだけに留めておいたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『リア充どもは爆発しろ怪人』

POW   :    リア充は爆破する!
予め【リア充への爆破予告を行う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    リア充は爆破する!!
【リア充爆破大作戦】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    リア充は爆破する!!!
単純で重い【嫉妬の感情を込めて】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。

イラスト:くずもちルー

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルル・アークライトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『10:00:00』

 人々で賑わいを見せていた博覧会。
 しかし、平穏な時間は唐突に崩れ去る。
 停電でも起きたのだろうか。頭上のホログラム時計が突然掻き消えたかと思えば、直後に会場が一瞬暗闇に包まれ。
 数秒後の復旧と共に、博覧会の目玉であったホログラム時計の代わりに浮かび上がったのは――何かのカウントダウンと思しき数値。

『フハハハハハ!! この会場は、『リア充どもは爆発しろ怪人』である俺様が乗っ取った!!』

 上空に浮かび上がった数値に会場内が困惑に包まれるなか、高笑いと共に姿を現したのは――爆弾のような頭部に「リア充爆破」のマントを纏た怪人であった。

『このリア充どもめッ!! なーにが、プレゼントの意味だ。なーにが、『同じ時間を歩みたい』だ!!
 この展覧会に来ているということは、贈り物でも選びに来たんだろう!?? それとも、アレか? 新居に飾る時計でも見に来たのか!?
 まあ良い、リア充である貴様ら全員を爆発する予定に変わりはないッ!!』

 かなり無茶苦茶な言いがかりだが……。
 目の前の怪人は、どうやら本気の様だ。
 『プレゼント特集!』と表紙に記された雑誌を放り投げると、上空の『10:00:00』という数値へ指を突き出し――。

『09:59:55』

 そして、静かにカウントダウンが始まった。
 博覧会では数々のイベントが計画されていたが……どうやら、この「怪人乱入」は演出ではなく、ガチな方のトラブルであるらしい。来場客だけではなく、運営陣からも困惑の声が上がっている。

『予め、会場のあちこちに爆弾を仕掛けておいた! 勿論、時計仕掛けで爆発するタイプのものをなぁ!!
 10分後にこの会場は爆発するウゥッ!! 10分で貴様らが逃げ切れるとは思えん!! 会場の出入り口はロック済み! 解除できるような有能な奴もいないだろうからなぁ!』

 勝ち誇ったように高笑いを浮かべる怪人。
 未だに来場客達はパフォーマンスではないのかと、呑気に構えたりもしているようだが――しかし、目の前の怪人は本気である。
 急がねばならない。人命が掛かっている。猟兵とはいえど、爆発に巻き込まれたら無傷では済まない。

『09:59:20』

 怪人の宣言と共にカウントダウンが始まったのだ。早くも数十秒は経っていた。
 残された時間は10分を切っている。10分で手を打たねばならない。そう。10分後、に……?
 猟兵たちは上空に表示された残り時間を再び見上げた。
 ――カウントダウンのタイマーに、何か違和感があるような。
 そんな疑問を抱きながら。

=========
 シリアスのようで、その実コメディ寄りな2章、『リア充どもは爆発しろ怪人』とのボス戦です。
 怪人には、さっさと退場してもらいましょう。
 普通に攻撃するも良し。爆弾捜索や、避難誘導等を行いながらの戦闘も。
 会場に仕掛けられた爆弾は放置でも、なんやかんやで後から駆け付けた爆弾処理班的なキマイラたちが上手く事後処理してくれます。
 勿論、発見次第、爆弾解除や持ち主(怪人)へ返却しても大丈夫です。(※なお、爆弾が怪人に返却された場合、良い感じのタイミングで怪人だけを巻き込んで爆発します。)
 お好きなように戦ってくだされば。
=========
夜鳥・藍
……時間の数え方って確か秒から上が60進法・24進法で、秒未満は10進法でしたよね……確か。
となるとあの時計の下の単位は59から始まった以上最低でも秒であり、そうなると10分間ではなく10時間となる気がするんですけど……?

さてどうしましょうか。うかつに雷を放って時限爆弾の誤作動を誘発しても困りますし。
そっと身を隠しながら爆弾を捜索しましょう。
この手の輩からカップルあてのチラシや雑誌に載っていそうな場所にまず仕掛けてる事でしょうし。当人に経験がなさそうですし、そういう情報は鵜吞みにしてそうです。
爆弾を見つけたら抱えて怪人の元へ。クリスタライズで姿を消しそっと怪人の元に渡しましょう。お返しします。




『どんなに急いだとしても10分で逃げ切れはしないだろうがなあ!!』
 ハッキングでもしたのだろう。会場に設置されたスポットライトの光を一身浴びて、早くも勝ち誇ったように高笑いを浮かべる怪人の姿には嫌でも注目せざるを得な――否、そうではなかった。
 「10分」と言葉に慌てふためく人々はパニック半分、疑い半分という状態であっちこっちを行き来し、お祭りのような状況で。
 頭上の時計を凝視し、「本当に10分か?」と首を捻る人々の頭からは、怪人の存在などすっぽり抜け落ちているような様だ。
 ……悲しいかな。怪人よりも頭上の時計の方に注目が集まっていた。
「……時間の数え方って確か秒から上が60進法・24進法で、秒未満は10進法でしたよね……確か」
 陶磁器のような白い柔肌に手を添えて。冷静に「違和感」の正体を分析していた夜鳥・藍は、すぐに「結論」に至った。
「となるとあの時計の下の単位は59から始まった以上最低でも秒であり、そうなると10分間ではなく10時間となる気がするんですけど……?」
 ハチの巣をつついたような騒ぎの一方で。会場の片隅に零れ落ちた、藍が発した小さな呟きに、周囲の数人が「あー……」と何とも言えない息を吐く。
 違和感の正体は、あれだったのか。
 だが、幸いにも「違和感」の存在が怪人にバレてはいない。
 このことは、内密に。哀れみを孕んだ視線を怪人を向けた後、来場客と無言で頷き合った藍は――作戦を行動に移すべく、気配を消してそっと動き出した。
(「うかつに雷を放って時限爆弾の誤作動を誘発しても困りますし」)
 タイマーがアレなのである。爆弾の設定だって何処かで抜けていそうだ。
 なるべく爆弾に刺激を与えないように。
 そのことを念頭に置きつつ、藍が向かったのはカップル向けの「ペアウォッチコーナー」だった。
 先程、会場を一通り見て回った際に大体の配置は頭に入れてある。あっちへこっちへ入り乱れる人波を上手く躱しながら、目的の場所へと一直線に。
(「この手の輩からカップルあてのチラシや雑誌に載っていそうな場所にまず仕掛けてる事でしょうし」)
 会場を見て回っていた際に、デカデカと「恋人とお揃いで!」なんてポスターに書いてあったのだ。
 雑誌の内容を鵜呑みにしてしまう怪人なら、あのポスターの情報も鵜呑みにしているだろうというのが、藍の立てた仮説であった。
(「当人に経験がなさそうですし、そういう情報は鵜吞みにしてそうです」)
 そして、ハートをモチーフにしたお洒落な腕時計が並ぶ一角へ。
 ハート型のオブジェの物陰や、ショーケースの下……隠されていそうなところを捜索すれば、目的のものはすぐに見つかった。
(「王道な場所に隠されていたお陰で、早く見つけられましたね」)
 ご丁寧に、爆弾に繋がれた時計はハート型のものだ。よほど恋人たちが憎くて仕方がないらしい。
 嫉妬する暇があるのなら、その時間を自分磨きに使えば良いものを。ブレない怪人の姿勢に半ば呆れながらも、爆弾を抱えた藍はその姿を消して――足早に、怪人の元へ。
『この10分を何もせずに突っ立っている俺様ではないッッ!!
 忌むべき文化を根絶やしにすべく、俺様直々に会場を破壊し――』
「――お返しします」
 リア充根絶に向けた、記念すべき第一手。
 嫉妬の一撃を籠め、振り下ろされた怪人の拳が、近くにあったショーケースを叩き割る直前を狙って。
 無駄のない華麗なフォームで爆弾を滑らせ、「いっておいで」する藍。まるで怪人の拳が生き別れた恋人であるというかのように、一直線に怪人の拳目掛けて滑っていく爆弾。
 何とも良い感じでショーケースと拳の間に滑り込んできたのは、物陰から藍が怪人の元に向かって滑らせた爆弾だった。
 ショーケースを叩き割るはずだった鉄の拳は、自らが作った爆弾を破壊し――怪人が爆発の影響をモロに受け、吹っ飛ばされたのは言うまでも無い。
 なお、ショーケースは強固な防犯対策のお陰で傷一つ付かなかったとか。何処までも報われない怪人である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アシュエル・ファラン
何だと10分!? リア充だ何だ程度で、ここの物を破壊されたら、歴史レベルの損失にな、――!
……おい。おい、おいぃ!(気付いた)これだからキマヒュはぁーっ!!!

あー、頭いたい…。
クレバーに行こう。相手の攻撃は全て、UCで回避。その間に、カウントダウンには気付いていない振りをしつつ、混乱して走り回っているフリして爆弾探しを。取り乱している運営者の方には申し訳ないがそのままで。誰かが慌ててないと気付かれそうだ。
一つ爆弾を見つけたら、攻撃かわしても止められない相手にぶん投げて、ぶつけると同時に念動力で衝撃を与えて爆破を狙う。
『時計贈ってもリア充にすら至れない可能性のある、不毛な想いの無念を喰らえぇ!』




 突如上がった黒煙に、綺麗な弧を描いて吹き飛ばされた怪人の姿。
 「10分」という宣言も口先だけで本当は10分の猶予すら与えられていなかったのかと、アシュエル・ファランが慌てふためいたのも、一瞬のことだった。
 仲間の姿を見、先ほどの爆発は味方によるものだったのかとほっと胸を撫でおろす。
「リア充だ何だ程度で、ここの物を破壊されたら、歴史レベルの損失にな、――!」
 リア充への嫉妬という何とも下らぬ感情でここの物を破壊されたら、それこそ歴史レベルの損失だ。
 何としても防がねば!!
 怪人を叩く最短経路を導き出し。使える戦法を選び抜き、手元の武器を確認する。
 さて、残りの猶予は如何ほどかと――時計を再び見上げたところで、アシュエルは「事実」に気が付いた。
(「……おい。おい、おいぃ! これだからキマヒュはぁーっ!!!」)
 2度見どころじゃない。3度見はした。ひょっとしたら、4度見もしていたかもしれない。
 思わずツッコミの一つも放ちたかったが――状況が状況だった。
(「10分じゃなくて、10時間じゃないか!! 設定ミスか!? ウッカリか!? てか、気付けよ!!!」)
 会場の妙な沈黙も、時計のせいか。心の中で盛大にツッコミを入れつつ、アシュエルはがっくりと肩を落とす。
 「歴史的損失を回避せねば!」という使命感も。「10分以内に!」という短期決戦の勢いも。なんだか全てのやる気が削がれてしまったが、ここはクレバーに行こう。
 けっして投げやりになってはいけない。
(「あー、頭いたい……」)
 変な所で抜けているというこの光景、何だか既視感があるような。日常的に経験しているような?
 アシュエルの脳裏を埋め尽くすようにしてニッコニッコと笑むのは、懐中時計を贈る予定の親友の姿で。
 ……親友と同じ雰囲気を目の前の怪人に感じてしまうのは、アシュエルの気のせいだろうか?
(「気のせいということにしておこう……」)
 気が付かない方が良かった事実にはそっと蓋をした。
「うわあぁぁ!!? 怪人が、怪人が!!」
『追い詰められた途端無様に逃げ惑うとは、滑稽だな!!』
 セリフが棒読み口調になってしまうのは多分、仕方ない。仕方がないことだ。
 少し大げさでも、いま必要なのはカウントダウンに気付いていない「フリ」なのだから。
 ショーケースや展示品を殴りつける傍ら、己を狙って振り下ろされる拳や飛んでくる展覧会の品々は「間一髪」を装って回避して。
 怪人から逃げ惑うフリをして、会場を駆け抜ける――アシュエルが狙うはただ一つ、この会場に設置された爆弾だ。
(「取り乱している運営者の方には申し訳ないがそのままで。誰かが慌ててないと気付かれそうだ」)
 「どうするんだ!?」「通報したか!?」と騒いでいる運営陣には心の中で手を合わせて、そっとその脇を走り抜ける。
「やっぱ有ったか!」
 混乱している周囲に乗じて、アシュエルが向かった先は「ギミック付き時計コーナー」で。
 そういや、さっき見た中に「如何にも」な置時計があったはずだ。
 爆弾を内蔵できるという置時計の蓋を外して見れば、案の定、いつに間にやら爆弾が詰められてしまっている。
『リア充も!! 時計を贈るという悪しき風習も!! ここで根絶やしにしてるっっ!!』
「時計贈ってもリア充にすら至れない可能性のある、不毛な想いの無念を喰らえぇ!」
『なん、だと……!? その可能性は考え付かなかったッッ!!! 見事なまでの一方通行な想い! 貴様も仲間に入らないか!!?』
「誰が入るかっ!!」
 怪人が仲間にしたそうにアシュエルを見、ついでバッ! と手を差し伸ばしてくる。
 「同士よ、手を取り合うのだ!」と言うかの如く差し伸ばされた手のひら。そこに――アシュエルは遠慮なく爆弾を叩きつけた。
 爆弾を感情のままに叩きつけたのも……決して、「相手がズボラメンタルだから! 気付いてもらえないから!!」とか。そういう「リア充に至れないかもしれないから」な八つ当たりとかではない。決して。
 そう、決して八つ当たりではないのだ。
 これは、正当防衛だ。そのはずだ。とりあえず――盛大に爆破された怪人を見て、少しだけ清々したことには違いなかったが。

成功 🔵​🔵​🔴​

花澤・まゆ
◆■

大変大変!
なんかタイマーがおかしいような気もするけど
此処、キマフュだし、気にしないで行こう!

UCで【三毛猫のミケ】を呼び出して一緒に行動
爆弾を探さなくっちゃ
ミケはそっちのほうを探してね
爆弾にじゃれついたらダメだよ?

…とは言え、あたしよりミケのほうが爆弾探しは上手そう

爆弾を見つけたらとりあえず処理を…って
あたし、そんな技術持ってない!
こういうのは怪人さんに聞くのが一番いいよね
ねえねえ、これ、どうやったら解除処理できるの?
怪人さんに渡したら、急いで離れて

あ、さすがはキマフュ
怪人さん、お約束をしっかり守ってくれるのね
ミケ、あの姿勢、あたしたちも見習っていこう、うん




「大変大変! なんかタイマーがおかしいような気もするけど。此処、キマフュだし、気にしないで行こう!」
 降って湧いた爆破事件騒ぎに、会場は混乱――しているとは、言い切れない状況の様な?
 運営委員会の人達の表情は確かに真っ青でてんやわんやしているし、パニックを起こしかけている人々も中にはいる。
 けれど、その一方で怪人と時計を交互に見つめていたり、危機感そっちのけで動画を撮っている人もいたり。妙に締まらない……この混沌とした空気。
 それに、タイマーの設定がおかしい気がする。あれじゃ多分、10分経っても爆発しないんじゃ。
 他にも色々とツッコミどころは多いけれど。
「うんうん。キマフュだから、気にしちゃ負けだよね!」
 ある意味、これがキマフュのノリなのだから。深く考えるのは止めにして。
 爆弾を探してこの騒ぎを解決させないと! と。花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)は、使い魔である三毛猫のミケを呼び出した。
「ミケ、一緒に行くよ!」
『にゃ!』
 呼び出したミケに声をかければ、頼もしい返事が返ってくる。
 「任せて」というように、二股に分かれた尻尾もゆらーりと揺れていて。
「爆弾を探さなくっちゃ。ミケはそっちのほうを探してね」
 会場は広いから、ミケと上手に手分けして。
 まゆは展示されている時計の裏などの細かなところを。ミケはテーブルの下や物陰などの床に近くて狭いところを。
 テーブルの下に潜り込んだミケのゆらゆら揺れる尻尾を見て。そういえば、一番大切な約束事があった。
「爆弾にじゃれついたらダメだよ?」
『――!』
「じゃれついたら、ダメだよ?」
『……』
 まゆの声を聞いた瞬間、シュッパッ! と目にも留まらぬ速さで引っ込められた前足。ニュ! と何事も無かったかのように、テーブルクロスを翻しながら頭を出したミケ。
 一瞬だったけれど、まゆはその一瞬を見逃しはしなかった。
 テーブルクロスが翻った時にチラッと見えた、テーブルの裏に設置されたソレ。ミケ、爆弾にじゃれつこうとしていた。
 見られたことは分かっているみたい。
 でも、誤魔化そうとわざとらしく『なあぁぁん?』とあざと可愛く鳴いてみせ、二股に分かれた尻尾をウネウネさせながら、ごろんと寝っ転がって――最後に上目遣いでまゆを見上げて。
 可愛さに負けそうになったけれど、ここは心をグッと鬼に。念を押すように「ダメだよ?」と言えば、『なぁー』と返ってくる一鳴き。
「……とは言え、あたしよりミケのほうが爆弾探しは上手そう」
 だって、すぐに見つけてしまったのだから。
 爆弾を発見出来たら、次にすることはただ一つ。刺激を与えないようにテーブルの下からそっと爆弾を外して、処理をしようとしたところで……。
「あたし、そんな技術持ってない!」
 一番大切なことに気が付いた。
 爆弾の処理なんて知らないし、そもそも習う機会がない!
(「こういうのは怪人さんに聞くのが一番いいよね」)
 作り主なら、きっと一番わかっているハズ!
 にっこにっこと人懐っこい笑顔を浮かべて、まゆは足早に怪人さんの元へ。
 なんだかんだで律儀そうな怪人さんだから、きっと教えてくれるだろう。
「ねえねえ、これ、どうやったら解除処理できるの?」
『ハーハッハッハッ!! 精々逃げ惑うが良――ん? 解除か?
 それはだな。ここを、こうして……』
 突如として割り込んできた少女の姿に、思わず虚を突かれたらしい。
 困惑している隙をついて、まゆは怪人さんの手にしっかりを握らせる。それはもう、しっかりと。
 怪人さんの手に爆弾を渡したら――人懐こい笑みはそのままに、ミケを抱き上げてさっと離れた。
『それで、これを切…………ぁ、』
 まゆが消えたことにも気が付かず、爆弾の造りを語りながら怪人はコードを弄っている――が、それがいけなかったらしい。ツルっと手を滑らせて、切ってはいけない方をブチっと。
「あ、さすがはキマフュ。怪人さん、お約束をしっかり守ってくれるのね」
 モクモクと上がる黒煙を、まゆとミケは少し離れたところから見守っていた。
 混沌としているようでいて、そこはキマフュ。幾らカオスなノリでも、お約束事はしっかり守ってくれるらしい。
「ミケ、あの姿勢、あたしたちも見習っていこう、うん」
『うにゃあ!』
 約束を守ることは大事。あと、危ないからながら作業は駄目。
 怪人さんはきっと、その身を張って大切なことを教えてくれたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ブラッツ・クルークハルト
◆■
平和にあまり縁のない場所から来てみれば
この世界を、羨ましいと思う感情は否めない
それでも
平和なら、ずっとそうで在れるように
守らなければ
…守りたい、と思った

さっき話した時計屋の店員は
ちゃんと逃げているだろうか
あまりに無防備だったから心配になる

自分の世界では
人の腹のうちや、体裁や
そんなものばかりを見ていたから
気を張らずに話すのは久し振りで
つい絆されてしまった、気がする――が
まあ、いいか

UC使用
アサルトライフルで銃撃
時限を科して、命を脅かしたいのなら
お前にも、命が尽きるまで避けられない痛みを
味わって貰おう

10分、ね
…本当に10分に設定したのか?
死ぬ前に、あの時計の
数字の進みをもう一度確かめると良い




 キマイラフューチャー。この世界は平和だった。少なくとも、アポカリプスヘルの世界と比べてみれば、ここは天国のような場所だ。
 同族と争うことはなく、食料や医療品が足りないということも無い。物で溢れているから、わざわざ働く必要が無い。人々が皆、明るく騒いで暮らせる――理想郷のような世界だ。
 「オブリビオン」として襲い掛かってくる怪人達も、何処か「危機感」に欠ける印象があった。
 そう――奴らには本気で命を奪おうという勢いが感じられないのだ。
(「平和にあまり縁のない場所から来てみれば、この世界を、羨ましいと思う感情は否めない」)
 羨ましく思ってしまうのも、仕方のないことだと。
 ブラッツ・クルークハルトは一人、何処か自嘲的な笑みを浮かべながら独白する。
 この世界に生まれられていたら。考えないようにしても、思ってしまう「もしも」の話。
 そうしたら今頃、妻や息子とも――?
(「それでも。平和なら、ずっとそうで在れるように。守らなければ」)
 守らなければ。守らなければ?
 それは、使命感からだろうか?
 この世界に関わりを持ったから。偶々この場に居合わせたから。そういう使命感だろうか?
(「違う……守りたい、と思った」)
 そう。恐らくは心の底から。
 この世界を、この世界の平和を。ブラッツ自身が守りたいと、心の底から思ったのだ。
(「さっき話した時計屋の店員は、ちゃんと逃げているだろうか」)
 あまりに無防備だったから心配になる。
 人の良い笑みを思い出し、それから先ほどの定員の、純粋な好意を思い返し。
 混乱に巻き込まれてはいないだろうか。ケガをしていないだろうか。
 先程のやり取りを思い返しているうちに、気が付けばブラッツの足取りは――元来た通路を戻るようにして、進んでいた。
 無論、目指す先はあの店員がいる販売スペースだ。
「うわ、怪人……。本物だ。本物の怪人だ……!?」
「――おい。何をしている」
 こちらに向かってくる怪人を目にした人々が、我先にと逃げ出していく。
 ブラッツはそのなかに佇んだまま動かないでいる人影を見つけると、その人影――先の時計屋の店員の首根っこを掴んで、慌てて怪人から距離を取らせた。
 ぐぇっと潰れた蛙のような呻き声が聴こえたが、一時期の息苦しさなど怪人の攻撃で怪我を負うことに比べれば、よほど生易しいものだろう。
「ぼさっと突っ立ってるとは……」
「あ、さっきのお兄さん! いやあ、ちょっと……足、竦んじゃって動けなかったんですよ。助けてくださったんですよね? ありがとうございます!」
 呆れた半分、無事だったという安堵半分で呟いてみせたブラッツに、青年は冷や汗を拭いながら、何とか笑みを浮かべる。
 礼も程々に今のうちに安全な場所へ避難しろと送り出し――遠くなる青年を見送りながら、ブラッツが思うのは故郷と、青年のこと。
(「自分の世界では人の腹のうちや、体裁やそんなものばかりを見ていた。気を張らずに話すのは久し振りでつい絆されてしまった、気がする――が」)
 これはこれで、悪くないのかもしれない。
「まあ、いいか」
 あの時計屋の青年と同じく、意外に自分もお人好しなのかもしれない。
 長い前髪から覗く双眸は、柔らかい光を宿していた。
「さて、と……」
 青年を見送ったのならば、ここからは狩りの時間だ。
 アサルトライフルを取り出して、ブラッツは怪人と相対する。平和を脅かすようなヤツは、早急に退場してもらわねばならない。
「時限を科して、命を脅かしたいのなら。お前にも、命が尽きるまで避けられない痛みを、味わって貰おう」
『何、と……!?』
 テーブルをひっくり返し、陳列されている時計たちを薙ぎ払い。爆弾だ、何だと喚いている癖に。所詮はこの程度か。
 ブラッツが纏った「本場の殺気」で思わず怪人が足を止めた瞬間を狙い――毒を孕んだ銀弾を放つ。
 狙うのは、好き勝手破壊の限りを尽くしている腕の上部。銀弾がそこに食い込んだのなら、今のように傍若無人に振舞うことはできなくなるだろう。
「10分、ね……本当に10分に設定したのか?
 死ぬ前に、あの時計の数字の進みをもう一度確かめると良い」
 ――怪人がブラッツの言葉の意味を真に理解するのは、もう少しした時分のこととなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◆
いや10時間じゃねぇか!!
何の面白みも無い真っ当なツッコミをしてしまった
…ほほう?なかなか面白いじゃないか綾
あの怪人に一泡吹かせてやるとするか

綾と焔と零に爆弾捜索を任せ、俺は客の避難誘導をしておく
どこに爆弾があるか分からないから、特に足元には気をつけろよー
慌てなくも大丈夫だからなー
むしろ走って転んだりした方がよっぽど危ないからなー

よーし、よくやったぞお前たち!
見つけた爆弾に向けてUC発動
爆弾はドラゴンへと姿を変える

さぁ!あの怪人に突撃だ!
怪人目掛けて高速飛翔するドラゴン
そして、怪人にぶつかる寸前でUC解除
元に戻った爆弾はそのままの勢いで怪人にぶつかってドカーンだ
目には目をってやつだ


灰神楽・綾
【不死蝶】◆
いやー10分で爆発すると聞いた時は焦ったけど…
流石はキマイラフューチャーの怪人、安心したよ
でも10時間猶予があるとはいえ爆弾は爆弾
お客さんがうっかり気付かず蹴飛ばしたりしたら大変だよね
あ、いいこと思いついたよ梓(ごにょごにょ

まずは会場内の爆弾捜索
普通に過ごしていたら気付かない場所…
例えば机の裏とか?隅っこのダンボールの中とか?
時計仕掛けで爆発するタイプと言っていたから
きっとタイマーとかが付けられた
いかにもなビジュアルの爆弾じゃないかなと予想
無事発見出来たら、そーっと取り外して
梓のところへ持っていこう

さぁて、怪人の大好きな爆破タイムだよ
まぁ爆発するのは怪人本人だけどね?




 ある者は見て見ぬ振りをし、またある者は哀れむような視線を怪人に送り。
 そしてまたある者は、そもそも「違和感」に気が付かず、パニックを起こしていた。
 そんななか、頭上にデカデカと表示された時計を見上げた乱獅子・梓と言えば――。
「いや10時間じゃねぇか!!」
 ――それはもう、ツッコミ審査員が居たら100点満点を与えるような、見事なまでのノリツッコミを披露してみせた。
「わあー。梓、見事なツッコミだね。ところで、ボケ役が不在みたいだけど」
「何の面白みも無い真っ当なツッコミをしてしまった……。まあ、不在な方がバレなくて良いんじゃないか?」
 ボケ役である怪人は、ただいま会場中で暴れている真っ最中である。
 防犯システムやら安全装置や何やらが作動している手前、時計の一つもロクに破壊出来ていない様ではあるが。
 それでも、なんかこう……悪役としての恐怖感よりも、駄々をこねる子どもという印象が強いのには……何とも言えなかった。
「いやー10分で爆発すると聞いた時は焦ったけど……流石はキマイラフューチャーの怪人、安心したよ」
 普段通りの笑顔はそのままに、内心では焦っていた灰神楽・綾も……生暖かい視線を怪人に送っている。
 さすがキマイラフューチャーの怪人。期待を裏切らず、いつものノリだ。
 しかし、10時間の猶予があるとはいえ、爆弾は爆弾である。早めに対処するに越したことは無い。
「お客さんがうっかり気付かず蹴飛ばしたりしたら大変だよね。あ、いいこと思いついたよ梓」
「……ほほう? なかなか面白いじゃないか綾。あの怪人に一泡吹かせてやるとするか」
 口元に手を添えて、作戦が漏れてしまわぬように。梓の耳元でごにょごにょと綾は思いついた作戦を囁いた。
 綾から一通りの作戦を聞いた梓もまた、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべて。
 面白そうな作戦だ。ニンマリと笑い合った綾と梓は、頷き合うとそれぞれの持ち場へと移っていく。
「どこに爆弾があるか分からないから、特に足元には気をつけろよー」
 爆弾の捜索は綾、焔と零に任せて、梓は客の避難誘導へ。
 向こうから怪人が向かってきていることもあってか、我先にと怪人から距離を取るように逃げ出していく人々には足元に注意すること伝え、どっちに逃げたらと逃げ惑う人々には怪人のいる方向を教え、逆方向を目指すように伝えた。
「慌てなくも大丈夫だからなー。むしろ走って転んだりした方がよっぽど危ないからなー」
 間延びした梓の声は、パニックになりかけていた人々の落ち着きを取り戻させたようだ。
 梓の避難誘導に、人々は急ぎ足で――しかし、必要以上に騒がずに怪人から距離を取り始める。
「梓、上手くやってるみたいだねぇ。さて、俺たちは爆弾を探そうかなー」
『キュー!』
『ガウ!』
 避難誘導も上々。爆弾捜索中に一般客がウッカリ、という事態も防げそうだ。
 小さく響いてくる梓の声をBGMに、一人と二匹は「おー!」と腕と前足を軽く挙げて、爆弾捜索へと乗り出した。
「普通に過ごしていたら気付かない場所……例えば机の裏とか? 隅っこのダンボールの中とか?」
 定番を地で行く怪人だから、綾の見立てから大きく外れることは無さそうだ。
 会場に規則正しく並べられた、テーブルやオブジェ、ショーケースの裏を確認したり。そっとお店のバックヤードにお邪魔して、商品の入った段ボールを覗き込んだり。
 端の方から一つずつ丁寧に、爆弾が仕掛けられていそうな場所を潰していく。
「時計仕掛けで爆発するタイプと言っていたから、きっとタイマーとかが付けられたいかにもなビジュアルの爆弾じゃないかな?」
 そんな予想をしながら、会場に展示されていた何個目かの壁掛け時計を手にしてみれば――何だか、妙に厚みを感じるような?
 この時計だけ、周囲の壁掛け時計に比べて分厚いのだ。怪しさを感じるままにひっくり返してみれば、案の定、時計の裏にタイマーと繋がった円柱型の爆弾が張り付けられていた。
「よし、発見っと」
『ガーウ!』
『キューキュー!』
「あ、焔と零も見つけてきたんだね。さて、落とし主の元に返しに行こうか」
 そーっと取り外したら、刺激を与えないようにそろーっと梓の元へ。
 あとは、怪人さんに返却するだけだ。
「梓ー。あったよ、爆弾」
「よーし、よくやったぞお前たち! こっちも大体避難誘導が終わったところだ。ちょうど良かったな」
 綾と焔、それから零が梓の元へ戻っていった時にはもう、大体の避難誘導が終わっていたところであった。
 怪人の進行予定経路と正反対の方向に逃げた後なのだろう。今周囲に居るのは、二人と二匹だけ。これなら、周囲を気にすることなく思うように「作戦」を決行できる。
「さて、と。いよいよお楽しみタイムだね」
「落し物はきちんと持ち主に返してやらないとな」
 綾達から爆弾を受け取った梓は、さっそく3つの爆弾を竜へと変化させ――。
「さぁ! あの怪人に突撃だ!」
 爆弾は、黒く輝くメタリックなボディがカッコいいドラゴンたちへ。
 変化したばかりのドラゴンに梓が早速指示を出せば、3体のドラゴンたちは怪人を目掛けて一直線に高速で飛翔していく。
『うおおおぉぉッ!? な、何なんだ貴様らは!?』
「お、良い感じに困惑しているな」
 リア充根絶を目的に侵攻しているのに、徐々に減っていくお客たち。
 そして遂に、何故だか全く一般客と出会わなくなってしまった。そればかりか、自分目掛けて飛び掛かってくる黒い何かがいる始末。
 さすがの怪人も想定外だったのだろう。混乱したような声が響いてきた。
「あ、気付いたか?」
「そうみたいだね?」
『おのれ、リア充どもが居ないのもお前たちの仕業だな!!? 覚悟するが良い、今に爆破してやる!!』
 梓と綾の姿を視認した怪人が、その辺にあった椅子を引っ掴んで突進してきた――ところで、怪人目掛けて、爆弾性のドラゴンがその身体に体当たりを食らわせる。
「さぁて、怪人の大好きな爆破タイムだよ。まぁ爆発するのは怪人本人だけどね?」
 怪人にぶつかる寸前を狙い、梓はユーベルコードを解除させた。
 先程までは確かにドラゴンであったはずの宙舞う爆弾は――高速飛翔の勢いそのままに、「体当たり」と呼ぶには激しい衝撃で怪人に衝突する。
「目には目をってやつだな」
「たーまやーってね?」
 爆弾三つ分の威力は伊達ではなかったようだ。ドカーン! と盛大な爆発音と共に、怪人の居た場所が爆発したことが確認できた。
 激しい爆風によって飛来する爆弾の欠片や黒煙から顔を庇いつつ、怪人の居た場所を見れば……爆弾衝突の勢いと爆発の衝撃で、良い感じに焼け焦げて床で伸びている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エンティ・シェア
【花面】

……シェルゥカ
君に言わなきゃいけない事も一杯あるんだけど
一先ずはあの不届き者の始末をしないかい

空室の住人を呼んで爆弾を探すよ
見つけ次第投げ返しておやり
私は安全に避難誘導するから

私はね、結構勇気を出して君を誘ったんだ
君に誤解させた色々をきちんと説明できるかとか
時計を受け取ってもらえるかとか
これでも色々悩んでいたんだ
それを邪魔されたんだもの
おこだよおこ

いいかいシェルゥカ
私は、生まれ変わってから欲張ることにしたんだ
同居人とも仲良くなりたいし彼らの望みも叶えたい
しぶとく生き残ってやるし鬼殿だってぶちのめしてやる
何より、大好きな君の事を諦めたくもない
…なんだい。重たいなんて、今更言わせないからね


シェルゥカ・ヨルナギ
【花面】

ねぇ、爆破怪人
君今リア充してない?
口上が楽しそうで爆発に相応しいね
疑似生物チッチャイニンジャーが爆弾を探して君に返すよ
ニンジャは隠れやすい場所に詳しそうだし気配も察知…あれ?
爆弾に気配ってある?
まぁいいや!
…ところでエンティが珍しくおこだね
どうしたの?

ねぇエンティ
居なくていいとは言ったけど
だからってすぐ君の前から消えるわけじゃなく
いつか離れる事もあるかもしれない…それだけだよ
だからそのいつかまでは傍に
えっ
…大好き?
……大好きなの?

首を傾げて君を見るもその目と掌中の時計が本当だと訴えてきて

大好きー?
…そっかー、ふふっ
大好きを重たいだなんてどうして言うと思うの?
嬉しくてふわふわ浮く心地だよ




 一応、誤解は解けたと……言うべきなのだろうか。
 もしそうだとしても、お互いに何と切り出すべきなのだろうか。
 気まずいような、気恥ずかしいような。2人の間を何とも言えない雰囲気が漂うなか、遠くから響く怪人の高笑いだけが、場違いな程に響いていた。
「……シェルゥカ。君に言わなきゃいけない事も一杯あるんだけど」
 ポツリと零れ落ちる、呟き。
 話題が終われば、待っていたのは長い沈黙だった。懐中時計を手にしたまま突っ立っているシェルゥカ・ヨルナギにエンティ・シェアは、どうにかしてそれだけと伝えて。
 シェルゥカに伝えたい言葉は山ほど――何なら、どれだけ話しても無くならないくらいには、一杯あると自覚してはいる。
 しかし、青々と茂る言の葉の全てを伝えきるには、高笑いのBGMが非常に邪魔であった。
「一先ずはあの不届き者の始末をしないかい」
「? そうだね。早く片付けてしまおうか」
 エンティがおこなのは、あまり見ないような。
 何処となく苛立ったような雰囲気を纏うエンティの姿に内心で「?」を浮かべながらも、シェルゥカは静かにエンティの後に続いて、怪人の元へ。
「ねぇ、爆破怪人。君今リア充してない? 口上が楽しそうで爆発に相応しいね」
『リア充してないから、こんなことしてるに決まってるんだろおぉぉぉ!!』
 『火を見るよりも明らかなことをわざわざ尋ねるなんて、死体蹴りか!?』などなど。後ろの方で約一名楽しく喚いているが、それは放っておくことにして。
 名前の通り、ちんまい忍者である「疑似生物チッチャイニンジャー」を召喚したシェルゥカは、爆弾の捜索をニンジャー達へと命じていく。
「ニンジャは隠れやすい場所に詳しそうだし気配も察知……あれ? 爆弾に気配ってある?」
「爆弾と生物と仮定すれば、あるんじゃないかな?」
「爆弾って生きてるっていうのかな。まぁいいや!」
 この際、細かいことは放っておくことにしよう。シェルゥカがあると言えば、爆弾に気配はあるのだから。この世界のノリは、基本そのような感じなのだから。
 チッチャイニンジャーに狭い場所の探索を命じたシェルゥカに次いで、エンティもまた黒熊のぬいぐるみと白兎のぬいぐるみを呼び出して。
「見つけ次第投げ返しておやり。私は安全に避難誘導するから」
 呼び出した途端、じっとエンティを見つめる四つの作り物の眸。
 なんか言いたそうな雰囲気を黒熊と白兎からひしひしと感じるが、気にしてはいけない。きっと。
 相手にしたら……その瞬間、負けが確定する。そんな予感がする。
「何はともあれ――任せたよ」
 「私」は視線に気づいていない振りをして、黒熊ぬいぐるみと白兎ぬいぐるみを爆弾の捜索へ赴かせた。
「……ところでエンティが珍しくおこだね。どうしたの?」
 避難誘導を行う傍ら。チッチャイニンジャーと黒熊ぬいぐるみ、白兎ぬいぐるみの姿が十分見えなくなったところを狙って。
 シェルゥカは、先ほどから気になっていたエンティの「おこ」な雰囲気について尋ねてみせた。
 普段飄々としていて、割と何でも「好ましい」に分類してみせる彼が、ここまで不機嫌になるのは珍しいのだから。
「私はね、結構勇気を出して君を誘ったんだ」
 そう。何でもないかのように振舞っていたけれども、内心では結構勇気を出していたのだ。それを、怪人とかいう乱入者に盛大に邪魔されたのだから。
「君に誤解させた色々をきちんと説明できるかとか、時計を受け取ってもらえるかとか。これでも色々悩んでいたんだ。
 それを邪魔されたんだもの。おこだよおこ」
 怒らない方が、不思議だよ。
 そんな呟きと共に吐き出されるエンティの想いは、まだまだ続きそうで。
 シェルゥカはそっと、その語りに耳を傾けていた。
「いいかいシェルゥカ。私は、生まれ変わってから欲張ることにしたんだ。
 同居人とも仲良くなりたいし彼らの望みも叶えたい。しぶとく生き残ってやるし鬼殿だってぶちのめしてやる」
 他にもまだまだ沢山あった。彼の口から語られる、「欲張ること」へのエトセトラ。
 もとより語ることを主としているせいか、その「語り」は、尽きることがなくて。
 流れが速くなる一方の言葉の洪水に、シェルゥカも付いていくことでやっとだった。
「ねぇエンティ、居なくていいとは言ったけど。
 だからってすぐ君の前から消えるわけじゃなく。いつか離れる事もあるかもしれない……それだけだよ」
 エンティの語りの隙間を縫って。やっとの思いで差し込んだ、シェルゥカの本音。
 居なくてもいいとは言ったけれど、それは「すぐ」のことでは無い。いつか離れる事もあるかもしれないけれど、君が望むのならば。それまで傍に。
 そんなシェルゥカの言葉も、届いているのか、いないのか。
 エンティのことだから、きっと届いていて――何ならそっと受け取ってくれているのだろうけど……語りを止めないエンティの気持ちと想いは凄かった。
「それで――何より、大好きな君の事を諦めたくもない」
「だからそのいつかまでは傍に――えっ。……大好き? ……大好きなの?」
「……なんだい。重たいなんて、今更言わせないからね」
 魂がふんわり今にも抜け出してしまいそう。
 エンティが語る言葉の洪水と向けられる想いに溺れかけていたシェルゥカだったが、不意に彼が口にした「大好き」の4音にふっと意識が一気に水面付近まで浮上する。
 思わず問い返してしまったけれど。今、目の前の彼は確かに。「大好き」と、そう口に。
 本当だろうかと、首を傾げてエンティを見るも……。自分を真っ直ぐに見つめて静かに輝く緑色の双眸と、手のひらの中で刻を刻む、先ほど彼から贈られた時計が「本当だ」と訴えてきて。
「大好きー? ……そっかー、ふふっ。
 大好きを重たいだなんてどうして言うと思うの? 嬉しくてふわふわ浮く心地だよ」
「そうかい。ふわふわ浮かれて、そのまま何処かに行ってしまわれては困るな」
「じゃあ、離れないようにぎゅっと繋いじゃう?」
 エンティから向けられる想いなら、どれほど大きくたって重くは感じない。
 ふわふわ夢見心地で微笑むシェルゥカに、「仕方ないな」とエンティも髪をかき上げつつ、向き合って。
 そう言えばの話だが――チッチャイニンジャー、黒熊ぬいぐるみと白兎ぬいぐるみは優秀の一言に尽きた。2人の背後で怪人が、それはもう綺麗に吹き飛ばされていったりもしたが……それはきっと、今は知らなくて良いこと。
 怪人なんかよりも前に、向き合うべき存在が目の前に居るのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花天】◆
バッチリ口上も決めちゃったみたいだし、ココはそっとしといてあげるのが優しさカナ~
(敵の時計に生温かい微笑向けた後、春を見遣れば)
えっ、なに、急にそんな見つめて――
もしかしてやっぱり――

デスヨネ~~

じゃなくて一緒にしないで!?仲間じゃないから!?
俺はホラ、もーちょい紳士ダヨ?ネ?

てかいつの間に何持ってるのソレ!
いやまぁ確かにそーなんだケドネ――嗚呼、ちょっぴり怪人が可哀想になってきた
(天然なだけに殊更むごい…
爆発の瞬間に物理的にも精神的にもハートブレイク待ったなし…
とか心の中で敵に合掌しつつ)

ま、そんじゃ俺もオマケをつけてやるか
ハイ、俺達の気持ち受け取ってネ~!
(同じく敵へ爆弾贈呈!)


永廻・春和
【花天】◆
何を仰っているのか分からぬ点もありますが――あの方がドジである、という事は分かりましたね
(そして怪人を見た後、呉羽様をじーっと見て)
ところで、その――
あの、やはり――

あの怪人様、呉羽様のお仲間やご友人の類ですか?

何だか似た様な言動をされていた記憶があるのですが…そうですか
呉羽様の同調や暴発も警戒せねばならぬのかと、一瞬身構えました

(と話しつつ、何気に手も動かし――可愛い時計(に紛れていた時限爆弾)が丁寧にハート型にラッピングされている)
あの怪人様も贈物を欲してらっしゃるのかと思いまして――餞別にお贈りすれば、少しはお心も和らぐのではと、包んでみた次第です

ふふ、どうぞ
(爆弾プレゼント)




 会場の何処からでも見えるほどに大きな時計。ギラギラと悪趣味なネオンカラーに輝くのは、怪人が用意した会場爆破までのカウントダウン・タイマーで。
 怪人の宣言の割に――上空に浮かぶ数字が減っていないのは、きっと気のせいだ。
 怪人がそのことに気付く素振りを全く見せないまま、会場の品々を「嫉妬」の感情が荒ぶるままに破壊の限りを尽くしているのも。
 破壊の限りを尽くしている割に、床に叩きつけられたり、怪人の八つ当たり(物理)を受けたりした品々は――施されていた強固な破損対策のお陰で、殆ど無傷に等しいのも。
 ……きっと全て気のせいだ。
 教えてあげることが優しさになる時もあれば、気付かない振りをしてあげるのが優しさになる時もあるのであろう。たぶん。
「バッチリ口上も決めちゃったみたいだし、ココはそっとしといてあげるのが優しさカナ~」
 だから、呉羽・伊織はそっとしてあげておくことに決めたのだ。
 設定を間違えた時計に、味方達の活躍によって「黒焦げ」状態の怪人が約一名。辛うじて体裁は保っているものの、体力を消耗しているのか、息が上がりかけている。
「何を仰っているのか分からぬ点もありますが――あの方がドジである、という事は分かりましたね」
 特に、リア充のくだりとか。
 伊織が生温かい微笑を浮かべて見やる怪人の姿を、永廻・春和もまた眺めて。
 2人がそっと見守っている今も、怪人は腕を負傷していることを忘れて、ショーケースを殴りつけ……痛みに一人で転げ回っている。
「ところで、その――。あの、やはり――」
 春和の視線は転げまわる怪人から、伊織の方へ。
 そぅっと伏せられた桜色の瞳は長い瞼に彩られ、ただ伊織だけを見つめている。
 何か切り出しそうで、切り出せないのか……ほんのり色付いた頬に、上擦った声音。左右に泳ぐ視線。
「えっ、なに、急にそんな見つめて――。もしかしてやっぱり――」
 じぃっと自分を見つめてくる春和に、伊織の期待値は急上昇だ。
 左右に彷徨っていた視線がじっと伊織だけを射抜き、決心を決めたように柔らかな唇が最初の一文字を紡ぎ始める。
 今まで玉砕を繰り返すこと、何十回。ついに、遂に報われる日が――……。

「あの怪人様、呉羽様のお仲間やご友人の類ですか?」

 ――来なかった。

 教えてあげることが優しさになる時もあれば、気付かない振りをしてあげるのが優しさになる時もあるのであろう。
 伊織が「他人のフリ」を決め込んでいる手間、春和とて尋ねるつもりはなかった。
 けれど、あんまりにも伊織と怪人の言動が似通っているものだから、つい。

「デスヨネ~~」

 何度繰り返したのだろう、このやり取りを。僅かでも期待した俺が間違っていたカナ……と、サラサラ真っ白な灰になるのは何とか堪えつつ、伊織は張り付けたままの笑顔で固まって。
 数秒。一番大切なことを否定していなかったと、我に返る。
「じゃなくて一緒にしないで!? 仲間じゃないから!? 俺はホラ、もーちょい紳士ダヨ? ネ?」
「そうでしたか? 何だか似た様な言動をされていた記憶があるのですが……そうですか。呉羽様の同調や暴発も警戒せねばならぬのかと、一瞬身構えました」
「あれ? この説明だと、俺から紳士成分抜けば俺=怪人に……?」
「正直、お二方の違いがよく分からないのですが……」
「とっても辛辣だことで!」
 安心しました、とはにかむ春和の姿に、伊織は心の内でガックリ項垂れたとか。
「で、春の手に持ってるソレはナニ?? てか爆弾じゃん!? いつの間に何持ってるのソレ!」
「これですか? あの怪人様も贈物を欲してらっしゃるのかと思いまして――餞別にお贈りすれば、少しはお心も和らぐのではと、包んでみた次第です」
 話しながらも、何気に動かす手を止めていなかった春和。
 その手には、いつの間にか可愛らしい猫さん型置時計(その辺に紛れていた時限爆弾)が、それはもう丁寧にハート型にラッピングされていた。
 鮮やかな手つきで赤色のハートにピンクのリボンを結びつけ、最後に「Especially for you」とお洒落なメッセージカードを添えれば完成だ。
「いやまぁ確かにそーなんだケドネ――嗚呼、ちょっぴり怪人が可哀想になってきた」
 春和が手に持つハート型プレゼントを見、それから怪人へと視線を移し……伊織は一人、心の中でそっと怪人に手を合わせた。
「さて、参りましょうか?」
(「天然なだけに殊更むごい……。爆発の瞬間に物理的にも精神的にもハートブレイク待ったなし……。俺だったら、確実に再起不能カナ……」)
 極限にまで濃縮された天然成分100%の柔らかな笑みで、プレゼントを両手に抱える様は一枚の絵画と見紛うほどの破壊力を秘めているが――その分、威力は桁違いだろう。
「あの、怪人様。ふふ、どうぞ」
『なん、と!!? 俺様に?』
「はい。怪人様へ」
『俺様にも、ついに春が来たのかッッ……!!?』
 敵意や企みを微塵も感じさせない様子で。まるで「お散歩中です」という戦闘とは無縁の様相で近づいて。
 怪人をじいっと見上げ――それから、ふんわりと表情を綻ばながら、春和は怪人様へとそっとプレゼントを差し出した。
(「――や、『春』が来たことには違いないんだけどサ。『春』違いっていうか、怪人の思ってる『春』とは違うというか」)
 幸か不幸か。怪人の視線と集中力は「愛らしく微笑む桜色の少女」と「女の子からのプレゼント」に全てが注がれており、伊織の向ける哀れみを孕んだ視線には気づいていない。
『開けても良いのかっ!!?』
「ええ。勿論です」
 純粋な笑みを浮かべたまま――怪人がリボンを解く瞬間を見極めて。春和は跳躍した。
 花畑を舞う優雅な蝶のように。爆風や向かってくる爆弾の破片の全てを器用に躱しつつ、ひらりとした身のこなしで伊織の元へ舞い戻る様すら、絵になっているのだから憎めない。
「ま、そんじゃ俺もオマケをつけてやるか。ハイ、俺達の気持ち受け取ってネ~!」
 春和のとは違い、伊織は雑にラッピングした爆弾を怪人へと放り投げる。全てを春和に持っていかれたような気がするが、きっと気にしてはいけないだろう。
 それにプレゼントの爆発によって、怪人が既に肉体的にも精神的にも満身創痍でハートブレイクされている気がしたのは……これもきっと、気のせいだ。
『初めて、の……贈り物、が』
 さて、盛大に爆発に巻き込まれた怪人は……大きくダメージを受けてもなお、もう少し戦えそうな様子だったが、何故か地面に突っ伏したまま動こうとしない。
 プレゼントとして詰められていたリボンや花弁やら、紙吹雪やらを身体中に纏いながらブツブツと言葉未満の呻き声を上げている。
(「あ、なんか俺と似てるかもナ?」)
 春にしてやられているトコとか。盛大にハートブレイクされたトコとか。
 地面にめり込んだまま微動だにしない怪人を眺め……一瞬でも同族意識を感じたのは、伊織だけの秘密である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【彩夜】

見て見て、なゆさん
お空に数字!

時間の計算、ルーシー出来るのよ
10分は「だるまさんがころんだ(10文字)」を
60回言えば良いのよね!
――……?
さんぜんろっぴゃく回くらい言う事になりそうな気が?
ふふ、きっと口がクタクタになっちゃうわね

爆弾があるのね
会場に居るヒト達
なゆさんや大事な懐中時計さん達に何かあったら大変
ええ、ルーシー達がかくれんぼの鬼ね
イルルさん!一緒に頑張りましょう

青の花弁をひろく舞わせましょう
花は狭い所も入れるし触れたものを感知できる
物陰とか隠れるのが上手なコは居ないかしら?……あ!
ええ、みつけたわ
ではいっしょに

みーつけた!

てててと近寄り、えいやと持って
落とし物は、持ち主へ!


蘭・七結
【彩夜】

刻一刻と進んでゆく時間
あの時間は何を表すのかしら
浮かんでいた時計は消え去ったよう
ちょっぴり残念ね

時の流れは不思議なものね
無限のようでいて有限のひと時
こうしている間にも時は移ろう

ふふ、そうね。ルーシーさん
三千六百ほどの達磨さんが転がってしまう
愉快な光景が拡がりそうね
舌が縺れてしまわないか、心配よ

隠れている爆弾に『見ぃ附けた』をしましょうか
幾つの隠れんぼが出来るかしら

針の音が消えてしまうのは悲しいもの
イルル、眸を貸してちょうだい
五感を共有しながら彼方此方を探してゆく
――あら、見附かったかしら
では、共に告げましょう

『見ぃ附けた』

危ういものは持ち主にお返ししましょう
たんと受け取ってちょうだいね




 上空を悠々と泳いでいたクジラの姿も。会場内を自由に羽ばたき、飛び回っていた鳥たちも。舞い降りていた花弁や木の葉たちも。
 その全てがサラサラと青い燐光を放ちながら、電子の世界へと戻っていってしまった。
 時計の国の住民であった彼らの代わりに、上空に姿を現したのは――巨大なカウントダウン・タイマーの存在で。
 クジラさんたちとさよならをしたことはちょっぴり寂しいけれど、上空のタイマーの存在だって気になるから。
「見て見て、なゆさん。お空に数字!」
 ルーシー・ブルーベルが指差す先には、会場の何処からでもすぐに見つけられそうなほどに大きなタイマーが。
 何を表しているのだろう。こうしている間にも、1秒ずつ少なくなっていっている。ゆっくりとだが、刻一刻と時間は進んでいていた。
「あの時間は何を表すのかしら。浮かんでいた時計も消え去ってしまって、ちょっぴり残念ね」
 さよならを伝えられないまま、ホログラムで創られた世界は消え去ってしまった。
 そのことを残念に感じながら、蘭・七結もまた、頭上のタイマーを見つめている。この一瞬も、タイマーは決してその歩みを止める事なく。
「時の流れは不思議なものね」
 決して止まらぬ時の流れに、思ったままの感想がぽつりと零れ落ちて。
 慌てふためいている人々にとっても、冷静に避難誘導に応じている人々にとっても。1秒は同じだけの感覚で過ぎ去っていって。
 無限なように感じられるあのタイマーも、いつかは「0」に辿り着く瞬間が来る。
 全ては無限のようでいて、その実有限のうちのひと時なのだ。何もしなくても、こうしている間にも、時は過ぎ去っていく。時間というのは、本当に不思議な存在だ。
「時間の計算、ルーシー出来るのよ。10分は『だるまさんがころんだ』を、60回言えば良いのよね!」
 さて、上空の「違和感」マシマシタイマーが「0」に辿り着くまで、どれほど掛かるだろうか。
 ゆったりと計算していた七結の横で、ルーシーがぴょこぴょこと手を挙げていた。
 10分は600秒だから、きっかり10文字の「だるまさんがころんだ」を60回言えば、きっちり10分丁度になる。
 上空のタイマーの残り時間を見上げて、それから再び計算をして――。
「――……?」
 そこで、ルーシーもまたタイマーの「違和感」に気が付いたよう。
 こてりと首を傾げて、七結の方を見上げて。
「さんぜんろっぴゃく回くらい言う事になりそうな気が?」
「ふふ、そうね。ルーシーさん。三千六百ほどの達磨さんが転がってしまう、愉快な光景が拡がりそうね。舌が縺れてしまわないか、心配よ」
「ふふ、きっと口がクタクタになっちゃうわね」
 ルーシーの脳裏を次から次へと通り過ぎては消えていくのは、ゴロゴロと坂道を転げ落ちていく達磨さんたちのイメージ。
 「だるまさんがころんだ」が3600回分もあるのだ。口がクタクタになるのは勿論だけど、達磨さんたちも転げまわり過ぎて疲れちゃわないかな、とか。10時間転がり続けるのは、ちょっと心配になってしまう。
 達磨さんたちが疲れてしまう前に、この会場で「かくれんぼ」している爆弾を見つけ出さないと!
「爆弾があるのね。会場に居るヒト達、なゆさんや大事な懐中時計さん達に何かあったら大変」
「隠れている爆弾に『見ぃ附けた』をしましょうか。幾つの隠れんぼが出来るかしら」
「ええ、ルーシー達がかくれんぼの鬼ね。イルルさん! 一緒に頑張りましょう」
 「だるまさんがころんだ」の次は、「かくれんぼ」の時間だ。
 時計が落ち切るまでに隠れている爆弾を見つけ出して、怪人さんを倒せたら勝ち。倒せなかったらの話はあまり考えたくはないけれど――猟兵たちの負けとなる。
 かくれんぼの鬼を張り切って務める気合十分のルーシーの前に現れたのは、七結の召喚に応じた、真っ白な身体が妖しくも美しい厄蛇〝イルル〟だ。
「針の音が消えてしまうのは悲しいもの。イルル、眸を貸してちょうだい」
 時計も、この会場も。何もかもが無に返ってしまうのは哀しい。
 凪いだ心に、そうっと伏せられる双眸。イルルと五感を共有させた七結は、会場の隅々まで捜索させるべく――テーブルが終わりの見えないトンネルとなって続いてる、暗がりの場所へ静かにイルルを導いた。
「物陰とか隠れるのが上手なコは居ないかしら?」
 ルーシーもまた、遠く高く広く――会場の全体に散らばるように、釣鐘水仙の青い花弁の嵐を巻き起こして。
 朝焼け空のような紫がかった青色は、通常では気付けないような狭い隙間へと潜り込むことだってできるのだから。
「……あ!」
「――あら、見附かったかしら」
 会場に展示された時計たちにひっそりと紛れるようにして。見つからないように、そっとソファーと壁の間に隠されて。
 それぞれ見つけた、「かくれんぼ」に参加していた爆弾の姿。おすまし顔で時計の国の住民になりきっていたけれど、ルーシーと七結の目は誤魔化せない。
「ええ、みつけたわ」
 その姿を見つけたのなら、告げる合図は一つだけ。
 せーので、共に。
「みーつけた!」「見ぃ附けた」
 「見つけた」のを告げたのなら、次の鬼は怪人さんだ。
 てててと見つけた爆弾に近寄り、刺激を与えないように気を付けながら、えいやと持ち上げたのなら。さっそく、落し主の元へ。
『これだからリア充はっっ!! って、なんっ、!!?』
「危ういものは持ち主にお返ししましょう――たんと受け取ってちょうだいね」
「そうね。落とし物は、持ち主へ!」
 と、身体に蓄積されていったダメージのお陰か、動くに動けず……今の今まで地面に突っ伏していた怪人が――不意に大声を上げて起き上がった。
 立ち上がってからも何やらゴニョニョと叫んでおり、その叫びの内容もルーシーと七結にはサッパリな話だったのだが……少し前に可愛い女の子(猟兵)から受け取ったプレゼントの中身が爆弾で、心身共に盛大にハートブレイクされていた事を知るのは、怪人さんだけ。
 お約束の台詞を叫びながら再び猟兵達に向かっていこうとした瞬間、飛んできたのは七結とルーシーによる爆弾の雨。
 台詞を言いきる前に「みーつけた」された爆弾が怪人さんに当たり――モクモクと派手にカラフルなスモークを上げて、静かに爆発した。
「色とりどりでキレイね!」
「ええ。雲の様に広がっていくわ」
 ふわっふわと風に乗って2人の元まで運ばれてきたのは、ふわふわとしたパステルカラーのカラフルなスモーク。
 雲みたいにふわふわした中で「かくれんぼ」したら楽しそうだと語るルーシーと七結の背後で、身体中から煙を上らせた怪人さんが会場のずっと端まで飛ばされていったとか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コノハ・ライゼ

ジャックちゃん/f16475

は?リア充のナニが悪いのよ?
てかジャックちゃん、そーゆーのをリア充って言うのよ(広い意味で
堂々と言い放ちながらも、会場をざっと見渡す
念の為一般人が巻き込まれないように物陰や経路を確認

爆弾はホラ、そーゆーの見付けれる目とか持ってナイ?ジャックちゃん
頼りつ【翔影】でくーちゃん達を放って爆弾を回収ネ
さ、あの変t……おバカさんにお返ししてあげて
お礼代わりに生命力でも頂いときましょ
2回攻撃で傷口を抉るよう丁寧に、ネ

ああ、それともうひとつ
そのタイマー通りに爆発するってンなら――随分気の長い話だコト
時計にケチ付けるなら、ねぇ
せめて時計がちゃんと読めるようになってからにしなさいな


ジャック・スペード

コノハ/f03130

リア充、とは
俺たちは別に、ただ普通に
展覧会を楽しんでただけなんだが

兎に角、一般人を巻き込まぬよう
立ち位置等に注意しつつ対峙を

ああ、「目」ならある
サイバーアイで周囲を解析
仕込まれた爆弾を見つけ出そう

召喚したキティーズたちに
それを運ばせる傍ら
彼等やコノハの呼んだ狐が襲われぬよう
麻痺の弾丸をばら撒いて牽制を
コノハに攻撃が当たりそうな時は
此の身を盾として庇うとしよう

確保した爆弾は勿論
怪人の元へ返品を
ほら、プレゼントだ
序でに誘導弾もおまけしてやる

ヒトの気を惹きたいのなら
他人を妬まず、自分磨きに勤しむことだ
なにより――
時計が読めない男はモテないぞ
時間と約束を守るのは紳士の嗜みだからな




 猟兵達によって「落とし主」の元へ「返却」された爆弾は、お約束のように怪人だけを巻き込んで盛大に爆発して。
 度重なる爆破に、時には黒焦げになり、時には心身共にハートブレイクされたり、また時には会場の隅から隅へと高速の自由落下を楽しむことになったり。
 身体に杭のように撃ち込まれた銀弾によって動かす度に痛みの走る両腕。戦闘の傍ら、避難誘導が行われていたお陰で――進行通路に、八つ当たりできるような一般人の姿も無く。
 さすがの怪人も、遂に苛立ちが隠せなくなってきている。……というより、既に全身ボロボロの状況だ。それでもリア充への「嫉妬」だけでその身体を奮い立たせているあたり……呆れるべきか、賞賛するべきか。
『おのれおのれ……! にっくき、リア充ども、め……!』
「は? リア充のナニが悪いのよ? てか、そんなに息も絶え絶えで言われても、ねぇ?」
 コノハ・ライゼによって、言外に「カッコ悪い」と告げられてしまった怪人。何か言おうと口を開いたが、その言葉を遮るようにしてジャック・スペードの疑問が発せられる。
「リア充、とは。俺たちは別に、ただ普通に展覧会を楽しんでただけなんだが」
「ジャックちゃん、そーゆーのをリア充って言うのよ」
 そう。怪人にとって、誰かと一緒に博覧会に来ているというだけで漏れなくリア充判定になるのだ。
 恋人だけではない、広い意味での「リア充」に、嫉妬する暇があるなら有意義なことの一つでも……と、自然とため息が出てしまうのは仕方ない。
『俺様を!! 馬鹿にするのも、良い加減、』
「で、こーゆー言動してるから、リア充になれないの。分かる?」
 怪人のメンタルを粉々に打ち砕く言葉のナイフを堂々と放ちながらも――コノハの視線は油断なく、会場全体を見渡していた。
 仲間の猟兵によって、怪人の傍に近寄らない様にと――避難誘導が行われているが、逃げ遅れた一般人はいないか。物陰や経路に、潜んでいる人物はいないか。
 周囲に人影がいないことを確認し終えると、コノハはそっとジャックに目配せをして合図を送った。
「爆弾はホラ、そーゆーの見付けれる目とか持ってナイ? ジャックちゃん」
「ああ、『目』ならある」
 ――それも、隠されたものを見つけ出すのに、うってつけの「目」が。
 姿があるものも、無いものも。御伽噺の娘のように、最後には名前さえをも見抜いて。
 その「目」に映されたのなら、それが最後だ。次の瞬間には、真実が白日の下に晒されることとなる。
 サイバーアイで周囲を解析したジャックは、爆弾を見つけ出す度に、コノハへとその位置を教え。
「さ、くーちゃん達。あの変t……おバカさんにお返ししてあげて」
 あれを変態と呼ばないのなら、一体どのような人物を「変態」と呼ぶのだろう。誰か教えて欲しい。
 思わず口からするっと「こんにちは」してしまった本音を引っ込めながら、コノハは呼び出した黒影の管狐に爆弾の回収をお願いした。
 四肢に黒き羽根の生えた管狐は、爆弾を抱くとふわりと音もなく空中を移動して――一斉に怪人の元へ。
「出番だぞ、お前たち。プレゼント返品の任務だ」
 ジャックの号令によってその姿を現したのは、薇仕掛けのトランプ兵たちの姿だ。
 巻かれた薇が解けていく度、トランプ兵は少しずつ怪人の方へ。全く隊列を乱さずに、一列の流れと成って怪人へとプレゼントを届けに歩み始める。
「邪魔が入っては敵わないからな」
 怪人からしてみれば、向かってくる管狐やトランプの兵隊は格好の的となる。
 「爆弾プレゼント任務」で一番重要な部分を担うコノハや彼らが襲われぬようにと、ジャックは麻痺毒を含んだ弾丸を景気良くばら撒いていく。
『姑息な真似をしやがって!!』
 手近にあったのぼり旗を槍よろしく振り回しながら、ぎゃいぎゃいと喚いている若干一名。
 会場に爆弾を仕掛けておいてどの口が言ったことかとなるのだが、その若干一命様は、自分の言動を完全に棚上げすることに決めたらしい。
「なぁんか様にならないわネ? さて、お礼代わりに生命力でも頂いときましょ。傷口を抉るよう丁寧に、ネ」
 のぼり旗をバッタバッタと上下左右に振り回しつつも、ジャックの放った弾丸によってコノハ達へ不用意に接触するようなことはできず。
 結果として一人漫才をしているような形となった怪人に冷めた眼差しを送り、それからコノハは管狐たちへ、「落下」の合図を出した。
 管狐達が運んでいた爆弾は怪人の頭上へ雨のように降り注ぎ、次々に落下していく――地味な嫌がらせか、銀弾が食い込んだ腕や、損傷が激しい部位など「当たったら痛そう」な場所ばかりを狙って。
「でも、あの変t……おバカちゃんの生命力を吸収しちゃったら、コッチまでおバカになっちゃいそうネ?」
「要らぬ心配ではないか。コノハとあの男は根本的に違うだろう。ほら、プレゼントだ。序でに誘導弾もおまけしてやる」
 2人からの「プレゼント」に、反論する間もないまま怪人は爆風によって吹き飛ばされ……次いで、ジャックの放った誘導弾によって上空へと。
「聞こえてるか分からないケド。もうひとつ。そのタイマー通りに爆発するってンなら――随分気の長い話だコト」
「そうだな。ヒトの気を惹きたいのなら他人を妬まず、自分磨きに勤しむことだ。なにより――」
 上空へと派手な爆発と共に打ち上げられた怪人を見送りながら――放たれるのは、至極真っ当な正論で。
 爆弾を作る暇があるのなら、自分磨きの一つや二つくらい……まあ、他人に「嫉妬」してばかりだから、そもそも「自分磨き」という選択肢が思い浮かばなかったのだろう。
 「困ったチャンね」と首を振るコノハ。変態一人だけでこの疲労感なのだ。もう暫く、あーゆー輩には関わりたくない。
「時計にケチ付けるなら、ねぇ。せめて時計がちゃんと読めるようになってからにしなさいな」
「ああ。時計が読めない男はモテないぞ。時間と約束を守るのは紳士の嗜みだからな」
「タイマーの近くまで飛んで行ったもの。さすがに気が付くわよネ?」
「気付くことを願うばかりだな」
 タイマー近くまで打ち上げられた怪人。さすがに「10分」と「10時間」の違いに、そろそろ気付いて欲しい頃合いだ。
 まあ、タイマー付近まで飛んでいったところで――怪人はきっと、「間違い」に気付かないままだろうけども。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
りあじゅ…?何でしょう?種族でしょうか??
…って、ど、どど、どどど、どうして贈り物だと知っているのですか?!
この怪人は人の心が読めるのですか?!

UC【一獣当千】使用
10分後に爆発…。急いで処理しなくては!
呼び出すのは沢山のわんこさん達。皆さんのその嗅覚をいかして爆弾を見つけて来て下さい!
ご褒美は…そうですね、ここはキマイラフューチャーですし、美味しいフードやジャーキー、チュール等ご馳走をいっぱい用意します!
時間がありません!10分後に爆発…10分?たぶん10分後?に爆発してしまうので急いでください!
ウケは私と封印された会場の出入り口の解除と来場者の避難誘導を。
みけさんは「りあじゅう」とやらを検索し怪人の目の前に投影して挑発して下さい。怪人が挑発に乗ってこちらに向かってきたら会場の外へ連れ出すように誘導するのです。
月代とウカは怪人が会場の外に出たのを確認してから攻撃開始です。
わんこさんが回収した爆弾と一緒に衝撃波で吹き飛ばしておやりなさい!

(…りあじゅうって種族ではなかったのですね)




 散々攻撃をぶつけられ、おまけに爆弾まで返却されて。
 今しがた天井付近まで打ち上げられ――それから大きな衝撃音を響かせて落下したというのに、怪人はまだ立ち上がっていられた。
『リア充だからと、ボッチの俺様を散々馬鹿にしやがって……!!!』
 ――否。殆ど「リア充を爆破してやる」という気力だけで立ち上がっているようなものだったが。
 「リア充爆破」とデカデカ記されたマントはあちこち破けて、お化け屋敷のカーテンさながらだ。良い感じにプスプスと全身から煙を上らせ、こんがりと焦げ臭い匂いが漂っている……。
 身体中傷だらけだが、リア充への嫉妬を前に、痛みは何処かへと逃げ出してしまったらしい。しかし、あと一押しで完全にノックアウトできるくらいには、体力を削れているだろう。
「りあじゅ……? 何でしょう? 種族でしょうか??」
 先程から味方や怪人が何度も連呼している「りあじゅう」という存在。ワタワタと周囲を見渡して、危ないでしょうか? とあっちこっちウロウロしていたけれど……そんな種族? に会場内で未だ出逢っていない。
 それに、怪人が暴れ始めるせいで会場内がめちゃめちゃになるし……。気が付けば凄いことになっていた。
 オマケに、吉備・狐珀の近くに打ち上げられていた怪人が落ちてきたものだから、更にワタワタだ。
『そこの青いの! お前も贈り物を探しに来たんだろ!!? そうであろう!!』
「……って、ど、どど、どどど、どうして贈り物だと知っているのですか?! この怪人は人の心が読めるのですか?!」
『フン。何を求めに来たかなんて、その顔を見れば一瞬で分かあぁぁるッッ!!』
「ほ、ほんものの超能力者じゃないですか!?」
『リア充は纏めて爆破させてやるウゥゥ!! そろそろ10分経つ頃あ、』
「そうでした! 10分後に爆発……。急いで処理しなくては!」
 混沌とした会場の雰囲気に呑まれかけていた狐珀だったが、怪人の宣言にハッ! と我に返る。
 ドタバタワタワタだったが、そろそろタイムリミットの10分に近い――感覚的には10分以上経っているような気もするが、きっと気のせいだろう――早急に爆弾の処理をしなければ!
 我に返った狐珀の行動は早かった。怪人の台詞を遮りつつ、『もふっと大辞典』をペラペラと捲り、呼び出すのは沢山のわんこさん達。
 ふわもふなぬいぐるみのように愛らしい子から、キリっとした凛々しい子まで。世界のわんこが大集合だ。
「皆さんのその嗅覚をいかして爆弾を見つけて来て下さい!
 ご褒美は……そうですね、ここはキマイラフューチャーですし、美味しいフードやジャーキー、チュール等ご馳走をいっぱい用意します!」
 「用事はなに?」「遊んでくれるの?」とばかりハフハフしながら、ぐるりと取り囲むようにして狐珀を眺めていたわんこたちは――「ご褒美」や「美味しい」という単語を聞いた途端、ピン! と耳が伸びて、キラリと眸の輝きが増した。
 キマイラフューチャーのフードやジャーキー。想像だけだというのに、既に涎がダラダラと零れ落ちてしまっている。
『おい! それはリア充ではなく、リア獣ではないかあぁぁ!!』
「あ、りあじゅうとはわんこたちのことを差すのですか……!?
 そのお話は気になりますが……でも、時間がありません! 10分後に爆発……10分? たぶん10分後? に爆発してしまうので急いでください!
 ええと、爆弾は……こう、焼き過ぎたお肉みたいな匂いがすると思います!」
『ワン!!』
「あ! それは爆弾ではありませんよ! 怪人さんご本人です!」
『……クーン?』
 「焼き過ぎたお肉」と聞いて……近くの焦げ臭い匂いを漂わせている怪人をペロッと舐めたわんこ。
 狐珀はわんこを怪人さんから慌てて引きはがしながら、「彼以外で!」と付け足し、わんこ達を会場全域に放っていく。
「さて、私たちも動きましょう。ウケは私と封印された会場の出入り口の解除と来場者の避難誘導を」
 狐珀に一番に名前を呼ばれた白狐のウケは、ピシッと右前足を上げ、「りょうかい」のポーズをとった。
 味方の避難誘導によって、怪人を避ける様な形で――既に来場者達は出入り口付近に集められていっている。出入り口の解除に専念するだけで良いだろう。
「みけさんは『りあじゅう』とやらを検索し怪人の目の前に投影して挑発して下さい。怪人さんのお話だと、犬みたいな生物だと思われます。
 怪人が挑発に乗ってこちらに向かってきたら会場の外へ連れ出すように誘導するのです」
 みけさんは早速「りあじゅう」を検索して――その結果、何故か呆れたようなジト目で狐珀を見上げたのだが、動物たちに指示を出すことに集中している狐珀は気付いていないようだ。
「月代とウカは怪人が会場の外に出たのを確認してから攻撃開始です。わんこさんが回収した爆弾と一緒に衝撃波で吹き飛ばしておやりなさい!」
 仔竜の月代はパタパタと尻尾を揺らして、黒狐のウカはぎゅっと宝玉を握り直して。気合十分とアピールしてみせた。
 指示を受けた皆が持ち場へと散らばったのを確認して――早速、みけさんが『りあじゅう』の画像を投影していく。
 怪人の前に次々に現れるのは、種族も年齢も様々なカップルやグループ連れの姿で。中には、もふっとしたわんこや、スマートなにゃんこなど……「リア充」に紛れて「リア獣」も投影されていたり。
『お前ら!! どれだけ俺様を馬鹿にすれば気が済むのだアアァァ!!!!』
 「リア充」見せつけ攻撃は、追い詰められ「嫉妬」の感情だけで立ち上がっていた怪人に効果覿面だったようだ。
 頭に血が上り過ぎて、本物と本物そっくりな投影映像の違いに気が付かなかったのか、投影されたリア充の姿を追いかけ始め――避難誘導に応じていた一般客の横を素通りし、会場の外へ。
 出入り口のロック解除されたことにすら、気付かなかったよう。
『このリア充どもめ!! 今に吹き飛ばしてやる!!』
『わふわふ!』『わおん!』
『リア充――お前らはリア獣だろう!!? ええい、紛らわしい!!』
「ですから、怪人さん本人以外で……!」
 遊んでもらえると思ったのか、それとも「怪人本人」も爆弾だと判断したのか。
 リア充(投影画像)を追いかける怪人を、更に爆弾を咥えたわんこ達が追いかけていく。
 嵐のように去っていったわんこ達の後ろを、慌てて狐珀もついていった
『だからっ! 俺様はリア充を爆破しに!! 来た訳で!! リア獣に爆破されに来た訳では!!』
『わおおん?』
『だから、『じゅう』違いだと言っている!!』
 「とってこい」をして欲しかったのか、わんこ達は怪人の元へ次々と爆弾を終結させ。
 「会場の外に出た」と判断した月代とウカが、攻撃を仕掛け始め――その結果、
(「……りあじゅうって種族ではなかったのですね」)
 空高くまで飛ばされて星になるのは、ある意味「悪役」にとって約束された退場方法だろう。
 今日一番の爆発を受け、高く高く――怪人は宇宙の旅へと旅立った。
 あれだけコテンパンにされたのなら、きっと「二度目」はあるまい。
 りあじゅうって、仲良しのことを言うのですね。とか。そんなことを思いながら、狐珀は空の星となった怪人を見送った。

 何はともあれ――博覧会の平和は、猟兵達の活躍によって守られたのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年10月13日


挿絵イラスト