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アポカリプス・ランページ⑱〜今日だけ俺は!

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●ポーシュボス現象
 増殖が連鎖する。
 慟哭が連続する。
 死の嵐が大地を覆い、狂気と恐怖が歪な肉塊として具現化し、駆け巡り、侵食し、嘆き、絶望する。
「誰か、助けテ!」
「アア、止めて、わたシを止めて――!」
「オ願い――」
 私を殺して。

●狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり
 呑み込まれた存在はオブリビオンになってしまうという、オブリビオン・ストーム。
 極大規模なそれがフロリダ州に発生している。その内部には、外宇宙より出現したといわれる漆黒の触手めいた肉塊が、所狭しと蠢いているという。
「どこからどこまでを一個って数えりゃいいのかわからんが……まあ、関係ないな。無数だ。足の踏み場もないどころか、空もほぼ埋め尽くされてる」
 常と比してひどく生気のない顔になっている大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)が、嘆息混じりに言う。
「ポーシュボスの特徴として、わずかでも『善の心』を持つ生命体に寄生して、その生命体を新しいポーシュボスに変異させる、ってもんがある」
 生命の埒外にある猟兵ではあるが、それでもポーシュボスの寄生対象からは外れない。
 この群れに対抗して戦うには、一つには、ポーシュボス寄生されてもなお強靱な精神力でもって狂気に呑まれずにいること。もう一つには、自らを善の心の一片もない純粋な悪、つまり『邪悪ナる者』に変身することである。
「これは言わば、真の姿の解放の応用みたいなもんだ。何であれ邪悪一辺倒なものをイメージして、その通りに自分の心身を作り替えるわけ。現実に良心の欠片もない存在になるっつーよりは……何だろうな。そういうモノと寸分違わない姿になって、寸分の狂いもなく演じきるって感じ、かな?」
 常識的に考えれば、ポーシュボス――外宇宙の邪神によって定められた法則そのものを騙しおおせる演技などというものは、存在し得ない。しかし、自らが常識外の存在であり、ユーベルコードをもって非常識現象に干渉する力のある猟兵ならば、あるいは己自身を『世界を救う』ために戦う『邪悪ナる者』として顕現させるのも可能かもしれない。
 寄生されてなお正気を保つか、完全無欠な邪悪の仮面を被るか。
 そのいずれか、各自が自分に向いた手段でポーシュボスに対抗することになる。
「それから、説明を聞いてピンと来た人もいるかもしれないが……今、ストームの中に無数に存在するポーシュボスは、元々そこに存在していた生き物たちだ。人間も含めてね。残念だけど、彼らを救出する手段は、ない。速やかに討伐して、少しでも苦しみの時間を短くしてやるくらいしか、あたしらにできることはないんだ。何から何までしんどい戦場になるが……頼む」
 今にも泣きそうな顔で、しかし涙を流すことはこらえつつ、朱毘は頭を下げた。


大神登良
 オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良(おおかみとら)です。

 これは「アポカリプス・ランページ」の戦況に影響を与える戦争シナリオで、1章で完結する特殊な形式になります。

 戦場はオブリビオン・ストームによって荒野化した一角です。建物、人間を含めた動植物は破壊され尽くし、平べったくなっています。ただ、空間を埋め尽くすようにポーシュボスが這い回ったり飛び回ったりしています。

 このシナリオには下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
『プレイングボーナス……『邪悪ナる者』になるorポーシュボス化してでも戦う』
 ボーナスについて厳密に「こうでなければダメ」という判定はしません。気合いや根性等でおおむねどうにかなるものと考えてくださって大丈夫です。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ポーシュボス・フェノメノン』

POW   :    ポーシュボス・インクリーズ・フェノメノン
【ポーシュボスによる突撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【新たなポーシュボス】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ポーシュボス・ナインアイズ・フェノメノン
自身の【全身の瞳】が輝く間、【戦場全てのポーシュボス・フェノメノン】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    ポーシュボス・デスストーム・フェノメノン
【オブリビオン・ストームの回転】によって【新たなポーシュボス】を発生させ、自身からレベルm半径内の味方全員の負傷を回復し、再行動させる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レイ・アイオライト
ただでさえオブリビオン・ストームで騒がしいのにそれに追加して無数の慟哭の声とか騒音被害凄まじいんだけど。
喧しいのよ、他人の耳元で自分の不幸を叫ぶなっての。

とはいえ、このままこちらも呑まれる訳にはいかないわね。

邪悪なる者、ならあたしの内に存在してる。
UC発動。クラミツハ、出てきなさい。
待ちに待った殺戮の時間よ。

『とうとう殺せるのか!!クハハハハ!!善いぞ!我が力を以て蹂躙しよう!!嵐が鮮血に染まるまで、永久に!永遠に!!』

クラミツハに体を預けて、影を自在に操る力でポーシュボスたちを『暗殺・範囲攻撃・蹂躙』していくわ。

さっさと骸の海に還りなさい。



●闇御津羽神
 オブリビオン・ストームの中に足を踏み入れた途端、レイ・アイオライト(潜影の暗殺者・f12771)は脳を引っかかれるような不快感に顔をしかめた。
 周囲を一瞥してみて、目に入るのは一面のおびただしい闇色。海洋生物めいた肉の触手が原理不明に空を飛び回り、地を這い回っている。ただでさえストームが空気を蹂躙する音が耳障りなところ、触手の群れが絶え間なく慟哭を垂れ流している。
「……他人の耳元で自分の不幸を叫ぶなっての」
 夕空にも似た茜色の双眸を細くしつつ、レイは吐き捨てた。
 蠢く肉塊――ポーシュボスを滅し得る『邪悪ナる者』について、レイには心当たりがある。彼女自身の体に刻まれた、影憑。限界まで煮詰めて純度を上げた殺意のごときそれは、性質上、善良な要素など割り込みようがないはずの存在である。
「クラミツハ、出てきなさい。待ちに待った殺戮の時間よ」
 それを呼ぶと同時、レイの背中がうずく――否、『うずく』などという生やさしいものでもなく、斬り裂かれた上に焼け火箸と山盛りかき氷を一度に突っ込まれたような、不快さと痛さがまぜこぜになった激しい感覚が走る。
 体の内外に浸出した邪悪は一瞬にしてレイを覆い尽くし、黒一色に染め上げた。
『クハハハハハ!』
 己の内側から脳天にかけて響く哄笑に、レイはげんなりする。
『我が力が必要か、主殿よ!? ああ、いくらでも蹂躙してやるとも!!』
(うるさいわね)
 すでに肉体の主導権が移ってしまっているため、レイが毒づいても喉は動いてくれず、声にならない。
 とまれクラミツハに操られたレイの肉体は、狂ったような超スピードでその場を駆け巡りつつ魔刀・篠突ク雨を縦横に振り回した。刀身には昏い闇色のエネルギーが纏わり付いて十尺を超す刃を成しており、斬閃が奔るたびに触手の群れをまとめて斬り裂く。
 不意に出現した漆黒の殺戮者に、ポーシュボスの動きが慌ただしくなる。
 肉塊に無秩序に刻まれたいくつもの亀裂――恐らくは、目――が不気味な黄金色に輝いてレイを睨みつつ、荒れ狂った触手の鞭が互いや己の体を叩くのもいとわず乱打してくる。
 驚異的な質量と速度に圧され、刀の速度が鈍る。その隙を突いてレイの首に巻き付いたポーシュボスの触手が、芯に存在するレイの意識を侵食せんとする。
 が、喜悦の頂にあるクラミツハはその触手を素手で一瞬にして引きちぎった。
『クハハハ! もっとだ、もっと来い! 嵐を血で染め続けてやろう――永久に! 永遠に!!』
 再び振るわれた昏い刃が、迫り来ていた肉塊を薙ぎ払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

岩永・勘十郎
敵を目の前にして寄生されない勘十郎。
それもそのはず。勘十郎は猟兵とは名ばかり、人を斬っても屁とも思わず、必要ならば女、子供に飼っている犬や猫まで斬り殺す人間だ。

「こんな楽しい日は久々だ。故にすぐには殺さん。楽しもうじゃないか」

勘十郎に潜む純粋な悪意は他者がどこで野垂れ死のうと知ったこっちゃない。弱ければ死に方も選べないのだ。

「言っておくが、ワシの悪意はお前以上に純粋だ」

そのままUCを発動し【第六感】で動きを察知し【見切り】ながらあえて急所を外して、体力という概念を斬り削りながら痛みだけを与える。もちろん反撃も許さない。【瞬間思考力】で最適解を導き出し【残像】が残る程の速度で敵の精神を斬り裂いていく。

「もっと聞かせろ。貴様の絶叫を!」

今までの戦場では見せなかった残虐な技を繰り出す。まるで猫が鼠を嬲り殺しにするように……だがふと飽きたのか、大きく構える勘十郎

「そろそろ、終わりにするか。楽しかったぞ」

楽しませてくれた例にと、最後は敵の存在や魂その物を叩き斬り滅するつもりで。


ニクロム・チタノ
アハハボクは邪悪ナる者ですよなんせ悪堕ちして悪の怪人になってしまいましたからねぇ
反抗の竜にも見捨てられた醜いヘドロ怪人です
さあ始めましょうヨダレで辺りをヘドロ化させて猛毒ヘドロの海に変えてあげましょうか
オブリビオンストームに猛毒ヘドロの海これが悪に堕ちたモノ達の戦場です
そしてアナタ達ポーシュボスの眠る場所でもあります、切り刻んでヘドロの中に沈めてあげましょう



●堕落腐敗の狂瀾
 ポーシュボスは生物の良心に寄生し、喰らい、成長する。
 グリモアベースで散々に説明され、それ以前にも予兆によって明らかとなっている事実である。ポーシュボスに挑もうという猟兵たちは懸命に知恵を絞り、それぞれに対抗策を編み出さんとしている。
 その一方で、何の工夫もせず何もひねらず、オブリビオン・ストームに足を踏み入れた者たちがあった。その両者は両者とも、己をして良心の欠片もなき存在、即ち『邪悪ナる者』であると断じていた。

「アハハハ!」
 ストームの内側、無数のポーシュボスが荒れ狂う中にあって、ニクロム・チタノ(反抗を忘れた悪堕ちヘドロ・f32208)はけたたましい高笑いを上げていた。
「ボクに寄生して『善の心』を食べようとしても無駄ですよ。なんせ、悪堕ちして悪の怪人になってしまいましたからねぇ」
 他者が端で聞く分には、痛々しく耳障りな自虐でしかないだろう。
 だが、重要なのはニクロム自身がそれと信じ切っていることである。狂信、盲信といってもいいだろう。その信念の強固さゆえに、彼女を何重にもなって取り巻くポーシュボスらでさえ、寄生する隙を見出せずにいた。
 そんなニクロムの全身から、どろりと汚泥めいたゲルが浸出する。
 地面に落ちたそれが、周囲を蠢く闇色の肉塊群を上回るほどに昏い、どす黒い染みを作った。瞬く間に範囲を広げていく漆黒の沼に、けだし尋常でないものを感じ取ったのだろう、ポーシュボスがそれらを避けて遠巻きになる。
「逃がしませんよ、斬り刻んでボクのヘドロに沈めてあげます」
 ニクロムは刀を抜き放って、刀身をべろりと舐めた。途端、口からあふれ出たヘドロの唾液が刀身を伝い、鈍色を黒に塗り替えていった。

 そもそも何をもって善良、何をもって邪悪と定義するのか。そんなものに明瞭に答えを出そうと思えば、抜け出ること叶わぬ哲学の森に足を踏み入れなければならない。
 だがまあそれはさておくとして、岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)が『邪悪ナる者』たる所以は何かといえば、彼の『鈍さ』だろう。
 他人の痛みに対して鈍い。ゆえに、何者であれ躊躇なく斬り殺すような真似ができる。
 他人の心の動きに対して鈍い。ゆえに、好悪のいずれであれ己に向けられる感情について頓着しない――というより、できない。
 それこそ、善悪の垣根に対して鈍い。ゆえに、中心となる自己の都合や感情のままに動き、妨げるものは何であれ排除するし、己を行為を疑問視したり我慢したりすることは皆無である。
 そんな、究極の境地に至るまで研ぎ澄まされて突き抜け切った愚鈍さは、なるほど善良の要素の一片たりともない邪悪と称しても過言にはなるまい。
 軍用刀剣を抜き放った勘十郎は、うじゃうじゃと密集して蠢く肉塊に向かってゆっくりと歩を進めた。
「すぐには殺さん。貴様の悲鳴をたっぷりと――」
 嘲弄の台詞は、しかし、言い切る前に肉塊より伸びた触手に遮られる。
 勘十郎は素速く刀を閃かせて触手を迎え撃つ。【六道・龕灯返しの太刀(リクドウ・ガンドウガエシノタチ)】の斬撃は、威力こそあるものの触手を切断する効果はない――ゆえに、触手はそのまま刀に纏わり付いて重石となり、次また次と殺到してくる触手への対応を遅らせる。
「ッ!?」
 慌てて刀を振るう勘十郎だが、三本、四本ほど弾き返すので精一杯だった。五本目で右腕をしたたかに殴られ、刀を落としたところに側頭部を痛打され、強烈な勢いで地面を転がされる。
 勘十郎は目眩の中で舌打ちした。
 粗雑な肉の群れに見えて、敵はフィールド・オブ・ナインの一角たるポーシュボス。個々の肉塊はともかく、総合的な戦闘力は一猟兵と比して遥かに上である。鼠を弄ぶ猫になったつもりで臨めば、痛い目に遭って当然だった。
 久々に思うままに本性を発露する機会を得たことは、自覚以上に彼を浮かれさせ、必要最低限度の戦術眼さえ奪っていたようだ。
「――遊びは、止めだ!」
 怒号を張り上げた勘十郎は、落とした刀はあきらめて片鎌槍を取り出す。今度こそ油断なく慢心せず、怒濤のごとき肉の触手を確実にさばき、打ち払い、貫き、斬り捨てていく。
 と、時折、思いがけず刃への抵抗が増すことがあるのに気付く。
(――何だ?)
 乱戦の中切っ先に目をやると、ポーシュボスの血肉とは別に、よりどす黒いヘドロめいた何かがへばりついているのが知れる。
 何の所以のヘドロが、己の槍を妨げるのか。
 不愉快さに顔をしかめつつさらに周囲に目を走らせると、黒い汚泥をまき散らして肉塊の群れを痛めつけつつ剣を振るう、奇怪な猟兵の姿があった。
 ふと、勘十郎とその猟兵――ニクロムとの目が、合う。
 合って、そして、互いに露骨に不愉快そうな顔になってそっぽを向き合った。
 機を合わせるなどの工夫をすれば、もう少し楽に戦うこともできるだろう。が、何せ生得的な『邪悪ナる者』二人、共闘意識だの何だのというものを発揮する道理はない。
(何でしょう。邪魔ですね、あの人――)
(後で殺してやろうか――?)
 互いに胸中を悪罵で満たしつつ、野放図に乱雑に暴れ回った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マオ・ブロークン
侵食されることを、選ぶ。
意志が、鈍らない、ように。敵意を、研ぎ澄まして。
突進する、ポーシュボスへ、向かって、放つ。
【ポルターガイストの敵意】。
全力を、込めた、念動力で。受け止める。
触れなければ……新たな、ポーシュボスは、発生しない。

あたしは……けっして、善良な、だけじゃ、ない。
マオという、人間の、心は。
人の死を、見たくないから、戦っている、けれど。
身体の内に、閉じ込めた、魂の、本性は。人の死を、願う、悪霊だ。
ときどき、矛盾を、起こして。苦しい、けれど。
ほんの少し、だけ。動機が、一致する、時も、ある。

受け止めた、ポーシュボスを、持ち上げて。叩きつけて、潰して、
……苦しみから、助けだして、あげる。



●残酷に慈悲深き
 マオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)は、狂おしいまでに矛盾する心を抱えている。他人の死を忌避する心と、他人の死を願う心である。
 その二心の根源は恐らく同じである。マオ自身が一度、理不尽な死を遂げていることだ。己に降りかかった死を憎んでいるから他の者にその累が及ぶのを嫌い、同時に強い憎悪による攻撃性は凶猛な殺意となる。
 善良なだけではない。といって『邪悪ナる者』と呼べるほど振り切れた奸凶でもない。そして、決して器用な方とはいい難い彼女は、邪神をだませるほど『邪悪ナる者』になりきるのは自分には無理だと考えた。
 ゆえに、マオは己がポーシュボス化するのを覚悟する。侵食されることがあってもなお己が折れないよう、気迫を、敵意を、限界以上に研ぎ澄ませて。
 そうして、周囲三百六十度を覆い尽くす闇色の肉の群れに対峙する。
「あァ、助けテ――」
「殺したクないシにたくない殺したくなイ――」
「いや、イや、嫌――」
「……っ!」
 慨嘆をまき散らしつつ突進してくるポーシュボスの肉塊を、マオは全霊の念力を動員して受け止める。
 マオの数十倍の質量はあろうかという肉塊の津波――いや、無限の怨嗟で武装した超常存在たるそれは、見かけを遥かに超える圧力を持つ。
「う、ぐっ……!」
 意識が明後日まで吹っ飛びそうな目眩に、マオはえずく。
 物理、精神の双方でポーシュボスから加えられる重圧は凄まじい。支えて立っているだけでも喝采を受けてしかるべきほどの代物である。
 それほどのモノを、しかし、マオはさらにつかみ上げた。そして横殴りに振り回し、それ自体を肉の鈍器と成して別の肉塊に打ち付ける。
 べぢゃり! ぐじゃり! と粘っこい炸裂音を響かせ、激突したポーシュボス同士は肉塊から肉片へと変じて散る。
 それでもなお、ポーシュボスはマオに鋭く触手を伸ばし、あるいは肉の巨体をもって体当たりを仕掛けてきた。【ポルターガイストの敵意】に全神経を集中せざるを得ないマオは、それを回避するのに割けるリソースはない。
「――ッぁ!」
 言葉にならぬ喚声を張り上げ、辛うじて念力で肉塊を受け止める。地面と挟まれて圧殺される寸前まで追い詰められつつも、空間もろともねじ切るような勢いで脇にうっちゃり、触手の群れを巻き込んで叩き潰した。
 途端に一際甲高く怨嗟が上がり、マオは酩酊感に気が狂いそうになる。
 しかし。それでも歯を食いしばり、踏ん張る。
「苦しみから、助けダして、あげる……!」
 血を吐くように言いつつ、涙の止まらぬ双眸を肉塊の群れに向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
ポーシュボスと化して、半端に意識を残したまま生きる
いっそ普通に死ねた方がマシなんて、悪夢にも程があるだろ
だから、せめて終わらせよう

ポーシュボス化を受け入れ、神刀の封印を解除
浄化と破魔の力を解放して、肉体的にな面での侵蝕を抑え込む
更に意識を刀にのみ集中することで、ポーシュボスに取り込まれた人達の声に囚われないよう精神統一
多少無理矢理にでも戦える状態へと持っていく

神刀に緋色の神気を纏わせて、空中に神気で出来た無数の刀を生成
陸の秘剣【緋洸閃】、その刀を一気に解き放ち、戦場全体のポーシュボスを纏めて切り裂いていく

敵UCで攻撃回数が増えても、此方の攻撃により行動速度は落ちているから、なんとか避けていこう



●万紅
 周囲一帯を埋め尽くす黒い肉塊からは、絶え間なく怨嗟の声が垂れ流されている。否応なくその声を聞かされる夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は、そのおぞましさに顔をしかめた。
 延々たる悲鳴は、耐えがたい狂気の中で己を呪い、運命を呪い、自らの死を願って嘆く声である。それはつまり、ポーシュボス化した生物たちの意識が中途半端に残っていることを示している。
「いっそ普通に死ねた方がマシなんて……」
 眼前にある肉塊の群集に慈悲心を持つとすれば、それは、悪夢よりも悪夢のような苦しみを一刻も早く終わりにしてやることだろう。
 歯がみしつつ、鏡介は封印を解いた神刀【無仭】を構えた。刀からあふれ出た神気は緋色の炎雷となり、鏡介の全身を鎖帷子よろしく覆い包んだ。
 炎雷はさらに瞬く間に量を増し、中空にいくつかに分かれてわだかまりを成す。そしてそれらは、神刀そっくりのシルエットを持つ赤き刀の群れへと変貌した。
「斬り穿て、千の刃――【陸の秘剣【緋洸閃】(ロクノヒケン・ヒコウセン)】!」
 鏡介の号令一下、刀の群れは切っ先を前にして烈風のごとくにポーシュボスに雪崩れ込む。緋色の刀身は闇色の肉を斬り裂き、刺し貫き、血液とも何とも判然としないどす黒い液を噴出させた。
 タールの雨のごとき中、操刀に集中する鏡介の死角を突くようにして、ポーシュボスの触手が槍めいて突き出された。
「――!?」
 気付いた鏡介が刀を薙いでそれを受けようとするが遅く、触手の槍は斬閃をくぐって鏡介の胴を貫く――と思われた刹那、バチン! という激しい破裂音が鳴り、熱したやかんに触れたかのように触手が引っ込んでいった。
 炎雷の鎖帷子、その破魔と浄化の魔力が功を奏したのだ。
 しかし。
(……長くは保たないな)
 鏡介が己の腹を一瞥すれば、その一撃で緋色の輝きがごっそりと奪われたのが知れる。流石に超常中の超常たるポーシュボス。歪に増幅され、現実への強烈な干渉力を得た怨嗟は、神刀由来の神気をもってしても完全防御は望めないらしい。
 とはいえ、その程度のことは鏡介も腹をくくり済みである。
(こっちの攻撃だって効いているし、動きも鈍っているんだ。押し切って見せる――!)
 苛烈に戦意を奮い起こした鏡介は再び刀の群れを操り、今度は竜巻のように薙ぎ振るって周囲の触手群を斬り払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シルヴィア・スティビウム
私が私を観測する限り、私は私の正義しか行えない
でも私が私のまま、悪と断ずる事のできる人が居たわ
私の中の魔女は、増え続ける知識を納めるために星を創造し宇宙を侵略していった
私が持っているのはほんの一部だけど、知識のためにすべてを飲み込んでいく銀色の闇は、私や貴方にとって善であるかしら?

この世界に生まれて、ずっとストームの謎に迫りたかった。
それが使えれば、文明を奪えるのでしょう?
全部食べてあげるから、私にそれを寄越しなさい
私を邪悪と呼ぶならそれでもいい
すぐに善も悪もどうでも良くなる
おいで、この魔女の闇の中に……

こんなものを飼おうとするなんて、ロクでもない魔女だわ……



●奪う者・魔女
「この世界に生まれてからずっと、オブリビオン・ストームの謎に迫りたかった」
 今まさに空前絶後の規模のオブリビオン・ストームの中にあって、シルヴィア・スティビウム(鉛の魔戦士・f25715)はつぶやいた。
 しかしその望みを口にしたのは、シルヴィアであったのか、誰であったのか。
 シルヴィアの中には、シルヴィアであってシルヴィアでない魔女がいる。
 そもそも彼女というフラスコチャイルドは、とある記録媒体中の情報を引き出し、再現させるために生み出されたという経歴を持つ。その記録媒体中にあったのは、魔術という未知の文明、技術の情報であり、同時にある魔女の記憶だった。
 その魔女とは、いわば知識欲の怪物だった。世の中に存在するもの、過去に存在していたもの、未来に存在し得るもの、あらゆるものを己の知識として吸収しなければ気が済まない女だった。そのために、彼女は世界のあらゆるものを研究のためにもてあそび、いじくり、切り刻み溶かし焼き焦がし……塗炭の苦しみを強いて、それを省みることのなかった『邪悪』そのものだった。
 そんな魔女の記憶は、思考は、狂気は、余さずシルヴィアに転写されており、ずっとシルヴィアの魂を摩耗させ続けている。
 そんな彼女にかかれば、オブリビオン・ストームなり外宇宙の邪神なりは、脅威である以前に知識欲の対象だった。
「全部食べてあげるから、私にそれを寄越しなさい」
 世界を圧倒する暴威を前に、彼女は傲然と言い放った。そして取り出したのは、怨嗟の肉に覆われて日もろくに差さぬ闇の中にあって、なお黒銀色に輝く球体。
 物質ともエネルギー塊ともつかぬそれが瞬いた――と見えた、刹那。
 彼女の周囲が唐突に虚空へと変貌する。光の一筋さえ存在しないため、目で見るならば狂いそうになるほどに真っ黒い、球状の空間。それが一瞬にして極大に膨張し、次の瞬間に爆縮して中心にあった銀珠に集約する。
 その二瞬が過ぎると、極大化した虚無に包まれていた空間のポーシュボスの肉塊とオブリビオン・ストームそのものが、ごっそりと消えてなくなっていた。
 シルヴィアがシルヴィアに戻ったのは、その直後だ。
「――っ……ッ!」
 胃袋どころか内臓全てが引っ繰り返ったような嘔吐感に、シルヴィアは膝を突き、うずくまった。
 シルヴィアという『器』の精一杯は、彼女の想定した二割程度だろうか。ストームの全てを飲み干すには程遠い――が、激戦を経て勢を失っていたそれらを無力化させ、この一角を鎮圧するには充分だったようだ。
「……ロクでもない魔女だわ」
 酸味のきつい唾液を飲み下し、シルヴィアは帰路についた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年09月21日


挿絵イラスト