アポカリプス・ランページ⑮〜Op.Overload
●乗り越えるべき障害
旧テネシー州メンフィス。かつてミシシッピ川流域で発展を遂げた大都市であり、アメリカの流通の要衝として栄えてきた歴史を持つ。しかし、その繁栄も今は昔。このアポカリプスヘルの世界において、メンフィスは地下も含めた全域が消える事のない「黒い炎」に覆われた死の草原と化している。
足を踏み入れたものは、黒い炎の中から現れた「自身にとって最悪の記憶」や「恐るべき敵」の襲撃を受けることになる。幾多ものブリンガーが、この呪われた地の踏破を試みては命を落とし、辛くも生き残ったものも恐怖や絶望に苛まれたあまり精神に変調を来たしたものも多い。
だが、やがてひとつの噂が駆け巡ることとなる。
この地を乗り越えた時、祝福として新たな力が手に入る、と。
今、この地に、猟兵たちが挑む。彼らは自らの恐るべき敵を超克し、呪いを転じて祝福と為せるのか。
●それは、覚醒のための試練
「新たなる力、オーバーロードが確認されました」
これまで謎に包まれていた「オーバーロード」と呼称される力を発現させる猟兵が次々と現れ、グリモアベースでは戦闘力が増強した今が好機とばかりにフルスロットル・ヴォーテックスや他のフィールド・オブ・ナインとの決戦に向けた依頼を続々と発令している。グリモア猟兵のジェイミィ・ブラッディバック(脱サラの傭兵/開発コード[Michael]・f29697)もまた、猟兵達を集めてブリーフィングを始めている。
「このタイミングでオーバーロードの発現が確認されたのは僥倖というべきでしょうか。戦力の増強はフルスロットル・ヴォーテックスとの戦いを有利にすすめることが出来るでしょう……しかし。オーバーロードの発現条件が何だったのか、不明です」
そんな折に流れてきたメンフィスの黒い炎の噂。自らの恐怖の対象、過去のトラウマ、宿縁の敵をこの黒い炎は真に迫る形で映し出す。それらを乗り越えた者には祝福が待っているという。
「実際、自分の殻を破る……という意味でも、良い機会だと思います。自分の中にある恐怖や過去のトラウマ、心に残る宿縁……これらを一度見つめ直し、克服してみませんか。何もなかったとしても、きっと皆さんのメンタルやフィジカルにとって良い影響があるものと思います」
荒療治とも言えますが、とジェイミィは苦笑ぎみの声を漏らした。
「オーバーロードを発現させるには限界を超えることが大事です。もちろん、必ずしもこの場で発現させる必要はないでしょう。強敵のために取っておくのもひとつの選択です」
無理だけはされないように、と告げ、ジェイミィはポータルを開く。
「皆さんが恐怖や宿縁を超克し、新たな境地に達することを願っています。新たな境地は必ずしもオーバーロードとは限りません。新たな戦術、新たなユーベルコード、新たなアイテム、真の姿……皆さんの可能性が、この依頼で開きますように」
成長を遂げた皆様とお会いできることを楽しみにしています、とジェイミィは告げ、グリモアが作動。ポータルが開かれた。ここから先はメンフィス、黒い炎が訪れたものの恐怖を映し出す場所。猟兵達の、超克への挑戦が幕を開ける。
バートレット
どうも、バートレットです。
今回のシナリオは、有り体に言ってしまえば「覚醒イベント」です。自分の中で何かを目覚めさせたい方やトラウマを克服したい方、成長したい方にとってはうってつけのシナリオと言えるでしょう。良い機会ですので、この場で覚醒させちゃいましょう。私も微力ながら皆様の覚醒イベントの演出について、お手伝いさせていただければと思います。
今回のプレイングボーナスは以下の通りです。
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プレイングボーナス……あなたの「恐るべき敵」を描写し、恐怖心を乗り越える。
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追加ボーナスは「恐怖を乗り越えた結果成長、覚醒する」です。どう成長したかは皆様にお任せします。
恐るべき敵については、宿敵でなくとも構いません。過去の戦争の幹部敵でも良いですし、過去のトラウマを再現した夢や幻の類でもOKです。それらを描写した上で、上手く乗り越えてください。その上で、乗り越えた結果どうなったかも描写すると良いでしょう。
タイトルやオープニングでは「オーバーロード」について触れていますが、別にオーバーロードを使う必要はありませんし、強制もしません。使用可否の判断は皆様に委ねます。使用してもいいなと思ったら使っていただければと思います。
OP公開後即時受付を開始し、受付状況はタグにてお知らせします。可能な限り全員の採用を目指しますが、キャパシティ次第では皆様のプレイングを採用しきれない可能性があること、予めご了承ください。オーバーロードの使用不使用に伴う採用確度の変化は原則としてございません。その他諸注意はMSページをご確認ください。
それでは、皆様のアツい「覚醒イベント」をお待ちしております!
第1章 冒険
『恐るべき幻影』
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POW : 今の自分の力を信じ、かつての恐怖を乗り越える。
SPD : 幻影はあくまで幻影と自分に言い聞かせる。
WIZ : 自らの恐怖を一度受け入れてから、冷静に対処する。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ネルガロッテ・ノイン
WIZ ※アドリブ・連携歓迎
「なんで――アンタが」
ありうべきざる事態だった。なぜアンタが。アンタは死んだ筈だ。
親に捨てられ野良犬同然の生活から救ってくれた義父――この世で最も尊敬する男。なぜだ。どうしてアンタがそこにいる。
「そうか……そういうことか」
【第六感】で眼前の男が幻影に過ぎないことを悟る。
それでも。それでもその姿をした男を倒せというのか。
ギリ、と鋸鉈を握る手に力が籠る。
ならば。
ならばこの男を――この最愛を男の姿をした敵を倒すのは自分であるべきだ。
「天祐にしちゃ胸糞が悪すぎるぜ――覚悟しろよクソッタレ!」
【呪殺弾】を【乱れ撃ち】で牽制しながら接敵し、使用UCでトドメだ!
●二度目の親離れ
「なんで――アンタが」
ネルガロッテ・ノイン(超一流のヤブ医者・f31309)の目の前に現れた一人の男、その正体は恩師にして義父のとある医師であった。無免許でありながら確かな腕を持つ彼は、親に捨てられ、内蔵を抜かれてレイダーに売り飛ばされそうになった自分にサイボーグ手術を施し命を救った、ネルガロッテの人生における最大の恩人。
今、黒い炎の中から現れたのはまさしくその恩人たる彼であった。
「なぜアンタが。アンタは死んだ筈だ。なぜだ。どうしてアンタがそこにいる」
混乱の渦に叩き込まれるネルガロッテ。この世で最も尊敬する男とまで称するその男は、ある日病魔に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。彼女に残されたのは形見の鋸鉈と猟銃、そして存命中に助手をする中で授かった医学知識。それからは男の後を継いで闇医者として活動を続けていたのだが……確かに死に際を看取ったはずの男がそこにいる。
「──そうか……そういうことか」
少しだけ頭が冷えてきて、事態を把握する。このメンフィスは「恐るべき敵」や「過去のトラウマ」の幻影が現れるという。ネルガロッテにとっての「超えるべき恐怖」、それこそがあの男……義父を失った過去ということだ。
あれは幻影に過ぎない、だがしかしそれでも幻影の義父を討たなければならないのか。また自分は辛すぎる親離れを経験しなければならないのだろうか……。
「いいや、だからこそだ。この男を――この最愛を男の姿をした敵を倒すのは自分であるべきだ」
他の誰でもない、自分の手で終わらせてやろう。親離れをした自分だからこそ、かつて父と慕った男だからこそ、娘の自分が終わらせてやるべきだ。
義父の幻影は歩み寄ってくる。
「天祐にしちゃ胸糞が悪すぎるぜ――覚悟しろよクソッタレ!」
手持ちの愛銃から呪殺弾を連射しながら動きを止め、接近して鋸鉈を叩き込む。どちらも義父が使い、そしてネルガロッテが継いだ得物だった。
「……今度こそ、親離れ、出来たよな」
黒い炎の中に義父の幻影が溶けていくのを見て、肩で息をしながら頭を振るネルガロッテ。独り立ちは出来たかもしれないが、それでも、最愛の義父を再び看取るのは辛いものがある。たとえそれが幻影だとしても。
「……慣れちゃマズいよな、やっぱ」
自嘲気味な笑みを浮かべると、ネルガロッテはその場を立ち去った──。
大成功
🔵🔵🔵
桐嶋・水之江
私が恐れている相手ねぇ…
私は私自身の才能が一番恐ろしいわ…はぁ、天災過ぎて生きるのが辛い…
ん?何あれは?人?何か持ってるわね
箱?…はっ!あれは最近発売されたばかりのSGCC(スゴイグレード・クロムキャバリア)のHi-v(ハイブイ)イカルガじゃない!
店頭から瞬く間に姿を消して、その後はネットオークションで高額転売されている話題のプラキット…
なるほど、私の恐るべき最悪の記憶とは転売ヤーだったのね
でもここは力が支配する無法の荒野
欲しい物は力で奪えばいいのよ
という訳で水之江式回収術ではい没収
あと転売ヤーはワダツミの水之江キャノンで現行犯処刑よ
これでトラウマ克服完了…やれやれ、また進歩してしまったわね
●天災科学者が恐れるものとは
「私が恐れている相手ねぇ……。私は私自身の才能が一番恐ろしいわ……はぁ、天災過ぎて生きるのが辛い……」
そんなことを嘯きながらメンフィスに足を踏み入れた桐嶋・水之江(機巧の魔女・f15226)。そんな彼女にも恐れるものが潜在意識には存在するのだろう、などという期待も、彼女自身にあったことは否めない。ふと、黒炎が何かを形作り始めるのに彼女は気づいた。
「ん? 何あれは? 人? 何か持ってるわね」
目を凝らしてその光景を把握する。その人影は箱を持っていた。その箱には、水之江にも見覚えがある、そう、あれは──。
「あれは最近発売されたばかりのSGCC(スゴイグレード・クロムキャバリア)のHi-v(ハイブイ)イカルガじゃない!」
黒炎の幻影は、なんと話題のプラキットを持っていたのだ。そのSGCCシリーズの「Hi-vイカルガ」は店頭から瞬く間に姿を消して、その後はネットオークションで高額転売されているということで一般モデラーからの怨嗟の声が転売屋に対して向けられていることで有名だ。
「なるほど、私の恐るべき最悪の記憶とは転売ヤーだったのね……!」
水之江の脳裏に蘇る苦い記憶。転売屋によって買い占められたがために、人気のプラモデルの購入機会を逃してしまったという痛恨の記憶が脳裏に次々と浮かぶ。
「でも……ここは力が支配する無法の荒野。欲しい物は力で奪えばいいのよ」
ニヤリ、と水之江は笑う。法の支配が及ばないこの世界は、弱肉強食の環境。ならば強奪も辞さない。水之江の思考回路から「自重」の二文字が取り払われた瞬間だった。
「はい回収!」
運用するワダツミ級強襲揚陸艦「ワダツミ」からトラクタービームが伸びて、プラモの箱を捉える。これぞ水之江式万能回収術、吸引力の変わらないただひとつのトラクタービームによる物資回収法であった。突然のことに黒炎の人影……即ち転売ヤーの幻影がフリーズする。
「あと転売ヤーはワダツミの水之江キャノンで現行犯処刑よ! 慈悲はない!」
転売ヤー死すべし。これまでの恨みつらみが籠もった一撃がワダツミより放たれる。いささかオーバーキルではないか、という非難も今の彼女には通用しない。断罪の一撃は強力であればあるほど効果を発揮するのだ。
大出力のビームが転売ヤーの幻影を塵も残さず消し飛ばし、後には無人の荒野が残る。溜飲を下げた水之江の笑顔は実に晴れやかであった。
「これでトラウマ克服完了……やれやれ、また進歩してしまったわね」
どこかツヤツヤとした顔で、回収したプラモの箱を愛でつつ、水之江はメンフィスの荒野を突破する。どうやって組み立ててやろうか、有名モデラーの作例も参考にしようか……と思案しながら、彼女は欲しい物をゲットした喜びにしばし身を委ねるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
水鏡・怜悧
人格:レイリ
スケッチブックを両手で抱きしめて、幻影を待つよ
幻影は、緑の髪を短髪にした、無表情な研究者風の女性
「おかあ、さま」
プログラムであるボクと、この身体を作った人
『失敗作の消去を開始する』
ペンライトのような装置を向けられる。あの光に当たれば、義眼からボクというプログラムは消える
「ごめん、なさい。でも」
片手で魔銃を構える。怖くて狙いなんてつけられないけど
「ボクは、ボクだから。失敗作かも、知れないけど」
震えたままトリガー。幻影をかき消す光が溢れる
「ボクは、ボクに出来る戦いをするよ」
膝から崩れ落ちる。手はまだ震えてる
「ロキと、アノンと、一緒にいたいから。ごめんなさい。作ってくれて、ありがとう」
●Re Birth
「絶対に、あの人が出てくるはず」
水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)の人格の一人、レイリは普段臆病で余り外に出てこない。その彼が今、スケッチブックを抱えて黒炎の燃え盛る領域に立っていた。
(本当に大丈夫ですか)
(ヤバくなったらいつでも言えよ? ……あの炎ぶっ飛ばせるのか知らねぇけど)
(……アノンはともかくとして、こちらはいつでも交代できます。何が出てくるかわかったものではありませんが、万が一の時は逃げても)
脳内で気遣わしく語りかける2人の人格、ロキとアノンの言葉に、レイリは首を振る。
「いいんだ。これはボクが片をつけなくちゃいけないと思うから」
(……しゃーねぇ、そこまで言うなら任せるわ)
(アノンが譲歩するとは……明日は雪ですかね? ともあれ、貴方の覚悟はわかりました。くれぐれも無理だけはせぬよう。ご武運を)
2人の人格はその言葉を最後に沈黙する。レイリは思わず苦笑した後、表情を引き締めて一歩前に進み出た。
黒炎が形を取り、一人の女性の姿となる。それは、身体とレイリの人格を生み出したという意味ではまさに──。
「おかあ、さま」
レイリはとある科学者が遺伝子デザインで生み出した生体兵器だった。義眼に人格プログラムを書き込むことで意思を持つ。目の前に立っている、緑の髪を短髪にして、緑の目を持つ女性科学者の狂気の研究の果てに生み出された産物である。
しかし、女性科学者はレイリを腹を痛めて産んだわけではない。失敗作とわかれば新たに作り直すだけである。それ故に──。
「失敗作の消去を開始する」
女性科学者の幻影はペンライトを手にすると、光を義眼に向けて当てようとする。その光が当たれば、義眼からレイリというプログラムは消える。即ち、レイリの死を意味するのだ。
「ごめん、なさい。でも」
レイリはスケッチブックを左手で抱えたまま、右手を前に出す。その中に収まっているのは魔銃、オムニバス。右手の震えが銃口に伝わり、狙いなどつけられるような状態ではないが、それでも最低限、「銃を相手に向ける」ということは辛うじてできている。
「ボクは、ボクだから。失敗作かも、知れないけど」
震えたまま、レイリは思い切って引き金を引いた。幻影をかき消す光が銃口から溢れ出し、女性の身体に風穴を開ける。開いた穴から幻影は崩壊し、溶けるように消え去っていく。後に残るのは、風に吹かれるメンフィスの荒涼たる大地があるばかり。
「ボクは……ボクに出来る戦いをするよ」
幻影が消えたことで膝から崩れ落ち、未だ手は震えていながらも、その視線は決然と幻影が消えた先を眺めている。
「ロキと、アノンと、一緒にいたいから。ごめんなさい。作ってくれて、ありがとう」
彼が口にしたのは母親たる女性への感謝の気持ちだった。失敗作でこそあったものの、結局自分はこうしてこの世に生を受け、自分なりの人生を歩んでいる。怖いことも、悲しいことも、辛いことも多いけれど、同じだけの喜びや幸運にも恵まれてきたのだ。その思い出は今更消去できるものでもなかった。
震えながら立ち上がり、立ち去ろうとするレイリの頭の片隅で、どういたしまして、という声が聞こえたような気がする。レイリの身体の震えが、少しだけ収まった。まるで母親に後ろから抱きしめられたような、そんな心持ちだった。
大成功
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糸井・真海
目を背けていたのは俺だった。
思い出したくもなかっただけか。
どこの世界かは未だ存じ上げない、白い病院の屋上、眩し過ぎる昼の空の幻影。
一病院の患者全員が亡くなった事故。
誰が殺した? 俺だ。
医者様方に故意の脳手術ミスを何度も犯され、頭がおかしくなった結果が『まみ』だ。だから死体の数々が出来上がり、猟兵になった後も途中丸2年も眠りこける。それが本当の俺。
目を覚ますのが恐ろしくて逃げていた自分も、見事に俺を人形扱いしてくれたクズ共も揃って俺の敵だ!!
善か悪かだ。それ以外は無い。
自分そのものが悪であったとしても…その悪さえも正義の為に使う。
UCを利用し、幻影内の病院中の死体全て目覚めさせる。新しいUC…Andante。
足並みを揃えろ、現在を救え。
新しい俺を作り上げよう…。
オーバーロード、再生。
新しい真の姿…全てを殺し全てを救う真の姿。
紫の髪に赤いゴシックドレス、血だらけの白衣。
新しい力…銀の魔眼『オリジン』。
これがメディック。全てを殺し全てを救う、俺らしい正義。
こんな幻さえ、過去に還す。殺すだけだ。
●幻影すら殺す力
黒炎の幻影は、時に風景すら作り上げる。糸井・真海(まうとまみ・f08726)の前に現れたのは、どこの世界かは未だわからぬ、白い病院の屋上、眩し過ぎる昼の空の幻影だった。
「この病院は……」
その病院では、患者全員が命を落とすという痛ましい事故があった。しかしその事故に裏があったことを知るものは少ない。
(誰が殺した? 俺だ)
殺戮の犯人は真海自身。そう、医師による故意の脳手術ミスを何度も犯された結果誕生した別人格「まみ」の手によるものだ。万物の命を奪うことを至上の喜びとする生粋の快楽殺人者。「彼女」によって築き上げられた屍の山は数知れず。猟兵になってからも2年間は「まみ」が暴れていた。その間、真海は眠りこけていたのだ。最早、真海の本質は「まみ」なのだろう、とすら思う。
「目を覚ますのが恐ろしくて逃げていた自分も、見事に俺を人形扱いしてくれたクズ共も揃って俺の敵だ!!」
だからこそ、自分と医師たちには憤りを覚える。恐怖のあまり自分の所業から逃避した自分自身と、非道に走った医師たちの両方は悪と断ずる。
「善か悪かだ。それ以外は無い」
自分はおそらく悪側だろう。しかしその悪ですら正義のために使ってみせる。その決意こそが新たなユーベルコード──Andanteを目覚めさせた。
86人の患者衣を着た少年少女たちがその場に現れる。彼らはこの病院で犠牲になった子供たちだ。
「他人の為に動け、お前たち。合わせる歩幅くらい、持ち合わせているだろう?」
子供たちは頷くと、一糸乱れぬ統率力で歩幅を合わせて歩き出す。
「そうだ、足並みを揃えろ、現在を救え。新しい俺を作り上げよう……。オーバーロード──再生」
それは、理不尽に抗うための力。それは、全てを殺し全てを救うための真の姿。真海は、自らの真の姿を解放する。紫の髪に赤いゴシックドレス、血だらけの白衣。そして新たなる力、銀の魔眼『オリジン』。
「これがメディック。全てを殺し全てを救う、俺らしい正義」
幻影の医師たちが次々と斃れていく。幻は過去に還っていく。全てが殺されていく。
「こんな幻さえ、過去に還す。殺すだけだ」
銀の魔眼を受けた医師の幻影が、いや病院の幻影自体が、黒炎の中へと還り、消えていく。幻影ですらこの有様だ。これを通常のオブリビオンに向ければ、威力は推して知るべし。その背後に従える少年少女たちもまた、医師の幻影に、否、自らの死地となった病院そのものを黄泉の国へと、無の中へと還していく。
この日、糸井・真海という猟兵は再誕した。悪を以て正義を成すメディックとして新たな生を受けたのである。
大成功
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