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アポカリプス・ランページ⑰〜その拳で打ち砕け

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●ボクシング(多様性)
「今は戦時である。速やかに行動に移ってもらいたい」
 ふわふわと袖を揺らして、ジェニファー・リェン(アンサーヒューマンのサイキックキャバリア・f30007)が猟兵たちに告げる。だが、おさなげな仕草と裏腹に抑揚のない声音は、どこか機械的ですらあった。
「「フィールド・オブ・ナイン」の1体である「プレジデント」については把握していると思う。これがワシントンD.C.、「ワシントン・モニュメント」前に駐留している。皆にはこれを速やかに撃破してほしい」
 プレジデントがいるのは街並みだけが完璧に復興された無人のワシントンD.C.だ。
 他に伏兵や一般人はいないので、プレジデント自身のみとの戦いになる。
「本来であれば、真の姿になるためには条件がある。しかし、この戦いにおいてはプレジデントの放つ強力な精神波……闘争心を煽るソーシャル・ネットワークにより、窮地になくても真の姿に変身して戦うことができる。また、ボクシングを用いて戦う者はさらに強化されるようだ」
「ボクシング?」
 アメリカでのボクシングの人気は高く、時には高額のファイトマネーがやりとりされることもあるという。アポカリプスヘルでのそれが同じかは分からないが。
 とにかく戦えばいい。実にシンプル。
「ひとつ質問いいか?」
「答えられる範囲でなら」
「キャバリアとかでボクシングってできると思う?」
 問いに、グリモア猟兵は一瞬呆けた顔になった。
 自身もサイキックキャバリアに乗る身であるものの、人間と格闘技をする経験はない。
 いやでもそうだよな、ボクシングで戦うと有利になるならキャバリアとかでもやりたいよね。……えーと。
「……作戦成功のための手段はそれぞれに任せる。猟兵である以上、臨機応変に対応することに慣れているだろうから、問題ないと考えている」
 それっぽくごまかすジェニファー。
 了承の首肯には、確認の首肯が応えた。
「よろしい。では準備が済み次第速やかにかかるように」
 機械的に言って、それからふと、ジェニファーは猟兵たちを見つめてようやく微笑む。
「武運と、よい結果を祈っているよ」


鈴木リョウジ
 こんにちは、鈴木です。
 今回お届けするのは、ボクシング。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●プレジデントとボクシング
 「フィールド・オブ・ナイン」の1体である「プレジデント」が、街並みだけが完璧に復興された無人のワシントンD.C.で、猟兵達を待ち受けています。
 復興された「ワシントン・モニュメント」前での戦闘となります。
 プレジデントの放つ強力な精神波(闘争心を煽るソーシャル・ネットワーク)により、窮地になくても「真の姿」に変身して戦う事ができます。また、「ボクシング」を用いて戦う者はさらに強化されます。
 リプレイでは、プレジデントと対峙しているシーンから始まります。

 このシナリオには、以下のプレイングボーナスがあります。

=============================
 プレイングボーナス……真の姿を晒し、ボクシングで戦う(🔴は不要)。
=============================

 なお、🔵が成功数に達すると判断して以降のプレイングの採用を見送らせていただく場合があります。
 ご了承ください。
 それではよろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『プレジデント・ザ・ショウダウン』

POW   :    アイ・アム・プレジデント
自身の【大統領魂】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    プレジデント・ナックル
【竜巻をも引き起こす鋼鉄の両拳】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ   :    アポカリプス・ヘブン
【対象を天高く吹き飛ばすアッパーカット】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
真の姿:紅炎狼(狼獣人)

さて、だんだんボクシングが楽しくなってきた。性にあっとるのか。
ああ、武器は全て陰海月と霹靂(応援団)に預けた。可愛かろう?
わしとしては、正々堂々が武人である。

まあ、わしは怪力活かしての一撃派でもあるからの。拳に炎属性攻撃は纏うがな。
転移は断固拒否じゃて。…第六感で見切り、上手くカウンターできればよいのじゃが。
できんくても、まあ殴るが。

停滞はな、多様性をも否定するのよ。…わしらとて多様性の塊じゃからな、本来は。



 ワシントンD.C.、ワシントンモニュメント。
 その前でひとり佇む男が、唇に挟んだ葉巻をつまんで猟兵たちに笑みを向けた。
「待っていたよ、諸君」
 鍛え上げられた肉体をスーツで包み、不釣り合いなほど巨大な鋼鉄の拳を携えた彼こそは、フィールド・オブ・ナイン「プレジデント」。
「事ここに至れば、もはや語る言葉は不要だろう。となれば、語るべきは」
 足を下げてやや腰を落とし、両の腕を目線ほどまでに上げて構える。
 余裕のある、しかし決して油断していない表情で猟兵たちを睥睨するプレジデントの正面に、やはりひとりの男が進み出る。
 人の身に見せた複合型悪霊である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の、今ひとたび取るひとりの姿は四人のうち第三『侵す者』武の天才、紅炎狼。
「さて、だんだんボクシングが楽しくなってきた。性にあっとるのか」
 鎧を着ていながら徒手空拳の相手に、プレジデントがやや口角を下げた。
「ふむ……こちらとしては、そちらが武器を使うことは禁じないつもりだがね」
 相手を軽んじるでない言葉に、炎は口元を歪める。それとともに、彼の影のなかでこぷりと音が立った。
「ああ、武器は全て陰海月と霹靂に預けた。可愛かろう?」
 闊達と笑う彼の影の上に、金の色が混じった焦げ茶の羽根がひとひら舞って消える。
「わしとしては、正々堂々が武人である」
 言って構える武人に、唇を歪めたプレジデントは軽くステップを刻み、足音を短く立て肉薄し風を切るフックを繰り出す。紅炎狼が両腕を前で揃えブロッキングでガードすると、弾かれるような衝撃が腕から全身に走った。
 かろうじて踏みとどまりストレートで返すが、タイミングを合わせたパリングで流されてしまう。
 一合二合と拳を交わし、その鋭く重いパンチが猟兵を追い立てる。しかし、焦燥に急き立てられることはない。
(「まあ、わしは怪力活かしての一撃派でもあるからの。拳に炎属性攻撃は纏うがな」)
 己の技量を織り込むことは真摯であり、正々堂々の戦いである。
 グリモア猟兵からプレジデントの戦い方とユーベルコードは聞いている。厄介なの転移だ。それは断固拒否する。
 何度目かの応酬の後、不意にプレジデントが腰を落とし腕を引いた。低い死角から上へ向けて繰り出される鋭いパンチを察知し、素早く上半身をひねってかわすと、その勢いを利用してカウンターを返す。
 轟と炎を纏った拳がスーツの腹を強か打ち、プレジデントはバックステップで距離を取った。
「ぬうっ……」
「この一戦の勝者はわしのようじゃな」
 拳を下ろし、紅炎狼が豪放に笑う。そして、ふとかすかに違う表情を浮かべる。
「停滞はな、多様性をも否定するのよ。……わしらとて多様性の塊じゃからな、本来は」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハニーレモン・メルティキッス
容姿は大きく変わらずとも、その身に融解の魔力を纏う真の姿。
レディの秘密を暴くなんて紳士じゃないわね、プレシデント。

ボクシング勝負には真っ向から応じるわ。
恋愛とは男の思考を読むこと。
恋で培った【瞬間思考力】でパンチの軌道を読み
デート中不意にしなだれかかるが如く自らの【体勢を崩す】回避。
敵のアッパーカットは即ち大振り。
温まったムードにこそ大胆に【切り込み】、【不意打ち】を繰り出すのも恋のイロハってものよ!

振り抜くのは、普通のパンチだけど
拳に乗せて、アナタに『蕩けるような口付け』を。

お仲間ね、プレシデント。
アタシもこういう、能力に任せた力押しが得意なの。
攻めるも守るも、全部蕩かせば同じでしょう——?



 容姿は大きく変わらずとも、とろりと溶かす魔力をその身に纏うハニーレモン・メルティキッス(炎にして毒、病にして蜜・f31585)は、嫣然と微笑む。
「レディの秘密を暴くなんて紳士じゃないわね、プレシデント」
「だが、美しい華の内に隠された秘密を暴きたくなるのもまた紳士なのさ」
 そのためには手練手管を弄することもあろう。しかし彼らの駆け引きは今このひとときだけ。となれば、真っ向からの勝負だ。
 構える姿勢は同じでも、そのファイトスタイルはまったく違う。
 恋愛とは男の思考を読むこと。
 恋で培った瞬間思考力でパンチの軌道を読み、デート中不意にしなだれかかるが如く自らの体勢を崩す回避。敵のアッパーカットは即ち大振り。
 それはまさに、恋のプロファイター。ただしプロモーターもマネージャーも彼女自身だ。
 次はどうする? 次はどう出る? 互いに相手の挙動を読み合い、その裏をかこうと画策する。
 軽快なステップとリズミカルなパンチのダンスは、突然に終わりを告げた。
「温まったムードにこそ大胆に切り込み、不意打ちを繰り出すのも恋のイロハってものよ!」
 振り抜くのは、普通のパンチ。けれど拳に乗せて、アナタに『蕩けるような口付け』を。
「この名の意味を、教えてあげる——」
「——……!」
 纏った魔力が打撃を越えて襲いかかり、巨躯を飲み込む。触れた先から溶け焦がしその肌を灼いて、浅からぬ傷を与えていく。
 姿勢を崩し苦痛にわずか顔を歪めたプレジデントへ、ハニーレモンは声をかけた。
「お仲間ね、プレシデント」
 爪先を淡く染めた指で自身の唇に触れ、妖艶な笑みを向ける恋愛の悪魔。
 アタシもこういう、能力に任せた力押しが得意なの。
「攻めるも守るも、全部蕩かせば同じでしょう——?」
「私は、力づくでされるのは好みではないのだがね」
 触れるものすべてを溶かし尽くす魔力を侍らせる彼女の言葉を受け、こびりついた服を払い落としながらプレジデントは苦笑した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
人間対キャバリアのボクシングか……あのプレジデントならキャバリア相手でも嬉々として殴り合いに応じてきそうだ。……階級差がある所の話じゃないな
尤も、俺はキャバリアだとかは持ってないので、普通に殴り合うしかないんだが

精神を統一して、真の姿に姿を変える。刀は持たず、素手で殴り合いの構え
付け焼き刃とは言わないが、俺の格闘術でボクシングの実力者に挑むのは流石に厳しい
いっそ覚悟を決めて立ち止まっての殴り合いといこう

敵の攻撃は出来るだけ受け流してダメージを抑えるが、回避はせずにその分攻撃を叩き込む
無の型【赤手】。射程は短くとも殴り合いの戦いなら気にならない
気合いを入れて、一撃でも多くの拳を叩き込む



 猟兵たちと拳を合わせ、決して軽くないはずのダメージを負いながらも泰然とした態度を崩さないプレジデントに、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はグリモア猟兵の言葉を思い出す。
(「人間対キャバリアのボクシングか……あのプレジデントならキャバリア相手でも嬉々として殴り合いに応じてきそうだ。……階級差がある所の話じゃないな」)
 尤も、俺はキャバリアだとかは持ってないので、普通に殴り合うしかないんだが。
 あいにくと、この場に集まった猟兵のなかにもキャバリア乗りの姿はない。残念ながら、相当にヘビーな階級差の戦いは見られそうにない。
 精神を統一して、真の姿に姿を変える。愛用する刀は持たず、素手で殴り合いの構えだ。
(「付け焼き刃とは言わないが、俺の格闘術でボクシングの実力者に挑むのは流石に厳しい」)
 いっそ覚悟を決めて立ち止まっての殴り合いといこう。
 それをどう受け取ったか、プレジデントはファイティングポーズを取り軽く爪先で地面を叩いた。
「型のない戦い……無手勝流というやつかね。いいだろう」
 軽快に足踏みしてから前へ踏み込むと同時に腕を引きパンチを繰り出す。
 威容の巨躯に反して素早く拳を繰り出す攻撃を、身につけた技を駆使して出来るだけ受け流す。殴打の直撃をかわしてダメージを抑えるが、回避はせずにその分攻撃を叩き込んでいく。
 まっすぐに突き出されたストレートをかがんで避け、生まれたわずかな隙をついて一息に至近まで近付いた。
 剣術の体捌きを応用した動作で繰り出されるのは、超高速かつ大威力の一撃。あまりの速さに、食らった側は雷撃に打たれたと思ったに違いない。
「ぐうっ……!」
 唸りにも似た呻きをこぼし、プレジデントがぐらりと体を折った。
 無の型【赤手】。射程は短くとも殴り合いの戦いなら気にならない。指の先にまで気合いを入れて、鏡介は一撃でも多くの拳を叩き込む。受ける側はリーチの外に出る余裕なくその場で防ぐしかできず、しかし完全に防ぎきることはできない。
 愚直なまでに攻撃を繰り返し、防御が乱れたところへ、渾身の一撃を繰り出す。
 かふっ、と呼気を吐いて膝をつきかけたが、それでも持ち直しファイティングポーズを取るプレジデント。
「技工を凝らすというのも戦いだが、愚直さは時に極められた技をも凌ぐ。君の戦い方はまさにそれだな」
「……それはどうも」
 笑って鏡介を称賛するが、いささか素直に受け止められなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブ歓迎

ボクシングというか、スポーツには明るくないのだけれど
取り敢えずどっちか動かなくなるまで殴り合えばいいのよね
嫌いじゃないよ、そういうやり方
オブリビオンは嫌いだけどね

どっちみち私には、持ち前の力でぶん殴るくらいが取り柄だもの
不利な行動してもらえるならぶちこむ機会はあるでしょう?
まさか受けても平気か無理かなんて判断しないよね、そんなの不利じゃないもの
こっちだって捨て身は慣れっこだし、せいぜい倒れるまでやらせてもらうから、よろしくね、大統領


菱川・彌三八
……拳で殴るってんなら、要は喧嘩だろ
すんなら俺の十八番サ

体の底から沸き上がるみてえな滾りァはお前ェのせいだな
地獄の朱に染まった身に、唐獅子の雲が如き鬣に大きな手足が今の俺ヨ
使うは、鳳凰の御業

右拳は頬の横
左拳は体の前
左足が前
右足は軽く外向き
合図はなしだ
喧嘩だからな

一も二もねェ、只奴の空いた処にぶち込む
右と見せかけて左、大振りの拳は曲げた腕で受ける
あァ?喧嘩じゃねえなら初めてだよ
だがこういうなァ"解る"質サ
口ィ開くと舌噛むぜ

お前ェが強くなるってンなら、俺も付いていくしかあるめえよ
速さだ
それと

力強く前に踏み込んだ左足の親指を軸に、振り子が如くしなる右足
そのでけえ図体にくれてやら
俺ァ足も使うんだよ



 肆陸・ミサキ(独りの・f00415)はふむ、と思案する。
「ボクシングというか、スポーツには明るくないのだけれど、取り敢えずどっちか動かなくなるまで殴り合えばいいのよね」
 極端な判断にプレジデントが眉をひそめた。
「確かにそうとも言えなくはないが、いささか暴論ではないかな?」
「そう? でも間違ってはいないのね」
 いや、確かに間違ってはいないのだが。
「嫌いじゃないよ、そういうやり方。オブリビオンは嫌いだけどね」
 口にする彼女の姿が不意にそわりと揺らぎ、異端の吸血鬼へと変わる。玲瓏とした内に秘められた魂は、灼くほどに強く。
「……拳で殴るってんなら、要は喧嘩だろ。すんなら俺の十八番サ」
 ぱしっと両の手を叩き、菱川・彌三八(彌栄・f12195)がうそぶく。
「体の底から沸き上がるみてえな滾りァはお前ェのせいだな」
 粋な伊達男が今ひとたび装う姿は、地獄の朱に染まった身に、唐獅子の雲が如き鬣に大きな手足。
 その身に使うは、鳳凰の御業。じらりと炎がその肌の上で蠢動し、鳳凰の入れ墨が全身を覆っていく。猟兵として、そして浮世絵師として日々鍛える卓越した画力を戦いの力に変えて。
 右拳は頬の横、左拳は体の前。左足が前ならば、右足は軽く外向きに。
「合図はなしだ」
 喧嘩だからな。
 言うなり忽焉と姿を消す。
 否、それは超高速で飛翔するがゆえに目で捉えられなかったのだ。
 一も二もねェ、只奴の空いた処にぶち込む。
 実に簡単。だが、本質などそんなものだ。
 右と見せかけて左のフェイント、大振りの拳は曲げた腕で受ける。
 彌三八の振り抜いた拳をかわした隙にミサキが強打を放つ。およそボクシングの戦いとは思えない重い音が弾けた。
「どっちみち私には、持ち前の力でぶん殴るくらいが取り柄だもの」
 言いながらもう一撃叩き込むミサキに、女だてらにいなせじゃねェかと楽しげに笑う。
 さて。
 不利な行動してもらえるならぶちこむ機会はあるでしょう?
「まさか受けても平気か無理かなんて判断しないよね、そんなの不利じゃないもの」
「君たちに有利になるように動くつもりではないのだがね。それとも、わざとらしく攻撃を受けてみせたほうがパフォーマンスにはなるかな?」
 政治家としてウィークポイントを晒すのは戦略的に好ましくないが、意図的に弱みを見せるのは人心を惹きつける格好のパフォーマンスとなりうる。
 もっとも、この『大統領』はそれをユーベルコードとして備えているのだが。
「こっちだって捨て身は慣れっこだし、せいぜい倒れるまでやらせてもらうから、よろしくね、大統領」
 言って構えたその姿勢はボクシングのそれとは違ったが、とはいえ彼女としてはそのつもりなのだろう。
 積極的に攻撃を続ける猟兵たちは、スポーツマンシップなどこの場に持ち合わせていないが、さりとて卑怯な手を使うわけでもない。互いに拳を振るい或いは防ぎ、時に当て時に当たるが繰り返される。
 ミサキがすっと身をかがめ低い位置からの打撃を狙い、食らわせたと思う間に反撃が彼女の額を打つ。重く激しい衝撃に一瞬意識が飛びかけ、無理矢理に踏みとどまった。
「似せてはいるが、ボクシングとは随分と違うな。格闘技の経験はどちらにもないのかね?」
「あァ? 喧嘩じゃねえなら初めてだよ」
 打ち込んだ拳打をパリングで流され、次の手へ移りながら答える。
「だがこういうなァ"解る"質サ。口ィ開くと舌噛むぜ」
 素手のごろまき、すなわち喧嘩慣れしていればおおよそ理屈は分かるつもりだ。
 スナップをきかせて放つフックめいた高速の一撃は、正確にプレジデントを狙い打つはずが、不意に空を打った。瞬間的に接近し、顔を狙って繰り出されたパンチを俊速でかわすも、わずかに鼻先をかすめる。
 一度間合いをとり、彌三八が鋭い呼気を吐く。
「お前ェが強くなるってンなら、俺も付いていくしかあるめえよ」
 それは何かと無言で問われ。
「速さだ」
 それと。
 先より速さと威力を増して襲いかかる拳を、それよりも速く避ける。
 力強く前に踏み込んだ左足の親指を軸に、振り子が如くしなる右足。
 そのでけえ図体にくれてやら。
 パァンッ!
 プレジデント目掛けて鋭い蹴りが弾けた。
「俺ァ足も使うんだよ」
 苛烈な一撃とは裏腹に軽妙洒脱に吐く彌三八に、苦痛に顔をしかめて呻く。
「それは……キックボクシングと言うのだ」
「あァそうかい」
 もう一撃。
 ぐらと姿勢が傾いだところへミサキの追撃が打ち込まれた。
「勝負あった、かしら」
「まだ終わらんよ」
 拳をその身で受け止めながら、『大統領』はそれでも膝を屈さなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエナ・リーレイ
■アドリブ可
どういう遊びなの?とシエナは質問します。

『お友達』を求め彷徨うシエナ、普段は隠している真の姿の一端である大きな繰り手が露わになった事に困惑しながらも『お友達』候補とボクシングで遊び始めます

これもわたしの手だよ!とシエナは笑顔で答えます。

取りあえず、胴体と顔の前面から側面にかけてを叩けばよいという事を把握したシエナは懐目掛けて駆けだします
『お友達』候補がシエナに大きな両腕を振るえば露わにされてしまった繰り手がそれを迎撃します
そして、無事に懐に潜り込めたシエナは親愛と好意が篭った拳を怪力と共に『お友達』候補へと振るいます



 殺伐とした熱気が立つワシントンモニュメントに、あどけない問いが響いた。
「どういう遊びなの? とシエナは質問します」
 シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)。
「『お友達』になってくれる? とシエナは質問します」
「お友達……?」
 それまでの猟兵たちとは違う問いかけに、プレジデントは怪訝な表情で反芻した。
 その少女は小さく幼くあどけなく人寂しい年頃に見え、なるほど友人を求めるのも納得がいく。
 しかし、ここは戦場である。そしてオブリビオン・フォーミュラでありフィールド・オブ・ナインのひとりであるプレジデントを前に、無垢な表情を変えないその存在が、ただの少女であるはずもない。
 いや。彼女は確かに、『お友達』を求め彷徨う。
 シエナにとってオブリビオンとは『お友達』候補であり、ほとんどの場合向ける感情は「好意」や「親愛」のみであり、向けられるのが悪意や殺意であっても好意的なものであると認識して喜ぶ。
 そうして彼女が始める『遊び』とは、言うまでもないだろう。
 向けられる視線にはにかみ、それから普段は隠している真の姿の一端である大きな繰り手が露わになった事に困惑しながらも、プレジデントに向けて声を上げた。
「わたしと一緒に遊びましょう! とシエナはお友達候補との交流を始めます」
 宣言にぎしりと操り手が浮動する。
「それが君の武器かね?」
「これもわたしの手だよ! とシエナは笑顔で答えます」
 プレジデントに問われて、言葉のとおり楽しげな笑みで答えると、ふいと繰り手が揺動する。
「ボクシングってこう? とシエナは質問します」
 問いに合わせて繰り手が軽く握るような素振りを見せたが、それはボクシングの動作というよりは、操り人形を動作させるかのようだ。
 取りあえず、胴体と顔の前面から側面にかけてを叩けばよいという事を把握したシエナは懐目掛けて駆けだす。
 当然プレジデントはそれを邀撃するが、少女と巨大な操り手を同時に相手をするのは、万全の状態であればまだしもダメージを受け疲弊しきった状態では厄介だった。
 先手を打ち攻撃を仕掛けようと大きな両腕を振るえば、露わにされてしまった繰り手がそれを迎撃する。その間にシエナが距離を詰めてこようとするのでバックステップで離れるが、そうすると今度は操り手の攻撃が襲いかかる。
「シエナばっかり遊んでいるかしら? とシエナは反省します」
 ふいと攻撃の手を緩めるシエナに、プレジデントはぎりと歯噛みする。一度体勢を立て直して、イニシアティブを得なければ。
 一瞬の思考が、隙を生んだ。
 そして、懐に潜り込んだシエナは、親愛と好意が篭った拳を怪力と共に『お友達』候補へと振るった。
「えいっ! とシエナはパンチします」
 軽やかな言葉とは真逆の、重厚で激しい一撃がプレジデントを文字どおり打ち砕く。
 その最期は、悲鳴も捨て台詞もなく。
「眠ってしまったの? とシエナは確認します」
 操り手をすいと動かし隠して、プレジデントの状態を確かめる。
 そこには、何かがあった痕跡すらない。
「……あら? とシエナは首を傾げます」
 こっくり首を傾げ、ふと白いオベリスクを見上げた。
 アメリカを象徴するひとつである白亜の塔は、物憂げな影を落として猟兵たちを見下ろしていた。
 まるで、アメリカ全土を蹂躙するこの戦争を嘆くかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月21日


挿絵イラスト