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アポカリプス・ランページ⑪〜偽神は現実に堕とされて

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#アポカリプス・ランページ⑪


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●造られた偽神
 耳鳴りのように。呪いのように。
 頭の中を掻き回して、我先に争って引きちぎろうとするかのように。

 『助けてくれ』『裁いてくれ』『赦してくれ』

 煩い、煩い……煩い、煩い、煩い……!
 俺はお前達など知らない、お前達の求める神などではない!
 俺にそのような力は無い!!

 『救ってくれ』『守ってくれ』『罰してくれ』

 やめろ――やめろ、やめろやめろ、その声を、今すぐ!
 やめないのなら、消えろ!! 全て壊せば消えるのか!?
 お前も、お前も、お前もお前もお前も――――……!!

 ――あるいは。
 俺が消えることで、この声を聞かずに済むのなら。

「俺を……殺してくれ……!」

 完全なる無敵として造られた偽神(デミウルゴス)を殺せる者が、この世界にいるのなら。

●命燃やせ、尽きるまで
 アポカリプスヘルで復活した6体の『フィールド・オブ・ナイン』。
 猟兵達はその第8席、『デミウルゴス』が復活した拠点であるデモイン砦へと到達した。
「皆にも、予兆は見えただろうかな。デミウルゴスの叫びは」
 かつてこの世界の文明を滅ぼした一因でありながら、皆殺しを望む一方で己を殺してくれる者を求めるような者だった。それはただ、蹂躙や戦闘が目的なのではない。
 真なる神としての権能を実際には持たないまま、狂信者達の拠り所として無理矢理に造り出された『偽神』。その最強がデミウルゴスなのだろう。
 既に猟兵達によって制圧されたソルトレークシティの地下施設では、『プロト・デミウルゴス』として彼のような存在を造り出そうとしていた形跡があった。培養された『デミウルゴス式偽神細胞』を移植し、最強のストームブレイドを造り出す計画だ。
 偽神細胞は拒絶反応が激しいため、地下施設では肉体が耐えきれずに自壊してしまうオブリビオン達を相手にした猟兵もいることだろう。
「だが、この。ある意味で、『完成された偽神』であるデミウルゴスは。己の技で自壊する、ということはない。そればかりか、偽神細胞を得たものの攻撃しか、通用しないという」
 偽神細胞を得たもの――その条件を満たすのは、ストームブレイドのみだ。
 だが、ストームブレイドでなくてもデミウルゴスに攻撃できる手段はある、とグリモア猟兵はいう。
「ソルトレークの、施設で。一時的に『偽神化』が可能な、偽神細胞液、というのを。入手できた。体に打つことで、デミウルゴスにも攻撃が通るようになる。
 ……ただ」
 集合場所の脇に用意されている人数分の注射器をちらりと目にして、グリモア猟兵は目を伏せる。
「……あれがもたらす力は、凄まじい。打たれた者の多くが、耐えきれず自壊してしまうほど。生命の埒外にある猟兵、と言えど。無事で済むとは、思えない。
 ……あるいは、最悪……」
 その先を、皆までは言わなかった。

 ――最悪、死に至るかもしれない、などと。

「カガリは、ひとの痛みを何より嫌う。本来であれば、例え敵の打倒の為だとしても。世界が滅ぶのだとしても。勧めたくはないが。
 ……できれば、この門を通る者は。生きて帰ってくれ」
 告げると、グリモア猟兵は掌のグリモアを展開する。
 黄金の門となったグリモアの扉の向こうには、黒い大剣に蹂躙された真新しい屍が山を築いていた。


旭吉
 旭吉(あさきち)です。
 デミウルゴスは多分出さないと自分が後悔する気がしたので。
 フィールド・オブ・ナイン『デミウルゴス』戦をお送りします。

●状況
 アポカリプスヘルアイオワ州、デモイン砦近辺。
 救いを求める声に苦しむ『デミウルゴス』は、全ての声=人間を殺し尽くすか、己が殺されることしか望んでいません。
 『デミウルゴス』は体内に偽神細胞を持たない存在からの攻撃を「完全無効化」(ユーベルコードではなく体質として常時発動)するため、ストームブレイド以外の猟兵は一時的に「偽神化」する偽神細胞の接種を行う必要があります。
 (当シナリオ参加時点で接種済みと見なします)

 偽神細胞の拒絶反応について、具体的には増殖する細胞に呑み込まれていくような、体の内側から蝕まれていくような感覚に襲われるでしょう。
 自分が自分でなくなっていくような、精神的・物理的に自他を削る戦いになります。
 最悪、(あくまで演出上の)「拒絶反応による死」も有り得ますので、各種NGや希望描写等添えて頂けるとご希望に添いやすいです。
 死亡以外に起こりうる拒絶反応としては、主に以下を想定しています。
  ・瀕死(行動不能)
  ・重傷、重症(喀血など)
  ・発狂(幻聴、幻視など)
  ・一部身体の異形化(デミウルゴスに近い黒化、獣化など)
 (特に注意書きが無ければ、キャラクター的に無難と判断した描写に留めます)
 また、装備やアイテムの破壊、キャラクターの大怪我等も発生し得ます。

 どなたかとご一緒に参加される場合、お相手のIDか【】で括ったチーム名をお願いします。特殊な呼び名などあれば書いて頂けると助かります。

●プレイング受付
 OP公開→断章追加後から受け付けます。
 キャパ的事情により、問題が無いプレイングでも流してしまうことがあります。

●オーバーロード
 必要でしたらご利用ください(採用・不採用には無関係です)
 失効日の関係上、通常プレイングを先に反映することがあります。
 トドメ狙いの場合はご留意を。

●プレイングボーナス
 「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。
 ストームブレイドの猟兵は「限界を超えてデミウルゴスを攻撃する」とします。
 「死んでもいいから仕留めたい」「偽神化程度で死ぬわけにはいかない」等々、思う所を取り入れて頂ければと。
 (システムとしてのキャラロストはありません。死亡したとしても、復活は自由です)
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第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●願望の集積機
 ――耳を塞いでも、止まらない。
 声が勝手に流れてくる。近くから、遠くから、あらゆる祈りが侵蝕する。
 ――目を閉じても、止まらない。
 この世界に神などない。お前達がそう呼び縋るものに、そのような力は無い。

 この手に在るのは断罪の剣のみ。
 お前達が、どうあっても偽神への祈りをやめないのなら。
 俺がこの手で滅ぼそう。声をあげて祈る者も、声なき祈りを捧げる者も。

 ――声が、響く。
 ――己自身の意志まで、掻き消されそうなほどの。
尾守・夜野
症状どれでもOK
スレイの破壊、負傷NG、ガードに入る

■行動
別に死んでもかまいはしねぇ
死んだら皆(剣)を助ける事も出来ないから惰性で生きてるだけだし…
まぁこの程度じゃ死ねないんだろうけど
UC発動
内側から食い返す(捕食)感じので置き換えていく
何度か繰り返せばいつかは耐性つきで恩恵受けられるようになるんでね?
ま、今最低限動けるならどうでもいい
痛みは耐性で耐える
普段意識しないようにしてるが腕とかと比べてどちらが痛いのかね?
もはや混ざってわからんが

「俺の肉体喰われた所で刻印、ストックありきだから意味なんてねぇよ!
残念だったな!
死にてぇなら勝手に死んでろ!」
羨ましさ半分罵りオーラで汚染
皆で切り裂き攻撃



●生きろと呪われている
 偽神細胞とやらを取り入れる。 
 効果が表れるまで、尾守・夜野(f05352)はグリモア猟兵が言っていた拒絶反応のことを考えていた。

 死の危険を伝えられても、特段何の感傷も覚えはしなかった。
 今だって、死ぬまでは続けたいことがあるから惰性で生きているだけだ。切っ掛けがあれば死ぬことに抵抗はない。
 ――それでも、この肉体は死ねないんだろうけど。
 その点、猟兵が殺せば死ねるあの偽神は少しだけ羨ましく思えた。
 ――いいよな。殺してくれる相手がいる奴は。

 怨剣から、もう聞き慣れた呪詛が滲み出す。
 『生きろ』『何故お前だけ』『生きろ』『何故お前だけ』『生きろ』『何故お前だけ』『生きろ』『何故お前だけ』
 その声を苦しく感じるような感性は、とっくに駄目になっている。自分はもう、人としては色々と駄目らしい。
 記憶も人格も、肉体すらもちぐはぐで、継ぎ接ぎで。
 ああ、でも――。
「そろそろ効いてきたかね」
 注射器の針を刺したところから、それまでの自分には無かったものが広がっていくのがわかる。ちぐはぐだらけの自分の一体何が『自分』なのかはわからないが、『自分達でないもの』に成り代わられるわけにはいかない。
 滲んでくるものを喰らい返しながら、黒い大剣の男へと進んでいく。

 辺りの屍は皆似たような服を着ているような気がする。何か呟いていたような気もするが、そんなことはどうでもいい。
 怨剣村斬丸――『皆』と共にこちらへ背を向けたままの黒い男に斬りかかることに迷いは無く、男もまた振り向きざまに大剣を振り抜いてきた。
 旋風のような大剣の一閃は一振りでは終わらず、二度、三度と襲い来る。夜野はその全てを躱し――きれていない。主に刻印で補っている足首や背の一部などに傷を受けた。
 当然である。
「これは……傷を喰らうユーベルコードか。だから避けなかったのか、お前は」
 理由の一。夜野は本気で攻撃を避ける気がなかった。
「刻印もストックもある身だからな。例の細胞の打ち損になるんで即死だけは勘弁だが」
 理由の二。夜野のユーベルコード『摂食変換(ダメージコンバータ)』。
 受けた傷から自身を強化する効果により、夜野の体は黒い刻印と黒い刃で覆われ始めている。刃は偽神細胞の効果によるものだ。
「ところでそいつは何だ。死にてぇくせに殺す気満々じゃねぇか」
 理由の三。デミウルゴスのユーベルコード『デミウルゴス・セル』。
 大剣を振るうと同時、彼の肉体のあらゆる所から獣が牙を剥いて夜野の肉を喰らうのだ。
「お前のユーベルコードでは俺を殺せない。ならば俺が殺す」
「ハ、死にてぇなら勝手に死んでろ!」
 喰われた足首はユーベルコードで再生した。これなら踏み込める。
 再び打ち合い、斬り合い、傷を受けては刻印が喰らって補う。
 否、これは刻印だろうか。細胞だろうか。そもそもこれは『誰』だろうか。
 体に感じる痛みも刻印によるものなのか、細胞の刃なのか、デミウルゴスの獣なのか刃なのか、なにもわからなくなってく■。
 赤く流れてい■のは傷口の血だろ■か。口から出た赤黒い■は?
 それも■うどうでも■い。

 動けるなら。剣を握れるなら。
「おおおおお!!!!!」
 原型を留めない程の、黒い刃の獣となった何かと成り果てても。
 『皆』と共に振り下ろした刃は、偽神の肉体に消えない呪詛と傷痕を残した。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリア・ルート
声が聞こえて辛いなら、私が声も聞けない体にしてあげる。
デミウルゴス――造物主。その名前だけで私はイラつくから。

相手のコードは大剣から出る。
なら、それに対して『早業』で【指定UC】発動。分解して、私の剣の大群にするわ。

長くは続かない。かといって戻せば一気に拒絶反応を強められる!拒絶反応も強くて、徐々に自分の体を内から引き裂こうとするような痛みが走る――!

なら、速攻あるのみ!
ロングレンジをキープして『早業』で集中砲火!私への攻撃は『野生の勘』『残像』で回避しつつ『オーラ防御』で最低限の防御!拒絶反応は『激痛耐性』で我慢!

無力を実感するなら、力をつけたらどうなの?
あんたのしてるのはただの思考停止よ!



●リメイクブレイク
 マリア・ルート(f15057)が知る限り。
 『デミウルゴス』とは、『造物主』を示す神の名である。
 『創造』の能力を持つ皇族に生まれながら、その一族に、その国に叛逆し滅ぼした彼女としては、それだけで心穏やかでない名前であった。
「声が聞こえて辛いなら、私が声も聞けない体にしてあげる」
 言うと同時、マリアの周囲に嵐が巻き起こり、それは目の前のデミウルゴスも巻き込んでいく。この嵐の目標はあの大剣。ユーベルコードの起点を破壊すると共に、己の武器として『輪廻転生』させてしまおうという技だ。
(こっちも既に偽神細胞を打ってる。どうせ長くは続けられないけど――)
「……それでは、俺を殺すに至らない」
 あらゆる無機物を分解する嵐の向こう、デミウルゴスが微動だにせず立ちはだかる。
 その手は、今分解しているはずの偽神断罪剣を支えに。
「これは無機物を分解するユーベルコードだろう。この剣はそのものが偽神細胞……『無機物ではない』」
 重厚な金属の見た目をしていようと、かの大剣は『そのような外殻を持つ有機物』だったのだ。
 拒絶反応により、マリアの顔を徐々に黒く硬化しつつある偽神細胞と同じように。
「く……っ」
 反応が進行する度、体の内から引き裂かれるような痛みにも襲われる。
 デミウルゴスの剣は分解できなかったが、巻き込まれた他の無機物を分解して剣の群れを構築することはできた。一秒後の自分を保証出来ない今は、一刻も早い速攻あるのみ。
「それで、勝者のつもりなら……ふざけないで」
 祈りに応える力が無いと言いながら、等しく蹂躙する力を持つ。
 偽神とはいえ『造物主』の名を騙りながら、その手が作るのは屍の山だけ。
「あんたは確かに神なんかじゃない……『造物主(デミウルゴス)』ですらないわ」
「…………」
 その全否定を何と取ったか。デミウルゴスは黙したまま大剣を地に刺すと、赤い燐光を纏わせる。
 ――ああ、その光が『赤』なのも気に入らない!
「あんたのしてるのはただの思考停止よ! 無力を実感するなら、力をつけたらどうなの!?」
 肉体と精神を侵蝕してくるものを振り払うように、声を荒げて放つ。
 ありったけの無機物から構築した剣の群れを一斉にデミウルゴスへ放つと、デミウルゴスからも燐光が放たれた。
 あの光こそが、『デミウルゴス式偽神細胞』。致死の拒絶反応をもたらす、何者とも相容れない偽神細胞だ。
 光と剣は多くが相殺しながら、その一部が互いへと到達する。近付く光の群れを、マリアはオーラで身を守りながら避けていく。
 激しく動けば、拒絶反応も加速度的に進行する。硬化が進んで外的な攻撃に痛みを感じにくいのは恩恵だろうが、内的な痛みの逃がし場所が無くなっていくようでもあった。
「……声が、止まない」
 片手で頭を抱え呻くデミウルゴスには、砕けた硝子片のように数多の無機物が刺さっていた。
「力を付けた偽神が俺だ。破壊と殺戮の他に力を持たない俺は、全ての祈りを破壊することしかできない」
「『造物主(デミウルゴス)』のくせに、本当に何も創造できないのね」
 気力を振り絞って、偽神の目を睨み付ける。
 オーラで弾きはしたが、『デミウルゴス式偽神細胞』の作用か体内の拒絶反応が強烈に誘発されているのが感じられる。
「なら、作り替えてあげる」
 いま一度、金属のように固まった感覚を呼び起こして。死にかけた指先に熱を送って。

『――破壊と創造の輪廻転生(ワールドリメイク・ウェポンズカーニバル)!!』

 体が引き千切られそうな、想像を絶する痛み。
 その引き換えに、マリアは再び転生の嵐を放った。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
○☆
※死亡以外は何でもOK

拒絶反応も負傷も仕方ないと割り切り交戦
異変や苦痛があっても無理やり体を動かす
決定打にならずとも射撃で牽制、攻撃範囲まで接近
剣へ射撃を当て軌道を逸らして潜り込み、ユーベルコードでの攻撃を試みる

血反吐を吐いて体が異形へ変わり…
時間が経つにつれて、自分自身の全てが偽神細胞に塗り潰されていくように感じられる
もしかしたら奴も同じような…駄目だ、考えが纏まらない

動けなくなれば、ここまでかと諦念混じりに思う
人狼である以上、長く生きられる身でもない
だからここで使い潰したとしても大差は無い、自分がどうなろうと勝利という結果に繋げたいという思いが大きい
…もちろん、未練が無いとは言わないが


ルパート・ブラックスミス
〇☆
顕著な拒絶反応は、普段抱える鎧本体を焼き焦がす程の燃える鉛の異常高熱化。
痛みも熱も【狂気耐性】と【覚悟】で無視する。

死に臨む程度で止まる黒騎士はいない。
行くぞ、偽神。ブラックスミスが貴様の死神だ。

UC【青炎模る濁竜の翼腕】で翼腕を形成し愛機こと専用トライクに【騎乗】
【ダッシュ】し【切り込み】。敵が断罪の剣を振るうなら黄金魔剣で【武器受け】。

欲しければくれてやる。我が愛機が貴様の墓標だ!

本命は敵UCによる捕食が繰り出されるのに【カウンター】。
座席から【ジャンプ】、機首部分に追加衝角を展開した【武器改造】愛機を翼腕の【怪力】で掴み【ぶん回し】【投擲】!
即席の破城鎚だ、敵を【串刺し】にする!



●猟兵、偽神を穿つ
「逃げられはしない」
「チィ……っ」
 徐々に体を蝕む違和感と異変を感じながら、シキ・ジルモント(f09107)は戦場を駆けていた。
 大剣の見た目にそぐわずデミウルゴスから絶え間なく繰り出される斬撃は、ただ回避するだけでも銃弾で軌道を逸らさねばならないほどの重量があった。
(決定打にならなくていい……懐に潜り込める隙さえ作れれば、ッ)
 違和感を覚えたのは肺。足を止められないのに息を吸えなくなって、堪らず咳き込めば掌を汚す赤。
 更に赤を溢した掌の下、腕から何かが生える感覚がある。まるで金属の骨格のような異形が、気が付けば腕だけでなく様々な場所から生じていた。
 自分は今、どのような形をしているのだろう――考えると気が遠くなっていく。
 そういえば、自分は何故、こんなにも走って――。
「……!!」
 解かけていた思考が、強烈な衝撃を叩き付けられて正気に戻る。
 肩から生じていた異形の骨は砕け、そのまま胸から脇腹へかけてばっさりと。
 吹き出す大量の赤と共に力が抜けて、立っていられなくなる。

「……死んだのか」

 地へ転がると、声と共に足音が近付いてくる。あの声は誰だったか。
 ――思い出せ。
 いや、いいじゃないか、もう。
 ――思い出せ。
 どうせ己は人狼。元より長く生きられる身でもない。
 ここで使い潰したとしても大差は無い。自分がどうなろうと、勝利という結果には。

 ――まだ、何もしていないじゃないか。

 消えかけていた闘志を、死に物狂いで引き寄せる。
 自分がどうなってもいいのは、『どうなってでも勝利に繋げたい』からだ。
 『どうなっても勝利には関係ない』などという、そんな投げ遣りな心情では断じてない。

「デミウルゴス……お前は、逃がさん!!」

 とどめを刺そうとすぐ傍まで近付いていたデミウルゴスの、その懐へ潜り込む。既に死を覚悟した身なら、大剣の内へ身を滑らせることに何の恐れもない。
 外しようのない超至近距離で、嵐のように攻撃を加える。腕が動く限り拳を加え、少し距離が開けば膝を。更に距離が開いた時に、残る力全てを使って一発撃った。
 きっと、これでも討ち果たすには至らないだろう。だが、今の自分にできる全ては撃ち込んだ。
 未練は、無いわけでは無いが――。

 ついに意識を手放したシキ。しかし、彼がその命を絶たれることはなかった。

「死力を尽くした猛攻。このルパートが確かに見届けた」

 ルパート・ブラックスミス(f10937)。黒騎士の鎧を本体とするヤドリガミは、その鎧を焼き焦がす程の白い炎に包まれていた。彼の内で常から燃え続ける鉛の炎が、偽神細胞の拒絶反応により異常な高温で燃え盛っているのだ。
 本体の損壊は、ヤドリガミにとって死に繋がりかねない。しかし、ルパートはそれらをものともせず愛機のトライクと共に歩を進める。
「仲間をむざむざと殺させはしない。この黒騎士もまた、死に臨む程度では止まらない」
 その闘志に呼応するように、燃え盛っていた白い炎は翼の形を取った後一対の炎の腕となる。
「行くぞ、偽神。このブラックスミスが貴様の死神だ!」
 十分な気迫と共にトライクに跨がると、黄金魔剣を手に突進していく。
「この世界に神はない……死神もまた、同じく」
 突進してくるトライクごと両断しようと、デミウルゴスは大剣を大上段に構える。
 数秒と経たずに距離が詰まると、大剣はその重量にデミウルゴスの腕力を乗せて振り下ろされる。これを、ルパートは黄金魔剣で受け流して対応した。
 トライクの全速を乗せたチャージングアタックは、そのままデミウルゴスへの攻撃となっていてもおかしくなかったはずだ。にも関わらず、ルパートは『受け流す』ことしかできなかった。
 あの大剣が如何に重いか、いやでも思い知らされる。
 更に続けてデミウルゴスの背が迫り上がり、異形の獣達が牙を剥いてルパートへ襲いかかろうとしていた。
「フ……それを待っていたぞ。欲しければくれてやる!」
 トライクは速度を緩めないまま一度通り過ぎると反転し、機首部分に鋭い衝角を生じると、ルパートは座席から飛び退く。その飛び退いたトライクを翼であった光る腕が掴むと、恐るべき怪力で振り回し投げつけたのだ。
 この偽神を攻められるのは、対人武器ではない。城を攻めるような質量で圧倒せねばならないと考えた。その結果の、愛機の破城鎚への改造である。
 デミウルゴスから生じた獣は改造トライクへと群がろうとするが、投げられた勢いのまま突っ込んでくるトライクの衝角に弾き飛ばされていく。
 そして、時間にしておよそ一秒にも満たない後。一角獣の角のごとき衝角は、見事偽神の腹を貫いたのである。
「――――ッ!!」
「我が愛機が貴様の墓標だ!」
 腹を貫かれてなお、デミウルゴスには疑問が残った。何故、これを避けられなかったのか。確かに大剣を弾かれてからわずかな間の出来事ではあったが、本来の己であれば避けられたはずであった。
(……ああ)
 視界に、地に横たわる人狼の姿が目に入る。あの最後の足掻きが、未だに鈍く残っていた。
(……そうか)
 その心の内は、表へ溢さぬまま。デミウルゴスは目蓋を降ろした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四辻・鏡

動けりゃ痛みなんざ大した問題じゃねぇ
どうせ仮初の身体、いくら壊れたってかまわねぇ
血反吐を吐こうが五感がやられようが、私は戦うだけだ

何が在っても落とすことの無いよう名無だけは紐で手に縛り
UCで幾重もの妖怪が混ざり合ったような鬼女の姿へ

祈るため、縋らるために造られたもの
…少しだけ、他人の気がしない
祈りも畏れも似たようなもんだから
ああそれは、重いよな…

相手の大剣は見切りつつ刀で受け止め隙を探し
捨て身覚悟で匕首を抜き懐に飛び込む

殺してくれ? 
ああ、いいぜ
お前がそう畏れるなら、私はカミすら斬る刃

大丈夫だよ
私だってカミじゃねぇから生憎祈りは拾ってやれないが
汝が畏れ、狂気は我が身が“うつし”とってやる



●重い念い
 精神が侵されようと。肉体が蝕まれようと。
 最低限、敵を討てるだけの動きができるなら何も問題はない。
 ましてや、この肉体は仮初めに過ぎないのだから。

 四辻・鏡(f15406)はそのように心に決めて、偽神細胞を取り入れた。
 『何が起きても』取り落とすことの無いよう、名無の太刀だけは強く手に縛り付けて。

 そうして戦場に立って、かの偽神を見る。
 これまでに戦った猟兵達によって刻まれた傷の数々。それらを受けてなお立ち続ける強さは、この世界において『神』と縋られるに相応しい存在なのだろうか。
 本人が望むと望まざると、関係なく。
(……少しだけ、他人の気がしないな)
 祈るため、縋られるために造られたもの。本当にその力があるかどうかはどうでもいい。
 ただ祈り、畏れる対象を得て安心したいだけの。誰かの願望を満たすためだけの道具。
 鏡自身にも、些かの心当たりはあった。
「……重いよな、それは」
 一言溢して、鏡はその姿を変えていく。
 あらゆる妖怪達が寄り集まり、凝り固まり、姿の定まらぬ匕首のヤドリガミは鬼女の形を取った。格の違いはあれど、鏡は今あの偽神と同質のオブリビオンとなっている。
「……」
 その質の変化を感じ取ったか、デミウルゴスの視線にも僅かながら変化があった。
「殺してくれ? ああ、いいぜ。お前がそう畏れるなら、私はカミすら斬る刃だ!」
 軽やかに跳んで、その懐を目指した。

 ――死を望むくせに、この偽神はなかなか懐へ踏み込ませない。
 ただでさえ大きな間合いを持つ大剣と使い手の図体に加え、ユーベルコードで倍以上に射程を伸ばされては近付くことすら困難だ。
「近付かせてくれないと、殺してやれないんだがな!」
「この刃すら潜れない人間に、俺は殺せない」
「誰でも構わず殺して欲しいわけじゃないってことかい」
 軽口を叩いてはみせるが、実のところそう余裕は無い。
 偽神細胞の拒絶反応だ。
 時間が掛かれば掛かるだけ、進行する拒絶反応は確実に鏡を蝕んでいた。元々妖怪が寄り集まったような醜い外見の肌であったのが、末端から黒化してきている。黒化すると感覚が無くなるらしい。
 それから、頭と喉が焼けるように痛い。頭痛や風邪のそれではなく、本当に火でも着けられているような熱さだ。叶うなら、今すぐにでも大地に転がってしまいたい。

 だが、この偽神の前でのそれは、確実に肉体の死を意味する。
 何より、カミ殺しをしてやると言ったのだ。この自分の口で。

「くっ!」
 既に力の入らない腕に縛った太刀で、大剣を受け流す。
 ほんの僅かだが、飛び込む隙ができた。
 隙は『片道』分だけあれば良い。

 飛び込んで、その肌に直接匕首を突き立てる。

「……」
「……大丈夫だよ」
 彼が偽神であるのと同じように、この身も真性のカミではない。
 祈りも願いも、拾い上げて聞き届けることはできない。
 それでも。
「汝が畏れ、狂気は。我が身が”うつし”とってやる」
 突き立てて、更に一押し。
 形だけ見れば、黒い大剣使いの胸に鬼女が抱かれているような。
「……それ、は。重かろう」
 もはや指の一本も動かせぬ女を引き剥がすように。しかし力なく。
 黒い大剣は緩やかにその背へ降ろされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ウィーリィ・チゥシャン
【かまぼこ】
シャーリーとは今まで何度も危険や困難を共に乗り越えてきた。
けど、確実な「苦痛」を与える手段を彼女には取って欲しくない。
だから、この苦しみは俺一人が背負い、奴の苦しみは俺一人で終わらせる。
……訳にはいかないよな、やっぱ。
シャーリーの手を取り、彼女を【鼓舞】し【勇気】を分け合い、偽神化の苦痛を少しでも和らげようとする。
それが俺に出来る精いっぱいだ。

予想以上の苦痛と破壊衝動。
それでも、奴の苦しみを終わらせるためにはそいつを御しなければならない。
【気合】と【覚悟】で堪えながら、目の前の奴に突っ込む。
そして偽神細胞で呑み込もうとした瞬間、【早業】で脱ぎ捨てた上着を盾代わりの鉄鍋に被せて【シールドバッシュ】と【フェイント】で身代わりにし、生じた隙をシャーリーに知らせて攻撃のチャンスとする。
動きを止めたところへ、オーバーロードで真の姿と化し炎の【属性攻撃】を付与した大包丁の【料理の鉄刃】で全力の【捨て身の一撃】を叩き込む。
「俺達はお前に救いは求めない。救いを与えるだけだ」


シャーリー・ネィド
【かまぼこ】
ウィーリィくんとは付き合いが長いし、何を考えているかも大体わかる
だから黙って【手をつなぐ】事でお互いを【鼓舞】する
二人で苦しみを乗り越え、目の前の偽神の苦しみを止めるために
行くよ、ウィーリィくん

偽神化の苦しみに歪み、喀血で汚れた顔
傍の彼には見せたくないけど、気にしている余裕なんてない
霞む目を【視力】で焦点を合わせ、襲い来る偽神細胞をビーム銃の【範囲攻撃】+【弾幕】で食い止めながら逃げ回りながら周囲に【罠使い】+【ロープワーク】でワイヤーを張り巡らせ、ウィーリィくんの策が成功したところで縛り上げて動きを封じ、同時にウィーリィくんと同時に【ラスト・チェーンソー】で偽神の苦しみを切り裂く



●救済の切開
 危険も困難も、あるよりは無い方がいい。
 それでももし、どうしても立ち向かわなければならない時は。二人で一緒に分け合えば乗り越えられた。
 ――二人で分けられない時は?

「…………」
 偽神細胞の注射器を前に、ウィーリィ・チゥシャン(f04298)は一人考えていた。
 死に至るかもしれないほどの、必要な「苦痛」。
 一人で負うのも勇気がいるが、それは自分一人の気持ちの問題だ。『彼女』にまで負わせたくない。
 ならば、今回は一人で負い、一人で終わらせるのがいい。
「…………」
 ――と思っていたのだが、そうもいかないらしい。
 知らず握りしめていた拳に黙って重ねられたのは、『彼女』の。シャーリー・ネィド(f02673)のものだった。
 これまで長く一緒にいた彼女のことだ。きっと自分の考えることなどお見通しだったのかもしれない。
「ウィーリィくん」
「わかったよ、シャーリー」
 重ねられた手を握り返す。そのように自分を想ってくれている彼女を、尚のこと不安や苦痛に晒すわけにはいかない。
 せめて、その気持ちを分け合おう。痛みを無くすことはできなくとも、和らげることはできるだろうから。

 そして、その偽神と対峙する。
 取り込んだ偽神細胞の拒絶反応は全身をくまなく奔る激痛の他に、ウィーリィは抑えがたい破壊衝動が。シャーリーは喉を迫り上がる血の味に襲われていた。
「大丈夫かい」
「うん……行くよ、ウィーリィくん」
 既に痛みに襲われている自分達と同じか、それ以上に。猟兵達からの傷と、数多の声と、望まぬ生に苦しみ続けているであろう彼を救いに。
「安心しろ。俺達はお前に救いは求めない……救いを与えに来た!」
 踏み込んだ一歩から伝わる衝撃さえ痛みになる。反射的にあげてしまう自分の声すら鼓膜と喉を苛む。
 それら全てを気合と覚悟で押し止めて、ウィーリィは目の前の大剣の男へ突き進んだ。
「何も求めない者が、何を与えると……」
 一方の偽神デミウルゴスは、迫り来るウィーリィを迎撃すべく大剣を振りかざすと、肉体から生じた様々な形状の獣達が襲いかかる。
 その獣達が、別の方向からのビーム弾幕により勢いを失う。
 シャーリーのビーム銃による援護弾幕だ。

(やっぱり……痛みと、視界が霞んで……思ったように狙えない……)
 堪えきれず吐き出した血を拭って、シャーリーは目を細める。拒絶反応が目に及んでいることはウィーリィには黙っている。
(ウィーリィくんに不安を増やしちゃうだけだしね。それに……まだボクの仕事は残ってるんだから!)
 狙撃者を探す獣達から隠れるべく、シャーリーは痛む体を引き摺り廃墟の影へと急いだ。

 目標を探すことを早々に切り上げた獣達は、いよいよウィーリィへと凶悪な口を開く。一番首が長かったドラゴン状の獣がついに彼を頭から丸呑みし、盾代わりに使っていた鉄鍋と共に彼の上着を吐き出した。

 決着はあまりにも一瞬で、あっけなく。落ちた鉄鍋ががらん、と音を響かせた。

「ウィーリィくん……」
「……そこにいたか、狙撃者」
 シャーリーが呟いた声を聞きつけられる。今度こそは逃げられまい。
 獣達を背に負ったまま、デミウルゴスが一歩踏み出す。
「……かかったね!!」
「!」
 そして、その瞬間を待っていたのだ。
 鉄鍋の音は合図。その合図で以て、ウィーリィは僅かな時間で仕込んだワイヤーの罠を発動させたのだ。
 囲い込むように張り巡らされたワイヤーは、それ自体に攻撃力は無くともデミウルゴスの自由な行動を許さない。
 しかし、その程度の罠は大剣の一振りで突破されてしまうだろう。
 現に、彼は既にそれを実行した。
「よくやったシャーリー! 一緒に行こう!」
 その時、有り得ない声がした。先程ドラゴン獣に呑まれたはずのウィーリィが、竜人のごとき真の姿を解放してそこにいるのだ。その手には、刃が炎に包まれた大包丁がある。
「うん! キミの苦しみもここまでだよ、デミウルゴス!」
 シャーリーの手には、フォースカトラスから形を変えたチェーンソーが唸りを上げている。
 身を裂くような痛みも、全てを破壊したくなる衝動も。
 気道を塞ぎそうになる血の逆流も、今もなおぼやけていく視界も。
 今の一瞬だけは、この手の刃で切り開くことだけを考える。

「うおおおおおっ!!」
「はあああっ!!」
 
 死による救いを求めた偽神に、命懸けの刃が交差する。
 背から生じていた異形のドラゴン頭が、断末魔の雄叫びをあげながらその形を失った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー

俺にも――覚えがある。脳裏に響く声。自分以外の声。
だからこそ、分かるぜ。今、その苦しみから解放してやる。
『殺してくれ』、その依頼、Black Jackが請けたぜ。

俺の肉体も内側に化物を飼ってる。死まで齎される事はないハズだ。
だが、人間じゃなくなる感覚ってのには恐怖がある。理性を失い、殺戮の限りを尽くす化物になるのは御免だ。
射程を伸ばす大剣。油断すりゃこの身体でも死は免れねぇ。
だが、俺はまだ死ぬ訳にはいかないのさ。世界の為に、なんてクサい台詞は似合わねぇが。
この世界で知り合った連中をアンタに殺させる訳にはいかないんでね!
【見切り】で懐に飛び込み、UC。
まだ立てるだろ?来いよ、続きと行こうぜ。



●己を支配する者は
 ――体の内側がざわつく感覚がある。

 偽神細胞などなくとも、元から己の肉体には『化物』がいる。そういった『大食らい』の類いには慣れているし、『呼び声』の類いも恐ろしいとは思わない。
「脳裏に響く声。自分以外の声。こっちの意志なんて聞いちゃくれない、一方的な声。
 そういうの、苦しいよな。俺にも覚えがあるぜ」
 理解を示すように語りかけるのは、カイム・クローバー(f08018)。
 『大食らい』も『呼び声』も怖くはないが、その結果人間でなくなる――自分が自分でない化物に成り果てるのだけは恐ろしいと思う。
 あの偽神が『殺してくれ』と願うのは、まだその手前で留まっている苦しみゆえではないだろうか。とはいえ、最早オブリビオン・フォーミュラの一角ではあるのだが。
「『殺してくれ』、か。アンタレベルになると、普通はそう簡単には請け負えない依頼だろう」
 偽とは言え『神』として造られ、偽神細胞を持たない者からの攻撃は一切無効化するという無敵ぶりである。殺してやりたくても殺せない。
 偽神細胞を得たとしても、フィールドオブナインに名を連ねる実力とあれば普通は倒せないのだろう。
 だが、自分は猟兵だ。

「その依頼、Black Jackが請けたぜ」

 魔剣に黒銀の炎を纏わせて告げると、目の前の偽神デミウルゴスもようやく視線を合わせた。既にこれまでに猟兵から受けた傷があるとは言え、容易い相手ではないはずだ。
「……殺せるのなら、殺してみろ」
 振るわれる大剣。嵐のような風圧――ではない。この風は、あの剣『そのもの』だ。触れたが最後、肉体そのものを両断する。
「ヒュウッ、流石の一撃だ。確かに当たれば俺でも死は免れねぇだろうが……ッ」
 続けざまに風が襲う。避けようと駆け出せば、いつもより体が軽い。接種した偽神細胞の効力だろうか。
(……『持ってくモン』は、きっちり持ってってるみたいだけどな)
 『化物』は変わらず居座り続けている。だが、そうではない別物が根を張って、確実に存在感を増しているような気がする。
 加えて、この音は何だろうか。音ではなく声だろうか。やはり『いつもの』ではないものが増えて聞こえる。
 体はこんなにも軽く、力も漲っているというのに――!
「っと!!」
 進行方向正面、突然現れた黒い影に慌てて体を引く。
「その体で、殺せるのなら。殺してみろ」
 目の前で燐光を纏う大剣。この距離ではさすがに回避は不可能だ。
 ――退けないなら、飛び込めばいい!
「!!」
 大剣を振り上げようとした瞬間を見切って、懐へ飛び込む。
「俺はまだ死ぬ訳にはいかないのさ。世界の為に、なんてクサい台詞は似合わねぇが」
 魔剣を握り締める。
 それはこの戦いへ臨んだ決意。この肉体へ根を張るものに自分を渡さない覚悟。
「――この世界で知り合った連中をアンタに殺させる訳にはいかないんでね!」
 『死の舞踏(ダンス・マカブル)』――目にも留まらぬ超神速でひたすら連撃を叩き込む。先の剣の軌道が消えぬ内に次を、更にその次を。
 縦横無尽に斬り尽くして、最後に大きく斬り払って吹き飛ばす。飛ばされた男は大きく地へ沈んだが、まだ息がある。
(――普段は、これくらいで息があがったりしないんだがな)
 己の息の荒さに、『あれ』が更に根を張ったのがわかる。だが、力は比例して漲っている。
 ならばまだ、ここで止める時ではない。
「まだ立てるだろ? 来いよ、続きと行こうぜ」
 『殺すまで続けてやる』。
 それが依頼として請け負った『Black Jack』の、便利屋としての誠意であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア
○☆・重傷、重症~瀕死希望

…さすがに、ちょぉっと同情する案件よねぇ、コレ。そりゃ世界の一つくらい滅ぼしたくもなるかぁ…
まあ、だからってさせるわけにもいかないんだけど。

…うっわ、想像以上にキッツいわねぇ…
○覚悟してたからなんとか〇気合いと激痛耐性で動けるけれど。
ラグ(浄化)とエオロー(結界)で○オーラ防御を展開。相手は偽神細胞で実質何でもありだし、ある程度の距離を保ってデバフ撒きつつ○爆撃の範囲攻撃で牽制して射撃…



――ま、無理よねぇ。あたし元々この手の「強力な個」相手は相性悪いし、そもそも単純に決定力不足。多少手傷は与えても良くて時間切れ、悪ければ真っ向ずんばらかしらぁ?
…ええ、「だからこそ」あたしの刃は、あなたに届く。
●笑殺、起動。コピーできるもんならしてみなさいな?
虚仮の一念、蜂の一刺し。ただの人間、舐めないでほしいわねぇ。

キリエ・エレイソン…「この魂に憐れみを」だっけ?
あたしカミサマなんて欠片も信じてないけれど、こういうのも届いちゃうのかしら。だったら御免なさいねぇ?



●弱者の弾丸
 ティオレンシア・シーディア(f04145)は、現実主義的な人間である。
 誰かが夢を見ようと勝手だし、害が及ばない限り否定もしないが、自分は夢を見ようとは思わない。
 神様とか宗教とか、そういうものも当然信じるつもりはない。誰かにとっては救いになっているのだろうが、自分は正直よくわからない。

 では、現実として目の前にいる『神』はどうか。
 望んでもいないのに生み出され、聞きたくもない声を嫌でも聞かされ続ける。
 偽とはいえ、こうして生まれるのが『神』なのだとしたら、流石に少しは同情したくもなる。そんなものを押し付け続ける世界を滅ぼしたくなったとしても、まあ仕方ないとも思える。
 実際にできそうだし、されたらとても困るので、申し訳ないが止めることになるのだが。

(……にしても)
 ティオレンシア・シーディアは、己を『ただの人間』だと見ている。『ただの人間』が偽神細胞の拒絶反応に耐えられるはずがないのである。
 キツいという話は聞いていたので、覚悟はしていた。気合と耐性で頑張るつもりでもいる。いるが。
(頑張ってどうにかなる範囲かしら、これ……)
 頭を締め付けるような頭痛は、このまま破裂してしまうのではないかと思うほどの。否、何かを『思う』ということが既に苦痛だ。
 目から流れているのは何だろう。涙ではないと思う。触れてみたら、赤かった。血を流しているのか。
「ゴールド……シーン……」
 とりあえずいつものようにシトリンのペンを呼んで、ラグ(浄化)とエオロー(結界)を書かせてオーラを巡らせる。この程度であの偽神の攻撃を防げるとは思えないが、無いよりはマシなはずだ。
 あとは……距離を保って――。
(ヤバい……意識が……)
 まだ戦いが始まってすらいないのに、混濁し始める意識。まるで切れかけの電球のよう。と思ったら、黒い影が近付いてくる。応戦しなければ。
 何か……近付くのを遅らせるような……。
「ニイド(束縛)……」
 今度は破片弾に別のルーンを刻ませて、クレインクィンで撒こうとした。確かにしたのだが。
「がっ、は……!」
 とんでもない間合いから、人影の形が変わった。肉体から何か生やしてきて、それがオーラごと自分を弾き飛ばしたのだ。
 コンクリートに背中から叩き付けられる。痛みが増幅されるこの体では、いっそ殺して欲しいほどの衝撃。
 拒絶反応どころかこんなもの、ただの毒ではないか。
 一方で、同じ偽神細胞でもあちらは使いこなせていて実質何でもありだ。
(相性が元々悪いのはわかってるけど……せめて……手傷のひとつくらいは……)
 あの手の強力な個体に対する決定打となり得るものを、『ただの人間』である自分が持つはずが無い。せっかく戦えるように偽神細胞を接種したというのに、ただの一撃も当てること無く拒絶反応で自滅してしまいかねない。
(ソーン(障害)、イス(凍結)……)
 唯一まともに動くゴールドシーンに、意思だけは送り続ける。しかし、ついにそれを見留められたのか、人影から生えた異形の何かがゴールドシーンを食べようとしている。
(やば……それ食べられると、流石に……)
 閉じそうになる意識をこじ開けて、感覚を失いつつある指先に力を入れる。ガンベルトからオブシディアンを引き抜いて、撃鉄を起こす。
 震える腕を何とかもう片方の腕で支えて、トリガーを引いた。弾は当たったようで、異形の何かはゴールドシーンから注意を外す。
 こちらは、射撃の衝撃で――骨が砕けたような感覚がある。要するに、痛いのだと思う。もう感覚も麻痺しているが。
(この状態で見逃される理由も無いし、流石に……覚悟、決めるか……)
 肺からこみ上げてきたものを吐き出す。赤かった。そのことに何の感慨も覚えない程度には、もう意識を保つのが辛い。
「お前もまた、俺を殺せないのか」
 その通り。『ただの人間』には、『神殺し』なんてやはり荷が重い――。
「……何?」
 驚く男の声がする。
 ――ああ、『アレ』かな。
「ふふ、ふ……虚仮の一念、蜂の一刺し、ってね……。『ただの人間』、だからこそ……あたしの刃は、あなたに届く」
 最後に笑うのはこの『ただの人間』だ。
 『ただの人間』と侮った者は、その弱者がつけたかすり傷によって命を奪われる。これはそういう、弱者が持てるユーベルコードだ。
 もう見えないが、先程撃った弾丸が爆発的に傷口を広げ抉っていることだろう。
「この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)……だっけ? ……届いちゃったら、御免なさいね……」
 音が聞こえなくなる。あれほど痛かった感覚も、最早既に遠い。
 もしかしたら、単純に眠いのかもしれない。随分無理もした。

 なら、そろそろ、眠ってしまおうかな――。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
都合よく造られ、崇められ、救いを求められる。
にもかかわらず、随分とお優しい方ですね。
造られた偽物なら放棄しても良かったのに、それでも神を名乗った
煩くても応えようとされたのでしょう?

―いっそ壊してしまえば、自分が消えてしまえばと思うほどに

UC【狂炎舞踊】使用
己の寿命を削り、さらに偽神細胞液まで使うとなれば真の姿であっても、激痛や呪詛、狂気を防ぐのオーラを纏っても気休め程度でしょう。
それでも耐えられるのは私の帰りを待ってくれる人がいるから。
そして、生きて帰ってくれと無事を祈ってくれる友がいるから。

何より神を鎮めるのが巫女の役目。
舞が止まらなければ毒耐性のオーラで完全に防げなくても問題ない。
兄の力を借りて神剣の剣舞と浄化の炎で『偽神』と言いながら神であろうとしたデミウルゴスに挑む。

神は人々の願いに応える必要はないのですよ。
己のしたいようにしただけ。
それが時に救いや試練になっただけのこと。
ただ都合よく解釈されたにすぎないのです。

全てを受け入れなくてもよかったのですよ。



●黒き巫女と黒き偽神

「お優しい方なのですね、あなたは」

 『偽神』デミウルゴスにそう声を掛けたのは、吉備・狐珀(f17210)だった。

「……や、さ……しい、だと」
 怒りでも、憎しみでもなく。ただ意味がわからないという様子で、デミウルゴスは問い返す。
「都合よく造られ、崇められ、救いを求められる。造られた偽物なら放棄しても良かったのに、それでも神を名乗った。煩くても応えようとされたのでしょう?」
「……俺は、何一つ応えてはいない。他に生きる術も無く、他に応える力も持たなかっただけのこと。……あるのは、破壊の力だけだ」
 優しさなどではない。そんなものは持っていないと、黒い偽神は目を閉じて否定する。
 狐珀はそれでも、首を横に振って問うた。
「それが、優しさなのではないでしょうか。いっそ壊してしまえば、自分が消えてしまえばと思うほどに……あなたにできることで、真面目に応えようとされているではないですか」
「……そうでは、ない。俺は、ただ」
 無敵の『偽神』として、狂信者の拠り所として造られたデミウルゴス。
 生まれた時から在り方を定められた命は、何一つ己の意思で決定することを許されなかったのかもしれない。
 意思の表現として許されたのは、ただ断罪の大剣を振るうことのみであったのだから。
「俺は、ただ。生きたかった。それができないのなら、死にたかった。それだけだ」
 黒い大剣の周りに、赤い燐光が生じていく。通常の偽神細胞よりも更に毒性の強いデミウルゴス式偽神細胞。それが放たれようとしている。
「私は巫女ですから。『神』が苦しみ荒ぶるのなら、それを鎮めます」
 白い千早は天女の羽衣となって、狐珀の真の姿を顕す。更にその衣は黒へと変じ、兄の魂と合一した戦乙女の形となる。
 神剣が纏うは浄化の炎。呪怨を焼き払う炎獄の炎を以て、かの『偽神』を鎮めようというのだ。

 ――表情にこそ出さないが、この時点で狐珀の内にも炎が猛っていた。

 このユーベルコードが元から持つ、命を焼く炎だけではない。神を殺す力をもたらす代わりに心と肉を焼く、偽神細胞の拒絶反応。それは命を焼かれるよりもより直接的な苦痛となって、容赦なく狐珀を苛む。
 それらから身を守るためにオーラを張ってはいるが、せいぜい「表に出さないようにする」程度にしか役立ってくれなかった。
 狂っていいなら狂ってしまいたい。叫んでいいなら叫びたい。死ねばこの痛みが休まるならと、思ってしまいそうになる。

 負けないでいられるのは、とても単純な理由だ。
 恐らくは、彼が「生きたかった」のと同じくらい。

「我求めるは炎獄と刃の閃き。――参ります」

 黒き巫女は、炎を纏って神鎮めの剣舞を舞う。
 火の粉のような燐光で致死の毒を放つことしかできない黒き偽神を宥め、鎮めるために。
 ――痛い。熱い。
 思考を支配して埋め尽くしそうになる感覚を、それでも忘れ得ない大切な人達の思い出で上書きする。
 それは、帰りを待ってくれている人。生きて返ってくれと、無事を祈ってくれる友。
 ――私は絶対に帰らなければいけない。巫女として、この神に捧げ尽くすことはできません。
 ――それでも。

 足だけは止めないように。神剣を持つ手だけは放さないように。
 斬り結ぶように到ったのは、黒き偽神の胸元。
 見上げたデミウルゴスの瞳は、逆光にあっても失われない金の鈨(はばき)のようであった。

「神は人々の願いに応える必要はないのですよ」
 金の眼を真っ直ぐ見上げて、黒き巫女が諭す。
「己のしたいようにしただけ。それが時に救いや試練になっただけのこと。ただ都合よく解釈されたにすぎないのです」
「……そのような神を、彼らは認めない。求めない。俺はそのように造られなかった」
「ええ、ですから。あなたはただの、デミウルゴスなのです。
 ただの人なら……全てを受け入れなくてもよかったのですよ。神だって、そうなのですから」
 ――生きたければ、生きて良かったのです。
 自らも炎に包まれながら、黒き巫女は黒き偽神を炎に招き入れる。
 神剣の切っ先は、黒き体を深く貫いて。
 伸ばした腕は、男を眠りに誘うように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
こんにちは

自分は、ペイン・フィン、という
指潰しという、拷問具で、怨念喰らい、だよ
負の感情……、苦痛とか、絶望とか、そういうモノを喰らい、力に変える
そういう、存在、だよ

今回は、ね
貴方を、終わらせに来たよ

「偽神細胞液」を注射
そして、コードを、使用
自分の属性を、怨念の力を、反転
浄化の属性へと、変わる

……自分は、貴方がどんな存在だったのか、よく知らない
でも、ね
祈りに押しつぶされ、苦しんだその怨念と恐怖を
造られ、偽物の神として虐げられたその憤怒と憎悪を
救う力を持たず、無力だったその悲哀と絶望を
細胞の拒絶反応の痛みと一緒に
自分が、全部、食べていこう

だから、そう
貴方の痛みは、此処でお仕舞い、だよ

お疲れ様



●全て真白に終わらせて
 墓標のように大地に大剣を突き刺して、『偽神』デミウルゴスは膝を付いていた。
 満身創痍の肉体は痛々しかったが、俯く彼の呼吸は落ち着いていた。

「こんにちは」
 律儀に挨拶をしたのは、ペイン・フィン(f04450)だった。
 俯く男に視線を合わせて片膝をつき、声を届けようとする。
「自分は、ペイン・フィン、という。指潰しという、拷問具で、怨念喰らい、だよ。
 負の感情……、苦痛とか、絶望とか、そういうモノを喰らい、力に変える。
 そういう、存在、だよ」
 短い言葉を丁寧に繋ぎながら、彼は言葉を紡ぐ。
 デミウルゴスもその言葉を遮ること無く、ただ俯いたままであった。
 少し待っても言葉がない彼に、ペインは更に続ける。
「今回は、ね。貴方を、終わらせに来たよ」
「……殺しに来たと、言えばいい」
 大剣を支えにデミウルゴスは立ち上がり、なおも戦う姿勢を取る。
「……そうだね。殺しに、来たよ。でも」
 立ち上がったデミウルゴスの前でペインは敢えて転移前に打たなかった注射器を取り出す。
 偽神細胞――これを打てば、デミウルゴスに攻撃ができるようになる。同時に、壮絶な拒絶反応に襲われることにもなる。
 それを、黙って打った。流石にすぐには反応は表れない。
「今の内に、話しておきたいんだ。この後、どうなるか、わからないから」
「言葉はもう、俺には届かない」
「……え?」
 それは、どういう意味なのか。彼は望まぬ祈りと願いに苛まれた偽神ではなかったのか。
 それらの声も、もう届いていないのだろうか。
「祈りの声は……まだ聞こえる。これは恐らく、死ぬまで消えない……俺が死ぬか、俺以外の全てを殺すまでは。だが」
 その時、ペインは確かに見た。
 数多の祈りに疲弊し濁りきっていたデミウルゴスの表情が、ごく僅かに緩んだ瞬間を。
「聞こえてはいるが……はっきりとは、わからない。俺自身が消耗しているからか」
「……自分は、貴方がどんな存在だったのか、よく知らない。でも、ね」
 体の末端から、初めは針を刺すような。ついで爪や皮膚を少しずつ剥がされるような痛みがじわじわと侵蝕する。これが拒絶反応だろうか。指潰しの自分がこのような拷問じみた痛みを味わうことになるとは、不快感よりも先に興味が勝った。
 服の下から血が滲むようになっては、そうも言っていられなくなったが。
「貴方の痛みが、少しでも和らいだなら。自分達の戦いにも、意味はあった、のかな」
「お前達は、猟兵だろう。オブリビオン・フォーミュラを殺すことは、義務であるはずだ」
「そう、だけど。貴方との戦いは。それだけじゃない、から」
 言葉で伝えきれないものは、行動で示す。
 自らの怨念を糧とする属性を反転させると、見た目も白く変じたペインの身体から無数のツバメ型紙飛行機が飛び立っていく。
「ねえ、貴方は、どんな物語が、望み?」
 紙飛行機達は肉体を直接傷付けない。
 そこに負の感情がある限り、それを切り裂いて正の感情を与えるものだ。
「俺に、望めるものはない」
 その紙飛行機を、効果や威力、そして射程を増した大剣がまとめて斬り払っていく。斬り払った傍から増えていく飛行機を、完膚なきまでに消し飛ばす。
「お前を殺す。それでようやく、俺も終わることがきる」
「……それは、できない。それに、それじゃ貴方は」
 伸びてくる大剣の切っ先が、胸から肩にかけて切り裂く。彼は本当にペインを殺す気だ。
 これまでの戦いで消耗し傷付くことで、ようやく祈りから解放されつつあるのなら。彼はやはり、殺されなければ救われないのだ。
「自分が、全部、食べるよ」
 すっかり赤黒くなってしまった袖から、血塗れの手を伸ばして。
 吹雪のように乱舞する紙飛行機達を、大剣を躱してデミウルゴスへ届ける。

 祈りに押し潰され、苦しんだその怨念と恐怖を。
 造られ、偽物の神として虐げられたその憤怒と憎悪を。
 救う力を持たず、無力だったその悲哀と絶望を。
 恐らくは、彼をも蝕んでいるであろう偽神細胞の苦痛も。
 ――全て、全て。

「貴方の痛みは、此処でお仕舞い、だよ」

 お疲れ様。
 そう労った先、紙飛行機の隙間から垣間見えたのが最後。
 眠るように穏やかに目を閉じて、硝子が割れるような音と共に砕け、風に消えていく姿だった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年09月24日


挿絵イラスト