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アポカリプス・ランページ⑪〜徒花

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#祈り渦巻く荒野に咲くのは――。


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●死の破蕾
 あえかな声であったなら、聞き流せただろうか。
 否、と彼には断言できた。
 縋る手が、言葉が、彼を掴んで放さない。放してなどくれない。
「っ、煩い……黙れ……ッ!」
 歩みを鈍らすのも誰かの声。腕を絡めとるのもまた、誰かの声。
 頭の中で絶えず繰り返される歎きや訴えが、己を掴んで引きずり込もうとしているようだった。何処に居たって変わらない。身を隠したところで、奴らは彼の居場所を突き止める。だからいつまで経ってもやまないのだ。
 助けてくれと、泣きついてくる。
 裁いてくれと、乞うてくる。
 赦してくれと、求めてくる。
「黙れ、口を閉じろ、俺を見るな……俺に、望むな!」
 腕で振り払っても、奴らは言い募る一方だ。
 偽物の神だというのに、何を期待しているのかと問うたところで答えは返らない。それを彼は知っている。知りながら、叫ばずにおれない。
「助けることなどできん、裁く権利は持たん、それに何を赦せと云う……!」
 自分にそんな力はないと告げたとて、奴らは――人間たちの祈りは、噴き出すばかりで止まらない。届くばかりで、送り返せない。
「やめろ……! 祈るな……願うな!」
 涸れた荒野へ滴るのは、水ではなく彼の悲痛な叫び。
 彼、デミウルゴスはぎりりと食いしばりながら声を発した。
「尚も祈るなら、祈れなくなるまで、殺してやる……殺し尽くしてやる!」
 砂礫を靴裏で踏みにじれば、砕けて風に浚われていく。それと同じように、砂塵となって取り払われるまで声の主を、祈りをぶつけるばかりの人間たちを殺戮せねばと思い至る。そうすればいつか、この声も聞こえなくなるだろうから。
「ッ、やめろ、もう……」
 ――俺を、殺してくれ。
 言葉が掠れ、吐息となって落ちていく。
 そして彼は荒野に咲く一輪の花を、知らぬ間に踏み潰していた。

●グリモアベースにて
 それが無敵の偽神「デミウルゴス」の今の姿だと、ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は告げる。
「彼には、いつものユーベルコードだけじゃ通用しないわ」
 言葉通り、デミウルゴスは『偽神細胞』を体内に持たぬ者からの攻撃を無効化する。例外などない。完全に閉ざしてしまうのだ。
 つまり、ストームブレイド以外の猟兵は、偽神細胞液を体内に注射する必要がある。件の細胞液はソルトレークシティで入手済みだ。いつでも打ち込める。そして細胞液を取り入れれば当然、その身は一時的に「偽神化」する。
「そうしないと、彼に傷を与えることもできないもの」
 倒すために必要なこと。ただしリスクが伴うのだとホーラは連ねた。
「偽神細胞の接種は、拒絶反応を招くの。それも激しいものになるのよ」
 場合によっては死に至り、絶命まではしなくとも『死んだ方がマシ』と思えるぐらいの苦痛や錯乱、狂気といったあらゆる反応が想定される。想定したとしても、実際どうなるのかは接種してみなければ分からない。
 だからホーラはこうも話す。
「接種しなくても支援とか、彼と向き合うことだけならできるわ」
 攻撃しないのであれば、戦場に立つだけなら、いくらでも叶う。
 もっとも、そればかりだと肝心のデミウルゴスを倒せはしないが。
「お話は終わりっ。それじゃ、準備ができた方から声をかけて。転送します!」
 さあ、デミウルゴスへ会いにいこう。
 違いはひとつ。いつも通りに行くか、『偽神細胞』を取り込んで向かうかだけだ。


棟方ろか
 お世話になります。棟方ろかです。
 一章(ボス戦)のみのシナリオでございます。

●プレイングボーナスについて
 「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃すると有利になりやすいです。

 強敵戦かつ猟兵が「偽神化」できるというシナリオの性質上、ある程度の負傷・拒絶反応により苦しむ描写を含む可能性が高いです。(プレイング次第でもありますが)
 それでも大丈夫、という方のご参加をお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ラブリー・ラビットクロー
らぶにも声が聴こえてた
助けて
苦しい
置いてかないで
あんまり色んな所から聴こえるから
ホントにびっくりしちゃったぞ
お前にも聴こえてたんだな
ヒトは一人では生きられないから縋っちゃうん
でもそれはらぶ達もおんなじ
お前だって頼られるばっかりは大変なん

らぶの翼はヒトに作られたんだな
こーして大空に羽を広げて飛べるのは
きっとヒトのユメを乗せる為だったんだ
けど一人じゃそのユメって重すぎて
きっといつか墜落しちゃう
でもヒトは一人じゃない
みんなで支え合って祈り合って縋り合ってんだ
お前もホントは縋り合って甘えればよかったんだ
ホント不器用なヤツ

らぶの翼はユメを乗せる翼
ラビットファングは明日を切り拓く牙
お前のユメも叶えてあげる



 そっか、とラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)は目を細めた。
「……お前にも聴こえてたんだな」
 苦衷は察する。崩れた砂岩のざわざわとした唄にだけ心を傾けられていたら、どんなに良かったか。
 だからラブリーにも解ってしまう。デミウルゴスがどんな声を聞いているか。西風が運ぶ荒野に、どれだけの祈りが集まってくるか。
「ホントにびっくりしちゃったぞ」
 いろいろな声が聞こえるから、ラブリーも常に驚きを隠せない。
 助けて。苦しい。置いてかないで。
 どれも喜びや楽しさよりもずっと根強く、色濃い願いたちだ。
「グッ、ォアァ……やめろ、叫ぶな、訴えるな……っ」
 呻きさえもやり場がなく、デミウルゴスにラブリーの声は届いていない。
 内側から命を叩かれ、身体を揺さぶられる感覚に喘ぐ彼は、囚われて抜け出せずにいた。
 それでも力を高めた断罪の刃が、宙空を裂く。
 果たしてデミウルゴスは何を斬っているのか。恐らく煩い声を断とうとしていて。
「お前だって、頼られるばっかりは大変なん」
 ぶらぶらと足を揺らしながら歩くラブリーは、そんな彼へ話しかけ続けた。
「ヒトは一人では生きられないから、縋っちゃうん。らぶ達もおんなじ」
 柔い赤で彼をじいと見つめ、ラブリーが堕ちた彼の精神を掴もうとする。見えざる心は、片端すらあらわにしないけれど。それでもラブリーの伸ばした手は、ぐうぱあぐうぱあを繰り返してデミウルゴスの痛苦に触れていく。
 やがて、ばさりと音がはためいた。
 六翼の偽神兵器で羽ばたいたラブリーのものだ。ヒトに造られた、天翔ける手段。大空を泳ぐユメのかたち。軽やかに舞い上がるラブリーを、デミウルゴスの視線が少しだけ追った。
「ユメって一人じゃ重すぎる。いつか墜落しちゃう」
 ラブリーが頭上から喚びかければ、彼の震えてやまない双眸も、どうにかその彩を捉えようとして。
「あんね。ヒトは一人じゃない」
 時に支え合い、たまに祈り合って、いつだって縋り合う。
「お前もホントは、縋り合って甘えればよかったんだ」
 翼で描いた光が、翼に乗せたユメが、デミウルゴスを切り裂く。
「ホント不器用なヤツ」
 ラブリーの言葉だけを、荒野の花は聞いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
その方が確実ならば。
喜んで偽神細胞を打ちましょう。
憐れな偽神を骸の海へ還す為にも。
痛みごときに立ち止まってはいられません。

刀の柄と手をあらかじめ縛り付けて保持。
内側から燃やされるかのような激痛は、ただ噛み締めて耐えましょう。
切っ先を向けさえすれば【神遊銀朱】は起動する。
狙いは定まらないでしょうからその分は数で埋めます。
雨あられと打ち据え、切り裂に、串刺しにする太刀の嵐は目眩ましも兼ねます。

――だって、猟兵は独りで戦っている訳じゃありませんから。
この雨の前に立ち止まる。それがあなたの最後です。

わたくしは神に成り得なかった出来損ない。
神にならないことを選んだあなたへ、これは手向けの刃です。


終夜・日明
【アドリブ連携歓迎】
元より生命を蝕まれし身、偽神細胞が増えたところで変わりはしません。
そして元より、人々を護る為に生命を賭すのが僕の役目。
今こそ全身全霊を賭けましょう。

偽神細胞液投与後の拒絶反応に【激痛耐性】と【継戦能力】で耐えられるギリギリまで戦います。
【迷彩】を施し、【指定UC】をライフルスピアに付与。
【乱れ撃ち】で牽制しつつ、位置バレ後は攻撃をできる限り【見切り】回避か【武器受け】で流して【砲撃】。
相手の足元の【地形破壊】による体勢崩しを試み、成功したならば【串刺し】て【零距離射撃】、生命を蝕む《蠱毒》の特性で【傷口をえぐる】と共に【継続ダメージ】を与えます。
生命特効の猛毒……抗えるか!



 解っているのです。その方が、確実なのだと。
 知っているのです。その痛みは、耐え難いものだと。
 そう、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は己へ言い聞かせて偽神細胞を打った。
 途端に総身を疾走する辛苦は深く、彼女の魂を揺さぶり、心を抉るよう。カタチとして映らぬそれらを掻きむしられる感覚。慰撫したくても触れられぬモノ。
 嗚呼、ともらした吐息さえ神楽耶の苦しみを物語る。
 ――痛みごときに立ち止まってはいられません。
 俯きかけの顔をもたげた。閉ざしかけの瞼を押し上げた。
 ――憐れな偽神を、骸の海へ還す為にも。
 神楽耶の覚悟は、あらゆる迷いさえも消し飛ばす嵐に似て、強い。だから。
 刀の柄と手を縛り付けて臨んだこの一戦、彼女はただただすべてを噛み締める。
 神楽耶が耐えるように、終夜・日明(終わりの夜明けの先導者・f28722)も我が身を拒絶する自分自身に悶えていた。
 日明がサイバースコープ越しに視た大地は、荒れ果てた中にも生の息吹を感じる世界。
 だからこそ日明は念う。元より蝕まれしこの身。今さら自身の生命が苦悶に狂わされたところで、何も変わりはしないのなら――荒野に咲く人々を護るため、生命を賭すのが自分の役目だと。
 ゆえに接種した、ひとつの可能性だ。
 こうして日明が馳せる一方、ふ、と短く苦痛を吐き出し、神楽耶は太刀を構えた。
 刹那、デミウルゴスからの断罪が、彼女の世界をどろりとした毒で塗りたくる。
 しかし神楽耶もその程度で膝を折らない。
 燃やし尽くすときの感覚が激痛をもたらし続けるから、言葉も発せずひたすら前を見つめた。
「っ、く……」
 侭ならぬ身体が、神楽耶の色を拒む。神楽耶の熱を拒む。神楽耶の火を――それでも。
 逃れられぬ無数の声を振り払いたくて、デミウルゴスがひとを死に至らしめようとするのなら。
 切っ先をデミウルゴスへ向けさえすれば、白銀がきらりと鳴く。
 ええ、ええ、解っています。
 顎を引く神楽耶の応答にも、刃は艶めいた。重苦がのしかかろうと神楽耶は、己が本体の複製で雨あられと打ち据える。刀の雨に圧されてデミウルゴスが立ち止まった。黙れ、やめろと彼は繰り返す。
 神楽耶の目眩ましは、功を奏した。
 ――だって、猟兵は独りで戦っている訳じゃありませんから。
 神に成り得なかった出来損ないから、神にならないことを選んだあなたへ――手向けの刃を。
 こうしてデミウルゴスを裂いた神楽耶が瞥見した先に、死角から男へ挑む日明を認めた瞬間、涸れた野へと吹き付ける風。その風で撫でられただけで、日明は爪の先から臓の奥まで激痛に苛まれるも、決して鈍らない。
 飲み込んだ呼気にさえ苦しさを感じてしまいながら、日明は蠱毒を活性化させた。
 直後、威の増した断罪の刃が日明を襲う。深淵より随分と浅く、隆起した影もくっきり見える中で、断つべく振るわれた大剣が荒々しく踊り出す。全身を引き裂かれる感覚と共に、日明は蠱毒の力でデミウルゴスに対抗した。
 彼が乞う声へ「黙れ」と云う間にそれを滲ませ、彼が縋る声へ「去れ」と云う時には、日明の穂先が標的を突く。
 ――今こそ全身全霊を賭けましょう。
 乱れ撃ったライフルスピアの勢いもまた、この世界の嵐に似ている。だから日明の腕も休まない。
 デミウルゴスが力強く踏み止まるのならば、足音へ得物を叩きつける。
「これに……抗えるか!」
 狂おしいほどの衝動を堪えながら、日明は男の傷口を抉る。
 結果、この一撃でぐらりとデミウルゴスの体勢に変化が生じた。日明の想定通りだ。
「グァァァ、ッ……もう縋るな、救いを求めるな……!」
 同じ言ばかり繰り返す男に、日明も、そして神楽耶も僅かながら目を伏せる。
 自分たちの音がどの程度届いているのか。
 それはわからないが、デミウルゴスは確かに二人の姿を見ていた。偽神の細胞を取り込み、自身へと立ち向かうふたつの色彩を。見誤ることもなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
"…人類に今一度の繁栄を。そして、この世界に救済を"

…これが、"私達"全員が掲げる誓い、救世の祈りよ

…此処とは異なる闇に覆われた故郷の地を救う
…この誓いがある限り、私はこんな場所で朽ち果ててなどいられないわ

UCを発動して左眼の聖痕に取り込んだ浄化した霊魂達と精神を同調し、
心の中で救世の祈りを捧げる事で偽神化の反動による激痛や狂気を強引に受け流し、
全身を呪詛のオーラで防御して覆い空中機動の早業で切り込み、
霊魂を降霊して闇の魔力を溜めた大鎌をなぎ払い無数の斬撃波を乱れ撃ち攻撃する

…私の力を模倣したければするが良い、偽神デミウルゴス

己が意志で、死した彼らの想いを、祈りを背負う覚悟があるのなら…ね


藤・美雨
細胞を接種して戦おう
激痛が身体を苛むのが辛いな
自分で自分の身体を砕きたくなるくらい
でも……負けてたまるか
あいつを殺すために私はここにやって来たんだ!

あいつの大剣が何かをすれば身体が更に痛む
神経を直接殴られてるみたい
でも……ここで倒れたら、何も意味がなくなっちゃう
痛みを堪えて走っていくよ

私の身体が死に近付けば近付くほど陰の気配も強まるだろう
それを全身に纏わせて進む
少しでも敵にダメージを与えられるよう
今ここに私がいることが、きっと一番の攻撃になる

相手の剣は大きく回避することを意識
むしろ振りかぶられたら引っ付かんで【怪力】で抉ってやる
お前だって断罪なんて役割背負うの嫌だろ
全部全部、ここで終わらせよう


レザリア・アドニス
接種…?うむ、必要でしたら、いいわ
実験に慣れた身として、何とも思わなくて、平気に接種を受ける
拒絶反応?そんなものが出る前に、あいつを何とかしてればいい

…これは、すごいわよ
【全力魔法】と【鎧無視攻撃】で強化した炎の矢を作って
偽神化により敵を貫通できるそれを打ち出す

偽神化のせいか、少しずつ黒の色が褪せて、『元』の色に戻る
…そしてさらに、赤に染まる
狂気は死霊ちゃんによって正気をぎりぎり守ってくれても、
苦痛までは遮断できない
耐えつつ、いっそ死霊にこの身を明け渡そうという衝動を抑えつつ
倒すことに一点集中
意識を失い、戦えなくなるまで

そうか、これはお前が味わってる苦痛ですか
ならば願いの通りに
殺してやるよ



 死した身体ならば無茶はできる。
 けれど痛みは、苦しみは、どう足掻いても忘れられない。
 だからこそ藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)は、偽神細胞を取り込んだ。いつも湛えていた笑みは瞬時に消え失せ、代わりに沸くのは激痛。イタイ、という言葉だけで片付けられぬ尋常ならざる痛みが体内を廻り、廻って、また廻る。
 ぎりりと噛み締めた感覚さえ喪失してしまいそうだ。だから美雨は声を発する。
「負けて……たまるか……ッ」
 多少は気も紛れるだろうか。否、何ひとつ紛れやしなかった。
 近くでは、吹きすさぶ空に翳した指先が透けるのを見届けて、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が眸を細めていた。これが世界だとリーヴァルディは強く念う。
「この世界に、救済を」
 呪文のごとく唱えて、リーヴァルディが踊り出た。偽神細胞によって苦悶で歪む面差しさえも、隠すように。
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は小さく頷いて、偽神細胞を接種する。
「必要でしたら、いくらでも」
 注射にせよ飲むにせよナニカを取り込むにせよ、少女は平然と受け入れる。
 ――別に……慣れているし。それに。
 ちらと目だけで確かめたのは、声なき声に喘ぐデミウルゴスの様相。
「喋るな、望むな……!」
 どれだけの猟兵と対峙し、呼びかけられたところで彼を沈静させることはできないと、レザリアも感じていた。あの様子では無理だと判断がつくのもまた、少女が実験に慣れた身であるがゆえ。かといって情けは手向けない。レザリアから渡せるものは、ひとつだけだ。
 ――あいつを、何とかする。
 総身に走る痛みが熱へと換わっていく。けれど彼女は腕を抑え、魔法を編み始めた。
 その間、リーヴァルディは己が秘める存在を呼び覚ます。
 彼女が救うのは、この世界だけではない。
 睫毛を震わしたリーヴァルディが想い馳せるのは、いつだって遠い故郷の地。異なるその世界は、穢れた夜と悪しき闇に支配されているけれど。それでもリーヴァルディにとってのふるさとだ。だから彼女の胸に、心に、魂に、誓いは刻まれている。風化などせず、色濃くそこに。
 ――朽ち果ててなどいられないわ。こんな異郷で。
 疼いた左眼が、清かな色を宿す。聖痕が我がものとした霊魂たちが、リーヴァルディに語りかけてくる。こくんと肯いかれらと同調すれば、彼女の体内を侵す激痛も分かち合えたかのような感覚が沁みた。
 けれど身体は悲鳴をあげ続けているから、リーヴァルディは飛んだ。大鎌を手に、風を切る音をも遅らせてデミウルゴスへと滑空し、禍々しい大剣と切り結ぶ。
 そのすぐ傍で。
「っ、アぁあァ……!!」
 砕きたい。この身体を。疎ましい。この身体が。憎い。今を生きていることが。
 そう考えてしまう耐え難い痛苦を美雨は振り払い、己へ言い聞かせる。
 砕くのは自分じゃない。疎ましいのはこの身じゃない。生きていることは、憎くなんてない。
 ――違うんだよ、私はッ、私は。
 美雨は膝から崩れ落ちるも、砂岩をガリガリと爪で削りながら耐え、そして顔をもたげた。
「私は……っ、あいつを殺すためにやって来たんだッ!!」
 叫ぶや地を蹴る。
 デミウルゴスが毒で征野に立つ生きとし生けるものを染めようと、美雨の足はとまらない。一歩進むたびに体中を掻きむしりたくなる思いだった。しかし溢れんばかりの辛苦を抱えたまま、彼女は――死んでも生きる。
 真っ向からデミウルゴスに飛び掛かれば、彼の大剣が美雨へと叩きつけられる。過激な毒と化した偽神細胞と共に男が振り撒く殺意を、美雨は全身で受けた。軋むのは肉体だけではない。神経を直接殴られているような感覚に、すべてが軋んだ。
 そして吹き飛んだ少女は砂岩に激突し、舞い上がる砂埃の中へ消える。
「美雨!」
「美雨さん……っ」
 まりの衝撃に、リーヴァルディとレザリアが彼女を呼んだ瞬間、跳んだデミウルゴスの一打が二人を襲う。
 だがデミウルゴスは同時に、自らを蝕む陰の気配を知った。
「な、何……だ、またしても俺を……苛む声が」
 狂える思考の片隅で、デミウルゴスが言を吐き捨てる。
「ここで倒れたら……意味、なくなっちゃうからね」
 笑ったのは美雨だ。戦場からは決して離れぬ彼女の心身が、死を纏う。今にも爆ぜてなくなりそうな痛みを内包したまま、美雨は死へ近付く。陰の気配が強まったことで、デミウルゴスの頬もぴくぴくと痙攣した。
 ――今ここに私がいることが、きっと一番の攻撃になる。
 そうと理解していた美雨のユーベルコードで、デミウルゴスの動きが鈍った、と誰もが覚る。
「……全部全部、ここで終わらせよう」
 美雨が云うや否や、リーヴァルディは降霊した我が身を、纏った先から風巻く闇をこれでもかと見せつけて。
「模倣したければするがいい……偽神デミウルゴス」
 そう囁く。
「グォォ、っぐ、俺を阻むな、近寄るな……!」
 まるで古き血のように赤黒く隆起したデミウルゴスの片腕が、彼女の力を写す。
 断末魔の瞳――力を得れば、視えてしまうものがある。
 人類に今一度の繁栄を。リーヴァルディ『たち』の掲げる誓い、救世の祈りが視えた。
 ただでさえ無数の祈りに縋られていた男は、増えた声音に呼吸さえも忘れた。リーヴァルディと違って、まともに同調などできやしない。
 すかさず衝撃波で薙いで飛びのいたリーヴァルディは、男が悶絶する有様を捉える。
 そして魔力を結い合わせたレザリアの手では、炎が渦巻き矢を模った。
「……これは、すごいわよ」
 ふ、と緩めた目許へ笑みを燈して、彼女は炎の矢を偽神化による力で、より強いものへと成長させていく。肌の下、臓や血肉ですら痛みを感じるほど、偽神細胞がレザリアの内側で暴れ回っているのなら。
 ――これぐらい、できるでしょう?
 あらゆる生命の証を痛め付ける力。それを発揮できているのだからと、少女は不敵さを唇に刷く。
 かくいうレザリアの身で異変は進行していた。偽神という名の種が司るのは、狂気だったのかもしれない。けれど暗夜の狂気を知り、闇の底で眠るものも知るレザリアには、たぶん馴染み深い感覚で。
 彼女を織り成す黒が褪せていく。少女を彩る色が、薄れていく。
 そうしていつしか、『元』の色に戻った。一滴さえも吸い込みそうな『元』の色を、しかし保てない。桁外れの狂気が、連れた赤でレザリアを染めてしまったから。
「……死霊ちゃん」
 思わず、口にした。常に守ってくれている死霊ちゃんも必死だ。だがいくら死霊ちゃんといえど、苦痛までは遮断できない。大丈夫と何度も声で表し、そして彼女は矢を射る。今の彼女と同じ光彩を得た、赤く猛る魔矢を。
 嗚呼、いっそ――死霊にこの身を明け渡したくなる衝動が、レザリアを揺らがせたけれど。
「倒せば、いいの。……あいつを倒す、だけ」
 戦えなくなるまで戦うだけだと仰ぎ見た空は、やはり死に近い色をしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
【虹誓】

ヒメ、打ったか?
俺は打たねェよ。お前の事癒して支えてやるから暴れてこい

――と従者に言うが打ってある
なんかのとき攻撃きかねェの、不便だからな
相手を殺せないと守れないこともある

あ~体の内側からクソ痛ェ
気分も最悪だ。でもバレねェようにしねェと
絶対、心配するしよォ
まぁ、あの調子じゃ気付かねェだろうけど
偽神ってなんだよ、こちとら本物の神だっつーんだよ
なァ、ヒメ!
守られて、守ってんだよ、こっちはな

ヒメができねェなら俺がやる
俺ができねェならヒメがやるだけだろ
痛みの分、上乗せしてでかい水、打ち付けてやる
ああ、攻撃したら打ってるのバレちまうが
文句はあとで聞いてやるよ
お前の炎を真似されるのは癪だしな


姫城・京杜
【虹誓】

俺が打つから、與儀は打たないでくれよ!
俺はどうなってもいい
でも與儀が死ぬかもとか絶対無理
涙目で訴えつつ打ち
主の声にホッとしつつも頷く

俺を、殺してくれ…か
それは、俺も過去何度も願った事だ
でも今は死ぬわけにはいかねぇ
拒絶反応に耐えつつ前へ
だって死んだら、與儀の盾になれないから

歯食いしばり全力で見舞うは、神の炎纏う拳
ああ、俺達は本物の神だからな!
與儀は特にすげー神なんだぞ!とドヤるのも忘れない
守る事は俺の矜持
そして、俺の生きる意味だ

にしても、痛ぇ…
思わず膝つきそうになるけど
…與儀!?
水の衝撃で察し、何で、って思うけど
でも今は、主の盾となり続ける

與儀は絶対守ってみせる
だって俺は守護者だからな!



「ヒメ、打ったか?」
「あっ、俺が打つから、與儀は打たないでくれよ!」
 英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)と姫城・京杜(紅い焔神・f17071)が為す応酬の温度は常と変わらないのに、急いた感覚ばかり、吹き付ける砂塵の如く浴びていた。『偽神』細胞液について、神たる二柱が問答するのは奇妙な光景だが、互いに心を配る点はそこにない。
 京杜のまなこが潤んでいるのは、顔を覗き込む前から與儀にも分かっていた。考えていることだって、手に取るように。
「……俺は打たねェよ。その分お前の事、癒して支えてやる。だから暴れてこい」
 いつも通りの、與儀からの言葉。
 いつも通りの、京杜の安堵の息。
 舞台や世界が変わろうと、彼らが交わす言の葉は彼ら自身の力となる。そこに変化はない。
 ただ彼らの光景で生じた異変は、ひとつ。デミウルゴスだろう。
「俺を、殺せ……殺してくれ」
 終わらない祈りにデミウルゴスの目は虚ろだ。だから京杜は眉根を寄せた。沈みゆく一方の男の有様が、どこか重なる。過去に何度も願ったから、よく憶えていた。でも。
 ――今は、死ぬわけにはいかねぇ。
 疼きに似た熱が体内を廻る。気付けば偽神細胞は京杜の肌膚を、血肉を喰らっていた。放出すら赦されぬ焦熱が彼を軋ませる。異物を排出しようとする拒絶反応が足取りを鈍らせるも、彼は進まざるを得なかった。
 だってもし、もしも死んだら――與儀の盾になれなくなる。
 京杜が解き放つ炎は、己が抱える辛苦よりも熱かった。
「っ、く……ぅ」
 耐えろと己の腿を数回叩き、京杜は猛き赤で男へ殴りかかる。
 そして死を渇望しながらもデミウルゴスは、腹を空かせた己の細胞(セル)を酷使した。肥大化した片腕が京杜の拳を受け、逆に焔ごと握り潰そうとする。しかし触れた先から紅葉めいた彩が染みて、男は呻くや真っ赤な拳を手放した。
 しかも與儀が滾る赤を支え続けたから、対するデミウルゴスとの違いが荒野で明瞭に浮かび上がる。
「偽神ってなんだよ、こちとら正真正銘本物の神だっつーんだよ!」
 きらきらと唄うような声色で、與儀が笑った。
「なァ、ヒメ!」
 激しさを振りかざし終えた従者へ呼びかける。
 すると解放された手をぶんぶん振りながら、京杜も片頬をもたげる。
「ああ、俺達は本物の神だからな! しかも與儀は特にすげー神なんだぞ!」
 得意げな顔。上がりっぱなしの口角。だが返ってきた笑みに纏わり付く苦々しさを、與儀は見過ごさない。一言続けてやろうかとも考えていた與儀の耳朶へ、悶える声が届く。
「いッ……てぇ……」
 震えた京杜の膝がとうとう果てかける。水で浄めたとて、骨の髄まで蝕んで絡みつく激痛は拭えない。張っていた気力が抜けかけた瞬間、彼の体勢は揺らいだ。
「おいこら、ヒメ! 座り込むにはまだ早ェ」
 蹴飛ばす代わりに首根っこを掴んで、與儀が言い募る。
「ヒメができねェなら俺がやる。俺ができねェならヒメがやるだけだろ。……だから」
 いつもの声音で、與儀は云う。
 いつもの笑顔で、與儀は射る。
 従者を庇うように立ち、水打の重みでデミウルゴスを飲み込みながら。
「よ、與儀!?」
 京杜が叫んだ。何故なら與儀の水が、かの男へ確実に痛みをもたらしたから。頬を打った水の気配から察して、京杜は唇を噛んで呟く。何で、と。吐息だけで。
 そうして揺れた京杜の藍色を認め、與儀はほんのり眦を細めた。
「文句はあとで聞いてやるよ」
「でも……っ!」
 與儀も與儀で全身を引き裂かれるような痛みに耐えているから、あ~、とぬるい返事だけ寄せてどうにか日常と同じ顔をしてみせる。
 ――絶対、心配するしよォ。
 拒絶反応の所為で気分が最高に不快でも、表へは出せない。だから與儀はその分、口を動かす。
「それに……」
 青褪めた顔色へ笑いかけ、こつんと京杜を小突く。
「お前の炎を真似されるのは癪だしな」
 堕ちない理由を繋ぎ合わせた與儀に、瞠目した京杜が息をのんだ。
 瞬いた後にはもう、彼は主と並び立ってデミウルゴスへと向き直り、身を沈められる水に出逢えなかった男を見据えた。
 守ってみせると、そう言葉にするしかなかった守護者を一瞥し、與儀も敵を捉える。守り方なぞひとつではないと解っているからこそ、與儀は相手を殺す道へ重きを置いて――風が、変わったのを感じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無間・わだち
はとりさんf25213

その痛みも、聴こえる声も、知っている
苦しいでしょうね

はとりさん
付き合ってくれてありがとうございます
彼の苦痛を
取り除いてあげたかったから

二人同時
もしくはタイミングをずらして
左右か真逆の位置から飛びかかる

細胞が細かく弾ける痛みにも
脳と全身を巡る、希う声にも笑みをこぼす

平気、いつもどおりだ【激痛耐性、狂気耐性
…彼と彼はどうだろう
きっと、痛いだろうな

大丈夫
ちゃんと殺してあげます
俺も、あなたと同じですから

極熱と氷獄を放つと同時に
デミウルゴスも同じ手で返すなら
四肢を喪うのは
俺も、彼も、彼も同じ【限界突破、捨て身の一撃

これで
終われるでしょう

無茶をさせたから
やっぱりあとで何か奢らなきゃな


柊・はとり
無間f24410と

ああ…苦しいだろうな
誰より奴に近しい俺達には実感がある
礼はいい
ついでに俺の痛覚も消えたら良いんだが

無間の踏み込みタイミングを見て
奴が同時に対応し辛いよう飛び出す
無間の攻撃を受けに行くなら背面に回り込み
俺が先に攻撃されるなら奴を挑発し隙を作る

探偵に殺しを依頼してくるとは
お前いい度胸してんな
勝手に死ね

無間の奴
仏みたいに笑ってやがる
常に全身を蝕み続ける凍傷
この痛みが無くなれば俺もああなるんだろうか
ぞっとする
それなら俺は氷のように
奴を睨み続けた方が、ずっと

UC使用
極熱と氷獄の痛み
同時に浴びて消えてしまえ
容疑者になるのはお断りだが
悲劇を断つのは探偵の領分だ

この傷で飯食えるか
…治ったらな



 苦しいでしょう。辛いでしょう。
 壊れやすいものたちの祈りが響くのは。
 痛いでしょう。怖いでしょう。
 差し出せる手すら持てないというのは。
 知っているから、無間・わだち(泥犂・f24410)は溜め息をつかずにいられなかった。
 けれどかの男へ意識を注ぐ前に、同行する少年を振り返る。
「はとりさん、付き合ってくれてありがとうございます」
 平静な声色に秘める共感が滲み、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)がそんな彼へ流れるように目線を移す。常より揺るがないわだちの表情は、今も変化していない。だのにはとりの頬をちくりと突く感覚は、わだちが宿した情を示しているようで。
 偶感にせよ違うにせよ、はとりには彼の見つめているモノが解った。
「礼はいい」
 短く言い切る。するとわだちは大きめにかぶりを振る。
「それでも伝えておきたくて。……彼の苦痛を取り除いてあげたかったから」
「ついでに俺の痛覚も消えたら良いんだがな」
 息を吐くときの調子ではとりが僅かに肩を竦めたものだから、わだちの眦も自然と緩まる。やがてその眼差しは件の男へ向かった。昏い嵐が広がるというのに、その男デミウルゴスは、自身の進路も周りも気に留めていない。そうする余裕を持てずにいる。
 だから二人は目配せを合図に、砂岩を蹴った。
 男の四辺に色が散る。吹き付ける西風さえも味方につけて、二つ分の影が『声』に沈溺するデミウルゴスを挟むや否や、男の無骨な大剣が風を切り裂いた。薙ぎ払われ、ちぎれた空(から)にわだちが覗き見た男の顔は、酷くやつれていて。
 ――痛みが絶えないから。あの声が、聴こえるから。
 そうなんでしょう、と尋ねるつもりでわだちが見据える。
 彼に気を取られた男が、猛威を振るう砂嵐へ紛れたはとりを見失ったのも、そのときだ。細胞(セル)が体内で暴れ回る男では、微かな音に気付き難い。何せ彼を襲う祈りの声は、今も注がれているのだから。
「探偵に殺しを依頼してくるとは、お前いい度胸してんな」
 わだちが整える隙を作ろうと、はとりが囁く。もはや意味も通じるか怪しい眼光で、振り向いたデミウルゴスがはとりをねめつけた。憎悪や悪意にまみれた眸ではない。かの男が殺意を向けるのは、声の主たる人間たちで。誰よりも近しい『聞く側』へ差し出す感情に、関心はなかった。
 そして、はとりの様相から察したかのように男は掠れきった声を絞り出す。
「俺を……殺し……」
「かくいう俺は解決する側に立っている。だから勝手に死ね」
 男を苛む惨苦は、はとりも知るもの。しかし感知したからといって、ポケットの飴は用意していない。甘さの代わりにくれてやるモノは、決まっていた。だから。
「大丈夫」
 そう連ねたのは、わだちだ。男の背へ寄せる言の葉の穏やかさと異なり、わだち自身を蝕むのは、細胞が弾けるときの激しい痛み。巡っては消え、そして廻る希う声を聞きながら、わだちは――。
「ちゃんと、殺してあげます」
 笑った。岩影や路傍に咲く花に似た静けさで。
「俺も、あなたと同じですから」
 いつも通りの痛苦を零さぬよう紡いだ彼を、はとりは見守っていた。
 ――無間の奴……仏みたいに笑ってやがる。
 眺めた側が思わず己の腕を掴む。全身を侵してやまぬ凍傷が、焼け付くように痛い。
 もし。もしも、この痛みが無くなったら――俺もああなるんだろうか。
 ぞわりと背筋を下った悪寒が、彼の呼気をも凍てつかせてしまう。
 ――それなら俺は、氷のように睨み続けた方が。
 はっ、と息を吐ききったはとりは思考を青へ沈め、凍らずに済んだ心を掻き込んで、わだちと目線を結ぶ。
 やがて互いが得たのは極熱と氷獄、それによる喪失だ。身を擲つなんて大した問題ではなかった。わだちの右腕が焼けたなら、はとりの左腕が溶けて。わだちの右足が死したなら、はとりの左足から生の一切が消し飛ぶ。こうして対となるかのように順繰り喪った両者が次に傾けたのは、デミウルゴスへの餞。
 二人分の力を模倣したデミウルゴスは、細胞に囚われた己の四肢までもが変わり果てていくのに気付き、「殺してくれ」と嵐の剣に乞う。双眸は未だ虚ろなまま。
「……これで、まもなく終われるでしょう」
 わだちの微笑みが、ある種お揃いのからだとなった男へ向けられた。
「容疑者になるのはお断りだが、悲劇を断つのは探偵の領分だ」
 浴びた現実と微塵も和らがぬ痛みにはとりが睫毛を伏せると、わだちがそろりと彼を瞥見して。
「……あとで何か奢らせてくださいね」
「この傷で飯食えるか」
 生きた心地のしない足はともかく、腕は食事に欠かせない。
 治ったらな、と付け足したはとりのあえかな声に、わだちは薄く頬を持ち上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルドラ・ヴォルテクス
⚫︎アドリブ連携OKです

嵐の剣の本質は、救世。
神として創られた昏き嵐よ、おまえの絶望も嘆きもここで終わらせる。

【蛇縛アーディシェーシャ】
断罪剣、あれから放たれる偽神細胞はもはや、生きるもの全てを殺す呪い。
おまえが世界を赦さず、ヒトビトを殺め続けるのなら、俺の使命は、おまえを止める軛となる!
アーディシェーシャは全てを縛る世界蛇の戒め、ユーベルコードも例外ではない。

あとは互いの意思、全てを殺し尽くす意思と、その理不尽から世界を救う意思。
限界突破し、チャンドラーエクリプスを双剣に変形、剣と偽神細胞の力を使わせぬまま、決着の一閃をデミウルゴスに放っていく。

魂に平穏を、この終着が救いであることを。


リュカ・エンキアンサス
怪しいもの体にいれるのは嫌だけど…
これも仕事だ
自分の体調の変化には気を付けて、動けなくなる直前のことは頭に入れて向かおう

方針は
敵を見つけたら問答無用で制圧射撃
早期に決着をつけたい
敵の攻撃は第六感と戦闘知識で相手の動作をよく見て回避
副作用は、痛みや耳鳴り等運動に支障のないものは放置
めまいとか回避に影響が出そうになったら、ある程度で切り上げて退避するよ
その際、動けそうにない猟兵がいたら一緒に回収する
神様の自殺に付き合っても、いいことなんてないとおもう

願いをかなえるには力が必要だ
あなたには、願いをかなえる力も、自分を殺す力も足りなかったんだね
少し哀れだ、なんて
でも、後者はきっと、もうすぐ叶うよ


リインルイン・ミュール
ワタシは偽神細胞を入れません
なので、出来る事はUCの歌を含めた支援と……相手との会話くらい、でしょうかネ

身体を作り替えて発声器官は2つ、多重詠唱の応用で歌も会話も同時に
勿論、片方への集中が必要な時は歌を優先デス
そして、此方から攻撃せずとも相手の範囲攻撃は届きそうですから、念動力・オーラ防御を併用しての受け流しの構えを取り防御に備え
位置が良ければ他の方も庇って防ぎましょう、ただでさえ苦しそうな拒絶反応を重ねさせたくありません
ダメージは毒耐性で緩和しマス


造られたモノであっても、ヒトはアナタをかみさまと定めた。定めてしまった
身勝手な願い、呪いのような祈りと思うのに、受け止めも切り捨ても出来ず苦しむ
その精神性こそ神でない証だというのに……
ワタシを含め、多分ここの猟兵の多くは、世界の滅亡阻止だけでなくアナタの解放を望んでいる
己の苦しみより大事なことと思い、偽神となる者も居るでしょう
そういった生命を支えるのが、ワタシの役目ですから。戦う者を後押しする光、ヒトの未来とアナタの安息、その為に歌い祈ります


カルパ・メルカ
争いは苦手なんだけど、うっかり予兆なんか見ちゃったものだから
色々弄り回された身としては、あれはちょっと捨て置けない
辛い記憶は忘れちゃったし、知った風な口を利ける立場じゃないけどさ
キミがそれを望むなら、そうしてあげる

戦闘力には自信ないから、追加でお薬を注射しとこう
死ぬのは怖いし痛いのも嫌だけど、我が身可愛さで見過ごすのはもっと嫌

UC発動、霧状にして散布
イラクサは体内に溜まった毒素を排出する自己防衛機構
普段はすぐ打ち止めなんだけど、今回はお相手が燃料くれるからね
じゃあ泥仕合と行こうか

動きが鈍ったら屠龍の拘束を解除
龍を殺せて神は無理って事もないでしょう
彼の苦痛も、悲嘆も、絶望も、余さず全部喰い尽くせ



 乾いた空が泣いているようだと、ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)は仰ぎ見た。吹きつける西風が嵐の凄まじさを物語るから、ルドラもまた本質へと意識を向け直す。
 ストームブレイドたるルドラには、視えていた。嵐は確かに人家や生命を喰らう。
 飲み込み、飛ばして、落とし、バラバラに砕くことだってする存在だ。だから。
「俺は、この荒野で奴へ示すために来た」
 嵐の剣の本質は、救世だと。
 訪れた理由を、星月夜よりも深い青の眸でリュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)も見つめる。悪天候に見回れた戦場は慣れっこだが、自らの体内を駆け巡る細胞には、どうにも。
 ――怪しいもの体にいれるのは嫌だけど……これも仕事だ。
 覚えたのは不安というよりも懸念。些細な体調の変化も注視しておかなければと、彼は偽神の細胞と共に征野を踏む。
 一方カルパ・メルカ(被験体七七號・f04679)は、目まぐるしい戦況の変化にそれこそ眩暈を覚えながらも、嵐に削られ続ける砂岩の大地へ立っていた。唸りながらこめかみを押してみる。注射する前だというのに、心なしか頭が痛む。
 ――うっかり予兆なんか見ちゃったものだから、やっぱりね。
 夢見が悪い、と理由を繋げて彼女は偽神細胞液を注射する。
 仲間たちが細胞を取り込むのを見守って、リュカがふうと苦しげな息を吐き出す。
「……こんな、痛みとか諸々のことが……あるんだ。早期に決着をつけたいよね」
 意識を手放すほどでなくとも、骨の軋みから血が焼け付く感覚まで休みがないのは、厳しい。
 他の猟兵たちの動向を見ていたリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)が、そこで顔をもたげる。
「ワタシは、入れない代わりに支えまショウ。君たちのみちゆきを」
 宣言にルドラたちは僅かながら瞠目するも、そうかと短く答えるのみ。
 リインルインの面にも迷いは塗られていない。真銀の尾を揺らめかせ、ただただデミウルゴスを映すばかりで。
 男の姿を知ったからこそ、カルパが自分の腕をさする。
 死ぬのは怖い。苦しむなんて嫌だと直感で思うのに、今のカルパを占めるものがもうひとつ。
「……捨て置けませんね。あれはちょっと」
 少女があれと称した男こそ、デミウルゴスその人だ。
 近付くな、寄るな、来るなと猟兵たちを拒む様は捉え方次第で怯えているようにも見え、カルパは顎を撫でて沈思する。偽神細胞によって数多の祈りを耳にしてしまった彼の現状が、どうも他人事とも思えない。だから我が身可愛さで彼を見過ごすのは、もっと嫌だった。
 徐に男を見据え、リインルインは発声器官の片側へ歌を寄せる。
「願うな……黙れ、見るな……!」
 デミウルゴスが傷つき、苦しんで、四肢を溶かしてもなお、聲たちはかれを逃そうとしない。偽神細胞がそれを許さなかった。だからといってリインルインは歎かない。哀しまない。焦らない。彼女が望むのは、猟兵たちの想いで艶めいたひとつの道が、繋がることだけ。
 もどかしく、時にやるせなさを抱えて生きていくすべての命へ、等しく唄う。そのための声だから。
 リインルインが祈歌を紡ぐ間は、皆の身体にも力が湧く。相も変わらず拒絶反応という激痛や苦悶からは、逃れられないけれど。それでもだいぶマシだと、リュカは深呼吸して、大丈夫、と静かに紡ぐ。
「制圧射撃で場は整えるから」
「……するから?」
 明らかな言いかけにカルパが続きを促すと、リュカも少しばかり眉を押し上げて。
「接近するのはよろしく」
「よろしくされようか」
 カルパより先にルドラが応じ、踏み込んでいく。ルドラの呼気が見えざる波紋を喚んだ直後、狙い澄ましたリュカの銃から、星が流れた。蒸気が押し出した糠星の煌めきは、発砲した当人の抱える激痛をよそに空を駆る。嵐にくるまれた荒野がどれだけ涸れていても、彼の星はデミウルゴスを見失わない。
 ――願いをかなえるには力が必要だ。
 リュカの眼差しは銃口の先、苦悶に喘ぐ男をじいっと見据える。
 連ねてルドラは、銀月めいた色彩を嵐の中でなびかせて、デミウルゴスへ迫る。リュカの射撃により意識が紛れたのか、男はルドラに気付くまでほんの僅か、時間を要した。
「……神として創られた昏き嵐よ」
 ルドラが呼べどまなこは虚ろ。青褪めた唇が語るのは、絶えぬ祈りへの恨みつらみ。
 やはり簡単には届かぬか、と眦へ悔しさを孕んだルドラを見届けて、カルパは少し肩を竦める。面差しこそ常と変わらぬ笑みだが、やはり。争いは苦手だな、と砂礫混じりの西風に頬を打たれながら思った。思いながら杖を解放し、標的を捕食するために
 イラクサ、とカルパが紡ぐ。
 霧を願った金角が散布したのは、正しく毒。デミウルゴスへ痺れをもたらし、動きを鈍らせる。
 しかし男の扱う断罪の刃は、停止という文言を知らない。切り払われた拍子に毒を撒き、ただでさえ激痛と戦う猟兵たちをより死へと手招く。だが深い興味に駆られたわけでもないらしく、男の意識はすぐさま、頭を打ち鳴らしてやまない祈りたちへ浸かった。
「じゃあ泥仕合と行こうか」
 カルパの一言により、乾いた世界で毒に毒が上塗りされていく。
「……やめろ……黙れッ!」
 尚も拒みつつ、デミウルゴスは大剣を振りかざす。

 歌が、聞こえる。

 鬱陶しく縋る祈りたちの隙間を縫う声に、デミウルゴスは漸く気付いた。今まで聞こえなかったそれは、人々の聲が風塵となって遮っていた歌声。涸れた地ばかり見ていた男の双眸が、いつしか歌を辿りだす。
「これは……何だ……?」
 ほぼ吐息に近い問い掛けだ。
 得体の知れぬ歌を探りつつも彼は、手にした刃で世界の息吹を、猟兵たちを討とうとして。
「っ!? な……」
 一驚したデミウルゴスの焦点が定まらない。
 リインルインが、歌の主が仲間の前へ飛び込んだのだ。
 ――ただでさえ、苦しそうな拒絶反応ですから。
 仲間へ苦悶を重ねさせたくはなくて、動いていた。
「アナタは、かみさまではありません」
 言葉だけならば否定にしか聞こえぬものの、リインルインの声色は至って静かで、そして肯定的だ。
「けれど、ヒトはアナタをかみさまと定めた。定めてしまった」 
 流れ続ける歌とは別の器官で、彼女は逢瀬の時を語らう。
 人心がデミウルゴスへ突き刺す、身勝手な願いたち。祈りの刃は呪いのごとく男の総身へ刺し込まれ続けているのに、凶器を抜くどころか止血すら叶わず、そのまま連れていくしかないデミウルゴスの辛苦。
 ――その精神性こそ、無敵でも神でもない証だというのに……。
 リインルインは、艶めくまなこに過去の骸を、いや、『ただのひと』を映す。
「ワタシを含め、ここに居る多くはアナタの解放を望んでいマス。そのために偽神となる者も居たでしょう」
 己の苦しみよりも、身体をバラバラに引き裂かれるほどの痛みよりも、ずっとずっと大事なことだと考えて。
 ですから、とリインルインは結い合わす。
「ワタシは歌い祈りマス。戦う者を後押しする光、ヒトの未来とアナタの安息、その為に」
「ッ、アアァァァア……!!」
 絶叫が、空高く突き抜けて轟く。
 禍つ風を堕とすルドラは、断罪の剣をちらと見やった。生きるもの全てを殺す呪いが、細胞が、デミウルゴスの刃から一帯へと鏤められていくのならば。
「おまえの絶望も、嘆きも……ここで終わらせる」
 万物を縛るアーディシェーシャ。今度こそ使わせぬ、とルドラはデミウルゴスを侵す細胞の力に抗う。そのために揮う力を、技を、押し止めてやると決めたから。デミウルゴスの喘ぎが声にならず地へ転がった。そしてデミウルゴスは剣を振り下ろした。
 彼が断罪の剣で断とうとしたのは、何だったのか。
 振り下ろした刀身は重たく大地を抉り、震わせ、猟兵たちの足元をぐらつかせた。しかし噴き出すはずの死の毒は、野を包まない。剣に叩かれた荒野が震撼しただけで、封じられた一太刀は猟兵たちを死の色で染め上げない。
 そして響くのは、明日へと踏み締める足を支え、俯く顔を上げるよう意識を支えるリインルインの歌。
 リュカは遠退きかけた意識をどうにか引き戻す。耳鳴りの所為で音は捉えにくいが、仲間の奏でるものが染み入るのを感じられた。だから呼吸を整え、視界に入る情報を減らす。指折り数えられる程度の情報量が残った景色でなら、照準も定めやすいだろうとふんで、片目を瞑る。
「グ、ォォ……俺に、俺の何を……何を知っていると云うのか……!」
 言われると想定していた言葉をぶつけられ、カルパは目許を緩めた。辛苦だらけだった日々の残滓すら見事に吹き飛んでいるから、カルパがデミウルゴスの辛さへ寄り添えるとも限らないけれど。それでも片手を差し出した。
「キミが望むなら、そうしてあげる」
 苦痛も、悲嘆も、絶望も、余さず全部喰い尽くしてあげられる。
 デミウルゴスが少女の手を切り落とそうと剣を握り直すも、リュカの狙撃で叶わずに。刹那、デミウルゴスの腕へと絡み付くカルパの屠龍。そして銃口を下ろしたリュカが綴るのは。
「……あなたには、願いをかなえる力も、自分を殺す力も足りなかったんだね」
「ッ黙れ……俺は!」
「でも……」
 砂塵の最中だというのに、微塵も曇らないリュカの面差しは、男を瞠目させた。
「後者はきっと、もうすぐ叶うよ」
 リュカの一声が、猟兵たちにとっての好機となる。
 双剣と化した羅睺の刃を構え、間合いを詰めたルドラが再び声をかけた。
「おまえが世界を赦さず、ヒトビトを殺め続けるのなら……」
 デミウルゴスの意志を見ようとするも、かの者の意志はひどく揺らぎ、くすんでいた。
 平穏を奪われた魂の叫びが、ルドラにも聞こえてくるようで。
「俺は、おまえを止める軛となる!」
 だから末期を飾るのは、この一閃だと決めていた。終着が救いであることを祈りながら、ルドラはデミウルゴスへ終幕をもたらす。やがてデミウルゴスの命が、男を構築していた細胞のすべてが、砂へ溶けていく。
 リインルインの歌は今も響いていた。だからこそデミウルゴスは、さらさらと笑う砂に囲まれ、疲れきった瞼を閉ざす。
「ああ……歌が、よく、聞こえる……」
 重苦ばかり滲ませていた顔に、穏やかさが咲き始める。
 そうして、彼だったものは西風に浚われていった。
 泣きそうなぐらい乾いた空の彼方へ。静寂の海へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月17日


挿絵イラスト