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アポカリプス・ランページ⑪〜DEAD AND DEAD

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「死ぬかもしれねえ。覚悟はあるか」
 ――それが、猟兵達を招集した男、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)の最初の言葉だった。
「とうとうフィールド・オブ・ナインの一体『無敵の偽神「デミウルゴス」』への路が開いた。そう、無敵だ。身も蓋もねえ。奴には武力も魔術も核兵器も、一切の力が通用しねえ」
 彼の姿を『予兆』として視た者は、彼の望む事象を知っているだろう。
 偽神なるデミウルゴスに救いを求める者達の死か、或いは己自身の死。
 静寂だけが、男の望むすべて。
 無敵の特性を持つ男にとって、あまりの皮肉だ。

「突破手段はひとつだけ。奴は体内に『偽神細胞』を持つ者からの攻撃は無効化できねえ。確か、ストームブレイドの力は偽神細胞によるものだったよな。集まってくれたあんたらが全員この力を持ってりゃいいんだが――」
 ジャスパーは猟兵達の顔をひとりひとり見つめ、そんな都合イイ事は起こらねえよな、と肩を竦めた。
「ストームブレイド以外の攻撃も通す為には、偽神細胞液を体内に注射するって手段がある。これは猟兵達がソルトレークシティのオブリビオン達を倒した時に入手したモンだ。これがあれば誰でも一時的に『偽神化』できるってワケだが……」
 少しだけ言い淀むように視線を落とし、すぐに向き直ってジャスパーは告げる。
「偽神細胞の力を比較的安定して使い続けているストームブレイドでさえ、細胞の拒絶反応で短命な奴が殆どって話だ。碌に検査もしねえで注射した場合、下手したら命に係わる」
 しかし、猟兵に残された時間もまた、限られている。
 覚悟を持ったものが、行かねばならない。


「……煩い……煩い……煩い……!」
 頭の中に声が絶え間なく響く。
 異形の腕で、男は己の頭を抱える。この鉤爪で、頭を潰せてしまったら、どんなに楽だろうか。
「助けてくれ」「裁いてくれ」「赦してくれ」……。
 ああやめてくれ。俺が神などであるものか。お前達の信仰がどのようなものであるかも俺は知らない。興味さえない。

「……黙れ……黙れ……黙れ……! 俺に……お前達を救う力など無い……!」
 それほどまでに裁きを願うなら。祈りの声が聞こえなくなるまで、俺がお前達を殺し尽くしてやる。
 あるいは、俺を殺してくれる誰かが、現れればいい。
 だが偽物の神に、真なる神はわざわざ手を下すだろうか?
 そんな物好きがいるのなら、それこそ救いようのない偽物ではないか――?


ion
●お世話になっております。ionです。
 フィールド・オブ・ナインの一人、デミウルゴスのシナリオをお届けします。

●プレイング募集:9/16 朝8:31~
 めちゃくちゃに申し訳ないのですがワクチンの接種を控えておりまして、体調を崩す可能性があります。戦争シナリオなので再送のお願いなどはせず、書ける範囲での執筆となります。プレイングが不採用となる可能性がいつもよりも高いことをご了承くださいませ。
 物理的にプレイングが送れる状態だったらお客様の判断で再送頂いたりは大丈夫です。

●プレイングについて
=============================
 プレイングボーナス……「偽神化」し、デミウルゴスを攻撃する。
=============================
 上記を満たすと判定が有利になります。というよりも偽神細胞がないと攻撃が通らないので、「他の猟兵のサポートに徹します」とかのプレイングでない限り、望んだ結果が得られづらくなるでしょう。
 ストームブレイドさんはプレイングボーナス無しでも攻撃できますが、「更なる力を求めて細胞を接種するぜ! この身がどうなってもお前を討ち取る!」みたいなプレイングも素敵だと思います。

 接種すると死ぬかもというのはフレーバーであり、本当にリプレイ中に死亡判定が生じるものではありません。
 命を葛藤に晒す事による葛藤や苦痛などの演出はプレイングにあれば採用いたしますので、ぜひぜひ。
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第1章 ボス戦 『デミウルゴス』

POW   :    デミウルゴス・セル
自身の【偽神細胞でできた、変化する肉体】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[偽神細胞でできた、変化する肉体]から何度でも発動できる。
SPD   :    偽神断罪剣
装備中のアイテム「【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】」の効果・威力・射程を3倍に増幅する。
WIZ   :    デミウルゴス・ヴァイオレーション
自身が装備する【偽神断罪剣(偽神細胞製の大剣)】から【強毒化した偽神細胞】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【死に至る拒絶反応】の状態異常を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※お知らせ※
MSコメントにてプレイングは16日受付開始とありますが、正しくは15日開始です。参加をご検討くださっている方、申し訳ありません。
ブラッツ・クルークハルト
偽神細胞液を注射

どうせ改造を受けた体だ
この身が人間から離れゆくことも
生死を彷徨う苦しみもどうだっていい

俺が生きても、死んだとしても
細胞とやらを人体に試す
『実験』程度にはなるだろうし
クソ、馬鹿げた世界だ、本当に

アサルトライフルで応戦
銀弾撃ち込み
消えない傷と毒を
微力でも齎せたなら

…お前の気持ちは解る気がする
俺だって誰かの救世主になんかなりたくない
祈られる身が厭わしい
命ごと投げ捨ててやりたいさ

でも、…ああ、やっぱり
…生きたい
護りたい子がいるんだ
生かしてくれなんて神にも偽神にも願わない
俺は――僕は、生きて帰る
お前と僕は似ている気がするが
同じじゃないな

救いになるかは知らないが
猟兵が、きっとお前を殺すよ




 偽神化?
 どうだっていい、とブラッツ・クルークハルト(隘路に・f25707)は吐き棄てる。
 今更この身が人間から外れていく事を疎ましく思う必要もない。改造を施され、『救世主』として祀り上げられた己には。
 生死を彷徨う苦しみだって、どこか他人事の様だ。救われたくても、それを口にする事さえ許されない。
(「――俺が生きても、死んだとしても」)
 細胞とやらを人体に試す『実験』程度にはなるだろう。或いはそれを元に、より理想的な『救世主』が生まれるのかもしれない。素質があれば中身なんてどうだっていいのだ、彼らは。
「クソ、馬鹿けた世界だ、本当に」
 何千、何万と呟いた言葉をまた零しながら、ブラッツはアサルトライフルを構える。狙うのは男の右腕。異形に覆われた上半身の中で微かに残る生身の部分目掛け、銀の弾が真っ直ぐに飛び込んでいった。
「――……」
 銃弾はデミウルゴスの腕を確かに捉え、その内部に留まっていた。癒えぬ毒と傷を齎し続けるそれを見下ろし、男はどこか落胆したかのように呟く。
「偽神細胞を利用して、ようやくこの程度か」
 猟兵ですらこの身を滅ぼす事が出来ないのか。男は息を吐き、負傷した筈の右腕で易々と大剣を構えた。
「……お前の気持ちは解る気がする」
「ほう。猟兵風情がか」
「俺だって誰かの救世主になんかなりたくない」
 男が柳眉を顰める。携えた大剣を、すぐに振り翳してくる事はなかった。ブラッツは続ける。
「祈られる身が厭わしい。命ごと投げ捨ててやりたいさ」
「そうか。ならば」
 大剣が振り下ろされる。
「死ね」
 刃はブラッツより程遠く、なのに激痛迸る身体に更なる痛みが齎される。強毒化した偽神細胞がブラッツに侵入し、内部から身体を破壊されていく。
 ごぼり、血を吐いた。眩む意識に、あの子の笑みが映る。
「でも、……ああ、やっぱり、……生きたい」
 ひゅうひゅうと喉が鳴る。くずおれそうな膝に力を込め、再びアサルトライフルを翳した。
「護りたい子がいるんだ」
 巻き込まないために、知人に預けた幼い息子。ほんの少ししか逢えないスヴェンは、目にするたびに大きくなっていて――その度に嬉しさと、途方もない寂しさを感じる。
 愛する人のために生きる事も出来ないのか。救世主というやつは。
「命乞いか? 願うなら俺じゃない。俺は神じゃない」
「願わないさ。神にも、偽神にも」
 ただ。
「俺は――僕は、生きて帰る」
 銀弾が連射される。難なく大剣で弾き飛ばしながら、デミウルゴスが距離を詰めてくる。
(「お前と僕は似ている気がするが、同じじゃないな」)
 細胞に身体を侵されながら、薄れゆく意識の中でブラッツは云った。
「救いになるかは知らないが。猟兵が、きっとお前を殺すよ」
 男は、何も云わなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ連携OKです

昏い慟哭が聴こえた。
おまえの嘆きも哀しみも、救ってみせる。
それが嵐の剣の宿命だ。

【アーディシェーシャの蛇縛】
その偽神細胞、まるで生きるもの全てを憎むようだな。
だが、どんなに世界を憎もうが、その不条理で奪われる未来があるのなら、奪還するのが俺の使命だ。

アーディシェーシャの呪縛でUCを封じ込み、断罪の剣と偽神細胞を抑える。
UCを封じ、勝敗を決するのは己の力、武器、魂の強さ。
限界突破、覚悟と闘争心を力に変え、チャンドラーエクリプスを一刀の剣に変え、リミッターを超えた一撃を放つ。

デミウルゴス、共に歩む者、心を通い合わせる友が居たなら、おまえにもヒトとして生きる未来があっただろう。




 ストームブレイド。
 偽神細胞を植え付けられた人々の通称。ルドラ・ヴォルテクス(終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181)も、その一人だ。
 嵐の剣。奪われた未来を奪還する剣であり、滅びを破壊する力であり――そして、ルドラから未来を奪うものでもある。
 駆け抜ける戦争。加速度的に進んでいく命のカウント。それでもルドラは止まらない。
(「……昏い慟哭が聴こえた」)
 大剣を持つ男は、時々何かを払うように頭をぶんぶんと振っていた。救いを求める声が今も止まないのだろう。
 何もかもを殺してやると唸る男の裡に、底なしの嘆きと哀しみが確かに聞こえた。
「救ってみせる。それが嵐の剣の宿命だ」
「黙れ……黙れ!!」
 鉄塊の如き大剣が横薙ぎに閃き、生命を蝕む偽神細胞が放たれる。
「まるで生きるものすべてを憎むようだな」
「俺を憐れむのなら、まずはお前から息絶えろ」
「いや……」
 放たれた時間停止コード・アナンタ。蛇の呪縛は今という時を永遠に縛り付け、細胞の進行を停止される。
「どんなに世界を憎もうが、その不条理で奪われる未来があるのなら、奪還するのが俺の使命だ」
「ぬぅ……!」
 男がぎりぎりとルドラを睨みつける。アーディシェーシャの蛇縛に抗っている。気を抜けば力が逆流してきそうだ。
(「耐えろ」)
 ルドラが命じる。力のぶつかり合いを制するのは武器の強さと、魂の強さだ。力を展開する武装、覚悟、ユメ、願い、繋がる意志、紡ぐ誓い――全てを抱いて覚醒した証に、念じ続ける。
 それでもデミウルゴスの力は強く、徐々に全身が蝕まれていくのをルドラは感じた。元々禍風を殺す力を埋められた身に、新たな異物が猛烈な拒絶反応を起こし始める。
(「まだ、この身体が崩壊する時ではない」)
 羅睺の刃が、ルドラの覚悟と闘争心を受けて姿を変えていく。一刀の剣に。
「馬鹿な」
 デミウルゴスが息を呑んだ。
「まだ動けるというのか」
 それほどまでに己の身体が侵されているのだと、ルドラはそこでようやく知った。構うものか。痛みも苦しみも、一切の危険信号を置いてけぼりにした身体が、不死身の偽神へと刃を届かせていた。
 刻まれた傷。抉られた異形の肉を、男は信じられないものを見るような目で見下ろしていた。
「……デミウルゴス」
 刃を引き抜きながら、ルドラは云う。
「共に歩む者、心を通い合わせる友が居たなら、おまえにもヒトとして生きる未来があっただろう」
 燃え尽きる事に、悔いはない。それでも、それだけでは生を駆け抜けてはこられなかった。
 ルドラを一人の人間たらしめている人々が、彼にはいる。同じ偽神細胞を持つ者の差異は、案外そんなものなのかもしれない。
 そしてそれを知るルドラはきっと――誰よりも、“生きている”という言葉がふさわしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
…人形の身でも、拒絶反応はきっと起こるのだろうね
コアに影響がないならいいのだけれど
毛を逆立てるneigeを撫で
うん、怖いよ
この身体が壊れたら、もう誰とも繋がれなくなってしまう
折角繋いだ友との縁を切りたくはない
でもね、ネージュ
助けを求める声を無視したくはないんだ
だから今、偽の神にもなってみせるよ

…ぐ、ぅ…
体内の魔力が滅茶苦茶に暴れている
清浄なマナを求めて自然と呼吸が荒くなる
内側から裂かれるような拒絶反応の凄絶な痛みに耐えながら
それでも

…行くよ、ネージュ

相棒と共に籠められる最大の魔力を練り上げて
最果ての冷気の槍を振りかざし
貫いた瞬間倒れたっていいから

君を助けたいと言ったら、信じるかい
デミウルゴス




「……人形の身でも、拒絶反応はきっと起こるのだろうね。コアに影響がないならいいのだけれど」
 静かに呟くディフ・クライン(雪月夜・f05200)の肩の上で、はいいろの雪精が毛を逆立てる。宥めるように撫でながら、ディフは静かに頷いた。
「うん、怖いよ」
 いつからそんな感覚を識ったんだろう。感情など、知識だけのものだった、はずなのに。
 世界が鮮やかに色づくたびに、それを失う恐怖もまた、彼の心を塗り込めていく。この身体が壊れたら、もう誰とも繋がれなくなってしまう。自分という器を得て出逢った友の顔を思い浮かべれば、その縁が切れる事にますます恐れを抱く。
「でもね、ネージュ。助けを求める声を無視したくはないんだ」
 切なる願いを、敵や味方という垣根を越えて、受け止めたいとディフは願った。
「だから今、偽の神にもなってみせるよ」
 地下研究所から発見された液体が、注射針を通ってディフの体内に入っていく。

「……ぐ、ぅ……」
 異変は想像以上に素早く、そして急激に訪れた。
 体内のマナが滅茶苦茶に暴れている。生物が空気を求めるように、ディフの身体も清浄なマナを求めて呼吸が荒くなる。
 暴発を防ぐだけでも多大な労力を要するようだ。その上、内側から裂かれるような凄絶な痛みが全身に響いている。
 ネージュが異変を敏感に察し、ぴとりとディフに寄り添った。
「だい、じょうぶ……行くよ、ネージュ」
 殆ど倒れ込むように歩み出した身体が、“転送”を受けて彼の元へと運ばれていた。
 無敵の偽神、デミウルゴスの元へ。
「……新手か」
 大剣が横薙ぎに振られる。羽虫を追い払うような無造作な動きだった。
 新たな偽神細胞がディフの内部に憑りつき、全身を蝕んでいく。ヒトであったなら今頃夥しい量の血を吐いていたに違いない。つくりものの身体は表面的には無傷だった。出来れば最後の祈りが込められたコアも、そうであって欲しい。
 制御を失いかけた体内のマナを、無理やり統制して一本に結びあげる。ネージュの力と共に練り上げれば、最果ての冷気を込めた槍が形成される。
 常であってもコントロールの難しい力だ。生命を奪う絶対零度の槍は、一瞬でも気を抜けば放たれる事さえ無く砕け散ってしまいそうになる。
「……大丈夫」
 もう一度、祈るようにディフは云った。ネージュの助けを借りながら、冷気の槍がデミウルゴスへと降り注いだ。
 槍が異形の胸を貫いていた。すぐさまそれは引き抜かれ、男の持つ偽神細胞が傷を修繕し始めてしまう。けれど。
 続く猟兵の気配。一撃一撃は軽くとも、やがては無敵さえも討ち取る力となる。
「君を助けたいと言ったら、信じるかい……デミウルゴス」
 膝を折りながらも、ディフは真っ直ぐに男を見上げて云った。
「偽善者はごまんといる。わざわざ疑う理由はない」
 男は案外すんなりと頷いた。けれど続く音葉はディフを拒絶する。
「だが、俺がこの世界の命を狩り尽くす方が、お前達が俺を殺すよりも余程容易に思えるな」
「今に……わかるよ」
 不可能を可能にし続けてきた、猟兵……いや、ヒトという存在のことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソフィア・エーデルシュタイン
打倒する手段があるというのなら、何も躊躇う必要はありませんわ
どんな痛みも、苦しみも、わたくしは拒絶しません
例え、偽神細胞とやらがわたくしを拒絶しようとも

だってわたくし、嬉しいんですの
偽神細胞を取り入れたわたくしも、これで貴方と同じ偽神
貴方の切望を聞き入れる権利を得たと思いませんこと?

さぁ、愛されるべきひと
わたくしの挑戦を受け止めてくださいまし

わたくしに出来るのは煌矢で貴方を穿つことだけ
貴方が毒を放つというのなら、刺し違えてでも矢を届けるだけですわ
死に至る?厭う必要があるかしら
わたくしはわたくしを曲げません
逃げることも隠れることも恐れることも震えることも
わたくしには求められておりませんの




 その女性は、無敵なる偽神デミウルゴスを前に、微笑んでいた。
 訝しむ男を視界に収めれば、ソフィア・エーデルシュタイン(煌珠・f14358)の宝石の如き眼差しはますます美しい弧を描く。
「気でも触れたか」
 デミウルゴスの声には憐みさえ感じられた。猟兵の攻撃が多少なりとも不死身の偽神を傷付けるに至っているのは、彼女達もまた偽神細胞を用いているからだろう。だが適性の無い者にそれを付与すれば、どうなるかは火を見るより明らかだ。痛みに精神を蝕まれても何の不思議もない。
「だってわたくし、うれしいんですもの」
 ソフィアの言葉は、やはりデミウルゴスにとって推測の正しさを裏付けるものにしか思えなかった。
「これでわたくし、貴方と同じ偽神になれましたのよ」
「偽物の神の、更に偽物か」
「これで、貴方の切望を聞き入れる権利を得たと思いませんこと?」
 微妙に噛み合わない会話。デミウルゴスの眉間に刻まれた皺が深くなる。
「敵に情けをかけるとは、とんだ物好きだ」
「そうでしょうか。わたくしも貴方も、この世界に生きるいのちですから」
 生命は。その誕生には、愛があるはずなのだ。自らの生まれも知らぬソフィアは、今でもそう信じ続けている。名も知らぬ父へ、顔も知らぬ母へ、子として愛を返せずにいるソフィアは、その博愛を全ての存在に注いでいる。
 その為にある力だって、彼らからの贈り物に違いないのだから。
「さぁ、愛されるべきひと。わたくしの挑戦を受け止めてくださいまし」
 ソフィアの翳した手の上に、氷の如き楔が無数に形成される。大きさを増し、精密さを増し、デミウルゴスへと襲い掛かるは青玉髄の槍。
「……いいだろう」
 男は静かに息を吐いて、直後猛然と地を蹴った。
 豪雨のように注ぐ煌矢の中を、一切の防御を棄てて突っ込んできた。未だ傷を刻み付け続ける銀弾の埋め込まれた右腕で、大剣を振るう。
 ソフィアを蝕み続けていた苦痛が、一段と強くなる。宝石の身体が砕け散ってしまいそうな感覚を受けて尚、ソフィアは微笑を絶やさなかった。デミウルゴスを貫き続ける煌矢の勢いも。
 ――毒を放つ? ならば刺し違えてでも矢を届けるだけ。
 ――死に至る? 厭う必要があるかしら。
 ソフィアは、いついかなる時もソフィアだ。自分を曲げることは決してない。男に指摘されたような歪みも、自覚することはない。
 何もかもが愛おしい。だから、願いを聞き届けたい。
「逃げることも隠れることも恐れることも震えることも、わたくしには求められておりませんの」
 どんな痛みも苦しみも、拒絶する必要さえない。

 やがて限界を迎え倒れ込むソフィアを見下ろし、男は去っていく。
 ばらばらと、氷の如き矢が零れ落ちていった。男の身体には、無数の傷が確かに刻まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラブリー・ラビットクロー
殺し殺され
死に死なせ
そんなんじゃヒトもカミサマも救われない
助けるばっかじゃダメなん
助けられるばかりでもダメなんだ
互いに手を取って支えあうから未来へと続くんだ
それがホントの永遠ってらぶは信じてる
細胞液なんて要らない
らぶにはセカイの仲間がついてるから

ヒトはなんでお前を造ったのかな

ラビットファングはいつだって未来を切り拓こうと振るわれてきた

いつからヒトは祈りを捧げてるの?

そのバットはヒトビトの笑顔が灯る明日を目指し続けた

でも縋られるばっかじゃ疲れるのん

ラビットブレスは暗闇を払う篝火で在り続けた

一人で生きられるヒトっていない
カミサマだってそう
時には甘えていーんだぞ

最後に振るう拳は明日を掴む為の拳なんだ




 救いを齎す存在として、偽なる神は作られた。
 神には人々が望むような力も、またそうあろうとする心も無かったが、狂信者たちにとってそんな事は関係なかった。
 神は、神としていればいい。偽神に縋る人々の心はひとつになり、かの異教の地位はますます強固なものとなった。
 でも、神は?
 四六時中止まない救いの声に苛まれ続けた男は、人々に声をあげさせるのをやめる手段として最も残虐な方法を選んでしまった。

「殺し殺され、死に死なせ、そんなんじゃヒトもカミサマも救われない」
 少女の声に、男は振り向く。小柄な身体に不釣り合いなごついガスマスク。ラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)が言葉を続ける。
「助けるばっかじゃダメなん。助けられるばかりでもダメなんだ。互いに手を取って支えあうから未来へと続くんだ。それがホントの永遠ってらぶは信じてる」
「……そうだろうな」
 案外素直に、男はラブリーの言葉に同意した。
「俺も、そんな風に能天気に信じられる人生とやらを送ってみたかったよ」
 装備はともかく、見た目にはごく普通の少女にしか見えないラブリーの生き様を、男は知らない。
 偽神と同じように作り出された命であることも。
 ある日突然、タブレット端末と“二人”で取り残されてしまったことも。
 瘴気のないステキな場所で皆は幸せに暮らしてると信じ続けていたことも。
 そうではないと知った時、そしてそんな中でも人々は諦めていないと知った時。
 身体に馴染まない清浄な空気に身を晒す事も厭わず、外の世界に飛び出していったことも。
「……ヒトはなんでお前を造ったのかな」
「縋る存在が必要だったんだろうな」
「ユメは、誰かに背負わせるものじゃないぞ」
 虚無めいた眸がラブリーを見返した。その手元にある武装を。
 チェーンソー。火炎放射器。それから何故かバット。
「そんなもので、俺に情けをかける気か」
「一人で生きられるヒトっていない。カミサマだってそう」
 時には甘えていーんだぞ。ラブリーは目を細める。
 今まで、そのような存在に出逢えていなかったのなら。最後くらい、ラブリー達に任せればいいのん。
「……見た所、お前の偽神細胞は元々組み込まれた脆弱なものに過ぎぬようだが」
「細胞液なんて要らない。らぶにはセカイの仲間がついてるから」
 男はわけがわからないと云うように肩を竦める。そして大剣を構え、恐るべき速度で間合いを詰める。
 ――ラビットファングはいつだって未来を切り拓こうと振るわれてきた。
 ――そのバットはヒトビトの笑顔が灯る明日を目指し続けた。
 ――ラビットブレスは暗闇を払う篝火で在り続けた。
 これまでも。そしてこれからも。
 流れるような三連撃を、強烈な反動が降りかかるのも厭わずラブリーは全て男へと叩き込んでいた。
 ラブリーの左肩に振り下ろされた大剣はバットによって骨を断つ事を防がれ、チェーンソーに弾かれ、空いた胴体に火炎放射器の炎が迫る。
 飛び退こうとする男へ、ラブリーは食らいつく。
 最後に振りかぶった拳は、明日を掴むための拳だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セツ・イサリビ
※猫は預けてきました
※武器は足元の何かを拾います
※偽神細胞で指の先から崩れていきます

神なんてものはたいした違いはないんだよ
君は人の声に応えられないことに罪を感じるのかい?
真面目なことだ、恐れいるよ

信仰を、祈りを、裁きを求められて苦しむなど
それは君が、偽物として作られた本物である証しではないのかな

この世界の神がどんなものか知らないが
どの世も人間の欲望は限りがない
俺は創るだけ創ってあとは人に任せることにした
君も気楽に生きられたら、少しは救われたのかな

気休めだろうが、俺は君を赦そう
異界の神の言葉では届かないだろうが

そろそろこの器(体)が限界だ
流石に痛むね
痛みを感じると、俺もヒトになれた気がするよ




 命を与えた黒猫は預けてきた。いつか来る、そして何度も体験してきた別れをわざわざ今、味わいたくなんてない。
「不思議な理屈だね。偽神化とやらを神に施すとどうなるんだろう」
 セツ・イサリビ(Chat noir・f16632)が首を傾げるのは純粋な疑問からだった。神が偽神に勝るだなんて思ってもいないが、偽神には偽神の攻撃しか通用しないというのも不思議なものだ。
 しかし疑問は疑問でしかなく、細胞を取り込むことに躊躇もない。たとえその結果、指の先から身体がはらはらと崩れていくのを目にしたとしても。

「そうか。お前は真実の神なのか」
 うっそりとした眼差しがセツを射抜いていた。
「神なんてものはたいした違いはないんだよ」
「だがお前は人を救うのだろう」
「どうかな。なかなかに重労働だから積極的にやりたいものじゃないね」
 飄々とセツは笑む。
「君は人の声に応えられないことに罪を感じるのかい? 真面目なことだ、恐れいるよ」
「俺はただ、この煩い声から逃れたいだけだ」
 男が獣のように唸る。今こうしている間にも、救いを求める声が脳裡に渦巻いているのだろう。
「信仰を、祈りを、裁きを求められて苦しむなど、それは君が、偽物として作られた本物である証しではないのかな」
「お前も……“煩い”な」
 ぎりぎりと、殺意が音を立てそうなほどに睨みつける。その視線を受けて尚、セツは飄々とした笑みを崩さない。
「この世界の神がどんなものか知らないが、どの世も人間の欲望は限りがない」
「黙れ」
「俺は創るだけ創ってあとは人に任せることにした」
「黙れ」
「君も気楽に生きられたら、少しは救われたのかな」
「――黙れ!! 俺は神などではない!!」
 刃が禍々しく輝き、セツの身体を強毒化した偽神細胞が侵していく。崩壊が始まっていく。ポウを撫でる事も出来ないくらいに手が崩れ、腕が崩れ――。
「気休めだろうが、俺は君を赦そう」
 人の子なら痛みで絶叫していただろう中でも、セツは微笑んでいた。
 偽神の身体に刻まれた十字傷。そこから絶え間ない激痛が齎されようとも。
 罪は等しく背負うものだ。偽神も、偽神を造った人々も、そして、神ですらも。誰も逃れられない。生ある限りは。
「異界の神の言葉では届かないだろうが」
 激痛に苛まれながらも、男はセツを睨めあげる。
「黙れ。憐れんでいるつもりか」
「まさか」
 そんな大層なものじゃないよ。涼しい顔で云いながら、セツは踵を返す。
「そろそろ限界みたいだ」
 器の崩壊が止まらない。このままこの場にい続けることは不可能だ。
「……流石に痛むね」
 ひとりごちる言葉は、むしろ嬉しそうですらあった。
「痛みを感じると、俺もヒトになれた気がするよ」
 ――或いは。本当にそうだったら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
──ハッ、リスキーな力!大いに結構なことじゃねえか
俺は躊躇しないぜ 別に死にたがりじゃない
勝利は全てに優先される 当然命よりもだ それだけの話
戦闘前に死なない程度に摂取してやる

おまけだ…ギアを上げるぜ──Void Link Start
エクステンド、『Void Jaw』
【ダッシュ】で一気に間合いを詰めるぜ
ナイフを二刀化、接近戦を仕掛ける
出力が上がってるうえに、偽神細胞のブーストもある
テメェと打ち合うには十分なパワーがある

おい…今何をばら撒いた?
じゃあよぉ…その「過去」を削り取るしかねえよな
その攻撃を行った過去を、俺が無かったことにした
腹と喉を切り裂いて、終わらせてやる
ハッ…まだまだ生きられそうだ




「──ハッ、リスキーな力! 大いに結構なことじゃねえか」
 随分と耳に馴染んだフレーズだ。ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)はそう一笑に伏した。
 戦場において、何よりも優先されるものがある。
『完璧な勝利』という結果だ。その為にはあらゆるものを払う価値がある。当然命でさえもだ。
「それだけだ。別に死にたがりじゃない」
 そして極限に身を置き続けてきたヴィクティムは把握している。己が死なない範囲を。力を限界まで引き出せるように量を調整した細胞の投与。全身の感覚が鋭敏になっていくのを感じる。
 ――もう一押しいけそうだ。
「おまけだ…ギアを上げるぜ──Void Link Start」
 過去の怪物を、過去のまま食らい尽くすために。未来を奪う為に。
「エクステンド、『Void Jaw』」
 禁断のコードがヴィクティムに漆黒を纏わせていく。過去を削る漆黒の虚無は、二刀化した生体機械ナイフに最も濃く纏わりついていた。
 男がちらりとヴィクティムを見、大剣を構える。構わずヴィクティムは突っ込んでいった。
 出力の増強。偽神細胞のブースト。やれるだけのことはやった。あとはぶつかるだけだ。
「テメェと打ち合うには十分なパワーがある、ぜッ!!」
 刃と刃がぶつかり合う。強化された身体能力で二刀を腕の延長のように巧みに扱ってみせるヴィクティムに対し、デミウルゴスは鉄塊の如き大剣を最低限の動かし方で操り阻んで見せる。
 見せつけるような余裕。おまけにヴィクティムの身体は現在進行形で蝕まれ続けている。絵に描いたような窮地にヴィクティムは笑みを漏らした。
「何がおかしい? お前は此処で息絶えるというのに」
 大剣が振り下ろされる。バックステップで躱したヴィクティムの視線は既に剣とは違う場所を向いている。
「おい……今何をばら撒いた?」
 それは猟兵達が投与したものとは比較にならないほど強毒化された偽神細胞だ。まともに取り込まれてしまえば待ち受けるのは死ただひとつ。
「はーん。じゃあよぉ……その「過去」を削り取るしかねえよな」
「何だと?」
 虚無の刃が空を切り裂いた。そうとしか見えなかった。
 その瞬間、ヴィクティムの刃が薙いだ周辺だけでなく、戦場を漂う全ての偽神細胞が――消滅した。
 比喩ではない。攻撃を行ったという過去を、本当に無かったことにしてみせたのだ。
「打ち合う為のパワーがあるって云ったよな。パワーってのは何も真っ向からぶつかるだけじゃ無いんだぜ」
 小細工は究極を捻じ伏せるためにある。“禁忌の力で強化された格下”なんて記号、油断を誘う為にはあまりに都合がいい。
 閃いた二刀がデミウルゴスの腹と喉を切り裂いた。血が噴水のように溢れだす。無敵の偽神細胞はすぐに傷の修復を開始してしまうが、完全に塞がるにはさすがに時間を要するようだ。
「ハッ……」
 未だ動く四肢を確かめながら、ヴィクティムは笑みを零した。
 ――まだまだ生きられそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
カミサマってヤツは嫌いだ。その俺がまさか『偽神化』するなんざ考えもしなかった。
カミサマ気取りの宗教やお偉い様なら偽とはいえ、喜んで受け入れるのかね、なんて。考えても意味ねぇか。

苦痛は全身に感じる燃えるような熱さ。表面じゃなく、中身だ。内部が焼けているような気配さえする。
けど、それでも俺はヤツを止めたいんだ。
感じる苦痛は表情に出さず。ヤツの前に立つ。
アンタを苦しめる声から俺が解放してやる。
俺の頭に響く声。『全てを殺せ』と。俺の中の化物が囁いてる。
うるせぇよ。俺はヤツを解放する為に来たんだ。

魔剣を顕現。UCの隙を付いて紫雷を纏ったUCを【串刺し】で放つぜ。
アンタは何も悪くねぇよ。だからもう眠りな。




 カミサマってやつは嫌いだ。言い伝えやら書物やらで語られる内容も碌なモンじゃないし、もし実在するならきっともっと碌でもない奴だ。猟兵として肩を並べる神ってのは人間みたいに千差万別で個性豊かで、だから中にはウマの合う奴も当然いるが、唯一神って奴はどうにも好きになれない。
「……だってのに、なぁ」
 肩を竦める皮肉屋。まさか自分が――カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)自身が偽神化するなんざ考えもしなかった。
「カミサマ気取りの宗教やお偉い様なら偽とはいえ、喜んで受け入れるのかね」
 口にはしてみたものの、真剣に考える気もなかった。どうせ考えても理解なんてできっこない。
 注入する異物に、嫌悪感が全身を駆け巡る。それを塗り替えたのは熱さだった。全身を内部から焼かれているような感覚があっという間に広がっていく。
 ――それがどうした?
 笑い飛ばしてやる。涼しい顔で、カイムは男の前に降り立った。
「よう」
「……お前」
 男は訝しがるようにカイムを下から上へ睨め上げ、合点がいったようにああ、と呟く。
「違うな。偽神細胞を元々組み込まれている個体じゃない。平然としているようにみえるが、立っているのもやっとなのだろう?」
「はは、バレたか。さっすが」
 カイムは素直に認め、からからと笑った。
「アンタを苦しめる声から俺が解放してやる」
 カイムの手の中に、ばちばちと紫電が迸る。いつしかそれは魔を帯びた剣の形を取っていた。
「……そのザマでか」
 魔剣を握る腕が、震えそうになる。いつしか眉間には深い深い傷が刻まれていた。痛みのせいではない。熱さで朦朧とする頭の中で、普段は抑え込んでいる自分自身の中の化物の声がいやにはっきりと響いているのだ。
 ――殺せ。全てを殺せ。
「……うるせぇよ」
 地面を踏みしめる。ああ、奴はずっとこんな調子なのか。他人の声なんてもんは抑える事も難しいだろう。生きている限り四六時中響き続ける聲。無敵の肉体。
 地獄じゃないか。
 男が大剣を振り翳した。練り上げた殺気が実体となって刃をより一層巨大なものにさせている。
 ひとの頸ひとつ容易く刎ねる凶刃の懐に飛び込まねば、紫電は届かない。
「いいぜ」
 やってやる。踏み込む足に、迷いはなかった。
 刃そのものの直撃を避けても、剣風に全身が刻まれる。噴き出す血。焼けるような熱さが加速する。
 血雫を吐き棄てながらカイムは疾駆する。目にも止まらぬ刺突はまさに雷の如く。
「が、は」
 呻く男の顔を、紫電が白く照らしていた。
「アンタは何も悪くねぇよ」
 迸る刃を更に奥へと押し込みながら、カイムは云った。
「だからもう眠りな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
はっはっは、真に真なる神は物好きなものよ
当然! 手を差し伸べるに決まっている!
発想を転換すればよい、お主と対等にバトるために、わざわざ妾がハンデを受け容れたと!

右手で、眼前の空間をコンコンコンっと
はーっはっはっは! ようこそ妾の統べる世界へ!
コピーされるならむしろ喜ばしい!
システム・フラワーズはお主にも必ず手を差し伸べるであろうよ
だが、その恩恵を十二分に受けられるかはまた別だ!

なるほど感動的なまでに全身が痛い! 正直ヤバい!
だが、それが攻撃が止まる理由にはならん!
邪神の左腕の一撃で、精々ド派手にブッ飛ぶがよい!

安心せい、お主は人を救えるとも
未来に動画を視聴する者たちに、感動を与えるであろう!




「はっはっは、派手にやっておるな!」
 爆ぜる紫電を満足そうに眺め、蛇の下半身を持つキマイラは呵々と笑う。
「……騒音が増えたか」
 幾度も刻まれた傷の痛みよりも、キマイラの良く通る聲のほうに男はうんざりと顔をしかめていた。
「よくもまあ、次から次へと。俺に係う変わり者共が集まったものだ」
「真に真なる神は物好きなものよ。当然! 手を差し伸べるに決まっている!」
「神、か。そうは見えないがな」
 男の発言は的を射てもいた。蛇神にして邪神、唯一無二の邪悪ゆえに世を跋扈する他の悪を許さず、無辜の民を救う圧倒的ダークヒーロー……なんてのは、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)が動画配信のために作り上げた設定である。
 設定ではあるが、だからこそ菘はブレない。カメラが回っている限り、皆が望むように振る舞い続ける。
 キマフュの一番星たる彼女が、視聴者をがっかりさせるようなことはあってはならないのだ。
「現に、偽神細胞無しでは俺とまともに戦う事すら出来ないのだろう?」
「発想を転換すればよい、お主と対等にバトるために、わざわざ妾がハンデを受け容れたと!」
「……ほう」
 面白がるように男が目を瞬かせる。菘の右手が何もない場所をコンコンコンっとノックするような仕草をした。
「はーっはっはっは! ようこそ妾の統べる世界へ!」
 途端、世界がめまぐるしく変化する。多種多様な花々が咲き乱れ、花吹雪舞う激エモ空間へと!
 そこで行われる偽神と邪神のバトル。どっかのウサギなら今頃迸るEMOで再起不能になっている。配信者ウケだって間違いない!
 偽神の異形腕が、がばりとあぎとを広げるように変化した。空間を喰らうように開き、閉じた瞬間、花々の世界がそこだけごっそりと消失している。
「おお、そうだったな。お主は他者の力を喰らってコピーするのだったな。システム・フラワーズはお主にも必ず手を差し伸べるであろうよ。だが……」
 菘はむしろ愉快そうに笑った。コピーされるのならばむしろ喜ばしい。演出的にとても美味しいヤツではないか。
 次の瞬間、映像が巻き戻るように喰らわれた花々が現れる。だがそれは男の力を受けて黒く、禍々しい花々へと変化していた。
「おお! なかなかに見事な演出ではないか。お主もシステムの恩恵を十分に受けられそうだな!」
「――ほざけ」
 男が大剣を振り翳す。すんでのところで避けた菘の髪が刻まれ、花々が散っていく。
 ただの回避動作だけで、全身がずくずくと軋む。
(「なるほどこれは――感動的だ! 正直ヤバい!」)
 めちゃくちゃ痛い。うっかり邪神様的に化けの皮が剥がれてしまいそうなほどに。
「だが……それがどうした!!」
 痛みで碌に動けないのなら、一発に全てを乗せてやる!
 渾身の一撃。狙い澄ました左ストレートが、カウンター気味に男の身体を吹き飛ばした。
「安心せい、お主は人を救えるとも」
 荒ぶる呼吸を必死で抑え、堂々たる振る舞いで菘は告げた。
「未来に動画を視聴する者たちに、感動を与えるであろう!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鍋島・小百合子
WIZ重視

命をかけて戦に臨むは武士の本懐なり
肥前が女武者・鍋島小百合子。この身を賭して推して参る!

偽神細胞なるものを打たれればわらわの体を巡る・・・ぐっ・・・まるで蟲毒を入れられたような痛みが・・・全身を・・・蝕む・・・

なんぞこれしき・・・斬られ射抜かれ叩かれ・・・戦の中で味わった痛みなどとうに過ぎたものぞ

痛みの伴う毒を制せば対する毒を制すのみ
UC「勇者乃武器」で己が勇気の光を纏いし薙刀を携えては敵に挑まん
敵の放つ毒を薙刀を前方へ風車の如く回して生ずる衝撃波を持って吹き飛ばしては受け流し
攻勢に転ずる時は戦う痛みを伴うわらわの薙刀捌きを見せつけん(なぎ払い、乱れ撃ち、鎧砕き、破魔、神罰併用)




 死ぬかもしれない、と予知者は云った。
「命をかけて戦に臨むは武士の本懐なり」
 鍋島・小百合子(朱舞の女丈夫・f04799)は薄く笑み、その全てを受け容れた。
 注入される異物。身体が軽く、感覚が研ぎ澄まされていくのをまず感じ――それから猛烈な痛みがそれを掻き消していく。
「ぐっ……まるで蟲毒を入れられたような、痛みが……」
 血液が侵されて、それが全身を巡る事によってありとあらゆる部位が蝕まれていく。身体がばらばらになってしまいそうだ。
「なんぞ、これしき……!」
 歯を食いしばる。小百合子は藩の息女である前に武士なのだ。斬られ射抜かれ叩かれは茶飯事。その度に根を上げていては、小百合子が最も嫌う情けない男のようではないか。
 何度も乗り越え、過去にしてきた。今度も乗り越えるだけだ。
 顔を上げる。転送の光が小百合子を包み、無敵の偽神の元へと連れ去っていく。
 男の正面に立った時、小百合子の顔からは一切の苦痛が消え失せていた。
「肥前が女武者・鍋島小百合子。この身を賭して推して参る!」
 握りしめるのは相棒たる薙刀。高らかに名乗りをあげ、全速力で駆け出した。
 息が詰まりそうになる。その瞬間、呼吸が乱れた一瞬を狙い澄ましたように男が大剣を翳し、猛毒化させた偽神細胞を小百合目掛けて放った。
 致死に至る大気を吸い込んでしまう前に、小百合子の薙刀が風車のように回転して風を起こす。生じた衝撃波がデミウルゴスの偽神細胞を吹き飛ばした。
「ほう」
「わらわは毒を制した者ぞ。これ以上毒を重ねたとて、わらわは倒せぬ」
 笑う小百合子の、半分以上は強がりだ。吹き飛ばしを免れた微かな偽神細胞が体内で荒れ狂っている。更なる異物を身体が猛烈に拒絶している。血が沸騰しそうだ。
 どんなに気丈に振る舞ってみせても、頬を滴る脂汗までは止められない。
(「怯むな! わらわは武士。その鋼の意志こそが、敵を打つ何よりの武器じゃ!」)
 薙刀が輝きを増していく。それは小百合子の心に宿る勇気を糧に燃え滾るオーラ。
 ――勇者乃武器。それは特定のものを指すのではない。
 勇気ある者が振るうからこそ、そう呼ばれるのだ。
 更なる猛毒が小百合子へと吹き荒れる。衝撃波を放ちながら、猛毒の嵐の中を鉄砲玉のように突き進んだ。
「!」
 破魔を乗せた竜王御前が猛然と叩き込まれる。異形の身体を刻み、返す刃が男の右腕の付け根から夥しい量の血を噴出させる。
 更に重ねようとしたところを、空気ごと劈くように振るわれた大剣に阻まれる。咄嗟に身を翻す小百合子だが、斬撃による衝撃波がその身を深く切り裂いていた。
「ぐ、ぅ……!」
 流石に呻き声を上げる小百合子だが、薄らいでいく意識の中で確かに見た。
『無敵』たる男が、がくりと膝をついて崩れ落ちるさまを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

無間・わだち
聞こえてるんだろうな
知っている、よくわかる
俺も、ずうっと聞こえているから

放たれる強毒化した細胞は
慣れたこの躰にも刺さるだろう
ひどく、痛い
声がいつまでも、消えない

けれど、大丈夫
助けてほしいという声に
俺は応えるだけだから(ふわり微笑み

全ての苦痛に慣れている【激痛耐性、狂気耐性、呪詛耐性
彼らとあなたの悲鳴を受け止めるのは
同族がいいでしょう?

素早く駆けて彼の懐へ【限界突破、継戦能力
異形の外殻に触れて、膚を熔かす【焼却

一瞬でも動きを止められれば十分
偽神兵器を槍型に変形させ、貫く【捨て身の一撃

あなたの悲鳴が聴こえたから
俺は、此処に来ましたよ

もう、大丈夫
じきに、なんにも聴こえなくなりますから
おやすみなさい




 男は、静かに己の身体を見下ろしていた。
 異形の皮膚がぼこぼこと波打ち、刀傷を塞いでいく――塞ぎ切れない。
「本当に俺を殺す力があるというのか。この煩い声を止める力が」
 男の視線が、新たに転送を受け出現した青年へと向けられる。
 肯定するように青年が左右で色の違う瞳を細めた。否――無間・わだち(泥犂・f24410)の左右で違うのは瞳の色だけではない。その大きさも、つくりも、瞳の周辺の膚も。何もかもが貌を走る大きな縫い目を境に変わっている。
 つぎはぎの赤はいのちをくれた妹のもの。わだちと共に在る部分だけが、今も存在している。
「幻聴に悩まされる狂人に慈悲をかけるため、何人も集まってきたわけか」
「幻聴なんかじゃないんですよね」
「お前に何が判る」
「わかります。よくわかる」
 男は笑い飛ばそうとした。だがわだちは真剣だった。
「俺も、ずうっと聞こえているから」
 一度は消えた筈のいのち。蘇った奇跡に縋るように、声はやまない。
 助けを求める声も。あるいは、異形の身に注ぐ嘲りと侮蔑と罵倒の声も。
 男が目を見張り、驚愕を押しとどめるように細胞の毒をわだちへと放つ。敢えて真っ向から受け止めながら、わだちは駆ける。
 ――激痛も。狂気も。呪詛も。ありとあらゆる苦痛に、この身体は慣れ切ってしまった。
 それでも死んだはずの身体は律儀に異物に拒絶反応を起こし、ご丁寧に痛覚という信号を伝えてくる。痛みが増すごとに声もますます強くなるばかりだった。
 でも――でも。
「助けてほしいという声に、俺は応えるだけだから」
 わだちが微笑む。わるつだってきっと笑ってくれる。
 たすけてって、声がするんだ。どこからかじゃない。目の前の、かみさまに祀り上げられたひとから。
 殺してくれとさえ願う悲痛に、こたえるために此処に来た。
「彼らとあなたの悲鳴を受け止めるのは、同族がいいでしょう?」
 軋む全身も厭わず、わだちは男へと肉薄する。異形の外殻に触れたところから、膚が溶けていった。
 わだちの偽神兵器が姿を変える。悲愴ごと貫く一本の槍。
 男が大剣を振り下ろすのを、わだちは視界の隅で捉えていた。退かねば、間に合わない。それでも双眸は男だけを見据えていた。
 大剣がわだちの肩を深く刻んでいた。そして槍も、男の腹を深々と貫いていた。
 ぐう、と男が唸り、血を吐く。
 口から、腹から、噴き出る血飛沫ひとつひとつが、男の嘆きのようだった。至近距離で浴び続けるのも意に介さず、わだちは握った槍を押し込み続ける。
 もっと。もっと奥へ。
 あなたの身体を巡る悲鳴が、すべて流れ出てしまうように。
「お、のれ……!」
「もう、大丈夫。……じきに、なんにも聴こえなくなりますから」
 おやすみなさい。
 呟かれた言葉は、祈りのようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唐桃・リコ
アドリブ・マスタリングは大歓迎

オレは何と引き換えにしても力が欲しい
…大切な「1番」を守れる力が欲しい
奪われる方が怖え
だから、打つ

痛みには強い方だ、こんなの実験で慣れてる
ただ、暴れ出したい気持ちを堪える
なあ、もう全部壊しちゃえよ
いいじゃん、我慢しなくて
頭ん中でオレの中の人狼が楽しそうに吠える
「人」である事を捨ててしまえと喚く
黙ってろ!!

…お前も頭ん中うるさそうで、オレと似てんな
なあ頭ん中の声、全部聞かなかったことにして
オレと殴り合いしようぜ
そうすれば、すっきりする気がしねえ?

【Howling】!
さあ、オレの牙とお前の牙
どっちが生き残れるか、やってやろうぜ!
ナイフを構えて、切り裂く!!




 少年はひとりで生きてきて、これからもひとりで生きていくのだと思っていた。
 名前も住処も家族も持たぬ子供。何があってもだれも困らない。人体実験に使われた。花を植えられた。

「――オレは」
 ざり、と踏み込む音。唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)の前には、命尽きかけた『無敵』の偽神。
「何と引き換えにしても力が欲しい。……大切な「1番」を守れる力が欲しい」
 気づけば、少年はひとりではなくなっていた。
 奪われる怖さを知っていた。
 異物を受け容れる手に、迷いはない。
 痛みなんか慣れ切っていた。度重なる人体実験に比べたら生温いほどだ。けれどおかしい。無性に――何かを、壊したい。
 なんでもいい。
“なあ、もう全部壊しちゃえよ”
 偽神細胞が、デミウルゴスと似たような作用を齎しているのか?
 違う。リコはこの聲を知っている。これは自分だ。人狼の本能に忠実な、他ならぬ自分自身だ。
“いいじゃん、我慢しなくて。「人」の振りなんてやめちまえ”

「黙ってろ!!」
 怒声。空気が震える。気づけば転がっていた瓦礫を踏み砕いていた。じわり、抗いがたい快感が脳裡を侵食していく。
 血を流す男がリコを見上げた。ああ、と呟きながら立ち上がる。
「……お前も、聴こえるのか」
「本当に参っちまうよな。煩くて」
 友に向けるような笑みを、リコは偽神へと向けた。親近感を誘うような仕草であり、掛値無しの本音でもあった。
「なあ頭ん中の声、全部聞かなかったことにして、オレと殴り合いしようぜ」
 ――ざわり、大気が軋む。
「そうすれば、すっきりする気がしねえ?」
 狼が吼える。びりびりと震える空気の中を、リコが駆けていた。
 振り翳した刃が男の膚を裂く。大剣の柄がリコの腹を突き飛ばしていた。上体を折るリコ目掛けて振り下ろされた大剣を、身体を転がして避ける。獣さながらの身体能力で立ち上がり、獣爪の如くナイフを振り上げた。
「ああ……悪くない」
 全身を血で染めながら、男はうっそりと微笑んでいた。
「すべて壊せば、この声も止む。お前もそう思ったのだろう?」
「ちげえよ。オレは護りに来たんだ」
 たとえこの力が、破壊を望む人狼のものだとしても。
 たとえこの力が、リコを人たらしめるものを奪っていくとしても。
 今この時は、オレは“人”だ。それだけは、間違いない。
「それだけの力を持ちながら、声に抗い苦しむ道を選ぶのか。理解できないな」
「難しい事考えるのやめようぜ。そういうのあとあと!」
 鉄塊の如き刃を正面から受け切るには、リコのナイフはあまりに頼りない。人狼の身体能力や五感をフル動員しながら、刻み続ける刀傷。

「さあ、オレの牙とお前の牙、どっちが生き残れるか、やってやろうぜ!」
「――……望むところだ」
 限界を超えた身体が、動きを止めてしまうその時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
少し前に
ストームブレイドと知り合ったんだ

ソイツは、まだまだガキで
最初は、おどおどしててなあ

でも、

戦場では、きっちりサポートしてくれた
銃で対峙できる一人前の戦士だったよ
あんなガキでも、な

だから、オレも、
この世界は守らなきゃいけねえんだ
アイツもどっかで戦ってるだろうから

ガキに負ける訳にはいかないだろ
なんて揶揄するように笑いつつ
躊躇いもなく注射を打った

命が惜しくない訳じゃない
大切なヤツと共に生きる、と
そう誓った約束だってある

──強いよ、オレは

だから誰にも負けねえ
負ける気もしねえんだけど

助けも救いも裁きも
何もかも知らない

けど殺してほしいのなら
オレが、お前を楽にしてやるよ
なあ、だから、あとはゆっくり眠れ




「――少し前にストームブレイドと知り合ったんだ」
 声がした。新たに発生した“騒音”をデミウルゴスが忌ま忌ましげに睨みつけた先、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)が姿を現す。
「ソイツは、まだまだガキで。最初は、おどおどしててなあ」
「……何が云いたい」
「でも、」
 手には槍ひとつ。牙のような龍槍が、ルーファスに応える時を待っている。
「戦場では、きっちりサポートしてくれた。銃で対峙できる一人前の戦士だったよ……あんなガキでも、な」
 この世界が。そうでなければ生きていけない世界なのだろう。
 戦えるものは、皆の期待を一身に背負わされる。この世界にはストームがあるからだ。折角拠点を築き、食料を育てても、暗黒の竜巻が全てを奪っていく。命を奪った竜巻は怪物さえも生み出し続けている。
「だから、オレも、この世界は守らなきゃいけねえんだ。アイツもどっかで戦ってるだろうから」
「それで、偽神細胞の投与か」
 ――そうだよ。ルーファスは笑う。だってガキに負ける訳にはいかないだろ。
「……命知らずばかりだな、お前達は」
「違えよ。オレは生き延びる。大切なヤツと」
 虚無めいた眸がルーファスを捉えていた。負けじとにらみ返してやる。
 どちらからか、走りだしていた。大剣と槍が真っ向からぶつかり、鋭い音を立てる。
「ならばその誓いごと斬り捨てる」
「やってみろ――強いよ、オレは」
 だから誰にも負けねえ。負ける気もしねえんだけど。
 舌鋒鋭く、刃はさらに激しくぶつかり合う。走る漆黒の刃は剣というよりも巨大な槌のようですらあった。真っ向から食らえばルーファスの身体などぐしゃぐしゃに叩き潰されてしまいそうだ。受け止める度に腕が軋む。反動を的確に往なすための精微な力の調整を、血流と共に目まぐるしく身体を駆け巡る激痛が阻害する。
 口の中に血の味が滲む。知らずうちに食いしばっていたのか、内部から身体が破壊されているのか、ルーファスには判別がつかなかった。
 ――助けも救いも捌きも、何もかも知らない。
 けれど。オレは、ただ。
 男が大剣を振りかぶったところに、ルーファスは飛び込む。雷鳴の如き一撃が男の肉体を貫いたと見えた瞬間、その身体が変貌する。
「終わりだ」
 竜のあぎとのように変化した肉体が槍の切っ先を呑み込み、己の内部へと取り込もうとする。
「そっちがな」
 ルーファスは返す。直後、槍を取り込んだ男の肉体が――内側から、爆ぜた。
「何ッ!?」
 竜の姿に変化したナイトが、男の身体を食い破り脱出していたのだ。
 滝のような血を噴き出しながら、男が膝をつく。
 ――殺して欲しいと願うなら。
「オレが、お前を楽にしてやるよ」
 なあ、だから――あとはゆっくり眠れ。
 焦点のぼやけた眸がルーファスを見上げ、それから虚無の笑みを向けた。
「ああ、俺は死ぬのだろうな……だが」
 男は尚も大剣を握りしめ、立ちあがる。
 偽りとして生まれ、虚無に還るのならば。
 せめてその瞬間まで、忌ま忌ましい者達を殺し尽くしてやろう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菊・菊
針から、染みていく
かみさまの味を笑った


今更だろ
弄られて、造られた
慣れてる
強くなれんなら、いい

けどよ、死ねない理由があんの

『矜持』

刀が血を吸って上機嫌なクソ女の笑い声がうっせえ
さっさと寄越せ、寒菊

吐き気に抗わず、地面を汚して、
震えて、刀すら満足に握れねえ
くっそ弱い身体は
こうやって無理にでも動かせれば、いい。

痛え、気持ちわりぃ
でも時間がねえ

俺は、俺の一番のところに
帰んなきゃいけねえのに

俺が弱いのは知ってんだよ
なあ、てめえとは大違いだな、にいちゃん

クソみてえな奴らに好き勝手信仰されんのは
そりゃ気色悪ぃだろ

ころしてやるから、さっさと首を垂れろ

お前がしにたいみたいに
俺は、あいつと生きてえの

だから、行くよ




 針から、染みていく、かみさまの味。
「今更だろ」と、菊・菊(Code:pot mum・f29554)は笑い飛ばした。
 ――弄られて。造られた。人間としては不十分で不合格で、じゃあドナーとしたら?
 それだけの命だ。だった。
「慣れてる。強くなれんなら、いい。けどよ、」
 ただそれを受け容れて嘆いてやるほど、菊は従順な性質ではない。
「――死ねない理由があんの」
 白い肌を滑る刀。血は流れ出る前に、刀身が吸い上げていくようだ。
 愉快そうに女が笑ってる。ただでさえ耳に響く嘲笑が今日はいつもに増して耐え難い。オイいつまでも笑ってばかりいるなよ。こちとら頭が割れそうなんだよ。
「……さっさと寄越せ、寒菊」
 造りかえられた身体は、細胞の注入でもう一度かき乱されて、更に寒菊の力が半妖化を施す。もうめちゃくちゃだ。
 こみ上げるものを全部地面にぶちまけた。内臓ごと吐き戻してしまったかのような苦しみだった。手が震えて刀すら満足に握れない。自意識ではそうだ。それでも寒菊に差し出した身体はちゃあんと刀を持っているし、気づけば男目掛けて彗星の如きスピードで駆け出していた。
(「くっそ弱い身体。無理にでも動いちまえ。ああ痛え、気持ちわりぃ」)
 でも時間がねえ。
「俺は、帰んなきゃいけねえのに」
「――どこへ?」
 問い返されて、知れず声に出していた事にようやく気付いた。
「俺の、一番のところに」
 偽神細胞で大幅に拡張されたデミウルゴスの刀身は、最早巨大な建造物の柱のようですらある。一撃でも喰らったらあの世行きだ。呼吸だけでも痛む全身をがむしゃらに動かし続けた。
「俺が弱いのは知ってんだよ。なあ、てめえとは大違いだな、にいちゃん」
 悪態と舌打ちで武装して、クソガキなんて呼ばれても。それだけだ。もっと強い奴がうじゃうじゃいて、俺はこんな風に無様に喰らいつくのがやっと。
 そんでもさ。
「クソみてえな奴らに好き勝手信仰されんのはそりゃ気色悪ぃだろ。――ころしてやるから、さっさと首を垂れろ」
 クソガキらしく、指を立てて見下してやった。
 軋む身体を動かし続け、やっと捉えた間隙。縫うように薙いだ刀は、女の哄笑のような鋭い音と共に男の身体へと到達していた。
「ぐ……ッ!」
 びしゃびしゃと飛び散る血飛沫。一、二歩とよろめいた男だが、次の瞬間には大地を踏みしめ猛然と斬りかかって来る。どちらかといえばやや小柄な菊が男の頸を狙うには至らない。
「なんだ、思ったより生きたがりじゃん」
 せせら笑いながら菊は迎え撃つ。
「俺もだよ。俺は、あいつと生きてえの」
 だから。
 ここで死んでなんかやんねえ。道連れなんざまっぴらだ。
 刃が、視線が、交錯し、ぶつかり合う。男の命があと僅かである事を、菊は察していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
どもー!エイリアンツアーズでっす☆
安心のツアーのタメに
件の『細胞』はモチ接種済だよ♪

巨大化してのたうつ触手達の
付け根に生じた牙が愉快そうに大口を開けて咆哮。
オレの鼻と口からは水色の体液が出っぱなし。
…痛み?まぁ許容範囲かなァ。

無理させてゴメンね、Glanz…一緒に【騎乗突撃】だ!
UC発動―得物がカタナの時点でKrakeに射程じゃ勝てないっしょ?
荒ぶる触手による【乱れ撃ち】をお見舞いするよ♪

最愛の人がさ、この『接種』受けてたんだよね。
じゃあオレも同じだけ寿命削ろうって想ったワケ。
生憎高尚な理想も
縋る神なんぞも持ち合わせちゃいねェんだわ。
お互い好きにやろ?
本物の神様がオレらを見放してるうちにねっ☆




「どもー! エイリアンツアーズでっす☆」
 いついかなる時も変わらない、朗らかなアピール。
 これがヒーローの活躍する映像作品ならば、視聴者は絶対的な正義の出現に心を躍らせ、或いはピンチを覆す彼らの存在にホッと胸を撫でおろす瞬間だろう。
 だが声の主、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)の姿は常と異なっていた。
 相棒たる宇宙バイクの上、肥大化した四本の触手には付け根に牙が生じている。それらが意志を持つかのようにのたうち、獲物を見つけた事を悦ぶように咆哮している。
 パウル自身の口や鼻からは、偽神細胞の強大な肉体変化への拒絶反応なのだろう、水色の体液が止まる事も知らず流れ続けている。
「……哀れな」
 醜悪なる怪物。デミウルゴスでさえも低く呻いていた。だがパウルはそうかなあと首をかしげるだけだ。この身は元々化物なのだ。本質は何も変わっていない。
「それほどまでの肉体変化。拒絶反応で自我が崩壊してもおかしくない程だが」
「痛みってコト? まぁ許容範囲かなァ」
 男の握る大剣が、偽神細胞のオーラを纏っていく。竜の牙の如き大剣がその力も長さも増幅されていく。怪物を一撃で屠るに相応しいものへと。
 踏み込んでくる男から、Glanzを駆って距離を置く。何十回何百回と繰り返してきた動作。身体と同化したかのようにスムーズに応えてくれる筈のGlanzが悲鳴めいたノイズを走らせる。
「無理させてゴメンね、Glanz――もうちょっとだけ付き合って! UC、発動!」
 異形の触手に、いつの間にか固定砲台が出現していた。支え切れる“剛腕”を得た砲台は、呆れるほどの大口径と禍々しい光線で偽神を蹂躙する。
 大剣のリーチをいくら伸ばしたとて、戦場を流星の如く駆けるGlanzと最大迄強化されたKrakeには追い付けまい。
 通常ならば不可能な程のでたらめな速度の射撃も、強大な触手はびくともしていない。だが、足を取られないように巧みにGlanzを調整するパウルの身体は軋み、その度に身体から漏れ出す血が量を増していく。
 何故そこまでしてパウルはここにいるのか。答えは極めてシンプルだ。
「最愛の人がさ、この『接種』受けたんだよね」
 時には死に至るほどの拒絶反応。当然命の残り時間そのものも無傷ではいられまい。
「じゃあオレも同じだけ寿命削ろうって想ったワケ」
 たったそれだけ。それだけだ。
 全身を赤に浸した男は未だ絶命する様子を見せず、白銀のバイクへと食らいつこうと戦場を駆ける。
「生憎高尚な理想も、縋る神なんぞも持ち合わせちゃいねェんだわ」
 あるいはこの男の方が余程、“人間”らしいとさえ思う。
 悩み、憎み、決断するプロセスを持っている。
 それに比べてオレを突き動かせるのは、全世界でたったひとりだけ。
「お互い好きにやろ? 本物の神様がオレらを見放してるうちにねっ☆」
 Krakeの光を、男の大剣が防いでいた。この男はまだ、終焉を受け容れてはいない。
 流れ出る青でルージュのように染まった口元が、きゅっと三日月めいて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
偽神化

口を開けば悲鳴が漏れる
だから口を噛み締める
目から鼻から口から血が零れる
だから決着がつくまで話さない

吶喊し最前線へ
偽神が大剣を振るおうとする度に其の攻撃を第六感込みで見切って盾受けからのカウンター合わせシールドバッシュ
大剣を振るわせずダメージ入れる
合間に桜鋼扇で殴り続け偽神が倒れる迄最前線で殴り合う

彼が倒れたらUC使用
「此れで貴方の痛みは終わるけれど。貴方が救われたかったのは、痛みから解放されたかったからだけではない筈です。貴方に助けを求めた方を救えぬ悼みを、持て余したからではないですか?貴方も其の方々も、救われるべきです。生の後に貴方達のような死せる生が在るように。死せる生の後にも、生が在ります。転生は、骸の海の虚無を纏わりつかせ過ぎなければ、きっと何処の世界にも持ち込めます。貴方が神に成って下さい。骸の海を通り抜け、偽神から真なる神に成って下さい。貴方自身が貴方を救えるよう。貴方に助けを求めた方々も、貴方が救えるよう」

「お休みなさい。貴方の望みが叶いますよう」
子守唄歌い送る


蒼・霓虹
相手の方も悲惨な身の上で可哀想ではありますし、せめて楽にして差し上げたいですが……ひょっとしたらアレが役に立つかも

『もしかして、あの安楽死させるマジックカード(UC)ですか?』

[WlZ]プレボ:偽神注射
命を懸けての【幸運】試しです、苦しくても……手だてを思い付いた以上は、わたしは乗り越えます

これぐらい乗り越えないと……わたしの夢なんてっ!

【毒耐性&激痛耐性&オーラ防御】で攻撃と拒絶反応に耐え備え

〈彩虹(特機形態)〉を【操縦】し【悪路走破&推力移動&空中浮遊】で掛け【高速詠唱】で【オーラ防御&結界術】込めた〈レインボークローバー〉の【盾受け&弾幕】を【念動力】操作展開

【第六感】で【瞬間思考力&見切り】で回避、被弾は【ジャストガード&受け流し】し【砲撃&レーザー射撃】の【威嚇射撃&制圧射撃】しつて

【竜脈使い】の力で【幸運】【エネルギー充填&魔力溜め】

準備整ったらUCを【高速詠唱】で【浄化&属性攻撃(慈悲)】込め、これ以上苦しまない様に安らかに

[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]
[出来ればトリ希望]


ヘルガ・リープフラウ
禁断の力に手を伸ばさなければ、どんな祈りも奇跡も届かぬ相手
愛するあの人がこのことを知ったら、彼はきっと悲しむでしょう
それでも……わたくしは……

覚悟を決め偽神細胞を接種
祈り込め、力の限り歌う【涙の日】
自身と共に戦う同胞には優しき癒しを
そして敵には裁きの光輝を

心身を蝕む副作用
今までだって、血を流し、狂気に触れ、悪意に踏み躙られても尚
オブリビオンの齎す脅威に耐えてきたのだ
世界の痛みを知らなければ、救済の歌は歌えない

デミウルゴス、貴方の気持ち、少し分からないでもないわ
卑劣な罠に囚われ敗北の屈辱を味わったことも
目の前の命を救えなかったことも
そしてそんな己の無力を嘆いたことも一度や二度ではなかった

それでも、たとえ神ならぬ身だとしても、この手が届く限り
わたくしは救いの手を差し伸べることを諦めない
命ある限り、理不尽に踏み躙られ泣く人を見捨てない
それが聖者としての……いいえ「わたくし自身の意志」だから
限界だって超えて見せる

わたくしは今ここで、貴方の全てを終わらせる
世界を、そして貴方自身を「救う」ために




 禁断の力に手を伸ばさなければ、どんな祈りも奇跡も届かぬ相手。
 己の身に降りかかるであろう苦難よりも、その決断が彼を悲しませてしまうだろうことをヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は憂いていた。
「それでも……わたくしは……」
 救いたいと願った。そして救い続けると、彼と共に誓った。
「相手の方も悲惨な身の上で可哀想ではありますし、せめて楽にして差し上げたいですが……ひょっとしたらアレが役に立つかも」
 様々なマジックカードを駆使して戦う蒼・霓虹(彩虹駆る日陰者の虹龍・f29441)の考えを、彼女と共に戦い続けてきたスーパーロボットの彩虹はいち早く察知していた。
『もしかして、あの安楽死させるマジックカードですか?』
「はい。でも……うまく通用するでしょうか」
 偽神細胞を以てしても、相手は“無敵”なのだ。二柱から託された虹龍の力を信じていても、胸をよぎる不安はどうしようもない。
『僕にはわかりません。けれど霓虹さんの力を届かせるのが、僕の役目です』
 彩虹の魂たるEPワイズマンユニットは、どこまでもパイロットに寄り添った答えを返す。
「……彩虹さん」
『やれるだけやってみましょう』
「はい!」
 ヘルガ。霓虹。二人は無敵を砕く力を宿した透明な液体を、覚悟と共に取り込んでいく。
「必ず目的を果たし、そして……生きて帰りましょう」
「命を懸けての『幸運』試しです」
 役目を果たした注射器が、からんと音を立てて放られる。
 そしてもう一人。絶大な力と副作用を齎す液体を取り込んだ女性がいた。御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
 ぐ、と喉が音を立てる。口を開けば悲鳴が漏れ出てしまうと判っているから、強く強く噛みしめた。
 痛い。苦しい。熱い。冷たい。ありとあらゆる苦悶が桜花の中を暴れ回っていた。きつく口を閉じていても、隙間からだらりと血が溢れだしてくる。
 気づけば鼻や耳からも。眼窩から染み出してくる赤は涙と混ざって視界を阻害してくるが、構わず桜花は駆けだしていた。
 デミウルゴスの放つ大地を震わす程の殺気は、たとえ目を潰されたとしても辿れるだろう。何も支障はない。


 吶喊し最前線へ躍り出た桜花へと、偽神の大剣が振り下ろされる。鼓舞するように、ヘルガの歌が響き渡った。
(「喉が、張り裂けそうに……!」)
 祈りを込めて歌いあげる涙の日は、歌が響く範囲全ての味方に慈愛の治癒を施し、邪気を払う裁きの光を施す。どんなに身体が蝕まれても、この聖歌だけは止めるわけにはいかない。くずおれそうになる脚を奮い立たせ、ヘルガは歌い続ける。
 清き憐みの涙が、人々を救う奇跡の歌を。
 デミウルゴスの損傷は激しく、特に剣を握っていない方の腕は繋がったままなのが不思議なほど。その状態から繰り出される剣技は鋭さと正確さに欠けており、聖歌の後押しを受けた桜花がその太刀筋を見切り続ける事は不可能ではなかった。
 大剣を受け止める銀盆。退魔の力が偽神細胞の発現を抑え、剣の勢いを横に流すように弾き返す。よろめいた男へと、桜鋼扇の鋭い一撃を浴びせかける。
(「今までだって、血を流し、狂気に触れ、悪意に踏み躙られても尚、オブリビオンの齎す脅威に耐えてきたのだ」)
 世界の痛みを知らなければ、救済の歌は歌えない。
 この地獄を耐え抜いた先、ヘルガの、そして彼の求める理想の先へと一歩近づける筈だから。
 途方もない道筋の、たった一歩に過ぎないのだろう。それでもヘルガは歩み続ける。
 ――口の中に血の味が滲む。聲が掠れる。
(「どんな苦痛にも耐え抜いてみせる。だから歌を紡ぐ喉だけは――!」)
『霓虹さん』
 気遣うような彩虹の声に、霓虹は何とか笑顔を返す。
「大丈夫です。苦しくても……手だてを思い付いた以上は、わたしは乗り越えます」
 戦場を二足歩行で駆け巡る彩虹。霓虹の詠唱がレインボークローバーの弾幕を張り巡らせていく。息の合ったコンビネーションはいつも通りだ。作戦には何の支障もない。
(「わたしが耐え抜けば、この力はきっと届く。届かせてみせる」)
 オーラの防御を全身に纏えば、少なくとも新たに齎される強毒化された偽神細胞の影響だけは多少凌げる。あとは戦場で培ってきた耐性と――気迫だけだ。
「これぐらい乗り越えないと……わたしの夢なんてっ!」
 虹色の弾幕は味方へと幸運を齎し続ける。ヘルガの歌による治癒を合わせれば、大剣が振られるたびに大気を穢していく偽神細胞の影響はかなり抑え込める。
 デミウルゴスの剣を、桜花の銀盆が受け止める。弾き返そうとする前に、逆に押し切られた。
「!」
 桜花の身体が弾き飛ばされる。宙を舞った身体は地面に叩きつけられ、血の筋を刻みながらごろごろと転がっていった。受け身も取れぬほどに拒絶反応による疲労と衰弱が積み重なっているのだ。それでも桜花は悲鳴ひとつ漏らさず、よろめきながらも立ち上がろうとする。血の漏れ続ける貌はその殆どが赤黒く染まっていた。もはや今の桜花を突き動かしているのはただの執念だ。
「今、楽にしてやろう」
 デミウルゴスの剣が振り下ろされる。刹那、目を灼くほどの強烈な光がデミウルゴスへと降り注いだ。
 彩虹のレーザー射撃だ。進路を塞ぐよう放たれた砲撃と共に、一柱と一機が男の前に立ちはだかる。
 だがデミウルゴスは射撃の雨の中を突っ切り、全身から血を撒き散らしながらも霓虹へと肉薄する。振り翳された大剣を、腕をクロスさせた彩虹ががっしりと受け止めた。


 戦闘は熾烈さを増していく。
 デミウルゴス。猟兵。無事な者は誰一人として存在せず、地に刻まれた血痕が渇く間もなく新たな血が降り注ぐ。倒れてきた猟兵の数だけ無敵の偽神に刻まれた傷も増え続けてきた。
 最初は猟兵の力に懐疑的だったデミウルゴスも、今では彼女達が自らを滅ぼせる無二の存在だと理解している。それでも男は滅びの時を迎える瞬間まで、この世の命を狩り尽くし続けることを選んだ。
 対話の予知はない。ここにあるのは命の奪い合いだ。それでもヘルガは語りかける。
「デミウルゴス、貴方の気持ち、少し分からないでもないわ」
 荒い息の合間に、男がヘルガを睨みつける。
「わたくし自身、卑劣な罠に囚われ敗北の屈辱を味わったことも、目の前の命を救えなかったことも……そしてそんな己の無力を嘆いたことも一度や二度ではなかった」
 男のように直接頭に響くものではないにせよ、世界は救いを求める声に満ち溢れている。
 せいいっぱい伸ばした手が切実な願いを掴み損ねてしまうたび、ヘルガの中に昏い声が満ちるのだ。
 ――もうやめてしまえばいい。世界を救うなんて無理なんだ。お前は充分頑張っただろう。
 悪魔の囁き。受け入れてしまえば、どんなに楽だろう。
「俺は、最初からあいつらを救おうなんざ思ってもいない」
 ヘルガの言葉を、デミウルゴスは否定する。
「俺は神ではない。声を聞き届け、ついに偽神細胞まで取り入れたお前は、神にでもなるつもりか」
 暗い怒りに満ちた眼差し。いいえ、とヘルガは首を振る。
「わたくしは聖者として……いいえ、それ以前に「わたくし自身の意志」を以て、ここにいるのです」
 どんなに奇跡を宿して生まれた存在だとしても、神のように絶対的な力はヘルガにはない。だが神ならぬ身だとしても、何もできないという言い訳にはならない。
 救いの手を伸ばし続ける限り、誰かへと届くはずだから。
 そしてヘルガは人として生まれたからこそ知っている。彼らの強さを。
 ヘルガ個人の力は微々たるものだ。けれど彼女が精一杯作り出したちいさなちいさな希望の光を、人々は大切に慈しみ、育み、それはやがて世界をも照らす力強い光へとなる。
 だから。命ある限り、理不尽に踏み躙られなく人を見棄てないと決めた。
 今ヘルガが倒れれば、極限状態で戦い続けている桜花と霓虹を危険に晒すことになる。
 それだけは、あってはならない。
「わたくしは今ここで、貴方の全てを終わらせる。世界を……そして貴方自身を「救う」ために」


 何度目になるだろう。霓虹めがけて振り下ろされたデミウルゴスの大剣を、彩虹が受け止めた。淡く虹色を帯びたボディに亀裂が走っても、彩虹は彼女を庇い続けた。
『スーパーロボットの僕なら、偽神細胞ってやつの影響も少ないですからね』
 それに僕の損傷なら霓虹さんが直してくれますし。身体を張る相棒の姿に、霓虹も深く頷いた。
(「信じてくれる彩虹さんのためにも、ここで戦い続けてきた方々の為にも、そしてわたし達の夢を途絶えさせないためにも。ここでわたしがしくじるわけにはいきません」)
 繋ぎ続けてきた道筋。ヘルガの裁きの光が戦場を満たす中、彩虹の制圧射撃がデミウルゴスの動きを封じ、桜花の桜鋼扇が追随する。終わりの時は、近い。
「ああ、煩い、煩い――……!」
 傷ついた肺が悲鳴をあげるのにも構わず男が叫んだ。
「死さえも穏やかに迎えられないのか、この身体は!」
 終焉を迎える男へと、今まで以上に声が襲い掛かる。

『かみさまが』
『かみさまが死んじゃう』
『なんで』
『まだ私は救われてない』
『これから俺は何を信じていけばいいんだ』
『置いていかないで』
『助けて』
『助けてよ』

「どこまでも身勝手な連中だ! 救いを求めるならば彼奴らにでも求めればいい! 何故俺なんだ!」
 ふらふらと男が立ち上がる。その目は濁っていて、もう碌に見えていないのだろう。それでも霓虹が魔力を練り上げるのを察し、大剣を振るう。悲しいほどに見え見えの太刀筋を躱しながら、霓虹は最大まで高めた魔力を放出する。
「せめて最期は、あなたが苦しみから解放されますように……『イリディセントコントレイル』ッ!!!」
 それは飛行機の姿をした彩雲。百を超える翼持つ雲は、霓虹の願いと夢を乗せて男を包んでいった。
 痛みはなく、身体から力が抜けていく。瞠目する男は次の瞬間、安らかに目を細めた。
 ――声が、途絶えた。
 やっと。やっと終わるのか。


 斃れこむ男へと、今まで沈黙を貫き続けてきた桜花が歩み寄る。
「……聞こえますか?」
 ゆるゆると男がこちらに目を向けた。男の目にもわかるほどの血塗れの女がそこにはいた。
「此れで貴方の痛みは終わるけれど。貴方が救われたかったのは、痛みから解放されたかったからだけではない筈です。……貴方に助けを求めた方を救えぬ悼みを、持て余したからではないですか?」
「……ばかな、ことを」
 声は掠れていて、それだけを返すのもひどく億劫な様子だった。それでも桜花には伝わっていた。男は最後まで、彼らの持ち上げる「神」としての姿を否定し続けていた。
「そうですか。それでも……貴方も其の方々も、救われるべきです。生の後に貴方達のような死せる生が在るように。死せる生の後にも、生が在ります」
 男からの反応はない。それでも桜花は続ける。
「転生は、きっと何処の世界でも叶うはずです。もし、貴方が少しでも、彼らを救えぬことを嘆いていたのなら。骸の海を通り抜け、偽神から神に成って下さい」
 そうすれば彼らだけではなく――他ならぬ貴方自身も、救われるはずだと桜花は云う。
「もし、神として在る事を拒絶なさるのなら……それでも私は、貴方に幸せな生を生きて欲しいのです。人として生まれ変わる道筋も、きっとある筈です」
 男が目を見張る。桜花の言葉にではなかった。悪を裁き善を癒すヘルガの歌声が、いつの間にか男の身体を優しく包んでいる事に気が付いたからだ。
 ……喉が、動く。声が出る。
「……黙れ。俺を善人にするな。底なしのお人好しどもめ」
 やっと紡がれた声は吐き棄てるようで、言葉は桜花たちを拒絶していた。だが、男の目には先程までの虚無も、渦巻く殺意も感じられなかった。
「俺は、神ではないと云った筈だ。俺は、ただのヒトになりたかった。いや、もう、……二度と生まれたくなんてない。もう、こりごりだ。生まれ変わりだと? 本気でそんな事を信じているのか?」
「……ゆっくり、考えてみてください。時間はきっと、たっぷりありますから」
 否定の言葉も受け止めて、桜の精はやわく笑んだ。
「ようやく眠れるというのに、また俺を地獄へと戻すつもりか」
「いいえ。貴方に幸せを知って欲しいのです」
 たとえ今すぐに、男がそれを受け容れられなかったとしても。
 静謐なるヘルガの歌声に、桜花の紡ぐ子守唄が重なる。

「お休みなさい。貴方の望みが叶いますよう」
「主よ。御身が流せし清き憐れみの涙が、この地上より諸々の罪穢れを濯ぎ、善き人々に恵みの慈雨をもたらさんことを……」
 神を否定し続けた男にも、癒しの雨は等しく降り注ぐ。彩虹から降り立った霓虹も、男へと祈りをささげた。
「……どうか、安らかに」
 死を切望した男は、ようやくその動きを完全に停止した。
 その魂の向かう先は、誰も知らない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月21日


挿絵イラスト