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アポカリプス・ランページ⑧〜日常裏の攻防

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「アポカリプスヘルでの戦い、お疲れ様です。まるでうっかり締切がダブルブッキングしたような忙しさの中、集まってくれてありがとうございます」
 そういうお前は何日目の徹夜だ、みたいな顔で、楚良・珠輝は猟兵達を迎えた。
 だいたいいつも通りである。
「今回は、アポカリプスヘルにおけるアメリカとカナダの国境近くにある巨大拠点『セントメアリー・ベース』での調査依頼になります。……ここが、ちょっと特殊な拠点なんですよね、規模の大きさもありますが、基本的にアポカリプスヘルとしてはかなり穏やかな日常が営まれている……あ、地図ありました」
 ぱっと猟兵達の前に現れた空間映像のアメリカ地図が、さらにセントメアリー・ベース周辺へと移り変わる。
「ちなみに避難民の受け入れもしてますし、閉鎖的な場所ではないです。……ただ、その避難民に紛れ込んだり、もしくは住民を殺して入れ替わるなどの手段によって、オブリビオン側の間者が紛れ込んでいます」
 彼らの役目はやがてセントメアリー・ベースを侵略するであろうオブリビオン軍勢の手引きを行うことだ。
 これまで巨大な安全地帯の一つとして機能してきた拠点だけあって、正面から攻め落とすとなればオブリビオン側もかなりの消耗は免れないだろう。しかし、内側から崩し、混乱させ、道を開くことができれば――それは、遥かに容易となる。

「既に相当数の間者が潜入していますので、見つけ次第倒して欲しいところです。ただ……」
 そこまで言って珠輝は僅かに考えてから、猟兵達を見渡して再び口を開く。
「できる限り『一般の住民に気付かれないように』間者を見つけ出し、倒してください。この拠点の住民はアポカリプスヘルでは稀有なほどの平和の中で暮らしている……その平和が脅かされているという恐怖自体が、さらに間者の入り込む隙になりかねないので」
 幸い、それほど強いオブリビオンが入り込んでいる様子はない。猟兵達ならば1人で複数の間者に遭遇しても対処出来るだろう。

「よろしくお願いします。……ああそれとこれ、いくらある程度平和な拠点といっても物資はそこそこ限られてるんで」
 珍しく自分の手で珠輝が差し出した大きなバスケットには、菓子を詰め合わせた袋がいくつか入っている。
「糖分不足は思考の大敵ですし、こちら差し入れです。いろいろ入ってるんで好きなのどうぞ」
 そう言って珠輝は、自分も傍らの菓子籠からクッキーを一つ摘んだのだった。


炉端侠庵
 こんにちは、炉端侠庵です。
 今回はセントメアリー・ベースへの潜入と間者の「お片付け」をお願いします。

 プレイングボーナス条件は、住民に敵の存在を気付かれないように行動すること。
 プレイングは、具体的にどのような調査をするかをメインにしてもらって大丈夫です。潜入している間者は強くても雑魚戦のオブリビオンくらいなので、人目につかないところであっさり始末できます。
 誰かと入れ替わっているタイプの場合は、身近な人々へのアフターケアなどがあるといいかもしれません。

 それでは、よろしくお願いします!
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第1章 冒険 『ヒドゥン・エネミー』

POW   :    拠点周辺を歩き回り、怪しい人物を探す

SPD   :    人目につかないように行動し、情報収集する

WIZ   :    避難者のふりをして住民達に話を聞く

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

七那原・望
お菓子美味しいのです。
さて、お菓子も食べたしねこさん達にお願いして街中の監視をお願いするのです。

怪しい行動をしてる人を見かけたら教えて下さいね。

ねこさんを待ってる間わたしも避難民のふりをして住人達と雑談を。
間者の手掛かりはどこに転がってるかわからないですからね。
会話の端々に手掛かりがないか注意深く聞くのです。

間者を特定出来たら間者の動向を注意深く観察し、人気のない路地裏等に入ったら暗殺の要領で音もなく接近。
望み集いし花園で花園にご案内です。
すぐにわたしもあちらへ向かい、あっちで敵を始末します。

もしもあれが成り代わり系で身内の特定が出来ていたら本人になりすました書き置きを遺してアフターケアを。



 さく、と柔らかな音と共に、バターの香りがふわりと広がった。
「ん、お菓子美味しいのです」
 七那原・望はふわりと表情を和らげた。目元は封印の目隠しに隠されていても、その頬が柔らかに綻ぶのを遮るものはない。菓子を詰めた袋の中に、もう一つ、と伸ばした小さな手も。特にジャムを包んで焼き上げたクッキーを口にした時には、ぱっと嬉しそうに表情が輝いた。
 やがてまだお菓子を残した袋の口をそっと中身がこぼれないように畳んで仕舞って、望は代わりに鈴のついた白いタクトを取り出した。共達・アマービレ――音楽用語で『愛らしく』の名を冠した指揮棒をふわりと振れば、現れるのは魔法の力持つ白猫達。
「ねこさん達、怪しい行動をしてる人を見かけたら教えて下さいね」
 セントメアリー・ベースのあちこちへと建物の間を縫って、屋根を伝って、物陰を駆け抜けて散っていく猫達を見送った後、望も賑わいを見せる通りへと歩き出す。髪に咲く赤いアネモネの花がふわりと歩みと共に揺れた。巨大拠点であるセントメアリー・ベースは文明崩壊前の建物や施設をある程度残しており、住民や避難民の住居として割り当てられていないものの中には交流の場となっているものもある。公園や広場などはいい例だ。
 そして小柄な少女である望は、交流の中に自然と入り込み、住民や避難民達と雑談を繰り広げていた。
 平和な拠点といえど、決して娯楽が多いわけではない。話題はどうしても人間関係のことに偏りやすくなる。そして――いくつかの雑談や井戸端会議を辿り、集めた噂話の中でまた気になる場所や人物を探し、その末にまた入り込んだ会話で一歩、望は核心近くへと踏み込んだのを感じる。

「恋人さんが家に帰ってこなくなってしまった……そうなんですね」
「元々忙しい人なんだけどねえ、もう2週間は顔も見ていないわ。どこかで浮気でもしてるんじゃないかしら」
 あっさりとした口ぶりで言ってはいるが、女性の顔を見ればはっきりと心配と不安の色が見て取れた。そして封印の目隠しによってそれを見ることができない望には、声に滲む不安がかえって鋭敏に感じ取れた。同時にその情報から『目標』――入れ替わったオブリビオンの間者、そして入れ替わられた住民――それに繋がる手がかりである可能性も、望は感じ取ってしまっていた。
「でも……帰ってきてくれるといいですね」
「そりゃま、……浮気だったらぶん殴って蹴り出すけどね!」
 威勢よく笑った女性につられて周囲に集まった住民や避難民からも笑いが零れる。それに合わせて浮かべた笑顔で、望は悲しげな表情を押し隠した。
 するり、戻ってきていた魔法猫の一匹が、望の足元から離れ、井戸端会議の輪が解散したところでそっとかの女性の後を追いかけた。望はそれを見送り、別の方向へと向かう。
 いなくなったという恋人が、自警団のような組織に入っていたのを望は女性から聞いていた。さらにその組織の本部がどこにあるか聞き出し、組織の一員からさりげなく男性のことを聞き出し、そして――その男性が一人になるタイミングを、注意深く見守る。
 確かにその男は、女性の恋人として聞いたのと同じ特徴を有している。けれど最近印象が変わった、と彼と親しい組織の一員からは聞いた。そっと尾行しているうちに、隠しきれぬ粗暴さを露わにする場面も見た。それは、聞き込みを続けるうちに感じ取った、女性の恋人の人となりとはどうしたって重ならないものだった。

 ――だから、確信を持って、路地裏へと入り込んだその背に一気に近づいた。
 そして。
「誘いましょう……ここは世界から隔絶された花園。わたしというセカイの支配域。小さく穏やかなわたしのせかい」
 男は抵抗しなかった。
 否――抵抗する意志さえ示せなかったのだ。
 ユーベルコード『望み集いし花園』、男の背に触れた黄金の林檎が、あらゆる果樹を擁する花園へと誘い込む。本来ならばそうと望むだけで外に出られる空間、けれど完全なる不意打ちはそれすらも許さない。すぐに追って転移した望の振るう刃が命を刈り取る。血ではなく黒い靄を撒き散らし消える姿が、もはや男が当人ではなく、オブリビオンによって成り変わられていたのだという『正解』を告げる。
 静かに花園から戻ってきた望は、ほんの小さく細く吐息零し、既に亡きその人を悼むかのように、しばらくその場で黙祷を捧げた。

 自警組織に所属していたその男性は、セントメアリー・ベースの警備巡回を行っていた最中に消息を絶った。そう封書にて知らせを受け取った彼の恋人は、そう、と小さく呟いた。
 他の拠点に比べればごく少ないことではあったが、自警組織である以上こういうことが全くないわけではない。
 だから、彼女も覚悟を決めていたのだろう、その封書を渡しに来た望に、届けてくれてありがとう、と微笑む。けれど振り返る一瞬、ほんの喉の奥を揺らすほどだった嗚咽が、目を隠した望の耳に僅かに、けれど確かに届いた。彼女にこの家の場所を教えた白猫を、そっと望は抱き締めた。
 男の死も、女の嘆きも、きっとこのセントメアリー・ベースの日常に埋もれていくのだろう。けれど、彼は――彼の姿は、裏切り者の誹りを受けることなく、この街を守った殉職者として記憶されるはず。本当の彼の姿から、おそらくは遠くない形で。
 きっとそれは、亡き人にとっては救いであるに違いなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルヴィン・シュミット
侵入者を排除せよ、か。
中々難しい仕事だが、不可能ではないだろう。

まずは【ECLIPSE】の【変装】を用いて姿を変える。
敵も猟兵が来たと知れば姿を隠すかもしれん。
ならば此方も外部からの避難民を装って潜り込もう。

後は念入りに街を歩き回って情報を拾い集めるだけだ…
まあ、どちらかと言えば人目につかない所に居そうではあるが。

獲物を見つけたら機を伺って【DIRTY ARMS】を振るって【騙し討ち】で仕留める。
これほど大きな街なら死体の隠し場所にも困らんだろう。
奴らも元より『ここには居なかった』のだから一人二人街から消えても問題あるまい。

『バレなきゃ何でもお咎め無しというモノだ。』



 セントメアリー・ベースは巨大拠点であるため、防衛できなくなった小規模な拠点などからの避難民を常に受け入れ続けている。
 もちろんあからさまに怪しい者がいればその地点で排除されたり、もしくはしばらくは監視下に入れられたりするのだが、逆に言うなら一見して怪しくは見えない者を逐一チェックできるほどに綿密な体制ではない。
「侵入者を排除せよ、か。中々難しい仕事だが……」
 その様子を見て、エルヴィン・シュミットは呟いた。周囲の避難民に溶け込むように、外套『ECLIPSE』によってその姿は変えている。
 ちなみに中々難しい、のは二つの意味合いである。一つはこの避難民の人数と拠点自体の規模による捜査の難しさ、もう一つはエルヴィン自身が割と直情型で熱血漢タイプだということだ。
「しかし不可能ではないだろう」
 実際、今回は調査だけでなく間者の排除まで含んでいるので逆にやりやすいとも言える。
 避難民を装って入り込んだからといって、行動を阻害されるわけでも見張られるわけでもない。間者と確定した相手が何をしても手を出さず追いかけ続ける、とかが必要なわけでもない。怪しい者が間者かどうか慎重に見極める必要はあるが、間者だと断じたなら即座に『片付ける』ことのできる豪胆さも必要になる。

 というわけで、避難民向けの案内を最低限受けたところで抜け出したエルヴィンは、街の中をくまなく歩き回っていた。
 ちょうど解散した場所は、まだこの拠点に生活基盤を築くには至っていない避難民達が多く暮らしている場所だ。元からの住民と成り代わっている者もいるし、時間を置けばやがては街に溶け込んでオブリビオン軍勢を手引きする時を待つのだろうが、今はおそらくまだこの辺りに紛れ込んでいる間者が多いだろう。
 丁寧に探せば違和感はどこかに垣間見える。例えば食料の配給時間、いつも配給場所ではないところにいる者。人など滅多に通らないような路地裏の、全く同じ場所に常にいる者。抗っていたはずが急に抵抗しなくなった人間から、食事を奪っていった者。むやみやたらとセントメアリー・ベース入口の守衛達に近づき、仲を深めたり取り入ったりしたがる者。違う、と思えば潔く観察対象から外し、逆にその違和感を感じさせ続ける者を丁寧に、丁寧に追っていく。
 そして――相手がこの街の住民でも避難民でもないオブリビオンに違いない、そう確信を持った瞬間、エルヴィンはすっとすれ違った少女の頭に、振り向きざまに赤黒く汚れたバール『DIRTY ARMS』を叩きつけた。完全なる不意打ちに悲鳴もなく倒れた、まるで人形のように整っていた美貌の少女の頭蓋は、まさに人形のように割れて中は何もない空洞だ。念の為さらに首を心臓部に当たる場所に念入りにバールの先端を突き刺し破壊してから、エルヴィンは路地裏に積まれた廃棄物の内側にオブリビオンの死体をしっかりと埋めて隠す。
「奴らも元より『ここには居なかった』のだから、一人二人街から消えても問題あるまい」
 このオブリビオンは積極的に入口の守衛に言い寄ったり、こそこそユーベルコードで魅了しようとしていたから、いなくなったことに気づく者はいるかもしれない。それでも身内がいるというわけでもないし、不審に思われるほどのことはないだろう。――避難民の中にその失踪を疑って彼女を探し回る者がいるなら、その者もまたオブリビオンである可能性も高い。
「バレなきゃ何でもお咎め無しというモノだ」
 どっちが間者だかわからないことを呟きつつ、エルヴィンは次のオブリビオンを探し出してセントメアリー・ベースを救うため、夜の街に消えていったのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
【逢魔ヶ時】
心情)潜り込んでるのンはオブリビオン…〈過去〉なのかね? それともそそのかされた"いのち"なのか。
ああ、両方の可能性があるか。もし後者なら俺は殺傷の権利を持ってないンでね、深山サン頼むよ。
行動)ッつゥわけだ、俺は前者を探そう。〈過去〉は見た瞬間に猟兵を敵だと認識する…そういう世界の規則だったな。
なら目があった瞬間に敵意が燃えるだろう。隠そうとしても一瞬は見える。
笑顔で人目につかん場所に手招こう。向こうもこちらを排除したいだろ?
無防備に攻撃されてあげよう。ああ、傷はつかないよ。
俺の宿(*からだ)と服は病毒の塊でね。武器もカラダも腐り溶かせるのさ。
深山サンや、そちらは?


深山・鴇
【逢魔ヶ時】
確かに比較的平和な場所だな、ここに間者がねぇ
ああ、オブリビオンだけじゃなく、何かしらで唆されたか脅されたか……人間もいるだろうな
ああ、殺すまではしないがお灸を据えるくらいはした方がいいか

そうだな、その方が適材適所ってもんだ
逢真君は人の機微はちょいと苦手だろう、任された
(UCを使用、挙動不審者を探す)
見つけ次第平和的にお話をしようか
……平和的だよ、刀は抜かないからね
話を聞いて、オブリビオンがいるようなら場所を聞きだす

聞きだして向かった先に逢真君を見つけたら刀を抜いて加勢を
逢真君、君怪我は? ……ならいいが
こっちかい? お灸は据えたし、協力している敵は何処か聞いたら君が居たって寸法だよ



 片や仕立ての良いスーツ、もう一人は洋装に赤の打掛。
 猟兵としてどの世界であれどの場所であれ違和感なく溶け込む能力なければこのアポカリプスヘルという世界でおそらく浮きに浮いたであろう服装、しかしこの巨大拠点セントメアリー・ベースでは然程でもない。
 無論オーダーメイドなり、絹に見える着物なり、といった高級品を纏うほどの余裕はないが、それでも人口と平和の分、他の拠点よりは衣服含めて物資は豊かであるのだろう。
「確かに比較的平和な場所だな」
 オーダーメイドのスーツの男、深山・鴇は呟いて周囲を見渡した。
「ここに間者がねぇ」
 雰囲気で言うなら他の小さな拠点の方がずっとその言葉に相応しくも思える。けれど確かに、内通するものを潜り込ませてまでこの拠点を崩そうとするのは、人口から言っても住民や猟兵達の士気への影響から言っても、とてつもなく有効には違いない、と鴇は思案し肩を竦める。
 その隣ではゆらり、無造作に肩から羽織った打掛揺らし、朱酉・逢真がゆっくりと赤の瞳を瞬かせた。
「潜り込んでるのンはオブリビオン……〈過去〉なのかね? それともそそのかされた"いのち"なのか」
「オブリビオンだけじゃなく、何かしらで唆されたか脅されたか……人間もいるだろうな」
 間髪入れず応えた鴇に、逢真はふむ、と首を傾けて。
「ああ、両方の可能性があるか」
 改めて思いついたように頷くと、ひらり、逢真は手を振った。
「もし後者なら俺は殺傷の権利を持ってないンでね、深山サン頼むよ」
「そうだな、その方が適材適所ってもんだ。逢真君は人の機微はちょいと苦手だろう、任された」
 鴇の返事に満足気に頷いて、ひらりと片手を振ってからゆったりと逢真は歩み去っていく。――人のカタチを取ってはいても、逢真の本性は病を司る神に他ならない。なればこそ、いたずらに命を刈り取るオブリビオンと戦うは仕事の一つとも言えようが、相手取るのが生者であれば使える手段にしろ結果にしろ、神としての権能を越えるわけにはいかないのである。
 ついでに鴇の言う通り、命のやり取りまで行かぬことにもまた強くはない。
「さて――」
 内ポケットから取り出したシガレットケースから、吸口赤く他は黒の紙巻煙草を一本引き出して咥え、火を付けてゆるりと燻らせる。静かに沈みゆくような味わいの煙を胸の奥に落とせば、思考が冴え渡っていくのを感じる。それは煙草の味と成分がもたらす作用ばかりではなく、ユーベルコード『一服ノ縁』――本業には煙草屋を営む鴇らしく、煙草を吸う時間に応じて洞察であったり、または思索、時には行動、そういった『次の一手』を上手くいかせる力も働いている。ゆっくりと時間を掛けて紫煙を吸い込みながら、鴇は周囲へと目を走らせた。
 道行く人々の表情は暗いものではなく、だからこそ、どこか陰のある表情、重い足取りをしている者がいれば目立つ。探偵としても鍛えられた鴇の目は、その中でも不自然に暗い表情をした青年の姿を拾い出した。携帯灰皿で煙草の火を消して吸い殻をしまい、足早に後を追う。
(殺すまではしないが……事と次第によっちゃお灸を据えるくらいはした方がいいか)
 裏路地とまではいかずとも大通りから一本、人気のない通りに入って少しのところで、ぽんと鴇は青年の肩に手を置いた。
「ひっ!?」
「やあ――随分浮かない顔をしていたもので、つい声を掛けてしまったよ」
 鴇曰く『平和的にお話』しようとしたところで、慌てて結構です、とか何とか言って逃げようとした青年の前にすいと鴇は回り込む。
「いやいや、きっと何か悩んでいることがあるはずだ。あるだろう?」
 さりげなく、刀の鍔に指を掛けて、黒縁スクエアの眼鏡の向こうでにっこり目を細めて鴇は問いかけた。
 この怯えようならば、自発的な協力ではなくおそらくは脅されて従わされているのだろう。ならば、もうひと押し。
「きっと、力になってあげられると思うんだ」
 視線に込めていた圧をはっきりと緩め、雰囲気を和らげてそう告げれば。
 武力の誇示に見えていただろう赤鞘の刀が、心強い守り手に感じられてくるだろう。
「あ、あの、実は……」
 刀の鍔は親指でなぞったまま、鴇は青年の打ち明け話に頷いた。
 抜いてはいないから平和的、とは、鴇が心の中で主張するところである。

 さて、人の領域を探すのが鴇の役目であれば、『過去』――オブリビオンへの対処は逢真が役目である。
 その羽織った打掛の裾すらも触れぬよう、するりと人混みを抜けて歩む逢真は、ふとぴりりとした視線を感じてその方向――斜め上を、見上げた。
 幾分かは外壁がひび割れてはいるものの、住むのには支障なさそうなアパートらしき建物。ベランダの欄干にもたれ掛かって通りを眺めていた女が、どこかただならぬ威風を纏った逢真に目を見開く。気付かなかったふりをしようか、それとも部屋に引きこもろうかと逡巡見せている間に、ふっと笑って逢真はその女を手招いた。迷わせる。惑わせる。己もこの街にとっての『異物』であると理解させつつ、簡単に排除できる存在であると誤認させる。果たしてアパートから出てきた女――オブリビオンを、また少しだけ遠くで逢真は手招いた。誘い出しているに過ぎないけれど、攻撃されないために距離を取っていると思わせる。そうしてアパートから僅かに離れた路地裏をしばらく進んだところで、女が人外の速度で距離を詰めた。
 その手が鋭利な鎌へと変貌し、逢真の首を狙う。一応、驚いたような顔くらいはしておいた。上手く行ったかはわからない。
 なぜならその首へと触れたはずの鎌は手応えもなく素通りし、次の瞬間には耐え難い苦痛を感じてオブリビオンの女はその場に倒れ込んでいたからだ。

 そして青年からオブリビオンの情報を聞き出した鴇は、ちょうど逢真がオブリビオンを誘き寄せて路地裏に入るところを見て、慌てて刀の鯉口切って駆け出したところだった。
 既に拠点維持の業務を引退した両親と離れ、己の担当する仕事に通いやすいアパートで一人暮らしをしていた青年は、家出少女を名乗るオブリビオンに家に乗り込まれ、やがて恐怖で支配されるようになっていたのである。
 情報集めに作業のサボタージュ、ついでに嗜好品の買い出しまで、何から何までこき使われていた青年は、もはや恐怖と後悔でほとんど限界だった。解決しておくから普通に仕事に行って帰ってくるようにと伝え、ついでにオブリビオンを家に連れ込んだことに多少の下心があったとまで吐露した青年に「そこは慎重になれ、ちゃんと自警団とかに連絡取れ」とお説教一つして、彼から聞いた住居へと急行してきたらこれである。
「逢真君、怪我は?」
 路地裏に入り人の目が届かなくなった瞬間躊躇なく刀を抜いた鴇の前には、けれどもはや地面で紫色の顔色で泡を吹くオブリビオンと、またとらえどころない笑みを浮かべた逢真がいるばかりだった。
「ああ、傷はつかないよ、俺の宿(からだ)は。深山サンや、そちらは?」
「こっちかい? お灸は据えたし、脅されている相手は何処か聞いたら君が居たって寸法だよ」
「そりゃ良かった」
 安心した様子で納刀する鴇に逢真は幾分笑みを深めた。――人のカタチを取ってはいるが、神としての宿(からだ)は病毒の塊、触れた端から腐り落とす。それは肉体であっても、物品であっても等しく。身に纏う衣服が病み溶けないのは、それすらも彼の一部であるからだ。
 そう話している間にオブリビオンの身体は、ただどろりとした液体しか残らなくなっていた。念の為、と逢真はそこに残った『病』を己の宿に戻しておく。迂闊に誰かが触ってしまえば思わぬ病気を媒介しかねないし、それは病の管理者たる逢真の望むところではない。
「さて、あとは……?」
「もう少し、仕事していくとするか。……しかし」
 逢真の言葉に応えてから、鴇は煙草の箱を取り出した。こちらはシガレットケースではなく普通の紙箱に入ったもので、鴇色の吸口咥えて黒い煙草に火をつければ、甘いチョコレートの香りが漂った。
「一服する時間くらいはあるだろう……」
 先程の煙草とはまた違う、重さと甘さに満ちた煙を吸い込む。精神が冴えゆくのを感じながら、鴇は再び表通りを往く人々へと視線を投げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
わざわざ間者を送り込むか。オブリビオンもここには手を出しづらいみたいね。
ここはいわば人類の希望。守り切ってみせるわ。

「偵察」「式神使い」で黒鴉召喚。
大量に呼び出した黒鴉の式を、広範囲に低空飛行させてオブリビオンを探させるわ。猟兵とオブリビオンは、見れば分かる同士。黒鴉の目を通じて捕捉する。

アヤメと羅睺にも黒鴉を一羽ずつ付けて、各自別方面から間者をあぶり出していく。
あたしは飛鉢法で空を移動して、現地到着後、オブリビオンを薙刀で討滅する。

ひとまず、これでよし。二人とも、順調?
上手くいったら、ホテルのベッドで可愛がってあげるからね。

休んでる暇はないわね。次の反応はあっちか。まったく忙しいったら。



「わざわざ間者を送り込むか。オブリビオンもここには手を出しづらいみたいね」
 村崎・ゆかりが道行く人々を、僅かに路地へと入り込んだ場所から眺め、呟いた
 根本的にはセントメアリー・ベースの機能は他の拠点と変わらない。そこに辿り着いた民を守り、自給自足もしくは危険を冒して拠点の外へ出ての物資を調達し適切に配分し、外敵が来たならば防衛する。しかしそれをこれだけの規模で行えば、もはや他の世界における『都市』とも遜色ないほどの光景が広がっていた。
 元から文明崩壊前には、UDCアースやヒーローズアースと同レベルの文明を発展させた世界でもある。こういった秩序と平和を維持できる基盤はあり、その条件が整った場所がじょのセントメアリー・ベースなのだ。
「ここはいわば人類の希望。守り切ってみせるわ」
 そう呟いたゆかりの隣で、くノ一姿の式神アヤメが真剣な表情で、そして性別不詳の式神羅睺が小さく笑みを浮かべて頷いた。ゆかりがぱらりと白紙のトランプ――霊符『白一色』を広げる。
「急急如律令! 汝は我が目、我が耳なり!」
 ユーベルコード『黒鴉召喚』、もはや無数とも呼べるほどに呼び出された黒鴉達が、ゆかりに従ってセントメアリー・ベース全体へと散っていく。五感を共有する黒鴉からは大量の情報が送り込まれてくるが、あえて注意を散漫にし、オブリビオンの気配だけをその感覚から拾うようにと精神を集中させて数度深呼吸、そしてアヤメと羅睺にも一羽ずつ黒鴉を同行させた。黒鴉達は情報を集め、ゆかりが命じた相手を追跡することしかできないが、アヤメと羅睺であれば自力で判断して倒せる相手は倒し、自分達では敵わないとみればゆかりにそれを伝えることができる。街の反対方向に散った二人を見送って、さらに『飛鉢法』で呼び出した空飛ぶ鉄鉢へと飛び乗り、戦巫女の盛装に身を包んで薙刀を引っ掴んだゆかりはまずは空高く舞い上がった。
 改めて、黒鴉達の五感からオブリビオンの情報を拾い、見つけ次第その相手を追跡するように命じる。そして人目につかない場所にいる間者の元に急降下、落下エネルギーつきの薙刀で一息に斬り捨てる。死体が残らなければ良し、残ったら隠すか燃やすかして再び急上昇。
 黒鴉は元々目立たないし、空を移動ルートとすることでゆかり自身も見つからないよう間者を排除していく。時折ゆかりや羅睺から入る救援要請に駆けつけて、二人が敵わない敵を数合の打ち合いでまた斬り捨てていく。ちなみに戦闘にも偵察にもある程度バランスのいい能力を持つアヤメより、能力自体は高いが戦闘向きではない羅睺の方が救援要請の数は多い。ただしアヤメがゆかりを呼んだ場合はその分間者の戦闘力が割と高い。
 つまり結局はいつも通りゆかりさん一極集中で疲れるタイプの戦法だった。それでも今回寿命削るタイプのユーベルコード使ってないだけちょっとマシなはずである。たぶん。

 とりあえず目についたオブリビオンを全部倒したところで、一度アヤメと羅睺と合流してゆかりは深く息をつく。
「ひとまず、これでよし。二人とも、順調?」
 頷く二人の式神に悪戯っぽく「上手くいったら、ホテルのベッドで可愛がって上げるからね」と付け加える。ぱっと頬に朱を上げつつも頷くアヤメと、あらあら、というようにけれど満更ではないと笑う羅睺に癒されて、ゆかりもふふ、と目を細めた。情報処理と戦いの疲れが癒される。まぁ今も黒鴉達からの五感は繋ぎっぱなしではあるけれど。
 ――黒鴉の一羽の目から、再びオブリビオンの姿が目に入る。
「休んでる暇はないわね。次の反応はあっちか、全く忙しいったら」
 アヤメと羅睺に次に探索する場所を指示し、再びゆかりは飛鉢に飛び乗る。甘い時間を過ごすまでには、もうしばらくかかりそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
はっはっは、ド派手好きな妾がこういうミッションが苦手だと思われたら困る!
魅せてやろう、妾のクレバーな隠密作戦を!

妾の作戦は、一般人の死角からの捜索による間者の発見だな
具体的には高所に陣取っての監視よ
アポヘル一般人の常識的に、人が居ないであろう場所…建築物の外側とかを選択
尾を巻き付けるなり左腕で掴むなりして、張り付いたりぶら下がったりでじっくり待機!

不審な行動を取る者を発見したら、念のため間違いがないかを確認してから確保、始末しよう
ほらホラー映画であるであろう?
犠牲者が突然上から襲われて、引っ張り上げられ画面外に消えていくアレだ!
人気の無い場所に独りで来てしまったのが悪いのだ、迂闊であったのう!



 ――動画の再生ボタンを押せば響き渡る高笑い。
「はっはっは、ド派手好きな妾がこういうミッションが苦手だと思われたら困る!」
 真の蛇神にして邪神たる(動画説明より抜粋)御形・菘。爬虫類の特徴を色濃くその身に宿すド派手なレディがびしりとカメラに指を突きつける。
「魅せてやろう、妾のクレバーな隠密作戦を!」
 というわけで!
『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』アポカリプスヘル編その〇〇!
 開幕である!!

「妾の作戦は、一般人の死角からの捜索による間者の発見だな」
 カメラは切り替わり、屋根の庇から尻尾でぶら下がっている菘が腕を組みカッコイイポーズを撮ってアオリ角度で映っていた。結構遠景である。
 あと、尻尾でぶら下がっているので当然格好いいポーズは上下逆である。いわゆる床を天井に見立てて撮影した後に上下回転させたやつではない。
 蛇神で邪神ですからね!!
「具体的には高所に陣取っての監視よ、アポヘル一般人の常識的――今回はセントメアリー・ベースゆえ多少チョイスがアポヘルよりはUDCとかヒーローズとかのアース系に近くなる気もするが……」
 というわけでくるっと周囲を映すカメラ。三脚が遠隔操作できるタイプだと1人でこういう動画撮影ができるので便利だぞ!
 ちなみに映し出された光景は明らかに建物と建物の間の裏道です、暗いですって感じの場所である。いくらアポカリプスヘルでは圧倒的に治安がいいセントメアリー・ベースであっても、後ろ暗いことがないならあまり通りたくないあたりだ。時間は夜だ。
「というわけでじっくりここで待機! 不審な行動を取る者がいたら……ふっふっふ……」
 邪悪っぽい含み笑いと共に、カメラがフェードアウトしていく。

『4時間28分後』
 そんな白字テロップが表示された後、再び画面が切り替わった。

「待ちくたびれたわ……」
 げんなりした顔で、けれど先程と全く同じ姿勢で菘は呟いていた。
「じゃがしかし、そのかいあってようやく怪人を発見したのじゃ。人間に擬態しているようじゃが妾の目はごまかせんぞ……!」
 ここでカメラが路地裏に入ってきた男へと切り替わる。
 なんとなくきょろきょろと周囲を伺う様子!
 アポカリプスヘルの一般人は絶対持ってなさそうな通信機器!
 あと動画には映ってないけど菘の目にははっきりわかるオブリビオンだという確信!!
 そして男が画面の真ん中を通り過ぎようとした瞬間――シュッ、と落下してくる菘。悲鳴あげる間もなく連れ去られる男。誰もいなくなった路地裏をバックに、デフォルメされた打撲音と呻くような悲鳴が流れるのは編集時に付け足された効果音だ。
「人気の無い場所に独りで来てしまったのが悪いのだ、迂闊であったのう!」
 画面外できっちり間者オブリビオンをぶち倒した菘は、屋根の上に仁王立ちして高笑いを上げるのであった。――夜中なのでこれもアフレコである。睡眠妨害は良くないからネ!

 というわけで『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』はキマイラフューチャー動画サイトで好評配信中!
 次の動画も乞うご期待!! チャンネル登録よろしくね!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
森番くん(f01377)と

(森番くんの『標的』を目立たないよう観察して)
一見すると普通というか、人々に頼られてるみたいだけど
スパイがそんな立場に収まってるとしたら厄介だな

化粧を落として、古着を着て、髪とかも汚して

身寄りのない新入り避難民って設定で標的に近付こう
善人を装っている相手なら、放っておくわけにいかないだろ

あとは人のいない時を狙って
本当に良くしていただいて、お返しできるものもなくって
せめて個人的なお礼をと思いまして……
とでも言っておけば釣れる
森番くんが待ってる町外れに誘う

はーどっこい、女の演技は疲れるな
実際接してみてわかった
他意のある善意って、感じるものだよね
……ふふ、森番くんは手厳しい


ロク・ザイオン
夏報さん(f15753)と

おいしそうに見せて、呑み込まれたら内側から食い破る
…あれも、そういう、敵だろ?
(向こうが擬態で狩りをするのなら
此処からは、騙し合いだ)

(【目立たない】よう、ひとびとに紛れながら観察しよう
獲物に気取られぬ動き、獲物を見出す【野生の勘】には自信がある
紛れ込んだ敵に目星をつけては)
……夏報さん。あいつ。
なんとか群れから引き離したい。
任せた。

(釣り出して貰った獲物に忍びより【早業】の「烙禍」を叩きつける
声を出す暇は与えない
あとはここに、燃え滓が少し増えるだけだ)

ありがと、お疲れさま。
…それって、キミが今やったやつかい?



 ――とある避難民達の街によく訪れる、やたらと顔の広い男がいた。
 食料や衣類、医薬品といった物資が足りなければ調達し、就職先の斡旋や子供達には教育の手配もしてくれる。彼が避難民の前に顔を出し始めたのは最近のことではあるが、既に彼の名前は偉大な慈善家として、あるいは救世主として、その街を仮住まいとしている避難民達の間で広がりつつある――。

「一見すると普通というか、人々に頼られてるみたいだけど……スパイがそんな立場に収まってるとしたら厄介だな」
 膝を抱えて座り込んだ姿勢から、ほんの僅か臥待・夏報は顔を上げた。質素――粗末とすら言えるような服装に、顔や髪は潜り込んだ先の避難民の集団にと同じ程度に汚している。
「おいしそうに見せて、呑み込まれたら内側から食い破る。……あれも、そういう、敵だろ?」
 隣で片膝立てて座ったロク・ザイオンが低くざらりとした声を潜めて呟く。己を『森番』と定義し、森を尊ぶ彼女にとって、獲物を狩ることは馴染んだことで、けれど男の獲物が、彼女にとって守りたいものであるのなら。
(向こうが擬態で狩りをするのなら、此処からは、騙し合いだ)

 見つけ出したのは、ロクだった。さほど目立つようには行動せず、けれど密やかに熱狂的に広がっていく好意や尊敬、崇拝にすらなりつつある感情の中心を、野生動物めいた勘が暴き出して、今はそれを人々に混じって夏報と二人、見つめている。
「……夏報さん、あいつ。なんとか群れから引き離したい」
 その言葉に夏報は、深く眉を寄せた。役目が嫌というわけではない。『引き離す』方法を考えた時に、ぞわとその背に走った悪寒を深い溜息で誤魔化す。
「善人を装ってる相手なら、放っておくわけにいかないだろ」
「任せた」
 短いやり取りと共に視線交わしてうなずき合う。ロクは街の外れへ、そして夏報は男が避難民の街を手を振り去って行こうとして独りになるのを待って、男の後を追いかける。
「あのっ!」
「おやお嬢さん、何か?」
 紳士然とした男は、けれどどこか瞳の奥に淀んだ闇を――『過去』を宿している。緊張しているかのようなふりをして、湧き上がる嫌悪を夏報は呑み込む。
「本当に良くしていただいて、でもお返しできるものもなくって……せめて個人的なお礼をと思いまして……」
 藍色の瞳が男を潤むように見つめる。何を、と聞かれるか、もしくは男に都合のいい場所を提案される前にささ、と早足で街外れへと向かい、着いてきているか確かめるように振り返る。それでもの慣れぬ少女めいた女性が、それでも懸命な誘いをかけているとでも解釈してくれたのだろう。緩んだ笑みに口元歪めた男が着いてくるのを確かめて、その距離を保ったまま夏報は街外れへ――ロクの待ち構える場所へ、男を、オブリビオンを誘き出す。
 立ち止まった夏報が振り向けば。
「燃え、落ちろ」
 ユーベルコード『烙禍』――大振りな剣鉈の柄尻の焼印、燃え上がるそちら側を叩きつける。声出す暇すら与えぬ早業の跡には――燃え滓が僅か、残るのみ。

「はーどっこい、女の演技は疲れるな」
 大きく息をついた夏報の疲労滲んだ顔を、ロクが覗き込む。
「ありがと、お疲れ様」
「ん。実際接してみてわかった、他意のある善意って、感じるものだよね」
 しみじみと呟いた夏報に、ロクが瞳を瞬かせる。
「……それって、キミが今やったやつかい?」
 皮肉でもなんでもなく、純粋な疑問として問われた言葉に、夏報はどこか困ったように笑って。
「……ふふ、森番くんは手厳しい」

 ――セントメアリー・ベースに大量に送り込まれた間者達は、猟兵達によって一気に数を減らしていた。そしてこの街での猟兵達の活動から導き出された、マザー・コンピュータへの、彼女との戦いへの道。
 アポカリプス・ランページ、戦況がまた、動く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月19日


挿絵イラスト