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アポカリプス・ランページ⑧〜この中に、間者がおる!(作者 みろりじ
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#アポカリプス・ランページ⑧


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 そこはカナダの国境近くの一大拠点。
 混沌を極めるアポカリプスヘルの世界に於いては、比較的平和な生活を送れる場所として知られ、多くの難民が安全と安心を求めてやってくるという。
 物資の配給、物流を通じた交易、治安の維持など、末期の世界には珍しい秩序というものが根付き始めたこの拠点には、この戦禍の機会に乗じ、今、静かなる危機が迫っていた。
「今回の戦場は、なんと里の中です」
 グリモアベースはその一角、鮮やかな桜の着物がトレードマークの猟兵、刹羅沢サクラが、やや大げさな口ぶりで言うのもまぁ、無理からぬことだろう。
 アポカリプスヘルの治安、その敵の在り様や、この戦争における多くの強力な幹部たちの出現などを鑑みれば、人の住まう街中での戦いなど、混迷を極めることだろう。
「舞台となるのは、この世界には珍しい大きな拠点です。
 ここに潜んだ敵を討つのが主任務となっております」
 国境付近のこの集落は、文明崩壊前から多くの自然が残っており、天然の資源が豊富だったのと、地理に明るい者たちが知恵を絞って密やかに物資を流し、或は補完し、多くの荒くれ者の目に留まることなく地盤を築き上げたのが発端だという。
 地力を強固にかためたこの集落は、豊富な物資と人材を損なうことなく成長し、今ではそんじょそこらの荒くれ程度が容易に手出しできないほどの規模にまでなった。
「彼らの拠点は、多くの人々の希望となり得るものにまで成長しましたが、いまだ多くの問題を抱えています」
 この時世、優れた拠点には常に難民が押し寄せてくるという。
 それも普通の、棲家を失った者ばかりではなく、二心ある者、野心や横暴を働く者は少なくない。
 荒んだ世界に秩序を持ち込むのは、なかなか難しいのである。
「ここは比較的マシであるというだけに過ぎません。しかしながら、今度の間者はそんな者たちとはわけが違う」
 猟兵たちを派遣するまでの予兆ともなれば、それは即ちオブリビオンに関係するものである。
 聞けば、拠点に入り込んだ間者は、オブリビオン軍団を手引きし、拠点に攻め入らせようと画策しているようである。
「もう少し踏み込んだ情報が探れれば良かったのですが、あたしが掴んだ情報では、間者が他人に化ける能力を持っており、難民や現地の住人を殺害して成り代わるほどの者であるというだけです」
 彼等もまたオブリビオンではあっても、彼等自身の戦闘能力は猟兵と比べるべくもない。そうでなければ、彼等自身が体よく忍び込んで暴れれば済む話になるからだ。
 間者はあくまでも呼び水に過ぎず、堅固な拠点の何処かに綻びを生じさせるか、或は隙を見せる頃合いを見計らってオブリビオン軍団を呼び込もうとする筈である。
「敵を発見する手段及び、始末する手立てはお任せいたします。
 各々の得意分野を活かすのが良いでしょう」
 ただし、とサクラは指を立てて忠告する。
「これら敵の存在を、できることなら住民に知られることなく、仕事を完遂してほしいのです。
 あたしもまた忍の端くれ。その矜持という訳ではありませぬが……」
 いらぬ心配事で混乱を呼び、それこそがオブリビオンの呼び水となってしまう可能性も否めない。
 秘密裏に事に及び、日常を壊すことなく、彼等を排除するのが望ましい。
「容易ならざる任となりましょう。あたしもよく、余計なものまで壊します。
 しかしながら、皆さんの中には、こういった影の仕事を得意とする方もおられる事でしょう。
 仕事ぶりを期待いたします」
 ぺこりと一礼すると、サクラは転送の準備を始めるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文書書き、みろりじと申します。
 地獄のような世界でヒャッハー! するのがメインのようなシナリオばかりかと思いきや、戦争中に必殺シリーズめいた忍者アトモスフィアを感じずにはいられないフレームを見つけたので、これはやってみようと思った次第でございます。
 このシナリオは、戦争シナリオとなっておりますので、1章完結となっております。
 例によってすぐに終わると見せかけて、マイペース進行でございますので、いつもよりかは早めに進むかとは思いますが、たぶんいつも通りです。
 また、断章やプレイング受付期間なども特に設けませんので、好きなタイミングで書いてもらって大丈夫です。
 サクラさんは、何やら真面目に話しておりますが、彼女自身もけっこう真顔でボケるタイプなので、真面目でも不真面目でも、アサクリでも天誅でも大丈夫です。
 オープニング中にもほんのりほのめかしている事ですが、やっぱり戦争シナリオらしく、プレイングボーナスに相当するものが設定されております。
 住民に敵の存在を気づかせないよう調査する、ような感じのことをプレイングに盛り込んでいただけると、いい事があるかもしれません。
 というわけで、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 冒険 『ヒドゥン・エネミー』

POW拠点周辺を歩き回り、怪しい人物を探す
SPD人目につかないように行動し、情報収集する
WIZ避難者のふりをして住民達に話を聞く
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


黒曜・鵺
・なるほど、私の同業者がこちらにおられる、と。久しぶりですなぁ、同業者同士の化かし合いというのは。では、速やかに影を渡り、確実に闇へ葬りましょう。

・こう言う時に私の身体は便利ですな。時に人型を模し、時に液状化して潜み、「目立たない」ように「迷彩」を施して人々の噂話に耳を傾け、目立たないようにするあまり不自然になっている人の足跡を追いましょう。例えば「市場にいるのに買い物をしなさすぎる人」とかですな。ああ、私は時々買い物をして情報を集めますよ。その際は「これだけ人がいると冷やかしも多いでしょうねぇ」等と話して敵の存在をぼやかしましょう。

・目星がついたら「だまし討ち」「暗殺」とUCで片をつけます。


 アポカリプスヘルにおけるヴォーテックス一族を含む大攻勢の真っ最中。
 その中心部からはやや離れるカナダ国境付近には、この荒廃した世界にしては活気のある一大拠点がある。
 文明崩壊以前より自然が豊かだったことが幸いし、天然の資源を利用し、着々と勢力を伸ばしていった背景もあり、その賑わいは彼らの努力の成果と言っても過言ではないだろう。
 そして、彼らの拠点をより強固にしているものの一つに、広い荒野に面した区域に設けられた巨大な塀の存在がある。
 それは最早、城壁と言ってもいい、コンクリートと鉄骨により拵えられた強固なものである。
 主な材料は、廃棄された自動車であり、それらを積み重ねてコンクリートで塗り固めて鉄骨をはめ込んで補強したもので、戦車砲を受けても容易には破壊できない。
 そこへゲートを設けて出入りを管理すれば、拠点内は取り敢えずの治安を手に入れるという訳である。
 各所に設けられた監視塔および銃座は物々しいものがあったが、その存在はこの世界の荒廃っぷりを考えれば頼もしい存在と言えるだろう。
 城壁の一端に佇む人影が、それらを観察し、悪目立ちせぬうちに身体を引っ込める。
 日影に身を隠すその姿は、直方体を繋げて人型を作ったかのような……ややもするとローポリ。マイン〇ラフトの住人。ゴール〇ラ〇タン。などと言われそうなほどの造形のシンプルさであったが、黒曜・鵺(影渡り・f10896)は、その形状をそこそこ気に入っている。
 ブラックタールである鵺は、その形状をある程度自在に操れるのだが、大半は人型を模したこの姿をしている。
「なるほど、確かに守りは堅固なようです。しかし、だからこそ同業者がおられる、と……」
 大きな拠点らしいこの場所の防御力を彼なりの観察眼で確認したところ、なるほど確かに外からには強そうだが、そういった場所というのは、入るのは難しくとも出るのは容易であり、内側から崩されると脆いものだ。
 にやりと歪む口の端は、自分なら確かにこういう時に仕事が舞い込むという納得と、そして、
「久し振りですなぁ。同業者との化かし合いというのは」
 同業、即ち斥候や潜入を得意とする者との、闇の中での戦い。その予感に、鵺は静かに昂揚していた。
 プロフェッショナルである鵺は、その昂ぶりをわざわざ表に出したりはしないが、同じ業種と技を競い合う機会というのは、派手な仕事の多い猟兵稼業には意外と少なかったりするのだ。
 昂ぶる気持ちを胸の内に、暗い影の中でぎらりと赤い目を光らせると、その体は瞬く間に液状化し、影を渡って人ごみに消える。
 猟兵の存在というものは、あらゆる世界においても一般人からは不自然に思われることはない。
 とはいえ、あの形状のボディはちょっとだけ目立ってしまう。
 常に液状化していれば目立たないかもしれないが、それだけで物事がこなせるわけでもない。
 まず影に擬態して街中を這って回り、鵺は情報収集につとめる。
 存在感を消し、人や建物の影に身を潜めて、怪しい人物の情報を集め続ける。
 ついでに拠点の地理や、共通の話題や語句なども覚えると、今度は積極的な情報集に移行するのだった。
 影が落ちてほぼ人の出入りのない路地に入り込み、ふたたびその影から出たとき、鵺の姿は黒い不定形から、人型に変化していた。
 無論、お気に入りのキュービックヒューマンスタイルではなく、頑張って造形をいじったハンサム顔である。
 多少肌色が土気色に近いが、まあそういう顔色の奴はごまんといる。
 この世界でなら、多少不景気な顔色のほうが不自然が無いだろう。
 さて、人の姿をとるということは、やる事は積極的な聞き込みであろう。
 実を言えば、市が開かれ賑わう街道をしばらく観察していた時点で、ある程度の目星は付けていた。
 多くの人間が物資の交換や、値段の交渉に興じ、その誰もが商品を見に来ている。
 だから目線を追えば、大概の人間は商品の方を見ている。
 ならば、そうでないものばかりを見ている者は、何が目的なのか。
 そういう人物に絞り込んでいくと、この場に於いて不自然なほど買い物をしない。
 そして見ている先はというと、ここからでも目に映る城壁の方だったりするのだ。
 その不自然な男から視線を外さぬよう、自然を装って、鵺は出店の前で足を止める。
「やあご主人。盛況なようですな」
「ああ、ここじゃ盗みもあんまり無いから、気軽にやれるしな。なんか見ていくかい?」
「ええ、折角ですからね。ふーむ」
 商品に目移りしている風を装い、鵺の額の目はマークした人物の動向を伺っている。
 扱っている商品はなかなか多様で、植物の種から電子部品、生理用品なども取り扱っているらしい。ただ、使用期限はかなり怪しいようだが。
「そういえば、ここ最近、変わったお客さんはいましたかね?」
「ん? そうだなぁ、言ってみりゃ、皆変わってるからなぁ。誰か探してるのか?」
「ああ、いえ、これだけたくさんの品を扱っておられるなら、さぞ冷やかしも多いのではないかと」
「はは、そいつも楽しんでやってるよ。で、あんたは冷やかしなのかい?」
「おっと……では、この蜂のブローチを。どうやら掘り出し物のようだ」
 訝しむような出店の主人の態度をはぐらかすついでに、目についた商品を購入したりしつつ、目当ての人物が人ごみを外れていくのを見て、鵺はそれを追いかける。
 購入した銀製と思われる蜂のブローチは、よくよく見るとピンホールカメラが仕込んであるようだった。
 この時世に役に立つとは考えにくいが、こういうグッズは職業柄わくわくしてしまうのだった。
 ふたたび路地に入ったところで、鵺はその体を溶かすように暗闇に紛れ、目当ての人物がひと気のない道を選んで行くのを静かに追跡する。
 それは偶然ではなく、周囲をさり気なく警戒するように目線を配る姿は、いかにも怪しい。
 そしておもむろにカメラを取り出すと、誰も人のいない城壁を写真に収め始める。
「おや、撮影会ですかね?」
「っ!?」
 暗がりに、静かなシャッター音だけが鳴る中、唐突に声をかけた鵺に反応し、慌てて周囲を見回すが、その姿は見えない。
 見られたからには、と即座に逃走を計ろうとするその人影が走り出した瞬間、その足元の影から赤い瞳が開いて、そこから赤い光線が照射され、急所を撃ち抜いた。
 抜きつける瞬間すら見せない【クイックドロウ】。というか、義眼に仕込んだブラスターなので抜きつける必要すらないのだが……。
 音もなく倒れるその男からカメラを奪い取り破壊しつつ、抱き留めた遺体を目立たない場所に持って行って処理するその手際は、流石は同業者である。
 後はもう闇の中。
 賑わう市場の裏側で、人の一人や二人いなくなっても、誰も気にするものなどいなかった。
大成功 🔵🔵🔵

夜鳥・藍
避難者の振りというのも難しいですが、それらしい服装に変えて里に入ります。
目立たないように溶け込むようにし、里に定住しやすそうな人物になりきります。
ある程度その印象を付けたら、時折一人で出歩くようにして。尋ねられたら残してきてしまった家族を思い出してるとでも言っておきます。ええ、サクラミラージュの実家に残してきたのは事実ですから。

私は自分で探すのは得意ではない。ならば己を囮としましょう。
私を殺しに生きた相手を逆にやり返すのが目的です。
成り代わるということは死体を残さない手段があると言う事。それは同じ手段でやり返す事もできると言う事です。
一人の時は十分に注意しクリスタライズも使って裏をかきます。


 カナダ国境付近の大拠点。その拠点の周囲の防備は確かなものだったが、それ故に内部の機密に関わろうとする者は後を絶たない。
 高い壁に、入場する者たちを監視する体制は整えても、如何せんこの拠点を訪ねてくる者が多すぎる。
 見た目から怪しかったり、お粗末な侵入を試みようとする者は排除できるようになったが、逆に言えばそこをすり抜ける本物のみが野放しに拠点を探っているとも言える。
 オブリビオン軍団を扇動する、本物の間者が巻き起こすであろう悲劇。
 それを未然に防ぐため、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は先んじて、この一大拠点に入り込んでいた。
 オブリビオン軍団を呼び寄せる予定や、そのタイミングなど、わからない事は多いが、それよりもまずは、拠点の中の住人に怪しまれぬよう地元によく溶け込むことから、藍は始めたのだった。
 サクラミラージュ出身の彼女は、それなりに見目の整った装いをいくつか所持していたのだが、この荒廃した世界ではあまりにも仕立てが良すぎる。
 そこで前もって古びて傷んだ服をこの世界から手配し、外を出歩くときはそれを羽織ることで目立つことを避けた。
 それでもクリスタリアンである彼女の美貌は、何かと目立つ羽目になったが、そもそも猟兵はよその世界で奇抜な恰好をしていても、ある程度は違和感を持たれない。
 それでも藍は慎重を期して街に溶け込み、プレハブのような粗末な小屋を手に入れるまでになっていた。
 そこで彼女は、帝都でやっているように占いや、知識を用いての助言などを支障のない範囲で提供し、たった数日でこの拠点に住み着いていることに何ら違和感を持たれないまでになった。
 ただ、住んでみて思うのは、この世界に住まう者たちの生命力の強さと、その精神性の違いだろうか。
 本来住んでいる世界が違う藍の身の上話は、そのほとんどが即興で組み上げた空想に過ぎないが、リアリティをもたせるためいくつか本当の事も混ぜている。
 その中の一つに、故郷に残してきた弟の事がある。
 これは彼女がサクラミラージュに於ける実家に残してきた弟の事であり、決して不仲ではないものの、藍本人の折り合いがつかないため家を離れている事情があって、弟の事は未だに思い出しているようだ。
 少しでも地元の人間から同情心でも買えればいいかと思っていたのだが、彼らはどうにもその辺りの価値観が渇いているらしく、あまり話題に乗ってこなかった。
 彼等からすれば、ここから一歩でも出れば、そこは危険地帯。
 他所の拠点がいつまで平和であるかも知れないし、連絡手段も限られている。
 彼等から感じたのは、同情的というよりもむしろ、諦念を向けられたような気がしてならなかった。
 口には出さないが、もう諦めろと言っているかのようで、少し気が滅入ってしまう。
 まあ、数日過ごした程度では、他人の事情に深入りできないのだろう。
 それに、藍自身、ここへ定住するつもりもなく、ここへはあくまでも仕事できているわけで、深入りして情が移りでもしたら離れるのが辛くなる。
 慌てる事はないが、占いに依れば、そろそろ身の危険が迫る頃合いのようでもあった。
「住めば都とはいうけれど、不便を感じてきましたね」
 最低限度の治安が保証されているとはいえ、故郷程ではない。
 小物が盗まれたりするのは日常茶飯事で、一般人を装うからにはあまり強く気を張ってもいられない。
 だからなのか、自分自身を間者に襲わせるための囮とする、その時が迫っているという予感が湧いた時には、安堵すらあった。
 正直、もう少し長いスパンを想定していた、あまり成功率の高いとは言えない策であったが、それでも勝算はあった。
 間者として入り込むなら、顔の知れた長年住んでいる者よりも、顔見知りの出来始めた新参者の方がやり易い。
 覚えたての顔ならば、多少内面が変わってもそれほど強い違和感を持たれにくいからだ。
 今日の予定はキャンセルして、小屋で静かにしていよう。その方が狙いやすいだろう。
 予定といっても、近くのコンテナ街をうろついてさり気なく顔を売ろうと思っていた程度なのだが、もはやその必要もなさそうだ。
 静かに部屋の片づけをしながら、周囲に注意を払い、襲撃に備える。
 自分になり替わるということは、なり替わる予定の人物の存在は邪魔になる。
 人の多いこの拠点で、人一人を消すのはなかなか大変だろうが、その術を心得ている者がやってくるのだろう。
 ならば、それを利用して返り討ちにしてやろうという算段であった。
 粗末なテーブルの上に広げたブランケットとタロットカードをしまう途中、藍の手が止まる。
 穏やかな目元がすっと細くなり、呼吸を落として、物音を立てぬよう、静かにユーベルコードを使用する。
 【クリスタライズ】によって周囲の景色を透過すると、藍の姿は小屋に居ながら居ないもののように見えなくなる。
 そしてぴったり3秒後、プレハブ小屋の建付けの悪い筈の扉が、音もなく開く。
 暗殺術を心得ているらしいその存在は、見た目には薄汚れた難民の一人にしか見えないが、その手に持ったアイスピックのような黒塗りの短刀は、にわかに湿り気を帯びているようだった。
 周囲を見回すその人影は、藍の姿を探しているようだったが、透明化した藍は気配を消してその背後に回り込んでいた。
「……」
 見回すその姿は軽い困惑を思わせたが、取り乱したり言葉を発したりしないのは、流石と言ったところだろうか。
 だが、藍とて腕利きの猟兵である。
 裏をかいた種が露見するのも時間の問題と見て、相手が状況を飲み込まない内に、勝負に出る。
 人影の背後から忍び寄って、手にしている暗器を手ごと掴みつつ、それを引き込むようにして襲撃者の首筋に突き立てた。
「が、ご……!?」
 言葉にならぬ声。どうやら毒の塗られていた暗器で自らを突くこととなった襲撃者は、身体を小刻みに震わせたままその場に崩れ落ちた。
 そのタイミングで透明化を解いた藍は、その襲撃者を見下ろす。
「え、あ、ごぼ……」
 フードで顔を覆っていた襲撃者は、自分とそれほど変わらない女性のようだった。
 まあ、なり替わるのであれば近い体格、年齢の者が差し向けられるか。
 ぼんやりとそんなことを思っている合間に、襲撃者は血の泡を吹いて動かなくなった。
 それが黒い霧となって霧散していくのを見て、そういえば相手がオブリビオンであることを思い出す。
 骸の海へ還った彼らの処理をしなくて済んだのは僥倖だったが、あまりいい気分にもならない。
 一つ嘆息し、荷物の整理をし終えると、小屋を出た辺りで住民と遭遇した。
 どうしたのかと聞かれ、藍は逡巡したものの、それらしい答えを思いついた。
「故郷から便りが来まして。弟の居場所がわかったんです。そこへ行ってみようかと」
 にっこりと笑って見せると、対する住民は切なそうな顔をしてから、旅の無事を祝ってくれた。
 なんだ、ここにも情は残っているじゃないか。
 捨てたものじゃない。
 いやな気分も少しだけ報われた気がして、藍は一人、この街から姿を消すのであった。
大成功 🔵🔵🔵

リーヴァルディ・カーライル
…これでも狩人を名乗っているもの
潜んでいる敵を見つけるのはお手の物よ

「精霊石の耳飾り」に生命の精霊を降霊して生命力を暗視する視力を借り受け、
周囲の人々の中から他者とは異なる生命力の持ち主を索敵して見切り、
目星が付いたら自身の存在感を消すオーラで防御して闇に紛れて対象を尾行を行い、
積み重ねてきた戦闘知識から最終的な判断を下して、
人気の無い場所で頭上等の死角から切り込みUCを発動
怪力の掌打で敵頭部を捕縛すると同時に血の魔力を溜めた魔杭を放ち一撃で仕留めるわ

…力が弱いと言ってもオブリビオンである事に変わりはない

…ならば、探るべきは常人とは異なる生命力を有して、紛れ込んでも不自然じゃない"人間"ね


 アポカリプスヘルにおける戦争の真っ最中。今回の舞台はアメリカ大陸が中心となっているが、その戦禍は北部のカナダ国境付近にまで伸びようとしていた。
 自然豊かな区域から端を発した一大拠点であるこの場所には、今や城塞とも言えるほどの守りがある。
 その中でならば、一応の治安は約束され、血なまぐさい殺し合いや奪い合いからはひとまず脱する事ができるとあって、この荒廃した世界にしては珍しく、人ごみというものが生じていた。
 行き交う人々の袖がこすれるほどの距離感と密度。それをあまり想像していなかったせいだろうか。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、すこしばかり人ごみに辟易していた。
 ダンピールである彼女は、猟兵の力を手に入れた後も、主にその力をヴァンパイアを狩るために使っていた。
 現状、オブリビオンと目される者の一種として数えられるヴァンパイアを倒すことは、猟兵として何ら間違ってはいない。
 ただ、最近ではあちこちの世界にも、狩人として参戦することも増えてきた。
 慣れ親しんだというのも妙かもしれないが、いつも知っている環境ばかりとは限らない。
 これも仇敵を倒すための長い道の一端。そう思い直しはするものの、戦い続けるのとは違う気疲れと不毛感がリーヴァルディの足を止めさせる。
 この世界は日差しも強い。忌まわしき血が陽光を嫌うというのもあるかもしれないが、戦うための装いで炎天下を歩き続けるのに言いようもない気だるさを感じてしまったのだ。
 仕方がない。拠点の地理は、適当に歩き回ったおかげでだいたい掴めたところ。
 いい区切りかもしれないと、道端の隅っこに放置されている木箱に腰を下ろして、人の行き交う様を、見るともなしに眺める事にする。
 人は脆い。しかし、その生命力というのか、一同に会するときの活気は強い。
 そんな中でも、自分という存在が異端に思えてしまうのは、ダンピールという種族だからか。それとも、猟兵という生命の埒外に位置する者は、みんなそうなのか。
 人の中にあって、なおも孤独を感じる寂しさが、人の活気を疎ましくも思わせるが、今はそんな風にささくれている時ではない。
 この中に、そんな彼らの営みを破壊しようという連中がまぎれているのだ。
 木箱に腰かけたままで、うずくまるように丸まって、『精霊石の耳飾り』に手を触れる。
 耳にしたまま、きらきらと手の中で転がすと、契約した精霊の力を降ろし、その力の一端を、今回はその目に宿す。
 難民風に偽装した礼装に包まるようにうずくまる姿は、傍目には目立たないが、その視線だけは油断なく周囲に振り撒かれ、静かに獲物を探していた。
 精霊の力を借りて見るのは、普通の光学的な景色ではなく、それぞれの生物がもつ生命力。
 命の形はそれぞれであり、人は人、妖精は妖精、といった風に、違いが分かるものだ。
 相手は人を装ったオブリビオン。骸の海から蘇ったという、言うなれば猟兵と似ている生命の法則に逆らった存在である。
 当然その違いは明白であり、行き交う人ごみの中でもそれは際立って見えた。
 それにしても、ここは活気がある。命だけを見ていても、目がくらみそうなくらいだ。
 こんなに荒れた世界でも、人々は生きる事を諦めてはいない。
 眩し過ぎて本命を見失いかねないが、まあ、見失うことはないだろう。
「……これでも狩人を名乗っているもの。
 潜んでいる敵を見つけるのはお手の物よ」
 目標のオブリビオンの歩く先を見越し、口中で呟くと、目立たぬよう裏路地へと姿を隠す。
 普段、リーヴァルディが相手にするような吸血鬼とは、その瞬発力や五感に至るまで極めて高い水準であり、単純に気配や足音を消しただけでは、容易に近づけない存在である。
 故に、それを狩る存在である彼女は、自身を守護するオーラにまで、周囲の環境と同化するような工夫を凝らしている。
 手の中に納まる様な紙束でも、それを燃やし、粉々にしたところで、状態が変わるだけであり、消滅することはない。
 目の前にある物は容易には消せないのである。
 それと同時に、ある筈のものが無いというのも、それはそれで目立ってしまう。
 リーヴァルディという少女一人の存在感だけを消し、誰もいないかのように思わせるならば、その周囲の環境に溶け込むしかない。
 その努力が功を奏し、尾行対象であるオブリビオンがひと気のない路地に入り込むところまで、ただの一瞬も、リーヴァルディはその存在を知られた気配はなかった。
 命を見る視界の情報に頼るなら、待ち伏せされている様子はない。
 おびき寄せられたという訳ではないようだ。
「……力が弱いと言ってもオブリビオンである事に変わりはない」
 油断せず、一定の距離を保ちながら、ひと気のないコンテナの並ぶ路地裏に入り込み、戦闘をシミュレートする。
 この距離なら、一瞬で詰められる。
 しかしそれでは、あまりにもうまく行きすぎる。
 連綿と積み重ねてきた戦闘知識が、慎重を期して相手を容易ならざる者としていく。
 本当はそんなことはないのかもしれないが、油断は禁物である。
 ただ背後から奇襲するだけでは不安が残る。
 ならば、と、足音無く地を蹴ると、コンテナを足場に飛び上がる。
「……限定解放」
 蹴りつけたコンテナに反響する音に、オブリビオンが化けた侵入者は反応して振り向くが、既にそこにリーヴァルディはおらず、小首を傾げるその頭に、一瞬だけヴァンパイア化したリーヴァルディの腕が降り注ぐ。
 【限定解放・血の聖槍】は、一瞬だけヴァンパイア化した掌を撃ち込み、その怪力、巨大な魔力を解除した余波に乗せて杭のように打ち込むものである。
「ぎっ!?」
 完全なる死角となった真上からの一撃に奇妙な悲鳴と共に、侵入者のオブリビオンは文字通りあっさりと潰れた。
 ヴァンパイアの膂力の前には、人間の肉体はなんとも脆い。
 それが黒々と、骸の海に還っていくのを見やりつつ、周囲に注意を配り、
 リーヴァルディは何事もなかったかのように、次なる獲物を求めに行くのであった。
大成功 🔵🔵🔵

七那原・望
果実変性・ウィッシーズアリスに変身してねこさん達に調査をお願いしましょう。
彼らなら大胆に動いてもまず怪しまれることはないでしょうからね。

間者を見つけたら教えて下さいね。すぐ駆けつけるので。

ねこさん達が間者を見つけたら速やかに現地に駆けつけます。
到着と同時に全力魔法の幻覚でわたし達の姿と間者の姿を周囲から見えなくしましょう。
これで周りの人達は間者の死に気付かないですし、間者はわたし達に気付けません。

後は音もなく忍び寄ってフィーネで首を刎ねておしまいです。
あぁ、即座に結界術で血が周囲に飛ぶのを防ぎつつ、オラトリオで死体と首を掴んで音が出るのも阻止しましょう。

後処理は幻覚を維持したまま街の外で。


ティエル・ティエリエル
悪いカンジャはボクが見つけて懲らしめてやるぞ☆

ふむむ、これだけ大きな町なら犬や猫さん、ネズミさんとか動物もいっぱいいるよね♪
ちょっと集まってもらって「動物と話す」でお話を聞いてみるね!
ねぇねぇ、最近急に人が変わったって人の噂とか聞いてない?
そんな風に動物さんにお話しを聞きつつ、人間さんには内緒にしておいてもらうよ!

怪しいヤツを特定したら、【妖精姫と子狼の鬼ごっこ】でこっそり追跡だ!
オブリビオンのカンジャだって確定したらレイピアでぐさっとやっつけちゃうぞ☆

※アドリブ大歓迎


 アポカリプスヘルを襲うフォーミュラによる戦争。その戦いはアメリカ大陸を揺るがす規模であり、その影響は北部国境付近の大拠点にも及びつつあった。
 その昔は自然公園があったとも言われるくらいに、もとから自然が豊かだった立地にある関係で、天然の資源が豊富で、また物資などを容易に隠しておける広大さもあった。
 その関係で、秘密裏に成長を続けたこの要所はやがて荒野を目前に大きな城壁を立てるに至った。
 人が集まれば必然的に人のトラブルも頻発する。
 外部から人が流入すれば、その中には必ずトラブルの種が舞い込むという訳である。
 全てが悪人という訳ではないが、人が三人集まれば派閥が生まれるという話もある。
 思想が人の数だけあれば、その正義も一つではない。
 いくつもの分裂と衝突を繰り返し、少なくとも今は共通の方向性を見出して共存している。
 それがこの場所。
 走れなくなった乗用車を積み上げてコンクリートで固め、鉄骨をはめ込んだ強固な城壁を構築し、その内側には、今や市が立つほどの賑わいがあった。
 極めて治安がいいわけではないが、命の心配をしながら夜を明かすことなく、人々が暮らしていけるコミュニティとしては、この荒廃した世界に於いては快適度の高い部類に入るだろう。
 そんな拠点の市からは少し外れたところ。
 プレハブ小屋やコンテナを家代わりにしているような区画の中でも、日が差し込みづらく、人が通るにもやや狭い裏路地の奥で、人知れず猟兵が怪しげな儀式を行っていた。
 ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)が、薄暗い路地の行き止まりで両手に抱えるのは、銀の光沢を放つ円筒形の缶詰であった。
 20センチちょっとの体格である妖精のティエルだから抱えるほどであるが、普通の人間からすれば、平たく手のひらに収まるサイズのそれは、一般的に猫缶と呼ばれるものであった。
 ツナ缶とも似ているが、それよりも油分や塩分が少なく、ゼラチンのようなもので固められているという。
 何故それが儀式というのか、それは、この缶詰を好物とする者たちにとって、これのプルタブを開けるという意味は、特に大きいからであった。
 ぱきっとその封が破られる音がすれば、そこいらのあちこちの暗がりから、彼らが顔を出す。
 そう、ここは荒廃した世界だが、こうまで巨大な拠点ならば、犬や猫、果てはネズミなどの小動物もいっぱいいるだろうと踏んだのだった。
 それらを呼び寄せる手立てとして、ちょっと値の張る儀式を敢行したのだった。
 彼らは缶詰を開ける音に敏感である。そのぱきっという音を聞きつければ、なんだ飯かと集まらずにはいられない。
「ふふふ、みんなよく集まってくれた……って、うわわわ、取り合いはダーメ。いっぱい持ってきたから!」
 儀式によって集まった勇士たちの前でフフーンと大見得を切ったはいいが、ご飯につられた犬猫たちはこぞって猫缶に殺到し、大人しくなるまで3分もかかりました。
 そうして気を取り直し、空っぽになった猫缶の上に立って腕組みをするティエルの前には、この荒野で生き抜いてきた屈強な犬猫たちが集った。
 中には、お腹いっぱいになって眠そうな奴もいるが。
「集まってもらったのは、他でもないんだけどさ……」
 動物と話すことができるティエルは、ジモティーも同然である動物たちに協力を求める算段を立てたのである。
 一般人に混じって、オブリビオン軍団をこの拠点に引き込もうとする不逞の輩が入り込んでいる。
 それをそのまま伝えるのは、彼等に危険が及ぶ可能性があるため、それはぼかす必要がある。
 なにしろ、彼ら動物もまた、ここの住民。余計な不安を抱かせるわけにはいかない。
「ねぇねぇ、最近急に人が変わったって人の噂とか聞いてない?」
 だからティエルは、あくまでも遠回しに話を聞いてみる。
 動物たちも、話の分かるティエルから食料を恵んでもらった手前、知っている範囲で情報を提供してくれる。
 幾つか話を聞いていると、ふと誰かの気配。
「見つかっちゃったかな……?」
「そのお話、詳しくお聞かせくださいますか?」
 路地裏の人が来ないような狭い場所にわざわざ入り込んできたその姿に、一瞬だけ警戒したものの、ティエルはその人物、七那原・望(封印されし果実・f04836)の姿を確認すると、ほっと胸を撫で下ろす。
 ここに集まった動物たちも、あまり警戒している様子を見せない。
 何故ならば、今回の望は、いつもの目隠しとオラトリオの翼はそのままに、【果実変性・ウィッシーズアリス】でいつもと装いを変えている都合上、4匹の猫を連れていた。
 魔法が使えるというそれらの猫は、望の足元に白と黒と三毛、そしてなんか浮いてて目と口の大きくニヤついた奇妙な姿をしている。
「ちょうどよかった。目撃情報があちこち散らばってて、一人で回るには広いなーって思ってたんだ♪」
「なるほどなるほど……」
 望一行を迎え入れたティエルは、地面に石や瓶の蓋などを並べて作った簡易的な街の地図を指さして見せる。
 望もそれを見下ろす。尤も視覚を封じられた望には、配置された小物でおおよその立地を読み取るので見る必要はないのだが。
 とにかく、動物たちの情報をもとに、怪しい者たちが出没したポイントを絞り込んで、それぞれに望の呼んだ魔法猫、望本人、ティエルが手分けして探しに出る事になった。
「他にも怪しい奴を見つけたら、ボクやノゾムに教えてね。絶対に、自分たちで追いかけちゃダメだよ」
「ティエルさんには、連絡係にこの子を付けましょう。どこにでも出てきますし、まず見つかりません」
 動物たちの安全を優先し、念押しするティエルに、望は傍に浮かぶチェシャ猫じみたギラギラ目ににったり笑うちょっと不気味な猫をあてがう。
 あんまりかわいくない感じの猫だが、不思議と愛嬌があるその猫は、本当に存在感が薄く、ガスのようにあやふやだった。
「よーし、悪いカンジャはボクたちが見つけて懲らしめてやるぞ☆」
 最後に、二人してぐっと拳を上げると、動物たちと共に一斉にその場を去るのだった。
 望たちは、魔法猫と共に手分けして怪しい人物の特定と追跡を行い、その発見と共に、得意の幻術を展開し、怪しい人物のみを巧みに巧みにひと気のない場所へと誘導していく。
 ティエルはというと、
「いたいた、あれだね……オオカミくん、ボクと一緒にアイツを追跡だよ!」
 怪しいという情報のもと、見た目にもなんだか挙動不審な人物を特定すると、小声でユーベルコードを発現させる。
 呼び出したのは、森の守護者であるという漆黒の大狼……の子供である、体毛もまだふわっふわの子狼であった。
 子供ではあっても、森の中を音もなく風のように駆けるというその俊敏性は確かで、この街の中でも発見されずに駆け抜ける事が可能であろう。
 その背に跨り、怪しい侵入者を追跡する【妖精姫と子狼の鬼ごっこ】の始まりであった。
「んん? チェシャくん、どうしたの?」
 人通りのある中でも見つかることなく追跡を続けるティエルの目の前に、ガス状の猫が現れ、にんまりとしたまま器用に行先を指定するのが見て取れた。
「……そっか。一か所に集めてるんだね。さすが♪」
 チェシャ猫の言い分を読み解き、望が魔法猫と共に幻覚魔法で怪しい者たちを一か所に誘導しているらしいことを理解する。
 ティエルは、現在追跡している侵入者を追いかけつつ、自分もそこに合流する旨を伝え、追跡を再開する。
 そうしてやがて、侵入者がひと気のない場所を選んで移動する内、最終的には荒野に面した巨大な城壁の裏側にまでやってきていた。
 その区画に足を踏み入れた瞬間、とぷんと何かカーテンのようなものに触れたような気がした。
 それと同時に、周囲の音の聞こえ方が変わったのにも気が付いた。
「ちょっとした幻覚魔法です。多少怪しい動きをしたって、もう誰も気付かないはずですよ」
 訝しむティエルに、同じように駆けつけていた望が声をかける。
 追跡する相手に聞こえぬよう、静かな声だったが、その魔法のせいかやたらとはっきり聞こえた。
「あとは音を立てないように……やりましょう」
「わかった。手伝っちゃうよ☆」
 身の丈を超える大鎌、フィーネの白い刃先を閃かせ、音もなく駆ける望を追いかけるように、ティエルも乗り付けた子狼から飛び立ち、愛用のレイピアを抜き放ちながら加速する。
 幻覚に誘導され、集まった怪しげな者たちは、お互いの姿もよく見えていなかったのか、それぞれがほぼ同時に道端でどんっとぶつかってからようやく、その場所が城壁付近であることに気づいたようだった。
 ぶつかった相手を見て、その混乱はさらに加速する。
 どうして、時間と場所をずらして潜り込んでいた筈の仲間が、一か所に集まる羽目になっているのか。
 その危険な状況を、さしものプロの侵入者たちはすぐに思い至るが、さすがに遅すぎた。
「ここまでです。ご苦労様でした」
 振り抜かれた白い大鎌にあしらった赤いアネモネ。その花びらが散るかのようにも見えた血しぶき。
 それすらも、周囲に跡を残さぬよう、咄嗟にはなった結界術の障壁に阻まれてしまう。
 一息に二人。そのそっ首がぐるりと半回転しながら肩から転げ落ちるのを目の当たりにし、残った間者はその場から逃走を図ろうとするのだが、その視界の端をきらりと金粉でも散らしたかのような風が横切った気がした。
「だめだよー、悪いこと考えちゃ」
 こんっと頭に固い小石がぶつかったかのような感触だった。
 だがそれだけで、膝から下が無くなりでもしたかのように、足が動かなくなってしまった。
 そして直後に、額からぬるりとした物が流れ落ちて、出血している事に気づく。
 やがて平衡も保てなくなって身体が倒れるのを感じると、それを最後にあらゆる感覚が失われていく。
 最後に見たのは、自分と同じように倒れる仲間と、それらを見下ろす翅の生えたきらきらとした何かだった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵