アポカリプス・ランページ⑮〜うしろのあなた(作者 一縷野望
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●こわいのだぁれだ?
 例えば、なんてことない夜の木陰が心の裡に棲まう『怖ろしい誰か』に見える事がある。
 こわい、こわい、こわい。
 そんな時、あなたはどんな振る舞いをするだろうか。
 ギュッと目をつぶって足早に帰路を急ぐかい?
 もう昔みたいな弱虫じゃないんだぁなんて勇ましく立ち向かうかい?
 それとも――……ああ、答えなくても構わないよ。実際にどうするかを見せてくれ。これはそんなミッションだから。

●グリモアベースにて
 煙草に火を移し吹き消したマッチは白い煙をたなびかせた。
「その黒い炎は本当にあなたに襲いかかってくるのです」
 比良坂・彷(冥酊・f32708)はガラスの灰皿にマッチを投げ捨て続ける。
「メンフィスはかつてミシシッピ川に面した大都市だったけど、今は見る影もねぇよ。どこもかしこもどす黒い炎まみれ」
 黒煙をなすったような画面を示し、アポカリプスヘルに相応しい死の草原だと苦笑い。
「まぁその黒い炎から、あんたらの抱える『恐るべき敵の幻影』が出てくんだわ」
 普段は隠しているが実は怖い身近な誰か、
 因縁のある敵、
 憎たらしくも抗えなかった誰か、
 ――自分。
 恐怖の対象なんて人それぞれだ。
「これがよく出来ててさぁ……『怖い』って思ってる奴からの攻撃は、すり抜け」
 すっと、人差し指と中指で虚空をなぞり、
「だけど、実体はあるからあちらさんからの攻撃は全てあんたらには突き刺さる。言葉も刃も、その他も」
 こん、と、今度は煙草の匣を弾き握りつぶす。
 随分と分が悪い話もあったもんだ――『恐るべき敵』なのだから、畏れを抱かぬわけがない。
 倒す方法はただひとつ、恐怖を乗り越えた一撃を見舞うことだ。さすれば幻影はたちどころに消え失せる。
「ここに来てくれたってことは『己の敵を覗き見したい』物好き、もとい、覚悟が出来てるってことだよねぇ?」
 不良學徒は、紫煙を吐き出すと、手元で地獄への路をひらく。
「だとしたら言うことはひとつだわ――幸運を、祈ってる」


一縷野望
ご覧いただきありがとうございます、一縷野です
オープニング公開の時点から受け付けております

※ゴリゴリとトラウマや肉体を抉らせていただきます、物理・メンタルお好きなようにどうぞ

>採用人数
2~5名
先着順ではありません
全員採用のお約束もできかねます、申し訳ないです
挑戦者数が採用キャパシティを上回った時点で締め切り宣言となる場合があります、ご了承ください

>内容
プレイングボーナス……あなたの「恐るべき敵」を描写し、恐怖心を乗り越える。

あなたの『敵』を描写させていただきます
『敵』のことを沢山教えてください

乗り越えた時点で、活性化してあるUCでトドメを刺すので、戦闘プレイングはなくても大丈夫です

>裏メニュー
2名様まで
『敵』を乗り越えることが出来ないプレイングをどうぞ
判定は成功か苦戦、シナリオ失敗にはならぬようにしますのでその点はご安心ください

>その他
戦争なのでややスピード重視、再送とならぬように完結させる心づもりです
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第1章 冒険 『恐るべき幻影』

POW今の自分の力を信じ、かつての恐怖を乗り越える。
SPD幻影はあくまで幻影と自分に言い聞かせる。
WIZ自らの恐怖を一度受け入れてから、冷静に対処する。
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


忠海・雷火
人格:カイラ


衝撃だった
現れた敵は私……いや、「雷火」
その口調と姿を被った、裡に溶けている邪神。過去も未来も関係なく、生きる全てを憎み殺すモノ

嘗て邪神が入った時、私達の魂など擦り潰される筈だった
それを雷火が……何をしたのか教えてくれなかったが、緩やかな侵食に留めたから今に至る
そう、侵食自体は続いている筈
なのに私には「なぜか」殆ど影響が無い

嗚呼、あの敵は、
己を裡から喰らい、いつどうなるとも判らぬモノへの恐れ
同じ「私」である筈の片割れが、判らぬことへの怖れ

裡から見ている筈の本物の彼女は何も言わないから、余計に怖い
でも、それもまた答え
恐怖を飲み込み受け入れて、その上で互い(己)を信じる必要があるのだと



 乾いた大地のガサガサとして踏みごたえが、あの日の血と肉で構成された粘つくものに取って代わられる。
 それが錯覚だと悟るのと、カイラが『躰』に投げ出されたのはほぼ同時。
「雷火」
 カイラが瞳を通し見た姿は己と同じ。だがそこに宿る者の名は己ではなく日常主に過ごす『雷火』である。
 暗がり紫の髪と血色の眼差しを気怠げに翳らして低燃費の心で過ごす雷火。
 否。
(「私は雷火に押しつけているだけなのか」)
 アレは、雷火の口調と皮を被った邪神だ。何故雷火を畏れる必要がある?
 雷火が抑圧する裡には、過去も未来も関係なく生けとし生きる全てを憎み葬り去りたいとの希求を孕む奴がいる。
「だからお前を雷火などとは呼びたくはない」
 息だけで嗤われた。
 幻影の眉根が僅かに下がり、まるで責められてるようにも見えた。
「……」
 ――もう、邪神は此処にいるのよ。
 弟と両親を贄に召還された、あの誕生日が『再び別のモノに産まれ直した日』だなんて、皮肉にも程がある。
 そう、産まれ直す筈だった。
 私の、私たちの魂など擦り潰されて、心だけは血肉に果てた家族と同じになる筈だったのに。
「雷火、あなたは『何』をしたのか教えてくれなかった」
 幻影を『邪神』ではなく『雷火』と見て唇のままに話し続ける。その時点でカイラはもしやと思い当たる。
 ――私は『雷火』を畏れているのだろうか、と。
 邪神は確かにこの躰に侵入し完全に抗うことは叶わなかった。だが、カイラが意識を有し続けて、普段は雷火として日常を過ごす、なんて緩やかな侵食に留めたのは、全て雷火が成したこと。
 カイラが己の胸に軽く握った拳を宛がうと、幻影は己を示すように手のひらを同じようにあてた。
 カイラは、カイラでいられる。侵食は進み続けている筈なのに『なぜか』殆ど影響を受けずにいる。
 荒事時に躰の扱いがうまいからと譲られるだけだから? いや、いや……。
「雷火……」
 己の裡に呼びかけようが、本物の『雷火』は何も言わない。存在すら殺して黙り込み此方を見定めに来ている?
「そう、だ」
 嗚呼、あの敵は、雷火ではない。
 見誤ってはならない。あれは、己を裡から喰らい、いつどうなるとも判らぬモノへの恐れ。
「…………」
 そこまで来て、厳密に「雷火ではない」た断ずることも出来ぬと気がついた。
 カイラには判らないのだ、同じ「私」である筈の片割れが。雷火が何を成し、故に私『達』は一握りの正気を保てているのかが。
 判らない。
 雷火は黙りこくっている、それもまた答え。
 恐怖は常に傍らで膨張し続けている、だから受け入れるだけの器を広げるのだ――互い(己)を信じることで。
 ふぅ、とカイラが肩を緩めると同時に、幻影が内側から雷の色と形に引き裂かれて散った。残されたのは互い(己)だけ。
大成功 🔵🔵🔵

アウグスト・アルトナー
▼敵
『父さん』
名前:エドガー

妻(アウグストの母)が病死したのがきっかけで発狂
「辛い時は笑え。苦しい時は笑え」と呟きつつ、笑いながら、アウグストの右腕を尖った石で滅多刺しにした
その直後、「できないのか? こうやるんだ」と、笑顔で自分の首を掻き切った

長い間、アウグストが『辛い時以外、笑えなかった』原因を作った男

▼反応
おかしいですね
父さんは、敵ではないでしょう? ……っ
(地面に組み敷かれる。父さんの手には尖った石が)

……認めましょう
ぼくは怖いですよ。父さんが

ですが、父さんも
ぼくの中に生きているんです

ですから今は
父さんの言ったとおり(※妄想

楽しい時にも
幸せな時にも
笑います

『敵』の父さんには、さようなら



 ガサガサの地面を踏みしめたアウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)の耳をガシャンと鉄の擦れる音が騒がせた。鎖で丹念につなぎ常に大切に携えている三連の籠が投げ出されたのだ。
 ああ、皆に傷がつかなかっただろうかと、気を焦らせて籠を追おうとするも、引きずり倒されては叶わない。
 視界に現れた懐かしき面差しにアウグストがまず感じたのは、疑問。
「おかしいですね。父さんは、敵ではないでしょう?」
 声音は水のように澄んでいる。
 だが白い羽根は小刻みに震え地面をガサガサと擦る、躍起になって遠ざかろうとしている。
 心と体の相反する反応に、ますますアウグストの戸惑いが深まった。
『笑え』
 そんな息子に対して、幻影の父エドガーは画然たる口調で命じた。
 かつてのあの日と同じだ。
 だとしたらと父の手元に目を移せば、古びた血で赤黒く染まった尖った石がやはりある。
 何度も何度もアウグストの右腕の肉を深く粗雑に割り開き、白磁の肌に消えぬ醜い傷跡を残した、あの石が。
「……」
 まだ何もされていない右腕が幻の痛みで覆い尽くされる。
『辛いか、苦しいか』
「…………」
 答えるのが――怖い。
「…………はい」
 認めましょう、と瞳に長い睫の影がかかる。
 父が、怖い。
 最愛の母を病で亡くした父は人としての心の形を佚した。哀しみを湛えておける器が決潰してしまったのだ。
 壊レた感情の儘に、父は昼夜お構いなしに笑い続けた。食事もせずに眠りもせずに、母の遺骸へ覆い被さり舐めるように抱きしめて。
 幸せな時に笑うのならば辛く苦しい時もそうすれば現実が書き換わるとでも考えたのだろうか?
 ――なんて、過去巡りは、再び加えられた石の痛みにより遮られた。
『ならば、笑え』
「……」
 アウグストの唇が震え、淡く乱れた息を吐いた。縋るように許しを請うように必死に笑みの形を作ろうとする。
『辛い時は笑え。苦しい時は笑え』
「……はい」
 長く掛かった呪いの儘に瞳を弓に下げる、だがアウグストの容が“笑み”の形になることは、なかった。
「父さん」
 どうしてこの人が命を落としたのか、どのようにして己の腕がちぎれる前に済んだのかは一旦置き、アウグストは別の綾でもって微笑む。
「父さんも、ぼくの中に生きているんです」
 そう笑った息子へ、父は憤懣の形に眉を吊り上げる。
 だがアウグストは既に“妄想”に抱かれている。故に、万能感でもってますます至福に溢れる笑みにて、父の顔を手のひらで押し返す。
「ですから今は父さんの言ったとおり……」
 ぼくは、いいこです。
 父さんの全幅の信頼に値する、自慢の息子です。
「楽しい時にも、幸せな時にも、笑います」

 ……今は、何を理由に笑っているのでしょうか?

 一瞬過ぎる疑問も含め『敵』の父の頭部を握りつぶした。だが脳漿も血液も肉もアウグストを汚しやしない。だって、これは幻だから。
「……今、は…………」
 昏倒に引きずられることで己の感情からは逃げおおせた、今は。
大成功 🔵🔵🔵

月守・ユエ
『唄ってはダメ
その唄は祈りは
数多の民を狂わせた死の唄』

わたしが恐ろしいと思うは
何よりも…”己”

月神の巫女の装いの幼き少女
夜溶かした漆黒の長髪
空虚な月眸
昔のわたしが映る

『聲を放ってはダメ
それは愛する人を殺した呪い
誰も救えぬ殺戮の刃』

そんなの…わかってる
わたしの唄は”彼”の命を奪った
幸せも笑顔も全て守れずに
唄の力が祈りが愛すべき箱庭を喪失させた

唇に手を添える
舌に刻まれた神との誓いが疼く

ここより前に進みたくない
そう望んだ事は幾度とある


わたしは止まれない
唄が他の導きになろうなんて驕らない
けど
せめて彼を導く歌を紡がねば

何故
わたしは彼を愛しているといえる

進むしかない
茨の道を踏みしめても
過去の姿、退けても



 小さな籠にその女の子は囲われていました。
 大切にされてはいたのでしょう――なにしろ少女の紡ぐ歌声を通じて、民は神の恩寵を賜ることが出来たのですから。
 然れど、その大切は非常に傲慢で欲望に塗れた身勝手なものでもありました。
 歌巫女と祭り上げられた娘の尊厳とは、石畳の階段に腰掛けて愛を授けてくださる月の元、風に吹かれる程しかありません。
 それでも少女は――。
「唄ってはダメ」
 月色の帯に白銀の衣に身を包む少女が胸元に手を宛がったなら、月守・ユエ(皓月・f05601)は静かながら悲鳴にも似た声で止める。
「その唄は祈りは、数多の民を狂わせた死の唄」
『……』
 ほどけた髪を風に靡く儘にして虚ろな月の眼で佇む幻影は、誰が見てもユエの幼き頃とわかる。
 やはり、現れた。
 ユエが何よりも怖ろしいと思うのは、己。
 民の欲望がその身に幾重にも縋り付こうが一切穢れることのなかった姫君、それがこの娘。
 無垢の無は、無し。
 ただ、歌うことだけが、有。
『――』
 幻影は月を求めるように天蓋に向けて腕をのべた。止めようと手を伸ばすユアだが、指は空を掠めた。
『……♪』
 清廉なる歌声が場を満たす。誰よりも知る歌声を耳にしたユアの精神がズブズブと焦げるように疵を増やしていく。
「聲を放ってはダメ……」
 引き絞っても掠れ声。対する歌はますます勢いを増す、恩寵賜るに迷いなぞ欠片もないのだから。
「…………ッ」
 乾いた地面に膝をつき喉元に手を宛がう仕草は幻影と全く同じだ。だが、幻影の少女が知らなくて、ユアが知っている過去がある。
「それは愛する人を殺した呪い」
 ――わたしの唄は“彼”の命を奪った。
「誰も救えぬ殺戮の刃」
 ――幸せも笑顔も全て守れなかった。
「…………ダメ」
 怖い。
 愛すべき箱庭を喪失させた唄と祈りの力が。
 持たなければ起こらなかった悲劇、でも、持たない己に……一族は無価値だ。皓も影も、なにもかもなくても良いと断じられる。欲に塗れた彼らは容赦も慈悲もない。
「……ッ」
 舌に刻まれた神との誓いがじくりとぬかるみに嵌まるように疼いた。たまらず唇に指を添え下がる。
『――……♪』
 幻影の紡ぐ唄は続く。
 この唄が歌えていた頃は、わたしは確かに充されていた。ここより前に進みたくない、そう望んだ事は幾度とある。
 否、
 わたしは止まれない。
 一度だけ俯いてから、ユアは幻影の傍らにしゃがみ込むと、手のひらでその口元を塞いだ。今度は確固たる質感を伴っている。
 頬に寄せたそっくりの唇を緩くあけ、ユアは旋律を奏ではじめる。
「――……♪」
 神との誓いが刻まれた舌は、幻影の唄を覆い潰していく。
(「唄が他の導きになろうなんて驕らない」)
 箱庭を壊した罪は決して消えない。
(「けど、せめて彼を導く歌を紡がねば」)
 絶唱は愛へと爆ぜる。
 何故、わたしは彼を愛しているといえる、そう繰り返しながらも、月の歌姫は月影と皓月が繕ってくれた心を握り締め、唄を歌う。
『…………』
 消え去る刹那、幻影は確かにユアを見た。その空虚な月眸に某かの綾が灯ったように見えたのは都合の良い錯覚か或いは――。
「もう、行くね」
 眼前には茨の道しかないとしても、進むしか選択はない。
大成功 🔵🔵🔵

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
…怖いもの見たさ等と言う言葉で片付けようにも腑に落ちぬ
何故此処に来てしまったのだろう
我が騎士が何とかしてくれるだろうけれども

恐怖を抱く相手は宿敵
…生前の記憶に此奴の顔も名前もないのに
毎夜悪夢の中で私の首を斬って微笑む優男
黒のくせ奢侈な装いに気障な羽飾りの帽子
不似合いな大鎌を携えて
「嗚呼、寵姫様。御身は崩御あそばして尚安寧もなくその様に立ち歩かれて…まことお労しゅうございます」
「今度こそ私が終わらせて差し上げます」

夢ではいつも首を斬られて目が覚めるが
…今斬られたら、どうなる?
焦って我が騎士を喚ぼうとするのに、声が出ない
「黒孔雀」を煽げどこの敵には効かぬか

嗚呼、怖い
憐れむ様な微笑が、光る刃が、



 乾いた土が音をたてたのは、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)の足が震えたから。それが怖いもの見たさ等ではないと如実に証明している。
 己を人に委ねさせることが出来るのが即ち上位者の証と育てられた娘は、埒外となってなおひとりでは戦場に立てぬのだ。
 す、と、眼前を大鎌の刃が遮ったかと思うと、抱き寄せるようにラファエラの腰までにじり寄ってきた。
「……来たか」
 張り詰めた糸のように確固たる声音だが、それは少しでも力が加わったら無残に千切れるというだけだ。
 ふくよかな感触でもって飾り羽根が頬をさすり、粘液めいた呼気が間近となる。
「嗚呼、寵姫様」
 囁かれた呼び名にもラファエラは真っ直ぐ正面を見据えるだけで答えない。
「御身は崩御あそばして尚安寧もなくその様に立ち歩かれて……まことお労しゅうございます」
 揶揄塗れ。
 この優男はそのような奴だ、何しろ毎夜毎夜夢に現れては散々に首を跳ねてくるから厭という程に思い知らされている。
 ――それが不思議なのだが、ラファエラは、黒のくせ奢侈な装いに気障な羽飾りの帽子の此奴の顔も名前も一切記憶に残っていない。
 生前の終の文脈からすれば、騎士に逃がされた後に己を捉え命を奪った男だとは思われる。
 記憶にないが、この場で幻影として現れたのだから、生前の己に夥しい損傷を施した奴には相違ないのだろう。どうしてこんなに他人事なのだと自問自答。
 知りたいのか、知りたくないのか。
 ……私は、夜ごと夢枕に立つ彼が、紛れもなき仇だと確かめたくてこの地へと赴いたのだろうか?
 ……わからない。
 自問自答の迷宮に埋もれていく寵姫は上の空。優男は、試しに柄を後ろに引いて胴体を薄く割ってみる。
 びくり、と身体反応に逆らえず引きつったラファエラは、荒ぐ息と共に振り返る。
「嗚呼、漸くお目覚めですかな、寵姫様」
 ガーネットのタイ飾りを揺らして笑い声を立てた男は、一旦ラファエロの腹から刃を離すと、上方へと滑らせる。
「夢は仕舞いでございます」
 く、と柔らかな首元に鉄の塊がきて、ラファエロは目を伏せる。
 嗚呼、今日もまたこの目覚めか。
 そう、これは夢……。
「今度こそ私が終わらせて差し上げます」
 夢では、ない。
 刹那、まるで手立てのない幼子のように無我夢中で男を突き飛ばし逃れた。躓き転びながらも、ラファエラは必死に我が騎士を喚ぼうと呪を叫ばんとするが……。
「――」
 声が、でない。
 これが、恐怖。
「お逃げのなるのですか、往生際の悪いことですね」
 振り下ろされた切っ先は、黒きドレスの裾を乱暴に裂きうちに収まるふくらはぎを食んだ。
「……ッ!」
 痛みを訴える悲鳴はあがるのに……ッ! 
 二振り目は、漆黒の扇にて辛うじて払いのけた。同時にラファエロの左右から漆黒の茨が迸り男へ向かう。
「ほほう、随分と足掻かれるものですね」
 己を通過していく茨には目もくれず、男は柔らに口元を傾がせる。
 まるで、その哀れみは、騎士も誰もラファエロの元に駆けつけることなんぞ出来ないとでも知っているようで――。
 レースの内側、魔性と囁かれた瞳が皿のように見開かれる。その全てを蹂躙するかの如く、光る刃は翻り寵姫を散らした。
苦戦 🔵🔴🔴

鬼桐・相馬
※乗り越え×描写希望

現れるのは白金の炎を纏う俺の白い真の姿
装備品に流し喰わせずとも全ての感情が凪ぎ「世界の理を守る歯車であれ」という思考で溢れ自分のことも認識が薄れる姿
門番で在る為に受け入れた力を使い続けた未来の姿
末路のひとつだ

「世界の理を守るのに『お前』は不要」
己からの戦力外通知なんて初めてだ
槍を手に臆することなく幻影へ向かうよ
ここで時間を取られる訳にはいかない

そう思っていたのにきっと貫かれるのは俺の身体
力を得た代償と受け入れつつもそうならない道を探しているつもりだった
仕方ないんだと
けれど無傷なのは目の前の俺

――ああ、俺は怖いのか
俺が俺でなくなることも
大事なものたちのことを忘れてしまう未来も



 黒を覆す白金の炎が形成すのを待つ鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)の眼差しは、虚心坦懐と澄み渡っている。
 何も特別な事ではない。
 善悪の境界に立つこの獄卒は、天界の力を受け止めるために嗜虐の性質を持ち冥府よりの力も借りている。
 相反するものに常に身を浸す結果、本人の精神は甚く平坦に保たれる事となった。
「やはり、そうなるか」
 だが、現れた幻影は更にそのような相馬を超越した先にある『相馬』である。
 規律の権化たる白で身を包み、金の瞳は黒へと沈む。相馬の身より吹き出す蒼き炎が余剰の闇なのに対し、幻影の炎は何もかもを白日の下に暴いてしまう白金。
 ――安定した人格が纏う凪ぎは、実のところ泥を詰めた壺でしかない。世界の理を守る歯車であれと己に強いて、それすら忘れた成れの果て、それが幻影の『相馬』だ。
 相馬が息をつく。
 確かに相馬は感情の起伏に欠けるが皆無ではない。恐怖の顕現を前にして納得を浮かべるぐらいの動きはある。
 そして、幻影を打ち破らねばならぬという気概も確かに。そもそもなければここに赴いたりなぞしない。
 背負った槍の柄を握りしめたなら、白き己も槍の切っ先を返し、一度だけ相馬を見据えた。
「世界の理を守るのに『お前』は不要」
 然もありなん。幻影からすれば相馬はかつて捨てた部分。
「己からの戦力外通知なんて初めてだ」
 神妙に頷いて見せた直後、相馬は蒼き炎を靡かせて漆黒の弾丸の如く幻影の懐へ駆け込む。戦場は数えきれぬ程ある、ここで時間を取られる訳にはいかない。
 何時ものように何一つの迷いもなく真っ直ぐに槍を突き出した。決して怖じけずいてなんぞいない――そう己を観測できたのだから、この勝負は一瞬で仕舞い。
 その、筈だったのに……。
「……ッ」
 貫かれたのは相馬の黒い胴体だけ。
 相対する白い相馬は、迷いのない構えで腰を落とし槍を突き出している。全くの無傷で。
 ひゅん、と肉を掻いて天井に跳ね上げられた切っ先は、目にも止まらぬ早さで相馬を肩から打ち据えた。
 みっつめの攻撃は、辛うじて下がることで躱す。
 平静の使徒であれ、肉体反応で脂汗が滲むし痛みで息もあがる。そんな相馬を、幻影は疎ましげに睥睨した。
「――ああ」
 ぼたぼたと血が溢れる腹を抑える相馬は安堵を滲ませる。
「俺は怖いのか」
 力を得た代償と受け入れつつもそうならない道を探しているつもりだった。一方で、仕方ないんだとの諦観も常に。
 善と悪の境界線に立ち対極する力の侵触を是としながらも、その実は『俺が俺でなくなること』を畏れていた。
 そうだ、俺が俺でなくなったなら、大事なものたちのことも忘れてしまう。
 それを何よりも畏れているから、あの白い『末路』を心底忌避し回避したいと願っている。
「やはり『お前』は不要」
 畳みかける剣戟を留めんと槍を翳した。だが為す術なく斬り伏せられるのもわかっている。
 乗り越えられない、否、これは乗り越えてはいけないものだ。
 黒衣が血に染まり一方的に蹂躙されるのだが“ひとつ”を見いだせた相馬の瞳は沈んではいない。
苦戦 🔵🔴🔴

森宮・陽太
裏メニュー希望
アドリブ、物理トラウマ抉り歓迎

俺がここに来ると
アレしか出ない気がする

…やっぱり出やがったか「暗殺者」
(※容姿は陽太真の姿イラスト参照)

おそらく、アレは…記憶を失う前の俺
誰かに命じられるままに大量殺戮を行い、暗殺し
それと引き換えに…脳が蕩けるほどの多幸感を得ていた俺の姿

今までなら過去の罪を背負って前へ進むべきと思っていた
だが、背負うには俺の手は…血に塗れすぎていた

「暗殺者」と「陽太」
お互いがお互いの存在を侵蝕し、記憶と経験すら混ざり始めている今
乗り越えれば…それで良いのか?

受け入れることも乗り越えることもできず
混濁する意識に囚われ動けぬまま
「暗殺者」の二槍を胸に受け
意識失い退場



 どうして俺は逢いに来てしまったのだろうか?
「……やっぱり出やがったか」
 森宮・陽太(f23693)が乾いた大地で相対したのは、漆黒のアサシンスーツに身を包んだ青年だ。スーツ越しにもわかる研ぎ澄まされた無駄のない筋肉。くすんだ金髪の元には冷たい灰色のマスク、だが精密な造形から顔つきは窺える。
「本当に、人を殺して愉しいって面構えしてやがるな」
 自嘲の笑いが陽太から漏れた。
 アレは、かつての記憶を失う前の己だ。
 誰かに命じられるままに大量殺戮を行っていた。そこに憂いも罪の意識も入り込む隙間は一切ない、心に充ち満ちていたのは――多幸感。
「……うッ、ぐぅ」
 陽太の腹から刃が生える。
 素早く後ろに回り込み突き。貫き抉った臓物が眼前に踊るのを、被害者たちは絶望色の眸で見下ろす、その光景はかつての陽太を高揚に狂わせた。
 今の被害者は陽太で、心を巡るのはクソ外道な己への嫌悪とそのように辱めて殺した被害者への懺悔だ。
 グリグリと内臓を潰すように探られる度に、陽太の蒼眼は濁りを増していく。ひと思いに殺さないのは、己が絶対に負ける事が無いという奢り。
「この……」
 逆手に持った同じ得物で背後に突き刺すも刃は虚空を斬るのみ。当然だ、陽太はこの『恐怖』に対しなんの答えも出せていない。
 くぐもり笑いはマスクの内側から。唇が裂けあがり、脳内物質がジャブジャブと溢れるが儘に多幸に浸る。
(「……だな、確かに幸せだったぜ」)
 今までは、過去の罪を背負って前へ進むべきと思っていた。けれど、改めて暗殺者と対峙してわからされたのは、背負うには己の手が……血に塗れすぎているという事。
「……あ、ぁぁ」
 殺してやりたいなんて感情すらなく道具として行使される日々。
 血肉と共に被害者の最期の感情が陽太に記されるも、所詮は刹那の麻薬。効果が切れたら忘れ捨ててまた新たな殺戮に手を伸ばす。
 麻薬の注射を手軽に打つように、殺して、殺して、殺す。
「ははッ…………」
 刃を抜かれ投げ捨てられた陽太の躰が震えた。
「あはッ……ははははははははははははッ!」
 今や陽太の喉は、狂ったように溢れる笑いを通すだけの土管の穴だ。
 罪を見せつけられて、そんな過去を最も“畏れ”て、本当は怯える権利なぞない最下層の破綻者なのに!
 境界線が、消失する。
 謝罪は決して間に合わない。
 陽太がこれより歩く路でどれだけ命を救おうが、手に掛けた者らは蘇ることは一切ない。
 見下ろしてくるデスマスクへ、咳き込んでもなお笑う。脳みそになにか可笑しなものが溢れてきてるんじゃないかと怯えながら……笑う。
 ――ああ、お互いがお互いの存在を侵蝕し、記憶と経験すら混ざり始めている。これは、拙い。
 乗り越えられない。
 でも、受け入れることも、できない。
「よぉ……」
 わざと悠然とした足取りで恐怖を煽り近づいてくる幻影へ、陽太は縋り付くように請う。
「ひと思いに、殺ってくれ」

 ――この悪質な暗殺者がそのような願いを聞き届けるわけがない。

 混濁する意識に囚われ動けぬ所を散々になぶり、反応が完全に途絶えた所で漸く二槍を胸に突き入れた。
 幸いなるかな猟兵であるが故、生還は叶う。
苦戦 🔵🔴🔴

霧島・ニュイ


記憶がなくてもなんとかやっていけてる僕だけど、恐れてることがある
……未だに助けを求めて僕を待ってる人がいたらどうしよう
僕は楽しい日々を過ごしているのに、大切だったはずの人が苦しんでいたら
でも、どこにいるのか分からないんだ
どうかどうか、逃げ延びて、どこかで暮らしていて

脳裏に思い浮かぶのは、血に倒れる両親の姿
僕達を逃がそうとして、敵に立ち向かって……
ーーっ、
違う、これは……幻の、はずだ……

頭がガンガンと痛い
違う違うと響く僕の声
思い出せと喚く同じ声
無理しないでと囁いてくれるのは……リサちゃん…??

でも、彼女はもういない
いないんだ
進まなきゃ、思い出さなきゃ
手が何かを掴むように動いて、空を切った



 たまに思うのだ。
 時が止まったカノジョを連れながら、自分が未来なんてものを望んでいいのだろうか、と。
 現在(いま)はある。楽しいを共有する友人もいて、遊ぶ約束をするなんて心が躍る未来も訪れる。
 でも過去だけが、ない。
 その過去から連なる現在、見知らぬ何処かで未だに助けを求めて僕を待ってる人がいるのだとしたら?
 何も、出来ないのに。
 どこにいるか分からなくて、決して助けに行くことなんて、出来ないのに。

 ゴォ、と渦巻く黒い炎が霧島・ニュイ(f12029)の眼前で左右に割れた。
「……え」
 覚悟はしていた、が、いざ目の当たりにこんなにも容易く瓦解してしまうものなのか。
「父さん……?」
 体を張って敵へと立ちふさがる父と、
「母さん?」
 自分に寄り添い抱き寄せてくる母。母は大人に近づいた今比べるとかなり似ている。
 母が唇を動かした。
「大丈夫よ」なのか「逃げて」なのか「幸せに生きて」なのかそれとも別の言葉なのか……ニュイの虫食いの記憶では補完出来ない。
「母さん、なんて言ってるの?」
 教えてと胸を叩こうにも拳は虚空を掠めるだけだ。
 不意に父の側が騒然となったかと思うと、ニュイの胴体に致命傷の痛みが走る。
「……ッ、か、はぁっ」
 無論、猟兵だから死なない。
 慌てて傍らの母に目を向けて庇おうとしたら、母も背中からの傷を負っている。形の良い唇から鮮血が溢れるタイミングで、ニュイの背中にも同じだけの傷がつく。

 助けられなかった。

「ーーっ」
 慟哭をあげる己を斜め上から俯瞰するのは、辛うじての理性だ。
(「違う、これは……幻の、はずだ……」)
 そう断じたとたんに、父と母はむくりと身を起こし巻き戻しの如く血痕がはがれ焦りの表情で立ち尽くす。
 やめて、と、あがる悲鳴は何時も聞く声よりも幼い気がした。バケツを被されやたらめったら殴られるような頭痛に正常な神経が摩耗していく。
 違う、違う……これは、違う!
 それでいて、バケツのような遮蔽のすきまからは『思い出せ』との叱咤が絶え間なく続く。両親が逃げ延びていて欲しいだなんて、罪悪感から逃れるための欺瞞だと。

「……どうしよう」
 どちらも、僕の声だ。

「!!!!!」
「……ッ! ……」
 何度もニュイを庇い傷を負い倒れ伏す両親、その度に限界を超えた猟兵たるニュイに致命の痛みが穿たれる。
「無理しないで」
 ふと、固い抱擁と共に庇護の声が響いた。
「リサちゃん……?」
 ニュイの背中に絡繰り人形の娘が腕をだらりと伸ばしのしかかっている。
「……はは、は」
 カノジョは、人形だ。
 だとしたらこれは無意識のひとり芝居か。目の前の幻影の繰り出す芝居に疵付きながら、笑うニュイの口元は凍えるように震えた。
 ――救いを求めちゃ、ダメなのかな?
 ――でも、彼女はもういない……いないんだ。
「進まなきゃ、思い出さなきゃ」
 そう声に出し“恐怖”を受け入れようと腕を伸ばすが、何一つ干渉すること叶わない。
 空を切る、両親達は倒れ続ける、リサはもういない。
「ーーっ! もう……!」
 精神が砂粒から消え失せる寸前に、これが刻限とでも言わんばかりにニュイの姿は戦場よりかき消えた。
苦戦 🔵🔴🔴

涼風・穹
【怖いもの】
自分の中にある黒い欲望

例えば気に入らない相手がいたとして、それが猟兵であろうと誰であろうともグリモア猟兵として予知をほんの少し捻じ曲げて伝えれば自分の手を汚さずに始末できる
物欲や性欲の類ならグリモア猟兵としての転移能力とユーベルコードを駆使すれば官憲に捕まる事もなく幾らでも満たせるでしょう

勿論普段は意識しなくても抑え込めていますしもし意識したとしても妄想する程度ですが……どうやっても乗り越えられません
よい意味でも、そして悪い意味でもそういった欲望を自覚していてそれが自分だと分かってしまっているからです
否定はできないのなら勝ちようもありません
全てを受け止めて負けもしないのが関の山です



 黒煙の中より出でた己は、まるで子ども向けの特撮番組に出てくるような奴だった。目の下にクマがあって目もちょっとつり上がっている。これでバンダナが黒かったら完璧だが、そこは同じらしい。
「はは……腹に抱える魂胆が人相に出るとはよく言ったもんだぜ」
 涼風・穹(f02404)の笑いが乾いた大地を虚しく撫でさすっていった。空元気も当然だ、彼奴は穹が最も畏れる存在なのだから。
 どう形容すればいいのだろうか? 悪意? 否、悪意が本体ではない。悪意に従えば胸がすくだろうなぁという『黒い欲望』とでもいえばいいのか。
 確かに人相がやや悪い、が、穹と明確な差は認められない。そのまま入れ替わっても気のつく人が「ちょっと調子悪いんじゃない?」となる程度。
 だから、怖ろしいのだ。
『……例えば』
 目の前の幻影が口火を切る。
 穹は幻影が語るであろう内容を察しながらも黙って佇んでいる。今襲いかかっても勝てるわけがないということぐらいはさすがにわかる。
『気に入らない相手がいたとして、それが猟兵であろうと誰であろうとも』
 そうだな、気にくわない相手ぐらい普通はいるだろう。
『グリモア猟兵として予知をほんの少し捻じ曲げて伝えれば、自分の手を汚さずに始末できる』
 そうして振り下ろされた刀を、穹は下がって躱した。
「…………そうだな」
 例えば今赴いているこの依頼だって「克服しなければ攻撃は通らない」というのを黙り、瀕死になっても救出しなければ、いとも容易く殺すことができる。
「だが、そんなことをやるわけがないだろう」
『物欲や性欲の類なら……』
 陰々滅々とした目つきの幻影は下卑た笑みを口元に浮かべ、これぐらいハードルが低い方が踏み外しやすいだろう? といった風情で二振り目。今度は穹の頬を裂き胸元に血を滲ませた。
『グリモア猟兵としての転移能力とユーベルコードを駆使すれば官憲に捕まる事もなく幾らでも満たせるな』
 ささやかな小悪党、だが被害者には消さない傷を刻む赦されがたき犯罪行為。
 そういう『大人向け』の漫画やゲームはゴロゴロしている。それは穹のように妄想で済ます人間が沢山いる証左だ。
 涼風穹という人は、一般の人間が到底歩くことの出来ぬ常識外れの出来事を数えきれぬ程に浴びせられながらも、どうしようもなく『普通のメンタル』を持ち続けている。
 ――それこそが穹の拉致が外れた所だ。
「……はぁ」
 つくづくの呆れ、嘆息にはそんな感情が込められている。
「そうだな、お前の言う通りだ。この力があれば、様々な犯罪行為を悟られずに行えるな」
 猟兵ならば見咎めて静止できるものも中にはある。だからなんだ、犯罪に使えると欲望をもった時点で種は蒔かれている。
『やりたいだろう?』
「……」
 即座に否定できぬ己が疎ましい、だが嘘をついてなんになる。
 もだもだとハッキリしない、それが自分なのだろうけど、さすがに疎ましい。
「そうだよ。常に俺はそんな誘惑と戦っている」
 小刻みに方々につけられた切り傷は致命傷には到らない。これはそんな『恐怖』だ。

 ――こんなささやかなものが、一番怖いものなんだ。

 幻影の大ぶりを逆らわずに受け止めて、即座にご返杯。よく似た刃で斬り払われた分身は、下卑た笑いを虚空に残して霧散した。
「わかってるよ。勝てたわけじゃない」
 負けなかっただけだ。
成功 🔵🔵🔴

冴木・蜜
目を開く
目の前に私がいる

薄ら笑いを浮かべた私
どうしようもない毒になった私

嘗て彼の一匙の悪意を受けて毒として使われた時
一度だけ
あの感覚に身を任せてしまったことがある

何故そうするのか、だとか
そういった思考を止めて
ただ、そういうモノとして
本能のままに触れるもの全てを融かして
生命を蕩かして
全てぐちゃぐちゃに掻き混ぜた

生命が失せていく
あの恐ろしい感覚を覚えているし
本当に後悔している
二度とあんなことは起こしたくない

でも、あの時
私に残った感情の中に確かに快楽があった
呆気なく生命を殺せる優越が
私はその本能が只管に恐ろしい

死毒は生命を奪うものだ
でも
私は救いたい

だから
キミに成り果てる訳にはいかない



“残酷な程に鏡映し”
 乾いた踏み心地が、冴木・蜜(f15222)へ黒炎の世界に入ったと知らせた。
 口中に溜めた息を吐き、瞼を持ち上げる。早くも溢れ落ちそうな黒をこらえた視界に現れたのは“私”
 フラットに陰鬱を足したような己の表情と違い“私”は、薄い唇の端を持ち上げて陶酔の熱で瞳を僅かに熟れさせている。
 とても生き生きしているな、が第一の印象のそれは、嘗て彼の一匙の悪意を受けて“死毒”に耽った蜜の姿である。
「……」
 心は凪いでいる。然れど、畏れは指先つま先頭頂にまで行き渡り蜜を脅かす。相反する有り様の理由だが、彼はすぐに見いだしてしまった。
 ――この“どうしようもない毒”は私だし、その毒で私は命を落とすことがない。
 呼応して、幻影の躰が黒に爆ぜ解けた。のたくる蛇めいた動きは“液体”と称するには不自然過ぎる。それは指向性を持って蜜のつま先に到達すると大波めいた形を取って襲いかかる。
「……」
 黒炎が化けた恐怖の象徴だからか、その液体は同じ筈の蜜の躰をいとも容易く蝕んだ。
 臭気と痛みを発しながら崩れていくが、藤色の眼差しは苦を漏らさずにただ一心に幻影を捉えるのみだ。
 薄笑いの“私”は、見せつけるように細い一筋で支えられてそこにある。
 幻影は……人ならば紅潮と表現するのだろうか、白肌の下を行き来する黒で頬はうねり瞳は爛々と輝いている。
「…………」
 あの時の自分と全く同じ。
 あっけなく人の命を蹂躙し永遠に奪えてしまう優越。与えられた役割は、何でも思うが儘に出来る王様、否、万能の神だ。
 ただ、そういうモノとして、本能のままに触れるもの全てを融かして、生命を蕩かして……全てぐちゃぐちゃに掻き混ぜた。
 形を保つのが精一杯の“私”が、人々の輪郭をぐちゃぐちゃにできる。命が台無しになっていく。
「……っ、く」
 既に人の形を保てずに下半身をドロドロに戻した蜜に向けて“私”は赤子めいた無垢さで笑みを深くする。ああ、そうだ、その感覚だ。
 悪意は一匙、沢山の私は抗えてもおかしくはなかったのでは? 何故人々を殺める死毒と成り果てているのか、止まれ、彼の意図は――…………。
 どっ、
 下半身を奪われた蜜の躰がだるま落としのように落ちた。白衣のポケットに詰められていたガラス器具が華奢な音で転げ出る。
 まるで他人事、だって蹲って嘆くなんて疵付いた振りは赦されない。
 これは、私の本能。
 私は“毒”だ。
 薬になりたいと願い続ける“毒”
「それでも……私は救いたい」
 絞り出された声の元、幻影の毒と混ざり合っている黒き液体が蜜の元へ再び集まり出す。
 あの時は確かに本能に抗えなかった。
 けれど、同時に蜜は、数多の生命が失せていくのを心底怖ろしいとも震え、悔悟と懺悔に襲われた。それは今この時もだし、生涯消えることはない。
「止められなかった事を……本当に、後悔している」
 痛みで落ちかけていた瞼を確り見開いて、毒と混じり合う己へと意識を通す。すると、ぐちゃぐちゃに混ざり合う黒が一気に白い腕へと再構築された。
 蜜は即座に注射器を掴みとると“私”へとつきたてる。
「だから、キミに成り果てる訳にはいかない」
 蜜という“毒”に一度だけ震えると幻影は完全に消え失せた、最期まで笑って。
「…………」
 あの笑い顔を、私は忘れては、いけない。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2021年09月17日
👑7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵