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アポカリプス・ランページ⑧〜暗闘/セントメアリー防諜戦

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#アポカリプス・ランページ⑧


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 セントメアリー・ベースはカナダとの国境近くに存在する巨大拠点である。
 この地では、略奪と暴力からの逃避行の末にベースに辿り着いた人々が、互いに身を寄せ合い比較的平和な共同生活を営んでいる。主戦場から離れた地点に位置することもあってか、勃発したアポカリプス・ランページのさなかであっても、住民たちはいまのところ平静を保っているようだ。
 だが、オブリビオンの悪意がこの仮初の安息地を見逃すはずがない。
 ストレイト・ロードの接続により、グリモアベースにもセントメアリーの詳細な情報が入ってきたのだが……。



「単刀直入に言おう。セントメアリー・ベースに間者が入り込んでいる」
 そう言って、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)は数枚の資料をバサリとテーブルの上に並べた。広げられたレポートには複数の人名とそれぞれの顔写真とが掲載されている。
 写真に添えて記された調査情報はなかなかに刺激的だ。他所からの避難者を装ったり、元の住民を殺して成り代わったりと、間者がセントメアリーに紛れ込むために使ったあの手この手が記されている。
 調査によれば、どうやらこれらの間者たちはセントメアリー・ベースへの敵軍団の誘引を目論んでいるらしい。

「軽く調べただけでこれだけ見つかったから、多分、まだまだ潜んでいるね。後顧の憂いを断つためにも、みんなには間者の排除を依頼したい。『すでに発覚している間者を排除する』のでも、『新たに自分で間者を捜索して排除する』のでも、どちらでも構わない」

「ただし……」と、伏籠はそこで一度言葉を切った。

「拠点の住民に無用な不安や疑念を与えないよう、秘密裏に事を進めて欲しいんだ。住民のささやかな平穏を大切にしたいし……、下手にベースに混乱が起きて、それが原因でオブリビオンへの対処が遅れるのも避けたいだろう?」
 グリモア猟兵はキミたちの顔を見つめ、同意を求めるように小さな微笑みを浮かべた。

「静かに、気づかれず、確実に。どんな手段を取るはみんなに一任しよう。……パーフェクトな『仕事』を期待している。頼んだよ、イェーガー!」


灰色梟
 こんにちは、灰色梟です。
 今回のシナリオは平和な拠点を守るための防諜任務です。
 以下のプレイングボーナスが適用されますのでご確認ください。

 プレイングボーナス……住民に敵の存在を気付かせないよう調査を行う。

 作戦目標は拠点に紛れ込んだ間者の排除。
 ターゲットはグリモア猟兵のレポートを頼りに探してもいいですし、なんらかの方法で自力捜索してもいいでしょう。
 重要なのは、いかに誰にも気づかれずに『仕事』を行うかです。
 気分はアサシン、心にヒットマン。
 華麗な手口で痕跡を残さずにターゲットを排除してください。

 それでは、みなさんのプレイングをお待ちしています。一緒に頑張りましょう。
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第1章 冒険 『ヒドゥン・エネミー』

POW   :    拠点周辺を歩き回り、怪しい人物を探す

SPD   :    人目につかないように行動し、情報収集する

WIZ   :    避難者のふりをして住民達に話を聞く

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

相馬・雷光
お誂え向きにニンジャの仕事ね

行動を起こすのは夜、【闇に紛れて】家屋の屋根や路地裏を駆ける(忍び足)
レポートによれば、この先の集合住宅
マーケットの店員に成りすまし、食料品に紛れて武器弾薬を搬入
出前の配達員に成りすました別のスパイを通じて、拠点各地に忍ばせる、と……
なかなか手が込んでるじゃない
今夜は、月に一度の直接会って情報共有の日
まとめて処分してやるわ

【ロープワーク】で壁を登る
【迷彩】でそう簡単に目につかない

【撮影】した写真を元に、配達員に【変装】【演技】
チャイムを鳴らして、出てきたところを【電光石火】でズドン(早業)
今度は店員に変装して配達員を待つ
部屋に招き入れてご対面したトコで後ろから――



 草木も眠る丑三つ時。セントメアリー・ベースは静まり返っている。不寝番の見張りを残して、住民たちは夢の中だ。
 果たしてアポカリプス・ヘルの過酷な大地に、安心して眠りに就ける拠点がどれだけあるだろうか。ほんのいっときの安息を得るために、この地の住民たちはどれほどの苦難を乗り越えてきたのだろう。
 もしも、この地のささやかな平和を踏みにじろうという者がいるのであれば――。

「お誂え向きにニンジャの仕事ね」
 夜の闇に紅いマフラーが翻る。
 音もなく路地裏を走り抜けた相馬・雷光(雷霆の降魔忍・f14459)は、とある集合住宅の裏手に滑り込んだ。そこから投擲したロープを伝ってするすると屋上まで登りきり、懐から取り出した望遠カメラを覗き込む。暗視機能に特化したカメラが、闇に沈んだ拠点の風景をくっきりと雷光の瞳に映し出した。
 足元の集合住宅は三階建て。ちょっと背伸びをすれば、一区画離れた場所にある平屋のマーケットを捉えることができた。あらかじめ目星をつけておいた要観察ポイントだ。カメラを覗いたまま待つことしばし。マーケットの裏口が開き、ひとりの男が現れた。
 ターゲットのひとり……、マーケットの店員になりすました敵勢力の間者だ。
 さりげない風を装っているが、しきりに周囲に気を配っている様子が見て取れた。男はそろりそろりと闇に潜みながら拠点内を移動している。事前調査が正しければ、彼の目的地はまさに雷光の足元。仲間の間者が待つ集合住宅の一室のはず。

「予定通りね」
 カメラのピントを合わせて男を撮影する。データとなった男の容貌のディテールを確認して、雷光は小さく頷いた。
 マーケットの店員になりすました間者は、食料品に紛らせて武器弾薬をセントメアリーに運び込んでいるのだという。それらを別の間者が出前の配達を装って拠点の各所に忍ばせておき、オブリビオンの誘引に合わせて暴動を起こす予定なのだ、と……。
 なかなか手の込んだ手口だ。二人で役割を分散することで発覚を難しくしようという意図もあるのだろう。だが、彼らも月に一度は直接あって情報交換を行うことになっている。
 それが、今夜。

「まとめて処分してやるわ」
 屋上の手摺りを乗り越えて、雷光が闇の中に身を躍らせる。
 重力に引かれて自由落下。途中でくるりと一回転。
 猫のように地面に着地した彼女は、そのときにはすでに変装を終えていた。着古した長袖長ズボンにだぼついた前掛け。角張った男顔で髪は金髪。写真に写った間者の男と寸分たがわぬ容姿がそこにあった。
 マーケットの店員に扮した雷光が、一階のとある部屋のチャイムを鳴らす。部屋の中から足音が聞こえ、扉の前で止まった。内側から魚眼レンズを覗き込む気配。雷光は軽く手を振って応える。
 鍵の外れる音がした。扉が開き、角刈りに作業服の男が顔を出す。

「よお、待ってたぜ。さっさと中に入って、ッ!?」
 男の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
 自然な足取りで男の懐に入った雷光が、密着状態で【電光石火】を撃ち込んだのだ。
 至近距離で発射された雷撃弾が、刹那の内に間者の命を刈り取る。
 くぐもった衝撃音と同時に、男が全身を痙攣させた。

「……さて、次ね」
 だらりと弛緩した男を抱えて雷光は部屋に入った。小さなリビングの床に男を転がして身ぐるみを剥ぐ。それを使った変装が完了したタイミングで、部屋のチャイムが鳴った。
 素知らぬ顔で玄関まで歩いていき、魚眼レンズを覗く。予想通り、扉の前には到着したマーケットの店員の姿があった。ワンテンポ置いてから、雷光は扉を開く。
「……」
「悪い、待たせたか?」
 軽く手を上げて挨拶した男に対して、顎をしゃくって部屋の中に入るように伝える。
「邪魔するぜ」と疑いもなく入室する店員に扮した間者。その背中に雷光が続く。
 勝手知ったる間者が短い廊下を通り抜け、狭苦しいリビングに一歩踏み入ったとき、彼の動きがピタリと止まった。

「……は? え、なんで……」
 四肢を投げ出して床に転がる男。
 間者にも見覚えのあるその顔は、この部屋に住む仲間のものに間違いない。

 ……では、今、背後にいるのは。

「ズドン」
「グッ!?」
 囁きは女の声だった。仲間の男の声とは似ても似つかない。
 間者はよろめきながら振り返る。そこに作業着の仲間はもういなかった。
 いたのは長髪の女。
 紅いマフラー。白いレオタード。そして、漆黒の忍装束。
 ――ニンジャ。
 その姿を目に焼き付けたのを最期に、間者の意識は闇に沈んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
一連平和なのどかな風景なのですが、この中には敵の間者が紛れているのですね。
この街のどこに間者がいるんでしょうか。

まずは間者探しです。
間者は街の情報や報告、門を開けるタイミング調整など日々外部と連絡を採っていると思われます。

ドローン『マリオネット』を街の上空に滞空させて、街中の電波を傍受します【ハッキング】。傍受情報はスマートグラスのAIで分析して、必要なものを選別します【情報収集】。
あとは電波の発信元を割り出して、間者を特定します。

特定できたら、何気なく近づいて両手で握手。UC【サイキックブラスト】を強めにして心臓発作に見せかけます。



 子供たちが笑い声を上げながら駆けていく。
 鬼ごっこだろうか。それとも、走るのが楽しいから走っているだけだろうか。
 いずれにせよ、アポカリプス・ヘルにおいては珍しい光景だ。元気溌剌といった様子で駆け回る子供たちは、じゃれつきながら拠点のどこかへと走り去っていく。

「一見、平和でのどかな風景なのですが……」
 子供たちの背を見送り、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は、すぅと目を細めた。
 崩れかけの建物に背を預けて拠点の様子を窺いながら、彼女は頬に指を当てて呟く。
「この街のどこかに、敵の間者が紛れているのですね」
 小さく息を吐き、彼女はスマートグラスを起動させた。
 赤縁の眼鏡を介して見える景色に、複数の情報がオーバーレイする。投影された情報の出どころは、街の上空に滞空中のドローン『マリオネット』からだ。

 拠点の様子や住民の動向、あるいは警備員の巡回経路に検問のタイミング……。セントメアリーに潜入した間者は、日々そういった情報を外部とやり取りしているはず。
 連絡の方法は、おそらく電波通信。
 郵便のような物理的な通信手段はこの世界においては途絶しているし、かといって頻繁に拠点の外に出て直接情報のやり取りを行うのはリスクが大きすぎる。となれば、なんらかの電波を利用して通信を行っている可能性がもっとも高い。
「ハッキング開始。電波傍受、通信探索……、『ガリレオ』に情報転送」
 上空の『マリオネット』がアクティブな通信と残存する記録(ログ)の収集を開始する。傍受情報は即座にスマートグラス『ガリレオ』に送られ、付属AIによる分析を受ける。選別された情報は摩耶の目に映り、彼女がそれをさらに確認・整理していく。

 街角に佇むこと数分。
 いくつかの気になる情報をピックアップし、彼女はようやく建物の壁から背を離した。
「確実にクロなのは……、なるほど、この通信ね。マリオネット、発信元を追跡開始」
 摩耶の呟きに反応して眼鏡の表示が切り替わる。表示されたのはセントメアリー・ベースの平面図だ。簡易描写された拠点の中で、小さな赤い円がひとつ点滅している。
 指定された地点に向けて摩耶は歩き出した。マイペースな足取りで、顔にはなんでもない表情を浮かべながら。違和感を持たれないように自然体を意識する。その甲斐もあってか、道中ですれ違った人々も彼女に注意を払うことなく通り過ぎていった。

 指定ポイントが近づく。
 道端に立つ男が見えた。ポケットに手を突っ込み、ぼんやりと辺りを見回している。
 ガリレオのマーカーが男に収束した。摩耶がつま先を男に向ける。
 視線を合わせないように注意しながら、男の近くをすれ違うコースを取る。相手との距離を測りながら、彼女は何気なく男に近づいていく。
「あっ」
 手持ち無沙汰な男の前を通り過ぎる瞬間、摩耶はなにかに躓いたフリをした。
 男に向かって軽くよろめく。咄嗟に男が伸ばした腕に、摩耶は自然にしがみついた。
 ――瞬間、摩耶の両掌から高圧電流が発生する。

「!? ぐっ……」
「すみません、失礼しました」
 びくん、と痙攣した男をそっと押し返し、摩耶は何事もなかったかのように歩き去る。
 残された間者の男は、胸の上から心臓を抑えてよろめき、近くの塀に寄りかかった。言葉を発そうにも上手く息ができない。そのまましばらく悶た後、彼は座り込むように地面へ崩れ落ちた。
 ……セントメアリー・ベースが平和な拠点だといっても、やはり一定数の病死や突然死は自然と発生する。今回の件も、その数がひとつ増えただけのこと。
 摩耶が完全に姿を消してから住民に発見された間者の男の亡骸は、不幸な病人として何も疑われることなく荼毘に付されるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

劉・涼鈴
あやしーやつを探しゃいいんでしょ?
まーっかせて!

やっぱ探し物は人海戦術が一番だよね!
ってワケで【身外身法】!
わらわらわちゃわちゃ980人だ!
街中に散らばって探すよ!

身体の小ささで目立たなくて、【功夫】の身のこなしで気配を消す
スッと横を通り過ぎる人影なんて、雑踏の中では誰も気にしないよ!
でも違和感に気付くやつってのは……そーいうやつだよね?

そーっと後ろから追いかける私、交差点で信号待ちしてる私、お店の中から出てくる私、建物の上からそいつを見てる私
引き離しても、どこに隠れても、私からは逃げられない

ひと気のない路地裏にでも逃げ込んだら……待ち構えてる私
退路も私が塞いでる
パニクってる隙に拳を叩き込む



「あやしーやつを探しゃいいんでしょ?」
 セントメアリーの路地裏で劉・涼鈴(鉄拳公主・f08865)が不敵な笑みを浮かべた。
 爛々と紅眼を輝かせたキマイラの少女は、チャイナドレスを翻して颯爽と駆け出した。
「そーいうことなら、私にまーっかせて!」



「なんだってんだ、チクショウめ!」
 拠点に潜む間者の男は、訳も分からず『ソレ』から逃げていた。
 キッカケはなんだったか……。そう、確か、雑踏で女とすれ違ったのだ。背の低い童顔の少女だ。
 違和感を覚えたのは少女の気配が妙に薄かったから。足音はもちろんのこと、身のこなしのひとつひとつが異様に静かだったのだ。一瞬、幽霊でも見たのかと錯覚したほどだ。
 思わず振り向くと、少女と目が合った。探るような赤い瞳がじっとこちらを見ていた。
 そのときはそれで終わりだった。互いに進行方向が逆だったし、娘の姿もすぐに雑踏に消えていった。言うまでもなく、わざわざ追いかける気も起きなかった。

 そのまま周囲の人の流れに乗って歩いていると、首筋がムズムズしてきた。
 誰かに見られている気がする。
 ふと視線を持ち上げてみると、通り沿いの建物の屋上に人影が見えた。逆光で表情は見えない。しかし、小柄な体躯と赤いチャイナ服はハッキリと捉えることができた。
 見覚えのあるその服装に、背筋が冷たくなった。
 フードを深く被り直して足を早める。移動しながらもう一度そっと屋上を仰ぎ見ると、そこにはもう誰も立っていなかった。視線の先には鈍色の曇り空だけが広がっている。

 気のせい? いや……。
 小さく息を吐き、視線を水平に戻す。通りを挟んで人の群れが見える。
 喉の奥で気道が窄まった。
 いる。銀髪にチャイナドレス。赤い瞳がこちらを見つめている。
 その視線から逃れるように、間者の男は進路を変えた。周囲の人々の肩を押しのけて、急いで通りから離れる。心臓がバクついている。嫌な汗が頬を伝った。

 背後を振り向くと、揺れる銀髪が見えた。
 やはり、ついてきている!
 男は本能的に駆け出した。背後の少女を置き去りに、交差点を左折する。
 建物の壁が二人を遮った。少女が追ってくる気配はない。
 ホッとしたのも束の間、目の前で道路脇の建物のドアが開く。チャイナドレスの裾が見えた。次いで、銀髪の少女が何気ない様子で姿を現す。
 叫ばなかったのは奇跡に近い。
 男は向きを変えて脇目もふらずに走り始めた。道路を横切り、雑踏に紛れ、交差点をデタラメに曲がっていく。何も知らない住民たちが驚いた顔ですれ違う彼を見つめていた。
 息が上がる。肺が苦しい。しかし、足を止めることはできない。

 ……だって、アイツがオレを見ている!

 人混みの中から、屋上の上から、窓ガラスの向こうから、建物の陰から……。
 どれだけ引き離そうとしても、アノ少女は必ずすぐに現れる。
 そして、アノ赤い瞳でじぃっとこちらを見つめてくるのだ。

 恐慌状態の男は、いつの間にかひと気のない路地裏に入り込んでいた。無意識に群衆を避けていたからかもしれない。ダラダラと汗を流しながら、男はふらつく足で路地の壁に寄りかかった。
 もしかしたら、ここまでは追ってこないかも……。
 そんな楽観的な考えは、ものの数秒と経たずに粉々になった。路地の奥の影から、浮かび上がるようにチャイナドレスの少女が現れたのだ。
 相変わらず足音ひとつ聞こえてこない。本当に幽霊なのかも。もしそうなら、こんな薄暗闇が広がる路地に自分から足を踏み入れてしまうだなんて、間抜けもいいところだ。

「……ああ、そうか」
 男は気づいた。
 こんなことになるなら、ひとりで逃げ回らず、周囲に助けを求めれば良かったのだ。
 結局のところ、男は間者であるがゆえに、セントメアリー・ベースの住人たちを心の底から信じることができなかったのだ。
 自業自得といえば自業自得。
 振り向けば、路地の入り口にも少女が立っている。表情を引き攣らせた男が路地の奥に視線を移せば、そこにも変わらず少女の姿があった。
 空を見上げる。路地の両側の屋上に、それぞれまったく同じ少女がいた。
 これで四人。いや、もっといるのかも……。思わず乾いた笑いが浮かんでくる。
 破れかぶれに男が駆け出した。路地の出口を目指して一目散に走る。

「それでも、私からは逃げられない」

 冷たい呟き。
 男の混乱した顔面を、出口を塞ぐ少女――、すなわち、涼鈴の拳が貫いた。



「ま、こんなものね!」
 間者を撃退した涼音が路地裏で胸を張る。
 身外身法で生み出した分身たちも拠点のあちこちで同じようにドヤ顔を浮かべていた。

 ……余談ではあるが、涼音が今回生み出した分身は総数でなんと980人。これほどの人数ともなれば、いくら得意の功夫で気配を消したとしても、当然、ターゲットの間者以外の住人にも目撃されることになる。
 突如として現れ、何をするでもなく、最期には誇らしげに消えていった謎の少女。
 それからしばらくの間、セントメアリー・ベースではチャイナドレスの少女幽霊の怪談がまことしやかに囁かれることになったとか……。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
拠点に潜り込むオブリビオン、か……
敵も中々頭を使ってくるというか、戦うべき相手が明確でない分、寧ろこっちの方が厄介ではあるか
ともあれ、なんとか探してみるとしよう
一通りの情報を頭に叩き込んでベースへ向かおう

こういう場合、警備関連の情報を得る為に、警備員に成り代わる……っていうのは常套手段だよな
ひとまずそっちの方向で調べてみよう

観の型【天眼】の観察眼も用いて当たり障りのない話を聞きながら、事前に仕入れた情報との相違点などを洗い出して推理

敵を発見したなら暗がりにでも誘導して斬り捨て御免……は意味が違うがこれで少し安全になったかな
ついでにオブリビオンが調べていた警備の穴を埋めるように助言していこうか



「拠点に潜り込むオブリビオン、か……」
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は外套を羽織り直しながら眉を寄せて呟いた。
 なかなかどうして敵も頭を使ってきているというか……。レイダーやらモヒカンやらのヒャッハーすることしか頭にない連中と比べたら、戦うべき相手が明確でない分、むしろこういった手合いの方が厄介かもしれない。

「ともあれ、なんとか探してみるとしよう」
 頭の中にセントメアリーの地図を広げながら足早に街路を歩く。
 接触したいのは拠点の警備を担う人間だ。間者が紛れ込んでいるのであれば、警備関連の情報を得るために警備員に成り代わる、というのは常套手段だろう。
 世界情勢を考えれば、平和な拠点といっても警備に携わる人間は多いはず。その予想通り、それらしき人物がすぐに鏡介の目についた。背の高い男だ。短銃を抱えて周囲を見回しながら通りを巡回している。

「やあ、お疲れさま」
「ん、なにか用か?」
 鏡介が軽い口調で声を掛けると、男も小さく手を挙げて応じてくれた。やはり余所の拠点と比べると所属する人間の態度にも余裕があるように思える。
「特に用があるわけでもないけど、なにか変わったことはないかな、って」
「安心しな、本日もセントメアリーは平穏無事さ。見回り中の俺が保証するとも」
「そうか。うん、それはなによりだ」
 短銃を肩に置いて男は誇らしげに笑みを見せる。
 その一挙手一投足をつぶさに観察しながら、鏡介はふと思いついたように口を開いた。
「……そうだ、新しい補修資材が手に入りそうなんだ。どこか修理が必要な場所に心当たりはあるかな?」
「あー、なら、西地区の外壁にヒビが入ってたはずだ。余裕があったら直しといてくれ」
「西地区だな。わかった、覚えておく」

 そのあとちょっとした世間話だけして、鏡介は見回りの男と別れた。
 散策に戻った彼は、新たに別の警備員と会うたびに同じように情報を聞き出していく。
 ひとつひとつの情報は些細なもので、どれも特段の違和感を覚えるものではない。
 だが、それでも聞き取りの数が揃えば見えてくるものもある。

「複数の情報が持つ『本質』。それを比較して相違点を洗い出していけば……」

 おおよそ数時間。
 鏡介はじっくりと時間を掛けてセントメアリー・ベースをぐるりと一回りしていた。
 高かった太陽もいつの間にか傾き、今にも西の山地に隠れようとしている。オレンジ色の斜陽に影を作りながら、拠点の住民たちがまばらに家路を急いでいた。
 ――悪くないタイミングだ。
 鏡介は通りを外れて路地に入り、日の届かない暗がりから目当ての人物に声を掛けた。

「すまない、ちょっといいか?」
「あ? 俺のことか?」
 ごくごく平凡な服装で、特徴らしい特徴のない男が振り向く。
「ああ、ちょっとこっちに来てくれないか。路地に誰かの落とし物があるみたいでさ」
「んなもん落としたヤツが悪ぃんだよ。テメエで適当に拾っちまえばいいじゃねえか」
「いや、それがどうもかなり高価なモノみたいなんだ。一応、確認してもらえないか?」
「高価な……? チッ、しゃーねえな」
 舌打ちした男が路地に入ってくる。憮然とした表情を浮かべているが、その下に喜色を隠しているのがわかった。鏡介は男を路地の奥へと誘導していく。
 いよいよ周囲の影が濃くなってきたあたりで、さすがに男が不審そうに顔を顰めた。

「おい、本当にこっちでいいのか?」
「もちろんだ。ちょうどこの辺りまで来れば……、表通りからは見えないからな」
「は……?」
 その間の抜けた声が、男の最期の言葉になった。
 白刃一閃。
 抜き放った鉄刀が間者の男を袈裟懸けに斬り裂く。
 握った柄に確かな手応え。
 断末魔をあげることもなく、男がごろりと路地裏の影に転がった。

「切り捨て御免……は意味が違うか。けれど、これで少し安全になったかな」
 鉄刀を収めて屈み込んだ鏡介が間者の懐を探ってみれば、出るわ出るわ、警備の穴やら蜂起の合図やらその他諸々……。悪巧みの証拠がわんさか鏡介の手の内に入ってきた。
「こいつは俺たちの方で利用させてもらうとしようか」
 まずは間者にマークされた警備の穴を塞ぐところからだ。
 入手した情報を真っ当な警備員に拡散するべく、鏡介は路地の暗闇を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラブリー・ラビットクロー
ここはみんなの笑顔があって温かいなん
ヒトのユメを叶えれば
きっとセカイは笑顔になる
その希望を消させるもんか

みんなこんにちわ
らぶは旅ショーニン
セカイを周ってショーバイしてるのん
どんなの扱ってるって?
それはなんでも
缶詰や水
やきゅーのボールにレイダーから盗んだトランプ
とっても楽しそーでしょ?
これ?これはねとってもとっておき
オブリビオンをやっつけちゃう秘密のコンピューターウイルスなん(ウソだけど!)

聴こえる
らぶが嘘をついた瞬間アイツの心臓の鼓動だけ少しテンポが変わった
その心を読めば一人だけ怒ってるってわかるんだぞ
きっとアイツが犯人なん

これは特別にオマエに売ってあげるのん
だから後でらぶの所に一人で来てね?



 人通りの多い街角を選んで、ラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)はバサリと荷物を広げた。
 地面に敷いたマットにテキパキと『商品』を並べれば、なんだなんだと住人たちが集まってくる。物珍しさに目をしばたかせる彼らの表情は総じて明るい。言い方は悪いが、アポカリプス・ヘルらしからぬ和やかな雰囲気だ。

(ここはみんなの笑顔があって温かいなん)
 いつもどおりの無表情を浮かべつつも、ラブリーは嬉しい気持ちを胸に咲かせていた。
 ここのヒトたちは、安心して暮らしたいというユメを叶えつつあるのだ。
 安心して暮らせるようになったヒトは、いつかまた新しいユメを見つけるだろう。
 そうやってヒトのユメを叶えていけば、きっとセカイは笑顔になる。
 ラブリーがショーニンを続けるのも、その手伝いをするため。
 ……だからこそ、セントメアリーに争いを持ち込もうとするヤカラは放っておけない。
 希望の種を、消させるもんか!

「みんなこんにちわ。らぶは旅ショーニン。セカイを周ってショーバイしてるのん」
 ガスマスク越しに挨拶をして、ペコリと頭を下げる。
 広げた腕で地面の商品を指し示せば、拠点の住人たちはおずおずといった様子で彼女の臨時ショップを覗き込んだ。用途がわかるもの、わからないもの。トゲトゲしたもの、カラフルなもの、まぁるいもの。様々な商品が彼らの前に並んでいる。
「なぁ、ネエちゃん。アンタぁ何を売り歩いてんだ?」
「それはなんでも。こっちのこれは缶詰。こっちは水」
「そこらの品は見りゃわかるんだが……。うーん、コイツはなんだい?」
「丸いのはやきゅーのボール。四角いのはレイダーから盗んだトランプだ」
「レイダーから!? へぇー、やるもんだな、アンタ!」
 住人たちが感心したように声を漏らした。ラブリーがトランプをひっくり返して並べてみせると、カラフルなその見た目に彼らは揃って目をパチクリとさせている。

「とっても楽しそーでしょ?」
「ああ、そうだな。……ん、その妙に厳重な箱は?」
「これ? これはね、とってもとっておき」
 住人のひとりが、ふとラブリーの手元に置かれた箱を指差した。ラブリーは待ってましたと言わんばかりに(顔はいつもの無表情だけど)二重三重に梱包されたその箱を持ち上げる。彼女の両手に収まるサイズの箱をずいと住人たちの視線に晒して、彼女は神妙に囁いた。

「これはね、オブリビオンをやっつけちゃう秘密のコンピューターウイルスなん」

「え!?」と住人たちが動揺の叫びを漏らした。
 ラブリーの頭上でウサミミ(の偽神兵器)がピコンと立ち上がる。
 最初の反応は予想通り。対オブリビオンの秘密兵器と聞けば、そりゃあ誰だってビックリするだろう。問題はこの後だ。
「す、すげえな。それも売り物なのか?」
「いやいや、さすがにハッタリだろう。こんな場所で売るような代物じゃないって」
「まぁ、確かに。本物か偽物か、試そうにも試しようがないしな……」
 驚き。好奇心。猜疑。疑問。興奮。あるいは単純に興味なし。
 住人から聞こえてくる『音』の大半はこの辺りだ。
 ――だが、たったひとり、異質なテンポで心臓の鼓動を刻んでいる者がいる。
 音の正体は、焦りと怒りだ。

「うーん、ざんねんだけど、これは非売品なん」
 そう言ってラブリーは件の箱を懐にしまい込んだ。
 それから彼女は他の商品を紹介するように販売スペースをトテトテと回り始める。さりげない仕草で目星をつけた男に接近した彼女は、彼の耳元でそっと囁いた。
「これは特別にオマエに売ってあげるのん」
 男の鋭い視線がラブリーを射抜いた。突然話しかけられても男に驚いた様子はなく、ただ身体の奥底に秘められた敵意の鼓動だけが伝わってくる。
 間違いない。この男が紛れ込んだ間者のひとりだ。

「だから後でらぶの所に一人で来てね?」
 一方的にそう言って、ラブリーは商品の紹介に戻る。間者との接触はほんの一瞬の出来事。周囲の住人たちは彼女の『仕掛け』にまったく気づいていないようだ。
 いくつかの商品の物々交換を成立させて、ラブリーは適当なタイミングでショーバイを切り上げた。住人たちに手を振りながら彼女は帰路につく。しばらくの間、セントメアリー・ベースのとある宿泊施設に滞在する、と言い残して……。

 その日の晩、ひとりの間者が姿を消した。
 真夜中に住処を抜け出してどこかに出かけていった彼の消息を知る者は、誰一人としていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルゥ・グレイス
こちら終末図書館。
ローゼン協会派遣団です。
人類保護協定に則って支援物資の配給に来ました。


ベースの運営中枢と協議して終末図書館との協定を結びつつ、怪しげな動きをする者を精査。
心音や脳波測定、を魔術で秘密裏に行い、中枢に潜む間者を探し出す。

「この人と、この人、二人は確定。グレーゾーンは一度おいておくとしても…」

動くのは深夜。
場所はベースすべてを見渡せる外れの廃墟。
対象確認。PDBCInt.起動。
サイレンサー接続、良し。
…‥ファイア。

狙撃成功。
次段装填。

…ファイア。
こちらも問題無し。
これより帰投します。



 セントメアリー・ベースの指導部は面食らっていた。
 原因は言わずもがな、テーブルを挟んで座るルゥ・グレイス(終末図書館所属研究員・f30247)の持ち込んだ提案のためだ。

「こちら終末図書館。ローゼン協会派遣団です。人類保護協定に則って支援物資の配給に来ました」
「……終末図書館? 聞いたことのない組織だな」
 ややもすれば病弱にも見える白い肌、無表情で華奢な青年に対して、拠点の指導層は胡乱な感情を向けていた。猜疑の視線を向けられたルゥは、しかし、それがなんだとばかりに淡々と会話を続けていく。
「正式には対終末遺失情報集積機関。オーストリアに本拠を置く記録貯蔵組織です」
「欧州とは連絡が途絶して久しいが……」
「詳細は資料を確認してください。同時に、支援物資の受領にサインを」
「う、む……。そうだな、物資に関しては、正直に言えばとてもありがたい」

 結局のところ、交渉というのは相手にメリットを提示できるか否かに掛かっている。
 慢性的な物資不足に悩まされるアポカリプス・ヘルにおいて、ルゥの提示した支援物資の融通は実に甘い果実だった。
 最初の取っ掛かりさえできてしまえば、あとの交渉は比較的スムーズに進行した。セントメアリー・ベースの運営機構は間違いなく優秀だ。なにしろこの過酷な世界で安全な拠点を設立して維持しているのだ。終末図書館との協定に利があると判断した彼らは、細部をきっちりと詰めた上で書類にしっかりとサインを認めた。

 これで仕事のひとつは完了。
 だが、ルゥの目的はもうひとつある。

「この人と、この人、二人は確定。グレーゾーンは一度おいておくとしても……」
「……今、なにか?」
「いえ、お気になさらず」
 机の下に魔術式を走らせて、指導部の人間たちを精査していく。
 心音、脳波、あるいは表情の僅かな変化。種々のデータを収集して、怪しげな動きをする者がいないかを調べ上げる。
 該当する者が見つからなければそれでも良かったのだが……、結果から言えば、どうやらセントメアリーの中枢にも数人の間者が紛れ込んでいるらしい。

「協定締結、確かに確認しました。それでは、私はこれで」
 十分な調査を終えたルゥは、相変わらずの無表情で指導部の会議室を辞した。
 拠点指導部の面々は支援物資の受け入れについて会議を続けるらしい。ターゲットの居場所がわかっているのは好都合だ。ルゥはすぐさま事前に準備しておいた待機ポイントへと移動する。
 セントメアリーを出て、拠点外縁の放棄区画へ。ぽつぽつと並ぶ廃墟の中でもひときわ高い、半ばで真っ二つに折れた高層ビルの遺構へと入っていく。
 荒い砂粒に覆われた最上階で、ルゥはうつ伏せになった。匍匐姿勢で崩落した壁際まで這っていき、抱えるように狙撃銃を構える。

「動くのは、深夜になってから」
 その呟きを実践するかの如く、彼はその場でピタリと動きを止めた。
 スコープを覗き、はるか遠方の会議室の様子を窺いながら、黙々と時間の経過を待つ。
 やがて日が落ち、月が天高く昇った頃に、ようやく指導部の会議は終わったらしい。
 解放された人員が、体を伸ばしながらそれぞれの寝床へと帰っていく。
 マークしたターゲットは二人。彼らが自身の住処に帰り着くのを確認して、ルゥは引き金に指を掛けた。

「対象確認。PDBCInt.起動」
 脳内の電脳電算機が演算を開始する。
 狙撃銃の弾道、ターゲットの挙動予測、風向き、湿気、角速度の偏差……。
 視界に映るヴィジョンが明瞭となるのと同時に、時間感覚が粘性を帯びる。
 スローモーションの世界で、スコープのレティクルが目標を捉えた。
「サイレンサー接続、良し。……。……ファイア」
 トリガー。マズルフラッシュ。銃身に重い反動。抑制された発射音が耳朶を打つ。
 僅かに跳ね上がったスコープを平行に戻して、成果を確認。
 住居の割れた窓ガラスの向こうで、ターゲットの間者が大の字に倒れている。身体の下には血液の赤い海。出血量を計量し、致命傷と判断。
「狙撃成功。次弾装填」
 狙撃銃のスコープを動かす。もうひとりのターゲットを視界に収め、弾道を再計算。
 息を止めて、トリガー。
「……ファイア」
 スコープの向こうでターゲットの間者が独楽のようにスピンする。
 ふらりと安定を失った男は、やがてばたりと倒れてフロアとキスを交わした。
 ターゲットの沈黙を確認。ルゥは狙撃銃と薬莢を回収して立ち上がった。

「こちらも問題無し。これより帰投します」
 きっと明日の朝には間者の死体が発見されることだろう。メンバーを欠いた指導部には多少の混乱が発生するだろうが、情報漏洩と敵軍誘引のリスクを放置することと比べれば、その程度は受け入れるべきコストと言えるはず。
 最後にちらりと遠方のセントメアリーを見やり、目的を果たしたルゥは誰にも見咎められることなく廃墟から去っていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

七那原・望
レポートに書いてあった間者はこの先の路地裏に潜んでいるのですか?
目立ちにくい所ですけど、悲鳴をあげられたら流石に住人に気付かれるかもしれないです。

取り敢えず建物の上から様子を伺いましょう。
相手の頭上に遮蔽物があるなら動き出したタイミングに合わせて、ないなら即座に行動に移ります。

第六感と野生の勘も駆使して最適な位置に望み集いし花園を落とし相手の身体に当てることで問答無用で花園に連れて行っちゃいましょう。

ここからはスピード勝負です。即座にわたしも触れて花園に移動したら相手が混乱してる内にフィーネでの早業で首を刎ねましょう。

相手がここから出ようなんて考えたら詰みですからね。うまくいって良かったです。



「レポートに書いてあった間者は、この先の路地裏に潜んでいるのですか?」
 こそりこそりと小さな体をさらに小さく丸めながら、七那原・望(封印されし果実・f04836)は砂塵に塗れた建物の屋上から地上の様子を窺っていた。
 住宅地と思しきエリアだ。建物のほとんどは平屋で、あっても二階建てまで。建物同士の間隔も狭く、一度登ってしまえば屋上を渡り歩くのは難しくなかった。
 都市計画とは無縁の建造物の並び方は、ぐねぐねと折り曲がる複雑な路地裏を作り出していた。大通りから奥まった場所ともなれば、陽の光も届かず蟠るような暗闇が色を濃くしている。
 間者が身を潜ませるにはうってつけのポイントだろう。ちょっとした物音ならば周囲に響くこともなさそうだ。
 とはいえ……。

「目立ちにくい所ですけど、悲鳴をあげられたら流石に表通りの住人に気付かれるかもしれないです」
 屋上に潜む望には、大通りからの喧騒もかすかに耳に届いていた。
 頬にちょこんと指を当てながら彼女は思案する。間者を排除するにしても、大きな騒ぎを起こすのは得策ではない。やるならば悲鳴もあげさせないほどの速攻、すなわち、スピード勝負に賭けるしかない。

「よし……」と頷き気合を充填。望は路地裏の気配を探る。
 最初に聞こえてきたのは足音。周囲を警戒するような歩調の位置を察知し、彼女はその動きを追跡していく。
 足音の主に接近した彼女は自身の直感に従い、間者の動きを先回りすることにした。建物をぴょんぴょんと渡っていき、間者の十メートルほど先の屋上に滑り込んですっと息を潜ませる。
「あなたがそう望むなら……、誘いましょう」
 小さな呟きとともに、少女の掌に黄金色の光が溢れた。
 具現化したのは小さな黄金の林檎。掌にちょこんと乗ったそれを、望はそっと路地の上に持っていき、するりと地面に落とした。
 路地裏の高所にあるのは紐に掛けられた洗濯物くらいだ。こそこそと動き回る間者の頭上を守るものはほとんど存在しないといっていい。
 冴え渡る少女の直感により、タイミングはばっちり。頭上の死角から落ちてきた小さな林檎は、間者の頭部にこつりとヒットした。

「あいたっ……、って、なんだ、こりゃ?」
 軽い痛みの後、ぐにゃりと視界が歪む感覚を覚えた間者は、気づいたときには奇妙な場所に立っていた。
 ついさっきまで立っていた路地裏とは異質な薄暗さだ。まるで夜明け前のような、静謐な青い闇が広がっている。目が慣れてくると、周囲に複数の樹木が連なっていることに気づいた。どの樹も見たことのない品種だが(もっとも、間者の知っている樹など数えるほどしかないのだけど)、どれも揃ってカラフルな果実を枝につけている。

「ワケが分からねえな。チッ、どうしたもんか……」
 世界から隔絶された花園に連れ込まれた間者は、混乱しつつも、必死に頭を働かせてこの場における最適解を探し出そうとした。
 ……それこそが、間者の最大の間違い。
 ユーベルコードにより望が扉を開いた『望み集いし花園』は、出ようと思えばいつでも外に出られる。それがこの花園のルールなのだ。
 もし、巻き込まれたのがセントメアリーの一般住人だったとしたら、彼らはきっと無意識にでも拠点に帰りたいと願っていたことだろう。
 けれど、間者にとってセントメアリーは『帰るべき場所』ではない。異常事態に巻き込まれたとき、彼は『帰りたい』ではなく『助かりたい』と願ってしまった。

 だから、彼は帰れない。

「間に合いましたね」
「えっ……」
 ふわりと風がそよいだ。
 間者を追って花園に飛び込んだ望が、敵対者の懐に音もなく現れる。
 振り返った間者が見たのは、自身の首を刈らんと迫る、アネモネ咲き誇る純白の大鎌。
 次の瞬間、彼の視点はひっくり返り、ひゅっと宙に浮いた。
 ごとりと花園に転がる頭と胴体。
 大鎌を振り抜いた望は、それを確認してホッと息を吐く。
「うまくいって良かったです」と小さな首刈り天使は胸をなでおろすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
今回は大立ち回りよりも暗闘ですね

シスター服で潜入
街角で簡易救急セットを用いた辻医療を施し(医術)、悩みや噂話で聞き込み(情報収集)
流石にあからさまに怪しいのはいなくても、ちょっとした違和感――隣人の食品の買い込み量が変わった、えすえぬえすとやらに顔を出さなくなった、見慣れない車が通っていた、とか
些細な情報を集め、入れ替わった偽者を割り出し、それを元に探す

近所の方から、あなたの具合が悪そうだとお伺いしまして
簡単な問診だけでもいかがでしょうか?
ドアスコープ越しに【傾城傾国の艶美】で【誘惑】し、入れてもらう
問診、聴診、触診……敵と確信を得れば押し倒し、騒がれる前に【怪力】で首を折る(グラップル)



 セントメアリーのとある街角は、にわかに賑わいを見せていた。
 オープンテラス(と言えば聞こえはいいが、要は壁と天井が崩落した廃屋だ)のスペースを借りて、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)が辻医療の場を設けているのだ。

「……これで大丈夫です。しばらくは安静にしてくださいね」
「あ、ああ。ありがとな、シスター」
 右腕に丁寧に包帯を巻かれた青年が顔を赤くして頭を下げた。
 簡易救急セットを用いた医術はごくごく基本的な応急手当が主であるが、なにかと怪我の多いアポカリプス・ヘルにおいてはそれだけでも大いに助けとなる。
 しかも、銀髪美人のシスターによる優しい介抱が漏れなくセットになるともなれば、辻医療は当然のように大盛況。鼻の下を伸ばす青年たち(と頬を赤らめる少女たち)が量産される結果となったのだった。

「難しいかもしれませんが、体調を保つためには食生活から気をつけてください。暴飲暴食だって身体からのSOSということがありますから。……どうでしょう、お知り合いになにか変調のあった方はいらっしゃいませんか?」
「……そういえば、東の街区のアイツ、食料を買い込む量が妙に増えたような」
「まぁ、それは心配ですね」
 辻治療を続けながら、オリヴィアは住人の悩みや噂話を少しずつ集めていく。
 怪我の治療によって程よく警戒心がほぐれたのか、住人たちはなかなかに雄弁だった。あるいは、聖職者を前にして普段は喋れないことが無意識に口から出たのかもしれない。オブリビオンの出現からはまだ数年。かつての信仰を胸の奥に覚えている人が、この地には少なからずいるのかも……。

「なあ、シスター、最近顔を合わせていない知り合いがいてさ。アイツ、大丈夫かな」
「夜中に見慣れない車を見たんだ。見間違いかもしれないけど、なんだか不安で……」
「外回りから戻って性格が変わったヤツがいたな。ありゃあ、ストレスかねぇ」
「あれ、それってひょっとしてオレの知り合いと同じヤツじゃないか?」

 些細な情報でも、集まれば点が線になる。
 心のこもった治療と相談で情報を集めたオリヴィアは、やがてひとつの確証を得るに至った。日が傾いた頃に治療場を片付けた彼女は、しきりに礼を言う住人たちと別れてセントメアリー・ベースのとある住宅へと向かう。
 拠点の住人たちは、その家に住む男に小さな違和感を覚えていた。ひとつひとつは小さなことだが、集まれば異質な形を生み出す、奇妙な違和感だ。

 玄関の前に立ったオリヴィアは、備え付きのドアベルを鳴らす。
 しばらくの沈黙の後、ドアの向こうから声が聞こえた。
「誰だ」
「ごめんください。近所の方から、あなたの具合が悪そうだとお伺いしまして」
 あからさまに警戒を滲ませた誰何の声に、オリヴィアは自然な調子で用件を告げる。
 ドアスコープ越しに視線を感じた彼女は、扉の前にすっと身体を寄せた。
「簡単な問診だけでもいかがでしょうか?」
「いや、別にオレは……」
 断りかけたところで、男の歯切れが悪くなった。
 扉の前のシスターは、いつしか胸元を強調するような姿勢で扉ににじり寄っていた。
 白い頬もほんのりと赤く染まっている気がする。
『傾城傾国の艶美』というのは、きっとこういうものを言うのだろう。
 男はごくりと生唾を飲み込み、知らず知らずのうちにドアのロックを外していた。

「じゃあ、ちょっとだけ」
「ありがとうございます。では、お邪魔しますね」
 熱に浮かされてオリヴィアを部屋に招く男。
 ふらふらとソファに腰掛けた彼は、対面に座ったオリヴィアに言われるがまま、問診を済ませ、上着をまくりあげて聴診を受け入れる。
 ……そういえば、テーブルの上に諜報資料が置きっぱなしだったかもしれない。
 胸に触れた聴診器の冷たさに男はハッとするが、そのときにはすべてが手遅れだった。テーブルの上の資料を盗み見たオリヴィアは、既に彼を間者と断定していたのだ。

「いけない人ですね」
「むごっ!?」
 金瞳のシスターがバンザイ姿勢の男をソファに押し倒す。
 まくりあげた上着に腕を絡め取られた男はろくな抵抗もできなかった。
 馬乗りになったオリヴィアが男の首に指をかける。
 甘美なふれあいはほんの一瞬。
 指先にこめられた怪力が、男の首を容赦なくへし折った。
 ゴキリ、と骨の砕ける音が響き、男の眼球がひっくり返った。

 だらりと四肢を弛緩させた男から降りて、オリヴィアは落ち着き払った様子でシスター服の埃を払う。それから小さく目を伏せて、静かに間者の拠点を後にした。
「これでこの街の平穏が守られればいいのですが……」
 願いの込められた呟きが夜の闇に溶ける。
 否、願うだけではダメなのだ。この地に真の平穏を取り戻すためには、黙示録の嵐を乗り越え、オブリビオン・フォーミュラを打倒しなくては……。
 決然と視線を持ち上げたオリヴィアは、決意を新たに力強く歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月17日


挿絵イラスト