アポカリプス・ランページ⑮〜NO FEAR
●グリモアベースにて
「みんな、集まってくれてありがとう。アメリカを舞台にしたこの戦いもみんなの活躍で今のところ順調に道を切り開けているわ。けれどかつてオブリビオン・ストームをもたらし文明を破壊したという『フィールド・オブ・ナイン』の計画は出来る限り阻止しなくてはいけないわね。そのためにも、みんなで力を合わせてストレイト・ロードを切り開いていきましょう!」
グリモアベースに集まった猟兵たちに向かい、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は現在の戦況が図式化されたアメリカ大陸の地図を掲示して見せ、力強く拳を握った。
「みんなに向かってほしいのは、メンフィス灼熱草原……ここは、かつてはミシシッピ川に面した大都市だったんだけど、今は全域が消えることのない黒い炎に覆われた死の草原と化しているの」
黒い炎は地下にまで及び、かつての大都市の面影はもはやどこにも見当たらない。
「そしてその黒い炎の中から、あなたたちが知っている『恐るべき敵の幻影』が実体を伴って現れるの……」
猟兵それぞれにとっての恐るべき敵が一人一人の前に現れる。恐怖の形は人それぞれだろう。
幻影ではあるが、それに対して強い恐怖心を持てば、猟兵と言えどその攻撃は全てすり抜けてしまうことだろう。
だが、恐怖を乗り越えた一撃であれば、実体を持った幻影を貫き、霧のように消し去ることができる。
「幻影であったとしても、それが実体を伴えば恐ろしくないわけがないわ……それでも、みんなならその恐れに打ち勝てると思うから。この黒い炎が生み出す悪夢のような敵を振り払って、新たな道を切り開いて欲しいの」
祈るように両手を組み合わせ、エリシャは戦場へと向かう猟兵たちの無事を願う。
金の星型のグリモアが、黒い炎が蔓延るメンフィス灼熱草原へと猟兵たちを導くのだった。
湊ゆうき
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「アポカリプス・ランページ」における⑮メンフィス灼熱草原〜フィアフル・ファントムのシナリオとなります。
こんにちは。湊ゆうきです。
今回の戦争もなかなか大変ですが、それを上回る猟兵の皆さんの頑張りがすごいです!
黒い炎から現れる、あなたにとって恐るべき敵の姿をとった幻影と対峙していただきます。
敵は自分自身にとっての恐るべき存在です。縁のある誰かでも、仇敵でも、人や物でなく、過去の記憶や出来事なんかでも構いません。それが実体を伴って目の前に現れますので、恐怖心に打ち勝ち、一撃を食らわせてください。ユーベルコードを設定して下されば攻撃プレイングがなくても大丈夫です。ただ、恐怖を乗り越えないと攻撃は通じませんのでそこだけはご注意ください。
プレイングボーナスは「あなたの『恐るべき敵』を描写し、恐怖心を乗り越える」です。
プレイングはOP公開後すぐに受付いたします。
戦況を見ながら、できるだけ早くリプレイをお返しできるように頑張ります。
ご参加お待ちしております!
第1章 冒険
『恐るべき幻影』
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POW : 今の自分の力を信じ、かつての恐怖を乗り越える。
SPD : 幻影はあくまで幻影と自分に言い聞かせる。
WIZ : 自らの恐怖を一度受け入れてから、冷静に対処する。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒影・兵庫
アイツは確か...
(「初めて戦ったオブリビオンね」と頭の中の教導虫が話しかける)
今の俺には雑魚ですよ!楽勝です!せんせー!
(「ならなぜ奴は現れたの?」)
そ、それは...
(「黒影、恐怖を抱くのは弱さじゃない。生きるために必要な防衛本能よ」)
はい...
(「恐怖しても止まらず対処する意思を持ち続けることが大事なの」)
はい、せんせー
(「...あんな化け物との戦いに巻き込んだ張本人に言われたくはないでしょうけどね...」)
...いえ、いいえ!
そんなことはありません!
俺にとってせんせーは守り神様です!
せんせーのお言葉!心に刻みました!
(UC【蜂蜜色の奔流体】発動)
恐怖と勇気を込めたこの一撃!
喰らいやがれ!
●恐れることを恐れずに
その土地は、消えることのない黒い炎に覆われていた。
メンフィス灼熱草原。かつての大都市は、もはや死の草原と化していた。
オブリビオン・ストームによって人類の大半が死滅したこの世界においても、その光景は見るものに寂寥感を抱かせる。
『酷いわね……』
「せんせー、これもオブリビオン・ストームの影響ですか?」
目の前に広がる光景に、黒影・兵庫(不惑の尖兵・f17150)の頭の中にいる教導虫が思わずそう呟くと、兵庫も辺りを見回して訊ねる。
消えることのない黒い炎からは、オブリビオンも湧き出るという。
『恐らくはね……。黒影、何か来るわ!』
教導虫の鋭い声に、兵庫が目をやれば、黒い炎の奥から何かが姿を現すのが見えた。
「アイツは確か……」
ゆらりとゆらめく陽炎のような輪郭が、やがてはっきりとしてくる。その存在を兵庫は知っていた。
『ええ、初めて戦ったオブリビオンね』
教導虫の言葉に、兵庫も大きく頷く。あの時は強大な敵に思えた。けれど数多の世界を駆け、数えきれないほどのオブリビオンと戦ってきた兵庫は間違いなく強くなった。
「今の俺には雑魚ですよ! 楽勝です! せんせー!」
それはきっと教導虫だって認めてくれることだろうと、兵庫は安心させるようにそう答えたのだが。
『ならなぜ奴は現れたの?』
その言葉にはっとなる。
「そ、それは……」
ここでは、自分が恐るべき敵の幻影が実体を伴って現れるという。ならば、目の前の敵は――。
『黒影、恐怖を抱くのは弱さじゃない。生きるために必要な防衛本能よ』
教え子を諭すように、優しくも凛とした教導虫の声が兵庫の頭に響く。
「はい……」
猟兵として初めてオブリビオンという過去から蘇った化け物と対峙した。あの時に本能的に感じた恐怖がこうして心の奥底にまだ眠っているのだろうか。
そんな気持ちを見透かすように、教導虫は恐怖を抱いたことを責めるのではなく、いつものように愛情をもって兵庫を導く。
『恐怖しても止まらず対処する意思を持ち続けることが大事なの』
「はい、せんせー!」
ぐっと顔を上げ、兵庫は幻影を睨みつける。恐れることを恐れない。決してそれは恥ずかしいことではないのだから。
頼もしい教え子の言葉を聞いた教導虫だが、その声色が少し沈み、自虐的な呟きが漏れる。
『……あんな化け物との戦いに巻き込んだ張本人に言われたくはないでしょうけどね……』
幼い頃に脳に教導虫という寄生虫を埋め込まれたことで、その潜在能力を引き出され、兵庫はユーベルコードを使用することができる。そのことがなければ、兵庫がこのような戦いに身を置くことはなかったのだと考えると、ついそんな言葉が溢れて。
「……いえ、いいえ! そんなことはありません!」
教導虫の言葉に兵庫は大きく首を横に振った。
「俺にとってせんせーは守り神様です!」
いつだって兵庫を優しく見守り導いてくれた。その恩を忘れることはないから。
『……そう、それなら良かったわ』
「せんせーのお言葉! 心に刻みました!」
先ほど生まれた敵に対する恐怖心も今やどこにもない。いつだって教え導いてくれる心強い存在がすぐそばにいるから。
「俺の心が折れない限り、俺の体は無敵です!」
兵庫の身体がその強い気持ちと精神力に比例して強化されたオーラの塊へと変わる。恐怖から逃げるのではなく、それを受け止め力に変えて。
「恐怖と勇気を込めたこの一撃……喰らいやがれ!」
しなやかな伸縮性と弾力性をもった一撃が、現れた幻影を一撃で粉砕する。
『黒影、よくやったわ!』
「へへ、ありがとうございます。せんせー!」
教導虫の言葉に、鼻の頭をこすって照れながらも、兵庫は元気に返事をした。
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
露と(f19223)。
「……残念だ…」
地理は知らんが想像するに…風光明媚な場所だったんだろうな。
故郷よりも多彩な色だったろう。荒廃する以前の景色は。
炎から現れたのは…私?どういうことだ?思い当たらないが。
黒ベールで顔を隠した幻影は語る。
『今の君は海底に恐怖する。静寂な世界にはもう引き返せない。
日光浴と鳥の囀りの心地よさを知ってしまった。もう戻れない』
はて…?私の好むところだったはずだが…。
『過去を振り返れ。幼かった日々を…日々を…』
問われ身が寒くなる。…なるほど。涙の海の国の…不快だな。
『彷徨っ…ぷぎゅく!』「煩い。黙れ。消えろ阿呆が」
二度と思いだしたくない記憶で思わず拳を振るってしまった。
神坂・露
レーちゃん(f14377)。
あたしの恐怖はやっぱりレーちゃんに凄く嫌われることかしら。
うん!絶交されてあたしの隣から消えるのは…凄く嫌ね。
「ね? あ、れ? レー…ちゃん?」
隣にいたはずが目の前で立ってたわ。しかも前髪で表情隠して?
『もう、君に振り回されるのは疲れた。前から消えろ』
前のレーちゃんは口の端を笑うように吊り上げると言ったわ。
『…じゃあな。神坂さん、永遠にさよならだ』
言うと踵を。…ま、待ってって腕を伸ばすけど届かなくって。
…。むぅ!レーちゃんの馬鹿ぁあ!あたしも嫌いよ!
思いきり背中を蹴ったわ。
「うえぇ…。レーぢゃん、離れないぃ~」
本物に会ったら悲しくて嬉しくて。抱き着いて泣いちゃった。
●冷たい海と陽だまりの記憶
「……残念だ……」
目の前に広がるのは、かつては人が住んでいたのかと思うほど、荒廃した街並み。
シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は金色の瞳を細め、メンフィス灼熱草原を覆う黒い炎を――かつて大都市と謳われた街の成れの果てを見つめていた。
「レーちゃんはこの場所を知っているの?」
親友の腕にぎゅっと抱きつきながら、神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)はそうシビラに問いかける。
「いや、地理は知らんが想像するに……風光明媚な場所だったんだろうな」
雪に閉ざされた極寒の地だったシビラの故郷より、多彩な色彩にあふれていたことだろう――荒廃する以前の景色は。
「きっと、そうだったのよね。でも今は……」
辺りは黒い炎に覆われ、人の影などどこにもなかった。
じっとその炎を見つめていたシビラの目に、炎の中から姿を現した人影が映る。陽炎をまとったようなそれはシビラと同じような背丈をしていて――。
「あれは私か? どういうことだ? 思い当たらないが……」
黒いベールで顔を隠してこそいるが、その姿はシビラが知る自分そのもの。この黒い炎からは、自分が知る恐るべき敵の幻影が現れるという。
自分のことを恐ろしいだなどと思ったことはない。これはどういうことだろうかと、そばにいる露に訊ねようにも、先ほどまで腕にしがみついていたはずの少女の姿が見えなくなっていた。これも幻影のせいなのか。
『今の君は海底に恐怖する。静寂な世界にはもう引き返せない』
黒ベールの幻影は、シビラにそう語りかける。シビラと同じように抑揚のない静かな声音で。
『君は日光浴と鳥の囀りの心地よさを知ってしまった……もう戻れない』
だがシビラはその言葉に首を傾げる。静寂はシビラの好むところだ。むしろ静寂を破る行為こそ忌むべきものであるのに。
『過去を振り返れ。幼かった日々を……日々を……』
呪文のように紡がれたその言葉が、シビラの中のある記憶を呼び覚ます。
冷たい海。思い起こされる悲しみの記憶――。
急に背筋が冷え、まるで冷たい海に放り込まれたかのように寒さを覚える。
(「……なるほど。涙の海の国の……不快だな」)
オウガ・オリジンが作り上げた『涙の海の国』。そこでシビラは暗闇と孤独に恐怖した過去を思い出したのだ。
『暗い古城で、君は誰かを呼びながら彷徨っ……ぷぎゅく!』
目の前の幻影が言葉を詰まらせたのは、シビラの鉄拳がそのベールで覆われた顔にめり込んだからだ。
「煩い。黙れ。消えろ阿呆が」
矢継ぎ早にそう畳みかけると、恐怖を凌駕する怒りがこみ上げてきて。
「……やれやれ、消えたか」
シビラの一撃によって霧散した幻影を見送ると、これが自分にとっての恐るべきものなのかと考える。
確かに、二度と思い出したくないものではあったが。
「陽だまりの心地よさ、か……」
元に戻れないと幻影は言った。だが、あの日々に戻る必要があるのだろうか。静寂を失ったことがシビラにとって不幸せなことなのか。
未だくすぶる黒い炎を見つめながら、シビラは考えるのだった。
シビラの隣で黒い炎を見つめる露は、自分にとっての恐るべき敵とは何かを考えていた。
(「やっぱりレーちゃんに凄く嫌われることかしら?」)
冷淡で時々つれなくて。でもなんだかんだと露を突き放したりしない。時に頼ってくれたり、嬉しそうな顔を見せてくれたり。
そんな日々が当たり前になったのだ。シビラがいない毎日なんて、もう露には考えられない。
「うん! 絶交されてあたしの隣から消えるのは……凄く嫌ね」
でもそんなことないわよね、そう訊ねようと隣にいるシビラに顔を向けたのだが。
「ね? あ、れ? レー……ちゃん?」
先ほどまで腕をつかんでいたはずなのに、隣にいたはずのシビラが露の目の前に立っていた。まるでこの黒い炎から現れたように。
「どうしたの、レーちゃん? 前髪で表情が見えないわ」
長く美しい銀の髪が今はシビラの表情を隠している。こちらを見ているはずなのに、全くシビラの感情が読めない。
『もう、君に振り回されるのは疲れた』
冷淡な声。それはいつもと変わりない。でもそこに感情というものがまるで感じられず、露はどうしたの、ともう一度問いかけた。
『……私の目の前から消えろ』
それは一切の拒絶。聞きたくなかった言葉。
相変わらず表情は見えないが、目の前のシビラは口の端を吊り上げ、嘲るように言葉を続ける。
『……じゃあな。神坂さん、永遠にさよならだ』
「……っ!」
心臓をつかまれたように胸が苦しくなって。
だってまるで他人みたいに。今まで一緒にいた時間が初めからなかったみたいに。
――露の存在を全て否定するみたいに。
「ま、待って……待って、レーちゃん!」
踵を返し、去ろうとするシビラの背を追いかけようと腕を伸ばすが届かない。
焦燥が突き動かす。だが、恐怖や悲しみ、それよりももっと大きいのは――。
「むぅ! レーちゃんの馬鹿ぁあ! あたしも嫌いよ!」
怒りのままに思いっきりその背中を蹴とばせば、幻影は霧散する。
「あれ? やっぱり本物じゃないわよね……」
そうだとは思っていたが、起こりうる未来としての恐怖は今もまざまざと感じて。
「どうやら、無事に幻影を振り払えたようだな」
本物のシビラがやれやれといった様子で露の前に現れた。
「うえぇ……。レーぢゃん、離れないぃ~」
「……私の服は君のハンカチじゃないぞ……」
「やだ~離れないぃ~」
顔を涙でべちょべちょに濡らした露が、悲しいのか嬉しいのかわからない様子で抱き着いてくるので、シビラはとりあえずため息をつく。
「……やれやれ、まあいつものことか……」
鳥の囀りより賑やかではあるけれど、温かな涙もまた陽だまりがもたらしたものなのかもしれないと――そんなことを思いながら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ビスマス・テルマール
以前に見た奇妙な宇宙服の
あれから黒い炎が
早いっ!?
オーラ防御と耐性で凌ぎ
UCで反撃を……思い出せない
使おうとした種類の【なめろう】の大地の力まで
『貴女はあの時、なめろうを捨てるべきでした、運命には逆らえないのに』
わたしっ!?
『中身がなく虚無で、卑屈で蝙蝠で人の屑に堕ちる……それを臨む悪意に潰される』
その為に、わたしの回りの大切な人達まで……確かに、そんな恐怖は僅かに今も残っている
けれどわたしの心は、背中を押した人達の光で一杯……わたしはあの誓いを忘れない
貴女にはならない
昨年の聖夜、エリシャさんと作ったなめろうの記憶から力を
あの誓いを起点に
恐怖を払い思い出せ!
※アドリブ(UCの生成物含め)大歓迎
●あの日の誓いを胸に
消えることのない黒い炎がメンフィス灼熱草原を覆いつくしていた。
「これは……」
荒廃したかつての大都市の様子を目の前にして、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は悼むようにそっと目を伏せる。
だがこの黒い炎を消し去るためにも、ここから現れる自分にとっての恐るべき敵と戦わなければならない。
たとえそれがどんなものであろうと、蒼鉛の輝きと胸に抱いた誇りにかけて、ビスマスは屈するわけにはいかないのだから。
目の前で燃え盛る黒い炎を見つめていると、その炎を纏った人影がゆらりと陽炎のように現れる。
「あれは、以前見た……」
それは春のこと。廃遊園地で呪詛型UDCを相手にした依頼で現れた奇妙な宇宙服を纏った存在がビスマスの瞳に映る。あの時は複数いて列をなしていたが、今目の前にいるのは一体だけ。ビスマスの姿を認めるなり、こちらに向け槍を突き出してくる。
「早いっ!?」
強襲攻撃に、ビスマスもとっさにオーラ防御を展開し、耐え凌ぐ。あの槍はあの時、幼かった親友を刺し貫いたもののようで、ビスマスの背筋に冷たいものがよぎる。
これがビスマスにとっての恐るべき敵なのだろうか。
反撃しなければと、ユーベルコードを使わなければと思うのに、当たり前にできていたそれがどうしても思い出せない。
使おうとした種類のなめろうの大地の力まで……。
そんなビスマスを嘲笑うように、目の前の宇宙服の人物は言った。
『貴女はあの時、なめろうを捨てるべきでした……運命には逆らえないのに』
「わたしっ!?」
その言葉に、ビスマスは思い切り目を見開く。
『中身がなく虚無で、卑屈で蝙蝠で人の屑に堕ちる……それを臨む悪意に潰される』
ビスマスはぐっと拳を強く握りしめる。
目に見えない悪意がビスマスを取り囲み、侵蝕していこうとする。そしてそれによってビスマスの周辺の大切な人たちまで失いそうになって――。
それは確かにビスマスにとっての恐怖。今は立ち直ったが、その思いは僅かに今も残っていて。
(「でも……」)
ビスマスは思い出す。
周りにあったのは何も悪意だけではなかった。そっと背中を押してくれた人。見守ってくれた人。信じてくれていた人。待っていてくれた人……その人たちの思いが光となってビスマスの歩む道を照らしていく。
『ようやくわかりましたか? そう、運命には逆らえないのです……』
「……わたしは、あの誓いを忘れない。……貴女にはならない!」
ぐっと顔を上げ、相手を睨みつける。なめろうを捨てた、ありえたかもしれない未来の自分。それはきっと知らずビスマスが恐れていたものだったのだろう。
でも今はっきりとわかる。この力を、誇りを、決して捨てなかった自分はかつての自分よりもずっと強くなっていると。
聖なる夜に誓いを立てたのだ。信念を貫くと、捨てたくないものを最後まで守りきると。
信じてくれる人がいる限り――諦めないと。
(「あの誓いを起点に……恐怖を払い思い出せ!」)
もう一度胸に宿った熱き誓いを強く心に描けば、なめろうの、大地の力を――ビスマスの力たるそれを取り戻す。
『True Form Drago Knight Lord Bismuth !』
気が付いた時には、ビスマス結晶が美しく彩る鎧装を纏った真の姿となっていた。機械音が辺りに響いた時には、忘れていたはずの全てを思い出す。
なめろうビームウエポンに込めるのは、思い出のハワイアンなめろう。
「通りすがりの名にかけて、このなめろうで多くの人を救って見せます!」
近接距離から放たれた大威力の一撃は、悪夢のようなその存在を一撃で消し飛ばしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
レクス・マグヌス
藤原・桔梗(f10098)と参加
WIZ
【心情】
この荒廃した世界、ようやく平和を取り戻しつつある
奪わせるわけにはいかない
「聞け!我が名はレクス・マグヌス!滅びし都の最後の王!」
【恐怖のイメージ】
故郷の都を滅ぼした巨大な龍の群れと滅びる故郷
【乗り越える】
あの頃の僕は、この広い世界を知らなかった。だけど、今の僕は違う。猟兵になって多くの世界を旅して、故郷も開放した。二度とお前たちに負けたりはしない
「嵐よ起きろ! 今こそ戦いの時だ!」
【戦術】
妖刀の力である「狂気耐性」「オーラ防御」で己を律し、「生命力吸収」「属性攻撃」で竜たちを一凪ぎに切り伏せる
「僕は二度と負けはしない。お前たちに何も奪わせはしない」
藤原・桔梗
レクス・マグヌス(f07818)と参加
POW
【心情】
同じメンフィスでも、UDCアースとは全く違いますね。さあ、早い所越えてしまいましょう!
【恐怖のイメージ】
従える龍は「九頭龍」の制御を失って、破壊の化身と化してしまった自分自身
【戦い方】
力に自分自身が飲まれる恐怖、それは桔梗が「九頭龍」を扱う限り、忘れてはいけないものです
「勇気」「祈り」「優しさ」で自身を奮い立たせて、自分自身の幻影に立ち向かいます
「恐怖が無い、とは言いません。でも守りたい人、大事な人がいる限り、倒れるわけにはいきません」
「加護の祈り」で暴走する自分自身に目を背けず、黒き焔に立ち向かう猟兵に力を与える
●過去と未来
「ここも、かつてはたくさんの人の営みがあったのだろうか……」
メンフィス灼熱草原。かつては大都市だったというその場所に立ち、レクス・マグヌス(嵐をもたらすもの・f07818)は整った顔立ちを辛そうに歪めた。
「そうですね。UDCアースとは全く違いますが……同じメンフィスならきっと大きな街だったのだと思います」
レクスの言葉に藤原・桔梗(四海の龍と共に征く・f10098)は、脳裏にあるメンフィスの風景と照らし合わせて頷いた。UDCアースの孤児院兼養成所で育った桔梗にとっては、世界が違うことでこれほどまでに違うのは驚くことでもあった。
「この荒廃した世界……ようやく平和を取り戻しつつあるというのに……」
オブリビオン・ストームによって人類の大半が死滅したアポカリプスヘル。生き残った人々はそれでもその困難に立ち向かうべく、禁忌のオーバーテクノロジーを解き放ち、捨て身で反撃の狼煙を上げた。
猟兵たちの活躍もあって、徐々に道は舗装され、農地を増やし、人が暮らすうえで必要なものが調いつつあったところだ。
「これ以上それを奪わせるわけにはいかない」
レクスもまた失われた都の王族として生まれた身。すでに治めるべき土地も民もいないが、それでも王族としての誇りをもってオブリビオンとの戦いに挑んでいる。
「そうですね。さらにその先に進むためにも……さあ、さあ、早い所越えてしまいましょう!」
桔梗が力強くそう頷いた時だった。二人の前にひときわ大きな黒い炎が燃え盛る。
そうしてその炎の中から、何かが現れたのだ。
「来ましたね……」
炎の中から姿を現す何かへと、桔梗は素早く身構える。自分にとっての恐るべき敵の幻影が実体を伴って現れるという。
自分にとっての恐るべき敵は何かと桔梗が目を凝らして見ていれば、黒い炎を陽炎のようにまとったそれの輪郭が徐々にはっきりしてくる。
「これは……桔梗自身、なの?」
自分と同じ背丈の少女。愛らしい顔立ちもそっくりで鏡を見ているようだ。けれどその瞳は虚ろで、何も捉えてはいない。身体には炎とは別の邪悪な黒いオーラを纏っている。
桔梗が従えているUDC【九頭龍】。幼いころ、邪神の襲撃を受けた際にUDCを制御する力を手に入れた桔梗が従え、共に戦ってきた龍。
けれど目の前の自分は、その制御を失い、破壊の化身と化してしまったかのようだ。
ぞくり、と桔梗の背筋に冷たいものがよぎる。
自分自身が力に飲まれるという恐怖は、常にどこかにあったのだ。普段は制御できているからといっても、それは猛獣と同じ。その強大すぎる力を制御しそこねると、いったいどんな末路が待っているのか――それをまざまざと見せつけられた心地だった。
きゅっと九頭龍の勾玉を握りしめる。力を制御する力を秘めたその勾玉だけに頼り切っていたわけではない。そう、桔梗は戦いを通してどんどんと成長していたのだから。
ゆっくりと顔を上げ、自分自身のありえたかもしれない未来を直視する。
「恐怖が無い、とは言いません。でも守りたい人、大事な人がいる限り、倒れるわけにはいきません」
UDCを従えている以上、桔梗は常に力に飲まれる可能性や恐怖を忘れてはいけないと思っていた。
なぜ戦うのか。それは守りたい存在がいるから。そしてそれを力に変えていけるから。
「桔梗は力に飲み込まれたりしません。支えてくれる人がいるから。だから大丈夫。恐怖に飲み込まれることはありません!」
桔梗自身の力ある言の葉がユーベルコードを通して龍神の加護を与える。自分自身に目を背けず、ありのままを受け入れたうえで向かい合う。
その強い意志がオーラのように桔梗の周りで光り輝くと、黒い炎に包まれた力に飲み込まれた自分自身は、霧のように消えていった。
「この力、他のみんなにも届きますように……」
祈りを込めてそう呟くと、もう一度勾玉を握りしめる。
この力はいつだって桔梗とともに。そのことを今一度思い起こすことができたから。
一方、レクスの目の前に現れたのは、巨大なドラゴン。黒い炎をまとっているが、見間違えるはずもない。それは故郷の都を滅ぼした巨大な竜の群れの中の一体。
レクスの脳裏にあの日の光景がよみがえる。
オブリビオンという強大な存在に為すすべもなく滅ぼされ、蹂躙されていく故郷。
美しく愛しい街並みが破壊され、優しくしてくれた人々が命を失っていく。
あの頃は無力で何もできなかった。過去から染み出した恐るべき存在に為すすべもなく、その光景は小さかったレクスの心に刻まれた恐怖の体験でもある。
だから目の前に現れたのだろう。そう思えるだけ心は冷静だった。
ただ、時間を無為に過ごしてきたわけじゃない。国に封じられていた妖剣の封印を解き、猟兵として覚醒した。
故郷であるアックス&ウィザーズ以外にも世界があることを知り、そして旅してきた。故郷で起こった大きな戦いにも立ち向かい、そして勝利した。
あの頃、世界はこれほどまでに広いと知らなかった自分とは違うのだから。
「二度と、お前たちに負けたりはしない……」
レクスの心にもはや恐怖はない。歩いてきた道のりが全て力となってこの身に宿っていると思えるから。
どこからか、力強く心を震わす声が聞こえる。一緒に来ていた桔梗のものだと気づいたレクスは、大きく頷く。
乗り越えるべき恐怖はそれぞれ違うだろう。けれど、そこに至るまでに支えてくれた人がいる。その人たちの存在が力となるのだから。
レクスは災厄の名を持つ妖刀を構える。そこに付与された力が狂気や攻撃からレクスを守ってくれる。
炎の中から新たな竜が現れ、あの日故郷を襲ったように群れをなしてレクスに襲い掛かろうとする。
「嵐よ起きろ! 今こそ戦いの時だ!」
災厄を解き放つように。竜たちへと向けられた刀身は魔力を乗せ、嵐のように渦巻くと、一凪ぎに切り伏せていく。
「僕は二度と負けはしない。お前たちに何も奪わせはしない」
決意を込めた言葉とともに剣は振るわれ、群れを成していた竜たちは全て霧のように消えていった。
渦巻いていた黒い炎は、来た時よりも収まっているように思えて。他の猟兵たちもいる。じきにこの炎も消えることだろう。
「藤原さん、大丈夫だった?」
「はい、なんとか」
お互いに抱いた恐怖が何だったのかは問わないけれど、それぞれがその恐れを振り払えたことは事実。
「この街が元の風景を取り戻すためにも、頑張らないといけませんね」
「ああ、きっといつか……」
故郷もオブリビオン・フォーミュラを倒し、解放することができた。
猟兵が力を合わせればきっとできる。そう信じて、二人はこの荒廃した世界の空を見上げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
栗花落・澪
僕の敵
奴隷の僕に差し伸べられる温かな手
他人が見たらそれは敵ではなく救いだと思うだろうけど
僕はその手を取った先にある結末を知っている
奴隷に救いなんてあってはならない
彼は、彼らは、僕のせいで、殺される
自分はどうなったって構わない
それでも、救いを求めることは
周りを巻き込むことだけは、怖い
自分を許せなくなってしまう
僕はいつだって、他人を犠牲にしながら生きる事しか…
違う
いた…1人だけ
左手薬指に嵌めた薔薇を模したダイヤの指輪にそっと触れ
僕を救ってくれた人
あの人ならきっと大丈夫だって
怖くても信じられる
だからもう、救いはいらない
僕はもう大丈夫
だから…ごめんね
微笑みながら【指定UC】の【破魔】で幻影を祓う
●荒野に咲く花
消えることのない黒い炎が辺りを覆いつくし、死の草原と呼ぶに相応しい光景が、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の目の前に広がっていた。
アメリカ大陸を舞台にしたこの大きな戦いにおいて、澪は何度もこの戦場を訪れた。
その度に自分にとって恐るべきものと向き合い、また黒い炎から現れるオブリビオンを骸の海へと還して。全ては、この先の道を切り開くため。そして一人でも多くの人の心を救うために。
そして今回、澪が見つめる黒い炎から現れたのは――優しく差し伸べられる手。
『大変だったね。もう大丈夫だよ、こっちへおいで』
『怖くないよ。服を、食事を、住む場所をあげよう……』
かつて奴隷だった澪へと差し伸べられる温かい手。
それは一見して恐るべき敵などではなく、救いを与える存在だと思うだろう。
けれど、澪は知っている。もし自分がその手を取ってしまえば、彼らがどんな結末を迎えるのか。
奴隷がどんなに酷い扱いを受けるか、澪は身をもって知っている。
(「奴隷に救いなんてあってはならない」)
澪は大きく頭を振る。
自分に手を差し伸べたばかりに、彼は、彼らは――澪のせいで殺されるのだ。
奴隷として手酷い扱いを受けても、時に見世物にされても耐えてきた。
自分がどうなっても構わない。けれど、他の誰かが傷つくのを放っておけない。それは生まれ持った澪の献身的な性格でもあるのだろう。
だから自分が辛くても耐えてしまう。救いを求めることは、やがて手を差し伸べてくれた人々を巻き込んでしまうことになるから。
そうすれば、決して自分を許せなくなってしまう。
だから、目の前で手を差し伸べてくれる人たち――その人たちを不幸にしてしまうことは澪にとって恐るべきもので。
(「僕はいつだって、他人を犠牲にしながら生きる事しか……」)
きゅっと痛む胸を抑える。心臓が弱く、身体が丈夫な方ではない。それでも自分のことより他人のことを思って生きるその魂は、奴隷に身を落としていてもなお輝きを失わない。
だから、なのだろうか。
(「違う……いた……1人だけ……!」)
あの人が見つけてくれた。救ってくれた。
無意識に、澪は左手薬指に嵌めた、薔薇を模したダイヤの指輪にそっと触れた。
それだけで胸を覆いつくす恐怖が和らいでいく。
指輪を贈ってくれたその人の顔を思い出せば胸に温かな想いが満ちて。
(「僕を救ってくれた人。あの人ならきっと大丈夫だって」)
――怖くても信じられる。だからもう、救いはいらない。
手を差し伸べてくれた優しい人々へと、澪はその愛らしい顔に優しい微笑みを浮かべて。
「僕はもう大丈夫。だから……ごめんね」
優しい気持ちだけ受け取るように、自分へと向けてくれた優しさへと報いるように。
澪はこの荒れ果てた荒野に渦巻く黒い炎と幻影へと、美しい花と破魔の光を降らせていく。
悪しきものを浄化するその光は、希望の輝きとなって恐るべき幻影を振り払う。
「僕は行くよ。1人でも多くの心を救うために」
この地を覆う黒き炎が完全に消え去るまで。
そしてこの世界を危機から救うために――澪の戦いは続く。
大成功
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