アポカリプス・ランページ⑩~心温まる料理のチカラ
●宇宙センターの奴隷研究員
カタカタカタカタカタ。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタ。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……。
薄暗い室内に同じ音がずっと響いている。同じ音だけが、ずっと、ずっと。
モニターの明かりがぼんやりと前面に座った人々の顔を照らすが、そこには『感情』と呼ばれるような表情はひとつもなく、ただ無感動に無感情に、ただ空虚に開かれた瞳だけがモニターへと向けられている。
此処はアメリカ航空宇宙局の宇宙センター、の跡地。
かつては有人宇宙飛行の研究と管制が行われていた、人々の笑顔と誇りと科学の発展と叡智が詰まった栄えある宇宙センターであったが、現在は邪神『ポーシュボス』の支配下にある。輝かしい過去は消えて久しく、オブリビオンを『超宇宙の恐怖』によって変異強化させるおぞましい施設へと変貌を遂げていた。
――がたん。
何かが倒れた大きな音がした。
しかし、それに反応する者は居ない。みなモニターへと視線を向けたまま、カタカタカタカタカタカタカタカタカタとひたすらにキーボードを叩き続けている。まるでそれが、使命であるかのように。
彼等の仕事は邪神に捧げるおぞましき研究だ。彼等は不眠不休で仕事を続ける。それこそが喜びで、命は使い捨て。『空き』が出来たことが確認され次第、新しい人員が補給される。
彼等――宇宙センターの奴隷研究員たちは、既にポーシュボスに精神を支配されているのだ。
●猫の語り
「しゃ、しゃちく……」
思うところがあるのか、グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)が両手で顔を覆った。「わかる」「いや、強制労働か……」などと言った温度の感じない小さな呟きは肉球へと消えていった。
「元宇宙センターで邪神の研究をしている人たちを開放したいんだ」
両手から顔を上げたグィーは、協力してくれるかなと首を傾げる。
「あまり好きな言葉じゃないけれど――『奴隷研究員』と呼ばれている彼等は、邪神に精神を支配されているよ」
崇拝する邪神に、全てを捧げることが彼等の喜び。身体も、時間も、命でさえも。
それ以外のものは全て不要なものとして、休まず、眠らず、食事は生命維持に必要な最低限のレーションのみ。
邪神によって齎された狂気をどうにかしない限り、彼等は死ぬまで研究を続ける。
「僕はね、温かな料理の力ってすごいと思うんだ」
懐かしい料理とかだと、更にすごい。
湯気立つ料理の放つ美味しそうな香りが鼻孔を擽り、『匂い』を思い出す。
暖かな料理が口いっぱいに広がり、ゼリー状のレーションでは感じられない『食感』と風味豊かな『味』、出来たての料理を口にする『喜び』を思い出す。
「だからさ、君たちの料理で彼等を魅了してほしいんだ」
きっと彼等は唐突に料理を出されても口にはしないだろう。
彼等の視線の先はいつだってモニターで。
彼等の指先はいつだってキーボードで。
彼等の心は邪神に捧げられている。
いつまでも、これからも、死ぬまで。
そう解っていてグィーは、「君たちなら出来るだろう?」と笑う。
だって僕たちは猟兵で、目の前に助けないといけない人がいる。
支配された奥底で、泣いている人たちがいる。
「助けてあげて。うんと美味しい料理でさ」
明るく笑うグィーの掌の上に手紙が踊る。封が開いてパッと飛び出た便箋に、何事か文字を書き込む仕草をすれば道は開かれる。
行き先はアポカリプスヘル。
近未来の地球。荒廃した地で、それでも人々が生き抜こうとしている世界。
壱花
アポカリプスで戦争です。
研究員を助けるためにお料理をしてください。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。1フラグメントで終了します。
●受付期間
公開時から受け付けております。
物理的にフォームが閉じるまで受け付けています。
確実に【12日(日)23:59】までは開いています。
●シナリオについて
グループでのご参加は【2名まで】。
●奴隷研究員
おひとりにつき研究員ひとりに料理を提供してください。
見た目や年齢は青年以上の男女。この人と指定して頂いて、この人に合う料理は~と考えて頂いても大丈夫です。
●料理
OPに記されている通り、食べさせるには工夫が必要です。無理やり食べさせても良いですが、香りや見た目、誘い方等を工夫して頂けますとあなたらしいリプレイになるのではないでしょうか。
美味しく楽しく、こだわりをギュギュッとクッキングしてください。
研究室内にライブキッチンを「これくらいしか支援できない!」と料理が苦手なグィーが用意しておきました! 食材・器具はあまりにも大きくなければ揃っています。(持ち運んできてコンセントにさして使用できるのとか、ボンベのついたガスコンロです。)
●プレイングボーナス
『研究員の狂気を取り除く』ことです。
●迷子防止とお一人様希望の方
同行者が居る場合は冒頭に、魔法の言葉【団体名】or【名前(ID)】の記載をお願いします。
お一人での描写を希望される場合は【同行NG】等の記載をお願いします。
また、文字数軽減用のマークをMSページに用意してありますので、そちらを参照ください。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『さあ何を作ろうか』
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POW : 得意料理を振舞う
SPD : 想い出の料理を作る
WIZ : 自分の好きな食べ物をご馳走する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
灰神楽・綾
【不死蝶】♢
俺たちに気付かないほど仕事に没頭している、
若い女性研究員たちを物陰から見遣り
まだまだ遊びたい盛りの年頃だろうに、可哀想に…
カレースープ?カレーライスとかじゃなくて?
そっちの方がお腹いっぱいになるよーと思ったけど
よく考えてるんだねぇ梓
やっぱりみんなのお母さんだなーなんて思いながら
うーん、俺も作ることになってしまった…
梓のは洋風スープだから、俺は和風にしようかな
スマホで「和風スープ レシピ」と打ち込み
俺でも作れそうなものを検索
きのことネギと溶き卵を入れた、和風だしのスープを作り出す
焔と零が研究員を連れてきてくれたら
いつもお疲れ様
たまには休憩も大事だよ
労いの言葉をかけてスープを差し出す
乱獅子・梓
【不死蝶】♢
よし、彼女たちの為に温かいスープを作るとしよう
俺が作るのはカレースープ
カレーの香りは食欲をそそるからな
ああ、カレーライスだとがっつりし過ぎて
レーションしか入れてない胃袋には負担が大きいだろう
まずは食べやすい物から始めて、少しずつ
「普通の食事」に慣らしていくことが大事だ
とうわけで綾、お前も何か作るんだぞ
大丈夫、切った材料と調味料を煮込むだけだ
おぉ、綾もやれば出来るじゃないか
綾の作ったスープを素直に褒めてやる
これを食べてもらう為に、焔と零を女研究員たちのもとに送り込む
可愛らしくすりすり寄り添うことで
意識をこちらに向けよう作戦だ!
焔と零に連れてこられた研究員にスープを振る舞う
栗花落・澪
胃が小さくなってる可能性もあるからポトフ作ります
【料理】なら得意だよ
食材選びは消化と彩り重視
一時的に足元に【破魔】を乗せた★花園を展開
咲かせたローリエの葉と花を採取し
そのうち1、2枚の葉を煮込む時に混ぜ込みます
破魔の力をポトフに沁み込ませる事で
口にした研究員さんの狂気を【浄化】できるように
カップによそったら更に平らな皿に乗せ
周りにローリエの花葉を飾る
よし、できた
研究員さん(お任せ)の元に運んだら
香りで誘えればいいけど…集中してるなら
一旦空いてるところにポトフを置いて
だーれだ、とするようにそっと視界を遮り妨害
怒られる前に笑顔という名の【誘惑】
えへへ、ごめんね
ポトフできたから
冷めないうちに食べて?
●あったかほっこり
室内にはおよそ生活音と呼ばれる類のものはなく、ただひたすらにカタカタと無機質な音のみが響いていた。これだけ人がいても会話のひとつすらないのは、どう考えてもおかしい状況だろう。
転送されてきた猟兵たちが突然室内に現れても、彼等の視線は真っ直ぐにモニターへと向けらたままで、振り返ることすらしない。人らしさが失われた人々は、感情を根こそぎ取り落した青白い顔で、何かに取り憑かれたように指先だけを一心不乱に動かしている。
(まだまだ遊びたい盛りの年頃だろうに、可哀想に……)
若い女性研究員たちを見て、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)はそっと瞳を伏せる。ここがUDCアースとかだったら、きっとオシャレをして、アフター5と仕事と充実した日々を送っているだろうに。
そんな彼女彼等のためにも、正気を取り戻してあげなくては。
綾は研究員たちから顔を背け「何を作るの?」と傍らの乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の手元を覗き込んだ。
「カレースープだ」
転送されて早々、ちゃっちゃと鍋を抱えて準備を整えている梓の手元には必要な野菜たちが転がっている。まな板と野菜を軽く洗い、カレーライスの時よりも小さく切っていく梓に、綾は「スープ?」と首を傾げた。
「カレーライスとかじゃなくて?」
腹を膨らませるのならご飯があったほうがいいんじゃない?
しかしそれは、健康な者の思考だ。
「レーションしか入れてない胃袋には負担が大きいだろう」
ゼリー状のレーションだと聞いている。噛む力も胃腸も、衰えている可能性が高い。腹を切る手術の後や暫く点滴生活だった場合もそうだが、まずは食べやすい物から始めて、少しずつ『普通の食事』に慣らしていくことが大事だ。
梓に丁寧に説明された綾は、なるほどと目を瞬かせる。梓ってばそこまで考えているんだ……。さすがは仔竜たちの『お母さん』である。
「綾、お前も何か作るんだぞ」
「俺も?」
「味見についてきたのか?」
綾の視線が、チラと先程の女性へ向く。
うんと頷いてスマートフォンを取り出してレシピを検索しだした綾を見て、梓は切った材料を鍋に放り込んで煮込んでいく。良いレシピを見つけたのだろう、綾がネギとキノコを手にするのを見て、梓は少し横にずれて場所を空けた。
(……うーん、難しいかな)
建物内で木を生やすのは難しいかなと首を傾げた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、用意された材料からローリエの葉を見つけ出すと、そこへ浄化の力を籠めた。
澪も綾と梓と同じく、研究員たちの胃を考えてポトフを作るつもりだ。そこに特別なローリエを加えれば、きっと狂気を取り払うことができることだろう。
野菜は小さめにして、よく火を通して、コトコト。
一口スープを口にしたら、もう一口口にしたくなるような優しい味に調整して。
「よし、できた」
カップによそったら更に平らな皿に乗せ、葉とスプーンを添えた。
キョトリと室内を見渡す。
カレーに、和風だし、それにポトフのコンソメ。これだけ料理の香りが漂っていても、研究員たちの視線はモニターに釘付けのままだ。
(席に運んであげようっと)
皿を持った澪は、同じ年頃の青年の元へと向かう。
空いているスペースにポトフを置いても、彼は血走った目でモニターを見て、料理には目を向けない。だから澪は、
「えいっ」
そっと彼の視線を遮ってやる。
ぎょろりと向けられた視線に、わ、と離れて。
「えへへ、ごめんね」
「え……」
両手を合わせて笑みを見せる美少……年の姿に、青年は瞬時に頬を染めた。
「ポトフできたから、冷めないうちに食べて?」
「え、あ……はい……」
スプーンを手にして食べだした青年が小さな小さな声で何かを呟くのを、澪は聞き逃さなかった。
久し振りに感じた暖かさに、彼が美味しいと涙とともに言葉を零したのを。
「よし!」
「おぉ、綾もやれば出来るじゃないか」
綾が調理を終えるのを待っていた梓は、それじゃあ俺たちも、と女性研究員たちの元へ仔竜たちを送り込む。澪は持ち前の可愛さで魅了したが、梓たちはどうやら仔竜たちの可愛さで誘惑する作戦のようだ。
可愛い仔竜たちがデスクの上をとことこ歩き、キーボードを入力し続ける手指にスリスリ。最初は邪険に扱われるかもしれないけれど、何度も続けてきゅーんっと可愛い上目遣いをすれば、女性たちの手が止まる。
「いつもお疲れ様、たまには休憩も大事だよ」
「え……っ」
「焔と零が一緒に食べたいと言っているのだが……」
「えっ」
労いの言葉とともに差し出される湯気立つスープ。
仔竜たちを見れば、一緒に食べてくれないの? と目を潤ませている。
「……いた、だきます」
「うん、いっぱい食べてー」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三上・チモシー
♢♡
疲れてる時は、甘いものと紅茶がいいよ!
スコーンを作ろうかな
ホットケーキミックスとバターを混ぜて
牛乳と砕いたチョコを加えて
生地がまとまったら、いい感じの大きさに切って、オーブンで焼けばOK
焼いてる間に、持参したアッサム茶葉でミルクティーを準備
カップとポットをしっかり温めて
ストレートティーより長めに蒸らして、濃いめの紅茶に
カップに注いだら、常温に戻したミルクとハチミツを加えて完成!
焼きたての匂いっていいよね
周囲を見て、甘い匂いに少しでも反応した人の所に持って行こうかな
お疲れさま、差し入れだよー
甘いものと紅茶でリラックスしてね
●ホッとひといき
疲れている時に食べたいもの。そう考えたら、三上・チモシー(カラフル鉄瓶・f07057)には甘いものしか思い浮かばなかった。
甘いものと温かい紅茶は、きっと心をほぐしてくれるはずだから。
ホットケーキミックスとバターをボウルで混ぜて、牛乳を何回かに分けて混ぜてからチョコレート。生地がぽってりとした感じに纏まってきたら、後はいい感じの大きさに切るだけ。
混ぜている間に予熱しておいたオーブン付き電子レンジに生地を入れ、焼いている間に薬缶でお湯を沸かす。電気ポットで沸かすより薬缶で沸かした方が紅茶は美味しくなるから、ちゃんと一手間をかけるのだ。
温めたティーポットに入れた茶葉は、ストレートティーより長めに蒸らす。砂時計で時間を見つつ、そろそろかなの頃合いにコップを温めて、とぽぽと注げばアッサムの良い香りが広がった。ミルクとハチミツをたっぷりと加えれば、優しい味のミルクティーの完成だ。
丁度ピピピと鳴ったオーブンレンジから熱々のスコーンを取り出して、可愛いレースペーパーにちょんと乗せたら――きょろり。お盆に載せたスコーンと紅茶を持って、甘い香りに反応する人を探した。
(甘いのが好きで、元気そうな人……)
まともなご飯を食べていないひとには、スコーンは重たくて食べれないだろうから。出来るだけ配属されたてで元気なひとがいい。
(あ、いた)
チモシーと近い年頃の女の子。こんな子まで働かされているのか、なんて少しだけ悲しくなるけれど、チモシーはパッと明るい笑顔を浮かべて近寄った。
「お疲れさま、差し入れだよー」
甘いものと紅茶で、君の心が救われるといいな。
大成功
🔵🔵🔵
ナイ・デス
料理……補充されたばかりの人はまだ大丈夫かもしれませんが、そうでない人は
不眠不休ですし、最低限のレーションということですから、胃腸とか、弱っていますよね
なら、そんな人たちを優先して
おかゆにしましょうか
料理は普通に上手な子
おかゆは土鍋にシンプルに、味付けちょっとのお塩、優しいお味
食べられますか?
見ていて思う
正気に戻っても、支配されていた影響、命を落とす直前だった方などは、深刻な不調でしょう
ただ戻すだけで終わらせていいのかな、と
ずっと面倒はみられませんが、それでも何か、私にできること
しましょう
『光の加護』をみんなに
狂気も汚れも不調も浄化する
頑張って、生きてください
生きるという戦いを、これからも
丸越・梓
◇
マスタリング歓迎
女性にはより繊細な気配りを
_
微力ではあるが、俺で力になれるのなら。
俺自身不眠不休のx徹目だという事実を棚にあげまくり、研究員達が心配でたまらなく
喜んで協力をする
あたたかくて胃に優しいものを作りたい
真っ先に思い浮かんだのは野菜と卵の栄養満点おじや
料理は元から得手故難なく調理し
特に疲弊している者へ
少し休もう、と優しく声をかけ
心からの労いと敬意を込める
まるで子守唄のように穏やかに話し、相槌を打ち
相手の緊張が解けてきたところでおじやを一匙掬い
自身で食べる気力もないなら少し冷ましてからあーんを
零れる涙あればそっと拭い胸に抱き寄せ
自覚せぬ母性を存分に発揮しながら
うんと甘やかす
●優しさ染みる
(……補充されたばかりの人はまだ大丈夫かもしれませんが)
カタカタと小さな打鍵音のみが響く室内を見渡したナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)はそっと吐息を零す。不眠不休に、最低限のレーション。それも噛まずに食べられるものとくれば、内臓や顎の力が衰えているだろう。人体は本当に不思議なもので、使わないでいるとすぐに衰えるのだ。
(こんな悪環境で……心配だ)
不眠不休のx徹目の我が身をそっと高い棚に上げておきながら、丸越・梓(零の魔王・f31127)もまた研究員たちを慮る。他の猟兵たちに知られたら君が寝て!? と言われそうだが、バレなければ問題ないし、他の誰かに言うつもりもない。
――おかゆにしましょうか。
――おじやにしよう。
ふと視線の合ったナイと梓は頷きあい、土鍋を手にした。
土鍋で湯を沸かしている間に米を研ぎ、沸騰したら米を入れる。おかゆのナイは米だけを、野菜と玉子のおじやの梓は細かく刻んだ野菜も煮込む。
くつくつふつふつ、土鍋が歌い出すのを待って蓋を開けて様子を見る。火の調整をして、食べやすい柔らかさになっていたら、それぞれの味付けを。
おかゆには少量の塩、おじやには玉子を割り入れて、口に運べばホッと吐息が溢れてそうな温かみのある優しい味に。
ふたりは手際よく調理し、完成したら特に疲弊していそうな研究員の元へと向かった。
「食べられますか?」
ナイが声を掛けたのは、ひどくぐったりとしている男性だった。目は虚ろで、他の研究員たちよりもタイピングも遅い。限界が近いことが解る。
(ただ戻すだけで終わらせて良いのでしょうか)
正気を取り戻したとしても、彼等はこの先どうなるのだろうか。
少しだけ食事を口にしたとしても、命を落とす直前の人はそれだけでは助からないだろう。ずっと面倒を見ることが出来ないのは解っている。それでもナイは、自分に出来ることがしたかった。
出来ることがあるのなら、する。
「《光の加護(キセキ)》を――」
研究員たちに、生きる覚悟を。
研究員たちは変わらずモニターばかりを見つめていたけれど、ナイのすぐ側の研究員はその光を目にした。
「頑張って、生きてください」
そっとその手に、匙を握らせた。
「少し、休もう」
梓もまた、弱っている女性研究員の元へおじやを運んだ。話しかけても女性研究員はモニターを見たまま、見向きもしない。
それでも、幾度も声を掛ける。心から彼女を労い、声に敬意を滲ませて。
「よく頑張った」
彼女の行為を、否定しない。例えそれが邪神の狂気による行為だとしても、心の中の彼女は抗い続けているかもしれないのだから。こんな状況でも、生命活動を止めていないだけ偉いのだと囁きかける。
「えら、い……?」
褒められることすらない女性の視線が、梓へと向かう。
「ああ」
吐息のように零して、生きることは偉いのだと口にする。
失わないでくれてありがとう。踏みとどまってくれてありがとう。
だからどうか、君を救わせて欲しい。
れんげに掬ったおじやを冷まし女性の口に差し出せば――乾燥して割れた唇が小さく開かれた。
味覚も、衰える。久し振りに味のある食べ物を口にしてもボロボロの研究員たちにはきっとわからない。
けれど、それでも。
おかゆとおじやを口にした研究員たちは、おいしい、と小さく声を零した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
きょーせいろーどー…きょひけんなし…(虚ろな目)
因みに僕も、料理は得意とは言えませんが…
本日は秘密兵器をご用意致しました。
即ち…これ!!(片手に四角いビニール袋)
ターゲットは…そこの東洋系、もっというなら日本人っぽい貴方!
はーい。ではまず、具材を用意しますねー。
もやしは丁寧に根を取ってサッと湯通し。
チャーシューに半熟味玉…味は沁み沁み、香りも大変よろしい様で。
カットの際はトントン音を。
勿論、音のメインはネギの小口切り!
コンロにかけた湯が沸騰したら…袋、オープン!
麺をイン!
あ、固めと柔らか、どちらがお好みです?
スープの香り。
居並ぶ具材…
ラーメン、一丁上がり!
ほーら、早くしないと伸びちゃいますよっ
●
その施設は、人が人としてあるために必要とされるものが排除されていた。モニターを見続けているのに部屋の明かりは暗く、血走った目は視力も衰えていることだろう。
(きょーせいろーどー……きょひけんなし……)
猟兵たちが料理する音に反応することもなく、ただひたすらに打鍵する研究者たちの姿に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)も思わず虚ろな目になる。何だかこう……他人事とは思えない切なさが胸に湧き上がってくるのだ。
(こんな労働は間違っています)
今のクロトなら、そう断言できる。だからこそ料理が得意でなくとも、彼等に一杯の料理を届けに駆けつけたのだ。
スッと懐から取り出した秘密兵器――もとい四角いビニール袋に包まれたインスタント麺。料理が得意でなくともお湯でぐつぐつすれば作れてしまうスグレモノだ。
返ってくる反応のない中、クロトはビリっと袋を開けて調理を始める。
お湯に鍋を沸かし、乾燥麺を投入。少しでも胃に負担がないようにと、ノンフライ麺である。
茹でてる間にもやしを湯通しし、チャーシューと半熟味玉は味がしみるまでに何時間もかかるのでパウチされたもの。トントンと音を立てながらネギを切るも、カタカタ響き続ける打鍵音の中に消えていく。
茹で上がった麺とスープ、具材を添えて完成したラーメンを、クロトはさてどうしたものかと考える。まともな食事を取っていない人間の胃には重いだろう。
最近補充されたばかりの人が良いだろうと、クロトは食べられそうな人を探すのだった。
成功
🔵🔵🔴
備傘・剱
つまり、狂気を料理のインパクトで押しやれとな?
それは、俺に対する挑戦と見て、いいわけだ?
と言うわけで、まずは見た目からだな
さて、ついさっき戦場で狩ってきた、どこのアポカリプスヘルにある蜥蜴(大)を用意いたします
そして、おもむろに、目の間で、調理道具を用意して、調理開始、発動!
さぁ、活きの良いオブリビオンが手に入るこの時期だからこそ、大盤振る舞いができるのだよ
オブリ飯、とくと堪能しやがれ
そう、食べるという事は、命をいただくという事!
そこから目を背けてはいけない、俺はそう思うの
育もう、もったいない精神、見つめよう、命のリサイクル
あ、味はしっかりとよくしてあるからな
飯屋根性、なめんじゃねぇ!
●インパクト勝負
「俺に対する挑戦と見て、いいわけだ?」
つまるところ狂気よりも料理のインパクトで勝てば言い訳だ?
顎に指を添えてふむと頷いた備傘・剱(絶路・f01759)は、この勝負受けて立とうと研究室へと乗り込んだ。
まな板の上にドンと置くのは、持ち込んだ食材。もとい、ついさっき戦場で狩ってきたばかりの、アポカリプスヘルでならどこでも見られる大蜥蜴。蜥蜴である……。ひたすらモニターとにらめっこし続ける研究者たちに代わり、剱の側に居た猟兵がギョッとした顔で二度見していた。「え、それ、食べるの?」と顔に書いてあったが、剱は気にしない。
「さぁ、《調理開始》だ!」
肉は新鮮な内がいい。くさみが出る前にと手慣れた調子で解体しするが、見た目のインパクトを損なわない豪快さを残して調理していく。活きの良いオブリビオンが手に入るこの時期だからこそできる、大盤振る舞いだ。
出来上がった料理――オブリ飯を手に、剱は比較的最近補充されたと思われる研究員の元へと向かう。隣に立った剱に目もくれず、カタカタと打鍵し続ける研究者の眼前に、ドンと出来たての料理を置いてやる。
「オブリ飯、とくと堪能しやがれ」
「な……え? なに、これ……えっ??」
レーションでもないし、普通の料理とも違う、見た目のインパクト重視のオブリ飯。どうしろとと言いたげな研究員に、剱はさあ食えと促した。
「ええ……」
モニターからは視線を外したけれど、研究員はこれを……? と始終言いたげだ。
「あ、味はしっかりとよくしてあるからな」
「はあ……」
それじゃあ、まあ。せっかくなのでと手を伸ばす研究員を見守った。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
♢♡
料理をお出しする研究員さんはおまかせ
不眠不休で働かされて、食事もろくに採れないなんて…
彼らは物言わぬ部品じゃないわ
安らぎと健やかな暮らし、人間らしさを取り戻すために腕を振るいましょう
良質な栄養、そして心に潤いを
食べやすく心温まるもの…ミネストローネはどうかしら
ジャガイモに玉葱、セロリを刻んで炒め
そこにトマトソースとコンソメを加えて
煮込むごとに広がるトマトとセロリの香りは、きっと彼らの興味を引くはず
仕上げはパセリとセージ、ローズマリーにタイム
隠し味にハーブの香りを忍ばせて
古い歌にも歌われた魔除けのおまじない
どうか邪神の呪縛から彼らを守ってくれますように
懐かしさと優しさを添えて
さあ、召し上がれ
アレクシス・ミラ
♢♡
己が壊れるまで心と命を削って…いや、削らされてるのか
…まだ間に合うはずだ
それに料理には心を満たすあたたかい力があると僕も信じているから
野菜を沢山入れたスープを作ろうか
エプロンをつけて調理開始
じゃがいもに玉葱にキャベツに星形人参
それと炒めた鶏肉
ハーブのブーケガルニと一緒に
じっくり煮込むよ
食べてもらう前に
カモミールティーとお疲れ様を
何か反応を貰えたら
…失礼
【星灯の隠処】に招待し僕も中へ
急にお呼びしてすまない
一度あそこから離れて貰う必要があると思って
…君と君の心が少しでも癒えるように作った物があるんだ
どうか、召し上がっていただけますか?
スープとパンをお出ししよう
それと…よく頑張ったね、研究員さん
●あったかスープ
カタカタと日々続ける打鍵音は、彼等の命が削れていく音。乾燥しきった指先はひび割れ、割れた爪から血がにじもうとも、彼等は己の身体を、命を顧みない。
ただひたすらに邪神のために研究を続けて。
ただひたすらに命を削って。
そうして最後には喪われる。
そんな彼等を見て、人らしさを取り戻して欲しいとヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は願い、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)はそれがまだ間に合うはずだと希望を捨てない。腕を捲くり、エプロンをグッと結ぶ。
――さあ、調理を始めようか。
鍋に湯を沸かしている間に、野菜を切る。
アレクシスが作るのは、具だくさんスープ。じゃがいもに人参、キャベツに星型人参。沢山の野菜を切り、フライパンで鶏肉を炒める。切った野菜は鍋に入れて煮込み、具がホロリと口の中で崩れるくらいの柔らかさになるまで、ハーブとブーケガルニとともにじっくりコトコト。
ヘルガが作るのは、ミネストローネ。じゃがいもに玉ねぎ、セロリを刻んでから炒め、トマトソースとコンソメを加えて煮込んでいく。仕上げにパセリとセージ、ローズマリーにタイム。優しい味と、心落ち着くように願いを籠める。
暖かな湯気が室内の温度を少しあげていくように優しい空気と香りが満ちていくも、研究員たちはモニターを見つめたままだが――比較的新しく『補充』された者なのだろう。誰かの腹が、ぐうと鳴った。
皿へとミネストローネをよそい、優しい笑みを浮かべたヘルガは、音を発した青年研究員の元へと向かう。
ことんと置かれた皿から香るハーブの香りは、古い歌にも歌われた魔除けのおまじない。不思議そうに皿を眺めた青年の瞳が、次第に焦点を結んでいく。
「さあ、召し上がれ」
優しい声に誘われて、青年がスプーンを握った。
ヘルガは優しく、ただ見守る。
青年の頬を暖かな雫が伝い、ぱたたとデスクに溢れるのだった。
ヘルガがミネストローネを提供している間に、アレクシスはカモミールティーを淹れる。器に蓋をしたスープとともに盆に載せ、向かうのはまだ若い女性研究員の元だ。
「お疲れ様」
掛ける声に返事はないが、眼前に置いたカモミールティーに、少しだけ瞳が揺れたようだった。それに気付いたアレクシスは失礼と前置いて、彼女の指にペンダントを触れさせた。
――景色が、変わる。森の香りに、泉の気配。
ぱちりと目を瞬かせた研究員の顔の前では、カモミールティーが暖かな湯気とともにリラックス出来る香りを広げている。
「頑張るあなたに、休んでもらいたくて」
急に場所を移動させたことを謝りながら口にすれば、瞬くばかりだった研究員の指が紅茶のカップへと伸びる。指先を温めることを知ったような、優しさに初めて触れたような、そんな表情で。
スープとパンも彼女の前へと並べたアレクシスは胸に手を当てて、優雅に礼をする。
「どうか、召し上がっていただけけますか?」
君の口に、あえば良いのだけれど。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
なんと言う労働環境
おなかも心も冷え切っていてはいけませんね
料理は、得手でもないが
生きる気力を思い出してもらえるように
和食は馴染みないだろうしから…工夫をしないとな
いきなり消化の悪いものは体が驚くだろう
まず、豆や塩漬け肉を使った汁物を作り
その後、もろこしをこんろの上に乗せた網のせ
焼き玉蜀黍に
気を引く為嗅覚への攻撃を
香ばしさよ、扇いで届け
脳は支配されても
空いた腹を満たす暖かさを
体は覚えているでしょう
顔を上げてくれたら
少し休んで、ご飯にしませんかと器に入れた汁物と
焼きもろこしの粒を削ぎぱんの上に乗せ
駄目押しに、ちーず乗せ
くれあ軽く炙ってくれないかい
出来立て、が一番美味しいから
一緒に食べましょう、ね?
橙樹・千織
♢♡
食欲そそるというと…
やはり香りでしょうかねぇ
襷で袖を纏めて料理開始
ご飯は炊き立て
白ご飯もいいですが、旬の栗を使った栗ご飯
炊いてる最中の香りもいいでしょう?
主食はお肉にしましょうか
ふふ、生姜焼きです
野菜も取らないとですよねぇ
ふむ…胡瓜とと蛸の酢の物にしましょう
一口食べれば食が進みますよねぇ
お味噌汁は…舞茸ね!
ぱちん、と両手を合わせて
あらあら、まあまあ
根を詰めてのお仕事は逆に効率が悪いんですよ?
少し休憩しましょう、ね?
完成したら言いくるめと誘惑を使って料理の前へ誘導しましょう
腕によりを掛けて作りましたので
是非食べてくださいな
ふわり優しく笑んで
食後の焙じ茶も確り準備して
さ、お味はいかがですか?
●ほっこりご飯
沢山の猟兵たちが調理をし、室内には食べ物の香りが満ちている。それでもカタカタと打鍵し続ける研究者たちには、空腹の概念がないのだろう。ほんの僅かに命を伸ばすために配られるレーションを命令されるままに口にしてきた彼等は、臭覚も視覚も聴覚も、全てが衰えてしまっている。
けれでも人数は、かなり減ってきている。正気に戻った研究員たちは自らの足で、衰弱しきっている研究員は猟兵たちが運んで、幾度だって声を掛けながら彼等を励ましひとりずつ開放していっていた。
大半の研究者たちの胃腸や顎は衰えて、けれどそれを慮った猟兵たちがスープや粥を選んで食べさせた。まだ補充されたばかりの研究員たちには、食欲をそそるものを、栄養のあるものをと食べさせた。
そうして、冴島・類(公孫樹・f13398)と橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)も――。
室内に新たにふわりと香るのは、焦げた醤油の香り。
消化に良いものをと豆や塩漬け肉を使った汁物を作り終えた類が、網の上に載せたトウモロコシを団扇で扇ぎながら炙っている。
そこへ、また新たな香りが加わる。ふつふつと泡を吐き始めた土鍋の中からの優しい香りは、炊きあがりの近い栗ご飯。大きな栗をゴロゴロと入れたそれは、口にすれば頬が綻んでしまう味だろう。
肉を生姜焼きにし、胡瓜と蛸の酢の物も作る。弱った胃腸の彼等が食べられるかは別として、とりどりの食べ物を見れば箸を伸ばしてくれるかも知れない。沢山用意しておくことは決して無駄ではないはずだ。
「お味噌汁は……舞茸ね!」
ぱちんと手を合わせた千織は良い感じになった土鍋をどかし、最後に味噌汁を作った。味見をして、出汁が効いてることを確かめれば、千織は満足げに笑みを見せた。百点満点の味付けだ。
料理を作り終えたら盆に載せ、作業を続ける研究員たちの元へ向かう。
――けれど研究員たちは、作業をやめない。
それは少し、
(面白くありませんよね……?)
温かな料理に気付きもしないで、作業、作業。邪神へ捧げる研究。
これは離してしまった方がいいかもしれない。
研究員たちが居なくなって空きスペースはたくさん出来ているから、お盆をそこへ置いたら千織は少し強引でも研究者を連れ出しに行く。
「少し休憩しましょう、ね?」
キーボードに伸ばしていた手をそっと引いて、思いつく言葉を並べて言いくるめ、あなたのために作りましたと料理の前に座らせた。それでも研究に戻りたがる研究者に、一口食べてくれればいいですよ、なんて微笑めば――温かな料理を一口口にしたら最後、研究者は驚いた表情にボロボロと涙を零し、口に料理を運ぶ手が止まらない。
(さて、僕も)
ゆっくり食べてくださいねぇと焙じ茶を淹れて研究者の前に置く千織を視界の端で確認した類も、トウモロコシや汁物を載せた盆を手に他の――女性研究者の元へと向かう。盆の上に色々と乗っているのは、仕上げを目の前でするためだ。
「灯環、お願いできるかい?」
モニターへと血走った目を向け続ける女性の前に、『キュ』と鳴いた仔ヤマネがまろび出る。
「少し休んで、ご飯にしませんか」
流石に驚いたのか打鍵をやめて顔を上げた女性に盆を見せて、お隣失礼しますねと隣の椅子を拝借した。女性の視線が向けられている内に、素早く焼きもろこしの粒を削ぎ落とし、ぱんの上に乗せる。その上にチーズを乗せたら、出番の順番待ちをしていた炎の精霊『Clare』の番。
「くれあ」
名前を呼ばれると待ってましたとチーズを炙って、とろかして。
美味しそうな焦げ目もついたパンを手に、類は女性へと微笑いかける。
「一緒に食べましょう、ね?」
出来たてが一番美味しくて、一緒に食べればもっと美味しいから。
●ごちそうさまでした
猟兵たちの働きかけにより、ひとり、またひとりと研究者たちが『ひと』に戻っていく。邪神の道具ではない、今を生きるひとりのひとに。
食べ物の温かさを知り、香りを思い出し、食感や味を思い出した。
アポカリプスヘルという世界に置いて、それらは贅沢なのかもしれない。
けれどその贅沢をもう一度と望むのは、たしかに希望となり得るだろう。
誰も居なくなった研究室の扉が、ぱたんと閉じた。
大成功
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