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終夜

#グリードオーシャン #戦後 #メガリス

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●長い夜の果て
 どのほんにかいてあったっけ。
 The night is long that never finds the day.――『明けぬ夜はない』。
 ううん、ちがうよね。
『決して明けない夜は、長い』。それだけだよ。
 よるがおわるなんて、だあれもいってないんだ。
 かかえたかなしみが、いつかはきえてなくなるなんて。そんなつごうのいいきまりごとは、どこにもないんだよ。

 でも、かなしくても、たいせつなんでしょう?
 むりにけすひつようなんて、ある?

 ね? もうキミはがんばらなくていいんだ。
 たいへんなおもいをしてまで、たちあがらなくていいんだよ。

 キミがやすらげるところに、ボクがつれていってあげる。
 そこは、ふかくてくらい、うみのそこのようなばしょ。
 そうして、ずっとずっと、おとのないしずかなところで、めをとじていればいい。
 たいせつなかなしみをだきながら、ねむっていればいい。

 ほら、もうだあれもこないよ。
 でも、だいじょうぶ――ボクがえいえんに、そばにいてあげるから。

●極夜の島と薔薇の園
「今回の依頼は、終の王笏島のひとつ、『デリング』って島に現れたコンキスタドールの残党の討伐だよ」
 標的の名は、『ギバーズグリフ』。
 幼い少年の見目をしながら、悲劇を綴る本で相手の精神を蝕み、弱ったところを黒いマントのように纏ったコウモリダコ・ウミユリで捕食する。
 そう説明すると、海藤・ミモザ(水面の陽・f34789)は島の地図の一箇所を指さした。
 彼がいるのは、島の高台にある館。
 正面入口から入り、そのままエントランスホールで戦うことになるだろう。
「ただ、館に行くには、その手前に広がる迷路を抜けないといけないんだよねー」
 薔薇庭園の形を取るその迷路のどこかに、館への道の扉が隠されている。
 UDCアースから落ちてきた島だが、現地は極夜。とはいえ、大っぴらに照明をつければ、たちまち敵に気づかれてしまう。勿論、ユーベルコードで迷路を破壊し突っ切っても同様だ。
 つまり、オーロラが揺らぐ漆黒の空の下、淡く光る薔薇の光を頼りに扉を見つけなければならない。
 敵自身も使用しているものだ。罠を仕掛けているというより、見つからないような工夫を施しているはず。
 茂みで隠すといったような安易なものではなく、なにかしらの『絡繰り』の可能性が高い。『暗闇を活かした扉の仕掛け』を考えれば、答えが出るかもしれない。

「更に言うと、その子、既に島にあったメガリスを見つけちゃっててね……」
 頭の痛い話と言わんばかりに、ミモザがこめかみに手を当てる。
 彼が手にするメガリスは、『スクレップ』という名の剛剣。ミゼリコルディア・スパーダと同等の技を持つそれは、彼と同時に攻撃を放つ。
 蛸を思わせる腕を回避しても、鋭利な切っ先が喉元を狙ってくる。その両者にどう対処するか、考えておいたほうが良いだろう。

「悲しみってさ、確かに強引に消すものじゃないのかもしれない。……でも」
 ずっと消さずにいられるものなのかな? と、掌のグリモアへと視線を落とした。
 それは、流れるように生きる妖精のミモザにとっては、純粋な疑問。
 娘はまだ、心に傷を残すほどのそれを知らない。けれど、だからこそ言える。
「みんなの思うようにすればいいいんだよ、きっとね」
 沈んだっていい。足掻いたっていい。
 数多の道の中から最後に何を選ぶかは、いつだって自分自身が決めるものだから。


西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。

沈んで、沈んで――その後、あなたは何を選びますか?

●補足
・当シナリオは「第1章:庭園迷路の攻略」「第2章:ボス戦」の2章構成です。
・第2章がクリアになると完結となります。
・島は空気の泡に包まているため、これ以上沈まない&呼吸も可能です。
・島まではミモザにより転移できます。
・第2章参加者は、メガリスを所属旅団に持ち帰ることも可能です。
 希望する方はプレイングにその旨ご記載ください。
 希望者多数の場合は、プレイング内容にて判定いたします。

●第1章プレイング
POW/SPD/WIZの選択肢はあくまでも一例です。
これらに拘らず、自由に考察してみてください。

●第2章プレイング
敵の攻撃は『相手の悲しい記憶を呼び起こし、気持ちを沈める』もの。
つまり、あなたの心の有り様がそのまま戦闘を左右します。
・あなたにとっての悲しみ
・それをどう乗り越えるか(もしくは乗り越えずにどう戦闘を攻略するか)
を、できるだけ詳しく記載してください。

●プレイング受付&採用
1章のみ、2章のみの参加も構いません。
<第1章>
 プレイング送信可能になった時点より受付開始。
 攻略成果があると判定した方2名程度を採用を予定。
<第2章>
 断章追加後より受付開始。
 先着4名程度(余力あれば+1~2名)での採用を予定。

皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『極夜庭園』

POW   :    生け垣を壊して抜け道を探す

SPD   :    彫像や噴水を調べて抜け道を探す

WIZ   :    生垣に隠れた抜け道がないか探す

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

菫宮・理緒
いちごさん(f00301)と

暗闇の迷路を薔薇のほの明かりを頼りに、か。
罠も含めてなかなかロマンチックだね。

薔薇の迷路は、【LVTP-X3rd-van】にマッピングしながら移動。
いちごさんの【異界の猟犬】が集めてきてくれたデータも反映させて、しっかり地図を作ろう。

地図ができてきたら、いちごさんの命令で【マスターズ・オーダー】を発動。
構造を見極め、推理して、【第六感】も使って、扉を探すね。
地図を見て入れないブロックとかあったら、その周囲を重点的に探してみよう。

扉を見つけたら、罠に注意って言っていたよね。
暗いし、扉の上や下に開けると発動するブービートラップとかありそうだよね。
注意していかないと!


彩波・いちご
理緒さん(f06437)と

まずは迷路の攻略ですね
夜闇に映える薔薇の迷路…普通にデートで来るなら、いいロケーションですけどねぇ?

私は【異界の猟犬】を放って迷路の道順を探りますので
理緒さんは通路にある絡繰りや仕掛けを見つけてください
…という命令(オーダー)を理緒さんに与え、私は猟犬を複数迷路の各地に走らせます
と同時に、『コネクトテンタクルス』で私の視覚を理緒さんの端末につないで、猟犬の五感情報を理緒さんにも伝わるようにリンク

あとは猟犬に暗闇を走らせ、その情報から理緒さんが仕掛けを見つけるのを待つだけ
発見したら、猟犬を案内に最短で駆けつけ、仕掛けを解きましょう
危険があるかもなので、私が率先して


クーナ・セラフィン
明けない夜の薔薇の庭園かあ。のんびり観て回れれば楽しいんだろうけどね。
まあまずはこの迷路を突破しないと。その先は…追々ね?

猫の目の暗視もあるし、薔薇の光もあるから視界は確保できそうかな。
とりあえず気配を消しつつ闇に紛れ庭園散策。
彫像や噴水、或いは変わった形の交差点とかを探してみよう。
向こうも使ってるなら何か目印になるものがあるだろうし。
噴水があるならその底を見て変わった物がないか探る。
…そういやなんかコインを投げ入れると願いが叶うとかいう話思い出すなあ。
他には彫刻の向きなどを見て変な方向向いてるのとかあったら回転させられないか試しできるなら正しい位置に直してみたり、とか。

※アドリブ絡み等お任せ


ルーファス・グレンヴィル
──暗いな
独り言のように小さく紡ぐ
肩に座る黒竜の尻尾が背中を叩いた
視線を隣にやればワシャと頭を撫でて

行こうか、ナイト
壊して進むのが一番楽だけど
そうしたら敵に気付かれるからな
本当、此処は厄介な場所だよ

淡い薔薇の光を頼りに道を進む
見つからないように隠してるだろうけど
考えるよりも足で探すしかねえんだ
こういう謎解き苦手なんだよ
ガシガシと頭を掻き溜め息ひとつ

辺りが暗いっつーことは
明るいところだと意味ない仕掛けなんだろ?
そんな考えしかオレには出てこねえが
なんかの光で開けられたら楽なのにな
それならお前の炎で一発だろ
なあ、ナイト、と旋回する相棒を見た
くくくと愉しげに笑い、また進む

ま、何処でも必ず見つけてやるよ



●おはなしのはじまり
「──暗いな」
 誰へともなく零した声が、闇に溶けた。
 そこは、物悲しいというよりも、唯々静謐な場所だった。
 誰かが手入れをしているのだろうか。綺麗に切り揃えられた背の高い生け垣はまるで俗世との境界線のようで、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は一度、庭園の入口で立ち止まった。
 庭園を照らすのは、暗闇に淡く灯る薔薇の青だけ。風に交じる雪の、ちりちりと啼く音が耳に響く。向こうに見える時計塔の針は10時過ぎを指していたが、オーロラの揺蕩う空はどこまでも昏く、今が午前なのか午後なのか、ルーファスには分からなかった。
「お先に行かせてもらうね」
 騎士然とした所作で一礼すると、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は羽根付き帽子をくいと上げた。気配を断ち、闇に紛れて一歩、庭園へと足を踏み入れる。
 忽ち、ひんやりとした空気に交じる薔薇の香りが身体を包む。
(のんびり観て回れれば楽しいんだろうけどね。まあ、まずはこの迷路を突破しないと)
 その先のことも思考の隅に残しながら、ゆっくり、そして静かに歩き始める。慎重に辺りを見回す藍の双眸に、青薔薇の光が映っては過ぎてゆく。暗視に長けたクーナには、それが陽を纏って煌めく白露のようにも見えた。
 敵も利用している扉なら、何か目印になるものがあるだろう。そう思って、彫像や変わった形の交差点などがあればとあちらこちらを歩いてみるものの、特にめぼしいものはなかった。少し一休憩、と噴水の縁に腰を下ろすと、ちらりと水底を見遣る。
(……そういやなんかコインを投げ入れると願いが叶うとかいう話思い出すなあ)
 特に変わったものもなく、静かに、そして止め処なく流れてゆく水を眺めていると、北側からふたつの影が現れた。先に探索を始めていた、菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)と彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)だった。
「何か手がかりはあった?」
「今のところは何も。そちらは?」
「東の方を見て回ったけど、こっちも特になにもなかったよ」
 そう言って苦笑を洩らすクーナに、いちごもも同じ顔を返す。
 任務でなければ、格好のデート場所なのに。
 そう残念に思う気持ちはふたりとも同じだったが、一旦それに封をして、隈無く歩いた。『異界の猟犬』に探索と情報収集を任せようと思ったが、追跡する敵を指定できない此処では難しいだろうと思い、理緒とふたり、自らの足で調べることにしたのだ。
 そうして得た情報を、理緒の携帯端末『LVTP-X3rd-van』に入力していき、ついぞふたりは庭園全体の地図を完成させていた。
「地図上に、どこか入れなさそうなブロックとかあれば、と思ったんだけど……見ての通りだよ」
 理緒が肩を落としながら、端末の画面を見せる。
 庭園は相応の広さがあったが、四方の角に白い屋根の東屋、中央には円形の噴水があるだけの、至ってシンプルな造りだった。――それらを繋ぐのが単純な道筋ではなく、入り組んだそれだということを除けば。
 違和のある空間などもなければ、罠もない。匂いにも注意を払ってみたが、薔薇の香りが胸を満たすばかりだ。
「でも、庭園の形が分かったのは収穫だね」
 ふたりのお陰だよ、と礼を添えると、クーナは立ち上がった。すぐ側の西の道を曲がると、いちごと理緒たちも南へと歩き出す。

 肩に座っていた黒竜に尻尾で背を叩かれ、ルーファスはひとつ瞬いた。視線を移し微かに笑うと、わしゃわしゃと頭を撫でる。
「行こうか、ナイト」
 ちいさく頷く相棒とともに庭園へ入と、ぼうと浮かび上がる花々を頼りに先へと進む。右へ、次いで左へ。進んだと思ったら、いつの間にか戻る方向に進んでいる。
 壊して進めればそれが最も楽だが、それは敵に侵入を教えるようなものだ。本当、此処は厄介な場所だと男は思う。
「見つからないように隠してるだろうけど、考えるよりも足で探すしかねえんだ」
 それはルーファスも理解していた。だが、それを実行に移すとなると話は別だ。陽の光を望めぬ今、当たりは黒と青ばかりで、どこも同じように見えて仕方がない。乱雑に頭を掻きながら、「こういう謎解き苦手なんだよ」とつい溜息が漏れてしまう。
 あてどなく歩いていると、どこかから水音が聞こえてきた。どこかに小川か噴水でもあるのだろうか。
「辺りが暗いっつーことは、明るいところだと意味ない仕掛けなんだろ?」
 ならば、何かの光で明けられたら楽なのに。
「なあ、ナイト。それならお前の炎で一発だろ」
 男の言葉に、黒竜は自信に満ちた表情でくるりと旋回した。任せろと言わんばかりに、館の主に気づかれないよう注意しながら、ちいさな炎をそっと吐く。
 瞬間、視界の端で何かが光った。
「……何だ? 今の……」
 気のせいかとも思ったが、此処に来て初めての異変だ。些細なことでも、扉を見つける手がかりの可能性がある。
「もう一度、頼めるか?」
 ルーファスとナイト。互いに眸の赫を交わせ頷くと、再び僅かな炎が暗闇に奔った。
 ――2つの軌跡を描きながら。
「ナイト、お前も見たよな!? 何だ、今の……。確かこの辺で……」
「今の光は……!?」
 周囲を見渡していると、通路の奥から駆けてくるクーナと目が合った。どうやら彼女も、今の違和に気づいたようだ。
「いや、今少しだけ炎を出してみたらよ。この辺に同じような炎が……」
「この辺……って、これは……!」
 目の前に在るそれを見上げ、クーナは大きく瞠目した。それは確かに、歩いているだけでは見つけられない代物。炎でなくてもいい。生け垣に触れながら歩いたり、薔薇の並びを注意深く見ていたりすれば気づけたものだろう。
 ただそれも、此処が暗闇だからこその話だ。明るくては、まるで意味がない。
 暗視持ちのクーナは、眼前に佇むそれを――大きな鏡面の扉をはっきりと見据えると、静かにドアノブへと手を掛けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『ギバーズグリフ』

POW   :    かなしみからすくってあげるね
海の生物「【コウモリダコ・ウミユリ】」が持つ【捕食するため】の能力を、戦闘用に強化して使用する。
SPD   :    おはなしにおぼれておいで
【対象に効果的な偽りを映す、毒の泡】を降らせる事で、戦場全体が【悲しみへ誘う物語】と同じ環境に変化する。[悲しみへ誘う物語]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    きみのおはなしはこのようにおわるよ
【偽りの悲劇を綴る本】を披露した指定の全対象に【お話の通りに悲劇を辿り、救われない】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はペペル・トーンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


◇     ◇     ◇

 鏡の扉を開けると、その先にはなだからな登り坂が伸びていた。視線で辿れば、丘のうえには、暗闇の中でも淡く煌めく青薔薇に灯された、ひとつの屋敷が見える。
 猟兵たちは顔を見合わせると、躊躇うことなく次々と駆け出した。小道の両脇にも咲く青薔薇は、まるで誘うように、先に進むにつれて次第に数が増えてゆく。
 罠らしい罠がないのは逆に気味が悪かったが、恐らく敵の好むところではないのだろう。

 それよりも、相手の悲哀を呼び起こし、絶望を突きつけ、そうして心の深くまで落ちた魂を愉悦に浸りながら貪る――見目幼くも悪辣な少年は、それを欲しているのだ。

 敵もまた、こちらの存在に気づいたのか、屋敷の正面扉がゆっくりと開け放たれる。
 煌びやかな照明の光が漏れ、ひっそりと佇む館が、闇にぼうと浮かび上がった。
彩波・いちご
理緒さんと

見えた光景は…え、待って、私こんな記憶知りません
人の両親から生まれた狐耳と尻尾のある赤子…同時に生まれた双子の妹が人間だったこともあって恐れられ、捨てられた
…って、私が捨てられたのは赤ん坊の頃で、だからこんな記憶あるわけが…でもこの光景が事実だと感じて…心が苛まれて…(涙

…でも、捨てられた過去なんて、今の私にはもう関係ないです
寮の仲間…家族が、理緒さん達大切な人がいるから、もう大丈夫!
(腕をとってくる理緒さんを抱きしめるようにして)

理緒さん、わかりました
【異界の顕現】
六尾の尾と鋭い爪を持つ邪神の依代体に変化し、大切なパートナーが作ってくれた隙を狙って、全力の爪で引き裂いてあげますっ!


菫宮・理緒
いちごさん(f00301)と
メガリス持ち帰り希望

泡に映った光景。これは、教室?

休み時間の賑やかな教室、そこから切り離されたわたし。
視線や話し声が、ぜんぶ自分への噂や好奇に思えて、それが怖くて壁を作って……。
ぼっちで取り残されていくのはさすがにキツかったなぁ。

でもね、いまはそんなのみせられたって大丈夫。
そんなことはないってみんなに教えてもらったし、大切な人だってできたよ。

と、いちごさんの腕をとって、自分に引き寄せるね。

いちごさん、これはわたしに任せてもらっていいかな。
攻撃はいちごさんに任せて、わたしは全力の【虚実置換】で毒の泡を消しに行くね。

いまは、こんなに信じられるパートナーがいるんだからね!



●おはなしにおぼれておいで
 それは一瞬だった。
 視界が深海の光を思わせる泡で塗りつぶされる。
 その先に菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)が見たのは、見覚えのある教室の風景だった。休み時間なのだろうか。授業中の静寂とは打って変わって、学生たちの愉しそうな笑顔と、賑やかな声で溢れている。
 ――唯ひとり、理緒だけを除いて。
 誰からともなく向けられた視線。周囲で交わされる密やかな言葉が、すべて自分への噂や好奇に思えてならない。
 何を見ているの……?
 何を話しているの……?
 それが杞憂だと、思考の隅で分かっている自分も微かにいたかもしれない。けれど、それを消してしまうほどの恐怖が、理緒のすべてを支配する。
 だから娘は、壁を作った。誰も自分を害することのできない、高い高い心の壁を。
 それがどれ程に辛くても、理緒にはそうするしかなかった。そうするしか、あのころは術を知らなかった。ほかに、どうしようもできなかったのだ。

 けれど、それはすべて過去のこと。

「いまは、そんなのみせられたって大丈夫」
 そんなことはないと、皆が教えてくれた。
 そして、乗り越えたその先で、誰よりも大切な人を見つけたから。

 ◇     ◇     ◇

『一体、どうして……』
『気味が悪い……』
 人間の男女が、そう言って眉根を寄せた。
 女が大事そうに抱えているのは、人間の赤子。そして男が昏い視線を落としているのは、生まれながらに狐耳と尻尾のある赤子だった。
 異種族婚でもないふたりから生まれた、明らかに人間ではないそれは、紛れもなく自分。確証はない。けれど、心の底から確信した彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は、青の双眸に動揺を滲ませる。
「待って……私、こんな記憶知りません……」
 自分が捨てられたのは物心のつく前。だから、こんな記憶があるわけがない。――あるわけが、ないのに。
 けれど、あれは紛うことなく自分だ。事実なのだと、誰でもなく己の魂がそう告げる。
 何故、私はこの姿で生まれてきたの?
 どうして、両親は私を愛してくれなかったの?
 締めつけられるような胸の痛みに、思わず眼前の光景へと手を伸ばす。お願い、待って。行かないで。私を捨てないで。乞うように、留めるように願いを込めた指先が、けれど彼らに届くことはなかった。
 溢れる苦しさを吐き出すように、いちごは短く息を零した。苛まれる心のまま、両の手で顔を覆う。
 誰か、誰か、誰か……!

「……ごさん、いちごさん!」

 誰かが、いや、愛おしい声が名を呼んだ。腕に触れたぬくもりが、一気に思考を呼び覚ます。
「理緒さん……」
 名を呼び返せば、顔を覗き込んでいた眸から忽ち不安の色が消え去った。向けられた微笑みに、いちごもふわりと笑う。
 捨てられた過去なんて、今の自分にはもう関係ない。
 寮の仲間や家族、そして理緒をはじめとする大切な人たちがいるから。
 いちごは一度、強く瞼を閉じる。再び開いた双眸には、強い意志を宿していた。腕を掴むちいさな手に自分のそれを重ね、そっと包むように抱きしめる。
「……もう、大丈夫ですよ」
 そう耳許で囁くと、頷いた理緒の柔らかな髪が頬に振れた。互いに支え合うように立ち上がり、敵を見据える。
「いちごさん、これはわたしに任せてもらっていいかな」
「わかりました、理緒さん」
 見合って頷いたふたりは、揃って左右に跳んだ。敵との距離を測りながら、理緒は愛機のディスプレイに幾つもの画像を呼び出す。
 愉しかった、嬉しかった大切な風景たち。けれど、ここで選ぶのはそれらじゃない。
「レタッチ、アンド、ペースト!」
 全霊を乗せた娘の声とともに、四方を埋めていた毒の泡が消えてゆく。代わりに現れたのは、今の――『現実』の、風景。
『なあんだ。もうあがってきちゃったの? もっとおぼれていればよかったのに』
「いまは、こんなに信じられるパートナーがいるんだからね!」
 理緒の声に呼応して、異界の邪神の力を呼び覚ましたいちごが前へと飛び出した。今や6尾となった尾を揺らしながら、襲い来る複数の魔法剣を次々と躱し、一気に敵の懐に潜り込む。
「ええ。その大切なパートナーが作ってくれた隙は、無駄にはしません!」
 爆発的に増大した戦闘力のまま、その鋭利な爪で胴を袈裟懸けに切り裂いた。踏み止まれず吹き飛ばされた少年の身体が、エントランスホールの真紅の壁へと叩きつけられ、床へと崩れ落ちる。即座にメガリス『スクレップ』が集まると、まるで彼を護るかのように、その周囲に展開した。
「あれ、持って帰ろうね」
「――はい!」
 程なくして叶うこととなるその望みを口にしながら、ふたりは次なる攻撃を繰り出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コッペリウス・ソムヌス
ヒトの悲しみって何だろうね
思い浮かぶのは別離の記憶だろうか
出会いは別れをうみ、
始まれば終わりに向かう
大切に想う片割がいるなら尚のこと…
オレにも別離がない訳ではないからねぇ
悲しいさ、哀しいとも

彼の少年が語るように
哀しみを抱えて深いみなそこ、
暗闇の中で微睡み続けるのも
一種の救いと呼べるかもしれないが
オレは命の輝く様を見ていたくってね
流れる星のように瞬く花火のように
想いを糧に燃え続けるような、そんな光景
オレが観測して綴っているのはそういう物語
ひとひらでも裂いて見せれば
浮かぶのは暗闇を照らす灯

かなしみからすくってあげるね?
オレが救われたいのはお前じゃないなぁ
灰になるまで燃やしてあげようか

アドリブ歓迎



●かなしみからすくってあげるね
 眼を開いているのか、閉じているのか。浮遊しているのか、落下いているのか。
 それすらも分からぬ深淵のなか、こぽこぽと海の泡の弾ける音だけが耳に響いて消えてゆく。
 悲しみから救ってあげる、と彼は言うけれど、
(……ヒトの悲しみって何だろうね)
 神たるコッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)の、それは素朴な疑問だった。
 眼前の景色、それとも脳裏にだろうか。コッペリウスにもあった別離の記憶らしきものが、ちらりと浮かび、そして淡く闇に溶ける。
 出逢えばいつかは別れが訪れる。始まりは、いつだって終わりに至るものだ。――大切な片割れがいるなら、尚のこと。
 とん、と。まるで優しく肩を叩かれたように、身体が水底に着いた。そこで漸く、落下いていたのだと知る。海が呼吸するかのように、不規則なようで規則的に弾ける泡沫の音だけの世界は、かなしさを抱えたままでも誰も咎めぬ、安寧の地のようにも思える。
(オレにも別離がない訳ではないからねぇ)
 悲しいさ、哀しいとも。
 それでも、コッペリウスは光を望んだ。そういう神だった。ここで微睡み続けるのもひとつの救いと呼べるかもしれないが、それでも彼が望むのは、闇ではなく光だった。
 それはまさに、命の輝き。
 流れる星のように、瞬く花火のように、想いを糧に燃え続ける。そんな光景を見ていたくて、ヒトを観測して物語を綴っている。
 揺蕩いながら、ゆっくりと、けれど確かに双眸を開ける。懐から手に馴染む書を取り出すと、繰った頁の1枚をそっと破った。途端、紅蓮へと変わったそれが、幾つもの炎となった文字たちが、まるで魂の送り火のように海空へと舞い上がってゆく。
 闇の一点を目指した炎が爆ぜると、急速に視界に彩りが戻った。そこは大理石の床に、見事なシャンデリアが煌々と輝くエントランスホール――いや、今宵の戦場だった。
 先ほど放った炎に焼かれたのだろう。片膝をつきながらもゆらりと少年が立ち上がると、纏っていたウミユリの触手と魔剣が一気にコッペリウスへと襲い来る。陽炎のように切っ先を避けながら半円を描くようにホールを移動すると、捕捉せんと四方から伸びてきたぬめった腕へと特大の紅蓮を叩きこむ。
『……いたいなあ。ボクはただ、かなしみからすくってあげたいだけなのに』
 焼け焦げた肉片が四散し、雨のようにホール全体に降り注ぐ。それを目の当たりにしながら尚もそう言う少年を、コッペリウスはどこか微睡みを思わせる眸で見つめた。自然と、口角が上がる。
「オレが救われたいのはお前じゃないなぁ」
 ――灰になるまで燃やしてあげようか。
 言い切ったと同時、四方で燻り残っていた炎が忽ち勢いを増して少年を包囲した。明確な拒絶を前に一歩退いた少年へと、コッペリウスはその笑みをそっと深めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーファス・グレンヴィル
哀しい、なんて、
十数年も考えていない
そんな記憶オレには──

ない、と言い切ろうとした矢先
視界が揺れた気がした

笑ってる赤髪の幼い少女
黒竜と少女が楽しそうに遊ぶ姿
けれど瞬いた間に彼女は──

覚えてない、記憶にない
けれど、知っている
同じ記憶でも見たのか
黒竜も、眉を下げていた

──ッハ

鼻で笑って憂いを吹き飛ばせば
ナイトと相棒の名前を紡ぐ
彼が変じた槍を構えて息を整え

妹は、確かに死んだよ

だから、今、こうしてオレの傍に居る
ひらりと舞うのは赤い幽世蝶
不敵に口角を吊り上げて

何も覚えてねえけど
これから知っていくんだよ
思い出す、の方が
正しいのかも知れねえけど

その為にもオレは負ける訳にはいかない
哀しみになんて囚われねえよ



 男の紅蓮の眸を、深海の蒼が塗りつぶした。
 けれど、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は動じなかった。当然だ。記憶がないのだから。
 気づいたころから独りだった男は、故に浅く笑った。哀しみなんて、10数年は抱いた覚えがない。ならば、敵は何を見せてくるのだろう。
「そんな記憶、オレには──」
 ない、と言いかけた声が、更なる毒泡に飲まれて消えた。視界が揺らぎ、敵ではない何かが現れる。
 それは、幼い少女だった。
 ルーファスの相棒であるナイトとともに、赤毛を靡かせながら愉しそうに駆けている。場所までは分からない。けれど、今自分が生きる戦場ではないことだけは確かだった。
 中身まで虚像の幻影で惑わせられると思っているのなら、随分と軽く見られたものだ。
 そう切り捨てることもできた。だが、ルーファスはそうしなかった。いや、できなかった。
 眩しい光景に思わず眼を細めて瞬けば、もうそこには彼女の姿はなかった。ほんの僅かな風景の断片。覚えていない。記憶にはない。けれど、心のどこかで確信していた。――自分は、確かに知っていると。
「――ッハ」
 同じものを見たのだろうか。傍らで眉を下げ、何か言いたそうな視線を向ける黒竜に気づくと、ルーファスは一笑して憂いを吹き飛ばした。ナイト、と意を込めて相棒を呼べば、黒竜は忽ち一振りの槍へと身を転じる。手に馴染むそれを眼前に構え、一度深く息をした。
『キミにもかなしみが、あったでしょう? おもいだした?』
「何も覚えてねえよ……!」
 戦場へ降り注ぐ魔剣の雨を躱しながら、どこか愉快めいた声音で尋ねる少年の、その背後から伸びる幾多の腕を次々と貫いた。
「……けどな。妹は、確かに死んだよ」
『っ……お、ぼえてないのに、しってるんだ?』
「ああ。今、こうしてオレの傍に居るからな」
 蹌踉めく少年と男の間を、赤い軌跡を描きながら一羽の幽世蝶が過ぎった。どこか愉しげにひらひらと舞うその姿に、ルーファスの口角も自然と上がる。
「だから、これから知っていくんだよ。思い出す、の方が正しいのかも知れねえけど」
 そのためにも、負けるわけにはいかない。
「――哀しみになんて、囚われねえよ」
 その想いのままに残る1本を突き刺し薙ぐように切り裂けば、少年を包んでいたウミユリのマントは血飛沫と肉片を撒き散らしながら霧散し、戦場の砂塵に紛れていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クーナ・セラフィン
青薔薇かあ。中々綺麗だ。
花言葉は確か夢が叶う…ここの主的には不可能とかの方かもだけど。
夢を求める旅路は明けない夜、歩みを止めて眠るのはきっと楽、だけど。
ここから正念場、頑張らないとね。

悲劇の本で落ち込ませて首をすぱり、とか狙いかな。
悲しみの記憶は…ああ、そう来るよね。
…民の為に立ち上がり革命を成し遂げた騎士と聖女、けれど聖女のお話のおしまいは火刑台。
革命すればすべてが上手くいくはずもなく、うっぷん晴らしにはうってつけ。
…何が悲しいって、そんなのの為にあの娘が犠牲にされる事を受け入れた事が救いがなさすぎる。
見捨てればいい、けれど最後に別れた時に私が代わりを託されたから。
人の心が分からないあのお願い、その為に戦い続けてきたんだから。
進み続ける、前を見て越えるんだ。
魔法剣の群は屋敷の地形を利用して足掛かりのある所を跳ね回り攪乱。
タイミング見計らいUC起動し花弁と吹雪で幻に落とし込む。
冬の寒さ、最期に幻を見るお話はよくあるよね。
…それこそ『キミのお話はそう終わる』だけだよ。

※アドリブ絡み等お任せ



●きみのおはなしはこのようにおわるよ
 あるところに、ひとりの騎士とひとりの聖女がいました。
 ふたりは民のために立ち上がり、革命を起こし、終ぞそれを成し遂げました。
 人々は歓喜に沸きました。ですが、すべてが上手くいったわけではありませんでした。
 根本的になにかを変えた裏には、歪みが生まれるもの。その鬱憤晴らしの矛先が、聖女に向いたのです。
 火刑台へと連れられ、柱に縛りつけられた聖女は、抗うことなくそのまま炎の中で静かにその生涯を終えました。
(悲しみの記憶は……ああ、そう来るよね)
 クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は知っていた。これは、偽りの悲劇なぞではない。実際にあった『現実』なのだと。
 態々見せられなくても、眸を閉じるだけで今でも鮮明に思い出せる。思い出せてしまう。あの娘との別れ。
「見捨てればいい! そんなもののために、犠牲になる必要なんてない!」
 連れられてゆく背に向かって叫んだ記憶。けれど、どんな言葉も彼女の心を変えることはできなかった。

『この先の未来は――私の代わりに、あなたが継いで』

 生きていて欲しかった。生きて、笑っていて欲しかった。クーナの望みは、ただそれだけだったのに。
(……人の心が分からないお願いを、残していくなんて)
 視界と思考が、闇に塗りつぶされる。けれどそれもほんの一瞬だった。
 勝手に託された、この世で一番残酷なお願い。そのために今まで闘い続けてきた騎士の歩みは、容易く止められはしない。
 意識を現実に引き戻したクーナは、四方に展開するメガリスの位置を視認すると同時、地を蹴った。階段の手すり、柱、あらゆるものを足場にして、軌道を先読みしながら戦場を跳躍し、魔剣を翻弄する。
『うろちょろと……じっとしてなよ。もうすぐ、おわるんだからさ』
「さしずめ、悲劇の本で落ち込ませて首をすぱり、とかが狙いかな?」
 庭に咲いていた青薔薇たち。花言葉は『夢が叶う』だっただろうか。いや、ここの主なら『不可能』のほうかもしれない。
 夢を求める旅路は、まさに明けぬ夜を征くようなもの。だからこそ、その足を止めて眠るのはきっと楽だろうけれど、無論クーナはそれを選びはしない。
 進み続ける、前を見て越える。――唯、それだけ。
 痺れを切らした少年が次の一手を繰り出そうと動いた隙を、クーナは見過ごさなかった。
「こんな趣向はどうだい?」
 一直線に繰り出した銀槍から、忽ち雪と花弁が吹き荒れた。冷気を纏う結晶は触れた先から凍てつかせ、花弁はその視界を幻惑に染め上げる。
『……こっ、こんな……こんなおはなし、ボクはしらない……いやだ……いやあああああ!!!』
 冬の寒さのなか、最期に幻を見る。そんな良くある物語。
 虚ろな双眸を揺らす彼になにが見えているのか、クーナには分からない。けれど、確かなことはひとつだけあった。

「……それこそ、『キミのお話はそう終わる』だけだよ」

 今宵の物語の終わりを告げる断末魔。
 それは決して、聖譚曲には成り得なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月23日


挿絵イラスト