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狸も恋する星の原

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●珍客万来
 温泉には様々なひとが訪れる。
 山を越える旅路の途中、岩々の向こうに見えてくる湯気は、旅人の心を惹くものだ。
 地元の人に『星の原』と呼ばれるその温泉は、雪化粧がより旅人の足を運ばせる。
 温泉を湛える窪みも疎らにあり、空気の冷たさもあって湯面には満点の星空が映った。
 そして湯に入った旅人は旅人と、または地元の住民と、肌が火照るまで身の上を語り合い、繰り言で時間を潰す。
 野にある温泉は心身を癒すだけでなく、人々の社交場でもあった――奇妙な妖怪が姿を現すまでは。
「クァーウー!」
 ドンドン!
 甲冑を纏い、旗を掲げた妖怪狸の一団。太鼓を叩く音も、鳴き声に連なった。
 大きさこそ人間よりやや小柄ながら、武具を身に着けた彼らは堂々たる姿だ。
「クァァユゥゥ!」
「キュゥゥ!」
 ドンドン!
 続く太鼓の音は、狸たちを鼓舞する――バチを握っているのは何故かパンダだが。
 勇ましく鳴く狸たちは、陣形を保ちながら山道に屯していた。
 心得違いに胸を痛めるはずもなく、妖怪狸たちは今日も旅人に襲い掛かる。
 そんな狸兵団の遥か先で、ぷしゅう、と空めがけ湯が噴き出した。

●グリモアベース
「愛らしい見た目だけど、立派なオブリビオンなの」
 ひどく、それはもうひどく残念そうにホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)が告げた。
「旅人が通る山道だから、被害が大きくなる前に解決しましょ」
 妖怪狸の一団は、通りかかれば姿を現す。
 一団というだけあって複数匹で構成されているが、侮らない限り苦戦はしないだろう。
「それと狸たちとは別に……温泉近くにもオブリビオンがいるわ」
 予知では姿が見えなかったと、ホーラは言う。
 姿こそ不明だが、そのオブリビオンは温泉を占拠している可能性が高い。
 いずれにせよ、人々のために倒す必要がある。

「……星之原温泉、景色もだけど湯に映る星も綺麗なんですって」
 山中に秘された温泉だからこそ喧騒もなく、大自然に耳を傾けて湯を味わえる。
 狸兵団も、その先に棲むオブリビオンの件も片が付けば、人々も安心して温泉に入ることができる――猟兵たちも同じく。
「それと山麓の村にはね、その温泉にまつわる話があるの」
 懸想の気持ちを、湧きだす湯に乗せて相手へ届けてくれる鯨がいるという。
 湯気が漂う場所で、その鯨の影を拝めたら、想いは成就するのだと。
「表立って恋心を伝える権利が、その村の女性には無いらしくて」
 言い伝えを信じ、今でも鯨の影を探す女子が後を絶たない。
 特に冬は、人肌恋しくなるのだろうか。山へ向かう村の女子も増えるようだ。
 ホーラは胸に手を当て、微笑んだ。
「そんな子たちのためにも、一刻も早くいつもの山を取り戻しましょ」
 春の息吹が近づきながらも、まだ深い寒さに身を浸す山。
 温もりを求める人の身と心を守り、未来へつなぐために。


棟方ろか
 お世話になります、棟方ろかと申します。
 シナリオの主目的は『全オブリビオンの撃破』です。

●シナリオについて
 一章は、狸兵団(パンダ含む)との集団戦。
 余程の油断でない限り苦戦しないはずなので、狸たちを可愛がってみたり、太鼓の拍子や鳴き声に合わせてノッてみたり、思い思いに楽しんでみるのも良いでしょう。(もちろん、最後にはちゃんと倒しましょうね!)
 二章はボス戦です。今は「温泉での戦闘になります」とだけ。
 三章では『星之原温泉』を満喫します。
 お声がけ頂きましたら、グリモア猟兵のホーラも三章でご一緒させていただきます。お話相手など必要でしたら、お気軽にどうぞ。もちろん、交流プレイングが無ければ登場しません。

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『狸兵団』

POW   :    狂乱野鉄砲
【仲間がやられた恐怖心】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【弓矢や火縄銃の集中砲火】で攻撃する。
SPD   :    狸兵団突撃
予め【突撃陣形を組む】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
WIZ   :    パンダ混じりの狸囃子
戦闘力のない【子狸応援団(何故かパンダがいる…)】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【戦場に響く賑やかな太鼓の音】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ガドゥッフ・ルゲイエ
【心情】
かわいいのも良いんだけど、カワイイわりに武器がな…。連中の中に突っ込んで、攪乱させるのも良いか……。
【行動】
【ビルドロボット】で、防御形態の装甲を強化して、POWで攻撃を仕掛けていきます。手加減はせず、普通にパンチやキックで攻撃をしていきます。
「言うこと聞かないやつには、これだな。」とげんこつを喰らわせるような感じがしますが、気にしない方向で。
【狂乱野鉄砲】については、【盾流し】で打ち返しつつ、タヌキの群れに貸していきます。
「悪いな、この体じゃ、お前達と遊べないんだ。」
【狸兵団突撃】が来たら、見切って上手く躱します。
「ん~、何か、こいつらを上手く攪乱出来ないものか……」


七詩野・兵衛
アドリブと他の猟兵との絡み歓迎

子狸応援団だと!?(パンダには特に問題ない)
我輩が応援団長である限り子狸応援団に対抗せねばなるまい。
戦闘力の無い団員を召喚し、彼らと応援合戦と洒落込もうか。
我輩こそはアルダワ魔法学園応援団『轟嵐会』団長 七詩野兵衛であるッ!
我輩が本当の応援と戦闘と言うものを
貴様らオブリビオンに魅せてやろう。

我輩は団員の応援を受けての戦闘だ。
愛用の鎖付き両手斧『気合連結』を振り回して「投擲」し、
鎖を操り「二回攻撃」で敵陣を蹂躙するぞ。
応援合戦でも戦闘でも負ける訳に行かぬわァ!
応!我輩の生き様とくと見ろォ!(見た目を気にせずガチ戦闘)

温泉は楽しみだな。熊か猿のボスでもいるのだろうか?


玖・珂
何とも賑やかな敵だ
囃すだけならば此のまま見送っても良いのだが
夢の跡となった兵どもならばそうもゆかぬな

……狸はイヌ、パンダはクマ…………瞳周りの模様、か?
(混ざるパンダにやはり疑問が浮かび、ついつい狸との共通点を探してしまう

山道へ関所の如く糸雨を横断に張り
此れより先へは罷り成らぬ
押し通ると云うならば、私がお相手致そう

少々芝居掛りに告げたなら
白い長杖を構え狸兵と切り結ぶ
侮りはせぬぞ、斯様な風貌でも敵は敵だ

近付いて来ぬ限り、私からは出向いて仕掛けぬ
戯れる者もおろう

とはいえ、戦闘に時間が掛かり過ぎたり
逃走の気配が見得ようものなら間髪をいれず攻撃するぞ

此処に居らぬオブリビオン、大将は湯治でもしておるのか


小鳥遊・晶
皆が楽しみにしてる温泉を邪魔するなんて、ひどい。

皆が温泉に無事に入れるように頑張るよ。

私はライオンを召還して、タヌキたちをビビらせてやる!

油断は禁物だけどタヌキたちちょっと可愛いなぁ…

でも皆の安全の為、
私も剣を振るってやっつけるよ。


ウトラ・ブルーメトレネ
くぁーうー?
くぁぁゆぅぅ?
きゅうう??
なんてかわいいお声なの!
可愛らしい物音に惹かれてやってきて愛くるしい姿に、全てを見透かすような銀の瞳をキラキラ

ねぇ、ねぇ。もふもふさせてもらっていいかな?
ぎゅっとしてもいいかな?
問いかけ乍ら、我慢できずにむぎゅっと。そこで鳴き声を聞けたなら、真似てころころ笑い
バチを握ったパンダに気付いたなら、更に顔を耀かせ、ぺたぺた近付く
それはなぁに?
わたしもやりたい!
ねぇねぇ、だめ?

天真爛漫に振る舞って、モフを満喫
一頻り楽しんだら、目的を思い出し
あのね、おぶりびおんは敵なの。だから、ね?
えいっと、剣閃一閃で迷わずざしゅ

ひらがな多用喋り、基本裸足
アドリブ・アレンジ歓迎です


レザリア・アドニス
敵だけど、あまりにも健気すぎて、和んだ
むっちりもふもふサーカスかよこいつら…こんなオブリビオンもいるね…
あ、色違いのが一匹いる…あいつら、全然気づかないか、気にしないのか…?
面白すぎて、暫く見物してしまう
カオスだけど、楽しそう…楽しそうですね…(和んだ)
巻き込まれないように隅にのんびりと、おやつ食べながら興味津々に狸猟合戦を見る(同行の猟兵が苦戦になっていれば、暫く鈴蘭の嵐を吹かせて援護するけど)…どう?食べる…?と猟兵にお裾分け
時間も見つつ、満足したら、うん、と立ち上がって、
強めの鈴蘭の嵐で一掃
…さて、進みましょう
(一応オブリビオンだと分かっているから、面白い見物感覚だけで、特に同情はなし)



●山途の狸兵団
 並ぶ木立の合間から、柔らかな午後の陽が射した。
 山道の陰に茂る草は萎み、この時間になっても霜が白い輪郭を添えたままだ。
 そこを進む猟兵たちの吐く息は白く煙り、靴裏は融けた霜で湿っている。
 平穏だ。日常の穏やかさを湛えた冬の山中。しかし冷たい空気を震わせるのは。
「クァ、ウゥゥ!」
 ドンドンッ!
 旅人が頻りに通る山にしては、恐れを知らぬ鳴き声と陽気な音。
 状況を知らなければ山鳴りと勘違いしかねない太鼓の音を受け、勇ましく山をゆくのは狸の兵団だ。
 身の丈に合わせたらしき鎧兜と武器を降り注ぐ陽に光らせて、彼らは山道で待ち受けていた。
「かの一団を支える者こそ、子狸応援団か!」
 仁王立ちのまま七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)が標的を定める。
 爛々と滾る兵衛の瞳は一切逸れない。二、三度頷きながら眺める兵衛の心は、鳴りやまぬ狸たちの応援をじっくり味わった。
 その一方で。
 ――何とも賑やかだ。
 面妖な一団を視界に入れ、玖・珂(モノトーン・f07438)は思わず瞼を伏せる。
 ひどいっ、と近くで呟きが落ちた。小鳥遊・晶(緋眼の黒狼・f05955)が僅かに口を尖らせている。
「皆が楽しみにしてる温泉なのに。それを邪魔するなんて」
 人々が疲れを癒し、寒さを凌ごうと湯へ向かう光景まで、晶は思い巡らせた。
 山登り中の旅人へ声援を送り見守るならともかく、狸兵団は、その土地に生きる人々にとって害となる存在だ。
 直後、晶の後方から響いたのは、狸たちに呼応する可愛らしい声。
「くぁーうー?」
 真紅の翼をぱたぱたと弾ませたウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)が発した声だ。狸兵団を見つめる眼差しは、持ち前の好奇と無邪気さに輝いている。
 そうして猟兵たちが姿を現しても、怯えず、逃げず、狼狽えず、狸兵団は堂々と立っていた。
 団員を御しているのか、共鳴するところがあって統率されているのか、理由は不明だが妙に纏まっている――纏まっていると言えば、珂には気になる点がもうひとつ。
 当たり前の顔で狸の群れに混ざる、太鼓担当のパンダだ。
 ――狸はイヌ、パンダはクマ……瞳周りの模様、か?
 共通点を模索し、脳と視覚で確認しても、浮かぶ疑問を珂は拭いきれずにいた。
 浮かぶのは疑問だけに留まらない。
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、デンドンと太鼓の音に合わせて愉快に弾む小部隊を眺め、和みの情を浮かべていた。
 日頃は死霊と共生する彼女ゆえか。まるみのある外形、むちっとした肉付きにもふもふの毛を蓄え、装いは甲冑で固めた狸たちの恰好は、さながらサーカスのようで。
「……こんなオブリビオンもいるのね……」
 レザリアは意識せず、声を零した。
 今まで遭遇してきた脅威よりも遥かに、オブリビオンに違いないとはいえ明らかに異色だ。
 目の当たりにした一団の得も言われぬ雰囲気に、猟兵たちは立ち止まっていた。
 すると気をよくしたのか、団長らしき先頭の狸が刀を掲げる。
「クァァユゥーッ!」
「キュゥゥ!!」
 団長の掛け声に、団員たちが揃って答える。そして連なる高らかな太鼓。
 ドドン、と山道を震わす太鼓の響きは、奇妙な彼らの姿も相俟って、通行人を戦慄させているのだろう。
 ガドゥッフ・ルゲイエ(キマイラのスクラップビルダー・f01628)は目を眇めた。
 ――少なくとも異様なことに変わりないな。
 単なる狸やパンダであればと、ガドゥッフは旅人の目線を想像しながら、その異様な団体を眺める。
 世の酸いも甘いも知らぬ無垢な子か愛好家であれば、かわいい、の一言で済むのかもしれない。
 しかしガドゥッフには解せない要素が見える。狸たちが武装している点だ。
 ――かわいい、までは良い。良いんだけど武器がな……。
 あまり穏やかとは言えない刀剣の類に、槍と弓。そして火縄銃。
 先ず相手の出方を窺っていたガドゥッフの横から、ひとりのドラゴニアンがぴょんと飛び出した。
「くぁぁゆぅぅ?」
 ウトラは再び、鳴き声に反応する。楽しげに竜の尾を揺らして。
「きゅうう??」
 真似る声色さえきらきらと煌めき、彼女の感情が露わとなった。
 幾度となく耳朶を打った狸たちの言葉は、少女の心を鷲掴みにしている。
「なんてかわいいお声なのっ!」
 明暗をも見透かすほど冴えた銀を二粒、ぱちりと瞬かせてウトラは跳ねた。
 日向の湿った土も、日陰のしゃくしゃくと鳴る霜が付いた草も何のその、ウトラの裸足はうろつきながら狸兵団の前へ向かう。
 ねぇねぇ、と尋ねる声が花咲いた。
「もふもふさせてもらっていい? いいかな??」
 ウトラに宿るのは、ただ一筋の好奇心。
 キュウ、と鳴くばかりの狸たちは、言葉の意味を理解したのか否か、少女を警戒し得物を構えだす。
 しかしウトラは臆することなく、構えるのが僅かに遅れた火縄銃持ちの狸を狙い定めた。急所を覆わんばかりの長毛が広がる顎へ、手の平を押し込む。
 もふっ。
 予想以上に毛は柔らかく、手が静かに沈んでいく。埋もれた指は狸の温もりをじんわりと感じ、覆う毛のしなやかさが触れた肌を癒す。
 されるがまま固まった狸に気付き、仲間の狸たちが風のような素早さでウトラから距離を置く。パンダだけが、太鼓を抱えて動かずにいた。
「キュゥ!?」
「クゥァ! ウゥッ!」
 そして何事か訴えだしたが、ウトラの耳には愛らしい音でしかない。
 ドドドン!
 狸の鳴き声につられてか、少し遅れてパンダがバチを振るった。
「……何なのかな、あのパンダ」
 晶が複雑そうに頭を掻く。仲間を囃すにしては、パンダにも少々覇気が足りない。
 見ようによっては性格がマイペースなのかも、と晶は首を傾ぐ。
「いずれにしても、倒すべき相手には違いないな」
 考えに沈んでいた意識を浮上させて、ガドゥッフが応えた。
 すでにガドゥッフの頭は戦の運びに進んでいて、目の前の出来事からは遠い。
 周囲を窺うガドゥッフの眼は、無機物と呼べるものを探っていた。幸いにもここは山だ。石ころや砂で溢れている。
 パンダに問いたい気持ちを抱くのは、レザリアも同じだ。
 ――色違いの一匹に……全然気づかない、とか?
 それとも気に留めていないだけなのか。
 狸たちの思考も読めず、レザリアは手頃な岩を椅子に見物し始める。
 繰り広げられる光景を背に、鋼糸を張りめぐらせていた珂は、身内に起きた珍事へ意識が向いた兵団を一瞥する。
 渾身の力を振り絞ってウトラに威嚇している狸たちだが、効果は無いらしい。
 ――囃すだけならば、此のまま見送っても良いのだが。
 労せず事が運ぶことは無かろうと、珂は細く短い息を吐いた。
 困惑する狸や、仲間の危機に対処できずにいる一団を見て、笑うのは兵衛だ。
「あれでは団長も形無しだな!」
 兵衛の言う団長――団を束ねる狸は、とうとう痺れを切らしたのかウトラめがけて突撃する。
 だが、彼女が嬉々として揺らす尻尾が気になるらしく、彼女へ飛び掛かる手前で団長の足が止まった。
「じゃあじゃあ、次、ぎゅっとしてもいいかな?」
 そんな狸団長の状態など露知らず、ウトラはすっかり萎縮してしまった火縄銃の射手を抱きよせる。
 キュウキュウ、と絞り出すように鳴く狸の声さえも、彼女に笑顔を齎すだけだ。
 傍ではパンダが太鼓をたたき、ドンドン、と地が震える。
 漸く、救出を諦めたのか狸団長は踵を返し、きりりと表情を引き締めた。
 すると退避していた狸たちが、陣形を整えだす――火縄銃の射手を置きざりに。
「クァーウー!」
 一匹少ないまま、狸兵団が鬨の声をあげた。

●開戦
 ドンッ、ドドン、ドデデンッ!
 殷々だる太鼓の音は、合戦の始まりを示すかのようだ――愛嬌ある顔のパンダが鳴らしている点を除けば。
 湧きだす子狸応援団に、突撃開始した狸兵団。
 開戦は、砂煙を巻きあげながら勾配を下る狸たちによって、山に知らされた。地響きが木々をざわつかせる。
 左右を確認し、兵衛が組んでいた腕を広げ天を仰いだ。
 突き抜ける青は、昼を疾うに過ぎても色濃く、胸いっぱいに吸い込んだ息も目が覚める冷たさで。
「我輩こそは!」
 兵衛があげたのは、空気を軋ませる大音声。狸兵団の目線が彼へと集う。
「アルダワ魔法学園応援団、『轟嵐会』団長、七詩野兵衛であるッ!」
 兵衛が揮う口上は空気を震わせ遠くまで届く。やがて名乗りは山彦となって返り、寒々しい草木を揺らし滾らせた。
 ――やはり、白む。
 兵衛は自覚する。
 吐く息は、自らの放出する力が熱ければ熱いほど、白さを増すと。
 だから姿勢を崩さずにいると、彼の叫びに応じた人影が、地上に現れた。彼が召喚した応援団員と楽団員だ。
 応援団長の兵衛に倣った背格好と熱血を蓄えた団員たちは、パンダ混じりの狸囃子に対抗し、団長を鼓舞する。応援には応援を。互いに相殺するぐらいの威勢をぶつけ合う。
 ――さあ、応援合戦と洒落込もうか。
 兵衛が口端に微かな笑みを浮かべ、両手斧を振り回した。
 応援が轟く中、ガドゥッフは山に転がる石や砂を身体へ呼び集める。皮膚の内側に秘密を隠し、遠き故郷を宿した体躯に纏わるのは、無機物。
 装甲と化した砂礫は、普段から大きなガドゥッフの背丈をより強大に見せる。
 狸の足軽が弓ひいたのを、ガドゥッフは見逃さない。飛翔する矢は築いた剛腕で払い落とし、振るった勢いを余さず足軽を殴打する。
 石や砂の硬さを装着した拳は、容赦なく弓使いの狸を叩いた。弾け飛んだ射手を別の狸が支える。
 視界の隅でそれを捉えたガドゥッフは、思わず眉間に微かなしわを生む。
 ――カワイイわりに、武器に可愛げがないな。
 そうして組み立てた装甲のまま腕を引き戻すガドゥッフの横を、晶が走り抜けた。
 陽を浴びた髪を柔らかく跳ねさせて、彼女が跨っているのは黄金のライオン。
 黄金色に輝くたてがみを撫でてから、晶は狸兵団を指す。
「いくよ! タヌキをビビらせてやろ!」
 八重歯を剥いて笑った晶の表情は明るく、黄金の獅子は求めに応じて咆哮し、兵団へ突進する。過ぎた毛並みの余韻が、光の粒となって地にはらはらと落ちていく。
 狸たちは百獣の王による脅威にさらされ、キュウキュウと悲鳴をあげて逃げ惑う。
 日脚が早まる初春の陽気に身を浸し、レザリアはおやつを頬張りながら暫く座視の様相でいた。狸たちが、自らを脅かす獅子と巨躯に釘付けになる一方、ウトラに抱き締められた一匹は、未だ動けずにいる。
 そして狸が鳴くたびにパンダは太鼓を叩き、応援団の鼓舞が響き渡る。対抗して兵衛のアルダワ魔法学園応援団も、稜線が伸びる先まで伝う勢いで喉を震わせた。
 幾つもの声が木霊する光景にも、レザリアは引き結んでいた口の端を和らげる。
 ――カオスだけど、楽しそう……。
 座っていた岩から降りたレザリアが、狸からパンダへもふもふの照準をずらしたウトラの元へ近寄る。
 大人しい気質なのか嫌がりもしないパンダを、ウトラが撫でていて。
 そんな彼女へ、レザリアは持参していたおやつを差し出す。
「食べる……?」
 レザリアが透ける羽のような包みを開けば、ウトラの表情がぱっと輝く。
 華やかな福寿草に似せた砂糖菓子が、黄金色の淡い光を鏤めている。
「なぁに? おいしそう! わたしもたべていいのっ??」
 こくりと頷くレザリアから、ウトラはお裾分けをもらった。
 和やかなやりとりが交わされる傍で、パンダは相変わらずポコポコと鼓を打つ。
 音を聞きつけた狸たちが野を駆け、もふもふから解放されて間もない狸は火縄銃を構えた。
「あっ!」
 火縄銃が撃たれた音と同時に、晶が声をあげる。ライオンの疾走で狸兵団の陣形を崩しながら、彼女は一匹の狸を指差した。
 ビルダーであるガドゥッフ渾身の一作、巨人の足とも呼べる大きな足で蹴られ、傾斜を転がされた狸が一目散に逃げだしたのだ。
 だが、山林へ行方を晦ますことは叶わない。弛まず張られた鋼糸が、足軽の身に引っかかる。均衡を崩して転倒した狸は、キュウキュウと鳴きながらもがいた。
 レザリアがゆるりと腕を伸ばし、鈴蘭の嵐を招く。鋼糸の絡まりから逃れて間もない狸を覆い、花弁で視界を埋め尽くした。
 呼吸を阻むほどの花が顔を撫でつけ、か細く鳴くことさえ許さない。
「……逃がさない」
 薄く押し上げた瞼の内側、レザリアの眼差しが狸を捉えて離さない。
 そして鋼糸を仕掛けた主――珂が、視界を塞がれ動けずにいた狸の前に立つ。
「此れより先へは、罷り成らぬ」
 彼女が糸で封鎖した先の景色は、あるがままの姿を保たねばならない。
 オブリビオンの手によってそれらに歪みが生じることを、彼女は許容しない。
 ――夢の跡となった兵どもならば。
 握る長杖は、珂自身と同じ真白の尾を引いて宙を掻く。風音と共に踊った杖の先端が、狸の被り笠を打つ。
 オブリビオンとなった狸の兵だ。かつて勇ましく赴いた戦もあるだろう。しかし。
「尚も押し通ると云うならば」
 藍に染みる花を片目に咲かせたまま、珂は飛び込んできた狸の一撃を受け流し、攻勢に移る。
「私がお相手致そう」
 芝居掛かりに告げた珂の表情に、色は差さない。
 ただ黒い石に映る敵を見下ろし、鮮麗な白に染まった杖で切り結ぶだけだ。

●撃破
 一匹を屠れば、狸兵団が声を張り上げた。
「クァァユゥ!」
 狸たちが宙へ飛ばしたのは、矢と砲火。雨のように降り注ぐ狸たちの嘆きを浴びたのはガドゥッフだ。
 無機物で固めた守備が、ガドゥッフの総身を過去から庇う。
 盾で受ければ火の粉が散り、踏み出した先には狸兵団がいる。
「言うこと聞かないやつには……これだな」
 すかさずガドゥッフが砂礫で強化した拳を振るい、狸を完全に黙らせた。
 悪いな、と青く透き通る瞳で消えゆく骸を見守る。
「この体じゃ、お前達と遊べないんだ」
 模る人の身に目を細め、ガドゥッフはオブリビオンの残滓へ呟きを落とした。
 一方、黄金のライオンに騎乗したまま晶は駆ける。
 ちらりと見遣ると、狸の残敵が陣形を整えだしていた。
 ――陣形を組んでる方がやっぱり、安心するのかな。
 晶の予想を成すかのように、突撃陣形を組んだまま武器を振るう狸たちは、元気が良い。散らばって行動したときよりも声が大きく聞こえるのも、その影響だろうか。
 そう考えてしまうと、晶も唸らずにいられない。
 ――タヌキたち、ちょっと可愛いよなぁ……油断は禁物だけど。
 かぶりを振って、ライオンの上から晶が剣を振り下ろす。
「無事、温泉に入れるようにするんだから!」
 傾いた陽の光を滑らせた刃が、兵団の数を減らしていく。
 ここは地元の住民も旅人も通る山道だ。平穏を取り戻すために切り伏せながら、晶は狸たちへ訴える。
「悪いことしたらダメだよっ!」
「クァァユゥ!」
 言葉通じぬ狸から返ったのは、威勢の良さとは異なる声の弾み。
 先程と違い逃げる素振りもなく、団長率いる足軽たちは布陣し直す。
 すう、と息を吸う音が落ちた。兵衛のものだ。
 背を支える応援団員たちの鼓舞を受け、兵衛が胸を張る。
「我輩が、本当の応援と戦闘と言うものを……」
 彼が吐き出す言葉は白煙となって昇りゆく。
 変わらず空気は冷えているが、兵衛が纏う熱は時間が経とうとも消え失せない。寧ろ、経るほどに強まる。
「貴様らオブリビオンに、魅せてやろう!」
 砂利を踏み鳴らした兵衛が構えたのは、気合いと情熱を連結させて籠めた、鎖付きの両手斧。
 パンダが奏でる太鼓の音は賑やかに、そして狸兵団も跳ねながら猟兵たちへと飛び掛かっていく――そこへ兵衛が、斧を投擲した。
 ブゥン、と風切り音が宙を舞う。緩やかな弧を描いて飛んだ重い斧は回転し、柄の先に付いた刃で敵を叩き斬る。
「まだまだァ!!」
 兵衛が手繰る鎖は気合いに溢れ、茹だったかのように熱い。
 構わず握る兵衛の指に迷いはなく、連撃を繰り出せば、斧の刃が別の足軽を断ち切った。
「応援合戦も戦も、負ける訳に行かぬわァ!」
 咆哮にも似た兵衛の叫びが、澄んだ山に響き渡る。
 負けじとパンダが太鼓を叩く傍ら、あのね、と囁くようにウトラが言葉を紡ぐ。
 一頻りもふもふを満喫した少女から、天真爛漫な振る舞いは鳴りを潜めていた。
「おぶりびおんは敵なの」
 現実を確かめるように話す微笑みは、消え入りそうなほど淡い。
「……だから、ね?」
 ぺたりと裸足で地を蹴り、えいっ、の掛け声で生まれたのは冬空に映える剣閃。
 銀の閃きを会得したウトラが、双眸にパンダの最期をうつす。
 そうして数が減った兵団を見回し、ガドゥッフは顎を撫でた。低く喉で唸りながら位置を視認する。
 ――上手く攪乱できないものか……いや、もしかしたら。
 胸の内で言葉に換えて漸く掴む。動きに出る直前、ゆっくり瞬けば睫毛が震えた。
 そして見開いた彼が突っ込んだのは、突撃を試みる狸兵団の真っ只中。攻める狸の群れに、装甲を無機物で構成したガドゥッフが混ざる。
 矢継ぎ早に振り翳された刃を避け、狸たちの陣を乱す。合間を縫うように突き出したガドゥッフの強固な拳は、一団を散開させた。
 疎らになった狸たちへ、珂が糸雨で追撃を見舞う。片目に咲く花が散るよりも早く、動作は最小に留めて。
 ――侮りはせぬぞ。
 意図を晒さず、覚らせずに事を成すことこそ、為手の花。
「斯様な風貌でも、敵は敵だ」
 珂は討った狸へ、言葉を手向ける。
 山道を挟む木立のざわめきに、鈴蘭の花が踊る。
 灰色の翼をふわりと浮かばせて、レザリアの巻き起こした旋風が、空高く花を運んだ。天までは届かず、けれどレザリア自身よりは遥か高くに。
 ――分かっているから。……オブリビオンだって。
 花の嵐は、呑み込んだ狸の命ごと阻む過去を掃った。花弁以外でレザリアが抱くものに、同情は微塵もない。
「クァー!」
 一掃しにかかった鈴蘭の花吹雪から逃れ、生き残った団長が一鳴きする。
 仲間を失った嘆きか恐怖か、兜をかぶり直す狸の顔つきに、はじめの頃の陽気さは無い。
 そこへ。
「この声援に応えねば、漢が廃る!」
 力強く地を踏み叩き、兵衛が団員の鼓舞を全身で受け取った。
 風が団長服を煽り、掲げた両手斧が風を突っ切る。応援団員たちの声が重なり、兵衛の背を押した。
「応! 我輩の生き様、篤と見ろォ!」
 言葉を継いだ兵衛は、斧を繋ぐ鎖を手の中で巧みに滑らせる。
 団長同士の対峙にも抜かりはなく、兵衛の斧が甲冑ごと狸の身と魂を両断した。

●先へ
 静けさが蘇った山道に、鳴るのは風と葉だけ。
 通行人を襲うべく屯していた狸兵団も亡き今、猟兵たちのつま先は彷徨わず湯へ向く。幾つもの靴音に混じって、ぺたぺたと跳ねるウトラの足音もまた、何処となく楽しげだ。
 大将は湯治でもしておるのか、という珂の呟きを耳にし、ガドゥッフが唸った。
「オブリビオンが籠もるには、適した地だな」
 少なくとも人里からは離れている。さらに狸たちが行く手を阻んでいれば、旅人も温泉へ寄ろうとは思わないだろう。
 考えに沈むガドゥッフたちの近く、温泉そのものへの期待から胸を弾ませる兵衛とは別に、晶は胸を撫で下ろしていた。
 ――温泉までの道も、山越えする人たちのことも、守れたんだよね。
 重ねた細い指に晶の吐息がかかる。残る懸念は、姿無きオブリビオンの存在だけ。
「……進みましょう」
 木の葉が擦れる音に乗せて、レザリアが告げた。乾いた風は、彼女たちが瞬く回数を平時より増やす。
 歩み出せば砂が鳴き、見上げた彼方には朱が差している。
 猟兵たちの息は未だに白く、遠くに見据える湯気のように冬空へ溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『白鯨斎髭長ノ進』

POW   :    白鯨の魔力(物理)
単純で重い【体当たり】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    びちびちヒレアタック🐋
【胸ビレ】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    らぶすぷれ~🐳
【顔】を向けた対象に、【愛の潮吹き】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠掻巻・紙衾です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●くじらのはなし
 円みを帯びた空色のからだ。眠たげなまなこに宿る愛らしさ。
 灯篭が並ぶ山道を進んだ猟兵を出迎えたのは、そんな特徴を持つ鯨だった。

 そこは『星之原温泉』の湯舟が備わる場所。
 いくつもの岩風呂が口を開け、暖まろうと訪ねてくる旅人を呑み込むところ。
 そのうちのひとつ、最も広い湯舟に鯨は居た。
 どこに隠れていたのやら、幅はおとな三人が手を繋いで出来る輪の大きさに近い。
 完全には温泉へ潜れないはずの巨体だが、温泉の加護を得ているのか、浅い湯だろうと平然と身を沈めてしまう。
 隠れはするが逃げはせず、温泉へやってきた人々を襲いかねない、過去の存在。
 ――山麓の村には、温泉にまつわる話がある。
 そう耳にしたことを思い出せば、鯨の形をしている理由もそれとなく知れた。
 抱く恋心を、湧きだす湯に乗せて相手へ届けてくれる鯨がいる。
 湯気の中、鯨の影を見つけることができたら想いは叶う。そんな言い伝え。

 だが、猟兵たちの前に姿を現した鯨は、紛れもなくオブリビオンだ。
 湯気と暖かさ漂う温泉に棲む、倒すべき相手だった。
小鳥遊・晶
びっくり!大きなクジラさん!!

皆が温泉入れないと困るもんね。
頑張ります。

足場が悪いかもだから
素早い剣撃で対応するよ。

私は素早さを生かしておとりになろうかな。
私が引き付けておくから
今のうちに攻撃して!

皆と連携して戦えたら倒せそうかな。


玖・珂
……そうか、此度は斯様な巡り合わせなのだな
残念だが幾ら湯に浸ろうと、オブリビオンとなった傷が癒える事はないぞ

体当たりで温泉を破壊されては目も当てられぬ
戦闘中の立ち位置には注意を払うが
着地点が危うければ敢て怪力、激痛耐性で受け止める覚悟だ
多少でも緩衝があれば衝撃も和らぐだろう
圧し潰される前に跳ね飛ばしつつダッシュで離脱するぞ

想い届ける筈のお主が、今では其れの邪魔をする
本望ではなかろうな

長杖を掲げ、全力魔法で呼び起こすは氷柱の嵐
空色のからだへ流星雨と降り注ごう
骸の海に還るがいい

世の中で最も手強いもの
それは愛らしいものではないだろうか
先の狸兵団然り

その様な思考に至るのは
ふむ……湯気にでも中てられたか


レザリア・アドニス
山に、鯨…
ちょっと、信じられない光景ですね
人々の願いと想いから、こんなオブリビオンが生み出されたのですか

可能なら現場を破壊されたくない
鯨からちょっと離れた後方から、焔の矢を放ち、鯨を撃つ
できればヒレと口を狙ったり、
矢を操作し、可能なら、多い本数を同じ所に打ち込んだりしたいけど、
まずは命中の確保を優先

可愛そうな外見とはいえ、実は凶悪なオブリビオンだから、
あまり真正面に顔を向けたくない
だけど隅から敵の動きを観察して、
体当たりする兆しがあれば、迅速に方向や標的を判断し、同行の猟兵に声をかけつつ回避
万一に狙われて回避不能の場合は、ヴェールを広げ、オーラ防御を試す

湯煙と足場に気を付ける


七詩野・兵衛
アドリブや他猟兵との絡み歓迎

巨大な鯨とは予想外な奴だな。
奴の存在にまつわる話はあるようだが、
オブリビオンになっているという事は
恐らくほとんど廃れてしまっているのだろうか?

ここまでの巨体ならば仕方ない、我輩の奥の手を一つお見せしよう。
応援団長ロボ『権兵衛』を召喚し「騎乗」するぞ。
この権兵衛は応援してよし戦闘してよしの優れものでな。
攻め手が問題無い人数がいるのならば、
今度は我輩の応援を存分にお見せしよう。
権兵衛と人器一体の演舞と共に、
搭載された太鼓などの楽器も鳴らして皆を「鼓舞」していくぞ。
声援で気合と情熱を̝̝̝̝̝たかめて存分に戦ってもらおう。
それと権兵衛の巨体でできるだけ味方を「かばう」ぞ。


ガドゥッフ・ルゲイエ
【心情】
温泉かぁ……。なんか、みんな憧れてるけど、そんなに憧れる場所なのかなぁ……。元々、水の中にいることが多かったから、気のせいかもしれないけど……。
【行動】
(他の仲間との連携も大丈夫です。)
 「水の中は俺の場所だ。たとえどんなに狭くてもな……。」と一息ついてから、防御形態から水中形態に姿を変えてから、水の中に飛び込みます。
 「マリン・リッタースクラップ」を使って相手を攪乱しながら攻撃をします。ある程度相手にダメージを与えたところで「無限の水製」を繰り出します。
「さて、逆に潮吹きを喰らう気持ちはどんな気持ちだ、喰らえ!」と地上に打ち出します。あとは温泉からでて、拳で攻撃をします。



●愛を謳えない姿
「びっくり! 大きなクジラさんが居たなんて!!」
 飴玉を転がしたかのような調子で、小鳥遊・晶(緋眼の黒狼・f05955)が声を上げる。
 猟兵たちに気付いた鯨のオブリビオンが、円みを帯びた空色のからだを揺らす。宣戦布告か、あるいは威嚇か。訴えたい心境も悟らせないほど、鯨の眠たげなまなこに宿るのは愛らしさだ。禍々しさは微塵も感じられない。
「巨大な鯨とは、予想外な奴だな」
 七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)も思わず唸った。
 大きい上に、鯨の見た目。山の出湯と調和しない姿は据わりが悪いと、兵衛は肩を竦める。
「山に、鯨……」
 単語を繋げながら、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)も事態を受け入れるのに時間を要していた。
 オブリビオンが存在することも、浴泉を満喫するための場で戦うことも、理解してはいたが。
「ちょっと、信じられない光景ですね」
 鯨を模した敵を見つめてみても、海へ還る素振りは無い。
 山に生きたいのか、湯に生きたいのか、異色な存在をレザリアはじっと見つめる。
 その近くで、玖・珂(モノトーン・f07438)が吐息に交えて呟く。
「……そうか」
 ぽそりと零れた声は、彼女の胸中を何よりも明確に物語っていた。
 湯舟に注意を払いながら珂は、鯨の顔面が狙いを定めたと気付く。反射的に身構えた彼女へ、鯨は躊躇わず潮を奔出する。地面に叩きつけられそうな威力を受けて踏ん張り、潮の噴射を得物で割った。
 そして表情に一片の曇りもなく、珂は目線を返す。足元へ目を呉れれば、過ぎるのは懸念だ。
 なにしろ鯨のオブリビオンが自由気ままに動き回るのは、人々が休まる温泉だ。
 ――破壊されては目も当てられぬ。
 たとえ一撃喰らおうとも緩衝になればと、彼女は立ち位置をずらした。
 低く鳴いた鯨は、態勢を整えるために湯へ潜る。
 行方を晦ませた鯨を追うのは、ガドゥッフ・ルゲイエ(キマイラのスクラップビルダー・f01628)だ。
 一息ついた彼は、己の容貌に変化をもたらす。硬い鎧で覆った防御形態から、水中形態へと。
 それは水中戦を得意とする形態――彼が有する形態のひとつで。
「水の中は俺の場所だ、任せてほしい」
 仲間へ告げるや否や、彼は湯舟の底めがけて飛び込んだ。
 空中には湯玉が踊り、他の猟兵たちの視界から鯨と同じくガドゥッフの姿も消えた。
 決して深くもない、岩の湯舟だ。
 だが、オブリビオンである鯨の力か、大海原となんら変わり無い空間が、湯の底に広がっていた。
 奔放に泳げるガドゥッフのしなやかな身は、あっという間に鯨を捉える。浮上を試みた鯨へ、彼の武器が傷をつけた。海や川に散るゴミや貝殻から生成された武器、マリン・リッタースクラップが鯨を攪乱する。
 逃れるべく鯨はすぐさま水面を突き抜け、地上へ舞上がった。
 両頬を挟むように叩いた晶が、待ってましたとばかりに駆けだす。
「温泉入れないと、皆困るもんね」
 そう呟き跳ねた晶の刃が、鯨を斬る。
 直後、残像を生むほどの早さで鰭が揮われ、晶を弾き飛ばす。刀身で受け堪えきった晶は、鋭利な一撃に細く息を吐いて。
「ふう、かわいくない攻撃だねっ」
 晶の声が聞こえたのか、鯨が低く鳴く。
 同じころ、兵衛は鯨を見据えていた。
 ――奴の存在にまつわる話はあるようだが。
 あごを撫でて唸る彼の瞳に映るのは、外見こそ噂話や伝承に有り得そうでも、明らかなオブリビオン。
 過去に縛られ、過去が生んだ歪な存在。
 ――オブリビオンと化したのは、話がほとんど廃れてしまっているからだろうか。
 緩くかぶりを振り、応援団長モードに切り替えた兵衛は、一肌脱ごう、と深く息を吸う。
「……我輩の奥の手を一つお見せしよう。これぞッ!!」
 兵衛が発した言葉の一音一音が、溌剌と響き渡る。
 湯煙に白む空気の中、彼が召喚したのは――鯨にも劣らない巨大な塊。
 背丈は兵衛よりも天へ近く、そして金属が響かせる音は果てまで届くほどで。
「我輩の奥の手、応援団長ロボ! 名は『権兵衛』である!」
 とんとん、とロボの装甲を兵衛が叩くように撫でる。
「この権兵衛は応援してよし、戦闘してよしの優れものでな。というわけで!」
 誇らしげに言い切った兵衛は瞬時に跳びあがり、毅然たる態度を示す巨体に騎乗した。
 天辺ですぐに兵衛がとどろかせた声援は、自らを鼓舞しながら敵の注意力を散漫させる。
 直後、ぶうん、と風切音が鳴った。オブリビオンの鯨だ。
 鯨の尾鰭が、兵衛が呼び寄せたロボを払った。合金を弾いた音と衝撃が響き、尾鰭が湯気をも打ち払ったため、景色が一瞬、鮮明になる。
 レザリアは鯨から少しばかり距離を置き、焔の矢を放つ。
 最優先は当てること。命中に神経を注ぎ射出した矢は、妙に窄んだ口と鰭へ突き刺さる。
 間を置かずに勢いよく潮を噴いた鯨から目を逸らし、レザリアは翼で身を隠す。頭にかぶった光のヴェールは、頭が濡れて冷えるのを防いだ。代わりに、彼女のくすんだ双翼が飛散した水滴に濡れて艶めく。
 ――人々の願いと想いから、こんなオブリビオンが生み出されたのですか。
 ぱさりとヴェールを振って水分を滑り落としたレザリアが、願いにより生まれたはずの形を仰ぐ。
 ――ここを荒らすような真似は、させたくないです。
 不意に、巨体を揺らして鯨が泳ぐ。可愛らしい姿であっても、動作はあくまで悠然と。
 その様相を目撃した晶は、大きな瞳をぱしぱしと瞬かせて、柄を握り直す。
 ――あの大きさを、逆手に取れば。
 考えるが否や、晶の両足は水音を盛大に立てて鯨の視界へ横から飛び込む。駆けた脚に湯がかかり、温かさが確かにそこかしこにあることを晶は実感した。
 温泉で戦っているのだと改めて認識する暇も持たず、少女の身体は鯨の腹の真下を抜ける。通り抜ける瞬間、天へ向け掲げた刀で鯨の腹部を斬った。深い緋の眼差しが、与えた一太刀の余韻を連れて駆ける。鯨の尾鰭を蹴って迎えうつと、間合いを作る。
「私が引き付けておくから!」
 役目を担って叫ぶ晶に、猟兵たちが目を瞠る。
「だから、その間に!」
 続けた晶の言葉が後押しとなり、仲間は肯う。
 回した刀で再度、彼女が仕掛けた一手。その動きを、鯨の眠たげな眼差しが捉えた。とろりと垂れた力無き表情だが、与えてくる一撃は強力だ。
 鰭が晶を捕捉しているうちに、珂は片腕を空へ伸ばす。握るのは長杖だ。すっかり陽も傾いた空の仄暗さに、彼女の白い指先が映える。
 ――此度は斯様な巡り合わせなのだな。
 開けた目路で絶え間なく泳ぐ、鯨のオブリビオン。
「お主の本望ではなかろう」
 問うでも諭すでもなく、珂の声音は静かに告げた。
 そして掲げた杖から、世界を織りなす自然現象のひとつ――嵐を呼んだ。吹き荒ぶのみの嵐ではない。氷柱が渦巻く、凍てつく嵐を。
「想い届ける筈のお主が、其れの邪魔をするなどと」
 氷柱は流星雨となって、空色のからだへ降り注ぐ。
 鯨の息継ぎにより噴出した愛の末期も、氷に閉ざされ儚く消える。
 ――骸の海に還るがいい。
 言葉には換えず、雫となって振り続ける湯の雨へと、彼女は想いを映した。
 再び鯨が湯に潜る。しかし待ち構えていたのはガドゥッフだ。
「逆に潮吹きを喰らうのはどんな気持ちだ? ……喰らえ!」
 尽きることのない水流を、絶え間なく鯨の腹へぶつけた。
 押し返された鯨は、成すすべなく地上へ打ち上げられる。か細く鳴いた鯨だが、未だよろめきもしない。
 攻める手数は充分だ。そう察して兵衛は一歩だけ後退る。
 縦横無尽に湯の底へ沈んでは飛び上がる鯨の体躯は、巨大だ。突進されれば吹き飛び、無事では済まないだろう。
 ならばと、たすき掛けを正した兵衛は、立ち上がった応援団長ロボの『権兵衛』の上で喉を嗄らす。
「我輩の応援を今一度お見せしよう! 存分に!」
 兵衛と権兵衛が繰り出す動きも応援も、正しく人と機械の技の結晶だ。
 彼らが披露した人器一体の演舞は、戦場となった温泉を賑やかにする。さらに、権兵衛に搭載してある太鼓を打ち鳴らせば、自然と仲間も奮い立った。
 ――声援は、気合と情熱を高めるものだ。
 存分に戦ってもらおう。そう頷き、兵衛は堂々と腕組みをして戦場に――ロボの上に立ち続ける。
 ほんの数秒も経たない間に、鯨の尾が大きく撓る。
「鰭の一撃、きます……っ!」
 隈なく動きを観察していたレザリアが声を張り上げる。
 彼女の注意喚起に、任せろと言わんばかりに強く頷いた兵衛が、どっしりと構えた応援団長ロボの腕を広げる。
 すると鯨の鰭がロボの胸元を叩き、ぐらりと揺れる。見た目に反して凄まじい威力の強打に、しかし応援団長ロボは耐えきった。
 鯨の真正面に居るのは憚られ、レザリアが僅かに俯く。辛うじて視界に鯨が映る程度に抑えながら、素早く五本の矢を編んだ。
 彼女が生む矢は炎で模られ、皓々と輝く温泉に於いても本来の色は霞まない。
 湿る空気にも水分にも負けぬ術士の矢は、まん丸に転がる鯨の軸を貫く。盛らぬ鋭利な魔力の炎で、鯨を模る過去を焼いた。
 すると方向転換した丸い水色鯨が、レザリアへ顔を向ける。
 レザリアはすかさず、湯煙に溶ける淡さで光るヴェールを羽織った。霞に攫われてしまいそうな軽やかさで歩んで、彼女は降りかかる愛の噴気から身を守る。
 そして気持ちよさそうに踊る鯨を、すかさず珂の生んだ氷柱の嵐が遮った。
「幾ら湯に浸ろうと、オブリビオンとなった傷が癒える事はないぞ」
 刺しては融け、掠れては融けていく氷柱に苦しむ鯨へ、珂は言葉を手向ける。
 応えるかのごとく低い声で、鯨が一鳴きした。
 鳴き終わらぬ裡に、晶が地を蹴る。駆けた際に生じる飛沫が地へ落ち切るよりも早く、彼女は囁く。
「大丈夫だよ」
 片手で刀を振り抜けば、響くのは水面を分かつ音。晶の刀が切り開いたのは、湯の壁に挟まれた僅かな道――湯船の底。
 晶はそのまま、短時間ながら潜る底を失った鯨へ仕掛ける。
「楽にしてあげる!」
 目にも留まらぬ速さで斬りあげれば、飛沫がきらきらと宙に飛ぶ。
 直後、鰭が風を切った。高速で振り回す鰭は、飛び込んできた晶めがけて湯を弾き、激しい音を立てて叩こうとした。
 しかしかかる湯も鰭も、晶を庇うようにそびえたつ『権兵衛』の巨体が代わりに受けとめた。
「壱に応援、弐に応援!」
 胸を張った兵衛は、くるりと身を翻した鯨に宣言を浴びせる。
「参、肆も応援! 伍も応援!」
 兵衛が応援で唱導すると、鯨の意識が応援団長ロボと彼へ寄った。
 やまぬ声を消そうとしたのか、鯨の噴射口が向き――その隙を湯を出たガドゥッフが突く。
 雫を握り緊めた拳に、迷いはない。水辺もまた、彼の庭だ。
 渾身の力で鯨を温泉に叩きつけた。甲高い鳴き声が尾を引く。そして吹き上がった湯で、辺り一面が白煙と熱気に覆われる。
 同時に鯨の鳴き声もその姿も、水沫となり消えていった。

●温湯にて
 夕暉が隠れていく山の端。尾根から染み出る赤い光が、猟兵たちに時間の経過を報せた。
 見渡せば、先ほどまでの喧騒が嘘のように、景色が平穏に浸っている。
 湯の周りを眺めていた兵衛も、それをしみじみ噛みしめた。
 応援の声も軽やかに木霊した山中の温泉だ。こぽこぽと湯が注がれる音も、湧き出る勢いある音も、そして岩の湯船から流れ落ちゆく音も、心地好く耳朶を打つ。
「憩いの場というのがよくわかる」
 そう呟いた兵衛の近くで、晶が首肯した。
「これで皆、困らずに済むねっ」
 山麓の住民も旅人も温泉へ気軽に立ち寄れるはずだと、晶は胸を撫で下ろす。
 安心を塗った猟兵たちの顔は穏やかそのものだ。
 そんな中、ガドゥッフは滲みる夕陽を眩しげに望む。
「温泉かぁ……」
 独り言に情は籠めず、定まらぬ視線の先を湯へ落とす。
 ――なんか、みんな憧れてるけど、そんなに憧れる場所なのかなぁ……。
 大海に憧れるひと。川の流れに癒されるひと。湖畔を好むひと。温泉めぐりに精を出すひと。水に関わる景観地は、多くの心を惹きつける。その点が、ガドゥッフには共感し得ない。
 自身が辿った時間のほとんどは、水の揺らぎにくるまれていた。だからかもしれないと、ガドゥッフは片隅でひとり頷く。
 佇む彼と異なり、歩き回るのはレザリアだ。少女の眼は、足場や湯舟の様子を確かめていく。
 戦いにより極端に破壊された箇所はなかった。周りの砂利や草花が湯を被り広範囲にわたって湿っている程度だ。猟兵たちが到着したときと状態に殆ど変化は無く、レザリアは小さくほっと息を吐く。
 一方で珂は、湯に浸かっていた鯨と、山道で通行人を阻んでいた狸兵団の輪郭を脳裏へ浮かべていた。
 ――愛らしいもの。それは世の中で最も手強いものではないだろうか。
 オブリビオンという事実は揺らがず、けれど見目の愛らしさに心は揺さぶられかねない存在。
 そもオブリビオンで無くとも、愛くるしさを形にした存在は人々の脅威となるだろう。なにせ抗う術が少ない。
 巡った思考と浮かんだ絵姿に、小さく珂は唸る。
「……湯気にでも中てられたか」
 戦の音が去った湯の傍で、染みゆく熱を感じ珂は瞼を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『プラネタリウム温泉』

POW   :    温度なんて気にせずに勢い良く飛び込む

SPD   :    景色と温泉を心地よく楽しめる場所をみつける

WIZ   :    星や温泉がより楽しめる知識を披露する

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●星之原温泉
 並んだ低い灯篭が小屋までの道を照らし、僅かな明るさの中をゆく。
 足元ばかりが闇に浮かぶ中、一歩、また一歩と歩んでいけば、漂ってくる温かさと湯煙がより濃くなった。
 小屋は脱衣と、荷を置くための簡易なものだ。余分な置物はひとつもない。
 大小様々な岩の湯舟は夜に沈んでいるが、のぼる湯気も空までは隠さない。
 薄ら雪化粧を施す自然に包まれた温泉は、仰げば満点の星空が出迎えてくれる。
 街の喧騒も、ここにはない。
 こぽこぽと注がれる湯や、流れていく水音が、木々のざわめきと共に在った。

 地元の人に『星の原』と呼ばれる山中の温泉。
 旅人も立ち寄る癒しの場だが、今このひとときだけは、猟兵たちの貸し切りだ。
七詩野・兵衛
アドリブ絡み歓迎。

なぜ鯨の噂が今も認知されているのに、
オブリビオン化したのだろう?(冒頭見過ごし)
少しキナ臭いと思ったのは考え過ぎだろうか。
まあはっきりと定義されていないし気のせいかもしれん。

実は俺は温泉がとても好きでな、
しっかり体の汚れを落としてから湯につかり景色を眺めよう。

誰かと世間話ができるなら、ふと思い出した話をする。
鯨は昔、山に住んでいたという逸話がある。
巨大な手足で山を駆け回り、
その巨体であらゆるものを喰らい、破壊し尽くした。
あまりの傍若無人ぶりに海へと追放されそうだ。
まあ海でも行動が問題視されたらしいがな。

詳しくは知らないが現実的には鯨の祖先らしき生物が
山で見つかっているらしい。


玖・珂
夜空で煌めく星と、水面で瞬く星を観れば成程
天地に亘る様は星の原だ

傷跡など見ても楽しくなかろう
湯煙の暖簾をくぐり探すは足湯と
葡萄の髪飾りを着けた一人の猟兵
――もし手隙ならば一献、付き合ってはくれぬかホーラ

透明な玻璃の酒器に透明な酒を注げば
手の中にも星が満ちる
酒が呑めるか分らなかった故、甘めを選んでみたが……
無理ならば遠慮せず云うてくれ

此れまで何度か顔を合わせてはおったが
何時も往き帰りだけで斯うしてゆっくりするのは初めてだな
実はホーラと話せる機会は無いかと窺っておったのだ

懸想ではないが、此れもひとつの想いに違いない
いつもありがとう

縁が巡ればまた何処かで、声を掛けても構わぬだろうか?


小鳥遊・晶
働いた後の温泉は格別だね。
星空がキレイに見えるベストポジションをキープしたいな。

村の人達もこれで安心して温泉にこれるよね。

星が落っこちてきそうなキレイな星空。
疲れも吹き飛ぶね。

また来たいなぁ。


ガドゥッフ・ルゲイエ
【SPD】でゆっくりと、景色とお湯を楽しめる場所を探そうと思います。
ゆっくりとお湯に浸かりながら、景色が良さそうなところを探していきます。
「ここかな、ここじゃないかぁ……」
 他の人のトリビアとかを聞きながら、すごそうと思います。
 珠に、上を見上げて、星を見て、また、温まったら、一度体を少し冷やそうと思います。
「ふ~ん、温泉かぁ……。なんか、色々あったから、こう言うときにゆっくり休むのもいいかもね」


レザリア・アドニス
温泉は初めてですから、ちょっとドキドキする
えっ、全部、脱がなきゃだめですか…?せめてタオルだけでも…
恥ずかしくて翼で体を隠してしまう
足のつま先で水温を確かめてから、そっと温泉に入っていく
ふわわ~~~これは、とてもいいね…
バスタブよりも、気持ちいいです(ほわわ~んと溶けそう)
暖かいお湯に浸かりつつ、仰いで星空を見上げる
狸、鯨、そしてダークセイヴァーには見えない、この澄んだ星空で
別の世界に行ったことを実感する

雪に湯煙に星空…本当に、絶景ですね…
あの鯨がここに占拠したのも、ちょっと理解できた気がする
ほかの猟兵に話しかけられたり、絡まれたりしたら、少々戸惑っても、ちゃんと返事をする



●小屋にて
 レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、小屋の中でそわそわしていた。
 何分、温泉を楽しむのは初めてのことだ。緊張も拭えずにいる。
 ――ちょっと、ドキドキする……。
 脱衣のための簡易小屋は、文字通り質素だ。
 隙間こそないものの、ここで本当に良いのか、どうするのが正しいのかと、未体験の少女は多少なりとも不安を覚えてしまうようだ。
「えっ、あの、温泉って……全部、脱がなきゃだめですか……?」
 鼻歌混じりで着替えている小鳥遊・晶(緋眼の黒狼・f05955)に、そろりと近寄りレザリアが尋ねた。
 すると晶は、ぱちりと瞬いたのち、なんとも微笑ましげな――満面の笑みを向けてくる。
「だめってことないよ、だいじょーぶっ! 大判の手拭いとか、あっ、その翼もいいねっ」
 晶の視線がレザリアの双翼を捉えた。真白でなくとも、暗がりに優しく羽根の色が浮かびあがる。布よりも厚く、小柄なレザリアの身を隠すのに適した大きさでもあった。
 翼と手拭いで覆えば完璧だよ、と晶が余りの手拭いをレザリアへ差し出す。
 レザリアが小さな声で礼を告げて手拭いを受け取ると、晶は頬を緩めて。
「温泉、満喫しようね!」
 そう笑いながら小屋を出ていく晶の尻尾が、朗らかに揺れる。
 粟立つ肌を急ぎ温めたい晶の足取りは軽く、すぐに湯煙へと消えて行った。

●星灯り
 山の温泉。薄らとした雪景色。満天の星空。
 甘美な響きを醸し出す言葉を、脳内で幾度となく繰り返す。
 ――温泉好きにはうってつけの環境だ。
 澄み渡る空気が生み出した景色でもあるのだろうと、七詩野・兵衛(空を舞う熱血応援団長・f08445)は短く息を吐いた。
 歩けば寒さに肌が強張り、近づく湯舟から漂ってくる水音と湯気に、兵衛の気も逸る。
 温泉の心得のまま彼は湯を木桶で掬い、身体を清めていく。手と足の甲にかけた湯が、焼けるように熱い。服を脱いでから大して時間も経っていないが、冬の外気はあっという間に肌を冷やしたのだろう。
 兵衛は慌てず急がず、手足から順に心の臓までの道を辿り、湯を浴びる。木桶で掬う度、こぼれた粒がぱたぱたと音を立てて辺りを濡らし、一瞬ではあるが地面を温めた。
 乾いていたはずの湯舟の縁も、疾うに湯を受け黒ずんでいる。
 ――これもまた、温泉の醍醐味。
 暗がりではあるが景色の味を噛みしめつつ、兵衛は湯に浸かる。
 全天を染めた濃藍の幕に、ひと際かがやく星々。
 星灯りのみが照らす山中だ。杳たる夜の湯舟をゆくのは、ガドゥッフ・ルゲイエ(キマイラのスクラップビルダー・f01628)で。
 彼は湯煙も掻き分けず、広い湯舟をすいすいと流れていく。
「ここかなぁ」
 泳ぎ慣れているため、跳ねる水音も殆どない。波打たないようゆっくりと進み、度々止まった。
 大地から滲み出た熱が溶け込んだ温泉は、位置によって温度が多少異なる。当然、見渡す景色も。
「ここじゃないかぁ……」
 しっくりくる場所を探したくて、ガドゥッフの身はただ穏やかに流れゆく。
 一方、湯舟の外側――戦いの最中に飛散した湯も湿り、すっかり岩や砂利が冷えていた。
 レザリアはその上を歩き、湯舟までぺたぺたと近寄る。
 夜の闇が深くても、星灯りは健在だ。彼女は広げた翼で、恥ずかしさもろとも身を覆い隠していた。
 そしてきょろきょろと見回し、なるべく人目を避けた場所から、そおっと足の爪先を浸す。昇る湯気からも温かさは知れたが、いざ触れてみれば指先が痺れるように熱い。足が冷え切っている証拠でもあった。
 だからゆっくり、慎重に、レザリアは湯舟に浸かる。濡れた岩で滑らぬよう、湯の熱さに足の感覚が薄れて転ばぬよう、細心の注意を払いながら。
 間もなくして、少女の身も翼も、波打つ湯の底に落ち着く。
「ふわわ……っ」
 思わず、声が零れた。
 そうしてレザリアが吐いた息も、白く煙らない。辺り一帯が温かいおかげだろう。顔を撫でていくだけの湯煙さえ、温かく心地好い。
 片腕で水面を薙ぎ、ちゃぷんと転がる音を耳で楽しむ。沈めた翼の羽一本一本が揺らめき、心なしか上機嫌だ。
 伸ばした両足にじんわり染みていく温もりも、最初こそ熱いと感じたが、やがて快適な水温となった。
 ――これは……とてもいいね……。
 湯舟の外には大自然と、薄く積もった雪。見上げた先に広がるのは、濃藍の星空。
 ふと湯へ視線を戻してみると、揺らめく湯の表面が寒空を映しているのに気付く。
 空を写し取って湯船に沈めたかのようだ。レザリア自身が星空に浸かっていると錯覚しそうになる。
 ――本当に、絶景ですね……。
 遮るものが無い光景と、凍えた身体を癒す温泉。
 あの鯨がここに占拠したのも、ちょっと理解できた気がすると、レザリアは消えたオブリビオンの姿に心寄せる。

 煌然と夜空を飾る星と、そして水面できらきら瞬く星を観て、玖・珂(モノトーン・f07438)は、成程、と意識せず唸った。
 ――天地に亘る様は星の原だ。
 地元の住民が名付けた理由を知る。
 喧騒や灯りから遠く、この地で見る光景だからこそ、人々に癒しのため息を吐かせてしまうのだろうと。
 しかし傷跡など目にするのは楽しくなかろうと、珂は足だけ浸せる岩の器を選んだ。浅めの岩風呂は、ひざ下を浸すに丁度良い。
 足を晒した彼女は、薄闇に認めた姿を呼ぶ――葡萄飾りを髪につけた猟兵、ホーラだ。
「もし手隙ならば一献、付き合ってはくれぬかホーラ」
 珂が軽く掲げたのは酒器だった。煙る湯の中、喜んで、とホーラが微笑む。
 隣へ腰かけたホーラに、珂が手渡したのも同じ酒器。透けた玻璃は夜の闇にも凛としていて、そこへ透明な酒を注ぐ。
「酒が呑めるか分らなかった故、甘めを選んでみたが……」
 無理ならば遠慮せず云うてくれ、と珂が続けると、ホーラはゆるく頷いた。
「甘めの大好きよ。ありがと」
 酒も幾らか嗜むのだと話す彼女に、珂も目許を緩める。
 互いに言葉なき挨拶をかわし、掲げた杯へと口をつける。
「此れまで、何度か顔を合わせてはおったが」
 ゆっくりと、珂が言葉を紡いでいく。
「何時も往き帰りだけで、斯うしてゆっくりするのは初めてだな」
 転送のため見送り、あるいは迎える。
 任を務め、それを果たして日常へ戻るときには、多少の言葉こそ交わせど多くは語りあわない。
 実は話せる機会は無いかと窺っておったのだ。そう話して珂は目を細める。
 するとホーラも僅かに首を傾け、笑みを浮かべた。
「あら、嬉しい。私もお話ししたかったの」
 そうして応えた彼女は楽しげだ。喜びに揺れたのか、手にした杯で酒が波打つ。
 夜の下にあっても仕草は見て取れた。だからこそ、此れもひとつの想いに違いないと、珂は口の端を緩め、そしてこう伝える。
「いつもありがとう」
 礼を告げる声は、酒が喉をするりと流れるのと同じように、自然と零れた。
 珂が、発した言葉の代わりに酒器を傾ければ、ホーラもまた嬉しさを飲む。
「こちらこそ、いつもありがと」
 美酒にか言葉にか陶然と酔いしれたホーラは、甘口の酒で胸をさらに温めていく。
 ひと口、またひと口と話の合間、呼吸をするようにふたりして酒を味わう。
「縁が巡ればまた何処かで……声を掛けて構わぬだろうか?」
 暫くして控えめに尋ねた珂に、もちろんよ、とホーラは嬉々として応じた。

●温泉
「いやー、働いた後の温泉は格別だねっ」
 大きく伸びをしながら、晶が気持ちよく言い放つ。
 晶がキープしたのは、星空も夜に充たされた稜線も望める、ベストポジション。
 目を閉じてみれば夜の闇が。瞼を押し上げてみれば鏤められた光の粒が。晶の心を癒す。
 景色に惹かれ傍に居たレザリアが、顎先まで湯に沈みながら表情を蕩けさせ、首肯した。
「はい……バスタブよりも、気持ちいいです……」
 このままレザリアを放置しておくと、溶けてしまいそうだ。
 晶は彼女の様子に小さく笑いつつ、山麓で眠る人々を想う。
「……村の人達も、これで安心して温泉にこれるよね」
 ぽつりと呟いた。
 温泉の温かさだけではなく、安堵からくる快美の感覚にも、全身が呑まれていく。
 ぼんやりと仰ぎ見た空は、いつもと同じで高い。
「星が落っこちてきそう」
 晶は夜空に見蕩れ、そのまま唇を結んだ。
 一方のレザリアは、今日だけで出会った存在を思い返していた。なんだか楽しげな狸とパンダの一団。まるまるとした鯨。
 そしてダークセイヴァーにいるときには望めない、澄んだ星空。
 ――来ているんですね。別の世界に。
 澄んだ空は心を解す魔術みたいだと、レザリアは実感した。かつて研究していた魔術とは違うものだと、理解はしている。
 それでも、なにげなく見上げた星空は人の足を止め、世のしがらみから人の思考を解き放つ気がした。
 しみじみと感じ入ったレザリアは、ゆっくりまばたきを繰り返す。
 そういえば、とふと思い出した話を口にするのは、少し離れたところで浸かっていた兵衛だ。
 山に住んでいたという鯨の逸話を、彼は綴りだす。
「巨大な手足で山を駆け回り、その巨体であらゆるものを喰らい……破壊し尽くしたという」
 淡々と紡ぐ兵衛の語り口調は、宵に似合う落ち着いたもので。
 近くにいたガドゥッフも、興味を寄せ耳を傾ける。
「あまりの傍若無人ぶりに、その鯨は海へと追放されそうだ」
 山から遠ざかった鯨の身を思い浮かべ、兵衛は瞳を揺らす。
 昔話に、追放はつきものだ。
 だが故郷とも呼べる山を離れた鯨は、追放した側をどう思ったのか。
 そんな謎が、逸話を聞いていた猟兵たちの頭を過ぎる。
「……まあ、海でも行動が問題視されたらしいがな」
 一度身を任せた温泉に、兵衛は再度心身を委ねた。言い知れぬ力に守られている気がする。
 詳しくは知らないが、と前置きしたうえで兵衛は唇を震わす。
「現実的には鯨の祖先らしき生物が、山で見つかっているらしい」
 夢のある話か、或いは御伽噺だとして呑み込むか。
 考えを各々に委ねて、兵衛は肩まで浸かり直す。
「……なんだか、すごそう」
 腰を落ち着かせていたガドゥッフは、語られた話にぱしぱしと瞬いた。
 そして湯口からあふれ出るこぽこぽとした音と、木々のざわめきに耳を傾ける。
 息を整えた兵衛はそこで、ずっと引っかかっていた点を静かに口にした。
「なぜ鯨の噂が今も認知されているのに、オブリビオン化したのだろう?」
 彼の放った疑問に、仲間たちも唸った。
 村に住む女性たちは、いくら昔と状況が異なると言えど、鯨の影にまつわる話を今も信じている。さらに、尋ねてきた人にも話す程度には浸透している噂話のはずだ。
 何が廃れ、何が過去となり、そしてどの過去がオブリビオンとなって骸の海から還ってきたのか。
「少し、キナ臭いと思ったのだが……」
 考え過ぎだろうかと、兵衛は顎を撫でる。
 それまで口を閉ざし、湯浴みと昔話を堪能していたレザリアが、言われてみると気になる、と控えめに呟く。
 傍らで晶も、大きな目をくるくる動かして考えた。
「んー。考えてもふわっとしちゃう。たしかに気になるね」
 村の人に聞いてみたら手がかりとかあったのかな、と首を傾ぐ晶に、兵衛はなるほどと顎を引く。
「はっきりと定義されていないからな、気のせいかもしれん」
 そうして話が一段落すれば、彼らはまた心地よさに籠もりはじめる。
「……また来たいなぁ」
 吐息に気持ちを交えて吐いた晶は、まだ明けぬ星空を瞳に映す。
 色濃く夜に染まった稜線が、今もまだ、くっきり天と地を分けている。
 眠ったままの山は変わらず静かだ。猟兵たちは次第に口数を減らし、軽くまどろむ。
 流れる湯音と、どこかで鳴く夜鳥の気配から意識を逸らし、ガドゥッフは再び天を仰ぎ見た。
 水中では鮮明に窺えなかった星空を観察すると、手が届きそうだと思い違いそうになる。異様に近く感じてしまうのは、山の中にいるからだろうか。
 やがてガドゥッフは何を捉えるでもなく目線を流し、他の猟兵たちの意識を邪魔しないよう、徐に湯から上がった。
 長く居留まると、頭の中まで温かさに充たされ、ぼうっとしてくる。
 熱を寒さで冷まそうと湯船から少し離れてみると、自身からもくもくと湯気が出ていた。余程ながく温浴していたのか、総身を撫でゆく冬の風さえ気持ちが良い。
 温泉かぁ、とガドゥッフは流れ込む温泉の音に、呟きを紛れ込ませた。
 ――なんか、色々あったから。こういうときにゆっくり休むのも、いいかもね。
 いつかに首傾げた想いも、今の彼には無い。
 零れ落ちそうなたくさんの星たちは、そんな猟兵たちをいつまでも見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月21日


挿絵イラスト