アポカリプス・ランページ⑤〜国破れれど、妄執は死せず
●砂行かば、鳥食む屍
ソルトレイクシティ西方に広がる広大な砂漠地帯の一角。旧世界ではユタテストアンドトレーニングレンジと呼ばれたそのエリアは、白い砂に覆われた軍事試験訓練地域であった。
四万九千平方キロメートルという、日本の九州と四国の半分を合わせた面積を持つ砂の海に、一隻の巨大な戦艦が遊弋していた。
全長約270メートル、全幅約40メートルもの巨体を持つ彼女は、大和型をもってその完成を迎えた日本型戦艦の優美さを継承した、堂々たる巨大戦艦であった。
その頂部直下存在する昼戦艦橋にて、世界が破滅する以前に実質的な滅びを迎えた国家の軍服をその身に纏った男が呟く。
「海行かば、水漬く屍。山行かば、草生す屍。……砂を行く我らの末は、さしずめ鳥食む屍か」
かつては万葉集に詠われ、それからおおよそ千年後には国家総動員の象徴として歌われた長歌の一節を引用し、自らの行く末を表したその男は、菊の御門が刻印された細巻きを取り出し火をつける。
「皮肉なものだ。甦った帝國海軍が戦うべき戦場が、よりにもよって米国の、しかも砂の海とはね」
自嘲的に微笑む男に名前はない。自らの指揮する巨大戦艦と共に、骸の海から滲出したその男の相貌は、彼の存在そのものが象徴する時代に生きた海軍軍人の顔を均質化したようなものであった。
細巻きを吸い込み、多くの帝国海軍士官が愛した煙草の味を味蕾と肺で味わった彼は、艦橋から見渡せる広漠な白い海を眺める。
この世界には、彼が藩屏となって守るべき国はすでに亡く、彼がその馬前にて倒れるべき大君もまた存在しない。
「寂しいか、<紀伊>よ。 私も寂しい。だが、私たちは此処にいて、倒すべき敵もまた此処に来る。強大な敵手と、お前の様な艦に乗って戦えるというのは、この上なく幸せな事だとも思うよ」
旧世界の妄執と共に、この死滅した世界に仮初の生を受けた男は、僕たる戦艦に語り掛ける。たとえ結末は変わらずとも、少なくとも満足に戦って死ぬるのだ。そこにどんな後悔があろうか。
男と共に滅びを約束された彼女は、ただ黙して陽光の輝く大空へと巨大な砲門を向けるのであった。
●黑鐵の艦隊
「状況を説明いたします」
銀の短杖の杖先を左手に添えながら、奉仕人形ティー・アラベリアは何時ものように無機的な笑みと共に猟兵達に向かい合う。
「ソルトレイクシティ西部、かつては巨大な軍事試験施設であった砂漠地帯に、巨大戦艦を中核とした大規模な陸上艦隊の出現が確認されました。今回の依頼目的は、当該艦隊を撃滅しソルトレイクシティへの侵攻路を確保する事にあります」
無機的なソプラノに呼応する様に表示された立体図が砂漠地帯を映し出すと、そこには巨大な戦艦を中心に、おおよそ十数キロメートルの感覚を保って布陣する、所謂輪形陣に近い航行序列を取る大規模な艦隊の姿があった。
「御覧の通り、艦の外観こそ第二次世界大戦期の軍艦に類似していますが、中身は高度に近代化されています。各種レーダーは勿論、超音速を発揮可能なミサイルの類も大量に積載している様です」
杖先から手を放し、奉仕人形が短杖を振るうと、艦隊中央に存在する巨大戦艦がフォーカスされ、空中にその諸元が表示される。
「艦隊の中核であり、今回の撃破目標となるのは地上戦艦<紀伊>。旧帝国海軍第七九八号艦……所謂超大和型戦艦ベースに建造され、三連装五一センチ砲を三基搭載するこの艦は、攻撃力・防御力共に強力無比。生半な飽和攻撃では傷一つ付けられぬとお考え下さい」
人形の説明と諸元を心得のある者がみれば、<紀伊>が単艦であっても数百発規模のミサイル飽和攻撃に対処可能であることが理解できるだろう。これに、周辺の護衛艦の援護が加わればその防空能力はさらに倍増する。
「しかし、弱点がないわけではございません。敵には"デミウルゴス式偽神細胞"なるものが付与されております。当該細胞には、オブリビオンの戦闘力を飛躍的に向上させる一方、"ユーベルコードを使用するたびに自壊していく"という特性が発見されております」
つまるところ、猟兵が敵の攻撃に耐え続けていれば、自然に敵の戦闘力は減衰していくのだ。最悪攻撃を加えずとも、防御に専念すれば勝利は猟兵達の物となる。
「艦隊の中核をなす<紀伊>さえ撃破すれば、艦隊は自然消滅いたします。防御を掻い潜って一撃を加えるもよし、ひたすら持久するもよし、皆様の特性に合った戦闘をお楽しみくださいませ」
どちらにせよ、他の猟兵の皆様との連携を意識することを強くお勧め致します。そう言って奉仕人形は説明を締めくくると、赤黒い輝きを放つグリモアを起動させる。
「それでは皆様、良い戦場を。どうかご無事で帰還なされますよう」
あーるぐれい
●ごあいさつ
ごきげんよう皆さま。あーるぐれいでございます。
今回は、超巨大戦艦を中核とした地上艦隊への殴り込みになります。
何も考えず殴りに行くもよし、ひたすら持久するもよし、自分の特性に合った戦法で楽しくジャイアントキリングをしましょう。
●補足情報
敵の艦隊は戦艦を中心とした輪形陣を構築しており、中核たる<紀伊>を護衛しています。
攻撃するにせよ防御するにせよ、連携が取れた艦隊の攻撃を如何に処理するかがカギとなるでしょう。
また、戦場は広大ですが、どこにいても<紀伊>の主砲およびミサイルの射程内となります。
●プレイングボーナス……超強力な攻撃を耐え凌ぎ、敵の自壊を誘う。
他の猟兵さんとの連携を指向すれば、より多くのボーナスを得ることができるでしょう。
●プレイング受付と採用人数について
オープニングが公開され次第直ちにプレイングの受付を開始いたします。
戦争シナリオですが、今回は三日のキャパシティの範囲で可能な限り採用させていただきたく思います。
第1章 ボス戦
『『陸上戦艦』紀伊』
|
POW : アポカリプス・ランドフリート
【技能【艦隊(周囲にLv×1隻の主砲や地上】【魚雷で敵を攻撃する護衛艦を配置する)】を】【発動した後、護衛艦で輪形陣を構築する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 鋼鉄の咆哮
【技能【艦隊】を発動した後、主・副砲の砲弾】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【主砲・副砲で連続砲撃を行う、砲戦モード】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ : 弾丸雨注の領域
【技能【艦隊】を発動した後、対空火器の砲身】を向けた対象に、【主砲の榴散弾を含めた、弾幕を展開する事】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:8mix
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リア・ファル
(真の姿:SSWの宇宙戦艦)
親愛なる、どこかの世界の同胞よ
戦艦として、明日を目指すモノとして
「今を生きる誰かの明日の為に。…機動戦艦ティル・ナ・ノーグ、現実空間へマテリアライズ!」
ボクのできる手向けだから
【星の彼方の妖精郷】!
攻勢にせよ凌ぐにせよ、ボクが全力で味方の連携から、
敵戦力分析、周辺索敵、電子戦まで賄ってみせよう
(ハッキング、情報収集、学習力、ジャミング、集団戦術、航海術、戦闘知識、道案内)
弾幕を張りつつ、重力砲や荷電粒子砲でカウンターを入れて
空間干渉防壁で致命的な損耗は避けよう
(操縦、空中戦、カウンター、オーラ防御、弾幕、レーザー射撃、砲撃、援護射撃)
静かな眠りが訪れますよう
(祈り)
リーヴァルディ・カーライル
…あの巨大な鉄の戦艦が旧式とはね。異世界の技術力にはいつも驚かされる
…防戦一方で耐え忍ぶというのはあまり趣味じゃないけど、
明確な弱点があるのなら、そこを突かない道理は無い
…お前が自壊するまで付き合ってあげるわ
UCを発動し「演算、御使い、魔動鎧、地縛鎖、飛翔、岩肌、魔光、土竜、盾、軍略」の呪詛を付与
地の魔力を溜め●防具改造を施した無数の「盾の呪詛」の浮遊盾を●瞬間思考力を駆使して操り、
●空中戦機動の早業で●誘導弾のように他の仲間を追跡して●かばう●集団行動を行い、
敵の攻撃を●トンネルを掘り再生する●地形の利用した砂の●オーラで防御する●盾で受ける
…幾らでも撃って来なさい。材料なら幾らでもあるもの
桐嶋・水之江
あらあら、バトルシップ?
じゃあワダツミでお相手…と言いたいところだけれど、流石に戦艦相手に正面から撃ち合うようには作ってないのよね
おまけに取り巻きもいるんでしょう?
まあ、耐えれば勝手に自壊するなら戦い様はあるわよ
地平線を盾にして迎撃に専念しましょう
弾道予測なんて私の解式があれば造作も無いわ
全部処理してたら弾薬消耗がマッハだから命中コースの砲弾だけを各砲座で撃ち落とすわ
細かい損傷はプロテクトフィールドでガードよ
私はエレノアに乗ってずーっとジャミングを掛けておくわ
長距離戦でレーダーを潰すのは基本中の基本だもの
自壊の兆しが見えてきたら地平線からひょっこり艦首を出してハイパーメガビーム砲でトドメよ
フランツィスカ・リュッツオウ
◎アドリブ連携歓迎
艦隊戦、か。スツーカでも引っ張り出してくれば良いのだろうが、生憎と私は制空戦闘仕様なのでな。
さて、どうせ攻めたものか。
兎にも角にも足回りを使わねば始まらん。敵艦隊上空にて対空弾幕を掻い潜りつつ、先ずは様子を伺う。
陸と海ではそもそもからして砲のサイズが違い過ぎる。況んや、航空機用の機関砲なぞ、奴からすれば豆鉄砲も良い所だ。
となればやはり、自らを砲弾とする他無し。十分な高度を稼いだ後、敵艦に向けて緩やかな降下軌道を取る。
位置エネルギーを速度へ転換して迎撃砲火を掻い潜りながら、喫水線下目掛けて吶喊。
そのまま内部機関を蹂躙し、逆舷から飛び出し再び上昇しよう。
悪いが心中する気はないぞ。
火土金水・明
魔法の箒に跨って【空中戦】の技能を使用します。
「相手は『陸上戦艦』ですか。ひとまず、他の猟兵の方々が上手くやれるように囮役として上空から攻撃を仕掛けましょう。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃方法は、【高速詠唱】で【貫通攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【限界突破】の【ホーリーランス】を【範囲攻撃】にして、『『陸上戦艦』紀伊』と艦隊全体を巻き込めるようにして【2回攻撃】をします。相手の攻撃に関しては【残像】【オーラ防御】【第六感】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでも相手にダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。
ヴィクティム・ウィンターミュート
はぁーあ、クソめんどくせーなぁ
戦艦相手なら潜り込んでどうこうするのが俺のやり方なんだが…
それをやってる暇はねーし、何より防がなきゃ被害甚大か
しょうがねぇ、一つ気張ってやるとするか
何よりも砲撃が面倒だ これをどうにかしない限り耐えきれねえ
──『Reflect』、障壁多重展開
まずはドーム状に展開して、弾く
そっからそれぞれの弾道を反射板で制御して、次の砲撃にぶつけて相殺
ただただこれを繰り返しで、時間を稼ぎ続けよう
…とはいえ、何時までもやり続けるとニューロンがパンクする
オイ!弾いた砲弾誰か処理してくれねーか!流石に俺にも少しの休みが要る!30秒で良い!愛すべき味方ども!その間頼んだぜ!
●
広漠な砂漠に展開する大艦隊を全周から包囲するように展開する猟兵達の中で、最初に行動を開始したのは艦隊中枢に位置する<紀伊>から見て左舷方向、西側に布陣した猟兵の一団であった。
「今を生きる誰かの明日の為に。…機動戦艦ティル・ナ・ノーグ、現実空間へマテリアライズ!」
決意と共に発せれらた詠唱と共に、一隻の大型航宙戦艦<ティル・ナ・ノーグ>が、雲一つないアポカリプスヘルの空に出現する。
詠唱の主は<ティル・ナ・ノーグ>のヒューマンインターフェース型、中央制御ユニットにして猟兵でもあるリア・ファルであった。
「親愛なる、どこかの世界の同胞よ。 戦艦として、明日を目指すモノとして、ボクに出来る手向けを送りましょう」
<ティル・ナ・ノーグ>のセンサーと同期したことで<紀伊>の存在をより明確に感じとった彼女は、誰に聞かせる訳もなくそう呟く。
ともすれば<ティル・ナ・ノーグ>そのものであるリアにとって、敵手であるとはいえ、同じ戦闘艦である<紀伊>の存在に思うところがあるのやも知れない。
「あらあら、バトルシップ? じゃあワダツミでお相手……と言いたいところだけれど、流石に戦艦相手に正面から撃ち合うようには作ってないのよね」
<ティル・ナ・ノーグ>の数キロ程側方に手ずから設計・開発を行った強襲揚陸艦<ワダツミ>を展開する桐嶋・水之江。高度に自動化された<ワダツミ>の操艦機能を生かし、彼女自身はアークレイズ型キャバリア<アークレイズ・エレノア>に騎乗し、電子戦を担うべく母艦と並走している。
「おまけに取り巻きもいるとあっては、ね。 まあ、耐えれば勝手に自壊するなら戦い様はあるわよ」
<ティル・ナ・ノーグ>と同じくスペースシップワールド由来の超技術によって構成される<ワダツミ>とはいえ、あくまで分類は強襲揚陸艦である。真正面からの砲撃戦では些か分が悪いと判断した桐嶋は、水平線を意識して<ワダツミ>の高度を調整することで、最大の打撃力を持つ<紀伊>の砲撃よる被害を最小限にせんと試みていた。
「とはいえ、隠し玉を潜り込ませるためにも、ある程度は派手に動いて見せようかしらね。<ティル・ナ・ノーグ>、こちらは何時でも行けるわ。準備できていて?」
「データリンク、通信強度良好。全レーダー及び重力砲、荷電粒子砲、使用準備よし。電子妨害及び対抗電子戦装備、機動準備よし。本艦はいつでも戦闘状態に移行可能」
「大変結構。では、精々派手に花火を上げましょう」
艦を操る二人の猟兵による通信を合図に、本来ならば宇宙を駆ける戦闘艦は、アポカリプスヘルにおいては極めて珍しい艦隊戦の火蓋を切るのであった。
●
「空に浮かぶ艦が二隻か。空想科学小説でもあるまいに」
二隻の航宙艦を迎え撃つ形となった<紀伊>の昼戦艦橋にあって、男は興味深げに眉を上げる。
<ティル・ナ・ノーグ>と<ワダツミ>は、未だ数十キロ単位で遠方にあり、いくら高い場所にあるとはいえ<紀伊>の艦橋上からは目視することはできない。しかし、艦隊のあらゆるセンサ類と同期している男の知覚は、はっきりと敵手たる航宙艦の姿を捉えていた。
「超文明の兵器ならば、相手にとって不足はない。全力でお相手しよう」
今や<紀伊>の艦橋に留まらず、護衛艦のあらゆる場所で人型の黒い影が蠢いている。<紀伊>の艦長であり、砂上艦隊の司令長官でもある男は、滅び去った海軍の幻影である影たちに向けて命令を発する。
「麾下全艦に達する。方位二ー八ー五より接近する空中艦に対し、砲打撃戦を実施せよ。全火器、全電探使用自由。電子妨害に備え、観測機も順次発艦させろ」
男の命令と共に、<紀伊>の周辺に展開する防空巡洋艦と巡洋戦艦、そして<紀伊>自身の主砲が左へと旋回し、一斉に砲撃を開始する。
高度に近代化されたデータリンク基盤と連動した火器管制システムによって実現される大口径砲の一斉発射は、広漠な砂漠の大気を引き裂く轟音と共に、数十キロ先に存在する敵艦へと飛翔を開始したのだった。
●
敵の攻撃を一身に引きつける役割を背負った<ティル・ナ・ノーグ>の甲板上に、一人の男の姿があった。
黒と紫を主体としたジャケットを乾燥した風に晒しながら、目の前に控える大艦隊を睥睨する男の名は、ヴィクティム・ウィンターミュート。
左右の腕に防御と攻撃用途のサイバーデッキを忍ばせ、脳を初めとして身体の至る所をサイバネ化したヴィクティムは、生身の存在であるにも関わらず、猟兵側の守りの要とも言うべき存在であった。
「戦艦相手なら潜り込んでどうこうするのが俺のやり方なんだが……。それをやってる暇はねーし、何より防がなきゃ被害甚大か」
彼は自らの置かれた状況を、クソめんどくせーなと嘆息交じりに吐き捨てる。しかし、得意な戦域でなくともその能力を十全に発揮する術を心得ているのがヴィクティムという男であった。
「何よりも砲撃が面倒だ。これをどうにかしない限り耐えきれねえ」
眼下の艦隊から発せられる砲声と砲煙。<ティル・ナ・ノーグ>と<ワダツミ>のレーダーが捕らえた無数の飛翔体の内、速度と脅威度の高いもの――即ち戦艦群から放たれた大口径主砲弾――を電脳内部の演算リソースを使用して特定したヴィクティムは、その速度と保持する運動エネルギーの総量から予測針路を算出する。
「──『Reflect』、障壁多重展開」
ヴィクティムが砲弾の予測針路上に展開した障壁は、彼の計算結果に従いあらゆる飛翔体を反射する特性を持つ。無色透明の障壁に接触した第一斉射は、その権能によって弾道を狂わされ、やや遅れて飛来した別の砲弾へと接触。結果として、<ティル・ナ・ノーグ>の進路前方に無数の火球が発生する事となる。
「……チッ、出来んこたぁないがやり続けるとニューロンがパンクしちまう」
発射時の薬量、砲門状態、発射角度、重力や地球の自転によるコリオリ力、風や湿度と言った気象条件。あらゆる変数と数式の塊となって迫る大質量砲弾の弾道を瞬間的に算出し、その運動を望む形に変化させる芸当など、如何に猟兵であっても著しい困難を伴う作業であることは論ずるまでもない。
取りこぼしがあれば大損害が発生する極限の状況下の中で、そのような演算を秒以下の時間でこなし続けるヴィクティムの電脳魔術士としての力量は、その一事をもってこれ以上ないほど示されているといえよう。
「オイ! 弾いた砲弾誰か処理してくれねーか! 流石に俺にも少しの休みが要る! 30秒で良い!」
「任せなさい。30秒と言わず、何分でも持たせてあげるわ」
ヴィクティムの要請に答える形で発せられた声と共に、<ティル・ナ・ノーグ>の甲板上から一陣の黒風が爆炎が支配する空中へと駆ける。
声の主はリーヴァルディ・カーライル。半魔半人の身体を持ち、強大なヴァンパイアを狩ることを生業とする黒騎士であった。
「……あの巨大な鉄の戦艦が旧式とはね。異世界の技術力にはいつも驚かされる」
ダークセイヴァーを主戦場とし、常ならば他の世界への介入を控える彼女にとっては、背後に存在する二隻の航宙艦にしろ、眼前に存在する陸上戦艦の群れにしろ馴染みのあるものではない。
天を引き裂くかのような轟音と共に、超音速の砲弾を投射する鉄の城を前にしながらも、リーヴァルディの瞳に怯懦はない。その驚異的な動体視力と、彼女独自の能力である呪詛よって齎される瞬間思考能力によって飛来する砲弾を見切った彼女は、愛用するグリムリーパーを下段に構えると、真正面から飛来する大型の主砲弾をすくい上げる様な形で両断する。
信管作動距離の遥か手前で真っ二つに両断された砲弾は、暫し自らの状態に気が付くことなく飛翔し、空気抵抗によって断面部から二つに分かたれると同時に爆発する。
「……防戦一方で耐え忍ぶというのはあまり趣味じゃないけど、明確な弱点があるのなら、そこを突かない道理は無い」
元来彼女は狩人である。防御的な戦法に特段の魅力を感じるものではないが、それが最適な戦術である限り選択する事に躊躇はない。
両断した砲弾が爆散する衝撃波を利用して一気に加速を得たリーヴァルディは、地縛鎖・岩肌・土竜・盾という砂漠地帯での防御戦闘に最適な呪詛を発動し、周囲に砂と岩からなる強靭な盾を無数に生成する。
軍略の呪詛から得られる集団戦の知識を用いて、敵の布陣意図を推測した彼女は、砂の盾を想定される火線域に展開し、猛然と放たれる砲弾とミサイル、対空砲の雨を防いでいく。
猛烈な勢いで目減りしていく砂と岩の盾。しかし、薄くなった傍から次の盾が出現し、防御網に開きかけた穴を塞いでいく。
「……幾らでも撃って来なさい。 材料なら幾らでもあるもの」
自らに降り注ぐ対空砲の破片は魔動鎧と魔動鎧、あるいは魔光の呪詛によって迎撃しながら、リーヴァルディは<ティル・ナ・ノーグ>と<ワダツミ>の前進に合わせる形で、着実に防御範囲を前へ前へと押し込んでいく。
致命的な砲弾を弾き返すヴィクティムと、前衛として投射される火力の絶対量を減らすリーヴァルディの連携は、部隊連携と囮の要である二隻の航宙艦を守り抜くことに成功しつつあった。
●
「ここまではおおむね順調ね。そろそろ欲を出してもいい頃合いかしら」
地平線を超えて飛来する対艦ミサイルと小口径の砲弾を迎撃し続ける<ワダツミ>のやや上方、敵艦隊から見れば地平線からわずかに見える程度に機体高度を上げ、レーダー波に対するジャミングを実施している桐嶋は、機体コンソール上に表示される敵艦隊の位置と投射される火力量の推移を分析し、<ティル・ナ・ノーグ>との回線を開く。
「そうだね。ヴィクティムさんとリーヴァルディさんのおかげで、今ならリソースを攻撃にも回せそうだよ」
桐嶋と同様に敵の艦隊運動を注視していたリアもまた、考えることは桐嶋と同様であった。
ヴィクティムとリーヴァルディが構築した強力無比な防空網が敵の熾烈な砲火を防ぎ続けた結果、"デミウルゴス式偽神細胞"の拒絶反応に耐えきれずに爆散する艦がぽつりぽつりと見え始めている。相対的に敵の圧力が弱まった今なら、<ティル・ナ・ノーグ>と<ワダツミ>両艦の火力を攻撃に回すことも可能だろう。
逆を言うなら、この機を逃せばより多くの敵艦が射撃最適位置への遷移を完了し、より多くの火力が投射される蓋然性のある状態でもあった。どちらにせよ、現状維持はジリ貧を意味する。
「決まりね。<ワダツミ>の頭を上げるわ、たたみかけましょう」
「了解、道を拓くのは任せて」
桐嶋の言を容れたリアは、砲弾の迎撃に充てていた荷電粒子砲と重力砲の砲口を地上に存在する護衛艦群へと向ける。
「ヴィクティムさん、敵の進行方向と速力から割り出した未来座標を転送するよ。弾いた砲弾をそこに向かって落とせる?」
「ハッ! 良いじゃねぇか、ただの弾当てにも飽きてきたところだ」
数秒後に飛来した敵艦隊からの斉射に対して、ヴィクティムは再び障壁を展開する。
神経系に増設されたブースターから投与されるアドレナリンによって極限まで引き延ばされた数秒間。その合間に構築された反射障壁は、<紀伊>をはじめとする戦艦群から放たれた砲弾を反射し、敵艦隊外延部に位置する護衛艦に向けて次々と落下していく。
大きくても巡洋艦クラスの艦に対して、<紀伊>の五一センチ砲から放たれる砲火力はあまりにも過大であった。着弾部の装甲板を引き裂いた砲弾は護衛艦のバイタルパート内部で炸裂し、瞬く間に戦闘艦を二つに折れた鉄屑に変換していく。
ヴィクティムによる反射と同時に、敵護衛艦群に向けて指向された<ティル・ナ・ノーグ>の重力砲と荷電粒子砲が一斉に発射される。
最初に効果を表したのは、大気による影響をほとんど受けない重力砲であった。
局所的に極めて大きな重力場を生じさせる重力砲は、着弾と同時に護衛艦の装甲を猛烈な速度で破断させ、命中した艦は着弾点を中心に圧縮されるように圧壊していく。
断末魔の悲鳴にも似た圧壊音と共に、艦体の各所に大きな亀裂を生じさせた護衛艦は、大量に流入した砂によって艦の復元力を奪われ横転。同時に誘爆した弾薬によって次々と爆沈していく。
重力砲に比して大気の影響を著しく受ける荷電粒子砲であったが、<ティル・ナ・ノーグ>の主機関から齎される莫大な電力は、その純粋なエネルギー量によってその影響をねじ伏せた。
比較的近距離の艦に向けて投射された荷電粒子流は、着弾部の装甲を瞬時に融解させ、大規模な破孔を生じさせる。
艦底部に生じた破孔によって流入した砂は、敵艦に大幅な速力減衰を強いる。速力が低下した艦に対して荷電粒子砲の第二射が殺到し、次々と上面装甲を貫徹。内部に格納されていたミサイルや砲弾の誘爆によって生じた大爆発は上部構造物を諸共に吹き飛ばし、艦の戦闘力を根こそぎ奪うことに成功していた。
「――どうか、貴女達にも静かな眠りが訪れますよう」
眼前に広がるは、まごう事なき大戦果である。しかし、それを成し遂げたリアは、幾許かの寂寥感と共に同類へと祈りをささげる。
たとえ、戦うために生み出された戦闘艦として本懐を遂げた末の結果であったとしても、どうか、その眠りが安らかなものたらんことを。それが、<ティル・ナ・ノーグ>とリアの切なる祈りであった。
「さて、後は本丸に一撃を加えましょうか」
付近の護衛艦が無力化され、軸線上に<紀伊>を捉えたことを確認した桐嶋は、<ワダツミ>が持つ強力な対艦兵装、ハイパーメガビーム砲の発射を命じる。
<ワダツミ>の動力を純粋なエネルギー粒子に変換、収束して放つハイパーメガビーム砲は、発射と同時に超音速を軽々と突破。大気による減衰を受けながらも光速の数十パーセントの速度で<紀伊>の側舷装甲へと命中する。
<紀伊>の側舷装甲板へと着弾したビームの奔流は、瞬時に厚さ二五〇ミリを超える複合金属を気体へと昇華させ、発生する蒸気圧と熱によって数百倍に膨張した大気圧とが周囲の装甲板を破断。ビームの熱量によって融解させた面積以上の破孔を、彼女の艦体に生じさせることに成功したのだった。
●
「怪力線、これ程とはな……。損害報告急げよ!」
ハイパーメガビーム砲の直撃によって生じた損害は、左舷装甲の貫徹とそれによる大量の流砂の侵入による艦体の傾斜及び速力の減衰であった。未だ報告はないが、もしかすると妨害を受け続けている電探にも損害が生じているかもしれない。
しかし、未だ<紀伊>の戦闘力は健在であった。艦の一時的な傾斜は右舷側に流砂を取り入れることによって復元し、電探が故障したとしても最悪手動照準を行えばよい。
「これしきで沈む<紀伊>ではない、第九斉射、諸元修正が完了次第ただちに撃て」
男は猟兵達の手際を称賛しつつも、未だその戦闘力の大半を保持している<紀伊>に対しても自信を深めつつあった。
「艦長、本艦右前方に対空目標を認む!」
「右前方……しまった、あれはブラフか!」
対空見張からの報告に、男は咄嗟に双眼鏡を掴むと、右前方に視線を送る。
「右舷対空砲座、仰角七〇度、射撃距離一〇だ、照準出来次第各個に撃て!」
自ら視認した目標に対して矢継ぎ早に対空射撃の命令を下す男であったが、その相貌には苦笑が張り付いている。
「空想科学の次は幻想文学と来たか。まったく、個性に富んでいる」
双眼鏡を通して見える男の視界には、魔法の箒に美しい身体を預け、空を舞う一人の魔女の姿があった。
●
「相手は『陸上戦艦』ですか」
古めかしくもよく手入れされた箒に身を預け、自在に空を舞う魔女は火土金水・明であった。
二隻の航宙艦と二人の猟兵による陽動によって生じた隙を生かし、残像を駆使しながら敵艦隊の防空網をすり抜けた彼女は、見事艦隊中枢へと到達し、対空防御の意識が一時的に失われた<紀伊>の右直上に遷移する事に成功していた。
如何に陽動が巧妙であるとはいえ、厳重な対空見張の目を欺き続けた彼女の魔術の冴えは尋常ではない。それは、幻惑ではなく攻撃においても同様であった。
「ひとまず、他の猟兵の方々が上手くやれるように上空から攻撃を仕掛けましょう」
明の言と同時に、無数の光槍が彼女の周囲に現出する。彼女の莫大な魔力によって編まれた千を優に超える聖なる槍は、アポカリプスヘルの乾いた空に光鱗を描きながら飛翔し、幾何学的な複雑さと魔術的美しさを備えた恐るべき刃と化して一斉に<紀伊>へと襲い掛かる。
側舷二五〇ミリ、最も強固に守られた主砲の垂直装甲に至っては五〇〇ミリ以上の装甲厚を誇る<紀伊>に対して、如何に高密度の魔力で編まれた物とは言え一本の魔槍では歯が立ちようもない。
しかし、これが同一箇所に十本、百本と続けばどうか。徐々に刻まれていく装甲の亀裂は次第に大きく広がり、遂に魔力の槍は副砲周辺の装甲を食い破ることに成功する。
刻まれた装甲の亀裂から副砲塔内部に到達した魔力の刃は、刃その物の魔力によって副砲を使用不可能に追い込むと同時に、砲塔内にある砲弾を誘爆させ、副砲をその砲塔ごと一個の爆弾に仕立て上げることに成功する。
猛烈な音と共に<紀伊>右舷に備え付けられていた副砲が爆発し、周辺の装甲がめくり上がる。
その痛々しい傷跡は、<紀伊>の火力の一部が永遠に喪失したことを示すと同時に、周囲の対空砲座が使用不能に陥ったことを表していた。
「まずは一つ。後続のために、少しでも相手にダメージを与えませんとね」
副砲の仇を取るべく一斉に放たれた対空砲弾は瞬く間に明の周辺で炸裂し、彼女の身体を無残な肉塊に変じさせたかに思われた。
「残念、それは残像です」
果たして、爆炎の収まった位置に明の姿はなかった。
彼女の実体は大魔法の発現後既に別位置へと移動しており、対空砲の照準を受けていたのは彼女が作り出した幻影であった。
「さて、これで一定の打撃は与えられたようです」
対空砲火をいとも簡単に回避して見せた明になおも殺到する火砲。その火線が彼女を捉えるかに見えたまさにその時、艦隊中枢まで進出していたリーヴァルディの盾の呪詛が、砂の防壁と化して明を護る。
「――まぁ、私たちもまた囮なんですけどね」
リーヴァルディの盾による援護を受けながら、再度反転して対空砲へと攻撃をかける明。その視線は、はるか上空を捉えていた。
●
「――艦隊戦、か」
艦隊のはるか上空。世界が世界であれば打ち落とされるような超高高度にその鋭角的な躯体を置きつつ、一人笑みを浮かべる猟兵。その名をフランツィスカ・リュッツオウ。彼女こそこの一連の攻勢の詰めを務めるべく転移した猟兵であった。
「スツーカでも引っ張り出してくれば良いのだろうが、生憎と私は制空戦闘仕様なのでな」
相手は巨大戦艦である。元来が制空機である彼女の武装が如何に強力と言えど、そもそも用途が異なるのだからどうしようもない。あの巨艦に三〇ミリを打ち込んだところで、豆鉄砲も良い所であろう。
本来であればどう攻め込んだものかと頭を巡らせる場面ではある。しかし、ことこの戦場においては、既に最適解とそれに対するお膳立ては十分すぎるほどに為されていた。
「ここまで道を引かれたんだ。となればやはり、自らを砲弾とする他無し」
一つ息を吸い、精神を研ぎ澄ませたフランツィスカは、最大の運動エネルギーを持って敵艦に突入すべく慎重に突入角度を調整する。
最適な突入角を確保した彼女は、エンジン推力を最大まで引き上げ、その推力と共に猛烈な勢いで自らが保持していた位置エネルギーを運動エネルギーへと変換していく。
超高高度に身を置いていたにもかかわらず、猛烈な勢いで海面が迫る。音速はとうに超え、常人であればとうに身体が分解している極超音速へと至ったフランツィスカは、一歩間違えば一瞬で空中分解するその身を慎重に操り、<紀伊>の脇腹、<ワダツミ>の砲撃によって大きな破孔を生じさせた部分へと突入する。
猛烈な音と衝撃ともに突入するフランツィスカに対しては、如何に<紀伊>の装甲が強靭であるとはいえ成す術はなかった。
突入の衝撃と叩きつけられた運動エネルギーによって融解した装甲を手にした長剣で両断し、バイタルパート内部、軍艦にとって最も重要とも言える機関部へと侵入したフランツィスカは、通過する刹那の合間に長剣を振り抜き、もう一方の手に持つ三〇ミリを四方へとばらまく。
時間にして数秒にも満たぬ、まさに疾風怒涛の攻撃。その威力は<紀伊>の機関部に深刻な損傷を与え、度重なる攻撃によって減衰していた速力をさらに減殺する事に成功する。
「悪いが心中する気はないぞ」
左舷破孔部から侵入したフランツィスカは、その有り余る運動エネルギーをすべてぶつける形で右舷装甲板――明が破壊した副砲付近の装甲――を内部から食い破る。
明の攻撃によって破断が生じていた装甲板がフランツィスカの吶喊に耐えきれるはずもなく、突入部であった左舷装甲板と同様融解。
先ほどと同様の要領で溶けた装甲を切り払い、脱出するフランツィスカ。彼女に追いすがる対空砲火は、リーヴァルディが作り出す砂の盾と明の援護射撃によって防がれる。
あれだけの吶喊を行ったにもかかわらずほぼ無傷で脱出を果たしたフランツィスカは、リーヴァルディと明と共に<紀伊>の防空圏外に離脱しつつあった。
●
「……敵ながら賞賛に値する。こうでなくてはな」
時間にして半刻程度の戦闘であるにもかかわらず、六人の猟兵による緻密な連携によって生じた損害は甚大であった。
艦隊左舷方向に展開していた多くの護衛艦を失い、<紀伊>自身もまた、多数の対空火器と副砲一基、そして機関部に大きな損害を受けたのだ。
中でも機関部の損害は応急修理が不可能な程に深刻であり、彼女の発揮可能な最大戦闘速力を三二ノットから二〇ノットにまで低下させていた。
「だが、まだ我々は戦える。もとより戦艦とは、そういう物だ」
未だ<紀伊>の強大な主砲は全て健在であり、防空にしろ対艦にしろミサイルの残弾も潤沢である。
<紀伊>のバイタルパートが致命的なまでに損傷するか、"デミウルゴス式偽神細胞"の反動で自壊するその時まで、力が続く限り戦い続ける。
どこまでも純粋で先の無い目的を持つ一人と一隻は、深く傷ついた身体を引き摺りながら、新たなる敵手に対して砲門を向けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メレディア・クラックロック
地上戦艦とか無茶苦茶だなあ、まったく!
人の身で戦うモンじゃないでしょうに!
…けど、だからこそ遣り甲斐はある。
落としてやろうじゃん、巨大戦艦!
近代化されてるってことは内部に電子機器使われてるんでしょ?
それならボクの独壇場だよ。【Green garnet】――イグニッション!
って言ってもボクが狙うのはひとつだけ。
火器管制機構だ。
そこさえ掌握すればこっちの思いのままさ。
ミサイルをあらぬ方に撃つことだって、主砲を味方に向けることだって!
そこまで出来なくても味方に向けられた砲撃を阻止できれば十二分。
火力って強みを封じれば巨体はタダの的さ。
これがボクの戦い方。
蘇ってきたキミは満足してくれたかい?
天城・千歳
【POW】
絡み・アドリブ歓迎
陸上艦隊との艦隊戦なら私の出番ですね。
戦場周辺にサテライトドローン群を展開し、通信・観測網を構築。
UCを発動し陸戦艇部隊を召喚、梯形陣を展開し防御力を向上。
ドローン群、艦隊及び自艦のレーダー、センサーによる【索敵】【偵察】で【情報収集】を行い、収集した情報を元に【戦闘知識】【瞬間思考力】で最適の艦隊運動を行います。
並行して【ジャミング】【ハッキング】を行い、敵艦隊の戦闘行動を妨害しつつ、【誘導弾】の【一斉発射】による【弾幕】【制圧射撃】で【先制攻撃】を行い、以降は各種搭載火器の【砲撃】【レーザー射撃】【属性攻撃】で攻撃。
敵の攻撃は電磁フィールドと【推力移動】で対応。
ミスト・ペルメオス
・SPD
――行くぞ、ブラックバード。
愛機たる機械鎧(人型機動兵器)を駆って参戦。
装備を介して念動力を活用、機体をフルコントロール。
スラスターを駆使して飛翔、空中より敵艦隊に挑む。
三次元的な戦闘機動による回避、ビームシールドによる防御などで対空射撃を凌ぎつつ敵艦隊上空に進出。
ドレッドノート・デバイスの砲撃で護衛艦を狙い撃ちもするが、
本命は敵主力艦の主砲による砲撃に合わせて展開する【シュラウド・ジャンプドライブ】。
隔てた2点を異次元を介して繋ぐサイキックゲート、その一方を砲撃の射線上に。
――もう一方を、敵主力艦またはその付近の護衛艦の直上に。強烈な一撃をそのままお返しして、力を削がせてもらう……!
菫宮・理緒
アドリブ・連携諸々OK
砂の艦隊、だね。
【ネルトリンゲン】で出るとしても、戦力はむこうのほうが断然上。
だけど、こっちにも仲間がいるからね。
わたしはみんなが戦いやすくなるように援護していこう。
『艦隊』だし、まずは連携を崩すよ。
【E.C.M】を『紀伊』を中心に使用して、通信や火器管制、レーダーなど電子機器の動作を阻害して、できればシステムにダメージを与えたいな。
ミサイルは【M.P.M.S】の対空砲火で撃ち落とすとしても、問題は三連装の五一センチ砲だね。
一撃はないと思うけど、それでもたくさんもらうと危険だよね。
砲撃は躱せるだけ躱して、当たったらダメージコントロール。
だいじょぶ!みんなを信じて耐えるよ!
トリテレイア・ゼロナイン
この戦場では最適ではありますが
…出来れば使いたくなかったですね、この艇は
(贈り物だから)
飛空艇ドゥルシネーアの甲板に仁王立ち
電脳禁忌剣を突き刺し●ハッキング飛空艇操作でワンオペ
剣の電脳魔術で出力●限界突破
天使核砲で護衛艦を●砲撃
●推力移動で戦域を高速飛行
艤装の一部を花弁に変換しバリア形成
ミサイルや砲、弾幕を盾受け防御
射程内の護衛船は出力バリアを極薄の刃として用い解体
この艇の役割は機動力と砲を活かした目を惹く囮
そしてバリア用いた盾
味方をかばい紀伊への攻撃を援護
…囮も兼ねて突撃いたしましょう
防御力場を展開し衝角突撃(捨て身の一撃)
サイズ差で主砲の一機が限度でしょうが…
削り取らせて頂きます
●
近代的な戦闘における最重要の要素とはなにか。
もっともわかりやすいものは軍艦が持つ大小の火砲であろう。この戦場においては<紀伊>の持つ五一センチ三連装砲や、護衛艦が持つ対艦ミサイル、或いは猟兵達が操る異能や超技術を用いた火砲もそれにあたる。
それらは確かに戦場における重要なファクターではあろう。しかし、最重要の要素ではない。
では、戦場において勝敗を左右するもっとも致命的な要素はなにか。
<紀伊>を中核とする大艦隊。その右舷方向から攻撃を仕掛ける猟兵の一団は、それを最もよく理解した者が集まる一群であった。
●
「陸上艦隊との艦隊戦なら私の出番ですね」
核融合炉を動力とする大型陸上戦艦<愛鷹>にとって、砂の海とも言えるこの戦場は最も行動に適した地形であった。
<愛鷹>を操る猟兵、天城・千歳は、とある航宙戦艦の自立型コアユニットであるが故に、敵手である<紀伊>を操る男と同様手足のように艦隊を操る能力を持った存在である。
「陸戦艇艦隊展開! 本艦を中心に陣形を組め!」
彼女の能力によって展開された陸上艇は百を上回り、右舷外周に展開する敵艦隊の戦力とほぼ伯仲する。
千歳はその思念によって操る艦隊を手早く運動させ、敵艦隊に向けて梯形陣を取らせながら接近する。
彼女が展開したのは陸上艇の大艦隊だけに留まらない。猟兵達が担当する戦域すべてをカバーする形でサテライトドローン群を展開し、衛星の支援が得られず、なおかつ広漠なこの戦場に即席の索敵とデータリンク基盤を構築する事に成功したのだった。
●
「……砂の艦隊、だね」
ミネルヴァ級戦闘空母<ネルトリンゲン>を千歳が展開した艦隊直上に展開させた菫宮・理緒は、地平線の果てまで続くかのように思われる――そして、事実としてその通りである――艦隊を、同艦の戦闘指揮所から見渡す。
多くの艦に囲まれ、黒煙を噴きながらも未だその揺るがぬ威容をもって艦隊の中枢たる<紀伊>の姿は堂々たるもの。如何にスペースシップワールドに由来する航宙艦と言えど、眼前に展開する敵との戦力差は歴然である。
しかし、それを正確に理解してなお、理緒の闘志は揺るがない。たとえ独力では限界があろうとも、この戦場には志を共にする多くの猟兵がいるのだ。ならば、自分は自らの長所をもって勝利に貢献するまでの事。
「こっちにも仲間がいるからね。 わたしはみんなが戦いやすくなるように援護していこう」
そして、理緒の操る<ネルトリンゲン>には、信頼のおける力量を持った仲間が乗り合わせていた。
●
「地上戦艦とか無茶苦茶だなあ、まったく! 人の身で戦うモンじゃないでしょうに!」
空母<ネルトリンゲン>の通信室を間借りした電脳魔術師、メレディア・クラックロックもまた、モニタを通して見える敵艦隊の規模に感嘆とも呆れとも言えぬ言葉を漏らす。
主たる目標である<紀伊>はおろか、その護衛艦ですら生身の人間が挑めばひとたまりもない。彼女の言の通り、真っ当に戦えば超常的な戦闘能力を持つ猟兵や、座上する<ネルトリンゲン>の様な大型艦を保有する猟兵でもなければ相手にする様な敵ではない。
「……けど、だからこそ遣り甲斐はある」
しかし、そのような敵に対しても、電脳魔術師であるメレディアは自身の能力を十全に発揮できると確信していた。
相手が近代化されているという事は、即ち複雑な電子機器に依存した存在であると同義である。例えどれ程厚い装甲や強大な火砲があろうとも、電子戦という戦場を征してしまえばその能力は大幅に減衰する。
近代的な戦場におけるもっとも重要な要素。即ち、電磁スペクトラム階梯における優勢を確保する上で、彼女以上に強力な猟兵はそう多くない。
そして、奇しくも別の戦場で肩を並べた猟兵である理緒もまた同じ戦場に身を置いているのだ。
「――落としてやろうじゃん、巨大戦艦!」
自身の能力をもって巨大戦艦を無力化して見せる。メレディアは確固たる決意と共に<ネルトリンゲン>の通信電子妨害機器へと意識を共有するのであった。
●
「敵艦隊前衛、対艦ミサイル射程圏まで後一〇〇〇。<ネルトリンゲン>、準備はいかがですか?」
「こちらはいつでもいけます。メレディアさん、そちらも大丈夫?」
「準備万端。タイミングは任せるよ、ご両人」
戦闘序盤の要となる三人の猟兵は互いに準備が整ったことを確認すると、刻一刻と迫る敵艦隊に向けて各々の砲門を開く。
「では始めましょう。麾下全艦に達する。データリンク指示の目標に向け、対艦ミサイル攻撃はじめッ!」
戦闘の火蓋を切ったのは、千歳が指揮する<愛鷹>とその隷下の陸戦艇群から放たれた数百発単位の対艦ミサイルであった。
高い水準で整備された対艦ミサイルは九八パーセントという驚異的な稼働率をもって敵艦隊に向かって飛翔する。
同時に敵艦隊からは迎撃用の防空ミサイルと共に、一部の護衛艦からは同士討ちも覚悟で対艦ミサイルが放たれる。"デミウルゴス式偽神細胞"の力もあってカタログスペック以上の性能を発揮した敵ミサイルは、同じく敵艦隊のデータリンクを通じて指示された目標に向かって飛翔する。
性能、火力共に伯仲するミサイル群。近代戦において、ミサイル戦のように数秒以下の判断が必要となる領域においては、人間の意思ではなく、あらゆるセンサー類と連動した火器管制システムの機械的な判断によってほぼすべての攻撃が制御される。
その様な環境下において、理緒が操る<ネルトリンゲン>と、電脳戦に特化したメレディアの存在がいかに致命的な存在であるかは、次の数十秒間に生じた事象が雄弁に物語っていた。
「その連携、崩させてもらうよ。 "E.C.M"、起動!」
<ネルトリンゲン>から放たれる強力なECМ攻撃は、電波妨害装置の有効射程内に存在する敵艦の火器管制レーダーに強力なジャミングを仕掛けると同時に、敵ミサイル群のシーカー部分に対して致命的な影響を及ぼしていく。
母艦からの火器管制レーダーに頼る大半のミサイルは、レーダー波消失と共に自前のシーカーを用いて敵艦の捜索を開始するが、誘導用シーカーの機能すら阻害する<ネルトリンゲン>の電子妨害を前に、敵艦隊が放った対艦ミサイルの実に九割が目標を失い迷走し、白い砂や乾燥した空に無意味な爆炎の花を咲かせていく。
敵艦隊が放った数百発のミサイルの内、正常に目標を捉えたミサイルは凡そ四〇発。そのうち半数は上空に位置していた<ネルトリンゲン>と千歳の操る<愛鷹>によって迎撃され、味方艦隊を構成する陸戦艇に着弾したのはわずか二〇発という有様であった。
対して、<愛鷹>と陸戦艇群から放たれた対艦ミサイルは、敵の電子妨害機器にハッキングを仕掛けたメレディアの援護も相まって、ほぼすべてのミサイルが目標へと突入していく。
各護衛艦が保持する近接防御火器と、距離の関係で未だ電子妨害の影響の薄い<紀伊>以下艦隊中枢の戦艦群から放たれた迎撃ミサイルによってその凡そ半数以上が迎撃されたものの、それでもなお百発以上のミサイルが敵の前衛艦隊に着弾する。
如何に第二次大戦期の艦を模した護衛艦と言えど、四五〇キログラム近い弾頭重量を持つミサイルの直撃を数発受けてしまえばひとたまりもない。
その運動エネルギーを持って上部構造物や側舷装甲を食い破られた護衛艦は、バイタルパート内部で炸裂した炸薬によって内部から破裂するような爆発を起こし、ある艦は砂の侵入を食い止めきれず沈没し、またある艦は内部の弾薬類が引火する形で爆散していく。
崩壊した世界であるアポカリプスヘルにおいて発生した艦隊戦の第二幕は、猟兵達の圧倒的な優勢という形でその第一節を終えたのであった。
●
「やはり、敵の中には電子戦に心得があるものがいるようだな」
ミサイル戦においてほぼ完敗と言っても良い状況に陥っても尚、男に動揺は見られなかった。
もとより、旧世界における第二次大戦の戦訓を基に編成された艦隊である。先だっての戦闘において超常的な技術を用いて戦う猟兵達を目の当たりにしている以上、精密誘導兵器を用いた戦闘において後塵を拝すことはある程度想定できる事態であった。
「敵艦隊との距離、間もなく七〇〇〇〇を切ります」
幻影である艦橋要員からの報告に頷き、男は艦隊の中核を成す第一戦隊、即ち戦艦や巡洋戦艦を主体とする打撃部隊に命令を下す。
「第一戦隊に達する。射程に入り次第、敵艦隊に向けて斉射を開始。射撃管制電探が生きている艦は電探射撃をもって敵陸上艇群を撃滅せよ」
彼の命令は、彼が生きている時代においては適切であり、かつ妥当なものであった。
男にとって不幸であったのは、敵手たる猟兵達に電子戦の申し子の様な存在が潜んでいた事であろう。
●
「敵艦隊中枢に発砲炎を確認! 主砲弾が来るよ!」
理緒の警告からおおよそ数十秒後、敵艦隊から放たれた主砲の第一斉射が猟兵達の周辺へと着弾する。
<紀伊>とその隷下の第一戦隊が放った第一斉射は、旧帝国海軍が築き上げてきた砲戦技術の精髄とも言えるものであった。
電子妨害の効率を最大化するため空中に位置していた<ネルトリンゲン>に対しては、第一斉射にもかかわらず<紀伊>の一番砲塔から放たれた主砲弾の一発が命中。
五一センチ砲から放たれた大口径砲弾は、その驚異的な運動エネルギーを持って<ネルトリンゲン>周辺に展開されていた防護フィーネルドを貫通。その強靭な複合装甲を貫徹するには至らなかったものの、内部で炸裂した炸薬によって着弾部の装甲が大きくめくれ上がる。
地上に相次いで着弾した戦艦の主砲弾は、その爆発の余波だけでも陸戦艇を大きく動揺させ、運悪く直撃を受けた艇の中には一撃で爆散するものもあった。
「流石にあの図体からの攻撃は激烈だね。でも、ここからはボクの独壇場だよ。【Green garnet】――イグニッション!」
着弾の衝撃によって物理現実の身体を揺さぶられながらも、メレディアは待ちに待った好機の到来を逃さなかった。
<ネルトリンゲン>の電子攻撃装備と、千歳が戦域全体に展開したサテライトシステムのリソースを用いて、メレディアは敵第一戦隊のデータリンクに侵入。データリンクを構成するネットワーク内でウィルスを自己複製させた彼女は、データリンクを踏み台に各艦の射撃管制システムへと不正情報を入力する。
メレディアが行った電子攻撃の完了と、敵艦隊から第二斉射が放たれたのはほぼ同時であった。
まずは電子妨害の要である<ネルトリンゲン>を目標に放たれた筈の主砲弾は、メレディアが射撃管制システム上に入力した不正な諸元値に従い目標の遥か前方、生き残っていた敵外周艦隊へと次々に着弾していく。
「これがボクの戦い方。 蘇ってきたキミは満足してくれたかい?」
いくら強大な火力を持とうとも、それを制御するシステムを握ってしまえば強大な戦艦と言えどただの箱になり果てる。
電子戦の申し子であるメレディアにとって、ジャイアントキリングとはまさにこのような手段で発生されるべきものであった。
そう遠くないうちに、絡繰りに気が付いた敵は照準を手動に切り替えることで対応して来るだろう。しかし、それによって照準変更に著しく困難が生じる。
それは、猟兵達が温存した槍を敵の喉元にまで送り届けるに十分な隙を作り出すことになるのだった。
●
「この戦場では最適ではありますが。 ……出来れば使いたくなかったですね、この艇は」
猟兵達が<紀伊>に向けて放つ槍。その大任を担うのは、動力として天使核を使用する大型飛空艇、<ドゥルシネーア>の甲板に堂々と立つトリテレイア・ゼロナインであった。
この戦場と、相手取る敵手の性質を考えれば、一定の前提条件をクリアしたうえで<ドゥルシネーア>を用いる事はほぼ最適解であると言ってよい。彼が持つ膨大な戦闘経験もまたそれを肯定している。
しかし、戦術として最適であるという事実と、積極的にそれを用いたいかという気持ちはまた別の問題である。
トリテレイアは、自らを"並び混ざらぬ黒白"と評した僚友から譲り受けた<ドゥルシネーア>を、武人の蛮用に供する事に抵抗を感じていた。
(しかし、この状況下。 好き好みで戦法を選ぶわけにも参りません。 かくなる上はこの艇の能力によって戦果を掲げて見せましょう)
複雑な心中に区切りをつけたトリテレイアと<ドゥルシネーア>の右側方。<ドゥルシネーア>の機動力に見事追従して見せるのは、愛機たる機械鎧<ブラックバード>を操るミスト・ペルメオスである。
「こちらは<ブラックバード>。<ドゥルシネーア>、これより本機は貴機の敵中枢突入を援護する」
「<ドゥルシネーア>、了解いたしました。<ブラックバード>、貴機のエスコートに感謝を」
事前の取り決めに従い、敵の注意を一身に引き受けた三名の猟兵を主体とする艦隊側方から一気に敵艦隊中枢へと突入を開始した<ブラックバード>と<ドゥルシネーア>の目標はただ一つ。あらゆる意味で敵の中枢である巨大戦艦<紀伊>に向け、衝角突撃を敢行することであった。
大艦隊を擁する巨大戦艦に向けて衝角突撃を実施するなど、常人が聞けば正気を疑うような戦法である。しかし、<愛鷹>と<ネルトリンゲン>を主体とする艦隊が敵の前衛艦隊を退け、強力な電子攻撃によって敵の照準を手動に頼らざるを得ない状況に追い込んだ現状においては十二分に成算があり、強力無比な<紀伊>の攻撃力と防御力を一挙に奪う数少ない戦法の一つであった。
しかし、それには六〇キロ近い敵の縦深を一息に突破する機動力と、敵の迎撃を跳ね返すだけの火力及び防御力を必要とする。そのために白羽の矢が立ったのが飛空艇<ドゥルシネーア>と機械鎧<ブラックバード>であった。
<ドゥルシネーア>を操るトリテレイアとの交信を終えたミストは、愛機たる<ブラックバード>に拍車をかける。
時速数百キロで飛翔する<ドゥルシネーア>を超える加速をもって前方に展開した<ブラックバード>は、長距離狙撃用の長砲身重粒子砲"ドレットノート・デバイス"を展開すると、前方に立ち塞がる大型巡洋艦クラスの敵艦に向けて躊躇なくトリガーを引き絞る。
発射された重粒子は減衰距離間際に存在した敵艦の艦底部装甲を容易に貫通、融解させ、巨大な破孔から侵入した大量の流砂によって座礁する。続けざまに展開した"ヘルファイア・デバイス"によって比較的装甲の薄い敵艦の上部構造物を破壊したミストは、同様の要領で前方に存在する敵艦の足を止め、上部構造物を破壊することでその戦闘力を奪っていく。
彼の目的は敵艦の撃沈ではなく、艦を座礁させ戦闘力を奪うことで敵の艦列を乱し、後方の<ドゥルシネーア>に向かう火線を最小限に抑えることにあった。
そして、彼の目論見はほぼ成功したと言ってよい。事実として正面をすすむ<ブラックバード>に投射される火力こそ激しいものの、後方の<ドゥルシネーア>にはトリテレイアが発生させる防御障壁"守護の花"の出力を弱める程の火力は到達していない。
ミストはその巧みな操縦技能によって、<紀伊>へと投じられる槍の役割を担う<ドゥルシネーア>を万全の状態で送り届ける事に成功しつつあった。
艦隊中枢まで残り十キロを切り、戦闘艦同士の戦闘においてはほぼ零距離と言ってよい間合いまで足を踏み入れたトリテレイアとミスト。しかし、眼前に広がる光景は彼らの想定をわずかに超えた物であった。
もはや指呼の中にまで迫った<紀伊>を中核とする敵第一戦隊の砲門。その全てが、仰角ゼロの状態で<ドゥルシネーア>へと指向している。
猛烈な速度で突入する<ドゥルシネーア>の戦法を看破した敵は、到達する直前の領域にキルゾーンを形成する事に成功していたのだ。
例え戦法を看破していたとしても、敵をここまで引きつけ必殺を期すなど尋常な胆力で実現できることではない。しかし、その無理を押し通した敵第一戦隊は、迎撃の成功を確信していた。
尋常な猟兵であれば、成す術もなく撃破されていたかもしれない状況。しかし、敵手と相対するはミストとトリテレイアであった。
「やらせるものかよ――ッ!」
裂帛の念と共に急減速をかけ、猛烈な重力による反動をこらえながら<ドゥルシネーア>の至近へと機体を後退させたミストは、即座にシュラウド・ジャンプドライブを起動。機体前面にあらゆる物質を転移させるサイキック・エナジーのゲートを出現させ、もう一方の出口を敵第一戦隊の前方へと展開する。
ミストの行動の意図を察したトリテレイアの動きもまた迅速を極めた。
彼は前面に集中展開していた花弁を<ドゥルシネーア>側方へと展開し、ゲートの防御範囲から外れた艇の側方と<ブラックバード>に対する防御を固める。
極限まで引き延ばされた刹那の行動が終わり、敵第一戦隊から必殺の念を込めた砲撃が殺到する。
正面から飛来する大半の砲弾はミストが展開したゲートへと吸い込まれ、出口として設定したゲート、敵第一戦隊に所属する大型戦艦の真正面からその運動エネルギーを維持したまま飛び出していく。
ほぼ零距離射撃の要領で命中した複数の主砲弾は、戦艦の中で最も強靭な防御力を誇る主砲の上部装甲を易々と貫通。その内部で一斉に炸裂した主砲弾は、砲塔内部に存在した弾薬を一斉に誘爆させ、莫大な衝撃波と共に戦艦であった存在をただの鉄塊へと変貌させる。
ゲートを逸れ、<ドゥルシネーア>周辺で炸裂した主砲弾は、その衝撃波と弾殻の悉くを引き受けた守護の花弁によって防がれる。
奇跡的なまでの連携によって必殺を期した迎撃をやり過ごした二人の猟兵の前に、もはや障害となるものは存在しない。
"守護の花"が形成されるバリアを再び正面に集中し、<ドゥルシネーア>は自身の質量とバリアの硬度に物を言わせた衝角突撃を敢行する。
如何に強靭な装甲を持つ<紀伊>と言えど、大型艦クラスの質量が猛烈な速度を持って衝角突撃を実施する状況など想定しうるはずもない。
<紀伊>の右舷から船首を抉りこませた<ドゥルシネーア>は、強靭な側舷装甲を轟音と共に引き千切りながら突進し、その切っ先は遂に<紀伊>が誇る巨大な二番砲の砲塔に接触する。
誘爆こそ発生しなかったものの、<紀伊>の二番砲は台座から大きく外れ、その強力無比な砲門は虚しく空を眺めるだけの存在になり果てた。
五人の猟兵による連携戦術は、敵艦隊右舷外周部に存在する艦を悉く殲滅しただけでなく、艦隊の中枢を担う<紀伊>に対しても、その強靭な艦体に大きな損傷を与えるだけに留まらず、強力無比な主砲の一つを完全に無力化すると言う、まごう事なき大戦果を挙げるに至ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
戦艦・大和
この作戦……私が参加しない訳にはいきませんね。大日本帝國海軍大和型戦艦一番艦。大和、推して参ります!!
他猟兵を乗せ参上。旗艦として運用。
よもや妹と戦う事になろうとは思いもしませんでしたが近代化改修を受けているのは大和も同じ事。
私も技能「召喚術」で護衛艦と戦闘機を喚び出し猟兵を乗せて敵艦まで運搬。凍結属性攻撃で足止めを。地上魚雷は飛行する事で回避。
【艤装鎧装】主砲や副砲や高角砲、ミサイル(爆撃+誘導弾)で迎撃。
撃ち方、始めっ!!
宇宙戦艦の装甲と同材質の【超重鎧装】で耐え、都度防御力重視ユーベルコヲド+真の姿の解放で損傷を修復し敵のコヲドを誘発。
可能なら紀伊の一部を鹵獲。
アドリブ・設定捏造大歓迎。
●
彼女が戦場へと降り立ったのは、太陽が中天へと至った午後〇時一五分の事であった。
どこまでも白い砂の海を征くは、<紀伊>とは違う、しかし明らかに彼女と同一の優美さを持った巨大戦艦。
全長二六三メートル、全幅三八メートルを誇る艦体に聳えるは、前甲板二門、後甲板一門の長砲身四六センチ三連装砲。加えて両舷に多数の対空砲を備える彼女は、あらゆる意味で旧帝国海軍を象徴する戦艦と瓜二つの外観を有していた。
アポカリプスヘルに蘇った旧帝国海軍の亡霊。その象徴たる巨大戦艦<紀伊>との決戦の場に、彼女が降り立ったのは必然であり、ある意味では運命とも言うべきものであったのかもしれない。
この終末の世界に現れた巨大戦艦の前甲板にて、艦そのものであり、猟兵でもある一人の少女が、長く艶やかな髪を風に揺らしながら、眼前の艦隊を睨む。
UDCアースでの眠りから幽世に至り、桜舞う別世界で猟兵となった彼女は、断固たる意志を持ってこの戦場へと至ったのだった。
巨大戦艦そのものであり、猟兵でもある少女を、人は戦艦・大和と呼ぶ。
●
「――大和だ。 間違いない、あれは大和だ」
<紀伊>の昼戦艦橋にあって、男は呆然とそう呟いた。
あちこちに近代化改修の跡が見えるものの、旧帝国海軍の妄執そのものと言っていい男が見間違えるはずもない。
猟兵として、敵手として、自らの眼前に史上最強と謳われた超弩級戦艦<大和>が立ち塞がっている。
彼女の姿を認めた男の胸には様々な感情が去来している。その全てを押さえつけた男の相貌に浮かんだ表情は、会心の笑みであった。
「あるいは天を呪うべきか。いや、やはり感謝すべきだな」
いまや二番砲を失い、機関が全力発揮できないとはいえ、<紀伊>は超大和級として、彼女を超えるべく計画された戦艦である。例えあの<大和>が相手であっても、十二分に渡り合うことが可能な筈であった。
「第一戦隊各艦は、新たに出現した敵艦隊へ向け変針せよ。 射程に入り次第、全力をもってこれを撃滅する。 第一目標は敵先頭艦、<大和>である」
猟兵との戦いで護衛艦の大半を喪失し、既に偽神細胞の反動によって自壊を始めている艦隊では、全力を持って戦えるのはあと一戦であろう。最後の戦いの敵手として現れたのが、あの<大和>なのだ。<紀伊>が戦う最後の相手として、これ以上の物があろうか。
この荒廃した世界に存在する唯一の帝国海軍軍人である男は、大いなる喜びと幾許かの寂寥と共に、最期の戦いへと赴くのであった。
●
「大日本帝國海軍大和型戦艦一番艦。 大和、推して参ります!!」
<大和>と<紀伊>が最初の砲火を交わしたのは、午後〇時二五分。互いの距離が九〇キロメートル切った間合いであった。
主砲の射程外にあって、<大和>と<紀伊>、そしてそれぞれの護衛艦が投射した百発近い対艦ミサイルは、その悉くが互いの対空火器と護衛艦によって迎撃され、アポカリプスヘルの乾いた大気中に炸薬と弾殻の花を無数に咲かせる。
<大和>にせよ<紀伊>にせよ、ミサイルで相手に打撃を与えられるとは考えていなかった。互いが持つ重厚な装甲はミサイルが数発直撃したところで致命傷にはならないであろうし、何より高度に近代化された戦艦とその護衛艦隊が構築する防空網の前では、精々が時速一〇〇〇キロメートル程度のミサイルをいくら打ったところで埒が明かない。
「やはり、雌雄を決するには」
「砲戦しかないようですね」
或いは、<大和>にせよ<紀伊>を操る男にしろ、砲戦をもって雌雄を決する事を望んでいる節があったのかもしれない。それが互いの能力によって実際の物となり、現実として発生したのは、それからおおよそ半刻後の事であった。
「主砲、一番斉発。目標<大和>、方位二八五、距離五〇〇〇〇。 打ち方はじめ」
互いの距離が五〇〇〇〇に達した時点で、最初に主砲を撃ち放ったのは<紀伊>であった。<大和>にしろ<紀伊>にしろ、未だお互いの姿は地平線に隠れており、主砲の射撃管制用電探が使用できない距離である。精度を考えれば、四五キロメートルまでは引きつけたい距離であったが、既に二番砲を失っている<紀伊>は手数を増やすことを選んだ。
観測機から齎される情報を諸元として射程距離いっぱいで放った主砲であったが、その射撃は旧海軍が培ってきた砲術の極致と言うべき精度であった。
おおよそ一分半後に着弾した主砲弾はやや遠弾となったものの、続く第二射では<大和>の艦体を挟叉して見せたのである。これは即ち、たった二回の射撃で命中が期待できる精度にまで射撃諸元を修正して見せたことを意味する。
「主砲、一番二番斉射! 目標<紀伊>、方位一〇五、距離四三〇〇〇。 打ち方はじめッ!」
対する<大和>が放った最初の射撃もまた、その名にふさわしい精度であったと言える。
<紀伊>の第三射が至近へと着弾し、数十メートルの砂柱に揺さぶられながら放たれた射撃は、第一射目にして<紀伊>を挟叉する事に成功する。ほとんど神がかりとすら評していい射撃精度であった。
互いに轟音と砂塵を吹き散らしながら、徐々に距離を詰めていく<大和>と<紀伊>。距離が三六〇〇〇まで迫ったその時、遂に<大和>の四六センチ砲が放った主砲弾が<紀伊>の艦体を捉える。
<大和>の第五斉射として放たれた主砲弾は、<紀伊>の前甲板左舷側と主砲塔前盾装甲へと着弾。最も強靭と呼ばれる前盾装甲は見事主砲弾を跳ね返すことに成功するものの、前甲板に着弾した砲弾はその垂直装甲を貫徹。内部で炸裂した砲弾はその爆風と弾殻によって周辺に存在するありとあらゆるものをなぎ倒し、内側から破裂するような形で大きく甲板をめくり上がらせる。
しかし、巨大戦艦たる<紀伊>は怯まない。被弾と同時に彼女の一番砲から放たれた第八斉射もまた<大和>を捉え、一発が右舷高射砲群へと命中。宇宙戦艦の装甲と同一の複合装甲によって守られたバイタルパートへの貫徹こそ免れたものの、周囲に存在した対空銃座が一撃で壊滅する。
「……ッ! これしきで、大和は決して沈みません!」
猛烈な衝撃をその身に受けてなお、大和の瞳に怯懦の色はない。戦艦として、猟兵として、全てを護るためには何度でも立ち上がる。それが、彼女自身が抱く大和魂であった。
主砲弾を浴びてなお、大和の闘志と二隻の巨大戦艦の威容は小動もしない。互いに黒煙を上げながらも、その戦意を証明するかの如く<大和>と<紀伊>の主砲は吠え続ける。
二隻の戦艦の主砲が方向を上げるたび、一方の艦体上に閃光が生じる。天地を裂くかのような轟音と共に着弾する主砲弾は、ある時は<大和>の艦首に突き刺さり、猛烈な砂の浸食を発生させ、またある時は<紀伊>の前鐘楼至近に着弾し、周囲の装甲を引き裂きながら火災を発生させた。
互いに大きな傷を負いながらも、<大和>と<紀伊>はなおも砲撃を辞めない。あるいは、再び相まみえた二隻の超弩級戦艦は、旧世界で陳腐化していったすべての戦艦の無念を晴らすかのように、凄絶な砲打撃戦を繰り広げていた。
しかし、全ての事象に終わりがあるように、永遠に続くかのように思われた戦艦同士の砲戦も終わりの時を迎えつつあった。
転機は、互いの距離が二六〇〇〇まで迫った際に生じた。未だ一番砲二番砲共に健在な<大和>の火力に、如何に五一センチ砲と言えど一門では不利と判断した<紀伊>が、射撃管制電探が使用可能となる間際の距離で回頭を実施したのだ。
<大和>に腹を晒すことで、一番砲と三番砲による砲撃が可能となった<紀伊>であったが、それは射撃精度が加速度的に増していく環境の中で投影面積を増やすハイリスクな行為である。
<大和>と<紀伊>。二門の四六センチ砲と五一センチ砲が放った射撃は、共にお互いの艦体を捉えた。
<紀伊>の放った斉射は、<大和>の一番砲基部及び前鐘楼へと命中。その装甲を貫徹した砲弾は船体内部で炸裂し、遂に一番砲をその基部から脱落させることに成功する。
しかし、<紀伊>を襲った命中弾はより致命的な損害を彼女にもたらした。
大和の一番砲から放たれた砲弾は、<紀伊>の側舷装甲を貫徹し、一番砲塔内部で炸裂。砲塔内部に存在した主砲弾が相次いで誘爆し、大爆発と共に一番砲を叩き潰す。
そして、続けて着弾した砲弾は、<紀伊>が偽神細胞による浸食に耐えきれなくなったことを示した。
<大和>の二番砲から放たれた砲弾は、側舷装甲へと命中し、遂に<紀伊>のバイタルパート内部にまで貫徹。そのうち一発は彼女の機関部内にて炸裂し、大火災と共に彼女の軍艦としての能力に致命傷を与えたのだった。
驚嘆すべきことに、致命傷を受けてなお、<紀伊>は残存した三番砲による砲撃を継続した。
それは、兵器としては既に忘却の淵にある戦艦と言う艦種が上げる最後の咆哮であったのかもしれない。
<紀伊>の全砲門が沈黙したのは、それから四半刻後の事であった。
●
既に幻影すら消え失せ、被弾によって何もかもが飛散した<紀伊>の昼戦艦橋にあって、男は一人佇んでいた。
悔しさと悲しみ、そして歓びが綯交ぜとなった表情を浮かべ、僕たる<紀伊>へと語り掛ける。
「戦った。 全力で戦って、そして負けた。 やはり悔しいな、<紀伊>よ」
既にすべての砲を失い、大量の砂の侵入を許している<紀伊>は、既に浮力を維持しているだけでも奇跡と言っていい状態にあった。
まるで、男に最期の時間を与えるかのような艦の健気に感謝しながら、男は傍らの無線機に手を取る。
「<大和>を操る者よ、聞えているか」
「こちらは<大和>、<紀伊>の艦長でいらっしゃいますね」
澄んだ鈴声に些かの驚きを感じながらも、男は言葉を続ける。
「互いに、勇戦した結果だ。 本来ならば、言葉を交わす事すら無粋であるとも思うが、一つだけ君たちに伝えたい」
「……伺いましょう」
大和は破壊の後が生々しく残る前甲板にあって、既に終わりを迎えつつある<紀伊>の姿を眺める。兵器であるが故の勇壮さと、それと同量の悲しさを湛えた戦艦という兵器の最期が、いま彼女の目の前にあった。
「最期に戦えた敵手が、君達であったことを誇りに思う。 私は、私達は、本懐を果たして消えることができる」
限界を迎えた<紀伊>の艦影が、まるで砂城のように崩れ落ちていく。
「――ありがとう」
その言葉を最後に、周囲から音が絶えた。
猟兵達と<紀伊>による戦いの後すら埋もれていく砂の海には、形見のように残った<紀伊>の装甲片だけが、短くも激烈極まる戦闘の証として残されたのだった。
大成功
🔵🔵🔵