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アポカリプス・ランページ⑮〜黒炎のファンタズマ

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●アポカリプスヘル・メンフィス灼熱草原
 ――ごうごう。
 ――ごうごう。

 生も死も全て焼き尽くさんとする黒い炎が、地上も地下も全て焼き尽くしながら高らかに燃え上がっている。

 ミシシッピー川流域に広がる大草原は、かつては肥沃な土壌から齎される豊富な大地の恵みを湛える地。
 しかし、文明崩壊後、広大な平原を埋め尽くすのは――大地の恵みも肥沃な土壌そのものも、生あるものなら全て燃やし尽くす、けして消えぬ黒い炎だけ。

 草木すら存在しない灼熱の草原に、今日もまた、ひとりの生者が足を踏み入れる。

 ――ユラリ。

 生者の行く手を遮るように黒い炎から現れたのは……生者が恐れる存在。
「あ、ああああ……!!」
 己が恐怖心を具現化たる存在を目にした生者は、腰を抜かし動けない。
 生を許さぬ炎の幻影は、平原に足を踏み入れしいのちを全て黒い炎にくべるため、生者に襲いかかった。

●己が「恐怖」を乗り越えろ
 集まった猟兵たちを前に、グリモア猟兵森宮・陽太は、白きマスケラで己を欺きながら語る。
「己が恐怖を乗り越え、灼熱草原を突破する足掛かりを築け」と。

 広大な草原をくまなく覆う、けして消えぬ黒い炎の中から現れるのは、足を踏み入れた猟兵がもつ恐怖心を投影した『恐るべき幻影』。
 実体を持つ幻影は、恐怖心を持つ者の攻撃を全てすり抜けさせ、そのいのちを黒い炎にくべようとする。
 恐怖に囚われたままだと、黒い炎に呑まれる運命しか待っていないが……。
「もし恐怖を乗り越えて一撃を繰り出せれば、実体ごと幻影を貫き、一撃で霧消させられるだろう」
 だから……。
「己が恐怖心を乗り越え、恐るべき幻影を消し、前に進め」
 そう告げる陽太の声音は、どこか己が恐怖心を欺いているようなそれだった。

 人はヒトである限り、恐怖からは逃れられない。
 だが、恐怖を乗り越えられるのもまた……ヒト。
「これはどこまでも自分の心が試される……そんな戦いになる」
 それでも、アメリカ大陸西海岸までの希望の道を繋ぐためには、避けて通れぬ場所だから。
「己の恐怖心を克服し、幻影に打ち克ち、希望を示してくれ」
 白きマスケラの奥から、感情宿さぬ翡翠の瞳で確りと猟兵達を見据えながら。
 陽太は猟兵達にそう告げ、頭を下げた。

 そして、陽太は愛用の二槍で漆黒の転送ゲートを描き、猟兵達を送り出す。
 ――己が心の写し鏡たる黒炎のファンタズマが待ち構える、灼熱の草原へ。


北瀬沙希
 北瀬沙希(きたせ・さき)と申します。
 よろしくお願い致します。

「メンフィス灼熱草原」から現れる実体持つ幻影は、恐怖を抱く猟兵を黒い炎にくべようとします。
 猟兵の皆様、己が恐怖に打ち克ち、黒い炎に強き意思を示してください。

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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「アポカリプス・ランページ」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

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 状況は全てオープニングの通り。
 今回は冒頭の追記はありません。

●本シナリオにおける「プレイングボーナス」
【あなたの「恐るべき敵」を描写し、恐怖心を乗り越える】とプレイングボーナスが付与されます。
 恐怖心を乗り越えられれば、如何に強大な「恐るべき敵」であっても一撃で倒せるでしょう。

「恐るべき敵」のかたちや性質は、プレイングに記載お願い致します。
 指定なき場合は、採用せずお返ししますので、お気を付けください。

●プレイング受付期間
 オープニング公開直後~システム的に締め切られるまで随時。

●【重要】プレイングの採用について
 必要最小限のみの採用とさせていただきます。
 また、書きやすいプレイングから採用させていただきますので、挑戦者多数の場合は採用せずお返しするかもしれません。

 本シナリオは執筆時間確保のため【おひとり様】での参加をお願い致します。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『恐るべき幻影』

POW   :    今の自分の力を信じ、かつての恐怖を乗り越える。

SPD   :    幻影はあくまで幻影と自分に言い聞かせる。

WIZ   :    自らの恐怖を一度受け入れてから、冷静に対処する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アハト・アリスズナンバー
私の中の恐怖――今も、忘れることなどありません。
黒い炎がそれを寄越すのならば、私はそれを乗り越えましょう。

私の中の恐るべき敵――アリスを象るオウガ達。
私にとってアリスは守るべき存在。その姿をしながらオウガとしてなった存在は、私にとって守れなかった後悔と恐怖の残骸である。
彼女たちはきっと超えるべき私の罪であり、戒めだ。
故に、超えましょう。ユーベルコード起動。
採決します。私が超えるべき明日を迎えるための力を。

……恐怖心よりも強くなれた私ならば、一撃で屠れるはず。
破魔の力で浄化しましょう。



●守れなかった残骸を越えて――アハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)
(「私の中の恐怖――今も、忘れることなどありません」)
 灼熱草原を前にして、アハトは無意識にそっと胸を押さえている。
 もし、黒い炎がそれを――恐怖の象徴を寄越すのならば。
「――私はそれを乗り越えましょう」
 決意を固め、アハトは灼熱草原へ足を踏み入れた。

 けして消えることのない黒い炎が、草原を歩くアハトの周りでごうごうと音を立てて燃え盛る。
 やがて、アハトの目の前の黒い炎がゆらりと揺らめき、ヒトのかたちへと変化した。
(「これ、は……」)
 その姿に既視感を覚え、足を止めるアハトの前で、黒い炎はつぎつぎと見覚えのあるヒトのかたちへと変化して行く。
 それはアハトにとっての『恐るべき敵』――アリスを象るオウガ達の幻影の群れ。
 姿かたちは異世界からアリスラビリンスに召喚された『アリス』であっても、己が心の闇に呑まれ『オウガ』と化した『アリス』そのもの。

 ――アハトが抱く後悔と『恐怖』の残骸だ。

 己が恐怖心の対象から軽く目を逸らしながら、アハトは目を伏せた。
(「私にとって、アリスは守るべき存在」)
 アリス適合者アリス・グラムベルの複製体であり、量産型個体8号を意味する名を持つアハトにとって、彼の世界を彷徨う『アリス』はかつての自分の現身たる存在。
 ゆえに、彼女たちを守らねば……そう、思って来た。
 事実、金属の国で出会った『アリス』をオウガの手から守り、世界に縛り付けんとする幻影から解き放って『自分の扉』の向こうの世界へ送り届けたこともある。
 しかし、アハトが守って来た『アリス』が、全員「自分の扉」に辿り着き、自分の世界に帰還できたわけではない。
 ある者は扉に辿り着く前に殺され、ある者は扉を見つけられず心を蝕まれ……オウガに堕ちた。

 ――これは、私にとって守れなかった後悔と恐怖の残骸。

 黒い炎の激しい揺らめきに言の葉を乗せるよう呟きながら、目の前のオウガの群れを見据えるアハト。 
 今、目の前に立ちはだかるオウガの群れは、きっとアハト自身が越える罪であり、戒めの象徴なのだろう。
 ……ならば、後悔と恐怖を乗り越え、先に進まねばならない。

 越えましょう、と静かに呟きながら、アハトは『アリスズナンバー』のネットワークに繋がる全ての者に呼びかける。
「ユーベルコード起動――『アリスコード送信。総員、決議します。採択を』」
 アハトも総数が把握できぬほどの『アリスズナンバー』たちが、ネットワークの向こうから反応を返す気配を察し、アハトは顔を上げてよく通る声で宣言した。
「採決します――私が越えるべき明日を迎えるための力を」

 ――後悔と恐怖を乗り越えた先に在る、明日を紡ぐための力を。

 毅然とした態度であれども、停滞の先にある力を求めるアハトの願い自体は、傲慢で荒唐無稽との謗りを受けるかもしれぬ。
 だが、アハトと同一の記憶を保持し、そして後悔と恐怖を乗り越えることを願い、アハトの願いに賛同する『アリスズナンバー』の数は……ほぼ無限。
 ゆえに、アハトの願いはハートの女王に聞き届けられ――叶えられた。

 両手に満ちる力に願いが聞き遂げられたと確信したアハトは、明日を迎えるための破魔の力をアリスを象るオウガの幻影たちに浴びせる。
 アハトを黒い炎に引きずり込まんとしていた幻影たちは、破魔の光に吹き散らされ、浄化され消滅した。

 新たな『恐るべき敵』が幻影として現れる様子は、ない。
『アリス』を守れなかった後悔と恐怖を乗り越え、誓いを新たにしたアハトは、『アリス』を、明日を守るべく、さらなる一歩を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
ヒトの恐怖の黒炎か…
まだその心構えしてられるだけマシかね

幼少期からずっと恐怖の対象なのは忍びの郷の頭領
短刀を手にした痩躯の壮年羅刹男性
10にならない自分に人を捌かせ暗殺を仕込んだ
温厚で冷酷で非情な…

言われるまま幼馴染も殺めた
親父殿も村長も誰も逆らえない
猟兵になって郷の外に出るまであの人は絶対だと思ってた
…猟兵の戦いではあの人の教えに感謝もしてる
尊敬もね
でも
恐怖心からの隷属はやめましたよ、頭領
鹿村の赭
服従するのはオレの意思
ミサキを菜の花畑で殺めたのもオレが経緯に納得したからだった…
UCの菜の花で攻めると同時に攪乱
頭領
あなたの手解き通り行くぜ
冷静に慎重に確実に、な
【忍び足/聞き耳/暗殺】

アドリブ可



●恐怖と隷属の象徴を越えて――鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)
「ヒトの恐怖の黒炎か……」
 激しい音を立てながら燃え盛る、けして消えぬ黒炎を前に、トーゴはひとりごちる。
 この灼熱草原に足を踏み入れてから、妙に気が落ち着かない。
 それは、黒炎燃え盛る灼熱の草原から吹き付ける熱気に晒され続けているからか。
 それとも……己が恐怖の対象が具現化し現れると知らされているからか。
「……まだその心構えしてられるだけマシかね」
 黒炎の揺らめきに言の葉に変えた己が心情を乗せながら、トーゴが黒炎がより激しく燃え盛る平地で待ち構えていると、やがて黒炎は幻影を生み出すよう激しく揺らめき始めた。

 ――ゆらり。

 トーゴの面前で揺らめいた黒炎は、トーゴの恐怖心を投影するかのように徐々に大きく揺らめき、形を変える。
 やがて、トーゴの前に現れたのは、短刀を手にした痩躯の壮年の羅刹の男性だった。
(「……やっぱり、あの人か」)
 幻影と頭の片隅で理解しつつ、予想通りの人が現れた、とトーゴは身を固くする。

 羅刹の幻影――『恐るべき敵』は、トーゴが幼少期からずっと抱いていた、恐怖の対象。
 齢十にならないトーゴに人を捌かせ、暗殺の術を仕込んだ、温厚で冷酷で非情な恩人。

 ――トーゴの故郷たる、忍びの郷の頭領。

 忍びの郷にいた頃のトーゴは、頭領に言われるまま、あらゆる行為に手を染めた。
 頭領の命で、幼馴染をも殺めた。
(「頭領には、親父殿も村長も……郷の誰もが逆らえない」)
 だからトーゴも、猟兵になって郷の外に出るまでは、頭領の言は絶対だと思っていた。
 一方、猟兵となった後の戦いでは、骨の髄まで叩き込まれた頭領の教えが役に立っている。
 故に、頭領には感謝もしているし、尊敬の念も抱いているが。
 一方で、叩き込まれた恐怖心もまた……胸中に巣食い続けていたのかもしれない。

「でも」
 懐からクナイを取り出しながら、トーゴは幻影の頭領に語り掛ける。
「恐怖心からの隷属はやめましたよ、頭領」
 隙あらばトーゴの喉を掻っ切らんと短刀を構えている幻影の頭領の前で、トーゴはクナイを構える。
「服従するのはオレの意思」
 ――鹿村の赭として、隷属ではなく服従す。
「ミサキを菜の花畑で殺めたのも、オレが経緯に納得したからだった」
 ――淡い恋心抱いた幼馴染を手にかけるても、その想いは変わらない。
(「燈の花は刀の禍に転じて靡け黄の菜花……、菜靡の術な!」)
 目の前の頭領とよく似た構えを取りながら、トーゴは声音に乗せぬ様口内で呪を転がしつつ空いた片手で手裏剣を手にし、黒炎に乗せるよう掲げた。

 ――サアアアッ……。

 黒炎に乗るよう掲げられたトーゴの手裏剣が無数の菜の花の花びらに変じ、黒炎の揺らめきに靡きつつ、故郷の頭領の姿をした黒炎の幻影をも巻き込むように吹き荒れる。
 故郷を出奔する時、巫女である身内から授けられた術を、己が手にかけた者の想いとともに恐怖心を乗り越える一助として行使し、幻影の頭領の目を晦ませながら、トーゴは静かに宣言した。
「頭領、あなたの手解き通りいくぜ」

 ――冷静に慎重に確実に、な。

 黒炎と菜の花の狂嵐に己が気配を溶け込ませながら、トーゴは足音を殺しつつ幻影の頭領の背後に忍び寄る。
 菜の花の花びらに五感を狂わされ、トーゴの居場所を見失った幻影の頭領がトーゴに気づく前に、トーゴは背後からクナイを幻影の頭領の喉に当て。
「じゃあな」
 短い別れと共に、頭領の喉に当てたクナイを真っ直ぐ引いた。

 ――ザクッ……。

 トーゴのクナイに喉を掻っ切られた幻影の頭領は、灼熱の草原に膝をつける。
 乗り越えた恐怖心の象徴たる幻影の頭領は、猟兵として、そして忍びとして成長したトーゴを無言で称賛しながら、黒炎と菜の花の嵐の中に姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
奴隷時代、僕のせいで殺された人達の影
僕を救おうとして処刑された人
ご主人様に命じられて、僕が騙した人達
巻き込んでしまった
護れなかった
それは、僕の抱える罪悪感の形

彼らに責められたら
僕は自分の死をも受け入れそうになってしまう
それだけの罪を犯したから
彼らの命を奪ったのは僕だから

でも…ごめんなさい

ポケットに触れれば★お守りと★ネックレスが
左手薬指には大切な人がくれた、薔薇を模したダイヤの指輪がある

僕には、約束があるから
もしも本当に許されないのなら
死んだその時には、地獄に落ちると誓ってもいい
けれど今はもう少しだけ
彼らとの約束を守らせてほしい

幻影は受け入れたうえで
【祈り】を込めた【指定UC】の【破魔】で祓う



●罪悪感を想い出と絆で乗り越えて――栗花落・澪(泡沫の花・f03165)
 ――ごうごう。
 ――ごうごう。

 生ある者を全て呑み込まんと激しく燃え盛る黒炎に炙られながら、澪は時折、薬指にダイヤの指輪が光る左手でそっとポケットを押さえつつ、灼熱草原を歩く。
 大切な人との絆を左手に実感しながら草原を進む澪の眼前で、突然高らかと黒炎が燃え上がった。

 ――ゴウッ……!

 勢いを増した黒炎に行く手を遮られ、足を止める澪の前で。
 黒炎は次々と揺らめき、その形を変えてゆく。

 ――ゆらり。
 ――ゆらり。
 ――ゆらり。

 ひとつではなく、複数の黒炎が形を変えるのを見て、澪は小さく息を呑んだ。
「……っ」
 やがて現れた老若男女の集団の幻影に、思わず軽く身を退く、澪。
 なぜなら、澪の前に現れた『恐るべき敵』は――澪のせいで殺された人たちの影だったのだから。

 幼くして捕らえられた澪は、解放されるまで奴隷として見世物にされ続けた。
 そして、当時の澪に関わった人々は……その多くが命を落としていた。
 まだ幼い澪を救おうとしてうまくいかず、処刑された人。
 澪が「ご主人様」に命じられ、騙した人。
 他にも、奴隷時代の澪に関わり、そして殺された人々。

 ――巻き込んでしまった。
 ――彼らを守れなかった。

 大切な人々の手で奴隷から解放され、猟兵として世界各地を回っていてもなお、澪が抱え続けている罪悪感の象徴たる幻影が、一斉に澪を睨む。
『アンタは……あいつの!!』
『ああ、その顔、その身体つき……間違いないぜ!!』
 幻影の人々は、澪を一目見るなり、一斉に糾弾を始めた。
『アンタのせいで俺は殺されたんだ!!』
『あなたがいたから私は全財産を投じたのに、詐欺師の片棒を担いでいたなんて』
 恨みを連ねながら糾弾する若い男性と、憤怒を露わになじる壮年の女性の言が、澪の罪を暴き。
『あんたもこっちへ来い!!』
『死ぬより辛い目に遭わせてやるわよ!』
 澪の「ご主人様」の命で殺された壮年男性と、澪を逃がそうとして失敗し処刑された若い女性が、澪を黒炎に引きずり込まんと手を伸ばす。
 その手を振り払った後も、澪は次々と幻影たちに罪を暴かれ、心を抉られ続ける。
 自分のせいで死んだ人々に責められた澪は、いつしか沈みゆく心の中で己の死を望み、受け入れようとしてしまっていた。

(「僕はそれだけの罪を犯したから」)
 ――彼らの命を奪ったのは……僕だから。

 死を選ぼうとしたその時、無意識に澪の左手がポケットに触れる。
 ポケットに納められているのは、大切な母親からもらった桃色兎の魔除け守りと、サイズが合わず持ち歩いている小さな子供用ネックレス。
 そして、左手薬指に輝くのは、大切な人がくれた薔薇を模したダイヤの指輪。

 ――ぽうっ……。

 大切な母親の思い出と大切な人との絆の証が光となり、沈みゆく澪の心を照らし、死を望む心を癒す。
 絆の光で癒された澪の胸中からは、死を望む想いは消えていた。

 澪は軽く頭を振ってから、幻影の人々に頭を下げる。
「でも、ごめんなさい……僕には約束があるから」
 隙あらば糾弾しようとする幻影の人々を見据えながら、澪は迷いない口調で静かに語り掛ける。
「もしも本当に許されないのなら、死んだその時には、地獄に落ちると誓ってもいい」
『……本当だな?』
 訝しむ壮年男性に、澪は確りと頷き、言の葉を紡ぐ。
「けれど今は、もう少しだけ彼らとの約束を守らせてほしい」
 左手をポケットに当てながら、澪はゆっくりと聖句を紡いだ。

 ――貴方の闇に、希望の輝きを。

 黒い炎が燃え盛る灼熱草原に、この世のものとは思えぬ美しい花や破魔の光が降り注ぎ、黒い炎を鎮めながら悪を浄化する天上世界へと塗り替える。
 ほんの一時だけ地上に君臨した天上世界に立ちつつ、己が責で殺された人々の糾弾を受け入れた澪の姿は、さながらひとりの天使のようだった。

 絆を確かめ約束を交わした澪の胸中に、既に彼らに対する恐怖心は、ない。
 澪を糾弾した幻影の人々は、降り注ぐ破魔の光に触れ、浄化されるように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
アタシにとっての恐怖か・・それはやはり・・・

黒炎の中に出るのはもう一人のアタシ。でも手にする槍は火山の用に赤熱してる。目は血走って身体は血塗れ・・・そう護るべきものを忘れてただ目の前の敵を屠ることしか考えてない狂戦士と化したアタシ。なり得るかもしれない、可能性。

でも今のアタシには2人の子供がいる。子供の為に、強い、誇り高い母親でなければいけない。2人の事を思えば、力が沸く。そうだ、こんな幻影に足を止めている場合ではない。超えるよ、今を生きる為に。

【オーラ防御】【残像】【見切り】で敵の攻撃を凌ぎ、【気合い】【重量攻撃】を併せた竜牙で攻撃。アタシは子供を護る母親だ。負ける訳にはいかない。



●狂えし己を子を想い乗り越え――真宮・響(赫灼の炎・f00434)
 ――ごうごう。
 ――ごうごう。

 いのちを全て燃やし尽くさんと激しく燃え盛る黒炎を前に、響はぐっ、と拳を握り込む。
 けして消えることのない黒炎に包まれているのに、背筋に冷汗がたらり、と滴り落ちた。
「アタシにとっての恐怖か……それはやはり……」
 アレだよな、と響が口に仕掛けたその時。

 ――ゆらり。

 目の前の黒炎に意思が宿ったかのように揺らめき、響の心を映し出しながら形を変え始める。
 それを紫の目で凝視する響の前に現れたのは――響と瓜二つの幻影だった。
 ただし、手にする槍は、まるで轟音と共にマグマを噴き上げる火山のように激しく赤熱し、あらゆるものを燃やさんと叫び。
 響を睨む瞳は、紫より紅が目立つほど血走り。
 何よりその全身は……誰のものとも知らぬ血に塗れていた。

「ちっ……やっぱりかい」
 無意識にブレイズランスを手にしながら、響は思わず小さく舌打ちしてしまう。
 なぜなら響にとっての『恐るべき敵』は。

 ――「己のなり得るかもしれない、可能性」だったのだから。

 穏やかに熱を発するブレイズランスを見て、ニタァ、と嗤う幻影の様は、狂戦士でありながら鬼神のよう。
 爛々と輝く血走る目は、響を倒すべき敵としてしか見ておらず。
 マグマのように燃え盛る赤熱の槍は、血を見せろと自ら猛っているよう。

 今でも、護るべきものを全て失えば、狂戦士に堕ちてしまう可能性は十分ある。
 だが、今は……。
「今のアタシには、ふたりの子供がいる」
 亡き夫との間に授かった娘と、滅ぼされた傭兵団の里で保護した義理の息子。
 ふたりとも、響にとっては最愛で大切な子供たちだ。
「子供の為に、強い、誇り高い母親でなければいけないんだよ」
 ふたりのことを想えば力が沸くから、ふたりにとっては自慢の母親でありたい。
 だから、親たる響が、ここで恐怖の象徴たる幻影に足を止められるわけにはいかないのだ。
 ……この草原の何処かで、同じように己が恐怖と向き合っている、子供たちのためにも。

 響は両手で真っ直ぐブレイズランスを構え、幻影の狂戦士に告げる。
「超えるよ、今を生きるために」
 幻影の狂戦士が声なき咆哮を上げながら突撃し、マグマの槍で響を焼き尽くさんとするが、響は紅のオーラを全身に纏いつつ、マグマの槍の挙動を見切って避ける。
 槍からの放射熱を至近距離で浴びると、あまりの熱さに息が詰まりそうだが、響は幻影の間合いに踏み込むと、穏やかに輝くブレイズランスの穂先に竜の力を乗せ、幻影に突き出した。
「この一撃は竜の牙の如く!! 喰らいな!!」

 ――グサッ!!

 響の穏やかに熱を放つ槍は、幻影の狂戦士のマグマの槍を真正面から粉砕しながら、幻影の心臓を貫く。
 狂戦士になり得る可能性を子供への責務と愛情で乗り越えた強き母親の穏やかな槍は、誰の者ともわからぬ血を求め続ける幻影の狂戦士を、一撃で葬っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
私の怖い物、ですか・・・やっぱり、あれですよね。

目の前に出るのは足輪が付いて身体が血塗れの白狼。怪我をして動けない母さんと幼過ぎて戦えない私を庇って戦ったお父さんを殺した相手。今だに目の前で血塗れになったお父さんの前に立つ姿は心から消えません。

でも、今の私はあの頃の弱い私ではない。家族での多くの戦いで確かに強くなった。今度こそ大切な人を護れる。強い信念を持って【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【受け流し】【ジャストガード】で敵の攻撃に耐え、信念の一撃で攻撃します。お父さんが護ってくれたように。私も大切なものを護り抜いてみせます!!



●家族を失う恐怖を、家族との絆で乗り越えて――真宮・奏(絢爛の星・f03210)
 ――ごうごう。
 ――ごうごう。

 恐怖に囚われし人々を引きずり込まんと虎視眈々と狙っている黒炎の草原に、奏はあえて母や義兄とは別に足を踏み入れていた。
「私の怖い物、ですか……」
 揺らめく黒炎に心当たりがあるかのように乗せる声は、消え入りそうな程小さい。
 そっと心臓を押さえたら、明らかに鼓動が早まっている。
「……やっぱり、あれですよね」
 心当たりがあるのか、小さく呟いた言の葉が黒炎に乗った、その時。

 ――ユラリ。

 奏の前の黒炎が揺らめき、徐々にかたちを変え、奏の恐怖心を具現化する。
 やがて、奏の目の前に現れたのは、足輪がつけられ、全身血塗れになった、魔の白狼だった。
 それは、齢5つの奏と怪我をして動けなくなった奏の母を庇いながらの戦いを強いられた奏の父を、無惨にも噛み殺した相手。
 そして、ある地底都市の入り口を護っていたところを、母と義兄、そして行きつけの店のマスターと共に討ち――宿縁を断って二度と面前に現れぬはずの魔狼。
「……っ」
 改めて己が恐怖心の正体を自覚し、奏は小さく息を呑んだ。

 ――奏の『恐るべき敵』は「己が仇の魔狼に対する恐怖心」の具現化だった。

 父の仇を討った今でも、幼き頃に魔狼に頻りに牙を立てられ、噛みつかれて血塗れとなり、命を奪われた父の姿は、魔狼に対する恐怖心とともにくっきりと脳裏に焼き付き、離れない。
 じわり、じわりと心を蝕むように植え付けられた魔狼への恐怖が、奏の全身を縛りつけ、幻影の魔狼の贄として供しようとする。

 ……だけど。
「今の私は、あの頃の弱い私ではない」
 隙あらば飛び掛かろうとする幻影の魔狼から目を逸らさず、奏は決意を口にする。
 父の死後、母と2人で旅をしながら、助けを求める多くの人々に手を差し伸べ、救ってきた。
 今はともに旅をしている義理の兄も、壊滅した傭兵団の里にひとり立ち尽くしていたところを母が救いの手を差し伸べたひとりだ。
 これまでも、そしてこれからも。
 最期まで家族を守ろうと奮闘した父の想いを胸に、奏は家族と誰かを守り続け、そして多くの命を救っていくのだろう。

 ――もう、あの時何もできなかった自分では、ないのだ。

 奏の喉笛を引きちぎらんと飛び掛かる魔狼に、奏はエレメンタル・シールドを叩きつけるように突き出しながら、魔狼の頭を受け止め、逸らす。
 姿勢を変え着地した幻影の魔狼が、再度四肢をたわめ、奏に飛び掛かるが、奏は臆せずシルフィード・セイバーを抜き、がら空きの魔狼の腹に突き出した。
「信念を貫く一撃を!!」

 ――父が幼き自分を護ってくれたように。
 ――私も、私自身を守り抜いて見せます!

 突き出されたシルフィード・セイバーの剣先は、幻影の魔狼の腹から心臓を確かに貫き、一撃で消滅させる。
 じっと魔狼の消滅を見届ける奏の瞳に、幼き頃の記憶と結びついた恐怖心は、もうなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神城・瞬
僕の怖い物、ですか・・・(目の前にある黒炎を見据える)

目の前にいるのは両目を赤くし、牙を剥き出しし、口と手が血塗れのもう一人の僕。そう、吸血する事しか考えられなくなった僕が成り得る可能性。母さんと奏の傍にいて、理知的でいても常にその恐怖は常にある。いつか2人を毒牙にかけてしまうのかと。

ああ、恐怖は確かにある。でも僕がダンピールであっても母さんと奏は家族として大事にしてくれる。たとえ負の側面を持とうとも、僕は母さんと奏の傍にいて支えなければいけない。だから、さよならだ。【全力魔法】【魔力溜め】を併せた渾身の氷晶の槍で攻撃する。もう二度と会わないことを祈るよ。もう一人の僕。



●吸血への恐怖を、家族の温もりで乗り越えて――神城・瞬(清光の月・f06558)
 ――ごうごう。
 ――ごうごう。

 生あるものを全て焼き尽くさんと燃え続ける黒い炎に囲まれながら、瞬は冷静に己を見つめ直す。
「僕の怖いもの、ですか……」
 轟々と音を立てながら燃え盛る一方、ゆらり、ゆらりと瞬を幻惑するかのように揺らめく黒炎に対し、瞬が恐怖心の欠片を零した、その時。

 ――ユラリ。

 黒炎が静かにかたちを変え、一人の青年の姿に変化する。
 その青年のすがたは――瞬であって瞬でない者。
 流れるような金髪と、纏う衣服は瞬と同じなのだけど。
 両手と牙を剥き出しにした口は鮮血に塗れ、ニタァ、と不気味に嗤い。
 そして、金と赤のヘテロクロミアの瞳は――両目とも鮮やかな紅に染まり、爛々と輝いていた。
(「これは……吸血することしか考えられなくなった、僕が成り得る可能性」)
 己が恐怖心の投影とはいえ、可能性のひとつをまざまざと見せつけられ、瞬は言葉を失う。

 ――瞬の『恐るべき敵』は「吸血衝動に抗えず、絶えず血を求め続ける自分の可能性」だった。

 それは、半人半魔のダンピールである瞬が、ほんの僅かとはいえ抱え続ける業のひとつ。
 吸血鬼に襲撃され壊滅した里で、亡き両親を前に茫然と立ち尽くしていたところを保護し、育ててくれた義理の母娘に深い恩義を感じ、ふたりとも守ると誓っていても。
 常に冷静であれと、理知的であれと己を戒めながら共にいても。
 新鮮で美味な血を求め、衝動に屈する恐怖は常に抱いているのだ。

 ――いつか、欲望の赴くまま二人を毒牙にかけ、美味たる血を飲み干してしまうのではないか?

 ごうごうと燃え盛る黒炎に囲まれ、幻影に紅瞳で睨まれながら。
 それでも瞬は、己が恐怖の存在をはっきりと認める。
「ああ、恐怖は確かにある」
 衝動に理性を蝕まれ、バケモノと化す可能性は、決して拭えない。
 だが、それ以上に……愛情をもって理性を守ってくれる家族が、そばにいるから。
「でも、僕がダンピールであっても、母さんと義妹は家族として大事にしてくれる」
 ダンピールと知ってなお、義母と義妹は自分を引き取り、家族の一員として扱ってくれている。
 ――もはや、種族の違いは、家族にとっては関係ない事だ。
「だから、たとえ負の側面を持とうとも、僕は母さんと義妹の側にいて、支えなければいけない」
 家族への恩義と愛情を胸に、恐怖を振り払うように。
 瞬は、きっぱりと幻影の己に告げた。

 ――だから、可能性とはサヨナラだ。

 新鮮な血を求め、血塗れの両手で瞬を掴みかかろうと襲い掛かる幻影に、瞬は六花の杖を向け、素早く呪を紡ぐ。
「逃がしませんよ!! 貫いて見せます!!」
 六花の杖の先端から発射された氷晶の槍は、今にも掴みかからんとした幻影の心臓を貫通。
 その全身を氷で覆い尽くし、破砕した。

「もう二度と会わないことを祈るよ――もう一人の僕」
 幻影を破砕した氷が、黒炎に炙られ解けるのをじっと眺めながら、瞬は黒炎をかき分けるように先に進む。
 黒炎燃え盛る灼熱草原が、己が恐怖を乗り越えた瞬に新たな幻影を見せることは、もうない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月19日


挿絵イラスト