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ぶんちょう囀るみかん畑

#サムライエンパイア #\おいしい!/

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 一陣の風が巻き上げたのは砂塵。
 みかん畑には例年にないくらいの風が吹く。
 びょうびょうと吹きすさぶ寒風の向こうから、チュン、ピィー、チチチ……と心を暖かくさせる囀りが聞こえてくる。
「あっでぇ、めずらしよぉ」
「文鳥ちゃうんけ! かいらしなぁ!」
「わぇのメシ、食うかの?」
 みかん百姓の男たちは、そのまんまるふっくらした小鳥たちに、破顔して近寄っていく。

「あああ! なんじゃ!? みかん食われとるやないか!」

 文鳥たちが止まっている枝の下には、無惨に食い散らかされたみかんが転がっていた。
 これには男たちも怒った。
 怒る男たちの大声に文鳥も驚き怒った。
 つつかれまくった男たちは、大慌てで避難する。

「あかな……どないしょうに……」
 困り果てた男たちは、砂まみれで文鳥まみれのみかん畑を眺めるほかなった。


 みかんの収穫の最盛期は終わったが、それでもまだまだみかんは生っている。
 隣の村まで、その隣の村まで、そのまた隣の村まで運ぶとなるとどうしても早生で収穫して運ぶというのが習わしになる。
「けど、自分らの村で食う分とか、近隣に売り出す分は熟れたころに収穫するんだが、それが砂にまみれて売りモンにならなくなってる村があンだけどよ」
 鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、そわそわと手の甲を撫でていた――が説明はきちんと進めていく。
「砂まみれになってるだけじゃねえ、真っ白いぶんちょうさまが大挙して、おしくらまんじゅう状態で、みかんを食ってやがる」
「……ぶんちょうさま?」
 その悪人面でなにかわいこぶってやがると言いたげな、誉人の話を聞いていた猟兵の冷たい――否、生ぬるい視線に身じろぎした。
「ちげェ! 俺が名前をつけたんじゃねえわ! そういうオブリビオンなんだよ! そりゃすげえ勢いで仲間を呼んで、もっこもっこのふっわふっわで、ぐぅぅ……」
「どうした、腹でも痛いのか?」
「ちげェわ! そうじゃなくって、その、ホラ、アレだ! 武者震いってヤツだ」
 油断していると、その可愛さに魅了されるかもしれないと誉人は、苦渋を滲ませた。
 ぶんちょうさまの他にも奇妙な力を視たが、それを明確に予知することはできなかった。
「とにかく、村が困ってる。このままじゃ、みかん畑に近づくこともできねえし、砂まみれのみかんもどうにかしなきゃなんねえ。まだまだ取り残した実がたくさん残ってんだ。さすがにぶんちょうたちに食われた実はもう救いようはねえが……それ以外にも落ちた実がけっこうあって、けど、そのみかんはまだまだ利用価値は残ってる」
 そのまま食えそうなやつ、ジュースにしたりジャムにしたりすれば食べれそうなやつ、あとは村自慢の銭湯に持ち込めば、みかん風呂を楽しめるだろう。
「まあ、遊び回ってみんのも良いが、まずは、みかん救出だ。事件を解決できてからのご褒美ってことで」
 誉人は言って、炯眼を細めて頬に笑みを刻む。仄青い球型のエネルギー体を出現させた。
「俺が今から繋げるとこは、問題のみかん畑だ。しっかりな……マジで、ぶんちょうさまが、たくさん、いっからァ……」
「……その、たまに言語障害おこすのはなんなんだ?」
「ホントは俺が行って、つッつき回したいんだよ! わかるか! 俺が行けねえ理由! 俺が予知しちまったからだよォ……!!」
 誉人の魂の叫びとともに繋がれたサムライエンパイア――ひんやりと冷たい風に乗って、わずかなみかんの香りが広がった。
「……じゃあ、頼んだぜ」


藤野キワミ
生まれてこのかた、常識だと思っていたみかんの剥き方が、ほかの地域の方から驚かれる剥き方でした。ググってみたらド直球な名前がついてて笑いました。藤野です。

第三章の日常パートだけの参加も歓迎です。
もうシーズンが終わってしまうみかんを楽しんでください。
お連れ様がいる場合、【チーム名】を決めていただくか、呼び方(f〜)の記載があれば迷子になりません。
誘われたときだけ誉人がお邪魔します。

それではみなさまのプレイングをお待ちしています!
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第1章 集団戦 『ぶんちょうさま』

POW   :    文鳥三種目白押し
【白文鳥】【桜文鳥】【シナモン文鳥】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    文鳥の海
【沢山の文鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    魅惑の視線
【つぶらな瞳】を向けた対象に、【嘴】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

水無月・篝
何とも可愛らしい鳥ですね。
これがオブリビオンでなかったら、どんなに良かったでしょう。
折角のふわもこですが、退治せねばなりませんね。

時間をかけると、愛らしいふわもこの痛ましい姿に、
こちらの心が圧し潰されそうです。
ですので、ここは一気呵成に参りましょう。
巫覡載霊の舞と薙刀での薙ぎ払いを組み合わせ、
まとめて倒していきましょう。

もしもこの事件の黒幕がいるならば、きっちり落とし前を付けさせます。

他者との絡みや、アドリブ大歓迎です。
よろしくお願いします。


香神乃・饗
妖剣解放で素早さMAXっす

イイっす!
イイっすね!そこ、イイっすね!!
はい、目線こっちっす!イイっすねー!サイコーっす!
はいはい、固まるっす!そこでストップっす!!イイっす!
ちょっとはねてみて!はいそこー!いただいたっす!
これくわえて首かしげてほしいっす!
あまいあまーい!すういーつスマイルっす!

嘴どーん!瞳どーん!尾羽どーん!全身どーん!
スマートフォンのカメラ機能を使い
ぶんちょうさまをありとあらゆる角度から写真に収め
めっちゃんこかわいいを余すところなく収めた写真集を作るっす

群がられる前に全力ダッシュで逃げるっす!
他の猟兵が対処しやすい向きに追わせるっす!
逃げきれなかったら剛糸の網で捕らえるっす!


セレオ・リケ
なんてこった…俺は魚類には目が無いけど鳥類も愛してるんだ!
しかも文鳥は昔飼ってた…
まあ、ここで見かけたからには愛の鉄拳制裁しかないか

【pow】
3種類もの文鳥に囲まれて最高、とか言ってる場合じゃないな
攻撃力を減らされる可能性があるのは解ってるから
最初から釣り竿(フォースセイバー)を振り回して羅刹旋風だ
2回攻撃を使って峰打ちでお仕置きするぞ
相手の技を受けたら羅刹旋風を再度使って、また攻撃だ

もし猟兵の誰かが危なかったり、みかんの被害が拡大しそうなら
餌を持って恫喝でこっちに引きつけてみよう
「このカナリアシードの方が目に入らぬか!」

こっちに来てくれたら嬉し…、いやいや、その後も真面目に頑張るよ


藤野・いろは
・心情
最近サムライエンパイアでは可愛らしい相手が多いですね……。
思わず刃を向けるのはためらいますが、相手はオブリビオン。
容赦も油断もしてがいけませんね!
・攻撃
動きをよく観察し【見切り】を狙っていきます
相手の大技に合わせてユーベルコード【先の先】、【カウンター】を叩き込みましょう
【破魔】の力を込めた刀で【なぎ払い】です
好機と見れば【2回攻撃】で攻めの手を緩めずいきましょう
・防御
相手の攻撃には【勇気】をもってギリギリまで見定め【残像】を残すような速さで最小限な回避を試みます
回避が困難な攻撃には狙いに合わせて【オーラ防御】で対応し、ダメージを可能な限り軽減
・その他
アドリブ、猟兵の絡み歓迎



 寒風吹き付けるみかん畑――確かに木には橙色がぽつりぽつりと色づいていて、濃い緑の葉はよく繁っていた。
 強い風にかき混ぜられる青髪を押さえて水無月・篝(万妖姫・f05974)は、ざりっと溜まった砂を踏んだ。
 しかしその目に映るのは、ピューイ、チチ、チチチ……と囀る文鳥の――否、オブリビオンたる、ぶんちょうさまの群れだ。
「やはり可愛らしいですね……これがオブリビオンでなかったら、どんなに良かったでしょう」
 肩を落として嘆息した篝だった。
「そうね……でも最近多いですね、こんなに可愛らしいオブリビオン」
 どうなっているのでしょう――藤野・いろは(天舞万紅・f01372)は首を傾げたが、今それを考えても詮無いこと。
 刃を向けることを躊躇ってしまうような姿形をしているが、これらは害悪なオブリビオンであることに変わりないのだ。
 現にみかん百姓の男たちは、ぶんちょうさまに突かれて痛い思いをしている。
「せっかくのふわもこですが、退治せねばなりませんね」
「ええ、容赦も油断もしてはいけませんね!」
 篝といろはは互いに頷いて、それぞれの獲物を構えて戦場――みかん畑へとずずずいっと踏み込んで行った。
 みかんの木の上で、強風に身を寄せ合ってぬくぬくと耐えるような姿。
 巧みに皮に穴を開けて、中の果汁たっぷりのみかんを、競い合うように啄んでいる姿。
 勢い余って枝から転げ落ちてくる姿。
 心配するようにピチュッと声をかけている姿。
 これは……こんなに愛らしい姿を目の当たりにしてしまうなんて――篝は切なさに胸に手をやった。
 戦闘に時間をかければかけるほどに、心が圧し潰されそうな予感しかしない。
 そんな篝をよそに、香神乃・饗(東風・f00169)はテンションマックスでスマートフォンの画面をタップしまくっていた。
 しかも、用意周到に妖剣解放で素早さを限界値まで振り切っている。
「イイっす! イイっすね! そこ、イイっすね!!」
 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……
「いや、そんなに撮ってどうする……?」
 突然始まった饗による撮影会に、セレオ・リケ(修行より釣り・f12052)は驚きを隠せなかった。
「今という時間を切り取ってるっす!」
 ぐっと拳を固く握り、セレオを振り返る。その黒瞳はキラッキラに輝いていた。
 あまりの勢いに押されたセレオだったが、彼の気持ちはわからないこともなかった。
 そう何を隠そう、セレオとて魚類をこよなく愛する男なのだ。そして、それと同じくらいに鳥類も愛している!
「……ああ、昔飼ってた文鳥……思い出すぜ」
「なんと! いいっすね!」
 饗が歓声をあげた。それでも彼の興味は、今はぶんちょうさまオンリーだ。すでにぶんちょうさまの魅了が完成しているのではないだろうか――
「めっちゃんこかわいいを余すところなく収めた写真集を作るっす!」
 ぶんちょうさまラブリー! フルスロットルで一人で突撃をかましていく饗は、悲鳴にも似た歓声を上げた。
 なんと、ぶんちょうさまが、ぶわっと膨らんだのだ!
 驚きに体をビクつかせ、羽毛を逆立たせて、ころころのちまい姿で、一丁前に威嚇してきたのだ!
「膨らんだっすよ! 見たっすか!? ふかふかっす! たまんないっすー!!」
「はああ! 威嚇してる姿すら可愛いなんて……!」
 篝とセレオもずきゅーんと胸を撃ち抜かれていた。
 ふわっふわの綿雪のようなその出で立ち、つぶらな黒曜石のような双眸、紅を引いたような真っ赤な嘴――怒っているのは分かっているが、その姿をみて、誰がどうやって危機感を覚えると言うのだろう。
「いや、……いやいや、可愛いけれども! ここで見かけたからには、愛の鉄拳制裁しかないか」
「ですね、ここは一気呵成に参りましょう」
 ころころと転がるように、みかんの木から落ちてきた真っ白いぶんちょうさまは、ピィーイ、チチチ、ピュイっと鳴いてみせた。
 たぶん、「てめえら、オレさまたちの、なわばりを荒らそうってんなら、容赦しねえぜ、覚悟しやがれヴルァァァァアアア!!」という感じに違いない。


 桜文鳥、白文鳥、シナモン文鳥……色とりどりのぶんちょうさまが、むくっももっ! と増えるさまは、なかなかに心を揺さぶられる光景ではあったが、いろははしっかりと鳥どもの動きを観察する。
 どういった原理なのかさっぱりわからない。まさにオブリビオンといったところか。
 それらはいろはに向かって飛来する。
 こいつらに攻撃されてしまえば、いろはの力は奪われ、最悪ユーベルコードを封じられてしまう――なんとしても躱さなければこちらが不利になってしまうような状況だった。
 右から白文鳥、連携するかのように白の背後からシナモン文鳥、そうして二羽に気を取られている隙に別方向から桜文鳥が飛来――なるほど、瞬時にいろはは見切って、
「終わらせます」
 機先を制した剣尖が、白文鳥を、その先のシナモン文鳥ごと切断し、返した刀で桜文鳥を一刀のうちに斬り捨てた。そして、その勢いを殺さないままに疾駆して、三色の文鳥を遣わせたぶんちょうさまへと肉薄――刃には破魔の力が発露していて、烈気を噴くいろはは、ぶんちょうさまに声を上げさせるいとまも与えず、屠った。
 ぽとん、と落ちた仲間のぶんちょうさま。
 瞬間、のんびり構えていた(「もう、またアイツはひとりで突っ走っていくんだからぁ」と諦観の念に近いものを抱いていたはずの)ぶんちょうさまたちは一斉に騒ぎ出した。
 威嚇していたとはいえ、猟兵たちを前にしてまるで本気でなかった鳥たちは、ようやく危機感を持ったらしく囀ることをやめて、金切り声で騒ぎ立てる。
 続々と解き放たれた三色の文鳥は、親玉たちの心を反映しているのか、それらもキイキイと喧しく騒いでいる。
(「ああ、うるさいけど、けど、こんなに文鳥に群がられるなんて、幸せ――とか言ってる場合じゃないか」)
 セレオは、《フォースセイバー》もとい釣り竿をビュンビュンと振り回して、旋風を巻き起こす。
「はい! そこで固まるっす!」
「おれ!?」
 饗が容赦なく叫んだ。バッチリすぎるタイミングにセレオは驚いて声がひっくり返ったが、饗も慌てて「ごめん、違うっす! ぶんちょうの方っすよ」と詫びた。
「ちょっとはねてみて! はいそこー! いただいたっす!」
 セレオに向かってではない、怒れるぶんちょうさまたちに向かってである。
 言葉が通じるのかはさておき、まだ写真集を諦めていない饗は、あれこれとオーダーを出しながら、たとえそれが無視されようとも、それすら楽しむように大騒ぎしながらスマートフォンをカシャカシャと高速で鳴らし続けている。
「大丈夫っすよ、みなさんの戦いの邪魔はしないっす!」
 もこもこもこっと急速に増殖した文鳥に、彼は笑顔を弾けさせた。
「あああ! 増えたっすー! イイっす! ぜひともこの枝を咥えて、首を傾げてお澄ましポーズをとってほしいっすー!!」
 小枝を拾い上げ、ぶんちょうさまへ差し出すが、ピュイッと無視。
 真っ赤な嘴が一斉に饗へと降り注ぐ!
 しかし、彼はその覚悟もできていた。猛ダッシュで、篝らに背を向けて走り出す。饗を追ってぶんちょうさまも羽ばたき、まるっこい尻を篝らに見せつける。
 その後ろ姿もたまらん……!
 篝は巫覡載霊の舞を踏んで、月光を切り取ったかのような怜悧で美しいから衝撃波が放たれ、近くにいるぶんちょうさまを薙ぎ払った。
 一網打尽に倒れていくぶんちょうさまの亡骸の、なんと悲哀を誘うことか。
 しかし、いくら可愛い姿をしていようとも、これは討伐しなければならないオブリビオンなのだ。
 しかも守ってほしいと言われたみかんが、今まさに、余裕をかますぶんちょうさまによって穴が開けられそうになっているではないか!
「待て! このカナリアシードが目に入らぬかぁぁ!!」
 この、鳥垂涎の絶品シードに食いつかない鳥はいない!
 こっちに来ても来なくても、みかんの被害を止められるならば――と講じてきた策であったが、セレオの声はよほど恐ろしかったのだろう。ぶんちょうさまは、びくっと体を跳ねあがらせ、ピイピピイピピヂィヂィヂィヂィ! となかなかに堂に入った威嚇音を出しながら、それでも信じられないくらいに可愛い文鳥を解き放ってきた。
 こちらを攻撃しに飛んでくる三色の文鳥に囲まれて、「もう、最高かよ」と悦に浸りかけた――なんてことを悠長にやっている隙はないのだ。
 この文鳥の攻撃を受けると弱体化は必至――だからこその羅刹旋風で、己を高める。それだけでない。
 良くしなる釣り竿をビュンっと振り、つつかれる前に払い落す! その勢いのまま、もう一羽、桜文鳥が釣り竿に打ち据えられ、墜落した。そのとき、脇腹目がけてシナモン文鳥が突っ込んでくる!
「いッてえ! うう、でもちょっと嬉し、いやいやいや!!」
 一瞬、昔飼っていた文鳥の姿が、まぶたの裏に蘇る。あの楽しかった日々――が、セレオはすぐに現実へ引き戻された。
 躱しきれなかった団子状態のたくさんの文鳥を鋼糸で絡め取った饗の覇気に満ちた烈声がして、篝の《三日月》が日の光を反射させて、強く煌めき、輝きに負けぬ衝撃がぶんちょうたちを飲み込んで、消し去っていく。
 ずいぶんと仲間を葬られてしまったぶんちょうさまたちは、一度、みかんの木の上に羽を落ち着かせ、ピィピィとなにやら作戦会議をしているようだったが、それもつかの間、一羽のぶんちょうさまが、文鳥三種の目白押しと押し売りをするように、三色の文鳥を放ってきた。
 そいつらはいろは目がけて飛んでくる――が、すぐに見切るわけでなく、ギリギリまで引きつけ、ココ! というところまで回避を我慢――そして、いろはの残像へと文鳥たちが突っ込んでいき、訝っている間に振るわれた剣によって屠られた。

「……太刀に映せぬ前に終わらせます」

 先の先を読み、破魔の力を宿した剣撃は、絶望のぶんちょうさまへと襲いかかった。
 されど、それはオブリビオン。
 いくら姿かたちが可愛かろうが、倒すべき相手――だからこそ、いろはは油断なく容赦なく、剣を振るった。
「うらぁあ!」
 セレオも、釣り竿たる《フォースセイバー》で、ぶんちょうたちを打ち落とし、
「良いふわもこでした」
 篝の薙刀から、衝撃波が放たれて、
「ほんと、サイッコーだったっす!」
 びッ! と親指を立てて、鋼糸と解き放ちぶんちょうの自由を奪った饗。
「これで、お終いです」
 いろはの目にも止まらない剣閃が、ぶんちょうさまたちを薙ぎ払った。

 ピピ……チ、ピューィ……チチ……

 囀る声は、猛然と吹き荒れた寒風にかき消された。


 みかん畑からぶんちょうさまの姿はすっかり消えてしまった。
 今は、ただただ寒風が木々をざわつかせ、落果を早まらせるほどの強さで、猛威をふるっていた。
「どんな写真が撮れたんだ?」
 セレオが饗に問えば、彼は八重歯をきらんと光らせ、フフフと笑った。
「嘴どーん! 瞳どーん! 尾羽どーん! 全身どーん!」
 言いながら、しゅっしゅっとスワイプして撮った写真をセレオに見せ、それを篝も、いろはも覗き込む。
 真っ赤な嘴にみかんの皮がはさまっているぶんちょうさま。
 つぶらな黒瞳を怒らせて、もっこもっこと増殖しているぶんちょうさま。
 ほわほわでまんまるなオケツ。
 そして、みかんの枝がたわわに傾げるほどに、びっしりとおしくらまんじゅう状態の、ぶんちょうさま。
 切り取られた瞬間のどれもこれもが、幸せのもこもこな瞬間だった。
 四人の間を、びゅうと音を立てるほどの強風が吹き抜けていく。
「それにしても、砂埃がすごいですね……」
 砂のせいでバサバサになった髪を梳いて、篝は目を細める。
 風が強く吹き、みかん畑に砂塵が舞い上がる。
「黒幕がいるなら、突き止めてきっちり落とし前をつけさせますが……」
 辺りを見回しても、砂埃が舞うほどにカラッカラに渇いた冷たい風が、びょうびょうと鳴くだけだ。

「うんうん、そうだよねえ! せっかく可愛い小鳥チャンだったのに、ぜーんぶ殺しちゃうなんてねえ! ヒドイのはどっちよーって話じゃない?」

 瞬間、強風に乗って、多くの砂を内包した、少女の声音が届く。
 しかし、声がする方を見やっても姿はない。
 猟兵たちに緊張が走るが、それを嘲笑うかのように、少女はケラケラ笑った。

「小鳥チャンは残念だったけど、ここのミカンはぜーんぶアタシのだよ。さすがにコレばっかりは、アンタらがリョーヘーだからって、渡せないからね!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『砂塵のあやかし』

POW   :    砂塵
【激しい砂嵐】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    目潰し
【自身の足元】から【対象の目に向かって蹴りあげるようにして砂】を放ち、【目潰し】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    砂の侵食
【着物の袖から放った砂】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を砂で覆い】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は世良柄野・奈琴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

スパラ・シー
「トラップ地帯のフィールドにセーブポイントはありません、悪しからず!」

【SPD】
飛ぶ鳥は落としてしまえばいいのです。罠を作りましょう!それも沢山!出来上がった罠は巧みに【隠し】ます!

まずは、捕獲用ネットにワイヤー、テグス。ミカン林の一部に張り巡らせて動きを止めてやります!
次に、撒菱にトラバサミもつけましょう!
そして極め付けはこの水爆弾!辺り一帯水浸しににして、砂を使えなくしてやります!
そしてこれ、とりもち!鳥と言えばとりもち!周囲のトラップにたたらを踏んだところにお見舞いして差し上げます!

仲間の猟兵さんたちには、トラップのことは伝えておきます。
誤爆防止とトラップ地帯への誘導を兼ねて?




「ここのミカンってね、すっごーくおいしいのよ! 甘くって、瑞々しくって! だから、アンタらにココを明け渡すなんて、考えただけでもゾっとしちゃーう!」
 実にあっけらかんとした少女の声は、砂塵の奥から聞こえてくる。
 砂を操り、己の得意とするフィールドを作り出してしまう妖怪――『砂塵のあやかし』が、姿を現した。
 風に乗って、巻き上げた砂の上を歩くように、無邪気に笑いながら、生っているみかんをもいで、皮を剥き食べた。
(「勝手に食べましたね!?」)
 スパラ・シー(わたしはみんなのセーブ妖精・f10963)は胸中で叫ぶ。
 罠を作って仕掛けるために、今、あやかしに見つかってはいけないのだ。
 しっかりと罠に引っ掛けるためにたくさん作ろう、だって、みかんを勝手に食べるような不貞の輩なのだ。
 バレないように上手に隠せば、あやかしに気づかれることなく戦闘を有利に進めることができるかもしれない。
 まずは手始めに、捕獲用ネットを作り出して、みかん畑の一部に張り巡らせて、あやかしの動きを制限してやろうとスパラは試みた。
 うってつけのユーベルコードがある。
 仕掛け罠を精巧に作ることのできるレプリカクラフトだ。
 スパラがこっそりと木の根元で、罠をしかける――
「(トラップ地帯のフィールドにセーブポイントはありません、悪しからず! ってね)」
 せっせと練り上げている最中に、その声は唐突に降ってきた。
「それって、アタシを捕まえるための網?」
「そうです! ふふふ、ようは飛ぶ鳥は落としてし、え?」
「でもさー、アタシ、アンタのこと見つけちゃったよー」
 あやかしのにんまりと笑った顔が眼前に広がっていた。

「もう! なんで気づかれたの!」

 スパラは慌てて飛び立って、水がパンパンに詰まった水爆弾を両手いっぱいに作り出して、あやかしへと投げつける!
「この辺を水浸しにしてやります!」
 そうすればきっと、砂は使えなくなるはず――
 しかしスパラの考えは、あやかしの笑みによって打ち砕かれた。
「ふふふ、ずいぶんバカにされてるー! アタシってばこんなに可愛い顔してるから? アハハ!」
 あやかしはスパラの投げつけた水風船を躱して、袴の裾からザラザラと砂が滂沱と流れさせる。
 その砂塵を蹴り上げるように、スパラのエメラルドのような瞳に向かって解き放つ!
「なんで気づいたか、気になってる?」
「――ううう、」
 目潰しをくらい一瞬光を奪われたスパラは、そのあやかしの声に薄目を開けて、仰ぎ見る。
 ぼやけて霞む視界の中に、銀髪のおかっぱ頭と溌剌とした赤瞳が見えた。
「とくにね、ないのよ! なんとなーく、んん? って感じたの」
「ウソでしょ、ソレだけですか!?」
 スパラは思わず声を上げた。
「そうそう! だから、アタシってツイてるーって感じ?」
 きゃはは! と笑いながら、跪くスパラに向かって、砂を蹴りつけた。
「でも、そんなの意味ないよ。アタシ、アンタの罠なんか攻略できる自信あるし」
 今までと打って変わった冷たい声音で、砂塵のあやかしは吐き捨てた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

セレオ・リケ
さてはみかんを独り占めして
群がる文鳥達まで独り占めしようとしていたな?
文鳥にモテたい気持ちは物凄くよく解るが、…覚悟しろ!

【pow】
砂嵐の範囲には出来るだけ入りたくないな
ならこっちはサイコキネシスで、奴に届くギリギリの範囲から攻撃だ
他の仲間に攻撃が行かないように
ダメになったみかんを遠隔操作して、奴の顔面にバンバンぶつけてやる
右からも左からも、2回攻撃でみかんの挟み撃ちだ
みかんの汁が目に入ると結構しみるんだよな…
オブリビオンに効くかは解らないけど物は試しだ
効果がなくとも、視界を遮って妨害ぐらいは出来るんじゃないか?

文鳥写真集が発売されたら真っ先に買いに行く為にも
負ける訳には行かないんだ…!



「見てみて、このみかん! すっごいツヤツヤ! こんなの美味しい決まっ、へぶッ!?」
 調子に乗って話していたあやかしの顔面に、砂まみれのみかんが飛来!
 べしゃっ!
 べしゃッ!
 目にも止まらない豪速のみかんは、あやかしの目やら頬にぶち当たり、汁まみれになっていた。
「お、効いた?」
 へへっと笑ったのは、セレオだ。
「効いてるわけないじゃん! あったまキタ!」
 轟然と砂塵を巻き上げて、サイコキネシスで操られていたみかん(すでにぐしゃぐしゃに潰れて食べられなくなった)を薙ぎ落した。
「なにアンタ! すっごい離れてるし! なんなの、陰険!」
「みかんを独り占めして、群がる文鳥たちまで独り占めしようとしていたお前には言われたくないな!」
 ビシッと釣り竿を振って、セレオは言い返した。
「文鳥にモテたい気持ちは物凄く、よーっく解るが、……覚悟しろ!」
 砂嵐の範囲には出来るだけ入りたくないセレオは、サイキックエナジーを放出させて、落果して潰れて食べれなくなったみかんを遠隔操作する。
「うら! みかんの皮の汁の脅威を思い知れ! しみろ!」
 顔面を狙った潰れたみかんたちだったが、それはあやかしの巻き起こした、激しい砂嵐の前に為すすべなく弾き飛ばされてしまった。
 怒り心頭に発した砂塵のあやかしは、爛々と赤瞳を燃え上がらせ、セレオへと疾駆!
「『覚悟しろ!』ってのは、アタシのセリフだって!」
 軽口であったが、巻き上げられる砂嵐は生やさしいものではなかった。
 視界を遮られるほどの砂塵の、驟雨のごとき大嵐にセレオは飲み込まれる。
 十分な距離を取っていたが、あやかしの急速な猛追に対処しきれなかった。
 顔を覆って、激痛を齎す颶風に耐える。
「つうッ……! いや、まだだ! 文鳥写真集が発売されたら真っ先に買いに行く為にも、負けるわけにはいかないんだ……!」
 ああ、目を閉じれば可愛らしいころんころんのぶんちょうさまの姿が蘇ってくる。
「はああ!? まだそんなこと言ってんの!? すごい執着! べええッ」
 舌を出して、顔を歪めたあやかしだったが、次の瞬間、その赤瞳を瞠ることになった。
 今は亡きぶんちょうさまへの募る思いを胸に、セレオは体中の痛みに耐え、サイキックエナジーを放ち砂塵のあやかしに一矢報いたのだ!
 不可視の力は、あやかしの四肢を内側から破壊するような一撃でもって、その油断を突く――セレオは、紫瞳を少し尖らせ、頬に笑みを刻む。
 あやかしの余裕たっぷりの顔を、苦痛に歪ませることができた。

成功 🔵​🔵​🔴​

篝・燈華
みかんと戯れるぶんちょうさま……それはとても愛らしいけどっ
みかんを味わわず砂まみれにして、台無しにしちゃう妖はおしおきしないとね!

砂の侵食には、水護姫の加護で対抗するよっ
邪悪なものを寄せ付けぬよう、破魔の力をこめて広範囲に展開させて……
飛び散った砂も水で流し、桜の祝福が春を呼んでくれるように祈って
にっこり笑顔で、妖の挑発も受け流して「一緒におどろー」って神楽を舞うんだよ

こんなに美味しそうで素敵なおみかん、ひとり占めするなんてもったいないよ
みんなで分け合って仲良く食べれば、笑顔も広がって何倍もおいしくなるんだよ!
あやかしさんは、砂まみれのおみかんをどうするの?
僕なら食べるよ、もぐもぐもぐ……!


香神乃・饗
この前も蜜柑独り占めしてたっすけど
もう一度会うとかどんだけ蜜柑好きなんっすか!蜜柑馬鹿っすか!

美味いものが食べたかったら金を払うものっす!タダでぶんどるのはお門違いもいいところっす!

近づく人が居ないなら近づき戦い、援護が足りないなら離れて撃つっす

香神写しで増やした苦無を投げ囮にし死角から近づき苦無で暗殺を狙うっす
近づけたら剛糸で締め上げ、動きを封じるっす
この時何があっても見失わない様に目印の剛糸も絡めておくっす

もし砂塵に目をやられても怯まず突っ込む覚悟はきめているっす
殺気は消えないんっすから見失わないっす
目を瞑ったまま突っ込んで苦無で一撃を喰らわすっす
手ごたえがあったらそのまま剛糸で締めるっす



 憎らしげに表情を曇らせていた砂塵のあやかしだったが、彼女はすぐに気を取り直して、ぐりんと腕を回してみせた。
 篝・燈華(幻燈・f10370)の翠色の穏やかな双眸に映るのは、風を纏い砂を巻き上げ、嗜虐的に笑う砂塵のあやかし。彼は一度睫毛を伏せて、無残に落ちて潰れたみかんたちへと視線を下げ、小さく吐息した。
「みかんと戯れるぶんちょうさま……それはとても愛らしいけどっ」
 骸の海へと還っていった、真っ白いころんころんなぶんちょうさまと、甘酸っぱく爽やかに香る丸々としたみかんのコラボレーションは、心惹かれるものがある。
 それはよく分かるが、それはそれ、これはこれだ。
 いくらここのみかんを気に入ったといっても、それを独占してしまうのはお門違いも甚だしい。
 独占してすべてのみかんを余すところなく食うのであれば、百歩譲ってよしとしたかもしれない――結局、グリモア猟兵の予知に引っかかって倒される運命にあるのだとしても――が、それさえせずに、砂まみれにして、台無しにしてしまうような妖は成敗しなければいけない。
「おしおきしないとね!」
「できるもんならやってみなよ!」
 燈華の笑みに少しも怯まなかった砂塵のあやかしは、ざらざらと砂を袖から溢れさせる。
 寒風が吹き荒む中、あやかしが腕を振り上げれば滝のように流れ落ちる砂は、まるで意思を持った大蛇のように燈華に迫り来る!
「神水の巫女よ、我が祈りの援けと成し給え」
 刹那、舞い上がるのは桜の花弁――ようよう綻びを見せ始める村の桜は依然として沈黙を続けている――その正体は燈華だ。
「こんなに美味しそうで素敵なおみかん、ひとり占めするなんてもったいないよ」
 彼が舞を踏むたびに桜花が撒き散らされる。
 これ以上、このみかん畑に邪悪なものを寄せ付けぬよう、破魔の力をこめて広範囲に展開させるのは、燈華に憑依した古の巫女の力だ。
 穢れを洗い流すかのように清らかな水が降り注ぎ、あやかしによって砂まみれにされたみかん畑が光り輝くようだった。
「あやかしさんは、砂まみれのおみかんをどうするの?」
「なによ、こーんなにいっぱいあるんだから、食べるワケないじゃない!」
「僕なら食べるよ、もぐもぐもぐ……!」
 砂で汚れたみかんを拾い上げて、白い袖で軽く拭って薄い皮を剥いて、一房食べる。もう一房食べる。さらに三口目。
「おおおお、なにもぐもぐしてんのよ! アタシのことは無視なの!? ていうか、みかん、アタシのんだから!」
 落ちたみかんは食べないと言ったそばから、「勝手に食べないでよ!」と都合のいいことを言って、あやかしは洗い流されて綺麗になってしまったみかん畑を、再度砂まみれにせんと、滂沱と流れる涙のように、勇猛な瀑布のように砂を放出させて燈華めがけて放つ!
 が、砂塵のあやかしは、突如として飛来した《苦無》の鋭利な切っ先に驚き仰け反って、辛くも躱してみせた――そう見えたが、さすがに無傷というわけにはいかなかった。
 完全な奇襲が成功したのだ。それは、燈華へ気を取られていた砂塵のあやかしの失策だった。
 先刻より奇襲やら罠を張ろうという風向きがあったのを、失念しているのだから。
「誰よ!?」
 ヒステリーに叫ぶ。その白いふっくらした頬は、見事に斬れていて鮮血が流れ出していた。
 しかし、《苦無》を放った主は現れない。
 その上、数多の鋭刃が、繰り人の居所を悟らせないように縦横無尽に飛び回る。煌めく刃の襲撃に、あやかしはもんどりをうってひっくり返った。
「あっぶないじゃない! 当たったら大怪我するし!」
 当たり前だ。
 香神乃・饗(東風・f00169)はこっそり身をひそめて、砂塵のあやかしを見据えた。
 香神写しで増やした《苦無》を巧みに操り、こちらの位置を気取られないように囮として、陽動として使う。
 そして作り出したあやかしの死角から近づき、強靭な《糸》締め上げる準備も出来ている。
(「さあ、食い意地の張ったオブリビオン討伐の時っす!」)
 胸中で気合いを入れて、決然と一歩を踏み出す――足音を殺して、飛び交う《苦無》に苛立つ砂塵のあやかしへと接近。
 饗の隠密の精度を上げるのは香神写しの成果だ。そして、燈華の水と桜が吹き荒れているのも一因だ。
 あやかしは水護姫から逃れながら、饗の《苦無》の猛追を躱しているのだ――饗は、この先になにがあっても剛糸を見失わないよう目印になる糸をも絡めて、疾駆!
「――ッ!」
 砂を踏み潰す音を聞き逃さなかったあやかしは、はっとして振り返る――しかし時すでに遅し。
 眼前には美貌と言って差し支えない男がいた。
「また会ったっすね!」
 砂塵のあやかしを拘束する《糸》を絡ませ、ぎゅうぎゅうに締め上げる。ギリギリと締まるが、あやかしの足元からざらざらと砂が零れ落ちている――だが饗は怯んだりしなかった。
 あやかしが饗の視界を奪うために砂を放ってくることは分かっていた。以前コレと戦った記憶はまだ新しく、その身に刻まれている。
 さらに、みかんへの執念なのか、それとも猟兵への本能的な憎しみなのか、少女然とした体から放たれる殺気は砂とともに垂れ流されている状態だ。
 素早く回り込んだ背後から《糸》で締め上げているが、砂塵のあやかしは軽業師よろしく地を蹴り、《糸》の拘束の隙を作り出し、するりと逃げ出す――くるんと空中で体の向きを変えた瞬間――細足が宙を薙ぐように回し蹴りを繰り出す!
 それらがまるでスローモーションのように見えていた饗は、やけに長く感じた時間の中で瞬時に覚悟を固める。
(「いくら視界を奪われたとしても、殺気は消えないんっすから見失わないっす」)
 浴びせられた鋭い砂の奔流が目に直撃。反射的に目を瞑ったが、あやかしがどこにいるのかは手に取るようにわかる――砂が目に入って痛くても、発露される殺気を感じれないほど心を乱されたわけではない。
 《苦無》を手に、ぐっと踏み出して烈声を上げる。
「なんっ、目潰ししたのに!?」
「そこっすね!」
 もう一歩大きく踏み込んで返す刃を一閃!
 なにかを斬りつける感触――あやかしの息を詰めた苦悶――すかさず剛糸を放った。
 しかし、こちらの感触は空振りしたものだった。
 トンっ、トンっ、と軽快な足音がして、距離をとられたのが分かった。
 目をこすり視界を取り戻す。
 涙で滲むなかに、華奢な少女が立っていた。二の腕には真新しい一文字の深い傷。
 饗は漆黒の双眸をしばたたかせて、
「この前も蜜柑独り占めしてたっすけど、もう一度会うとかどんだけ蜜柑好きなんっすか! 蜜柑馬鹿っすか!」
 みかんバカと言われて、砂塵のあやかしは大層驚いて、つり気味の眉をさらに吊り上げて、地団駄を踏んだ。
「なに言ってるかわかんないけど! その言いようだとアンタだってみかん好きなんじゃない! ヒトのこと言えないじゃん!」
 饗をビシっと指差して、「みかんバカ!」と鸚鵡返しに叫んだ。が、砂塵のあやかしの覇気は衰えている。
「みかんバカで結構だよー。みんなで分け合って仲良く食べれば、笑顔も広がって何倍もおいしくなるんだから!」
「そうっす! そもそも美味いものが食べたかったら金を払うものっす! タダでぶんどるのはお門違いもいいところっす!」
 まったく反論の余地すらない正論で返されて、砂塵のあやかしはぐうっと唸った――が、それで諦めてみかん畑から姿を消すわけではない。
「ホント、……なんなの、アンタらリョーヘーって……、ホント、大っっきらい!」
 《苦無》の猛襲と、饗に締め上げられた、ざっくりと斬られた傷を負い、いよいよフラつきだしたあやかしは、しかしその着物の袖から大量の砂を流し始めた。
 災厄を撒き散らす砂塵が放出される!
 一粒はたとえ小さくとも、これほどまでに寄せ集められ、うねりながら襲われれば、鈍重な凶器になる――それでも燈華は、にっこり笑って、水護姫をその身に宿して、
「一緒におどろー」
 優雅に《桜雲》の袖や裾を翻し、《神狩舞》をばさりと広げ、神楽の数ある舞の中から一節を踏む。
 落ちる水は穀雨のように地を濡らし、すぐそこまで迫る春を呼ぶ桜も、花吹雪となってみかん畑を駆け抜けた。
「なんでアンタなんかと踊らなきゃいけないのよ!」
「踊らにゃソンソン♪」
「ソレ違うし!」
「なんでもいいよー」
 ふわりヒラリと舞いながら、にこにこ笑いながら。
 それでも容赦なく、びしょ濡れのあやかしに、春を呼ぶ花吹雪が猛威を振るったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
当然、蜜柑は好きっす!
でも俺がここに来た本命は別っす、いいじゃないっすか!そこ説明いるところっすか?

農家の人たちが困ってるのを見過ごせないっていうのもあるっすけど
出荷できないのは大変っすから
大事に育てた人や美味い蜜柑を楽しみにしてる人たちの思いをこれ以上踏みにじらせないっす!

苦無を引き戻せる様に手早く剛糸に結び付けておくっす
香神占いを使い続け、砂のかかる範囲や蹴りの届く範囲を読み避け続けるっす
共闘する人が居るならその人の攻撃が命中する様に避けて誘導するっす
動きが見えるなら反撃にも使えるっす
10秒後に負ける像に重ならない様に避けるフェイントをかけおびき寄せ剛糸で締め上げ苦無で斬るっす



 桜の花弁に巻かれて傷ついた砂塵のあやかしは、ぐらりと砂地に片膝をついた。
「ううう、もう、アタシのみかん畑だったのに……! アンタらリョーヘーのせいで、ぶんちょうはいなくなるし、みかんは減るし、みかんバカとか言われるし、痛いし、もう最悪……なんで邪魔しに来るのよ……」
 ブツブツと尖らせた唇から文句を垂れ流すあやかしだったが、饗はそれを許さなかった。
「俺はもちろん、蜜柑は好きっす!」
 手早く《苦無》に《糸》を括り細工を施しながら、
「でも俺がここに来た本命は別っす、いいじゃないっすか! そこ説明いるところっすか?」
「別に説明してなんて言ってないし、最初にみかんバカって突っかかってきたの、アンタじゃん!」

 アタシはただみかん食べてぶんちょうと遊んでただけなのにー!!

 ヒステリックに叫んで、乱れた銀髪をぐしゃぐしゃにして、勝気な赤い目に饗を映し、立ち上がった。
「それが迷惑だって言ってるっす!」
 このみかん畑を育てるのに、一体どれほどの苦労があっただろう。
 たわわに実ったみかんは恵みであると同時に、物理的にも精神的にも重く農家の負担になる。
 しかし、その辛さを負っても余りある喜びがあるのだ。
 そうした思いの全てを踏みにじっているのが、ぶんちょうたちや、砂塵のあやかしの砂なのだ。
 みかん農家たちが困っているという事実がある中、手助けしないわけにはいかない。
 なによりも、売りに出せないというのは、死活問題だ。
「今、あんたが踏んでるその蜜柑に、どれほどの思いが詰まってるか考えたことあるっすか?」
 ないだろう。相手はオブリビオンだ。わかっていることだが、その身勝手さに頭が沸騰しそうだ。
「許さないっす!」
 香神占いを発動――脳裏に閃くのは、少し先の未来。
 こちらに駆け距離を詰めて、勢いよく蹴り上げられた砂塵が饗の顔に命中している未来――それが視えたことは、アドバンテージになる。
 あやかしの足が動く、その瞬間には饗はその場にいなかった。
「なんッ」
 つんのめるようにたたらを踏んだ。
 いつの間にか細首に絡まるように剛糸が張られている、その鼻先を《苦無》が掠めていく。
 首に絡まる糸を引き千切ろうと、首を掻く砂塵のあやかしだったが、背後で《苦無》を素早く巻き取り、次撃を繰り出そうとする饗へ後ろ蹴りに目潰しの砂流を放ってくる!
 だが。
 その映像は、すでに視えていた。
「合わせ香神は御見通しっすよ」
 香神占いでわずかばかりの未来を視ることは、答えを見ながら詰碁や詰将棋をするようなもの。
 剛糸への対応はどうするか、飛んでくる《苦無》にどのような反応をみせるか、そして背後に饗がいた場合どのように砂を蹴りあげるか。
 推測の結果、対策をたて、罠にかけることは容易くなる。

「さよならっす」

 目潰しを放った場所にすでにいなかった饗は、砂塵のあやかしの死角――右側にぐるりと回り込み、《苦無》を一閃させる!
「――っ!!!」
 耳を劈く絶叫を上げて、砂を血で濡らした砂塵のあやかしは、憎悪に満ち満ちた目で饗を睨め上げ、そして――どさりと倒れ伏した。

 砂を孕んだ寒風がみかん畑を流れていく。
 終わった……という達成感に、ゆっくりと大きく息をついて、漆黒の瞳を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ふぞろいのミカンたち』

POW   :    もったいないから、ぜーんぶ食べちゃおう。

SPD   :    加工して飲料や染料にしようか。

WIZ   :    皮もいろいろと使い道があるんだぞ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「わぇらのみかん、どないなっとんのや」
 口々に不安を滲ませる男たちが、一緒にやってくる。
 その目に映ったのは、オブリビオン討伐が完了し、砂にまみれたみかん畑だった。

「あがらが、あの文鳥ら倒したんか」

 軽く舌を巻くような発音に、怒られているような気になるが、男らの顔を見る限り、それはお門違いだ。
 安堵し、喜び、今にも飛び上がり走り出しそうな雰囲気がする。
 猟兵たちは首肯した。
 危機が去ったことを伝えれば、まさに諸手を挙げての大喜びだった。

「ホンマかぇ! おおきに! ホンマにおおきに!」
「おまん、ちょお、みな呼んでこい!」
「おん! 行ってくるぁ! えらいこっちゃやでえ! アハハハハハ!」
「わろてら……ハハ」
 一番若そうな男が村へと報告に走り、リーダーのような男――ゲンエイと名乗った彼は、
「おまんらも、おいで。みかん食って、風呂入っていってかまへんさけ、な、ゆっくりしておいで」
 刻まれたシワと、深い笑みに、戦闘の痛みが引いていくようだった。
 ゲンエイは続ける。
「みかんしかないとこやさけ、風呂にみかん入れなァ、あったまるし」

 潰れはしたが、まだ食べれそうなみかんを使ったフレッシュジュースを作るもよし、
 ジャムの作り方は知らないそうだから教えるもよし、
 落果したものの無傷のものをそのまま食べるもよし、
 それらを持ち込んで、みかん風呂を堪能するもよし。

「旅のお人、好きにゆっくりしていきよし」
篝・燈華
【WIZ】
えへへ、村の皆の笑顔を見ていると、ほっこりしちゃう
あ、お風呂におみかんを入れるとあったまるって言ってたよね?
せっかくだし、食べるのが難しいものをお風呂に入れて、みかん風呂を楽しんじゃおー!
誉人くんもお誘いしたら来てくれるかなあ?

柑橘の爽やかな香りはさっぱりしていて、砂まみれの体も綺麗にしてくれそう!
人心地ついたら獣奏器を取り出して、そっと演奏を
ぶんちょうさまは無理だけど、近くにいる動物さんも呼びたいなっ
ほらほら、誉人くん、もふもふの鳥さんだよー
あとね、おみかんに混ざって、あひるさんの玩具も浮いてるんだよー

なんてのんびりしたひと時を過ごしつつ
新しい季節、新しい実りを祈って演奏するんだ



招待された村は活気に満ちていた。
 みかんの出荷再開の目処が立ったことによっての活気だ。
 みなが喜んでいた。
 その溌剌とした笑顔を見ていると、燈華も眦が下がる。
「みんなの笑顔を見ていると、ほっこりしちゃう」
 ふにゃりと破顔した燈華に呼ばれてついてきた鳴北・誉人も、すっかり落ち着いた村の様子に三白眼を細めて薄く笑む。
 えへへ、と燈華は嬉々として、
「お風呂におみかんを入れるとあったまるって言ってたよね?」
「おう、ンな話だったな」
 潰れてしまい食べることもできなくなったみかんの皮を風呂に入れて、みかん風呂にしていると、村の人は言っていた。
「せっかくだし、みかん風呂を楽しんじゃおー!」
 後ろをついてくる誉人を振り返って、「誉人くん、行くよー」とふわふわと歩いていくが、「燈華」と呼び止められた。
「風呂屋はそっちじゃねえ」
 ぴんっと耳が立って、灰銀の尾がぼわわっと膨れ上がった。
「……えへ、間違えちゃったー」
「それェ……や、なんでもねえ、行くぞ燈華」
 なにかを言いかけてやめた誉人はガシガシと頭を掻いていたが、それ以上なにを言うでもなく歩き出した。
「誉人くん、待って!」
 すたたたっと燈華は、自分より少し小さな背中を追いかけた。

 訪れた風呂屋は里山を背にして建っていた。
 『わ板』が立てかけられた軒先、使い込まれた暖簾をくぐれば、みかんの爽やかな香りが充満していた。
「あっでぇ、旅のお方! よぉ来たなぁ! 男湯はこっちやで」
 男の一文字が書かれた暖簾を指差したのは、番台に座っていたおかみさんだ。
 彼女は、いたずらっぽくふふふと笑う。
「楽しんじょいでー」
 燈華らは案内された方へと入っていく。
 脱衣所を抜ければ、そこは予想外に、壁がなかった。風呂屋を支える太い柱がむき出しの状態で、ひさしが張り出してそれが雨よけということだろう。
 露天風呂然としている。
「すごーい!」
 浴槽に張られた湯の中に、橙の花びらが散ったような様相に、燈華はパチっと手を打ち鳴らす。
 皮だけでなく、丸のままのみかんもぷかぷか浮いている。
 すっきりとした爽やかな香りは、浴場内が一番濃く、湯気とともに立ち込めていた。
「いい匂い!」
 柑橘の香りを胸いっぱい吸い込んで、深呼吸をひとつ。
「洗って入ろう! 楽しみっ!」
 砂まみれにされた先の戦闘で、自慢の灰銀の毛並みは、くすんでバサバサになっていた。
「〜♪」
 丁寧に洗い、濡れてぺったんこになってしまった尻尾も耳も、これで乾けばふかふかに戻るはずだ。
 一足先に湯に浸かっていた誉人は、屋内でなく外の方でぼんやり空を見上げていた。
 ざぶざぶと湯の中を歩いて、彼の隣に座れば、体の奥までじんわりと熱が伝わってくる。
「はあああ……あったかいねー」
「あー、そーだなー」
 気の抜けた声で誉人。彼もみかん風呂を満喫しているようだ。
 今日の疲れが湯に溶けていくようだった。
 ひと心地ついたところで、燈華は使い慣れた獣奏器を取り出して、小鳥を誘う魅惑の音を紡ぎ出す。
 静かな調べに誘われて、里山に住む小鳥たちが近寄ってきた。
 手で触れる距離まで近寄ってきたスズメに、誉人は目を細める。
 そんな彼の様子に、燈華は笑みを深めた。
 こちらに来る前、えらくぶんちょうさまに興奮していた誉人の姿を覚えている。きっと今、触りたくてうずうずしているはずだ。
 ぞくぞくと集まってくるスズメやハクセキレイたちに、目を輝かせている。
「ほらほら、誉人くん、もふもふの鳥さんだよー」
「(わーってんよ)」
 思っていたよりも小声で、返事がある。やっぱりこっそり興奮しているらしい。
 燈華の演奏が中断したせいか、誉人の隠しきれない殺気じみた、ちょっとだけでも触りたい欲求に気づいたか、小鳥たちはチチチっとさえずりながら飛び立った。
 青空に黒い影が点々になって消えていく。
「誉人くんっ! あとね、おみかんに混ざって、実は……あひるさんの玩具も浮いてるんだよー」
「あひるゥ? おォ、マジだ……いつ浮かべたんだよ」
 くつくつと喉の奥で笑い、あひるのオモチャをすくい上げる。トボけた顔のソレを、ぽちゃんと再び湯に浮かべた。
 そして燈華は獣奏器を構え、静かで甘やかな調べを奏でる。
 厳しい冬は名残惜しそうに去って、のんびりと訪れる春は新たな命を芽吹かせ、次の実りを齎すだろう。
 その流れの中で、生まれくる安寧を祈りながら、燈華の演奏はゆったりと続く。
 今だけは、すべての厄介を忘れて――

大成功 🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
鳴北さーんご案内お疲れさまっす!これ見てほしいっす!
撮影したぶんちょうさま写真集を見せる
鳴北さん、スマホ持っるっすか?このデータ全部あげるっす!持ってないなら後でUDCに行って契約するっす!使い方も教えるっす!

俺、この為にきたんっす!
ご案内って大変っすから、頑張ってるグリモア猟兵さんにプレゼントっす!
実物は渡せないっすから写真だけっすけど。どーっすか?撮れてるっすか?
写真があったら3Dプリント頼めるんじゃないっすか?ぬいぐるみ作ってみるとか……あ!スマホにつけるキーホルダーはどうっすか?
(見かけはこんなでもオブリビオンっす。俺自身は好きじゃないんっすけど、喜んで貰えるならそれで良いっす)



「あ、いたっす! 鳴北さーん!」

 村の広場では、みかんを使った練り菓子やら饅頭が振舞われているし、籠盛りのみかんを配っている。
 その様子をぼんやりと、頰にわずかに笑みを刻んで眺めていた誉人(もちろんみかん籠をもらっていた)を見つけて、饗は手を振った。
「おう、饗!」
 誉人も饗の姿を見、手を挙げ返事をした。
 茶屋の軒先に出されている長椅子に座っていた誉人の隣に腰かけて、
「ご案内お疲れさまっす!」
「いや、饗こそお疲れ」
「さっそくなんっすけど、これ見てほしいっす!」
 事件解決を目指して猟兵を転送し続けていたグリモア猟兵を労う饗は、彼の隣に座り、ふっふっふーと笑いながら、スマホの画面を示した。
「っ! コレ……!」
「ぶんちょうさまっす!」
 みかんの木に群がる真っ白くてコロンコロンのオブリビオン――ぶんちょうさまが画面いっぱいに収まっていた。
「鳴北さん、スマホ持ってるっすか? このデータ全部あげるっす!」
「全部!? いいのか!」
 もちろんだ――饗が大きく頷けば、彼は嬉しそうに口元を緩ませた。
「スマホな……持ってるは持ってるけど、あんま使いこなせてねェ……」
「なら、使い方教えるっす!」
 自分の端末をスイスイとスムーズに操作して、対する誉人は、
「えー、っと……設定? 受信する、う? ドコ?」
「うーんと、ココっす、ちょっと長押しして、そっす……それで、ソコ、オンにして……」
「こォ?」
「そうっす!」
 誉人のぎこちない指に指示を出しながら、撮り溜めたぶんちょうさまの写真を保存していく。ご丁寧にフォルダまで作って。
「俺、この為にきたんっす! ほら、『ご案内』って大変っすから、頑張ってるグリモア猟兵さんにプレゼントっす!」
 グリモア猟兵として、その大変さは身に染みてわかっている。
 その苦労が少しでも和らぐなら――見た目が可愛いぶんちょうさまの写真で喜んでもらえるなら、願ってもないことだ。
 といっても饗自身、こんな姿でもオブリビオンであるため好きではないのだが――
「饗、ありがとな! へへっ」
 こうして喜ぶ誉人の姿を見ることができた。
 饗も破顔して、
「実物はさすがに渡せないっすから写真だけっすけど」
「だな、アレはオブリビオンだかンなァ……愛でるぶんにゃァいいんだけどよ……」
 残念そうに声を落として、それでも饗の撮った写真をじっくりと見ている。
「どーっすか? 撮れてるっすか?」
「もうばっちり! すげーすげー!」
 しゅっしゅっとスマホの画面に指を滑らせる誉人の、滅多に見ない穏やかな顔を盗み見て、頑張って良かったと饗は安堵した。
 もくもくと写真を見つめる誉人の横で、籠盛りのみかんをひとつ手に取る。
 一房もいで口へひょいと放り込む。
 口の中に甘みの強いみかんの香りと果汁が広がった。
(「んん! 美味しいっす!」)
 新鮮でジューシーなみかんに舌鼓を打てば、アイデアも閃く。
「そうだ、写真があったら3Dプリント頼めるんじゃないっすか? ぬいぐるみ作ってみるとか……あ! スマホにつけるキーホルダーはどうっすか?」
「へー、写真からキーホルダーが作れンのか!」
「それもあとで教えるっす!」
 世の中進んでンなぁ……! と感心した誉人も、みかんを剥いて食べる。
「話できて良かったよ、ありがとな饗。写真も、マジで嬉しかった」
「お安い御用っす!」
 頼もしく胸を張った饗に、しかし誉人は、
「でも、あんま危ねえことすんなよ」
 グリモア猟兵としての性分か――先に心配が立つのだった。
「わかってるっすよ!」
 からりと笑って、そんな心配を吹き飛ばす。
 猟兵を送り出すとき、無事に帰ってきたとき、傷ついて帰ってきたとき――心は敏感になる。
 だからこそ、饗はことさら元気に言った。
「大丈夫っす!」
「ハッ! そうかよ、まあ、無理すんなよ」
 とはいえ二人とも猟兵だ。無理をしてなんぼというところはあるし、そういう局面もこのさき必要になってくるかもしれない。
 だからこそ、今を――この瞬間を全力で楽しむしかないのだ。

 それから二人で、みかんを剥いて食いながら取り留めもない話をした。
 喧噪はたゆたう。人々の幸福と安堵を滲ませて。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャスパー・ジャンブルジョルト
みかん食べ放題と聞いてやってきたぜ。
つーことで、いっただっきまぁーす! (もぐもぐもぐもぐもぐもぐ)
……と、ひたすら食べてばっかりってのも芸がねえな。UDCアースに行った時に覚えた『みかんアート』ってのを誉人や村のガキンチョどもに披露してやっか。皮が砂まみれになってるのもアート的には好都合。デザインの幅が広がるってもんよ。
見とけ、おまえら。みかんの皮をこうやって、こうやって、こうやって剥くと……はい、鳥のできあがりー!
鳥の他にも馬とか!
それに猫とかな! どうよ、この猫? 俺に似て男前だろ? にゃはははははは!


他の猟兵の引き立て役や調子に乗って痛い目を見る役など、お好きなように扱ってください。




 俄かに広場に笑いと歓声が起こった。
 子ども達の甲高い声が一際大きく上がっている。
「ねこさんすごーい! めっちゃ食べるやん!」
「はっはー! こんなもんじゃないぜ! まだまだ食べてやるから、持ってこーい!」
 みかん食べ放題に釣られてきたジャスパー・ジャンブルジョルト(JJ・f08532)の、思わぬ男気に触れて、村の若い男たちも野太い歓声を地鳴りのごとく響かせた。
「再度! いっただっきまぁーす!」
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……
(「JJサン、すげェ食ってる……!!」)
 あのぷにぷにしてそうな肉球で! もふもふの毛がみかんの汁で汚れることも厭わないで!
 すっごく器用にみかんの皮を! 剥いているー!!
 誉人はジャスパーの、(年上に対して失礼極まりないだろうが)とてつもなく可愛いどツボな姿にノックアウト寸前だった。
(「なんなのォ、みんなして俺をどォしたいわけェ!?」)
 なんて誉人が悶々としているとも知らず、「見てるか、誉人!」とジャスパーは少年を呼んだ。
「見てるよォ、すっごい食うねェ!」
「こんなもんじゃあないんだがな……と、ひたすら食べてばっかりってのも芸がねえな」
 最後に残った一房を咀嚼し飲み込んだジャスパーは、誉人を手招きして、
「ガキンチョどもも来ーい、いいもの見せてやる」
 もっと近くに寄らせ、手元を見せる。
 落果したダメージと砂塵のせいの汚れも、見方を変えれば、好都合になる。
 ジャスパーが習得した技巧の全てを駆使して、インスピレーションを閃かせる。
「しっかり見とけよ。皮をこうやって、こうやって、こうやって剥くと……はい、鳥のできあがりー!」

「「「おおおおおおお!!!」」」

 きらきらきらきらと眩い小さな目がジャスパーに注がれる。
 純真無垢な星屑に、まんざらでもない彼は、「にゃはは」と得意げに髭を震わせた。
「ねこさん、次は!?」
「まー待てよ、急かすな……とか言ってる間に、馬だー!」
 ジャスパーの手から生み出される、UDCアース仕込みのみかんアートに、子どものみならず大人も寄ってきては感嘆の息を漏らす。
「もいっこ鳥さん作って!」
「いいぜ! いい子で待ってろよ」
 むいむいむいむい……
(「……あああ、ダメだ、ネコがみかんで遊んでるようにしか見えねェ!」)
 心が幸せで苦しい誉人をよそに、ジャスパーは子どものリクエストに応えて、みかんアート・鳥ver2を作り上げた。
 最初に作った、可愛さ満点のものとは違う。
 傷を活かして羽に模様のある、猛禽類をイメージして作り上げたのだ。
「すごーいすごいすごい!!」
「ほえー、みょうちきりんな剥き方もあるんやなぁ」
 みょうちきりん!
 ジャスパーは目を瞠った。
「コレがアートだ! 心をもっと豊かにいこうぜ!」
 みかんの剥き方を工夫すれば、ただ美味しいだけ(それだけで十分だろうとか、食べ物で遊ぶなという反対意見はこの際蚊帳の外に放り出すとして)のみかんが、見た目にも可愛く美しいみかんに早変わりするのだから、やらない手はないではないか。
 もっふもっふの銀毛をみかん色に染めて、せっせとみかんアートを生み出すジャスパーの鋭い爪も、みかんのカスで黄色くなっている。
「も……! JJサン、勘弁してェ……!」
「なにがだ、誉人! 俺のアートがわからないってのか! ほれ、見てみろ!」
 ずずずいっと見せつけてきたものこそ、誉人を悶絶させるものだった。
「どうよ、この猫? 俺に似て男前だろ? にゃはははははは!」
 褒められて持ち上げられて気分はサイコーのジャスパーだった。

「これはかわいくなーい!」

「嘘だろ!? いやいや、超絶かわいいし、カッコいいだろ!?」
 金眼を見開いて、尾の毛を逆立てたジャスパーはうにゃうにゃ言い、酷評を下した子どもに「ほらちゃんと見て」と詰め寄った。
「やっぱりかわいくなーい!!」
 あははははは!
 高らかに笑いながら、蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。
「……JJサン、ソレ、かわいいよォ。ガキども、きっと飽きただけだよォ……」
「よしてくれ、誉人。虚しくなる」
「食べよ、みかん甘くて美味しいしィ」
 頷き合って二人はアートに使ったみかんをぺろりと平らげた。


 やがて村に夜の帳が降りる頃――
 広場のお祭り騒ぎは収まって。
 代わりに賑わいをみせるのは、荷車の軋む音や、馬の嘶きだ。
 みかんがいっぱい詰まった箱を、たくさん積んだ荷車が用意されたのだ。
 夜明けとともに隣の村まで売りに出るという。
 ダメージを受けたみかん畑の復旧にはまだまだ時間はかかるだろうが、これからみかんの木は、ぞんぶんに陽の光を浴びて、初夏には可憐な花を咲かせ、また次の冬には美味しいみかんを実らせることだろう。
 そして、いよいよ西の空から太陽の気配が消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月13日


挿絵イラスト