●ねこのしま
グリードオーシャン深海に、色鮮やかな珊瑚で作られた『イニシュケット』という名の島がある。
突如アルダワ世界から落ちてきたその島は、蒸気関連の技術は失われてしまったものの、美しい街並みは辛うじて残り、手つかずの自然とほどよく融合していた。
穏やかな波が打ち寄せる砂浜から島の中心へと少し歩くと、石畳が敷き詰められた道が現れ、石や煉瓦で作られた家々が見えてくる。
何よりも目を見張るのは、街の至るところにいる猫たちだ。
海辺の石塀のうえで、ひんやりとした煉瓦道の影で、島の中央にある広場に連なる露天商の店先で、寝たり、食べたり、遊んだり、猫たちは自由気ままに過ごしている。
「うむうむ、今日も島は平和であるな。結構、結構!」
細く伸びた自慢の髭をピンと指で弾くと、ケットシーのレオ――島の住人からは『猫伯爵』と呼ばれている、島のまとめ役――は、街外れの高台から島を見渡しながら満足げに頷いた。
同郷から来たケットシーたちも、島に辿り着いた異種族も、そして猫たちも、レオにとっては護るべき住人であり、仲間だ。落ちてきたばかりのころは色々あったと伝え聞くが、ようやく訪れた平和。これを末永く維持いたいものだと、レオは心から思う。
「……ん? あの光はなんだ……?」
砂浜で光るなにかを望遠鏡越しに見つけ、レオは小首を傾げた。踵を返して坂道を駆け降り、真っ直ぐに光の方へと向かう。幸い島はそれほど広くはない。程なくして辿り着いた海辺で光の出所を見つけると、両手に取ってしげしげと眺める。
「これは……竪琴のようだが……」
何故こんなものが? そう再び首を傾げるレオの頭上に、海から現れた巨躯が大きな影を落とした。
●ねこねこぱらだいす
「つまり、『猫と遊んで敵を狩れ』ってことだね」
このままでは、メガリス『ダグザの竪琴』を見つけたレオが、幹部『狂濤凶龍アトラティヌス・モササウルス』の餌食となるだけではなく、奪われたメガリスがグリモアベース侵略に悪用される恐れもある。
メガリスは、なにもしなければ予知通りレオが発見するが、猟兵たちが先んじて見つけても構わない。使えば、ショウ・マスト・ゴー・オンと同等の力を発すると言う。一時的な足止めに役立ちそうだ。
そう真剣な面持ちで語った海藤・ミモザ(水面の陽・f34789)は一転、軽やかな笑顔を見せる。
「そうそう。レオさんと事前に仲良くなっておけば、敵との戦闘時にメガリスでフォローしてくれると思うよ」
レオは様々な楽器も嗜んでいるらしく、頼めば美声とともに演奏を披露してくれるだろう。
仲良くなる方法も、至って簡単。
島の猫たちと一緒に過ごす、それだけだ。
レオは大抵島のあちらこちらを散策しているし、直接彼に接触せずとも、見慣れぬ猟兵たちの来訪には気づき、注視しているはずだ。
勿論、レオを交えて楽しんでも良い。猫の集会場の場所や、特定の猫種の居場所を聞けば、気軽に教えてもくれるだろう。
要は、猟兵たちの好きなようにイニシュケットを楽しめばいいのだ。
「ということで、みんな準備はいい? じゃあ、いっちょ猫島行っちゃおー!」
西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。
猫まみれのお誘いにやってきました。
●補足
・当シナリオは「第1章:ねこと自由に過ごす」「第2章:戦闘」の2章構成です。
・第2章がクリアになると完結となります。
・シナリオの成功度は、グリードオーシャンの「骸の月」の侵食度に影響します。
・島は空気の泡に包まているため、これ以上沈まない&呼吸も可能です。
・島まではミモザにより転移できます。
・メガリスは持ち帰れません。
・猫種はなんでもいるものとします。
・何匹と戯れても、ご飯やおやつをあげても良いです。
●プレイング受付
・各章ともにプレイング送信可能になった時点より受付開始。
・各章ともに先着4名程度(余力あれば+1~2名)での採用を予定しています。
・2章開始時の断章追加はありません。
・1章のみ、2章のみの参加も構いません。
皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 日常
『ねこのしま』
|
POW : ねことあそぶ
SPD : ねことのんびりする
WIZ : ねこをながめる
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●青の出迎え
鼻をくすぐったのは、柔らかな潮の香り。
次いで、心地良い波の音。さざ波が打ち寄せるひだまり色の滲んだ砂浜は、島を囲うように端々まで続いていた。打ち寄せては返す波も、頭上から注ぐ陽も穏やかで、水平線まで続く海を煌めく光たちが踊りながら彩っている。
青く澄んだ水面に目を細めた猟兵が、ふと視線を感じて顔を上げれば、海岸そばの石塀にちょこんと座る、1匹の白猫と目が合った。
男の仔、それとも女の仔だろうか。
海と同じ色の双眸をひとつ瞬かせると、白猫はぴょんと塀から降りて、島の奥へ続く石畳を歩き始めた。数歩歩いて、立ち止まったままの猟兵へと振り返る。長い尻尾をぱたりと振って、みゃあ、と一声鳴いた。
――こっちだよ。
まるで、そう誘うかのように。
◇ ◇ ◇
リグ・アシュリーズ
※アドリブ・相席可
※採用、余力があればで大丈夫です
海の中の、珊瑚に彩られたねこのしま。
不思議。だけど、とっても素敵な所ね!
道行く人に挨拶しながら、煉瓦の街並みを見て歩くわ!
お店で買ったジェラート片手に、海辺のブロックに腰掛けて。
近付いてくる猫さんに食べる?と煮干しを差し出し、
気ままにすごすのを眺めていたいわ。
レオさんに会えたら、まずは軽くご挨拶。
こんにちは、とても穏やかな日ね!
私からはあまり干渉はせず、いまは信頼を得るのに専念しようかしら。
いろんな所を旅してきたけれど、
猫たちがのびのび過ごせるこの島は楽園みたいで。
風に溶かすのは、偽らざる本音。
――ずっと先も、この光景が続いててほしいわね!
緩やかにカーブを描きながら街中へと続く石畳を、リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)がのんびりと行く。赤茶色の煉瓦に、所々白石の混じっているのは、補修をした跡だろうか。それは歪というより寧ろ良いアクセントで、自然と足取りも弾み、口許も緩む。
深海にある、珊瑚に彩られた猫の島。不思議だけど、とっても素敵な場所。
「こんにちは!」
「やあ、こんにちは。見ない顔だね? 観光かい?」
「今の時期なら、広場に出ている期間限定のジェラート店がお勧めだよ!」
一声挨拶をすれば、エプロン姿のケットシーの奥さんに次いで、黄色に黒い水玉模様が愛らしいハコフグ顔の青年からも返事が返る。道行く人々も様々だけれど、皆穏やかでで親切だ。
「ありがとう、行ってみるわ!」
そう言って手を振ったリグは、逸る気持ちを抑えながら、けれど少しだけ速足で広場へと向かう。
そこは、中央に3層からなる噴水のある、拓けた場所だった。絶えず水と光を零す噴水を囲うように連なる露天商は、どこも活気で溢れていた。カラフルな色合いで『期間限定ジェラート!』と掲げた店を見つけたリグは、程なくして広場を背にして再び歩き出す。手には、文字通りカラフルな3段ジェラート。どれにしようか悩んでいたら、来てくれたお礼に、と店主がサービスしてくれたのだ。
来たときとは別の浜辺に着くと、木陰に位置したブロックを見つけて腰を下ろす。ひんやりとした心地良さに一息ついて、甘くてさっぱりとしたジェラートを一口舐めた。潮の香りと相まって、普段食べるそれより一段と美味しい。
風にふわりと靡く灰色の髪に惹かれたのか、気づけばどこからかやってきた2匹の猫がリグの周りでくつろいでいた。白と黒。白のほうは、物おじしない仔なのだろうか。円らな眸でリグを見上げ、今にも膝に上りたそうだ。黒のほうは逆に、一歩引いてその様子を見守っている。
「あなたたちも涼みに来たの? これ、食べる?」
笑顔で差し出したのは、こんなときのために用意したとっておきの煮干し。袋からいくつか取り出して彼らの目の前に置くと、白猫は速攻食べ始め、見守っていた黒猫も我慢しきれず口にする。
「なぅ……みゃぅ……」
「ぅみゃーん」
ゴロゴロ喉を鳴らしながら、夢中で食べる2匹。どうやら気に入ってもらえたようで、リグはひとつ安堵の息を漏らすと、そのまま白黒の様子を優しく見守る。
「こんにちは、お嬢さん」
そっと声をかけられて振り返れば、貴族然とした服装のケットシーが微笑んでいた。お洒落なステッキを持ち、細くピンと伸びた髭を揺らしながらレオと名乗った彼に、リグも「こんにちは!」と笑顔で名を告げる。
「とても穏やかな日ね!」
「ああ。今日は特に波も陽も優しい。きっと、お嬢さんの来島を祝福してくれているんだろう」
「そうだと嬉しいわ」
色々な場所を旅してきたけれど、猫たちがのびのび過ごせるこの島はまるで楽園のよう。そっと海風に乗せた言葉に、気づいたのかどうかは分からないけれど。
「――ずっと先も、この光景が続いててほしいわね!」
「ああ、私も心からそう思うよ」
リグの傍らで、レオも眸を細めて頷いた。
大成功
🔵🔵🔵
鎹・たから
ネコの島です
ふくとさちには少し申し訳ありませんね
ですがこれもお仕事です(きり
島のネコ達を見つけたら
しゃがんでそっとこんにちは
あまり見つめ合うと威嚇になりますから
視線は少し流すように
慣れてきたら猫じゃらしをふりふり
家で二匹と遊んで鍛えた技ですよ(ひゅんひゅん
お腹がすきましたね
ゼリーおやつをどうぞ
カップ入りを持ってきたので、皆で分けましょう
折角ですしおしゃべりも
この島の住み心地はいかがですか?【動物と話す
猫伯爵に会えた時はきちんと挨拶を
こんにちは、素敵な島に遊びに来られてとてもうれしいです
ネコ達も幸せそうです
伯爵、他にはどんな子が居ますか?
たから、たくさんのネコ達と遊びたいと思います
お留守番させてきたふくとさちには少し申し訳なく思うけれど、これも仕事だ。緩みそうな口端をきゅっと締めて、鎹・たから(雪氣硝・f01148)はきりりとした面持ちを作った。
色とりどりの花壇や、青々とした木々の緑を楽しみながら住宅街をゆく。
唯それだけで、塀の上で寛いだり、道端で寝転んだり、窓辺でツンとすましたりしている猫たちに出逢えて、どうにも顔が綻んでしまう。
そんなたからを見つけたキジトラの仔が、てくてく近づき、足許に額を擦りつけた。「みゃ」と、雛のような高い声で鳴くと、幾度かたからの周りをぐるぐる回った後、道の先へと行く。
「お誘いなら大歓迎ですよ」
そう言って始まる追跡劇。時に生垣を突っ切り、時に木の板だけの橋を渡り、細い路地をくねくねと曲った先にあったのは広い草原だった。柔らかな草のうえで、キジトラと同じ年頃の猫たちがゆったりと過ごしている。
「こんにちは」
あまり相手の目を見てしまうと、猫にとっての威嚇になってしまう。だから、静かにしゃがんだたからは、少し流すような視線でそっと挨拶した。
「みゃ」
答えるように鳴いたキジトラにつられて、他の猫たちもたからの周りに集まってくる。くんくんと匂いを嗅がれるのも好きにさせていると、警戒心を解いた猫たちは、たからのそばでごろりと横になったり、腕にすりすりと頬を寄せ始めた。
ここぞとばかりに持ち出したのは、猫じゃらし。ひゅん、ひゅひゅひゅん、ひゅひゅん。まるで獲物の動きそのままを再現できるのは、たからの愛猫2匹と遊んで鍛えられた技。捕まえられそうで捕まえられない猫じゃらしに、猫たちは夢中になって飛びかかる。
そうしていれば、自然とお腹も空くとうもの。
「ゼリーおやつをどうぞ。カップ入りを持ってきたので、皆で分けましょう」
持参したいくつかの器に中身を取り分けて目の前に置けば、興味津々の猫たちはぺろりと一口。次いで、がつがつとそれを食べ始めた。
「この島の住み心地はいかがですか?」
『ぱらだいすにゃー! でも、この食べ物はもっとぱらだいすにゃー!!』
『そっち、残ってるならぼくによこすにゃー!』
『これはあたしのにゃん!!』
「まだまだあるから、どんどん食べてくださいね」
あわや騒動になりかけたところを治めながら笑顔で様子を見守っていると、少し離れた場所から聞こえる凛々しい声。
「おやおや、余程美味しいのだろうね。ありがとう、お嬢さん」
「もしや……猫伯爵でしょうか? こんにちは、素敵な島に遊びに来られてとてもうれしいです。ネコ達も幸せそうです」
「こんにちは。ようこそイニシュケットへ。こちらこそ、お嬢さんに来てもらえて嬉しいよ」
「伯爵、他にはどんな子が居ますか? たから、たくさんのネコ達と遊びたいと思います」
「それなら、北西の住宅街にある公園も行ってみるといい。――彼らと遊んだ後に、ね」
楽しげに笑うレオに眸を丸くしながら振り向くと、美味しい匂いにつられてやってきたのか、いつのまにかその数は倍・倍・倍!
おやつ足りるでしょうか、なんて。ちらりと残りを気にしながらも、たからは幸せいっぱいの笑みを零す。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
陰海月の里帰りみたいなものですよねー。
そして、陰海月って猫とかふわふわした生き物が好きなんですよねー。
レオさんに猫集会の場所を聞きましょう。
…陰海月、猫まみれですねー。癒されます。
かくいう私の手元にも、ヒマラヤンでしたっけ。その種の猫がいて、撫でてますー。
霹靂、いつの間にか背に猫のってますねー?
※
陰海月、久々の故郷で猫まみれ。楽しい。ぷきゅっと鳴く。
霹靂(故郷:ブルーアルカディア)、初グリードオーシャンで驚き。クエッっと鳴く。
二匹は友だち
「猫がいて……かつ、水辺だと良さそうだね。なら、島の南東の海岸に行くといい」
自身のそばでふわふわと浮くミズクラゲの陰海月を見て判断したのだろう。道中で出逢ったレオに教えてもらった場所へ辿り着いた馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)は、その景色に瞠目した。
恐らく遥か昔、この島がアルダワ世界と切り離されたときに共に落ちてきたのだろう。波打ち際に残された魔導機関車は、外装は錆びて剝げ落ち、扉も見当たらず、車輪には海藻が巻きついていたが、よく見れば10匹ほどの猫たちがその周囲にたむろっていた。
ひんやりとした鉄の車体は、日陰も作って恰好の塒のようだ。いつ崩れ落ちるかなど気にすることもなく、ボックス席のシートで丸くなる仔、その横を駆け抜け窓から飛び降りる仔、死角の多さを生かしてかくれんぼをする仔らなど、賑やかだ。
「陰海月、行ってみますかー?」
「ぷきゅっ」
実は大のふわふわ好きな陰海月が呼応するかのように鳴きつつ猫たちへと近寄れば、忽ち猫たちに囲まれた。ちょんちょん、と前足でつつかれたり、ぺろりと舐められたり。程なく彼らの仲間となった陰海月は、忽ちもふもふの海に揉まれて幸せそうだ。喜ぶ陰海月のふにゃふにゃと動く腕が面白いのか、猫たちはそれを捕まえようと必死だ。
「……陰海月、猫まみれですねー。癒されます」
口許を緩ませながら、義透も傍らのヒマラヤンを優しく撫でた。喉を鳴らしながら心地良さそうに眸を細める顔につられて、義透の糸目も一層細くなる。
「おや? 霹靂、いつの間にか背に猫のってますねー?」
「クエッ」
「ぷきゅっ?」
「クエーッ!」
一緒に遊びたかったのか、気づけば猫の群れへと混ざっていた霹靂だったが、背羽の間に子猫がよじ登ると、もう1匹、更に1匹と、他の仔たちも登り始めた。
金色混じりの焦げ茶の美しい羽毛も、子猫たちにとっては気持ちの良い遊び場だ。漸く登頂成功して満足気な子猫たちだが、その様子を見ようと体を捻っても見られない霹靂は、どこか不満そう。そんな様子を、頭に子猫を乗せた陰海月は、体半分を海につかりながらきょとんと見ている。
ブルーアルカディアを故郷とする霹靂にとっては初めてのグリードオーシャンは、きっと驚きの連続だろう。片や、久々の故郷を訪れた陰海月にとっては、里帰りのようなもの。
そして今は人に使われることのなくなった魔導機関車も、こうして猫たちにとっての故郷となっている。その景色を眺めながら、義透はもう一度、傍らの猫をそっと撫でた。
大成功
🔵🔵🔵
チロル・キャンディベル
ケットシーさんこんにちは!
チロ、ここにはじめて来たんだけど
いっぱい猫さんいるすてきなところね
猫さんたちと遊びたいんだけど、どこがいいかしら?
猫さんいっぱいね
あ、ソルベがおっきいからびっくりしてる?
ごめんなさい猫さん、ソルベはこわくないのよ
ソルベ、しーっよ
この子たちは何がすき?
ねこじゃらし…はあきちゃってるかしら?
摘んだ猫じゃらしふりふりしつつ
チロのポッケが気になるみたい
ふふー、ここにはね
じゃーん!ささみがあるのよ
食べたい?
じゃあどうぞ
みんなの分あるから、急がなくてもだいじょうぶよ
ふふ、ソルベも猫さんにかこまれてうれしそうね
いっしょにおひるねできたらしあわせなのよ
レオもいっしょにどうかしら
「ケットシーさんこんにちは! チロ、ここにはじめて来たんだけど、いっぱい猫さんいるすてきなところね」
魔導機関車が走っていた名残なのだろう。半ば砂浜に埋もれた廃線の周りで遊んでいた猫たちを眺めていたチロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)は、歩いてくるレオの姿を見留めると、若葉色の双眸をふわりと緩めて声をかけた。
「こんにちは。気に入ってもらえたなら嬉しいよ。チロさんと呼んでも良いかな? 私のことは、レオと」
「レオね! あのね、レオ。チロ、猫さんたちと遊びたいんだけど、どこがいいかしら?」
「それなら、近くに良いところがある。案内しよう」
くるりとステッキを回し、足取り軽く歩き始めるレオに駆け寄ったチロルとソルベは、そのまま並んで海岸を歩く。
少し歩いた先には、海へと伸びる白木の桟橋があった。漁業にでも使っているのだろうか。小ぶりの船と、網が括りつけられているその周辺もまた、猫の溜まり場となっていた。
「猫さんいっぱいね」
ソルベを連れて近づくと、猫たちは忽ちちいさく跳ねて身構えた。対して、ソルベはその黒く円らな眸をまあるくしている。
「あ、ソルベがおっきいからびっくりしてる? ごめんなさい猫さん、ソルベはこわくないのよ」
ソルベ、しーっよ。口に人差し指を当ててチロルが言うと、ソルベはちいさく首肯してその場に腰を下ろした。恐らく初めて見るであろう白熊に、猫たちの好奇心も擽られたのだろう。じわり、じわりと距離をつめ、ぐるぐる周囲を回って匂いを嗅いで、漸く警戒心が解れれば、彼らのやることなどひとつ――登山だ。
もふん。何色ものもふもふが、大きな白いもふもふに埋もれながら登ってゆく様に、思わず笑みも零れてしまう。ソルベも猫たちにかこまれて嬉しそうだ。
「この子たちは何がすき? ねこじゃらし……はあきちゃってるかしら?」
「猫じゃらしと言っても、人によって動かし方は違うからね。楽しめると思うよ」
それなら、と道中で詰んであった猫じゃらしを取り出したチロルは、周りの猫たちの前でそれを振り始める。
しゅ。しゅしゅしゅ。しゅしゅしゅしゅ!
ぱた。ぱたぱたぱた。ぱたたたた!
手にした猫じゃらしと一緒にリズミカルに動くチロルの尻尾は、まるでもうひとつの猫じゃらし。尻尾へとダイブする猫たちは、くすぐったいけれど愛らしい。
「チロのポッケが気になる?」
匂いが漏れたのか、掻き出すような仕草で服を擦る仔に気づいたチロルは、
「ふふー、ここにはね。じゃーん! ささみがあるのよ」
ポケットから取り出したとっておきを、猫たちの前に披露した。食べたい? と首を傾げれば、腕をよじ登らん勢いの猫たちに、ついつい口端から笑みが漏れる。
「じゃあどうぞ。みんなの分あるから、急がなくてもだいじょうぶよ」
たくさん食べて、満腹になったらごろりと寝る。それに倣って、チロルとソルベも仰向けに寝転べば、視界いっぱいに広がるのは、どこまでも高く澄んだ青い空。
「レオもいっしょにどうかしら」
「じゃあ、しばしご一緒しようか」
昼寝のお伴は、柔らかく暖かな海風。こんな時間を、幸せと云うのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
フレーネジール・メーベルナッハ
ねこねこにゃーにゃー♪
あはは、楽しそ楽しそー♪ボクも遊ぶ遊ぶー♪
とゆーワケで、猫さん達と思いっきり遊ぶよー。
ボクも四つん這いになって一緒に走り回ったり、パーカーの袖を猫じゃらし代わりにフリフリしてじゃれつかせてみたり。
追いかけっこして、捕まりそうになったらユーベルコードで非実体化してちょっとびっくりさせちゃうのもアリかなっ?
(勿論攻撃はしません)
レオさんっぽいケットシーさんを見つけたらご挨拶。ボクのコトはレンでいいよー♪
猫さんと遊びに来ました!じゃなくて、事件の予感がしたので解決しに来ました!
でもコトが起こるまでは猫さんと遊ぶー。いつ何が来てもいいように、浜辺の方には注意しつつ!
それこそ、まるで猫のようにぶらりと気の向くまま島を散策した末、フレーネジール・メーベルナッハ(俠気の凶奇の嬌喜の狂姫・f33354)が島を一望できる高台の手前で見つけたのは、一面の花畑だ。
「ねこねこにゃーにゃー♪ あはは、楽しそ楽しそー♪ ボクも遊ぶ遊ぶー♪」
赤、白、オレンジ、黄色。とりどりの花の影でじゃれ合って遊ぶ猫たちにつられ、フレーネジールもその輪の中に加わった。
淡く甘い花の香りに包まれながら、一緒に笑って、一緒に遊ぶ。
ゆるりとしたパーカーの袖は、即席の猫じゃらし。ふりふり、ふりふり。右へ、左へと強弱をつけて揺らせば、それを視線で追っていた仔が、獲物に飛び掛からんと大きくダイブ!
そのまま袖をすり抜け、膝のうえにぽてりと落ちた黒ブチ猫に思わず声を立てて笑いながら、フレーネジールはそのちいさな身体を抱き上げて、そっと頬に摺り寄せた。
暖かい陽だまりと、温かいぬくもり。
のんびりと花々を揺らす海風は、どこまでも穏やかだ。
一休憩の後、気まぐれで始まる追いかけっこ。皆に倣って四つん這いで駆けるフレーネジールは、背中に飛び乗られそうになった瞬間、ふわりと実体を消した。ぽふんと花の海に着地して、そのままぼんやりと浮かぶ自分の姿を捕まえようと両手をばたばたさせる様子は可愛らしくて、つい笑ってしまう。
「おや、珍しいお客人ですな?」
ふと掛けられた声に、フレーネジールは反射的にユーベルコードを解いた。見れば、身なりが良く、手に望遠鏡を持っているケットシーがいた。どうやら、たった今、この先の高台から降りてきたところらしい。
「もしかしてレオさん? 初めましてー。ボクのコトはレンでいいよー♪」
「レンさんだね、よろしく。この島へは観光かな?」
「うん。猫さんと遊びに来ました! じゃなくて、事件の予感がしたので解決しに来ました!」
「事件……!? この島で、何かよからぬことが起きるということか……!?」
食いつかん勢いで尋ねるレオにひとつ瞬くと、フレーネジールはふわりと笑った。彼の手元へと視線を移し、どこか確信めいた声で聞き返す。
「その望遠鏡で、何か光るものを見つけたんじゃない?」
「あ、ああ。それを探しに、下の浜辺に行く途中だったんだ。……あれが何か知っているのか?」
この後、レオがメガリスを見つけたその直後に敵が現れる。であれば、このまま予知の流れに沿ったほうが良いだろう。無論、おめおめとレオを襲わせるつもりもない。
一瞬の思考を解いたフレーネジールは、銀の眸を細めながら確りと頷いた。
「知ってるよ♪ それと、その後に起こる事件のこともね」
――ボクたちは、それを止めに来たんだから。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『狂濤凶龍アトラティヌス・モササウルス』
|
POW : 海喰覇龍ド・ラ・ケートゥス
【驚異的な吸引力で周囲のものを吸い込み】【隕石をも喰らう牙で噛み砕く。捕食物を】【吸収し必要な物質に原子レベルで変換する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 狂濤雷葬ラ・ト・ヴァジュラ
【全身】から【半径300mに放射雷撃とそれに伴う電熱】を放ち、【遠距離の敵にはプラズマレーザーを放つ事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 冥海災渦デ・ジ・カリュブディス
【電撃と海流を乱し生み出す渦による巨大雷渦】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に残り、雷渦から電気を吸収し自身を強化】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:井渡
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ビードット・ワイワイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
北条・優希斗
*連・アド可
ねこのしま、ね
本来ならケットシーのレオと戯れるべきだったのだろうが
俺は偵察も兼ねて転送された身の上だ
レオと交流がされていないのはやむなしか
彼を守りながら戦えるかな
レオが襲われているなら即座に
先制攻撃+UC
ダッシュ+地形の利用+軽業+ジャンプ+見切り+残像+第六感+情報収集
で全身から放電しているであろう凶龍に肉薄
レオに下がる様に声を掛けつつ凶龍の懐に潜り込み
蒼月、月下美人の双刀抜刀
2回攻撃+薙ぎ払い+属性攻撃:蒼穹+鎧無視攻撃+傷口を抉る+斬撃波+追撃+串刺し
で攻撃
レオに竪琴がどんな力を発揮できるか聞いて協力して欲しいと要請しよう
防御・回避はオーラ防御+見切り+残像+第六感で対応
チロル・キャンディベル
レオも、チロとソルベに力をかしてくれる?
3人でいっしょに敵をたおしましょう!
レオの演奏と歌声を聞けば、思わずぞわりと毛が立っちゃう
なにかしら、胸がどきどきするの
ソルベ、チロたちも負けられないのよ!
ちりんと
レオの音色に合わせるように鈴蘭を奏でて
今日のチロはやる気まんまん
エレメンタル・ファンタジアで辺りをこおらせちゃうの
そしたら敵も動けないはずよ
冷たいところなら、ソルベだって元気いっぱい
カチンコチンになっちゃえ!
レオにはぜったいに近づかせないの
チロは、もっともっとレオの歌声を聞きたいから
戦いが終わったら、レオに街を案内してもらえるかしら?
もっとこの街のことも、猫さんのことも知りたいの
リグ・アシュリーズ
ね、レオさん。
私たちが守るから、あなたは自分の身を第一に考えて。
その上でもし、余力があったら。
敵へと駆ける寸前、意味深な目配せと共に言い残すわ。
その竪琴。私がピンチの時にぽろんって弾いてみて!って。
それにしても。
丘の上に出ちゃうなんて、大食らいさんにも程があるわね?
吸い込む勢いに身を任せ、口の中へ。
下手にもがくから噛まれるんじゃないかしら!
歯を通り越して喉の奥、柔い舌の根へ。
剣で斬りつけ、続いて取り出すのは古びた細剣。
……今度は前向きな理由で使うわね。
躊躇いを振り切り、体勢を崩した敵の顎に渾身の刺突。
私はリグ、村一番の思いきり娘!
こうと決めたらとことんまで、皆にはヒレの先だって触れさせないわ!
鎹・たから
モササウルスとは、海竜でしたね
どのような敵であろうと
この島の皆を傷つけることは、たからが許しません
呼吸ができるのであれば
水中での動きもなんのその【水中戦
オーラの膜で電撃を防ぎつつ
残像でレーザーを躱しましょう
少しびりびりしてしまっても
動きを封じられようとも負けません【勇気、覚悟
この瞳が開いている限り
氷の棘が竜を貫いてみせます【貫通攻撃、2回攻撃
伯爵の力もお借りしましょう
必ずこの島を守ります
美しい歌を聴かせてください
動けるようになれば水中をダッシュで駆け
セイバーを振るい竜の身を断ちます【暗殺、切り込み、早業
また、この島に遊びに来ていいですか
幸せの島にふさわしい竪琴を
伯爵にこそ持っていてほしいのです
フレーネジール・メーベルナッハ
おー、おっきいおっきいー。
でも、だからって絶対勝てないってコトは無いよねー。
ざっくりざっくりやっちゃおうー♪
レオさんには距離取っておいてもらって、メガリスで援護してもらえたらと!
ボクは鏡鬼で複製体を呼び出して、レオさんの方に敵が行かないよう、どんどん近接攻撃を仕掛けて気を引くよ。
敵がユーベルコードで吸い込みを仕掛けてきたら、敢えて口の中に飛び込む。
後は噛み砕かれないよう注意しつつ、口の中やその先をざくざく斬り刻んでいっちゃうよー。
「残念残念ー、食べちゃダメなの食べちゃったねー♪」
●青の陰影
後ろからついてくるレオを肩越しに一瞥しながら、フレーネジール・メーベルナッハ(f33354)は一気に坂を駆け下りた。そのままの勢いで、メガリスが埋まっているであろう砂浜へと行き至る。
「あれだ……! あの光だ!」
遅れて到着したレオが、息を切らしながら、着崩れた服も構わずに両の手で手早く砂を掘り返す。現れたのは小型の竪琴。紛うことなく、メガリス『ダグザの竪琴』だ。
それと同時に、ふたりの頭上が影で覆われる。
「レオさん! それ持って下がっててー!」
言いながら、フレーネジールは利き手に凶星剣を喚ぶ。
狂濤凶龍とは良く言ったものだ。変わらず降り注いでいるはずの陽が、まるでこの身に届かない。視界を埋める巨軀と、爛々と光る金色の瞳を前に、けれど娘は声を弾ませた。
「おー、おっきいおっきいー。でも、だからって絶対勝てないってコトは無いよねー」
まるで愉しむかのようにひとつ笑んだ瞬間、傍らに生まれた娘の虚像もまた、同じように微笑んだ。
「嗚呼、嗚呼。割れちゃった」
『割れちゃった』
「割れて溢れる虚像は双つ」
『消えて去るまで、遊んで?』
「――遊んで?」
その裂けんばかりの口を開口し、地鳴りにも似た呼気を轟かせながら、あらゆるものを吸い込み始めた敵へと目掛け、ふたりのフレーネジールは全く同じ拍と呼吸で地を蹴った。
理性も正気もくれてやる代わりに得た分身とともに、高く、高く跳躍する。狙うは無論――その、無防備な口内だ。
剥き出しになった舌へと、手早く逆手に持ち変えた剣を突き立てる。
「残念残念ー、食べちゃダメなの食べちゃったねー♪」
突如湧いた、鼓膜が破けんばかりの怒号。それを気にも留めず、娘たちは返した刃で今度は頭上を切りつける。裂けた場所から止め処なく吹き出す血が銀髪を濡らしても、ふたりは剣を持つ手を止めなかった。
「ざっくりざっくりやっちゃおうー♪」
噛み砕く暇など、与えるつもりはない。
寧ろ、戦いは今、始まったばかりなのだから。
「私たちが守るから、あなたは自分の身を第一に考えて」
軽くレオの肩を叩いたリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)は、どこか悪戯めいた目配せとともに、
「その竪琴。私がピンチの時にぽろんって弾いてみて!」
そう言って、眼を見開くレオを残して前線へと駆け出した。
「本当、大食らいさんにも程があるわね?」
即座に距離を詰めて勢いよく跳ぶと、何もかもを吸引せんと開かれた大口へと躊躇うことなく飛び込む。
そこはまるで、死臭の立ちこめる薄暗い洞窟だった。フレーネジールの傍らを抜け、小麦色の頬を伝う血の雨を拭いもせず、娘は喉の奥へ奥へと疾駆した。最奥を視界に捉えると大きく跳躍し、その細い体躯に対して重量のある大剣を奔る勢いに乗せて振りかざす。
無骨な鉄塊めいた黒い刃が、舌の根を深く切り裂いた。途端、そこから血の川が溢れ、敵の舌が跳ねるように激しく波打つ。猟兵たちの攻撃に耐えきれず体制を崩つつあるのだろう。回転するように視界がぐらりと大きく揺れ、足場が傾き始めた。
下手にもがくから噛まれるんじゃないかしら! そんなことを思いながらも、リグは穿つ刃に更に力を込める。そのまま横に薙ぎ、次いで腰から古びた短剣を取り出すと、一瞬だけそれを見つめる。
(……今度は前向きな理由で使うわね)
過ぎった記憶と躊躇いを振り払い、リグは再び喉元へと突撃する。掲げた尖鋭な切っ先が、背後から漏れ入る外からの光に鈍く煌めいた。
「私はリグ、村一番の思いきり娘! こうと決めたらとことんまで、皆にはヒレの先だって触れさせないわ!」
その身を最大限まで伸縮させて放った渾身の刺突が、敵の顎を貫いた。肉を断ち、その奥底の骨をも破壊する感触を得ると、リグは一気にそれを引き抜き、そのまま身を翻した。ずるりと尚も傾いた足場から離れると、一足飛びに外へと離脱する。
咆哮を上げながら身体を捻った凶龍は、地響きとともに尾を海面へと叩きつけた。途端、あれ程に穏やかだった空と海が乱れ始める。
「そうはさせないのよ!」
荒々しい海風に白い耳と尻尾をはためかせながら、チロル・キャンディベル(f09776)は、いつもは柔らかなその瞳に強い意志の光を灯す。
レオには絶対に近づかせはしない。ならば、今やることは唯一つ。
「カチンコチンになっちゃえ!」
途端に辺りを満たした冷気に、辺り一面の波は一瞬にしてその形を保ったまま動きを止めた。それに身体を囚われた凶龍の動きが、明らかに鈍る。
反して、溢れんばかりの活力を得たのは白熊のソルベだ。氷上をものともせずに駆け抜けると、敵に強烈な一打を叩き込む。
淀んだ空から、低い呻りとともに一筋の雷が地上に落ちた。
砂を巻き上げながら迸るそれを巨体に纏うと、敵は再び苛烈な咆哮を上げ、獲物である竪琴を抱きかかえるレオを、獰猛な瞳で睨めつけた。
「ひぃっ……! わ、私を食べても美味くはないぞ……!!」
「下がっていろ!」
咄嗟に庇うように前に出ると、北条・優希斗(f02283)は瞬く間に戦場を疾駆した。両の手に握る愛刀に力を込めながら、突き上げた氷柱を軽やかに飛び渡り、敵へと肉薄する。
瞬間、男の眼前で熱を孕んだ雷光が放たれた。無数の光が、忽ち猟兵たちを飲み込んでゆく。
「悪いな。この蒼穹の瞳なら未来を読める……!」
言い切った優希斗は、既に凶龍の前にはいなかった。残像を描く速さで身体を反転させて攻撃を躱した男は、虚空を蹴り、敵の頭上高くまで軽々と飛翔する。振り仰ぎ、交わる巨眼。そして、その先には負傷した仲間たち。
「レオ、協力してくれ! その竪琴を奏でるんだ!」
本来なら、彼と戯れるべきだったのだろう。機を得られなかったのもやむなしか。だが、恐れを帯びながらも確りとした声が、背に届く。
「曲調は!? どんなものがいい!?」
「そうだな――癒やしの曲を」
優希斗は微かに口端を上げると、雷鳴を背に、透いた蒼と白銀の双刃を上段で構えながら重心を乗せて一気に下降する。狙うは、その眼球だ。
天を劈くような叫声が、猟兵たちの皮膚を伝い、戦場を震わせた。
鍔に触れるほど深く突き刺した刃を、抉るように捻る。手早く刀身を引き抜くと、次いで後ろに跳び、返した刃で巨体の背に、鮮やかな血の十文字を描いた。
猫伯爵の朗々とした歌声が、爪弾く竪琴の音色に乗って戦場を渡る。四肢を無尽に走る痺れと痛みが溶けていくのを感じながら、チロルの白い柔らかな毛が粟立った。何故だろう。不思議と、胸の鼓動が早くなる。
「ソルベ、チロたちも負けられないのよ!」
こくりと頷く相棒にひとつ微笑んで、レオの音色に重ねるように、チロルも愛器を奏で始める。もっともっと、その歌声を聞かせて。願いながら、高らかに澄んだ鈴の音を響かせてゆく。
猟兵たちの猛追に耐えきれず、敵が血眼になりながらもんどり打った。凍てついた大海に亀裂が入り、忽ち大小の氷を孕んだ風塵が勢いよく四散し、それを上書くように現れた海水が、一際大きな飛沫を上げて戦場へと流れ込む。
「伯爵、必ずこの島を守りますから、そのまま美しい歌を聴かせてください」
引いてゆく波は、まるで誘うよう。ならばそれに乗りましょうとばかりに、鎹・たから(雪氣硝・f01148)が動いた。靴先で水を弾きながら、曇天を移す海面へと迷わず突っ込んでゆく。
半身を海中へと戻した敵の脇を、防御のオーラを纏った娘がすり抜けるように移動する。荒れる水面と淀んだ空色に染まる水面は、その姿を影でしか写し出せない。
水中であることを忘れるほど機敏に動き、襲い来るレーザーを躱したたからが、澄んだ双眸で敵を見据えた。迎撃と言わんばかりに放った氷柱の群れの、その鋭利な先端が次々と巨体の腹を貫いていく。
海竜の名を持つ敵だとしても関係ない。
「どのような敵であろうと、この島の皆を傷つけることは、たからが許しません」
負けぬと決めた心を勇気に変えて、まるで透明な階段を上るように水中を駆け上がる。手早く刃を構えると、一直線に敵の喉元へと斬りかかった。
水中全体を震わせながら、凶龍の絶叫が木霊する。
途端、吹き出した血が海流となり、たからを襲った。逃れるように水を蹴った娘は、逆にうねりを利用して海上へと飛び出す。
眼下には、まだ落ち着くには暫くかかりそうな海と――最早動くことのない巨軀があった。
◇ ◇ ◇
「本当に助かったよ。皆、ありがとう」
漸くいつもの穏やかさを取り戻した浜辺で、レオは猟兵たちへと深々と頭を下げた。物陰に隠れていた猫たちも、いつのまにかあちらこちらに姿を現している。
「そうだ。この竪琴は……?」
「伯爵。あなたに差し上げます。幸せの島にふさわしい竪琴を、伯爵にこそ持っていてほしいのです」
奏でれば忽ち傷を癒やす竪琴。レオならば、きっと正しく使ってくれるだろう。確信を持って頷くたからに、レオもまた笑顔で首肯する。
「また、この島に遊びに来ていいですか?」
「チロも……! もっとこの街のことも、猫さんのことも知りたいの」
たからとチロルが問えば、勿論だとも、と返る笑顔。
「……だが君たち。何故、もう帰るような口ぶりを?」
「でも、敵はもう……」
顔を見合わせる優希斗とリグ。その肩や頭には、気づけば仔猫がよじ登っている。その様子に笑みを深めると、
「私を、助けてもらっておきながら礼もしない無作法者にさせようと言うのかね?」
そう言たレオは、瞠目する猟兵たちに向かって楽しげに髭を揺らしながら、ぱちんと指を鳴らす。
「まずは改めて、歓待パーティといこうじゃないか!」
「やったー! パーティパーティー♪」
思わず飛び跳ねたフレーネジール。
その柔らかな影が、砂のうえで愉しげに踊っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵