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ご城下美食珍騒動~お刺身の秘密

#サムライエンパイア

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●――極上の馳走を求めて
 その日、とある藩主佐合篤胤は遂に居ても立ってもいられなくなり筆頭家老である石渡実継を呼び出した。
 突然の召集に慌てふためくかと思ったが、当の石渡はやれやれと言わんばかりの苦笑いで馳せ参じる。
「殿、お呼びに御座いますか」
「おぉ実継。待って居ったぞ」
「して、如何なさいました。昨年取って干した柿ならばまだまだ御座いますぞ」
「違う!今は甘味の腹では無い、刺身の腹だ!」
 ぽこぽん、と佐合は自分の腹を叩いて見せた。
 美食を追い求めてはいるが、その腹は弛まずに引き締まっている。
 美味を得るには心身が健康でなくては十全に味わえない。
 いつの間にか家訓として書き連ねられているこの言葉は、佐合のみならずお仕えする御家人全員が矜持としていた。
 故に此処の藩の役人は多少の差異は有れど皆マッスルである。
「ほほぅ、刺身に御座いますか。確かにこの季節、囲炉裏を囲んで身の絞まった刺身を肴に酒を飲むのは格別に御座いまするな。芝海老に鰈、真鱈に黒曹似……」
「違う、違うのだ実継よ!俺が食いたいのは、城下で実しやかに囁かれていると言う、あの刺身だ!」
 そう言って湯呑みに手を伸ばす佐合。
 実の所このような呼び出しと言うか相談事は今回が初めてではない。
 此処の藩では大きな事件や混乱も無く、民はのびのびと平和に暮らしている。
 天下泰平と言わんばかりに緩やかな時間が流れており、城仕えの者達も刀を振るよりも文書と向き合う方が長いと笑いを零す程。
 そんな平和な藩で今最も賑わっている娯楽と言うのが、食だ。
 湾を有し交易も盛ん、様々な美食がこの藩には溢れている。
 そして、民達の間でも美食を探求するのは一般的な娯楽であった。
 寧ろ旅の者から各地の食事情を直に聞いて回れる分庶民の方が耳は早いかもしれない。
 今回佐合が聞き及んだのも、そうした庶民の間で流れる噂の一つである。
「ははぁ、黒い刺身で御座いますか。はて、刺身といえば鮭や鰹の赤、若しくは鯛や平目の白と相場が決まっております。私もその様なものは、とんと聞き覚えが御座いませぬなぁ」
「むぅ……実継も知らぬとなれば益々興味が湧いてくる。良いか!何としてもその黒い刺身とやらを探し出すのじゃ!」
「ははっ!……しかし殿。如何に急いだとしても今日の夕餉には到底間に合いませぬぞ?恐らく長めに見ても七日程度、旬で無ければ半年以上は待つ事になりまするが」
「なんと!取ってくるまでの時間を失念しておったわ!」
 ぐぅ、と答える腹の虫。
 何とももどかしげな顔で佐合は小間使いに芝海老と鰈の刺身を夕餉に出す様言い付けるのであった。

●――奇妙な予知とその行方
「とまぁ、そんな感じの平和な光景を予知した訳ですが」
 何とものんびりとした光景を語る巫女、望月・鼎。
 今語られた内容の何処に問題が有ったのかさっぱりと言う表情をする猟兵達に、鼎は首を傾げながら言う。
「何故かは解りません。何故かは解りませんが……このまま放置していると町民の方々が犠牲になってしまいます。それも割りと大勢」
 大雑把な説明に困惑の声が漏れるが、気にせず鼎は続ける。
「どうやらこの謎を解く鍵は件の『黒い刺身』にある様です。皆さんには現地でこの黒い刺身についての聞き込みをお願いします。その正体を辿って行った先に今回の事件の真相が隠れているのでは無いでしょうか!巫女の勘ですけど」
 いつもの様に締まりの無い笑顔を浮かべる巫女。
 とは言えその予知を違える事は無い。
 余り真剣味や緊迫感は伝わって来ないが、一先ず猟兵達はこの謎を解き明かす事とした。
「あ、正体が解って現物を手に入れられたら是非藩主の所へ持って行ってくださいな。きっと喜ばれる筈です!序に真相も解ると思います!」


一ノ瀬崇
 実際に食べる時はほかほかご飯か日本酒が良いですね。
 こんばんは、一ノ瀬崇です。
 今回はお気楽道楽珍道中、をテーマにまったりギャグなシナリオになるかと思います。
 そんなに難しい事は無いので、奮ってご参加ください。

 ※実際の色合いは真っ黒ではなく褐色や紅鬱金と言った色合いが多いようです。
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第1章 冒険 『楽市楽座』

POW   :    屋台を出してお客さんから情報を聞き出す。ついでに美味しい物を売る。

SPD   :    お店を回って情報を聞き出す。ついでに何か買う。

WIZ   :    ゴザを敷いてお店を出し、お客さんから情報を聞き出す。ついでに珍しい物を売る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

トール・テスカコアトル
【POW】
「よーし……頑張るぞ」
とはいえ、トール、あんまり調査とか得意じゃないんだ
「すみません、特盛り、ひとつ」
だから、色んなお店を回って、色んな人に聞いてみよう……美味しいなぁ、これ
「ごちそうさま。美味しかったです。……あ、そうだ、すみません、聞きたいことがあるんですけど」
隠すことでもないよね
「今話題の黒いお刺身について、なにかご存知ですか?詳しい人、でもいいんですけど」
なんで、被害が出るのか分からないけどそもそも話題なんだし
「え、なんでそんなこと聞くのか、ですか?……ご覧の通り、食いしんぼで……」
……そんなに美味しいなら、ちょっと食べてみたいのは本当
故郷じゃ、魚なんて食べなかったしね


緋神・美麗
【SPD】
黒い刺身、ねぇ。聞いたことないけど動物の肉か何かかしら。まぁ、食べ歩きながら聞き込みしてみようかしらね。
「最近黒い刺身ってのが美味しいって聞くんだけど、本当に美味しいのか試してみたいんだけどどこに行けば買えるのかしら?」
【コミュ力】【情報収集】を駆使して食べ物屋メインで聞いて回る。ついでに美味しそうなものを買って食べ歩く。

アドリブや他の猟兵との絡み歓迎


テオドア・サリヴァン
「黒い刺身?聞いたことないし食べたこともないぞ…?」
まあ、そんな珍しいものがあるならば食べてみたい気もするが。
【SPD】
街の店を回って客や店主に聞き込みをしたり、彼らの会話を盗み聞きして情報を集めるか。
質問内容は「黒い刺身を知っているか。」「どのような魚でどこで手に入るか」だ。
店屋では聞き込みに協力してくれた礼も兼ねて何か買っていこう。

「何というか、殿様の我儘に振り回される俺たちって…」
だが、こういう依頼があるのも平和な証拠だな。のんびりとやらせてもらうか。


アマータ・プリムス
「黒いお刺身」ですか……和食には疎いので気になります
答えが分からないのなら聞くしかないないですね
ちょっとお店を回りましょう

UCを発動してアルジェントムから着物を取り出す
そのまま【変装】して買い出しに来た女中のフリ
事前に調べたエンパイアの【世界知識】とメイドとしての【礼儀作法】で変装はバッチリです

お刺身ということなので魚屋、お寿司屋などを重点的に回る
黒いお刺身について【情報収集】しましょう
集められた情報を【料理】の知識と人形としての【学習力】で解析
「黒いお刺身……カワハギの肝でしょうか?」
それらしいものが浮かび上がったので買いに行く
「これが正解だといいのですが」

※アドリブ連携歓迎


戸辺・鈴海
[SPD]
美食と聞いては、私が黙っているわけにはいきませんね。
ご相伴に預かる為にも、この謎は私が解決いたしましょう。

情報収集は自らの足で行います。
刺身の事を調べるのであれば、魚屋より屋台が宜しいですね。
町の中を練り歩き、刺身を取り扱っている店を探します。

取り扱っている刺身を箸で頂きつつ、店で話を伺いましょう。
アプローチとしては、おすすめの刺身についてから聞きたいです。
そこから最近出回り始めた魚や、出回りが少ないが刺身として上質な魚があるか聞きたいですね。

魚の身は赤か白なのは当たり前です。
だったら刺身として食べられる美味しい部位が他にあるではと。
その辺が分かれば、黒の刺身に繋がると私は考えます。



「黒い刺身、ねぇ……」
「聞いたことないし食べたこともないぞ……?」
「動物の肉か何かかしら」
「いや、多分魚だとは思うんだが……」
 正午も過ぎてだいぶ落ち着いてきた頃合。
 未だ賑やかさは残るものの多少ゆったりとした時間が流れつつある大きな飯屋の一角でやや遅めの食事を取る集団。
 緋神・美麗とテオドア・サリヴァンは、刺身定食を突きながら頭を悩ませていた。
 今日のネタは黒曹似と北奇貝。
 黒曹似はその食感を楽しむ為に大きく切られており、噛めば噛む程舌の上へと旨味がじわりと滲み出てくる。
 付けるのは醤油も良いが、この店では酢橘を搾ってから端に塩を付けて食べる。
 酢橘の爽やかな香りと塩で引き立つ黒曹似の旨味と甘味が何とも堪らない一品だ。
 北奇貝は軽く湯通しされており、特有の甘味を遺憾無く引き立たせてある。
 また湯通しされる事で黒かった部分も赤く鮮やかに変わり、見た目も楽しめる面白い刺身でもある。
 味噌汁の出汁にも北奇貝は使われており、磯の香りが身体を駆け巡っていく様がまた何とも。
 当初はこの北奇貝が黒い刺身かとも思った二人だが、店主に聞くと何やら含み顔で外れだと言われた。
 知っているのなら教えて欲しいと言った所「飯屋で食わずに話だけってのはどうなんだい?」と返されてしまった為、丁度店やら人やら尋ね回って歩き疲れていた事もありこれも何かの縁とお昼を食べる事としたのが今の状況だ。
「まぁ実際旨いし答えも解るなら良いか」
 そう言ってテオドアは味噌汁を啜る。
 北奇の旨味と白味噌の甘味、白髪葱の歯応えに昆布出汁の豊かな膨らみが口の中に広がっていく。
 行儀は悪いと言われるだろうが、このまま椀の中へご飯を入れて一気に掻き込みたくなる衝動が胸の奥で鎌首を擡げる旨さだ。
「それにしても本当に美味しいわね。この漬物も地味だけどほっとする味だわ」
 美麗が口にしているのは糠漬けにした胡瓜・人参・蕪だ。
 糠自体に嫌ないがらっぽさや臭みが無く、黄粉にも似た自然な甘味が有る。
 その糠で漬けた為、野菜本来の味とキツくない良い塩気でついつい箸が進んでしまう。
 また噛んだ時のしゃくりとした良い歯応えも素晴らしい。
「すみません、特盛り、ひとつ」
 その横で僅かに目を輝かせてとろろ鉄火丼特盛りを注文するのはトール・テスカコアトル。
 実は食べるのが好きなトールは新鮮な魚介類が並ぶお品書きを見て迷いに迷っていた。
 彼女の故郷では魚は余り食べる機会が無く、此処の様に毎日食べる習慣と言うのは考えられない事だった。
 そんな食べ慣れた人達の間でも人気な店とあれば美味しいのはもう確実。
 時間と胃袋が許す限り色々と食べたいのだが悲しいかな今回の目的は観光ではなく任務。
 ならば一点に賭けて美味しいものを食べるしかない、と意気込んでお品が帰途睨めっこをして漸く決めたのが、先のとろろ鉄火丼と言う訳だ。
 最近では輸送や保存の技術の向上等で沖から鮮度を落とさずに運び込む事が可能となって来ている。
「へい、とろろ鉄火特盛りお待ちどうさま」
 小僧が丼とすり鉢、小鉢と冠水瓶を盆に載せてやってくる。
 丼鉢の中には温かい酢飯が盛られておりその上には鮪の切り身が敷かれている。
 すり鉢には色濃いとろろが入っており、すっきりとしながらも濃厚な香りが漂う。
 小鉢には糠漬けが幾つか、冠水瓶には出汁醤油が入っている。
「おぉー……!」
 感嘆の声を上げつつトールはとろろへ出汁醤油を回し掛けて軽く混ぜ、そのまま鉄火丼の上へと流し込んでいく。
 蓮華で酢飯・鮪・とろろを掬って口に運ぶと、出汁の香りと鮪の旨味、とろろのつるっとした食感に酢飯のじんわりと伝わる温かさが何とも絶妙だ。
 そうして食べ進めると、或る事に気付く。
 何と酢飯の中程に、もう一段鮪が敷かれているのだ。
 此方は鮪の漬け。
 しっかりと醤油の染みた豊かな味わいがこれまたとろろと良く合う。
「うむむ……これはまた美味しいのです」
 舌鼓を打ちながら箸を勧めるのは戸辺・鈴海。
 彼女は海老尽くし定食と言うものを頼んでいた。
 芝海老の天麩羅、縞海老の刺身、茹でた車海老と溶きみそ、筋海老のつみれ入り澄まし汁、そしてほかほかのご飯だ。
 どれもこれも海老の旨味と風味が一番良く味わえる調理法だ。
 美食と聞いて居ても立ってもいられずに今回の謎を解決すべく名乗りを上げた彼女だったが、美味しいものを食べると言う点では半分以上目的は達成されているのかもしれない。
 そう思える程度には、良い笑顔を浮かべてご飯のお代わりを注文している。
「出回っている噂や此処までに聞いた話を勘案するに、恐らく魚が黒い刺身の正体。となればお魚をお昼に食べてしまうのは憚られます。しかしお刺身も食べたい……!そう、此処で海老を選んだ私の選択は正しく最良です……!」
 上機嫌でぱくりぱくりと食べ勧める鈴海。
 フェアリーとは思えない程の健啖さを見せつつ、お椀の澄まし汁を啜る。
 筋海老から出た出汁と葱の食感、つみれの凝縮された旨味が合わさり至福の吐息が漏れる。
「はぁう……♪」
 非常に魅力的な吐息では有るが、今回ばかりは彼女が料理に魅了されていた。
「和食には疎いのですが、これを機に手を出してみるのも良いかもしれませんね」
 小袖に身を包んだ大人しい雰囲気の女性と化しているのはアマータ・プリムス。
 彼女が頼んだのは鰤定食だ。
 鰤大根、鰤の刺身、鰤の粗汁に粕漬けとご飯が付いたものだ。
 一見すると派手さの無いものに思えるかもしれないが、侮れないのが鰤の底力。
 刺身は柔らかく、血合いの部分にまで脂が乗っていると感じる程にパンチが効いている。
 薬味は山葵ではなく一味唐辛子。
 小口葱と共に散らされており、これを昆布出汁で溶いた醤油を付けて食べるのがまた堪らなく美味しい。
 醤油を弾いてしまう程に脂が強い為か、刺身の量は多くないがそれでも十分なボリュームを感じる。
 一方鰤大根もまた、何とも見事。
 刺身の時に感じた脂の強さは無く、実にあっさりと仕上がっている。
 だが旨味が薄い訳では無い。
 味が染み切ってすっかり栗色に染まった大根を噛めばふわりと鰤の香りが広がり煮汁の旨味が口の中に広がる。
 鰤を食べればほろりと口の中で解けて鰤の旨味がじんわりと舌を包み込んでいく。
 どちらもご飯が欲しくて堪らなくなる、至高の一品である。
「うぅむ……これが和食……」
 予想していたよりも大きかったであろう和食の凄みに、改めて美味しさを噛み締めるアマータ。
 五人共楽しげに食べ勧めていくが、その胸中では同じ疑問を抱いていた。
 即ち、これだけの美食の中で囁かれる黒い刺身とは一体どんなものなのか。
 幾分かの期待を胸に秘めつつ、食事を終えて一息吐く。
 やや渋めの緑茶で口の中をさっぱりさせていると、客も捌けたのか店主が此方へとやって来た。
「おぅ、お粗末さん。あれだけ綺麗に食って貰えりゃ料理人冥利に尽きるってもんよ」
「ごちそうさま。美味しかったです」
 満足げにお腹をさするトールへ、店主は豪快に笑ってみせる。
「そりゃ何よりだ。そう言えばお前さん方、例の噂に付いて聞いて回ってるんだってな?」
「ええ。黒い刺身が美味しいって聞いたわね。本当に美味しいのか試したみたいんだけど、どこに行けば買えるのかしら?」
 美麗が会話を引き継いで問うてみる。
 もしその辺で買えるとしたら万々歳だが、そうなら此処までの話題性は持ち得ないだろうと言う確信も有る。
 店主は太い指で顎をさすりながら答える。
「生憎だが、今日は入ってねぇな。何せ揚げた魚の図体で取れるか如何かが決まるからな、いつでも好きなだけって訳にゃ行かねぇもんさ。だからこそ、あんたらみたいに色々聞いて回る奴等も居る」
「私達みたいに……もしや、他にも黒い刺身を探している人が?」
 予期せぬ新情報に目を見開く鈴海。
 これまで聞き込みをしてきた中には無かった情報だが、店主は特に気にした様子も無く直ぐに答えてくれた。
「あぁ、先日辺りから代官所のお役人さんが何やら色々な所で探し回っているってのは俺達料理人には周知の事実ってやつだ。とは言えうちみたいにそこそこ流行ってる店にしか出入りしてねぇらしく、町民にはそれほど広まってないらしいがなぁ」
「……ふむ、魚の大きさで取れるかが決まる。となれば精巣や卵巣ではなく、別の部位ですかね……そう、例えば、肝とか」
 考え込んでいたアマータの呟きに、店主はニカリと笑って見せた。
「お、やるじゃねぇか嬢ちゃん。その通り、黒い刺身たぁ肝の事よ」
「魚の肝?肝を刺身で食べるってのは聞いた事が無いが……それに肝って黒いのか?」
 首を傾げるテオドアへ、店主は得意気に語ってみせる。
「勿論そんじょそこらの魚じゃダメだ。型は小さいし、変に生臭くて食えたもんじゃねぇ。だがこの時期のカワハギのでかい奴なら、肝も刺身で食えるし何より味が途轍もなく良い。軽く湯通しした奴を食うと濃厚な味わいと磯の香りが喉から鼻へとスっと抜ける。その後で肝を醤油に解いてカワハギの身を浸して食うとこれがまた堪らんのよ。米を食うのも良いが、これには酒を合わせたい所だな。それも辛口じゃなく甘口のスッキリしたやつだ、酒が喉を焼く様に流れて行った所へもう一口ぱくりと……」
「ちょっと、折角お腹一杯食べたんだからお腹の空きそうな事言わないでよ」
 美麗の突っ込みに頭を掻いてがははと笑う店主。
「と言うか肝って大抵茶色というか褐色っぽい様な、そんな感じの色合いでしょ?如何見たら黒なんて色が出てくるのよ」
「あぁ、それか。最初にカワハギの肝を食べたって言われてる坊さんが居るんだが、どうやら目を患っていた様でな。詳しくは知らんが色合いが沈んで見えるとかで、肝を黒いものだと思っていたらしい。そこから広まって黒い刺身って訳よ」
「成程……幼子の目には色がはっきり分かれて見えないのと同じみたいなものですね。しかし美味しそう……!」
 食べたばかりだと言うのに早くも涎を垂らす鈴海。
 メイド故か元々の世話焼きな性格故か、さっとお絞りで口許の涎を拭いつつアマータが問い掛ける。
「今日は入っていないとの事でしたが、最近までは獲れていたのですか?」
「あぁ、だがまぁ四日前の大雨で移動しちまったのか網に掛かるのは型の小さい奴ばかりだ。うちでも扱えてないからな、どこも手に入ってないだろうさ」
「じゃあ暫く待つしかないのかな……?」
 何処と無く肩を落とした様子のトールを見て、店主は小さく唸る。
「まぁ……手が無い訳でも無いだろう。そこの坂を下って行ったら右手に礁が有るのが見える。その辺りで釣り糸を垂らしてみたら、もしかしたらデカいのを釣れるかもしれんな」

 勘定を済ませて店を出た五人は早速坂を下ってみる。
 港の風景に紛れて、右手奥に幾つかの礁が海中に見えた。
 あの辺りに目的のカワハギが居るかもしれない。
「どうしようか」
 トールの問い掛けに美麗は頭を悩ませる。
「漁師の方々に話を通してみるのも手だけれど、船は彼等の大事な商売道具。すんなり貸してもらえるかは解らないわね」
「天下自在符を使うのはちょっとアレだよねぇ……」
「ともあれ先ずは話してみない事には解りません。色々と当たってみましょう」
 鈴海に答えるアマータは話を聞いて貰えそうな人を早くも探し始めている。
 そんな四人の後ろで、テオドアはしみじみと呟いた。
「何というか、殿様の我儘に振り回される俺たちって……」
「「「「それは言わないお約束」」」」
 四人の揃った声に続いて、皆の笑い声が上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ツーユウ・ナン
【POW】
殿様から下々まで食を愛でるとはなんと良い国柄じゃ。
わしは元々、サムライエンパイアの諸国を旅して歩いた用心棒よ。おまけに美味いものには目が無い性質でな。今回の「黒い刺身」という言葉にもちょいと心当たりがある。

それを確かめる為にまずは城下近くの川岸へ出向く。これだけ食に重きを置くなら市場も活気があるに違いない。
漁師や仲買人から買い物がてら魚介の旬について話を仕入れる。

次に、殿様の耳に届いた噂を掴む為、市中の河原で焚き火をし、河岸で仕入れた貝(牡蠣か蛤)を焼いて道行く者を誘っての酒盛りといこう。
(焼き石で貝を焼き、醤油をひと垂らし)
食い物談義から昨今話題の刺身の正体を探る【コミュ力】


御手洗・花子
「ふむ、黒い刺身とな…」
漫画で見た気がするのぉ、あれはカワハギの肝じゃったか…
実際には黒とは言い難い色じゃが、人の噂、記憶とは曖昧な物じゃ。
とは言え、他の可能性もある…例えば『ヅケ』、あれも醤油の沁み方次第では黒い刺身と呼べるじゃろう。

という訳で、それらを用意して出店を出しつつ…コミュ力を使ってお客様から『黒い刺身』の情報を聞いてみるのじゃ。
用意していたものが当たっていればよし…ともいかぬ、放置しても大量に死人が出るような代物ではないのじゃ…『情報収集』は怠らずに行くのじゃ。

もしも、怪しい奴がいたら影の追跡者を召喚し、尾行をさせておこう…裏にオブリビオンが居るかもしれんしのぉ。


セレヴィス・デュラクシード
くいしんぼうなお殿様だよね~
黒い刺身はきっと黒カビまみれの腐ったお刺身で、大勢の犠牲って集団食中毒なんだよ
多分深刻な話じゃないんじゃないかな?

‥‥と、言う事でボクは折角サムライエンパイアに送って貰ったからお刺身の食べ歩きをするんだよ~♪(く~/お腹が鳴る
今日は海鮮丼の食べ比べ、ボク的にはイクラとマグロとサーモンがランク高いかなぁ

情報収集?勿論するんだよ?
ボクには目蓋はあっても耳蓋は無いからね~、食堂で何か食べてれば小耳に聞こえて来ちゃう事くらいあるかもなんだよ

んにゃ!?このご飯腐ってないかなっ!?【野生の勘】

※歩く際は両腕大振り、靴から効果音出そうな雰囲気
お仕置き弄り・アドリブ・連携大歓迎


メンカル・プルモーサ
……ん、黒い刺身……?聞いたことない…どんなものだろう……
うろうろと市場をさまよってあれこれ(食べ物の)買い物をしつつ聞き込み……お団子おいしい。
主に魚を扱ってそうなお店で聞くかな……焼き魚おいしい。
……ううん、黒い刺身といってもただの刺身じゃない可能性もあるし…
…黒っぽい、刺身っぽいもの…?そんな感じで聞き込んだいいかも……おにぎりおいしい。
…動物の肉の刺身かもだけど…それならそういう話になりそうだし…魚だとは思うんだけどな……お蕎麦おいしい。
ある程度情報集まったらマルチヴァクに分析させてみるかな…結果出るまでうなぎ食べながら待とう……


時雨・零士
色からすると生レバーとかそんな感じか…?馬刺しとかはもう少し赤色強い感じだしな…。
まぁ、その手の情報を調べるんなら、実際に店を出してる市場か食事処で聞き込むのが一番だな。

ってわけで…食い歩きだ!…じゃない、聞き込みだ!

アクセラレイターに乗って、街中の有名な食事処や大手市場を回って(看板メニューを堪能しながら)店主や客に聞き込み。
有力情報が無ければ、この時代で一番流行に敏いだろう市場の元締めに天下自在符使って会いに行くぜ。あんまりこんなんで使いたくねぇが…

「藩主が「黒い刺身」とやらを探して癇癪起こしてるらしい…ただ、話が噂レベルでなぁ…元締めさんのトコでそれらしいの扱ってないか?」

※アドリブ歓迎



「黒い刺身?聞いた事は有るが食べた事も見た事もねぇなぁ」
「俺も探してるんだがとんと見付からなくてなぁ」
「何、そなた達も探して居るのか。丁度良い、見付かったら代官所まで一報くれ」
 そんな感じのふわっとした成果しか上がらず方々練り歩いて、遂に波打ち際まで降りて来てしまった五人。
 集まりの悪い現状に焦っているかと思えば実はそんな事は無く、ピクニックと言わんばかりの気楽さで浜辺を歩いていた。
「お団子おいしい」
「この焼きゲソも中々」
 団子の串を片手にご機嫌な様子で頬張るのはメンカル・プルモーサ。
 聞き込みがてら美味しいものを求めて屋台をうろうろ、出店をうろうろ。
 もう片方の手には細魚の塩焼きに串を通したものが握られている。
 その横でゲソを噛みながら練り歩くのは時雨・零士。
 当初は自慢のバイク『カオス・アクセラレイター』で移動しながら聞き込みをする予定だったが人通りの多さと道の大きさで断念。
 その代わりに美味しい海の幸をつまむ機会が増えたのは幸運と言うべきか。
 賑やかに食べ歩きを楽しむ二人の後ろでテンションを下げているのはセレヴィス・デュラクシードだ。
 先程変わった料理を色々食べ歩いていた時に熟れ鮨と相見えたのだ。
 特有の強い匂いを前に思わず「んにゃ!?このご飯腐ってないかなっ!?」と鼻を摘んで後退りしていた。
 流石に初手熟れ鮨はハードルが高かったらしい。
 おまけに楽しみにしていた海鮮丼はお気に入りのネタが欠けていた。
 此処最近輸送・冷蔵技術の向上が見られるとは言え、流石に時期を外したイクラは無かったのだ。
 サーモンに至っては認知されておらず、鮭や鱒の仲間だと説明するが、それらの魚も生憎と旬は過ぎていて手に入らず。
 回遊魚である為に割と手に入り易い鮪と今が旬の鰆や鰤、眼仁奈と言った魚にヤリイカやバカガイ辺りを散らした海鮮丼を食べたのだが、それでも当初のわくわくには届かなかったらしい。
 そんなセレヴィスを見てからからと笑っているのはツーユウ・ナンと御手洗・花子。
 二人はのんびりと周囲を眺めて目を細めている。
「殿様から下々まで食を愛でるとはなんと良い国柄じゃ」
「餓えると言うのは一番辛いからのぅ。腹が満たされ凍えずに居れば、本来争いは起きぬもんじゃし。しかしツーユウ、思いの外慣れておるのぅ?聞き出し方とか旨い飯屋の探し方とか」
「わしは元々、サムライエンパイアの諸国を旅して歩いた用心棒よ。おまけに美味いものには目が無い性質でな。今回の「黒い刺身」という言葉にもちょいと心当たりがある」
「それは頼もしいのぅ。わしも心当たりと言うか、同じ名前を漫画で見た覚えが有っての」
「何か聞き捨てなら無い言葉が聞こえて来た気がするよっ!」
 両腕を大きく振ってぽこんぽこんと音が聞こえて来そうな足取りでセレヴィスがやってくる。
 その目はきらりーん☆と獲物を見付けたかのような輝きで満ちている。
「当てが有るんなら最初に言っておいて欲しいんだよ!お陰であの凶悪な熟れ鮨の臭いに……ウッ、まだ鼻の奥に痺れが」
 お気に入りの『ぶかぶか武道着』の袖で鼻を覆いつつ眉間に皺を寄せるセレヴィス。
 それを見て花子はからからと笑い声を上げる。
「はっはっは、まぁそう言うでない。当たっているとは限らんし、直ぐに解き明かしてしまったらこうして食べ歩きも出来なかったんじゃぞ?」
「む、それは一理有るかもしれないっ!」
「ほれ、漬け鮪と大根の葉を和えたものを具にした握り飯も有るぞぃ」
「わー♪」
 大喜びで花子からおにぎりを受け取り、早速齧り付く。
 大根の葉のしゃくしゃくとした歯触りに、味が染み込んでこなれた鮪の旨味が口一杯に広がっていく。
「美味しい!」
「ま、漬けも見方によっては黒い刺身と言えるかも知れぬな。醤油が染みて色合いが変わっておるからのぅ。とは言えそれでは黒い刺身の範囲が広過ぎる上に、噂として広がる程の格別感・特筆感は無いから違うと思うんじゃが」
 そんな風にわいわいと歩いて行くと、漁師達が集まる食堂が見えてきた。
 木造の中々に広い建物で、直ぐ向かいには引き揚げた船が縄で桟橋横に繋がれている。
 此処は獲ってきたが店には卸さなかった魚を集め、漁師の妻達が家庭料理を振舞う場として使われている。
 当然街中よりも格安で新鮮な魚を食べられる為に通や酒飲み達が集い、いつも賑やかな笑い声が響く地元民の憩いの場所でもある。
「お、見えてきたのう」
 軽い足取りで食堂へと向かうツーユウを追って皆が続く。
 出迎えてくれたのは割烹着姿のおばさんだ。
「あら、いらっしゃい」
「五人じゃが席は空いているかの?」
「勿論。さぁさ、こちらへどうぞ」
 人の良さそうな笑顔に連れられて席へ着く。
 掘り炬燵の上に円卓が置かれており中央が丸く凹んでいて、その横には七輪を入れる穴が空いている特徴的な席だ。
「おぉ?こりゃまた随分と珍しい形だな」
 首を傾げる零士の横で、お品書きを眺めて目を輝かせるメンカル。
 焼き魚だけでも七を超え、煮付けだけで八を超え、刺身だけで十一を超える種類が有る。
 何から選ぶべきか、いっそ全部試してみるべきか。
 食と言う分野に於いてはまだまだ未知な事が多く、味付けや調理法一つ取っても実の多くの差異が生まれる。
 出汁の取り方、魚の捌き方、薬味の選定、熱の加え方。
 何が違い、どんな差となるのか。
 生来の知識への欲に美味しいご飯が合わさり、メンカルのテンションは鰻登りとなっている。
 とても決められなさそうな様子にくすりと柔らかく微笑み、ツーユウは先程のおばさんへと声を掛けた。
「浜鍋と蛤を五人分。わしはぬる燗を二合貰おうかの」
「はいよ、浜鍋と蛤を五人分とぬる燗二合ね。お絞りをどうぞ」
 お絞りを受け取り手を拭いていると零士が尋ねた。
「浜鍋って何だ?」
「おや、おぬしは食べるのは初めてか。新鮮な魚介を味わうのにこれ程適した料理は無いぞ。昆布を土鍋に沈めて水を張って出汁を取り日本酒を少し加え、その時期に獲れた魚を食べ易い大きさの切り身にして入れて火に掛ける。火が通ってきたら海老や蛸に若布なんかを入れて味噌を溶く。味を調えたらもう一煮立ちさせたら出来上がりだ」
「割と簡単な料理なんだな。俺でも出来そうだ」
「うむ、この料理の素晴らしい所は少ない手間で魚の旨味を存分に味わえる点に有る。葱や豆腐、水菜や白菜なんかを加えても美味しい。特に残った汁で雑炊を作るとこれがまた絶品なのじゃよ」
「聞いてるだけで腹が空くのぅ……」
「本当はその辺で牡蠣か蛤でも買ってきて焼き石で焼いて情報収集がてら酒盛りでも始めようかと思っておったんじゃが、折角じゃからこう言った店で食べてみようと思っての」
 話を聞いて腹の虫がキャンプファイヤーを始めたらしい花子が、力無く卓に突っ伏す。
 それを見たセレヴィスも真似をして同じ様に突っ伏した。
「飯はまだかのぅ」
「まだかのぅ~♪」
「直ぐに来るじゃろうて」
 先に届いたぬる燗を傾けながら仲の良い二人を眺めていると、おばさんが七輪と蛤を持ってきた。
 炭火の上に網を敷き、その上に蛤を乗せていく。
「火が通ったら醤油を掛けてくださいな。今鍋も持ってきますからね」
「うむ、序に酒を二合お代わりじゃ」
「よぅ飲むのぅ」
 感心した様な呆れた様な顔を向ける花子。
 彼女も年齢だけ見れば酒は呑める年齢だが、見た目が如何ともし難いので大人しく見た目相応の食生活を送っている。
 この中では零士も成人組だが、彼はバイクを運転する都合上酒は口にしない。
 ヒーローたるもの、子供に胸を張れない様な行為はしないのだ。
「さぁさ、お待ちどうさま」
「待ってました!」
「おぉー……!」
 土鍋を持ってきたおばさんに歓声で応えるセレヴィスとメンカル。
 取り皿と箸を構えて準備万端だ。
「それじゃ手を合わせて、いただきますじゃ」
 花子の音頭でいただきますをして、一斉に鍋をつつく。
 ガツンと魚の旨味が詰まった鍋に皆上機嫌で食べ勧めていく。
 お櫃のご飯が次々に量を減らしていくのを眺めつつ、ツーユウはのんびりと杯を傾けている。
 良い具合に火が通った蛤に醤油を垂らしてはふりはふりとやりながら噛めば、貝の旨味がじゅわっと口の中に広がっていく。
 そこへ酒を流し込めばすっきりとした旨さと香りだけが残り、それも吐いた息と共にふわりと溶けて行く。
 消えた残り香を追って、ついついもう一口、もう一口と進んでしまう魔性の肴だ。
「いやぁ、堪らんのう」
 上機嫌に酒を呷るユーツウと、舌鼓をぽんぽこ打ち鳴らすご飯組。
 幾分腹もこなれた所で零士がふと思い出して、お茶のお代わりを持ってきた先程とは別のおばさんに声を掛ける。
「旨くてすっかり忘れてたんだが、お姉さん黒い刺身について何か知らないか?」
「あらやだ、お姉さんだなんて正直な子だよぉ♪」
「いやぁ……はは」
 突如炸裂するおばさんパワーに圧倒される零士。
 機嫌を良くしたのかおばさんは直ぐに答えてくれた。
「勿論知ってるわよ、浜の人の間ではそれなりに食べられてるし町の方でも海鮮が売りの店では出している所も有るし。それにしても黒い刺身を探して着たのかい?」
「あぁ、何と言うか……」
 そこで区切って、零士は目配せをした。
 有力な情報を得られそうなのでこの場で目的を明かして協力を仰ごうと、皆の反応を待つ。
 セレヴィスとメンカルは目線で、花子とユーツウは頷きを返す。
 皆も此処は押す場面と判断した。
 零士は少しばかり声を潜めて、おばさんに続きを話した。
「此処の藩主様が近頃黒い刺身にご執心でな。まさか篭で方々を回って探す訳にも行かないから俺達で探して回っているんだが」
「あら、もしかしてお偉いさんだったり?畏まった方が良いかしらねぇ」
 思わず身を硬くするおばさんに、花子が手を振って答える。
「いやいや、お役人と言う訳では無いのでそのままで。それで、黒い刺身について教えてくれんかの?」
「そうかい?それじゃあお言葉に甘えて……で、その黒い刺身ってのはね。カワハギの肝なのよ」
「カワハギの?」
「肝……」
「肝って、内臓の?」
 興味深げに言葉を追い掛けるセレヴィスとメンカルと零士に対し、花子とツーユウはやはりと小さく頷き合う。
「そう、カワハギの肝。ここらじゃたまに大きなカワハギが獲れる事が有るのよ。十分に大きければ肝を刺身で食べる事も出来るんだけど、これがまた美味しいのよ。と言っても毎日獲れる訳じゃ無いから滅多に町の方には出回らないんだけどねぇ。熱心な料理屋の主人が時折買っていって常連さんに出すくらいなのよ」
「成程……出店や屋台を巡っても見付からない訳だ」
 零士は頭に手を当てて納得した様に息を吐く。
 黒い刺身と言う言葉のインパクトに引かれ、てっきり動物の部位を準えて刺身と表したと思い込んでいた。
 それこそレバーや馬刺しの様なものを想像していたが、素直に魚だったとは。
 それも白身の魚の肝である。
 色合いから赤身の方がそれっぽい様にも思えたが、正に盲点だった。
「待って。今、たまに獲れるって」
 メンカルの指摘に頷くおばさん。
「そうだよ、獲れるのはたまにさ。私らでも余り食べる機会は無いねぇ。それにこないだ大雨が降って塒を移したのか、今日も網に掛かったのは小さなものからそれなりの奴まで。とても刺身で食べられそうな大きさのは無いねぇ」
「やっぱり……」
「えー、それじゃあ黒い刺身は手に入らないの?」
 眉尻を下げてしょんぼりするセレヴィス。
 そんな彼女の肩をぺしぺし叩いておばさんは朗らかに笑う。
「心配は要らないわよ。網で取れないなら釣れば良いじゃない」
「へ、釣る?」
「そうさ。此処を出て海岸を右手にずうっと行った先、礁が幾つも突き出ている所が有ってね。網を投げるには向かないけれど、釣り糸を垂らすには持って来いよ。その辺で馬鹿騒ぎしてる連中が小船を出してくれるさ」
「おー、ボク達で釣りを!何か楽しそうだね♪」
「おいおい、勝手に話を進めるんじゃねぇよぉ!」
 離れた所から男達の野次が飛んでくる。
 と言っても楽しげな声色なので怒っているのではなく、単に陽気に騒いでいるだけらしい。
「何言ってんだい、此方さん方はお殿様の為にわざわざ出向いてカワハギを釣ろうって言ってるんだよ!私らがこうして元気に過ごせているのもお殿様が国を富ませて民に豊かな暮らしをっていつも言ってくださってるからじゃないのさ!ほんの僅かでもその恩に報いる事が出来るんなら本望じゃないさ!」
「わっはっは、ちげぇねぇや!良し、船は任せな!」
「おぉー、お姉さんもお兄さんもありがとー!」
 とんとん拍子で運んだ事に驚きつつも感謝を述べるセレヴィス。
 実は五人が入ってきた時点で食堂内の者は皆意識を向けていたのだ。
 色々と風変わりな格好ながら趣の違った美女と美少女が四人。
 男達の興味が向くのは想像に難くない。
 ちなみに零士には厨房内のおばさん達が熱い視線を送っていたりもした。
 娘の婿に如何だと品評を始める辺りは流石の逞しさである。
 そんな五人の話の行方に耳を立てて様子を伺い、理由も我等がお殿様の為と有れば一肌脱ぐのも吝かでない。
 期せずして、黒い刺身の正体とそれを得る為の足がかりも手に入れた五人であった。

「…………ん」
「如何かしたか?」
 喧騒の最中、不意に声を漏らした花子へユーツウが問う。
 何とも言えない表情で、花子は首を振った。
「どうやら、一波乱有りそうなのじゃ」
 花子は先程、こっそりとユーベルコード【影の追跡者の召喚】を使っていた。
 影に追わせる対象は、代官所へと向かった役人らしき男。
 自分達の他にも探している口振りだったので情報が無いかと試しに付けてみたのだが、その影を通してこんな話が聞こえて来たのだ。
『なに、数人が同じ様に黒い刺身を探していただと?』
『如何なさいますか?』
『念の為に人を着けておけ。もし正体を掴んだようなら知らせろ。儂の悲願の為、そろそろ殿には彼岸へ行ってもらわねばな……』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『珍味を求めて』

POW   :    釣り竿で釣って捕まえる

SPD   :    素潜りで飛びかかり捕まえる

WIZ   :    網や罠を設置して捕まえる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●――いざ、魚との真剣勝負
 黒い刺身の正体を掴んだ猟兵一行。
 しかしそれを手に入れる為には自ら釣り上げる必要が有った。
 幸い漁師達が船を出してくれると言う。
 礁へと向かい、魚を得る為に全身全霊を込めた一騎打ちを行い、見事魚を捕らえるのだ!
御手洗・花子
「カワハギに限らず、この時期の釣りはシビアなのじゃよな…」
冬は魚の活性が弱く中々食べてくれない時期…狙うべきポイントは深場か…なるべく水温が高いところじゃないと食ってくれんじゃろう…

「あ、そうじゃ!」
影の追跡者は感覚を共有するし、目立たないから魚も逃げぬ…底をこいつらに探らせて、カワハギが居てなるべく水温が高い所を探そうなのじゃ!

確か、カワハギは強めに誘った方が釣れるんじゃったかな?、まぁ、影の追跡者で誘いへの反応を見ながら、最適な誘い方を探っていくのじゃ。

あ、釣れた後も追跡者で襲撃を警戒せねばな…うーむ、影の追跡者を酷使しすぎかのぉ?


ツーユウ・ナン
釣りは魚との駆け引き、知恵比べともいうからのう。
相手を知り、動きを読み、感じ取り、氣(機・呼吸)を合わせて釣り上げる所などは武術と相通じる所がある。
まずは漁師からカワハギ釣りのコツを聞き出そう。【コミュ力】
そして狙いは肝のふくれた大物じゃ。

カワハギは餌取り名人とも言われるからのう。
餌をつついている内は針にはかからぬ。仕掛けの動きでカワハギを誘い、針に食い付いた一瞬を【見切り】、抜けない様に滑らかな引きで釣り上げる。【早業】

(一章最後の)花子どのが聞き取った話も気になる。何者かが謀を仕掛てくるならば、わしらはその難を排した上で殿様に「黒い刺身」を届けなくてはな。よく目を配っておこう。


テオドア・サリヴァン
「釣りか…早く魚が釣れればいいが…焦らずのんびりとやるか。」

【POW】
釣り竿で魚を釣るぞ。長期戦は覚悟の上だが…しかし、任務で釣りをやるとは思わなかったな。釣りというかこういうのは無になれるから俺は嫌いじゃないな。
魚が釣れたら他の猟兵にすぐに伝えるぞ。

「のんびりと釣りをしていると眠たくなってきたな…」
まあ、細かいことは考えなくていいか。


トール・テスカコアトル
【POW】
「……ねえ、釣りってトール、やったことない……どうやるの?」
え、この、竿?に餌を付けて糸を海に垂らして、魚が食べたら、引っ張り上げる?
「意外とかんたん?」
って、最初は思っちゃうけど
「……釣れない」
魚に力比べで負けるわけないっていうのは的外れだったな
中々、餌を食べないんだ……お腹へってないのかな
「……違うか」
釣られたら食べられるって、きっと知ってるんだね
……そりゃ怖いか
「ゴメンね」
トール、狩りは好きじゃないけど、得意なんだよね
竿を揺らしてちょっぴり餌を動かしたらどうだろ
船から出来るだけ話した方がいいでしょ
潮、海の様子をよく見よう……どこに大きなのがいそう?
「……勝負だ」
じぃっと、待つよ


アマータ・プリムス
む……釣りですか
あまり得意ではないですが仕方ありませんね、釣り上げるとしましょう

愛用のフィールムを人差し指から一本たらしそこに疑似餌を付けて海へ
ただ待っているのも暇なのでイーリスを取り出し船の先頭で【楽器演奏】の練習でもしましょうか
携帯秘書装置で調べた釣りに関する【世界知識】でコツはなんとなく掴みました
あとはあたりが来るまで【歌唱】しながら気長に待ちます
「歌と船はあまり相性がよくないのですがここは魔除けの歌ということで」
指先にあたりを感じたらUCを発動して拘束して釣り上げるとしましょうか
目当ての魚が釣れるまでこれを続けます

アドリブ連携歓迎


緋神・美麗
黒い刺身がカワハギの肝とはねぇ。これは是が非でも食べてみないとね。釣れれば食べれるんなら釣るしかないわね。一番大物を釣り上げて見せるわよ
【世界知識】【釣り】でカワハギ用の仕掛けを作成し、船を出してくれた漁師に確認、アドバイスを貰って釣りをする
釣りをしている間に他の猟兵と雑談を
「黒い刺身の正体はわかったけど、カワハギ釣りで大量に人死にが出たりはしないわよね。オブリビオンってどこでどう関わってくるのかしら」
刺身に出来る位のサイズのカワハギが釣れたら皆で実食
「これが美味しいって噂のカワハギの肝の刺身かぁ。初めて食べるから楽しみね。」

アドリブ・他の猟兵との絡み歓迎


メンカル・プルモーサ
【WIZ使用】
…カワハギの肝と下剋上狙い、予知の話もだけど…いまいち繋がらないな…
刺し黒い刺身手に入れればちょっかい出してくるかな…?

…ちょっとは警戒した方が良いかな…【不思議な追跡者】で鳥を召喚。
カワハギを探すついでに怪しい船とか近づいてこないかの見張りも兼任させる……

カワハギ釣りは餌にアサリを用意して袖から釣り具を用意して釣りを開始……船に酔う人には酔い止め薬あるよ……
…釣れるかな……?どうかなー……
…釣りはタタキ釣りで細かく動かしてー止めてーの繰り返しでアタリを探りつつ食い付いてそうなら引き上げー…外道は海にリリース…
…何事もなく釣れればいいのだけど…変なの釣れないといいな…


セレヴィス・デュラクシード
水中のカワハギを素手で捕まえるなんて無理無理
ボクは船の上で釣竿セット、糸を垂らしながら日向ぼっこ♪

‥‥で、そろそろ1匹くらいかかって欲しいんだけど(イライラ
深い所に魚影が見えるけどボクの糸の周りをグルグル回って‥‥ひょっとして馬鹿にされてる?(イライラ
んにゃ!?餌のアサリが無くなってるんだけど!?
さ、魚の癖に生意気なんだよ!(イライラ
う‥‥また餌だけ(イライライラ
上 等 な ん だ よ 泥 棒 魚 っ!
纏めて捻り潰すんだから!!

【狐の威を借る狐】で二手に別れ【野生の勘】に従いダイブ
魚を見つけたら進行方向少し先を【野生の勘】に従い両手でグワシッ!
全ては野生の勘の指し示すがままに

※弄りアドリブ歓迎


時雨・零士
素潜り、または船上から銛で魚を狙って捕まえるぜ。
銛の扱いには慣れてねぇが…瞬間的に狙いを定めて放つのは得意だからな。
【第六感と見切り】で魚の動きを読み、【クイックドロウ、早業】で銛を投げて捕えるぜ!
状況によっては銛じゃなくて投げ網でも良いかもしれねぇな。技能は同じで。
あ、怪力とか力は抑えないとな…。

後は予想外に魚が手強い場合は…いざとなれば「変身」してアクセルフォームにチェンジして…フッ…千倍の速さならばいかなる魚だろうが獲り放題よ…。
え?大人げない?ぐっ…それを言われると…。
ん?なんかデカイのいないか…って、アレ、鱶じゃねぇか?
俺達の邪魔するんじゃねぇ!!(のして一緒に水揚げ)

※アドリブ歓迎


戸辺・鈴海
[POW]
さて、腹も満たされましたのでカワハギ釣りと参りましょう。
気が早いですが、黒い刺身が頂けるのが楽しみです。

魚としての特徴はあまり詳しくないので、漁師さんに質問しておきたいですね。
住んでる場所ですとか、釣る時のコツですとか。
餌を食べるのが上手い魚であれば、丹念に餌を針に付けませんと。

待っている間は一緒に船に居る仲間と談笑したいです。
先程食べた海の幸について感想戦をするのも宜しいかと。

ところで、私も人間サイズの竿を使いますが…………
アタリが私に来たら、明らかに力勝負が発生しそうです。
出来る事なら自分で踏ん張りたいとは思いますけど、
無理そうだと察したならヘルプを要求しましょう。



 晴天の空。
 お昼も食べた事だし心地良い潮風に吹かれながら昼寝と洒落込みたい時分である。
 とは言え彼等彼女等にそんな気の抜けた様子は無い。
 寧ろ逆、意気揚々と小船を漕いで目的の場所へと向かっていた。
 先程までの捜査で得たカワハギの居そうなスポットの情報。
 港から程近い礁の付近で『根付いた』ものが幾つか居るらしい。
 基本的には海底の岩の付近に居る事が多い為、普通の漁でも地引網で良く引っ掛かっている事が有る。
 が、その場所は岩礁による起伏が激しく岩肌も滑らかでは無い為に網での漁は不向きだ。
 なので暇な釣り人が偶に大物を狙う以外はほぼ手付かず、正しく穴場となっている。
「カワハギに限らず、この時期の釣りはシビアなのじゃよな……」
 いつもの『『和』服』の上からライフジャケット代わりの浮き袋を回し掛け、のんびりと釣り糸を垂れるのは御手洗・花子。
 冬は水温が下がる為、魚自体の活性も幾分鈍る事が有る。
 更にカワハギは朝一ならばそれこそ入れ食いと言って良い程に良く食い付いて来るが、日が登ってからは一気に姿を消す。
 実際は消えてはおらず静かに揺蕩っている事が多いのだが、餌の取り方が変わる。
 フグ目特有の歯の強さで餌の浅蜊を巧みに食い千切るので、所謂アタリが非常に解り辛いのだ。
「んー……また盗られておるのぅ」
 何も掛かっていない釣り針を見てむむーっと眉を寄せる花子。
 こうしてレジャーを楽しむ姿を見れば、誰もが微笑ましげな視線を向けるだろう。
「あ、そうじゃ!」
 頭の上にピコンと豆電球でも浮かんでそうな声を上げて、花子はいそいそとユーベルコード【影の追跡者の召喚】を使う。
「影の追跡者は感覚を共有するし、目立たないから魚も逃げぬ……底をこいつらに探らせて、カワハギが居てなるべく水温が高い所を探そうなのじゃ!」
 正に名案とばかりに影を海に潜らせてみる。
 影を通して送られてくる感覚。
 海洋汚染とはほぼ無縁な綺麗な海の底で悠々と泳ぎ回る魚の姿、より鮮明に飛び込んでくる海の香り、そして。
「ゲッホゲッホ!?しょっぱ!?」
 ダイレクトに訴え掛けてくる海水の塩気。
 影の鼻から入り込んだ海水が口へと流れ落ちていった為、暴力的な感覚が花子を襲った。
 即座に影を送還して共有した五感を切り離し、竹筒から水を勢い良く飲む。
「んっ、んくっ……ぷはぁ!あー、まだ口の中がしょっぱい気がするのじゃ……」
「中々上手くは行かんのぅ」
 それを見て呵々と笑うのは釣竿片手に『酒瓢箪』を傾けるツーユウ・ナンだ。
 彼女は普段通りの格好でのんびりと釣っているが、花子と比べると格段に釣っている数は多い。
 まだお目当ての大きさのものは釣れていないが順調と言って良いだろう。
 魚篭に次々と堪っていく魚を見て、花子は首を傾げた。
「おぉ?ツーユウ、いつのまにそんな数を釣ったのじゃ?」
「釣りは魚との駆け引き、知恵比べともいうからのう」
 花子の疑問に答えるべく、ツーユウは一旦竿を引き上げる。
 その釣り針には小さなカワハギが掛かっていた。
 単に食用とするにも苦労しそうな大きさなので手早く針を外して海に返してやりつつ、壷から浅蜊の剥き身を取り出す。
「相手を知り、動きを読み、感じ取り、氣(機・呼吸)を合わせて釣り上げる所などは武術と相通じる所がある」
「ふむふむ」
「先程漁師達から小船を借りる時に聞いてみたんじゃが、餌を盗られると言う事は必ず何処かのタイミングでカワハギが食らい付いている、と言う事でもあるのじゃ」
「へむへむ」
「ならば食い付いた一瞬を捉えずとも、錘が岩礁に落ちてから一秒後、二秒後と時間を計りながら上げてやれば大体どの辺りで食ってくるかは解る」
「ほむほむ」
「後はそれを見計らって適時アワセてやれば……ほっ!と、この様に釣れると言う訳じゃ」
「解ったのじゃ!」
 目を輝かせながらいそいそと自分の仕掛けに浅蜊を付けていく花子。
 普段は何方かと言えばインドア派な彼女ではあるが、意外とこう言ったレジャーは満喫出来るタイプらしい。
 暫く竿と格闘していたが、その時釣り糸がピンと張り竿がぐぐっと撓る。
「おっ、きたのじゃ!」
 早速アタリが来る。
 ほくほく顔の花子だったが、直ぐにその顔に焦りが浮かぶ。
「うおぉぉ!?今までのやつとはパワーがダンチなのじゃっ!?」
「凄い引きじゃ、これは大物かもしれんぞ!」
 前に引っ張られる花子を直ぐ様後ろから捕まえて一緒に支えるツーユウ。
 向きを変えようと魚の引きが弱まった一瞬を見切り、勢い良く引っこ抜く。
「これは……!」
 思わず目を見開くツーユウ。
 釣り針に掛かっていたのは、ピチピチと跳ねるカワハギ。
 それも特大サイズだ。
「なんじゃデカっ!?わしの肘から先よりデカイぞこやつ!?」
 慌てふためく花子。
 それもその筈、このカワハギは何と大きさ約35cmも有る特大級だ。
 魚屋で並んだ中でサイズが良いとされるものが20cm超えと言えばその規格外さが伝わるだろうか。
 ちなみに花子の身長が144.9cmである。
 換算するとこのカワハギが四匹ちょっととなる。
「いやはや、凄いのを釣り上げたのう」
「うむ、凄いのじゃ。……確かカワハギは大きければ大きい程味が良いのじゃったな?」
 呆然としていたが、ふと真面目な顔で問い掛ける花子。
 意図が解らず首を傾げるツーユウだが、次の一言で全てを理解する。
「……他の皆も良いサイズのを釣り上げたら、これは献上せずこっそり隠しておいてわし等で食べると言うのは」
「いやぁ……流石にそれは……しかし惜しい気もするのう……」
 二人の脳内で天使と悪魔が取っ組み合いを始める。
 果たして勝つのは猟兵としての気概か、はたまた腹の虫軍団か。

「釣りか……早く魚が釣れればいいが……焦らずのんびりとやるか」
 一方此方は小船の上でまったりと釣りを楽しんでいるテオドア・サリヴァン。
 海底に錘が付いたらコツコツと底を叩く様に誘いを掛ける、基本に忠実な釣り方をしている。
 餌を持って行かれる事も多いが、テオドアは釣りを満喫していた。
 ぼーっと水面を見詰め、アタリが有れば引き上げる。
 細かい事を考えずに心を空っぽに出来る、無になれる時間と言うのも彼は嫌いではない。
「のんびりと釣りをしていると眠たくなってきたな……」
 まったりと流れる、或る種退屈な時間。
 堪能出来ている辺り、テオドアには太公望の素質が有るのかもしれない。
 そんな彼に待ったを掛けるのは水中から顔を出した時雨・零士である。
 海に潜って銛を片手に魚を追い掛けている姿は一般的では無いかもしれないが、お茶の間のちびっこ達には大ウケのヒーローと映るだろう。
 既に変身を済ませている為、冷たい冬の海もなんのその。
 腰に取り付けた魚篭には多種多様な魚が入っている。
「ぷはーっ!いやー、大漁大漁」
 上機嫌で小船へと近付き、ひょいっと飛び上がり乗り込む。
「わたたっと」
 衝撃で少し揺れるが、零れ落ちたのはテオドアの眠気くらいだった。
「おいおい、もうちょっと優しく乗り込んでくれよ」
「悪い悪い。それより見てくれよ、こんなの居たんだぜ!」
 反省もそこそこに、ニカッと笑って零士は右手に持った銛を差し出した。
 その先には貫かれた舞鯛が付いている。
 狙っているカワハギでは無いが、これも今の時期には美味しい魚だ。
 夏も獲れるが石灰藻や底生動物を食べる為に臭くて不味い。
 だが冬には幅海苔を始めとした海藻を食べるので味が良くなり、煮付けや鍋にするとこれがまた絶品だ。
「さっきは鱶みたいなデカイのも居たんだぜ!腕が鳴るな!」
「いや、そんな大きいの獲ってどうするんだ?と言うか狙いはカワハギなんだし追い払うくらいで良いんじゃ」
「いやいや、こんな寒い時期にこんな所に居るって事は大抵はぐれだ。そう言うのは厄介だぞ、放置してたら漁師さん達にも被害が出るかもしれないしな」
「……確かに」
「と言う訳で、早速行って来るぜ。オラァ!俺達の邪魔するんじゃねぇ!!」
 外した舞鯛や腰の魚篭に入った魚を小船の魚篭に移し変えて、零士は勢い良く海へと飛び込んで行った。
「わわっと」
 その反動で小船が揺れる。
 何とかバランスを保ちつつ揺れが収まるのを待って、テオドアは呆れ混じりに笑った。
「海は冷たいだろうに元気だな……ま、俺はのんびりやりますかねっと」
 浅蜊を付け直して静かに釣り糸を垂らす。
 先程の派手な着水で魚は逃げ出してしまったが、のんびりと待つ事にする。
 冬とは言え風が弱く日差しが強ければ、それなりに暑いものだ。
 風邪は引かないで済みそうだ、と欠伸をしながら時折竿を動かしてやる。
「いやー……案外ハマりそうだな」
 チョイと竿を跳ね上げて引き上げると、中々のサイズのカワハギが釣れていた。
 殿様へ献上するには物足りないかもしれないが、持って帰る分には申し分ないだろう。
 上機嫌で釣竿を揺らしているテオドアとは対照的に、零士は熱いバトルを繰り広げていた。
「くそー、すばしっこい!」
 岩陰を素早く泳ぎ回り中々隙を見せない魚影。
 全長3mは有ろうかと言う巨大なその姿は正しく海の暴れん坊。
 湾へと迷い込んで来た鼠鮫だ。
 本来はもう少し沖か深い場所に居る筈の鮫だが、回遊性の為にふらりと現れるのも珍しい事では無い。
 だが此処まで陸に近い場所までやってくる事は先ず無い。
「絶対獲ってやるぜ!」
 そんな迷い鮫を相手に、零士は先程から一進一退の攻防を繰り返している。
 一気に加速して泳いでいくと、鮫はするりと狭い岩場のトンネルへ逃げる。
 追うのを止めれば、遠巻きに眺めつつ挑発する様に突進する振りをしてくる。
「野郎……よぉし、そっちがその気ならこっちも本気で行ってやろうじゃねぇの。『Start UP!』終わりにするぜ……!!」
 ユーベルコード【チェンジ・アクセルフォーム】で速度と攻撃力に優れた強化変身を行う。
 水中で多少の動き難さが有るとは言え、彼のスピードを普通の生物が捉えるのは不可能と言って良いだろう。
「大人気ないってか?ふっ、悪いな……」
 マスクの奥でニヒルに笑ってみせる零士。
 雰囲気が変わったのを察してか、鮫も警戒した様子を見せる。
「今更ビビったって遅いぜ!」
 海を切り裂いて進む零士。
 その姿は夜を翔ける流星の様に。
「貰った!」
 一瞬の交差に合わせて放たれた銛は、容易く鮫の急所を捉えた。
 僅かにビクリと身を震わせ力尽きる鮫。
 好敵手の亡骸を抱き寄せて、一路陸へ向かう。
 流石にこの大きさはそのまま引き揚げないと無理だろう。
 そうして海から鮫を捕まえて上がってきた零士を見て、食堂で酒盛りしていた人々が顎を外したかの様な顔で呆然としている。
 適当な所へ鮫を置いて、零士は右手を持った銛と共に天高く突き上げた。
「デカイ鱶、獲ったぞー!!」
 その様子を小船の上から見ていたテオドアが、ぽつりと呟く。
「あいつだけ釣りジャンル違くね?」

「……ねえ、釣りってトール、やったことない……どうやるの?」
「そんなに難しい事は有りませんよ。針に餌となる浅蜊を通して、それを錘が海底若しくは岩棚に当たるまで沈めて、当たったら上下にくいくい動かして、引っ張られたら上げるだけですから」
「意外とかんたん?」
「えぇ、かんたんです。一緒に頑張りましょう、トール様」
 小船の上で拳を握るアマータ・プリムスと、釣り初心者のトール・テスカコアトル。
 餌の付け方や基本の釣り方を教えるアマータだが、実は釣りが得意と言う訳では無い。
 釣り方は漁師から聞いていたものの、実際にやるとなると手持ち部沙汰な時間が多くなる為余り性に合わない。
 今もトールに教える傍ら、右手の人差し指から『マギア・フィールム』を一本垂らして疑似餌を取り付けている。
 普段は懸糸傀儡を操るのに用いるのだが、今日は釣り糸の代わりらしい。
 そうして空いた両手は何をするかと言うと。
「さて、歌と船はあまり相性がよくないのですがここは魔除けの歌ということで」
 取り出したのは蒸気機関式ギター型マイクの『イーリス・カントゥス』だ。
 何と弾き語りをして暇を潰す心算らしい。
 流れ出すメロディーはゆったりとしたテンポのもの。
 耳にスッと入ってくるが決して邪魔ではないサウンドに、自然とトールの身体がリズムに揺れる。
「よーし」
 いっぱい釣ろう、と意気込んで水面を見詰める。
 それから暫く。
 時折吹く潮風と暖かな日差しを受けながら、曲が数回流れた頃。
「……釣れない」
「釣れませんね」
 時折竿を上げてみるが、釣り針には何も掛かっていない。
 中には浅蜊が付いたままのものもある。
「お腹へってないのかな」
「いえ、恐らくポイントが悪いのでしょう」
 巻き上げた先、疑似餌が半分程食い千切られてボロボロになっている。
 カワハギやフグは口が強靭だ。
 専ら浅蜊や本虫を使うのは、疑似餌がすぐにボロボロにされてしまい出費が嵩むからでもある。
 そして小さく小さく啄んでくるのでアタリが他の小魚と見分け辛い。
 何度か啄んでくる感触を捉えてユーベルコード【Festina lente】を使ってみたが、多くは10cmに満たないものばかりで狙いのカワハギは精々一、二匹と言った所だ。
 それに、食い付き自体は浅蜊の方が良い。
 にも関わらずアマータが疑似餌を付けるのは、後で清掃・メンテナンスするとは言え人形を操る糸から生臭い香りを漂わせたくない、そんな思いも何処かに有るからなのかもしれない。
「意外と難敵ですね。オブリビオンよりも厄介かもしれません」
 イーリスを仕舞ってポイントを変えるべく櫂で漕ぎ出す。
 視線の先、トールは新たに浅蜊を付けつつ錘も追加していた。
「こっちはさっきの場所より流れが速いから……もうちょっと沈むように」
 熱心に水面を観察していたからか、トールはこの辺りの潮の流れを大凡理解していた。
 今まで使っていた錘では流れに煽られて針が浮いてしまう。
 なので錘を追加して出来るだけ真っ直ぐ沈む様にし、潮の流れで針が糸と絡まない様に片側一方から伸びる形へと結び直した。
「よし……」
 気合を入れ直して投入する。
 それを見てアマータも疑似餌を取替えて再度フィッシング。
 釣った数だけ見るなら他を寄せ付けない圧倒的な釣果なのだが、如何せん肝心要のカワハギが食って来ない。
「いっそネロでも潜らせますかね」
 トランクから小さく音が鳴った様な気がするが、アマータは意に介せず黙々とカワハギを狙っていく。
 トールはと言うと。
「あれ……錘、付け過ぎたかな……?」
 じっと水面を見詰めつつ、首を傾げる。
 先程錘を追加した所為か、仕掛けが海底に這う様に置かれていた。
 先端と仕掛けの始点の錘がどっしりと海底に腰を下ろし、その間で浅蜊が海面に向かって伸び上がっている。
 一回上げて調整しなきゃ、と思った所で竿に手応えが伝わる。
「……!」
 咄嗟にアワセて引き上げてみると、まぁまぁのサイズのカワハギが針に掛かっていた。
「…………あっさり?」
「おや、お見事です」
 久し振りのカワハギに若干目を輝かせるアマータとは対照的に、トールは何やら思案顔。
 魚篭に入れて再度、同じ様に仕掛けを海底に這わせる。
 程無くして、再度アタリが。
「ヒット」
 アワセて手早く釣り上げると、先程よりも大きなカワハギが付いていた。
「連続で……お見事です」
 ぱちぱちと拍手を贈られたトールは、やや頼りなさげな普段の顔付きのまま、にんまりと口の端を持ち上げた。
「攻略法……見ぃ付けた」
 早速その釣り方をアマータへ伝える。
 理屈は解らないが、如何やら海底に這わせる釣り方ならばカワハギを捉え易い。
 試しにと同じ様に変えて取り付けたフィールムを沈めてみると、先程までよりもはっきりとした手応えが。
 そのままFestina lenteで捕まえてみると、活きの良いカワハギが掛かっている。
「やりました。トール様のお陰ですね」
「やったね」
 二人でブイっとピースサインを出し合う。
 釣り方は解った。
 後は時間一杯まで釣るだけ。
「みんなビックリするかな……?」
「えぇ、きっと」

 皆が賑やかに釣りを楽しんでいる中。
 メンカル・プルモーサは釣りをそこそこに情報収集に当たっていた。
 昼食後に伝えられた花子からの情報。
 何やらキナ臭い陰謀が張り巡らされている気配は有るが、全容はまだ見えてこない。
「……カワハギの肝と下剋上狙い、予知の話もだけど……いまいち繋がらないな……黒い刺身手に入れればちょっかい出してくるかな……?」
 ユーベルコード【不思議な追跡者】で鳥を召喚し、周囲に怪しい船や変な動きをしている人が居ないかを探らせている。
 今の所はそう言った動きをしている人は居ないが警戒しておくに越した事は無いだろう。
 静かに気を張るメンカルの横でご機嫌に釣り糸を垂れるのはセレヴィス・デュラクシード。
 日向ぼっこをしながらのびのびと魚が掛かるのを待っている。
 時折鼻歌が聞こえて来たりと、満喫している様子だ。
 だが、暫く待ってみても彼女の針に魚が掛かる気配は無い。
「……で、そろそろ一匹くらいかかって欲しいんだけど」
 多少ムっとした顔で呟くセレヴィス。
 本来釣りに向いているのは気の短い人、と言われているがそれには諸説有る。
 最も有力な解釈は、釣れない時は直ぐにポイントを変えるので釣れる可能性が高まりボウズ(釣果無し)になりにくい、と言うものだ。
 一点集中でのんびり釣る場合、そこに魚が多く居るのならば良いがそもそも食ってくる魚が居ない場合はいつまで経っても釣れない。
 百か零か、と言う意味ではかなりの博打である。
 つまりこの場合の気が短いとは損切りの上手い人、とも言い換える事が出来る。
 断じて、今の彼女の様にぷんすかぽんと水面をぺちぺち叩くような人では無い。
「深い所に魚影が見えるけどボクの糸の周りをグルグル回って……ひょっとして馬鹿にされてる?」
 目を凝らして覗き込めば、幾つかの魚影は見えるが仕掛けの周りをゆったりと漂っているばかりで如何にも埒が明かない。
 仕方が無いので竿を上げてみると、なんと有るのは針だけ。
「んにゃ!?餌のアサリが無くなってるんだけど!?」
 いつ盗られたのか全く解らない。
 気付けば無くなっていた、と泥棒に遭った被害者そのままの感想を抱くセレヴィス。
 実際、餌は見事に盗られているので強ち間違いではない。
「さ、魚の癖に生意気なんだよ!」
 手早く浅蜊を取り付けながら、セレヴィスはちらりと横目でメンカルを見る。
 何処か思案顔で気を抜いている様にも見えるが、彼女の魚篭には結構な数のカワハギが入っている。
 あれだけ釣れるんだから、ボクにだって釣れるはず。
 そう心を奮い立たせてセレヴィスは再度仕掛けを落とした。
 この時、メンカルは周囲の警戒に意識を割いていてうっかりセレヴィスへカワハギ釣りのコツを伝えるのを忘れていた。
 食い付きが解りにくいカワハギを釣るには幾つかの技が有る。
 その中の一つに、上下の反射食いをさせてアタリを誘う、と言うものがある。
 普段は泥棒魚の名に相応しくこっそりと餌を持っていくカワハギだが、下を向いての食い付きが下手と言う特徴が有る。
 錘を着底させた後で大きく竿を跳ね上げ、そのままゆっくりと下ろす事で非常に明確にカワハギのアタリを捉える事が出来る。
 メンカルはこの方法で次々とカワハギを釣り上げていた。
 そんな技術が有るとは露も知らないセレヴィスは、余りの釣れなさにイライラと悔しさと、ほんのちょっぴりの悲しさを携えて浅蜊を補充し続ける。
「う……また餌だけ」
 じんわり涙も滲んで普段の元気印が鳴りを潜めてしまっている。
 が、そんな彼女が遂に爆発した。
「上 等 な ん だ よ 泥 棒 魚 っ!」
「わわっ」
 突如聞こえて来た憤怒に煮え滾る叫びを聞いて意識を引き戻されるメンカル。
 何事かと振り向いてみれば、セレヴィスがユーベルコード【狐の威を借る狐】を発動して海に飛び込む所だった。
「纏めて捻り潰すんだから!!」
 勢い良く水柱を立てて飛び込んで行くセレヴィス。
 ずれた眼鏡を押し上げて見渡せば、空っぽの魚篭が目に映る。
 それを見て、メンカルは彼女の行動の理由に思い当たった。
「あー……悪い事しちゃった」
 一先ず上がってきたら謝って、魔術で温風を起こして風邪を引かない様にしてあげよう、と心に決めた。
 今の着水の衝撃で、カワハギや他の魚は逃げてしまっている。
 一度竿を上げてタオルや温かいお茶の用意をしておく。
 その最中、メンカルは不思議な追跡者が捉えた人物の情報を拾い上げた。
「役人……」
 代官も黒い刺身を探しているとの事だから、役人達が歩き回っているのは然程おかしな事では無い。
 が、彼女は役人が手にしている奇抜な色合いの魚に目が行った。
『と言う訳で本当にお気を付けくださいな』
『解っておるとも。池の錦鯉と一緒で、食べるのではなく見て楽しむものだ。それにこんな派手な色合いのものを早々食べたいとは思わぬだろうさ』
『それはまぁ、確かに。時折お零れを狙う猫も避けて通りますからねぇ』
 そんな遣り取りが聴こえて来る。
 件の魚は灰色の地に青い線が不規則に走っている。
「あれは……!」
 ソウシハギ。
 内臓に致死性の猛毒を含む魚で、その毒性はフグ毒で有名なテトロドトキシンを凌ぐ。
 傷付けないように取り除けば身を食べる事は出来るが、それでも万が一を考えると慣れた調理師以外は扱いたくない魚だ。
『これで今回の旨いもの市の出し物も万全だ。何せ今回は藩主様もご出席されるからな、食べるだけでなく見世物としても楽しめると有れば覚えも目出度くなろう』
『はい、その節はどうかお口添えの程を宜しくお願い致します』
『任せておけ、では持って帰るとしよう』
 そう言って幾つかの桶を持っていく役人達。
 バラバラだったパズルのピースが、少しずつ脳内で組み上がっていくのを感じる。
「ソウシハギ……お祭り……お殿様が参加……」
 動機はまだ解らないが、大凡の全体図は浮かび上がってきた。
 あれだけの数のソウシハギを使うとなれば、多くの目標を排除出来る筈だ。
 お殿様や厄介な家臣達、反目する派閥のもの、従わない有力者達、演出の為に選ばれた無辜の民。
 祭りの席で毒殺が起きたとなればこれはもう大々的なテロだ。
 こう言った謀には生贄が付き物、恐らく嫌疑を掛ける相手も用意されている筈。
 先程ソウシハギを渡した人も、毒が有るのを知って黙っていたと言い掛かりを付けられるのだろう。
「……何て前時代的な悪党」
 これまでの情報を統合するに、恐らく自分達が相手にするのは代官。
 そして、その代官こそが倒すべきオブリビオンなのだろう。
 後で情報共有しないと、とメンカルは静かに拳を握る。
「ぷはーっ!」
 そんな彼女の背後から、声が聞こえて来た。
 振り返ると、満面の笑みを浮かべたセレヴィスが海面に上がってきていた。
 その両手には特大サイズのカワハギが捉えられている。
「見て見て!こんなに大きなヤツ捕まえたんだよ!」
「わ、すごい……!」
 感嘆の声を上げるメンカルにドヤ顔を見せる。
「ふっふっふー♪ボクの真の実力を以ってすればこれくらい簡単……へっくち!」
 可愛らしくクシャミをするセレヴィスに小さく笑みを返し、メンカルはタオルを掲げた。
「風邪引かない様に魔法で温めるから、上がってきて」
「ありがとうなんだよー♪」
 頭にタオルを被せて一気に引き上げる。
「……!?」
「わわっとぉ!?」
 が、予想以上の重さでバランスを崩して二人共小船に倒れ込んだ。
 原因はセレヴィスの腰元に付けられた潜水用の魚篭。
 そこにはぎっしりと大漁の魚が入っていた。
 グラリグラリと揺れる船の上で、セレヴィスは少し照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
「いやー、大漁だったんだよ!」

「黒い刺身がカワハギの肝とはねぇ。これは是が非でも食べてみないとね。釣れれば食べれるんなら釣るしかないわね」
「気が早いですが、黒い刺身が頂けるのが楽しみです」
 お昼は済ませたが、それでもなお黒い刺身の味に思いを馳せているはらぺ娘コンビ。
 緋神・美麗と戸辺・鈴海の二人だ。
 しっかりと出港前に漁師から釣りのコツと技術を伝授してもらったので事前準備は万全だ。
 先ずは基本通り海底に錘が着いたらコツコツと叩く様に誘いを入れてみる。
 暫く誘って来なかったら糸を弛ませ潮の流れに任せ、ゆったりと揺蕩う様に靡かせる。
 こうするとカワハギの警戒心が薄れ、大胆に食いに掛かってくる。
 そうして時折竿をゆくりと立てて違和感が無いかを探っていく。
 違った感触が有れば鋭くアワセて釣り上げる。
「よっと。うん、良い感じね」
「よっとと、こっちも掛かりました!」
 すいすい上げる美麗と違って、フェアリーの鈴海には相当手強い相手となる。
 厳しければヘルプを頼むが、最初の一匹くらいは自力で釣り上げたいと思っていた。
「むむむ……ぐぎぎ……」
「もう少しよ、頑張って!」
 美麗の声援を受けながら歯を食い縛り竿と格闘していく。
 引きが弱まった一瞬の隙を突いて、鈴海は身を反らせて抜き上げる。
「フィィィィーッシュ!」
 裂帛の気合と共に釣り上げられて、ピチピチと船の上を跳ね回るカワハギ。
 自分の首から下程は有りそうな大物を釣り上げ、鈴海は満足そうに肩で息を吐く。
「ふ……ふふふ、やりました!」
「やったわね!随分な大物じゃない!」
 立派な釣果を前に、ふたりはハイタッチを交わす。
 針を外して魚篭に入れ、針に浅蜊を掛け直す。
「よーし、どんどん釣るわよー!」
「私も一杯釣ります!」
 勢いに乗ってさくさくと釣っていく二人。
 その場所のカワハギに合う釣り方さえ知っていれば、カワハギはそう難しい魚ではない。
 その釣り方を確立するまでが難しく、それ故に釣りを楽しむ者達に愛されているのだ。
「しかしお昼のご飯は美味しかったですねぇ」
「えぇ、あんなにも美味しい外食は久し振りだわ。糠漬けも美味しくて歯応えが有って。具無しおにぎりにあの糠漬けだけでも良いわね」
「海老尽くしも美味しかったです。あの海老の頭を使った味噌汁や雑炊とかも食べてみたいですねぇ」
「あー、良いわね。豆腐やネギに白菜なんかも入れて」
「お品書きには他にも色々美味しそうなのが並んでましたねぇ。煮付けなんかも良い味出てるでしょうし」
「濃い目のつゆにたっぷりの生姜を入れて。あの味の染みた薄切り生姜も美味しいのよね」
「あー、良いですねぇ。解した身と生姜を乗せて、お茶漬けにしちゃうのも美味しそうです」
「ダメだわ、これ間違い無くお腹空く話題よ」
「私もさっきお腹一杯食べた筈なのにお腹空いてきました」
 釣り上げる傍らでお昼のご飯を思い返して楽しく談義していた二人だったが、話が進むに連れてお互い神妙な顔付きになって行く。
 まさかのセルフ飯テロでダメージを負ってしまい、いっそこの場で釣ったカワハギでも刺身で食べようかと思い始めている辺り被害は甚大だ。
「話題を変えましょうか……。黒い刺身の正体はわかったけど、カワハギ釣りで大量に人死にが出たりはしないわよね。オブリビオンってどこでどう関わってくるのかしら」
「そうですねぇ……今の所は御手洗さんが代官に怪しい動きが有りそうと言っていましたけど」
「時代劇でよく見る悪代官って奴かしらね。でもあれはお話で有って、本当の所は悪巧みをする間も無い大忙しの職種だったんでしょう?」
「みたいですね。まぁオブリビオンだったら睡眠不足とか過労とか関係無いんじゃないですか?」
「世の企業が挙って募集掛けそうなバイタルよね……」
「この話の流れも色々とダメージ来そうな気がしますよ!?」
 やいのやいのと盛り上がる二人。
 気付けば魚篭には大漁のカワハギを始めとした魚が溢れ返っている。
「あら、釣り過ぎちゃったわね」
「一度戻りますか」
 のんびりと櫂を使って一足お先に陸へと戻ってくる。
 出迎えてくれた漁師達に囲まれて話している内に、ぽろりと情報が零れてきた。
「そう言えば何やら代官所のお役人さんも黒い刺身を探してましたけど、何で態々お代官様がそんな探し物を?」
 鈴海の疑問に答えたのは頭に捻り鉢巻をした日焼けした壮年の漁師。
「ん、お嬢ちゃん達知らんかったのか。明日、旨いもの市ってぇ名前のお祭りをやるんだよ。色んな所から集めた旨いものを皆で楽しんで、楽しく騒ごうって祭りよ。元々は藩の中に変な病気が入ってきてないかを調べる為に人を集めて話を聞いたり身体の悪い奴の所へ医者をやったりしてたんだ。何せ海から陸から見た事有るやつも見た事も無いやつも集まってくるからな。それで調べた後に数人が折角だからって酒盛りを始めたのが始まりよ。直ぐ様お殿様が飛んできて「何とけしからん奴等だ、折角旨いものが集まっておるのだから自分達だけで楽しむんではないわ!」と一喝されて、あれよあれよと言う間に祭りの体裁が整っちまったって訳だ。毎月開催されてて、今月は丁度明日がその祭りよ」
「それはまた、何とも、剛毅なお殿様ですねぇ」
「はっはは、違ぇねぇ。で、何と明日のお祭りにはお殿様もやってくるって話よ」
「お殿様が?」
 思い掛けず得られた情報に目を見開く美麗。
「あぁ。お役人様が黒い刺身を探して回ってるってのも、もしかしたらその所為かもなぁ」

 そして夕暮れ前。
 互いの釣果を確認しつつ、新たに得た情報を交換する猟兵達。
 漸く今回の事件が一本の線で繋がる所まで来た。
「ふぅむ、こうなるとアヤシイのは代官じゃな」
 花子が顎に手を当てて頷く。
 何を考えているかは解らないが、何をしようとしているのかは何となく想像が付いた。
 割と計画自体は穴だらけと言うか杜撰なコントみたいだが、強行されれば厄介な事に変わりは無い。
 さて如何しようかと考えた所で、零士が提案する。
「更に情報を集める序に代官所まで行ってみるか?」
「成程、存外名案かもしれませんね。当機達が猟兵であるとは知られておりませんし、黒い刺身の正体と共にカワハギを持っていけばお目通りくらいは叶うでしょう。オブリビオンであるならばそのまま大立ち回り、小物であるなら締め上げて黒幕を吐かせれば良し、ですね」
「よーし、それなら早速ゴーゴーなんだよ♪」
 アマータの言葉にセレヴィスが続いて拳を振り上げる。
 もう服は乾いているらしく、いつものご機嫌ぽみゅぽみゅ娘だ。
「では行きましょうか。確かこっちの道ですね」
 鈴海の先導で町を練り歩いていく一行。
 仕事終わりの人達が店の中で楽しげに語らい、酒を飲み交わしていく。
 この温かい風景を惨劇に変えてはならない。
 その思いを胸に進むと、直ぐに代官所が見えてきた。
 門番に黒い刺身を持ってきたと伝えるとアッサリ通される。
 割と警備がガバガバな気がしないでもないが、此処が平和な藩である証だろう。
 小庭へ通されると、如何にもお代官と言った風貌の男が渡り廊下をやってくる。
「む。そなたらか、黒い刺身を持ってきたと言うのは」
 胴間声で妙に馴れ馴れしく喋り掛けてくる男を演技として平伏しながら出迎えつつ、代表としてテオドアが口を開く。
「はい、黒い刺身の正体、解き明かしましたので是非ともお代官様のお耳にお入れしたいと」「うむ、良い心掛けじゃ。してその正体とは」
「カワハギの肝に御座います」
「なに、カワハギの肝とな!それはまた確かに珍味、いやはや、大儀であった」
 取って付けた様な酷い惚け方に思わずぷふっと零士が噴出すのを、花子が肘で突いて諌める。
「所でお代官様、そちらの魚は……」
 テオドアが目線を向けた先、生簀で泳ぎ回る派手な色合いの魚が見える。
 それに気付いて鷹揚に代官は喋り始めた。
「おぉ、そなたらは知らぬのか。これは特別な魚でな、珍しいものなので明日の旨いもの市に出そうと思っておる」
「然様に御座いますか」
「きっと殿もお喜びになろうて。余りの旨さに魂が飛び出るかも知れぬがな、うわっはっはっは!」
「……ふーん、お殿様に」
「それはまた、随分な犯行予告」
「なにぃ?」
 トールとメンカルの言葉に顔を顰める代官。
「小娘が、何を申すか!」
「その魚はソウシハギ。フグよりも強い猛毒の魚」
「お役人さんに言って……探させていたんだよね?トールたち、知ってるんだよ」
「ええい、黙れこの小娘が!これ、誰か居らぬか!こやつ等をひっ捕らえぃ!」
 顔を真っ赤にして声を張り上げる代官。
 何事かとやって来た役人達を視線で制しながら、ツーユウが懐からある物を取り出し、皆に見せ付ける様に突き出した。
「黙るのはおぬしじゃ、これの葵の紋が目に入らぬと申すかの?」
「あっ、あれは!?」
「葵の紋!?」
「それじゃまさか……!」
 動揺し口々に焦りを含んだ声を漏らす役人達。
 此処は決め台詞だ!と鼻息荒くふんすふんすと声を上げるのはセレヴィスだ。
「ボク達を誰だと心得る!おそれおーくも……!」
「畏れ多くも江戸の大将軍」
 小声でぼそりとサポートする美麗。
「そうそう、畏れ多くも江戸の大将軍、徳川・家光様よりお墨付きを頂いた天下自在符なるぞ!頭が高い、ひかえおろー!!」
「え、江戸の……!」
「大将軍様……!?」
「じゃ、じゃああの方々は」
「猟兵……!?」
「「「「ははぁーっ!」」」」
 セレヴィスの口上に慌てふためいて平伏す役人達。
 しかし、案の定代官だけは平伏さない。
「ふっ、猟兵共め。飛んで火に居る夏の虫とはこの事よ。丁度良い、貴様等から抉り出した心臓で今宵は月見酒と洒落込んでくれるわ!」
 腰の刀を抜き放つ代官。
 それに狼狽える役人達。
「おぬしらは下がっておれ。わし等は猟兵、悪鬼を狩るものぞ!」
 ツーユウが拳を打ち鳴らし、構えを取る。
 それを見て代官は刀を構えてニヤリと笑った。
「此処で死ねば、只の人よ」
 猟兵達と悪代官の戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『悪代官』

POW   :    ええい、出会え出会えー!
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【部下の侍オブリビオン】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
SPD   :    斬り捨ててくれる!
【乱心状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    どちらが本物かわかるまい!
【悪代官そっくりの影武者】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 天下自在符を取り出した猟兵達と、不敵な笑みを見せながら刀を抜く悪代官。
 如何やら腕には自信があるらしい。
 役人達は戦いの邪魔にならぬ様に下がり、代官所を遠巻きに見守っている。
 小庭はそれなりに広く、切った張ったをするのに不自由は無いだろう。
 悪のオブリビオンの野望を粉砕するのだ!
緋神・美麗
アドリブ・他猟兵との絡み歓迎

さて、それじゃ食後の運動代わりに悪代官退治といきますか。
「悪の栄えた例無しってね。潔く腹を切るわけないだろうから強制介錯仕るってね」
ライトニングセイバーを正眼に構えて悪代官と対峙
【二回攻撃】【フェイント】【カウンター】【見切り】を駆使して斬り結ぶ
「頭数だけ揃えても雑魚じゃ意味がないわよ」
増えた部下はまとめて拡散極光砲で薙ぎ払う

「さて、これでしばらくはここも平和かしらね」
「ここの料理は美味しいわよね。月一で旨いもの市開かれるらしいから通おうかしら。」


トール・テスカコアトル
「おバカ……手加減しないよ」
戦いは、怖いけど、こんなやつは掘っとけない
「美味しいご飯を、護るため!……変身!」
『説明しよう!勇気をもって護るべきモノのために戦う時!トールは勇気の戦士に覚醒するのだ!』
「トールの勇気は……洞察力!」
ブレイブ・センサーで部下や分身の動きを把握
「トールの勇気は……機動力!」
ブレイブ・ウィングを展開、一気に抜き去って悪代官に迫る
「そしてトールの勇気は……攻撃力だ!」
勇気はブレイブ・リングで輝いて、右足に集中
「これでもっ……食らえ!必殺!ブレイブ・キーーーック!!!」
機動力をのせた必殺技をお見舞い
悪いことしたら、こうなるのに、おバカ
「みんなで食べるから、美味しいんだよ」


時雨・零士
悪代官の成敗にヒーローってのも妙な取り合わせだが…今更だな。
悪代官、テメェの企みはここで潰すぜ。変身!


腕のアームドで刀を【見切り、グラップル、早業】で殴り付ける様に弾き、そのまま【怪力、2回攻撃】を加えてのラッシュで圧倒。影武者や部下の攻撃は【見切り、第六感】で回避し、殴り飛ばすかブラスターの【クイックドロウ】で撃ち抜く!

敵が乱心したら【アクセルフォーム】発動。速く動く相手を狙うんだろ?攻撃を俺に引き付けられるしちょうど良い。真正面から打ち破る!ひとっ走り付き合えよ!

ラストは超高速での【ダッシュ、ジャンプ、力溜め、捨て身の一撃】による必殺のアクセル・ストライク(ライダーキック)を喰らわせるぜ!


アマータ・プリムス
謎は総て解けました
あとは犯人を倒すだけですね

今回の戦闘も基本的には皆様のサポート
アルジェントムからスコパェを取り出しておきます
スコパェを片手にアルジェントムを【武器改造】して銃口を出し掃射
弾幕を張って悪代官の動きを制限しながら後衛の方を守りましょう
「近づかれなければどうということはありません。皆様はどうか当機の後ろへ」
こちらへの攻撃はスコパェで【属性攻撃:風】の壁をはって防ぎます

影武者を召喚したらUCで【範囲攻撃】
増えた所で纏めてしまえば関係ありませんから
「さぁ、お膳立てはできました。皆様お願いします」
纏めた悪代官と影武者を他の皆様に攻撃してもらいます

アドリブ連携歓迎


テオドア・サリヴァン
「この状況、時代劇で見たアレと同じじゃないか。大体、お前のような悪人は最後には成敗されるのがオチだな。」

悪代官にかける慈悲などない。早速、正面から黒剣で斬りかかるぞ。攻撃には「見切り」で避ける。部下のオブリビオンが出た時にはさくさくと斬っておこうか。「妖剣解放」で悪代官にダメージを与えるのも良いかもな。

「悪事をした者の末路がロクでもないことぐらいお前にもわかるだろう?それとも、自分だけは何とかできるとでも思ったか?」
殿様の我儘から始まった依頼だが最終的には大捕物だったな。本当に時代劇みたいだ。


御手洗・花子
「ふむ…近接戦に特化した相手じゃな、ならばその剣技を冴えを曇らせてくれようぞ」

部下や影武者が入り乱れる中、『和』服の効果を使い『目立たない』様に敵全てが範囲内に位置まで移動して【万華幻想】を発動。

UCの効果に『催眠術』『迷彩』『目潰し』を上乗せし、対象全ての視覚情報を狂わせる。

視覚を惑わしている隙に色とりどりの光の花弁に、『毒使い』『マヒ攻撃』『呪詛』を込めた折り紙の紙吹雪を混ぜ込む『罠使い』で、敵の戦力を削いでいく。

攻撃は『第六感』『見切り』で回避し、近接戦闘は『グラップル』で叩き込んだ掌打から『衝撃波』を『鎧無視攻撃』で放つ御手洗式マーシャルアーツで対応する。


神宮寺・絵里香
≪心情≫
・事情は分からんがまあ‥あれを倒せばいいくらい分かる。
 ああいう小悪党な感じの手合いも好きではない、斬るだけだ。
 さて、神宮寺の務めを果たすとしよう。
≪戦闘≫
・今までの戦闘経験からくる【戦闘知識】を基に戦闘を組み立てる。
・薙刀には【雷属性】【麻痺攻撃】の痺れる雷を付与させておく。
・影武者については、どちらが本物であろうと両方倒すので問題ない。
・敵の攻撃は【見切り】【武器受け】で受け流しつつ麻痺を狙う。
・【高速詠唱】からの【麻痺攻撃】UCを【フェイント】を混ぜながら
 撃つ。
・因達羅乃矢と見せかけて【雷属性】【麻痺攻撃】の『番犬の鎖』を
【フェイント】攻撃で使用。

・連携、アドリブ可


メンカル・プルモーサ
……ん、ここはなんていうかこう、判りやすい……
…【夜飛び唄うは虎鶫】を召喚……出会え出会えした部下にけしかける…
そのまま合体を邪魔出来れば良いけど…私も【空より降りたる静謐の魔剣】で動きを制限・倒していくよ……

…部下を倒したらいよいよ悪代官……
呼びだしたガジェットの一部を予め情報収集に回して…UCを解析…
影武者やご乱心を【崩壊せし邪悪なる符号】で消しに掛かる……
特に影武者は紛らわしいからね…さっさと消すに限る…
…あとは戦ってる最中の悪代官に【支え能わぬ絆の手】で転倒を狙って援護援護……

…悪代官倒したら…祭り楽しもう…あれとかこれとか食べに行きたいな……


ツーユウ・ナン
天網恢恢疎にして漏らさず。
善政を布く君主を暗殺せしめようとするおぬしの悪業、決して見逃される事はない。
おとなしく骸の海に還るがいい!

◆立ち回り
練った氣を湯気の様に立ち上らせて手に纏い【オーラ防御】化勁と組み合せる事で武器を徒手で受け捌く。
→白刃を挟み取ってねじ伏せる等

・瞬時に入身から間合を外し、横合いからの靠撃でまとめて【吹き飛ばし】
「哼フン!」
・攻撃を【見切り】間合を詰め、擒拿【グラップル】で関節を極め崩し、震脚を響かせて突きや頂肘で仕留める。
「哈ハ!」
・斬り込む手に『UC』を打ち、【早業】で鎖を敵の首に巻きつつ回り込んで背中合わせで鎖を引く。背負いながら吊り、首を締め上げる。(ゴキリ)


戸辺・鈴海
[POW]
その立場を利用しての狼藉、到底許されるモノではありません。
美味しい食べ物と偽ろうという行為は、更に卑劣で最低の部類です。
ならば私たちの手で懲らしめてやるしかありませんね。

この人数を相手して臆しないところを見ると、召喚系の技を用いてきそうですね。
ユーベルコードは敵の数が増える事に備えておくとします。
戦闘自体は接近戦を主体として、戦闘用の箸でお相手致します。
食べ物で人を弄ぼうとした愚かさを、その身に刻むのです。

無事に代官を討ち果たせば、翌日の旨いもの市を存分に楽しみましょう。
殿様や仲間たちと一緒に黒い刺身をいざ実食です。
無礼講であれば冷酒を頂きたいです、より美味しく刺身が食べたいですし。


セレヴィス・デュラクシード
おー、こんな大勢の前で大立ち回り!
これはテンション上がっちゃうんだよー♪

■SPD戦
悪代官の足捌きと刀の届く距離を【見切った】ボクは【野生の勘】でその範囲ギリギリ外で悪代官を挑発する事にしたんだよ!
「にゃはは~、苦しゅうないんだよ、もっとちこうよれぃ♪」

忍者みたいな大【ジャンプ】で悪代官の頭上を飛び越え‥‥ないで、真上で【狐百まで踊り忘れず】のステップで滞空、袖から両手で握ってた砂をばら撒いて目潰しだよっ
下から覗くとか悪代官はエッチなんだよ(挑発挑発
イザとなったら真剣白羽取り【=武器受け】で!

一件落着した後は~
「海鮮珍味探索旨いもの市巡り」お腹パンパンになるまで食べるんだよっ♪

※連携アドリブ歓迎



「ぬっふっふっふっふ……天下の三つ葉葵を悪用し殿へと牙を向いた猟兵共、この不埒な悪党共の企みで旨いもの市で殿は毒殺される。だがこの儂が天誅を下し事無きを得、藩は儂の手腕で更なる繁栄を約束されるのだ。些か古臭いきらいは有るが、それ故に歴史書には書き易かろうて」
 厭らしい笑みを浮かべて刀を抜き放つ悪代官。
 無論、そんな謀を成就させる訳には行かない。
「おバカ……手加減しないよ」
「悪代官の成敗にヒーローってのも妙な取り合わせだが……今更だな」
 トール・テスカコアトルと時雨・零士が一歩前に出る。
 トールは勇気を力へ変える神秘の結晶「ニギ=アラ」を戴く腰帯『ブレイブ・ベルト』に、零士はUDCを喰らい融合する魔術装置が顕現した腰元のベルト『デオルム・ドライバー』に手を翳し、口上と共に勇気の誓いを立てる。
「美味しいご飯を、護るため!……変身!」
「悪代官、テメェの企みはここで潰すぜ。変身!」
 先ず、トールの身体が極光を纏い周囲を照らした。
 普段着ている学園服が取り払われ勇気の力を生命力、即ち生き抜く意志へと具現化させた燃え盛る炎の様な色合いのボディスーツがその肢体を包む。
 続いてその上に勇気の力を防御力、即ち護り抜く誇りへと具現化させた鎧竜の鱗の様な強固さを持ったボディアーマーが装着されていく。
 一度閉じ、勇気の心と共に見開かれた瞳には悪を挫き平和の為に立ち上がる【戦士】としての炎が揺らめいている。
『説明しよう!勇気をもって護るべきモノのために戦う時!トールは勇気の戦士に覚醒するのだ!』
 何処からとも無くそんなナレーションが聞こえて来そうな威風堂々とした雰囲気と共に、トールは真っ直ぐに悪代官を見据えた。
「デオルム!コンバットフォーム!!」
『フュージョン。フォームチェンジ、コンバット』
 デバイスから響く電子音声に続いて、光の輪が零士の身体を包んでいく。
 現れたのは画面の中から飛び出して来た様な、雄々しきヒーローの姿。
 目に当る部分が大きく強調されたマスク、幾何学的な構造に編み込まれたスーツ、風に棚引く首元のマフラー、右の腰で輝く近未来的なシルエットのブラスター。
 そして、ヒーローたる証のベルト。
 純然たるヒーローが今、この場に降り立った。
「てめぇの罪」
 足を開いて腰を落とし、右手を腰元で握り左手を軽く開いて顔の前に構えて、零士は真っ直ぐに悪代官を見遣る。
「この俺が裁く!」
「ハッ!珍妙な姿になった程度でこの儂に勝てると思うのか!ええい、出会え出会えー!」
 悪代官の声に応じて、無数の侍が召喚された。
 それぞれ額に1と刻印されており、刀や槍、鉄砲で武装している。
「貴様等の相手はこやつ等で十分よ。それ、掛かれー!」
 悪代官の号令で勇んで躍り掛かってくる侍達。
 零士は刀を半身で躱し槍の柄を打ち払い、飛んで来る銃弾は腕の手甲型装甲『デオルムアームド』で弾き飛ばす。
 そうして無防備になった所へ顔面パンチ、若しくは『デオルム・ブラスター』で打ち抜いていく。
「トールの勇気は……洞察力!」
 トールは『ブレイブ・センサー』を使い侍の動きを次々に見切っていく。
 ちょっとした癖や筋肉の動きのパターンを収集する度に回避は最適化され、同時に反撃の足掛かりとなる。
 無造作に飛び込んできた侍の横を通り抜けながら右膝を叩き込み、突き出た槍は肘打ちで叩き落し、銃を構える侍の指先の動きを見切って銃弾を躱し跳び蹴りを放つ。
 次々に侍をあしらって行くが、それを見て悪代官はニヤリと笑う。
「ふん、威勢は良い様だが果たしてそれが何処まで保つのか見物じゃのぅ!それっ、出会え出会えー!」
 更に数を増やす侍達。
 こうなっては小庭では狭く、屋敷に乗り込んでの戦闘となる。
「悪の栄えた例無しってね。潔く腹を切るわけないだろうから強制介錯仕るってね」
 ライトニングセイバーを正眼に構え、悪代官へと向かっていくのは緋神・美麗だ。
 当然それを阻もうと侍達が立ちはだかるが、美麗はそれをユーベルコード【拡散極光砲】で迎え撃つ。
「全部まとめて薙ぎ払うわよ」
 頭上に高く左手を掲げる。
 掌の上に収束した光球から幾つもの光線が放たれ侍の額や胸元を貫いていく。
 倒れ伏して消えていく侍達を見ながら、美麗はふっと息を抜く。
「頭数だけ揃えても雑魚じゃ意味がないわよ」
「ふっ、口の減らぬ女子よ。出会え出会えー!」
 再び、侍達が召喚されていく。
「えぇい、鬱陶しいわねっ」
「ふははは、それ、掛かれ!押し潰せ!」
 襖を蹴飛ばし雨戸を倒して動き回りながら、侍達を次々に切り捨てる。
 流石に数が多く斬っても斬っても押し寄せてくる。
「我が従僕よ、集え、出でよ。汝は軍勢、汝は猟団。魔女が望むは到来告げる七つ笛。停滞せしの雫よ、集え、降れ。汝は氷雨、汝は凍刃。魔女が望むは数多の牙なる蒼の剣」
 美麗を援護するのはメンカル・プルモーサだ。
 ユーベルコード【夜飛び唄うは虎鶫】で召喚した通信・索敵機能の付いた戦闘用ガジェットを使い空から侍達を襲わせ、自身は【空より降りたる静謐の魔剣】で生み出した剣を操って攻撃する。
 刃に曝された侍達は切り裂かれた箇所から徐々に凍り付いていき、そのまま消え去るかガジェットの追撃を受けて倒れていく。
「……ん、ここはなんていうかこう、判りやすい……」
 侍達の動きを先読みして攻撃を仕掛けていくメンカル。
 狙い違わず次々に倒して行くが、一向に敵の数は減って行かない。
 それもその筈、調子に乗った悪代官が侍達を際限無く召喚し続けているからだ。
「割と面倒……」
「ならば一気に本丸を叩きましょう!」
 ふわりと舞い上がったのは戸辺・鈴海。
「さぁさ、眼前に広がる無数の箸の軌道を見極めてご覧なさい」
 メンカルが操るのが剣ならば、鈴海が操るのは箸。
 ユーベルコード【Infinito Assedio】で宙へと浮かんだ大量の箸を放つ。
 小さく捉え難い箸を打ち払うのは至難の技である。
「おっと。猟兵め、珍妙な技を使いよるわ」
 そこで悪代官は床に倒れていた襖を跳ね上げて即席の壁を作り出す。
「うなっ!?悪代官の癖に味な真似をするのです!」
「箸を投げてくるとは空恐ろしい奴よ。それ、あのちび助を狙えぃ!」
「む、ちび助とは失礼な!」
 憤る鈴海へと殺到する侍達。
 迫る刃をひらりひらりと躱しながら、時折箸でぷすぷす刺して返り討ちにしていく。
 殺傷力に乏しい分割とエグイ光景だ。
「食べ物で人を弄ぼうとした愚かさを、その身に刻むのです!」
 てぃてぃ、と箸を突き出しては空中或いは足元へと飛び視界から消え混乱を誘う。
 的が小さいだけに侍達も思う様に攻撃を当てられない様子だ。
「おー、こんな大勢の前で大立ち回り!これはテンション上がっちゃうんだよー♪」
 軽快に侍達の頭上を飛び越え自慢の足技で文字通り蹴散らしていくのはセレヴィス・デュラクシードだ。
 彼女は膝や踵、時には絡めた足を使って投げ技を繰り出して侍達を圧倒していく。
 しかし狙いは雑兵ではなく、悪代官只一人。
 故に機を見計らい、大きく飛び上がって接近する。
「むっ、今度は軽業師か!」
「にゃはは~、苦しゅうないんだよ、もっとちこうよれぃ♪」
 悪代官の間合いの外で挑発しながらぴょんぴょんと跳び回るセレヴィスだったが、悪代官は馬鹿にした様に笑う。
「ふははは、儂を誘う心算ならその貧相な身体を如何にかして出直すのだな!」
「……貧相?」
 思わず、セレヴィスは自分の身体を見下ろした。
 引き締まったしなやかな肢体と、見晴らし良く足元まで見通せる体躯。
 言いたい事を正しく認識した彼女は、頬を引き攣らせながら向き直った。
 悪代官は小馬鹿にした様に鼻で笑う。
「はっ」
「上等なんだよこのスケベ!!」
 勇んで跳び上がり、梁の上へと潜り込む。
 流石に刀も届かず忌々しげに此方を見る悪代官の頭上で、セレヴィスは両手に握り込んでいた砂を撒き散らす。
「下から覗くとか悪代官はエッチなんだよ!」
「ぬっ、目潰しの心算か!」
 慌てて飛び退く悪代官。
 流石に目潰しを受けるのは避けたいらしく、再び小庭の方まで出てきた。
 それを狙って仕掛けるのはテオドア・サリヴァン。
「この状況、時代劇で見たアレと同じじゃないか。大体、お前のような悪人は最後には成敗されるのがオチだな」
 黒剣『穢刃』を片手に向かい来る侍達をあしらいつつ、正面から斬り掛かる。
 その様相に反して、悪代官は流れる様な澱み無い動きで刃を打ち合わせてきた。
「ほう、儂に斬り合いを挑むか」
「動きが……!?」
 一合、二合と黒剣を振るっていくが、悪代官はその全てに刃を合わせてきた。
 見た目からは想像も出来ないが、かなりの使い手らしい。
「悪代官の癖に剣術が達者とか意表突き過ぎだろ!」
「ぬはははは、尻の青い小僧っこが儂の相手等百年早いわ!うははははは!」
「調子に乗るな!」
 ユーベルコード【妖剣解放】を使い、妖刀に込められた怨念を身に纏う。
 雰囲気が多少禍々しくなり、力と速さが格段に増していく。
「閃剣!」
 透かさず黒剣を納刀して妖刀に持ち替え、抜き放つと共に斬撃の衝撃波を浴びせる。
「おっとと、これは堪らんわい!」
 おどけた口調で身を翻す悪代官。
 追撃を放とうと一歩前へ踏み出すが、その行く手を侍達が阻む。
「退け、雑魚共!」
 振るった妖刀に両断されて宙へと消える侍達だったが、如何せん数が多い。
 しかも厄介な事に、テオドアは侍達の額に書かれている数字が増加している事に気付いた。
 数字が増えれば増える程、総合的な能力は高まっていく。
 今、侍達の額に書かれている数は四。
 相変わらず一刀両断出来るが、多少なりとも動きが良くなってくるのは面倒だ。
「気付いた様だな。さて如何する、早い所倒さねば残った者が更に強化されて行くぞ?ほれ、出会え出会えー!」
 意地悪く笑った悪代官が追加の侍達を召喚する。
 再度屋敷を侍達が埋め尽くしていくが、今度はそれらを横薙ぎに何かが打ち倒していった。
「数には数を。雑魚散らしはお任せください」
 いつの間にか銀色のトランク型ガジェット『アルジェントム・エクス・アールカ』をサブマシンガンへと武器改造していたアマータ・プリムスが、その銃口から煙を燻らせていた。
「ぬっ、あれは渡来物の連射砲!厄介な物を持ち込みおって!」
「勝てばよかろうなので御座います」
 律儀にカーテシーを返して見せるアマータ。
 忌々しげな顔をする悪代官だったか、直ぐにその顔を好色なものに変える。
「ほう……中々。娘、跪いて命乞いをするのなら妾にしてやらん事も無いぞ」
「うわキモ」
「な!?」
「失礼、心の声……本音……思った事が素直に出てしまいました」
「何一つ取り繕えておらんではないか!」
 顔を真っ赤にして怒る悪代官を見つつ表情豊かだな、と何処か外れた事を思うアマータ。
「ええい、あの娘をひっ捕らえろ!多少ならば手荒にしても構わん!出会え出会え出会え出会えー!!」
 わっさわっさと気味が悪いくらいに現れる侍達。
 大量に召喚しては合体していくので割と処理が面倒になりつつある。
 が、まだまだ雑魚の範疇。
 無策に突っ込んで一度に斬られる人数が七人から五人に減った程度だ。
 向かってきたものはサブマシンガンで迎撃、運良く辿り着いたものは仕込み箒『アウラ・スコパェ』で切り伏せる。
「近づかれなければどうということはありません」
「ふむ……近接戦に特化した相手じゃな、ならばその剣技を冴えを曇らせてくれようぞ」
 アマータの後ろから一歩歩み出たのは御手洗・花子。
 これまでの戦いで目立たなかったのは彼女が着ている『和』服に依る所が大きい。
 不思議と周囲に溶け込むその特性を活かして、これ以上無いタイミングでユーベルコード【万華幻想】を放つ。
「『万華電灯』最大出力……さぁ、咲き誇れ幻想の万華よ、現実を侵すのじゃ!」
 五感全てを狂わせる催眠効果の有る光の花びらが敵を襲う。
 堪らずバタバタと倒れていく侍達と、眩暈を起こした様に一度だけふらりとバランスを崩す悪代官。
「面妖な……とんだ悪童が居たものよ」
「オブリビオンに言われたくないのぅ……」
 肩を竦める花子。
 ともあれ、漸く雑多な侍達を全員無力化する事に成功した。
 悪代官にも多少の影響は有ったらしく、これ以上侍達を召喚しようとする素振りは無い。
「やれやれ。やはり儂自ら貴様等に天誅を下してやる他無いか」
「いやいやいや、何でわし等が悪者みたいになっとるんじゃ」
「やかましい!儂の邪魔をすると言うのは天に唾吐くも同然、大人しくその罪受け入れるが良いわ!」
 血気盛んに唾を飛ばして気炎を吐く悪代官。
 それを冷たい笑いで受け流す猟兵が一人。
「事情は分からんがまあ……あれを倒せばいいくらい分かる」
 神宮寺・絵里香。
 この戦いから参加した猟兵だ。
 身長こそ花子とそう変わらないが、その身から溢れ出る威圧感と闘気は強者のもの。
 右手に持った白蛇の意匠がついた薙刀『叢雲』を振るい戦っており、花子の攻撃が放たれるよりも早く彼女の周囲からは侍達が消え失せていた。
「ああいう小悪党な感じの手合いも好きではない、斬るだけだ。さて、神宮寺の務めを果たすとしよう」
「何、またちいさいのが出おったか。猟兵とは随分人手不足の様だな?」
 ニヤリと笑って挑発してくる悪代官。
 遅かれ早かれ斬り捨てるのだ、と絵里香はその挑発に乗ってやる事にした。
 踏み抜く様に地面を蹴って加速し下から掬い上げる様に切り付ける。
 右の太腿から胸元を抉る軌道。
 対峙する相手が右利きで順手に刀を構えている場合、最も反応し難く防ぎ辛い場所だ。
 下から浮く攻撃を防ぐには飛び退くか刃を合わせるかだが、飛び退くには十分な距離を稼がねば切っ先に捉えられてしまい、刃を合わせるにはそのままの体勢だと脇が開いてしまう為に腕一本の力で防がねばならない。
 厄介な攻撃であると共に、対応で実力を或る程度計る物差しとなる。
「むぅん!」
 悪代官は裂帛の気合と共に刃を防いでみせた。
 それも、右足を引いて腰を捻り、同じ様に掬い上げる軌道で刀を振るって。
「成程、口だけの小悪党と言う訳でも無いのか」
「こやつ……やりおるわ!」
 受け止めた切っ先を弾いて袈裟切りを放ってくるが、絵里香は冷静に柄尻を合わせて打ち払う。
 素早く引き戻して胴体を薙ごうとするが、今度は悪代官がそれを受ける。
 時代劇の剣豪同士の殺陣を見ている様な攻防。
 攻めはそれなりだが守りには絵里香をして厄介と思わせる程に巧みな刀捌きを見せる悪代官。
「ちっ」
「小癪な!」
 ガギィ、と大きく音が響く程に強く刃を打ち合わせて、一度互いに距離を取る。
 一対一ならば間違い無く梃子摺る相手だ。
 しかし悪代官は一人でも此方は一人では無い。
「哼!」
「ぬっ!?」
 意識の外から瞬時に接近した影が悪代官の左半身に強烈な衝撃を与える。
 堪らず蹈鞴を踏みながら体勢を立て直し視線を向けると、そこには筋骨隆々とした龍女ツーユウ・ナンが立っていた。
 侍達を蹴散らしながら静かに機会を待ち臥せていた龍が、遂に起き上がる。
「天網恢恢疎にして漏らさず。善政を布く君主を暗殺せしめようとするおぬしの悪業、決して見逃される事はない。おとなしく骸の海に還るがいい!」
 練り上げた氣が全身から湯気の様に立ち上り揺らめいている。
 拳法独特の構えを取るツーユウに、悪代官はその顔を歪めて刀を構える。
「女だてらに武を嗜むか」
「おぬしの様に武を泣かせるよりは良かろう」
「ふっ、刀の錆にしてくれるわ!」
 上段から斬り掛かってきたのをするりと躱し肘撃を見舞う。
「哈!」
 肉を叩くのとは違う硬質な感覚に違和を覚えつつ、胸元を掴みに行く。
 が、悪代官が口を窄める様な動きをしたのを見、咄嗟に飛び退く。
 一瞬遅れて、その口から黒い霧のようなものが噴出された。
「流石に避けるか、勘の良い奴め」
「目潰しの毒霧とは小狡い奴じゃのう」
 ツンと鼻を突く刺激臭。
 まともに浴びれば大きな隙を曝してしまっていただろう。
「益々見下げ果てた奴じゃ。これなら遠慮は要らぬな」
「ふはは、元よりする心算も無い癖によう言うわ」
 鍔を鳴らして正眼に構え直す悪代官。
 一見すると何処にも隙は見当たらない、見事な構えだ。
 だが隙が無いのなら作り出すまで。
「サポート致します」
 アマータがサブマシンガンを撃ち込む。
 対する悪代官は向かい来る銃弾を斬り捨てながら右足をダンと打ち鳴らした。
 呼応してバネ仕掛けの様に畳が跳ね上がり銃弾を防ぐ即席の盾となる。
「畳返しの秘術だと!?」
「悪代官の癖にそんな技使ってるんじゃないわよ!」
 左右からテオドアと美麗がそれぞれ妖刀とセイバーを構えて突っ込む。
 違った太刀筋から放たれる斬撃。
 悪代官は二人の連携を往なし反撃に移ろうとするが、その度に空中からセレヴィスが蹴り技を仕掛けて注意を逸らす。
「ふふ~ん、当たらないよ!」
「ええい、猪口才な!」
 ひょいひょいと空中を跳ねる様に移動する為中々捉えられない。
 余り頭上にばかり気を配っている訳にも行かず、徐々に悪代官は苛立ち始める。
「まだまだ行きます!てぇい!」
 鈴海が足元を狙って箸を飛ばす。
 然程脅威では無いとは言え機動力を失うのは許容出来ない。
 摺り足のまま移動し、時には刀を振って斬り捨てて行く。
「隙有りだ」
「ぐっ!?」
 絵里香の薙刀の切っ先が僅かに悪代官の左腕を掠る。
 刀身に纏わせた雷はこれまで刀を伝わらず切り払われていたが、直接流し込んでしまえば如何と言う事は無い。
 目論見通り左腕の動きが鈍った様子を見せる悪代官。
「調子に乗るでないわぁ!」
 声を張り上げる悪代官が、突如二人に増える。
 自身と瓜二つの姿をした影武者を呼び出したのだ。
「「ふはははは!どちらが本物かわかるまい!」」
「分からなければどっちも倒す。それだけ」
 影武者の登場を予期していたメンカルが即座にユーベルコード【崩壊せし邪悪なる符号】を双方に放つ。
 情報を分解する魔術が悪代官と影武者に命中し、片方が消え去る。
「何、影武者が!」
「ほれ、驚いている暇は無いぞ?」
 いつの間にか接近していた花子が開いた掌を真っ直ぐに打ち付ける。
 ツーユウの様子から腹に鉄板でも仕込んでいたのだろうと予測していたので、装甲を無視する一撃を加えれば良いんじゃろ、と御手洗式マーシャルアーツを放つ。
 密着した掌から直に伝わる衝撃が悪代官の臓腑を揺らしていく。
「ツーユウ!」
「あぁ!」
 呼応してツーユウが悪代官の右手に【ドラゴニアン・チェイン】を撃ち込む。
 手首を襲う爆発に堪らず握っていた刀を落とすのを見届け、生まれた鎖を悪代官の首に這わせて背後へと回り込む。
 そのまま背中合わせに引き上げれば鎖が締まっていく。
「ぐ、ぬぅ……!?」
「二人共、任せるのじゃ!」
 抱えられじたばたを暴れていた悪代官の身体を空高く放り投げる。
 それを狙うのはトールと零士のダブルヒーロー。
 トールは右足に勇気が生み出す力を込めていく。
 金、銀、白と輝きを増していく中で『ブレイブ・ウィング』を広げて飛翔体勢に。
 零士はアクセルフォームへと移行し、自身の攻撃力と速度を強化していく。
『フォームチェンジ、アクセル』
 何処かエコーの聞いた電子音声を耳に、跳躍体勢を取る。
「これでもっ……!」
「喰らえっ!」
 同時に飛び上がった二人が、空中の悪代官を目指す。
「「必殺!!」」
「ブレイブ・キーーーック!!!」
「アクセル・ストラァァーーイク!!!」
 空を切り裂く一筋の流れ星が、悪を貫く。
「馬鹿なっ、この儂が……この儂がぁぁぁぁぁぁ!!」
 空中で爆炎に包まれながら消えていく悪代官。
 骸の海へと還って行った後には、ただ静寂が訪れる。
 一拍遅れて着地する二人。
 変身を解く零士の横で、トールは平坦な声でぼそりと呟いた。
「悪いことしたら、こうなるのに、おバカ」
 激闘から一時間後。
 騒ぎを聞き付けた奉行所の役人達が代官所へとやってきた。
 悪代官と一緒に悪事を働いていた者達は牢へ、知らずに加担していた者達は謹慎、関わっていなかった者達は明日の旨いもの市での警備や雑務を行う様に沙汰が下りた。
 事件を解決した猟兵達には感謝の印として明日の旨いもの市での飲食代を全て藩が受け持つ、と何とも豪快なお礼が送られたのだった。

 そして旨いもの市当日。
 町一つが丸々祭りの会場となって見渡す限りに出店が立ち並ぶ大賑わい。
 物見台には幟や提灯細工が施され、祭囃子や人々の楽しげな声があちらこちらから聴こえて来る。
「さて、これでしばらくはここも平和かしらね」
「美味しそうなのが一杯……」
「何から食べよう?」
「お腹パンパンになるまで食べるんだよっ♪」
 楽しげに練り歩く四人の少女と、その後ろからナンパをあしらいつつ歩いていく一人の女性。
 美麗、メンカル、トール、セレヴィス。
 そして保護者枠にアマータの五人だ。
 あちらこちらと視線を彷徨わせたり店先の匂いに釣られてふらふらしたりと、見てる分には危なっかしいが四人とも実に楽しそうに笑っている。
「あ、これ美味しそうなんだよ!」
「どれどれ……へぇ、凍み豆腐と蒟蒻とさやいんげんの煮物ね。中々美味しそうじゃない」
「おじさん、五つくださいな」
「おぉ!?随分と可愛らしいお客さんだなぁ」
「切り符五枚です」
 突然の来訪に驚く店主にアマータが切り符を五枚出す。
 旨いもの市では金銭のやりとりでの問題を回避する為、旨いもの市で使える食券が用意されている。
 食券を買うと多少割安になるので、皆こぞって食券を買う。
 食券は後日、城門前の広場でお金と引き換えが出来る。
 遣り取りも保管も楽とあって、町人にも商人にも役人にも受けが良い先進的なシステムとなっている。
 また、一品で一枚とレートが定められているので各店も暴利を貪る等のあくどい事をし辛いと言うのも利点だ。
 一度悪評が付けば瞬く間に広まり、次回から出店出来なくなる。
 結果、良くて旨いものを出す店が残ると言う理想的な状況だ。
 この辺りも、藩主の手腕が光る治世と言えよう。
「はい五人分おまち!食器は回収所に持って行ってくれよ!」
「ありがと……早速一口」
 取り皿を受け取ったメンカルが先ずぱくりと一口。
 出汁の効いた柔らかな味わいが凍み豆腐から溢れ、じんわりと口の中に広がっていく。
「私も……いただきます」
「あら、美味しいわコレ」
「うまうま♪」
「ほほぅ、これは……隠し味に人参の甘味を使っていますね」
 ぺろりと平らげ食器を返し、直ぐ様次の屋台へと向かう五人。
「おぉっ、今度は牡丹鍋なんだよ!」
「こっちの昆布巻きおにぎりも気になる……」
「あら、ホタテの醤油焼きですって!」
「……雉の焼き鳥も」
「ふむ、悩む事は有りません。全部食べてしまいましょう」
「「「「おー!」」」」
 アマータの声に元気良く右手を挙げる四人の少女。
 それを見て出店の店主達は娘や孫を見る眼差しをしていたとか。

 一方港側では大きな天幕を張って即席の飲み屋が運営されていた。
 騒ぎは聴こえて来るが天幕でそれぞれ仕切られ、ちょっとした個室居酒屋の様相を呈している。
 そこでは花子、絵里香、ツーユウ、鈴海の四人がのんびりと酒を酌み交わしていた。
 傍から見ると何人か怪しい外見では有るが、ちゃんと成人している大人達である。
 酒を片手に新鮮な海の幸や山の幸を突きながらゆったりと歓談している。
「普段は騒がしいのは好きじゃないが……ま、偶にはこういうのもな」
 そう言って杯を傾ける絵里香。
 彼女の前には鰤の刺身の皿が置かれており、時折摘んで独特の味わいを楽しんでいる。
 刺身にした鰤に刻んだ葱を散らして一味唐辛子を掛けて食べる、おろし生姜醤油とはまた違った楽しみ方だ。
「しかし……真っ赤じゃのぅ」
 花子がくぴりくぴりと飲みながら呟く。
 本来は鰤の鮮やかな身が見えている筈の皿の上は、何と一面の赤に埋もれていた。
 随分な辛党である絵里香は時折何かに取り憑かれた様にこうして激辛の食べ物を食べたがる。
 見てるだけでも咽てしまいそうな赤を口に運び、満足げに酒を煽る姿は或る種の畏怖さえ感じさせる。
 自分の所の鯛の松皮造りの皿とは実に対照的な色合いである。
「まぁまぁ、いいじゃありませんか。それよりもこの肝ですよ!」
 ご機嫌に箸を動かすのは鈴海だ。
 彼女は今回の騒動の元となった黒い刺身、即ちカワハギの刺身と肝を味わっていた。
 想像よりも遥かに濃厚でこってりとした、それでいてしつこくない旨味に何度も舌鼓を打っては冷酒をくいっと飲み干している。
「ぷはぁ~♪いやぁ、流石はお殿様も欲した黒い刺身!美味しいですねぇ」
「やはり肴と言うだけあって酒との相性は抜群じゃな」
 少し癖の強い地酒を飲み干しつつ眼仁奈の煮付けを食べるツーユウ。
 騒動も一段落し、酒と肴を楽しみ語らう。
「そう言えば御手洗よ、おぬし発勁を扱えたんじゃな」
「んぅ?」
「あぁ、食べてからで良い良い」
 丁度鯛を食べた所だった花子はもぐもぐと口を動かして飲み込み、はふぅと一息。
「旨い!……で、何じゃったっけ?」
 こてりと首を傾げる花子に絵里香が水を向ける。
「ほら、悪代官に一発くれてやったろ」
「あぁ、アレか……いや、アレは或る意味裏技なんじゃよ。こう、密着させた手から衝撃波を出して相手に直接ぼごんと」
「改めて聞くとエグイ攻撃ですね」
「原理と言うか結果は一緒なんじゃな」
「ツーユウのは完璧技術でやってるじゃろ?わしはこう……スッといってパシッと捕まえてズバーン」
「感覚派過ぎてさっぱり解らん」

 女性陣が姦しく歓談しているのとは別に、テオドアと零士は二人でのんびりと祭りを楽しんでいた。
「殿様の我儘から始まった依頼だが最終的には大捕物だったな。本当に時代劇みたいだ」
「正しく時代劇の世界に来てるんだもんなぁ……」
 テオドアの直球な感想に苦笑で応える零士。
 ひょんな事から敵方の企みが露見し、切った張ったの大騒ぎ。
 そして最後は和やかに祭囃子でエンディングだ。
 言われてみれば、これ程時代劇を直に体験する機会と言うものも無いだろう。
「時代劇のヒーローか……」
 ぽつりと呟いた零士に、テオドアは蕎麦掻を食べながら視線を向ける。
 深い悩みでは無く色々と夢想して楽しんでいる様な表情。
 それを見て、テオドアは小さく笑った。
「試しにそれっぽい口上でも考えてみたら如何だ?」
「例えば?」
 興味有りげに此方を向いた零士に、芝居掛かった声色を上げる。
「この世に悪が栄えた例無し。例えお上が見逃しても、この日輪の輝きからは逃れられん!」
 わざわざビシっとポーズまで決めてみせたテオドアに、零士はきょとんとした後で右手でサムズアップを贈る。
「ははは!随分と格好良いじゃねぇか、お前もヒーロー向いてるんじゃないか?」
「どうだろうな。不特定多数の前で堂々と名乗りを上げるのは、多少気後れもするが」
「そんなもんか?結構スカっとするもんだぜ、名乗り口上」
 次第に話はヒーロー談義へと変わり、二人は楽しげに語り合う。
 時折擦れ違い様に話を聞いた女性達は「男って幾つになっても男の子なのねぇ」と温かい視線を向け、逆に男衆は混ざりたそうにそわそわしたり、二人が見えなくなった後で小さい頃に流行ったごっこ遊びの題材を肴に盛り上がっていたりした。
 やがてその話し声も、祭りの喧騒の中に埋もれていく。

 サムライエンパイア絵巻。
 ご城下美食珍騒動~お刺身の秘密、これにて閉幕に御座い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月07日


挿絵イラスト