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【サポート優先】サポート猟兵、仙界へ往く

#封神武侠界 #サポート猟兵の皆さん、ありがとうございます。

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#封神武侠界
#サポート猟兵の皆さん、ありがとうございます。


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●ご注意
 これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです(通常参加者を採用する場合もあります)。

●依頼
 アルトワイン・ディネリンド(真昼の月・f00189)がサポート猟兵を前に、ぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、今日は良いお天気ですね」
 サポート猟兵は、登録制である。
 困っているグリモア猟兵がいたら助っ人にいくぜ! と、そんな感じの有志の猟兵たちである。
 嫌いなグリモア猟兵(!)を登録して指名回避することはできるが、基本的にいつ、どの世界のどんな依頼に駆り出されるかわからない。ちょっぴりギャンブルチック! と、そんな勇気と熱意溢れる義勇の士であった。
「予知をしました」
 アルトワインはそう言って依頼内容を説明し始めた。

「封神武侠界、仙界が事件現場です。滝行中の仙人さんがオブリビオンに襲われてしまうんです」
 アルトワインは心配そうにそう語る。
「まず現れるのが金色のドラゴンの群れなんです。血気盛んなドラゴンたちが大暴れ。仙人さんはとっても困ってしまいます。
 しかも、ドラゴンを相手にしていると大きなお魚さんも出てくるんです。お魚さんは、えーっと」
 アルトワインはカンペを読んだ。途中、難しい文字があればサポート猟兵にも手伝ってもらった。
「長い年月を生きた巨大な鯉の瑞獣。滝を登り切ることが出来れば龍に変じると言われる。無胃魚なので常に腹を空かせ、何でも食いつく。身を丸ごと揚げて甘酢餡で仕上げた『糖醋昇龍鯉魚』は縁起物の料理として名高い」
 カンペを読み終えたアルトワインは感謝のまなざしでサポート猟兵を見つめ、改めてお願いをするのであった。

「以上です。ご親切な猟兵さま、どうか、おたすけください」
 こうして、義侠心篤く、親切なサポート猟兵が依頼を引き受けて現地へと向かうのであった!


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオはサポート優先シナリオです。
 封神武侠界のシナリオですが、先に出した同MS同世界のシナリオ『魔教の娘』の続編ではありません。(続編は別途、通常シナリオで出す予定です)

 MSが他のお仕事の合間に手が空いた時、サポート猟兵さんをおひとりポチっとお招きして、書かせていただくという趣旨になります。
 「5人、6人を3日で執筆するのは難しいけれど、暇なタイミングで1人分を丁寧に執筆する事はできそうだし、してみたい。サポートプレイングも溜まっているとお伺いしたので、ちょうどよい」と思って挑戦してみることにしました。

 通常プレイングも送信可能ですが、上記の趣旨ですので採用されない可能性が高いです。

 どうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 日常 『他の世界の芸をお披露目!』

POW   :    ダンスやパフォーマンスを披露する!

SPD   :    他世界の技術を披露する!

WIZ   :    他世界の魔法や技を披露する!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

姫神・咲夜(サポート)
 桜の精の死霊術士×悪魔召喚士、女性です。
 普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 片思いの人には「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

清楚で女流階級風の口調で、お淑やかな性格です。
基本的に平和的な解決を望みますが
戦わざるを得ない時は果敢に戦いに向かう勇敢さを持っています。

 あとはおまかせです。よろしくおねがいします!



●桃幻
 輪郭が曖昧な白い雲が流れてゆく。


追いかける視線はやがて、花を見つけて微笑んだ。

 やわらかな白い花弁が身を寄せ合うようにして慎ましく咲いている。
「和蘭水仙ですね」
 かわいらしい。

 姫神・咲夜(静桜・f24808)はそう呟いて草むらに薄桜の視線を送る。近くに気配があると知っていたから。
「あなたも、お好きですか」
 たおやかに問えば、視線の先でちいさな子供がうなずいた。3つ、4つ、そんな頃合い。夜色の大きな帽子、袖広の道服に着られるようにしている幼い子。

(ちいさな子。まだ親の庇護が必要なお歳でしょう)
 咲夜は心配になった。
「坊や、親御さんはどこにいらっしゃるのですか」
 もしかして、迷子なの? 問う声と共にふわりとそよ風拭いて長く艶やかな髪と桜の花を揺らした。
「お花、きれい」
 子供は目をきらきらさせて桜を見ている。
 咲夜は視線を合わせるようにしてしゃがみこんだ。仕草はひとつひとつがしずかで、洗練されている。けれど、別段意識してそう振る舞うわけではなかった。

 ――まわりはみんなそれが普通だった。
 幼い頃から、呼吸をするように自然に身に付いたもの。

「触ってみますか?」
 稚い子供に戯れに誘いかければ、子供はふるふると首を振った。
「ううん――、お花は、すぐに千切れちゃう。すぐに枝から落ちて枯れちゃう」

 ここは、仙界のはず。
 この子は、どういう子なのかしら。

 咲夜は頭の隅でそう思いながら、子供にそぉっと手を伸ばした。子供が嫌がる気配を見せないのをたしかめて、おでこのあたりの黄色の護符に気を使いながら前髪をしずしずと撫でてみる。すると、子供は子猫のように気持ちよさそうに目を細めた。
「私は、桜の精なのです」
「さくらの?」
「ええ、そうですよ」
 この世界の子に、伝わるでしょうか。
 思いながら言葉を選ぶ。
「ずっと遠くから来ました」
「そうなの? ぱぱが連れてきたおじいちゃんより遠くかな」
(少なくてもこの近く2人、他にいるんですね)
 咲夜は頷いた。

「ちい。ちいが旅に出たところより、遠くかな」
 子供がそう言って、咲夜の袖を引く。引かれるがままについていく。
「ここは、美しいところですね」
 桃の花咲き乱れ、生い茂る草は陽光を身いっぱい浴びてのびのびと天に伸び、蝶々が追いかけっこをするように跳び回り。
「でも、おねえちゃんのお花はない」
「故郷では、いつでも見られるのですけれど」
 行ってみたいな。子供がそう呟いた。

「ここだよ」
 やがて、ちいさなお墓が見つかった。
「ともだち」
 子供がぽつりと言う。
「もう会えない」
 その声は寂しくて、もの悲しい。
 この子は、死という概念をどれくらいわかっているのでしょう?
 咲夜は胸が詰まるような切なさに目を伏せた。
「そうでしたか……それは、寂しいですね」
 そよそよと吹く風に寄りそうように、相槌。

「どうして死んでしまうんだろう」
 子供は悲しそうに言う。
「それが、自然です」
 咲夜は故郷の方法に則り、墓に礼を尽くした。花が舞うように袖が揺れて、ふわふわと薄紅桜が揺れ。あわせる手の指先は仄かに色づく姫の爪。
「生まれた命は、土に還って――、また生まれる。転生、といいます」
 てんせい。
 子供が呟いた。
「ぼくも転生、できるかな」
「きっと、その時が来たら」
 ねだる気配に頷いて、また前髪に指を絡ませた。ひやり、指先冷えて。

「おねえちゃんは、お姫様みたいだね」
 子供が言う。そうかしら、咲夜は首をかしげた。
「そうですか?」
「うん。とっても、きれい」

 子供は憧憬まじりの目を見せた。とても無垢な瞳。
(可愛らしい)
 咲夜は優しくその頬を撫でた。
「また、ちいに会えるかな」
「きっと、会えますよ」

 水音が遠く聞こえる。

「おねえちゃん、ぼくが怖くない?」
 子供がおそるおそる手を伸ばして、自分の頬を撫でる咲夜の手に触れようとした。
 もうすこし。
 あとすこしで触れようか、そんな距離で躊躇うように手を止めて。
 躊躇う指先に薄桜の瞳が向けば、怯えるような気配を見せた。

「どうして?」
 指先の爪が長い。爪は、葡萄のような色をしていた。
 咲夜は葡萄色の爪を愛でるようにして子供の手を撫でた。

 ――つめたい手。
(この子は、死者の種族……)
 けれど、オブリビオンではなく、
 邪悪な気配もなく。

「怖く、ありませんよ」
 かわいい、かわいい。
 幼子をあやす母のように微笑めば、子供のおおきな瞳から透明な涙の雫が滴った。
「ドロップをあげましょう」
 溢れる涙をぬぐい、桃色ドロップを一緒に味わう。桜の香がほのかに口の中に広がって、甘やかな味が舌の上でちいさな幸せとなれば子供は徐々に涙をおさめ、元気を取り戻したようだった。

「おいしい」
「おいしいですね」
 
 すこしして、子供が呟いた。
 ぼく、そろそろおうちに帰る――、

「ひとりで、大丈夫ですか?」
「うん」
 丈長い草が揺れている。
 隙間にちらつく彩は、花の色。
 白、黄色。
 水色、桃色。
 薄紫に、橙色。


 花と草を間に挟んで、距離がすこしずつ遠くなる。
 ゆっくりゆっくり、遠くなる。


「おねえちゃぁん」
 ふと振り返り、子供が手を振った。
 ちいさなちいさな、幼子の手。
「はぁい」
 そういえば、名前も知らないわ。
 咲夜は片手で袖を抑え、もう片方の手をあげてあえかに手を振り返す。


「ありがとう」
 遠目にもわかる無垢な笑顔。
 咲夜は桜を揺らしておっとりと微笑んだ。
「さようなら、坊や」




 さようなら。




 縁が巡れば、また会うこともあるでしょう――、

成功 🔵​🔵​🔴​

ソリン・クザ(サポート)
 ダンピールの探索者×戦場傭兵、表の顔はルーマニアの警察官な25歳の男です。
 普段の口調は「礼儀正しい(私、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)」、覚醒時は「尊大(我、貴様、~である、だ、~であろう、~であるか?)」です。

 UCはあまり使わず、基本的に自力での解決を優先します。
基本的には、警察官としての職業倫理のもと動きます
直接戦闘よりも謎を解いたり、だれかを守ったり、対象を確保したりという方向で動きます



●交わる者
「Acum ori niciodată croiește-ți altă soarte,
 La care să se-nchine și cruzii tăi dușmani...ッ、く、くくく――ああ……」
 行く手を遮る草を掻き分け、頬に枝がぺちんと飛び掛かってくるのを払いのけ、悪態をつきかけて呑み込むダンピール――。

 ソリン・クザ(デイウォーカー・f15556)は勤務時間外に呼び出され、猟兵としてのサポート任務に就いていた。
 アイロンをきっちりかけた制服は泥まみれ、シャツの襟もくたくた。
 艶めくはちみつ色の金髪は風に煽られて乱れ、瞳は冷静に――苛立ちをひそませる。一点の曇りもなく磨かれた靴はどろっどろ。いや、それは問題ではない。ソリンは汗で額に張り付く髪をかき上げた。

「誰かいませんか!」
 ――事件現場は大自然のただなかであった。
 彼は、ポイッとそんな中に放り出されたのである。

 刻一刻、貴重なプライベート(だったはず)の時間が過ぎていく。
 右を視る。
 木々の隙間から遠くの山が見える。輪郭は淡くけぶる金の色に縁取られ、アウトドア好きで知られる同僚が視ればさぞ喜んで登りたがったであろう。
 左を視る。
 桃の木がずらり。
 上を視る。
 梢の合間から燦燦とした光が条となって降りている。

(陽光が鬼門のサポーターだったらどうしたんだ)
 思わずそう思ってしまうソリンである。だが、幸い彼はデイウォーカー。あるいは、それもあって選抜されたのかもしれなかった。


 ――♪


 ふいに、風に乗りりょうりょうとした楽器の音が聞こえる。異国情緒たっぷりの旋律はチャイニーズ・アースティスティック――護衛対象か? 音に向かい、彼は歩いた。歩きながら取り出すのは警笛だ。
 こんな用途ではない、そう理解してはいるが。挨拶のようなものだ――、
「ピー♪」
 軽やかに吹けば、先ほどまでの鬱屈とした気が多少晴れるようにも思えた。
「おや、こんにちは(ブーナ)」
 言葉が自動で翻訳されて伝わる。
 猟兵に対する世界の加護だ。便利だな、と思いながらソリンは冷静に周囲を窺った。



 たどり着いた先にあったのはまるで遊牧民のテントのような住処と、その庭先で異国の楽器を奏でる道服の少年。顔立ちは彫りが深く、チャイニーズとは違う人種のように思われた。
(ようやく人が)
「んん、こほん。私はルーマニア国家警察兼猟兵のソリン・クザです」
「司隷校尉?」
「そんな大仰な者ではないです」
 身分証を見せ、拱手すれば少年は拱手を返し友好的な笑顔を浮かべる。
「僕……おいらは上党武郷石族出身の飛仙です。羯族と言った方がわかるでしょうか。許英と呼んでください」
 成程、仙人だ。ソリンは頷いた。同時に思い出すのは、彼の世界での歴史。この世界とは似ているが異なるはずのもの。
「私の世界では、羯とは去勢された鶏の意味で蔑称と言われていますね」
「アア。こちらでもそうですよ」
 許英はカラカラと陽気に笑い、盃を差し出した。

「嗜まれますか? おいらは飲みませんがね」
 透明な液体が煌めいている――酒か。ソリンは首を振った。
「ヌー(いいえ)。任務中ですので」
「では、桃果水を」
 代わりに出された桃果水は名の通り爽やかな果実の香りを纏い、舌触りはさらりとして甘すぎず快く喉を潤してくれた。
 少年が笑う。
「おいらは仙になる前、こんな美味な水にありついたことがなかったもんだよ。寒冷期を迎えた北の大地は草もあまりなく、遊牧の民はある部族は西へ、ある部族は南へ、と移動していったのさ」
「なるほど。私の世界の歴史では、その影響で西南ともに先住の民が……おっと、話が逸れていますね」
 ソリンは雑談に興じそうになりブレーキをかけた。仕事のできる男である。
「実はこの地が近いうちに襲撃を受ける予知がありまして、警告に来たわけです」
 討伐要員を配備する予定なので、ご安心ください――と、きびきびとした口調で続けたソリンは目の前の少年の顔を見て追加で問いかけた。謎解きや調査は得意分野なのだ。
「お心当たりが?」
「アア。僕には敵がいるからね」
「敵といいますと」
 興味津々、といった様子で話を促す。テクニシャンである。同時に、ソリンは相手が使う不安定な一人称に対する違和感を心に覚えておいた。
(この相手は信用できるのか――)
 許英は肩を竦めた。
「ほら、仙人ともなるといろいろあるのさ。悪人の悪行を邪魔して恨みを買うとか」
「なるほど」
(真偽はさておき)
 ソリンは長い睫毛に彩られた理知的な瞳を瞬かせ、胸の奥底に燻ぶる違和感にいったん蓋をした。

「それでは、私の警告任務は完了です。くれぐれもお気をつけて」
「ありがとう、おかげで準備ができるよ」
 少年は感謝を告げて手を振り、ソリンとの別れを惜しんでくれた。


 仕事はこれでおしまいだ。
 ソリンはにこやかにテントを後にして、ベースに帰還するまでの時間で思考した。


 祖は、バルカン半島一帯に起源持つ。呼称「Walha」はゲルマン人が「異邦人」と呼んだのである。
「東欧遊牧騎馬民族の一部が西に移動、西側にいたゲルマン民族が追い出され、さらに西へと移動してローマに流入、ゲルマン国家が乱立。同時に東欧では軟化した北方民族の国家が乱立し……」
 世界は違うが、歴史は似た部分があるようだ。
「玉突き事故のようですね。あっちが動けばその影響でこっちも動く、と」

 遠く、また許英が奏でる異国の音旋律が流れている。
 その人となりを完全には把握できていないが、ソリンは世界を去る間際に思いついたまま口に出した。
「Cine sapă groapa altuia, cade singur în ea.」
 ……彼の故国にある言葉である。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリス・ラーヴァ(サポート)
凡そステレオタイプなパニックホラーやSFホラーの蟲型クリーチャーに優しい少女の心を持たせた生物です
無邪気で心優しく、皆と幸せに共存できたら良いと思っています

方針は、人々と世界を守る事を第一とし次に本能としての食べる事と様々な世界で増える事

純真で他者の指示に素直に従いますが、敵対存在は有機物無機物問わず全て捕食対象の雑食系女子

硬い甲殻に守られ大抵の物を切り裂く爪と牙を持っている為生命体として極めて強靭ですが逆を言えばその程度
物理的な手段しか採れません

全ての行動は、数に物を言わせたごり押し戦法
知能は年齢相応の人間並みです
群体という特性上自分達の損害には無頓着、やられ役や引き立て役にどうぞ



●アリス
「あっちにひとがいるよ」
 ノウサギが教えてくれる。
「あっちにおじいさんがいる」
 テントウムシが教えてくれる。

 ――そして、人がいる場所にたどり着いた。
「ここに敵が来るのねー」
 アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)は保護色を纏って水辺に佇む。ガチガチと音を立てて、首をかしげて。

 高所から勢いよく水流を落とし飛沫をあげる滝。
 そこからさらに下流へと流れる川。
「トンネルを掘って水の流れを変えてみたらどうなるかしらー」
 のんびりと思い付きを口にした、その時。滝行中だったおじいさんが思わずといった感じで声を発した。
「これ。お嬢ちゃん。川に近づきすぎると危ないぞ、流れも速いしのう」
 おじいさんは川からあがり、濡れた体を拭いて服を着た。そして、アリスを手招きした。

「桃は好きかのう?」
「うん。好きー」
 このおじいさん、私を怖がらないんだわ。
 アリスはほっそりとした多脚をはしゃぐようにバタバタさせて、おじいさんの傍に寄った。
「ほれ、よく熟れておる」
「ありがとー、おじいさん」
 前脚を器用に畳んでお辞儀みたいにすれば、おじいさんは皺皺の目元を和ませた。
「多脚の者か。なつかしいのう。わしの昔の友も、そうじゃった」
「そうなの?」
 おじいさんの細い腕が伸びて、外皮甲殻を優しく撫でた。

 猟兵には、世界の加護がある。
 それは例えば、異なる世界に行った時。その世界で違和感を持たれる異形であっても、違和感を持たれにくい、というものだ。だが、それがあってもなおアリスは過去に自分の出身世界や他世界で人間に恐れられたり、嫌がられた経験がある。

 ――でも、おじいさんはアリスを怖がったりしないのね。
 アリスはちょっぴりはしゃぐように脚を上下させた。
「おお、おお。嫌じゃったかの?」
「ううん。嫌じゃないわ」
「そうか、そうか」
「多脚の者は、おじいさんのお友達なのねー」
「ああ。禁術に手を出し、異形の神の力を借り仲間たちを助け――最後は本人も異形となったのよ」
「アリス、そのひととお話してみたかったわ」
 はむっ。
 やんわりとした外の皮、内の果肉。甘い汁が口内に広がる。
「この桃、やわらかくて優しい味ねー」
「はっは、そうじゃな」
 わしも好きなんじゃ。おじいさんはそう言って桃を食む。そして、ふと目についた野花を戯れに摘んだ。
 白くてしっとりとした触感の花だ。
「チューベローズ、そう友が昔言っておったかな」
「チューベローズという花なのね」
 おじいさんは白い花で器用に花冠をつくり、アリスの頭にちょこんと乗せた。

「ああ、よく似合っておる」
 おじいさんはニコニコとした。
「かわいいのう」
「おじいさん、アリスかわいい?」
「ああ、ああ。お姫さまじゃ」
 人界にいる孫を思い出すわい。おじいさんはそう言って遠い目をした。
 アリスはそんなおじいさんの隣に寄りそうようにして、花を摘む。そして、細い足先でつん、つん。もう一本の足でくい、くい。花冠を作ろうとして――、

「きゃ」
 ぱさり。お花が足からポロッと落ちてしまう。
「むずかしーい」
 ギギギギギ。ぎち、ぎち。
 苦戦するアリスを見ておじいさんは花冠の作り方を教え、一緒に作ってくれた。やがて、愛らしい花冠ができあがるとアリスはいそいそとおじいさんにプレゼントして喜ばせたのである。
「おじいさん、おそろいよー」
「ほ、ほ、ほ。おそろいじゃ」
 おじいさんは嬉しそうに笑った。

(ああ、でもこのままじゃ、おじいさんが襲われちゃう?)
 アリスはふと思い出した。
 滝行中の仙人が襲われてしまう――、

「おじいさん、あのね」
 アリスは花冠が落ちないように気を付けながら体を揺らした。
「このあたり、あぶないみたいなのよー」
「そうじゃとも。水の勢いがあるからの。川に落ちたらお嬢ちゃん、だばーっと流されてしまうぞい」
「おじいさん、ちがうのよー? わるいモンスターが来るのよー、ドラゴンとかが来るのー」
「なんと、龍か」
 おじいさんは目を瞠った。そして、アリスを促した。
「それは一大事じゃあ。お嬢ちゃん、右手の小道が見えるかね? 真っすぐ行くとわしの師匠である仙人がおる住処があるでな、お嬢ちゃんは逃げるのじゃ」
 そう言っておじいさんは腰に佩いた古剣の柄に手を置いた。
「わしが時間を稼ぐでな、安心せい」

 なんとおじいさん、アリスを逃して自分一人戦うと言うのである。
「ううん」
 アリスは慌てて関節をギチギチ言わせた。
「アリスは強いのよ、妹たちもいるわー。それに、猟兵の仲間もこれから呼ばれてくるの。だから、逃げるのはおじいさんのほうよー」
「妹たち?」
「そうよー」
 見せてあげる!
 アリスは妹たちを招集した。

 ざわ、ざわ。
 わら、わら。
 ずずず。
 うぞぞぞぞぞ。
 ガチガチガチガチ、ギチチチチ、ズズズ。
 同種の妹たちが土の中から、木の影から、おちゃめな子は水の中から。ずんずんどんどん姿を現した。
「ちいさい妹もいるのよー」
 呼べば、おしゃまでちょっぴり人見知りな妹幼虫ちゃんがぽてっと木の上から降りてご挨拶。ぱかーっと開いた丸くてぽっかりしたお口には、生えたばかりの歯が見えている。

「おお。大家族なんじゃな」
 おじいさんはさすがにびっくりした様子で呟くと、桃の実を妹ちゃんのお口に入れてみた。
「妹にごはんをくれてありがとう」
「この子もお嬢ちゃんみたいになるんじゃな。あとどれくらいで姿が変わるのかのう」

 ほのぼのとしたやりとりをしながらアリスは妹たちに周囲を警戒させ、自身はおじいさんの手を引いた。
「おじいさん、だいじょうぶ。猟兵に任せて」
「わしがもっと強ければ、お嬢ちゃんの目の前で龍をばっさばっさと倒してやったんじゃがな」
 おじいさんはちょっぴり悔しそうに言う。
「アリスは……」
 アリスは少しだけ考えた。


 世の中は、弱肉強食。だけど――、
「アリスは、みんなで戦うのが好き」


 1体だけが超然としたつよさを持つよりも、数で勝る。
 そんな在り方がアリスたちだった。

 その言葉をどう解釈したものか、おじいさんは何かしら感銘を受けたようで目をしばしばとさせた。
「ああ、わしもそう思う」
 そして、呟いた。
「わしも昔は、たくさんの友や弟子がおったからの」

 ――こうしてアリスはおじいさんを避難させることに成功したのである。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『雷霆竜』

POW   :    雷霆竜の嘶き
【激しい稲妻】を降らせる事で、戦場全体が【乱気流内】と同じ環境に変化する。[乱気流内]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD   :    龍燐鋼
自身の【強靭な鱗を頼った戦法】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ   :    大回転攻撃
【全身をしならせた大回転攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

緋神・美麗(サポート)
絡み・アドリブ歓迎
技能を駆使して命中と火力を底上げした範囲攻撃UCを選択して使用
数>命中>威力の優先順位でUCを選択



●白翼、天に駆け
「ドラゴンね」
 現地に到着した緋神・美麗(白翼極光砲・f01866)は、すぐに上空に浮く敵の群れを発見した。
「きゅ?」
 白い仔ドラゴンが頭上をひらりと飛翔する。「呼んだ?」とでも言いたげだ。
「ううん、シルヴィアじゃないわ。敵よ」
 あれよ、あれ。
 指で示せば、シルヴィアが「くるるる」と喉を鳴らした。

 滝の上に布陣する龍の群れ。後続がひっきりなしに上空から降りてくる。
「敵だ!」
 先頭の龍が紅眼を美麗に向ける。周囲の龍達が嘶き、激しい稲妻を降らせた。

 巨体の龍に対して猟兵側は少女1人のみ。
 多勢に無勢、乱れ撃たれる稲妻になすすべなし――と、龍は勝利を確信した。

 稲妻の速度、軌道は常人に見切れるものではない。

「数が多いのね」
 美麗は呟き、黄金の瞳で蒼穹を視る。
 ドラゴンの群れに1人、なんて。無茶な任務じゃない? なんて、苦笑一つ。
「きゅ、きゅー」
 シルヴィアが羽根をバサバサさせ、一緒に戦うぞ! という目を見せている。
「ありがとね……」
 実戦経験豊富で知られる美麗とて、17歳の女の子だ。
 龍軍団を前にして「下手な戦い方をしたらピンチね」と背筋に危機感を覚えていたりもする。けれど、シルヴィアと言葉を交わせば気持ちが少し落ち着いた。


 範囲殲滅が得意な私だから呼ばれたのかもしれないわね――、


(やってやろうじゃないの!)
 敵が目の前にいる。
 少女の眼に正義の念が燃え上がった。

「アクセラレーション!」
 高らかに唱え、
 秒に満たない時間でこれまでの戦闘経験を演算しながら地を蹴る。
 前へ。


   ――ゴールを目指して
      勝利のために!


「完全開放」
 整地されていない土を蹴り、踏み、また走る。
 最速で駆け抜けないと生死にかかわる50メートル走、100メートル走、ゴールテープがないまま続く200メートル走。
 走り抜ける背後、一拍置いて稲妻が大地をえぐるのを感じて胸がぞぞっとなった。

「うわあ、きゃ、きゃっ」
 バシーン、ダーン!
 本人は必死。
「ちょっと、待って? こらこらっ!」
 ビリビリッ! バリバリッ!
 けれど、第三者には楽しそうにも見えたかもしれない。
 そんな回避劇。

 抉られた大地の土が跳びはねて、石礫が乱れ飛ぶ。土煙が濛々とする中をさらに走る。オーダーメイドのセーラー服の裾に泥が跳ね、頬も砂で汚れて、髪も砂利交じり――帰ったらお風呂に入らなきゃ。そんな事を思いながら。

 ちょっとでも遅れれば、当たってしまう。
 ――衝撃で足が鈍れば、追撃が連続ヒットでおしまいね!?
 洒落にならない戦場に美麗は笑った。
「危ないわね!」
 どこか客観的に俯瞰した思考。
 演算を平行していることにも起因しているのかもしれない――、
「しゃあないわ、助けてって言われたんだもん! 天魔滅雷……」
 助けを求められたら断れない。そんな人の好さで知られる美麗である。
「あっもしかして、「だから?」 それで私が選ばれた?」
 一つの可能性に思い至りつつ。
 ええい、いいわ。私だって雷を扱うのよ、と挑戦的な目を向けて、美麗は高く跳躍した。思い切った大ジャンプ!
 空中で接近する稲妻――バチリ! 火花散り、弾かれる!


「何ッ!?」
「雷天使降臨(モード・バラキエル)!」


 美麗の全身に青白い雷の光筋が漲った。
 金細工のように艶放つ髪が電光に照らされて一層神秘的に輝き、風によらぬ何かの力で重力に逆らいふわりと毛先を浮かしている――満ちるオーラ!
 背には純白に発光する翼が生え、跳躍した美麗は敵の攻撃をバチバチと弾きながら飛翔した。速度は練度に比例して龍が追えぬほどの超速に達し、それほどの速度ながら超高速演算で軌道は無駄なく選ばれている――が、速すぎて敵には動きの無駄のなさを理解することもできない!

 美麗は滑るようななめらかさで軍勢に迫る。


 ――体が大きいから、鱗が固いから、何?
(的が大きくて狙いやすいわ)


「ちょっとビリッとするわよ」
 大胆に龍体に接近し、ほっそりとした少女の指先がトン、と鱗を突きながら巨体と巨体の間をすり抜けていく。指先から紫電が流され、次々と龍が痺れて動きを止めた。
 すり抜け、駆け抜け、高く昇る。
 背に円かな白い陽光を負えば、後ろから天の恵みを受けるようなあたたかさと心強さが胸の奥から湧いてくる――その姿は敵の眼には、天空を制する天使のように見えるだろう。

「モードチェンジ、ライトニングストリングス!」
 天使は宙でくるりと舞うように一回転し、ライトニングセイバーを背に向けてぐっとバックスイング。そして、
「いっけええええええ!」
 ――見下ろす敵の軍勢へと、セイバーを振り下ろす!

 セイバーから放たれ、目下の軍勢に襲いかかるのは糸状の電撃だ。
「「な、なんだこれはーーーーーッ!!?」」
 ビリビリと感電させ、絡めとられた龍の群れ。それを美麗は満足げに確認し、料理を手順通りに進めるようにサイコキネシスでぎゅっと団子上にまとめ上げた。
「一か所に集合よ!」
 龍の群れが一か所に集められ、ぎゅうぎゅうとなる。

「よぉしっ!」
 最終段階、と少女は快活な笑みを浮かべた。
「全部まとめて薙ぎ払うわよ」
「きゅ!」
「ふふっ!」
 明るい声に笑いが零れる。
 美麗は頭上に両方の手を掲げた。
 地上にいるよりずっと、日の光を近く感じる。
 手のふち、指のふちがあたたかい――光が収束されていく。


  「拡散極光砲(スプレッドハイメガキャノン)!」
  私を選んだのは間違ってないわ……多勢相手の範囲殲滅は、得意よ!



 そう笑いながら。
 光砲は周辺一帯を眩く光に染め上げて、敵の群れを包み込み灼き払ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

杼糸・絡新婦(サポート)
関西弁口調。
とある忍者が使っていた武器・鋼糸【絡新婦】のヤドリガミ。
白い女物の着物を着用しているが、
名前沿った姿なだけで、オネエとかではなく中身はれっきとした男。

子供や親子中心に一般人には愛想よく接するが、
敵とみなしたら容赦なく叩く。
日常でも戦場でも自分のペースを崩さず、
フェイントや挑発、相手の動きを拘束するように阻害したり、
あえて誘い出してこちらに攻撃を仕向け、
自他へのすきを作り出したりする、戦闘スタイル。
また使えるものはなんでも使う。
元の持ち主の影響で、忍者らしい動きも見せる。

所持する黒い狩衣を着た狐獣人の姿をしたからくり人形は、
かつての主人が作ったものを模したもの、名前はサイギョウ。



●道の先
 木陰、花影、人の蔭。
 まだ5つにも満たぬ道童僵尸が道急ぎ、小石に躓き転びかけ。
「あっ」
 転んじゃう。痛みを覚悟してぎゅうっと瞑った目が、軈て開かれた。
 ふわり、控えめな桜郷香を纏わせて狩衣姿の狐人が童を抱き留め、起こしてくれる。
「あ――」
 影が揺らぎ現われる人ひとり。
 サイギョウ、と狐人呼ぶ声は飄としてやわらか。
 白練の袖振り長い指が手繰るは蜘蛛の糸めいた鋼の煌。檳榔子黒の艶めく髪の中にひと房支子色が混じり風に揺れるさまはさながら夜空に浮かぶ月めいて、眦に紅佩く虫襖の瞳は笑みを象る。

「シェ、ラ」
 ありがとう。
 道童が礼を言う。

「ええよ。危ないとこやったね、気ぃ付けて」
「うん」
「坊。おとんのとこに行くん?」
 狐人がかたかたと踊るような仕草で和ませる。
 動くたび、ふわふわ漂い落ち着かせる香。
「ひとっとびやで、お乗り」
 送っていこう、そう言って呼ぶは鋼鎧の駆けるモノ。
「ありがと、哥哥(おにいさん)」
 童を抱いて跨れば、一息で石族仙庵に辿り着く。
 おうちでじっとしといで、お外は少し……、
 狐人を連れ、お兄さんが人差し指を唇にあてて微笑する。
「やかましなるさかい、ね」

 ――哥哥、どこいくの。

 お兄さんな、お仕事の時間なんや。



 別れを告げた杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は、背を向け手を振り、遠ざかり。さり、と草履が土を擦り、蹴り駆ける。
 大空見上げれば、敵影多数。
 龍の一軍が仙庵目指して接近していた。

「なんやろねえ」
 護る相手もよく知らねども。
「邪魔をするか!」
「ああ、喋れるんやね」

 稲光が痩身狙い天下る。
 絡新婦は黄昏羽織翻し、
 蒼天霹靂に袖を振る。


   ――声には声を、刃には刃を。
      因果覿面、返しましょ。


 鏡が如く稲妻が跳ね返り、
 悪因悪果に龍落ちる。

 無音でするりと龍体の影に寄り、身を起そうとした巨体にしゃららと佳音奏でて絡ませるのは鋼糸。超重量の龍を動かすにはあまりに細いその糸。
「斯様な古めかしい糸ごとき、我が身が縛られるものか。破ってやろう!」
 吠える龍が徐々に気勢を失って蒼褪める。
「えげつないこと言うなあ。古臭い? まだまだ現役てな」
 糸は闇を纏い、見た目に似合わぬしたたかさで龍体を締め上げ、細見の絡新婦が如何にしてその力を捻りだしたのかと不思議なほどの力を見せて龍体を浮かせ、宙に晒した。
 そこに仲間の龍が大回転攻撃を放った。
 悲痛な声が轟く。
 糸に吊られた龍体が肉の壁となったのだ。
 本来絡新婦が受けるはずだった痛撃を被り、壁となった龍が散華する。
「壁になってくれた龍のおかげさんで時間を稼げたで……10秒ほど」
 すんませんなあ、と瞳が猫めいて細まり呟いた。集中するのには十分な時間だった。そう首を振り指を差すのは東の天。
「お互い仕事、ちゅうわけ――それ」
 同時に東を飛ぶ1体の龍が落ちた。燕が飛ぶ如く天翔ける闇纏う手裏剣が翼を切り裂いたのだ。
「そして、ほぉら」
 こっちも見とかな、なぁ。
 すい、と西の天を示せばサイギョウが狩衣の袖括りを風に靡かせ飛んでいる。
 くん、と糸を引く十の指は自在に囚えし龍とからくり人形を遊ばせて。
 しまいに壁とされた龍体がのこらず息絶え横たわれば、やや子を寝かしつけるようにやさしくふんわり囁いた。

   「おつかれさんやね、
    ゆるりよぉく寝とけや」


 ――なんやろねえ。
 守る相手がはっきりせえへんからかいな、
 違和感が消えへんけど。

 絡新婦は身軽にひいらりと飛ぶ。
 二刀一双の鴛鴦を仲睦まじく組み合わせ、陽光に波紋煌めかせ。
 ああ、日高くお天気がよいねと喉鳴らし。
「ちょいと自分も暴れとこか」

 そう決めたんや。
 お返事はいらへんよ。

 鋏めいた刃躍らせ、
 忍ばぬ刃が闇が切り、
 ひいらり飛んで
 また闇を吸い
 増やして纏い、
 陰を選んで忍び、
 戯れるように斬り。

「なぜだ。どこからそんな力が」
 慄く龍の軍勢におもてを伏せてくすりと哂う。
「忍やからね」
 忍びは強いんやで。とてもとても。そう、あの人みたいに。
「それに、仕事を受けたから――かなぁ」
 サイギョウを手繰り寄せ、労うように人形の頭を撫でてやる。ふうわり、薫るは心安らぎ落ち着く香。

「ええ匂いやね」
 おっとり微笑み、おもてを上げた。ふと気づく。
 あ。おるやん? と。
 誰が? ――護衛対象と思しき仙。

「こんにちは、僕――おいら達を助けてくれてありがとう。心強いよ」
 拱手をする少年の仙。
 いつから見ていたのだろう、岩の上に座り、琴を傍に置いている。
「簫はできへんよ」
 ふわり、冗談めかして言いながら絡新婦は拱手を返した。



「あなたが簫。おいらが琴。赞(いいね)――」

「――広陵散を奏でようか? それとも笑傲江湖としゃれこむかい」



 こいつや。
 絡新婦は内心で納得しながらひとまずの任務完了を悟る。
 「おや、もう帰ってしまうの」


「善行悪行、巡り巡って己に帰る――あんたさんはどっちやろか」

 少年の笑い声。
 転移前にきいた他猟兵の話を思い出し、想う――、
(あの子、泣いとったんやて)

 ベースへと体が戻る気配を感じてか、少年が瞬き、改めて礼をした。
「僕のあの子も助けてくれたね、ありがとう」
 僕なのかおいらなのか。
 絡新婦は不安定な相手を訝しみながら、ゆるりと手を振り別れを告げたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐那・千之助(サポート)
「手が要るか?」
入り用ならば、なんなりと。

ダークセイヴァー出身のダンピール
困った人を放っておけない
いつも人への敬意と好意を以て接する
よく言えばお人好し。たまに騙されていることは秘密。
可愛い動物や甘いものに懐柔されやすい

戦闘は前衛、盾役向き。治療も可能。
焔(他の属性は使えない)を黒剣に宿し斬り込んだり、遠くの敵でも焔を飛ばして燃やしたり。
負傷は吸血や生命力吸収で持ち堪える

平和主義なので戦わずに済む敵なら平和的解決
かわいい敵は抱いてもふりたい
想い人がいるので色仕掛けは効かない

物語に合わせて諸々お気軽に、どうぞご自由に。
よき手助けができれば嬉しいです。



●あわいの陣
 薄黄緑の草が伸び、眠らぬ芍薬の白が揺れている。
 その白さが彼の肌に似ていると思ったのは、いつのことだっただろう。

「む。此度は仙界、か」
 陽光めいた髪を靡かせ呟く佐那・千之助(火輪・f00454)は黒剣を盾に変え、敵の初撃へと備える。
 神秘満ちる桃源郷。
 思い出すのは、大切なクロトとの冒険の記憶。
 そして、昏迷の夜続く故郷。
 かの地では花はなかなか育たず、溢れんばかりに日が注ぐ絢爛明媚なこの仙郷の地とはあまりにかけ離れていた。

 風が涼やかに吹き遊ぶ。
 伸ばした髪の毛先を梳いていく。
 長く伸ばしたのは、人々の道標になればと思ってのこと。
 今、敵の初撃を防がんと黒盾の前に燃え盛るのは、
 父の大切な者から奪った炎。
 それもあってか、胸の奥では恐れる気持ちが燻って止まない――今度は自分の大切な彼が奪われやしないか、狙われるのではないか、と。


 ――守りたい。
 ――倒したい。
 ――故郷を照らす光が欲しい。


 焦がれる想いは、今も変わらず。
 優しき二藍の双眸は敵を視た。ほんとうは、優しきこころは戦わずに済む相手なら戦いは望まないのだけれど。牙剥き人に害を成す、そんな倒すべき敵は倒さねば。

 話す間もなく滂沱と浴びせられる激しい稲妻、敵意の眼差し。
 黄金の輝き弾ける雷霆竜の群れが空にある。
「おぬしらは、どう見ても無辜の民を襲うたぐいのオブリビオンじゃの」

 群れ咲く花々を傷つけたくなくて、千之助は花から遠ざけるように進路を取り敵を釣る。感じ取るのは、左方向からの瑞々しい水の気配。
(あちらに川があるのう)
 ならばそちらへ、と守りを固めて駆けるうち、稲妻が悉く防がれるのに業を煮やしてか龍が数体降下して、全身をしならせ大回転!
 上空後方右から左へ奮われる雷纏いし龍尾のフルスイング!
「せっかちじゃな」
 危うし、と奥歯を噛み千之助は前へ跳び草地に手をついて前転、前転、また前転。後ろをゴウと音たてて尾が通過し、勢い余って地を抉る。
 抉られた土や石礫が飛散し土煙が舞う中を、千之助は機敏に起き上がって振り返り、内に鉄牙生やす枷を投げた。
 幼き日に骸の海から甦りし母がこさえた遊び道具――己の腕の延長のようなもの。
 枷が命中し、龍を封じている。
 薄紅色の花咲く橋での無垢な母も思い出す。
 瞳に燈る愛、ぬくもり――、
(不思議じゃの)
 まるで、母が敵を抑えてくれているように思えるから。

 上空から次々と龍が飛来する。
 千之助は龍体に向けて跳躍した。封じられた最初の1体の背を足がかりに蹴り、至近に迫った別の龍の頭を蹴り、くるり宙で一回転。
 制御が難しいけれど、やってみようかえ。
 口の端を擡げて、風に戯れかかるように腕振るい、――風が水を噴き上げて水龍めいた型作り。
 陽光にきらきら煌めく透明な水龍が敵に襲い掛かる!

「ぎょうさん、いこか」
 ゆるく笑む。

 ユーベルコードで自然の力を混ぜたのだ。
 この一瞬の間、千之助はもう一度跳び廻っていた。
 回転する視界――世界が万華鏡のようにくるりと彩りを廻している。
 とん、
 と軽やかに踏むは追加で飛来した別の龍。
 身を捩る前に突き立てる黒剣は断頭台の刃に似て、吸い込まれるように龍の肉へと食い込み、その生命力を吸い取った。


 お花が炎過に巻かれてしまうと可哀そうじゃから。


 余波から守るよう水を撒きながら、黒剣を弓に変え矢を引く仕草をすれば、周囲に火樹銀花の巨大な矢が107本生成される。
「疾っ」
 放ちながらふわりと地上に舞い降りて――、
 ちらり仰ぎ見た天空、
 鱗雲を添える青空と輝く眩き太陽は、手を伸ばしても届かぬもの。
 決して作ることが叶わぬといつの日か知ったもの。


 ――まだつらい世界なの。
 胸の奥に煙るどうしようもない悲しみ。

 視界の隅でアイスブルーの花揺れて、またひとつ声がこころに蘇る。
 ――好きに生きて。貴方が幸せならいい。


 約束する。
 凛と響く声で、気高く宣言する。
「狩る」


 志。
 切望。
 いつかいつか、世界は変わったと言いたくて。
 いつか故郷の空に夜明けの陽を。
 真実の陽光を皆で望む日を迎えたい。
 ……そんな日を、夢物語で終わらせたくない!

 視線を落とす。眼下、パノラマの如くに広がっている緑豊かな仙郷。
 ――ひといきに遠くに手を届かせるのが難しくとも、せめて届く範囲から守り、蘇りし敵を減らしていきたい。

「熔けおとせ」

 火焔矢の合間を縫い接近する龍の突撃を華麗な体捌きで避け、
 ステップを踏んで廻る。
 クルリと躍動するのに合わせて、
 巻き付くように金髪が舞う。

     まるで地上に降りた太陽が舞うように、
     敵の目さえも誘惑するような鮮烈な武踏。
     熟達の技巧を思わせる間合い取り。
     避け退くも一瞬、
     詰めるも一瞬。

「はっ!!」
 裂帛は覇気に満ち満ちていた。

 千之助は大上段から黒剣を斬り下ろした。
 真っすぐな紫電が堅固な鱗を食い破り炸裂するのに合わせて新たな炎が切っ先から生まれる。弧を描き燃える赤き炎は月のような形を取り、次いで炎龍となる。
 大気を歪め渦巻く溶鉄の竜巻より迸る炎の龍は、敵だけを燃やすようにと念をこめ。先刻作り戦わせている水龍と番いであるかのように連携して龍の軍勢を喰い破る。
 相反する属性同士の共演――、
 互いの生命を天秤にかけた鬼気迫る戦いの中、
 それは場違いなほど美しい光景であった。
「なんという美しく苛烈な技だ」
 押され、倒されながらも圧倒的な力量さと典雅な技の数々に思わず感嘆の息を零す龍。
 ……それは敵の眼すらも奪う華麗な戦技だったのだ。


 やがて、周辺の龍が残らず動かぬ存在となる。


「守れたようじゃ、な……」
 まず、目の前のひとつ。


 何事もなかったかのように穏やかに揺れる白い花。
 炎熱、灼焔に焼かれた敵の残骸が灰と化してさらさらと降り注ぐ。
 まるで儚い雪のように。
 やがて形を残していた敵の輪郭も柔くほどけて、
 無数の淡い光の粒子となり散った。


 今――過去が骸の海に還っていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

アラン・スミシー(サポート)
基本突然現れて仕事を終えたら去っていく人物です。

基本的に【乱戦】か【銃撃戦】での援護がメインとなります。
他の猟兵の手の足りない所に現れては銃で攻撃し、気を引いたり足止めをしたり敵の頭数を減らしたりします。

説得や交渉等が必要ならなんか良い感じの言葉を言います。
例:君の正義は分かった。しかしその正義は君を救ったかい?

ユーベルコードのセリフを参照し、MSの言って欲しい都合の良い言葉をアレンジしてやってください。
大体無意味に格好いいこと言ってます、割と適当に。

状況次第では不意打ちとかもするかもしれません。適当にお使い下さい。



●messenger
 射程ぎりぎりの敵影。
 トレンチコートを翻しヒップホルスターから得物を引っ掴んだアラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)はしゃがみ片膝立ちの姿勢をとる。岩影に身を置くニーリング。姿勢が安定し命中精度が上がる膝射。背中を丸め、脇を締めれば銃との密着度がさらに増す。まるで自分が鉄の部品の一部であるかのような気分だ。マズルが吠える。.45コルトの行先を見つめる垂れ気味の眼は落ち着き払ったクールな色。

 一体に命中しつつ、残る龍が接近する。
 ……接近、なんて生温いものじゃない。ゴウと迫る巨体は牙を剥き、捕食者のオーラ全開に体当たりするように落ちてくる。対する生身はいかにも弱弱しく、容易く圧し潰され吹き飛ばされそうだ。
 龍。そう、敵は龍だ。嘶き、稲妻を降らせながらダイヴする――命の瀬戸際。アランの闘争本能が爆発した。
 時間が遅く感じられるほどに神経が冴え渡る。
 素早く予備マガジンを取り出して装填しながら天を仰いでスライディング。映画さながら龍が迫る大迫力の光景が視界を占める。摩擦で背が熱いのはリアルだ。ざざざっと土煙巻きながら撃鉄を起こす。眩い陽光を回るシリンダーが鈍く反射してぎらりとした。
 無機質な音が近く感じられる。
 頼もしい――1と1を足して2を導くような、そんな音だ。
 トリガーがシアを押し上げ、シアがハンマーをリリースする。コッキングロットが押し出され撃発する。衝撃と撃音。
 一瞬だ。
 マズルから白い煙を吐き出し、跳び出した弾丸が真上の龍体を――丁度にらむようにアランを見下していた目に吸い込まれるように命中、聴覚を塗り潰すとんでもない大音量の悲鳴。
 左右に持つ銃から同時に排莢。地面に硬質な物が落ちて転がる音がする。悲鳴と比べれば涼やかで愛嬌がある。好い音だ。

 襲い来る怒りの大回転攻撃は、強大な肉厚の身をフルに活かした体当たり。当たっては骨が砕けるなんてものじゃない、一撃必殺お陀仏だ――アランは転がるようにして逃れた。龍体掠めた岩がバキバキと破砕され、見るも無残な姿と化していく。
 一歩違えばああなるのは自分であった。日頃から鍛えておくものである。

 多勢に無勢。
 かたやファンタジー世界で強敵の代名詞みたいになっている龍の群れ。
 かたや現代銃を手にした痩せぎすで枯れた45歳、プロフィールの得意分野は援護、説得交渉、調査。
 だが、彼は飄々と言ってのけた。
「運命とは自分で描くもの。
 そしてそれを自分で演じるだけさ」
 ――ワイアット・アープのように。

 後続の龍が上昇し、距離を取ろうとしている。
「ところで、事件には背景がある。そうじゃないか?」
 問いつつアランはソードオフ・ショットガンのトップレバーを右に押し出す。内部でロッキングボルトが下がり、銃身がお辞儀するように折れる。礼儀正しく可愛い奴だ。リロードしてやり、構える。
「保安官と無法者はスクリーンの外では最初から相手を殺しにかかるものとはいえ、味気ないと思わないかね」
 二連散弾銃は銃身が2本あり、弾の拡散パターンを2つ持てる。遠ざかる標的は未だ近い。故にまず拡散させて大ダメージを狙った。遠く離れてのちは絞り、狙い撃ち。素早くざっくり狙い撃つ――映画ではなく、観客もいない珍妙な銃撃戦。
「何も知らずに仙を守ると?」
 銃声に混ざり声が返る。そうこうする間にもぴしゃりぴしゃりと稲光が降りてきて、待ちたまえと言う暇もない。ステップを踏む必死の回避劇、BGMは敵のお喋り。
「主は宝貝を巡って争っている」
 スイッチを押せば、古今東西悪役はお喋りだ。創作物においては作り手の事情もあろうが、それ以上にコミュニケーション能力を有する生物が持つ性質なのかもしれぬ。

 引き金を引いたまま親指で撃鉄を起こす。直後、撃鉄が落ちる。ファニングだ。命中精度の問題があるが、的が大きい怪物戦では当て放題。片腕を腕にあげ、ピースメーカーのマズルが太陽に吠える。飛翔龍への偏差連弾、.45コルトが呪殺の力を纏い、鱗を破り肉を穿つ――猟兵ならではだ。
「先日、奴は人界に介入するのを邪魔しやがった」
「なるほど」
 報告書に纏めれば後で役立てる猟兵が出るかもしれない。アランは心に留めた。

 それにしても敵が龍とはファンタジーだ。
 未開の土地を開発する西部開拓時代、浪漫とファンタジーに溢れた冒険の時代。ピースメーカーを手にしてこれほどのでかい怪物めいた野生動物を相手にした人間が果たしていただろうか。
 どんな空想上のヒーローシェリフやシアターエンターテインメントよりも事実は奇なり。

 やがて、敵の数が減っていく。
 他の猟兵もいつの間にか転移され、周辺地域で戦っているのかもしれない、とアランは当たりをつけた。
「強いなおぬし。やりおる」
「いや、あいにくと荒事は苦手分野でね。スマートさに欠けていたな」
 三体の龍が身をうねらせ、飛翔する。声は戦いを愉しむようでもあり、アランの腕を称賛するようでもあり。
「互いに人界に介入する仙。2勢力が戦う結末は果たしてどちらが勝つと思うか」

 左右から迫る圧倒的な物量の龍体2つ。地面に平行に稲妻が奔り、ビームのようにアランを狙う。アランは後方宙返りして稲妻の軌道から身を逸らし、左右に伸ばした腕で二銃を撃つ。爽快な音を鳴らし、気負うことなく言い放つ声は龍が呆れるほどに落ち着き払ってマイペースだ。

「観客が喜ぶ方が勝つさ」

 いつ落ちたのか、乾いた大地に悠々と座り持ち主を待つフェドーラ。
 残る一体が迫る中、アランは荒馬のように乱れた息を落ち着かせ「のんびり」と形容されるほどゆったりとした勿体ぶった足取りで帽子に近寄る。
 さり、と。
 砂の中から掬い上げ。
 優しい手つきで泥を払って頭に乗せた。

    口の端を擡げ、狙う。
    立射の姿勢で終幕の引き金をひく。


 ターーーーーーー……、……ン。


    小気味いい反動が腕に伝わり肩へと抜けていく。
    勝敗は、決した。


 ジスモンダでさえ「Voilà un homme!」の一言もあろうに、虎どころか龍を倒しても拍手を送る観客はいない。だが、この活躍により救われた生命がある。この戦場にいる仙や人、彼らが今後関わり、救うはずの人もまた救われる、のだが――、


 ――それを知るのは、読み手のみ。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜(サポート)
『アタシの力が入用かい?』
一人称:アタシ
三人称:通常は「○○さん」、素が出ると「○○(呼び捨て)」

基本は宇宙カブによる機動力を生かして行動します。
誰を同乗させても構いません。
なお、屋内などのカブが同行できない場所では機動力が落ちます。

探索ではテレパスを活用して周囲を探ります。

情報収集および戦闘ではたとえ敵が相手だとしても、
『コミュ力』を活用してコンタクトを取ろうとします。
そうして相手の行動原理を理解してから、
はじめて次の行動に入ります。
行動指針は、「事件を解決する」です。

戦闘では『グラップル』による接近戦も行いますが、
基本的には電撃の『マヒ攻撃』や『衝撃波』による
『援護射撃』を行います。



●super rider
 ハンドルを握りしめ、1速で未整地の道を走る。
 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)が相棒の宇宙カブJD-1725に乗り、仙郷を駆けまわる。
 バックミラーに映る低空飛翔の敵龍達。
 先頭の数体が稲妻放つ。
 ハンドルを切り、旋回。
 ドッグタグが微かに揺れてチェーンが音を立てる――猟兵としての認識章。

 気づけば戦場にいた。
 そんな日が珍しくない――そんなサポート猟兵。
 中でも特にアクティブなのが彼女だ。

 ゴーグルの奥の眼に燃料計と速度計が映っている。JD-1725は、サイキッカー用の宇宙バイクだ。大きく元を辿れば、まだ道路状況が良くない時代に耐久力重視で作られたカブが起源とされているとか、いないとか。耐久力に定評あり――信頼と実績のうたい文句を誇るように前方カバーが悪路の土を被りながらも活き活きとした走行を見せている。皆に愛される超カブの進化形を体現するような。素朴であったかくかわいらしくしぶとい、そんな走りっぷり。

 後方から追うは龍の群れ。
 上にもいる。
 大勢だ。
 1体1体がバカでかく、しかも稲妻なんてファンタジーな遠隔強力技まで放ってくる。

「ドラゴンの群れ相手に立ち回れってさ、カッケェ」
 呟き、
「キッツい」
 零し、
「ぶちかましてやらぁ!」
 と、最後はこうなった。

 覚悟完了、強気なライド。
 相棒は燃えるような色を青空と大地の間でぎらぎらさえて走っている。

 あぶね、とハンドルを切れば機敏に応える相棒のなんと頼もしいことだろう。バチバチ、多喜が数秒前にいた空間を後方からの稲妻が通過する。無数の姿を持つ宇宙カブはこの時ロータリーミッション、音は控えめで可愛らしく、近所のおばちゃんにも好評だ。マスター・ライダー多喜はスタイルの良さが際立つライダースーツ。UDCアースで夜を駆ければ不埒な男どもが胸元見て頬緩め、すらりとした脚に見惚れ、手を伸ばせば気づけば蹴り倒されていたりする。

「邪魔者を排除しろ!」
 ぶおっと風音唸らせる敵の大回転(体当たり)!
「大胆なアプローチじゃないのさ。ドラゴンさんよォ!」
 くいっと軽やかに避けて挑発交じりにウインク飛ばせば、龍はますます猛り狂う。
 
 ――人を守るんだろ? ヘイト稼ぎは得意だよ!

 多喜は背を丸め頭を低くして飛来する稲妻を回避しながらSMG-MP5udcを取り出した。思考は冷静で、空間をよく把握している――So Coool――上空から降りてくる一団、後方から追う一団。SMG-MP5udcは9mm装弾数30発湾曲マガジン採用、術式にて弾が自動装填される魔導SMG。
 最初に対処するのは後方。
 かがんだ姿勢で見た目窮屈そうながら身を捩るように銃口を向け、素早く撃つ。
 ターン! 快音響く。
 反動が全身に伝わる。
 構わない。むしろ心地よい。
    撃つ、
    撃つ。
    撃って撃つ。
    タンタンタンターンタ、撃ちすぎ。

「弾丸飴大サービス発売中! お代はあとで振り込んどいて」
「ギャア!」
  「よかった、そんなに美味いか~!」
「ギャアアア!(美味くない!)」
 幾つかは鱗に弾かれ、しかし跳ぶ弾の中に目に命中するものがあったようだ。
     「アンギャアアアアアアア!!」
       「これネタシナかい?」
     「ギャアアアアアア!(たぶん違う!)」
 龍が耳を劈く悲鳴をあげて速度を落とした。痛みに悶えるような一体が仲間の龍に体をぶつけ、進路妨害となっている。追撃するようなタイミングで布石が発動、網状の雷撃がぶわりバチバチ、広がって後続にダメージを与える。

「これがアタシ流のサイキックの応用さ!」
 言いながら枷外し、さらに反応を強めて次は上。
 ちょうど射程に届こうかという距離で稲妻を放とうとしている先頭の龍。弾の次はユーベルコードの大振る舞い! 気前がいいお姉さんである。あの上様だってもしかしたら思ってるかもしれない――サポートいつもありがとう。

 多喜はくいっと愛機を上向かせて飛翔した。宇宙バイクの本領発揮だ。敵が稲妻を放つ。飛翔しながらすれ違うような軌道を進め、2速、3速、加速する。速度で知られる猟兵、この時の成功度は賽に頼らぬ会心となり重力に逆らい天翔ける様は龍でさえも追いきれぬ――フルスロットル!
 龍より高く、飛び上がる――高高度。

 トン、気まぐれな野生の猫めいて多喜が愛機から飛び出して近い龍に飛び、
「サイキックブラスト!」
 面白がるように笑いながら叫べば掌から電流が鮮やかなエフェクトと共に奔り龍の動きを封じていく。封じられた者は順次墜落し、自重で斃れ。

「練って! 整え、」
 サイキックエナジーを虚空で練り、
 整えながらの自由落下。
 雲を突き破り、
 青空を上に流して。
 長い髪を上に靡かせて、
 その眼が次の獲物を発見する。
 落下先に進路が予想される一体。



     あれを獲るッ!


 一瞬、舌を舐める様子は肉食の獣に似た。


「ぶち込むうううううううっ!」
 FOOOOOOOOO!!!

 多喜はさらに低空を飛翔する龍の背を足場にするついでに漢女の異名を全身で表すような猛々しい裂帛と共にサイキックエナジーを込めた掌底を叩きこんだ。勢いが十分すぎるほど付いた超高速かつ大威力! ごぎりと異常な音が響く。龍は血泡を吐き痙攣しながら落ちていく。どうも背骨が逝っている。
「へい、タクシー!」
 場違いに明るい声放ち、視線を向けた先には別の一体。思念波を送り、動きを止めて――龍の主観では時間が止まっている――「アタシに目を付けたのがアンタの運の尽きさ!」目を付けられたのは龍の方だ!!
電撃を四方に放ち殲滅しながらまた高く飛ぶ。
「相棒!!」
 親しく叫べば人機一体、宇宙カブの相棒がその身を一瞬包むように身を寄せて、すぐにバイク形態に戻る。よいせっと乗り多喜は愛機と共に地上へと帰り。
 気づけば敵が殲滅されている。

 そよ、そよ。
 のどかな風景だけが後にある。
 平穏無事、
 そんな四文字が浮かぶような穏やかな仙境風景。
 赤いボディがよく映える。

 前後4つのウィンカーがちかちかと点滅する相棒は、まるで遠征を歓びはしゃぐようにも見えて、見ているだけで愛しいものだ。
「任務完了!!!」
 勝利を喜ぶような光はやがてゆらりと揺らぎ、マスターである多喜と共にベースへと帰還するのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

氷咲・雪菜(サポート)
 人間のサイキッカー×文豪、15歳の女です。
 普段の口調は「何となく丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 独り言は「何となく元気ない(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

氷や雪が好きな女の子で、好きな季節は冬。
性格は明るく、フレンドリーで良く人に話しかける。
困っている人は放ってはおけない。
戦闘は主にサイコキャノンを使って戦う。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●少女
 白縹色、という色がある。
 淡く、青を含んだ白である。
 強く主張しすぎることなく、控えめにしてやわらか明るく、ピュアで後を引かぬ爽涼さ。どこか不思議なアンニュイさを感じさせる――、
 この日、快晴の空の青と地上の緑の狭間で、そんな白縹色の少女が戦っていた。
 敵は1体1体が少女の何倍もあろうかという、大きな雷霆竜の軍勢である。

 名を、氷咲・雪菜(晴天の吹雪・f23461)。
 雪の結晶が儚げに散らばる日傘を手にした若干13歳の少女。その前に布陣し龍を防ぐのは絶氷双騎――美しき氷の騎士たち。

 騎士は2人。
 1人は剣を、1人は弓を。

 御伽噺の姫君を守る騎士がごとく剣を振るい弓放つ彼らは、ただ人ではなかった。
 眩く日の光を反射して透明な氷の鎧が煌めく。

 左の騎士が剣を振るう。
 肉薄する龍へと。
 振るう剣は壮麗、典麗にして華麗な氷の剣。
 空間を円かに切り取るように刃が弧を描けば白く清爽たる霜が降り、ダイヤモンドダストのように大気がきらきら輝いた。
 右の騎士が弓放つ。
 遠くで稲妻放とうとしていた龍へと。
 射る矢は優美、繊美にして精美な氷の矢。
 空間を上下に分かつように矢が直線を走れば蒼く爽快なる霜の尾を引いて、ダイヤモンドダストのように大気がきらきら輝いた。
 剣と矢により数体の龍の総身が凍り付き、どうと音立てて地に伏した。

 勇ましく気品に溢れる忠義の騎士たちと、恐ろしき龍との戦い。
 その背後でしずかに佇む雪菜は騎士たちを信頼しつつも微かに案じる風情で見守っていたが、やがて優しく声をかけた。

「お疲れ様。すこしお休みなさい」
 騎士2人が陽だまりの中、溶けるように消えてゆく。
 龍の敵意を一身に受けて、小柄な少女が瞳に空を映した。


 ――さぁ、誰でも相手してあげますよ!


 上目がちの眼がそう語り、日傘をふわりくるりと廻す。腕に填められたブリザード・キャノンが力を増幅する。青白い光が輝いた。次いで音もなく虚空に現れるのは、氷の弾。

 少女の周りに浮く弾に、龍が身構える。
 今や、龍たちは悟っていた。
 目の前の少女がただのか弱く娘ではないことを。
 強き騎士を従え、意のままに動かすだけではなく、本人もまた不思議な力を持ち、戦う者なのだと。

 龍と比べればいかにも小さく、いたいけに見える雪菜。
 だが、彼女の小柄なからだ、しずかな佇まいからは威厳が漂い、騎士への接し方には龍ですら魅了するような一種のカリスマを感じさせ。
 なにより、ギャップだ。
 穏やかな表情、可憐なお姫様や雪の妖精めいた少女の外貌――、
 なのに、泰然として落ち着き払って、あまりにもしずか。
 そんな在り様が龍に得体のしれない感覚を覚えさせ、恐怖を与えるのである。

(このまま戦うより、もうすこし情報を求めてみましょうか)
 弾を浮かせ静止させたまま、雪菜は懐からするり、と白い手袋と文庫本を取り出した。

 まず、こちら。

 雪菜は一点の曇りもない真珠めいた白い色の手袋を龍に放る。
 ぽおん、と投げたそれが、先頭の龍に命中する。
「……?」

 少女は雪の中に咲く健気な花のような微笑みをたたえて、龍を見つめる。ちいさな子供であれば一瞬で怯えて泣き出しそうな、そんな形相の恐ろし気な龍。
 けれど今、怯えているのは龍の方だった。

「な、なんだ? 今のは、なんだ?」
 やさしく少女が答える。

 教え、導くような声だ。
 手は、文庫本の表紙を撫でている。
 やさしい手つきだ。
 文庫本は、中に掲載されている話の恐ろしさを予感させるような雰囲気のある装丁だ。

「デュエリスト・ロウと言います。あなたは、私の質問に答えないといけません」
 戦場の支配者めいた少女がおっとりと微笑んだ。
「あなたのご主人さまはどなたで、今どこにいますか?」
 言いながら、少女はぱらりと本のページをめくる。すると、情念が渦巻き形成す。獣の形になったソレは、著者である雪菜に懐いているようすですり、と身を寄せた。

「可愛いですね」
 年相応の愛らしい笑顔を見せて、雪菜が獣を撫でる。
 ちいさな子供の獣みたいに嬉しそうに喉を鳴らし目を細め――そして、獣は龍に襲い掛かる。

「ガァゥウッ!」
「!!」

 ユーベルコードの『デュエリスト・ロウ』と『其の答えを識るまで、僕は死ぬ事もままならぬ』の合わせ技である。
「質問に答えますか? それとも、答えないですか?」
 少女はもう一度問いかけた。
「答えぬ!」
 龍は頭を振り、対話を拒み――2つのユーベルコードの効果により、斃れた。
「残念です」
 雪菜は眉を下げて悲しそうに吐息した。
 同時に、狂乱した龍から浴びせられる稲妻を先ほどブリザード・キャノンで発射していた弾で相殺している。そして、振り返った。


「でも、時間は稼げましたね」


 振り返る先には、少年と老人、そしてちいさな子供の3人連れがいた。
 雪菜の第六感が味方の存在を察知し、彼女は時間稼ぎをしていたのである。

「私は氷咲・雪菜です。他の猟兵も、この地に駆け付けて戦っているようですね。
 みなさん、あなたたちを助けるために来ています」
 雪菜が拱手して説明する。
 明るく、友好的な声は先ほどまで龍を圧倒していたと思えぬほど優しくやわらかで、人のこころに安らぎを呼ぶ性質を持っていた。

 少年が拱手を返し、礼を言う。
「助かるよ、ありがとう。僕、おいらは許英。こちらは最近になって僕の弟子になった者だ」
 紹介されて老人が前に出て拱手をした。そして、老人は古びた剣を抜き、龍に向ける。

「修行の成果を見せておやり」
 少年が言えば、老人は戦意高く龍へと駆けていく。

「援護します!」
 困っている人は放ってはおけない、そんな気質を思わせるあたたかな声。発した声の主、雪菜はたおやかな仕草で片手を振る。
 すると、老人の前に雪の結晶めいたエネルギーの塊が盾として出現する。
「アイシクル・シールドです。安心して前に出てください!」
「かたじけない!」

 切り込む老人にその場で息を合わせ、サイコキャノンで援護をする。
「ヂェンバン、すごい! 素晴らしい腕前だね」
 その手並みを見て、許英は大いに関心するのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 集団戦 『昇龍鯉』

POW   :    昇龍の突撃
【滝をも登る勢いを乗せた】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【群れ】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    昇龍の はねる
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    昇龍の食慾
【吸い込むような食い付き攻撃】が命中した物品ひとつを、自身の装備する【消化管】の中に転移させる(入らないものは転移できない)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※3章の前に2章のリプレイについて訂正・お詫び。
氷咲・雪菜さんの描写で「13歳」とありますが「15歳」の間違いです。大変失礼しました。
ウィル・グラマン(サポート)
 レプリカントのバトルゲーマー×電脳魔術士です。
 普段の口調は「小生意気な少年のAI」(オレ、呼び捨て、ぜ、だぜ、じゃん、じゃねぇの? )
機嫌が良いと 「調子に乗って」(俺様、呼び捨て、ぜ、だぜ、じゃん、じゃねぇの? )、です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●ユー&アイ
 少年が呟いた。
「本物はやっぱ違うな、まず……でかい!」
 紫の瞳がきらっきらに輝いている。サポート猟兵としていきなり転移されたウィル・グラマン(電脳モンスターテイマー・f30811)だ。

 場所は、緑豊かな自然のただなか。川が流れている。人は見当たらない。しかし、討伐対象と思われる鯉は。
「うっはー、めっちゃいるじゃん」
 下流から上流へと、川を埋め尽くさんばかりに鯉が川を登っている。
 すんげー、と目を丸くして見つめていると、上流から何かが飛び立った。
「ドラゴンじゃねーか! 進化してやがる!」
 そう、なんと鯉は川を登り切るとドラゴンに進化するのだ!
(ははーん、わかったぞ)

(ドラゴンの発生を止めるために鯉を倒すんだな?)
 そーっと近づいてみる。
 ぎょろっ。鯉の眼がぎょろつく。
(あっ、目があった)
 確実に。
 そう思った瞬間、鯉に明らかな敵意が膨れ上がった。

 ばしゃっっ! ばちゃばちゃっ!
 先ほどよりも強い勢いで川から飛び出し襲い掛かる鯉。
 素早く避けるウィル。
「ひゃっ、冷てっ」
 水を頭から浴びせられて一瞬くびを竦め、ウィルは幼さをのこす柔らかな頬をむぅっと膨らませ――、
「って、ぅおおおっ?」
 素っ頓狂な声が出た。
 無理もない、なんと殺意で目をぎらっぎらにした鯉の群れが口をぱかーんと開け、空中をはねて突撃してきたのだ!
「食う気かよ!」
 自分めがけてパックリと開く鯉の口、多数。
 大きな魚の口が隙間なくびっしり開いて自分を狙っている。うぞぞぞっと背筋を駆け上る衝動があった。恐怖、嫌悪感。
 ウィルはレプリカントだ。外見は愛らしい少年だが、ボディは戦乱初期に製造され、インプットされた情報量は大したもの。
 けど、こんな映像データはないし、長くSSWを漂流したのち回収されて目覚めたAIの稼働日数は浅い――こころは、まだ少年なのだ。


 やらないとやられる!
 好戦的で危険な敵だ!

 悟ったウィルは叫んだ。
「ベア!」


 瞬間。
 地面が盛り上がる。
 ざざーっと土や砂を押しのけ、黒い鋼鉄の塊が地中から現れた。これには鯉達も驚いたのか、ずざざざっと川まで退いている。
 黒い鋼鉄の塊――膝を付き、蹲るような姿勢で出現したベアキャットは、少年を乗せてゆっくりと立ち上がる。体高は5m。艶めくメタリックボディ、逆三角形の上半身オーバーリアクター・フレーム。中心では居住可能惑星をモチーフにしたような玉が存在感を放つ。腕と脚があり、手足がある。猫に似た頭の人型ロボット兵器――スーパーロボットだ!

「ベア、前進!」
 ウィルが強気に命令する。頭を使うのはウィル、力仕事はベアキャット。頼れる相棒と一緒なら怖いものなしだ。ベアキャットは前進した。近くの木から鳥が一斉に飛び立つのを背に、ざぶり。波のような水飛沫を起こし川地へ入り、上流側に布陣。


 ここから先へは行かせない!
 そんなオーラが溢れる仁王立ち!

 鯉達は一瞬の沈黙の後、一斉にベアキャットに突撃した。
 滝をも登る勢い――猛突進!

 だが、先ほどと違ってウィルが気圧されることは、ない!

「オレのベアキャットが負けるかよ!」
 お前の力を見せてやれ!
 少年の声に応え、ベアキャットがふんばり突進に耐える。鯉達はぽーんぽーんと跳ね返され、少しずつ動きが鈍っていく。
「ベア、いいぞ!」
 反撃の時だ!
 ウィルは意気揚々と指示を出した。

 肩部の球体関節が駆動し、両アームが内側に曲がって胸元で力を溜めるようにクロス。
 そして、グワッと外に向かってアームが開き捌かれる。
 バッ、バシバシッ、ザバアッ!
 痛快かつ爽涼な打音水音、
 鯉達が跳ねのけられて四方八方、飛んでいく!
「ヒャッホー!!」
 次いで残りをハエを払うようにベシベシと打ち払い。
「くぅ~! ベア、もっと派手に暴れろ!」

 ベアキャットが鯉を薙ぎ払い一掃するさまは爽快そのもの。すっかり気持ちよくなったウィルは「にひひ」と笑む。
「これが俺様達のチカラだぜ!」
 仕上げはこれだ、さらに俺様のすげぇ技を見せてやる!
 ウィルはコードを綴る。『サイバー・インストレーション』。コンピュータゲーム内のアイテムを召喚する技だ。
「変形可能! オブリビオンにしか効かねえ分、効果絶大だ!」


 掴め! できる!
 少年はひたむきに信じた。


 ベアキャットの弱点は、動作が単調という点だと言われている。だがこの時ベアキャットは少年の期待に応えて腕を伸ばし、掴む動作を見せた。
 現れたのは、巨大なフォースソード。
「いけるぞ! いっけえええええ!!」
 ベアキャットが剣をふり、近中距離の鯉が叩き斬られ、
 剣が弓に変形し、弓矢の雨が中遠距離に降り注ぎ、
「上流に行った奴やドラゴンになりたての敵も倒す! あっちに逃げた奴も! こっちの奴もだ!」
 弓が二丁のビームライフルに変形し、くるくる回りながら両手から光線が乱れ飛ぶ。

 やがて、戦場は静かになった。




「ふぃー、片付いたぜ……おっと」
 ベアキャットから降りようとしたウィルはつるっと足を滑らせ、転がり落ちそうになり。
 ぽふっ。
 ロボットアームで抱き留められた。


「ベア、サンキュ」
 少年は相棒の大きな指に頬を寄せて満面の笑みを浮かべた。ベアキャットは膝を畳みしゃがむ姿勢になり、手をしずしずと地上におろし頭を垂れるようにした。
「お前やっぱ、最高の相棒だぜ!」
 水飛沫がたくさんかかって、ベアキャットの頭からもぽたぽたと滴っている。ウィルはくすっと面白がるように囁いた。
「まるで汗搔いてるみてえ!」
 ――頑張ったもんな!


 木々に飛び戻ってきた鳥たちが楽し気な囀りを交わし始める。
 どんなお喋りしてんだろな。
 思いながら、ウィルは精一杯腕を伸ばしてきらきら煌めくベアの水滴を優しく拭ってあげたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

真城・美衣子(サポート)
☆サポート&おまかせ専門
何を考えているかよくわからない猫っぽい少女

喋るペンダント『マキさん』

・UDCアース人や猟兵としての一般常識はある
・鋭い感覚、高い運動能力、強靭な肉体で頑張る
・ぼんやりしているけど動きは早い
・無表情で説明もないまま行動するので、奇行に見える事も多いが、本人は一生懸命

・マキさんは主に解説・交渉などの会話を担当
・PLが直接操作しない方針なので挙動はご自由に!

☆セリフ例
「にゃ」
『みーこさんは「こんにちは」と言っています』

「……すんすん」
『みーこさんはニオイを確認しているようです』

『お時間よろしいでしょうか、事件についてお話を……』
「にゃ」
『みーこさん、今は喋らないでください』



●仙郷ネコ歩き
 太陽を背に鯉がぴちぴち跳ねている。

「にゃ」
 鳴き声――に似た、少女の声がした。
『みーこさんは鯉に見惚れています』
 滑らかな機械音声が解説する。

 みーこさんと呼ばれたのは、真城・美衣子(まっしろみーこ・f12199)。
 解説の機械音声はマジカル電子頭脳『マキさん』。美衣子がつけているペンダントだ。
 煌めくペンダントの緑宝石がきらきらしながら、声を発する。
『説明しましょう』
 マキさんは淀みなくすらすらと事情を説明してくれた。
 説明によると、美衣子は狂気の天才UDC科学者・真城博士が生み出したサイボーグ。
 元々は重体の娘を治療するための研究だったのだが、色々あって飼い猫が混入したサイボーグになってしまったのだ。博士の心境やいかに。

 美衣子の宝石みたいなぱっちりとした大きな目がじーっと鯉を見つめている。その中身は半分ネコチャンだ。無垢そのものでとても可愛い。少女猫は、呟いた。
「にゃ」
『みーこさんは「大きい」と言っています』
 そう、鯉は、とても大きかった。

 ぱしゃっ、
 鯉がはねる。
 目が追い、首が動く。
 すいすい、
 鯉が水に潜る。
 目が追い、首が動く。

 美衣子が鯉の動きを注視する様子は、まさに猫。ゆらゆらヒップで揺れるのは、長い猫しっぽ。頭には、ねこみみリボンが揺れている。
「にゃ!」
『みーこさんはやる気が起きたようです』
 優しい解説を背景に美衣子がしゅばっとねこぱんちを繰り出した。
『みーこさんの手はねこねこハンド。博士いわく「娘が痴漢に襲われても撃退できるように」と』
 博士の親心である。
 ひらり、スカートの裾が翻る。ちらり、露わになる陽光と水飛沫を浴びる絶対領域。ばしゃあっ、鯉が1体ぱんちにやられて目を回す。
『みーこさん、さっそく1体捕まえたようですね』
 鯉は溢れるほどいる。にゃっ、にゃっ。美衣子は夢中でねこぱんちを繰り出した。
『左ぱんち。右ぱんち。今度は逃げられてしまいました』
 マキさんの優しくおっとりとした解説が流れる中、穏やかに時間が流れ――、
 さらさらと川の水が流れ、
 青空に白い雲が流れていく。
 川辺で緑の草が揺れ、
 蝶々がひらひら、ふわり。


「に゛ゃっ!?」
 悲鳴と激しい水音が響く。


『みーこさん、危険です』
 鯉達が「やられてばかりじゃないぞ」と怒りの突撃を始めたのだ!
 美衣子がただの可愛い女の子ではないのと同じく、大きな鯉達もまたただのお魚さんではない。
『そうだったのですか』
 そう、鯉はオブリビオンだった。群れでの突撃は普通の人間であればなすすべく蹂躙され、ひとたまりもない――、

「にゃーーっ」
 尻尾の毛を逆立てて美衣子が後ろにぴゃっと跳んだ。
 子猫のような大ジャンプ!
 同時に発動したユーベルコードが何かを召喚した。

『にゃ』
『にゃにゃ?』
『にゃおにゃお』
『ふな~』
『にゃん!』
『ごろごろ』
『にゃーご』
『みゅう~』
『みぃ』
『みゅう~』
『……にゃ』
 現れる大量の猫、猫、猫!
 マキさんが冷静に解説してくれる。
『みーこさんのユーベルコード「ねこねこネコまねき」は、猫を召喚できるんです』
 しかもこの猫さんたち、ただの猫ではない。鯉に対抗できる超大猫だ。
 それが、なんと104匹! 104匹ネコチャン大行進である。
「にゃ」
 後ろに飛んで鯉の突撃を避けた美衣子本人は、草むらにぺたんと座り込んでいる。そして、その周りには数匹の超大猫が集まってにゃあにゃあ言っている。美衣子は動物の言葉が理解できる。そのため、何を言っているのかがわかった。
『にゃ!』「ぼくがまもるにゃあ」
『みゅう~』「よしよし、怖かったにゃ?」
『みゅう~』「もうだいじょうぶにゃあ」
 まるで大猫一家の末の妹猫を守る兄姉猫たちのようである。

『にゃ』
 一方、川辺では鯉を狙う大猫が何か訴えている。
 曰く。
「地の利があっち(鯉)にあるにゃ」
 ……と、言うのである。
 見ればなるほど。
『フーッ』「まてコルァ~」
 すいすいと水に潜り。
『カカカカカッ』「狙う、狙う、狙うッ」
 ぱじゃっと跳ね。
『あにゃぁ~~!』「逃げられたぁ~!」
 猫達のぱんちを搔い潜る鯉達の姿。

 マキさんがアドバイスをした。
『みーこさん、猫精霊の助けを借りましょう』
「にゃ」
 こくり、美衣子が頷いた。
「にゃーっ」
 ねこみみリボンをゆらゆら、ふりふり、発動するは猫遁の術。
 にゃー、にゃーと愛らしい鳴き声がまた空間を賑やかにする。
『みゃ』「呼ばれたにゃ」
『にゃー』「来たにゃよー」
 ぽこぽこと現れる大量の猫精霊。
『猫精霊は、とても珍しい精霊です。自然現象をアレしてコレできるんですよ』
 マキさんの解説がざっくりしている。召喚された猫精霊達は仮装大会みたいに水を纏った子たちや風のドレスを着た子たちがおててつないでお遊戯はじめ。
 ひゅう、ざぶーん。
 風と水が渦巻いて、川の水が中心を空洞にした大きな球体のようになり、鯉たちを閉じ込める檻の形になり、最終的にカチーンと凍った。檻に閉じ込められた鯉達。味方の猫のために、檻の入り口が開かれる……!

『『にゃっ♪』』「「いまだー!」」
 囚われの鯉達に猫の群れが突進! 逃げ場なく追い詰められた鯉達がやられていく!
 そんな中、美衣子は両の腕をまっすぐ伸ばして猫に蹂躙されている最中の鯉の群れに向けた。

『みーこさん、あれを使おうというのですか』

 マキさんの問いかけに美衣子が頷く。
 無表情なその瞳がちょっぴり楽しそうな感情をたたえているのが、付き合いの長いマキさんにはわかった。
 ふおんっ。
 美衣子の掌に内蔵ブラスターねこねこキャノンの発射口が現れる。
『みーこさんは身体のどこからでもキャノンを発射できます。博士の趣味です』
 博士はいい趣味をしているようだった。
 マキさんが解説する中、美衣子の両の手のひらから光線がビーーッと放たれた。


       ビーッ!
     「にゃーーーっ!?」
      びびびびび。


 おや? 鯉達の様子が……?
『世界猫化光線(シェイプ・プスシフター)。「世界を猫まみれにする」と同時に「世界を猫にする」禁断の技です』
 にゃあ、
 にゃあにゃあ?
 みゃーっ、
 みゅう、みゅう、
 なんと、鯉達が猫になってしまった!
 鯉達が次々に猫になり、104匹超大猫さんたちと猫精霊さんたちと鯉猫さんたちが増えて殖えてじゃれあって、もふもふにゃあにゃあごろごろ。


 ――そうして……、


 ……すべてが猫になる。


『猫まみれです。もはや、猫しかいませんね』
 マキさんの穏やかなアナウンスとともに、冒険の記録が終わるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニノン・トラゲット(サポート)
『容赦なんてしませんから!』
『アレ、試してみちゃいますね!』
未知とロマンとお祭りごとを愛してやまない、アルダワ魔法学園のいち学生です。
学生かつ魔法使いではありますが、どちらかと言えば猪突猛進でちょっと脳筋っぽいタイプ、「まとめてぶっ飛ばせばなんとかなります!」の心で広範囲への攻撃魔法を好んでぶっ放します。
一人称はひらがな表記の「わたし」、口調は誰に対しても「です、ます、ですよね?」といった感じのあまり堅苦しくない丁寧語です。
基本的にはいつも前向きで、ネガティブなことやセンチメンタルっぽいことはあまり口にしません。
その他の部分はマスターさんにお任せします!



●学生時代
 精霊時計が任務の刻を告げる。
 転移先はあたたかな土地だった。
 濃緑の草色や木の色が日差しに照らし出され、絵画めく佳景。
 抜けるような青空。
 こんもりとした緑の天蓋冠する木々が寄りそい立ち並び、花々が香り豊かに咲いている。鳥の囀りと川のせせらぎがこころ和ませ、ふと耳を欹てれば遠くから猫の鳴き声が聞こえる。

 猫髭がそよそよとする。
 忍び足をしながら少女は心に思う――アガっちゃいますね、と。
「ここが戦場ですね」
 少女の名はニノン・トラゲット(ケットシーの精霊術士・f02473)。片方の手を顎にあて、ちょこんと覗く小さな爪先で自らの白い毛を擦っている。向かい風が水を含んだ自然の芳香と魚の臭いを届ければ、ニノンは頷いた。
(敵ですね)
 円かなグリーン・アイが見つめる先に、大きな鯉の群れがいる。ニノンは肉球をぽふんと打ち鳴らし、虚空に向かってちいさく囁いた。
「先手を取り、まとめてぶっ飛ばせばなんとかなるのでは」
 至極真面目な声である。ニノンちゃんは、若干脳筋であった。
 直後、ニノンの手に白花植物の蔦巻く金色十字の杖が現れた。精霊術士の声に精霊――エレメンタルロッドが応えたのだ。
「では早速」
 杖を掲げようとしたニノン。そこに声がかけられた。


「坊や、危ないぞい」


「はいっ?」
 ニノンは振り返った。
 少し離れた茂みから一人の老人が姿を現している。いかにも激戦の後を思わせる佇まい。小柄なニノンと目線はそれほど変わらず、くたびれた目をしている。
(そういえば、英傑を守る任務でした)
「わたしは他の猟兵さんと同じく、仙人さんを助けにきました。一緒に頑張れたらなって思います」
 作法は心得たもの。ニノンは丁寧に拱手をした。拱手を返しつつ、老人は気づいて謝った。
「お嬢ちゃんじゃったな、それも腕の立つ術士のようじゃ。すまんの。わしは老いて耄碌し、目が曇っておるようじゃ」
「いえ。よく間違われるんです」
 たぶん年齢も本来より年下に思われている、そんな予想を胸にしまいニノンは老人にあたたかな声を送った。
「ドラゴンと戦ったんですね。あなたが英傑だと、評判をきいています。評判に違わない方だとわたしは思います」

 ――あなたはまだまだ現役で、がんばれます。
 ――あなたの心が折れない限り。

 微笑み、ニノンはふにふにした肉球できゅっと杖を握って精霊術を行使する。幸い敵には未だ悟られていない。

 先手取る術士の眼には精霊が舞う世界が視える。
 ニノンは集中を高めて大自然を指揮するように杖を動かした。
 行使する術は『エレメンタル・ファンタジア』。
 制御が難しい術だ。


   杖をくるりと回す。
        風精霊が心弾ませ、頷いた。
   杖を平らかに静止した。
        水精霊がやさしき心にほほ笑んだ。
   杖を垂直にして高く掲げる。
        光精霊が勇気を讃えて杖先に燈る。
   杖先に光が集まる。
        風が渦巻き、水が流れを変え。


 異常に気付いた鯉がざわめき、数体が術士の存在に気づいて突進し始めた。
 けれど、ニノンの胸に恐れはない。
「お嬢ちゃん!」
 老人が心配そうに叫び、ニノンの前に立って鯉を足止めしようと剣を構える。術士の詠唱の隙をわしが守る、と。
 だが、接敵よりも術の完成のほうが、速い!
 ニノンは詠唱を一瞬のうちに終えていた。いざという局面でモノを言うのは、日頃からの鍛錬だ。ニノンのショルダーバッグには教本の重みが感じられる。基礎をしっかり学んだ証拠の重みである。

 努力は、嘘をつきません――そんな毅然とした眼差しが前を見つめる。
「大丈夫です……!」
 応え――直後、川を中心に青白い光が膨れ上がる。

「こ、これはッ!?」
 邪気を祓う鮮烈な光――破魔属性!
 驚愕の声を背景に膨れ上がる光。
 周囲では水が渦巻き周囲の敵を光の内に引き込んでいく。
 宙を蹴り空へ逃れる敵は、豪風の渦がひっつかまえて同様に光の中に押し込んだ。

「エレメンタル・ファンタジアです」
 仕上げとばかりにニノンがえいっと杖を振り下ろす。
 光が内側から弾けて、悲鳴もないまま鯉が骸の海へと還されていく。
「なんという神秘の術よ……!!」
 感嘆する老人。微笑みかけ、ニノンはハッと声をあげた。野生の勘が警鐘を鳴らしている。
「おじいさん、退いてくださいっ!」
 言いながら地を蹴り、体当たりめいて老人を押し倒す。痩せた老人は押されるがままにニノンもろともに倒れこんだ。
 ――ビュンッ!
 倒れこんだ2人の頭上をボロボロの鯉が一体、弾丸のように通過する。痛撃を喰らってなお、生き延びた敵がいたのだ。
 回避が間に合ってよかった――安堵しながらニノンは上体を起こし、ふわふわの指の先を鯉の生き残りに向けた。

 カッ、
 天から一条、光が下る。

 光の筋は稲光めいて苛烈に辺りを照らし染め、ひと息のうちに鯉を貫いた。
 裁きの光、ジャッジメント・クルセイド。
 その一撃がトドメとなり、鯉は地に伏して動かなくなった。

「これで、安全ですね」
「助かったぞい、お嬢ちゃん。勇気があるのじゃな」
 老人を助け起こし、ニノンはしっぽの先をゆらゆらと揺らした。鈴振りのソプラノボイスには優しさが溢れている。
「おじいさんも、さきほどわたしを守ろうとしてくれました。お互い様です」
 飾らない素直な声に老人は嬉しそうに破顔した。
 老人に怪我がないことを確認したニノンはほっと安堵の息を吐く。
「無事で、よかったです」



 明るい声音が瑞々しい水気を含む風に乗る。
 精霊術士の眼には、精霊たちがいつものように風となり川の流れとなる様子が映っていた。

 精霊時計が帰還の刻を告げる。
 ニノンは呟いた。帰ったら明日の予習をしないと、と。

 ――明日には、アルダワ魔法学園学生としての一日が待っているのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

中村・裕美(サポート)
副人格・シルヴァーナ
『貴方はどんな血を流すのかしら』
多重人格者の殺人鬼× 竜騎士
外見 赤の瞳 白の髪
特徴 長髪 のんびり 社交的 惨殺ナイフを愛用 実は胸が大きい
口調 (わたくし、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)

裕美のもう一つの人格で社交性と近接戦闘特化。お嬢様口調だけどアグレッシブ
戦闘では【残像】が残るような優雅ステップで敵に近づき、惨殺ナイフによる【切断】。ちょっぴり猟奇的かもしれないが、そこはご愛嬌
槍を使うことがあれば、相手を【串刺し】にします
その他使えそうな技能があれば適宜使用する感じで
【瞬きの殺人鬼】使用後の昏睡状態はもう一つの人格に切り替えカバー

あと、虫が苦手



●青い空の下で、いつか
 敵が群れを成して突進している。

 長い髪を自由に風にたなびかせ、少女が瞳を瞑る。
 出番よ、と呼ばれる。
 色が抜け落ちるように黒から白へ、色が変わる。
 ……人格が入れ替わる。


 ――出番よ、
 ――もう一人の私。


 突進する敵の気配が近づく。
 嘗て塊麗と評した者がいたのも宜なるかな、つま先が土を蹴り、染まらぬ白の長い髪をふわりとさせて一息に静かに命を刈り取る姿は研ぎ澄まされた刃の切っ先のように美しい。
 血溜まりに沈む敵に一瞥の価値もないとばかりに瞳は閉じたまま。動かないならもうこの玩具には興味を失った、そんな風に次を斬る。獲物は沢山溢れている。血塗られたナイフに斬られるため列を成し、待てぬとばかりに飛び出して一斉に凶器に身を晒す。
 その身命を以って教えてくれるのだ、
 少女がどれほど巧みに急所を突くか。
 どれほど容易く傷を抉るか。
 吸いつくようにナイフが奔り、
 瞬きもままならず観客が目を奪われる。

     うさぎ、うさぎ。
     弧を描き、紅血を跳ねさせ。
     何見て刎ねる、何視て跳ねる、
     宙に血潮を遊ばせて。

「あら、どちらへ? わたくしに立ち向かうのではありませんの?」

 追いかける。追いついた。
 狩る者と狩られる者、無慈悲な狩猟。
 音も無く奔る白閃、紅の尾を引いて。
 切っ先が夜を支配し狂気を誘う高嶺の華月めいて、
 アハハハハ!
 優雅に、淑やかに、無邪気に、愉しそうに殺戮円舞曲を舞うお嬢様。
 血塗れの鱗が紅玉(ルビー)みたいに転がって、
 抉られた腹からは隠れたがり屋のわたが零れて日の目を初拝み。
 血塵はさながら淑女を引き立てるアクセサリーだった。


 さあ、もういちどお並びなさい。


 ――貴方の血の色をお友達と比べて差し上げる。
 そんな切裂姫の惨殺劇。
 ……目の前で上演されているのは、そんな演目だ。

「アイヤ。すごいね」
 仙が気圧されたように後ずさる。その見た目は成人前の少年めいていた。
「先程までと別人のようだ」
 仙が思い出しているのは、敵を倒すために駆け付けた猟兵『中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)』。

 裕美は紫に艶めく漆黒の髪で、ぐるぐる瓶底分厚眼鏡をしていた。
 まずその見た目が変わった。
 髪は白くなったし、眼鏡は外されたのだ。
 それだけじゃない。
 裕美はそれだけじゃないんだ。
「……世の中のリア充が……爆発すればいいのに」
 と、そんなクリスマスに同志達と一緒に爆破イベントに参加してそうな、全世界の同志が「YES」と拳を握って涙するような事を言ったり、「……」と無言になりながら胸の奥では色々鬱憤を溜めてたりネガティブをこじらせて攻撃性を高めていたり、そんなオーラがビンビン出てる女の子だったんだ。

 それが、「貴方はどんな血を流すのかしら」「わたくし達に立ち塞がる者は、すべて切り裂いて差し上げますわ!」なんてお嬢様風に綺麗に笑みながらザックザックシュパシュパと敵を惨殺している猟奇的少女になってしまったんだ!
 多重人格者って、すごい。
 変貌前にすこーしだけ自己紹介されていた仙はそう思った。

「これが、闇裕美さんか」
「その呼び方は一般に知られていますの?」
 目をカッと開いた白い「闇裕美さん」こと別人格「シルヴァーナ」は、ハイライトがない深紅の瞳(実は目の色も変わっている。すごいね!)でジト目がちに仙を見た。

「裕美さんが言ってたんだよ、おいら……僕は聞いたんだ」
 仙は後退りながら、シルヴァーナの周りを指さした。
「その鯉、食材にもらってもいいかい。料理すると美味しいんだ」

 指差された先、シルヴァーナの周りにあるものは、ざっくりぱっくりと素人目にも鮮やかな惨斬の傷痕を見せて転がる巨大な鯉の死骸、大量。そう、人呼んで『瞬きの殺人鬼』『切裂姫』『実は意外と大きい』『竜性破滅……』と、色々な通称を持ったり持たなかったりする(曖昧!)中村裕美シルヴァーナちゃんは鯉の群れをスパスパ斬ってくれていたわけです。
「かまいませんわ。好きになさって」
 淑やかに頷き、楚々とした仕草でナイフの血糊を拭い、シルヴァーナは食材を提供した。惨殺ナイフ『principessa di tagliatore』を収め、手を清めてからふとお土産のマカダミアナッツチョコをつまんでみたりして。

「さて、お仕事は完了かしら」
 呟いた。

 見上げた空は目が眩むような快晴の青。
 確認するように視線を向ければ、いそいそと鯉を集めていた仙が振り返って人懐こい笑顔でサムズアップした。
「もう大丈夫ですよ」
 さっきはタメ口でしたわよ。
 思いながら、シルヴァーナは優雅に拱手をした。
 仙が拱手を返してくる。
「不要紧(プゥヤオヂン)。大丈夫」
 ああ、でも。と仙はきょろきょろと周囲を見渡す仕草をした。そして、芝居がかった口ぶりで怯えるふりをして上目遣い。
「また襲ってくるかもしれないね。姐姐、おいら怖いなあ。帰らないでずっと力を貸してくれないかい。鯉料理を振る舞うから、さ」
(甘えられているような……)
「わざとらしいですわね。貴方の方が年上なのでしょうに。それにあいにく、もう帰る時間ですわ」
 言えば、素直な返事が返ってくる。「うん」と。
「残念だ。料理を一緒に食べる仲間は多いほうが楽しいのだけれど」
 仙はそう言って笑った。
「ありがとう。助かった」

 眠るように目を閉じて、紅が金に変わり白が黒に戻る。
 人格が交代したのだ。
 裕美は眼鏡をかけて、うっそりと頭を下げた。

「さよなら」
「……さよなら……」
 眼鏡の奥で、俯きがちな内向的な目がちらりと少年を見た。目の奥に揺れる何かに裕美は思った。爆破がいらない人。中華という言葉があるけれど、この人は華の外なのね。そう思って尋ねた。
「漢語は……苦手……?」
 世界の加護で、猟兵はその世界の民とのコミュニケーションがスムーズにできる。相手が現地のどんな民族の言葉で話していても、こちらがどこの世界の言葉で話していても、お互い通じるのだ。
「うん」
「……そう」



 再会の約束は、しなかった。

 少年と少女はひととき奇縁にて邂逅し、そして別れたのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

赤星・緋色(サポート)
なんやかんやで事件を解決に導こうとします
フリーダムかつアグレッシブなアドリブも可

合わせ等も自由にどうぞ



●紅葉を眺めながら滝行!? ではなかった。
 滝行は私に任せろー、ばりばりー!
 と、呼ばれて駆け付けた赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)。

 到着した彼に頼み事をしたのは、現地民のお爺ちゃんだった。(緋色は彼なのである)。
「師匠が鯉料理に失敗してしもうて落ち込んで居るようじゃ」
 見れば、鯉が川を遡っている。仙郷、桃源郷の神水川は清らかで、泳ぐ鯉はさぞ美味しいだろう。元々あの鯉を退治するのが、緋色に任された仕事であったのだが。

「よーし、退治して調理だね!」
 こんな仕事も慣れているよ、と緋色は快く引き受ける。マグロの次にカツオだったり、車エビだったり、秋はなんといってもさつまいも。世の中にはいろいろな仕事がお約束みたいに巡っている。そんな食仕事歴――かどうかはさておき、緋色はガジェットショータイムで出した道具を川辺に並べていった。

「へいへーい。今回ご紹介する商品は魔道蒸気で駆動するコンロに中華鍋、おたま! そして巨大サイズの料理道具一式だよ」
「これは素晴らしい宝貝じゃな」
「宝貝に似てるけどちょっと違うかな?」
 赤星・緋色は明るく奔放めいた言動の裏での理知的で怜悧な行動指針立て、決断と実行の速さに特徴がある。
 そして何と言っても、料理が巧みという大変貴重な人材だったのである。食べるのが趣味な猟兵と並ぶ、食材系敵相手のサポート救世主、といったところ。

「死んでからだと臭みが出るから、生きたまま手早くがいいね!」
 緋色が闘牛士ならぬ闘魚士として投げたのは水に濡れた大きな白い布巾。ばさりと目が覆われれば鯉は明らかに動きが鈍り、ほとんど動かなくなって失速した。
 布に覆われた眉間を巨大な中華包丁で叩く。
 叩く端から鯉がぐったりとなった。失神させたのだ。
 落ちた先には、事前に敷いた巨大なまな板が待っていた。
 尾から頭に向けて包丁の刃が滑り、シャシャッと鱗とえらを削ぐ。魚には新皮質がないんだっけ、と思いながら。生物が痛みを感じる受容体は新皮質にあると言われているのだ。頭まで行って喉元から刃を入れ、今度は尾に向かい切り込む。
 そして、苦玉を潰さない様に気を付けつつ内臓を取り出した。
「仙人さんが使ったりするかな?」
 思い付き、緋色は取り出した苦玉を集めておいた。肝気は目に通ず、肝和すれば、目よく五色を弁ず。毒性物質を持つ胆嚢は危険だが、健胃効果がある漢方薬にもなるからだ。

 その後は腹の両面に深く大きく切り込みを入れ、ねぎやショウガ、大蒜、調味料で下味をつけてから水で溶いた片栗粉を纏わせる。
「よいしょっ、えーい」
「ふうむ。こうかの」
 ばしゃ、ばしゃ。料理慣れしているとはいえども、巨大な鯉を捌いて片栗粉プールに両面を浸す作業は困難だ。なんと言っても、シンプルに鯉が重い。これにはお爺ちゃんも一緒になって協力してくれた。2人がかりで尾を持って頭から入れ中華鍋に向ける。まるでほんとうの祖父と孫のようで微笑ましい料理風景である。

 用意した巨大鍋でたっぷりの油が熱せられている。
 じゃぼん、入水。
 じゅわわわわ。
 見る見るうちに揚げられて、黄色い衣をまとった鯉の出来上がり。
「野菜も添えようね」
 用意してきたから。と、緋色はてきぱきと彩り豊かな複数の野菜を細切りにする。椎茸、筍、人参、ピーマン、玉ねぎ。火の通りが悪い順に鍋に入れて揚げ。
トマトケチャップを火にかけた中華鍋に入れ、次いで黒酢に醤油、砂糖を追加。鶏ガラスープの素と水を足して調味液を作り、おたまで混ぜながら煮て酢の酸味をとばす。
 パリッと揚がった鯉に野菜を加えて盛り、たれをたっぷりとろとろかけてやれば、紅玉を溶かしたたれに艶めくシャチホコみたいな綺麗な一品の出来上がり。

 陽光に輝くような艶を見せるタレを掬い、箸で一口サイズに断ち口に運ぶ。さくさく、すとんの箸触り。ほわりと湯気があがり、香りが感じられて喉が鳴る。
 さくりっ。
 歯ざわりをまず感じて、同時に熱さが舌を泳がせた。泳ぐ舌に程よいとろみが絡む。郷愁を誘うような甘酸っぱさ。あたたかく、体に良さそうな味。良い物を口に入れている、そんな感覚。
 されど、本番はこれから。
 いざ、と噛み挑めば、泳ぐうちに半分脱げかけていた衣の内はふんわりとした中の肉。確かめるようにひと噛みすればコリコリつるり。染まるがままに私を染めてと言わんばかりの楚々としたあっさり風味にタレが絡んでとろとろのプリプリ。柔らかい。気づけばもう噛みきり呑み込んでいて、いそいそともうひとくち。気づく。ああ、皮がコリコリなんだ、と。尾の身に手を出してみれば、いっそう歯ごたえがあって楽しい。夢中で箸を進めていると、やがて体があたたまり、タレのまろやかさと甘やかさがより一層嬉しくなってくる。野菜も。野菜も食べてみよう――、

「じゃ、次々いくよ!」
 鯉は沢山いる。緋色は順に退治し、調理した。川の水が跳ね、風が光る水滴を孕みきらきら光って見える。青空で軽やかに雲が遊び、緋色の瞳と同じ色の髪が甘やかな果実のように彩を添えた。水に移る赤色がひときわ輝いて見えて、緋色はバーチャルキャラクターのデザイナーに感謝した。赤い色にしてくれて、ありがとう、と――好きな色なのだ。

「おお。これは美味。師が喜ぶわい」
 お爺ちゃんは喜び、緋色に感謝した。いいよ、お師匠さんにご馳走するなら焼き芋もいいかもね、と笑みを返した緋色は、ふと思いついた。
「せっかくだから、任務に参加した猟兵さんや友達の中に食べたいってひとがいたらお土産にお裾分けしよう」
 なにせ食材は大きくて、大量にあるのだから……と。
「お約束のやつだね。『残った鯉料理は、猟兵がおいしくいただきました』って」
 それに気づいた緋色は、苦笑いを浮かべるのであった。

 ――英傑を助ける依頼だっけ。
 幼さがまだまだ残るあどけない顔立ちがお爺ちゃんを視る。なかなか苦労してそうなお爺ちゃんだ、と思った。
 たくさん物語を読んだせいか、少しだけその行先に思いを巡らせて。
「私はハッピーエンドが大好きなんだよ」
 緋色は別れ際、そんな風に明るく笑って拱手をした。

成功 🔵​🔵​🔴​

春霞・遙(サポート)
UDC組織に所属して、UDC関連の一般病院に勤務している小児科医です。
行動の基本方針は困っている人が居るなら助けたい、人に害をなす存在があるなら退けたい。
戦う力はあまりないですけど、自分が傷を負うとしてもみなさんのお手伝いができれば嬉しいです。

基本的に補助に徹します。
「医術」「援護射撃」「情報収集」から、【仕掛け折り紙】【葬送花】での目くらましや演出、【生まれながらの光】【悪霊祓いのまじない】で照明や目印を付けるなども行えるかと思います。
攻撃は拳銃による射撃か杖術が基本で、その他はUCを使用します。
【悔恨の射手】【未来へ捧ぐ無償の愛】は基本的に使用しません。

シリアス以外ならいたずら好きの面も。



●この空を飛べたら
 Es rüttelt sich der Blütenbaum,
 es säuselt wie im Traum:
 Schlafe, schlafe, schlaf du, meine Kindelein.




 颶風に乗り、上質な和紙の符がひゅるりと飛ぶ。

 駆けつけた仙郷では、現地の民がたくさんの巨大な鯉を捌こうとしている最中だったのだ。
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)が放った導眠符は、一体また一体と鯉を眠りに導いていく。
 つづいて遙はポケットから折り紙作品を取り出し、ユーベルコードで複製した。
 可愛らしい赤と緑のチューリップ。
 明るい黄色の菜の花。
 シンプルに見えて味わい深い葉っぱ。
 ドット模様のてんとう虫。
 カエルにおさかな、
 手裏剣に紙飛行機、
 鶴に兜。
 97個もの作品がずらり、並んで飛翔する。

 ひらひらと風に飛ぶ薄く弱い刃は、不思議な力で強化され、驚くほど造作なく鯉をスパスパ切り裂いていった。
元々符術士の家系に生まれた遙は、猟兵になる前から符と呪言で弱いUDCの退治などをしていたのだ。猟兵になった後、術はユーベルコードとなり、より強く威力を発揮するようになったのである。
(危険はもうないかな?)
 触手の出番はなかった。
 居候触手は、たまに思い通りに動かず手を焼くことはあるものの、意思疎通もふわっとできているようで。戦術の幅が広がるし、触手なりに遙を守護してくれていると感じる時もある。餌をあげているから、というのもあるからかもしれない。懐いているようでそうでもない気まぐれな同居猫のようなもの。

「助かるわい」
「怪我の手当もしましょう」

 白衣のポケットを探る。ペンライト、付箋、アル綿……、遙は居合わせたお爺さんの状態を診て、消毒液と絆創膏、白い包帯と鋏を取り出した。ユーベルコードの治療が必要なほどの傷はない。遙を含め、現地で戦った猟兵達の戦果だ。
「擦り傷は、消毒して絆創膏を貼りますね」
「医術の達人でもあらせられる。春霞先生はまるでかの扁鵲先生や華佗先生にかかっているような気分じゃ」
「そ、そこまで言われますと」
「しかも謙虚でいらっしゃる、はは」
 遙は老人の怪我を手当してから白衣を靡かせて草むらに近づき、青空を背にしゃがみこんで目線を低くした。

 そこにいるのが、わかったから。

「痛いところはない?」
 微笑み、手を差し伸べる。緑色の葉っぱの影からひょこんと顔を出したのは、3歳か4歳くらいのちいさな子供だった。青白い顔色。長く伸びた爪。
 子供は首をかしげて――右下を見て、何かに気を惹かれた様子を見せた。視線を追って、ああと気づく。白衣のポケットから折り紙の鶴が顔を覗かせていたのだ。
「とり」
 長い袖で手を隠すようにしながら、子供が折り鶴を指した。
「とんでた」
 先ほど折り紙が飛翔するところを観ていたのだろう。
「紙を折って作るんだよ。いっしょに一羽つくってみようか?」
「うん」
 仔ウサギみたいに子供が飛び出してきた。一瞬の観察。耳は丸く、目立つ外傷や異常はなかった。
「先生って言ってた」
 お爺ちゃんの言葉を聞いていたらしい。
 白衣の裾を広げ、乾いた草の上に座る。
「先生は、春霞・遙という名前だよ」
 ぎこちなく向かいに座る子供。両手に折り紙用のカラフルな紙を広げながら名前を聞けば、子供は首を振った。
 隣に咲く白い花がいっしょになって揺れている。
「ぼく、名前ない」
「そうなの? お爺ちゃんは、あなたをなんて呼ぶの?」
「呼ばない」
「呼ばないんだ?」
 相槌をうちながら折り紙を見守る。ちいさな手が不器用に紙を折る。色付の爪が長い。子供はちらりと遙を見て、袖を下に伸ばすような仕草を見せた。

 気にしている、そんな気配。

「綺麗な色だね、先生その色好きだなあ」
「つめ、あぶないよ」
 「ちい」がけがをしたことがある、と呟く小さな声。
「ちい、はお友達?」
「ちい、は、とり。さくらのお姉ちゃんが、自然で、転生するんだって」
 ちいは、鳥。遙は頷いた。さくらのお姉さんというのは、自分より前にこの子供と接した猟兵のことだろう。
 ぼく、この爪きらい。子供が爪を齧る。
「すこし、長くて尖りすぎかもしれないね。整えてあげようか」
「うん!」
 子供はもぞもぞと腰をあげて、遙の隣に移動した。
 はにかむように笑む唇。
 白い手をひょこ、と胸の高さにあげて、遙を待っている。
 遙はにっこりとした。
「これは、爪切りという道具なんだよ」
 遙は爪切りを取り出して自分の小指の爪先を少し切って見せた。
「遙先生がつくったの?」
「ううん」
 子供の腕を取り、やさしく爪を切る。ひんやりとした体温。
「あのね、ぱぱも、道具をつくるのがじょうず」
「ぱぱがいるんだね。ぱぱは道具をつくるんだ?」
 ぱちん、ぱちんと爪を断ち、整える。
 子供は目を輝かせ、唇を嬉しそうにぱくぱく開閉した。
「ぱぱは、あなたのことをなんて呼ぶのかな?」
「呼ばない」
「そう……?」
「先生、ありがと」
 お礼を言いながら、顔の高さで整った爪を嬉しそうに見ている。



 爪を切った後は、もう一度折り鶴を折る。
 やがて、2羽の折り鶴が完成した。
「できた」
「できたね!」

 完成した2羽の折り鶴を高く掲げて、掲げた腕を大きくゆったり動かした。
 まるで、空を飛んでいるみたいに。
 2人で一緒に、仲睦まじい番の鳥みたいに、青空を飛ばすみたいに腕を振る。
「ひゅーん、ばさばさ」
「先生、ぼくね、転生したら鳥になりたいな」
 ちいといっしょに飛ぶんだよ。
 子供はそう言って、青空を飛ぶ2羽の折り鶴を見つめていた。

「あなたは、転生する前にまだこれからいっぱい友達を作って、遊んで、……色々な事をすると思うよ」
 ね、先生とお友達になろう。
 遙はもう一度優しく手を差し伸べた。

 差し伸べた手にひんやりとした小さな手が重なる。

 見守る遙の髪はさらさらと風に揺れて、陽光に艶めいている。
 瞳は、落ち着いていて温もりを感じさせる色あいだった。
 真っ白な異国の服は、ふしぎなくらい清潔で、でもさっきまで座っていたからすこしだけ細い草とか、土がついている。
 先生、あのね。ほんとは、ほっぺたにも。ついてるよ。
「――うん!」
 子供はぶらりと手を揺らして、楽しそうに笑ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年09月20日


挿絵イラスト