アポカリプス・ランページ④〜死を纏う子供たち
●グリモアベースにて
「……いよいよ始まったね、アポカリプスヘルの行く末を左右するような大戦が」
そんな呟きと共に、イサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)は召集に応じた猟兵たちに隻眼を巡らせる。掲げた右掌の上に浮かんだ彼女の立方体型のグリモアが、緑色に明滅を繰り返しながら緩やかに回転を始める。回転が加速するに従って、明滅も激しさを増し、やがて虚空へと映し出されるのは熱風吹き荒れるこの世の地獄、その名も『死の谷』デス・バレー。常人はおろか、腕利きの奪還者とて近寄るのも恐れる程のこの場所は、かのヴォーテックス一族によってこのアポカリプスヘルを更なる地獄へと進化させるべく、悪魔のごときコンピューターウイルスの開発を日夜続ける巨大な研究施設として作り変えられていた。それもただの研究所ではない。
「もう、研究所っていうか……ここまで行くと、大要塞だよね」
堅牢な防壁で囲まれ、無数の砲台で武装したその異様はさしづめ巨大なハリネズミ。
そして、要塞の最深部に眠る禁忌の兵器。それを防衛するために配されたレイダーたちも、最精鋭と呼べるであろう恐るべき兵士たちだという事は想像に難くない。
「最奥にあるのは、とんでもなく凶悪なコンピューターウイルスなんだ。
どんだけヤバいか? スーパー戦車もコイツの前ではガラクタになるくらいかな?
ヴォーテックス一族がコレを持ち出す前にどうにかしないとね」
もちろん、これをどうにかするために此度、猟兵たちは召集されたのである。
「さて、皆にはこの研究所……要塞…… まあ、どっちでもいいか。
ここを襲撃してもらいます。わたしがちゃんと送ってあげるから安心してね」
イサナのグリモアが、新たな映像を虚空に投影する。要塞化されたデス・バレーを防衛する、恐るべき最精鋭の戦士たちのその姿を。彼らは……或いは彼女らは。いずれも、一見すればあどけない顔立ちの黒衣を纏う少年少女たちであった。されど、その四肢は機械化されて禍々しく捻じくれた凶悪なフォルムを備えている。加えて物々しい重火器の数々で武装したこの子供たちがいざ戦場へと臨めばその圧倒的な火力にて死の谷を、それどころかいずれはアポカリプスヘル全土をも蹂躙してしまうかも知れない。
「……見た目に騙されないでね。
旧型だけど戦闘経験を詰んで集団戦の連携が得意なフラスコチャイルドだ。
おまけに今回は特殊な機械鎧を着込んで、戦闘能力を更に強化してる。
それも一度着たら死ぬまで脱げないようなヤバいやつだ。もちろん性能もヤバい」
敵にとっても此処は重要拠点。防衛するにあたっての強い覚悟を感じる備えだ。
恐らくは過酷な激戦になる。そう言外に示すイサナであるが。
「でもね」
そんな言葉と共に人差し指を一本立てる。
「絶対無敵の装備なんてそんな都合のいいものはないもんね。
どうにかして、身体能力を強化する鎧のブースト機能を無力化するんだ。
そしたら、機械鎧はただの重たい枷になる。
……そのまま、あの子たちの棺桶か墓標になるんじゃないかな?」
無力化の方法は自分で色々考えてほしい。
そんな言葉で作戦概要の説明を終えたイサナは、虚空に浮かぶグリモアをちらりと仰ぐ。映像を投射していた時とは逆の方向に緩やかに回転を始めたそれは、低い唸るような音を上げる―― 猟兵たちを機械化要塞へと送り込むゲートを開こうとしているのだ。
「……準備はいいかな?
向こうに着いたらたぶん即戦闘が始まると思うよ」
毒島やすみ
おひさしぶりです。或いは初めまして。
せっかくの戦争開始の初日にうまいこと身軽になりましたので、久しぶりにシナリオを投下させていただきます。当方、ブランク明けですのでキャパシティもクオリティも保証はいたしませんが、能力の及ぶ限りがんばらせていただこうと思います。極力再送なしでサクサク進めたいので、採用数は抑えめになるかもしれませんが、よろしければどうぞお付き合いください。
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今回のプレイングボーナス……敵の機械鎧を無力化する。
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第1章 集団戦
『フラスコチャイルド再現型オブリビオン群』
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POW : Quiet noise
【静穏型ガトリング砲から発射された砲弾 】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 戦術:欺瞞情報拡散
戦闘力のない【情報収集型無人機とダミーオブリビオン 】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【偽情報の流布などを行い、市民からの援助】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ : AntieuvercodePulse【AP】
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【疑似代理神格型演算支援システム 】が出現してそれを180秒封じる。
イラスト:弐尾このむ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●You can't unscramble an egg.
「ねえα-1。ぼくたち、本当にこれで良かったのかな」
わたしの相棒は変なヤツだ。
普段潜伏する人間どもの集落で、妙なことを吹き込まれたんじゃないだろうか。
勉強熱心なのは良いが、余計なことまで覚えてくるのにはうんざりだ。
「良いも悪いもあるか。そもそもわたしたちに選べるものなんてあったか、α-3」
「けれどこれ、一度着込んだらもう死ぬまで脱げないって……」
自分とて何も思わぬ訳ではない。こんな不格好で見苦しいもの、何が鎧なものか。
それでもこれは身を守る鎧にして、忌々しい猟兵たちを葬り去るための剣だ。
もはや型落ちして久しい旧式のわたしたちの能力を底上げしてくれるのだから。
「くどいぞ。そうしろと命じられたなら、死ぬまで着ていろと言うことだろうが」
「でもこれじゃぼくたちは、もうどこにも帰れない。あの集落にも……」
それがどうした。
そう言いかけたわたしの眼前で、相棒の首が空を舞う。
「お、おい――」
何を悪ふざけしているんだ。今わたしたちは見張りをしている最中なんだ。
遊んでいる暇なんてないんだぞ。ちゃんとわかっているのか。
そう言おうとした唇がやけに重たく、まともに言葉を発することも出来ない。
機械鎧の重力も加わった事もあるのだろう、地響きがする程の重々しい物音と共に、わたしの相棒だったものは地面に倒れ伏し、それきり動かなくなった。
乾いた砂の上に噴き出した血がぶち撒けられて、それはまるでスポンジが水を吸うように消えていく。それから一拍の間を挟み、空を舞っていたあいつの首がどさりと落ちては少しだけ転がって動きを止める。表情は相変わらず、わたしに反論しようとしたあの時のそのままで。あいつはちっともふざけてなんかいない。いなかった。
「あ――…… あ゛…… あ゛あ゛……!」
本能が衝動のままに叫べと訴える。恐怖と驚きと困惑、それらがないまぜになった喉を裂かんばかりの絶叫を吐き出すよりも前に、わたしの身体は不意に襲ってきた衝撃によって吹き飛び、それきり意識は暗転する――――。
尖晶・十紀
とうとう始まったね…大事な初戦、気合い入れて行こう。にしても同族…やりづらいな。容赦するつもりはないけど。
初手でUC、死角から鎧を砕くように一部を、わずかな塗装でも鉄屑の一片でも構わない。剥ぎ取り食らいブースターの核のみを溶かす毒を生成
焼却し気化させ周囲に散布し地形を利用した毒使いの無差別攻撃
鎧が無力化し動きの止まった個体から倒す
敵特性の再現、灼血で編んだガトリングで血の弾丸の機銃掃射にて蹂躙、確実に掃除していく
悪く思うな…オブリビオンである時点で、同族といえど倒すしかないんだから。
アドリブ連携可
岩永・勘十郎
「こういうのだ!」
同情の必要無し、問答無用で戦える。最近の戦争では少なかった場面に武者震いする勘十郎。その瞳には敵に【恐怖を与える】程の【殺気】が漏れ出し。
「さぁ、来な」
その一言に敵の容赦ない攻撃が飛ぶ。だが勘十郎の【第六感】が冴える。それは五感に頼らぬ故に発揮される、見えない物が見える仏の境地。殆どの攻撃を先読みしたかのように回避し、一部は敵の攻撃にすら余裕で耐える強靭な刀で【受け流し】、背後に居る敵に当てる。
「銃ってのは、撃った数じゃないんだ」
と相手を【挑発】しながら【残像】が残る程の【早業】とUCの効果で敵の鎧を一刀両断。露になった敵の肉体をUCを解除した刀で叩き斬った。
●coup de grace
「……こういうのだ!」
転移完了とほぼ同時。血の帯を引いて流星の如く飛んでいく首には構わず、衝動のままにそう吠えた。
手近なフラスコチャイルドの首を背後よりの一閃でいとも容易く跳ね飛ばして見せたのは岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)。その勢いのまま、同胞の死に硬直し木偶のような有様のもう一体に駆け寄り、問答無用でその側頭部に叩きつける柄頭での容赦ない一撃。吹き飛んで転がったそいつの生死を確認するのは後続の猟兵たちに任せつつ、突如として出現した侵入者の気配に色めき立つ黒衣の兵士たちに一巡させる勘十郎の視線は、命のやり取りが始まったという感覚に愉悦の熱を帯びている。
「うむ。同情の必要などなし……! こういうのをわしは求めているんだよ」
「……α-3、生命反応途絶。α-1応答ナシ」
「使エン奴ラダナ。ダラシナイ」
常に脳内で互いの反応が同期されているハズの同胞の死を、或いは戦闘不能の状態を感じ取り、彼らは一斉に戦闘態勢を整えた。味方の死に些かの油断もない画一化され統制の取れた動きで、それぞれが機械化された腕で携行しているガトリング砲を侵入者へと突きつける。長い潜伏生活の末に情緒面に異常を生じさせた個体(できそこない)どもは真っ先に倒されたようだが、自分たちは違うのだ。己たちには恐怖も躊躇もない、完成された兵器である。しかし、それを見据える勘十郎の表情に焦りの色は微塵もなかった。
「……ようやく準備できたか。さぁ、来な」
ちょい、ちょい―― などと。
指先で小さく相手を招くような挑発の仕草さえ添えて見せる。
はっきりと響くのは低いモーター駆動の音のみ。
都市潜伏型らしく静音化されたガトリング砲の咆哮はまるで風がそよぐよう。
それでもその一発一発に込められた破壊力は生命体を殺傷するには十二分に過ぎるもの。
「恐ろしいものだ。……当てられるものなら、な」
瞬きする間に捉えたもの跡形もなく削り潰すであろう砲弾の雨の中、剣鬼めいた青年は薄っすらと血に濡れた白刃を片手に引っ提げながら、不遜な笑みを浮かべて駆け出した。
「……十紀、容赦するつもりはないけど……一応は同族、少しやりづらいな」
勘十郎の奇襲から数秒のタイムラグを挟み、死の熱風吹き荒れる谷間へと転移を果たした尖晶・十紀(クリムゾン・ファイアリービート・f24470)。戦端は既に開かれ、一振りの刀を手に居並ぶ黒衣のフラスコチャイルドたちへと斬りかからんと駆けていく青年の姿を見遣る。戦場の熱気に身を任せ、躊躇なく歓喜するその姿は躊躇や遠慮の類とはまったく無縁に見て取れた。なるほど、と。そう十紀は思う。少しは彼の姿勢を見習っても良さそうなものだ。
「それでも大事な初戦だ。気合い入れて行こう」
自分自身に言い聞かせるように口にした彼女の爪先が何かに当たる。視線を下ろせば、其処には一太刀の元に首を刎ねられ倒されたフラスコチャイルドの躯が転がっていた。
「いいね。使わせてもらうよ。……悪く思うな」
ほんの少しだけ、胸の奥に熱を帯びた疼きを感じながら十紀は足元に転がる同族に向けて手を合わせる。
『……いタだキます。』
せめてもの祈りのように響いたその小さな声―― 同時に十紀の背を内側から引き裂き、突き破るようにして次々と生え出す赤黒く濡れた禍々しい異形の腕が足元の死体へと絡まり、群がっていく。その身を守る機械鎧も、着用者が既に死んでいるのだ。もはや役目を果たすこともない。強固だったハズの装甲はずぶずぶと深くめり込んでいく鋭い爪によってまるで飴細工の如く引き千切られ、噛み砕かれ、咀嚼され、飲み込まれていく。それに守られていた肉体もまた、いとも容易く解体されていくのであろうが―― 十紀は其処からは視線を逸らした。一応は同族とみなした者の無惨な終わりを目にするのは忍びない。せめてその躯を跡形もなく食い尽くし、余す所無く利用してやるのが同族への慈悲というもの。
「……同族といえど、オブリビオンなら倒すしかないんだ。でも、一緒だ。ここからは一緒に行こう」
そんな言葉と共に、彼女の足元から煙のように揺らめき生じた何か。先程まで好き放題に暴れていた異形の腕たちは何時の間にか跡形もなく掻き消えていた。役目を終え跡形もなく体内へと引っ込んでいった彼らと入れ替わるかの如く、怨念めいた黒い霧が十紀の肉体を包み込む。かつてα-3(できそこない)と呼ばれたものを彼女は纏う。
「……壊すことよりも、大事なことをしに行こう」
身を包んだ黒い霧が晴れる―― 其処から突き出されるのは巨大な回転砲身。今まさしく視界の向こうで一人の剣士に一斉に向けられているそれと同一のもの。
……風を裂いて唸る弾丸が頰を掠める。際どい弾丸はそれのみに留まらない。
しかし雨霰が如く次々と降り注ぐ弾丸の中を勘十郎はまるで舞うようにやり過ごす。
戦場に昂ぶる狂奔と、まるで凪のような平静が両立する奇妙な心地。かの仏も悟りの極意を得たときはこのような境地にあったのではなかろうか。
「……おっとこれはまだ未熟」
キン、と小さく響くのは脳天目掛けて飛来した弾丸を翳した白刃が蝿でも払うかの如く無造作に弾いた音。大凡の射線はほぼ見切ったと言える。機械的であるが故に直接的な殺意を感じ取り、その隙間を縫うように突き進んでいるだけの話。それでも数は多いが、避けきれぬものはこうして弾けば仔細はない。
「見事に数を揃えたものだ。しかしな」
続け様に勘十郎を目掛けて唸り飛来する礫の連弾。しかしこれを軽やかに振るう白刃が払い、黒衣と鎧を纏うフラスコチャイルドたちへと次々に突き立った。無論、身に纏う強固な装甲は自らの放った弾丸とて貫くことは出来ない。それでもその衝撃は一寸の隙を作るには十分であっただろう。
「……ッ」
「銃ってのは、数を揃えりゃ良いワケじゃない。無論、撃った数の多さでもない」
そして勘十郎には一瞬の隙があれば十二分に足りるのだ。
それだけあれば、間近な黒衣の懐には余裕で飛び込める。
「……オノレ!!」
咄嗟に振るわれた機械の豪腕。力任せのそれは、直撃さえすれば例え猟兵とてその頭部をまるでスイカの如く叩き割ってしまうほどの威力を帯びていた――――が。
「……遅い。いいか、肝要なのは一撃だ。気息が十二分に乗っていれば、それで事足りる」
虚空を掻いた腕が引き裂いたのは、勘十郎が残した一瞬前の置き土産。
引き裂かれ、まるで幻の如く掻き消えた残像に戸惑うオブリビオンが正しい思考に行き着いたとほぼ同時。その身を貫くような衝撃。まるで白い稲妻が迸るような勘十郎の袈裟懸け一閃が強固である筈の機械鎧をあたかも豆腐のようにあっさりと斬り分けた。
「……ソンナ、馬鹿ナ……」
はらはらと砕け落ちる鎧の破片が地面へと突き刺さるよりも前に、振るわれる二の太刀が自身の脳天に吸い込まれていく――――― 彼が最後に見たのはそんな光景で。
「……これぞ六道、龕灯返しの太刀」
まるで餞の如く、対手の生命を奪った秘太刀の名を告げ、勘十郎は血振るいの所作と共に踵を返す。その後方で、自身が絶命した事実を認識できぬままに躯へと成り果てた身体がどう、と倒れ伏した。
「β-1、生命反応喪失」
「仔細ナシ。数ノ上デハ未ダ此方ノ優位――――」
悠々とした足取りで、次に斬り捨てる標的を品定めしながら近付いてくる剣鬼を前に、冷徹な戦闘兵器である彼らも流石に一瞬、まったく理解の及ばぬ存在に困惑して躊躇を覚えたか。本来なれば即時統制の取れた動きで次のフォーメーションに移行していた筈だった。しかし、微妙に出遅れたその一瞬を狙い澄ましたように響き渡るけたたましい連射音。血のように赤い弾丸の雨が、密集していた黒衣の人形兵器たちに次々と降り注ぐ。
「……ガッ……!?」
たかが突出した一個体に気を取られるとは戦闘兵器失格の醜態だと責めるのは気の毒だ。
何せ彼らが相手をしているのはいずれ劣らぬ一騎当千の猟兵たち。浮足立った瞬間をピンポイントに撃ち抜いたものは、まさしく自分たちの携えているものと同一のガトリング砲の一撃だ。
「……驚いてるかな。自分たちの武器だものね。でも、これはちょっとだけ違う」
容易くは払い切れぬ怨念と呪いに染まった黒い瘴気の帯を引きながら、十紀は尚も奪い取った敵特性の再現―― 虚空に浮かぶ赤黒く燃え滾る血液にて編み上げられた巨大なガトリング砲を咆哮させた。静謐さとは無縁の、獰猛な死の息吹が吹き荒れるたび、血色の弾丸が更なる鮮血を呼び起こすべく、黒衣の装甲に次々と噛み付いていく。
「!? ……ナンダ、コレハ……! シカシ、コノ装甲ナラバコンナ攻撃デ……」
「……ちょっとだけ違うって言ったでしょ」
我らを倒すには及ぶまい。そう続ける筈の言葉が掻き消えた。彼らの身を守る鉄壁の装甲にして、軽快な挙動を実現する強化機械鎧が、一斉にパワーアシストの機能を停止したのである。
「……ッ、動ケナイ……! マサカ、すーつノ動力ヲ……!!」
「そう、毒だよ。その鎧の動力源だけを無力化させるような――――…… 悪く思うな」
降り注ぐ弾丸に込められた猛毒。それらは装甲の深部にまで浸透し、動力源にまで到達すれば木々を内側から喰らい尽くす虫が如くにこれらを蝕み蹂躙せしめる。如何に強固な機械鎧と言えど、動力源を失えばそれはまさしく、その身を捕らえて離さぬ重い枷へと変わり果てる。密集陣形のさなかで炸裂し、圧倒的速度で周囲に伝播していく猛毒により次々と擱座していく黒衣の兵士たち。降り注ぐガトリングの血の雨が彼らを容赦なく飲み込み、貫いていく。そして、死の雨から必死に逃れ出た者たちは。
「…………遠慮するな。もう少し遊ぼう」
仏のような笑みを浮かべる剣鬼の振るう白刃で、次々刈り取られていったのだ。
機械装甲から流れ出した燃料に引火したのか、いつしか谷風に煽られて巨大な炎が赤々と燃え盛る。それは無数に倒れ伏した黒衣の躯を飲み込み、浄化するように。されど、そんな同族たちの躯を踏み越えて、後詰めの兵士たちが次々と進軍を開始する。
「……あまりあっちに近付かないでね。毒、多分もうしばらく残ってる」
「心得た。しかし数は未だ多いな。わしは退屈せずに済みそうだが」
「冗談きついね。早く終わらせよう」
不敵な笑みを浮かべる青年と、照り返す炎の色に染まった瞳の少女。
それぞれの得物を軽く打ち合わせた後、両者はじりじりと押し寄せてくる敵の大群へと再び向き直る。
大成功
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レナータ・バルダーヌ
そのウイルスというのがどれほど強力なのかは、いまいち想像がつきませんけど、少なからず脅威であることはわかります。
今のうちに手を打っておくに越したことはありませんね。
機械鎧のブースト機能を無力化すればいいといっても、大事な機能を司る部分をわざわざ露出しているとは考えにくいです。
しかし、たとえその弱点が装甲の内側にあったとしても、【A.A.ラディエーション】なら【鎧を無視して攻撃】できます。
【空中】機動で敵を撹乱しつつ接近し、鎧の基幹部分と思しき箇所に必殺の一撃を叩き込みましょう。
この翼はブレイズキャリバーの力で形成した炎の翼、攻撃を受けても傷ついたりはしないので、体制を崩すことはないと思います。
エドゥアルト・ルーデル
重火器にチャイルドソルジャーに違法改造にと戦争らしくなってきたじゃない
善き哉善き哉でござるな
お気軽に正面突破ですぞ!勿論無策じゃないでござるがね、という訳だ【流体金属君】と拙者を合体!メタルヒゲマン参上!
戦闘慣れしとるそうだが…拙者が究極の非対称戦をお見せしようじゃないか
流体ボデーに命中しても流体ゆえ無問題でござるので砲弾の雨を受けながらズンドコ進むでござるよ!もしくはもうハナから液体状態で地を這っていってもいいでござるな
近づいちゃえばこっちのモンでござるな!どんな鎧でも隙間はあるんでござるよ、そこから内部に潜り込んで機構を破壊して回りますぞ
フゥ~いい仕事した!敗者の悲鳴が心地良いッ!
●みんな いっしょうけんめいたたかっている
「……ええと、コンピュータウイルス、でしたっけ?
それがどれほど強力なのかはいまいち想像がつきませんけど、
少なからず脅威であることはわかります」
「ンー…… そうですな、レナータ氏。
オンラインで繋がるマシンは全部狂うと思っていいんじゃないでござろうか」
「はあ、そういうものですかー……」
まあ、最低でもそのくらいのラインは余裕で踏み越えてくるんだろうなあと思っているエドゥアルト・ルーデル(黒ヒゲ・f10354)と、結局いまいちピンとこないまま、とりあえずウイルスを持ち出される事は阻止せねばと思っているレナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)。そんなふたりを包囲せんとじりじり距離を詰めてくるのは、無数と思えるほどの数を揃え機械鎧を纏い武装した黒衣の子供たち。
「なんせ、とんでもなく凶悪らしいでござるからな。
案外スタンドアローンのマシンでも下手すると駄目かもわからんね。
さて、重火器装備に違法改造のチャイルドソルジャー。
こりゃあいよいよ戦争らしくなってきたじゃないの」
「……わたし、敵がああいう見た目だと少し気が引けますが……。
そう言っていられる場合でもありませんよね……」
善き哉善き哉でござるな、と何やら機嫌良さそうに頷いてみせるエドゥアルトをちらりと一瞥した後、レナータは自分たちを取り囲むフラスコチャイルドの軍勢に視線を巡らせる。これだけの戦力を揃えて警備をしているのだ。理屈は相変わらずよくわからないながらも、この最奥に待ち受けるものが紛れもない脅威であることは本能的に確信している。
「……エドゥアルトさん、プランは何かありますか?」
「ハハッ、お気軽に正面突破ですぞ! ……勿論無策じゃないでござるがね」
エドゥアルトがそう言うが早いか、どろりと彼のヘルメットからこぼれ落ちた銀色の液体。温度計に入っている水銀だとか子供がよく作って遊ぶスライムとか、あの類のものではない。自らの意思を備えた流体金属生命体【Spitfire】。戦闘機に由来する名前かと思いきや、その名の意味するところは「癇癪」。しかしそんな意地悪なネーミングをされて尚、必要があれば彼は甲斐甲斐しくエドゥアルトの身を守ってくれる頼もしい相棒なのだ。
「という訳で流体金属君、今こそ合体ですぞ!
レッツイノベーション、拙者の肉体リノベーション!」
「はわー……」
エドゥアルトの声に反応するように蠢く流体金属がどろどろと彼の全身を覆い、飲み込んでいく。内側からバキバキだとかミチミチだとか、生々しい音と苦悶めいた呻き声が漏れ出してきたが、レナータは気にしない事にした。直視していたらきっとSAN値のチェックが始まりそうな光景だったので、それが多分正解だ。
「うム。実ニよク馴染む…… 拙者達は……抵抗スルナ貴様……
嗚呼どウしてコンナところに来てしまったンだ……
イヤ、ワカり会えタ…… 判り合ウ事ガできタ…… わからされた……
……可愛い女の子いいよね! うんとてもいい!
待たせたな、メタルヒゲマン此処に参上!」
程よく溶け合い撹拌され、思考のシンクロを果たした二者が一個の生命体へと生まれ変わる。そんな奇跡的瞬間を見せつけられ、黒衣の兵士たちは一瞬動きを止めた。
「……あ、もう終わりました?」
「もういいでござるよー」
そして当然の事ながらレナータも、メタルヒゲマンも彼らのそんな隙をわざわざ見逃してやるような慈悲深さは持っていない。背より噴き出した紫色の炎の翼を揺らめかせるレナータと、どろどろと表面を流動させる銀色に輝くヒゲの怪人はほぼ同時に動き出した。紫の火の粉を散らし、空高く舞い上がるレナータと、肉体を人型から崩すように可変させ、不定形の塊として地を這い疾走するメタルヒゲマン。空中と地上から同時に襲いかかる彼らを前に、黒衣の兵隊たちは一拍遅れながらもそれぞれが装備したガトリング砲を構え、容赦なく砲弾を浴びせかけていく。
「エドゥアルトさん! 機械鎧のブーストをどうにかして無力化、でしたよね!」
「……オウイエス! 然り然り!」
空翔ける彼女を撃ち落とそうと唸りを上げるガトリングの対空射撃を巧みにすり抜け躱し、挑発するような大袈裟な動きで撹乱しながらレナータは一気に距離を詰める。戦闘兵器に相応しく正確無比な狙いなれど、その翼を象る炎はブレイズキャリバーの特性によって生み出されたもの。幾度撃ち抜かれようとも無尽蔵の炎を蓄える翼が散ることはない。ただ、強力な炎によって炙られ溶けた弾丸は次々と虚しく蒸発していくばかり。
「……落チロ、蚊蜻蛉ガ……!!」
「そんなものでは墜とせませんよ、わたしは!」
炎の羽撃きが風を裂いて迫る弾丸を往なし、焼き尽くす。対空射撃の雨を突っ切りながら、レナータは急降下しながら迫るフラスコチャイルドの一体に向けて掌を突き出した。
「弱点をわざわざ晒す道理はありませんよね。
……けれど、わたしはその鎧の内側を攻撃できるんです」
「……何、ダト……!!」
一触必殺。触れた掌から流れ込んだ不可視の力場が機械鎧の内部を暴れ狂い、主要な回路の殆どを一瞬の内に焼き尽くす。身を貫いた衝撃に戸惑う僅かな寸隙の間に、その身を覆う鎧はただの重たい拘束具へと成り果てるのだ。地響きと共に地を掻き倒れ込んだフラスコ兵は、それきり一切の身じろぎも出来なくなった。レナータの繰り出した『アンチアーマー・ラディエーション』。超至近距離の相手に目掛け、発勁にも似たモーションで撃ち込む掌から浸透した内部で暴れ狂う超強力な念動力で破壊する大技だ。
「グウ……!! 馬鹿ナ…… コノあーまーガ、意味ヲ為サナイ……トハッ……」
「……さあ、まだまだこれから。一体でも多く仕留めていきますよ」
動力部はおろか、駆動系を全て破壊された機械鎧はその役目を終えたが、内部で暴れ狂った念動力の衝撃はそれを身に纏う着用者の肉体をも見事に破壊せしめた。吐血と同時に黒煙を吐き出したフラスコ兵は、それきり機械の鎧を棺桶代わりに力尽きる。そんな彼の終焉を一瞥すると同時、レナータは再び炎の翼を力強く羽撃かせ、空高くに舞い上がる。
「ひょー、レナータ氏やりおるー。
これはこのメタルヒゲマンも負けてはおれませんぞー」
そう声を上げるメタルヒゲマンに次々と撃ち込まれるガトリング砲の弾丸。しかし、流体金属に置き換えられた今の彼の肉体には銃撃などほぼ意味を成さないと言って良いだろう。溶鉱炉にでも突き落としでもしない限り、今の彼を滅ぼすことは困難を極める。
「ナハハ、無問題でござるよ今の拙者流体ゆえにー」
ちゃぷちゃぷと表面に受け止めた銃弾をそのまま背中側に突き通して吐き出しながら、はぐれほにゃららめいた銀色ボディを蠢かせ、メタルヒゲマンは地を這い進む。その速度は見た目に反して異様に早い。
「……チッ、厄介ナ奴ダ」
「今更気付いたか? だがもう遅え!!」
一気に足元にまで距離を詰めてきたメタルヒゲマンに対し、フラスコ兵はガトリング砲を即座に打ち捨てた。接近戦ではほぼ用をなさないデッドウェイトを瞬時に投棄する判断そのものは至って正しい。しかし、今のエドゥアルトはそんな戦闘兵器の無駄のない動きよりも尚俊敏である。獰猛に振るわれた鋼の鉤爪で引き裂かれた流体金属のボディは空中で弾けるように飛び散り、そして次の瞬間には次々と機械鎧へと纏わり付いた。
「…………コイツ! 離レロ!!」
「聞こえねえな! 此処は俺の距離だぞ間抜けめ! 今の俺に潜れねえ隙間はねえ!」
銀色のスライムは機械鎧の僅かな隙間から一斉にその内部へと潜り込む。定型の肉体しか持たぬ者にはこれに抗う術などある筈もない。機械鎧の内部に潜り込んだエドゥアルトは、相手が手出し出来ぬのを良いことに、それはもう好き放題に暴れ回るのだ。
「貴様らは戦闘慣れしとるそうだが、コイツは知るまいなア!
一方的に弄ばれる恐怖と痛みを教えてやる!」
「ヨ、止セ……! ヤメロォォォォ!!」
暴れ狂うエドゥアルトによって勝手に突き動かされた機械鎧が、味方たちに躍りかかる。振り回す腕が鎧から剥き出しの頭部を削ぎ飛ばし、或いは露出した生身の四肢を引き千切る。
「貴様、狂ッタカ……!! ソノヨウナ不良品ハ我ラノ軍団ニハ不要!」
「違ウ、チガウノダ……!! ヤメロ、撃ツナ! 撃タナイデクレ!!」
怨嗟と非難の声を必死に否定する傀儡と化した機械鎧の弁明。しかしそれを同胞たちが聞き届けることはなく、無数に降り注ぐガトリング砲の弾丸の嵐が、装甲を瞬く間に削り取り、内側に守られていた哀れなフラスコチャイルドの肉体をも破壊する。いかに強固な装甲であろうと、圧倒的な飽和攻撃の前にはたれ切れなかったのだ。そして、装甲に穿たれた大穴より飛び散った銀色の液体は、味方殺しを粛清するべく取り囲んでいた次の標的たちの装甲の隙間より潜り込み――
新たに響き渡る悲鳴と銃声。それは暫く止むことはなかった。
「……フゥ~…… いい仕事した! 敗者の悲鳴が実に心地良いッ!!」
黒煙を吹き上げ、あちこちからスパークを散らして動きを止めた機械鎧の残骸をまるで小山の如く積み上げたその傍らで、金属生命体との融合を解いたエドゥアルトは爽やかに額の汗を拭う。そんなエドゥアルトの顔のすぐ横を掠めるようにして吹き飛んできた機械鎧が残骸の山に叩き込まれ、それきり動きを止める。
「……おっひぃ!!」
「あ、そっちも片付きましたか。お疲れさまです」
自身の周囲に群がってきた敵集団をことごとく文字通りに叩き潰し終えたレナータは着地と共に炎の翼を解き、目元にまで流れ落ちそうな汗の雫を拭い取る。……こちらの方は一区切りがついたようだ。周囲からは断続的に戦闘の真っ最中らしい物音は響いていたが、ひとまずは彼らを後詰めの兵士たちが攻め立てるような状況でもないらしい。
「……さて、と。それじゃあそろそろ次に行きましょうか、エドゥアルトさん」
「拙者もうちょい休憩したいけど、レナータ氏がそう仰るなら吝かでもなかったり」
紫の炎の翼を纏った娘と、銀のスライムを身に纏う胡散臭いヒゲの男は、周囲の味方を援護するべく次の標的を求めて駆け出した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
敵戦力は多数、幹部も多く逃せば後に響く……か
どう動くべきかは難しいが、先ずは道を切り開くために目の前の敵を倒していかないとな
集中攻撃を受けないよう、敵同士を壁にするような形で上手く立ち位置を調整しながら、神刀の封印を解除
緋色の神気を刀身に纏いつつ刀を生成――陸の秘剣【緋洸閃】を発動
神気によって生成した刀で本体や召喚された機械、ダミー達を纏めて攻撃、破壊してやる
その攻撃で鎧のブースト機構を破壊できれば上等だが、無理でも目眩ましくらいはできる筈
その隙に斬撃波を放ち牽制しながら切り込み、直接の斬撃で鎧を破壊する
鎧を破壊した敵は無視、動ける奴に優先して攻撃して数を減らしていく事を考える
佐伯・晶
随分と厳重な警戒だね
コンピューターウイルスを
ばら撒かせる訳にはいかないし
皆と協力して敵を倒すよ
見た目は幼くとも強敵みたいだしね
機械鎧を無効化する必要があるならこれを使おうか
UCを使ってEMP爆弾を創るよ
見た感じ装備は電子化されてそうだしね
こっちのガトリングガンやワイヤーガンなら
あまり影響は無いと思うよ
ついでに情報収集型無人機も落とす事ができて一石二鳥だね
相手の機械鎧が使用不能になったら
まともに動けなくなるのかな
そうしたら手早くとどめを刺していこう
ガトリングガンを斉射したり
鎧から露出してる部分をワイヤーで切り落としたり
神気で石に変えたりして倒していこう
まだ緒戦、気を抜かず
確実に進んでいかないとね
●The Cyber Slayer
研究所内にまで伝わってくるのは止むこと無く響き続ける砲声。
そして、それに混じって鳴り始めた耳障りなアラート音。
要塞の重厚な外壁も猟兵たちにとっては懸念には成り得ない。
いざ懐に潜り込んでしまえば、外壁破壊などいとも容易く果たしてしまう。
そして、施設内には未だ無数のフラスコチャイルド兵たちが控えている。もはや戦力の逐字投入をする必要もない。文字通りの全力で研究所を死守しようとするのだろう。
「……随分と厳重な警戒だね」
長く続く廊下を駆けながら、鳴り響くアラート音に不快そうに眉を顰めて佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は呟いた。
「敵の懐に潜り込めば、そうにもなるさ」
そんな彼……彼女から、僅かに先を進む夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は相槌を返しながら周囲の様子を注意深く見回し探る。差し掛かった曲がり角。手前で急停止すれば、晶を制すように片手を突き出す。
「……一時停止!」
「おっと」
角の向こうに曲がり込む直前、急停止した両者の鼻先でガトリング砲による無数の弾丸が唸りを上げた。壁面や床、天井に跳弾が跳ね、派手に飛び散る火花。それらを咄嗟に引き抜いた無銘の鉄刀にて払い除け、叩き落とし、斬り落とす。続けて飛び退れば、更に散発的に続く牽制の射撃が落ち着くのを暫し待つ。
「侵入者トノ交戦ヲ開始。情報収集用ノどろーんトだみーノ支援ヲ要請スル!」
「個々ノ性能デハ及バズトモ、数ヲ揃エレバ我ラノ優位! 磨リ潰シテヤルゾ」
喧しい銃声が止み、粉塵と硝煙の薄っすら漂う中で、鏡介は鉄刀から持ち替えるようにもう一振り携えていた神刀を鞘からすらりと引き抜いた。透き通るように眩く煌めく刀身、その鍔元からゆっくりと神気が行き渡り、更なる輝きを宿らせる。廊下には支援要請によって呼び寄せられた大量のドローンの羽音が不気味に響く。それはゆっくりと近付いているのだろう、羽音は次第に大きくなっていた。
「敵戦力は多数……後ろに控える幹部を逃せば後に響く……か。時間は余り掛けられないな」
「コンピューターウイルスをばら撒かせる訳にはいかないし、やるしかないね」
顔を見合わせた両者はそれぞれ頷き――
「……露払いは俺がやる。援護を頼む!」
「わかった、任せて!」
同時に曲がり角の向こうへと躍り出るべく駆け出した。
廊下の向こうに陣取り砲撃態勢を整えるフラスコ兵、そしてそんな彼らから先行して飛来するドローンと、彼らの情報収集を支援するべく追随するダミーオブリビオン。両者共に戦力はないが、数は多い。自身らを犠牲にして時間を稼ぎつつ、相手の性能を収集、そしてその様子を自身らに都合よく編集加工した偽情報としてネットワークに流布することで、戦力強化を図ると言う三重の策である。更に先行するドローンやダミーの背後より、フラスコ兵たちが正確無比な射撃での援護を加えることで、この策はより盤石のものへと化す事だろう。……このままで行けば、の話であるのだが。
「……なかなか厄介そうだが、時間は掛けないと言ったからな!」
「それにマシンの天敵はコンピューターウイルスだけじゃないよ」
走りながら大きく神刀を振り被る鏡介。刀身を包む輝きは白から緋色へと燃え上がり、同時に彼の周囲には神刀を模したように同じく緋色に輝く無数の刀剣が次々と生み出されていく。ふたりに目掛けて降り注ぐ弾丸も、鏡介を取り囲むように浮かぶ剣たちが盾となり、そのことごとくを弾いて散らす。鏡介に続いて走る晶も、ユーベルコードを発動―――― 何もないハズの虚空より、彼女の掌の中に精製されるのは広範囲に強力な電磁波を発生させる特殊爆弾。所謂電磁パルス爆弾や、EMP爆弾などと呼称される代物。個人携行可能なサイズにまで縮小されているものの、その効果は据え置きである。
「……僕たちは特に機械類は使っていないし、遠慮なく使えるね」
「こいつらには悪いが、律儀に付き合ってやる義理もない。やってくれ」
晶が振りかぶり、その手から投げ放ったEMP爆弾は山なりに放物線を描いて虚空を舞い、大挙し押し寄せるドローンたちのただ中にまで到達すると同時に起動する。スパークを散らし、黒煙を噴いて爆ぜた爆弾から凄まじいパルスが生み出され、周囲を浮かぶドローンたちの内部回路を瞬時に焼き切り、それはその後方にてガトリング砲の掃射を浴びせかけているフラスコチャイルドたちが纏った機械鎧にまで到達していた。役目を終えて地に落ちるEMP爆弾の破片、そして少し遅れて次々とドローンたちが墜落し、フラスコチャイルドたちも膝を突き、或いはガトリング砲を構えた姿勢のまま身動きを取ることが出来なくなった。ダミーオブリビオンたちはそんな周囲の異変に戸惑うように立ち止まり、周囲を見回している……。
「……一方的になりすぎて気の毒にさえなってくるが」
「やっぱり電子化されてたね、あの鎧。まあ、気の毒でも容赦はしないけど」
これまで散々撃ち込まれた意趣返しという訳でもないが、虚空より取り出した巨大なガトリングガンを掴み取り、駆ける廊下の向こうへと突き付ける晶の動きに触発されたかのように、鏡介もまた眼前の敵たちへと向き直り―― 己の身を取り囲むように展開させていた剣たちを解き放つ。
『神刀解放。斬り穿て、千の刃―― 陸の秘剣』
―――― 緋洸閃。
眩い煌めきと共に、生み出された千の刃それぞれが戦場で動きを止めた不運な者たちへと次々に襲いかかる。それはドローンの残骸を粉々に引き千切りながら、ダミーオブリビオンを穿ち抜き、或いは鉄の棺桶に閉じ込められたフラスコチャイルドたちをその棺桶ごと真っ二つに両断する。EMPの影響から運良く逃れる事が出来た者たちも、擱座した同胞たちが進路を妨げ思うように身動きも取れない。そんな連中にも緋色の刃は平等に、公平に襲いかかるのだ。
「……千の刃だけに気を取られるなよ。見ての通り、此処にはもう一振りあるんだ」
戦場を舞い、次々と標的を屠り去る緋色に輝く千本の剣。そしてそれを掻い潜って尚、千一本目の剣を携える鏡介が疾風の如く駆け寄ってくるのだ。駆け寄りながらに振るう剣の巻き起こす強烈な太刀風。それさえもまるで剃刀のように遠く離れた標的たちの装甲を鋭く刻み、削り取ってくる。
「……コ、ノッ!!」
「貰ったぞ」
重石のように身動きを阻む同胞たちを掻き分け、強引にガトリング砲を構えようとする兵士を肉薄した鏡介が先んじて逆袈裟に斬り上げる。虚空を舞う、ガトリング砲を握ったままの腕。それは一拍遅れてトリガーを引き絞るが、砲身が回転してもそれが弾を吐き出すことはない。最初の一太刀は給弾ベルトをも同時に斬っていたからだ。空転するガトリングと腕が地に落ちるより一瞬早く、返す刃が袈裟に振り下ろされ、フラスコ兵を斬り捨てた。倒れ伏すその音を背後に聞きながら、彼は既に次の標的へと走り出している。
「もうまともに動けないだろ。悪いけど、せめて手早くトドメを刺していくよ」
先行し、敵を蹴散らしていく鏡介に続き、ガトリングガンを撃ち込む晶は冷静に撃ち漏らしを仕留めていく。擱座したまま動きの取れない鎧の兵士たちは次々と蜂の巣になり、本当にその動きを止めるのだった。足元に転がるドローンを踏み砕き、漸くパニックから立ち直ったダミーオブリビオンをガトリングの掃射があっけなく薙ぎ払い、吹き飛ばす。残骸と空薬莢の無数に転がる廊下を駆け抜け、目指すのはその奥―― コンピューターウイルスが保管されていると思しき研究所の深部だ。
「マダダ……! 舐メルナ猟兵ッ!!」
「……舐めてなんかいないよ!」
辛うじて回路が生き残っているのだろう。思うように身動きできずとも強引に腕を動かしたホムンクルス兵の振るう鋼の腕が唸りを上げる。如何に死に体と言えど、その怪力は未だ十分な殺傷力を備えているだろう。そんな一撃を咄嗟のバックステップでやり過ごしながら、空を切ったその腕に狙いを定め、晶は空いた片手で引き抜いた銃型デバイスよりワイヤーを撃ち出した。強固な装甲の隙間、脆弱な関節部に絡みついたそれは、瞬時に食い込み二の腕から先をあっさりと切断して見せる。
「ウァァァッ!!!!!!」
「……僕たちは、用心深く進んでいるだけだ」
腕を切り落とされたフラスコ兵が苦痛にのたうつよりも先に、晶の伸ばした手が機械鎧の表面に触れる。そこから流れ込む神気は、浸透した内部に守られたフラスコチャイルドの肉体を一瞬の内に石へと変質させた。彼はそれ以上の身動きは取れなくなったが、同時にそれ以上の苦痛に苛まれる事もなくなった。鋼鉄で鎧われた石のオブジェと化した彼をその場に残し、晶はより最奥を目指し、先行する鏡介の背中を追う――――。
「……こっちは粗方片付いたかな。でもまだ緒戦、気を抜かず確実に進んでいこう」
「ああ、確実にここは潰す。それが次に続く道を切り開くことに繋がる筈だ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラブリー・ラビットクロー
◎
コンピューターういるすだって
マザー知ってる?
【感染した場合ビッグマザーシステムが正常に稼働しない可能性があります】
マザーも風邪引くんだ
そんな危ないのセカイにばら撒く訳にはいかないなん
行くぞマザー
一緒にセカイを救うんだ
【サポートサプリを起動します】
あの機械の鎧をなんとかしたいぞ
マザーできる?
【ネットワークに接続できません。付属のコードを鎧のメンテナンスソケットに差し込んで下さい】
よく解んないけど近づけばいーんだな?
じゃあラビットブレスで煙幕出して視えなくしちゃえ
【視界不良の為熱源反応をスポットします】
そのまま全力で敵に近づくぞ
でも近づけたらどーするんだ?
【システムハッキングを行い無効化します】
トリテレイア・ゼロナイン
…どのような存在であれ、子供と戦うのは騎士として気は進みません
その感情が動作に影響しにくい鋼の身である事は、有難いと言わざるを得ませんが
ガトリング砲弾をUCを起動した大盾や剣で盾受け、武器受け
UCの反射で防御と攻撃を同時に実現し接近
相手の回避行動を情報収集し瞬間思考力で分析
反射された砲弾へどう回避や防御行動を取るか…所謂、鎧の“急所”をかばう動作からその位置を見切ります
後はそこへ格納銃器をスナイパー射撃
鎧を無力化すれば…
……
ガトリング砲弾を地面に反射し砂塵で目潰し
脚部スラスターの推力移動で距離を詰め無力化部位ごと剣で両断
…嬲り殺しより、最期まで戦えた方が怖くはないでしょう
(嗚呼、なんて偽善)
●駆け抜ける嵐
「コンピューターういるすだって。なにそれ、マザー知ってる?」
【感染した場合ビッグマザーシステムが正常に稼働しない可能性があります】
要塞化された研究所内、長く続く廊下を走りながらラブリー・ラビットクロー(とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591)は手にしたタブレット端末に話しかける。これはただのタブレットではない。自身の相棒とも言えるオフライン非通信端末『ビッグマザー』である。オフラインとは言え、研究所最奥に眠るものは未知のコンピューターウイルスである。マザーの見立てが慎重なものになるのも無理はない。
「マザーも風邪引くんだ。そんな危ないのセカイにばら撒く訳にはいかないなん」
【風邪よりもインフルエンザよりも重篤なものです。恐らく有効なワクチンも現段階では存在しません】
ラブリーの問いに対して、丁寧に噛み砕いて返答を寄越すビッグマザー。それを自分なりに解釈した上で、ラブリーは改めてコンピューターウイルスの奪取、或いは破壊を強く意識する。
そして、そんな彼女たちの行く手を阻むように待ち受けるのはフラスコチャイルドを象る黒衣を纏い、機械鎧で武装したオブリビオンの兵士たち。一糸乱れず統制された動きで、彼らはほぼ同時にガトリング砲を侵入者に突きつける。
「……これだけ敵がいっぱいいるなら、この道はきっと奥まで続いてるのん」
ラブリーは止まらない。いつも通りに抱えた相棒に告げる。
「行くぞマザー、一緒にセカイを救うんだ」
そんな彼女の言葉に、マザーはやはりいつも通りに答えてみせる。
【サポートアプリを起動します】
けたたましい射撃音が響き渡る。もはや潜伏行動を気にする必要もなく、消音措置も施されていないガトリング砲が幾つも同時に無数の弾を吐き出す、その凄まじい飽和攻撃の中をラブリーは駆け抜ける。
【ラブリー、上に跳んでください。そのまま天井を蹴って左の壁を足場に】
「マザーも結構無茶言うのん……。でも、らぶにはきっとできるなん」
床を蹴り、虚空を舞い、天井を、壁を足場に三次元的な挙動にて、次々と飛んでくる弾丸を紙一重にやり過ごす。これも、バッテリーの消費量を増大させる事を引き換えに、演算能力を超強化したビッグマザーの指示の賜物だ。射線の移り変わりをリアルタイムに分析し、先読みして次に身を置くべき場所を適時教えていく。しかし如何せん敵の数が多い。ひとつでも判断を間違えれば無数の砲火は途端にラブリーたちをズタズタに引き裂いてしまう事だろう。
「……マザー、避けるのはいいけど、これじゃなかなか近づけないのん」
【大丈夫です、ラブリー。私の計算ではそろそろ新たな猟兵が】
不意に轟音と共に、天井に深い亀裂が走る。ぱらぱらと破片が雪のように舞い落ち、ガトリング砲の斉射が止まる。訝しげに天井を見上げたフラスコ兵がガトリング砲を天井に向けるのとほぼ同時、再び響く轟音と共に、天井が砕け散り―― 其処に空いた大穴から降下してくる白く巨大な影。
「……新手、カッ!!」
指揮官らしきフラスコ兵のハンドサインと同時に、舞い降りた白い機影に突き付けられる砲身。号令も待たずに、再び響き渡る砲声。バカバカしいほどの無数の弾丸による洗礼が、たった一機へと惜しげもなく浴びせかけられる。
「……反射力場、形成」
指揮官は、否―― 彼に指揮される兵士たちは皆確かに聞いた。無数に叩き込んだ砲撃の合間にはっきりと響くその声を。
「おおおお……!」
【私の計算通りでしたね、ラブリー】
そしてラブリーも見た。自身の前に立ちはだかり、その全身を襲いくる無数の銃弾に対する巨大な盾とする白い機械騎士のその背中を。携えた大盾を前方に突き出す事で、それはより一層に強固な盾―― 否、もはや城塞とすら呼べそうな鉄壁の護りとして機能する。同時に起動させたユーベルコード、【個人携帯用偏向反射力場発生装置 (リフレクション・シールド・ジェネレータ)】により、無数の弾丸は彼らを傷つける事も叶わず、大盾に、そして装甲に触れるか否かの瞬間に発生する不可視の力場によって弾かれ、それを放った射手へと向けてそっくりそのまま撃ち返される。
「……お怪我はございませんか」
「らぶは全然大丈夫なん! 助かったのん」
慇懃にそう問い、微かに背後を振り返るその白い騎士をラブリーは知っている。
己の胸に抱いた『騎士道』を貫かんとするウォーマシンの騎士、トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)である。広がる砂塵を引き抜いた長剣で切り裂くように払い、その切っ先を眼前に立ちふさがる兵士たちへと突きつける。
「……ッ、損害ヲ報告セヨ!」
「損耗軽微! 我ラ未ダ意気軒昂、戦闘続行支障ナシ!」
自身らの放った弾丸がそっくりそのまま自身らへと返される因果応報とも呼べそうな現象への衝撃から比較的短時間で立ち直り、指揮下の兵士たちの統制を図る指揮官はなかなかに優秀な個体であっただろう。更にはその能力をブーストする機械鎧まで纏い、死角はない。ただひとつの誤算は彼らの相対した者たちがそんな備えをも打破する可能性を秘める鬼札たる『猟兵』であった事、ただその一点に尽きる。
「………どのような存在であれ、子供と戦うのは騎士として気は進みません。
その感情が動作に影響しにくい鋼の身である事は、有難いと言わざるを得ませんが」
「迷う気持ちも、これからする事もたぶん、間違ってないのん。
でも、迷いがあるなら……らぶと一緒に戦うなん」
【私もいますよ】
再びガトリング砲を構える兵士たちを前に、ラブリーはトリテレイアの隣に並び立つようにして、歩みを進める。そして抱えていたタブレット端末を高らかに掲げ、宣言するのだ。
「そうなん! らぶと、マザーと、トリテレイアと3人で戦うぞ!」
「……承りました。接近するのであれば、私が盾となりましょう」
そう告げながら、握り締めた長剣を構え直すトリテレイア。
その姿をちらりと見上げ、ラブリーは彼の肩へと飛びついてしっかりとしがみついた。
「……たぶんこうした方が早いのん。一気に近付いちゃえ」
「スラスターの傍は避けてくださいね。火傷では済みませんよ」
そんな言葉を同意の代わりとしながら、トリテレイアは装甲の各部を展開すると露出したスラスターを起動。青白い噴射光の尾を引きながら、長く伸びる廊下を一気に疾走する。
「あの鎧、なんとかしたいぞ。マザーできる?」
【ネットワークに接続できません。
付属のコードを鎧のメンテナンスソケットに差し込んで下さい】
迎撃のガトリング砲が浴びせかける弾丸をすり抜け、或いは盾と装甲、そして剣にてトリテレイアは弾いて往なしていく。集中的に浴びれば損傷は免れないだろうが、其処は豊富に蓄積された戦闘経験が、最適な傾斜角を瞬時に見出し、リアルタイムで有効な避弾経始を生み出しているのだ。白い不沈艦と化した今のトリテレイアを止められる者など、そうは居るまい。
「……らぶ、目くらましに煙幕出すのん! センサー、熱源反応に切り替えて!」
「承知しました」
しがみつきながらも器用に砲身を交換した火炎放射器【ラビットブレス】。可愛らしい名に似合わずその機能は多岐に渡る。殺傷能力はない煙幕発射器から浴びせられる白い煙幕が濃密に広がり、フラスコ兵たちの視界を塞ぐ。そんな彼らが戸惑い足を止める様子を、トリテレイアのモノアイは決して見逃さなかった。
「接近しますよ!」
「了解なん」
ラブリーの返事と同時に、敵の只中に飛び込んだトリテレイアの突き出したシールドが、その重量と加速を存分に載せて手近なフラスコチャイルドを一撃の元に叩き伏せる。その衝撃は機械鎧ごと兵士そのものを叩き潰すには十二分なものだった。深く陥没し、無数の亀裂を走らせる床からもその破壊力を察することは難しくはない。そしてほぼ同時、トリテレイアの肩を蹴りつけ宙を飛ぶラブリー。ビッグマザーのアシストにより、視界を塞がれていようとも彼女が敵の動きを見誤ることはない。おまけに普段からガスマスクもしているのだ。この濃密な煙幕の中でも、これらを吸い込み噎せ返る心配もなかった。
「……グワッ!? ナンダコレハ……!」
「おとなしくしてるのん!」
飛びついた機械鎧が暴れ回るのを、振り回されないように必死にしがみつきつつ、ビッグマザーの指示通り、端末から長く伸びたコードを手探りでこじ開けたソケットへと突き刺した。ビッグマザーの液晶画面いっぱいに走るプログラムコードが明滅し、割り込ませた命令により機械鎧の機能を強制停止させる。
【ハッキング成功。次の機械鎧にコードを差し込んで下さい】
「……まかせるのん!」
瞬時にただの邪魔なガラクタと化した鎧の重さに耐えきれずに膝を突き、何やら喚き立てるフラスコ兵にはもう興味を示す事もなく、ラブリーは熱源反応を頼りに次の鎧へと飛びついた。
「煙幕が有効な間は、あちらはもう任せてしまって良さそうですね」
煙幕を引き裂くように突出するトリテレイア。その後方からは依然としてフラスコ兵たちの怒号が響く――が、同士討ちを恐れているのだろう。ガトリング砲の駆動音は控えめだ。それも徐々に聞こえなくなっていくのだから、ラブリーとビッグマザーは順調に敵の鎧を無力化させているようだ。
トリテレイアが見据えているのは煙幕から距離をとって後方に退避した兵士たち。判断が早かったのは指揮官とそれに近い兵士たちなのだろう。それでも即座に撃ち込んでこなかったのは、煙幕内の味方を攻撃することを躊躇ったためか。しかし、今はこうして眼前にトリテレイアが現れたことで、彼らが攻撃をしないという選択肢は消えた。
「……撃テ!! 数ハマダ此方ガ勝ッテイルノダ! 恐レルナ!」
そんな指揮官の鼓舞と共に撃ち出される無数の弾丸。しかしトリテレイアのシールドは未だ偏向反射力場によって強化されていた。無数の弾丸はそれぞれ予定調和のように弾かれ、床へと撃ち返されたそれらは轟音と共に火花を散らし、床の建材を微塵に砕く。飛び散る破片はまるで土煙のごとく漂い、再び両者の間を遮る新たな煙幕―― 咄嗟に後退しようとする兵士たちの動きを、しかしトリテレイアの緑に輝くモノアイは煙幕越しに既に見切っていた。
「……素直に恐れていれば、逃げる事も出来たでしょう。
いえ、逃がす事は出来ませんが」
相乗りする人間もいない今、遠慮する必要はない。脚部スラスターを全開に一息に詰める彼我の距離。立ちふさがる兵士たちを己の重量と加速に任せ、強引に薙ぎ払う。如何に機械装甲が強固であれど、超速度で動き回り高馬力で叩きつけられる頑丈で重たいウォーマシンの突撃をまともに叩きつけられ、無事である道理はない。重要箇所を守ろうとする腕ごと胴体を圧し潰され、幾人もの兵士たちが壁面へと叩きつけられ、それきり動きを止める。……そして、トリテレイアは止まらない。
「……クッ、ソ……!!」
あどけない顔立ちを、怒りと恐怖と、憎悪と―― さまざまな感情を闇鍋にしたような形容し難い表情に歪ませながら、最後に残った指揮官らしいフラスコチャイルドが、迫りくる白い巨大な影へとガトリング砲を向ける。それはもはや、蟷螂の斧でしかない事も理解しながら。
「……遅い!」
突き出されたガトリング砲を大きく弧を描くような動きで回り込んでやり過ごすトリテレイアは同時に自身の装甲の彼方此方に隠された格納銃器を展開、飛び出した機銃による計算され尽くされた正確無比な射撃は文字通り、無慈悲なまでの正確さで機械鎧の駆動部分を撃ち抜いた。白煙を噴きながら擱座し膝をつく機械鎧から、振り下ろされる剣を見上げたフラスコ兵の視線は、トリテレイアへと絡みつくようだった。
「敵ノ足止メモカナワズ、戦力ヲタダ浪費シタダケ。我ハ、指揮官失格ダ……」
一切合切の抵抗が通じず、ただ滅びを享受するしかない、終わりを決定付けられた者のその目をトリテレイアは忘れることなど出来ぬのだろう。彼自身、そう思いながら静かに、しかし速やかに終焉のための剣を振り下ろした。
「……嬲り殺しより、最期まで戦えた方が怖くはないでしょう」
必要以上に甚振らず一太刀で仕留めたこと、それがせめてもの情けだと。
トリテレイアはそう自分に言い聞かせた。
(……嗚呼、なんて偽善。欺瞞―― それでも、私は)
「……トリテレイア! 終わったのん! おかげで本当に助かったのん!!」
煙幕が晴れた向こうからもはや抵抗できずに力なく藻掻くばかりの兵士たちを置き去りに駆け寄ってくるラブリーの姿に、それ以上の思考をトリテレイアは放棄した。空虚な思いは、ほんの少しだけ救われたのかも知れない。敵を殺すことも、そして守るべき誰かを救うことも、どちらも『騎士』の在り方なのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シノギ・リンダリンダリンダ
うーん、蹂躙は私の専売特許なのですが…
まぁいいでしょう。オブリビオン風情が、私に蹂躙力で勝てるわけがないというのを見せてあげます
【我が腹】を解放
パーツの隙間から、口から、目から、溢れ出る呪詛毒の霧を行き渡らせる
機械?腐食にピッタリですね
身体のブースト?黄金像になってしまえば意味がないですね
一度着たら二度と脱げない?隙間から霧が入り込んで、お前の体がぐずぐずになっても、もはやどうしようもないですね?
じわじわと、精神攻撃のように動けなくさせて、殺して、黄金像を量産しましょう
己が内のCurse Of Tombから生み出す毒に私が耐性無いはずがないので、お前達が苦しむ様を一人鑑賞させてもらいますね?
●Midas touch
「……ふうん、なるほど」
背後では巨大な鉄の扉が音を立てて閉まるところだ。
眼前には無数のフラスコチャイルドたちが彼女に向けてそれぞれ手にするガトリング砲を突き付けていた。
「……先ニ撃破サレタ者タチハミナ、猟兵ノ連携能力ヲ甘ク見テイタ。
ダガ、我々ハ違ウ。先ノ失敗ヲ考慮シ、次ノ戦イニ活カセル機転ガ効クノダ」
「それ自分で言っちゃうんですか。まぁ、そういう訳で私を誘い込んだと」
自身を待ち受け、行き止まりに閉じ込めた者たちを見据え、シノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)は表情を平静のそれから変える事もなく涼やかに呟いた。
「然リ。ソシテ、此処ガ終着点。貴様ノ墓場トナルノダ。
コレダケノ数ヲ前ニ、貴様ハタダ蹂躙サレルノミ。覚悟スルノダ」
「……此処が墓場。それは同意しておきますけど、ちょっと違いますね」
羽織ったコートの裾を翻しながら、悠々と歩みを進めるシノギ。そんな彼女の挙動に反応して兵士たちはガトリング砲を構え直すが、いざ射撃に移ろうとする部下たちを指揮官らしきフラスコチャイルドが片手で制す。シノギの言葉の続きを聞くまでは撃たせるつもりも無いようだ。シノギは不敵に笑みを浮かべてみせる。ぎらりと鋭い歯が並ぶ、非常に攻撃的な笑みだった。
「蹂躙するのは私のほうだという事です。それは私の専売特許なのですよ。
たかがオブリビオン風情が、この私に蹂躙力で勝てるわけないじゃないですか」
「詰マラン遺言ダナ。待タセタナ、オマエタチ。……イイゾ、ヤレ」
部下たちを制していた指揮官の手が静かに下げられる。それは殺戮の許可に他ならない。上官からの許しを得て即座に、フラスコチャイルドの兵士たちは一斉にシノギを目掛けて砲火の雨を降り注がせ―――― ようとした。
「せっかちさんですね。……もっとじっくりたっぷり楽しみましょうよ」
シノギの言葉に反応したかの如く、その全身から噴き出す黒く淀んだ不気味な霧。球体を模した関節部位から、或いはその眼窩から、口腔から―― 内側で抑えきれなくなった欲望が、呪いが、堰を切ったように溢れ出す。漂う霧を貫くように無数に撃ち出された銃弾は、次々と虚空で静止した。一寸の間を置いてぽとりと床上に転がり落ちる銃弾はそれぞれ、不自然なほどに目映い黄金色に輝いている。
「……コレ、ハ……? ……グヌッ!?」
異変を感じ取り、訝しむ兵士の一人が不意に膝を突く。その鎧の隙間からは次々と黒紫の瘴気じみた煙…… シノギの身体から流れ出したものと同一の何かが噴き出した。鎧の内側から唐突に発生し、瞬く間に全身を侵食していく激痛にのたうち藻掻き苦しむ兵士はやがて動きを止めた。
「……オ、オイ……?」
仲間を襲う異変の正体を突き止めんと伸ばしかけた手が止まる。動きを止めた兵士、その鎧から露出している部位は金色に輝く鉱物へと変質していた。機械化部位から、元来有機体で構成されている筈の生身の部位まで、その全てが……である。そして、面妖な現象に驚愕の表情を浮かべている兵士の半端に伸ばされたままのその腕から、また新たに黒い霧が噴き出した。驚愕に見開かれたその眼窩からは血涙のように、続けて内側より毒に犯された肺腑からも込み上げてくる黒煙を噴き上げ、忽ちに立ち続ける事さえ叶わずに崩れ落ちる。
「……グワッ!? ナンデ…… 私モ……!?」
そんな続け様の異変に触発されたかの如く、周囲の兵士たちも次々とその身体の彼方此方から黒い霧を噴き出し、フラスコチャイルドの兵士たちは瞬く間に混乱に陥った。直接自身の肉体から霧を噴き出さずとも、味方の身体から噴き出すそれを浴びれば忽ちにそれは伝播する。まるでたちの悪い疫病めいた呪毒は、あっという間に無数の兵士たちを蝕んでいく。
「私の世界へようこそ。そんな人数で私を蹂躙できると思っていたのなら、それは謙虚な事です。
でも、この世界では欲深い者しか生き残れませんよ。私みたいにね」
それでも幾人かの兵士たちは、金属化していく己の神経を、筋肉を、骨格を軋ませながらも果敢にシノギを撃ち倒そうとガトリング砲をぶっ放す。けれども吐き出す弾丸は全て虚空で黄金に代わり、虚しく床上へと転がり落ちるばかり。やがてガトリング砲そのものさえも黄金と貸し、強引に動かした腕は砕けて落ちる。細かい破片を散らしながら、黄金の呪いと毒に犯された兵士たちは次々と彫像に、或いは残骸へと変わり果てていく。
「如何に優れた鎧だろうと、機械であるなら腐食もするでしょう。
身体能力のブースト? もはや動けもしない黄金像には無用の長物ですね。
一度着たら脱げない? 隙間から霧が入り込んで、お前の体がぐずぐずになっても、
もはやどうしようもないですね? 脱げないのなら逃げられませんし。
でも、棺桶やベッドの手間も省けて、気の利いたパジャマになるんじゃないですか」
「……オノレェェェ!!」
せめて一矢報いんと、指揮官を含む残存兵力たちが漂う霧を突切り、シノギ目掛けて疾走する。
ある者はその最中に倒れ込み、後続の者たちに踏み荒らされて無惨に砕け散る。
ある者はガトリング砲を突き出したまま動きを止めて金の彫像へと変わり果てた。
一歩を進むごとに、兵士たちは次々とそれぞれ様々な姿で落伍していく。まるで死の行進だ。
「言ったでしょう。蹂躙力でこの私にオブリビオン風情が勝てるわけない……と。
この毒も、他ならぬ私のCurse Of Tomb(おなかのなか)から溢れ出たものですから、当然耐性を持っているわけで。
あとはもう、お前達が苦しむ様を一人特等席から鑑賞させてもらいますね?」
とうとう、兵士たちは一人を残して物言わぬオブジェに。或いは無惨な破片と成り果てた。
彼方此方に転がる黄金のかけらのどこからがどこまで機械鎧で、そしてどこからがフラスコチャイルドの肉体であったのか。
それすら判別できぬ程の目映い黄金が散乱し輝く、美しくも呪わしい不吉な光景。
「私を孤立させたのが敗因じゃないですかね。他の猟兵がいたら、使うのを少しだけ躊躇っていたかも。
……まあ、彼らは私の自慢の財宝ですし、こんな呪いも物ともしないとは思いますし……。
こんな呪いを使わなくとも、あなた達はきっと別の理由で負けていたでしょうけれど」
黄金の躯の山に抱かれ、身動きも取れぬ最後の一体が恨めしげにシノギを睨みつけ―― せめてもの抵抗とばかりに黄金と化したガトリング砲を突きつける。けれど引き金を引こうとも最早指が動くことはなく、引き金を引いたところで金の塊と化した砲はもはや駆動することも叶わなかっただろう。ぴきぴきと音を立てて、黄金化の呪いが首元までせり上がっていく。辛うじて動く唇で、彼が吐き出す末期の憎悪を滲ませた呟き。
「怪物、メ……!」
「そちらに言われる筋合いはないですよ」
呪詛を残し、完全に黄金と化した最後の一体。
その終焉にちらりと一瞥を向けて、シノギはそれきり興味を失った。
造り物の財宝になど顧みる価値などまったく無い。
ましてやそれが、自分の生み出したものならば。
「……あんまり派手にギンギラギンしてても、有難みがないですしね」
わかりやすくはありますけれど。
そんな呟きを残し、シノギは踵を返す。後方で固く閉ざされていた扉が、黄金へと変わる。それは後に残された黄金の山同様、見向きもされることなく粉々に砕かれ飛び散った。その後、誰に知られる事も無く、呪いに満ちたこの黄金の墓所は瓦礫に飲まれて消えるのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
黒鋼・ひらり
絶対無敵の機械…ね
生憎だけど機械って時点で私にはカモ…その鉄屑、墓標にしたげる
磁力操作能力作動、戦場内に磁場を展開
重火器の類…ガトリングの銃弾は磁力で弾く…体勢崩そうとしても無駄よ(ギミックシューズによる壁貼り付き、磁力跳躍・ダッシュを駆使した三次元機動で駆け抜けつつ)
三次元機動で駆け抜け、銃弾をあしらいつつ合間合間に「磁力を込めた」磁性体射出や鎖鉄球での反撃を織り交ぜつつ…そろそろ頃合いかしら?
そ、機械は磁力に弱い…その機械鎧も例外じゃない筈よ
周囲に磁性体も沢山あるし…棺桶ごと鉄屑に埋まりなさいな
最奥のコンピュータウィルスとやらは…他に任せるわ
万が一私の磁力でコンピュータが壊れても何だしね
●死に逝く星の
「最奥のコンピューターウイルスとやらは任せるわ。
万が一、私の磁力でコンピューターを壊してもマズイでしょうし」
黒鋼・ひらり(鐵の彗星・f18062)は道中を共にした猟兵たちを先に進ませる。
細かい作業や見識が必要そうならば、それは得意な者たちに任せるとして。
自身は自身の得意分野に専念しようというわけである。
「此処は私に任せて、あんたたちは先に行きなさい。
……なによその顔、なんか変な事言った?
ほら、いいからさっさと行きなさいってば」
後方より侵入者へと追い縋ろうと大挙するフラスコチャイルドの兵士たち。
彼らを足止め―― 否、殲滅することをひらりは選んだのだ。
「さて、絶対無敵の機械……なんてモン、あってたまるかってのよ」
視界の向こうにはまるで黒い大波のように押し寄せるフラスコチャイルドたち。
黒手袋を嵌めたその手で掴んだ鉄球に繋がる漆黒の鎖が彼らを威嚇するかの如く、じゃらりと小さく音を立てる。
「例えそうだとしても、お生憎様。
機械って時点で、あんたらは私のカモなんだから。
……そう、私はあんたたちの天敵なのよ。その大仰な鉄屑、墓標にしたげるわ」
突き付けられたガトリング砲を意に介する事もなく、ひらりは走り出した。数多の砲口が吠え猛り、獰猛な唸りと共に吐き出される破壊の息吹。無数に降り注ぐ銃弾の嵐は然し、たったひとりの標的を捉えられず、いずれもの弾が明後日の方向へと次々に逸れていく。
「無駄よ」
ひらりの異能、磁力操作。
周囲を取り巻くように形成された強力な磁場が、降り注ぐ弾丸の尽くを跳ね除ける。如何に苛烈な砲撃だろうとその衝撃さえもが目標には届かない。従って、ひらりの仏頂面が他の表情へと変わる事もないのだ。 それでも自身を追いすがるように引っ切り無しに撃ち込まれる銃弾には辟易したらしく、敵たちを幻惑するかのように時折ステップを交え、砲火の狙いを揺さぶって――時に嘲るように壁へ、天井へと張り付きながらひらりは彼らを翻弄し、より多くの無駄な労力を注ぎ込ませる。
「……クソッ! チョコマカト目障リナ蝿ノヨウナ奴!」
「ムカつくわね。黒いからって一緒にしないで。それに避けるだけじゃないわ」
合間合間に虚空から―― 否、『武器庫』より次々取り出される総金属のハルバードを立て続けに磁力の反発により砲弾の如く射出する。『ミーティア』……即ち流星の銘に相応しく、取り巻く風を引き裂き唸りを上げて飛来する斧槍の雨は、銃弾の嵐を物ともせず、カカシのように立ち並ぶ兵士たちへと降り注ぎ、幾つもの早贄を作り出した。それでも彼らが纏う装甲はたしかに強固なのだろう。ひらりが本来意図していたよりも、無事な兵士たちの数は多い。串刺しにされた味方を盾に続く攻撃を往なす無情さ。統制された動きに加え、機械めいた冷徹さは彼らをより手強い戦闘兵器として完成させているのだ。
「……思ってたよりはやるようだけど!」
手近な兵士に思い切り投げつける鎖鉄球。剛力によって投げつけられ、更に磁力を帯びて加速した鉄球は砲弾、寧ろ隕石の如き勢いを持って正面より弾丸を受け止めた兵士を容赦なく吹き飛ばす。
「ガハァッ……!?」
身体をくの字に折り曲げ、床へと叩きつけられた兵士はそのまま床を削り砕き数メートルほど雑巾の如く地面を掻いて漸く動きを止めた。絡みつく鎖を引いて、ヨーヨーの如く引き戻された鉄球を再び投げつけ、周囲を薙ぎ払うように振り回して牽制。接近しようとする者たちをその場に縫い止め、ひらりが吠える。
「……でも残念、もう時間切れよ。私の勝ちね」
「何ッ……!!」
「何ってあんた、機械は磁力に弱いでしょ。
……そのご立派な機械鎧だって例外じゃないと思うんだけど?」
ひらりの勝利宣言を裏付けるかのように、ひとりでに機械鎧の兵士たちの身体が浮き上がり、そのまま緩やかに互いを引き寄せ合うよう距離が縮まっていく。抗おうとしても無駄だった。鋼鉄の塊がこの戦場全体から流し込まれ続けていた磁力は余りにも強力に過ぎた。電子回路は狂い、スパークを散らし、次々と爆ぜては死に、白煙を勢いよく噴き上げる。パワーアシスト機能を喪失した今、その不可視の誘引力に逆うだけの力を彼らは備えていない。藻掻く事さえ出来ない絶望のはじまりだった。
「もう分かったでしょう? ……今のあんたたちは『磁石』そのもの。
引き寄せ合う力からは逃げられない。……逃してなんかやんない」
プラスとマイナス、それぞれの磁性を帯びた金属塊同士が引き寄せ合う勢いは次第に一層の力を増し、加速する―― やがて、無数の鉄の塊同士が空中で幾つも激しく激突する、凄まじい衝撃音が周囲に響き渡った。幾つも飛び散る金属片、そして鮮血が床上へとぶち撒けられる。
「ギャアアアアアアアッ!!!!!」
今、悲鳴を上げられた者は幸運である。それすら叶わず、密集してくる仲間たち……否、忌々しい鉄塊に取り囲まれ、逃げ場も無く圧し潰され、鎧ごと全身を粉砕された者たちも大勢いるのだから。中空より地面へと落下し、強引に押し固められ食い込みあったフラスコチャイルドの塊は、その衝撃で再び苦痛を味わう事になる。これでまた幾人もが生命を落とした事だろう。けれどそれでもまだ死ねぬ者たちにも慈悲はあった。
「……ウ゛……グ……」
「一方的に甚振るのは趣味じゃないし、これで終わらせましょう」
虚空に掲げるひらりの右腕。それに反応するが如く、周囲に投射されて墓標の如く突き立っていた数多の斧槍が浮き上がる。 逃れられぬ終わりを前にして慄く巨大な鉄塊に向けて、それすらをも埋め尽くさんばかりの勢いで無数の流星雨が再び降り注ぐ。
「埋葬はサービスしとくわ。その棺桶ごと、星屑に埋もれて消えなさいな」
そして、後に残るのは静寂。
最早動くこともない、鉄血のオブジェに背を向けて、ひらりは歩き出す。
まるで犬の散歩の如く、携えた鎖に引きずられ、鉄球が地を掻きそれに続く。
「…………こっちに回ってやっぱり正解だったかな。
ウイルスをどうこうだとか、どう考えても私のガラじゃないんだもの」
さて、後はどれだけ残っているやら。自身の得意分野。その続きに勤しむべく、ひらりは次の戦場―― 銃声の響く方角へと向けて進むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アハト・アリスズナンバー
おうおうおう。どうやら似たような存在が。
あ、でもそこまで好戦的仕様ではありませんよこっち。
その鎧はとんでもないかもしれませんが、どっちにしろ弱点さらけ出してるしそれ突きゃいい話です。
ユーベルコード起動。こちら側で能力の上昇を完結する以上、このユーベルコードは止められない。何かを指摘できようとも、止める事は出来ない。
マルチロックによる一斉発射。貫通誘導弾によるロックオンも付けてその鎧の継ぎ目に部位破壊を狙って射撃します。確実にその鎧を纏ったあなた達以上の強さになった私に、負ける要素はない。
さて、悪魔のウイルスはこの辺にあるんでしょうかねえ。
ルゥ・グレイス
アドリブ歓迎
デス・バレーのコンピュータウイルス、うちの研究局から技術流出とかあったり、なんだかきな臭い感じではあったけど、まさかここまでとは。
さて、彼らフラスコチャイルドが背負っているあれ。
いつだったか論文を見た覚えがある。そう…確か疑似代理神格。
他者の信仰やなにかを力の糧にしてるのかな?
であればその市民との情報回路を断ってやればいい。
炉心、加熱開始。
PDBCInt.接続。
魔術回路の79%をジャミング魔術に注いで、相手のユーベルコードを機能不全に。
兵器を作るとして必要なのは安定性だ。
エネルギー供給を外部に頼ると今の君たちのように最高のパフォーマンスがだせなくなる。
悪いけど、これでチェックかな?
●Supersonic Showdown
「……さて、いよいよ最深部ってところでしょうか。コンピューターウイルス、早い所確保しませんとね」
「まったく、よくよく面倒をかけてくれるものだ。ウイルスについてはうちの研究局からも技術流出があったようで色々と申し訳なくもなるけれど……キナ臭いあれこれも、うちの不始末ぶんくらいは僕がきちんと清算しなくては」
研究所地下最深部。数多の区画を越えて、辿り着いたこの一角こそがウイルス保管庫へと繋がる最後の関門。無論、この先には彼らの最大戦力が待ち受けているのだろうが、幸運な事に先行して露払いを務めた猟兵たちの活躍により、此処まで辿り着いた二人の消耗は最小限に抑えられていた。
「僕のユーベルコードは反動がキツいので出し惜しみをしていましたが
……漸く解禁できそうですよ」
そう告げるルゥ・グレイス(RuG0049_1D/1S・f30247)の言葉に、其処から少し離れて立つアハト・アリスズナンバー(8番目のアリス・f28285)は咥え煙草から紫煙を燻らせつつ、「頼もしい限りです」と頷いてみせた。奇しくもフラスコチャイルドである二人にはそれぞれ思うところもあったかも知れないが、待ち受けているのが同族に近い存在だったとしても、オブリビオンである以上その野望を果たさせる訳にはいかない。両者ともに、これを撃破するという決意には些かの綻びもない。最後の一服を終え、アハトは取り出した携帯灰皿に押し付け揉み消すと、灰皿を再び懐に仕舞い込む。
「……あの扉の先に進めば、いよいよ最終決戦です。覚悟はいいですね?」
「もちろんですよ」
聳え立つ巨大な最後の扉。
それを前にするアハトの問いに、ルゥは平静通りの涼し気な様子で頷いた。
「では――……“Open Sesame”なんて言ったりしてみたり」
彼の反応を確認したところで、アハトは扉の傍に据え付けられたコンソールのキーを叩く。道中で倒された兵士たちから吸い上げたパスコードが役に立ったという訳だ。低い駆動音と共に、扉に施された電子錠が解除され、重たく分厚い扉が左右に開かれる。
「……おうおうおう。お仲間が沢山いらっしゃいますよう。
しかも皆様いずれもやる気満々じゃないですか」
扉を開いた先、予想通りに待ち受けているのは無数に並んだフラスコチャイルドの兵士たち。くすんだ銀に鈍く輝くガトリングの砲身を部屋の入口に立つ両者に油断なく向けるその態勢は正しく準備万端と言ったところ。
「ああ、でも……そちら程好戦的仕様ではありませんよ、こっち」
軽口混じりに敵の出方を伺おうとするアハトの機先を制するべく、ガトリング砲の掃射が横一線に薙ぎ払われる。
「……やる気出しすぎでは?」
「まったく、辛抱が足りてませんね!」
アハトとルゥはそれぞれ口々に言いながら右と左に分かれて水平に撃ち込まれた弾丸の強襲を横っ跳びにやり過ごし、そのまま手近な遮蔽物―― 太い柱の陰に退避する。尚も執拗に浴びせかけられるガトリング砲の制圧射撃。物陰から体の一部を覗かせれば、それは途端に跡形もなく吹き飛ばされてしまう事だろう。そして轟音と共に延々と浴びせかけられる無数の弾丸はじりじりと遮蔽物をも削り砕き、悠長にしていれば逃げても隠れても関係なく一切合財を蜂の巣にしてしまうはずだ。
「ルゥさん、切り札を切るのは今ではないでしょうか」
「勿論、僕もそう思っていたところです!」
轟く砲声の中、それぞれ離れた柱の陰より二人のフラスコチャイルドは仕掛けるタイミングを今だと見定める。
「連中は僕たちのユーベルコードの能力を分析するそうですが――」
「私達のそれは種を見破られたとしても、問題などありませんからね!」
屈み込んでいた柱の陰で、ルゥとアハトは同時に立ち上がった。
『――――……アリスコード送信。総員、決議します。採択を』
【許可します】
【やればー?】
【いいよ】
【おけまるー】
【どうぞどうぞ】
【やっちゃいなよ、そんな悪者なんか!】
ソーシャルディーヴァとしての能力を賦活させ、同型のアリスズナンバーモデル……姉妹たちと繋がったネットワークを介して自身のスペックを一時的に強化増大するアハトのユーベルコード《ハートクイーンズ・ジャッジ》。時折へそ曲がりの天の邪鬼が足を引っ張ることもあるが、今回は全員の意見が一致したようだ。同調したネットワークを介し流れ込む姉妹たちからの支援効果により、今の彼女の運動能力は常時と比較にならぬ程に高められている。
「……如何に私のコードを分析しようと、無駄だと思います。
純粋に自己強化に費やした私をどうにか出来るんですかね、あなた達!」
柱の陰より飛び出し、アハトは全力で地を駆ける。地を這うように低い姿勢での疾走。撃ち出される弾丸ひとつひとつが描く軌道さえ、今の彼女は瞬き混じりに追うことが出来る。強化されたその動体視力をフルに活かせる反射と脚力のオマケ付きだ。矢鱈滅多に撃ち込まれる弾丸が幾多に及ぼうと、一発たりとも今のアハトを捉える事は出来ずにいた。
「こちらのスペックはその鎧を纏ったあなた達を確実に凌駕しています。
今の私に、負ける要素はありません」
「……ドウニカ出来ルカ、試シテヤロウデハナイカ!!」
アハトの動きを分析しようと、後方に控えるフラスコ兵たちが前に出る。
その背中に負う、大型の機械。その名も疑似代理神格型演算支援ユニットを起動させるべくそれぞれ装置を展開する。
「……さあ、今ですよルゥさん」
「同族と言っても、動きがやっぱり機械的過ぎるんじゃないかな?
単調でいてくれるのはありがたいけど」
アハトの声を合図にルゥが柱の陰から身を乗り出した。アハトの速度に気を取られ、彼らが装置を展開するそのタイミングを、ルゥは待ち構えていたのだ。それに気付いた兵士たちが咄嗟にガトリング砲を向けるも、ルゥの準備もまた既に終わっていたのだ。
「そのユニットについてはいつだったか論文で見た覚えがある。
確かそう、疑似代理神格。その根源、力の糧は何かな? 他者の信仰?
例えば……フェイクの情報で踊らせている市民たちとかからの」
まあ、何にせよ。
そう続けながらルゥもまた自身のユーベルコードを起動する。
「であるなら、僕はユニットと対象を繋いだ情報回路を断ってやればいい。
炉心、加熱開始。PDBCInt.接続―― 問題なし。……《妨害》術式起動!」
ルゥ目掛けて弾丸を撃ち込む筈だったガトリング砲は、アハトと姉妹たちとのリンクを中継するソード・ソーシャル・ドローンの体当たりにより、その砲身を斜めに切り落とされ、不発に終わる。そして起動を終えたルゥのユーベルコード《形而上銀河鉄道の車窓より(ノン・ヒューマン・レヴェル)》。一時的に限界を越えて励起された情報処理能力により、ルゥの全てのスペックは飛躍的に跳ね上がる。効果終了後、限界を越えた神経を休める為の昏睡を代償とするがアハト同様、今のルゥのスペックは機械鎧を纏い強化されたフラスコチャイルドたちの遙か先を往く―――――。
「兵器を作るとして、必要なのは安定性だ。
そのバランスを欠いた兵器なんて、安心してとても使えたもんじゃない。
……エネルギー供給を外部に頼れば、そう……。
今の君たちのような状況では最高のパフォーマンスは発揮できなくなる」
汎用性を欠いた兵器なんて使い所に困る代物はナンセンス。
兵器として生み出されたフラスコチャイルドたちを揶揄るような言葉と共に、無数の弾丸を掻い潜りつつルゥは励起された魔術回路の大半をリソースに注ぎ込み、その過剰な出力に任せて複雑な構成をショートカット。瞬時に紡ぎ上げた妨害(ジャミング)の術式が今まさに効果を発揮せんとする疑似神格ユニットを暴発させる。
「……悪いけど、これでチェックかな?」
神格ユニットの破壊と同時、回路のショートによって次々と機能不全を起こす機械鎧の重みに耐えきれず崩れ落ちていく。もはや身動きも取れなくなった兵士たちを待ち受けているのは、荷電粒子砲を構えるアハトであった。その砲口に粒子の光が収束し、ばちばちと電光が幾つも細かく弾けて散った。大気を渦巻かせ吸い込むようにして収束し膨れ上がっていく青白い死の光は禍々しくも美しい。その絶景と引き換えに見たものの生命を奪うチェレンコフの輝きはしかし慈悲深く。
「同族のよしみです。苦しませはしません」
「ヤメロ、止セ……!!」
一瞬の内に、機械の棺桶に囚われた兵士たちを纏めて飲み込み、無に帰した。
眩い輝きがゆっくりと消え、入れ替わりに残るのは静寂と激しい銃撃戦の様子を物語る、無惨に幾つもの弾痕を穿たれた室内の様相ばかり。視界を埋め尽くさんばかりに並んでいた兵士たちが消えた事で、アハトとルゥの開けた視界には壁に埋め込まれるように備え付けられた保管ユニットに収まった小さなチップが見て取れた。
「……ひとまずは目的を果たせました、か。……あ、れ……?」
「そろそろ時間切れのようですね。お疲れさまでした」
安堵したような言葉と共にチップを目指し歩き出そうとするルゥの動きが止まる。情報処理能力をフルに稼働させた多大な負荷による限界が来たのだろう。ふらつく身体を支える事も出来ず、よろめき倒れ込みそうになる彼をすかさずアハトが抱きとめ、そっと床へと横たえる。苦笑しながら「後は任せました」と、そう告げて目を閉じるルゥは、すぐに寝息を立て始め―― 彼の代わりにチップへと歩みを寄せるアハトは、懐に手を伸ばせば再び一服だとばかりに煙草を咥えて火を灯す。
「…………ふぅ……。
ひとまずは悪魔のウイルスとやらも確保はできましたね」
天井に向けて肺いっぱいに取り込んだ紫煙を吐き出すような溜息。
確保したウイルスの発生源を破壊するにしても、下手を打つ訳には行くまい。
すぐ傍で寝息を立てる彼が目を覚ましたら、少し相談するとしよう。まずは分析の必要があるだろうというアハトの意見にはきっと頷いてくれると思うのだが。
「……まあ、たぶん最初は……。
これ、グリモアベースで分析してもらう事にでもなるんでしょうかね?」
足元で眠る少年の髪をそっと伸ばした指先で小さく撫でて、それからまたアハトは漂う紫煙に視線を移すのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マオ・ブロークン
……そう。
ここを、守るため。人工的に、造られた、命なら。
……わるいけど、あたしは、容赦。できない。
どいて。先に、進まなきゃ、いけないの。
銃弾、を、受けたって。身体は、痛く、ないもの。
涙、止まらない、のは……心が、ずっと、ひどく、痛むから。
ひとらしい、感情を……ころして。進むしか、ないから。
一緒に、沈んで。【オフィーリアの微睡み】。
こんなに、乾いた、大地、だもの。かれらの、装備も。
浸水に、遭う、ことなんて……きっと、考えて、ない。
一度、回路が、ショート、しちゃえば。力を、封じたって、遅い。
あとは、丸ノコ、で……モノに、還す、だけ。
●弱き者よ、汝の名は女なり
「…………ッ……」
暗転していた意識が現実へと引き戻される。
目蓋を開けても、まるで夜のように周囲は暗く、息苦しささえ覚える。
思わずその重みを振り払うように腕を振るえば、途端に状況を理解してしまった。
押しのけたそれは、味方の亡骸―― いや、残骸だった。
気絶したわたしは仲間の躯に埋もれて暢気に今まで眠っていたのだ。
なんたる無様。
「……α-3……」
そして同時に、長く共に過ごした相棒が。
もう二度とわたしに話しかけてくれない事も理解した。
「おのれ、猟兵……!」
わたしのガトリング砲が見当たらない。
周囲を苛立ち紛れに引っ掻き回し、漸く見付けた無事なガトリング砲を失敬する。
どうせもうわたし以外にこれを使う者はいない。
これが元々誰のモノであろうと構うものか。
躯の山から這い出して、立ち上がる。
辺りに転がっているのは皆わたしたちを見下していた連中だったが、それでも元は同じロットを割り振られた者たちだ。例えわたしがこうして無惨に屍を晒していたとしても、連中は何も思わぬであろうけれど。
何故だろう。握りしめたガトリング砲がひどく重い。
わたしの纏う機械鎧はまだパワーアシストは生きている筈なのに。
本能が逃げろと告げているのだろうか。
―――― それでも。最後に残ったひとりとして、わたしはやらねばならない。
コンピューターウイルスを引き起こす発生源は確保されたらしい。
最早この要塞に留まる理由はない。猟兵たちは次々と退去を始めていた。
マオ・ブロークン(涙の海に沈む・f24917)。彼女もまた、徐々に崩壊を始めたこの要塞から脱出しようとするひとりであった。
長い廊下を進んで、その先。 行く手を阻むように立ちふさがる影がひとつ。
「…………もう、全員倒したと……そう、思っていた」
「惜しかったな。わたしが最後のひとりだ」
引きずるように携えていたガトリング砲を両手で構え直すフラスコチャイルドを前に、対峙するマオもまたべっとりと血糊にまみれた愛用のバズソーのハンドルを握り直す。
「もう、終わった……の……。戦う必要、ない」
「必要はある。わたしの役目は此処を守ることだ。
心せよ。逃げるにせよ、戦うにせよ……
そこを踏み越えたが最後、わたしはおまえを殺しに掛かる」
消極的に、戦闘を拒むマオの行く手を阻むように、最後の生き残りはガトリング砲を唸らせた。その足元を抉るように撃ち込まれた弾丸は、横一線に並ぶ一筋のラインをまっすぐに床へと刻み込む。
「……もはや勝敗は決したが、わたしはそれでも。
自身の作られた意義を果たさねばならぬ」
「……そう。ここを、守るため、人工的に、作られた、生命なら」
マオは、足元に刻まれたラインを一歩進んで踏み越えた。
「……わるいけど、あたしは、容赦 できない。
どいて。先に、進まなきゃ、いけないの」
「上等だ。わたしとてそんなもの、ハナからしてやる心算はない!」
ラインを越えたマオに対し、フラスコチャイルドは言葉通りに弾丸の雨を見舞う。
降り注がせた飛礫のひとつひとつに宿る、暗く燃え上がる憎悪と殺意。
立て続けに降り注ぐ弾丸はマオの肉体を撃ち抜き、幾つもの弾痕を刻む。
体液の、脳漿の、溢れ出る液体を帯のように、涙のように引きながら、それでもマオの歩みは止まらない。無数に転がる空の薬莢、飛び散る肉片、血飛沫。
「……っ! くそ、死ね! 倒れろ!! ふざけるな!!」
「……だめ、だよ。もう死んでるもの。…… 身体は、痛く、ないもの」
流れ出る涙は、血と混じり合ってもう境目もわからない。
無数に打ち付ける弾丸は、それでも死人を再び葬り去るには数が足りない。
何万発撃ち込まれたって、きっとマオは倒れない。
「……心が、ずっと…… ひどく、痛むの……。
ひとらしい、感情を……ころして。進むしか、ないから。
でも、あなたも……おなじ、みたい」
「……ッ……!!」
幾ら弾を撃ち込んでも、眼前のデッドマンを倒す事はかなわない。もどかしげに、ガトリング砲を投げ捨てる。
こんなもの、もう要らない。こんなものじゃなくて、自分自身のこの腕で、この死に損ないを壊してやる。
「…………こいつ、こいつ……殺してやるッ!!!!」
煮え滾るような憎悪の感情を抑え切れず、咆哮と共に鉄の腕を振り上げ、最後のフラスコチャイルドは疾走する。
鎧のアシストと、激怒の感情によって限界以上に加速した突撃を、緩慢なマオでは回避する事など出来なかっただろう。
「……わたしは、殺せない……。でも、あなたを。楽に……して、あげられる」
マオの紡ぐ言葉が消えぬ内に、周囲の大気は急速に湿り気を帯びていく。
そして、室内であるにも関わらず、ぽつぽつと頭上より降り始める雨。
ただの水ではない。これは塩分を含んだ、海水にも似た――― 涙の、雨だ。
次第に勢いを増していく雨に打たれ、鉄の鎧にはその隙間から流れ込んだ水分が回路を次々とショートさせ、今にもマオを引き裂こうと腕を振りかぶって飛びかかったフラスコチャイルドは失速し、雨水を跳ね上げて頭から突っ伏すように転倒した。
「……ぐ、ぬッ……!!」
ばちばちと鎧の各所からはスパークが走り、煙が噴き上がる。主要な回路の大半は一瞬の内に焼け付き、死んだ。後に残ったものと言えば、ただの重たい枷と成り果てた二度と脱げぬ鉄の鎧に囚われたフラスコチャイルドただひとり。
「……こんなに、乾いた世界で。……その鎧を作った人も。あなたも。
雨に打たれて浸水するなんて、きっと考えてなかった、よね。
一度回路がショート、しちゃえば。
たとえわたしの、力を、封じたって、遅い」
血と土の混じり濁った水溜りの中で藻掻くフラスコチャイルドの前で、マオの手にしたバズソーがゆっくりと持ち上がる。ばちり―― 流し込まれる生体電流により、強引に駆動させられたエンジンが不吉の音を奏で、あらゆる物を噛み千切るように切り裂く丸鋸が唸りを上げて高速回転し始めた。
「…………まだ、だァッ……!!」
泥溜まりの中で足掻く、兵士は喉を裂くような咆哮と共に、全身の筋骨を軋ませて強引に立ち上がる。ごぼごぼと血反吐を溢しながらも、その腕を振り上げ、倒れ込むようにマオ目掛けて踊りかかった。
「苦しかった、よね。でも、終わりに……するよ」
マオはそんな彼女に対し、優しく抱きしめるような力加減で丸鋸を差し出し――― その身体を真二つに断ち切った。重力に引かれ、分割された身体はそれぞれ水溜りに落下し、最後の力を使い果たしたオブリビオンは最早完全に動きを止めるのだった。
「……おまえの勝ちだ。けれど、わかるぞ」
ゆっくりと出口に向けて歩き出すマオを呼び止めるように。
上半身だけになったオブリビオンの娘は静かに囁いた。
「結局……貴様とて、ただ痩せ我慢をしている、だけだろうが。
……まったく、腹立たしい泣き虫め」
口惜しさを噛み締め、それだけを絞り出すように告げて、最後の生き残りは 物言わぬモノへと成り果てた。いつまでも止むこと無く降り続けるのでは―― そう思う程に激しさを増していた筈の涙の雨は、何時の間にか止み。
「…………あたり」
そう、小さく呟き――
マオはもう振り返ることもなく。
もう守る者が誰も居なくなった崩れ行く砦を静かに後にする。
それから少しの間を置いて再び降り出した雨はまるで。
誰かの代わりに泣いているかのように。
暫くの間、降り止むことはなかった。
大成功
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