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銀冠に春を告ぐ

#アックス&ウィザーズ

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●揺動
 葉もない樹々をふるわせ、駆けゆく大気の流れが風花を散らして歌ってゆく。
 白肌の樹々に覆われた峰々のはざま。深く切り立った谷に、吊り橋が架かっている。
 こちら側から彼方の峰へ、ことに、一年のほとんどを白銀の冠を被ったまま過ごす、高き雪嶺の集落へ向かうには、この吊り橋が唯一の道だった。
 しかし今、その吊り橋を渡る者はない。――渡ろうとした集落の民が、空の異変に気付いたのは幸いだった。
 冷たくも澄んだ青空に躍る、鮮紅の翼。この世界、アックス&ウィザーズには珍しくもない竜の亜種、ワイバーン。
 姿を見咎められれば、命ひとつ容易くあの蹴爪に貫かれてしまうだろう。物影に身を潜め、冷や汗をかきながら、集落の民らはどうすれば――と眉根を寄せた。
 もうすぐ峰々に、春を告げる客人たちがやってくる。自分たちよりもいっそうか弱い彼らの命が、あの凶爪に散らされてしまう前に、なんとかしなければ。
 ああ、けれど――いったい、どうやって?
 途方に暮れた白い息が、ふわりと辺りを染める。
 傍らに切り立つ谷は他人事のように、地の底を逃れる命の音を遠く、微かに響かせていた。

●春告鳥の祝祭
「ねえあんたたち、ちょっとひと仕事頼まれちゃくれないかい?」
 知り合いのように気安く呼ばわる声に猟兵たちが顔を上げると、声の主――グレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)はにやりと笑ってみせた。
「ある山に、春遠き郷、なんて通り名で呼ばれてる集落があるんだよ。辺りの地形からは深い谷で切り離されていて、まあ、文字通りの陸の孤島だ。だけどまぁ、そんな場所にも人が住んでるからには、渡る術もあるって訳でねえ」
 吊り橋が一本架かっているのだと、グレは告げた。誰がどうやって架けたものか、不思議に思うほど深い谷ではあるのだが、と。
 なんでまたそんな場所に居を構えたものか――並ぶ呆れ顔に、愉快げに肩を揺らす。
「あたしはそういうのも嫌いじゃないけどね。まあそれはいいとして、その吊り橋の近くに近頃、一匹のワイバーンが住み着いたんだ」
 空を自在に舞い、縄張りとする竜たちの亜種。機敏で獰猛なその獣が、橋を渡ろうとした小動物を一瞬で掴み殺したのを、グレは予知に視たのだという。
 野に在れば、大なり小なり命を狩って生きていくもの。だが、望まれない客人のせいで集落の者たちが飢え死にするのを放っておく訳にはいかない。
「ましてや吊り橋を渡ろうとして喰われるのを、だ。生憎、視ちまったもんを忘れておける質でもなくてね。そういう訳で、ワイバーンの討伐に向かって欲しいんだ」
 吊り橋のある渓谷上層までは、谷底から崖沿いの道を上っていくことになる。まずはその起点、谷の入り口に集う甲鎧虫の群れを追い払う必要がある。
「こいつらは何もしなきゃおとなしい質の筈だけど、谷底を棲み処にしてたのを、ワイバーンに追われて逃げてきたようだ。少しばかり気が立ってるから、近づけば間違いなく攻撃されるだろうね」
 迂回路がない以上、可哀想だが倒さない訳にはいかない。けれど全滅させる必要もない、とグレは言う。
「甲鎧虫の殻は武器防具のいい素材になるらしいからねぇ。倒した分は割り切って、後で有効活用してやればいい。そこそこの数を倒せば、残りは逃げていくだろう」
 そして吊り橋上空には、辺りを周回するワイバーンの姿がある。吊り橋に足を踏み入れれば、ただちに降下してくることだろう。縄張りを侵すものを殺すために。
「こっちは追っ払うだけって訳にはいかない。完全に息の根を止める必要がある。揺れるわ撓むわで足場も落ち着かないし、落ちたらあんたたちといえど無傷じゃ済まないよ」
 橋の上で戦えるのは十人が精々だろう。神妙に頷く仲間の顔に、グレは一転、にっと笑ってみせた。
「骨の折れる仕事だけど、終わったら集落までもう一登りしてくるといい。春の祭りの時期らしいんだ」
 雪景残る嶺の集落のささやかな祭事。雪が消える日は数えるばかりしかなく、春に最も遠い郷と呼ばれるそこに、今時分、確かに季節を告げに来る者がある。
 それは、銀色がかった白い翼を持つ春の使者。――掌ほどの、小さな小鳥の群れ。
「平地の春はそいつらには暖かすぎるらしくてね。山の気候が過ごし好いのを知っていて、春先になると上ってくるんだそうだ」
 愛らしい客人を迎えるころ、集落では冬の間に作り溜めた工芸品を軒先に並べたり、鳥の声に似る笛で楽を奏でて鳥喚びをしたりして祭りを楽しむという。
 何にせよ――ワイバーンが谷を牛耳っていれば、小鳥たちの訪れは遠のくだろう。春を告げる者たちに道を拓く、それはまるで、
「あんたたちこそ春の使者って訳だ。心に随うまま、存分にやっておいで」
 掌に浮かび上がった翼のかたち。グリモアの放つ燃えるひかりに、グレは少しばかり剣呑な笑みを浮かべて仲間たちを送り出した。


五月町
 五月町です。
 お目に留まりましたらよろしくお願いします。

●ご確認の上ご参加ください!
 今回のシナリオでは、第一章、第二章それぞれに各十人程度のプレイングを採用し描写する予定です。
 描写可能なプレイングが揃い次第リプレイに着手しますので、構成やスケジュールの都合上、問題のないプレイングであっても流れる、また参加が締め切られる可能性があります。同行記載があってもお一方しか描写しない場合もありますので、ご注意ください。
 第一章は27日8時半からプレイングの受付を開始します。第二章についてはマスターページとツイッター(@satsuki_tw6)にて告知しますので、ご確認をお願いいたします。
 なお、第三章のプレイング期間は長めに取る予定です。

●第一章:甲鎧虫との集団戦パート
 全て倒す必要はありませんが、一定数倒し切らないと先に進むことができません。

●第二章:ワイバーンとの戦闘パート
 吊り橋の上で戦います。アクロバティックな戦闘を意識していただくと嬉しいです。

●第三章:春告鳥の祝祭を楽しむ日常パート
 春告鳥(実在の鳥ではありません)の翼や羽をモチーフにした手作りの工芸品が並んだり、鳥喚び笛を奏でて歌い踊ったりするささやかなお祭りです。
 こちらに限り同行者の明記をお願いします(名前/団体名/ID)。
 この章のみ、お呼びがあればグレが顔を出します。

 それでは、好い道行きを。
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第1章 集団戦 『甲鎧虫』

POW   :    鎧甲殻
対象のユーベルコードに対し【防御姿勢】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
SPD   :    穴掘り
【地中に潜って】から【体当たり】を放ち、【意表を突くこと】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    球体変化
【闘争本能】に覚醒して【球状】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

コノハ・ライゼ
食うか食われるかとはいえ
一方的にじゃやるせないしねぇ
自分もヒトの世界で生きる身なれば、龍の空腹に付き合ってもいられないワケで
悪ぃケド、道開けてもらうネ

追い払えりゃイイってんなら、大きくて強そうな個体から狙おうか
先ずは【月焔】を分散しばら蒔き
『高速詠唱』からの『2回攻撃』で狙い定めた敵に
合体し威力増した焔を撃ち込む
球体になられっと厄介だし、外殻にできるだけ傷をつけときたいトコ

術を扱えど離れて戦う気はさらさらなく
反撃は『オーラ防御』と『激痛耐性』で凌ぎ
「石榴」の間合いに入ったら
『傷口をえぐる』ように斬りつけながら焔を捩じ込もう

さあ、これ以上喰われたくなかったら散った散った


ミカエラ・チャーチ
こんなに綺麗な自然の空に、
絶望の嘆きを響かせるなんて忍びないってものだよね

ブラッド・ガイストで武器を強化しつつ
甲鎧虫の群へ人狼咆哮を見舞ってやるわ
牽制にも怯まず屈しない骨のある奴には、迷わず鶴嘴を叩き込んで
あたしの相棒は食い意地が張っててね
あたしの血だけじゃ足りないんだってさ!
生命力を吸収しながら効率良く戦闘不能に陥れていくよ

敵の動きから反撃の気配を察したらすぐに回避態勢
戦意を喪失していたり逃げる奴は追わない
戦うのは好きだけど無駄な殺生は不要よね
あんたも足るってことを知りなさいよ、と鶴嘴の柄から手へ伸びる触手を振り払って

*アドリブ、連携大歓迎


セリオス・アリス
アドリブ歓迎

飛んでねえだけマシ…って思ってたが
転がったりすんのか面倒だな
まあでも、あの手のヤツは内側か継ぎ目が弱点っつーのが定番だ
そこを狙っていくとするか

『歌』で身体強化
『ダッシュ』で距離を詰め
下から浮かせるように一回
浮いたヤツに突き立てて『2回』で仕留めていく
丸まったヤツが跳んでくるなら足で『カウンター』一回吹っ飛ばし
とにかくひたすらに殻の継ぎ目を狙って叩き斬る

しかしマジで数が多いのは面倒だな
ここらで一気に終わりにしようぜぇ!
焼き焦がせ!蒼焔の星!
【蒼ノ星鳥】をぶっぱなし斬撃で燃やす!
放った直後も攻撃の手は止めず
防御姿勢で生き残ったヤツへと駆けトドメを刺そう
丸まって動かねえならいい的だ


メーリ・フルメヴァーラ
ウカ(f07517)と!

ウカとのメールで春告鳥の話をしてたら
困った子がいるって聞いてやっつけに来たの
ちゃちゃっと倒してワイバーンもどーんして
いっぱいお祭り楽しもうね!

虫さん見つけたら
天涯の星を構えて躊躇なく
天翔ける綺羅星の在処を連打
虫さんだから氷属性付与したのがいいかな
お星さまたくさんあげる!
地中に潜られてもそれをも穿つ勢いで
どーんとばーんとやっちゃうんだから

ウカとは連携を密にして
同じ攻撃対象を討ち漏らさないよう集中攻撃
まあ私は全部どかどかやっちゃうんだけど
いいよね!みんなおやすみなさい!

ウカの華麗な攻撃にはすごーい!って目を輝かせ
最後まで気を抜かずに頑張るよ
戦いはまだ始まったばかりってやつ!


華切・ウカ
メーリちゃん(f01264)と一緒に!

ウカの電子通信機器扱いの師匠、メーリちゃん
初めて送信したメールでおでかけしましょうとお約束し、それが今叶うのです!
けれど、そのまえにお仕事はきっちりと。
参りましょう!

ウカは自身の複製を。
地面に潜って、出てくるところを花鋏の刃で捉えて地面へ。
どちらから来るか――いくつか戦い重ねて得た第六感にもたよりつつ。
でも最後は自分の目で捉えたものを確実に。
ひとりではありませんからね!沢山でてきても、メーリちゃんが助けてくれますから!

メーリちゃんのお星さま!すごいのです!
これはウカも負けてはいられませんね!
撃ちもれた個体あれば、己を手に直接仕留めに。
堅い殻も、チョキンと!


ウトラ・ブルーメトレネ
むしさん、逃げてきちゃった子たちなの?
ぜんぶ倒さなくていいの?
かわいそうなの?
それなら……うん!

竜の翼で中空へ飛び、周囲の地形、猟兵たちの配置、甲鎧虫の動きを観察
抜けられそうなルートをみつけたら、まだ戦闘になっていない甲鎧虫の元へ

おにさん、こちら
かたなのなる方へ?
殺さぬ程度に愛刀でつん、からの、一目散でダッシュ
追って来る数が増えたら御の字
殺さずに済むのなら、なるだけ逃がしてあげたい気持ち

囲まれ身動き取れなくなれば、中空へ一時退避
作戦失敗にぺしょんと凹んで、素直に助けを求める

仲間、自分の命の危険を感じたら、「助けてあげたい」より戦意が勝つ
これいじょうは、だめ
瞳に冷たい光を宿し、遠慮なく斬り捨てる


白雪・大琥
懐かしい雪の匂いを微かに感じながら、ユキヒョウを喚ぶ
「すげぇ痛そうだな、あのトゲ……。お前は駆け回るだけでいい、気を付けろよ」
ユキヒョウには囮になってもらい敵の攻撃が当たらないよう動いてもらう
仲間の手助けにもなればいい
当たり損ねた所を狙いダガーで攻撃
「うわ、かってぇな……! 刃通るのかよ……!」
殻が無理なら敵が思うまま動けなくなるよう体をひっくり返すように弾く
他の仲間とも連携し、いい所で叩いてくれると助かる
攻撃中も敵の動きに注意しながら野生の勘で体当たりを避けるように立ち回り
体の柔いところ見つけたら仲間に声だけ向けて教える
「お前らも災難だったな……けどこの先に進まなきゃなんねぇんだ。悪ぃな」


ジャハル・アルムリフ
貴様らの棲家か
悪いが、通らせて貰うぞ

強引に通ろうとする素振りを見せ、
多くを引きつけたところで
【餓竜顕現】を使用
黒剣の、刃ではなく側面で広範囲を薙ぎ払い
可能な限り多数を巻き込む
上手く気絶させられれば続行
効かなければ止むを得ん、斬るしかあるまい

……我が師が見たら甘いと呆れるやもしれんがな

また、餓竜の剣風で虫たちの飛行を乱し妨害できれば
多少は他の猟兵たちも攻めやすいだろう

防御され切らぬよう毎回、剣の軌道を変える
または防御が解けた直後をカウンターで狙って
一撃を受けたら防御を固めながら耐える
ああ、怒る権利はあろう故
この位は受けてやる

道が開ければ、後部にも合図
不要な交戦を避ければ殺しすぎることもないだろう


リル・ルリ
■アドリブ、絡み等歓迎

「春を歌う鳥がいるの?お祭り……僕も行ってみたい。皆が春を祝えるように、厄災を海に返そうか」
僕にも出来ることをしたい
守られるより守れるように
強くなりたいから

「硬そうな虫、だけれど……倒さなければ」
大丈夫、きっとできる
僕の武器は歌
【歌唱】を活かして遠距離から攻撃していくね
歌うのは過ぎ去りし冬の「氷楔の歌」
凍っておしまい
倒せればいいけれどだめでも
少しでも動きを鈍らせられたらそれがきっと仲間のチャンスにもなると信じる

【空中戦】と【野生の勘】で攻撃を察して躱して
仲間がいれば協力していこう
他に仲間がいれば「凱歌の歌」で力を上げて力を引出して


暖かで優しい春を、歌えるように
さぁ、いこう


静海・終
春、もうすぐ傍にいるのですね
人も動物も自然の営みがあるというもので
彼らは悪くはない、人でなくとも命は尊い
けれどそれが悲劇と繋がるなら私は殺して、壊しましょう

周囲との共闘は喜んで
向かってくるもの以外は追わず
まずは槍の刃の方は使わず打って弱らせる
刃を向け振るい威嚇するなどしてみましょう
しかしこちらも命を渡すわけにはいかないので
向かってくるなら容赦なく穿ちます
何匹か倒してからまた威嚇行為を行い逃げるよう促してみましょう
逃げてくれると嬉しいのですが
ドラゴンランスの竜にも威嚇できます?なんて聞いてみて

此方の虫たちは集落に持って行けば活用していただけるでしょうか
有難く、その身を使い自然の営みを紡ぎましょう


マルコ・トリガー
弱肉強食は自然の摂理だとは思うけど、相手がオブリビオンなら関係ないね
それに吊り橋が使えないと困るだろうし、小鳥も見たいだろうからね
ま、ボクは暇つぶしに来ただけだけど

なんだか固そうな敵だなあ
こういうのって内側を守るために外側が固くなってるイメージだから内側を狙いたいね

【錬成カミヤドリ】で手数を増やして【フェイント】と緩急をつけた【2回攻撃】で敵に囲まれないように動きながら他の猟兵を【援護射撃】

地中に潜られたら地面の動きをよく見て【第六感】も信じて上手く回避できるといいなあ

敵の鎧以外の弱そうな部分が見えたら予め撃っておいた【誘導弾】を撃ち込もう

ここは君らがいていい場所じゃないんだ
谷底に帰りなよ


イトゥカ・レスカン
雪の峰の短き春
住む方々にも、訪れる春告の客人にも尊きものでしょう
いずれも無粋な来訪者に奪わせはしません
必ずお守りいたしましょう

さぁ、お往きなさい
空へと放つ青の散花は数をお相手するにも向きましょう
倒すべき分を逃さず狙います
甲鎧と冠するだけに固さ自慢なご様子
ならば、その隙間を狙うが吉でしょうか

全てを倒さずとも良いのは助かりますね
荒事は不得手なら、必要以上の殺生も好まないところですから
とは言え害になる分を躊躇う気はございません
弱き者が傷付き奪われる、それは防がねばなりませんから

癒し手が足りないようならば
生まれながらの光での治療にもあたりましょう
前に立ち受け止められた傷に比べれば
疲労など安い代価です



●猛き刃のこころ
 銀冠の峰々が彼方から見下ろす場所に、ひしめくものがある。
 硬く艶やかな鎧の体、甲鎧虫。鎌にも似る触角は青くちらちらと輝いて、何かを囁き合っているようで――谷底を追い出されたと聞いたがためか、どことなく不憫な気配を纏っている。
 対して、頭上にはどこまでも冷たく透き通る空。知らず憧憬の眼差しを向けていたミカエラ・チャーチ(幻灯窟の獣・f14223)は、よし、と得物を握り締める。
 こんなにも綺麗な空に、死の嘆きを響かせるなんて忍びないから、
「急ぐのよね? それなら――開戦の名乗りを上げようじゃない!」
 名よりなお明瞭にミカエラを語る人獣の咆哮が、烈しく揺れる音の波で群れをなぎ倒した。我が身に何が起こったか悟った虫たちは、触角の光を強め、一斉に戦闘態勢を取る。
 地に潜った――と思うが早いか、唐突に足許に穿たれる穴。大地を波打たせるような虫たちの特攻に、身を以て受け止めたミカエラは艶やかに、獰猛に笑った。
「そういう骨のある奴、嫌いじゃないわ!」
 握り締める手に、柄よりするりと冷ややかに伝い来る『死の手』。血を受けて禍々しい覚醒を果たした戦鶴嘴を頭上に――そして振り下ろす。
「あたしの相棒は食い意地が張っててね。あたしの血だけじゃ足りないんだってさ!」
 鎧も歪む鋭い一振りでは、まだ。ひたりと伸びる触手が、虫からそれ以上を奪い取る。やるネエ、と獣みた笑いがミカエラの傍らを駆け抜けていった。
 食うか食われるかは野の常とは知りながら、奪われるばかりは何とも心が痛む。そして耳も尾も晒すことなく世に在って、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は今、ヒトの世界の眷属だ。集落の民に肩入れするのも道理。
「アンタ達には悪ぃケド、道開けてもらうネ」
 狙うなら大きく、強そうなものを。後方を支えるに満ち足りず、自ら飛び掛かったコノハに、ほとほとと零れた月の焔が一斉に続く。
 丸まりかける虫の体に衝突したいくつもの鬼火は、鎧の堅固さに感嘆するコノハのゆびさきに従い、より大きな炎へ育っていく。
「ホラ、集めて束ねて――もっと暖かくしてあげる」
 白々と鎧を熱する冴えたひかりに、鎧が焼けた鉄のような赤に染まる。
「あらら、怒った? お気の毒サマ」
 身を丸め、力を高める虫に『柘榴』の一噛みを刻みつけて笑った。
 鋭く砥いだ牙と、硬き守りの衝突。ひとたび戦いが始まりさえすれば、やるせなさは遠く――狩りはいつだって血を沸かせるものだ。
 そして戦に逸るものが、もうひとり。
「うわ、転がったりすんのか……面倒だな」
 けれど、その身の全てが等しく堅固なものではない筈だ。悪態一転、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)の光の気配を纏う歌声に、烏羽のような髪がふわりと戦ぐ。力の高まりを身の内に感じ、よし、と笑う――そこへ、地中から飛び出してくる巨大な弾丸めいた一撃。
「ってぇッ……! ハッ、そっちから飛び込んでくるとはいい根性してるじゃねえか!」
 弱点を探り潜り込ませる刃。一閃が、穴へ戻る軌道から敵を引き剥がす。間髪入れず叩き込む二撃目は懐へ。狙い通り――と言うほど柔くはなくも、外殻に比べれば薄いその肚に、切っ先は深々と突き刺さった。触角の燐光が消える。
「よおーし、仕留めたぜ! ……って」
 ――気づけばセリオスを囲い込む、怒りに点滅する触角たち。
「……マジで数が多いの面倒だな」
 ぶわ、と冷や汗が湧く。けれど即座に次の一撃を繰り出す横顔には、戦熱に染まる笑みがあった。

●優し花のこころ
 そうして熱に染まる戦場のなか。ふわふわと、けれど懸命に中空を漂う虹色の影。
「むしさん、逃げてきちゃった子たちなの? ぜんぶ倒さなくていいの?」
 ……かわいそうなの? 話を聞いたその時から胸の中で問い続けた繰り言が、それなら、とウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)の中でかたちになった。
「……うん! おにさん、こちら。かたなのなる方へ?」
 危地には鋭く翻る陽の色の花の剣も、今日はつん、とつつくに留め。そんなささやかな一撃にもなんだよー、と追いくる虫に、なんだなんだと群れが連なる。そこからぴゃっと逃げ出して、ウトラは広々とした荒野の方へと虫たちを誘い出した。
「ごめんね、いたかった? わたしが助けてあげるから」
 棲み処を追われただけでもかわいそう。――だから一匹でも多く、助けてあげたい。
 あたたかくて優しくて、まっすぐな気持ちはまるで小さな陽だまりのよう。それが伝わる相手では多分なかった、筈だけれど――。
 追いかけっこを続けるうちに、怒りに燃える触角の光はなにがなんだか和らいで、何に怒ってたんだっけ? と言いたげに足を止める。
 ……ウトラのように、幼く無垢な虫たちだったのかもしれない。多分。
「……よかった! あのね、待っててね」
 きっとすみかを返してあげるから! 心に決めてふわふわり、谷へ引き返したウトラを見上げ、
「お前、すげぇな……あの痛そうなトゲ持ってるやつを一人で引き付けるとか」
 ――思わず素直に零してしまった一言に慌てて、目を逸らすぶっきらぼうの白雪・大琥(不香・f12246)。気を付けろよなと言い訳のように言い置いて、
「お前もだ。駆け回るだけでいい、怪我するなよ」
 撫でる手に、戦場に招かれたユキヒョウがするりと身をすりつけ駆け抜けていく。
 戦場を縦横無尽に駆ける相棒が生む風に、彼方の峰からひやりと下りてくる雪の匂いが混じった気がした。一匹――うまく釣れた虫が地に潜る、それは次の突撃の合図。
「……来る、そこだ!」
 大琥の勘働きが一瞬遅れれば、相棒は棘で貫かれていただろう。躱すユキヒョウを捉えきれず、甲斐なく空に飛び出す虫の懐目掛け、大琥はダガーとともに弾丸のように飛び出した。
「! うわ、かってぇな……! 刃通るのかよ……!」
 弾き返した一撃に、ころりとひっくり返った虫がじたじたと身を捩る。丸まられてはすぐに戻ってしまう、その前に――、
「――映せ」
 鋼の膚持つ竜が、虚ろの眼窩で虫たちを睨めつける。荒れる一掻きで薙ぎ払うその背には、影落ちる誓いの剣を一閃するジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)。
 吹き飛んだ虫たちの甲鎧に衝撃の痕はあれど、斬撃の傷はない。磨がれた刃を当てぬ心遣いは、ウトラと大琥の眼差しを輝かせたけれど、当人は自嘲の笑みを唇に浮かべた。――師が見れば甘いと呆れたことだろう。
 けれどその閃きは確かな威力を残す。気絶した敵は数匹、触角の輝きを強めて地に潜ろうとする残りの虫たちを見るや、ジャハルは誰の耳にも止まらないほどの息をひそやかに落とした。
「ええ、お気持ちは分かりますよ。彼らは悪くない、人でなくとも命は尊い」
 春を待つばかりのこの緑豊かな魔法世界を舞台に、人も動物も等しく自然の営みの中に在るのだからと、静海・終(剥れた鱗・f00289)は微笑む。
「ですが、それが悲劇と繋がるなら――私はそれを殺して、壊しましょう。皆様と共に」
 言葉だけは剣呑に、けれど記憶より感情よりも強く、悲しみを遠ざけんとする衝動が裡から終を突き動かす。
 ――威嚇できます? 手指に馴染む槍にそう囁きかければ、くるり翻った穂先は高速回転しながら転がってくる球体を素早く穿つ。狙いを逸らされた虫が地面に突っ込む間に、槍の輪郭はふわりと空気に溶けた。真の姿を現したそれは、相棒たる小竜。
 終の意志を余さず拾い、小さな体に似合わぬ轟きを喉から放つ。思いがけず烈しく揺らいだ空気に怖気付いた虫たちが退がる一瞬に、再び刃のかたちをとった小竜を確と握り締め、大袈裟な気合と共に振り下ろす。
「逃げるなら今のうちです。向かってくるなら容赦なく――このように」
 言葉は通じずとも、鼻先で止める一突きの意味は理解できる。ぱらぱらと逃げ出す個体をいい子ですねと見送る間に、ジャハルもまた残る虫たちに油断のない切っ先を向けていた。
「援護しよう」
「……助かる!」
 視線は向けずにそう叫び、繰り出す一撃で合わせていく大琥。深き雪と樹々に閉ざされた郷で密やかに暮らしてきた彼には、今はそれが精一杯。それでも、同じく言葉少ななジャハルには充分足りる。
 真正面から敵を薙いだ誓いの剣。引ききってはすぐさま返す黒刃は、今度は下方から虫たちを斬り上げる。二度と同じ軌道を描かず躍る剣に、死角から飛び込んでくる大琥のダガーが鋭く合わせる。
 ぽつぽつと離脱していく虫も現れたものの、未だ怒りに燃えて果敢に地中から飛び出してくる者もある。その一撃から、ジャハルは敢えて逃れようとはしなかった。
「ああ、怒る権利はあろう故。――この位は受けてやる」
 住処を追われた先でまたも追われる憐れさは、その身ひとつに受け止めて――心を色には強く表さない男の優しい剣が、また一体の意識を叩き飛ばした。

●綺羅星のこころ
「すっごくタイムリーだったよね!」
 春告鳥なんて! と朗らかに笑うメーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)の詠唱銃から、溢れ出すはきらきらと冷気に輝く魔力の星。
 お星さまたくさんあげる! ――光なき地中に潜る虫たちを、きらめきで追い立てるような流星雨に、護り合うように背を合わせた華切・ウカ(空鋏・f07517)もすごいのです! と歓声を上げた。零れた光のいくつかを受け止めたように、金色の瞳がきらきら笑う。
「はい、おでかけのお約束がこんなに早く叶うとは思いませんでした! ……はっ、そこです!」
 教え教わったばかりのメールで、その小鳥の話をしたばかりだったのだ。けれどその前にお仕事はきっちりと――地中から飛び出した虫の頭上を、雪白の袖が駆け抜ける。
 放たれたウカの『複製』、花鋏たちは、うぞうぞと動く虫の手足をたたたん、と軽快に地に縫い付けていく。
「わぁ、ウカすごーい! そうだよね、邪魔なんかさせないんだから!」
「はい! すばやく参りましょう!」
 せっかくのウカとのお祭り! せっかくのメーリちゃんとのおでかけ!! ――いずれの方向であれ、熱意は乙女を強くする。
「そっちいっぱい行ったよ、ウカ!」
 大小に強度もさまざま、一撃では倒しきれない個体も決して少なくはないけれど――お気に入りの精霊銃に魔力を込めつつ、引き付けるメーリ。両足を強く地に、幾度かの戦いで身につけた戦いの勘に掛かるものを探して、ウカは意識を、不意に細めた眼差しを、油断なく地中へと注ぐ。
「心得ました、メーリちゃんもお気をつけて! ……来ますよ、三、二、一」
「まかせて! どーんとばーんとやっちゃうよ!」
 言葉通りに銃身から溢れ出す魔法。飛び出した瞬間に星々に穿たれた虫たちの空に、『華切』を携えたウカが身軽く躍る。
 舞い落ちるようにひらり、揺れる袂よりも速く鋭く、錆を知らない鋏の先が、つうと鮮やかな一線を鎧の上に引き切った。
 急く心は仕方ない。だってこの先で、春を呼ぶ鳥たちが待っている。電子の波でたどたどしく飛ばした文字でさえ、小さくてやさしいその存在に、一緒にそれを見るひとときに、あれほど心躍ったふたりなのだ。心など、とうに彼方の峰へと一緒に翔けている。
「もうひと押し――堅い殻も、チョキンと!」
「みんなおやすみなさい!」
 ひとりではないから、助け合えるから、囲まれたってこわくない。 息の合った連撃に押し出され、虫たちが一目散に逃げ出せば――やったねと見合わせる四つの瞳も、笑う。
「おお? あっち、なんか派手にやってんじゃねぇか……よし、ここらで一気に終わりにしようぜぇ! 焼き焦がせ、蒼焔の星!」
 風を斬り取るセリオスの一閃が、鳥と化す。青白い熱の欠片を零しながら駆け抜ける翼は、軌道上の虫たちを脅かすように貫き、苛烈な炎に包み込んでいく。
 その熱ある戦いの気が、不意にひんやりと引いた。耳に届く声に振り返れば、そこには銀細工のように繊細な夜の歌。
 その喉でそれを奏でるリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)は、春を歌う鳥を、そのやわらかな歌声を想う。護られるより守れるように――自分に向いた視線には微笑んで、月の色を含んだ鰭を揺らして拍を取れば、流れ出す歌は柔く冷ややかに、遠くから虫たちのもとへ降る。
 ――……踊れ、躍れ。君の熱、全て喰らい尽くすまで――……♪
 それは往く季節をうたう言の葉。ひんやりと沁みゆく冷たさに、虫たちの足が少しずつ、動きを鈍らせていく。やわらかな眼差しに微笑みを湛えて、少年は冬の歌でこの先に待つ春を際立たせていく。
 いかに硬い虫でも、通さずの盾だとしても、この身に持った武器、この歌で出来ることを。皆が春を祝えるように、暖かで優しい春を小鳥たちと共に歌えるように――厄災は過去の海へ還さなければ。
 冷ややかな音色を引き取って、再びその喉に紡ぎ出すのは凱歌。早々と齎す勝利の歌は、仲間の背をその未来へと押し出していく。
「さぁ、いっておいで」
 言われなくても――と淡い金色の眼差しをちらり残しながらも、マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)はありがと、と口の中で呟いた。掴むのを苦手にしている人との距離感は、共に戦う戦場では攻める手を並べるだけで少しだけ和らぐ。それが不器用なマルコには有難い。
「……吊り橋が使えないと困るだろうし、小鳥も見たいだろうからね」
 懸命に戦いつつも浮き立って見える仲間たちを横目に、少年が目指すのは地中から飛び出した虫たちの背中。歌声が高めてくれた力を本体たる短銃の『複製』に込め、行け、と虚空に解き放つ。銃口はすぐさま一匹の虫に照準を集め、一斉掃射、
「……と思った? 残念、鬼さんこちら――ってね」
 降り注ぐ銃弾の軌跡が檻をなし動きを止める中、上体を持ち上げた敵の懐に滑り込む。手許に残した一挺こそが、敵の庇う懐を貫くための隠し弾。
「お見事です。――ああ、全く、この数全てを倒さずとも良いのは助かりますね」
 夕暮れに染む琥珀の瞳を和らげたイトゥカ・レスカン(ブルーモーメント・f13024)、その眼差しに降る青が映り込む。蝶のような妖精のような、或いは星のような――ひらりひらりと舞い下りてくる青の散花は、宝石の輝きを持つ薄片。
 お往きなさい、その一言で、見た目とは裏腹の鋭さで咲き乱れては鎧を切り裂いていく。
「……その割には容赦なくやってない?」
「ええ、荒事は不得手なら、必要以上の殺生も好まないところですから」
 じとり見遣る少年ににこり微笑み、
「とはいえ害になる分を躊躇う気はございません」
 ふと瞳に過る強さを目に、ふうんと相槌打って少年は銃を構える。起き上がり地を掻こうとする一匹にすかさず放った一弾に、深く深く秘められた天邪鬼な思いを察したイトゥカは、同意を示すように花嵐を展開していく。
 ――弱い者が傷つき奪われること。悪戯に倒されること。それはきっと、この少年の本意でもないのだと。
 もがく触角にまだ光が淡く残って、虫はくるりと鎧を丸め力を高めていく。それを追い撃つのは、マルコが空に放っておいた誘導弾。軌跡に切り裂かれた風を埋めるように、リルの中性的な歌声がひやりとした魔力を運んでくる。昂った攻撃力が反撃に使われる前に、凍りつく音で抱きしめて離さない。
「ここは君らがいていい場所じゃないんだ。……氷が溶けたら、谷底に帰りなよ」
 ――ワイバーンなら、暇つぶしになんとかしてあげるから。少年の逸らした目と素直になれず嘯く口に、リルの喉がころころと笑い声を立てた。

 ――じり……じり、と。
 交代して飛び込む地中の穴は、撤退のしるし。
 或いは地上を行くものもある。猟兵たちの巧みな攻撃に、暖かい優しさに、すっかり降伏した甲鎧虫たちは蜘蛛の子を散らすように――いや、それよりは少しばかりゆっくりと、谷の入り口から退いていく。

●災厄の兆し
「さあ、これ以上喰われたくなかったら散った散った。もうチョットしたら戻ってくればいいヨ」
 竜の癇癪と空腹に付き合っていられないのは相身互い。ちゃんと倒しておくからサ、と笑うコノハの傍ら、頷きだけを共にして、大琥は動かなくなった小さな虫へぽつりと呟いた。
「お前らも災難だったな……けど、この先に進まなきゃなんねぇんだ。悪いな」
 あの虫たちも追い立てられた被害者だ。倒してまで退かせたからには必ずそれを成してみせると、静かに拳を握り締める青年に目を細め、それではとその亡骸を抱え上げるのは終。
「この身は有難く使わせていただきましょう。必要とされるだけを狩るのが、この世界に生を営むものの在るべき姿ですから」
 そんな言葉を傍らに耳にして、虫たちが去ってもなお、貪欲に血を求め沸き立つ戦鶴嘴の『手』を、
「あんたもいつまでも逸ってないで、いい加減足るってことを知りなさいよ」
 ミカエラは邪険に振り払った。戦に昂揚する質は否定できないけれど、無駄な殺生はしない。――それは悪戯に生を弄ぶのと同じだから。
 気づけば谷にしっかりと入り込んでいたようだ。影深い谷底から、いつもの癖で何気なく高みへ視線を投げる。
 黒々とした岩に眠る鉱脈のような、細い青。懐かしく胸に迫るもの。この影の底の暗さとあの鮮やかさには、
(「覚えがあるなぁ……でも、今は、ね」)
 ぐっと両腕を空に伸ばして一呼吸、ミカエラは前を見据えた。――平穏な春を、あの峰まで届けにいかなくちゃ。

「行こうウカ! 戦いはまだ始まったばかりってやつ!」
「はい、急ぎましょう、メーリちゃん!」
 手を繋いで駆けていく娘ふたりに勢い引っ張られるように、猟兵たちは崖沿いの道を足早に上っていく。
 目指すは切り取られた彼方の空。暗がりから望む涼やかな青、その下に聳える白銀の冠。その澄んだ風景に、小さな翼影が赤い染みをつけたような気がして――イトゥカは目を細める。
 雪の峰に訪れる、短き春。それは住まう者たちにとっても、春告げる小さな客人にも――そして祭りを知って訪れる人々にとっても、きっと尊いものの筈。
 赤い翼の望まれぬ来訪者に奪われる前に、
「――必ずお守りいたしましょう」
 虫たちの足音を届けた風が、今度はその誓いを空へと吹き上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ただ谷を削り取っただけの谷沿いの道は、人が並び歩く、或いは行き交うには充分な道幅を持っていた。
 それでも、片側は深い谷間、頼るものは断崖の壁だけという時間がふた時も続き、猟兵たちにも緊張からの疲れが見えるものも少なくない。――その一方で、高所のスリルにきゃっきゃと喜ぶものたちも在ったけれど。
 あれを、と誰かが指さした先に、ゆるやかな弧を描いて谷を繋ぐ吊り橋が見えた。ほっと息を緩め、猟兵たちは急ぎ来た足をさらに早めてそこへ至る。

 ――それは思った以上に心許ない出来だった。
 蔦を束ね編んで作られたそれは、いつ切れるかと不安を誘う古さで。
 集落の民はよくこれを使い続けて来られたものだ、と思うも、これが唯一の手段であればそうするほかなかったのかもしれない。
 ふたり、並び行く程度の幅はある。恐る恐る足を踏み出してみれば、橋はぎい、と不穏な音を立てて軋んだ。重みを受け、山風に煽られてぐらぐらと揺れる。思わず古びた手すりにしがみつきたくなるも、そこもまた頼りないことには変わりない。
 けれど実際に歩いてみれば、見た目ほど安く落ちはしまいという安心感も確かにあった。
 そうしてめいめいが具合を確かめる、頭上の空を。

 殺意の塊――赤い暴虐が、翼をたたんで翔け下りる。
 様子を窺うこともせず。
 ただ、縄張りを侵した者たちを貫き、吹き飛ばし、殺すために。
ウトラ・ブルーメトレネ
しゅうらくのみんなを、むしさんを困らせて
ことりさんまで困らせようとしてるのね!
らんぼうものには、おしおきなのっ

できるだけ【空中戦】で吊り橋への負荷軽減
他の猟兵が動きやすくなるよう意識
だいじょうぶ、みんな落ちない
みんな、つよい!
あぶなそうな人はお助けするね?
(撓む橋はちょっぴり楽しい)

全部の命中には固執せず【咎力封じ】を拘束ロープ、手枷、猿轡の優先順で使用
ワイバーンの動きを少しでも封じたい
動きを注視、隙あらば死角へ飛んで「えーい!」

わたしの翼も、あれくらい大きかったらいいのに
悔しさと羨望を抱え、懸命に羽ばたく
飛行で敵の気を引けそうなら一度だけ挑戦
みんながおっきいさんを狙いやすくなりますように!


静海・終
吊り橋効果という言葉をご存知でしょうか
私ドキドキしっぱなしです、この極限な橋に
橋にも恋にも落とされる前にあの悲劇に幕をおろしましょう

早めに終わらせたい所ですね
2回攻撃や傷口を見つければ狙い穿ちましょう
無理な体制になっても攻撃の機会があれば柄の部分で叩くなどで攻撃を
しかし橋が大きく揺れれば私は攻撃より安全を優先しサポートに
手すりを掴み共に戦う猟兵を支えます
言ってしまえば竜の方が先に此方の縄張りを犯したのだ
狩られても、文句はありませんよ、ね?

終わればこの橋多少なりとも修繕いたしませんか?と
集落の方の同意が得られるなら縄などを使い修繕強化
ここが落ちるのも悲劇と言えます、些細でも出来る事に努めましょう


ジャハル・アルムリフ
独り占め、というわけか
いい身分だな

だが丁度良い、屠竜の土産話なら御満足いただけよう

用いるは【怨鎖】
繋いだ鎖を引き、竜の行動範囲を少しでも狭める
<第六感>で急降下攻撃の気配を察知できれば
鎖を引くことで爪の一撃から逃れ易くもする
剛力で振られるならばその勢いを利用し
竜の身体に飛び乗り近接攻撃を

<オーラ防御>も併用して攻撃を凌ぐ
耐える事には慣れている故
多少の手傷など構いはしない

鎖の数を増やせば身軽な他猟兵の手掛かり足掛かりともなろう
空中戦とて幾らかは心得ている
竜との中間地点へ翼で飛び
己が身体で仲間らの足場となるも良かろうか

驕れる強者が
作法を知らぬなら疾く墜ちろ

…後で橋の修繕も必要だな、此れは


ミカエラ・チャーチ
踏み外せばおしまいだなんてスリリングで素敵じゃないの
大一番を前に丁度いい、精々気分高揚させていきましょ

虫だけじゃ物足りなさそうな鶴嘴ちゃんへブラッド・ガイストで血を送り戦闘態勢
仰いだ空に翼竜なんて景観破壊は罪悪よ
身を以て償って貰うわ

敵の目にとまりやすいように光を反射する大きな首飾りを着けて
急降下してきたところへ鶴嘴を一撃
そのまま脚にしがみついてよじ登ってやる
暴れられるのは織り込み済みよ
振り回される反動で勢いつけて翼や関節の付け根を狙って捨て身の一撃を叩き込むわ
墜落したらどうするのかって?
何とかなるでしょ、きっと

吊橋の修理や補強をするなら手伝うわ
安心して空の間を渡れるように

*アドリブ、連携大歓迎


リル・ルリ
■アドリブ、絡み等歓迎

軋む吊り橋、だけれど僕は穹を游ぐから僕の分の場所を君へ譲る
「この橋は、直した方がいいね」
全部終わったら
皆が笑っていられるように

赤い龍は恐ろしい、けれど
誰かが傷つくほうが恐ろしいから
僕は僕にできる精一杯を歌おうか
ほら、僕を見て?
【歌唱】に想いをのせて奏でる「魅惑の歌」
殺意も暴虐も歌声に蕩かせて
これで隙をつくったならば、君の攻撃がきっと届くはず
まさか君まで聴き惚れた、なんてないよね?
なんて
ふわり、【野生の勘】で攻撃を察したならば【空中戦】も合わせて躱して
赤の竜が誰かを傷つけたならば「癒しの歌」を歌い響かせて癒していくよ
倒れるのはまだはやい

だって、これから
春に逢いに行くんだから


イトゥカ・レスカン
古く頼りないとは言え、長く集落の方々が使われてこられたもの
なれば信頼も出来ましょう
何より不安がって動きを鈍らせては負けてしまいそうです
いざとなれば掴みますので
どうぞ心配なくお行きください皆様

乗ってるだけで崩れる事こそないとしても
ワイバーンの攻撃で壊れやしないかは少々心配
橋へのダメージにも気をつけましょう

上空からの襲撃は中々厄介
負傷した方へ生まれながらの光で癒やしを届けます
勿論自分への攻撃もしっかり見極め躱す所存
癒し手が傷だらけではままなりませんので

隙があれば青の散花での攻勢も
皆、春を待っているのです
冬の底でお眠りなさい
あなたは些か食べ過ぎるのです
その飢えを満たす為の犠牲を私は見過ごせない


イア・エエングラ
歩いて、いるのに、浮いてるようなの
すこし不思議な心地かしら、ね
――お前のような、翼は、ないもの

ちりりと焼きつくような心地には
慣れぬ足場の心配も吹き飛ぶかしら
凍て風哭いてと、ユールの火より
招き起こしてお前の風さえ打ち消そう
ともにゆく子も、落ちないように

それでは足らない、届かない
おびき寄せるよに誘うよに
狭い舞台へと招こうな
僕らの手の届くまで、
揺らぐ足場も閃く爪も
なんにもこわくは、ないものな

目一杯にひきつけられたなら
低く駆けて躱しましょう
勢いのままに転げ落ちようと
かける鎖で繋ぎ止めよう

なあ、ほら、これなら、届くでしょう
遠く、春をと硝皚で季節を招こう
春を見られぬ、お前をおくろう


メーリ・フルメヴァーラ
ウカ(f07517)と

臆さず龍を見上げる
負けないんだから!
揺れる足場にも負けない心意気で臨むんだ

多分真正面からだと回避されそう
じゃあガジェットショータイムとぴよぴよせんしゃの出番!
小回りの効くいい子なんだよ!

囮を担ってくれるウカに浅く頷いて信頼と謝意を送る
眼下から逃れるようにせんしゃを疾駆させ
背後を取ってどかんと砲撃をかましちゃう
どんどん行くよ!
動きを予想されるならそれ以上に動き回ればいい
ぴよぴよせんしゃは一匹で終わらないよと攻撃連打
一匹見たら百匹 あれ何か違うねまあいいや

攻撃を受けても怯まない
集落のみんなに笑顔で挨拶するため
春告鳥のお祭りを満喫するために
絶対引いてなんかあげないんだからね!


華切・ウカ
メーリちゃん(f01264)と協力して

こちらは吊り橋、あちらは空の上
すばやく動かれるとなかなか対処が難しそうな!
けれど、その視界に入らなければ攻撃も当てようがあります

その翼を狙って攻撃を
ウカの分け身、花鋏を生み出し操って翼狙い
かわされるなら――死角となる場所から操って
ウカの攻撃は手数もあるので囮としても動けたら
叩き落されるなら再び生み出して狙うのみ、です!

メーリちゃん、チャンスがきたら狙って落としちゃってくださいね!
あれだけ大きい図体、狙い放題なのですよ!
……ぴよぴよせんしゃ…!!
かわいい…かわいい……はっ!今はまず、あちらから!
メーリちゃんあとでぴよぴよせんしゃをよくみせてくださいね!


セリオス・アリス
マルコ・トリガー◆f04649と同行
アドリブ歓迎

マルコがいるなら戦いやすいな
そんじゃ色々任せたぜ!

じりじりと焦がれる気持ちを抑えて
敵がこっちにくるのを待つ
【望みを叶える呪い歌】を歌い速度を上げる
『ダッシュ』で助走をつけ『ジャンプ』
わざわざこっちに来てくれてありがとよッ!
まずはマルコが追い込んだワイバーンの羽を狙って風の『属性』を乗せた『2回攻撃』
態勢が崩れたその隙を逃すわけにはいかねえなぁ!
地面に降りずにこのまま『空中戦』だ
靴に風の魔力を送り旋風を炸裂
その反動を利用して回転する事で勢いをつけ
マルコの攻撃と同時に『全力』の『属性攻撃』を叩き込む

倒せたらマルコの頭を撫でまわして褒めてやろう


マルコ・トリガー
セリオス(f09573)と同行

なんだ、セリオスもいたのか
折角だし、一緒に戦ってみる?

足場が悪いから【竜飛鳳舞】で跳びながら戦おうかな

フーン、このワイバーン、ボクの攻撃を予想して回避してくるのか
なら……ワイバーンの上部を【2回攻撃】で撃ち続けたら、下に下にと回避してくれるかな
敵の眼下にいるようにボクも一緒に降下しつつ、セリオスの攻撃が当てやすい位置まで誘導しよう
ま、セリオスならボクの意図を読み取ってくれるでしょ
セリオスが敵を攻撃してる間に【竜飛鳳舞】ですばやく敵に近付こう

セリオス、君の攻撃に合わせるよ
【零距離射撃】でトドメだ

望まぬ来訪者には消えてもらおう
さて、春の使者ってやつにはなれたかな?


杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎

「翼竜と戦うのは初めてだが思ったよりでけェなァ。
俺はこの戦場全てを利用する。別に吊り橋の上で絶対戦わなきゃいけねェってコトはねェだろ?
上空から援護して挟み撃ちにするぜ」

外套を翻し【杜の使い魔】使用
八咫烏に騎乗し、地形の利用をしながら空中戦
あと一人乗せて戦闘しても可
八咫烏の羽が狙われない様に爪の攻撃には注意

玄夜叉構えて超近距離で攻撃
ワイバーンの上を飛行
自分の攻撃予測を防止

敵の攻撃は剣で武器受け・カウンターで剣でいなして叩く
または見切りで八咫烏を一回転させて回避
属性攻撃・2回攻撃で剣に炎宿し業火の如く焼き尽くす
万が一、吊り橋から落ちる仲間がいれば救助

「悪ィがココいらで沈んでもらうぜ!」


コノハ・ライゼ
よぉ、腹ペコサンのご登場?
ケドあまりに一方的なんは頂けねぇしネ
喰われる側に、回って貰おうか

とはいえこの足場の悪さは如何ともしがたい訳で
ましてや相手は上空、オレに取れる手は限られるし無駄撃ちも避けたいトコ
「ご馳走はワイバーンだ、ヨロシクね
と【黒影】を敵に嗾ける

反撃は『オーラ防御』『激痛耐性』で凌ぎ
橋から手を離さず落下だけは避けたいトコ
急降下から戻る瞬間狙い『捨て身の一撃』で敵の背に取りつくのを狙いながら
『高速詠唱』で【黒影】放ち
『2回攻撃』で『傷口をえぐる』ように「柘榴」で斬り込むネ
受けた分は『生命力吸収』で少しでも補っとこ

敵サンと心中は避けたいトコだけど
上手く橋の上に戻れるか、ネェ



●摂理の外
 吊り橋は古くいかにも頼りなく、けれども長く集落の民が使ってきた筈のもの。理性とは違う、時と感覚に裏打ちされた信頼が、イトゥカには確かに感じられた。
 頭上に迫る敵から目を逸らすことなく、告げる。
「いざとなれば掴みますので、どうぞ心配なくお行きください、皆様」
「ああ、頼りにしてるよイトゥカ」
 ミカエラが歯を見せて笑う。橋がなんとか耐えうる筈だ、と聞いた人数は十人前後。それ以上での対峙が可能となったのは、
「別にそこで絶対戦わなきゃいけねぇってコトはねェだろ?」
 橋に十名、その他に空に留まれる者がいれば、それだけ手数も増えるだろうと億劫そうに呟いた、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)による。気怠い声はふと芯を得て、虚空をびんと震わせた。
「禍鬼から依り代を護られたしその力を、我に貸せ――……来たれ!」
 ふた色の瞳に見守られ、現れたのはクロウを乗せて余りあるほどの塗羽の大烏。三つ足を持つ神の使いに飛び乗って、空へ舞い上がる。
「縄張りか。ふん、勝って奪えば文句はねェな? てめェが追い出したのと一緒だろうが」
 咆哮とともに放たれる衝撃波。大丈夫だなと八咫烏を気遣いつつも、自身の背をゆうに超える大剣を軽々と、迫る喉笛へ翻す。そう簡単に上は取らせねェかと舌打ちし、にやり笑った。
「――まァ、そうじゃねェと面白くねェよなァ」
 そんな剣呑な一戦の幕が上がった頃。
 深紅の翼をぱたぱたと風に戦がせていたウトラも、手を増やした理由のひとつ。
「わたしも、空にいるからだいじょうぶ。空からみんなと、たたかう!」
 橋の際でそう宣言した通り、突っ込んでくるワイバーンをひらりと往なして反対側へ。衝撃と風で撓む橋を浮かびながらぎゅっと掴めば、ぐわんぐわんと伝わる揺れに思わず顔が綻んだ。
 ――ちょっぴりたのしい!
 けれどだめだめ、と自分を戒めて、無垢なウトラは引き返してくるワイバーンを真直ぐに睨みつける。
「しゅうらくのみんなを、むしさんを困らせて、ことりさんまで困らせようとしてるのね! これいじょう、いじめさせないんだから!」
 守るべきものを胸に浮かべれば、銀色の瞳は湖水のようにきらきら輝く。放ったロープが弧を描き、片翼にぐるぐると絡みつけば、光はますます強さを増して、
「やった! だいせいこう……きゃー!?」
 ぐん、と不意に舞い上がったワイバーンに吊り上げられて空の上へ。投げ出されたウトラはぽーん、と橋の上へ――、
「きゃっち! です。お怪我はありませんか、ウトラちゃん!」
「ロープはまだ絡んだままだよ、だいじょうぶ!」
 頑張っ(りまし)たね、とにっこり受け止めてくれたのは、ウカとメーリ。あわあわと慌てるウトラ、だって橋にはもう十人がいて、ウトラを入れたら十一人で――、
「それもだいじょうぶです! ほら、あちらを!」
 ぽんと肩を叩く手に顔を上げれば、
「少しなら平気じゃないの。代わってあげる」
 大人びた眼差しをちらと投げ、虚空にひとときの足掛かりを得て跳ぶマルコ。翼もないのにあっという間に高みへ至る小さな姿にほうと息を零したのは一瞬、あわわと再び慌てたウトラはぱたぱたと翼を戦がせ、空に浮かんだ。
「そ、そうじゃないのよっ」
 あわあわ、ぱたぱた。――しっかりしなきゃ!
 その様子に、月光を織ったかのような鰭をゆらり優美に虚空に揺らし、空を泳ぐリルはくすくすと笑った。橋に柔い指をかける。
「ああ……あまり無体をしないでほしいな。ただでさえ、この橋は直した方がよさそうなのに」
 見上げるワイバーンは、おっとりと窘める声になど構いはしない。
 生き急ぐような身のこなしに、リルはふるりと身を震わせた。殺戮と駆逐のみに駆られる生きものの、なんと恐ろしいことだろう。けれど、
 ――……♪
 響かせる歌声は蕩けるほど柔く、鋭い敵意すら魅了の中に抱き取ろうとする。
 ――グガアァァァ……!
 荒々しい咆哮で掻き消したワイバーンの眼が、憎々しげに歪む。届かぬ音にさも残念そうな少年へ、繰り出すのは柔い鰭など一裂きにしてしまいそうな鉤爪の一撃。
 自らの歌声にその傷を癒す少年を敵の視界から庇うように、ミカエラが前に出る。
「踏み外せばおしまいだなんて、スリリングで素敵じゃないの」
 言葉に一分の偽りもないことを示す、微かに上気した女の頬は輝くようで。接近するワイバーンへの臨戦態勢をとりながら、マルコははあ、と心からの吐息を漏らした。
「……すごいね」
 自分だって別に怖い訳ではない。ないけれど、この心躍らせようはわからない。そしてわからない相手がもう一人。
「ふふ、これこそ吊り橋効果というものですね」
 先刻からドキドキしっぱなしだと愉しげに笑う終に、マルコはロープにしがみつきながら、あからさまに顔を顰めてみせた。
「……それ、使い方間違ってない?」
「間違ってなどおりませんよ。橋にも恋にも落とされる前に――悲劇に幕を下ろしましょう!」
「そうね、さっさと済ませようじゃない」
 眩しい笑みを見せ、女は頭上の竜へ宣戦布告する。
「こんな澄んだ空に翼竜の悪意? 景観破壊は罪悪よ。その身を以て償って貰うわ」
 纏う光――喉許のくぼみに嵌まる大きな首飾りは、陽光を背に降下する竜の気を大いに惹いた。橋ごと命を攫い奪りにくる蹴爪に、深々と肉を抉られる――だけでは当然、おかない。
「物足りなかったんでしょ? 好きなだけ啜りなさい……!」
 ガッ――女の滾る血を前菜に、メインディッシュたるワイバーンの猛る血を喰らいにかかる戦鶴嘴。蛮食の得物に負けまいと、ミカエラも獰猛に笑う。
 ――ギィアァァァ!
 軋む叫びは近く、耳を劈きに来るようだ。竜からすれば、猟兵たちこそ己が領域を侵しに現れた悪者であるのだろう。
「独り占め、というわけか。――いい身分だな」
 熱のない声が後背に響き、ワイバーンは瞬時に振り返る。
 ――誰もいない。しかし、確かに声が。残虐な眼に僅かな迷いを浮かべた竜の傍らで、解き放たれた白亜の翼がばさりと音を生む。
「――鎖せ」
 受けた傷が生み出すは血の魔弾。至近からジャハルが放ったその雫は、ワイバーンの体を貫き内で爆ぜる。傷口に散った雫が魔力を受けてしゅるりと編まれ、色を変えていく――そうして男と竜とを繋いだものは、黒変した血の鎖。
 まるで、獣を乗りこなす猛獣使いのよう。引き立てる鎖は敵を戒め、多少なりと動きを制限する。
 ジャハルの唇に薄い笑みが浮かんだ。丁度良い――屠竜の土産話なら御満足いただけよう。
 翼をたたみ、素早く乗り移れば、なんとか振り落とそうと錐揉みしながら急降下するワイバーン。しかし、逃れようとするばかりのその動きには自ずと隙も生まれる。その反面、鎖で繋がれたまま谷底への供をする筈のジャハルには、動揺のひとつもない。――引き剥がされさえしなければ、竜が自ら地に身を叩きつける筈もないからだ。
 振り切ることに失敗したワイバーンは、ジャハルを崖に押しつけるようにしながら上空へ翔け戻り――戻るついでに、橋上を急襲する。
「ふふ、ふふ。歩いているのに、浮いているよう」
 敵の一撃を躱した仲間の踏み込みに、ぐらぐらと足場が揺れる。夜の裳裾を橋に引き、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)はその心許なさをゆるりと愉しんでいた。
 ――そう、お前のような翼は、ないものな。
 代わりに、と喚び起こすのはオーブに宿る黒の猟犬。踊る火の粉の中、たん、と大きく吊り橋を蹴って飛び出したその影を、イアの掌から零れる凍て風のかけらが追いかける。
 果敢に、獰猛に。喉笛へ喰らいつく黒と青の牙が、ワイバーンの動きを僅かに鈍らせる。その喉をはじまりとする大風の息の根を止める。
「ともにゆく子らも、落ちないように」
 擦れ違う一瞬、橋へ跳び移ったジャハルに手を伸ばし、にこりと唇を笑みに緩める。嫋やかな外見とは裏腹、支える手の力強さに、謝意を示した男は再び空へ飛び出していく。
「さあ、なんとか狭い舞台へと招こうな。僕らの手の届くまで――」
 揺れる足場も閃く爪も、何も怖くはないのだと笑う。その傍らで、
「ようマルコ、お前がいるなら戦いやすいな!」
「なんだ、セリオスもいたのか……一緒に戦ってみる?」
 幾度も急降下を繰り返す敵と油断なく交戦しながら、知己のふたりが言葉を交わしていた。折角だし、とぽつり付け足すマルコににかっと分かりやすい笑みを浮かべ、セリオスは少年の背を叩く。
「そんじゃ色々、任せたぜ!」
 共に在る訳でもなく、策を詰めるでもなく。けれど心と背を易々と自分の手に託し、流れ星のように駆け抜けるセリオス。真似できないなと溜息一つで見送って、マルコは冷静に敵を視る。
(「フーン、このワイバーン、ボクの攻撃を予想して回避してくるのか」)
 連続ジャンプで下方から狙いに行ったものの、この竜は眼下の攻撃を見越して躱す知性を持ち合わせているようだ。だが、それで落胆する理由はない。
「なら……上部を撃ち続けたら、どう?」
 下へ下へと回避してくれるのなら都合がいい。自らの歌声の加護で速度を増し、飛ぶ斬撃を繰り出すセリオスに合わせ、敵に接近し、敢えてその眼下に身を置いた。
 本体を模した銃の照準を高みへ定め、二発――放たれた熱線を躱したワイバーンが下方へ身を逸らした、その一瞬に、セリオス、と短い声が飛ぶ。
「――よし!」
 それだけで充分だった。傍らへひとたび跳び退いたセリオスは、マルコの攻撃で降りてきたワイバーンの『眼下』には居ない。
「凍て空駆ける風よ、歌声に応えろ。あの暴君を墜とすため、力を貸せ――俺の望みのままに!」
 音を紡ぐ度に生気が削がれていく。けれど、そんなことに構いはしない。戦いの昂揚に身を預け、セリオスは白い輝きの双剣を素早く抜き放った。生み出された斬撃は敵の翼に突き刺さり、痛苦の咆哮を谷じゅうに響き渡らせる。
「よぉ、腹ペコサンのご登場?」
 けろりと笑って対峙するコノハ。自身も獣、狩る身なれば、腹が減れば命を奪いもするけれど、
「あまりに一方的なんは頂けねぇしネ。――喰われる側に、回って貰おうか」
 不意に冷える声。くーちゃん、と呼ばわる名の気安さに反し、ずずずとコノハの肩に湧き上がる黒い影――管狐は、禍々しく大きく気配を膨れ上がらせる。
 大小変幻自在のその姿は、巨大なワイバーンに対する為に。
「わかる? くーちゃん。ご馳走はアレだ、ヨロシクね」
 巨大な生きものが空中で衝突する。喰らいつく黒影に絞め上げられながらも、長く強靭な尾で振り払う竜。反撃は無論、使役するコノハの元へ。
「! ――ッ」
 敢えて直撃を避けたように見えた。身を貫くよりも、浅からぬ深からぬ傷の痛みをこそ狙って掠めに来た蹴爪。そして、橋すれすれに駆ける翼が揺れを生み、ぐらり、コノハの体が浮く。
「危な……っ!」
 抵抗もなく落ちた――かのように見えた。けれど橋だけは離すまいと伸ばした手は、ぎりぎりで橋の際を掴み、宙吊りではあるがなんとかその場に留まっている。
「……ハハッ、なかなかの根性悪で」
 獣の身には知れた。あれは、命を喰いたい訳ではない。ただいたぶり、悪戯に苦しめて、じわじわと殺す――そんな悪性が、至近で覗き込まれた眼に見えた。
「業が深いネェ。次があったら上手く橋の上に戻れるか」
「そこは根性で戻っとけ」
 溜息と共に八咫烏を傍らに付けるクロウ。ありがとネ、とへらり笑って大きな鳥の背に移り、空を見上げる。
 生きる分だけ屠ることこそ獣の摂理。そこに身を置かない悪しき獣なら、遠慮も惑いも要りはすまい。
 ――まぁ、最初からそんなもの、なかったけれどと舌を出した。

●空に躍る
 高みの覇者を気取るだけはあるというところか。幾度となく放たれた突風の思いがけない強さに、橋はまるで竜の背のように波打ち、弾んだ。蔓で編まれた手すりを握り締め、メーリはきっと空を見据える。
「このくらいじゃ負けないんだから!」
 臆さぬ心に根を張るように、ぐらぐらと頼りない橋床を両の足でしっかり踏みしめて。そんな友達の姿に花鋏を握り直し、ウカもすっくと立ち上がる。忍びの術を得た身なれば、不安定な足場にも身のこなしは軽やかだ。
「すばやく動かれるとなかなか対処が難しそうな!」
「そうなんだよね、たぶん真正面からだと回避されそう」
「はい。けれど、その視界に入らなければ当てようがあります!」
 蕩ける金色と澄み渡る水晶と。眼差し交わしてこくり、交わす頷きに一瞬の笑み。それだけで二人の意は通じる。
「メーリちゃん、チャンスがきたら落としちゃってくださいね! あれだけ大きい図体、狙い放題なのですよ!」
「まかせて! ウカも気をつけてね!」
 白い衣が橋上に翻る。とん、ととん、とん――揺れが偏らぬよう、左右のバランスを取り、軽々と蔓を蹴ってあっという間に高みへ至る。深い影の谷を背にした真白のウカは、ワイバーンの眼についた。――それこそが狙い。
「さあまいりましょう、ウカと勝負です!」
 ひとに愛され、うつくしい花々を啄んできた花鋏は、ひとを守るため、うつくしく啄む武器となる。一直線に飛び込んでくる蹴爪を受ければ、次に翻るのは毒持つ尾。そこに敵の意識が向くうちに、くるり空をひと巡りする眼差しで、敵の背に鋏たちを呼ぶ。――おいで、おいで。
 ――グォァァァァァ!
 死角からの襲撃に、竜の憤怒が谷に響き渡る。耳を塞ぎたくなる轟音にも強く邪気なく微笑んで、受けた傷など知らん顔のウカ。
「もうおしまいですか? ウカの分け身ならば、まだまだ尽きませんよ!」
 そうして友達が作り出してくれた好機を、逃さないために。身軽くは駆けられなくても、ぐらぐらと足場は揺らいでも、メーリは果敢に吊り橋を駆け抜けた。――愛らしい黄色の、愉快なガジェットと一緒に。
「ぴよぴよせんしゃの出番! さあ行くよ、どんどんかましちゃえ!」
 次の攻撃手と認識されないように。大きな翼の影の裏へと飛び込んで、
「ぴよ? ぴよぴよ? ぴよっ!」
 ――どかーん!
 唐突な爆音は、ワイバーンも思わず飛び上がるほど。愛くるしい姿からは思いもよらないせんしゃの攻撃が、どかどかどかーんと翼を貫いていく。
「まだまだ行くよ、ぴよぴよせんしゃは一匹見たら百匹! ……あれ何か違うねまあいいや」
「ぴよ?」
『ぴよぴよ?』
『『ぴよぴよぴよ?』』
 言葉通りに増える、増える、どんどこ増える。胸部のガジェットから飛び出してくるひよこ戦隊が、砲撃に続く。――かわいい……かわいい……! と瞳を輝かせるウカをひととき、危険から遠ざけてしまうほどに。
「はっ! 今はまず、あちらから!」
「うん、後でじっくり見せてあげるね!」
 空と橋、かなたとこなた。分かれながらも心はひとつに、二人は戦場を駆け回る。はるかな峰に笑顔を届けるため――春告鳥のお祭りを、憂いなく楽しむため。

(「――厳しい」)
 イトゥカは琥珀色の瞳をごく微かに顰めた。
 飛行する手段を持つ一部の者たちを除いて、吊り橋の外に逃れる術はない。そして狭い吊り橋の上で回避することは、即ち吊り橋自体がワイバーンの攻撃を受けることでもある。
 見上げたワイバーンの姿が急速に大きくなる。橋の無事になど構いもしない急降下が来る。
 ここで突き破られてもおかしくない。そう断じて、青年は声を上げた。
「……橋を揺らします!」
「えっ!?」
「何を――」
「橋を断たれる訳にはいきません。皆さん、ご協力を――!」
 おとなしやかな青年の意外な言葉に、最初に声を上げたのはメーリ。
「……、わかった! 皆しっかりつかまって、いくよ!」
 様々な機巧を扱うメーリには、機と距離を掴むのはお手のもの。ワイバーンの鉤爪が吊り橋の床を踏み抜く、その直前にぎりぎりで間に合うタイミング――今だ、
「せーのっ!」
 橋上の猟兵たち、そして羽持つ猟兵たちの力も借りて、一方へ重みを集めた橋はぐんっ、と大きく歪曲した。太く鋭い爪が紙一重で蔓を掠めていく――直撃を避けたことに安堵する暇は実はない。
「……!」
「わぁっ、揺れます……!! メーリちゃん、こ、これはちょっと不謹慎な気もするのですが、なんだか……!」
「たぶんメーリも同じ気持ちだよ! あはは、楽しいー!」
 強い揺り返しに体がぐん、と外へ持っていかれそうで、橋にしがみつく者も多数。きゃらきゃらと笑うは何故か娘ばかりで、男たちは思う――女は強い。
「油断はできませんね。今のような一撃をもしも受ければ、この橋は――」
 ひとたまりもない。娘たちの柔く強い手にばかり委ねてはいられまいと淡く微笑んで、イトゥカは身に燈るその思いを癒しの光へと変える。
 そして、大揺れ収まりきらぬ吊り橋に――ぐん、と縄を強く引く者がある。
 波打つ橋を止めるには及ばない、けれど傾きはわずかに落ち着いたようでもある。揺れる橋床に低く身を置き、さあ、と誘う終の眼差しの意味するところをコノハは解し、確りと身を固めた終の背へ駆けた。
「遠慮しないヨ? 痛かったらゴメンネ」
「ええ、お気遣いなく。振り落とされるよりはマシでしょう」
 そして一歩ごとに軋む床板よりもはるかな安定感を持って、一歩目を背に、二歩目を肩に受け止めた終は、ぐい、と身を起こした。
 人の身が作るバネに力を借りて、コノハは高く跳躍する。構えるは『柘榴』――仲間の付した傷めがけ振り下ろす一閃が、強きものの命を啜り取る。そして、
「――此方へ」
 渡れ、と。告げるジャハルの眼差しににやりと笑い、セリオスは橋の淵に足を掛ける。
「皆、しがみついとけよ!」
「う、わっ……!?」
 大きく撓る吊り橋の反動を身に受け、飛ぶ。竜までは遠くも、ちょうどその中間に位置するジャハルまでならぎりぎり――足許に生む旋風も手伝って、届く筈だ。
 到達する間際、ジャハルは強く血の鎖を引き、身を翻した。飛び込んでくるセリオスを向けた背に受け止めて、ぎり、と張った鎖でワイバーンへの道を張る。借りるぜ、の一言でその背を駆け抜けた青年は、止まらない。落ちる暇もなく鎖の上を馳せ、竜の懐へ。
 ブーツに絡む風の魔力が、旋風となってセリオスを跳ね上げる。反動を生かして放つのは、旋回する体ごと叩きつける全力の一閃。突き立てた剣から吹き出す風の魔力が、周囲の空気の動きを縛る。
 そして、飛翔の軌道を逸らされたワイバーンの頭上にマルコが迫る。硬い鱗に覆われた皮膚へ、零距離で突き当てる銃口。
「望まぬ来訪者には消えてもらおう」
 ――ダァン!
 冷めた一発に首筋を貫かれ、それでも未だワイバーンは力を失ってはいない。竜の感情のままに荒れ狂う風が、吊り橋を横倒しにする。イトゥカの手を借り、なんとか耐える仲間たちを横目に、
「縄張りを侵したとお怒りですか? ――いいえ、それは筋違いというものですよ」
 恋うように、恐れるように。それでも、帯びる笑みを震わせることはなく、終はその側面に足を掛けた。一瞬の道を、駆ける。
 ――グオォォォォォ!
 びりびりと肌をたたく咆哮をその身で左右に斬り分けるようにして。けれど、狙いは敵の身を裂く一撃ではなく。
「言ってしまえば、貴方の方が先に此方の縄張りを侵したのです。狩られても――」
 ――文句はありませんよ、ね?
 身に食い込む鉤爪なら願ったり。痛い間は振り解かれまいと敵を信じ、逆の手で突き出すのは愛用の竜槍の柄。
 それが、喚き立てる喉を突く。形容しがたい音が、ワイバーンの喉から溢れる。
 揺り返しで消える道に、不意を突かれた竜がぐらりと大きく傾ぐ。
「今です」
「無茶しやがって…!」   
 蔓を掴み耐える終のもとへ八咫烏を差し向けながら、食いしばるクロウの口許には、暗い笑みが浮かんでしまう。――嫌いではないのだ、そういう『無茶』が。
 翼がなくても、落ちたら危なくても――助けるために、守りたいもののために、恐れずに空を舞う。ウトラも胸を熱くする。
「みんな、すごい。みんな、つよい! わたしも……!」
 頑張るんだ。頭上を過る、自分のそれより大きな大きな翼の影に、唇をきゅっと噛みながらもウトラは懸命に羽戦く。――みんなの助けに、わたしもなりたい。
 仲間が惹き付けるワイバーンの死角へ。速度は速く、何度も何度も風圧に吹き飛ばされそうになりながら、もう一度、
「えーい!」
 放った枷が、がちん! と脚に食らいつく。足許に気を取られたワイバーンの鋭い口に、生きもののように滑らかに躍る魔法の布がしゅるりと忍び寄り、あの咆哮を封じ込める。
「やったー!」
「ああ。――次はこっちの番だなァ」
 封じられた技を避けたワイバーンの直撃はなく、掠めるに留まった傷の熱さに血を沸かせ、クロウは吼えた。
「こんなモンか、あァ? 見切るまでもねェ。それなら――悪ィがココいらで沈んでもらうぜ……!」
 黒金の大剣に伝う炎は、風を受けて一瞬のうちに燃え盛った。八咫烏の翔けるに任せてまずは一閃――急旋回で返す刃のもう一閃。二度叩きつけた熱はワイバーンの身の赤を、より鮮烈に燃え上がらせる。
 その傍ら、橋上を低く駆け抜けるイアの青く澄んだ宝石の髪を、狂爪がぎりぎり掠めゆく。臆せずちらりと見送った目に険をふくませ、優美な男は笑った。
「欲しがりながら、そうも距離をとるものだから――ずいぶんと、難儀させること、なあ。ほら、これなら、届くでしょう」
 イアが胸に抱いた短剣が、不意に硝子の煌めきを放つ。吹く凍て風の中、散り散りに拡散したその輝きが、遠き涯てに咲く星花のひとひらひとひらへかたちを変える。
 ふうわりと柔く、ワイバーンめがけて駆け抜ける嵐は、冬遠きこの地へは決して届かないもの。
「春を見られぬ、お前をおくろう。しずかにお眠り、春のゆめに」
 かたちばかりは優しげに、見送りの花が咲いては散り乱れる。そこに花色を重ねるのは、イトゥカ。
「ええ、皆、春を待っているのです――その眠りは、冬の底で」
 柔く、厳しい声音で喚び招くのは青の花弁。空の青を織り重ねたような硬質の花弁が、鮮紅を纏う敵の体を嵐の中に斬り刻む。
 竜であれど生きる命、何も喰らうななどと言う気はない。――ただ少し、食べ過ぎるのだ。世の常と受け容れるには、犠牲が大きすぎるのだ。

 苛烈を極める戦いの一方で、仲間の傷に触れる暖かな歌がある。
「そうだよ。倒れるのは、まだはやい」
 ――朝のひかりに蕩け、泡沫に消えるべき痛み。そのすべてを包み込み、癒してあげると紡ぐリルの歌声が、波のように仲間へ、その傷へと打ち寄せる。たちまち和らぐ痛みに口の端上げて、次の一撃へと馳せ戻る背へ、勢いつける追い波は、
「ふふ。そう、聴き惚れている暇なんてないよね」
「てめェ、味方まで落とす気か? 恐ろしい人魚様だなァ」
 軽い冗句でその波に乗り、クロウはだがな、と前を見る。突っ込んでくるワイバーンの恐ろしい形相を。
「言うだけあるぜ、自信家。お陰でこんなに――」
 高く跳べる。急降下を躱し、その顔面に槍を叩き込む恐れ知らずに、リルはくすりと笑った。
「そうだね。だって、これから春に逢いに行くんだから」
 ――谷底へ、振り出しへ戻されてなんていられるものか。頷いて、ミカエラが朗々と謳い上げる。
「今日の食事はこれで終わりよ。あの峰まで持っていけないんだから、ここで喰らい尽くしなさい!」
 血腥さは、祝祭にも来たる春の使者にも似合わない。旋回する軌道にも精彩を欠く竜の横っ面に、ミカエラはぶちり、と千切り取った首飾りを投げつけた。
 ――ギィィアァァァア!!!
 憤怒に燃える眼が女を射る。急降下の軌道から逃すように橋を大きく揺らし、女は鶴嘴とともに跳んだ。
 それは、言葉通りの捨て身の一撃。掴まれる――そして、掴み返す。腕に食い込む蹴爪を鶴嘴で抉り切り、ミカエラはワイバーンの脚にしがみつく。重みで自由が利かず藻掻く敵ににやり、
「暴れると余計に痛いわよ……!」
 ぶら下がる長い脚を大きく振って、谷の壁面――断崖へと。
「(……っ、駄目! 危ない……!)」
 ――ガァン!!
 叩きつけられたワイバーンの身体は、谷底へ。砕けた岩と、ミカエラ諸共に――……。

 ――とは、ならなかった。

「てっめェ……いい度胸してんじゃねェか」
 ミカエラの胴を片腕に抱え込み、はァ、と荒い溜息を零すクロウ。
「あ、あぶない……! つよくてかっこよかったけど、無茶はだめなのっ!」
 いつもの倍ほども懸命に翼で風を漕いで、片腕を支えるウトラ。
 ――万一誰かが落ちるようなことがあれば、と気にかけていた二人も、流石に多少焦らずにはいられなかったようだ。
 八咫烏の上へ引き上げられた女は、ごめんごめん――と苦笑いするけれど、かの竜の赤が谷底の闇に浮かび上がることは、ない。
 ジャハルは険を深めて笑った。
「そうだ――作法を知らぬなら疾く墜ちろ。空を我がものと驕るには、貴様は足りない」
 あの鮮やかな青を我がものと、など、無粋に過ぎる。――それだけを口にして空を仰いだ眼差しは、ようやく戦から心を離し、和らいだように見えた。

●祝祭の先触れ
 やっと静かに渡れるよ――と大袈裟な溜息をひとつ、マルコは揺れのおさまった吊り橋をゆっくりと進んでいた。
「……はあ、やれやれだね。さて、春の使者ってやつにはなれたのかな」
「なれたなれた! よくやったなーマルコ!」
「ちょ……っ、やめてよセリオス」
 逃げるマルコを追いかけては頭を撫でまわすセリオス。再びぐわんぐわんと揺れ出す橋に、これも再び、ウカたちの笑い声が空へと跳ねる。ようやくその楽しさに与れたウトラも混じっていた。
「やんちゃな子らも、ようよう気をつけような。せっかく獣を斃しても、橋が落ちてはわらえないもの」
 くすくすと笑い零すイアに、落とさない! とマルコの叫びが返る。
「それはそうと、この橋ですが」
 蔓を撫でるように確かめながら切り出す終に、ジャハルの密やかな吐息が返る。
「……随分と派手にやったからな」
 やむを得ないことではあるだろう。そろそろと揺れないように気を使いながら、で勝てる相手では到底なかった。――仮にそれでなんとかなったとしても、ワイバーンの急降下突進や風を浴びれば、猟兵たちが暴れずとも結果は同じであった筈だ。
「……後で修繕も必要だな、此れは」
「ああ、気が合いましたねぇ」
 終はにこりと笑ってみせる。
「集落の皆様の同意が得られるなら、仮繕いをいたしましょう」
「一先ず祭りの客に不都合ないように。確り直す必要があれば、後程引き受けるべきだろう」
「うん、そうだね」
 どこかほっとした顔のリル。この橋を渡った先で紡がれ続ける、皆が笑っていられる日々。それもまた、守られるべきものである筈だから。
「あたしも手伝うわ。安心して空の間を渡れるように――」
「そのまえに、ケガをなおさないと、だめ!」
 揺れる橋をあんなにも楽しみながら、そこはしっかり叱りに来る少女に、敵には強気のミカエラもはあい、と眉を下げて笑った。

 峰々から吹き下ろす冷ややかな風がふと止んだ、その瞬間。
 ふわり、と風が吹き抜けた。
 谷底から湧き上がる空気は、それまでよりもほんの少しだけ柔らかくて。
 心擽るような華やかさをふくんでいて。
 いくぞいくぞ、と笑いながら空を目指す目には見えない流れを、帽子を押さえながら、外套を引き寄せながら、吊り橋にしがみつきながら、皆が何気なく見上げたとき。
 ――チチッ、チルルルル――
 鈴のような声が傍らを駆け抜けて、はっとする。
「みつけた! あそこ――みて!」
 春の喜びを告げる少女のこえ。まぶしさに目を細めながら指差した空に、うっすら銀めく翼の群れ。
 ――チルル、チチルルル――
 はやくおいでよと誘ううた。
 受けた傷も疲れも忘れて、猟兵たちは銀冠のもとへ駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『翼の祭』

POW   :    町で作られる作り物の翼を付けたり、自分の翼を披露する。

SPD   :    翼を模した工芸品の露店を楽しむ。

WIZ   :    魔法で良い風や鳥を呼び、祭を盛り上げる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――チルル、チリルルル――
 ――チチ、ルルル――
 銀冠の峰へと至った春告鳥たちが、歌い交わす声。

 銀白の小鳥たちの到来に、かの暴君が去ったことを知った集落の人々は、訪れた猟兵たちを心から労い、感謝を告げる。
 戦闘で傷みが増した吊り橋の修繕を申し出れば、それにもいたく喜んで。
 直る前に訪れる者たちがあっては困るだろうと、道具を借り受けて急ぎ出向いた彼らが戻ると――そこには満面の笑顔があった。
「まあまあ、お疲れ様です。わたしらのためにこんなによくしてくれるなんて」
「せっかくだから、皆さんもどうぞ楽しんでいってくださいよ。派手な祭りじゃないけれど」
 大人たちの言葉に、背や髪に翼の飾りをあしらった集落の子どもたちが、弾かれるように飛び出した。飛び跳ねるもの、そわそわするもの、猟兵たちの手を取って、
「ねえ、おねーさんたちも一緒に踊ろう!」
 ――チル……、チルルルルル――
 小鳥たちがひときわ高く歌を合わせた。春のはじまりを告げるように。

 存在を許されているのだと知っている小鳥たちは、まるで昔からずっといる馴染みのように、集落のそこここを自由に行き交い、歌っていた。地に下りて、木にとまって、警戒心なく近づいてくる。――ずっと大事にされてきた故だろう。
 並ぶ露店には、冬の間、集落の人々が春を想って作り出したたくさんの工芸品。多くは花や春告鳥をモチーフにしたそれらは、山嶺の集落らしく木や革を使った素朴な品が多く、細やかな仕事が施されている。
 通りを流れる弦楽器や太鼓の賑やかな調べは、広場から。向かう足取りさえ軽くするリズムに乗ってそこへ向かえば、ふたり手をとって、或いは仲間たちで輪になって、浮き立つままに踊る人々の上、小鳥たちの歌声が混ざる。
 演奏の人々は鳥真似笛で合奏に混ざる。露店でも売っている小鳥のかたちの小さな笛は、音色を合わせるだけでなく、
 ――チルルー、チチチルル――
 ――チチッ、チルルルル……?――
 調子さえ掴めば、こうして春告鳥と呼び合うことだってできるらしい。

 未だ吹く風は冷たい峰々の、春めかしい、ささやかな浮かれ騒ぎ。
 峰々の日常を取り戻した猟兵たち――今年の春の使者たち、そして麓から訪れるいくばくかの客人たちを抱いて、銀冠の峰々は歓喜に満ちていた。
華切・ウカ
メーリちゃん(f01264)と一緒に露店めぐりを!

わわ、どこも賑やかで…!
露店めぐりって楽しいですね、わくわくします!
メーリちゃんは何が気になります?

あっ、アクセサリーの露店!自分でつくれるみたいですよ。
すごい、たのしそう……
ウカはメーリちゃんに似合いそうなのを作ります!
えへへ、プレゼントしあいっこですね!

細身の革紐を選んで
あったかい感じのウッドピース
薄い色、濃い色……あとは春告鳥のモチーフは必須
どれにしましょう…翼、かな?

お揃いみたいなできあがりに瞬いて、笑って
わわ、さっそくつけます!
ウカも、これをメーリちゃんに
一緒に戦うのも、遊ぶのも。これからも共に重ねていきたい、そんな気持ちも込めて


メーリ・フルメヴァーラ
ウカ(f07517)と露店巡り

わーいお祭り!
集落のみんなが幸せそうでよかった
お祭りの空気大好き

あのね私は形に残るお土産が欲しいなって
ふと目に留まったのは手作りのパーツと革紐を選んで
自分でアクセサリーを作れるお店
すごいすごい!
記念にウカとお揃いのが欲しいな
わーいメーリもウカに似合うやつ作る~!

悩み悩んで茶色の革紐手にして
ウッドビーズと白銀の珠を通して
モチーフは…やっぱりこれ!
春告鳥を思わせる翼!

赤いリボンと琥珀色ビーズを連ねたら
完成したよ!
ウカの手首にあててみる
花鋏を翳し一緒に戦ってくれた
頼もしくも華奢で、やさしい手
このブレスレットを贈ってもいい?

春告げの親愛が綻んで
お揃いの胸裏に笑みが咲いたね


キトリ・フローエ
春告鳥モチーフの木彫りのお守りと
鳥喚びの笛(どちらもフェアリーサイズ)をお土産に

大きなみんなの邪魔にならない所で
春告鳥さん達と一緒に笛を吹いて遊べたら
露店のおじ…お兄さん!に吹き方は教わってきたけれど
コツを掴むまでには少し時間がかかりそう
えっ、もう少し音を高く?息をひゅって吹き込むの?
春告鳥さんに教わりつつ、それらしい音が出せるようにこっそり練習
グレや知っている人に見られたら、恥ずかしくて羽がぱたぱた震えてしまうかも

合奏に混ざれるくらいの音が出せるようになったら
春告鳥さん達とも一緒に歌いたいわ
ねえねえ、グレも一緒に踊りましょう!
折角グレが教えてくれたお祭りなんだもの
あなたも楽しまなくっちゃね!


ウトラ・ブルーメトレネ
ちるる、ちりるるる
ちち、るるる♪
しゃがんで「こんにちは!」
背伸びして「たびでおつかれ?」
一緒に並びちょこちょこ歩いて「おどるの、たのしいね♪」
歌を真似しながら、春告鳥たちへご挨拶
ねぇ、まいとしここに来るあなたたちなら知ってる?
わたし、耳飾りがほしいの!

翼を模した耳飾りをつけたら、何処までも飛んでゆけそうと
あちらこちらの露店をひょこひょこ覗いてまわる
でも、アクセサリーを自分で買うのは初めて
どれを買うか迷って、周りにいる人たちの耳元をちらちら
そういえば。かっこいいおねえさんのグリモアは鳥さんだったの!
グレさんを探し「おねえさんならどれをえらぶ?」と尋ねてみたい

買うのはきっと、シンプルな銀細工の翼


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と待ち合わせ

へーきへーき、さ、お祭行こう
引かれる先、沢山の鳥達を見ればちょっと待ってと露店へ足向け
鳥真似笛買って行こ、と並ぶ小さな小鳥達を手に取る
見て、少しずつ形が違うんだねぇ
可愛さに負け2、3とお迎え
ねぇたぬちゃん、沢山呼べそう?なんて期待に浮き足立って

人混み離れ早速吹いてみるも中々上手く吹けない
むーと渋い顔で隣見ると、どんどん集まってくる羽音
流石だねぇ、と感心の声と拍手
其の内揉みくちゃにされからからと笑い

大男にあるまじき可愛らしさで釘刺されれば何度か目を瞬かせ
思わず噴き出す
頼もしい仲間に助けて貰ったから大丈夫
不満げな顔に、お互い様の一言は飲み込んで


火狸・さつま
コノf03130と

おかえり、お疲れさん
大事、無い?
無事戻ってきて何より
とてとて近寄り、元気な事を確認すりゃ
向こうの空、鳥さん、いっぱい。見える。
行こう?と、首傾げ

ん?露店?
笛可愛い。と、目を輝かせ
……。そろり、コノの鳥さんに1羽混ぜ込む


鳥さん、あんま呼んだ事無いんだが…
とは言え狐でもビーストマスター
笛でチルルっと鳥を呼び集める
コノ、ほらほらと
鳥わらわら呼び込みまくる
あっちだよってコノの方へ鳥群がらせ
笑って、鳥と戯れて、のんびり
コノが、皆が、頑張ってくれたおかげやな、と感謝しつつ
…あんま危ない無茶な事は…メッ!と
落ちかけたのを聞いて釘さしておく
…まぁけど戦ってりゃ無茶しだすのがコノちゃん、よな…


アルジャンテ・レラ
春告鳥……、不思議です。
常に集落に棲んでいるわけではないはずなのに、
人々と心が通じ合っているかのようで。

祭りというものに興味がありまして。
人混みは、感情の渦に呑まれてしまいそうで、苦手ですが……
此処ならば大丈夫かもしれません。

手作りの品はあたたかみが感じられますね。
……こちらのブックカバー、手に取っても?
革製品は手に馴染みますし、この深い色は汚れも目立ちにくそうです。
片隅の鳥は春告鳥ですね。
購入していきましょう。今日を思い出に残すためにも。

つい、薦められるがままに笛にも手が伸びてしまいました。
鳴らしたら本当に、呼び合えるのでしょうかね。
(恐る恐る小さな笛を持ち。そっと、息を吹きかけた)



●翼かさねるように
 チルル、と歌う春の使者たちの声は、高い空、きりりと冷たい風にひときわ素直に響き渡った。
 けれど届く声も音色も、人々の浮かれた足音も、すべてが暖かく楽しげに弾んでいるようで、メーリは空色に澄んだ瞳を笑みのかたちに綻ばせずにはいられない。――誰もが幸せそうな顔、顔、
「わーいお祭り! この空気大好き!」
「わわ、どこも賑やかで……!」
 繋いだ手は、ぐんと高く空をひと巡り。賑わいの中に一緒に飛び込んだウカも、蜜色の瞳にひかりを躍らせて辺りを見渡した。
 ――さあ、寄っておいで娘っこたち。鳥たちと歌い交わしてみたくはないかい?
 ――羽飾りはいかが? 二人とも、きれいな髪にお似合いよ。
 集落の主たる通りなのだろう、大きくはないけれどきれいに均された枯れ土の道の両側には、娘たちを誘惑する色とりどりのラグと、並べられた手作りの品、品。ひらひら、ふわふわ、惹かれるままに立ち止まって、しゃがみこんで、手に取って、
「露店めぐりってわくわくしますね! メーリちゃんは何が気になります?」
 染めた羽で作られた花飾りを水晶の髪に翳しながら、お似合いですよと首を傾げるウカ。ありがとー! と元気よく応じたメーリは、
「あのね、私は形に残るお土産が欲しいなって。羽飾りもかわいいけど」
「笛もよいですね、ころんとしてかわいいです! でも」
 見合わせる瞳で頷き合う。そう、せっかくなら、ふたつとないもの。記念になるもの。例えば――、
「あっ、あれどうですか? アクセサリーの露店! 自分でつくれるみたいですよ」
「わっ、すごいすごい! 記念にウカとお揃いのが欲しいな!」
 たのしそう! ラグの上に並べられたビーズの瓶を覗き込んだら、選び出すパーツのひとつひとつはお互いのため。
「メーリちゃんに似合いそうなの……濃い色は藍色で、薄い色は空色で、春告鳥のモチーフもたくさんありますね! どれにしましょう……」
「迷っちゃうね。ね、せーの、でどうかな?」
「! はい、では! せーの……!」
『これ!』
 指さした先の羽のモチーフに、お揃い! なんて――零れる笑みの理由なら余るほど。
 細い革紐に綴られたウッドピース。軽やかでましろなウカには白銀の珠と飴玉めいた琥珀色の硝子ビーズ、赤いリボン。ふんわり晴れやかなメーリにはふたいろの青の濃淡の硝子ビーズと、藍のリボン。
 翼をかわして繋ぎとめたら、仕上がりはまるで双子のよう。
「完成したよ! ウカ、このブレスレットを贈ってもいい?」
 ――花鋏を翳して一緒に戦ってくれた、頼もしくも華奢で、やさしい手への贈りもの。
 もちろん! 頷いたウカは、似合いますか? とはにかんで、
「さっそくつけます! ウカも、これをメーリちゃんに」
 苛烈な戦いだって、楽しい遊びだって――これからももっと、一緒に重ねていけるように。
 春の気配に、暖かに咲きだす親愛の気持ち。贈り合うのはかたちだけでなく、その心まで。
 飾った手首をこつんと合わせて、笑い合うふたり――その傍らに、
 ――るる、る。
 ――ちちっ、つつっ、るる。
 少しだけ調子はずれな小鳥の声が届いて、思わず顔を見合わせる。
「なんでしょう……?」
「子どもの春告鳥かも!」
 行ってみよう! 手を取って、聴こえるほうへ――道の果てを曲がった先の、植え込みの上で。
「おかしいわ、露店のおじ……お兄さん! にちゃんと吹き方は教わってきた筈だけれど……」
 ウカたちの腕のビーズのひとかけらのような、小さな小さな木の小鳥のお守りを胸につけて。小さな小さな鳥喚びの笛を、ほんのり困惑のまなざしで見つめて。
 こうかしら? それともこう? 懸命にさえずる練習を積むキトリ・フローエ(星導・f02354)の姿。
 お邪魔をしてはいけませんね。うん、そうだね。――懸命な音色ににっこり顔を見合わせて去っていった友達を知らないまま、フェアリーの娘は励む。
 ――チチッ、チチールルル――
 ――チルルルッ、チル――
「えっ、もう少し音を高く? 息をひゅって吹き込むの?」
 いつしか隣に並んだ春告鳥たちのお手本に、わかったわ! と眉根をきゅっと寄せて、小さなからだに目いっぱいの澄んだ空気を吸い込んで、
 ――チルルー、チルルルルッ!――
「! できたわ! みんな、教えてくれてありがとう!」
 喜びできらきら輝く笑顔。夜空のような羽を広げてくるくると空を躍れば、一緒に飛び回る春告鳥たちも歌声で誘いかける。
 聴こえてくる音楽に調子を合わせる様子に、もちろんよと頷いて。
「合奏に誘ってくれるのね。ええ、一緒に歌いましょう! あっ、ねえねえ、グレ!」
 向かった広場の片隅で、音楽に身を預けていたグレの肩へ。
「聴いてちょうだい、あたしもあの子たちと一緒に歌うわ!」
 得意げなキトリの笛の音は高らかに響き、小鳥たちの歌声と心地好く溶け合う。女はへえ、と目を瞠って笑った。
「すごいじゃないか、キトリ! 大したもんだよ、ついさっきまで雛鳥みたいだったのにねえ」
「えっ?」
「あ」
 おっと、と口を押えるグレ。キトリの頬は、ひんやりとした山の空気すら暖めそうに。
「聞いてたのね!?」
 羽を震わせ、ぽかぽか肩を叩く小さな手に、ごめんごめんとグレは笑った。ひとしきり熱を放てば、もう、と膨らませてみせた頬は不意にしぼんで――笑いが零れる。
「……ほら! グレも一緒に踊りましょう! そうやって体を揺らしてるだけじゃなくて、ちゃんと楽しまなくっちゃね!」
 折角あなたが教えてくれたお祭りなんだもの! 誘う小さな手に目を細め、グレはその手を指先で掬う。
「嬉しい誘いじゃないか。こちらこそ一曲お相手願えるかい、可憐なお嬢さん?」
 人々と小鳥たちの奏でを伴奏に、青い妖精に導かれて踏むステップがひとつ、広場に増えた。

 ――ちるる、ちりるるる♪ ちち、るるる♪
 歌真似をしながら通りを歩くウトラは、とてもご機嫌だ。
 ちょんちょんちょん、弾む足で右の露店へ向かったら、ちょんちょんちょん、躍るつまさきで反対側の露店へ。軽やかに跳ねる足取りは、賑わう通りも怖がらずに降り立つ春告鳥たちとそっくりだ。
「こんにちは! たびでおつかれ?」
 ――チル、ルルル?
 呼びかけに首を傾げて足を止めた小鳥に嬉しそうに頬を緩めて、ねぇ、と話しかける。
「まいとしここに来るあなたたちなら知ってる? わたし、耳飾りがほしいの!」
 小さな竜の翼なら、背中に持っているけれど。空を飛んで戦うことも、宙で踊ることだってできるけれど。
 耳元に飾るだけで、春風に乗ってどこまでも飛んでいけそうな――そんな気持ちになれる、かわいい翼の耳飾りが。
 ――チチチ、チルル――
 もう一度首を傾げて、ちょこんと振り向き跳ねていく小鳥。ウトラは丸い瞳をいっそう大きくして、その後についていく。
「おしえてくれるの?」
 ウトラはそう信じた。だって、その先にはちゃんと――小さなアクセサリーを扱う露店があったのだ!
 木に羊毛、革に硝子。その中にきらきらと、星のようなきらめきを見せる金銀細工たち。自分のためのアクセサリーなんて、小さな少女には初めての背伸び。
 ええと、ええと。銀色の瞳はちらちらと、辺りを行き交う人たちの耳を辿る。どんな飾りが自分には似合うだろう。どんな飾りがすてきだろう――、
「あっ、鳥さんのグリモアのおねえさん! おねえさんならどれをえらぶ?」
 踊り疲れて広場から舞い戻ってきたグレは、幼い声に身を並べ、そうだねえとひと思案。
「こういうのは出会いだからねえ。もう二度と会えなくなるとしたら、惜しいと思うのはどれだい?」
 あたしはこれだね、と選び取ったのは、羽をくるりと丸めた意匠の金の指輪。その言葉に品物と向き合った少女は、あっ、と小さく声を上げた。
 ――輝くものたちの中で、一緒にいようと語りかけてくるもの。
「わたし、これにする!」
 ウトラが手に取ったのは、ふっくら丸い翼の耳飾り。――綻ぶ瞳と同じ色した、『はじめて』の出会い。
 小鳥に導かれたような少女の姿を横目に、アルジャンテは静かなふた色の瞳を瞬かせた。
 ウトラだけではない。たった今、この峰々へ到着したばかりの筈の小鳥たちと行き交う人々との、まるで心が通じ合っているような交わり。感情のすべてはまだ見知れぬアルジャンテには、それはとても不思議なことで――なぜかふわっと胸が温まるようでもあった。
 もう少し人が多ければ、感情の渦に呑まれてしまっていたかもしれない。けれどこの小さな集落の祭事なら大丈夫、とひと息吐いて、目についた露店にそっと歩み寄る。
「……こちらのブックカバー、手に取っても?」
 ――ええ、もちろん! わたしたちが染めたんです!
 どうやら姉妹らしい、幼い二人の店子たちが声を揃える。浮かんだ笑みには自分では気づかずに、アルジャンテはしっとりと手に馴染むその手触りを味わった。
 密度の濃い森のいろ。並び立つ樹々から落ちる影のような深緑は、汚れも目立ちにくそうだ。――片隅に施された銀の刺繍は、春告鳥。
「あたたかみが感じられる、良い品です。購入させてください」
 こうして『思い出』は『かたち』にも残ってゆく。またふわりと、胸に積もった熱に首を傾げる暇もなく、
 ――坊ちゃん、この祭りに来たなら鳥喚び笛を吹かんことには帰れんだろう!
 手招かれて覗き込んだ隣の露店には、小鳥のすがたをした陶器の笛が大小さまざま並んでいた。器用にちるるる、と鳴かせてみせる男を見れば、奏でるのはさも簡単そうで、つい手が伸びる。
 こわごわと口許に運び、言われるままに鋭く息を吹き込んでみると、
 ――チルルルルルル……――
 ――……チル、チルルル?――
 一拍おいて返る返事に、アルジャンテは思わず目を瞠った。そこに浮かんだ感情にもやはり、気づかぬままに。

 笛のひとつをさらなる思い出と連れ帰った少年の、その後に。
「おかえり、お疲れさん。……大事、無い?」
 無事を検める火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)の眼差しを、コノハはひらり振る手と食えぬ笑みで躱してみせた。
「へーきへーき、さ、お祭行こう」
「ん。向こうの空、鳥さん、いっぱい。見える」
 行こう、と傾ぐさつまの眼差しには待ったをかける。彼方の空へ向かうまでもなく、傍らにある小鳥たち――高地の光に焼かれた浅黒い顔でにっ、と笑ってみせる店子が差し出すものは、たくさんの鳥喚び笛。
「鳥真似笛買って行こ。見て、少しずつ形が違うんだねぇ」
「本当、笛可愛い。見て、フェアリーサイズまである」
 並ぶ瞳を輝かせる男ふたり。ひとつひとつが大きさも彩も少しずつ異なって、ひとつで足りるものを選ぶのに難儀すれば、つい二羽、三羽と迎えてしまうコノハ。そこにそっともう一羽を紛れ込ませる友人に笑みを向け、
「ねぇたぬちゃん、沢山呼べそう?」
「鳥さん、あんま呼んだ事無いんだが……」
 さつまは期待しないでよと言いたげに――けれど試してみたい心は勝って、人混みを離れる足は自然と速くなる。
「……なかなか上手く吹けないねぇ」
 むー、と眉根を寄せるコノハの傍ら、
 ――チルル、チル、チルルルルル――
 軽やかなさつまの笛の音に呼び寄せられて、一羽、二羽、
「コノ、ほらほら」
 ……五羽、六羽、……十羽、もっと!
 集まってくる小鳥たちにとうとうもみくちゃにされてしまったさつまに、たまらずからから。拍手とともに贈った笑みを、ちろりと見返す青い瞳がコノハを射た――そして、
「ほら、あっち。コノが寂しそうだから行ってやり」
「言ってない言ってない」
 仕向けた群れに、今度はふたり分の笑い声が重なっていく。
 この長閑な時間も、コノハが――皆が頑張って勝ち取ってくれたもの。そう思えばさつまの胸には感謝も湧いて、けれど看過できないものも。
「コノ」
「ん? ……何、たぬちゃん、こわい顔して」
「皆から聞いた。……あんま危ない無茶な事は……メッ!」
 大の男の、あまりに可愛らしい仕草。ぽかんと口を開けたコノハはやっぱり噴き出してしまう。叱られているのだけれど。
「あはは。頼もしい仲間に助けて貰ったから、大丈夫」
「むー……まぁけど戦ってりゃ無茶しだすのがコノちゃん、よな……」
 それたぬちゃんが言う? ――なんて言葉は、今日は仕舞う。獰猛な気配は今は遠くなりを潜めて、ただ笑い合える長閑な祭りの日なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と合流
全く、一人で無理をしおって
然し民の表情を見てはそれ以上言えず
ああ、嫌いではない
寧ろ愛らしく歌う姿が好ましい

翼飾りを付けた子等を横目に従者を見る
成程、翼か――ならば、お前も持っておろう
愛らしい銀白に劣らぬ美しい翼を
出さんのかと戯け笑っていると…おっと
不意に抱えられ屋根の上へ
ジジの呟きにやれやれと溜息一つ
…怖がっているのは、果してどちらであろうな?

――さて、ジジ
此度の冒険、お前にとって如何様な物であったか
話を聞かせてくれるのだろう?
賑やかな調べと愛い鳥の声を背景に
彼奴の言葉に耳と傾けていると
…こらこら、髪を食むでない
いつの間にか髪を弄ぶ鳥に微笑湛え
合わせる様に歌を口遊もう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と合流

気侭に飛び交う、雲のひとひらにも似た小鳥
鳥は嫌いではなかったろう、師父

師の催促に、ふと翼をつけた子等を見る
…少々待たれよ
呟いて、物陰から師を抱え
比較的高い建物の屋根へと翼で上がる

あの中では怖がらせてしまうやも知れぬ故な
鳥達の側に混ざるとしよう

なにか言ったか?
腰を下ろし、広げた翼は師の風除けに
踊るひとびとの輪を眺めながら、手短に報告を
強者の猟兵揃いに不足なき敵
悪くない戦いだったぞ、師父よ

淡いひかりを弾く、輝石の髪に遊ぶ鳥が
遠く山嶺に融け残る雪と一揃いに見えて
ああ、そうだ
従者の戦果は、主君へこそ捧ぐもの

耳に届くのは楽しげに集う声
重なる歌と翼が運ぶ春は
どうやら、すぐ隣らしい


ミカエラ・チャーチ
憂いのない空は最高に綺麗ね
春告鳥達の歌声を聞きながら訪れた春を堪能させて貰うわ

【SPD】
のんびりと露店巡り
そういえば工芸品ってじっくり見たことはなかったな、とそれぞれの店先でいちいち立ち止まり眺め感嘆しつつ
春告鳥モチーフの装身具とか欲しいけど
……可愛すぎて似合わないよねぇ
ああそうだ、あれが欲しいな、鳥真似笛
あたしの薄暗い故郷にだっていつかは春を呼べるようになるかも、なんて感傷は潜行

集落の子ども達に声を掛けて笛の吹き方を教えて貰うね
グレも一緒に是非是非
ちょっと賑やかすぎやしないかってくらい楽しくやろうよ
季節は何度も巡るけど今年の春は一期一会
忘れられないひとときにしよう

*アドリブ、絡み大歓迎


セリオス・アリス
マルコ・トリガー◆f04649と
アドリブ歓迎

さあて祭りだ!
どこから見てまわる、マルコ?
まあまあ一緒に共闘した仲じゃねえか
一緒に行こうぜ
春の気配にご機嫌で押しきりマルコのあとをついてまわる
は~いろんな飾りがあるんだなぁ
お守りみたいなもんがあったら土産に買って帰るか
黒い羽を象ったもんだといいんだが

お前は踊らねえの?
露店を見てまわるのに飽きた頃
踊る人達を指差しマルコに訊ね
興味の無さそうな顔に鼻を鳴らす
わかってねえなぁ
祭りってのは多少バカになって楽しんだヤツが勝ちなんだぜ
素早く『手を繋ぎ』
ニッと笑って
少々強引にマルコを引っ張り人の輪の中へ
鳥の声に合わせて『歌い』風を呼びながらマルコと踊る
な?楽しいだろ


マルコ・トリガー
セリオス(f09573)と同行
アドリブ歓迎

やれやれ、やっとお祭りか
何?セリオスもついてくるの?
仕方ないな、まあいいよ

フーン、これがここの祭りか。悪くない雰囲気だね
露店もいろいろあるんだね
春告鳥のモチーフの根付とか無いかな
猫のグッズは…あったら買っておきたいな
セリオスは何を買うの?

ハァ、何だか楽しそうに踊ってるね
え?ボク?踊らないよ
そもそも踊り方を知らないからね
って、セリオスちょっと…手を引っ張らないでよ
バカになって楽しむってセリオスみたいになればいいってこと?
ホント強引だよね……
踊り方がわかんないから周りを見て見よう見まねで踊るしかないか
まあ、たまにはこういうのも悪くはない、かな



●春騒ぐこころ
「やれやれ、やっとお祭りか」
 ふうと溜息落としたマルコの傍ら、まるで当たり前のように。
「さあてどこから見てまわる、マルコ?」
 峰に吹く冷たい風を厭うことなく、両手を広げてみせるセリオス。
 ついてくるの? 仕方ないな。言葉ほど心は遠くなく、供行きを許す少年に、共闘した仲じゃねえかと肩に置いた手を払われながらも、青年は面白そうに笑っている。
「フーン、これが……悪くない雰囲気だね」
 人は多すぎることもなく、といって賑わいに欠く訳でもなく。大切に作られたモノが並べられ、人々の愛着の眼差しに触れている様を見れば、ヤドリガミであるマルコも決して悪い気はしない。
「は~、いろんな飾りがあるんだなぁ。あ、なんだこれ、お守り?」
 色糸で編んだ紐に結ばれた小さな鳥たちが、ころころと歌う木鈴。次の春も巡るようにってお守りだよ、とおおらかに笑う店子の女性に、ふーんと二つ、頷きを並べて。
「ひとつ土産に買って帰るか」
 黒い翼は見当たらなかったけれど――中でも一番、黒みがかった木材で作られたひとつを手に取れば、
「へえ、セリオスはそれにするの? ボクはこれにしようかな」
 見渡す限り小鳥、小鳥で、探した生きものの姿はなくて。それでも目に留まった一羽の鳥鈴を、マルコも鞄へお迎えする。
 ふと賑やかな演奏が近づいて、見れば広場に溢れた人々が、露店の並ぶ通りにまではみ出している。大人も子どもも垣根ない浮かれ騒ぎに、呆れの混じったマルコの眼差しは、
「お前は踊らねえの?」
「ハァ? ボク? 踊らないよ」
 思わぬ問いに見開かれる。――踊り方だって知らないし。
 フン、と笑う気配にむっと尖らせた唇の前、突き出される青年の指。
「わかってねえなぁ、祭りってのは多少バカになって楽しんだヤツが勝ちなんだぜ」
「えっ、ちょっと! ……ハァ、ほんとセリオスって強引だよね……」
 あっという間に繋がれた手にくるくると回されて、巡る世界に見る人々の踊りはあまりにちぐはぐで――ただ嬉しさに踊る手足には、決まりすらなくて。
「な? 楽しいだろ?」
 楽しくないとは言わせない。そんな満面の笑顔で彼が言うから、諦めの混じった――あるいは作ったマルコの顔も、思わず綻ばされてしまった。
「……まあ、たまにはね」
 ――こういうのも悪くはない、かな。

 剣呑な武器を宥めすかし、戦いの痕を色濃く残した姿は身繕いも済ませて。清々しい風に背を押されたミカエラも、賑やかな通りへ向かう。
「そういえば工芸品って、こんなにじっくり見たことはなかったな」
 ――おや、そりゃあ光栄だお姉さん。記念にお一つどう?
 商魂逞しい人々との遣り取りに笑い、冬籠もりの慰めに人々が作ったという品々に瞬いて。
 見出した装身具にも心惹かれたけれど――可愛すぎて似合わないなとくすり、笑う。
「ああそうだ、あれが欲しいな、鳥真似笛」
 ――ほんと? あたしたちがお店を教えてあげる!
 ――吹き方も教えてあげる!!
 背に翼飾りを負った、人見知りしない子らに引かれた手には、いつのまにか鳥の笛。
「グレも一緒に是非是非。ねえ、ちょっと賑やかすぎやしないかってくらい楽しくやろうよ」
「あはは、いいねえ! 踊りはどうにもだけど、音楽なら少しは覚えがあるよ。あんたはどうだい、ミカエラ?」
 答えは笑みで、そして響かせる鳥の歌で。
 子どもたちの笑い声も鳥真似に変わり、太鼓や弦の無造作な調べに賑やかに合わせれば、誘われて下りてくる白い春の使者たち。
 ――チー、チルル……――
 ――チルルルル、チル――
 季節は巡れど、この場所で、この人達と、この空の下で、身の裡に湧き上がる今の歓喜は、今年限りの一期一会だ。ああ、これは忘れられない。
 ミカエラは空を見上げた。あの谷底の地よりもずっとずっと高く、近づいて見上げる空は憂いなく透き通っている。
 ――チルル、チルリ――
 ――チルルルルル……――
 両の腕を心地好く空に伸ばして、翳す指の先にはここへ至ろうとする春告鳥たちの影。真似る音色でチルル、と答えて、女は笑った。
「ああほんと、憂いのない空は最高に綺麗ね」
 いつかこの笛で、故郷にも――薄暗く思えた感傷も、この景色を、この音色を招いたかの地を思えば、まばゆく展けた希望に変わる。

「全く、一人で無理をしおって――随分と無茶な戦いをしたようではないか」
 苦言にも素知らぬ顔の弟子に、けれどそれ以上を紡ぐ気は師父たるアルバにはない。集落の賑わいの中、笑い合いながら擦れ違っていく人々が説教気分を宥めていく。その上、
 ――よう、竜の兄さん楽しんでるかい?
 ――橋のこと、さっきはありがとうございました!
 入れ違いに弟子へ投げられる言葉を耳にして、それ以上叱れる筈もなく。
 ――直してくれてありがとう! 銀色を散らしたましろの翼飾りを背に負った子が駆け抜けていったのを機に、まあよい、と肩を竦めて笑う。
「……よもや、あの声を聞いてまだ怖がらせてしまう等と言わぬであろうな? お前も持っておろう、出さんのか」
 愛らしい銀白に劣らぬ美しい翼を。今は人目を避けるように、畳まれてしまっているけれど。
「――」
 弟子――ジャハルは物言わず、アルバを物影へ促した。何だと問う暇もなく軽々と浮いた体は、人目に触れる暇もなく、広がる翼にあっという間に空へ――村一番の高い建物、教会の屋根の上へと運ばれる。
 鳥達の側へ混ざるとしよう、風に呟きを溶かした弟子に、しょうがない奴と案じた笑みを浮かべ、アルバも呟いた。――怖がっているのは、果たしてどちらか。
 ――チチッ、チルルル――
 ――チチ、チルル?――
 谷底に沈めた赤い翼と、似て異なるものと春告鳥たちは知っている。並び屋根にとまった白いふわふわのかたまりは、峰から零れた雪のよう、空から千切れた雲のよう。
「鳥は嫌いではなかっただろう、師父」
「ああ、嫌いではない。好ましいものだな、こうして愛らしく歌う姿は」
 人を恐れず歌う嘴に爪紅乗せたゆびさきを寄せれば、あっさりとそこへ宿る子に、アルバはふふっと頬を緩める。
「さて、ジジ。話を聞かせてくれるのだろう?」
「ああ。強者の猟兵揃いに不足なき敵、悪くない戦いだったぞ、師父よ」
 ――だから無茶をした訳ではない、と。短い報告に低く付け足したそれを、揶揄うように師は笑う。
「聞こえていたのではないか、こやつ。……と、こらこら、髪を食むでない」
 ジャハルの広げる翼で風からは守られる輝石の髪に、つくつくと嘴を寄せる白い小鳥たち。その彩はまるで、見上げる峰に融け残る雪と揃いのようで――ああ、そうだ、とジャハルは笑みらしきものを浮かべる。
 従者の戦果は、主君へこそ捧ぐもの。小鳥たちと戯れ紡がれるうたごえ、澄んだ空気に煌めき落とす、この春の謳歌のために。そして――、
 囀りの喚ぶ春は今、確かにジャハルの隣にもある。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
あらあら、皆お歌がお上手ね
春告のうたがあちらこちらからするものだから
歩く足取りだって踊りだしたく、なるようね
小さな木の鳥と目が合ったなら
ひとつ連れてゆくことにしよう
僕にもひとつ、春をおくれな

お膝にのせて、木漏れ日探して
降る光は心地よいから
季節のきざはしはくすぐったくて
遠のく冬が、僕には少し惜しくって
風にのる旋律に心遊ばせて
誘われるように、すこし、だけ
忘れた歌をすこしだけ、重ねて織って、のせたのならば
まだ少し冷たい風の匂いに冬の終わりを、感じたならば
――目覚める季節があるのだと膨らむ予感に、零れそう
寿ぐ春を、さいわいを、ねむるきみにも、届けとうたう



●うたごえは春の陽に
 ――チルルル、チルル……――
「あらあら、皆お歌がお上手ね」
 緩み蕩けた藍の瞳に、ふわふわと白い姿がいくつも、いくつも結ばれる。
 ――僕にもひとつ、春をおくれな。
 そう言ってイアが連れ出した木製の鳥の子は今、膝に纏った真冬の夜空の彩りの上にある。風はきりりと冷え、それだけならば遠退く季節は感じられなかった、かもしれない。けれど、伏せてなお光を感じる瞼の上には、確かな熱が上って――近い太陽から注がれる春のきざはしを、くすぐったく受け止める。
 そのくせ、遠ざかる冬が少し惜しく思えたりもするのだから――本当にこの身は欲張りなもの、と笑み零して。
「僕と、うたっていただける? そうね、たとえばこんな歌」
 心に、脳裏に、この身体に。おぼろに残る歌をそっと、淡い唇に乗せてみる。賑やかしい広場の演奏に、ましろの春告鳥たちの声に、織り重ねるように優しく、そっと。
 僅かな淋しさに染まる儚い声に、風が添う。身をくすぐる冬の風は、潔いほど清らかな匂い。それをふわりと、押し返す風がある。熱は薄くも、土の香に芽吹きの香――いのちの匂いをさせた、春の風。
「――もうおめざめ、かしら」
 イアの心も、ともに覚める。温みを帯びた春のこころが膨らんで、その身の裡から零れていく。声になって、歌になって――寿ぐ季節の幸いを、未だ眠るだれかに、きみにも、届くようにと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■クロウ(f04599)
アドリブ歓迎

「少し冷たい、けれど。これが春の風」
心地よいと呟いて
銀白の小鳥を指に止らせ
語り聞かせるよう優しく歌う
冬色の旋律にのせる春の歌
春の日差しと胸踊る陽気さと
穏やかな安寧を祈る優しい春告鳥の歌

「あ、クロウ。僕の歌を聴きに来てくれたの?」
さっきはじっくり聴いてもらえなかったから嬉しい
お疲れ様と微笑みどうぞと迎え
今度はどこにも落ちないから
いくらでも聴き惚れていって?
響かせてみせるさと赤青の瞳を見つめたならば嬉しげに唇を開く

そう
僕は歌は歌えるけれど
春告鳥の笛がうまくふけなくて
君は吹ける?
よかったら教えてほしいな

これを僕に?
ありがとう、クロウ
僕、歌って何か貰ったのはじめてだ


杜鬼・クロウ
リル(f10762)の歌を聴く
アドリブ◎

事前に露店で笛と目についた春告鳥モチーフの櫛を購入
ワイバーン戦でリルの歌声をあまり聴けなかった為、
小鳥の囀りとリルの春の音楽会を楽しむ

「歌うンなら観客がいた方が興が乗るってモンだろ(ニィ)
自慢の歌、俺に響かせてみろよ。人魚様(聴き惚れさせてみろと挑戦的」

リルの歌を黙って聴く
歌声に圧巻
(ハ、マジかよ。歌でここまで持ってかれンのは初じゃねェかッ…)

「笛は吹いた事ねェが試しにヤってみるか。コツ掴んだら教えてやンよ」
第六感で吹く
上手く吹けて春告鳥と呼び合えたらリルに教示

「歌ァ聴かせて貰った礼だ。…すげェよ、リル。ちゃんと聴けて良かったぜ」
指で弾いてリルへ櫛を渡す


イトゥカ・レスカン
春告鳥の心地よい鳴き声に自由に飛び交う姿
これがこの場所の春の、始まり
銀の交じる白い羽根
青空を駆ける姿は、ああ――とても綺麗ですね

作り手の想いがこもる工芸品はどれも目を引きます
折角ですから見て回りましょう
素材を活かし、丁寧に作り込まれた一つ一つ
積み重なった思い出の少ない身にはどれも新鮮で
きらきらと眩しく見える様
人の手は、すごいですね。こんなに色んなものが作れてしまう

巡る傍ら、彼らの姿を間近に見つければそろりと手を伸ばして
集落の方々もあなたたちも、ご無事で何よりです
手に乗ってくれたなら先程買った鳥真似笛を鳴らし
彼らを真似てみましょう
上手にできるか分かりませんが、少しお付き合いくださいな


静海・終
春告鳥、愛らしい春の使者でございますね
とても人懐っこいのもまた可愛らしい

ドラゴンランスの涙に笛を買い与えると
でたらめにけれど楽しそうに鳴らす姿に笑い
店で売られている商品を見ていて、そういえばと
手土産と言う訳ではないのですが
この甲鎧虫、貰っていただけます?
我々では上手く加工もできません故
使っていただけるところに貰っていただける方が良い
営みを滞らせてしまっては可哀想でございましょう

グレ嬢を見つければ話しかけてみましょう
楽しんで居られますかと笑い、笛を持つと
折角なので小鳥が来てくれるか試してみませんか?と誘って
小鳥が近づいてくれれば2人でもふもふを堪能し
来てくれなければ大人げなくしょんぼりしましょう



「少し冷たい、けれど。――これが、この場所の春の風」
 心地好い風にふわりと緩めたルリの青い瞳は、空のひかりを湛えて水面のように揺れた。
 まだ囁きめいた歌声にさえ、広場の人々が振り向いた。そんな少年の頭にこつり、後ろから当たった拳はクロウのもの。
「そんなモンかァ? 安売りしてンじゃねェよ」
 あ、と少年の唇が綻ぶ。
「クロウ。僕の歌を聴きに来てくれたの?」
「あァ。自慢の歌、俺に響かせてみろよ。人魚様」
 煽る口許には案外と人の好い笑み。敵前の調べも悪くはないが、自信があるというのなら、聴衆がいた方がいっそう興も乗るというもの。ここならば、自分を含め聴く耳には事欠かない。
「ふふ――今度はどこにも落ちないから、いくらでも聞き惚れていって?」
 響かせてみせると見つめたクロウの瞳は、ルリの解き放つ歌声にすぐに見開かれる。
 ――冬のさみしさ、せつなさ、つめたさ。紡がれるメロディには確かにそんな心細さを思うのに、乗る歌声には春の陽射し、泉のように湧き出でる次の季節への期待が透けて。
 暖かくうたわれる安寧の祈りには、舞い下りてきた鳥たちまでも調子を合わせるよう。
 ――チルルー、ルルル……――
「……――ハ」
 マジかよ、と笑いが零れた。――歌でここまで持ってかれンのは初じゃねェか。
 はっと我に返った時には、締め括られる歌に人々の拍手が贈られていて、少年は少しだけ頬を染めて笑っていた。
「……でもね、僕は歌なら歌えるけれど」
 春告鳥の笛がうまくふけなくて。
 買ってきたのだろう鳥喚び笛を所在なさげに掌に弄ぶリルに、そンなのは、と隣にどかり、座ったクロウ。こんなもんかと吹き鳴らした笛は案外堂に入っていて、今度はリルが拍手を贈る番――そして、その膝の上に。
 クロウの長い指に弾かれて飛び込んだものは、春告鳥の翼をなぞったやわらかな曲線を持つ、小さな櫛。
「歌ァ聴かせて貰った礼だ。……すげェよ、リル」
 ちゃんと聴けて良かった、と。惜しみも照れもしない賞賛に、リルはふわりと笑み綻んだ。歌声の対価を、大切に両の手で包み込んで。
「ありがとう、クロウ。僕……」
 ――歌って何か貰ったの、はじめてだ。

「おやおや、涙。そんなでたらめに吹き鳴らしては」
 言葉とは裏腹に緩んだ眼差し。笑う主の姿に、小さな翼持つ相棒の姿へと立ち戻った終のドラゴンランス、涙は、いっそう愉快げに笛を歌わせる。
 ――いいよいいよ兄さん、竜にも気に入られる笛なんてさ、ハクがつくってもんだ。
 すみませんねと笑いかければ、笛売りの男は機嫌よくそう言ってもう一つを差し出した。おまけのつもりらしい。
 ――ところで兄さん、その荷だけど。
「……そういえば。手土産という訳ではないのですが」
 そわそわと窺う視線に思い出し、貰っていただけますかと差し出したのは、一抱えほどの甲鎧虫の骸。露店に並ぶ品々、これほどの精緻なものを手掛ける集落の者たちであれば、きっと自分たちよりも上手く加工してくれるだろう。
「随分な喜びようだったねえ」
「ええ、彼らならあの命を無駄にはなさらないでしょう。――ところで、楽しんで居られますか、グレ嬢」
 に、と歯を見せる様子を見れば一目瞭然だ。何よりですと相好を崩した終の肩で、涙が笛を吹き鳴らす。空からはチルル、と返事が返り、おや、と女は目を見開いた。
「あんたの相棒、いい腕前じゃないか」
「私達も試してみませんか?」
 応えて貰えるものか否か。いいねと笑い、ふたり空へと歌真似を響かせる。
 ――チー、チルルルルル……――
 ――ルル、チルルルー……――
「……おや。駄目、でしょうかね?」
「そうでもないさ、ごらんよ」
 上げる視線で示した青空に、飛来する白い綿玉のようなすがた。恐れることもなく涙を追いかける小鳥たちの戯れには、笑い零さずにはいられない。
 好奇心いっぱいで、人を恐れぬ小鳥たち。その姿を夢み、写し、春を待ち詫びた人々は、使者の到来を親しく迎え入れ、こうして歌声に相好を崩すのだ。――この峰にも季節が巡った、と。
「これがこの場所の春の、始まり」
 肌を掠めていく風はまだきりりと冷たいけれど。不思議と感じる暖かさが、イトゥカの琥珀の瞳にもよろこびの熱を燈していく。
 積み重なった思い出は少なく、その寂しさを知らない訳でも勿論、ない。後ろ盾のない心に、時折冬めく風が吹き抜けたりしないこともない。けれど、だからこそ知れることもある。
 初めての春を迎えた春告鳥の子らのように、未だ何度と数えるほどの季節を喜ぶことも。翼を負って傍らを駆けていく子どもたちのように、作り込まれた工芸品のひとつひとつを新鮮に感じることも。
「人の手は、すごいですね。こんなに色んなものが作れてしまう」
 ――そうだろう、そうだろう?
 素直な言葉に陽気に応じる人々も、春のように暖かくて。鳥喚び笛を鳴らしてみればすぐさまやってくる小さな命も、愛らしくて。
「集落の方々もあなたたちも、ご無事で――ともに春を迎えられて、何よりです」
 これこそが守りたかったものだと、胸に落ちる熱がある。
 今少しお付き合いくださいなと、イトゥカが響かせる鳥真似の音色に、小鳥たちがよく似た歌声を並べていく。
 ――チルルルルルル――
 ――チチッ、チルルルルルル――
 白銀の冠を戴いたままの峰々へ、春告げの使者たちの合唱が、報せを届けに翔けていく。

 もう春だよ――この峰にも、春がきたんだよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月11日


挿絵イラスト