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秋天は空高く、海に沈む

#UDCアース #外なる邪神

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#外なる邪神


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 青い。蒼い。碧い。薄く開けた視界に映るのは変わらないソラ。
 遥か上も、遥か下も、変わる事は無く、私はソラの中にいた。
 私は……。
 空に辿り着ければ、何か変わるかもしれないと思ってた。
 地面から眺めるばかりの届く事の無い空。
 一度飛行機に乗った事があったけれど、それでも空は遥か上にあった。
 ……。
 私にとって空は、届かないって言う象徴。
 友達は『吸い込まれそう』とか『手が届きそう』って例えていたけれど、あの雲一つ無い青空を………私はただ『遠い』って、そう思った。
 手をどれだけ伸ばしても、どんな手段を使っても、絶対に届かないと言う漠然とした感覚が頭の中にこびり付いていた。
 だから。だから…。
 …。
 分かってた。当たり前。本気にしてたの? そんなわけないでしょう?
 空。こんなに高く高く来たけれど、私は何も変わらない。
 こんなに高く高く高く昇れば何か見えるかもしれないって、思ってた。
 何も見えない。そうだよね。当たり前。
 ああ、……苦しい。
 空の中だって、水の中と変わりはしないじゃない。
 ただ、息苦しい。
 ねぇ、ジョナサン・リヴィングストン。私はあなたみたいに飛んでみたかった。
 憧れただけだけれど、ね。
 私は変われない。
 そんな勇気も、度胸も、気概も無い。
 だから私は私のまま生きた。
 これがその結果。
 笑ってよ。私は憧れに道を外れる事も出来なければ、諦めに道に沿うこともできないみたい。


「れぇっど・あら~~~~とー。」

 いつもの酔っ払いだ。

「えーっと今回はねー、既に落着済みでぇ海中にあるのをUDC組織が見つけたよー。何をかって言えばぁ~『不可思議な色彩』『外なる邪神の肉片』。いつも通りのだねぇー。」

 そんなものが日常などと言われたらUDC職員は頭を抱えて寝込むだろう。

「想像がつかないって人に向けて言うならぁ~、説明するとぉー、UDC組織が『最優先対処事項』に指定して即刻処分しようとする程度の物ー。何が起こるかって言うとねー。
 万象問わず狂っちゃう。人間なんてお手の物。動植物なんて朝飯前。自然環境だって容易く。地形みたいな無機物だって構わず狂って形を変える。
 文字通り、世界が狂い始めるんだ~。もちろん君達だって例外じゃなく、ね?」

 そんな危機であるはずの事を酔っ払いは笑いながら話す。

「付随としてはぁ、その発狂は外なる邪神が自分の肉体に作り替える為らしいんだけど、ま関係ないからそれはどうでもいいや。どうせ倒すんだから。」

 何かを投げ捨てる様なジェスチャーをして話をぶった切る。

「前置きは終わりぃ。で、今回のはねー、海の中にあるの。それも深く深ーいところに。
 水中。海中。深海。向かうの大変だねー。
 でー、直接深海に転移はさせられないからー、現状海上で監視船で様子見してるしかないUDCさんたちの所に送るからー。ダイビングがんば!」

 方法。無策で行けと。

「とりあえずねー、数は少ないけれどUDC製の潜水服があるみたいだよー。
 感じSSWの例の宇宙服の劣化版みたいな? まぁ要は君達の戦闘の邪魔にはならない装備。呼吸についても行って戦って戻る程度には十分に余裕がある。って事さ。」

 行って戦って戻る程度には。けれど、今回はそれだけではない。

「不可思議な色彩。その詳細を言うよぉ。今回の色彩の狂気は『感情の発露、噴出、爆発』。この狂気は無機物にすら『思わない』なんて許そうとせず、思えば無理やり表出させるんだぁ。それも劇的と言えるほどの強さに刺激して。」

 その狂気を抑え込みながら、深く潜る必要がある。

「一抹の恐ろしさは、絶望の淵に踏み出してしまった恐怖に。一片の綺麗だと思った気持ちは、人生に一度あるか無いかの運命の出会いを果たしたような魅了に。
 もしも深い海の中で恐怖に負けて前後不覚に陥ったら、もしも息をするのも忘れる様な呆然自失になったら、どうなるか分かるよね。」

 酔っ払いは手を擦りながら首を傾げる。

「ああ、でもそうなったらすぐこっちが回収するからー。やる気があるなら何度でも送ってあげるし~。でも覚えておいてね。その狂気は色彩を消すまで、何度でも心に浮かび上がる物だから。こんなところかなー。」

 酔っ払いが手を差し出す。

「行くかい?」

 その手の上に、グリモアが輝く。


 経過観察書。
 場所:××海溝上。
 範囲:■■m×■■m。
 現状の対処:海上封鎖。

 概要。
 異常現象の発覚は漁船が発した「海と空が繋がっている」(要約)と言う無線を職員が傍受し、現地へ調査しに向かった事により発覚しました。
 海の一部がまるで空のような色合いに変化しており、当時快晴であった空とその異常な部分が水平線となり隣接した場合、漁船の無線の通り繋がっているかのような光景となります。上空からの観察では空色は円形に存在しています。
 離れた場所からの海上、海中からの観察において、海水の色の変化以外の異常は見られませんでした。しかし、海中からの観察において、色の変化は深くなるほど広がっており、目視できる範囲においてどれほど広がっているかは不明ですが、おそらく球状になっているとの予想が出ています。
 異常範囲内へ小型観測機を送ったところ、突入後およそ5秒ほどで操作を受け付けず情報も途絶えました。

 現状、人員による突入は保留し対応の決定を待ちます。


みしおりおしみ
 えい。めんどくさい依頼シリーズです。シリーズじゃないけれど。
 プレイングはタグを見てください。
 邪教団? 知りませんね。
 恐らく心情より依頼です。
 まぁそんなこんな投げておいて、こんな季節にダイビングなんて。
 概要!

 海です。浅瀬などではなく海原。
 呼吸についてはOPの通り、謎ダイビングスーツにより衣服や装備に制限はありません。
 水圧も無視して構いません。知ってる人は知ってるSSWの宇宙服の劣化版みたいな感じ。

 色彩の影響範囲。
 範囲内海中のみ。海上には影響なし。
 海水にではなく『海中』と言う範囲指定の為、潜水艦などの内でも影響が出る。
 おそらく、色彩の中心であろう場所は深海2000m程度の場所にある。

 色彩の影響:『感情の発露・噴出。爆発』
 OP通り。何を思って、何を感じたか、些細であろうとそれが身を滅ぼすほどのものとなる。色彩に侵された海は何に狂っているのだろうか。海洋生物は全滅。

 『何度でも送ってあげる。』
 OPでもこう言っていますが、これは所謂プレイング中で『私は一回目で行けると思えないから〇回挑戦した末乗り越えて見せた!』と言う感じもオッケですと言う事です。
 海中で失敗して、グリモア回収されて再転送からの挑戦と言った感じ。

 OPの初めのアレ。
 海に入ったらなんとなく感じてもいいし感じなくてもいい感じのアレ。

 こんな所でしょうか。
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第1章 冒険 『あなたの物語』

POW   :    恐ろしいトラウマを打ち破り、先に進む

SPD   :    忌まわしい記憶を乗り越え、先に進む

WIZ   :    幸せな思い出を振り払い、先に進む

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵がUDC組織が海上に展開している巡視船の上に降り立つ。
 突然の出現に職員たちは驚いたものの、それが猟兵であると認めると安堵し現在の状況を説明し始めた。とは言え、大体はグリモアが語った内容だ。
 職員自体、無暗に手を出せば命に係わるのだから当然と言えば当然ではあるが。
 潜水服の事を聞けば、職員は素早く準備し貸してくれるだろう。
「頼む。」掛けられたその言葉には、隠しきれなかった無力感が籠もっていた。
 猟兵が乗る巡視船が異常地帯へと近づく。近づく以前から見えていた。
 けれど、近づきはっきりその光景を見れば、その異常さがよく分かった。
 海の中に、空がある。
 波も無く、揺らめきも無く、真実澄み渡るようなソラ色。
 上へと見上げれば、その色がどこまでも広がっている。視線を戻す。
 まるで海の中にぽっかりと、空へと続く穴が開いてしまった様な光景。
 グリモア曰く、これがただ海が色を変えただけだと言う。
 甲板から水面まで数mもない。なのに、見えるソラは遥か果ての様に見えた。
 
 職員に見送られ、ソラに身を投じる。
 ざぼんと、確かに水に飛び込んだ音がした。感覚がした。
 けれど、それだけだった。
 水の中にいる。はずなのに、水を掻き分け進む音がしない。
 水の中にいる。はずなのに、水が服を撫でる感覚がしない。
 手を掻けば、身体が進む。進んでいると、頭は理解する。
 間違いなく、海中に居ると言うのに。
 向かう先にはソラだけが広がる。右も、左も。
 振り返る。その先にはソラだけが広がっていた。
 

 第一章:感情に振り回される事無く正気で素潜りを敢行し続ける事。
 色彩により狂わされていますが海中です。
 その異常な海中を、常に感情を励起させられながら進みます。
・狂気はOPに言及されている通り『感情の発露・噴出・爆発』です。
 文字通り、発露させ、噴出させ、爆発する様に感情を表せさせる。
 行き過ぎた感情なんて害悪と同じ、笑い死ぬ事も憤死する事もあるのですから。
 猟兵様方の感情がどんな物かはそれぞれではありますが、ある意味ではオブリビオンよりも厄介であるものです。飼い馴らせなければ、先に進む事は出来ないでしょう。
 フラグメントの行動指針などは気になさらずに、ただ猟兵様であればどう感じ、どう思い、そんな感情が狂気とも言える抑えられない感情になった時、どうなさるかを。これに則す必要もありませんが。



 一度目の失敗は中学生の時。私はきっと楽観的だった。胸の内に不安はあれど、それでも…って思っていた。
『楽しくないの?』
 なんとなく、表情が顔に出ない性質だった。私自身にはそんな自覚は無かったけれど、親にも言われたからそうだったのかと思った。
 鏡の前で、笑顔を作る。ぎこちなくて、笑えていない滑稽な表情だった。
 数度繰り返し、やめた。どうしようもなく、愚かしく思えたんです。
 必要ないと思ってた。必要なんてなかった。今まで。
『詰まらなさそう。』
 楽しかった。ただ、それが表に出せないだけ。言葉で出しても疑念の視線は変わらなかった。
 鏡の前で指で口の端を持ち上げる。滑稽な笑みだった。

『なんでそんなに話すの遅いの?』
 不安なんです。その言葉が本当に合ってるか。不快にさせないか。
 たった一つの言葉で嫌われるんじゃないかって、そんな不安が渦巻いて。
 口を開こうとすると口を閉じて、考えてしまうんです。
『貴女がいると会話が途切れる。』
 私は………口を開けなかった。厭きれた様な視線は諦めが混じっていた。
 やっと出た言葉は「ごめんなさい。」ってだけだった。

『余所余所しい。』
 好きじゃない訳じゃない。もしかしたら嫌われてるんじゃないか。無理させてるんじゃないか。表情の裏を邪推してしまっていた。私は、その場所にふさわしくないんじゃないか。お呼びじゃないんじゃないか。
 嫌な想像が放れない。
『ムリして付き合わなくていいよ。』
 不安と想像がそれを現実にした。
 私の居ていい場所なんてなかった。

 それから一人になった。悲しくない訳じゃない。
 机に落書きがあった。悲しくない訳じゃない。
 つまらなそうな声が漏れ聞こえた。『何の反応も無しかよ。』
 ただ、顔に出ないだけ。
●『これに則する必要はありませんが』はあくまで『どう感じ、どう思い、どうなさるか』と言うフレーズで書く必要はありません…と言う意味であり、フラグメントの行動指針は気になさらずには掛かっていません。
春乃・結希
2000mも潜るん?
なんだかすごくめんどくさくなってきた…
もうこの辺でいいや…


…っはぁ!
て、適当に行き過ぎました…
じゃ、じゃあ、余計な事考えんで、withのことだけ考えて、ひたすら潜っていけば!
…ね、ここには私とあなたしか居ないみたい
誰にも邪魔されないこの空で、ずっと一緒に…


…だめ、好き過ぎてこれはだめ…っ
…そう、空なんだ。ここは空。空飛ぶのは得意じゃろ私
急降下すればいいだけ。楽勝です
…それに、中に入って、あなたの想いが伝わってきて気付いたんだ。私はあなたを知ってる。
あなたに会いたいすごく会いたい会って私の想いを伝えたい私は変われたよって伝えたい

会いたい想いを風にして、もっと速く落ちていける



「感情、、。」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は、巡視船の船縁に立ちながら少し思い悩む様にしていた。
 すでにそう遠くない場所に見える『ソラ色の海』。
 それを目にした時、つい数度見直してしまった。
 眼をしばたたかせ、目を擦り、幻想的と言うよりもあまりにも非現実的な光景を飲み込んだ。
 例えるのなら、そう。海を撮った画像の中に、何の加工処理もせずに空の画像を入れ込んだような光景が広がっていたのだ。
 とは言え、それには驚きはしたものの悩んでいた事は別の事であった。
 色彩による狂気。グリモアはそれが感情に影響するものだと語っていた。
「んー。」
 春乃には、それが実際どんな風になるのかが分からなかった。
 今までに数度『不可思議な色彩』の事件に関わった事はあったが、それが今回のこれの役に立つかどうかは分からなかった。
「ダメでも回収してくれるみたいやし、習うより慣れろ。挑戦じゃね!」
 悩んで分からない事はたくさんある。色彩とかこの世の理の外だろうし。それに…。
(思いが強くなるのはきっと悪い事ばかりやない。)
 そうして、色彩に近づいた巡視船から勢いよく春乃は跳び込んだ。
 腹が決まったのなら迷う事無く、綺麗な姿勢で真っ直ぐに。
 ソラ色の海に。

 ソラ色の海に飛び込んだ瞬間、言い表す事の出来ない感覚に一瞬目を瞑った。
 海の中に入った筈なのに、水が体を包む感覚がしない。
 まるで水上と変わらない空気が体を包む感覚。けれど、同じはずなのに違うと思う。心地いいと言う訳でもないけれど、不快とも言えない感覚。
 そんな感覚に一瞬目を瞑った。そして、目を開いた時にはどこかに去っていた。
 何より、ソラが広がっていた。文字通りどこまでも広がる様な。
「……海は苦手だけど、空なら飛べるし。」
 新鮮味はないようだ。
 春乃はそんな光景など気にせずに、とりあえず手で水を掻いてみたり、水を蹴ってどれくらい自分が動けるかを確認していた。
 そんな風にして、何となくソラの中の感覚を理解しながら水底を目指し始める。
「これで2000mも潜るん?」
 UDC職員曰く、おそらく中心はそれぐらいだと聞いていた。
 結構面倒だ。
 そう思った時、ソラを掻く腕から力が抜けた。
(なんだかすごくめんどくさくなってきた…。)
 胸の内がずんと重くなる感じと共に、思考が鈍化する。
 腕から力が抜けていき、蹴る足も止まっていく。
(もうこの辺でいいや…。)
 戻る? それも面倒。危険? なんか考えるのも面倒。
 ゆっくりとそのまま意識を落とす様に、目蓋を閉じてゆく。
『――…。』

「て、適当に行き過ぎました…。」
 春乃は少し居心地悪そうに再び巡視船の上に立っていた。
 どうしてあのグリモアは同じ巡視船に転送するのか。
 無論ではあるが、回収されての再挑戦である。
 とは言え、春乃自身あれで行けるとは思ってはいなかった。
 グリモアによる安全が保障されてるゆえの小手調べだ。
 だから二度目は規定事項ではあった。が…。
(会いに行かなきゃいけないって…そんな感覚がしたんよ。)
 誰かなんてわからない。どうしてもわからない。雲を掴む様な曖昧な感覚。
 一度目で意識が途切れる間際のその感覚が心から消えない。
 目的が出来た。ソラ色の影響もなんとなくわかった。
「じゃあ、余計な事考えんで、withのことだけ考えて、ひたすら潜っていけば!」
 作戦名いつも通り。感情が強くなるのなら、初めから自分にとって最強の感情で満たしておけばいいのだ。
 春乃にとって『with』は最愛。
 背負っていた漆黒の大剣『with』を胸の前に持つ。
 春乃にとって『with』は掛け替えのないの無い恋人。
 『with』を両手で抱きしめる。
 春乃にとって『with』は……。
 心の中を形にしながら春乃はもう一度、ソラに飛ぶ。
 その様子はまるで。
 ・
 ・
 ・
「…ね、ここには私とあなたしか居ないみたい。」
『with』を抱きしめた春乃が、曇り一つ無いソラを沈んで行く。
 春乃の想定した通り、その感情は『with』一筋であった。
「誰にも邪魔されないこの空で、ずっと一緒に……。」
 が、綺麗なソラなのに雲行きが怪しい。
 頬に赤みが差し、目に薄く潤みが張っている。
「…っはぁ! …だめ、好き過ぎてこれはだめ…っ。」
 春乃がなけなしの理性で嫌々と首を振るが、『with』を抱きしめる腕が緩む様子はない。
 その心理を言葉で表すのなら、言葉通り一切周りが見えない聞こえない自分たち以外お断り空間引篭もりバカップル誕生間際であった。
「…そう、空なんだここは空。空飛ぶのは得意じゃろ私急降下すればいいだけ楽勝ですっ。」
 愛に埋もれる思考に、必死に呼吸するかのように別の思考を思い浮かべる。
「空。」
『空…。』
 ダブる。
 ソラの光景が、頭の中で誰かが見た光景とダブった。
 空を見上げて、手を伸ばす。けれど、手はすぐに力無く下へと落ちる。
 このソラは、空の中だと言うのにどうしてこんなにも………手を伸ばしても届かないと思うのだろう。
「ああ、そうだ。中に入って、あなたの想いが伝わってきて気付いたんだ。私はあなたを知ってる。」
 上気した頬から熱が消えていく。
 抱いていた分からない感覚。そうだ、なんなのか気づけていなかっただけで、春乃はその主を知っている。
 ソラ色が感情を強くする。
「あなたに会いたいすごく会いたい会って私の想いを伝えたい私は変われたよって伝えたい。」
 『会いたい』。ただただその思いだけが強くなる。
 何もかもを置き去って、早く、早く。
 自己暗示を重ねる必要がない程の、無我夢中の執着。
 ソラに風が吹く。
 何所に向かえばいいのかなんて分かってる。
 会いたい想いを風にして、真っ直ぐに、一直線に、もっと速く落ちていける

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
おかしな感覚の中、警戒しつつ潜水
確かに水の中を泳いでいる筈で、空を飛んでいるような
妙な状況に舌打ちして…怒りを感じている?こんな些細な事で?
わけが分からずさらに怒りが膨らみ、ついには叫び出しそうな程に

…昔は、どうしていたのだったか
感情に任せて怒る事も多く、師に嗜められた覚えがある
そんな時には、確か

一度止まり、ゆっくり大きく呼吸をする
かつて師に教えられた怒りを抑える方法を、落ち着くまで繰り返す
『色彩の影響は感情の発露、噴出、爆発』…事前に言われていただろうと自分に言い聞かせながら

一度落ち着いても自身の失態に苛立ちがこみ上げて、また落ち着けと言い聞かせて
仕方がない、速度よりも確実に進む事を意識する



 一面に広がる海。その色は海域の水深もあってとても暗い青色をしていた。
 その中にある、文字通り異彩を放つソラ色。
 同じ『青』の系統の色ではあるが…
 巡視船の上でシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は息を吐き、上を見上げる。
「別に特別とかおかしな色ではないはずなんだが…。」
 見上げれば溢れるほどに広がる青い空。今はそれがそこにあるだけで安心する。
 空に広がる青。ソラ色の青。同じ色であるはずなのに、どうしようもなく感じ方に違いが出てくる。
 それが最優先対処事項だと知っているのだから当たり前ではあるか。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。行くか。」
 色彩に飛び込むなど、UDC職員からすれば自殺と同じだろう。
 けれど、だからこそ猟兵が危険に跳び込みに来たのだ。
 シキは勢いよくを甲板かけ、ソラへと飛び込む。

 色彩は、この世の全てを「発狂」させると言う。生物はもちろん、地形や自然環境まで。
 シキはソラ色へと飛び込み、水しぶきが上がる音を耳にした。
 けれど、完全に水面下へと体が潜った瞬間にそれは途絶えた。
 ソラの中に一人、浮かんでいた。
 跳び込んだ勢いのまま、身体はゆっくりと滑る様に落ちていく。
 水が体にぶつかる抵抗感を感じない。
 腕を振ってみれば、同じように水を裂く様な感覚はしない。かと言って空を切るような感覚とも違う。
 水でもなく、空気でもない、なんとも曖昧な感覚。
「確かに水の中を泳いでいる筈で、空を飛んでいるような…。」
 無重力……とも違う。
 違和感に無意識に警戒を強められる。
 掴み所のない妙な状況につい舌打ちをする。
 してから、口元に手をやり自分自身で驚く。
(怒りを感じている? こんな些細な事で?)
 少なくとも、普段であればこの程度の異常な状況下で心を乱す事は無い。
 心を乱すよりも状況の把握や理解に意識を割くべきであり、シキ自身それを理解し実行する事の出来る心持はあった。
 なのに。
 出来なかった。その事にまた苛立つ。
 怒りの感情を見せる事は弱みだ。それに苛立つ。
 冷静であるように努めていると言うのに。出来ていない。
 ふつふつと、一つを見つければ次々に浮かび上がる様に失態が目に付く。
 これが駄目。あれが駄目。出来ていないじゃないか。何もかも! この程度で!
 頭が熱くなる。抑えきれない激情に体が震える。
 つい、加減も何もせずに腕を横に振るった。
 理由などなく、ただ感情を発散させるために。
 けれど、拳をぶつける場所などあるはずもなく、身体が腕を振るった勢いのままゆっくりと回転するだけで終わる。
 回っても、目に映る景色は変わらない。
 体が回っていると言う感覚だけが、怒りの中で少しだけ滑稽だと言う感覚を生んだ。
(…昔は、どうしていたのだったか。)
 掌で顔の半分を覆い、少し現実の光景から目を背ける。
(感情に任せて怒る事も多く、師に嗜められた覚えがある。)
 そんな最中にも、頭の中で癇癪が暴れまわっている。
(そんな時には、確か……。)
 目を閉じる。前に進む事を忘れる。心の内が煩いが、一先ず目的を忘れる。
 ゆっくりと、大きく息を吸って…またゆっくりと吐き出す。
 かつて師に教えられた怒りを抑える方法。
 何度も、何度も繰り返す。
 乱されたペースを、逸る気持ちを呼吸で無理やり合わせ、抑える。
『色彩の影響は感情の発露、噴出、爆発』…怒りで抜け落ちていたグリモアの言葉が思い出される。
(…事前に言われていただろう。)
 理由が分かれば、多少は自分への憤懣も紛れる。
 ああ、けれど、分かっていたとしても面倒極まりない。
 少し落ち着きを取り戻し、進んでいる内にまた怒りが湧き上がる。
 その度に落ち着けと言い聞かせる。
 湧き上がる怒りは理由の無い怒りではなく、自分の失態への怒りなのだから面倒極まりない。少なくとも、理解できる怒りなのだから。
(仕方ない。)
 シキは意識的にゆっくりと進む速度を落とす。
 速度よりも確実に。
 焦って進んで焦燥に駆られればまた面倒ではあるし、一歩間違えてグリモアに回収される事にでもなれば、またふりだしに戻される事になる。
 焦らず冷静に、それがシキらしさであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴァシリッサ・フロレスク
アドリブ歓迎

Hm?
好きなダケ
フリーフォールを楽しめるッてワケか

フフッ、こりゃゴキゲンなオシゴトじゃないか?

蒼い空と海
飛び込んでいく猟兵を嬉々として眺めなら
いつの間にか酒やらを持ち込み
職員の視線そっちのけで船上の一角を占拠し酒盛りを始める

なンだい?アンタらも手持無沙汰だろ?
一杯どうだい……ツレナイねェ

手早く青いカクテルを

“スカイダイビング”だ
お誂え向きだろ?

あれよあれよとガンガン呷り
良い塩梅で出来上がれば漸く動き出し

こーいうのは
楽しンだモン勝ち、さ♪

舳先までダッシュ
そのままジャンプし身を捻りながら華麗にダイブ

Nihil aliud est ebrietas quam voluntaria insania.

ッてね

毒を以て毒を制す

HAHA
最高の麻酔薬だ

青の世界を突き抜ける感覚を
気が狂う程の昂りを、狂気耐性とUCの効果で
底抜けに愉しむ

迸り滾る感情を
ただただ先へと進む推進力へ変換する

ひたすらに疾く深く
高く

何なら最速を突き詰めてみたって良い
一直線に
偶には寄り道して

碧を

アタシの道を突き進む


アンタもだろ



「Hm?」
 ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は顎に手を添え、グリモアが説明した情報を吟味していた。
 その表情は何時もの如く口端が持ち上がりニヤついており、何か悪い事を思案しているように見える……が、ただ単にそんな笑顔がデフォルトなだけで、そんな変な事は考えてはいない。
「好きなダケ、フリーフォールを楽しめるッてワケか。」
 悪巧みではなかったが可笑しなことではあったようだ。
 ついでに風を切る感覚は楽しめないので違います。
「フフッ、こりゃゴキゲンなオシゴトじゃないか?」
 はて、皮肉交じりだろうか。その笑みと合わせてみれば多くの者がそう捉えるのだろうが…おそらく本心で愉しみにしているのだろう。

・巡視船・
 蒼い空! 青い海!
 そして遠く遠く離れた別の巡視船から豆粒ほどで判別は難しいが、跳び込む様子は分かる別の猟兵の姿!
 そしてヴァシリッサも飛び込む準備を………どうして酒を取り出しているのか。
 なんで手始めにクーラーボックスやらなんやらで食堂の一角を占拠し始めていのだろうか。
 職員の疑問符だらけの視線が注いでいるぞ。
 あ、飲み始めた。
「なンだい? アンタらも手持無沙汰だろ? 一杯どうだい。」
 そう職員に勧めるも、
「……ツレナイねェ。」
 苦笑いしながら職務中ですので…と断られた。
 その答えに唇を尖らせるも、何か思いついたのか幾つかのお酒を取り出す。
 三つのお酒をシェイカーにいれ、シェークするとグラスに注ぐ。
 蒼い液体がグラスを満たす。
「“スカイダイビング”だ。お誂え向きだろ?」
 澄んだ青空、と評される事もあるカクテル。
 グラスの中で揺れるその青い空を、ヴァシリッサはゆっくりと喉の奥へと流し込み、飲み込む。
 なるほど確かに験担ぎにはお誂え向きなのかもしれない。空を飲むのだから。
 そうこうしながらあれよあれよとガンガンお酒を呷る。
 この時点で職員たちはあれも何かの儀式なのだろう。お神酒とか聞くし、何なら一部職員は関わった事もあるし…と納得していた。
 さて、酔いもほろほろ良い塩梅。思も考も程好く酩酊。
 そろそろ、とヴァシリッサは歩き出す。
 目指すのはもちろん甲板。
「こーいうのは…楽しンだモン勝ち、さ♪」
 潮風を一息吸うと、そう呟き舳先へ駆けだす。
 酔いも波の揺れもものともせず、一直線にに駆け、跳ぶ。
 さらにただ飛び込むのではなく、飛込競技の様な捻りまで加えている!
「Nihil aliud est ebrietas quam voluntaria insania.」
 ヴァシリッサがその途上呟く。とある倫理書の言葉。訳せば、
『酩酊とは自発的な狂気以外の何物でもない。』
 酩酊が狂気であるのならば、毒を以て毒を制すように、狂気を以て狂気を制そうと言うヴァシリッサの策なのだろう。
「ッてね。」
 落ちる最後の瞬間に茶化しを入れた。カッコつけで終わらせないのであった。

「HAHA.」
 青の世界を突き抜ける感覚。不可思議だ。
「最高の麻酔薬だ。」
 酩酊が不要な思索の感情を削ぎ落し、気が狂う程の昂りが一つのあの感情を結ぶ。
 “愉しい”
 楽しい、愉しい、楽しい、愉しい、楽しい、愉しい。
 愉しい!
 只管こみ上げる感情にどこまでも頬が上がってくる。
 これでも狂気耐性により効果は遅効しているのだが、ヴァシリッサはその遅行した狂気を利用し正気を保ったまま喚起された感情に乗り、意欲を底上げしていた。
 ところで、ヴァシリッサの『愉しい』とは何か。
 このソラを泳ぐことか?
『In vino veritas.』
 ヴァシリッサが知る言葉の中にそれがある。
『酒の中に真実がある。』
 本来の意味とは違うが、今のこの状況とその言葉がヴァシリッサの中で結びついていた。
 ヴァシリッサがこのソラに飛び込む前に飲んだお酒の一つ。スカイダイビング。
 このソラの色とそのお酒の色が重なって見えていた。
 酒の中に真実があるのなら、このソラ/酒の中にはどんな真実がある?
 なんだろう? 何がある? この感覚は、この光景は、一体どう言葉にすればいいのか。
 知りたい。
 その愉しいは知識欲。知らない事を知ろうとする愉快。
 それはこのソラを一直線に最速を突き詰めてみたり、偶には寄り道してみたり。
 その感情のままに自分勝手に突き進む。
 あっちへこっちへひたすら疾く、海の底へ、ソラの上へ。
「こんな千鳥足みたいなのがアタシの道さ。けど、そんな道をアタシは進むのさ。」
 そう呟いて、誰かに向かって訊ねる。
「アンタもだろ?」

成功 🔵​🔵​🔴​

夜桜・翡翠(サポート)
 神のブレイズキャリバー×神器遣い、37歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、~君、です、ます、でしょう、でしょうか?)」、演技時は 上品に(わたくし、~殿、です、ます、でしょう、でしょうか?)

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「不可解。」
 夜桜・翡翠(WordDestruction・f31145)はその異常地帯の様子をそう評した。
 海の只中に空に続く穴が開いている様な光景なのだ。目で見た異様さなど口にする必要もない。翡翠がそう評したのはそこから発される音だ。
 離れていてもヘッドフォンから漏れ聞こえる音楽から、周囲からは凡そ周囲の声や音など聞いてはいないし、気にしてもいないと思えるが、その実はその音の洪水の中でも針の音すら聞き逃さぬ地獄耳であった。
 口頭での説明をしたものかと悩む職員の、困惑の音を無視している時点で周囲に一つ壁を気づいているのは…周囲の声や音を気にしていないとと別の意味で言えるかもしれないが。不注意ではなく無視と言う意味で。
 ともかく、翡翠は視覚ではなく聴覚でもって、そのソラの異質さを捉えていた。
 端的に言えば、無音。
 海であれば存在する波のさざめきがその場所からは一切届かない。神がかり的な耳を持つという自負がある故に、猶更…
「不快です。」
 あり得ざる環境。音がないと言う事がこれほどまでに警戒心を撫でつける。
 とは言え、船上から知れるのはそれだけ。
 行かなければ真実は分からない。

 耳に海面を突き抜けた音が満ちる。
 そして一瞬の間の後、音が泡の様に消え音が消える。
 泡が浮く音も、水が体を撫でる音もしない。
 耳が良いと言う自負がある。自信がある。自覚がある。
 ヘッドフォンから常に大音量で音楽を流していても、いつも周囲の音は認識できていた。だから……その音楽だけしか聞こえないと言う状況に恐ろしさを感じた。
 音がしない。それだけの事なのに。
 つい、神経を張り詰める。耳に意識を集中させる。
 音がしないと言う無意識の恐怖につい、意識を尖らせる。
 音がしない。
 怖ろしい。
 青い空が暗い水底の様に見える。
 
 音がした。
 底の底の底。それとも高く高く高く?
 どちらにせよ音がした。
 救われた様な気がした。音がしない世界の音。
 蜘蛛の糸の様なその音に縋って、ただひたすら、手を動かす。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『デビルフォートレス』

POW   :    【戦場変更(高々度)】魔空の要塞達
【戦場を高々度に変更する。又、索敵レーダー】が命中した対象に対し、高威力高命中の【絨毯爆撃(対地用)、多数の機銃(対空用)】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    【戦場変更(高々度)】エスコートホース
【戦場を高々度に変更する。又、護衛の戦闘機】の霊を召喚する。これは【レベル×10体の数が召喚され、機銃】や【複数の高威力のロケット弾】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    【戦場変更(高々度)】あの街は燃えているか
【戦場を高々度に変更する。又、爆撃や機銃】が命中した対象を燃やす。放たれた【地獄の業火の様な超高温の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 深く、深く、深く。ひたすら深く潜っていく。
 それとも、高く、高く、高く、ひたすら空高くに昇っている?
 そんな事はどうでもいいか。
 昇っているかどうかなんて、感情の問題だ。
 感情のソラを行く猟兵たちの耳に、音が届いた。
 巨大なエンジン音。プロペラの回転音。そして何かが壊れ行く音。
 進む先に目を凝らす。音のする自分たちが向かうべき先。
 遮るものなどないソラの中、見つける事は容易だった。
 人体と鉄塊が混ざり絡んだような歪な飛行機。
 形から推察すれば、二次大戦かそのぐらいの爆撃機。
 それがこちらに腹を見せながら、遥か 底/空高く を飛んでいた。
 飛んでいる。
《まだ飛べる!》
 プロペラを回し。
《まだ動く! まだ飛べるのだ!》
 足掻く様に。
《  マダ!!!  》
 水底のソラを、空と思い込み飛び続ける。
 機首についた目玉がぐるりと猟兵へと向いた…気がする。
《敵発見! 敵発見! 飛べるのだ! 戦えるのだ!   …タタカエるのだ!》
 爆撃機がより 高度を上げる/深度を下げる。
 何かが壊れる音が届く。異音が届く。
 それは……機体が圧壊してゆく音だった。
 とうに本来は機体の形を維持する事が難しいほどの水の底。
 既に水圧によって機体は徐々に壊れていっていた。
 さらに深く潜れば、それが加速するのは当たう前の事だ。
《敵を撃滅しろっ! そして…!》
 けれど、それにすら気づかない。ここはオブリビオンすら狂わせる色彩のソラ。
 感情に狂えば破滅する事に区別などありはしない。
《価値を…証明しろっ。何もできず…水底に沈んだなどありはしない!》
 爆弾倉が開かれ、爆撃が猟兵へ向け 落ちて/上がって くる。
 あの様子であれば時間を潰すだけで、そう掛かる事も無く自壊するだろう。
 さて…。

●第二章、集団戦です。およそ深度800mあたり。
 注意事項として、【戦場変更:高高度】は今回の場合、より海の底になります。
 ぶっちゃけ、戦闘開始位置が遠距離と言うだけですね。
 想像の参考としては、猟兵初期位置が深度800当たり。
 爆撃態勢に入った爆撃機が深度1800~2000mあたりに居ると言った感じです。
 まぁここら距離は細かく考えず、距離がある程度でいいです。
・爆撃は海の底に沈まず、水面方向に昇ってきます。オブリビオン由来の『爆撃』の為、認識の地面方向へと落ちる為です。

・断章上記通り、特に戦わず攻撃を凌ぐだけでもその内自壊します。
 策に入れてもいいでしょう。



 2度目の失敗は高校生の時。
 鏡の前に立つ。口の端を持ち上げる。
 笑う。
 口の端を指を添えて持ち上げる。
 笑みを作る。
 指に力が入る。口が歪に裂ける。
 笑顔を作る。作る。
 作って。作って。
 作って作って作って作って作って作って作って。
 作れ作れ作れ作れ作れ作れ作れ作れ。
 はり付けて。
 やっと笑えた。作った笑顔を鏡に映して、心の中で喜ぶ。
『いつも笑顔の子。』
 そんな風に言われてた。そう、笑ってる。私は笑えてる。
 一度崩してしまったら、また鏡の前で作らないと笑えないから。

『少し、言葉を選ばない子。』
 不安で口が閉じてしまわないようにした。失敗を繰り返さない様に。
 不安が募る。恐怖が積る。
 口を開くたびに、肺が引き攣っていく、頭の内側に冷たい感覚が詰め込まれる。
 時間を経るほど怖くなる。でも、うまく行ってる。

『距離感が近い子。』
 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 嫌って嫌いって面倒って煩いって煩わしいって馴れ馴れしいって…思われてない?
 分からない分からない分からない。分からなくて怖い。こんな思いはしたくない。
 けど…………さびしいのはいや。
ナイツ・ディン(サポート)
「蹴散らしてやるぜ!」
ナイツは「」、一人称俺、冷静でありつつ好奇心旺盛
ディロ(竜槍/紅竜)は『』、一人称我、不遜な暴れん坊
ローア(竜槍/蒼竜)も『』、一人称私、丁寧な保護者

槍を担いでダッシュで寄って薙ぎ払い、見切りや第六感を駆使して盾受けでダメージを避ける。
目立たないを併用し、ダッシュ、敵を盾にするを使って撹乱もしていく。
小さいから埋もれるとやばいからな。基本的には高めに飛んで戦っていこう。
UCは適宜使っていくぞ。
「小さいからって舐めてると痛い目見るぞ?俺は強いからな。」
援護よりも押せ押せ、アタッカー気質。変身系UCを使った場合は激痛耐性、火炎耐性、、氷結耐性でゴリ押すことも多い。



「蹴散らしてやるぜ! ………って思ったけれど。」
 明らかな自壊しつつある音。距離があっても疑いようがない。
 一目散に飛び立とうとする気持ちを抑えナイツ・ディン(竜呼びの針・f00509)は、自分に言い聞かせるように口にする。
「なんつーの、気持ちが逸り過ぎるって言う感覚はあるんだよ。ここまで来たんだからな。絶対に戦えば抑え効かなくなるだろ、これ。」
 ナイツは一呼吸入れ、爆撃機を仰ぐ。
「だからまぁ、楽に行かせてもらうわ。虎視眈々って思えば気も楽になる。」
 選んだのは爆撃機の自壊を待つ事。
 ナイツ自身、フェアリーと言う事もあって爆撃が命中する確率は極めて低い。
 爆撃の爆発による炎は…まぁ降ってくるのを見て、通り過ぎる地点から距離を作っておけば爆発したとしても痛手になる事は無く、火に対する耐性も持っている為に慌てる事は無かった。
「こんな場所にディロを呼ぶ訳にはいかないしなー。それにしても…。」
 遥か彼方から響くのはまるで悲鳴だ。
 悲鳴。慟哭。それとも断末魔。
 どれに近いだろうか。どれだとしてもいい気のする音ではない。
 ただの、鉄が拉げていく音だと言うのに。

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
順調に空を潜って…昇ってきたけど、なんか落ちてきたので急ブレーキ
もー、危ないなぁ…。でも、あなた達はそのために造られたんやもんね。すごく楽しそう
飛んでるだけなら、最期やからそっとしといても良かったんやけど…
withをミサイル代わりにして、落ちてくる爆弾を貫き、そのまま落とし主にも向かわせて撃ち落とす
ここはあの子の空。こんなもので散らかさんで下さい

どれだけ言葉を重ねても、心の中は覗けないから
相手の、自分の、想いが正しく伝わることは無くて
それは本当に怖くて
それでもあなたはヒトと一緒に居ようとしたのかな
えらいね。私は逃げちゃったから
でも、後悔なんてしてない
最初から期待せんなら、傷付くこともないんよ



「ねぇ、あなたは…。」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は呟きかけた口を止めた。
 青いソラを風に乗り、一直線にここまで進んできたが少々無視する事は出来ない異物を見つけたためだった。
 風を操り急制動をかけ停止するとそれを見上げる。
 今いる場所が海の中だと言う事を考えれば、『見上げる』と言うのは少しおかしいような気もしたが、そう言う他なかった。
 自分の遥か先を上昇していく機影。4基のプロペラを回す爆撃機の腹。
 飛行機雲の軌跡も無く、青いソラに沈むそれは少し滑稽だった。
 けれど。
「すごく楽しそう…。」
 春乃はその様子を見て何となく、そう思った。
 こんな場所を飛んでいるのもそうだが、形からして間違いなくオブリビオンである。本来ならさっさと倒して進むのだが…脇目もふらず進んでいた為、気づいていなかったがあのオブリビオンが発する感情。
『居たと言う価値を!』『在ったと言う証明を!』
 再び飛べたのだ。きっと嬉しいはずだ。
 そして、異音。
 たとえその音がなんだと説明されずともわかる、壊れ潰れていく鋼の音。
 そう時間もかからずに自壊すると察せられる。
 だから、放っておいて最期を見届けるのもいいかと思ったのだが…。
 爆撃機の爆弾倉が開き、放たれた爆弾が春乃がいる方向へと向かってくる。
「もー、危ないなぁ…。でも、あなた達はそのために造られたんやもんね。」
 春乃は溜息を吐きながら漆黒の大剣『with』を構える。と言うよりも、まるで槍を投げるかのように腕を後ろに引き絞る。
「飛んでるだけなら、最期やからそっとしといても良かったんやけど…。」
 すぅと春乃の声が冷めていく。
 飛び、自壊するだけなら見届けてもよかった。
 けれど爆撃されるのなら……いや、安全が確保できるのならどうだっただろうか。
 もしかしたら有終の美と思い気分によっては見届けるかもしれない。
 とは言え、そんな事はもしもの話だ。
 なにより、今回において春乃には看過できない理由があった、
「ここはあの子の空。こんなもので散らかさんで下さい。」
 そう。感じたのだ、聞いたのだ、あの子の思いを。
 たとえ望んだ空でもなく、願った空でもなく、理想の空でもなかったのだとしても、ここはあの子が縋った空。あの子が居る空。あの子の心の空なのだ。
 そう言い終わるや否や、春乃は姿勢を制御するのが難しい中で真っ直ぐに『with』を投擲した。
 漆黒の大剣は真っ直ぐに、直線に重なっていた爆弾二つを貫通し。その爆炎を背後にした。
 投げられた武器はそのまま徐々に勢いを失い、停止する。普通であれば。
 けれど『with』は回転し、向きを変えると再度加速し次々に爆弾を刺し貫き空を駆ける。
 飛ぶ、と言うにはあまりにも鋭利で異次元の軌道を描くその後ろを、遅れて爆炎が追っていく。
 その光景はまるで、炎で形作られた竜が昇って行っている様にも見え…。
 爆撃機の目玉が巡る。火力不足を認識したのか、新たに投下された爆弾群が、身を晒した直後に耳障りな金属音を響かせ護衛機へと形を変えた。
 狙いは、動き回り狙いにくい『with』ではなく春乃。
 一斉に機種を向けエンジンを高鳴らせる。
 遅いのだ。
「心はいつも、貴方と共に。」
 爆撃機の目玉が黒い軌跡を認識した時には、護衛機はみな纏めて炎の竜に飲み込まれていた。
 爆撃機の目玉が蠢く、動めく。その黒い軌跡の先を探し出すために。
 そして、発見し動きを止める。
 真下。自らの胴体の真下。切っ先を胴体へ真っ直ぐに向け…掻き消えた。

『with』は一直線に春乃へと向かって行き、その手に収まる刹那に勢いを弱め、大した衝撃も無く戻ってきた。
 春乃の視線の先。ソラの先で爆撃機が納まっていた爆弾ごと胴体を貫かれ、誘爆を起こしながら沈み消えて行っていた。
 その痕跡がソラに溶けるように消えたその先、もうすぐ先。
 そこにあの子が居る。近い。
 邪魔物に気を取られる前に感じたあの思い。
「どれだけ言葉を重ねても、心の中は覗けないから。」
 読心術師や覚でもない限り、そんな事は出来ない。
「相手の、自分の、想いが正しく伝わることは無くて、それは本当に怖くて。」
 それは感じた思いを言葉にしたものか、それとも、
「それでもあなたはヒトと一緒に居ようとしたのかな。えらいね。私は逃げちゃったから…。」
 『       。
「でも、後悔なんてしてない。最初から期待せんなら、傷付くこともないんよ。」
 言葉通り、その顔には後悔の念も悲哀も浮かんではいなかった。
 けれどきっと、その顔には微かな諦観が浮いていた。
「心も作ってしまえばよかったのにね。」
  形だけの笑顔だけじゃなくて。
 その顔は笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
敵のエンジン音もプロペラの回転音も、ひたすらに耳障りだ
こちらは怒りの感情になんとか呑まれないように気を張っているというのに…この喧しさ、どうにかならないものか

…いい方法があった
相手はオブリビオンだ、攻撃して破壊してしまえば良い
自壊を待ってもいいと解っていても、今すぐ黙らせたい

まずは適当に接近してみせて攻撃を誘う
敵が乗ってきたらユーベルコードを発動、増大した速度で攻撃を回避しつつ、機銃やロケット弾を引きつけたまま別の敵の近くへ一気に移動
別の敵を盾として利用、同時に同士討ちでの撃破を狙う

敵を撃墜する度に少しだけ苛立ちが収まる
かと思えば、すぐけ敵の出す音に精神が乱れて…あれも、壊さなければならないな



 連なる空を破る音。壊れかけの不揃いなエンジン音。甲高い金属の軋む音。
 ああまったく…。
「ひたすらに耳障りだ。」
 静寂と呼べるほど音がない中に身を置いていた事も相まって、それが撒き散らす音はシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の耳には必要以上に大きく聞こえていた。
 湧き上がる業火のような怒りを抑えようと、シキは今までやってきたのと同様に大きくゆっくりと息をし、抑えようとする。
 けれど、集中できない。そうして音が消えるわけでは無し、人狼の耳が震える。
「こちらはなんとか呑まれないように気を張っているというのに…この喧しさ、どうにかならないものか。」
 騒音の元凶の爆撃機は遥か先。けれど、その様子からしてそう経たずに自壊するだろうと、シキは経験から判断はしたが。
「…今すぐ黙らせたい。」
 とっとと。さっさと。早急に。即座に。精神的安定のために待つと言う選択肢はかなぐり捨てた。
 その為に頭の中で策を巡らせた。狂気に対応する為に受け身にならざる負えなかった思考が、その流れを変える。
「…いい方法があった。」
 それを見つけるのに時間は掛からなかった。と言うよりも、掛かりようがなかった。思考が能動を取り戻せば、なぜ初めにそれを考えなかったと思うほどの物であった。
「相手はオブリビオンだ、攻撃して破壊してしまえば良い。」
 相手がオブリビオンであれば文句も苦情もありはしない。煩いのであれば、消してしまえばいいのだ。猟兵の仕事はオブリビオンを倒す事、本業だ。
 狩猟へと心が移行した狼は、ソラを足で打ち獲物へと距離を詰める。
 降り来る爆弾は、近接信管でもなくその間を縫うのは容易であった。
 衝撃を与える事で爆発するのだと考えれば、機雷と考える事もできようか。
 ともかく、シキは回り込むような事もせずに適当に爆撃機へと接近する。
 そしてその接近に爆撃機の目玉も気づいた。
 爆撃が効果が無かったのなら、次の行動は一つ。
 エスコートホース。放たれた爆弾が生々しい音を立て変形し、護衛機へと形を変えた。
 一瞬でその場は敵が支配するソラへと姿を変えた。
 見渡す限り敵ばかり。
 シキはその光景を……笑った。
 怒りを発散できる対象が見渡す限りにあるのだから。
 すでに、その瞳には獣性が宿っていた。

 火蓋は切って落とされた。
 ここまでソラを進んでいた速度でしか動けないのであれば、この戦いはシキにとって苦しい物であったであろうが…人狼の獣性を解放し身体のリミッターを外したシキは、ソラを掴みその埒外の脚力でもって跳んでいた。
 ここはソラだ。ソラではあるが空ではない。
 空間を満たすのは空気ではない。水ほど蹴りやすい物では無いが、それでもその脚力であれば高速移動をこなせる程の反動を生み出せるものであった。
 先ほどまでいた場所をロケット弾が過ぎ、その先で別の護衛機に命中する。
 今まで窮屈に感じていた不自由さから解放された様な身軽さに愉快さを感じる。
 護衛機はFOX4であれシキに打撃を与えられるなら構わないのか、敵の陰に隠れれば構わず突撃してくる。
 そうするように誘導し、同士討ちを誘う。
 多対一の中、戦う事のみが頭の中を占める物の、その戦闘思考と状況判断能力は冷静に敵を翻弄する行動を導き出していた。
 何所に動くか、どう動くか。どう誘導するか、どう撃たせるか。
 その考えに嵌る様に敵が落ちるたびに、苛立ちが冷えていく。
 だと言うのに、未だ一番大きい音が消えていない。
「…あれも、壊さなければならないな。」
 一番大きな獲物。その追い込み方は、頭の中で出来上がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァシリッサ・フロレスク
HAHA!
さっきからガチャガチャ五月蠅いねェ



・・・・
頭が高いよ

一寸許り、アタシらより“上”にいるからッて
天下でも取ッたつもりかよ

笑止。

用管窺天だ、そのデけェ眼ン玉ァ節穴かい

・     ・
天業を既倒に廻らす

ドッチが『上』か、この手で解らせてやるサ

自壊など待つ迄も無い
見敵必殺
躊躇無く全速力で切り込み吶喊す

HAHAHAHA!
墜ちろ!
落ちろ!
堕ちろ!

右手に掲げた.50Calの弾幕で敵軍を薙ぎ払い
銘々の崩れかけの傷口を抉る

降り注ぐ弾雨も爆ぜる炎も
この狂瀾の如き愉悦の中ではまるで止まって見え
攻撃は全て見切り

スヴァローグを左に構え
UC【回天】
防御を棄て後方へ迸る紅蓮の浄火が推力を五倍にせしめる

一片の迷い無く、唯々真直ぐに鋩を標的に向け

熱狂的陶酔感《ユーフォリア》に身を委ね
裂ける程、咲ける程に破顔し
聲にも成らない嬌声を、咆哮を

来いよ?
恋焦がれた霄《おおぞら》だ

相対速度は音速を超えて
スヴァローグを擦れ違いざまに零距離射撃

蒼穹に往くなら
本望だろ


遠く、声が
聴こえた気がして

ぶつかって
研ぎ澄ます

HA
上等じゃないか



「HAHA! さっきからガチャガチャ五月蠅いねェ。」
 ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、遠く高度を上げてゆく爆撃機達を笑いながら眺める。
 その笑みはおもちゃを見つけた様な笑顔であったが、次の瞬間にはその様を変えた。
「…頭が高いよ。」
 喜悦の笑みは嘲笑に。愉快を湛えた筈の笑みは、瞬きの間で人の心を突き刺す冷笑へと印象を変えていた。
「一寸許り、アタシらより“上”にいるからッて、天下でも取ッたつもりかよ?」
 笑止。
 ヴァシリッサは笑いを吐き出す。だって滑稽だろう?
 ヴァシリッサは知っている。水面から潜ってきたのだから自分の方が“上”に居る事を。
 ヴァシリッサは知っている。爆撃機達が我が物顔で昇っていると思って沈んで行っている事に。
「用管窺天だ、そのデけェ眼ン玉ァ節穴かい。」
 管を通して空を見る。日本で言うのならば、井の中の蛙だろうか。
 けれどまさしくだ。彼らが知らないのは大海ではなく空なのだから。
 こんな色彩を通して見るソラに狂わされて、本当の空を見つけられないのだから。
 こんなソラなど、本当の空に比べれば笑えるほどに狭いのだから。
「天業を既倒に廻らす。」
 狂った天地を返してやると宣言する様に呟くと、重機関銃《ディヤーヴォルードゥヴァ》を両腕で保持すると、無論突撃を始めた。
「ドッチが『上』か、この手で解らせてやるサ。」
 だって空の要塞なんだか知らないが、あんな我が物顔で行く先塞ぐのは挑発じゃないか。と言った感じで思っていそうだ。
 しかし、距離が遠い。
 分からせるためには少々問題だ。見た感じ爆撃機達は勝手に壊れていっている様なのだから、自壊されたのでは問題だ。
 加速する方法は…。使える便利なものが周りに大量にあるじゃないか。
 ヴァシリッサは重機関銃をを後方へと向けると、躊躇なく引き金を引いた。
 50Calの弾丸は違わず後方に抜けて行っていた爆弾を撃ち抜き、爆発させる。
 その爆発の衝撃を利用して加速するのだ。それは決して矢鱈な物ではなく、爆炎が届かず、その衝撃も加速の為に利用できる位置の物を絶妙な判断で選び、利用していっていた。
 ヴァシリッサの笑みはいよいよ裂けるほどに広がっていく。
 ミスをしたらと言う恐怖も、緊張も、心中の愉悦を狂瀾の如く沸き立て震え上がらせるスパイスにしかならなかった。
 頭の芯が熱くなる。笑う。嗤う。
 今自分が笑っているのか、叫んでいるのか分からずとも、聲にも成らない嬌声を、咆哮を叫ぶ。
 それほどの熱狂的陶酔感《ユーフォリア》に脳が溶ける。
 ヴァシリッサが重機関銃を前へと構え直す。
 有効射程距離へと到達したのだ。
 引き金を引く。口径相応の重い衝撃が腕に伝わるも抑え込む。
「HAHAHAHA!墜ちろ!
       落ちろ!
        堕ちろ!」
 次々に放たれる銃弾がソラを裂き、崩れかけの爆撃機達の傷を致命的に抉っていく。一機、二機…。
 翼が折れた物。尾が折れた物。形を維持する力が無くなれば次々に潰れていく。
 一番遠くに居た爆撃機が傾いでいく。
 バランスを崩した……のだがそれだけではなかった。
 その目玉は間違いなくヴァシリッサを捉え、機銃を向ける為に自ら機体を傾けていた。
 その光景に、ヴァシリッサは笑う。
 重機関銃は右手で保持し、左手で背負っていた射突杭《スヴァローグ》を構えると突貫を開始した。
「HA.」
 今度は背後へと紅蓮の浄火が迸り、強大な推力と加速をもたらしていた。
 今、天は回る。
 降り注ぐ弾雨の中、迷う事も躊躇う事も無く、唯々真直ぐに鋩を標的に向け突き進む。
「来いよ? 恋焦がれた霄《おおぞら》だ。」
 擦れ違う刹那。いや、上か下か、それが逆転する刹那、ヴァシリッサはそう口にし爆撃機の胴体へと向け射突杭を叩きこんだ。
 それは爆撃機の胴体を貫くどころか、その衝撃でもって圧し折ってみせた。
「蒼穹に往くなら本望だろ?」
 天国かは知らないが、少なくとも紛い物のソラよりかはマシな場所だろう。
《アア…戦えたのだ。目的を全うしたのだ…。》
《目的を、辿り着く事すらなく沈む事は無かった…。》
《空を飛び、猟兵と…敵と戦い沈むのだ。》
《なら、いい。この我々に、価値はあった。》
《いい夢を見る事が出来た…。》
 爆撃機はソラに溶け、消えて行く。
 その残骸も何もかも、一片すら残す事は無く。
 ヴァシリッサはとうにそれを見ていなかった。
 見るは先。
 進む先。
 気配を感じる。それどころか小さな影を見る事も出来た。
 色彩の中心はすぐソコにある。

 遠く、声が
 聴こえた気がして

 ぶつかって
 研ぎ澄ます

 ………。
「HA. 上等じゃないか。」
 ヴァシリッサはわらう。浮かんだ笑みの温度は…。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『望』

POW   :    目を背けてきたもの
【嫉妬・悲哀・憎悪を込めた視線】を向けた対象に、【負の感情を増幅させる衝撃波】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    嫌いだった世界
【自己を縛る鎖が、破壊衝動のまま】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    伝わらない想い
全身を【他の干渉を拒む鎖】で覆い、自身が敵から受けた【恐怖心】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は春乃・結希です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『どうして笑ってるの。』
 それは確か……女の子が好きな人に告白したけれど振られた時。
 女の子は泣いていた。周りの人は慰めていた。
 私は…。
『どうして笑ってるの。』
 私は……顔を変えられなかった。
 だって、私は顔を変えられない。笑顔を崩してしまえばまた鏡の前で作らないと私は笑えない。
 笑顔が壊れてしまえば、残るのはあの居場所の無い私だけ。
 でも、けれど、今ここに笑顔の私の居場所があるの?
 視線が。視線が……あの視線が…。突き放す様な、責める様な視線。
 ………逃げないと。
 笑顔が割れる。笑顔が壊れる。笑顔が剥がれる。
 もうダメ。ダメ。駄目。駄目。駄目。駄目、駄目、駄目、駄目、駄目!
 どうすればいいの? 私はどうすればいいの?
 トイレの鏡の前に縋る。笑顔。笑顔? 今更?
 だって、笑顔だけじゃダメだった。こんなにも、心が乱れているのに鏡の中の私の顔は何の表情も映していない。
 肺が引き攣って、息がつっかえる。
 もう駄目。私はもう駄目? やだ。ヤダ。ヤダ! あの視線はヤダ。あの感情はヤダ。嫌いなんてもう怖くてやだ!
 内臓が捻れていく感覚を覚える。
 どうすればいいの? ずっとずっとずっとやってきたのに! 笑顔がダメ。笑顔の無い私なんてもっとダメ! 今更…。
 ジグジグジグジグジグ頭が痛む。
 ズグズグズグズグズグ喉が涸れていく。
 痛みに茹る様に頭の中が熱を持っているはずなのに、なぜか芯の方が冷えていく。
 首、喉、口、鼻、脳。次第に氷を当てられたように冷たくなっていき視界が揺れ始める。
「あは…。」口から笑いが漏れた。平坦な音だけを発音したような笑い。笑えないのに笑えてくる。感情が狂ってなにも考えられない。
 足が震えて力が抜ける。喉に焼ける様な痛みと共に苦く酸っぱい物が逆流してくる。
 手洗い場にそれが吐き出される。どうして他人事みたいに考えているんだろう。
 吐いて、吐いて、吐いて。ああ、私はダメだと納得する。
 初めから無い物ねだり。駄目だったのは初めから。それなのに縋って、こうなるのは当たり前。
 どうして涙が出ないの?


 そっと目を開く。
 夢を見た気がした。ずっと前の事だったか、それともついこの間の事だっただろうか。そもそも私の事なの? ………分かってるくせに。
 丸めた体を強く抱きしめる。
 もう、あんなことにはならない。
 何も変わる事は出来なかったけれど、この空には私以外誰も居ないのだから。
 誰も居なければ、私が裏切ってしまう事も無い。誰かが離れる事も無い。 
 それに……羨む事も無いから。
 再び瞼を閉じようとしたその時、その間際に視界の内に何かを捉えた。
 何もない、空しかないこの空の中で…。


 あれだ。あれがこのソラの中心。
 猟兵たちはその『少女』を視界にはっきりと捉えた。
 未だゆっくりと底へと沈み続けていく、紫紺とソラ色の斑の鎖が周囲を回り、小さく体を丸めた少女。
 その少女に近づくうちに、猟兵たちは今まで感じていた感情の高ぶりが段々と治まっていくのを感じた。
『ああ、そうなんだ。』
 声がした。その声は、小さくか細く聞こえたと言うのに、ソラを震わせた。
『そうだよね。特別だって思ってたのは私だけ。』
 髪の隙間から覗く緋色の瞳が真っ直ぐに、猟兵を貫く。
『空が遠いって思ってたのは私だけ。みんな、こんな簡単に昇ってくるんだ。』
『私の特別はいつも陳腐で滑稽で、皆の普通が私には特別で…。』
『どうして。どうして? なんであなた達はここに来たの? どうしてわざわざ此処なの? 貴方達が来なければ、誰かが来られるなんて知らなければ、何にも得られないと分かったとしても、それでもたった一つの特別を持っていられたのに。』
 ソラが震える。ソラが波打つ。
 猟兵は理解した。感情の高ぶりが治まっていった理由を。
 当然、色彩の影響が弱まったわけなどではない。
 彼女の周囲には、彼女の感情だけが満ちていた。
 ソラに増幅された感情は溢れ出し、ソラを染める。
 誰かの感情が混ざるなんて許せない。怖い。拒絶する。
 様々な感情が混ざり合った混沌は、ある意味では人らしく、故に猟兵は自分を保つ事が出来た。
『消えて。来ないで。私はこんなに苦しいのに。そんなに簡単そうに…。居なくなって。居なくなれ…。』
 彼女の周囲を回る鎖が伸び、数を増やし、関りを断絶する威圧感を発する。
 ソラを揺らす感情。嫉妬、羨望、落胆、拒絶、恐怖、怒り、憎しみ、悲しみ、寂しさ…。
 言葉にできる限りの負の感情。言葉にできない負の感情。
 頬を撫でるそんな感情。そしてどうして寂しさの影に、微かに嬉しさを感じるのだろうか。
『ああ…空が遠い…。』


 色彩の影響について。
・この章において色彩の影響はほぼなくなります。
 ですが猟兵が強く自発的に影響を受けようとするならば、色彩は影響を及ぼすでしょう。感情は毒でもあり薬です。

・少女
 少女は色彩による感情への影響により、大幅な強化を受けています。
 特に、鎖はより硬く、放たれる負の感情は色彩による爆発的に増幅された感情を押し付けてくるでしょう。
虹川・朝霞(サポート)
二つの故郷(UDCアースとカクリヨファンタズム)をふらふらしていた竜神。救援要請あるところに行くように。
自分が電脳魔術士であることをよく忘れます。

基本は慈悲を持って接するため、口調は丁寧です。
怒りを持ったときのみ、『阿賢賀水神』に戻ります(口調『遥かなる水神』)
なお、装備品の鉄下駄はUDC圧縮体のため、超絶重いです。鉄って言い張ってるだけです。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はいたしません。
あとはおまかせします。よろしくおねがいします!



「海、そして空。であればこれでも水神ですので役に立つ……と思っていたのですが、やめておいた方がよかったですね。それを深く理解しているが故に………これは甚だ不愉快である。」
 虹川・朝霞(梅のくゆり・f30992)にとって深く行けば深く行くほど不快感が増して仕方なかった。
 ここまで文字通り心頭滅却し来たものの、水神として水と親和性が高いが故に、体そのものがその場所を拒絶していた。
「心を揺さぶるあれは弱くなったが、水が酷い酷いより酷いぞ! 空でない事など当然ではあるが、まともな海でも無し。早々に帰らせてもらうぞ。」
 朝霞は鉄雲でもって自身の鉄下駄の重量をさらに重くし、その重さでもって沈降を加速させる。
 その矢先に…。
「お…。あれは…、大変ですね。」
『消えて。』
 それはさざめきの様であった。少女の背後に揺れる、紫紺とソラに溶けてしまうソラ色によって斑模様となった鎖。それが一、二など笑い話で、十重二十重も軽く超えるほどの数の鎖が少女の背後に現れ、揺れていた。
 一種、揺れる度に紫紺の模様が変わるその様は万華鏡のようにも見えて幻想的ではあった…が、それを楽しむ余裕などは無かった。
 一斉に鎖が伸びてきた。
 彼我にあった間合いなど一瞬の内に消え去り、朝霞は反射的に鉄下駄でもって鎖を打ち、自分を移動させることで身を躱す。
 だが、無論一度躱しただけでは終わらない。息を吐く間もなく鎖は襲い来る。
 まさしく縦横無尽。地面が存在しないが故に、上下左右無関係に襲い来る。
 躱した鎖すら動きの疎外となり追いつめられていく。
 固い物質がぶつかり合う音を響かせながら、朝霞は鉄下駄を駆使しなんとか凌いでいる。
「そろそろでしょう?」
 呟くその顔には状況不相応に焦りなどは無く。
 鎖の絡まる音がする。朝霞の頭上、そこで鎖が寄り集まり、絡まり、一つの巨大な杭と化した。
『―っ………きゃっ。』
 少女が何かを叫び、その杭を朝霞目掛け叩きつけようとした刹那、高い金属音が響き少女が小さく悲鳴を上げると同時に杭は解けていった。
 黒い蛇腹の刀が伸び、少女の前で止まっていた。
「まぁ弾かれるか。ではここまでですね。」
 朝霞は笑って、その場から消えて行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント
ヴァシリッサ(f09894)と
結希の進む道を拓けるように

衝撃波からヴァシリッサを庇う
不利と言えばそうかもしれないが、仕事と仲間の為なら構わない

発動するユーベルコードの効果、併せて色彩の影響をあえて受け入れる
色彩の影響で強くなる感情は『喜』の色

全て遠ざければ傷付く事も無い…成程、理解は出来る
満月の夜に狂う人狼は故郷では嫌悪された、それなら元より誰も側に置かなければ良いと昔は
…いや、今もまだ少し

それでも今は共に戦ってくれる者が居る、これ程嬉しい事はないと
その感情で衝撃波で増す負の感情をねじ伏せる
射撃で反撃して相手の体勢を崩し、ヴァシリッサの追撃を期待する

そうだ、顔を上げろ
独りは楽だが、寂しいだろう


ヴァシリッサ・フロレスク
シキ(f09107)と
あァ、ユーキチャンの
“ふたり”の路をアシストするよ

シキの想いが、心地良い
その献身を無駄にするものか
衝撃波と鎖の猛攻の中で回避と情報収集に専念し好機を伺う

Hm?特別、ねェ

アタシはアタシだし
アイツはアイツ
貴女《アンタ》はアンタだ
ほかのダレにも代えられない、ね

ま、特別じゃない、ッて言や
アンタがアタシを解らないように
アタシもアンタが解らない
当然だろ?怖がることなンてナンセンスさ
ンな簡単じゃ直ぐ飽きちまうよ
(自身にも、言い聞かせる様に)

シキの射撃で生まれた隙を見切り
発動したUCで鎖の根本を
束縛の根源を、超自我の淵源を、弾丸で破壊を試みる

サ、勿体ぶらずに、可愛いお顔を見せて頂戴な?



「どうやら訳ありらしい。なら、結希の進む道を拓けるように。」
「あァ、ユーキチャンの“ふたり”の路をアシストするよ。」
 向かっていた場所が同じであれば、それまでがどれほど広かろうと他の猟兵を視認できていなかったのだとしても、タイミングの差はあれこうして合流できるのだ。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)とヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、互いを確認すると一先ず合流を優先した。
 そして二人ともが“もう一人”の様子から何某かの宿縁を察し、直接声をかける事はせずに手助けする事に決めたのだった。
『嫌い。』
 細く小さな声だった。けれど、心を駆り立てる様な寒気を覚えるその声にシキは咄嗟にヴァシリッサの前に飛び出した。
 ……瞬間、視界が裏返ったような気がした。
『羨ましい。妬ましい。』
 髪と指の隙間から覗く緋色の瞳が真っ直ぐに、シキ達を見つめていた。
 言葉が漏れ出る度に、シキの頭と心に抱えきれないほどの暗い感情が詰め込まれていく。
 少女の口から漏れる言葉は誰かに向ける様に零れ落ちているのに、
『そんな風に思う私が一番…。』
 ただの一つも外へ向く感情は無く、全てが自己嫌悪へ帰結していく。
『お願いだから消えて。』
 その瞳は硝子の様に無機質で、その声は静かで平坦で、なのに込められた感情はこのソラを歪んで見えるほどの衝撃波になってシキに襲い掛かる。
「全て遠ざければ傷付く事も無い…成程、理解は出来る。」
 自身の腕に爪を喰いこませ、歯を食いしばりながらシキは低く唸る様にして言葉を絞りだす。
 全て理解できるなど端から思ってはいない。
 けれど、誰かを遠ざけるその感情は、少なくとも知っている。
 人狼は古郷では嫌悪されていた。満月の夜に狂い、凶暴化する人狼など受け入れられるはずがなかった。
 たとえ知られる前、理解する前に仲が良かったとしても、知って理解されるか知ってる者に距離を置かされ離れられる。
 信じたとしても…。
 なら元より誰も側に置かなければ良い。
 そう考えが至るのに時間は掛からなかった。
 そう思っていた。そう考えていた。昔は。
「…いや、今もまだ少し…か。」
 つい自省に冷静に訂正を入れてしまった事に苦笑が漏れる。
 自己嫌悪は段々と治まっていっていた。
 理由は…、後頭部に軽く握り拳が当たる。
 背後に仲間がいる。
 今は共に戦ってくれる者が居る。
 なら、
「これ程嬉しい事はない。」
 シキは心の内にソラ色を映す。重く立ち込めた自己嫌悪の暗雲が、喜色の空に溶けて消えて行く。
「あんたも独りは楽だが、寂しいだろう。顔を上げろ。」
 
 シキは立ち直った。
 ヴァシリッサの前に立ちはだかり、放たれる衝撃波を受けきっている。
 その信頼が、シキの想いが心地良い。
(なら、その覚悟に、信頼に、献身を無駄にするものか。)
 為すべき事は、観察し、計算し、導き出す事。
 存在するのかは分からない。けれど、あると仮定して視る。
 ソラ色の色彩の核を。
 そして例え見つけたとしても、無暗に撃ったところで少女の周囲を回るあの鎖に阻まれる事だろう。
 だから見つけなければならない。最適、最高、最上の間隙を。
 重機関銃を手に見つめる。
 それにしても…
「Hm? 特別、ねェ…。」
 少女が口にしていた言葉、それが耳に引っかかっていた。
「アタシはアタシだし、アイツはアイツ。貴女《アンタ》はアンタだ。
 ほかのダレにも代えられない、ね。」
 ヴァシリッサはそれを、誰かになりたいのだ、と解釈した。
「ま、特別じゃない、ッて言や、アンタがアタシを解らないようにアタシもアンタが解らない。当然だろ? 怖がることなンてナンセンスさ。
 ンな簡単じゃ直ぐ飽きちまうよ。」
 はっきりと言ってしまえば、ただ単に少女を揺すぶる為に思いついた事を口にし始めただけではあったのだが、次第にそれは自分にも重ね、そして自分にも言い聞かせていた。
 それに少女はただ、
『知ってる。』
 そう呟いた。
 その表情に何の変化も無い。その瞳に何の感情も無い。
 ヴァシリッサは一瞬「空振りか」と思ったが、変化はすぐに訪れた。
『知ってる。知ってるわ。そんな事は。だからこうなった。こう? は。変わらない。変われない。私は普通に変われない。出来損ないは出来損ないのまま。欠陥品。不良品。嗤えるわ。』
 平坦に、まるで朗読するかのように口からでる自虐のような何か。
 そして鎖が無秩序に、代わりにその感情を表しているかの様に動きが乱れる。
「――。」
 その瞬間を逃がせなかった。
 まるで心を読んだかのようにシキが拳銃を放ち、鎖に弾かれる。
 それが動きを乱した鎖の動きをさらにわずかに乱れさせる。
「…最高。」
 間違いなどない最適条件。理想的とも言える思い描かれた机上の計算の再現。
 ヴァシリッサが引き金を引き放たれる一射。
 それは必然の予定調和の様に鎖を潜り抜け、少女を……通り過ぎる。
 その背後の鎖の一つと一体化していた『何か』に突き刺さった。
 存在の認識。
 それは水晶のような何かに見えた。けれど、在り得ざる形。あり得ざる輪郭。
 流動的に形を変え続ける直線と曲線の水晶のような何か。
 ソラ色に溶けるソラ色だと言うのに、そこにあると認識してしまったそれ。
 弾丸は、形なき『色彩』に突き刺さり罅を入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
ごめんね、特別なソラなのに…
だけど、あなたにだけは、想いを全部伝えたいから

UC『緋色の翼』発動
鎖の隙間を縫うように飛ぶ【空中戦】
鎖を掴んで引いて、もっと近くに
近付いたら手を握って…きっと拒絶されるだろうけど、絶対離さない
見て。私だけを見て。あなたが見てきた世界、全部見せて

UC『こころ語り』発動
何の障壁もなく、正面から伝わる負の感情、記憶
でも、私の心も負けないくらいの『恐怖』と『自己嫌悪』でいっぱい
強くて明るい春乃なんて全部嘘
痛いのも暗いのも裏切りも、何もかもが怖くて、そんな弱い自分が大嫌いで
だから全部嘘で塗り固めることにしたんだ
その方が都合がいいから

でもあなたは違う
不器用だけど、ヒトに寄り添おうとしたんだね
私なんかよりずっと素敵だよ
大丈夫、これからは私が一緒にいるから
ほんとだよ、ここでは嘘なんてつけないし
その鎖が邪魔なら、少しだけ手伝うね
鎖をwithで切断

あなたの想い、全部私が連れて行く
空もたくさん飛ぼう
あなたの名前は『のぞみ』
きっと、希望の想いが込められた名前
だから、ね。笑って。望。



「ごめんね、特別なソラなのに…。」
 声に、少女は目を向ける。
 緋色がそこにあった。。少女の瞳の様な緋色。
 少女はいつの間にか“見上げて”いた。だってそれはまるで太陽のようで…。
 もしあれが太陽なら、少女は今までどこに向かっていたのだろう。
 ずっと昇っていたはずなのに、どうして今見上げてなんて。
 違う。そんな事よりも。
「だけど、あなたにだけは、想いを全部伝えたいから。」
 少女はその声を、顔を、知っている気がする。
『あなたは……。』
 どこか。いつか。
 目を細め、あやふやな記憶を探る。けれど、すぐに目を閉じる。
 だって知っている、知らない、そんな事に意味は無いのだから。
 怖い事に変わりはないのだから。誰かと居ると、自分のおかしさに嫌気がさすのだから。

 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は緋色の翼でソラを打ち、『望』へ向けて飛んでいく。
 通り過ぎた軌跡をを次々と、数百など数える事も億劫なほどの数の鎖が貫いていく。
 脇目も振らず真っ直ぐに進めば、瞬きの間に塵芥となろう。
 それじゃあいけない。
 けれど、遠回りなんてしていられない。
 それでは意味がない。
 望の鎖が彼女の絶望で編まれたものなら、その間を縫って正面から向かわなければ伝えられない。
 前へ、前へ。
 正面から迫る鎖を、体を捩じり、翼を打ち、軸をずらし回避する。
 時に翼をたたみ加速し、時にその足で鎖を蹴り力任せに方向を変え進んでいく。
 ソラに無数に伸びる鎖はまるで檻の様にも見えたが、それ以上に重なる物があった。
 鉛筆で塗り潰そうとしている様に…。
 空色の画用紙を、子供が力任せにぐしゃぐしゃに感情に任せて塗り潰そうとしている様な、そんな風にも見えた。
 緋色の翼に鎖が擦り、火の粉が散る。
 冷や汗が流れる、けれどその曲芸もあと少し。
 目が合った。春乃と望の視線が偶然交差した。
 途端、殻の様に、繭の様に鎖が望を覆い隠す。
「……っ。」
 まさしく、心に壁を作るそのもの。
 対話するも、伝えるも、端から断絶されていてはどうしようもない。
「それでも。」
 それでもと、突き進む。春乃だって初めから伝える事しか考えていなかったのだから。
 そして、それは正しかった。
 その鎖の殻は、遠くから見れば隙間など一部も無いように見えていた。
 けれど、近づけばまるで綻びの様に二つ三つの隙間が小さく開いていた。
 それに手を当てられるほど近づいた時、振り返ってみれば春乃を追っていた鎖の群れはゆっくりと迷う様に、惑う様に揺れ、止まっていた。
 春乃は一つ息を吐き、そして鎖の殻の隙間に腕を差し込む。
 探る様にゆっくりといれ、そして肩口まで突き入れた時、手が何かに触れた。
 手が弾かれる。から、それを掴んだ。
 掴んだまま、隙間を覗き込める程度にまで体を引き中を覗く。
 殻の中で緋色の翼に緋色の瞳が照らされて見えた。
『やめて。』
 掴まれた手を外そうとするが、力は弱く外せない。
 望は視線を逸らし、影に逃げようとする。
 だから、
「見て。」
 強く言葉にする。
「私だけを見て。あなたが見てきた世界、全部見せて。」
 掴んだ手を離さずに、我儘に思いを伝える。
 それが必要だから。
 視線が再び重ねられる。
「つたえて、あなたを。つたえるよ、わたしも。」
 繋げた手から温もりを。
 合わせた瞳から感情を。
 そうして心は、繋げられる。
 こころ語り。
 バツんと、世界が落ちた。
 何も見えない。いや、微かに望だけが見える。
 どろりとした絡まる感情が肌を撫でる。心を引き摺る。
 伝わってくる負の感情、そして記憶。
 誰かに思った感情。自分に思う感情。
 忘れられない記憶。背に伸し掛かっている様な、囁いてくる記憶。
 後悔も、悔悟も、何もかもが実体験の様に伝わってくる。
(でもきっと、望だってそう。私の心も負けないくらいの『恐怖』と『自己嫌悪』でいっぱいだから。)
 強くて明るい春乃なんて全部嘘だから。
 痛いのも暗いのも裏切りも、何もかもが怖くて、そんな弱い自分が大嫌いで。
 だから全部嘘で塗り固めることにしたんだ。
 心も全て。
 それが今、望にも伝わってる。
 だから、これから思う思いも伝わる。
「私は早々に一人を選んだ。でもあなたは違う。」
 いつの間にか周囲にはソラ色が戻り、望だけを取り巻いていた鎖は解け、幾本かだけが“二人の”周囲を巡っていた。
「不器用だけど、ヒトに寄り添おうとしたんだね。私なんかよりずっと素敵だよ。」
『素敵なだけじゃ意味なんてない。』
 悲哀。悲哀。諦観。けれど、感情が理解される嬉しさも感じる。
『素敵だとしても、私みたいにはなりたくないでしょう?』
  貴女みたいになる事も、同じようなものなんだろうけれど。
『ありきたりだけれど、もっと早く会えていれば変わったかもしれないね。』
  つまらない想像だけれど。
「大丈夫、これからは私が一緒にいるから。」
『そう。』
「ほんとだよ、ここでは嘘なんてつけないし。」
『疑ってないよ。』
 その表情はきっと、過去の彼女と接した人が見た表情と同様に何の動きもありはしなかったが、伝わってくる感情は穏やかで安らかだった。
 ちらと、何かが舞っていた。
 視線を向け、そしてそれが降ってくる方向へと顔を向ければそれがなんであるか分かった。
 鎖が、紫紺、ソラ色、そして緋色。はらはらと零れる花弁の様に崩れて行っていた。
 元々が彼女の自縛だ。他者への恐怖。自己への嫌悪。それが巡り続けた結果が鎖なのだから。だから、ただ一つ救いがあれば、それは消えて行く。
 理解者が欲しい。心を分かってくれる人が欲しかった。
 それで絶望は綻ぶ。けれど、それ以外では解けない。
 春乃は視線を戻し、約束する。
「あなたの想い、全部私が連れて行く。空もたくさん飛ぼう。」
 既に過去としての根幹が消え去った彼女に、時間は鎖同様あまり残されてはいない。
『楽しみね。』
「あなたの名前は『のぞみ』。きっと、希望の想いが込められた名前…だから、ね。笑って。望。」
 そのお願いに、望は目を閉じた。少し困っている様な感情が伝わる。
 片目を開けると、望は繋げていない方の手を上げると春乃の頬へと持っていき、その口端を指で持ち上げた。
『笑って/伝わって いるでしょう? 結希。』
 その声/思い はどこか悪戯っけと優しさが微かに感じられて、望は頬から指を離すと春乃のもう片方の手を握り、
『ずっと一緒に居るから。それに、貴女は強いよ。』
  貴女の心で望を救ったんだから。
 それは春乃への返事。
 そして望はまるで体を預ける様にして、静かに消えて行った。

 残されたのは春乃と……ソラ色の色彩。
 少女の居たその背後に、取り残される様にしてそれは浮いていた。
 その力は銃弾の一撃で衰弱しきってはいたが、時間が経てば再び何かと共に力を戻す事だろう。
 春乃は漆黒の大剣を振り上げ、そして真っ直ぐに振り下ろした。
 甲高い、澄んだ音がソラに響き渡った。
 そして幕は下ろされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月09日
宿敵 『望』 を撃破!


挿絵イラスト