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【サポート優先】少女前夜祭

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです(通常参加者を採用する場合もあります)。

●嵐も知らぬ真夜中に
 かつてこの地を治めた貴族の家系には、体の弱い娘ばかりが産まれたのだという。
 薬で命を永らえて、嫁入りの年頃まで漕ぎつけたとしても――子を産むことには耐えられない。それは即ち、他の貴族と血肉で繋がる手段が乏しいということだ。家は衰退の一途を辿り、ヴァンパイアの支配が始まる頃には既に平民同然の暮らしをしていたとか。
 祖父から聞いた昔話の真偽は定かではない。
 ただ、家に伝わる習わしに従って修道院に入り、病を抱えた体のわりには長く生きられた。カローラはそれだけの女であった。

 貧しいというのは、なにも悪いことばかりではなかった。痩せた土地から搾り取るものがないからか、領主はこの町にあまり興味を示さないのだ。
 無論、支配下にはあるのだが――黙って働いてさえいれば、日々はそれなりに穏やかに過ぎていく。住民たちは修道院を頼りにし、有難いことに自分を慕ってくれている。
 誰かと愛し合う夢を見なかったとは言わないけれど。
 信仰に全てを捧げる人生に、ささやかながらも満足していた。
 神に祈りを。
 民に救いを。
 花の祭壇に生贄を。

「――やっぱり無茶だ! 修道院で、娘たちをみんな預かるなんて」
「いくら貴女の言うことでも……」
 門前で訴える男たちに、カローラは穏やかな笑みで相対する。語気の荒いほうは酒蔵の主人で、もう片方は町外れに住む炭焼きだったか。どちらも頭が切れて頼りになるけれど、こういう時には困りものだ。
「貴方の家の、ルーナさん。十四にもなって人前で吃りますよね」
「それは……、あいつは小さい頃からそういう奴で」
「病に違いありません。必ずや神は救ってくださいます」
 それで何もかも上手く行く。
 修道院の地下室に、埃を被った教典を見つけたのが全ての始まりだった。ヴァンパイアによる焚書を逃れた、失われたはずの神の教えがこの手の内にある。――これは、奇蹟だ。闇に覆われた世界に差した一筋の光だ。
「……うちのミエルはまだ子供です。まだ母親と離すわけには」
「虫の卵を拾ってきて、部屋で孵して、楽しそうに笑っていたと聞きました。その時は大騒ぎだったとか」
「だから、そんなの子供のすることじゃないですか!」
「けして見過ごしてはなりません。この地に迫る魔の兆しを、誰もが気付かぬままでいる」
 病める少女の生命に、価値を与えることが『我ら』の戒律だ。
「一月、いえ、一晩で良いのです。どうか私を信じていただけませんか――?」

●グリモアベース
「舞台はダークセイヴァーだ。修道院を預かる女性が、町の若い女の子を全員集めて、地下室に閉じ込めて、殺す。……ただ殺すんじゃなくて、順番に、痛めつけるような方法で」
 グリモアの齎す予知の中で、見るに堪えない未来を視たのだろう。臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はこめかみを押さえて重い息を吐いた。その一息で、切り替えたように顔を上げる。
「今から向かえば、ぎりぎり救出することはできる――そういうわけで、急ぎだよ。身体が空いてる人はちょっとでいいからその手を貸して」

 留意事項は話しておくね、と前置きをして。
「カローラというひとはね、本来は善良な修道女なんだ。災厄を招いているのは彼女が持っている『教典』のほう」
 平穏を望む聖職者に憑依して活動する、意志ある狂気の戒律――それがオブリビオンの正体だ。厳密に言えば教典ですら本体ではなく媒介にすぎないのだが、書物としての形を破壊すればひとまず影響を取り除くことができるだろう。
「家柄もよく、人望の篤い女性でね。町の人たちも不審に思いはしたけれど、彼女がそこまで言うなら、って従ってしまったみたい。だからこそ狙われたのか……あるいは、この余興のために生かされていたのかもしれないな。ダークセイヴァーはそういう世界だ」
 夏報の言葉は、裏で糸を引く何者かの存在を念頭に置いている。
「妙なんだよ。見せつけるような手口のわりには、事件は地下室という密室で起こる。まるで――猟兵《ぼくたち》という観客が来るのを、期待しているようだった」

 かの世界には、猟兵を誘き出す為の罠を張るオブリビオンが居ると聞く。
 予知の示した殺戮は、その前夜祭といったところか。

「……まずいと思ったらすぐ帰って来てね。夏報さんも、転送頑張るから」
 転移の光が、君たちを包む。


八月一日正午
 こちらはサポート優先シナリオになります。
 スケジュールに余裕ができたときに少しずつ書き進める予定なので、完結まで長めにお付き合いいただくことになるかと思います。

 1章ボス戦、2章集団戦、3章ボス戦。各章に状況説明の無人リプレイをはさみます。
 通常プレイングも送信可能ですが、上記通りの執筆ペースですので採用は確約できません。
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第1章 ボス戦 『完全教典『ユートピア』』

POW   :    戒律ノ一「安寧」
自身の【争いを好まない性格 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    戒律ノ二「誠実」
【教典から飛ばした紙片 】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ   :    天啓
対象の攻撃を軽減する【共鳴神霊体 】に変身しつつ、【平和を紡いだ時間に応じて強くなる光】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナハト・ダァトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●全きものたれ
 病める娘を神に捧げよ。
 その血が、肉が、絶叫が、健やかなる全ての民に平穏を齎すだろう。産まれてくるべきではなかった命が尽きる時、その者もまた救われる。
 次なる娘を神に捧げよ。
 何人たりとも、贄を哀れんではならぬーー。

「この町の人々は優しく善良です。蔓延る病を、神の恩寵を証明したとしても、きっと贄を哀れんでしまうでしょうね」
 暗がりと埃に沈んだ地下室に、やわらかな声が響き渡る。
「ですから私は考えました。皆を等しく扱えばよいのだと。――次の贄が自分だと、自分の娘だと判っていれば、とても哀れんだりはできないでしょう? 鶏は豚を哀れみませんもの」
 まるで筋の通らない理屈であった。
 邪な『教典』に記された狂気の戒律と、田舎女の素朴な思想が合わさって、なんとも歪な信仰を組み上げている。其処に在るのは、女の姿をした一匹の怪物だ。

 燭台に炎が灯される。
 光が闇を照らし出し、冷えた空気が微熱を帯びる。

 ――集められた娘たちは、後ろ手に縛って鎖に繋がれ、一様に足首の腱を切られていた。その上で、丁寧な止血が施されている。
 逃がすつもりも、無駄に死なせるつもりもない。舌を噛まぬよう口内に布も詰め込んでーー否、一人だけ、悲鳴を上げることを許された少女がいる。
「ルーナ」
「は、ひっ」
「ルーナ、きちんと喋りなさいな。折角可愛らしいのに、そんなでは良人も出来やしませんよ?」
 これが日中に交わされる茶飲み話であったなら、ルーナは顔を真っ赤にして俯いたことだろう。しかし、その怯えきった視線は――身体の正中線をなぞる、無骨な刃物に注がれている。
「い、い、いやぁあ、カローラ、さま、ゆるし、ゆるして」
「全く、可哀想な子」
 薄茶けた衣服に、赤が滲んで。
「――う」
「うあぁぁぁああッッ、パパぁ、パパぁ――っ!」
 悲鳴を上げたのはルーナではなかった。訳も分からず布を吐き出し、のたうつように暴れ出したのは、十にも満たない幼子だ。
「……ミエル! 静かになさい。貴女の順番はまだ先ですよ」
 そんな理屈が通じる訳もなく。
「やだぁぁっ! 帰るっ、帰るの、もう帰るよぉっ」
「ああもうっ、五月蠅い! 静かになさいな!」
 カローラの苛立ちに呼応して、『教典』の頁がひとりでに開かれる。零れた紙片が宙を舞う。
 その一片が、ミエルの喉を貫こうとした――その瞬間である。
リスティ・フェルドール(サポート)
援護・治療・盾役として参加いたします。最優先は自分を含む仲間全員の生存と帰還。成功の立役者ではなく、命の守り人として最悪の結果を回避できれば、それ以上に望むことはありません。

真剣な雰囲気は邪魔をせず、仲間同士の険悪な雰囲気はあえて朗らかに。チームワークが生存率を上げる一番の方法として行動します。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはマスター様におまかせいたします。よろしくおねがいします!


トゥルリラ・トゥラリラ(サポート)
 堕天使の四天王×殺人鬼、17歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、キミ、なの、よ、なのね、なのよね?)」、戦闘中は狂える殺人鬼「私、相手の名前、呼び捨て、なの、よ、なのね、なのよね?」です。

性格は明るく無邪気ですが、殺人や殺戮は遊びとして認識している危険人物です。
【地の魔王】と呼ばれる魔王に仕えていて、その魔王に心酔しています。
実は語尾がおかしい事を気にしています。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●泣く子と悪鬼には勝てぬ
 修道院の地下室に踏み入って――リスティ・フェルドール(想蒼月下の獣遣い・f00002)の判断は速かった。オブリビオンに操られた修道女が、幼い少女に凶刃を向けている。その極限の状況で、命の守り人が成すべきことはただひとつ。
 床を蹴って、全力で跳ぶ。
 宙に放り出された体から一切の力を抜く。全身を重力に委ねて、迫る衝撃を受け入れる。心の底から、自分が傷付いても良いという構えでいれば――。
「…………っ!」
 ――『教典』の頁はリスティの背に突き立って、そのまま燃え尽きて灰と化す。紙片に籠められていた狂気の呪詛は、彼の肉体を素通りし、十指に結んだ糸を伝ってからくり人形から排出される。
 敵のユーベルコードは凌いだ。
 けれど、自分が無事なだけでは意味がない。即座に跳ね起き、小さな身体を抱え上げる。
「ひっ……ふあぁぁ……」
「良かった、無事ですね」
「うぐっ、やぁ……やだぁ、パパぁ、パパどこなのぉ……」
 十にも満たない幼子――炭焼きの家のミエルは、リスティの腕の中でもじたばた暴れ続けた。置かれている状況をあまり理解していないのだろう。殺されそうになったことも、目の前の相手に救われたことも。
 それでいい、とリスティは思う。こんな恐ろしい体験は、むしろ忘れてしまったほうが彼女のためだ。感謝してもらうために助けたわけじゃあないんだから。
「ごめんね、大丈夫、大丈夫だよ」
 あえて朗らかに声を掛け、ゆっくりと背中を撫でてやる。……もう少し落ち着いたら、手首の縄を解いてあげよう。

「く……、やはり来ましたね。神聖なる儀式を阻む魔なる者――『猟兵』ども」
 ――最初から、こうなることを知らされていたかのように。
 邪な『教典』に囚われた修道女カローラは、開け放たれた地下室の扉を睨む。そして、次に現れた猟兵の姿を見て、思わず目を見開いた。
 惜しげもなく晒された豊満な肢体、
 覆うところの少ない薄布。
 鮮血を思わせる深紅の片翼に、使い込まれた巨大な鉈。
「あッ……悪魔! 悪魔め!」
「んー、まあ悪魔っちゃ悪魔みたいなもんなのね」
 堕天使だけど――なんて訂正を入れつつ、トゥルリラ・トゥラリラ(鏖殺の堕天使・f31459)は地下室をのんびり見渡した。手狭な空間、その壁を埋め尽くすように、町中から集められた若い娘たちが捕らわれている。後ろ手に縛られ、口に布を詰められて。一番奥の少女に至っては、今まさに刻まれた傷から血を流している。
 その光景に――トゥルリラは目を輝かせて。
「っていうか何? 楽しそうなことしてるのね!」
「贄の苦しむ姿を見て、そのような恐ろしいことを……!」 
「えっ……、でも……キミがやってるはずなのね?」
 他に居ないし。血の付いた刃物持ってるし。
 この人、鏖殺が楽しくて鏖殺してるんじゃないんだろうか。それってどうなんだろう――無垢で残酷な殺戮堕天使の抱いた感想は、一周して真っ当らしいものだった。倫理観が捻じ切れていることに違いはないけれども。
「去りなさいッ、邪悪な猟兵よ!」
 カローラの金切り声とともに、『教典』の紙片が飛来する。なんか理不尽……と思いつつ、トゥルリラはそれを雑に払い除けようとする。
 指先が触れた瞬間、ほんの少しの朱が散って、戒律が頭に流れ込んできた。

 病める娘を神に捧げよ。
 命が尽きれば、次の娘を――。

「……つまり……病気の子から順番に鏖殺しろってことなのね?」
 殺戮を娯楽と捉える彼女にとって、宣告されたルールは遊びのルール以上のものではなかった。山盛りのパフェを前にして、フルーツから食べるか、クリームから食べるか。その程度の違いである。
「でもそれっておかしいのね? だって、この中で、一番病んでる風味なのって――」
 可愛らしく小首を傾げて、トゥルリラは哀れな修道女へと歩み寄る。
 肌に、肉に、『地の魔王』の祝福が満ちていく。指先の切り傷から血と魔力が溢れ出て――付け焼き刃の狂気とは比べものにならない、魔王の覇気が彼女を包む。
 その指先を、カローラに突き付けて。
「――どう考えても、キミなのね」
「ひッ……」
「お望み通り、最初に遊んであげるのね!」

 ……トゥルリラが『教典』を圧倒しているその隙に、リスティは捕らわれた少女たちの縄を解いていた。
 足の腱を切られてはいるものの、全員、命に別状はない。体力が回復すれば、少しずつ這って移動することもできるだろう。
「ありがとうございます……」
「いえ。できるだけ隅でじっとしていてくださいね。順番に助けますから」
「はい、あの、私たちより、その子を先に」
 ――声をひそめて、心配そうな表情をする少女たちの視線の先で。
「うああぁぁ……、怖いぃ、おうち帰る――……」
 ミエルは、まだ泣き止んでいない。なんならさっきより大音量で泣いている。
「キヒヒ……もっと肉を斬る手応えが欲しいのねーっ!」
「うぅあ――んっ!」
 ……子供を怖がらせるようなことばかり叫んでいる人のせいじゃないかと思わなくもないが。まあ、彼女が戦ってくれている間、こちらはこちらで必要なフォローをしておこう。
「うん、怖かったね。おうち帰ろう、ね」
 優しい声音と柔らかい言葉遣いでミエルを落ち着かせ、その身体をひょいと抱えて。
 トゥルリラの振り回す大鉈が、十分にカローラの注意を引いていることを確認して。
「――行くよ!」
 扉の向こうへと駆ける。
 まずは、この子を安全な場所へ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春霞・遙(サポート)
UDC組織に所属して、UDC関連の一般病院に勤務している小児科医です。
行動の基本方針は困っている人が居るなら助けたい、人に害をなす存在があるなら退けたい。
戦う力はあまりないですけど、自分が傷を負うとしてもみなさんのお手伝いができれば嬉しいです。

基本的に補助に徹します。
「医術」「援護射撃」「情報収集」から、【仕掛け折り紙】【葬送花】での目くらましや演出、【生まれながらの光】【悪霊祓いのまじない】で照明や目印を付けるなども行えるかと思います。
攻撃は拳銃による射撃か杖術が基本で、その他はUCを使用します。
【悔恨の射手】【未来へ捧ぐ無償の愛】は基本的に使用しません。

シリアス以外ならいたずら好きの面も。


架空・春沙(サポート)
『断罪します』
人狼の女性
ピンク掛かった銀髪と同色の狼耳・狼尻尾、緋色の瞳
スタイルが良い
服装:ぴっちりスーツ
普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」
罪有る者には「冷徹(私、あなた、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。

・性格
通常は明るく人懐っこい女性ですが
罪有る者に対しては冷徹に、処刑人として断罪しようとします

・戦闘
大鎌「断罪の緋鎌」を振るって戦います

ユーベルコードはどれでもいい感じで使います


あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●罪を憎んで
 力無き者が傷付けられる理不尽を、嫌になるほど見せられてきた。
 邪神教団の関わる事件でも、猟兵として請けた依頼でも、――日々奮闘する病棟でさえも。ありふれた悪意が、ありふれた悲劇を引き起こす様を散々目の当たりにする。見慣れてしまった光景の中で、一際おぞましいと感じるものは――。
「どうして……邪魔をするのです?」
 悪意を、悪意とも思わない。
 人を傷付けることを、正義だと信じきっている人間の顔だ。
「これは必要な犠牲――いえ、彼女たちにとっても救いとなるのです。この街の、安寧のための、礎となることこそが」
 切々と語る修道女は、狂った戒律の記された『教典』を大事そうに抱えている。……そんな彼女の背後には、囚われ、痛めつけられた少女たちの姿があった。
 一方的に病人の烙印を捺され、修道院に集められた町娘たちだ。子供と言って差し支えない年頃の者もいる。それが皆一様に、足の腱を切られ、厳重に拘束され、――目に涙をためて恐怖に震えている。
 少女たちの訴えるような視線を意にも介さず、修道女はたおやかに微笑んだ。
「病に冒された命は、神の御許で初めて価値を持つのですから」
「……そう」
 白衣の女が、固く結んでいた唇をようやく開く。
「どうやら、説法をする相手を間違えたようですね」
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は――怒りを通り越して冷え切った瞳で、神聖な儀式とやらの現場を睨み据えていた。

「……大人しく、その『教典』を手放してください。そうしてくれれば、あなたに危害を加えるつもりはありません」
 グリモアベースで受けた説明によると、修道女カローラは本来善良な女性なのだという。彼女を凶行に駆り立てているのは、聖職者を狙って憑依するオブリビオン。――その媒介である『教典』を破壊することが、自分たち猟兵の第一目標。
「これは、失われた筈の神の教えです……決して渡すものですか! 吸血鬼の手先どもめ!」
 ……神を敬愛する信心も、町を脅かす者に対する敵意も、彼女の『善良さ』のうちなのだろう。その潔癖な性格が極端な戒律と結びつき、オブリビオンに力を与えてしまっている。単なる操り人形であるよりずっと始末が悪い状態だ。
「残念です」
 ここが診察室ならば、ゆっくり話を聴いてあげることもできるのだけど。
「――なら、力尽くで行きますよ」
 白衣の内ポケットに指を入れると、色とりどりの紙片が零れて舞った。赤、青、黄色。流血の戦場には似つかわしくない、稚気じみた三原色。――子供用の、折り紙である。二色ずつで組まれた手裏剣は、その形状からは想像もつかない切れ味を持つ。
「させるものですか……ッ!」
 カローラも只ならぬ気配を感じ取ったようだ。身を挺して『教典』を守ろうと、蹲るように背を丸める。
 その瞬間。
 紙片鋭刃《ペーパーナイフ》の大群は――そんな彼女の頭上を過ぎて、その背後へと飛んでいく。
「なッ!?」
 慌てて振り返った時にはもう遅い。
 縄。鎖。手枷に足枷。――ありとあらゆる拘束具が、正確無比に切断されている。無理な姿勢から解放された少女たちは、咽せたり、床に伏せたりはしているものの……命に別状はないようだ。

 そう、カローラと交わした会話そのものが、最初から誘導だったのだ。
 遙の受け持った役割は、少女たちの救出と治療。そして、最後にもうひとつ。こうやって、できるだけ自分へと注意を惹きつけて――。
「――汝、罪有り」
 本命の奇襲へと繋げることだ。

 その影は、燭台の下の闇から現れた。
 薄暗い地下室に溶け込む漆黒の断罪装《ボディスーツ》。人狼病の特徴を備えた、しなやかな体躯。
 ――架空・春沙(緋の断罪・f03663)はカローラの不意を突き、その死角から彼女を捉えた。『教典』を抱えた腕ごと胴を絞めあげ、喉元に緋色の刃を押し当てる。
「ひッ……」
 さながら断頭台である。巨大な『断罪の緋鎌』が放つ威圧感に、カローラは呼吸を詰まらせた。
「何か、弁明は有りますか?」
 ――相手が邪悪な吸血鬼であれば、このようなことを問いはしない。拘束も会話も抜きで首を撥ね飛ばすだけだろう。
 しかし、この女はオブリビオンに誑かされた一般人。人を傷付けこそしたが、最後の一線をまだ越えてはいない。
 故に、言葉を投げかけた。
 返された答えは、首を横に振る否定だった。
「私は……何も間違えていない! 病める者を神に差し出し、健やかなる者が安寧を享受する! そうすれば、平和は、続くの、ですから」
「…………」
 病の蔓延るダークセイヴァーの世において、それは然程珍しい考え方ではなかった。
 死にゆく者に食い扶持を与える必要はない。病を広める前に殺してしまえばよい。少数を排斥することで、より多数の秩序を維持することができる――春沙とて、そうした悪意を向けられた経験がない訳ではないが。
 それは、私情だ。今この場では置いておく。戦場における春沙は冷徹な咎人殺しなのだから。
「本当にそう思っているなら、自分を生贄にすればいい」
 春沙はあくまで淡々と、カローラの矛盾を指摘した。
「生まれつきの病があるのでしょう? ――しかし、あなたは若者たちを病人に仕立て上げ、自分は生き延びようとした。それが、罪です」

 緋色の刃が、カローラの首を掻き切った。
 ――否、『掻き切ったように見えた』。罪断つ緋閃は咎人の肉体を傷付けず、罪に惹かれる心のみを斬る一撃だ。
 幼い頃から修道院に預けられ、身に巣喰う病のせいで全てを諦め、人々に尽くし続けた生涯に――思うところはあったのだろう。己の内の暗い感情を、本来の彼女は墓まで持って行くつもりだったのかもしれない。しかしその妬みは魔を呼び寄せて、悪しき『教典』と結びついてしまった。
 その繋がりを根から断つ。
 ……哀れな修道女の喉には、傷跡ひとつ残らない。

「あ、あぁあ……」
 カローラの全身から力が抜けて、そのまま床に頽《くずお》れる。両腕がだらりと下がり、取り落とされた『教典』が床に転がる。
「――執行、完了です」
 これで春沙の仕事は終わり。
 町の人々は彼女を許すかもしれないし、死よりも重い罰を与えるかもしれない。そこから先を左右するのは、咎人殺しの役割ではなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャーロット・ゴッドチャイルド(サポート)
ダークセイヴァ―の貧しい農村に生まれた聖なる力を宿した女の子です。暗い過去を背負った子ですが、いつも周りに気を使っていて笑顔を絶やしません。

ホーリー・ボルト~光の精霊の力で、光属性の魔法の矢を放ちます。
エレメンタル・ファンタジア~炎の精霊を呼び出し、炎の竜巻を巻き起こす。予想以上の威力のため、制御するのがやっと。
絶望の福音~10秒後の未来を予測する。
生まれながらの光~左の手のひらにある聖痕から他者を癒す。

「私は笑うって決めたの・・・じゃなきゃ、前に進めないもん!」

エロやグロに巻き込まれなければ大体のことは大丈夫です。


佐那・千之助(サポート)
「手が要るか?」
入り用ならば、なんなりと。

ダークセイヴァー出身のダンピール
困った人を放っておけない
いつも人への敬意と好意を以て接する
よく言えばお人好し。たまに騙されていることは秘密。
可愛い動物や甘いものに懐柔されやすい

戦闘は前衛、盾役向き。治療も可能。
焔(他の属性は使えない)を黒剣に宿し斬り込んだり、遠くの敵でも焔を飛ばして燃やしたり。
負傷は吸血や生命力吸収で持ち堪える

平和主義なので戦わずに済む敵なら平和的解決
かわいい敵は抱いてもふりたい
想い人がいるので色仕掛けは効かない

物語に合わせて諸々お気軽に、どうぞご自由に。
よき手助けができれば嬉しいです。



●ひとときの安らぎ
 この町の酒蔵は、ダークセイヴァーの平民としては比較的裕福な家だ。その一人娘として育ったルーナは、本ばかり読み、いつも黙って考え事をしているような少女だった。
 ――だから、こんな時にも考え込んでしまう。
 冷たい地下室には光が灯されて。縄も、手枷も、親切な旅人たちが解いてくれて。様子のおかしかった修道女さまは、生気の無い顔で天井を仰ぐばかりになって。
「助かったあ……」
「ルーナ、大丈夫? 貴女は怪我もしてるんだから」
 ……囚われていた少女たちは、皆、安心した表情をしている。一体何が起きたのかはまだよく分からないけれど、とりあえず命は助かった。これでやっと家に帰れるのだ、と。
「あ、うぅ……」
 けれど、ルーナは知っている。――この地下室に囚われた時、修道女さまは全員の足の腱を切ったのだ。これはひとりでに治るようなものではない。一生、歩くだけでも苦労することになる傷だ。本にそう書いてあるのを、確かに読んだことがある。
 そんな身体で、この先どうやって生きていけばいいのだろう。重い荷物を運ぶことも、畑仕事を手伝うこともできやしない。この街に役立たずを養う余裕なんてない。自分ひとりならまだしも、若い娘が全員その状態では……町の存続自体が危ういのではないか。
 命が助かったからこそ、未来への不安が一気に押し寄せて。
「うううぅ……!」
 俯いて、泣きじゃくる。心配そうな皆の声にも上手く応えられない。この吃り癖が病だと云うなら、そうなのだろうとすら思う。
 神に祈り、縋ったところで、治らないものは治らないのだ。奇蹟でも起こらない限りは――。

「――もう、大丈夫だよ」
 そんなルーナの鼻先に、誰かの温かい手が触れた。
 自分よりずっと幼い少女の、ちいさな左手の指先だった。
「え……?」
 驚いて顔を上げると、なんにも見えなくなるくらいの眩い光がそこにある。聖痕から溢れる癒しの力が、傷口に、軋んだ骨に染み込んでいく。
「あ、あぁぁ、せ、せ、……聖者さまぁ……ッ!」
 光の向こうで微笑む少女――シャーロット・ゴッドチャイルド(絶望の福音・f23202)の姿に、ルーナは思わず縋り付いた。

「聖者さま……聖者さま、が、な、なぜこのような、僻地……に……?」
 この町の住民は、どうやら猟兵や闇の救済者《ダークセイヴァー》のことをよく知らないらしい。が、今は説明よりも優先すべきことがある。
「落ち着いて、じっとしてね。順番にみんなの怪我を治すから」
 戸惑ったままのルーナに、シャーロットは場違いなほどの明るい笑顔を向けて。
 まずは、切り傷を負った足首に触れていく。止血こそされているものの、筋の断裂はかなり深い。……けれど、治せる。集中して、生まれながらの光を注ぎ込んでいく。
「肌にも傷が残らないようにしなくっちゃ。お姉さん、せっかく綺麗なんだもん」
「そ、そんなこと……ない、です」
 ルーナの瞳に、絶望ではなく希望が灯る。シャーロットの明るい振る舞いに、周囲の少女たちの緊張も解けていく。

 ……こう見えて、シャーロットは何の代償もなく癒しを施している訳ではない。
 傷や病を引き受けるほどに、彼女の身体には疲労が蓄積していく。この場の少女たち全員の傷を癒し終わる頃には、立っているのもやっとの状態になってしまうだろう。
 だとしても。かつての自分と同じ痛みと苦しみを味わった人たちに、できるだけのことをしてあげたい。そして、変わらない笑顔で、皆を安心させてあげたい。
 暗く、残酷な世界だからこそ――せめて私は笑っていよう。それがシャーロットという少女を支える信念だった。

 ――聖者よ。
 ――選ばれし者よ。

「ん?」
 そんなシャーロットの脳裏に、『何か』の声が響き渡る。怪訝そうに辺りを見渡すと、……床に打ち棄てられた『教典』が、幽かな光を放っていた。聖者のそれとは真逆の悪しき光だ。

 ――その力、その献身、我らが信仰に捧げたまえ。共に百年、否、千年の平和を築こうではないか――。

 このオブリビオンは、清らかな聖職者を狙って憑依するのだという。聖者の気配を感じ取り、利用できると考えて反応を示したようだ。……部屋の隅で放心している修道女も、似たような啓示を受けたのだろうか。
「やだ!」
 無論、魔性の戯言である。シャーロットはその誘いを一刀両断した。
「あなたのやり方で平和になっても、誰も幸せにならないもん」

 ――従わぬというのなら――。

 紙束のかたちをしていた『教典』が、禍々しい形状へと変貌を遂げていく。
 頁であった紙片がうぞうぞと蠢き、その一枚一枚が祈りを捧げる人間の腕に変化する。その隙間から、ごぼりごぼりと、苦悶する生贄の顔が浮かび上がる。断末魔にも、聖歌にも似た高い声が、鼓膜を裂くような音量で鳴る。
 狂気の光が強さを増して、シャーロットを、傍らの少女たちを飲み込もうとした瞬間――。

「闇にありし魔の理よ――」
 低く涼やかな詠唱ひとつで、その異形は地獄の炎に包まれた。
 そのまま一瞬で燃え尽き、灰となって散る『教典』の最期を確と見届けて。
「――暴威を振るえ、と云うほどでもなかったなあ。まだ、手は要るか?」
 佇む美丈夫――佐那・千之助(火輪・f00454)は、皆の無事にひとまず胸を撫で下ろす。

「助けてくれてありがとう! これでオブリビオンは倒した……の、かな?」
「少なくとも、こやつはの。一安心と言ってよかろう」
 シャーロットに会釈を返しつつ、剣に添えていた手を外す。――この千思蛮紅《センシバンコウ》は、ただ意識を向けるだけで相手を灼き尽くす魔の業だ。初撃で足りねば黒剣を抜く心算でいたが、どうやら必要無かったらしい。宿主である修道女との繋がりを断たれた時点で、現世に留まる力は最早残っていなかったのだろう。
 少し、呆気なさすぎる気すらする。
 グリモアベースで聞かされた説明を思い出す。地下室で起こる虐殺を予知で見せつけること、それ自体が罠で――敵の黒幕の狙いは、猟兵を誘い出すことなのかもしれない、と。
「のう、そこな方」
「…………」
「そこな方。話を聞かせてはくれぬか」
「……私、でしょうか」
 呆然自失の状態であった修道女カローラは、呼びかけられてようやくこちらに意識を向けた。血色のない肌に、冷や汗とも脂汗ともつかない雫が浮いている。
「おぬしを誑かした者、裏で糸を引いている者……、そういった輩に心当たりはないか?」
「ひッ、い……いえ……!」
 怯えたように後退る女に、千之助は視線の高さを合わせる。怖がらせたい訳でもなく、責めようとしている訳でもない。
「ううむ、たとえば。あの書物をおぬしに寄越したのは誰じゃ?」
「……地下室に、いつの間にか置いてありまして……。何だろうと思って、手に取って、そうしたら……」
 細い記憶の糸を辿って、カローラはぽつりぽつりと語り出す。しかし、『教典』に支配されてからの――自らの犯した凶行は、彼女にとって耐えがたいものであるに違いない。次第に、その瞳には焦燥の色が満ちていく。
「私は、なんと悍ましいことを……っ」
「よい、よい。あまり無理をするな。――礼を言おう。おぬしが話してくれて助かった」
 こちらの敬意が伝わるようにと、千之助は軽く頭を下げた。その穏やかな態度に驚いたのだろう、カローラは目を見開いて、それより深く頭を下げる。
「……『教典』を手に取ったとき、綺麗なひとが見えました」
「綺麗なひと?」
「頭に、花が咲いていて……神の化身であられると、そのときは思ったのですが……」
 その身体的特徴に思い当たるところはある。であれば、吸血鬼ではなく、別口のオブリビオンであろうか――と、千之助が首を傾げたところで。

 ――猟兵たちは、不穏なものを感じ取る。
 住民たちが寝静まっているはずの真夜中に、町がざわめく気配がする。流血や悲鳴こそまだないものの、何かを怯えて見守るような。まるで、敵の集団が、この修道院を取り囲んでいるかのような。

「やはり、罠か……!」
 悲劇を止めに現れる『猟兵』そのものを標的とした、オブリビオンの卑劣な計画。
 その第二幕が、今にも始まろうとしている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『隷属から逃れる術を知らない少女達』

POW   :    命より重い忠誠を誓おう
【忠誠を誓った者から授かった力】に覚醒して【命を省みず戦う戦士】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    主のためなら限界すら越えて戦い続けよう
【主の命令書を読み限界を超えた捨て身の攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    主人に永遠の忠誠を誓おう
【忠誠を誓う言葉】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●薄鈍の行進
 修道院の門前に。
 真夜中の町の表通りに。
 ――物乞いをする孤児と見紛うような、惨めな姿の少女の群れが歩いている。

 それは正しく群れであった。洗った様子のない身体、換えた様子のない衣服。すっかり痩せて、落ち窪んだ目は蛋白色に濁っていて、しかし――その足取りだけは、列を成す蟻のように整っている。一切の個性を、人間らしさと呼ぶべきものを感じさせない。
 通りに面していない勝手口の戸をそろりと開けて、住民たちも怪訝な顔で囁き交わす。
「おいおい、なんだってんだ……?」
「あれが修道女さまの仰っていた『魔』の類か……?」
 彼らの声を耳にしたのか、一匹の少女が歩みを止めてそちらを見た。
 そのまま何をするでもなく、再び列へと加わった。
 ……これが美しい娘であれば、吸血鬼の姫君だと思って恐れを成したであろう。異形の怪物であれば我先にと逃げ出したであろう。けれど、この奇妙な来訪者たちは、無力な奴隷にしか見えない。
 そして、事実、その通りなのだ。

「猟兵は、見れば猟兵だと判る。主はそう仰いました」
「ならば、あれは猟兵ではない」
「はい。……ああ、あれも猟兵ではない」
 何やら命令が記された紙を覗き込み、少女たちは静かに頷き交わす。濁りきった瞳で文字が読めるかどうかは定かではないが、その内容は萎縮した脳に刻み込まれているようだ。
「猟兵を連れていかなければ」
「生け捕りにして、主の元へ連れていかなければ」
「たとえ殺されたとしても、決して殺すな――と。主は、そう仰いました」
 そのようなことが叶う筈もない。
 少女たちが持たされている武器は、とても戦えるようなものではないのだ。錆びた食器や、折れた矢の切っ先側……などは話になるほうで、何の細工もない木の枝を握りしめている者すら居る。
 生命の埒外たる猟兵を相手にしては、生け捕りどころか、そもそも勝負にもならないだろう。

 それでも、君たちは彼女たちを葬り去る他ない。
 これは哀れな奴隷ではなく、哀れな奴隷のまま生涯を終えた少女の――過去の残骸《オブリビオン》にすぎないのだから。

 首輪から下がる鎖は何処にも繋がらず、忠誠という名の隷属を記号のように示している。
 伸ばしっぱなしで羽虫の住処と化した髪には、不似合いに可憐な花が挿してある。
 誰かが言った。
 これは罠だが、罠ではない――先程と同じ悪趣味な余興、その第二幕だと。
七星・彩華(サポート)
 羅刹の妖剣士×宿星武侠の女です。
『呪詛で溢れた戦場は私の舞台さ!』
 普段の口調は「我が道を行く姐さん(私、お前、呼び捨て、言い捨て)」「仲間にはフレンドリーな姐さん(私、お前、呼び捨て、言い捨て)」

自身が支配する呪詛も武器として扱う戦闘狂、頭脳派で行動に穴があるようで抜け目が無い。
闘う事を至高と考える一方で守る者や仲間との共闘も戦闘の重要な要因と考えている。
行動は天上天下唯我独尊を貫く。
猟兵の夫と娘がいる。


 ユーベルコードは指定した物を使用、怪我は厭わず行動します。
迷惑をかける行為はしません。
例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません。
 あとはお任せ。よろしくお願いします!


ルク・フッシー(サポート)
こ、こんにちは。ぼ、ボクは、ルクといいます

戦いは怖いですけど…誰かの大切な物を守るために…
大丈夫です。ボク、戦います…!

できるだけ敵と中〜遠距離を保ち、相手の能力を考え、最適だと思うユーベルコードを使い戦います
塗料に属性や誘導弾などの性質を宿す事もあります

攻撃はよけるよりオーラ防御や武器で受けて軽減したり、激痛耐性で耐えたりする方が得意です

たとえ依頼達成のためでも、他の猟兵や一般人などに迷惑をかけるような事や公序良俗に反する事はしません

よ、よろしくお願いします…!(絵筆をきゅっと抱きしめる)



●いくさばにはな
 真夜中の町の表通りを、少女奴隷の群れが行く。
 血の滲んだ裸足のままで、首輪の鎖を引きずって。痩せた体に、汚れた衣服。――そんな彼女たちの髪には、不似合いに可憐な花が咲いている。
 紫陽花によく似た花だった。手毬のように丸い固まりではなくて、四枚の萼から成る花が、一片だけ、少女たちの髪に挿し飾られている。
「主人に忠誠を誓いましょう」
「醜い私たちにお花をくれた……、主人に忠誠を誓いましょう」
「猟兵こそが――私たちの敵」
 敵の姿を探し求めて、奇妙な行進は続く。

「ううぅ……」
 一方、その『猟兵』の一人はといえば――表通りから少し外れた裏路地で、愛用の特大絵筆をきゅっと抱きしめているのだった。
 ルク・フッシー(ドラゴニアンのゴッドペインター・f14346)は心優しく純朴な少年である。全体的につるつるすべすべとした容姿からして、竜というよりは大人しい爬虫類や両生類を思わせる。一見すれば、戦場に迷い込んでしまった小動物という雰囲気だ。
「なんだ、怖いのかい?」
 そんなルクの姿を眺めているのは、対照的に、戦場の申し子たる風格を持つ女性だ。無駄のない肉体に、自信に満ちた表情。左眼を隠す眼帯がその苛烈な来歴を物語っている。
 片や猫背に丸まって、片や堂々と背筋を伸ばして。……それほど違わない背丈の差が、倍あるようにすら見えた。
「確かに、戦いは怖いですけど……なんだか、可哀想に思えてしまって」
「ふむ? まあ、哀れな連中ではあるな」
 七星・彩華(鮮血狂い咲く呪詛の華・f32940)は、まず何よりも束縛を嫌う女であった。あらゆる理不尽と不本意を全て跳ね除けて生きてきた。妻として、母として、家族を愛することでさえ、ひとつ処に縛られることは意味しなかった。
 そんな彼女からすれば――あの奴隷たちの様相は、哀れを通り越して滑稽なものである。囚われ、虐げられながら、主人への忠誠を謳っているなんて。
「戦場に出向いておいて、情けを掛けろと言うつもりではないだろう?」
 むしろ、討ってやるのが情けというもの。
「……はい、それは、その、わかってます。ちょっと……心の準備が要っただけ」
 ルクとて、日々研鑽を積みながら災魔と戦う魔法学園の学生なのだ。オブリビオンは見た目で判断してはならない。出自に依らず倒さねばならない。それは、重々承知している。
「……行けますっ! で、できたら一緒に」
「その意気や良し!」
「あっ、待っ、待って!」
 そうと決まれば我先に、と、駆け抜けていく彩華の後ろを――数歩遅れてルクが追う。

「さあ、呪詛で溢れた戦場は私の舞台!」
 表通りに躍り出るや否や、彩華は高らかに声を張り上げる。呪詛刀が一つ『常闇』を高く掲げて、獰猛な笑みを浮かべて。
「――この石畳も、一面の鮮血で染めてやろう!」
 ぴりぴりとした恐怖の気配が、瞬く間に町中を伝播する。様子を伺っていた住民たちも、短い悲鳴と共に薄く開けていた戸を閉める。……見慣れない吸血鬼の姫か何かだと思われたのかもしれない。
「み、みんな怖がってますよ!?」
「こうしておけば、皆が己の身を守ろうとするだろ」
「あ……なるほど……」
 戦闘狂を自認しつつも、彩華の本質は頭脳派である。行動に穴があるようでいて抜け目がない。――敵の狙いが端から猟兵であるならば、まず人々を遠ざけて、敵に存在を知らしめたほうがよい。
 そんな解説をするまでもなく、餌に釣られた魚がわらわら寄ってきた。

「あれが――猟兵」
「主のもとへ、猟兵を届けなければ」
「私たちの……主のために……」
 譫言を繰り返す少女たちは、――彩華の呪詛刀とは比べものにもならないような、粗末な武器しか持たされていない。棒きれのような身体には、猟兵に対抗できる膂力もない。
 ただ、命令のために死ぬことを受け入れているというだけの捨て駒だ。
「斬り合えそうもないのは残念だがね――」
 掲げたままの刀身を、振り下ろしてやるまでもなかった。
「だったら、全力の『呪詛』で相手してやるさ!」
 ――濃密に練り上げられた負の感情、『怨恨呪詛』の終わらない恐怖が、その刀から溢れ出す。

「…………ッ!?」
 呪詛が鼻先を撫でただけで、少女たちは引き攣り、飛び退き、隊列を乱して狼狽する。立ち竦んだ少女に少女がぶつかり、転んだ少女の首輪の鎖に少女が蹴躓く。
「うぁ――」
「っううう――」
 呪詛の齎す恐怖の中で、彼女たちは、何の言葉も発さなかった。
 奴隷として産まれ、奴隷として死に、骸の海を彷徨う少女たちは――誰かに隷属して生きるる以外の道を知らない。助けを求めるべき母親の存在も忘れ果てている。主に対する忠誠を誓うための言葉しか、そもそも教えられていないのだ。
「――――!」
 高い悲鳴は、鼠の鳴き声に似ていた。

 動きの鈍った少女たちが、折り重なるように道端に転がっていく。最後の一撃を決めるのならば今しかない。――その役割を任されたのだと、ルクはしっかり理解した。
「可哀想だと、思いますけど……っ」
 大きくつぶらな両の瞳に、零れそうなほどの涙が溜まる。
 自分と同じくらいの年頃の少女が、恐怖に逃げ惑う様子に――何も感じないわけではない。むしろ、辛いことを辛いと思う素朴な感情を、人並み以上に持ち合わせているからこそ。
「せめて、安らかに眠ってください――!」
 戦いを恐れる気持ちが強いほど、それを超えるための覚悟も強固になるのだ。

 ルクの抱えた絵筆から、魔力の転じた塗料が溢れる。白が多めの、淡く優しい色彩だ。
 ワン・ストロークで空中に舞い散る花弁を描き出す。
 ――『花宴描画《フラワーズ・ドロー》』の真価はここからだ。魔力から生み出された塗料は、塗料でありつつ、純粋な魔力の結晶でもある。
 ふわりふわりと風に漂い、触れた瞬間液状に戻る。少女たちの苦しみを、存在そのものを塗り潰し、骸の海へと還していく。
「……これで、もう、大丈夫です」
 ルクが一息を吐いた後。
 石畳には、薄紫の塗料だけが残されていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

琥珀川・れに(サポート)
※アドリブ好き過ぎて全てお任せ


「貴族たるもの余裕を忘れてはいけないな」
「やあ、なんて美しい人だ」

ダンピール貴族
いかにも王子様っぽければねつ造歓迎さ
紳士的ジョークやいたずらも好きかな

敵も味方も性別か見た目が女性ならとりあえず一言は口説きたいね
ナンパではなくあくまで紳士的にだよ?

実は男装女子で
隠しはしないが男風源氏名レニーで通している
その方がかっこいいからね

戦闘スタイルは
・剣で紳士らしくスマートに
・自らの血を操作した術技
が多い
クレバーで余裕を持った戦いができれば嬉しいよ
早めに引くのも厭わない

説得系は
キラキライケメンオーラやコミュ力で
相手を照れさせてみせよう


メル・メドレイサ(サポート)
時計ウサギのマジックナイト×パーラーメイド、15歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、演技時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。

戦闘スタイルは多種の属性を扱う魔法使い
武器に魔法をかけ戦うこともできます

依頼にちなんだ品を給仕することを好み、味方には有効なもの、敵には嫌がらせ用のものを渡します

あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



●おやすみの前に
 この町の酒蔵は、修道院の次に目立つ建物である。
 その上、真夜中の騒ぎに気付いてそろりと扉を開けた――そのタイミングが最悪だった。
 猟兵たちを探し回るオブリビオン、奴隷少女のうちのひとりが、酒蔵に目を付けたのだ。

「なっ、なんだ、こんな夜中に」
 慌てふためく酒蔵の主人に、視線を合わせることすらしない。小柄な身体を活かして無理やり押し入る奴隷少女。
 平民の家にしては玄関が広い。商売をする関係上、簡単な応接間も設けられている。そんな室内をぐるりと見渡して、初めて彼へと意識を向けて。
「ここに、猟兵はいますか」
「いや、知らねぇ……。そもそも、お前はいったい……」
 酒蔵の主人からすれば、この来客は娘と同じ年頃の少女にしか見えない。ぼろぼろの衣服に包まれた、皮脂で汚れた、痩せた身体。……それだけなら、どこかの牢獄から逃れてきた哀れな子供であろうとも思えたのだが。
 焦点の合わない瞳の奥に揺れている、暗い光が異様であった。
 握りしめている錆びたフォークが、食器ではなく武器なのだと、嫌でも理解してしまうくらいには。
「奥を、調べます」
「待っ……待ってくれ!」
 この先の部屋には妻がいる。一人娘を修道院に取り上げられて、泣き喚いて、やっと眠ったところなのだ。愛する家族に、こんな得体の知れない存在を近付けてなるものか――男が一世一代の勇気を振り絞ろうとした、その時である。
「夜分に失礼、少しいいかな?」
 ――少年めいた涼やかな声が、場の空気を遮った。

「まずは名乗ろう、僕のことは気さくにレニーと呼んでくれ。民衆に危害を加えるつもりはない」
 ダンピールらしく整った顔立ちに、洗練された佇まい。――レニーこと琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)はこの世界の貴族の出身である。こういった場を納めることくらいならお手の物。狼狽える酒蔵の主人を片手で制し、もう一人の相手へと向き直る。
「そこの君、」
「――猟、兵!」
 二の句を告げるよりも先に、奴隷少女は錆びたフォークを振りかぶる。
 ……元より、武器とも呼べぬような武器だ。剣で弾くのも容易いだろうし、手首ごと斬ることも出来よう。何なら首を落としてもよい。――けれど、レニーはそうはしなかった。

 拙い刺突を手のひらで受け、そのまま指を絡めとる。
 鮮血が漸糸のように肌を伝う。

「そう、君だよ。美しい君」
「うつ……くし……?」
 少女の瞳が、困惑に揺れる。
「此処で逢えたのも何かの縁だ。そんなに慌てないで、まずはお茶でもどうかな」
 余裕ぶった態度を見せている――というわけでもなく。
 敵であろうが、味方であろうが、女性の姿をしたものであれば一度は口説かずにいられない。単純に、それがレニーの性分なのだ。

 そんなこんなで数分後。
「うん、見立て通りだ。前髪を上げたほうが可愛らしい」
「知らない……違う……主は、醜い私たちに、命を与えてくださって……」
「なんて主だ! 小さなレディにそんな思いをさせるなんて」
 すっかりレニーに乗せられてしまった奴隷少女は、なぜか応接間でもてなしを受けていた。何せこの王子様、荒れた肌も汚れた髪も躊躇いなしに愛でてくるのだ。意味がわからない。
「主人、彼女に飲み物を振る舞いたい。もちろん御代はしっかり払わせてもらうよ」
「うちは酒蔵だからな、酒しかねえぞ」
「それは困ったな……僕も、おそらく彼女も未成年だ」
 困っているのはこの状況に巻き込まれた酒蔵の主人のほうだ。謎の奴隷と謎の貴族が家に押しかけてきたあげく、お茶会まで開催されようとしている。酒がダメなら安物の穀物茶を出すしかないが、と、棚がある壁のほうへちらりと振り返る、と。
「メルのご奉仕、メルメルサービスターイム!」
「今度はなんだ!?」
 逆方向の死角から、何の前触れもなくもう一人の少女が現れた。
「あなたのメルでございます! お手伝いが必要かと思いまして!」
 給仕服と呼ぶにはあまりに煽情的な薄布から、惜しげもなく零れ落ちるつややかな肌肉。冗談のような兎の耳は頭飾りの類ではなく、世界を駆ける時計ウサギの特徴だ。
 やや場違いな闖入者――メル・メドレイサ(蕩けるウサメイド・f25476)は、当然のように持参したワゴンを携えて、可憐なティーセットを勝手に卓に並べ始める。……外見の与える印象に反して、その所作は丁寧で隙がない。
「今回の依頼にちなんで、綺麗なお花を用意しましたぁ」
 ガラス細工のティーポットに、ゆっくりと、焦らすように湯を注いでいく。
 ――すると、茶葉の塊がほどけて、手毬のような薄青の花がふわりと広がった。
 いわゆる、工芸茶と呼ばれるものだ。その色彩は、奴隷少女の髪に挿された一片の花によく似ている。
「いかがでしょう?」
「……ぁ……」
 美しく開いた花を、目の前の器に注がれる液体を、奴隷少女はたじろいだ様子で見つめている。どうしていいか分からないのだ。レニーが代わりにカップを手に取り、少し冷まして、そっと手渡してやる。
「綺麗だろう?」
「……はい……綺麗で……あたたかい」
 小さな声で呟いて、少女はカップに口をつけた。
 そのまま身体の力が抜けて、ほんの一瞬微笑んで、眠るように――呼吸を止める。
 数秒経つと、その存在は黒い霧となって散り消えた。

「ご安心を。苦しい思いをさせるような毒は使ってませんよ?」
「――感謝しよう」
 どんな姿をしていたとしても、相手はオブリビオン。やがては骸の海に還さなければならないことをレニーも十分承知していた。メルの利かせた機転のおかげで、少しは救いがあっただろうか。
「いつもだったら、敵には毒入り凶器入り嫌がらせアソートを召し上がっていただくんですけどぉ……」
 猟兵に可哀想な少女奴隷を差し向けて、それを惨たらしく殺してみせろというのが、今回の『黒幕』の趣向なら――それに逆らうことこそが最大の嫌がらせになるはずだ。これは、高度な意趣返しでもある。
「王子様のお茶会デート、邪魔するわけにもいきませんしぃ」
「おや、気遣いのできる女性は素敵だな」
「やだーっ! 今度はメルを口説く気ですかーっ?」
 まんざらでもなく身体をくねくねとさせるメル。淡い憂いを振り払い、いつもの調子に戻るレニー。
「……いや、だからあんたたちは一体……」
 そしてこの期に及んで状況を飲み込めていない酒蔵の主人に、二人の少女は対照的な笑顔を向けて。
「ご心配なく」
「お気になさらずっ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

サエ・キルフィバオム(サポート)
アドリブ歓迎

基本的には情報収集が得意かな
相手が何かの組織だったら、その組織の一員になり切って潜入して、内側から根こそぎ情報を頂いちゃうよ
そうじゃなければ、無害で魅力的な少女を演じて、上手く油断させて情報を引き出したいね

戦いになったら、直接力比べの類は苦手だから、口先で丸め込んだりして相手を妨害したり、糸を利用した罠を張ったり、誘惑してだまし討ちしちゃうかな
上手く相手の技を逆に利用して、手痛いしっぺ返しが出来ると最高♪
敢えて相手の術中に陥ったふりをして、大逆転とかも良く狙うよ


シェーラ・ミレディ(サポート)
※OK:シリアス
※NG:エロ、ネタ、コメディ、心情系
※傭兵的なスポット参戦

称号通り、僕の身体を維持するための金儲けと、弱者をいたぶる醜い行いが許せぬ義侠心が行動指針だ。
美しいものは愛でるべきだが、恋愛には結びつかないなぁ。
性格ブスは醜い。見るに堪えん。

複数の精霊銃をジャグリングのように駆使する、彩色銃技という技(UC)を使って、敵を殲滅しようか。
敵からの攻撃は基本的に回避する。が、護衛対象がいるならかばうのも検討しよう。
……嗚呼、僕を傷付けたなら、代償は高くつくぞ!



●秘めるがはな
 痩せた身体に、汚れた衣服。隷属を示す首輪と鎖を引き摺って、いかにも奴隷といった風体の幼い少女たち。
 彼女らが真夜中の町を彷徨う様子は、単なる物乞いのようでもある。しかし、そうと断じてしまうには――あまりにも気配が異様であった。
「主の命令を果たしましょう」
「猟兵たちを捕らえて、主のもとへ連れて行きましょう」
「醜い私たちに花をくれた、美しい主のために――」
 主とやらへの忠誠を唱える唇はからからに乾いていて、血走った眼はどこか虚ろで、脂っこい髪に挿された一片の花が、何かとても禍々しいもののようにも見えてくる。
 ……そんな光景を、路地の奥から伺いながら。
「ふーん、つまり、『主』の目的は猟兵を捕まえることなんだね」
 サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)はあくまで冷静に、的確に、敵の言葉から情報を拾っていた。
 暢気すぎると思えるほどに平然とした態度は、場慣れしている証拠でもある。ここで雰囲気に吞まれるようでは潜入捜査なんてやっていられない。
 ――そう。サエ本来の得意分野は、外見の魅力を活かした情報収集だ。最近はキャバリアに搭乗したりもしているけれど、今回はあの機体を持ち出すような戦場でもなかろう。
 むしろ、生身のほうが理に適う。
「見つけた、猟兵……!」
 武器とも呼べない木の枝を手に、奴隷少女の一人がこちらへ向かってきた。気付かれたのではなく、気付かせたのだ。
 余裕たっぷりに振り返る。……力比べの戦闘が苦手なサエでも難なく勝てそうな相手ではあるのだが、この場合、最も有効な武器は。
「こんばんはぁ~」
「…………!?」
「あたし~、ぜひ主って方にお会いしたくって!」
 ――無害な少女を装って油断を誘う、持ち前の演技力である。

「でね、広場のほうに、他の猟兵がいっぱい居るんだよ!」
「……そう」
「抵抗する子も居るだろうから、たくさんで行ったほうがいいかも?」
「……わかった」
 首輪と鎖をつけられて、形ばかりの虜囚となったサエだが――その立場から奴隷少女を意のままに操ることは簡単だった。『ちょろすぎる』という感想が顔に出ぬよう努めるほうが大変なくらいだ。今まで潜入してきたどんな弱小組織だって、これよりは歯ごたえがあったと思う。
 疑うことを知らないというか、物事を自分の頭で考えている気配が全く無い。『猟兵を生け捕りにする』という命令が達成されていれば、細かいことは本当にどうでもいいらしい。明らかな罠に気付きもせずに、残った仲間をひたすら集めて、サエの示した広場へ向かう。
 ……彼女たちは、本当に根っからの奴隷なのだろう。
 真っ白な頭に書き込まれた命令を、文字通りにこなすことしかできないのだ。奴隷として一生を終えたオブリビオンにすぎないから、その性質が改まることもない。
「お美しい主さま、早くお会いしたいなぁ~」
 軽薄な褒め言葉を吐きつつ、サエは考える。愛にも精にも餓えていた頃の昔の自分と、この少女たち。その運命を分けたのは、些細な廻り合わせの違いなのかもしれない、なんて。
 だからといって、どうするということもないけれど。
「こっちだよ~♪」
 ほんの少し早足になって、サエは猟兵の待つ広場へと駆けていく。

 ――典型的な、井戸を中心とした小さな広場だった。細工も装飾も然程無い、ただ人々の生活のみを感じさせる空間だ。
 井戸を覆う石造りの屋根に、ひとりの少年が腰掛けている。
 ダークセイヴァーの闇夜の中、彼の身に着けた宝石だけが淡く輝いて、片田舎の風景から浮き出すような美貌を照らし出す。
 人間が持てる美しさの域ではない。
 かといって、吸血鬼のそれとも異なる――人形特有の造形美。
「ああ、来たか」
 シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は、その概念を体現する存在だ。こうして傭兵稼業に出向く理由のひとつめは、この身体を維持する費用を捻出するため。有体に言えば、金儲け。
「敵は、これで全部か?」
「ほとんど全部! うまいこと騙して数を集めさせたから」
「ならば、僕は僕の仕事を果たすが――」
 そそくさと安全地帯に身を隠すサエを見送って、シェーラは今夜の『敵』へと視線を移す。
 ……弱者をいたぶる醜い行いは許せない。
 その義侠心も、彼が戦う理由のひとつ。
 しかし目の前に群れているのは、奴隷のような風体の少女たちだ。相当に惨い仕打ちを受けた様子で、持たされている武器ですら、折れた矢、食器、木の枝といった塵屑ばかり。
 オブリビオンである以上、見せかけだけのものと弁えてはいるが――これでは、まるで、弱者の似姿ではないか。
「ふざけているな」
「あれで、猟兵を生け捕りにしろ~って命令されてるんだって。最初から殺させるつもりなのかな」
 ……そんな無意味な命令を下す、彼女らの『主』とやらは。
「さぞ――」
 それ以上を口にするのは止しておく。
 罵倒は刃とするものだ。本人不在の戦場で長々と悪態を吐くのは――それこそ、美しくない。

 ヒールを履いたか細い脚が、まずは屋根の端を蹴り、続いて宙の一点を蹴る。
 衣服の裾を摘むような、たおやかな動きで銃を抜く。
 ……敵の手に飛び道具は無いし、護るべき一般人も此処には居ない。ならば空中で踊るのが最適解。
 彩色銃技、術理の四。精霊の力を借りて宙を蹴り、鮮やかな所作そのものを舞の代替として奉納する、永久機関じみた曲技だ。
「私たちの、主のために……!」
 ひとつ覚えの言葉を叫ぶ少女が、力の限りに手を伸ばして、尚、届きやしない上空から――一方的に射撃する。
「晶瑩玲瓏、」
 人体の急所を正確に射抜く。
 すべて、一撃で絶命させてやろう。この悪趣味な催しに、必要以上の悲鳴や苦痛を添える心算はさらさらない。
「紫電清霜、」
 一射、撃ち終えた銃を放ってまた一射。
 様々に名付けられた銃を持ち替えながら、シェーラは奴隷少女たちを骸の海へと還していく。
 手元に落ちてきた銃を受け止めてまた一射。
 精霊銃の描く双つの放物線が交差して、少年の華麗な戦いぶりを彩った。

「さあ、……前夜祭はそろそろ仕舞いだぞ」
 哀れな端役たちの断末魔が鳴り止めば。
 今夜の舞台を整えた、『主』とやらの出番が来る。
「――その醜い性根を晒してみせろ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『純血の胡蝶』

POW   :    よひら
【棘を持つ結婚指輪だったもの】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    おたきさん
【同情】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【紫陽花】から、高命中力の【強酸性の液体】を飛ばす。
WIZ   :    うつりぎ
対象への質問と共に、【手にしたてまりてまりのブーケ】から【殺傷力を備えた花弁】を召喚する。満足な答えを得るまで、殺傷力を備えた花弁は対象を【風の渦に閉じ込め、無尽蔵に襲い来る花弁】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●秕の夢
 きみを一生守ると誓ってくれたあのひとは、死の運命から私を救ってはくれなかった。
 ずーっと、ずっと、待っている。
 あの六月を待っている。
 神様が、病める娘の命を欲しているのなら――その役割を全うした私にも、幸せになる順番が来るはずだから。

 ――かつてこの地を治めた貴族の家系には、体の弱い娘ばかりが産まれたのだという。
 濃くなりすぎた血の齎す病だとか、妻の不貞によって呪いを受けたのだとか、民衆は好き勝手に噂をした。婚礼の日を迎えることなく命を落とした少女のことを、そのうち誰もが忘れていった。
 百年余りの時を経て、町の広場に花が咲く。
 季節外れの紫陽花だった。

「こんばんは、猟兵さん」
 闇夜から姿を現したのは、婚礼衣装に身を包んだ華奢な少女であった。嫁入りするにしては幼い、という印象を抱く者も居るだろう。顔があるべき空洞に、ブーケのような紫陽花が瑞々しく咲き誇っている。
 誰かが問うた。奴隷少女たちに命令を下した『主』はお前か、と。
「主……? お友達よ。猟兵さんに会いたいなってお話をしただけ」
 あの子たちがどう思っていたかは知らないけれど、なんて呟いて、小首を傾げる彼女に他の誰かが問うた。修道女カローラに『教典』を渡したのもお前か、と。
「ええ、彼女とは遠い血の繋がりがあって……、きっと助けになると思ったから」
 表情と呼べるものを持たない少女の声は、一切の曇り無く澄んでいた。
「猟兵さん、猟兵さん。私、お話を聞いたのよ。猟兵さんはこの闇を光で照らす救済者なんでしょう?」
 無力な少女の命の危機に駆けつけるような『貴方』なら。
 無力な少女が死にゆく様に心を痛める『貴女』なら。
「――私のことも救ってくださると思ったの」
 骸の海に沈んだ過去の残骸ゆえか。
 死から蘇った現世において、狂った戒律に触れてしまったゆえか。
 少女は夢見る子供の心を保ったままに壊れている。己こそが『闇』であるのだと、まるで気付いていないのだ。

 予知で想定されたような、狡猾で悪趣味な黒幕などは此処には居ない。
 この祭典に幕を引くのは、きみたちの示す真実だ。
マホルニア・ストブルフ(サポート)
◇ベース口調は【私、お前、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?】。勿論協力者には丁寧に接するし、礼儀は重んじるよ。ごく稀に【慇懃無礼】の口調で相槌を打ったりするわ。こんなふうにな。

知覚端子を周囲に張り巡らせて情報収集しながらサポートするか。
その他使える技能は使っていくよ。

戦闘はレヴィアスクかアサルトライフル。移動や捕縛、他の武器と組み合わせでグレイプニルも使うな。
ユーベルコードの詠唱描写は省略で構わんよ。後はよろしく頼む。

☆アドリブ連携OK


一郷・亞衿(サポート)
廃墟探索中に呪われ、その結果として力を得た猟兵です。独自開発した混沌魔術や呪詛を纏わせたカッターナイフ、金属バット、伸縮式の山刀(蛇腹剣)等を用いて戦います。
各種オカルト話を好みますが、オブリビオンに対しては基本的に容赦しません。
外見特徴として、マスクで常時顔を隠しています。

一人称は「あたし」。
年下~同年代にはくだけた感じの口調で話し、年上や偉い人には敬語(さん付け、ですます口調)を使います。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使いますが、寿命が減る系の物はタイミングを見計らい極力短時間の使用で済ませるようにしています。
軽口を叩いたりもしますが、戦闘時は真面目に役割を果たそうとするタイプです。



●ありふれた悲劇
 猟兵たちの倒すべき敵は、幼さの残る少女の亡霊であった。
 かつてこの町に生まれ、婚礼の日を前に病で命を落とした娘が――オブリビオンの姿を借りて蘇ったのだ。その上、邪悪な『教典』に汚染された彼女は、自覚なく悲劇を振りまく災禍そのものと化してしまった。
 ほんの思いつきで善良な修道女を狂わせ、町の娘を全て殺させようとして。美しい花に惹かれて集った奴隷たちを、言葉ひとつで無謀な戦いに向かわせて。……それでも、彼女は。
「猟兵さんなら、私を幸せにしてくれる――」
 自分にも、『救われる』順番が来ると信じている。

「言っちゃうと、ありきたりなパターンですよねー」
 季節外れの紫陽花が咲く広場の端で、一郷・亞衿(奇譚綴り・f00351)は肩を竦めた。切り揃えられた前髪が、冷め切った色の瞳をうっすら隠す。
「……女幽霊に暗い過去、って」
「まあ、ジャパニーズ・ホラーなら定番だな」
 いかにもUDCアースの若者らしい態度を示す亞衿の横で、大柄な女がゆったりと肯く。どことなく乾いた眼光が、花園と化した広場を戦場として見定めている。
 ――同じ世界の出身者ではあるものの、マホルニア・ストブルフ(構造色の青・f29723)が見てきた『世界』は広い。その分だけ、花嫁衣装に身を包む少女に抱く感傷も、少しだけ深いのかもしれない。
 自分があのくらいの年の頃、どんな服を着ていただろうか。可愛い娘も、何年か経てば、花嫁姿に憧れを持つのだろうか、なんて。
「ダークセイヴァーだったら、もっと不幸な女の子だって沢山いるでしょうにね」
「……不幸ってのは、比べるものじゃあないよ」
「そーゆーものです?」
「そういうもの」
 諭すような声を返しつつ、淡々と『敵』に合わせた武器を選ぶ。……多少の感傷はあったとしても、それはそれ、これはこれ。すっぱりと割り切る性分であった。
「何にせよ、だ。態々不幸を増やすような子には仕置きが必要だろ――」
 着目すべきは、広場を埋め尽くす紫陽花だ。
 異常な速度で枝を伸ばし、手鞠のような花が視界を妨げる。異なる次元から召喚されているようにも見える。何にせよ、敵が作り変えた戦場に安易に踏み入るべきではない。
 ならば広場の端の屋根からアサルトライフルで狙うのが妥当だろうか、と、――電脳を介した思考は、現実の時間においてはほんの一瞬で。
「……それは、同感」
 しかし、亞衿が駆け出すほうがコンマ数秒早かった。
 全くの考えなしとも思える速度で、彼女は広場へ突っ込んでいく。

 ――無論、本当に何も考えていない訳ではない。むしろ亞衿の思考速度は、過剰なまでの神経伝達物質によって澄み渡っていた。
 鼻先に触れた紫陽花を、カッターナイフで斬り払う。
 散った夜露の一粒一粒を、スローモーションで知覚できる。
 ……咄嗟の判断で瞼を閉じると、酸で焼かれるような痛みが肌に走った。
「猟兵さん……感じてくれる? それが、私の心の痛み」
「……っ、悪趣味……!」
 一種の呪詛のようなものだ、と、亞衿の第六感は告げている。ほんの少しでも思考に隙が存在すれば――人間が当然抱く同情心を捨て切れなければ、夜露が強酸性の液体と化し、痛みを流し込んでくる。これはそういうユーベルコードだ。

 ならば一切の感情を捨てて挑むべきか。
 ――否、ちゃちな痛みを上回る覚悟を見せてやればいいだけのこと。

 カッターナイフを一度仕舞って、奇妙な山刀に持ち替える。『10/7 feet』の刃は主に応えるように蠢き、のたうち、肉塊めいた蛇腹剣へと形を変える。
「不幸自慢で――」
 横薙ぎの一閃が、あたり一面の紫陽花を刈る。
「構ってちゃんとか――」
 きらめく夜露が、亞衿の脚を、腕を、首筋を濡らす。
「今時サムいんだが!」
 その激痛をものともせずに、彼女は真っ直ぐ少女の元へと駆けていく。

「若いね……」
 ……思わずついて出た溜息は、呆れだろうか、憧れだろうか。
 何はともあれ、他の猟兵が先行したので戦況が変わった。となれば用いるべき武器も当然変わってくる。マホルニアは冷静に作戦を切り替え、弓成りの両刃剣を手に取った。
 この『レヴィアスク』は剣としても二丁拳銃としても運用できる代物だが――この場合は。
「力を貸して。ちいさな私の勇者さん《リトルブレイブ》」
 低く優しい声音で呼びかけると、――空間が現実離れした色彩で明滅し、両刃剣が長方形へと分解されていく。それは徐々に青一色の集合体へと収束し、愛らしい小竜の姿を描き出す。
「ドレスの子の動きを止めて、走ってる子を助けてあげて。……大丈夫?」
 小竜はマホルニアの肩に巻き付くように寄り添って、きゅい、と聞こえる相槌を打った。
 つぶらな瞳が、戦場を見る。
 亞衿が文字通りの露払いをしてくれたおかげで、視界を遮る紫陽花の枝が随分減っている。敵も、味方も、今やその全てを『視認』することが可能だった。
「――さあ」
 小竜の喉をそっと撫で、合図を送る。
 次の瞬間。物理法則をまるで無視した衝撃波が、電脳の演算通りに『現実世界に反映された』。走る亞衿を傷付けることなく、建造物を損なうこともなく。紫陽花をまとめて押し流し――花嫁衣装の少女ひとりを、石畳へと叩きつける。

「あうっ……!」
 助けてくれるはずの猟兵さんはまるで優しくしてくれないし、何もないのに転ぶしで、少女は訳も分からず悲鳴をあげた。
「どうして……。私はただ、幸せを待っているだけなのに」
 この期に及んで現実を正しく認識できていない。過去の残骸でしかない少女には、現在が見えていないのだ。
 ……そんな彼女を、亞衿はまず仰向けに蹴り転がす。再び持ち替えたカッターナイフを突きつけて、顔があるべき空洞に咲く紫陽花を切り落とす。
 零れた夜露が、涙のように見えなくもなかった。
「どうしても、こうしても、」
 呼吸が荒れて、一息に言葉を発せない。……無茶をした分、反動が大きい。自分がまともに戦えるのはここまでだろう。十分、役目は果たしたはずだ。
 それでも、意地で、立っている。言うべき台詞は決まっている。
「お前は、存在しちゃいけないんだ」
 オブリビオンも、ユーベルコードも、世界を歪める何もかも。
 ――こんな悲劇が、ありふれていること自体がそもそも狂っているのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリス・ラーヴァ(サポート)
凡そステレオタイプなパニックホラーやSFホラーの蟲型クリーチャーに優しい少女の心を持たせた生物です
無邪気で心優しく、皆と幸せに共存できたら良いと思っています

方針は、人々と世界を守る事を第一とし次に本能としての食べる事と様々な世界で増える事

純真で他者の指示に素直に従いますが、敵対存在は有機物無機物問わず全て捕食対象の雑食系女子

硬い甲殻に守られ大抵の物を切り裂く爪と牙を持っている為生命体として極めて強靭ですが逆を言えばその程度
物理的な手段しか採れません

全ての行動は、数に物を言わせたごり押し戦法
知能は年齢相応の人間並みです
群体という特性上自分達の損害には無頓着、やられ役や引き立て役にどうぞ



●恋も知らずに
「――どうして」
 私はただ、六月の婚礼の日を待ち望んでいただけなのに。幸せになる順番を、今でも待っているだけなのに。
 常闇の世に光をもたらす猟兵さんの話を聞いて、きっと私のことも救ってくれるはずだと思ったのに。
「どうして……!」
 花嫁衣装の少女の嘆きが、夜更けの町に響き渡って消えていく。
 彼女は、気付いていないのだ。自分こそが猟兵の敵、討ち祓われるべき闇、――オブリビオンであることに。存在するだけで他者の不幸を招く、災禍そのものであることに。
 ちいさな左手を彩る婚約指輪は、かつては純銀の輝きを放っていたのだろう。しかしそれは今や黒ずんで、錆び付いて、――少女の絶望を象徴するような、異形の金属へと変貌していく。
「――――っ」
 もはや言葉にならない嗚咽と共に。
 鉄条網を思わせる鋭い棘針が、広場を中心とした一帯に降り注いだ。

 ――なんて……悲しいお話なの……。
 アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)は心優しい少女であった。オブリビオンの悪行を許せないとは思いつつも、その悲しい過去に胸を痛める素直さも持ち合わせている。
 純白のドレス。まあるいブーケ。愛する人とのジューン・ブライド。……まだ八歳と幼いアリスは、幼いからこそ、そうしたものにごく純粋な憧れを抱いていた。思い浮かべるだけで身体の奥が熱くなる。女の子のいちばんの幸せを、突然失う苦しさなんて――うまく想像できないけれど。泣きたくなるような気持ちは、分かる。

 けれど、どんなに可哀想な子が相手だとしても。
 世界の平和を脅かす敵を、猟兵として見逃すわけにはいかないのだ。

 ぬばたまの瞳が、飛来する棘針をじっと見据える。
 ……町の人たちはみんな家に閉じこもっているようだけど、建物の屋根が破れたら、誰かが怪我をしてしまうかもしれない。そうしたら、このお話はもっと悲しくなってしまう。昔亡くなった女の子だって、本当はこんなこと望んでいないはず。
 町は、この手で護ってみせる。
 ――アリス、頑張ります!
「ギチギチギチギチギチ!!!」
 ところでアリスは心優しい少女なのだが、節足動物に類似するバイオモンスターの群体に生じた集合意識でもあった。
 宇宙由来の細胞から成る肉体は、平均して全長二メートル強。艶やかな濡羽色の表皮は小銃弾すら跳ね返す。その大群が、びっしりと、町じゅうの屋根を埋め尽くしている。
「……ひッ! 蜘蛛の化け物……!」
 建物の中から悲鳴があがり、窓に木板か何かを打ち付ける音が聞こえてきた。……カーテンの隙間から外の様子を伺ってしまった住民でも居たのだろう。まあ、この程度の扱いはアリスとしても慣れっこなので、へこたれたりすることはない。
「ギチギチギチ――! ッギ――……」
 懸命に、八つの脚で抱きかかえるように、住民のいる家屋を護る。その甲殻は金属片の八割がたを弾き返すが、運悪く節や神経塊を傷付けられた個体は呆気なく死んでいく。
 ならば、減ったぶんだけ殖えればいい。アリスは単為生殖も可能な頑張り屋さんなのだ。新たなアリスが生じては、アリスの死骸に覆いかぶさって穴を埋める。その繰り返し。
『《ザザッ――どうやら、嫁入り前の娘に無体をはたらく汚物がいるようだね》』
「ギチギチ!?」
 どこからともなく、怪しげな男の声が響く。アリスを娘として溺愛し、いつも陰から見守っている養父こと狂科学者の衛星通信だ。
『《待っていなさい――今、指向性超出力マイクロ波の用意を――ザザザ》』
「ギチギチ……!」
 だめー! 町が燃えちゃうよー! と、身振り手振りで訴えてみたりするような一幕もありつつ。
 アリスたちの奮戦は、人知れず町を護っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐那・千之助(サポート)
「手が要るか?」
入り用ならば、なんなりと。

ダークセイヴァー出身のダンピール
困った人を放っておけない
いつも人への敬意と好意を以て接する
よく言えばお人好し。たまに騙されていることは秘密。
可愛い動物や甘いものに懐柔されやすい

戦闘は前衛、盾役向き。治療も可能。
焔(他の属性は使えない)を黒剣に宿し斬り込んだり、遠くの敵でも焔を飛ばして燃やしたり。
負傷は吸血や生命力吸収で持ち堪える

平和主義なので戦わずに済む敵なら平和的解決
かわいい敵は抱いてもふりたい
想い人がいるので色仕掛けは効かない

物語に合わせて諸々お気軽に、どうぞご自由に。
よき手助けができれば嬉しいです。



●愛を知る故に
 ――参ったのう。
 力の抜けた呟きが、佐那・千之助(火輪・f00454)の喉奥で鳴った。吐息交じりの苦笑いだ。
 最初に地下室での騒動を目にしたときは、如何に悪辣な吸血鬼の企み事かと思ったものだが。箱を開いて出てきたのが、――己が災禍の源だということすら理解していない、幼気な少女の迷える魂だとは。
 無辜の人々を徒に傷付けた罪を放ってはおけまいが。
 救う余地のある魂ならば、敬意を忘れたくはない。
 戦わずに済むとまでは思わぬが――せめて、言葉は交わせないものか。その一心で、千之助は広場に佇む少女の元へと向かっていた。

「どうして……猟兵さんまで、私を傷付けようとするの。私は、ただ――」
「……幸せになりたい、と」
 婚礼の日を待たずに散った命に、せめて何かの意味が欲しいと。
「救ってほしいと、申すのじゃな、おぬしは」
 ゆるりと微笑む千之助の頬に、一筋の朱い線が滲んだ。……少女の周囲一帯に、荊の棘めいた金属片が飛び交っているのだ。口では助けを求めながらも、その実、近付く者全てを拒むかのように。
 刃の嵐の只中を、真っ直ぐに、千之助は進んでいく。一歩、また一歩、進む程に傷は増えていく。何、流れてしまった血など後から賄えば良い。
 ……害意は無い、と、そう思ってもらえたのだろうか。少女のかたちのオブリビオンが、俯いた顔をゆっくりと上げた。目鼻があるべき空洞の、紫陽花が切り落とされた跡には、ぽっかりとした暗闇だけが浮かんでいる。
「猟兵さん。あなたは――私を、幸せにしてくれる?」
「いいや、」
 花嫁衣裳を纏った少女にそんなことを問われては、否と返すより他に無い。
「私には無理な話じゃよ。ただひとり、想う人が居る故のう」
「……そう」
 素気無い返事に、少女はまた俯いてしまう。その敵意に呼応するように、飛び交う棘針が密度を増す。
 幸せにしてくれないのなら、あなたのことも必要ない――とでも言いたげな少女に、千之助はもうひとつ言葉を重ねる。
「おぬしも、それは同じじゃろうて」
「同じ……?」
「待っておるのは、猟兵などではなく――」
 幸せだとか、救いだとか、そんな曖昧なものではなく。
「その指輪をくれた、ただひとり想う人のことを――おぬしは、今も待っているのじゃろう」
「…………っ!?」
 少女の小さな肩が震えて、明らかな動揺を示した。……その左手に纏わりつく醜い金属塊は、千之助を貫く棘針の群れは、確かに、かつては婚約指輪だったのだ。

 ――きみを、一生守ってみせる。
 そう誓ってくれたあの人は。

「あの人は……、私を、病から救ってはくれなかった……!」
 そういうこともあるじゃろうよ。全てが上手くゆく訳ではなかろうよ。……そう伝えようと動かした唇は、すっかり蒼冷めてしまっていた。少々、血を流しすぎたか。
「このままじゃ私、終われないの……!」
 奇遇じゃな。
 こちらも終われぬ。生きて帰って、また逢いたい人が居る故に。

 ――千之助が膝をつくと同時に、昏い獄炎がその身体を覆う。
 熾火《オキビ》は静かに燃え上がり、徐々に形を成していく。それは彼自身に近しい戦士の姿をしていた。腕に、剣を携えている。焔の力を宿すどころか、焔そのもので描かれた黒剣を。
 叩きつけるような斬撃が、怯んだ少女を――その左手の金属を打ち砕く。
 黒ずんだ表面が罅割れて。粉々に散って。
 ……その下に現れたのは、純銀の輝きを携えた、いつかの美しい思い出のままの婚約指輪だった。
「あ、ああ……」
 呆然と、声を震わせる少女の周囲で。
 飛び交っていた棘針が、ひとつ、またひとつと燃え尽きて消えていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

琥珀川・れに
※アドリブ好き
※再送忘れはうっかり
※文章上ではUC変更もOK、話の書きやすい奴で

「貴族たるもの余裕を忘れてはいけないな」
「やあ、なんて美しい人だ」

ダンピール貴族
いかにも王子様っぽければねつ造歓迎さ
紳士的ジョークやいたずらも好きかな

敵も味方も性別か見た目が女性ならとりあえず一言は口説きたいね
ナンパではなくあくまで紳士的にだよ?

実は男装女子で
隠しはしないが男風源氏名レニーで通している
その方がかっこいいからね

戦闘スタイルは
・剣で紳士らしくスマートに
・自らの血を操作した術技
が多い
クレバーで余裕を持った戦いができれば嬉しいよ
早めに引くのも厭わない

説得系は
キラキライケメンオーラで
相手を照れさせてみせよう


カツミ・イセ(サポート)
「僕の神様は言ったよ。郷に入りては郷に従えと」
「僕に出来ることだからね」

神様に作られたミレナリィドール、勝ち気で大人びた僕娘。イメージは水。
口癖が「僕の神様は言ったよ」
『偽装皮膚』の影響で、球体関節が普通の関節に見えるよ。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用。加護で治るから、大怪我しようと厭わず積極的に行動するよ。
遠距離は『水流燕刃刀』を伸ばすよ。
近接戦では『偽装皮膚』を水のような刃にして、咄嗟の一撃を放つことがあるよ。このときは球体関節が見えるんだ。

他の猟兵に迷惑をかける行為はしないよ。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしないんだ。
あとはおまかせするから、よろしくね!



●花に嵐
 ――病める娘を贄に捧げよ。
 神様はそう仰った。病に散った私の命は、きっと必要な捧げものだったんだ。
 でもね、だったら神様、どうかほんの一日だけでも待ってくれたらよかったじゃない。あの人との婚礼の日を迎えられたら、それで幸せだったのに。
 私に、朝は来なかった。
 ずるい。ずるい。いつか誰かに愛されて、幸せになれる子たちはずるい。健やかな体で産まれてくる新しい命はずるい。そうやって一人で泣いていると、いつしかお友達が集まってきた。幸せになれなかった仲間のお友達だ。
「だったら、あなたを幸せにしてくれるものを連れてきましょう」
「猟兵というものを捕まえましょう」
「あなたは、私たちにきれいな花をくれたから――」

 荒れ果てた広場、散り散りになった紫陽花畑の残骸の中で、少女は立ち尽くしている。呆然と、左手の薬指に輝く小さな指輪を見つめている。
「猟兵さん」
 幸せにしてくれないのなら、せめて答えて。
「どうして――私は幸せになれないの?」

 問いが発せられると同時に、少女の手にしたブーケから無数の花弁が舞散った。それは渦巻く風を伴って、広場を、集った猟兵たちを逃さぬように包んでいく。
 カツミ・イセ(神の子機たる人形・f31368)の指先が薄紫の一片に触れる。身体を包む偽装皮膚に、縦一筋の裂け目が生じる。……花弁自体が殺傷力を持っている、と、考えて相違ないだろう。
「君の神様は知らないけれど、……僕の神様は言ったよ」
 人が幸せになれない理由は、それこそ色々あるけれど。
「『女の子って、答えてほしくて質問するんじゃないのよね』って」
 そんな質問させてごめんな――なんて言葉が頭を過ぎった。でも、そう言って少女を抱きしめるのは、自分の役割じゃないだろう。かといって、神様の役割でもない。
 ……なら今は、自分に出来ることをする。質問に答えられないぶん、せめて少女の攻撃を全力で受け止める。他のみんなを、この身で護る。

「水の権能、四、『快療』」
 抜き払った蛇腹刀が、雨露のような水流を纏った。『水流燕刃刀』が生み出す浄めの水は、いかなる呪詛をも跳ね除ける。
「僕の神様……。この闇に、光を!」

 波打つ刀身が花弁を斬り刻む。
 その残骸を、水の奔流が押し流す。
 風の渦と水の渦が拮抗し、相殺し、傷付いた猟兵たちに治癒の加護が降り注ぐ。
 ……花弁の殺傷力を殺すだけならば、このまま競り合っていれば十分だろう。しかし、あと一歩、敵の本体である少女にまでは刃が届かない。
 ならば、捨て身で突っ込むべきか。カツミは一瞬判断を迷い――必要以上に踏み込まないことを選んだ。しばし、花弁への対処に集中することとする。
 この身が傷付くことを厭った訳ではない。神の子機たる人形は、多少壊れたところで造り直されるだけの存在だ。それでも、カツミが、戦いの決着を他の誰かに委ねたのは。
 ――この嵐の中で立ち上がる者ならば、少女に『答え』を返せるだろうと、そう思ったからかもしれない。

「……さぁ、」
 誰かが、嵐の中で囁いた。
 乱れ飛ぶ水流に、途端に深紅の色が混じる。それは花弁のかたちとなって、広場一帯を埋め尽くしていく。紫陽花の持つ可憐さとはまた違う――艶やかな存在感を放つ、薔薇の花弁だ。
「散ってしまった花の代わりに、ね……、赤は、お好みじゃなかったかな?」
 場違いなほどの微笑を浮かべて。
 少年めいて美しい少女が、嵐の中に立っていた。
 ルーンをあしらった細身の剣に、自ら指先を滑らせて、鮮血を流す痛みなど、微塵も感じさせない顔をして。
「初めまして、レディ。僕のことは気さくにレニーと呼んでくれ」
 あの少女を駆り立てた『主』とやらを、許せないとは思ったけれど。
 オブリビオンは例外なく、討つべき敵ではあるけれど。
 琥珀川・れに(男装の麗少女 レニー・f00693)は――女性の姿をした相手なら、一言、口説かずにはいられないのだった。

「猟兵さん? 猟兵さん、ねえ、どうして」
 絞り出すように、花嫁衣装の少女は問う。
「どうして、私は、幸せになれなかったの。あの人は……私を迎えに来てくれないの」
 病の床で、花嫁となることだけを楽しみにしていた少女――その哀しい亡霊に、レニーはゆっくりと歩み寄る。
 ……明日の命をも知れぬ子供が抱く、痛いぐらいの焦燥を、レニーはよく知っている。生きた証を残したいと願う衝動を知っている。彼女と同じだ。この身体も、かつては生まれついての病に冒されていたのだから。生きているのは、単なる僥倖のようなもので。
 しかし、女性を口説くのに、自分の話から始めるやつは三流だ。まずは、君の話をしよう。
「その人を、今でも想っているのかい?」
 妬けるね、なんて軽口を添えて笑いかけると、少女は駄々をこねる子供のように首を横に振る。婚約指輪のある左手に、右手の爪を食い込ませて。
「あの人は……、病から、私を救ってはくれなくて……」
「それでも、指輪をくれたんだろう?」
 君が百年想い続けた人なんだから、きっと優しい人だったはずだ。たとえ貴族同士の政略結婚か何かだったとしても、君は、大事にされていたはずだ。結婚式の日が来るのを、心待ちにするくらいなんだから。
「その指輪を受け取ったとき、君は、幸せだったはずだ」
 幸せになれなかった訳じゃない。――愛されていた幸せを、君は忘れてしまっているだけだ。
「……君が花をくれたとき、あの子たちだって幸せだったと思うよ」
「――――」
 それ以上、彼女から言葉が返ってくることはなく。
 花の嵐が、静かに止んだ。

「目を閉じて。幻想の世界を見せてあげよう」
 少女の顔があるべき場所には、相変わらず暗い空洞があるばかりだけれど。きっと穏やかな表情をしているだろうと、愛しい人の姿が見えているのだろうと、レニーは信じることにした。
 血によって描かれた薔薇の花弁が二人を包む。
 抵抗の意志は、感じない。
「――おやすみ」
 銀の刃が、その細い首を刎ねて――きらきらと輝く水流が、黒い霧と化していく少女の骸を洗い流していった。

●雨足は遠く、夜明けは近く
 ――それから、しばらくの月日が経って。
 いつの間にやらすっかり馴染みになった応接間で、レニーは素朴な穀物茶を頂いていた。実の少ない痩せた麦を煮出したものだ。美味しくはないが、温かい。
 慣れない手つきで食器を並べてくれたのは、酒蔵の一人娘のルーナである。
「つ、つ、つまらないもの、本当につまらないもの、で、すみません……」
「そんなに恥ずかしがることはないさ、美しいお嬢さん」
「ひえぇぇ……」
 レニーの囁く甘い台詞に耳まで染めて、ルーナは盆で顔を隠してしまう。……今回の事件で一番の深手を負ったのは彼女だと聞いていたが、問題なく回復している様子だ。恥ずかしがり屋なのは元々のようだし。
「その後、町に変わりはないかい?」
「あ、えと、ええっと……」
 口説くのはそこそこに世間話を振ると、彼女はぽつぽつと話し始めた。
「修道女様……カローラ様は、すっかり落ち着いたみたいです。……身をもって罪を償うと、仰っている、みたいですけど」
 オブリビオンに操られた結果とはいえ、町の娘たちに危害を加えたことは事実。責任を取って退くのが道理、という考え方もあるのだろうが。
「……この町を治めていける方なんて、あのひと以外に居ませんから……」
「だろうね。僕たちも、彼女が元の道に戻れるよう手を尽くすつもりだよ」
 猟兵にできるのは、オブリビオンを倒すことまで。後は住民たちに事情を説明するのがせいぜいだ。その先全ての面倒までは見られない。……この町には、人間の指導者としての彼女が必要だろう。未だ消えることのない、吸血鬼の脅威に対抗するためにも。
「あ、あの」
「何だい?」
「本当に……ありがとうございました。――私も、きっと、修道女様も。もしも、できることがあるなら……闇の救済者《ダークセイヴァー》へのお力添えを、皆、惜しみません」
 吃り癖の抜けない少女の声には、しかし、確かな決意が宿っていた。

 この常闇の世界には、目に見えるような朝の光が射すことはない。
 けれども、ほんの小さな行いが――たとえば誰かが誰かに花を贈るような、ささやかな優しさの積み重ねが、人々の胸に明日への希望を灯すのだ。
 まだ気付いていないだけで。
 忘れてしまっているだけで。
 幸せな夜明けが来る日は、案外、近いのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年10月20日


挿絵イラスト