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「お帰りなさい」を言いたくて

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●もう「ただいま」と言えなくても
「あたしも行く」
 がちゃりがちゃり。ひとつひとつは大きくない金属音も、重なり響けば結構なもの。しかしその中においても、少女の声は掻き消されずに周囲へと届いた。
「お前の気持ちは分かるがよ、子供が命を粗末にするもんじゃねぇさ」
「そうね。……私たちに任せて。あなたの大切な人もちゃんと、連れ帰るから」
 倉庫に残っていた武具の整備、あるいは装着を行っていた内の幾人かが、思い留まらせようと言葉を返す。敵わぬと知りながら、復讐心だけを抱えてゆくなんて。そんな馬鹿げたこと、自分たち馬鹿な大人だけで十分だ。
「お兄ちゃんは。あたしがもう怯えないで済むようにって、戦いに行った」
 そんな想いが届いたのか届いていないのか。少女は声を続けて紡ぐ。
「それで、帰ってこなかった」
「………………」
「おじさんも、お姉さんも。そうでしょう?」
 兄か、親友か、夫か。些細な違いはあれど。
 ――誰も、何も、帰ってこなかった。だから。
「あたしも、取り返したい。迎えに行きたい。他に家族もいないから。お兄ちゃんだけは、どうしても」
 強引に諫めるも可能だったが。きっと今留まらせたところで、この少女は後にただ独りでも向かうのだろう。
 だって、そういう目をしていたのだ。自分たちと、同じ目を。

●グリモアベースにて
「お集まりいただき有難うございます」
 予知の詳細をまとめた資料を猟兵たちへ配りつつ。ヨド・カルディヤ(ヒドゥンブラッド・f02363)は口頭でも説明を続ける。
「予知先はダークセイヴァー。蠢いているのは資料にある通り、往生集め『エルシーク』。こちらの討伐を、皆様にお願いいたしたく」
 居場所も判明しており、小高い丘の上に構えられた屋敷が住処とのこと。この世界が闇に覆われる以前に、近場にあった村の富豪が建てたもの。
 村もまだ残っているのだが、そのせいで少々問題が起きているようだ。
「どうも『エルシーク』は、この村に悪税や理不尽な処刑等の重圧をかけていたようにございますね。それも税やらそのものが目的ではなく、反抗心を煽るためだけに」
 己を討たんと奮起するような勇士。その遺体をこそ、『エルシーク』は好んで蒐集しているのだ。重圧はただの撒き餌で、その過程で流れる程度の血になど興味はないのだろう。
「……すでに一度、『エルシーク』に挑んだレジスタンスが返り討ちにされております。そして、善くないことは連鎖するもので。討たれた方々のご遺族ご友人もまた、奪われた遺体を取り戻さんと立ち上がり始めた様子」
 憎き仇の蒐集品が増えるだけ。それは分かっているのだろうが、それでも。彼らはもはや、自分たちでは止まれなかった。それだけの理由を与えられてしまったから。
「ですので皆様に、止めていただきたく存じます」
 説得に徹しろとは言わない。手段も問わない。力尽くなり魔法なりで、意識を奪っても構わない。
 要は『エルシーク』を討つまでの間、時間を稼げたならそれで良い。
「そうして屋敷の近くにまで辿り着けば、まずは配下が現れます。どういう手段を用いたかは定かでありませんが……先の蒐集品である遺体から特に気に入ったもの以外を、そのまま兵士として仕立て上げたようにございますね」
 もしかしたらどこぞのヴァンパイアの力でも借りたのかもしれないが、何れにしても今回第三者が介入するようなことはない。気にせず、討つべきを討つに注力してほしいとヨドはまとめた。
「……悲劇がこれ以上続かぬように。どうか、よろしくお願いいたします」
 ヨドが頭を下げると同時、猟兵たちを転移の兆候が包み込んだ。


黒蜜
 黒蜜と申します。
 此度はダークセイヴァーでの事件となります。

 第1章で止めるべき村人や第2章で現れる配下の人数は、いただいたプレイング次第で可変できるよう、明示しておりません。
 章さえ成功すれば全員分の対処が完了したものとして扱いますので、一対一でも大勢が対象でも、自由に行動いただければと思います。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『レジスタンス達を止めよう』

POW   :    実力でねじ伏せて言うことを聞かせる

SPD   :    領主を討つ以外の行動を提案して行動の矛先を変えさせる

WIZ   :    情に訴える

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第1章
 それぞれが不慣れな得物を握り締め、死地へ繋がる道を行く。整然たる行軍、とはもちろんならない。彼らは軍ではないのだから。――群でも、あるかどうか。
 というのも。頭数だけはそれなりに揃ったこともあって、彼らはある程度の人数ごとに散開して歩みを進めていたのだ。どの道列を成して真正面から当たったところで、順々返り討ちに遭うだけのこと。ならば少しでも不意を衝けるよう、囲んでしまえという話。
 だから、「こちら」も同様に。
 散開して、事に当たるとしよう。
ニコラス・エスクード
実に善き事だ。実に。実にだ。
惜しむらくは成し得ぬことだろう。
同じ轍を踏む事となろう。
この輝かしき命の灯火達が潰えるのは看過出来ぬ。
故に止めさせて貰う。
力尽くでな。

俺を押し返せぬ程度では辿り着く事さえ叶わぬだろう。

勇士達のうち、力の強そうな者へ挑発を。
力が及ばぬが故に叶わぬ事もあると、その身を以て教えよう。
盾にて受け止め、我が怪力にて押し返そう。
何度でも、幾度でもだ。

だが報復に燃えるその想いは、
必ずや果たしてやらねばならぬ。

お前達では成し得ぬのであれば、成し得るものを使えばいい。
故に俺を使えばいい。
その報復を、復讐を。
必ずや成し遂げてやる。

その為に、俺は此処に居るのだから。



●一歩
 屋敷へ繋がる一方、その半ばほど。こちらの姿を認めたか、険しい表情で近付いてくる村人たちを、ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は冑の奥にて仄めく赤で、見て取った。
 互いに武装はしている。が、武具の質やら体躯やら、諸々差が激しいことは瞭然だろうに。それでも歩みを緩めぬ彼らを、ニコラスは好ましく思う。
(実に善き事だ。実に。実にだ)
 諦観も、悲壮も――服従も。押し流すほどの、報復への強き想いの奔流。これは果たされるべきものだ。必ずや、果たしてやらねばならぬものだ。
 されど惜しむらくは、このままではそれは成し得ぬであろうこと。如何に想いがあれど、それだけでは通れぬ道もある。見回したところで、他に残るが先と同じ轍の上のみでは。
(この輝かしき命の灯火達が潰えるのは看過出来ぬ)
 ――なれば、この身の役割もまた、瞭然か。

「あんたは、何だ。屋敷の、あいつの手下か」
 ニコラスに突き付けられる、剣、槍、鍬――。なるほど、頷けば即座に襲い来るのであろう。得物の先が震えていないのは、ああ、悪くない。力も、それだけならそれなりにはあるか。技量が備わっていればなお良かったであろうに。
「俺を押し返せぬ程度では辿り着く事さえ叶わぬだろう」
 あえてニコラスは明確に肯定も否定もせず、返す。
 さて、どうなる?
「躊躇わぬか。やはり、善い」
 返答から一拍置いて。槍持つ青年が突き出したそれは、白妙の円盾、『盟のミクラーシュ』によって、打ち返された。
 止めて終わるでなく、払うでもなく。前方へ送り出したはずの力が、幾倍にもなって返ってくる。易々貫けるとは思っておらずとも、それは想定の外であったか。はたまた、守護者の誇り――その残骸たる白に、気圧されたか。青年は思わず一歩二歩と後ろへよろめくと、尻餅をつく。
「それで終わりか」
 いいや、そうではあるまい?
 言外の部分は冑の内側に籠らせて。そうすれば、言葉の代わりに振り下ろされる剣。立ち上がり、怯みを捨てて再度突き出される槍。鍬もまた、例えば薙ぐように扱えば、それだけでも立派な武器となる。
 繰り返せど、繰り返せど。通りは、しないが。
「それで終わりか」
「う、ぐ……」
 幾度打ち返したか。十を超えたような気もするが、一人一人で見ればほんの数回だろうか。
 詰まるところ――立派なものだ。そう思う。
 そも、一度返された時点で手も痺れていただろうに。攻撃こそ中断されたが、得物握る手は今なお開かれてはいない。目に宿る意志も、未だ。
「その想い、確かに受け取った」
 何を、と訝しむ村人たちへ。ニコラスは――復讐の代行者は――ただ、告げる。
「お前達では成し得ぬのであれば、成し得るものを使えばいい」
 ――故に俺を使えばいい。
 そう続いた言葉の意味は。容易く退けられた今なればこそ、彼らの内へすとんと落ちた。
「……あんた。手下じゃあない、のか」
 じっとニコラスを見詰め。次いで、じっと己らの手を見詰める。そうして軽く開いてみれば、微かに震えていた。怖れからではない。ない、が。
「その報復を、復讐を。必ずや成し遂げてやる」
 その為に、俺は此処に居る。
 示された在り方へ。村人たちは。
「…………どうか。……どうか、頼む……!!」
 抱えて来たものを、託すと。身のみならず心まで葛藤で振るわせつつも、決めた。
 滲み出す悔しさと――ほんの僅かに浮かんだ希望を、添えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーデルハイド・ルナアーラ
「悪いけど、ここは通れなくさせてもらったわ。貴方たちにもうこれ以上傷付いて欲しくないから」

領主の館に向かう道を破壊して、村人たちを通れなくするわ!村人には無理でも猟兵なら道がなくてもなんとかなるでしょ。

領主は必ず倒す。奪われたものは全て取り返す。だから私達に任せて。そう宣言して村人たちには村で待ってて貰いましょう。

連携歓迎

※ユーベルコード使用の際は詠唱は今回は省略して下さい


七篠・コガネ
なんとか頑張って村民達に思い留まるよう訴えかけてみます
いえ「思い留まる」は少し違いますね…村民達にとって関係のない僕が
軽々しく言っていい言葉ではないから…。だからこう言わせて下さい
どうか任せて欲しい。貴方達の思いを決して無駄にはしないから

…それでも聞き耳は持ってくれないでしょうね。なら明言します
貴方達は…戦闘の素人でしょう?感情だけで事がどうにかなる世の中じゃない
それは僕よりも貴方達の方がよく理解しているでしょう?
餅は餅屋という言葉が何処かにあります。大丈夫。僕等を信じて下さい
その命をどうか散らさないで…。少なくとも此処に…命に憧れる存在がいるのですから…


使用技能【コミュ力】
アドリブ、絡み歓迎



●二歩
「どなた、でしょうか」
 少なくとも、村の者ではない。旅の人……で、あったとしても、曲がりなりにも武装している自分たちの前にわざわざ出てくる理由があるだろうか?
 もしかしたら、この人は屋敷の――。
「誰かと問われると難しいところですが……少なくとも、貴方達の敵ではありません」
 警戒を露わに、腰から包丁らしき刃物を抜こうとしていた村の女性へ。まずは衝突を避けようと、七篠・コガネ(その醜い醜い姿は、半壊した心臓を掲げた僕だ・f01385)はできるだけ穏やかな声色を心掛け、語りかけた。
「……では、なぜ道を塞いでいるのですか?」
「貴方達に思い留まって……いえ」
 それは少し違うかと、言葉を練り直す。「思い留まる」、とは。自分が軽々しく放って良いものではないと、そう、思えて。
「――どうか任せて欲しい。貴方達の思いを決して無駄にはしないから」
「それ、は……」
「つまりあんたはあたしらの目的を知っていると、そういうわけだね?」
 成り行きを見守っていた村人たちの内、一人の老女が続けた。
 曲がった腰に、枯れ枝のような腕で杖を携えて。しかしその眼光だけはぎらぎらと、まっすぐにコガネを照らし出す。
「自分で言うのもなんだが、あたしら程度罠に嵌める必要も価値もない。となるとあんたのそれは嘘、ではないんだろうね。だからこそ解せない」
 ふるり、杖の先の土を軽く振り払えば、存外に鋭い切っ先が顔を出した。仕込み杖――とまでは、言えないか。単に普通の杖の先を、できる範囲で加工したもの。
「それをして、あんたに何の得がある。あんたに何の理由がある」
 老女が持ち上げた杖の先。直線を辿れば、コガネの……喉。
 対応次第で、この杖は己に迫るのだろう。それは理解できたものの。
「理由、ですか」
 果たして、納得してもらえるのだろうか。自分は、自分は命に――。

 ――その破壊音は唐突で、吹き荒れる衝撃波は甚大で。言い澱んだコガネ含む、その場にいた全員の体をびりびりと震わせた。
「な、なに、地震? …………あっ!?」
「これは……どういう……」
 女性と老女の声。そしてその後に、他の村人の息を呑む音が続く。
 驚愕を示していないのは、唯一コガネのみだ。彼だけは、この光景の原因に察しがついていた。自分と同じ猟兵の策であろう、と。
「悪いけど、ここは通れなくさせてもらったわ。貴方たちにもうこれ以上傷付いて欲しくないから」
 周辺まとめて叩き砕かれた大地から、この破壊を齎した武具――『月光の杖』を引き抜きつつ、アーデルハイド・ルナアーラ(獣の魔女・f12623)が土埃を払い除けて姿を見せた。ここで行ったのは、動作のみで言えば単純明快だ。とにかく重い一撃を、とにかく渾身で叩き付ける、【魔杖よ、大地を穿て(アルマゲドン)】。からりからりと、反動で打ち上げられていた石がようやく降り落ちる。
「もしここを避けて、他を通るつもりなら……」
 そっちもここと同じように……と、言いかけて。とりあえずはその必要もなさそうかな、と独り言つ。目の前で、彼らにとって常識外れに盛大な破壊を見たからか、村人たちは今のところ見事に意気消沈。怯えから恐慌にまで至っていないのは、アーデルハイドもまた敵ではないと、それは伝わったからか。
 ややあって。初めに口を開いたのは、先の老女だった。
「あんたらが、その……いったいなんなのかは、この際置いておこうか。どうせ、聞いたところであたしらの理解の範疇には収まらないんだろう?」
「そうね、それはそうかも。すごく強いってことだけ分かってもらえたら、たぶん問題ないと思うわ」
「ああ、それは分かったよ。もう十二分にね」
 あんたも同じような感じだと思えばいいかい? そんな老女の視線に、コガネは僅かに逡巡したが、頷くことにした。
「……得難い助け船では、あるんだろうねぇ」
「けれど、私たちは……!」
 やはり退けない。退きたく、ない。きっと向かえばただでは済まない。怪我、どころか生き残るかどうかさえ。
 そんなことは、元より覚悟の上で――。
「貴方達は……戦闘の素人でしょう? 感情だけで事がどうにかなる世の中じゃない。それは僕よりも貴方達の方がよく理解しているでしょう?」
 女性は、コガネにそれでも反論しようとして――咄嗟に言葉を、紡げなかった。感情だけではどうにもならない、なんて。当然自分も知っている。知っていて。知ったけど。でも。
 ……でも!
「それじゃ、私は、私たちは、どうしたらいいの!? 全部あなた方に任せて、ただ待っていろとでも言うの!?」
「ええ。私達に任せて、村で待っていて」
 声を荒げる女性へ、アーデルハイドはこともなげに返す。キッと睨むような眼を向けられて。しかし。
「領主は必ず倒す。奪われたものは全て取り返す。だから、もう一度言うわ。私達に任せて」
「…………あなた……」
 無力を責める、ではない。無謀を諫める、でもない。
 ――任せて、待っていて。
 これは、宣言だ。違えられることなき約束だ。ただただ本当に言った通りの。「もうこれ以上傷付いて欲しくない」と、その気持ちのみが、形を変えたもの。
「餅は餅屋という言葉が何処かにあります。大丈夫。僕等を信じて下さい」
 コガネにも重ねられて。――ふと、力が抜けて倒れ込みそうな女性を、老女がそっと支えた。
 ぽたり。砕け散った大地の破片に、涙が一滴染み込む。
「……私たちは、頼って、いいの……?」
「もちろんよ」
 ――嗚咽混じりの「助けて」が。アーデルハイドの耳へ、確かに届いた。

「あんたの理由、まだ聞かせてもらってないよ」
 村へと引き返す村人たちを確認して、屋敷へ向かおうとしたコガネを、老女が引き止めた。
 ……そういえば、そうだったか。
 やはり納得されるかどうかは分からない、が。
「命を……散らして欲しく、なかったのです。少なくとも此処に……命に憧れる存在がいるのですから……」
 それも今更かと思い、胸中を吐露してみせれば。老女はしばし考え込んで。
「憧れる、ね」
 さっさと他の村人と合流しに歩み始めた。
「……あんたもちゃんと、無事に帰ってきなよ」
 去り際に、そんな声を残して――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花盛・乙女
■POW重視

仇敵を討つ決死の覚悟というわけか。だが足りない。
死して臨むもその実りなくば、それは蛮勇ですらない。
愚かと呼ぶのだ。

村の連中の行軍の前に立ち前進を阻止する。
氏素性分からぬ女に口を出されるのは不快だろうが止まってもらう。
相手の手に持つ武器を居合一閃、落としてやれば止まるだろう。

なぜ邪魔をと問われれば、命を無為には出来ないのだと応えよう。
関係ないと言われれば、その通りだと応えよう。
だからこれは、私のわがままなのだ。

貴様達も復讐というわがままを今から通そうというのだ。
なれば道行きに立つ邪魔な輩…この花盛乙女を倒して進むがいい。
だがわがままな女武者一人に負けるようでは、復讐など叶わぬと知れ。


マハティ・キースリング
私も孤児として多くを奪われた
命の片割れを奪われた者は心の平衝を失い、永く囚われる
そこに余所者の戦争兵器が綺麗事・正論をぶつけても
恐らく心を打つ事はないだろう

だから、力尽くで止める
彼等の代わりに彼等の振り上げた拳を揮うには
彼等の暗澹たる覚悟を知らなければならない
何発か身体で受け止め、よく記憶しておく
所詮兵器だ、幾ら傷付こうが構わない

その後、体術・大気の壁・妖精を用いて武器を奪う
一度は命を預けようと、悲愴な決意を固めた魂の断片
預からせて貰う

武器改造を駆使
液体金属に武器を溶かし食わせ取り込み、夜明けの弾丸としたい

憐れにも武器を奪われた貴方達に出来る事は一つ
星に、亡き同胞に、信じる神に、唯々祈る事です



●三歩
 正論とは、読んで字のごとく道徳に於いて正しい論のことである。
 受け入れられて当然のもの、同意を得て当然のもの。されどマハティ・キースリング(はぐれ砲兵・f00682)は、この場ではただの綺麗事にしかならぬと切って捨てた。
 なぜならば――マハティもまた、多くを奪われた存在であるから。心の平衡を失い、永く囚われる様を、知っているから。
 ゆえに分かるのだ。自分が言葉を尽くしたところで、彼らの心は打てぬであろうと。
「だから、力尽くで止める」
「では、私も行こう」
 徐々に近付く村人たちの姿を見据えながら、花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)が立ち並ぶ。
 そろそろ窺えるだろうかと乙女が目を凝らせば、決意の浮かぶ村人の顔が見て取れた。
 死地へ赴く覚悟はあるようだ。だが。
「足りないな」
 万事が過程より結果、というわけでもないが。その過程に死が含まれるとあっては、苦言のひとつも呈したくなる。
「死して臨むもその実りなくば、それは蛮勇ですらない。愚かと呼ぶのだ」
「だからこそ、容易には止まらない。諦めない」
 マハティへ軽く頷きを返して、再度村人の顔を見る。
 なるほどまったく厄介な話だ。……本当に。

 道塞ぐ女性が二人。なぜこんなところに、と村人たちも不審に思わないでもなかったが。それより今はとにかく前へ、屋敷へ、向かわなければ。
「おい、悪いがそこを退いて――」
 男性が言い終える前に、ギィンと打ち鳴る刃音が割り込んだ。
 ひゅんひゅん。放り出された男性の得物――確かに握っていたはずの剣が、どこかに落ちた音が続く。
「……なんのつもりだ」
 乙女の手には、いつ抜いたのか刀が一振り。どうもあれで弾いたらしい。
 男性は一瞬呆気に取られていたようだが、戦士でないにしては素早く切り替えてきた。予備のものか、短剣を一本懐より取り出して構えれば。他の村人も同じように続々と。
「あんたら、屋敷の連中……ってわけでもないんだろうな」
 仮にそうであるのなら、剣を弾くではなくそのまま自分を斬っていただろう。だから余計に分からない。
「どうして、ここに立つ」
「命を無為には出来ないのだ」
 乙女の返答を男性が飲み込むまで、しばし。
「あんたは?」
「言葉で止まらないのならば、前に立つしかないだろう」
 先に落ちた剣を拾い上げつつ、マハティも答えた。
 剣の状態は――悪い。そもそもこれは、農具の形を無理くり弄ったもののようだ。
「……俺たちを止めようってのか」
「集団自殺など、見過ごせるはずもない」
「あんたらに何の関係が――」
「ない。その通りだ」
 男性と乙女の応酬。
 ここで彼らが死したとしても、ああ、自分には何の関係もない。全くもってその通りなのだから、反論の必要もない。
 そういったややこしい何かではないのだ。乙女が彼らの覚悟に割り込む理由など、ただただ単純なこと。
「これは、私のわがままなのだ」
 再度、風ごと薙ぐような一閃が数本の武具を弾けば。それが開戦の合図となった。

 繰り出される剣やら槍やらを、順々いなし躱して弾いて飛ばす乙女とは対照的に。マハティは、まずはそれらを身体で受け止めると決めていた。
 兵器である己ならば、多少傷が付いたところで。それよりも、村人たちの覚悟を記憶しておけるようにと。
「………………」
 結果。マハティの眼前には、槍を持ったまま震える少年がいた。こちらから何かしたわけではない。いや、何もしなかったから、か。
 この子は恐らく、初めて人を――もしかしたら生き物そのものを――刺したのだろう。
 深く、ではないが。それでも確かに突き刺さった槍の刃を、掴んで引き抜く。
「武者震い。な、はずもないか」
「…………ど……退いてよ……!」
 かたかた鳴る歯をどうにか整えて、声を絞り出す少年。
 その様に、殺気はない。敵意もない。ただ――。
(例え人を刺し貫くことになっても、進むと)
 そういう意志が、目に浮かんでいる。こちらを恐れるでなく傷付けたことを恐れるあたり、優しい子であるだろうに。
 ぐい、と掴んだ刃を引っ張れば。震えで緩んだ手から、簡単に槍を奪い取れた。
「あ、か、返して……!」
 その訴えは、聞けない。
 手を伸ばす少年の頭を軽く撫で、マハティは乙女が弾く武具を集めに向かう。
 もちろん途中に他の村人にも攻撃されるが、先と同様一度食らってから奪い取った。純粋な体術に加え、多くを相手取るなら身に纏う青き大気の壁で武具を巻き上げ、妖精の演算によって狙った通りに順々マハティの手の中へ落とす。これならば、落ちた武具を集めるも容易い。
「くそ、なんだってこんな……!」
 短剣構えた男性は、まだ辛うじてその手からは離していないようだが。周りは、もう。
「関係もねぇ、大した理由もねぇ、そんなやつらが出しゃばってくるなぁ!!」
 渾身込めた一刺しが、乙女の元へ迫り――そしてそれまでと同じく軽くいなされ、男性は踏鞴を踏んだ。
「貴様達も復讐というわがままを今から通そうというのだ」
 ざり。一歩踏み出し、ただ告げる。
「なれば道行きに立つ邪魔な輩……この花盛乙女を倒して進むがいい。だがわがままな女武者一人に負けるようでは、復讐など叶わぬと知れ」
 真正面から乙女の言葉に撃たれて。男性の苦々しい表情は、すでに押し通るは無理だと悟ったからか。
 けれど、それでは、どうすれば良いのだ。この想いの行き場は、いったいどこに。
「それも、預からせてもらいたい」
 顔を上げれば、マハティが短剣を指していた。
「……わざわざ取り上げなくても、もう使わねぇよ」
「そうじゃない」
 怪訝に思いながらも男性が手渡せば、なにやらスライムのような存在がぱくりと短剣を飲み込んだ。彼の呆気に取られた顔を見るのも、これで二度目か。
 ひとつ、ふたつ――集めた全てを取り込んで、それからもぞもぞと小さな塊として吐き出してゆく。
「これは、貴方達の想いの欠片。一度は命を預けようと、悲愴な決意を固めた魂の断片」
「……銃弾……」
 ぼそり呟いたのは、槍を持っていた少年。
 言われて、塊が何なのか他の村人も気付いたのだろう。
「持って行って、くれるの?」
「ああ。これを、夜明けの弾丸としたい」
 つまり、この二人の行き先は。
「死ぬかもしれねぇんだぞ」
「先の通り、私はわがままだ。行くなと言われたところで、それも叶わぬ話だな」
 村人たちは黙って二人を見詰めていたが、やがてひとりが「なにか助けられることはないか」と問うてきた。
「憐れにも武器を奪われた貴方達に出来る事は一つ」
 ――星に、亡き同胞に、信じる神に、唯々祈る事。
 マハティの言葉を受けて。彼らは静かに祈り、屋敷へと向かう二人を見送り出す。
 いきなり現れて、勝手なことを言って、武器を奪っていった。そんなわがままで――優しい二人に。どうか武運がありますようにと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

法月・志蓮
……せめて大切な人の遺体を取り返したいという気持ちは分からなくもない。だが、

「奴はお気に入り以外の死体を兵隊として扱う。アンタたちが取り返したい者たち自体が敵になる。それに対して刃を振り下ろす事が出来る覚悟はあるか?ないなら……邪魔だ」

冷徹にそう告げて、逆上して殴りかかってきたら格闘術で傷つけない程度に押さえ込み、

「……アンデッドの兵士化された死体を傷つけずに止めるのは難しい。恐らく大なり小なり傷が付いて……元が誰か判別がつかない者も出てくるだろう。……それでも。必ずアンタたちの元へと返す」

だから墓を作って、花を集めて待っていて欲しい。ちゃんと弔ってお別れをする為に。



●四歩
(……せめて大切な人の遺体を取り返したいという気持ちは分からなくもない。だが)
 それは勝算有って、初めて意味を成すもの。ミイラ取りがミイラに、では……あまりに、救いがない。
 であればこそ。今は引き付けなければならないと、法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)は思う。例え怒りを向けられようとも、それでも。
「行く、か」
 鋭く差し向けた視線の先に、村人たちの姿を確認して。
 志蓮は彼らの前に立つべく、動き出した。

「何の用だ」
 誰と問わないのは、長々話などしないという意識の表れか。立ち塞がった志蓮に向けて、壮年の男性が手短に言葉を投げる。
 用がないなら通らせてもらう、と抜けようとする村人たちへ。
「奴はお気に入り以外の死体を兵隊として扱う。アンタたちが取り返したい者たち自体が敵になる」
 志蓮が落とした声は――いっそ残酷なまでに、響き渡った。
「それに対して刃を振り下ろす事が出来る覚悟はあるか?」
 返答はない。が、村人たちの足も止まった。
 その情報は予知にて知り得たものだ。今から初めて戦いに向かう彼らが、知っていたはずもない。
「もう一度聞く。覚悟は、あるか?」
「………………」
「ないなら……邪魔だ」
 あえて吐き捨てるように言えば、ぎりと歯を噛む音がした。
「なんも知らねぇよそもんが、偉そうにぃ!!」
「――よせ!」
 制止する壮年の声を振り切って、ひとり青年が棍棒を振り下ろす。
 技術もなにもあったものではない我武者羅な一撃ではあったが、憤怒を乗せたそれは十二分に、重い。
 当たれば、猟兵とて怪我のひとつもしただろう。当たれば。
「な、うぐっ……!」
 懐へと飛び込みつつ、棍棒が落とされる前に青年の手首を取り、軽く捻る。そうして軌道が己から逸れたことを確認すると、そのまま捻りを強め、崩れた姿勢へと足払い。
「……思ったよりも、体は覚えているもんだな」
 本来ならばここからナイフによる刺突に繋げるのが、志蓮の培った【軍隊式近接格闘術(クロース・クォーターズ・コンバット)】なのだが。今は倒れた相手を押さえ込むに留める。
「放せ、このっ……!」
 じたばた暴れる青年が、助けを求めて他の村人を見るも。全員の言葉を代弁するように、壮年が頭を振った。
「少し、頭を冷やせ」
「なんでだよっ!? こいつは俺らのことを!」
「俺には、その人が聞いてきた『覚悟』はない。お前にはあるのか」
 再び、ぎりと鳴る歯。しかしもう、暴れはしなかった。……放しても良さそうだ。
 志蓮から解放されると。青年は俯きながらも、「悪かった」と小さく零す。
「忠言には感謝する。……しかし、どうしたものか」
 一度は固めた意志だが。揺らいだ今となっては、途方に暮れるより他にない。
「俺には……俺には、あいつを。倅を、討つことなど」
「……アンデッドの兵士化された死体を傷つけずに止めるのは難しい。恐らく大なり小なり傷が付いて……元が誰か判別がつかない者も出てくるだろう。……それでも」
 それでも、と。続く志蓮の言葉に――彼らには、一抹の希望が見えたような気がした。
「必ずアンタたちの元へと返す」
 だから墓を作って、花を集めて待っていて欲しい。
「……墓は、ある。ただ、花は……探さないと、な」
 大切な人を迎えて、弔って、別れを済ませるために。手向けの花を拵えるべく、村人たちは道を引き返し始める。
『倅を、頼む』
 言葉にせずとも、確かに届いた想いを胸に。志蓮もまた、歩み出した――。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・フィルファーデン
ふふっ……わたしね?諦めがとぉっても悪いの。……もう誰1人も死なせてあげないんだから。

まずは村人たちを挑発して怒りの矛先を変えるわ。
「あなた達が言っても何の意味も無いわ。ただ無駄死にするだけ。先に逝った人達の犠牲も無駄になるのよ。……それとも、ただ死にたいだけなのかしら?」

挑発に乗ったらUCを使うわ。でも戦いはしない。代償だけ受けて立ち塞がり、行き場のない怒りを【激痛耐性】で耐えこの身で受け止めるわ。
「さあ、憎いならかかって来なさい。手負いの羽虫一匹仕留められないのかしら!」

怒りが収まったら優しく村人を【鼓舞】するわ。
「お願い、もう少しだけ耐えて。あなた達の強さは力じゃない、耐え忍ぶ心よ!」


カルティーチェ・ルイナ
「通りすがりのりょうへ…騎士のようなものですが…あなた達のようなよわっちそうな者が奴らに勝てるわけ無いでしょう?」
精一杯威厳が出るようなしゃべり方をしています!
復讐心で向かおうとしている彼ら、その行動を挑発されればおそらく血の気の多い者は怒ると思うんですよ。

「実力を示すのです、かかってきなさい」
槍を手放し、盾だけを構えて見せて攻撃を誘います。
【絶対防御反応】を使用し盾受けに徹して有効打を受けないように凌ぎます、盾で薙ぎ払ったりもできそうですね。

彼らと手をつなぎ優しく宣言します!
「カルティーチェのこの槍と盾と鎧はあなた達を護るための物なのです。信じてください絶対に倒してきますから!」



●五歩
「ふふっ……わたしね? 諦めがとぉっても悪いの。……もう誰一人も死なせてあげないんだから」
「私もおんなじ気持ちです! 痛みも苦しみも、これ以上村の方々に渡してはダメだと思うんです」
 なので代わりに私が引き受けます!
 そう宣言するカルティーチェ・ルイナ(自己犠牲の悦楽を知る者・f10772)を、フェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)は「優しい子ね」と微笑まし気に見た。
 ちょっと特殊な性質を持つカルティーチェであるが、その心根が優しいことに変わりはない。「頑張ります!」と、ぐっと気合いを入れる姿が頼もしい。
 きっとここで村人たちを止められる。元々そのつもりではあったが、尚更そう思えてきて。フェアリーであるフェルトが空に浮かびながら、その時を待っていると。
「あっ、村の方々が来ましたよ!」
 指差された先から、確かに幾人かが近付いてきていた。

「あの……貴女たち、どこの子かしら?」
 ぐぐっと全身で通せんぼアピールをするカルティーチェと、隣でふわふわ揺蕩うフェルトへ。先頭を歩いていた村の女性は少しだけ困った顔をして尋ねた。
 どうもフェルトの姿も含め、彼女らにはこちらが小さな子供に見えているようだ。そう間違いでもないが。
「私たちは通りすがりのりょうへ……騎士のようなものです」
「ええと、騎士ごっこならあとで……付き合うから。通してもらえるかな?」
 槍を掲げたカルティーチェへと返された、女性の言葉に。フェルトの胸がちくりと痛んだ。「あとで」、なんて。今まさに、これからの全てを捨てようとしているのだろうに。
 ――ああ、そう思えばこそ。酷い言葉でも放つと決めた。
「あなた達がこの先へ行っても何の意味も無いわ。ただ無駄死にするだけ」
「……なにを、言っているのか」
 分からない。そう続くはずだったそれは、カルティーチェに遮られる。
「あなた達のようなよわっちそうな者が奴らに勝てるわけ無いでしょう?」
「その通りね。そうして、先に逝った人達の犠牲も無駄になるのよ。……それとも、ただ死にたいだけなのかしら?」
「――おい!!」
 吠えるような大声に、視線が集まる。
 怒りのあまりわなわなと、腰に提げていた袋から石を取り出しながら。まだ、年若い少年であった。フェルトたちとそう変わらないくらいか。
「オレたちの弱さを馬鹿にすんのはいいさ。でもな――覚悟まで、貶められる謂れはねぇッ!!」
「待って、それはダメよ!」
 今にも石を放ろうとする少年を止めようと、慌てている女性には……とても、申し訳ないが。
 ここは畳み掛けるが、吉のようだ。
「覚悟の有無で、無駄が無駄ではなくなるのかしら?」
「どうしたって、よわっちい者が強くはならないのです」
「……もう許さねぇッ!!」
 制止を振り切り、ついに放たれた投石。それは放物線、ではなく直線に近い軌道で、カルティーチェへと迫った。結構な勢いだ、己の武器として選んだだけのことはある。
 思わず目を瞑った女性の耳に聞こえたのは――ガキン、という金属音。
「これくらいの石なんて、効きません!」
 カルティーチェは、巨大な――胴体をすっぽりと覆うほどに巨大な――盾を、あろうことか薙ぐように振るって、石を弾いていたのだ。
「な、なっ……」
 最も驚いたのは石を投げた少年だろう。大人を相手にしたって勝てるだけの威力はあると、そう思っていたのに。まさか自分よりも小さな女の子に、軽々防がれるだなんて。
「実力を示すのです、かかってきなさい」
「ぐ、こ、この……!!」
 頭へ、腕へ、足へ。挑発に乗せられた少年が、回り込みながら各所へ石を放つも。その悉くに盾が立ち塞がった。
「なんで当たらないんだッ!!」
 どこから飛んで来たところで、カルティーチェの身は既に【絶対防御反応(ゼッタイボウギョハンノウ)】。オブリビオンの攻撃すら対処して退けるこの状態に、投石程度が通るはずもなし。
「なんで、なんで……ッ!」
「あらあら。こちらには石が飛んで来ないみたいだけれど、わたしのことは許してくれるのかしら?」
「誰がッ!!」
 どうせこいつも避けるくせに。そんな想いが乗ったか、特に容赦のない投石がフェルトへと放たれ――その小さな体を、打ち据えた。
「……え?」
 呆けたような声を漏らした少年の目に映るは。
 だらりだらりと血を流し続ける、フェルトの姿。
「……あ。あ、あ、オレ――」
「退いてっ!!」
 少年を押し退け、女性が走り寄って来る。ずいぶんと心配させてしまったようで、フェルトの胸が、またちくりと痛む。
「怪我はどこ!? 頭だったら大変よ、すぐ消毒するから……!」
「その、ごめんなさいね。『これ』は、石のせいではないのよ」
「……え?」
 平気な顔で。でも、ちょっとだけばつの悪そうな顔で。微笑むフェルトに、今度は女性が呆けたような声を漏らした。
「憎いならかかって来なさい。まだ、そう言うつもりだったのだけど……もう、必要なさそうね?」
「え、ええ。でも、ええと、血が……」
 この流血は石を受け止めるための、ただの『代償』。そう告げるのも何だか悪い気がして……血を拭き取りつつ、とりあえずにこりと一層優しい笑みを送っておいた。
 希望を信じる心、身を呈する覚悟、諦めの悪さ。それらを宿して自らを強化する、【Knights of Filfaden(ナイツ・オブ・フィルファーデン)】。その効果はばっちりで、かつ痛みへの耐性もあって、いくらでも怒りを受け止めようと思っていたものの。
 まぁ、しかし。
「わ、悪い……本当に大丈夫か?」
「ふふ、本当に平気よ。あなたも心配してくれたの?」
「いや……そりゃ、だって……」
「むむ、私のことは心配してくれないんですか!」
「お前には一発も当たってねーだろ!!」
 上手い具合に怒りも散って、なおかつ溶け込めたようだ。
 ――今なら。
「ねぇ。わたしたちがあなた達の敵を倒してくる、と言ったら。信じてもらえるかしら?」
「…………そう。貴女たち、初めからそのつもりで」
 力を見てもらうために、怒りを逃がしてから話を聞いてもらうために、わざと挑発を仕掛けたのだと。女性は悟る。
「カルティーチェのこの槍と盾と鎧はあなた達を護るための物なのです。信じてください、絶対に倒してきますから!」
 この身の強固さは示した。ならば次は受け入れてもらうのみと、ぎゅうと握った女性の手から。同じく、ぎゅうと力が返ってきて。カルティーチェの顔がほころぶ。
「それなら、もう少しだけ耐えていて。あなた達の強さは力じゃない、耐え忍ぶ心よ!」
「……分かったよ。これまでだってずっと耐えてきたんだ。もう少しくらい何ともない! ……だから、さ」
 お前らも、死ぬんじゃねーぞ。
 小さく小さく零されたぶっきらぼうな優しさが、なんだか嬉しくなって。カルティーチェも、フェルトも、村の女性まで。
 みんなで、笑みを分け合った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

富波・壱子
みんなが自分でなんとかしたいって気持ちはすごく立派だと思うよ
そんな立派なあなた達だから、なおさらこのまま行かせたりなんか出来ないよ
でも、わたし達が代わりに行くって言ったって、みんなは納得なんかしてくれないよね。だから……

そこまで言ってから首のチョーカーに触れて人格を戦闘用に交代

かかってきなさい。強い方が討伐に行く、それでいいですね

強さを見せつけるように、ユーベルコードも躊躇いなく使用し徹底的に叩きのめします
自分より弱い者を痛めつける行為に対して、私には良心の呵責も高揚感もありません
相手がどれだけ泣いても叫んでも、情に訴えても、やめません
全員が諦めるまで、一切表情を変えずに淡々と処理していきます


加賀宮・識
ただ、闇雲に突っ込んで行っても無駄に命を落とすだけだ。

【POW】

一度、命をかけてこうと決めたらきっと人は止まらないだろう。
…私にはよく分かる。

なので敵がどんなに強いか分からせるのが一番だ
わざと怒らせるようにして、自分に向かってこさせ
ブレイズフレイムと鉄塊剣で威嚇する

気持ちは痛い程分かるが、敵は私より強いぞ。必ず貴方達の想いは遂げるから、ここは任せてくれ

どうか、分かって欲しい
私達は助ける為に、戦うその為にきたのだから



●六歩
「みんなが自分でなんとかしたいって気持ちはすごく立派だと思うよ」
 村人たちの行き先を塞ぎながら、富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)は心からの言葉を紡ぐ。
「そんな立派なあなた達だから、なおさらこのまま行かせたりなんか出来ないよ」
「その気持ちは……嬉しいよ。でもね、僕たちは決めたんだ。もう、戻らないって」
 戻らない――精神的な意味もあるのだろうが、それよりも。この柔和な青年のそれは、命落とすを分かっていてのものなのだろうなと、加賀宮・識(焔術師・f10999)は受け取った。
 きっと、この人たちは容易には止まらない。吸血鬼に……そして、その血が流れる己、半身にさえも嫌悪感を抱き続ける識には、良く分かる。大切なものを奪われるということが、どれだけ強い思念を植え付けるのかが、良く。
「わたし達が代わりに行くって言ったって、みんなは納得なんかしてくれないよね」.
「……それは、そうだね。見ず知らずの君たちに任せるなんて――」
「だから」
 壱子は自分の首を隠すチョーカーに、触れる。
 ぱちり、意識の移り変わる感覚。「わたし」から「私」へと、切り替えられる感覚。
「――かかってきなさい。強い方が討伐に行く、それでいいですね」
 それまでの温かな表情も、雰囲気も、どこかに消え失せてしまったように見えて。青年は思わず一歩、後退る。
「か、彼女はいったい……?」
「悪いけれど」
 尋ねた先の識の手にも、ただただ武骨な剣が握られていて。ようやくここで、青年と、他の村人たちも理解した。
「私も、貴方達を通したくはないんだ」
 ――彼女たちは、話し合いに来たのではない。力尽くで止めに来たのだと。

「一人」
 強かに鳩尾を打たれ、苦痛から意識を飛ばされる。
「二人」
 捻じ込むように放たれた掌打に、肺の空気全てを押し出され倒れる。
「三人」
 喉笛を指で圧迫されて、呼吸ができず崩れ落ちる。
「次はこないのですか。では、こちらから」
「ま、待て、いきなりどうして!」
 聞く耳は持たず、痛む心もなし。淡々と戦い、淡々と倒すのみ。
 壱子の様子に、こちらも仕掛けなければならないと腹を括ったか。先に二人と話していたとは別の青年が、小振りなハンマーを片手に躍り掛かった。
「恨んでくれるなよ、しばらく眠って――うおっ!?」
 振り上げた瞬間。足元へと突き刺さったナイフに気を取られた、そのほんの僅かな間に。
「四人」
 よろけた青年の顎に手を当て、そのまま大地へ叩き落とす。
 ――ついでに、三人目からナイフを回収したみたく、今落ちたハンマーも拾う。
「五人、六人」
 それを無造作に後ろへ放ると、今まさに金属の棒を振ろうとしていた初老の男性の頭に命中。
 振り向きがてら、回し蹴り。怯んでいた男性をそのまま横へと薙げば、別の村人を巻き込み吹き飛んでゆく。
 まるで相手の動きが分かっているかのような対処。事実として、これは壱子の【あなたには何もさせない(イニシャルインタラプト)】。未来予知によって最適行動を導いているというのだから。もはや、ただの村人にはどうしようもなかった。
 加えて。
「……ああまで叩きのめすつもりはないけれど。私も、向かってくるのなら相応に強さを見せ付けさせてもらう」
 識が鉄塊の如き剣を振るうだけでも、威嚇としては機能するだろう。だがそれでも、納得を引き出すためにはもうあと少し、踏み込むべきか。
 突き付けるように構えていた剣の刃先を、徐に手元へ引き戻す。何をするつもりかと注目が集まったところで――自らの肉の上を、走らせた。
 目を見開く村人たちの前で、撒き散らされるは赤い、赤い――。
「――火だ! あいつの体から、火が、火が!!」
 燃え立つ炎は安心と恐怖、そのどちらもを内に孕むものだ。分け方は、この場に於いては実に簡単。自分に制御できるかできないか、それだけのこと。
 よって、この【ブレイズフレイム】は。村人たちの恐怖と、それを撒く識への畏怖を、煽りに煽った。まるで魔法のような現象に、彼らは恐れ慄いた。
 ――敵わない。敵うわけがない。
 早い内にそう浸透したのは、村人たちにとっても幸いだったのかもしれない。
 状況が落ち着いたと見た壱子が、ひとまず戦いを止めてくれたのだから。

「手荒な真似をして悪かった。ただ、こうでもしないと止まってもらえそうになかったから」
「気にしていないと言えば、それは、嘘になるけれど。僕たちが止まらなかったのも事実だろうしね」
「わたしも、どうしても見殺しにしたくなくて……」
「あー……うん。多重人格? っていうのは、うん。風の噂でそういうものがあるって聞いたことはあったから。納得は、うん。したよ」
 戦闘が終わったことで、元の人格に戻した壱子。変わりようにはやはり驚かれたが、説明をすれば思いの外、理解されるまでも早かった。
 ただ、現象への理解というよりは……平時の温かな壱子と会話した後だったので、「あれはなにか理由あっての変化であって欲しい」という思いがあったから、かもしれないが。
 ――とりあえず、どうにか場は整った。となればあとは、話を付けるのみ。
「改めて、聞いて欲しい。貴方達の気持ちは私にも痛い程分かるが、敵は私より強いぞ」
「君より、か。それは……分かっていたつもりだけど、よほど神様ってやつは僕たちのことが嫌いなんだね」
 ははは、と。力ない笑いが落ちる。
 死地のネズミであろうと、一噛みくらいはしてやりたかったが。それも、自分たちにはできそうにないのか。
「わたし一人でも、きっと大変な思いをするよ。でもね、『わたし達』なら勝てるんだ」
「……ん? 君たち二人だけじゃないのかい?」
「ああ、同じように戦える仲間がいる」
 そう言えば、と青年は思い出す。変化を見た直後で動転してしまい、つい記憶から抜けていたが。確かに壱子は、「討伐に行く」と言っていた。
「そう、か。君たちは、僕たちを止めるだけじゃ、なくて」
「――必ず貴方達の想いは遂げるから、ここは任せてくれ」
 確と頷く識を、次いで他の村人の顔を見回して。青年は考える。
 自分たちは――。
「どうか、分かって欲しい。私達は助ける為に、戦うその為にきたのだから」
「……うん。無理に向かったところで足手纏い、か」
 嘆きのような言葉は、しかし、どこか吹っ切れたようでもあって。
「分かった。そういうことなら、僕たちは吉報を待つことにしよう。強い方が討伐に行く、で、負けちゃったものね」
 壱子に向ける青年の笑みからは、悲観の色が薄まっていた。
 ――そうして。去りゆく前、最後に。
「弱くて臆病な僕たちが掻き集めた、なけなしの覚悟、勇気、そして願いを。どうか、果たして欲しい」
 頭を下げる彼から受け取った、想いの束を抱えて。二人は、その願いの向かう先を見やった。
 討つべきがいるであろう、その先を――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エン・ギフター
せめて骸なりとも、って気持ちは解らなくは無ェ
二度と会えない遺体も無いじゃ腹に納めようがないしな

…つっても舌先三寸は苦手でな
力づくで行くか
襲撃に向かおうとするやつ見つけたら
両手とついでに羽根も広げて解り易く通せんぼだ

大事なヤツの為に立ち上がる気概が残ってんなら
そりゃ村の明日の為に使ってやれよ
殴り込んで取り戻せるものがあったとして
無傷で帰還なんて考えてねえだろ
村の働き手を失うなら心中と同じじゃねえか

あんたらの覚悟、預からせてくれよ
荒事なら余程俺らのが馴れてる
頑丈さなら幾らでも見せてやる
退かせられるならやってみな

攻撃されたら避けずに受けて耐える
武器は流石に奪わせて貰うけどな

【激痛体勢、武器落とし】



●七歩
 人らしき影が幾人分か、ちらりちらりと確認できて。ああ居た居たと、エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)は向かう先を見つけて一安心。
 しかし村から見て、屋敷のほぼ裏にまで回り込むようなルートとは。それだけ多くが散開して……それだけ多くが、集まったということなのだろう。
(せめて骸なりとも、って気持ちは解らなくは無ェ。二度と会えない遺体も無いじゃ腹に納めようがないしな)
 食い物だろうが感情だろうが、腹に入れるも許容量というものがある。前者は入り切らないなら「ごちそうさま」で終わる話なのだが、後者は如何ともし難い。消化も中々されないし。
 となれば、納得という器にどうにか仕舞ってもらわなければ。
(……つっても舌先三寸は苦手でな)
 自分は自分なりに、動くとしよう。

「人が通るような道じゃあねぇはずだが」
「その発言ブーメランじゃね?」
 両手と羽根を目いっぱい広げて道を塞ぎ、見たまま通せんぼするエン。
 この集団でのリーダーらしき村の男性が投げた言葉は、ごもっともな形で返された。
「……俺たちに何か用か」
「お、察しが早ェな。あんたらをこの先に通したくねえんだ」
 そう言うや否や。
「――っと」
 即座に飛んで来たナイフを蹴り上げ、空中でキャッチ!
 しかしどうも脅し目的らしく、軌道的にも身に刺さることはなさそうだった。過激っぽく見えて案外有情なのかもしれない、などと思いつつ。とりあえずそのまま没収しておく。
「退け、俺たちは先に用がある」
「大事なヤツの為に立ち上がる気概が残ってんなら、そりゃ村の明日の為に使ってやれよ」
 聞く気はないのか、男性は黙々と何やら手に指にと装着し始めた。あれは……ナックルダスターのようだ。
 大変に痛そうな代物ではあるが。何を持ち出されたところでエンの言葉は、行動は、変わらない。せいぜいが「アレ奪うの骨だな」と思う程度。
「次は当てる。退け」
「その手で殴り込んで取り戻せるものがあったとして、無傷で帰還なんて考えてねえだろ。村の働き手を失うなら心中と同じじゃねえか」
 ――握り込んだ拳に金属の硬さと重みを乗せて。真っ正面から堂々と、男性はエンに拳打を叩き付けた。
 およそ人から響くとは思えないほどの打撃音に、控えていた村人たちの一部も顔を顰める。骨の二、三本は折れただろう、これで終わりだ。道の脇に転がす前に、最低限の手当てくらいはしてやるか。
「――――――」
 そう微かに騒めく声を背後に。男性は、しかし振り返ることができずにいた。
「――あんたらの覚悟、預からせてくれよ」
 腹に減り込む握り拳を、上から更に握り締めて。エンは臓腑が捻じれるような苦痛を無理矢理に飲み下し、咳き込みそうな息を気力で声へと変える。
「荒事なら余程俺らのが馴れてる。頑丈さなら幾らでも見せてやる」
 ようやく後ろの騒めきも気付いたようだ。
 まだ、終わっていない。
「退かせられるならやってみな」
 放さまいと、振り払おうと、ぎりぎり拳の引き合いが続き――。
 ふっと、男性は交差していた視線を切ると、手を開いた。自然、エンの手には引き抜けた武具のみが残る。
「俺の負けだ、戻れ」
 村人たちへ告げ、さっさと動けと指示を飛ばした。多少の文句はあったが、「ならあいつを退かしてこい」の一言で、それも止む。
 群れの頭を取ったからか、思いの外スムーズにいったなと考えていると。
「おい」
「ん?」
 撤退前に、男性から声をかけられた。
「村に明日があろうが、俺たちに明日は要らなかった。それでもと押し付けられた『明日』がつまらねぇもんだったら……」
 承知しねぇぞ、と。
 なんだか脅しとも檄とも取れる気はしたが。どちらにしても、受け取り拒否はされなさそうだ。
 それなら――遠慮なく、届けに上がろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

海月・びいどろ
帰る場所に誰もいなくなってしまったら、おかえりなさいは、だれが言ってくれるの?

今は戻らないヒトたちは、託したんじゃ、ないのかな…
戦いに出たヒトが戻らないのなら、このままでは勝てないって

武器を強くしたり、こちらから攻めるより、罠を仕掛けたりして相手を誘き寄せる、とか…
もう、ただいまを言えなくても良い覚悟なら
出来ることの全てをやってみてからでも、良いのではと、思うけれど

コミュ力と、言いくるめが、どれだけ届くかは分からないけれど
時間稼ぎになるように、言ってみるよ

しんでしまうと分かっていても、その足を止められない
…ヒトは、不思議だね
生きることより苦しいことを、それでも選んでしまうから


ユナ・アンダーソン
WIZで判定

コミュ力11、優しさ11、言いくるめ6を使って説得します
あなた達が死ぬことは彼らも望んでいないはず
私達があなた達の大切な人たちを連れて帰ってあげる
だから、その時おかえりって言ってあげて
それが彼らの願いでもあったはずだから

優しさ11、手をつなぐ11、鼓舞12で傷奪う星痕を使用
あなたの怒りと悲しみは私が持っていってあげるわ
あなたの傷を私にちょうだい?

アドリブで他の方との絡み歓迎



●八歩
「帰る場所に誰もいなくなってしまったら、おかえりなさいは、だれが言ってくれるの?」
「それでも、迎えに行かないと。じゃないと、誰も帰ってこれないから」
 道行くところに割り込んで、声をかける海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)。言葉返した少女はどうにも頑なで。他の村人たちにしても、今は口を挟まず静かにやり取りを見守ってはいるが、意見は彼女と変わらないようだ。
 ……この様子では、続けたところで声がどれだけ届くかも分からない。
「あなた達が死ぬことは彼らも望んでいないはず」
「今は戻らないヒトたちは、託したんじゃ、ないのかな……。戦いに出たヒトが戻らないのなら、このままでは勝てないって」
 それでも、声をかけ続ける。
 僅かずつでも届くのならば、いつかは受け取ってもらえるかもしれない。
 僅かにすらも届かなくても、全てが終わるまで時間は稼げるかもしれない。
 説得結果以前に、この過程にも意味があるのだから。諦めるという選択肢だけは、選ばない。
 ユナ・アンダーソン(星骸のスティグマテイカ―・f02647)にとっても、それは同じことで。だからこそ、彼女も気持ちを伝え続けていた。
 本質として誰かから「奪う者」であるがゆえに――少女や村人に刻み込まれた傷を、諦めるだなんて。そんなことは、とても。
「うん。お兄ちゃんはあたしたちに死んでほしくなんてないと思う。たぶん勝てないのも、わかってる」
 でもね。
 少女の言葉の向く先は、びいどろたちか。それとも自分たち自身か。それともいるかもわからない、神とか、悪魔とか。
 あるいは――誰にも、向けてはいないのか。
「明日にも、気紛れに殺されるかもしれない。いつになっても、勝てる日にはならないかもしれない」
 だから、今だ。他にないから。
 だから、今だ。次がなくても。
(固い意志、にも見えるけど……どこか、違和もあるわね)
 ただただ淡々と語る少女に、傍目からは却って悲壮を感じそうにもなるが。ユナも、そしてびいどろも、なんだかどうにもすっきりとしない。
 綻びがないほどに固められていても、解くのではなく砕くのならば、案外易いこともある。なら――試しに、叩いてみよう。
「武器を強くしたり、こちらから攻めるより、罠を仕掛けたりして相手を誘き寄せる、とか……」
 皆が抱えている武具は、その劣悪品が最上なのか?
 いつになっても勝てないと言うのなら、それ相応に試行錯誤したのか?
「もう、ただいまを言えなくても良い覚悟なら。出来ることの全てをやってみてからでも、良いのではと、思うけれど」
 ――その覚悟でこう動くには、早過ぎないか?
「……やれることなんて。もう、ない」
 少女が口にする前に、僅かな澱みが見えた。
 びいどろの言葉が抉じ開けた先に。きっとなにか、確かな手応えがあって。
「私達があなた達の大切な人たちを連れて帰ってあげる」
 ユナの言葉が、そこへと二人を押し込んだ――。

 少女は、しばし固まっていた。
 何を言われたのか分からない。そんな表情も、淡々としていた先までと比べれば劇的な変化だ。
「うそ」
「嘘じゃないわ、約束する」
「ちがう」
「何も、違わないよ」
 戸惑い、困惑、驚愕。……そして、否定。
 これが「受け入れられない」なら、届かなかったかもしれない。けれど、「認めたくない」なら、話は別だ。
「だから、その時おかえりって言ってあげて。それが彼らの願いでもあったはずだから」
「………………だって」
 駄々を捏ねるような音が溢れて。
 そこからはもう、反論ではなかった。
「だって、誰もいなかった。あたしたちには。誰も」
 この闇に覆われた世界では、どこに逃げるも叶わない。どこからも助けはこない。
 そのはずだった。でも。
「お兄ちゃんにも、誰もいなかったのに。誰もいないから、戦ったのに。なんで」
 ――ああ。ここはきっと、人の温もりが必要なところなのだろう。
 少女の目に涙が浮かび始めて。びいどろは、なにもない地面に境目を引かれたような気がした。
 踏み越えるのは簡単だけど、踏み締めるのは難しそうだから。その役割は任せようと、ユナを見る。幸いにも、伝わったようだ。頷いてくれた。
「なんで、なんで、あたしには来たの。なんで、お兄ちゃんには来てくれなかったの……!!」
 一度流れ落ち出した雫は止められなくて。それを拭うこともできずにいた手を、ユナはそっと手のひらで包んだ。
 慣れぬ武具を握ったからか、擦り傷がひとつ、ふたつ。
「あなたの怒りと悲しみは私が持っていってあげるわ」
 だからもう、泣かないで。
 闇の中、ユナから溢るる光が少女を照らす。きっと誰もが求めていた、優しい光。きっと誰もが夢見ていた、柔らかい光。
「――あなたの傷を私にちょうだい?」
 奪い取って、手放さない。そんな欲張りな星の光、【傷奪う星痕(ペインテイカースティグマ)】。気怠い疲労感だって、擦り傷だって、心の痛みだって。全て、全て――。

「キミたちは、もういいの?」
「ああ、この子が信じると決めたのなら。私たちも、信じることにするよ」
 ――綺麗な光も見せてもらったからね。
 泣き疲れて眠ってしまった少女を背負い、青年が小さく笑った。
「……ありがとう。この子を……私たちを、止めてくれて」
 そうして村へと戻ってゆく彼らを眺めて。びいどろはやっぱり、どうしてかなと考えてしまう。
「しんでしまうと分かっていても、その足を止められない。……ヒトは、不思議だね。生きることより苦しいことを、それでも選んでしまうから」
「あら、難しい話ね?」
 んー、と首を傾げるようにして。ユナも少し考えてみた。
「きっと、分からないからじゃないかしら」
「分からない、から?」
「そう、止めたいと思っても、自分では止め方が分からないの。気持ちって、力で押さえたりできないでしょう?」
 言われて、びいどろは自分の手をぐっぐっと握ってみた。
 これで足を押さえたら止まる気もするけれど。そうじゃないのは、さすがに分かる。
 でも……ううん。
「難しい、ね」
「そう、難しいの」
 いつか、自分に理解できる日も来るのだろうか。
 なんとなくもう一度、村人たちの小さくなる背を眺めてみた。見えなくなるまで、なんとなく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。話し合い他の猟兵に任せよう
元々、説得の類は得意じゃないのもあるけど、
彼らの気持ちも分かる以上、私では説得しきれないから…。

だから私は万言を費やしても納得しなかった人に備えて…。
ただ待つしかない人達の心配を少しでも和らげる為に…。
最後の最後に【限定解放・血の教義】を使い彼らを無力化する

眠りをもたらす呪詛を宿す“闇属性の霧”を放ち、
敵と闘っている間、彼らには眠ってもらう
精霊使いの礼儀作法に則り精霊に語り掛け、
悪夢では無く大切な人と会える夢が見れるように精霊にお願いする
…余裕があれば【常夜の鍵】に彼らを収納し、寝床まで運んでおく

…闇の精霊、眠りの精。彼らが望む夢を見せてあげて…。



●九歩
「……ん。あれかな」
 道を塞ぐように立ってからしばらく。自分以外の誰かがやって来たことに、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は若干複雑な想いを抱いた。
 村人への対処を行うつもりではもちろんいたが、自分が出るのは本当に最終手段にしたいと思っていたのだ。どれだけの言葉でも納得しない、そんな相手への最後の最後に。
 けれど、村人たちが予想よりも散開していたことで、こちらも散って対応せざるを得ず。結果リーヴァルディも道のひとつを塞いで、通る人がいないかチェックを続けていたのだが――そうか、来てしまったか。
「……説得は……」
 考え直してみてもやっぱり、厳しそうだ。元々得意でない上に、彼らの気持ちも……分かってしまうから、余計に。かける言葉なんて、なにも。
 せめて、自分が予定していたような相手であったなら。
 そんな細やかで、でも重要な願いは、果たして――。

「通して、いただけませんか」
「………………」
 リーヴァルディの眼前。すでに武具を構えてこちらを見る村人たち。
 何かがあったわけではない。初めから、彼らは相当に殺気立っていた。
「聞こえないのなら仕方ありません。切り伏せてでも通らせていただきます」
 問答無用――そう、まさに問答無用だ。長剣を躊躇いなく抜き放つ青年の目には、この道の先しか映っていない。おそらく、他の村人も同様に。
 良かった、と言うのもおかしな話かもしれないが――。
「これなら……」
 自分がここにいたのは、間違いではなさそうだ。
 しかしリーヴァルディは。早足に近付いてくる青年へ、小さく謝罪を呟いた。余裕を失うだけの理由があったはず。殺気に身を浸すだけの覚悟があったはず。それを、そのための今を、自分は妨げるのだから。
 そして、それでも自分は――ただ待つしかない人たちの心配を、少しでも和らげたいから。
「……限定解放。テンカウント」
 カウントを刻む。
 この世界を彩る闇ではなくて。もっと安らかな、優しい揺り籠を望み。
「吸血鬼のオドと精霊のマナ」
 カウントを刻む。
 振り翳された長剣が、リーヴァルディを鈍く照らし輝いて。
「それを今、一つに……!」
 カウントを――刻んだ。
 降り落ちる寸前の輝きに、纏わり付くような闇が這った。
「これ、は……なに…………を……」
 どさり崩れ落ちた青年に、駆け付けようとした村人たちも。ひとり、またひとりと倒れ込む。【限定解放・血の教義(リミテッド・ブラッドドグマ)】。手を貸してもらったのは、闇と眠りの精霊。振り撒かれた霧は、見事にその仕事を遂げてみせた。

「……ん。これで、いいかな……」
 とある古城内。眠りに落ちた村人たちを、順々寝床へと就かせて。リーヴァルディは、改めて精霊たちへと語りかける。
「……闇の精霊、眠りの精。彼らが望む夢を見せてあげて……」
 すると村人たちの側に、何かが見守っているような雰囲気が満ちた。眠ってなお険しかった彼らの表情が、徐々に穏やかなものへと変わってゆく。……もう、任せて大丈夫そうだ。
 古城と外を繋ぐ魔法陣に触れれば、そこは元通りの道の上。【常夜の鍵(ブラッドゲート)】からは好きに出られるが、彼らが眠っている間はその心配もない。
 優しい夢から醒める前に――この悪夢を、終わらせてしまおう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『朱殷の隷属戦士』

POW   :    慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第2章
 唸り声。
 人の声、ではない。獣の声、でもない。
「うぅぅぅ……」
 歓喜ではない、悲観ではない、悦楽ではない。
 苦しみですら、ない。
「ぁぁぁああ……」
 何もない。彼らには、彼ら自身以外。何も。

 件の屋敷に辿り着けば、周囲を徘徊する亡者の戦士が出迎えてくれた。
 特に障害物があるわけでもなく、戦闘に支障もない。戦闘力は……元が村人とはいえ、勇士は勇士。猟兵が落ち着いて対処すればそうそう苦戦もしないだろうが。それでも、複数となれば油断できない程度の力量はありそうだ。
 まとめて相手取るも。端から潰して回るも。どうあれ、終わるならばそれで問題ない。
 やり易い方法で――終わらせて、あげよう。
フェルト・フィルファーデン
分かっていた事だけれど……趣味が悪いわね。ええ、出来るだけ丁重に葬ってあげるわ。

出来るだけ傷付けたくは無いわね。後で誰が誰だかわからない、なんて事になったら――
だから一人一人、確実に対処しましょう。
まず【先制攻撃】であちらの攻撃より前にUCを使い動きを止めるわ。
その間に【力を溜めた鎧無視攻撃】で心臓を【スナイパー】で確実に狙い
最小限の傷で一撃のもとに終わらせるの。さあ、騎士達よ。安らかな永遠の眠りを与えなさい!

ふふっ……時間も手間もかかるし、結局亡骸を傷つけている事には変わらないのにね?……でも、今はこれくらいしか出来る事は無いの。ごめんなさい。



●一基
「分かっていた事だけれど……趣味が悪いわね」
 のたりのたりとにじり寄って来る亡者たち。『エルシーク』としてはおそらく、趣味の良い悪いなど考えてもいないのだろう。ただ、お気に入りからは外れた蒐集品を、それならそれで役立つようにと加工しただけのこと。合理的だ、くらいには思っているかもしれないが。
 だからこそ、余計に――。
「……ええ、出来るだけ丁重に葬ってあげるわ」
 いつの間にやら、ある程度近くにまで迫っていた亡者を見据えて。フェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)は、両手指をくいと折り曲げた。
 今は――今は、目の前の彼らにだけ集中することにしよう。できるだけ傷付けないように、個々の判別が付く状態で残してあげられるように。一人一人、確実な対処を心掛けて。
「……ぉぉ、お」
 この距離なら、的の小さなフェアリーにも当てられると判断したか。一体の亡者がマスケット銃をがちゃがちゃと持ち上げ、フェルトに狙いを定め――る、前に。
 ――ピシリ。
 先んじて亡者たちの肉体へ撃ち込まれる、糸、糸。鎧の守りなど無意味とばかりに抉り込むが、さりとて中の肉を貫くでもない。
「さあ、眠りに落ちて……!」
 フェルトの指先より放たれた、電子の糸。繋がる先は肉体の奥、それに指令を出す神経系。乗っ取ってしまえば、書き換えるは【《Alt-Ctrl-Delete》(キョウセイシュウリョウ)】。亡者であろうが生者であろうが、肉持ち動く存在を止めることなど、難しくはない。
 こうなれば、あとは。
「最小限の傷で、一撃のもとに」
 偽りの意へ。弄ばれた生へ。ただ――速やかな、終わりを。
 頼むに相応しき存在をと、再度折り曲げられた右の薬指と小指。即ち、十指の『fairy knights』より。『doll-05 Archer』、及び『doll-07 Assassin』を、ここに。
「さあ、騎士達よ」
 形を成すは、繰り手たるフェルトよりも大きな人間大が、二つ。
 虚像から実像へ。データから絡繰の騎士へ。姿を持って、悠々と力強く構えられた弓矢と暗器が向く先は。動かぬ亡者のただ一点。
「――安らかな永遠の眠りを与えなさい!」
 絡繰が軋むほどに込められた力は、しかし一切の分散を許されず。押し砕くのではなく削り飛ばすように鎧を進み、胸の内へ沈み――小さな、静かな、破裂音を齎して。
「…………ぁ」
 ああ、『糸が切れたよう』とは、まさにこのことか。電子の糸を切り離せば、心臓を撃ち抜かれた亡者が、どうと倒れ込んだ――。

「ふふっ……時間も手間もかかるし、結局亡骸を傷つけている事には変わらないのにね? ……でも、今はこれくらいしか出来る事は無いの。ごめんなさい」
 倒れた同類に一瞥をくれることもなく、呟かれた言葉に反応することもなく、歩み続ける亡者たち。
 ……思えばこれは、自己満足かもしれない。エゴかもしれない。偽善だと、蔑む人もいるのかもしれない。
 けれど。
 虐げられた民を救わぬ騎士が、どこに居ようか? ましてや、自分は。
「行きましょう、騎士達。あんな狭い鎧に押し込められてしまうなんて、いけないことよ」
 例え『自らの国の民』でなくとも。守れることがあるのなら、救えることがあるのなら。そうだ、諦める理由など。
 ――すらり伸ばされたフェルトの指が、従い続く騎士の武具が。悲しみすらをも忘れた悲劇を、捉えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーデルハイド・ルナアーラ
「ゆっくり、眠れると良いわね。今度こそ...いいえ、もう二度と貴方達の眠りを誰にも邪魔させない」

元村人の亡者か....なるべく形が崩れないように倒したいけど、私、そういうの苦手だからなあ...。動かなくなるまで殴るしかないか...
.
杖は屋敷の外に置いておくわ。でっかいから廊下でつっかえちゃいそうだし。

もし氷結魔法とか、傷つけずに無力化するのが得意な猟兵が近くにいるならそっちの支援に回ります。と言っても、強化魔法をかけるか、近寄ってくる亡者から護衛するぐらいしかできないんだけど。

連係、アドリブ歓迎


リーヴァルディ・カーライル
…ん。待っていて。
すぐに貴方達を呪縛から解き放ってあげる。

敵の前に立って存在感を放ち攻撃を誘惑して引き付ける。
暗視と第六感を頼りに敵の攻撃を見切り回避。
避けきれない攻撃は、大鎌で受け呪詛耐性で軽減する。

私は既に呪われている。慟哭の呪いは私には効かない。
…だけど、その嘆きは確かに聞き届けた。

敵の隙を突いて【限定解放・血の波濤】を発動
一瞬だけ吸血鬼化した怪力を瞬発力に変えて接近
防具を改造する呪詛の力を溜めた大鎌をなぎ払い、
鎧の傷口を抉り生命力を吸収する波動による2回攻撃を行う。

…死者は傷付けない。その鎧だけ破壊する…。

…ごめんなさい。今は弔っている時間は無い。
貴方達を玩弄した者を倒したら、必ず…。



●二基
「元村人の亡者か……なるべく形が崩れないように倒したいけど、私、そういうの苦手だからなあ……」
 誰しも得手不得手というものはある。自分の場合、肉弾戦で叩きのめすならば適任であるのだが……スマートな無力化、となるとやや危ういところ。
 そう自己分析をしたところで、ないものねだりをしても仕方ないかとアーデルハイド・ルナアーラ(獣の魔女・f12623)は意識を切り替えた。今悩んでも、急に敵の急所が見えたりだとか、行動を封じる魔法を覚えたりだとか、そういった出来事が起こるわけでもない。そういうのは元より得意な猟兵に任せるとして、自分は自分がやれることをやる。結局はそれしかないのだ。つまりは。
「動かなくなるまで殴るしかないか……」
 シンプルに。
 屋内でつっかえてしまいそうな杖は一旦手放し、空いた手で拳を作り、握り固めて、上から更に強化魔法でコーティング。
 必要な武具も、これで完成だ。
「ぅ……いぃ、ぃ」
 まだ近付かれるまで時間はあるかと思っていたが、どうも近場の亡者は速攻に重点を置いたらしい。フレイルやら銃やらをその場に落とし、盾だけを正面に構えて。
「ぃぃぃいいあぁぁぁぁああ」
 次には、表面のスパイクを打ち付けて滅多刺しにせんと。アーデルハイド目指して突進を仕掛けてきた。
 他の武器がよほど重かったのか、はたまた何かが動作のトリガーにでもなっていたのか。それまでのにじり寄りがなんだったのかと思えるほどに素早いが、この勢いは――むしろ、好都合。
「……ごめんなさいね」
 もはや眼前にと迫った盾へ、スパイクへ。
 一片の躊躇もなく、拳を――。

「おお、おおぉ……」
「ぐ、ぅ……」
 ぞろぞろと連れ立って歩む亡者たち。
 目指す先は皆同じだ。だって、どういうわけか目立つ目標がいるのだから。
「……ん。待っていて。すぐに貴方達を呪縛から解き放ってあげる」
 引き付けのために存在感を示したからか、ぐるり囲まれつつある状況で、それでもリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)に恐れは見えず。振り翳された武具さえも、軽く目では追えど、身構えることはない。
 まだだ。まだ、仕掛け時では――。
「ぁあ、あ」
 正面から薙ぐようなフレイルは、僅かに身を引けば皮を掠めるのみで通り過ぎた。
 カチリ、引き金に指を掛けた音。咄嗟に引いた状態から更に後ろへ跳び退くと、目の前の空間を左側から銃弾が貫き、消えてゆく。
 そして今度は……感覚に従えば、背後か。さすがに回避直後に合わせられると、躱すには辛い、が。
「ぁぁぁあああああ」
 下方より地を擦りながら振り上げられたフレイルに、死神の如き大鎌を搗ち合わせる。衝撃が全身へと広がるが、受ける必要はあれど止める必要はない。これを利用してそのまま弾かれるようにもう一度跳び――。
「――ぁぁぁあああああああッッ」
 浮かび掛けた体に、叫びが、慟哭が、牙を剥いた。
 衝撃へ重なる音に殴り飛ばされ、されど――奇しくもリーヴァルディの思惑から体は外れず。距離を取るように吹き飛んだ先で、体勢を整え、亡者を見やる。
「私は既に呪われている」
 今の慟哭は亡者の前身、その残滓の咆哮。もはや感じることさえ奪われた悲しみ、苦しみを、無理矢理に生じさせて放つもの。本来であればそれは、受け手の心を直接掻き乱す呪詛となり得るが。
 リーヴァルディの内に渦巻く澱みが、割入ろうとした新参者を払い除ける。ゆえに、効かない。染み入らない。溶け込まない。
「……だけど」
 その嘆きは確かに――聞き届けた。
 あとは、僅かな隙を探すのみだ。囲まれた程度なら、そう、小さな切っ掛けでもあれば――。
「……ごめんなさいね」
 ふいに、耳が拾った声。他の猟兵の戦闘域まで飛んだのか、と解したその直後。
 ――大地が、大気が、揺れた。
「これ、は」
 破壊、破裂、破砕。言葉に留めるには難しいほどの、力の衝突。
 気を抜けば震わされそうな、この勢いは――むしろ、好都合。
「……死者は傷付けない。その鎧だけ破壊する……限定解放」
 この一瞬。この一瞬だけ、己が血に在り方を沈める。
 奥底より湧き出た強大な脚力で、揺れる大地を踏み締め駆ければ。震え崩れる亡者たちを捉えるもまた、一瞬のことで。
 石火に振るわれた大鎌、『過去を刻むもの』が、名の通りに――朽ちた死肉に宿る偽りの生という、『過去』の象徴――凝った闇の如き鎧を、刻み。
「薙ぎ払え、血の波濤……!」
 放たれた血色の波、【限定解放・血の波濤(リミテッド・ブラッドウェーブ)】が。抉じ開けられた鎧の内側、作り物の命を。
「……う、ぁ――」
 ――一滴と残さず、啜り取った。

 盾から鎧から、粉々に叩き割ったは良いものの。やはり直接打つしかないかと拳を構え直したところで、アーデルハイドは視線の先に、倒れ伏す亡者たちの姿を認めた。そして、そのすぐ傍らに立つ猟兵の姿も。
 互いに損傷なさそうな様子を見るに、彼女には無力化の手段があるのかもしれない。となれば、共闘の打診に動くが吉だろうか。
「……もう少し、待っていてね」
 武具もなく、ただ素手で掴み掛かってくるばかりの亡者の足を払い、打つ……と言うよりも、押すようにして転がすと。ひとまずその場を離れ、彼女の元へ。
「手伝ってもらってもいいかな? できたら傷付けずに終わらせたいのだけど、ちょっと難しくて……」
「……ん。構わない」
 リーヴァルディとしても、先ほどは隙作りに貢献してもらったようなものなので、否やはなかった。効率が上がるのならば、それに越したこともない。
「助かるわ! それじゃ、私は支援に……と言っても、これぐらいしかできないんだけど……」
 そうしてふわりとリーヴァルディを包むように広がった強化魔法が、大鎌を、体を、コーティングしてゆく。
 これは……これなら、先よりも更に短い血の解放で事足りるかもしれない。少なくとも、大鎌で鎧を刻むまでは、素の力で叶いそうだ。支援としては十分も十分なのでは。
「あとは近寄ってくる亡者の武具を砕いたりして、護衛するくらいかな。無力化は頼っちゃうけど、よろしくお願いするわね」
「……十分、十二分」
 言葉数少なめなリーヴァルディからも、思わず更に言葉が漏れ落ちた。十二分も十二分だ。
 二人いれば集める亡者の数も増やせる。支援もあって、一度により多くを対処できる。そうと決まれば、まずは――アーデルハイドを追ってよたよたと迫って来ている、あの亡者から。――解放してあげよう。
「……ごめんなさい。今は弔っている時間は無い。貴方達を玩弄した者を倒したら、必ず……」
 押し付けられた武具を、砕かれ。押し付けられた命を、啜られ。
 ようやく安息を得た、彼の目は。
「ゆっくり、眠れると良いわね。今度こそ……いいえ、もう二度と貴方達の眠りを誰にも邪魔させない」
 そっと撫でる手に閉じさせられて。もう、開くことはなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

海月・びいどろ
もう、何もかも、分からなくなってしまったんだね
ゆっくり眠れるように、しよう

たくさんには、たくさんを
海月の機械兵士たちを喚び出して、迷彩を纏わせたら
一撃必殺はフェイントで躱すよ

海月の針は麻痺の毒、動けなくしたら一気に行くね
あまり、時間はかけないで
このヒトたちは、あの村のヒトかも、しれないから

海月たちが時間稼ぎをしてくれている内に、さよならの唄を歌うよ

…キミたちのことを考えて、奮い立つヒトがいて
泣いているヒトがいたんだ
勇士であって、おだやかな日々を望んだヒトたち
こころは、みんなのもとに帰れるように

…おやすみなさい



●三基
 ふわふわ、ゆらゆら。
 宙を漂う海月たち。迷彩のベールをゆるり纏って、流される先はどこだろう。
 あっちかな? そうだ、そうしよう。ヒトがいっぱいいる方へ。ヒトがいっぱいいた方へ。
「もう、何もかも、分からなくなってしまったんだね」
 微かに煌めく宙空目掛け、無暗やたらと撃ち込まれる銃弾。さりとて成果が挙がることもなく、海月は気にせず揺蕩うばかり。音はとってもうるさいけれど、もうじき止まるから我慢しよう。もうじき止めるから我慢しよう。
 いくら撃っても効かないからか、彼らはついには盾を押し込みフレイルを回し、広く広く薙ぎ払うことにしたようだ。でも残念、そもそも向きがそっちじゃない。
「ゆっくり眠れるように、しよう」
 海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)が指示を下せば、意識誘う煌めきに翻弄された亡者たちの後ろから、輝く何かがにゅうと伸びて。
 ――チクッ。
 途端、膝突き崩れた彼らの元へ。びいどろは、軽く息を吸い込みながら歩み寄る。
 海月の針は麻痺の毒。きっちり仕事を果たしてくれた。だから、次は自分の番だ。
「よいゆめを」
 ささげた言葉はさよならの合図。
 次第にゆったりゆったり紡がれる響きは、眠りへと運ぶ揺籃のよう。
(……キミたちのことを考えて、奮い立つヒトがいて。泣いているヒトがいたんだ)
 動けぬ彼らを優しく抱いた歌声で、もう動かなくていいんだよと。あたたかく伝えて、諭して――浸して。
 深い深い海に沈むような。けれど、冷たくない、怖くない。大丈夫だよ。
「…………あ、ぁ、ぁ……」
 彼らは、なにを思うのだろうか。
 彼らは、なにか思えただろうか。
 力も、命も、紛い物に囚われたけれど。最後に浮かび上がるものが、ただひとつでもあったのならば。
(勇士であって、おだやかな日々を望んだヒトたち。こころは、みんなのもとに帰れるように)
 きっと彼らは――彼らのままで、帰ることができるのだろう。
「…………りぃ、が……」
 囁くほどにさえ聞こえない。誰が拾えたかも定かでない。言葉の成りかけを落としながら。
 囚われた牢の外側へ。安らかな地を目指し、旅立つのなら。
「……おやすみなさい」
 言葉と共にささげよう、【揺籃航路の子守唄(ブルー・ブルー)】。どうか、良き旅路であるように。どうか、無事に帰り着くことができるように――。

 ふわふわ、ゆらゆら。
 宙を漂う海月たち。迷彩のベールをふるり払って、流される先はどこだろう。
 こっちかな? いやいや、ヒトが見当たらない。それなら少し休んでいようか。
(このヒトたちは、あの村のヒト、だったのかな)
 変わらず揺蕩う海月たちに、帰っておいでと呼びかけながら。びいどろは、眠りに就いた彼らのことを想う。
 蒐集していると言うからには、別の村の住民が被害に遭っていてもおかしくはないけれど。でも、なんでだろう。
 びいどろには、彼らはあの村へと旅立って行ったように思えて――それが、答えであるような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カルティーチェ・ルイナ
うーん、さっきは盾受けじゃなくて盾も捨てて身体で受けた方が…いや、もう終わった話です。

エルシークと戦っている最中に残っていた彼らが背中から襲ってくるかもしれないですし、安らかに眠ってもらうためにも、ここは倒して進みましょう。

「さぁ、カルティーチェが相手になります!」
物理は任せてください!と周囲の猟兵のために囮となって盾受けします。
敵の攻撃を引き受けて、敵の脇腹を他の猟兵が貫いてくれるのが理想です。
銃撃が一番の不安点ですが、受けてしまったら盾で身を隠して時間稼ぎします。幸い戦いながら使うユーベルコードは使う予定はないですからね。
【差し出された救済の手】は落ち着いたら怪我した人に使ってあげます。


法月・志蓮
「さて……流石に何度も撃っていたらバレるよな……ま、なんとかするか」

存在を隠し続けてエルシークに不意打ちの弾丸を与える方が効果的だろうという判断と、遺体を出来るだけマトモな状態で倒してやりたいという心情を天秤にかけて、後者を取る。

まずは狙撃ポイントの選定。民家の屋根の上や太めの木の上など、小高い丘の上にある屋敷へ射線を通せる位置を見繕う。
そして『迷彩』しつつ潜伏し狙撃銃を構え、UC【致命への道筋】と『スナイパー』によって不死者へ死を与える急所を見抜き、一体一体狙撃で撃ち抜いていく。
位置がバレたら反撃が来ないとも限らない。時折移動して狙撃ポイントを変えよう。



●四基
「うーん、さっきは盾受けじゃなくて盾も捨てて身体で受けた方が……」
 のっけからなかなかな発言が飛び出したが、そのあたりは彼女、カルティーチェ・ルイナ(自己犠牲の悦楽を知る者・f10772)のアイデンティティにも関わってくるものだ。
 うーむと悩むカルティーチェ。ただ、よくよく考えたらもう終わった話かと、今の状況への対峙に戻った様子。そっちはそっちで欲求を満たせるかも、と思ったのだろうか。
 改めて正面を見やれば、ずるりずるりと武具を引き摺りながらやって来る亡者たち。隙を見て通り抜けるもできなくはない。が、『エルシーク』との戦いに乱入でもされたら事だ。……それに。
「安らかに眠ってもらうためにも、ここは倒して進みましょう」
 動機そのものには不純が混ざれど、この身の願いは人を守ること。彼らだって、カルティーチェにとってはまだ――守るべき、人だ。自分が引き受けるには、あまりに多くの痛みを抱え過ぎてしまっているみたいだけれど。だからこそ、これ以上引き延ばさずに、ここで断ち切らなければ。
「――さぁ、カルティーチェが相手になります!」
 ずお、と構えた大盾に。全て受け切る覚悟を込めて。
 堅い守りがあれば、それだけ攻めも存分にやれるというもの。尤も、カルティーチェは前者に特化して動く予定だ。後者はきっと任せて良いはず。他の猟兵もこの辺りに来ているはずだし。
 けれどもちょっとだけ気になって、周囲を見回してみた。
「ぅぅぅうううう」
「ああ、あ、あ、ぁぁぁ」
「あれっ?」
 ――初め悩んでいた間にか、他の皆さん既に散開しておられるようです。

 カルティーチェより遥か後方、人が登るに不自由なさそうな木の上にて。己に迷彩を施し、飛んでくる視線がないことを確認すると。法月・志蓮(スナイプ・シューター・f02407)は狙撃用のアサルトウェポンを手に、今成すべきことはと思案を巡らせた。
 このまま戦況を確認しつつ潜み続け、『エルシーク』へ弾丸を撃ち込む機会を探る方が、堅実で効果的、ではあるのだろう。だが。亡者を、彼らの遺体を、真面な状態で残してやるには――。
 そこまで考えて。ふ、と小さな息が漏れた。ここは屋敷内だけでなく、その周辺の亡者を狙い撃つにも絶好のポイントだ。そんな場所に位置取った時からもう、腹積もりは。
「さて……流石に何度も撃っていたらバレるよな……ま、なんとかするか」
 音を殺して狙撃銃――『《ThunderBolt》』の銃口を向けるべく、志蓮は亡者の配置を見やる。目が届く範囲では、概ね猟兵によって対処されているようで――。
「うん?」
 いや、どうも前方が劣勢……劣勢ではないか。余裕を持って凌いでいるようだ。ただ、全く亡者が減っていない。どころか次々集まって来ている。
 一斉に来たる武具を、盾で受け止めるはもちろん。甘い攻撃には叩き付け返して姿勢を崩させ、押し払うついでに他を巻き込み時間稼ぎ。逆に、重い攻撃は完全に身を盾に隠すことで軽減して……と。
 あれだけ集られても突破されない手腕には感心せざるを得ないが、それはそれとして支援は必要だろう。
 ふぅ、と先とは別の、集中するための吐息をひとつ。体勢は整った、観察も十分で、急所も――今、見えた。【致命への道筋(クリティカル・スタンス)】は、ここだ。
「……狙い撃つか」
 有言を即座に実行すべく、狙撃銃より吐き出された弾丸。難しいことはない、通るべき道筋を通るだけのことだ。そうすれば――ほら。
 盾のスパイクを突き出さんとしていた亡者の心臓、その中心に風穴が開いて。びくりと身を震わせた後、静かに行動を停止した。その様はまるで、稲妻に撃ち抜かれたが如く。
「……っ! ……っ!」
 遠く視線の先で、少女が志蓮……より、いくらか外れた方向へ手を振っている。お礼ついでにこちらの居場所が亡者たちに誤認されるよう、気遣ってくれたのだろう。
 それに釣られたか、亡者が反撃にと放った銃弾は見当違いの木を穿っている。もう数発はこのまま支援射撃に入れそうだ。
「……位置、良し。距離、良し。――急所も、変わらず」
 続けて吐き出された一筋の稲妻が、また。一体の亡者の中心へと、落ちた――。

 数が数であったゆえ、片を付けるまでに少々を要したが。カルティーチェが最後まで膝を折ることなく耐え抜き、志蓮が適時ポイントの移動を挟みつつ確実に撃ち抜いたことで、この辺りは掃討が叶った。憂いも断ち切れただろう。
「おかげでしっかり倒せました、ありがとうございます!」
「こちらこそ。数を引き付けてもらえたからやり易かったよ、ありがとな」
 この一帯の状況も落ち着いたので、互いの状態を確認するためにも一旦合流することにした。志蓮としては、そのまま潜伏を続けておく手もあったが。
「しかし大怪我はないものの、細かな傷が多いな。痛むか?」
 独り前線に立って攻撃を受け続けた少女。猟兵とはいえ、かなりの消耗だったろう。次に備えるためにも、軽く治療くらいはしておいた方が――。
「んん、これくらいならまだまだ物足りな……あ、いえ、ぜんぜん平気ですよ」
「……そ、そうか」
 大丈夫であるのなら……大丈夫なのだろう。やせ我慢にも見えない。
 それなら自分はやはり、もう一度潜んでおこう。そう告げようとしたところで。
「あ、そこ、怪我されてますよ」
 言われて手を見てみれば、引っ掻いたような傷があった。登った木の中に少々ささくれ立ったものがあったので、その時だろうか。これこそ、放って置いて良い程度のものだが……。
 ――ぽう、と仄かな光が灯る。カルティーチェの伸ばした手から、ほんのりと。
 それが志蓮の傷を包むと同時、傷ごと跡形なく消えてなくなった。
「これは……」
「カルティーチェの事は気にしなくてもいいんです、あなたを救えたらそれが私の誇りなのです」
 今のはほんのちょっとだけですけどね。
 こともなげに笑っているものの、例え僅かであれど【差し出された救済の手(サシダサレタキュウサイノテ)】には、疲労という形の消耗が付き纏う。人を見定めるに長けた狙撃手の目にも、それは見て取れたが――きっと、踏み込むべきではないのだろう。
 再度礼を返して、志蓮はふと屋敷へ視線を飛ばした。誰かに見られていたような感覚。これもまた、潜伏を役割とする狙撃手独特のもの。
「……『エルシーク』」
 未だ屋敷からは出て来ない。籠城、というつもりでもないのだろうが。
「配下を守ろう。そんな雰囲気はぜんぜんですね」
 倒れてゆく亡者をそのままにしているということは、奴にとってさほど重要でもないということ、か。
 カルティーチェの言葉を受けて。元凶たるを思う志蓮の目が――刺すような鋭さを、増した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

七篠・コガネ
…酷い…ずっと…こんな場所であんな姿になってまで彷徨ってたと言うのですか?
必ず眠らせてあげますから。貴方達を想う人達のためにも

出来れば必要以上に傷を付けたくないです
その亡骸を下手に穢す事のないように専念したいところ
僕を取り囲むように敵を集めたら、『羽型ジェット』と合わせて上空へ【ジャンプ】
そのまま地面目掛けて【猛禽脚】衝撃で間接的に攻撃してみます
直接手を下す…いえ、脚を下す場合は【踏みつけ】で大人しくしててもらいます

…貴方達相手となるとまだ武器は使えません
でもこれ以上終わらない地獄に身を置く必要なんてないんです
だからお願い…どうか安らかに眠って下さい…


アドリブ、絡み歓迎


ユナ・アンダーソン
終ってしまったものに正しい終わりを
楽にしてあげるわ
救ってあげられなくてごめんね

エトワル・ボワ・ジュスティスを振るい
なぎ払い4、範囲攻撃3を用いて広範囲をなぎ払い断頭します

傷ついた仲間がいたら優しさ11、手をつなぐ11、激痛耐性6、鼓舞12を用いて傷奪う星痕を使用
あなたの傷を私にちょうだい?

戦闘が終ったら犠牲者達の冥福を祈り7で祈りつつ
可能なら傷奪う星痕を使用
……生き返らせることは出来ないけど
せめてなるべく綺麗な状態で帰してあげたいしね
―――この魂達に安息と憐れみを

アドリブで他の方との絡み歓迎



●五基
 唸り声。呻き声。
 意識も全てなくなって、それでもなお漏れ出し続ける、音。
(……酷い……ずっと……こんな場所であんな姿になってまで彷徨ってたと言うのですか?)
 彼らが忘れてしまった悲しみや苦しみが、波となって押し寄せてくるようで。七篠・コガネ(その醜い醜い姿は、半壊した心臓を掲げた僕だ・f01385)の心は、それらで溢れてしまいそうになる。――自分が肉の身であったのならば、涙として流していたのかもしれない。けれど。
「必ず眠らせてあげますから。貴方達を想う人達のためにも」
 この身に雫が滲むことはないから。行き場のないこれは、彼らのために戦う決意と変えてしまおう。
 意識を向けたのは、背に搭載された『羽型ジェット』。気体放電……要はプラズマの噴流にて、空へ飛び立つことのできる機構。上を利用するのならば、四方を囲まれたところでさして問題もない。集められるだけ彼らを集めて、より多くの歪められた生に、終止符を。
「待っていて、下さいね」
 決意と変えてなお、溢れてしまいそうな感情の中で。コガネはそれを押し留めるように――あるいは、抱えるようにして。亡者たちの元へと駆け出した。

「救ってあげられなくてごめんね」
 ぽつり。目を向ければ、前方で集いゆく者たちへ投げかけた言葉。仮に届いたとして、亡者には解することもできないだろうが。それでも構わなかった。
 構えた刃先で、反射した光がくるんと回る。携える鎌は命を奪うものなれど。人を苦痛から切り離すための、優しき終わりの象徴でもあって。ユナ・アンダーソン(星骸のスティグマテイカ―・f02647)は、柄握る手に込めた力を、少しだけ緩めた。
 力尽く、ではなくて。ただこの刃が齎すままに。自分はそれをほんの僅か手伝うだけでいい。そう感じられて――。
 思い巡らすに一旦の区切りを付け、再度前方へと目をやれば。亡者の群れの真中に、猟兵の姿が見える。焦りは確認できないことから、集られるも作戦の内なのだろう。
「でも……そうね。数が数だし、手はいくらあっても過ぎるということはないはず」
 まずは支援に向かって、それからのことは――その後、考えよう。
 助力が必要なら飛び込めばいいし、もし彼一人で事足りるのならば、それはそれで別の相手を探しに行けばいいだけ。うん、それなら分かり易いし、手助けというのも嫌いじゃない。
 前方で彼が高く飛び上がると同時、ユナも自らの動きを決めた。

「おお、お、ぉ、ぉぉぉお……」
(出来れば必要以上に傷を付けたくないですね……貴方達相手となるとまだ武器は使えません)
 誘き寄せ、囲ませて、飛び上がるまではコンプリート。さて次はいよいよ対処へと移る番なのだが、直接攻撃をぶつけるというのは、コガネとしてはどうにも気が進まない。もちろん、どうしても必要ならば躊躇わないつもりではいるが……。
(一度間接的に攻撃してみましょう。判断は、それからでも)
 ギシ、と足の鉤爪を軽く動かして調子を確認。次いで目標地点を目測確認。先まで自分がいた場所に落ちれば……よし。彼らを巻き込んで踏み抜く心配はなさそうだ。
 そして――こちらの動きに合わせるように、飛び込もうとしてくれている猟兵も確認できた。例え討ち漏らしが生じても、これならば。
(……行きます!)
 彼女へのアイコンタクトの後、姿勢の上下をぐるりと反転。プラズマの出力も最大に、ミサイルの如き急落下!
 地に突っ込む寸前で、更に速度を乗せて再反転。遠心力まで加えた渾身の足蹴りを――今ッ!
「ぉぉ、おッ――」
 地盤の奥まで砕かれたかと思わんばかりの大震、大災、【猛禽脚(モウキンキャク)】。なるほどこれは、直に食らわせてしまえば原形など。放ったコガネ自身、ここまでの威力は予定になかったのかもしれないが。今回はクリティカル中のクリティカルだった、ということか。
「彼らは……」
 凄まじい反動を強引に振り切って、亡者たちの様子を探る。コガネを取り巻いていた円の中心部、衝撃を近場で受けた者は――一人として、起き上がらない。強い衝撃に撃ち抜かれ、紛い物の命は潰れ果てたのだろう。姿形も無事留められたようだ。……問題は。
「外周部に居た方々は、まだ、ですか」
 がしゃりがしゃりと吹き飛び落ちた先で、軋む鎧を震わせながら立ち上がろうとして――彼らもそこまで、だった。
「終ってしまったものに正しい終わりを。……楽にしてあげるわ。もう、頑張らなくていいの」
 きらきら流星のように光を靡かせて。先行くを示す軌跡の鎌は、『エトワル・ボワ・ジュスティス』。星の断頭台。
 兜の有無など何の障害でもないように、するりするり、彼らの首を刃が通り過ぎた。始まるべきではなかった生へ、もう一度。休んで良いよと、教えてあげるために。
 ――やがて唸りも呻きも露と消えて、残されてしまった沈黙の中で。それでも不思議と、痛みは満ちていなかった。

「それは、何を?」
「生き返らせることは出来ないけど、せめてなるべく綺麗な状態で帰してあげたいから」
 ――あなたの傷を私にちょうだい?
 ユナの右手から降り落ちた光が、亡者の断たれた首へと注がれて。優しき傷を覆い隠してゆく。
 代わりにと、徐々に滲み出すユナの血潮。【傷奪う星痕(ペインテイカースティグマ)】……表皮は繋がった。その内側は、ある程度までにしておこう。全てを奪うにはさすがに、傷の数も質も……だ。
 治療を終えて息吐けば、亡者たちの表情が幾分か安らいでくれたように見えて。コガネも並び、祈りを捧げることにした。彼らに冥福があるように。もう、起こされることのないように。
「これ以上終わらない地獄に身を置く必要なんてないんです。だからお願い……どうか安らかに眠って下さい……」
 先のない過去から解き放たれて、未来へと続く世界に旅立てるように。
「――この魂達に安息と憐れみを」
 絡み付く暗い靄を払い除けて、光の差し込む方向へ歩んで行けるように。

 ――この世界の闇を掻き分け。一筋の光明が、彼らを照らしてくれたような。そんな、気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニコラス・エスクード
彼らの亡骸をなるべく無事に帰したい、と。
その言葉が耳朶を打った。
故に、エン殿(f06076)と轡を並べ。

――然りだ。
報復を向けるは彼らに非ず。
彼らは帰らねばならぬ。
あの輝かしき生命達の元へと。

ならば受けて止めるは俺の領分だ。
存分に使えと、前へ。
この身にて、この盾にて、
我が力の限り留めてみせよう。

寄らば怪力にて押さえ込み、
遠ければ咎力封じにて捕らえよう。
最早その魂は失われども、
その身が帰ることが人々の希望となる。

その身の嘆きは貰っていく。
その身の怒りは連れて行く。
その身を、再度の終焉へ。
送り帰してやろう。

いま暫し休みて待て。
彼奴の命にて報いよう。
いざ、必ずの報復へ。


エン・ギフター
ご大層なモンに詰められちまってまあ
できりゃ、こっからの損傷は最低限で村に帰してやりてえが
鎧と数が厄介だな

…お、戦場で何度か見かけたヤツがいる
ニコラス(f02286)だっけか
なあ、あんまパーツ飛ばさずに倒してんだけど
力貸してくれねえ?

見かけによらず気前いいな、サンキュ
んじゃ俺は、ニコラスが留めているヤツに回り込んで
愛用のナイフ使って
最低限の攻撃で沈められるように動くわ
手癖の悪さが活きりゃいいが

攻撃食らいそうなら
鎧の中まで蹴り抜くなよと念じて蹴刄で対応

嘆きも怒りもニコラスと合わせて二人分搭載できんぞ
運び屋だからな
存分吐き出して、身軽になって海に帰んな

あんたらが守りたかったもんには
手出させねえから



●六基
「ご大層なモンに詰められちまってまあ。できりゃ、こっからの損傷は最低限で村に帰してやりてえが、鎧と数が厄介だな」
 ――そんな言葉が、彼の耳朶をか弱くも確かに打つ。
 亡者たちの有様を見据え、ただ散らし通るは否であろうと思議していたニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)にとっても、それは。
「――然りだ」
 呟きが返事を拾って来て。エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)は、おお? とそちらに目を向けた。
 ああ、見覚えがある。確か戦場で、何度か。
「報復を向けるは彼らに非ず。彼らは帰らねばならぬ。あの輝かしき生命達の元へと」
 どうしたものかと一人悩みに嵌まりそうだったが、同意者がいてくれるのであれば、やりようもあるかもしれない。亡者たちもそろそろこちらに気付いて寄って来始めているし、とりあえず提案するだけしてみようか。
「ニコラスだっけか。なあ、あんまパーツ飛ばさずに倒してえんだけど、力貸してくれねえ?」
「……ふむ」
 寄越された共闘の誘い。轡を並べられるか否か。
 ――考えるまでもない。互いに望みは重なっているのだ。彼らを彼らのままで帰そうと、その一念に。
「ならば受けて止めるは俺の領分だ」
 存分に使え。
 そう背で語るように、亡者に向けて前へと踏み出す。その姿を見ていると、「正面は任せていいな」と自然に思えてくるのだから、不思議なものだ。
「見かけによらず気前いいな、サンキュ」
 すんなり提案が通ったことで、エンとしても随分動き易くなった。数が多いと攻め難いわ、暴れられると狙い難いわで、なかなか手を焼きそうだったが。これなら、正確に斬り分けるも可能だろう。
 肉を斬ろうとして鉄板に触れて火傷するなど、避けるに越したことはないのだから――。

「――ぅぅぅうううううあああ」
 盾のみを突き出し、突貫をかける幾名か。
 速度は良い、力強さもある。狙ったわけではなさそうだが、偶然同時に仕掛けて来たことで、疑似的に連携もできているようだ。
 それでも。
「足りぬ」
 ああ、全く足りない。紛い物の力などでは、全く。
 これならば、先の村人たちの方が『重かった』。そして、恐らくは、このような姿になる前の彼らも、今より遥かに。
 そして、ましてや――この身を、この盾を、同じ盾を以て抜けようとは。
「愚策。……元の魂が宿っていれば、選ぶ事無き策であったろうに」
 しかし万民の守護者たる白妙の盾で、民の掲げた盾を打ち払う、とは。
 ……いいや、いいや。『盟のミクラーシュ』に陰りなどない。最早彼らの、民としての魂は失われているのだ。
 されど、その身はここに在る。人々の希望は、願いは、残っている。ならば。
「――我が力の限り留めてみせよう」
 打ち付けられる盾、盾。幾つと連なり迫るものを広く薙ぐは白妙に。後ろへ抜けんと迫るものを掴み押さえるは紫黒に。
 防ぐついでに腕力の限り砕いて回るも、やや苦労はするだろうが、行えなくはないだろう。だが、役割ではないと切り捨てた。共闘としても、何より、ニコラス自身の在り方としても。
 ゆえに――そこは、エンの出番だ。
「ここらへんか?」
 綺麗に斬ろうと『カトラリー』。おやつは何かと『カトラリー』。
「なあるほど? つまり、こことここな」
 生きていようと『カトラリー』。手近でもいいと『カトラリー』。
「――個体差はねえな。元は違っても、『作られ方』は皆おんなじだったってことかね」
 濁った血を落とすようにとナイフを振って。
 把握するまでが問題だったが、押さえてもらっている間に三人も斬ればだいたい分かった。思いの外早い。使い慣れた愛用品だったからだろうか?
「首尾はどうか」
「最低限で二回ってトコ。喉と……延髄、だっけか?」
 首を断つなり心臓を抉るなりでもいいのだが、全身鎧相手にナイフでやるなら、エンの言う形が手っ取り早そうだ。傷も比較的少なくて済む。
 兜と鎧の間に刃を滑らせて、前から一突き、後ろから一突き。これで完了。
「そうか。では、終わるまで続けるとしよう」
 結構な数の攻撃を捌いて、捌いて――それで息切れすら見せないニコラスの姿勢に。まだまだ終わりは見えないが、残業上等とエンもナイフを走らせに戻った。

 幾人分受けただろうか。幾人分斬っただろうか。
 亡者たちは学習という概念も失っているようだが、数が減ることで変わるものもあるらしい。
「――うおっと」
 エンの脇を掠めて過ぎてゆく、フレイル。それまでは他の亡者を巻き込むからか、ほぼ盾しか使って来なかったのだが。多少密度が低下したことで解禁されたか。
 数が減ったとはいえ、射程距離が伸びたとなればさすがに、エンに届き得る攻撃もある。
 さてどう出ようか? 任されているのは攻めだ。なら?
 ――攻める。
「そらッ!」
 片足を振り上げ、フレイルを振り回さんとしていた亡者の腕を爪で掴み――膠着。
 別に力が均衡しているわけじゃあない。エンがもう片足で蹴り上げれば、それで片は付く。
 ただ。
「………ぁ……」
「泣いてんのか、あんた」
 亡者の目から零れる、朱殷。
 特段理由があるでもなく、見えぬ内側で出血でもしていたのだろう。冷静になればそう思う。そう思う、が。
「エン殿」
 声と共に、するりとロープが眼前の亡者に巻き付いて、その動きを封じた。
 縛り留める【咎力封じ】。ニコラスは迫り来ていた盾を腕力にて押し退け、打ち飛ばし、多少の時間を確保していたようだ。
「安息を」
 その一言で、何を言わんとしたかはすぐに分かった。
 そうだ。……そうだ。言われる前から分かっていたことだ。
 安息を――彼に、届けなくては。
「その身の嘆きは貰っていく。その身の怒りは連れて行く」
 ぼたり、ぼたり。滴る暗き色に触れ、手の内側へと握り込み、誓う。
 憎きを討つは請け負った。復讐の意は、汲み取った。
「その身を、再度の終焉へ。送り帰してやろう」
「……ああ。嘆きも怒りもニコラスと合わせて二人分搭載できんぞ」
 だから、あんたの分も、仲間の分も、全部。
「運び屋だからな。存分吐き出して、身軽になって海に帰んな」
 既に血を流し続けているのなら、これ以上斬るよりはと。鎧に向けて。鎧だけに向けて。蹴り砕かんと、【蹴刄(ボラン)】。穢れた装いは訪れた震動に罅入れられ――ばらばらと、散った。
「いま暫し休みて待て」
 もう、彼の肉体は限界だったのだろう。命だけでなく、武具の力にも頼らねば活動できぬほどに。
「彼奴の命にて報いよう。いざ、必ずの報復へ」
「あんたらが守りたかったもんには、手出させねえから」
 最早動かぬ彼へと告げて。未だ迫り来る彼らへと告げて。
 盾とナイフは今再び、終わらせようと踏み出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

富波・壱子
そこ、通してもらうね。わたし達先に行かなくちゃいけないから
亡者の群れを眺めながら軽くなぞるように首のチョーカーに触れて再度人格を戦闘用に交代

標的を確認しました。これより殲滅を開始します

数は多くとも彼らに連携は不可能でしょう。ユーベルコードによって相手の死角へと瞬間移動し、鎧の隙間を縫って刀で斬りつける、突き刺すなどして一人ずつ順に処理していきます
この後も敵との交戦が予想される以上、この場で余計な負傷や消耗を負うべきではありません。遺体を綺麗なまま留めておくことよりも確実に仕留めることを優先します

それが被害者の成れの果てであっても、倒すべきと判断したなら私は一切躊躇いません。もう一度、殺します


花盛・乙女
…なるほど。
先は民を退かせて正解だったな。
このような姿…見せていては猟兵の立つ意味がない。
よかろう。迷えも出来ぬ戦士よ。
この花盛乙女が刃にて、三途を渡る木戸銭をくれてやろう。

獲物が万が一にも生き延びることのなきよう、狙うのは首だ。
二振りの斬撃で首を討つ。
一太刀で落とせなければ、落ちかけたその首を拳でもって刈り取ろう。
落ちた首は確実に顔は潰してやる。
万が一にも、誰も見ていないとは限らんからな。

私の【雀蜂】は、一斬二打の必殺剣だ。
一撃が入れれば落とすのは容易か。
目に付くものは全て斬る。首を落とすのだ。

…貴方方に今の村の気持ちを見て欲しかったが、許されよ。
せめて音もなく、安らかに。


加賀宮・識
徘徊する元戦士達、やはり生存者はいない…か。
目を閉じ思う、そんな姿を仲間達に、大切な人達に見せたくはなかっただろう。
その呪縛から解き放つ手伝いをさせてもらう。

いくら見通しがよくても油断せず、仲間達の様子を見ながら注意しつつブレイズフレイムを放つ
そこから逃れた亡者達がいるなら鉄塊剣で対応

攻撃が当たったならば、甘んじて受け止める
慟哭、痛い程分かり過ぎ
狂う程に心に響くだろうが、私には今更、でそれが糧になる。
もっと強くなれるから。

申し訳ないが、容赦はしない
(アドリブ、共闘大歓迎です)



●七基
「……なるほど。先は民を退かせて正解だったな」
 亡者たちを見て取って。常人ならば背けたくなるであろう光景へと、花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)は目を向け続ける。
「このような姿……見せていては猟兵の立つ意味がない」
 気に入ったもの以外を、『エルシーク』は兵として扱うと聞いた。だが、好みの問題となると、ただ二分するだけでは済まない場合もある。
 お気に入りの下の。更に、下。
 例えば、ここまで来たが力が足りず即座に打ち倒された者。
 例えば、奮起はしたが最後の最後に恐怖に彩られてしまった者。
「『エルシーク』にとっては、取るに足らぬもの……か」
 唸りも呻きも――ない。
 雑な保存、雑な扱い、雑な処理。喉も、顔も、腐れかけているのだろう。動きも、もう、勇士とも、兵士とも。
 それでも足を引き摺り近付いて来るのは。他の亡者たちよりも更に無理矢理、命やらを捻じ込まれたためか。
「よかろう。迷えも出来ぬ戦士よ」
 風が斬られる音がして。それが耳に届くより疾く、乙女は己が刀を構え終えていた。
 重く、脆く、醜く――伝家の一刀、『極悪刀【黒椿】』。
 如何なる技巧派が振るえど、人はおろか獣の命すらも斬り捨てられぬであろうが。これは、『花盛』の刀であるのだ。ゆえに、『花盛』が用いるならば――。
「――この花盛乙女が刃にて、三途を渡る木戸銭をくれてやろう」
 ぷちぷちと、今にも千切れてしまいそうな腕でフレイルを振り被る亡者へと。乙女は気負いのひとつも見せず、持たず、踏み込むと。悪刀一閃払い抜いた。
 ――からんからんからん。
 兜が、首が、抵抗もなく落ちる音。
「……万が一にも、見られぬことのないように。……済まぬな」
 転がる首へと落とされた、拳。
 今の顔に判別が付くか否かは分からなかったが。縁者であれば、もしやするかもしれない。
 その時の気持ちを考えれば。先んじて顔を潰すより他は、なかった。

 崩れ落ちる手前のような亡者たちへ。最早正しき生命を宿さぬ彼らへ。目を閉じ、思い巡らせる者が、ひとり。
(そんな姿を仲間達に、大切な人達に見せたくはなかっただろう)
 在り方は歪めど、姿として生前の趣があるのであれば、そのまま村へと帰してあげられたかもしれない。しかし、加賀宮・識(焔術師・f10999)の周囲に集まる亡者たちには。腐れておらぬ者は、誰も。
 ならば――ならば自分が今、やるべきは。
「……その呪縛から解き放つ手伝いをさせてもらう」
 鉄塊の刃を引き起こし、腕にぴたりと押し当てて。
 躊躇もなくその身を裂けば――識の覚悟を示すように、噴き出し燃ゆる地獄の紅蓮。
「申し訳ないが、容赦はしない」
 煌々とした【ブレイズフレイム】の輝きに。されど来たる亡者は速度を緩めず、こちらへ向かわんとにじり寄る。……輝きに捕らえるまでの一瞬に、一撃程度は、もらってしまうか。
「――ぐ、く……あ……っ」
 地獄を突き抜け、飛来したフレイルは。ああ、甘んじて受け止めよう。
 彼の苦しみが、彼の慟哭が、武具を血を骨を伝って、心の底にまで響き渡るが。識にはそれが。分かって、しまうから。
 ――恐れを知らぬ練達の士であれば、さしもの猟兵もここからの苦戦は免れなかっただろう。しかし、恐れを奪われてしまった亡者となれば。結果はまさに、火を見るよりも明らかで。
「どう、か。安らかに、昇ってくれ。貴方達の、村の人々の、想いは。受け取った、から」
 紅の中、影だけ残して――その影すらも、溶かして――消えてゆく彼へ。識は苦悶に浸されたような身と心で。それでも祈りと、約束を捧ぐ。
 受け取ったのだ。確かにこの手に、この胸に。
 任せろと言ったのだ。確かにこの口で、この想いで。
「……これ、は」
 影が全て消えた頃、地獄を収めて見てみれば。そこには彼らが身に着けさせられていた鎧やら武具やらと共に、鉄らしき金属片が落ちていた。
 熱も構わず拾い上げて。微かに残る凹凸を、指で感じ取ってみれば――。

「そこ、通してもらうね。わたし達先に行かなくちゃいけないから」
 肌身離さず首を隠すチョーカーに、触れ、なぞる。それで、『交代』は完了。
 目の前で蠢く亡者の群れも腐れているようだが。例えそうでなくとも、富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)にとって、これからの行動が変わることはない。
 優先順位の問題だ。最終目標が『エルシーク』である以上、それを討つに最大限注力すべし、と。個でなく全を見据えた壱子の行動理念もまた、世界のために過去を滅する猟兵として、間違いなく正しきもののひとつ。
 ゆえに、加減はしない。容赦はしない。躊躇いなども、当然に。
 被害者の成れの果て。だとしても、今は倒すべき敵だ。ならば、殺す。
「――標的を確認しました。これより殲滅を開始します」
 改めて見回してみれば、亡者たちは予想に違わず連携など考えられる状態にないようで。ただ、もし仮にこの数が飛び道具に集中してきたら厄介そうではあるのだが。
「そちらから」
 亡者がマスケット銃を持ち出す暇など、与えてやる義理もない。
 群れの一角、外れの方へと意識を向ければ。それだけで、壱子の姿は瞬時に掻き消え――次には、亡者の首を跳ね飛ばした。
「首。首。心臓」
 死角への瞬間移動、【あなたを決して逃さない(アサルトジョウント)】。流れるように続くは変幻自在の刀剣、『カイナ』の斬撃。鎧の隙間を通すに易い、薄い刃へ。斬るに易い、刀の刃へ。突くに易い、刺突剣の刃へ。
 首を跳ねれば動きは止まる。心臓を突けば動きは止まる。
 止まれば倒した。倒せば次へ。
「首。心臓。心臓。首。……」
 テンポ良く斬り伏せていたが、不意に壱子の動きが鈍る。
 どうにも正面に見える亡者は密集し過ぎていて、死角へと入り辛い。まぁ、無理に死角からでなくとも斬るだけの技量は持ち合わせているが。敢えてそこへ飛び込む必要もないだろう。
「では、別の一角から」
 斬り崩しに向かおうとして――正面へ、うねる紅蓮が喰らい付いた。
 膨らみ弾け飛ぶこともなく、周囲へ広がることもなく、亡者のみを咀嚼して。その身を生より解放してゆくと。やがて、音もなく萎んで消える。
「無用な助力、だったかな?」
「いえ。手早く片付くならば、それが最良ですので」
 消えた奥より現れた識は、「それなら良かった」と返しながら、何かを拾い上げている。
 何を? という疑問は置いておいて。壱子はそれより殲滅を優先することとした。ある程度は数を削れたが、まだ片付け終えてはいないのだから。
「それでは」
 短く残して瞬間移動。変わらず位置を次々と移りながら、首を心臓をと貫き始めた壱子を見て。自分はどうしようかと、識もまた動きを模索する。
 再度地獄を放っても良いが、矢鱈と用いてしまっては、瞬間移動を繰り返す壱子には少々やり辛い戦場となってしまうかもしれない。
「となると――」
 背後より、投げ付けるように飛び来たフレイルを、振り向くついでに――砕き潰す。
 扱うは鉄塊の如き、剣。扱い方も鉄塊の如し、だ。銃弾が来れば盾として受け、盾を構えられれば鈍器として叩き割る。
 しかし武具への対処は良いのだが。彼らまで圧し折り潰して退ける、というのは、些か……。
 ――からんからんからん。
 落ちる兜に横へと視線をやれば、刈り取られた首がひとつ、ふたつ。
「……貴方方に今の村の気持ちを見て欲しかったが、許されよ」
 一太刀振るって首を刈る。
 悪刀と共に抜き放たれた、『小太刀【乙女】』。母より賜った逸品も加えれば、骨肉断つに不足など。
 尤も、盾やらなんやらで、通り自体が浅い場合もなくはないが。浅かろうが、一度通った後ならば。
「一斬二打。せめて音もなく、安らかに逝くが良い」
 刀が刻む一撃と、拳で押し込む二撃にて成る。これが乙女の我流実戦術、【雀蜂(スズメバチ)】。顔を潰す二撃目は、本来術の流れにあるものだ。
 ――さぁ、刈ろう。目に付く全ての首を落とし、彼らの生を摘み取らねば。在るべきところへ、在るべき結果へ。還して、やらねば。
 そうして刀の向け先を探せば……武具すら失い、彷徨う亡者が。
「頼んでも良いだろうか? 私の得物では、潰してしまい兼ねないから」
「ああ、構わない。ただ、私も潰すことには変わりはないが……」
 潰してしまう、と、敢えて潰す、では。後に炎で天に送るとしても、やはり感覚としては違ってくるものだ。
「火葬か。姿を晒してやらずに済むのならば、確かにそれも良い」
「もう一つ理由もあるんだ。これを――」

「――完了を確認」
 壱子が殲滅を再開してから暫し。あれだけ蠢いていた亡者の群れは、全てが動きを止めていた。
 途中から作業に取り組む人数が増えたのもあって。当初自身のみで想定したよりも、消費する労力に時間と、共にかなり抑えることができた。
 殲滅中に意識を更に外へも向けてみたが、どうもこの一帯の完了によって、屋敷周辺全体で見ても亡者は処理し終えたようだ。あとは屋敷へ向かい、最終目標と交戦するのみ。
 そう考えていると、先の猟兵も屋敷へ向かわんとしていて。ああ、そう言えば。
「あの、さっき拾っていたのってなんですか?」
 どの道まだ他の猟兵も踏み込む前だ。平時用の人格に切り替えて、聞いてみる。
「ああ、これ……お守り、みたいなんだ」
「お守り……?」
 金属片を手に取って、ほらここに、と識に言われるまま指で読み取ってみれば。名前らしきものと、無事を祈るような一文が。
 認識票というよりは、なるほど、お守りらしい。乙女も一枚を手に取り、眺める。
「村で武具を揃えていた時に、端材で拵えたか」
 後で荼毘に付してやれば、腐れた肉に埋もれていても取り出せる。遺体は残らずとも、遺品は、ここに。
 揃えて村へ届けるためにも。討つべき時は、来た。
 カタカタと、重なり鳴ったお守りも。そう頼んでいるように、訴えているように。――願っているように、思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『往生集め『エルシーク』』

POW   :    賢者の双腕
見えない【魔力で作られた一対の腕】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    蒐集の成果
自身が装備する【英雄の使っていた剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    幽暗の虫螻
【虫型使い魔】の霊を召喚する。これは【強靭な顎】や【猛毒の針】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第3章
「ふぅむ。質はともかく量は揃えていたつもりなのだが」
 玄関を過ぎれば、広々としたサロンにて屋敷の主が出迎えてくれた。
 蒐集品を取り戻されてさぞお怒りかと思いきや、さほど気にしてもいないようだ。
「あれらが全て二束三文……とまでは言わないが。特に価値のある逸品はきちんと保管しているのでね。まぁ、目くじらを立てるほどでもないのだよ。それに」
 キミたちのような勇士を蒐集できると思えば、安い費用じゃあないか。

「――おおそうだ、冥土の土産というものだったか? 折角ここまで来たのだから、人生の最後にワタシのお気に入りの話を聞いていくかね?」
 膨らみかけた戦意が急に霧散したかと思うと、『エルシーク』は返事を待つこともなく、嬉々として語り始める。
「上階に置いてあるのだが、これが傑作でね。死の間際になってなお命乞いやら恨み言やらでなく、自分の……なんだったかな? 妻だか妹だか……とにかくそういうものの名前を呼んで、済まない済まないと繰り返してだね――」
 ――言葉でも、力でも。
 黙らせるに手段を選ぶ必要は、ないだろう。
アーデルハイド・ルナアーラ
「貴方が領主エルシークね。村人達から奪ったものを返して貰いにきたわ。悪趣味なコレクション集めは今日で終わりよ」

最初から真の姿(銀色の人狼)を解放、一気に距離を詰めて格闘戦を挑むわ!魔法使いっぽい外見だし、近距離戦は苦手と見た。

半端な攻撃は身に纏った雷の鎧が弾いてくれるけど、駄目そうなのは拳で叩き落とすわ。
一人で勝てるとは思わないけど、腕の一本でもへし折れば私達が有利になるはず。村人たちの為にも、ここで必ず報いを受けさせる!

連携、アドリブ歓迎
※ユーベルコードの詠唱は適当に改変してもらって結構です


ニコラス・エスクード
ものを価値も判らず蒐集家か。
ものを無碍に扱う分際で蒐集家か。
その醜い有り様にこそ価値がない。
その生命こそ、
無碍に、無惨に、散らしてやろう。

必ずの報復を、必ずの復讐を。
この身にて、報復者達より引き受けた。
この身にて、復讐者達より貰い受けた。
代行者たるこの身は此の時の為に。

我が身は同胞たる黒鉄に委ね、前へ。
彼らの意思を、怒りを。
痛みを、嘆きを。
この身は憶えている。
故に全てを彼奴へと返さねばならぬ。

凡てを膂力の侭に打ち砕き、前へ。
よもや我が身は止められまいと。
全てを呉れてやろうと捨て身の儘に、前へ。
もはやその身では受けられまいと。

『さぁ、報いを受けろ。』

我が身に宿りし、報復の刃を。



●一齣
「やはり勇士と言うからには、それくらいの気概はなければね。その点、周りに置いておいたあれらはどうにも――」
「ものの価値も判らず蒐集家か」
 ぴーちくぱーちく。囀りと呼ぶには不快に過ぎるそれに、言葉のボールが投げつけられた。刺で覆われたような。あるいは、金属みたく硬そうな。
「ものを無碍に扱う分際で蒐集家か」
 ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は足を踏み出す。一歩前へ。もう一歩前へ。止められるならば止めてみろ。
 この身の報復は、報復者たちより引き受けた。この身の復讐は、復讐者たちより貰い受けた。
 なれば、代行者たるこの身は。
「その醜い有り様にこそ価値がない。その生命こそ、無碍に、無惨に、散らしてやろう」
 ――今此の時の為に、在る。
「……性急なことだ。ワタシは拙速よりも巧遅の方が好みなのだがね。その方が良い仕上がりにできる」
 やれやれと、溜息交じりに『エルシーク』が穢れた魔力を形作れば。
 ぶわん。目には見えない、が、何かが大気を押し退ける音。
「しかしまぁ……急ぎ蒐集品として加わりたいということであれば、その心意気は買おうじゃないか」
 芝居がかった様子で指を鳴らすと。荒々しく飛び回り風を生み出しながら、何か――不可視の両腕――が、膨れ上がり。ニコラスを挟み潰すように放たれ――。
「欲を張った台詞の割に、随分と謙虚な事だ」
 獲れるものならば、好きに呉れてやるつもりであったが。我が身はおろか、同胞たる『玄』の破片すらも掴まぬとは。
 めきりと響く衝撃に打ち据えられども。罅一つ入らぬ黒鉄と共に、紫黒の片腕が不可視の片腕を塞き止めていた。――もう片腕は?
「悪いけど、私達は貴方の下に納まりに来たわけじゃないの」
 野獣の如き勘で以て認識し、猛獣の如き剛力で以て押さえ付ける。それが触れられるものならば、不可視であろうがなかろうが、対応を変える必要もない。
「村人達から奪ったものを返して貰いにきたわ。悪趣味なコレクション集めは今日で終わりよ」
 バチリバチリと弾け飛ぶ蒼雷を纏い、アーデルハイド・ルナアーラ(獣の魔女・f12623)――己が人狼たる姿を曝け出した彼女の、銀に染まる毛並みが揺れる。
「ほぅ、銀に蒼とは良く映える。目で楽しめる品というのもなかなか悪くない」
 蒐集目線での批評など不要だと、いくら言ったところで分からぬか。
 雷がますます激しくその牙を打ち鳴らせば、合わせるように込められた力も重みを増して。ついにはぐしゃり、不可視の片割れを圧し潰す。
 すると同時に、紫黒の前からも一切の圧が消え果てた。いかに得手も好みも肉弾戦に偏っていようが、アーデルハイドはウィザードだ。それを見れば、扱われた術式がどういったものか、粗方の想像は付いた。
(つまりあれはそれぞれ独立しているのではなくて、腕同士連動しているのね)
 ゆえに一対を呼び出すまではスムーズで、動きを連携させるも容易いが。反面、片腕が消えれば繋がっていたもう片腕までが後に続く、と。
 ならば、ここは。
「あの魔法、一人相手ならともかく……複数を相手取るには向いていないわ。繰り返そうとしている内に、畳みかけましょう」
 音を聞けば、なるほど。ニコラスの耳に再び、大気を押す響きが届いた。元より停滞の意はない。このまま突き進むが妙なれば、それに準じるまでのこと。
 しかし何故手を変えてこない? まさか文字通り、変える手がないというわけでも――。
 そう考えかけて。ああ、と腑に落ちた。
「民を嬲るばかりのものが、実戦に秀でるわけもないか」
 加えて、たかが騙りでありながら、蒐集家としてのプライドまで持ち合わせて。あの分では戦法が悪手だとも気付いていないか。もしくは、悪手であろうが事足りるとでも思ったか。
「――来たわ!」
 大気の流れを敏感に察知し、されど今こそ距離を詰めんと、アーデルハイドが走り駆け抜け飛び掛かる。
 畳みかけよう、との言葉は。作戦提案というよりも詰まる所、自分がそう動きたいから、の一言に集約されるものだった。『この状態』ではどうにも、思考まで獣に引っ張られがちになる。
 ただ、それもそう悪くはない。おかげで――戦い自体は気分良く、力を振るえる。敵が、どうであれ。
「邪、魔ぁっ!!」
 迫り飛び来る両の手を、叩き付けるような雷で落とし返す。痺れが残るからか動きも一時的に鈍り、このままならば合間を抜けるは難くない。
「良く映えるとは言ったが……実に厄介この上ない。少々勿体無いが、体ごと砕くとしよう」
 轟と膨れ上がる気配は、先のものよりなお大きく。重なり組み合う拳のような形を作ったことも、アーデルハイドには感じ取れた。だが、どうしたところで、所詮は。
「二番煎じに過ぎぬ」
 ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり――――!!
 散る火花に黒鉄の色が混ざれど。割り入り真っ向から受け止めたニコラスは、退かぬ。
 退かぬのだ。
「この身は憶えている」
 彼奴に返すべき意思を、怒りを、痛みを、嘆きを。
 この身は、覚えている。
 ……あれは重かった。実に痛く、苦しいものであった。それと比べて。――眼前の拳の、なんと軽く、緩いことか。
「別に私も、一人で勝てるとは思っていないわ。けどね」
 代行者たるが組み合う拳を更に上から組み留める、その間に。弾ける蒼が幾重にも集い、絡み、帯へ。
 揺らぎは静まり、ただ一枚の布のように織り成され。もはやこれは、纏う、でなく――。
「一人一人が骨の一本でも圧し折れば、私達が貴方程度に敵わないなんて道理はない」
 ――雷を、着ている。
「村人達の為にも、ここで必ず報いを受けさせる――奥の手よ、ぶっ飛びなさい!!」
 放つ拳を、【蒼雷鎧装(ライトニング・ドレス)】――衣装と化した万雷で包んだとあらば。同じ拳のひとつやふたつ、どうして貫けぬであろうか。ましてや。
「ぬぐ、抜けっ……!? おお、お……!!」
 片腕に捻じ込ませれば、それだけでよいのだ。
 障害が諸共に消滅した今、勢いそのまま飛び込むアーデルハイドを止める術などあるはずもなく。『エルシーク』の薄い身は、拳に、蒼雷に、内部までまとめて粉砕されんばかりに穿たれて。
 血反吐迫り上がる感覚は、身を捩れど治まらず。
 されど、それだけでは足りぬではないか。見下ろす双眸が、語りかける。
「此れが貴様の撒いたものだ。此れが貴様の育んだものだ。――さぁ、報いを受けろ」
 最早その身では受けられまいが、それでも全て余さず呉れてやろう。
 滲む己が血を水に。抉れた己が肉を土壌に。削れた同胞を栄養に。芽吹いたそれに、報復の名を付けて。波が如く咲き広がり、裂き広がる。【報復の刃(レクス・タリオニス)】。
 ――斬り寄せる荒波に呑まれ。蒐集家擬きの身が、舞った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

護堂・結城
リン(f03275)と参加

希望を抱くも絶望に沈むも、今を生きる命にだけ許された特権だ
過去の遺物がしゃしゃり出てくんじゃねぇ
……生死を弄ぶ外道、殺すべし

【POW】

氷牙は斬馬刀に変身させ【念動力】で浮かせた全武装と共に突撃

賢者の双腕は【第六感】で察知次第【武器受け・オーラ防御】でガード
【カウンター】に【破魔】を込めて切り捨てる

「雪見九尾の咆哮、とくと味わえ」

UCの射程圏内に入ったら『雪見九尾の獣皇咆哮』を発動
複製武器に炎雷風氷光闇毒と思いつく限りの【属性攻撃・生命力吸収】を載せて一斉発射の【範囲攻撃】だ
追い打ちで氷牙の斬馬刀を【力を溜め】た【怪力】で【投擲】する

「欠片も残さず、死に絶えろ」


狐宮・リン
護堂・結城(f00944)さんと参加

この……っ、外道……!

命を……想いをなんだと思ってるのです!!

絶対に許さない……
許されてはいけないのです……!
刀の……錆にしてやるっ……

【SPD】
ユーベルコード【狐の嫁入り】を使用して相手を集中砲火します。
打ち出すタイミングは結城さんに合わせますね!

接近戦闘は霊刀【白狐】と妖刀【天狐之戦爪】の二刀流です。
白狐は雷の属性を持たせます。

夢幻の霊刀で呼び出す刀は、戦闘知識と世界知識で解析して使うようにします。



●二齣
「希望を抱くも絶望に沈むも、今を生きる命にだけ許された特権だ」
 べしゃり血と共に降り落ちた『エルシーク』へ。
 例え赤い色が体に通っていても。それを含む全てが、骸の海より染み出しただけの異常なもの。なればこそ、護堂・結城(雪見九尾・f00944)に『手を抜く』などという考えは宿らない。どころか。
「過去の遺物がしゃしゃり出てくんじゃねぇ」
「う、ぐ、ゴホッ…………はは、なるほどなるほど、耐え難き苦痛とはこういうものか。いやいや、貴重な経験だ。過去の身でも経験を今後に活かせるというのは、素晴らしいことだと思わないかね?」
 キミたちを処理し終えたら、早速あの村で試すとしよう。
 血反吐を吐き捨てて、いかにも楽し気に笑ってみせる様は。痩せ我慢、ではない。
 汚泥よりもなお醜悪な言葉。これには、むしろこちらが反吐を吐く想いになりそうだ。
「良い悲鳴が上がるだろう。良い怒りに溢れるだろう。腰の重い勇士が立ち上がる切っ掛けとなるだろう。ああ、心が躍るじゃないか」
「この……っ、外道……! 命を……想いをなんだと思ってるのです!!」
 共にこの場へ駆け付けた狐宮・リン(妖狐の若女将・f03275)も、また。あまりの不快と、それを上回る業腹に。すぐさま仕掛けようとする体と掻き乱されそうな心を、必死で鎮める。
 あれは挑発かもしれない。攻勢を誘って、何か策で返そうとしているのかもしれない。頭のどこか冷静な部分が、機を窺おうと意見する、が。
「ふむ? 命と想いとは、輝く前の原石のようなものだろう。『だからワタシが価値あるものとして仕立て上げている』んじゃあないか。困ったことに、紛い物もよく混じっているのだがね」
 ――さも当然といった様子に。それが挑発でもなんでもなく、ただ掛け値なしの本音であると、理解してしまえば。
「……生死を弄ぶ外道、殺すべし」
「絶対に許さない……許されてはいけないのです……! 刀の……錆にしてやるっ……」
 結城とリンを抑えていた箍は、僅かの間も置かず弾け飛んだ――。

 一対二。人数で見れば二倍の手数。
 とはいえ、『エルシーク』は元来己が手のみを扱う質ではない。慢心に浸り、横着にも先では術式ひとつで片を付けようとしたようだが。それで届かぬと分かれば。
「これは件のお気に入りが携えていた物でね、あまり酷使したくはないのだよ」
 致し方なし、といった風で放られる直剣。これもおそらく農具が元であろうことから、お世辞にも質が良いとは言えないが。瞬時に宙を覆うのは、それを補って余りあるほどの――量。
「ゆえに、これらコピー品を贈呈しよう。キミたちは最悪継ぎ接ぎでも良しとするので、遠慮は要らない。いくらでも肉に沈めてくれたまえ」
 言うや否や、数十と飛び交い始める剣戟に。しかし結城は焦りを感じない。なぜか?
「氷牙」
 短く名を呼べば。それだけでお供の竜は意を酌んで、望まれた在り方へと変貌を遂げる。
 ――ああ、なぜかと問われれば、理由は実に簡単なこと。
「空っぽじゃねぇか」
 竜の変じた斬馬刀で斬り払ってみれば。何も籠っていない。何も宿っていない。オリジナルは遠目にも、未だおどろおどろしいほどの想いに塗れているのが見て取れたのに。このコピー品には、何も。
 そりゃあ刃物は刃物だ。触れれば斬れるだろう。刺されば痛いだろう。――だから、なんだというのか。
「こんなものを……こんなものを、あの想いのコピーと呼ぶのですか……!」
 夜空の如き紺青より抜き放たれる鋒両刃造、『妖刀【天狐之戦爪】』。想いに呼応し纏を変える、『霊刀【白狐】』。二振りを以て斬り結べば、リンにもその劣悪さが、嫌というほどに感じ取れた。オリジナルとかコピーとか、そういう次元ではない。縫い合わせた人の皮に綿を詰めて、人間だと言い放つような。そんな、歪な――。
 ふと気付けば、リンに従い雷を刀身に走らせた【白狐】までもが、震えているように思えて。想いに鋭いものから見れば、あれはさぞかしやるせない代物だろう。思わず、柄握る手にぎゅうと力を込める。
「どれだけいようとも脅威じゃねぇが、蝿を掃い続けるってのも埒が明かない。……リン」
「はい、私はいつでもいけます!」
 阿吽。
 伝えたいことは目を見れば伝わる。これもまた――想いと、呼ぶのだ。
「雪見九尾の咆哮、とくと味わえ」
 ぶわり浮かび上がった幾つもの、尾。何れも冠する名は大罪にして、怨敵を害す刀でもあれば。黒、赤、蒼、緑、紫――色取り取りに翻り、コピーにも劣る剣の形をしたものを、払い寄せ付けぬ壁と化した。
「諦めない姿勢は大変結構なのだが、そろそろワタシは蒐集品を愛でる時間なのだよ」
 その姿勢のまま、絶えてくれ。
 結城を握り潰さんと迫り来る感覚。先にも見えた不可視の両腕だろうが……知っていれば、どうとでも。
「――そこだ」
 感じるままに斬馬刀を、浮かべた刀たちを、一点を受けるように重ねて。猛突する不可視がそれに触れた瞬間、四方八方へとそれぞれの刃を内から外に走らせれば。
 目に映らずとも、盛大に刻まれ散ったであろうことが手応えとして、見えた。
「……それで対応したつもりかね? ならば何度目にキミの集中が切れるか試して――」
「いいや」
 時間稼ぎはこれで、十分。
「晴天でも降り注ぐ刃の雨……」
 霊刀より誘うは。言葉そのまま雨にさえ届く刀剣の、突き付けられた切っ先、切っ先。
 これらは、刀だ。紛うことなく、形のみの品でなく。刀だ。
 リンの知識に沿って呼び出されたが、正しく刀として在ることに。安堵を覚えたのは、他ならぬリン自身であろう。歪に染まらず、空虚に堕ちず。だからこそ、胸を張って刀と共に、結城と共に、戦える。
 そして、それは。
「希望はどこにもないのかもしれない」
 数で追い込んでいたつもりが、数で攻められるという状況に。怯んだ『エルシーク』の意識が、己から外れたことを見て。結城もリンと立ち並ぶべく、魔を載せるための言の葉を紡ぐ。
 希望がなくとも構わない。それならばそれで、己が役割を見定めんと。
「ならば……俺が、希望になろう」
 紡いだ先には、錬成された武具の数々。――ああ、これらも。希望に成らんとして作り出されたものが、見るに堪えぬ劣悪品であろうはずもなく。
「よもや、こんな……」
 宙を覆い尽くすコピー品を、更に一回り二回りと覆い尽くされ。
 ――唖然とする暇など、もう、この者に残されては。
「欠片も残さず、死に絶えろ」
「……受けてください!」
 五行思想に四大元素。思い付く限りの属性と、命吸い取る力を載せた、【雪見九尾の獣皇咆哮(ナインテイル・ソニックシャウト)】が。
 絶えず降り注ぐ豪雨から、照り返す光までも刃の如く煌めき続ける、【狐の嫁入り(キツネノヨメイリ)】が。
 そうして最後に。渾身抱えて放たれた、斬馬刀が。
 内の全てを斬り破り、『エルシーク』へと突き刺さった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
事前に防具を改造して第六感を強化
殺意の存在感を視覚化する呪詛を付与して攻撃を見切り、
【吸血鬼狩りの業】を駆使して大鎌によるカウンターを試みる

口舌を交わす気にもならないけど…。
私達を呼び寄せた事、高くついたと後悔させてあげる…。

【限定解放・血の教義】を二重発動(2回攻撃)
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して魔力を溜め、
“過去を世界の外側に排出する闇”を大鎌に宿し維持

怪力を瞬発力に変えて接近し大鎌をなぎ払い、
傷口を抉るように災魔を消滅させる“闇の奔流”を放つ

…お前には、死すら生温い。
この世界から、存在その物を消してあげる…。

…全て終わったら【常夜の鍵】に遺体や遺品を回収
村へ戻り、家族と引き合わせる



●三齣
 狩るならば、下準備は入念に。
 着用した『黎明礼装』、『黎明外套』へ。陰に潜みつつ術式に呪詛にと刻み込んでいたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、刀剣を全身より生やした『エルシーク』の姿を眼前に捉えた。
「……ぞろぞろと来るなら来るで、家主の意向に従ってもらいたいものだね」
 どうも、こちらの存在には気付いていなかったようだ。ぶちぶちと、薄い身がへばりつく刃を抜き捨てているのを見るに、まだ狩り取れるまで時間はかかりそうで。あれだけ血やら肉やら失っても動けるあたり、やはり常なる存在ではないのだと。改めて認識し直す。
「なんとか言ったらどうかね?」
 ようやく針鼠から脱却したところでそう問われるも。今までの言動はしっかりと見ていたのだ。口舌を交わす気になるはずもない。
 ただ。
「私達を呼び寄せた事、高くついたと後悔させてあげる……」
「……ふん、パーティーなぞ催した記憶もない。押しかけて来ておきながら、失礼な話だよ。だいたい――」
 ――違和感。
 話好きなのは解していたが、にしても口数が多い。加えて、殺意が見えるよう感じられるようにと諸々用意をしたにも関わらず、『エルシーク』からは何も――。
「…………そう」
 そういうことか。
「おいキミ、話を聞いて――!?」
 会話ごと叩き切るように、リーヴァルディが大鎌を振り下ろすは、己が背後。
 そうすれば、キィと、小さな断末魔が連なった。……見えぬはずだ。虫の使い魔に任せて、彼奴自身は端から動くつもりがなかったのだから。しかし、感覚までは誤魔化されなかった。
「ちぃッ……」
 響く舌打ちからして、今仕掛けられるのは都合が悪いようだ。
 つまりは今が、仕掛け時。
「たかが数匹斬った程度で図に乗られては困るのだがね……ッ」
 わざわざ会話を引き延ばそうとしてまで、使い魔に頼る戦法を取った。リーヴァルディにはなんとなく、その意図が読めた気がした。
 まだ体力が残ってはいるのだろうが――消耗の著しさに、焦りを覚えたのだろう。このままでは耐え切れない。なんとか回復の時間を稼がねば、と。
「ゆけ、虫螻共よ。餌の時間だ」
 駆け寄るリーヴァルディ目掛け。もはや仕込みを入れる時間もないと、直接使い魔を嗾けて来るが。
 まるで攻撃を読んでいたかのように、既の所で身を躱す。――切るタイミングはここだと、代々の秘奥によって攻撃を予測する、【吸血鬼狩りの業(カーライル)】。そして。
「……限定解放」
 斬るべき札を出し惜しむ愚など、犯さない。
 吸血鬼の力の限定的な解放。それだけでは足りぬからと、もうひとつ、その先へ。
 二重に扉を抉じ開ける――言わば、過重解放。
「吸血鬼の、オドと、精霊の、マナ……!」
 負担の上に積む負担。苦痛の下に挟む苦痛。
 カウントは亢進。増大し溢れそうな生命力は、自ら吸い取り魔力へと変換。
 ――そうして、今。
「……お前には、死すら生温い。この世界から、存在その物を消してあげる……」
 床が砕けんばかりの爆発的な加速と共に。薙がれた『過去を刻むもの』は使い手に呼応し、その性質を完全に発揮せんと応えた。
 すなわち。
「なんだ、なんだこの闇は!! ワタシの虫が、ワタシの肉体が……!!」
 滲み出した過去の、偽りの未来を。刻み、閉ざし、滅する。――闇の奔流。
 手当たり次第に呼び出していた虫が盾となったか、存在全てを消し去るまでには至らなかったが。これまでの積み重ねも加え、与えた被害は甚大の一言。
 全てを終え。眠っている彼らや、眠っていた彼らを、村へと帰してあげられるまでは。
 そう遠くないと。――確かに、感じた。

成功 🔵​🔵​🔴​

七篠・コガネ
……ッ!ふざけるなッ!何が蒐集品だッ!
「お帰り」って彼らに…あの女の子に言わせてあげるから…!
人には帰る場所があるから!それをお前が奪った…!

屋敷内が暗いなら【暗視】と合わせて【視力】と
眼球デバイスで不自然に動く物を注視しておきます
見えない腕なんて厄介ですから。見極めておかないと危なっかしいですね
飛んできた物には【カウンター】で打ち返してやりましょうか

【ジャンプ】して天井に釣り下がるシャンデリアを『手中の刃』で切り落とします
攻撃可能範囲内に入ったらエルシーク目掛けて
【フルバースト・マキシマムⅡ』を【一斉発射】!
シャンデリアの破片も交えて報いを受けろ!ゲロクソがッ!ですよ


アドリブ、絡み歓迎


海月・びいどろ
…冥土の土産は、いらないよ
ほしいものは、それではないから

かつての勇士、英雄たちの剣が降り注ぐなら
この身を任せたまま、受け入れるよ
こころは、分からないけれど、お祈りするの
その持ち主たちは、おかえりなさいを、待ってるから

今だという時を待って、隙を見つけなくちゃ
海月のぬいぐるみが、ぱくりと口を開けたら
――いただきます

痛みは、お返しするよ
身体がまだ動くなら、この、にびいろのナイフで
捨て身の一撃、痺れる毒は、キミにあげる
……冥土の土産、というやつ、だね

もう、ほんとうに、おかえりも
ただいまも言えないのかな
もし、生きているヒトがいるなら、連れて帰るよ
…いないの、なら、せめて
彼らの剣や持ち物を、家に帰したいな



●四齣
「カハァ……!」
 零れ落ちる肉と虫の残骸。
 ぐるぐると目に見えるほどに渦巻く魔力の流れは、それだけならばオブリビオンとしての強大さを感じることもできるだろうか。その全てが己の傷を塞ぐに費やされていなければ、だが。
「……手早く処理を終えたいと思っていたが。これだけ手間がかかるとなれば、いっそ……念入りに仕上げてやらねば、蒐集するにも勿体なく思えそうだよ」
「……ッ! ふざけるなッ! 何が蒐集品だッ!」
 聞いてもいないのに、聞きたくもないのに。七篠・コガネ(その醜い醜い姿は、半壊した心臓を掲げた僕だ・f01385)には、もう、限界だった。抑えられない言葉が、堰を切ったように飛び出す。
「『お帰り』って彼らに……あの女の子に言わせてあげるから……! 人には帰る場所があるから! それをお前が奪った……!」
 命を愛するコガネには、彼奴の在り方の一片も認められない。終わった存在に摘み取られる未来など、あってはならないというのに。
「ああ、そうとも。人には帰る場所がある、その通りだ。なんだまったく、気が合うじゃあないか」
 ニタリとした顔。――ああ、こいつは、次には耳を塞ぎたくなるほどに悍ましいものを吐くのだろう。
「『それを握り潰してこそ行き場のない想いは輝く』のだよ。良く分かっている、助手にでもなるかね?」
 怒りというものに際限はなく。そして――一定値を超えれば、逆に冷静になるものなのだと。コガネは、知った。

「もう、ほんとうに……いないん、だね」
 海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)のお願いあって、ゆらゆら漂う海月のぬいぐるみが、そっと屋敷の中を探してくれた。生きているヒトを見つけたくて。ただいまも、おかえりも、言い合ってほしくて。けど。
「……なら、せめて」
 彼らの遺した剣を、持ち物を。帰してあげたい。
 きっと待っているはずだ。家に戻れるその日を、待ち続けているはずだ。
 ……びいどろがサロンの中に目を向ければ。ぐるぐるとしていた魔力がいつの間にか消えて、代わりに見えぬものが床を叩き付ける音が響いていた。猟兵の一人が狙われているようだが、どういうわけか見えているかのように捌いている。
(古い屋敷。さして手入れもされていないのは、幸いでしたね)
 最低限は整えてあるようだが、床には薄らと埃が確認できた。不可視の腕が飛び回るのに合わせて、生じた風で僅かに舞う埃を追えば。魔法的な要素や特殊な感覚を用いずとも、大凡の動きは予測可能だ。
 とはいえ、肉眼ではさすがに厳しかったであろうが。コガネは眼球デバイスから情報を入手、整理、抽出することで、実現させてみせた。
(しかしこのままでは決め手に欠けます。あいつをこの世界から消し去るために、なにか使えそうなものは……)
 襲い来る不可視を剛腕剛脚で以て打ち返してもみたが、さすがに彼奴自身の魔力で編まれたものでは彼奴に当たる前に消されてしまった。物でも投げてくれば、それを弾丸とできるものの……。
(――あれはっ)
 上空から落ちてきた不可視を蹴り上げてみれば、視界に飛び込む光の塊。
 あれならば、使える。渾身跳び上がれば、己の手も届く。ただ。
「同じ品ばかりでは飽きてきただろう? 虫はまだ補充中なのでね、こちらで我慢してくれ」
 狙いを悟られたわけでもないだろうに、あれを囲むように配置された、剣、剣――。
 潜り抜けるは無理だ。被弾覚悟でゆくしかないかと、脚に力を込めたところで。
「剣は、ボクが受けるよ」
「……それは。……いえ、分かりました。どうか、ご無理はなさらず」
 今は隙を探るため、見に徹する。そうコガネに選択させたのは、支援……と、言うよりも。それが望みであるかような色を含ませた、びいどろの、声。
「選手交代というやつか。だがキミ、防ぐ気がないように見えるね?」
 答えてやる義理もないが、実際びいどろには防ぐつもりなどなかった。
 避けるつもりも、なかった。
「自殺志願というやつか……ワタシの好みじゃあないが、手慣らしの一品目と考えればそう悪くもない。どれ、やはり最期の前に話のひとつでも聞いていかないかね?」
「……冥土の土産は、いらないよ」
 そもそも、自殺をしようなどとは思っていないのだ。それに、土産を受け取るにしても。
「ほしいものは、それではないから」
 ふよりふより、揺れるままのぬいぐるみは、流れゆくに任せて。びいどろはただ、剣の群れを見詰める。
 形だけの空っぽな紛い物。他の猟兵が言っていた通り、そんな風に感じられた。だけど――。
(オリジナルを、持ってない?)
 なにか、どうにも、気になって。『エルシーク』の方も見やれば、その手に剣は握られていなかった。勿体振る余裕はないとでも思ったのか。それなら――この中に、紛れているのか。
 では、なおさら。
「…………っ」
 突如飛び来た数本が、びいどろの手足を浅く裂いた。
「ふむ、ワタシも少々疲れてしまったか。狙いがブレ気味だ」
 なんとも分かり易い嘘だ。抵抗がないのをいいことに、村人を甚振る練習をしているだけであろうに。
 ――一本が、肩へ。一本が、脇腹へ。一本が、頬へ。一本が――。
 突き刺さりはしない。されど、切り裂く深さは徐々に増して。びいどろの肌が、白から赤へと、少しずつ、少しずつ。
「……反応がないことには良し悪しも分からんか。仕方ない、別の機会に試すとしよう。キミはもう終わりにするよ」
 また数本が、まとめて飛んで来る。そのうち一本の軌道は。このままだと、心臓。
 試みが失敗すれば、自分へのダメージは。
(それでも。……キミたちを、帰したいから)
 祈る。
 誰に届くか、どこに届くか。分からないけれど。気持ちのままに。
(…………? 今……)
 残滓のような、か細い声が。でも、確かに聞こえた気がして。
 心臓へ向かう、あの一本。――そうか、キミが。
「それじゃあ一人目、仕上げだ」
 どず。鈍い音と共にびいどろが刺し貫かれ、血へと沈む光景は。
 そんな幻想は。
 見えない。
「――いただきます」
 びいどろの中へと吸い込まれてゆく、剣。すわ何事かと目を丸くした『エルシーク』の傍には、ぱくり。口を開いた、ぬいぐるみ。
 まんまる『ももいろ』のお口の奥から、返ってきたのは。
「な、アッ!?」
 どず。鈍い音と共に『エルシーク』を刺し貫く、剣、剣――。
 種と仕掛けは【オペラツィオン・マカブル】。痛み返されるは自業ゆえ。
「――『鷹は飢えても穂を摘まず』」
 この隙見逃すはずもなく。コガネが立つは――大きく揺れる、シャンデリア。
 発すは。正義に在れば、窮しようとも道理は守るもの。との言葉。では。道理に背き、邪悪に在るものには、何が訪れる?
 鉤爪となった手の先は、『手中の刃』。一振りすれば、輝きは自重に従い下へ、下へ。
 この位置は拙いと、『エルシーク』が咄嗟に跳び退こうにも。
「海月の毒は、麻痺。痺れる毒。……冥土の土産、というやつ、だね」
「キ、サマッ……どこまで、ジャマな……!」
 勇士の剣に沿うように、押し込まれた『にびいろ』。毀れた刃、けれどその先は鋭くて。邪悪の足は、これにて停止。
「――報いを受けろ! ゲロクソがッ!」
 撃ち飛ばした輝きの、その破片まで交えて降り注ぐ。エネルギーの一斉発射、【フルバースト・マキシマムⅡ】は。きらきらさんざめく光を抱えて。
 ――彼奴の上に、落ちた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フェルト・フィルファーデン
ふふっ、随分とお喋りなのね?……でもね。わたし、アナタとお喋りする気なんてこれっぽっちも無いの。ええ、その煩わしい声がもう二度と、誰の耳にも入らないようにしてあげる。

常時使用:激痛耐性
UCで騎士達に力を与え戦うわ。さあ騎士達よ、わたしに続きなさい……!
敵からの攻撃は全方位に注意を向けて【フェイント、野生の勘、盾受け、武器落とし】で誘い、躱し、防ぎ、はたき落として進むわ。……この剣も、誰かの大切な物かもしれないから。ええ、後で返してもらうわね?

後は【呪詛】を込めた【力溜めの2回攻撃】による【スナイパー】で喉を確実に狙い潰しなさい。……これでもう、アナタの声で怒りや憎しみに駆られる者はいないわ。



●五齣
 初めに負傷してから、ある程度時間も経ったからだろうか。
 ごぶり。もはや塊のように吐き出される血は、明るい色と、暗い色。そのどちらもが入り混じっている。
「これ、は。しばらく、食事には……苦労してしまいそう、だ」
どうにかこうにか輝きの残骸から這い出て、息を整え。それでもまだ、強がりでなく言い退けるのは……『エルシーク』という存在が、そういうものであるから、なのかもしれない。尤も、個体ごとの差異もあるのだろうが。
「少し時間をもらえると、ありがたいのだが、ね。どうかね?」
「ふふっ、随分とお喋りなのね?」
 ただ自分勝手に口を開くだけで、返事の有無など作戦でもなければ気にもしないくせに。
「……でもね。わたし、アナタとお喋りする気なんてこれっぽっちも無いの」
 それでもフェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)が否と突き付けたくなったのは、それはそれで『エルシーク』の持つ一種の才能なのかもしれない。
「ふ、む。残念な限りだ」
 点でも線でもなく面で殴れる、不可視の腕を用いたいところだったのだろう。そこはすっぱりと諦めたのか、腕を作れるだけのリソースも全て回復に回すようだ。それでも、これだけのダメージを癒やすには明らかに足らないが。
「小さな……妖精か、それとも精霊の類か。キミのような個体は初めて見るね。家族がいるなら、ぜひ連れてきてもらいたいものだったのだが」
「――――――」
「ああ、家族でなくとも同類であれば」
「――アナタの声」
 遮る。
 あれはいけないものだ。在ってはいけないモノだ。
 聞いてはいけないものだ。響いてはいけないモノだ。
「ええ、その煩わしい声がもう二度と」
 誰の耳にも入らないようにしてあげる――。

 繰り手は十指。その全てへと、想いを。
 フェルトは込める。騎士たちの強さに、希望を見出し信じる心を。
 フェルトは込める。悲劇が終えるためならば、身すらも呈する覚悟を。
 フェルトは込める。どんな絶望に呑まれようと、決して屈せぬ諦めの悪さを。
 ――内側が溶けるような毒の苦痛など。先の心の騒めきと比べれば、如何程であろうが軽いもの。
「さあ騎士達よ、わたしに続きなさい……!」
 十傑揃った彼ら彼女らは、フェルトの想いと共に在る。【Knights of Filfaden(ナイツ・オブ・フィルファーデン)】。おお、おお! フィルファーデンの騎士たちは、颯爽駆けゆく『fairy knights』は、ここに!
「はたき落としなさい!」
 魔力が使えぬ、虫は揃わぬ。扱えるが念力のみの『エルシーク』が、再度剣に頼るは明白で。
 ゆえに余すことなく警戒していた全方位。他の攻撃ならば、乱雑に突破しても良かったが。
「誰かの大切な物が混ざっているかもしれないのなら……ええ、後で返してもらうわね?」
 丁重に扱うべしとの指示は、音よりも早く伝わり。叶えるべく、大剣掲げた『doll-02 Great sword』は、斬らぬようにと剣の腹で払い除けた。
 続く騎士たちの連携もまた、なんと見事なことか。攻撃誘って対の剣を振り翳すものがいれば、軌道を読んで回避の道筋を作り出すものがいて。避け切れぬと盾で弾き返すものがいれば、呪詛を紡いで弓矢へと付与するものが――。
「後ろでごそごそと、何の用意かは知らないが……通すとでも思ったのかね?」
 剣への対処からは外して。『doll-05 Archer』より、不意に放たれた『一の矢』は。重なり合わさった剣の束の中へと埋もれるに留まった。
 そう、それでいい。信じていた通りに――。
「――――あ?」
 陰から追うように飛び出た、『二の矢』。それは埋もれた『一の矢』へと繋がり。背を押すように、弾いて。
 ――『エルシーク』の喉へと、届かせてみせた。
「……これでもう、アナタの声で怒りや憎しみに駆られる者はいないわ」
 のたうち回る様子を見るに、フェルトの声は聞こえていないだろうが。それは、こちらも同じこと。
 上がっていたであろう彼奴の叫び声は――聞こえて、こなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユナ・アンダーソン
……怒りで言葉が出てこない
黙って武器を構える

なぎ払い5、範囲攻撃4でエトワル・ボワ・ジュスティスを振り回して使い魔もろとも断頭する
容赦なんてしません

虫型使い魔の攻撃は激痛耐性8、第六感7、武器受け3、毒耐性3をつかって防御

傷ついた仲間がいたら
優しさ11、手をつなぐ11、鼓舞12、激痛耐性6を用いて傷奪う星痕を使用
あなたの傷を私にちょうだい?

アドリブで他の方との絡み歓迎


花盛・乙女
貴様、もう喋るな。一言でも耳に入れるに耐えん。
問う事もなく、かける慈悲もない。
与えるは怨嗟復讐…そして希望を宿したこの鬼の剣だ。
安楽などではない恐れに塗れ、無様に果てろ。

【黒椿】と【乙女】の二振りを構える。
精神を集中し『第六感』と『見切り』…そして見えぬ腕の残す痕跡の『追跡』を駆使して見えぬ腕を捕らえ、確実に切り落とす。

痛くもなかろう、『エルシーク』とやら。
道を外れた獣は斯様な心は持ち合わせん。
それが道理というものだ。よく覚えておけ、外道。

怯んだ隙に【火喰鳥】の俊足にて距離を詰め斬撃。続く鬼の拳骨でもってふざけた面を砕いてやろう。
村の皆の思いを乗せた【雀蜂】、貴様の命の果てには相応しかろう。



●六齣
「痛くもなかろう、『エルシーク』とやら。道を外れた獣は斯様な心は持ち合わせん。それが道理というものだ」
 ――よく覚えておけ、外道。
「……ァ…………ッ」
 発声もそうだが、呼気が通らぬことにも慄いたか。『エルシーク』は矢庭に己のひしゃげた喉笛を掻き毟り始めた。余計に消耗が嵩むであろうという懸念をかなぐり捨ててでも、気道の確保を優先したらしい。
「好い様だ。貴様の声など、一言でも耳に入れるに耐えん」
 どの道、事ここに至れば問答もあり得ぬと。花盛・乙女(誇り咲き舞う乙女花・f00399)は二振りの刀を、抜き身へ。
 もはや。語る言葉も、問うべき有り様も、かける慈悲も――。
 ただ、在るのは。
「与えるは怨嗟復讐……そして希望を宿したこの鬼の剣だ」
 花盛家の名と共に、伝わり続けた悪刀。
 母より賜った、信を置くに足りる小太刀。
 彼奴の命なぞ、名刀で以て斬り散らすほどのものかも怪しいが。この場までの道程で受け取った祈りには、思いには。応えるだけの価値があろう。
 ――当の『エルシーク』はと言えば、回復よりも攻撃に注力すべしと漸く判断したか。絞りも出せぬ声はそのままに、魔力は不可視の腕を編むに回している。しかしまぁ、だとしたところで。
「――安楽などではない恐れに塗れ、無様に果てろ」
 訪れる結末は、ひとつだけだ。

 命を奪う、刈り取るもの。死神の象徴。
 武器としての鎌にはそんなイメージが付き纏うが。反面、死者が迷い出ぬように。不浄へと成り果てぬようにと。正しき終わりを告げるものでもあったと聞く。
 ユナ・アンダーソン(星骸のスティグマテイカ―・f02647)の構えたそれが、刃を向ける先に齎さんとしたのは……後者で、あったのだろう。優しき事象の具現化。徒らな苦痛を取り除き、速やかな安息を与えるための刃ゆえに。本来は。
「………………」
 ユナの口は開かない。……開けない。
 何かを紡ごうとしてみても、言葉は解けて消えてしまった。優しき鎌を掲げてみても、映る獲物は醜悪なばかり。――彼奴に安息は無用だと、伝えてくるようで。
 ならば、そうか。自分はただ本質のままに。それが求められているのなら。
「……容赦なんてしません」
 その一言だけが、口の端より形を成した。

「それで工夫したつもりか」
 不可視の両腕、その十指それぞれを鞭の如く振るい、四方八方より攻撃を繰り出す『エルシーク』。一方向からでない分、面倒と言えば面倒ではあるが。所詮は面倒止まり。
 素早く振るえばどうしたって音は鳴るものだ。乙女が精神を集中し、感覚を研ぎ澄まし、捉えた流れから一歩身を引けば。唸る一振りも目前で空を切る。躱すついでとばかりに悪刀振り返せば、指の一本程度容易く落とせた。
 ……そもそもこれは、戦うための工夫なのか? だとしても、付け焼刃にさえ。
 なにせこの鞭、一撃もらったとしても骨までは砕けないであろう程度に軽い上、脆いのだ。指三本ほどを落とせば、両腕共に消滅してしまった。拳で固められた方がよほど厄介で――。
「――どこまで腐れば気が済む」
 合点がいった。同時に、乙女は再び迫る不可視を刻んで捨てた。指を順次、ではなく。流麗な技を以て、でもなく。力に任せて腕ごと微塵に刻み踏み潰した。
「私で試しているな。この指の鞭は、村人へと向けるつもりのものか」
 猟兵から見れば軽くて脆い。それでも、鞭は鞭。抵抗する術を持たぬ人が続けて打たれれば、どれだけ苦しみ抜いて死んでゆくことか。
 最低限の形だけ取り繕った喉で、せせら笑うような音をくつくつ。声も出ぬくせに、相も変わらず苛立たせてくれる。
 ――ゴトンと。サロンの奥の方から何かが飛んできて、落ちた。
 性懲りもなく編んだ腕で持ってきたらしき、それは。
『これの代替品にしたくてね。断頭台は手軽だったが、痛みが足りなくて困る』
 爪で掻いたような文字を、台座に刻んで。染み付いた血は、おそらく、村人の。
「――そんなものと同じにしないで」
 台座が。固定板が。落下刃さえも。
 振るわれたは星の断頭台。さすれば縦から二つへ分かたれて。優しさなど名ばかりの殺戮装置は、塵芥へと早変わり。
 響いたのは『エルシーク』へと投げかけられた言葉、ではない。それは既に尽きたから。ユナが発したのは誰へ伝えるものでなく、心の底より湧き上がった水泡のようなもので。弾ける音を止められなかっただけのこと。
 ああ、けど。まだ偽りは残っている。見えるものも、見えないものも。
 周囲をぐるりまとめて吹き飛ばすように鎌を振り回す。回す、回す。四方八方と荒ぶ斬風は、指の鞭などとは比ぶべくもない。塵芥諸共、そこらに漂っていたらしき不可視も断った。
 見えぬは終わり。では。
「……ッ……ッ」
 何やら喉をぐぐ、と膨らませた『エルシーク』へ。声を出したいのかどうかは知らないが、どうあれ次に断たれるはその頭だと、ユナの刃が攻め立てる。
 跳び退き跳び退き魔力を準備。ぎりぎり編むが間に合った不可視を盾にしながら、距離を稼ぎ――。
「――目を離されるとは、甘く見られたものだ」
 ほんの、僅か。『エルシーク』は乙女を意識内には収めていたのだが、ユナの攻めをどうにか捌いている合間、ほんの僅かな間だけ、外さざるを得なかった。
 それだけあれば――【火喰鳥(ヒクイドリ)】。息吐く暇さえ許さぬ瞬時の歩法にて、懐に入るには、十分に過ぎる。繋げるは手刀を想定した術だが、今手に握られているは、刀。ならば必然、動きは斬り伏せるへと。
「これで――」
 乙女の斬撃に重ねるため、鎌を薙ごうとしていたユナの耳に。不自然な、音、声? 鳴き声?
「……ォア゛……ッッ」
 二人の前で、『エルシーク』の膨れた喉の皮がぐねりと捻じれて。内部より飛び出す――開いた、顎。毒の、針。
 残っていたなけなしの使い魔。自らを食い破らせてまでの奇襲とは、使い道としては正しいのかもしれない。後先考える以前に、今を凌がねばならぬのだから。
 ただそこに、計算違いがあるとすれば。退く、避ける、どころか。二人が、怯みさえしなかったことと。
 常日頃より他者の傷を奪う形で癒し続けているユナには、その程度の痛みは慣れたものであったことと。
 一撃繰り出すに全てを込めた乙女には、元より何があろうとも躊躇わぬだけの覚悟があったことと。
「――あなたの傷を私にちょうだい?」
 今与えた怪我はおろか、先の攻防で蓄積していたはずの乙女の微かな疲労さえも、【傷奪う星痕(ペインテイカースティグマ)】。柔らかに仄めく星の光で、ユナが我が身へと移したことで。
 万策したためた『エルシーク』の脳内計画は――ここに、破れ去る。
 最早呻くことさえさせぬと、三閃。『極悪刀【黒椿】』が、無防備な胴へ深く裂傷を。『小太刀【乙女】』が、跳ねる虫ごと喉を串刺しに。続く『エトワル・ボワ・ジュスティス』が、頭蓋ごと断ち砕かんと骸の頭に振り下ろされて。
「――二打だ」
 村人から受け取った思いを内へと握り、鬼の拳と顔面へ叩き付ける、【雀蜂(スズメバチ)】。振り下ろしと拳骨は、悪行凝縮したかのような面へ。粉舞うほどの罅を入れ、その身を襤褸の如く殴り飛ばした――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エン・ギフター
ま、アンタらにしてみりゃ昆虫採集気分なんだろう
逆に楽でありがてえわ
一切斟酌加えずに好きなだけブチのめせんだからな

…にしても可食部少ねえなおい!
文句付けつつマスク外して貪食の準備
ナイフで切り分ける必要もねえだろ
食えそうな部分は毟るし引き千切る
大食らいの執念を見せてやるよ
はは、アンタが望んだ勇士どもが寄越す苦痛だ
一つ残らず受け取れよ?

武器は村で失敬してたナックル使う
見えない手?避ける気もねえよ
ここ来る前に食らった腹パンのが余程効いたぞ
ただ只管に衝動のまま
全て終わるまで殴り続けるだけだ

なあ、戻ろうぜ
あんたらが命懸けて守ったやつらのとこに
海に還んのは
お帰りとサヨナラ言われてからでも遅かねえだろ


加賀宮・識
今にも飛び掛かりそうな気を静め、先程拾った欠片達に触れる

…黙れ、存在事態が不快だ。分かった…お前を葬るにはこの姿がいいだろう

戦闘では極力使わない【血統覚醒】と鉄塊剣で攻撃
【フェイント】を交えながら敵の攻撃を交わし近づき、確実に捉え【鎧砕き】【2回攻撃】を使用

お前も味わうがいい、恐怖と屈辱を



●七齣
 カラカラカラ。飛ばされた先で屋敷の装飾品やらを巻き込み打ちまけたようで。よたよた立ち上がる『エルシーク』から、面の欠片と共に壺か何かの破片が落ちる。
 ぺたりぺたりと面に触れ、溜息を吐こうとして――小太刀で貫かれた虫の使い魔を喉からぐぼっと引き摺り出すと、荒々しく投げ捨てた。
『治療費の請求先は村でいいかね?』
 己の血で空中――どうせまた不可視の腕だろうが――へと文字を書き、猟兵たちに向ける。
 苛付いた様子を見るに、余裕はとうに失ったようで。ならばこれはただの挑発だろうか。乗るわけ、には。
「……黙れ、存在自体が不快だ」
 加賀宮・識(焔術師・f10999)は、己が腕を血が滲まんばかりに強く握り締めた。痛みでも覚えていなければ、今にも飛び掛かってしまいそうな気を、どうにか抑える。
 だが、だが、抑えるにも、もう――。
 ――カタン。
 音が、聞こえて。思わず、それを手に取った。
『金は要らないのでね、それぞれの家から血を買い取ることにしようか』
 舌が意味を成さずとも、彼奴は無駄に饒舌で。やはり、挑発が目的であるらしい。
 しかしそんなことよりも、識は手の中のそれに――先で拾い得たお守りに、視線を向ける。
 再び、訴えているのか。願っているのか。あれを討ってくれと。村を守ってくれと。
『隣人のものは高く買い、家族のものは更に高く買う。どうかね? 良い案だと――』
「分かった」
 成すべきを成すためならば。この嫌悪を呑み込もう。この憎悪を噛み砕こう。だから、だから。
「……お前を葬るにはこの姿がいいだろう」
 少しだけ、貴方達の想いを、力を。貸してくれ――。

『――良い案だと、思わないか?』
(元から少ねえ可食部が更に減ってんなおい!)
 斬られて突かれて抉られて、打たれて撃たれて潰されて。
 血やらなにやらも零れて零れて、これもう出汁がらしか残ってなくねえ? エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)はマスクを外しつつも、食いでのなさそうな『エルシーク』を見て文句を付ける。
『ついで程度だが、ワタシが直接出向けば激昂した数名程度は蒐集できるかもしれないしね。勇士からは程遠いが、見張り役の補充にはなるだろう』
 長々と飽きずに良く書くものだ。この間に回復しよう、という動きがあるでもない。ただただストレスの発散100%。良い案だとは、本気で思っていそうだが。
「ま、アンタらにしてみりゃ昆虫採集気分なんだろう」
 それならそれでいいんじゃないかと、エンの声色に険はない。反論畳みかける必要もなければ、憤って怒鳴る必要もない。だって。
「逆に楽でありがてえわ。一切斟酌加えずに好きなだけブチのめせんだからな」
 言葉でどうこう言うよりも。暴飲暴食に耽る方が、先だ。

 話をさっさと打ち切って駆け出したエンへ、用紙代わりにされていた不可視が巨大化して飛んで来る。書かれた文字を浮かべたままで。
 一瞬ただの間抜けな行動にも見えたが。見てきた感じ余裕ぶって下手打つことはあっても、追い詰められたこの局面でそれが出るだろうか? ――いいや、まさか。
(あれ囮だろ。もう片方使って挟み撃ちし易いように、とかそんなトコか)
 両方が見えなければ最大限に警戒をされるが、片方が見えていればそちらに注意も流れるだろう。という、意図が透けていた。
 見えてる正面は真っ向殴り飛ばすとして……まぁ、背後は無視でいいかと拳を握る。囮云々関係なしに、どうせ避ける気もなかったところだ。
「――っらァ!」
 ゴドンッ!!
 大きさの差が何だと言うのか。質量の差が何だと言うのか。衝撃と共にそう叩き付けるように、エンの装着していたナックルダスター――村人の作り上げた武具が、ぎしぎしと軋み。されど、壊れない。持ち堪える。
 そんなものかと、拳を捻じ込み。これならこの武具で食らった腹パンの方が余程効いたと、拳を捻じ込み――正面の不可視が武骨な武具に打ち抜かれたのと、背後の不可視が武骨な武具に叩き切られたのは、同時だっただろうか。
「……見えない特性が邪魔なだけで、単体では大したことがなさそうだ」
「おう、魔法ってよりも単に手品だな」
 紫瞳を真紅へ変貌させ、漏れ出す生命と悪感情を強引に振り切って、【血統覚醒】。ヴァンパイアへと覚醒した識の肉体は、抱いた嫌悪に比例するように、正しく溢れんばかりの力に満ち満ちていた。外見だけでは分からないが、精神やら魂やらの強度も、あるいは。
 それでも、できることなら……極力、使いたくない手だ。生命の維持にも限度がある。ゆえに――一気に、行こう。
 一太刀にて腕一本を両断した、鉄塊。『暗月鎖』を軽々持ち上げ、前を見据えれば。図らずも、つい呟かれた識とエンの本音は『エルシーク』を挑発し返す結果となっていたようだ。苛立ち混じりな様子と、がちりがちり組み合うような音から、戦闘の初めの方で見せた拳の形を作っているのだろう。
「あれだけ不快をばら撒いておいて、いざ自分が追い詰められてみればその態度か。……程度が知れる」
 五月蠅いとでも返すように、ぎりりりりりりと床を削り飛ばしながら突き進む拳。回転をかけたか。隠密性を潰してまで、威力の向上を取ったのか。それほどまでに自分のことを不快に思ったのだとしたら――ああ、本当に極々少しだけだけれど、溜飲が下がった気がした。きっと、お守りに宿る彼らも。
「受けて立とう。来い」
 また一太刀で斬り捨てようと構えた識目掛け、真っ直ぐ拳は進み、進み。今振り被る鉄塊と、またもや盛大な衝突音を――――立てない。
「――――ッ!!?」
 彼奴の狼狽が言葉で表されていたとしたら、「バカなッ!!?」、だ。
 振り被る力や増大した脚力を利用して拳を跳び越えた識と、『エルシーク』との間には。障害はもう、なにも。
「お前も味わうがいい、恐怖と屈辱を」
 鉄塊の重量。落下の勢い。暴的なまでの識の膂力。それらを合わせて、合わせて、合わせて――――落とす。
 ――彼奴は、五体が木っ端になったとまで錯覚しただろう。
 陥没した床の中で埋まる『それ』を。識が鉄塊の先に引っ掛けて振り飛ばすと、がしり。しっかと受け止める、手。
 苛立ちにかまけて前しか見ていないから。こういうことに、なるのだ。
「――そんじゃ、イタダキマス」
 挟み撃ちのお礼代わりにと背後から。『エルシーク』の胴の傷口に、手がぐちりと差し込まれた。
「……ッ……ッッ!!」
「はは、なに言ってんのか分かんねえけど、遠慮すんな」
 薄い肉を引き千切り――『喰らう』。比喩でなく、『喰らう』。
 大食らいの執念からしてみれば、こんなものじゃあ喰い足りないが。
「アンタが望んだ勇士どもが寄越す苦痛だ。一つ残らず受け取れよ?」
 ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり。
 筋張って固くて不味い肉。味以外はどうだろう。まぁまぁ力が強くなった気はするけれど。なんだか、それも段々どうでも良く――。
「んあ?」
 適当に貪っていたら、肉でない何かを掴んだ。骨か? と覗き込んでみれば。
 それは、剣だった。質の良くない、直剣。
 ……ああ。そうか、そうだな。
「なあ、戻ろうぜ。あんたらが命懸けて守ったやつらのとこに」
 血に汚れても。仇敵に扱われても。なお宿り続けた、想いは。
「海に還んのは、お帰りとサヨナラ言われてからでも遅かねえだろ」
 エンに頷くように――その手の中に、納まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

富波・壱子
引き続き戦闘用の人格のまま対峙
敵が元被害者でもその加害者でも、やることは変わりません。殺します

自慢話を聴きに来たわけではありませんが、良いことを聴きました
なるほど。お気に入りは上階に保管しているのですね
ではちょっと行って捨ててきますので、皆さんはここで足止めをお願いします

敵に聞こえるようにそう言って、ユーベルコードによる瞬間移動で一旦姿を消し、別の部屋等に隠れ潜みます
本当に捨てるわけではありませんが焦りなり、怒りなり、多少の動揺を誘うことはできるでしょう
また、私が戦線を離脱したと敵が思い込んだなら、タイミングを見計らって今度は敵の間近へ瞬間移動。意識の隙を突いて拳銃による零距離射撃を行います


カルティーチェ・ルイナ
即席共闘オッケーです

あいつの言葉で察することができました、この付近には救われないでいる人々の思いが籠っているのだと。
「辛くて苦しくて悔しい気持ちを私に預けてください!共にあいつを打ち倒すのです!」
代償なんて屁でもないです、むしろ気分を盛り上げるのに丁度良いです。
自身が目立つように立ち回って注意を引く動きはかわりないですが、私も敵を倒すための攻撃を多目に繰り出します。
防御は少しばかり軽視してしまいますが、全力を出そうと思います。

チャンスがあったら懐に飛び込んで捨て身の突きを繰り出します。
反撃くらいしてくるでしょうが、志半ばで倒れてしまった人の思いに比べたらなんてことありません!



●八齣
 執拗な執念。我執な邪執。
 緩慢ながらも身を起こす『エルシーク』を、未だにこの世界へ留めているもの。消え去りそうな命を繋ぐもの。
 まだまだやりたいことがある。集めたいものがある。死んでたまるか――。
「散々、踏み躙ってきたじゃないですか」
 そんなものは、今を生きる誰しもが抱いていて。過去に生きた誰しもが抱いていて。
 お前は、そうして終わった後の存在だったはずなのに。こうして終わりたくないと勝手に世界へしがみ付いているんだ。
 周りを殺して、奪って、貶めて。自分だけ。
「少しは知るといいです。人の思いを。人の気持ちを」
 カルティーチェ・ルイナ(自己犠牲の悦楽を知る者・f10772)には、良く分かった。この付近には救われない人々の思いが籠っていると。どこにも行けず、帰れず、還れず。冷たい底で、叫びを上げながら。
 聞いてあげよう、受け止めてあげよう。この小さな身体の中に、全て、総て。
「――辛くて苦しくて悔しい気持ちを私に預けてください!」
 それはきっと、普通なら見悶えするほどに痛いのだろう。死んでしまうほどに重いのだろう。
 でも、大丈夫。自分はそれが大好きだから、どうか気にせず委ねてほしい。渡してほしい。
「共にあいつを打ち倒すのです!」
 声高らかに。姿堂々と。
 怨嗟に苦痛に恐怖。澱みに沈んでいたそれら思念には、カルティーチェがどうにも光り輝くように感じられて。眩しくて。――温かくて。
 惹かれるままに、手を伸ばした。

 サロンの中、武具を打ち合う音が響く。
 取り返された直剣の代わりにと、『エルシーク』は飾られていた西洋甲冑から洋刀を引き抜き、使用していた。
 これも勇士の遺した品ではあったのだろうが、状態は先の剣より更に悪い。大して手入れもしていなかったようだ。カルティーチェが構えた盾を貫くなど到底叶わず、構えた槍と打ち合えば容易く折れた。といっても、飛んで来ているのはコピー品だが。
「ゥ゛……ォォ、ァ……!!」
 声にしたいのは怨み節か罵倒か。命乞いの線は薄そうだ。
 まぁ、何れにしても、戦闘用の人格、思考へと切り替えている富波・壱子(夢見る未如孵・f01342)の関心を引くことはないが。敵が何であろうが、何を言おうが、何を願おうが。敵は敵だ。殺す他にやることなど。
(しかし、それはそれとして)
 喉穿たれる前の『エルシーク』が、得意げに話していたことを思い出す。
 ――これは使えそうだ。殺すに言葉投げかけるつもりもなかったが、より優位に立てるとなれば話は別。既に風前の灯のようであるし、もう一押しがあれば、おそらく。そうと決まれば、適切なタイミングを待つだけなのだが……。
 壱子が戦況を窺っていると。ちょうどカルティーチェが前面の洋刀を折り貫いて、『エルシーク』へと接近、鍔迫り合いにまで持ち込んだ。守りよりも攻めを優先しているらしく、側面背面から飛び来る洋刀には構わず槍を繰り出し続けている。
 いい具合だ。手が離せない状態の方が、より動揺なりを誘えるだろう。
「自慢話を聴きに来たわけではありませんが、先ほどは良いことを聴きました」
 こつりこつり。『エルシーク』に自分の姿が見えるように。自分の声が聞こえるように。わざと位置取りを調整して。
「なるほど。お気に入りは上階に保管しているのですね」
 さすがにカルティーチェとの応酬の最中、反応が返ることはない。どの道彼奴からしてみれば、「それがどうした」以外に返す言葉もないだろう。
 ここまでなら。
「ではちょっと行って捨ててきますので、皆さんはここで足止めをお願いします」
 そう残して、壱子は――消えた。
「…………ッ!!?」
 それは慌てふためくだろう。取り戻す、なら後で奪い返せばいい。しかし壱子は『捨てる』と言ったのだ。感情のひとつも込めずに、さも当然と言った風で。
 替えが利くものなら好きにすれば良いが、あの逸品だけは――!
「ォォオアア゛ッッ!!」
 早く、早く向かわねばと、滅多矢鱈に乱れ飛ぶ洋刀。守りなど要らない、進ませろ進ませろと、カルティーチェへ次々傷を刻んで。
 ――けれど、倒れない。
「志半ばで倒れてしまった人の思いに比べたらなんてことありません!」
 抱え背負った思念が毒のように体に染み入る。直接彼奴の手でも振るわれた洋刀が横腹を裂く。こちらが与えたら与えた分だけ、あるいはそれ以上のダメージが、小さな身体に蓄積してゆく。
 ……だから、なんだ。むしろ攻める好機じゃないか。ダメージなんて、気分を盛り上げるスパイスにはなっても。
「私が諦める理由にはならない――!!」
 ――【受難の代替者(ジュナンノダイタイシャ)】。大きく重い『ランス』に、負けないほど大きな想いを、預かったすべてを、乗せて。
 突き出された槍は、人々の仇敵の中心に――風穴を、開けた。
「バッ……ヵ゛ッ……」
「――標的を捕捉しました」
 後頭部。押し当てられたそれが拳銃だと、『エルシーク』は果たして気付いただろうか。
 面の罅の奥へと捻じ込まれたそれが銃身だと、果たして。
「これより攻撃を開始します」
 淡々告げられた処刑の合図。消えたと同じ、瞬時に現れた【あなたを決して逃さない(アサルトジョウント)】。彼奴に逃げる先はない。壱子に逃がす油断もない。
 ああ、今。骸を在るべき海へと送る音が、『ビーチェ』より――――。



「あ、あのっ!」
「はい」
 黙々と仕事を果たした自動拳銃を仕舞っていた壱子へ、カルティーチェが声をかける。
 無事に終わったのも、遺体や遺品を持ち帰れるのも、喜ばしいことだ。……ただ。
「その、さっきの捨てるというのは」
「捨てていません。隙を誘うための言葉です」
 あ、なんだそうだったんですね! 安堵を見せる様子に、特に他に続けて伝える事柄はないと判断しつつも。壱子はなんとなく先ほどのことを思い返した。
 瞬間移動で消えた後、適当な部屋に潜んでいたのだが。どうも物置か何かだったようで、『エルシーク』の被害者の所持品らしきものが乱雑に押し込まれていた。たぶん、さほど気に入った勇士のものではなかったのだろう。件のお守りも、ちらほらと。
 別段気になるようなものでもないが――ふと壱子は、『ビーチェ』含む携えてきた武具に目をやる。
 これは病死した同期の。これは解剖された同期の。これは処分された、これは自殺した、同期の。
「………………」
 それを考えるのは、戦闘用の範疇ではないのだろう。
 そう思えて。壱子はそっと、首のチョーカーに触れた――。





●だからみんなへ
「ねぇ、あの人たちは……」
 村の少女は、続く言葉を出せなかった。期待して、願って。でも、もしもまたって考えてしまうと、口にするのが怖くて。
 大丈夫だよと、励ましてくれた人もいた。けれど……やっぱり誰も、それを口にはしないから。思わずぎゅっと目を瞑りたくなる。見たいものが見えなくなるけど、見たくないものも見えなくなるから。
 そんな少女の頭に、ぽんと手が置かれた。
「あとのために、取ってるんだよ」
「取って、る?」
「そうさ。特別な言葉だからね、あたしらにとっては。きちんと言うべき時に言いたいのさ」
 じゃないと薄まるような気がしてね。
 そう言いながら、ゆっくりゆっくり頭を撫でる老女。
「……そっか。うん」
 なんだか少し安心して。まだかなと、今ままでは見たくなかった方向に目を向けると。
「――――あ」
 遠く遠くに人影があった。何人も、何人も。いろいろ抱えているような。いっぱい背負っているような。その内のひとりが手を振ってくれた気がして、少女はいても立ってもいられず走り出した。
 言わなくちゃ。あたしの大切な人に。誰かの大切な人に。取り返してくれた人に。みんなに!



 走って、走って、走って、走って。
 やっと顔が見えた頃には、とっくに息は切れていて。それでも構わず、肺の中にこれでもかと冷たい空気を詰め込んだ。
 言いたかった。ずっとずっと、言いたかった!



「――――お帰りなさいっ!!!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月25日


挿絵イラスト