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ああ、残酷!踏破失敗で筋肉ムキムキグレードマッスルDX

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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「はやく、はやく掴まるんだあああ!!!!」
「うわあああああああああああああ!!!!」
「か、かつら太郎おおおおおおおお!!!!」
 かつら太郎という名前の学生は、奈落の底へ落ちた。既に崖の頂上へ昇っていたチョンマゲ乃介は必至に手を伸ばすが、掴めたのは、カツラだけだった。チョンマゲ乃介は目から涙を流し、歯を食いしばり、握り拳で力任せに地面を叩く。しかし、その姿に注目する者は居ない。ここはアルダワ魔法学園の地下にある迷宮。薄暗い空間には、チョンマゲ乃介とかつら太郎しか居なかった。
 そうして悲観に暮れていると、この迷宮のどこかに取りつけれたスピーカーから、男の声が響いてきた。
「にっしっし。残念ながら、かつら太郎は、俺様の作ったアスレチック迷宮を踏破できなかったようじゃな」
「お、お前は悪魔だ!どうして、こんな恐ろしい事を!」
「恐ろしいだって?それは違うな。このアスレチック迷宮を踏破できた者には莫大な賞金が与えられると聞いて、ノコノコとやって来たのは、お前さん達じゃろ?」
「くっ……」
「まぁ、安心しろ。この奈落の底には、巨大なクッションが置かれている。かつら太郎は無事じゃよ」
 それを聞いて、安堵のため息をつくチョンマゲ乃介。けれど相手は、その気持ちを踏みにじる言葉を紡いだ。
「じゃが、アスレチック迷宮を踏破できなかった者は、罰として、俺様の実験台になって貰うとするがな」
 その言葉に、耳を疑った。
 ――じ、実験台だって?一体、何をするというんだ!?
 思わず、虚空に向かって叫んだ。すると、声の主は、軽快な口調で言葉を紡いだ。
「それはの……。このアスレチック迷宮を踏破できるよう、肉体改造を施すんじゃよ」
「な、何だって!?」
「そうじゃ。かつら太郎はこの後、筋肉ムキムキグレードマッスルDXになるのじゃよ」
「筋肉ムキムキグレードマッスルDXだって!?や、止めろ……!」
「駄目じゃ。踏破できなかった以上、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにさせて貰うぞ」
「お、恐ろしい。筋肉ムキムキグレードマッスルDXにするだなんて……」
 それは滑稽なようでいて、恐ろしい言葉だった。親しい人が、勝手に肉体改造を施されると聞いて、一体誰が、平静で居られよう。だが、その怒りは長く続かなかった。チョンマゲ乃介の血を凍らせるような事実を伝えられたからだ。
「さてお前さん、まだアスレチックは残っておるぞ」
「なっ……」
「失敗すれば、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしてやろう。にっしっし」
 チョンマゲ乃介は、次に待ち受けているアスレチックを見た。瞬間、顔が青ざめる……。そして、天を仰いだ。
「嫌だ、筋肉ムキムキグレードマッスルDXになるだなんて、嫌だあああああ!!!」
 悲痛な叫びが、アスレチック迷宮に響き渡った。
 それをどこかで聞いていた黒幕は、にっしっしと笑いながらほくそ笑んだ。
(にっしっし。そうだ、これでいいのだ。踏破に失敗した奴は、俺様の手で筋肉ムキムキグレードマッスルDXと化せばいい。そうして、俺様の”崇高な目的”は徐々に達成されていくのじゃ……)
 暫くして、チョンマゲ乃介の悲鳴が木霊する。
 ――踏破失敗。
 黒幕は、彼を確保すべく動き出した……。
 ああ、残酷!

 場所は変わってグリモアベース。ここに、和服を着た一人の女性が居た。名は、竹城・落葉(一般的な剣客……の筈だった・f00809)。グリモア猟兵である。
 最近は筋肉の量が落ちてきたのではないかと、運動をする為にダンベルを購入した。しかし、それを勢いよく動かした為にダンベルが宙を舞い、頭に激突。大きなタンコブが出来てしまった経験がある。
 だが、そんな事はどうでもいい。
 なんやかんやあって集まった猟兵達に、竹城は予知の内容を伝えていく。
「――という予知を見た。纏めると、アルダワ魔法学園という世界に、アスレチック迷宮なるものができたそうだ。それを踏破できた者には、莫大な賞金が与えられるという。だが、これはオブリビオンの仕掛けた罠だ。挑戦した学生――かつら太郎とチョンマゲ乃介――は踏破に失敗した。その罰として、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされるべく、囚われの身となっている。まだ筋肉ムキムキグレードマッスルDXにはされていないが、それも時間の問題だ」
 そこまで説明した際、竹城はスクワットを開始する。どうやら、この説明時間を利用して、少しでも運動をしようという算段らしい。
「という訳で、諸君には、このアスレチックを踏破し、黒幕であるオブリビオンの元へ到着し、そのまま倒して欲しい。まずは、アスレチック迷宮を踏破してオブリビオンを倒す事だけ考えて問題無い。ん、かつら太郎やチョンマゲ乃介はどうするのかって?一応、黒幕を倒せば、後は楽々救助できるだろう。なので、気にしなくていい」
 そして、スクワットをする事で息切れを起こしながらも、説明を続行する。
「さて、最初は、巨大な壁を上る必要がある。具体的な説明をすると、挑戦者のスタート地点と壁の間には奈落があり、その壁へ飛び移った後、頂上へよじ登る、という内容だ。しかし、あまりにも過酷な事を考慮してか、スタート地点にはジャンプ台が置かれている。これを活用してもいいかもしれない。なお、登る方法は諸君に一任する。しかし、それは丸投げではないか、と思われるかもしれないので、例を挙げようと思う。そうだな……。例えば、(1)力に自信があるなら、落ちないように壁へしっかり掴まってによじ登る。(2)素早さに自信があるなら、高い場所まで飛んだ後に素早く登る。(3)賢さに自信があるなら、飛ぶ角度や張り付く場所を計算して有利に登る。……といった感じだろうか」
 そこまで話した後、スクワットを止めた。疲れたからだ。
「それを踏破した後は、本格的なアスレチックが待ち受けている。ここには色々なものがある。だが、どんなものがあるかは分からない。恐らく、先述の壁を踏破した後に判明すると思うから、臨機応変に対応して欲しい。そうして踏破が終われば、黒幕と出会う事になると思う。その時は、思いっきりぶっ飛ばしてきて欲しい」
 そうして、ゼェゼェと息切れを起こしつつ、竹城は首を傾げた。
「さて、黒幕であるオブリビオンは、”崇高な目的”の為に騒動を起こしたようだ。残念ながら、我の予知では詳細までは分からなかった。アスレチックを踏破できぬ者を筋肉ムキムキグレードマッスルDXにする事のどこに崇高さがあるのか分からないが、何か目的があるのだろう。一体何故、このような事をしたのか。それも確かめて欲しい」
 そうして説明する事を全てを語り終えると、グリモアを取り出した。最後に、竹城は猟兵達に言葉を掛ける。
「では、これよりアルダワ魔法学園へ転送する。かなり高度なアスレチックとなっているが、恐らく諸君なら、難なくクリアできるだろう。そして、黒幕であるオブリビオンを倒し、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされようとしている学生二人を助けて欲しい」


フライドポテト
 お目に留めて頂き、有難う御座います。
 どうも、MSのフライドポテトです。
 性懲りも無く荒唐無稽なシナリオをまたまた作りました。しかし、油断してはいけませんよ。もし踏破に失敗すれば、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされてしまいます!なので、皆さんの素敵なキャラクターが筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされてしまわないよう、注意して挑んで下さい。
 皆さんの熱いプレイングをお待ちしております。
 ……私も、筋肉ムキムキグレードマッスルDXとまではいかなくても、筋肉をつけたいなぁ。

 *このシナリオはフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。
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第1章 冒険 『ウォールクラッシュ!』

POW   :    気合と根性!壁はガッツでよじ登って、力でずり落ちないようにする。

SPD   :    速度が全て!足の速さを生かしてより高く飛び、素早く上を目指す。

WIZ   :    頭で勝負だ!飛ぶ角度や壁に張り付く場所を綿密に計算、上手く上れる工夫をする。

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

久遠寺・遥翔
筋肉ムキムキグレードマッスルDX…なんて恐ろしい罰ゲームなんだ
そんな目に合わないためにもさっさと踏破してオブリビオンをやっつけないとな
っつーかアスレチックっていっても迷宮だろ?
別に道具使っちゃダメってことはねえよな?
ダッシュからジャンプ台を利用したジャンプで一気に跳んだらプロミネンスチェインを壁の上に引っ掛けて、地形の利用とクライミングを駆使して登るぜ
ワイヤーを使ってる分普通に登るよりは遥かに楽なはずだがあとはまぁ気合いだな
もし何らかの妨害にあって落ちそうになったら焔黒掌で壁に穴をあけて手を突っ込み踏みとどまるぜ


黒木・摩那
【WIZ】
筋肉は付けた方がいいんでしょうけど、
付けすぎると今度は体が硬くなるし、体格もごつくなるしで、
いいことばかりではないそうですよ。
何事もほどほどが一番です。

さて、壁アタック。ここは計算で最適解を割り出します。

まず壁の高さと奈落の幅は電脳ゴーグルのセンサーで測って【情報収集】。
ジャンプ台の角度はよし。
加速度は助走に【念動力】も加えれば十分なはず。

では、いざジャンプ!



あれ? 距離足りてない……
何か見落としてる??
まさか。重くなってる?!

足りない距離はヨーヨーのワイヤーで補います【敵?を盾にする】。
落ちそうになった人も同様に救います。


シルフィア・ルーデルハルト
「…私、こういうのは初めてですね…」
じーっと壁を見て呟く
一先ずぴょんぴょんと飛んでみる(もちろん届かない)
どうしようもないという事を察すると壁の凹凸を見る
「…どうやらギリギリ行けそうですね…さて」
強欲の腕を発動して悪魔に変貌する
翼でバサバサと飛び上がろうとするが、さすがに反則に近いので手で登り始める
『…ええい、面倒な…!』
そのまま鳥の足をうまく使い、強引に上がる
『…あまりこの姿は見せれぬ』
すっといつものシスターに戻る
「…はぁっ…はぁっ…!」と右腕の包帯をきつく縛り直し、痛みを抑えながら必死に次の場所に向かおうとする


アリス・セカンドカラー
あ、フラグメントにアストちんの性別書き忘れてたげふんげふん。
でも、男の娘なアストちん、ごくり。
俺様白衣っ娘で男の娘とかナニソレ天使?

メタな話はともかくアトラクションの攻略ね。
WIZ:超能力を駆使して攻略する。
念動力で補助しながらパルクール(地形の利用)走法でダッシュ。
勢いのまま踏み切りに合わせて足に念動力を集中することで怪力を発揮すると同時に、衝撃波を発生しその反動で自分を吹き飛ばし跳躍。
跳躍後、念動力の空中戦で一気に身体を持ち上げて上を目指すわ。


テレーサ・スヴェア
【SPD】
渡り鳥生活で慣らした身体能力を侮ってはいかんぞ。
じゃが、この身体が筋肉ムキムキになってしまうのは勘弁じゃな。

〈ロープワーク〉で武器のフック付きワイヤーを頂上に投擲。
首尾良く引っ掛けることができたと判断したらば、ロープを掴んで壁に飛び付きたい。落下防止じゃ。
「そう簡単に落ちてやるわけにはいかんな!」
その後は〈地形の利用〉で壁の小さな凹凸を見極めつつ、脚力利用してうまく飛び上がっていきたい。

ん?アスレチックじゃろ?身体はしっかり使っておるな?はっはっは。

*アドリプ歓迎


敷島・初瀬
取り合えず気合と根性で壁をよじ登ってみるであります。

壁に張り付き力でよじ登りに挑戦であります、壁にナイフが刺さりそうならヒビや割れ目にナイフを刺してずり落ちないようにし、慎重に登っていくであります。

途中落ちそうになれば他の人の足やズボンに捕まるか、踏み台にするなりして手段を択ばず任務を果たすであります。(絡みやアドリブOK等のやっていい人にするであります)

「貴様も道ずれ・・じゃなかったチョット手伝うであります!」

(アドリブや他の人との絡み大歓迎です) 


雨宮・いつき
筋肉ムキムキ…つまり逞しく男らしい身体にして貰えるということ
それはそれでアリなのでは?
…いえ、いえ。男らしさとは日々の鍛錬で培われるもの、楽して手に入れようだなんて御法度ですね
僕は真面目に鍛えてカッコよくなりますよ!

さて、今回のこれは鍛錬ではなくただの障害です
よって、正面から挑むのではなく…朱音で術式を増幅した【全力魔法】の【金行・封魔鉄鎖】で壁に対して斜めに鎖を撃ち込みます
複数本撃ち込めば橋の代わりになりますから、それを伝って壁の上へ向かいましょう
頂上まで届けば一番良いのですが、壁の途中までしか届かないなら、その位置から後は壁をよじ登ります
手足をかけれそうな突起を見極めて、着実に登りますよ!


ジニア・ドグダラ
……なんというか、意味不明な名称ではありますが、人体実験の一種であるなら、救助は必要ですね。

他の方がいないジャンプ台に、【レプリカクラフト】で仕掛けた巨大なバネ罠を発動して大きく跳躍しましょう。ある程度の高さまで来たら、【空中性】により安定した姿勢を保ちつつ、フックワイヤーを射出して奈落を超え、壁を【クライミング】の知識を利用し、手に掛けれそうな【地形を利用】して昇っていきましょう。こういった壁を上るのは敵から逃げる時に何度も使ったことがありますので、その経験も利用していきます。
また、手持ちの鎖を【ロープワーク】を利用し、命綱にしたり後続の方が上りやすいように垂らしたりしていきましょうか。



●“フワフワ”から、“ダッ”へ。擬音語の変貌と共に
 その空間は、大自然の驚異を思わせるようでもあった。岸と崖の間は大きく開いており、その間には奈落が潜んでいる。飛び越える事ができぬ者には、悍ましい最後が待っている。正に、生きるか死ぬか、その選択を迫られるかのような圧迫感が、この空間を包み込んでいた。しかも、これは最初の段階に過ぎない。まずは、ここを突破しなければ……。重苦しい空気が漂っている。
 しかし、そんな空気と正反対な少女が居た。
 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐海の笛吹きの魔少女・f05202)だ。フワフワした銀色の髪は、どこからか吹く風にかきあげられて、フリルの付いたスカートの裾をはためかせている。大自然のような驚異と、わたがしのような雰囲気を身に纏った少女。ミスマッチにも思えるような光景は、これからアスレチック迷宮へ挑もうとする者達の心を、幾らか癒したかもしれない。
 事実、アリスはウキウキしていた。実は、こうした話し方をするオビリビオンとは、前に闘いの場で会った事がある。そのオブリビオンと同一かは確証が無いものの、何故だか分からないが、今回のオブリビオンは、自分の趣向を満たしてくれそうだ。幾多もの戦いを潜り抜けてきた事による第六感が、無意識に働いたからであろうか。
 だが、今はこのアスレチックを乗り越える必要がある。落ちれば、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされてしまう。そんな事は、考えたくも無かった。失敗は許されない。可愛らしい顔を引き締めて、後ろへと下がっていく。
 5m、10m、15m……。
 地面のゴツゴツとした土を、ピンク色をした厚底の靴で踏みしめていく。ザッ、ザッ、と、地面と靴がこすれ合う音が、何故だか大きく聞こえるような気がする。もし、スタントマンがこの様子を見たとしたら、絶句したであろう。その靴は果たして、この場所を飛び越えるのに、適しているのか……と。
 だが、そう思う人が居たとしたら、知らないのだ、アリスの技量を。
 そして、50m程後ろへ下がった時……。

 ――(あまりもアレな妄言なため削除されました)

 ――勢い良く、ダッシュする。
 土を的確に踏みしめ、自身の速度を上げていく。それは正に、走り幅跳びのオリンピック選手ですら肝を冷やす程の技量だ。アリスの姿を目で追うのは、至難であろう。そのまま、チーターのように奈落へ突撃していく。
 何故、ここまでの速さで走れるのか。その秘密は、三つある。
一つ目は、念動力を用いて、自身の速度を上げる補助とした事だ。いわば、車に更なるブースターを付けて勢いを増すようなものだろう。
 二つ目は、パルクール走法である。これは、地形の構造を巧みに利用し、自身の動きを手助けさせるものであった。この場所の地面はゴツゴツしているが、同時に硬い。その凹凸と硬度を逆手に取り、的確に足で踏んで蹴る事で、通常のグラウンドでは出せないような素早さを出しているのだ。彼女はこの技法を様々な場で活用し、幾つもの危機を乗り越えてきた。実践を伴う技法、それを活用する事は、もはや朝飯前である。なお、アリスは栄養や神経といった医学系にも造詣があるようだ。知識と実技、この二つを巧みに活用していればこそ、このような芸当が可能になるに違いない。
 そして三つ目は、走行前に発動していた『妄想具現化念動力(ワールドクリエイター)』である。これにより、この場所は摩訶不思議な光景を生み出す事になった。アリスが一直線に走る軌道上へ、ユーベルコードの効果を与えている。その為、この場所はアリスにとって、キャッキャウフフな、夢のような空間へと変貌していたのだった。まるで車に乗ってパレードの行進を行うかのように、そこを突き進み、力を得ながら速度を増していったのだ。ちなみに、その空間がどのようなものだったのか。それは読者の想像力にお任せしよう。
 この三つを駆使する事で、より速度を速めていったのだ。幾多もの戦いへ赴いた経歴は、伊達では無い。
 そして、飛び上がる直前。その細い脚を勢いよく地面へ打ち付け、小さな足で大地を踏みしめる。刹那、自身の持つありったけの念動力を、その足の一点へ込める。刹那、それはゴリラや万力を超えるかのような怪力を持つに至る。そして、踏み抜くように飛び上がり、崖の頂上を目指す。
 飛び上がる勢いは、弾道ミサイルさながらであった。飛び上がる際に発生した衝撃波によって、周囲に強風巻き起こり、塵や埃を巻き上げる。
 更に駄目押しで、念動力を活用して、自身を浮かせて頂上を目指す。それはまるで、ファンタジーとSFを混合させたかのような可愛さと格好良さがあった。
 ここまで徹底した技量を用いて、一体、このアスレチックを踏破できないという事があり得ようか。否、あり得ない。アリスの姿は、否応なしに、それを確信へと変貌させる。
 こうして、一気に体を持ち上げて、遂に、頂上へ到着した。どうやら、一番乗りのようだ。アリスは振り返り、崖と岸を上から俯瞰する。とても高いところにいる。崖は垂直で、落ちれば奈落へと誘われる。アリスは、山登りに成功した人と同じ高揚感を、心の奥底で感じた。

●猟兵となりし彼は今、そびえたつ崖を登り行く
 岸と崖の間には、奈落が潜んでいる。底は暗い闇に覆われ、窺い知る事はできない。多くの人々は、都会や田舎といった地域に関わらず、こうした大自然の如き光景を見る事無く、人生を終えていくのだろう。最も、今やゲームなどのフィクションといった世界では、こうした光景を疑似的に再現して映し出している。けれど、奈落を見てすくみ上る感覚や、風が頬に当たった時の冷たさといった感覚は、実際に訪れないと分からない。ゲームばかりやっていては、こうした経験をする事はできないのかもしれない。
 ここに、元は普通の高校生だった青年が居る。彼の名は、久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー・f01190)と言う。こうしたファンタジーめいた光景は、かつてゲームなどでよく目にしていたかもしれない。しかし、ある事件を境に猟兵となってからは、実際にそうした世界を訪れ、経験を重ねる事となった。今となっては珍しい光景でもないのかもしれないが、それでも、いざ直面してみると、胸の奥底から何かが沸き上がるような気持ちになってくる。
 この奈落を見ながら、久遠寺は呟く。
「筋肉ムキムキグレードマッスルDX…なんて恐ろしい罰ゲームなんだ」
 事実、それは恐ろしい罰ゲームである。筋肉ムキムキグレードマッスルDX。名前は滑稽だが、その内容は陰惨なものだ。望んでいないにも関わらず、肉体を改造されてしまうのだから。勿論、自分も、そのような肉体改造を施されたくは無い。だからこそ、さっさとこうしたアスレチック迷宮を踏破して、オブリビオンを倒さねばならない。
 久遠寺は助走を付ける為に、後ろへ下がっていく。その姿は飄々としており、これから奈落へ落ちないように崖を登る人間の姿には見えなかった。まるで、男子高校生が友人とゲームセンターへ行く為、待ち合わせ場所へ向かうかのような足取りだったのである。事実、久遠寺の頭には、次の言葉が浮かんでいた。
 ――っつーかアスレチックっていっても迷宮だろ?
 そして、助走を付ける為の場所へ到達した後、遠くの崖を見据えながら、呟く。
 ――別に道具使っちゃダメってことはねえよな?
 久遠寺はすぐさま、ある物を装着した。それは、鋼翼魔装フェンリルと呼ばれるものである。これは鋼で作られた翼であり、久遠寺の言う通り、道具でもある。勿論、異界のテクノロジーである事は、言う間でもない。
 そして、覚悟を決めて、一気に走り込む!前方にあるのは、黒幕が用意したというジャンプ台。そこに足を掛け、力を込めて踏み抜く!
 刹那、翼を広げ、そのまま崖の上へと目指す。しかし、まだ到達していない。そのまま、崖へ向かって突き進んでいく。
 すると、その翼から何かが射出された!ワイヤーアンカーだ。その鋭い切っ先は、崖の壁へと音を立てて食い込んだ。そして、軍や特殊部隊が潜入するかのような動作で、そのまま壁に接近、手を広げて掴まった。
 ――。
 …………。
 風がビュウビュウと吹き付ける中、久遠寺は壁に掴まっていた。もし、このワイヤーアンカー――プロミネンスチェインという名前である――を使っていなければ、果たしてどうなっていたか。
 しかし、久遠寺もただ、掴まっているだけではない。そのまま、ロッククライミングの要領で、上を目指していく。
 彼はゲーム好きであるが、決してインドア派の人間では無かった。時には、キャンプ設営やバーベキューをするなど、アウトドアな一面を見せる時がある。自然の中で活動するのは、彼にとって、お手の物なのかもしれない。
 壁の凹凸といった地形や、クライミングの技術を駆使して、そのまま着実に登っていく。ワイヤーを使っている分、幾らか楽ではある。しかし、決して楽な作業かと言えば、そうではない。力の籠め方や、掴む場所を間違えれば、奈落へ真っ逆さまだ。しかし、持ち前の熱血な心で気合を呼び起こし、そのまま進んでいく。
 ……だが、ここで、あの声が響き渡る。
「にっしっし。道具を使うとは考えたものだな。だが、それはちょっとやりすぎに違いない。だから、ペナルティだ」
 刹那、掴んでいた部分から直径5mがぽっかり、崖から外れたのである。ペナルティ、と言ったが、それは建前に過ぎなかった。
 彼は崖の一部と共に、背中から奈落へと落ちていく。その瞬間が、スローモーションのようにさえ思われた。崖の一部と、暗い天井が視界に映る……。
 久遠寺、万事休す――。
 
 ――はぁあぁあッ、燃えろぉッ!!!

 そう叫ぶと共に、その手に黒焔が纏われる。そして、すぐさま勢いよく、他の壁に拳を突き出してめり込ませる――。
 ……体が横揺れしつつも、壁に掴まっていた。何秒かしてから、奈落の底から、鈍く大きな音が響いてきた。間一髪、『焔黒掌(レーヴァテイン)』を発動した事で助かったのである。しかし、久遠寺は肝を冷やしていた。この技は壁に拳をめり込ませる程の大威力を有しているが、その射程距離は、僅か30cmしかない。もし、大きく後ろへのけぞり、腕を伸ばしても拳が射程距離外であったならば……。この時ばかりは流石に、顔が青冷めた。
 久遠寺は息を切らしつつ、頂上を目指して、再び登っていく。
 ……岸から飛び出して20分後、久遠寺は崖の上へ到着した。
 踏破、二人目であった。

●筋肉へ一時の憧れ。そしえ、格好良い自分を目指して道を行く
 黒幕は言う。このアスレチック迷宮の踏破に失敗すれば、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしてしまうと。しかし、人によっては、寧ろ喜ばしい事なのかもしれない。一部の人からは、楽に筋肉が手に入る事に対し、歓喜の笑みを漏らしてしまうだろう。だが、果たして、それは本当に嬉しい事なのだろうか……?それでも、筋肉が付けられると聞くと、何故か好奇心が刺激されるのが、人間の性なのかもしれない。
 そして、一人の妖狐もまた、その考え方に感化されそうになっていた。
 ――筋肉ムキムキ…つまり逞しく男らしい身体にして貰えるということ…。それはそれでアリなのでは?
 彼の名は、雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)。先祖代々、様々な怪異と戦い続けてきた妖狐の一族の血筋を持つ少年だ。今は里を離れ、自身の務めを果たすべく、猟兵として、様々な事件を解決している。凛として立つその姿は、正に先祖の血を引いたような、大人びた少年と言えよう。しかし、実際は感情豊かな少年。やはり、男らしい筋肉を付ける事には、ちょっと憧れがあるようだ。
 ――…いえ、いえ。男らしさとは日々の鍛錬で培われるもの、楽して手に入れようだなんて御法度ですね。
 だが、彼は由緒正しき御勤めを果たす使命を持った猟兵。すぐに首を横に振り、思い直す。生まれ育った環境故か、その心は実直で、見ていて眩しい程である。しっかりとした大人が雨宮を見れば、将来に期待を寄せて見守りそうな、そんな初々しさを感じてしまう事であろう。その人柄を見ていると、この場所が奈落の待ち構える過酷な場所である事を忘れさせてしまいそうであった。
 自分は、真面目に体を鍛えて、格好良くなる。その想いを胸に、このアスレチック迷宮へ挑むべく、壁を青い瞳で真っ直ぐに見据えたのであった。垂直にそびえ立つのは、鍛錬用のものではなく、挑戦者たちを拒む障害だ。だからこそ、正面からでは無く、絡め手で挑む事にした。
 雨宮は、そのまま岸の際まで歩いて行く。下を見ると、足がすくんでしまいそうだ。しかし、目を向けるは、崖の頂上。かなり高く、あそこまで登るのは、至難の業であろう。そう、普通に飛び越え、壁に張り付き、そのままよじ登るのであれば……。
 彼は目を瞑り、大きく深呼吸をする。そして、目を開く。
 すると、どこからか、尾長の赤い雀のような姿をした炎の精霊が現れ、雨宮の隣に佇んだ。雨宮は懐から取り出した御札の束を取り出し、指へ何枚も挟む。そして腰を曲げるようにして上体を屈め、ゴツゴツした地面へ御札を押し付けた。刹那、この空間に、大量の魔力が溢れ出す。

 ――術式、解放……さあ、大人しく捕まってください!

 刹那、御札を押し付けた場所から幾本もの頑丈な鎖が飛び出し、パイルバンカーのように壁へ射出され、食い込んだ。ピンと張った鎖は、巨大な橋を支えるかのように、しっかりと岸と崖とを繋いでいた。御札と精霊――朱音――、一つと一体が、雨宮の術式を大幅に強化し、鎖をより頑丈なものにしたのだった。今、この奈落に、一つの橋がかけられたのである。
 雨宮は、発動した『金行・封魔鉄鎖(チェーンバインド)』の効果を見た。そして、息をつくのと同時に、息を飲んだ。
 崖は高い。その為、鎖の伸び方はどうしても、鋭角と化してしまう。しかも、まだ頂上までは、10m近くは登らないといけない。その光景は、まさに過酷なアスレチックの様相を呈してきた。しかし、雨宮は自身の信念故、進む事にする。そして、鎖の上へ、黒い靴底を乗せた。
 強化に強化を重ね、頑丈となった鎖。その上を、ゆっくりと進んでいく。鎖が緩む事は無いだろう。だが、もし足を踏み間違えてしまったら……?顔つきを険しくして、ゆっくりと、足を進めていく。風が吹く度に、心臓が締め付けられる思いをした。
そして、雨宮は壁へ到着した。実際には1分しか経過していなかったが、雨宮には、それが10分もの時間に感じられたかもしれない。
 そして、天を仰ぐ。頂上まで、残り10m。ビルの1階分がおよそ7mというから、大体1.5階分の高さと言えるだろう。
 雨宮は、壁の突起に手を掛け、登っていく。
 壁の凹凸を冷静に見極め、手と足を掛け、着実に進んでいく。一つ一つ、しっかりと判断して、行動に移す。失敗すれば奈落へ落ちる。しかし、そんな事は何時しか、頭の中から追い出していた。雨宮の実直さが、邪念を払拭しているのである。
一歩、一歩……。歩みを進めるように、頂上へと登り詰める。
そして、頂上の淵に手を掛け、小さな体を持ち上げて、倒れ込んだ。
遂に、頂上へ到達したのである!
 その達成感に心臓が高鳴る中、無事に到着した事に、安堵のため息をついた。そして、ふと振り返ると、先程までいた岸と、奈落が目に入った。
 自分が達成した成果を目にして、どこか、嬉しくなった……。

●助け合いは、美しき精神なり:フック付きワイヤーとナイフ編
 人間の培ってきた文明は、互いに協力し合う事によって発展させてきた。一人の持つ力や知識では成し遂げられない事も、複数人が協力する事によって成し遂げる事ができる。例えば、登山をする場合、登山家一人の力で登頂できる訳ではない。古代ローマ人のような強靭なる肉体を持っていたとしても、登山の道具全てを一から作り出せる訳ではない。また、肉体を維持する為に必要な医学や栄養の知識は、過去の先人達の苦労によって得られたものだ。そうした事を、我々は忘れがちだ。そして、その協力し合って事を成す姿は、美しい。
 そして、このアスレチック迷宮に、二つの影があった。その内の一人は、白を基調とした独特な和服を纏った女性である。彼女の名は、テレーサ・スヴェア(白き疾風・f01088)と言う。その整然としたかのような立ち姿は、正に剣士を彷彿とさせる。彼女はそびえたつ崖を眺めながら、感嘆の声を漏らした。しかし、この障害を乗り越えられぬとは思わなかった。その心には自信が溢れており、思わずニヤリと笑ってしまった。彼女の身体能力は、決して低くは無い。
 ――渡り鳥生活によって慣らしたこの体、侮ってはいかんぞ。
 心の中で、黒幕に向かって宣戦布告をする。とはいえ。
 ――じゃが、この身体が筋肉ムキムキになってしまうのは勘弁じゃな。
 ……と、踏破失敗による罰ゲームに対して、些か苦笑をせざるを得なかった。とはいえ、肉体改造の強制という罰へ軽口を叩ける辺り、歴戦の強者らしさを感じさせる。そうした余裕を表立って出せる事は、決して未熟者にはできない行為であろう。
 テレーサは、岸の際に立つ。そして、崖の頂上を見据えながら、何かを取り出した。先端にフックの付いたワイヤーである。それをブンブンと音を立てつつ、円を描くように振っていく。そして、勢いよくフックを頂上へ放り投げる。
 シュルルゥーー……、カシィン!
 奈落を飛び越えて頂上へ到達したフックは、そのままどこかの凹凸に引っ掛かったようだ。試しに二度三度と引っ張ってみるが、ワイヤーはビクともしない。どうやら、しっかり固定されたようだ。
 テレーサの巧みなロープワークによって、見事、移動経路を作る事に成功した。そして、岸から飛び降りる。そのまま、振り子のように壁へ接近した後、足を壁に付けて、崖へ到達する。そうしてワイヤーに掴まっている姿は、正に、登山をする者と瓜二つであった。そして、ワイヤーを手に持ち、手繰り寄せるように登っていく。同様に、デコボコした壁の凹凸を見極め、足を的確に掛けて、脚力を用いてどんどんと進んでいくのであった。

 そして、もう一人の影が、岸にあった。緑色のTシャツに、迷彩柄のズボンを穿いた彼女は、敷島・初瀬(フリーの傭兵・f04289)と言う。見た目はミリタリー風だが、実際、彼女は戦場傭兵である。幼少の頃より戦場で生き抜いた歴戦兵であり、元特殊部隊の出身だ。
 敷島にとって、この程度のアスレチックは、朝飯前だろう。彼女は行動に移す前、軽くストレッチを開始していた。並みの人間であれば、ストレッチをする際に余計な力が入ってしまい、ストレッチの意味を成さなくなってしまうだろう。意気揚々としたその態度は、まるで、ちょっと近所のデパートで開催されるサイン会へ出かけて来るわ、みたいなノリのようにさえ錯覚してしまうのであった。
 そして、ストレッチが終わると、そのまま後退していく。頭を後ろへ向けつつ、一歩一歩、奈落との距離を取っていく。そして、足を止め、前方にある巨大な崖と、岸の際を見る。
 刹那、脱兎の如く駆けた。腕を的確に振り、短距離走者を彷彿とさせる勢いで突っ込んでいく。
 そして、岸の際へ片足を踏み込ませた後、そのまま一気に飛び上がり、弧を描くように崖へと飛躍する。Tシャツの裾をはためかせ、ポニーテールが大きく揺れる。刹那、手に取るは湾曲した刀身を持つナイフ。薄暗い空間にギラリと光る刃物を振りかざし、崖へぶつかる直前、勢いよく振り下ろす。狙うは、跳躍中にて一瞬だけ視界に映った、幅2mmの僅かな隙間――。
 ガッ!固い岸壁が砕ける音と共に、蜘蛛の如くへばりつく。
 ……風が吹きすさぶ中、崖への移動に成功した。敷島の体は、ナイフ一本で壁に固定され、落ちる事は無い。それはまさしく、歴戦兵、元特殊部隊の名に恥じぬものであった。
 ……だが、ここからが本番だ。自分の身を支えているのは、ナイフを持った手と、壁にしがみつく手、この二つだけである。もし、一つでもボタンを掛け違えれば最後、奈落へ落ちる。一歩間違えれば即あの世行きとなる戦場と、なんら変わりなかった。
敷島は、神経を集中させ、慎重に手を動かしつつ、登っていく……。

 現在、上方に居るは敷島、下方に居るはテレーサである。二人の距離は、おおよそ5m程だ。そして、互いに頂上を目指し、徐々に歩みを進めていく……。
 その時、どこからともなく、声が響いてきた。

「にっしっし。そこのミリタリー嬢ちゃん。ナイフを使うとは感心せんぞ」
「道具を使ってはいけないとは、聞いていないでありますぞ」
「確かに。説明不足じゃったのは謝ろう。しかし、ルールはルールじゃ。なので、そのまま奈落へ落ちて貰うぞ。ポチッとな」
「え、ちょ――」
 抗議をする間もなく、まるでチーズをくり抜くかのように、敷島がナイフを刺していた部分を中心とした直径5mが、ポッカリと外れてしまう。
 歴戦兵である敷島も、流石に肝を冷やす。体が落下する間、様々な考えが頭の中を駆け巡る。近くの壁にナイフを刺すか?外れた壁を蹴って再び戻るか?ナイフを捨てて崖へ飛び移るか?リア充を爆破――これは関係無かった。どうする?どうする?
 スローモーションと化した体感時間の中で、敷島の瞳に、テレーサが映った。
 ガシッ!!
「おい、お前、何をするのじゃ!?」
「貴様も道ずれ・・じゃなかったチョット手伝うであります!」」
「今、道連れと言わなかったかの!?」
「聞き間違いであります!」
 敷島の手がテレーサの足首へ、食い込むように掴んでいた。今まで、敵味方関係無くミサイルを当てようとしたり、味方を海へ突き落した事もある敷島にとって、テレーサの足首に掴まる事に躊躇いなど無かったのである。敷島がブラブラと揺れながらくっついている中、テレーサは引っ掴んできた敷島を見下ろしながら、驚愕の表情を浮かべる。おい、こいつ、一体何をやっているんだ!?と言わんばかりに。
 刹那、一人分の重りが加わった事で、テレーサの手が止まった。力の籠めすぎで、手がほんのり白くなってしまっている。しかし、道連れになる訳にはいかない。かと言って、突然足首を掴んできた女性を奈落へ突き落すのも忍びない。仕方ない、そう思い直し、何とか登ろうと試みる。幸い、まだ体力は十分に残っている。そのまま、ゆっくりと上がろとした時だった……。
「にっしっし。そこの和服を着たお嬢ちゃん。お前さんも、道具を使っていたな」
「ん?アスレチックじゃろ?身体はしっかり使っておるな?はっはっは」
「そうじゃな、身体をしっかり使っているな。道具もしっかり使っている」
 足首に掛かった重さを感じつつ、嫌な予感がした。
「なので、お主も奈落へ落ちて貰う事にするのじゃ。ポチッとな」
 すると、頂上に掛かっていたフックが、何らかの装置によって外れてしまった。ワイヤーが緩む感触が手に伝わると同時、体が落下するのを感じた。
「これはやばいであります!」
 すぐさま、敷島が手放さなかったナイフを壁に刺し、何とか落ちずに済む。
 ガシッ!!
 が、今度はテレーサが敷島の足首を掴んだ。
「ちょ、何をするでありますか!?」
「にっしっし。また道具を使ったようじゃな?ポチッとな」
 すると、またしても壁がくり抜かれてしまう。再び、奈落への落下が始まった。
 刹那、テレーサはロープワークの技法をフルに活用し、再びフックを頂上へ投擲する。そして、どこかへ引っ掛かったかと思うと、バンジージャンプの要領で勢いよく上昇し、先程までよりも高い位置へ到達する。
「そう簡単に落ちてやるわけにはいかんな!」
「ぐぬぬ……」
「ちょ、自分を置いていくなであります!」
 足首に違和感があったので見て見ると、敷島が再び、足首に掴まっていた。その執念は、正に感嘆すべきものである。
「にっしっし。幾らあがいても無駄じゃ。ポチッとな」
 声が響き渡ったかと思うと、再び、ワイヤーが緩んだ。そして、テレーサは奈落へ再び真っ逆さまに落ちていく。が、テレーサも墜落せんとばかりに、敷島の足首を掴む。敷島はナイフをすぐさま壁に突き立て、間一髪、道連れにならずに済んだ。お互い、もはや精神のゆとりなど無かった。ましてや、互いに道連れにしあう行動を咎める気も起きない。今や、自分達の命は風前の灯。一歩でも行動を間違えれば二人とも奈落へ落ちる。一蓮托生の存在となっていた。
「こりない奴らめ。しかし、儂は何度でもやってやるぞ。ポチッとな」
 刹那、テレーサがフックを上へ放り投げ、そのままバンジージャンプの要領で再び上昇する。敷島もテレーサの足首に掴まり、一緒に登る。
「ならばもう一度。ポチッとな」
 フックが緩む。瞬間、敷島がナイフを突き立て、その場に留まる。テレーサはすぐさま、敷島の足首に掴まって難を逃れる。
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ。ポチッとな!――ポチッとな!!」
 もはや、声の主はどうしようも無かった。ナイフを無効化すれば、フック付きワイヤーで上昇する。そしてフック付きワイヤーを無効化すれば、ナイフでその場に留まる。無効化する度に役割が交換し、少しずつ、少しずつ、頂上を目指してテレーサと敷島は進んでいく。声の主は、ただ、唸るしかない。
 そうした攻防が続く事、10分。テレーサの手が、頂上の縁に掛かった。そのまま、敷島と一緒に体を持ち上げる。
 二人は大の字になり、頂上で仰向けになる。――やりきった。その想いに胸のすく思いがして、爽やかな顔つきになった。
 まだまだ、アスレチックは続く。その後には、黒幕たるオブリビオンを倒さねばならない。
 しかし、今はただ、この達成感に浸るのも、悪く無いだろう。
 薄暗い天井を眺めながら、テレーサと敷島は、暫くそこでジッとしていた……。

●助け合いは、美しき精神なり:超能力者と聖者編
 人間は助け合う事で生きる事ができる。そして、その精神は美徳とされる事もある。小説や戯曲など、幾多もの芸術作品において、その精神は崇高なるものとして語られる。何故、助け合う姿が感動を呼ぶのか、残念ながら私には説明できない。もしかすると、生存本能によって生じる身体反応が、感動という言葉で形容されただけなのかもしれない。しかし、例えどのような原理や理論があったとしても、助け合う姿に、心を動かされるのは間違いないだろう。そして、時に助け合いは、見知らぬ他者を結び付け、人々の心を大きく震わせる。
 猟兵達の前に立ち塞がるは、巨大な崖と、深い奈落。挑戦者の力量を図るかのように佇んでおり、その威圧感は鼓動を強く打ち鳴らす程に凄烈だ。それに挑む影が二つ、岸に立っていた。
「…私、こういうのは初めてですね…」
 そう呟いたのは、シルフィア・ルーデルハルト(血を求める”強欲”な聖女・f00898)である。アスレチックの威圧感を物ともしないような口調で、言葉を紡ぐ。赤い瞳で、じーっと、そびえたつ崖を見つめる姿は、美術館に展示されている彫刻を眺める少女のようであった。
 そして、シルフィアはその場でぴょんぴょんと、兎のように飛び跳ねた。白い正装が上下に揺れ、黒い髪が宙に踊る。勿論、それで頂上まで届く筈も無い。只、何となく、試してみたかったのである。
 そうした姿は、正に純粋無垢、という言葉が相応しい。しかし、そのような言葉をシルフィアは、果たして、受け入れられるのだろうか。
 どうしようも無い事を察したシルフィアは、そのまま、遠くの崖を再び見つめる。どうやら、凹凸があるように思われる。しかも、既に登頂した者達が残した痕跡も、幾らか垣間見える。
「…どうやらギリギリ行けそうですね…さて」
 シルフィアは、大きく深呼吸をする。それは、これから崖を登る事に対する緊張感か、それとも、自身が登頂する手段に対する緊張感か。もしくは、その両方か。彼女は岸の際へ歩み寄り、そのまま、聖書の一節を読み上げるような口調で、それでいて、この世の地獄から響いてくるような声色で、厳かに言葉を紡ぐ。

 ――さぁ、お前のすべてを私によこせええ!!

 その言葉と共に、少女の姿は文字通り、変貌した。先程までぴょんぴょん飛び跳ねていた純粋無垢そうな少女の姿はそこに無かった。そこに居たのは、この世に混沌や災いを巻き起こさんとするかのようにさえ思われる、悪魔であった。
 そして、厳粛な態度へと変化したまま、翼を広げ、そのまま岸を蹴って身を投げる。バッサバッサ。空気を切り、カラスが大空へと舞い上がるかのように、そのまま頂上を目指していく。道具は一切使っていないので、黒幕は妨害する事ができない。彼女にとって、このアスレチックは楽勝だろう。
 ――が。
(……これは、反則に近いだろうか)
 外見に似合わず、どこか律儀だった。
 仕方ない、と言いたげにため息をつき、そのまま壁へ到達し、手を壁に付けてしがみつく。同時に、鳥の足と化した部位で、同じく壁にしがみつく。それはまるで、デーモンが中世の城壁をよじ登るような光景を彷彿とさせた。
『…ええい、面倒な…!』
 悪魔と化したシルフィアは悪態をつきつつも、そのまま強引によじ登って行った……。

 そして、このアスレチックに挑む人物が、もう一人居た。眼鏡がトレードマークの女性である。彼女は冷静に、レンズ越しに崖を見据えていた。
(筋肉は付けた方がいいんでしょうけど、付けすぎると今度は体が硬くなるし、体格もごつくなるしで、いいことばかりではないそうですよ。 何事もほどほどが一番です)
 声の主に対して、心の中で反論したのは、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)だ。どういう思惑で、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしようとしているのかは分からない。世間では、筋肉を付ける事は良い事のように言われているかもしれない。しかし、筋肉の付け方などについて冷静に考えると、また違った視野が生まれてくる。黒木は前述の考えを脳裏に浮かべつつ、同時に、目の前の障害をどう突破するか、模索していた。
 ある事件を解決する際は、板や縄や丸太があったが、今回はそうしたものは無い。しかし、ジャンプ台はある。どうやら、これを使え、という事だろうか。
 黒木は、どうやれば素早く、かつ効率良く登れるか、頭の中で計算を繰り広げていく。その計算は、文字通り、数学の領域であった。電脳ゴーグルを用いて、崖の高さと奈落の幅を測り、同様にジャンプ台の角度も把握する。また、助走を付けて走る際は、自身の念動力を活用すれば、更に速度を増す事ができる。そうした情報を元に、頂上へ到達する軌道を、脳内で何度もシュミレーションしていく。……、…………。
 計算が、終わる。
 覚悟は、できた。
 黒木は、最も効果的な位置まで移動していく。そして、崖へ体を向け、キリッと目元を細める。
 ――では、いざジャンプ!
 そう心の中で掛け声を上げた瞬間、ジャンプ台へと走って行った。走る際のフォームから、脚へ込める力の加減まで、全てを計算通りに行う。弾丸のように駆け抜け、ジャンプ台へ突き進む。そして、ジャンプ台の板を的確に踏み込み、そのまま飛び上がる。一連の動作は全てが完璧で、もはや芸術的とさえ思えるフォームであった。計算上、これで頂上に着地できる筈だ。
 ……しかし、頂上まで届かない。
 ――あれ? 距離足りてない……
 その予期せぬ事態によって、黒木は混乱の渦へ呑み込まれた。再び、頭の中がせわしなく回転していく。
 ――何か見落としてる??
 そして、すぐさま、体に纏わりつく違和感に気付いた。
 ――まさか。重くなってる?!
「にっしっし。お前さんは、電脳ゴーグルという道具を使ったから、罰として即席の重力発生装置でペナルティを与えたのじゃ」
「まずい……」
 刹那、黒木は懐からある物を取り出した。手の中に納まっているのは、ヨーヨーである。
 そのままヨーヨーを頂上へ向け、勢い良く投擲する。それは剛速球の野球ボールよろしく、風を切っていく。
 カシィン!!
 頂上の一角に超合金性の本体が引っ掛かり、ヨーヨーの紐であるワイヤーがピンと張る。落ちるのは免れた。だが、声の主はヨーヨーの使用を認めない筈だ。すぐさま、ワイヤーを引っ張り、体を上へ飛ばす。
 刹那、本体が引っ掛かっていた部分が根こそぎ崩れ落ちた。それと入れ違いに、黒木が頂上へ着陸する。十数秒後、奈落の底から鈍い音が響いてきた……。
 安堵するのも束の間、道中、視界に気になるものが入っていたのを思い出した。それは、翼を持った人間、いや、悪魔か?その存在が、同じく、この崖を登ろうとしているという場面である。黒木は、崖の下をのぞき込んだ。

 そこには、登っている最中のシルフィアが居た。彼女は必至に、崖を這い上がっていく。しかし、このユーベルコード、『強欲の腕(アウェイクン・オブ・マモン)』は、悪魔に変身できる代わりに、その間、己の寿命を削るというものだ。その代償の大きさ故なのだろうか、もしくはアスレチックの過酷さ故なのだろうか、シルフィアの体は悲鳴を上げていた。だが、決して手を離す事はしなかった。
 貧民街の出身で、奴隷商に見つかり、売り飛ばされ、地獄を見た。その中で天啓が舞い降り、力を手に入れ、主を再起不能にして逃亡した。だが、契約したのは悪魔だった。その絶望故に、一度は命を断とうとした。けれど、この命を拾って貰った事に感謝を捧げ、生きていく事を決意した。しかし、その代償は大きく、今も尚、苦しみを抱えている。
 奈落に落ちても、死ぬ事は無い。だが、肉体が自分の望まぬ姿へと改造されてしまう。それは、想像を絶する恐怖でしかない。決して、落ちる訳にはいかない……。
 遂に、頂上まであと僅かというところまで来た。だが、ここで体に激痛が走る。『強欲の腕(アウェイクン・オブ・マモン)』の代償だ……。
 瞬間、ほんの一瞬、力抜けてしまった。

 その手に、何かが巻き付いた。シルフィアが上を見ると、そこには、黒木が居た。手首には、ヨーヨーが巻き付いている――。
 黒木は、シルフィアが昇ってくる様子を、茶色の瞳で見つめていた。必死に登るその姿は、単なる挑戦者とは一線を隔していた。その様子を見て、激しく心を揺さぶられた。
 黒木は、とある国の実験体として生まれた超能力者である。しかし、その能力故に、外の世界との接触が禁じられていた。だが、UDCの協力者の手引きによって、脱出する事ができ、自由を掴み取る事ができた。そうした過去を持っていた。
 黒木は、今までに多くの事件を解決してきた。そうした中で、恐ろしい目に合わされた人々と出会った事も少なくない。ある物は拷問され、ある者は餓死寸前となっていた。そうした人々と出会う度、背筋が凍ったり、謝礼を気にせず助けたくなる。
 だから――。
 シルフィアの様子を見て、放っておける訳が無かった。

 頂上に、二つの影があった。見事、登頂に成功したのである。
『…あまりこの姿は見せれぬ』
 シルフィアはそう言って、ユーベルコードを解除する。黒木はそこで、シルフィアの白い正装姿を目撃する事となった。
「…はぁっ…はぁっ…!」
 シルフィアは痛みを必死に堪えつつ、右腕の包帯をきつく縛り直す。そして、黒木の方を向き、一言。
「…ありがとうございました」
 そうお礼を述べ、次なるアスレチックへ向かおうとする。
 しかし、黒木は、その傍らに付きそうに立った。彼女は眼鏡越しに幼い少女を見やり、声を掛ける。
「一緒に行きましょう?」
 冷静沈着を思わせる口調ではあるが、何故だろう、その言葉は、温かみのあるように感じられる。
 やがて、二人は手を繋ぎ、次なるアスレチックへと向かうのであった。

●棺桶と鎖を身につけし少女、道を行く
 命と名前には、密接な関係があるのかもしれない。人がこの世に生を受けた時、親は、その赤ん坊に名前を付ける。それによって、この世に存在する一個の生命として認識される。そこには恐らく、機械の識別ナンバーのように区別するといった無機質さは無い。それは恐らく、物や学問などでもそうだろう。名前があるからこそ、後世へと容易に引き継ぐ事ができる。
 そして、岸に立つ影が一つ、眼前の崖を仰ぐように見つめていた。風が灰色のローブをはためかせ、茶色の三つ編みを躍らせる。朝焼け空とは対極にあるそうな薄暗い迷宮と、鎖で棺桶を自らの体に縛った少女。その光景は、ここが古戦場の墓場であるかのような錯覚を与えた。彼女は、ぽつねんと、ある事について考えていた。
(……なんというか、意味不明な名称ではありますが、人体実験の一種であるなら、救助は必要ですね)
 ジニア・ドグダラ(朝焼けの背を追う者・f01191)は、筋肉ムキムキグレードマッスルDXという言葉に対して、辛口な評価を下した。確かに、この名称は意味不明である。一体、何故、このような名称にしたのであろうか。きっと何か、想像もつかない、崇高な理由があるのかもしれない。しかし、その名称は人体実験の四文字を示している。ならば、囚われた学生達を救うべく行動するのが、猟兵だ。そう、ジニアがこれまで、幾度と無く人々を助けてきたように……。
 その為に、ジニアはこれから、このアスレチックへ挑戦する。
 ジニアは大地を踏みしめるように歩き、ジャンプ台へと近付いた。そして、崖とジャンプ台とを交互に見る。これを使えば、ある程度は高く飛べそうだ。しかし、些か心もとない。そこで、ジニアは一工夫を施す事にする。ゆっくりと『レプリカクラフト』を発動し、ジャンプ台の上に、巨大なバネ罠を設置した。
 仕掛けが終わると、そのまま後方へと歩んでいく。そして立ち止まり、崖の方へ振り返る。進路上には、バネ罠を設置したジャンプ台が一つ。
 そして、重そうな棺桶を背負ったまま、走る、走る。そしてジャンプ台に足を乗せ、そのまま高く飛び上がる。
 大砲で垂直に打ち出されたかのように、頂上目掛けて飛んでいく。風がジニアに打ち付け、どこか心地よい。しかし、まだ頂上までは、距離があるようだ。
 ジニアは、飛んでいる最中も態勢を崩さないよう気を使いつつ、フックワイヤーを取り出した。安定した態勢を保ちつつ、岸壁に射出口を向け、狙いを定める。
 そして、飛び上がる速度が緩み、空中に制止した瞬間。
 ――シュッ。
 空を切る音を共に、ワイヤーが発射される。壁に突き刺さった直後、フックワイヤーに増設された機械が勢いよく巻き取りを開始する。そのまま、ジニアは岸壁へ突っ込む。激突する直前、茶色いブーツの底を壁に付けて着地する。
 風が吹きすさぶ中、一人の少女が、岸壁へと到達した。薄暗い天井を見上げるように、頂上への距離を目測で測る。約、10m程であろうか。
 ジニアは、持っていた鎖を、突き刺さったワイヤーへと結びつける。命綱の代わりである。
 そのまま、色白の小さな手で、壁の凹凸を掴んでいく。腕を伸ばしては掴み、脚を屈伸させて靴底を壁に引っ掛け、そして片側の腕を伸ばして掴む。一手一手、着実に、壁をよじ登っていく。クライミングの知識をフルに活用し、壁の凸凹を見極めていった。
 実は、このように壁などを登ったりするのは、ジニアにとっては得意な事であった。地形を利用して、敵から逃げたり、時には翻弄したりもしてきた。彼女の前では、こうしたアスレチックは、赤子の手を捻るようなものかもしれない……。
 だが、ここで、あの声が響き渡る。
「にっしっし!中々やるようだな?」
 その声に一瞬、ドキンと心臓が跳ね上がる。
「しかし、フックワイヤーを使うのはどうかと思うぞ?という訳で、ポチッとな」
 すると、ワイヤーを刺していた箇所から直径5m程がポッカリと外れた。そこに深く食い込んだワイヤーは、鎖でジニアと結びつけられている。外れた壁の重さは100kg。奈落へ引きずり落とさんと、元壁の一部は闇へ真っ逆さまに落ちようと運動を開始する。
 刹那、ジニアは素早くフックワイヤーを操作する。ワイヤーを壁の一部から外そうというのだ。機械や本体を的確に動かす。心臓の鼓動が脳に響く。
 ――外れた。
 鎖とワイヤーが宙をぶらつく中、元壁の一部は闇の中へ消えていく。暫くして、鈍い音が一つ、アスレチック迷宮に響き渡る。ジニアは思わず、ため息をついた。肝を冷やすとは、こういう事を言うのだろう……。
 ジニアは多くの事件で、このフックワイヤーを巧みに使いこなし、的確な動きをして解決を図って来た。屋敷の中を縦横無尽に移動したり、敵の脚に絡めて動きを止めた事もある。自分の肉体と一心同体とも形容できる腕前だからこそ、間一髪助かったのであった。
 数分後、ジニアは頂上へ到達する。その達成感に、大きく安堵のため息をつく。振り返れば、崖の高さを窺い知る事ができる。かなり高い。そして、これからも挑戦者は訪れるのかもしれない。
 ジニアは、手持ちの鎖を崖の淵に結び付け、奈落へ垂らした後、次なるアスレチックへと向かった。
 鎖は風に吹かれ、チャリチャリと、小さな金属音を鳴らしていた……。

●NEXT STAGE
 挑戦者の居なくなった崖は、冷たい風が吹いていた。その音は生命の鼓動を感じさせず、まるで送風機のようにさえ思われる。硬い土で作られた薄暗い空間は、無機質と形容して余りある。
 誰も居ない空間に、あの快活な声が響く。
「……にっしっし。どうやら、挑戦者はクリアしたようじゃな」
 ――だが。
「……これで、俺様の“崇高な目的”に、また一歩、近付いたかもしれないのじゃ」
 どこか、その声色は寂しげにすら思えた。だが、それも束の間。すぐに、また元の声色へと変化する。
「――じゃが、次のアスレチックは流石に踏破できまい。自分達の身体能力を過大評価した為に、踏破失敗し、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしないでくれと懇願する様子が脳裏によぎるのじゃ!にっしっし!!!」
 そして、声は止んだ……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『地下に広がるアスレチック』

POW   :    己を信じて真正面から挑む。筋肉は君を裏切らない。

SPD   :    不安定な足場やロープを使い、効率よくゴールを目指す。

WIZ   :    アスレチックの並びやルートを調べ、最短の道を探す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 奈落を超え、崖の頂上へ到達した猟兵達。しかし、アスレチック迷宮は、まだ終わった訳では無い。
 暫く、薄暗い空間を歩いて行くと、突如、広大な空間が目の前に現れた。
 そこは、まるで市民プールのように幅と奥行きが広い空間であった。そして、眼前に広がるのは、奈落。まるで、この迷宮が大きく口を開けて、挑戦者を呑み込まんとするかのようであった。
 そして、ここが次なるアスレチックであり、そして、最後の関門でもあった。
 このアスレチックには、移動する為の、多種多様なものがあった。
 一つは、飛び石である。足場が小さい上に、アンバランスに配置されている。
 一つは、ロープである。細いのが何十メートルにも渡り、対岸へ伸びている。
 一つは、横の壁に付いた僅かな凹凸である。それを伝えば、向こう側へ行ける。
 それは、挑戦者を高揚させると同時に、途方もないプレッシャーを与える。
 眼前に広がる光景を目の当たりにしている時、どこからか声が響いてきた。
「にっしっし!第一段階を突破、おめでとうじゃ!そして、これが最後のアスレチックになるぞ。これを踏破できれば、莫大な賞金を渡してやろう。けれど、奈落に問いれば、お前さん達を筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしてやろう。俺様の”崇高な目的”の為に作ったアスレチック迷宮、お前さん達に踏破できるかな?」
 ”崇高な目的”という言葉を強調した後、その声は止んだ。後には、強く吹きすさぶ風の音と、猟兵達の呼吸と、心臓の音しか聞こえなかった。
 ……ここを踏破しなければ、黒幕のところへは辿り着けない。
 猟兵達は、最後のアスレチックを踏破すべく、行動を開始する……。
アリス・セカンドカラー
まぁ、パルクールで攻略できるけど、最初のとほぼ変わらないプレになるから成功率が下がるのよね、ほむ。
よし、アリスインワンダーランド発動☆
メルヘン世界ならアスレチックとも意志疎通が可能☆つまり、誘惑も催眠術も効果があるわ♪
さぁアスレチックさん、私を向こうへ渡してくださいな♪
カートゥーン世界なら垂直な壁だって歩いて登れるわ♪
黒幕の邪魔だってコントの法則で返り討ち♪タライかな?熱湯かな?白い粉かな?爆発オチもあるわよね♪


ジニア・ドグダラ
……これ、絶対、テレビで見たことあるのですが……気のせい、でしょうか?

ひとまず先程ので道具の使用にペナルティがあることは把握したので、己の手足と過去の経験を生かしていきましょう。
他の方の動きを【追跡】で観察しつつ、大丈夫そうな場所を【暗視】で確認してから動きます。元々ワイヤーフックによる【空中戦】は心得ているつもりです、飛び石の跳躍やロープ渡りのような【地形を利用】したバランスを求められるのは、慣れております。
もちろん失敗等でバランスを崩す可能性はあるかもしれませんので、【奇妙な既視感】や【第六感】で未来を想像し、自身がバランスを崩すという事を回避しながら進んでいきましょう。


久遠寺・遥翔
※アドリブ・絡み可

やっぱ道具に頼りすぎるのはアウトだったか…ペナルティはあったがそれでも真っ当に挑むよりはましだったと思っとくさ

さて、こっからが本番だな。全力で行くとするか
「焔黒転身!」
焔黒剣と融合し黒騎士としての真の姿、フレアライザーに変身。さらに魔焔解放により更なる焔を纏った姿、ヘルフレアライザーと化す
【ダッシュ】【スライディング】を駆使してアスレチックを駆け抜け
纏った焔を噴出して推力に変えつつ【ジャンプ】【空中戦】【地形の利用】で飛び石エリアを突っ切る
これは俺の真の姿であって生身みたいなもんだからな?
今回は反則じゃねえよなあ?
筋肉を超えた、より直接的で動的な力、炎熱の力を見せつけてやるぜ


敷島・初瀬
「最後まで正面突破で行くであります!」(勢いよくダッシュ)
己の肉体(小柄な貧乳)を信じ正面から小細工無しで飛び石に挑むであります。

真面目に挑みながらも、心に語りかけて来る『自爆すると絶対においしいよ』な悪魔のささやきに抗いながら度胸と勢いで次々に飛び移るであります、途中何度も誘惑に負け落ちそうになって足を滑らせ顔面強打しようとも、飛び石に噛み付く等の見苦しくて強引な力技で乗り切って見せるであります。

「危なかったもう少しで誘惑に負ける所だったであります」

(アドリブ、絡み大歓迎です)
 


テレーサ・スヴェア
【SPD】

ははっ、まさか妨害があるとは思わなんだ。
賞金にはさほど興味はないが、不埒な奴にこうまでされた以上は放っておくわけにもいかん。
筋肉ムキムキも嫌じゃしな。

普通ならばロープにぶら下がりながら渡るところじゃが、もたもたしていてはきっとまた妨害が入るやもしれん。
ここは身軽さを利用して、ロープの上に立ち、向こう岸へ一気に〈ダッシュ〉じゃ。
渡るのに道具を使っていかんのならば、こうすれば早いな?

もし何かが飛んできたり、ロープを切られるようなことがあれば前方へ渾身の〈ジャンプ〉。
向こう岸の崖に掴まることができたらば〈クライミング〉で速やかに登ろう。

奈落の底に落ちねばよいのじゃ。


シルフィア・ルーデルハルト
「…とはいえ、これを多用するのも芸がないというものです」
右腕を抑えると赤黒い魔法陣が起動する
「カラスさん、知恵をお貸しくださいませ」
ハルパスが出てきて機嫌が悪いながらも協力をする
『ええい、ハルパスだと言っているだろう小娘!』
「カラスさんでいいでしょう、では協力をお願いします」
ぴょんぴょんと飛び始め、バランスを崩しそうになるとカラスがうまく体制を直してくれる
『くそ、悪魔使いが荒いな貴様!あの方の贄でなければ八つ裂きにしているわ!』
「…喋らず集中してくださいカラスさん」
そのままバランスを保ち、向こう側まで無事届くようにする


黒木・摩那
【WIZ】

まだまだアスレチックは続くわけね。
疲れるわぁ。

さっきから崇高な目的を連呼してるけど、
筋肉がそんなに好きならば、人に強制せずに自分だけで鍛えてればいいのに。

ここは体力を温存するためにも効率重視でいきます。

電脳ゴーグルのセンサーで足場の配置を確認して、
3種類のアスレチックの難易度を図ります。

おそらくは距離的には直通のロープが一番短いでしょう。
最悪足を滑らせても、まだロープに捕まっていられるし。

ロープを渡る前に自前の唐辛子をひと舐めして臨みます【気合い】。



●唐辛子パワーでアスレチックを超えて行け
 運動と食事には、密接な関係がある。それは、殆どの人が知っている事なのかもしれない。しかし、それは単に栄養学に留まらず、心理学の観点からも影響を及ぼす事は、あまり意識されない。例えば、過度な糖分は運動に悪い影響を与える、と思う方も居るかもしれない。しかし、例えば、試合前にアイスを食べる事によって、その試合に勝利する、という事もあったりする。それは、学問を超え、ジンクスにまで昇華した例であろう。
「まだまだアスレチックは続くわけね。疲れるわぁ」
 思わず言葉を漏らしてしまったのは、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)である。確かに、先程の奈落を超え、崖を登った身としては、そう言いたくもなるだろう。そうして一段落したかと思ったら、再び次のアスレチックが登場したのだから……。しかし、これが終われば、後は黒幕を倒すだけである。そう思うと、心は幾らか休まる気もした。
 そうして、黒幕、という単語が頭に浮かんだ時、ふと、別の事も脳裏によぎった。
 ――さっきから崇高な目的を連呼してるけど、 筋肉がそんなに好きならば、人に強制せずに自分だけで鍛えてればいいのに。
 そう、思わずにはいられない。黒幕は、“崇高な目的”という言葉を、九官鳥のように連呼している。しかし、納得できない事を何度も言われると、眉をひそめてしまいたくもなるものだ。何故、踏破に失敗した学生を、無理やり筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしようとするのか。理解不能である。
 ……しかし、黒幕が筋肉ムキムキグレードマッスルDXにしようとする理由は、単に筋肉が好きだからという訳では無い。その文言からは想像もつかない、立派な理由があったのである。けれども、その事を黒木はまだ、知る由も無かった。
 それはともかく、まずは、このアスレチックを踏破しなければならない。しかし、黒幕を倒す為の体力も温存する必要がある。体力を温存しつつ、アスレチックを無事に踏破して次につなげる。それはまるで、長距離走とどこか似ている。
 黒木は電脳ゴーグルを装着し、三つのアスレチックを分析していく。ここにあるのは、飛び石・ロープ・壁。この三種類の中から、どれが最も効率が良く、体力を温存できるかを計算していく。
 電脳ゴーグルは、せわしなく計算を続けている。まずは、足場の分析からだ。
飛び石は、あまりにもアンバランスに配置されており、滑る可能性が高い。それに、面積が小さく、着地しにくい。更に、助走もつけずに飛ぶとなると、少し距離が遠すぎる……。
 次に壁。掴まって行けば、対岸へ渡る事は可能だろう。しかし、その為の足場が狭い上、常に手で壁を持たなければならない。これでは、体力を余計に消耗してしまう。その最中で、僅かなスペースしかない足元に意識を集中させるとなれば、もはや至難の業だ。この後で黒幕を倒さなければならないというのに、体力を消耗してしまっては元も子もない。足場は勿論、体力の消耗という観点からも却下した。
 となると……。
 黒木は、そのままロープの方を見据えた。確かに、ロープの方が良さそうだ。ロープは飛び石と違って、一直線に伸びている。目で見て分かる通り、三つのアスレチックの中では最短距離と呼んで良いだろう。また、このロープには、飛び石と壁には無いメリットもある。
 それは、足を滑らせた時に、掴まる部分があるかどうかだ。飛び石であれば、足を滑らせて奈落へ落ちる際、手で飛び石の縁を掴むのは困難だ。それは壁も同じだろう。足を踏み外した時、壁へ手を伸ばしても、適切な凹凸を掴めるか分からない。しかし、ロープであれば、足を滑らせて落下した際、腕を伸ばせば、まだロープを掴む事ができるであろう。
 黒木は決断した。ロープを渡って行こう。
 その前に、黒木にはやる事があった。懐からポーチを取り出した。中を開けると、そこには、真っ赤な調味料が大量に詰まっていた。正に、砂金を詰めた革袋さながらの光景である。これは、幾多ものワールドから収集した、多種多様な辛さの調味料である。それを指ですくって、ペロリと舐める。刹那、舌から口へ、そして全身に向かって、辛さと刺激が広がっていく。極度の辛党である黒木にとって、この位の辛さは平気であった。寧ろ、まだ足りないとさえ思った。なお、この辛さは黒木だから大丈夫なのであって、他の方が真似すると、水を欲してしまう事だろう。
 そしてやる気を引き出した後、ロープの前に立つ。そして、赤い靴底をロープに乗せる……。

 両腕をかかしの様に広げ、両足をロープに乗せた。
 横へ僅かに揺れながらも、バランスを取った。
 一歩、足を前へ進めた。
 右へ傾きかけ、すぐに態勢を戻した。
 一歩、片方の足を交差させるように前へ持って行った。
 左へ傾きかけて、態勢を戻した。
 風が吹いた。
 心臓の鼓動が大きく聞こえた。
 一歩、進んだ。
 腕を上下に揺らしてバランスを取った。
 風が顔に当たった。
 バランスを崩しかけ、元に戻した。
 一歩ずつ、進んで行った。
 ……。

 数分後、黒木は対岸へ両足を乗せた。バクバクと高まる心音を耳に、大きく安堵のため息をついたのであった……。

●白き疾風、ロープの上を舞って行く
 ロープの上に登って移動する。それを行うには、バランス感覚と、動揺しない精神力が求められる。一歩でも踏み間違えれば、真っ逆さまに落ちる。それが何を意味するかは、子供でも分かるだろう。慣れていない人がやろうとすれば、まずはロープの上に乗るだけでも苦労する。そして、前へ進むとなれば、かなりの鍛錬と積まなければならない。そうして、ゆっくりとだが、前進できるようになる。しかし、綱渡りをするならば、これは序の口だ。サーカスの綱渡りなら、そこで更に、アクロバットなどを行ったり、演技をしたりするのだから……。
「ははっ、まさか妨害があるとは思わなんだ」
 快活な声で言ったのは、テレーサ・スヴェア(白き疾風・f01088)だ。アスレチックと聞いたから普通に挑んだだけである。しかし、話に聞いていないルールによって妨害されたとなれば、誰だって意外に思う事だろう。けれど、それで意気消沈するようなテレーサではない。次のアスレチックをクリアすべく、眼前の試練を見据えた。
 これを踏破すれば、後は黒幕を倒すだけだ。
 ――賞金にはさほど興味はないが、不埒な奴にこうまでされた以上は放っておくわけにもいかん。筋肉ムキムキも嫌じゃしな。
 脳裏によぎったのは、グリモア猟兵の予知で黒幕が告げていた、賞金であった。人によっては、そうした賞金を入手したいと思うかもしれない。バラエティ番組に出演して賞金×万円、宝くじを当てて賞金×万円、シールを集めてキャンペーンに応募して賞金×万円……。
 けれど、テレーサは、賞金にはさほどの興味も無かったようだ。ただ、アスレチックの挑戦者に妨害をしたり、人体改造をしたりするような輩を放っておけないという、至極全うな考えであった。ついでに言えば、筋肉ムキムキグレードマッスルDXになるのも嫌であった。
 そして、テレーサは意識をアスレチック踏破へ切り替え、その試練を見据える。
 テレーサが選んだのは、ロープであった。それは一本の、長い、長いロープであった。黄土色をした縄で、それがピンと張ったまま、向こう岸まで伸びている。硬く編み込まれているようで、ちょっとの事では、切れたりほつれたりはしないだろう。
 さて、普通の人から、どのようにして移動するか。もしかすると、このロープにつかまり、動物園の猿よろしく、手で向こう側へ移動するのかもしれない。
 しかし、テレーサは、そんな悠長な事をしてはいられなかった。もしかすると、黒幕が、何かしらの妨害を仕掛けてくる可能性がある。そう、先程のアスレチックで行われた、幾多もの妨害と同じように……。
「にっしっし――」
 テレーサは飛び上がり、ロープの上へ飛び移る。そのまま、対岸へ向けて脱兎の如く走った。
 信じられるだろうか?スタントマンでさえ尻込みするかもしれない事を、何のためらいも無くやってのけたのだ。身軽なのはさる事ながら、元剣士という身体能力をフルに活用し、そのまま突き進む。まるで、向こう側に仇敵が居ると言わんばかりの勢いだ。
「ちょっとお茶をしている間に――」
 何かを言っている。だが、そんな事はどうでもいい。
 現在、ロープの中ほどにまで到達した。
「先程、道具を使用した――」
 声が蝿の羽音みたく耳に伝わってくる。だが、それを意識する余裕は無い。
 ロープの四分の三にまで到達した。
「という訳で――」
 あと、5m――。
「ポチッとな!」
 風を切る音が聞こえた。テレーサは上を見る。暗闇の中に、星のように光る物が一つ。それがカワセミのように、此方へ突進してくる。あれは何だ?銀色の刃に黒い柄。――ナイフだ!
 走りながら目で追い、足元を見る。前方30センチ程先に刃が当たる。ロープに刃が徐々に刺さって行き、ブチブチと音を立てながらほつれていく。コードのゴムを削って電線を剥いていくかのようである。不思議な事に、それは僅か1秒にも満たぬ僅かな時間であったが、何故だか、その光景が、スローモーションで見えてしまったのである。
 そして、ナイフが奈落へ消えると同時、ロープが緩む……。
 刹那、テレーセは足に満身の力を籠め、上へ鳥のように飛び上がる。
 ロープが奈落へ落ち行く中、そのまま弧を描くように前方へ飛んでいく。風を切りながら突き進む。見えたのは、対岸の岸壁。そのまま腕を伸ばし、手を広げる。

 ガシィッ!!
 
 ……壁に、一つの影が掴まった。テレーサは、間一髪だと言わんばかりに、安堵のため息をつく。見上げれば、あと1mというところに、対岸がある。振り返ると、先程まで三味線の弦みたく張っていたロープは、いまや蛇のように、奈落へ垂れさがっている。
 さて、後は上へ登るだけである。クライミングの要領で、凹凸へ手を掛けていく。
 ――奈落の底に落ちねばよいのじゃ。
 それを掛け声とするかのようにして、テレーサは、対岸へ到達したのであった。

●カラスさんは道具では無いですよね?
 黒幕は、今まで散々妨害を行ってきた。その主な理由が、『道具を使ったから』である。勿論、それには理由がある。そして、黒幕の言う“崇高な目的”と関係しているのであるが、その事は本人を除いて、誰も知らない。だが、それを告知しなかったのは、黒幕の失態である。とはいえ、一応はルールとして定められている為、道具を使った者には、容赦なくペナルティを与えるつもりであった。しかし、次の挑戦者が用いたものに、黒幕は頭を抱える事となった。
 このアスレチックを、ジーと眺める影があった。白い正装を身に包み、黒い髪をした少女である。そう、シルフィア・ルーデルハルト(血を求める”強欲”な聖女・f00898)だ。右腕の激痛は収まったのか、再び、あどけない表情でアスレチックを見つめている。このアスレチックには三つのコースが用意されていた。が、その内の一つであるロープは、もう使い物にならなくなってしまった。残されたのは、飛び石と壁。さて、どうしたものか……。
 一応、先程のアスレチックを登る際に発動した『強欲の腕(アウェイクン・オブ・マモン)』を使えば、難なく踏破できる事だろう。けれど……。
「…とはいえ、これを多用するのも芸がないというものです」
 確かに、ほぼ完璧に踏破できる方法を何度も使っては、アスレチックも意味を成さないであろう。更に、回数制限を付ける辺り、とても律儀である。黒幕も、その様子に、陰ながら思わず唸ってしまった。
 そして、何を思いついたのか、頭に電球マークを浮かべた。そして、再び右腕を抑えたのである。
 ……すると、突如、赤黒い魔法陣が浮かび上がった。それは聖者のように清らかな雰囲気とは対極にある。まるで、地獄の底から、何か悍ましいものを呼び出すかのようである。その様子を見ていると、背筋が凍ってしまいそうな、そんな雰囲気すら感じられるかもしれない。そう、これから、何か恐ろしい存在を呼び出そうとしているに違いない。シルフィアは目を瞑り、十秒間、小さな口を開いて詠唱を続ける。
 そして、シルフィアは、その名前を呼んだ。

「カラスさん、知恵をお貸しくださいませ」
 現れたのは、カラスであった。
 しかし、どうやら普通のカラスではないようだ。
『ええい、ハルパスだと言っているだろう小娘!』
 このカラス、人の言葉を話す事ができるらしい。そして、名前はハルパスと言うようだ。しかし、不意に召喚されたようで、幾分か腹を立てているようだ。声色は厳粛な雰囲気を出しているのに、この光景では、些かほのぼのとして見える気がする。それでも、威厳を失わんとすべく、羽をバサバサ動かしながら、宙に浮きつつ、シルフィアを睨みつける。
「カラスさんでいいでしょう、では協力をお願いします」
『おい、待て、小娘!』
 そう言い残し、シルフィアは早速、アスレチックへ挑戦しようとする。カラスは抗議するが、それには構わない。
 シルフィアが選んだのは、飛び石であった。小さい足場が不規則に並んでおり、距離も遠かったり近かったりと、正にアンバランスの極みであった。その下には暗い奈落が潜んでおり、落ちれば最後、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされてしまう。風が強く吹き、シルフィアの白い正装をはためかせる。
 シルフィアは早速、ピョン、と飛び石へ飛び跳ねて着地した。ちょっとバランスを崩してグラグラしたが、すぐに態勢を立て直す。
 そして、次の飛び石へジャンプ。今度も成功。しかし、少し右に傾いて落ちそうになる。そこへハルパスが飛んできて、体で支えた。
 そうして、ピョンピョンと、兎のように飛んでいく。その度にバランスを崩しそうになるが、ハルパスが毎度のように飛んできて、体で、よっこらせ、と支えて態勢を元に戻す。
『くそ、悪魔使いが荒いな貴様!あの方の贄でなければ八つ裂きにしているわ!』
「…喋らず集中してくださいカラスさん」
 複雑な関係を匂わす会話をしながらも、そのまま次々に飛び石を移動していく。ハルパスは過酷に行使される度、悪魔がよく言うような悪態をつく。それをスルーするシルフィア。一人と一体のコンビネーションにより、対岸まで進んで行く。
 と、その時であった。あの声が響いてきたのである。
「にっしっし!どうやら、道具を使ったようじゃな?」
「カラスさんは道具じゃないです」
「え、あ、そのじゃな……」

 風の音が、静寂に響き渡った。

「そ、そうじゃな。す、すまなかったのじゃ」
 黒幕がうろたえたかと思うと、声が止んだ。
 ちょっとした茶番があったものの、そのまま次々に飛び石を超えていく。そして、最後の一歩を踏み出し、対岸へ着地をした。シルフィアは目を瞑って安堵のため息をつき、ハルパスはゼエゼエ言いながら羽ばたいていた。もしかすると、ハルパスの方が疲れたのかもしれない。
 こうして、また一人、アスレチックを踏破した者が現れたのであった。

●どこかで見た事がある気がする?いやいや、気のせいですよ
 私は、アスレチックの起源が如何なるものかを知らない。ただ一つ言えるのは、そうして肉体を駆使する行為が、いつの日からか変化していったという事だ。それはレジャー施設に設置されたり、テレビ番組でタレントが挑む為のゲームと化したりした。ある時は、肉体に自信のある一般人が高難易度のアスレチックを踏破して、名誉を得る事もあった。今や、アスレチックは運動という意味合いから、娯楽や名誉を得る手段として使われるようになったのだ。
 そうした現状があるからこそ、彼女は思わずにはいられなかったのである。
 ――……これ、絶対、テレビで見たことあるのですが……気のせい、でしょうか?
 ジニア・ドグダラ(朝焼けの背を追う者・f01191)は、どこかで見たかのような既視感に、眉をひそめながら思案した。確かに、晩御飯を食べながら、家族と一緒にテレビで見た事があるような気がする。実際、黒幕がそこからインスピレーションを得て、このようなアスレチックを作ったのかは、定かでない。しかし、あまりにも似すぎている。
 しかし、そればかり考えていても事態は進展しないので、キリの良いところで、アスレチックの踏破へ考えを向けた。
 先程は道具を使った事により、ペナルティを受けてしまった。ならば、今回は己の肉体のみを駆使して、挑む事にしよう。そう、自分の手足と、今まで培ってきた経験を活用し、このアスレチックを踏破するのである。
 しかし、アスレチックという形式は、初めての事である。屋敷の中を縦横無尽に動き回るのとは、また違った作業を要求される。その為、どうすればいいか、他の猟兵の動きを参考にしようと考えた。
 ロープは、既に切れてしまっているから、それに挑んだ猟兵の動きは除外した。次に壁であるが、こちらはまだ、挑んだ猟兵が居ない。そして、飛び石。此方は、既に挑んだ猟兵が居たので、参考になった。どうやら、飛び石の土台は安定しており、表面が滑るような事も無さそうだ。
 ジニアは、その飛び方を頭に叩き込んだ。そして、その飛び石の一つ一つを、暗視によって網膜に焼き付ける。こうした不安定な地形では、動き方と地形をしっかり把握する事が重要である。
 そうした一連の事前準備が終わると、息を飲んだ。これから、アスレチックへ挑む事になるのだ。ジニアも自負している通り、身体能力や技術は、並みの人間を遥かに超えている。今までも、ワイヤーフックを活用した空中戦を行って来たし、建物の構造や複雑な地形で戦ってきた事から、そうしたバランス感覚は常人よりも養われている。その点で言えば、こうしたロープや飛び石や壁といった、バランス感覚を必要とするアスレチックは慣れていると言えよう。けれど、ポッカリと口を開けたような奈落は、挑戦者に甚大なるプレッシャーを与える。ジニアも例外ではない。絶対という言葉は存在しない、その事を警告しているかのようだった。
 そして、ジニアは飛び石の前へ移動する。風が強く吹き、ローブと茶色い三つ編みをはためかせる。
 そして、棺桶を背負った少女は、そのまま飛び上がった。
 水たまりへダイブするかのように、最初の飛び石へ着地する。茶色い靴が、飛び石にぶつかり、コツン、と、小さな音を立てる。
 そしてバランスを取って、更にジャンプする。次の飛び石にも着地して、再びバランスを取る。ジニアは、慌てなかった。慌てれば、その分、バランスを崩すリスクが高まる。慎重に、一歩一歩進んで行く。それが、ジニアの方針であった。
 そして、次の飛び石に目を向ける。今度は、直径が50cm程しかなく、かなり小さい。少しでも足を踏み外せば、奈落へ真っ逆さま……。

 ――この攻撃は、きっと、避けれます……。

 ジニアは、ジャンプした。
 しかし、少し力が緩んだ為に、飛距離が伸びない。
 それでも何とか着地に成功する。
 ――が。
 少しよろめき、体がグラグラと揺れる。
 棺桶も、少女の小さな体に合わせ、大きく揺れる
 そして、体が左へ大きく傾いたかと思うと。
 そのまま、背中から奈落へ落ちて行った……。

 それが、ジニアの見た未来であった。
 『秘術・既視経験(デジャヴ)』。ジニアが探索者としての経験と奇妙な既視感を用いたユーベルコードである。細心には細心の注意を払う。その為に発動したユーベルコードにより、何をしてしまうと失敗するか、を的確に視た。
 ジニアは、足に力を籠め、そのままジャンプする。
 そして、僅か50cmしかない足場へ、見事着地する。
 体が揺れる事も無かった。
 しかし、安心してはいられない。まだ、飛び石は続いているのだから。次の飛び石にも、『秘術・既視経験(デジャヴ)』を活用し、失敗を見据えた上で、対策を取り、ジャンプする。それを何度も繰り返し、着実に、一歩一歩、前進していく。
 そして、何回飛んだか忘れてしまう程に飛んだ時、遂に、対岸へ茶色いブーツをくっつけた。
 ジニアは膝に手を当て、大きくため息をついたのであった。

●炎を纏って飛来する~予期せぬ踏破方法~
 人間は、目的を持って準備をする事がある。例えば、誰かの役に立ちたいだとか、面白いと思って欲しいなど、善意や悪意に関係無く、思いを込めて用意をする。しかし、そうした意志に関係無く、準備した事柄が活用されなかったり、何も感じなかったりする事がある。例えば、大学の講義で配られるレジェメが、その最もたる例であろう。講師は生徒が理解しやすいよう、多忙の合間を縫って準備をするものだ。けれど、生徒達はそれに意識を払う事は無い……。
 黒幕は、この試練の為に、三つのアスレチックを用意した。ロープ・飛び石・壁……。これを作るのに、どれだけに苦労したか、きっと、誰も想像した事が無いに違いない。
 そのアスレチックを見ながら、どう踏破しようかと考える影が一つ。
 ――やっぱ道具に頼りすぎるのはアウトだったか…ペナルティはあったがそれでも真っ当に挑むよりはましだったと思っとくさ。
 そう思案するのは、久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー・f01190)。先程は道具と使って踏破を試みたが、ペナルティを受けてしまった。それも、黒幕の想定外だったのだろう。それについては、久遠寺も使って良いか気になっていたらしく、ちょっと反省したようだ。けど、それでも良い結果が得られたから気にしないでおこう、と気分を切り替えた。
 さて、改めて眼前のアスレチックを見つめた。今残っているのは、飛び石と壁。その下には、黒い奈落。奥行は、かつて普通に高校生活を送っていた時に見た事のあるプールよりも長い。地下迷宮とあって薄暗いが、それでも、何とか対岸は見えている。あそこまで、どのようにして行くか。しかし、久遠寺には考えがあった。
 ――さて、こっからが本番だな。全力で行くとするか。
 そう、脳内で啖呵を切った後、今居る岸の縁にまで、歩みを進めて、立ち止まる。眼前には、幾多もの飛び石。それ以外は、ただ真っ暗な奈落のみ。風が吹きすさび、不気味な静寂を醸し出している。
 この静寂に轟かせるように、久遠寺は声高々に叫ぶ。
「焔黒転身!」
 すると、久遠寺の持っていた剣に変化が起きた。黒い焔を内包する異界の黒剣が、適合者である久遠寺へと融合していく。刹那、この薄暗い空間を焔が照らし出す。選ばしれし者である久遠寺の体は、瞬く間に焔に呑み込まれていく。それは、かつて彼が居た世界の高校生が見たら、まるでゲームのようだ、と言えるかもしれない。しかし、実際は、ゲームのようだ、などという表現ではとうてい表せない程の迫力を持っていた。
 そして、久遠寺が焔に呑み込まれて暫くすると、やがて、炎は掻き消えた。
 ……そこに居たのは、異形の騎士であった。その姿を見た者は、一瞬、それが久遠寺である事を忘れてしまいそうな、それ程までに変化していたのだ。そう、これが彼の真の姿、フレアライザーである。
 更に――。

 ――魔焔解放(オーバーライズ)――ヘルフレアライザーッ!!

 そう叫ぶな否や、再び焔が久遠寺を包み込む。『魔焔解放(オーバーライズ)』だ。そして、膨大な量の炎に包まれた久遠寺は、ヘルフレアライザーへと変貌したのだった。その炎は再び、この薄暗いアスレチック迷宮を、松明のように照らし出していた。
 そして、久遠寺は銃弾のように走った――。
 まるで盗塁で野球のベースへ駆け込むかのように、勢いよく最初の飛び石へ飛び移る。それは殆ど水平な移動であり、残像さえ見えそうな程に素早かった。
 そして、次の飛び石に映るのかと思われたが――。
 そのまま、足に膨大な力を籠めていく。飛び石に、僅かながら亀裂が入って行く。その足には、大量の炎が纏わりつき、赤い焔が更に赤く染まっていく。その熱気の為か、蜃気楼が見えそうな程である。
 刹那、久遠寺は勢いよくジャンプし、対岸へと飛び上がった。纏った焔に推進力を持たせ、ロケットのように突き進んでいく。かつてワイバーンとも戦った事のある久遠寺にとって、地形を利用した空中戦など、お手の物であった。
 そのまま風を切りながら飛び石エリアを突っ切っていく。そして、着地すると同時に、体へ強い衝撃が襲った。着地の衝撃である。そして、ゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。無事、対岸へ到達できたようだ。そして、どこかで見ているであろう黒幕に語り掛けるように、虚空に声を響かせる。
「これは俺の真の姿であって生身みたいなもんだからな?今回は反則じゃねえよなあ?」
「……にっしっし、そうじゃな」
 肯定であった。筋肉を超えた、より直接的で動的な力の前に、黒幕も、ただ肯定するしかなかったのであろう。そして、炎熱の力を前に、黒幕は、押し黙った。
 久遠寺は、無事に突破できた事に爽快感を抱いたのであった。

●注意!これはアスレチックであり、コントではありません
 アスレチックは、時にバラエティ番組で笑いを取る為のギミックとして用いられる。例えば、足場から落下すれば熱湯に落ちるというのが、その代表例とも言えよう。また、単にアスレチックの構造のみで笑いを取るとは限らない。例えば、挑戦者がおもしろおかしくリアクションを取る事で、笑いを誘う事もある。このように、アスレチックは時として、人々に笑いを巻き起こす、一種のイベントと化したりする。
 そして、このアスレチックに挑もうとする影が一つ、堂々たる立ち姿をしていた。敷島・初瀬(フリーの傭兵・f04289)だ。先程はフリーダムな言動で奈落と崖を突破したが、今回はそれと比べて、幾分か難易度が上がった気がする。数々の戦場を生き抜いてきた敷島は、その事を一目で見抜いた。ここを突破しなければ、黒幕の元には辿り着けない。そして、遥か前方には、無数の飛び石がアンバランスに設置されていた……。
「最後まで正面突破で行くであります!」
 威勢よく声高々に宣言した瞬間、そのまま勢いよくダッシュする。その姿は、正に敵陣へ突っ込まんとするかのようである。戦闘を重ねた傭兵の走りは、短距離走を行う選手とはまた違った迫力を身に着けていた。そのままチーターのように走り抜き、岸から飛び上がる!
 信じられるのは、己の肉体のみ。それは、あらゆる大会や戦場に共通する一つの真理だ。敷島も、幾度と無く危険を潜り抜けてきた己の肉体(小柄な貧乳)を信じて、小細工無しで飛び石へと挑んだ!
 だが、その時である。突如、敷島の脳内に語り掛けてくる存在があった。
(ふふ、本当に、それでいいのかい?)
(だ、誰でありますか?)
(私は笑いの神様さ)
(何でありますか、笑いの神様とは――)
(敷島くん、ここで落下すれば、笑いを取る事ができるよ)
 その言葉は、敷島の心に強い揺さぶりをかけてきた。
(わ、笑いでありますか?)
(そうさ。敷島くん、君の心は、笑いを望んでいるのさ)
(い、いや、しかし……)
(さぁ、自分の欲求に素直になり給え。ここで落ちなければ、いつ落ちるというんだい?)
 飛び石が眼前に迫って来た。ここで足を踏み外せば、落下できる……。
 しかし、敷島は着地した。そして、次の飛び石に移った。
 こうして、次々に飛び石を移動していく。跳躍と着地を交互に繰り返し、忍者のように前進していく。怯む事なく突っ切ろうとする姿は、歴戦兵の名に恥じない動きであった。こうした所作を成し遂げられるのは、度胸と勢いの賜物である。敷島は、ひたすら前へ、前へと進んで行く。
 ……だが、。
(ほら、今がチャンスだよ!さぁ、落下したまえ!)
 次の飛び石は、幅が50cmしかない足場であった。ここは飛び石の中でも、かなりの難所である。足を踏み外したり、飛ぶ場所を間違えたりすれば、即刻奈落行きである。少なくとも、ここを外す訳にはいかない。敷島は飛んだ。
 そして、何とか着地に成功する。
 ……だが、先程の言葉が鼓膜に残っていたからだろうか。それとも、ふとした気のゆるみからだろうか。そのまま足が、バナナの皮に滑ったかのように、ツルリと横に倒れ、そのまま態勢を崩した。体が宙に浮き、そのまま、奈落へと重心が移動し、落下していく……。

 ガシィ!!

 音が響いた。一体、何の音か。
 見ると、その飛び石にくっつくかのようにして、何かがぶら下がっている。あれは何だ?シダ植物か?違う、人間だ!
 敷島は、口を大きく開け、白い歯で飛び石を噛んでいた。常人であれば歯が折れてしまいそうであれば、歴戦兵たる敷島の歯は、この位では決して折れないだろう。
 間一髪、度胸と気合、そしてリア充を爆発したいという願望によって生じる執念によって、かろうじて一命をとりとめた。敷島は腕を伸ばし、そのまま飛び石に這い上がる。その力技には、どこかで見ていた黒幕や笑いの神様でさえ、度肝を抜いた。
「危なかったもう少しで誘惑に負ける所だったであります」
 笑いに憧れながらも、敷島は猟兵であった。そのまま、次々に飛び石を超えていく。笑いの神様が悪魔のように囁きつつも、それに応じず踏破を試みる。時には、それに心が揺れ動き、油断に繋がって奈落へ落ちそうになる。しかし、それに抗うかのように、歯で足場を噛んだり、つま先をひっかけて留まったりと、アクロバットな荒業を繰り広げていく。もはや、ここはアスレチックではなく、戦場であった。
 そして、天井高くジャンプして着地し、遂に対岸へとたどり着いた。振り返ると、そこには、踏破に至るまでの生々しい痕跡が、ところかしこに付いていた。まるで、戦場に散らばる、戦車などの残骸のようにさえ思えてきた。
(どうやら、私の誘惑に耐えきったみたいだね。では、さらばだ)
 踏破した今となっては誘惑する必要は無いとばかりに、語り掛けてきた主は去って行く。
 敷島は怒涛の戦いに、大きく息を吐き、額の汗を腕で拭ったのであった。

●摩訶不思議なアスレチックの世界に大変身
 地の利という言葉がある。例えば、戦場なら幾多もの地形がある訳だ。ある場所は鬱蒼と茂る森であり、ある場所はぬかるみの多い湿地地帯であったり、ある場所は両脇を崖に挟まれた谷であったり……。そうした数々の地形には、共通している事がある。それは、上手く利用すれば、相手よりも優位に立てるという事だ。しかし、時には、何の変哲もない地形を、自分にとって有利になるよう、作り変えてしまう事だって可能なのである。
 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐海の笛吹きの魔少女・f05202)は、最後の関門であるアスレチックを、じぃーと見つめていた。ここをどのようにして踏破するか、思案していたのである。
 勿論、先程のパルクール走法を使えば、このアスレチックも難なく踏破できるだろう。その事は、アリスも十分承知していた。あの方法なら、黒幕から妨害を受ける恐れも無い。けれど、果たして、同じ手を二回も使って良いのだろうか?それが、少し気がかりであった。それに、何だか成功率も下がりそうな気がする……。
 アリスは、どのようにして踏破するかを決めた。そして、大きく頷く。
「よし、アリスインワンダーランド発動☆」

 ――苦しく狂った現実ならば♪楽しく狂った妄想に♪上書きしましょう♪そうしましょう♪

 刹那、信じられないような事が起こった。もし普通の人が、この光景を目撃したならば、きっと、夢でも見ているに違いないと思うだろう。
「さぁアスレチックさん、私を向こうへ渡してくださいな♪」
 アリスがそう言ったかと思うと、突然、アスレチック達がクネクネと動き出した。それはまるでイソギンチャクやワカメのようであった。ロープと飛び石が伸びたり縮んだり、大きくなったり小さくなったり。自分の場所を移動して、何かを形作る。
 そうしてアリスの前に出来上がったのは、お城の跳ね橋のような、一本の道であった。アリスの眼前には、飛び石が集まってできた、石畳のような道が伸びている。飛び石は大きさすら変化しており、それは歩道のように幅が広くなっていた。その両脇には、切れたロープが欄干のように真っ直ぐ伸びている。長さが足りない筈ではあるが、グイーンと伸びて長さを補ったのである。
 そう、アリスは先程発動したユーベルコード『アリスの不可思議世界構築(アリスインワンダーランド)』によって、このアスレチックをメルヘンな世界にしてしまったのである。これには、黒幕も、ポカンと、口を開けるしか無い。今や、このアスレチックという地形は、アリスの手中にあるようなものだ。
(メルヘン世界ならアスレチックとも意志疎通が可能☆つまり、誘惑も催眠術も効果があるわ♪)
 そう思いながら、アリスは一歩、また一歩と、近所の森を散歩するかのように軽やかな足取りで進んで行く。
「……に、にっしっし!さ、流石にこれは反則じゃ!アスレチックの地形を自在に操るなんての!ぽ、ポチッとな!」
 黒幕の動揺した声が聞こえたかと思うと、突如の頭上から何かが落ちてきた。それは星のようにキラリと光、ハヤブサのように落ちてくる。一体、あれは何だ。
 そして……。
 カァ~~ン!!……カランカラン。
 突如、鈍い音が薄暗いアスレチックに響き渡る。アリスは跳ね橋と化したアスレチックの上で、頭を押さえてうずくまっていた。その隣に転がっていたのは、金色をした円盤らしき容器であった。……そう、タライである。
 しかし、驚いたのは黒幕の方らしい。
「……え?お、おかしいの?確かにナイフを投げつけてやった筈なんじゃが。ぽ、ポチッとな!」
 すると、上から滝のように降って来たのは白い粉。アリスはそのまま、真っ白に染まってしまった。これには再び、黒幕も驚かずにはいられない。
「ん、ど、どういう事なんじゃ!?」
 そう、アリスの『アリスの不可思議世界構築(アリスインワンダーランド)』は三つの世界の法則を作り出す事ができるのである。アスレチックの地形を変えるのが、メルヘン世界の法則。黒幕の妨害を変化させたのが、コント世界の法則である。もはや、黒幕には成す術がないといって差し支えないだろう。だが、世界の法則は、あと一つ残っている。
「これだけ邪魔があったら、流石に進めないわ……」
 まるでバラエティ番組で散々罰ゲームをやらされてきたかのような有様のアリスは、そのまま隣の壁へピョーンと飛んで行った。そして、ピンク色の靴底で着地すると、そのまま壁を歩いて行ったのである。そう、これが最後の世界の法則、カートゥーン世界の法則である。
「うぬぬぬぬ!!??」
 ここまで奇想天外だと、黒幕は頭を抱えるしかない。アリスはそのまま、堂々と対岸へ歩いて行こうとする。
「こうなったら、最後の悪あがきじゃ!ポチッとな!」
 アリスは堂々と壁を歩いていた。どんな妨害でも、コントの法則で乗り切れる……。

 ドカーン!!
 最後は、爆発オチであった。
 けれど、アスレチックはアリスの手中にある。コントの世界の法則を活用し、そのまま爆風に乗って対岸へと飛んでいく。無事、到達したのであった。
 その様子を見て地団駄を踏む黒幕の声が暫し響いていたという事だが、それは割愛しておこう。

●FINAL STAGE
 猟兵達は遂に、全てのアスレチックを踏破した。
 高難易度のアスレチックを踏破した者の多くは振り返り、自分がクリアしたアスレチックを眺めて、感慨深い気持ちになるものだろう。
 ……だが、猟兵達にとっては、ここからが本番とも言える。
 今、猟兵達の眼前にあるのは、巨大な石の扉であった。この先に、黒幕が居る。
 すると、どこからか、聞きなれた声が響いてきた。
「にっしっし!踏破おめでとう、猟兵殿。約束通り、賞金を渡す事にしようかの」
 ――と、言いたいところじゃが。
 付け足した言葉に、猟兵達は、唾を飲んでしまうかもしれない。
「ここへ猟兵が来たという事は、俺様を骸の海へ返そうと思った……。そういう事でいいんじゃよな?」
 その問いかけに対する、猟兵達の対応は、様々であっただろう。しかし、それを意に介さんとばかりに、快活な言葉が続いていく。
「まぁ、いいじゃろう。……じゃが、せめて、俺様の“崇高な目的”だけは、知っておいて欲しいのじゃ。さぁ、その扉を開けて、中へ入るのじゃ」
 そう言い残し、声はプツリと止んだ。
 ……。
再び、静寂が訪れる。薄暗い迷宮の中に聞こえるのは、息を吐く音と、鼓動の高鳴る音と、風が空を切る音だけであった。
 そして、猟兵の内誰かが、石の扉の前へ歩んで行った。手を石の扉へ掛け、強く押す。地響きを鳴らし、土埃を舞い上げながら、両開きの扉は、奥へと押されていく。
 すると、中が見えた。
 室内は教会の礼拝堂みたいに広く、ロウソクの明かりで仄かに照らされていた。
 その扉の前に立つように、中央に、一人の人物が居た。
 小柄で、白衣を着ており、水色のツインテールに、青い瞳をしている。背の低さと幼い顔たちを除けば、その姿は正に、科学者と言っても差し支え無かった。
 そう、この人物こそが、アスレチック迷宮の創始者であり、賞金で学生達を釣る事によって事件を引き起こした黒幕であった。
 だが、猟兵達は、その黒幕へ注意を向ける事は困難であった。
 猟兵達は、その黒幕の後ろに存在する“あるもの”から、目を離せなかった。
 それは、雛祭りで見かけるような、壇であった。
 黒塗りの壇は、天井まで高くそびえていた。
 壇には、何百本ものロウソクが並べてあり、橙色の炎を灯していた。
 そして、そこには。
 写真が飾ってあった。
 学生と思われる、少年や少女の顔写真である。
 しかし、それは一枚や二枚だけでは無い。
 下段から上段まで。
 何十枚、何百枚も。
 飾られていたのだった……。
 そして、異様な空間の中で、腹の底に響くような声で、猟兵達に語り掛けた。
「じゃあ、話すとするのじゃ。俺様の、“崇高な目的”を……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガ』

POW   :    にっしっし、俺様こそ一番の技術の変態じゃよw
いま戦っている対象に有効な【妖しい発明品】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    いっしっし、ようこそ俺様のラボへ。歓迎しようw
戦闘用の、自身と同じ強さの【自立行動型実験器具】と【敵と同数の防衛ゴーレム】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    爆発☆オチ
【暴走した発明品の自身も巻き込む自爆】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠蒼汁之人・ごにゃーぽさんです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 読者諸君は、新聞やニュースに接しているだろうか。もしくは、ノンフィクションの作品を見たり読んだりしているだろうか。
 人類の歴史上、様々な事故が起きている。その原因は多種多様であり、一様にこれだという原因を挙げる事ができない。
 そして、その原因の中に、『利益を得たかったから』というものがある。この原因は、人間が誰しも持ち得そうな、普遍的な願望である。企業であれば、利益を上げなかければ、会社が倒産してしまう……。
 だが、その利益を得ようとする為に、本来なら必要な安全管理が疎かにしてしまう事もある。ひどい場合には、その必要性をないがしろにしてしまう。
 何故、安全管理を軽視するのか。これも、様々な理由があるだろう。ここでは、その理由を逐一解説する事はしない。ただ一つ、ここで言いたいのは、利益を追求する過程において、安全管理など、本来であれば必要な事をおろそかにしてはいけない、という事だ。
 もし、それを守らなかった場合、大惨事と形容してあまりある事故が発生する事にもなりかねない。
 読者諸君には、そうした出来事について、心当たりがあるのではないだろうか。
 そして、それは迷宮を踏破する、という事にも当てはまる。
 迷宮を踏破して、名誉を得たい、人気者になりたい……。そうした考えに囚われ、碌に準備や訓練もせず、身を投じる学生が居る。しかし、迷宮は決して甘いものでは無い。その失敗が意味するところは……、想像に難くない。
 彼は、その悲劇を見てきた。あまりにも、多く見過ぎてきた。物言わぬ骸と化した学生達が地上へ運ばれていく様子を、その亡骸を見て嘆き悲しむ親類縁者や友人達の姿を……。
 しかし、それで学生達が反省したかと言えば、そうとも言い切れない。学生達の中には、そうした悲劇から目を反らし、迷宮踏破の栄光を手にせんと勢い立って、碌に準備や訓練をせずに、迷宮へ挑む。
 悲劇は、繰り返される。
 彼は、決心した。そうした無思慮な学生を、死んでいった学生達から教訓を得ない冒涜者たる学生を、一人残らず懲らしめる為に……。
 そして、作り上げたのが、この『アスレチック迷宮』であった。そして、「踏破に成功すれば、賞金が貰える」という噂を流した。
 すると、次々にやって来た。準備も訓練もせず、金と名誉に目がくらんだ愚か者が、面白い程に。
 当然、そうした学生は踏破に失敗する。
 その後、彼は踏破に失敗した学生達を捕らえた。そう、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにする為である。
 それは、戒めであった。準備や訓練をしないと、恐ろしい目に合うから、次からは気を付けろ……と。そして、その筋肉ムキムキグレードマッスルDX程の力を付けなければ、迷宮を踏破する事はできない……と。本来なら死んでいたところを、この程度で済ませているのだから、温情と言っても差し支え無い筈だ。
 筋肉ムキムキグレードマッスルDXには、そうした意味が込められていたのである。
 そうして、翌日には、捕らえた学生達を筋肉ムキムキグレードマッスルDXへと改造しようとしていた。これによって、学生達は意識を改めて、二度と馬鹿な真似はしなくなるだろう。そう、信じていた。
 しかし、その前に、猟兵達が、踏破に成功したのであった……。

 彼、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、どこか落ち着いた口調で、全てを語り終えた。そうして残ったのは、何とも言えない余韻であった。
「……というのが、俺様の”崇高な目的”じゃ」
 そして、そのまま後方にある壇へ歩みを進め、並べられている写真を目にやる。
「ここに納めてある写真に写った学生はな」

 ――みんな、名誉を求めて死に至った者達なんじゃよ。

 その言葉には、軽快な声色からは想像がつかない程の、悲しさ、重苦しさ、切なさが込められていた。
 それを言い終えた後、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、猟兵達へ振り返る。そして、ゆっくりと、ゆっくりと、貴族が優雅に歩くかのような足取りで近付いて来た。
「……さて、俺様の話はおしまいじゃ。けど、お前さん達にとっては、まだ終わってはおらんのじゃろ?お前さん達は猟兵、俺様はオブリビオン。そして、お前さん達は囚われた学生を救出する、俺様は捕らえた学生を筋肉ムキムキグレードマッスルDXにする」
 そして、猟兵達の前方10m程の位置で、足を止める。
「さて、と。ここで即席の、そして、最後のアスレチックをこしらえるとするのじゃ。このアスレチックを踏破した猟兵は、賞金の代わりに、捕らえた学生を差し出す事とするのじゃ」
 刹那、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、腕を振って白衣をはためかせる。そして、白衣の内側に取り付けてあった何本もの試験管を指に挟む。その中には、虹色の毒々しい液体が詰まっており、泡立っている。コルクから漏れ出る臭気が、その薬品の危険性を物語っている。
 このアスレチックに、セーフティネットは無い。一歩間違えれば、壇に並んだ写真の学生みたいに、戻らぬ人となるかもしれない。
 場が緊迫した空気に包まれる中、彼は構えたまま、啖呵を切った。
「さぁ、どこからでも掛かってくるが良いぞ。にっしっし!」
アリス・セカンドカラー
念動力で認識をハッキングし、知覚しながらも意識をしない場所すなわち意識の死角を作り出し接近。一流(笑)の暗殺は目の前にいても認識させないものよ♪
無事接近できたら演説の途中でも盗み攻撃で唇を奪うわ☆
そう、盗み攻撃で唇を奪って深い深ーい口付けを♪
そして、マインドジャックと赤い魔糸と情欲の炎で感度三千倍の洗脳催眠を施して全力で堕としにいくわよ☆
ある程度仕上がったら満を持して真なる夜の到来よ♪
外からはナニが行われているのか伺い知れない夜の中でちゅっちゅペロペロするわ☆


敷島・初瀬
「このイカレタ思考、こちらと同類のキ(自主規制)であります」
オブリビオンを強敵と認識し警戒するであります。

気になるのは地の文に『彼』と有ったことであります、こいつ男いや男の娘なのかそれともMSの勘違いなのか、これは確認せねばいけないであります、とメタい思考をしながら行動開始であります。

ロケットランチャーをぶっ放して相手の視界を遮り、その直後に距離を詰め手段を選ばず確認するであります、『付いてたら』こう言うかもしれません。

「なんと立派な!」(驚愕の表情)

(アドリブ、絡み大歓迎です)


ジニア・ドグダラ
……確かに、無謀さ故に起こる悲劇、よくあります。私も、その写真の方々と、同じことをしているので、強く否定はできませんが……『だからといって、人体改造は、な』

そう発言しつつ第二人格『ヒャッカ』に切り替え、【高速詠唱】を唱え棺桶の【封印を解く】ことで、自身に死霊達を宿していきます。
ワイヤーフックを駆使して高速移動し、敵に死霊達の【呪詛】によって起きる【生命力吸収】での【先制攻撃】を仕掛けます。
そのまま敵の行動を阻害するように、鎖を相手の腕や足に絡ませ、味方の攻撃の隙を作れるように【時間稼ぎ】していきましょう。


え、自爆です?……【激痛耐性】で、耐えれませんか?

※アドリブ・他者との協力歓迎


シルフィア・ルーデルハルト
「…あなたの気持ちはわかります、一応これでもシスターですので、ですが、あなたは線を踏み越えた…では、あなたという最後の難関を突破させて頂きますね」
相手が自爆をするために発明品を出したと同時に
素早く替えの封魔の包帯を取り出し、素早くドーム状に展開し、自身を防御する、爆発を終えた後は素早く包帯を投げ相手を拘束する
「…さて、お仕置きのお時間です」
包帯は相手を覆うほどにぐるぐる巻きにし、シルフィアはそれを「右手」で軽々と振り回し、壁や天井や床に叩きつけ、最後は包帯の上から「右手」で全力のストレートを叩き込み、吹っ飛ばす
「…これにてお仕舞です。…ふふ」
少し顔に飛び散った血をペロリと舐め、その甘美に酔う


久遠寺・遥翔
油断していた。あんな罰ゲームを用意する奴なんだからなんてふざけた奴なんだと思っていた
「その志に敬意を。行くぜオブリビオン、あんたの遺志は必ず持ち帰ってやる」

【ダッシュ】で一気に距離を詰めて【先制攻撃】で二刀流の【二回攻撃】を敵に叩き込む
ゴーレムを召喚されたら【範囲攻撃】主体に切り替える。剣で【なぎ払い】つつ腕から熱線を【一斉発射】だ
相手が発明品でこちらの弱点を突いてきたらユーベルコードでフェンリルと合体
「なら俺はあんたの発想の上を行く!」

相手の自爆は【見切り】でタイミングを見計らって光盾による【オーラ防御】と装甲の【火炎耐性】で耐える
「爆発オチなんてサイテーだな」


黒木・摩那
崇高な目的と連呼してるからどんなことかと思ったら、
そういうことですか。

言ってることは立派だと思いますが、やり方が違ってます。
失敗する学生を改造するなんて乱暴すぎるでしょう。
結果を早急に求めすぎです。

人間、一度言われたぐらいでは覚えないそうです。
言って聞かせて見せて、さらにやらせる。そこまでしないとダメですが、
あの迷宮は初めから殺しに来てますよね?
なんだかんだ言って楽しんでましたよね?

UC【偃月招雷】でルーンソードに帯電して成敗です。


雨宮・いつき
無謀と勇気は似て非なる物
それを身をもって教えようという殊勝な心意気は立派なものです
ですが、よく考えて下さい
貴方の言う無思慮で未熟な生徒が、分不相応な力を手に入れたらどうなるか
反省どころか逆に調子に乗るかもしれません
迷宮に行けば簡単に立派な肉体が手に入れられると、かえって人が殺到するかもしれません
故に、あなたの計画はここで止めます
新しい悲劇を生み出さないために!

【全力魔法】による九頭龍様の召喚です!
いかに防衛ゴーレムが優秀であろうと、
9本の射線、高高度から主人に向けて撃ち降ろされる水の息吹の全てを庇うのは困難なはず!
自爆に対しては水の勢いで押し流す事で、こちらへの被害を最小限に食い止めましょう!



●決戦~最後のアスレチックを踏破せよ~
 アスレチックの踏破に失敗したら、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにされてしまう。その罰ゲームは、あまりにもふざけた内容であった。当然、それを執行する黒幕もまた、ふざけた奴なのだろうと考えてしまう。恐らく、殆どの人が、そうであろう。
 けれど、実際は違った。黒幕であるアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、決してふざけていた訳では無かった。この行動の裏には、悲劇があった。名誉を求めて準備もせずに挑戦し、命を落とした無数の若者という存在が……。そうした悲劇を二度と起こさぬようにと思い、このようなアスレッチク、並びに罰ゲームを用意したのであった。
 ――油断していた。あんな罰ゲームを用意する奴なんだからなんてふざけた奴なんだと思っていた。
 久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー・f01190)は、眼前のアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガを見据えながら、思わず呟いてしまった。彼もまた、単にふざけて、このような事件を引き起こしたのだろうと考えていた。けれど、それは違った。相手は純粋に、悲劇を食い止めたいだけだったのだ。赤い瞳で、青い瞳を見つめる。そこには、自身が信じる道を歩もうとする、信念の青い焔が宿っていた。その態度に、自身の内なる熱血たる心に反応するものがあったのだろう。普段はお調子者の久遠寺も、この時ばかりは態勢を正しつつ、尊敬の眼差しで相手を見つめた。
 けれど、久遠寺は猟兵である。囚われた学生達を助けなければならない。
 赤い瞳と青い瞳の間に、火花が散る。
「その志に敬意を。行くぜオブリビオン、あんたの遺志は必ず持ち帰ってやる」
 久遠寺は相手に対し、啖呵を切った。

 「若気の至りだ」、そうした言葉が存在する。若い時に無茶をしてしまった際に告げる言葉でもある。けれど、その内容が時として、命に関わる事もあろう。また、それとは別に、無茶にも思える行為をした事により、危うく命を落としかけたという事もあろう。つまるところ、どういう心境であれ、無茶な事をすると、死に至る事もあるという事だ。
 ――……確かに、無謀さ故に起こる悲劇、よくあります。
 背中に棺桶を背負った少女、ジニア・ドグダラ(朝焼けの背を追う者・f01191)は、沈鬱そうな面持ちで言う。彼女はもしかしたら、ニュースや新聞で、そうした事件や事故について、色々と知っていたのかもしれない。そして、それによって引き起こされる大惨事も、知っているのであろう。
 ――私も、その写真の方々と、同じことをしているので、強く否定はできませんが……。
 ジニアも、行方不明になった親友を探して、自ら危険の中に身を投じている。不意に、後方にある壇に飾られた、無数の写真に目が行く。そこに映っている少年少女達は皆、笑顔だった。それを見ると、胸が締め付けられるような想いに駆られる。もしかしたら、自分も同じような目に合っていたかもしれない。だから、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの言う主張に、強く反対する事ができない。
 しかし、一つだけ、納得する事ができない事がある。
 ジニアは、懐から、ある物を取り出して見つめた。それは、自分と親友が笑顔で映っている写真だ。その頃の鮮明な記憶が、脳裏に流れ込む。
 ……そして、顔を上げ、眼前のオブリビオンを見据える。彼女は口にする。
『だからといって、人体改造は、な』
 もう一人の自分、『ヒャッカ』が、重々しい口調で、宣戦布告をした。

 人を助けたいという思い。それ自体は間違っていない。
 シルフィア・ルーデルハルト(血を求める”強欲”な聖女・f00898)は、ごく短い時間であったが、物思いにふけっていた。それは、先程、崖を登っている時に感じた内容と、同じであった。
 名誉を求めて準備をせずに死を遂げる。それは正しく、悲劇と言えよう。それとは違う形ではあるが、シルフィアも似たような経験をしていた。
 シルフィアは思い出していた……。貧民街で過ごした日々の事を。そして、奴隷商に見つかった時の事を。そして、人間では無く物と見なされ、そのまま売り飛ばされた時の事を。そして始まった、地獄ようのような日々の事を。
 それは、悲劇だった。
 けれど、彼女の元に天啓が舞い降りた。彼女は、この状況を脱する事ができる力を手に入れる事ができた。そして、その力で主を倒し、逃亡した。
 だが果たして、その力は、悲劇から彼女を助け出したと言えるのだろうか。もしかすると、この天啓そのものも悲劇であり、新しい悲劇の始まりだったのかもしれない。
 契約者が悪魔だと知った彼女は、ある一つの結末を思い描いた。悲劇を終わらせるには、命を終わらせるしかない……。
 しかし、彼女は死ぬのを止めた。拾って頂いた命を、神に捧げる事にしたのだった。
 そして、命と断つという悲劇を回避した。けれど、同時に彼女は、殺人衝動に見舞われるという悲劇を背負って生きる事となった。
 シルフィアは回想から目を覚まし、静かに、眼前のオブリビオンへと視線を向け、確固たる口調で告げる。
「…あなたの気持ちはわかります、一応これでもシスターですので、ですが、あなたは線を踏み越えた…では、あなたという最後の難関を突破させて頂きますね」

「無謀と勇気は似て非なる物。それを身をもって教えようという殊勝な心意気は立派なものです」
 背の小さな少年、雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は、目の前に居るオブリビオン、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガに向かって言った。
 相手の言う事は、正しいのかもしれない。無謀と勇気は、全くの別物だと、雨宮も思う。壇の上に飾られた写真の少年少女達は、その事を間違えてしまっていたのだろうか。そう思うと、胸が苦しくなる。そうした過ちを未然に防ごうとする事は、立派だと思う。それは、偽らざる本心だ。
 ……しかし、全てに同意した訳では無い。雨宮は毅然とした態度で、告げる。
「ですが、よく考えて下さい。貴方の言う無思慮で未熟な生徒が、分不相応な力を手に入れたらどうなるか。反省どころか逆に調子に乗るかもしれません。迷宮に行けば簡単に立派な肉体が手に入れられると、かえって人が殺到するかもしれません」
 その言葉に、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの眉が、ピクリ、と動いた気がした。彼は、その事を懸念していなかったようだ。しかし、これには雨宮の方が一理ある。この迷宮でわざと踏破に失敗すれば、訓練する必要も無く、楽に強靭な肉体が手に入る……。遅かれ早かれ、そうなるに違いない。相手は、雨宮の顔に目を向ける。けれど、相手の顔に浮かんでいたのは、自論を傷つけられた事に対する怒りでは無く、自身の過ちを気付かせてくれた事に対する、感謝であった。
 それを見た後、静かに、しかしハッキリと、雨宮は叫ぶ。
「故に、あなたの計画はここで止めます。新しい悲劇を生み出さないために!」

「崇高な目的と連呼してるからどんなことかと思ったら、そういうことですか」
 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は、冷静な口調で呟く。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの言う“崇高なる目的”の意味が分かり、合点がいった。しかし、納得した訳ではない。相手の顔を見据え、毅然とした口調で告げる。
「言ってることは立派だと思いますが、やり方が違ってます。失敗する学生を改造するなんて乱暴すぎるでしょう。結果を早急に求めすぎです。」
 それは、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの主張を無に帰すものであった。
 過ちを正すには、やり方というものがある。その方法を誤れば、また別の悲劇が起きてしまう可能性は否めない。肉体改造をするというのは乱暴である、その事を本人も自覚していたのか、顔がうろたえたように見えた。しかし、結果を早急に求めすぎ、という言葉の方が、堪えたようだ。それは正しく、名誉を求めて訓練をせずに死に至った学生達と、なんら変わりない事を意味していた。
 黒木は、更に相手へ疑問などを投げかけていく。
「人間、一度言われたぐらいでは覚えないそうです。言って聞かせて見せて、さらにやらせる。そこまでしないとダメですが、あの迷宮は初めから殺しに来てますよね?なんだかんだ言って楽しんでましたよね?」
 この時、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの顔に浮かんでいたのは、ただ、後悔と恥の二つであった。そして、ふと思う。失敗する学生達を嘲笑う自分の姿は、果たして、物事を良い方向へ向かわせようとする者として、正しい態度だったのか……?
 黒木は、相手を睨みつける。レンズ越しに見える彼の姿は、さっきとは打って変わって、どこか弱々しく見えたのであった……。

「このイカレタ思考、こちらと同類のキ(自主規制)であります」
 そう言って怒りを露わにしたのは、敷島・初瀬(フリーの傭兵・f04289)である。例え、悲劇を食い止めたいから、といった理由を述べたとしても、やっている事はふざけた内容である。特に、筋肉ムキムキグレードマッスルDXにするという時点で、意識改革を試みる人間のやる事ではないだろう。その事に気付いたのは、どこか、自身と同じ臭いを感じ取ったからかもしれない。
 しかし、敷島は決して油断をしていなかった。構えを取ったまま、息を飲みつつ、相手の出方を伺う。ふざけた事を言っていたが、試験管を取り出す際の身のこなしから、相当の戦闘訓練を積んでいる事が伺えた。それは、戦闘傭兵として実力を培って来たからこそ分かる、些細な点であった。ふざけた態度を取った実力者だからこそ、一瞬の油断が命取りになる。
 しかし、同時に、敷島の頭の中では、別の事が気になっていた。
 果たして、目の前に居る相手は、男なのか、それとも、男の娘なのか、という事であった。ある理由から、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの性別は、男なのか、女なのか……、その事が気になって仕方がない。
 ならば、例え命を賭けた決戦であったとしても、その事を確認せねばなるまい。倒せば最後、確認する事すらできなくなる。どうやら、今回もかなり、危険な任務となりそうだ。
 敷島は、改めて息を飲む。此方は多数、相手は一人。人数差では、圧倒的に猟兵側が有利だ。けれど、相手から滲み出る雰囲気は、それすらも凌駕してしまいそうな何かを感じさせる。
 フリーダムな態度を束縛せんとする空気の中、如何にフリーダムに性別を確認すべきか。相反する態度と思考の中で思案していく……。

 アリス・セカンドカラー(不可思議な腐海の笛吹きの魔少女・f05202)は、心の中で、ピンク色の喜びに包まれた。目の前に現れたオブリビオン、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの姿を見て、心臓が、トクッ、トクッ、と音と立てる。
 水色のツインテールは犬の尻尾のように垂れ下がっており、それを留める黄色いリボンの髪飾りがチャーミングである。青い瞳はサファイアのように透き通っており、まるで、宝石の中へ吸い込まれるようだった。薄い唇から出ている淡い桃色の舌は小さくて可愛い。小柄な顔は、まるで幼い少女のような面持ちで、庇護欲を掻き立てられる。
 小さな体躯を包み込む大きな白衣が、その小柄な体形を引き立てている。白い首筋がスラリと伸びていて、ロウソクの淡い光で光沢を放っている。同様に、白い鎖骨も艶やかで、見ていると心音が更に高まってくる。青い衣服に包まれた体は痩せていて、思わず抱きしめたくなる。大きな裾から伸びる細い腕と手首が、華奢な体つきを想起させる。そして、ヒラヒラとした青いスカートから伸びる白い太ももはムッチリとしていて、柔らかそうである。その太ももの途中から足まで、ピッタリと張り付いている靴下が、脚のラインを際立たせ、色っぽさを出している。
 そして、見た目は女の子であるが、男の娘かもしれない。そうだとすれば、アリスとしては嬉しい限りであった。彼女は、男の娘が大好物なのである。
 さて、どうやって、可愛くて外見のアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガを食べてしまおうか。緊迫する空気の中で、熱っぽい視線を向けながら思案するのであった。

 それぞれが想いを抱いて相対する。礼拝堂程の広さを持つ空間は薄暗く、後方の壇にあるロウソクの炎だけが光源となっている。最後のアスレチックは、実戦形式、否、実戦であった。張り詰めた雰囲気が猟兵達の肌をピリピリと刺激し、重苦しい空気が肺の中へ入り込んでくる。
 そして、外で吹きすさんでいた風がピタリと止んだ時……。
 闘いの火蓋は、切って落とされた。

 最初に行動したのは、ジニアであった。彼女は口と舌を素早く動かし、詠唱を開始する。その言葉は常人には聞き取り辛いものであった。しかし、もし耳の良い人が聴いていたとしても、その言葉を理解する事は困難だったであろう。その言葉は、謂わば詠唱。その内容は常人の理解を遥かに超えている為、例え言葉を聴きとれたとしても、それが有する意味を掴む事はできないに違いない。 

 ――来たれ!再起を望む、打ち捨てられし犠牲者よ!憑依し、その願望、成し遂げよ!

 その言葉が口から外へ漏れ出たと同時、背中に背負っていた巨大な棺桶が、ガタガタと大きな音を立てて振動する。そして、少しずつ隙間を生むように、ゆっくりと開いてく。刹那、そこから何かが溢れ出してきた。それらは朝顔のように鮮やかな紫色のオーラのようであり、それが人魂のように宙へ舞い踊った後、ジニアの周囲に纏わりつくように接近していく。
 その光景に、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが驚いている時であった。久遠寺は平らな地面を足で力強く蹴り、弾丸のように相手へ向かって駆けていく。
そして、懐から二本の劔を両手に携えて構えつつ走り続ける。一本は黒い焔を内包する異界の剣、もう一本は、光と熱を携えた剣。二本の異質なる剣を手に、敵を切り伏せんとばかりに飛び掛かる。
「なぬ!?」
 その、あまりの素早い攻撃に、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは対処しきれなかった。久遠寺はその勢いのまま、二本の剣を巧みに操り、彼へ振り下ろす。しかし、相手も手馴れている為か、間一髪、身を捻るようにして回避されてしまう。
「ふぅ、危な――」
 だが、安心する間も無かった。久遠寺は相手に安堵のため息をつかせる暇の無く、第二陣の刃を振るったのである。二本の剣による二回攻撃、立て続けに襲ってくる剣の舞に、思わず態勢を崩して避けようとする。けれど、久遠寺も伊達に猟兵をやっている訳ではない。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは後方に飛び下がろうとするが、間に合わない。久遠寺は鋭い刃を振り下ろし、相手の左肩を切りつけた。刹那、刃に纏わりつく黒き焔が、彼の肩口を燃やしていく。
 切りつけられた痛みと、焔で焼かれる痛みに、相手は顔をしかめたようだ。そのまま、後方へ移動され、距離を取られてしまう。そして、再び赤い瞳と青い瞳が火花を散らしてぶつかり合う
「にっしっし!お前さんもやるようじゃの」
「お互い様だ」
 まるで好敵手の戦いのように、軽い口調で言葉を交わし合う。
 その時、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、ジニアの居た場所を見る。しかし、そこに彼女の姿は無かった。その光景に、思わず目を見開いた。
 そんな馬鹿な。あれほどの棺桶を持っていながら、そう簡単に移動できる筈が無い。例えるなら、トレーニングジムにあるダンベルを抱えたまま、ランニングマシーンで走るようなものだ。そんな芸当が、あの小さな少女にできるのか……?
 すると、天井にあたる部分から、何らかの気配を感じた。思わず上を見上げる。
 そこに、ジニアが居た。その手には、あの射出・取り巻き機構付きフックワイヤーが握られている。その先端は天井に刺さっているようだった。アスレチックを踏破する際にも使用したものだ。
 それに見とれている際、久遠寺が再度、刃を振るった。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、そのまま後退して避けようとする。
 しかし、ふと急に、体が重たくなったように感じた。体に異様な倦怠感があり、その為に動きが鈍くなってしまっているのだ。
 その隙を突き、久遠寺は刃を振るう。今度は、右肩を切りつける。赤い血液が噴き出し、床に飛び散った。
 一体、何が起きたのか。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは焦りを感じつつも首を捻る。そのヒントを探そうと、天井に居る彼女を見上げる。
 すると、彼女の周りに纏わりついている死霊が、何やら呪詛のようなものを呟いている事に気付いた。その声は怨嗟に満ちており、聞いているだけで生きる気力を失ってしまいそうな程に、陰鬱で、心苦しいものであった。
 まさか――。
 その予想は当たっていた。ジニアの呼び出した死霊の呪詛は、倒すべき相手である彼の生命力を悉く奪っているのであった。
 ジニアは、天井にぶら下がりながら、苦悶の表情を浮かべる。それは、天井にぶら下がるのが苦痛だからという訳では無い。彼女が発動したユーベルコード『再起犠者(リベンジヴィクティム)』は、彼女自身の寿命を代償にして発動する。それ故の辛さというものも存在する。しかし、相手が倒れるまで、決して解除するつもりは無かった。
 そこに、久遠寺の更なる一撃が加えられようとする。
「ま、まずい――」
 刹那、久遠寺の前に土壁が現れ、その斬撃を防ぐ。しかし、それは土壁では無かった。黄土色をしたソレは、土埃を挙げながらみるみる内に巨大化し、やがて、天井にまで届く程の大きさになった。それは、20mもあった。柱のように太い手足が生え、四角い頭部が猟兵達を睨みつけている。そう、ゴーレムだ。その肩に、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが座っており、弱った体を休ませていた。
「にっしっし!これが俺様の開発したゴーレムじゃ!さぁ、ぶっ潰せ!」
 そして、まるで蟻を踏みつぶそうとするかのように、ゴーレムは古墳のように大きな足を持ち上げ、そのまま猟兵達を踏みつぶそうとする!
 それを見た雨宮は、すぐさま前に出る。目を瞑り、その身に魔力を溜めていく。この地下迷宮に蔓延しているであろう魔力が、彼の意志に呼応するかのように集まってくる。そして、雨宮は目をカッと開け、声高々に呼びかける。

 ――水神の逆鱗に触れし者に、清き怒りを与え給え……参りませ、九頭龍大明神!

 刹那、地面から何かが現れた。それは、巨大な白い九頭竜様であった。その体から発せられる神々しい輝きが、薄暗い室内を明るく照らし出す。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、その眩しい輝きに、思わず目を瞑ってしまう。同様に、ゴーレムもまた、右手を頭部の前にかざし、その光から目を守ろうとした。
 その一瞬が、形勢を大きく変えた。その隙を突き、九頭竜様がその体をゴーレムの太い脚へ絡ませる。押さえつけられたゴーレムは、振りほどこうと脚を動かそうとするが、ビクともしない。そして、そのまま九頭竜様が脚を引っ張ると、ゴーレムはバランスを崩して、地面へと横腹から倒れ込んでしまった。
 室内に大きな地響きが鳴り、床が大きく振動する。後方にあった壇も同様に揺れ、何十枚もの写真やロウソクが倒れてしまう。
 しかし、ゴーレムも負けてはいられない。そのまま、九頭竜様を薙ぎ払おうと、怪力を発揮せんと脚を動かしていく。
「そうはさせるかっ!」
 久遠寺が威勢よく叫ぶや否や、ゴーレムへ向かって飛び上がる。そして、二本の剣を勢いよく振りかざし、その固い装甲に傷を付けていく。ゴーレムは悲鳴を上げながら、脚に込めていた力を弱めた。
 そして、持っていた二対の剣をしまう。そして、腕の部分から、熱戦放出機構が姿を現す。腕を突き出すようにして、巨大な的へ照準を合わせる。
 刹那、腕から膨大なエネルギーを有した熱線が放射された。九頭竜様の神々しい光と相重なり、更なる光が空間を包み込む。熱線が当たったゴーレムは、その熱さと痛さに、ただただ呻き声を上げながら悶える。照射された部分は、みるみる内に焼けただれていき、やがて、大きな穴が開いた。
 しかし、それでヤケになったのだろうか。その柱のような太い腕を、四方八方に振り回し始めた。それは正に、高速道路を走行する4tトラックさながらの脅威であった。当たれば最後、体は肉塊と化してしまう。
 すると、それに応対するかのように、九頭竜様がジッとゴーレムを睨む。それを見たゴーレムは、その威圧感に、思わずすくみ上る。動きが止まった。
刹那、九頭竜様の九つの頭がグルリと移動し、ゴーレムの周囲を取り囲むように、上部に陣取った。頭は四方八方に位置しており、ゴーレムは右へ左へと首を曲げ、それらの首を見据えていた。すると、その頭は口をパックリと開く。口内から、魔力のような何かを感じ取った。
(いかに防衛ゴーレムが優秀であろうと、9本の射線、高高度から主人に向けて撃ち降ろされる水の息吹の全てを庇うのは困難なはず!)
「なっ、ゴーレム、逃げるのじゃ――」
 しかし、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが叫ぶも遅かった。九頭竜様の口から放たれるのは、清らかな水の息吹であった。それは濁流のようにゴーレムへ向かって放たれる。高い場所から打ち付けられるその攻撃は、正に荒々しい滝の如きであった。
 ゴーレムは両腕をクロスさせて庇おうとする。けれど、四方八方からの攻撃を全て防ぎきれる筈が無かった。雨宮の予想は当たった。このゴーレムは防衛する身としては優秀だ。しかし、巨大で頑丈というだけであって、他は生身の人間と大差は無かった。故に、この攻撃を防ぎきる事などできず、されるがままとなっていた。
 その攻撃は、肩に乗っていたアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガにも直撃していた。水の息吹で体がぐっしょりと濡れつつ、その放水に抗おうと、必死に肩に掴まっていた。自身の作ったゴーレムは防衛用としては完璧だと思っていたばかりに、この攻撃に対する対処がおなざりになっていた。このままでは、溺死してしまう。
アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは肩から離れ、地面へわざと落下する。クルリと回転しながら器用に着地をした。
「くっ、中々やるの……」
 すると、彼に向って突撃して来る影が一つあった。水が目に入って、よく見えない。急いで服の袖で目を拭い、向かってくるのが誰なのかを見極めようとする。

 ――ウロボロス起動……励起。昇圧、集束を確認……帯電完了。

 ユーベルコード『偃月招雷(エペ・ド・エクラ)』を発動しつつ、そう呟きながら突進してきたのは、黒い上着とホットパンツ、チャイナ服のような赤い衣類を纏った女性であった。黒木だ。彼女の赤い眼鏡のレンズ越しに見える茶色の瞳は、睨みを利かせている。
 黒木は冷静沈着に突撃する。しかし、その胸の中には、軽蔑のような、怒りのような、そんな疑問の感情が燻っていた。このオブリビオンのやり方は、明らかに間違っている。そればかりか、意識を改めさせる者としてはあるまじき態度や行動を取っている。その事に対する違和感は強く、それ故に、戦いにおける攻撃の糧となっていた。
 そうして走り続ける最中、黒木はゆっくりと得物を構えた。その刀身にはルーン文字が刻まれており、九頭竜様と熱線の光によって、万華鏡のように移り変わって行っていた。それは正に芸術的にさえ思われる攻撃であった。しかし、『緋月絢爛』と名付けられた細剣は、相手を切り伏せんとばかりに煌めいている。
 相手への距離は、約10m。
 走りながら、黒木は腕輪に意識を込める。それは、古代の蛇を形取ったものである。美しい装飾が施された腕輪は金色と銀色、二つの異なる色をしており、空間に溢れかえる光で輝いていた。そして、この二つの腕輪に込められているサイキックエナジーを、手に握りしめた細剣へと移していく。それと同時に、力を酷使する代償として、腕輪が黒木の色白の腕をきつく締め付けてくる。その痛さに、思わず眉をしかめる。しかし、それでも構わない。あのオブリビオンを斬り付ける為には、この位の力を使って丁度良い。
 改めて、眼前の敵を見据える。彼は今、嵐の中を傘も差さずに帰宅したかのように、グッショリと濡れていた。スカートの裾からは、大きな水滴が、ピチャピチャと、地面へ滴り落ちている。水色の髪も白い頬に張り付いており、寒そうに震えている。
 それを見た黒木は、冷酷にニヤリと笑う。刹那、自身の持っていたルーンソードが、バチバチと音を立てる。そして、その刀身に、漏電したかのような白色の電気が迸る。
 それを見たアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは目を丸くして叫ぶ。
「ま、まさか、お前さん――」
「ご名答。あなたは今、前進がずぶ濡れになっているでしょう?そこに、この帯電したルーンソードで斬り付けたら、どうなるでしょうか?」
 アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、一刻も早く、黒木から離れなければと思った。それは本能に近かった。黒木の問いかけの答えは、恐らく子供でも分かる事だ。すぐに後退して、ゴーレムの肩へ飛び上がらなければ……。
 ゴーレムも、主人の危険を察知したのか、その太い手を伸ばそうと試みる。もしアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが一歩でも足を踏み出してジャンプすれば、黒木の作戦は失敗してしまう。
 だがそれは、突然の妨害によって無に帰る事となる。
 突如、この明るく照らされた室内に轟音が響き渡る。刹那、ゴーレムの腹部が爆発する!赤い炎が燃え上がり、そこから黒煙がもうもうと立ち込めている。そこには大きな穴が開いていた……。九頭竜様の放つ水の息吹で鎮火するものの、そのダメージは計り知れない程に大きい。一体、何が起きたのか、ゴーレムとアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは分からず、困惑するしか無かった。
 しかし、その様子を意に介さないかのように、現象は再び発生する。先程の出来事に続いて、二回、三回と、再び爆音が轟く。ゴーレムは何事かと、音のする方向へ顔を向ける。そして、その正体を見た時、無機質の顔に驚愕の表情がありありと浮かんだ。
 そこには、金属の塊があった。円柱形の先端に、楕円形の突起が付いている。胴体の上下には、魚のヒレのような三角形の金属片が付いている。その尻尾にあたる部分からは、炎が噴き出ており、灰色の煙が尾を引いている。銀色の金属でできた胴体は鈍い光を放っており、先端の赤いペイントが、相手を殺さんとする獰猛さを兼ね備えていたのだった。
 そう。それは、ロケットだった。
 だが、気付いた瞬間には、もう遅い。それらロケットの群れはゴーレムの体へ次々に飛び込んで命中。凄まじい爆音と共に、赤い炎と黒い煙が発生し、更に大きな穴が開いていく。その破壊力と衝撃によって、思わず、体がよろめいてしまった。
「何とかなったであります!」
 その軍隊式の言葉をハキハキと述べる声が、猟兵達の後方から響いていた。そこには、ロケットランチャーを肩に乗せて構えている、ミリタリー服を着た女性が一人。敷島だ。彼女は満足気な笑みを浮かべ、目標へ適確にロケットを当てた事に安堵のため息を漏らしていた。勿論、下手をすれば、九頭竜様に当たったり、最悪の場合、仲間である猟兵を巻き添えにしていた可能性もある。けれど、数々の戦場を生き抜いてきた、戦闘のプロだ。この位の事であれば、赤子の手を捻るように簡単だった。そして、相手に強烈な攻撃を何度も加えられたのは、達成感と爽快感がある。その顔は晴れやかであった。
 それによって、ゴーレムの態勢が崩れた。腕はアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガよりも数m先に移動してしまう。しかし、まだ力強く飛び上がれば、届かない距離でも無い。
 しかし、それは今や、絶望的だった。ロケットランチャーの爆撃によって、この空間は今、砂と埃が舞い上がり、視界が遮られてしまったのである。形容するならば、砂漠で発生した砂嵐さながらといったところだろうか。一寸先も見えない為に、どこにゴーレムの腕があるのか分からない。これには、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガも顔を青くした。
 だが、まだチャンスはある。どこでもいい。とりあえず飛び上がり、姿をくらます事ができれば、逆転のチャンスはある。視界が遮られたと言う事は、逆に言えば、黒木も見えないと言う事。現在の位置はおおよそ見当がついているだろうが、一度、音も無く飛び上がって移動する事に成功すれば、場所が分からなくなるに違いない。そうなれば、後は足音を立てずに更に移動して、ゴーレムの元へ逃げ延びれば良い。
 そして、そのまま移動をしようとした時だった。
 ……シャラン。
 何か、鎖が擦れる音がした。……鎖?
 ハッとなった時には遅い。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、右手首を上へ上げようとする。しかし、そこには赤色の鎖が絡みついていた。
 ……シャラン。
 再び、鎖が擦れる音がした。今度は、左手首を上へ上げようとする。だが、そこには青色の鎖が絡みついていた。それらはがっしりと手首に食い込んでおり、1cmたりとも動かす事ができない。
 ……シャラン。
 更に、鎖が擦れる音がした。右足首に、鎖の縛り付けられるような音がする。金属でできた鎖が足首の肉に食い込み、痛くて外す事ができない。
 こうして残されたのは、左足首だけとなった。しかし、これだけで、どうやって移動ができるというのか。
 視界が土と埃で遮られている中、天井を見上げる。鎖は、その方向から伸びているらしい。しかし、その先に何があるのか見えなくても、何があるのかを予想する事はできた。
 鎖が伸びている方向には、ジニアが居た。彼女は土と埃によって咳をしながら、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガへ向けて鎖を伸ばしていたのだった。もし今、逃げられてしまえば、貴重なチャンスを逃す事がある。ならばと思い、鎖を伸ばし、動きを封じたのであった。
 この状況に、彼は青ざめた。
「し、しまったのじゃ――」
「チェックメイトです」
 冷酷とも取れる声が凛と響く。刹那、黒木は容赦無く、帯電したルーンソードを構える。アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは避けようとするが、それも叶わない。動けぬ標的に対して、サイキックエナジーを込めたルーンソードを、勢いよく振り下ろす。黒木の素早い剣捌きによって、彼の小さな肩に刃が食い込んだ。
 それと同時に、ジニアは巻き添えになって感電しないよう、鎖の拘束を解いて自分の方へ素早く手繰り寄せた。
 ――刹那。
「アバババババババババババ!!」
 アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの悲痛な叫び声が、空間内に木霊した。全身が水で濡れたアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの体は、今や電気をよく通す材質と化した。そこに流れ込む何百万ボルトもの電流が彼の体中を駆け巡り、激痛を与えていく。黒木は、その白く激しい閃光に、思わず目を細める。レンズ越しに見える光は強烈で、下手をすれば失明するのではないかとさえ思われた。そう、土や埃で視界が見えないが、通電により発せられる光は強大故に、ありありと網膜に焼き付いている。その光によって影絵のように映ったアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの姿は、正に、悶えている、と形容して差し支え無かった。
 それは、10秒にも満たない程の時間だった。けれど、猟兵達にとって、それは1分にも10分にも、長く感じれた……。
 その悲鳴に呼応するかのように、ゴーレムも形が崩れていき、地面へと溶けるように消えて行った。
 そして、通電による発光は止んだ。
 悲鳴も止んだ。
 土と埃が薄れていき、視界が晴れていく。
 そこに広がる光景を見た時、猟兵達は息を飲んだ。
 衣類がボロボロに破れ、黒く焦げ付いている。しかし、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは立っていた。キッと、青い瞳を大きく開け、瞳孔を開きながら、猟兵達を見つめる。
「にっしっし!まさか、そこの黒い焔を纏った剣を持った若造相手に使う予定だった発明品で、ギリギリ命を取り留めるとはな!」
 そして、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、ほっぺたを指で摘まんだ。そして、グイーンと伸ばす。すると、そこに、薄い皮膜のような物が現れて伸びて行った。
 猟兵達の中には、これを見て、絶句せずにはいれらない者も居たかもしれない。何故なら、それは先日の戦争において使われた、自身の外観を損なわないような宇宙服と酷似していたのだから。実際には、それとは別物に違いない。それに、本人も別に、それを模して作ろうとした訳ではないだろう。けれど、あまりにも共通点が多そうなだけに、息を飲まざるを得なかったのだ。
 しかし、これはただの服では無い。そう、これは熱耐性も充分に兼ね備えており、久遠寺の黒い焔も無効化してしまう代物だったのである。
「さて、ここから俺様の反撃を――」
 刹那、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの元へ短距離走の如き走りで突っ込んでくる者が居た。その影は、黒いポニーテールを揺らしながら、黒い瞳をギラギラと輝かせている。猟兵達は、それが誰だかわかった。そう、敷島だ。彼女は土埃が薄まって視界が晴れきる前に、その粉塵を利用して彼の視界から隠れつつ、素早く隠密に接敵する。それを見た他の猟兵達は、不意打ちを仕掛けるのだと察知した。事実、敷島の手には、鋭い刃物が握られている。湾曲した刀身の短弧側に刃を持った、いわゆる、内反り、と呼ばれる形式のナイフ――ククリナイフ――であった。その刃はギラリと鈍い輝きを放っており、その切れ味は相手の肉を削ぎ落す程の威力を有していると、一目見て分かる。そしてまだ、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは敷島が接近している事に気付いていない。
 そして、遂に敵の元へ到達する。敷島はアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの前に立った。
「なっ、しま――」
 彼が驚きの表情を浮かべながら叫ぶが、時既に遅し。敷島は、手に持ったククリナイフを構えた。
刹那、敷島は野球で盗塁をする選手のように、足を彼の脚の間へ滑らせる。ズザザザザーー、と音を立てながら、スカートの中へ体を入れていく。そして、手に持っていた鋭利な刃物でで、体を覆っている皮膜のようなものを素早く的確に切りつける。抵抗する間も与えず、切りつけた隙間に手を伸ばし、白いクマさんパンツをずり下ろした。
 そして、驚愕の表情をして一言。
「なんと立派な!」
 敷島は、今まで抱いていた疑問が解決して、満足したようであった。大きく頷くと、そのまま股からモゾモゾと這い出て、そのまま猟兵達の方へ歩いて戻って来た。
 ……戦場は、何とも言えぬ沈黙に包まれた。猟兵達も、敵であるオブリビオンも、ただ、大きく口を開けて、茫然とするしか無かった。何故だろうか。外で吹く風が、一際大きく聞こえたような気がした。それほどまでに、この静寂は大きかったのである。
 だが、逆に言えば、それは大きな隙を作ったとも言えた。
 
(行くぞ相棒――神・焔・合・体ッ! ラグナ…ライザァアァアッ!!)

 その言葉を心の中で叫びながら、久遠寺は『神焔合体ラグナライザー(シンエンガッタイラグナライザー)』を発動。銀の翼、フェンリルを放った。ソレは、彼の元を離れて宙を舞う。そして、久遠寺の元へ飛んで来たかと思うと、突如、久遠寺の姿は変貌していく!
 アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、敷島に注目していた為、久遠寺の変貌に気付いていなかった。久遠寺はもはや、人間の形を成していなかった。それは正しく、ロボットと形容して差し支えないだろう。その身長は元々の身長の二倍となり、みなぎってくるパワーは周囲に居る者達へ、味方に対しては勇気を、敵に対しては畏怖を与えるかのようであった。そして、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが気付いた時には、何の妨害を行う事もできないままに、久遠寺の変身は終わっていた。
「なっ、しまったのじゃ!」
「なら俺はあんたの発想の上を行く!」
 そう叫ぶや否や、そのまま腕を大きく振りかぶったまま、彼に向って接敵する。右手を強く握りしめ、力を籠める。そうして向かう際の速度は、先程戦った時の何倍も、何十倍も速い。それ故、目で追う事すら困難であった。そして、その勢いを落とさぬまま、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガに接敵。刹那、その顔面に握り拳を思いっきり叩き込んだ!例え耐久性のある被服を纏っているとはいえ、その衝撃そのものを和らげる事は叶わなかったようだ。
「ぶふぅ!?」
 彼は呻き声を上げながら吹っ飛ばされ、壇へと体を大きくぶつける。壇に飾られていた写真やロウソクの悉くが倒れ、彼の上へ次々に落下していく。
「よ、よくも……、よくもやってくれたのじゃ!!」
 そう、凄い剣幕を露わにし、彼はごそごそと何かを手に取る。それは、先程見せた、あの試験管であった。
「死ねい!!」
 彼が叫ぶと同時に、何本もの試験管を地面に叩きつけようとする。その様子を見て、猟兵達は直感する。
 ――自爆する気だ!
 ここからは、一瞬の判断が、生死に関わってくる。

「え、自爆です?」
 ジニアは、天井にしがみついたまま、どうすべきか判断しかねていた。天井にぶら下がっている今、使えるのは片手のみである。棺桶を盾にする為の動作は許されてもいないし、鎖を束にしても衝撃を防ぐ事はできない。そこで、一つの結論に至る。
 ……激痛への耐性で、乗り切れないだろうか、と。
 視界が真っ白に染まった。

 「自爆でしょうか……」
 シルフィアは、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが自爆用の試験管を出した直後、すぐさま防御へと移行していた。
 白い正装に手を突っ込み、一つの包帯を取り出す。それは、右腕に封じられている悪魔が暴れないように拘束する為のものであった。祝福が施されたソレが、武器になると同時に、防具にもなりうる。包帯の一旦を手に持ったまま、宙へ軽やかに、そして勢いよく投げる。すると、包帯はシュルシュルと音を立て、そのまま林檎の皮のように弧を描きながら移動しつつ、ドームを形成する。それはシルフィアをすっぽりと覆い隠し、一種のシェルターを化した。
 刹那、ドームの中に隠れるようにして防御を試みたシルフィアは、爆音を耳にしたのであった……。

 久遠寺は、相手が試験管を構えたのを見て、自爆する気だと感じた。ならば、それを防がなければならない。
 久遠寺は、両手を前にかざす。試みるのは、オーラによる防御だ。しかし、それを上手く機能させるには、爆発する瞬間に合わせて発動する必要がある。一瞬でもタイミングを間違えれば、例え鎧の火炎耐性があったとしても、体が塵と化してしまうだろう。ゲームで『タイミングよくボタンを押せ』というものがあるが、それよりもスリルがある。いや、今回の場合は命が掛かっている。
 そして、試験管が地面に激突する瞬間。
 久遠寺は、防御を試みた……。

 ――さて、どうしようかしら?
 ――これはちょっと、不味いであります!
 ――相手は、自爆する気ね……。
 アリス、敷島、黒木の三人は、それぞれ相手の挙動を見て、自爆する事を悟った。そして、どうすべきか思考を巡らせていた。しかし、時間の猶予は無い。何とかして、相手の攻撃を防ぐ手立てを考えなければ……。
 その時だ。
「皆さん、こっちへ来て下さい!」
 雨宮が三人へ向けて、声高々に叫んだ。雨宮もまた、彼の見せた素振りが意味する事を悟り、驚愕の表情を浮かべていたのだった。相手は自爆する気だ、その攻撃はきっと甚大な被害をもたらすだろう、みんなを守らなければ……。ほんの僅かな時間しか残されていない中で、彼は何を成すべきか、必死に頭を回転させて判断したのである。もう、一刻の猶予も無い。アリス、敷島、黒木は、彼の元へ走り込む。刹那、雨宮は九頭竜様へ急いで目を向ける。九頭竜様は、その意を汲んだように頷き、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガへと九つの頭を向ける。そして、神々しい輝きを放ったまま、大きく口を開いた。九頭竜様の背後には、雨宮、アリス、敷島、黒木の四人が、身を隠すように立ち、深刻な面持ちで前方を見つめていた。
 そして、試験管が割れ、爆風が巻き起こる。
 刹那、九頭竜様の口から、先程の水の息吹が勢いよく吐き出される。
 爆風と水の息吹がぶつかり合う事により、激しい衝撃派が巻き起こる。それは、猟兵達の衣類や髪をはためかせ、地面に落ちていたロウソクや写真を巻き上げたのであった……。

 そして、爆発は止んだ。
 土埃が舞い上がる中、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガはゆらりと立ち上がる。
 そして、視界の先を見据える。これだけの破壊力だ、猟兵とはいえ、無事で済む筈が無い。
 ――勝ったのじゃ。
 思わず、にやりと笑う。
 そして、視界が晴れていく……。
「爆発オチなんてサイテーだな」
 刹那、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは目を丸くし、口を開けた。
 そこに居たのは、無事な姿の猟兵達であった。
 ジニア、シルフィア、久遠寺、アリス、敷島、黒木、雨宮……。
 皆、多かれ少なかれ怪我はしていたが、生きていた。
「ば、馬鹿な……そんな筈は無いのじゃ!」
 そう彼が叫んだ時である。
 突如、白いドーム状の物が、姿形を変えていく。それはシュルシュルと音を立てながら、林檎の皮むきを逆再生にするかのように戻っていき、やがて、一つの包帯の束へ戻って行った。それは、メジャーの巻き取りによく似ていた。
 そして、シルフィアは前へ歩みを進める。トテトテという擬音語が出てきそうな軽い足取りで、ゆっくりと接近していく。しかし、その赤い瞳には無邪気さは無く、殺人衝動が宿っていた。

 ――この包帯だって、こういう応用法があるんですよ。

 シルフィアは、包帯がグルグル巻きにされた右腕を、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガへ向けて、真っ直ぐ伸ばした。刹那、そこから予備の包帯が解き放たれていく。それは矢のように素早く相手へ向かって突き進んだ。
「なっ、何じゃ!?」
 白い包帯はアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの周囲を何度も旋回したかと思うと、急に締め付けるようにして巻き付いた。
「ぐっ!?」
 両腕を脇腹へくっつけるようにして巻き付いてくる。布でできている筈の包帯が、まるで荒縄のように固く感じられる。力強く締め付けられ、小さく細い体に激痛が走る。体内に無数に走る血管が閉じられ、鬱血しそうになる。あらゆる骨がミシミシと音を立てて、悲鳴を上げる。
「うっああ――!!」
 しかし、まだ拘束は終わらない。包帯は更に旋回を続け、そのまま彼を糸巻のように締め付けていく。足首、ふくらはぎ、ふともも、腰、お腹、胸、鎖骨……。
 そして、首から頭のてっぺんまで包帯が巻かれて行った。そうして出来上がったアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの外見は、もはやミイラのようであった。全身を締め上げられる苦痛に声を上げようとしても、口も包帯で封じられている為に、くぐもった声しか上げる事ができない。もがこうとしても、包帯の持つ呪封の力が余りにも強すぎる為、全く動けなかった。
 こうして、『バンテージキャプチャー(バンテージキャプチャー)』によって、身動きが完全に封じられる事となった。そして、シルフィアは静かに告げた。
「…さて、お仕置きのお時間です」
 そう宣告すると、シルフィアは右手を天へ掲げる。すると、包帯で拘束されているアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、そのまま宙へ持ち上げられる。
「ん、んーー!?」
 そして、暫く空中にて静止する。彼は、これから何をされるのか分からず、恐怖に心が支配されていた。
 ……刹那。
 シルフィアは、右手を右へ振った。
 彼はそのまま壁へ勢いよく叩きつけられる。
「んん――!!」
 衝撃音が静寂に響き、土埃が舞い上がる。
 次は、右手を左へ振った。
 それと同時、今度は左の壁へ勢いよく叩きつけられる。
「んんっ!!……」
 再び衝撃音が鳴り響き、土埃が増す。
 今度は、右手を更に天へ掲げた。
 すると、次は速度を上げて天井へと叩きつけられた。
「っ!!」
 そうして、シルフィアの攻撃は更に激しさを増していく。彼女は、ミイラのようなアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガを、まるで紙屑を持ち上げるかのように軽々と扱い、そして、おもちゃを投げつけるかのように、右へ、左へ、上へ、下へと振り回していく。そして、どこかへ勢いよくぶつかる度に、大きな衝撃音が鳴り、相手はくぐもった悲鳴を上げ、土埃が舞っていく。
 アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは、されるがままであった。締め付けられる苦痛に加え、体を打ち付けられる事の激痛が加えられる。それは正しく、拷問に近かった。声を上げる事も叶わず、ただただ、耐えるしか無い……。
 そして、それが数分間続いた。
 彼は、ぜえぜえと息も絶え絶えになっていた。
 最後は、そのまま包帯を自分の方へ勢いよく引き寄せた。
 刹那、シルフィアは右手を強く握りしめ、後ろに引く。
 そして、包帯でグルグル巻きにされたアストネージュ・トーマスライト・ヒラーガがシルフィアにぶつかりそうになった時。シルフィアは、その右手を彼のみぞおちへと突き出すように殴った。
「――!!」
 声にならぬ声を上げ、彼は包帯に覆われた口から、血を吐いた。ピシャリと、シルフィアの顔へ、水飛沫のように掛かる。そして、彼が壇へ勢いよく吹っ飛ばされる最中、包帯の拘束を一瞬で解いた。相手はそのまま、壇へ背中からぶつかり、崩れ落ちるようにして倒れた。
「…これにてお仕舞です。…ふふ」
 シルフィアは顔に付いた血を右手で掬い取り、口に運んで舐める。その表情は、どこか嬉しそうであった……。

「まだじゃ……、俺様は、まだ終わる訳にはいかないのじゃ……」
 そう呻きながらも、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガは仰向けのまま呟いた。既に満身創痍でありながらも、戦う意志は衰えては居なかったのである。そう、彼はまだ、終わる訳にはいかなかった。やり方は間違っていたとしても、絶対に、自分の“崇高なる目的”を失う訳にはいかなかった。彼は顔を上げ、猟兵達を睨みつける。
 しかし、もしかすると、彼にとっては、そのまま骸の海へ戻った方が、幸せだったのかもしれない。
 そう呟いている間も、彼へ近付く猟兵が居た。けれど、それに気付く事はできなかった。無理も無い。彼の認識は念動力によってハッキングされており、その存在を意識する事すらできなかったのだから。
 彼の元へ近付いていたのは、アリスであった。彼女程の腕前となれば、こうして意識の死角を生み出す事も可能なのである。アリス曰く、一流の暗殺とは、標的の眼前に暗殺者が居ても認識させないものだと言う。しかし、この場で行おうとしている暗殺は、本来の意味とは違ったものになりそうである。
 アリスは、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガのすぐ前までやって来た。しかし、彼は全く気付いていないまま、うわ言を言い続けていた。
 彼を見下ろしたまま、アリスは恍惚をした笑みを浮かべていた。小さな体は濡れており、服はピットリと張り付いている。その服はボロボロに破れていて、純白の肌が露わになっており、半裸と言って差し支え無かった。電撃や拘束に苦しんでいる時の彼を見ているだけでも興奮していたが、その姿を間近で見ると、心臓がドクンドクンと高鳴ってくる。彼の、まだ敵意を失わぬ毅然とした顔付きを見ると、嗜虐心がそそられる。
 アリスは、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの小さな顔を両手で包み込むと、目を閉じて、そのまま薄い唇を、彼の薄い唇へ強く押しつけた。
「ん――!?」
 唇に、柔らかいものが触れる。それは、彼にとっては恐らく、初めての口づけであろう。しかし、その初めては、猟兵によって、半ば強引に盗まれてしまった。
 彼は目を見開き、抵抗しようとする。しかし、満身創痍の体では、押しのける事もできない。ただ、唇と唇が触れ合うのを感じたまま、ジッと耐えなければならなかった。
 だが、その口付けは深かった。アリスは、ゆっくりと唇を、開けたり、閉めたりする。そして、彼の薄い唇へ自身の唇を擦り付けたり、軽く吸ったりした。
 チュッ……、チュ――。
 感触だけでなく、音が耳に響いてくる。彼は嫌悪感に包まれながら、抵抗できないまま、その行為を受け入れるしか無かった。目の前に居る猟兵は、幸せそうに、自分の唇を奪っている……。
(うっ、ああ、あああ……)
 彼は、心の中で呻き声を上げた。
 だが、アリスは熱っぽい目で彼を見つめると、次の作業に移った。
 少女が唇を強く押しつけるのを彼は感じる。刹那、唇から小さな体全体に電流が走った。満身創痍の体がビクンと跳ねる。何が起きたのか分からなかった。しかし、アリスが唇を自分の唇に擦り付けると、体がガクガクと小刻みに震えた。自分の呼吸は上ずり、心臓がトクントクンと音を立てる。そして、深くて甘い口付けをされる度に、体中が気持ちよくなってしまう……。すると、満身創痍の体が、アリスを求めるようになった。けれど、体は動かない。その中で、深い口付けが行われていく。それは、一種の拷問であった。
 アリスは、トロンとした彼の顔つきを見て、ほくそ笑んだ。『マインドジャック』『赤い魔糸』『情欲の炎』といったユーベルコードをフルに活用し、感度を三千倍にまで引き上げたのであった。
 そして彼は、遂に堕ちた。
「お、お願い……するの、じゃ……」
 アリスは、彼の髪を優しく撫でる。
「ふふっ、従順な子は嫌いじゃないわ。じゃあ、ご褒美に……」

 ――わたしの中で果てなさい♪

 そう、耳元で優しく囁くと、アリスは『真なる夜の到来(デモニックエクリプス)』を発動し、真なる夜(デモン)へと変貌した。そして、彼を自身の中へ呑み込んだ……。

 ……チュッ。
 ――あぁっ。
 ――んっ、んん……。
 ……クチュ……チュ。
 ――んんっ!
 ――んっ、ん……。
 ……ジュルッ、……クチャ。
 ――ぷはぁっ。
 ――はぁ、はぁ……。
 ――ふふ、激しいキスの味は、どうかしら?
 ――……。
 ――ん、どうしちゃったのかしら?
 ――……のじゃ。
 ――なぁに?聞こえないわ?
 ――……もっと……してほしいのじゃ。
 ――ふふ、いいわ。正直な子は、好きよ。
 ――んっ!!
 ……チュウゥゥー……、クチュッ、クチュッ。
 ――ん、んん……。
 ……クチャッ、クチュッ!チュ……チュ……チュ……クチュッ!!
 ――っ、……っ!!
 ――……ん……んん!!
 ――……ぷはぁっ!!
 ――ぷはっ!!
 ――はぁ、はぁ……。
 ――……ねぇ、もっと、いい事してあげましょうか?
 ――お、お願い、するのじゃ……。
 ――ふふ、いい子ね……。

 それから、数時間が経過した。
闇が晴れた時、そこには、アリスのみが居た。そして、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの姿は無かった。アリスは満足気な表情を浮かべながら、それを見届けた猟兵達の元へ、戻って行ったのであった……。

●全てのアスレチックを踏破して……。
 猟兵達は、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが用意したアスレチックを、全て踏破した。そして、最後のアスレチックが行われた場は、静寂に包まれていた。礼拝堂のような厳かな空気とは、また違った雰囲気が漂っている。
 かつて、彼が壇に飾って弔っていた写真やロウソクは、無残にも、地面に散らばっていた。その光景は、死んでいった者達の悲劇が凝縮されているようにさえ思われた。
 この後、猟兵達は囚われていた学生達を救出し、目的を達成する事ができた。彼らは、それぞれの想いを胸に抱く事だろう。事件を解決した後で、どのような行動を取ったか、ここでは記さない事にする。
 ある者は、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガが言っていた“崇高な目的”について、思索にふけるかもしれない。
 ある者は、死んでいった学生達の悲劇に対して深い悲しみを抱き、黙祷を捧げるのかもしれない。
 ある者は、アスレチックを踏破した事や、強敵たるオブリビオンを倒せた事に満足するのかもしれない。
 ただ、一つだけ共通している事は、また一つ、オブリビオンの脅威から、世界を救ったという事であった……。

●果たして、これで終わりなのか?
 ここで、PBWというフィクションの世界から離れ、現実の世界へ話を移そう。
 この世界では、利益や名誉を求めて、人間が様々な活動を行っている。それは、会社経営であったり、スポーツの大会であったり、受験であったりする。それを求める事によって、文明や社会というものは進歩し続けてきたのかもしれない。
 けれど、そうした事を求めるあまり、本来なら必要な準備や訓練などが、疎かになってしまう事もある。そうして生み出される悲劇を、私達は知っている。
 今後、そうした悲劇が繰り返される度に、アストネージュ・トーマスライト・ヒラーガの“崇高なる目的”を思い出す事となるのだろう。
 けれど、これは決して他人事では無い。人は気が緩んだ時や状況次第で、いつでも、その当事者となりうる可能性があるのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月05日


挿絵イラスト