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はると硝子の天使

#アリスラビリンス #猟書家の侵攻 #猟書家 #灰色の天使グリエル #オウガブラッド #はるの物語 #宿敵撃破

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 アリスのはるは、今日も不思議の国を巡る。
 思い出せた辛い過去の欠片を受け入れ、乗り越えて。
 元の世界に戻るための『自分の扉』を探して。
 また不思議の国へと辿り着く。

「ほら見て、アリス」
 示された先に揺れるのは、木から零れ落ちたかのように垂れ下がる硝子の雫。
 キラキラと輝くその雫に見惚れながら、引き寄せられるように手を伸ばすと。
 ころん、とはるの手の中に転がり落ちた雫は、不思議な輝きを見せ。
 ゆらりゆらりとその輪郭を揺らし。
 小さな青い魚の形になった。
「素敵でしょう?
 ここは硝子が芽吹く場所。
 芽吹いたばかりの硝子は、触れた人の心から、その形や色を得るの」
 琥珀色の瞳を輝かせるはるが顔を上げた先で微笑むのはオウガブラッドの少女。
 濃い青色の髪を肩のあたりで切り揃えて、透き通った硝子のように綺麗な青い瞳を輝かせて、でも右目と右腕を隠すように包帯を巻いた彼女は、ロゼ、と名乗り。唐突に現れたはるを快く迎え入れると、この『硝子の国』を案内してくれて。
 そして、一番のお気に入りだという『硝子の森』で嬉しそうに微笑む。
 少し話しただけのはるにも分かる。
 ロゼが硝子の国をとても大切に思っていることが。
 分かるから。
「綺麗ですね」
「でしょう?」
 不思議な硝子の雫に囲まれて、はるはロゼと笑い合う。
(「……壊れたらもっと綺麗だね?」)
 そのロゼの胸中で、オウガが囁いていることに気付かぬまま。

 りりん。

「アリスラビリンスの『硝子の国』に、猟書家幹部『灰色の天使グリエル』が現れるよ」
 猟兵達が集まったのを見るや否や、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は早速説明を始める。
 灰色の天使グリエルは、執拗にオウガブラッドだけを狙うオウガ。オウガブラッドから肉体という不純物を削ぎ落とすことで、アリスとオウガの純粋融合体を生み出せると考えているらしい。
 何とも勝手な理屈で襲われるわけだが。オウガブラッドは、取り憑いたオウガの力を駆使して戦うことができる存在だ。ゆえに、猟兵が加勢しなくても、何とか自力でグリエルに応戦し、逃れることはできる。
 しかし。
「どうも狙われたオウガブラッドの心が不安定なようでね。
 戦いの中で、そのまま狂気に呑まれてオウガと化してしまう予知が見えた」
 困ったように夏梅は頭をかき、苦笑した。
 本当の意味でオウガブラッドを助けるためには、猟兵が赴くしかない、と。
「幸いというか何というか、猟兵と縁のあるアリスのはるが硝子の国にいる。
 はるが橋渡しとなって受け入れてもらえるだろうから、一緒に硝子の国を楽しんで、戦いが始まる前に、オウガブラッドの心を支えてやっとくれ」
 それは、ただ敵を倒すよりも難しいことかもしれないけれど。
「頼んだよ」
 信頼の笑みを浮かべて、夏梅は猟兵達を送り出した。

 ねえ、ロゼ。硝子、綺麗だね。
 触れた人の心から、形と色を得るんだよね?
 じゃあ、ロゼが触ったら?
 皆を傷つける、鋭い形になるのかな?
 皆の血を吸った、赤い色になるのかな?
(「やめて……」)
 ねえ、ロゼ。硝子、綺麗だね。
 でも、硝子は、壊れる瞬間が一番綺麗だと思わない?
(「私じゃない。私は壊してなんかない」)
 だから、ロゼ。
 ボクと一緒に、硝子の国を壊そうよ。
 大好きで綺麗な国を、ロゼだけのもっと綺麗な国にしちゃおうよ。
 ロゼとボクが出会った、あの国みたいに。
 壊そう。殺そう。そうして、ボクと一緒に楽しもう?
(「私が殺したんじゃ……ない……」)
 ねえ、ロゼ?


佐和
 こんにちは。サワです。
 貴方の心はどんな硝子ですか?

 オウガブラッドの少女は『ロゼ』。17歳の少女で、自身に憑依するオウガを戦わせるユーベルコード『オウガ・ゴースト』が使えます。ただし、現状のままで使用すると、心が狂気に呑まれてしまい、オウガと化してしまいます。
 辿り着いたこの『硝子の国』が大好きで、『硝子の森』を気に入っています。
 しかし、芽吹いた硝子に自ら触れようとはしません。

 アリスの『はる』は、10歳程の少女で、歌声で癒すシンフォニック・キュアのようなユーベルコードが使えます。
 はるのこれまでを知りたい方は、タグを利用して過去の登場作をご確認ください。
 未読で全く問題ありません。
 素直で明るい性格で、ちょっと天然。初対面でも猟兵にはすぐ懐いてくれます。

 第1章は、硝子が芽吹く場所でのひとときです。
 触れた人の心によって色形を変える硝子をお楽しみください。
 硝子を楽しむ姿を見せるだけでも、ロゼの心を落ち着けることができます。
 もちろん、直接、ロゼやはると交流することもできます。

 第2章が『灰色の天使グリエル』とのボス戦です。
 ロゼを狙って襲ってきます。
 状況によってはロゼも戦うことになり、オウガと化す可能性があります。
 グリエルを倒せれば、ロゼがどうなろうとも、シナリオは成功です。

 それでは、儚い煌めきを、どうぞ。
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第1章 日常 『硝子の魔法』

POW   :    大きく、鮮やかに!

SPD   :    時間をかけ、丁寧に

WIZ   :    儚く、繊細に

イラスト:葎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ココ・クラウン
他の不思議の国におでかけするのも、
「アリス」に会うのも初めて!
シュガー、楽しみだね

わあ…光ってるのは硝子?きらきらしてる
愉快な仲間たちが国や森をきれいに整えてるのかなあ
見て!こっちには僕とシュガーが映ってるよ
僕の森と似てるけど、違うきらめきだ
ここは不安な旅の中で見つけたロゼさんの宝物なんだね
僕もこの森、好きだな

アリスラビリンスの住人として、
この森とアリスたちを助けてあげたい
よそ者に壊させはしないよ

はるちゃんの硝子のお魚かわいいね
これに触れると心が形に…?
僕、「心のしるし」は持ってるけど
本当の心を持ってるのか自信がないよ
硝子が壊れて消えちゃったらどうしよう
ちょっと緊張するけど…手を伸ばしてみるね



 ココ・クラウン(C・f36038)は、全てが煌めく『星森』の王子様。
 うまれた時から一緒の親友、ユニコーンの『シュガー』と共に美しい森を歩くのは、かつての穏やかな日々と同じだった。
 けれども。
 揺れる木漏れ日も、満ちる水音も、輝く魔鉱石も。見慣れたそれらはこの森にはなく。
 煌めくその森の全ては、硝子でできていたから。
「わあ……きらきらしてる。
 僕の森と似てるけど、違うきらめきだ」
 ココは、同じところと違うところ、それぞれを楽しんでいく。
「他の不思議の国におでかけするのも、『アリス』に会うのも初めて!
 ね、シュガー」
 アリスラビリンスで創られた『愉快な仲間』であるココだから。
 不思議の国は初めてではないけれど。
 王子様として統べていた『星森』から外へは出たことがなかったから。
 不思議の国は初めて見る世界。
「見て! こっちの硝子には、僕とシュガーが映ってるよ」
 硝子以上に緑色の瞳をきらきらさせて、ココは森を眺め歩いた。
「愉快な仲間たちが国や森をきれいに整えてるのかなあ」
 その姿は見えないけれど、きっといるはずの存在にも思いを馳せて。自分のように役目を持って不思議の国を支えているであろうその働きを、硝子の輝きに垣間見た気がして。
 ふっ、とココは傍らのシュガーに笑いかけた。
 この森も、愉快な仲間たちも、そしてアリスたちも。
 アリスラビリンスの住人として、助けてあげたい。
 美しい硝子にその思いを強くして。
「よそ者に壊させはしないよ」
 ココの誓いに、星空を纏ったような仔ユニコーンも、気弱ながらにおずおずと頷く。
 よそ者は怖いけど頑張る、と言うかのようなその姿に、ココはまた微笑んで。
 そっとシュガーの顔に手を伸ばし、撫でようとしたところで。
 ふいっ、とシュガーが横を振り向いた。
「どうしたの?」
 不思議そうに親友の視線を追えば、そこには2人の少女が立っている。
 そしてその片方が、硝子の木から零れ落ちそうな硝子の雫に手を伸ばしたから。
 アリスたちだ、と確信して、ココは2人に駆け寄った。
 その間に、硝子の雫は、少女の手の中で、小さな青い魚の形に変わる。
「はるちゃんの硝子のお魚かわいいね」
 ふんわり話しかけると、ココと同じ年くらいの、魚型の硝子を手にした少女――アリスのはるが、驚いたように顔を上げて。でもすぐに、猟兵さん、と笑いかけてくれた。
 そして、名前を伝え合うのをきっかけに、硝子の森へ話が移れば。もう1人の、包帯を巻いた青髪青瞳のお姉さん――ロゼも、親し気なはるにつられてか、すぐにココと打ち解けて嬉しそうな笑顔で説明を重ねてくれたから。
「ここは不安な旅の中で見つけたロゼさんの宝物なんだね」
 その言葉から滲み出る温かな思いに、ココは破顔すると。
「僕もこの森、好きだな」
 伝えた共感に、ロゼも、包帯で隠されていない左目を嬉しそうに細めた。
 笑い合う2人を、はるもにこにこ眺めて。
 思いついたように、ぽんっと手を叩く。
「そうです。クラウンさんも、芽吹いた硝子に触れてみませんです?」
「これに触れると心が形に……?」
 先ほどの説明と、はるの手の中にある魚とを、ココは見て考えて。
 ふと、過る不安に少し表情を曇らせた。
「僕、『心のしるし』は持ってるけど、本当の心を持ってるのか自信がないよ」
 愉快な仲間という疑似生物な種族であるココは、そっと胸に手を当てる。
 短い黒髪の上に、星森の王子の冠が、小さな王冠は輝いているけれども。胸の中は空っぽなのではないかと、硝子の雫に伝わる心はないのではないかと、不安が過り。
「硝子が壊れて消えちゃったらどうしよう」
「そうね。それは怖い、わね……」
 零した言葉に、ロゼも俯き気味に頷いた。
 しかし、そんな2人に、はるは迷いなく微笑んで。
「大丈夫です。クラウンさんもロゼさんも、とても心優しい方なのです。
 絶対、素敵な硝子になりますですよ」
 疑いなく背中を押すように言ってくれるから。
 傍らのシュガーも、そっとその鼻先をココに添えてくれるから。
 ココは王冠から、眩く輝く『心のしるし』からも勇気をもらって。
「ちょっと緊張するけど……」
 少し怖々と、でもしっかりと真っ直ぐに、手を伸ばした。
 そして、不安気なロゼが見つめる前で、硝子の雫はココの掌に転がり落ち。
 不思議な輝きと共に、ゆらりゆらりとその輪郭を揺らすと。
 美しい硝子の薔薇となって花開いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

陰海月に、『ぷきゅー!(いきたいー!)』とねだられましたー。
いやはや、以前にも似たような国にいきましたけどー、硝子は綺麗ですからねー。良い機会です。
私が触れると、銀灰色の花になりましたー。


陰海月、『ここなら、霹靂でも大丈夫!』とぷきゅぷきゅ。
硝子は綺麗で大好き!触ると…虹色クラゲに!
霹靂、普段だと『嘴や爪などの身体で割りそう』で遠慮していた硝子。今回は大丈夫そうで、ほっとしてい る。クエクエ。
触れると、虹色の羽に!
二匹は友だち!



 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が硝子の国へ足を向けたのは、仲間である大きなミズクラゲ『陰海月』にねだられたから、だった。
「ぷきゅー!」
 行きたい、と騒いでいた陰海月は、硝子の森に辿り着くなり、着いた、と言うように嬉しそうに鳴き。いつもよりも楽しそうに空中を揺らめいているように見える。
 その様子に、のほほんと微笑んだ義透も、周囲をゆるりと見回して。
「いやはや、以前にも似たような国にいきましたけどー、硝子は綺麗ですからねー。
 良い機会です」
 思い出すのは、とあるアリスナイトと出会った別の硝子の森でのこと。不思議な硝子は義透の手の中で、手裏剣などの武器や、陰海月に似たクラゲの形に変わっていった。
 その美しさを思い出せば、この硝子の森を訪れたのは陰海月だけが理由ではなく、義透自身の希望でもあったと思うけれども。
 陰海月のように分かりやすくはしゃいではいないから。
 にこにこ笑顔で陰海月を見守るその姿は、孫の引率に来た老爺のよう。
「そういえば、ここの硝子は触れた人の心で色形が変わるとか?」
 ふと、説明を思い出して、木から零れ落ちるような硝子の雫に手を伸ばすと。
 自分から義透の元へ飛び込んでくるかのように、雫はころんと掌に転がり落ちる。
 不思議な輝きでゆらりゆらりとその輪郭を揺らせば。
「銀灰色の花になりましたー」
「ぷきゅー?」
 美しく開いた硝子の花を覗き込んでか、陰海月が手の周りをふよふよ漂った。
 綺麗な硝子にさらに喜ぶように、また揺らめく陰海月を、義透は見つめ。さらに、そんな義透の影から、金色混じりの焦げ茶の羽毛が美しいヒポグリフ『霹靂』も姿を現すと、おずおずと陰海月を見上げる。
 気付いた陰海月が、霹靂を誘うように、その鷲のような顔近くへ近寄るけれど。
 鷲の太い嘴が、前脚の鋭い爪が、馬の頑丈な後ろ足と蹄が、繊細で儚い硝子を割ってしまいそうだからか、霹靂は躊躇うように遠慮を見せ。でも、硝子の煌めきから、目を逸らせないでいるようでもあったから。
 陰海月は諦めずに霹靂の周囲をふわふわ漂い。
 大丈夫、と伝えるかのように、ぷきゅぷきゅ鳴いて。
 その声に背を押されるかのように、霹靂は硝子の森へ足を踏み出した。
 最初はおずおずと、不安気な足取りだったけれども。綺麗な硝子は霹靂が歩くくらいでは壊れず、美しい輝きの中に霹靂の雄々しい姿を映し込んでいたから。さらにそこに陰海月もふよふよと一緒に映っていることにも気が付いて。次第に、霹靂の足取りに安堵が満ちていく。
 だから義透は、のほほんと微笑んで。
「陰海月と霹靂も、触れてみるといいですよー」
 指し示したのは、生まれたての硝子の雫。心を映して形を変えるもの。
 陰海月は嬉々として、霹靂は恐る恐る、ふよんと近づき、鼻先でそっと突けば。
 硝子の雫は不思議に揺らめき。
 虹色のクラゲと、虹色の羽根に、その色形を変えた。
「ぷきゅー!」
 空中をアクロバティックにくるんくるん漂って、同じ色に嬉しそうな陰海月。
 霹靂は静かに佇んでいるけれども、友達の証のように揃った虹色から目を離さず、どこかはにかんでいるようだったから。
「お揃いとは仲良しですねー」
 2匹を糸目で見やった義透は、のほほんと告げ。
 その向こうで、青髪の少女の包帯に隠れていない左の青瞳が、遠目に2匹のやりとりを見ていたのに気付いて。
 銀灰色の花の硝子を手に、穏やかに、微笑みを返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
おおー……すごい、綺麗な場所ですね……。
こんにちは、こんばんはー……?
はるさん、お元気そうで、なにより……。
ロゼさん、はじめまして……寧宮、澪です。

雫に手を伸ばしてー……早速、落ちてくるのを、受け止めましょか。
触れれば、夜色の儚く、繊細な鳥の羽根が広がって……触れれば、砕けそうな感じ。
ああ、きれいですね……すぐ壊れちゃいそう、ですが。こういうものを、壊れないように、大事に思う心は。
きっと、とてもとても、綺麗ですよ……ね、はるさん。
もし、割れちゃっても、治せるものは、治しましょー……。治せないものは、壊さないように、守りましょ……ゆっくり、焦らず。
大丈夫ですよー……ひとりじゃないです、から。



「おおー……すごい、綺麗な場所ですね……」
 硝子の森を見上げた寧宮・澪(澪標・f04690)は、どこかぼんやりと眠たげな無表情で淡々と呟いた。
 草も花も木も枝葉も、全てが硝子で創られた森。
 その煌めきは非現実的なまでに美しく。
 澪が一瞬、もう眠っていて夢の中にいるのかと思う程。
 でも、硝子の森は、紛うことなく現実の輝きだったから。
 澪はそこに2人の少女の姿を見つけ、近寄った。
「こんにちは、こんばんはー……?
 はるさん、お元気そうで、なにより……」
「寧宮さん! お久しぶりです」
 まず言葉を交わしたのは、以前クッションの国で出会ったアリスのはる。
 小麦色の長い髪と鈴飾りを揺らして振り返った笑顔に、澪はのんびりと、半ば舟をこいでいるかのように首を揺らして会釈して。
「ロゼさん、はじめまして……寧宮、澪です」
 少し遠くを眺めていた青髪の少女・ロゼに、同じようにのんびりぺこりと挨拶した。
 慌てて振り返ったロゼは、包帯を巻いた顔で左目だけでじっと澪を見て。でも、驚きと少しの警戒は、はるの親し気な笑顔ですぐに消えていく。
 その変化をぼんやりと眺めて。
 はるの手の中に青い魚の硝子があるのを、少し離れた場所でユニコーンを連れた小さな王子様が硝子の薔薇を手にしているのを、順にゆっくりと見て。
 ふっと上を見上げれば。
 その黒瞳に応えるように落ちてくる、硝子の雫。
 慌てることなくおっとりと手を伸ばせば、澪の掌にコロンと雫が転がり。
 触れたそこから夜色に変わった硝子は、繊細な鳥の羽根を象り、広がっていった。
「ああ、きれいですね……すぐ壊れちゃいそう、ですが」
 どう触っても砕けそうなほど繊細な硝子を、手の上に乗せたまま。
 見せるようにはるとロゼとへ差し出せば。
 はるは、繊細な美しさに琥珀色の瞳を輝かせ。
 ロゼは、壊れそうな儚さに青い左瞳を曇らせる。
 その様子に、んー、と澪は少し首を傾げ。カスミソウのように小さく白い花が散る黒髪をさらりと揺らした。
「こういうものを、壊れないように、大事に思う心は。
 きっと、とてもとても、綺麗ですよ……」
 ね、はるさん、と呼びかければ、はいです、と迷いのない返事が返ってきて。
 ロゼの左瞳の揺れが少し大きくなったから。
 澪は、差し出していた羽根の硝子をそっと自分の元へ引き寄せると。
「もし、割れちゃっても、治せるものは、治しましょー……
 治せないものは、壊さないように、守りましょ……ゆっくり、焦らず」
 謳うように、澄んだ声で言葉を紡ぎ。
 羽根の硝子を大事そうに抱えながら、つんつん、と優しく反対の手で触れて。
「大丈夫ですよー……ひとりじゃないです、から」
 眠たげな黒瞳をロゼと、その隣に立つはるへ、順に向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黛・深墨
本当に…戦うよりずっと難しいことね
表情や仕草も気にかけてあげた方が良いかしらね
不安を和らげてあげられたら良いけれど

はじめまして
まゆずみ、みすみっていいます
はるちゃんに、ロゼちゃんね
よろしくね

とても綺麗なところね
幻想的で…こういう雰囲気、好きよ

雫は黒い硝子の立方体に
…あら?なんていうか可愛げがないわね
私らしいといえば私らしいかしら(さもありなんと笑み)
こんな感じ、と二人にも見せて
はるちゃんのは青い魚?ふふっ可愛いわね
ロゼちゃんは、ここと心の硝子たちを大切に想っているのね

そういえば、雫はいつも同じ形になるの?
嬉しい悲しい、子供から大人になる…心の形って、ひとつきりとは限らないんじゃないかしら?



「はじめまして。まゆずみ、みすみっていいます」
 黛・深墨(UDCアースの人間・影の魔女・f37286)も、硝子の森で予知された2人へと声をかけた。
「初めましてです、黛さん。あたしは、はるって呼ばれてますです」
「……ロゼです」
「はるちゃんに、ロゼちゃんね。よろしくね」
 初対面でも屈託なく笑いかけてくれるはると、緊張しているかのようなロゼに、深墨はくすくす微笑みながら返し。
 改めて周囲をぐるりと見回すと、その輝きに、切れ長の黒瞳を細めた。
「とても綺麗なところね。幻想的で……こういう雰囲気、好きよ」
 零れるのは素直な感想だけれども。同意するようにはるがこくこくと頷き、ロゼも嬉しそうにはにかんだ笑みを零していたから。少しは近づけたかな、と深墨は思い。
 もう少し、とはるの手元を覗き込んだ。
「はるちゃんのは青い魚? ふふっ、可愛いわね」
 心に応じて色形を変える硝子の雫。
 はるの手にあるのは、絵本の挿絵に描かれそうな小さな青色の魚で。傍にいた眠たげな猟兵の手には、夜色の羽根が繊細な輝きを魅せている。
 それらを、ロゼは愛おしそうに見ていたけれど。
 ロゼの手には硝子がなかったから。
「ロゼちゃんは、ここと心の硝子たちを大切に想っているのね」
 笑いかけながらも、深墨はその心中を思う。
(「本当に……戦うよりずっと難しいことね」)
 硝子の森は美しいから、ロゼは大切に思っていて。
 硝子の森は美しいから、ロゼは壊してしまうと恐れている。
 はるのように、純粋に美しさを楽しめていなくて。硝子の国を好きになればなるほど大きくなっていく不安に密かに怯えている、不安定なオウガブラッド。
 その表情や仕草を見逃さないように、さり気なさを装いつつも、深墨は気にかけて。
(「不安を和らげてあげられたら良いけれど」)
 ロゼのために何ができるのだろうかと、考え続けていた。
「私も触ってみようかしら?」
 だからまずは、と。手本を見せるかのように、目の前で手を伸ばし。
 生まれたばかりの硝子の雫を、受け止める。
 転がり落ちた雫は、すぐに不思議な輝きと共にその輪郭を揺らし。
 深墨の長い濡れ羽色の髪のように黒く染まると、華奢で胸も大きくない体格のようにすっきりとした立方体を象った。
「……あら? なんていうか可愛げがないわね」
 魚に羽根、他には薔薇やクラゲなど、他の皆はメルヘンで可愛らしい色形になっていたのを見ていたから、意外なシンプルさに驚けば。
 はるも予想外だったか、目を瞬かせていたけれど。
「でも、私らしいといえば私らしいかしら」
 深墨は、さもありなんと笑みを浮かべてロゼを見やる。
 皆とはどこか違う色形。
 それを自分だと受け止めて。
 むしろ自分らしいと、深墨は、笑って見せる。
 ロゼはそんな深墨を、どこか眩しそうに見つめて。
「そういえば、雫はいつも同じ形になるの?」
 そこに、深墨は、思っていた疑問を投げかけた。
「嬉しい悲しい、子供から大人になる……
 心の形って、ひとつきりとは限らないんじゃないかしら?」
 それは硝子の雫という不思議なモノについての問いかけであると同時に。
 心の在り方に関しての、深墨の思い。
 心は変わっていけるのだと。
 ロゼに伝わればいいと願ったからこその『疑問』。
(「どうか、気付いてね」)
 問いに答えるべく硝子の雫を見上げたロゼを、深墨は穏やかに見つめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、硝子の森ですって素敵ですね。
あ、はるさんがいますよ。
それにあの方がロゼさんでしょうか?
ふえ?アヒルさんどうしたんですか?
似た者同士が揃ったって、はるさんとロゼさんですか?
ふえ?私もですか?
あ、みんなアリスですね。それなら納得です。
そんなことに気が付くなんて、流石アヒルさんですね。
ふええ、私はよくアリスだということを忘れるって、
最近はそんなことなかったじゃないですか。

・・・、アヒルさん突然真剣な顔になってどうしたんですか?
3人ともよく似ているって?
白と黒を持っているって、・・・それはアヒルさんじゃないですか。
ほんと、変なアヒルさんですね。



「ふわぁ、硝子の森ですって」
 様々な形で煌めく硝子をきょろきょろ見回して、フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は感嘆の声を上げた。
「素敵ですね。アヒルさん」
 話しかければ、両手でそっと抱える様に持ったアヒルちゃん型ガジェットが、頷くように短く鳴く。
 その間もフリルはあちらをこちらをと忙しなく赤い瞳を動かし眺めて。
「あ、はるさんがいますよ。
 それに、あの方がロゼさんでしょうか?」
 小麦色の長髪に鈴飾りをつけたアリスのはると、包帯を巻いた青髪のオウガブラッド、2人の少女の姿を見つけて、ガジェットに示すように指差した。
 その仕草に、というか、抱えているフリルがそちらを向いたから必然的に、ガジェットも円らな黒瞳を2人へ向けるけれども。
「ふえ? アヒルさん、どうしたんですか?」
 敏感に違和感を感じ取ったフリルが首を傾げる。
 だからガジェットは、ガア、と微妙な声色で鳴いた。
「似た者同士が揃った……って、はるさんとロゼさんですか?」
 その言葉を正しく聞き取ったフリルは、しかしその意味までは正しく読み取れず。また首を傾げたフリルを見上げるガジェットの鳴き声は、どこか否定するようで。
「ふえ? 私もですか?」
 ようやくフリルは自身も指差す。
 はる。ロゼ。フリル。
「あ、みんなアリスですね。それなら納得です。
 そんなことに気が付くなんて、流石アヒルさんですね」
 ようやくその共通点に気が付いて、ぽんっと手を打った。
 アリスラビリンスにいる人間は皆『アリス』。
 アサイラムから不思議の国に召喚されてしまった存在で。
 オウガブラッドも、オウガに取り憑かれた状態で召喚された、という違いはあるけれども、紛れもない『アリス』だ。
「私はよくアリスだということを忘れる……
 って、最近はそんなことなかったじゃないですか」
 アリス適合者として『自分の扉』を探しているフリルだけれども。
 猟兵として様々な世界を行き来しているから。
 確かに、召喚された、という事実を忘れてしまいそうにはなる。
 ガジェットの指摘にちょっと怒ってみせるのは、それが図星だったからに他ならず。誤魔化すように、言い訳のように、フリルはガジェットに向き合い。
「……? アヒルさん、突然真剣な顔になってどうしたんですか?」
 ふと、その様子の微細な変化に気が付いた。
 フリル以外ではきっと気付けない、ミリ単位での間違い探しかと思うくらいのガジェットの『真剣な顔』を、だがフリルはちゃんと見分けるから。
 ガジェットは、ガア、と鳴く。
「3人ともよく似ている?」
 ガア。
「白と黒を持っている……って、それはアヒルさんじゃないですか。
 ほんと、変なアヒルさんですね」
 しかし、短く告げた『答え』に、フリルは呆れたように首を左右に振るから。
 真っ白な身体に円らな黒瞳を輝かせたガジェットは。
 問答無用でフリルに体当たりを食らわせると。
 魂の奥底に別人格を持つはると、オウガに憑依されたロゼを、過去の断片に銀狼の魂を持つフリルの倒れた上にちょこんと乗って、遠目に見つめた。
 ガア。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
この雫、水じゃなくて硝子で出来てるだなんて面白いねぇ
俺のはどんな色や形になるのかな
ワクワクしながらちょんと触れてみる

現れたのは、綺麗な赤い色の蝶々
俺にとって馴染みのありすぎる姿形
すごいね、ここに来たのは初めてなのに
何でもお見通しって感じ

でも、少し違うのは
血のような黒ずんだ赤色ではなくて
暖かさを感じられる明るい赤色
昔の俺だったらきっとピンと来なかったであろう色
もしかしたら、これが今の俺の心の色なのかもね

梓のはー…あ、分かったっ
きっとこれ、フライパンだよ
でもおたまとかザルにも見えるかも
梓と料理は切っても切れない関係だもんね~
これ以上ないくらいピッタリだよ


乱獅子・梓
【不死蝶】
はは、やっぱりお前といえばそれだよな
目を離すとすぐにふらふらっとどこかに行く綾は
ひらひらと自由気ままに飛び回る蝶と似ているかもしれない

確かに、この蝶は血のような赤色には見えないな
むしろ、太陽や炎を思わせるような赤
少し色味が変わるだけで大きく印象が変わる
赤って不思議な色だよな

さーて、俺はどんな形になるだろうか
やっぱり勇ましいドラゴンとかか?
なんて考えながら触れれば…
白色で、丸になんか棒がついてる形……何だこれ??

どっちにしろ調理器具なんだが!?
確かに料理は趣味だが、まさか不思議の国の硝子にまで
そんな風に見られていたとは…
素直に喜んでいいものかと複雑な気持ち



 最初は、雨でも降ったのかと思った。
 木から零れ落ちようとしている雫がいくつもいくつも煌めいていたから。
 でもよく見ると、無色透明なその煌めきは、水ではなく硝子で。
 見上げた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の黒髪を、赤いサングラスを、そしてへらりと笑った糸目の顔を、いくつもいくつも映し込んでいたから。
「面白いねぇ」
 綾は、手近な硝子の雫に手を伸ばし。
「俺のはどんな色や形になるのかな」
 ワクワク楽しそうに糸目をさらに細めると、ちょんっとつついた。
 触れた人の心から色形を得るという、その芽吹いたばかりの硝子は。
 不思議な輝きを放つと、ゆらりゆらりとその輪郭を揺らし。
 ふわり、と羽ばたく。
「はは、やっぱりお前といえばそれだよな」
 綾の近くを飛ぶ綺麗な赤い色の蝶に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の笑い声が重なった。
 それはよく綾の周囲を飛んでいた。ユーベルコードで痛みなく相手を倒す時に。愛用のハルバードを、二刀の大鎌を、もしくはコートに大量に備えた小型ナイフを振るう時に。綾のオーラから生み出され、血のように赤く光り、群れ飛ぶ蝶。
 綾にとって、馴染みのありすぎる姿形。
 血腥い殺し合いを愛し求める、戦闘狂な綾の象徴。
 だと思ったのだけれど。
「目を離すとすぐにふらふらっとどこかに行って……自由気ままなところがそっくりだ」
 苦笑して肩を竦める梓の言葉に、綾は、その顔に微かな驚きを見せた。
 何にも縛られず、ひらひらと、空を舞う赤硝子の蝶。
 綾はその動きを、サングラス越しに追いかけて。
 気付く。
「……色が、違う?」
「ああ。この蝶は血のような赤色には見えないな」
 ぽつりと零れた呟きに、梓が頷き、肯定する。
 確かに、硝子の蝶の赤は、血のような黒ずんだ赤色ではなくて。
 暖かさを感じられる、明るい赤色。
「むしろ、太陽や炎?
 少し色味が変わるだけで、こんなに印象が変わるんだな」
 感心したように、硝子の蝶を視線で追いかけていた梓は、その途中で綾にも目を向け。
「赤って不思議な色だよな」
 黒いサングラスの下で、にっと笑う。
 その銀色の髪と、白いロングコートに、硝子の蝶の赤が映えて。
 優しい温もりが、穏やかな煌めきが、梓と綾の間をひらひらと踊る。
(「昔の俺だったらきっとピンと来なかったかな」)
 僅かな赤色の違いに。その印象の差を感じられる自分に。
 綾は、驚きと共に心地良さを感じて。
(「もしかしたら、これが今の俺の心の色なのかもね」)
 同じ赤でも違う赤。
 血に塗れ血を求めるだけだったかつての己と、隣に梓がいる今。
 綾にそれを語りかけるかのように、ふわりひらひらと硝子の蝶が戻ってきて。
「すごいね。ここに来たのは初めてなのに、何でもお見通しって感じ」
 赤硝子の蝶は、迎え入れるように差し出した綾の手、その指先にそっと止まった。
 それを見た梓はまた頷いてから。
「さーて、俺はどんな形になるだろうか。
 やっぱり勇ましいドラゴンとかか?」
 次は自分の番、と硝子の雫に黒手袋のまま手を伸ばす。
 その肩で、相棒仔ドラゴンの焔と零も、興味津々見つめる前で。
 硝子の雫は、梓の銀髪に似た白色に変わり。
 平べったい円形の板に棒が1本ついた、不思議な形となって、梓の手に落ちた。
「……何だこれ?」
 何となく、持ちやすそうな棒の部分を摘まんで、丸い部分を掲げると。
「あ、分かったっ。
 きっとこれ、フライパンだよ」
 その姿にピンと来た綾が、糸目で楽しそうに笑って指差した。
 硝子の雫は小さいから、人形遊びで使うようなサイズだし。色が白いから分かりづらいけれども。確かに、言われてみればフライパンに見える形状。
「でも、おたまとかザルにも見えるかも?」
「どっちにしろ調理器具なんだが!?」
 綾の挙げた候補に、思わず梓は声を荒げる。
 そして、貧血でも起こしたかのようにふらりとよろけると、引きつった顔で頭を抱え。
「確かに料理は趣味だが……
 まさか不思議の国の硝子にまでそんな風に見られていたとは……」
「梓と料理は切っても切れない関係だもんね~」
 愕然とする梓から、綾は呑気に硝子のフライパン(仮確定)を摘まみ取り。ひっくり返したり傾けたりと様々に、面白がるように眺めてから。期待に満ちた目を向けていた焔と零に、はい、と譲り渡す。
「これ以上ないくらいピッタリだよ」
 フライパンで喜んで遊ぶ仔ドラゴン達と、蝶が舞う横でにやにや笑っている綾に、梓はものすごく複雑な表情を見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

まつりん、硝子が咲いてる
森をぐるっと見渡すとすごいね、色んな形に光
歩くと足元の硝子が色を変える
ん…わたしの硝子は薄桃と薄紫
昔、おとうさんに見せてもらったアフリカの桜色?
まつりんはどう?と振り向けば、ダンシングフラワーの大合唱
ふふ、歌って踊り、はるの鈴の音に誘われ進めば見つかる犬の足跡
もしや海莉とリンデン?

はる達と合流し名乗りご挨拶
ロゼ、ここはとても綺麗な所
十人十色の硝子の色、儚く壊れ易くもある
壊れると、とても痛い
その痛みに向き合うか、気付かないふりして綺麗なものだけを見つめるか
どちらも、勇気がいるね

でも、今ロゼは独りではない
もし壊れても皆でもう一度作り直せる


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と来たよー。

あ。はるちゃんだー、やほー♪(手を振り)
ロゼ姉ちゃんも、こんにちわ!
おいら、アンちゃんのお兄ちゃんやってるまつりんです!

この国もスゴイね、キラキラだー。
アンちゃんもくるくるしてるし、おいらも踊ろうっと♪
れっつ・だんしん?(ぱっちん)
リンデンも回ってみる?(にぱ)

おおー。
だんだん橙色になってきたー?
こっちは黄色。あ、くっつけたらどうなるかな?
わわ、ぐるぐる渦巻になった。太陽みたいだね!(笑う)

ハイ、これロゼ姉ちゃんにあげる!
チェーンつけたらペンダントになるよ。母ちゃんやってた!

姉ちゃん、オウガブラッドかな?
オウガと戦うときには、これお守りにしてね♪(にぱ)



「まつりん、硝子が咲いてる」
「この国もスゴイね、キラキラだー」
 硝子の森以上に金と銀の瞳を輝かせた双子の妹兄、木元・杏(アルカイックドヤ顔・f16565)と木元・祭莉(まつりん♪@sanhurawaaaaaa・f16554)は、仲良く2人で硝子の道を進んでいく。
 木も草も、花も葉も、全てが硝子でできた世界は。
 ぐるっと見渡せば、色んな形と光とが入り組む、不思議で素敵な国。
「すごいね、まつりん」
 うっとりした口調で呟くように言った杏が、ふと、視線を足元に落とすと。
 そこにも硝子が敷き詰められていて。
 その一部が、杏の足に触れて色を変えていった。
 硝子の雫が道にも落ちていたのか。それとも、道からも硝子が芽吹くのか。
 分からないけれど、杏が歩き進む度に、道の一部が薄桃色と薄紫色に、まるで足跡のように変わる。変わっていく。
「ん……わたしの硝子……昔、おとうさんに見せてもらったアフリカの桜色?」
 嬉しくなった杏は、真っ直ぐ進んでいた足取りを、ふらふらと寄り道させて。
 その場でくるくると、踊っているような動きになったから。
「おいらも踊ろうっと♪ れっつ・だんしん?」
 つられたように祭莉も踊り出せば、その傍に、ユーベルコードで向日葵の花が咲く。
 その向日葵も一緒に、祭莉と共に踊って歌って。
 ようやく気付いて振り向いた杏の目に映ったのは、ダンシングフラワーの大合唱。
 もちろん、その中心で一番元気よく踊って歌っているのは兄の祭莉です。
 その足元が、橙色と黄色に染まっていくのを杏は眺めて。
「アンちゃんも、だんしん?」
「ん。だんしん」
 誘われるままに杏も踊れば、硝子の道がどんどんカラフルになっていく。
 その最中に、祭莉は、木から垂れ下がった硝子の雫も見つけて。
 踊りながら片手に取れば。
「おおー。だんだん橙色になってきたー?」
 そして、隣にあったもう1つの雫も、もう片方の手で無造作に取って。
「こっちは黄色。あ、くっつけたらどうなるかな?」
 発想も自由に、両手を合わせる。
「わわ、ぐるぐる渦巻になった。太陽みたいだね!」
「ん。まつりんみたい」
 にぱっとおひさま笑顔を浮かべた祭莉に、杏もこくりと頷いた。
 気付けば、煌めく硝子のおひさまから零れたかのように、足元の硝子の道にも、陽だまりのような温かく穏やかな色が散っていて。
 ここにも? とそれに金瞳を向けた杏は。
 それが犬の足跡を象っていると察して、はっと顔を上げる。
「もしやリンデン?」
 きょろきょろと辺りを見回した杏は、すぐに3つの人影を見つけ。そのうちの1つ、長い黒髪を持つ少女の隣に、キャスケット帽と背中の小さな羽根が特徴のレトリーバー種に似た褐色大型犬が、寄り添うようにいるのに気付いて、首を傾げた。
 名を呼ばれたことに気付いたか、大型犬は杏へと駆け寄ってきてくれて。
 走ったその足跡が、陽だまり色に輝く。
「わーい。リンデンも、だんしん♪」
 祭莉も馴染みの犬を歓迎して。今度は2人と1匹で歌って踊って。
 きらきら色を変える硝子の道も楽しんでから。
 すいっ、と元いた場所を、主がいる所を、大型犬はその鼻先で指し示した。
「海莉?」
「あ。はるちゃんだー、やほー♪」
 杏は、大型犬の主でもある友人の名を確かめるように呟き。
 祭莉は、一緒にいるもう1人が、見知ったアリスと気付き。
 戻るように駆け出した大型犬に先導されるようにして、杏はふんわり笑顔で、祭莉はぶんぶん手を振りながら、3つの人影に合流する。
「おかえり、リンデン。こんにちは2人とも」
「杏さん。祭莉さん。こんにちはです」
 黒髪の少女が、小麦色の髪のアリス・はるが、それぞれの笑顔を見せると。
 もう1人、包帯を巻いた青髪のオウガブラッドも、左の青瞳を向けてくれたから。
「ロゼ姉ちゃんも、こんにちわ!
 おいら、アンちゃんのお兄ちゃんやってるまつりんです!」
「木元・杏。まつりんの妹、やってます」
 祭莉は元気に手を挙げて、杏はぺこりとお辞儀をして、自己紹介と御挨拶。
 その妙な物言いに、青髪のロゼがくすりと笑った。
「ロゼ、ここはとても綺麗な所」
 その笑顔に、杏は穏やかに微笑み、語りかける。
「十人十色の硝子の色、儚く壊れ易くもある。
 壊れると、とても痛い。
 その痛みに向き合うか、気付かないふりして綺麗なものだけを見つめるか……
 どちらも、勇気がいるね」
 薄桃色と薄紫色。橙色と黄色。陽だまりの色に、朱い色。
 はるの手の中の青い魚もちらりと見て。
 その場に生まれた色とりどりの輝きと一緒に、杏は、ロゼを見つめる。
「でも、今ロゼは独りではない。もし壊れても皆でもう一度作り直せる。
 それに……」
「ハイ、これ」
 言葉の途中で、ずいっとロゼの前に差し出されたのは祭莉の元気な手。
 そこには、橙色と黄色がぐるぐる渦を巻いた太陽みたいに明るい硝子が転がっていて。
「ロゼ姉ちゃんにあげる!
 チェーンつけたらペンダントになるよ。母ちゃんやってた!」
 手の中の硝子に負けない、鮮やかなおひさま笑顔が輝いた。
 おずおずと手を伸ばし、ロゼは、硝子の太陽を受け取って。
「姉ちゃん、オウガブラッド?
 オウガと戦うときには、これお守りにしてね♪」
 にぱっと花咲くおひさま笑顔に、眩しそうに左目を細める。
 ふと視線を周囲に向ければ、にこにこ笑うはると、見守るように穏やかに微笑む黒髪の少女、そして、迷いなく真っ直ぐに金瞳を向けてくれる杏がいて。
 そっと握りしめた掌から、冷たいはずの硝子の温もりが伝わってきたから。
 ――それに、皆が何度でも新しい想いをくれる。
 聞けなかった言葉の続きが、ロゼの胸に、響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

青和・イチ
硝子の国かあ…光を受けて、すごく綺麗だ
硝子、好きだな
綺麗だし、つるっとしてても、ざらっとしてても、優しい温もりがある
僕にも、大切な硝子のビー玉があるよ

…あ。こんにちは、はるさん
はるさんの友達も、こんにちは(青髪の少女に会釈して
久し振りだけど、元気そうで良かった
色んな冒険して…好きなもの、沢山できた?
(彼女の手中の硝子を見て)……魚が好きなの?

へえ…触った人の心を映す、色と形になるのか
僕とくろ丸だと、どうなるかな
くろ丸のは…綺麗で可愛いけど…ゴツそう
僕は…地味で、表情も薄くて、眼鏡みたいな硝子かも

でも、どんな色でも形でも…それが、抗いようのない僕で
これから磨いていく僕の姿だ
ね、君もそう思わない?



「硝子の国かあ……」
 青和・イチ(藍色夜灯・f05526)は歩きながら、煌めく森を見上げた。
 物静かで無表情にも見えるけれども、その口元は微かに緩んでいて。
「光を受けて、すごく綺麗だ」
 眼鏡の下の藍色の瞳も、硝子の煌めきを映してか、きらきらと輝いている。
 足元を歩く相棒犬・くろ丸も、相変わらずの怖い顔だけれど、硝子の草花にそっと鼻先を近づけてはイチを見上げ。ふさふさの尻尾を楽し気に揺らしていた。
 そんなくろ丸と視線を交わし。また周囲を眺めれば。
「……あ」
 見つけたのは2人の少女。
「こんにちは、はるさん」
「青和さん」
 声をかけて近づくと、小麦色の髪のアリス・はるが髪飾りの鈴を鳴らさず振り返った。
 その隣に、包帯を巻いた青髪の少女がいるのもイチはしっかりと見て。
「はるさんの友達も、こんにちは」
 会釈をしてから互いに、くろ丸を含めて名乗り合う。
 挨拶を終えれば、まずはと話しかけるのは、面識のあるはるの方。
「久し振りだけど、元気そうで良かった。
 色んな冒険して……好きなもの、沢山できた?」
「はいです。あれから沢山、皆さんに助けていただいて……
 素敵なプリンセスさんにお会いしたり、あたしだけの花が咲く花畑に行ったり。
 それに、この国もですね。硝子がとても綺麗で、大好きです」
 にこにこと本当に楽しそうに話してくれるはるに、イチは青色の瞳に淡い笑みを湛え。
 指し示された硝子の森を、改めて見回す。
「うん。硝子、好きだな」
 キラキラと光を反射して綺麗だし。
 つるっとしてても、ざらっとしてても、優しい温もりがあると。
 頷き同意を見せてから、イチは、ふと持ち物からそれを取り出し、見せた。
「僕にも、大切な硝子のビー玉があるよ」
 掌でコロンと転がるのは、淡い青色のビー玉2つ。
 光の加減で虹が差し込んでいるようにも見える昼の青空と。
 中の小さな不純物が星のように瞬いて見える夜の青空。
 蒼い星の友達と覗いた、大切な絆――
 その小さな2つのひかりを、はるは、はにかむような笑みで覗き込んで。
 お返しに、とばかりに、自身の手も差し出し、そこにある硝子を見せる。
「これは?」
「生まれたばかりの硝子です。
 触った人の心を映して、色や形が変わるですよ」
 そこには青色の魚を象った硝子が、絵本の中から飛び出してきたかのように、丸っこく可愛く転がっていた。
「……魚が好きなの?」
 心を映した色形、だからと素直に考えたイチが尋ねるけれど。
「そう、ですね……好き、ですけど……」
 はるは少しだけ困ったように、言葉を濁らせた。
 その様子に、イチは思い出す。
 はるは『自分の扉』を探すアリス適合者。
 過去の記憶をなくしてしまった者。
 だから、心の奥底に残っている過去の断片が硝子になったなら。
 今のはるには、分からないのだと。
 その戸惑いを察したから。
「僕とくろ丸だと、どうなるかな」
 イチは、話を変えるかのように、自分の手を新たな硝子の雫へそっと向けた。
 名前が出たことに反応してか、くろ丸もその鼻先を雫へ近づけて。
 突かれ、ころん、と落ちた硝子は、イチの瞳のような藍色の中に、大きな星を閉じ込めたかのように白い模様が入って、可愛らしく変化したけれども。その形は、ごつごつとした武骨なものになる。
 強面だけど懐こい女の子なくろ丸らしい、とイチはそれを見届けてから。
 自身の手の中に零れ落ちた雫が、透明で何の色もない、楕円形の硝子板になっているのを見下ろした。
「僕のは、地味で、表情も薄くて、眼鏡みたいだね」
 はるの硝子のように陽気な形をしているわけでもなく。
 くろ丸の硝子のように目を惹く特徴があるわけでもない。
 言ってしまえば飾りでもなんでもないただの硝子板。
 だけどイチは、何の変哲もない硝子を、穏やかに受け止めて。
「でも、どんな色でも形でも……それが、抗いようのない僕で。
 これから磨いていく僕の姿だ」
 はわわ、と困ったように戸惑っていたはるに、淡く笑いかける。
 はるは、その言葉に一瞬きょとんとしてから、ああ、とまたその表情を輝かせ。
 にっこり笑うと、頷いてくれたから。
「ね、君もそう思わない?」
 イチは、驚いたように硝子を――いや、イチを見つめるロゼの青い左瞳にも、穏やかに振り返った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
はるちゃん、ひさしぶりなの!
あなたがロゼちゃんね?わたしはヘザーなの、よろしくね!

さわるとかわるの?じゃあ二人ともさわってみて!
ほんとにかわったの!キレイね!
でもガラスって、割ると気持ちいいのよね。
カケラになってもキラキラしてキレイだし!
わたし壊すの大好きなの!

どうしたのロゼちゃん?
壊したいなら壊していいのよ?
がまんするほうが体に悪いって妹も言ってたの!
だから壊したいなら壊せばいいし、壊したくないなら壊さなければいいの。
…わたし?
キレイなものは壊したくないからさわらないの。
敵を壊すほうが楽しいのよ!
敵が来たらロゼちゃんもいっしょに壊そう?
ケガははるちゃんがなおしてくれるからだいじょぶなの!



「はるちゃん、ひさしぶりなの!」
 穏やかに硝子を見つめていたアリスのはるに、元気いっぱいの明るい声と共にぴょんっと抱き着いてきたのはヘザー・デストリュクシオン(白猫兎の破壊者・f16748)。
「わっ……ヘザーさん!?」
 流石に驚き、琥珀色の瞳を丸くするはるに、ヘザーはにこーっと笑みを向け。
「あなたがロゼちゃんね? わたしはヘザーなの、よろしくね!」
 はるの隣に立つ青髪の少女に、続けて、陽気で気軽な挨拶を向けた。
 気まぐれな猫のように飛び込んできたヘザーは、ロゼの驚きが収まるのを待たず。
「はるちゃん、なに持ってるの?」
 覗き込んだのは、はるが持つ、青色の魚を象った硝子。
 触れた人の心で色形が変わる硝子なのだと、はるが説明すれば。 
「さわるとかわるの? じゃあ2人ともさわってみて!」
 ウサギ耳をぴこんと立てて、ヘザーが促す。
 しかし、はるは、青色の魚を見下ろして、さらに触れていいものかと思案し。
 ロゼはどこか怯えたように、手を伸ばそうとしなかったから。
「はるちゃん?」
 ヘザーがきょとんとした顔で首を、というか上半身を倒して、疑問を示し。
「ロゼちゃん?」
 きょろきょろと2人を交互に見つめる。
 それでも2人は動かない。動けない。
 その膠着状態を見かねた黒髪の猟兵が、代わりにとばかりに、苦笑しながらギターを持つのと反対の手を伸ばせば。
 転がり落ちた硝子は、焔のように赤い、燃えるような鳥の形になった。
「ほんとにかわったの! キレイね!」
 不思議な煌めきにヘザーの表情も輝いて。
 それを見たはるとロゼも、どこかほっとしたような表情を浮かべる。
 そして、ぴょんぴょんくるくるとはしゃぐヘザーを眺めていると。
「でもガラスって、割ると気持ちいいのよね」
 零れ聞こえた無邪気な声は、ロゼにとって信じがたいものだった。
「カケラになってもキラキラしてキレイだし!
 わたし壊すの大好きなの!」
 綺麗な硝子を大切に愛でていたのと同じ調子で。
 綺麗な硝子を壊したいと何の忌諱もなく告げる。
 まるで、ロゼに取り憑いたオウガのような言動に、ロゼの青い左目に怯えが走る。 
 その視線に気付いたヘザーは、でも変わらぬ明るい笑顔で。
「どうしたのロゼちゃん?
 壊したいなら壊していいのよ?
 がまんするほうが体に悪いって妹も言ってたの!
 だから、壊したいなら壊せばいいし、壊したくないなら壊さなければいいの」
 あっけらかんと言い放つ。
 壊そうと。壊したいと。
 囁くオウガに必死に抗っていたロゼには、それは信じがたい言葉で。
 オウガを肯定するように聞こえた言葉だったから。
「あなたは……壊したいの?」
「わたし?」
 どこか震える声で、ヘザーに問いかけると。
「キレイなものは壊したくないからさわらないの」
「あ……」
 同じ口調であっさり返された答えに、すとん、とロゼの心に何かが落ちた。
 そうだ。壊したいのは、オウガで。
(「私は、壊したくない……」)
 壊したいなら壊せばいい。けど。
 壊したくないなら壊さなければいい。
 ヘザーはそう言ったではないか。
「敵を壊すほうが楽しいのよ!
 敵が来たらロゼちゃんもいっしょに壊そう?
 ケガははるちゃんがなおしてくれるからだいじょぶなの!」
 にこにこと、ヘザーは相変わらず物騒なことを言っているけれども。
 ロゼはその姿を、どこか眩しそうに――憧れるように左目を細めて、見つめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
久しぶり、はるさん
はじめまして、はるさんの友人の南雲海莉と言います

(雫にそっと触れて生まれる硝子はハート
朱く、裡にラメを塗したように輝く)
綺麗…

(隣でリンデンが小さな陽だまり色の硝子の足形を散らし)
羽根じゃないのが君らしいかも(くす)
(皆の気を引いている間にスマホを取り出す)
ロゼさん、この人を見たことはありますか
(二人で写る写真を示して)
…私の義兄さんなんです
数年前からの行方不明で
あんまりにも手掛かりが無いから
この世界に迷い込んだのかも、って
(noの返事を聞き、確認に礼を伝え)

心に闇を飼っている人でした
彼自身を食い潰そうとする闇を黙って抱え込んじゃうような
きっと今も『助けて』を言えずにいるような人

『助けて』って言葉、ためらわなくてもいいじゃない?
うまく言葉にできない不安も
自身すら直視できないような怖れも
声にすれば周りが助ける理由になる

それに私、あの頃よりずっと強くなったつもりなの(微笑)
友達も、さらにその友達にだって手を伸ばせるぐらいには

(義兄話にはるさんや皆が気づくかはMS様のご随意に



 キラキラ硝子の森の中を、南雲・海莉(コーリングユウ・f00345)は、レトリーバー種に似た褐色大型犬と共に歩いていた。
 背中に小さな羽根を生やした犬が、キャスケット帽を被った頭をふっと持ち上げ、見上げるように海莉を見てくる。
 その黒瞳にも、硝子の煌めきが映り込んでいたから。
「……うん。綺麗ね、リンデン」
 海莉は、漆黒の長髪をさらりと揺らして微笑みを返した。
 そしてまたすぐに前を見て。
 迷いなく、目指した場所へ向けて、真っ直ぐに足を進める。
 そこには2人の少女の姿があった。
 小麦色の長い髪に鈴飾りをつけたアリス適合者のはると、短い青髪の下に包帯を巻いたオウガブラッドのロゼ。予知で聞いた2人の『アリス』。
 硝子の森の煌めきの中で、数多の猟兵に話しかけられている姿がだんだん近づいてくるのを、海莉は穏やかな表情で眺めやる。
 小さな王子様が、薔薇の花を咲かせ。
 眠たげな少女が、繊細な鳥の羽根を掌に乗せ。
 かと思えば、立方体や、武骨な塊、丸みを帯びた板といったシンプルなものも並び。
 そして、今にも飛び立ちそうな、火の鳥が生まれていった。
 聞こえて来たギターの音色と共に、様々な硝子を遠目に楽しんでから。
 海莉は、ウサギ耳を揺らすキマイラの少女が抱き着いていたはるから離れ、ロゼと話しているところに、ようやく辿り着き。
「南雲さん!」
「久しぶり、はるさん」
 先に気付いたはるが名を呼ぶのに合わせ、にこりと挨拶を交わした。
「硝子の雫、ね」
「はいです。南雲さんもどうぞです」
 そして、見上げた木の枝から零れ落ちそうな、生まれたばかりの硝子に、はるの声にも勧められながら手を伸ばす。
 そっと触れた途端、ころんと転がり落ちた硝子を受け止めれば。
 海莉の掌の上で、不思議な輝きと共にその輪郭がゆらゆらと歪み。
 朱く染まった硝子は、ハートの形になった。
「綺麗……」
 よく見ると、裡にラメを塗してあるかのように、朱の中に細かな煌めきがあって。
 硝子そのものだけでなく、その内に秘めた想いのように、ハートが輝く。
 その美しさを眺めていると、下からリンデンの鼻先も近づいてきたから。
 見る? と言うかのように近づけてあげれば。
 下を向いた視界の中に、小さな陽だまり色の足形が散っているのに気が付いた。
「リンデン? それは……」
 少し首を傾げながら指し示せば、リンデンも顔を下へ向け。座り込んでいた姿勢から立ち上がりながらひょいっと片足を上げて、その下に踏んでいた陽だまり色を覗き込む。
 そして、上げた足を、横にずらして下ろせば。今度はそこに足形ができた。
 どうやら、硝子の雫が足元にもいくつか落ちていたらしい。
 意図せず触れてしまったリンデンが、また片足を持ち上げ、どうしたらいいのかと困惑している様子に、海莉は、ふふっと笑みを零し。
「羽根じゃないのが君らしいかも」
 小さな羽根を持つ犬、というリンデンの特徴を見て、思う。
 リンデンは、ゆっくりと海莉の周囲を歩いて、足形が増える度に驚いていたようだけれども。そのうち慣れたらしく、その足取りがいつも通りになっていって。
 はっと何かに気付くと、海莉から離れるように走り出した。
「あっ」
 急な動きに驚いて声を上げたのは、海莉でもはるでもなく、いつの間にかはるの傍でリンデンの様子を眺めていた、ロゼ。
 海莉は、そんなロゼに微笑みかけて。
「はじめまして。はるさんの友人の南雲海莉と言います」
 名乗り合ってから、その青い瞳の前に、スマホの画面を差し出した。
「ロゼさん、この人を見たことはありますか?」
 そこに映っていたのは、黒髪の少女と男性。
 少女は今より幼い海莉だろう。屈託のない嬉しそうな笑みを見せている。
 だから、海莉が尋ねたのは、もう1人の男性の方だとすぐに分かる。
 短い髪も、穏やかに微笑む瞳も、海莉と同じ漆黒の色を持つその人は。
「……私の義兄さんなんです。数年前からの行方不明で。
 あんまりにも手掛かりが無いから、この世界に迷い込んだのかも、って」
 ずっとずっと、海莉が探している、大切な人。
 しかしロゼは、画像を凝視しながら記憶を探るように考え込む仕草を見せて。
「見たことない人だわ。アリスは?」
「あたしも……ない、と思いますです」
 その隣のはると共に、首を横に振った。
 はるの答えが少し揺らいでいるのは、はるが自分の扉を見つけていないアリスであり、まだ過去の記憶を完全には取り戻していないからだろうと思う。
(「でも、はるさんは……」)
 一方で、海莉の脳裏を過るのは。はるが『聖夜のマッチ』で生み出した幻影。はるの記憶の奥底から映し出された『最高に幸せなクリスマスの幻影』の中に、はるを助けるために飛び込んだあの時、一瞬見かけた黒髪の少年。
 見間違いかもしれないけれど、あの姿はまるで海莉に会う前の……
(「……義兄さん……」)
 しかし、今は。それをはるに問う時ではない。
 だって、海莉が義兄の話を持ち出したのは、自分の為ではないのだから。
 だから海莉は、はるにではなく、ロゼに語りかける。
「心に闇を飼っている人でした。
 彼自身を食い潰そうとする闇を黙って抱え込んじゃうような……きっと今も『助けて』を言えずにいるような人」
 それは、海莉が探す義兄の話。
 けれど、その話を聞くロゼにもきっと重なる話。
「『助けて』って言葉、ためらわなくてもいいじゃない?
 うまく言葉にできない不安も、自身すら直視できないような怖れも、声にすれば周りが助ける理由になる」
 義兄に少し文句を言うような口調で。
 でも、ロゼに向けても響くように。
 海莉は、話を重ねて。
「それに私、あの頃より……義兄さんがいなくなったあの時より、ずっと強くなったつもりなの」
 スマホをしまいながら、はるに、そしてロゼに微笑んで。
「友達も、さらにその友達にだって手を伸ばせるぐらいには」
 躊躇わなくていいよと。
 周りに声を上げてもいいんだと。
 その声に、必ず応えてみせるからと。
 伝える様に、海莉はロゼを真っ直ぐに見つめて。
「確認してくれてありがとう。ロゼさん」
 右目と右手を包帯で隠した少女に。
 助けを求める心を仕舞い込んだ少女に。
 優しく笑いかけた。
 ロゼは、周囲のどの硝子よりも眩しいものを見るかのように、海莉を見つめる青い左瞳を細めて。少し歪んだ表情が、どこか泣き出しそうにも見えて。
 そこに、一吠え声をかけて、離れていたリンデンが戻ってきた。
「おかえり、リンデン」
 とても楽しそうな相棒を出迎えて。
 そして、その後を追ってやってきた双子の兄妹に、こんにちはと挨拶を交わせば。
 2人ははるにも、もちろんロゼにも声をかけ。
 賑やかな中で、ロゼがまた眩しそうに、今度ははにかむように左目を細めたから。
 海莉は、朱いハートの硝子を――自分の色に染まった雫を握りしめる。
(「助けてみせる」)
 ロゼを。そして義兄の姿を、そこに重ね。
 しっかりと1つ、頷いて見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
可哀想に
こんな世界に召喚されて
オウガ共に狙われるとは
はるもロゼも本当に大変だと思う

せめて今は
この硝子の国での安息のひと時を守ってやりたいぜ
それはきっとオウガの狂気に抗う礎となる
この先の自分の扉を見つける旅でも
支えになるはずだ

そのためにも硝子の森を目一杯楽しむぜ

行動
硝子の雫も綺麗だし
それが心に反応して形を変えるってのも
如何にも不思議の国ってカンジだぜ

ギターを爪弾きながら森を散策

キラキラと陽射しを浴びて
光る木々の姿が本当に綺麗だよな

適当な木の根元で
硝子の雫が落ちてきたり
連なる様子を見ながら
それにBGMをつける風に即興で弾いてみる
曲名は分かり易く
硝子の森の歌だ

はるのハミングを促す
ロゼも、ほら
一緒に歌おうぜ

良い歌声だったぜ
友達と一緒にそんな風に歌えて
こんなに笑いあえるアンタなら
オウガになんて負けやしない
オウガの戯言は歌でかき消しちまえ
友達の顔を思い出すんだ
アンタは一人じゃないん

俺が触れた雫が変わるのは
迦楼羅っぽい焔の鳥、かな

英気は養った
お次は灰色天使とやらをぶっ飛ばすぜ



 爪弾いたギターの音までが硝子になって輝いている気がする。
 それは錯覚ではあったが、でもそれもあり得るかもしれないと思わせる程に、そこは全てが硝子で出来た国であり、森であった。
 木漏れ日、と言っていいのか、森に差し込む陽射しは淡く穏やかだけれども、光の道筋にある硝子がキラキラ、キラキラと光って。またその周りの硝子にも反射して増幅され、森の奥まで木々が光り。葉が、枝が、花が、草が、キラキラ、キラキラと瞬き続ける。
「本当に綺麗だよな」
 思わず木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)の口から感嘆の声が零れた。
 愛用のギターを手に、硝子の道をゆっくり歩き、その美しさを眺めてから。
 適当な木を見つけて、その根元で立ち止まる。
 美しくもがっしりと力強い硝子の幹に背を預けて見上げれば。
 そこには硝子の雫が幾つも揺れていた。
 枝に生る実のように。
 葉から零れ落ちる水滴のように。
 1つ1つバラバラに、時に連なって動きを揃えたように、雫は煌めき、揺れ動き。
 ふっ、と何の前触れもなく落ちてくるものもあった。
 それは道に落ちて、広がる。
 砕けた、とはまた違う。本当に水のように、弾んで、広がっていく。
「面白いな」
 それらを見ながら、ウタは即興でギターを奏でた。
 硝子の様子に添える背景音楽のように。
 煌めきに、揺らめきに、その変化に合わせて、曲を創り上げていく。
「曲名は……硝子の森の歌、だな」
 そのまんまだと苦笑しながら、でも分かり易いし、それ以上のものでもないから。
 ウタは『硝子の森の歌』を弾き続け。
 そして、少しだけ離れた場所に居る2人の少女を、見守った。
 小麦色の長い髪に鈴飾りをつけた、顔馴染みのアリス・はると。
 短くも綺麗な青髪と青瞳に包帯を巻いた、オウガブラッド・ロゼ。
 硝子の雫を仲良く見つめる2人の姿を。
(「はるもロゼも、本当に大変だ」)
 訳も分からずアリスラビリンスなんて見知らぬ世界に召喚されて。
 そこでオウガなんかに狙われ続ける、可哀想な存在。
 だけれども。
「ここは不安な旅の中で見つけたロゼさんの宝物なんだね」
 小さな王子様にそう言われて、細められるロゼの青い瞳は、本当に嬉しそうで。
 ロゼにとって、この硝子の国が本当に大切なのだと。
 そして、大好きな国を分かってもらえたことを心の底から喜んでいると。
 傍目にもすぐ分かる。
 だからウタは、せめて、と思う。
(「せめて今は、この硝子の国での安息のひと時を守ってやりたいぜ」)
 ギターを静かに奏でながら、ロゼの笑顔を見つめて。
 硝子の森を楽しむことが、オウガの狂気に抗う礎となるようにと。
 そしてこの先に続くであろう『自分の扉』を見つける旅でも、支えになるようにと。
 願い、奏でる。
 しかし。
 硝子の薔薇が咲き、硝子の羽根が広がると。
 何かに怯えたように、ふっと曇る、青い瞳。
 それは、ロゼの中にあるオウガの狂気がもたらしたもの。
 大切なものを自ら壊してしまう恐怖。
 それをウタは……そして、ロゼの傍で眠たげな黒瞳を揺らす、小さな白い花を黒髪に散らした少女も、解っているから。
「もし、割れちゃっても、治せるものは、治しましょー……」
 謳うような澄んだ声で、ゆるりと少女の声が紡がれ。
 大丈夫と諭すかのように、繊細な硝子の羽根を抱えて告げる。
「大丈夫ですよー……ひとりじゃないです、から」
 その言葉に、ロゼは、眠たげにだけれども傍に居る少女をじっと見て。
 隣に立つはるに顔を向けて。
 さらに集まって来る猟兵達を、青い瞳に映していく。
「そういえば、雫はいつも同じ形になるの?」
 こちらはしっかりと起きた、切れ長の黒瞳で、首を傾げる女性。艶やかな濡れ羽色の長い髪が、肩口の白い肌の上を滑っていた。
「心の形って、ひとつきりとは限らないんじゃないかしら?」
 素朴な疑問を投げかける女性の手元には、シンプルな立方体の黒硝子。
 ロゼが辺りを見回せば、少し離れた場所で、和装の老爺がクラゲと羽根を象った虹色硝子を見てにこにこ微笑み。赤い蝶の硝子を周囲に舞わせた2人の男が、フライパンのような形をした白い硝子を囲んで何やら騒いでいる。
 はるの手元には、青色の丸っこい魚の形をした硝子があって。
 眼鏡をかけた少年が、その眼鏡に使われているかのような無色で平らな楕円形の硝子板を差し出すと、その足元では、強面な犬が、星を閉じ込めた夜のような藍色の硝子を、ごつごつした武骨な塊を、鼻先でつついていた。
「どんな色でも形でも……それが、抗いようのない僕で。
 これから磨いていく僕の姿だ」
 硝子の雫が見せる、様々な、心。
 そして、どんな心でも受け入れていく、人々の姿を。
 ロゼは、戸惑ったように揺れる青瞳で見つめて。
 そこに飛び込んでいくキマイラの少女。
 困惑の空気を一蹴するかのように快活に笑うウサギ耳の少女は。
「さわるとかわるの? じゃあ2人ともさわってみて!」
 硝子の雫を前に、ロゼ達を促す。
 触った方が面白いから、という単純で純粋な期待の眼差しに、だがロゼは手を伸ばせずにいて。怯えたように硝子を見るばかり。
 そういえば、とウタは気付いた。
 硝子を嬉しそうに眺めていても。雫がどんな形に変わっていても。
 ロゼはその手で硝子に触れてはいなかった。
 きっと、壊してしまう、と恐れているから。
 大好きなものを壊したくない、と怯えているから。
 猟兵達の声は響いているようだけれども。
(「急に気持ちを切り替えれるわけないか」)
 無理強いをするところではないだろうと、ウタは寄りかかっていた幹から背を離す。
 そして、ロゼとはる、きょとんとしているキマイラの少女の前に進み出ると、ロゼの代わりにと言うかのように、そっと硝子の雫へ手を伸ばして見せた。
 ギターを持つのとは反対の手で受け止めた、生まれたばかりだという硝子は。
 不思議な輝きと共に、その輪郭を揺らして。
「……迦楼羅、かな」
 焔のように燃え盛る、赤い色の硝子が、鳥を象って翼を広げる。
 掌を差し出せば、ロゼはほっとしたように硝子の炎鳥を見て。
 でもやはり、その手は伸びて来ないから。
 ウタは小さく苦笑して、手を引き戻すと、その動きを視線で追っていたはるに気付いて笑いかけ、挨拶を交わした。
 その間に、キマイラの少女はぴょんぴょんとロゼの周囲を飛び回り。
「壊したいなら壊していいのよ?」
 中々物騒なことを言い出したけれども。
「壊したいなら壊せばいいし、壊したくないなら壊さなければいいの」
 あっけらかんと告げる言葉に。恐らくロゼが思ってもみなかった言葉に。
 ロゼの青瞳が、晴れていく。
 そこに、褐色の大型犬を連れた黒髪の少女が歩み寄って。
 ハート形の朱い硝子を間に、はると声を交わしていると、犬の足元に足形の硝子がころころと生まれ落ちていくから。
「綺麗だな」
 それを視線で示しながら、ウタはロゼに笑いかけた。
「心に反応して形を変えるってのも、如何にも不思議の国ってカンジだぜ」
 転がる足形の硝子に驚いた様子で、ゆっくりと、どこか恐る恐る歩く大型犬に合わせてギターの音を爪弾く。
 すると、軽やかな旋律のおかげか、それとも硝子に慣れたのか、大型犬も音に合わせてくれるかのように、リズムよく足を動かし始めて。
 愛嬌のあるその動きに、ふっとロゼの口元が緩んだ。
 でも、大型犬ははっと何かに気付くと踵を返し、急に走り去ったから。
「あっ」
 思わず声を上げ、ロゼは少し残念そうにその後ろ姿を見送る。
 すると、入れ替わるようにその主が、黒髪の少女がロゼに語りかけた。
 挨拶からの、少女の身の上話。
 でもそれは、ロゼに伝えたいことを導くためのきっかけで。
「『助けて』って言葉、ためらわなくてもいいじゃない?
 うまく言葉にできない不安も、自身すら直視できないような怖れも、声にすれば周りが助ける理由になる」
 優しく、でも力強く紡がれる言葉は、きっと迷うロゼの背を押している。
 これまでかけられた幾つもの言葉と同じように。
 だからウタは、それがロゼの心にしっかり届くようにと願いながら。
 より伝わるようにとギターの音色で、数々の声を彩っていった。
「十人十色の硝子の色、儚く壊れ易くもある。
 壊れると、とても痛い。
 その痛みに向き合うか、気付かないふりして綺麗なものだけを見つめるか……
 どちらも、勇気がいるね」
 戻ってきた大型犬に連れられた双子の妹の方が、その金瞳で真っ直ぐにロゼを見て。
「でも、今ロゼは独りではない。もし壊れても皆でもう一度作り直せる」
「ハイ、これ。ロゼ姉ちゃんにあげる!」
 そこに兄の方が、ずいっと差し出したのは橙色と黄色が渦巻く、明るい硝子。
「オウガと戦うときには、これお守りにしてね♪」
 太陽のような硝子に負けないおひさま笑顔を咲かせた少年の勢いに圧されるように、ロゼはおずおずと手を伸ばしてしまい。
 その手に転がる、硝子。
 壊れやすい、綺麗なもの。
 壊したくない、大切なもの。
 思わずロゼの青瞳に怯えが戻ったのが、ウタには見えたから。
「はる」
 ウタはギターの音を大きくして、促すようにその名を呼んだ。
 振り向いたはるは、一瞬きょとんとした顔を見せたけれども。
 ギターをくいっと動かして、示し見せたウタに、ああ、と頷き笑顔を浮かべると。
 響いたのは穏やかなハミング。
 ウタの曲は、即興で先ほど作った『硝子の森の歌』だけれど、先ほどからずっと奏でていたものだから。そのメロディをなぞることは、さほど難しくないはずで。
 はるは時折音を確かめながらも、きちんと音を紡いでくれる。
「ロゼも、ほら。一緒に歌おうぜ」
 だからウタは、ロゼにも促して。
 重なっていく2つの歌声。
 2匹の犬が、お座りをしながら尻尾を振り。猟兵の皆が見つめる中で。
 2人のアリスに笑みが零れていく。
(「良い歌声だ」)
 上手い下手ではなく、旋律に乗った楽し気な心にウタは目を細めて。
「友達と一緒にそんな風に歌えて、こんなに笑いあえるアンタなら、オウガになんて負けやしない」
 ギターの音色に、言葉を乗せる。
 壊したくないなら壊さなければいい。
 それでも、例え壊れてしまったとしても、きっと治していける。
 壊してしまっても、そこからやり直せる。
 だってロゼの傍にははるが、猟兵達がいるから。
 皆と一緒に、硝子の心を、磨いていけるから。
「オウガの戯言は歌でかき消しちまえ。
 友達の顔を思い出すんだ。アンタは1人じゃないんだから」
 ロゼの掌は、いつの間にか閉じられていて。
 そっと握りしめた硝子の太陽を、大切に、愛おしそうに、胸元に引き寄せる。
 はるの笑顔が。
 猟兵達の微笑が。
 そして、ロゼの晴れた青い瞳が。
 キラキラ、キラキラと、硝子と一緒に輝いて。
(「英気は養った」)
 ウタはギターの音色をフィナーレへと向けると。
(「お次は灰色天使とやらをぶっ飛ばすぜ」)
 最後の音が、優しく、そして力強く、硝子の森に響いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『灰色の天使グリエル』

POW   :    不純肉切除
【不要な肉を切り落とす肉切り包丁】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
SPD   :    灰華の木枯らし
自身の装備武器を無数の【触れた物を灰に変える灰】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    灰蝕の翼
自身が【灰蝕の翼を広げて】いる間、レベルm半径内の対象全てに【対象の献身さを侵蝕する猜疑の闇】によるダメージか【対象の害意を侵蝕する慈愛の光】による治癒を与え続ける。

イラスト:エゾツユ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「見つけた。見つけたわ。
 オウガブラッド。その身にオウガを宿すアリス」
 歌声が止み、ギターの旋律が終わったところで。
 拍手よりも先に響いたのは、酷く愉しそうな少女の声だった。
 振り向いた皆の前に現れたのは、猟書家幹部『灰色の天使グリエル』。
 灰色のコートを着て、灰色の帽子を被り、灰色の翼を広げた少女は。
 灰色の手袋で、血に濡れた両刃の大きな鉈を持って。
「白と黒。異なるものを内包する灰色の存在を、私は愛するの」
 頬に付いた返り血を拭うことなく、にこりと笑う。
 その暗い緑色の瞳が映すのは、ロゼだけ。
「貴女はまだ、白と黒。不純物が邪魔をして、混ざりきっていないのね。
 だから私が灰色にしてあげる。貴女の肉を削ぎ落して、貴方の意思を削ぎ落して……
 邪魔なものを全てなくして、アリスとオウガの純粋融合体にしてあげる」
 自分勝手で酷い内容とは裏腹に、気軽で明るい声で、グリエルは告げると。
 灰色のタイツに覆われた脚を動かし、ロゼへと歩み寄ろうとした。
 近付いてくるその動きに、はるが息を呑み、猟兵達が身構える。
 しかし、誰よりも先に足を踏み出したのは。
 ロゼだった。
『いいね、ロゼ。壊すんだ? 殺すんだ?
 あのオウガだけで終わらないよね?
 硝子も、アリスも、猟兵も。
 もっともっと壊して、殺して。そうして、ボクと一緒に楽しもうよ!』
「……壊すわ」
 囁くオウガの声に、ロゼは俯き気味に答え。
 しかしすぐに顔を上げると、まっすぐにグリエルを見据える。
「でも、私が壊すのは、壊したいものだけ。
 守りたいものは、壊さない。もう、壊して後悔は、しない」
『でも、ロゼ。きっと壊れてしまうよ。
 ロゼが触ったら、硝子も、アリスも、猟兵も』
 オウガが嘯く。
 グリエルが笑う。
 それでも、ロゼは目を逸らさずに。
 左の手に、ぎゅっと硝子の太陽を握りしめて。
「壊れてしまっても、治していくの。
 私1人だったら無理かもしれないけど……私は1人じゃないから」
 右瞳と右腕を覆っていた包帯を、むしり取った。
「だから私は、貴方を使う。
 私のことを思ってくれた人達のために」
 露わになるのは、青い狼。獣の右瞳と、獣の右腕。
 それは、ロゼを蝕むものだった。
 けれども、今は。
 ロゼが戦うための力。
 そう、思えるようになったから。
「だって、心は……私は、変わっていけるんだから」
 もう、オウガの声は聞こえない。
 ロゼの心に響くのは、数々の言葉とギターの音色。
 そして、綺麗で優しい歌声。
 
ココ・クラウン
出会った時の彼女はつらそうに見えて
だから助けてあげたいって思ってた
でも変わって、自分の心を守りきったんだ
もう守ってあげるべきアリスじゃない…僕も隣で戦わせてね

星屑のような【結界術】で森を保護
シュガーに騎乗
乙女に寄り添うユニコーンが女性に怯えるなんて…
あの天使の心はどんな形と色だろう
アリスとシュガーが不安にならないように、
【勇気】を持って戦わなくちゃ
怪我をしても【集中力】で次の動きを見極め、
迎え撃つように王子の剣で【騎乗突撃】!

敵UCの浸食を受けたらロゼさんにUC
―がんばりすぎなくて大丈夫 一緒にこの国を守ろう
はるちゃんの歌声もあれば心強い
残った力で光の【全力魔法】
ロゼさんを邪魔する闇を照らすよ



「シュガー」
 親友の名を呼んで、ココ・クラウン(f36038)は仔ユニコーンの背に乗った。
 王子の剣をすらりと引き抜いて、現れた『灰色の天使グリエル』を見つめると。
 下から伝わってくるのは恐怖の感情。
(「乙女に寄り添うユニコーンが女性に怯えるなんて……」)
 小柄ゆえか主に似てか、気が弱いシュガーだけれども、この様子はそれだけが原因ではないとココは察して。
(「あの天使の心はどんな形と色だろう」)
 少し陰らせた緑色の瞳に、グリエルを映す。
 それはきっと、触れた者全てを傷つけて赤く染まる鋭い硝子。
 ロゼがその身の内のオウガに抱いていたイメージの具現。
 でも、もうロゼは違う。
 出会った時の、つらそうで、助けてあげたいとココが思っていた彼女ではない。
 自分の心を守りきって、硝子に恐怖ではなく希望を見出したロゼは。
 もう、守ってあげるべきアリスでは、ない。
 だから。
「ロゼさん。僕も隣で戦わせてね」
 ココも勇気をもって、シュガーと一緒にグリエルへ立ち向かう。
 だってココは王子様だから。
 未来への希望に満ちた、勇敢なる者なのだから。
 ロゼが、シュガーが、不安にならないように。
 王子の冠を眩く輝かせ、白銀のレイピアを振るった。
「貴女は白でいたいのね」
 そんな戦いの中、グリエルが嗤う。
「でも、貴女の中には紛れもない黒がある。
 消せない黒に抗うことはないわ。その意思も肉も要らないものだわ」
 両刃の大きな鉈でロゼを執拗に狙いながら。
「ほら、灰色になりましょう?」
 にこやかに、蝕むように、嗤う。
 そしてその背に灰蝕の翼が広がると。
 ロゼの、ココの、皆の心に猜疑の闇が侵蝕しようとしてくるから。
「過去に抗う絆よ、光満ちよ!」
 ココはその闇を打ち消すように、頑張って声を張り上げて。
 ユーベルコード『ノーブルリング』で、ロゼに声を届けた。
「……きみは負けない」
 応援が。気遣う心が。
 ロゼの希望を煌めかせるように、温かく沁み込んでいき。
 さらに、綺麗で優しい歌声が、辺りに満ちていく。
(「これは、はるちゃんと……」)
 ココも、その旋律にふんわりと笑みを浮かべると。
 ロゼに柔らかな視線を向け、そして、信じる心を繋げるべく、手を差し伸べた。
「がんばりすぎなくて大丈夫。一緒にこの国を守ろう」
 穏やかで淡い光は、でもしっかりとロゼを包み、その背を支えて。
 邪魔する闇を照らしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
武器:漆黒風

ええ、心は変わっていける。私だってそうでしたからー。
共闘、しましょう。ロゼ殿。
相手、かなりの自分勝手ですからねー。

さて、その包丁は厄介なものと見ました。ずっとは無理でも、一時的に使えぬようにせねば。
【四悪霊・風】使用による漆黒風の投擲を。狙いは包丁…に見せかけて、腕と足ですよ。
物を当てるってのは、バランスも大切でー。それを突然、破壊され崩されたら、当たらないってものですよー。

私たち四悪霊はね、守るためにも存在しているのですよー。


陰海月と霹靂、撹乱するようにグリエルに向かって体当たり。
守りは海色結界や羽結界でできるもん!



 一歩踏み出し、オウガに蝕まれた身体を隠していた包帯を自ら取り去ったロゼの姿に、馬県・義透(f28057)は変わらぬのほほんとした笑顔で頷いた。
「ええ、心は変わっていける。私だってそうでしたからー」
 穏やかな声色も変わらないけれど、それでも喜びが強く感じられる気がするのは、美しいヒポグリフ『霹靂』の周囲を揺蕩う大きなミズクラゲの『陰海月』が、くるんくるんとはしゃいでいるからか。
 大人しそうに見える霹靂も、硝子の森に最初見せていた怯えはもう欠片もなく、嬉しそうに足を踏みしめ、鷲の首を揺らしていたから。
 義透は、和装の袖から、棒手裏剣『漆黒風』を握った手を出し、見せる。
「共闘、しましょう。ロゼ殿。
 相手、かなりの自分勝手ですからねー」
「ぷきゅー!」
「クエ」
 応えるように鳴いた陰海月と霹靂が、待ってましたという勢いで仲良く飛び出し、『灰色の天使グリエル』に向かって体当たりをしていく。
 それは決定的な一打にはならずとも、縦横無尽に動き回ることで、グリエルを撹乱し。白銀のレイピアや黒色の剣と共に、ロゼへ向かおうとする灰色の動きを阻害して。
 邪魔だとばかりに振るわれる、大きな両刃の鉈。いや、肉を切り落とそうとするその動きを合わせると、肉どころか骨まで断てる大型の包丁なのか。
 しかも、その刃には、ユーベルコードによるものか、不穏な効果が感じられるから。
「さて、その包丁は厄介なものと見ました」
 少し考え込むような素振りと共に、義透は呟く。
「ずっとは無理ですかねー。でも、一時的に使えぬように、くらいはせねば」
 同時に、手にしていた漆黒風を、無造作にも見える動作で投げ放てば。
 言葉の通り包丁へと真っ直ぐに向かって行ったから。
 予想していたグリエルは、包丁を引いて躱す。
 叩き落としてもよかったけれど、包丁を狙った攻撃ならば包丁で触れない方がいいと判断して、グリエルは完全な回避を選んだのだ。
 義透の思惑通りに。
 そして避けたその先へ、大きな動きの陰で隠れて投擲した別の漆黒風が向かい。
 突き刺さったのは、包丁を持つ右の上腕と、地を蹴った左脚。
 つまり、包丁を力強く振るうために必要なはずの身体。
「物を当てるってのは、バランスも大切でー。
 それを突然、破壊され崩されたら、当たらないってものですよー」
 灰色のコートが、灰色のタイツが、じわりと赤く染まっていくのを見ながら、変わらぬのほほんとした口調で告げる義透。
「私たち四悪霊はね、守るためにも存在しているのですよー」
 糸目で穏やかに微笑むと、陰海月がくるんくるんと嬉しそうに宙を舞っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
うん、そうですね……そうですよ。
ロゼさんは、変わっていけますよ。皆さんが、はるさんが、一緒ですし。
大丈夫、ですよ。

【Resonance】、使用。
これは献身ではないでしょう。ただ当たり前のことなんですから。
害意でもありません。グリエルを害する気持ちはないのですから。
ただ、ロゼさんが、はるさんが。この場の皆さんが。あるがままに、心折れぬように。貴方らしくあれるように。少しだけ、お手伝い。
歌唱は、得意なんですよ……精一杯、歌いましょ。
傷つかないように、傷ついたとわかるより早く、治していく心意気で。そうあれるように祈りながら。
大丈夫、壊れたりしません……ご安心を。
どうかこの声が、力になるように。



 すぐに壊れそうなほど繊細で、美しい夜色の硝子の羽根。
 目の前にかざしたそれを、そっと動かしてみれば。
 硝子は意外にも強くしなやかに、キラキラと煌めいて魅せた。
 儚くて、でも決して弱くない。綺麗な輝き。
「うん、そうですね……そうですよ」
 寧宮・澪(f04690)は、その夜色の向こうに、露わになった青色を見て。
 蝕む青い狼を隠すことなく真っ直ぐに前を見る青い瞳に、黒瞳を細めて。
「ロゼさんは、変わっていけますよ。皆さんが、はるさんが、一緒ですし」
 どこか眠たげにも見える程に穏やかな、微かな笑みを浮かべる。
「大丈夫、ですよ」
 繰り返される言葉。
 寝ぼけているかのようにも聞こえる声色だけれども。
 それは大切な思いだから。
 ひとりじゃないよと。
 大丈夫だよと。
 澄んだ澪の声は、何度も重ねて思いを紡ぎ。幾重にも、ロゼへと届けられた。
 それでも『灰色の天使グリエル』は、ロゼを狙い、身勝手に嗤う。
「ほら、灰色になりましょう?」
 その背に灰蝕の翼が広がれば、闇がロゼの心を蝕もうと手を伸ばす。
 けれども、その闇を押し返すように幾つもの『光』が満ちていく。
 そしてその中に、聞き覚えのある歌声を聴いた澪は。
 少し眩しそうに黒瞳を細めながら、こくん、と1つ頷くと。
「歌唱は、得意なんですよ……精一杯、歌いましょ」
 共鳴するように、歌を響かせた。
 ひとりじゃないよと。
 大丈夫だよと。
 それは献身ではなく、害意でもなく。
 ただ、ロゼが、はるが、この場にいる皆が。
 あるがままに。心折れぬように。
(「貴方らしくあれるように」)
 願い、そのために少しだけお手伝いする。
 そんな、当たり前のこと。
 だから闇に蝕まれることはない。
「大丈夫、壊れたりしません……ご安心を」
 何度も、何度でも、思いを重ねる。
 誰かの傷に誰かが傷つかないように。
 傷ついたと分かるより早く、治していく。そんな心意気で。
 そうあれるようにと祈りながら。
 澪は、澄んだ歌声を重ねていく。
(「どうかこの声が、力になるように」)
 願いはどこまでも、どこまでも響いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黛・深墨
彼女が「灰色の天使」…可愛らしいのね
でも、ロゼちゃんを酷い目に合わせるなんてダメよ

「影の短剣の召喚」を使って、ロゼを守るようにグリエルの行動を妨害
これで倒せるとは思わないけど仲間もいるもの…役には立つでしょう
ロゼちゃんの決意は素晴らしいわ
ただ…彼女が狙っているのは貴女だから無茶はしないでね

「灰蝕の翼」は恐らくどういうモノか気づかない…ので、耐える
…なに、これ?変な感じ…攻撃されてる?
呪い、みたいなものかしら…?
とはいえ、手を緩めるわけにもいかないものね

なぜ不安だったのかは分からないけれど、ロゼちゃんが純粋に硝子と向き合えるようになったら嬉しいわ
きっと、この国のように素敵な硝子になるわよ



「彼女が、灰色の天使……」
 予知で聞いていた存在を目の当たりにして、黛・深墨(f37286)はぽつりとその称号を呟いていた。
 猟書家幹部『灰色の天使グリエル』。
 灰色の翼を広げ、灰色のコートと灰色の帽子、灰色の手袋でその身を包んだ少女。
「可愛らしいのね」
 確かに、その表情は大人しそうだけれどもにっこりと微笑んでいて。控え目な所作を合わせると、良家のお嬢様のよう。
 しかし、アクセントに添えられた、襟や袖や足首のボアとスカートのフリルも、一見黒に見えるけれども黒の濃い灰色で。帽子や胸元を飾るリボンも、暗く灰色を混ぜた青。髪色のベージュも、瞳の鶯色も、灰色でくすんで見える。
 灰色に染まった姿は、寒々しい印象も与え。
 手にした大きな両刃の鉈についた血の色が。コートに、頬にはねた返り血が。
 唯一の暖色として、歪んだ鮮やかさを見せつけていた。
 それはきっと、アリスの血。
 グリエルが、自分勝手な思想で切り刻んできたオウガブラッドの断末魔。
 そして今、その刃は、深墨の傍らへと向けられているから。
「でも、ロゼちゃんを酷い目に合わせるなんてダメよ」
 深墨は、漆黒の髪と同じ黒色の短剣を、自身の影から召喚する。
「其は乱れ裂くモノ」
 数百ものシャドータガーは、深墨の声に応じ、空間に幾何学模様を描き出した。
 複雑な軌跡で向かう先はもちろん、灰色の天使グリエル。
 レイピアを手にした小さな王子様を援護するように、体当たりをするクラゲとヒポグリフの陰に隠れて不意撃つように、黒い刃はグリエルを襲う。
 それはロゼを守るかのような動き。
 ロゼにグリエルを近づけさせないようにと妨害するものだから。
「これで倒せるとは思わないけど」
 ふっと深墨の口元に笑みが浮かぶ。
「仲間もいるもの……役には立つでしょう」
 それは、同じ猟兵達を、そしてロゼを信頼してのもの。
 だから深墨は、傍らのロゼを見つめて。
 変わりゆく心の形に愛おし気に黒瞳を細めて。
「ロゼちゃんの決意は素晴らしいわ。
 ただ……彼女が狙っているのは貴女だから、無茶はしないでね」
 支えて、そして共に在ると、伝えていく。
 しかしそこに、グリエルが歪んだ笑みを浮かべ、灰蝕の翼を広げた。
「ほら、灰色になりましょう?」
 広がるのは、猜疑の闇。献身さを侵食する、灰色の蝕み。
(「……なに、これ? 変な感じ……攻撃されてる?」)
 その効果を知らぬままに、呪いだろうかと訝しみつつ、でも手を緩めるわけにはいかないと深墨はぎゅっと自身の胸元を握りしめ、耐えて。
(「ロゼちゃん、は……」)
 はっと気付いて顔を上げると。
 そこには光が満ちていた。
 王子様が、炎の鳥が、月の演者が。ロゼを支える眩い輝き。
 そう。ロゼには深墨だけではない。
 深墨が猟兵達を信頼したように、ロゼもきっと同じだから。
 だからこそ伸ばされる助けの手。
 何を不安に思うことがあるだろう。
 何を疑うことがあるだろう。
 この心に触れて、ロゼは変わったのだから。
 変わっていこうと思ってくれたのだから。
 だから深墨も、ロゼに手を伸ばす。
「ロゼちゃんが純粋に硝子と向き合えるようになったら、嬉しいわ」
 心を、思いを、何度でも伝えるように。
「きっと、この国のように素敵な硝子になるわよ」
 振り向いたロゼが見たのは、不安を和らげるように穏やかに微笑む、優しい魔女。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南雲・海莉
杏さん(f16565)、祭莉くん(f16554)と息を合わせて

ロゼさん、手伝うわ
割って入り
包丁の動きをマインゴーシュで受け流す

(忍び込む闇をはっきりと拒絶するように)
…私が立ち止まったら、救えないものがあるの!

UC使用
「闇は光に、光はより強き輝きに掻き消える!
月よ、汝、魅了を司るもの!
害意と猜疑を打ち消せ!」
(芝居のように声を上げ)

はるさんの歌や杏さんの応援に合わせ
月の属性魔力を纏わせた刀で舞うように斬りつける

敵の行動は見切りと勘で避ける

祭莉くんの俊敏な動きに合わせ
互いに映えるように立ち回るわ

時に皆の歌声に合わせて歌い
時にロゼさんの手を握り
UCの求める行動に沿うようにリードしつつ鼓舞


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)、海莉(f00345)も
そして、はる。皆で一緒にロゼを手伝おう

はる、癒しの歌を歌って?
響く音は力の源
包丁の軌跡を見切り、逃げ足で避ける足元も自然にスキップを踏み
踊るように振る腕に合わせてうさみん、突撃
まつりんと海莉のサポートし、包丁は受け止め蹴り上げてね

ロゼが揺らげばその手をしっかりと握って
触れても壊れないと証明しよう

【絶望の福音】
灰の花びらの予感がすれば皆へ声掛け、灯る陽光から虹を放つようにオーラ放出
七の色彩に灰の花びらを溶け込ませ防御しよう

灰色も好きよ
グリエルは良く似合ってる
同じようにロゼにはロゼの色がある
はるにも
海莉、まつりんにも
ロゼの中のあなたにも、ね


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。海莉姉ちゃん(f00345)もね!

んー、白と黒。まだらもいいと思うけどなぁ。
べったり同じ色じゃなくても。
くっついたり離れたり、その方がお互い自由でいいのにね?

ロゼ姉ちゃん、おいらとお揃い!(耳をぴこぴこ動かし)
いけいけゴーゴー! その調子!
だいじょぶ、みんなが一緒だよ♪(ダッシュで前に走り出て)

はるちゃんが歌って、海莉姉ちゃんが踊って。
おいらも踊るように、ヒットアンドアウェイ。
うさみんとアンちゃんに合わせて、華麗なステップを披露するよー♪

攻撃がロゼ姉ちゃん狙ってたら、庇って如意な棒で受け止め。
カウンターで光芒拳を連打!
そうそう、ロゼ姉ちゃんも行っちゃえ、全力!



 すっと前に出た青い背中。
 それは『灰色の天使グリエル』を迎え撃つものであり。
 己の心の闇に立ち向かうものだ、と南雲・海莉(f00345)は感じたから。
「ロゼさん、手伝うわ」
「まつりん、海莉、そして、はる。皆で一緒にロゼを手伝おう」
 海莉もマインゴーシュをすらりと抜き、木元・杏(f16565)と共に並び立った。
 独りではないと、言葉だけでなく伝えるために。
 そして、ロゼの声に応えるように。
 2つの黒髪が美しく靡き。
「ロゼ姉ちゃん、おいらとお揃い!」
 その黒に見惚れていたロゼの前に、ひょこっと割り込んだのは木元・祭莉(f16554)。
 赤茶色の元気に跳ねた短い髪には、同じ色の狼耳がぴこぴこ動いていて。
 にぱっと笑う銀の瞳が見つめるのは、ロゼの青い狼耳。
 顔の右側と右腕に現れた、ロゼを蝕むオウガの姿。
 でも、包帯で隠していたそれを使うと決めたのはロゼ自身で。
 覚悟を決めていたのだけれども。
 それでも拭いきれなかった不安。
「いけいけゴーゴー! その調子!
 だいじょぶ、みんなが一緒だよ♪」
 それを、祭莉のおひさま笑顔が吹き飛ばしてくれる。
 気負っていた心が少し軽くなったのを感じながら、ロゼは、陽気に走り出す赤茶色の狼耳を青い瞳で追いかけた。
 そんな祭莉を、杏も追いかけようとして。
 ふと、踏み出しかけた足を止めて振り返る。
「はる、癒しの歌を歌って?」
 これはロゼの戦いだけれども、きっとはるの戦いでもある。
 はるが『自分の扉』を探す旅路の、大切な一部だから。
 杏は、一緒に戦おうと、はるにもふわりと微笑んだ。
 海莉も、はるを肩越しに見て。その足元に、自分の定位置はここだと決まっていると、当然な顔をして寄り添う、小さな翼持つ褐色大型犬・リンデンの姿も見て。少し噴き出すように笑みを浮かべてから。
 双子を追ってグリエルへと向かう。
 しかしグリエルは、猟兵達の攻撃の最中でも狙いを反らさず。
「貴女は白でいたいのね。でも、貴女の中には紛れもない黒がある」
 投げかけた言葉の矛先は、ロゼ。
「消せない黒に抗うことはないわ。その意思も肉も要らないものだわ」
 王子様のレイピアを、忍者の手裏剣を、魔女の黒剣を、その身に受けながらも。
 血で赤く汚れた顔に穏やかな笑みを浮かべてロゼを見つめ。
「ほら、灰色になりましょう?」
 その背の灰蝕の翼を翼を広げると、ロゼの献身さを蝕もうと、猜疑の闇を広げる。
 でも海莉は怯まずに、闇をはっきりと拒絶するように立ち塞がった。
「……私が立ち止まったら、救えないものがあるの!」
 声を張り上げ、ユーベルコード『月灯燦爛』を発動させる。
「闇は光に、光はより強き輝きに掻き消える!
 月よ、汝、魅了を司るもの! 害意と猜疑を打ち消せ!」
 芝居がかった大仰な仕草に合わせて、辺りに満ちる光。
 それは闇を押し退け、他の輝きと共にロゼを包み込み。
 煌めきに、眩しそうにロゼの青瞳が細められると。
「……ん」
 その表情を見てか、杏がロゼの手をぎゅっと握った。
 オウガに蝕まれた右手を。
 包帯で隠していた青狼を。
 迷いなく、しっかりと、握りしめる。
(「ほら、触れても壊れない」)
 それを証明するように、杏はふわりと笑いかけ。
 驚くようにその姿を見つめたロゼに。
「んー、白と黒。まだらもいいと思うけどなぁ」
 祭莉の、心底不思議がるような、純粋な声が届く。
「べったり同じ色じゃなくても。
 くっついたり離れたり、その方がお互い自由でいいのにね?」
 子供っぽく、だからこそ素直で簡単な言葉。
 そのままのロゼを認めてくれているようなものだったけれども。
「駄目よ。分かれていては駄目。
 貴女は灰色に……灰になるのよ」
 グリエルは即座に首を左右に振り、灰華の木枯らしを周囲に吹き荒らした。
 それは、触れた物を灰に変える灰の花びら。
 全てを灰色一色に染めようとするもの。
 でも、それを予想していた杏は、片手で灯る陽光を掲げて。
「灰色も好きよ。グリエルは良く似合ってる」
 じっと、灰色を身に纏う天使を見て頷く。
 でも、放出した虹色のオーラは、無数の灰花が広がる前に包み、溶け込ませていき。
「同じように、ロゼにはロゼの色がある。
 はるにも。海莉にも。まつりんにも」
 名前を並べていけば、僕もと言うかのように一吠え響いた鳴き声に、杏はくすりと、リンデンにも、と付け加えて。
 もちろん、と握ったままの片手を、ロゼの右側を、見つめた。
「ロゼの中のあなたにも、ね」
「……!」
 はっと息を呑むロゼ。
 真っ直ぐに向けられた金瞳は、ロゼだけでなく、その身のオウガも、見つめる。
 そしてようやく、先ほどの言葉が沁み込んでくる。
 まだらもいい。くっついたり離れたり、自由でいい。
 白と黒。それを灰色にしなくてもいいのだと。
 素直に考えられるようになって。
「さあ、今こそ立ち上がれ。己に立ち向かうのよ!」
 あえて芝居の台詞のように海莉が声を張り上げ、刀を掲げると。
 その刀身に纏われた月の属性の魔力が、淡く、優しく、でも力強く広がった。
 気付けば、辺りには光だけでなく、歌声も満ちている。
 それは癒しのユーベルコード。
 そして、ロゼに向けられた、応援の旋律。
 ――あるがままに。心折れぬように。
 貴方らしくあれるように――
 響く音に、海莉も合わせるように歌い出した。
 幾重にも広がる光。
 幾重にも紡がれる歌。
「うさみん☆」
 微笑んだ杏は、もう一度ぎゅっとロゼの右手を握りしめてから、手を離し。
 うさ耳付メイドさん人形と共に、グリエルへと向かう。
 振り回される、両刃の大きな鉈。肉を削ぎ落そうとする大包丁。
 その軌跡を見切り、避ける足元は、歌声に合わせて自然とスキップを踏んでいて。
「おいらも踊るー♪」
 にぱっと笑った祭莉も、杏に続いて、楽しそうに華麗なステップを披露する。
 グリエルに近付いてはすぐに離れるヒットアンドアウェイ。
 他の猟兵達も含めたその攻撃の動きは、歌声も相まって、本当に踊っているようで。
 月のように輝くマインゴーシュを振るう海莉も、剣舞を魅せているかのよう。
 それらの美しさに。
 いろんな色で、いろんな形で、硝子のように数多に輝く姿に。
 ロゼは、舞台を見ているかのように目を奪われて。
 そこに伸ばされる、海莉の手。
「それが君の望みなら、共に歌い踊ろう。
 立ち向かうその背を、月はいつでも照らし、支えよう」
 ユーベルコードの強化を得る為の、芝居風の言葉。
 輝く月の魔力をスポットライトのようにして、海莉は演者として振る舞い。
「行こう、ロゼさん」
 その最中にふっと浮かぶ、素の笑顔。
 穏やかな微笑みに引き寄せられるように、ロゼは左手を伸ばし。
 差し出された海莉の手を握り、一歩を踏み出すと。
 それを阻むように、グリエルの大包丁が繰り出された。
 ロゼの決意を削り落とそうと。
 進もうとするロゼの足を切り落とそうと。
 でもその刃は、猟兵達が重ねた攻撃で威力を落としていたから。
 飛び込んだうさ耳付メイドさん人形の蹴りでさらに揺らぎ。
 しっかりと、ロゼを庇うように飛び込んだ祭莉の如意な棒に受け止められ。
「みんなの気持ち、この拳の中に!」
 カウンターで光芒拳の連打が叩き込まれた。
 そして、くるりと振り返った祭莉は。
 にぱっとおひさま笑顔を浮かべ。
 それを見て頷いた海莉が、優しく、でも力強く、ロゼの手を引く。
 また一歩、ロゼの足が前に出て。
 そこからはもう、迷わなかった。
 握ってくれていた海莉の手をそっと離し。
 微笑を浮かべる杏を横目に。
 グリエルへと真っ直ぐに飛び込んで。
「ロゼ姉ちゃんも行っちゃえ、全力!」
 ポケットの中にしまってある硝子の太陽のような、元気な声を背に。
 ロゼは、青白き炎をグリエルに叩き込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘザー・デストリュクシオン
まってたの。
もちろん、はるちゃんを助けに来たんだけど、すごく嫌な予知を見ちゃって。
顔がわからなくなるくらい切りさいて殺したのに、よみがえったの。
だから、ストレスはっさんしに来たのよ。

ダッシュで敵に近づいて包丁を持つ手を蹴って落とさせるの。
落としても落とさなくても早業で後ろに回って、羽を狙って攻撃力重視のUC。
これで包丁も羽も使えなくなれば回数重視のUC。
ダメなら爪でのマヒ攻撃で他の人が戦いやすくするの。
敵の攻撃は当たってもいいけど、はるちゃんとロゼちゃんが気にしそうだからジャンプやスライディングで避けるの。

(また死ねなかった。よみがえったあの人を殺さないと死ねないけど)
ううん。何でもないの!



 ロゼを蝕もうと広がる猜疑の闇。
 でもそれを打ち消すように幾つもの光が輝き。
 そして聞き覚えのある歌声が、他の歌声と重なり響いていく。
(「はるちゃん……」)
 振り向いたヘザー・デストリュクシオン(f16748)は、真っ直ぐに前を見て、迷いなく歌を紡ぐ姿を見て。金色の猫瞳をぎゅっと細めて笑った。
 気付いたはるも、にっこり笑い返してくれる。
 そしてロゼは、光に支えられ、言葉を、温もりを得て。七の色彩の中、灰の花びらが溶け込み消えていく中で、しっかりと立っていたから。
 ぴょんっと跳ねたヘザーは、くるっと踵を返して。
 猟書家幹部『灰色の天使グリエル』へと飛び出すように接近した。
「まってたの」
 しかし、その顔に浮かぶのは、先ほどまでの可憐な笑みではなく。
 どこか苦し気で、暗く睨み据えるような複雑な表情。
 いつもニコニコと敵に挑んでいくヘザーには珍しすぎる変貌。
「あのね、わたし、はるちゃんとロゼちゃんを助けに来たんだけど。
 それは本当なのだけれど」
 暗鬱とグリエルを睨みながら、低めの声で呟くようにヘザーは語り。
 ダッシュで近づいたそこに振り下ろされた大ぶりな両刃の鉈――いや、肉を切り落とそうとする幅広の包丁を躱しながら、持つ手に蹴りを放つ。
「……すごく嫌な予知を見ちゃったの」
 それは、今この時に関するものではない。
 はるにもロゼにも硝子の国にも、グリエルにすら関わらない、全く別の予知。
 グリモア猟兵として見て、他の猟兵達を案内して。
 既に、無事対処し終えたもの。
 けれども、そこに現れたオブリビオンは。
 ヘザーの知る、ヘザーに関わる過去から滲み出た存在だったから。
「顔がわからなくなるくらい切りさいて殺したのに、よみがえったの」
 それがオブリビオンとして現れた、そのことそのものに。
 ヘザーは鬱々とした気持ちを抱え、表情を歪める。
「だから来たの」
 蹴り反らした包丁を横目に、すっとグリエルの後ろへ回り込むと。
 今度はその背の灰色の翼を狙って、ラビットキック。
「ストレスはっさんしに!」
 ユーベルコードで攻撃力を強化し、兎の脚へと変化させた両足で繰り出した蹴りは。
 グリエルの翼をその根元から刈り取る勢いで命中し。
 灰色の羽根が飛び散る中で、翼がこれまでと違う方向に曲がる。
 自分勝手にオウガブラッドを襲う相手に対抗できるくらい自分勝手な理由で。
 どこかイライラと、ヘザーは今度は猫の爪を振るい。
 さらに翼を引き千切り、ボロボロにしようとするけれど。
 さすがに連撃は許さないとばかりに、グリエルの包丁がまたヘザーを狙った。
 いつものヘザーだったら、その攻撃を受けていただろう。
 自身が傷つくことを厭わず、むしろ傷を受けることに快感を抱く、戦闘狂だから。
 避けずに、攻撃を受けて、生まれた隙にカウンターを食らわせるのが常だから。
 でも、今日は。今だけは。
 ちらり、とロゼの姿を視界の端に見て、ヘザーは包丁をスライディングで避ける。
(「はるちゃんとロゼちゃんが気にしそうなのよ」)
 自由気ままなヘザーだけれど。
 アリスは守ると決めている。
 その身だけでなく、心も。今度こそ。
 だからヘザーは包丁を大きく避け、傷つかないように、戦う。
(「また死ねなかった」)
 戦いの度に思う、歪な思いを抱いて。
(「よみがえったあの人を殺さないと死ねないけど」)
 でも、あの予知を経て、少し変わった暗い思いに苦笑する。
 スライディングの低い体勢からすぐに起き上がったヘザーは、ふと、こちらを心配そうに見ていたはるの視線に気が付くと。
「ううん。何でもないの!」
 いつもの可憐で無邪気な笑みを浮かべて見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青和・イチ
招かれざる客…っていうのかな
こんな綺麗な森で…不純物は、君の方でしょ
似非天使に冷たい一瞥を

はるさん、誰か怪我したら、よろしくね
ロゼさん、覚悟を決めたなら…あとは、信じるだけ
自分の意思と、仲間と…君の、相棒の強さを

そう、せっかく一緒に居るんだ
良い所も悪い所も分かり合って、上手く力を合わせるといい
…ちょっと見てて

あの物騒な武器、邪魔だね…くろ丸、腕狙って
敵を見据えたまま、傍らのくろ丸をひと撫で
(瞬間、現れた刀を咥え超速で走り出すくろ丸)
その間に天体望遠鏡…もどきの大砲を構え…
くろ丸の斬撃に追撃するよう、タイミングを合わせ砲撃

くろ丸に被害が出ないよう連撃して気を引くよ
(その隙に笑顔で帰還するくろ丸)

…くろ丸は、僕より素早くて、刀も牙も強くて、耳も目も鼻も良い
そうやって、助けてくれてる
でも、身を守る術があまりない
僕はそこを補う
…そんな感じ

君もそうやって、「それ」と付き合っていけばいいと思う
暴れるようなら…「食べちゃうわよ」くらいの気概で、うん
大丈夫、一歩踏み出せたなら、あとは進むだけ
ね、はるさん



 大ぶりな鉈が振り上げられ、肉を削ぎ落そうと執拗に迫って来る。
 灰蝕の翼が広がり、猜疑の闇が蝕んでくる。
 そんな『灰色の天使グリエル』の姿を眺めた青和・イチ(f05526)は、表情の変化に乏しい顔に、それでも眼鏡の下で瞳の藍色をどこか冷たく見せて。
「招かれざる客……っていうのかな。
 こんな綺麗な森で……不純物は、君の方でしょ」
 のんびりしたいつもの口調にもさすがに不快感を少し混じらせ、呟く。
 折角綺麗な硝子の森なのに。
 折角ロゼが真っ直ぐに前を向けたのに。
 そこに水を差す似非天使。
 足元の相棒・くろ丸も、いつも般若のような強面だけど、それ以上に顔を顰めていた。
 猟兵達は皆、多かれ少なかれイチと同じ思いではあっただろう。
 ゆえに、それぞれが、包丁のように肉を狙う鉈に立ち向かい。
 蝕む闇を打ち払うように、辺りを光で満たしていくから。
 イチは、共に戦う仲間を見渡し。
 そして、ロゼの傍にいるはるに視線を向ける。
「はるさん、誰か怪我したら、よろしくね」
「はいっ、あたしも頑張りますです。
 でも、できるなら怪我しないでくださいね」
 はるは胸元でぎゅっと両手を握りしめ、しっかりと頷いてくれたけれど。
 その琥珀色の瞳が少しだけ、憂いに曇る。
 癒しの力を使うはるの微かな戸惑い。
 イチはそれを零さず感じ取って。安心させるように、微笑を向けた。
 元々表情を変えることが殆どないイチの変化は、僅かなもの。
 それでもはるは、はにかむように笑って、応えてくれて。
 すうっと大きく息を吸い込むと、その歌声を紡ぎ始めてくれる。
 自分にできることを精一杯やろうと頑張る姿。
 幾度か聞いたその歌声に、他の猟兵の声も1つ、また1つと重なり。
 響き渡る優しく澄んだ旋律の中で、イチは、今度はロゼに視線を向けた。
「ロゼさん、覚悟を決めたなら……あとは、信じるだけ。
 自分の意思と、仲間と……君の、相棒の強さを」
「信じる……」
 短い黒髪の少女にオウガの右手を握られていたロゼは、イチの訥々とした、でも真っ直ぐに染み入ってくる言葉を、噛み砕くように繰り返して。
 右手を見つめるように下を向いていた顔を上げ、イチを見つめる。
「そう、せっかく一緒に居るんだ。
 良い所も悪い所も分かり合って、上手く力を合わせるといい」
 オウガの青白い右目とロゼの青い左目。
 2つの青に見つめられたイチは、1つ頷いて見せてから。
「……ちょっと見てて」
 言って、くるりと身を翻す。
 相対するのは、灰色の天使グリエル。闇を退けられ、光を打ち消され、灰色の花びらを虹色に包み返されて尚、包丁を振るう姿に。
「あの物騒な武器、邪魔だね……」
 ぽつりと呟けば、足元の相棒がぴくんと顔を上げた。
 気配だけでその動きを感じたイチは、視線をグリエルから動かさないまま、相棒の頭をそっとひと撫ですると。
「くろ丸、腕狙って」
 告げる言葉を聞くや否や、分かっていたとばかりに一気に走り出す相棒。
 その口元には斬魔刀という愛用の刀が現れ、しっかりと銜えると。超速のスピードをも上乗せした鋭さで、グリエルの腕を力強く切り裂く。
 手練れの剣士のような、犬とは思えぬ華麗な斬撃。
 グリエルが驚きながら、それでも傷を負った手で包丁を振り下ろそうとするけれど。
 相棒の一撃にタイミングを合わせたイチの砲撃が、その動きを遮った。
 息の合った見事な連撃。
 そして砲撃の間に、相棒は、般若顔でちょっと怖く笑いながら戻ってきて。褒めてというように尻尾をぱたぱた振って見せる。
 イチは、構えていた大砲――大型の天体望遠鏡にしか見えないけれど、しっかり砲弾を撃ち出したそれを下ろして、相棒を出迎え。
「……くろ丸は、僕より素早くて、刀も牙も強くて、耳も目も鼻も良い。
 そうやって、助けてくれてる。
 でも、身を守る術があまりない。僕はそこを補う」
 またその頭を撫でてあげながら、ロゼをじっと見つめる。
 こんな感じでいいんだよ、と。
「君もそうやって、『それ』と付き合っていけばいいと思う。
 暴れるようなら……『食べちゃうわよ』くらいの気概で、うん」
 撫でられて気持ちよさげに目を細めていた相棒が、語るイチに、こくんと首を傾げ。
 でも止まらない優しい手に、また擦り寄っていく。
 共に在る、違う2つの存在。
 その形の1つを目の当たりにして。
 ロゼは、オウガと化した右腕を、短い黒髪の少女が変わらず握ってくれている右手を、もう一度じっと見つめた。
 イチは、そのまなざしに、胸に灯った決意を感じたけれど。
 でもまだ少しためらうように青瞳が揺れているから。
「大丈夫。一歩踏み出せたなら、あとは進むだけ」
 もう1つ背を押すように、イチは言葉を重ね。相棒が力強く、一吠え鳴く。
「ね、はるさん」
 そして、ロゼと同じように一歩踏み出して進むアリスに声を向ければ。
 振り向くロゼの視線も受けて、はるがこちらを向き。
 そっと自身の胸元を手で押さえたはるは、何かを感じるように一度瞳を伏せ。でもすぐに琥珀色の瞳に笑みを浮かべて。
「はいっ」
 元気に頷き、歌を紡ぎ続けた。
 頑張るはるの姿にも、イチはふっと目を細め。
 ロゼもこんな風に笑えるようになるといいと願い。
 その穏やかな藍瞳をロゼに戻せば。
 ロゼは、繋いでいた手を離し、戦う猟兵達に続くように足を踏み出す。
 いつでも助けられるようにと相棒と共に身構えながらも、イチは、進もうとするロゼの背中を心強く見守り、見送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
ロゼを灰色になんかさせないぜ

にしても色々と歪んじまってるよな
可哀そうに
元に戻してやれないのが悔しいけど
せめて海へ還してやる

戦闘
ロゼと一緒に戦う
今のロゼならきっと大丈夫だ

オウガに支配されず
自分の意志で力を使いこなす
その経験が必要だ

経験から得られた自信と自分への信頼が
オウガに抗う力を
更に確固としてものにしれくれるんじゃないかって思う

だから守ってばかりじゃない
共に肩を並べて戦うんだ
ダチとして

はるもいつもみたいに支援を頼むぜ(ぐっ

もしもの時ははるやロゼをかばう

紅蓮で全身を包む
天に掲げた刀身を一気に燃え上がらせれば
その光が猜疑の闇を晴らし
慈愛の光を打ち消す

そのまま空へ急上昇の後
爆炎で急降下しざま獄炎纏う焔摩天を一閃
グリエルの全身を赤に染め上げながら
灰へ還す

これであんたのお望み通りか
紅蓮に抱かれて眠れ

事後
鎮魂曲を奏でる
安らかに

ロゼ&はる
二人のこれからの未来を祈ってる
何かあればいつでも飛んでくるぜ(ぐっ



 風に飛ばされていく、白い包帯。
 隠されていた右側で露わになる、青色の狼。
「心は……私は、変わっていけるんだから」
 真っ直ぐ立つ後ろ姿に、木霊・ウタ(f03893)は目を細めた。
「今のロゼならきっと大丈夫だ」
「ええ、心は変わっていける。私だってそうでしたからー」
 頷いたウタの言葉に重なるように、のんびりとした和装男性の声がロゼに応える。
 その身に巣食うオウガに、怯えるだけだった少女は。
 笑顔でその恐怖を誤魔化しているだけだったオウガブラッドは。
 猟兵達の心に触れて、その心の形を変え。
 自らに立ち向かい。
 一歩を踏み出そうとしている。
 でもきっと、まだ少し足りない。
 変わった心を支えるために。
(「オウガに支配されず、自分の意志で力を使いこなす……その経験が必要だ」)
 だからウタは、ロゼを守るのではなく。その隣に立って。
 一緒に戦おうと思う。
(「経験から得られた自信と自分への信頼。
 それが、オウガに抗う力を更に確固としてものにしてくれるんじゃないか」)
 ロゼがこの先を進む、そのために。
 今この時を、共に戦い、勝ち抜こうと。
 ウタはロゼと肩を並べた。
「ロゼさん、手伝うわ」
「僕も隣で戦わせてね」
「皆で一緒にロゼを手伝おう」
 長い黒髪の少女が、小さな王子様が、双子の妹の方が。次々とロゼに声をかけたから。
「ダチとして、な」
 ウタもにっと笑いかけると、短くその思いを表す。
(「ほら。『アンタは1人じゃない』だろう?」)
 先ほどロゼに告げた言葉を、現実に体現しながら。
 言葉にしていない猟兵も、そして傍で微笑むはるも。
 きっと同じ気持ちだと、ロゼを支えようと思っているはずだと、考えながら。
「はるもいつもみたいに支援を頼むぜ」
「はいですっ」
 ぐっと手を突き出して笑顔で告げると、胸の前で両手をぐっとそれぞれに握りしめたはるが、笑みを深めて頷き返した。
 そんなやりとりを交わす間も、先に仕掛けていた猟兵達の攻撃を受け凌いでいた『灰色の天使グリエル』は、その灰色がかった暗い緑色の瞳をロゼに向け続け。
「ほら、灰色になりましょう?」
 立ち上がった心を揺らがすように、灰蝕の翼を広げてくる。
 侵蝕してくる猜疑の闇。
『ほら、ロゼ。ロゼが戦っても、何も守れないんじゃない?
 結局はまた、壊してしまうだけ。
 元に戻せない程に、治せない程に。壊してしまうんだよ?』
 一度は押しやったオウガの囁きがまた、くすくすと嗤いかけてくる。
 ロゼの表情に怯えが戻り。
 硝子の太陽を握りしめた左手を胸に当て。
 縋るように、零れ落ちるのを怖がるように、ぎゅっと強く握りしめていたから。
 ウタは、ロゼを庇うように前へ出ると。
 その身を紅蓮の炎で包み込んだ。
「ロゼを灰色になんかさせないぜ」
 それは、ブレイズキャリバーであるがゆえの力。自身の身体から噴出する地獄の炎。
 例え身体部位を欠損しても物質化して補うことすらできる、異質な能力だから。
 ある意味で、オウガを内包したロゼに近しい姿で。
 大剣『焔摩天』を天に向けて掲げると。
 その刀身すらも一気に燃え上がらせ、炎を光に変えていく。
 闇を晴らし、そして偽りの慈愛に満ちた光を打ち消すために。
 ウタは、その身に宿る『異質』を使って見せる。
 壊す力で守れるのだと。
 心を支配されないでいられるのだと。
 炎の中で笑って見せる。
「私が立ち止まったら、救えないものがあるの!」
 そこに、凛とした声が響くと。大仰な仕草で騎士を演じるかのようにマインゴーシュを掲げた黒い長髪の少女から、月の光が広がり。
「がんばりすぎなくて大丈夫。一緒にこの国を守ろう」
 優しく微笑む王子様が、ロゼに手を差し出しながら、辺りを光で満たしていく。
 幾つもの輝きに、猜疑の闇が、押し退けられていく。
 そして。光と共に。
 聞こえてくる『硝子の森の歌』。
 さっきロゼと一緒に歌ったはるの声が、癒しの力と共に広がって。
 さらにそこに、おっとりとした澄んだ歌声も重なっていった。
「大丈夫、壊れたりしません……ご安心を」
 ロゼが何度迷っても。
 何度でもと応えるように、紡がれる思い。願い。そして祈り。
 二重に、三重に、響いていく歌声の中で。
「ロゼにはロゼの色がある」
 双子の妹の方が、ロゼの右手をとり。オウガを受け入れて見せれば。
 ウサギ耳を揺らしたキマイラの少女が、自分勝手に戦う姿を見せつける。
 硝子が数多の形を見せたように。
 いろんな心が示されて。
「ロゼちゃんが純粋に硝子と向き合えるようになったら、嬉しいわ」
 振り向いたロゼを、優しい魔女の笑顔が、穏やかに迎えると。
「大丈夫。1歩踏み出せたなら、あとは進むだけ」
 眼鏡越しの落ち着いた声が、小さく微笑んで。
 優しく手を引かれ。
 そっと背を押され。
 温かく心を支えられ。
「ロゼ姉ちゃんも行っちゃえ、全力!」
 双子の兄の方の応援を受けて、ロゼは真っ直ぐにグリエルへと飛び込んだ。
 迷いを振り切るように。
 オウガに……いや、自分の心に立ち向かうように。
 恐れることなく、青白き炎を操るロゼ。
 その踏み出した1歩に、前へ進み始めた姿に、ウタはにっと笑って。
 炎を纏ったまま、空へと、鳥のように舞い上がる。
 急上昇からくるりと身を翻し、硝子の森を見下ろすと。
 ロゼを見つめて嗤うグリエルの姿を見つめた。
(「色々と歪んじまってるよな」)
 その歪な笑みは、ロゼと違って変わることはなく。
 狂気の瞳をロゼだけに向け続けている。
(「可哀そうに」)
 ウタは一瞬だけ瞳を伏せ、思いを寄せると。
 迷いなくグリエルを見下ろし、力強く剣を握りしめて。
(「元に戻してやれないのが悔しいけど、せめて海へ還してやる」)
 全身を覆う地獄の炎を半ば爆発させるように噴き出し、爆炎の勢いを背に急降下した。
 後ろに伸びる炎が、鳥の翼のように靡き。
 不死鳥の嘶きのような音を轟かせながら。
 降下の勢いも乗せて、獄炎を纏う焔摩天を一閃する。
「これであんたのお望み通りか?」
 ロゼの青白いオウガブラッドたる炎を受けていたグリエルに、ウタは問いかけ。
 それごと包み込むように、グリエルの全身を獄炎で赤く染め直しながら。
「紅蓮に抱かれて眠れ」
 炎の中の姿にそう告げると。
 その行く末を見届けながら、剣をギターに持ち替える。
 そっと爪弾くのは鎮魂歌。
 滅びゆくグリエルを安らかにと送る調べ。
 でもそこには『硝子の森の歌』の旋律も織り交ぜられて。
 ロゼとはる、2人のアリスの道行きへも、ウタの思いは紡がれていく。
 それに気付いてか、2人はウタへと振り返り。
 ふと、ロゼは上を見上げた。
 そこに輝くのは、硝子の雫。芽吹いたばかりの、まだ形のない心。
 はるの手の中には、小さな青いおさかなちゃんの硝子があって。
 ロゼの手の中には、譲られた黄色と橙のおひさま硝子があるけれど。
 まだロゼ自身は触れていない――怖くて触れられなかった、無形の硝子。
 でも、今なら……
 皆と共に在れて、優しい歌が思いが満ちている、今ならば。
 ひとりじゃないから。
 ロゼは、オウガの右手と自身の左手、両手を揃えて差し出し、硝子の雫を受け止めた。
 不思議な輝きを見せ、輪郭を揺らした雫は。
 オウガの炎のように青色に染まり。
 破壊衝動を表すかのように尖って。
 でも、どこか優しい星の形になり。
 淡く柔らかな光を零す。
 壊してしまう私と。守っていきたい私。
 その2つを織り交ぜて。
 ロゼの硝子は、壊れることなく、誰も傷つけることなく、ロゼの両手の中に転がる。
「綺麗ですね」
 ふわりと微笑むはるに、ロゼは目を見開き。
 少し泣き出しそうな笑顔を浮かべて。
「でしょう?」
 この硝子の国を、硝子の森を誇った、最初の時のように応える。
 そんな2人のアリスの姿に、ウタは嬉しそうににっと笑い。
「2人のこれからの未来を祈ってる。何かあればいつでも飛んでくるぜ」
 ぐっと手を突き出して、ギターをまたかき鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
【アヒルさんと白黒の仲間たち】
あの、アヒルさん↑はどういうことですか?
ふええ、白黒が集まったから白黒の仲間たちって、これはるさん達も含まれてますよね。

えっと、それでどうするのですか?
ふえ?あのユーベルコードに当たっちゃダメって、どういうことですか?
あれは回復ですよね。
あっ、でも回復ですけど痛そうですよね。
ふええ、そんな目で見ないでくださいよ。
もしかして、分かってないの私だけですか?
とにかく、全力で躱しましょう。
というよりも、サイコキネシスで掴んじゃいますか?

ふええ、それじゃあ頑張っていきましょう。
グリエルさん、白と黒は両方あっていいと思いますよ。
混ざりあってひとつになっても、オウガオリジンさんのようになるだけです。
たった1人でいるなんて寂しいだけです。
私達は白と黒はお互いがいるから、より自身の色がはっきりと見えるのだと思いますよ。

ふえ?元々は灰色だったのがよく言うって、アヒルさん何か知っているんですか?
アヒルさん、教えてくださいよ。


幻武・極
【アヒルさんと白黒の仲間たち】
やれやれ、↑はいったいどういうことかな?
まあ、否定できないメンツが揃ってると言えばそうなんだよね。
ボクも猟兵の白と夢の中の黒を持つからね。

さて、グリエルのあのユーベルコード、そこのアヒルのガジェット以外当たったらダメだからね。
あれはボクたちの白と黒を削ぎ落としてより強力な灰色を作り出すユーベルコード、ボクたちのような存在にもっとも有効なユーベルコードだからね。
さすがにここまで言えば・・・1人分からないのがいたか。
とにかく、掠ったりするのもダメってことで頑張ってね。
はぁ、キミってホント賢いのか・・・そうでないのか分からなくなる時があるよね。
あの包丁を押さえてくれていれば、ボクの通信対戦が当てられるね。
それでいこう。

ホント、こうして聞いているとボクの宿敵というよりキミの宿敵って感じだよね。
まあ、それはどうでもいいけど。
キミ達の目的は猟兵が阻ませてもらうよ。



 身の内のオウガという異質を認め、己の心の闇に立ち向かう一歩を踏み出したロゼ。
 別人格による辛い過去の記憶を乗り越えて、真っ直ぐに前へと進んでいくはる。
 そして、そんなアリス達の前に立ち塞がる『灰色の天使グリエル』。
 フリル・インレアン(f19557)は、大きな帽子の下から、怯えたように状況を見て。
「あの、アヒルさん」
 手にしたアヒルちゃん型ガジェットに、困惑の声をかけた。
「これはどういうことですか?」
 いつの間にか、フリルの手にはガジェットだけでなく、酷く達筆な字が書かれた小さな看板が持たされていて。
『アヒルさんと白黒の仲間たち』
 そこにはそんな、分かるような分からないようなチーム名が書かれていた。
 アヒルさん、とはもちろんガジェットのことだとフリルにも分かる。
 しかし、白黒の仲間たち、というのは……?
 首を傾げたフリルが、ガジェットの答えを促そうとしたところで。
「やれやれ」
 肩にずしっと重みを感じると共に、耳元で苦笑を含んだ声が聞こえた。
 びくっとして恐る恐る顔を向ければ、フリルの肩に肘を置いて寄りかかった幻武・極(最高の武術?を追い求める羅刹・f00331)の姿が、怯えた赤い瞳に映る。
「まあ、否定できないメンツが揃ってると言えばそうなんだよね。
 ボクも、猟兵の白と夢の中の黒を持つから」
 フリルと同じ赤い瞳で、しかし真逆なまでに力強く、にっと笑った極は。額から黒い二本角を生やし、青髪をポニーテールにした、武術家の羅刹だけれども。
 深い眠りの中では、角がない代わりに足にモザイクを持ち、キーブレイドを携えて、自分に合った武術を追い求めていた。
 ただの夢。されど、極の心に深く刻まれた『夢の世界の僕』。
 猟兵である羅刹の自分を白とするならば、黒といえるもう1人の自分。
 極にはそんな体験があったから。
 極は納得の色を見せていたけれど。
 おずおずと、そんな極を見ていたフリルは、ピンときていないようで。
「白黒が集まったから白黒の仲間たち……?
 ふええ。これ、はるさん達も含まれてますよね?」
 困惑しながらも、グリエルが現れる前のやりとりを思い出す。
 ガジェットは、はるとロゼも白と黒を持っている、とも言っていて。
 魂の奥底に別人格を持つはると。
 オウガに憑依されたロゼ。
 確かに2人とも、2つの存在を内包していると、フリルも遅れて気付いたけれど。
「でも私は、はるさん達と同じアリスというだけですし、白黒ではないですが……」
 自分は仲間たちに入らないと、まだ本気で不思議がっているフリルへ。
 ガジェットがまた、問答無用の体当たりを食らわせた。
「ふええ!?」
「キミって……まあ、いいか」
 フリルが倒れたことで肘置き場をなくした極は、呆れたように呟くけれど。
 すぐに気を取り直して、灰色の天使に向き直る。
 白と黒の完全な融合を望み、灰色の存在を創り上げようとするオブリビオン。
 手にした大振りな鉈は、不要な肉を切り落とす肉切り包丁であり。
 肉体だけでなく、白の意思も黒の意思も削ぎ落そうとするものだから。
「さて、グリエルのあのユーベルコードには気を付けて。
 そこのアヒルのガジェット以外当たったらダメだからね」
 危険な能力に、極はフリルへ注意を飛ばした。
 だがしかし、言われたフリルはきょとんとして。
「ふえ? どういうことですか? あれは回復ですよね」
 包丁が命中した者の戦闘力を増強する、その効果を素直に受け取り首を傾げる。
「あれはボクたちの白と黒を削ぎ落としてより強力な灰色を作り出すユーベルコード。
 ボクたちのような存在にもっとも有効なユーベルコードだからね」
 だから極は、より丁寧に包丁の効果の本質を説明して。
(「さすがにここまで言えば……」)
 危険であることが伝えられたかと思った、けれど。
「あっ、そうですね。回復ですけど痛そうですよね」
(「……分からないのがいたか」)
 ぽんっと手を打ち、包丁の鋭利さそのものしか見えていないかのような、伝えたいことが全く伝わっていない様子に、思わず極の視線が据わる。
「ふええ、そんな目で見ないでくださいよ」
 表情から極の呆れを正確に読み取ったらしいフリルは慌て。さらにそこに、手元のガジェットが、もはや突撃することもなく、ため息のように鳴いたから。
「アヒルさんまで!?
 もしかして、分かってないの私だけですか?」
 さらにあわあわと困惑するフリル。
 慌てたついでに、持っていた小さな看板が足元に落ちました。
「とにかく、掠ったりするのもダメってことで頑張ってね」
 極も諦めたように、でもここだけは分かってもらわないといけない部分だけを簡潔に伝えると、グリエルを、その手の包丁を指し示す。
 さすがにこれなら分かったと、フリルはこくこく頷いて。
「分かりました。全力で躱しましょう。
 というよりも、サイコキネシスで掴んじゃいますか?」
 熟考することなく提案したのは、包丁に直接触れることなく対応できる、フリルのできる中で最良の手段。
「はぁ、キミってホント賢いのか……そうでないのか分からなくなる時があるよね」
 理解していないはずなのに最適解を出してくるフリルに、極はまた違う意味で呆れ。
「あの包丁を押さえてくれていれば、ボクがやれる。それでいこう」
「ふええ、それじゃあ頑張っていきましょう」
 そして2人はグリエルへと改めて向き直った。
 会話の間に、他の猟兵達とグリエルとの戦いは既に始まっている。
 ロゼを狙い振り回される包丁を防ぎ。
 灰蝕の翼により侵蝕してくる闇を幾つもの光が退け。
 その力で、そして言葉で、猟兵達はロゼを守り、支え、共に戦っていく。
「駄目よ。分かれていては駄目。
 貴女は灰色に……灰になるのよ」
 だがグリエルはそんなロゼを認めようとせず。
 無数の灰の花びらで辺りを満たそうとするけれども。
 それも虹色のオーラに溶かされて。
 ロゼの青白い炎も力強く燃え上がって。
 次々と、否定されていく灰色。
「グリエルさん、白と黒は両方あっていいと思いますよ」
 フリルもそんな皆に続くように、頑張って声を上げた。
「貴女も白でいたいの? 紛れもない黒があるというのに。
 黒は消せないわ。消せないなら、白で在り続けるのは辛いわ。
 だから、白も黒も削ぎ落としましょう?
 そうすれば、綺麗でより強い灰色になれるのよ」
 しかしグリエルは、それまでロゼだけを見ていた視線を初めてフリルに向けつつも、狂ったように信じる『灰色』を掲げ、勧めるばかりで。
 穏やかに微笑む笑顔も、ロゼを狙い振り回す大きな包丁の勢いも、変わらない。
「混ざりあってひとつになっても、オウガオリジンさんのようになるだけです。
 たった1人でいるなんて寂しいだけです」
 それでもフリルは頑張って、グリエルに声をかけ続ける。
 強くなっても1人きりじゃダメなのだと。
 全てを混ぜて灰色にしてしまっては、本当に強くはなれないと。
「私達は、白と黒は、お互いがいるから……混ざり合っていないからこそ、より自身の色がはっきりと見えるのだと思いますよ」
 必死に訴えるフリルに。
 ガア、と手の中のガジェットが鳴いた。
「ふえ? 元々は灰色だったのがよく言う、って……
 アヒルさん何か知っているんですか? 教えてくださいよ、アヒルさん」
 鳴き声の意味を唯一正しく理解したフリルが、おどおど戸惑いながら聞き返すけれど、ガジェットは素知らぬ顔で目を逸らし。そんな様子にさらにフリルの混乱が深まり、どうしたものかと落ち着きなく、あっちへこっちへ視線を彷徨わせる。
 グリエルに語りかけていた時とは一転した様子に、極は苦笑を浮かべ。
 でも、しっかりと訴えられたフリルの言葉を思い返して。
「ホント、こうして聞いているとボクの宿敵というよりキミの宿敵って感じだよね」
 面白がるように、にっと笑うと。
「まあ、それはどうでもいいけど」
 グリエルへの説得もフリルの演説も、すぱっと切り捨てるような勢いで、極は、何かの武術――恐らくは幻武流の、構えを取って見せた。
「キミ達の目的は猟兵が阻ませてもらうよ」
 宿敵を倒し、その目論見を止める。
 自分に課せられた役目はただそれだけだと言うかのように。
 何のしがらみもないと、サバサバした雰囲気さえ見せて。
 極は単純に、敵と戦う。
「さあ、ボクはキミは対戦を申し込む。
 ボクからの挑戦を逃げたりなんかしないよね?」
 そして、極が手にした携帯用ゲーム機から、グリエルに赤外線が照射された。
 幻武流『通信対戦』。
 そのまま徒手空拳で襲い掛かりそうだった極だが、彼女が数多の武術から選び、進んだ先にあったのは、ゲーム武術。
 ゆえに、極はその場から動かぬまま。赤外線のみがグリエルへ向かい。
 赤外線の命中を契機に、ユーベルコードの効果で、爆発が起こる。
 灰色の翼が片方焼き千切れ、衝撃で被っていた帽子が落ちた。
 グリエルが致命的な一撃をまともに喰らったのは、視認できない赤外線を使った攻撃ゆえ。だけでなく、他の猟兵達の攻撃に対応せざるを得ない状況であり、また、ロゼや皆が負わせた幾つもの傷があったからこその、回避行動の遅れが理由だったろう。
 ぐらり、とグリエルはその身体を倒れそうな程に揺らしながら。
 その灰色に濁った緑色の瞳を、極へ向けて。
「貴女の不純物も削ぎ落してあげる……!」
 大ぶりな包丁を、極へ、初めてロゼ以外を狙って振り上げる。
 白も黒も殺して、強力な灰色を創り出そうとする、狂気の刃。
 それが、極という存在を削ぎ落そうと向かってきた。
 けれども。
「ふええ!?」
 半ば泣き声のような困り果てた声と共に、包丁が空中でピタリと止まる。
 ちらりと見れば、フリルがびくびくしながらもユーベルコードをグリエルに向けているのが見えて。
『サイコキネシスで掴んじゃいますか?』
 極の脳裏に、先ほどのやりとりが思い浮かんだ。
「ホント、キミって……」
 相変わらずガジェットに怒られながら、おろおろあわあわしながら、それでも最適解を繰り出してきたフリルに。しっかりと包丁を押さえてくれた白と黒の少女に。極は、口の端だけでにっと笑って。
 携帯用ゲーム機から、今度は通信ケーブルを伸ばした。
 赤外線が命中していた相手であれば容易く捕らえられるケーブルは、グリエルと極をしっかりと繋ぎ。どこにも逃げられなくしてから、極は最期を告げる。
「終わりだよ『灰色の天使グリエル』」
 そこから一気に踏み込み、包丁をかい潜るようにグリエルへ接近した極は。
 細腕とは思えぬ力強い魔法拳の一撃を繰り出してから、すぐにまた離れ。
 再び、ゲームデバイスを操り、赤外線によって爆破を誘発させる。
 そして、先ほどよりも大きな爆発に飲み込まれた灰色は、そのまま姿を消した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年07月05日
宿敵 『灰色の天使グリエル』 を撃破!


挿絵イラスト