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密室アクアリウム

#UDCアース #呪詛型UDC

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●夏の終わり
 夏が終わっても、どこにも行けない少女は引き寄せられるように水族館へと足を踏み入れる。一面の蒼い世界、夏の空ではなく、沈む様な蒼の世界に浸るのだ。
 ああ、このまま、閉じこもってしまえたらいいのに――。

 とある都市の水族館に足を踏み入れると、見知らぬ部屋に閉じ込められる……なんて噂がまことしやかに囁かれ始めたのは夏が終わる頃からだった。
 その水族館に瑕疵は一つもなく、誰かが亡くなったなんてこともない。蒼い世界をテーマにして作られた水族館は、雑誌やテレビの取材もあって人気のスポットの一つになっているくらいだ。
 イルカたちが泳ぐトンネル型の水槽ドームを歩けば水中を泳いでいるような気分になると家族連れにも人気だし、海かと見紛うばかりの巨大な水槽ではジンベエザメやマンタが悠々と泳いでいる姿が見られるだろう。
 クラゲ達がふよふよと泳ぐ部屋もあれば、海の小さな生き物を集めた水槽の部屋もある。そんな、子どもから大人までが楽しめるような普通の水族館なのだ。
 なのだけれど。
 水族館を楽しんでいるふとした瞬間に、密室にいるのだという。扉が一つきりの、生活に必要そうなものはそれなりに揃った部屋。
 出る為には、扉の上に現れるお題をクリアしなくてはならない、なんて。
 そんな噂がひとつ。

●グリモアベースにて
「水族館は好きかい?」
 中々に楽しめそうな水族館だよ、そう言って猟兵達に向かって深山・鴇(黒花鳥・f22925)が笑った。
 今回事件が起こるのはUDCアースの某都市にある水族館、凝った作りをしていて人気のスポットなのだと告げる。
「この水族館を普通に楽しんでいると、密室に閉じ込められるらしい」
 扉は一つあれど、押しても引いても叩いても開くことはなく、出る為には扉の上に現れるお題をクリアするしかないのだとか。
 それって、〇〇しないと出られない部屋では? と、猟兵達の中でもその手の有識者とされる者が質問する。
「うん、簡単に言うとそういう部屋らしい」
 出されるお題は様々で、一人で入った場合は一人でクリアできるお題、二人や複数で入った場合には二人や複数でクリアできるお題が出されるらしい。部屋の広さや、設備等もお題に沿ったものなのだとか。
「出されるお題に難しいものはなくてね、簡単に出られるようなんだが」
 出たくない者が入った場合、お題さえこなさなければ出なくて済んでしまうのが問題なのだと鴇が困ったように笑った。
「生命の維持に必要なものは揃っているらしく、出ないままだと神隠しみたいなことになる」
 それは本人が望んだことであっても、怪異の糧になってしまう行為だ。
 幸い、猟兵達が水族館に行けば、密室に閉じ込められるのは猟兵達だけとなるだろう。さっとお題をクリアして、原因となる敵を倒してほしいと頷く。
「それじゃ、よろしく頼むよ」
 そう言うと、鴇はゲートを開くためにグリモアへと触れた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 今回は水族館に遊びに行くイベシナ+〇〇しないと出られない部屋コメディ(シリアスも可)+敵との戦闘(シリアスでもコメディでも)という感じになっております。
 浴衣で行くのも楽しいと思います、思うように楽しんできてくださいませ!

●各章の受付期間について
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。各章、断章が入り次第受付期間(〆切を含む)をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。
 また、スケジュールの都合によっては再送をお願いする場合がございます。なるべく無いように努めますが、再送となった場合はご協力をお願いできればと思います。

●第一章
 水族館です、イベシナだと思って楽しく遊んできてくださいね! おおよそ水族館にあるものはある、という感じです。
 浴衣で行く方は指定があればプレイングにどうぞ、無ければ特に描写は致しません。

●第二章
 密室、いわゆる〇〇しないと出られない部屋です。
 お題は自由に決めてください、好きなところを十個言うとか嫌いなところを言うとか、二人でバトルするとか、宴会を始めるとかでも大丈夫です。
 ただし、公序良俗に反するものは流します、えっちなのはダメです。キスまでは大丈夫です。
 部屋はお題に沿った広さや設備を備えますので、必要なものがあればプレイングにどうぞ。なければ、こちらでお題に沿った部屋をご用意いたします。
 プレイングによってはコメディ寄りにも、シリアス寄りにも、ラブコメにもなります。プレイング次第ですので思うようになさってくださいね。
 POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。

●第三章
 集団戦です、敵を倒してください。
 こちらもプレイングによってはコメディにもシリアスにもなります。

●同行者について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【水3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

●オーバーロードについて
 こちらはMSページに記載があります、ご利用をお考えの方がいらっしゃいましたらお手数ですが確認していただけると幸いです。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 日常 『水の世界へ』

POW   :    水族館を満喫する。

SPD   :    水族館を満喫する。

WIZ   :    水族館を満喫する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蒼い世界
 チケットを買って、人の流れのままにゲートを潜る。
 いってらっしゃい、というゲートスタッフの声に見送られてエントランスに入れば、そこには煌めく蒼の世界。正面の天井まで広がる大きな水槽の向こうでは悠々と数多の魚が泳ぎ、まるで海の中のような風景が広がっている。
 全体的に蒼く薄暗いけれど、視界が悪いという事もない通路を案内通りに進むとイルカたちが泳ぐトンネル型の水槽ドームがあり、まるで訪れる人々を歓迎するかのようにイルカが泳ぐのを見ることができるだろう。
 他にも様々なクラゲを集めた部屋や海の小さな生き物を特集した場所、エントランス以上に巨大な水槽ではジンベエザメやマンタの姿が訪れた人々の目を楽しませてくれるはず。
 お腹が空いたり休憩をするのなら、海の生き物を模した食べ物やスイーツが話題のカフェに入るのもいいだろう。きっとお気に入りの一皿が出来ること請け合いだ。
 お土産を販売するスペースでは、海の生物のぬいぐるみやお菓子などが盛りだくさん。誰かに買って帰るのだって、自分に買って帰るのだって、選ぶこと自体がきっと楽しいはず。
 家族連れや友達同士、恋人同士に一人でのんびりと。楽しみ方は人それぞれで、今の季節は浴衣姿で訪れる人たちも少なくない。
 どうぞ、皆様今日という日をお好きなように楽しんで――!
唐桃・リコ
菊・菊(f29554)と。

ウミウシ突きながら
クラゲの水槽の前に立つ菊を見てた
水槽眺めてる菊が可愛い
ほーらすぐ飽きちまう

飽きたのを察して菊の手を引く
どうした、行こうぜ

照れてる菊が可愛くて仕方ねえ

サメみに行こうぜ、ってデカい水槽に連れてく
前に来た時にサメ好きって言ってた気がする
うちにもサメのぬいぐるみ、転がってるし

掃除機みたいな口、すげえな
あぁ、うん、可愛い可愛い
んだあれ……マンタ?
でっけ……

あれ、もう帰るんで良いの?
帰っても終わりじゃねえ
今日何食うか、明日何食うか
一緒に考えんの、凄え幸せ

オレ、ぬいぐるみ買うなら金色のが良いな

オレの隣で菊が笑ってくれるなら
オレは何処にでも行くよ


菊・菊
リコ(f29750)と遊ぶ

ぷかぷか浮かんでるクラゲは
なんかアホでいい

でも飽きたわ

次、いこって言う前に
腕を引かれた

バレてんの
照れる

それに随分と慣れた、こうやって手を繋ぐのも
まだくっそ恥ずいけど、
リコがうれしそうだから、いいよ

暗がりに慣れた眼には
くっそでけぇ水槽が眩し

な、な、あのでっけえブツブツ何
見たことねえ、なあリコ、リコ

じんべいざめ?
お、サメじゃん

んひ、正面から見るとけっこー間抜けだな
かぁいいじゃん

ふたりして水槽に貼りついて
顔を見合わせて、笑う

あれのぬいぐるみねーかな
買って帰りてえ

そう、帰る
そう、一緒に

すげえ楽しいけど
なんか帰りてえ

だって、帰っても一緒だし
それが、嬉しくて

やだ
ぜってえ白買う!



●でも君といるのは飽きなくて
 一面の蒼い世界の中、それでも色を失わない金色と桃色が隣り合って歩く。
「あっちにクラゲいるって」
「ウミウシもいるってさ」
 じゃあ見に行くか、と唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)と菊・菊(Code:pot mum・f29554)が案内のパンフレットを覗き込みながら、あっちだろ? こっちだって、と戯れながらクラゲの部屋を目指す。
「ここカニだったわ」
「やっぱあそこ右だったな」
 カニも悪くないけれど、目指すはクラゲだ。
 それでも来たからには部屋を一周して、腕を広げた長さよりも大きなカニに笑って来た道を戻る。
「菊、ここだ」
「ん」
 ひょい、と覗き込んだ蒼い部屋には様々なクラゲがふよふよと泳いでいるのと、カラフルなウミウシの入った小さな水槽に中央には触れあいコーナーがあるのが見えた。
「ウミウシとアメフラシって何が違うんだろうな」
「知らねえ、けど仲間じゃねーの」
 リコの問いにそう答え、菊がカラフルなウミウシの水槽を覗き込む。他の水槽を見ても、ピンクや黄色に青と綺麗な色をしている。
「毒があるんだって」
「ちっちゃいのに根性あるじゃん」
 そういやクラゲも毒があるんだっけか、と菊がふらりとクラゲの水槽へと向かう。リコはなんとなくその姿を眺めながら、ふれあいコーナーにいるアメフラシを突く。
 白いふわふわしたクラゲの水槽の前に立つ菊は、リコの目からすればすごく、それはもうすごく可愛かった。
 クラゲの動きに合わせて首を動かして、小動物みたいな可愛さがある。
 ああ、きっとぷかぷか浮かんでるクラゲはアホみたいでいいなって思っているんだろう。それから、多分あと二十秒くらいで飽きる。
 手を拭いて、消毒液で殺菌してからリコが菊の隣に行くまでジャスト二十秒。
「菊」
 そう声を掛けて、リコが菊の手を握った。
「ん? どした」
「いや、飽きただろ」
 クラゲ見てるの、とリコが口に出さずにクラゲに視線を向けて、菊へ向ける。
「……飽きてねえし」
 いや、本当は飽きたところだったけれど。
 バレていることへの照れ隠しだったけれど。
「どうした、行こうぜ」
 それすらもきっとリコは見抜いているんだろうなと、菊は柔らかく笑んでいるリコの手を握り返した。
「サメ見に行こうぜ」
 照れている菊が可愛くて仕方ないと緩みそうになる頬をなんとか引き締めて、リコがサメのいる大きな水槽へと菊の手を引く。
 こうして手を繋ぐのにも随分と慣れたなと思いながら菊がそっとリコを窺えば、頬が緩んだリコが見えた。
 引き締めてるつもりだろうけど、バレバレなんだよなと小さく笑う。まだくっそ恥ずかしいけれど、リコがうれしそうだから。
 だから――いいよ、と思いを込めて菊が指先を絡め、リコもそれに応えるように指を絡め返した。
「くっそでけぇ」
 何あの水槽、と暗がりに慣れた眼には眩しいと菊が目を細める。
「すげえな、ほんとにデカい」
 そんな大きな水槽に作られた海の世界を、悠々と大きな魚が泳いでいく。リコがちらりと菊を横目で見れば、可愛い唇が小さく開いているのが見えた。
 うん、やっぱり菊はサメ好きだな、うちにもサメのぬいぐるみ転がってるし。なんて考えていると、菊がくるっとリコに顔を向けた。
「な、な、あのでっけえブツブツ何? 見たことねえ、なあリコ、リコ」
 あれ! と、菊が指をさした先にいたのはジンベエザメで、平べったい大きな体で二人の目の前を泳いでいく。
「ジンベエザメだ」
「じんべいざめ?」
 ってことは、サメ? と菊が言うとリコがそうだと頷いた。
「そっか、お前サメか。んひ、正面から見るとけっこー間抜けだな」
「掃除機みたいな口、すげえな」
「え、かぁいいじゃん」
「あぁ、うん、可愛い可愛い」
 子どもみたいに喜んでる菊が、とは言わずにリコが笑う。そんなリコの前をマンタがひらりと横切って。
「んだあれ……マンタ?」
「でけぇ」
「でっけ……」
 手を繋いだまま、二人で水槽に張り付いて、蒼に掻き消されない金色と桃色が顔を見合わせて笑った。
「あれのぬいぐるみねーかな、買って帰りてえ」
「あれ、もう帰るんで良いの?」
 他にも見るものあるんじゃないか? とリコが菊を見遣る。
「いい、ぬいぐるみ買ったら帰る」
「一緒に?」
「そう、一緒に」
 菊もリコを見遣って。水族館はすげえ楽しいけど、なんか帰りてえと呟いた。
 うまく言葉にできないけれど、だって帰っても一緒だし、それが嬉しくてと言葉に出さずリコを見る。
「……そうだな、帰っても終わりじゃねえ」
 そう言うと、菊の顔がパッと花咲くように輝いて。
「今日何食おうか」
「魚?」
「魚も良いな、肉は明日にするか」
 一緒に食べるものを一緒に考えるのは、なんて幸せなんだろうか。
 食べたい物を言い合って歩けば、お土産物屋まではすぐだった。
「オレ、ぬいぐるみ買うなら金色のが良いな」
「やだ、ぜってえ白買う!」
 金色、白、と言い合って、最終的には金色と白色のを一つずつ買った。
「帰ろ、リコ」
「ああ、帰ろう」
 オレの隣で菊が笑ってくれるなら、オレは何処にでも行くよ。
 音なく囁いた声は、金色に輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

水族館ですかー、よいですねー。この蒼い世界というテーマも好ましいですねー。
さて、UCで強化した呪詛を視覚共有呪詛にして、影にいる陰海月と霹靂にも楽しめるようにしましてー。
まあ、二匹にとっては動画見てる感覚なんですがー。

クラゲ揺蕩う空間へ。ふふ、ミズクラゲもそうですが、他のもいますねー。
それがゆったりいる様は癒されますねー。

陰海月、オブリビオンのクラゲだとライバル視しますが、普通のだと仲間認定なんですねー。可愛いです。


陰海月、わー仲間がたくさん!とぷきゅぷきゅしてる。
霹靂、初めての水族館でクエクエしてる。
二匹は友だち。



●ゆったりとしたひと時を
 水族館、海の生き物を集めて展示する施設。
 そう言葉にしてしまえば酷く味気ない場所にも思えるけれど、実際に訪れてみれば想像していたよりもずっとずっと楽しい場所なのだとわかるだろう。
「百聞は一見に如かず、ですねー」
 のほほんとした空気を醸し出しながら、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の人格の一人である『疾き者』がエントランスで足を止める。広がる蒼い世界は空とは違う色を見せていた。
「水族館ですかー、よいですねー」
 この蒼い世界というテーマも好ましいと、一層笑みを深くする。
「せっかくですからねー」
 この蒼い世界を自分の影にいる陰海月と霹靂にも楽しませてあげましょうと、義透がこっそりと力を行使する。呪詛の力を視覚共有呪詛として力を強め、二匹の視覚とリンクさせるのだ。
「まあ、二匹にとっては動画を見てる感覚なんですがー」
 それでも充分に楽しめるだろうと義透が視覚を繋げば、影の中の二匹がはしゃぐような気配を感じてにっこりと微笑んだ。
 一通り見て回りつつ、霹靂はヒポグリフだけれど陰海月はミズクラゲ。ならば仲間の姿でも見せてあげましょうかねー、とクラゲが多く展示されているという部屋に向かうことにする。
「大きな魚も見応えがあって素晴らしいですけれど、クラゲが揺蕩う姿もまたいいものですねー」
 一面の蒼い部屋の中、白いクラゲがふよふよと沢山泳いでいる姿はなんとも癒されるもの。
「ミズクラゲがこちらで、あちらは……珍しいのがいるんですねー」
 ネームプレートと説明を確認しつつ、見たことのないクラゲをゆっくりと眺めていく。
「ナデシコクラゲ……こちらはタコクラゲ、なんだか馴染みのある名前ですねー」
 撫子という花や、タコに似ているから付けられた名前なのだろうと興味深げに水槽を覗けば、影の中で陰海月が『わー、仲間がたくさん!』と、ぷきゅぷきゅしている気配が伝わってくる。
「陰海月、オブリビオンのクラゲだとライバル視しますが、普通のだと仲間認定なんですねー」
 可愛いです、と思わず零せば『でも、自分が一番!』とばかりに影の中で泳ぎ回るのが窺えて。更には陰海月がはしゃぐのに合わせ、霹靂もクエクエと楽しそうにしているのがしっかりと伝わってきて義透が口元を押さえて小さく笑う。
「楽しそうで何よりですよー」
 ああ、二匹にも楽しんでもらえてよかったと、義透がクラゲに囲まれたような世界で一層目を細くするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ2】◎
久しぶりの水族館だね、半分仕事だけど楽しみ
見るところたくさんあるね
全部見たい!英は?
もー、またどうでもよさそうにするんだから
へっ、あっ、そっか、それならいいけど…
時々どきっとしてしまう…!

わぁ、綺麗…海の中にいるみたい
ウミガメってこんなにおっきいんだね
ついはしゃいでしまうけど、きっと英はもう慣れっこかな、なんて思いながら
飽きちゃった?
ふよふよしてて可愛いよね
だって可愛いんだもん

何だろう、どの子も好きだよ
でもそうだなぁ…クジラとかイルカとか?
うん、お土産見たい
ふふ、ぬいぐるみあったら買っちゃいそう
ぬいぐるみタイプのキーホルダーもいいなぁ
英も買う?
うん、お揃い。嫌じゃなければだけど


花房・英
【ミモザ2】
何見たい?
俺は…別になんでも
どうでもいいなんて言ってないだろ
寿とならなんでも楽しいと思う
だから、なんでもいい

一人で来ると、これだけ綺麗なものを目にしても気付けば思考に耽ってしまうけど
くるくる表情を変える寿と一緒だとそんな風にはならなくて
思えばずっと、こうして笑ってて欲しいと思ってたっけ

そんな事ない、楽しい
ふわふわ自由に揺蕩ってるクラゲを一緒に見上げて
かわいい…か…?
かわいいか分からないけど、綺麗だなとは思う
寿、なんでもかわいいって言ってない?

寿は何が好きなの?
ああ、好きそう。後で土産物、見る?
大きなぬいぐるみとかあるんじゃないか?
キーホルダーもありそう
またお揃い?
別に、嫌じゃないよ



●ふわふわひらり
 水族館って言葉だけでなんだかわくわくしちゃうね、と笑う太宰・寿(パステルペインター・f18704)の隣を花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)が静かに頷いて歩く。
「久しぶりの水族館だね」
 半分仕事ではあるけれど、水族館を楽しむのが仕事だから問題ないはず、と寿が意気込んだ。
「見るところ、たくさんあるね」
 案内用のパンフレットを手にしつつ、寿がゲートを通ってすぐの大きな看板に描かれた地図を見上げる。
「何見たい?」
 きっと全部見て回ることになるのだろうと思いつつ、英が問う。
「全部見たい! 英は?」
「俺は……別に何でも」
 予想通りの返事だなと胸の内でこそりと思い、答える。
「もー、またどうでもよさそうにするんだから」
 ぷくっと頬を膨らませて、それなら案内順通りに見ようかな? なんて考えていると隣から言葉が降ってきて。
「どうでもいいなんて言ってないだろ、寿とならなんでも楽しいと思う。だから、なんでもいい」
 楽しそうな寿を見ているのは、どうしてか自分も楽しいから。
 言葉にはせずとも英の瞳はそれを雄弁に物語っていて、寿は思わず膨らませた頬をぷしゅうと元に戻す。
「へっ、あっ、そっか、それならいいけど……」
 どうしてだろう、彼のこの瞳には時々どきっとしてしまって、そのまま鼓動が跳ねたままになってしまうのは。
「寿?」
「あ、ううん! 何でもないの、それじゃあまずはエントランスの水槽から!」
 パチンと軽く両頬を叩いて気を取り直すと、寿がこっち! と前へ進んだ。
「わぁ、綺麗……!」
 エントランスはまるで海の中のような蒼い世界、それだけで何処か非現実的な場所にいるような気持になって、寿が思わず溜息を零す。
「まるで海の中にいるみたいだね、英」
「ああ」
 自然光の明かりと、絶妙なライティングで作り出された空間は確かに非の打ち所がない程に綺麗だと英が思う。それから、寿を見れば目の前の水槽に目を奪われている姿が見えた。
「ウミガメってこんなにおっきいんだね」
 大きな岩も海から持ってきたのかな、それとも人工的に作り上げたのかな? なんて、彼女の興味は尽きることがない。それと共に表情だってくるくると変わって、水槽を見上げるよりも寿を見ている方が飽きないくらいだ。
 一人で来ていたら、きっとこれだけ綺麗なものを目にしても気が付けば思考の海に耽ってしまうだろう。けれど、寿といるとそんな風にはならないのだと英が気付く。
 いつからかはもう覚えていないけれど、思えばずっと、こうして笑ってて欲しいと思っていたんだっけ、と英が自分を見上げて笑う寿を見て目を細めた。
 エントランスから道順通りに歩いていけばトンネル型の水槽ドームがあって、思わず上を見上げながら歩いてしまう。
「寿」
「え、何? わっ」
 ぐいっと腕を引かれて、寿が慌てたように英を見る。
「看板」
 看板? と思いながら英の指さす方を見れば、道案内の看板にあと三歩もすればぶつかる距離で。
「あ、ありがとう……!」
「うん」
 放っておいたらきっと迷子になるんだろうな、と英が寿の手を握る。
「わ、えっ、あき、英?」
「迷子防止」
「あ、迷子防止、うん」
 オウム返しのように呟いて、えへへと笑って寿が握り返すと英が寿の歩調に合わせて歩き出す。こうしておけば、よそ見をしながら歩いても水槽にぶつかることもないだろうと、英はどことなく満足気だ。
「わあ、クラゲ!」
 部屋いっぱいのクラゲに、珍しい色をしたウミウシに、寿の視線が彷徨って英へと向いた。
 ついはしゃいでしまったけれど、きっと英はもう慣れっこかな。楽しんでないかも、なんて急に不安になってきて、寿が英の手を軽く引っ張って内緒話をするかのように囁く。
「飽きちゃった?」
「? そんな事ない、楽しい」
 本当に? と見上げてくる寿に頷けば寿の頬に笑顔が咲いて、視線がクラゲへと向いた。
 その視線につられるように、英もふわり、ふわふわ、自由に揺蕩っているクラゲを見上げる。
「クラゲ、ふよふよしてて可愛いよね」
「かわいい……か……?」
 可愛いかはちょっとわからないけれど。
「綺麗だな、とは思う」
 そう言うと寿が笑って、ええー可愛いよともう一度英に言う。
「寿、なんでもかわいいって言ってない?」
「ふふ、だって可愛いんだもん」
 寿のかわいいの基準がわからないまま、英は彼女が引っ張るままに足を動かした。
「寿は何が好きなの?」
 一通り見て回って、最終的には何が一番良かったのかと英が問う。
「何だろう、どの子も好きだよ」
 でも、と少し考える素振りをして、寿が唇を開く。
「クジラとかイルカとか?」
「ああ、好きそう。お土産物、見る?」
 そういうの好きだろ、と英が言うと寿が大きく頷いてお土産屋さん見よう! と笑った。
「ふふ、ぬいぐるみあったら買っちゃいそう」
「大きなぬいぐるみとかあるんじゃないか?」
「でも、ぬいぐるみタイプのキーホルダーもいいなぁ」
「キーホルダーもありそう」
 きっと、ショップに入れば寿はあれもこれもと一生懸命に悩むのだろう。
「英も買う?」
「俺も? またお揃い?」
「うん、お揃い。嫌じゃなければだけど」
 今日の記念に、と寿がはにかむように笑う。
「別に、嫌じゃないよ」
 寿が喜ぶなら、なんだって。
 そんな言葉を飲み込んで、英は彼女の手を引いてお土産を置いているショップに足を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御魂・神治
水族館なぁ...最後に来たん何時や
鳥羽んとこにあるアソコや
先生や友達とはぐれてギャン泣きして迷子放送された記憶が...
して、今もワイは一人やろ...なんやこの虚しさ

おっ、シロイルカや
相変わらずなんも考えてなさそうな間抜けなアホ面顔しとるな~
天将『神治にそう言われると屈辱ですね』
よう言うわ
シロイルカってあれやろ?バブルリングとか出来るんやろ?
ハート形のバブルリングでサービスしてく...うっわびっくりした!なんでワーッ!ってしてくんのや!
子供らびっくりしてるやろ!...おもろいんかい!
なんで脅かされやなあかんねん...ワイ何もしてへんで
天将『間抜けって言われたからじゃないですか?』
んなわけあるかい



●一人だけど独りじゃないので
 水族館と言えば、御魂・神治(除霊(物理)・f28925)の記憶の中にあるのは鳥羽にある大きな水族館だ、あと二見のあそこ。閉館とか言うから、えっとうとう潰れ……ああ、あの魚の展示んとこ、と思ったのも記憶に新しい。
「水族館なぁ……最後に来たん何時や?」
 うーん、とこめかみを揉んで記憶をたどる。
 そう、あれはまだワイがかわいい小学生だった頃……!
「先生や友達とはぐれてギャン泣きして迷子放送された記憶が……」
 水族館、意外と広い。
「ちょっと水族館やのにカピバラと鳥がおるやんって見とっただけやのにな」
 仄かな哀愁を漂わせつつ、ゲートを通り抜けエントランスに向かえば広がるのは蒼い世界。神治の知る水族館とはまた一つ違っていて、思わず感嘆の声が出た。
「へえ、綺麗なもんやな」
 確かにこれは一見の価値ありだ、と思う。
 しかし、しかしである。
「ちゃう水族館やっちゅーのに、今もワイは一人やろ……なんやこの虚しさ」
 めちゃくちゃ虚しい、でも水族館は楽しい。
「これが二律背反ってやつやな」
 なんて言いながら大きな水槽を見上げれば、呆れたような天将の声が耳元で響いた。
『平和な人ですね』
「うっさいわ」
 ちょっとだけアンニュイな気分に浸っとっただけや、と小声で話つつ道順案内に従って歩いてみる。天将と共に進んでいくと、シロイルカが泳ぐ水槽に辿り着いた。
「おっ、シロイルカや」
 ベルーガとも呼ばれる大きなイルカが、広い水槽で悠々と泳いでいる。上からも覗けるようになっている水槽だが、水中を覗ける方へと向かう。
「相変わらずなんも考えてなさそうな間抜けなアホ面顔しとるな~」
『神治にそう言われるとは、シロイルカも屈辱ですね』
 シロイルカは意外と賢いのだと知っている天将が、シロイルカに同情するかのように言う。
「よう言うわ」
 絶対俺の方が賢いやろ、と神治が笑う。
「そや、シロイルカってあれやろ? バブルリングとか出来るんやろ?」
 いつかテレビで見たシロイルカの特技を思い出し、水槽に向かって神治が話し掛ける。
「ハート形のバブルリングでサービスしてく……うおっ」
 ぐわっと寄ってきたシロイルカが神治に向かってグワーッと大きく口を開いた。
「うっわびっくりした! なんでワーッ! ってしてくんのや!」
 子どもらびっくりしてるやろ! なんて言いつつ近くで見ていた子どもに視線を向ければ、めちゃくちゃ喜んでいた。
「……いやおもろいんかい!」
 心外やわ、なんで驚かされやなあかんねん……ワイ何もしてへんで? なんて呟けば、すかさず天将が答えを導き出す。
『間抜けって言われたからじゃないですか?』
「んなわけあるかい」
 え? ないよな? と神治が水槽を見ると、シロイルカが笑うように口を開けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
【天魔2】
今日はお誘いありがとうね♪
魚たちが思い思いに過ごす海の景色を内側から堪能する……考えてみれば不思議なシチュエーションだ
海辺で戦ったり踊ったりは時々あるけれど、実は水族館に来るのは初めてでさ

無作法がなければいいんだけど、なんて言いながら周囲を気にして。
漂い揺れる海月を眺め、思い思いに楽しむ一般客の姿に表情を綻ばせながら……
人々に仇為す怪異の兆しは無いか、異変が起きればどう戦うか、
頭の片隅では一定の警戒を維持しつつ。

素顔か、それは難題だ。
冗談めかして笑い、売店で買ったアザラシのぬいぐるみを肩に乗せてみたり。

浴衣? ああ、そろそろ新調してもいいかもね
その時はちゃんと披露するよ、お楽しみに☆


カイム・クローバー
【天魔2】
人気スポットなんだってよ、此処。
折角、カタリナと来たんだ。噂の部屋が現れるまでのんびり水族館を廻る。
蒼く煌く世界は絶景だ。カタリナは水族館に来たことは?

無作法なんて無い。普段通りの素のままで構わねぇさ。
警戒心の強いカタリナに笑う。もうちょい肩の力を抜いても良いんだぜ?
戦争続きで忙しかったんだ。たまにはのんびりするのも悪くねぇだろ?なんて。彼女の事を気遣うフリをしながら、ホントの所は俺が一緒に来たかっただけ、かもしれない。
そーいや、浴衣のレンタルもあったな。気にせず入っちまったが…カタリナの浴衣姿見たかったな。青や黒の浴衣は特に似合うと思うんだが。
惜しい事したぜ。(頭をガシガシ掻いて)



●喧騒を忘れて
 まず、目に飛び込んできたのは一面の蒼だった。
 絶妙なライトアップと自然光により、薄暗いと感じるよりも蒼い世界の中に海があると思わせるような、そんな。
「綺麗だね」
 カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)の唇からぽつりと零れた言葉に、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)がそうだな、と相槌を打つ。
「人気スポットなんだってよ、此処」
「そう言われるの、わかるよ」
 だって、入ってすぐだっていうのに、こんなに心を奪われるなんて思ってもみなかったとカタリナが笑う。
 その笑顔を眺め、誘ってよかったと思うと共に、折角カタリナと来たのだから噂の部屋が現れるまではのんびり水族館を廻ろうかとカイムも微笑んだ。
「カタリナは水族館に来たことは?」
 立ち止まっていた足を動かし、エントランスの目玉でもある大きな水槽の手前まで来ると、カイムがそう問い掛ける。
「海辺で戦ったり踊ったりは時々あるけれど、実は水族館に来るのは初めてでさ」
 凍ったビーチであったり、夜のカクリヨであったりと、場は様々だったけれど。そう言いながらあの夜に手を引いてくれたカイムをカタリナが見上げた。
「夏の海は色々あるからな」
「本当にね……ところで水族館って作法とかあるのかな? 無作法が無ければいいんだけど」
 他の人はどうしているのだろうかと、周囲を気にするように見回す。楽しそうに笑ったり、お喋りをしたり、強いて言えば皆大声ではないというくらいだろうか。
「無作法なんて無い。普段通りの素のままで構わねぇさ」
「素顔か、それは難題だ」
 難しい顔をしたあとに、冗談めかしてカタリナが笑った。
「魚たちが思い思いに過ごす海の景色を内側から堪能する……聞いていただけではよく分からなかったし、不思議なシチュエーションだと思っていたけど良いものだね」
 水槽の中に作られた海の世界は美しく、泳ぐ魚は綺麗だ。
 猟兵であれば海の中で直にこの景色を見られるだろうけれど、そうでない者たちにとってこの場は得難いものに違いない。それは、猟兵であっても同じなのだけれど、と思いながらカタリナはカイムを見遣った。
「気に入ったなら何よりだ。他にも色々あるんだ、行こうぜ」
 この水族館の見所はエントランスの水槽だけではない、もっと楽しんでもらおうとカイムが笑ってこっちだと彼女を促す。道案内の通りに進んでいけば、イルカたちが泳ぐトンネル型の水槽ドームに行き当たる。
 様々な大きさのイルカが泳ぎ、小型の魚が泳いでいる姿も見ることができる水槽は思わず上を見上げたくなる出来だ。自然光が差し込むそこは、床にきらきらと光が反射してエントランスとはまた違った蒼い世界を生み出していた。
「水槽が違うとこんなに印象が変わるものなんだね」
「ずっと歩いてたくなるな」
 自然と歩く速度がゆっくりになって、歩調が合う。そんな小さなことがおかしくて、二人で顔を見合わせて笑った。
 トンネルを抜けて他の展示物を見ながら進んでいくと、白くて小さなクラゲがふわふわと泳ぐ部屋に行き当たる。
「海月だ、海月だよカイムさん」
 こんなに沢山の海月に囲まれたことは無いと笑って、カタリナが水槽の前で漂い揺れるクラゲを眺め、思い思いにこの水族館を楽しむ一般客の姿に頬を綻ばせていた。
 そして、それと同時に人々に仇為す怪異の兆候はないか、気配を探る。異変が起きた時、万が一にも水族館を楽しむ人々を巻き込まぬように戦うには――そんな警戒を脳裏に維持しつつ、カタリナが視線を感じてそちらを見遣る。
「……カイムさん?」
 どうかしたの、と問い掛けようとしたところで、笑っているカイムが口を開いた。
「あのな、カタリナ。もうちょい肩の力を抜いても良いんだぜ?」
 カイムの言葉にぱちりとピンクスピネルのような瞳を瞬かせ、カタリナが少し張っていた肩の力を緩める。
「戦争続きで忙しかったんだ。たまにはのんびりするのも悪くねぇだろ?」
「……そうだね、うん。ちょっと難しいけど、もう少し力を抜いてみようかな」
 カイムさんがいることだしね、とカタリナが笑う。
 その笑みに暫し見惚れ、カタリナを気遣って誘ったように言ったけれど、ホントの所は俺が一緒に来たかっただけかもしれないな、とカイムが胸の内でこっそりと笑った。
 一通り巡り終わって、最後にお土産物も豊富な売店を二人で覗く。
「アザラシだ、可愛いね」
 もっちりとしたフォルムのそれに一目惚れをし、カタリナが即決で買い求める。
「迷わないんだな」
 女の子っていうのはもっと悩むものかと思っていたけれど、彼女の行動は素早かった。
「こういうのは、色々見ても最初にいいと思ったものに戻ってくるからね」
 そう言って、肩に買ったばかりのアザラシのぬいぐるみを乗せた彼女は物凄く可愛らしくて、思わずカイムが横に視線を逸らす。
「カイムさん?」
「あ、いや、浴衣のレンタルもあったなって。気にせず入っちまったが……カタリナの浴衣姿見たかったな」
 丁度彼女の横を通って行ったカップルが浴衣姿だったので、本心と共にそう口にする。
「浴衣? ああ、そろそろ新調してもいいかもね」
「青や黒の浴衣は特に似合うと思うんだが、どうだ?」
「ふふ、考えておくよ。その時はちゃんとカイムさんに披露するから」
 お楽しみに☆ と、彼女が笑った。
 それって来年まで待たないといけないんじゃないか? カイムが頭をガシガシと掻いて、そう考えると惜しい事をしたと嘆くと共に、来年の楽しみが増えたと笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
水族館は好きです。もふもふ動物園も好きだけどゆらゆらと揺らぐ水と泳ぐ魚達も好き。
特に海月はただぼんやりと眺めていたいと思うぐらい。何時間だっていられる気がする。
大きめの海月水槽を眺めていると、どこか懐かしいような何か思い出されるような。
カクリヨでの海遊びの時も思ったけど、私は、過去の私には水底に何か思う事があったのかしら?それとも沈むような眠るようなそんな経験があったのかな?
引き寄せられるように顔を寄せてうっかりガラスにおでこをぶつけちゃう。
……誰も見てないよね?周囲をそっとうかがってみて、ほっと溜息。
ううん、今の私がいくら考えても仕方ないわね。だって思い出すどころか私の記憶じゃないんだもの。



●沈みゆく記憶
 水族館、それは思わず心が浮き立つような場所。
 もっふもふの動物達も好きだけれど、ゆらゆらと揺らめく水とその中を泳ぐ魚達だって好きだと、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はエントランスの大きな水槽を前に思う。
 自然光とライトアップが絶妙な海底空間を作り出していて、蒼い世界というキャッチコピーそのままだと藍が笑みを浮かべた。
 通路も海を思わせる蒼で彩られ、人工的といえど海の中を歩いているような感覚だ。
「この先には……海月がいるのね」
 魚達も、海獣達だって見応えがあっていいけれど、ふわふわぷかぷか浮かぶ海月は見ていて心が落ち着くもの。少し早足になりつつ、クラゲが展示されている部屋へと向かった。
「……すごい」
 壁一面の大きな水槽に、白いクラゲが沢山浮かんでいる。それはどこか藍の心を擽って、どうしてか懐かしい気持ちがこみ上げて――。
「何か、思い出されるような……」
 この夏に遊びに行った海でも感じたことだけれど、海に沈みゆくイメージが脳裏に浮かぶ。ゆっくり、ゆっくりと、水の中に落ちていく、そんな。
「……私は、過去の私には水底に何か思う事があったのかしら?」
 それとも、沈むような、眠るような……そんな経験があったのだろうか。
 こんな風に、蒼い世界に引き寄せられるような――。
「いたっ」
 コツン、と額と水槽のアクリルガラスに額をぶつけ、藍が口元を押さえる。それから、僅かに頬を赤くして周囲をそっと窺った。
「……今の、誰も見てないよね?」
 誰も自分に注目していないことを確認して、ほっと溜息を零す。
「危ない危ない、ぼんやりしすぎちゃったわね」
 過去の自分の記憶が気にならないわけではないけれど、それでも。
「……ううん、今の私がいくら考えても仕方ないわね」
 だって、思い出すどころか私の記憶じゃないんだもの。
「考えたってわかるわけないのよね……」
 パズルを完成させようにも、ピースが足りなければ完成しないのと一緒だわ、と藍が水槽の中で揺らめくクラゲを指先でちょんとつつくようにアクリルガラスに触れ合わす。
「いつか、ピースが揃うのかな」
 揃ったら、思い出すのだろうか。
「ふふ、なんて考えるのも詮無いことね」
 指先を離して、藍が再び蒼い世界を歩き出す。
 その足取りは、ただ前だけを向いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
【モノクロフレンズ】◎
おれも浴衣きーよお!ハンマーはクロークにインです!

へへー、おれもはじめてー!たぶん!
あーさんも楽しそうで、コロちゃんも楽しそう!(これは……デート!)(※おれが居るのはおいとく)
ら、ラーさん!だめだよー、ここカフェもあるらしいから、あとでね!
(水族館ってシーフード食べれる店がくっついてるイメージ!)

そう!これがタダタダタダヨウガニで、これがスベスベマンジュウガニで、
これがウッカリカサゴで、これがウケグチノホソミオナガノオキナハギで
これがウシノシタで、これがオジサンだよ!
(ぜんぶ魚とかのなまえ!)

ふふふ、スーさんもラーさんもはらへりだね!
よーしっ、カフェいこーう!


スキアファール・イリャルギ
【モノクロフレンズ】◎
折角ですので今年の浴衣を
ラトナを胸に抱えてトーさんと歩きます

ふふ、友達と水族館だなんて初めてです
コローロは大迫力な水槽に大はしゃぎで
トーさんはニコニコしてますし
(※デートと思われてる事には気付いていない!)
……ラトナは狩りの目をしてます
後でお刺身食べましょうね……

こ、これがトーさんの言っていたタダタダタダヨウガニ
そしてこちらはスベスベマンジュウガニ!
わ、わわわ、なんて博識、トーさんすごい……!
はっ、ラトナ、ダメですよスベ(略)は毒持ちだそうです
まず足でたしたししても届きません……

(ぐぅ~)

……しまった、私までお腹が空いてしまいました
トーさん、カフェでスイーツ食べませんか?



●変な名前の海の生き物言えるかな
「浴衣で行ってもいいらしいですよ。良かったら着て行きませんか、トーさん」
「そーなの? じゃあおれも浴衣きーよお!」
 折角だから浴衣を着て行こうとスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)に持ち掛けたので、今日の二人はいつもの装いとは違って今年新調した粋な浴衣姿だ。
 スキアファールは全身黒だけれど、浴衣の裾には真っ暗な夜に降り積もる雪のような光のような白が目を惹く。羽織には七宝つなぎの透かしが入っていて、彼の身体にしっくりと馴染んでいる。
 トヲルのはシンプルに白が映える浴衣だが、袖や裾に墨で刷いたような市松模様が印象的な逸品。いつもは見えない足の爪まで黒く塗られていて、足先まで含めて完成されているように見えた。
「今日はハンマーはクロークにインです!」
「コローロは襟元に、ラトナは腕に抱えて……はっ、トーさん」
 なーに? とトヲルが首を傾げてスキアファールを見遣る。
「ラトナ、水族館に入れますかね?」
「……かわいーからいける!」
 ぬいぐるみに見える、大丈夫! というトヲルの言葉を信じ、スキアファールがラトナを抱えてゲートにチャレンジすれば、猟兵故に違和感を覚えられないという事実にも助けられ何事もなくゲートを通ることが出来た。
「おれの言ったとーりだったでしょ!」
 えっへんと胸を張るトヲルに、スキアファールがさすがトーさんと微笑む。ラトナとコローロは賢いので、喜ぶ二人をそっとしておいた。
 エントランスに向かうと、一面に広がる蒼い世界に二人がわぁ、と顔を見合わせる。
「綺麗ですね、トーさん!」
「きれーだねー、あーさん!」
 本物の海の中を切り取ったかのような水槽の前で立ち止まり、魚がいっぱいいると目を輝かせて笑う。
「ふふ、友達と水族館だなんて初めてです」
「へへー、おれもはじめてー! たぶん!」
 だから、これを初めてとします! とトヲルが言えばスキアファールがお揃いですね、とはにかんだ。
 道順通りに進んでいくとイルカが泳ぐトンネル型の水槽ドームがあり、二人と猫と光を歓迎するかのように泳いでいるのが見えた。
「イルカ!」
「先日トーさんが変身したのとそっくりですね」
 なんて、夏の思い出を話しながら歩いていくと、エントランスで見たよりも大きな水槽の前に出る。
「すげー、でっかい!」
「おお……」
 そんな大きな水槽の中を悠々と泳いでいくジンベエザメにマンタに、コローロがはしゃぐようにスキアファールの顔の周囲を飛び回る。
「ええ、すごいですね。コローロも気に入りましたか?」
 火花のように瞬くと、コローロがスキアファールの頬に寄り添った。
 少し照れたようにはにかむスキアファールの表情にトヲルは内心大はしゃぎで、これはもしかしなくてもスーさんとコロちゃんのデート……!! と、嬉しそうに笑う。
 あーさんも楽しそうで、コロちゃんも楽しそう! おれも楽しい! 幸せ! そんな気持ちで満たされたトヲルの頭の中には、自分が居ることはすっかり棚の上だ。
「あ、ラトナ」
 そんな中、ラトナは目の前の巨大なジンベエザメを己の獲物と認識したのか、すっかり狩る気満々の目だ。
 今にも飛びかかりそうなラトナをスキアファールが宥め、トヲルが慌てて話し掛ける。
「ら、ラーさん! ここの魚はだめだよー! えと、カフェもあるらしいから、美味しいのはあとでね!」
 水族館にあるカフェなのだから、きっとシーフードも豊富なはず!
「そうですよ、後でお刺身食べましょうね……」
 ラトナなら狩るかもしれないと、慌てて巨大な水槽を後にして進むと、今度はちょっと変わった名前の海の生き物が二人を出迎える。
「こ、これはトーさんの言っていたタダタダタダヨウガニ、そしてこちらはスベスベマンジュウガニ!」
「そう! これがタダタダタダヨウガニで、これがスベスベマンジュウガニ!」
 噛みそうな名前のカニ! 前者は海流にのってふわふわと漂って生活するカニで、カニと付くけどヤドカリの仲間なんだとか。後者はスベスベした甲羅を持つカニで、有毒であることが知られている。
「ちなみにこれがウッカリカサゴで、これがウケグチノホソミオナガノオキナハギで」
 呪文みたい! 前者はカサゴとうっかり間違えるからという命名、後者のながーい名前は、受け口の細身尾長の翁ハギというもので、長い和名が付けたかった、あと何気に五七五の俳句になっていると命名者の名誉教授は申しており。
「これがウシノシタで、これがオジサンだよ!」
 魚の名前には思えない! 前者は牛の舌のように見えるカレイ、後者はお髭があって正面から見るとまるで人間のおじさんに見えるからオジサンと名付けられた魚である。
「わ、わわわ、なんて博識、トーさんすごい……!」
 スキアファールに褒められて、にっこにこのトヲルである。
「はっ、ラトナ、ダメですよスベスベマンジュウガニは毒持ちだそうです」
 それに――。
「まず足でたしたししても届きません……」
 不満げな顔をしたラトナに眉を下げて言うと、ラトナのお腹がぐぅ~。続いてスキアファールのお腹もぐぅ~と音を立てた。
「……しまった、私までお腹が空いてしまいました」
「ふふふ、スーさんもラーさんもはらへりだね! おれも腹減ってきたかも!」
 お腹が空いた二人と一匹が顔を見合わせて。
「トーさん、カフェでスイーツ食べませんか?」
 ラトナはお魚を、とスキアファールが笑う。
「よーしっ、カフェいこーう!」
 きっと、スベスベマンジュウガニの形をしたケーキや、ジンベエザメをモチーフにしたパフェがあるはず!
 まだ見ぬスイーツを求めて、二人と猫と光はカフェを目指すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
【隣歩】◎
霞草と茉莉花の柄の青い浴衣
帯の結び方は花文庫
髪は編み込みアップ
口紅塗る

待たせたかしら…!
ふふ、褒めてくれてありがとう
霞架と逢うからマリア張り切っちゃったのよ(はにかむ
でも浴衣って着慣れないわ…
ねぇ、霞架
転ばないようマリアの手を掴んでいて。だめ?

上目遣いでおねだりしくっつく
水槽ドームを歩き浴衣デート
イルカや色鮮やかな魚が泳ぐ様に目が輝く

まぁ、まぁ!本当に綺麗
色んな魚がいるわ
あれは…マンタ、というのね
霞架はどんなお魚が好き?

最後にペンギンの餌やりへ
食べてる様子に微笑

ペンギンさんがたーくさんいるわっ!
餌やり体験が出来るなんて
一緒にやりましょう、霞架!
ふふっ、こんなに近くで見られて嬉しいのよ


斬崎・霞架
【隣歩】◎
菖蒲と茉莉花の柄の黒い浴衣

水族館の怪異、ですか
今はまだ大した脅威でもないようですが…
まぁそれも解決するとして、まずは楽しませて貰いましょうか

僕も今来たところですよ。ふふ
浴衣、よく似合ってますね
普段と少し違うマリアさんも、素敵ですよ
おや…
ふふ。勿論ですよ、お姫様(マリアの手を取り

ええ、色んな魚がいますね
本当に海の中を歩いているようで、不思議です
好きな魚ですか?
そうですね…鮫、でしょうか
力強いですからね。ふふ

ペンギンの餌やりが出来るのは貴重ですね
そうですね。折角ですしあげてみましょうか
マリアさんが喜んでくれて何よりです。ふふ
(ペンギンに餌をあげるマリアの様子を見て微笑み



●手を繋いで
 水族館のゲート前、既に手に入れた二枚のチケットを手に斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)が佇む。纏う浴衣は菖蒲と茉莉花の花が咲く黒地、合わせた菖蒲色の帯と相まって、すらりとした霞架に良く似合っていた。
「水族館の怪異、ですか」
 どう見たって普通の水族館だったし、怪異が現れるにしては盛況に見える。恐らくだが、今はまだ大した脅威でもなく見知らぬ部屋に出たとしても、然したる苦労もなく出て来られるからだろう。寧ろ、ちょっとした怖いもの見たさで訪れる若者がいるのかもしれない。
「まぁそれも解決するとして、まずは楽しませて貰いましょうか」
 楽しむのも仕事の内だと小さく頷いて、霞架がすっと姿勢を正す。視界に待ち人が見えたからだ。
 カランコロンと下駄を鳴らし、自分の姿を見つけて小走りになる彼女――マリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)に思わず笑みが浮かぶ。青地に露草と茉莉花の柄が浮かぶ青地の浴衣を纏い、きゅっと花文庫に結んだ帯は夏の空色をしていて鮮やかだ。
「待たせたかしら……!」
 ほんのりと色付いた頬は柔らかい桃色、編み込みに結い上げた髪からはらり零れる後れ毛が、紅を刺した唇が、普段の彼女とは少し違って見えて霞架の鼓動を僅かに早める。
「僕も今来たところですよ。ふふ、浴衣……よく似合ってますね」
 眩しいくらいだと思いながら、自分を見上げる彼女に微笑む。
「ふふ、褒めてくれてありがとう。霞架と逢うからマリア張り切っちゃったのよ」
 はにかんだように微笑んで、マリアドールが彼の隣に立つ。
「でも、浴衣って着慣れないわ……」
「普段と少し違うマリアさんも、素敵ですよ」
 変じゃないかしら? と何度も鏡を確認したけれど、霞架が褒めてくれたなら大成功だ。
「そう? それなら、たまにはいいかもしれないわね。それに……霞架の浴衣姿も素敵だわ」
「ありがとう、僕も張り切った甲斐があります」
 なんて笑って、下駄を鳴らして歩き出す。
「ねぇ、霞架」
「はい?」
「下駄って少し歩きにくいでしょう? だから、そのね? ……転ばないようマリアの手を掴んでいて。だめ?」
 上目遣いで見上げてくる恋人の可愛らしいおねだりに、霞架の頬が緩む。
「ふふ。勿論ですよ、お姫様」
 そう言って、マリアドールの手を優しく取って、指先を絡めた。
 チケットを二枚渡してゲートを通り、エントランスに入れば二人を出迎えるのは蒼い世界。大きな水槽を見上げ、マリアドールが感嘆の声を上げて霞架が笑う。そのまま道順通りに歩けば、今度はトンネル型の水槽ドームでイルカ達が二人を歓迎してくれた。
「イルカだわ!」
「あれは親子のイルカでしょうか?」
 大きなイルカと小さなイルカがくっついて泳ぐのを眺めながら、ドームを進む。
「本当に海の中を歩いているようで、不思議ですね」
「ええ、とっても!」
 繋いだ手を離さぬようにくっついて、マリアドールが微笑んだ。
 更に奥へと進んでいくと、エントランスで見たよりも大きな水槽の中、ジンベエザメやマンタ、そして色鮮やかな魚達が自由に泳ぐのが見えた。
「まぁ、まぁ! 本当に綺麗、色んな魚がいるわ。あの大きな魚は……マンタ、というのね」
 ひらひらとヒレを動かして目の前を過ぎて行ったマンタに目を瞬かせ、マリアドールが霞架を見上げる。
「霞架はどんなお魚が好き?」
「好きな魚ですか? そうですね……鮫でしょうか」
 ほら、と霞架が指をさした先には大きなジンベエザメ。
「ジンベエザメ?」
「ジンベエザメに限ったことではないですが、サメは力強いですからね。ふふ」
 確かに目の前を泳ぐジンベエザメは力強い旋回を見せ、悠々と泳いでいる。納得したように頷いたマリアドールの手を引いて、霞架が次はペンギンですよと囁いた。
 ペンギンと触れ合えるというコーナーでは丁度餌やりを体験できると聞いて、マリアドールが目を輝かせる。
「ペンギンさんがたーくさんいるわっ! 餌やり体験が出来るなんて、素敵なタイミングね……! 一緒にやりましょう、霞架!」
「そうですね。折角ですし、あげてみましょうか」
 ペンギンの餌やりなんて、中々できることではない。貴重な体験だと霞架も笑みを浮かべて頷いた。
 イワシなどの小魚が入った小さなバケツに餌やり用のトングを手にし、いざペンギンと触れ合いタイム!
「すごいすごい、沢山寄って来たわ」
 奪い合いにならぬように飼育員さんがガードしつつ、ペンギンの口元へ魚を掴んだトングを寄せる。嘴でペンギンがそれを挟んだら、トングを離して食べる様子を眺めてと、あっという間にバケツの中が空っぽになって。
「ああ、とっても楽しかったわ!」
「マリアさんが喜んでくれて何よりです。ふふ」
「ふふっ、こんなに近くで見られて嬉しいのよ」
 それに、それにね? と内緒話をするように背伸びをして。
 霞架と一緒だから楽しいの、とマリアドールが微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霞末・遵
【幽蜻蛉】
見てよ惟継さん。エビがいっぱいいるよ。おいしそうだねえ
カニもいるよカニ。おじさんもあれくらい身が詰まってたらよかったのになあ
グソクムシだって。ダンゴムシみたいで可愛いじゃない

甲殻類しか見ないのかって?
なんか親近感あってつい
魚って捕食する側だし? でも金属みたいで綺麗だよね
無駄のないフォルムは好きだなあ。何かの参考になりそう

惟継さんはウミヘビとかに親近感感じないの?
ないかあ。割と似てると思うんだけどなあ
長いとことか、うねうねしてるとことか
まあウミヘビよりはヘビだよね。それよりもトカゲだけど
鱗があって陸上にいる生物ってそんなに多くないもんだよ
……爬虫類じゃなかったら何類のつもりだったの?


鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
エビもカニもいるものだろう、何せ水族館だからな
……見世物なのだから、食うこと前提に話すんじゃない
いや、エビもカニも好きだが
グソクムシか……海のダンゴムシといった所だな
なるほど、海の掃除屋とも呼ばれているのか

それにしても何故甲殻類しか興味を示さんのだ?
うぅむ、蜘蛛は甲殻類ではないが少なくとも魚よりは近いな
足が多い所とか……?

俺は竜だぞ、ウミヘビとは違う
しかしながら……そもそも竜は爬虫類に分類するものなのだろうか?
他の世界ではドラゴン種や竜種と呼ばれたりもするようだが
だが人にも近い者も居たりだなんだりで……俺も分からなくなってきたぞ
果たして俺は何類なのか、人生の謎の一つになった



●親近感が湧くとつい見てしまうよね
 ゲートを抜けてまっすぐ進めば、蒼い世界が広がっていた。
 そこは自然光と蒼いライトで心地よい薄暗さを演出していて、正面にある大きな水槽の中が際立って見える作りをしている。
「いやー、このくらい薄暗いと何か落ち着くよねえ」
 ね? と、霞末・遵(二分と半分・f28427)が隣で水槽を眺めている鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)に声を掛けた。
「そうだな、こういうのも悪くない」
 水に馴染みのある竜神としては、人工とはいえ確かに落ち着く空間ではある。実際海の中で見る景色に近いものがあったし、人は面白いものを作り出すなと感心すら覚えるほどだ。
「他には何がいるのかなあ」
「案内通りに進めば、一通り見られるだろう」
 それもそうだね、と遵が頷いて二人で矢印の通りに進んでいけば、トンネル型の水槽ドームでイルカに出迎えられたし、ふよふよ漂う一面のクラゲに如何にも毒を持っていそうな色をした色鮮やかなアメフラシやタコが見られた。
「見てよ惟継さん、色がヤバい」
「見るからに食べたら死ぬぞって色だな」
「この色は食べないんじゃない……?」
 だってピンクに青に黄色だよ、と遵が笑うけれど、人間何食べるかわからないから一概には否定できない。そんなカラフルな色をしたコーナーを通り過ぎ、次に向かった部屋はエビやカニなどの甲殻類を集めた部屋だった。
「あ、エビがいっぱいいるよ。おいしそうだねえ」
 広い水槽に伊勢海老がいっぱい、これは美味しそう。手長エビにボタンエビ、新種だという真っ赤なシレトコモロトゲエビ、ちょっと珍しい青いエビもいる。
「カニもいるよ、カニ。おじさんもあれくらい身が詰まってたらよかったのになあ」
 タカアシガニにタラバガニ、茹でても焼いても生でも美味しいんだよ……なんてしみじみと遵が呟く。完全に酒の肴を見るような目だ。
「エビもカニもいるものだろう、何せ水族館だからな。……見世物なのだから、食うこと前提に話すんじゃない」
「え? 好きじゃない?」
「いや、エビもカニも好きだが」
「ほら、好きじゃない」
 今晩は魚介が食べたくなっちゃったねえ、と笑いながら先を進む。
「惟継さん、グソクムシだって」
「グソクムシか……」
「ダンゴムシみたいで可愛いじゃない」
 子どもが見たら泣かないか? というサイズをしたダンゴムシだが。
「海のダンゴムシといった所だな」
 グソクムシの説明が載ったプレートを興味本位で覗いてみれば、海底に沈んだ生物の死骸などを食べる海の掃除屋という一文があって、惟継がなるほどと顔を上げる。
「海の掃除屋とも呼ばれているのか」
「有能じゃない」
 深海にいるから色が白いのかな、なんて遵が笑う。
「それにしても、遵殿は何故甲殻類にしか興味を示さんのだ?」
「え、なんでって? なんか親近感あって、つい。それに魚って捕食する側だし?」
 甲殻類だけに、という顔をして遵が惟継を見遣る。
「うぅむ、蜘蛛は甲殻類ではないが少なくとも魚よりは近いな」
 節足動物門という大きな括りの中では一緒だが、と惟継が遵に視線を向けた。
「でも金属みたいで綺麗だよね、無駄のないフォルムは好きだなあ。何かの参考になりそう」
「足が多い所とか……?」
「まあ足だね」
 迷いなく遵が頷き、熱心な目でグソクムシの観察を続けていた遵が次に行こうかと顔を上げた。
「惟継さんはウミヘビとかに親近感感じないの?」
 丁度あっちにウミヘビがいる、と遵が指さす。
「俺は竜だぞ、ウミヘビとは違う」
 ついでに言えばウツボとも違うぞ、とウツボのいる水槽を指さそうとした遵に言う。
「ないかあ。割と似てると思うんだけどなあ」
「似てるか……?」
「長いとことか、うねうねしてるとことか? まあウミヘビよりはヘビだよね。それよりもトカゲだけど」
 大きな蛇が天に昇り、龍になると考えられていた事もあるのだから一概に違うとは言えないけれど。複雑な気持ちになりつつも、そう言われると考えてしまうのが惟継の真面目なところ。
「そもそも竜は爬虫類に分類するものなのだろうか?」
「鱗があって陸上にいる生物ってそんなに多くないもんだよ」
「しかし、他の世界ではドラゴン種や竜種と呼ばれたりもするようだが」
 世界によって呼び名が違うのは多々ある事、そして幻の生き物であったり空想上の生き物だと思われていることも。
「だが人にも近い者も居たりだなんだりで……俺も分からなくなってきたぞ」
「……爬虫類じゃなかったら何類のつもりだったの?」
 きょとんとした顔で遵が問う。
「竜のつもりだったが、果たして俺は何類なのか、人生の謎の一つになった」
 水族館に来て人生の謎にぶち当たるとは思ってもみなかったな、と惟継がしみじみ呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐️2】
定番の巨大トンネル水槽をゆっくり歩く
アクリル板に閉じ込められた魚たちは、心地良さそうに泳いでいる

僕は海辺で育ったけど
それでも海の中の景色に詳しいわけじゃないよ
地元の水族館だって、好きな時に行ったりはできなかったし

一緒に出かける相手を選べるのは
僕らが大人になったからかな
言い方が回りくどいか……うん、楽しいよ、君と一緒だと

(照れ隠しにトンネル水槽を見上げて)
わーサメだ! 空飛ぶサメだ!
確かに宇宙みたいだね
宇宙なんて、それこそ行ったことないけどさ

…………
あるよ
宇宙人と交信しようだとか、本気で思ってたわけじゃないけど
ここじゃないどこかに行けるなら、海でも宇宙でも良かったのかも
風見くんは?


風見・ケイ
【🌖⭐️2】
水槽に囲まれて、海の中を歩いているみたい
なんて、海がない町で育ったくせに、知ったような口を利いちゃったな

水族館に行ったのも遠足の一度だけだし
大人になってからの方が多いんだ
何度来ても楽しく思えるのは、やっぱり海に憧れがあるのか
それとも――君と一緒だからかな

私たちが影にすっぽり収まるジンベイザメ
ゆるりと胸鰭を波打たせるマンタ
空を飛んでいるようにも見えて……照明の反射も相俟って
なんでだろう
宇宙みたいだと思った
私も、行ったことないはずなのにね

……夏報さんは、行ってみたいって思ったことはある?
私もあるんだ
いや、『星になりたい』が近かったかも
でも海の中がこんな感じなら、サメになるのも良いかも



●Blue Escape
 ゲートを抜けて一歩踏み出したら、そこには現実から少し離れたような蒼い世界が広がっていて、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は小さく感嘆の声を零す。
 それから、隣を歩く風見・ケイ(星屑の夢・f14457)を見遣って、きっと自分もこんな表情を浮かべているのだろうと笑みを浮かべた。
「綺麗なものだね」
「そうだね」
 言葉少なではあったが、ケイの言葉に夏報が頷く。きっと後ろを振り向けば現実の世界が見えるのだろうけれど、今はこのちょっとした非現実的な世界を楽しむのも悪くない。
 だから、二人は後ろを振り返ることなく真っ直ぐにエントランスの正面にある大きな水槽に向かったし、水槽の中を余すことなく見てから案内の通りに足を進めた。
 進んだ先に見えたのはイルカたちが泳ぐトンネル型の水槽ドーム、自然光が差し込むことにより足元に揺らめく水の影が海の中だと思わせる作りだ。
「元気いいね、イルカ」
「本物のドルフィンキックが見放題だ」
 南の海を思わせるアクアマリンみたいな色をした空間は、エントランスとはまた少し違った蒼の世界。これはこれでいいな、と時折立ち止まったりしながら前へと歩く。
「なんだか、海の中を歩いているみたい」
 夏報が心地よさそうに泳いでいる魚から目を離し、そう言った彼女を見遣る。
「なんて、海がない町で育ったくせに、知ったような口を利いちゃったな」
「僕は海辺で育ったけど、それでも海の中の景色に詳しいわけじゃないよ」
「そういうもの?」
 そういうもの、と返事をしてイルカ達が泳ぐ水槽を抜けた。
 続く道は徐々に深度を深めるように、蒼が濃くなっていく。
「水族館に行ったのも遠足の一度だけだし、大人になってからの方が多いんだ」
 あれは小学生の時だっただろうか、とケイが記憶を辿る横で、夏報が同じようなものだと笑う。
「地元の水族館だって、好きな時に行ったりはできなかったし。子どもなんて自由だけれど、不自由なものさ」
「でも」
 アクリルガラスの向こうで泳ぐ鮮やかな魚を突きながら、ケイが夏報と視線を合わす。
「大人になって、何度来ても楽しく思えるのは、やっぱり海に憧れがあるのか。それとも――君と一緒だからかな」
 こぽりと、空気が空に向かう音がした。
「一緒に出かける相手を選べるのは、僕らが大人になったからかな」
 一拍置いて、夏報が目を閉じて。
 再び藍色の瞳を開く。
「言い方が回りくどいか……うん、楽しいよ、君と一緒だと」
 真っ直ぐにケイを見て、そう言った。
 ふわりと、ケイの雰囲気が和らぐ。その気配を感じ、夏報の頬も緩んで。
 どうにも照れ臭くなってしまって、いつの間にか訪れていた巨大魚が泳ぐトンネル水槽を見上げた。
「わー、サメだ! 見ろよ風見くん、空飛ぶサメだ!」
 つられて見上げれば、二人をその影にすっぽり隠してしまうようなジンベエザメ。続くように泳ぐのはゆるりと胸鰭を波打たせるマンタ。思わず目を奪われて、ケイが本当だと小さく呟いた。
「本当に空を飛んでいるように見えるね」
「浪漫がないな、本当に飛んでるのさ」
 照明の反射も相俟って、ああ、本当に空を往くように見える。
「宇宙みたいだ」
 どうしてかそんな風に思えて、ケイが夏報を見遣る。
「確かに宇宙みたいだね」
 深い蒼がそう思わせるのだろうか、照明の煌めきが星のように見えたからだろうか。
「宇宙なんて、それこそ行ったことないけどさ」
「私も、行ったことないはずなのにね」
「でもさ、そんな風に見えたなら、宇宙でいいんじゃないかな」
 今この瞬間、此処だけ夏報さんと風見くんの宇宙だよ、なんて夏報が笑った。
「そうか、じゃあ此処が宇宙だとして」
「うん」
「……夏報さんは、行ってみたいって思ったことはある?」
 宇宙に、手を伸ばせど届かぬ宙に。
「……あるよ」
 ぽろりと転がり出た言葉は嘘偽りなく。
「宇宙人と交信しようだとか、本気で思ってたわけじゃないけど」
 ここじゃないどこかに行けるなら、海でも宇宙でも、どこでも良かったのかもしれないけれど。
「風見くんは?」
「私もあるんだ、いや、『星になりたい』が近かったかも」
 誰かの瞳に映る輝き、それがいつか燃え尽きてしまっても。
 そんな風になりたかったのかもしれない。
「でも、海の中がこんな感じなら」
 サメになるのも良いかも、なんてケイが笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
静かで落ち着きがあって私は好む場所だな。とてもいい。
テンションが上がっている露が私には少々気になるが…。
図書館のような静寂を求めない場所のようだし気にしない。

露とじっくり時間をかけ一つ一つみていこう。
回遊する海流や海層によって身体の形などが異なるんだな。
イルカやクジラは音で周囲の状況や獲物を探知する…と。
なるほど。興味深い。とても興味深い。
魔術の組み立ての参考に使えるかもしれないな。これは。
密着され頬をくっつけながら観て廻る…うっとおしいな…。
露は露で楽しんでいるようだからいいが…色々邪魔だ。
「…露…密着しながら観るのは…うっとおしい…」
一応言ってはみる。恐らく無駄だが。


神坂・露
レーちゃん(f14377)。
わあー。お魚が沢山いるわ♪すごーい。すごーい。
あ!なんだか水の中を歩いてるみたい…凄いわ♪
水族館って初めてきたけどこんなに楽しいのね。
「えへへ♪ レーちゃん♥」
ぎゅっ…と思いきり腕に抱きついて館内を歩くわ。
空調きいてるから暑くなくて過ごしやすいはず。
だからレーちゃんだって楽にあちこち廻れるわ。

「わ。このお魚、反射でキラキラしていて綺麗ね~」
一つ一つ丁寧にレーちゃんと一緒にみようと思うわ。
海の世界もこんな感じでお魚さん泳いでいたっけ…。

んー。浴衣着てる人達も多いわ。
こーゆーことならあたし達も浴衣で来ればよかったな。



●初めてを一緒に
「わあー!」
 わくわくした気持ちと一緒にゲートを抜けて、エントランスに一歩踏み込んだ神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は白い瞳に蒼い光りを湛えてシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)に振り向いた。
「レーちゃん、お魚が沢山いるわ♪ すごーい、すごーい!」
「落ち着け、露」
 テンションが上がっている露を宥め、シビラが大きな水槽の前に立つ。きゃあきゃあとはしゃぐ露が気になったけれど、近くにいた家族連れの子どもも同じようにはしゃいでいたので、ここは図書館のような静寂を求められるような場所ではないのだなと理解する。
 それならまあ、少しうるさいくらいはいいかと露を見遣る。私には少々気になるが、少しくらいは目を瞑ろうと水槽を見上げた。
「綺麗ねえ……」
 アクリルガラス一枚隔てた先にある海の世界を前に、露も心なしか大人しくなったような気がしてシビラが横目で彼女を見遣る。
「そうだな」
 きゃあきゃあとはしゃいでいた子どもも、同じように水槽を見上げているので、水族館という場所は不思議な物なのだなとシビラは思う。小さな声で喋る者はいるけれど、大声ではしゃいでいる者はいないのだ。
 静かで落ち着きのある空間では、人もそのようになるのだなとちょっと感心する。じっくりとエントランスの蒼い世界と水槽を堪能すると、二人揃って歩き出す。向かう先はイルカが待つというトンネル型の水槽ドームだ。
 道順通りに歩けば、すぐに南の海のような色をした水槽ドームが見えて、蒼い世界にも色々あるのだなと目を瞠る。
「あ! なんだか水の中を歩いてるみたい……凄いわ♪」
 イルカが水槽のアクリルガラスすれすれまで近寄ってくるのを見て、露が立ち止まる。それに付き合うようにシビラも立ち止まれば、露がシビラの腕に抱き着いた。
「露」
「えへへ♪ レーちゃん♡」
 大好き! と続けてもおかしくないような露の表情に、シビラは引き剥がすのを諦める。引き剥がそうとしたところで剥がれないのを知っているので、無駄な体力を使うよりくっつけていた方がマシという判断だ。
 腕にくっつけたままトンネルを抜け、一つ一つじっくりと時間を掛けて展示されている魚を眺める。観察していくと、回遊する海流や海層によって身体の形などが異なっていることが分かって、中々に面白いとシビラが説明の書かれたプレートなども余すことなく見て回る。
「レーちゃんも水族館が気に入ったのね~」
「そうだな、中々に有益だ」
 露とは逆のベクトルではあるけれど、楽しんでいるのに変わりはない。
「そうよね~、空調もきいてて暑くないし薄暗いからレーちゃんも過ごしやすいし、いい場所よね♪」
 水族館って初めて来たけど、過ごしやすし楽しいし、最高ね、と露もご機嫌だ。
 シビラからしても比較的露が大人しいので、たまに訪れるのも悪くないと頷きながら鯨の生態について書かれたプレートとその大きな骨を見遣る。
「イルカやクジラは音で周囲の状況や獲物を探知する……と」
 クジラは15~25Hz程度の周波数でコミュニケーションを取るのだとか、イルカの感知する周波数は150~15万Hzと幅広いなど、シビラにとっては興味深いことばかりだ。
「魔術の組み立ての参考に使えるかもしれないな、これは」
「え? 魔術?」
「ああ、参考になる」
「よくわかんないけど、レーちゃんが楽しいならあたしも嬉しいわ♪」
 本当に、全く分からないけれど。
 露が分かるのは、お魚が綺麗でかわいいことや、海の中には様々な生き物がいるということくらいだ。
 だけど、楽しみ方は人それぞれなんだもの。それでいいのよね、と露は満足気に笑った。
「わ。このお魚、反射でキラキラしていて綺麗ね~」
 大水槽を回遊するイワシの群れは迫力もあって、見応えがあるもの。
「海の世界もこんな感じでお魚さん泳いでいたっけ……」
 うーん、と考える露の腕の力がちょっと強くて、掴まれているシビラがうっとおしいな、という顔を隠さずに露を見る。
「なあに? レーちゃん♪」
 恐らく無駄だが、一応言っておくかとシビラが口を開いた。
「……露……密着しながら観るのは……うっとおしい……」
 あと力が強い。
「やだ~ごめんなさい! 痛かった?」
 そっと腕の力を緩めるが、離す気配がない露に大丈夫だとシビラが小さく息を零して言う。ほら、やっぱり無駄だったと思いながら。
「よかった! それにしても……浴衣着てる人達も結構多いのね」
「ああ、浴衣を着用して来てもいいと言っていたな」
「こーゆーことならあたし達も浴衣で来ればよかったな。また今度だと浴衣の季節過ぎちゃうもの」
「また来ればいいだろう、来年じゃダメなのか」
 シビラの言葉に、露がパッと顔を明るくして。
「じゃあ、来年! レーちゃんも浴衣でね?」
 先の約束が嬉しくて、露が今日一番の笑みを浮かべてシビラにくっついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花


「ジンベイザメ…凄く見たかったのです」
新浴衣で下駄カラコロ

「…わぁっ」
最初の海豚でもう足を止め
「此が小型鯨類…可愛くて人懐っこくて美味しい…」
大家の婆ぁの大好物なのを思い出し
「味噌煮とタレ焼き…皮の下の脂肪を細切り湯引きで酢味噌が最強なんでしたか…」

鯵やきびなごの銀の渦を見ても
「綺麗…刺身でいけそう…」

海月見て
「癒されます…此すら酢の物や拉麺になるなんて…」

クエ見て
「高級魚…圧倒的高級魚…一体何人前に…目玉と唇の争奪戦…」

鮫とエイも
「唐揚げ湯引き刺身が同じ水槽…素敵…」

4時間以上かかってやっとジンベイザメに
「此が豆腐鮫…大きい…」

全魚種脳内で料理検索
各槽十分以上長いと1時間足止め妄想に浸った



●水槽の前で、美味しそうと彼女は呟いた
 桃色の縦縞を刷いたような、桜が咲き誇る白地の浴衣を身に纏い、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)がカラコロと下駄を鳴らしてゲートを通る。
「ジンベエザメ……凄く見たかったのです」
 この水族館のメインの一つでもあるジンベエザメ、きっと見応えがあるんでしょうねとわくわくする気持ちを抱いて、桜花がエントランスに足を踏み入れた。
 エントランス一面に広がるのは蒼い世界、浴衣も薄っすらと蒼を映して、まるで自分が海の底に落ちた一輪の桜のよう。
「素敵な空間です……!」
 正面の大きな水槽を見上げれば、色鮮やかな魚達が泳いでいる中に自然光が差し込んでいるのが見える。キラキラと眩しく輝く光が水槽の中に作られた海の世界をより一層引き立てているように見えた。
 暫くの間堪能し、ジンベイザメを目指して道順通りに歩き出す。
 カラコロと下駄が鳴る音をお供に進んでいくと、トンネル型の水槽ドームの中にイルカが楽しげに泳いでいるのが見える。
「……わぁっ」
 思わず端っこで足を止め、アクリルガラスに額がぶつからんばかりの勢いでイルカに熱い視線を送って――。
「此が小型鯨類…可愛くて人懐っこくて美味しい……」
 と、聞いている者が居れば二度見するような言葉を呟いた。
 否、確かにイルカを使った料理はある、現代地球で言えば静岡の一部地域では冬になるとイルカの切り身が魚売り場で売られているそうで。
「味噌煮とタレ焼き……皮の下の脂肪を細切り湯引きで酢味噌が最強なんでしたか……」
 今、桜花の脳裏に浮かんでいるのは彼女が世話になっている大家の婆ぁの大好物である。食材を見て即献立を思い浮かべられるのは長所、そう、彼女の長所、のはず。
 立ち止まって三十分、時折捌く手付きをみせながらも、桜花は名残惜し気に次の展示物へと向かう。
「まあ、海月……癒されます……此すら酢の物や拉麺になるなんて……」
 ふわふわと揺蕩っているクラゲを見ては、酢の物に思いを馳せ。
「なんて綺麗な銀の渦……刺身でいけそう……なめろうも忘れちゃいけない……」
 鯵の群れが渦を巻いて泳ぐのを見ては、新鮮な刺身と鮮度が命のなめろうに焦がれ。
「高級魚……圧倒的高級魚の面構え……一体何人前に……? 間違いなく目玉と唇の争奪戦が……」
 クエを見ては何人前の鍋になるだろうかと思案し、このサイズなら十人前はいけるはずだと甘い溜息を零し。
「唐揚げ湯引き刺身が同じ水槽……素敵……」
 鮫とエイが泳ぐ水槽の前では、食べ放題を夢想した。
 全魚種脳内で料理検索を繰り返し、桜花がお目当てのジンベエザメに対面を果たしたのは実に四時間後のことで。
「此が豆腐鮫……大きい……」
 もちろん彼女、ぶれることなくジンベエザメの味や食感からついた名前をうっとりとした表情で呼んだのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
たくさんの生き物を見て
ショップでお土産もたくさん買って
今はカフェでのんびり

テーブルにお土産を並べて梓と見せ合いっこ
俺が買ったのはメンダコのキーホルダー
ダイオウグソクムシのぬいぐるみ
チンアナゴのクッション
色んな魚がプリントされたクッキー、他いろいろ
いやーどれも魅力的で厳選するの大変だったよ
む、ダイオウグソクムシやチンアナゴをバカにしちゃいけないよ?
他の魚たちに負けないくらい大人気なんだからね

しばらくしたら注文したメニューが到着
俺のは魚の形のパンケーキと、ペンギンが描かれたラテ
どっちも可愛くて写真撮影する手が止まらない
あっ、梓のカレーも可愛い~
ねぇねぇ写真撮らせて、あと一口ちょーだい


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
カフェのテーブルの上にどんどん店を広げる綾
本当に店でも始める気か?ってくらい出るわ出るわ
よくもまぁそんなに買ったなぁ…
しかもダイオウグソクムシとかチンアナゴとか
妙にイロモノが多いような
もっとこう、イルカとかペンギンとか
王道に可愛い土産も色々あっただろうに

ちなみに俺が買ったのは仔ペンギンのぬいぐるみ
焔が欲しい欲しいとおねだりしてくるから仕方なくだぞ
…スペースシップワールドにこんな猟書家幹部いたような

綾のと同時に俺が頼んだペンギンカレーも到着
カレーの海の中に白米のペンギンが泳いでいるようで可愛い
なるほど、こういう盛り付け方もあるんだな…
あー、分かった分かったから!お前は女子か!



●アクアリウム・カフェタイム
 水族館と言えば海の生き物を見る場所だけれど、隠れた人気スポットになっているのが海の生き物をモチーフにしたランチやスイーツを扱うアクアリウム・カフェだ。
「いっぱい見たねえ」
「そうだな、思ったよりも時間が過ぎるのが早いよな、水族館って」
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)もカフェのチェックは怠っておらず、たっぷりと水族館を楽しんだ後に、このカフェへと訪れていた。
 このカフェの特徴は壁一面を水槽とし、ミニチュアながら南国の海を作り出しているところで、色鮮やかな魚達が目を楽しませてくれるのだ。
「たくさんの生き物を見て、お土産もたくさん買って、熱帯魚を眺めながらカフェでのんびり……休日って感じでいいよね」
「今日ぐらいはゆっくりしてもいい気がしてくるな……」
 アポカリプスヘルでの戦争も終わって、一息つくには丁度いい。
 休めるうちに休むのも仕事の内だと綾が楽しそうにメニューを捲って、これもいい、あれもいいと散々迷ってから注文を済ます。
「海の生き物モチーフのメニューって思ったよりたくさんあるんだね」
「ああ、特にスイーツ系がすごいな」
 勿論、スイーツだけでなくがっつり系のメニューにもあって、メニューを見ているだけで楽しいくらいだ。
「頼んだのが来るまで、買ったお土産見ようよ」
 いそいそと綾がショップの袋に手を突っ込んで、じゃーん! とばかりに並べていく。
「お前、色々買ったな……いや持ってるショップの袋がでかいとは思ってたが」
 よくもまぁそんなに、ってくらい出てくるお土産の数々に梓が飽きれたような声を出すけれど、綾は気にせず、まだあるよとばかりに袋から取り出していく。
「まずはメンダコのキーホルダーでしょ」
 メンダコといえば深海のアイドルとまで言われた、何とも言えないフォルムのタコだ。
 そのメンダコをデフォルメした小さなぬいぐるみが付いたキーホルダー、文句なしに可愛い。
「それからー、ダイオウグソクムシのぬいぐるみ」
「でっかいなおい」
 あのダンゴムシなフォルムを可愛くデフォルメしたちょっと大きめのぬいぐるみ。
「なんと、大中小あって上に乗せられるんだよ」
「大中小買ったのかよ」
 ほら、と大きなダイオウグソクムシのぬいぐるみの上に、中サイズと小サイズを乗せればちょっと可愛い。
「こっちは俺のおすすめ、チンアナゴのクッション」
「いやでけぇよ!」
 クッションというよりは、もう抱き枕では? と思う大きさのチンアナゴ、これももれなく可愛い。
「あとは色んな魚がプリントされたクッキーにクラゲモチーフの饅頭、チンアナゴの容れ物に入ったふりかけでしょ。いやーどれも魅力的で厳選するの大変だったよ」
 他にも色々、と屈託なく綾が笑う。
「カフェで店を広げるんじゃない、仕舞え仕舞え」
「可愛いのに」
 そういう問題じゃない、料理が来ても置く場所がないだろうと梓が言えば、綾もそれはそうだねと袋に仕舞っていく。
「しかしダイオウグソクムシとかチンアナゴとか、妙にイロモノが多いような……」
 もっとこう、イルカとかペンギンとかジンベエザメとか、王道に可愛い土産もあっただろうに、と梓がダイオウグソクムシのぬいぐるみを抱いた綾を見遣った。
「む、ダイオウグソクムシやチンアナゴをバカにしちゃいけないよ?」
「バカにはしてないが、なあ?」
「そうは言うけど、他の魚たちに負けないくらい大人気なんだからね」
 そう、意外に人気があるのだ、特にチンアナゴは子どもにも受けがいい。
「梓は何を買ったの?」
「俺か? 俺は仔ペンギンのぬいぐるみだ」
「梓にしては可愛いのを選んだね」
「これは焔が欲しい欲しいとおねだりしてくるから仕方なくだぞ」
 自分の竜に甘い梓らしい話である、綾にも甘いけど。
「……そういや、スペースシップワールドにこんな猟書家幹部いたような」
「いたね……」
 銀河皇帝ペンギンの、もふもふした可愛いのが。
 そんな話をしていると、丁度梓が頼んだペンギンカレーが運ばれてきて、二人で笑いそうになって必死で堪える。すぐに綾の頼んだメニューも揃って、机の上は可愛い食べ物でいっぱいだ。
「実物も可愛いね」
 魚の形のパンケーキにペンギンが描かれたラテ、チンアナゴのミニパフェと写真を撮る手が止まらない。
「なるほど、こういう盛りつけ方もあるんだな……」
 カレーの海の中に、ペンギンの形をした白米が顔を覗かせている。海苔やハムで飾られたペンギンがまた何とも言えない可愛らしさだ。
「あっ、梓のカレーも可愛い~。ねぇねぇ写真撮らせて、あと一口ちょーだい」
「あー、分かった分かったから! お前は女子か!」
 仕方ないなと言うようにペンギンカレーの皿を綾に向け、気が済むまで写真を取らせたらお待ちかねの実食タイム。
「ん~美味しい!」
「食べるのは躊躇わないんだな……」
 ペンギンの顔をどこから崩すか迷いながら、梓が綾の食べっぷりに小さく笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唄夜舞・なつめ
【蛇十雉2】
おぉーすげー!
これが水族館ってやつかァ!
お、あのイルカ、こっち見てンぞ!
クク、可愛いやつだなァ

ン?俺に似てる魚?
…って、サメ!?…似てるかァ…?
俺のほーがかっこくねェ?

…あ!コイツときじみてェ!
(その場に屈んで手招き)
ははっ、
うねうねしてるヤツに隠れてら!
『かくれくまのみ』…ってやつ!
えっ…毒、効かねーの?!
すげーじゃんコイツ!

なんか土産買って帰ろーぜ!
食いもんとか…揃いのモンとか!
お!さっきのサメと
『かくれくまのみ』のぬいぐるみとか
いーんじゃねェ?
…や、俺っていうか
お前が好きそーだなって

そンならお前はサメ!
俺ァくまのみ、な!
そうすりゃ、今日のことも
お互いのことも思い出せンだろ?


宵雛花・十雉
【蛇十雉2】

久しぶりだなぁ、水族館
夢中になって迷子にならないように気を付けてね

ほんとだ、こっち見てる!
イルカに笑顔で手を振るよ
人懐こいね、人間のこと分かるのかな

見て見て
あの魚なつめに似てるよ
そう言って指さしたのは、大きな口に鋭い歯のサメ
はいはい、かっこいいから張り合わないの

え、オレに似てる魚?
どれどれ…
あ、この魚見たことあるよ
オレってこんな感じ?

水槽の側に書かれた豆知識を読んでみる
へぇ、カクレクマノミってイソギンチャクの中に住んでるんだ
毒がある生き物の中に住めるなんて
小さくて可愛いけど実は凄いのかも?

なつめってぬいぐるみ好きなの?
なーんて冗談
え…ま、まぁ、嫌いじゃないけどさ
有難う、大事にするよ



●似てる? 似てない?
 チケットを手にした二人が水族館のゲートを通る。
 一人は水族館は初めてという唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)で、エントランスに向かって踏み出す一歩はなんだかわくわくとした足取りだ。
 もう一人は久しぶりの水族館だと笑う宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)、なつめよりは落ち着いて、でもやっぱりわくわくとした気持ちは隠せない。
「おぉーすげー!」
 踏み込んだ先に見えた蒼い世界に、なつめが小さく歓声を上げる。
「これが水族館って奴かァ!」
「オレは久しぶりだけど、この水族館は蒼がテーマなんだね」
 水族館にも色々で、テーマによってはガラっと雰囲気を変えるもの。以前訪れたことのある水族館は夜のお泊りができるというものだったけれど、今日は自然光が差し込んでいてあの日のイメージとはまた違って見えた。
 エントランス正面の水槽に向かって真っ直ぐ進むなつめに笑い、十雉がその背中に声を掛ける。
「夢中になって迷子にならないように気を付けてね」
「ガキじゃあるまいし、ならねェ……ならねェよな?」
「多分ね」
 迷子になったらその時はその時だけど、走らなければ大丈夫、多分。
 エントランスの水槽を離れ、こっちだよと十雉が夏目の隣を歩く。
「大抵はね、道順通りに行けば大丈夫」
「道案内の矢印あンのか、親切だなァ」
 道順に従って行けば、大抵は全部見られるはずだと話しながら、二人が到着したのはトンネル型の水槽ドーム。外からの自然光が差し込んで、まるでアクアマリンの中にいるかのよう。
「ここはイルカが泳いでるんだね」
「お、あのイルカ、こっち見てンぞ!」
 ほら、となつめが指さした先、イルカが二人をじっと見るようにアクリルガラスに近寄ってくる。
「ほんとだ、こっち見てる!」
 思わずイルカに笑顔を向けて手を振れば、イルカが二人に向かってバブルリングを飛ばす。
「バブルリングだ、いいもの見たね」
「バブルリング? って言うのか、今の」
 イルカが口から吐き出した泡の輪っかに、なつめは興味津々だ。
「イルカの遊びのひとつらしいよ。人懐こいね、人間のこと分かるのかな」
「クク、可愛いやつだなァ」
 イルカにもう一度手を振って別れを告げ、次は何がいるのかと二人が館内を進んでいく。幾つかの部屋で展示物を眺め、次に入ったのはドーナツ型になった水槽の部屋。
 ぐるぐると回遊する魚達の中の一匹を十雉が指さした。
「見て見て、あの魚なつめに似てるよ」
「ン? 俺に似てる魚?」
 どれだよと覗き込んだ先には、大きな口に鋭い歯を持つ獰猛そうな鮫。
「……って、サメ!? ……似てるかァ……?」
 確かに歯は似てるかもしれないけれど。
「……俺のほーがかっこよくねェ?」
 ニィ、と歯を見せて笑ったなつめに、十雉が思わず吹き出して。
「はいはい、かっこいいから張り合わないの」
 二人で笑いながら次の展示物を目指す。クラゲやウミウシ、タコやカニの展示を見て回り、足を止めたのは南国の海をモチーフにした部屋。他に比べれば小さめの水槽の中に、カラフルな世界が広がっていた。
「……あ! コイツときじみてェ!」
「え、オレに似てる魚? どれどれ……」
 水槽の前にちょこんと屈んだなつめに付き合い、十雉もその隣にしゃがむ。
「ははっ、うねうねしてるヤツに隠れてら! ええと、『かくれくまのみ』……ってやつ!」
 これ、と指さした先にいたのはイソギンチャクの中に埋もれるように身を潜めるカクレクマノミ。
「あ、この魚……オレ見たことあるよ」
 オレンジと白の縞々模様もかわいらしい、小さな魚だ。
「っていうか、オレってこんな感じ?」
「こンな感じじゃねェ?」
 言いながら、水槽の近くに設置された簡単な説明と豆知識を二人で読む。
「へぇ、カクレクマノミってイソギンチャクの中に住んでるんだ」
「このうねうねの中に住むのか」
「毒がある生き物の中に住めるなんて、小さくて可愛いけど実は凄いのかも?」
「えっ……毒、効かねーの?! すげーじゃんコイツ!」
 つまりは十雉もすごい奴ってことだな、なんてなつめが笑うから、十雉は少し恥ずかしくなって頬が薄っすら赤くなる。
「あ、照れた」
「照れてないってば」
 なんて言い合いながら、また館内を歩き回って見つけたのはお土産物屋。
「ときじ、なんか土産買って帰ろーぜ! 食いもんとか……揃いのモンとか!」
「ん? いいよ、何がいいかな」
 揃いの、という言葉に嬉しそうに笑って、どれがいいか二人で眺める。
「ときじ、ときじ! さっきのサメと『かくれくまのみ』のぬいぐるみとかいーんじゃねェ?」
 カクレクマノミはさっき見たのと同じサイズ、鮫はカクレクマノミよりも大きなサイズで。
「可愛いけど、なつめってぬいぐるみ好きなの?」
 なーんて、冗談だよって言うよりも先に、なつめが口を開く。
「……や、俺って言うかお前が好きそーだなって」
「え……ま、まぁ、嫌いじゃないけどさ」
 可愛いものは実際好きだし、ぬいぐるみだって嫌いじゃないとは言ったけれど、どっちかと言われたら好きだ。
「そンならお前はサメ! 俺ァかくれくまのみ、な!」
 決まり、となつめが二つのぬいぐるみを手にし、声を掛ける暇もなく会計を済ます。それから、十雉にサメのぬいぐるみを持たせ、自分は手の平にカクレクマノミのぬいぐるみを乗せて笑った。
「そうすりゃ、ぬいぐるみを見る度に、今日のこともお互いのことも思い出せンだろ?」
「うん、そうだね、そうだ。有難う、大切にするよ」
 今日の思い出がぎっしり詰まった鮫のぬいぐるみを抱いて、十雉もなつめと同じように笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
◎マコ(f13813)と

こういうデートスポット的なの
あんまり来たことなかったな
ボソリと呟き漏らせば
黙りしたままの
隣の彼を下から覗き込む
瞳を細めて、ふ、と笑って

ほら、行こうか、マコ

手を差し出してエスコート
暗い道も何のその
泳ぐ魚たちを見て楽しみ
ふと視線を移せば黒猫の姿
ガウェイン出てくるの珍しいな
目一杯、楽しめよ
海の生き物模したカフェで
腹を満たした後は土産コーナーへ

今日の記念に揃いのモン買おうか
バックチャームもぬいぐるみも良いなと目移り
お前を独りにすると
まーた無理しそうだからな
監視役としてオレを置いといて
なんて、マコの髪をぐしゃぐしゃにして
不意に顔を近づければ耳許で
──さみしくなる前に、ちゃんと呼べ


明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

蒼の煌めきが瞳に反射し
綺麗な魚の泳ぐ姿を無意識に視線で追って
隣の彼の呟きに一瞬の間が空き
意味を咀嚼した瞬間じわりと頬が熱くなり
何とか相槌を打つ

……エスコートに大いに照れつつ従順にその手を取り
俺のフードの内側から、黒の子猫──ガウェインが顔を出していて
水槽の向こうの魚に興味津々、ちいさな前足を伸ばす
その様子が可愛くて、ルーファスらとガウェと共に周り
カフェで一息ついた後に土産コーナーへ

お揃いか、いいな
然し不意の彼の言葉に愈々真っ赤になり
──大丈夫、と
伝えて彼を安心させねばならないのに
煩い鼓動に言葉も上手く出ず
こく、と辛うじて頷くことしか出来ない



●Call my name
 人気のある水族館とあって、家族連れの姿も多く見える。勿論、友達同士ではしゃぐ人々や、一人でのんびり楽しみに来た人々、それから仲睦まじげな恋人同士の姿も。
「そういや、こういうデートスポット的なのあんまり来たことなかったな」
 思わず、といった風にルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)がぽつりと零すと、それまでエントランスの正面にある大きな水槽で泳ぐ魚を目で追っていた明日知・理(月影・f13813)の視線の動きが止まった。
 それから一拍の間があって、理がルーファスの呟いた言葉の意味を理解し、じわりと頬を熱くする。そうして、黙ったまま相槌を打つように下を向いて口元を押さえた。
 その様子を見て、ルーファスがそっと黙ったままの彼を下から覗き込む。
 自分にしか見ることのできないその表情に目を細め、ふ、と笑って。
「ほら、行こうか、マコ」
 甘やかな声で囁くとそっと手を差し出し、エスコートだと唇を持ち上げた。
「……っ」
 ここが蒼くライティングされた場所で良かったと、心底思いながら理が彼の手を取る。そうでなければ、先程よりも真っ赤になった顔が誰からもわかってしまうだろう。至近距離でしか確認できないような自分のこの熱を見るのは、彼だけでいいのだから。
 伸ばされた手に指先を絡め、ルーファスが理を連れて歩き出す。
 蒼い世界を二人で進むと、見えてくるのはイルカ達が楽しそうに泳ぐトンネル型の水槽ドーム。夏の終わりの空を映し込んだような綺麗な青の中を歩けば、アクリルガラスの向こうで数匹のイルカが自分達を追い抜かすように泳いでいくのが見えた。
「楽しそうだな」
「ああ、遊んでいるんだろうな」
 イルカは楽しいことが好きらしいから、と理が言う。
 楽しそうなのはお前だけど、と言おうとしてルーファスが止めた、言ってしまえば僅かに綻んだ口元が引き結ばれる気がしたので。
 トンネルを過ぎると、今度は様々なテーマや生き物に纏められて展示されている部屋を幾つか覗く。クラゲがふわふわと漂う部屋に、エビやカニ等の甲殻類が集められた部屋。その中には珍しい種もあって、思わず立ち止まって二人で眺めて顔を見合わせる。
「スベスベマンジュウガニ……?」
「見たままの名前を付けたりするからな」
 見たまんま過ぎるんじゃないかと笑いながら歩けば、今度はイワシが餌を求めて群雄するイワシのトルネードと呼ばれる現象が見られる水槽で立ち止まった。
「すごいな」
 そう呟いてルーファスが理を見ると、彼のフードの内側から黒い子猫が顔を出そうともぞもぞしているのが見えた。
 黒猫――ガウェインは水槽の向こうで舞うように泳ぐ魚に興味津々のようで、小さな前足をアクリルガラスの向こうの魚に向かって、てしてしと伸ばしている。
「ふは、ガウェインが出てくるの珍しいな」
「魚が気になるみたいだ」
 てし、てし、と小さな前足を何度も伸ばす様子が可愛らしくて、理は黒猫をフードの中に潜らせるのを諦めて一緒に眺めることにした。
 特にガウェインの反応が良かったのは巨大なジンベエザメやマンタが泳ぐ、エントランスよりも大きな水槽。理の腕の中を飛び出そうとするのを二人で宥め、水槽を見上げる。
「目一杯楽しんでるか?」
 理にもガウェインにも問い掛けるようにルーファスが言うと、ガウェインの耳がぴこりと動き、理が笑みを浮かべて繋ぐ指に力を込めた。
 たっぷり水族館を満喫した後は、海の生き物をモチーフとしたカフェでお腹を満たそうとメニューを覗き込む。
「可愛いのが多いな」
「子どもも多いからじゃないか」
 イルカの形をしたパンや、ペンギンの形をしたカレー、スイーツに至ってはメンダコやジンベイザメをかわいいケーキにしたものや、海の中をイメージしたドリンク等があってどれにしようかと目を彷徨わせる。
 少し迷って、シーフードたっぷりのカレーと、タコさんウィンナーが可愛いナポリタン、それとジンベエザメのケーキを半分こして、ガウェインにもちょっと分けてとしっかりカフェを堪能したのだった。
 お腹が膨れたら、次は土産物だと中々に広い土産コーナーに足を運んで、どれがいいかじっくりと品定めだ。
「今日の記念に揃いのモン買おうか」
「お揃いか、いいな」
 バックチャームにぬいぐるみ、どれにしようか見比べて。
「お前を独りにすると、まーた無理しそうだからな」
 それから、何てことないようにルーファスがジンベエザメのぬいぐるみを手に取って。
「監視役としてオレを置いといて」
 そう言って、理の髪をぐしゃぐしゃにするように撫で、距離を詰める。
「──さみしくなる前に、ちゃんと呼べ」
 耳元で囁く声は、甘く熱を孕んでいて。
 大丈夫、と伝えなければいけないはずなのに、炙られた鼓動は煩いばかりに跳ねて上手く言葉を紡げない。
 だから、理は彼の手をきゅっと握って、こくりと頷いた。
「いい子だな」
 それでもルーファスには充分に伝わったようで、柔く爪先を撫でられて理は顔を真っ赤にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファン・クロウフォード
【箱2】◎
戒の浴衣、ブルーグレーをベースに咲き乱れる白椿が白抜きで柄付けされた絵柄を選ぶ
戒が見立てた花火柄の浴衣で水族館へ
見たいもの?戒をずっと見ていたい。スマホに保存した写真を見せる
水族館の青色に白椿が映えて、きれいで華やな戒の完全なる美しさ
イルカの出迎えに無邪気にはしゃぐ、至上の愛らしさ
な。花言葉までピッタリだ
カフェのオムライス、海亀の形してるらしい。カレーを泳ぐジンベイザメライスも、美味しそうで楽しみ
ジンベイザメの水槽で二人で写真を撮ろうか
ふれあいコーナーでナマコをいじりつつ他愛のない数分先の未来の話しをして笑い合う
ナマコ苦手?可愛い。ナマコを戻して、手を繋いで未来を実現させようっと


瀬古・戒
【箱2】◎
浴衣一緒に選び水族館へ
和柄とか…花火柄とか似合うんじゃねぇかなって
選んでくれた浴衣着るとなんか、ふわふわする…
一緒にいれる何気ない時間が愛しいよ……当然口には出さないが

なぁラファンは何みたい?…おいコラ、俺見てどーするよ
…白椿の花言葉?す、すぐそーゆーコト言う…おら、クラゲの水槽行くぞ!あ俺、ジンベイザメ見たい!デカイかな?ご飯の時口あけるの見なきゃだし、オムライス食べなきゃだし、お土産にジンベエザメのストラップ欲しいし…はっ!ふれあいコーナーある!いこ!イソギンチャクつつかなきゃ!わ……そののぺっとしたの……な、ナマコか……な、手に乗して?わ、動いた!ひぇ変な感じ…と、ととって!



●浴衣の君と水族館デート!
「まずは浴衣だと思う、戒」
「なんて?」
 ラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)の第一声に、瀬古・戒(瓦灯・f19003)が浴衣? と首を傾げる。
「そう、浴衣だ。折角浴衣を着て行ってもいいんだ、着るべきだと思うんだ」
「え、え?」
 だからほら、浴衣を選びに行こうとラファンが戒の手を掴んで、今に至るという訳だ。
「全く分からんけど、浴衣の一着くらいはまあ、持っててもいいかなって」
 思う、とラファンが選んだ浴衣を身に纏った戒がごにょごにょと鏡の前で呟く。
 ブルーグレーをベースに白椿が咲き乱れる浴衣は、白抜きで柄付けされた上品なもの。帯は白でシンプルなものだが、紺色の帯締めを結んでキリッとした印象になっている。
「選んでくれた浴衣着るとなんか、ふわふわする……」
 一緒にいれる何気ない時間が愛しいと口には出さずに微笑んで、浴衣が似合うかどうかくるりと回って鏡で確認する。まるで自分の為に誂えたように似合っていて、思わず唇が綻んだ。 
「ラファンの奴、意外とセンスあるんだよな……」
「俺がどうした?」
「うわっ!? びっ、びっくりするだろ……って、おお」
 振り向いた先には戒が選んだ浴衣を着たラファンがいて、その姿に思わず感嘆の声が出た。
 濃紺の地によろけ縞、そこに白抜きの花火柄が派手過ぎず丁度いい。締めた帯は戒のと同じくシンプルな白だが、差した白兎の根付の赤い組紐が鮮やかさを出している。
「和柄とか花火柄が似合うんじゃねぇかなって思ってたけど、いいじゃん」
「戒が見立てた浴衣だからな、似合っているに決まっているだろ。戒こそ、俺が見立てた浴衣がよく似合ってるぞ」
 満足気な顔をしたラファンが力強く頷き、それじゃあ行こうかと隣に並んで歩き出した。
 からころと下駄の音を響かせて、二人がゲートを抜ける。その先には蒼い世界が広がっていて、まるで海の中のよう。
「綺麗だな、人気のスポットっていうのもわかる気がするぜ」
 エントランスの正面にある水槽を覗きこみ、戒が笑った。
 それから道順に沿って歩けば、トンネル型の水槽ドームではイルカ達が訪れた二人を歓迎するかのように泳ぎ回っているのが見られ、戒が無邪気にはしゃいでラファンに問うた。
「イルカもいいな! なぁ、ラファンは何見たい?」
「見たいもの? 俺は戒をずっと見ていたい」
 物凄く真面目な表情をしてラファンが言うと、スマホのカメラを戒に向けてパシャリと撮った。
「……おいコラ」
 俺見てどーするよ、あと撮るなら水槽の中の魚だろ、と戒がぷくりと膨れる。
「何見たいって言うから正直に答えたのに」
 解せぬ、という顔をしながらもラファンがじっと戒を見つめると、戸惑う戒に向かって撮った写真を見せた。
「まず、水族館の青色に白椿が映えて、きれいで華やかな戒の完全なる美しさ」
「隠し撮りじゃん」
「そしてこれが今さっき、イルカの出迎えに無邪気にはしゃぐ、至上の愛らしさ」
「イルカ撮ってたんじゃなかったのかよ!」
 それはそれで撮れているが、全ての写真に戒がフレームインしている。さすがラファン、ぶれない。
「な。花言葉までピッタリだ」
 白椿には完全なる美しさ、至上の愛らしさという花言葉があるんだと、ドヤ顔で説明している。
「……白椿の花言葉? す、すぐそーゆーコト言う……! おらっ、クラゲの水槽行くぞ!」
 花言葉まで考えて浴衣を選んでくれたのかと思うと、頬が熱くなってきて。
 こんな明るい水槽の前ではバレてしまうと、ラファンを置いていく勢いで戒がトンネルを抜けてクラゲが集められた部屋へ向かった。
「おー……クラゲだ」
 ふよふよと浮かぶクラゲを前にすると、色々な考え事が吹っ飛んだ。すごい、癒される。ラファンもきっとここならクラゲを見ているだろうと、戒がラファンを見れば視線が合う。
「……クラゲ見ろよ」
「クラゲも見てる」
 メインは戒、とキッパリ言い切るラファンに諦めを覚え、戒はしょうがないなと息を吐く。少し嬉しいと思ってしまったのは内緒だ。
 さて、次はどこを見ようかと案内図を広げつつ、二人で顔を突き合わせて覗き込む。
「あ、俺ジンベエザメ見たい!」
「ジンベエザメか、いいな」
 その『いいな』は間違いなくジンベエザメと一緒の戒がいい、なのだが。
「デカイかな? ご飯の時口あけるの見なきゃだし、ご飯と言えばカフェでオムライス食べなきゃだし」
「デカイと思う。カフェのオムライスは海亀の形してるらしい、ちなみにカレーの海を泳ぐジンベイザメライスが俺は楽しみ」
 それも美味しそうだなと、戒の瞳が輝く。
「ジンベエザメの水槽で二人で写真を撮ろうか」
「いいな、撮ろうぜ! 後はお土産にジンベエザメのストラップ欲しいし……はっ! ふれあいコーナーがある!」
「道順的にはふれあいコーナーが近いな」
 よし、行こう! と、ふれあいコーナーに向かい浅い水槽を上から見下ろす。
「イソギンチャク! イソギンチャクいる? つつかなきゃ……って、そののぺっとしたのなんだ?」
 イソギンチャクを突く使命に燃える戒の横で、ラファンが戒曰く『のぺっとしたの』を見遣る。
「ナマコか……ナマコ……な、ラファン、手に乗して?」
 取り敢えずふれあいコーナーにいるのだから触れるのだろう、両手をお皿の形にして戒がラファンにねだる。恋人のおねだりなら何だって聞く男なので、ラファンは躊躇いなくナマコを掴んで戒の手の平の上に乗せた。
「わ、動いた! ひぇ……へ、変な感じする……と、ととって!」
 ラファン! と言う彼女が可愛くて、もう少し見ていたい気もしたけれど、そっとナマコを戻す。
「ナマコ苦手?」
「なんて言うか、ぬるぬる……? ぬめ……?」
 ナマコを凝視しながら手をじっと見つめる戒を可愛いと写真を撮ってから、念願のイソギンチャクを突かせる。それから水道で手を洗い、次はジンベエザメだと言う戒の手をさりげなく取って指を絡めた。
「ら、ラファン?」
「うん、ジンベエザメを見て写真を撮って、さっき言ってたこと全部やろう」
 さっきまで話していた数分先の未来の話を、本当にしに行こうとラファンが笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

水族館ですって
楽しみね、ゆぇパパ!

今年仕立てた白地に黄と蒼の花柄の浴衣よ
えへへーパパは黒地にお花柄だし
何だか対みたいで、うれしい

逸れない様に手をぎゅっと
わあ、大きな水槽の中であんな大きなお魚!
マンタさん、っていうのね
ルーシー初めて見た
ゆるりお空を飛んでるみたい
気持ち良さそう、いいなあ
イルカさん!どこどこ??

あ!クマノミさん!かわいいわ
イソギンチャクに隠れてる
えーごあいさつしましょう?出ておいで~?

ねえパパ、お土産買ってもいい?
キーホルダーになった小さなクマノミのぬいぐるみをふたつ
一つはパパにプレゼント
もう一つはルーシーに
おそろい、したいなって
だめ?

マンタさん…!ありがとう!
大事にするわ


朧・ユェー
【月光】

大きな水族館ですねぇ
えぇ、そうですね

真っ黒な浴衣を着て
くるくる回る娘の姿にくすりと笑って
よく似合ってますよ。対?ふふっ、そうですね
僕も嬉しいですよ

手を繋いでゆっくり歩く
マンタは普段見れませんからね
一緒に泳いだら楽しそうですね
ルーシーちゃん、あちらのトンネルにイルカさんですよ

おや、クマノミ?
本当に可愛らしい
ルーシーちゃんに会えて恥ずかしがってるのでしょう

お土産?えぇ、クマノミが可愛らしいキンホルダーですね
おや、僕に?ありがとう
えぇ、お揃いを買いましょうか?
じゃ、これは僕から
大きなマンタのぬいぐるみを君に

喜ぶ彼女の笑顔にこちらもほっこりと微笑んで



●優しい世界を君と歩いて
 白地に黄色と蒼の花を咲かせた浴衣に、ピンクの帯。帯揚げは後ろでふんわりと蝶のように結ばれて、蒼い世界をふわりふわりと飛んでいるかのよう。
「水族館ですって! 楽しみね、ゆぇパパ!」
 そんな蝶のように軽やかに下駄を鳴らし、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が黒猫のぬいぐるみを抱いたままくるりと振り向いて、少し後ろを歩いていた朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)に笑った。
「えぇ、そうですね、ルーシーちゃん」
 黒地に一輪桔梗の花を咲かせた浴衣で歩くユェーが頷き、見えてきた水族館に軽く目を瞠る。
「大きな水族館ですねぇ」
「すごい、すごいわね!」
 くるくると回ってはしゃぐルーシーは可愛く、ユェーの目が優しく細められる。
「浴衣もとっても可愛らしいですし、そんなルーシーちゃんと水族館にお出掛けできて嬉しいですよ」
「ルーシーも! ルーシーもパパとお出掛け出来て嬉しいのよ。パパの浴衣もお花柄だし、何だか対みたいで、うれしい」
「対? ふふっ、そうですね」
 そこも嬉しいと思うポイントですね、とユェーが笑ってルーシーの手を繋ぐ。
「手を繋いで行くのね?」
「ええ、迷子になってはいけませんからね」
 逸れぬように、と言われてルーシーが自分の手よりも随分と大きいユェーの手をぎゅっと握りしめた。
 しっかりと手を繋いだら、ゲートを抜けて真っ直ぐエントランスへと向かう。瞬く間に非日常的な海の世界の中に二人で溶け込んで、水槽を覗き込んでは顔を見合わせて笑い合う。
「大きな水槽ね」
「エントランスの水槽も大きいですが、奥にもっと大きな水槽があるそうですよ」
「もっと大きいの? 見たいわ!」
 花が咲いたように笑うルーシーを連れて、ユェーがこっちですよと案内通りに進んでいく。
「ルーシーちゃん、あちらのトンネルにイルカさんがいますよ」
「イルカさん! どこどこ??」
 トンネル型の水槽ドームに差し掛かり、ユェーがイルカの姿を見つけて指をさす。
「わあ、かわいいわ! あのイルカさん達も親子なのかしら?」
 大きなイルカと小さなイルカが仲良く泳いでいくのを見て、ルーシーがユェーを見上げた。
「きっとそうですよ、僕達みたいにね」
「そうなら素敵ね!」
 ルーシーが親子のイルカに手を振って別れを告げると、様々なクラゲが展示されている部屋へと足を踏み入れる。
「まあ、クラゲがいっぱいだわ!」
「これはすごい……クラゲは見る機会もありますが、この数はなかなか」
 壁一面の水槽にいっぱいの白いクラゲがふわふわ、ゆらりと揺蕩う姿は圧巻で、暫し二人で見入ってしまうほど。珍しいクラゲも楽しそうに眺め、クラゲも可愛くて素敵ねとルーシーが楽し気にツインテールの髪を揺らした。
 他にもアザラシの泳ぐ水槽や、ラッコやペンギンなどでも足を止めて満足いくまで眺めて歩く。そうして、次に辿り着いたのはユェーが言っていたエントランスの水槽よりも大きな水槽だった。
「わあ、大きいわ! 本当に大きいわ!」
 水槽も大きいけれど、中で泳ぐジンベエザメとマンタの大きな姿にルーシーが見上げた姿のまま動きを止める。
「マンタもジンベエザメも、普段は見られませんからね」
「マンタさんとジンベエザメさん、っていうのね」
 初めて見たわ、とゆるりと空を飛んでいくようなその姿にルーシーが憧れを込めたような瞳で眺めた。
「とっても気持ちよさそう、いいなあ」
「一緒に泳いだら楽しそうですね」
「そうなったら、きっとすてきね」
 そんな機会があったら、その時は一緒に泳ぎましょうとルーシーが微笑んだ。
 大きな水槽を離れると、今度は南国の海をモチーフにした小さな水槽が幾つもある部屋へと向かう。
「あ! クマノミさん! かわいいわ」
「おや、クマノミ?」
 以前に二人で見たことのあるカクレクマノミを見つけ、覗き込む。イソギンチャクの中に隠れてこちらを見ているようなクマノミに、ユェーの頬が綻んで。
「本当に可愛らしい」
「イソギンチャクに隠れてしまってるの」
「ルーシーちゃんに会えて恥ずかしがっているのでしょう」
「えーごあいさつしましょう? 出ておいで~?」
 ルーシーがそう声を掛けると、クマノミがぴょこりと顔を出して水槽の中を泳いでいく。
「ごあいさつできたわ!」
「よかったですねえ」
 二人でくすくすと笑いながら、他の水槽も見て回れば最後に辿り着くのはお土産屋さんで。
「ねえパパ、お土産買ってもいい?」
「お土産? えぇ、いいですよ」
 ルーシーが手にしたのはキーホルダーになった小さなクマノミのぬいぐるみ。それを二つ揺らして、ユェーの元へ戻る。
「クマノミが可愛らしいキンホルダーですね。二つ?」
「あのね、一つはパパにプレゼントして、もう一つはルーシーのなの。おそろい、したいなって」
 はにかんだ笑顔を浮かべたルーシーが、だめ? とユェーに問う。
「おや、僕に? ありがとうルーシーちゃん。えぇ、お揃いを買いましょうか?」
 やったぁ、と喜ぶルーシーがお会計をしに行った隙に、ユェーもひとつぬいぐるみを手に取ってそっと違うレジに並んで会計を済ませる。
「パパ、はい!」
「じゃ、これは僕から」
 大きなマンタのぬいぐるみをルーシーに差し出せば、見る間に彼女が花咲くように微笑んで。
「マンタさん……! ありがとう、大事にするわ!」
「こちらこそ、クマノミさん大切にしますね」
 喜ぶルーシーの笑顔に、ユェーもほっこりとした気持ちで微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
坊と/f22865
心情)いのちがいのちを愛でる様子は愛らしいねェ。水族館の魚が共食いしねェのは、十分にメシが貰えるからという。怠惰堕落の果と見るか、満たされたがための平和と見るか…なァんて、いまは無粋か。
行動)結界と軛で宿を覆い、ヒトらに触れンよ気をつけて。ショーを見る坊のマネをして手を叩こう。(赤くなる) 夏の思い出を聞きながら、鑑賞コースに沿って見ていこうか。そのチンアナゴとやら、坊が近づくと引っ込むぜ。あン、サメ? ああ、この平べったいの…見たいなら呼ぼうか。(魚の声で呼び寄せ) ひひ、はいよ。ああ、あっちでペンギンに餌やれるそうだぜ。


雨野・雲珠
かみさまと/f16930

高く高くジャンプするイルカ戦隊に
観客席から拍手を送ります!
かみさま俺ね、イルカに変身したトヲルくんに
乗せてもらって海を泳いだんですよ!スーくんと一緒に。
夏の思い出話を報告しながら、初水族館を満喫。

ペンギンにアザラシ、こっちはくらげ。
タコにナマコに…これは…ちんあなご。
変な名前!ふふふ、かわいい…あっ
な、名前を笑ったから…?

そして大水槽のジンベエザメ!
うわぁあ…なんと大きく雄大な…
口がにゅっとしててかわいい
惚れ惚れ眺めて、撮影が大丈夫ならスマホを構えます。
わ、わわ、すごい近い…
かみさまかみさま、そのままで!
(ジンベイちゃんと2ショット)

ペンギンに餌!?
あげにいきましょう!



●夏の終わりにもうひとつ思い出を
 いつもよりきつめに結界と軛で宿を覆い、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が雨野・雲珠(慚愧・f22865)と共に水族館のゲートを抜ける。
「坊は見たいモン、決まってンのかい?」
「はい! ここの水族館ではイルカのショーがあるそうなので、まずはそれを見に……」
 行きたいです、と続けようとして、雲珠はわぁ、と口を小さく開けて目の前に広がった蒼い世界に動きを止めた。
「綺麗ですね……!」
「ひひ、坊はこういうの好きかい」
「はい、好きです! 初めて水族館に来ましたけど、もう楽しい……!」
 そりゃあよかったと、薄暗く蒼い世界の中で青白い肌をもう一つ青くして、逢真は光が射さんのは助かるなと笑みを浮かべた。
 水族館の魚が共食いしないのは、充分な餌が与えられるからだ。怠惰堕落の果とみるか、満たされたいがための平和と見るか……と思索しかけて考えを止める。生きてるいのちがこんなにも楽しそうなので。
「あ、話の続きですが、イルカショーを見てから色々回ろうかと」
「はいよォ、ンじゃそのコースで行こうかね」
 ショーの時間までは少しあったので、のんびり水槽を眺めながら歩く。エントランスの水槽は外から差し込む光でキラキラとしていて、どこか幻想的で美しい。
 雲珠は何もかもが珍しいと目を丸くしつつ、案内図の載ったパンフレットを片手にこっちですと通路を進んでいく。その先にはトンネル型の水槽ドームがあり、イルカ達が二人を歓迎するかのように泳ぎ回っていた。
「なんだか海の中にいるみたいです」
「そうさなァ、ヒトは空にも海にも憧れを抱くモンだからな」
 不思議な力が働く世界であれば何の備えもなしに海の中に入れる所もあるけれど、この世界はそうというわけにはいかない。そんなヒトの子らの生み出した世界はいとおしいモンだと逢真が笑い、雲珠は空も好きですと笑った。
 イルカショーの会場では比較的人が少ない後ろの方へ座り、五匹のイルカが動きを揃え高くジャンプする様子に雲珠が惜しみない拍手を送る。
「かみさま俺ね、イルカに変身したトヲルくんに乗せてもらって海を泳いだんですよ! スーくんと一緒に!」
「ほォ、白いのに? 黒いのと一緒にかい」
「はい!」
 拍手を送る雲珠の真似をして手を叩き、手の平を赤くした逢真が嬉しそうに話す彼を見て、いのちはなんとも愛らしいと目を細めた。
 ショーが終わると人が大方いなくなったころを見計らって立ち上がり、また道順に沿って歩き出す。
「次はアザラシですよ!」
「はいよォ」
 ゴマフアザラシの水槽では愛らしい姿をした赤ちゃんの写真も飾られていて、そのふわふわ真っ白の可愛らしさに雲珠が目を輝かす。
「なんてお可愛らしい……でも二週間くらいでふわふわじゃなくなるんですね」
 写真と共に説明を読んでいた雲珠が大人のゴマフアザラシを見て、でもこちらも可愛いですと満足気に頷いた。
 そのまま順に歩いていくと一面クラゲの部屋やタコの部屋などがあり、どれも雲珠の興味を引いて楽し気に足を止めている。
「かみさま、この間かみさまが出してたちょっと気持ち悪いタコです!」
「ヒョウモンダコな」
「相変わらずお色がすごい……」
「毒持ちだかンな」
 万が一、海で見ても触るなよと言われ、雲珠が肝に銘じる。かみさまが言うからには、きっとヤバいのだ。
「あ、こちらにはナマコが……かみさま、面白い生き物がいますよ!」
 呼ばれ、雲珠が指さした方を見れば、水槽の砂地の中からぴょこんと細長い生き物が飛び出ているのが見えた。
「ええと……ちんあなご。変な名前! ふふふ、かわいい」
「そのチンアナゴとやら、坊が近づくと引っ込むぜ」
 え? と言っている間に数匹のチンアナゴがぴゅっと引っ込む。
「あっ! な、名前を笑ったから……? でも顔を出したままの子もいますよ」
「顔を出したまんまの奴はヒトに慣れたやつだな。元来臆病なタチだから慣れてねェのは引っ込ンじまうのさ」
 勉強になります、とチンアナゴに一つ詳しくなった雲珠が水槽から離れると、引っ込んでいたチンアナゴが出てくるのが見えて、そっと驚かさぬように次の水槽へと向かった。
「かみさまジンベエザメですよ、ジンベエザメ!」
「あン、サメ? ああ、この平べったいの……」
 二人や三人くらい乗れてしまいそうなサイズの大きなジンベエザメに、雲珠が小さく歓声を上げる。
「うわぁあ……なんと大きく雄大な……それに口がにゅっとしててかわいい」
「にゅっと」
「はい、にゅっと」
 にゅっとした口を真似した雲珠に逢真が愛らしいねェと笑い、もうちょい近くで見ようかと魚にしか分からぬ声で呼び寄せる。
「わ、わわ、すごい近い……!」
 写真を! と雲珠がスマホを取り出し、フラッシュが出ぬように操作するとしっかりと構え、まずはジンベエザメを一枚。
「かみさまかみさま、そのままで!」
「ん? ひひ、はいよ」
 逢真とジンベエザメを一緒にぱちり。それから自分とジンベエザメをぱちり、最後に自分と逢真とジンベエザメというスリーショットを決めた。
「満足したかい?」
「はい! ありがとうございます、かみさま! あ、ジンベエちゃんも!」
 ゆらりと離れていく姿に手を振って、次は何処へ行こうかと案内図を広げる。
「坊、あっちでペンギンに餌やれるそうだぜ」
 そういうの好きだろ? と逢真が言うと、雲珠がパッと桜と空を映したような瞳を輝かす。
「ペンギンに餌!? 行きます、餌あげに行きましょう!」
 くるくると変わるヒトの子の表情に、いのちがいのちを愛でる様子は愛らしいねェと逢真が笑う。そうして、雲珠の後ろをひょこりと、時折眷属を使いながら付いていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
2021浴衣

噫、まるで海の中を歩んでいるようだね
サヨ…怖くはない?
きみは水が苦手だから
きみの笑顔が可愛くてほっとする反面
甘えて貰えないのが少しばかり残念だ

たくさん楽しそうに泳いでいるね
きっと母の子だろう
嬉しそうにしている
向こうの子は泳ぐのが随分速いよ
─イルカを瞳で追うけれど、楽しげに笑うサヨの横顔に釘付けになってしまう
きみが、笑っている
それがどれほど嬉しくて
きみの隣で生きていられることが、私にとってどれほどの贅沢なのか
サヨは知っているのだろうか

うん?ちゃんと見てた
サヨの瞳にはしっかりイルカが写っていたから

照れ隠しかな?可愛い
次は鮫だね
きみの望むままに

手を握り返す
離しはしないと伝えるように


誘名・櫻宵
🌸神櫻
2021浴衣

綺麗ね、カムイ!
水族館なら怖くないから大丈夫なの
愛する神様の手を握りトンネル型の水槽ドームを歩む

海の中を歩いているよう

イルカが沢山!
ちいちゃい子は子ども…あの二頭は親子かしら?
悠々と泳ぐ姿はかぁいらしくて癒されるわ!
何であんなに泳ぐのが上手なのかしら
ねぇカムイと見遣れば──朱桜の瞳に囚われて
目が、心が離れられなくなるよう
青の世界にあっても映える、美しい私の神様
あなたとならば、囚われても──なんて
……ちゃんと、水槽のイルカ達を見ていた?
もう!次はサメを見に行くわよ!

照れ隠しにつんと横をむく

大きいのがいる大水槽がいるんですって
握る手に力を込める
ずっと一緒に、離して欲しくないから



●蒼よりも、さくらいろ
 彩とりどりの花火が咲き誇る浴衣を身に纏い、からころと下駄の音を鳴らす誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の手を引いて、黒地に桜を咲かせた浴衣姿の朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)がゆっくりと水族館の中を歩く。
 繋いだ手の先は二人揃いの爪紅で、戯れにきゅっと力を入れて握れば同じ強さで握り返されて櫻宵が微笑む。
「綺麗ね、カムイ!」
 ゲートを抜けてすぐのエントランスは蒼い世界が広がっていて、海の中を思わせるような雰囲気だ。
「そうだね、落ち着いた雰囲気の良い場所だ」
 そう返しつつ、カムイは気懸りをそっと口にする。
「サヨ……怖くはない?」
 海へ行った時は自分に引っ付いて離れないほど、水が苦手な彼にそう問いかけた。
「ふふ、大丈夫よ私の神様。水族館なら怖くないから!」
 恐らく水に浸かるのがダメなのだろうと、カムイがほっとしたような笑みを返す。でも、ほんの少しだけ水が怖いと甘えて貰えないのが残念だと思ってしまうのは、自分の我儘だろうか。
 そんな風に思ってしまった事へ軽く首を振って、桜宵が楽しそうにしていることに優しく目を細めながら、エントランスを抜け道順に沿って歩き出した。
 歩く先にはトンネル型の水槽ドームがあり、イルカ達が楽しそうに泳いでいる姿が見えて櫻宵がカムイを見遣る。
「まるで海の中を歩いているようね!」
「噫、サヨの言う通り海の中を歩んでいるようだね」
 トンネル型のドームはまるで南国の海のような色をした水槽で、天井からはふんだんに外の光が射し込んで水槽の中が光っているようにも見えた。
「南の海ね、イルカが沢山!」
 ふふ、と笑う櫻宵の浴衣に水の揺らめきが映りこんで、とても綺麗だとカムイが笑みを浮かべる。
「ねえ、カムイ。ちいちゃい子は子ども……あの二頭は親子かしら?」
「きっと母と子だろう、子の方が嬉しそうにしている」
 楽しそうに泳いでいる姿を目で追いながら、カムイが指をさす。
「いいわね、悠々と泳ぐ姿はかぁいらしくて癒されるわ!」
 ドルフィンキックと呼ばれる泳ぎ方があるくらい、イルカの泳ぎはとても優雅で美しく、速い。
「見てご覧、向こうの子は泳ぐのが随分と速いよ」
「何であんなに泳ぐのが上手なのかしら? 私もあんな風に泳げるようになる日がくるのかしら……」
 まずは水への恐怖症をしっかり治すところからだけれど、あんな風になれたらと憧れるのはいいことだとカムイが微笑みながら櫻宵を見る。
 イルカを瞳で追うよりも、ついつい楽し気に笑う櫻宵の横顔に釘付けになってしまって。
 きみが、笑っている。
 それがどれほど嬉しくて、尊いことなのか。
 きみの隣で生きていられることが、私にとってどれほどの贅沢なのか――きみは知っているのだろうか、と慈しみと愛を込めてカムイは甘い吐息を零す。
「ねぇ、カムイ……」
 どうやったらあんな風に泳げるかしら、と櫻宵がカムイを見遣れば、朱桜の瞳が熱っぽく自分を見ているものだから、桜宵も目が――心が、離れられなくなってしまったかのように動きが止まる。
 蒼の世界にあっても映える、美しい私の神様。
 あなたとならば、このまま囚われてしまっても――そんな風に考えてしまう私をあなたは知っているのかしら、と愛と独占欲を滲ませて櫻宵が繋いだ手に力を込めた。
「カムイ」
「なんだい、サヨ」
「……ちゃんと、水槽のイルカ達を見ていた?」
 なんて、桜宵がカムイに笑って問う。
「うん? ちゃんと見てたよ。サヨの瞳にはしっかりイルカが写っていたから」
「……もう! 次はサメを見に行くわよ!」
 あんまりにも真っ直ぐなカムイの視線と言葉、それから櫻宵だけだという心に触れて、照れ隠しのように櫻宵がつんとそっぽを向いた。
 向いた先の水槽のアクリルガラスに薄っすらとカムイの朱桜の瞳が見えて、ドキドキしてしまったのは内緒。
 そんな、照れてそっぽを向いてしまった可愛い巫女の手を引いて、カムイが歩き出す。
「次は鮫だね。もちろん、きみの望むままに」
 私の巫女は可愛らしいなぁ、と表情がそう言っているようで、桜宵は前を向き直す。
「大きいのがいる大水槽があるんですって、ジンベエザメって言ったかしら」
「ジンベエザメ……楽しみだね」
「ええ、とっても!」
 あなたと見るから楽しいの、と櫻宵が握る手に力を込める。
 これから先もずっと、ずっと離して欲しくないの、あなたと一緒にいたいのだと視線を向けて。
 カムイが手を握り返す、これから先もずっと共に同じものを見ようと。
 離しはしないと伝えるように、朱桜の瞳が煌めいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【波音】◎
21年浴衣参照
黒地に桜柄の浴衣

んふふ、そうだねっ
今年の夏に2人で出掛ける約束をしたばっかしだもん
びっくりした?
ふふふー視線が泳いでるよん
クロウくんのこと、少しでもドキドキさせたくて
大人の姿で来たの
成功した、かな?

うん、水族館は好きだよ
海の中に居るみたいで落ち着くからね
わ、ありがとう
エスコートお願いしてもいい?なんておねだり

慣れないスマホで撮影
水飛沫をかけられ髪を左右に振るう
(ハンカチで拭って貰って嬉しげに笑い、拭い返そうと
ありがとう、クロウくんはだいじょうぶ?

くらげが親友だからね
クノちゃん…ノアって言うよ
今度会ってくれる?
ぼくの好きな人って紹介したいからさ


杜鬼・クロウ
【波音】◎
着流しは藍色と濃紺の二色縞
金刺繍の帯
武器は無

こんな早くティアとまた出掛けられるたァな
浴衣、似合ってンよ
…まさか大人姿で来るとは
見慣れねェから少し緊張するわ(視線泳ぐ
…内緒

ティアは水族館好きか?
蒼が映えるなァ
そこ、段差あるから足元気ィつけろよ
勿論お安い御用だ(手を引き

最前列でイルカショーを見る
スマホで撮影
イルカに水飛沫かけられ慌てる

凄ェよく飛ぶンだな!
タイミング完璧…ウワ!セットした髪がッ
ティアは平気か(ハンカチで拭こうと
俺はだいじょばない

最後に海月を見る

ティアって確かくらげ、好きだったよな?
親友!名前なんつーンだ?
へェ、良い名だ
いつか会わせてくれや
ン!?…不意打ちだろ今のは(口許隠し



●蒼色エスコート
「こんな早くティアとまた出掛けられるたァな」
 水族館のゲートを通り抜けながら、藍色と濃紺の二色縞の着物に金刺繍の帯を締めた粋な着流し姿の杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が隣を歩くティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)に囁きかける。
「んふふ、そうだねっ」
 今年の夏に二人で出掛ける約束をしたばかりだったけれど、機会を逃さないのはいい女の証なのだと黒地に華やかな桜柄が施されたミニ丈の浴衣を身に纏うティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が笑う。
「……しっかしまさか、大人姿で来るとは」
「びっくりした?」
 悪戯っ子のように微笑む彼女はいつもの幼げな印象の姿ではなく、大人びた姿。
「見慣れねェから少し緊張するわ……」
「ふふふー、視線が泳いでるよん」
 ティアがそう指摘すると、クロウが小さく唸る。
 それが楽しくて、ティアはくすくすと笑ってクロウを見上げた。
「今日はね、クロウくんのこと、少しでもドキドキさせたくて大人の姿で来たの」
 いつもの姿でも、きっとドキドキしてくれているって思うけれど。
 今日は浴衣姿だし、いつもと違う自分を見せたくて、もっとドキドキして欲しくて。
「成功した、かな?」
「……内緒」
 そう言った彼の頬は僅かに赤くて、ティアが弾けるように笑った。
 そんな彼女の笑みが可愛くて、クロウが思い出したように口を開く。
「ああ、そうだ」
「ん? どうしたの?」
「浴衣、似合ってンよ」
「……もう!」
 今度は自分がドキドキする番で、ティアは思わず頬を抑えてクロウを見遣る。
「クロウくんも似合ってるよ」
「ありがとよ」
 視線を合わせて笑う二人は、いつの間にかエントランスへと足を踏み入れていた。
「ティアは水族館好きか?」
「うん、好きだよ。海の中に居るみたいで落ち着くからね」
 彼女の横顔は薄っすらと蒼に染まっていて、蒼が映える女だとクロウが目を細める。
「ティア、そこ段差あるから足元気ィつけろよ」
「わ、ありがとう」
 僅かな段差だけれど、スロープの方へ行けば遠回りになるからとクロウが言えば、少し考えてティアがクロウを見上げる。
「じゃあ、エスコートお願いしてもいい?」
「勿論お安い御用だ」
 今日はあなたに甘えたいのだと暗におねだりしてみれば、ひとつ返事で手を引いてくれて。
 下駄は確かにいつもの靴よりは歩き難いけれど、こうやって甘えられるのはいいね、なんてクロウに向かってティアが嬉しそうに笑った。
 クロウに手を引かれてやってきたのはイルカショー。最前列ど真ん中をゲットして、二人でイルカの迫力あるショーを楽しむ。
「見たか? 凄ェよく飛ぶンだな!」
「もちろん! すごかったね!」
 イルカのジャンプに興奮したように言い合い、次は写真を撮るぞと張り切ってスマホを構える。
「わあ!」
 慣れぬスマホを構えつつ、ティアが歓声を上げながらシャッターを切り、クロウも連射でイルカを撮って休憩の間に見せあって笑い合った。
「次はイルカ五匹で飛ぶんだとよ」
「わ、こっちの方に来たよ」
 イルカがプール中央よりも前へより、飼育員の合図で大きくジャンプ! そして水中へ潜れば水飛沫が盛大に上がって――。
「綺麗なジャンプ! ……きゃあ!」
「タイミング完璧……ウワ!」
 ばしゃん、と水飛沫が最前列の客達に向かって跳ねた。
 勿論クロウとティアも例外ではなく、頭や顔に勢いよく水が跳ねて。
「ティアは平気か?」
 ぷるぷると髪についた雫を左右に振るうティアにハンカチを向け、優しい手つきで拭う。それに嬉しそうな笑みを零して、ティアがクロウの濡れた額を拭おうと手を伸ばし、指先で払う。
「ありがとう、クロウくんはだいじょうぶ?」
「俺はだいじょばない」
 セットした髪が台無しだ、と言えば殊更明るくティアが笑った。
 イルカショーを見終わったあとは、クラゲを見に行こうと二人で歩く。クラゲの部屋は壁の一面が大きな水槽で、白くて小さなクラゲが数多く揺蕩っているのが見えた。
「ティアって確かくらげ、好きだったよな?」
「うん、くらげが親友だからね」
「親友! 名前なんつーンだ?」
 セイレーンの彼女ならば何もおかしくないと、クロウが問い掛ける。
「クノちゃん……ノアって言うよ。優しくって穏やかな性格なんだけど、怒ると噛み付くんだよ」
「へェ、良い名だ。噛み付かれないようにしないとだな」
 滅多と怒ることはないけどね、とティアが笑う。それから少しはにかんで、クロウを見上げた。
「ノアに、今度会ってくれる?」
「おう、いつか会わせてくれや」
 クロウが躊躇いなく答えれば、ティアがくすりと微笑んで。
「うん、ノアにぼくの好きな人って紹介したいからさ」
「ン!? ……不意打ちだろ、今のは」
 思わず緩んでしまいそうになる口元を隠し、クロウがティアとクラゲを眺めながら参ったと呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【守2】
…(ちらりと目の前の現実を見て――幻想的な蒼の世界へ、逃避気味に視線背け)
仕事序でに浴衣&水族館デートの絶好のチャンス――に、何でオレの前には呼んだ覚えもない狐がいるの?(真顔)

くっ、そっとしとけ!何から何まで余計なお世話だー!
ちょっ、まって、後で可愛いお土産買ったげるから許してー!

(盛大にがくりとしつつも、結局ご立腹の亀とぴよこを宥めるべく、ふらりと館内巡り)
お~、ホントだ
ホラ、水槽越しにご挨拶してみな~(興味津々な様子の亀をひょいと持ち上げ)

アッチにはぴよこの友達――ペンギンもいるな
もこもこちょこちょこ動く雛の癒しオーラ最高…って浮気じゃないからホントー!
(でも何だかんだ楽しげに)


千家・菊里
【守2】◎
(不服そうな視線を尻目に、のんびりと)
え、言わずとも分かってますよね?
毎度お馴染み、君が誘った方から『私は他の用があるけれど、独りにするのも可哀想だから代わりに付き合ってあげて――あとお土産も宜しくね(はぁと)』と頼まれたので

それに、もうひとつ――(徐に懐から、伊織の亀さんとぴよこさんをそっと出して)
亀さんとぴよこさんが『自分達をおいていくなんてひどい!浮気なの?』って悲しんでいた(寧ろぷんすかしている)ので、お連れしたのですよ

(という訳で改めて水族館を満喫へ)
おや、ふふ、亀さんのお友達がいますねぇ
挨拶に来てくれた様ですよ

ぴよこさんのお友達も可愛いですねぇ
おや、それはまた浮気ですか?



●誰よ! その亀とペンギン!~狐の彼を添えて~
 黒地に流れる雲と遊ぶ烏、裾には彼岸花をあしらった浴衣を着こなしたと呉羽・伊織(翳・f03578)が現実逃避するかのように目を閉じる。
 三秒数えて目を開けたら、目の前の現実が可愛い女の子になってたりしないかな、なんて考えながら目を開ける。それから、変わらぬ現実から目を逸らすかのように幻想的な青い世界に視線を向けた。
「水族館だぞ、水族館。デートスポットってやつだよな?」
 仕事のついでに浴衣を着て水族館デート、という絶好のチャンスだったはずだ。
 狐に化かされていたとかでない限り、オレは女の子に声を掛けて此処に来たはずなんだが……?
「何でオレの前には呼んだ覚えもない狐がいるの?」
 あの女の子はお前が化けた姿だったの? と、真顔で伊織が千家・菊里(隠逸花・f02716)に問い掛けた。
 伊織の不服そうな視線をものともせず、のんびりエントランスの水槽を覗いていた菊理が伊織を見遣る。
「え、言わずとも分かってますよね?」
「え、マジでお前が化けてたの?」
「そう思いたい気持ちはわかりますけど、毎度お馴染みのやつですよ」
 お馴染みのやつ、と言われて伊織が悲壮な顔をする。
「君が誘った方から『私は他の用があるけれど、独りにするのも可哀想だから代わりに付き合ってあげて――あとお土産も宜しくね(はぁと)』と頼まれたので」
 来て差し上げたんですよ、とキラキラと輝かしい笑みを菊里が浮かべる。
「くっ、そっとしとけ! そういう時は一人でナンパでもするから!」
 小さく叫ぶ伊織を眺めつつ、菊里がここに来たのは水族館のカフェメニューも気になったからだけれど、それ以外にもうひとつ彼にはここに訪れる理由があった。
「ああ、それともうひとつ――」
 おもむろに懐に手を入れ、菊里が取り出したのは伊織の亀とぴよこである。
「亀さんとぴよこさんが『自分達をおいていくなんてひどい! 浮気なの?』って悲しんでいたので、お連れしたのですよ」
 悲しむどころか、寧ろぷんすか怒っているのだけれど、それは菊里には関係のない事で。
 まあ連れて行ったら面白いだろうな、という気持ちはあったのだけれど。
「おま、お前、何から何まで余計なお世話だー!」
 余計なお世話と言われた亀とぴよこが伊織に向かって飛び掛かる。
『浮気ね! 浮気する気だったんでしょう!』
『ぴよぴよ! ぴよぴよぴー!』
 修羅場である、菊里といえば面白いから写真撮っておきましょう、あとで皆さんにもお裾分けしましょうねとシャッターを切っていた。
「ちょっ、まって、後で可愛いお土産買ったげるから許してー!」
『安物じゃ済まさないんだから!』
『ぴっぴよぴー!』
 盛大に萎れつつ、伊織はご立腹の亀とぴよこを連れて菊里と共に水族館を巡ることにした。
 エントランスからイルカが泳ぎ回るトンネル型の水槽ドームを抜け、クラゲが集められた部屋やカニやエビ、タコなどの海の生き物を見て回る。
「水族館は久しぶりですけど、相変わらず美しい場所ですね」
「そうだな」
 これで女の子と一緒なら言う事なしなんだけど、という顔をしているとすかさず亀とぴよこから教育的指導が入った。
「痛い!」
「余所事を考えるからですよ……おや、ふふ、亀さんのお友達がいますねぇ」
「くっそぉ……お、ホントだ」
 菊里が指さす方を向けば、海亀が泳いでいるのが見えて伊織が亀を抱いたまま水槽に近寄る。
「ホラ、水槽越しにご挨拶してみな~」
「休日の父親みたいなことしますね、あなた」
「るっせ!」
 近寄ってきた海亀に向かって、亀がアクリルガラスをぺしぺしと叩く。
「……威嚇してんの?」
「恋敵という奴です?」
 これ以上エキサイトする前に、と海亀に別れを告げて通路を進めば、今度はペンギンのコーナーに辿り着いた。
「お、コッチにはぴよこの友達――ペンギンもいるな」
「おや、ぴよこさんのお友達も可愛いですねぇ」
「もこもこちょこちょこ動く雛の癒しオーラ最高だな」
「おや、それはまた浮気ですか?」
 ペンギンの雛にちょっとデレた顔を見せた伊織に、今度はぴよこが猛抗議。
「ちが……って、浮気じゃないから、ホントー!」
 ぴよぴよ嘴で突いてくるぴよこに弁解する伊織を見て、菊里が笑いながらシャッターを切った。
「やっと大人しくなった……」
「ふふ、そろそろお腹も空きましたねぇ。カフェに行きましょう、海の生き物をモチーフにしたメニューがあるそうですよ」
「はいはい、土産物も忘れないようにな」
 勿論、お土産物も忘れてはいませんよ、と菊里が笑みを浮かべる。
 何せ、この水族館の人気のお土産ベスト10は頭の中に叩き込んできたのだから。
「まずはしっかり食べて、それからお土産を買いに行きましょうね亀さん、ぴよこさん」
 可愛いお土産を選びましょうという言葉に、亀とぴよこが元気に応えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜田・鳥獣戯画

アルフレッド(f03702)と水族館に来るのは二度目か
奴にとっては見慣れた光景かもしれん

(男子大学生の様な白Tにチェックのシャツ、下はデニム(色気ゼロ))

少々寝坊して朝飯を食う暇がなかった
そのせいかどうにもこう…魚が美味そうでな…

煮ても良し焼いても良し、刺身も捨てがたい!
『ぐぅ』

済まん。妙に照れるな
この仕事、無事終わったら寿司にせんか
…何か考えごとをしているな。そっとしておくべきか、つついてみるべきか…

…サメだ! うむサメは格好良いな!
出し惜しみのない感じが良い!
生きているだけで尊いではないか、前へ前へと進んでいる。

…寂しさを知る者は、人にやさしくなれる。悪いことではないと思うぞ。


アルフレッド・モトロ

姉御(f09037)と一緒に水族館に来た!
どうも怖い噂があるらしいが
姉御と俺の二人なら何が起きたって大丈夫だ!心配ない!

…む、いつも軍服っぽい衣装をカチッと着てる姉御がラフな格好をしているだと!?
予想外の出来事に俺はテンパってしまうだろう……(いつもの)


海の生き物たちを見ていると故郷のことを思い出す
集落には居場所なんてなくて
誰もいない場所を目指して無我夢中で泳いで
できるだけ遠くへ……ん!?なに!?…す、寿司!?良いよ行こう!!

サメ?姉御はサメが好きなのか
俺は…うーん、どうだろな

牙どころかあの肌でさえ
誰かを傷つけるには充分な鋭さだ

それに、泳ぎ続けないと息すらままならない

……寂しいだろ、そんなの



●鮫と、――。
「水族館だな、アルフレッド!」
「ああ、水族館だ、姉御!」
 水族館のゲートを前にして、桜田・鳥獣戯画(怒りのデスメンタル・ロード・f09037)とアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)が水族館の看板を見上げる。ジンベエザメが泳ぐ姿が描かれた看板を前に、鳥獣戯画は自分のテンションが上がっていることに気が付いた。
「どうにもテンションが上がるな……が、アルフレッドにとっては見慣れた光景かもしれんが」
「俺はまあ……でも弱肉強食を気にしないで居られるのはいいかもだ」
「焼肉定食だと!?」
「もう腹減ってんのかよ、姉御!」
 お約束な聞き間違いに、アルフレッドが鳥獣戯画に叫ぶ。
「うむ、それがな……少々寝坊して朝飯を食う暇がなかった」
 故に、今日の恰好も慌ててその辺から引っ掴んできたのだと鳥獣戯画が笑う。
「ハッ、そういや……いつも軍服っぽい衣装をカチッと着てる姉御がラフな格好をしているだと!?」
 見慣れた姿ではなく、白いTシャツに細身のデニムにスニーカー。まるでどこぞの男子大学生のような恰好だなと鳥獣戯画は思うけれど、スタイルのいい鳥獣戯画が着ていると様になっているのだから大したものである。
 そしてアルフレッドはいつもの如くテンパっていた、予想外の出来事に……俺は弱い! とか、好きな相手が予想外の事をしてきたらそりゃギャップ萌えってもんだろう、とか色々脳内で叫んでいた。
「どうした、アルフレッド」
「いやっなんでもなっ、いや違う、そうじゃなくって、その、似合ってるぜ、姉御!」
「そうか? 私もまだまだ男子大学生としてやっていけるか、そうか!」
 そうじゃねぇんだよな~~という突っ込みは入らなかった、突っ込みが居ないので。
 気を取り直して、二人揃ってゲートを通り水族館のエントランスへと向かう。エントランスは蒼い光りに満ちていて、まるで海の中にいるよう。
「ほう、これは見事だな」
エントランスの大きな水槽を見上げて鳥獣戯画が笑い、次はどこだと歩き出す。その隣を歩くアルフレッドはトンネル型の水槽ドームを泳ぐイルカを眺めながら、ぼんやりと故郷の事を思い出していた。
 集落には居場所なんてなくて、誰もいない場所を目指して無我夢中で泳いだなあ、あのイルカよりは速く泳いでたよな、なんて考えているといつの間にか違う水槽の前に出ていて。
「美味そうだな……」
「そう、美味そう……えっ」
 鳥獣戯画の零した呟きに、ふっと意識が浮上して目の前の水槽を改めてみればイワシが餌を求めて群雄する、イワシトルネードと呼ばれる現象が起きているのが見えた。
 銀色にキラキラと輝くそれに、鳥獣戯画が完全に食べ物を見る視線を向けていた。
「似ても良し焼いても良し、刺身も捨てがたい!」
「姉御、心の声が漏れてる」
 そういや朝飯を食べていないと言っていたっけか、とアルフレッドが思った瞬間に響く腹の音。
「……済まん」
「いや、その、健康的だと思うぜ」
「そうか? ならばこの仕事が無事終わったら、寿司にせんか」
「す、寿司!? 良いよ行こう!! 回るやつでもなんでも!」
 この後の予定まで立ってしまった、仕事が終わったら姉御と寿司! と、ちょっと浮かれ気分になりつつ、水槽を見て回る。そうして、鮫が泳ぐ水槽の前で立ち止まった。
「……サメだ!」
 円柱になった水槽の中、鮫が泳ぐ姿に鳥獣戯画が笑みを浮かべて指をさす。
「サメ? 姉御はサメが好きなのか」
「うむ、サメは恰好良いな! 出し惜しみの無い感じが良い! アルフレッドは好きじゃないのか?」
「俺は……うーん、どうだろうな」
 少し考えるように鮫を眺めるアルフレッドに、鳥獣戯画が黙って彼の答えを待つ。何気に、水族館に来てから考え事をしている彼の邪魔にならぬようにしてはいたのだが、突いてみるべきかと思ったのだ。
「サメのさ」
「うむ」
「牙どころかあの肌でさえ、誰かを傷つけるには充分な鋭さだろ?」
「そうだな」
 二人の目の前を横切るように鮫が泳いでいく、牙は鋭く肌は速く泳ぐ為に鱗に小さな突起があるざらりとしたそれ。孤高の捕食者とも呼ばれる存在は、二人の事など気にすることなく悠々と泳いでいた。
「それに、泳ぎ続けないと息すらままならない」
 立ち止まる事すらできないなんて、それはどんなに。
「生きているだけで尊いではないか、前へ前へと進んでいる」
 鳥獣戯画の真っ直ぐな言葉に、アルフレッドは僅かに眉を下げた。
「……寂しいだろ、そんなの」
 そのまま続けようとした言葉はぐっと飲み込んで、アルフレッドは拳を握り締める。
「……寂しさを知る者は、人にやさしくなれる。悪いことではないと思うぞ」
 それに、と鳥獣戯画が気負わぬまま言葉を続ける。
「サメにも寄り添おうとするものが、きっといるからな!」
 そう言って、アルフレッドが握り込んだ拳を鳥獣戯画が解すように触れて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
【雅嵐】

おお、すごいの!きもちよさそに美味しそうに泳いでおる
いろんなお魚がおるな~あれはエイか
えいひれ…
ペンギン語もマスターしておる…いつの間に
せーちゃん、皆にご挨拶しておったら日が暮れてしまう
おしゃべりもほどほどにの

おお、ちんあなごじゃな
綺麗に並んでおるな…(じぃと一緒に見詰め
でたりはいったり楽しそうにみえ…これは楽しいんかの?
ちんあなごは食べたことないの~というか食べれるんかの?
魚じゃから、まぁ食えるか…
こんこんもじぃと見ておる。この動きが楽しいらしいの

水族館グッズはたくさんあるの
せーちゃん、いつのまにそんなものを見つけて…
おそろ?これ何に使うんじゃ?(とは言いつつ、面白がって尻尾は揺れて


筧・清史郎
【雅嵐】

おお、お魚さんが沢山だ
元気に美味しそうに泳いでいるな(微笑み

お魚さんにいちいちご挨拶しつつ友と楽しく巡っていれば
ペンギンさん、お散歩中失礼
俺は筧・清史郎という
プァープープァー(ペンギンと仲良くお喋り?
ふふ、可愛いことを言う(満足気

さらに足を止め、じいっと見つめる先
らんらん、ちんあなごさんが沢山いるぞ
楽し気に穴の中を出たり入ったりしているな
めっちゃ超ガン見
らんらん、ちんあなごさんは美味なのだろうか(じー
ふふ、普段はくーるびゅーてぃーなさめさめも夢中だな

土産も買おう(きり
ふと見つけたちんあなごさん玩具のボタンを押せば
おお、光って動いている(瞳キラキラ
らんらん、お揃いでどうだろうか(わくそわ



●おさかな天国
「水族館じゃの!」
「水族館だな」
 水族館のゲート前、終夜・嵐吾(灰青・f05366)と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)はとびっきりの笑みを浮かべていた。
 何度目かの水族館だけれど、何度、どの水族館に訪れてもこのわくわくとした気持ちは変わらないのだろう。二人でゲートを抜けて、蒼い世界の広がるエントランスへと足を踏み入れる。
「おお、すごいの!」
 後ろを振り向けば日常の世界が広がっているのに、前を向けば幻想的な海の世界が広がっていることに嵐吾の尻尾がふさふさ揺れる。
「らんらん、こっちに行くとイルカのトンネルがあるそうだぞ」
「なんと、それは行かねばならんな、せーちゃん」
 エントランスの大きな水槽を眺めていた嵐吾が清史郎の示した案内図に目をやって、そちらに向かって歩き出す。
「やはり全制覇するべきじゃな」
「端から端まで見て回ろう」
 そんな話をしながら歩いていれば、すぐにイルカの泳ぐトンネルへと差し掛かり、嵐吾が上を見上げた。
「親子のイルカかの?」
「どれ、聞いてみよう」
 親子なのだろうか? とイルカに問えば、キューイと返事があって清史郎が親子だったぞと微笑む。
「イルカ語も堪能とは、やるの!」
 褒められた清史郎がにこにこしながら他のイルカとも話をするのを引っ張って、エビやカニ、タコにクラゲと海の生き物を制覇していく。
「次はなんじゃったかの」
「こっちに大水槽があるらしい」
 違っていても、違う海の生き物が見られるからと、二人がのほほんとしながら通路を歩く。
「せーちゃん、あれじゃな」
「うむ、あれだな」
 壁一面がアクリルガラスに覆われて、様々な魚が泳いでいるのが見えた。
「おお、きもちよさそに美味しそうに泳いでおる」
「元気に美味しそうに泳いでいるな」
 魚にとっても天国、二人にとっても天国で、まさにおさかな天国である。
「いろんなお魚がおるな~あれはエイか」
 エイか? と首を傾げるくらいのサイズ、マンタだ。
「何人分のえいひれになるんかの……」
「いっぱい、だな」
 夜はえいひれで一杯しよ、と心に決めて水槽を離れ、次に向かったのはペンギン達がお散歩するという広場。
「ペンギンじゃ、かわいいの」
「どれ」
 すいっと前に出て、清史郎がペンギンに向かって声を掛けた。
「ペンギンさん、お散歩中失礼。俺は筧・清史郎という」
 プァープープァー、とペンギンが返事をして、それに清史郎が何度も頷いて笑みを浮かべる。
「ふふ、可愛いことを言う」
「せーちゃん、ペンギン語もマスターしておる……いつの間に」
「サメ語もいけるぞ?」
「何になろうとしとるんじゃ?」
 その後もお散歩するペンギンに出会う度に挨拶をするものだから、嵐吾が日が暮れてしまうとその手を引っ張って歩く。
「おしゃべりは悪くないんじゃが、ほどほどにな」
「可愛くて、ついな」
 ふふ、と微笑む清史郎が嵐吾の手を引いて止める。
「どうしたんじゃ、せーちゃん」
「らんらん、ちんあなごさんが沢山いるぞ」
「おお、ちんあなごじゃな」
 二人並んでじっと水槽を見詰めれば、綺麗に並んだちんあなごが穴の中に隠れたり出てきたりを繰り返す。
「楽し気に穴の中を出たり入ったりしているな」
「そうじゃの、でたりはいったり楽しそうにみえ……せーちゃん、これは楽しいんかの?」
 二人顔を見合わせ、またちんあなごを見詰める。
「俺達もやってみるか? 気持ちが分かるかもしれない」
「ちんあなご語を習得したら、聞いてみるとええんじゃないかの」
 そっと隠れたり出たりを繰り返す申し出は断って、嵐吾が清史郎を見遣る。すると、真剣な顔をした彼がぽつりと呟いた。
「らんらん、ちんあなごさんは美味なのだろうか」
「ちんあなごは食べたことないの~というか食べれるんかの?」
 いうて魚である、食べようと思えば食べられるのではないかと嵐吾は調理法をさらっと頭に描く。
「……ワカサギの唐揚げみたいにしたらいけるかもしれんの」
「さすがらんらん、食す機会があればそうしよう」
 でも多分、そんなに美味しくはなさそうじゃけど、と思ったけれど嵐吾は黙っておいた。
 二人が真剣に見ていると、清史郎の氷雨と嵐吾のこんこんがぴょこりと出てきて同じようにじぃっとちんあなごを見詰める。
「せーちゃん、さめさめもこんこんも、この動きが楽しいらしいの」
「ふふ、普段はくーるびゅーてぃーなさめさめも夢中になるちんあなご、これは土産屋でちんあなごを探すしかないな」
 思い立ったが吉日とばかりに、清史郎が土産物屋へ行こうと微笑む。
 勿論その申し出に否はなく、嵐吾も共に向かえば広い土産物屋に二人で目を輝かせた。
「水族館グッズはたくさんあるの」
 どれにしようか迷ってしまうの、とあちこち見ていると清史郎が何やら手に持った玩具を光らせているのが見えた。
「せーちゃん? 何しとるんじゃ」
「らんらん、見てくれ」
 そう言って、彼が見せたのはちんあなごの玩具。
 スイッチを入れれば、一昔前に流行ったダンシングフラワーのように光って踊るではないか。
「せーちゃん、いつのまにそんなものを見つけて……」
「らんらん、お揃いでどうだろうか」
 丁度色違いであるのだ、と清史郎がわくわくした顔で嵐吾を見る。
「おそろ? これ何に使うんじゃ?」
 用途など多分ないけれど、光って踊るちんあなごの玩具は正直面白い、その証拠に嵐吾の尻尾が揺れている。
「買おう、らんらん」
「仕方ないの~、せーちゃん」
 お互いの手には、色違いでお揃いのちんあなごの玩具。
 他にもお菓子を山ほど持って、ご機嫌な笑顔でレジに並ぶ二人の姿があったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
【アパラさん(f13386)と】

白地に黒の縞が入った浴衣を着て、アパラさんと並んで水族館を歩きます
日常のデートでありながら、海の中のような空間は非日常のようでもあり
不可思議な気分です

歩調はアパラさんに合わせて
自身もじっくりと、解説や生き物を眺めながら進みます
繋いだ手が温かいです
浴衣が似合うと言われれば、礼を述べ、「アパラさんもですよ」と微笑みます

クラゲの水槽の前に立ち
問いには「はい、大好きです」と頷きます
ふわふわ水中を漂う姿には心癒やされます

アパラさんが灯り大好きなのだということを、改めて感じます
クラゲが光る理由は……あ、解説パネルがここに
『仕組みは解明されているが、光る目的は今でも分かっていない』だそうですよ
不思議ですよね

足を休めに訪れたカフェでは、イルカのラテアートが施された温かいカフェラテを飲んでほっと一息
ペンギンの飾りがついたパフェも注文しましょう
アパラさんのはクジラと……ニシキアナゴ
可愛いですよね

……海の生き物も可愛いですが
その。アパラさんがとても可愛いですよ

頬を染め、笑います


アパラ・ルッサタイン
アウグストさん(f23918)と
2021年浴衣(露草色に蛍柄)姿

噂には聞いていたが、水族館とは凄いな!
陸に居ながらにして斯様に海の生き物と触れ合えるなんて
ブース毎に説明を読み
確りと鑑賞し進む
その間もアウグストさんの手は、離さずに
ほら少し暗いし、離れては大変だしさ
ふふ、そのお姿
とても良くお似合いだよ

此処はクラゲだね?アウグストさんはお好きかい?
ゆるりと宙を舞う姿は優雅で、いつまでも見ていられそう
半透明の体にライトが当たってうつくしいね

お?おお?あのクラゲ!見て、ピカリと光っている!
海も照らす生物が居るなんて
嬉しくなってしまうのはランプ屋の性かな
ふむ?理由は不明と
海は不思議に満ちているなあ

沢山見て回ったね!
カフェで一休み
アウグストさんはイルカか!あたしはクジラだね
このスターゲイジーパイの様にティラミスから頭が飛び出している生物は……ニシキアナゴのチョコ?
あはは、かわいい!
ペンギンも可愛いねえ、食べるのが勿体ないよ

あたし?……もし、だとしたら
あなたが可愛くしてるのだと思うの
此方も染めて笑い返す



●恋色アクアマリン
 露草色に蛍が舞う浴衣に市松模様をした金糸の帯を締め、赤い帯締めを結んだアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が水族館のゲートを前にして後ろを振り向く。
「水族館とは大きな建物なのだね」
「そうですね、随分と大きい」
 アパラの視線の先には、白地に黒の縞模様が入った浴衣に黒い角帯を締めたアウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)が立っていた。
 行きましょうか、とアウグストが手を差し出すと、はにかんだように微笑んだアパラがその手をそっと掴む。爪先まで綺麗に整えられたその指を優しく握り込んで、アウグストがエスコートするように歩き出した。
 ゲートを抜けてエントランスに足を踏み入れれば、そこに広がるのは海の蒼。
「噂には聞いていたが、水族館とは凄いな……!」
 エントランス真正面にある大きな水槽は海の中を切り取ったかのような作りで、魚達がゆったりと泳ぎ回っているのが見える。それに水槽の天井からは自然光を取り入れているようで、海の中から空を仰いだようにも見えて美しい。
「なんだか不可思議な気分です」
 アパラとのデートという日常でありながら、この空間は非日常を感じさせてアウグストは隣の彼女に視線を向ける。
「ふふ、あたし達が海の中にいるような気分になるね」
 その通りです、と言葉にせず繋いだ手をきゅっと握ってアウグストが頷く。
「陸に居ながらにして、斯様に海の生き物と触れ合えるなんて本当に不思議だよ」
「他の生き物も見に行きましょうか?」
 エントランスの水槽を離れ、道案内の通りに二人で歩く。少し薄暗い通路を抜ければ、まるで南の海の色をしたアクアマリンのようなトンネル型の水槽ドームへと出た。
「イルカだよ、アウグストさん」
「随分と速く泳ぐのですね」
 二人が立ち止まった横をまるで車が通り過ぎていくかのようなスピードで泳ぐのを眺め、視線を合わせると再び歩き出す。その歩調はゆったりとしていて、イルカを眺めるアパラに合わせたもの。その気遣いが嬉しくて、アパラは乳白色の瞳に海のアクアマリンと彼の金色を映して微笑んだ。
 イルカ達のトンネルを抜けると、再び海底にほど近いような薄暗い蒼が広がる通路で、アパラは思わずアウグストの手を握る手に力を込める。
「アパラさん?」
「ああ、その、ほら……すこし暗いし、離れては大変だしさ」
 足元にも気を付けないといけないし、とアパラが言えばアウグストが彼女の手をしっかりと握り直す。
「大丈夫です、離したりしないですよ」
 繋いだ手は温かく、どこか安心してアパラが微笑む。
「ありがとう、アウグストさん」
「こちらこそ」
 そう囁いて、アウグストが彼女の手を引いた。
「此処はクラゲだね?」
 部屋の壁一面を水槽とし、その中に無数の白いクラゲが揺蕩う様は壮観で、まるで海の中でクラゲに囲まれているかのよう。
「アウグストさんはお好きかい?」
「はい、大好きです」
 ふわふわと水中を漂う姿には癒されますと、アウグストがこくりと頷いた。
「あたしもさ、優雅でいつまでも見ていられそう」
 ゆるり、ふわりと浮かぶように宙を舞うクラゲの中を歩き、半透明の体にライトが当たってうつくしいとアパラが吐息を零す。それからふと視線を小さな水槽に向ければ、光るクラゲが見えて指をさした。
「お? おお? アウグストさん、あのクラゲ! 見て、ピカリと光っている!」
「はい?」
 視線をそちらに向けてみれば確かに光っているのが見えて、もっと近くで見ようと近付く。
「海も照らす生物が居るなんて、嬉しくなってしまうな」
 ランプ屋としての性だろうかとアパラが笑えば、アウグストがしみじみとアパラさんは灯りが大好きなのだということを、改めて感じます、と呟いた。
「クラゲが光る理由は……あ、解説パネルがここに」
 二人で覗き込むと、刺激を与えたり紫外線を当てると傘の縁が緑色に光ると書かれている。
「なるほど、水槽にはブラックライトを当てているようですね。ちなみに仕組みは解明されているが、光る目的は今でも分かっていない、だそうですよ」
「ふむ? 理由は不明と……海は不思議に満ちているなあ」
「不思議ですよね」
 生命の母と呼ばれるだけの事はあるとアパラが頷けば、アウグストもそうですねと穏やかに頷いた。
 その後も順路に沿って歩いていけば、イカにタコ、カニにエビと馴染みのある海の生き物であったり、ウミヘビやウツボなどのあまりお目にかからぬ生き物であったりと、どの水槽も楽しく眺めて時折美味しそうだなんて思ってみたり。
 そんな風に水族館を楽しんでいると、この水族館の中でも一番大きな水槽だというジンベエザメやマンタ、その他の魚が泳ぐ巨大水槽の前に到着する。
「おやまあ、随分と大きな水槽だね」
「二階建てのビル……いや、もう少しありますね」
 それこそ、海の中だと錯覚を覚えそうになるほど。
 上を見上げればジンベエザメが通り過ぎ、下を見ればマンタがヒレを優雅に動かして泳いでいくのが見えた。
「大きいね? あたし達が乗れそうなくらいだよ」
「ええ、本当に」
「ふふ、本当に乗ったら気持ちいいんだろうね」
「……グリードオーシャンでしたら、乗れるかもしれないですよ」
 あの不思議の海であれば、そういった話もあるだろう。
「いつか、機会があれば行きましょうか」
「勿論だよ」
 いつか二人でと、未来の約束をしながら止まっていた足を動かして先へと向かった。
「沢山見て回ったね!」
「ええ、足は疲れていませんか?」
 慣れぬ下駄だ、足も疲れるだろうと問えば、少しだけとアパラが笑う。
「では、あちらのカフェに入りましょう。丁度いい足休めになります」
「ふふ、お腹も空いてきたことだしね」
 水族館の中に併設されたカフェへと入り、一息ついてメニューを覗き込む。
「どれもかわいくて迷ってしまうな」
「ぼくは……イルカのカフェラテとペンギンのパフェにしましょうか」
「アウグストさんはイルカか! じゃあ、あたしはクジラにしよう」
 後は何にしようかとアパラが迷いながらも決めたのはティラミスで、勿論普通のティラミスではない。まるでスターゲイジーパイの様に、ティラミスから頭を飛び出させている生物に笑ってしまったのが決め手である。
 注文をして、少し待てば机の上に小さな水族館の出来上がりだ。
「ふう、美味しいですね」
 イルカのラテアートが施された温かいカフェラテを飲み、アウグストがペンギンのパフェを何処から食べようかと悩む。アパラは運ばれてきたティラミスから顔を出すチョコに頬を緩ませて。
「これ……ニシキアナゴのチョコ? あはは、かわいい! ペンギンも可愛いねえ、食べるのが勿体ないよ」
 アウグストと同じように食べるのを躊躇って、端からケーキを崩していく。
 そんなアパラを眺め、悩んだ末に天辺からパフェを食べ始めたアウグストが口を開いた。
「……海の生き物も可愛いですが」
「うん?」
 口の中のケーキを飲み込んで、アパラが顔を上げる。
「その。アパラさんがとても可愛いですよ。浴衣もとても似合っています」
 どのタイミングで言おうかと考えていたことも言えて、満足そうにアウグストがパフェの上のペンギンをつつく。
「あたし? ……もし、だとしたら」
 アパラが真っ直ぐにアウグストを見詰めて、花咲くように微笑んで。
「あなたが可愛くしてるのだと思うの」
 だって、今日はあなたの為にお洒落をしてきたんだもの。
「ふふ、アウグストさんもそのお姿、とても良くお似合いだよ」
「……ありがとうございます」
 そう言ってくれたことも、ぼくの為に可愛くしてくれたことも。
 ふんわりと頬を染め、アウグストがアパラにだけ見せる笑みを零してみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈◎
2020の浴衣着用

イルカの所だな!
すいすいと泳ぐよなぁ…すげぇ早いぜ…!
今年の夏か?
ふふふ、俺様はすっごい早かったろ!メモリ(UC)で人魚化した力って奴だ!
スッゴイ楽しかったよな!
俺様も心結と二人で遊べたの楽しかったぞ!
…なんか顔紅いぞー?

おぉー!鯨だ!やっぱでけぇよなぁ!
アイツホントデカさが半端ねぇからさぁ…見てるだけで大迫力!だもんな!
良いな!背中に乗るのも凄い楽しそう!
水平線の彼方かぁ…行ける所まで行って見たさは有るな!

色々な動物のカフェあったけど
ペンギンカフェなんてのも有るんだなぁ
デザート食べつつ観照できるのは便利だぜ…!
俺様はどうしよ…ならペンギンケーキ!
でっけぇっつうかふわふわしてんな…あ、中にクリームとかフルーツも入ってる!
食べ応えあるじゃん…!

だなー、あーゆうの愛らしいっつぅんだよな
なんでだろ、可愛いからかな?
……ん?そうなのか?
あーん(ぱくり、美味しい)
心結がそういうなら…
自分のケーキを一口掬って、心結にお返ししつつ
好きなだけ、心結を見るとするさ(にこっと笑顔


音海・心結
💎🌈◎
2020の浴衣着用

……かわゆい
すいすい泳いでる様子を見ると、今年の夏を思い出します
零時の水着もイルカさんのような尾鰭で
泳ぐのもとっても早かった
今年の夏はすごく楽しかったです
零時を独り占めできたりして
……思い出したら、恥ずかしくなってきましたね

わ、次はくじらさんですかっ
とっても大きいですねぇ
零時が見たがる気持ちもわかる気がします
背中に乗れたら、楽しそうだと思いませんか?
水平線の彼方までゆけたら――、なんて

……
ペンギンカフェ
デザートを食べながら、ペンギンのお散歩が見れるのですね
折角ですし、ゆきましょうっ
みゆが頼むのはペンギンパフェ
大きくて豪華
食べちゃうのが少し勿体ないですがっ
ご機嫌に、パフェを口に運ぶ

てちてち歩く姿、愛らしいですねぇ
なんであんなに愛らしいのでしょうか
……む、零時
ペンギンさんもかわゆいですが、みゆも見てくれなきゃ嫌ですよ?
口許にアイスを運んであげて
お返しの一口、つまり間接キス
意識すればするほど、口を開くのに勇気が必要で
あー……んっ!
もう、みゆ以外にゆっちゃ駄目ですよ



●君と彼方まで
 からころと軽快な下駄の足音が二つ、水族館のゲート前で止まる。
「水族館だな、心結!」
「水族館ですよ、零時!」
 水色に桜の舞う浴衣にオレンジの兵児帯を結んだ兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と、華やかな更紗琉金のような赤と白の浴衣に金糸交じりの帯を結び、帯揚げを金魚の尾鰭のようにふわりと結んだ音海・心結(桜ノ薔薇・f04636)が顔を見合わせて笑い合う。
「楽しみですね、零時は何が見たいですか?」
「俺様は鯨が見たい!」
「くじらさん、いるといいですねぇ」
 そんな無邪気な会話をしながら二人並んでゲートを通り抜ければ、続くエントランスに広がるのは海中のような蒼い世界。
「すげぇ、水の中じゃないのに水の中にいるみてぇだ!」
「海の中とはまた違った感覚がしますねっ」
 不思議だと言いながら、二人がエントランスの正面にある大きな水槽を覗き込む。
「綺麗ですねぇ」
「海の中で見た景色とそっくりだ」
 これを人工的に作り出しているというのだから、人ってのはやっぱすげぇと零時が笑った。
「零時、次は何処へ行きますか?」
「ん-、折角だし全部見て回ろうぜ!」
 時間はたっぷりあるのだし、どうせなら全部見たいと零時が瞳を輝かせる。
「はい! でしたら案内の通りに行きましょうっ」
 心結だって全部見たいと思う気持ちは同じで、手にした案内図を懐にそっと仕舞うと矢印にそって通路を歩き出した。
 エントランスから通路に沿って向かった先にあったのはトンネル型の水槽ドームで、イルカが自由に泳ぐのが見える。
「おっ、イルカの所だな!」
「……かわゆい」
 百八十度、どこを見ても南国の海の色をした水槽の中をイルカが泳いでいて、目が足りないほどだ。
「すいすいと泳ぐよなぁ……すげぇ、速いぜ……!」
「ふふ、みゆはなんだか今年の夏を思い出します」
 スイスイ泳いでいるイルカは、まるでこの夏に見た零時のようで。
「今年の夏か?」
 きょとんとした零時に向かって微笑んで、心結が頷く。
「はい、零時の水着もイルカさんのような尾鰭だったでしょう? 泳ぐのもとっても早かったです!」
「ふふふ、俺様はすっごい早かったろ! メモリで人魚化した力って奴だ!」
 アクアマリンのようなキラキラの鱗で覆われた人魚の尾鰭は美しく、その泳ぎは力強かったのだと心結が思い出しながらイルカを眺める。
「今年の夏はすごく楽しかったです」
「ああ、スッゴイ楽しかったよな!」
 カクリヨに作られたビーチで一日中遊び倒したよな、と零時が笑う。
「はい、零時を独り占めできたりして……とっても」
 あの夜の約束も――思い出したら、少し恥ずかしくなってしまって、心結はほんのりと頬を赤く染めた。
「俺様も心結と二人で遊べたの楽しかったぞ! ……なんか顔紅いぞー? 熱でもあるのか?」
「何でもないですよっ、熱もないです! ほら、次ですよ零時!」
 慌てて心結が首を横に振り、トンネルを抜けた通路の先にある展示物を指さした。
「大丈夫ならいいけどな! 心結は無理する時があるからなぁ」
「う、ほんとのほんとに大丈夫ですってばっ」
 もう、と頬を膨らませた心結の視線の先にはカラフルな熱帯魚や大きな海亀、思わず零時の名を呼んで海亀が泳ぐのを追い掛ける。続く水槽には小さなサンゴ礁やクマノミとイソギンチャクなどがいて、可愛らしい姿を二人に見せた。
 その後もエビやカニ、タコにウツボなどの展示が続き、珍しい種類もいてその色の奇抜さに零時と心結がはしゃいで歩く。
「次は何が居るんでしょうねっ」
「ん-、俺様はそろそろ鯨が見たいんだけど……ってあれ、鯨か!?」
 二人が出たのは広い水槽で、中にはどこか丸いフォルムの生物が泳いでいるのが見えて。
「わ、くじらさんですかっ?」
 わくわくとした気持ちで水槽に近寄って、プレートを見てみれば――。
「ん? シャチ、あっこいつシャチだ!」
「わあ、しゃちさんですかっ」
 堂々と泳ぐ姿は鯨にも引けを取らないと、零時が目を輝かせてシャチを追う。
「大きいですねぇ」
「でけぇよなぁ」
 目測でも六メートルはあろうかという大きさで、まるで王様のよう。
「背中に乗れたら、楽しそうだと思いませんか?」
「良いな! 背中に乗るのも凄い楽しそう!」
「水平線の彼方までゆけたら――」
 あなたと二人で、と続く言葉は飲み込んで、心結が微笑む。
「水平線の彼方かぁ……行ける所まで行って見たさは有るな!」
 それはきっと最高の冒険になると零時が笑って、先程ちらりと見たプレートを覗き込む。
「心結、シャチも鯨らしいぞ!」
「え、くじらさんなんですか?」
 正確に言えば、イルカもシャチもクジラの仲間で、その大きさで呼び方を変えているのだとか。
「そっか、じゃあこいつも鯨の仲間なんだな」
「じゃあ、最初にくじらさんだと思ったのも間違いじゃないのですねっ」
 本物の鯨ではなかったけれど、水平線の彼方に向かう時は本物の鯨に乗ろうぜと、零時が輝くような笑顔でそう言った。
 水族館の半分以上を見終えたところで、心結が零時の手を引っ張る。
「零時、零時、あそこにゆきましょうっ」
「ん? ペンギンカフェ?」
 見つけたのはペンギンカフェと書かれた看板、腹も減ってきたし入ってみるかと零時が頷く。どんなカフェかとわくわくして入ってみれば、なんとデザートを食べながら散歩をするペンギンがテラス席から見られるというカフェで。
「色々な動物のカフェがあったけど、ペンギンカフェなんてのも有るんだなぁ。でも、デザート食べつつ観照できるのは便利だぜ…!」
「わあ、メニューにもペンギンがいっぱいです」
 可愛らしいペンギンをモチーフにしたデザートが沢山載っていて、どれにしようか目移りしてしまうと心結が嬉しい悲鳴を上げる。少し見ただけでも、ペンギンの顔をモチーフにしたケーキにかき氷、パンケーキにラテアート、ペンギンの形をしたチョコレートがちょこんと乗ったパフェにクッキーやマカロンなど、多種多様だ。
「どうしよ……どれにすっかな」
「これは迷いますね……」
 二人ともメニューと暫くの間睨めっこをして、決めたと顔を見合わせる。
「決めました、みゆが頼むのはペンギンパフェですっ」
「なら、俺様は……ペンギンケーキ!」
 これ以上迷わないうちに、と注文を済ませて少し待てば二人の前にはとびっきりのケーキとパフェが運ばれて、自然と笑みが零れた。
「大きくて豪華です」
「俺のはでっけぇっつうかふわふわしてんな」
 さっそく一口とばかりに零時がフォークで端を崩せば、中からたっぷりのクリームとフルーツが顔を覗かせる。
「すげぇ、食べ応えあるじゃん……!」
「心結のパフェも中から小さなペンギンが出てきました……!」
 食べてしまうのが少し勿体ないくらいだけれど、溶けてしまう前に口へと運ぶ。
「んん~美味しいですっ」
「美味いな!」
 にこにこと笑みを浮かべてスイーツを食べていると、テラスに面したお散歩道をペンギンが歩いてくるのが見えた。
「てちてち歩く姿、愛らしいですねぇ」
「だなー、あーゆうの愛らしいっつぅんだよな」
「なんであんなに愛らしいのでしょうか」
 他愛のない言葉を口にしつつ、スイーツを食べて。
「なんでだろ、可愛いからかな?」
 うん、可愛いと零時がペンギンを見て頷く。
「……む、零時」
「どうした?」
「ペンギンさんもかわゆいですが、みゆも見てくれなきゃ嫌ですよ?」
 今日のみゆはとっておきです、とペンギンにも負けない金魚が袖を揺らす。
「……ん? そうなのか?」
「そうなのです、それなら許してあげますよ」
 なんて心結も笑って、パフェのアイスを掬って零時の口許へと寄せた。
「はい、あーん」
「あーん!」
 ぱくっと食べて、零時がお返しとばかりに自分のケーキを一口掬って差し出した。
 差し出されたスプーン、お返しの一口、つまりは間接キスというやつで。意識をした途端に心結の頬がぽぽぽっと赤くなる。
「心結?」
「あ、あー……んっ!」
 零時に促され、勇気を振り絞って差し出された一口を食べた。
「ま、心結がそういうなら……好きなだけ、心結を見るとするさ」
 甘い、それ以外の味なんてわからなくて、心結が口をもごもごと動かして飲み込む。
「もう、みゆ以外にそういうことゆっちゃ駄目ですよ!」
「お、おう」
 どうして駄目かはわからなかったけど、心結が言うならと零時がケーキを飲み込みながら頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀

幸也さん(f13277)と

ふふ、幸也さんと水族館に来るのは三回目ですね。なんて言うか縁があるのかな?
てゆーか例の密室。オタ的には既視感がビシビシきますよね…。
さて…今日は何を見ましょうか?
えーとここの水族館は…ドーム型水槽に巨大水槽…クラゲの水槽に小さな海の生き物を集めた水槽…なんかがあるみたいですね。
そう言えばクラゲの水槽とかはあんまり二人では見たことなかったかな?
なんかあれってカップルが観るのが似合うって言うか…そう言うイメージが。
でも、クラゲがふわふわしてるのって何だかこっちも楽な気持ちになりますよね(へらりと笑って)
えー、俺のですか?

…俺、やっぱ好きだな。水族館も幸也さんとお出かけするのも。
もっと、沢山行きたいのに…でも…
幸也さんにまで危険な目に遭わせるわけにはいかないから…
強くなったつもりだったのになぁ…

(強がりに気付ける余裕はなくそれでも何かは感じながら)
はは、ありがとうございます。


十朱・幸也

真紀(f06119)と

割と定期的に
真紀と水族館来てる気がすると思ったら、三回目なのか
リア充の定番スポットってイメージだったけど
こう何度も来ると、そうでもねぇ感じだな

例の密室、割と流行りのアレだよな?
二次元限定かと思ったら
まさか三次元……しかも、自分が体験するとかレア過ぎだろ

(くつくつと笑いつつ)
真紀、どんな部屋が来ると思うよ?
ざっと調べた感じだと……
キスとかハグしないと出られないとか、ネタ寄りのもあったな

おー、ふわふわしてんな
クラゲってこう見ると、透明感っつーの?
本当に綺麗だよな
ふわふわしてんのはこっちもか……いや、真紀の笑ってる所の話

ったく、一人で勝手にしんみりしてんなよ(頭をわしゃわしゃ)
お前は俺よりも、充分強いだろうが
それに危険って言うなら……ああ、いや、何でもねぇよ
ほら、別の所も見に行ってみようぜ

(飢える様な渇きは治まっている筈なのに)
(甘い香りに牙を立てたくなるのを、大人ぶった余裕で誤魔化した)



●蒼の中の紅
「ふふ、幸也さんと水族館に来るのは三回目ですね」
 ジンベエザメの看板が掛かったゲートの前で、花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)がそう言いながら真横に立つ十朱・幸也(鏡映し・f13277)を見遣る。
 一度目はオーソドックスながらイルカショーが楽しかった記憶の残る水族館、二度目は真夜中の水族館でのお泊り。そしてこれが三回目の――。
「割と定期的に真紀と水族館来てる気がすると思ったら、三回目なのか」
「実はそうなんですよね。なんて言うか、縁があるのかな?」
 大体半年に一回くらいのペースで来ている、これはもう縁と言うしかないだろうと真紀が笑った。
「リア充の定番スポットってイメージだったけど、こう何度も来ると、そうでもねぇ感じだな」
 ゲートを通り抜け、エントランスに足を踏み入れながら幸也が言えば、真紀がそうかなぁという顔で周囲を見渡す。明らかにカップルの方が多いけれど、それは口にせず真紀がそっと声を潜めて幸也に話し掛けた。
「てゆーか幸也さん、例の密室」
 内緒話をするような距離と、人に聞こえぬように配慮した声に幸也が頷く。
「例の密室、割と流行りのアレだよな?」
「オタ的には既視感がビシビシきますよね……」
 そう、例のアレである。
「二次元限定かと思ったら、まさか三次元……しかも、自分が体験するとかレア過ぎだろ」
 そういうのは二次元だからこそいいんじゃないか? と、幸也がエントランス正面の水槽を見遣った。
「でも、俺はちょっと楽しみですけどね」
 都市伝説になりかけの怪異なんてレアでしょ、と真紀が期待を隠し切れない瞳で笑う。オカルトや都市伝説が好きな彼からすれば、さもありなんという笑みだ。
 その笑みに真紀らしいと幸也がくつくつと喉を鳴らして笑って、戯れに問い掛ける。
「真紀、どんな部屋が来ると思うよ?」
「そうですね、情報によると簡単なお題が出るって話ですけど」
「俺がざっと調べた感じだと……」
 ネットで簡単に調べた限りだが、幾つかの情報があった。
 それがネタとして書き込まれたものか、ガチのものかはわからないが。
「キスとかハグしないと出られないとか、ネタ寄りのもあったな」
「ベタすぎませんか?」
 いや、ベタだからこそ出されるのかもしれない、と真紀が真剣な表情で考察を始める。
「ま、今考えても仕方ないけどな」
 考えたところで出されるお題が何かなんて、いざその部屋に閉じ込められない限り解りはしないのだから。まあ、人はそれをフラグというのだが。
「それもそうですね。それじゃあ、まずは水族館を楽しむってことで……今日は何を見ましょうか?」
「ここは何が見所なんだ?」
 お前なら知っているんだろうとばかりに問えば、事前に仕入れた情報ですけど、と真紀がパンフレットを開く。
「えーっと、ここの水族館は……ドーム型水槽に巨大水槽……あとクラゲの水槽に小さな海の生き物を集めた水槽……なんかがあるみたいですね」
 ちなみに今いる場所はここです、とパンフレットの案内図を真紀が指さした。
「ん、それならこの順路で行けば無駄がなさそうだな」
 ある程度効率も重視しつつなコースに真紀も頷き、行きましょうかと歩き出す。蒼い光りに満ちた通路が徐々に明るくなって、辿り着いたのはイルカが泳ぐトンネル型の水槽ドームだ。
「イルカ、結構沢山いるんだな」
「気持ちよさそうですよね」
 トンネルを歩く人々を追い越しながら泳いでいくイルカを眺めつつ、南国の海って感じがすると真紀が呟く。
「南国とか行かないですけど」
「まず海に行かないからな……」
 できれば家でネトゲかソシャゲをしていたい、ゲーマーとして正しい姿勢を見せた幸也が言うと真紀が幸也さんらしいと笑った。
 イルカ達に見送られてトンネルを抜けると、引き続き南国をイメージした様な水槽が続いているのが見えて、何が居るのかと二人で覗き込む。
「あ、これクマノミですね」
「ああ、イソギンチャクに住むんだっけか」
 他にもカラフルな魚が泳ぎ、二人の目を楽しませる。
「南国の魚ってなんでこんなに色が鮮やかなんだろうな」
「あ、俺ネットの記事で見たことありますよ。南国の海ってサンゴとかカラフルじゃないですか」
「全体的に明るいよな」
 目の前の水槽の様に、魚が居なかったとしてもカラフルに見えるだろう。
「そこに溶け込むために敢えてカラフルなんだそうです」
「迷彩ってことか」
 なるほどな、と納得して水槽を覗き込めば、確かにこの水槽の中に地味な色をした魚が居れば逆に目立ちそうだと幸也が頷いた。
 豆知識を増やしつつ、タコやイカ、カニにエビと、ちょっとお腹が空いてしまうような水槽も一通り眺めて進めば、クラゲを集めた部屋へと辿り着く。
「おー、ふわふわしてんな」
 一面の水槽に半透明な白いクラゲが大量に揺蕩う様は壮観で、思わず立ち止まって見入る。
「クラゲってこう見ると、透明感っつーの? そういう感じするな」
「そう言えば、クラゲの水槽とかはあんまり二人で見た事なかったかな?」
「そうだな、しっかり見たことはないっつーか」
 そう考えると勿体ない事をしたな、と思う。
 こんなに綺麗なのに、なんて幸也がクラゲを眺めていると真紀が同じように眺めながら呟く。
「なんかこう、カップルが観るのが似合うって言うか……そう言うイメージがあったんですよね」
 勝手なイメージですけど、と真紀が幸也に視線を向ける。
「でも、クラゲがふわふわしてるのって何だかこっちも楽な気持ちになりますよね」
 ね、と同意を求めるように真紀がへにゃりとした笑みを浮かべた。
「ふわふわしてんのはこっちもか……」
「え? 何が……ってクラゲの話ですよね?」
「いや、真紀の笑ってる所の話」
「えー、俺のですか?」
 そんなにふわふわしてますか? と、真紀が己の頬をむにむにと引っ張る。
 そういう、こっちまで癒すようなところがだよ、とは言わず、幸也がふっと笑う。
「あ、幸也さんも笑ってるじゃないですか」
「お前につられたんだよ」
 クラゲを前に二人で笑って、ふわふわな空間を後にした。
 案内図を眺めつつ、次はこっちの通路と歩いた先に見えたのは、この水族館でも一番大きいと言われている水槽。
「でかいですね……」
「マジででかいな」
 ビル何階建てだ? と言いながら見上げた巨大水槽の中を泳ぐのはジンベエザメ、それからマンタに様々な魚達。悠々と泳ぐ姿に暫し見惚れ、何かを思いつめたように真紀が幸也を見遣った。
「どうした?」
「……俺、やっぱ好きだな」
「え?」
「水族館も、幸也さんとお出掛けするのも」
 ああ、と幸也が口許を緩めると、真紀が視線を下げて。
「もっと、沢山行きたいのに……」
 でも、と真紀が声を詰まらせる。
「行けばいいじゃないか」
 お前が誘うなら、俺に否はねぇよと幸也が真紀へと視線を向ける。
「でも、幸也さんにまで危険な目に遭わせるわけにはいかないから……強くなったつもりだったのになぁ……」
 開けてしまった箱、『三人目』が、もしも彼を傷付けてしまったら。
「あのなぁ」
 はぁ、と息を零した幸也に、真紀がびくりと目を閉じる。
「ったく、一人で勝手にしんみりしてんなよ」
 目を閉じた真紀の頭をわしゃわしゃと掻き回し、幸也が笑う。
「お前は俺よりも、充分強いだろうが」
「幸也さん……」
「それに危険って言うなら……ああ、いや、何でもねぇよ」
 言いかけた言葉を止めて、幸也が首を横に振る。
「ほら、他の所も見に行ってみようぜ」
 大人の余裕を見せるように、沈んだ顔をした真紀に笑って見せる。
「はは、ありがとうございます」
 その気遣いに、真紀が笑みを取り戻して頷いた。
「次はどこだっけ?」
「ええと、こっちです」
 一歩前を歩く真紀の後ろで、幸也が強く拳を握り締める。
 飢える様な喉の渇きは治まっている筈なのに、どうしてか真紀から感じる甘い香りに牙が疼く。
「幸也さん? こっちですよ」
「ああ、今行く!」
 ぐっと奥歯を噛み締めて、その衝動を堪えて。
 幸也が蒼い世界の中で紅い瞳を揺らしながら、真紀の後を追った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『淀む密室』

POW   :    壁や扉などの障害物を物理的に破壊。

SPD   :    なんらかの手段で鍵を開ける。わずかな侵入口を探す。

WIZ   :    魔術的な封印の解除を試みる。パスワード

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●とある界隈では有名な部屋
 それは水族館から帰ろうとした瞬間だったかもしれないし、近くにいた子どもがまだ帰りたくないと親の手を引っ張るのを見た瞬間だったかもしれない。もしかしたら、まだ帰りたくないと思った瞬間だったかも。
 何がトリガーだったかはわからないけれど、あなたは気が付けば白い部屋にいるだろう。
 ひとりでかもしれないし、誰かと一緒かもしれない。
 共通している点は、何処もかしこも白い部屋にたった一つだけ扉があること。
 その扉の上には、部屋を出る為の条件が浮かびあがること。
 条件は部屋それぞれ違うけれど、難しいものはないこと。
 部屋は条件を達成する為の広さ、道具、その他諸々が揃っていること。
 そして、その条件をクリアしない限り、部屋から出られないこと。

 あなたは部屋を出る為に、扉の上に浮かび上がる文字見上げ――。
榊・霊爾
【御霊除霊事務所】◎

やあ、私だ
何故か知らんが君と一緒になった
物件探していたら偶然君と会ってしまったワケだね
と、いう事で
私がここにいるという事は...解るね?
何って、君が家賃払わないと出られない部屋だよ
そこに都合よくATMがあるだろう?
家賃滞納金50万、払え(白鶺鴒の切っ先を突き立てる)

...誰が50万「円」と言った?
50万ドルだよ
大体5000~6000万円かな?
無理なら私が報酬百万単位の邪神級除霊案件を満額分紹介するが?
もちろん無給だ、報酬は家賃に充てるよ

はは、冗談だよ冗談
冗談が通じないねぇ
という事で、50万円払え


御魂・神治
【御霊除霊事務所】◎

大家ァ...
アンタがここにおるっつう事は禄でもない事がワイに降りかかるっつうことやな
まぁ、あのクソ鳥事務員よかマシやけど...

はァ??家賃払え??
ここにきて払えやと??
ちっ...次の報酬支払日までスーパーのお勤め品生活やないかい...
払う、払うて、50万円くらい...
へ?あ??ドル??メリケンのドルやて??
何時からドルにしてたんや!聞いてないで!
契約更新の時の書類にそんなもんは書いてなかったで!
払えんなら強制労働?何時の時代や!
6000万円分無給で働けってふざけ――

冗談かい!!(ズコー)



●Money is power!
「嘘やろ」
 その部屋に閉じ込められたと気が付いた瞬間、御魂・神治(除霊(物理)・f28925)はそう呟いた。
 まずは、本当に水族館を回っていただけで件の部屋に閉じ込められたことに。それから、目の前にいる人物について。
「嘘? 私は偽物ではないよ」
「いや俺一人で来たやんけ」
「生憎だがね、私も一人で来ていたのだよ」
「嘘やろ」
 嘘やろ? マジで? そんな表情で神治は榊・霊爾(あなたの隣の榊不動産・f31608)を青ざめた顔で見ていた。
 何故かというと、彼は神治が経営する除霊事務所――仕事場兼住居である雑居ビルの大家なのだ。ちなみに事故物件であったものを霊爾からの依頼により神治が除霊し、キレイキレイした経緯がある。
「普通そうなったら格安か無料やろ、家賃」
「何を言う、充分格安だろう」
 元々それなりにボロなのも相俟って、確かに相場に比べれば安い。
「いやちゃうわ、そんな話とちゃうわ」
 家賃の話は置いておきたい、だって滞納してるから。
「なんでおんの?」
「言っただろう、私もこの水族館に来ていたんだよ」
「アンタ水族館来るような人ちゃうやん」
 心外、といったような顔をした霊爾が事の経緯を説明する。
「物件を探していたんだ」
「まあ、アンタそれが仕事やしな」
「探しついでに水族館に入ったら偶然君と会ってしまったワケだね」
「そこがもうわからんのやけど」
 わからないことだらけだけれど、ここは〇〇しないと出られない部屋だということと、この大家がいるということは禄でもない事が自分の身に降りかかるという事だけはわかる。
「分かりたないんやけどな! まぁ、あのクソ鳥事務員よかマシやけど……」
 小指の爪の先程には、多分、と神治が霊爾を見遣った。
「ああ、見てご覧。部屋を出る為のお題とやらが出たようだよ」
「即こなして即出てったるからな」
 扉の上に浮かび上がったお題、それは――。
「……やり直しを要求するんやけど」
「なるほど、それで私がここにいるという訳だね」
「やり直せや!! もっとあったやんけ!!!」
 青筋を立てて神治が扉の上の文字を睨み付けるが、そのお題が変更されることは無い。
「と、いう事で……解るね?」
「何にも解らんわ……」
「ご丁寧に日本語でデカデカと書いてあるだろう。君が家賃払わないと出られない部屋だよ」
「一生理解したない単語ナンバーワンやん」
 神治が両手で顔を覆うと、霊爾が部屋の隅を指さす。
「何を言っているんだ、そこに都合よくATMがあるだろう?」
「何であるん??」
 いやほんまに何で??
「家賃滞納金五十万、払え」
 払わねばお前を掃うとばかりに、霊爾が白銀の刃の切っ先を神治へと突き立てた。
「はァ?? マジで言うとんの?? 家賃?? ここにきて払えやと??」
「君、ここで一生を過ごしたいのかな?」
 私と、と霊爾の声が低くなる。
「ちっ……次の報酬支払日までスーパーのお勤め品生活やないかい……」
 ワイかてアンタと一生ここにおるんはゴメンや、と神治が頭を掻く。
「払う、払うて、五十万くらい……」
 それくらいは入っていたはずだと、渋々ながらもATMに向かう。
「……誰が五十万『円』と言った?」
「ハ?」
「五十万ドルだよ」
「へ? あ?? ドル?? メリケンのドルやて??」
 ドル??? 何言ってんの? 頭沸いた? みたいな顔をして神治が霊爾を見る。
「マジの顔やん……」
「大体五千~六千万円かな?」
「何時からドルにしてたんや! 聞いてないで!」
 だいたい、契約更新の時に書類にそんな事は書いてなかったはずだ、これは不当! と神治が当然の権利として主張するのを涼しい顔でスルーして、霊爾が返済案を口にする。
「無理なら私が報酬百万単位の邪神級除霊案件を満額分紹介するが? もちろん無給だ、報酬は家賃に充てるよ」
「払えんなら強制労働? 何時の時代や!」
 奴隷やん! と言いつつも、頭の中で満額に満ちる分の除霊案件を試算する。一日二件こなすとしても一ヵ月はかかるし、その間無給で無休とか過労で死ぬやんけ、と霊爾を睨む。
「そもそも五千と六千の振れ幅がでかいんや、それを無給で働けってふざけ――」
「く、はは、冗談だよ冗談」
「んなって、冗談かい!!」
 芸人張りのズッコケアクションを見せながら、神治が立ち上がる。
「冗談が通じないねぇ」
「大家ァ……冗談言うときは冗談言うとる顔をせぇよ」
「という事で、五十万払え」
「そっちは冗談とちゃうんかい!」
 くそー、と呟きながら、神治が五十万を下ろして霊爾にそのまま渡す。
「ひーふーみー……はい、確かに」
「おらァ! これで開いたやろ!」
 ピンポン! みたいな二重丸が浮かび、扉が開く。
 きっとこの先には今回の騒動を引き起こした怪異がいるのだろう、バチクソにぶっ飛ばすと決意しながら神治が扉に手を掛けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

七々澤・麒麟

【ねゐ(f14367)と一緒】

水族館でデートしてた…
って思ったら閉じ込められてんな!?
でもここでずっといちゃいちゃして人生終えるのも
それはそれでアリかー★

おちゃらけつつ周囲を確認すると
『本当の後悔を告白しないと出られない』

半日程日常的な失敗談を語ってみるも開かず

「こーゆーのはあんま言いたくないんだけどさぁ…」
会話が止まりがちになった所で
昔事件で亡くした恋人の話を静かに切り出す

…あんな若さでいきなり命を奪われてさぁ
あいつは幸せだったのかなぁって
オレはもっと何かしてやれたんじゃねーかって

後悔が
まだべったり背中に張り付いてんだよなぁ…

ねゐの話は不明瞭ながら励ましたい想いが伝わり
へらりと笑ってみせる


夢召々・ねゐ
【麒麟(f09772)と一緒】

もーっ、一緒に出る方法を考えて…
『本当の後悔を告白しないと出られない』の?

麒麟が時折、夢で魘されていたのは
この時の後悔や傷痕があったからなんだ
かなしかった、よね
もっともっと麒麟と一緒にいたかったはずだよね

ねゐは麒麟達と出会ってからの記憶しか、はっきりしてなくて
消えちゃった記憶は思い出せないけど
昔に記憶した感情は時々思い出すの
ねゐはね、誰かを癒すために作れらたAIなのに
誰も癒せないまま、ねゐは凍結されちゃったの
ねゐを作ってくれた人の願いも叶えられず
その人が助けたかった人の傷も癒せなかったことが後悔
記憶がなくても
"どうか、元気になって"って想いは、胸に残ってるんだよ



●後悔の色
 雰囲気もよく、デートスポットとしても人気のある水族館。
 蒼い世界は綺麗だったし、イルカが泳ぐトンネル型の水槽ドームも綺麗だった。
「クラゲも見応えあったし、何よりあのデカいジンベエザメは見に来た甲斐があったよな」
 うんうん、と七々澤・麒麟(GoldyFesta・f09772)は頷いて顔を上げる。
「水族館でデート楽しいなって、俺らやっぱり閉じ込められてんな!?」
「もーっ、現実逃避してないで、一緒に出る方法を考えて?」
 何度見てもここは蒼い世界じゃなくって、白い世界なんだよなと言う七々澤・麒麟(GoldyFesta・f09772)に向かって、夢召々・ねゐ(ゆめうつつ・f14367)が頬を膨らませる。
「いや、でもここが噂のお題をクリアしないと出られない部屋だっていうなら、そのお題をクリアしないと出られないんだよなぁ」
「お、お題」
 麒麟の言葉に、ねゐがゴクリと喉を鳴らす。
「ま、でもここでずっといちゃいちゃして人生終えるのも、それはそれでアリかー★」
 悪くない人生だよな! と麒麟が笑ってねゐを見れば、これ以上はないほどにねゐの頬が膨らんでいて、ちょっと突きたくなる衝動を抑えて周囲を改めて確認する。
「テーブルにソファ、冷蔵庫……冷蔵庫あんだな!?」
「水分補給用かなあ?」
 部屋の中で死ぬような目には合わないということだろうか、よく分からないところで親切な部屋だとねゐが首を傾げた。
「あ、扉ってあれか?」
 真っ白な壁に真っ白な扉だから見逃しかけたが、きちんと取っ手が見える。それから、扉の上にお題も――。
「……『本当の後悔を告白しないと出られない』部屋?」
「本当だ、本当の後悔を告白しないと出られないって書いてあるね」
「うーん、後悔、後悔なぁ……」
「麒麟は後悔していること、あるの?」
 そう問われ、麒麟がふっと笑う。
「そりゃー沢山あるぜ、聞かせたら半日は掛かるかもしれねぇなー」
「その為に冷蔵庫があるのね」
 半日も喋っていたら、喉が渇くものとねゐが冷蔵庫を開けると、中にはペットボトルのドリンクが何本も入っているのが見えた。
「毒とか変な仕掛けはなさそうだな」
「自販機で売ってるのと一緒だね」
 試しにと蓋を開けて一口飲んで様子を見るが、変わった所はなにもないし、美味しいジュースだ。
 何かあったらねゐに癒してもらおうと思っていたけれど、その必要もなさそうだと顔を見合わせて、取り敢えずソファに座るかと隣り合わせで腰を落ち着ける。
「それじゃ、俺が話してみるとするか」
 麒麟が話し出したのは日常の失敗談、ありふれたものからそんな事ある? みたいなものまでをつらつらと話す。
「え、これも駄目なのか?」
「ん~、後悔っていうより失敗談だから……?」
 じゃあ次はねゐの番、とねゐも幾つか話してみるけれど、やはりそれもちょっとした失敗の話だったりでお題に沿うものではないらしい。話すことが少なくなり、会話が途切れがちになった頃にペットボトルを片手で弄んでいた麒麟が小さく息を吐いて残っていた飲料を飲み干す。
「こーゆーのはあんま言いたくないんだけどさぁ……」
 それは本当に言いたくなさそうな声で、それならば話さなくていいとねゐが彼を見遣る。けれど、麒麟の瞳にはねゐに話をする決意が出来ていたようで迷いはない。
「俺さ、昔恋人が居たんだ」
 そう静かに切り出されて、ねゐは黙って彼の話を聞くことにした。
「そいつは……まぁ詳しい事は置いとくが、事件で亡くしちまって」
 パキリ、と空になったペットボトルが軋む。
 それはまるで未だ癒えぬ彼の心の音のようで、ねゐが目を伏せる。
「……あんな若さでいきなり命を奪われてさぁ、あいつは幸せだったのかなぁって」
 今も思う、きっとこの先も忘れない。
「オレはもっと、何かしてやれたんじゃねーかって」
 後悔なんて言葉では生温いほど、まだべったりと背中に張り付いている、麒麟の。
「……麒麟が時折、夢で魘されていたのはこの時の後悔や傷痕があったからなんだ」
「え、俺魘されてたか?」
 その返事にこくりとねゐが頷いて。
「かなしかった、よね」
 きっとその恋人も、もっともっと麒麟と一緒にいたかったはずだよね、とねゐがぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
「そうだな」
 きっとそうだった、それを確かめる術は、今はないけれど。
「あのね、ねゐは麒麟達と出会ってからの記憶しか、はっきりしてなくて」
 消えてしまった記憶はちっとも思い出すことができないけれど、とねゐが麒麟を見つめる。
「昔に記憶した感情は時々思い出すの」
「感情を?」
 こくん、と頷いたねゐが唇を開く。
「ねゐはね、誰かを癒すために作れらたAIなのに……誰も癒せないまま、凍結されちゃったの」
 日々の健康管理と安眠効果で使用者を癒すことを目的に作られたアプリケーションAI、それが夢召々ねゐという存在だ。
 電子の海を揺蕩う内に、バーチャルキャラクターとして具現を為したねゐにとって、一番の後悔と言われたら。
「ねゐを作ってくれた人の願いも叶えられず、その人が助けたかった人の傷も癒せなかったことがね、ねゐの後悔」
 でもね、とねゐが麒麟のペットボトルを握り締める手をそっと解すように触れて。
「記憶が無くても、『どうか元気になって』って想いは、胸に残ってるんだよ」
 伝わってほしい、と握られた手は何処か温かく、麒麟の手から力が抜けていく。
 麒麟にとって、ねゐの話は不明瞭な点も多いけれど、自分の事を励ましたいという想いがあるのだけは強く伝わって。
「ありがとな」
 そう言って、へらりと笑ってみせた。
 カチリ、と鍵が開く音がして、扉が開く。
「この部屋で話したことは内緒だぜ」
「うん、内緒ね」
 いつか内緒じゃなくなる日が来るまで、約束と笑って二人が部屋を出る為に立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ

扉の上を見上げれば『希望を示せ』の言葉。
でも何のためかしら?
条件は難しい物ではないし道具も何もかも揃っているのに、それでもこの真白の部屋から出たくない人っているのかしら?
刻々と変わる水槽を眺めるのとは違って、いつまでもなんの変化もないこの部屋で?
……それを望む人もいると言う事なのかしら……。

さて希望……。んーこれかしら。
鞄からお守り代わりに持っている古いタロットを出してワンオラクルでカードを引く。
思った通り「星」のカード、何となく今ならできそうな気がしたのよね。
扉に星のタロットカードを示す。
カード自体に意味もありますけど、昔確かにこのカードに希望を見出したのです。



●それは心に光るもの
 暗い部屋の明かりを点けた様な、そんな言葉がしっくりくるほど明るい部屋に夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は立っていた。
「……あら?」
 大きな水槽を見上げていたはずなのに、と目を瞬かせて辺りを見回せばそこは部屋と呼ぶしかない真白の部屋であった。
 少し考えて、ここが聞いていたお題をクリアしなければ出られない部屋なのだと理解する。
「私へのお題は……」
 扉の上の方を見れば、そこには確かに『希望を示せ』と書かれていて。
「希望……希望、ね」
 部屋にはテーブルとソファ、冷蔵庫。詳しく見てはいないけれど、お風呂にトイレも付いているようだった。
「確かに居心地は悪くない部屋だと思うけれど」
 試しにソファに腰掛けてみれば、ふかふかしていて座り心地も悪くない。
「この部屋から出たくないと思う人もいるって言っていたけれど……」
 藍からすれば、魅力を感じるような部屋ではない。
 だってこの部屋には、藍の大事にしているぬいぐるみはないし、お気に入りの紅茶だってない。
「条件は難しい物ではないし、道具も何もかも揃っているのに、それでも出たくない人っているのかしら?」
 刻々と変化し、違う表情を見せ続けてくれる水槽とは違い、いつまでも何の変化もないこの部屋で?
 藍には理解できなくて小さく首を振るけれど、占い師として働く藍は知っている。確かにそれを望む人達もいるということを、そしてこのままではいけないと助言を求めてやってくる人もいるのだと。
「ここに閉じこもっている限り、救いはないでしょうね」
 だからこそ、この怪異を倒す必要があるのだと再確認すると、藍が部屋を出る為の条件をもう一度目にする。
「希望……希望、ね」
 それならば、自分が今感じる事ができる希望はこれだと、常にお守り代わりとして持ち歩いている古いタロットを鞄から取り出した。
 手にしたカードをテーブル上でシャッフルし、裏向きに置いたデッキを片手で横へと崩し扇状に並べる。その中から、一枚だけを選び取り、表を向けた。
「思った通りね」
 藍が引いたのは『星』のカード、一般的には希望や閃き、自分の可能性、絶望からの再生などといった意味を持つカードだ。
「何となく、今ならできそうな気がしたのよね」
 他のカードを手早く片付け、鞄に仕舞う。テーブルに一枚残された『星』のカードを手にして扉の前に立ち、カードを掲げた。
「カード自体に希望という意味もありますけど、私は昔確かに――」
 このカードに希望を見出したのだから。
 果たして扉は開き、藍は真白の部屋を後にするべく足を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

こういうときって、何人カウントなんですかねー?『私たち』?

お題『目の前の物を食べ尽くせ』

何ですかねー、これ。ええ、まあ、これだと人数カウントも関係ないですねー?
山盛りの…調理済みのと生野菜。
しかも、ほぼ手掴みで食べれそうなものばかり。
飲み物にはお茶と牛乳…ああ、なるほど。
陰海月と霹靂もカウント内ですね、これ。牛乳って霹靂の好物ですし。
なので、一人と二匹でのんびり食べましょうかー。

いえ本当、陰海月の速度早いんですよ。1/4食べた間にねぇ。


陰海月、あとで運動頑張るのでめちゃ食べる。一番食べる。1/2食べた。
霹靂も、最近野菜食べれなかったので生野菜中心に食べる。1/4食べた。



●全部食べないと出られません
 おや、と馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が顔を上げた時には、そこは水族館の水槽の前ではなく何の変哲もない様に見える部屋の中であった。
「なるほど、これが例の部屋ですかー」
 扉の上に出るお題をクリアしないと出られない部屋、有識者の間では〇〇しないと出られない部屋と呼ばれるアレだ。
「こういうときって、何人カウントなんですかねー? 『私たち』?」
 四人で一人となった悪霊たる義透は、その身に四つの人格を宿している。厳密にいえば多重人格ではなく複合型の悪霊、都度表に出る人格は変わるけれど、それぞれが個である。
「さて、難しいお題でなければいいんですがー」
 基本、のほほんとした『疾き者』の人格を表に出した義透が辺りを見回して、最後に扉の上のお題を見上げる。
「……『目の前のものを食べ尽くせ』、ですかー」
 目の前のものって何ですか、と思えば部屋の中にテーブルと椅子、それからテーブルの上には山盛りの調理済みの料理と生野菜がぽんっと現れる。
「何ですかねー、これ。ええ、まあ、これだと人数カウントも関係ないですねー?」
 関係ないけれど、食べ尽くせとは……と義透が笑う。
「でもまあ、ほぼ手掴みで食べられそうなものばかりですし……食べても大丈夫そうですしね」
 これが毒だとかであれば、忍びである自分にはある程度判断が付く。そういったものでは無さそうだと確認し、椅子に座った。
「飲み物にはお茶と牛乳……ああ、なるほど」
 これは陰海月と霹靂もカウント内なのだろうと義透が頷く。何せ、牛乳は霹靂の好物なのだ。
「好きな物を用意してくれるというのは、なんというか……親切なのですねー?」
 閉じ込めるのも、もしかしたら親切なのだろうか。怪異の考えることはわからないですね、と呟きながら義透が影から陰海月と霹靂を呼び出す。
「さ、せっかくだからいただきましょうか」
 一人と二匹、のんびり食べていればそのうち全部食べ切ることもできるでしょうと、楽観的な気分で食べ始める。
「おや、これは海月の形をしたパンですねー」
 フランスパンのようなパリッとしたパン生地の中に、ポテトとベーコンのチーズを和えた総菜が入ったパンを齧って義透が思ったより美味しいですねと感想を零す。
「美味しくない味付けで出さないとか、そういうんじゃないんですねー」
 本当に出たい者は出て、出たくない者は出なくてもいい、そんな。
「あ、ちょっと食べるの早くないですかー?」
 陰海月が生野菜やパンをモリモリと食べていくのを眺め、何処に入っていくんでしょうねと義透が笑う。霹靂もその勢いに負けぬとばかりに、生野菜を中心に食べている。
「……この調子なら、外に出るのもすぐですねー」
 私は私のペースで食べるとしましょうか、と義透が黙々とパンやおにぎりをお茶と共に消費していく。
 最終的に陰海月が総量の半分を食べ、霹靂がその半分。義透も霹靂と同じ量を食べて山とあった食料を食べ切った。
「これは……食後の運動を頑張らなくてはいけませんねー?」
 鍵の開いた扉の向こうには、きっとこの現象を引き起こした怪異がいると義透は気を引き締めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
【天魔2】
(室内:怪我はしないが全力で戦え、が条件。勝負の決着は付かない。細部はMS様の裁定にお任せ)

闘技場にしては気が利いてる
意外な展開だけど折角だ、やるならカッコ良いとこ見せないとね♪

《第六感・戦闘知識》併せ《見切り》を補強、《情報収集+学習力》で更に補正
翼で三次元的な《空中戦》展開して機動力をフル活用するよ

弾丸は見切って回避、反撃は金雷纏う羽の《属性攻撃+弾幕》で堅実に――
――へぇ? ならギアを一つ上げようか
挑発、彼の十八番と理解して猶もプライドは見事に煽られ
解く三編みは魅了権能の《封印を解く》トリガー、姿見る者を幻惑する《誘惑+催眠術》
【閃紅散華】、懐に飛び込み最高速の乱舞を叩き込もう


カイム・クローバー
【天魔2】
(室内:怪我はしないが全力で戦え、が条件。勝負の決着は付かない。細部はMS様の裁定にお任せ)

普段の俺なら猟兵相手でも美人に剣は向けない。だが──彼女とだけは戦ってみたいという想いがあった。
本気で来な、カタリナ。怪我しないとはいえ、手を抜くなよ?

考える隙を与えず二丁銃で【クイックドロウ】。銃弾に紫雷の【焼却】を交え。
おいおい、そんなモンじゃないだろ?俺をオブリビオンだと思って良いんだぜ?それとも友人が化物だと殺せないタイプか?
だとしたら随分と甘いんだな。お嬢ちゃん。(などと不敵な笑みで【挑発】。)
距離を詰めての【怪力】による膂力と懐に入られた瞬間を【見切り】、魔剣のUCで勝負する。



●Shall we dance?
 アザラシのぬいぐるみを片手に、土産物屋を出たはずだった。
「……これが例の部屋なのかな?」
「みたいだな、どう見ても部屋だ」
 カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)とカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はどうやら無事にお題をクリアしないと出られない部屋とやらに招待されたようだ、と互いの顔を見合わせて笑った。
「お題とやらはどこにあるんだろうな」
 一面真っ白な部屋の中で、カイムが辺りを見回す。
「カイムさん、あれじゃないかな」
 あれ、とカタリナが指さした先には確かに扉のようなものが見えた、ドアノブが付いた板のようにも見えるけれど、その上にはも胃が浮かび上がっている。
「どれ……『怪我はしないが全力で戦え』? 俺の見間違いじゃないよな?」
「うん、確かに『怪我はしないが全力で戦え』って書いてある。闘技場にしては気が利いてるね」
 こんな狭い部屋で? と言おうとして、カイムはいつの間にか部屋の大きさが広がっていることに気付く。それはカタリナも気が付いたようで、ピンクスピネルような瞳がぱちりと瞬いた。
「ご丁寧に部屋の広さまで変わるなんてね」
「天井の高さも変わってるな」
 それこそ、カタリナが口にした闘技場と言ってもおかしくは無いほどの広さだ。
「やらなきゃ出られないんだものね?」
 扉の前にカタリナが荷物を置き、カイムを見遣る。
「ああ、やらなきゃ出られないな」
 こういうのを大義名分とでも言うのだろうか、とカイムは数舜目を閉じ思う。
 普段の彼であれば、猟兵相手でも美人に剣は向けないだろう。けれど、けれどだ。
 一度でいいから彼女とだけは戦ってみたいと思っていたと言えば、彼女は信じるだろうか。信じなくても、笑ってくれるだろうか。静かにバイオレットサファイアのような瞳を開けて、金色のラインが美しく光る黒い二丁の銃を抜く。
「本気で来な、カタリナ。怪我しないとはいえ、手を抜くなよ?」
「上等、カイムさんこそ手加減はなしだからね」
 まさかこんなお題が出るとは思わなかったが、折角だとカタリナが微笑む。
 やるならカッコ良いとこ見せないとね♪ と爪先で床を蹴る。
「閃風の舞手という二つ名が伊達じゃないってところ、見せてあげるよ!」
 カタリナの背にある翼が大きく羽ばたき、彼女の身体が宙へ舞う。
 最初から全力だとばかりに神経を研ぎ澄ませ、己が持つ戦闘の経験や知識を叩き起こす。ダンスの準備は整ったとばかりにウィンクをして見せれば、カイムが唇の端を持ち上げた。
 彼女のウィンクが戦闘開始の合図とばかりに、カイムが手にした二丁銃の引鉄を引く。その速さは目に見えぬほどであったが、カタリナは咄嗟の判断でその動きを見切り、襲い来る弾丸を避ける。
「今度はこちらの番だよ」
 羽ばたく翼は刻々とその色合いを変えながら、雷を纏う。ひと際大きく羽ばたいた瞬間に、金雷を纏った羽が弾幕の如くカイムへと襲い掛かった。
 まずは堅実な一撃をとカタリナが放ったそれにカイムが小さく笑って、その全ての動きを把握しているかのように避け、己の銃弾に紫雷を纏わせ放つ。
 当たれば紫炎に包まれるであろう弾を踊るように躱し、二人の視線が交差する。
「おいおい、そんなモンじゃないだろ? 俺をオブリビオンだと思って良いんだぜ、それとも友人が化物だと殺せないタイプか?」
 これは彼の十八番、こんなものに挑発されるアタシじゃないとカタリナが今一度翼を大きく羽ばたかせようとした瞬間、カイムが不敵な笑みを浮かべ――。
「だとしたら、随分と甘いんだな。お嬢ちゃん」
「――へぇ? ならギアを一つ上げようか」
 本気で挑発してきた彼の言葉にプライドを煽られた、自覚はあれどカチリと入ったスイッチは戻せるものではない。
「ああ、そうだ。本気を見せろよ!」
「望むところ!」
 カタリナが髪留めをするりと外し、編んだ三つ編みがほどけていく。それは彼女の有する権能のひとつ、魅了の封印を解くトリガーであり、なびく髪の煌めきはカタリナの姿を見るカイムを誘惑と催眠へと誘う。
「ぐ……ッ」
 意識が霞みそうになるのを唇を噛んで引き戻し、カイムは彼女と戦うという覚悟だけで距離を詰める。カタリナもまた、全力を持って彼を制する為に紅雷を纏い速度を上げて懐へと飛び込んだ。
「貰ったよ!」
「は、甘い!」
 互いの間合いに入った瞬間、カイムの神殺しの魔剣が黒銀の炎を迸らせカタリナに向かって最大の威力を誇る一撃を放った。
「まだよ!」
 カイムの一撃で終わるかと思ったその瞬間、けれどカタリナだって無策で飛び込んだわけではない。紅雷が瞬く間、速度が上がるだけではないのだから。
 カイムの渾身の一撃を紙一重で避け、最高速の乱舞を叩き込む――!
「やるな、カタリナ」
「ふふ、カイムさんもね!」
 神殺しの魔剣で防ぎながら、その威力と速さにカイムが笑う。カタリナもまた、その合間に放たれる紫雷の弾丸に笑って。全力で戦っているというのに、まるであの日のダンスの続きのようだと二人の視線が交わって――。
 扉の鍵が開いたことに気付くまで、二人のダンスは続いたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ2】◎
お題を見上げて
英、こういうの苦手じゃない?大丈夫?

じーっと英を見上げる
綺麗な瞳に相変わらず鼓動が跳ねるけど
見れば見るほど整ってるよね
なんて言葉にして誤魔化して
ちょっと羨ましい…あっ、逸らしちゃった
ずっと目が合うのは怖い?
それならよかった

じゃあ、のんびりやろっか
その場に座って、英には私の正面を促す
いいのいいの、私たちが少々遅くなっても支障ないよ
謝ることないのに
英が手を繋いでくれてて良かったなぁ
ひとりで来なくて済んだもん
…英って時々そう言うことさらっと言うよね
赤くなった顔を手で仰ぐけど
すぐ顔を逸らすところを見たらつい笑みが溢れて

何かお喋りでもしよう?
きっと話してるうちに、扉は開くから


花房・英
【ミモザ2】◎
お題は『1分間目を合わせ続ける』
人の目見るの苦手だけど
寿相手ならなんとかなりそうだと思って、寿の言葉に頷くけど

真っ直ぐに見上げられたら、
つい顔ごと逸らしてしまって
別にこんな顔いくらでもいるだろ…
その後も顔は向けるけど目だけ逸らしてしまったりして
寿の目が怖いわけじゃない
でも真っ直ぐ見られたら落ち着かない
自覚して余計に意識してしまう

でも早く出ないと仕事が
促されたまま座るけど
そうかもしれないけど…ごめん
別に…寿をひとりにしたくないから
なにが?思ったこと言っただけ
大体“そういうこと”言うのもするのもいつも寿だろ

また目を逸らしてしまったけど、寿の声は変わらず優しい
…何の話ししてくれんの?



●アメジストとシナモンと
 ショップで散々どれにしようかと悩んで、ぬいぐるみタイプのキーホルダーをお揃いで買ってショップを出ようとした瞬間、太宰・寿(パステルペインター・f18704)と花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)の二人は見たこともない部屋に立っていた。
「えっ、えっ!?」
 慌てたように辺りを見回す寿に、英が落ち着くようにと声を掛ける。
「寿、聞いていた部屋だ」
「あっ、そっか」
 白い壁に一面を囲まれた部屋にはテーブルとソファがあり、まるでモデルルームのような雰囲気だ。
「えっと、部屋を出る為のお題って……」
「多分あれだと思う」
 英が扉のある方を指させば、その上に文字が浮かび上がっているのが見える。
「……『一分間目を合わせ続ける』?」
「ああ、さっき浮かび上がるのが見えたから、合ってると思う」
「思ってたより簡単だとは思うけど……英、こういうの苦手じゃない? 大丈夫?」
 寿が英を見上げれば、彼が少し考える様な間を開けてから、こくりと頷く。確かに人の目を見るのは苦手だけれど、寿相手ならばなんとかなりそうだと思ったからだ。
「ほんとに?」
 じーっと見上げてくるシナモン色の瞳に、英が思わず顔ごと逸らしてしまう。
「……英?」
「いや、つい」
 真っ直ぐに見上げられて、どうしてか逸らしてしまったのだけれど、それがどうしてか英にもわからない。
「じゃあ、もう一回ね」
「ああ」
 逸らした顔を元に戻した英に笑って、寿が再び見上げて視線を合わせる。
 綺麗な宝石みたいな瞳、アメジストみたいな紫色に思わず寿の鼓動が早くなる。照れたら負けだと言い聞かせて視線を合わせるけれど、沈黙に耐え切れず寿が唇を開く。
「英って、見れば見るほど整ってるよね」
「別にこんな顔、いくらでもいるだろ……」
 言葉にして誤魔化すと、英がさらりとそう言った。
「そうかな、ちょっと羨ましい」
 いくらでもはいないよ? という気持ちを込めて見つめると、英の視線がふいっと逸らされた。
「あっ、逸らしちゃった」
 逸らした英はといえば、申し訳ないと思う気持ちとわざと逸らしている訳ではないという気持ちからか、いつもより少し視線があらぬ方向を向いていて。
「ずっと目が合うのは怖い?」
「いや、寿の目が怖いわけじゃない」
 怖いという感情ではない、どちらかというと真っ直ぐにこちらを見つめられると、どうにもそわそわしてしまうというか落ち着かない気持ちになってしまうというか。
 そしてそれを自覚してしまうと、余計に意識してしまって――。
「……ごめん」
 何回目かの失敗に、英が寿に謝る。
「いいよ、気にしないで」
 でも、そろそろ首が痛くなってきたかなぁと笑って、ソファに座ろうかと寿が移動した。
「わ、ふかふか! 英も座って座って」
「ああ」
 ソファは二人掛けのものしかなくて、少し間を空けて隣り合わせに座る。
「のんびりやろっか、ね?」
「でも、早く出ないと仕事が」
 促されるままに座ったけれど、早く出られるに越したことはないだろうと英が寿を見遣った。
「ふふ、英は真面目だね! いいのいいの、私たちが少々遅くなっても支障ないよ」
 だって私たちの他にも猟兵の人達はいたもの、と寿が楽観的な笑みを浮かべて笑う。
「それはそうかもしれないけど……ごめん」
「謝ることないのに」
 おかしいの、と寿が英を見つめて。英も寿を見て。
 それから、すっと自然な動きで目を逸らした。
「ふ、ふふ」
 つい逸らしてしまったけれど、寿の笑い声は楽しそうで思わず視線を戻す。
「あ、ごめんね」
「いい」
 寿になら笑われても、別にいい。口にはせずに、そう思う。
「あのね、英が手を繋いでくれてて良かったなぁって思って」
 クエスチョンマークを浮かべた様な英の顔に、寿が笑みを浮かべて言葉を続ける。
「だって、ひとりで来なくて済んだもん」
 きっとこの部屋に一人だったらもっと慌てていたし、お題によっては困っていたかもしれない。
「別に……寿をひとりにしたくないから」
 真顔で言われてしまって、寿の顔が赤くなる。
「……英って時々そう言うことさらっと言うよね」
「なにが? 思ったこと言っただけ」
 頬が熱いと手で仰ぎながら、じぃっと英を見つめれば、またふいっと逸らされて寿が笑みを零す。
「大体、『そういうこと』言うのもするのも、いつも寿だろ」
「私? え、私? そうかなぁ……?」
 うーん? と考え込んでしまった寿を見て、英がその雰囲気をやわらげた。
「そうだ、何かお喋りでもしよう?」
「お喋り?」
「うん、きっと話してるうちに、扉は開くから」
 黙って見つめ合っているから気になっちゃうのかも、と寿が一理あることを言うので、試してみる価値はあるかと英が小さく息を吐く。
「……何の話ししてくれんの?」
「そうだなぁ……」
 帰りに何処かでご飯を食べていく話とか! なにそれ、なんて話をしている内に、アメジストとシナモンの瞳は自然と合わさって、一分なんて時間はあっという間に過ぎたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花


「料理を、100以上作らないと出られない…?」
先刻見た魚を思い出しながら料理開始
鰯のつみれ、塩焼き
鰹の叩き、手こね寿司、ヘソ煮
鮪の刺身、バター焼き、冷や汁、ねぎま鍋
鯵の叩き、なめろう
鯆の味噌煮、タレ焼き、脂身の湯引き
鮫の刺身、唐揚げ、バターステーキ
垢穢の刺身、アラ汁
鮭の塩焼き、バター焼き、粕汁
泥鰌の卵とじ、串焼き
茹で蟹、蟹汁、焼き蟹
鱏の煮付け、鰭酒、鰭焼き
鰻の蒲焼き、肝焼き、半助鍋
鮃の刺身、ムニエル、


「ぜ、全然100に到達しそうにないのですがっ…」
軽く1日以上料理し続け疲れきって倒れ気絶したように寝て起きたらカウント零に戻り絶望

「…頓知ですかっ」
最後はUCで一気に百食分太巻作り部屋を出た…



●水槽の前で美味しそうと呟いた結果がこちら
 大きな水槽の前に立ち、ジンベエザメを見ていたはずだったのだけれど、と御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は小首を傾げて辺りを見回す。
「もしかして、こちらがお題をクリアしないと出られない部屋……ですか」
 一面の白い壁、そして取ってつけた様な扉。更にはその上に浮かび上がる文字。
「ええと……『料理を百以上作らないと出られない』……?」
 お料理は得意ですけれど、と桜花が呟けば途端に現れたのは広々としたキッチン、それから山のような食材の詰まった冷蔵庫であった。
「作らないと出られない……作るしかないようです」
 作ったら、誰か食べてくれるのだろうかと考えつつ、桜花がたすき掛けをして料理の邪魔にならぬよう袖を固定し、何故か用意されていた割烹着を身に纏う。
「いざ、参りますっ」
 まずは何を作りましょうかと冷蔵庫を開け、中の食材をざっとチェックする。
「水族館だからでしょうか、魚介類がメインのようですが」
 それなら、先程水槽の前で思い浮かべた料理を作ればいいかと桜花がポンと手を叩く。
「そうと決まれば……まずは鰯から」
 手にした鰯は新鮮そのもので、水族館の鰯……なんて思い浮かんでしまったけれど鰯を捌く手は止めない。手開きにした鰯を皮と身に分けて包丁でひたすら叩きつみれ汁にしたり、開いた鰯をカラッと揚げて甘辛いタレを絡めた鰯丼にしたり。
「まぁ、料理を完成させると扉の上にカウントが出ますっ」
 いちいち数えなくていいのは楽だと思いながら、流れるように鰹のタタキを藁焼きで作り、てこね寿司にしたり心臓部分を味噌で煮てヘソ煮にしたりとその手際は見る者がいれば拍手を送りたくなるほどだ。
 その後も様々な魚で刺身やバター焼き、冷や汁に唐揚げなどを作り上げていく。
「あら、蟹も……」
 茹でてよし、焼いてよし、生でよし……しみじみと呟いて、お造りや酢の物、焼き蟹に甲羅を使ったカニグラタンと出来上がった料理を並べ、いつの間にかカウント数は七十を超えていた。
「ぜ、全然百に到達しそうにないのですがっ……」
 当然、休みなく料理を作り続けていれば疲れるのも道理、少しだけ休憩を……と桜花がふかふかのソファに倒れ込み、気絶するかのように意識を失って――。
「いけない、寝てしまいました……」
 お料理、あと幾つでしたかと桜花がカウントを見ると。
「……零?」
 え? と、目を擦ってもう一度見ても、カウントの数は零で。
 絶望を感じながらキッチンへ向かえば、作った料理は綺麗になくなっていた。
「……頓知ですかっ」
 こうなったら、と桜花が力を放つ。
 花見御膳、それは十秒で桜花の力に応じた分の料理を作りだすもの。
「これで、どうですかっ」
 新鮮な海鮮を使用した太巻きを百食分作り出し、一気にカウントを稼いだ桜花は悠々と扉を開けて部屋を出たのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
【モノクロフレンズ】◎
葡萄とマスカットのパフェの、
ウッカリカサゴとカサゴのクッキーの違いを楽しんでいたら……
一瞬でしたね、ビックリ(ぱちくり)
えぇ、無事で元気ですよ。コローロとラトナも
トーさんは無事で元気ですか?ヨシ!

お題は――えっカラオケ?
わぁ本格的で親切設計……
ミラーボールもありますよ、ギラギラです

えぇ!?デュエルは決闘ですよトーさん!?デュエットです!
そうそう、それなら楽しく達成できそうです!

ふふ、そんなこと言うと本当に厳しくしますよ?
音程にリズムに抑揚に、声の安定性や表現力も重要で――
いえこれは実戦でお教えしていきましょうか
さぁ特訓ですよ、トーさん!
(ねこさんとひかりは応援している!)


茜崎・トヲル
【モノクロフレンズ】◎
タダタダタダヨウガニのマシュマロ入りココアおいしかったー……って!
ほんとうにいきなりなるんだもの(しっぽぴーん!)
あーさんたちは無事?げんき? おれも元気!ヨシ!

んーでっ!お題はなんじゃろなー?
「両方がカラオケで90点以上とらないと出られない部屋」
えっ
うわー、よく見たらめっちゃカラオケ設備!あっ最新のJ●YS●UND入ってるよスーさん!

んーんー、せっかくふたりで入ったんだから……ここは、デュエルだ!
えっ違う? ……。
ここは、デュエットだ!(テイクツー)

しかし!おれは歌とかめーっちゃ気分で歌うタイプ!
なので、教えてあーさん!ビシバシ鍛えてね!



●デュエットスタンバイ!
 水族館のカフェでのんびりお茶をして、次は何を食べようかな……とメニューを開いたはずだった。
「タダタダタダヨウガニのマシュマロ入りココアおいしかったー、おれはねー次はヒョウモンダコのケーキ……って! どこ! ここ!」
 おれより真っ白な部屋! と、茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)が叫ぶ。
「これは……トーさん、ここが噂の部屋なのでは?」
 本当に真っ白な部屋ですね、とスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が腕の中のラトナと襟元からふわりと浮かんだコローロを確認してトヲルを見遣った。
「ここが? ほんとうにいきなりなるんだもの、びっくりしちゃった!」
 尻尾をピーンと張って、トヲルがスキアファールとラトナ、コローロの姿を確認する。
「トーさんは無事で元気ですか?」
「あーさんたちは無事? げんき?  おれも元気!」
 互いの無事を確認し、ヨシ! と元気に声を合わせて指さし確認、ちょっとした彼らの流行りである、かわいいね。
「それにしても本当に……葡萄とマスカットのパフェのウッカリカサゴとカサゴのクッキーの違いを楽しんでいたら……」
 まさか胸鰭の筋の数できっちり違いを出してくるとは思いませんでした、としみじみスキアファールが頷く。
「おれはまだ食べるつもりだったのにー!」
「私もです、スベスベマンジュウガニのケーキ……」
 メニューで見てもつるんとした表面をチョコレートコーティングで表現し、艶々で美味しそうだったと残念そうな顔で言う。
「これは何が何でも脱出して、もう一回あのカフェにいかねーと!」
「そうです、お会計もまだです!」
 お支払いはきちんとしなくては、と二人が頷き合う。
「ん-でっ! お題はなんじゃろー?」
「ええと、お題は――」
 ぐるりと見回して扉を見つけ、その上の方へ視線をやれば。
「えっカラオケ?」
「からおけ? ここそんな、カラオケできる設備……」
 あるの? とトヲルが言った瞬間に、部屋に輝くミラーボール、最新機器のカラオケセットが二人の目に飛び込んでくるではないか。
「カラオケできるじゃん!」
 思わず叫び、トヲルがもう一度お題を確認する。
「えーっと、『両方がカラオケで九十点以上とらないと出られない部屋』……えっ九十点!?」
「高得点ですが、狙えなくはない点数なのがリアルですね」
 もう完全にカラオケする流れだ、お題をクリアしないと出られない部屋というよりは、カラオケボックスである。
「すごいね、カラオケ設備ばっちり! あっ最新のめっちゃ喜びSOUND入ってるよスーさん!」
「わぁ、本格的で親切設計……」
 最近の怪異、流行りを抑えてきた感ある。
「ん-んー、せっかくふたりで入ったんだから……ここは、デュエルだ!」
 デュエルスタンバイ! とばかりにミラーボールが回りだす。
「えぇ!? デュエルは決闘ですよトーさん!? カラオケバトルになっちゃいます!」
「えっ違う?」
 違います、それを言うなら多分デュエットです! と、ヒソヒソコソコソ内緒話をする二人。
「……テイクツー! よし! ここは、デュエットだ!」
「そうそう、それなら楽しく達成できそうです!」
 カラオケバトルも間違ってはなさそうだけれど、バトルよりもデュエットの方がきっと楽しいはず。
「しかし! おれは歌とかめーっちゃ気分で歌うタイプ!」
 即興で歌うのも大好き、多少音とか外れてても気にしないで気持ちよく歌うのが一番、あと大きな声!
「なので、教えてあーさん!」
「ふふ、そんなこと言うと本当に厳しくしますよ?」
 対するスキアファールといえば、サウンドソルジャーなだけあって歌、とにかく歌が好き。あと音を外されると気になって仕方がない質である。
「まず、高得点を出そうと思うなら音程にリズムに抑揚に、声の安定性や表現力も重要で――」
 水を得た魚のように話し出すスキアファールに、トヲルがうんうんと頷く。
「いえ、これは実戦でお教えしていきましょうか」
 論より証拠、百聞は一見に如かず、である。
「さぁ、特訓ですよ、トーさん!」
「おー!」
 ラトナはソファに陣取って、コローロはその周囲をピカピカしながら飛んでいる。応援の構えだ!
「そこ! 半音高いですよ!」
「はい!」
 あっほんとにきびしい! と思いはしたけれど、スキアファールの指導には何より音楽への愛があったので、トヲルも必死でそれに応えていく。
「ここはビブラートを効かせて」
「おぶらーと?」
「それはお薬を上手に飲むやつです、包んだらちょっと濡らしてから飲まないと喉に張り付くので危険です」
「なるほどー!」
 豆知識なんかも増やしつつ、トヲルがめきめきと腕を上げていく。
 トヲルは 歌唱レベルが 上がった!
「私に教えられることはもうないようですね……」
「ありがと、スーさん!」
 あとはデュエットで九十点以上を出すだけ!
「私がハモりますから、トーさんは主旋律ですよ」
「ハモ……わかった!」
 よくわかんないけど、教えてもらったとおりに歌えばいいんだなとトヲルが元気一杯頷いた。
 結果、二人のデュエットは見事九十点以上を叩き出したし、無事部屋からは出られたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

唐桃・リコ
菊・菊(f29554)と。

は??嫌いなとこねーし
ざけんな、金色のサメも菊に押し付けてドアを切りつけたり暴れてみる

……自分の嫌いなところ、言われると突き刺さる
自覚はある
それでもオレが、菊のためにしたかったから
…菊の嫌いなとこなんて、思い、つかねえよ……

意地っ張りもやきもち焼きも好きなところ
たまに急に自信無くすのも可愛いところ
もう出られなくて良くね?
帰っても、菊を苦しめるものばかりなら、出られなくても良いんじゃねえの
なんて、思っちまうけど
菊の好きなようにさせてやりてえ
だから、オレは……

…わかった
「オレより背が高いとこ」

さっさと開けろ!馬鹿野郎!


菊・菊
リコ(f29750)と

見上げて、一度目を瞑って、もう一度開いた

『相手の嫌いなところを言わないと出られない部屋』

クソがよ……
抱き締めたサメのでけえぬいぐるみをもふもふして
リコの様子を盗み見たら、なんかドア叩いてるわ
あほかわいい

「リコ、俺の嫌いなとこ、何?」
「んとね、俺、お前がお前を犠牲にするとこ。嫌い。」

振り向かせて、鼻先にキスした

「なあ、こんなお前のことだぁい好きな俺のさ、嫌いなとこって何。」
ひひ、ちょ――――困ってるわ
言ったら出れんなら、言えねえなら出れないってことじゃん
ちょーおもろい

出たくねえけど

リコの好きな耳の後ろをこしょこしょ撫でてやって、
続きを促す

なあ、言ってみ?

あー、ちょーかぁいい



●もう少しだけ
 帰ろう、そう言って水族館のエントランスからゲートに向かう途中だったように思う。
 お互いの手には散々金か白かで言い合った結果、金色のジンベエザメと白色のジンベエザメのぬいぐるみ。繋いだ手をそのままに、唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)と菊・菊(Code:pot mum・f29554)は真っ白な壁に囲まれた部屋の中で顔を見合わせていた。
「何、この部屋」
「あれじゃねえの、案内してくれた奴が言ってた」
 出されたお題をクリアしないと出られない部屋、とリコが言って、菊がハァ~~? という顔をした。
「めんどくせー、さっさと出ようぜ」
「扉の上にお題が出るらしいから、扉を……あれか」
 一面白い壁の中、ドアノブが付いた扉を見つけて二人でその上を見遣る。
「「相手の嫌いなところを言わないと出られない部屋」」
 ハモった、脱力したように菊が部屋にあったソファに仰向けに倒れ込む。
「クソがよ……」
 倒れ込んだまま、もふもふと白いジンベエザメのぬいぐるみを揉んでいたら、金色の方も飛んできた。
「ざけんな」
 むっすう~と唇を尖らせたリコが手にした刃物でドアを切りつけ、ゲシゲシと靴跡が付く程蹴りつけたりと、なんとか力尽くで扉が開かないかと試す。
 菊はといえば、飛んできた金色も一緒に抱いて、リコの様子をちらっと盗み見てぬいぐるみで顔を隠した。
 なんかドアめっちゃ叩いてるし蹴ってるし斬ってるし、あほかわいい……思わず顔が緩みそうになったのでぬいぐるみで誤魔化したのだ。
 放っておいたら、多分ずっとドアを攻撃し続けるんだろうなと思い、起き上がってリコの名を呼ぶ。
「リコ」
「何、今オレちょっと忙しい」
「リコ、こっち」
 こっち、と自分が座る隣をポンポン叩く菊を置いてまで忙しい事なんかないな、とリコが大人しく彼の隣に座る。
 隣に座ったリコに満足気に頷き、金色と白のサメを抱いたまま菊が口を開く。
「リコ、俺の嫌いなとこ、何?」
「は?? 嫌いなとこねーし」
 即答だった。
 あんまりにも即答だったから、思わず笑っちゃいそうになったけど菊はぬいぐるみで口元を隠していたのでセーフである。
「じゃあ、俺が先に言うわ」
 何を、なんて口を挟む前に菊が言葉を紡ぐ。
「んとね、俺、お前がお前を犠牲にするとこ。嫌い」
「ぐぅ……」
 自分の嫌いなところを言われるのは、さすがに突き刺さる。どうでもいい相手なら、そうかよで済むけれど、他でもない菊に言われた言葉は、リコの胸の柔らかいところを突いた。
 自覚はあるのだ、菊が嫌いと言うところに。
 でも、それでも、オレが菊のためにしたかったから、とリコの顔がそっぽを向いた。
「リコ」
 は~~かわいい、という気持ちは隠して菊が名を呼ぶ。
 じりじりと顔を寄せて、もう一度名を呼べばリコが覚悟を決めた顔で振り向いた。
「ン」
 ちゅ、と音を立ててリコの鼻先へ菊が口付ける。
 びっくりした顔をしているリコに笑って、もう一度名を呼んで問い掛けた。
「なあ、リコ」
「……菊」
「こんなお前のことだぁい好きな俺のさ、嫌いなとこって何」
「……菊の嫌いなとこなんて、思い、つかねえよ……」
 心底困った顔をしたリコが、菊にとっては面白くて仕方ない。
 ひひ、ちょーーーー困ってるわ、俺のことで困ってんの最高。
 それに、言ったら出られるのなら、言えなければ出られないということで。ちょーおもしろい、とぬいぐるみで口元を隠したまま、菊がにやにやと笑った。
「だって、意地っ張りなとこもやきもち焼きなところも好きなところだし」
「ハ」
「たまに自信無くすのも可愛いところだし」
「お前そんなこと思ってたの」
 他にもあるけど、とリコが息を吐いて黙る。
 言わなければ出られない、それはリコも気が付いていたこと。
 帰っても菊を苦しめるものばかりなら、もう出られなくても良いんじゃないのか――そんな思いがよぎって、ついそう呟いた。
「もう出られなくて良くね?」
 その言葉に、出たくねえけど、とは口には出さずに菊がふっと笑う。
 だからリコは、菊がそう望むなら、好きなようにさせてやりたいと口を開いた。
「オレが菊の嫌いなとこは……」
 そこまで言って、口を尖らせてリコが菊を見遣る。その仕草にかわいいの気持ちを込めつつ、菊はリコの好きな耳の後ろをこしょこしょと撫でてやった。
「なあ、言ってみ?」
「……わかった」
 渋々、本当に渋々といった顔で、リコが諦めを滲ませて呟いた。
「オレより背が高いとこ」
 そう言うや否や立ち上がると、扉の前で叫ぶ。
「さっさと開けろ! 馬鹿野郎!」
 その叫びが聞こえたのかどうかはわからないけれど、扉の鍵がカチリと開く音が響いた。
 2ミリじゃん、気にしてんの? あー、ちょーかぁいい、帰ったらめっちゃくちゃよしよししてやろ、なんて考えながら、菊もぬいぐるみ二つを抱いて立ち上がったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霞末・遵
【幽蜻蛉】
※勝負結果はMSさんに一任します

ガチで戦わないと出られない部屋かあ
へー

解決するまでごろごろしててもいいと思うけど惟継さんどう?

って聞きながら不意打ちでトランク蹴りあけてロケットランチャー
惟継さんの戦いはよく見て学習してるよ。雷と接近戦が得意でしょ
雷は直線的だ。最小限の結界術で逸らして弾こう
近付かれないように幻蝶を氷属性にして適当に飛んでてもらって。逃げ回って距離を保とう
ただやっつけるとなると力がいるな。おじさんパワーは自信ないんだけど
なんて接近戦弱そうな顔して誘き寄せて竜神様の影で攻撃だ

視覚と聴覚と楽しむ心は今回残しておいて
出力でないかもしれないけど目を逸らすには惜しいでしょ


鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
※勝負結果はMSさんに一任します

ガチで戦わないと出られない部屋、か
何の勝負という指定はないようだな

遵殿、ごろごろしていても構わないが一生出られんぞ?
ごろごろは飽きぬかもしれんが、それ以外は何も出来ん

出られない部屋に猟兵が二人、ガチでの勝負となればやることは一つ
……戦いだ!
俺は以前から遵殿とは手合わせしてみたかったものでな
そのガジェットという武器……俺ならばどう対処するか、とかな

では、参る!

雷獣ノ腕を使用
手始めに弓を使って牽制、その後は槍へと武器を替えて届く距離まで詰める
ガジェットの動きは読めんもので躱すのは困難だ
その時は大太刀に替えて武器落としで弾いて対処

はっはっは、楽しいなぁ!



●それはまるでワルツのように
 帰って酒を飲むか、カフェで酒を飲むか、そんな話をしていたはずだったのに、気が付けば霞末・遵(二分と半分・f28427)と鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)は見知らぬ白い部屋にいた。
「本当に白いんだねえ」
 ちょっと目に痛い、と遵が目をしょぼしょぼさせながら瞬く。
「確か、出されたお題をクリアしないと出られない部屋……だったか?」
「そうそう、扉の上にお題が出るとかで」
 おかしな部屋だよね、と遵が惟継の言葉に答える。
「なるほど、つまりあんな感じでというわけだな?」
「そうそう、あんな感じで……ほんとに出てる」
 うわあ、という顔をして遵が惟継の指さす方を見た。
「こういう時は空気を読んでさ、酒盛りをすれば出られるとかにするべきだと思うんだよね」
 そういう話してたよね、私達と惟継を見遣る。
「まあ……そうだな。現実はこの通りだが」
 惟継も遵を見遣り、それからもう一度二人揃って扉の上に浮かび上がった文字を見た。
「『ガチで戦わないと出られない部屋』かあ」
「何の勝負という指定はないようだな」
「へー。じゃあ、酒盛り勝負でもいいんじゃない?」
 ガチでやればそれも勝負でしょ、と遵がへらりと笑う。
「戦わないと、だからどうだろうな。そも、酒がないだろう」
「そうだね……必要なものは何でもあるって話だったけど、この部屋何にもないもんねえ」
 まあ、つまりは戦えという話なのだろう。
「解決するまでごろごろしててもいいと思うけど、惟継さんどう?」
 自分達が出られなくとも、他の猟兵が部屋から出て元凶たる怪異、オブリビオンを倒すだろうと遵がちらりと惟継に視線を向ける。
「遵殿、ごろごろしていても構わないが一生出られんぞ?」
「出られないかあ」
「それにごろごろは飽きぬかもしれんが、それ以外は何も出来ん」
 怠惰に過ごすことも悪くはないけれど。それよりも、と惟継の顔に笑みが浮かぶ。
「出られない部屋に猟兵が二人、ガチでの勝負となればやることは一つ」
「え、一つしかないの」
「それはそうだろう? ……戦いだ!」
「もっとさ、平和的な解決方法があると思うんだけ、ど!」
 なんて言いながら、遵が足元に置いたままにしていたトランクを蹴り開ける。
 開いたトランクから、飛び出す絵本の如く首を覗かせたのは幽世式六連装ロケットランチャー、妖力弾が惟継に向かって放たれた。
「ふ、どの口でそんなことを言っているのか!」
 不意打ちではあったが、惟継が反射とも呼べる勢いで天色の刀身を持つ刀を抜き、妖力弾を受け流し、弾く。
 弾かれた妖力弾は部屋の壁に当たったが、部屋には傷一つない様に見えた。
「えー、今の防いじゃうのか」
 二重の意味でそう言って、遵が笑う。
「遵殿もやる気の様子で何よりだ」
「そう?」
「俺は以前から、遵殿とは手合わせしてみたかったものでな」
「奇遇だねえ、おじさんもだよ」
 こんな機会でもなければ、きっとやろうとは思わないけれど。
「そのガジェットという武器……俺ならばどう対処するか、とかな」
 色々考えるのは楽しかったが、実際に体験するのとでは段違いに心が高揚すると惟継が笑いながら手にした天時雨を納刀する。
「では」
「うん」
「改めて、参る!」
「ガラじゃないけど受けてたとうか!」
 バックステップで距離を取った遵に対し、惟継は動くことなくその場に雷を落とす。それは弓となって惟継の手の中に納まり、流れる様な動きで遵に向けて矢が放たれた。
 対する遵はといえば、惟継の戦い方はこれまでに何度も近くで見てきたという自負がある。雷と接近戦を得意とする彼だ、今回も小細工はなしで向かってくるだろう。
 ならば、と最小限の結界術で逸らして弾こうと蜘蛛糸のように結界を張り巡らせ、雷の軌道を反らしながら矢を避けるように動き、氷の属性を持たせた幻蝶を飛ばした。
「ふ、蝶に俺の相手が務まると?」
「やってみなきゃわかんないでしょ」
 牽制と様子見で使っていた弓を槍の形へと変えて、惟継が逃げ回る遵との距離を詰める。
「えー、おじさんパワーは自信ないんだけど」
 そう言いながら、遵がコルセットの様に装着したガジェットを用い、四本のアームで槍の軌道を捌く。
 しかし純粋な力押しには真実強くはないのだろう、バックステップを踏み伸ばしたアームでトランクケースを惟継へと向けた。
 再び放たれたロケットランチャーは先程とは違う軌跡を描き、惟継へと襲い掛かる。
「はは、そのガジェットの動きは読めぬものだな!」
 槍を大太刀へと変えて、弾を落として再び接近戦へと持ち込んだ。
「だからおじさん、パワーはさ」
 自信ないって言ったじゃない、と笑って――。
「!?」
 遵の影から飛び出した己によく似た竜神の影に、惟継が飛び退く。
「ええ、今の避けるの?」
 接近戦は得意じゃないけれど、この影は別だ。自分が強いと知っているものの影なのだから。
 本当は感覚と感情を代償にすればするほど強くなるけれど、視覚と聴覚と楽しむ心は残してある。
「出力でないかもしれないけど、目を逸らすには惜しいでしょ」
 あんな、楽しそうな惟継の顔。
「はっはっは、楽しいなぁ! 遵殿は俺などの予想を遥かに上回る!」
「それは何より、おじさんも楽しいよ」
 もうちょっと遊んでいたいくらいには、楽しいと互いに笑って。
 遵の首に大太刀、惟継の首に義肢から伸びたナイフの切っ先が同時にその冷たさを伝え、二人の動きを止めた。
「開いたと思う?」
「ああ、今さっき扉の方から鍵が開く音がしたからな」
 引き分けだと笑って、互いの武器を収めると何事もなかったかのように扉に向かう。
 楽しかったという気持ちだけが、二人の胸を満たしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

斬崎・霞架
【隣歩】◎
件の部屋、いつ現れるのかと思っていましたが…
何もない部屋、条件は「互いに互いを想って心から愛してる・好きと伝えないと出られない」
…一体どんな怪異なのか

(しかし、“愛”を伝えろとは
マリアさんは大切な存在です
護らなければならない。その優しさを。その在り方を
昏い場所に沈んでいた僕を、救い上げてくれた
彼女は光だ
親愛なる、敬愛すべき人だ
…ならばそれ以外の愛は?

想いを告げられ、共に歩もうと決めた
…もし、別の人に告げられたならその手を取ったか?
答えは否だ
ならば…)

全く、マリアさんは(困ったように微笑み
…ええ、そう…そうですね…

——愛していますよ、マリアさん

(ならばそれが、答えにならないだろうか)


マリアドール・シュシュ
【隣歩】◎
白の部屋に物はない

楽しい時間はあっという間ね
そろそろ帰りましょうか(手を引いて水族館を出たら部屋へ

あら…?ここは何処かしら

(マリアのバレンタインでの告白で
これからも傍に、隣にと
共に歩むと霞架は言ってくれた
けれど
…愛してるとは、口にしていなかったわ
不安でなかったとは言い切れないの
開かなかったら…)

複雑な気持ち隠す

マリアから言うのよ
──心から、愛しているわ。霞架(甘やかな微笑
次は霞架の番

マリアはね、霞架よりも弱いけれど
ずっと護ってもらわなくても、いいの
望むのは…あなたの気持ち
霞架だけ

(もしもマリアを護る必要がなければ
離れてしまう?)

…霞架!(涙零し抱きつく
もう一度、言って?

我儘を
扉は開く



●隣にいる君だけが
 ペンギンの餌やり体験をして、カフェやお土産物が沢山並ぶショップも覗いて、広い水族館をぐるりと一周して蒼いエントランスに戻ってきたはずだった。
 楽しい時間はあっという間で、そろそろ帰りましょうかなんて笑いあって、手を引いて水族館を出たはずだったのに、とマリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)は星の光のような蜜金色の瞳を瞬かせ、手を繋ぐ相手――斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)を見上げる。
「ここは何処かしら……?」
「件の部屋、いつ現れるのかと思っていましたが……」
 まさかこんな、帰る寸前に現れるとは、と霞架が自分を見上げるマリアドールの瞳を見つめて困ったように微笑んだ。
 水族館を出たはずの二人がいるのは、何もない真っ白な部屋。調度品の一つも見当たらなくて、空き部屋に迷い込んでしまったかのよう。
「扉、そうだわ、扉があるのよね?」
「ええ、扉の上に文字が現れると聞いています」
 何もない部屋だとしても、扉はあるはずと辺りを見回せばドアノブの付いた扉がひとつ。そして、その上には――。
「……『互いに互いを想って心から愛してる・好きと伝えないと出られない』部屋、ですか」
 こんなお題を出してくる怪異とは一体どんな怪異なのかと、霞架が思わず眼鏡の位置を直しながら小さく息を零した。
「心から……」
 扉の上の文字を見上げて、マリアドールはバレンタインの時の事を思い出す。少しだけ時間を頂戴と霞架にお願いをして、春の花弁が舞う場所に誘い出した時のことを。
 精一杯の想いを込めて作ったチョコレートを渡し、大好きだと告げたあの日。答えを聞くのが怖くて震えてしまう声を必死で抑え、彼の返事を聞いて。
『――貴女の傍に。最も近くに。隣に。居させて、くれますか』
 これからも傍に、隣にと、共に歩むと霞架は言ってくれた、その言葉を忘れた事など一度たりともない。
 けれど、とマリアドールの瞳は不安げに揺れる。
 ……愛しているとは、口にしていなかったから。好きの形は人それぞれで、マリアと霞架の好きが同じではなくても、想いの絲は結ばれたのだと信じている、信じているけれど。
 不安ではなかったとは、言い切れない。
 もしも、もしもこの扉が開かなかったら、そう思う不安を押し隠してマリアドールは繋いだままの霞架の手をそっと握った。
 マリアドールの手の温もりを感じながら、霞架が想うのは彼女の事。
 愛を伝えろ、と言葉にするならばきっと簡単な事だろう。それが真実であるかどうかなんて、己にしか解らないことだというのに。
 霞架にとってマリアドールは何よりも大切な存在、それは今も昔も変わらないこと。彼女の優しさを、その在り方を、護らなければならないと強く思う。
 それが、誰も辿り着けぬほどの昏い場所に沈んでいた自分を救い上げてくれた、唯一の光のような彼女への偽らざる気持ち。
 親愛なる、敬愛すべき彼女への。
 ――ならば、それ以外の愛は? そう自分へと問う。
 あの日、彼女が作ったチョコレート共に告げられた想いに、共に歩もうと決めたけれど。
 それがもし、別の人からの想いであれば自分はその手を取っただろうか。
 何度考えても答えは否だ。今、自分に温もりを伝えてくれるこの手だったからこそ――。
 そう結論付けて、霞架が小さく微笑んだ。
「あの、あのね、霞架」
 きゅ、と引っ張られた手に意識を戻し、霞架がマリアドールを見遣る。
「マリアは」
 言葉を待つだけではなく、自分から言うのだとマリアドールが蜜金を輝かす。
「――心から、愛しているわ」
 霞架、と呼ぶ甘やかな声と笑みが霞架を満たす。
「マリアはね、霞架よりも弱いけれど……ずっと護ってもらわなくても、いいの」
「マリアさん」
「マリアが望むのは……あなたの気持ちだけなの、霞架だけなの」
 もしもマリアを護る必要がなければ、離れてしまう?
 マリアドールの蜜金の瞳が揺れて、彼女の気持ちを雄弁に霞架に語っていた。
「全く、マリアさんは……」
 困ったように微笑んだ彼に、マリアドールの肩が揺れる。
 拒絶されてしまうだろうか、それとも。
「……ええ、そう、そうですね」
 覚悟を決めたように、霞架が一瞬閉じた瞳を開く。
「――愛していますよ、マリアさん」
 あの日、手を取ったことが答えなのだと微笑んだ。
「……霞架!」
 潤んだ瞳から蜜金を溢れさせながら、マリアドールが霞架の胸へと飛び込む。
「霞架、霞架、もう一度、言って?」
 どうか、夢ではないと信じさせて。
「マリアさんが望むなら何度でも」
 愛しています、と霞架が彼女の耳元で囁いた。
 斯くして扉は開かれて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
◎マコ(f13813)と

看板の文字を読み
赤くなった彼が扉を殴ってた
ふは、と思わず噴き出し肩を揺らす

キスは初めてじゃないのに
なんで、そんな焦ってるかな
赤くなったり青くなったり忙しい奴
見てて楽しいから良いんだけど

手近なソファに腰掛けて
ゆらり手招き導くのは膝の上
いい加減、観念して来いよ
向かい合う形で座ったマコを
逃がさないよう腰へ腕を回せば
頬を撫でられ、そっと目を閉じる

でも柔らかな感触は頬に受け
目を開ければ赤い顔の彼が居る
本当に、こいつは、もう──

後頭部に掌添えて
一気に引き寄せ一瞬で奪う唇
不敵な笑みと共に舌舐りで一言

──ごちそうサン、

続きは家で、
なんて言ったら倒れそうだな
──バーカ(可愛過ぎて困る、)


明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

『キスしないと出られない部屋』


真っ赤な顔で扉を殴りつけた

_

彼とキスするのが嫌なのではない
むしろ好、いや今はそんな話ではなくて…!

突然閉じ込められキスをしろと言われ
複雑な心境ながら

…改めて向かい合うと照れがすごい
けれど俺だって男だ
ルーファスの頬をそっと撫で
唇に触れようと、して

……結局頬に唇を落とした
先程の土産屋での記憶が一気に甦ってしまい心臓が限界を訴えていた故

けど
後頭部を引き寄せられ
触れた唇の温度に瞬き
彼の不敵な笑みを見て何が起こったか漸く理解し
「〜〜〜っ…!」
真っ赤な顔を隠す様に彼の肩口に埋めながら
敵わないなと内心呟く



●Please kiss me
 お土産物を置いているショップでジンベエザメのバッグチャームとぬいぐるみを揃いで買って、さて帰ろうかとルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)が明日知・理(月影・f13813)の手を取った瞬間だった。
「……唐突だとは聞いてたが、マジで唐突だな」
「ここが?」
 案内人の言っていた通り、確かに真っ白な部屋。
 何があるのかと見回せば、ソファーにテーブル、それから――扉。
「あそこに扉があるだろ?」
「確かに……普通に開きそうじゃないか?」
 試してみる、と理が繋いだ手を離し、扉の方へと向かう。それを少し惜しいと思いながら、ルーファスが視線で追い掛けた。
 ガチャガチャとドアノブを回し、押して引いてを繰り返すが扉は開く気配もなく。
「開かないみたいだ」
「そうみたいだな。ところでマコ」
 名を呼ばれ、理が振り向く。
「扉の上、見てみろよ」
「上?」
 何だか嫌な予感がしたが、それでも言われたとおりに扉の上を見れば――。
「……『キスしないと出られない部屋』?」
 キス? 見間違えただろうかともう一度読んでから、理は顔を真っ赤にして扉を殴りつけた。
「ふは」
 二度、三度と扉を殴り、更には蹴りだした理を見てルーファスが小さく肩を揺らしながら、とうとう吹き出して。
「笑い事じゃない……!」
「ふ、はは、悪い」
 悪いとは思っていない顔でルーファスが顔を上げ、彼が焦る様子を楽し気に眺める。初めてでもないのに赤くなったり青くなったり忙しない奴だなと思いはするが、見ていて楽しいし何より可愛いので口には出さなかった。
 一方、その赤くなったり青くなったりしていた理はといえば、扉を殴りながそれはもう複雑な心境に陥っていた。
 ルーファスとキスをするのが嫌なのではない、そんな理由で八つ当たりみたいに扉を殴ったりはしない。彼とのキスは寧ろ好き、いや今はそんな話ではないと顔を赤くしたまま首を振る。
 突然閉じ込められ、有無を言わさずキスをしろと言われ、そうでなければ出られないなんてふざけた話じゃないか、という理不尽に向けた怒りと……照れであった。
 そのうち落ち着くだろうとソファに腰を下ろし理を見ていたルーファスが、そろそろかなと理の名を呼ぶ。
「マコ」
 扉に額をくっつけていた理がルーファスの呼ぶ声に振り向けば、ソファに座っている彼が手招きしているのが見えた。
 呼ばれるままに隣に座ろうとすると手を掴まれ、理が首を傾げて彼を見遣る。
「隣じゃなくて、ここ」
 膝の上をポン、と叩く彼に理が一歩引こうとするけれど、それを逃がすルーファスではない。
「膝じゃなくて、いいだろ……!」
「こっちの方が顔がよく見える」
 うう、と歯噛みする理に笑って、いい加減観念して来いよとルーファスが半ば強引に手を引けば、理が向かい合う形でルーファスの膝に座る形になって。
「おっと、逃すかよ」
 引きかけた腰に腕を回し、自分の方へと抱き寄せる。
「ほら、マコ」
 頭一つ程上になった理を見上げ、ルーファスが何をと言わず催促をすると、理が顔を赤くして視線を逸らす。
「マーコ」
「……わかった、から」
 甘い声で呼ばれて、深呼吸をするように息を吐いて彼と向き合う。
 改めて向かい合うと物凄い照れに襲われるけれど、俺だって男だと理が腹を括る。
「ルー、ファス」
 ぎこちない動きで彼の頬を撫でれば、ルーファスが小さく笑って目を閉じた。
 意外に睫毛が長いとか、唇が綺麗だとか、知っているのに何も知らないような気持になって、理が唇を重ねようとして――。
「ふ、頬っぺた?」
「うう……」
 頬に受けた柔らかな感触に笑ってルーファスが目を開ければ、これ以上はないほど赤い顔をした理がいて、恐ろしいほど煽られた。
「だって、その……」
 先程の土産物を選んでいる時の記憶が不意に甦ってしまって、心臓が限界だったなんて言えなくて理が押し黙る。
「あ゛ー……マコ」
 名を呼ばれ、理が視線を向ければ大きな手で後頭部を引き寄せられた。
 抵抗する暇もなく重ねられた唇に、理の瞳が瞬く。
 何が起こったのか分かっていないって瞳だと、ルーファスが不敵な笑みを浮かべ形のいい唇を赤い舌で舐める。漸く何をされたのか理解して理の体温が一℃上がり、声なき悲鳴を上げた。
「~~~っ……!!」
「ごちそうサン」
 ぐぅ、と唸った理がルーファスの肩口に顔を埋め、敵わないなと息を吐く。
 そんな彼を眺め、続きは家で、なんて言ったら倒れそうだな、でもお前が可愛いのがいけないと自己完結をして、ルーファスが内緒話をするように耳元でこそりと彼にだけ聞こえる声で何事かを囁いて。
 卒倒しそうになる理を抱き締めて、楽しそうに笑った。
 彼らがとっくに開いている扉に気付くのは、理が我を取り戻してからであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
ああ、ここが例の密室か……って何だこりゃ!!?
見渡せば、あちこちに空の缶、ビン、お菓子袋、雑誌、新聞…
つまりゴミだらけ
いや俺じゃないから!

浮かび上がる文字
『1時間以内に綺麗に掃除しないと出られない部屋』

なるほど、ここのゴミはお題の為のものだったのか
ちょうどいい、物凄く掃除したくてウズウズしていたところだ
だが時間制限あるのが厄介だな、効率良く行かないと…

UC発動し助っ人ドラゴンたちを召喚!
この部屋中のゴミを一箇所に集めてくれ
俺はそれを分別し、ゴミ袋に入れていく
あらかた物が無くなったら掃除機で床を綺麗に

綾は散らかった雑誌や新聞を種類別に纏めて縛ってくれ
…おい!!なにサボってんだ!!


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
梓より少し遅れて目が覚める
…うっわー、なにこの汚部屋
梓ってば俺が寝ている間に一人で宴会してたの?
もしかして前の人の使用済みの部屋だったりして
部屋使い回しているのかなーなんて考えてしまう

掃除と聞いてやる気を出すだなんて流石はオカン梓
はいはーい、俺は紙類担当ね
あちこち散らばった雑誌や新聞を拾って縛って…ん?
漫画の単行本も発見
ちょっとくらいイイよねーと読み始める
そしてあっという間に1巻読み終わり…
もしかして2巻もどこかに転がってないかな?
お、あったあった
気付けば掃除そっちのけで漫画タイム

テスト期間中や掃除中、無性に漫画が読みたくなるあの現象
もしやこの部屋の主の巧妙な罠だった…?



●お掃除イェーガー!
 カフェで楽しくお茶をしていたはずの乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)と灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の二人の意識が不意に飛んで、次にその意識を取り戻した時には既に見知らぬ部屋の中であった。
「なんだ……? ああ、ここが例の密室か……って、何だこりゃ!!?」
 ゆっくりと覚醒していく意識の中で、素早い状況の把握に努めた梓が思わず大きな声を出す。
「ん~、梓うるさい……」
「馬鹿、起きろ! 綾!」
「あと五分……」
 むにゃむにゃと口を動かしながら、梓と同じく状況を把握した綾が目を瞬かせた。
「……うっわー、なにこの汚部屋」
 目の前に広がっていたのはゴミに埋もれた床、それなりに広い部屋のはずなのに、ごちゃごちゃと物やゴミが置かれていて狭苦しく感じるほどだ。
「空の缶、ビン、お菓子袋、雑誌、新聞……見事にゴミだらけだな」
「梓ってば俺が寝ている間に一人で宴会してたの?」
「いや、俺じゃないから!」
 んなわけあるか、と叫んで梓が扉は何処だと部屋を見渡す。
「あれじゃない? あの、ゴミ袋が積んである向こうの」
 綾が指さす先を見れば、大量のゴミ袋が積まれた先に扉のようなものが見えた。
 そして、その上に浮かび上がる文字も。
「……『1時間以内に綺麗に掃除しないと出られない部屋』?」
「えっ俺達がこの部屋を片付けるの?」
「そうみたいだな」
 えー、こんなとこでまで掃除を? と、綾が唇を尖らせる。
「もしかして、前の人の使用済みの部屋だったりして」
「お題が部屋を汚部屋にしろ、だったとかか?」
「それか、出たくなくってダラダラしてたら部屋が汚くなって、渋々出たとかね」
 なんて、部屋の使い回しでもあるんじゃないかと綾が疑いの目を向けながら、もう一度浮かび上がった文字を眺めた。
「ま、ここのゴミはお題の為のものだってことだな。ちょうどいい、物凄く掃除したくてウズウズしていたところだ」
「掃除と聞いてやる気を出すだなんて、流石はオカン梓……」
「誰がオカンか」
 どう見ても子どもの部屋を片付けるオカンでしょ、とは言わずに綾が曖昧に笑い、適材適所ってことだよと誤魔化した。
「それにしても時間制限があるのが厄介だな。効率よくやらないと一時間なんてあっという間だからな」
「この部屋、一時間で終わる?」
「終わらせないと出られないんだろう? じゃあやるしかないだろ!」
 あ、梓のオカン魂に火が点いてる……と綾が一歩後ろに下がる。
「こうなったら助っ人を召喚しないとな」
「助っ人?」
「俺のかわいいドラゴンたちだ」
 集え、と意識を集中させると宙に魔法陣が浮かび上がり、梓の呼び掛けに応えたドラゴンたちが姿を現す。今回は部屋の規模を考えて、小さめのドラゴンを五体ほどだ。
「よしお前たち、この部屋のゴミを一箇所に集めてくれ!」
 キュ! と返事をしたドラゴンたちが梓の命に従ってゴミを集めていく。
「わー、これなら早く終わりそうだねぇ」
「綾は散らかった雑誌や新聞を種類別に集めて縛ってくれ」
 分別は大事だと梓が主婦の鏡みたいなことを言うのに頷いて、綾も掃除に参加する。
「はいはーい、俺は紙類担当ね」
 ドラゴンたちが床のゴミを纏めていくお陰で、随分と見つけやすいと綾があちこちに散らばった雑誌や新聞を拾い、梓直伝の縛り方で片付けて部屋の隅に纏めていく。
「新聞はこっちで、雑誌はこっち……ん?」
 明らかにサイズの違う本を見つけ、手に取れば――。
「漫画だ」
 単行本には一巻と書いてあり、ちょっと休憩とばかりに読み始めた。
「ヤバい、面白いかも」
 あっという間に一巻を読み終わり、二巻が読みたくなって辺りを探す。
「お、あったあった」
 二巻があれば三巻もあるというもの、気付けば掃除の手は止まり、漫画を捲る手が止まらない……!
「綾、そっちはどうだって……おい!! なにサボってんだ!!」
 終わるものも終わらないだろ! と、梓が綾の読んでいた漫画を取り上げる。
「ああー! いいところだったのに!」
「後にしろ、後に!」
「掃除終わったら読んでいい?」
「……まあ、漫画読む時間くらいあるだろ」
 ちゃっかり掃除が終わったら部屋を出る前に漫画を読んでもいいという約束を取り付け、掃除を再開する。
「でもさ、テスト期間中や掃除中に漫画があったらつい手を伸ばしちゃうよね」
 何故あんなにも無性に漫画が読みたくなるのだろうか、あの現象は一体、と綾が梓に話しながら雑誌を縛る。
「はっ、もしやこの部屋の主の巧妙な罠だった……?」
「怪異の罠だって? ……無くはないな」
 いつだって掃除の手が止まるのは漫画のせいだもの、間違いなく罠である。
 そんな話をしながら、せっせと手を動かしていればいつの間にか部屋はどんどん綺麗になっていた。
「やればできるもんだねぇ」
「俺の手にかかればざっとこんなもんだ!」
 なんということでしょう、お掃除イェーガーの手によりあれほど汚かった部屋がピカピカの部屋になったではありませんか……!
 ビフォーアフターなナレーションが流れそうなほど、部屋はピッカピカ。
 勿論部屋の鍵もカチリと開いて――。
「よし、これで漫画が読めるね!」
「そこにあるだけだからな!」
 しっかり気になっていた漫画を読んでから、二人は部屋を出たのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
【雅嵐】
これが噂のほにゃららせんと出れぬ部屋
せーちゃんと閉じ込められるとは…ちんあなごさんで遊んでおる場合ではないんじゃよ
アレをせねばならぬ…相手の好きなところをという
しかし、面と向かって言うのは恥ずかしいんじゃ~!

せーちゃんの、好きなとこの…
よくすらすら出てくるの!?
わしは男前は認めるが可愛くないんじゃよ!ふわもこではあるがの!
くっ、そんな笑顔で!
ううう、こんなん照れるじゃろ!ばか!ばか!(尻尾でばすばす叩く)

は、恥ずかしいんじゃけど!
一緒におって楽しい!何をするかわからんとこも面白くて好きじゃ!
一緒に酒を飲んだら介護してくれるとこも…
まるっとせーちゃんが好きじゃよ!
…んぁっ…一個たりん!!


筧・清史郎
【雅嵐】
ふふ、ちんあなごさんが踊っている(ぴかぴか
ん?らんらん、どうした?
おお、いつの間に閉じ込められていたか(ぴかぴか

ふむ、相手の好きなところを5つ言え、と

らんらんの耳尻尾は極上のふわもこだ
料理上手ですぐにでも嫁にいける
見目も男前だがとても可愛い
酒にすぐべろべろに酔うのに学習しないところも可愛い
お化けさんを怖がる様も可愛い
ちんあなごさんをぴかぴかさせている姿も可愛いし
ふふ、今照れている姿も可愛いぞ(いい笑顔
だがやはり、らんらんの尻尾はもふもふ無敵可愛いな(大事なことなので二回言いつつもふもふ

俺の好きなところも聞かれてくれ(じ~~

おお、そうか(メモ
ふふ、俺も一緒にいるととても楽しいぞ(にこにこ



●たくさんあるの
 両手いっぱいのお土産が入ったショップの袋を片手に提げて、もう片方の手には踊って光るちんあなご。水族館を死ぬほど満喫したような姿で、いつの間にか筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)と終夜・嵐吾(灰青・f05366)の二人は見知らぬ部屋に立っていた。
「ふふ、ちんあなごさんが躍っている」
 ぴかぴか光るちんあなごにご機嫌な清史郎は、まだ見知らぬ部屋に気が付いていない。対して、嵐吾は光るちんあなごを手に目をぱちくりとさせていた。
「せーちゃん、それどころではないんじゃよ」
「ん? らんらん、どうした? らんらんのちんあなごさんもご機嫌だぞ」
「うん、これ見とると大概の事はどうでもようなってくるところあるがの、それどころではないんじゃよ」
 そう言われ、清史郎が辺りを見回す。
「おお、いつの間に閉じ込められていたか」
 ぴかぴかとちんあなごを光らせて、清史郎が笑う。
「笑ってる場合ではないんじゃよ、これが噂のほにゃららせんと出れぬ部屋じゃ、せーちゃん!」
 あと、ちんあなごさんを光らせて遊んでいる場合でもないと嵐吾が訴えると、清史郎がちんあなごと嵐吾を交互に見遣って、ちょっと名残惜しそうにして懐に仕舞った。
「では帰ったら存分にちんあなごさんで遊ぶとして、どうやったら此処から出られるのだろうか」
「扉の上にお題が出ておるんじゃよ……」
 お題、と言われて清史郎が扉の上を見る。
「ふむ、何々……『相手の好きなところを五つ言わないと出られない』と?」
「そうじゃ、アレをせねばならぬ……相手の好きなところをという」
 うう、と唸って嵐吾が顔を両手で覆う。
「どうしたのだ、らんらん」
「せーちゃんは恥ずかしくないのかの、わしは面と向かって言うのは恥ずかしいんじゃ~!」
「どうしてだ? 好きなところと言うのは、相手の良いところということだろう?」
 ふんわり微笑んだ清史郎が、それでは俺から言うとしようかと嵐吾に向き合う。
「わしの方を向いて言うんかの!?」
「うむ、らんらんのことだからな、らんらんに向かって言うのが筋というものだ」
 筋が通り過ぎてるんじゃ、と嵐吾が顔を再び覆うと清史郎がすうと息を吸い込んで唇を開いた。
「まず、らんらんの耳と尻尾は極上のふわもこだ」
「まずそこからなんじゃな?」
 ふわもこは重要なことなので、仕方ないですね。
「料理上手ですぐにでも嫁に行ける」
「わし、お嫁になるんかの? お婿になると思っとったんじゃが!」
 エプロン姿が似合うので、しょうがないですね。
「見目も男前だが、らんらんはとても可愛い」
「わしは男前は認めるが可愛くないんじゃよ! ふわもこではあるがの!」
 ふわもこが可愛いのは全人類共通の認識なので、そこは認めるしかない。
「酒にすぐべろべろに酔うのに、学習しないところも可愛い」
「せーちゃん!?」
 そんなこと思っておったのか!? と嵐吾が覆っていた顔を上げた。
「お化けさんを怖がる様も可愛い」
「なんでせーちゃんはわしが苦手なんを知っておるのに、そういうところに連れて行くんじゃと思っておったら……!」
 可愛いところを見たいので、そうなるよね。
「ちんあなごさんをぴかぴかさせている姿も可愛いし」
「それはせーちゃんの方が可愛いとわしは思うんじゃけど」
 すごく楽しそうだし。
「ふふ、今照れている姿も可愛いぞ」
 可愛いことは良きこと、と清史郎が満足気に笑っている。
「くっ、そんな笑顔で!」
「だがやはり、らんらんの尻尾はもふもふ無敵可愛いな」
 恥ずかしがってはいるけれど、嵐吾の尻尾はもふもふ揺れている。
「ううう、こんなん照れるじゃろ! ばか! ばか! せーちゃんのばか!」
 揺れる尻尾でばすばすと清史郎を叩けば、なんと至高のもふもふ、とばかりに清史郎が嵐吾の尻尾をもふった。
「やはりらんらんの尻尾は良いな、これで五つ……いや、八つは言ったか。さ、次はらんらんの番だぞ」
 ばすばすと清史郎を叩いていた尻尾がぴたりと止まり、嵐吾が清史郎に視線を向ける。
「わ、わしも言わねばならんかの……」
「そうだな、そうしなければ出られぬらしいし……何より、俺が聞きたい」
 さあさあ、俺の好きなところも聞かせてくれと、清史郎がじーっと嵐吾を見つめた。
「うう、そんな真っ直ぐな目で! は、恥ずかしいんじゃけど!」
 ぐ、と喉を詰まらせつつ、それでも言うなら一気に言った方がいいし、勢いに任せるべきだと嵐吾が腹を括る。
「い、一緒におって楽しい!」
「俺も楽しいぞ」
「何をするかわからんとこも、面白くて好きじゃ!」
「あとで一緒にちんあなごさんを光らせような」
 にこにこと楽しそうに、清史郎が嵐吾の言葉に相槌を打つ。
「一緒に酒を飲んだら介護してくれるとこも……」
「よしよし、今夜はらんらんと飲むとしよう」
「だから、そのな、まるっとせーちゃんが好きじゃよ!」
「おお、そうか。ふふ、俺も一緒にいるととても楽しいぞ」
 何処からか取り出したメモに嵐吾の言ったことを書付けつつ、嬉しそうに清史郎が笑う。
「ど、どうじゃ? 扉は開いたかの?」
「……まだみたいだな」
「なんでじゃ、わし五つ……」
 指折り数え、嵐吾が真顔で叫ぶ。
「……んぁっ……一個たりん!!」
「ははは、時間はあるみたいだからな。もうひとつ、ゆっくりと聞かせてくれ」
 なんだったら、また俺から言ってもいいくらいだと清史郎が嵐吾の尻尾を撫でて微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
坊と/f22865  ◎
会話)『トンチキな薬を作らないと出られません』ね、ンじゃ飲めば歩き走りがスキップに置き換わる毒…薬でも作るか。ンな権能は知らンねェ。
行動)サ・まずは釜に水200ml・トビネズミのヒゲ8センチ・満月草のつぼみ3つ…硬い奴選ンでな。5分煮る。その間に跳ね鷲の腿からつま先までの骨を砕く。もっと細かく。もっと。よし。水から煮出したカス取り出して、骨粉を8グラム入れて一定の速度で混ぜながら魔力流し込ンでみな。もう少し多めに…っし、そのまま維持。はいぐーるぐる…青草の色になったら、ホレ完成だ。一口飲んでみな。ひひ、あンま美味くねェか。この後のことは感づいても黙ってるよ。


雨野・雲珠
かみさまと/f16930 ◎

トンチキなお薬は果たしてお薬でしょうか。
何を食べたらこんなトンチキを思いつくんでしょう。
は、トンチキもかみさまの権能のひとつ…?
でもスキップは上手になりたいのです。
右手と右足が一緒に出るんですよね…
…今毒って仰いませんでした?

ご指示に従ってせっせと混ぜていきます
気分は魔女さまです!ちょっと楽しい
今さらっと魔力って言いましたねかみさま
地味に難易度が高いです
桜の力でなんとかなるでしょうか…

(味については顔で遺憾の意を表明)
(けれども華麗なスキップ!)(大喜びで部屋一周)

わああ…!!
…あ、扉開きましたね!
※この後スキップで戦うことになるかもなんて全然全く気づいていません



●トンチキ実験室
 ペンギンの餌やりはペンギンの勢いがすごかった、でも貴重な体験が出来てとても楽しかったと雨野・雲珠(慚愧・f22865)が朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)にそれは楽しそうに感想を述べていた瞬間だった。
「!? え、ここは? 俺達ラッコを見に行く途中だったと思うのですが!」
「ハァン、坊、ここが例の部屋ってやつじゃないのかね」
「……ここが?」
 雲珠が部屋を見渡せば、あるのは何処かの研究室のような実験器具のようなものや、カクリヨの魔女の所で見たような釜とかで、ちょっと節操のない部屋の様に思える。
「ええと、お題は扉の上に出るんですよね? それで、そのお題をクリアする為の設備は部屋に揃っているって仰ってたと思うんですけど」
 それでいくともしかしなくても、これはお題をクリアに必要な設備で。
「あの、俺ちょっと嫌な予感がするんですけど」
「そうさなァ、丁度扉の上にお題が出たよ、坊」
 雲珠の後ろを指さした逢真が唇の端を持ち上げて笑うのを見て、どこか諦めに近い気持ちで振り向いた。
「……ほらー!」
「ひひ、『トンチキな薬を作らないと出られません』だとよ」
「賭けても良いですけど、絶対そんなトンチキな部屋俺達だけです……!」
 まあその通りなのだけれど。
「でもかみさま、トンチキな薬といっても何を……?」
「そうさな……」
 テーブルの上の材料をざっと眺め、逢真がフゥン、と笑う。
「ンじゃ飲めば歩き走りがスキップに置き換わる毒……薬でも作るか」
「……今毒って仰いませんでした?」
「毒も使い方次第じゃ薬になンだろ?」
 そう言われるとそうですね、と頷いてしまうのは彼が診療所に出入りしているからだろう。
「でもかみさま、トンチキなお薬は果たしてお薬でしょうか……?」
「薬と付くからには薬さァ」
「それにですね、何を食べたらこんなトンチキを思いつくんでしょう」
 常々疑問に思っていたんですけれど、と雲珠が逢真を真っ直ぐに見る。
「トンチキもかみさまの権能のひとつです……?」
「ンな権能は知らンねェ。強いていやァ年の功ってやつさ」
 年の功だけだろうか、雲珠は訝しんだ。
「でも、スキップは上手になりたいのです、右手と右足が一緒に出るんですよね……」
「ひひ、そンなら丁度いいじゃないか。早速作るとしようかねェ、作るンはお前さんだけどな」
「え、俺がですか?」
「そうさァ、俺がやったら腐っちまうからな」
 言われてみればそれもそうかと、雲珠がキッチンのようなそこに立つ。
「エプロンが用意されてるなんて、親切ですね」
 料理教室みたいになってきたな、と思いつつエプロンを身に着け、いざ実験もといお薬作りの始まりである。
「ではかみさま、ご指示をお願いします!」
「あいよォ、まずは釜に水を二百mlだ」
 きっちり量ってお鍋のような釜に水を入れ、次々に指示される材料を用意する。
「ええと、トビネズミのヒゲが……」
「八センチだ」
「八センチ」
 定規で測ってポイっと釜へ。
「満月草のつぼみを三つ……こいつは硬い奴を選ンでな」
「硬くないとダメなんです?」
「柔らかいンだとスキップがジャンプになる」
「スキップがジャンプに」
 それはそれでトンチキだが、雲珠はスキップがしたいので出来るだけ硬い蕾を選んで釜に入れた。
「そいつを五分煮る間にな、跳ね鷲の腿からつま先までの骨を砕くンだ」
 金槌で砕き、その後は乳鉢で丁寧にごりごりと。
「ン、もっと細かく」
「これくらいです?」
「もっと」
 さらさらの粉薬程になるまでと言われてせっせと砕けば、よしとお墨付きが出た。
「次は水から煮出したカスを取り出して」
「これもうお料理では?」
「料理と薬作るンは似てンのかい?」
「そうですね……お料理だと目分量で作ったりもしますけど、レシピ通りに作ろうと思ったら大匙一杯とか細かかったりしますよ」
 味の好みというものがあるから、足したり引いたりはしますけど、と雲珠が言う。
「へェ、でもコイツは分量がちょいと違うと効能が変わってきたりすっからなァ」
「あ、それでしたらお菓子作りは分量通りじゃないと上手くいかないとお聞きします!」
 綺麗にカスを取り除いた雲珠が次の指示を待ちながら、ケーキの生地が膨らまなかったりするそうですと話す。
「オリジナルの秘薬を料理レシピに隠す奴もいるって話だし、似た部分はあンのかもな」
 それ、次は骨粉を八グラムだと逢真が言うと、雲珠がきっちり量って釜へ入れた。
「一定の速度で混ぜるンだ」
「おお……気分は魔女さまです! ちょっと楽しい」
「よしよし、その気持ちのまま魔力を流し込ンでみな」
「今さらっと魔力っていいましたね? かみさま」
 地味に難易度が上がっている、混ぜるだけではなかったのか。
「桜の力でなんとかなるでしょうか……」
 魔力はよくわからないけれど、いつも使う桜の力ならと雲珠が力を流していく。
「いいぜ、もう少し多めに……っし、そのまま維持」
 口にはしないが、この坊はいい筋してやがンなァと逢真が唇を持ち上げて笑う。
「はい、そこで速度をぐーるぐる……くらいに」
「曖昧!」
 ぐーるぐる? ぐーるぐる、ぐーるぐる……と心の中で唱えながら混ぜれば、逢真がその調子というので多分合っているのだろう。
「わ、青草の色になりました! どどめ色をしていましたのに……」
「ン、その色になったンなら完成だ」
 火を止めて、少し冷まして――。
「ホレ、一口飲んでみな」
「はい!」
 小皿に取ったそれをわくわくとした顔で一口飲んで……顔の中心に色々なパーツが寄ったようなしわしわの顔をして、遺憾の意を表明した。
「いたなァ、黄色いシワクチャの」
「それ以上は駄目ですかみさま」
 振りじゃないです、駄目です、と念押しすれば、逢真も大人しく頷いた。
「ひひ、あンま美味くねェかもだが、効果はどうだい?」
「そうでした!」
 味の酷さに忘れていたが、これはスキップが上手に出来るお薬!
 いつもは何故か同じ手足が出てしまうスキップも、滑らか且つ華麗!
「わああ……!! すごい、すごいですかみさま!」
 大喜びをしながら部屋を一周する雲珠に、うんうん、喜ぶいのちは可愛いねェと逢真も満足気だ。
「あ、扉も開きましたね!」
「そうだなァ、そンじゃあ行くかい」
 薬を幾つかの小瓶に詰めて、雲珠がスキップで扉へと向かう。
 そう、お気付きだろうか。彼がこの後、スキップで戦うであろうことに――!
 ちなみに逢真は気が付いていたが、面白そうなので黙っていた。
 もー! と怒る桜の子も、きっと可愛い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・メル
【波音】◎
服は一章同様
条件:キスしないと出られない部屋

んにに?
なーに、この場所
白一色なんだよ

とりあえず椅子に座って足をぶらつかせる
まあ、時間が経てば開くでしょー
んに?この足の数字?
ぼくはね、音楽で何でも支配出来ちゃうからさ
それを恐れた人に刻印を刻まれたの
自分の太腿をそうと撫ぜて目を伏せる
奴隷だったからね

親は居ないよ
居るとしたら海そのもの、かな
セイレーンだからねっ
頼れる人も居なかったなあ
仲良しの子達のお姉ちゃんになってたし
頼れるお姉ちゃんで居なくちゃならなかったから

へ?
頬を赤く染め上げて
…あ、あう
なんか手慣れてるんだよ
クロウくん、慣れてるの?
ジェラシー感じちゃうよ
本来は…
ぼくでごめんね
しょぼん


杜鬼・クロウ
【波音】◎
服は一章同様
部屋に白の机や椅子、ベッド有

さァて、そろそろ行くか
…?何だこの部屋
げ、開かねェ…え、コレって

ティアと顔見合わせ
ベッドをチラ見し椅子に座り暫く歓談
ティアの太腿の数字の件を聞く

前にも少し聞いたがその数字…
酷ェコトしやがる(意の儘に操れる歌への恐怖からか
ティアの親御サンは?
そんな環境下で…他に頼れる人は…(ティアの弟達とはその時に会ってたか

時間経てば開くと思いきや変化なし

いよいよマズイなァ
ティア、手貸せ

意を決して立ち上がる
間髪入れず指先にキス

場所は言ってなかったモンな
ハ!?好きでもねェヤツとしねェよ本来は!
あ…そういう訳じゃ…

(…本当はこんなあやふやな関係のまま
したくなかった)



●そのキスの意味を教えて
「さァて、そろそろ行くか」
「うん、次は何がいるのかな」
 満足するまで様々なクラゲを眺めて、そろそろ次の部屋に向かうかと杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)とティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が水槽から離れた瞬間であった。
「んにに?」
「……何だ、この部屋?」
 蒼く美しい海の世界から一転、白い壁に囲まれた部屋。見回せば、白い机に椅子にベッド、見れば見るほど白を基調としたどこかのモデルルームのようでクロウが眉根を寄せる。
「なーに、この場所。白一色なんだよ、白が好きな人の部屋?」
 あんまりにも真っ白で、目が痛くなってこないのかな? なんてティアが笑う。
「閉じ込められたか……? って、ドアあるじゃねェか」
 ここから出られるだろうと、クロウがドアノブを回して開けようとするけれど扉は開かない。
「げ、開かねェ……」
「クロウくん、上!」
「上?」
 ティアの声に見上げれば、扉の上には文字が浮かび上がっていた。
「キスしないと出られない……? え、コレって」
「クロウくんの目にもそう見える? ぼくの目にもそう見えるよ」
 これって、聞いてたお題をクリアしないと出られない部屋ってやつだね、と言うティアがクロウと顔を見合わせる。
「マジか……」
「まあ、時間が経てば開くでしょー」
 自分達の他にも猟兵はいた、知っている顔も何人か見た。その人達が解決してくれたら開くかも、なんて少しばかり他力本願だけれども、と笑ってティアが椅子に座って足をぶらつかせた。
「そうだと良いんだがな」
 ベッドをチラ見し、ティアが椅子に座ったのを見て己もティアの向かい側の椅子に座る。水族館の中を見て回っている間は横顔ばかり見ていたが、向かい合わせになると改めて今日の彼女がいつもと違う事に気付く。
 目元や頬がほんのりとしたピンクで彩られ、唇は甘やかな飴のように艶めいて――まるでキスを待っているような。
「クロウくん? どうしたの、ボーっとして」
「あ、いや何でもない。それよりティア」
 ぼんやりと考えていたことを誤魔化すように、クロウがティアに話を続ける。
「その足の数字」
 前にも少し聞いたことがあるけれど、改めて聞くにはいい機会だと問い掛けた。
「んに? この足の数字?」
 視線を落とした先には、白い肌に赤く刻まれたXという数字。
「ぼくはね、音楽で何でも支配出来ちゃうからさ、それを恐れた人に刻印を刻まれたの」
 セイレーンたるティアの惑わせる力を恐れたのだろう、その結果がこれだ。
「酷ェコトしやがる」
 太腿に刻まれた数字をそっと撫でて、ティアが目を伏せる。
「奴隷、だったからね」
 そう言って、パッと表情を変えてティアが笑う。
「昔の話だよ、今はこの通り!」
「ああ」
 その笑顔が愛おしく思えて、クロウもふわりと笑みを浮かべた。
「ティアの親御サンは?」
「親は居ないよ。居るとしたら海そのもの、かな? セイレーンだからねっ」
 セイレーンは深海のソーダ水から生まれる水の精霊、親はいないのだとティアが言う。
「そんな環境下で……他に頼れる人は……?」
「うーん、頼れる人も居なかったなあ」
 あの頃は、とティアが記憶を辿る。
「仲良しの子達のお姉ちゃんになってたし」
 ああ、でも一人ではなかったのかとクロウがそっと胸の内で安堵する。
「ぼくは頼れるお姉ちゃんで居なくちゃならなかったから」
 だから、しいて言うなら自分が一番頼りになったかな? なんて少し寂し気にティアが笑うから。
「今は、いるだろ?」
「んに?」
「頼れる人」
「……うん、そうだね」
 今までに出会ってきた人々も、それから、目の前にいるあなたも。
 なんて、照れくさいから言えないけれど、とティアが胸をじんわりと熱くして微笑んだ。
 それからも他愛ない話や、お互いにちょっと気になっていた事などを聞いて聞かれて、それなりに時間が経ったけれど――。
「開かねェな……」
「そうだね」
 もしかしたら、現実の時間とこの部屋の時間では進みが違うのかもしれない。確証はないけれど、もしもそうであれば少々厄介な事になるとクロウが頭を掻いた。
「いよいよマズイなァ」
「えっまずいの?」
「ンー、マズくなる前になんとかするか。ティア、手貸せ」
「へ?」
 意を決して立ち上がったクロウがティアが座る前まで行くと、その手を取る。
「く、クロウくん?」
 ティアが名を呼ぶのとほぼ同時に、彼女の指先にクロウが口付ける。
「……あ、あう」
 ぷしゅう、と音を立てそうなほどにティアが頬を赤くして、クロウを見上げる。
「場所の指定はなかったモンな?」
 赤くなるティアを可愛いと思いながら、冷静な振りをしてクロウがウィンクを飛ばす。
「……なんか手慣れてるんだよ、クロウくん、慣れてるの?」
 心に湧きあがる黒い染みのような感情は、きっと嫉妬だ。
「ハ!? 好きでもねェヤツとしねェよ、本来は!」
「本来は……」
 頬を赤くしていたティアの顔が見る間にしょんぼりとしたものになって、視線も床に落ちて。
「ぼくでごめんね……」
「あ……違う、そういう意味じゃ……」
 しくじった、とクロウが苦みのある顔になる。
 本当は、こんなあやふやな関係のまましたくなかったのだ。
 キスだって、指先じゃなくて、本当は。
「あー、ティア」
「んに」
「まずはここを出てからだ、それから」
 それから、と言ったきり黙ってしまったクロウが気になって、ティアが顔を上げる。
「……クロウくん?」
「行くぞ」
 真っ赤だよ、と言うよりも前にクロウが扉へ向かってしまうから。
 ティアはついぞその言葉を言えぬまま、開いた扉から彼と共に部屋を出たのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐️2】
『お互いの秘密を話す』というお題と
なぜか最初から用意されているお酒を見比べる
なんだろうこの釈然としなさ
怪現象にまでアル中扱い受けてるような

自分の秘密って、案外思いつかないね
気になってることかわりばんこに聞いてみよっか
ね、そのネイル自分でやってるの?

うっっ……あの時は、その(正座)
はい……君には秘密って約束で……僕が勝手に、ホタルくんを連れ出してました
あの子、水族館見たことないって言ってたから
ほんの軽い気持ちで……

嫌だった、かな
だったら……ちゃんと言ってほしい、よ

いや、意地悪な聞き方したのはこっちだな
僕も自分でよくわからないんだ
どうしてか
物凄く悪いことをしちゃったような気分があって


風見・ケイ
【🌖⭐️2】
大人が秘密を語るにはお酒が必要ってことかな
『お題に必要なもの』だよね?
『生命維持に必要なもの』なんてことは……

秘密なんて誰にでもあるはずなのにな
それじゃ、夏報さんからどうぞ

うん、螢達にも私がやってる
(他愛ないことを聞くはずが気になる記憶に結び付き)
……この前、螢と水族館にいたのってさ
本当に、猟兵のお仕事だけだった?

あ、えと、怒ってるんじゃなくて
ごめん、意地悪な聞き方だった
二人が仲良くなって嬉しいし、嫌なんかじゃない

でも
(次は私の秘密だ)
本当は……二人だけの秘密って聞いてから
自分でもよくわからないけど、ずっともやもやしてた

ふふ……大人になっても自分のことなんてわからないものなのかな



●お酒と秘密の密接な関係について
 サメといえばさめのたれというサメの干物があって、酒のつまみにも合うらしい……なんて話を照れ隠しも手伝って言ってしまったからだろうか、と臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は真っ白い部屋の中で扉の上の文字とテーブルに置かれた酒の缶を見比べて思う。
「大人が秘密を語るにはお酒が必要ってことかな」
 あんまりにも何度も見比べているものだから、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)がぼそりと呟く。
「いやぁこれ、怪現象にまで夏報さんがアル中だろお前って扱いを受けてるような気がするよ」
 酒クズなのは認めるけど、と言う夏報に認めるんだとケイが笑って、もう一度二人で扉の上に現れたお題を眺める。
「何度見てもさ、『お互いの秘密を話す』だよね」
「そうだね、そしてお酒……お題に必要なものだよね? 生命維持に必要なものなんてことは……」
 ないよね、そこまでじゃないよねという目でケイが夏報を見遣った。
「酒は命の水だから……」
 釈然としない気持ちはあれど、それはそれ。こうなれば酒盛りしながら話でもするかと互いに頷き、差し向かいに椅子に座った。
「まずは一杯飲むところから始めようか」
「ビールに酎ハイ、カクテル……あ、日本酒の瓶まであるね」
「うーん、好みを読まれてる気分だよ」
 ビールの缶を手にしてプルタブを開け、軽く缶を触れ合わせて乾杯、と一口飲む。
「ふっつーのビールだ」
「銘柄もいつも飲んでるやつだよね……」
 怪異親切すぎないか? なんて言いながら、用意されていた酒のつまみも開ける。ここまで来るとレンタルルームで酒盛りしてるだけの気分になってくるから恐ろしいものである。
「秘密、秘密ね……自分の秘密って、案外思いつかないね」
「秘密なんて誰にでもあるはずなのにな」
 ピーナッツを齧りながら、ケイが頷く。それでも秘密を話さなければあの扉は開かないのだろう。
「あ、じゃあさ」
「うん?」
「気になってること、かわりばんこに聞いてみよっか」
 その中に秘密があれば御の字だと、夏報が笑う。
「それじゃ、言い出しっぺの夏報さんからどうぞ」
「言い出しっぺの法則……!」
 うーん、そうだなぁとスルメを齧りながら、夏報がそれ、とケイの指先をさす。
「これ?」
「そ、ネイル自分でやってるの?」
「うん、螢達にも私がやってる」
 色はその日の気分だけれど、今日は水族館に行くから青系だ。
「ひとつずつ色が違うんだね」
「こうやって見るとね」
 ケイが両手を夏報の前へ差し出すと、親指から順にホワイト、ホライゾンブルー、ターコイズブルー、マリンブルー、コバルトブルーと色が変わっていって、まるで海のようなネイルであることに気付く。
「女子力が高い……!」
「女子力って程のものじゃないけどね」
 そう言ってケイがビールを飲むと、次は私かと少し考えて。
 ネイル、蛍達、という連想ゲームのような思い付きは気になる記憶に結び付く。
「……この前、螢と水族館にいたのってさ」
 何気ない、他愛ないことを聞くはずだったけれど、口を突いて出た言葉はそのまま夏報へと向けられる。
「本当に、猟兵のお仕事だけだった?」
「うっっ……」
 夏報が思わず姿勢を正し、椅子の上だというのに正座になった。
「あの時は、その」
 思わず目が彷徨うけれど、謝るなら今だと夏報の本能が告げている。女は度胸なので、ピンっと背筋を伸ばしてケイの蒼と紅の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「はい……君には秘密って約束で……僕が勝手に、ホタルくんを連れ出してました。あの子、水族館見たことないって言ってたから……」
 ほんの軽い気持ちで、とまるで犯罪者の言い訳みたいになってきたなと夏報がじっとりと汗を掻きながらケイを窺う。
「あ、えと、怒ってるんじゃなくて。ごめん、意地悪な聞き方だった」
 取り調べみたいになってしまったな、とケイがビールに手を伸ばす。
「あのさ、嫌だった、かな。だったら……ちゃんと言ってほしい、よ」
 悪いのはこちらなのだから、と夏報が頬を指先で掻いて眉を下げて笑う。
「二人が仲良くなって嬉しいし、嫌なんかじゃない」
 嫌なんかじゃない、それは本当。
 でも、なんだか――。
「本当は……二人だけの秘密って聞いてから、自分でもよくわからないけど、ずっともやもやしてた」
 これは私の秘密、とケイが小さく息を吐いて。
「ううう、意地悪な聞き方したのはこっちだな、僕も自分でよくわからないんだ」
 ここまで来たら全部ぶちまけてしまえと、夏報がビールの缶をパキンとへこませながら言う。
「どうしてか、物凄く悪いことをしちゃったような気分があって」
 信頼を裏切ってしまったような、そんな居心地の悪さだったのかもしれない。
「ふふ……あはは」
「ケ、ケイ?」
「あは、大人になっても自分のことなんてわからないものなのかな」
「僕も、わかんないことばっかりさ」
 じゃあ、わたしもキミも、わからないことばっかりだね、とケイが扉を見遣った。
「さ、開いたみたいだ。そろそろ行こうか?」
 最後の一口まで飲み干して、ケイが立ち上がる。
「えっ、ここにあるお酒全部飲んでからでもいいんじゃ」
「帰ってから飲もう、もっといい所でね」
 それから、わからない話もわからないなりにしていこうとケイが夏報に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

あれっ?ここは?
室内を見回すも
ゆぇパパの姿があれば安心

お部屋から出るのは条件があるのね
『今まで相手に言えなかった事を3つ言う』?
言えなかった事、ある
パパが嫌われたらヤだなって、黙ってた事

1つめ
じ、実は…ニンジンとピーマンがニガテなの
少しだけ
好みじゃないってだけ、よ?

2つめ
夜、眠れない時
1人でこっそり館を抜け出して、ます
朝までには戻ってるのだけど

…3つめ、は…
…ルーシーね
実は本当はブルーベル家のお父さまの子じゃない
貰われ子
本当の「ルーシー」の身代わり
ルーシーって名前も、本当はちがうんだ

パパ、怒ってないかな
驚いてないかな
顔を見るのが怖くて
でも手は離せなくて

だから頭に温みがふれて
言葉を聞いたとき
すごく、すごく、安堵した

…うん、
ありがとう、パパ
大好き

次はパパの番…えっ?
ルーシーの1つめと2つめは筒抜けだったってこと?
何だか恥ずかしくなって来ちゃった

3つめ
…パパ
ぎゅっとして、頭を撫でて
情けなくない
最後は逃げないで
いま此処に居て下さって、嬉しい

忘れないで
『あなた』はわたしの最高で大切なパパよ


朧・ユェー
【月光】

突然の真っ白な部屋
手を握る小さな手にホッとして

『今まで相手に言えなかった事を3つ言う』
彼女が語る、きっと僕に知らせてどう思うか怖いのだろう
しゃがみ込んで
大丈夫だよと頭を撫でる
『ルーシー』という子を娘と思ったんじゃない
『君』を娘にしたかったから
嫌いになんてならないよ

一つ
ご飯にこっそりと人参とピーマンをわからない様に入れてた

二つ
君が外に出てる時、実は心配でこっそり後をついてた

三つ
あの男に会ったとき
実は一瞬身体を渡しても良いと思ったんだよ
母からも、この男からも逃げる事を
楽になれると思ってしまった

こんな情けない父親でごめんね?

彼女の温もりと小さな手が撫でる
…ありがとう
僕も大好きだよ

大切な僕の娘



●大切な、あなた
「あれっ? ここは?」
 確か、そろそろ帰ろうかと最初に訪れたエントランスに居たはずなのだけれど。
 ショップで買ってもらったマンタのぬいぐるみといつもの黒猫のぬいぐるみを抱えたルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は突然目の前に現れた真っ白な壁に目を丸くし、それからすぐに隣を見上げて、安心したように微笑んだ。
「ゆぇパパ」
 そう呼ばれた朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)も、やや困惑した顔をしていたけれど己の手を握る小さな温もりに安堵した様な笑みを零す。
「ルーシーちゃん、ここはどうやら……お題をクリアしないと出られない部屋みたいですね」
「お部屋から出るのには条件があるのね?」
「えぇ、そういうことですね」
 ルーシーちゃんは賢いですね、とユェーが微笑んで改めて部屋を見回すと、ルーシーも真似をするかのように視線をあちこちへと彷徨わせた。
 あるのは白い壁、ソファーとテーブル、冷蔵庫、それから――ドアノブの付いた扉。
「パパ、扉だわ」
「開けてみましょうか」
 ユェーがドアノブに触れて扉を開けようと試みるが、一向に開く様子はない。いっそ力任せに壊してしまおうかと力を入れてみたけれど、扉が開くことは無かった。
「これはルーシーちゃんの言う通りですね」
 お題をクリアしない事には、開くことは無いようだとユェーがルーシーを見て笑う。
「難しいお題じゃなければいいのだけど」
「簡単なものばかり、と聞きましたが……」
 どうでしょうね、とユェーが言うや否や、扉の上に文字が浮かび上がるのが見えた。
「パパ!」
「えぇ、どうやらあれが……」
 扉の上の文字を見て、二人が顔を見合わせる。
「『今まで相手に言えなかった事を三つ言う』……ですか」
「言えなかったこと……」
 誰にだって言えないことや、言いたくないことはある。
 それは小さな秘密だったり、隠し事だったり、人からすれば可愛らしいと思われることだったり――嫌われてしまうかもしれないような、胸に秘めたことだったり。
「ルーシーちゃん?」
 黙ってしまったルーシーを心配するかのように、ユェーが手を繋いだまま膝を突いてルーシーに視線を合わせる。
「どうしました?」
「あの、あのね」
 俯いたまま、ルーシーが重たい唇を開く。
「ルーシー、パパに言えなかった事、ある」
 ルーシーの告白にユェーが目を瞬かせ、静かに頷く。
「聞いて、くれる?」
「ええ、聞きますよ」
 ぎゅっとぬいぐるみを抱き締めて、ルーシーが落とした視線をユェーに向けた。
 出来ればずっと内緒にしておきたかったこと、三つ。
 パパに嫌われたらヤだなって、黙ってた事を――。
「ひとつめはね、じ、実は……ニンジンとピーマンがニガテなの。少しだけ、好みじゃないってだけ、よ?」
 ほんのちょっと、大きなのは食べ難いだけで食べられないわけじゃないのよ、とルーシーが言い募る。
「ええ、ルーシーちゃんはきちんと食べられる子ですからね」
 ふわりと微笑んだユェーに勇気付けられて、ルーシーがふたつめ、と息を吸い込んだ。
「夜、眠れない時にね」
 その、とルーシーがほんの少しだけ言い淀んで、観念したように言葉を続ける。
「一人でこっそり館を抜け出して、ます……」
 朝までには戻ってるのだけど、危ない所には行ったりしていないのよ、と叱られた子犬のような風情でユェーを見つめた。
 その視線を受けて、ユェーがこくりと頷いて続きを促すとルーシーが最後のひとつ、と瞳を揺らす。
「……みっつめ、は……」
 ぎゅう、と抱き締めたぬいぐるみに顔を埋め、か細い声で告げる。
「……ルーシーね、本当はブルーベル家のお父さまの子じゃ、ない」
 実の子ではないのだと、声が震える。
「貰われ子、なの」
 本当の、本物の『ルーシー』の身代わりなのだと。
「ルーシーって名前も、本当は違うんだ」
 驚いたかな。どうか怒らないで、嫌わないで。
 万華鏡のように青い瞳が揺れる、揺れる。
 顔を見るのが怖くて、それでも繋いだ手は離せなくて。
 何かを言おうとしても、口の中に石でも詰められたかのように言葉にはならず、唇は震えるばかりだ。
「ルーシーちゃん」
 柔らかなユェーの声がルーシーの耳に響き、温かく大きな手が彼女の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。僕はね、『ルーシー』という子を娘と思ったんじゃない」
「パパ……」
「『君』という子を娘にしたかったから」
 だから、今一緒にいるのだとユェーが微笑む。
「嫌いになんてならないよ」
「……うん、ありがとう、パパ」
 不安でいっぱいの胸も、口の中に詰まった石も、全てがほろりと解けてルーシーを笑顔にしていく。
「大好きよ」
 目の前のユェーに抱き着いて、ルーシーが微笑んだ。
「落ち着きましたか?」
 その背をぽんぽんと撫でて、ユェーが問う。
「うん、パパのおかげよ。ルーシーはみっつ言ったから、次はパパの番ね」
「そうですね、聞いてくれますか?」
「ええ、もちろんよ!」
 わたしの秘密を聞いてくれた優しいあなた、次はわたしが聞く番だとルーシーが頷く。
「一つ目、ルーシーちゃんのご飯にこっそりと人参とピーマンをわからない様に入れてた」
「えっ?」
 驚くルーシーにしてやったりと笑って、ユェーが二つ目と続ける。
「君が外に出てる時、実は心配でこっそり後をついてた」
「ええっ? じゃ、じゃあルーシーの言ったひとつめとふたつめは筒抜けだったってこと?」
「ふふ、そうなりますね」
「……何だか恥ずかしくなってきちゃった」
 頬を赤くして俯いたルーシーに、ユェーが問う。
「ルーシーちゃんこそ、内緒でお料理に人参とピーマンを入れていたことや、こっそり後をついていたこと……怒らないのかい?」
「怒ったりなんてしないわ! ルーシー、パパのお料理大好きだもの!」
 あれ、そうするとルーシーったら人参もピーマンも食べられるってことよね? とルーシーが笑った。
「後を付けていたのだって、ルーシーを心配してくれたからでしょう?」
 これからは、眠れない夜はパパと散歩にしようかしら、なんて微笑む彼女が愛らしくて、ユェーが思わず微笑む。
「次で最後ですね」
 ほんの少し視線を下げて、それからユェーがルーシーを見つめて。
「あの男に会ったとき……実は一瞬身体を渡しても良いと思ったんだよ。母からも、この男からも……逃げる事をやめたら、楽になれると思ってしまった」
「……パパ」
「こんな情けない父親でごめんね?」
「そんなことない」
 寂しげに笑ったユェーの頭をルーシーがそっと抱き締めて、優しく撫でる。
「情けなくない、最後は逃げないで、いま此処に居て下さって、嬉しい」
「ルーシーちゃん」
「大好きよ、パパ」
 ルーシーがユェーの頬を包み込み、視線を合わす。
「忘れないで、『あなた』はわたしの最高で大切なパパよ」
「……ありがとう、僕も大好きだよ」
 大切な僕の娘、とユェーが囁いてルーシーを抱きしめる。
 本当の親子でなくとも、本当の親子以上の絆が二人の間には確かにあるのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【守4】◎
嗚呼――可愛い女子とならまだしも、食気特化野郎とこんな部屋に閉じ込められてもな~!
(すかさずまた二匹から制裁を受けつつ)

いたたっまってまって!ってその声は姐サン、やっぱり来てくれた――!
(“達”という部分に若干嫌な予感を覚えつつも、嬉々として振り向き)
…のは良いケド、このタイミングで余計なモンまで連れてこないで!?
(オマケを目にして秒で項垂れ)

ハイハイ、どーぞご自由に始めて!
てかお前一人で余裕だよなコレ…
(部屋名と甘味の海と菊里を見比べつつ、カメロンパンをつっついて)
えっちょっ、菊里だけズルい!
や~だ~!何でこんな性悪狐と…!
どっちもマジでやだ~!
何この(菊里の)天国と(俺の)地獄!


千家・菊里
【守4】◎
この真白空間はもしや北極コーナー――ではなさそうですねぇ
(氷に足を滑らせた――のではなく、また口を滑らせた伊織とお供さん達を生暖かく見守り)

おやおや、結局いらしたのですねぇ
流石、“二人して”ピンチとチャンスは見逃さないという訳ですね
いやぁ、頼もしい仲間が増えて嬉しいですねぇ
(伊織を尻目に暢気に笑って)

さて役者も揃ったところで、早速突破口を開きにかかっても良いですか?
(『皆で仲良くカフェメニューを制覇しないと出られない部屋』――ずらりと並ぶ海洋生物甘味に、うきうきと視線移し)
はいはい、では頂きます
(さらり&ぱくりと小町さんから一口頂き)
そうですよ伊織、ちゃんと仲良く楽しんでくださいねぇ


佳月・清宵
【守4】◎
(小町と共に酒宴の予定を切り上げ、予感に誘われふらり
水族館に負けず劣らずの面白ぇ見物――肴もとい誰か達の後をつけてみりゃ、案の定妙な部屋に巻き込まれ)

(――向き合った瞬間に早速顔芸始めた輩へ、悠々と笑顔向け)
よお、両手に花(雛&亀)で贅沢なこったなぁ?
ま、邪魔はしねぇから安心しな――寧ろ手伝いに来てやったんだ、そう邪険にすんなよ

んで、こりゃまたとんだもてなしだな
(宛ら甘味の大海原――一面の品々と部屋の名を見て、酒はねぇのかと冗談零し)
ったく、ぎゃぁぎゃぁ煩ぇな
騒がすとも遊んでやるから大人しくしろよ
それとも何か、此処にずっと居るか?
(毎度の如くわちゃわちゃしつつも多分何とか完遂した筈)


花川・小町
【守4】◎
(やっぱり何だか面白くなりそうな予感がして――少々出遅れたものの、菊里ちゃんと伊織ちゃんの後を追ってきた結果、合流寸前に閉じ込められて)

ふふ、可愛い子なら間に合ってるみたいね?(制裁受ける後姿に悠々声掛け)
でも、“私達”も仲間に入れて頂けると嬉しいわ
(清宵ちゃんと並んで、とても綺麗に微笑みかけ)
魚ならぬ肴に夢中で遅れちゃったけれど、援軍として頑張るから宜しくね?

ええ菊ちゃん、お待たせして御免なさいね
お詫びにはい、どうぞ(白熊なかき氷を一口掬い、早速仲良く攻略に掛かり)
ほらダメよ、伊織ちゃん
此処は『皆で仲良く』挑まないと出られないんだから――清宵ちゃんとも仲良くなさい、ね?(愉しげに)



●天国と地獄~甘味の大海原を添えて~
 ペンギンを見て、カフェに行こうと移動したはずだったのだけれど。
「この真白空間はもしや北極コーナー……?」
「ここにクリオネやアザラシが……いや、普通の部屋だからな」
 思わずノリ突っ込みしてしまったが、どう見ても北極コーナーではないと呉羽・伊織(翳・f03578)が千家・菊里(隠逸花・f02716)に向かって息を吐く。
「ええ、ではなさそうですねぇ。あと普通の部屋でもなさそうですよ?」
 そもそも水族館に居たのだ、普通の部屋に突然ポンっと放り出されるわけもない。
「じゃあ此処が……件のお題をクリアしないと出られない部屋か」
「そうみたいですね、丁度扉の上にお題が……『皆で仲良くカフェメニューを制覇しないと出られない』ですか」
「カフェメニューを……お前の為にあるようなクリア条件だな」
 にこっと笑った菊里が大きなテーブルの方へと歩いていくのを眺め、伊織が盛大に溜息を零す。
「嗚呼――可愛い女子とならまだしも、食気特化野郎とこんな部屋に閉じ込められてもな~!」
 可愛い女子となら、あーんとかも出来たんだろうな~! なんて言うから、ぴよこと亀にぺしぺしと制裁を受ける始末である。
 氷に足を滑らせた……のではなく、またしても口を滑らせた伊織とそれをお仕置きする二匹を菊里が生暖かい目で見守りながらも、テーブルに載っているカフェメニューに笑みを零した。
「いたたっ! まってまって! 言ってみただけ、言ってみただけだから、落ち着いてぴよこと亀!」
「ふふ、可愛い子なら間に合ってるみたいね?」
 伊織が二匹から容赦ないお仕置きをされている後ろ姿に向かって、ころころと笑いながら声を掛けたのは――。
「その声は姐サン、やっぱり来てくれた――!」
「おやおや、結局いらしたのですねぇ。流石、『二人して』ピンチとチャンスは見逃さないという訳ですね」
 えっ二人? 二人って言った? ぴよこと亀の意外と痛い攻撃を受けつつ、伊織がなんとか二匹を振り切って。
「ええ、菊ちゃん、お待たせして御免なさいね? でも、『私達』も仲間に入れて頂けると嬉しいわ」
 達って言った? ってことは、姐さん以外にもう一人いる? 嫌な予感が止まらない、けれど花川・小町(花遊・f03026)がいるのは紛れもない事実だと、伊織が嬉々として振り向いた。
「姐サ……やっぱりお前かよ!」
 振り向いた先には、小町と佳月・清宵(霞・f14015)が立っていて、思わず伊織が崩れ落ちる。
「姐サン、このタイミングで余計なモンまで連れて来ないで!?」
「よお、ご挨拶だな。両手に花で贅沢なこったなぁ?」
 ぴよこと亀にボコボコにされている姿を見て清宵が鼻で笑い、むきー! となった伊織を菊里と小町がくすくすと笑った。
「いやぁ、それにしても頼もしい仲間が増えて嬉しいですねぇ」
「ふふ、やっぱり何だか面白くなりそうな予感がしてね?」
 清宵と共に酒宴の予定を切り上げて、予感が赴くままに水族館に来たのだと小町が柔らかく目を細める。その結果、少々出遅れはしたものの、清宵と共に水族館を楽しみながら二人を追い掛け、後ろ姿を見つけて合流しようとした途端にこの部屋に招かれたのだと小町が言った。
「水族館に負けず劣らすの面白ぇ見物ができると思ってな」
 くつくつと清宵が笑って、来て正解だったと頷いた。
「ま、邪魔はしねぇから安心しな。寧ろ手伝いに来てやったんだ、そう邪険にすんなよ」
 グルル、と牙を剥きそうな勢いの伊織にそう言うと、伊織がなんとか宥めたぴよこと亀を抱えてふんっとそっぽを向く。
「ふふ、まあまあ。こうして役者も揃った事ですし、早速突破口を開きにかかっても良いですか?」
 突破口――そう、テーブルにずらりと並んだ海洋生物をモチーフにしたスイーツを食べ尽くすこと! である。
「ええ菊ちゃん、思う存分楽しみましょうね」
「ハイハイ、どーぞご自由に始めて!」
 大きなテーブルに椅子が六つ、四人と二匹の為に用意されたのだろう。伊織が亀を椅子に座らせ、ぴよこを直接テーブルの上に座らせる。
「んで、こりゃまたとんだもてなしだな」
 清宵がテーブルに並ぶスイーツの数に思わず目を瞬かせ、酒はねぇのかと思わず冗談めかして零すほど、スイーツがてんこ盛りなのだ。
 ジンベエザメの形をした大きなケーキ、ペンギンのパフェ、タコやイカ、マンボウの形をしたプチケーキに貝の形をしたマカロン、ヤドカリのモンブランに巻貝のシュークリーム、ふんわり美味しそうなシフォンケーキからはちんあなごを模したチョコレートが顔を覗かせている。
「素晴らしいですね、こんな部屋だったらいつでも大歓迎です」
 ずらりと並んだ美味しそうな海洋生物スイーツに、菊里がうきうきと端から端まで食べる気満々で視線を走らせる。
「てか、これお前一人で余裕だよな……」
「余裕ですけれど、ただ食べればいいという訳ではありませんからね」
 あ、余裕なのは否定しないんだなと思いながら、伊織がカメの形をしたメロンパン、略してカメロンパンを手に取る。
「ふふ、魚ならぬ肴に夢中で遅れちゃったけれど、援軍として頑張るから宜しくね?」
 遅れたお詫びよ、と小町が白くまをモチーフにした可愛らしいかき氷をスプーンで掬い、菊里の口元へと持っていく。
「はいはい、では頂きます」
 あーん、と何の他意もなく口を開けて小町からの一口を菊里がぱくり。
「甘くて冷たくて、これは美味しいですね。他の甘味にも期待が持てます」
「えっちょっ、菊里だけズルい!」
 オレも! オレも! と伊織がジタバタとしながらカメロンパンを飲み込む。
「ったく、ぎゃぁぎゃぁ煩ぇな、騒がずとも遊んでやるから大人しくしろよ」
 ほらよ、と清宵がニヤニヤとしながら伊織の口元にペンギンパフェを押し付ける。
「あーんですらない! や~だ~! 何でこんな性悪狐と……!」
「ほらダメよ、伊織ちゃん」
 小町が菊里からの返礼として、マカロンをあーんとされながら諭す。
「此処は『皆で仲良く』挑まないと出られないんだから――清宵ちゃんとも仲良くなさい、ね?」
 全力で嫌がる伊織にくすくすと笑いながら楽し気にマカロンを食べて、あら本当に美味しいわねと小町が微笑んだ。
「や~~だ~~!」
「何だお前、此処にずっと居るつもりか?」
 嫌がる伊織が心底面白い、といった風に清宵が笑い、パフェをぐいぐいと伊織に向ける。
「そうですよ伊織、ちゃんと仲良く楽しんでくださいねぇ」
 ねー? と小町と顔を見合わせながら、菊里がプチケーキを次々と制覇していく。
「うう、ううう、どっちもマジでやだ~! 何この天国と地獄!」
 菊里にとっては天国で、伊織にとっては地獄ともいえる様な現状に、伊織が叫ぶ。
 どうせ仲良くするなら姐サンがいい! とジタバタする伊織の口に問答無用で清宵がパフェを突っ込み、伊織がジタバタしながらもなんとか食べて。それを肴にしつつ、清宵が自分も食べられそうなスイーツを物色する。
「この辺なら、清宵ちゃんでも大丈夫じゃないかしら」
 小町が勧めてくれたのはちんあなごのチョコが刺さったシフォンケーキ、確かにシフォンケーキであれば甘さは控えめだし添えられている生クリームも甘すぎないもの。
「そいつにしておくか」
 お酒はないけれど、コーヒーならありましたよと菊里がカップを手渡し、和やかな雰囲気でお茶会は進んでいく。
「くそー……オレだってあーんされたい……っ」
 めそめそしつつカメロンパンを食べ切った伊織に、亀とぴよこがそっと自分達のお皿のスイーツを小さな手に持って差し出す。
「亀……ぴよこ……! オレにはお前たちだけだ~!」
「あらあら、伊織ちゃんったら」
「良かったですねぇ、お供さん達は心が広いですね」
 浮気者を許してあげるなんて、と満足そうにクラゲをモチーフにしたお団子を頬張る菊里が楽し気に笑った。
 ぎゃあぎゃあ、わいわい、わちゃわちゃ、そんな擬音がぴったりの四人と二匹の甘味の大海原は半分以上が菊里の胃に収められ、なんとか仲良くという部分もクリアできたようで――大した時間も経たないうちに、四人は外へと出たのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)

む?ここは…白い部屋?
眩暈に似た感覚を覚え気が付いたら知らない部屋だった。
何かのトラップかとも考えたがそうではなさそう…か?
露に袖を引かれ扉上部をみると…肌を触れ合えないと出れない?
…肌に触れる?何かの暗号か?やはり罠…。
とりあえず周囲に気を払い何が起きても対応できるようにしよう。

暫くして露から提案を持ちかけられる。何?肌に触れさせろ?
なるほど。扉上の文章は指令だと考えたわけか。
…だが何が起きるかわからないことは正直したく…大丈夫?
君は…なぜそんなに呑気なんだ。やれやれ。

されるがままになっていたら必要以上に触れられうっとおしい。
自分ではわからんがそんなにいいのか?私の肌は…。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
あれ?いつお部屋に入ったんだっけ?…記憶が飛んでる?あれ?
レーちゃんに聞くけどレーちゃんもあたしと同じみたい。
そして扉の上に『肌を触れ合えないと出れない部屋』って書いてあるわ。
肌に?レーちゃんの?うーん。いつもむぎゅーってしてるからなぁ~。
レーちゃんをじっと見て考えてたらいいこと思いついたわ!
「レーちゃん頬触らせて? そーしないと出れないみたいだし♪」

…♪
わぁ…。凄くすべすべでヒンヤリしてて青磁の壺みたい。凄い。
そーいえば髪以外は触れたことなかったけど凄く触り心地いいわ~。
ずっとずっと触れてたいなぁ~。レーちゃんの頬。気持ちがいいわ。
むぅ。もうおしまい?えー…。えー。



●すべすべひんやり、ふわふわもっちり
 ふと気が付けば、何故か真白な部屋に神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)とシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は立ち尽くしていた。
「む? ここは……白い部屋?」
「あれ? いつお部屋に入ったんだっけ……?」
 確か、やっぱり浴衣もいいわよね、と浴衣を着て歩く人達をちらっと眺めたのよ、と露が言う。
「それで、前を向いたら……記憶が飛んでる? あれ? レーちゃん、レーちゃんはどう?」
「私は眩暈に似た感覚を覚えたんだが」
 確かに露が浴衣を着た人を見ていたのは覚えている、それを横目で見ていて眩暈のような感覚に襲われたのだ。
「……気が付いたらここに居た」
 知らない部屋だ、水族館の一室でもない、例えるならモデルルームの一室のような。
「レーちゃんもあたしと同じなのね~」
「何かのトラップか?」
 怪異が出るという話は聞いていたから、それかとも思うけれど敵意が無いのだ。
「レーちゃん、レーちゃん見て!」
 ぐい、と露に袖を引かれ、指さす方向を見遣る。
「肌を触れ合えないと出られない?」
 確かにそう、扉の上部に現れた文字は二人に告げていた。
「うーん、『肌を触れ合えないと出られない部屋』って、なんだか曖昧ね」
「トラップではなさそうだが、怪異の仕掛けた何かというのは間違いなさそうだな」
 肌に触れる……何かの暗号ではないかとシビラが考え、もう一度扉の上の文字を目で追う。何度見ても『肌を触れ合えないと出られない部屋』と書かれていて、やはり罠だったのではないかと警戒を強める。
「露」
「なぁに? レーちゃん」
「周囲に気を払え、万が一何かが起きても対応できるようにしよう」
「わかったわ!」
 難しい事は解らないけれど、シビラが言うのであれば露に否はないのだ。
 それにしても、と露が考える。
「肌に触れる……レーちゃんの? うーん、いつもむぎゅーってしてるからなぁ~」
 それって、いつもしていることと大して変わりがないわ、と露が首を傾げて扉の上の文字を眺めた。
「罠にしても向こうからのアクションがなければな……」
 これ以上何も起きないようであればこちらから動くのも手だがとシビラが悩んでいる間、露がシビラをじっと見て肌に触れるという言葉について考えていたのだが、不意に声を上げる。
「いいこと思いついたわ!」
「どうした、露」
「レーちゃん、頬触らせて? そーしないと出られないみたいだし♪」
「何? 肌に触れさせろ?」
 何を言っているんだ? と思いはしたが、すぐに扉の上に現れた文章を行動に移そうとしているのだと理解する。
「なるほど、扉上の文章は指令だと考えたわけか」
 一理ある、と思いはするが、シビラがううん、と考え込む。
「……だが何が起きるかわからないことは正直したく……」
「大丈夫よ、ね?」
「大丈夫?」
 何が大丈夫なのか、絶対に何も確信はないだろうけれど、露がそう言い切る。
「君は……なぜそんなに呑気なんだ?」
「そうかしら~? ふふ、物は試しって言うでしょう?」
「やれやれ……」
 一度言い出したからにはやらなければ気が済まないだろう、そう考えてシビラが渋々頷く。
「やったぁ♪」
 シビラとは反対に、嬉々として露が彼女に近付き、その頬に触れる。
「わぁ……凄くすべすべでヒンヤリしてて青磁の壺みたい、凄い」
 そういえば、シビラの髪に触れる機会は多いけれど、それ以外には触れた事がない。こんなに一緒にいるのに、肌に触れるのが初めてなんて不思議ね、と露が笑う。
「凄く触り心地がいいわ~」
「自分ではわからんがそんなにいいのか? 私の肌は……」
 されるがままになっていたシビラが、そろそろ鬱陶しいなと思いながら楽しそうに触れてくる露に問う。
「ええ! ずっとずっと触れてたいなぁ~。レーちゃんの頬。気持ちがいいわ」
 すべすべひんやりの陶磁肌、毛穴も見当たらない綺麗な白い肌だ。
「もういいだろう、離せ」
「むぅ。もうおしまい?」
 もっと触っていたい露が不満気にそう零すと、シビラがすっと露から離れた。
「終わりだ、充分だろう」
「え~、あたしはまだ充分じゃないわ」
「……扉が開けばいいんだろう」
 その為に触っていたんじゃないかと、シビラがじっとりとした目で露を見遣る。
「えー……」
「そんなに頬が触りたければ、自分の頬を触ればいいだろう」
「自分の頬とレーちゃんの頬じゃ全然違うわよ~~」
 自分の頬を触りながら露が言う、シビラの肌がすべすべひんやりなら、自分の頬はふわふわもっちりだ。
「変わらないだろう、ほら行くぞ」
「えー」
 むにむに、と自分の頬に触れながら、開いた扉から出て行こうとするシビラを露が追い掛けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルフレッド・モトロ
あの有名な「お題をクリアしないと出られない密室」に
姉御(f09037)と一緒に閉じ込められた
お題には「相手に『好き』と言ってもらう」とある
姉御にバレないよう何度か確認
見間違いではない、やばい

相手って姉御のことよな
ダメ元で「寿司好き?」と聞いてみるけど
おそらく駄目だ

好きって言ってと素直に頼んでみようか
でも姉御と俺はそういうのじゃないし
そんなこと言わせたくないな

なら「寿司って10回言って」からの「俺は?」で誤魔化すか
んー脱出のためとはいえ姉御を騙すのは嫌だ

正直に頼む?誤魔化す?頼む?
あ!姉御が腹をすかせている!
時間がない!

うおー!どうにかなれー!!

「姉御ォー!!好きって10回言ってくれーーッ!!」


桜田・鳥獣戯画
アルフレッド(f03702)、これがその「お題をクリアしないと出られない部屋」か!
なるほどシンプルだが快適そうな部屋だ。つい閉じ籠ってしまう者もおろう
そういう心の隙に付け入るやり方は好かんな…
良かろう何でも来い! 我らのPOWで壊せぬ部屋などないがな!!

お題「相手の頼みごとを聞く」

…相手とはアルフレッドだな? なんともお安い御用ではないか
アルフレッド、何か私にできることはあるか?
安心しろ、出来ないこと以外はいける! 私に二言はない!!
以下、どんな頼み事でも素面でやってしまう

…何かおかしなことを言ったか?
……言ってる?
………言っている、かも、しれん。

『ぐぅ』
いや元気だな私の腹! 空きすぎだ!!



●完全にコント
 真白な部屋の中でアルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)と桜田・鳥獣戯画(怒りのデスメンタル・ロード・f09037)がまず思ったのは、鮫を見ていたはずだったということ。
 それから、もしかしてこれがウスイ=ホンとかで見るお題をクリアしないと出られない密室なのではないか、ということであった。
「姉御、これはもしかしてもしかすると」
「ああ、アルフレッド! これがかの有名な『お題をクリアしないと出られない部屋』か!」
 ほほう! と目を輝かせたのは鳥獣戯画で、取り敢えず何があるんだこの部屋には! と、然して広くもない部屋を探検しだす。
「なるほど、テーブルにソファ、冷蔵庫にキッチンにトイレバス付ベッド有……シンプルだが快適そうな部屋だな」
「エアコンも付いてるし、ゲーム機もあるぞ姉御」
 快適すぎないか? と鳥獣戯画が目を細める。
「こんな部屋では確かに、つい閉じこもってしまう者もおろう」
「出る必要性がない奴はそうだろうな」
 現実の世界で嫌なことがあった者なんかは、特に。
「ふむ、そういう心の隙に付け入るやり方は好かんな……」
「そうだよな、さっさと出て元凶をぶっ潰そうぜ、姉御」
「よしきた、そうとなればさっさと出るとするか! 良かろう何でも来い! 我らのPOWで壊せぬ部屋などないがな!!」
 そうと決まれば扉の上に出るというお題だ、扉はこっちにあったはず、と二人揃って扉の方を向きその上に出ている文字を確認する。
「なるほど! 簡単だな!」
「えっ」
「え?」
 お互い顔を見合わせ、もう一度お題を見る。
「姉御には簡単なのか……?」
「簡単だろう? 何を難しいことがあるんだ」
 そっか、姉御にとっては『相手に好きと言ってもらう』事は簡単なことなのか……!! 軽いショックを受けつつも、いや姉御だからな、きっと重たい意味には取っていないはずだとアルフレッドがブツブツとお題を見上げたまま呟く。
 対する鳥獣戯画といえば――。
 アルフレッドにとっては『相手の頼みごとを聞く』というのは難しい事なのかもしれんな、確かに何を言われるかわからんだろうし……いやでも私はそんな無茶振りはせんが、いや無茶振り待ちか? とお題を見上げたまま考えていた。
 そう、互いに見えているお題が違うのである、いわゆるすれ違いコントの幕開けである――!
 何度見ても見間違いではない、やばい、相手って姉御のことだよな? っていうかここ、俺と姉御以外いないし、じゃあやっぱり姉御じゃん!! というような事を無に近い顔でアルフレッドが考えているころ、鳥獣戯画もまた相手とはアルフレッドのことだな? と脳内で確認していた。
「なんともお安い御用ではないか」
「ええっ!?」
「楽勝ではないか?」
 マジかよ姉御、さすが肝が据わってやがるぜ……それはそれとして、俺が姉御に好きって言ってもらうのは何か違うんだよな、とアルフレッドが黙り込む。
 ここはひとつ、とんちを利かせてみるのはどうだろうか。俺ってば賢いのではないか、そう、例えば『寿司好き?』とか。
「駄目だ……」
「駄目なのか?」
「駄目だな」
 おそらく駄目だ、それでは寿司が好きなだけだとアルフレッドが考え込む。鳥獣戯画が相槌を打っているとかちょっと気が付いていない、もうそういう時空になってる。
 では、いっそのこと正直に好きって言ってと素直に頼んでみようか?
「アルフレッド、何か私にできることはあるか?」
「えっ!?」
「いや、何か出来ることはないかと」
「あ、姉御……!」
「安心しろ、出来ないこと以外はいける! 私に二言はない!!」
 出来ないことある~~! これで好きって言ってって言って、出来ないことだったら俺はもう立ち直れない気がするし、何より姉御と俺はそういうのじゃないし、そんなことを言わせたくないなとアルフレッドは思う。
「待って、ちょっと待って姉御、考えるから! 踊ったり歌ってていいから待ってくれ!」
「うん? よしわかった、待とう!」
 ん? 踊ったり歌ってていいから? じゃあ歌って踊るか! なんたって出来ないことではないし、この間もなんか踊ったしな!
 ちょっとダンサブルに踊ったり歌ったりしつつの隣で、アルフレッドが真剣に考える。自分が踊ったり歌ってていいとか言った記憶はない、何せちょっとテンパってたので。
 なら『寿司って十回言って』からの『俺は?』で誤魔化すか? んー、でも脱出の為とはいえ姉御を騙すのは嫌だ、そんなの俺じゃない。
 となると、正直に頼む? いや出来なくない? じゃあ誤魔化す? 嘘は嫌だって言ったばっかりだぞ? じゃあやっぱり頼む? このループを暫し続けていると、鳥獣戯画の歌がカレーパンの歌になっていた。
「カレーパンが食べたいな……アンパンでもいい」
「姉御、腹減ったのか?」
「……何かおかしなことを言ったか?」
「おかしくはないけど、カレーパンとかアンパンって」
「……言っている、かも、しれん」
 駄目だー! 姉御が腹を空かせすぎておかしくなりかけてる!!
 実際、おかしくなりかけているのはアルフレッドの方でもあるのだけれど、そんな事が自分でわかっていれば苦労はしない。
 アルフレッドの頭の中は、姉御が腹を空かせている、時間がない! ただそれだけであった。
「うおー! もう考えるのはやめた! どうにかなれー!!」
「おお、いいぞアルフレッド!」
 意を決したアルフレッドが叫ぶ。
「姉御ォー!! 好きって十回言ってくれーーッ!!」
『ぐぅぅううううううううううううう』
 その瞬間、アルフレッドの叫びと共に鳥獣戯画のお腹がものすごい音を立てて鳴った。
 そうはならんやろ、というくらいの音であったが、鳴っとるやろがいである。
「いや元気だな私の腹! 空きすぎじゃないか!? いや完全に空きすぎだ、空きすぎてる! 空きすぎて空きすぎて震えるというやつだ! 空きすぎて何言っているかわからなくなってきたぞ、これは空きすぎだろう、いや空きすぎると逆に空腹がわからなくなるというが、今一気に空腹が押し寄せて来た気がする! 空きすぎた腹! 空きすぎ!!」
 斯くして扉は開かれたし、アルフレッドの叫びは鳥獣戯画の腹の音に掻き消されたので彼の心は守られたし鳥獣戯画は水族館から出たら絶対寿司食べよ、と心に決めたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミコト・イザナギ
【天月2】

落ち着いて、初音
こういう時は慌てない事が大事ですよ
概ねの状況から危険がない事を察して
落ち着き払って振る舞う

お題は簡単ですが彼女の心が決まるまで待ちましょう
となれば、暫く暮らす事になろうとも致し方ない事で

――小さな部屋に二人きり
一時の間、闘争心を休めて
このひとときに浸るのも良し

然し、彼女が外へと出たいと望むでしょう
今や初音は籠の鳥ではなく
空に羽搏き始めた唄鳥なのだから

それにオレは獰猛な渡り鳥
羅刹と天狗道の性を尊び
自由に生き、戦場に赴き
武の極みを目指すもの
それを初音も望んでいる

どうせ掌を結ぶのなら気を緩めてた方がいいよね
と、仮面を外して素顔を晒し
膝を折って視線を合わせ
両の掌だけでなく
悪戯心で額までも合わせてしまおうか

きっと驚くだろう
赤らむ様子、零れる笑み
ひとつひとつが愛おしく
見守るように見つめ

ふふ…そうだね、照れちゃうね
と、赤ら顔で笑む

――扉が開いたのなら、いざ羽搏こう
彼女の手にある仮面は取り返さずそのままに
オレの仮面はアナタに差し上げましょう
いずれ来る別れの時も忘れじとするために


羽月・初音
【天月2】

ミコトさ……ううん、ミコトくん
どうしよう?
普段より拙く幼さの残る物言い

浮かぶ文字を見上げ、状況を理解
『向かい合って恋人繋ぎをしないと出られない部屋』

幸か不幸か
閉じ込められたのが彼とで良かった
他の人なら、到底成し遂げれないと思ったから

恐怖は何故か沸かないの
だって、此処は二人暮らしするのに苦労しなさそう
出なくちゃいけないというのは分かっても
彼を独り占めできるという可能性に心が揺れる

揺れて、震えて、迷って
自由で在ってほしいと告げたあの日
あの日言ったことは嘘じゃない

――此処に残ってほしい
――此処で共に過ごしてほしい
全部、私の我儘

全てを飲み込んで、想いは固まった
彼と一緒なら此処じゃなくても構わない
――戻ろう、皆の元へ

想いを込めて、紐解かれた仮面に手を添え、頭に被る
これは私の物だよ、もう返さないって
僅かに残る寂しさを含ませ、掌同士を重ね合う

でも、それだけじゃなくて

眼一面を占める彼の顔
嬉しくて、恥ずかしくて、ちょっとだけ擽ったくて
絡み合う視線に目が離せない
……なんか、照れちゃうね



●時が止まればいいのに、なんて
 ぱちり、と羽月・初音(愛し恋し・f33283)の海のような色を湛えた瞳が瞬く。
「ここは……?」
 ええと、確か私は……水族館に来ていたはずで。
「そう、そうだわ、ミコトさ……ううん、ミコトくんと」
「はい、ここに居ますよ」
 声がした方に振り向けば、そこには共に来ていたミコト・イザナギ(語り音の天狗・f23042)の姿が見えて、初音はほっと息を吐く。
「どうしよう? ここ、どこなのかな……?」
 普段よりも拙く、幼さの残る物言いで不安気に彼を見上げた。
「落ち着いて、初音。こういう時は慌てない事が大事ですよ」
 おろおろとする初音に対し、ミコトが落ち着かせるようにそう言い聞かせる。既にある程度の状況は飲み込めている彼には、ここが危険の及ばぬ場所であることは理解できていた。
 それ故、最低限の警戒に留めながら彼女に落ち着いた姿を見せ、そうすることで彼女を落ち着かせようとしているのだ。
 二人で慌てていても何も解決しませんしね、とミコトが初音を見つめる。
「えっと……ミコトくん、この部屋は」
「恐らくですが、案内人の方が言っておられた部屋でしょうね」
「案内人の……あ、お題をクリアしないと出られない部屋?」
 初音が導き出した答えに、ミコトが優しく頷く。
「お題、扉の上に出るって言ってたよね?」
 扉、と部屋を見渡せば、ドアノブが付いた扉が見えて二人でその上を見遣る。
「……『向かい合って恋人繋ぎをしないと出られない部屋』?」
「確かに難しいことではないですね」
 人によっては、何よりも難しいことになるのだろうけれど。
 それは今、目の前で文字を見上げて固まっている彼女にも言える事で、ミコトは彼女の心が決まるまで待つことにした。
 暫くの間ここで暮らすことになろうとも、それは致し方のない事、無理強いをするよりはうんと良い。素早く部屋に何があるか視線を巡らせ、日常生活が可能なレベルの部屋であることを確認する。
 テーブルにソファー、ベッドに冷蔵庫、バストイレキッチンもあるようだ。
 寝泊りする場合は彼女をベッドに自分がソファ、なんだったら床でも構わない――なんて考えながら、ミコトが口を開く。
「初音、取り敢えず座りませんか」
 立ったままでは疲れてしまいますよ、と促せば、初音がこくりと頷いてソファに座った。
「お茶でも淹れましょうか」
 そう言って、ミコトがキッチンへと向かう後ろ姿を見遣って、初音が小さく息を吐く。幸か不幸か――この場合、幸だろうけれど、閉じ込められたのが彼とで良かった、と。
 向かい合って恋人繋ぎ、なんて。他の人なら、到底成し遂げられないと思ってしまったから。そして、彼となら多分できる、とも。
 見知らぬ部屋に閉じ込められたという恐怖はない、それはきっと……この場所が二人で暮らすにも苦労しなさそうな場所だからだ。
「出なくちゃいけないのは、分かってるの」
 キッチンに居る彼には聞こえないような小さな声で、溜息を零すように呟く。
 でも、それでも――彼を独り占めできるという可能性に、心が揺れている。自分勝手な想いかもしれないけれど、きっと彼はそれを許容してくれることも、なんとなく分かってしまうのだ。
 だからこそ、この心はこんなにも千々に乱れている。もう一度キッチンに居る彼を見て、初音は甘やかな溜息を落とした。
 キッチンでお茶の用意をする為にお湯を沸かしていたミコトもまた、彼女のそんな気配を感じながらケトルに視線を落としていた。
 二人きりの小さな部屋で、闘争心を休めて――このひとときに浸るのも良いだろう。然し、とミコトは唇の端を僅かに持ち上げる。
「今や初音は籠の鳥ではなく、空に羽搏き始めた唄鳥なのだから」
 シュンシュンと音を立てだしたケトルの音に、ミコトの囁くような小さな声は搔き消されて彼女に届くことは無い。用意されていた急須にお茶の葉を入れ、お湯を注ぐ。
 それに、彼女が唄鳥ならば、オレは獰猛な渡り鳥だ。
 羅刹と天狗道の性を尊び、自由に生きて喰らう。戦場に赴き、武の極みを目指すもの――。
 それを初音も望んでいることをオレは知っているのだから。
 湯呑にお茶を注ぎながら、ミコトは腹を括る。どうであれ、全ては彼女に委ねようと。
「お茶が入りましたよ」
 手にした湯呑をテーブルに置いて、ミコトが初音の隣に座る。
「ありがとう、ミコトくん」
「これくらいお安い御用だよ」
 火傷しないように気を付けて、と促して湯呑を手にして先に一口飲む。毒も入っていない、至って普通のお茶だ。
 初音も湯呑を手に取り、いただきますと呟いてまだ湯気の立つお茶に息を吹きかける。ふー、と何度か吹きかけながら、隣に座る彼に心を揺らし、震えて、迷って、それでも自由で在ってほしいと告げたあの日を思い出す。
 あの日言ったことは嘘ではないの、それでも、ああ、どうしてこんなに心が乱されるのか。
 此処に残ってほしい、共に過ごしてほしい、ずっと一緒にいて欲しい――全部、全部私の我儘だと初音はきちんと分かっていた。
 一度きつく目を閉じ、開く。
 お茶に映った己の顔は、まだ少し揺れていたけれど。
 その気持ち全てと共に彼が淹れてくれたお茶を飲み込めば、想いはしっかりと固まって。
 彼と一緒なら、此処じゃなくても構わない。
 湯呑をテーブルに置いて、初音がミコトへと向き合う。
「――戻ろう、皆の元へ」
「……うん、戻ろうか」
 彼女の意思が込められた眼差しに微笑んで、ミコトが頷く。
「どうせ掌を結ぶのなら、気を緩めてた方がいいよね」
「ミコトくん?」
 首を傾げた彼女に微笑んで、ミコトがソファから立ち上がり彼女の正面に向くと膝を突く。そして、常に付けている仮面の赤い紐を解き――素顔を晒し、その赤い瞳を彼女の青い瞳に真っ直ぐに向けた。
「ミコトくん……」
 その赤い瞳を真っ直ぐに見つめ返し、彼の手の中にある紐解かれた仮面にそっと手を伸ばす。ミコトは彼女のしたいようにさせてやろうと、外した仮面をその手に委ねた。
 少しだけ考えてから、言葉には出さず、これはもう私の物だよ、返さないと初音が仮面を頭に被る。
 そんな彼女に微笑んで、ミコトがそっと彼女の手を取って。初音もまたその動きに逆らうことなく、掌を重ね合わせた。
 ゆっくりと互いの指先を絡め、結び、握る。
 自分よりも小さな手。
 自分よりも大きな手。
 自分のものではない温もりが、肌を伝って心へ染み渡っていく。
 ほんのり赤く染まった初音の頬に悪戯心が湧いて、ミコトがそっと己の額を彼女の額に触れ合わせる。
「……っ」
 僅かに跳ねた彼女の肩に笑って、至近距離の彼女から目を離さぬように見つめた。
 先程よりも段違いに赤らむ頬にじんわりと零れる笑み、そのひとつひとつが愛おしくて瞬きすら忘れて見入る。
「……なんか、照れちゃうね」
 視界の全てが彼で埋め尽くされる程の至近距離、嬉しくて、恥ずかしくて……それからちょっとだけ擽ったくて。
 絡み合う視線に目が離せなくて、柔らかな唇から吐息が零れ落ちる。
「ふふ……そうだね、照れちゃうね」
 仮面がない今、きっと赤くなった頬も彼女には見えていて。
 触れ合うのは絡めた指先と掌、くっ付けた額と、互いが零した吐息、それから逸らすことのできない視線――。
 扉の鍵が開く音がした瞬間、どちらからその触れ合う額を離したのかはわからない。
 けれど、繋いだ手はそのままに。
 赤らめた頬のまま笑顔を浮かべて。
「オレの仮面はアナタに差し上げましょう」
「いいの?」
「ええ」
 いずれ来る別れの時にも、忘れじとする為に。
 アナタのよすがとなるように。
 彼女の手の中にある仮面は取り返さぬまま、この部屋から羽搏く為に、二人で一歩を踏み出していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀

幸也さん(f13277)と
来ましたね…例の密室。
えーと「10秒ハグしないと出られない部屋」ですね。定番といいますか俺の知ってるのよりマイルドな感じでちょっと安心したって言うか。
…ごほん…俺が何みてるのかとかは置いといてですよ。ハグです。抱擁です。

…抱きしめる…抱きしめられるって経験がほぼ無くてですね…どんな風にすればいいのか。
(手をわちゃわちゃしつつ)
て言うか俺汗臭くないですか?そんなの気にしたこととかも無くて香水なんてオシャレなものつけてないですし…!

…わちゃわちゃしても仕方ないですよね…はいハグしましょう。
ぎゅーっと…
(10秒って意外と長い。ドキドキする。でも幸也さん暖かくて落ち着く…背中ぽんぽんされるのも好きだなぁ)

(ドアが開いた気配にハッとして)
ドア開いたみたいですね。それじゃあ行きましょうか。
ふふ、ハグしてくれてありがとうございます。
だってハグしてもらわないと出れないですからね!
(なんて言葉で何故か感じる嬉しさを誤魔化して)


十朱・幸也

真紀(f06119)と

密室内容:
10秒ハグしないと出られない部屋

ド定番で来たな、おい
真紀の言葉には頷きで返し、安堵の息を吐いて
まあ、ごもっともな意見だな
……っていうか、普段はどんなの見てるんだよ(くつくつと)

おう、10秒だな
タイマーは……要らねぇか、勝手に開きそうだしな

おーい、真紀ー?
何をそんな動揺してんだ、忙しねぇ奴だな
ぶはっ!香水とか、どんだけお洒落な男を想像してんだよ?
アニメやゲームとコラボしてても買わねぇし
そんなの気にしてねぇっての
ったく……ま、わちゃわちゃしてても始まらねぇしな
真紀、じっとしてろよ(有無を言わさずハグをしようと)

あー……
この距離だと、心臓の音も聞こえんのな
別に取って食う訳じゃねぇんだし、少しは落ち着けよ
(背中をぽんぽん、と優しく撫で叩く)

……開いたみたい、だな
ハグしなきゃ出られねぇのに、何でお礼言うんだよ
ほら、さっさとこの部屋を出ようぜ

(真紀に気付かれないように小声で、口を押さえつつ)
あ゛ぁ、クソッ……!
香水よりも破壊力が高過ぎるんだよ、阿呆



●花よりもなお馨しきは
 ジンベエザメとマンタを見て、次はペンギンだと海の中のような通路を歩いている時だった。
 突然切り替わった視界に花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)が思わず目を閉じ、十朱・幸也(鏡映し・f13277)が目を細める。
「眩し……っ」
「大丈夫か?」
 ぱちぱちと目を瞬かせる真紀に視線を遣って、自分も細めた目をゆっくりと慣らしながら開いていく。すぐに瞳は順応して、まだ少し眩しいながらも周囲の様子が窺えた。
「……白い部屋、ですか?」
「みたいだな、ペンギンがいる部屋って感じでもねぇし」
 これはあれだな、と幸也が真紀に言う。
「ええ、これは間違いなく……来ましたね、例の密室」
 テーブルとソファが置かれた、八畳ほどのワンルーム。お約束的な部屋だとベッドがあるんですよね、と思いはしたけれど真紀は黙っておくことにした。
「ってことは、扉の上にお題が出るんだっけか?」
「そうです、扉は……あ、あれですね」
 ドアノブを回せば今にでも開きそうな扉を指さし、真紀がその上を見た。
 じわり、と浮かび上がる文字を凝視して、二人同時に顔を見合わせる。
「えーと『十秒ハグしないと出られない部屋』ですね」
「またド定番で来たな」
「定番といいますか、俺の知ってるのよりマイルドな感じでちょっと安心したって言うか……」
 真紀が零した言葉に頷いて、こっそりと安堵の息を吐く。
「まあ、ごもっともな意見だな」
 俺だけではなく、真紀だって変なお題じゃなくて良かったと思っているのだろうと幸也が思う。
「……っていうか」
「はい?」
「お前、普段はどんなの見てるんだよ」
「……ゴホン、俺が普段何を見てるのかとかは置いといてですよ」
 墓穴を掘った、みたいな顔をした真紀にくつくつと喉を鳴らして幸也が笑った。
「置いといて!」
「はいはい」
 まあ色々あるよな、キスだとかえぐいのになれば――そこまで考えて幸也は思考を放棄する。そして、変なことは何にも考えていませんよ、というような顔で真紀を見た。
「置いといて、なんだ?」
「ハグです、抱擁です」
 幸也のしれっとしたポーカーフェイスに気が付かないまま、真紀がハグ、ともう一度繰り返す。
「おう、十秒だな」
 十秒なら楽勝じゃねぇか? と考えながら口を開く。
「タイマーとかあるのか? ……って要らねぇか、十分とかならあれだが十秒なら勝手に開きそうだしな」
「あの、幸也さん」
「どうした?」
 随分と神妙な声を出すから、何かあったかと幸也が真紀に近寄った。
「あのですね、俺」
「うん」
「その……」
 そう言ったきり、視線をあっちこっち向けて真紀が黙る。
 どこかそわそわしているような、落ち着きがないというか、悪いことをした犬みたいな動きだなと思いながら幸也が声を掛けた。
「おーい、真紀ー?」
「……抱きしめる……抱きしめられるって経験がほぼ無くてですね……」
 神妙な顔で告げられる内容に思わず笑いそうになったけれど、幸也がぐっと堪えて真紀が話し終えるのを待つ。
「なので! どんな風にすればいいのかわからないんですよ……!!」
 言ったぞ! という風な真紀の真剣な顔に、とうとう耐え切れなくなって幸也が盛大に噴き出した。
「ぶはっ! 何をそんなに動揺してんだ、忙しねぇ奴だな。どんな風も何も、ぎゅっとすればいいだけじゃねぇのか?」
「それがわからないから言ってるんじゃないですか!」
「真紀、いいか」
「は、はい」
 ごくりと息を飲んだ真紀に、幸也が軽くデコピンを入れる。
「いた、痛いです!」
「百聞は一見に如かずって言うだろ? 何聞いたってわかんねぇんだから、さっさとやってみた方が分かると思わないか?」
 おでこを撫でる真紀にそう言って、幸也が笑う。
「それは確かにそうなんですけど……って言うか、俺汗臭くないですか?」
 今度は何を言い出したんだ、と幸也が目を瞬かす。
「だって、そんなの気にしたこととかも無くって」
 誰かとハグをするような状況になったりしないんですよ、と真紀が口走る。
「だから香水なんてオシャレなものも付けてないですし……!!」
「く、はは、はははっ! 香水とか、どんだけお洒落な男を想像してんだよ?」
 ひー、と笑う幸也を見て、真紀も少しずつ自分がちょっとおかしなことを口走っていたかもしれないことに気が付く。
「いやでも、幸也さん付けてそうじゃないです?」
「俺、香水なんてアニメやゲームとコラボしてても買わねぇし」
「そうなんですか?」
 コレクションしてそうなのに、と真紀が呟くと、使わないもん持っててもしょうがねぇだろ、と幸也が笑う。
「ったく……俺は香水なんて付けてねぇし、真紀と同じで汗臭いかもしれないけど」
「えっ、やっぱり俺汗臭いですか?」
「あー、言葉の綾だ、綾」
 だいたい、今日はずっと一緒にいるのだから同じように汗を掻いてたら同じような匂いだろ、という大雑把な考え方なのだけれど。
「ま、わちゃわちゃしてても始まらねぇしな」
「う……そうですよね、確かにわちゃわちゃしても仕方ないですよね……それで扉が開くわけでもないですし」
 覚悟が決まったのか、真紀が顔を上げる。
「よし、真紀」
「はい」
「じっとしてろよ」
「はい、ハグしましょう」
 こうなったらやってやれだ、と真紀が幸也を迎え入れるように両腕を広げ、幸也も同じように両腕を広げて真紀を抱きしめた。
「真紀、腕を背中に回してぎゅーっとするんだ」
「ぎゅーっと……」
 こうですか、と真紀が幸也の背に腕を回す。
「そうそう、そんな感じだ」
 ぎゅう、と抱き締め合う形になって、ここから十秒だと幸也が言うと真紀がこくりと頷いた。
「あー……この距離だと、心臓の音も聞こえんのな」
「えっ、あ、ちょっと離れた方がいいですか?」
 腕の中で再びわたわたし始めた真紀に、幸也が笑う。
「離れたらハグになんねぇだろ。別に取って食う訳じゃねぇんだし、少しは落ち着けよ」
「どうしたら落ち着くかわかんないんですけど……」
「あー、じゃあこれでどうだ」
 宥めるように、幸也がその背をぽんぽん、と優しく撫でるように叩く。
「……落ち着くような、気が」
「じゃあ、扉が開くまでこうしてっから」
 聞こえてくるのは互いの心臓の音。
 十秒って意外と長い、ドキドキする、と真紀が小さく息を吐く。
 こんなにドキドキしている音も聞こえてしまっているのだろうか、と考えると離れたくなるけれど、でも。
 幸也さんの腕の中、暖かくて落ち着く……それに、背中をぽんぽんされるのも好きだなぁ、なんて考えれば離れるなんて気持ちはすぐに消えてしまって、安心した様な気持ちになってぴたりとくっ付いた。
 数えていたわけではないけれど、扉の鍵がカチリと開く音がして幸也がそっと背をぽんぽんとしていた手を止める。それと同時に、真紀も扉が開いた気配を察して、腕の力を緩めた。
「……開いたみたい、だな」
「はい、ドア開いたみたいですね。それじゃあ行きましょうか」
 なんとなく離れ難いような気持ちになりつつ、そっと離れる。
 それから、真紀が幸也に向かって笑いながらぺこんと頭を下げた。
「ふふ、ハグしてくれてありがとうございます」
「ふは、ハグしなきゃ出られねぇのに、何でお礼言うんだよ」
「だって、ハグしてもらわないと出れないですからね!」
「ったく……ほら、さっさとこの部屋を出ようぜ」
 上手く、誤魔化せただろうか。何故か感じている嬉しさを、幸也に悟られなかっただろうか。そんな心配をしながら、はい! と良い返事をして真紀が扉を開け、外に向かって歩き出す。
 その後姿を眺め、幸也が口元を押さえながら真紀に聞こえぬように堪え切れぬ言葉を零す。
「あ゛ぁ、クソッ……!」
 荒くなりそうになる息を抑え、深く息を吐き出して。
「香水よりも破壊力が高すぎるんだよ、阿保……ッ」
 いつまで隠しきれるだろうか、そう思いながら幸也が部屋を出る為に足を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
【夜灯2】

予知通りに閉じ込められましたね

このままアパラさんとずっと一緒、というのは心惹かれますが
外でやらなければいけないこと、お互いありますからね

さてお題は……
(視線を向けた扉の上に『キス』の文字。みるみる赤くなる)

ぼくらが付き合い始めて8ヶ月ぐらい経ちますが、キスはしたことないですね……
どうしましょう
と言っても、キスする以外に選択肢はないのですが

そ、そ、そうですね
ぼくも二人兄弟の次男で、アパラさんの恋人です
受けて立ちましょう(※混乱中。普段は冷静なので珍しい)

それでは、失礼して……

(そっと抱き寄せて、キスしようと。見れば見るほど綺麗な髪と瞳、なんて思いながら)

(……一度離れる)

す、すみません
まだ心の準備が……

(深呼吸して落ち着き、勇気を振り絞る)

アパラさん、目を閉じて
身体の力を抜いて
ぼくに、身を任せてください

(優しく抱き寄せて、静かに唇を重ねる)

……開きましたね
はい、何でしょうか?

……!(頬への口づけに目を丸くする)
ふふ。ありがとうございます

大好きですよ、アパラさん
これからも、ずっと


アパラ・ルッサタイン
【夜灯2】

おお本当に閉じ込められてしまった

そうだね
一緒は良いけれど互いにやりたい事があるし
水族館の他にも一緒に行きたい所は沢山あるしなァ

アウグストさん、顔が赤いよ?
え?お題?キス?

……
…………
あーーーー……(赤くなる)


8カ月も?時が過ぎるのは速いなァ……
って、いや!そうじゃなく
ど、どうって、どうって、ねえ??
そうだ、ね
キスしないと出れないものな、うん

よ、ようし
あたしも一国一城の主、ランプ屋店主であなたの恋人だ
受けて立とうじゃないか!どうぞ!!(※混乱中)

何時もより近しい顔を
ついまじまじと見つめてしまう
綺麗な瞳
睫毛、長いんだな
……?どうしたの?

離れ深呼吸する貴方に
可愛いと思ったのは秘密
ふ、と微笑んで
なァんだ
緊張はお互い様だね
お陰で少し落ち着いた

うん。
広い背に手を回し
目を閉じる
貴方は唇まで優しいな

……嗚呼、扉が開いたようだ
部屋を出る直前
ねえアウグストさん、ちょいと

袖を引き
つま先立ち
その頬に唇を寄せ
……これはお題じゃ、ないからね?

唇にじゃないのは、ほら、ね!
んふ、ありがとう
あたしもずっと大好き



●それは甘く海のような
 それはたっぷりとスイーツを楽しんで、次は何を見ようかと二人視線を合わせてカフェを出た瞬間に起こった出来事であった。
 カフェを出た先は蒼く綺麗な通路であったはずなのに、目の前に広がるのは真白な壁ばかり。
「おお……これはまた見事なまでに真白な部屋だね。本当に閉じ込められてしまった」
「ええ、予知通りに閉じ込められましたね」
 アパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が零した言葉に、アウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)が聞いていた通りの部屋ですと頷く。
 部屋の中を見回せば、ソファにテーブル、キッチンなどの生活に必要そうな物は一通り揃っているように見えた。
「当面の間ここから出られずとも暮らせそうな感じですね」
「本当だね、確かにここなら……外に出たくない者は出ないかもしれないな」
 そういった人の心の弱さにつけこむタイプの怪異なのか、もっと違う理由があるのか……どちらにせよ、このまま放置しておいていいものではないだろう。
「このままアパラさんとずっと一緒、というのは正直心惹かれますが」
「ふふ、それはあたしもだよ」
 そう言ってくれるあなたの心は、なんて愛おしいのだろう。
「外でやらなければいけないこと、お互いありますからね」
「そうだね、一緒は良いけれど互いにやりたい事があるし」
 アパラがアウグストの黒玉髄のような瞳を見つめて、ふわりと微笑む。
「水族館の他にも、一緒に行きたい所は沢山あるしなァ」
「……例えば?」
 何処に行きたいのかと、アウグストが尋ねるような声音で首を傾げる。
「ええと、そうだね……動物園とか、植物園……博物館なんかもいいし……これからイルミネーションも綺麗な時期だろう?」
 色んなものを二人で見られたらいいとアパラが言うと、アウグストも頷いて。
「ぼくも、アパラさんと同じものを見たいです」
 どんなものだって、二人で見ればきっと楽しいに違いないから。
「それじゃあ、ここから出なくてはね」
「ええ、扉の上にお題が出るはずです」
 扉、と二人で四方を囲む壁を見回し、ドアノブの付いた扉を見つけて視線を止めた。
「簡単に壊せてしまいそうな扉なのにね」
「やってみますか?」
「いいよ、多分壊れないだろうし」
 力尽くで壊せるのなら、案内をした者がそう言っているだろうから。
「はい。さてお題は……」
 扉の上に浮かび上がった文字を見遣って、アウグストが動きを止めるや否や、見る間に顔を真っ赤にして俯いた。
「アウグストさん、どうしたんだい? 顔が赤いよ?」
「お、お題、が」
「え? お題?」
 そう言われ、アパラも赤くなったアウグストから扉の上の方に出た文字を読む。
「……キス?」
 真白な部屋に、暫し沈黙が下りる。
「…………」
「…………」
 黙ったままアウグストがちらりとアパラに視線を合わせると、固まっていたアパラが目を瞬かせた。
 きっと今、ようやくお題がどういったものか理解したのだろう。
「あーーーー……」
 アウグストに続き、見る間に赤くなっていく。
 たった一言浮かび上がった文字は『キス』で、つまりこの部屋は『キスしなければ出られない部屋』というわけで――。
 一足先に立ち直ったアウグストが小さく咳ばらいをして、息を吐く。
「ぼくらが付き合い始めて八ヵ月ぐらい経ちますが、キスはしたことないですね……」
「八ヵ月も? 時が過ぎるのは速いなァ……」
 しみじみとそう言って、二人で頷き合う。
 あの日、アパラにクロユリのチョコレートを渡した日から。
 あの日、アウグストからクロユリのチョコレートを受け取った日から。
 二人で歩きだした日から八ヵ月、と笑みを浮かべて――はた、と気が付く。
「って、いや! そうじゃなく!」
 いやそうなのだけれど、そうじゃなくて、とアパラがわたわたと慌てる。
「ええ、どうしましょう」
「ど、どうって、どうって、ねえ??」
「と言っても、キスする以外に選択肢はないのですが」
「そうだ、ね。キスしないと出れないものな、うん」
「出られないと困りますからね」
 互いに頬を赤くして、ちらりと視線を合わせてはそっと外して、もう一度合わせて。
「よ、ようし、あたしも一国一城の主、ランプ屋店主であなたの恋人だ。受けて立とうじゃないか!」
「そ、そ、そうですね。ぼくも二人兄弟の次男で、アパラさんの恋人です。受けて立ちましょう」
 二人とも、ものすごく混乱していた。
 特にアウグストは普段冷静なだけに珍しい状況なのだが、お互い混乱しているからそれどころではない。
 しかし、考えようによっては混乱している今だからこそ出来ることもあるのかもしれない、多分。
「どうぞ!!」
「それでは、失礼して……」
 ここは男から動くべきだろうとアウグストがアパラの正面に立ち、そっと彼女を抱き寄せる。
 アパラも彼に任せてしまえとばかりに身を寄せて、何時もより近い場所にある顔をついまじまじと見つめる。睫毛が長いんだな、とか、綺麗な瞳はやっぱり黒玉髄みたいだな、なんて考えて。
 対するアウグストも、見上げてくる彼女の煌めく髪と瞳は見れば見るほど吸い込まれそうなほどに綺麗だと思いながら、そっと唇を寄せて――彼女の肩をそっと離し、顔を横に向けた。
「……? どうしたの?」
「す、すみません、まだ心の準備が……」
 少しだけ待って、とアウグストが深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着ける。
 深呼吸する貴方を可愛いな、と思ったのは内緒にしようと思いながら緊張している彼にアパラがふっと微笑んで。
「なァんだ、緊張はお互い様だね。お陰で少し落ち着いた」
「アパラさんも、ですか?」
「そりゃね、貴方との初めてのキスだもの」
 そう言われてしまっては、アウグストだって男を見せるしかない。高鳴る心臓を静めることは無理だけれど、勇気を振り絞ってもう一度、とアパラと距離を詰めた。
「アパラさん、目を閉じて」
 そうっと、壊れ物を抱きしめるように、優しく背に腕を回す。
「うん」
 ゆっくりと目を閉じて、己も彼の広い背に手を回した。
「身体の力を抜いて、ぼくに……身を任せてください」
 囁かれるままに、アウグストの胸に身を預ければ唇に触れる、柔らかな感触。
 愛おしいと語り掛けてくるような、どこまでも優しい貴方のようなキスだとアパラが思うと、そうっと唇が離れて。
「貴方は唇まで優しいな」
 目を開けて、幸せそうにアパラが笑うものだから、アウグストも笑みを浮かべて、ほんの少しだけ力を入れて彼女を抱きしめた。
 カチリ、と鍵の開く音がしてアウグストがそっと腕の力を弱めながら、開きましたね、と彼女に囁く。
「……嗚呼、扉が開いたようだ」
 少しの離れ難さを感じながら、背に回した腕を互いに解いて扉へと向かう。
 部屋を出る直線、前を歩くアウグストの袖をアパラが引いた。
「ねえアウグストさん、ちょっと」
「はい、何でしょうか?」
 どうしましたか、とアウグストが彼女の方へ振り向いた瞬間、アパラがそっと爪先立ちになって白い頬へ唇を寄せる。
 ちゅ、という軽いリップ音が響いて、アウグストが目を丸くして。
「……!」
「……これはお題じゃ、ないからね?」
「アパラさん……ふふ、ありがとうございます」
「唇にじゃないのは、ほら、ね!」
 蕩けるような眼差しでアウグストが彼女を見遣って、その手を取る。
 それから、その甲へ唇を落として。
「大好きですよ、アパラさん。これからも、ずっと」
「んふ、ありがとう。あたしも、ずっと大好き」
 見つめ合う視線が自然と絡んで、二人の距離が近づいて。
 お題じゃないキスを、もう一度――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

宵雛花・十雉
【蛇十雉】

えぇーっ!?
な、なにそのピンポイントに嫌がらせしてくる部屋!
そんなの本人の前でなんて恥ずかしくて言えるわけないよ
ね、なつ……

え、簡単って…何言ってるの
わーわーっ!
ちょっとストップ!
まだ心の準備が…!
どうしてそんな躊躇なく言えるの!?

ひえ…
そんなに褒められるとなんかくすぐったい
気にしてないふりをしようとしても難しくて
思わず腕で顔を隠す
でもこの際なつめが10個全部言ってくれたら部屋から出られるんじゃ?

や、やっぱりオレも言わなきゃ駄目?
しかも3個も言うのか…
うぅ…

つ、強くて頼りになるところ…

カッコいい龍に変身できるところ

見た目は怖いけど
小さな子にもお年寄りにも
男の人にも女の人にも
みんなに優しいところ

出口が開いたのと同時に
逃げだすように部屋を出る
や、やっぱり無理…!
いいから行くよ、なつめ


唄夜舞・なつめ
【蛇十雉】

『お互いの好きなとこ合計10個言わないと出れない部屋』ァ???

まーた訳わかんねェ部屋に
閉じ込めやがって
どうせ閉じ込めンなら
もっと難しーお題にしろよ
簡単すぎるだろ、こンなの。
サッサと答えて帰ろーぜ。
水族館、もう一周して
帰るのもいいなァ。

ときじも思いついたら言えよ~?
(そう言いながら向かいあって)

んー、そうだなァ
まず俺の相棒として
認めてくれてるとこだろ?

それからいつも
俺のこと信じてくれてるとことぉ

あと花を愛でてるとこ!

ンっとそれからー
きれーな目も好きだし

笑顔見るとつい甘やかしたく
なっちまうとことかもなんかすき!

意外とかわいーモンが
好きだったりするとこも!

華奢でちとビビりなとこもあっけど
すげー仲間思いで
やる時は怖くても
立ち向かうところもすっげーすき。

あとは…

ーーーって、
ときじお前何黙って聞いてんだァ?
お前も言えよ!おら、あと3つ!
さん!はい!

…へへ、ンだよ言えんじゃねーか。
やっぱ褒められるって悪い気しねーな!

お、出口が空い…ってときじ!?
そんなに外に出たかったのか?!



●十個じゃ足りない
 宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)はサメのぬいぐるみを胸に抱きしめ、唄夜舞・なつめ(夏の忘霊・f28619)はカクレクマノミのぬいぐるみを手にのせて、その部屋に立ち尽くしていた。
「え、何この部屋」
「ンだよ、この部屋」
 二人同時に同じようなことを言って、顔を見合わせる。
 白い壁に囲まれた部屋、ソファとテーブル、よく見ればベッドにキッチンバストイレなどの生活に必要なものが揃っているのが見えた。
「ね、これって」
「ああ、例の部屋ってやつか?」
 と、いう事はだ。
「扉、扉どこ?」
「あー、アレじゃねェか?」
 ドアノブのある、それっぽい扉。そしてその上に浮かび上がった文字――。
「ハ? 『お互いの好きなとこ合計十個言わないと出れない部屋』ァ???」
「えぇーっ!? な、なにそのピンポイントに嫌がらせしてくる部屋!」
 もっと他に、何かあったんじゃないの、と十雉が文字を睨み上げる。
 けれど、どんなに見上げていたって、お題として浮かび上がった文字が変わることは無かった。
「まーた訳わかんねェ部屋に閉じ込めやがって」
「ほんとだよ! そんなの、本人の前でなんて恥ずかしくて言えるわけないよ」
 うんうん、と十雉がなつめの言葉に頷いて。
「ってかよ、どうせ閉じ込めンならもっと難しーお題にしろよ」
「ね、なつ……え?」
 こてん、と首を傾げた。
「えって、簡単すぎるだろ、こンなの」
 特に表情を変えるでもなく、なつめが頭を掻きながら十雉に言う。どうやら本当に難しいことではないと思っているようで、十雉がえ、え、と口をはくはくと閉じては開く。
「簡単って……何言ってるの」
「ン? だって好きなところ十個だろ? しかも合計」
 ってことは、二人合わせてってことだろ、となつめが笑う。
「楽勝だろ、サッサと答えて帰ろーぜ」
「いや、あの」
 もっと難しいのだったらやり甲斐もあったのになァ、なんて言いながらなつめが身体をくるりと十雉に向けて。
「あ、この部屋から出たら水族館、もう一周してから帰るのもいいなァ」
「あ、うん。それは別にいいんだけど、そうじゃなくてさ」
「じゃ、ときじも思い付いたら言えよ~?」
 さっさとこの部屋を出てしまおうと思っているなつめは、十雉の制止にもなっていない言葉をふりきって、まずは一つと口を開いた。
「ん-、そうだなァ」
「まっ」
「まず俺の相棒として、認めてくれてるとこだろ」
 口ではなんだかんだ言ったって、十雉が自分を認めてくれていることは、なつめにとって原動力みたいなものだ。
「それから、いつも俺のこと信じてくれてるとことぉ」
 信じてくれているからこそ、自分の力の限界を超えてまで戦うことができるし、真っ直ぐに違っていることは違うと言える。信頼しているからこそだ。
「あと、花を愛でてるとこ!」
 この前は秋桜に目を奪われてたのは可愛かったな、と思う。
「それからー」
「わーわーっ!」
「えっ何」
 怒涛のなつめからの言葉に固まっていた十雉が余りの恥ずかしさに振り切れて、声を上げた。
「ちょっとストップ!」
「なんでだよ」
 しょうがねーな、となつめが一旦黙る。
「待って、本当に待って、まだ心の準備が……!」
「心の準備? 何でそンなのがいるンだ?」
「なつめはいらなくてもオレはいるの! そもそも、どうしてそんな躊躇なく言えるの!?」
 恥ずかしくないの!? と、十雉がなつめに言い寄る。
「え? 別に……全部本当のことだろ、恥ずかしがる意味がわかんねェ」
 きょとんとした顔でなつめがそう言って、もういいか? 続きいくぞ、と十雉に言った。
 全く良くはなかったけれど、本当のことだと言われて再び十雉が固まってしまったので、誰に止められることもなく、なつめが思い付くままに十雉の好きなところを口にする。
「ンっとそれからー」
 ああ、そうだとなつめが笑う。
「そのきれーな目も好きだし」
 橙色の瞳は、夕焼け空か宝石のようで見ていて飽きない。
「笑顔見るとつい甘やかしたくなっちまうとことかも、なんかすき!」
 しょうがねェなって思ってしまうくらい、その笑顔はほっとするのだ。
「あ、意外とかわいーモンが好きだったりするとこも!」
 その腕に抱えたぬいぐるみだって、十雉を知らぬ者が見れば誰かへのお土産だと思うだろう。まかり間違っても、彼の為のぬいぐるみだとは思うまい。
「ひえ……」
 対する十雉はといえば、なつめの口から怒涛のように出てくる誉め言葉に顔を赤くしてしまう。蚊の鳴くような声で待って、と言ってもなつめには聞こえてもいないだろう。
 そんなに褒められては何だかくすぐったいし、身の置き場がないというか、居た堪れないというか。気にしない振りをしようとしても、どうにも難しくて十雉が思わず腕で顔を隠す。けれど、胸の奥はじんわりと温かくて、思わず笑みが零れた。
 もしかして、このまま聞いていればなつめが十個全部言ってくれて、部屋から出られるんじゃ……? なんて考えていたからだろうか、腕をガシッと掴まれた。
「ときじ聞いてんのか?」
「き、聞いてる! ちゃんと聞いてたよ!」
「じゃあ、俺が何個言ったか言えるか?」
「えーっと」
 ひいふうみい、褒められた数を数えるのはちょっと、かなり照れ臭かったけれどきちんと聞いていた証として、六つだと伝える。
「よしよし、ちゃんと聞いてたな」
 それなら、となつめが再び口を開いて。
「あとは……そうだな、華奢でちとビビりなとこもあっけどすげー仲間思いで、やる時は怖くてもちゃんと立ち向かうところもすっげーすき」
 カッコイイ、となつめが笑う。
 もうこれ以上はお腹いっぱいだと、白旗を上げたくなったけれど両手で顔を覆ってしまっていたので、十雉が何か言うのは無理だった。
「って、またときじお前は何黙って聞いてんだァ?」
 いやもうこれ、黙って聞く以外にオレに何ができるの? と、十雉が小さく唸る。
「いいから、お前も言えよ!」
「や、やっぱりオレも言わなきゃ駄目?」
「当ったり前だろ! おら、あと三つ!」
「しかも三個も言うのか……」
「いや俺七個言ってンだろ」
 ごもっともである、うぅ……と唸りながらも十雉が顔を上げて、もごもごと口を動かしつつも腹を決めて口を開いた。
「つ、強くて頼りになるところ……」
 オレは頼ってばっかりだけど、それでも傍に居てくれる。
「カッコいい龍に変身できるところ」
 竜胆の花咲く、綺麗でカッコいいでっかい龍だ。
「それから、見た目は怖いけど小さな子にもお年寄りにも、男の人にも女の人にも……みんなに優しいところ」
 こんなオレにだって、なつめはすごく優しい。
 口にはしないけれど、いつだってありがとうって思って――ああ、考えれば三つどころじゃないと十雉が小さく笑みを零す。
「……へへ、ンだよ言えんじゃねーか。やっぱ褒められるって悪い気しねーな!」
 その声に視線を向ければ、なつめが酷く嬉しそうに笑うから。
 どうにも恥ずかしくなってしまって、十雉がまた赤くなって口を引き結んだ。
「お、出口が開いたんじゃ……ってときじ!?」
 扉の鍵がカチリと音を立てて解錠されたと同時に、十雉がまるで逃げ出すように扉に向かう。
「や、やっぱり無理……!」
 面と向かって言うのは無理! と扉を開け放つ。
「そんなに外に出たかったのか!?」
「いいから行くよ、なつめ!」
 追いかけてくる声にそう返事をして、一刻も早くこの場から逃れようと十雉が駆けだしていく。
「しょうがねェな、おい、待てよときじー!」
 その背中を追い掛けるように、なつめも部屋を後にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻


サヨ!
私達は迷子になったようだ
気がつけば白い部屋に二人きり
扉が?……閉じ込められたね

私はサヨとなら監禁されようが構わないけど…
同志が?!それはいけない
この七色に輝く黄金の子ペンギンぐるみも渡さなければならないから

さて
私達への課題は…至ってシンプルだ
相手の好きなところを全て伝える、か

サヨ…なぜ顔を隠す?

私からにしよう
…いざ彼の瞳を見つめると
妙な恥ずかしさがあるが
伝えなければ伝わらない

私はサヨの明るく朗らかで優しくて面白いところが好きだよ
美しい桜の女神の如き見目も、優しくて甘い桜の馨も春の陽だまりのようなぬくもりも
私に愛を、生きる歓びを教えてくれた、強がりなのに脆くて弱くて…それでも強かな桜のようなサヨの全部がいとおしい

きみの欠点も全て、酒に酔うと大変可愛らしく困る所も人喰らいなところも
だが喰らうなら私だけにしておくべきだ

きみの総てをあいしている

開いた
触れる指先を辿りよせて
唇を重ねる
これは指示になかったけれど─斯様に
真っ赤になって照れ恥じる
手練なフリして初心なこころも─あいしているよ


誘名・櫻宵
🌸神櫻


二人で過ごす時間が楽しくて、帰りたくないと思ったかしら?
気がつけば白い部屋
……私だって、カムイと一緒なら…
そうだけど……帰らぬ訳にはいかぬでしょう
帰らないとかぁいい人魚が餓死しちゃうわ
え?何そのド派手なぬいぐるみ?!いつの間に買っていたの?!
……まぁいいわ、あなたのそういうセンスも好きよ

ふぅん…カムイの好きな所を全部…
ふ、ふん!そのくらい余裕よ!
私は昔、花魁やってたんだからその位……
(カムイをみて、好きなところと思い浮かべて、真っ赤になって顔を隠す

カムイの紡ぐ一言一言に悶えるようだ
恥ずかしい、嬉しい
私みたいな本当は愛されてはいけない化け物を
この神様はこんなに愛してくれる
ちょっと見ないで
もっと見てて

どう考えても、そこは好けない欠点でしょ…ばか
私は、そんなカムイの全部が好きよ
少し頼りなく笑う顔も、優しくて清らかでどうしようも無いお人好しの神様であることも
強くて気高い私の神の全部が好きでたまらない

絡められた指先も好きで─、塞がれた唇に眼を開く
ちょ、なっ!これは指示になかっ……

もう!!



●ぜんぶすき
 ジンベエザメの大きさに二人で笑い、お土産を売っているショップで二人の大切な彼に渡す為に、あれもいいこれもいいと悩んだ末に選び抜いたお土産を買ったところまでは覚えている。
 帰ったら二人で渡そうと、ショップを出て――気が付いたら真白の部屋に居た。
「サヨ! どうやら私達は迷子になったようだ」
「これは迷子って言うのかしら……」
 朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)の言葉に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)がこてんと首を傾げる。それから、此処はもしや案内をしてくれた猟兵が言っていた部屋なのではないかと思い至る。
 もしかして、二人で過ごす時間が楽しくて、帰りたくないなんて思ったからかしら……? それなら私のせいかもしれないと、櫻宵が頬を赤くしながらカムイへ告げた。
「ふふ、サヨもそう思ったのかい?」
 それなら私もだよ、なんてカムイが言うものだから櫻宵は胸がきゅうっとなってカムイに抱き着く。
「私の神様はやっぱりかぁいいわ……!」
「私の巫女もとても可愛らしいよ」
 カムイが櫻宵を抱きしめて、幸せそうに微笑んだ。
「サヨ、扉があるようだけれど、あそこから出られるのではないだろうか」
「鍵が掛かっているって聞いたけれど、どうかしら?」
 どれ、とカムイがドアノブに手を掛けて、扉を開けてみようと試みる。
「開かないね……どうやら閉じ込められたみたいだ。私はサヨとなら監禁されようが構わないけど……」
「……私だって、カムイと一緒なら……」
 例えどんな場所であっても、二人一緒なら。
 その想いは櫻宵もカムイも同じで、思わず部屋を見回す。ソファにテーブル、ベッドにキッチン、確認はしていないけれど、これだけ揃っているということはバスやトイレもあるのだろう。外には出られないだろうけれど、暮らそうと思えば暮らせないことはない、そんな部屋だ。
「……出られなくとも問題はなさそうな気がするね」
「そうだけど……帰らぬ訳にはいかぬでしょう? 帰らないとかぁいい人魚が餓死しちゃうわ」
 それに、きっと泣き暮らすことになってしまうだろう。
「同士が!? それはいけない」
 同じ櫻を愛する者として、互いの想いの唯一の理解者として、かの人魚を一人にする訳にはいかないとカムイが頷く。
「それに、この七色に輝く黄金の子ペンギンぐるみも渡さなければならないからね」
「え?? 何そのド派手なぬいぐるみ!? いつの間に買っていたの!?」
 普通にしていれば金色のぬいぐるみ、スイッチを押すと七色に光り輝いて、なんだかちょっと神々しいまである。
「サヨがお菓子を見ている時に見つけてね、私からはこれを渡そうと思って買ったのだよ」
「……まぁいいわ、あなたのそういうセンスも好きよ」
 少々とんちきだけれど、そこもまた桜宵からすればかぁいいところ。
 帰ると決まったところで、桜宵が話を戻した。
「やっぱり……カムイ、ここはお題をクリアしないと出られない部屋なのよ」
 お題、と聞いてカムイが首を傾げる。
「それは何処にあるんだい?」
「扉の上に書かれていると聞いたけれど」
 扉の上、と二人が視線を向ければ、そこには今まで無かった文字が浮かび上がっていた。
「私達への課題は……至ってシンプルだね、相手の好きなところを全て伝える、か」
「ふ、ふぅん……カムイの好きな所を全部……」
「簡単なお題で良かったね、サヨ」
「そ、そうね! そのくらい余裕よ!」
 私は昔、花魁をやってたんだからその位なんてことないわ、なんて思いながら桜宵がカムイを見遣る。そして、彼の好きなところ……と思い浮かべて、真っ赤になって顔を両手で覆い隠した。
「サヨ?」
「な、なんでもないわ!」
「サヨ……なぜ顔を隠す?」
 なんでもないの! と言い張る桜宵に首を傾げつつ、それでは私から言おうとカムイが桜宵に向き合う。
 改めて桜宵を見つめると、彼の桜色の瞳に妙な恥ずかしさを覚えるけれど、伝えなければ伝わらないし、この部屋からも出られない。すう、と静かに息を吸って腹を括るとカムイが詩を紡ぐかのように語りだした。
「私はサヨの明るく朗らかで、優しくて面白いところが好きだよ」
 桜宵を見つめる朱砂の彩は柔らかく、愛しみを込めた声が響く。
「美しい桜の女神の如き見目も、優しくて甘い桜の馨も春の陽だまりのようなぬくもりも」
 全て手に入らないと思っていたものばかり、それが今この手にあるのは奇跡のようで。
「私に愛を、生きる歓びを教えてくれたのもきみだ」
 共に生きたいと願ってくれたからこそ、今この身は桜宵の傍にあるのだ。
「強がりなのに脆くて弱くて……それでも強かな桜のようなサヨの全部がいとおしい」
 大地に根付き、小さくも美しい花を無数に咲かせる桜のような美しいきみ。
 これは紛れもない愛の告白、愛おしい、いとおしいと囁かれているのと同じようなもの。カムイが紡ぐ言葉のひとつひとつが、櫻宵の身を内側から燃え立たせるような愛に満ち溢れていた。
 恥ずかしい、でも嬉しい。
 悶えるような羞恥と喜びに、櫻宵がその身を真っ赤に染めている。
 私みたいな、本当は愛されてはいけない化け物を――この神様はこんなにも愛してくれているなんて。胸が切なくなるような、きゅっと締め付けられるような、それでいて満たされる愛。
「サヨ?」
「ちょっと、見ないで」
 嘘、もっと見てて、私だけを見ていて欲しい。
「ふふ、恥ずかしがるところも愛らしい」
「ばか」
 まだあるよ、とカムイが笑う。
「きみの欠点も全て、酒に酔うと大変可愛らしく困る所も人喰らいなところも、私はいとしく想う」
「どう考えても、そこは好けない欠点でしょ……」
「そんなことはない、だが喰らうなら私だけにしておくべきだ」
 きみに食べられるなら、それはそれでいいのだとカムイが微笑む。
「ばか……」
「きみの総てをあいしている」
 深く愛されているのだと、櫻宵が頬を染めながら顔を上げる。
「私は、そんなカムイの全部が好きよ」
 今度は私の番だと、櫻宵が愛を紡ぐ。
「少し頼りなく笑う顔も、優しくて清らかでどうしようも無いお人好しの神様であることも」
 そのどれもが私を惹きつけてやまない、あなたの魅力。
「強くて気高い私の神様」
 その手を取って、櫻宵がカムイにありったけの想いを告げる。
「その全部が好きでたまらないの」
 桜が開くような蕩ける笑みに、カムイが櫻宵の指先に己の指を絡めて引き寄せた。
「ふふ、この絡めた指先も好きで――んっ」
 頬を染めて絡めた指も好きだと言う彼の淡い桜に引き寄せられるように、カムイがその唇を触れ合わせて。予告なく塞がれた唇に、櫻宵がその瞳を見開いた。
「ちょ、なっ!」
 真っ赤になって照れ恥じるところも、なんてかわいらしく愛おしい。
「これは指示になかっ……んん」
 離れた唇に物足りなさを感じて、カムイがもう一度と唇を重ねて櫻を愛でる。
「んっ……もうっ!」
「これは指示になかったけれど――斯様に真っ赤になったきみも、手練れなフリをして初心なこころも」
 あいしているよ、とカムイが囁けば、これ以上なく真っ赤になった櫻宵がカムイの胸に顔を埋めるように抱きついた。
「ふふ、私の巫女はあいらしいな」
「ばか!」
 でも好きよ、なんて櫻宵がカムイの胸の中で呟くから、一層カムイの笑みが深まって。二人がとっくに開いた扉を開けて部屋を出たのは、櫻宵の真っ赤な顔が落ち着いてからであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈◎

楽しかったよな~
海の世界は何か居心地も良いし、また行きたいぜ…

……なんだ此処?
白い部屋だな…いや俺様こんな閉鎖空間創る魔術使えないぞ…??覚えたいのは確かだけど!

まぁこの部屋にずっといててもつまらないしな
どうせならさっさとこの部屋出て遊ぶ方が楽しいし!

夢を宣言しないと出られない部屋…?
二人ともやったほうが良いっぽいのか
まぁこんなのは簡単だよなー
其れこそ何時だってどこだって宣言してるし
成し遂げるために色々頑張ってるわけだし!
―――あぁ!
俺様の夢は!いづれ全世界最強最高の魔術師になる事!

続く心結の夢を聴き
俺様と共に歩む…
思わず目をぱちくりして
あぁ、心結なら成れるさ…いや、俺様たちなら出来るさ!
夢に向かって進み続けりゃ、心結だってそんぐらいすげぇ戦士にも成れるし、俺様だって成るともさ!
…でも魔術師になったって俺様は其処で止まるつもりは無いぜ?
成ったのを見届けた後だって飽きさせねぇからな!!(どやや)


音海・心結
💎🌈◎

水族館楽しかったのです~
どの子もかわゆくて、海の世界に入ったみたいでしたっ

……あれ、ここはどこでしょうか
みゆに内緒で魔術を使うのは駄目ですよ?
零時の仕業ですね、もうっ

まあ、よいのです
今日は気分がよいですからね
これくらいのこと気にしないのですっ
早くここから出て、お家に戻りましょう

何か書いてあります、なになに……
夢を宣言しないと出られない部屋?
……ふふ、こんなの簡単ですよねっ
みゆたちには夢があります
夢を抱き、それに向かい、成し遂げようと頑張っています
――だから、
零時、すぱっと宣言しちゃってくださいっ
後に続きますよーっ

みゆの夢は、零時と共に歩むこと
世界最強最高の魔術になる零時をこの目で見届けます
ただ守ってもらうだけじゃありません
自分の事は自分で守れて、戦いにも貢献できる戦士になります
まだまだ実力不足ですが、みゆたちならきっとできますよねっ

……扉が開いた
零時、早くっ!
指を絡め、手を引く

言霊を信じますか?
みゆは信じちゃいます
……零時
自分の夢だけではなく、みゆの夢を叶えてくださいね?



●君と叶える夢の話を
「水族館、楽しかったのです~」
 からころと下駄の音を鳴らし、やってきた時と同じように音海・心結(桜ノ薔薇・f04636)がゲートに向かってエントランスを歩く。
「楽しかったよな~! 海の世界は何か居心地も良いし、また行きたいぜ……」
 帰るところだというのに、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)が次も機会があれば水族館に行きたいと、名残惜しむようにエントランスの水槽を振り向く。
「どの子もかわゆくて、海の世界に入ったみたいでしたっ。みゆもまた行きたいのです」
 できれば、零時と共にと願いながら心結も同じように水槽を振り向いて――。
「……あれ、ここはどこでしょうか」
「……なんだ此処」
 二人揃って、きょとんとした顔で周囲を見回す。
 ついさっきまで、蒼い世界が広がるエントランスに居たはずなのに、今二人がいるのは真白な部屋。壁も、テーブルもソファも、全てが白くて目が痛くなりそうだ。
「白い部屋だな……」
「むむ、さては零時の仕業ですね、もうっ」
 みゆに内緒で魔法を使うのは駄目ですよ? と、心結が指をピンと立てて零時にお姉さんぶったように言うと、慌てて零時が首を横に振る。
「いや俺様こんな閉鎖空間創る魔術使えないぞ……?? 覚えたいのは確かだけど!」
 魔法でこういった部屋が出せたら便利だなとは思うけれど、まだこんな空間を構築するような魔術は覚えていないのだ。いずれは覚える予定ではいるが……それにしてもどこだ此処? と零時も首を傾げつつ心結を見遣った。
「まあ、よいのです」
 何といったって、今日は気分が良いのだ。
 これくらいの出来事では上を向いた気分は下がらないし、部屋があるなら扉もあるでしょうと心結が出口を探す。
「本当に俺様じゃないからな?」
「はい、では信じておきますので零時も出口を探してください! 早くここから出て、お家に戻りましょう」
「そうだな、この部屋にずっといててもつまらないしな! どうせなら、さっさとこの部屋出て遊ぶ方が楽しいし!」
 まだ半分くらいは疑っていたけれど、楽しい水族館の帰りに水を差す真似はしないだろうと心結も納得していたので、二人で広くない部屋を探索する。
「これじゃねぇか?」
「見事なまでに扉ですねぇ」
 ドアノブの付いた、何の変哲もない扉。
 けれど、この部屋から出るには多分ここしかないはずだと、零時がドアノブを回して――。
「あ、開かねぇ!」
「鍵が掛かっているんですか?」
「多分……」
「鍵開けの魔法とか、できたりしますか?」
「……今度覚えとく」
 出来たとしても、恐らくこの扉は開かないのだろうけれど。
「困りましたね……おや、零時、零時」
「ん? どうした?」
「見てください、あそこに何か書いてあります」
 心結が指さすのは扉の上、確かにそこには文字が浮かぶ上がっていて。
「なになに……夢を宣言しないと出られない部屋?」
「夢を宣言しないと出られない部屋……? そういう条件付けがされた部屋なのか」
 解錠条件を決めて制約を加えれば、閉鎖空間を作るのも多少楽になるってことか? と、魔術構築について零時が軽く意識を飛ばしかけたのを、心結の声が引き戻す。
「……ふふ、こんなの簡単ですよねっ! ね、零時!」
「ん? あ、ああ! まぁこんなのは簡単だよなー。二人ともやった方が良いっぽいのか? ま、俺様も心結も言えるよな」
 だって二人には、未来に向けた夢が確かにあるのだから。
「ええ、みゆたちには夢があります」
「其れこそ何時だってどこだって宣言してるしな」
 胸に秘めた夢や願いだって素敵だけれど、零時と心結は時折それを口にして確認する。
 迷わぬように、迷ったとしても真っ直ぐに歩けるように。
「夢を抱き、それに向かい、成し遂げようと頑張っていますからねっ」
「だよな、成し遂げるために色々頑張ってるわけだし!」
 その為に、どんなに辛くたって、苦しくたって、何が起きたって負けないという気持ちでいつだって立っているのだ。
「だから、零時、すぱっと宣言しちゃってくださいっ」
「あぁ!」
 零時がぐっと胸を張り、真っ直ぐに心結を見て笑う。
「俺様の夢は! いずれ全世界最強最高の魔術師になる事!」
 子どもの頃からの変わらぬ夢、猟兵となってからの様々な経験によって、より強固になった夢だ。
 零時の宣言に心結も笑顔で彼を見て、続くように息を吸い込む。
「みゆの夢は、零時と共に歩むこと! 世界最強最高の魔術になる零時をこの目で見届けます」
 心結の宣言に、零時が思わず目をぱちりと瞬かせる。
「俺様と共に歩む……」
 それはひとりで夢に立ち向かってきた零時にとっては、軽い衝撃。
 誰かが、心結が、俺様の夢に寄り添ってくれるなんて。
「こほんっ! ただ守ってもらうだけじゃありません、自分の事は自分で守れて、戦いにも貢献できる戦士になります」
 そう言って零時を見つめる心結の表情はどこまでも未来に向かって羽ばたいていくような、軽やかなもの。
 守ってもらうのは嬉しいし、胸がときめくものだけど。守られるだけのお姫様ではなく、待っているだけではなく、隣に立って背中を預けて戦えるくらいの、そんな戦士になりたいと心結が笑う。
「まだまだ実力不足ですが、みゆたちならきっとできますよねっ」
「あぁ、心結なら成れるさ……いや、俺様たちなら出来るさ!」
 零時と心結の可能性は無限大、どんな未来だって掴み取れるはずだと零時の声が弾む。
「夢に向かって進み続けりゃ、心結だってそんぐらいすげぇ戦士にも成れるし、俺様だって成るともさ!」
「はい! 零時と心結なら……二人が一緒なら、どんなことだって成し遂げられますっ」
 だから、一緒にと心結は願う。
 互いが互いを導き合えるような、そんな二人になりたいのだと、零時に負けぬくらいの輝きを放ちたいのだと。
 二人の未来への夢への宣言は、扉の鍵を確かに開いて。
「……扉が開きましたね!」
 カチリと聞こえた音に、心結が零時の指に己の指を絡め、手を引いて足を踏み出した。
「零時、早くっ!」
 今すぐにだって夢を現実にする為に、此処を早く離れて外へ!
「おう!」
 手を引かれるままに、零時も扉の方へと向かう。
「心結!」
「なんですか、零時!」
「でもな、魔術師になったって俺様は其処で止まるつもりは無いぜ?」
 笑いながら、零時が夢の先を謳う。
「成ったのを見届けた後だって、絶対に飽きさせねぇからな!!」
 それは、夢が叶った先も、一緒にいるということではないかと、どや顔の零時に心結が目を瞬かせる。
「零時、言霊を信じますか?」
「ん? おー、言ったことが現実になるって奴だな!」
「はい! みゆは信じちゃいます」
 だから、きっと心結が言った言葉も、零時が言った言葉も現実になると信じている、そうなる為に生きていく。
「……零時、自分の夢だけではなく、みゆの夢を叶えてくださいね?」
「当ったり前だ! 俺様に二言は無いからな!」
 迷うことなく返ってきた言葉に心結が弾けるように笑えば、零時も笑って。
 二人、扉の向こうへ――未来に向かって駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファン・クロウフォード
【箱2】◎戒と同じ部屋へ行く為に、手を握っておく
恋人の写真を100枚撮る部屋なら最高。大丈夫、俺、チラリズム信者
脱出条件は、パズルの完成。パズルの他に紅茶とチンアナゴのチュロスとうなぎパイを発見
甘いものは別腹。お茶とパズルを楽しむ
パズルは好きだし得意。手際よくピースを分別
ジンベイザメの斑点だな。大人が2匹と子供が2匹で親子?可愛いな
戒、辛そう。慣れない浴衣だもんな。俺が椅子になる。座るといい(ベンチ形態)
冗談だ。こっちだよな(座椅子形態)ふっ、ダメになる座椅子でごめん
一応、座ってくれる戒、可愛い。大好き
閉塞的な部屋は苦手だが、不思議と居心地いい
ずっと二人で一緒に…部屋の罠か?座布団投げでリフレッシュだ
トス、からの、レシーブ!(バレーボール?)
パズルがクラッシュ だ と。共同作業が延長で嬉しいハッピーだ
ラストの1ピースが見つからない。犯人は誰だ。俺だ
二人で最後のピースをはめたくて隠し持ってたっけ
そっか。居心地が良いのは、隣に戒がいるから
どうか、俺と結婚してください。自然に気持ちがポロリした


瀬古・戒
【箱2】◎
なんの部屋に連れてかれんだろ?1人で連れてかれたら嫌だし手は離さねぇ、けど…ハズイんですがッ!キスなら即、部屋出れそーだよな…まぁ、慣れてるし
…パズルを完成しないと出れない部屋、だと?ほほー?やろやろ?ピース多くね?青が一杯……なんの柄だろ
……ラファンさん、なぁ、胡座かいてもい?だめ?浴衣て足開けねーもん座るの疲れんだもん
四つん這いて、俺は女王様か!フツーに座れっつの!座った、けどこりゃ、菓子あるし…温かくて眠……だぁぁ!細かい作業疲れた!ちょい休憩がてら身体動かそうぜ固まっちまう!おりゃ!(座布団ぶん投げ)あっ、ちょパズルに当たっ崩れぎゃぁぁあ!ええ、やり直し?ご、ごめんってば!簡単な部屋って嘘じゃんもー!!糖分摂取、菓子食ってから本気出す。反省集中し黙々と
てか、ほんと快適空間…ラファンの部屋みてぇ
え、最後のピースない!?ウソ吹っ飛んじゃった!?ああもう!笑えない冗談やめ……ぇ…ぁ結婚……
それ、冗談?頷きたい、けど、けど……ぅう、指輪!指輪準備してやり直し!!行くぞばかぁ!



●やり直しを要求します!
 ジンベエザメを見て、カフェでしっかり海亀の形をしたオムライスとカレーの海を泳ぐジンベエザメライスを堪能したのち、お土産物を見ようとショップへ向かう。
「美味かったな、ジンベエザメカレー」
「海亀オムライスもとろっとした玉子が絶品だった」
 どっちも美味しそうだったので、結局二人でシェアした料理の味を思い出しながら、瀬古・戒(瓦灯・f19003)がそういえばとラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)を見遣る。
「なんの部屋につれてかれんだろ?」
「……部屋」
「いや忘れんなよ」
「あんまりにも何事もなさすぎて」
 もうこのままお土産を買って水族館から帰るコースだと思っていた、とラファンが真顔で言う。
「まあ、気持ちはわかるけどさ。でも一人で連れてかれたら嫌だなって」
 戒が言った瞬間に、隣からすっと手が伸びてきて戒の手を握る。
「戒と同じ部屋に行く為だ」
「聞いてねぇし! いやでも一人は嫌だし手は離さねぇ、けど……」
 めちゃくちゃハズイんですがッ!? と、半ば逆ギレする勢いで戒が顔を赤くする。こうなったら、早く例の部屋とやらに連れていかれた方がいいんじゃないか、なんて思った瞬間だった。
「うわっ」
「噂をすればってやつだな」
 目の前に広がるのはショップではなく一面の白い壁、ぐるりと部屋を見回せば大きなローテーブルにふかふかのクッションなどが見えた。
「お題はなんだろうな」
「俺は恋人の写真を百枚撮る部屋がいい」
 最高じゃないか? 合法的に戒の写真が撮れてしまう……! とラファンが拳を握り締める。
「いや、ラファンずっと俺の写真撮ってたよな? どんな写真を撮るつもりだコラァ!」
「大丈夫、俺、チラリズム信者」
 聞いてねぇし! と叫ぶ彼女に、じゃあ戒は何がいい? とラファンが問う。
「……キスなら即、部屋出られそーだよな、とは思ったケド」
「えっする?」
「しねーよ! 扉探せ、扉!」
 いや別にしてもいいけど、慣れてるし。
 でもこんなとこでしてる場合でもないよな、とぶった切った、照れ隠しじゃないったら。
「戒、あれ」
 どれ、と扉の上を見れば浮かび上がった文字は――。
「パズルを完成させろ? え、パズルを完成しないと出れない部屋、だと?」
「そうみたいだ、あのローテーブルの上にパズルがあった」
 それと、紅茶とチンアナゴのチュロスとうなぎパイも発見したとラファンが頷く。
「もてなしがすごいな? デザート付きじゃん」
 そうか、パズルか、と戒がローテーブルの上を覗き込んだ。
「いいじゃん、やろやろ? ってかピース多くね? 青が一杯……なんの柄だろ」
「ピースの分別してけばわかるんじゃないか?」
 そう言うラファン、なんとパズルは好きだし得意なのだ。
「こういうのは角四つと、枠になるのとその他を分けて」
「おう、任せろ任せろ。俺だってパズルは好きだぜ」
 暫し黙々と作業をして、ピースを分ける。それから枠を作り上げ、同じ色をしたピースを少しずつ当て嵌めて、地味な作業ながら熱中すると時間はあっという間に経ってしまう危険な遊びである。
「これ、ジンベイザメの斑点だな」
「あー、ほんとだ」
「大人が二匹と子どもが二匹で親子? 可愛いな」
 それっぽい形が出来上がると、何となく完成図が見えてパズルピースを探す手も早くなっていく。
「……ラファンさん」
「何だ?」
「なぁ、胡坐かいてもい?」
「……浴衣で?」
 いや俺しかいないからいいのではないか、と思いはしたが、浴衣で?? と、大事なことなので二回考える。
「だめ? 浴衣で足開けねーもん、座るの疲れたんだもん」
 正座にだって限界ってもんがあるんだよ、と戒が駄々をこねる子どものように頬を膨らます。
「えっかわいい」
「声に出てんだよなぁ」
 パズルピースを手に持ちつつ、こっちかなと指を動かす戒を眺め、確かに足が辛そうだとラファンが思う。慣れない浴衣だものな、ここはひとつ――。
「俺が椅子になる」
「なんて??」
 聞き間違えたか? と戒が顔を上げると、そこにはブリッジを決めたラファンの姿が――!
「ベンチ形態だ」
「そうじゃねぇんだよなぁ!」
「すまん、こっちだったな」
 ブリッジから鮮やかに四つん這いになり、さあ、とばかりにラファンが戒を見る。
「ブリッジよりは数倍マシだが、四つん這いて、俺は女王様か! フツーに座れっつの!」
「ちょっとしたおちゃめな冗談だ、こっちだよな」
 すっと胡坐を掻いて座り、ラファンが座椅子形態だと笑みを浮かべた。
「いやもう、いや……いいわ……座る……」
 四つん這いより万倍マシだしな、と戒がちょこんとラファンの作った空間に納まった。
 ……あれ、これ意外といいのでは? なんて思っていると、ラファンがそっと紅茶を差し出したりお菓子を食べさせてくれたりと、甲斐甲斐しく世話を焼く。
「至れり尽くせり……しかも温かくて眠……」
「ふっ、ダメになる座椅子でごめん」
 クッションいらずのラファンである、ちなみに戒専用だ。
 膝の上の戒に世話を焼きつつ、パズルのピースを探す穏やかな時間。
 何だかんだ言いながらも膝に座ってくれる恋人は可愛いし、閉塞的な部屋は苦手だけれど不思議と居心地がいい。戒を膝に乗せているからだろうか、はー好き、大好き、ずっと二人で一緒に……あれ、これって部屋の罠か? なんて思っていたら膝の上の戒が突然叫び出した。
「だぁぁ! 細かい作業疲れた! ちょい休憩がてら身体動かそうぜ、固まっちまう!」
 スッと立ち上がった戒が首を回しながら部屋をぐるりと一周し、その辺にあった座布団をラファンに向かってぶん投げる。
「おっと」
 レシーブ、とばかりにラファンが戒に向かっていい位置にクッションを上げ、戒がアタック! と良い勢いでスパイクを決め――パズルの上に思いっきり叩き付けた。
「あっ、ちょパズルに当たっ崩れっぎゃぁぁあ!」
 なんということでしょう、完成も視野に入っていたパズルがいい具合にバラバラに!
「パズルがクラッシュ だ と」
「ええ、やり直し? ご、ごめんってば!」
 ぷるぷる震えるラファンの背中に、戒が必死で謝るけれど、それはものすごい謝り損である。何故なら、この時のラファンの脳内は共同作業が延長で嬉しいハッピー! ってなっていたので。
「いや、気にするな戒。これくらいどうってことない」
 寧ろラッキーハプニングってなもんである。
「簡単な部屋って嘘じゃんもー!! 菓子食ってから本気出す!」
 そうとは知らぬ戒が気合を入れ直し、糖分を摂取して脳をフル回転させるぞと気合を入れていた。
 それからの二人の手の動きは早かった、崩れたところを纏め、そこからリカバリーさせていく。反省している戒は特に集中力も高く、黙々とパズルを完成に近付けていた。
「てか、ほんと快適空間だな……ラファンの部屋みてぇ」
「居心地がいいのはわかる」
「部屋から出たくない奴の気持ちも何となくわかるけど、でもやっぱ外に出れねーのはつまんねぇもんな」
 お、この次で最後だぞ、と戒が顔を上げてピースを探す。
「え、最後のピースない!? ウソ、さっきので吹っ飛んじゃった!?」
 最後のピースが見当たらない、と戒が慌てる横で、ラファンもピースを探し……あっと声を上げた。
「あったか!?」
「いや、犯人は俺だ」
「え?」
「二人で最後のピースをはめたくて隠し持ってたのを忘れてた」
 てへ、と笑ったラファンに戒が脱力する。
「ああもう! 笑えない冗談やめろよな……」
 でもまあ、一緒に最後のピースを嵌めたいという願いは叶えてやろう、と戒が笑ってピースを一緒に持つ。
「ほら、嵌めるぞー」
「うん」
 返事をしつつも、ラファンがピースを嵌める場所ではなく、戒を見つめて。
 ああ、そっかと笑う。居心地がいいのは戒がいるからで、この部屋の居心地がいいわけではないのだと、すとんと腑に落ちたのだ。
「戒」
「ん-?」
 よし、嵌まったぞと戒が顔を上げて。
「どうか、俺と結婚してください」
 あんまりにも気負わないラファンの言葉に、戒がぱちりと目を瞬かす。
「え……ぁ……結婚……?」
 なにそれ冗談? いやこんなこと冗談では言わないだろ、いやでもラファンだぞ。
 言ったラファンも、自然とポロリとしてしまった言葉に次第に汗を掻いていた。
 ここでいう事じゃないな、いやでも本心だしな、いやそれにしても戒は可愛いな、とやや現実逃避気味だ、表情には出ていないけど。
 頷きたい、けど、けど! うう、と戒が唸って叫ぶ。
「指輪! 指輪準備してやり直し!! 行くぞばかぁ!」
 扉開いてんだろうなぁ! と勢いよく立ち上がって扉に向かっていく。
 ワンテンポ遅れてラファンも立ち上がり、指輪、指輪か。給料三か月分だな、猟兵の給料三か月分っていくらだ?? なんて考えながら彼女の後を追うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『不幸少女』

POW   :    現実は必ず突きつけられる
無敵の【完璧になんでもこなす最高の自分】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    数秒後に墜落するイカロスの翼
【擦り傷や絆創膏の増えた傷だらけの姿】に変身し、武器「【赤点答案用紙の翼】」の威力増強と、【本当は転んだだけの浮遊している妄想】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ   :    同じ苦しみを味わう者にしか分からない悲痛な声
【0点の答案用紙を見られ必死に誤魔化す声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●何処にも行けない
 密室から出た君達は、水族館とは違う、何処とも知れぬ空間に出たことに気付くだろう。
 そして、目の前にいる少女――人によっては複数いる少女達がその元凶だという事にも。
『どうして出てきちゃったんですか』
『あの部屋に居れば、現実の辛いことから逃げられたのに』
『辛い事しかないのに』
『ああ、いやだ、学校なんか行きたくないのに』
『会社、会社だって嫌な事ばっかりでしょう』
 学校に行きたくない理由はきっとそれぞれだろう、虐められている子もいただろうし、失恋してしまったから、夏休みの宿題が終わっていないからなんて理由の子も。
 会社に行きたくない理由だって、それぞれあったはず。残業ばっかり、寝る暇もない、上司からのセクハラパワハラ、趣味の漫画の原稿が終わらないからなんて理由の人も。
 ここにいる少女の姿をした怪異は、そういった現実から逃げたいという想いの凝りなのだ。
 君に相対する少女が持つ『理由』は、それだけではないかもしれない。
 人の想いは複雑で、何が『理由』で現実を厭うかなんて、それぞれなのだから。
 けれど、わかっていることがひとつ。
 目の前の少女をどうにかしなければ、この現象が止むことはないという事。
 その方法は猟兵達に委ねられる、戦ってその想いを昇華させてやるのもいいし、話を聞くことによって昇華させるのもいいだろう。
 君たちにしかできない方法で、どうか――。
夜鳥・藍
世の中は辛い事、嫌な事ばかりではないわ。
少なくとも同じくらい楽しい事も嬉しい事もあったもの。
きっとこれからもそう。そしていつだって胸の中には星がある。
一つの終わりは新たな始まり。

だけど。人が皆がそう思えるわけではないのも存じております。
だからただ愚痴を聞いて欲しいというのであればお話をお聞きします。それもまた私の仕事ですから。
これからどうすべきかはオブリビオンになった状態で示せるかはわかりません。
サクラミラージュの影朧のように転生の道がなくとも、それでもせめて新たな何かを示せれば。ささやかでもそのお手伝いが出来ればと思うのです。



●胸に宿る星のように
 この世の不条理を訴える少女を目の前にして、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は宙色の瞳を静かに瞬かせると静かに唇を開く。
「世の中は辛い事、嫌な事ばかりではないわ」
『そんなことない、嫌な事ばっかりだもの』
 首を振って否定する少女に向かって、藍が表情を和らげる。まるで、駄々っ子のように思えたから。
「私には少なくとも同じくらい楽しい事も、嬉しい事もあったもの」
 きっとこれから歩む道もそうだろうと、藍は思う。
 辛い事だって、嫌な事だってあるけれど、それでもそんなことは大したことないと言えるくらい、楽しい事や嬉しい事があるのだと。
「それに、いつだって私の胸の中には星があります」
『星……?』
 一つの終わりは新たな始まり、藍が誰かの願いによって転生した元影朧であるように。
「ええ、誰の胸にもきっとあるはずだと私は思います」
 だけど、と藍が少女に視線を合わせる。
「誰しもがそう思えるわけではないのも存じております」
 そんな人ばかりであれば、この空間は生まれなかっただろうし、目の前の少女は絶望に苛まれたりはしていない。
「だから、ただ愚痴を聞いて欲しいというのであれば――」
 柔らかく微笑んで、藍が少女の手を取る。
「お話をお聞きします、それもまた私の仕事ですから」
『仕事?』
「ええ、人の悩みを聞き、道を示す……こう見えても占い師をしています」
 占いの相談に来る人は様々で、中には話を聞いて欲しいだけの人もいる。
 でも、それは何も悪い事ではないし、話を聞くことでその人の道が開けるのであれば、その人にとって価値のある時間だ。
「どうすればいい、という道筋はオブリビオンになった状態で示せるかはわかりませんが……」
 サクラミラージュの影朧のように転生の道があるわけでもない、けれど、それでもせめて新たな何かを示すことができれば……それはきっと、救いになるはずだから。
「だからどうか、貴女の話を聞かせてくれませんか?」
『私の話……聞いてくれるの?』
「ええ、他の誰でもないあなたの話を」
『誰も聞いてくれなかったの、聞く価値もないって』
「大丈夫、私にはありますから」
 例えどんな話であったって、忘れることなくこの胸に留めると藍が頷く。
 それはほんのささやかな行為かもしれないけれど、目の前の少女が胸にある星を輝かせる切欠になれるなら―― その手伝いができるのならば、それは藍にとっても幸いなのだから。
「さあ、何からお聞きしましょうか」
 微笑む藍の瞳は、まるで道を示す星のように煌めいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』にて

まあ、量と質を兼ねて用意したあなたには予想外ですよね。
あんなに陰海月が食べるとは…。少食だと思ったでしょう?違うんですよ…一番の大食漢なんですよー。
※前科:お月見団子を義透の2倍食べた。3回くらい。

ええ、あれはあなたの親切心でしょう?
現実は辛いもの。そうでしょうねー。
だって『私たち』、故郷滅びて死んでますから。

ええ?はい、幽霊さんですよー?
悲しいかな、これも現実ですよ。
ただね、戦うだけでなく…話も聞けますからねー?


陰海月、運動兼ねてゆらゆら踊ってる。ぷーきゅーきゅーきゅーきゅー(たーべーすーぎーたー)。
え?ぼくと霹靂は生者だし、悪霊なのは知ってますが?状態。ゆらゆら



●踊る海月とご一緒に
 また見知らぬ場所に出ましたねー? なんて、陰海月と霹靂に話し掛けながら馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が穏やかに笑う。その笑みを見て、目をぱちくりとさせたのは怪異である少女だった。
『どうして出てこられたの? あんなに食べ物があったら、もうそのままあそこで暮らしてもいいかなってなると思ったのに!』
 出なくたって、衣食住……衣はちょっとわからないけれど、食と住は保証されたも同然の場所だった。
 帰る場所を持たなかった誰かの想いの凝りから生まれた少女は、心底不思議そうに義透を見る。
「まあ、量と質を兼ねて用意したあなたには予想外ですよね」
 たっぷりと、それこそ朝昼晩と三食いただいても無くならないのではないかと思うくらいの量だったと、義透が笑って陰海月を見遣った。
「この子、陰海月というんですけど」
『クラゲね』
「ええ、食べるんですよ……少食だと思ったでしょう?」
 少食、目の前の男もそんなに食べるようには見えないし、男の後ろで揺れているクラゲの食べる量なんてタカが知れているはずだ。
「違うんですよ……この子は一番の大食漢なんですよー」
『見た目詐欺じゃない!』
 確かに通常のミズクラゲよりも大きなサイズだけれど、見た目以上に食べるとは思いもしなかったと少女が叫ぶ。
「ええ、わかりますよー。でもこの子、私より食べるんですよねー」
 何せ、お月見団子を義透の二倍は食べる、それも一度ではなく三度ほどあったことなので偶然やまぐれなどではない。
『そんなぁ……!』
「でも、大変美味しかったですよ。この子達も喜んで食べていましたから……あれはあなたの親切心でしょう?」
 親切、と言われて少女が怯む。
「現実は辛いもの、そうでしょうねー。それはわかりますよー」
『あなたに何が分かるの?』
「だって『私たち』、故郷滅びて死んでますから」
『え?』
 少女の頭の上にクエスチョンマークが幾つも浮かんでいるような、そんな表情を浮かべるものだから義透が思わず笑う。
『あなた、死んでるの?』
「ええ? はい、幽霊さんですよー? 猟兵になって、実体はありますけど」
『ず、ずるい!』
「悲しいかな、これも現実ですよ」
 猟兵、本当に何でもありなところがある。陰海月と霹靂は生きているけれど、義透が悪霊なのは知っているもんね、とばかりに腕を揺らす。
『私を倒すの?』
「ええ、お仕事ですから。ただね、戦うだけでなく……話も聞けますからねー?」
 戦闘態勢を取ろうとした少女に、穏やかな声で義透が言う。
 その後ろでは、陰海月が相変わらずゆらゆらと踊って、ぷーきゅーきゅーきゅーと鳴いているものだから、少女もなんだか力が抜けてしまって。
『話を聞いてくれる?』
「ええ、勿論ですよー」
 ぼくも聞く! とばかりに、陰海月と霹靂も義透の傍に寄って、少女の話に耳を傾けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【波音】◎
赤らむ顔から伏し目がちに
口は手の甲で隠す

(口付けを交わすなら
俺の気持ちが固まってからでないと彼女に失礼だと思った)

また傷つけたのなら
…失くなってねェよ(だったら恐れないだろ

部屋から出る為にしたとはいえ
ティアにあんな顔させた
二度も手を離して
唯一人でなく、世界を選ぶ俺が愛される資格は
ッ…なんで

愛しい存在?
それも、愛か
…俺は、慾張りだからよ
慾したら足りなくなっちまいそう

答えが出ず惑い笑う
頭振って敵に集中

要は何でもイイから理由をつけて逃げたいだけなンだろ?
厭なコトだらけな現実だとしても
俺には為すべきコトがある
それを叶える迄は
止まれねェよ

背負う想いは自身の中に
歩んできた己が途の矜持あり
UC使用


ティア・メル
【波音】◎

赤らんだ顔をぽかーんと見て
ありり?
なんで赤いの?

……あのね、クロウくん
ぼくは傷付いてないよ
だいじょうぶ
傷付くって機能は、とっくのとうに
(失くしてしまったなんて言ったら、
彼こそが傷付いてしまう気がして口を噤む)

唯一を選べなくたっていいんだよ
何回手を離されてもいいの
その手をぼくから掴むから
ぼくから、掴みに行くから
それなら、いい?
ぼくのいっとうは―――きっと変わんない
愛おしい存在“かのじょ”がいるから
そんなぼくが特別を望むなんて間違ってるかもしれない
それでもぼくはクロウくんの特別がいい
ぼくの特別を、クロウくんに貰って欲しい

ああ、やっぱり
前へ進む君は格好いい
ぼくも歌って援護を
UC使用



●立ち止まらない強さ
 扉を抜けた先は蒼い世界とは違う場所で、何処だここ、と杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)が目を細める。水族館の蒼い通路であれば、赤くなった顔も誤魔化せただろうにと軽い舌打ちをしつつ口を手の甲で隠した。
「クロウくん」
 ありり? と、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)が首を傾げる。やっぱり見間違いでもなんでもなくて、クロウの頬がいつもより赤い。
「なんで赤いの?」
「……聞くな」
 そんな、口付けを交わすなら自分の気持ちが固まってからでなければ――ティアに失礼だと思っただなんて、言えるわけがない。それは逆を言えば、気持ちが固まっていたらあの場で。
「あー!」
「く、クロウくん?」
 ガシ、と前髪を掻き上げるように頭を掻いたクロウに驚いたような声でティアが目を瞬かせる。
「悪い、また傷付けたのなら」
 謝る、と言いかけたところでティアがこてん、と首を傾げてクロウに笑う。
「……あのね、クロウくん。ぼくは傷付いてないよ?」
「ティア」
「だいじょうぶ、傷付くって機能は、とっくのとうに――」
 失くしてしまったんだよ、と言おうとしてティアが口を噤む。
 どうしてだろうか、そう言ってしまったらクロウの方が傷付いてしまう気がしたから。
「……えへへ、とにかくだいじょうぶなんだよ」
 だから何も気にしなくていいのだと、ティアが儚く消えそうな人魚姫の泡のように微笑む。
「……失くなってねェよ」
「ありゃ」
 言わないでおいたのに、気が付かれてしまった。
 敏い彼には隠し事はできないな、なんて思いながらティアがほんのり眉を下げた。
 そんな彼女を見ながら、もし本当に失くしてしまったなら、恐れたりしないはずだろうと言いかけた言葉を飲み込んでクロウがティアに真っ直ぐに向き合う。
「部屋から出る為にしたとはいえ、ティアにあんな顔させた」
 守りたいと思っている相手にさせる顔じゃなかったと、クロウが声を落とす。
「二度も手を離して、唯一人でなく、世界を選ぶ俺が愛される資格は――」
「違うよ、クロウくん」
 ぎゅう、とティアがクロウの手を握る。
「ティア」
「唯一を選べなくたっていいんだよ」
 握った手を胸に抱いて、ティアが真っ直ぐに声をクロウへと届けて。
「何回手を離されてもいいの、その手をぼくから掴むから」
 こんな風に、何度だって、離される度に掴むよ。
「ぼくから、掴みに行くから」
 だから、とティアが祈るようにクロウの手を握る。
「それなら、いい?」
「ッ……なんで」
 俺なんかに、そんな風に。
 言葉を飲み込んで、クロウが奥歯を噛み締めた。
「クロウくん、あのね」
 そんな顔をしないでと言うように、ティアが目を閉じて大事な話なんだと言葉を紡ぐ。
「ぼくのいっとうは――きっと変わんない」
「いっとう……」
「うん、愛おしい存在、『かのじょ』がいるから」
 円かな想いをくれたひと。
「愛しい存在? それも、愛か」
 こくりと頷くティアが顔を上げて、クロウを見つめる。
「そんなぼくが特別を望むなんて間違ってるかもしれない」
 いっとうにはできないのに、でも、それでもとティアが言葉をぽろり、ぽろりと真珠のように零して。
「それでもぼくはクロウくんの特別がいい」
 何てよくばり、そう思われたっていい。
「ぼくの特別を、クロウくんに貰って欲しい」
 真っ直ぐな告白だと、クロウは思う。
 何処までも真っ直ぐで、迷いのない。
「……俺は、慾張りだからよ、慾したら足りなくなっちまいそう」
 全てを奪い去ってしまったら、泡と消えてしまいそうだと伸ばそうとした手を強く握る。答えは、今すぐには出せない、惑う気持ちのままにティアに笑った。
「今すぐじゃなくても、いい」
 それでもいいから、どうかぼくのことを考えて欲しいとティアが願い、握ったクロウの手を額に押し付ける。
「ティア……」
 心は惑うけれど、その手を振り払う事などできるわけもなく――葛藤するその瞬間、クロウは今まで居なかった筈の存在を見出す。
「ティア、敵だ!」
「!」
 パッと手を離し、ティアがクロウの視線の先を見た。
 そこに居たのは一人の少女、悲しそうな瞳でこっちを見ている少女だった。
『どうして、出てきてしまったの? 辛い事ばかりなのに、どうして? あの部屋に居れば、少なくとも辛い事はなかったのに!』
「ハ、要は何でもイイから理由をつけて逃げたいだけなンだろ? だがな、厭なコトだらけな現実だとしても俺には為すべきコトがある」
 ティアを庇うようにして前に出たクロウが少女にはっきりとそう告げて、力を開放する。
「それを叶える迄は止まれねェよ」
 真心を込めた言の葉は、真っ直ぐに少女の胸へと響く。
「ああ、やっぱり」
 前に進む君は恰好いいと、ティアが綻ぶように笑って歌を紡ぎ出す。ティアの歌声はクロウの手助けとなるように少女へと甘く響き渡った。
「もう帰ンな、送ってやっから」
 背負う想いは自身の中に、歩んできた己が途の矜持あり――。
 クロウの言の葉が、少女の過去の妄執を融かしていく。
『帰れるの? わたし』
「大丈夫、帰れるよ」
 ティアの歌が、少女の背中を優しく押して。
「俺達も帰るか」
「うん、帰ろう」
 ぼくたちの帰る場所に、一緒に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霞末・遵
【幽蜻蛉】
どうしてって、ねえ
出られたから?

ごめんねえ、おじさん妖怪だから学校とか会社とかないんだ
毎日好きな時間に起きてお酒飲んで好きなことして眠くなったら寝てる
だめなの? 人間って大変だね

結局あの部屋でのんびりしてても外に出されたと思うよ
おじさんもねえ、それでいいんじゃないかって言ったんだけど。惟継さんが許してくれなかったものだから
どんなに閉じこもってても結局こうなるってことさ
いやおじさんもノリノリだったけどね

いいのさ。やりたくないときはやらなくても
だってやれないんでしょ。しょうがないじゃん
できるようになってからやるの。無理したって楽しくないでしょ
そのうちなんとなく上手くいくようになるさ


鈴久名・惟継
【幽蜻蛉】
どうして?
書かれたことの通りに行動しただけのこと
残念ながら戦いの結果は引き分けだったがな

世の中の嫌なことばかりにしか目がいっていないだろうか
行きたくないなら行かなくていい
辛いなら逃げていい、距離を置いていい
……とは言え、周りはそうはしてくれないのかもしれない
遵殿は俺が許さなかったがな

好きなことはないか?興味があるものはないか?
一瞬でもいい、嫌なことを忘れさせてくれるものはないだろうか
あるのならば没頭すればいい、ないのならば探してみればいい
学校も会社も忘れろ、俺が許す!

今のお前さん達に必要なのは抱えている問題に向き合うことだけじゃない
傷付いてしまった心を癒す為の時間だ
話し相手にもなるぞ



●ヒトじゃないから、ヒトじゃなくても
 いやあ、いい汗かいたね、なんて言いながら霞末・遵(二分と半分・f28427)が鈴久名・惟継(天ノ雨竜・f27933)と共に部屋を出た先は水族館ではなく、また見知らぬ場所であった。
「ここ、どこだと思う? 惟継さん」
「どこだろうな、遵殿」
 謎空間だね、と今度こそ部屋でもなんでもない空間を遵が見渡す。
「……誰かいるね」
「む」
 二人同時に同じ方向を向いて、それが何であるかを確かめ――目を瞬かせる。
「女の子だね」
「少女だな」
 けれど二人とも、その少女が普通の少女であると思っているわけではない。恐らくこの現象を引き起こしているのがあの少女の姿をした怪異なのだろう、と当たりを付けて視線を交わす。
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
「え、どうしてって、ねえ」
「どうして? か」
 理由を問われたなら、こう答えるしかない。
「出られたから?」
「書かれたことの通りに行動しただけのこと。残念ながら戦いの結果は引き分けだったがな」
 密かに再戦を望む惟継が遵をちらりと見遣ると、遵はいつもの飄々とした風情で笑っていた。
 そんな穏やかな二人に向かって、そうじゃないわ、と少女の顔が歪む。
『あの部屋に居れば、ずっと辛い事なんてないままいられたのに』
「ああ、そういう……」
 遵がンン~~と小さく唸って、上下左右に視線を遣って、それから少女を見た。
「ごめんねえ、おじさん妖怪だから学校とか会社とかないんだ」
『えっないの? 妖怪……妖怪だから……?』
「うん、ないの。毎日好きな時間に起きてお酒飲んで好きなことして眠くなったら寝てる」
「それは些かどうかと思うが」
 完全にダメな大人の生活だけれど、遵は生憎人間ではないので多分セーフ……セーフかな?
『私もそうできたらよかったのに』
「だめなの?」
 駄目だったの、と少女が頷く。
「そっかあ、人間って大変だね」
 妖怪でよかったなあ、なんて思いながら遵が少女にゆっくり近付き、惟継もその後に続きながら少女の様子を見守る。
『でも、それなら尚更あの部屋から出なくてもよかったじゃない』
 出る必要なんてなかったはずだと言う少女に、遵がそうだよねえと頷く。
「でもねえ、結局あの部屋でのんびりしてても外に出されたと思うよ」
『どうして? 何もしなければいいだけじゃない!』
「おじさんもねえ、それでいいんじゃないかって言ったんだけど。惟継さんが許してくれなかったものだから」
 ね? と、遵が惟継に話を振ると、黙って聞いていた惟継が少女の前に出る。
「うむ、その前に問いたいのだが、お前さんは世の中の嫌なことばかりにしか目がいっていないだろうか」
『だって、嫌な事ばっかりだわ。誰もそれが嫌な事だってわかってくれないの、私は嫌なのに!』
「そうか。なら、行きたくないなら行かなくていい。辛いなら逃げていい、距離を置いていい」
 それは誰に許されないとしても、責められることではないのだから。
「……とは言え、周りはそうはしてくれないのだろうな。遵殿は俺が許さなかったが」
『わかんないわ、どうして許してくれないの』
「人間も妖怪も、それぞれだからねえ」
 難しい話だね、と遵が笑う。
「でもねえ、どんなに閉じこもってても結局こうなるってことさ」
『ずっと閉じこもってはいられないってこと……?』
「うーん、そうだねえ。いや、おじさんもノリノリで戦っちゃったけどね」
 だらだらしているのは好きだ、寝ているのだって。でもそればかりでは、いつか飽きるし遊びたい人とも遊べないからね、と遵が頷く。
『それでも私、出たくはなかったの』
「お前さん、好きなことはないか? 興味があるものはないか?」
 俯いてしまった少女に、惟継が柔らかな声音で問う。
「一瞬でもいい、嫌なことを忘れさせてくれるものはないだろうか」
 どうだっただろうか、あったかもしれない。でも、嫌なことが大きすぎて上手く思い出せない。
「あるのならば没頭すればいい、ないのならば探してみればいい」
『探す……』
「そうだ、学校も会社も忘れろ、俺が許す! そして自分らしくある為の何かを探すんだ」
『いいのかな? 怒られない?』
「いいのさ、そこのお兄さんが許すって言ったでしょ」
 それにね、と遵が伸びをしながら言葉を続ける。
「やりたくないときはやらなくてもいいんだよ」
『それもいいの? 皆やれって言うのに』
「だってやれないんでしょ? しょうがないじゃん。できるようになってからやるの、無理したって楽しくないでしょ」
 誰だって最初からうまくできたりしないんだからさ、と言う遵に惟継も頷く。
「今のお前さん達に必要なのは抱えている問題に向き合うことだけじゃない、傷付いてしまった心を癒す為の時間だ」
 その為ならば、話し相手にもなるぞ? と、優しく微笑む惟継に、少女も微笑んで。
『人じゃない方が話が分かるなんて、不思議』
「こういうのはヒトかそうでないかは関係ないものだ」
「そうそう。ね、聞いてるとそのうちなんとなく上手くいくよな気がしてきたでしょ」
 そうね、そうかも。
 二人の話に、少女が蒼く煌めく水面のように笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
【天魔2】
ああ、居心地の良い空間だった。
けど、悪ぃな。俺達には故郷の解放っつーやらなきゃならない事があるんでね。

絆創膏だらけの姿に虐められたのを察した。
友達は?友人、仲間、恋人…そういう関係も悪くないモンだと思うぜ。なぁ?(カタリナに視線を投げて)
…可愛い顔をしてるんだ。そんな悲しい顔より、アンタは笑顔の方が似合うと思うぜ。
少女の攻撃を躱し、代わりに優しく手を取る。優雅なダンスと洒落込もう。
地上でのリードは俺が。得意ってほどじゃないが。──あのお姉さんの技術を少し【盗み】とったのさ(内緒だぜ、なんてウインク)
空は飛べるか?じゃあ、ダンスの選手交代。任せるぜ!カタリナ!(少女をふわりと放り投げ)


カタリナ・エスペランサ
【天魔2】
成程、あれはキミ達なりの善意か
辛い事があるとしても、アタシ達は逃げるより勝ちたい性分でね。
……確かに楽しい一時だったけど、さ

現実を厭う気持ちはよく知ってる。
立ち向かう事に疲れてしまう日があるのも分かる。
だとしても。進み続けた先に得られるものは必ずある。
例えば素敵な出会いとか、ね?

厚意にはお節介を。
未来を謳う旋律は《祈り+鼓舞+歌唱》、
聴いた相手に希望と活力を与える祝福の調べ。

空を舞うのはお手の物、羽の無限弾幕を放つ【災華殲尽】――柔らかく舞う純白の羽が示す性質は《浄化+優しさ》。発揮する効果は少女たちの傷の治癒

夢見るようなひと時を。傷にも負けない希望をキミたちに贈ろう
さぁ、踊ろうか!



●夢見るように踊って
 いい汗を搔いたと笑いながら武器を収め、二人揃って鍵の開いた扉を潜り抜ける。
「てっきり水族館に戻るのだと思っていたのだけどね」
「奇遇だな、俺もだぜ」
 カタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)とカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が顔を見合わせて、すぐに何者かの気配がする方へ視線を向けた。
「誰だ?」
 カイムが鋭い声を投げ掛けると、同じような姿をした少女が現れる。
『どうして出てきてしまったの? あの部屋に居れば、もう悲しい事も辛い事も味わうこともないのに』
 少女の責めるような声に、彼女達が今回の怪現象の原因なのだと二人が気付く。
「ああ、居心地の良い空間だった」
『だったら、どうして? ずっと、ずっと居ればいいのに!』
「けど、悪ぃな」
 カイムがはっきりと拒絶を示すように、少女を見据えて言葉を紡ぐ。
「俺達には故郷の解放っつーやらなきゃならない事があるんでね」
『大切なこと? そんなに、あの部屋に居るよりも?』
 泣きそうな顔をする少女にカイムが頭を掻いてカタリナにちらりと視線をやると、困っているな、と内心笑いつつもカタリナが少女達に声を掛けた。
「成程、あれはキミ達なりの善意か」
 同じように辛い思いをしている者への、逃げ道だったのかとカタリナが微笑む。
「でもね、辛い事があるとしても、アタシ達は逃げるより勝ちたい性分でね」
『逃げちゃだめなの? 楽しい事だけ、していたらだめ?』
「……確かに楽しいひと時だったけど、さ」
 逃げるな、なんて言うつもりは無いけれど、と前置きをしてカタリナが少女にゆっくりと話を続ける。
「現実を厭う気持ちはよく知ってる」
 どうして、何故、と思ったことはカタリナにだってあるし、隣で黙って聞いているカイムにだってあるだろう。
「立ち向かう事に疲れてしまう日があるのも分かる」
『だったら!』
「だとしても、進み続けた先に得られるものは必ずある」
 そう、はっきりと言い切ったカタリナに、少女が押し黙る。その姿に、絆創膏だらけの指先や膝に、カイムは彼女達が虐められていた誰かの凝りなのだと察して、静かに声を響かせた。
「友達は? 友人、仲間、恋人……そういう関係も悪くないモンだと思うぜ」
『いないわ、そんなの』
「必ずしも学校で作る必要はないんじゃないか? 違う場所にアンタを認めてくれる人がいるって俺は思うぜ。なぁ?」
 カイムがカタリナに視線を投げると、彼女が笑って頷く。
「ええ、例えば素敵な出会いとか、ね?」
 アタシ達みたいに、なんて笑うと少女が目を瞬いて二人を見つめて。
「……可愛い顔をしてるんだ。そんな悲しい顔より、アンタは笑顔の方が似合うと思うぜ」
『知らない、だって悲しい事しか無かったもの!』
 笑顔になれる事なんか、なかったもの。本当に? 疑念を付きまとわせながら、少女がカイムに向かって自棄になったような一撃を繰り出す。
「おっと」
 難なくその攻撃を躱し、少女が突き出した拳を柔らかく受け止めると反対の手を取った。
「なあ、アンタ」
『えっ、え?』
 きっとそのまま攻撃されて消えるのだと思っていた少女が慌てたように辺りを見回すと、カタリナが笑って、ちょっとしたお節介だよと歌声を響かせる。
「踊ったことはあるか?」
『な、ないわ』
「そうか、じゃあ俺がリードしてやるから優雅なダンスと洒落込もう」
 カタリナの紡ぎ出す未来を謳う旋律は、聞いた相手に希望と活力を与える祝福の調べ。
 戸惑う少女に笑って、地上でのリードは任せなと、カイムがカタリナの歌に合わせて少女と踊る。
『わ、わたし、こんなの初めてだわ』
「そうかい、そいつは何よりだ。俺も得意ってほどじゃないが――」
 内緒話をするようにカイムが少女に向かって小さな声で、あのお姉さんの技術を少しばかり盗みとったのさ、とウィンク交じりに笑って言った。
「さてアンタ、空は飛べるか?」
『空? うん、飛べるはず』
「よし、じゃあダンスの選手交代だ」
 笑ったカイムが少女をふわりと持ち上げて、空中に向かって高く放り投げる。
「任せるぜ! カタリナ!」
「ああ、任されたよ」
 放り投げられた少女の前には翼を広げたカタリナがいて、呆気にとられた少女の手を華麗に取って優雅に微笑む。
「夢見るようなひと時を」
 煌めきに彩られた翼が羽ばたく。
「傷にも負けない希望をキミに贈ろう」
 まるでワルツでも踊るかのようなターンを一つ、少女と共に決めて。
「さぁ、踊ろうか!」
 空中でのリードは見事なもので、最初は戸惑っていた少女も一曲踊り終える頃には頬を薔薇色に染め、笑みを浮かべていたほど。
「どうだい、楽しかったかな?」
『ええ、とっても!』
 こんなに楽しい事があったのね、と笑う少女の身体が透けて。
『ありがとう』
 カタリナとカイムに向けて、言葉を残して緩やかに消えていく。
「凝りが解けたんだな」
「ああ、きっとそうに違いないさ」
 二人が少女を見送って、互いに満足気な顔をして笑い合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
【モノクロフレンズ】◎

現実は辛いことしかない……
頑張り続けるのは辛くて
逃げられないのは苦しいですよね
……分かります、その気持ち

……あの
あなたの想いを聴かせてくれませんか
的確なアドバイスができるわけではありませんが……
裡に秘めるよりは、吐き出した方がいいかなって
ね、トーさん
おっいいですね、気持ちがすっきりしたら皆で一緒に歌いましょう

確かに、あの部屋に居続ければ辛いことは起きない
……でも私には約束があるんです
今まで辛かった分、これから沢山楽しいことをしよう、って
(ひかりを、ねこさんを、トーさんを見た)
(今ここには居ない、大切な人を思い浮かべた)

あなたとこうして話せることも、楽しいことのひとつですよ


茜崎・トヲル
【モノクロフレンズ】◎

うん……おれもわかっちまうかも……
簡単に言うのはよくないよね、知ってるよ。でも簡単じゃないからさ
おれも、あーさんも、たくさん、たくさんいやな思いを知ってるから
だからね、わかる

うんうんっ、スーさんの言うとーり!
聞かせてよ、あんたたちのこと。いっぱい!
比べたりしねーし、そんなの扱いとかぜってー言わねーから!
そんでさ、いっしょに歌お!たのしーやつ!
マイク持って来りゃよかったなー

過去のことはほとんど覚えてねーし、うっすら残ってんのもまーアレなのばっかで
けど、だからこそ、あんな思いをおれ以外にさせたくない
それにほら!あの部屋から出たからこそ、あんたたちの話も聞けるし。ね、あーさん!



●前向きフレンズ
 いい気分でデュエットを終わらせ、さあ元のカフェへ! と扉を開いた二人の視界に広がったのは、またしても見たことのないような空間であった。
「あーさん、ここどこだろうね?」
「そうですねえ、カフェでも水族館でもないのは確かですが……」
 基本的に動じないし、何ならそういうものなのだろうと受け入れるタイプな茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)の問いに、こちらもそういう事もあるかもしれませんね、と受け入れるタイプなスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)が至極真っ当な答えを返す。
「だよねー、またよくわかんない空間にでちゃったのかな」
「また何か試練でもあるのでしょうか……っと、あちらにどなたかいらっしゃいますね」
「えっだれだれ! だれかー! いますかー!」
 トヲルが大きな声で呼び掛けると、スキアファールが誰かいるといった場所から少女達の姿が浮かび上がる。
『あなた達、どうして出てきてしまったの?』
「えっ」
「どうして、と言われましても……」
 カラオケでデュエットしてたらとしか言いようがない、トヲルとスキアファールが視線を合わせて困ったような顔をした。
『だって、あの部屋にいればずっと楽しく過ごせたはずだわ』
 辛い事も、悲しい事も、きっと感じる事もなかったはずだと少女達が口々に言う。
「でもずっと歌ってたら、スーさんもおれも九十点以上取ってたと思うな」
「そうですね、いずれは出られたでしょうね」
 今回はカフェに戻りたいという一心で、割と最短で出てきたと思うけれど。
『でも、でも、それじゃあ現実の辛い事から逃げられないじゃない!』
「あなたは……逃げ場所を作ろうとして?」
 スキアファールの言葉に、少女が頷く。
「現実は辛い事しかない……」
 頑張り続けるのは辛くて、逃げられないのは苦しい。それはきっと、誰にでも経験のあること。
「……分かります、その気持ち」
「うん……おれもわかっちまうかも……」
『だったら、だったらどうして?』
 あの部屋に居れば、そんな辛い思いをしなくて済んだはずだ、簡単に言わないで! と少女が切実な声で二人に訴える。
「うん、簡単に言うのはよくないよね、知ってるよ」
 でも簡単じゃないからさ、とトヲルが少女に向かってはっきりと告げる。
「おれも、あーさんも、たくさん、たくさんいやな思いを知ってるから。だからね、わかる」
 あんたの言う、辛い事も悲しい事も、わかるよ、とトヲルが言葉を重ねると俯いた少女がほんとうに? と、か細い声で呟いた。
「……あの、あなたの想いを聴かせてくれませんか」
『私の?』
「はい、的確なアドバイスができるわけではありませんが……裡に秘めるよりは、吐き出した方がいいかなって」
 スキアファールの控えめながら真摯な声が少女達の心にすとんと響いて、少女達が二人に顔を向ける。
「ね、トーさん」
「うんうんっ、スーさんの言うとーり! 聞かせてよ、あんたたちのこと。いっぱい!」
 いっぱい! と、両手を広げてトヲルが笑う。
『……馬鹿にしたり、しない?』
『怒ったりもしない?』
「しない! 比べたりしねーし、そんな扱いとかぜってー言わねーから!」
「ええ、言いません」
 誓って、とスキアファールが言うと、トヲルも首が取れてしまいそうな勢いで頷く。
「そんでさ、一緒に歌お! たのしーやつ! 気分が上がるような、とっておき!」
「おっいいですね、気持ちがすっきりしたら皆で一緒に歌いましょう」
「マイク持って来りゃよかったなー」
 知らない歌であれば私が教えますから、とスキアファールが笑えばコローロもパチリと火花を散らして瞬いた。
 それなら、と少女達が顔を見合わせ、つっかえながらも言葉を紡ぐ。少女達の話を時に相槌を打ちながら聞き、自分の話も交えて彼女達の心を解していく。
「そうですね、確かに、あの部屋に居続ければ辛いことは起きない……でも、私には約束があるんです」
『約束?』
「ええ、今まで辛かった分、これから沢山楽しいことをしよう、って」
 とても素敵な約束なのだと、スキアファールがコローロを、ラトナを、トヲルを見た。
 それから、今ここには居ない、大切な人を思い浮かべて、幸せそうに微笑む。
「おれはねー、過去のことはほとんど覚えてねーし、うっすら残ってんのもまーアレなのばっかで」
 本当にアレなのばっかりなんだけどさー、とトヲルが笑って、それでもと少女達に言う。
「けど、だからこそ、あんな思いをおれ以外にさせたくないんだー、その為におれ頑張ってんの」
『誰かの為に?』
「そー、自己満足かもしれないけど、おれがそうしたいからするんだ! それにほら、あの部屋から出たからこそ、あんたたちの話も聞けるし。ね、あーさん!」
「はい、トーさん。私にとって、あなた達とこうして話せることも、楽しいことのひとつですよ」
 そんなこと初めて言われたわ、と少女達が笑って。
「からだ、からだ消えかけてる!」
「……凝りが解けたんでしょう」
 穏やかな笑顔を浮かべて、少女達が消えていく。
「あっ! 歌ってないよスーさん!」
「……私達だけで歌いましょうか?」
「ナイスアイディアだよ、あーさん!」
 彼女達の餞になるように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「貴女の言う現実は、学校や会社に行く事だけですか?」

UC「幻朧桜召喚・解因寿転」
「貴女は現実が辛いと言うけれど。外に出て、美味しいおやつを食べたり雑貨を買ったり、其れを誰かに見せ合ったり。TVや本の話をしたり、続きを買いに行ったり。それは貴女の部屋の外にしかない現実です。現実は、部屋の外は。貴女にとっての辛いこと以外も、たくさんあるはずです」

「部屋の中で快適に過ごせるのは、その状態に調える誰かや何かが在るからです。一人ではなく誰かの助けがある、それは中でも外でも変わりません。他者の助力ない生活は、どこにもないのです」

「部屋に居ては、貴女に会えませんでした。私は貴女に会えて嬉しいです…貴女は?」



●だからこそ、あなたに
 山ほどの料理を作り終え、疲労の色を滲ませながら御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が扉を出た先は、またしても見知らぬ空間であった。
「ここは……?」
 まるで虚無のような空間に、桜花が周囲を見回す。そして、少女の影を見つけて身構えた。
「貴女は?」
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
 泣きそうな顔でそう語り掛けてくる少女に、桜花が目を瞬く。そして、彼女こそがこの空間の要因たるものなのだと理解する。
『現実は辛い事ばかりじゃない、あの部屋に居れば穏やかに暮らせたのに!』
 学校や会社も、嫌な事ばかりだと零す少女に桜花が問い掛ける。
「……貴女の言う現実は、学校や会社に行く事だけですか?」
 怖がらせぬよう、怯えさせぬよう、ゆっくりと近付いて。桜花が持つ力を開放させる。
 それは桜花の想い、例え此処がサクラミラージュであろうとなかろうと、骸の海からであろうとも。何時か貴女の想いが癒されて転生の願いに結び付くように――。
「貴女は現実が辛いと言うけれど」
 声音は柔らかく、けれど自分の想いが少女に届くように凛として。
「外に出て、美味しいおやつを食べたり雑貨を買ったり、其れを誰かに見せ合ったり」
 分かち合いたいと願う事はなかったのだろうか?
「TVや本の話をしたり、続きを買いに行ったり」
 自分の心を豊かにしてくれる、そんな存在は無かったのだろうか?
「それは貴女の部屋の外にしかない現実です。現実は、部屋の外は。貴女にとっての辛いこと以外も、たくさんあるはずです」
『でも、でも! 部屋の外は、怖い……!』
 少女の悲痛な声が響く、その声に桜花の眼差しが一層柔らかく慈悲を持ったものへと変わって。
「部屋の中で快適に過ごせるのは、その状態に調える誰かや何かが在るからです」
 それはきっと、貴女を想う誰かの力だと、桜花が声を響かせる。
「一人ではなく誰かの助けがある、それは中でも外でも変わりません。他者の助力ない生活は、どこにもないのです」
 切々と訴える声は、少女に届いているだろうか。
 少しでも届いているのなら、それでいいと桜花が少女が顔を上げるのを待つ。
『ひとりでは、ないの?』
「……ええ、人は誰しも最初から一人で生きていけるわけではありませんから」
 それに、と桜花が顔を上げた少女に告げる。
「あのまま……部屋に居たままでは、貴女に会えませんでした」
『私に?』
「はい、私は貴女に会えて嬉しいと思っています……貴女は?」
『私、私は――』
 少女の出した答えに、桜花がふわり微笑んで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐️2】
水族館でもないし、お酒も用意されてない……
本当に何もない空間って感じだな

確かにあの部屋は居心地良かったよ
夏報さんも正直……もっと飲み会してたいなって思ったくらいで……
ね、君たちがお酒を用意してくれたの?
ありがとね
だったらお礼をしなくちゃな

指定UCで綺麗な写真をいろいろ出すよ
水族館は好き?
ここに住み着くくらいだから、少なくとも嫌いではなさそう
だったら君にも『視』せてあげる
キマイラフューチャーやグリードオーシャン、異世界の水族館や海の景色を

なんにもせずに綺麗なものだけ見ていたい
そういう時ってあるものだよね
無理はしなくていいんじゃないかな
骸の海でもサメやクジラの夢くらいは見れるでしょう


風見・ケイ
【🌖⭐️2】
扉を抜けて無事脱出、とは行かないか
確かに何もないけど……こんにちは、お嬢さん

ええ、好みのお酒は揃ってたし飲み過ぎてしまうところだった
座って座って
お酒はないけど、もう少しだけここで続きといこう

このサメのエリアは凄かったよね
みんな空を飛んでいるみたいで……君たちも見たことある?
こっちの写真は私も初めて見るな
見たことない生き物がたくさん

私もそんな時よく星空を眺めてた
頭の中を空っぽにして、綺麗なものだけで埋め尽くしてた

UCで、買っていたお土産のぬいぐるみを複製
はい……(星屑て作った)これなら持っていけるんじゃないかな
今日のお礼……君たちのおかげで、すっきりできたから
骸の海での、夢のお供に



●骸の海で見る夢を
 ちょっとばかり……いや大分飲み足りないけれど、いい気分で部屋を出た臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が唐突に足を止める。
「っと、どうしたんだい夏報さん」
 そのすぐ後ろを歩いていた風見・ケイ(星屑の夢・f14457)が、彼女の背にぶつかる寸前で止まった。
「いや、水族館じゃないなと」
 てっきり水族館の、元の空間に出るものだと思っていたんだけどな、と夏報が辺りを見回す。
「扉を抜けて無事脱出、とは行かないか」
 ケイも同じように視線を動かし、見知らぬ空間に警戒する。
「水族館でもないし、お酒も用意されてない……」
「お酒はさすがにもう用意されないんじゃないかな……?」
「されてたら良かったんだけどね、本当に何もない空間って感じだな」
 色としてもいまいち識別できない、白いようで蒼いようで、また赤いようにも思えるし、色すらないようにさえ感じられた。
「確かに何もないけど……誰かはいるみたいだよ。こんにちは、お嬢さん」
 ケイが空間から現れた少女に声を掛けると、夏報もそちらに注意を向ける。
『どうして……どうして出てきてしまったの?』
 少女の問い掛けに、夏報が頬を掻く。
「あー、確かにあの部屋は居心地良かったよ」
 何せお酒があった、飲み放題と言ってもいいほど。
「夏報さんも正直……もっと飲み会してたいなって思ったくらいで……」
 あれ、なんで夏報さん出てきちゃったんだ? と、思わず夏報が首を傾げそうになる。
「ええ、好みのお酒は揃ってたし飲み過ぎてしまうところだった」
 でも、と揺らぐ夏報に笑って、ケイが少女に言う。
「扉が開いたからには、立ち止まってはいられないからね」
「そうだね、開いちゃったからな」
『そんな……扉が開いたって、出なければずっと楽しくしていられたはずなのに』
 辛い事も悲しい事も、あの部屋にはないのに、と少女が視線を落とした。
「確かにそうかもしれないけど……うーん」
 少し考えて、それよりも! と、夏報が少女達に笑い掛ける。
「ね、君たちがお酒を用意してくれたの?」
『え? ええ、そう、そうよ』
 俯いていた少女が顔を上げて、夏報に頷く。
「ありがとね」
 お礼を言われた少女が、ぽかんとしたような顔をして夏報を見る。
「いやー、ほんと夏報さん好みのお酒だったよ」
「そうだね、良いラインナップだった」
 うんうんと頷き合って、夏報とケイが視線を交わして笑うと、少女達に向いて。
「だったら、お礼をしなくちゃな」
「そうだね。よし、座って座って」
 ケイが少女達を手招きながら、地面へと座る。
「ほら、早くおいで」
「そうそう、早く早く」
 夏報も笑って手招いて、よいしょっとケイの隣へ座った。
『何? 何をするの……?』
「言っただろ、お礼だよ」
「お酒はないけど、もう少しだけここで続きといこう」
 何もしないよ、とケイが微笑むと顔を見合わせた少女達がおずおずと二人の傍へと近寄る。
「君たち、水族館は好き?」
『……ええ、好きだわ』
 そうだよね、ここに住み着くくらいだから、少なくとも嫌いではないよねと夏報が笑って、指で四角を作った。それはちょうど、ポラロイドカメラから出てくるフィルムのような大きさで。
「だったら君にも『視』せてあげる」
 そう囁くと、夏報の指で作った四角の先に様々な風景を映したポラロイドフィルムが何枚も現れた。
「これはね、キマイラフューチャーやグリードオーシャン……ええと、異世界だと思ってくれたらいいよ。その異世界の水族館や海の景色だよ」
 鮮やかな熱帯魚の泳ぐ写真、サンゴ礁の写真、餌を与えられて水面に群れる魚の写真、煌めく海の中から撮ったような写真――それはそれは様々な小さな海を閉じ込めたような写真だった。
『ここの水族館の写真もあるのね』
「勿論、ここの水族館も見応えがあったからね」
 これとこれ、それからこっちもここの水族館だよと、夏報が指で示す。
「このサメのエリアは凄かったよね、みんな空を飛んでいるみたいで……」
 その中の一枚を手に取って、ケイが少女達を見る。
「君たちも見たことある?」
『あるわ、私はそこが一番好きなの』
『私はこっちの、クラゲが好き』
 写真を見る少女達の顔が穏やかになるのを見ながら、ケイがまた違う写真を手に取る。
「こっちの写真は私も初めて見るな」
「あ、それはグリードオーシャンかな」
 見たことのない生き物がたくさんいる、とケイが目を細めた。
「あそこ色々いるからなー」
 海の生き物っぽいコンキスタドールも含めると、それはもう、本当に色々。
 見知らぬ世界の写真に少女達が夢中になるのを眺め、夏報が微笑ましいものを見るように笑う。
「なんにもせずに綺麗なものだけ見ていたい、そういう時ってあるものだよね」
「ふふ、私もそんな時よく星空を眺めてた」
 頭の中を空っぽにして、綺麗なものだけで埋め尽くして、そういう時間だって必要だとケイが頷く。
「だからさ、君たちも無理はしなくていいんじゃないかな」
『無理……しなくてもいいの?』
『頑張らなくても、いい?』
「いいよ、ずっと無理して頑張ってたら倒れちゃうだろ」
 夏報さんだって頑張れない時は頑張らないよ、と小さく息を吐いた。
『そっか、いいのね』
 少女達が微笑んで、その姿が揺らいでいく。
「もう行くのかい?」
「ああ、ちょっと待って」
 ケイが右手でお土産として買っていたサメのぬいぐるみに触れる。
「はい……これなら持っていけるんじゃないかな」
 星屑を集めて複製したぬいぐるみを、消えゆく彼女達へと渡す。
『私達に?』
「今日のお礼……君たちのおかげで、すっきりできたから」
『ありがとう……写真を見せてくれた、あなたも』
「いいよ、お礼だもん」
 それでも、嬉しかったと少女達が笑って消えていく。
「骸の海でもサメやクジラの夢くらいは見れるよね」
「ええ、あのぬいぐるみも……骸の海での、夢のお供になるでしょう」
 二人がそう願うなら、きっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瀬古・戒
【箱2】◎
宿題終わらない&失恋が理由の少女

夏休みの宿題が終わらなくて学校行きたくねぇの?しゃーねぇ、宿題終わらせんの手伝うからさ頑張ろ? 漢字練習ノートをひたすら書く書く…書体真似んの超大事
ぐぁぁ腕つりそラファン交代!絵日記も?お、俺の画力(並)に任せろよ…猫でいい?
どしたん?顔色晴れないな
失恋でもしたん?…え、当たり?ご、ごめんて
…まぁ、その残念だったけどさ…想い伝えれたんじゃん、すごいな
ドキドキして大変じゃなかったか?俺心臓が破裂するかと思ったもん
ソレ乗り越えれたんならさ、大丈夫、…また頑張れるよ
つか、ラファン真面目が理由でフラれるとか…幸せて、ちょ、のろけるな!!!手を動かせ手をッ!


ラファン・クロウフォード
【箱2】◎ 大きな鞄を持った少女が気になって声をかける。名前を訊ね友好的に接して話を聞く
荷物の中身が全部夏休みの宿題って。悩みの元を持ち歩くとは真面目な子だな
戒と協力して宿題を手伝う
筆跡を真似るなんて戒は器用だ。マッサージして応援
白紙の絵日記が苦しそうで胸が痛む
学生の頃の失恋話を。真面目過ぎて息が詰まると言われてフラれた
酷く落ち込んだけど、それだけ彼女が好きだった証しなんだ
別れなければ戒と付き合えなかったし、必要な失恋だったと思える
日記は三人で宿題した今日から始めようか
彼女の止まった時間が動きますように
絵が下手なのか、俺もだ。戒は絵が上手なんだ
今の俺?幸せだ。怖いくらいに。貴女もなれる、きっと



●夏休みを終わらせて
 勢いよく扉を開けた先に広がっていた空間に、頬を赤くしていた瀬古・戒(瓦灯・f19003)がすっと真顔になる。
「どこだ、ここ」
「……水族館じゃないな」
 給料三か月分について考えていたラファン・クロウフォード(武闘神官・f18585)も一旦その考えは仕舞って、辺りを見回す。
「戒、あれ」
 ラファンが指さした先には、大きな鞄を持った少女が俯いて立っていた。
「あれって……怪異の少女ってやつだよな?」
「そうだと思う、でも……敵対心を感じなくないか」
 こそこそっと内緒話をしつつ、少女の様子を見るけれど、こちらに襲い掛かってくる様子もない。ここは思い切って声を掛けてみようと、ラファンが動いた。
「貴女は何をしているんだ?」
「何か困ってんのか?」
 ラファンの後ろからひょこっと戒も顔を出して、少女に問う。
『……私に、聞いてるの?』
「ああ、貴女に聞いている」
「そうだぜー、それにここ、俺たちしかいねぇし」
 な? 何かあるなら言ってみなと、戒が少女を安心させるように微笑んで見せる。
『……宿題が、終わらないの』
「「え?」」
『宿題が、終わらないの!』
 思わず聞き返してしまった二人に対して、少女が小さく叫ぶ。
「宿題って、夏休みの?」
「もしかして、貴女のその鞄の中身」
 全部夏休みの宿題か? と、ラファンが目を瞬かせる。
『うう、そうなの、全部宿題……う、終わらないから、帰れないし、もうずっとここにいるぅ……』
 それは困るな、とラファンが思う。ここから出られないとなると、戒にプロポーズのやり直しもできないし、かといってこんな無害そうな少女を叩きのめすのも戒が嫌がるだろうし……それにしても、悩みの元を持ち歩くとは、随分真面目な子なんだなと改めて少女を見遣って、戒を見た。
「夏休みの宿題が終わらなくて学校行きたくねぇの?」
『……行きたくない』
「しゃーねぇ、ラファン」
「なんだ、戒」
「宿題終わらせんの手伝うぞ」
 その一言に、戒らしいとラファンが笑って頷く。
『手伝って、くれるの?』
「おう、その代わりお前も一緒に頑張るんだぞ?」
 こくりと頷いた少女の頭を撫でて、戒が机と椅子とか出せる? と少女に聞くと、あっという間に四人掛けのテーブルと椅子が現れた。
「よし、じゃあ俺は漢字練習ノートだな」
 こういうのはな、書体を真似んのが超大事なんだと、戒が鉛筆を片手にして言う。
「筆跡を真似るなんて戒は器用だな、俺には出来ない」
「ん-、昔取った杵柄的な?」
 どんな杵柄があれば筆跡を真似られるんだ? とちょっと考えたけれど、ラファンは他の宿題を種類別に並べていくことにした。
「算数のドリルとプリント、それから絵日記……」
 真っ白ななままの絵日記は、まるで彼女の空白の苦しみのようにも思えて、ラファンの胸がつきりと痛む。
「ぐぁぁ、腕つりそう、ラファン交代!」
「あ、いや俺は無理だって。その代わりと言っては何だが」
 ラファンが戒の後ろに回り、肩を揉み解す。それから首と頭皮、腕を揉んで最後にハンドマッサージまでという完璧なマッサージを施した。
「うぉぉ……生き返る」
「生き返った所で続きだ、戒」
 二人のコンビネーションで漢字練習ノートはなんとか終わり、少女も算数のドリルとプリントを何とか終わらせる。
「あとなんだ? 絵日記? お、俺の画力に任せろよ……」
 並みだけど。
「猫でいい?」
 猫ならなんとかそれっぽく描ける、と戒が言おうとして、少女の浮かない顔に首を傾げた。
「どしたん? 顔色晴れないな、具合悪くなったか?」
 戒の言葉に、少女が首を横に振る。
『違うの、そうじゃないの』
「んじゃ、失恋でもしたん?」
 核心を突いたような戒の質問に、少女がうぐっと呻いて俯いた。
「……え、当たり? ご、ごめんて」
「だから絵日記が真白なのか」
 俯いた少女が、こくりと頷く。
 真面目そうな彼女が宿題に手を付けられなかったのも、きっと失恋のせいなのだろうとラファンと戒が視線を合わす。
「でもほら、その……残念だったけどさ……想い伝えれたんじゃん、すごいな」
『……すごい?』
「そうさ、誰かに想いを伝えるのってすっげぇパワーが要るじゃん? ドキドキして大変じゃなかったか?」
『うん、大変だったの。噛むし、どもるし』
「わかる、俺なんか心臓が破裂するかと思ったもん」
 それでも、伝えずにはいられなかったのはすごいことだぜ、と戒が少女に微笑む。
「ソレ乗り越えれたんならさ、大丈夫、……また頑張れるよ」
『そうかな、そうだといいなぁ……』
 少女が真白な絵日記を眺めて、泣くのを堪えるように笑う。
「あー……ほら、ラファン。ひとつお前の失恋話を聞かせてやれよ」
「いいだろう、俺の学生の頃の失恋話をしよう。俺は、真面目過ぎて息が詰まると言われてフラれた」
 ラファン真面目が理由でフラれるとは? と思ったが戒は口を挟まなかった、賢明。
「酷く落ち込んだけど、それだけ彼女が好きだった証しなんだ」
 学生の頃の話だけど、と念を押すように戒を見つつ、ラファンが続ける。
「でも、別れなければ戒と付き合えなかったし、必要な失恋だったと思える」
『今は幸せなの?』
「今の俺?幸せだ。怖いくらいに。貴女もなれる、きっと」
「ちょ、のろけるな!!!」
「事実だからな」
 ふふん、と得意気にラファンが笑って、絵日記を手に取る。
「日記は三人で宿題した今日から始めようか」
 少女の止まった時間が、今ここから動き出しますようにと願いを込めて。
『でも、私絵が上手じゃないの』
「絵が下手なのか、俺もだ。戒は絵が上手なんだ」
「猫なら……」
 三人で猫を描いて、絵日記を一ページ仕上げると、少女がそれを手にして立ち上がる。
『ありがとう』
 すうっと、少女の姿も宿題も消えていく。
「もう宿題溜めこむなよ、元気でな」
「元気で」
 骸の海に還る想いに元気でと言うのもおかしいか? と思ったけれど、きっと彼女にはこれが正解だとラファンと戒が微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御魂・神治
【御霊除霊事務所】◎

あー...原因はアンタか
なんか辛気臭いてか、戦い辛いな
答案用紙...共感性羞恥心ってヤツか
そんなんは『大国』の結界で聞いとる様で聞いてないでな

トラウマあるからホンマの事言いたないてのはようある事やの
ワイかて金が惜しくて家賃滞納しとるんや
しゃーないやろ、商売道具の維持費とか師匠への餞別(賽銭)とかで出費が余分に嵩むんや
大家は案外心が広いから一月二月滞納してても文句は言わ――
なんでおるんや!あれで帰ったんちゃうんか大家ァ!!
武神のリース料やて?(家賃込みとちゃうんかアレ...)
し、知らんで!ワイは払ったでな!


榊・霊爾
【御霊除霊事務所】◎

自分が帰りたくないからって私も巻き込むのはやめたまえ
なんだか訳ありだね君
私はね、重い人は苦手なんでね
聞いたところで逆に呑まれてこっちまで暗くなる
話は三行で済ませてくれ、それ以上は『忘却』の抜刀で強制終了させるからね?
存在ごと
御霊君、説得しても多分無理だぞ、そいつは亡者だ
...話聞いている様で聞いてないね、御霊君
唯の身の上話じゃないか、実に君らしい
...ん?今滞納って言ったかい?
ああ、そういや思い出した
君...武神のリース料――逃げようとするんじゃない
払え、追加で払え
この空間から今すぐに、だ



●人生相談だったのになー?
 このワイに家賃を払わせよってからに、バチクソいわしたるからなと扉を出た御魂・神治(除霊(物理)・f28925)の目の前に広がるのは、またしても見たこともない空間であった。
「なんや、ここ」
 なんかジメジメしとんな、と神治が辺りを見回すと俯いた少女が見えた。
「なあ、アンタ」
『どうして、どうして出てきてしまったの?』
「そんなんワイが聞きたいわ」
 家賃は払いたくはない、けれど払わなければ出られない。
「DEAD or DIEみたいなお題出しよってからに……」
『だって、あれなら出られないと思ったんだもの!』
 ブツクサ言う神治に、少女が泣きそうな顔をして声を出す。
「あー……原因はアンタか」
 なんか辛気臭いてか、戦い辛いな……と、口にはせずに神治が頭を掻く。
 泣く子には勝てないと言うが、負けてやるわけにもいかない。
「あんなぁ」
『うう、分からず屋にはこうなんだからー!』
 少女が背負った鞄から、沢山の白い紙が舞う。
「分からず屋て、なんやこれ」
 手に取ってよく見れば、それは0点の答案用紙で。
『きゃあああ! それ、それは違うの! 間違いで、そっちじゃないの!!』
「なんちゅー残念な怪異なんや……答案用紙? ハハァ、共感性羞恥心ってヤツか」
 ぺらっと捲った答案用紙を眺め、ふーんと神治が少女に向かって飛ばす。
「そんなんは『大国』の結界で効いとる様で効いてないでな」
 どっちだ、と言う話だが神治の張る結界はマイナス要因をプラス要因に変えるもの。0点のテストに思うところはあれど、効き目はないというわけだ。
『ううう、恥ずかしい思い損じゃないの……!』
「アンタ、何でまたあんな部屋作りだしたりしたんや?」
『……外に出たくないからだわ』
 それは本当のことだ、外には出たくない、安全な部屋の中にずっといたい。
「ふーん、トラウマあるからホンマの事言いたないてのはようある事やの」
 嘘ではないが、本当の所はまた違うのだろう。
『何よ、あなたに何が分かるって言うの!』
「わっかるわけあるか、せやけどな、ワイかて金が惜しくて家賃滞納しとるんや」
『……それは駄目じゃない?』
 至極真っ当な突っ込みだった、少女にだってそれは駄目じゃない? ってことはあるけれど、棚に上げるくらい駄目だと思ったので。
「うっさいわ、しゃーないやろ、商売道具の維持費とか師匠への餞別とかで出費が余分に嵩むんや」
 選別と言うか賽銭と言うか、そこは言ってもわからないとこなので割愛するけどやな、と神治が少女にため息交じりに話す。
『でも、お家賃って滞納すると住めなくなるんじゃないの?』
「そこはほれ、大家は案外心が広いから一月二月滞納してても文句は言わ――」
「今滞納って言ったかい?」
「へっ!?」
 間抜けな声を出しながら、神治が後ろを振り返る。
「なんでおるんや! あれで帰ったんちゃうんか大家ァ!!」
 すっかり帰ったものだと思った大家――榊・霊爾(あなたの隣の榊不動産・f31608)がそこに居た。
『あの、その人ずっと居たわよ』
「うっそやろ、何でアンタもはよ言わんのや」
 ええー……みたいな顔をして、少女が神治を見て、霊爾を見る。
「ああ、話は聞かせてもらったよ」
「最後に出てきて事件解決するみたいなこと言うやんけ……」
 げんなりした顔で言う神治を完全無視して、霊爾が少女を見遣る。
「自分が帰りたくないからって、私も巻き込むのはやめたまえ」
『うう、そんなこと言われたって……!!!』
「なんだか訳ありのようだけれどね、君。私はね、重い人は苦手なんでね」
 再び、ええー……みたいな顔をして、少女が神治見る。神治はといえば、無理、無理やで、という顔をして首を横に振っていた。
「聞いたところで、逆に吞まれてこっちまで暗くなるだろう?」
『ええ、はい……?』
「とにかく、話は三行で済ませてくれ、それ以上は『忘却』の抜刀で強制終了させるからね? 存在ごと」
「悪いことは言わんからな、言う事聞いとき……」
 すまんな、みたいな顔の神治に頷いて、取り敢えず三行で纏めてみるかと少女が口を開く。
『辛いのも悲しいのも嫌なの』
「それで?」
『あの部屋に皆いれば辛い思いも悲しい思いもしなくて済むでしょう』
「ほう」
『だから帰さない……!』
「御霊君、説得しても多分無理だぞ、そいつは亡者だ」
「三行にしてもあかんやないかい!」
 わかっとったけど! と神治が叫ぶ。
「……話を聞いている様で聞いてないね、御霊君」
 どのみち三行以上になる話だ、斬って捨てることになると霊爾が言い切った。
「身の上話をしている暇は無いだろう……ああ、そういや思い出した。滞納の話もだけれど、君……武神のリース料――逃げようとするんじゃない」
 神治の首根っこをひっ捕まえて、霊爾が少女に向けたよりも冷たい声を響かせる。
「武神のリース料やて?」
 家賃込みのお値段とちゃうんか、アレ。
「払え、追加で払え」
「し、知らんで! ワイは払ったでな!」
「この空間から出て、今すぐに、だ」
 ぽかんとする少女の前で、余りにも世知辛い話が飛び交う。
『私の悩み、なんだか大したこと無かったみたいに思えてきちゃった……』
 吹き飛ばされるのも嫌だし、なんかもう消えかかってるし。
『ばいばい、お兄さん。なんかわかんないけど、頑張ってね……』
「うおお怪異に慰められとるやんけ!」
 神治の叫びが響く中、少女の姿は消えて――残ったのはリース料金だけであったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
殺意剥き出しのオブリビオンなら心置きなく戦えるけど
この子達に刃を向けるのはちょっと気が引けるねぇ…

というわけでー、嫌なことは忘れて皆で遊ぼうか
取り出したのはトランプとかボードゲームとか
複数人で手軽に遊べるおもちゃセット(アイテム参照
どれがいい?選ばせてあげるよー
どれもやってみると中毒性のあるゲームばかりだよ

わぁ、ナイスだね梓
梓のお手製クッキーを早速一枚つまみ
君達も気にせず食べてね~と少女達に促す

大丈夫、梓は死ぬほどゲーム弱いから
本気で戦った方がむしろちょうどいいと思うよ

遊びながら少女達が愚痴をこぼしてきたら頷いて聞いてあげるし
何も言わなければこちらも触れずに遊びに没頭しよう


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
なんか…オブリビオンというか
現実に疲れてしまった一般人を見ているようだな…

はい???
何でこいつはこんなもの常備しているんだ…?
綾の突然の提案に一瞬ポカーンとしたが
遊ぶことで少女達のストレスが発散されて
戦わずに解決出来るならまぁありなのか…?

遊ぶなら菓子類もあったほうがいいだろう
常備しているクッキー(アイテム)を取り出し
いつでも気軽につまめるようにしておく

あとは少女達の為にわざと負けて
気分良くさせてやった方がいいんだろうか…
なんだと綾!?

綾に合わせて俺も少女達の話に適度に相槌を打つ
こういうのは下手に説教したり助言をするより
ただひたすら聞いてやるのが一番だろう

…だーっ!また負けた!!



●楽しいひと時を一緒に
 しっかり全巻読み終わってから部屋を出た灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が隣に立つ乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の方を向いて笑う。
「どこだろうね、ここ」
 てっきり水族館に出ると思ってたんだけどな、と綾が首を傾げる。
「まだカフェの代金も払ってないからな、なんとしても戻らないとだ」
「そういやそうだったねぇ」
 踏み倒すつもりはないけれど、不可抗力の無銭飲食になっても困るよねと綾が梓の言葉に頷いた。
「ってことは、あの子達を倒さないとかな?」
 綾が視線を向ける先には、この騒動の元凶であろう少女達。
『どうして出てきてしまったの?』
「あんな汚い部屋に居れるわけないだろう」
『ちょっと片付けるくらいで良かったじゃない!』
『漫画も色々あったでしょう?』
 梓のもっともな言葉に、少女達が反論する。
「あ、漫画面白かったよー。でもさ、あんまり汚くても落ち着かないし、何より梓はおかん属性持ちだからね」
 あの部屋で片付けを適当にして、だらだら過ごすなんてできなかったと思うよ、と綾が笑う。
「その通りだ、ピッカピカにしてやったからな」
『うう、ちょっと汚いくらいが落ち着くのに!』
『片付け苦手なんだもの!』
 片付ける時間があれば、睡眠時間にしたいんだもん! なんて少女たちが騒ぐから。
「なんか……オブリビオンというか、現実に疲れてしまった一般人を見ているようだな……」
「社畜ってやつ? 殺意剥き出しのオブリビオンなら心置きなく戦えるけど、この子達に刃を向けるのはちょっと気が引けるねぇ……」
 どうしたものかと二人で顔を見合わせ、先に良いこと思いついた、と笑みを浮かべたのは綾だった。
「というわけでー、嫌なことは忘れて皆で遊ぼうか」
「はい??」
 何て言った? と梓が首を傾げるよりも先に、綾がコートの内側からトランプを取り出す。
「あとねー、ボードゲームもあるよ」
「それコートの何処に入ってたんだ???」
 トランプまではわかるがボードゲーム?? と思っていたら、他にも出してきて梓は完全に綺麗な宇宙に顔を浮かべた人みたいになっている。
「暇潰しに最適なんだけど、これが中々侮れなくってさ」
 小さく折り畳めるタイプのボードゲームは広げたらそれなりの大きさで、いそいそと綾が足元にセットする。
「トランプは勿論だけど、こっちのカードゲームも楽しいよ」
 裏切り者を探すタイプのものであったり、攻撃力を競うタイプのものであったりと、多種多様だ。
「何でお前はそんなもの常備しているんだ……?」
「え、やだなー言ったでしょ、暇潰しだって」
 暇潰し用にしてはラインナップが充実してるんだよな、と思いつつ、遊ぶことで少女達のストレスが発散されて想いの凝りとやらが昇華されるなら、戦わなくても解決できるというのなら、まぁありなのか……? と、自分の中で取り敢えず納得させて、梓も地面に座り込んだ。
「よし、それならお菓子もあった方がいいだろう?」
 小腹が空いた時に、腹減ったーとドラゴン達や綾がうるさくなった時に、他にもあらゆる場面で意外と活躍する手作りクッキーを梓が取り出して袋ごと空いた箱の上に置く。
「わぁ、ナイスだね梓」
 さっそく一枚摘まんで、美味しいと綾が笑みを浮かべる。
「ご覧の通り、美味しい普通のクッキーだから君達も気にせず食べてね~」
「味はプレーンと桜味と抹茶味だ」
「お菓子はばっちり、ゲームの準備もできたよ。どれがいい? 選ばせてあげるよー」
 目をぱちぱちさせて見ていた少女達が、綾と梓が座り込んだようにおずおずと座る。
『じゃあ……トランプ?』
「いいね、オーソドックスだけど楽しいよね」
「ババ抜きか」
 綾が鮮やかな手並みでカードを切って、札を配っていく。
「なぁ、あとはわざと負けて気分良くさせてやった方がいいんだろうか……」
 こそっと梓が綾に耳打ちすると、あは、と綾が笑って。
「大丈夫、梓は死ぬほどゲーム弱いから本気で戦った方がむしろちょうどいいと思うよ」
「なんだと!? 絶対負けないからな!」
「よーし、梓も本気になった所でババ抜きいってみよー!」
 ジャンケンして勝った順に札を引いて、合ったカードを山に捨てて……単純だけれど札の位置の読み合いや、単純な運によって勝敗が決まるゲームだ。
「上がりー!」
『私も!』
 残った少女と梓の一騎打ち、残ったカードは少女が一枚、梓が二枚。
『ん~~、こっち!』
「……だーっ! 負けた!」
「あはは、だから言ったでしょー」
 わざと負ける必要なんてないんだって、と綾が楽しそうに笑ってクッキーを摘まむ。
「くそー、次だ、次!」
 今度はボードゲームだとトランプを片付けて、それぞれがダイスを振って駒を進めていく。
『ふふ、皆で遊ぶのって楽しいのね』
「そーでしょ、一人で好きなことしてるのもいいけど、皆と遊ぶのも楽しいもんだよ」
「ああ、俺も遊ぶとなると大抵綾と二人だしな」
『誰かと遊べて……嬉しかったよ』
『うん、私も』
 ありがとう、と少女達が笑って消えていく。
「いつでも遊んでやるよ」
「俺もー、っと上がり!」
「くっそー、また負けた!」
 少女達のくすくすと笑う声が完全に消えるまで、二人はその姿を見送ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
【隣歩】◎

マリアは…嬉しかったわ(顔見て
霞架は優しいけれど、それはマリアにだけではないから
そこがあなたの魅力だけれど…不安だったの(服の裾ぎゅ
言葉で聞きたい、だなんて
マリアのそんな感情があの部屋を生み出したのかもしれないのよ(目伏せ

(欲張りになる自分がいて
彼の選択と想いを信じきれなかった自分がいやになるの)

…もう大丈夫
あなたの気持ちが聞けたから

敵の少女へ
霞架の話を静かに聞く

マリアも昔は辛くて悲しい記憶は全て忘れてしまっていたの(星芒の眸に隠された
感情を抱く事が出来ても
でも
色んな出来事を経て、前へ進めて
何物にも代えられない大切なものを掴んだわ
どうか怖がらないで
勇気をあなたに(霞架と目配せ

UC使用


斬崎・霞架
【隣歩】◎

部屋からは出られましたが、何とも気恥ずかしいものですね
優しい、ですか
…いえ、迷いがあったのは確かです
不安にさせてすいません(マリアの頭を撫で


(咳払いを一つ)
さて、この少女が怪異の原因らしいですが…

辛い現実から逃げ出したい、ですか
それであの様に出なくても問題ない部屋だったようですね
…ですが、そこに閉じ込め続ける事を望んだ訳でもないでしょう
そこから抜け出す方法が、用意されているのですから

辛い現実に立ち向かうのは、文字通り困難です
立ち向かった結果がよいものになるとも限らない
ですが、それでもと歩み続けた先でこそ得られるものもある
…僕は、僕自身の経験からそう思います
(傍らのマリアに微笑みかけ)



●共に立ち向かう強さ
 互いの想いを確認し、開いた扉から二人手を繋いで抜け出る。その先に見えた光景に、マリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)が斬崎・霞架(ブランクウィード・f08226)に向かって声を掛けた。
「元の場所……ではないのね」
「そのようですね」
 彼女を庇うようにしつつ、霞架が辺りを警戒するように見回す。
「部屋からは出られましたが……」
 繋いだ手をぎゅっと握って、霞架がマリアドールを安心させるように笑う。
「ふふ、何とも気恥ずかしいものですね」
 自分の真心を想う相手に隠すことなく伝えるというのは――。
「でも、マリアは……嬉しかったわ」
 マリアドールが霞架を真っ直ぐに見上げ、嬉しそうに微笑む。
「霞架は優しいけれど、それはマリアにだけではないから」
「優しい、ですか」
 それはとっても誇らしくて、霞架らしいとマリアドールが思うところではあるけれど。
「そこがあなたの魅力だけれど……不安だったの」
 繋いだ手に想いを込めて、マリアドールもきゅっと握り返す。
「言葉で聞きたい、だなんて」
 不安に思う度、その思いは膨れ上がっていた。
 だからね、とマリアドールが長い睫毛を瞬かせて霞架にか細い声で伝える。
「マリアのそんな感情があの部屋を生み出したのかもしれないのよ」
 可能性として無いとは言い切れない、とマリアドールが蜜金の瞳を揺らめかせて伏せた。
「……いえ、迷いがあったのは確かです」
 それを感じ取ったマリアドールが不安に思うのも当然のこと、己の不徳だと霞架は視線の先で輝く銀色に手を伸ばす。
「不安にさせてしまって……すいません」
 銀糸を梳くかのようにマリアドールの頭を撫で、霞架が囁く。
「それでも、あの部屋で言った言葉が僕の真実です」
 あなたへ向かうこの気持ちは、愛であると今ならはっきりと言えるのだから。
「……もう大丈夫」
 欲張りになる自分が、彼の選択と想いを信じきれなかった自分が嫌になる夜を何度も繰り返したけれど。
「あなたの気持ちが聞けたから」
 もう、迷うことはないのだと、マリアドールが霞架を見上げて微笑んだ。
「はい、マリアさん」
 もう二度と彼女に悲しい思いはさせないと心に決めて――霞架が空気の動いた方へと視線を向けた。
「どなたですか」
 咳払いを一つして、霞架がそう声を掛ける。
『どうして、どうして出てきてしまったの?』
「霞架」
「ええ、あの少女が怪異の原因のようですね」
 泣きそうな声でどうして、と二人を詰るような言葉を続ける少女に霞架が息を吐く。
「辛い現実から逃げ出したい、ですか」
 少女の話を纏めると、大体そういう事なのだろう。
「それであの様に出られなくても問題ない部屋だったようですね」
『望めば、美味しいご飯だって出てきたのよ! 座る場所だって、眠る場所だって!』
「あの部屋に何もなかったのは、マリア達が何も望まなかったからなのね」
 マリアドールが望んだのは、霞架の真実の心だったから。
 霞架が望んだのは、彼女と無事に外へ出る事だったから。
「……ですが、そこに閉じ込め続ける事を望んだ訳でもないでしょう」
『あの部屋に居れば、ずっと居たいって思ったはずだもの!』
「では、何故そこから抜け出す方法が用意されていたのですか」
『それは……っ』
 閉じ込めるだけならば、脱出条件など設けないはずだ。
「辛い現実に立ち向かうのは、文字通り困難です。立ち向かった結果がよいものになるとも限らない」
『そう、そうよ! だから、だから私は……!』
 少女が言葉を詰まらせて、だから、と胸の辺りをぎゅっと握りしめた。
「……マリアもね、昔は辛くて悲しい記憶は全て忘れてしまっていたの」
 この星芒の眸に隠されたのだと、マリアドールが瞳を瞬かせる。
「感情を抱くことが出来ても……」
 負を伴うそれは、全て。
「でも、でもね! 色んな出来事を経て、前へ進めて……」
 その時も隣にいてくれたのは霞架だったと、彼を見上げて。
「何物にも代えられない大切なものを掴んだわ」
 その手を離さぬように、ぎゅっと握りしめた。
「ええ、それでもと歩み続けた先でこそ得られるものがある」
 立ち止まったままでは決して掴み取れないものがあるのだと、霞架が頷く。
「……僕は、僕自身の経験からそう思います」
 視線の先のマリアドールに愛おしそうに微笑みかければ、彼女も花咲くように微笑んで。
「どうか怖がらないで、勇気をあなたに……!」
 マリアドールが歌う、どうか先へ進む勇気をと。
 霞架がその掌を差し出す、揺らがぬ心を示すように。
『勇気……私にもあるのかな』
「あるわ、誰にだってあるものだもの!」
「ええ、あなたの胸にもきっと」
 二人の声に後押しされるように、少女が差し出された手を掴む。
『……ありがとう』
 その優しさに、暖かさに、悲しげな顔を笑顔に変えて――少女の姿はゆっくりと消えていく。
 少女の姿が完全に消え去るまでマリアドールは歌を紡ぎ続け、霞架はその手を優しく労わるように掴んでいたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【守4】◎
やっ~と解放された!清々した!
いやどんな渾名だよ、寧ろ仇名だ!
じゃなくて!これ以上俺に構うな!
今はアチラのお相手してあげるトコだろっ
(怪異の方へ向き直り)

やれやれ…どーして出てきたって、そりゃあ、なぁ?
俺は寧ろアレこそツラ~イ現実との耐久戦みたいだったヨ(天敵がウザ絡みしてくるわ目の前で露骨にいちゃつかれるわ)

――ま、なんだ
俺も塞ぎ込んだり逃げたくなったりした事もあるケドさ
そのまま止まってちゃ、晴れるモンも晴らせない
俺は乗り越えて、進んでくって決めてるから
同情は懐けど、同調は出来ない

…って姐サン~!
全く…!まぁソコは同意だ
可愛い顔が翳ったままじゃあ忍びない
こーなりゃとことん付き合うさ


千家・菊里
【守4】◎
ええ、瞬く間に制覇してしまいましたねぇ(満足顔)
おや清々?清宵の渾名ですか?その調子で仲良くするんですよ
ああ、切り上げた酒宴の続きですか?それも良いですねぇ
ではでは、気分良く打上に帰れる様に――彼女達もちゃんと還れる様に
どんよりしたものは、すっきりさせて行きましょうか

俺もまぁ能天気な性分ですので、大したお話は出来ませんが、そうですねぇ
伊織は辛い辛いと言いつつ、何だかんだで楽しそうですよねぇ(横槍)

辛いと俯きたくなる気持ちも分かりますが、こんな風に顔を上げてみれば、或いは踏み出してみれば、何か違うものも見えるかもしれませんよ

ふふ
では荒療治ですが、力も鬱憤も思い切って出し切って頂きますか


佳月・清宵
【守4】◎
きゃんきゃんとまぁ、良く吠えるこったなァ
それだけ元気がありゃ、小町の二次会にも付き合えるな?
言われるまでも無く、その前にもう一仕事も忘れちゃいねぇよ
(賑やかな此方と打って変わって、随分と沈みきった気配の主達を眺め)

生憎と、俺達ゃ何処に居ようが何処に行こうが、大して変わりゃしねぇよ
何せ根底がこの通り、嫌なモンが道塞ごうってんなら、逃げるよかぶち壊して進む手合の集まりだ

そうもいかねぇ、ままならねぇ――そういうてめぇらの鬱屈を否定もしねぇがな
悪ぃが神だの仏だのの如く、手厚く晴らす手段は持ち合わせねぇ

出来る事といやぁ――そうさな
すっぱりさっぱり、暴れて発散が手っ取り早ぇ
好きなだけ吐き出してけ


花川・小町
【守4】◎
愉しい時間はあっという間ねぇ
あら、何を言ってるの伊織ちゃん
帰ったら打上二次会よ?
――勿論、貴方の前に、あの子達にもちゃんと構うから安心なさいな
(放っておけないものねと、翳る少女達を見て)

確かにあの部屋も愉しかったけれど、私達にとってはね、現実も捨てたものじゃないのよ
辛かろうが何だろうが、とことん愉しく塗り替えてやるわって気概で生きてるしねぇ、私

勿論、時には逃げる事だって悪くない
無理に我慢なんてしなくて良い
でも籠りっぱなしは良くないわ
可愛い顔が台無しよ

だから、そうねぇ――気分転換に女子会は如何?
逃場のない辛苦も、行場のない鬱憤も、思い切り私達にぶつけにおいでなさい
(UCで確と受け止め)



●女子会とはストレス発散の場~終わったら二次会を添えて~
 食べ切れるのか? と思ったのは数舜のこと、テーブルの端から端まで並んでいたスイーツの数々がものすごい勢いで消えていくのを見て、呉羽・伊織(翳・f03578)は要らぬ心配をしたなと心底思ったし、満面の笑みでスイーツを食べ切った千家・菊里(隠逸花・f02716)と花川・小町(花遊・f03026)は既に二次会の相談をしていた。
 とっとと出るぞ、と佳月・清宵(霞・f14015)に促され、四人と二匹が部屋を出た先には――。
「水族館じゃないですねぇ」
「あら、ほんとねぇ」
 菊里と小町が美味しかったスイーツの感想を言い合いながら、出た空間に見覚えがないと首を傾げて笑う。
「何処でもいい! や~っと解放された! 清々した!!」
 もう甘味は見たくないとばかりに、伊織が何もない空間で盛大に息を吐いた。
「おや、清々? 清宵の渾名ですか? その調子で仲良くするんですよ」
「いやどんな渾名だよ!?」
 中華系か? いやそうじゃないだろ、寧ろ仇名だ! と伊織が菊里に言い返す。
「きゃんきゃんとまぁ、良く吠えるこったなァ」
 小型犬か? と、清宵がくつくつと笑いながら手にした煙管でぷかりと煙を吐く。彼にとってもスイーツばかりのテーブルは少々苦痛だったようで、口直しとばかりにぷかぷかやるのを伊織がキッと睨み付けた。
「じゃなくて! これ以上俺に構うな!」
「いいのか? 構ってやらないと寂しい癖に」
「誰が!」
 ガルル、と唸り声が聞こえてきそうなほどの伊織の剣幕に、小町が柔らかく微笑んで。
「あら、何を言ってるの伊織ちゃん、帰ったら打ち上げ二次会よ?」
「そうですよ、切り上げた酒宴の続きだそうです。甘味を肴にしても良いですねぇ」
 でしょう? と小町が菊里に頷く。
「ええ、あの部屋の甘味は大変美味しかったですが、瞬く間に制覇してしまいましたしねぇ」
 少し物足りなかったんです、と菊里が微笑んだ。
「まだ食べるのかよ!」
「ふ、それだけ元気がありゃ、小町の二次会にも付き合えるな?」
「姐サンたってのご指名とあれば、行くしかないけど! それよりも!!」
 アレ! と、伊織が何もない空間に現れた少女達を指さす。
「今はアチラのお相手をしてあげるトコだろっ!」
「言われるまでも無く、その前にもう一仕事も忘れちゃいねぇよ」
 騒がしくも賑やかな此方とは打って変わって、随分と沈み切った気配の持主ばかりだな、と清宵が伊織の指さす方を眺める。
「――勿論、貴方の前に、あの子達にもちゃんと構うから安心なさいな」
 あんな顔をした子達を放ってはおけないものね、と小町も少女達を見遣った。
「ではでは、気分良く打上に帰れる様に――彼女達もちゃんと還れる様に。どんよりしたものは、すっきりさせて行きましょうか」
 美味しかった甘味の礼ですよ、と菊里が微笑んで少女達に向き合う。
『どうして? どうして出てきてしまったの……?』
『あの部屋に居れば、美味しいスイーツがずっと食べられたのに』
 どうして? と、問う少女達に伊織が頭を掻きながら向き直り、溜息交じりに口を開く。
「やれやれ……どーして出てきたって、そりゃあ、なぁ?」
 この面子だぞ? という顔で三人をちらりと横目で見て、取り敢えず自分が出てきた理由を言うかと伊織が言葉を続ける。
「俺は寧ろアレこそツラ~イ現実との耐久戦みたいだったヨ」
『えっ』
『美味しいお菓子があるのに?』
「いや、俺はそこまで甘いもの好きじゃないしな……」
 それに何より、天敵である男がウザ絡みしてくるし、目の前で露骨にイチャつかれるし、精神的な苦痛も大きかったのだとしみじみ訴える。
『そんな……お菓子が得意じゃないなんて……』
『仲良くしたくない人と仲よくしようって思うくらい苦痛だったなんて……』
 そんなこともあるの? と少女達が顔を見合わせて、他の三人を見遣った。
「ふふ、私はあの部屋……とっても愉しかったわ」
「ええ、甘味も大変美味しかったですし」
『だったら、どうして?』
 小町と菊里が顔を見合わせて、少しばかり困ったように笑って少女達に真実を告げる。
「端的に申し上げますと、量が足らなかったんですよ」
「そうねぇ、菊里ちゃんはよく食べるから……あのくらいの量だと足りないわね」
 いっぱいあったはずだけれど?? という顔で、少女達が二人を見る。
「あー、普通の量で考えてたなら食べ切れなかったかもしれないけどネ」
 伊織が若干げんなりしたような顔で、少女達に向かって説明する。
「この一見細身で大した量を食べられなさそーなお兄さんだけど、この中で一番食べるからな」
 正確に言うと、仲間の中ではツートップのうちの一人だ。特に甘味。
「ふふ、褒められると照れますね」
「褒めてはいねぇんだよなぁ!!」
 伊織の突っ込みをものともせず、菊里が笑顔で少女達に話し掛ける。
「俺もまぁ能天気な性分ですので、大したお話は出来ませんが、そうですねぇ」
 いわゆる、メンタルが強いというやつなのだなと少女二人は納得しながら菊里の話に耳を傾けた。
「伊織は辛い辛いと言いつつ、何だかんだで楽しそうですよねぇ」
 ね? と、菊里が伊織と、何故か清宵の方を見て笑う。
「どこが!?」
「ふ、確かにな」
「だから、どこが!?」
 叫ぶ伊織を無視して、清宵が煙管をぷかりとやって煙を吐き出しながら言う。
「生憎と、俺達ゃ何処に居ようが何処に行こうが、大して変わりゃしねぇよ」
 それが例えあの部屋であっても、今この空間で在ろうとも。
「何せ根底がこの通り、嫌なモンが道塞ごうってんなら、逃げるよかぶち壊して進む手合の集まりだ」
 どんなお題であったとしても、笑いながらこなして出てきていただろうよ、と清宵が小さく笑う。
「そうねぇ。清宵ちゃんの言う通り……私達にとってはね、現実も捨てたものじゃないのよ」
『嫌な事や辛い事ばかりあるのに?』
 少女の問いに、小町が華やかな笑みを浮かべて。
「辛かろうが何だろうが、とことん愉しく塗り替えてやるわって気概で生きてるしねぇ、私」
『……あなた達は、きっと強いのね』
 でも、私は、私達は――そんなに強くはなかったの。
「そうもいかねぇ、ままならねぇ。そういうてめぇらの鬱屈を否定もしねぇがな」
「ええ、時には逃げる事だって悪くないって思うわ。それに、無理に我慢なんてしなくて良いのよ」
 自分が出来るからって、それを人に押し付けたりするような人はここにはいないわよ、と小町が頷く。
「ま、なんだ。俺も塞ぎ込んだり逃げたくなったりした事もあるケドさ」
 それでも、と伊織が少女達に真っ直ぐな視線を向ける。
「そのまま止まってちゃ、晴れるモンも晴らせない。俺は乗り越えて、進んでくって決めてるから――」
 どんな時だって顔を上げて生きていく為に、同情はしても同調は出来ないのだと、はっきりと告げた。
「辛いと俯きたくなる気持ちも分かりますが、こんな風に顔を上げてみれば、或いは踏み出してみれば、何か違うものも見えるかもしれませんよ」
「ええ、籠りっぱなしは良くないもの。可愛い顔が台無しよ」
 顔を上げて? と小町が言うと、俯いていた少女達がおずおずと顔を上げる。
「ま、だからといって……悪ぃが神だの仏だのの如く、手厚く晴らす手段は持ち合わせねぇがな」
 腰に下げた灰皿へ、とんと灰を落として清宵がくるりと煙管を仕舞う。
「そうねぇ……気分転換に女子会は如何?」
「……って姐サン~!?」
「勿論、ただの女子会じゃないわよ。逃場のない辛苦も、行場のない鬱憤も、思い切り私達にぶつけにおいでなさい」
「そうさな、すっぱりさっぱり、暴れて発散が手っ取り早ぇ」
「でしょう? ストレス発散ってやつよ」
 うふふ、と笑って小町がなぎなたを手にし、構える。
「では、多少荒療治ですが、力も鬱憤も思い切って出し切って頂きますか」
「全く……!」
 脳筋しかいねぇのかと伊織が笑って、でも確かにと武器を構える。
「可愛い顔が翳ったままじゃあ忍びないからな、こーなりゃとことん付き合うさ」
「気が済むまで、好きなだけ吐き出してけ」
 清宵が狐火を浮かして、どこからでも来いと笑う。
『それが、あなた達のストレス解消法なのね』
 少女達も、どこか吹っ切れたように笑って。
「そうよ、楽しく暴れて、それから笑って、ね?」
 どんな想いだって受け止めてあげると、小町が少女達の放つ攻撃を鮮やかなまでのなぎなた捌きで受け止める。
 小町だけじゃないぞとばかりに、清宵や菊里、伊織も少女達の想いを受け止めんと立ち回った。
 まるで子どもたちが遊ぶかのように楽しげな声をあげ、少女達が消えていく。
『ありがとう、楽しかったわ!』
『さよなら、猟兵さん達』
 彼女達が完全に消えるまで、最後まで見送って。
「……さ、帰りましょうか!」
「ええ、帰ったら二次会ですからね」
「今度こそ酒が飲みてぇ」
「俺もしょっぱいものがいいな~なんて」
 いつも通りの彼らもまた、帰る為に歩き出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル
◎マコ(f13813)と

隣から肯定する声が聞こえた
マコを見れば少女に歩み寄り始めて
やれやれ、と肩を竦め、その背を見守る

お前は、戦うなんて
選択肢取らないって分かってたよ
なんて本人には言わないけど

まあ、敵にも優しく接する
その姿にオレは惚れたし
影響もかなり受けてるんだが

彼が話す姿を見て
後ろから、ついて歩けば
屈んでるマコの頭に手を置き
ぐしゃぐしゃと髪を撫でる

何をしたいか話してみろよ、嬢ちゃん
コイツとオレで良いなら相手になる
あんな狭い部屋で居るよりも
外で買い物とか観光とか、結構、楽しいぜ

それに、
ちらりとマコを見て双眸を細め

部屋に閉じ籠ってたら
大切なヤツに出会う機会もないからな
なんてな、と、にんまり笑った


明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

──そうだな。

眦柔く
フと瞳細め

あの部屋に居れば、嫌なことから逃げられるかもしれない
けどそれはほんの一瞬だけだ
あの部屋は貴女を守るためだけの部屋じゃ無い
逃がさない、逃げられない…あの部屋にいては何処にも行けないんだ、と
これは決して説教なんかではない
唯穏やかに、彼女の苦悩を汲み取るよう真摯に向き合い
頷きながら諭すよう

彼女を傷付けたくない
身体も心も
故に武器は握らず
喜怒哀楽を共にしたい

不意に頭を撫でられくすぐったくも
ルーファスの言葉に頷き
不意に感じる視線に僅か首傾げ
次ぐ彼の言葉に赤くなってしまいながらも
心から同意して笑う



●寄り添う君に、寄り添って
 赤くなった顔をなんとかいつもの顔色に戻し、開いた扉を明日知・理(月影・f13813)が開く。その後ろをルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)が離れぬように歩き部屋を抜け出た先は、またしても見知らぬ空間であった。
「水族館……じゃねぇな」
「そうみたいだな」
 あの部屋とは違って、本当に何もない空間だと理が辺りを見回す。
「ここに元凶がいると考えてよさそうだが……」
 元凶、この怪現象を引き起こしている怪異。恐らく、それをどうにかしなければこの空間からは抜け出せないのだろうと、理がルーファスを見遣る。
「それなら簡単な話だろ、ぶっとばせばいいんだからな」
「それはそうなんだが……」
 そう言いつつ、理がもう一度この空間に何か綻びのようなものはないか、手掛かりはないかと視線を向けた時だった。
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
 誰もいなかった筈の場所に、少女が現れたのは。
「さっそくお出ましか」
 ルーファスが軽く戦闘態勢を取る横で、理が悲しそうな顔をした少女を見つめる。
『あの部屋に居れば、現実の辛いことから逃げられたのに、どうして?』
 悲しい事も、辛い事も、あの部屋に居れば味合わなくて済むのに、と少女が泣きそうな顔で訴える。
「――そうだな」
「マコ」
 眦を柔くして、理が瞳を細める。
 その姿を溜息交じりに見つつ、ルーファスが肩を竦める。
「やれやれ、何かあれば俺は手を出すからな」
「ありがとう、ルーファス」
 ルーファスなら、自分がやろうとしていることを理解してくれるだろうと思ったけれど、信じて任せてくれたのだと感じ取って理が口元に笑みを浮かべながら、少女に向かってゆっくりと歩き出した。
 まったく、とルーファスが腕を組む。少女が悲しげな顔をしていた時から、お前は戦うなんて選択肢を取らないって分かってた――なんて、本人には言わないけれど。
 無口で不愛想に見えるけれど、敵にだって優しく手を差し伸べるような理だからこそ共にありたいと思うし、影響を受けても厭うような気持にならないのだから。
「そういうところに惚れてるんだ」
 理に聞こえぬように呟いて、ルーファスが笑った。
『ねえ、どうして?』
 近寄る理に後ずさりして、少女が今一度問う。何故、自ら苦しい思いをしにいくのかと。
「あの部屋に居れば、嫌なことから逃げられるかもしれない」
 少女を怖がらせぬようにと、前に立った理が膝を突いて視線を合わせる。
「けどそれはほんの一瞬だけだ」
 あの部屋に居る間は彼女の言う通り、嫌な事も辛い事も起きないだろう。けれど、と理が言葉を重ねて。
「あの部屋は貴女を守るためだけの部屋じゃ無い」
『そんなことない、あの部屋にいれば……!』
 必死に言い募る少女に、理が緩やかに首を横に振る。
「逃がさない、逃げられない……あの部屋にいては何処にも行けないんだ」
 あの部屋を心地よく思う者は、確かにあの部屋から出ようとはしないだろう。けれどそれは、まるで蜘蛛の糸のようだと理は思う。
「あるはずの可能性すら、潰してしまう……俺はそう思った」
『可能性……』
 決して説教をしたいわけではない、唯々穏やかに、彼女の苦悩を汲み取ることができればいい。そう願いながら、呟く少女に理が頷く。
 俯き気味だった少女が理の真摯な言葉に、想いに、顔を上げる。
 よく見れば、武器のひとつも持たずに自分の前に居る彼は拳すら握っていない。
『あなたって、お人好しなのね』
「だろ? 俺が困るくらいコイツはお人好しなんだ」
 理の後ろからやってきたルーファスが笑い、屈んでいる理の頭に手を置くと、髪を乱すように頭を撫でる。擽ったそうに笑う理に、少女も仄かに笑みを浮かべた。
「何をしたいか話してみろよ、嬢ちゃん。コイツとオレで良いなら相手になる」
「ああ、俺は君の話を聞いてみたい」
 喜怒哀楽を共にするように、と理が頷く。
「それにな、あんな狭い部屋に居るよりも外で買い物とか観光とか、そういうのも結構、楽しいぜ?」
 部屋の中に閉じこもっていてはできないことは、少女が思うよりもずっと沢山あるとルーファスが言って、ちらりと理を見るとその赤い瞳を細める。
 その視線に僅かにルーファスを見上げ、理が首を傾げる。
「部屋に閉じ籠ってたら、大切なヤツに出会う機会もないからな」
 その視線はお前こそが俺の大切なヤツだと言わんばかりで、理が頬を赤く染めた。
『大切な人……』
「ああ、ルーファスの言う通りだ」
 頬を赤くしつつも、理が笑う。
 その笑みはどこか幸せそうで、少女もつられて微笑んでしまうほど。
 だからだろうか、この二人になら自分の事を話しても、きっと笑ったり馬鹿にしたりはしないと思ったのは。
『あのね――』
 訥々と言葉を紡ぐ少女の話に、二人は彼女が消えるまで耳を傾けたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
【ミモザ2】◎
現実の辛いことって、確かに色々あるよね
ふふ、私もひとりで籠るのは嫌かなぁ

もし目の前の子が他人になら話せるって思うことがあるなら、気持ちを聞けたらいいな
…いい?
英に確認してから、対峙する子に尋ねてみる

もし話してくれるなら相槌を打ちながら話しを聞く
否定はせずに、そうなんだね、って受け止めるだけで指示とかはしたりしない
話して気持ち整理して、どうしたいのかが大切だと思うから
ただ戦うだけって簡単だけど、話して気持ちが少しでも軽くなるなら、それで少しでも救われるならそうしたい

今日もわがまま通してごめんね?
英がいてくれるから、私は自分の思いを通せるんだよね
いつも一緒にいてくれてありがとう


花房・英
【ミモザ2】◎
嫌なことから逃げたって何も変わらないし
ひとりであんな部屋に篭るの俺は御免だな

敵なんだからさっさと倒せばいいのに、ってこれまで思ってたけど
今はそれ以外にもやり方はあるのかなって思えるようになったから
寿からの問いには
寿のしたいようにすればいいって答える
さっさと倒すだけなら俺でも出来るけど
寿のやりたい事は寿にしかできないから

話しを聞いてる寿のそばで話しが終わるのを待つ
こうやって受け止めてくれるから、俺も救われたのかもしれないなとぼんやり思う

話しが終わったなら、ユーベルコードを発動
なるべく苦痛がないように俺が骸の海に還そう

別に。自覚あるならいいんじゃないか?
礼言われることじゃない



●少しずつ変わっていく心
 もう少し見つめ合って話をしていたかったかも、なんて思いながら太宰・寿(パステルペインター・f18704)が扉を開く。その先に足を踏み入れて、きょとんとした顔で後ろにいる花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)に振り向いた。
「英、どうしよう? 水族館に戻ったんじゃないみたい」
「……なら、ここに居るんじゃないか?」
 何が? と、小首を傾げた寿に英が事も無げに言う。
「この怪現象を引き起こした怪異……UDCが」
「あっ」
 UDCと言われて、確かにそうだと寿が辺りを見回す。
 何もない空間で手掛かりを探す為にきょろきょろする寿は、まるで小動物みたいだなと英が思ったのは内緒。
「あっ、英、あれ!」
「うん、見えてる」
 寿が空間の揺らぎを見つけるのと同時に、英も同じ方を向いていた。
 揺らいだ空間から現れたのはどこか悲しげな顔をした少女で、寿と英を見ると肩をびくりと震わせる。
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
 あの部屋に居れば、辛い事も悲しい事もないのに。ずうっとあの部屋で、楽しく暮らすことができたのに。
「嫌なことから逃げたって何も変わらないし、ひとりであんな部屋に篭るの俺は御免だな」
 ため息交じりに英がそう零すと、寿が英らしいねとくすりと笑う。
「現実の辛い事って、確かに色々あるよね。ふふ、でも……私もひとりで籠るのは嫌かなぁ」
 英と一緒ならいいかな、なんて言葉は胸に秘めて寿が英を見上げる。
「英」
「寿のしたいようにすればいい」
「いいの?」
 まだ何も言っていないのに、と寿が笑う。
「聞かなくても大体わかる、あの少女と話をしてみたいんだろ」
「すごい、どうしてわかったの?」
「……そういう顔をしてたから」
 そんな顔してたかな? と自分の顔をペタペタ触って、寿が英をじっと見る。
 敵なのだから躊躇いなく倒してしまえばいいと今までなら思っていたけれど、今はそれ以外にもやり方があるのかもしれないと思えるようになったのは寿の影響なのだろうな、とじっと見つめてくる寿からそっと視線を外す。
「さっさと倒すだけなら俺でも出来るけど、寿のやりたい事は寿にしかできないから」
「……うん、ありがとう!」
 勿論、もし少女が敵対行動を取るようなら全力で寿を守るつもりだけれど。
「よし、それじゃあ頑張っちゃおうかな!」
 くるりと向きを変え、寿が少女に向き合う。
「こんにちは、私は寿よ。もしよかったら、あなたのお話を聞かせてくれないかな」
『私の……話?』
 戸惑うような少女に、寿が笑顔で頷く。
「どうして閉じ込めようとしたのかとか、お題をクリアすれば出られる理由とか……困っていることとか」
 なんでもいいの、と寿が言う。
『……部屋は、あの部屋に居れば現実の嫌な事から逃げられるから』
「そっか……逃げたい人の為のお部屋だったんだね」
『あの部屋に、自分の意思で留まる人はきっと私と、私達と仲良くなれると思ったの』
 仲間になってくれると、思ったの。
「仲間が欲しかったんだね」
 寂しかったのだという少女の想いを感じ取って、寿が話の続きを促していく。そんな寿を見守るようにして、英は二人の会話を聞いていた。
 最初は悲し気だった少女の表情も、徐々にだが明るいものに変わっていくのがわかる。
 こんな風に柔らかな笑顔と言葉で受け止めてくれるから、俺も救われたのかもしれないな……なんてぼんやりと考えて、英は二人の話が終わるのをただ待った。
『あなたは否定したりしないのね』
「否定できるほど、人間出来てないもの」
 えへへ、と笑う寿に少女も笑みを返す。
「それにね、話して気持ちを整理して、どうしたいのかが大切だと思うから」
『どうしたいか……』
「ただ戦うだけって簡単だけど、あなたが話して気持ちが少しでも軽くなるなら、それで少しでも救われるのだとしたら……そうしたいなって」
 これも私のエゴなのかもしれないけれど、それでもと寿は思う。
 ままならない世界でだって、少しの救いがあったっていいじゃない、と。
『うん、ありがとう。きちんと話を聞いてくれた人、あなたが初めてだった』
 嬉しかった、と微笑んだ少女の笑みは本物で、ゆっくりと立ち上がる。
「もういいの?」
 寿の言葉に少女がこくんと頷くと、今まで黙って見守っていた英が動いた。
「なるべく苦痛がないように俺が骸の海に還そう」
 英が静かに力を発動し、花の刻印が少女に浮かび上がって。
『ありがとう、ばいばい』
 別れの言葉を口にして、少女は骸の海へと消え去った。
「……英」
「何」
「今日もわがまま通してごめんね?」
「別に。自覚あるならいいんじゃないか?」
 そうかな? と寿が笑って、英を真っ直ぐに見上げる。
「英がいてくれるから、私は自分の思いを通せるんだよね。だから……その、いつも一緒にいてくれてありがとう」
 改めて言うと照れくさいけれど、言葉で伝えるのはきっと大事なことだから。
「……礼を言われることじゃない」
 だって、そんなの当たり前のことだから。
「ふふ、今度こそ帰ろっか!」
 次第に解けていく空間の中で、寿が花の様に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜田・鳥獣戯画

アルフレッド(f03702)、私は逃避したいほどの現実には直面しておらん。
なぜなら旅団が既に快適だから!(カッ)
ゆえにこの少女の心には寄り添ってやれんのだ。
お前はどうだアルフレッド、あの部屋から出たくないと少しでも思ったか?

ならば彼女に寄り添えるかもしれん。
せめて話を聞いてやりたい。

あの「相手の頼みごとを聞く」というお題を出したのはお前か?
誰かに頼みたいことがあるのか。
聞かせてみろ。私かこの男が、できないこと以外なら聞ける。

完璧ではない者ほど人にやさしくなれる。
悲しむことではない。

攻撃を仕掛けてくるようなら対抗しよう。反撃はアルフレッドに任せて彼を庇う。
しかしいいところで多分腹が鳴る


アルフレッド・モトロ


姉御(f09037)と寿司食いに行こうと思ったのになんだここは!?

えっ、誰?迷子か?
ここは危険だ、一緒に出…って
敵!?

えー
見た目小学生だし戦うの嫌だな…
よし、ちょっと話聞いてみるわ

なるほど
お前は何かが嫌でここに居るってことなんだな
でも「完璧に何でもこなす最高の自分」になったんだろ?
どうしてここから出られないんだ?

学校も仕事も行ってない俺にも嫌なことが多少ある
けど辛い現実から目を溟ったら
好きなものまで見えなくなっちまう
だから俺は目を溟らない

俺は誰かを傷つけるのは好かない
例えそれが敵であっても

その結果生まれたのがこのUCだ

…ごめんな
俺は今から姉御と寿司を食いに行きたいんだ
現実世界に帰してもらうぞ



●それはそれとして寿司が食べたい二人なので
 腹が空きすぎて辛い、そんな桜田・鳥獣戯画(怒りのデスメンタル・ロード・f09037)を必ずや寿司屋に連れて行かねばという使命感でいっぱいになったルフレッド・モトロ(蒼炎のスティング・レイ・f03702)が扉を開けた。
「って、なんだここは!?」
「寿司屋ではないのか……」
 ぐぅ……と寂し気に腹の音が見知らぬ空間に響く。
「いや姉御、さすがに寿司屋に直結はしてないと思う。せめて水族館だと思う」
「そうか、そうだな。いや違うな、そういう話ではないな」
 ここが何処かと言う話だな、と空腹感で若干回っていない頭で鳥獣戯画が言うと、そういやそうだったなとアルフレッドも頷いた。
「なんていうか、不思議な空間だよな」
 きちんと識別できない、と言うべきだろうか。それだというのに、上下左右ははっきりしている……どこか停滞した様な空間。
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
 そこへ響くのは、まだ少女と呼んで差し支えないような声で。
「えっ、誰? 迷子か?」
 アルフレッドが思わず声の主を探し、見つけた! と駆け寄る。
「ここは危険だ、一緒に出……」
「アルフレッド、そやつがこの現象の原因ではないのか」
「って、敵!?」
 素早く後方へと飛び去って、アルフレッドが少女と鳥獣戯画を交互に見遣る。
『どうして? あの部屋に居れば現実の悲しい事も辛い事も感じる事はないのに』
「現実からの逃避……だな」
 ううむ、と鳥獣戯画が唸り、それからアルフレッドに向かって腹をさすりつつ、カッと目を見開いて叫ぶ。
「アルフレッド、私は逃避したいほどの現実には直面しておらん。なぜなら旅団が既に快適だから!」
 彼の地こそが私のホームだからな……としみじみ鳥獣戯画が頷く。
「あ、でもちょっとこの空腹からは目を逸らしたい……具体的に言うと早く寿司が食いたい」
 いやそうなると目を逸らしている場合ではないのか、空腹という現実を受け入れてこそ寿司が旨い。
「ゆえにな、私ではこの少女の心には寄り添ってやれんのだ」
「えー」
 ホントにぃ? と思いはしたが、姉御が言うならそうなんだろうとアルフレッドが頷く。
「お前はどうだアルフレッド、あの部屋から出たくないと少しでも思ったか?」
「……ッ」
 その沈黙こそが肯定に他ならないと、鳥獣戯画がアルフレッドを見守るように笑う。
「ならば彼女に寄り添えるかもしれん。最終的には戦うかもしれん相手だが、せめて話を聞いてやりたくてな」
「わかったよ、姉御」
 何より見た目が小学生くらいの少女だし、戦うのはなんだか気が引ける。話を聞くことでそれが回避できるかもしれないのであれば――。
「よし、ちょっと話聞いてみるわ」
 頭を掻きつつ、アルフレッドが少女へと歩み寄った。
「なあ、お前はどうしてここに居るんだ?」
『……外は、怖いから。嫌な事ばっかりなんだもの!』
「なるほど、お前は何かが嫌でここに居るってことなんだな」
 こくりと頷いた少女に、でもさ、とアルフレッドが問う。
「お前、『完璧に何でもこなす最高の自分』になったんだろ? どうしてここから出られないんだ?」
『う……だって、こわ、怖いんだもの……!』
 どんなに完璧で最高の自分になったって、外はどうしても怖いからと少女が項垂れる。
「俺はさ、学校も仕事もないけど嫌な事なら多少なりともあるぜ」
 楽しい事の方が圧倒的に多いけど、少しの嫌な事はそれを曇らせる時がある。
「けど辛い現実から目を溟ったら、好きなものまで見えなくなっちまうだろ。だから俺は目を溟らない」
 どんな逆風を受けたって、目だけは開いていたいんだとアルフレッドが笑った。
「一つ聞きたいのだがな」
 黙って聞いていた鳥獣戯画がそっと少女に近寄って、その顔を覗き込む。
「あの『相手の頼みごとを聞く』というお題を出したのはお前か?」
 こくりと頷いた少女に、ふむ、と考えるような仕草を見せて、再び口を開く。
「なら、お前は誰かに頼みたいことがあるのか」
『そ、れは』
「聞かせてみろ。私かこの男が、できないこと以外なら聞いてやるぞ」
 命を寄こせとかそういうのは無理だがな、歌えとか踊れとかなら私は割と得意だぞ、と鳥獣戯画が唇の端を持ち上げた。
『私、私の願い事――そばに、ずっとそばに居て欲しい』
 ぽろりと零れた少女の言葉は、きっと真実彼女の願いだったのだろう。凝ってしまうほどの、願い。
「ふむ、すまんがそれは聞けんな。ずっとそばに居るのは無理だ、今この瞬間のみならば可能だが――お前さんが望むのはそうじゃないのだろう」
『いいの、だって、知ってるもの。そばに居て欲しい人、あなた達じゃないの』
 でも、誰かは忘れてしまったの、と少女が儚げに笑う。
「そうか、なら……あるべき場所に還るといい」
「姉御、俺がやる」
 鳥獣戯画の前にアルフレッドが出る。
「俺は誰かを傷つけるのは好かない、例えそれが敵であっても」
 金色に浮かぶ蒼い瞳が真っ直ぐに少女を見据えて、蒼き溟の滄炎が少女を包み込んでいく。
「その結果生まれたのがこの力だ」
『綺麗、まるで……海の中にいるみたいね』
「……ごめんな、俺は今から姉御と寿司を食いに行きたいんだ。現実世界に帰してもらうぞ」
「完璧ではない者ほど人にやさしくなれる、悲しむことでは」
 ぐぅぅぅぅ。
「……ない」
 アルフレッドの断りに、鳥獣戯画の腹の音に、少女がふわりと笑って。
『さよなら、ありがとう』
 海へ融けるように、消えて行った。
「……やっぱり私ではしまらんな!」
「はは、姉御らしいや。さー寿司だ、今度こそ寿司食いに行こうぜ!」
「うむ、はち切れんばかりに食べてやる!」
 解けていく空間の中で、二人がそう言って笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アパラ・ルッサタイン
【夜灯2】

現実から逃げたい、かァ
あたしにも経験ある
高額の鉱石を割った時は2日程引き篭ったからね

大小あれど誰もが持つ想いだ
話を聞いて昇華出来るならそうしたい
ガクセイ服を着たお嬢さん
貴方の『理由』を聞かせてもらえる?

「学校には、好きな小説の楽しさを共有できる仲間がいない。話を振っても興味を持ってもらえなかった」

嗚呼、好きなものを話し合える仲間が居るかって大切だ
勧めて響いて貰えなかった哀しさも、少しは解るつもり
(店での接客の日々を思い出し)

ならば一つ
あたしにお勧めしてみない?
練習って事でさ
少女の話を真剣に聞き
ガンガン質問もしちゃうよう
作品の考察から議論も、何でも来い

あたしも以前はそう本を読む質ではなかった
けれど、ちょいと素敵な絵本作家さんが居てね
あ、隣の彼の事だけど
次第に本の楽しさを感じる様になって来たの
だから今のあたしに貴方の話は興味深い

例え好きな事が届かなかったとしても
その時タイミングが合わなかっただけなのさ
次は届くかもしれない
けれど部屋に篭っていたら次も掴めやしない
さ、外に行ってみようよ


アウグスト・アルトナー
【夜灯2】

眼前には二人の少女
その片方が、ぼくに言います

『夢がないの
 何がしたいのかも分からないのに
 どうして学校なんて行かないといけないの
 周りはやりたい事に向かって進んでいるのに』

なるほど
何も見えない闇の中、というわけですか

それでも、夢がないのでしたら、探すしかないんです

あなたの夢は、どこにもないのではありません
あなた自身まだ見つけていない、あなたの夢は、その闇の中のどこかに必ずあるはずです

あなたの前にはいくつもの道があるわけですが
道自体が見えないのでは、どれを選ぶべきかなんて分かりませんよね
辛いですね

どうして学校なんて、と仰いますが
学校は、知識を学ぶための場
そして、知識は灯りです

それぞれの道が、どんな道であるかを知ること
未知という暗闇を照らすこと
それが必要だからこそ、学校に行くんですよ

灯りで道の上を照らせば
きらりと光る何かが見えるかもしれません
きっとそれがあなたの夢なんです

真っ暗闇での宝探しより
灯りがある宝探しの方が簡単でしょう?

あなたの夢、見つかることをお祈りします
どうか、良い夜を



●夢を見つける為の灯火
 ほんのり赤い顔で気恥ずかしそうに――けれど、どこか嬉しそうなアウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)とアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が共に部屋を出た先に広がっていたのは、またしても見たことのない空間であった。
「水族館……ではないようだね」
「ええ、さっきの部屋よりも得体の知れない……何もない場所と言うべきでしょうか」
 見渡しても先が見えない、けれどすぐそこが行き止まりのような、どこか異質な空間に感じられる。
「じゃあ、ここに今回の原因がいると思って間違いない……かな?」
「そうですね、気を付けていきましょう」
 どちらからともなく手を繋ぎ、視線を合わせてから前を向いて辺りを探る為に歩き出す。
「敵が創り出した空間にしては、あんまり嫌な感じがしないね」
「殺気がない……と言うと語弊がありますが、そういった敵対する意思が薄いように思います」
 ああ、とアパラがアウグストの言葉に頷いた。
「それだ、アウグストさんの言う通り……おや、お出ましのようだ」
「……少女?」
 二人の眼前に現れたのは、どこか浮かない顔をした二人の少女。
『どうして出てきてしまったの?』
『あの部屋に居れば、現実の辛い事からも悲しい事からも逃げられたのに』
 心底不思議で、出てきてしまった事が悲しいというような声音で少女達が二人に言葉をぶつける。
「現実から逃げたい、かァ。それで、あの部屋はその為のものだったんだね」
 アパラの言葉に、少女達がこくりと頷く。
「どうして、と問われると困ってしまいますが……ぼくたちにはあの部屋は必要ではなかったから、でしょうか」
「そうだね、辛い事や悲しい事がひとつもない、なんて言わないけれど」
 何せ、現実から逃げ出したいと思った事なら何度かあるからね、とアパラが言う。
「おや、アパラさんにもそんな経験が?」
「あるとも、高額の鉱石を誤って割った時は二日ほど引き篭もったからね……」
 あれは本当に辛かった、とアパラが苦い顔をして、でもねと笑う。
「割れた鉱石をどうにかするアイデアが浮かんで、それを形にする為に引き篭もるのを止めたのさ」
「アパラさんらしいですね」
 だろう? なんて笑うアパラが、少女に向き合う。
「さて、あたしはこんなだからね、あの部屋は必要じゃなかった。でも、お嬢さん達はそうじゃなかったんだろう?」
「ぼくも……そうですね、アパラさんとはまた違いますが必要だとは感じなかった。でも、あなた方が必要としていた事はわかります」
 たとえ自分達に必要なかった部屋であっても、必要とする者がいるからこそ創り出されたのだから。
『そうよ、だから同じように、誰も苦しまないようにと思ったのに』
『あの部屋を作り出したのに』
 どうして、自ら辛い場所に行こうとするのかわからないと、少女達が言葉を零した。
「現実から逃げたい、大小あれど誰もが持つ想いだからね」
 アウグストさん、と小さな声でアパラが隣の彼を呼ぶ。
「あの子達の話を聞いて、その想いを昇華出来るならそうしたい」
「はい、ぼくもそう思います」
 丁度二人ずつなのだから、一対一で話を聞こうと二人が頷く。
「よし、ガクセイ服を着たお嬢さん。もしよかったら、貴方の『理由』を聞かせてもらえる?」
「ぼくはあなたの話が聞きたいです」
 それぞれに声を掛けると、二人の少女が目をぱちりと瞬かせて、自分を呼んだ者の方へと一歩を踏み出した。
 アパラの方へ近寄ってきた少女が、おずおずと彼女を見上げる。
「さ、聞かせておくれよ」
『……学校にはね、好きな小説の楽しさをわかってくれる仲間がいなかったの。興味を持ってもらおうと思って話をしてみても、だめだったの』
「嗚呼、好きなものを話し合える仲間が居るかどうかってのは大切なことだね」
『そのうち、誰も話を聞いてくれなくなって……』
 俯いてしまった少女に、アパラがいつかの自分を重ねて目を細める。
 店での接客の日々の中、この人にはきっとこれが合うだろうと勧めたランプがその人には響いて貰えなかった、そんな哀しさと似ている。
「同じではないけれど、あたしにも少しは解るよ」
 響かなかった言葉の、想いの哀しさは。
『ほんとう?』
 ええ、とアパラが頷き、こほんと咳払いをひとつ。
「ならば一つ、あたしにお勧めしてみない?」
『お勧め?』
 きょとんとした少女に、そうだと笑う。
「練習って事でさ、気軽にね? ああ、でもあたしは気になるところはガンガン質問しちゃうと思うけど」
 作品の考察から議論から、何でもこいだと言うアパラに、少女が頬を赤くして口を開いた。
『あの、あのね……!』
 少女が好きだという本はいわゆるハイファンタジーと呼ばれる種類のもので、少し複雑な設定から学生の内だと難しいと感じる者も多いだろうと思われる小説。
 けれど、少女の熱心な説明と魅力的なキャラクターへの愛情は、アパラの心を惹きつける。
「面白いじゃないか、本屋で探してみようかな」
『あ、でもちょっと……だいぶと、分厚いのよ』
 文庫サイズではなくハードカバー、厚さもそれなりでお値段もそれなりだ。
「ふふ、あたしも以前はそう本を読む質ではなかったんだけどね」
『本を読むきっかけがあったの?』
「そう、ちょいと素敵な絵本作家さんが居てね」
 隣の彼の事だけど、とアパラが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「絵本から始まって、徐々にだけれど本の楽しさを感じるようになって来たの」
 だから、今のあたしに貴方の話は興味深いとアパラが言う。
「読んだことのない本も、分厚い本だって今は読んでみたいと思うのさ」
『……ありがとう、とても嬉しい』
 はにかむように微笑んだ少女に頷いて、ウィンクをひとつ飛ばす。
「たとえ好きな事が届かなかったとしても、その時はタイミングが合わなかっただけなのさ」
 次は届くかもしれないと、アパラが遊色の瞳を煌めかせた。
 一方、アウグストが話を聞きたいと申し出た少女は、溜息交じりに彼に向かって言葉を投げる。
『あたしね、夢がないの。将来何がしたいとか、何になりたいとか、そういうのがないの。何がしたいのかも分からないのに、どうして学校なんて行かないといけないの?』
 周りの子はやりたい事に向かって進んでいるのに、自分は立ち止まったままで。焦りもあるし、どうして自分だけ何もないのかなんて悩んだりもして。夢はなに? って聞かれる度に、笑って誤魔化して――。
『疲れちゃったの』
「なるほど……何も見えない闇の中、というわけですか」
 自分のしたい事がわからない、珍しい事ではないとアウグストは思う。特にこれくらいの年頃の少女であれば、迷うことも多いだろう。
「それでも、夢がないのでしたら、探すしかないんです」
『探す……? 何にもないのに?』
 少女の言葉に、アウグストが静かに首を横に振る。
「あなたの夢は、どこにもないのではありません」
 首を傾げた少女の心に伝わるように、アウグストが優しい声音で告げる。
「あなた自身まだ見つけていない、あなたの夢は、その闇の中のどこかに必ずあるはずです」
 ぼくが彼女を見つけたように。
「何もない、何処にも行けないと思っているかもしれませんが、あなたの前にはいくつもの道があるのです」
 今はまだ見えない道で、どれを選ぶべきかも分からないだろうけれど。
『見えないんじゃ、どうしようもないもの』
「ええ、見えないのに選べと言われたら……辛いですね」
 学校は選択の多い場所でもある、悩んで決められなくて、急き立てられて。それは少女を追い込んだのだろうと、アウグストは思う。
「学校なんて、と仰いますが……学校は、知識を学ぶための場です」
『知識』
「はい、そして知識とは灯りです」
 暗闇を照らし出す、誰しもが持つ武器だ。
「それぞれの道が、どんな道であるかを知ること」
 見えない道を見えるようにしてくれるだろう。
「未知と言う暗闇を照らすこと」
 知らぬことを知るための、手段のひとつ。
「それが必要だからこそ、学校に行くんですよ」
 知識を得る為に、何も知らないまま流されて行かぬように。
『私の道も、見つかる?』
「ええ、灯りで道の上を照らせば、きらりと光る何かが見えるかもしれません」
 きっとそれが、あなたの夢――。
「真っ暗闇での宝探しより、灯りがある宝探しの方が簡単でしょう?」
『そう、そうね。灯りがあれば、見つけることができるかもしれないね』
 私の夢、と少女が微笑んだ。
 さあ、とアパラが両手を叩く。
「けれど部屋に籠っていたら、次も夢も掴めやしない」
 そうだろう? と、少女達に言い、アウグストに微笑みかける。
「ええ、ここから出なくては難しいでしょう」
「さ、外に行ってみようよ」
 それは暗い夜空を照らすような輝きで。
『私は、次を掴む為に……』
『私は、夢を見つける為に……』
 そう口にする少女達の身体が次第に透き通り、アパラとアウグストに向かってありがとうと手を振って。
「あなた方の夢、見つかることをお祈りします。どうか、良い夜を」
 灯りを胸に、進んでいけますように――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
坊と/f22865
心情)ああ、悪くない手法さ坊よ。ヒトは恐怖をふくらませっからなァ。
なら俺は手伝おう。いくらでも逃げ道、用意しよう。使うかどうかは嬢ちゃんらに任せるがね…選択こそはいのち"の権利さ。
行動)坊と嬢ちゃんに触れンよにして、神紋に指先くっつけよう。オヤいいとこだ。寒冷は俺の得意とするところさ。さァて…ヒトのユーベルコードに干渉する形になるが、こう見えて器用でね。うまくやるとも。こころと思考を単純化させる毒、うっすら空気に含ませよう。坊と遊んでるうち、リアルへの恐怖が落ち着くようにな。しばらくのんびりふたりが遊ぶのンを眺めてよォか。一般動物の眷属ども混ぜてもいいな。ほれ、ホッキョクウサギだぜ。(すくっ…と立ち上がるウサギ) ごらんよこのコレジャナイ感を。
そンで…おォい吉兵衛。お前のメダルくれてやれ。思いだけ飛ばして、いまだ生きてるやつらもいるだろう。土産に持ってきな。戸に貼りゃ、いつでもいっとき逃げられる。楽しい部屋を用意してもらったお返しさ。


雨野・雲珠
かみさまと/f16930
※動いている時は常にスキップです

俺…俺もそうなんですけど。
嫌だなあ嫌だなあってずうっと考えていると
何をするにも心の中がそれ一色に染まって、
下手すると本番より苦しくて辛いんです。
不毛だと分かっていても、自分では止められなくて…

ですから、俺と気分転換しましょう!
気分転換には場所を変えること。
そして童心に返るのが一番です!
行きますよかみさま!お嬢さんたち!

【手をつない】で【一之宮】へご案内します。
雪深い隠れ里、俺の揺籃の地。
きれいな里でしょう?ここは村の広場なんです。
※里の入口方向へは行けなくなっています

何して遊びましょうか。隠れ鬼か、鬼ごっこか
最初は俺が鬼です。
高速スキップで追いかけます!
いきますよ、いーち!

あれ、動物がいるなんて…かみさまのご眷属かしら
見てくださいお嬢さん、あそこ
ほらかわい かわ…?
俺が描いた犬みたいな足の付き方してますね…

疲れ切るまで皆で転げ回って遊びましょう。
海に還るとしても、寝台で目覚めるとしても、
楽しい思い出が皆さまのお心を守りますように



●それは春の雪のような軽やかさで
 朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)の指導のもとにトンチキな薬を完成させた雨野・雲珠(慚愧・f22865)は、その薬の効果によって一時間は歩くのも走るのも全てスキップという状態で扉を開けた。
「あ、開きましたよ!」
 よかったですね、かみさま! と、無邪気に喜ぶ雲珠に、そうだなァと笑みを浮かべて逢真も扉をくぐる。
「あれ……何処でしょう、ここ」
「水族館じゃねェのは確かさ」
 それは俺にもわかります、と言いつつ、雲珠が辺りを調べようと足を踏み出して気付く。
「……かみさま、このスキップはいつになったら効果が切れるんでしょう……?」
「そうさなァ、一時間ってとこだな」
「えっ? ながっ、長くないですか?」
 いつも作ったり試されたり渡されたりするトンチキアイテムは、せいぜい五分とかのはず。予想外の長さに雲珠が困惑し、それから大事な事に気が付いた。
「あの、もしかして今ここで敵が出ても俺はスキップで……?」
 控えめに尋ねる雲珠に、逢真がにっこり笑って頷く。
「もーーーー!!!!」
「ひ、ひ、薬によって効果時間は違うモンさァ。それはそれとして、スキップで戦う坊もきっとかわいいよゥ」
 そういう問題じゃないんですよ!! と、詰め寄る代わりに逢真の周囲をスキップで回る雲珠にかみさまはただ笑うだけだ。
「仕方ありません、これはこれでなんとかします……!」
「前向きだねェ、坊ならなるようになるさ」
 ちょっぴり笑いすぎて腹筋が痛くなってきた逢真がそう言って、視線を一つの方向へ向ける。
「お客さんのようだぜ」
 つい、と視線で示す方に雲珠が向くと、そこには今までいなかった筈の少女が二人立っていた。
「女の子……?」
『どうして、どうして出てきてしまったの?』
『外は悲しい事や苦しい事ばかりなのに、あの部屋に居ればそんな苦しみから解放されたのに』
 そう訴える少女達を逢真はただ黙って聞いている、否定せず全てを受け入れるが故だ。
 雲珠はといえば、その嘆く心に寄り添うように春の瞳を瞬かせた。
「あの、俺……俺もそうなんですけど」
 少女達に向かって、はい、と手を上げた雲珠が言う。
「嫌な事に対して、嫌だなあ、嫌だなあってずうっと考えていると、何をするにも心の中がそれ一色に染まってしまうんです」
 そうなってしまえば、考えるのを止めようとしても止められなくなるし、ふとした瞬間にそれが浮かび上がって来てしまうのだ。
「下手すると本番よりも、そうやって考えてしまう時間の方が苦しくて辛いんです」
 なんとか違う事を考えよう! と、がむしゃらに違う事を考えても、すぐに浮かび上がってきて。
「不毛だと自分では分かっているのに、どうしようもないんですよね……」
 しみじみと言う雲珠に、少女がぶんぶんと首を縦に振る。
『そうなの、嫌な事ってずっと考えてしまうから。だから、だからね、私は部屋を出なければそれで解決するって思ったの』
『そうです、外に出たくないんだもの、それが怖いんだもの! 外に出なければ、あの部屋に居れば……』
「……解決、なさいましたか?」
 雲珠の問いに、少女達が一瞬表情を曇らせる。
『……外に出るよりは、ずっといいわ』
 それはきっと、解決はしていないということで。
「わかりました! では、俺と気分転換しましょう!」
『気分転換?』
 どうやって? と、首を傾げた少女に向かって、雲珠が笑みを浮かべる。
「気分転換には場所を変えるのが一番です、そこにいるとそればっかり考えてしまいますから」
 俺はいい事を思いつきました、と雲珠が背負っていた箱――箱宮をそっと下ろす。
「ここはひとつ、童心に帰るのが一番です!」
「ああ、そいつは悪くない手法さ、坊よ。ヒトは恐怖をふくらませっからなァ」
 ぐっと拳を握り締め、でしょう! と、逢真の後押しに胸を張る。
「この箱は隠れ里に繋がっているんです。手を繋いで……あ、かみさまは繋げませんから気分だけで!」
「はいよォ」
 喉で笑って、逢真が少し離れたところから手を振った。
「いいですか? では、お嬢さんたちはこう手を繋いで……」
 少女同士手を繋ぎ、片方の少女と雲珠が手を繋いで。
「よし! いきますよかみさま、お嬢さんたち!」
 雲珠が箱宮に描かれた神紋に触れ、中の隠れ里へと吸い込まれていく。それを確認してから、逢真も少しばかり軛と結界の締め上げを強めて神紋に指先をくっつけた。
 移動した先は雪深い穏やかな里、空気はきんと冷えていて身も心も清められそうだというのに、不思議とあたたかい。
「オヤ、いいとこだ」
「綺麗な里でしょう? ここは村の広場なんです」
 ここは雲珠の揺籃の地、生まれ育った土地そのもの。
「寒冷は俺の得意とするところだが、冷え込ンでねェな」
 神域か、それに近しいものかと少しばかり考えて、今は必要ない考えだなと逢真が笑った。
「さ、何して遊びましょうか」
『遊ぶ……』
『私達と遊んでくれるの?』
 雪の積もる広場をきょろきょろと見回しながら、少女達が雲珠に問う。
「はい! 隠れ鬼でも、鬼ごっこでも!」
 最初は俺が鬼です、と朗らかな声で笑うと少女達が顔を見合わせて、それじゃあ鬼ごっこ! と駆けだした。
「鬼ごっこですね、十数えたら追い掛けますからねー!」
 そう、この高速スキップで!
「いきますよ、いーち!」
 数を数える雲珠の後ろで、逢真が喚び出した眷属に腰掛けながらその様子を眺めて、ひひ、と笑う。
「さァて……ヒトのユーベルコードに干渉する形になるが、こう見えて器用でね」
 うまくやるとも、と呟きながら高速スキップで少女達を追い掛ける雲珠を見遣る。
「それに、坊の力は素直だからなァ」
 真っ直ぐに伸びる樹のように、時に迷えどその本質は変わらぬもの。
 煙管を取り出し口を付けて吸うと目を閉じて、ふう、と吹き出す。
「こころと思考を単純化させる毒、なァに悪いモンじゃないさ」
 流れる清水に血の一滴を落とすように、この隠れ里に影響が出ぬよう薄っすらと空気に含ませる。
 雲珠と遊んでいるうちにリアルへの恐怖が落ち着くような、鎮静剤のような効果を持つ毒だ。
「言っただろォ? 毒と薬は紙一重なのさ」
 使いようによってはこの身の毒も、薬と成り得る。ただちょいとばかり毒が強すぎで、使いどころが限られるけれど。
 いい具合に馴染んだのを確認して、白の眩しさに伏し目がちに目を開ける。
 それから、自分の周囲に煙管の煙を纏わせて、のんびりと雲珠が少女達と遊ぶのを眺めた。
「はい! 捕まえました!」
『どうしてスキップでそんなに早く動けるの?』
『スキップってすごいのね……』
「これには深い事情がありますので、説明は省略しますが……」
 トンチキ実験の結果であるが、説明するには難しいので以下略である。
 きゃあきゃあと話をしている子らを眺め、逢真がふと思いついたことを実行に移す。
「あれ、動物がいるなんて……」
 この隠れ里の中には、だれもいないはずなのに。
 そう考えて、かみさまのご眷属かしら? と、ちらっと逢真を見遣れば笑っていたので、ああそうなのだなと雲珠が目を輝かせる。
「見てくださいお嬢さん、あそこ」
 動物が居ます、と指をさせば少女達もそちらに目を遣って。
「ウサギですよ、ほらかわい――」
 雲珠たちの視線を感じたのか、丸くてふんわりとしたフォルムのウサギがすくっ……と立ち上がった。
「かわ……? え? ウサギ?」
「ホッキョクウサギだぜ」
 間違いなくウサギだと逢真が頷き、ごらんよこのコレジャナイ感を、と煙管をふかす。
「うさ、待ってください俺の知ってるウサギと違う……」
『ウサギの足ってこんな風だったかしら……?』
「俺が描いた犬みたいな足の付き方してますね……」
 想像してみてほしい、ウサギの身体に犬か猫みたいな足があるところを。ウサギが立つと言われたら、前足を上げて後ろ脚でお尻を地面につけるような立ち姿をイメージするだろう。それがこう、四足で猫のように立っているのだ、違和感が凄い。
「座ってる姿はウサギですのに……」
 何かよくわからない裏切りを受けた気持ちです、と零しつつも、こういう進化を遂げた種なのだなと納得した雲珠は再び鬼ごっこを再開する。
 疲れ切るまで跳ねて、走って、転げ回って遊んで。
 そうすればきっと、その心も軽くなるはずだとスキップが上手になる薬の効果が切れるまで遊び続けたのだった。
『ふふ、あはは、こんなに遊んだの久しぶりだわ』
『もう動けない、かも』
 雪の上に転がって、楽しかったと笑い合う。
「楽しかったかい」
 逢真が転がって笑ういのちに笑んで。
「そンならお土産さ」
 おォい吉兵衛、お前のメダルをくれてやンなと逢真が呼び掛けると、デフォルメされた妖怪狸が楽車を引いた絵が描かれたメダルがふたつ、少女達の手の中に落ちた。
「戸に貼りゃ、いつでもいっときだけ逃げられる」
 凝りの中にはいまだ生きているやつらもいるのだろ、と逢真が慈愛に満ちた視線を向ける。
「楽しい部屋を用意してもらったお返しさ」
「はい、俺も楽しかったです」
『ありがとう』
『私達も楽しかったわ』
 メダルを手にした少女達が嬉しそうに微笑んで、ゆっくりとその姿を消していく。
「あ、お姿が……」
「還るンだろうさ」
 その言葉に、雲珠が消えゆく少女達を見て祈るように目を閉じる。
 海に還るとしても、寝台で目覚めるとしても、どうか楽しい思い出が皆さまのお心を守りますように、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)

不満や憤りばかりで殺意は少ないようだな。
ならば実力行使は極力避ける。露にも言う。

「生きることは小なり大なり戦うことだろう?
あの部屋に留まることは私にとっては死に等しい。
私は現実と戦い抗って意味や価値を見出したいからな。
だから、あの部屋から出た。」
『部屋から何故出てきた?』という問いの返答だ。
親族と名乗る者達から呪われていると告げられて。
軟禁され両親の温かみも知らない。
「現実に憤りがあるならば、自分が変わってみてはどうだ?
それからでも現実逃避はできるだろう?」
別世界の仕事だったが同じく現実から逃れたい少女を思い出す。
彼女は自分を変えようと努め。結果家族や周囲を変えた。
「逃れるならそれもいい。生きる一つの手段だろう。
だが、関係のない者達まで巻き込むな。少々迷わきゅぷ…」
…。…おい。露…突然…頬を…ぷにぷに…触れるな…。

もし相手が拒絶の意思を殺意に変えて攻撃をしてきたら反撃を。
破魔を付与しただけの【黒き腕】で軽く平手打ちをする。
攻撃の意思を示さない場合には一切攻撃はしない。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
「駄目よ。レーちゃん。もっと言い方、あるわよ~♪」
レーちゃん淡々と冷静に言うからなんだろーけどキツイわ。
タイミングを計ってレーちゃんの頬に触れてぷにぷにしてみる♪
わーい。やっぱり、レーちゃんの頬って気持ちがよくて好き~。
…そのあとめちゃくちゃ額にデコピンされたわ。…痛ひ…。

…生きてると辛いとか苦しいことばかりなのよねー…。
事件の原因の女の子をぎゅうーって抱きしめてみるわ。
レーちゃんにするみたいにぎゅきゅぅーって抱きしめる。
そういえば…。
あたしが思いだすのはアリスの男の子。
火事でお姉ちゃんが亡くなって自分は助かった男の子。
最後はちゃんと自分と向き合って帰っていった男の子。
今何してるのかしら。すっごく可愛かったわ~♪
あ。関係なかった。えっと。
「少し勇気だして、一歩踏み出してみないかしら?
お部屋に閉じ籠るだけが逃げじゃないと思うの。
例えば? そーねー。例えば。
別の組織とか場所に移ってみるとか反論してみるとか…?」
なでなでなで。
「その場所に拘らなくてもいいんじゃない?」



●生きる意味を
 さっき触ったばっかりだけど、レーちゃんの頬もう一回触れないかしら~? なんて考えながら、開いた扉から出ていくシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の後ろを追い掛けて神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)も部屋の外へと出る。
「……露」
「なーに? レーちゃん」
 ぴたりと立ち止まったシビラの背から顔をひょっこり出して、露がシビラの顔を覗くように見上げた。
「どうやらまたわけのわからない空間に案内されたらしい」
「え~? あらー……水族館じゃないのね~」
 部屋を出た先もまた怪異による空間とはな、と息を吐きながらシビラが辺りを警戒するように見回す。
 どこか停滞した様な空気の漂う空間だと感覚的に感じ取りつつ、怪しいところや空間としての綻びがないかを探す為に再び歩き出した。……露をくっつけたまま。
「露、くっつくな」
「え~、はぐれないようによ!」
 はぐれるような障害物も何もない空間だが? とは思ったが、敵によって分断されても面倒だと渋々ながら露を腕にくっ付けて進む。
「どこかおかしいと思う場所はないか?」
「う~ん、おかしいって言われると……この空間全部がおかしいのよね」
 露の感覚的な説明を聞き、纏めるとこうだ。
「つまり、殺意がないってことだな?」
「そうよ~、レーちゃんも感じてると思うんだけど……あの白い部屋も私達を害するつもりはなかったでしょう?」
 確かに、とシビラが頷く。
「だからかしら、なんだかいるはずなのに見つけ難いって言うか~」
 ううん、と小さく唸る露を横目に、シビラが冷静な視線を辺りに飛ばす。こういう時、露が持つ野生の勘はシビラを上回る時があるのだが、勘の鋭さで言えばシビラが上だ。
 少しの間集中し、僅かな違和感がある場所に視線を向け、声を掛けた。
「そこに誰かいるな」
「えっ? あら、あらほんとだわ~」
 シビラが視線を向ける先に露も視線を向けて、さすがねレーちゃん! と笑みを浮かべる。
 そんな二人に観念したのか、何もない空間から少女が姿を現した。
『どうして? どうして出てきちゃったんですか?』
 あの部屋から出なければ、現実世界の辛い事や悲しい事から逃げられたのにと、少女が二人を責める。
「……ふん、不満や憤りばかりで殺意はない……いや、僅かばかりはあるようだな」
 とはいえ、積極的に攻撃してくる様子もない。それならば実力行使は極力避けるとするか、とシビラが露に囁いた。
「そうね~、何だかこう……可哀想な感じがするし……」
 攻撃は最後の手段かしら? と露も頷く。ならば、まずは対話からだとシビラが口火を切った。
「何故出てきたのかと聞いたな?」
『そうです、だってあの部屋にいれば嫌な事はおきないんですよ!』
「ふむ……だがな、生きることは小なり大なり戦うことだろう?」
 戦うこと? そんなの嫌だとばかりに、少女の表情が僅かに歪む。
「あの部屋が快適だと思う者もいるだろうが、私にとってあの部屋に留まることは死に等しい。私は現実と戦い、抗って意味や価値を見出したいからな」
『そ、そんなの怖いじゃないですか! 傷付くのも傷付けるのも、私は怖いです……!』
「君にはそうなのだろうな。私は違う、だから……あの部屋から出た」
「ふふー、あたしはねぇ、レーちゃんの頬に触るチャンスだったから触ったんだけど~、そうじゃなくても出てたわね」
 悲しい顔をする少女に、露がうふふと笑う。
『どうして? あなたはどうして出てきちゃったんですか?』
「レーちゃんが出たいからよ、レーちゃんが出たくないって言ってたらあたしも出てなかったかも~?」
 それでも、きっといつかは出たのだろうけれど。
「露……」
「あっ、レーちゃんのお話の途中だったわね」
 ごめんなさい、と露が笑ってまた口を噤んだ。
 どうせまたすぐに開く口だろうとは思ったが、シビラが少女に向かって再び言葉を紡ぐ。
「これが君の問いに対する返答だ」
 確かにあの部屋の居心地はいいかもしれないけれど、シビラにとって停滞は死と変わらない。
 親族と名乗る者たちから、呪われていると一方的に告げられ、監禁され……両親の温かみすら知らぬ私にとって、前に進むことを止めるという事は自ら鳥籠に入るようなものなのだからと、シビラが凛と背筋を伸ばす。
「現実に憤りがあるならば、自分が変わってみてはどうだ?」
『わ、私が!?』
「そうだ、それからでも現実逃避はできるだろう?」
 冷えた夜の月のような瞳で見つめ、現実逃避か、と小さく呟く。
 別世界の仕事ではあったが、同じように現実から逃れたいと願っていたアリスの少女を思い出す。けれど、彼女は自分達や他の猟兵と触れ合い、自分を変えようと努め――結果、家族や周囲を変えたのだ。
 逃げるばかりが手段ではないと、シビラは少女を見遣る。
「逃れるならそれもいい、君が必死で考えだした生きる一つの手段だろう。だがな」
 その瞳はまるで少女を射貫くかのように、強い意志を持って煌めく。
「関係のない者達まで巻き込むな、少々迷わきゅぷ……」
 めいわきゅぷ?? と、少女が首を傾げ、シビラが己の頬をえい♪ とつつく露を迷惑そうに見た。
「駄目よ、レーちゃん。もっと言い方、あるわよ~♪」
 それまで黙って聞いていた露が、シビラにダメ出しを入れる。
 露からすればシビラの物言いは慣れたものだが、そうでない相手には淡々と冷静に語る口調はキツく感じられるもの。ストップを掛けるタイミングを見計らって、シビラの頬をぷにぷにっとしたのだ。
「ふふ、わーい。やっぱり、レーちゃんの頬って気持ちがよくて好き~!」
「……」
「ずっと触ってても飽きないわ~」
「……おい、露……突然、頬を……ぷにぷに……触れるな……」
 そう言う間にも、露はぷにぷにする指先を止めることなくシビラの頬を楽しんでいる。これは口で言っても無駄だな、とシビラが実力行使に出た。
「いたぁっ!」
「ふん、言う事を聞かないからだ」
 実力行使――額に遠慮のないデコピンを喰らわせたシビラが自分の頬を撫でながら、再び少女に向き合う。
「……横やりが入ったが、私が言いたいことはそういう事だ」
 どういう事か、ちょっとばかりわからないところもあったけれど、少女がこくりと頷いた。
『でも、私はそんなに強くないです』
 強かったら、閉じこもりたいなんて思わないだろうと少女が俯いて。
「……生きてると辛いとか、苦しい事ばかりなのよねー……」
 お気楽極楽、とばかりに見える露にだって辛い事や苦しい事はあったし、そういった人たちを沢山見てきた。
 だから、その気持ちはわかるわと、少女をぎゅうっと抱きしめる。
『は、はわ!?』
「うふふ、ハグするとストレス解消になるのよ♪」
 勿論それだけが理由ではないけれど、露がシビラにするように――ここに居るわ、寂しくないわ、とばかりに抱き締めて、ぽつぽつと言葉を零す。
「そういえば……あたしが思い出すのはアリスの男の子なんだけどね」
 火事でお姉ちゃんが亡くなって、けれど自分は助かった――彼からすれば、助かってしまった男の子。
「でもね~、最後はちゃんと自分と向き合って帰っていったのよ。今何してるのかしら、すっごく可愛かったわ~♪」
「露、それは今関係あるのか?」
「あっ」
 関係なかったわね、と露がシビラの突っ込みに笑って、えっと……と取っ散らかりそうになった考えを纏め、抱き締めたままの少女に囁く。
「だからね、少しだけ勇気を出して、一歩踏み出してみないかしら?」
「そうだな、私もそう思う」
『でも……怖くて、足が動かなくなっちゃうんです』
 露の腕の中で、少女が小さく首を横に振る。
「ん~、私はね、お部屋に閉じ籠るだけが逃げじゃないと思うの」
『他に方法が、あるんですか?』
「例えば……そーねー、例えば……別の組織とか、場所に移ってみるとか……反論してみるとか……?」
『できる、でしょうか』
 訥々と返事をする少女の頭を、露がよしよしと撫でる。
『ふふ、頭を撫でられるなんて、随分久しぶりです』
 誰かに、抱き締められるのも。
「あたしでよければ、いっくらでもしてあげるわよ~♪」
「そうだな、露はスキンシップが好きなんだ」
「そうなの! でも、レーちゃんはあんまり好きじゃないからって、嫌がるのよ~」
 あたし悲しいわ、なんて露が言えば、シビラが呆れたように息を吐く。
「ふふ、あなたもね、その場所に拘らなくてもいいんじゃない?」
「違うコミュニティに入るのも、手だからな」
 無理に合わない場所に居続けるよりも、思い切って違う場所に。その場所に居続ける必要があるのなら、思い切って自分を変えてみるのもいいだろう。
「でも、まずはここから出る事ね~! 怖かったら、手を繋いでいてあげる」
 だから一緒に、ここから出ましょうと露が微笑んだ。
『繋いでいて、くれますか?』
「勿論よ! ほら、レーちゃんも!」
「私もか?」
 当たり前でしょ~? と言う露に渋々従って、シビラも少女と手を繋ぐ。
『誰かに手を繋いでもらえるなら、私も頑張れたかもしれないです』
「今からでも遅くないわよ……って消えかけてるわ」
 徐々に姿が消えていく少女に、露が目を丸くする。
『ありがとう、次は……頑張ってみます』
「そうしろ、駄目なら違う居場所を探すといい」
「頑張ってね! あたし、応援してるから!」
 二人の言葉に微笑んで、少女が姿を消して――空間が解けだす。
「やれやれ、やっと出られるようだな」
「もう、そんな言い方して。でも、レーちゃんらしい励まし方だったわ♪」
「こらっくっつくな!」
 ぎゅっと腕にしがみついた露にそう言って、シビラは盛大に溜息をついたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結
💎🌈◎
悩み:片親に育てられ寂しさを抱き生きている少女

目を背けるのは簡単です
でも、前を見て歩むからこそ見えるものもあると思うのです
みゆたちに背中を押させてください

二人とも、悩みの種類が違うのですね
アドバイスできるとしたら、此方の子でしょうか
みゆの言葉に耳を傾けてくれますか?

みゆにもママがいません
亡くなったのかも、離れ離れになったのかも
パパの口から聞いたことはありません
でも、何となく 何となくですけれど
ママは死んじゃったのかなって

寂しいですよ
ママに会いたいですよ
一目でいいからこの瞳に映したい
今までの事も小さい頃のことを沢山話したい
……けれど、もう叶わないのです
ふふ、これだけ聞くと悲しい子みたいですね

パパはいつもこうゆいます
みゆはママにそっくりだね 可愛いねって
いっぱいいっぱい褒めてくれます
みゆは、それで満足なのです
みゆの中に残るママとパパの心の中で生きてるママ
自分が忘れなければ、その人はずっと生きてます
――心の中で

貴方の中にもいますよね
皆が、自分が忘れなければ
本当の意味で”死”は訪れない


兎乃・零時
💎🌈◎
悩み:夢を馬鹿にされて、またそれを聞かされたくなくて、学校に行けなくなった

どうして部屋を出てきたかだって?
俺様の夢は、あの部屋の中じゃかなわねぇ
現実で叶えてこそ、価値がある!
当然心結と一緒に叶える夢だって、そうさ!

お前らの悩みは……そーゆう感じか、片親の方は……俺様は親はいるから答えるのは厳しいけれど…
夢の方は…お前が夢を馬鹿にされて、嫌な気持ちになるとかそーゆうのは……まぁわかるよ
夢を否定されたら悲しくもなるし、辛くもなる
叶わないんじゃないかって過る事だってあるよな
すーぐ否定する奴もいるしな!

だが大丈夫だ、この世に叶わない事なんてない!

だってそうだろう?
諦めなければ夢は終わらない、夢の道は途絶えない!
俺様はずっとそうしてきた!
お前に対してそう想ったり言う奴がいるなら言わせておけばいい!
逆に見せてやれ!お前の夢が叶う瞬間を!
諦めなければ、最終的に夢を叶えるのは、進み続ける者なのさ!
完璧でなくたっていい
右でも左でも上でも下でも、歩みを止めなければ何処へだって行けるんだから!



●寄り添う想い
 互いの夢を叶える為に飛び出した部屋の先はまたしても見慣れない空間で、兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)と音海・心結(桜ノ薔薇・f04636)は再び顔を見合わせた。
「零時、水族館じゃないところに出ましたね」
「またか! 俺様じゃないからな!?」
 さっきの白い部屋で疑われたことを思い出し、違う違う、と首を横に振る。
「ええ、さすがに零時でも同じことを二回はしないでしょうし」
「いや、さっきの部屋も俺様じゃねぇから」
 ふふ、わかってますよ、と心結が笑って辺りを見回す。先程とは違い、何もない……本当に何もない空間だ。
「うーん、何にもないですね」
「手掛かりになるようなものも見えねぇな」
 なんだか寂しい感じのする空間なのです、と心結が零す。
「言われてみるとなんていうか、夢も希望もないって感じがするな……」
 零時にとってはちょっとばかり居心地が悪い、そんな落ち着かなさを感じてしまうような。
「もうちょっと、何かないか探してみましょうか」
「そうだな、ちょっとその辺歩いて――心結!」
 あっちの方でも、と零時が見た先の空間が揺らぐ。
「はい、零時!」
 零時の視線の先を心結も捉え、揺らぐ空間に警戒するように体勢を整える。揺らぎが収まって姿を現したのは二人の少女であった。
『どうして? どうして出てきてしまったんですか?』
『あの部屋に居れば、ずっとずっと、辛い事も悲しい事もないまま過ごせたのに』
 悲しげな顔をした少女達が、零時と心結を非難するように言葉を発する。
「零時……もしかしてあの二人が今回の原因……だったりしますか?」
「オブリビオン……だもんな? 間違いないと思うけど、なんつーか……」
 殺意がないように思える、と二人が声を揃えた。
「零時もそう思いますか?」
「ああ、俺たちがあの部屋から出てきたことが悲しい……って言ってるような感じじゃねぇ?」
 確かに、あの部屋から出てきたならば殺す、みたいな雰囲気でもない。
「これは少し、お話を聞いてみてはどうでしょうか?」
「そうだな、戦うにしたって、その後でも遅くないよな!」
 二人頷き合って、少女に向き合った。
「あー、まずだな! そうして部屋を出てきたかってところからなんだが!」
 こほん、と小さく咳払いをして零時が切り出す。
「俺様の夢はあの部屋の中じゃかなわねぇ! 仮に叶ったとしても、現実で叶えてこそ価値がある!」
『怖くはないの? 叶わなかったらって、思わないの?』
「思わねぇ! 叶うまでやれば、絶対に叶うからな!」
 自信満々に答える零時に、少女が目をまぁるくして瞬く。
『でも、でも……!』
「二人とも、どうしてあの部屋に閉じ籠った方がいいって思ったのですか? 何か理由があるのでしょう?」
 狼狽えるような少女達に向かって、心結が優しい声音で問う。
 その言葉に少女達が顔を見合わせ、おずおずと口を開いた。
『私、私は……』
 一人の少女は語る、母親を早くに亡くし父親と二人で暮らしていることを。
 仕事ばかりで構ってくれない父親に寂しさを覚え、部屋に閉じ籠ってしまったことを。
『私は……』
 もう一人の少女も語る、自分の夢を馬鹿にされてしまったことを。
 また馬鹿にされてしまったらと思うと、怖くて学校に行けなくなってしまったことを。
「……二人とも、悩みの種類が違うのですね」
 悩みから目を背けるのは簡単なことだと、心結は思う。
 けれど、前を見て進むからこそ見えるものもあるのだと思うし、そうしたからこそ見えたものを心結自身が知っているから。
「零時、ここはみゆたちが背中を押してみませんか」
「背中を? ……励ますって事か?」
「はい、お悩みを聞いて解決できるならそれが一番です」
 そう言われ、ちらりと零時が少女達を見遣る。どこか浮かない顔で、零時や心結からすれば放ってはおけないような、そんな少女達。
「……よし! やってみようぜ!」
「さすが零時です!」
 パチン、と片手でハイタッチを決めて、二人が少女達に向き直る。
「お前らの悩みはわかった!」
「みゆがアドバイスできるとしたら、此方の子でしょうか」
「そうだな。俺様、両親はいるから答えるのは厳しいけれど……夢の方なら」
 ではそちらはお任せしますね、と心結が片親だという少女に向かって歩み寄る。
「みゆの言葉に、耳を傾けてくれますか?」
『……話を聞いてくれるの?』
「はい、みゆとお話ししましょう」
 心結が少女の手を取って、少しだけ零時達から離れた。
「お前は俺様だな、夢を馬鹿にされて、嫌な気持ちになるとかそーゆうのは……俺様にもわかるよ」
『本当に?』
「ああ、夢を否定されたら悲しくもなるし、辛くもなる」
 それが信頼していた人からであれば、余計に。
「叶わないんじゃないかってよぎる事だってあるよな。ま、ちょっと聞いただけですーぐ否定する奴もいるんだけどさ!」
 でもさ、と零時が少女に向かって言葉を続ける。
「自分の夢を否定するようなやつ、友達じゃなくねぇか?」
『……! でも、でも仲のいい子だったの、だから、だから私!』
「信頼してんだ? だったらさ、もう一回自分が本気だって伝えてみてからでも遅くないんじゃねぇ?」
 本当に友達だったなら、きっとお前の想いを馬鹿にしたことを謝ってくれるんじゃないか? と零時が言う。
「それにな! もしもう一度否定されちまっても大丈夫だ! この世に叶わない事なんてない!」
『否定されたくないのに?』
「否定されたくらいで、お前は自分の夢を諦めんのか? どうせなら、夢を叶えて否定した奴らをあっと言わせてやろうぜ!」
『諦めたくない……でも、叶わなかったらって思うのも、怖くて』
 葛藤する少女に向かって、零時が大丈夫だとその手を握る。
「だってさ、諦めなければ夢は終わらない、夢の道は途絶えない! そうだろう?」
『諦めなければ……』
「そうさ! 俺様はずっとそうしてきた!」
 これは絶対なんだぜ! と零時が笑って。
「だから、お前に対して夢は叶わないとか、無理に決まってるとか、そう想ったり言う奴がいるなら、言わせておけばいい!」
 そうして、自分の夢が叶う瞬間を見せてやればいいのだ。
 最終的に夢を叶えるのは、諦めずに前へ進み続けるものだけなのだから!
「最初っから完璧でなくたっていいんだ」
『私、諦めなくてもいいのね』
「当ったり前だろ! 右でも左でも上でも下でも、歩みを止めなければ何処へだって行けるんだから!」
 世界は無限に広がってるんだからな! そう言った零時に、少女が笑って頷いた。
「ふふ、零時らしいです」
 聞こえていた声に心結がそう零し、改めて目の前にいる少女に語り掛ける。
「貴方のお話は分かりました、実はみゆにも……ママがいません」
『あなたも?』
 その問いに、こくりと心結が頷く。
「亡くなったのかも、離れ離れになったのかも……パパの口から聞いたことはありません」
『あなたも、お父さんと仲が良くないの?』
「いいえ、仲が良い方だと思います。でも、聞けない事もあるでしょう? それに、何となく……何となくですけれど、ママは死んじゃったのかなって」
 一瞬だけ視線を足元に落とし、すぐに少女に視線を戻して心結が微笑む。
『寂しくはないの? えっと……あなたがお父さんと仲が良いのは、いいことだって思うけど……お母さんが居たらって、思ったりはしない?』
「寂しいですよ、それにママに会いたいって思います」
 それは、どんなにパパと仲が良くてもどうしたって浮かんでしまうこと。
「一目でいいからこの瞳に映したい、みゆの今までの事も小さい頃のことも、沢山、たーくさん話したいって」
 ふ、と小さく息を吐いて心結が少女に本音を話す。
「……けれど、もう叶わないのです」
『うん、そうだね。私も、叶わない……』
「ふふ、これだけ聞くと悲しい子みたいですね」
『悲しい子、じゃない?』
 はい、と心結が返事をすると、少女が不思議そうに首を傾げた。
「パパはいつも、みゆにこうゆいます」
 心結はママにそっくりだね、可愛いね。
 パパの口調と声音を真似して、心結が笑う。
「こんな風に、いっぱいいっぱい褒めてくれます。だからみゆは、それで満足なのです」
『そうなのね、あなたは……いいなぁ、パパと仲良しなの……』
「それです!」
 ぴっと心結が人差し指を立てて、少女に言う。
「貴方は、パパとコミュニケーションを取ったりしますか?」
『え……だって、忙しそうにしてるし……休みの日も、なんだか疲れてるみたいに見えるから……』
 だから、邪魔しちゃいけないって思ってと少女が視線を落とす。
「ふむふむ、みゆは思うのですけど、それってすれ違っているだけじゃないでしょうか」
『すれ違い……?』
「はい、勿論貴方のパパが仕事を頑張ってらっしゃるのは当然だと思います、ママが居ない分も自分が頑張ろうとしているのだと思いますから」
 だから、お互い気を使いすぎているのではないかと、心結は少女に意見する。
「一度、きちんとお話してみてはどうでしょう? ママのことも聞いてみるといいのです」
 そうすれば――きっとママは心の中で生きるから。
「みゆの中に残るママと、パパの心の中で生きているママ。自分が忘れなければ、その人はずっと生きてます」
『生きる……』
「――はい、心の中で」
 それはきっと、寂しい時や悲しい時に力をくれるはずだと心結が微笑む。
「貴方の中にもいますよね?」
『うん……もう朧気だけど、いるわ』
「皆が、自分が忘れなければ……本当の意味で『死』は訪れないのです!」
 だから一人ではないのだと、心結が少女の手を握った。
 ――ありがとう。
 それは零時が手を握っていた少女と、心結が手を握った少女の唇から零れた言葉。
「わ、姿が消えかかっているのです!」
「だ、大丈夫か!?」
 少女達の姿が、ゆっくりと消えていく。
「還るの、ですね」
「夢を叶えに行くんだな」
 二人顔を見合わせて、少女達が完全に消えるまで精一杯のエールを送る。
 頑張れ、頑張れ、自分達も頑張るから、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】◎

何か考え込んでいる娘
ルーシーちゃん?

逃げても、いい?
僕にとっては逃げる事はあの男の思う壺だと思っていた
逃げた先にまたあの悲劇が起こると、それこそ『此処』を
でも小さな娘は僕を見て語る
いいのだと…
逃げてもいいのだと傍に居ていいのだと
本当にありがとうねぇ

目線を合わせて
じゃ僕からも言わせてね?
諦めちゃダメだよ
ルーシーちゃん、『君』が誰であれ僕には必要な子だ
君の未来が決められたモノだったとしても
それは今までの未来だ、今の君の未来は君が決めていいんだよ
だから君の父親が一族が本当のルーシーが君に何かする事があれば僕の所へ
どんなモノからでも護るから

手を握って彼女を抱き上げる
えぇ、貴女達の言葉は魅力的ですが今の僕には必要ありません

ありがとう、僕の小さな宝物
嘘食
貴女達の嘘ごと食べてしまいましょう

ありがとうねぇ
ルーシーちゃんも『此処』戻っておいで
ルーシーちゃん、僕の娘


ルーシー・ブルーベル
【月光】

にげる…
あ、ごめんなさい
考え事をしてて

あのね、パパ
白の部屋でいった事なのだけど
ルーシーにとって
パパは情けなくないし
逃げてると思ってないのも本当だけど
情けなくても、逃げてもいいの
それでも『此処』に
傍に居て下さるなら

だからね
例えパパでもわたしが大好きなひとの事
『こんな』なんて言わないで?ね?

お伝えしたい事言えたらスッキリ
ようし、がんばる…う?なあに?

諦める?
何も諦めて、なんて

…いえ、その通りだわ
お父さまの望むいい子で居ようと誤魔化して
本当の望みを
未来を諦めていた
いいのかな
之からもパパの所へ逃げても
いいのかな
未来から逃げなくても
ありがとう…パパ
わたしもパパが必要よ

お姉さん達
ルーシーも逃げたいって思った事はあるし
実際に『家』から逃げて、今がある

けれどその先で宝物を見つけたの
だから、辛いとこから逃げてもいいんだよ
『此処』から
いのちから
本当に逃げてはダメな所からさえ逃げなければ

咲いて繋いで
瑠璃唐草色のかがり糸

パパに手を伸ばして…わ、ふふ…!
ぎゅうと抱き着く
嗚呼、わたしの宝物
うん
わたしの、パパ



●腕の中の宝物
 三つの内緒事を告白しあって、内緒が内緒でなくなった時に扉がひとりでに開かれた。
「パパ、扉が開いたわ」
「本当だねぇ、これで外に出られるね」
 しっかりとルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)の手を握って、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が愛おしい娘を見て微笑む。
「行きましょう!」
 ユェーの手を引っ張って、ルーシーが扉へと向かう。
 その動きに逆らわず、少しだけ自分が前に出るようにしながらユェーがルーシーと共に部屋を出た。
「おや」
「あら……水族館ではないのね」
 またしても見知らぬ空間に出てしまったと、ルーシーがユェーを見上げる。
「ルーシーちゃん、気を付けて下さいね」
「え?」
「恐らくだけれど、ここはこの空間を作り出した原因の……敵の領域ですよ」
 敵、と聞いてルーシーが少し緊張したように辺りを見回す。けれど、それらしい姿はどこにも見えず、再びユェーに視線を戻した。
「どこかに隠れているのかしら」
「そうだねぇ、かくれんぼが上手なのかもしれないね」
 ふ、とルーシーを安心させるように微笑んで、ユェーが一歩前に出る。何があっても彼女だけは守ると、敵の気配を見逃さぬように空間を探った。
「ねぇ、ゆぇパパ」
「はい? なんでしょう、ルーシーちゃん」
 繋いだ手を僅かに引いた彼女に、視線を向ける。
「この空間……なんだか敵意がないように思うのよ」
「それは……確かにそうですね」
 自分達が閉じ込められた部屋もそうであったが、こちらを害するような意思を感じられない。敵ではないのか? と考えて、けれどこの空間を創り出した怪異であることは間違いないと、警戒を続けようとした時だった。
『どうして、どうして出てきてしまったの?』
「この声は……?」
「姿は見えませんが、あちらから聞こえますね。少女の声のようですが……」
 声が聞こえてくる方を見遣れば、空間が歪んでいるような箇所が見える。
『あの部屋に居れば、現実の辛い事や悲しい事からも逃げられたのに』
 見えぬ誰かの声に、ルーシーがぽつりと呟く。
「にげる……」
「ルーシーちゃん?」
 何事かを考え込んでいるような娘の姿に、ユェーが小さく声を掛けた。
「あ、ごめんなさい。考え事をしてて……」
 考え事? と、ユェーが軽く首を傾げるのを見て、ルーシーが頷く。それから、ユェーを真っ直ぐに見上げて、透き通るような蒼い瞳を瞬かせた。
「あのね、パパ」
 真剣な娘の声に、ユェーがそっと視線を合わせるように膝を突く。もちろん、気配がする方への警戒も怠らない。
「白の部屋でいった事なのだけど」
「はい」
「ルーシーにとって、パパは情けなくないし」
 だってルーシーの大好きな、とってもかっこいいパパだもの。
「逃げてると思ってないのも本当だけど」
 本当に逃げ出すのなら、きっと何もかもを捨てて、ルーシーでさえ捨てていってしまっていたでしょう。
「情けなくても、逃げてもいいの」
「逃げても、いい?」
 静かに頷いたルーシーに、闇夜にさえ煌めく金の瞳が驚いたように見開かれる。
「……僕にとっては逃げる事はあの男の思う壺だと思っていたんだ」
 逃げた先には、きっとまたあの悲劇が起こると。それこそ『此処』を――考えて、小さく首を振る。
「大丈夫、それでもパパが『此処』に――」
 ルーシーがユェーの額に、こつんと自分の額を当てて。
「傍に居て下さるなら」
 祈るように、囁いた。
 ああ、とユェーが小さく息を吐く。
 いいのだと……こんなにも小さな娘は僕を見て、真剣な眼差しで語ってくれている。逃げてもいいのだと、傍に居ていいのだと。
 それはなんて幸福なことだろうか。
「ルーシちゃん……」
「はい、パパ」
「本当に、ありがとうねぇ」
 額をくっつけたまま、ユェーがルーシーを見つめて笑った。
「あと、もうひとつあるの」
「幾つでも言っていいんだよ」
 娘からの想いと言葉であれば、なんだって受け入れようとユェーが頷く。
「だから、だからね。たとえパパでもわたしが大好きなひとの事を『こんな』なんて言わないで? ね?」
 ゆっくりと額を離し、もしも今度そんな風に言ったら、めっ! なのよ? と可愛らしく頬を膨らませる彼女に、ああ、完敗だとへにゃりと眉を下げて微笑んだ。
「ふふ、お伝えしたい事言えたらスッキリしたわ」
「じゃ、僕からも言わせてね?」
 柔らかな声を響かせて視線を合わせ、ユェーがルーシーへと言葉を紡ぐ。
「う? なあに?」
 こてん、と首を傾げたルーシーの頭を撫でて。
「諦めちゃダメだよ」
「諦める? なにも諦めて、なんて」
 その言葉にユェーがゆっくりと首を横に振る。
「ルーシーちゃん、『君』が誰であれ僕には必要な子だ。君の未来が決められたモノだったとしても」
 揺れる青い瞳を捉えて、金色が包み込むように瞬く。
「それは今までの未来だ、今の君の未来は君が決めていいんだよ」
「わたしの未来は、わたしが……」
「だから君の父親が、一族が、本当のルーシーが……君に何かする事があれば僕の所へ」
 ルーシーの肩がぴくんと揺れる、その肩を優しく撫でてユェーが囁いた。
「――どんなモノからでも護るから」
 その言葉はルーシーですら気が付かないほど心の奥に上手に隠していた気持ちを解き放つ、魔法の言葉のよう。
「……その通りだわ、お父さまの望むいい子で居ようと誤魔化して、本当の望みを……未来を諦めていたのね、わたし」
 パパに偉そうに言えないわね、とルーシーがほんの少しだけ視線を落として、それからユェーを見る。
「いいのかな、これからもパパの所へ逃げても」
 勿論、とユェーが頷いて、ルーシーの手を握る。
「いいの、かな……? 未来から逃げなくても」
 小さくなる声を励ますように、ユェーが彼女を抱き上げた。
「僕がそれを望んでいるんですよ、ルーシーちゃん」
「……ありがとう、パパ」
 ぎゅう、とルーシーがユェーの首に抱き着く。
「わたしもパパが必要よ」
 大好きよ、と笑うルーシーに、僕もですよとユェーが笑った。
「ルーシーちゃん」
「ええ、パパ」
 空間の歪みが強くなる気配を感じ、二人がそちらに目を向ける。
『逃げても、いいの?』
 そんな言葉と共に、歪みの中から少女達が姿を現して。
『誰も、誰もそんなことは言ってくれなかったの』
『逃げちゃだめだって、外に出なさいって』
 辛い事や悲しい事から逃げては駄目だと、そう言うばかりで解決の仕方は誰も教えてくれないの。
「……あのお姉さん達が?」
「ええ、この怪現象の原因だろうね」
 けれど、強い敵意は感じられないと二人が視線を交わす。
「お姉さん達は、逃げたかったの?」
『逃げたいの、怖い事や辛い事、もう嫌なの』
 告げられる想いは泥のように重く、これが凝りなのだと感じるほど。
「あのね、ルーシーも逃げたいって思った事はあるのよ」
 あなたも? と、少女達がルーシーに視線を向ける。それに怖気ることなく、ルーシーが頷いた。
「実際に『家』から逃げて、今があるの。けれどね、その先でルーシーは宝物を見つけたの」
 ルーシーがユェーを見つめて、微笑む。
「だから、辛いところから逃げてもいいんだよ」
 逃げてもいいという言葉は、彼女達の心を僅かながらでも開いたのだろう。常に俯きがちな視線が、どんよりとした目が前を向く。
「ただひとつだけ――『此処』から、いのちから、本当に逃げてはダメな所からさえ逃げなければ」
『本当に逃げてはダメな所……』
『あったのかな、私にも』
 逃げては駄目な場所、あったのかもしれない。
 けれど、ああ、もうそれすらもわからないの。
 ただ、逃げたいという想いだけが残ってしまったから。
『あなた達には、あの部屋は必要ないのね』
「えぇ、貴女達の言葉は魅力的ですが――今の僕には必要ありません」
 腕の中の、僕の小さな宝物がいる限り。
 ルーシーを抱いたまま、踊るようにユェーが少女達の中に巣食う凝りへ力を放つ。
「わ、ふふ……!」
 ぎゅうと抱き着いたまま、ふわりと金色の髪を靡かせてルーシーがユェーの力へ重ねるようにネモフィラのような炎を紡ぐ。
「咲いて、繋いで、瑠璃唐草色のかがり糸」
 ユェーが炙りだした凝りを焼き払うように、瑠璃色の花びらを模した炎が舞い散った。
「ルーシちゃん、ありがとう、僕の小さな宝物」
 少女達の凝りが消えていくのを見届けながら、ユェーとが微笑む。
「パパこそ、わたしの宝物よ」
 暗闇の中で見つけた、たった一つの優しい光。
「ルーシーちゃんも『此処』へ戻っておいで」
 この腕の中はいつだって、君を守る盾になる。
「ルーシーちゃん、ぼくの娘」
「うん、うん……! わたしの、パパ……!」
 大切な宝物をなくさぬよう、共に手を繋いで。
 きっとこの先も、二人、共に進んで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀

幸也さん(f13277)
あー…なるほどあの部屋ってそう言う…
閉じこもっていれば怖い事や嫌な事に直面しなくていい…か。
俺はそれをやった人間だからさ責めたりなんか出来ない。
けど…閉じこもってる間も恐怖と後悔に苛まれて…ずっと苦しくて。
閉じこもってるだけじゃ結局問題は解決なんてしなくてさ。
だからなんとかしようって外に出て…そしたら意外となんとかなった。
だから、きっと君も大丈夫だよ。

本当は有祈が姉ちゃんの記憶を封印してくれてたから外に出られたのに…俺…嘘つきだな。
(苦しくて気が付いたら助けを求めるみたいに幸也さんに手を伸ばして)

嘘吐きでもいいなんて握られた手に驚いて
八つ当たりだって言いながら『俺』のために戦ってくれる姿に驚いて。
だって俺、本当は弱くて…それでもいいなんて
まるで…まるで愛されてるようで

もう、いいです…
俺は大丈夫ですから…
(ぎゅっと後ろから抱きしめて)
(二回目のハグに戸惑いはなく)
大丈夫だから…もう、苦しまないで


十朱・幸也

真紀(f06119)と

何処にも行けない部屋っつーか
自分を閉じ込める為の部屋だった……か
辛い現実から逃げて、引き篭もり続けていれば
そりゃあ、大層楽だろうよ

嘘吐き?
それの何がいけねぇ、何がおかしい?
嘘に頼ってでも生き足掻いて、何が悪いんだって話だ
(伸ばされた手をしっかりと掴んで、当たり前の様に笑って

生憎、身内以外に
情け容赦掛ける理由はねぇんでな
……あ゛ぁ、クソガキがうだうだと五月蝿ぇな
丁度良かったぜ、八つ当たりに付き合えよ(UC発動)

UDC-Pでもねぇのに
てめぇらの気持ちに寄り添おうとする
心優しいこいつ(真紀)を傷付けようとすんなら
溢れそうになる吸血衝動を抑えつけてでも
クソみたいな血に溺れてやる

からくり人形『千薙』が持つ薙刀を拝借
真紀に近寄らせない様に、前衛で戦う
ハッ……!ビビってんじゃねぇよ、無敵なんだろうが?
【切り込み、切断、斬撃波】

喉の渇きを覚えながら
ひたすらに薙刀を振るう内、後ろから抱き締められて
俺なんかより強い筈なのに震えている様で

そんな、真紀の匂いに
意識が引き戻された気がした



●それが嘘でも、本当があるならば
 部屋を出る前になんとか荒くなる息を整えて、十朱・幸也(鏡映し・f13277)が花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)の開いた扉を通り抜ける。
「……どこだ、ここ」
「どこでしょうね……?」
 お題をクリアすれば出られる部屋はわかりやすかった、きちんと部屋としての空間を保っていたから。しかし、今二人が放り出された空間は違う。
「見事なまでに何にもねぇな」
「異空間には間違いないみたいですけど」
 認識も歪められているのか、空間自体が歪んでいるのかはわからないけれど、この空間の色もよくわからないのだ。
 蒼いような、白いような、灰色のような……色々な感情が混ざり合って、ぐちゃぐちゃになっているような――。
「ここに怪異がいると思って間違いなさそうですね」
「そうだな、早くやっつけてここから出た方が良さそうだ」
 それで、まだ見ていない水族館のお土産物屋でも見るか、なんて幸也が真紀に向かって笑い掛けた時だった。
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
「誰だ!?」
 声のする方に向かって、幸也が鋭い声を飛ばす。
『あの部屋に居れば、辛い事や悲しい事から逃げられたのに』
 現実は辛い事ばかりでしょう、と少女の声が響く。
「幸也さん、あそこ!」
 空間がぐにゃりと歪んだ方に視線を向ければ、鞄を背負った少女が姿を現した。
『ねえ、どうして? 出なくても、あの部屋ならきっと楽しく暮らせたのに』
 泣きそうな少女の顔に、真紀が小さく息を零す。
「あー……なるほど、あの部屋ってそう言う……」
「何処にも行けない部屋っつーか、自分を閉じ込める為の部屋だった……ってことか」
「多分、そうなんでしょうね」
 あの少女の様子から察するに、間違いはないだろうと真紀が幸也に頷く。
「辛い現実から逃げて、引き篭もり続けていれば。そりゃあ、大層楽だろうよ」
 ハ、と幸也が少女に向けて、頭が痛くなりそうだとばかりに額に手をやった。
『楽な方に逃げて、何がいけないの!』
 少女が叫ぶ、それは悲痛ともいえるような叫びで、真紀がほのかに眉を下げた。
「閉じこもっていれば、怖い事や嫌な事に直面しなくていい……か」
『そうよ、現実は、現実は怖いもの……!』
「うん、俺はそれをやった人間だからさ」
 責めたりなんかできないよ、と眉を下げたまま真紀が少女に笑う。
「真紀」
「大丈夫です、幸也さん」
 少しだけ話をさせて欲しいと、真紀が幸也を見遣る。
「……ちょっとでもあっちがおかしな真似をしようとしたら、手を出すからな」
「はい、それで充分です」
 幸也さんは優しいですね、と真紀が笑って少女を見る。
 それを眺めながら、優しいのはどっちだと幸也が溜息を零した。
『嬉しい、あなたは私の気持ちを分かってくれるのね』
 昏い笑みを浮かべた少女が、真紀にゆっくりと近付く。
「わかるよ、けど……俺は閉じこもってる間も、恐怖と後悔に苛まれて……ずっと苦しくて」
 無意識に手で胸元を抑えて、真紀が少女を真っ直ぐに見つめながら問う。
「君は、そうじゃなかった?」
『私……私は……』
「結局、閉じこもってるだけじゃ問題は解決なんてしなくてさ」
 閉じこもっている間、時間は止まったままで。
「だから、なんとかしようって外に出て……そしたらさ、意外となんとかなったんだ」
『……なんとか?』
「うん、なんとか。だから……きっと、君も大丈夫だよ」
 なんとかなる、と真紀が少女に向かって微笑む。
『なんとか、ならなかったら……どうすればいいの?』
「ならなかったら、か」
 ならなかったら? それを考えれば、きっとキリがないだろう。
 真紀だって、なんとかなったのは、本当は――。
「本当は有祈が姉ちゃんの記憶を封印してくれてたから、外に出られたのに……」
 だからこそ、なんとかしようと思えたのだろうけれど。
 もしも、有祈が封印してくれていなければ? 自分は外に出ようと思えただろうか。
「俺……嘘つきだな」
 苦しい、藻掻くように胸元を抑えていた手を幸也に伸ばす。
 それは真紀にとっては無意識で、手を取ってほしいとは思っていなかったけれど。
「嘘吐き? それの何がいけねぇ、何がおかしい?」
 そう言いながら、伸ばされた手を幸也は救い上げるようにしっかりと掴んで、真紀だけを見て言葉を紡ぐ。
「嘘に頼ってでも生き足掻いて、何が悪いんだって話だ」
 当たり前だろう、と言わんばかりに笑って、掴んだ手を離さないようにしっかりと握って。
「……幸也、さん」
 嘘吐きでもいいだなんて、本当に? と、握られた手の温かさに驚くように真紀が目を瞬く。
「いいんだよ、生きてるだけで偉いってよく言うだろ」
「ふ、はは、死ななきゃ丸儲け、とかも言いますね」
 真紀が泣きそうな顔で笑って――ありがとう、と呟いた。
『わかってくれるなら、本当にわかってくれるなら……あの部屋に戻って、一緒にいてくれればいいのに』
 少女の零した言葉に、幸也が掴んだ手を引いて真紀を少女から引き離す。
「……それはできないよ、俺は外に出ることを選んだから」
『……嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き! わかるって言ったじゃない、わかってくれるって!』
「……あ゛ぁ、クソガキがうだうだと五月蝿ぇな」
「幸也さん」
「真紀、生憎な」
 幸也が真紀を庇うように前へ出て、からくり人形『千薙』を喚び出し、右手を千薙の前へ出す。
「俺は身内以外に情け容赦を掛ける理由はねぇんでな」
 赤い着物に灰の袴、最上胴を身に着けた千薙が幸也の右手に薙刀を差し出すと、それを受け取って構える。
『何よ、何よ! 悪くない、私は悪くないわ!』
「五月蝿ぇって言ってるだろ。丁度良かったぜ、八つ当たりに付き合えよ」
 幸也が少女を見据え、内なる力を開放する。
 それは逃れられない血の呪い――赤い瞳は赤紫色の瞳へ、藍色の髪は真白の髪へ。幸也が抑えてきた、ヴァンパイアへの覚醒だ。
「幸也、さん!」
「下がってろ、真紀!」
 薙刀を構えた幸也が少女に向かって駆けだす、その姿に真紀が驚いたように目を見開く。
 八つ当たりだと言うけれど、それは『俺』の為で。
「俺のために、戦ってくれるんですか」
 零した言葉は幸也には聞こえていないだろう、それでも言わずにはいられなかった。
 だって、俺は、本当は弱くて。
 でも、それでもいいなんて。
 俺の為に戦ってくれて、それは、それはまるで。
 まるで……愛されているようで。金縛りにでもかかってしまったみたいに、真紀は幸也の戦う姿から目が離せなかった。
『現実なんて、いらない!』
「ほざいてろ! UDC-Pでもねぇのにてめぇらの気持ちに寄り添おうとするこいつをっ」
 少女の放つ翼のようにも見える無数の白い紙を、薙刀を横に振り抜いて叩き落しながら少女を睨み付ける。
「傷付けようとすんなら」
 この、溢れそうになる吸血衝動を抑えつけてでも、クソみたいな血に溺れてやる。
 幸也の赤紫の目が血の色を濃くしたように、淡く光って。少女が怖気づいたように後ろへと下がった。
「ハッ……! ビビってんじゃねぇよ、無敵なんだろうが?」
 真紀には一切近寄らせないとばかりに、幸也が少女へと切り込んで薙刀を真上から振り下ろす。
『きゃああっ!』
 悲鳴が響いて、尻もちをついた少女が後ずさる。
「まだだぜ、こんなもんじゃ済まさねぇ」
 ああ、喉が渇く。
 酷い飢えに似たような吸血衝動を誤魔化すかのように、幸也が少女にもう一撃と薙刀から斬撃波を放ち、止めだと言わんばかりに薙刀を上段に構え――。
「幸也さん!」
 不意に後ろからきた衝撃に、幸也が息を飲む。
「真紀……?」
 ぎゅう、と後ろから抱き締められる力に、幸也が構えていた薙刀を下ろす。
「もう、いいです……!」
 その声に、僅かに飢えが満たされたような気がした。
 俺なんかより強いはずなのに、震えているようで。
 怖がらせてしまっただろうか、そう思った瞬間により一層強い力で抱き締められた。
「大丈夫だから……もう、苦しまないで」
 不思議と、真紀にとって二度目のハグに戸惑いはなかった。
 幸也さんだからだろうか、そんな事を想いながら額を押し付ける。
「真紀」
 真紀の匂いだ、と本能的に感じ取る。
 牙が疼くような甘い香りに、意識が引き戻されて。
「もう、少女は消えましたから」
 腰に回された手に、己の手を重ねた。
「悪い……」
「いいえ、嬉しかったです、俺」
 嬉しいなんて、思っていいのか分からなかったけれど。
 でも、今伝えるべきだと思ったから。
 ゆっくりと少女の創り出していた空間が解けて、蒼い世界が戻ってくる。
 完全に戻るまで、もう少しだけこのままで。
 鼓動を重ねたままでと、二人は願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸神櫻

なんだかわかる気もするわ
幸福な時にずっと閉じこもっていたくなる
だって、進む現実は残酷で
痛いほどにザクザクと突きつけてくる
私に、過去の罪を
意識もしてこなかった、奪ったものたちの明日を奪ったということの意味を
…この身に宿る呪がいつか私の大切な存在たちを食い殺してしまう……そんな、明日に脅える己を
本当は見たくないわ

神様もそんなことを思うの?
何故、進みたくないなんて…

でもそれではいけないの
私はカムイと一緒に旅をするのよ
色んな世界へ共に行くの
そうしたいの
それに…カムイが試練の神なら
カムイが齎したものなら超えて、応えてみせたいもの!
私は、カムイの巫女なんだから
なんだか同じなのねって安心したわ
……もう
愛している、わ

だからね、ひきこもっても止まってもいられない
私は進むわ
未知をしって切り拓いて手に入れる
そんなところで閉じこもってないで行きましょう
いい事だって、悪いことだって全部……あなたのものよ
乗り越えなきゃ
自身に言い聞かせながら言葉を重ねて

はらり、艷華
そんな答案、桜のように咲かせてしまいましょ!


朱赫七・カムイ
⛩神櫻

そうだろうね
辛い事や試練など誰も求めないものなのだろう
試練から逃げて隠れて、都合の良いことばかりが齎される場にいられたら
そうして生きていられたらどれ程、楽なのだろう
サヨとずーっと……ああしていられたら幸せだろう
けれど、ずっと同じ変わらぬ明日では先には進めないんだよ
辛くても苦しくても進まねばならないんだよ
其れが生きるということだと思うんだ

ふふ、サヨ
私だって苦しいことはあるよ?
進みたくないと思うことも
……何故って……(進む先には終わりがある。きみを見送り別れる、何時かが近づいてくる。運命を別つその時が──)言葉にはせずに、やさしく巫女を撫でる
でも大丈夫
サヨとなら進んで行けるしどんな困難も薙ぎ払えるよ
愛しているからね

それに私は厄神
試練の神でもある
人の想いは複雑で
されど齎された厄に負けず超えていく
その姿はとても美しい

きっとそれはそなたも一緒
閉じた理由があるなら話をきこう
ひとりではないよ
不完全だから成長できる
現実は辛く厳しくて優しい

送桜ノ厄神

無理に何処かにいけずとも
己が意思でまた歩めるように



●生きることは愛すること
「もう赤くないかしら?」
 誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の真っ赤だった頬がなんとか落ち着いて、ほのかな桜色になったのを朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)が頷いて肯定する。
「真っ赤だったサヨも綺麗だったけれど、桜色のサヨも綺麗だよ」
「もう! またそんなこと言って!」
 嬉しいけど、と片手で頬を押さえながら櫻宵が扉に手を掛けた。
「よかった、開いているわ」
 何の抵抗もなく回ったドアノブに笑みを浮かべ、櫻宵がカムイに向かって振り向く。
「好きなところは全部言ったからね」
「……その話はいいのよ!」
 いつもはかぁいらしい神様の、男らしくてかっこいいところは櫻宵の心をきゅんとさせたものだから、思い出すと顔が熱くなってしまう。
「ふふ、それじゃあ出るとしようか」
 私達の人魚が餓死してしまわないうちに、とカムイが笑って櫻宵の後ろからそっと扉を押した。
 扉の向こうへ一歩足を踏み出せば、白い部屋はいつの間にか消え失せて、見知らぬ空間が広がるばかり。
「大変よ、カムイ! 水族館じゃないわ」
「おや……どうやら、ここも怪異が創り出した空間のようだね」
 ところどころに歪みがあると、カムイが視線を飛ばす。
「なんだか変な空間ね?」
 敵が創り出したというには敵意が感じられないし、空間の色もよく分からない。
 認識が阻害されているような、そうではないような、どこか掴みどころのない――心のような。
「そうだね、何より敵意を感じられない」
 悲しい、辛い、そんな負の感情は感じられど、殺意やこちらを害そうとする感情や気配はないとカムイが頷く。
「何か、そういう怪異なのかしらね……?」
 櫻宵が軽く首を傾げた瞬間、目の前の空間が揺らいだ。
「サヨ」
 カムイが櫻宵の手を引き、己の背に庇う。
 目の前に広がった赤い髪に目を瞬かせ、櫻宵が彼の背から顔だけ出した。
『どうして? どうして出てきてしまったの?』
 あの部屋から、と声が響き、まだ年若い少女が姿を現す。
『あの部屋に居れば現実の辛い事だって、悲しい事だって感じずに済んだのに』
 幸せな気持ちを抱いたまま、閉じこもっていられるのに。
「カムイ、あの子が……」
「この現象の原因だろうね」
 あの子、なんだか悲しそうな顔だわ、と櫻宵が呟く。
「想いの凝り……と言うべきなのだろう」
 水の底に溜まった不純物のように、負の感情が凝って形になった、そんな。
「人の想い……なのね。でも、なんだかわかる気もするわ」
 幸福な時にずっと閉じこもっていたくなる、それは誰しも思う事ではないだろうかと櫻宵が思う。
「だって、進む現実はどこまでも残酷で、痛いほどにザクザクと突き付けてくるもの」
 私に、過去の罪を。
 意識すらしたことのない、奪ったものたちの――明日を奪ったということの、本当の意味を。
「……この身に宿る呪がいつか私の大切な存在たちを食い殺してしまう……そんな、明日に脅える己を」
 本当は見たくないわ、と櫻宵がカムイの背に額を押し付けて呟く。
「……そうだろうね、辛い事や試練など誰も求めないものなのだろう」
 わざわざ辛い思いをしたがる者はいないよ、とカムイが微笑む。
「私も、時折思うよ。試練から逃げて隠れて、都合の良いことばかりが齎される場にいられたら……そうして生きていられたらどれ程、楽なのだろうってね」
 サヨとずーっと……あの部屋で愛を囁いていられたら、どんなに幸せだろうか? なんて囁けば、背中の櫻宵がカムイの背をどん、と叩いて。照れ隠しのかわいい抗議に、思わずカムイの頬が緩む。
「けれど、ずっと同じ変わらぬ明日では先には進めないんだよ」
 辛くても苦しくても、悲しくて前に進めぬ日があったとしても。
「進まねばならない、其れが生きるということだと思うんだ」
 櫻宵に、自分に、少女に言い聞かせるように、カムイの優しい声が響く。
「神様もそんなことを思うの?」
 驚いたように櫻宵が目を瞬き、カムイの背に手を当てる。
「ふふ、サヨ。私だって……神であっても苦しいことはあるよ? 進みたくないと思うこともね」
「何故? 進みたくないなんて……」
 何故、と問われ、カムイが困ったように眉を下げる。その顔は、背にいる櫻宵には見えない。
「……何故、か」
 進む先にはいつか終わりが訪れるもの。きみを見送り別れる、いつかが近付いてくる。
 運命を別つ、その時が――。
 それは神という存在である自分にしかわからないことだ、とカムイが微笑んで背に居る櫻宵に向き直り、その頬を優しく撫でる。
「でも大丈夫、サヨとなら進んで行けるし、どんな困難も薙ぎ払えるよ」
 だって、私はいつだってサヨを愛しているからね。
 櫻宵にだけ聞こえるように、耳元でそう囁いて。
「……もう」
 頬を染める櫻宵が、私も愛しているわと囁いた。
『だめなの? 逃げていては……幸せな夢だけ見ていたいと願うのはだめ?』
「気持ちはわかるわ、でもそれではいけないの」
 少女の切なる声に、櫻宵が答える。
「そうだね、それに私は厄神……試練の神でもある。人の想いは複雑で、されど齎された厄に負けず超えていく」
 その姿は、何よりとても美しいものだよ、とカムイが慈愛に満ちた瞳で少女に言う。
「私はね、カムイと一緒に旅をするのよ。色んな世界へ共に行くの」
 他でもない私がそうしたいと願っているのよ、と櫻宵が微笑む。
「それにね……カムイが試練の神なら」
 顔を上げ、カムイを見つめて櫻宵が悪戯っ子のような表情を浮かべて告げる。
「カムイが齎したものなら超えて、応えてみせたいもの!」
「サヨ……!」
「私は、カムイの巫女なんだから」
 それくらい、超えてみせるわと櫻宵が胸を張った。
「それにね、なんだか同じなのねって安心したわ」
 不思議なものね、と笑う櫻宵をカムイがそっと抱き締めて、改めて二人で少女に向き合う。
「私の巫女は美しいだろう?」
 容姿ではなく、その超えて行こうとする姿が。
「きっとそれは、そなたも同じなのだよ」
『……私、も?』
「そうだとも、閉じた理由があるなら話をきこう。ひとりではないよ」
 カムイが神たらんとした笑みで頷き、その腕の中で櫻宵が巫女として微笑む。
「そうよ、だからね? ひきこもっても止まってもいられない。私は進むわ」
 未知をしって、切り拓いて手に入れる。
 それは必ず力になるから。
「あなたも、そんなところで閉じこもってないで行きましょう」
 櫻宵が少女に向かって、手を伸ばす。
『私も、私もここから出るの? でも怖いわ……!』
「人は不完全だからこそ成長できる。怖がることも、成長の証だよ」
「ええ、いい事だって、悪いことだって全部……あなたのものよ」
 蝸牛の如き歩みであっても、それは間違いなく君だけの証だとカムイが諭し、櫻宵が励ます。
『私だけの? 他の誰でもない、私だけの……』
「現実は辛く厳しく――そして、君が思うよりも優しい」
 はらり、ひらりと桜が舞う。
「だからこそ、乗り越えなきゃ」
 自分に言い聞かせるように、櫻宵が言葉を重ねて笑う。
「さあ、そんな答案用紙、桜のように咲かせてしまいましょ!」
 桜の花びらが舞って、散って、少女の背に重荷のように背負われていた鞄ごと桜吹雪へと変えて。
「無理に何処かにいけずとも、君が己の意思でまた歩めるように」
 その一助になるのであれば、とカムイも桜が舞うに合わせて神の力を揮う。
「――君、死にたまふことなかれ。そなたの禍は赦された」
 御魂を掬う祈りを籠めた、一太刀。
 それは凝りの全てを解放する、救いの一撃であった。
『……ありがとう、私』
 少女がゆっくりと、満たされたような笑みを浮かべて消えていく。
『きっと、次は頑張ってみるから』
「ええ、その意気よ!」
「一歩ずつ、君の速度でやってみるといい」
 桜吹雪が舞い上がり、はらりはらりと全てが地面に落ちる頃には少女の姿はすっかり消え去っていた。
 それと同時に、少女が創り上げていた空間も元の世界へと戻る為に解けていく。
「サヨ」
「ええ、カムイ」
 どちらからともなく、その手を繋いで。
「帰ろうか、私達の場所に」
「帰りましょう、私達を待つ人達の元へ」
 共にあらんと、微笑んだ。
 命が尽きるまで、命が尽きても――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年11月16日


挿絵イラスト