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柔よく剛を制す

#封神武侠界 #断章投下後よりプレイング受付

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#封神武侠界
#断章投下後よりプレイング受付


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 プリ・ミョート(怪物着取り・f31555)が集まった猟兵に感謝を述べる。知恵の布の上からぐるぐる眼鏡をかけ、鉢巻をしめ、辞書(?)を持つ姿はさながら苦学生のようだ。流行に敏感で影響されやすい彼女(??)の今のトレンドはこれらしい。
「テクニック! スピード! インテリジェンス! 力だけじゃダメだに。やっぱり戦いはここを使わねえといかんべ」
 ちょんちょんと指さしてるのは、頭……のつもりだろうか。一般的な体の構造をしてないせいでよく……そこが頭なんですか?! 猟兵たちに今また驚愕の真実が示されたところで、閑話休題。
「封神武侠界にてオブリビオンの大軍が現れることが予知されたべ。みんなにはそこに駆けつけてもらってバトってもらいたいんだ。よろしく頼むべ」

 仙術武侠文明、すなわち人智を超えた能力と、ユーベルコードの域にまで達した武術が高度に発達した古代世界。それが封神武侠界である。ここではオブリビオンに対抗し得る力として、仙界にて厳しい修行に打ち込む者も少なくない。
 今回は極夜湖、という仙界にある極寒の湖にて修行する英傑が、オブリビオンと鉢合わせることになる。英傑の名前は雲雀。
 ユーベルコードが使えるとはいえ、何十、何百の相手は流石に難しい。このままでは英傑が命を落としてしまう。
「見逃すわけにはいかねえべな。ここは共闘作戦で乗り越えてほしいんだ!」

 仙界・極夜湖は高くても気温零℃。一年を通して太陽が出ない此処では、常に氷点下三十から四十度をキープする極寒の地である。全ての生物の動きが止まる極限の地で、雲雀はユーベルコードの修得にまでたどり着いた。
 その代償として師から与えられた武の知識と、日常生活の一般常識しか身につけていないらしい。師の厳命通り、湖上の小島で一日の大半を過ごし、外の世界をほとんど知らないというのだ。何より他者とのつながりが希薄で、アンニュイな気質なようだ。
 そんな彼女に協力を約束するために、世界の広さを知ってもらう。それが作戦の第一歩である。連れ歩いてあげてもいい。手合わせしてもいい。ともあれ猟兵に興味を持ってもらうのが肝要だ。

 オブリビオンの軍勢は二度に分けて攻めてくる。陣容についてプリはこう述べた。
「異形の軍団、だべな! くわばらくわばら」
 それキミが言う? という言い回しだが、どうやら本当のことでもありそうだ。
 まず攻め寄せるのは『僵尸兵士』。全て護符が外れて自我を喪失しており、およそ軍として統率されているカタチではないものの、生前身につけた武器の冴えは健在。何より、達人として戦いの連携自体は取ってくるため、一計を案ずる必要がある。
 後詰は、暗黒料理異形象形拳伝承者『遍喰らい』。食べることを動きの型に取り入れた一派であり、弟子から師範代までがオブリビオンとして大挙する。数、およそ千! 奴らを放置すれば仙界の生命は瞬く間に「喰らい尽くされて」しまうだろう。

「いっそ砦とか罠とかいっぱいこさえるのはどうかに? 英傑と猟兵のテクニックコンビネーション! どんな相手でも負ける気がしねえなあ!」
 必勝祈願! 武運をお祈するべ、とプリはぺこりと頭を下げる。拱手(きょうしゅ)という挨拶、をしているらしい。礼節ほど大切なものはない。
「帰ってきたら満漢全席で祝勝会だべ! 怪我なく事故なく、頑張ってきてくんろ! 頼むべ」


地属性
 こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
 改めましてMSの地属性と申します。
 以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
 今回も古代中国の仙界にて、大軍勢に立ち向かっていただきます。おヌシこそ真の三国で無双です。

 この依頼はシリアス系となっておりますので、嬉し恥ずかし描写は十全に反映できない可能性があります。
 あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
 基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。

 続いて、「若き英傑」雲雀について補足をば。
 彼女と協力を取り付けている場合、第二章以降はユーベルコード《天人飛翔》を用いて戦闘に参加します。オブリビオン相手でもそうそう捕まったり脱落はしなさそうですが、決め手に欠けます。囮として活用する等、連携してあげれば戦いを有利に進められます。ちなみに信条は「柳に雪折れなし」です。

 では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
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第1章 日常 『私はまるでこの籠の中の鳥と同じ……』

POW   :    ●『自然が見たい!』

SPD   :    ●『街に行ってみたい!』

WIZ   :    ●『仙界に行ってみたい……!』

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「………………」

 若き英傑・雲雀。凍りついた湖の上で胡座をかき、目を閉じて瞑想している。極夜湖、極寒の地。信じられないほどの薄着で、英傑は「達人」に近い集中力を示している。目が、ぱちりと開いた。

「……承知。……然し、此処を離れず」

 雹風に肌を晒しながら、しかし自信に満ちた表情は変わらない。その場で倒立や、前屈を行う。関節がないかのような動き。どんな相手でも打ち倒すだろう。相手がオブリビオンでさえなければ。

「…………姉弟子の剛拳とは、異。……柔拳は不壊」

 ……意外と強情な様子である。さて、この柔鳥、いかがしてくれようか。
堆沙坑・娘娘
(拱手にて礼)
私は堆沙坑・娘娘。あなたが達人と称することができる英傑であることは見れば分かります。

しかし私も超常の力を操る信頼できる御仁からあなたの危機を知らされた身。ただ引き下がることはできません。

ですので、手合わせを願いたい。あなたが私を容易く打ち破れるのなら私は此度の非礼を詫びてすぐに姿を消しましょう。

手合わせが始まったら相手の攻撃を全てすり抜けるかのような柔らかな動きで避け続けます。時には攻撃する瞬間を抑えて何もさせないのも良いでしょう。
柳に雪折れなし…ですが、触れることはできる。そして幽霊には触れることすらできません。

…話を聞いてくれる気になりましたら打ち合わせでもしましょうか。



「あなたが達人と称することができる英傑であることは見れば分かります」

 達人は達人を知るということ? そう雲雀が拱手しつつ首を傾げると、堆沙坑・娘娘(堆沙坑娘娘・f32856)も返して、頷き返した。
 そう。達人は達人を知る。武と仙術が発達したこの世界において、優れた武人は目も鍛えている。日の光のない暗がりの世界にて、その眼力は一切の曇りなく輝いて見えた。

「そこであなたに手合わせを願いたい。互いに死なせない程度に、殺し合いといきましょう」
「……是。凄烈、自信」
「なに、あなたが私、パイルバンカー神仙拳開祖であるこの堆沙坑娘娘を容易く打ち破れるのなら此度の非礼を詫びてすぐに姿を消しましょう」

 無言で返す。了承したらしい。
 雲雀は柔拳、すなわち闘気の使い方に長けている。決して物理的な威力はなくとも、破壊力は折り紙付きだ。彼女は体を丸めて飛び込むと、前転しながら掌を突き出した。

「……破っ」

 ――ひゅっ……!

 拳が空を切る、外した。
 娘娘は左腕に杭打ち機を取り付けたまま跳び上がり、雲雀の二打目を見極める。上半身がぺたりと氷上に付いている。これは柔拳にある掌底ではない。想像通り開脚した足を振り回して蹴り技を繰り出してくる。

 ――ドウッ!

 やむなく空中で杭を放ち姿勢を制御、さらに空へと距離を取り、彼女がそれ以上回転脚を繰り出さないことを確認すると至近距離に降り立った。

「……其れは、何?」
「パイルバンカー神仙拳、私が極める武の道です」
「……異。闘気、尋常ではない。……神仙?」
「世にはそう呼ぶ方もいますね。自分が何者かはなかなか容易に答えられる問いではないですが」

 ――ひゅ、ひゅ!

 曲線的な動きから連続して突きを放つ。変則的な動きの中にありながら、しかし驚異的な身体バランスで持ち崩すことなく、右手左手右手と抉る一撃を繰り出していく。まともに命中すれば皮膚の上から神経系や臓器を破壊するだろう。練り込まれた闘気には、あまり知られないが、それだけの威力がある。

 ――ぱしっ……!

「……驚愕」
「もう少し試してみましょう」

 連撃の最中、雲雀の手をとって諭すように娘娘は促す。放たれる闘気からやや大袈裟に避けてしまったが、もう動きも癖も見抜いた。これほどの予備動作を交えなくても回避することができよう。

 ――ぱしぱしぱしぱしぱしっ!

 放たれる、弾く。
 放たれる、弾く。
 放たれる、払う。
 放たれる、弾く。
 娘娘の左手はパイルバンカーを抱えているため、事実上右手のみで両手のラッシュを捌いていることになる。ここまでくるとおちょくられているのか、最初から攻撃を見切る仕掛けかトリックがあるのか疑いたくもなるだろう。雲雀も、突く最中にそれを見極めようと腐心しているが、どうにもその兆候が見当たらない。攻撃がすべてすり抜けている。なぜだ。わからない。どうして、なぜ……?

「スピードが足りない。そう思っています? だとすれば、それは訂正します」
「……違う、と?」
「今のあなたの連撃なら、仮に音速でも避けられる自信がありますよ」

 こともなくそう言ってのける。雲雀には誰かと言い合いをした、という経験がない。すべてを受け入れ、勢いを殺す拳。しかも達人からの貴重な、「気づき」を与えてくれる行為に、わざわざ腹を立てるなど無駄な行為はしたくない。
 ……奇襲はどうだろうか。拳の合間に脚を織り交ぜてみては……?

 ――ぺた、ぺたぺた……。

 頬を触られる。人に触れられたのはいつぶりだろう。体を捻って割り込ませてパイルバンカーで拳を封じつつ、足を踏まれている。振り上げる前にだ。そして自由な手で頬を好き勝手に撫でられている。むにむに、ぷにぷに。娘娘からしてみれば己が質感との違いを、あるいは「素材」の違いを確かめるかのように。
 柳に雪折れなし…ですが、触れることはできる。そして幽霊には触れることすらできません。
 そう瞳で訴えかける。そう、この《幽灵(イォウリィン)》こそが攻撃を見切る技術、ユーベルコードの域まで達した技である。先読みの力が優れるあまり、立ち登る気の「起こり」から次に何を仕掛けてくるかを見破ることができる。パイルバンカーが貫けるのは岩盤だけではない。その気になれば時空さえも貫くことができる。
 こうして先読みして攻撃を封じれば、機先を制し、敵の狙いごと貫通する。霧散した気を応用すれば飛翔もできるのだが、それはやって見せてもいまいち反応が悪かった。
 ……これなら、気づいてくれるだろうか。

「…………」

 ぺたりと、急に、再び氷上に座り込んでしまった。そしてむにむにと自分の頬を触る。あまりに突拍子のない経験に感覚がついていってないのか、半信半疑といった様子だ。
 
「ここまでにしますか」
「……不感。……あなたは仕掛けない、不満」
「仕掛けてもよろしいのですか?」
「…………否」

 ごろんとそのまま寝転がってしまった。まるでそこが温かな寝床であるかのような長閑さではあるが、しかし試合の最中にそうされてしまうと、萎えてしまう。放棄したのならそう宣言すればいい。ボツコミュニケーションにも程度がある。
 元よりかけ離れた実力差を把握して、攻められても困る、そんな様子である。

「不貞腐れるならアテが外れましたが……」

 刹那――!
 娘娘はぱっと後ろに跳び去った。

 ――パキッ……ズゴォオッ!

 氷が、割れる。間欠泉のように勢いよく冷水が噴き出し、娘娘を下から奇襲したのだ。片目を閉じて若き英傑を見遣る。彼女の表情はそれでもあまり残念そうではなく、むしろ驚きと喜びに赤らめている。

「闘気を下に流し込み、一気に爆発させ、攻撃に転じるとは。考えましたね」
「……正解。……見破られた、不満」
「あなたの気は繋がっています。必ず一本の線で、曲線を描いても視線から外れても、途切れることはありません。気の起こりを見ていれば、何を仕掛けてくるかはわかってしまう。そういうことです」
「…………不明」

 氷に突き刺した二本の指を舐めつつ、雲雀は娘娘に見惚れる。当初こそ焦点の合わない視線でふらふらと危なげなかったが、今やその技から目が離せないでいる。武人たるもの、初めて見た技術には心昂ぶらせて悶えるものだが、こうも歴然たる差を見せつけられると。

「……哈哈哈!」
「ん……!」
「……失敬」

 袖で口元を押さえている。どうやら彼女なりに、はしたないというか大人げないというか、そういう類いの仕草だったらしい。氷上の若い英傑。話し合うこともなく、ひたすらに零下で技を磨き上げてきた存在。彼女はどうやらここに生活の痕跡を残している辺り、この湖を離れたことはないらしい。ならば、この吸収力、学習能力は天賦の才覚か。
 まずは迎撃の打ち合わせをしなければならない。オブリビオン相手に無策では挑めないからだ。何より、この才ある武侠を、オブリビオン如きに討ち取らせるなどもったいないではないか!
 戦いの果て、生き残れば再び試合うこともできよう。あるいは戦いの最中でも、隣で「本気」を見せてやるのも面白い。その姿を見た彼女が、どんな成長を見せるのかも……!

「……ふ」
「…………?」
「いえ」

 この場にて再戦を誓い、来るべき戦いに備えよう。全ては明日を迎えてからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

槐・凛華
※口調は「…である」、を多用します
 アドリブ描写OKです


「ふむ…すんなり共闘できればよかったのであるが」

このテのタイプは理屈と言葉では動かぬ。
他の猟兵がどう対処するかはわからぬが、
あえて挑発して手合わせするのが一番であるな。

「柔らかいだけで貧弱では意味がないぞ?」

手合わせでは七星七縛符でユーベルコードを封じ
純粋な技のみで対処するぞ。

そうだな…力技の八極拳で対処してみるか。
可能であれば貼山靠をブチ当てるぞ。

伊達に数百年生きておらんのである。

手合わせが終わればここは寒い。
茶器のヤドリガミらしく、屋外だが他の連中も誘って
暖かい茶を振舞い外世界について語ろうではないか。



 寒風が吹き荒ぶ。
 割れた氷から吹き出した水もまた瞬く間に凍結し、暗がりの中で結晶のように煌めいて鮮やかだ。

「さて、どうする」

 胡座をかいて頬杖をつき、槐・凛華(碧皇星・f32252)は若き英傑に視線を向ける。
 そんな氷上にてまるでこたえてない顔をして、鍛錬に勤しんでいる。先ほどまで拱手を交えて挨拶をし、事情を説明し、さてどうするか、という段階で没交渉である。ここが戦地になる、そう聞いて、意気を燃やしているのだろうか。

「やはりこれか。ううむ。すんなり共闘できればよかったのであるが」
「……未だ、何?」
「手合わせを所望する。若さとはなかなか眩しいものであるが、しかし己が身に火がついてるのを諭してやるのも先達の務めではないか」

 そう思っただけだぞ、とひらりと降り立ってみせる。取り出したのは《七星七縛符》。一見すればただの護符だが、クリティカルに命中すればユーベルコードの発動を封じられる優れものだ。刀剣や兜など「いわく憑き」の呪具もこの札を前にしては形なしである。それを、雲雀に手渡した。

「お守りではないぞ。いや、そういう意味で使ってもいいのだがな。純粋な戦い、真剣勝負の試合にコレは不要であろう?」
「……試合? 了。……尋常に」
「うむ、尋常に。先に助言をしておくのであれば、そうだな。柔らかいだけで貧弱では意味がないぞ?」

 それは挑戦の言葉と受け取った。だいぶ安く見積もられたものだ。ならば相応の報いは受けるといい。雲雀が饒舌だったならば、矢継ぎ早に言ってのけたろう。貧弱、よか言ったものだ。
 ユーベルコードでの軽量化がなくとも、スピードは十二分に確保している。

 ――ぐるんっ!

「……な」
「ここを掴み――」

 軽く膝でしゃがんで体勢を上げすぎないようにしつつ、踏み出して雲雀のバランスを崩し、背中からぶつける体当たりをかます。どれほどの速度を自負してようとこうも直線的な動きでは、身のこなしの素晴らしさが泣くというものだ。まあ、これも若気の至り。

 ――どごっ……!

「こう」
「……か、は」
「――貼山靠。鉄山靠ともいう。釈迦に説法ではあるが拳法とは……と、どうやら聞こえていない様子。ほら、ここで眠りこけてどうする」

 どさ、とその場に崩れ落ちる雲雀。ものの数秒で決着をつけるつもりだった。想定の範囲内ではあるを護符を回収しつつ、首根っこをつまんで持ち上げた。
 目をぐるぐると回して泡でも噴きそうな、うーむ、なかなかにひどい表情。少し加減してやるべきだったかもしれない。

「まったく情けない」

 いや。凛華にそれほどの反省の色はない。伊達に数百年生きていない。何事も経験なのだ。
 時には間違ったっていいし無様を晒してもいい。苦味だって知るべき感覚である。甘ったるさと脂濃さだけを知った舌ほど惨めなものはない。それは「お子様」というものだ。
 例えばそう、このお茶のようにだ。この極寒の地にて、それこそ目の前で茶を点ててやるのも未知なる悦びになるか、と思ったが、流石に風味も傷ついてしまうだろう。何より凍ってしまう。茶器の名折れと言われればそれまでだが、この身も寒風に晒されひび割れるのはいささか惜しい。作法を述べるならまずは環境をば、できれば茶室の一つでもこさえてから話に花を咲かせたいもの。

「……住いが、在る」
「起きたのか。傷は痛むか? といっても薬の持ち合わせはないがな」
「……平気」

 するんと逆立ちしてから立ち上がると、何食わぬ顔で歩いていく。
 ふと、振り返ってはにかんだ。

「……妙技、見事也」
「伊達に数百年生きておらんのである」
「……哈哈哈! ……失敬」

 冗談ではない。が、冗談と受け取ったらしい。ならば先程の一撃は歴史の重み、というわけか、などと一人合点してはくすくす笑う。
 さておき、着いたのはかまくらだ。万年夜風ではあるが、湖上にてなお強固な雪氷の寝床として、ここを確保しているらしい。座り込めばじんじんと冷たさが伝わってくる場所であるけれど、凛華は通され促されるまま腰を下ろした。

「ここに、一人か」
「……如何にも」
「では外に出たことも、ないだろうな。水も食事もない、社会から隔絶しているのである」

 水は氷を割れば一時的に入手できるし、食料は寒冷地でも生える仙桃がある。歯を立てなければ噛みちぎれない代物だが生きるために必要な栄養素が全て含まれているから平気だと雲雀は言った。その言葉で、ここも仙界だったとようやく思い出す。
 この忍耐力もまた彼女の才能の一つなのだろう。国の栄枯盛衰、興亡を見てきた凛華にとって、人ならざるものながらヒトの社会には人一倍敏感であった。それが多くの関係性によって培われてきたことを肌で知っているし、その中で多くの「文化」が生まれたことも知っている。文化とはすなわち発展である。人の往来、出会い、その化学反応。多くの成長につながりが不可欠なのはいうまでもない。

 ――ちくり、と胸が痛む。
 では、別れは? 別れもまた重要なファクターだろうか。

「別れが何かを生むとは、思いたくないな」
「…………?」
「何、ここでお別れは惜しい。それだけであるよ」

 威厳たっぷりにお茶を飲み干してみせる。茶器ゆえにお茶も自在に出せる、というわけではなく、普通に事前に用意したものだ。それも魔法瓶的なもので。これもまた文明の利器、すなわち発展のカタチだ。
 まず自分が熱々のお茶を飲んだのち、やがてぬるくなりつつあるお茶を雲雀に差し出した。雲雀は目を丸くする。

「……美味」
「そうかそうか。いや、普通のお茶だがな」

 普通。
 簡単に言ってしまったが、これも難しい。彼女、英傑である雲雀にとってこの生活が普通なのだ。ならば外界から現れた存在が出した飲み物はなんであれ貴重に映るだろう。飲食物に限らない。服だってそうだ。言葉もそう。
 話も、技だってそうだろう。

「……再試合」
「……また寒い外は……」
「…………了」

 その機会は訪れるだろう。この地に迫るオブリビオンを撃退し、再び平穏が取り戻せた時には、いくらでも時間はあるはずだ。ここで彼女を満足させてしまうよりも、生き甲斐や未来やその先への希望に目を向けさせる方が、繋がりは強くなる。凛華のとっさの機転であった。
 外世界について語り出したらキリがない。人の齢で数え切れないほどの年月を生き、そのすべてを愛おしく思っている。時には寂しさを思い出すこともあるけれど、それもひとえに愛おしかったから寂しくなるのだ。
 何も思わなければ、何も感じられない。何も負わなければ、何も感じ入らない。
 雲雀の軽さは、修行の成果である。しかしその技一つしか体得できなかったとしたら、それは今のやり方の行き詰まりと同義ではないか。もし武林に入り、強者の中で揉まれ、切磋琢磨していれば。いや、今からでも遅くはない。人と人との出会いに早い遅いなんてないのだ。一期一会という言葉がある。人と人との巡り合わせは縁、そしてその時々で最適な形で出会うものと決まっている。
 今の彼女は軽い。考える、その時間を放棄して修行に打ち込んでいる。人ならざる神仙とはえてしてこういうアンニュイになりがちだが、彼女は人間だ。若い、まだ未来が数え切れないほど待ち受ける、小鳥だ。

「力を貸してもらうぞ」

 雲雀がこくんとうなずく。彼女の燃え上がった意気は消えるどころかますます気炎万丈。氷の柔拳に、ほのかに熱が灯る。静止した時間が動き出す。

 襲撃まであと一刻――運命の時が、ひたひたと静かに近づいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『僵尸兵士』

POW   :    僵尸兵器
【生前に愛用していた武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    僵尸鏡体
【硬質化した肉体】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、硬質化した肉体から何度でも発動できる。
WIZ   :    僵尸連携陣
敵より【仲間の数が多い】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 この世の終わりが来た。
 若き英傑・雲雀は小さな胸に手を当て睨みつける。群を成してこの地に歩み寄る『僵尸兵士』たち。奥には別の軍勢も見える。退路など元からない。逃げては勝てない。我々は勝たなければならない。

 遥けき遠くの地にいる二人の「姉弟子」を思うと、勇気が湧いてくる。ろくな思い出もないけれど、それでも力を貸してくれる気がする。

「……尋常に」

 ――猟兵たちはその背を見て思うだろう。この命をここで捨てさせるのはまだ惜しい。指示によっては撹乱をかって出てくれるはずだ。
 偃月刀に龍槍、画戟、得物を携えて身構える。表情に感情は見られない。効率よく仙界を制圧するための機構に過ぎない。つまり遠慮はいらない!

「……いざ」

 参ろうか。まずは『僵尸兵士』を蹴散らそう。
槐・凛華
「多勢に無勢とは正にこのことであるな。
策を使わねばどうにもなるまい」

この人数でこの数の相手は無茶ぶりにも程があるが…
諦めるより前に行動であるな。

アテがあるとすれば、この湖。
事前に目測で敵が収まりきる範囲を
くり抜くように罅を入れ、我は近場に潜伏である。

雲雀には囮役を頼もう。
重要なのは『注目を集め、湖の上に軍団を誘導する』ことである。

「普通なら斯様な手段、通じぬのであろうが」

敵が誘い出されたら震脚でもって氷にトドメの一撃を加え、
連中を水に落とすもしくは氷上に孤立させるぞ。

あとは這いあがってきた僵尸兵士に忍び寄り、
地道にシーブズ・ギャンビットで仕留めよう。
…服は脱がんぞ?

※アドリブ描写、連携OKです



 『僵尸兵士』の動きが止まる。極夜湖は無人に近い仙界、とインプットされていた。ならば視界に映るアレは何だ。氷上に舞う姿は、妖精か?

「…………」

 上体を倒したまま、開脚し、足を後ろへと回す。指先を足先からすうと這わせて腹部から胸元へ、頭部へ。何かを吟じることもなく、すなわち旋律が響くこともなく、ただ、無音の中舞を続けている。雲雀は笑わない。右足を持ち上に振り上げる。開脚したまま両手を氷について開脚した姿勢。

「………………」

 すなわち雪中、氷上において闘気を練り上げる修行の一風景なのだが、そんなことを僵尸が感じ取れるはずもない。僵尸に生命エネルギー、闘気は感じ取れない。仙術や呪術で仮初の命を与えられた存在。彼女が「臨戦状態」であることすらも、認知の外である。手にした得物を振るえばあの細首を落とすことも容易い。仮に敵だとしてシミュレートして、障害となる可能性はゼロだ。

 ――ぱき……!

 雲雀の体重はユーベルコードの効力で赤ん坊ほどしかない。なのに氷がひび割れるはずはないのだが。
 考えがない。思考をまとめていない。軍靴も乱れて、違和感に気づかない。

「普通なら斯様な手段、通じぬのであろうが」
「……合点」

 人をみなければ判断できない。凛華の答えはこうだ。あの虚淵のような眼は、何も見てはいない。僵尸と同様の戦況判断。

「彼達(あれ)ならば、造作もない」

 氷上に星が降り立つ。
 踏み込み足が接地する瞬間、足を捻り込み、練り上げた闘気が奔流となって視界に現出したのだ。碧色の彩、それは諦めることなくまず一歩踏み出す、空と地において、なお輝く一等星。床を削るほどの踏み込み。砂塵すら巻き起こすほどの衝撃。

「それをここで起こすとどうなるか。想像しないのは愚の骨頂である」

 ――ビシぃッ…………バキバキ……バギッ!!

 普通なら裸足で逃げ出すところだ。斯様な大軍勢を相手取って、この人数で対応するなど、愚かを通り越して自殺行為。しかし、暗夜において輝きを消す星がどこにあろうか。まして星は滅するその時こそ、輝きをより強くするもの。惑えるものがいるならば、あえて道を指し示す導とならん。

「沈むがいい」

 袖の装束を合図と同時にはらり、はらりと落とした。
 その布の重みについに耐えかねたのか、湖上にて軍勢は瓦解する。乗っかっていた氷が震脚の衝撃で砕け散り、水中へと突き落とされたのだ。

「……罅」
「そういうのは無粋ではないか? まあよい。仕上げであるな」

 前準備を怠らないのも経験則、言い方を変えれば年の功なのだが……敬意に欠けた雲雀の発言は目を瞑ろう。
 さて、ここからは時間勝負だ。外気温から考えれば水である瞬間はごく僅か。

「つまり、こうであろう」

 広い上げた袖をシャッと振り払うと、一瞬で鋭利な刃物のような形状で固形化した。ありあわせの武器だが、凍りついた遺体を屠るには十分な殺傷力を秘める。何より、この武器をあてがう速度こそが最も重要な「破壊力」に直結する。
 その首差し出すがよい、そんな言葉をかけるのさえも無粋な、心奪う一閃。僵尸は久しく忘れている、人の肉を切る感触というのは、案外味気ないものだ。特に脈動しない、凍りついた肉は骨以外はさらりと切れるものである。毛、皮、繊維、およそ人の生きた痕跡など、この一線の前では塵に等しい。空気を切るよりなお容易い。感慨などあろうものか。ある命を奪うのなら知らず、氷から這い出る最中に固まった命ならざるもの……。

「孤立していれば断ちやすい」

 飛び散る血液すら固まる氷点下、上げた悲鳴が凍える大気の中で凍りつく。
 嵌められた、思ってからでは遅い。長物もこうなっては脱出の妨げにしかならない。

「オォオオォオオ!」
「ゴッォオオォォ…」

 ――ジャギッ……ざ、バヅン……!

「静粛に、である」

 さらなる、加速。
 目にも止まらぬ、と、形容するに相応しい剣速。今度はありあわせの武器ではない。諸刃短剣のダガーを抜き放ち、頸動脈にあてがって、引き抜く。

「服は脱がんぞ?」

 彼女なりの茶目っ気なのであろうか。理性なき僵尸に斯様な下劣な欲情があるとは到底思えない。その肢体を拝める頃には首と胴が離れていように。

「…………美神也」
「何か」
「……哈哈哈! ……失敬」

 せいぜい袖周りと足回りを身軽にした程度だが、それでも雲雀にはやや刺激が強すぎたか。同じく血風の中飛び回りつつ、視界を五指で隠している。蹴りつける脚は車輪の如く。照れ隠しか、怒涛の勢いは無人の荒野を行くが如し。

「オォオ!!」
「……何」

 そのうちの一体が、幸運なことに突き出した得物で繰り出された技を防いだ。すると何が起こるか。振り回した画戟をプロペラの如く回転させ、水面から勢いよく飛行発進したではないか。
 同時に、死後硬直で硬化したはずの肉体が凄まじい勢いで飛翔し始める。古来の拳法には砲に人体を詰め込み、弾の如く発射して奇襲する奥義があるという。こと推進力だけを切り出せば、まさしくその様子と表現するに相応しい。
 これには雲雀も面食らう。肉弾が空を舞う姿。己に肉薄する一抹の恐怖。例え数秒といえど、己の人生をかけて体得した技を奪われる屈辱。戦意を削ぐにはあまりにも十分すぎた。

「注目を集めよ。雲雀、託した仕事であろう」

 ……。
 …………。
 そうだ。技が封じられ、掠め取られようと、課された使命はなくならない。培ってきた蓄積はなくなりはしない。向かってくる僵尸の勢いを「いなす」と、その背に飛び乗り、待つ。数秒、数十秒。へばり付き、食らいつき、そして、飛び立つ。
 墜落していく僵尸。逆転する天地。近づく地面と鼻先がつく前に、凛華の泰然とした笑顔を見た。そうだ。それでいい。そう背中を押してくれているような安心感がある。この人になら委ねてもいい……そう、まるで冷風に当てられる最中、熱い茶を差し出されたかのような、ホッとする瞬間だ。

「……と」

 いけない。生娘のように表情を緩めている時間はない。その内顔が凍りついてしまってこのままとなっては目も当てられない。常に闘気を巡らせ、集中し、己が身を軽く保つことに全霊を尽くす。飛べ、翔けよ。そして、注意を引け!

「それでいい」

 またぞろ這い上がってきた僵尸の首に飛びつき、勢いのままねじ切る。山積する、動かぬ死体はきっとこの修行地において新たな観光スポットになってしまうに相違ない。無論簡単に足を踏み入れられる仙界ではないことは重々承知だが。
 蹴落とし、突き入れ、斬り払う。その内噴き上がって凍りついた柱も斬り倒して、そのまま水中へと返した。骸の海ならぬ氷海を泳ぐのはいささか気の毒ではあるが、これも場所を選ばず侵攻してきた不運を呪ってもらう他ない。
 あるいは己の本体を切り分けて操ったところで、この寒冷地では詮無いことだったろう。結局地道な作業て切り抜けるしかないのだ。

「これも、修行か。彼女の言葉を借りるのであれば」
「……然り」
「地獄耳であるな」

 やれやれ。ならば相応の忍耐強さを見せなければ猟兵の名が廃るというもの。星は瞬き続けるから星なのだ。夜が長々続くこの地にて、輝き続けろと無茶振りされるならそれもまたよし。せいぜい派手な 散りざまを見せてみよ、と、ダガーを振り翳し、二度と動かぬ塵芥へと還していく。半ば作業、半ば仕事、しかして命の取り合いである。
 なぜなら、期待を双肩に背負っている。せめてかの期待の眼差しがなければ、もう少し荒っぽい解決方法もあったろうに。だが、愉快だ。

 今なお、星は笑みのように眩く戦地を照らす。
 手の届かないほどの卓越した技と、圧倒的な実力を輝かせて――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

堆沙坑・娘娘
大軍でさえなければどうとでもできる連中でしょう。なので間引きは私に任せてください。

地形に大穴を作り出す巨大な【貫通攻撃】で敵集団を一気に消し飛ばし蹴散らします。
そこそこ大振りで攻撃を仕掛けるので《天人飛翔》を使える雲雀であれば私の攻撃に巻き込まれることもないはずです。雲雀には私の攻撃で取りこぼした敵を片付けてもらいましょう。それを敵集団を殲滅するまで繰り返します。

柔拳は不壊というあなたの考えも正しいです。
ですが、剛拳ならこういう場面で敵を素早く纏めて蹴散らせます。無理強いはしませんが、覚えておいても損はありませんよ。

…歳を重ねると説教臭くなっていけませんね。うざがらないでもらえると助かります。



「…歳を重ねると説教臭くなっていけませんね」

 そうぼやく娘娘の年齢を、実は雲雀は正確には把握していない。ゆえに反応することなく、つぶさに観察する。実物を見たことはないが、しかし空を飛ぶ鳥よりも早く、戦場を駆けながら、しかし、その口の動きだけは見逃さなかった。
 パイルバンカー神仙拳、聞きしに勝る破壊力を目の当たりにし、竦む身はむしろ寒風を切って高く舞い上がる。

「……否。……続けて、求」
「そうですか? あなたも変わっていますね。……ああ、間引きは私に任せてください」

 群れているだけの有象無象、モノの数ではないですがバラせばさらにどうとでもできる連中でしょう。
 空中でくるりと一転し、軍団の中心に向かってすっ飛んでいく。さながら隕石の如く急降下し、杭を射出。面白いように五体をばらばらと飛び散らして消えていく僵尸が半分、残りは湖上の分厚い氷に大穴を空けてその中へと体を沈めていく。

「あと、二、三も撃てば……うん?」

 見れば彼女、かなり近いところを飛翔している。加速も可能な上、氷の上に降り立たなければひとまずは安心であろうが、念には念をともいう。空中にて残党処理を行う雲雀に向けて、娘娘は声を上げた。
 降り頻る雹と雪の中で、凛とした声がよく響く。うめき声しかあげられない、知性なき僵尸には、それが威嚇にも聞こえたのかもしれない。得物である長物を振り回しこそすれ不用意には近づかない。

「どうしたのでしょうか? 休みますか」
「……否」
「ではもう少し離れて。私の神仙拳を近くで見たい気持ちも、わからなくはないですが」

 もじもじと内股を擦り合わせている。何かを繰り出したいのか、はたまた秘めたる思いがあるのか。もしその雰囲気を試合で察知していたら、娘娘は即座に距離をとっていただろう。
 しかしこの場には、アンニュイな若い英傑しかいない。そんな彼女が己に指摘? 致命的な落ち度はなかったように思うが。

「……剛拳」

 あ、ああ。と、合点する。
 実戦においてもこれを多用していることが、やはり気になったらしい。相反する柔拳を極めた末にユーベルコードに至った彼女にとって、その姿には単なる憧れ以上のものを感じていたらしい。
 空中で舞うような動きの最中、パイルバンカーを繰り出す動きを真似てみせる。捻りながら地へ飛び、勢いよく杭を撃ち出すように拳を突く。

「一朝一夕で身につけられる技ではないです。残念ですが」
「……至極真当。……鍛錬不足」
「筋はいいですがね」

 ようやく這い出てきた僵尸が、勢いよく長槍を突き出してくる。元より振り回すか刺すかしかない得物のため、その動きは直線的。するんと隙間を縫うと、氷上を滑り足払い。

「グォ?!」
「遅いですよ」

 そのまま蹴り上げ、おまけに杭をくれてやる。地形への衝撃だけで四散するような脆弱な肉体が耐えられるはずもなく、無惨にも肉片に成り果てた死体。一瞥も与えることなく雲雀を見遣る。

「柔拳は不壊というあなたの考えも正しいです」
「…………そう!」
「ですが、剛拳ならこういう場面で敵を素早く纏めて蹴散らせます。先ほどの此奴も、柔拳を応用しました。これを使えばまず一撃もらうことはあり得ません。直線的な動きできますから、その闘気を読んで横にずらしてあげればいい。自分に向かってくるものを、上でも、横でも構いません」

 しなる槍の不規則性、繰り出されてくる槍先を見据え、足元を確認し、その勢いを凪ぐ。

「二本ならば両手か足を使います」

 パイルバンカーで受けることなく、空中で前転しつつ、繰り出された槍先をそれぞれの足で踏みつける。粉砕される得物。目を丸くする僵尸の二つの顔が、次の瞬間には、抉るようなブローで地面へと転がされていた。瞬く間に積み上がった屍を湖水へと蹴落とすのも忘れない。あまりにも手際が良いため、これが実戦ではなく訓練の延長と勘違いしてしまいそうだと、雲雀は袖を噛んだ。

「訓練と考えてもらっても構いません。今は、雲雀。あなたにはこの僵尸にせいぜい一、二体渡り合うのがせいぜい。甘めに見積もっても片手で数える程度を倒すのがいいところでしょう」
「……是」
「ですが、繰り返しになりますように、あと一つ、別方向に技を伸ばし、極めれば、より効率よく、そしてより実戦的に進化を遂げます」

 ――メキメキ……ガゴォッ!! バキバキバギィ!!

 振りかぶった拳ごとパイルバンカーを突き出し、氷への正拳突きの勢いで足元から粉砕する。ヒビが一直線に軍団へと向かっていき、それらの足元で崩落。瞬く間に氷結遺骸を大量生産する。

「無理強いはしませんが、覚えておいても損はありませんよ。これはあなたの柔拳を相乗で進化させる意味もあります」
「……相乗」
「ええ。かくいう私も未だ求道の身。異界の方々と拳を交わし、日々研鑽と成長を繰り返しています。それもこれも『パイルバンカーを極める』ため」
「……寄り道?」
「……どうでしょうか。パイルバンカーを極める、すなわち、この一撃をより良い形にするべくあらゆる道を模索することと同義です。私にとってはパイルバンカーは魂ですから、その魂をねじ曲げることも、諦めることもできません」

 なんだかそれは胸のつかえを取るような鼓舞にも聞こえる文言で。
 こんなにも強く、一人で数十の僵尸を屠る娘娘でさえ未だ道半ば、より磨けたあげた「一つ」を高みに押し上げるその一心だと聞くと、自分はやはりまだまだだと思ってしまう。

「……不壊。……不敗」
「その意気です。柔拳が強いのではありません。それを操る雲雀が強くならなければ、どんな技も真価を発揮するには至りませんから」

 不壊。
 不敗。
 挫けず、愚直に言葉を繰り返し、己が道を進む。
 そのために道端の技を吸収する。練り込んだ闘気を手のひら一点集中、親指と人差し指をくっつけて拳の形を作ると、吶喊。僵尸の胴に突き出した。

 ――……ガッ!

「オォオオォ!」

 浅い。見様見真似ゆえ仕方ない。
 気づいた娘娘が、氷を破壊しその窮地を救う。余計なことを、などとは言うまい。今彼女は必死に己の殻を破ろうとしている。この寒冷地にて十数年、他との繋がりを絶って磨き上げてきた技術をワンステップ違う形へ押し上げるために。
 あるいは、娘娘もまた、己が姿を幻視したのかもしれない。自分とて、この世界に生まれ落ちる以前のことを知らないのだ。物心ついた時から自身はパイルバンカー神仙拳を操る拳士であったし、それ以外の生き方を知らなかった。それが正しいとか、間違っているだとか、そういう次元じゃない。

「……く」
「お節介ですかね」
「…………師……?」
「それでも構いませんが。今はとりあえず鬱陶しがらないでくれると助かります」

 今風の言葉で言えば、うざがらないでもらえると、ですかね。はにかむ姿は歳に不相応で、傍目に見れば同年代くらいに見えるだろう。しかし近しいのはあくまで見た目の年齢だけ。その境地に達するのは五年か、十年か、下手すればもっと先になるかもしれない。
 そして、触れ合うのはきっとこの戦い、この瞬間、この巡り合わせが許したこれきりだ。
 ならば全ての行為は無駄にならない。この若き英傑に、また一つ、パイルバンカー神話が紡がれるだけでも、どれほどの意味があろう。金銭的価値には代えられない。

 地形が変わるほどの攻撃を繰り出し続けて、僵尸の数が目減りする。まずは第一陣、退けたか。
 ……ならば重畳。ややあって近づく軍靴の音、にじり寄る本軍を前にして息をつく。戦いはまだ終わらない、不幸なことに……あるいは、幸せなことには。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久瀬・了介(サポート)
「オブリビオンは殺す。必ず殺す」

オブリビオンへの復讐の為に甦った不死の怪物。そこにオブリビオンがいるならただ殺すのみ。

生前は職業軍人。デッドマンとして強化された身体能力と、軍隊で身に付けた戦闘術を基本に戦う。

軍人としての矜恃は失われていない為、敵の撃破より民間人の安全と平和を最優先として行動する。復讐鬼ではあるが狂戦士ではない。非戦闘時や交渉時は実直で礼儀正しく他人に接する。

基本戦術は「ハンドキャノン」での射撃。敵の数が多い場合はフルオート射撃での範囲攻撃。
敵の能力に応じて【死点撃ち】【犬神】【連鎖する呪い】で射撃を強化する。
その他、状況に最適なUCを選択して使用。


アレクサンドラ・ヒュンディン(サポート)
人狼の力持ち×ミュータントヒーローです
普段の口調は「私、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?」、気にいったら「私、あなた、~さん、ね、よ、なの、なの?」

性格は内気で人と目を合わせるのが苦手ですが、人嫌いなわけではなく事件解決には積極的です
戦闘スタイルは力任せで、ダメージはライフで受けるタイプです

日常や冒険の場合、食べ物があるとやる気が増します

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「…………」

 若き英傑、雲雀は周囲を見渡す。
 仙地、極夜湖。凍りついた水上にて奮戦するユーベルコードの使い手は、今まさに危機を迎えていた。寡黙でありながらしかしその眼差しははっきりと焦り、疲労感、そして怯えが見て取れる。体力配分を見誤ったのではない。敵が多いのだ。『僵尸兵士』はどこから湧いて出てくるのかと言わんばかりに大挙して押し寄せる。
 突き出された槍を身を捩って回避したものの、続け様に繰り出された画戟に打ち据えられてしまう。口元から嫌な吐き気が込み上げる。なんとか間合いの内々に潜り、単なる持ち手に当たる部分を受けたが、若き英傑の心を折るには十分だった。
 死。死ぬ。死ぬだろう。死んでしまう。このまま別の得物を突き出されても、戟を抜かれても死んでしまう。すぐそこにまで見えた死。生命の終わりを感じ取ってはじめて、英傑、雲雀はぎゅうぅうっと目を閉じた。

「おおぉおお! は、な、せえええ……はなせえっっ!」

 アレクサンドラ・ヒュンディン(狗孤鈍狼・f25572)の咆哮が、注意と、衆目と、攻撃の毒牙を一手に引き受けた。

「オォオオォオオ!」
「るぁう!」

 したたかに叩きつけられる。ぴっと鼻血が噴き出るが、そのまま頭突きで僵尸を氷上に突き倒すと、振り返って牙を剥いた。
 ばるんと尻たぶが重力と反した動きをして、その勢いのまま跳躍、ヒップアタックを繰り出したのだと僵尸が気づいた時には胴体がひしゃげている。眼球が飛び出て、骨を肌から突き出して倒れ伏す様はなんとも痛ましい。

「こ、こっちに」
「…………了」

 対するサンディはほとんどが返り血で、美しい白い髪を汚すばかり。指を舐り、鼻を拭い、ひび割れた眼鏡のズレを直す。
 驚天動地の肉弾。雲雀の手を引く感触は柔らかく優しいのに、片や振りかざした拳爪のなんと荒々しいことか。筋肉の弾力、しなりとうねり、弾けそうなバネが阻む僵尸を原型すら残さず粉砕する。
 手を引いてくれるだけでこんなにも心が躍るだなんて。

「……強者」
「はい。……はい? その、照れます……」

 ――ぶぉん!

「わぉぉぉ! ぐるうっ!」

 推進力を噴出する雄々しき姿、僅かばかりの拘束で抑えた艶々しい肉体美。何より頼り甲斐のある背中。雲雀は酔っていた。己が柔拳は不壊にして不倒。この永久凍土にて真価を発揮するものと信じていたが、サンディの勇姿を見てそれを改めさせられた。
 優しさ、それと相反するような逞しき筋肉。

「おぉおお! おおん!!」

 喉を鳴らし、胸をばるんと揺らして、戦場を席巻する。ひたすらに見下ろすが如く、並み居る僵尸を塵か何かと見定めて。
 ただただ美しく、戦場に在る。

「力ある者の責任だ」

 轟、と。
 氷原を無人が如く。
 炎が撫でる。

「いいか。殺せ」

 味方を巻き込みかねない炎の怒涛。咄嗟にサンディに庇われ、覆い被さられる中で若き英傑が見たのは、久瀬・了介(デッドマンの悪霊・f29396)が戦場を平している姿だった。
 彼がこの戦場に現れた理由はただ一つ。目障りなオブリビオンを排除する、この世から一片たりとも残らず、である。仙界から退けるために戦っている英傑とは戦いの次元が、レベルが、ステージが違う。

「一度力を得たのなら、何に使うか考えろ。そこで蹲っているためか? 閉じこもるだけなら赤子と同じだろうが」
「…………赤子」
「それとも生まれ落ちた不幸を呪うか?」

 ばっと払った手から火の粉が散る。一見すれば可愛げのある、花火のような華やかさ。しかしてその実態は、吸い込めば自然発火し、呼吸しない僵尸には命じずとも勝手に付着燃焼する延焼性のある《天変地異》。雲雀は息を止めた。アレを吸い込んではならない。自分が黒焦げとなって倒れ伏す近い未来が容易に察知できたためだ。

「オブリビオンのように。いや、奴らに後悔などという温い感情などあるはずもない」
「……そう、でしょうか」
「そうさ。貴様とて自分の欲望を満たすために力を振るっている。そうだろう? なら同情は無用だ。ただ殺せ。すぐ殺せ。殺してこの地の土に還せ」

 了介はにこりともしない。
 白く消える雪風の中で、ギラギラと赤い眼光が眩しく見える。アレが目印かと殺到する僵尸。そうすれば最期である。すでに失った命を持って彷徨く彼らに「最期」とは皮肉なものだが、しかし生前の武技など披露するまもなく、了介によって瞬く間に炭へと変えられてしまう。
 一方的だ。一方的すぎる……!

「……責任」

 力あるものの責任。力を得た意味。
 自分が得た力をいかに磨き上げるかが至上命題だった英傑にとって、力を得たその先に発生するものなどわかるはずもない。
 思えば攻められているから戦う、というのも、なんとも受動的な話だ。

「……違う。否。……消力」

 受け止め、気を霧散させ、跳ね返す。
 それは相手ありきのことだ。
 折れない。
 それは風が吹かなければ関係のないことだ。
 ひとりでに折れるような木は自然に生えない。こんな極寒の、極地においてでさえ、仙桃など自然に生きる生物は存在する。彼らは己が生き様を誇らない。その代わりに何かに目覚めることもない。
 向き合っていないからだ。相手、ではない。自分自身。この境遇に堕ちて、なお誇り高く自分を保つ、己を知らないためだ。なあなあで、流されて、風を受けて。抵抗しないものは折れない。
 私はまだ折れてはいない。なぜだ。

「…………哈哈哈!」

 例えば下層の狼のように誇り高く。
 例えば戦場の悪霊のように貪欲に。

「いい目だ。戦うものの目だ」

 殺せと囁く。今ならその言葉の意味がはっきりとわかる。弱き己を打倒し、己の限界を突き破って飛び立つ鳥。それこそが真なる己だ。
 雲雀は、両腕が翼に変じる感覚を得た。まさにこれが自分の真の姿だと言わんばかりに。

「俺は殺す。戦うだけなど、笑止」

 戦うだけ。

「でも生きることも戦いでしょう。こうして胸を張るだけで」

 ぽよんと胸を揺らす。凍風に煽られて、サンディは風に向かって胸を張っていた。獣化の影響か、それとも戦いながらの会話に心躍るのか、普段の大人しさからは想像もつかない自身に溢れた表情を湛えている。その内、英傑を立ち上がらせると、今度は並び立った。もはや彼女を庇うだけでは、この昂りは収まらない。そして、手をこまねくだけでは、敵の攻勢も止まない。
 殺気に浮き足立つ僵尸たち。仮にも戦士を名乗るなら、せめて少しは戦術を組み立てればいいものを、そんな知恵は微塵もない。むしろ倒れる味方の死体を踏んで躓くくらいの誇りしかない。
 これが誇りと誇りのぶつかり合いならば、すぐに決着したに違いない。だがことはそれほどスマートではないのだ。言うなれば己の主張のし合いである。
 誇るべき肉体、誇るほどでもない使命、誇りたかった技術。
 彼ら、彼女たちは向き合うべき己を知っているからこそ、ひたすらに強くなれる。過去に溺れたオブリビオンとの決定的な違いだ。いくらでも自省し、いくらでも強くなれる。際限なく、時には味方に鼓舞され、ひいては一人で戦場を支配できるほどに。

「……自分のために戦いましょう」
「殺せ。目の前にいるのは、貴様の敵だ」

 不思議な話である。それでもメカニズムは簡単な話だ。単純でいい。かえって良い。猟兵の言葉によって、力の光が目に宿る。自分とてこの世界に生まれ落ちたひとつの生命。それを守れずして、何のための拳だろう。今はこんなにちっぽけな大きさだけど、いつかは広げて、もっと違う何かを守るために。
 戦いは続く。――生きている限り、続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シェーラ・ミレディ(サポート)
※OK:シリアス
※NG:エロ、ネタ、コメディ、心情系
※傭兵的なスポット参戦

称号通り、僕の身体を維持するための金儲けと、弱者をいたぶる醜い行いが許せぬ義侠心が行動指針だ。
美しいものは愛でるべきだが、恋愛には結びつかないなぁ。
性格ブスは醜い。見るに堪えん。

複数の精霊銃をジャグリングのように駆使する、彩色銃技という技(UC)を使って、敵を殲滅しようか。
敵からの攻撃は基本的に回避する。が、護衛対象がいるならかばうのも検討しよう。
……嗚呼、僕を傷付けたなら、代償は高くつくぞ!



 水晶の如き瞳が、戦場を睥睨する。
 わざわざの極寒の地に出向き、相対するのは僵尸の群れ。しかも狩り残した存在の掃討ときた。

「やれやれだな」

 魂のそこから深々と吐いた息まで白く凍りつきそうだ。戦うならばせめて美しさを理解するものと、殺し合うならばその美学を共感できるものと! いかに金、報酬目当てで呼び出しに応じたといえど、あの泥のような瞳を見開いた存在とどうしてまともに相対できようか。考えただけで背筋が凍りつきそうだ。
 とはいえこのまま佇んでいてはこちらも凍りついてしまう。零下何度かは正確に把握してないが、少なくとも高価な自分のボディが冷気ごときで傷つけられるのは言語道断、ましてや僵尸との戦闘で傷つくのは問題外だ。ならばどうするか。

「残念だ。この銃撃を味わえる栄誉を、噛み締める知性さえないとは」

 シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)の彩色銃技(アトラクティブガンアーツ)は契約した精霊の魔法力をそのまま放つ絶技である。複数の銃を使いこなすシェーラは特に鮮やかな色合いを気に入っている。何より宙に振り上げたその刹那のうちに次弾が装填されるのがたまらなくスマートだ。勘違いされやすいことだが豪奢なこととスマートなことは両立し得る。黄金で飾り付けることもまたある種美学ではあるものの、真なる美とは一見して派手すぎない。生活に溶け込んでこそ感性は磨かれ、その息吹と共に初めて至高となるのだ。
 すでに終わったものに披露するには、そう、実に味気ない。
 だが披露してやるとしよう。ギャラリーは、一人のみ。そう思うことにする。

「感想を述べろ。役目だろう? それとも、見たことがないものには何も言えないか。だとしたらそれこそ浅はかだ。全ての言葉は、この僕の技を讃えるためにある。対価を払えないというなら、せめて言葉(ひめい)にしてみせろ」

 銃を取り出す。全て、全てである。すなわち――!

 国色天香――フォルムは国中随一の美しさ、硝煙はこの世のものとも思えない甘美な香り。
 天香桂花――一閃の軌跡が空に瞬く花を思わせる、満開とも言える威力を放つ砲。
 千紫万紅――万色の属性を司る万能の銃であり、彩り豊かな銃撃が目も眩むほど輝く。
 晶瑩玲瓏――砲身が氷のように透き通り、硝子のように繊細な一撃を放つ美しい銃。
 花鳥風月――大自然の力を宿す偉大な精霊の庇護下にある。あらゆる生命を自然へと還す。
 山紫水明――火の光のように真っ直ぐな弾道と、たおやかな水の流れのような柔軟さを併せ持つ。
 窈窕淑女――奥ゆくかしい見た目の裏に熱情を秘めた、気品を感じさせる誂え物。
 八面玲瓏――どの部位をどの方向から切り取っても隙の見当たらない、完成された名品。
 鮮美透涼――特に清らかさを重視した優美な形状。随一のしなやかさが特徴的。
 蓮華封土――炸裂した弾丸が次々と花開く様が、夏の花火や睡蓮を彷彿とさせる芸術品。
 一顧傾城――かつて国主がこぞってこれを求めたとされる曰く付きの呪銃。威力は折り紙付き。
 花紅柳緑――ありのままの自然から発生したのではと勘繰るほどの、剥き出しの強さを持つ。
 沈魚落雁――人は愚か、地上あらゆる生き物を凌駕する絶世の美しさを誇る魔銃。
 氷肌玉骨――白く輝く手触りの滑らかさに加え、トリガーを弾くときの感触に拘った逸品。
 羞花閉月――自然現象に干渉する霊銃。放たれたその時にこの世の理すら捻じ曲げる。
 雲中白鶴――心の濁った者を確実に撃ち抜く。白い銃身が雄大な空を浮かぶ鶴を思わせる。
 紫電清霜――厳しい見た目が人を選ぶ。手にした者に神速の力を宿すとされる、現存する伝説。
 花顔柳腰――美しい女性を思わせる、扱いに難しいピーキーな銃。使い手の技量が試される。
 星河一天――青にも黒にも見える色彩で、一撃に千回、万回と炸裂する特殊弾頭を放つ。
 仙姿玉質――封神武侠界における仙界の物品と見紛うほどの神々しさを感じさせる強銃。
 冷艶清美――猛き沸る熱意と、閑かな本質を両立させる、二面性を備えている。
 鏡花水月――使い手を無我の境地に誘う銃砲。「銃」という物品の本質が形を成す。
 迦陵頻伽――発射音だけで心を虜にする奇怪なる得物。この世のものとは思えない形状である。
 擲果満車――市場流通の中でのハイエンドモデル。名銃の中でもとりわけ名高い。
 雪魄氷姿――冷たく標的の命を刈り取る、苛烈さを形にした獰猛なる武器。
 花天月地――天地を統べ、撃てば夜明けをもたらすとされた世に二つとない名品。
 紅粉青蛾――化粧を施した美人が手にあると錯覚すらさせてしまう完全無欠さを誇る。
 雪月風花――森羅万象の力が込められている。強大すぎるあまり選ばれた者にしか扱えない。
 嵐影湖光――捉えようのない不規則な軌道は、影すら残さず、狙いを逃さない。

 ……まだある。まだまだ持ち合わせている。その全ての銃口が、群れる僵尸を悉く滅する!

 若き英傑は思わず涙し、そして喉を掻きむしった。
 ああ。私にもっと言葉があれば、その感想を述べられるだろう。「その全てがただ美しい」。宙を舞う銃たち、そこから放たれる、魂の込められた銃弾。跡形もなく消し飛び、駆逐されていく遺骸に代わり、そんな短い言葉しか吐けない自分を呪う。自分の浅い見識では、銃の特徴だって満足に言い当てられない。いい加減で、浅はかで、妄想塗れで、どれもこれもが的外れもいいところだ。夢にしか見たことがなかった。あるいは空想でもここまでを思い付いたこともなかったかもしれない。

「……終わったな。ではそろそろ帰るとしよう。僕の心に立ち入るものと関わりあうつもりはないからな。時に、そこで惚けている君、言うことがあるだろう?」

 美しい瞳で、英傑・雲雀をシェーラが射抜く。
 でも、ああ。どれもこれもが、なんて……美しい!! もしかしなくても、その銃全てを束ねたとて、この視線に秘める焼きつくような魅力は凌駕しない。声をかけられただけで心が躍る。行かないでほしい。ずっとずっとそばにいてほしい。
 美しい。私の技の冴えも、いつかその境地に達してみたい。何年、何十年かかったとしても……!

「……」
「君に言ってるんだけど? 聞いているのか?」

 言葉……そうだ。言葉だ。

「…………絶美」

 寡黙な若き英傑はこくこくと頷く。つい聞き入ってしまった。見入ってしまった。魅了されて、狂わされてしまった。この程度の敵はものの数ではないということか。頭が上がらない思いで、累累と横たわる『僵尸兵士』の死体にまた息を呑むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 集団戦 『暗黒料理異形象形拳伝承者『遍喰らい』』

POW   :    春夏秋冬(ひととせ)
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【化生・悪魔・異形の捕食行為を模した型】の威力と攻撃回数が3倍になる。
SPD   :    前後左右(なかぬき)
【化生・悪魔・異形の捕食行為を模した型】が命中した部位に【気(エナジー)】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
WIZ   :    東西南北(よもひろ)
手持ちの食材を用い、10秒でレベル×1品の料理を作る。料理毎に別々の状態異常・負傷・呪詛を治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「『僵尸兵士』がやられましたカ」
「思いの外やるようですネ!」
「我ら暗黒料理異形象形拳一門! 総出でお相手しまス!」

 総勢千名、どこからその数をかき集めたかと問い正したい、しかし誰もが一騎当千。心を武にて喰らう狂拳の持ち主たち。

「……勝負」

 若き英傑・雲雀は乱れた居住まいを正しつつ、構えを取る。柔拳は不壊。その信条が彼女を第二陣への戦闘へと駆り立てる。
 しかし多勢に無勢は変わらない。

「雑魚メ! 料理しまス!」
「全て喰らウ!」
「柔らかければ叩いて捏ねて、平らげル!」

「………………其の言葉、返す」

 仙界・極夜湖を揺るがす一台合戦。最後の戦いが静かに幕を開けた……!
架空・春沙(サポート)
『断罪します』
人狼の女性
ピンク掛かった銀髪と同色の狼耳・狼尻尾、緋色の瞳
スタイルが良い
服装:ぴっちりスーツ
普段の口調は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」
罪有る者には「冷徹(私、あなた、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。

・性格
通常は明るく人懐っこい女性ですが
罪有る者に対しては冷徹に、処刑人として断罪しようとします

・戦闘
大鎌「断罪の緋鎌」を振るって戦います

ユーベルコードはどれでもいい感じで使います


あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


レパル・リオン(サポート)
こんにちは!あたしはレパル!またの名を『魔法猟兵イェーガー・レパル』よ!よろしくね!

お祭りとかイベントとか友達と遊んだりとか、とにかく楽しい事大好き!

あたしが戦うのは、怪人(オブリビオン)から人々と平和を守るため!そのためなら、ケガをしたってかまわないわ!
(強敵相手だと少し怯えるが、表には出さないように努める)

得意なのは肉弾戦!ダッシュで切り込んだり、ジャンプやオーラ防御でよけたり、激痛耐性でガマンしたり、怪力パンチ&キックでぶっ飛ばしたりするわ!
ユーベルコードに怪人の弱点属性を組み合わせてパワーアップさせたりもするわよ!

頭を使うのは苦手かな。でも、パワーとスピードでなんとかするわ!


天宮院・雪斗(サポート)
『なせば大抵なんとかなる』
 妖狐の陰陽師×ビーストマスター、8歳の男の子です。
 普段の口調は「子供(ぼく、相手の名前+ちゃん、年上名前+お兄(姉)ちゃん、、おじ(ば)ちゃん等。だね、だよ、だよね、なのかな? )」、怒った時は「子供(ぼく、呼び捨て、だね、だよ、だよね、なのかな? )」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。甘えん坊で、頭撫でられるの好き、お姉ちゃんたちに甘えるのも好き。あとはおまかせ(アドリブ・行動OK)です。おねがいします!



「加勢させていただきます。さて、どう見ても千人どころの話ではないですが……ともあれ全員処刑しますね」

 罪深い者を魂ごと刈り取る断罪の緋鎌の柄に頬を当てて、架空・春沙(緋の断罪・f03663)は宣言する。耳はぴょこんと立ち並んで、赤い瞳が爛々と輝いて、剥き出しの殺意を隠そうともしない。そう。彼女こそが咎人殺し。罪ある者に死の刑罰を無慈悲に与える、エクスキューショナーである。
 しかし、そんな敵意を前にして、暗黒料理異形象形拳伝承者『遍喰らい』たちはむしろじゅるりと舌なめずりする。歯応えのある獲物ほど口の中で弾けるもの。それに数の優位が味方する。溢れる自信、獲物が早い者勝ちであるという事実。食欲は時に、単なる殺意さえも凌駕してしまう。
 両者間に漲る殺気に、若き英傑は自らの闘志がいかにちっぽけだったかを改めて思い知らされる。

 何か話しかけようとして、やめた。
 元より寡黙な柔拳使いの雲雀だった。まして仙界にてただ一人ぽつんと修行に明け暮れることをよしとした人材である。殺気を隠さない彼女に話しかけるは愚の骨頂。それは集中を削ぐのと同義だと合点したのだった。
 一方で遍喰らいは武辺者特有の雰囲気の読み取りをしない。ホアチャーと叫びながら一目散、突き込んでくるのみだ。

「刺拳法! 鵙の早贄!」
「併呑する双頭蛇拳!」
「舞闘法の踊り食いを見ヨ!」

 前後左右、命中すれば暴発した気(エナジー)が肉体を破壊する武術。彼女たちは武の応酬を期待して技を繰り出したに違いない。
 しかし、春沙にその腕は届かない。

「ちょっと! アンタたちの相手はこのあたしよ!」
「ぼくのことを無視していいのかな?」

 レパル・リオン(魔法猟兵イェーガー・レパル・f15574)、そして、天宮院・雪斗(妖狐の陰陽師・f00482)がその隙を埋めるように両側から飛び出したのだ。前を遮られても急に出し始めた技のモーションは止められない。

「注意はしたよ。燃えろ! 小宇宙!」

 ――ドドドドド……ッ! ボゴォンッ!!

「ぎ」「あぐ」「ぎャ?!」

 振りかぶった拳を敵の進行方向へと向かって突き出す。風を切る勢いで繰り出されたパンチから、閃光が迸る。光線が雨あられと降り注ぎ、顔面を、拳を打ち砕いた。その様子はさながら流星群と正面衝突した月のうさぎだ。獰猛なる捕食者を前にしては、いかに遍喰らいといえども逃げまどう草食動物に等しい。
 叩き伏せられ、地に転げ回った方がまだ幸せな最期を遂げられたかもしれない。しかし、大半の遍喰らいは勢いよく空中へと叩き上げられ、受け身も取れない無防備な姿を晒してしまう。

「これが《ヴルペクラ流星拳》だよ。任せるね、レパルお姉ちゃん」
「任されたよっ、ほっ、はっ!」

 ――SMASH! HIT! CRITICAL!!

「「「うぎゃアッ?!」」」

 正確無比な攻撃が、ノーガードの肢体に突き刺さった。末期、彼女たちは銃に撃たれたか? と錯覚したに違いない。それほどまでに寸分違わない狙いで急所に撃ち込まれたのは、あくまで打撃だ。握り込んだ拳が人体にとって致命の一撃を与える。

「た、畳メ!」
「数で押し潰セ!」

 《瞬打(チーターヒット)》のラッシュを見てなお闘志を失わなかったのは、暗黒料理異形象形拳を体得した者の、せめてものプライドといったところだろうか。結果から言えばそれは単なる蛮勇でしかないのだが、一撃加えようと味方を盾にして猛進する。

「う〜んスパルタ? ガッツだけは怪人顔負けね」
「でもぼくたちの相手じゃないよね」

 今度はより高く打ち上げる、拳のアッパー攻撃。決して軽くないはずの肉体を容易くぶち上げるのはパワーだけではない。向かってくる気の流れを呼んで、その向きをそのまま空中へと向けてやっているのだ。
 バキッ、ドゴ、ボゴォ! とおよそ人体が鳴らしているものとは思えないような衝撃音とともに、空中を浮遊する遍喰らいたち。そこに断罪の飛鎌の横凪ぎが襲いかかる。

 ――ザンッ!!

 生命の脈動さえも凍りつくような、極寒の仙界の地にて、飛び散る血飛沫も瞬く間に氷と化していく。それを嫌ったのか春沙はくるりと空中でその勢いのまま一回転すると、鎌にはべったりと血の氷が刃のように付着した。尖った延長刃の如き様相は、より禍々しく「命を断罪する」形状に見えなくもない。
 《殺戮ハウンド》の群れを使役して、遍喰らいを追い立てるその姿は、生来の優美さを備えながらしかし一切容赦なく、地獄の獄卒さえも裸足で逃げ出す迫力を備える。泣いて喚いて逃げ惑うなら侵攻しなければいい。それもまた一つの解答ではある。しかし彼女たちにとっての叫びとはこうだ。こんなはずではなかった、規格外すぎる! と。

「罪を認め、己が食い散らかしてきた命に詫びなさい。この鎌が、罪に見合った罰を与えましょう」
「ひ、ひぃいいイッ?!」
「逃しません」

 足の腱を斬って転ばせると、首筋に針金の猛犬が噛み付いた。寒冷地での運用には適さないが、短時間の少数運用なら悪環境を度外視し対軍団で活用できる。できるならば一人一人に懺悔と後悔をさせてやりたいところだが、数が多すぎるというのも考えものだ。
 追い立てるにしても散り散りになってしまう。そこで退路を塞ぐような動きで、レパルと雪斗が追い縋る。

「容赦ないよ。もしかして怒ってるのかな?」
「うーん。あんまり難しいことはわからないけど、でもあたしも負けてられないわ! どんどんやっつけるわよ」

 顔面蒼白、まな板の鯉。なまじ白兵戦で相手されているだけに、実力差は歴然だ。
 その様子は、囮のようにオブリビオンたちの間と宙を舞い、撹乱する英傑、雲雀の目にもはっきりわかった。これほどまでに心強い助っ人もいない。人狼にキマイラ、妖狐。多様さとともに世界の広さを感じずにはいられない。その背中、戦う姿に確かな勇気を貰いながら、英傑は奮戦する。

 かくして牙城にヒビが入った。猟兵たちの戦いは、未だ終わらない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

槐・凛華
※アドリブ描写歓迎です

引き続きこの数はもう正攻法では無理であるな。

この手だけは使いたくなかった。
だがこの軍勢相手では已むを得ん……。

「雲雀よ、今から見せる戦術は決して真似してはいかんぞ。
あと我もやりたくてやるわけではない、本当にな」

髪を解いて年嵩に見える偽装を解除。
連中を見渡せる高台に身を晒し『傾国の碧眼』を発動する。

「これはまた大層な軍勢であるなぁ。
して、どいつが一番強いのだ?相争って最強を証明した奴は
我が『お相手』してやるぞ?強者は好きだ」

もちろんドツキ合いの相手であるが、
思わせぶりな仕草も込みで煽ってやるのである。

後は混乱に紛れ、時に隠れつつ弱ったり
孤立した敵を暗器で仕留めていこう。



「…………」
「何かいいたげであるな?」
「……否」

 わずかばかりの戦いのひとときではあるけれど、この英傑の言いたいことが案外顔に出るのがようやくわかってきた頃合いである。氷空に肌寒く感じるところではあるけれど、凛華たっての願いもあって、飛翔する英傑・雲雀の背に乗って湖の中心へとやって来ていた。
 自分の背に乗られることへのやるせなさ、ではない。そういったちっぽけな不平不満は一切感じてはいない。
 疑問。なぜわざわざ敵地のど真ん中に? そういう類の、戦略は理解が及んでいない。どんな手を打つか期待さえしてしまう。
 一抹の不安は感じている。正直なところ、拳を交わすたびにどうしても死の不安は付き纏う。だからこそ信頼できる凛華が心強い。

「雲雀よ」
「……は」
「その……ん」

 泰然として頼り甲斐があり、智慧もある凛華のその、いかにも切り札を使いたがっていない、そんな闘気に、雲雀は首を傾げていた。代償があるのか? 犠牲を伴う行為なのか? 高台に身を置きたいということで案内したが、雲雀の背に立てると気づくとそちらのままでよいという。飛べる彼女からしてみれば空中でうつ伏せになって凛華の足場になることは造作もない。惜しむらくは、その姿勢だとかなり無理に捻らなければ凛華の姿は見えず、そして無理をすると体上の凛華を落としてしまう懸念がある。

「だから、それでよいのである。……今から見せる戦術は決して真似してはいかんぞ。本当に、本当に覚える必要など微塵もない。あと我もやりたくてやるわけではない、本当にな」
「……自己、嫌悪?」

 自由人である雲雀にはわかるまい。この複雑な心情と事情の正体を。
 これは、自己嫌悪などではない。人の社会に溶け込んできたものにしかわからない羞恥心。すなわち大人の「恥じらい」であるということを。本当に、と重ねていうところに、本心が隠されている。この凍風の中で好き好んでそんな手段に訴えるものがいて堪るか、と叫び出したい心地だ。

 ――しゅる……ぱさ。すとん。

「……何。……違和」
「み、見るなと言った!」

 正確には、見えない。見えていない。ただ風の音の中に衣擦れした音と、何かを脱ぎ捨て、己が体上に落とした感覚。お香のような安心させる温もり。間違いなく、自分の服に手を掛けている。雲雀としては声が震えなかったのが奇跡的だ。
 まさか自分の体上で、髪をはためかせ、自分の胸に手を押し付ける、嫋やかな姿を晒しているとは夢にも思うまい。幻滅……などするものか。むしろ、もし雲雀が彼女を直視していたら瞬く間に心奪われ酩酊していたに違いない。少女の瑞々しさ、女性らしい色っぽさ。ぷにと肌を触り、その指を艶かしく唇に当て、凍るため息をはあとわざとらしく白く見せつける。ぺろりと覗かせた赤い舌は、白い肌にコントラストとして映え、手篭めにしたいという根源的欲求を励起させる。わざわざ装束を一部はだけさせたり、身についているものを取り落としてみせたり、その視線誘導のテクニックは神業の領域に達している。
 注がれるはず幾十、幾百の視線、視線視線視線視線視線――!

「お……おおオ」
「アレは……甘露!?」
「むしゃぶりつきたイ……!」

 暗黒料理異形象形拳伝承者『遍喰らい』たちは下卑た欲望を臆面なく口にしながら、仕切りに頭上の凛華を指差している。それは絶対に手の届かない星に手を伸ばすような愚行であり、彼女たちが心砕けになっている証左でもあった。
 姿をよりはっきり見ようと周りを押しのけたり、あろうことか踏みつけにしたりぐいと手を伸ばしたり、どこか没秩序的な様相を見せる。われ先に、われ先にと。元より(食欲ではあるが)自らの欲求を隠さず、他の生き物に擬えて繰り出すのが本質であった遍喰らいたち。目を血走らせ、涎を垂らす姿は、あまりに理性を喪失していた。

「……驚嘆」
「驚くのはまだ早い。聞こうぞ! どいつが一番強いのだ?」

 しん――と、その場が静まり返る。
 凍りついたような空気の中で、凛華の一挙手一投足が注目を集めている。すなわち肢体に目線が向けられているということなのだが、もう羞恥に頬を染めている余裕すらない。噛んだり呂律が回らないことの心配をしつつ、凛華は向けられている視線に交錯させるように眼差しを返した。
 どんな射手の名手でも、《傾国の碧眼》の目線の一矢は上回れまい。

「いないのであるか? 我こそはというものは」

 すっと両腕を上げ、するすると片手を腕に這わせながら直立し、肘、二の腕、腋、そして胸に手を置く。上げていた手を前に差し出して、はにかんだ。

「強者を愛そう。我の『お相手』に相応しいのは……」

 この手を取るがいい。
 そう言われ、今の今まで据え膳させられていた欲望の狗たちがついに堰を切って暴れ出した。これほどまでの「好物」を目の前にぶら下げられて、むしろこれまで辛うじて理性を保っていたことが奇跡に近い。実際の経験は差し控えるが、彼女はこの眼差しで国一つを「落とせる」のだ。効力だけならば神の所業である。
 怒号。悲鳴。渇望。他者を押し除け圧し合い、我先にと他者を踏み台にして手を伸ばして、捕まりそうになったら雲雀は浮上する。

 かつてあれほどまでにガツガツと、届かぬ夢を渇望したことがあっただろうか。あるいは、柔拳を訓練する己とは、凛華らツワモノにとっては眼下の有象無象と同じなのではないか。その貪欲さは、見ていて忌避感を催す類のものではないか? 雲雀は悩んだ。
 例えば、そう……自分のこの、好ましいと彼女を思う気持ちだって、生まれ始めてのことではあるけれど、でも迷惑に思われていないだろうか。

「だから嫌だったのである。悪影響を及ぼさないか懸念していたが」

 お見通しである。良いか? と凛華は咳払いした。またいつもの威厳のある声音だ。ホッとしたような、少し勿体無いような、ともあれ雲雀は傾聴する。
 我は、本来なら正攻法を教えてやりたかった。まだ早い。そんな、慈しむ気持ちに溢れた言葉が、彼女の口から語られた。
 子供扱いするな、とか、そんな口答えをするほど、子供じみてはいない。

「……期待」
「まったく。そう言われてはな」

 期待に応えるのも、先達の務めだ。
 凛華は、タイミングを見て拾って浮上するよう雲雀に言付けすると、たんと宙返りし敵の群れの中心へと飛び降りていく。

「くれてやろう。必要なのは覚悟である」

 ――ざくっ……!

 ぐりんと目が反転して、遍喰らいの一人がその場に崩れ落ちた。傷口は凍って血飛沫すら上がらない。おあつらえ向きだ。この喧騒の中で、頭上から目的のブツが消えていることなど、もはや確認しようもない。姿勢を低く保ち、口に暗器を咥え、屈強なものや師範代に組み付き、毀す。
 拳法の使い手とはいえ、ダガーを頸動脈に押し付けられればぶらつく素人となんら変わりない。
 荒々しく、物騒で、およそ正々堂々たる戦いぶりではない。味方同士の仲間割れを誘い、その混乱に乗じて戦力を削り取る作戦。お行儀だってよくはない。なんだか本当に自己嫌悪になってしまいそうだ。自分にこんな側面もあったのか、と驚きを隠せないでいる。

 ……今、いくつかの偶然が重なり合って、若き英傑に己の戦いぶりを披露しているが、果たして彼女の「期待」には応えられているだろうか。

「……師! 手を!」

 飛来した雲雀が、囲まれた凛華に手を伸ばす。ああ。よかった。
 それは――雲雀の眼差しが語っている。繰り返しになるが、この若き雛鳥、存外わかりやすい子なのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

堆沙坑・娘娘
美食闘技戦を挑んでこないとは珍しい…しかし、似合わないことをしてるのは私も同じか…

雲雀、敵が軍勢である時に注意すべきことは分かりますか?

正解は、敵を逃がさないことです。禍根は残さないに越したことはありません。

戦いというのは一対一でも一対多でも多対多でも、究極的には陣取り遊びです。自らの闘気、挙動、姿勢…その全てを用い、相手を自分の狙った場所に動かすのです。あとはそこに攻撃を置くだけでいい。
あと、敵を撤退させないためにも連中には『勝てるかも?』という希望を最後まで持たせるように動いてください。

…自分がこんなに教えたがりだとは思いませんでした。
まだ話し足りないと思ってしまう…なんて煩わしい年寄り…



 仙界・極夜湖の長きにわたる戦いに終わりが近づいている。暗黒料理異形象形拳伝承者『遍喰らい』たちは確かにその数を減らしているが未だ顕在。その戦いの終わりが、いかにして訪れたのか、真相を知るのは若き、未来の英傑、雲雀のみである。

 手が悴む、心が震える。流した汗と血が凍りついて瞼が強張る。
 それでも刮目して見なければならない。そして――!

「……体得。それが私の」

 使命。
 役割。
 生きる意味と言ってもいいかもしれない。自分の知らなかった世界を教えてくれた存在。猟兵たち。堆沙坑娘娘である娘娘の勇姿を、少しでも記憶しなければ。気が気ではないとはまさにこのことである。
 一人で生き、一人で訓練に勤しむ限りにおいて、彼女は配慮することはなかった。湖畔に佇む氷像のように、静かにそこにあるだけの存在。

「雲雀、敵が軍勢である時に注意すべきことは分かりますか?」
「…………」
「何もそこまで思い詰めることはありませんよ」

 常に落ち着き、思うがまま振る舞う娘娘。彼女が顔を覗き込んでいることにようやく気づいた。ぼーっとしていました、など言えるはずもない。わたわたと手を振り、必死に答えを模索する。ええと、なんて言ったか。対軍への対処法。もっとも懸念するべき事項。事を構えるにあたって、さて。

「……背後」

 ――……バキィッ!!

「へごォ?!」
「確かに背後を疎かにするのは拳士にあるまじきことでしょう」

 後ろに脚を繰り出して、回し蹴りで遍喰らいの首をへし折ると、雲雀に向き直る。動じていない。常在戦場の境地に達したパイルバンカー神仙拳開祖にとってこの程度は有事ですらない。
 がしゃんとパイルバンカーを持ち直してみせる。この程度の問いなど貫いてみせろという、そんな意思表示にも見えた。

「ですが、よくあなた自身の胸に手を当て考えてみてください。複数人、二人以上を相手取る時にも、背後はまず気を向けなければならないと思いませんか。軍団を相手にする、と仮定した場合……つまり解答としては不十分です」

 ずるりと崩れ落ちる遍喰らいを、回し蹴りの要領でぶんと吹き飛ばす。きりもみしながら敵の集団に突っ込んだ遺骸は大いに混乱を招くが、しかし、娘娘としては首を傾げるところだ。暗黒料理異形象形拳……美食闘技戦ならいざ知らず、一門を雁首揃えて押し寄せるなど類を見ない。
 もっともオブリビオンのあり方にまで言及するつもりはない。詮無いことだ。あるいは目的さえあれば理由など二の次にして悪行を働けるというのが、過去の骸たる存在の長所なのかもしれない。

「拳士としても、言葉を借りるならツワモノとしても、全く尊敬できませんが。ただ一つ言えるのは、似合わないことをしてるのは私も同じ……」

 今度は娘娘自身が手を当てる。
 
「喰らえ! 獅子の顎門!」
「遅いです」

 裏拳で強かに打ちつけ体勢を崩し、そこに杭打ちを振り回して衝撃を与える。ぐちゃりと骨と肉がひしゃげる音がして、氷上に血飛沫が広がった。

「究極的には陣取り遊びです」
「…………は」

 大局的に物事を見る視点、それはなかなか有用性が見出しづらいため体得は容易ではないが、時には戦局を左右しかねない重要なファクターになり得る。戦略的な要所が仮にあったとして、そこを得るために全ての戦力を注ぎ込むものはいない。他のあらゆる地点を逆に制圧され、結果包囲されました、など洒落にならないだろう。一方で、そこを確保された際に敗北が確定してしまうのであれば、どんな犠牲を払ってでも入手する価値が生まれる。単なる地形の問題でも、整理すれば複雑な要素が絡み合っていることがわかるだろう。
 すなわち、大局的な見地に立った際、何を考えられるか。それが陣取りの妙である。

 ――ガコッ……ドゴォオ!

 氷上にヒビが入る。幾度となく加えてきた攻撃の余波で、分厚く壊れる事のなかった氷そのものがいよいよ失われようとしている。ごく一部ならいざ知らず全面的に壊れてしまえば、退路も活路も失われかねない。
 それは軍団である遍喰らいにこそ死活問題だ。

「わ、割れるゾ!?」
「退けっ、退けぇ!」

 我先にと一目散。そんな悲鳴にも似た指示が瞬く間に伝播し、軍は及び腰になっていく。

「……追撃」
「その通りです。自らの闘気、挙動、姿勢…その全てを用い、相手を自分の狙った場所に動かすのです。戦いは、総括すれば、全て陣取り遊びに置き換えられます。シンプルながら奥深い駆け引き。そのシンプルさが、何にも応用できる柔軟さに結びつきます。雲雀、あなたの柔拳にも通じるところがあるとは思いませんか?」

 ――バキッ……バキバキバキ……バギん!

 震脚――!
 娘娘は割れかけている氷をさらに踏み鳴らし、正確な振動が退路を作りかけていた遍喰らいを混乱の渦に突き落とす。逃してはならない。仮に戦意が失われ、一対一の勝負が望めなくなったとしても、容赦をする理由には結びつかないためだ。
 深追いしすぎた。と、遍喰らいたちは気づく暇もなかったろう。寡兵の敵を美味しくいただく。そんな甘い心持ちで挑んでしまったのが運の尽きだ。窮鼠でさえ猫を噛むのに猎(か)られる方がどちらかさえも勘違いしていたとあれば救いようがない。

「ふっ……!」

 ふわりと体が浮かんだように見えた。宙に浮かぶ雲雀を仮初の足場にして、二段ジャンプの要領で跳躍したのだ。天に舞い上がるその姿は、まさしく絶望に映ったに違いない。曇天に顔を顰めるのとはわけが違う。降るのはにわか雨はにわか雨でも血の雨に相違ない。そして振りかざすはパイルバンカー。いずれこの世界の事象を貫く魔杭。

「貫く」

 堆沙坑娘娘は宣言する。
 後に極夜湖の名前を堆沙坑湖に変えてしまう、至高の一撃が放たれる時だ。
 真っ直ぐ前へ、身ごと前進するように重力に身を任せ敵陣に落下。その勢いを何倍にも増幅し、《打猎》の極意を、高めた威力を以って繰り出した。そこには悲鳴も、抵抗も、逃亡もない。純然たる破壊。岩盤を豆腐のようにくり抜き、勢いは死なないどころかさらに増幅して、湖畔と湖底と、水上と水面と、その全ての形を根底から変えてしまいかねない衝撃が当たり一面に飛び散った。突然瀑布が現出したように水が飛散し、それが瞬時に凍りつく。

 氷の柱、否、大樹ともいうべき破壊余波。
 その中心にて、伝説の繰り手は笑った。

「やり過ぎました。自分にこんな一面があったとは、意外です」

 まだ成長の余地がある。不変ではない、完成していない。望外の喜びだ。分かち合いたい。今すぐに。さあ、わずかな残党を蹴散らそう。

「この戦いが終わったら、もう少しお話ししましょう。煩わしいと思うかもしれませんが」

「……否。……是非、懇願!」

 その眼差しは、師を仰ぎ見る其れで。

 彼の地に舞い降りた希望そのものであった。

 ……そして。

 全ての遍喰らいを駆逐した、その後――。

 かくして仙界に束の間、平和が訪れる。もう会う事もないかもしれない、猟兵たちの背中を追いながら、今日も若き英傑は鍛錬を続けている。この僻地の籠の中に引きこもるためではない。いつか肩を並べて共に戦うために。不壊の拳を不朽に昇華するために。孤独な戦いはもう少しだけ続く。

 封神武侠界。いくつもの伝説が、いつでも生まれる地。
 貫徹、貫けない意思はないと夢見ながら、真っ直ぐに拳を突き出す。柔らかく、そして折れないよう丁寧に鋭く。炎と交わるのはもう少し先、それまでがむしゃらに凍りついた大気を壊して、夢へ向かって、一直線。この言葉を届ける存在になるために、今日も自然と、世界と、限りある命に。

「……謝謝」

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年08月28日


挿絵イラスト