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ああ、残酷!もう、とんこつラーメンしか食べられない……

#UDCアース

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 とある町に、とんこつラーメンの店があった。
 この店の名前は、『大神ラーメン』。とんこつラーメンを売りにしているラーメン屋である。昭和風の小さな食堂と、自家製麺や自家製スープを作る為の工場が併設されている。この店は戦後間も無い頃に開店し、今まで地元住人に愛されてきた。
 この店の主人は、大神らーめん太郎という男性だ。戦争が終わった時、十五歳という若さで店を構え、今日まで店を続けていた。現在は高齢となり、足腰が弱っていると嘆いていた。しかし、その笑顔は訪れる新旧の客達を朗らかな気分にさせ、年の瀬を感じさせない程に若々しかった。
 ……だが、この店に異変が起きた。
 ある日、何十年と通っている常連客が訪れた時、ふと、従業員が増えている事に気付いた。今までは店主一人で切り盛りしており、従業員を雇う事など無かった筈なのだが。
 その従業員は常連客を見ると、にこやかな笑顔を見せる。
「いらっしゃいケロ。さぁ、どうぞ座って下さいケロ」
 そう言われ、椅子に座る。よく見ると、従業員は何名も居る。顔がカエルのように見えるが、きっと、気のせいに違いない。
 常連客は、いつものとんこつラーメンを頼んだ。
「有難う御座いますケロ。とんこつラーメン一丁ケロ!!」
 そうしてすぐさま、とんこつラーメンが運ばれてくる。お腹がすいていた事もあり、早速一口すする。刹那、常連客の顔が衝撃に包まれた。
 ――何だ、この味は!旨すぎる……ッ!!
 するすると麺をすすり、チャーシューやメンマを頬張り、スープを飲み干す。気付けば、丼の中は空っぽになっていた。
 ――ああ、こんなに美味しいとんこつラーメンを食べたなら、もう、他のラーメンは食べられない……。
 それから、異変が始まった。ここを訪れた客は皆、とんこつラーメンの味に魅了されていく。だが、同時に他のラーメンを食す事ができなくなったのだ。否、ラーメンだけでない。他のあらゆる食品ですらも、食す気が失せてしまったのだ。そう、この店のとんこつラーメン以外は食したくない……と。客は次々にこの店を訪れ、そして、とんこつラーメンを食していく。
 その異様な現象は、やがてネットの口コミなどで広がっていく。
 それによって遠方からも客が押し寄せ、そして、とんこつラーメンの虜となり、他の食事を口にしなくなった。
 もはや、異常現象であった。
 そうして繁盛する店内を、厨房の奥から見つめる影があった。その影は温和な表情を浮かべながら、感慨深く思索にふけっていた。
(ふふふ……、計画は上々です。人々は皆、こうしてとんこつラーメンに執着するようになれば良いのです。そうする事で、私の”崇高なる目的”は達成されるのです)
 人々はゾンビのように店を訪れては、とんこつラーメンを食していく。そして、店内に、麺をすする音だけが不気味に木霊した……。
 ああ、残酷!

 場所は変わってグリモアベース。ここに、和服を着た一人の女性が居た。名は、竹城・落葉(一般的な剣客……の筈だった・f00809)。グリモア猟兵である。
 先日、ラーメン屋を訪れた際、無料トッピングににんにくが有る事に気付き、ドバッと大量に掛けてみた。そうして食べてみたものの、味がにんにくに消されてしまった。そして、数日間、彼女はにんにく臭い女性として噂される事となった。
 だが、そんな事はどうでもいい。
 なんやかんやあって集まった猟兵達に、竹城は説明を行う。
「……という予知を見た。うぬ、とんこつラーメンは美味しい。今度、この店にとんこつラーメンを食べに行こうかと思う」
 おい、話がずれているぞ。そんな声を感じ取ったのか、改めて説明をし直す。
「と、話がずれてしまったな。要は、こうしてとんこつラーメンが流行っている訳なのだが、他の食品に興味が無くなるとなれば、もはや只事では無い。恐らく、オブリビオンが介入しているものと思われる。その為、猟兵諸君には、この謎を解き明かし、この騒動を起こしたオブリビオンを懲らしめて欲しい」
 そこまで言うと、どうすれば良いかを語っていく。
「まずは、このとんこつラーメンの異常について調査を行う必要があるだろう。その方法は、猟兵諸君に一任しよう。しかし、丸投げされても困る、という方がいるかもしれないから、我の方から例を挙げておこう。そうだな……。(1)力に自信のある者は、厨房や自家製の麺やスープを作っている、店に併設された工場に潜入して物的証拠を探る。(2)素早さに自信のある者は、実際にとんこつラーメンを食して見て、この異常を引き起こす原因を探ってみる。(3)賢さに自信のある者は、とんこつラーメンを作っている従業員や店の常連客に聞き込みをしてみる。……と、こんな感じだろうか」
 そうして説明を終えると、次に何をすれば良いのかを説明する。
「こうして調査が済んで事件の全貌が分かれば、オブリビオンを倒して欲しい。恐らく、そうして調査が行われたとなれば、黙って見ている事はしない筈だ。そうして襲ってきたオブリビオン達を撃退していってくれ。その過程で黒幕も出てくるかもしれないから、そいつも倒してくれ」
 そこまで語った後、ふと、竹城は首を傾げた。
「しかし、首謀者と思われる存在が言っていた”崇高な計画”については、残念ながら分からなかった。一体、とんこつラーメンに執着させる事のどこに、崇高さがあるのかも理解できん。そうした謎めいた計画についても、十分注意しつつ、探ってみて欲しい」
 そうして全ての説明を終えた後、竹城はグリモアを取り出した。最後に、竹城は猟兵達に言葉を掛ける。
「では、これよりグリモアで諸君を転送する。とんこつラーメンしか食べられないとなれば、社会生活を送る上で色々と問題が生じるかもしれない。それを解決する事ができるのは、猟兵達だけだ。どうか、宜しく頼むぞ!」


フライドポテト
 お目に留めて頂き、有難う御座います。
 どうも、MSのフライドポテトです。
 ちなみに、私はつけ麺が好きです。オフ会の二次会でも、つけ麺を食べていた位です。今回は、とんこつラーメンにへ異様に執着させるという事件を解決して頂く事になります。最初は調査を行う事になりますが、その方法は皆さんの自由な発想にお任せします。どのような調査が行われるのか、今からワクワクしています。
 では、皆さんの熱いプレイングを、お待ちしております。
 
 *このシナリオはフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。
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第1章 冒険 『とんこつ原理主義あるいは福岡よりの刺客』

POW   :    厨房や生産施設に押し入って物的証拠を探す等

SPD   :    実食して味覚や嗅覚を頼りに異物の正体を類推する等

WIZ   :    生産者や愛好者への聞き取りを行って手掛かりを探す等

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ブライトネス・フライハイト
【アドリブ・共闘等歓迎】
ほぉ、美味いラーメンがあるとにゃ?
ならば食してみるしかあるまいにゃ!

我輩は料理人として正面から行くのにゃ。
件のとんこつラーメンを食し、【料理】とついでに【大食い】技能で食材や調理法を見極めるのにゃ!
ハフッハフッ!
ね、猫舌にゃから少し待って……ズズズッ……。

ああ、もちろんオブリビオンに見られたら我輩が猟兵と一発バレをするので、【変装】技能で一般人になるのにゃ。


エン・ジャッカル
おお、『大神ラーメン』はいつかは行ってみたいと思っていましたので、この機会に一般人に装って食べに行くことにしましょう。

旅の途中に食べ物巡りもしていますので様々なラーメンを食べて得た味覚と知識を生かして、『大神ラーメン』の定番ラーメンを食べながらラーメンに使われている材料を分析してみようと思います。

また、質問の機会があれば軽いノリで店長や店員に「とても美味しくて箸が止まりません。」と称賛しつつ「一体どのようなことをすれば、こんなに素晴らしい味になるのでしょうか?」と尋ねてみます。

ところで、ケロってもしかして…。


マロン・チェスナット
※絡み・アドリブ・連携歓迎

【SPD】
のれんをくぐって店内に
店員に案内されるテーブルに座るけど
希望はカウンター席で
カウンター席に座ったら出来上がるまで
〔視力〕で調理してるところを見ている
先ずは普通に一杯目を美味しくいただきます
〔料理〕で味覚や聴覚などで異物の正体を類推
スープを残して替え玉を頼む
えっ、替え玉ないなんてモグリ?
〔大食い〕で何度でも替え玉を頼んで何杯でも食べる
紅生姜や高菜やニンニクやもやし等置いてあるものを入れて味を変える
スープが薄くなってきたら出汁を追加
店員が泣いても食べるのはやめない
麺の在庫が無くなる迄食べ尽くす

尻尾がサーペントに変わってるのは気のせいだよ(暴食のベルセルク)



●料理人、極上のラーメンを食す
 この町には、旨いラーメンがある。
 その言葉は、多くのグルメ達を引き付けた。だが、それを食す者は、学生や会社員以外にもいる。そう、料理人だ。彼らも料理の腕を極めんとする者。ならば、人々を魅了してやまないというラーメンを食すのも、一流を目指す身としては至極当然である。
 そして、それは猟兵も同じであった。
 ブライトネス・フライハイト(ケットシーのフードファイター・f04096)。彼もまた、料理人として、そのラーメンが如何ほどのものか、舌で確認しようとしたのであった。元はとある王宮で料理人をしていたという。しかし、更なる美味への探求故に、せっかくの地位を捨て、旅に出たという。その行動力と熱意を持つ者として、このラーメン店を訪れぬ訳にはいくまい。勿論、単に極上の料理を堪能しようとしているようにしか見えないかもしれないが、猟兵としての仕事も忘れない。
 しかし、一つ懸念があった。ブライトネスは猟兵だ。もし、オビリビオンに事件の真相を探っている事がばれたら、何をされるか分からない。もしかすると、店の中には、オブリビオンが何らかの形で潜入しているかもしれない。実際、予知にも、それらしき情報があったではないか。だが、店に入らなければ、ラーメンを食す事ができない。さて、どうしたものか……。
 暫く思案した際、名案を思いついた。店には大量の一般人がやってくる。なら、その一般人に変装すれば良いのではないか。
 早速、どこからか衣装を調達してきた。皺一つ無いラフなシャツとチノパンを身に纏い、猫耳を隠すハンチング防に、目元を隠すサングラス、手には革の手袋を装着していく。ちょっと怪しいが、芸能界で活動しているクリエイターと言えば、それっぽいだろう。そして、ブライトネスは店へ向かったのであった……

「毎度ありケロ~!」
 今日も、一人の会社員風の男性が店を後にする。その顔は痩せこけており、正にゾンビさながらである。彼の隣には、長蛇の列。皆、麻薬中毒患者のように、ただラーメンを食したいとばかりに体を震わせる。
かつてブライトネスは、闇鍋で食べ物を粗末にする怪人と対決したり、肉が大量に出てきてしまうという事件を解決したりしてきた。しかし、今回の事件は、また別の意味で驚愕であった。列に並びながら見る客達の様子に、戦慄せざるを得ない。
(一体、どうしたら、こんな風になってしまうのにゃ……)
 そして、やがてブライトネスの番になる。のれんをくぐって入店する
 刹那、ブライトネスは目を丸くした。何と、目の前の厨房で調理している店員の顔は、カエルだったのだ!?
(にゃあ!?)
「いらっしゃいませケロ~。お好きな席へどうぞケロ~」
 心の中で驚愕しつつ、それをおくびにも出さず、空いているカウンター席へと向かう。どうやら、猟兵とはバレなかったようだ。しかし、何故一般人達がカエル面の店員を気にしないのか、不思議でたまらない。席に座ると、すぐさま店員が注文をしにやって来た。
「ご注文は何にしますケロ?」
「とんこつラーメンでお願いするに……します」
 「にゃ」という語尾を言いかけて、慌てて隠す。注文を承った店員は、すぐさま調理を開始する。やがて、三分と立たぬ内に、とんこつラーメンが運ばれてきた。それは余りにも美味しそうだった。すぐに注文をしに訪れ、素早く料理を完成させる。王宮で料理人をしていたブライトネスから見れば、その速さは正にプロ顔負けと言わんばかりであった。
 目の前に出されたとんこつラーメンを見たブライトネスは、割りばしを器用に割り、そして食す!世界中を旅して回った事で更に培われた料理の知識と、それを一滴残らず食す胃袋を活用し、徹底して見極めようとする。食材と、その調理法を!
 ハフッ!ハフッ!
 その食いっぷりに、店員が思わず目を見張る。
「おお、いい食いっぷりケロ」
「ね、猫舌にゃから少し待って……」
 急かすような快活な声に、思わず待ってを言ってしまう。しかし、焦らず、自分のペースでラーメンを食してく。
 ズズズ……。
 最後にスープを飲み干し、完食した。
 そして、ブライトネスの料理センサーに反応があった。食材や調理法は普通だった。だが、普通というのは語弊がある。それは、異常が無かったというだけで、食材や調理法は、全て一流と言わざるを得なかった。一体、これほどまでに素晴らしい技量を駆使して作られた料理は、どの位あるのあろうか……。
 しかし、一つだけ異変に気付いた。それは、麺に仕込まれていた“何か”であった。それは恐らく、まだされていない物質のように思われた。料理の知識を総動員した結果、もしやと思うものに思い至った。それは、食すと幻覚や強迫観念を引き起こすという毒を持った食材である。恐らく、それに類似する何かを混入しているに違いない……。
 そうして、ブライトネスは店を後にする。
「ごちそうさまに……でした」
 その背後から、店員の快活な声が通った。
「有難う御座いましたケロ~。またのご来店をお待ちしておりますケロ~」

●旅の途中で、旨いラーメンを一杯
 旅の楽しみの一つに、その土地の料理を堪能するというものがある。地域が変われば食文化も変わる。そこには、その場所で暮らしてきた人々の想いなどが籠められている事も少なくない。
 エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)も、そうした旅人の一人であった。そして、ただ土地を移動するだけの旅人では無かった。彼もまた、旅と並行して食べ物巡りをしているのであった。他にも、美術館へ立ち寄っては鑑賞したりしている事からも、興味の幅が広いように思われる。だからであろう。今回の調査対象である『大神らーめん』の事も耳にしていたのは。
(『大神らーめん』、いつかは食べに行ってみたいと思っていたんですよね)
 様々なラーメンを食べてきた為に、自然と、その噂は耳にしていた。なので、緑色のジャージを着て一般人のフリをしつつ、ラーメンを堪能すると同時に、調査を行う事にした。料理好きなエンにとっては、入店するまでの時間が待ち遠しい。……だが、行列に並んでいる客達の、麻薬中毒患者のような顔つきには、内心戸惑っていた。
 そして、懸念している事は、もう一つあった。それは、予知に出てきた店員の語尾である。
――ケロ。
 まさか……。いや、そんな筈は無いでしょう。幾ら何でも……。
 そう思いつつ、遂に自分の番がやって来た。のれんをくぐって入店する……。
「いらっしゃいませケロ~。お好きな席へどうぞケロ~」
 その店員の顔は、カエルであった。自分が今着ているジャージよりも、濃い緑色の皮膚に包まれた顔は、まさしくカエルだ。決して、旅の疲れによる見間違いでは無い。それを見た時にエンが抱いた感情は、一体、何と形容すれば良いのであろうか。ただ茫然とし、言葉を失った事だけは確かだった。
「……お客様、どうされましたケロ?」
 周囲に居た客達も、店員の声に反応して、エンの方を見る。何故、周囲に居る客達は、相手がカエル、否、カエル人間である事に疑問を抱かないのか。その不可思議な光景にも、ただ困惑するしかなかった。しかし、店員声に反応して、我に返った。
「……え、ああ、いえ」
 ドギマギしつつも、店員に促され、空いているカウンター席に座る。
「ご注文は何にしますケロ?」
「と、とんこつラーメンでお願いします」
 言葉がつっかえながらも、注文を済ませる。すると、三分以内という速さで、とんこつラーメンが運ばれてきた。注文から出てくるまでの時間が速い。安い・早い・旨い。この三つの言葉をどこかで聞いた事があるが、その内の一つは確実に合格である。温かい湯気が、エンの顔へ優しく広がり、青いポニーテールを保湿するかのように包み込む。そして、一口すする……。
 ――美味しい。
 そう思うな否や、スルスルと麺をすすり、箸を進めていく。その食べっぷりは、周囲に居た人々の顔に光を刺す程、見ていて心地よいものだった。その様子に店員も嬉しくなったのだろうか。仕事中であるものの、思わず声を掛けてきた。
「おや、いい食いっぷりですケロ」
「とても美味しくて箸が止まりません」
 エンは称賛しつつも、箸の手を止めない。勿論、お世辞などではない。こんな料理を、一体どうすれば作れるのだろう?食べ進めながら、店員へ、人当たりの良い表情を浮かべ、顔を向ける。
「一体どのようなことをすれば、こんなに素晴らしい味になるのでしょうか?」
 すると、店員は誇らしげな顔付きになり、堂々と一言。
「これも、大神さんへのリスペクトですケロ」
「リスペクト、ですか」
 そう言うや否や、自分の仕事を思い出し、すぐさま調理へと戻って行く。
 “大神”。このラーメン店の店主である人物の苗字だ。そういえば、その店主らしい人物の姿が見えない。一体、どういう事なのか……。だが、その疑問を保留にしなければならない事態が発生した。
 刹那、味への違和感を読み取った。このラーメンには、何かしらの材料を混入しているようだ。もしかすると、それが原因なのかもしれない。しかし、その詳細までは分からない。――ならば。
 エンは食事をしつつ、密かに『影の追跡者の召喚』を発動する。召喚された影の追跡者は、そのまま壁沿いまで素早い動きで張って行き、カウンターを乗り越え、厨房へと潜入する。そして、ラーメンの水気を切った床を滑って行き、先程の店員の背後へ迫る。エンは共有している視覚で、店員の動きを観察した。
 すると、トッピングなどを入れてある棚からメンマを取り出す際、赤い粉の入った小瓶を見かけた。七味唐辛子にしては、違和感がある。アレが、この事件を引き起こした原因なのか?
 だが、時間切れとなった。ラーメンを入れた丼が、空っぽになったのだ。
 彼は疑問と情報を得つつ、そのまま、美味しいラーメンを頂いたお礼を言い、出入り口へ足を運ぶ。影の追跡者も、気付かれぬようカウンターへよじ登って床へ降り、エンの足元に到達する。そして、そのままのれんをくぐって店を出た。
その背後から、店員の快活な声が通った。
「有難う御座いましたケロ~。またのご来店をお待ちしておりますケロ~」

●その大食い、正に道場破りの如く
 もはや、この店にオブリビオンが関わっているのは明白だ。彼らはラーメンに細工を施す事で、人々をとんこつラーメンへ引きずり込んでいる。料理人の作る料理に、客はただただ食べるだけだ。ラーメン店において、料理人たるオブリビオンが優勢であろう。
 ……この日までは。
 そして、一人の客がのれんを潜って入店した。
「いらっしゃいませケロ~。お好きな席へどうぞケ――」
 ウキウキした様子で入って来たのは、マロン・チェスナット(インフィニティポッシビリティ・f06620)である。フワフワした尻尾に大きな耳。カラフルな色合いの髪が特徴の彼女もまた、猟兵である。
 瞬間、店員は何かしらの危険信号を感じ取った。その外見は、明らかに一般人とはかけ離れている。もしや、猟兵か……?しかし、相手は例え猟兵でもお客様。このまま追い返すのもどうかと思う。しかし、その危険信号は別の意味である事に、気付くべきだったのだ……。
「て、テーブル席が空いているので、そちらをどうぞケロ……」
「えーと、悪いけど、ボクはカウンター席がいいな~」
 そうした希望を出すものの、一応、そのテーブルに座る事になった。すると、まるで天の啓示のように、丁度カウンター席に座っていた会社員が席を立った。それならばと、マロンはカウンター席へ座る事となった。そして……。
「ご、ご注文は何にしますケロ?」
「とんこつラーメンにしようかな」
 即座に言われた店員は、すぐさま調理を開始する。その様子を、マロンはジッと、丸く赤い瞳で見つめ続けた。すると、僅かながら、奇妙な動作をしている事に気付いた。麺をゆがくスペースに、何かを投入しているようだ。しかし、何を投入したのかは、店員の大きな背中が死角となっている為に分からない。
 そして、とんこつラーメンが運ばれてきた。
「とんこつラーメン、おまちどうさまケロ~」
 マロンは割り箸を手に取って、ラーメンを食してく。麺を頬張り、メンマやチャーシューなどを口へ放り込み、堪能するように噛んでいく。そして、味のみならず、視覚や聴覚といった五感をフル活用し、異物の正体を類推していく。
 そして、異物の正体に気付く。
 やはり、麺だ。普通の黄色に見えるが、マロンの目には、どこか不自然に薄くなっているかのように思えた。麺をすする時の音も、若干鈍くなっているように思われる。勿論、味もちょっぴり辛く、投入された何かが影響を及ぼしているのは明らかだった。些細な点ではあるが、それらは決して、普通に作った麺では出ない現象である事を看破したのである。
 そして、マロンは店員を呼び出した。
「はい、何でしょうケロ?」
「替え玉をお願いするよ」
 すると、店員は丁重に頭を下げる。
「申し訳ありませんケロ。うちでは替え玉が無いんですケロ」
「えっ、替え玉が無いなんてどういう事?もしかして、モグリ?」

 ――食べていい?

 その言葉が、店員の心に火を点けたようだ。
「いえ、そんな事はありません。じゃんじゃん、替え玉を頼んで下さいケロ」
 それが、店員の致命的な失敗であった。彼は知らなかった。身長1m程の少女の食欲が、底なしであったという事を……。
 彼は替え玉をすぐさま用意し、丼の中へ投入する。そして、去ろうとした時であった。
「替え玉をお願いするよ」
 急いで振り返る。その丼には、麺が無かった。彼は急いで替え玉を用意し、そのまま丼へ投入する。そして、歩いて去ろうとした時だ。
「もう無くなっちゃった。替え玉をもう一つ」
 それから、替え玉を投入しては無くなり、その繰り返しであった。店員は汗水垂らしながら何度も替え玉を入れていくが、魔法のように消えていく。更には、カウンターに置いてあった紅生姜、高菜、ニンニク、もやし、七味唐辛子、故障、酢、醤油……、あるとあらゆる無料トッピングも、強奪にあったかのように消えうせていく。
「お、お客様、どうか、どうかもうその辺りで――」
「あ、スープが薄くなってきたから、出汁を追加でお願いするよ」
「ケロオオオオオ!!!!」
 哀れ、店員は二つの円らな瞳から、涙を流さずにはいられなかった。
 この日、店の在庫は全て無くなった。その為、翌日まで休業しなければならない破目になったのである。だが、その為に新規参入客の犠牲を防ぐ事ができたというのは、流石猟兵といったところである。
 店員は膝と手を床に付き、うなだれていた。そして、マロンがのれんを潜って立ち去ろうとした時だ。店員は顔を上げた際、気付いてしまった。尻尾が、サーペントに変わっている事に!
 そう、マロンは替え玉を初めに注文した時点で、『暴食のベルセルク(ワイルドハント)』を発動、その尻尾と共に、あの膨大な麺やトッピングを平らげたのであった。
「ゆ、ユーベルコードを使うなんて、卑怯ケロ!」
 後ろを振り返り、軽い口調で言う。
「ん、気のせいだよ」
 既に尻尾は、元のフワフワした状態に戻っていた。店員のむせび泣く声を耳に、のれんを潜って店を後にしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ライアン・ウィルソン
んーこれはむしろ堂々と行くしかないわね
正面から行くけどもし鍵が開いてないなら「鍵開け」で開けるわね。開かなかったら「鎧砕き」で開けるわ。鎧砕けるならドアも砕けるに違いないわ
証拠探すのは「失せ物探し」と「見切り」でレッツ探索ね
色々言われたら「言いくるめ」「恐怖を与える」と「コミュ力」で対応よ。ちゃんと話せばわかってくれるし何も言わないわよ
見るもの見たらさっさと帰るわ。追ってきたらスタコラサッサよ
攻撃してきたら反撃しちゃうわ。そのときは「クイックドロウ」と「先制攻撃」ね。死んじゃったらまずいし「気絶攻撃」で対応よ。死なないように発砲して逃げるわ。いざってときは「戦場の亡霊」を囮に退散よ!



●元歴戦傭兵の少年サイボーグINラーメン店
 この店では、料理に何か細工を施している。それはもはや、疑いようのない事であった。ならば、その詳細を探るべく、調査を行わなければならない。しかし、開店している間は、客がいる為に目立つ動きはできない。ならば……。
「んーこれはむしろ堂々と行くしかないわね」
 ライアン・ウィルソン(ノイジーマシーナリー・f02049)は快活な声で呟いた。
 時刻は、深夜二時。空は黒く染まり、満月が白い輝きを放っている。月光に照らされた『大神らーめん』の周辺には、ライアン以外の人影は無い。まるで、この周辺はおろか、町全体が眠りに就いたかのような錯覚さえ覚える。
 ライアンは、店の前に立った。のれんが下がっていた入口は、曇りガラスの付いたドアによって閉じられている。室内は明かりが点いておらず、静まり返っている。尚、ドアには鍵が掛かっているようである。
 懐から、何かを取り出した。何本もの細い金属棒であり、先端が様々な形をしている。どこかで調達してきたピッキングツールだ。そのまま、鍵穴へ差し込み、開錠しようと試みる。
 ……カチャ、カチャ。
 格闘するが、開く気配は無い。ライアンの技術があれば、こうした錠前を開ける事は容易い筈である。それでも開かないとなれば、何かが、仕掛けが施されていると見て良いだろう。
 ――闇に、金属がひしゃげる音が響き渡った。
 店内に、ドアだったものが倒れ、ガラス片が床に散らばっていた。月光を浴びて、それらは粉雪のように白く輝いている。
ライアンの脚力は、鎧を砕く程の力を有している。鎧を砕けるなら、ドアも砕ける筈だ。論理の帰結である。さも平然とした顔つきで、そのまま店内へ足を踏み入れる。
 ここからは時間との闘いだ。大きな音がしたという事は、当然、相手が気付く可能性がある。その事は、歴戦の傭兵たるライアンは十分知っていた。
 彼は証拠となる物を見つけようとする。それを、戦場のどこかに隠された機密文書を見つけようとするかのように、探し出そうとする。
カウンターを飛び越え、厨房に降り立つ。次々に、トッピングを保管してある戸棚を開けて調べていく。
 すると、ライアンの目に、奇妙な物が映った。それは、ガラスの小瓶に入った、赤い粉末である。刹那、他の猟兵が得ていた情報を思い出す。ライアンは、指の無い黒い手袋に包まれた掌で、その小瓶を掴み取る。
 ……だが。
「ど、泥棒ケローー!?」
 懐中電灯の光がライアンの顔に当たる。思わず目を細め、その先を見据える。そこに居たのは、カエル頭の店員であった。寝間着姿を見るに、どうやら就寝中だったようだ。しかも、その後ろには、六人の店員が居た。皆、カエル頭である。
 ライアンは、かつて蕎麦屋で危険なノートを確保すべく活動した事がある。あの時は、学生達にお願いをする事で解決を図った。しかし、今回のラーメン店では、状況が全く違う。相手は負の感情を抱いており、今すぐにでも警察に通報しそうな勢いだ。さて、どうする……?
「け、警察を――」
「何を言うんですか?アタシはちゃんとノックしましたよ」
「えっ、ケロ?」
「今日、この店へラーメンを食べに来た時、定期入れを落としてしまったの。だから、すぐに探さなくっちゃいけなかったのよ。けど、電話にも出ないし、店は閉まっているしで、仕方なく無理やり入るしか無かったのよね」
「でも不法侵入――」
「そこには健康保険証も入っていたのよ」
 嘘である。しかし、自分達がきちんと対応していなかった為に、客に不都合な事が置きかけて、それで不法侵入へと走らせてしまった。ライアンの言い回し、威圧感、そしてコミュニケーション能力の高さに、店員達は騙されてしまった。寧ろ、罪悪感さえ抱いたようだ。
「それは、申し訳ありませんでしたケロ……」
「分かってくれたならいいのよ。じゃあ、アタシはこれで失礼するわね」
 そう言って、店の外へ出ようと、ドアの敷居を跨いだ時だった。
「――いや待つケロ!今日、電話なんて一本も掛かって来ていないケロ!?」
「えっ、となるとアイツは……ただの不法侵入者ケロ!?まさか、猟兵ケロ!?」
 すぐさま態度は一変し、近くにあった包丁を手に取り、投げつけようと構える。
 ――刹那、銃声。カキィン!と甲高い金属音がして、包丁が宙を舞って床に落ちる。ライアンも歴戦兵、攻撃しようとするや否や、すぐさま大型自動拳銃で撃ちぬいたのである。そして、店員が死なないよう、急所を外して次々に四肢を打ち抜いていく。店員達の何人かは、激痛のあまり気絶する。
 刹那、空を切って放たれた出刃包丁が、ライアンの動脈を切りつけた。
「ケロケロ、これでお前は瀕死ケロ」
 ライアンは足取り重く店を脱する。それを追いかける、一人の店員。左右に伸びる道路の奥に、ライアンの姿があった。店員はすぐさま飛び掛かり、覆いかぶさる。
「さぁ、お縄を頂戴するケ――」
 ……だが、それは幻のように消え失せた。ライアンの『戦場の亡霊』による囮だったのだ。その間に、ライアンは息も絶え絶えに、反対方向へ逃げていたのであった。
ライアンは闇の中へ消えて行った……。
 こうして、証拠を探すという任務は果たしたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カルナ・ボーラ
夜中の市街地に銃声が鳴り響くとか治安の悪いところだな。
……ちょっと通報しておくか。

とはいえ直接警察ではなくUDC組織を通してだな。
別に危ない真似をさせるわけでもない。事情聴取や現場検証で店員を店舗に集めてくれればそれでいい。
人気店なら朝早くから仕込みでもやってるだろ。工場に忍び込みやすいようにその時間を狙って動いてもらうか。

その間に既に持ち帰ってくれた情報を元に工場の探索を。
暫くは隠れながら漁るとして、キリが良いところでわざと見つかってから脱出するか。
自分で呼んだ彼らを置いてけぼりにするわけにもいかない。
怪しい人物を追いかけるためにと、呼んだ彼らにもその場から離れてもらうためだな。


トリガー・シックス
「ラーメン……」
脳裏に思い出すは昔、一軒の小さなラーメン屋であった。
年配の老夫婦の優しい笑顔を思い出し一口食べる。
「……不味い」
そう言ってすぐに吐き出してしまう。
他とは異なる反応を示し、エルーゼも困惑を見せるが、目には明らかに怒りがにじみ出ている。
「なにを入れた?スパイスとは違う刺激を感じたぞ」
今までの猟兵たちの情報はあるが、トリガーの舌が違和感を伝える。これは危険だと。
「それと……なぜ血の臭いがするんだ?」
豚骨の匂いの中でも、察知する。戦場での経験からだろうか。

襲ってくれば『ジョーカー5s』による【クイックドロウ】で反撃する。

※アドリブ、他の猟兵との絡みOK


エルーゼ・フーシェン
「行ってみよう。すべてそこにあるはず」
トリガーと共にラーメン屋へと向かう。
開いてるなら入ってみるわよ!
「とんこつラーメン二つ」
とんこつラーメンって初めてだから、ちょっと楽しみだったり。
食べ始めてすぐにトリガーがまずいって言うから、これって他の猟兵たちが得た情報と一致する?
滅多に怒らないトリガーが怒るなんて、よほどのことをしたのね。
「この辺でカエルに出刃包丁で襲われた人がいるって聞いたけど、関係あるのかしら」
ゆすってみてなにかないかやってみよう。【野生の勘】や【第六感】でおかしな動きを見せればさらに言ってみるわ。
襲われたら『ラーズグリーズ』で応戦するわ。

※アドリブ、他の猟兵との絡みOK


トウカ・プリズマティカ
僕にとっては初めての任務だし、できるだけ穏便に情報を集めていきたいかな。
グルメ番組のリポーターを装って、客や店員に聞き込みを行うつもり。賑やかに話すのは得意じゃないけど、画面にたくさんとんこつラーメンを映しておけば、うまくコミュニケーションできるかな…。
ビデオカメラも持参して、店内や人々の様子を撮影しておこう。後々証拠になるかもしれないからね。
店主の大神らーめん太郎さんの話を聞きたい。もし取材NGと言われても、そこはしつこく食い下がってみよう。創始者、店主の話を聞かなければ、グルメレポの意味がないからね。
もし戦闘になったらUCを使用するよ。
アドリブ連携歓迎だよ。



●潜入作戦、闇に紛れる人狼
 この町は、平穏な雰囲気のある、過ごしやすい場所であった。けれど、突如として鳴り響いた銃声が、そうした住人達の心に、一抹の不安を抱かせた。その銃声が鳴り響いた場所が、あの懇意にしている『大神らーめん』からとなれば、一体何事かと心配になるだろう。この町では、地域のコミュニティが強固のようだ。多くの住人が、心配のあまりにやってきているようだった。
(夜中の市街地に銃声が鳴り響くとか治安の悪いところだな)
 そう思いながら、物陰より『大神らーめん』の店舗と工場を監視している影があった。カルナ・ボーラ(アルバラーバ・f14717)だ。視線の先には、店員が住人達に状況説明をして、安心させようとしているようであった。
「……ちょっと通報しておくか」
 そう言いながら、カルナは警察へ通報した。だが、正確にはUDCを通じてである。カルナも既に見ている通り、店員はどう見てもオブリビオンだ。その為、普通の一般人をただ向かわせる事はしなかった。
 それに、別に危険な事をさせる訳でも無い。ただ、事情聴取や現場検証などによって、店員を店内へ集めて貰えれば良いのだ……。
 暫くすると、パトカーがけたたましいサイレンを鳴らしつつやって来た。中から降りてきたのは、警察署の刑事である。更に、青い衣服に身を包んだ鑑識も何人か降り立った。彼らは店員達と向かい合い、何かを話し合っているようだった。そして、店員が頭を下げると、そのまま店内に姿を消した。そして、刑事や鑑識も、中へ入って行く。どうやら、事情聴取や現場検証などが始まるようだ……。
 カルナは、それを確認した後、移動を開始する。闇に紛れるように移動し、そのまま工場の裏手へと回る。目の前にあったのは、レトロなドア。事前に軽く調べていたところ、ここの鍵は開けっ放しになっている事が分かった。しかし、ただ運に任せていた訳では無い。『大神らーめん』程の人気店であれば、朝早くに仕込みを行う筈である。ならば、前日に買い付けた食材などを搬入する為、敢えてドアに鍵を掛けていない可能性がある。しかも、どうやら食材は底をついていたらしい。可能性はかなり高かった。そして、読みは当たったという訳だ。
 カルナは、そのまま工場内に身を滑らした。中は薄暗く、誰もいないようだった。かつて、行方不明になった男の子と女の子を捜索すべく活動した事があるが、今回探すのは、全く違うものであった。しかし、何とかなるかもしれない、と冷静に考えつつ、行動を開始した。
 そして、既に他の猟兵が得た情報を元に、何か事件の解決に繋がりそうな物を探していく。しかし、いつ何時、誰かがやって来るとも限らない。刑事が何か情報を店員に求めた結果、その店員が情報になりえそうな物を持ってくる為に、工場へ足を伸ばす可能性だってあるのだから……。
 工場は、麺の生産ラインや、生地を練る為の機械などが置かれていた。それらに体を隠しつつ、そうした機械や食材を置いておく場所を入念に探っていく。口数が少ない事もあって、その動作は、どこか物静かである。
 そして、赤い瞳を闇の中に動かしていると……。不意に、奇妙なものを見つけた。
 それは、壁の上部に掛けられている、一枚の写真であった。水色の背景を前にして立っているのは、一人の老人である。頭が剥げていて、顔は皺だらけ。にっこりと笑っていて口は開いており、何本か歯が欠けているのが見える。黒い小さな円らな瞳は、まるでハムスターのような小動物を思わせる。この写真を一目見た人間は、疑り深い人間で無い限り、この老人は人当たりの良い暖かな人間であると思うだろう。
 しかし、この老人は一体、誰なのだろうか……?
 だが、そろそろ時間も限界である。ここまで調べるのに、実はかなりの時間が経過してしまっていたのである。あの謎の粉に関する情報も入手したかったのだが、見つからなかった。もしかすると、鑑識が工場内も捜査する事を恐れ、どこかに隠してしまったのかもしれない。けれど、写真という情報源を見つけた事は、大きな一歩かもしれない。
 カルナは、そのままドアの方へ向かった。
 バアン!!
 大きな音を立て、足を踏み鳴らすかのようにして走っていく。
「な、何奴ケロ!?」
 何人もの店員が工場へ入ってくる。そこで、カルナは後ろ姿を見られた。
「さっきの奴の仲間ケロ!?お、追うんだケロ!」
 しかし、カルナとて猟兵。追いつかれるようなヘマはしない。そのまま、踊り子の衣装をたなびかせながら、町の闇へと消えて行った……。店員達は外へ出た後、途方に暮れた。
「くっ、見失ったケロ……」
「仕方ないケロ、戻って、刑事さん達の事情聴取の続きを受けるケロ」
 しかし、彼らが店内へ戻って来た時、そこに、刑事や鑑識の姿は無かった。店員達は、まるで狸に化かされたかのように、ポカンとした表情を浮かべていた。
 実は、わざと見つかったのは、カルナの作戦であった。自分の姿を見せて店員達を引き付けている間に、刑事や鑑識にも、この場から離れて貰う為だったのである……。

●そして、敵は遂に追い詰められる
 これまで何人もの猟兵達が、このラーメン店の陰謀を明らかにせんと務めてきた。ある物はラーメンの異変に気付き、ある物は人間という名の情報を入手した。このラーメン店の行う悪行は、正に人々を不幸にするものと言えよう。そして遂に、ラーメン店の化けの皮が剥がされる時がやって来たのだ。
 
 そして、朝になった。前日の天気予報では、この日は晴れになる予定だったという。しかし、天気予報とて、いつも当たるとは限らない。空は灰色の雲に覆われており、今にも雨が降り出しそうであった。
 今日も多くの客が、ゾンビのような表情で行列を作っていた。その列は蛇のように長く、遠くにある交差点へはみ出してしまうのではないかとさえ思われた。店内は満席であり、ラーメンをすする音が、ゾンビの呻き声のように聞こえて来るのだった。
 そうしていつものように営業していると、のれんを潜って来た者があった。
「いらっしゃいませケロ~。空いている席へどうぞケロ~!」
「あっ、僕はお客さんじゃないんだよね」
 その言葉に店員は、その相手を見やる。そして、目を丸くした。
 そこに居たのは、トウカ・プリズマティカ(君の記憶と、僕らの明日・f15116)であった。そして、店員が一目見て気付いた通り、明らかに人間では無かった。キラキラと美しい服に、宝石のように輝く顔のテレビ画面。間違いない、猟兵だ。
 突然訪れたトウカに、店員は思わず身構えそうになる。しかし……。
「実は、グルメ番組のレポーターなんだけど、ちょっと取材をしたいなって、思ったんだ……」
 トウカは、ちょっと自信が無さそうに言った。
 しかし、それも無理も無い事かもしれない。実は、トウカにとって、今回が初めて挑む事件なのである。それに、できるだけ穏便に情報を集めたいと思っていたのである。けれど、上手くコミュニケーションを取れるかどうか、少し心配でもあった。
 そうした初々しさ、物腰の穏やかさを見た店員は、どこか共感したところがあったのだろうか、首を竦めながら、淡々と言った。
「今は忙しいから、そんなに構ってやれないケロ。それでもいいなら、好きにするといいケロ」
 突然訪れたレポーターに言うような言葉遣いでは無いが、店員としては、一応、譲歩したつもりであった。
 それを聞いて、トウカは嬉しくなった。そして、拙いながらも、精いっぱい、活動を開始するのであった。
 近くに居たお客さんにインタビューをしたり、顔の画面に、とんこつラーメンの画像を写したりした。すると、ゾンビのような顔をしていた客は、まるで砂漠に雨が降ったかのような、潤いのある笑顔を見せて、トウカの活動を温かく見守った。
「――ところで、どうしてここの常連さんになったのかな?」
「それはね、美味しいからだけじゃなくね、店主の大神さんの温かい人柄に惹かれたからでもあるんだよ」
 トウカのインタビューに、腰の曲がったお婆ちゃんが優しく答える。当初の心配は杞憂だったかのように、その誠実な対応に、客は皆、親身になっていた。その様子を見ていた店員も、ジッと、その様子を見つめつつ、調理をしていた。
 勿論、トウカは、ただインタビューをするだけではなかった。ビデオカメラも持参しており、店内や客の様子などを撮影していたのである。もしからしたら、後に証拠として使えるかもしれない。そう考えたのであった。
 そして、トウカは再び緊張した。トウカは、店員に声を掛ける。
「あの、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうケロ?」
 今度は、ぶっきらぼうな態度では無くなっていた。
「店主の大神さんって、どんな方なのかな?」
「ああ、大神さんは、素晴らしい方ケロ。それは、神様のような方ケロ」
「そうなんだ。その方と、お会いする事ってできるかな?」
「それはできないケロ」
 ピシャリ、という擬音語が聞こえるかのように、はっきりと言う。どうやら、取材NGという事らしい。けれど諦めない。
「けど、やっぱり創始者とか店主とかのお話を伺わないと、グルメレポの意味が無くなっちゃうよ」
「……実は、お会いさせる事ができないケロ。……大変申し訳ないんだケロ」
 会う事ができない。それは一体、どういう事だろうか?何か、大神さんの身にあったのだろうか。トウカの頭の中には、疑問が巻き起こる。
 と、その時である。
 突如、店内に男性の怒号が響いてきたのであった……。

 時刻は遡り、トウカが店を訪れる少し前。
 町の交差点に、二つの影があった。一人は全身を漆黒と紅色の装束等で隠している男。もう一人は、黒色でセクシーな衣装に身を包む女。平穏な町の雰囲気とは違った、独特な服装に、行き交う人々はチラチラと、二人を見つめている。信号が青になり、横断歩道を渡っていく。
「ラーメンか……」
 寡黙ながらに呟いた男の名は、トリガー・シックス(黒衣の銃剣士・f13153)と言う。ラーメンという料理に、ある思いを抱きながら、静かに歩を進めていく。
「行ってみよう。すべてそこにあるはず」
 事件解決の意気込みを見せる女の名は、エルーゼ・フーシェン(双刃使い・f13445)と言う。現場百篇と言うように、証拠は現場にある筈だ。その信念を抱きつつ、脚を交差させながら足早に向かった。
 
「いらっしゃいませケロ~!空いている席へどうぞケロ~!」
 30分近く並び、遂に入店が叶った。のれんを潜り、待ちくたびれたと言わんばかりに、二人は空いていたカウンター席へ座る。ふと隣を見ると、そこではトウカが他の客へインタビューを行っているのが見えた。ならば、自分達は自分達にできる事をやるのみ。
 「とんこつラーメン二つ」
 すぐさま、エルーゼは注文する。
「畏まりましたケロ~!とんこつラーメン二つケロ~!」
 店内に店員の快活な声が響き渡る。そして、店員は早速、調理を始めたようだ。
 しかし、店員はふと、首を傾げる。あの女性、何だか動物の耳を付けていたような……?まぁ、きっとコスチュームか何かだろう、そう思い、素早く調理を再開する。
 その様子を見ながら、エルーゼは内心、ウキウキしていた。実は、エルーゼはとんこつラーメンを、今まで食べた事が無かったのである。周囲には、とんこつラーメンの美味しそうな匂いが漂いラーメンの麺をすする心地よい音が聞こえ、他の客が食べているとんこつラーメンが空腹を刺激する。それだけに、一体どんな味がするのだろうと、思わずにはいられなかった。
 一方、トリガーは、ジッと、座っていた。その視線は虚空を見つめていた。どこか遠くを見ているようであり、まるで達観したかのような雰囲気を持っていた。実際、この時ばかりは、日々の疲れなどを忘れ、一つの想いにふけっていた。
「ラーメン……」
 トリガーは、再び呟いた。無表情にも見える顔からは窺い知る事はできないが、彼はこの時、遠くにある記憶を呼び覚ましていた。それは、一軒の小さなラーメン屋である。そこでは、年配の老夫婦がおり、優しい笑みを浮かべていた。そこで食べたラーメンは、ごく平凡なものであった。黄色い縮れ麺に、細い三本のメンマ。ナルトが一つ乗っただけの、シンプルなとんこつラーメン。けれど、トリガーにとって、それは思い出に残る一品であり、決して色あせない味であった。当時の記憶が蘇るにつれ、胸の中に、熱いものがこみ上げてくる。非正規部隊に半ば強制的に入隊させられるという、過酷な過去を持つトリガーにとって、それは仄かな淡い思い出でもあった。そういえば、この店もどこか、かつてトリガーが訪れた店の雰囲気と似ている気がする。最も、彼が訪れたのは、この店では無いのだが……。
 そして、待つこと3分。
「とんこつラーメン二つ、お待ちケロ!」
 出されたとんこつラーメンは、とても美味しそうに思われた。エルーゼは早速、割りばしを割って麺をすする。美味しい。モチモチとした縮れ麺に、コクのあるスープが絡んでいる。ツルンとのど越しも良く、豚骨の香りが口から鼻に抜けていく。そして、仄かな余韻が口の中に広がっていく……。その余りの美味しさに、思わず唸った。箸が進んで行く、手が止まらない。これが、とんこつラーメン……。
 同様に、トリガーも割り箸を手に取り、その思い出に浸りながら、一口食べた。
 ――刹那、思い出の情景は、ガラスを割ったかのように、粉々に砕け散る。
「……不味い」
 麺をスープの中へ吐き出した。噛み切った小さな麺の断片が、ポチャンと、白いスープの中へ、河原の石を投じるかのように沈んだ。その様子に、エルーゼを始め、周囲に居た客が、困惑したような顔つきで、トリガーを見る。
 店員も、動きを止めた。トリガーは店員を睨みつけながら、怨嗟の籠った声で呟く。
「なにを入れた?スパイスとは違う刺激を感じたぞ」
 その目には、怒りの炎がゴウゴウと音を立てて燃えていた。他の猟兵達が得た情報もあったが、舌に感じる違和感は、危険極まり無いものだった。
 そして……。
「それと……なぜ血の臭いがするんだ?」
 この言葉が、店の中に響いた。場が凍り付く。まるで、死人が出てしまったかのような静寂であった。しかし、その言葉は単なる難癖では無い。実際、トリガーが戦場で培ってきた嗅覚は、この豚骨の中に、血の臭いを感じ取っていたのだった。そしてそれは、自分の大切な思い出に対する、侮辱でもあった。
 その様子に、エルーゼは驚いた。トリガーが、これ程までに怒りを露わにするとは、珍しかった。今まで、幾多もの事件を解決するにあたり、コンビを組んでいた。だからこそ、その変化に驚きを感じざるを得ない。トリガーは、滅多に怒るような人物ではないのだ……。
 しかし、それと同時に、このとんこつラーメンについて冷静に分析をする。トリガーが食べ始めてすぐに不味いと言ったと言う事は、他の猟兵達が集めた情報と一致するのでは……?
 ただ一つ言えるのは、トリガーをここまで怒らせると言う事は、余程の事をしたという事だ。ならば、ここは一気に攻めた方がいいかもしれない。
「この辺でカエルに出刃包丁で襲われた人がいるって聞いたけど、関係あるのかしら」
 エルーゼは、店員へ揺さぶりを掛けるように、言葉を投げかける。わざとさりげない口調を用いる事で、強い動揺を誘おうと試みる。その言葉を聞いた店員は、一種、すぐ傍に置いてある出刃包丁に黒い瞳を走らせた。そして、エルーゼの方を向き……。
「いえ、そんなのは、根も葉もない噂ですケロ」
 堂々と言ってのける店員。しかし、エルーゼの青い瞳は、店員が動揺を押し隠しているのを見て取った。店員の顔には、汗が垂れている。しかし、それは厨房の熱気によるものではなく、冷や汗に近いものではないだろうか。あと、もう少しで、店員の心は折れるだろう。エルーゼは、更なる追撃を試みる。
「本当かしらね。その出刃包丁で調理とかしていたんじゃないかしら」
 その鋭い一言が堪えたようだ。店員は俯き、暫し沈黙する。その様子を見たエルーゼとトリガーは、瓦礫が崩れる音が聞こえた気がした。

 そして、店員は顔を上げた。しかし、その瞳には、殺意が宿っていた。
「さては、猟兵ケロね!?今まで散々邪魔をして、もう許さないケロ!!」
 人間、怒りによって我を忘れる事がある。どうやら、それはオブリビオンも例外では無かったらしい。店員は出刃包丁を手に持ち、そのままトリガーへ躍りかかった!
 刹那、トリガーは目にも止まらぬ速さで懐から大型拳銃を取り出し銃口を向ける。
オブリビオンとはいえど、どうやら戦闘訓練はそこまで積んでいないらしい。そんな店員が、銃を持った戦闘のプロに即席の調理道具で挑もうなど、無謀だった。
 ――そして、店内に、一際大きい銃声が響いた。
 店員は、腹部を抑えたまま、呻く。
 トリガーは、無表情で、店員を見つめていた。手に持った大型拳銃――ジョーカー5s――は、銃口から灰色の狼煙を上げていた。それが、かつてとんこつラーメンの匂いが充満していた空間に漂う。白い照明の元、黒と紅のフレーム、Jと5の文字が、ありありと浮かんで見えた。鈍い光を放つジョーカー5sを構え、冷酷に対峙する。今の彼は、かつてラーメンを食べた時の記憶を呼び覚ましていた、優しい人柄ではない。闘いとなった今や、作戦や任務を冷静に遂行する、一人の猟兵へと変化したのであった。
 そして、店内はパニックに陥った。人々は、突如起きた乱闘によって、我先にと店から脱出していく。
 その様子を見た他の店員も、加勢しようと、それぞれ手に武器となりそうな調理道具を持って、客席に出ようとする。
 だが、彼らを通さんと立ち塞がる者が現れた。それは人間でありながら、どこか人間で無いように思われる。もし形容する言葉があるとすれば、それは古代の戦士と言えよう。彼らは炎を纏った槍を手に持ち、店員の行く手を阻んでいる。トウカの『サモニング・ガイスト』だ。一変した状況にオロオロしつつも、二人の援護をしようと、古代の戦士を召喚したのである。
 その隙を突いて、エルーゼも双剣を取り出し、動きの止まった店員の集団へ飛び込んだ。二つの剣の柄頭を繋ぎ合わせ、薙刀へと変化する。そして、舞を踊るかのように、大きく弧を描くように素早く振りかざす。紅の線が入った漆黒の武器――ラーズグリーズ――が、残像のように尾を引き、カエル頭の店員達を斬りつけた。『トリニティ・エンハンス』によって自然の魔力を纏った一撃は、普通の斬撃とは一味違う。物理と魔法、二つの華麗なる合わせ技に、店員は思わず膝をつき、動かなくなる。その様子を見下ろしながら、ラーズグリーズを静かに納めた。
 ラーメン店は、静寂に包まれたのであった。

●その日、ラーメン店は戦場と化した
 その時、併設された工場の方から、ドタバタと大きな足音が響いてきた。どうやら、まだ店員の仲間が居るらしい。しかも、その数は一人や二人では無い。恐らく、十数人は居る事だろう。工場の方を見て見ると、そこには、ラーメン店で働く際の衣類に身を包んだ、カエル頭の店員が居た。彼らは、怒りに満ちた面持ちで、それぞれが武器を持って駆けつけようとしている。
 そして、既に倒された店員たるカエル頭のオブリビオンは、呻きながら言った。
「許さないケロ……。私達の邪魔をする猟兵達を、絶対に許さないケロ……。私達の“崇高な目的”を妨害する、憎き猟兵達は、生かして返さないケロ……、か、覚悟するがいいケロ……」
 怨嗟の声と共に、カエル頭の店員は息絶えた。それと同時、増援の店員達が店内に押し入って来たのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『エージェント・アマガエル』

POW   :    はねかえる
【強靭な肉体 】による素早い一撃を放つ。また、【あらかじめ跳ね回る】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD   :    いろいろつかえる
いま戦っている対象に有効な【エージェントひみつ道具 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    死亡フロッグ
自身の【死亡フラグをつい立ててしまう言動 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「ケロケロケロ!!猟兵め、よくも散々邪魔をしてくれたケロ!!」
 怨嗟の声と共に、客席になだれ込むのは、オブリビオンの集団であった。
 その顔は……、既に猟兵達は知っているだろうが、敢えて言うと、カエルそのものだったのである。緑色の皮膚に、黒い円らな瞳。口は横に大きく広がっている。そして、いつもならスーツ姿であろう彼らは、ラーメン店の店員をしていた為であろうか、白い割烹着姿だったのである。
 彼ら――エージェント・アマガエル――は、各々が手に、出刃包丁や、麺を伸ばす為の棒を持ち、身構えている。どうやら、ラーメンの次は猟兵達を調理せんと言わんばかりであった。
 そして、戦闘に居たリーダー格のエージェント・アマガエルは、店内に響くかのような大きな声で、宣戦布告を言い渡す。
「貴様ら猟兵達が邪魔をした事で、私達の”崇高な目的”は無に返そうとしているケロ!ここで貴様らを倒して、再び『大神らーめん』へお客様を呼び戻すケロ!その為にも、猟兵達には死んでもらうケロ!!」
 店内は、殺伐とした空気に包まれていた。外は厚い雲に覆われており、それによる薄暗さが、その空気をより邪険なものに仕上げていた。
 そして、エージェント・アマガエルは間髪入れず、猟兵達に飛び掛かる!!
エン・ジャッカル
おっと、ここで崇高な目的を口にしましたか。崇高な目的とは何なのか知ることが調査の目的と言ってもいいと思うので、何としてでも情報を引き出したいところですね。

基本的には戦闘ではアヌビス号と合体して戦うのですが、店内なのでワイルドハンターの一本で戦わなければなりませんね。とはいえ相手は蛙人間?なので、ある程度は読み取って攻撃を凌ぐ程度なら行けるはずかと。

攻撃を凌いでいる間に「崇高な目的とは何なのか。」を中心に、状況に合わせて挑発するなどをして喋らせたりしてみます。

しかし、本当に勿体ないですね。こんなに美味しいラーメンを作れるのでしたら、こんなことをせずに真面目にやっていればと思わずにはいれません。


トリガー・シックス
「エルーゼ、お前は新しい装備を取りに行け。着ているはずだ」
敵の動きを見ながら『ジョーカー5s』による【クイックドロウ】と【スナイパー】で素早く精密に射撃を行い、数を減らす。
「店主は恐らく……」
会わせられないということは既に……。
「どちらにせよ、料理をこんな風に使うのは許しがたいが」
あの時のラーメン屋の店主、料理は幸せを作るという立派な考えを持っていた。
『最後の願望』でリヴェンを呼び出し、サイキックで援護させる。
「崇高な目的か。潰すだけだ」
静かな怒りと【殺気】で【恐怖を与える】
攻撃が来たら【見切り】と【グラップル】で武器を奪い【カウンター】を繰り出す。

※アドリブ、他の猟兵との絡みOK


エルーゼ・フーシェン
一旦外に出てから新しい装備である『ゲンドゥル』と『摩利支天』を持って再度突入するわ。
「ねえ、店主の人は?」
トリガーはもう駄目だろうと返してきた。生きてても、オブリビオンになってる可能性があるのかしら。
『ゲンドゥル』を起動させて光刃を形成、『トリニティ・エンハンス』で炎の魔力で焔刃へと変化させてみるわ。
これって魔力で出来てるなら、鞭みたいにできないかしら?やってみましょ!
【野生の勘】で動きを予測しながら【なぎ払い】や【衝撃波】で攻撃するわ。
他の人も援護しながら倒していくわね。

※アドリブ、他の猟兵との絡みOK



●エージェント・アマガエルの強襲を迎撃せよ!
 白い照明によってぼんやりと照らされた店内は、今や緊迫した空気に包まれていた。隣接した工場から雪崩れ込んでくるのは、白い割烹着姿のエージェント・アマガエル。その手には出刃包丁や麺を伸ばす棒などが握られており、それで相手を惨殺しようと迫ってきている。
「エルーゼ、お前は新しい装備を取りに行け。着ているはずだ」
 トリガー・シックス(黒衣の銃剣士・f13153)は隣に立っているエルーゼ・フーシェン(双刃使い・f13445)を素早く一瞥して言葉を投げ掛ける。彼女が鋭い声に反応して、彼の顔を見る。その顔は何時もの無表情に見えたが、彼女だけは理解していた。彼は今、この場に蔓延する異様な緊迫感によって、顔が強張っている事を。その事だけでも、現在の状況が猟兵達にとって危ういものであるかを示していた。
 だが、そんな事を考えている余裕は無い。その間も相手は此方へ向かってズンズン突き進んでくる。手に持った鉛色の出刃包丁がギラギラと鈍い光を放っている。エルーゼは急いで、のれんを潜って夜の闇へ紛れ込む。
「逃がさないケロ!」
 後方に居たエージェント・アマガエルが叫ぶや否や、手に持っていた寸胴鍋をエルーゼの後頭部目掛けて勢いよく投げつける。その巨大な金属の容器は空中を飛び、エルーゼの白い髪へ向かって飛んでいく。
 バァン!
 カキィン!
 銃声が轟いたかと思うと、寸胴鍋は空中でバウンドして床へ落下する。軌道上に立っているのはトリガーだった。彼は手に持ったジョーカー5sを構えつつ、ここから先は通さないと言わんばかりに仁王立ちして行く手を阻む。
 すぐさま、手に持った大型拳銃の銃口を細かく動かし、素早く引き金を引いていく。銃声が機関銃のように轟く度、エージェント・アマガエルの急所が悉く蜂の巣と化していく。それはゾンビもののシューティングゲームさながらであった。
「くそっ、数が多いな……」
 だが、その比喩は正に正しかった。ゾンビが無尽蔵に現れるように、エージェント・アマガエルもまた、併設された工場から無尽蔵に現れたのだから。これには、流石のトリガーも顔をしかめる。目元を鋭くしつつも、ただひたすら相手を打ち据えていく。
 そして、エージェント・アマガエルの死体が土砂災害を防ぐ土嚢のように積みあがった時だ。ここで、エルーゼが息を切らせて戻って来た。右手に握られているのは、二本一組で連結可能な柄。もう一つは、長い柄。どちらも刃が付いておらず、人によっては壊れた武器として見なす人も居るかもしれない。けれど、そうした人達は、自分達の知識がいかに狭いかを知らない人達であろう……。
 そして、店内の様子を一瞥する。目の前には、黒い背中を向けてジョーカー5sを打ち続けるトリガーに、死体の山と化した、エージェント・アマガエル達、そして奥から更にやってくる無数のエージェント・アマガエルの集団……。
(まだ、あれだけいるの?)
 そして、ふと、ある事が気になった。今まで、他の猟兵達が一生懸命に調査をして得た情報の数々。それを踏まえ、どうしても頭から離れなかった疑問があった。エルーゼは敵を見据えながら、銃を撃ち続けているトリガーへ声を掛ける。
「……トリガー」
「何だ」
「ねえ、店主の人は?」
 ……。
 店内に、銃声の音と、エージェント・アマガエルの怨嗟の声だけが響き渡っていた。硝煙の匂いが、これほどまでに鼻につくとは思わなかった。
 そして、トリガーは、静かに口を開いた。
「店主は恐らく……」
 そこから先は、言わなくても分かった。
 その言葉を聞き、エルーゼは沈鬱な面持ちで俯いた。嫌な考えが頭から離れなかった。もし仮に、店主が生きているのだとしたら、その店主はオブリビオンになってしまっているのだろうか……。
「ケロケロケロ!!」
 その重い空気をぶち破るかのように、積みあがった屍の影に隠れながら、エージェント・アマガエルの一人が声高々に叫ぶ。
「残念ながら、店主には会わせられないケロ!否、そもそも私達の“崇高な目的”を汚す輩を通す訳にもいかないケロ!」
「おっと、ここで崇高な目的を口にしましたか」
 トリガーとエルーゼは振り返る。すると、そこには、一人の若い男性が立っていた。青髪のポニーテールを揺らし、白いラインの入った緑のジャージを身に纏っている。エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)だ。
 彼はエルーゼの隣に立ち、静かに眼前の敵を見据えながら、思索に入っていた。
 今回のオブリビオン、エージェント・アマガエルは、幾度と無く“崇高な目的”という言葉を使っていた。けれど、その詳細は未だ謎のままだ。この内容を解き明かす事もまた、猟兵の責務とも言えよう。
(さて、どうしたものでしょう……)
 エンは、この緊迫した空気に少しばかりの緊張感を抱きながらも、冷静に、どのように情報を引き出すかを思案した。
 そして、どう戦うのか、も。
 エンは基本、自身の乗っている宇宙バイク、アヌビス号と合体する事で戦闘を行う。しかし、ここは多くの客を収容できるラーメン店とはいえ、店の中である。その広さはやはり、外と比べると圧倒的に狭い。この店内では、宇宙バイクと合体して戦闘を行うには、些か困難である。
 エンは、懐にしまっていたナイフ、ワイルドハンターを握りしめて取り出す。刃渡りが125mmと大きい、護身用のサバイバルナイフである。宇宙バイクと合体できない以上、使える武器は今のところ、これくらいしか思い浮かばない。青い瞳を細め、意識を集中させ、静かにカエル頭の大群を見据える……。
 それに呼応するかのように、エルーゼも倒すべき相手へ向き直り、その柄を手に持って構える。刹那、その柄から、光の刃が出現し、煌々とした輝きを放った。SF映画のような武器に、エージェント・アマガエルの集団も思わず目を見張る。更に、エルーゼが目を閉じると、その光に赤い炎が宿り、コンロが燃えるような音を立てて、赤い輝きへと変化したのである。『トリニティ・エンハンス』を発動した事により、炎の魔力を武器へと込めたのであった。目を静かに開き、眼前の敵を見据える。
「くっ、ならば此方も、新しい戦法で挑む事にするケロ!」
 戦闘は、第二ラウンドへ移行した!
 刹那、エージェント・アマガエルは、その屍の山を盾にするかのようにして厨房へ移動する。
 突然の動きに、トリガー、エルーゼ、エンの三人は、体を固くした。一体、相手は何をしようというのか。予測不能な動きに対し、何時でも臨機応変に動けるよう、慎重に構える。
 そして、エージェント・アマガエルは調理道具を厨房にセッティングし、食材を取り出した。すると、麺を湯がき、チャーシューを切り、スープを再び温め始めた。
 三人は唖然とした。
 そして、三つの丼に、麺やスープ、具材が載せられる。そして、一人のエージェント・アマガエルがそれらを盆に載せて器用に三人のところへやってくる。
 一体、何をする気だ?
 そして、その盆を突き出しながら、彼は言った。
「とんこつラーメン、お待ちどう様ケロ!」
 ……。
 三人は、無言になった。
「この戦いが終わったら、“崇高な目的”を再び成し遂げるんだケロ!」
 トリガーは引き金を引いた。
 運んできたエージェント・アマガエルの額に風穴が開き、後ろへ倒れ込む。そして、丼が音を立てて床へ落ちて割れた。白いスープと黄色い麺等がぶちまけられる。
しかし、よく見ると、彼らの動きが、まるでビデオの早送りのように素早くなっているではないか。
 そう、彼らはユーベルコード『死亡フロッグ』を発動したのであった。先程の発言、つまり死亡フラグを立てる為に、あえて戦闘中に調理を開始したのであった。それによって、身体能力が増大、当然、動きも何倍もの速さとなる。
 刹那、彼らは突然、その場でジャンプをし始めた。そう、更にユーベルコード『はねかえる』を上手く活用する為、事前にジャンプをしておく事で凄まじい攻撃を放とうとしているのだった!
「さぁ、死ぬがいいケロ!」
 刹那、厨房に居た無数のエージェント・アマガエルが刃物片手に飛びかかった。それは正しく、トラの如き迫力を持っていた!
 ……だが。
 突如、カエルの群れに、光の鋭い曲線が迫った!
「なっケロ!?」
 空中に飛び上がっていたエージェント・アマガエルは防御する間も無く、その線に体を殴打され、そのまま厨房へ突き飛ばされる。大きな音を立てて倒れ込み、呻き声を上げる。
「い、一体、何をしたんだケロ」
 疑問に思いながら、一人のエージェント・アマガエルが厨房から顔を出す。そして、その正体が分かった。
 あの、獣の耳を持った女性の持つ武器が原因だった。先程まで、刀剣類のように鋭い刃を持っていたのが、いつの間にか、刃が鞭へと変化していたのだった。
 ――これって魔力で出来てるなら、鞭みたいにできないかしら?やってみましょ!
 彼らが多勢に無勢とばかりに飛び上がったのを見て、咄嗟に思いついた攻撃方法であった。魔力でできているなら、武器の形状も変えられるかもしれない。ならば、身体能力が向上した集団を一網打尽にできる形状へ変化させれば、有利に立てるのでは?
 そして、その作戦は功を奏した。そうして唖然とする彼らを見たエルーゼは、内心、笑みをこぼした。それは、上手くいった事への安堵か、一網打尽にできた事への爽快感か。けれど、戦いは終わった訳ではないから、油断はしない。
 その時、素早く飛び出したエージェント・アマガエルの影が一つ。それは、エルーゼの隙を突いて、彼女へ躍りかかったのであった。
 だが、その前へ庇うようにして出たのは、エンであった。そして、手に持ったサバイバルナイフを巧みに振った。すると、飛び掛かったエージェント・アマガエルは、たちまち体中が切り裂かれて倒れ伏す。
 彼らとて、所詮はカエルの人間。ならば、攻撃方法もカエルに似たものとなる筈。それならば、ある程度は行動を予測して攻撃や回避をする事が可能なのではないだろうか?そう考え、カエルが跳びあがってから着地するまでの時間や態勢を計算し、そこから急所を的確に切りつけたのであった。旅をしながら培った戦闘技術は、伊達では無い。
「しかし、ラーメンを利用して身体能力を上げるとは、考えましたね」
「当然ケロ!これも、貴様らを倒す為ケロ!」
「その割には、やられていますけど」
「何だとケロ!?」
「まぁ、崇高な目的が身体能力向上だとしたら、情けないですね」
「違うケロ!これは全て、大神さんのラーメンを世間に広める為ケロ!大神さんのラーメンを侮辱したその罪、尊敬する私達が償わせるケロ!?」
 そう問いかけている間にも、戦況は猟兵達へ傾いていた。
 どうやら、確信に近い事は聞き出せたかもしれない。けれど、その口ぶりからは、何かまだ、隠された事情を感じ取っていた。
「しかし、本当に勿体ないですね。こんなに美味しいラーメンを作れるのでしたら、こんなことをせずに真面目にやっていればと思わずにはいれません」
 これだけの激しい戦闘で、呟く余裕など無い筈だった。けれど、それでも口にしたという事は、それだけ、そうした想いが強かったという事だろう。
「どちらにせよ、料理をこんな風に使うのは許しがたいが」
 そのエージェント・アマガエルの言葉を聞き、トリガーの中に再び怒りの炎が燃え上がった。銃を発砲しながら、昔の記憶がまた、蘇って来た。
(あの時のラーメン屋の店主、料理は幸せを作るという立派な考えを持っていた)
 その時、店主が見せた笑顔は、今でもはっきりと覚えている。そして、目の前に居る醜悪なオブリビオンは、その店主の笑顔に泥を塗るような事をしたのだ。それも、料理を、猟兵達を倒す為の身体能力向上に活用しようとしたのだ。言語道断!
「崇高な目的か。潰すだけだ」
 その一言は、ドスの効いたような言葉だった。その言葉が店内に響き渡った途端、エージェント・アマガエルはすくみ上った。そこに入り混じる殺気が、彼らに並々ならぬ恐怖を与えたのである。
 
 ――リヴェン。

 トリガーは、今は亡き恋人、リヴェンの名を呼んだ。”ユーベルコード『最後の願望(サイゴノネガイ)』を発動した”と淡々と記すのが不適切であるかのように、切なる願いを込めて口にする。
 すると、そこに、先程まで無かった筈の姿が現れた。そう、彼女だ。彼女はトリガーの方を向いて頷くと、そのまま敵集団を見る。そして、手をかざした。
 刹那、彼女はアークビームを放出した。厨房に当たった瞬間、激しい爆発が巻き起こり、辺りは赤と黄色の炎で包まれる。悲鳴を上げる店員達。しかし、そんな彼らを次々にサイキックで宙に浮かせると、そのまま火災現場へ放り投げ、カエルの丸焼きにしていく。
 暫くして、スプリンクラーが発生し、シャーと言う音と共に、細い水の柱が降り注ぐ。そして、黒煙と硝煙などが入り混じった空間から、炎は消えた。
 しかし、その隙を突いて、一人の店員がトリガーへ飛び掛かった。だが、トリガーは戦闘のプロだ。その気配に気づき、グルリと身体を回転させて攻撃を避け、手刀で相手の手を叩く。
「うっ――」
 そして出刃包丁を持っていた手が緩んだ隙を突きそのまま刃物を奪い、相手の頸動脈を掻っ切る。相手はそのまま倒れ伏した。
 その時、一人の店員が瀕死のまま、工場へと駆けていくのが見えた。
「お、お助け下さい、我が雇い主様……」
 その言葉を聞いて、エンは、おや、と思った。彼らに雇い主が居たのか。しかし、店主ではなさそうだ。
 エンは、『影の追跡者の召喚』を発動、厨房の様子を観察していたように、影の追跡者を追跡させる。店員は工場の中を駆けて行き、そして、その奥にあるドアの前で倒れ、息絶えた。そこは住居兼仕事場で言うところの、住居の玄関らしい。
(どうやら、事件の真相へ近付いているようですね)
 エンは、そう感じずにはいられなかった。
 そして、三人は力を合わせ、次々に迫り来るエージェント・アマガエルを迎撃していくのだった。

 現時点で、戦いは猟兵達が明らかに有利だ。しかし、相手も最後の砦を守らんとばかりに、勢いを増していく。闘いは、まだ始まったばかりである……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリィ・オディビエント
崇高な目的…いったいどんなひどいことなんだ!!まったく見当もつかない!

きっとこの絶品なラーメンには何か危ないあれが入ってて脳内のあれがこうして、とにかくやばいに決まっている!絶対に許さない!店主のおじさんのためにもまけられないんだー!

ユーベルコードにより圧倒的な強靭さと無敵さを得て最強の防御力を見せつけて心を折りにいきます
もうダメだ…勝てるわけがない…となったら、しっかりこってりと濃厚な豚骨ラーメンのように(?)崇高な目的とやらを書き出してやろう。
全然関係ないが私はカエル好きだよ。

※自由なリアクションをさせてあげてください。共闘アドリブオッケーです



●小さな騎士VSカエル頭の店員達
 町はいつものように、平穏な夜を迎える筈であった。
 だが、この町の一角にあるラーメン店は、そうした静寂とは無縁であった。戦闘音が絶え間なく続いており、まるで、この場所だけが戦場と化したかのようであった。
 その乱闘騒ぎが行われている店を訪れたのは、兎の足や、狼の耳と尻尾や手を持ったキマイラの少女であった。リリィ・オディビエント(パラディンナイト・f03512)である。彼女もまた、今回の事件を解決せんとやってきた猟兵であった。
(崇高な目的…いったいどんなひどいことなんだ!!まったく見当もつかない!)
 リリィが最初に考えた事は、崇高な目的の詳細についてだったが、首を傾げるばかりであった。しかし、そんなリリィにも理解している事はある。それは、この絶品なラーメンには何か危ないあれが入っていて脳内のあれがこうして、とにかくやばいに決まっているのだと言う事だ。かなりフワッとしているが、状況は大まかに把握している。
 しかし、その理由を探る為にも、まずはこの場を何とかしなければならない。戦闘が開始されてから、既に数十分が経過している。ならば、後は私に任せろとばかりに、のれんを潜って入店した。
「いらっしゃいませケロー!!」
 怒号と共に戦闘を続行しているカエル頭の店員の姿が目に入った。
「……え?」
 確かに話には聞いていたが、いざ目の前にしてみると、キョトンとしてしまう。そう、カエル頭をした人間が、白い割烹着を着ており、手には出刃包丁などの調理器具を持って相手を殺さんと息巻いているのだ。いやまぁ、確かにカエルは好きなのだが、それはそれ、ちょっと開いた口が塞がらない。
 しかし、そんな険悪な空気の最中でも負けていられない。店内が破壊されて尽くされ、凄く焦げ臭い。そんな惨状を目の前にして、声高々に宣言する。
「絶対に許さない!店主のおじさんのためにもまけられないんだー!」
 そう叫ぶと、何と、小さな体でそのままぐんぐん前線へ突き進んでいく。
「どうやら猟兵ケロね!?ならば、お前を具材にして、とんこつラーメンのチャーシューにしてくれるケロ!!」
 エージェント・アマガエル達は怒気を孕んだ声で猛々しく叫ぶと、すぐさま、その場でピョンピョンと飛び跳ねたのであった。そうしている内に、ビデオの早送りのように動きが素早くなっていき、やがて、残像を持つまでに至った。ユーベルコード、『はねかえる』だ。
「ケロケロ、まずはお前をぶちのめしてやるケロ!!」
 そして、その勢いのまま、彼らは調理器具を片手にリリィへ殴り掛かった。
 ああ、それは正に暴力であった。大人が寄ってたかって、小さな少女を調理器具で力任せに殴打しているのである。金属がリリィの金髪に覆われた頭や、小さな肩などに激しくぶつかり、大きな音を響かせる。
 だが、様子がおかしい。彼らが幾ら殴っても、リリィは全く傷ついた様子が無い。そればかりか、ニヤニヤと笑っており、全く痛がっている様子も見当たらない。
 実は、リリィは相手がその場でピョンピョン飛び跳ねている間に『無敵城塞』を発動していたのであった。今のリリィは、正に超防御モードにある。謂わば、彼らは木の棒で甲冑を着こんだ騎士相手に闘いを挑むようなものであった……。
 今や、彼らの心はボッキボキに折れつつあった。圧倒的な強靭さと無敵さを誇る様をまざまざと見せつけられたならば、流石のオブリビオンたる彼らも、「もうダメだ…勝てるわけがない…」と思わざるを得ない。
 それを見たリリィは、ちょっとからかってやろうと、厳かな口調で、おどろおどろしく声を連ねて行く。
「……さて、崇高な目的を教えて貰おうか?」
 その言葉に、とうとう彼らの心は折れた。彼らは見事な土下座を披露する。
「ひぃぃぃーーケロ!!勘弁して下さいケロ……!!」
 そして、続け様に言葉を連ねて行く。
「実は、私達は雇い主様に雇われただけで、その理念の共感したから、こうした事をやっている訳なんですケロ……」
「その理念とは一体、何なのか?」
 リリィはユーベルコードを解除し、どこからか取り出したメモ帳に、ペンで事情聴取の如く記していこうとする。
「それは……」
 そして、隣接している工場の奥へ目を向ける。
「実は、この工場の奥には、店主がかつて住居にしていた住まいがあるケロ。そこに、私達の雇い主様がいらっしゃいますケロ。その方が、とても詳しい事情を知っておられますので、その方からお聞きなさって下さいケロ」
 雇い主、理念、共感……。
 そうした情報をしっかり、濃厚なとんこつラーメンのレシピのように書き記していく。そして、うんうんと頷くと、その工場の奥へと目を光らせる。
 どうやら、この先に、全ての元凶がいるようだ。
 そして、その謎の存在が、全ての鍵を握っている。
 リリィは、その正体を調べるべく、足を奥へと運んだのであった……。

 尚、まだ生き残っていたエージェント・アマガエル達は、命乞いをするかのように、町の闇へと消えて行った。戦闘であれだけ酷い目に合ったのだ。エージェント・アマガエルの内、この事件に関わった者はもう、悪さをする事は無い……のかもしれない。

●黒幕の正体。そして、そこに居たのは……
 猟兵達は激戦を潜り抜け、遂に、黒幕が居るという住まいへと足を運んで行く。かつて、多くのお客で賑わい、笑顔で溢れかえっていた店内は荒れ果て、まるで廃墟と化してしまっていた。
 そこに隣接している工場に足を踏み入れると、外の塵や埃をシャットアウトする為の構造故か、不気味な静寂が支配していた。白い照明が、緑色の床や、銀色の大型機械を照らし出している。その隅にあるのは、麻袋に詰められた、赤い粉末。これが、客をおかしくさせた原因だろう。しかし、今はそれに構っている暇が無い。
 そうして歩みを進めていく。足音を反響させながら到着したのは、一枚の、茶色い木製のドア。どうやら、ここから先が、仕事場兼住まいの、住居という事になるのであろうか。
 猟兵の内、誰かがドアノブを掴み、捻る。そして、ゆっくりと引く。
 ……ギィィィ。
 軋む音を立てながら、それは開いた。
 そして、足音を忍ばせて、室内へ入って行く。
 長い板張りの廊下を、ゆっくりと歩いて行く。室内は電灯が付いており、白い光が、老朽化した住居の有様を浮かべている。
 そして、突き当りのドアまで来た時だ。
「……猟兵達だね」
 静かな、そしてしわがれた声が聞こえてきた。
 それに息を飲みつつ、ドアを開いた。
 そこに、黒幕が居た。
 一言で言えば、黒色が主体とも言えそうな、シャーマンズゴーストであった。彼は、この広い畳の間の端に座っていた。
 この部屋の隣は、広く何も無い庭となっているようで、月明かりがその様子を照らしている。そして、かくいうこの部屋は、物が殆ど置かれておらず、まるで、引っ越しをした後のような光景であった。
 ……ただ、部屋の中央にある、布団と、そこで仰向けになっている人物を除いて。
 その人物は、顔に白い布が被せられている。どうやら、男性の老人であるようだ。彼の体には防腐剤が塗られているのか、独特な匂いが立ち込めていた。
「まぁ、先程は私の部下達が、無礼を働いたようだね。その為に、怪我をさせてしまったかもしれない……。お詫び申し上げる」
 そして、彼はそのまま頭を下げ、謝罪する。
 しかし、猟兵達の頭には、疑問が残るだろう。一体何故、このような事をしたのか。そして、そこに横たわっている老人は誰なのか。そして、彼らの言う“崇高な目的”とは何なのか。
 その事を察したのか、目の前にいるオブリビオンは、静かに、語り始める。
「……さて、猟兵諸君も、気になっている事だろうから、話すとしよう。私の言う、“崇高な目的”を。そして、どうして、このような事をしようと思ったのかを」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『大神霊』

POW   :    大神霊分裂増殖撃
自身の身体部位ひとつを【シャーマンズゴースト】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    大神霊巨鳥進化撃
【大神霊としての尊厳】に覚醒して【頭部と鬣はそのままに、燃え盛る巨鳥】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    大神霊超常災害撃
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 読者諸君は、思い出に残る、料理店というのがあるだろうか。街角の大衆食堂、商店街の小さなラーメン屋、通学路にある駄菓子屋……。
 そうした店で食べる料理というのは、何かしらの理由で、記憶の奥底に深く刻まれるものだ。子供の頃に食べた懐かしい味、大学受験の合格祝いに連れて行って貰った、その店の年老いた店主と懇意にしていた……。
 そうしたお店は、恐らく、長い年月もの間、人々に愛され、親しまれるだろう。
 けれど、そのお店は人間が経営している以上、いつか終わりが来る。店主や料理人は、有限の人生の中を精いっぱい生き、死んでいく。そして、その店は畳まれ、やがて無くなっていく。
 料理店とは、有限の存在なのだ。

 とある町に、『大神らーめん』というラーメン店があった。
 ある雨の日の事、一人のシャーマンズゴーストが、雨に打たれながら、この町を歩いていた。その理由は、ここでは詳しく語らないでおこう。ただ一つ言えるのは、彼の心は、降りしきる雨のように冷たく、凍えていたという事だった。
 しかし、そんな感情を抱いていても、腹が減ってくる。寧ろ、そうした負の感情に支配されている時程、腹がすくというものだ。
 そこで、たまたま目に付いたラーメン店へ足を運んだ。
 ――いらっしゃい!!
 そう笑顔で出迎えたのは、頭に白いものが混じった老人であった。彼は、シャーマンズゴーストの彼を見ても、嫌がる素振りをする事無く、席へ案内した。
 シャーマンズゴーストは、とりあえず腹が満たさられれば良いと、適当に注文する事にした。とりあえず、とんこつラーメンを一つ。
 すると、三分と経たない内に、とんこつラーメンが出てきた。湯気が立っていて、美味しそうな臭いが漂っている。そしてラーメンをすすった。
 ……旨い。
 負の感情を抱きつつも、麺をすすり、スープを飲み干していく。その味は、砂漠に一滴の水を垂らしたかのように、スーッと、染み入るものであった。そして、シャーマンズゴーストは理解する。この味は、一流だ。しかし、ネットや料理のガイドブックなどでは、見かけなかったような……。
 その事を聞くと、彼は笑顔で、こう答えた。
 ――私は、ただお客さんの笑顔を見れれば、それだけでいいんだよ。
 そして、続けざまに、こういった。
 ――お客さん、何だか、辛そうな顔をしているね。良かったら、話を聞こうか?
 そして、シャーマンズゴーストは話をした。それが一通り終わると、彼は、こんな事を言った。
 ――そっか、そっか。辛い事があったんだな。じゃあ、今回のラーメン代は、タダにしておくよ!
 その言葉に、心が揺さぶられた。思わず、彼の顔を見る。
 彼、大神さんの笑顔は、この世の、どの料理人よりも、美しい、太陽のような輝きを放っていた。
 それから、シャーマンズゴーストは店を何度も訪れるようになった。ラーメンを食べて、語り合った。

 ……しかし、それも終わりを迎える事となる。
 大神さんは、癌だった。
 実は、シャーマンズゴーストと出会った時、既に、余命一年と持たない体になっていたのだった。
 しかし、それにも関わらず、そんな弱いところを見せられないと、笑顔を作り続けたのだった。
 そして、ある日。
 シャーマンズゴーストは、彼の仕事場兼自宅を訪ねた。この日、彼の誕生日であり、ケーキを買って来たのだった。
 しかし、返事が無い。
 気になって、店へ上がると、そこに、大神さんの姿を見た。
 大神さんは、布団の中で仰向けになり、眠っていた。
 声を掛けるが、一向に起きる事は無い。
 そして、シャーマンズゴーストは経験した。
 大切な人との、別れを。
 
 その時、シャーマンズゴーストの脳裏に、有る事が浮かんだ。
 それは、この店の事だった。
 この店には、今も尚、多くの常連客がやってきている。それだけ、この店、そして、大神さんは愛されていたのだ。けれど、その記憶も、時が経てば、死と時間によって失われて行ってしまう。
 料理は芸術品では無い。その味は、料理人が生きている時しか味わえない。
 そんな中、町中で耳にした言葉を思い出していた。
「ねぇー、この間食べた店、不味く無かった~?」
「だよねー。それよりもさ、この、口コミの評価が高い店、ここに行こう!」
「そうしよ~!」
 世間は、口コミの評価で溢れかえっている。それは別に、シャーマンズゴーストは否定しない。ただ、その情報の洪水に、大神さんの店が呑み込まれて消えて行くのは、耐え難かった。
 ……だから、決意した。
 この店の味を、全ての人に覚えて貰うのだと。
 その為に、依存性を高める赤い粉末も用意した。
 これは、冒涜になるのかもしれない。
 しかし、やるしかなかった。
 この店を、永遠に残す為に……。
 シャーマンズゴースト、大神霊は、決意したのだった。

 空は、丸い月が出ていた。今、大神霊は広大な庭に出て、猟兵達を背に語り続けていた。そして、長い、長い話が終わると、猟兵達へ振り向いた。
「……さて、以上が、私の”崇高な目的”だ。これは、大神さんへの冒涜になるのかもしれない。……けれど、例えそうだったとしても、私の決意は覆らなかった。この店を、永遠に不滅のものとする。それが、私の信念だからだ」
 そして、大神霊は手招きをする。どうやら、猟兵達へ、庭へ降りてこい、と言っているかのようだった。
「……しかし、猟兵達は、私の計画を止めなければならないのだろうね。けど、私にも、信念というものがある。……だから、この計画を止められるわけにはいかないのだよ」
 そう言うと、突如、大神霊の周囲に、禍々しい空気が立ち込め始めた。それに呼応するかのように、空に黒い雲が遠くから流れてきて、白い月を覆い隠した。そして、その雲は激しい雨を地上へ振らし、庭を濡らしていく。そして、この事件を引き起こした張本人、大神霊は猟兵達へ、声高々に宣戦布告をする。
「……さて、猟兵達よ。ここからは、信念と信念の戦いになるだろう。私とて、信念を貫く事を決意したオブリビオンだ。……負けた時は、潔く骸の海へ帰ろう。しかし、猟兵達が負けたなら、私は計画を続行し続け、この店を守り続ける。……さぁ、武器を手に取るが良い。どちらの信念が勝つか、今、決着を付けようではないか!」
マロン・チェスナット
※絡み・アドリブ・連携歓迎

【SPD】
最初に感じた事は悪い感じはしなかった
純粋に店を護りたいんだなと感じた
それは味に出ていた
とっても美味しかったよ
美味しかったから何度も替え玉して全部食べちゃた
多くの人に味を広めたかったんだね
その件に関しては謝るよ
でもね、それはやり方を間違えたんだ
純粋に味で勝負すべきだったんだ
依存性を高める赤い粉末を使うべきじゃなかった
冒涜だとわかっていたならやるべきじゃなかった
キミは大神さんの遺志を引き継いでいたんだ
ボク個人としてはこの店の味を守って欲しいと思う
消えずにやり直して純粋に店の味を広めて欲しい

約束するよ
大神らーめんの味はボクが引き継いで広めると
だから、安らかに眠って


エン・ジャッカル
そういうことでしたか…貴方は大神さんが好きが故に、『大神らーめん』が消えるのが耐えれなかったのですね。
ですが、聞く限りでは大神さんは自身に癌が蝕まれても、お客様の笑顔を見たいからラーメン店を続けていたのではないでしょうか?自分がそうしたいからそうしたと、名声や知名よりも笑顔が欲しいと、そう感じられました。

…どうしても戦わなければならないのですね。庭に出ましたので、アヌビス号と合体して最大限に発揮出来るようになりました。それはシャーマンゴーストも同じでしょうね。油断せずに行こうと思います。

…赤い粉末なんかを使わずとも私は、大神らーめんの虜になりましたよ。またいつか会えたらまた食べさせて下さいね。


トリガー・シックス
「……店主の亡骸を、安全な場所へ」
戦いが起きれば、被害がどの位まで及ぶか分からない、それを提案して遺体を移動できてからでも遅くはない。

戦闘になれば『陰狼』と『昂龍』を抜いて太刀二刀流で相手をする。
【2回攻撃】による連撃、【なぎ払い】や【衝撃波】による追撃を行う。
『最後の願望』でリヴェンを呼び出し、攻撃を行わせる。
「お前の信念は分かる……だが別のやり方があったはずだ」

料理をする彼には一つの信念があった。それは思い出のラーメン屋の店主の言葉。
「料理は笑顔に、人に元気を与えるものだ」
お前を止めろと、依頼された。
【第六感】で見た依頼者の名を明かすことなく二刀を構える。

※アドリブ、他の猟兵との絡みOK


ブライトネス・フライハイト
【アドリブ共闘可】

Mr.大神霊、貴方がやった事は間違いなくMr.大神への冒涜にゃ。
だが、我輩は敬意を表する。

ああ、今日という日を呪うのにゃ。
至高に近いラーメンに出会えた事に。
それを継承するMr.大神霊を倒し、過去の遺物にしてしまうことに。
いかなる精密な分量を記載したレシピでも再現できないのにゃ。
世界から歪と言われようと、まっすぐな貴方の思いがあったからこそにゃのだから。
こんなことなら出会わなければよかった……この様なことになるなど我輩、猟兵になってから初めてにゃぁ。
可能なら手助けをしたい、それが出来ないのがとても歯がゆいのにゃ。

お菓子騎士の武器を『料理』技能でカッティング、鋭利にして攻撃にゃ。


エルーゼ・フーシェン
「止めないとね……悲しむ人がいるから」
『ゲンドゥル』を構え、『トリニティ・エンハンス』で風の光刃を形成して切りかかる。
【残像】を残した【ダッシュ】で横から攻撃を仕掛ける。
【野生の勘】で攻撃が来ると予感したら知らせて【ジャンプ】して翼を使って滞空。
装備を『摩利支天』に変え、焔刃の槍を持ち【空中戦】で一撃離脱を繰り出す。
【見切り】で回避しつつ【カウンター】で反撃を行う。
【二回攻撃】による連続突きや大鎌による【なぎ払い】も織り交ぜて攻撃を続ける。

終ったら、ちゃんとしたとんこつラーメン食べたいわね。
※アドリブ、他の猟兵との絡みOK


リリィ・オディビエント
その行いを正義とは認められない、情にほだされることもない。
だがその信念しかと受け取ってみせる。

真の姿を解放。グリモアの力を使用して鎧を転送して変身かのように装着。

相手の攻撃を決して避けることはしない。UC騎士の誇りと共に相手の信念ごとねじ伏せようとする。
味方の窮地などには【かばう】を使用。


お前の行いを私は悪と断じて裁く。だが、決して無駄にはならないだろう、お前が認めた味は引き継がれていく。それが人間というものだからだ。

天命を成就した店主の元へ送ってやろう、せめてもの手向けだ。
戦いが終わったら…代わりに一杯、食べにいくとするかな。



●とんこつラーメンに賭ける、それぞれの想い
 一時は晴れていた空も、今や黒い雲に覆われ、大きな雨粒を地上に振らせていた。その空模様は、ここに居る全ての猟兵、そして、オビリビオンの心を象徴しているかのようだった。とても重苦しく、どうしようもない虚しく、やるせない……。そうした負の感情がない交ぜになったかのような、そんな気持ちだ。
 マロン・チェスナット(インフィニティポッシビリティ・f06620)は、辛かった。先程までは、美味しいとんこつラーメンを食べていて、幸せな気持ちだった。けれど、それは僅か半日で覆ってしまった。
 雨が降りしきる中、目の前にある庭へ立っているのは、一体のオブリビオン。本来なら、猟兵として彼を倒して、めでたし、めでたし。
 ……その筈だった。
 けれど、マロンの中には、迷いが生じていた。果たして、彼を倒す事が、本当に正しい事なのだろうか、と。
 それは、初めての心情であった。
 かつて、人間と狼が、お互いに平和でいられるよう、説得した事もある。あの時に抱いたような情念が、心の中へ、波のように広がって行った。
 彼女は、その小さな拳を握りしめる。
 彼のやった事は、確かに正しいとはいえない。けれど、料理人や料理に対する想いを否定する事は、できなかった。それは、フードファイターだからとか、そんな理由では無い。マロンもまた、料理を、人を愛する者だったからだ。
 けれど、マロンは猟兵である。例え同情したとしても、オブリビオンである以上、相手を倒さなければならないだろう。
 思えば、平和を願って説得した相手は、『狼』だった。そして、これから戦うオブリビオンが背負っているのは、『大神らーめん』。
 『狼(おおかみ)』と『大神(おおかみ)らーめん』。
 その一致は、偶然か、必然か……。
 雨は、今もなお、降り注いでいた。

 ――そういうことでしたか…。
 庭で雨に打たれながら佇んでいる彼を見つめながら、エン・ジャッカル(風来の旅人・f04461)は静かに呟いた。
 彼の言葉を聞き、やっと、“崇高な目的”の意味を理解した。そして、聞いている内に、何故か分からないが、感慨深い気持ちになっていった。それは恐らく、旅をしている内に培われた、もしくは元から備わっていた、人を想う心によるものだろう。
 ――貴方は大神さんが好きが故に、『大神らーめん』が消えるのが耐えれなかったのですね。
 エンは、自然と口から言葉が漏れ出していた。雨に打たれているにも関わらず、微動だにせず、猟兵達の出方を待つ姿を見ていると、感じた事を言わずにはいられない。その姿を見ていると、どれだけ大神さんを慕っていたのかが、心の奥底にまで伝わってくる。猟兵達が想像する、何倍も、何十倍も、強い気持ちなのだろう。
 ……しかし。
 ――ですが、聞く限りでは大神さんは自身に癌が蝕まれても、お客様の笑顔を見たいからラーメン店を続けていたのではないでしょうか?
 思った事を、目の前に居る彼へ告げる。
 彼は、エンを見た。
 その声は、雨の音で消えてしまいそうに小さく、そして、静かだった。
 ――自分がそうしたいからそうしたと、名声や知名よりも笑顔が欲しいと、そう感じられました。
 ……沈黙。
 猟兵達も、オブリビオンも、何も言わなかった。ただ、雨が空を切って落下する音のみが、この場に響いていた。それらの雨粒は、トタン屋根に打ち付けられ、小太鼓のような軽快な音を鳴らしている。
 しかし、エンの言った言葉は、地面に染み込んでいく雨粒のように、彼の心にも、深く入り込んでいた。
 そんな気がした……。

 ――Mr.大神霊、貴方がやった事は間違いなくMr.大神への冒涜にゃ。
 静寂の中で、小さなケットシーの料理人、ブライトネス・フライハイト(ケットシーのフードファイター・f04096)は、小さくもはっきりした声で言った。
 彼は、小さなケットシーへ目を向ける。しかし、降り注ぐ雨のカーテンによって、その顔がよく見えない。けれど、その声色から、どんな表情を浮かべているのかを察した。その顔には、怒りや、悲しみや、憐れみや、苦しみといった、あらゆる感情が浮かんでいるのだろう……。
 その言葉は、彼の胸に突き刺さった。それはまるで標本用のピンのように小さいが、とても鋭く、一度刺すと抜けない。
 彼も、この行為が正しいのかどうか、分からなかった。いや、本当は分かっていたのかもしれない。自分の行っている行為は、もしかしたら、敬愛する大神さんの想いを踏みにじっているのではないか、と。
 彼は、俯いた。地面が視界に入る。小麦色だった土も、雨粒がしみ込んで、レンガ色となっている。
 その最中にあっても、雨は容赦なく、彼の体を打ち据える。その一滴一滴は冷たく、断罪しているかのようであった。
 ……しかし。
 ブライトネスは、口を開いた。
 ――だが、我輩は敬意を表する。
 一瞬、猟兵が何を言っているのか、分からなかった。
 それは、慈悲なのだろうか。それとも、憐れみなのだろうか。もしかすると、嫌味なのかもしれない。
 顔を上げ、ブライトネスの表情を見ようとする。
 しかし、無情にも、雨はブライトネスの表情を遮るように降り注いでいる。
 けれど、その言葉には、大神さんが作ってくれたとんこつラーメンのような、温かさがあった。
 心に刺さったピンは、決して取れる事は無い。けれど、その言葉は、昆虫を苦しませないようにする麻酔に、よく似ていた……。

 リリィ・オディビエント(パラディンナイト・f03512)は、目の前に居る彼を、ジッと見つめていた。バケツをひっくり返したかのように降り注ぐ雨で、彼の姿がかすんで見える。しかし、その存在感は大きく、霧の中に浮かぶ巨人の影のようにさえ思えた。
 だが、その姿は、雨に打たれた捨て猫のように、小さく、そしてか弱く見えた。それは、雨に打たれているからという訳ではなく、彼の心がそのように現われているからなのかもしれない。
 とはいえ、彼のやった事は、決して許される事ではない。手の届く全ての者を守る騎士にとって、それを正義と認める訳にはいかなかった。だから、情にほだされる訳にはいかない。リリィは毅然とした態度を取り、赤い瞳で見つめ続ける。
 ……だが。
 リリィは、彼の中に、一つの信念が宿っているように見えた。それは、鍛え上げられた剣のように固く、鋭く、そして光っている。騎士としての自負を持つリリィは、その存在を強く感じ取っていた。
 確かに、彼のやった事は、まぎれも無い悪である。しかし、信念を持つという事については、正義も悪も関係無い。
 空は黒く染まっており、雷の音も鳴り始めた。雨は、猟兵と彼の気持ちを汲みする事無く、振り続けている。雨は、まるで、急かしているようだった。どちらの信念が正しいのか、力で決着を付けろ、と。雨粒の打ち付ける強い音が、罵倒しているかのようであった。
 だが、一人と一体は、そんな言葉に耳を貸さないし、何かを感じる事も無い。耳を貸すのは、己の中にある、たった一つの信念のみ。そして感じるのは、相手の強い信念のみ。
 ――だがその信念しかと受け取ってみせる。
 リリィは、瞳で彼へ、言葉を投げかけた……。

 室内にある、大きな古時計が、コチ、コチ、と、小さな音を響かせていた。外は雨音で騒がしいが、室内は、不気味な程に静かである。その中で鳴る、時を刻む音は、まるで、闘いへの秒読みを行っているかのようであった。
 いつ、闘いが始まっても、おかしくは無い。そんな状況だ。
 ……だが、ここで、男の静かな声がした。
 「……店主の亡骸を、安全な場所へ」
 振り返ると、店主の亡骸の傍で、片膝をつくように座っている男が居た。
 トリガー・シックス(黒衣の銃剣士・f13153)だ。
 彼の鋭い眼差しは、白い布を顔に被せた、老人の亡骸へ向けられていた。冷酷そうに見えるその瞳には、何故だか、人間の憐れみや悲しさといった感情が、盆一杯に入った水のように溢れているように思われた。
 ……数刻後。猟兵と彼は我に返った。
 口数少ない言葉の意味を、ここに居る皆は、察していた。戦いが起これば、どの位の被害が出るのか、誰にも分からない。庭一つが壊滅する程度で済むかもしれないし、もしかしたら、この店が全壊するのかもしれない。だから、この店主が巻き込まれないよう、どこか安全な場所へ運ぶ必要があった。
 ここから暫くは、店主をどこへ運ぶかを相談した。一時間程の時間を掛け、UDCに協力して貰う事を決めた。暫くすると、UDCの職員達が駆けつけ、店主の亡骸を引き取った。そして、そのまま、夜の町へ運ばれて行くのを、ジッと見つめていた。
 その様子を見つめ続けていたトリガーは、ふと、彼の姿を見た。
 彼は、店主の亡骸が運ばれ続けている間、店主から、一時も目を離さなかった。
 恐らく、彼としても、辛かっただろう。しかし、後に戦闘が行われるとなると、止むを得ない事ではあった。
 その事を想うと、トリガーはどこか、心苦しくならずには、いられなかった。

 彼が、闘いを宣言してから、どれだけの時間が経つのだろう。かつて春の温かさが訪れていた町は、降りしきる雨によって、冬のような寒さへ戻っていた。湿気が充満し、鬱々とした気分にさせていく。
 エルーゼ・フーシェン(双刃使い・f13445)は、闘いの火蓋が切って落とされるのを待ちながら、彼の言っていた事を反芻していた。
 彼の言う言葉には、人生全てを掛けても良いという、想いが込められていた。それはまるで、山奥で長年、人の手が入らずに育ってきた、樹齢幾千年という大木のように太く、大きく感じられた。
 けれど、目の前に居る大木は、圧迫感があった。それは、その偉大さに対する畏怖では無い。枝葉が朽ちており、周囲の植物を巻き込んで根絶やしにしているかのような、そんな圧迫感だ。その姿は、悲哀のようにさえ感じられた。
 ふと、エルーゼは、玄関の方向へ視線を向けた。築何十年と経つ暗い玄関は、ささくれと黒ずみが目立ち、老朽化を思わせる。その玄関は、店主が毎朝、『大神らーめん』の営業をする為に出て行き、そして営業の終わりに入って来た場所である。
 しかし、もう、この住居の主は居ない。
 再び、彼へ視線を戻す。
 彼は、雨に打たれながら、ジッと仁王立ちをしていた。まるで、店主がいつか、戻ってくると言うかのように……。
 エルーゼは、彼を雨のカーテン越しに見つめながら、静かに呟いた。
「止めないとね……悲しむ人がいるから」
 その言葉は、雨にかき消されたのか、彼の耳には届かなかったようだ。今もなお、直立不動の態勢を取っていた……。

 陰鬱な空気の中、猟兵達とオブリビオンは、それぞれの想いを抱いていた。この戦いは、とんこつラーメンへの想いから始まった。そして、とんこつラーメンに関わる想いにて終わろうとしている。始まりと終わりが、どちらも料理であるというのは、不思議な因果である。けれど、この戦いに立ち会う者の全ては、違和感を持たない。この戦いの中心にあるとんこつラーメンとは、ただの料理では無い。自身が病に侵されながらも、自身の信念を貫き通した、誇り高き、一人の人間が作った、至極の想いそのものだったのだ。
 だから、両者とも負けられない。どちらにも譲れない使命、決意、信念、想いがあり、その為に、決着をつけなければならない。
 室内に居る猟兵と、閑散とした庭に居るオブリビオンが睨み合う。降りしきる雨に遮られながらも、その間には、白い火花が飛び散っていた。
 そして、それがピークに達した時。
 空が光、両者の間に、太く鋭い雷が落ちた。
 轟く爆音が鳴り響き――。
 戦いの幕が、開いた。

●それは、想いの戦いでもあった
 最初に飛び出したのは、ブライトネスであった。43cmという小柄が雨の中へと繰り出した。その姿は小さいが、飛び掛かる様は、正に百獣の王を思わせる。
「来ましたか……」
 猟兵の第一陣を、小さな目で見つめる大神霊。彼は果敢に向かってくる小さな戦士を見据えながら、その手を前へ翳す。さぁ、どのように攻めて来るか、見せて見よ!
 その意志が、電磁波のようにブライトネスへと伝わってくる。ならば、此方もそれに応え、全力を出すしかない。それが、料理人として、猟兵としての使命である!ブライトネスは、声高々に宣言する。
 
 ――これぞ我輩が旅して縁を結びし、可食の友人達にゃ!

 ブライトネスは出し惜しみせず、『御菓子騎士調理法(コール・スイーツナイト)』を発動する。すると、雨の降りしきる地面から、何かが現れた。それはタケノコのように生え、竹が天へ伸びるかのように、ズズズ……と現れ始めた。それは、硬質な肉体を持ちし騎士達である。一人は、ダイヤモンドのように硬き肉体を持った、チョコレート製の騎士。もう一人は、プラチナの如き硬い肉体を持った、キャンディー製の騎士。二人は仁王立ちすると、後ろに居た小さな共へ顔を向ける。
 ――ここからは、任せてくれ。
 そう思わせるように、ブライトネスへ軽く頷く。そして、眼前の敵を見つめる。黒っぽいシャーマンズゴースト。ブライトネスの、そして、猟兵達の敵か。
 しかし、そう思ったのも束の間、二人の騎士は、突如、体の髄に、寒気のようなものを感じた。それは、雨の冷たさによるものではない。大神霊の中にある、氷のような信念に圧倒されたからであった。
 しかし、それで恐れおののく彼らでは無い。騎士として、そして、ブライトネスの友人として、負ける訳にはいかないのだ。
 と、彼らが立ち向かう前に、ブライトネスは旅による縁で出会った友へ歩いて行った。そして、ブライトネスはどこからか、調理器具を取り出し、騎士達の武器を丁寧に研いでいった。そうして出来上がった武器は、蜂の針の如き鋭さを誇り、雨粒すら弾けさせる程に尖っていた。
 騎士はブライトネスに会釈をしてお礼を言うと、改めて大神霊へと体を向ける。
 その間も、大神霊は構えたまま、ジッと待っていた。
「しかし、こうして待っていてくれているなんて、案外優しい奴なのにゃ」
 そして、二人の騎士は、敵を討ち取らんと駆けて行く。
 瞬間、大神霊は指を鳴らした。
 刹那、遥か天空の黒い雲より、幾多もの雷が地上へ向けて落ちて行った。それは、騎士達の体を貫いていく。彼らは体を痙攣させ、その場に立ちすくむ。
 ブライトネスは、その雷を一目見て驚いた。その雷は、炎を纏っていたからだ。そう、大神霊のユーベルコード『大神霊超常災害撃』によって、炎の属性を纏った雷を発生させたのである。その攻撃は、硬質な体に効率よく通電し、体をドロドロに溶かしていく。何とか原型は保っているものの、何度も当たれば、命に関わる。
 しかし、大神霊はこの強力な技を制御しきれていないようだ。最初の一発目は当たったものの、二発目以降に繰り出される炎の雷は、庭へ不規則に落下する。
 その間に、騎士達は大神霊に素早く駆けて行く。そして、その鋭い武器の切っ先で、大神霊の体を貫いて行った。
「ぐうう!!」
 彼はくぐもった悲鳴を上げ、体を振って抵抗する。その間にも雷が何度も落ち、ごく稀に騎士達へ当たる。そして、彼らは大神霊の体を貫いていく。
 ……雨に打たれながら戦う姿を、ブライトネスは遠くから見つめていた。
 ……不意に、自身も無意識のうちに、言葉を口ずさんでいた。
 
 ああ、今日という日を呪うのにゃ。
 至高に近いラーメンに出会えた事に。
 それを継承するMr.大神霊を倒し、過去の遺物にしてしまうことに。
 いかなる精密な分量を記載したレシピでも再現できないのにゃ。
 世界から歪と言われようと、まっすぐな貴方の思いがあったからこそにゃのだから。
 こんなことなら出会わなければよかった……この様なことになるなど我輩、猟兵になってから初めてにゃぁ。
 可能なら手助けをしたい、それが出来ないのがとても歯がゆいのにゃ。

 それはまるで、漢詩であった。心の中に燻る悲しさが、言葉となって口について出て来る。やがてブライトネスも自覚するが、それでも、言葉を止める事ができない。
もしかすると、ブライトネスにとって、今回の事件は初めて経験する類のものかもしれない。この事件に挑めた事を誇りに想っていた。自身が追い求めて止まないような、至高の料理に出会った。その料理は、どんなレシピでも再現する事のできない、一流の職人技と言わざるを得なかった。ブライトネスは、この料理を、文字通り、認めた。そして、やっている事は誤っていたとはいえ、強い信念を持つオブリビオンに出会えた。これだけの事がありながら、どうして、この日を祝う事ができないであろう。だが、それもそうかもしれない。今、自分がしている事は、正に、その料理とオビリビオンに、終止符を打つ事なのだから。料理人たる猟兵が、である。その悲しみと虚しさは、想像を絶するものだった。
 ブライトネスは、彼らと同じく、雨に打たれながら、この戦いの行く末を見守るしか無かった……。

 その闘いを遠くで見ていた影が、また一つ、戦場となる庭へ出た。エンだ。彼は静かに、雨が降りしきる中を歩いて行く。藍色のポニーテールはしっとりと濡れ、数多もの雨粒が緑色のジャージをぐっしょりと濡らしていく。
「…どうしても戦わなければならないのですね」
 目の前で行われている戦闘を目にして、彼は呟かずにはいられなかった。心のどこかでは、戦わずに済む道もあったのではないか、と思っていたのかもしれない。しかし、それが潰えた今、猟兵として、使命を全うするしかない。
 彼は、雨雲に覆われた空を見た。すると、空の彼方から、何かが此方へ迫って来るのが見えた。それは金属質であり、まるでUFOのように思えるかもしれない。
 しかしそれは、エンの隣へ飛んでくると、そのままフワフワと浮きながら静止する。そう、エンの相棒である宇宙バイク、アヌビス号だ。
 エンは相棒を見つめた後、そのまま、眼前の敵を見据える。先程は店内だったが、今は屋外だ。ならば、最大限の力を発揮する事ができる。
 そして、静かに叫んだ。

 ――モードチェンジ!

 エンは、『モードチェンジ・アーマー(モードチェンジ・アーマー)』を発動した。刹那、アヌビス号は、エンと一体化した。そして、先程のエンとは似ても似つかぬ、巨大なロボットへと変化したのであった。その身長は3mを超えており、軽く大神霊を見下ろせる程の大きさと化していた。
 戦いながらも、その変形を遠くから見ていた大神霊は、一瞬のうちにして、その変化がもたらした影響に頭を傾けていた。恐らく、その力は強い、と。
 アヌビス号は、ただの宇宙バイクでは無い。アヌビス号には、光波を噴射する機能のあるシールドが付いている。それだけでなく、強度や耐熱性が非常に高い黒き装甲が付与されている。さらに、操縦者を守る為に気密性が高く、その設計からして緻密に製造されている事が伺える。また、アヌビス号の動力源となる光波を半永久的に生み出す鉱石がある。加え、重力下で空中を飛べるように改造されたブースターも付いている。
 これだけの、様々なテクノロジーが施された宇宙バイクと、エンは合体したのだ。そうして得られた力は、計り知れないものがある。
 勿論、大神霊は、そうした仔細な情報は知らない。だが、オブリビオンとしての本能が、その強大な力を感じずにはいられなかったのだ。
 だが、それだけの力を得たにも関わらず、エンは油断をする事は無かった。確かに、庭に出た事で、最大限の力を発揮できるようにはなった。しかし、それは相手も同じ事だ。先程見せたユーベルコードも、屋内では出すのが不可能な技だ……。
 エンは金の瞳を細め、ボクシングのファイティングポーズを取る。
 大神霊もまた、新たに戦いを挑む戦士の動向を伺いつつも、構えた。
 そして、雨が降りしきる中、エンは大地を駆けて走った。
 それを迎え撃とうと前へ進み出る大神霊。
 二人は互いに歩を進め、そのまま加速する。
 そして、お互いの拳が射程圏内に入った時、遂に激突した。
 エンは、そのまま右手を握りしめて力いっぱい引き絞り、そのまま前へ突き出す。その打撃は重く、素早い。プロボクサーですら、一撃でノックダウンを狙える程の強さだ。その軌道上にあるのは、相手の右肩。そこには、一筋の深い切り傷があった。そう、ブライトネスのユーベルコードによって召喚された、二人の騎士によって付けられた傷である。そこからは血が濁流のように流れている。重要な部分を損傷した事が、一目でわかった。ここに更なる協力な一撃を入れて破壊すれば、完全に右腕は動かせなくなる……。
 だが、その力強い拳が当たろうとした瞬間であった。
 突如、その右肩が、シャーマンズゴーストの頭部に変形したのである。ユーベルコード『大神霊分裂増殖撃』によるものだ。その頭部は、トラばさみをグイッと開けるように、大きく口を開いた。その中へ、エンはスッポリと拳を入れてしまう。喉の奥深くに入ったようで、その頭部は「オエッ」と、嗚咽を漏らす。しかし、その口の中へ、拳を入れてしまった事には変わらない。
「しまっ――」
 頭部は、勢いよく口を閉じようとする。
 直後、エンは反射的に相手の膝の関節部へ鋭い蹴りを入れる。
「ぐっ!?」
 大神霊は急所へ打撃を加えられた激痛により、口を閉じるのが若干遅れた。
 そして、エンは勢いよく拳を取り出した。直後、トラばさみのように、肩の頭部は閉じた。バシィン!と大きな音が鳴り響き、その威力を物語る。もし、コンマ二秒遅ければ、拳はコンクリートブロックのように粉砕されていたであろう。
 刹那、エンは閉じた頭部へ、力強く握り拳で殴りつける。その勢いはピッチングマシーンで投げられた野球ボールのように速く、砲丸投げの球よりも重かった。そして、それが肩の頭部に、凹凸を付けるようにめり込んだ。拳に、生暖かい感触が、ジワリ、と伝わってくる。
 ……ボキッ、という音が鳴り響いた。
 大神霊の悲鳴が、雨音にかき消されながらも響いた。
 その声を聞いた後、態勢を立て直す為、素早くバックステップを踏むようにして、後方へ避難したのであった。
 
「……ゆ、許しませんよ。私の、崇高な目的を、邪魔するとは」
 すると、大神霊の姿が変化して行った。彼の体からは、崇高な目的を成し遂げんとする、自身の尊厳が神々しく放たれている。そして、突如、彼の体は燃え上がったのだ。灼熱の炎は、夕日のように、そして、血の様に赤かった。
 突然の炎に、猟兵達は顔の間に手を置いて、赤い光を遮る。パチパチと、薪が割れるような音が、耳元でつんざくように鳴り響いていた。
 そして、暫くすると、赤い光が弱まった。猟兵達は、顔の前に翳していた手を下ろし、大神霊の姿を見た。だが、そこに居たのは、頭と鬣を残し、他を炎で包んだ巨大な鳥と化した大神霊の姿であった。
「私の崇高な目的の為に……負ける訳には、いかないのです!」
 そう高らかに叫ぶや否や、猟兵達へ一直線に飛んで来たのであった。それはコンドルのように速く突き進んできた。
 だが、彼の前へ軽やかに飛び出した影があった。赤い瞳にオレンジの髪をした少女、マロンだ。

 ――ホップ ステップ ジャンプ。

 その言葉を口にして、彼女は上へ、上へと上がっていく。『翡翠月歩(ルーンスカイウォーク)』を発動した事により、空中を蹴ってジャンプする事が可能になったのである。リス型のキマイラというだけあって、その足取りは軽く、羽のように、舞い上がるかのように天へ駆けて行く。
 それを見た大神霊は、彼女を追いかけるように、同じく上へ力強く羽ばたいて飛んで行った。
 マロンは上空へ向かって飛び上がりながら、下にいる大神霊に言葉を投げかける。

 ――最初に感じた事は悪い感じはしなかった。純粋に店を護りたいんだなと感じた。

 マロンの第一声は、本来なら敵対関係にある筈のオブリビオンに対する同情であった。しかし、大神霊の瞳には、殺意の炎が燃え盛っていた。その炎は、体全体を包み込む炎のように、ゴウゴウと音を立てて燃え上がっている。

 ――それは味に出ていた。とっても美味しかったよ。美味しかったから何度も替え玉して全部食べちゃた。多くの人に味を広めたかったんだね。その件に関しては謝るよ。

 マロンは、実直な感想を伝えた。それは本心であった。確かに、とんこつラーメンを食べた時、美味しい、と心の底から感じた。でなければ、どうして、店の在庫が無くなるまで替え玉を頼んで、おかわりをしようとするだろうか。その言葉を聞きながら、大神霊は黙々と、マロンを追いかけ続ける。しかし、反応が無くとも、マロンは想いを伝えずにはいられなかった。
 
 ――でもね、それはやり方を間違えたんだ。純粋に味で勝負すべきだったんだ。依存性を高める赤い粉末を使うべきじゃなかった。冒涜だとわかっていたならやるべきじゃなかった。

 地上で猟兵達が見守る中、マロンは言葉を紡いでいく。彼女は何一つ、嘘はついていない。大神霊が、純粋に店を守りたかったのだと感じた事も。あまりにも美味しくて、何度も替え玉を頼んでしまう程だった事も。そして、やり方を間違えていたんじゃないかって、思った事も……。
 それでも、大神霊は接近するのを止めない。しかし、その顔にはどこか、陰りがあった。今、大神霊の中で、何かが揺れ動いていた。お互いに冷たい雨に打たれながら、ただひたすら、上を目指して飛んでいく。

 ――キミは大神さんの遺志を引き継いでいたんだ。ボク個人としてはこの店の味を守って欲しいと思う。

 その言葉を紡いだ時、マロンは、ハッとなった。今なお飛び続けている大神霊の瞳に、小さな水滴が付いていたからだ。それは、雨水では無かった。
 マロンは、声を滲ませながら、最後に一言、こう言った。

 ――消えずにやり直して純粋に店の味を広めて欲しい。

 そして、ユーベルコードの効果が切れ、これ以上、ジャンプする事ができなくなった。マロンは、言葉を紡ぐのに、想いを込めるのに必死になって、ジャンプの制限回数を忘れてしまっていたのだった。マロンは目を大きく見開き、そのまま地面へと落下して行った。
 マロンは、下を見下ろした。地面は濡れている。柔らかくなっているのかもしれないが、それでも、こんな高さから落下したら、大怪我を負ってしまうだろう。死、という一文字が、脳裏に浮かんだ。
 凄まじい勢いで、ただ地面へ、落下していく。
 その時だった。
 突如、大神霊が地面へすさまじい勢いで飛んだかと思うと、マロンと地面との間に割って入った。マロンの体が、大神霊の炎で焼かれる。しかし、すぐさま大神霊は体を震わせ、彼女の体をバウンドさせて地面へ軽く放り投げた。コロコロと転がりつつ、マロンは、自分の体が無事なのを認識した。
 マロンは、すぐさま大神霊の姿を見る。しかし、大神霊は苦しそうな呻き声を上げていた。マロンがぶつかった場所は、炎が鎮火したかのように消えており、紫色に腫れ上がっていた。
 そして、大神霊は、元の姿へ戻った。元々、このユーベルコード『大神霊巨鳥進化撃』は、寿命を代償にして発動するものだ。長くは使えない。
「大神霊さん!」
「……来ないでくれ」
 その声に、駆け寄りそうになったマロンは動きを止める。その瞳が、優しく、此方を見た。その瞳は、雄弁に語っていた。この戦いを、止める事はできない、と。
 マロンは、目に涙を溜めたまま、ただ、ジッと、その場に佇んでいた。
 けれど、彼女が伝え想いは、決して無駄では無かった……。

 そうして戦況が変わっていく中、一人の少女が前へ進み出た。
 リリィだ。
 彼女は毅然とした眼差しで相手を見つめ続けたまま、手に何かを取り出した。それは、猟兵なら誰もが見た事のあるものだった。
 グリモア。
 それを起動させた瞬間、彼女の姿は変化していった。リリィの周囲に青銅色に似た色の鎧が出現し、彼女の体を覆っていく。その様子はまるで、アニメで魔法少女やヒーローの変身シーンを思わせた。鎧が一つ一つ装着されている様は、正にロボットが組み立てられていくかのような、男心をくすぐる格好良さがあった。
 やがて、頭部の鎧が装着されると、真の姿への変身は終わった。体格も、先程の少女よりも大きくなっており、より騎士としての尊厳が現れているように感じられた。
 鎧の隙間から、倒すべき相手を見据えつつ、彼の前へ歩みを進めていく。そして、彼の前で歩みを止めた。
 雨に打たれる中、一人と一体は相対した。その空気は張り詰めており、緊迫感というものが生まれていた。
 大神霊は、『大神霊分裂増殖撃』により、まだ動かせる左手をシャーマンズゴーストの頭部へと変化させた。
 だが、リリィは得物を構える事もせず、ただ、ジッと、無防備に立っていた。
 大神霊は、その様子を不信に思った。何故、何もしないのか。それは、闘いにおいて不利になる事を意味する。それとも、ノーガード戦法として、カウンターを狙っているのだろうか。
 しかし、そんな事を気にしている暇は無かった。相手に信念があるのであれば、私にも信念がある。『大神らーめん』を永遠のものとする為にも、崇高な目的を達成する為にも、負ける訳にはいかない。
 彼は、そのまま左手を大きく振りかぶって、リリィの腹に噛みつこうとする。

 ――私は誓おう。騎士とは弱きを守り、決して挫けぬ黄金の精神を持つ者だと!!

 刹那、リリィの鎧に、大神霊の左手が噛みついた。
 単に噛みついた、と思われるかもしれない。だが、噛みつくという行為は、決して馬鹿にする事はできない。人間は、歯を噛みしめる事により、肉体の力を極限にまで引き出す事ができる。また、紐の先端を噛み、そのもう片方の先端に結ぶ付けたトラックを引っ張ったという事例も存在する。それでも想像がつかなければ、ワニの噛む力を想像して貰えれば、分かり易いだろうか。
 そして、相手はオブリビオンである。一般人は太刀打ちの難しい相手が、その口を大きく開き、牙をむいて、力いっぱいに噛みついたのだ。もし、並みの人間であれば、まるでハンバーグを食べるかのように、その肉を引きちぎってしまう事だろう。そして、例え鎧であったとしても、それすらも噛みちぎり、装甲の役目を無くしてしまう事であろう。
 そして今、大神霊が、リリィの鎧に噛みついている。その光景は正に、トラを噛む大蛇のようにさえ形容して差し支え無いだろう。
 そして、雷がピカリと光った時であった。
 噛みついていたシャーマンズゴーストの頭部に付いていた牙が欠けた。
 その痛さに、思わずその頭部の口を緩め、離してしまう。大神霊は、その元左手の頭部の口を見つめる。そこに生えそろっていた白い歯は、まるでチョコレートのように欠けてしまっていた。
 すぐさま、リリィの鎧を見る。しかし、先程まで噛んでいた場所は、噛み後はおろか、かすり傷一つ付いていない。
 馬鹿な。大神霊は驚いた。自分のこの攻撃は、砲丸ですら砕けると言うのに。
 しかし、大神霊は気付いていなかった。リリィが先程発動した『騎士の誇り(ナイト・オルゴーリョ)』によって、敢えて攻撃しないという不利な状況を選択した事で、自身の身体能力を増大させたのである。そして、真の姿で纏った鎧もまた、肉体の一部とも言える。故に、鎧の装甲も格段にパワーアップしていたのだった。
 だが、そんな事に想像が及ばない大神霊は、目の前に居る巨大な猟兵に、心が折れそうになっていた。それは、無残に欠けた歯を見たからでもあろう。今、大神霊は、恐怖に心を支配されている。
「お前の行いを私は悪と断じて裁く」
 リリィの厳かな声色に、大神霊は震え、相手の顔を見ようとする。
「だが、決して無駄にはならないだろう、お前が認めた味は引き継がれていく。それが人間というものだからだ」
 その言葉は、心が恐怖に支配された今、力強く聞こえた。まるで、地獄の裁判官が、罪人に悔い改めるよう告げるような、そんな潜在的な力を感じずにはいられなかった。
 大神霊の信念は、少しずつ、折れ始めていた……。

 そんな中、二つの影が、大神霊の前へ歩み寄った。彼は、その二人を瞳に写す。
 トリガーと、エルーゼだ。二人は無言で、静かに歩き、そして立ち止まる。
 ……だが、二人は得物を取らなかった。
 雨が降りしきる中、暫しの沈黙が訪れた。
 エルーゼは、眼前の敵を見つめながら、隣に居る相棒の事を考えていた。こうして攻撃をしないのも、彼が何かを伝えようとしているのを知っているから。だから、その言葉が出るまで待つし、相手も、その事を察し、先手を打つような真似をしない。
 トリガーは、雨に打たれながら、記憶の片隅にあるラーメン店の思い出を想起していた。あの時に食べたラーメンの味、店の内装、店主の顔などが、次々に脳裏へよぎる。そして、最後は、店主のみが、頭の中を占めるようになった。料理をする彼には、一つの信念があった。それは思い出として、自分の心に深く刻まれている。その言葉を、トリガーは告げた。

「料理は笑顔に、人に元気を与えるものだ」

 恐怖に支配されていた大神霊は、震えを止め、トリガーを見る。
「そ、その言葉は、一体……」
 だが、それには何も答えず、トリガーはゆっくりと、得物を抜く。左手には、漆黒の刀身に紅い焔のような刃紋を持つ、小太刀。右手には、金色の刀身に蒼い刃紋を持ち、四神の鍔を持つ小太刀。二つの異なる、それでいて美しい色合いの小太刀を両手に持ち、相手を殺さんとする構えを取った。
 その構えを感じ取ったエルーゼも、己の武器を手に取る。それは、刃の無い二対の柄であった。しかし、『トリニティ・エンハンス』を発動し、風の魔力を込めると、そこに、光の刃が姿を現した。その刃は陽炎のように揺らめき、微風を放っていた。そして、その二つの柄を一つに合わせ、薙刀状に変形させる。それを持つ姿は、正に武術家と形容して差し支え無いだろう。軽く一回、大きく振るって構えると、ヘリコプターが着陸するような風の衝撃派が、周囲に広がった。
 けれど、エルーゼはまだ、何もしない。まだ、トリガーは、言いたい事を全て言ったのでは無い事を、知っていたのだから。
「俺は、お前と止めろと、依頼された。だから、お前と止める」
 淡々とした口調で、そう告げる。
「一体、誰に……?」
 だが、それにも答えなかった。トリガーは、後ろに立っている依頼人の姿を、第六感で見ていた。頭は剥げていて、顔は皺だらけ。歯は何本か欠けていて、黒い小さな円らな瞳は、まるでハムスターのような小動物を思わせる。しかし、依頼人はさみしそうな顔をしたまま、空中に溶けるように、天へ還って行った。
 そして、二人と一体は、互いに見つめ合った対峙する。両者の間に火花が散り、空間が歪んだかのような緊迫感が生まれる。両者に打ち付ける雨は激しさを増していき、同時に、闘いが佳境に入った事を物語っていた。
 刹那、両者は駆けた。
 トリガーは、両手に持った得物をギラリと光らせ、眼前の敵へ突進していく。刹那、それを見た大神霊は、左手を前方に翳す。
 瞬間、トリガーの元へ、激しい閃光が落ちてきた。トリガーは度重なる戦闘の経験から、間一髪、身を捻って回避する。しかし、彼目掛けて、二度、三度と、次々に雷が落ちてくる。そのどれもが炎を纏っており、相手のユーベルコードである事を想わせる。
 けれど、その猛攻はトリガーにとって、何の意味も為さなかった。相手は魔術に長けているのなら、此方は戦闘に長けたプロだ。雷を避ける事くらい、問題無い。
 そのまま弾丸のように駆け、10秒と満たない時間で大神霊の元へ到達する。そして、その刃を素早く振り下ろす。大神霊はすぐさま、その巨体を後ろへ下げて躱す。だが、すかさずトリガーは更に刃を振るう。
 避けきれない!
 大神霊は、使えなくなった右腕を前に出して庇う。刹那、右腕が飛び、地面へ、ドサリ、と落ちた。
 大神霊は苦悶の表情を浮かべながら、そのままユーベルコードを使用する。そして、今度は一際大きな雷が、トリガーの元へ落ちてきた。これが当たれば、幾ら猟兵とはいえ、無事で済む筈が無い。 
 だが、トリガーは、自分のところへ向かって来る雷へ視線を向け、そのまま、二つの小太刀を構え、一気に振る。
 刹那、今まさに当たろうとしていた雷は、竹を割ったかのように両断され、彼の両隣へと落ちて行った。炎が、この場を赤く照らし出していた。
 そして、その斬撃による衝撃派が、雷の炎の余波と共に、大神霊へと突き進む。彼は残された左腕で庇おうとするものの、防ぎきれる筈が無い。瞬く間に、彼は火だるまと化してしまった。悲鳴を上げながら、降り注ぐ雨粒ですぐさま消化してから、二人へと向き直る。
 刹那、大神霊の元へ、スナイパーライフルの弾丸みたく走ってくる影があった。エルーゼだ。彼女は目にも止まらぬ速さで大神霊の右側へ到達する。
「なっ――」
 最後まで言い切らせる事なく、手に持った得物を振るう。大きく一振り、巨大なプロペラのように刃が素早く動き、大神霊の胴体を深く斬り付ける。
 しかし、野生の勘が、脳内に警報を鳴らしていた。
 血飛沫が舞う中、大神霊は自身の切断された右腕の先端をシャーマンズゴーストの頭部に変え、エルーゼに噛みつかんと伸ばす。
 だが、その時にはエルーゼは飛び上がり、蒼い翼で雨雲立ち込める上空にては場焚いていた。
 刹那、手に持っていたゲンドゥルを収納する。代わりに取り出したのは、ゲンドゥルとはまた違った柄であった。エルーゼは摩利支天という名の得物に『トリニティ・エンハンス』を再度発動、炎の魔力を込めて行く。すると、その柄の先には槍の先端が形成され、焔を纏い始めた。それは、雨降りしきる空間では、灯台のように明るく、松明のように燃え上がっているかのように感じられた。
 そして、エルーゼは空中から一気に大神霊へ向けて急下降した。そして、激突する瞬間、摩利支天を勢いよく突き出し、大神霊の体を蜂のように鋭く突きさした。
 大神霊は悲鳴を上げて、左腕を突き出して彼女に噛みつこうとするが、すぐさま空中へ退避する。そして、蒼い翼をはためかせ、即座に地上へ急降下。そのまま大神霊へ突き進み、再び焔刃の槍を突き出して刺す。そして、大神霊が攻撃しようものなら、上空へ飛び、安全圏内へ非難する。そして、それが幾度と無く繰り返されて行く。その闘いは、もはや、人間が素手で、蜂と対決しているかのようであった。
 そして、更にエルーゼは大神霊へと向かっていく。しかし、今度は大神霊も対抗する術を見つけたようだ。相手が武器を突きつけてくるなら、その武器を攻撃して、攻撃手段を奪えば良い。その為、大神霊は、武器が突き出される瞬間まで、防御の態勢を崩さなかった。左腕を構え、その先端にあるシャーマンズゴーストの頭部の口を大きく開いている。
 そして、エルーゼは再び、得物を振るった。
 大神霊は、その動きを予測し、左腕を摩利支天へと突き出した。
 しかし、エルーゼも戦闘には慣れている。その対策は既に想定済みであった。彼女は、攻撃の瞬間、得物を僅かに横へ反らし、自ら攻撃を外しに行った。
「えっ……?」
 攻撃を見切られた大神霊は、左腕を突き出したまま、何が起きたのか分からず茫然としていた。しかし、すぐにまずいと察した。今、大神霊の脇腹には、焔刃の槍がある。防御しなくては、しかし、間に合わない。
 そのまま、エルーゼは鉄パイプで相手のどてっぱらを殴るかのように、力強く叩きつけた。その刃は焔に包まれている為、焼きゴテを当てられたのと同義であった。大神霊はそのまま、焼かれる激痛に喘ぎながら、庭先を転がって行った。
 更に、エルーゼは猛攻を続ける。そのまま彼の元へ飛んでいき、摩利支天で体へ突き刺した。
「ぎゃあっ!?」
 そして、すかさずもう一突き。
「ぐぬぅっ!?」
 そうして連続で突かれた事で、動きが鈍くなっていった。その動きを更に鈍らせる為、更に、二度、三度、と、次々に槍で刺していく。それは、裁縫用の針を刺しておく小さなクッションのように、穴だらけと化していく。
 大神霊は力を振り絞り、右脚の先端をシャーマンズゴーストの頭部にして、エルーゼへ蹴りを入れようとする。腕よりも脚の方が長く、リーチがある。
 しかし、エルーゼは摩利支天の形状を大鎌に変化させ、大きく振るう。
 右脚が飛び、そのまま地面へと落下する。
 大神霊は、苦しそうに顔を歪め、悲鳴を上げる。
 エルーゼはそこで攻撃を止め、蒼い翼をはためかせながら、後方へ飛んで行った。
 一体、何故、攻撃を止めたのか。大神霊は分からなかった。彼は上体を起こして、相手の方を見ようとする。
 そこに、トリガーが立っていた。彼は目を瞑り、口を開いた。

 ――リヴェン

 すると、雨が降りしきる中、一人の女性が姿を現した。トリガーの、今は亡き恋人、リヴェンだ。先程も店内で一緒に戦ったが、今回も、彼女の力を必要とした。傘でも差せばお似合いのカップルかもしれないが、この状況は、そうしたロマンチックには程遠かった。
 トリガーは、無言だった。『最後の願望(サイゴノネガイ)』によって呼び出されたリヴェンは、彼が何を望んでいるのかを察した。そして、手を、眼前の大神霊へ向けて翳した。
 その間、この場は、雨の音しか聞こえなかった。その静寂は、闘いがいよいよ、終局へ移ろうとしている事を意味していた。
 大神霊は知っていた。彼女は、小規模爆発を起こすアークビームを放つ事ができるという事を。先程は店内だった為に破壊力は小さかったが、今は屋外。彼女は、最大限の力を持ってして、私を消し去る事だろう。
 大神霊の中にある信念は、今や蜘蛛の糸のように細くなっていた。しかし、まだ切れてはいなかった。大神霊は、左腕を前へ翳し、全ての意識をそこに籠めた。例え、この一撃で自分の命が終わっても良い。僅かに残っている覚悟を注ぎ込む。
 ……。
 刹那、丸太のように太い、煉獄の雷が、猟兵達へ、龍のように突進していった。刹那、町は弾道ミサイルが落とされたかのような光で包まれた。
 大神霊は、勝利を確信した。
 ――やった、私の勝利だ!
 そして、光が止んでいく。
 大神霊は、チャーシューと化した猟兵達を見てやろうと、その方向に顔を向ける。
 だが、光が弱まっていくと同時に見えたのは、信じられない光景であった。
 そこに、鎧姿の猟兵が立っていた。
 ……リリィである。
 彼女が、猟兵達を庇い、攻撃を見事に防いだのであった。
 瞬間、大神霊の信念は、ガラスのように砕け散った。
 トリガーは、目を瞑り、小さく頷いた。
 リヴェンは、手からアークビームを放った。
 大神霊は、自分に向かっている攻撃を、避けなかった。
 小さな爆発が、大神霊を包み込んだ。
 土埃が巻き上がり、視界を塞いでいく。
 けれど、それも雨によって、徐々に明るくなっていく。
 そこには。
 大神霊の姿は無かった。

 そして。
 雨は、止んだ。

●小さなエピローグ
 雨が止み、空を覆っていた黒い雲が晴れて行く。夜空には満天の星空が輝いており、白い月が浮かんでいた。いつもなら静かな町も、あの戦闘音によって目を覚ました住人達の訝しがる声によって、ちょっと騒がしくなってきた。
 しかし、それは、オブリビオンの脅威から世界が救われた事を意味していた。
 そう、猟兵達は、世界を救ったのだ。
 万歳、万歳、万歳!
 …………。
 そんな気分に、なれる筈も無いだろう。
 不思議なものだ。世界に仇なすオブリビオンを倒したにも関わらず、何故か、スッキリしない。空は晴れたというのに、心は曇ったままだ。

 ――…赤い粉末なんかを使わずとも私は、大神らーめんの虜になりましたよ。またいつか会えたらまた食べさせて下さいね。
 骸の海へ還ったであろう大神霊を想い、エンは、夜空を見上げながら呟いた。
 ――約束するよ。大神らーめんの味はボクが引き継いで広めると。だから、安らかに眠って。
 マロンは、今は亡き店主と、そして、骸の海へ還って行った大神霊へ、哀悼の意を述べた。
 ――依頼は、完了した。
 トリガーは、第六感で見た依頼人に対して、自身の任務を完遂した事を、心の中で伝えた。
 ――これで、終わったのよね……。
 エルーゼは、荒れ果てた庭を見回し、そして、大神霊が最後に居た場所を見つめながら、闘いが終わった余韻に浸っていた。
 ――……何とも、虚しい最後にゃ。
 ブライトネスは、空虚な感覚に心を支配されながら、そう呟いた。
 ――……。
 リリィは無言で、大神霊の居た場所を見つめた。店主の元へ送る事が、彼女にとって、せめてもの手向けだった。
 
 猟兵としての仕事は、これにて完遂した。しかし、このまま帰るのは、どうにも、心にわだかまりを残してしまいそうだ。
 そんな時、リリィが何の気なしに、呟いた。
 ――戦いも終わったし、一杯、食べに行くとしようかな。
 それを耳にしたエルーゼも、思わず声に出して言う。
 ――そうね。ちゃんとしたとんこつラーメンが食べたいわね。
 この、少女と女性が言った一言がきっかけで、猟兵達のお腹は、ぐ~と鳴り響いた。それは、張り詰めた緊張感を一気に解きほぐした。そして、猟兵達はとんこつラーメンを食べに行くという事で、意見が一致した。自然と、心が軽くなったかのように感じられた。それは打ち上げのようでもあり、亡くなった店主と、骸の海へ還った大神霊への手向けでもあるように感じられた。
 この場の処理はUDCに任せるとして、猟兵達は、夜の町へ繰り出した。
 たまには、こうして仕事終わりに、ラーメンを一緒に食べに行くのも悪く無い。
 夜空には、二つの一等星が、輝いていた……。

●『大神らーめん』
 とある町に、小さなラーメン屋がある。そのラーメン屋は、世間ではあまり知られていない。けれども、そこのとんこつラーメンは絶品で、一度食べると止まらないという。
 この店は地元の人達にも愛されていて、リピーターも多く居る。
 けれど、その味もさる事ながら、店主の人柄も温かく、それが気に入って、つい入り浸ってしまう客も多いのだとか。
 その店は、今は無い。
 店主が、この世を去ってしまったからだ。
 その事実に、かつて訪れた客達は、辛い気持ちになった。心にポッカリと穴が空いて、埋まる事は無かった。
 それだけ、この店は、とんこつラーメンは、店主は、愛されていたのだ。
 それから暫くして、この建物は取り壊され、更地となった。
 暫くすると、不動産屋の看板が立ち、そして、建設予定地の看板へと変わった。
 数か月もすれば、この土地は駐車場へ変わるだろう。そこに、かつてのラーメン店の面影は、無いのだろう。
 けれども、そのラーメン店での思い出は、決して消える事は無い。
 店主と交わした言葉、とんこつラーメンの温かさ、カウンター席の破けたビニールの皮膜、のれんを潜る時に顔へ当たった時の感触……。
 そうした思い出は色あせる事無く、客の心に刻みつけられるのだろう。
 それが、店主と、そして、店主を愛したオブリビオンに対する、何よりの手向けであるのだから……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月13日


挿絵イラスト