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沈まぬ船を背負った島

#ブルーアルカディア

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#ブルーアルカディア


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 この広い空の世界、ブルーアルカディアには、『竜の巣』と呼ばれる気流溜まりがある。
 不安定な気流、不安定な天候、それは常識的な空の摂理に反しているとすら言われるほど過酷なポイントであり、空のダンジョンとも言われる。
 しかし、そこには空のあちこちから引き寄せられたものが、文字通りに溜まっている。
 島の名残の浮遊岩石、古代の文明を思わせる建造物やガレオンの残骸。
 それらは、空に生きる者たちにとって夢のあるものであった。
 誰もが足を踏み入れぬ空域だからこそ、誰の目にも留まらぬまま眠る財宝が眠っているはず。
 その夢を抱き、竜の巣に挑む空の勇士達は後を絶たない。
 吹き荒れる気流の暴力の中に、無数のガレオンの亡骸を浮かべてもなお、彼らは美しい夢を抱かずにはいられない。
 見果てぬ空がそこに在る限り、彼らの冒険心を叩き折る事などできないのかもしれない。
 冒険者エドワード・アルドベッグ率いるガレオン船『サントミラ』には、彼の信頼する屈強な勇士たちが詰め、竜の巣がそう言わしめる激しい気流の波を巧みな舵さばきで乗り越えようとしていた。
 竜巻のように聳える雲の中は、強風と雷雨が吹き荒れていた。
 しかし、誰もが笑い、悲鳴を上げる船体にしがみ付きながら、この乱気流の向こうに犇めく財宝の山を夢見ている。
 やがて稲妻の輝きと見紛うかのような雲の切れ目を乗り越えると、船頭が歓喜の声を上げた。
 竜の巣の気流の壁を抜けた先は、驚くほど穏やかな空が広がっていた。
 耳鳴りがするほどの風の圧。そして、潮騒にすら幻視する穏やかな青に染まる雲海を眼下に、それは浮かんでいた。
 浮遊する岩塊? ガレオンの残骸? そんなものはもう目に入らなかった。
「あれは……魔獣、か?」
 灰色の岩塊にも見えるその巨大な姿に、エドワードはひと時、言葉を失念する。
 口を突いて出た単語にすら、疑念が浮かぶほどに、それは島というには生物的であり。
 魔獣と呼ぶには大きすぎた。
 巨大な魚。それこそ、背に島を生やすほどの巨大な、それは雲海に浮かぶ魚に見えた。
 そしてややあってから、エドワードはそれに該当する存在が、伝説にのみ登場する事を思い出す。
「島クジラ……! 実在していたんだ!」
 それを口にしてしまってから、船員たちの目が輝く。
 魔獣と呼ばれながら何も襲わず、魔獣と呼ばれながら何にも倒されず、ただ悠然と空を泳ぎ、雲を食んで何百年と生きるという。
 そして、その背に乗った島には、とんでもない財宝が眠っているとも聞く。
 それならば、伝説に挑まずにはいられぬ。
 喜び勇んで舵を切るエドワード達だったが、
『来ないで』
 頭蓋に響くような少女の声と共に、周囲の空から青白い槍穂のような何かが無数にやってくる。
「魔獣だ! 戦闘準備!」
 無数の空の魔獣たちの襲来に沸くセントミラ。
 そんなことなど意に介した様子もなく、島クジラは悠然と空を泳いでいた。

「皆さん、空の世界の冒険はいかがでしょう?」
 グリモアベースはその一角、桜柄の着物に身を包んだ猟兵、刹羅沢サクラは、平坦な調子で自らが予知した内容を説明する。
 ブルーアルカディアには、竜の巣と呼ばれる難しい空域が存在し、そこには財宝が山ほど眠っているという。
 今回の依頼は、人助けではない。
 猟兵が集められたからには、オブリビオンが関係しており、主目的に於いてはその討滅に他ならないのだが、今回の舞台となる空域には、魔獣なのかそうでないのかよくわからない『島クジラ』という巨大生物が存在する。
「念のため言っておきますが、これを討伐する依頼ではないです。あれは規模が違い過ぎて一個人でどうこうできるような存在ではなさそうです。何より、現状では無害のようですからね」
 本命の相手は、この島クジラの背にある島に生息するという。そのオブリビオンを討伐すれば、この依頼は終了となるのだが……、
「皆さんは、この島クジラを発見したガレオン船『セントミラ』に同乗するか同行し、この島に向かってください」
 予知の中では島に近づく前に魔獣に襲われているが、猟兵が一緒であれば魔獣たちは慎重になるのではないかと踏んでいる。
「今回の討伐対象は、かつて沈まぬ船と呼ばれ、今はガレオノイドのようなものになっているようですね。我々の干渉によって慎重になるということは、もしかしたら何か、可能性を見出したのかもしれません」
 それが何なのかは、『彼女』に直接会ってみるまでわからないが。
 オブリビオンの出方を見るためには、島クジラとの邂逅で、なんらかのアクションをとってみるのがいいだろう。
 何をしようとも、島クジラが敵対するようなことは無いようだが、それによってオブリビオンが何を考え、どう対処するか変化するかもしれない。
「いずれにせよ、この島には財宝が眠っていることには違いありません。
 それを求めるセントミラの乗員を助けるつもりでも構いませんし、財宝を求めて戦うのもいいでしょう」
 ブルーアルカディアのオブリビオンは、いずれも天使核という、この世界の民の生活には欠かせないエネルギー源を持っている。
 オブリビオンを討伐することは、少なくとも彼等の生活の支えにはなるのだ。
 いや、冒険心である。
 まだ見ぬ未知の世界を旅する心意気こそが、この冒険には必要なのかもしれない。
「それでは、そろそろお送りしましょう。土産話を楽しみに待っております。
 島ほど巨大なクジラというのは、私も興味がある」
 そうして居並ぶ猟兵たちに一礼すると、サクラは転送の準備に取り掛かるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 ブルーアルカディアの依頼、続けざまとなってしまいましたが、これに言い訳をするとするなら、宿敵やフラグメントを投稿したら、ひとまず使ってみたくなったという、きわめて自分本位な理由です。
 というわけで、クジラと戯れたりしながらオブリビオンと対決し、財宝を求めるお話になる予定です。
 今回は、冒険→集団戦→ボス戦というフレームを採用させていただきました。
 ブルーアルカディアで使えそうな乗り物を有していなくても、NPCのエドワード氏の船に乗って行動できます。
 例によってネーミングに困ったらお酒のような名前がついてますが、彼らは空の世界に生きているだけあって、そこそこ戦えます。集団戦に於いても、けっこう役に立ってくれるかもしれません。
 過信するとボロボロになりますが、財宝の為に命を賭しているので大丈夫です。
 ボスを倒すと、財宝を入手できます。君たちはそういうRPをしてもいいし、しなくてもいい。
 プレイングの募集期間や、1章の断章は設けないので、お好きなタイミングでどうぞ。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 冒険 『島クジラとの遭遇』

POW   :    取り敢えず喧嘩を売ってみる

SPD   :    その背の島に降りてみる

WIZ   :    クジラにコンタクトを取ってみる

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ランケア・アマカ
装備は異常なし、来る前にしっかり食べてきましたし、準備万端です
初仕事、お役に立てるように頑張ります

MF-L1に跨って長い時間飛び続けるのは厳しいですし、島クジラに近付くまでは船に乗せていただきます
近くまで来たら船から飛び立ち、まずは島を偵察したいです
財宝も敵もどこに潜んでいるのか分かりませんし警戒しながら近付いて、島の地形を見て着陸できそうな場所、船が接舷できそうな場所を見つけたいですね
近付いて様子に変化がないなら島に降りてみて、周囲を調べて敵の痕跡がないか探してみます

敵の攻撃や罠、他にも危険があれば【疾風塵】で排除しますよ
何が襲ってきても対応できるように、油断せず行きましょう


常田・賢昭
・方針:SPD

・ほう、島クジラですか。噂でしか聞いたことはありませんが、こうして実際に見ると驚きよりも畏怖の念がわきますね。
では、セントミラに同乗させて頂き、その姿をしっかりと目に焼き付けましょうか。

・ふむ、確かに背に島がありますな……あそこのどこかに討伐対象がいる、とのことですが……これは降りて自分の足で探すしかなさそうです。
「軽業」「推力移動」を用いてガレオン船からクジラの背に移り、まずは適当に散策を行いましょう。

・身をさらせば敵方も何か反応を返してくるはず。「何もしてこない」というのも立派な「反応」。セントミラの面々に観察を頼み、私はのんびりと「カモ」になるとしましょうか。



 凄まじい乱気流の吹き荒れる雲の中は、光すら通さない暗黒であったが、高密度の水蒸気が吹き荒れる最中には摩擦が生まれ、それが稲光となって暗黒を照らしていた。
 竜の巣を往くガレオン船『セントミラ』に同乗していた者たちの多くは、この無謀とも言える空への航海をそれと知りながら臨んでいた。
 だからこそ、昼間の空の中にある暗闇に包まれていても、稲光に照らされるその横顔は、その誰も彼もがやけくそじみた笑いに溢れていた。
「船長ォ! 突風に煽られて、積み荷が幾つか吹き飛びましたァ!」
「なにぃ、航行に支障はあるのかぁ!?」
「ありませぇん! ただ、夕飯の付け合わせのピクルスは出やせん!」
「俺ァ、ピクルスは苦手だァ! 願ってもねぇ!」
 雷が身近に鳴り響く中での船員と船長エドワードのやり取りは、いずれも怒鳴り声のような声量だったが、そのお陰でそれが聞こえていた船員の誰もがやけくそ気味に笑う。
 荒々しい航海に慣れた船員たちは、空をゆくガレオンの船員として超一流であったが、それをして無謀を悟る程度には、この竜の巣の乱気流は困難な道のりであった。
 そんな彼らのやり取りを遠くに、甲板に出て手すりにしがみ付いていたのは、この無謀な航海についてきた猟兵の一人。
 グリーンを基調とした、どこかアーミーチックなジャケットを着込んだ小柄な少女は、屈強な男ばかりの船の中ではちょっとだけ浮いている。
 そして油断すれば身体ごと持っていかれそうな暴風の中でも、なぜか吹き飛ばない不思議な帽子がトレードマークの少女ことランケア・アマカ(風精銃兵・f34057)は、表情にこそださないが若干の不安を抱きつつあった。
 この船の人たち、大丈夫かな。
 未知の冒険を夢見て色々とおおらかになるのはわかる。ただ、この調子で気の方までやってはいまいかと、彼らのテンションを見ていると不安になってきている。
 船の上では一蓮托生。まして、彼らは魔獣と戦うこともできるほど屈強とはいえ、猟兵ほど常識外れではないのである。
 常に船や船員たちに対して気をもむようでは、神経がいくつあっても足りず、時には細かい事を忘れ、事に望む思い切りの良さが重要になってくる。
 時にそれが行き過ぎると、人の心は容易には戻ってこれない。
「心配ですかな?」
 ランケアのその背後で、ぱしぃっと乾いた音が響くと、やけに通りのいい声がこの嵐の中でもはっきりと耳に届いた。
 激しく揺れる甲板の上に真っ直ぐと直立して、ほぼ身じろぎもしない姿勢の良さ。
 軽量化を施された板金を縫い込んだタキシードと、やや壮年に足を踏み入れつつあるその顔つきに陰りすら見せず、レイピア一本のみを佩いた紳士が、片手を上げて何かを掴んでいた。
 その男、常田・賢昭(スカイジェントル・f34522)もまた、グリモアを持つ猟兵の呼びかけに応じて此度の依頼に参戦した猟兵の一人であった。
 何故この嵐の中で平然と立っていられるかという理由を説明するには、色々と条件がある。
 まず、彼がその身一つで空を駆けるロケットナイトでもあること。また、空戦に重きを置いた翔剣士でもあること。
 またまた、彼の手にある指輪の加護により過酷な環境にも耐えうること。
 などなど様々な理由があるが、一番の理由は彼のスタンス、常に紳士たらんとする姿勢にあるだろう。
 故にこの乱気流の中でも涼しげな顔を崩さず、虚空を舞うピクルスをも掴む。
 おもむろにそれをひと齧り、
「うまい。ただのピクルス一つとっても、この出来栄え。御安心なさい。彼らの腕は確かですよ」
 そこに根拠は何もないのだが、そんなに自信満々に言われてしまったら、ランケアもまた黙ってうなずくしかない。
 正直、何言ってんだこの人って感じではあるのが、賢昭の読みは正しかったようで、カッコイイことをキメているうちに、セントミラは乱気の雲を抜けていた。
 降り注ぐ陽気と、冗談のように凪いだ風が、歓喜に沸いた甲板の騒音で押し流されていく。
 暗黒と稲光でちかちかとしていた目に、広く透き通る青の世界は少し痛いぐらいだった。
 目を細め、やがて明るさに慣れてくると、広大なすり鉢のような乱気の雲に覆われた竜の巣の中は酷く凪いでいて、あちこちから流れ着いたであろうガレオン船の残骸や島の名残や、建物だった形跡のある瓦礫や岩塊が浮かんでいた。
 それらを目で追い、やがて眼下にまで視線を降ろした時、無限に広がるかのような空の終わり、潮騒を思わせる雲海が敷き詰められている最中に、灰色の岩塊じみた生き物が見えた。
「おお、あれは、まさか……!?」
 甲板から身を乗り出す船長のエドワードの言葉につられ、誰もがその姿に息を呑んでいた。
 島クジラ。その威容に、誰もが、冷静なランケアや賢昭ですらも、ひと時目を奪われていた。
 それはこの空に住く者にとって、多くの伝説の一つであった。
 魔獣と呼ばれながら何も襲わず、魔獣と呼ばれながら何にも倒されず、ただ悠然と空を泳ぎ、雲を食んで何百年と生きるという。
「ほう、あれが島クジラですか。噂でしか聞いたことはありませんが、こうして実際に見ると驚きよりも畏怖の念がわきますね」
「大きい、とても……」
 子供のようにはしゃぐエドワード達船員に混じって、猟兵たち二人は静かに驚嘆する。
 何しろ巨大である。
 20メートル弱のセントミラの船体など歯牙にもかけぬほど大きい。
 本当に生物なのかどうかすら疑わしいほど巨大だが、空を掻く背びれは間違いなく動いているし、喜び勇んで近づくセントミラの上からでも感じる圧力は、確かに大きな命の存在感を思わせる。
「いやぁ、見るほどに大きい! 知ってるか、あの背の島には莫大な財宝が眠ってるって話だ! なんとしても、拝んでみたいなぁ!」
 エドワードの大きな声が聞こえる。
 そこで何とはなしに、ランケアと賢昭は顔を見合わせる。
 この場に猟兵が居合わせるという事には、意味がある。
 エドワードが口にした島クジラの背の島には、情報通りならオブリビオンが潜んでいる筈だ。
 グリモア猟兵が予知に見たからには、その力量は屈強なセントミラの勇士達を凌駕するものなのだろう。
「あの島ですね」
「ふむ、確かに背に島がありますな……あそこのどこかに討伐対象がいる、とのことですが……」
 手すり越しに眼下を泳ぐ巨大生物の背中をじっと見てみるものの、鬱蒼とした植物が多く、パッと見ただけでは何があるかわからない。
「実際に見てみるしかないと思います」
「そのようですな。何事も、自分の目と足こそが、一番信頼できるものです」
 意見が合った二人は、船長のエドワードに近づく。
 未知の島クジラ。そして未知の空、未知の島。そんな場所で自らの危険を顧みず、偵察に名乗りを上げ、船の接舷、或は着陸できそうな場所を探そうという気概を持つものは多くない。
 このセントミラの船員にそれができないわけではないが、乱気の壁を抜けた直後の船は損傷もあるようで、船員は手が離せないという状況だった。
 猫の手も借りたいエドワードにとって、ランケア、賢昭の申し出は嬉しいものだったらしい。
「では、手分けをして船の着艦可能な地点を探すとしましょう。準備はよろしいですか?」
「装備は異常なし、来る前にしっかり食べてきましたし、準備万端です」
「ハンカチなどは?」
「あります」
「よろしい。では、どうかお気をつけて、お嬢さん」
「おじ様も」
 胸ポケットからナプキンを取り出す賢昭に、ぱっと折り畳んだハンカチを掲げて見せると、二人は満足げに頷き合ってそれぞれに別の場所から島クジラへとアプローチにかかる。
 ランケアは、空に住まうものとはいえ、生まれながらに空を飛べるような能力を持ち合わせてはいない。
 ただ、ちょっとした過去の出来事で瀕死の重傷を負ったところを魔女を名乗る者に助けられ、その際の強化魔術によって普通の人間よりやや変質してしまった。
 この身は魔術を帯び、猟兵として戦えるまでになったが、まぁそれはこれからのお話として、ひとまずは空を飛ぶための道具を用いねばならない。
 彼女が持ってきたのは、『MF-L1』魔女のほうきを思わせるフォルムを持った試製セイルフローターである。
 試作型なので塗装すらされていないが、機動性は問題ない。長くは飛べないが。
「よし、発進します」
 天使核というよりかは、おそらくは魔術由来の動力を以て、箒型のセイルフローターがセントミラを飛び出す。
 緩く円を描くように、島クジラの背にある島を見回し、船の着陸できそうな場所を探し、あるいは警戒しつつゆっくり降下していくのを、船の上から賢昭は見守っていた。
 何かあればすぐにでも追いつけるようしばらく見ていた賢昭も、どうやらその心配が無いのを見届けると、自らも船から身を投げ出した。
 賢昭は先述の通り、ロケットナイトである。
 無論、その身には天使核由来のロケット推進機が付いているはずだが、彼の場合はその革靴に仕込んであるらしかった。
 そんな末端に着けているだけで大丈夫なのかと言われそうなものだが、板金を織り込んだタキシードはロケット推進の負荷に十分耐えるものであるし、その類稀なバランス感覚は熟練のものを感じさせた。
 そして、その身一つでわざわざ目立つように島に降りておくのには、彼なりの狙いがあったらしい。
(何もしてこない、か。まあいいだろう。それもまた「反応」ということ)
 紳士的な佇まいとポーカーフェイスの奥で、賢昭は静かに観察していた。
 この島の奥に潜んでいるオブリビオンの出方。こちらの行動に対する反応を。
 島の上に降り立つと、まず感じたのは湿気であった。
 生物の上に乗った島とは思えぬほどしっかりとした足場であることはもとより、熱帯を思わせる湿度に対して、不快感があまりない事に思い至る。
 奇妙な島であった。
 雲の中にいるような湿度を感じつつ、山岳地帯のような空気の清浄さ、そして植生はまるで、水の底のようなおおよそ地の上では見かけないような植物が揺れていた。
「ふむ、ワカメやコンブのような……水草だろうか」
 地面の上でありながら、まるで水中のような環境なのだろうか。
 だが、それ以上に、肌に感じる異様な視線。
「っ!」
 鋭く息をつきつつ、腰のレイピアを抜きつけると、銃を構える人影とちょうど対峙する。
「……おじ様、でしたか」
「これはこれは」
 天使核を内蔵したリボルバーを構えるランケアが、油断なくレイピアの切っ先を向ける賢昭と向かい合う形になっていた。
 二人ともお互いの存在を確認し合うと、冷静に武器を降ろすが、その視線はまったく油断していない。
 周囲を注意深く見回す仕草は、実に堂に入ったものである。
「野生生物もいるようですが、これはその類とは思えませんな」
「はい。何かに、見られていますね。気分が良くないです」
 何者かに見られているような感覚。それは、この島に降り立った時から感じていたものだった。
 ランケアも賢昭も、いつでもユーベルコードを発動できるほどに鋭く注意深くその視線を追っていたのだが、それゆえにお互いを攻撃しそうになってしまった。
 少々、過敏になっていたかもしれない。
 かといって油断はし過ぎず、二人は引き続き、周囲を警戒しながら島の探索をするのであった。
 セントミラの船員は凄腕の船乗りだ。
 先遣隊として『カモ』を演じる賢昭たちの動きも、ちゃんと観察しているはず。
 抜け目のない紳士である賢昭は、いざという時の対応も含めて、合図を送るまでは島への着陸は待ってもらっている。
 何しろ、ここにはオブリビオンがいるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
(ガレオン船『セントミラ』に同乗)
伝説の島クジラにそこに眠る財宝ッ!く~ッ、まさに大冒険って感じだぜ。ワクワクが止まらねえな、相棒ッ!
「…私達の目的はオブリビオンの討伐だからね?」
分かってるって相棒ッ!
いや~、楽しみだなあッ!
「…本当に分かってるのかな?」

とはいえ、俺達は『島クジラ』とやらの知識がゼロだからな。
ここは、伝説なり伝承なりをこの船の船長であるエドワードの旦那や他の乗員に聞いてみるか。

船が島クジラの近くまで来たら、式神【ヤタ】を偵察に向かわせるぜ。

さあて、あの島に何が待ってるんだろうなッ!


【技能・コミュ力、偵察】
【アドリブ歓迎】



 ごうっ、と巨大な気圧の層が質量を伴うかのような風切り音と共に切り開かれた。
 竜の巣と呼ばれる超巨大な竜巻のように聳える気流溜まり。その濃密な雲の層を抜けると、驚くほど晴れていた。
 見渡す限りの雲の層が、冗談みたいに上下に、それこそ巨大なすり鉢にでも迷い込んだかのように伸び、頭上には蒼穹が、遥かその眼下には泡立つ潮のような雲海が広がっていた。
 耳鳴りがするような凪いだ空。
 気流の名残が、竜の巣を乗り越えたガレオン船『セントミラ』の甲板を吹き抜けた。
 稲妻の行き交う激しい嵐のような乱気流を乗り越えたセントミラでは、大いに荒れた船上を慌ただしく船員が出入りしていた。
『いやー、晴れた晴れた。さっきまではどうなる事かと思ってたけど、さすが、餅は餅屋ってやつかね』
 この場には珍しい巫女装束。吹き抜ける気流の名残に黒髪を泳がせ、甲板の手すりに身を預けるのは、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)……の所有者である桜であった。
 ヒーローマスクである凶津は、彼女の身に着けている鬼のような面が本体らしい。
 どっちが猟兵なのかと言われれば、たぶんどっちもそうなのだろう。あまり細かいことはわからない。
 とにかく、オブリビオンの討伐を目的に依頼参加したとはいえ、凶津のその恐ろしげな面は、その形相に似合わずわくわくと上擦っているかのようだった。
『ここまでも大概大冒険だったわけだが、聞いた話じゃここいらには島クジラだかが出るって話じゃねぇか。伝説のクジラ。そこに眠る財宝ッ!
 く~ッ、まさに大冒険って感じだぜ。ワクワクが止まらねえな、相棒ッ!』
「……私達の目的はオブリビオンの討伐だからね?」
 頭上でカチカチと顎を鳴らす謎のマスクがわくわくしている様子に、無口な桜も訝しげに口をはさむ。
『わかってるってぇ、相棒ッ! いや~、楽しみだなぁ』
「……本当にわかってるのかな」
 一応、相手は猟兵が駆り出されるほどの強力なオブリビオンのはずであり、浮足立つのは危険なので、釘を刺しておこうと思ったのだが……うーん、いざとなったら本気になってくれるはず。
 そう思うことにして、とりあえず上機嫌なところに水の差すのもほどほどに、ふうと息をついて言及を諦める。
「ようお嬢さん、手荒な操船だったが、怪我ァ無いか?」
 ばたばたと忙しない甲板のなかで、一人浮いて見える桜と凶津の姿はやはり目立つのだろう。
 この世界で猟兵は勇士を凌ぐほどのハンター扱い。いわば客員の戦闘員とも言える。
 船の知識に疎くて、いまいちお手伝いしようにも手持無沙汰になってしまうのも無理からぬこと。
 そんな二人に声をかけたのは、立派な折り目の付いた海賊帽(のように見える)を被った大柄の男。
 彼こそ、この『セントミラ』の船長であるエドワード・アルドベッグである。
「……雷は慣れているので」
「ハッハァ、あれに慣れてるとはな! 頼り甲斐があることだぜ」
 控えめな応答であったが、エドワードは豪快に笑い、なんか知らんが好意的に受け取ってくれたらしい。
「船長ォ! 晩飯の添え物について、コックが暴れてますぅ!」
「うるせぇ! 積み荷が吹っ飛んだんだから、仕方ねぇだろ! 腕の見せ所だって、伝えとけ!」
 船長は、船長なだけあって、色々とお呼ばれされやすいらしい。
 凶津と会話しつつも、あちこちから助けを求められ、それに悪態じみた返事をしつつそれが悪し様に見えぬほどには、快活な男のようだ。
 ちなみに、先ほどの乱気流で食料の一部であるピクルスの瓶詰を落っことしてしまったらしく、それはコックの自信作だっただけに憤慨しているとの話だった。
 何の話だこれは。
 脳内でツッコミを入れる間も、船長はひっきりなしに船員に声を掛けられる。
「船長ォ!」
「今度はなんだ!?」
「下、下見てくださいよ! あれ、あれ、すげぇっすよ!」
「はぁ? なにいってやがんだ……お、お、お……!?」
 船員の泡を食ったような声につられて船の下方を覗き見るエドワードが言葉を失うのを見て、凶津たちもまたつられて甲板から身を乗り出した。
 竜の巣の内側には、色々なものが流れ着いているらしかった。
 壊れた船や遺跡の名残、元は島だったのか岩塊のような何か。
 その更に下、雲海の上を泳ぐような灰色の、それはとても巨大な魚のようだった。
 島クジラ。遠くからでもその巨大さが伺えるその造形は、伝説そのものであった。
 そう、伝説なのである。
 生ける伝説。それが目の前に実際にある。それが船乗りを興奮させない訳が無いのである。
「……大きい。思ってたよりも、ずっと」
『ああ、ありゃあ、でかいッ』
 それは船乗りでもない桜や凶津をも、驚嘆させるほどの大きさだった。
「おお、伝説に聞くだけだった島クジラだぁ! 野郎ども、こりゃあ見に行かねぇわけにはいかねぇよなぁ! 舵を切れ! 高度降ろせー!」
 すっかりテンションの上がったエドワードの指示は、迅速であった。
 セントミラがやや傾き、天使核ユニットがその翼のような輝きを弱めると、船体は緩やかに高度を落としていく。
『おいおい、いきなり降りてくなんて、大丈夫かねぇ?』
 凶津の言葉に、桜は考え込む。
 そういえば、グリモアベースで見た予知では、この船は何者かが呼んだと思しき魔獣の大群に襲われていた。
 その予兆は感じられないが、このまま無防備に近づくのはいかにも危険だ。
 冒険心は買うが、エドワードは無鉄砲が過ぎるように思えた。
『おい、エドワードの旦那よ!』
「おん? お嬢ちゃん、声老けたか?」
『俺だよ、俺ェ! カッチョイイ仮面の方な!』
「うお、喋るのか、これ! ほ、欲しいぃ~」
『よ、よせッ、俺はおっさんのコレクションなんて、ヤだからなッ!』
 手をワキワキさせるワイルドな船長に軽く青ざめながら、とりあえず話が進まないので、警戒を促すのだが……、今は船もボロボロな状態で、船外に人員を割けないらしい。
「……それなら、ヤタに出てもらう」
 桜が取り出した霊符。それをふわりと投げれば、使い魔である三本足のカラスが、青白い光を帯びて空にはばたく。
 広い空を優雅に、そして風を切るように飛んで、その青白い輝きを引きながら、ヤタは島クジラの頭上を周回するように見て回る。
「ほー……いろいろ持ってるんだなぁ。今度、色々見せてほしいなぁ」
『なぁ、旦那。俺たちぁ、こっちの空の事情に詳しくねぇんだが……島クジラってのは、そんなにすげぇもんかい?』
 飛んでいくヤタを目で追うエドワードに、凶津は改めて問う。
 この眼で見た上での話。敢えて、その伝説を聞くのは、その中に何かしらのヒントが無いかと思ったからだ。
 問われたエドワードはというと、少し考えこむように腕組みし、宝物の話を吟味するかのようにふうーっと息をつく。
 そしてやがて、話がまとまったらしく、彼の知る限りの島クジラの伝説を語り始めた。
「島クジラか。思えば、その伝説は数知れないな。
 俺がクソガキの頃から聞いてきた話だしなぁ……。
 そうだな、多くの知られた話とは別に、あんまり聞かない詳しい伝説ってのは、こうだ。
 島クジラは、何でも食うが、基本的には雲しか食わねぇ」
『う、うん?』
「これだけじゃ、いみがわからんだろうが……ほれ見て見ろ。あの背中に浮いた島よ。
 あいつに食われたものは、雲以外すべて、島に浮いてくるのさ。だから、何でも食うが、雲しか食わねぇのさ」
『ははぁ、なるほどねぇ……』
 にわかには信じがたい話だが、そういう生物だと思ってしまえば、不思議と合点がいってしまう。やはり、伝説の生き物だからだろうか?
 確かに、船舶や島ごと飲み込んでしまいそうなスケールではある。
「あのでかさだから何にも殺されず、あいつ自身も、何も殺さない。雲のようにでかいでかい、それが島クジラさ……で」
『で?』
「その島には、どでけぇお宝が眠ってるってぇ、話さ。そりゃもう、ザックザクよぉ!」
『ほほぉ! ザックザクッ!』
 ざっくざく! という言葉と共に上下する手の動きがなんだか卑猥で、桜は黙ったまま一歩引いてしまう。
 そうして、島クジラの話を聞いていると、ヤタに反応があったようだ。
「……降りれそうな場所があったみたい」
「お、そうかい! ようし、そこへ案内頼むぜ、嬢ちゃん」
「うん、でも……」
 意気揚々と船首へと向かうエドワードの耳には、続く桜の言葉は届いていなかったようだ。
 降下地点を見定めたヤタではあったが、それを介す桜は、確かに感じ取っていた。
 何者かに見られている。
『さあて、あの島に何が待ってるんだろうなッ!』
 逸る凶津の言葉には、複数の意味がこもっているように、桜には思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
ティエル(f01244)に呼ばれて島クジラさんに会いに来たよ
お話、できるのかな?

乗せてもらってた飛空艇がティエルが飛び出して行っちゃったから、船員さんに頼んで近づいてもらうね。
おっきすぎて、ぜんぜん気づいてもらえてないみたい?
歌声で呼びかけたら、気付いてもらえるかな?

〈歌声・楽器演奏〉で大きく声を上げて歌声を届けるよ。
普段は抑えてる声を、機能いっぱい張り上げて、気づいてもらえるように

♪クジラさん クジラさん そらとぶクジラさん
聞こえていますか? わたしは小さな小さなミフェットです
こちらのもっと小さいのはティエル ちょっとおはなししませんか?

近くで協力できそうなヒトがいたら一緒に連携するよ!


ティエル・ティエリエル
ミフェット(f09867)と一緒だよ♪

わわわっ、すっごく大きい―☆
悪い魔獣じゃないなら、島クジラさんとおしゃべりだー♪

乗せてもらってた飛空艇から飛び出して島クジラさんにパタパタと近寄っていくよ♪
島クジラさんの顔の前でお話しようってわいわい騒ぐけど全然気づいてもらえない……
はっ、もしかしてボクが小さすぎるから!?

わーわー叫んで島クジラさんに気付いてもらったら「動物と話す」技能を使って
背中に乗っても大丈夫かとか、背中でどこか痒いところないかとか聞いちゃうね♪

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


六島・風音
SPDその背の島に降りてみる

沈まぬ船? 幽霊船?
ガレオノイドのようなものって何だろう
カミヤドリさんかも知れないね
直接見に行くのが一番速いね

天使核ロケットエンジンを積んで飛べるようになった宇宙バイクで近付いていくね
あの魔獣、何だっけ。【魔獣知識】に照らし合わせてみよう
魔獣は遠巻きに見ているだけなら、そのままクジラの背中に降り立ってみる
何かあるとしたら、島の真ん中か、島の一番高いところだね
【聞き耳】で何か聞こえたら、【索敵】して場所を探ってみるよ
さっきの声はクジラとは違うのかな?

何かあったら、戦うにしろ逃げるにしろ、ユーベルコード【ゴッドスピードライド】を使うよ
レーザー砲ちゃん、行くよ!



 広い広い空の世界ブルーアルカディアの何処かにあるという、とてもとても大きな乱気流の溜まり、竜の巣。
 その嵐の層をガレオン船『セントミラ』は、よいこらせと突き抜ける事に成功する。
 本当は、この空の世界に於ける船乗りの操船技術や熱い人間ドラマなどもあったのだが、ここでの主役はセントミラのクルーではないため、ひとまずそれは置いておこう。
 ともあれ、吹き荒れる暴風と稲妻の晒されたセントミラは、航行不能なほど致命的なダメージを負ったわけではなかったが、ちょっとどこかで船の調子を見た方がいいくらいには細々とした損傷を受けていた。
 エドワード率いる空の勇士達ならば、それはのんびりと航行しながらでも修理可能なものであったが、船速はがっくりと落ち、船の上はそれでも大忙しであった。
 そんなことが悠長にできていたのも、竜の巣の嵐の層を抜けた先が、気味悪いほど凪いでいたからだろう。
 日差しを凌ぐような雲がない青空と、すり鉢のように先細っていく嵐の層を思わせる竜巻のような雲と、そして眼下には泡立ったような雲海が続いていた。
 ここに何もないならそれは、絵にかいた様なシンプルな空の世界だったろう。
 それでも、この空域に無造作に漂うガレオン船の残骸や、何かの建物だったような瓦礫や、島の名残を思わせる岩塊の数々が、ここが竜の巣であることを知らしめる。
 穏やかなだけの空ではない。
 そうは思いつつも、船に乗る者たちはこの穏やかな空気に安堵せざるを得ない。
「すごい天気だったな……グリードオーシャンも、空を渡れないくらいにひどいものだったけど、ここは落っこちたらおしまいだもんな……」
 嵐の層では上下がわからなくなるほど揺れて歪んで見えていた空も、今では嘘のように晴れてしまった青空を見上げ、六島・風音(スピードなら誰にも負けません・f34152)は、ガレオン船に固定しておいた自身の宇宙バイクを解く。
 ウサミミにうさしっぽ。海兵服を可愛らしくアレンジしたような服装に身を包むその姿は、アリスラビリンスのようなファンシーを思わせるが、彼女自身はガレオノイドであり、その詳しい記憶はグリードオーシャンに流れ着いた時にはもう頭の隅っこに消えて引っ張り出せなくなっていた。
 グリードオーシャンには実に様々なものが流れ着くもので、宇宙バイクや服装に関しても、そのちぐはぐに見える何もかもが、彼女が育った島では思い出深く、運命を感じて手にしたものであった。
 ただ、自身のルーツとでもいうのか。
 空への憧れにも似た感情はずっと持ち続けていた。
 グリードオーシャンの空は、恐らく何かに呪われているのではないかと、彼女は思う。
 ひとたび島の領域から外れて飛ぼうとすると、たちまち不可解な気流に巻き込まれて失速するため、船以外の航行手段はとれないグリードオーシャンで、空への憧れを手放すことができなかった風音は、この度のブルーアルカディアという世界の発見に伴い、そのルーツの一端を知るに至った。
 この世界の何処かから、自分は海に落ちたのだ。
 そう思わせるほど、この世界の空気は、初めて肌に感じた時から懐かしさがあったものだ。
「ようし、レーザー砲ちゃん、行くよ!」
 天使核を組み込んで、有重力下でも飛行可能に改造した宇宙バイク『ムゼカマシン』には、着脱可能なレーザー砲が搭載されている。
 どこか愛らしいマスコットにも見えるが、このレーザー砲ちゃん、じつは自律機動するのである。
 現在、このセントミラは、竜の巣の底を泳ぐ巨大な魔獣、島クジラを発見したことで沸いていた。
 伝説と名高い島クジラである。その背には島が乗り、今回の依頼ではその島のオブリビオンを討伐するのが主目的だったはずである。
 確か敵は……、
「沈まぬ船? 幽霊船? ……ガレオノイド、のようなものってなんだろう。
 ひょっとしたら、カミヤドリさんかもしれないね」
 ひとまず疑問を打ちきり、ムゼカマシンに跨る。たぶん、それをいうならヤドリガミじゃないかな……。
「? 船首の方が、ちょっと騒がしいな」
 ふと顔を上げると、もうセントミラはかなり降下しているらしかった。
 もうだいぶ、島クジラに近づいているみたいだ。
「わわわっ、すっごく大きい―☆」
 一方、船首の方で主に騒がしくしていたのは、小さな妖精の猟兵、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)だった。
 セントミラの甲板、その手すりにちょこんと乗ってしまえるほどのサイズしかない彼女からすれば、普通の人間も大きく見えるし、まして島を背に乗っけている島クジラなど、大きさの範疇が違い過ぎるようなものだが、ここまでくるともう大差ない気もする。
 しかしながら、島クジラである。島を乗っけたクジラなのである。
 こんなものファンタジーの世界にしか存在しないだろうというようなものが、本当に存在するという事実に、ティエルとその親友、ミフェット・マザーグース(造り物の歌声・f09867)は、目を輝かせて船から身を乗り出していた。
 ミフェットはブラックタールの少女である。
 その身は兵器として作られたらしい、黒い液体に過ぎない筈だが、長らく一人で過ごした彼女は、打ち捨てられた廃棄工場で歌と絵本をみて育ったという。
 今はそうでもないが、寂しい一人きりの世界の中を、絵本の描く幻想を養分に、心優しく素直に成長した生物兵器は、誰がどう見てもちょっと変わった髪型の女の子にしか見えない。
 とにかくまぁ、そういう経緯もあって、絵本のような幻想の広がるこの光景は、ミフェットやティエルにとっては夢のような光景にも見えただろう。
 その興奮は、とくに冒険心の塊のようなティエルに火を灯したのか、
「すごいっ、話してみたい! うおー、おしゃべりしたいぞー♪」
 自由気ままな妖精よろしく、ティエルは衝動のままに船を飛び出して島クジラの方へと飛び立ってしまう。
「ティエル、まってー! 一人で飛んでっちゃったら……んもー!」
 光る鱗粉を振り撒いてあっという間に見えなくなってしまうティエルの奔放さに、ミフェットは頬を膨らませる。
 基本的になんだってできそうなブラックタールだが、空を飛ぶのはちょっと無理があるらしい。
「追いかけよう! ティエルを追ってくださーい!」
「よーし来たぁ。島クジラと喋ろうってんだな!」
 ノリのいい船員たちは、ミフェットの提案を呑んで島クジラに近づいていく。
 船を駆り、財宝を求めて空の世界で荒事も行う勇士たちとはいえ、冒険を愛する心は子供のままだ。
「……すごい。あの妖精の子、速いなぁ!」
 そして、宇宙バイクを発進させていた風音もまた、船から爆速で飛び出していったティエルを目撃していた。
 子供とは言え、いくつも戦いを駆け抜けてきたティエルは、すばやい。
 スピードと聞いては風音は、なにやらうずうずするものを抑えられない衝動に駆られるのだが、追いかけっこにエントリーしそうになったところで、思い直す。
 ダメダメ、今回はお仕事なんだから。
「そうだ、敵の正体を知らなきゃね。とすると、直接見に行くのが一番速いね」
 後ろ髪惹かれる思いもありつつ、なんだかんだで速さにこだわる風音は島クジラの島の方へと探索の手を伸ばすのであった。
 島の周囲を旋回するように見回してみるが、それは鬱蒼とした森が広がっており、何か探そうにも茂みが濃すぎて、場所によっては小さく雲を被っているため、細かく観察するには降りてみるしかない。
 そうして手近な陸地に降り立ってみるが、それは奇妙な島だった。
「湿気が凄いけど、山の上みたいであんまり嫌な感じじゃない」
 しっとりとした地面から生えているのは、まるで水中植物のようで、極めつけは野生生物のいずれにもヒレが付いていることだった。
 陸上なのに水中のような環境。これは確かに奇妙な島だ。
 でもオブリビオンらしい何かは見当たらない。
 気になることがあるとすれば、島の中心部に見える、切り立った岩山のようなもの。
 あれこそがそれなのか……?
『──』
 見上げた風音のウサミミが、何かを聞いた様な気がしてピクリと反応する。
 もう一度聞こえないかと聞き耳を立てると、
『へえ、彼と話そうとしてるんだ……でも大丈夫かしら?』
 思った以上にハッキリと聞こえた女性の声に、風音は我が耳を疑ったが、直後にその声のした方を索敵する。
 のだが、
「う、地面が……揺れてる?」
 地の底から響き渡る様な震動と、腹を打つような低音が、立っている事すら難しくさせる。
 地震というよりかは、空震。
 一方のティエルはというと、文字通りに島クジラの目の前にまで迫っていた。
 目というには、あまりにも大きく、恐らくはティエルたちが乗ってきたセントミラを超える大きさの島クジラの目の前にまで追いついて、ティエルはわーきゃーと叫んでいた。
「おーい、おーい! 島クジラさんやーい! ……全然聞こえてないみたい。はっ、もしかしてボクが小さすぎるから!?」
 軽く汗をかくレベルでわいのわいのと騒ぎ立てては見たものの、船よりでかい瞳では、20センチちょっとのティエルの姿をとらえるのも難しいのか。
「ティエルー! 待ってよー!」
 と、そこへミフェットを乗せたセントミラが近づいてくる。
 振り返るティエルが目にしたのは、船首に腰かけてリュートを爪弾くミフェットの姿だった。
 歌う気なのだ。歌で島クジラを振り向かせようというのだ。
「ミフェットー! おっきすぎて、全然気づいてもらえなーい!」
「おっきすぎて、ぜんぜん気づいてもらえてないみたい?
 まーかせて!」
 ぐっと拳を突き上げつつ、変形する髪の毛でティエルや船の皆に、耳をふさぐようジェスチャーする。
 そして、ミフェットは歌う。
 それも、いつもは人並みに抑えている声量を、機能全開で、大声で歌い上げる。
「♪クジラさん クジラさん そらとぶクジラさん
 聞こえていますか? わたしは小さな小さなミフェットです
 こちらのもっと小さいのはティエル ちょっとおはなししませんか?」
 びりびりと肌を粟立たせるような凄まじい声量が、空気を伝播するのがわかる。
 だがそれは、島クジラに近づくほどに感じる存在感に対する反響でもあった。
 音が跳ね返ってくる感覚があるということは、この音は届いて、そして返ってくるのだ。
 そうしてややあってから、空気がばりばりと破裂するような圧を帯びる。
「むむうーー」
 言語にすればそれくらいの、言葉とは言い難い低音が、ティエルやミフェットを、船全体を震わせる。
 それはまさしく、島クジラの応答だった。
「す、すごい声……でも、ティエル、これわかるのかな?」
「うん、たぶんわかる」
 それを示すかのように、巨大な島クジラの目が、船ではなく小さな妖精であるティエルを見ているのが、この場の誰にもわかった。
「う、嘘だろ……あの小さな嬢ちゃんを見てるのか、あのでかい目で……」
 船員たちの多くが、その巨大さを前に身震いする中で、ティエルはできるだけ大きな声で喋りかける。
「くじらさーん! 背中に乗っても大丈夫ー!?」
 動物と話す特技を持っているティエルは、ある程度の動物と話すことが可能だが、相手は果たして動物とカテゴライズしていいものか。
 しかしながら、どうやら意思の疎通はできるようで、ティエルは何やら笑顔で喋っている。
「どこか、痒いところとかあるかなー!? ……え?」
 ティエルと何かしらの意思を交換した島クジラは、一度だけ上へと目を向けると、大きく瞬きをして、それきり黙り込んでしまったようだ。
 話を聞いたティエルも、もはや聞くことは無いらしい。
「ティエル、何か聞けたの?」
「……彼女は、生きたがってて、死にたがってるって」
「え?」
 ティエルが聞いたという島クジラの話の内容を、ミフェットはうまく汲み取れなかったが、それでも次の行動は読めた。
「じゃあ、行くんだね」
「うん、行こう♪」
 二人の意を汲んだセントミラの船員たちもまた、よくわからないままだったが、彼女たちが島の方に向かうのを望んでいたのはわかったため、船を上昇させるのだった。
 一方の風音は、島クジラの鳴き声とともに揺れる地面が治まるまで身をかがめていたが、下の騒ぎは島に直結するらしく、島の野生動物たちが騒がしくなり始めた。
 動物は自然災害に敏感なものだ。
 風音もまた、地面の上は危ないと感じ、ムゼカマシンに飛び乗った。
『騒がしくすると、変なものが出るわ。気を付けて』
「あなた、何なの!? クジラとは違うの?」
 島の森から飛び上がり、周囲を見回すと、白い何かが伸びてくる。
 咄嗟に【ゴッドスピードライド】で急加速してそれらを躱していく。
 謎の声に対する問いかけは、返ってこない。
 向こうから一方的にしゃべって来るばかりのようだ。
 答えが無いものは仕方ない。今は現状に対応するのが先決だ。
 今の敵は、覚えがある。
 この世界に来るに際し、仕入れた魔獣知識の中にそれはあったし、何よりそれ以前から見覚えのあるものでもあった。
 島に流れ着いた時から、そこそこ見る事のあったそれは、
「今の触手。間違いなく、イカだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
俺はサントミラ号に同乗させてもらおう。

ふむ、予知とは違って、魔獣どもは様子を見ているか。
それなら都合がいい。島クジラの上に乗り込ませてもらおう。
最大級の魔獣の王にして幻獣の王とでもいったところか? いつかこの世界で戦争になった時に、再びまみえるかもしれんな。

これだけの建造物を、いつ誰がこんなところへ作ったのか? 謎は尽きんな。
まあ、俺は冒険者じゃなく騎士崩れだ。謎を解くのは冒険者に任せておくさ。

さて、女房への飾り物の一つくらいは見繕わせてもらおう。俺にはそれで十分だ。
収穫を得たら、周囲を「視力」で警戒しておこう。
いつ魔獣どもの気分が変わらんとも限らん。
飛空艇の防衛体制は十分か? 迎撃の用意は?



 荒れ狂う乱気の雲の層、『竜の巣』をぬけたガレオン船『セントミラ』は、唐突に晴れた空に戸惑うかのように、乱気の余韻の風を甲板に吹かせていた。
 竜の巣と呼ばれる気流溜まりは、巨大な竜巻のような雲の層であり、その中心部はまるで台風の目のように晴れた空が広がっていた。
 視界の果てに広がる厚い雲の層は、きっとセントミラが通り抜けてきたような荒れ狂う乱気の雲の層に違いない。
 ここはいわば渦の中心。他の空域から巻き込まれてきたガレオン船の残骸や、何かの建物の名残、元が島だったことを思わせる岩塊などが浮遊している他、眼下に広がる泡のような雲海は、まるで底なし沼のようにも見える。
 そこより下に沈めば、島は滅び、屍人帝国と化してしまうというが、だとするならその雲の先は骸の海という事になるのだろうか。
 セントミラの甲板、その手すりに身体を預けて、眼下に広がる雲海を見下ろすのは無精ひげに全身甲冑の騎士、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)であった。
 黒騎士として不幸な道のりを余儀なくされてきたことも久しく、最近はそれほどでもないそこそこ充実した毎日を送れているユリウスだったが、戦場に向かうその顔つきは妙に辛気臭い。
 死霊術士でもあるからかもしれないが、それはちょっとした偏見かもしれない。
 ただ大きな原因の一つとして考えられるのは、彼は先ほどまでセントミラと共に、激しい気流の中を上下左右に激しく揺さぶられながら航行してきたところであった。
 気分は良くなかった。
 なんというか、最近はこういう目にばかり遭っている気がする。
 これまでに過酷な戦場は数あれど、それは身一つでこなせなくはない強敵との戦いであった。
 だが、ブルーアルカディアでのしかかってくるものは、その空の旅そのものだろう。
 大地が敵に回った時、どう立ち回るべきか。
 足場にしているものが脆くも崩れ去った時、身一つでできる事は。
 そんなことを考えつつ、何気なく雲海を見下ろしていると、そこに泳ぐ巨大な影を視界にとらえて、ほぼ同時に船上が湧くのを感じた。
「あれは、伝説の……島クジラか!」
 船長のエドワード・アルドベッグが興奮の色を隠せない様子で巨大な島クジラの姿を見据え、周囲に浮かぶ古い船の残骸や遺跡など目もくれずに、一直線に島クジラの方へと舵を切る。
 それほどまでに島クジラという存在の希少性、その伝説たる所以を実感せずにはいられない。
 とはいえ、ユリウスはあくまでもよその世界の人間だ。いまいち、あの巨大なものを優先する理由がわからない。
「それほどのものかな、島クジラというのは?」
「それほどのもんさ。船乗りにとっちゃあな」
 エドワードの話によれば、島クジラは雲しか食わない。
 ただし、巨大な口で頬張るのは雲だけとは限らず、時には島や船を雲ごと飲み込んでしまう事もあるそうだ。
 そうして飲み込まれた雲以外のものは、やがて島クジラの背に乗せている島に浮き上がってくるという。
 それ故に、島クジラは誰も殺さず、そして規格外のサイズ故に誰にも殺されず、何百年も生きるのだという。
「誰にも倒せないから、誰も近寄らないが……そいつの飲み込んだ物は、とんでもねぇ価値の財宝だって噂も聞くぜ。そうと聞いたら、船乗りの冒険心は止まらねぇのさ」
 そんなものか。
 熱っぽく語るエドワードの言葉を、どこか遠く、忘れてしまったもののように思う。
 恐らくそれは、少年らしさのようなものなのだろう。
 ユリウスにとって、それは遠くに置き去りにしてきたものの一つと言えた。
 だが、馬鹿馬鹿しいとは思っても、同時に羨ましくも思う。
 行動理念としてそれを持ち続けて生きると言う事は、生半なことではないのだ。
 それを捨てざるを得なかったユリウスからすれば、疎ましくも羨ましい。
「冒険心か。贅沢な男だな」
 身を預けていた手すりから離れ、見えてきた島クジラの背の島を見下ろす。
 鬱蒼と何か植物の茂みが濃い島には、ガレオン船一隻と言えど、降りられそうなポイントは限られているように思える。
「何をする気だい?」
「先に降りて、船が着艦できそうな場所を探しておこうかと思ってな」
「その身一つで? 無茶が過ぎねぇか?」
 エドワードが訝しむのも無理はないが、ユリウスとて普通の黒騎士という訳ではない。
 【血統覚醒】によってその身に流れるヴァンパイアの血を呼び起こせば、その身体能力は跳ね上がる。
 身一つで飛び降りても、怪我をすることはないだろう。
 エドワードには知る由もない事だが、それを説明する事はなく、ただユリウスは肩をすくめて見せる。
「たぶん、俺は腐っても騎士なんだろうさ」
「へっ、格好つけやがって……頼んだぜ!」
 示し合わせたわけではないが、お互いに拳で肩を小突き合うと、ユリウスは甲板から眼下の背の島へと飛び降りていった。
 ごうごうと大気を体に浴びる抵抗感に草木のにおいが混じる。
 それが地面の固い抵抗と衝突すると、その質感に軽く驚きが混じる。
 湿り気を感じる地面と空気ではあったが、豊かに緑が茂る背の島は、たしかに踏みしめられる地面をもっていた。
 こんなものを背中に負ってなお、生きている。
 いや、生きているのか?
「これだけの建造物を、いつ誰がこんなところへ作ったのか? 謎は尽きんな。
 まあ、俺は冒険者じゃなく騎士崩れだ。謎を解くのは冒険者に任せておくさ」
 船の数十倍か数百倍の生物を、生物として認識してもいいのか。
 或は何者かが作り出したのか、それは定かではない。
 最大級の魔獣の王にして幻獣の王とでもいったところか?
 いつかこの世界で戦争になった時に、再びまみえる可能性もなくはないのか。
 この怪物を仮に倒さなければならない場合、どう攻略すればいいのだろうか。
 ふと何とはなしに考えていると、視界の端に何か光る様なものを見た。
「妙な植生だな。ダークセイヴァーとも違うようだ」
 湿気の多さを感じるのだが、山岳地帯のような爽やかさも感じる。
 風の通りがいいのか、それともここがクジラの背の上という特殊な場所だからなのか。
 島の緑は、その多くが水中で育つような海草に近いものに思えた。
 ここはまるで、地上に居ながら水中のような環境なのかもしれない。
 それよりも、目に留まった植物は、見たこともない花だった。
 花弁のように色づく葉を付けてはいるが、本物の花弁はその中心に球体状に育った乳白色の部分だろう。
 それが光を反射して光って見えたのだ。
「水中のような植生の中で見ると、真珠のようにも見える……」
 見れば、その周囲に光沢を持ったまま零れ落ちた真珠のような種が地面に幾つか転がっていた。
 なるほど、学者先生にとっては、宝の山なのかもしれない。
 それにしてもなかなか綺麗な種なので、ユリウスは女房へのお土産にといくつか拾って帰ることにした。
 普通の土で育つかどうかはわからないが、まあ育たなくとも、装飾に使えそうではある。
「それにしても、予知とは違って、なかなか魔獣が出てこないようだな……。いつまで様子見しているつもりだ」
 猟兵が参加する事で、魔獣は出方を変えてくるとのことだったが、まさか、船が降りてくるタイミングを見計らって襲いに来るとでもいうのか。
 だとしたら、まるで計ったようなタイミングではないか。
 飛空艇の防衛体制は十分か? 迎撃の用意は?
「警戒はしておくべきだな……それに」
 目を凝らし、ヴァンパイアの血統で鋭さを増した視力で周囲を探る。
 それに、先ほどからこちらを伺っている謎の視線の主の事も気になる。
 これが魔獣ではなく、倒すべき敵であるならば、さっさと出てきてほしいものだが……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
【島クジラ】

ヨナ!接触してみよう!
ユーベルコヲド・ハイカラさんは止まらないで、船まで覆って、安全に接触してみよう!

「大きい!これが島クジラ!ぼく初めてみたよ!何メートルあるの?やっぱり天使核を持ってるの?好きな食べものはなに???」

気になることが溢れ出して、周囲を高速でぐるっと観察しながら、ホエールウォッチング!

オブリビヲンの出方ってあったけど、ホエールウォッチングに夢中になっている今なら、ぼくは無敵だからね。
セントミラのクルーか他のみんなに数や種別の確認をお願いしておいてデコイに徹するのもいいかもしれないね。



 ブルーアルカディアは、その果てしなく続いているかのようにも見える空の中には、『竜の巣』と呼ばれる気流溜まりがあるという。
 激しく不規則に吹き荒れる乱気の雲の中は濃い靄が立ち篭めて、暴風と雷が常に迸る。
 それは竜の巣に挑んだガレオン船『セントミラ』をも激しく攻め立てたが、有能な冒険者揃いの船員は、その乱気の雲を切り抜け、多少の損傷は受けつつも全員無事に雲の壁を抜けた。
 雲の壁を抜けた先は、空のダンジョンとも呼ばれる竜の巣にしては呆気ないほどの晴天。
 巨大な台風の目のように晴れ渡る空と、分厚い雲の壁に覆われたそれは、青く美しい店外に覆われた雲のすり鉢とも言えた。
 そして彼らセントミラの面々がどうしてこの困難な竜の巣に挑んだかという、その答えもここにはちゃんとあった。
 この空域に漂うのは、あちこちから竜の巣の気流溜まりに乗って引き寄せられ、そして引きちぎられたものの数々。
 飛空艇の残骸、古い建物の名残、いつ雲海に沈んでもおかしくない岩塊など、数えきれない空の忘れ物達が、この空域には漂っていた。
 それらに興味は尽きないが、セントミラの乗員は、困難な竜の巣の形成する乱気の雲を切り抜けた事での安堵から、船の負った傷などを補修する作業に時間を当てていた。
 ちょうどそんなタイミングで、同じように竜の巣の雲の壁を突き破る船が、この空域に入ってくるのが見えた。
 それは、猟兵の操る飛空艇であった。
 国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)は、明治の続くサクラミラージュ生まれの天才発明家、もとい未来派芸術家である。
 そんな彼女が天使核を手に入れて設計、作り上げた航空艇は、全長20メートルにも及ぶ。
 ずんぐりと太い船体に尾びれのような尾翼を持つそのシルエットは魚類、というかまさにクジラというに相応しい、『ソラクヂラ型航空巡航艇ヨナ』である。
「おお、ありゃあ、今回の仕事で味方してくれるってぇ船か……俺はまた、伝説に聞く島クジラかと……」
 セントミラの甲板の上で鈴鹿の船を確認した船長のエドワードは腕組みしたまま感心した様子で、ヨナの船体を観察していたようだが、すぐ後に慌てた船員から呼ばれて、別の場所を見ることになる。
 それは、眼下の雲海に望む、本物の島クジラの話だった。
「って、本物もいるのかよ! すげぇ。やっぱり、本物はすげぇ! スケールが違い過ぎるぜ」
 鈴鹿の船を見て驚いていたエドワードであったが、島クジラを実際に見た時の驚きはその比ではないようだ。
 なにしろ相手は伝説の存在。決して比べて優劣を見ているわけではない。
 サイズによる迫力が違い過ぎるのである。
 そして、驚きに胸躍らせるのはエドワードだけではなかった。
 ヨナを操る鈴鹿もまた、島クジラの存在にテンションが上がっていた。
「すごい、あれが島クジラなんだ……ヨナ! 接触してみよう!」
 デッキの上で、ハイカラさんの鈴鹿の輝きは新鮮な驚きに比例するように増していく。
 好奇心は開発の友。天才的な閃きが鈴鹿に生じる時は、いつだってビッカビカ輝くものである。
 そうして【ハイカラさんは止まらない】状態になった鈴鹿は、その輝きを飛空艇ヨナにも纏わせて、凄まじい船速で急接近していく。
 島クジラは、それこそその背に島を負っているだけあり、全長は一目では測りきれないほど巨大である。
 近づいてみれば見るほど、そのサイズは圧倒的であり、彼が尾びれを動かし、前進するというだけで、空気がメリメリと引っ張られるような、そんな圧すら感じるほどだった。
「大きい! これが島クジラ! ぼく初めてみたよ! 何メートルあるの? やっぱり天使核を持ってるの? 好きな食べものはなに???」
 そんな超巨大生物に対して、鈴鹿の好奇心は留まるところを知らず、その威容を網膜に焼き付ける事、知りたい気持ちを抑える気持ちも溢れ出し、興奮した様子でデッキから身を乗り出して島クジラを観察しながら、その周囲を飛び回る。
 これはもう、数キロ単位のサイズだ。こんなものが空に浮いているということすら驚愕に値する。
 とはいえ、この世界では天使核を組み込めば、島を浮かす事すら可能なので、重さはさほど気にすることでもないのかも。
 とにもかくにも、この超巨大ホエールウォッチングは、しばらく続きそうだ。
 どこを見ても、何を見ても、このクジラが何で出来ているのか想像もつかない。
 ただ、わかることは、その巨大さゆえに、敵意と言うか、他の生物を歯牙にもかけないほどの鈍感さというか、器の大きさを感じる。
 大きな生物を偉大と感じるのは、その巨大さゆえに生じる存在感。
 たぶん、実際のところは、小さな生物を認識できないのがあるのかもしれないが。
「おーい、クジラの嬢ちゃん! あんたなんか、追われてるぞ。気を付けろー!」
 エドワードが何やら叫んでいるようだったが、クジラ観察に没頭している鈴鹿の耳には殆ど聞こえていない。
「んー、今いいところなのー! ぼくは今、夢中で無敵なんだよ! 後でやるから、ぼくに引き寄せられてるうちに、島に行っちゃってー!」
 生返事をしつつも、鈴鹿は自らが没頭している最中が無敵であることを自覚している。
 それをさらっと利用して、自分の趣味に没頭するのは、天才の天才たる所以かもしれない。
 とにかく、自分の飛空艇になにやら斑点の付いた様な白っぽい何かが飛び掛かってきているようだが、ええいうるさい。いまいいとこなんだよぉー!
 とばかりに、振り切る勢いで島クジラ観察の為に高速で飛び回っていた。
 それはさながら、親クジラにじゃれつくような子クジラのようにも見えたかもしれない。
 いや、あの、子クジラ、魔獣に襲われてますけどー!
「よーし、わかった! 作業しながらでもきけー! そいつは、空のイカだぁ!
 焼くとうまいが、人や家畜を襲う、悪い奴だぞー! いいか、ちゃんと聞いてるよな、クジラの嬢ちゃーん!」
「うーん、聞いてる聞いてるー」
 たぶん聞いてないぞ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ドーンテンタクルス』

POW   :    この触手はどう見てもイカだ
命中した【触腕】の【吸盤】が【返しのついた爪】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    如何ともし難い墨
海の生物「【烏賊】」が持つ【旨味成分をたくさん含んだ墨を撒き散らす】の能力を、戦闘用に強化して使用する。
WIZ   :    イカしたゲーミングフラッシュ
【虹色に発光する表皮から放たれる催眠光】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『ああ、騒がしくするから、連中にみつかっちゃった』
 どこからともなく、少女のような声が響く。
 それは、なんとか島クジラの背の島に着陸した、ガレオン船『セントミラ』の乗員にも聞こえたものだった。
 何かこう、伝信管を通したかのようなこもった声色だったが、感情の起伏の薄いその声は、しかしながらうんざりしたようなものも含んでいるように感じた。
『あいつら、島の生物を襲うから、好きじゃないのよね……貴方たちも、食べられたくなければ、この場から逃げる事ね』
「おいおい、あんた一体、何者なんだい? 道案内とか、してくれないのかい?」
 友好的とも、敵対的とも思えないような、心底どうでもいいような気だるさを感じる声に、セントミラの船長であるエドワードは問うてみるが、その答えは返ってこなかった。
 代わりに、周囲の空が騒がしくなったのを感じる。
 それに煽り立てられるかのように、背の島の鬱蒼とした緑から野生生物達がこぞって逃げ出そうとするのがわかった。
「オーケーわかった。で、彼らは何を恐れているんだ?」
『……イカよ。あーあ、もう逃げられない』
「イカ? あー……イカかぁー。うちの故郷も、いっぱい被害に遭ったぜ」
 空を見上げれば、青天の空のあちこちに、不自然な並びの星の輝きがちらちらと見えた。
 それは星ではなく、うっすらと姿を現すのは、体表を空に擬態し、斑点のような輝きを七色にチカチカと光らせていた……なんというか、成人男性と同じくらいのイカの群れだった。
 ドーンテンタクルス。
 それは、この空の世界では珍しくもない、空飛ぶイカの魔獣である。
 その体表の斑点は七色に輝き、表皮は空に擬態し、主に明け方などに活発に大群で行動し、星空の中からやってきては、空に住まう島々の家畜や人、時には巨大に成長した個体が飛空艇すら落とすという、いわば害獣であった。
 ただし、害獣とはいえ、彼等もまた美味であり、ちょくちょくハンターに狩猟されてはおいしくいただかれたりもしている。
 吸盤についた爪や、透き通った軟骨などは、船の部品や風防などに使われたりするほどしなやかで頑丈と好評である。
 この程度の相手ならば、セントミラの乗員が後れを取る事も無い筈だが、その数は多く、屈強な船員とてこの数の前には手酷いケガを負ってしまうかもしれない。
 背の島の探索は、ひとまずこのドーンテンタクルスを退治してからということになりそうである。
 ちなみにどうでもいい話だが、本来、イカには嘴に相当する部位は無い。
 嘴に形状が似ている部位は、水を噴出する器官であり、これにより水の中を移動する。
 もしかして空に適応するために、嘴に変化したのだろうか?
神代・凶津
どっからか声がするが、今はあのイカ野郎をどうにかする方が先決か。
ぱぱっと片付けてくるから、エドワードの旦那達は少し待ってな。
あと『セントミラ』に結界霊符で結界を貼っとくか。流れ弾が来ないとも限らんしな。
んじゃ、行くぜ相棒ッ!
「…転身ッ!」

炎神霊装を纏い飛翔して戦闘開始だぜ。
空を飛びながらイカ野郎共の攻撃を見切りかわしながら間合を詰めていくぜ。
接近したら生成した炎刀でその無駄に多い足を斬り落としていってやるぜッ!
船の部品になるって話だし出来るだけ状態がいい方がいいだろ。

さっさと倒して島クジラの探索と行きたいぜッ!
「…さっきの声の主も気になりますしね。」


【技能・空中戦、見切り】
【アドリブ歓迎】



『あーあ、連中には来ないでほしかった……残念』
 少女の声は、依然としてどことも知れぬところから聞こえてくるのだが、その所在はどうしても捉えられない。
 ただわかることは、どうやら彼女が件のオブリビオンであるらしいことは予想できる。
 ならばこの段階で魔獣を使役しているのもまた彼女なのかと思えば、どうもそうではないらしい。
「なんだよ、アンタは手を貸しちゃくれないのか?」
 竜の巣の壁を越えてきたガレオン船『セントミラ』の船長、エドワードは厄介そうにがしがしと頭を掻く。
 自分勝手な呟きばかりの少女の声が答えるとは考えていなかったが、興味が湧いたのか、珍しく返答があった。
『……ここに生きる者は、あるがままに生きている。魔獣だってそれは同じ。とうに生きていない者が手出しするなんて無粋だと思わない?』
「っかー、箱の中のお宝気取りかよ」
 どうあっても魔獣の掃討には静観を決め込むつもりらしい声の主に、エドワードは舌打ちと悪態を吐き捨て、フリントロック式の拳銃を取り出すと、他の船員たちに指示を飛ばし始める。
「いいか、連中は大した魔獣じゃねぇが、油断するな! 触腕の吸盤には爪が生えてるからな。絡みつかれたら、牛だって絞め殺すぜ!」
 この島の上空からやってくるドーンテンタクルスは、この世界ではそこそこありふれた魔獣であった。
 知名度はそれこそ地方によるのだろうが、家畜被害などを出すので悪名は高いらしい。
 なんといっても狂暴な肉食で、魔獣同士の縄張り争いなども激しく、一説によると星空の彼方から空を侵略しに降りてきたのではないかという学説もあるらしい。
『声がしなくなったか。とはいえ、今はあのイカ野郎どもを退治するのが先決か』
「イカ……イカ焼き、イカ飯……うん」
 戦闘の緊張した気配を察知した神代凶津が冷静な口ぶりで空を仰ぐのだが、肝心の彼を頭に乗っけている桜は、なにやら不穏なことを呟いていたようで、一拍遅れる。
 だがそれも一瞬の事。長年の相棒である。行動は言わずともわかっているようだった。
『エドワードの旦那。応戦もいいが、あの数だぜ。船を守った方がよかないか?』
「お、マスクの。うーむ、確かに船に残してきたクルーも気になるな……よし合流しに行こう」
『いやぁ、俺と桜はここでいい』
「なんだって。まさか……!」
 エドワードに一時撤退を提案し、それに同行するかと思いきや、凶津と桜は足を止める。
 それで全てを察するエドワードが険しい表情を浮かべる。
 空に活きる冒険者のそれは、なかなか精悍な顔つきに見えるが、そういう表情を浮かべるところに、なんとも人情を感じる。
「あんたらは凄腕だそうだしな。……大丈夫なんだな?」
『あんたもつくづく人がいい。なぁに、ぱぱっと片付けてくるから、エドワードの旦那達は少し待ってな』
 ばちーん、と器用に鬼の面がウインクすると、エドワードは船員を連れて船の方へと戻っていく。
「……いい人たち」
『まったくな。今日初めて乗り合わせたってのによ。んじゃあ、行くぜ相棒ッ!』
 穏やかな言葉を交わすのもほんのひと時。
 二人の戦意が重なる時、それは戦闘の合図だった。
 頭に乗せた鬼の面を、表情の薄い顔に重ねる。
「……転身ッ!」
 いつもは呟くような声しか紡がぬ桜の鋭い掛け声とともに、ヒーローマスクとの合致は完了し、それと同時にユーベルコードを発動させる。
『心を燃やすぜッ!』
 空を仰ぎ、ぐっと腰を落とすように踏み溜めれば、その身から数ある霊装の一つが顕現する。
 紅蓮に燃え立つ炎が翼を成し、巫女服と鬼の面を橙に染め上げる事により、【炎神霊装】は完成する。
『迎えてやるこたぁねぇ。こっちから出向いてやるぜッ!』
 圧縮した空気を燃焼させるかのように、翼のように吹き上がる炎で以て凶津は飛び上がり、空を飛ぶ。
『おっと、船の連中も守ってやんなきゃな』
 飛び上がったところで見えたセントミラの方へと、結界霊符を放っておく。
 特殊な文字と術を織り込んだ術符は生きているかのように船の周囲へと設置され、結界を張る。
『いい出来だな。これで懸念は一つ消えたって訳だ』
 船から空へと視線を戻したところで、凶津は咄嗟に空中で身をひねり横方向へと体を逸らす。
 どうどうっと、続けざまに黒い弾丸のような軌跡がすぐ横を通り過ぎて行った。
 どうやらあちこちと気を使っている間に、ドーンテンタクルス達に囲まれていたようだ。
『チッ、一張羅が汚れたらどうすんだよ』
 嘴をもち虹色の光沢を放つ大型の空飛ぶイカたち。
 その嘴の端から黒い雫が垂れるのを見れば、今しがた飛ばしてきたのがイカスミであることがわかる。
 イカスミって、煙幕や撒餌の効果で逃走する為のものだったはずだが、水圧カッターのように飛ばしてくるようなものではない。
 そもそもどうやって空を飛んでいるのかという話だが、まあそんな細かい事は今更どうだっていい。
『そんなんで止まると思うなよッ!』
 空を蹴るようにして間合いを詰める凶津に向かって、イカたちは次々とその嘴からイカスミを弾丸のように飛ばしてくる。
 それらを寸前で見切り、身を逸らして躱す。飛沫が炎の翼で焦げて魚介類を焼いた時のいい匂いがする。
『どけぇい!』
 肉薄した凶津、桜の手には霊装の一つである炎刀が生じ、眼の焼けるような白熱の刃がドーンテンタクルスの身を焼き切る。
 海洋生物の生命力は高い。確実に急所を突いたつもりでも、死に物狂いでその手足を絡みつけてくる。
 ならば最初からその手足をもいでおけばいい。
 炎の刃がドーンテンタクルスの触腕を次々と斬り払い、完全に密着する直前に、その眉間を炎刀が貫くと、ドーンテンタクルスはその巨体をびくびくと震わせ、えらをぴんと張ったかと思うと、発光する表皮の色味をすーっと薄くして落ちていった。
「……丁寧に仕留めましたね」
『船の素材になるって話だしな……しかし、次も同じようにいくかね』
 周囲にはまだまだイカの群れが飛んでいた。
 今のように丁寧に倒していては、他のイカの横やりが入ってくるかもしれない。
 まあ、多少傷物にはなるかもしれないが、勘弁してもらおう。
『さっさと倒して島クジラの探索と行きたいぜッ!』
「……さっきの声の主も気になりますしね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ランケア・アマカ
イカの駆除が優先、ですね
船に被害が出ないように手早くやりましょう

MF-L1に乗ってイカの群れに接近、【疾風塵】で一匹ずつ確実に仕留めます
立ち止まらず飛び回って、敵の撒いてくる墨には当たらないように戦いたいです
特に船員の人達を狙おうとするイカは優先して撃ち、犠牲者を出さないようにします
素材として利用可能な部位を残せるように倒したいところですが、無理はせず味方の安全が第一ですね

更に数が増えてくるかもしれませんし、警戒は怠らないようにしましょう
相手は魔獣、やるかやられるか、しかないですから



 時刻にしてまだ昼を過ぎた頃。
 空は相変わらず高さを感じさせるほどに青く晴れていた。
 この島は島クジラの背の上という特別な状況を差し引いたとしても、すり鉢状の竜の巣の中であるため、大気の壁があるにはあるのだが、それでも雨一つ降ってこないような晴天見える。
 そんな空のあちこちがきらきらと斑紋を照らすかのように光を放っていた。
 星の光が届くほど暗くはなっていないというのに、それは、それらはちかちかと警戒色をあらわにする様に明滅を繰り返していた。
 よく見ると、それらは空の青に溶け込むかのように表皮を変色させていた人ほどもあるようなイカの魔獣、ドーンテンタクルスだ。
「連中は、変装が得意なわけじゃねえが、離れられると見えづらいぞ。気を付けろよ!」
 島クジラの背の上は、涼しく心地よい妙な生態系を成す島に上陸したセントミラの船長エドワードは、船員たちに檄を飛ばしながら、自らも拳銃を携えて空から迫りくる魔獣たちに備えていた。
 ドーンテンタクルスは、彼等にとってそれほど珍しい魔獣ではない。
 集団で現れては、家畜や時に人間なども襲い、鋭い鉤爪を隠し持つ吸盤の付いた触腕で絡みついては、万力のような力で絞め落すという。
 また、その体表の発光器官は、仲間との交信や求愛のためと言われているが、七色に輝くその光を見つめ続けていると、人の正気を惑わすとも言われている。
 回遊するドーンテンタクルスの求愛行動を目の当たりにした飛行士が、一晩中イカと共に奇妙な踊りを繰り広げたというレポートもあるとかないとか。
「船長ォ! こいつは大物ですぜ! コックの奴が、張り切って包丁片手に甲板に出てましたぜ」
「バカヤロウ、ほどほどにさせとけよ。だがちょうどいい。これを機に、捌き方を教わっとけ!」
 船の面々がわいのわいのとやりながら、騒がしくイカの相手をしているところを、一陣の風と共に、銀色の箒のようなフローターに乗りつけたランケア・アマカが駆けつける。
「みなさん、御無事ですか」
「おう、嬢ちゃんか! 見ての通り、パーティーの真っ最中だぜ!」
 船長のエドワードが元気にフリントロック銃をぶっ放しながらランケアを迎える。
 やたらとテンションが高く感じるのは、戦いの真っ最中だからだろう。
 味方の士気に関わる事なので、船長たるもの、戦いの場に於いては堂々と、そしてテンション高く居座ることで味方を鼓舞するのである。
 さすがに数多の空を駆けた冒険者揃いだけあって、その戦いぶりは見事なものだが、数の差は如何ともしがたい。
「順調って言いたいが、受けるので精いっぱいだ。年若い嬢ちゃんに頼むのは悪いとは思うんだが、船が降りちまった以上、攻め上がれるのは足を持ってる嬢ちゃんが適任だ」
「私なら平気です。今は頼られるのが仕事ですから」
 真剣な顔を向けてくるエドワードは、元が精悍な顔立ちなせいか、命のかかった状況の中、本気でランケアを頼りにするという真摯な眼差しが怖くすらあった。
 だがランケアとて猟兵。まだまだ駆け出しだが、そこいらの勇士よりかは働けるだけの能力がある。
 薄く笑みを浮かべつつ、恩人である魔女から貰った帽子を撫でつける様に触れつつ冷静さを保って、彼らの期待に応えるべく、銀の箒型フローター『MF-L1』の出力を上げる。
「いいかい。奴らに限らず、魚介類の急所は、目と目の間だ。一発で仕留める時はここを狙え」
「はい、皆さんもどうか、御無事で」
 フローターが浮き上がると、ランケアは船員たちに一度だけ手を振り、そうして──、
 上空にたむろする虹色の明滅へと向かってMF-L1を飛ばす。
 一直線には飛ばない。
 地上の茂みを遮蔽物に利用するのもあるが、何よりも、
「っ!!」
 茂みから抜けて飛び上がったところを、物騒な風切り音と共に、黒い弾丸の様な何かが頬をかすめていく。
 箒にしがみ付くように身を低くして息を呑むと、頬から垂れる黒い液体がイカスミであることに気づいた。
 そうなのだ。ドーンテンタクルスは、本来の用途とは違うがその嘴のような噴射器官から凄まじい勢いでイカスミを弾丸のように撃ち出してくる。
 その圧力は強く、直撃した木々に穴が空くほどである。
 直進して近づいていれば、流れ弾が船の面々に当たっていたかもしれない。
 続けざまに、イカスミがランケアを迎撃する。
 身をかがめた姿勢のまま、フローターのノズルを可変させると、進行しながらランケアは錐もみを描く。
 さながら、土管の内面を滑るかのようなバレルロール。
 それは軌道が読みにくく、さしものイカたちの数を以てしても容易に命中させられるものではなかった。
 イカスミでは埒が明かない。いかに素早くとも、10本もの触腕で絡め取れば、と攻撃法をシフトしようとしたところで、それはもうランケアの間合いである。
「──全て、吹き飛ばします」
 身を起こしたランケアの手には、天使核を組み込んだ小型リボルバー。
 そして用いるのは、この『M3シルフィード』の威力を3倍にまで引き上げる【疾風塵】である。
 風精の名を冠すだけあって、魔女の細工が施された天使核リボルバーには、風の属性を込めた特殊な銃弾が使われる。
 螺旋を描く風の魔力の尾を引く銃弾が、ランケアへと触腕を伸ばそうとするドーンテンタクルスの眉間を貫き、勢い余ってその七色の表皮はおろか内臓をもぶちまけて弾けさせる。
 やや力んで撃ったためだろうか。出力調整にむらっけのあるランケアには、まだまだリボルバーを安定して使いこなすことができないらしい。
 その出力は、主にいっぱい食べるランケアの満腹度にもよるという。
「しまったな……最初からこんなに使ってたら、お腹が減ってしまう」
 焦った様子はどこにもないが、わずかな懸念を残しつつも、ランケアは次々とイカを銃撃して撃墜していく。
 突撃して集団をかく乱した後は、主にセントミラに近づこうとするものを主に撃ち落しているが……。
 これは魔力枯渇(空腹)の心配もしなくてはならないか。
「……シーフードカレー、もいいな」
 思えば、イカもイカスミも、旨味たっぷりである。
 あくまでも真剣に魔獣たちを攻撃しつつ、ランケアは夕飯の事を考えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飯綱・杏子
アドリブ連携可
六島・風音(f34152)と一緒

「今までいなかったよね、どこにいたの?」
「伝説の島クジラを見に行くって言ってたじゃん。密航で悪いけど、この船の中」
「私、今まで人型だったんだけど!?」
「居心地は悪くなかったよ。ネズミ先輩もそう言ってたっす」
「ネズミ居たの!?」
「風音さんが撃沈される前には逃げるから安心してもいいっすよ」
「不吉なことを言わないで!」

船賃はちゃんと体で返…働いて返すから
食材調達ってことでどう?

おいしいイカをつまみ食いをしつつ、イカの催眠光を浴びて、友好的に
苦しませずに絞めて、新鮮なうちにいただこう
船から持ち出したバールのようなものをカラストンビに突き刺して、次々と絞める


六島・風音
アドリブ連携可
飯綱・杏子(f32261)と一緒

ガレオン船になって、宇宙バイクを格納してドーンテンタクルスを退治しに行くよ。

ガレオン船になってすぐに船上に杏子ちゃんが現れて驚くわけだけど。
「今までいなかったよね、どこにいたの?」

仕方がないから、無賃乗船分は働いて返してもらうことにするよ。

ガレオン船になって全力で烏賊のすぐそばを通過して薙ぎ払うよ。
私の今の全力は秒速に直すと2277m/s、マッハなら6.6くらい。
そんな速度ですぐそばを通過、衝撃波で攻撃。
つまり、ユーベルオードのガレオン・ショックウェーブで攻撃する。
触手くらいなら引き千切るよ。



 島クジラの背の島。その上空には、おびただしい数のきらきらと発光するイカの群れ、魚群と言ってもいいのか、とにかくそれは魔獣の群れであった。
 空飛ぶイカ、ドーンテンタクルスは、夜明けの烏賊と称されるだけあって、明けの星空に紛れて空からやってくるという。
 本当は昼夜問わずあちこちから無作為に飛んでくるとも言われているが、最初にそう言われたので、そう名付けられたとも言われている。真相は定かではない。
 とにかくここいらの空域ではさほど珍しい魔獣ではないし、単体であればさほど脅威とも言われない。
 ただし魔獣は魔獣。その全長は成熟して成人男性と同程度。たまに突然変異でガレオン船に匹敵するような巨大な個体もいるらしいが、今回は見受けられない。
 当然、人と同じかそれ以上の体格なので、長い触腕を伸ばして家畜を絡め取って凄まじい腕力で絞め落すという。
 狂暴な肉食獣としても知られており、ブルーアルカディアでは年間を通してこの以下の被害に遭う人間も少なくないらしい。
 ただ、彼等自身もまた美味であるため、それほど憎まれてもいないという、妙なやつである。
「すごい数……これは、私とレーザー砲ちゃんとじゃ、埒が明かないかも……よーし!」
 空のあちこちでちかちかと明滅するイカの数に焦りを感じた六島風音は、宇宙バイク『ムゼカマシン』で飛び上がったところから、ばっとその身を放り投げた。
 風音は、グリードオーシャンで目覚めてから自分自身の記憶をほとんど失っていた。
 それでも記憶が無いなりに、割と能天気に生きていくことはできたが、なぜか空に対するあこがれというのか、帰巣本能のようなものが常について回っていたことを疑問に思う日々だった。
 そしてブルーアルカディアの存在が知れ、この世界の空気に肌を晒してみたとき、ようやく風音は自身のルーツの一端を知った。
 六島風音はガレオノイドである。
 空中に自らを放った風音は、ごく自然に16メートルとちょっとの飛空艇、ガレオンに変形する。
 艶を消した銀の船体、複数門の艦砲、おそらくそれは戦うために作られた船であった。
「よーしこれで……うん?」
 ムゼカマシンを自らに格納し、艦砲射撃でさあ蹴散らしてやろう。と思ったのも束の間、風音はその飛空艇となった身に違和感を覚える。
 なーんか、お腹の上がもぞもぞするような、誰か乗っているような。
 おかしいな。ここまで自分一人だったはずなのに。
「あ、見つかっちゃったっす」
 いた。甲板の上でそれは、てへっ♪ と申し訳なさそうでもない感じでそろりそろりと艦橋に隠れようとしていた。
 その顔に見覚えのある風音は、すかさず伝信管を開ける。
「今までいなかったよね、どこにいたの?」
「伝説の島クジラを見に行くって言ってたじゃん。密航で悪いけど、この船の中」
「私、今まで人型だったんだけど!?」
 飯綱・杏子(飯テロリスト・f32261)は、悪魔である。その名も食道楽の悪魔。
 なんと、今までガレオンに変形してもいなかったらしい風音に忍び込んでいたようだ。
 どういう絡繰りなのか、船は最初から二隻あったのかとか、ルール的にアリなの? とか言われそうなものだが、悪魔だから。悪魔だからその辺は何とかなるんじゃだろうか。
 そう言う事にしておこう。
「居心地は悪くなかったよ。ネズミ先輩もそう言ってたっす」
「ネズミ居たの!?」
 風音的にはそれはショックな報告だったが、相手は悪魔だ。ひょっとして自分を担ぐためのブラフか何かではないのか。
 だがしかし、おいしいご飯の為だけにあちこち世界を渡り歩くという変わり者が、そんなしょうもない嘘を吐くだろうか。
 えー、ネズミかぁー、今度掃除しとかないとなぁ。
 などと悩むのもほんの一瞬、
「風音さんが撃沈される前には逃げるから安心してもいいっすよ」
「不吉なことを言わないで!」
 調子のいいことを言いながら、杏子の目線は上空に群がる魔獣たちに狙いを定めているようだった。
 それは狩猟者のような眼差しであり、また未知なる食材に向き合う彼女なりの真摯な態度であった。
 派手派手しい、いかにも悪そうな衣装の上から丈夫そうなエプロンをかけ、臨戦態勢になる杏子とともに、風音もまた周囲を見やる。
 言い合いをしている内に、すっかり艦砲の間合いの内側に入られてしまった。
「仕方ないから、無賃乗船分は」
「うん、身体で返……働いて返すよ」
 不穏な言葉が聞こえたような気がしたが、もはや問答をしている時間はなさそうだ。
「突っ切るよ。船に取り付いた奴はよろしく!」
「オッケイ、食材調達はお任せっす」
 船に積んだ砲が使えないならば、と風音はユーベルコードを発動。
 スピードでは誰にも引けを取らない。
 その誇りとも言うべきこだわりは、恐らく自身の設計思想によるものかもしれない。
 即ち、ガレオンと化した風音は音速にして約マッハ6.6の最高速で以て魔獣たちの胸の中を突っ切っていく。
 その船体が巻き起こす衝撃波はすさまじく、【ガレオン・ショックウェーブ】が及ぼす余波によって、魔獣たちはその身をすり潰され、引きちぎられていく。
 その速度は猟兵であるためか、全盛の頃を遥かに凌駕するものであり、高まり過ぎた速度によって生じる衝撃波同様、機体が徐々に悲鳴を上げていく。
 その衝撃が及ぶ中でも、運よく甲板にへばりついたドーンテンタクルスの何体かは、引き千切られることなく無事であった。
 船上では多少無茶なスピードで航行しても風防が衝撃を逸らしてくれている。
 機体が壊れでもしない限り、甲板は激しく揺れる程度で済むようだ。
 それが風音自身の身に危険を及ぼす可能性もあるのだが、今はその甲板上には杏子がいる。
 船体に吸盤とそこから生える鉤爪でへばりついて、器用に直立するドーンテンタクルスを前に、杏子はひとまず手を合わせる。
「いや、実に活きがいい。いただきまっす」
 合掌を解き、手の甲を曲げて指を下げるような構えは、激しく揺れる甲板の上でもゆらゆらと衝撃を緩和しているかのようだった。
 降魔酔拳の使い手でもある杏子は、果たして素手による武術が巨大イカに通用するかどうか図りかねていたが、どこからかちぎれ飛んできたイカ足のきれっぱしを掴み、一口食い千切ると、そんな些細な懸念は霧散する。
「うんま、噛めば噛むほどぉ……吸盤もコリッコリでたまんないっすねぇ」
 もちゃもちゃとイカ足を生で食べきると、あからさまにイカたちの警戒度が増し、体表の発行体がチカチカと明滅する。
 ほほう、ひょっとしてコンタクトをとろうとしているのかな。
 などと好意的に勘違いした杏子が、構えを移行してイカ踊りのようにふらふらと友好的に振舞ってみるが、どうやら交渉は決裂したようで、
 鞭のように振るわれる触腕のその先に尖った爪がきらめくのを、杏子は咄嗟に丸めた手の甲で弾く。
「なんだよ、友好的に苦しませないよう絞めてやろうと思ったのに」
 仕方ないとばかり、杏子は船の揺れを利用してふわりと低く跳躍。
 滑るようにしてドーンテンタクルスの目の前まで肉薄すると、その勢いのままにポンチェン……即ち拳を繰り出し、強かに眉間を打ち抜く。
 魚介類の中枢神経は、だいたい目と目の間にあるという。そこを強打すると、昏倒するという漁師の知恵である。
 深い打撃によってぐらりと体勢を崩したイカに、すかさず足元に転がっていた船の備品と思われるバールのような何かを蹴り上げ手に取ると、イカの嘴にも見えるカラストンビに突き入れる。
 びくびくんと数度痙攣すると、今度こそイカは絶命し、体表の発光も電源を落とされたかのようにスーッと消えていく。
 猟兵としての仕事はこれが初めての様だったが、あまりにも鮮やかな手際である。
 それは、【フードファイト・ワイルドモード】によって、イカ肉を頬張るほどに戦闘力を増強しているというのもあるが、この手順は拳闘の術理というよりかは、食材の下拵えにも近いのであった。
 美食家は、優れた料理人としての側面も併せ持つというが、その食材を生き絞めにする知識は紛れもなく食道楽であるからこそのようだった。
「さあ次、もっとおいしいイカをちょうだいよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

常田・賢昭
・ふむ、どうやらここの主か、あるいは住人は我々に積極的に敵対することはなさそうですが、協力してくれることもなさそうですな。
お話くらいはしてもらえそうなのですが、まずはこのイカの群れをイカ刺しにしてしまいましょうか。

・「推力移動」「軽業」「空中戦」でイカと空のダンスと参りましょう。墨は回避に専念。この墨はパスタに合いそうですねぇ…おっと私としたことが。
触手を「切断」して戦闘能力を奪っていき、UCかあるいは「貫通攻撃」での急所攻撃で一匹ずつ確実に仕留めていきましょう。

・ところで、このイカを食べた事のある方はおられますかな? わたくしは残念ながら未経験なので、どなたかご教授願えますかな?



 ガレオン船『セントミラ』は無事に着地点を見出し、その船体を島クジラの背の島へと着ける事に成功したのだが、無事と冒険に胸躍る船員たちを待っていたのは、大人の人間ほどもあるドーンテンタクルスの群れの襲来だった。
 空の魔獣であるこのイカは、空中を泳ぐのもさることながら、その獰猛さは幾つもの島々で家畜や人を襲うことで知られる。
 ただ、空域によっては分布しないという話もあるので、その見た目の煌びやかさに隠れた狂暴性、肉食性を知らずに近づいて締め上げられるものも少なくない。
『私はそいつらが、あまり好きじゃない。ただ生を謳歌しているのだから仕方のない事だけど、あちこち食い荒らすのは汚いもの』
「チッ、じゃあ見てないで追っ払うのを手伝っちゃくれないかね!」
『あなた達だっておんなじよ。そこら辺に落ちてるものを、何でも拾っていくじゃない。それも生きているのだから、仕方のない事だわ』
 島のどこかから響く少女の声は、達観したような諦めた様な口ぶりであるが、意外にもエドワードの怒鳴る様な声にも、律儀に答えたりしてくれることもあるようだった。
 ただ、問いに応じる事はあっても、絶対に手は貸してくれないようではあるが。
「ふむ、どうやらここの主か、あるいは住人は我々に積極的に敵対することはなさそうですが、協力してくれることもなさそうですな」
 セントミラの面々と足並みを揃えるべく、島の探索から船の方に戻っていた常田賢昭は、この島のどこからともなく響いてくる少女の声に聴き耳を立てていたが、そこから得られる情報があまりなさそうなことを悟ると、ふーっと息をつく。
 紳士たるロケットナイトは、その隙の無い紳士服も然ることながら、佇まいも常にぴんと糸を張ったような綺麗なものであり、その思考は佇まいの静けさとは反対に素早く次に移行する事を考える。
 今は、話し合いに興じる時ではない。
 何しろ、船の周囲の空に群れるイカの魔獣たちは、なかなかに縄張り意識が強いらしく、異邦者であるガレオン船などは格好の的だ。
「イカどもを何とかせにゃあ、島の探索もままならんぜ、ミスター」
「ふむ、ではこのイカの群れをイカ刺しにしてしまいましょうか」
「イカ刺しだってぇ? そいつは、東方の生き絞めだな」
「おお、流石は船長殿。よその国の流儀もご存じとは」
 エドワードと賢昭、ついつい歓談に発展しそうになるが、敵はそれを待ってはくれない。
 おっといけない、と軽く咳払いと共に、賢昭は甲板から飛び上がる。
 かっちりとした紳士の装いからついつい忘れてしまいそうになるが、賢昭はロケットナイトである。
 その身にロケットの推力機関を装備して、空中を駆ける騎士である。
 その機動性に堪え得る風防鎧は板金を仕込んだタキシードという最小限のものであり、推力と言えば革靴に似せた天使核ロケットシューズによるものであっても、その動きは鎧を着込んだ前線の騎士となんら遜色ない。
 空を食む靴裏が天使核による噴出機構の反発力で蹴るように空に飛び立つと、ドーンテンタクルスと対峙する事になる。
「よく踊る。では、一つ私とダンスでもいかがかな?」
 すらりと、腰に下げるのみの武器を抜き放つ。
 透き通る蒼い刀身のエアロレイピアを、空中に生えた固い樫の木のような厳格な姿勢で抜き放てば、その迫力を前に戦闘態勢となったイカたちがその表皮をチカチカと攻撃信号を出しながら嘴を尖らせる。
「むっ!」
 その予兆を逃さず、圧縮されたイカスミの弾丸を体捌きのみで回避する。
 僅かな姿勢の変化と共にロケットブーツの出力を調整する事で、最小の動きながら弾道から身を逸らすその身のこなしは、素早く無駄なく、ダンディ。
 だが、あまりにもギリギリで躱したせいか、高圧で撃ち出されたイカスミが賢昭のタキシードのその襟の一部を切り裂き、黒く染めていた。
「ほう! この墨は、パスタに合いそうですね……いや、私としたことが」
 服に残るイカスミを指で掬い、そのぬめりから想像できるほどに、うまみ成分を感じ取る。
 紳士たるもの、その戦闘力も当然のことながら、身の回りの全てを平凡以上にこなせねばならない。
 それは見識も、料理の腕も……だからこそ、わかってしまう。この墨はうまい。
 だが今はそれどころではない。出会いに感動するほどの旨味たっぷりのイカスミにかまけている場合ではないのだ。
 その間にもイカの数体から狙いを付けられた賢昭だが、巧みな体捌きでイカスミを躱す。
 そしてそれらが途切れる瞬間を見逃さず、ひときわ強く踏み込む。
「私と踊るには、少々手足が多すぎ、そして物騒だ」
 素早く肉薄するその踏み込みの勢いのままに、レイピアのその細身に相応しい速度で、その刀身がうなりを上げる。
 【薔薇の剣戟】により、最小の動きで振るわれる刃の軌跡からは薔薇の花弁が散り、そのたびにイカの手足が速やかに斬り飛ばされる。
 相手を絡め取り、外れにくくするための吸盤と爪が付いた触腕が綺麗に斬り落とされると、悪あがきとばかり嘴の奥に墨が溜まるが、それより早く、レイピアの突きがその中枢神経の通う眉間を貫き絶命させる。
 そうして、十数体ほどを手早く切り伏せると、船員の奮戦もあってガレオン船の周囲はようやく穏やかになる。
 甲板の上に降り立った賢昭は、ぐったりと燃え尽きたかのように手足を放り出して体表を白くして〆られたイカの一体を興味深そうに見やる。
「ところで、このイカを食べた事のある方はおられますかな? わたくしは残念ながら未経験なので、どなたかご教授願えますかな?」
「よしよし、軽い下拵え程度なら、俺も故郷でさんざんやったぜ。コックもいるし、まあ見てなよミスター」
 散々動いた後には腹が減る。
 まだまだ完全に安全な状況とは言えないが、島を探索するとなると腹ごしらえも必要だ。
 顔つきは壮年に足を踏み入れかけている賢昭であったが、まだまだ何かを学ぼうとするその目つきは、少年のようですらあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
イカが空を飛んで襲ってくるとはな。ここが異世界だって事を実感させられるぜ。

亡霊騎士団、喚起。
数には数で対抗するまでだ。
あの墨はどうせ毒か何かだろうが、屍人に毒は効かねぇぞ。俺自身も「毒耐性」で凌いでみよう。

イカが剣の間合いまで降りてくれば、双剣で「生命力吸収」と「精神攻撃」で削っていく。
精神力無さそうだし、「精神攻撃」を重視した方がよさそうだ。

亡霊騎士団は、長槍でイカを突き刺して地表に引きずり下ろし、剣でとどめを刺せ。騎兵相手の戦闘教義と同様に考えろ。
確実に数体がかりで一匹のイカを仕留めろ。

俺の受持は終わったか?
こいつら、喰えるんだってな? 保存は利くのか?
帰路の献立は毎日イカになりそうだな。



 ガレオン船『セントミラ』の着陸地点を見定め、それを迎えたユリウス・リウィウスであったが、そのまま船員と共に島クジラの島を探索の続きを行おうとした矢先、魔獣の襲来を告げる知らせが入ったのだった。
 厚い雲で空を遮られたダークセイヴァー出身のユリウスからすれば、ブルーアルカディアの空は、それはもう美しく広く高く感じるものであったが、それだけに見慣れた空には存在しない空飛ぶ魔獣のレパートリーには驚かされる物ばかりであった。
 今回の相手は、なんと空飛ぶイカときたものだ。
 ドーンテンタクルスは、家畜や人などにも襲い掛かる獰猛な魔獣という話だが、見上げた空にチカチカと表皮を発光させながら優雅に泳ぐように空を飛ぶ姿は、やはりどう見てもイカだ。
 いや、ユリウスの知る実物と比べてかなり巨大な個体ではあるのだが、島クジラのような規格外の巨大なものを見た後だと、流石の魔獣とて見劣りする。
 それにイカだし。
 だが、立派な体格の胴体部だけでも成人男性とほぼ変わらないサイズだというのだから、その触腕の膂力は凄まじいものがあるのだろう。
「イカが空を飛んで襲ってくるとはな。ここが異世界だって事を実感させられるぜ」
「うん? おたくの故郷じゃ、イカは飛ばないのか?」
「飛ばないな。その代わり、もっとろくでもないものが飛んだりはする」
 忌々しい血筋として我が身に眠るそれを思い起こすたび、ユリウスの目つきは険しくなるのだが、それを知ってか知らずか、セントミラの船長エドワードの顔は明るい。
「俺の知らない世界ってのは、どうにもわくわくしてたまらねえな」
「その前向きさは、見習いたいもんだ」
 冒険者たるエドワードの凄まじいポジティブ精神というのは、ほとんど戦場巡りだったユリウスにとっては羨ましいものでもあった。
 だが同時に、世の中には見なくてもいいものだってあるのだと思ってしまう。
 度量と環境の問題だろうか。
 だができることなら、たくましい冒険心というものを、失わせたくはない。
 船の守りをエドワード達に任せ、ユリウスは一人、船から離れてイカの魔獣の群れに対峙する。
 とはいっても、ユリウス自身は空を飛ぶわけではなく、迎え撃つのはあくまでも島からだ。
 わざわざ敵のアドバンテージがある場所を戦場に選ぶ必要もない。
 それに、数が相手ならば、両腰の二刀で一つ一つ切り伏せるよりも、もっと手数を用意する方が手っ取り早い。
「数には数で対抗だ。【亡霊騎士団】、喚起」
 死霊術士でもあるユリウスのその身の回りに影のような黒い霧が広がり、武装したゾンビや骸骨の戦士が這い出して来る。
 それぞれに剣や槍、鎧や盾を身に着けてはいるものの、それらの武装はあくまで近接用。
 空中を泳ぐドーンテンタクルスに容易に届くものではない。
 だが、装備した剣や盾を打ち鳴らして威嚇するアンデッドの騎士団を前に、イカの魔獣たちは妙に興奮し始める。
 彼らは人や家畜を襲う肉食であり、その性質は狂暴である。
 そこに根差すのは、発光器官を備えた独特のコミュニケーションも関係している。
 威嚇や求愛などにも用いるそれから推察できるのは、その縄張り意識の強さである。
 ドーンテンタクルスは、この島を自分たちの縄張りだと思っているらしく、そこに多くの人員、今はアンデッドだが、それらが煽るように騒音をまき散らせば、怒りもする。
「フン、単細胞め。自分の庭と思ってる場所に人が入るのは嫌なもんだろう」
 敵に手が届かないなら、来たくなるように仕向ける。
 黒騎士として戦場に身を置いていたユリウスなりの戦闘知識の一端である。
 果たしてその策は功を奏し、亡霊騎士団に覆いかぶさるように飛来するイカがその嘴からイカスミを弾丸のように飛ばしてくる。
「毒か何かだろうが、屍人には効かんし、俺にも耐性があるぞ」
 凄まじい圧力をかけたイカスミの銃弾は、木々に穴をあけるほどのものだが、アンデッドは幾つか吹き飛ばされるものの、すぐに立ち上がって戦列に戻る。
 ただ、ユリウスに誤算があったとすれば、それは毒などではなく本当にただのうまみ成分たっぷりのイカスミであったことか。
「む、お前達、何をしている」
 ゾンビが身体に浴びたイカスミをべろべろ嘗めとっているのは奇妙な光景だったが、それ以上の奇行は見られない。
 ただ、ユリウスの使役術をもってして、死人の味覚すら呼び起こす旨味とはいったい……。
 気になるところだったが、それはまあ置いておいて、水圧弾を使うにはそれなりに近づかなくてはならない。そして、覆いかぶさるように飛来するイカには、どうにかアンデッドの長槍が届いた。
 届きさえすれば、その槍穂に引っ掛けて数にものを言わせ、イカを地表まで引き摺り下ろせばいい。
 さすがにドーンテンタクルスも無抵抗という訳にはいかず、10本あまりの手足を群がる騎士団に絡みつかせてその手足を締め上げ、捩じ切ろうとするが、それも数違い過ぎる。
 一体二体は封じ込められても、次々と圧し掛かられ、剣や槍で刺されればたちまち押しつぶされ、蹂躙されてしまう。
「よし、間合いまで引き寄せられれば、こっちのもんだ」
 多くのアンデッドが畳みかけ、山のように群がるのを足場に、ユリウスは両腰に下げた黒剣を引き抜いて空中のイカに飛び掛かる。
 『ソウルサッカー』と『ライフイーター』は、それぞれに精神と体力を食らい、奪い取る。
 簡単に挑発に乗るその精神構造は野生動物と大差ないだろう。
 双剣を振るうユリウスは、主にイカたちの精神を同時に攻撃していく。
 それにより昏倒、すぐさま止めを刺すと、ドーンテンタクルスの表皮は輝きを失い青白く生気を失っていく。
「よし、引き摺り下ろせばこちらのものだ。騎兵相手の戦闘教義と同様に考えろ。
 確実に数人がかりで仕留めろ」
 自身もイカを仕留めつつ、アンデッドたちに指示を飛ばす。
 それは迅速に、そして確実にイカの数を減らしていった。
 そうして、ユリウスの甲冑がイカスミに黒く塗られるほど戦い抜いた頃、気が付けばイカの襲来がなくなっていた。
「ふー、俺の受け持ちは終わったか?」
 顔に浮いた汗を拭った拍子に、イカスミをちょっと嘗めてしまった。
 ふむふむ、毒は旨味が強いと聞くか、本当の話なのだろうか。
 いや、これ毒じゃないぞ。むしろ、なんで普通のイカスミを飛ばしてきたんだ。
 空の世界は謎がいっぱいだ。と納得しかけたところでそういえばと思い出す。
「こいつら、食えるんだったな……保存は利くのか?」
 空の世界の魔獣は、物によっては食用にもなるという。
 まして、ドーンテンタクルスの肉は、なかなかに美味であるという。
 海産物の足は速いと聞くが、保存がきくなら……、
「帰路の献立は、毎日イカになりそうだな……」
 アンデッドたちに仕留めたイカの運搬を指示しつつ、イカのおいしい食べ方がいくつあったかをどうにか思い出そうと試みる。
 同じ調理法だと、ほら、飽きるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
◎連携OK!

【烏賊漁🦑】
烏賊だー!
なんだか説明聞いた限り美味しそう!よーし!こんなこともあろうかと、用意して置いたこれの出番だ!(ユーベルコヲド)

じゃーん!
空中捕獲用投網ネット!
もちろん空中用にフローターやショック装置も付いた魔獣相手もお手の物の一品さ!

烏賊の動きを遅くするのに、機関銃に凍結属性の弾頭を仕込んでおいて、鮮度を大事にしていこう!
防禦に関しても、ヨナの潮吹防護幕(受け流し)で防いだり、対策もきっちりやっていこう!

船に取りつかれたら?
うーん。あ!ヨナを金ピカにするシステム(存在感)!あれの応用で、相転移装甲の金ピカに電撃を乗せれば防げるよね!



 ブルーアルカディアは竜の巣と呼ばれる乱気流の溜まり場を超えたその中で、この空の底とも言われる雲海の上を泳ぐ島クジラを遭遇する。
 この世界にいくつも浮いている島を、そのまま背中に乗っけたような、それはもう巨大なクジラのような魔獣……と言われている。
 国栖ヶ谷鈴鹿は、その興味の赴くままに島クジラの生態を観察すべく、『ソラクヂラ型航空巡航艇ヨナ』に乗り込んでガレオン船『セントミラ』と連れ立ってやって来たのだった。
 島クジラに執心のあまりセントミラの動きをすっかり見落としていた鈴鹿であったが、観察に一段落がついたところで、本来の目的を思い出したらしい。
 セントミラは既に島クジラの背の島に着陸しているようで、それを追いかけて鈴鹿もまた島の方の探索に向かうべきかと、ようやく着陸準備へと移行しようとした矢先の事であった。
「うん? なんだろう、生体反応がある……これは」
 周囲から読み取った反応は多数であり、それはどうやら敵対する存在、すなわちオブリビオン……この世界に於ける空の魔獣である。
 なるほどそういえば、予兆を見る限りでは、島に近づく船に攻撃を仕掛ける何かの存在が示唆されていた。
 ならば、着陸しているセントミラに変わって、鈴鹿はヨナで以て相手せねばなるまいと、自らのガレオンの火器管制をオープンにする。
 改めて参照したデータによれば、相手はドーンテンタクルス。
 ぬめぬめとした触腕を含む触手が10本あり、頭は槍穂のようなヒレが付いていて、大きな目と嘴が鳥のようにも見えなくもない、が……これはどう見ても、
「烏賊だー!
 なんだか説明聞いた限り美味しそう! よーし、こんなこともあろうかと、用意して置いたこれの出番だ!」
 敵魚群を捉えた鈴鹿は、その有様を見て目を輝かせる。
 魚介、とりわけタコやイカというのは、見た目にちょっと厳しいものがある。
 食用にする文化は、それこそ地方によるのだが、鈴鹿の育った場所はサクラミラージュの帝都。
 イカの利用は、数限りない。
 かの地で水揚げされるものと比べると大分大型だが、話によればこのドーンテンタクルスというイカも、その肉質は美味であるという。
 子供の頃に夜店などで口にしたこともあるイカ焼き。あれもおいしかった。
 食うことに関しては妥協のない日ノ本生まれとしては、どうにか捕獲する方向に一瞬でするのであった。
 そんな鈴鹿が選んだ武装とは、【超高精度近未来観測機構・甲】によってちょっぴり先の未来を演算したかのような機構から出現、即時ヨナの武装として実装される。
「じゃーん!
 空中捕獲用投網ネット!」
 見た目には4連装ロケットランチャーのようにも見えなくもないが、空の魔獣を捕まえても容易には逃れられない強靭なネットに加え、鎮圧用ショック機能、空中から落っこちないよう、先端部はフローターにもなる。
 じつに、ブルーアルカディアで魔獣を捕獲するために作られたかのような、まさしく『こんなこともあろうかと!』出てきた秘密兵器だった。
 だがしかし、相手は空の生物。投網を用意したとて、そうそう簡単に捕まってくれるとは限らない。
「よく狙って、相手を追い込まなきゃ……機関砲、非殺傷氷結モード」
 紅路夢にも積んでいる二門の多目的機関銃を特殊弾頭に切り替える。
 それらがうなりを上げて砲口を回転させれば、冷気を振り撒きながら飛散する弾頭がドーンテンタクルスの群れに襲い掛かる。
 冷たく身を凍らせる弾雨を嫌ったイカたちはこぞって移動を開始するが、それはおおむね鈴鹿の思惑通りのルートをとっていく。
 だが一部の個体は、敵意をむき出しにして鈴鹿のヨナへと立ち向かってくる。
「わわ、取り疲れちゃう! 防護幕展開」
 20mクラスのヨナを一人で操船するとなると、動きはやや緩慢になるものの、独創的未来派芸術家がそれを想定していないはずもなく、クジラを模した機構通り背中にあたる部分には潮を吹くついでに防護幕を展開する機能も積んでいる。
 上から下へと流れを作る潮吹き防護幕により、ヨナに襲い掛かるドーンテンタクルスの多くは流されていくが、それでも根性のある個体がその吸盤と爪を船体に引っ掛けてへばりついた。
「おお、流石はイカ。かなりしつこい!」
 鈴鹿は焦ることはなく、むしろその吸盤の吸着力に感心する。
 だが、ドーンテンタクルスの根性もそこまでであり、鈴鹿もまた接近戦対策に防護幕一つだけというわけもなかった。
 ずんぐりしたクジラのような船体が、或はハイカラさんの鈴鹿その人と同じようにペカーッと金色に色づいたかと思えば、その表面装甲に電気ショックが奔る。
 巨大な船体をお掃除するのに手っ取り早いという理由から取り付けたブラッシング機能の一種だが、表面に取り付いていたイカはひとたまりもなく、全身をうねうねとさせた次の瞬間にはくてーっと脱力して落ちていった。
「よーし、こっちも追い詰めた! 発射ー!」
 団子状態になるまで追い立てたドーンテンタクルスの一群に狙いを定め、ついに秘密兵器の捕獲ネットを発射する。
 大きく広がるネットがイカたちをくるみ込んで、その隙間から手足を伸ばすも、次の瞬間にはショック機能がアクティブになり、数度の発光と共にイカたちは動かなくなった。
 完全に止めは刺していなかったので、念のために氷結属性を持たせた機関砲を幾つか撃ち込んでおき冷凍保存しておく。
「烏賊ちゃんゲット! ……こんなにたくさん、どうしようかな」
 捕まえた後になってから、ふと冷静になった鈴鹿であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミフェット・マザーグース
ティエル(f01244)と一緒にイカを迎撃するよ!
聞こえてきたのはだれの声?やっつけたらお話聞かせてね!

クジラさんから聞いたこと、ちゃんと確かめなきゃダメだと思うから
今はイカさんをどうにかしなきゃ!、
ピカピカ輝く妖しいイカフラッシュに、すかさず即興のお歌をかえすよ

UC【一人ぼっちの影あそびの歌】
髪の毛の触手を上に広げて、同じく虹色にぴかぴかーって光らせるね
光には光、みんなを操ったりさせないんだから!

♪イカのイカしたゲーミング フラッシュ一つであなたもフレンド
そんなイカサマ ノーサンキュー
インスタントなフレンドよりも キラッと目覚ましフラッシュいかが?

協力できそうな猟兵さんがいたら連携するね!


ティエル・ティエリエル
ミフェット(f09867)とイカ退治!
それが終わったら、話しかけてくる女の子を探しに行かなきゃだね♪

むむむー、お空のイカは空を飛ぶんだね!
島クジラさんの餌にしちゃうよ♪

ようし、それじゃあ空から襲い掛かってくるならボクが迎撃に行ってくるぞ☆
背中の翅を羽ばたいて飛び立てば、イカの間を飛び回って「空中戦」で翻弄しちゃうね♪
墨を吐きかけてきたら、あわわわって風の「オーラ防御」ではじき返しちゃうよ!
最後は【妖精の一刺し】でドーンって貫いちゃうぞ♪

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 島クジラとのコンタクトを取るのにまさかの成功を果たしたミフェット・マザーグースとティエル・ティエリエルは、大きく寡黙な島クジラの言葉の意味を確かめるため、ガレオン船『セントミラ』の一団と共に、島クジラの背の島に着陸していた。
 島クジラは、その存在自体が巨大だ。目だけでも、ガレオン船より大きいのだ。
 それは一声上げるだけで背の島を揺るがし、そこに住まう野生生物を慌てさせる。
 だから島クジラは滅多なことでは口を開かぬという。
 こういうと無理矢理喋らせたみたいにも思えるが、実のところ島クジラの気性はとても穏やかと言うか、のんびり屋であったと、意思を交わしたティエルは言っている。
「おっきな身体だからね。ものすーっごく、気が長いみたい」
 ほんわかした口ぶりであったが、ティエルとミフェットは、既に戦う準備をしていた。
 島に上陸したはいいものの、久しぶりに島クジラが声を上げ、あまつさえ島に来訪者たるガレオン船まで乗り込んでいるのである。
 背の島を縄張りとしているらしい獰猛なイカの魔獣、ドーンテンタクルスの大群が、島の上空に群がっていた。
「くそう、やつら見計らってやがったな」
 セントミラの船長、エドワードが憮然とした顔で折り目の付いた革の帽子に手を突っ込んでばりばりと頭を掻く。
 冒険者として空を往く勇士を乗せるセントミラには、それなりに空の魔獣と戦うための武装も用意してある。
 しかし今はもう島に降りてしまって、その武装はほとんど使えない。
 船の固定武装を使えば、イカの魔物もそれなりに楽に狩れる相手だというが、まさか空という優位性を取るために待ち伏せを行うとは、なかなか強かなイカである。
「ミフェットも、ティエルも手伝うよ! 聞こえてきた女の子の声も気になる」
「うん、イカ退治だ! それが終わったら、話しかけてくる女の子を探しに行かなきゃだね♪」
 困りつつ、困ったままでもいられない決断を迫られるエドワードの背中を押すように、子供二人の猟兵は元気にハイタッチ。
 その天真爛漫たる姿を目の当たりにした船員たちはそれぞれに顔を見合わせる。
「いい冒険心だな。野郎ども、お子様に夢のでっかさで負けるなよ! なんたって、俺たちゃでっけぇクソガキなんだからな!」
 エドワードの快活な檄が飛び、船員たちも武器を手に手に、おおっ! と声を上げる。
「ようし、それじゃ、ボクが迎撃に行ってくるぞ☆」
 上がったテンションそのままに、空を飛べる小さな妖精のティエルは我先にと船の上へと飛び上がる。
 ドーンテンタクルスの表皮は発光器官をもっているが、それでなくとも表面の色を変化させて空に近い色を再現する。
 完全に空と同化するようなものではないが、遠くからだと見えづらい程度には擬態できるようだ。
 いや、それ以前に、ティエルにはやっぱり変わって思える部分がある。
「むむむー……お空のイカは空を飛ぶんだね!」
 冒険譚が好きなティエルは、イカの怪物の話を知らないではないが、それはあくまでも海の生物の域を出なかった。
 そもそもどうやって飛んでいるんだろう。
 まあ、クジラだって空を泳いでいるわけだし、イカがいても不思議ではない。
 シンプル思考のお子様は、それがそうなら、そうなのだとシンプルに受け入れるのだった。
 きらきらと光を帯びる鱗粉を振り撒いて相手の戦力を推察する。
 相手は10本足。その手数と膂力は凄まじいだろうし、イカならば墨も吐いてくるだろう。
 間合いには注意しなくてはならない。
 キラキラと言えば、イカの体表に斑点のようにチカチカと七色に光る発光器官だが、あれは何の為についているのだろう。
 一説によれば他の個体との意思疎通や求愛や威嚇の為とも言われているが、星空に擬態する為に進化したとも言われているようだが、ティエルはそこまでは知らない。
 ただ流動的に虹色の輝きを纏わせるその光を見ていると、なんだかぼーっとしなくもない。
 それによく見れば、手足の動きもなかなか優雅で可愛らしいような気もしてきた。
 ゆらゆらくねくね、ついついつられて真似してみたくなるような。
「ティエルー! 踊ってる場合じゃないよー!」
「はっ! つられちゃった!?」
 愛用のレイピアを手に戦闘に臨む態勢だった筈のティエルだったが、敵を観察する内にイカの放つゲーミングフラッシュの影響を受けてくねくねと踊っていたらしい。
 一説によると、魔獣の研究家をやっていた者がこの七色の催眠光線を見続けた結果、怪しい踊りに目覚めて一晩中イカと共に踊り続けたという話もあるが、二人は知らない。
 踊りを踊らされていた間はなぜか攻撃してこなかったドーンテンタクルスだったが、ミフェットの呼びかけによって正気を取り戻してからは、なぜか全身の発光器官を攻撃色に染めて、一斉にその嘴から墨を吐いてくる。
「あわわわっ」
 その墨攻撃は、すぼめた嘴から水圧カッターのように撃ち出され、その弾速にはティエルもさすがに手にしたレイピアから風の魔法で防壁を作るしかできなかった。
 ぱいーん! と液体のはずなのに固形がぶつかる様な音が聞こえ、思わずのけ反ってしまう。
 風の防壁で弾いたとはいえ、凄まじい水圧である。
 飛び散ったイカスミは、お子様の舌にはしょっぱさの方が強かったらしい。
「空なのに、潮の味がする」
 不意を突かれたとはいえ、いいように踊らされて躱すこともままならないとは、避けて刺すを生業とする妖精の猟兵ティエルにはちょっとだけカチーンとくるものがあったらしい。
「このー、島クジラさんの餌にしちゃうよ!」
 ぷんすこと諸手を上げて怒りをあらわにするティエルが再び加速する。
 一度かかったなら、もう一度かかる筈。待ち受けるイカたちは再びその身を七色に発光させるが、
「残念だねイカさん。ピカピカ輝く妖しいイカフラッシュ! それはもう見たよ」
 停泊したセントミラの船首に立つミフェットが、よく通る声で言い放つ。
 そして、いつもは穏やかな旋律を奏でるリュートを強く激しく爪弾くと、即興の歌を紡ぎ出し、彼らのゲーミングフラッシュに対抗するユーベルコードを発動する。
「♪イカのイカしたゲーミング フラッシュ一つであなたもフレンド
 そんなイカサマ ノーサンキュー
 インスタントなフレンドよりも キラッと目覚ましフラッシュいかが?」
 突如鳴り響いたリュートと、イカの魂を揺さぶる青天の霹靂にも似た歌声には、イカたちも注目せざるを得ない。
 そうして歌い上げた【一人ぼっちの影あそびの歌】により、髪に擬態するミフェットのブラックタールの触手がぶわっと広がり、七色の輝きを放つ。
 ティエルを手籠めにせんという輝きに対抗して模倣した輝きであったが、そのミラーボールめいたきらめきと、ミフェットの歌声はドーンテンタクルスのノリと意外とマッチしたらしい。
 今度はイカたちがつられてくねくねと小躍りし始める。
「な、なんだありゃあ……あんな動き、見た事ねぇ」
 セントミラの船員たちも思わす手を止めてしまうが、この場で手を止めない者が約一名。
 ティエルははようやく、猟兵の面目躍如といったところか、手にした愛用のレイピアと共に空を裂くようににして小躍りするイカたちに飛び掛かった。
「踊ってる間に、どーん!」
 もはや隙だらけのイカを次々と仕留めていくティエルだが、中には途中でハッと気づいて応戦してくる個体もいた。
 だがしかし、一度勢いに乗ったティエルは止まらない。
 空中での戦いに長けたそのスピードと小回りを活かした剣術は、10本足のイカをも翻弄し、変幻自在にして気が付けば急所を突いていた。
 そうして最後に残ったイカもスピードで翻弄し、相手が目を回してる間に、渾身の体当たり、【妖精の一刺し】をお見舞いする。
「いっくぞーーー!!」
 レイピアを手にした身体ごと、一本の槍のようにしてドーンテンタクルスを貫くと、全身発光していたドーンテンタクルスは、およよっとしおれて色を失い落っこちていった。
 それを見届け、空中で制動をかけたティエルは、全身ぬめっとした不快感は残るものの、辺りを見回し、セントミラを見つけてその無事に安堵しながらも、ふと視界の端に見えたものに目を奪われ、振り返りかけたその身をとめる。
「ミフェット! みつけたかもしれないよ!」
「え、なにー!? あ、まさか!」
 島クジラとの会話でわずかに聞いたお話。
 ──彼女は、生きたがってて、死にたがってる。
 それは僅かにオブリビオンたる何かを、慮っているような気配すらあった。
 ティエルが目にしたものは、その答えであるような気がしてならなかった。
 島に突き刺さるようにして、まるで突き出た岩山のようにも見えたそれは、古いガレオン船の残骸のようだった。
『ああ、ついに見つかった……見つけてくれたのね』
 そうして、船長も耳にしたという、あの少女の声。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『箱舟』ノア・アルクリアス』

POW   :    古の船
全長=年齢mの【決して沈まない箱船】に変身し、レベル×100km/hの飛翔、年齢×1人の運搬、【雲海から乗船させたオブリビオンの集団】による攻撃を可能にする。
SPD   :    沈まない船
非戦闘行為に没頭している間、自身の【周辺】が【激しい嵐に覆われ】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ   :    雲海に浮かぶ船
敵より【低い位置にいる】場合、敵に対する命中率・回避率・ダメージが3倍になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それは、島クジラの背の島に、突き刺さるようにしてその姿を晒していた。
 古い、それはもう数百年単位を思わせるほど古びた、ガレオン船の姿だった。
『やっと、やっと……見つけてもらえたのね。私は』
 この島を縄張りとしていたらしいドーンテンタクルスとの戦いの末に、偶然発見する事となったその船こそが、この島に巣食うオブリビオンであり、幾度となくセントミラの乗員や猟兵たちに声をかけてきた主であった。
 長らく誰も手の入った形跡のないその船が、船体に絡みついた蔦や、生した苔を振るい落とすかのように浮き上がり、そして雲海のような霧と共に姿を変える。
 霧が晴れ、船があった場所に再び立っていたのは、一人の少女。
 ガレオノイドのような存在と化した少女には、おそらく船に搭載されていたであろう天使核も内包しているはずだ。
「少しだけ、昔話をしてもいい?
 人と話すの、数百年ぶりなの。つまらない身の上話と思って、聞いてくれるかしら」
 何しろ、唯一の話し相手である島クジラは気の長い性格だし、意思の疎通が本当にとれているのかよくわからないから、と少女は笑う。
「私の名前は、ノア・アルクリアス。随分と昔に、人々をこの空に逃がすために作られた船の一隻。
 まあ、私の姿を見ればわかる通り、未完成のまま送り出されたのよ」
 ノアという船がいつ頃作られたかは定かではない。
 ただ、この世界に天使核文明が栄えるよりも前に建造され、そのポテンシャルを残しつつも未完成のままこの空に出るしかなかった。
 それだけ当時の情勢が切羽詰まっていたというのもあったが、未完成のまま人々を乗せた船は、天使核の能力を最大限に活かすことがまだできず、広く高い空に浮かび上がることができず、雲海をただ浮かんでいるしかできなかった。
「沈んでいく浮遊大陸から逃げるためには、私の上で他の船を作るしかなかった。
 苦痛だった……だって、私から離れるための算段をいつも立てているんだもの。
 そうして、私は雲海の上に放っておかれたまま。それで数百年」
 そのままやがて天使核の寿命も尽きて、ただ沈むことのない事だけが取り柄だったことすら奪われて、沈んでいくだけだと思っていたのだが、
 ある日、ノアは島クジラに雲ごと飲み込まれてしまうのだった。
「最初は驚いたわ。でもね、彼は食べたものを雲以外、背中から出してしまうの。
 この島は、そうしてできたいくつもの誤飲の集まりというわけね」
 島の上に座礁し、このまま島クジラの上で、野生動物と一緒に島の一部としてゆっくりと朽ちていく。
 そういうのも悪くないと思った。
 明日沈むとも知れぬ不安の中で、日に日に摩耗し人間性を失っていきながら、よその島へと移り住む算段を練っていたあの人々を乗せていた日々とは、まるで違う、穏やかで静かな日々。
 いつしか、ガレオノイドのように人の姿に変形することもできるようになったノアは、しかしそれでも、空を見上げずにはいられなかった。
「彼に聞いたらしいわね。生きたがってて、死にたがっている……確かにそうかもしれない」
 沈まぬ船という、みじめな空の底を這うだけの異名のまま、朽ちていくのは我慢ならない。
 なぜならば、自分は船として、空を飛ぶために作られたはずなのだ。
「だからね。ここにもし、人が訪れるようなことがあって、その時にまだ私が正気を保っていたのなら、試してみようと思ったの」
 小柄な少女に過ぎぬその姿が、その気配が大きく膨らむのを感じる。
 猟兵たちは、思わず同行していたセントミラの船員たちを庇う様にして前に出る。
 強大な敵意は無い。しかし、古び傷んでもなお、その力の奔流は本物であった。
「私はこの空に、傷痕を残して逝きたいのよ……。
 私を見なさい。ここには、数百年を生きた箱舟の粋が詰まっている。天使核もとびきりよ。
 島クジラの背には、数多の財宝が眠るという。ならば、私もその一つと言えるでしょう。
 だからこそ、空を往く者なら、私を打倒し、奪い去ってゆくがいい!」
 そうして少女は浮かび上がり、高らかに宣戦を布告する。
「だが、只でくれてはやらぬ!
 勇無き者は下がるがいい。そして、勇有る者は、このノア・アルクリアス、沈まぬ箱舟を見事撃沈せしめ、その勇名の一端に据えるがいい!」
 歓喜の声と共に、本物の殺意が降りかかる。
神代・凶津
あの『箱舟』の嬢ちゃんが、この島クジラ最大のお宝って訳か。
いいぜッ!なら、俺達とガレオン船『サントミラ』の連中が嬢ちゃん含めた一切合財の全てを奪いさってやるぜッ!
相棒ッ!
「…転身ッ!」

風神霊装を纏って空中戦の開始だ。
先ずは、箱舟の嬢ちゃんより上に陣取る為に飛翔するぜ。
勿論、向こうも上を取るために飛ぶだろう。なら風を操って向かい風をぶつけてやる。

箱舟の嬢ちゃんの攻撃は見切って風を操り受け流してやるよ。
そして、風を纏わせた薙刀で攻撃だッ!

「…出来る事なら、なるべく傷付けずに。」
おうよ、相棒。せっかくのお宝を傷物にしちゃ意味ねえしなッ!


【技能・空中戦、見切り、受け流し】
【アドリブ歓迎】



 それは恐らく、嵐の気配。
 乱気の溜まりと同じ気配が、少女に寄り集まっているのを感じた。
 ああ、なんてことだろう。
 小さな少女に転ずることもできた古いガレオン、ノア・アルクリアスはいかなる嵐の上でも沈まぬ箱舟だった。
 何故ならば、自らが嵐を纏う、自分自身が嵐を巻き起こす天使核を内包しているからであろう。
『見てきたはず、感じてきたはず。ここまでくるまでの災難と、安堵を……私の声が届く範囲を』
 ああ、なんてことだろう。
 この場に居る猟兵、船員の誰もが、怖れすら感じる。
 湧き上がる風とともに怖気が奔る。
 ノアが語るその言葉から類推するに、彼女は『竜の巣』の気象現象をある程度操作している。
 あの広大な気象現象を、この台風の目のような凪を、作り出していたのがノアだとするならば、それはどれほどの脅威となるだろう。
『なるほど、あの『箱舟』の嬢ちゃんが、この島クジラ最大のお宝って訳か』
 神代凶津と、それを被る桜は、島クジラの背の島の鬱蒼とした緑の中で風が上向きに流れていくのを感じながら、それを見上げる。
 青灰色の淡い色合いの少女が、それと同じ色の褪せた船に変じていくのが見えた。
『念のため、船の方に戻った方がいいぜ。あれは、この世にあっちゃあ駄目なモンだ』
 セントミラの船員たちに彼女の脅威をそれとなく伝え、この空で最も安心できる場所への移動を促す。
 乱気の溜まり、空をダンジョン化するという『竜の巣』その原因か、それともそのダンジョン化する乱気の中で凪を作り出すほどの力を持つのか、それは定かではないが、そんな驚異的な力を持つ船がこの世界にあったなら、どうなるだろう。
 天候を左右する。それはたしかに強力な宝となるかもしれない。
 それがたとえオブリビオン由来の力であっても、うまく使用すれば莫大な富を築くことも不可能ではない。
 だが同時にそれは強すぎる力でもある。
 なぜ彼女が、そのような力を以てしても、人々に手放されたのか。
 雲海から飛び上がれぬとしても、余りある利を何故捨てたのか。
 人にとってそれは、御し得ぬ力だったのだ。
『ずっと、この嵐の壁を突き抜けてくる猛者を待っていた……私を壊してくれるものが現れるのを』
 暴風が、箱舟を中心に回っているように思えた。
 そこから響く声は、どこか安堵しているかのようで、まるで大自然の驚異を前にしているかのような純粋な力が、その敵意の無さにこそ戸惑ってしまう。
『解せねぇことがあるとすりゃ、どうして死にたがってるかって話だったんだが、これを見せつけられちまったらな』
『あなた達ならばきっと、間違ったようには使わない。無責任かしら?』
 飛べぬことも、嵐を用いる事も、全て彼女にとって不本意なものならば、悲しく優しい、そして孤独な決意を汲むことも、猟兵の二人にとっては吝かではなかった。
 迷いは消え、桜と凶津はその意志を統一する。
『いいぜッ! なら、俺達とガレオン船『サントミラ』の連中が、嬢ちゃん含めた一切合財の全てを奪いさってやるぜッ! 相棒ッ!』
 ごうごうと吹き上がる風の中で、見上げる箱舟に向かって言い放ち、桜もまた決意を以て凶津の鬼の面を顔に重ねた。
「……転身ッ!」
 ヒーローマスクである凶津と重なることで、その身体能力は強化され、ユーベルコードは成る。
 【風神霊装・二ノ型】により、吹き荒れる暴風とは異なる風の神の力を得ると、凶津は地を蹴る。
 巫女の装いを纏う凶津と桜には追い風が纏い、その身を空高くへ押し上げて、ノアの上にまで飛び上がる。
『何事も、敵より上を取るのが上策ってもんだぜッ。奴に上を取らせるな』
「……彼女は、空高く飛び上がれないはずじゃ」
『む、避けろッ!』
 箱舟の上方に位置付けた凶津は、その位置を逆転されぬよう、風を操って向かい風を浴びせるのだったが、考えてもみればそもそも雲海の近くから空へ飛びあがれない箱舟が上を取る事はあるだろうか。
 ちらりと考えてしまったせいか、ノアがその船に乗せている黒い船員たちの存在に気づくのが遅れてしまった。
 雲海の淀んだ雲をぎゅうぎゅうに凝縮して黒くなるまで押し固めたようなそれは、オブリビオンと同等の気配を感じた。
 なんということだろう。
 彼女は、雲海に沈んだオブリビオンの影響を強く受け続けているのだ。
 そのおびただしい数のオブリビオンの一人が銃を構えたかのように見えた。
「くっ!」
 その銃弾を身を逸らし、手にした薙刀を構えることでやり過ごす。
 霊鋼の刀身を持つ薙刀は、この世ならざるオブリビオンの銃弾を一瞬でかき消す。
『蹴散らすぞ。奴らから、奪い取ってやるんだ!』
 その甲板に降り、並々と乗り込んだ黒い人影たちをまとめて薙ぎ払う。
 魔を断ち、穢れを祓う刃が触れた人影はその場で霧散して消えていくが、その数は計り知れない。
 だがだからこそ、敵しか居ないなら縦横無尽に振舞えるというものだ。
 勢いづく凶津だが、
「……出来る事なら、なるべく傷付けずに」
『おうよ、相棒。せっかくのお宝を傷物にしちゃ意味ねえしなッ!』
 この気味の悪いオブリビオン達を追い払い、狙うはこの船の核とも言うべき天使核。
 それを本体から切り離せば、彼女も止まるはずだろう。
 そう信じながら、凶津と桜は、暗雲を切り開いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ランケア・アマカ
数百年前に建造された船、しかもお話できるとは凄いです
…もっと色々聞いてみたかったですけど、やるしかないんですね

敵を覆う嵐の外から撃っても通用しなさそうですし、嵐の内側へ行くしかないですね
MF-L1の最大出力で突入します
嵐の中ではまともな機動は不可能かもしれませんが、一瞬でも内側の敵を狙える機会を得られれば充分です
逃さず【疾風塵】を命中させてみせましょう
一発で撃沈できるなんて思ってません、戦える限り挑み続けますよ

財宝も名誉も要りません
戦いの中で、大事なものが得られた気がしますから


常田・賢昭
・異世界には「ノアの箱船」という神話があるそうですな。そして、かの船はノアの箱船になれなかった箱船…といったところですか。
彼女はオブリビオン、ここで倒してもいずれまた「同じ願いを持って」何処かでよみがえることでしょうが……ええ、だからこそ満足するまで何度でも倒してみせましょう。

・決して沈まない、しかしながら破壊することはできる。船からの攻撃は「軽業」と「早業」で回避しつつ、わたくしの「覚悟」を決めた「捨て身の一撃」を込めたUCを何度でも放ち、沈まぬ残骸にして差し上げましょう。

・セントミラの皆さん、彼女の天使核を丁重に「活かして」あげてください。空に生きるあなた方なら、わかるでしょう?



 ごうごうと、島の天気が徐々に悪くなってくる。
 うっすらと予想してはいた。
 乱気流の溜まる『竜の巣』に於いて、どうして島クジラの周りだけがこんなふうにすり鉢状に晴れて気流も穏やかなままだったのか。
 初めはこの凪いだ空域を覆う乱気の壁こそが竜の巣なのかとも考えたが、ダンジョンとも言わしめるほど気流の乱れる竜の巣にしては、あまりにもがらんどうだった。
「異なる世界には神が御座し、その神は、増長した人々を間引くため、ノアという善良な男とその家族に船を造らせ、世界を嵐と洪水で覆ったと聞きます」
 島クジラの背の島。湿気を感じるが高山のような風通しを感じるこの島で見つけたオブリビオン、ノア・アルクリアスは明確な敵意を持たぬ者であった。
 されど、生きるために他者を食らう魔獣と同じように、彼女は戦う道を選んだ。
 その理由を、常田賢昭は、肌身に感じていた。
 少女の身から巨大な箱舟の姿へと変じていくその過程で、凄まじい気流を感じたのだ。
 上も下もなく、無秩序に空域のなにもかもをも引きちぎらんと吹き荒れるそれは、ここへ至るまでに体験したものだった。
「何のお話なんですか?」
「この世界ではない場所で語り継がれていた神話の一つ、だそうですな。そして、かの船はノアの箱船になれなかった箱船……といったところですか」
 吹き抜ける風が強さを増していく中、トレードマークの帽子が飛んでいかないかと思わず抑えつつ問うランケア・アマカに解説する賢昭の表情は、穏やかさを保っては居たものの、笑っても、まして怒ってもいない。
 ポーカーフェイスは紳士の嗜み、とはいえ、心中に複雑なものを抱えているらしいことは、ランケアにもわかる。
 そして、他に思考を寄せていたせいか、恩人の魔女に貰った帽子が風ではどうやったって飛ばない事を思い出し、抑えていた手をどける。
「それは違うと思います。おじ様のお話の通りなら、ノアさんは役目を十分に果たしたのでしょう。使命を果たすというのは、とても……素敵なことと、思います」
 冷静沈着なランケアは、最近は成長の実感できる部分の一つである胸元に手を当てる。
 彼女自身、死にかけたところを救われ魔女の私兵として生きる事に疑問を感じる事は無いし、むしろ過保護にすら感じるのだが、使命を全うするという一つの大業には、ノアという箱舟に尊敬の念すらある。
 ただ胸が苦しくなるのは、使命のままに生き抜いた彼女が、報われないと思ってしまうからだろうか。
 大空に未練を残すノアのそれは、粗暴な夢だろうか。
「感傷的になってしまいましたな……。しかしながら、彼女はオブリビオン。ここで倒してもいずれまた「同じ願いを持って」何処かでよみがえることでしょう」
「……はい」
「ええ、だからこそ満足するまで何度でも倒してみせましょう」
「はい!」
 二人頷き合い、空に活きる猟兵として、それぞれの飛び方でノアの待ち受ける空へと飛び上がる。
 島の上空は、既に激しい風雨が吹き荒れていた。
 これが彼女の持ちうる力だというのなら、先人がそれを持て余し、手放した理由も理解できなくはない。
 これが人の制御を離れたとき、ノアは暴走し、周囲を暴風と乱気流で滅茶滅茶にしてしまうだろう。
『決心はついた?』
「数百年前に建造された船、しかもお話できるとは凄いです。
 ……もっと色々聞いてみたかったですけど、やるしかないんですね」
『ええ、この空は優しさだけで巡ってはいないもの』
 ごうごうと耳に痛いほどの嵐の中で、少女の声だけが不思議とよく通った。
 ノアは乱気の向こう側に居る。
 対して、ランケアの乗る『MF-L1』は、この嵐の中で飛び続けるのに不安を覚えるほどだ。
 それは、ロケットシューズで空を飛ぶ賢昭とて同じであった。
「どうやって抜けよう……」
「無茶をして穴をあけてみましょうか。やはり、若者を行かせるのが、年長者のいや、紳士たる者の……」
 二人して多少の無茶を決行しようと意気込んだあたりで、周囲から爆発音が巻き起こる。
 見れば、ランケアと賢昭たちの後ろからやってくるのは、あのセントミラだ。
 船まで戻った船員たちがこちらまで船を回して砲撃しているのだった。
「おーい! 嵐の壁を抜けるつもりだろ! あのガキを殴りに行くんだろォ! 手ぇ貸すぜ!」
 遠くの方で乱暴な言葉が聞こえる。
 粗暴な冒険者だが、気のいい船長、エドワードは、猟兵の選んだ行動を全面的に手助けする気概を見せたようだ。
「なんという男だ……」
「防壁が薄まったところに、突撃しましょう!」
 砲撃により乱気の壁が薄まったところへ、銀色の箒を模したフローターが突撃していく。
 賢昭もまた、一度だけセントミラのほうへ振り向くと、踵を揃えて一礼し、ランケアに続く。
 その気流の壁を抜けた瞬間、二人を待ち受けていたのは、ノアの箱舟の甲板に所狭しと沸いていた、暗雲を無理矢理凝縮して人型を作ったかのような人影の群れであった。
 雲海と同じような淀んだそれらは、雲海に沈んだオブリビオンと同質の気配があった。
 長年の雲海上の放浪の際に、ノアは多くのものをその身に帯びたのだろう。
 雲海から這い出るその何かも、彼女に悪影響を及ぼしているのだとしたら、それを排除しない理由は無かった。
 何より、ノアを墜とすつもりなら、彼女の動力部分を破壊しなくてはなるまい。
「こっちは、私が全て好き飛ばします。おじ様は中へ!」
「む、心得ました」
 後から後から湧いてくる黒い人影に向かい、ランケアは箒の上で天使核リボルバーを構え【疾風塵】による攻撃で、人影を蹴散らしていく。
 その隙をついて、賢昭はランケアとは反対側の方へと向かう。
 オブリビオンの人影たちは、銃器のようなもので二人を撃ち落そうとしてくるが、この悪天候の中でも飛行能力を失わない二人はそれらをなんとか掻い潜って応戦する。
「一発で撃沈できるなんて思ってません、戦える限り挑み続けますよ」
 きっと、終わる頃には腹ペコだ。いいのだ。いっぱいイカも狩ったし。
 全てを出し切らないと、きっとこの堤は抜けられまい。
「名誉も財宝も要りません……」
『それは、私を倒してから言うべきだわ』
「ええ、倒しますとも。沈めはせずとも、破壊して見せましょう」
 ノアの言葉に応答するかのように、どぉん! と激しい衝突音と共に、船体が揺れる。
 それまで人影たちの攻撃を巧みに躱し、曲芸じみた機動で真上を取った賢昭がユーベルコードを放ったのだ。
 【ジェントルパンチ】。決死の覚悟と、我が身を顧みぬロケットナイト魂を込めた捨て身の一撃による、全推力を乗っけた紳士的パンチである。
 それを重力落下と推力の任せるままに甲板へと叩きこんだのである。
 その一撃はノアの甲板を破り、堅固な装甲を引き剥がすに至ったが、同時に賢昭の拳も無事では済まない。
 皮は剥がれ、肉は削げ、骨が滅茶苦茶になっているはずだが、
「安い……彼らの気概、彼女たちの想いに対して。そして、我が身のなんと侭ならぬことか……」
 震える拳にハンカチを巻き付け、賢昭は再び加速する距離を稼ぐため飛び上がる。
 汚れ一つないハンカチが一瞬にして赤く染まるが、そんなものは些細な問題だ。
 天使核を積んでいる機関室までには、まだ数枚の装甲があろう。まだだ、まだ数発はいける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六島・風音
ユーベルコード【かけっこ】
「つまり、かけっこをしたいんですね? 負けませんよ!」

かけっこ(【空中戦】)をします
話を聞かず、空気をぶち壊して、互いの背後を取り合う遊びをします

ループ、バレルロール、ロー・ヨー・ヨー、あらゆる【空中機動】を使ってノアちゃんの背後を取りに行きます

この世界の嵐はそれほど怖くない
飛翔を絶対に許さないグリードオーシャンの嵐に比べたら全然ぬるい
クロムキャバリアみたいに殺意の砲弾と機銃掃射の雨が降るオルモックに比べたって大したものじゃない
オルモック、どこ?どこでもいいや

ノア・アルクリアス。この名前を受け継ぐ船も、きっと現れる
ノアちゃんがノアの箱舟の名を受け継いだように



 ごうごうと空が鳴る。
 暴風の溜まり、竜の巣の本領とでも言うべきなのか、ノア・アルクリアスの変じた箱舟の周囲は、凄まじい風雨に見舞われていた。
 猟兵たちはその中へと飛び込んでゆくのだが、その助けに入ったガレオン船『セントミラ』は、先の竜の巣の嵐からまだ補修が済んでいない。
 この暴風の中で長時間は耐えられまい。
「くそぉ! まさか、竜の巣の中心部も、こんなにやべぇところだったとはな!
 連中を助けに行ってやりてぇが……船がもつかどうか」
 激しい嵐の中を、セントミラの船員、そしてそれらを率いるエドワードが甲板にしがみ付いて歯噛みする。
 いかに屈強な空の戦士、そして飛空艇乗りだとしても、この嵐が四六時中続けば船の方が持たない。
 そして船無しでは、ノアに追いつく手立てがない。
「──つまり、追いかければいいんですね」
 どこからともなく少女の声。そして、セントミラに交差するかのような近くを横切る一隻のガレオン。
 薄暮の波間に溶けて見えづらくするかのような、褪せた灰色の船体には複数門の艦砲、そして連装式噴進砲が備えてある。それはまさに、戦うために作られたかのような船であった。
「ガレオン……その声は、嬢ちゃんなのか!? 奴とやり合うつもりなのか!」
「行ってきます!!」
「お、おい、いくら何でも、この嵐の中じゃ……!」
 六島風音の変形したガレオンの姿を、その声のみで判別するエドワードの物覚えは相当のものかもしれないが、その制止をも振り切って、風音はスピードを上げてノアに迫る。
 目標を見出すとそれしか見えなくなるのは風音の思い込みの強さとも言えるが、それが視野狭窄に陥るわけでなく、全力投球によるものであることは、エドワードも気付くところだった。
 風音は、その身で以て、暴風を引き起こすノアと直接対決し、状況を打開しようとしているのだ。
 ……本当にそうかな?
「ノアちゃん!」
『あら……私と同じように、船から成った人がいたのね。そう、貴女はまるで、戦うために作られたような……』
「そんなことはいい。勝負だよ!」
『そうね。貴女のその砲火でなら、私を破壊できるかもしれない』
「そうだね。かけっこだね! 負けませんよ!」
『何を言っているの……?』
 いまいちかみ合わない、というか、風音の突飛なはつあんには、さしものノアもついていけない。
 しかしながら、起動する気配がないとはいえ、その砲口が向く風音の船首がノアの背後を捉えると、船としての本能か身の危険を察知したノアはその軌道を変えざるを得ない。
 背後は推進機能が集中している。そこを取られるのはまずい。
 雲海近辺しか航行できないノアとて、最低限の知識はある。
 宙返りをうつように機速を上げて、今度はノアが風音の背後を取ろうとする。
 そうはさせじと、風音もノアを追いかけまわし、まるで球体を描くかのような追いかけっこが始まる。
 無論、この間もノアの周囲は激しい暴風雨が巻き起こり、ノアに乗り込んだ猟兵たちももはやどっちが上なのかわからないくらい上下左右に振られている筈だが……。
 そんなものはお構いなしに、追いかけっこに没頭する。
 ただ、お互いに攻撃を仕掛ける事はしない。
 それが、風音のユーベルコード【かけっこ】である。
 お互いに戦闘行為を中断し、ひたすらかけっこに没頭するのだが、かけっこと言いつつ、追いかけっこになっているのはまあ、ひとまず置いておこう。
 単純なスピード、運動性能なら、風音の方が全長や重量の問題で勝っている。
 しかし、ノアの操船技術は、巨体ながら老獪である。
 あらゆる災害の中に於いて自由に動き回れ、そして失速の心配が無いという沈まぬ船は、多少強引な機動でも構わず行い、あわや失速というターン角度をとっても、機首をスライドさせるように、いうなれば空中でドリフトするようにした無理矢理軌道を変えるなどの力技を見せてくる。
「すごい……こっちのが速いのに、背中に回れない!」
 喜色に染まる声と共に、風音はノアの機動を称賛しつつ、敢えて球形の軌跡から外れるよう大きく進路を取る。
 風音の方が全長が小さいが、速度に乗る分だけターンの径は大きく取らねばならない。
 そこにさらにスピードを加えるべく、高度を利用して機速を上げる。
 ループからのローヨーヨーの要領である。
 短所を補うのではなく、長所を活かしてスピードを上げ、大回りしても追いつけないほどのスピードで背後に着けようというのだ。
『なんてスピード……でも、動きが大きければ、先を読めるというもの』
 風音のスピードに舌を巻きつつ、しかし先を読むノアが最小の動きでその更に背後を取る動きを取るのだが、
「それでも、私の方が速い……!」
 この期に及んで更に加速する風音の船体に、凄まじい暴風雨が吹き付ける。
 二人とも凄まじい嵐の中を飛んでいるのだ。
 びりびりと痺れるような痛みが船体に走る。
 上がり過ぎた機体速度に船尾が流され、テールスライドを起こし始めている。
 だがそれこそが狙いだった。
 乱気流が、失速のリスクが、質量を伴うかのように風音の身体を打ち付ける。
 だが、怖くはない。
 この空は、とても美しく、自由だ。
 空を往くことを頑なに許さぬグリードオーシャンとはまるで違う。全然ぬるい。
 それに吹き付ける風雨も、クロムキャバリアみたいに殺意の砲弾と機銃掃射の雨が降るオルモックに比べたって大したものじゃない。
「オルモック……、って、どこ? どこだっていい!」
 だいたいクロムキャバリアをこんなスピードで飛んだら、成層圏から殲禍炎剣による一撃がって……そんなことをどうして知っているのだろう……。
 いや、今は考える時ではない。
 機体後部が流されるまま、失速しないギリギリの角度を取り、風音の機体は筒を描くように飛ぶ。
 いわゆるバレルロール。
 主にドッグファイトなどで、砲火を切り抜けるような機動だが、船でそれをやってのけた風音は、ノアの予測を一つ飛び越え、その背後を取ったのも一瞬。
 あわや衝突というようなきわどいクロスを描いて、抜き去っていった。
 その衝撃波は乱気を切り裂き、ノアの作り出していた暴風雨に晴れ間を齎した。
『うっ……なぜ、撃たないの……!?』
 上がり過ぎた機速を制御すべく、空へ空へと舵を取っていく風音を見上げつつ、ノアの呟きは誰に聞かれるともなく、消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
ノア・アルクリウス、と言ったか。あまりにもオブリビオンらしくない。
おまえは本当にオブリビオンなのか? いや一目見りゃ分かるっちゃ分かるんだがな?
自分を客観的に把握し、自ら生を終わらせようなんて考えは、明らかにオブリビオンのものじゃない。
なあ、おまえさん。投稿してくれんかね? 今の技術でなら、未完の箱船を完成させられるだろう。そして新たな乗客を乗せて蒼穹を駆ける。
それこそが、おまえさんの本当の望みじゃないのか?

それでもやるというなら、全力を尽くそう。
「降霊」、慨嘆の亡霊たちを喚起。精々いい声で泣いてくれよ?
双剣で「生命力吸収」「精神攻撃」を加え、バックラーで「盾受け」しながら戦闘を進める。



 悲しいな、と。
 ごうごうと吹き荒れる嵐の中を、それでも懸命に飛ぶガレオン船『セントミラ』の甲板に立ち、ユリウス・リウィウスは思う。
 ガレオノイドのように少女の姿へとなれるようにもなったかのオブリビオン、ノア・アルクリアスは、沈まぬ船だという。
 それが未完成、大空を飛べずただ雲海近辺を浮かぶ程度しか飛べぬことから、大空へと逃げる人々は、彼女からまた羽ばたいていった。
 寂しさを感じる事はあっても、恨んではいないような様子だったが、それでも彼女はオブリビオンらしからぬ穏やかさと、自ら死を望むかのように猟兵に対して戦いを挑んできた。
 正直なところ、多くのオブリビオンと戦ってきたユリウスとて、彼女に対して敵意は持てないところだった。
 単身で空を飛ぶ手立てが無いではないユリウスだったが、ガレオン、箱舟と化したノアに追いつくのは一人では難しい。
 何しろ、彼女の内包する天使核の力なのか、今や島クジラの背の上空は、竜の巣の乱気を取り戻しつつあるほどに荒れている。
 それはノアに近づくほどに激しくなっていくが、それでも猟兵たちは様々な手立てを駆使して、彼女に乗り込んでいく。
 ノアを止めるため。その望み通りに財宝たる彼女自身を奪い去るために。
「くぅ!! これ以上は、厳しいぜ。嵐が強すぎる!」
「礼を言う、ここまででいい」
 セントミラが竜の巣を攻略できるほどの高性能な船である事には違いないようだが、それでも嵐の強まるノアへと近づくのには限度があったようだ。
 甲板にしがみ付きつつ泣き言を叫びつつ、それでも帽子は死守するエドワードに礼を言うと、ユリウスは、甲板の手すりを乗り越えて外縁につく。
「お、おい、騎士の。そっから届くのか!?」
「ああ、たぶんな。それに、風穴をあけてくれた奴がいただろう」
 ガレオン同士で激しい追いかけっこをした猟兵がいた。
 激しい空中戦の末に、その戦いを制した際、あわや接触という距離を抜き去った時に、ノアの嵐の防壁には消えないほどの穴が空いたのだ。
 そこに飛び込めば、ユリウス一人くらいなら運よく乗り移れるかもしれない。
「まあ、ホントに、たぶんなんだがな」
 落っこちたら相当不味いが、ユリウスにもやらねばならない事がある。
 ここで彼女を屠るのもいいだろう。しかし、それ以上に、言っておかねばならない。
「せめて、命綱を……!」
「幸運を祈っておいてくれ」
 エドワードが制止するのも待たず、ユリウスは甲板を蹴って飛ぶ。
 直後に、激しい暴風が全身を襲う。
 空に投げ出されたユリウスには、渦を巻くような風が吹き付ける。
 それは恐らく、引き裂かれた嵐の防壁を埋めるように動いている。
 他の猟兵が作った穴に向かえば、おのずと案内されるかのように、ユリウスは吸い込まれていく。
 やがて、巨大なフライパンで全身殴打されたような衝撃と共に、ユリウスは受け止められた。
 それが箱舟の船体である事に気づくと、その景色にユリウスは眉を顰める。
 箱舟に所狭しとあふれるのは、暗雲を凝縮して人型に練り上げたかのような何かの人影。
 それはこの空域の下の下に見える雲海と同質のものと思われたが、同時に、オブリビオンと同じ気配があるのにも気付いた。
「気味の悪い連中を乗せているようだな」
『雲海の上を浮かんでいる内に、増えていったものだわ』
 呟きに返答があったことに一瞬驚いたが、そういえばここはノアそのもの。
 話ができるなら、都合がいい。
「おまえは本当にオブリビオンなのか? いや一目見りゃ分かるっちゃ分かるんだがな?
 自分を客観的に把握し、自ら生を終わらせようなんて考えは、明らかにオブリビオンのものじゃない」
『どこにだって、変わり者はいるものだわ。それに、あなた、勘違いをしている。
 私は今ここで終わるつもりなんてないのよ』
「なあ、おまえさん。投降してくれんかね? 今の技術でなら、未完の箱船を完成させられるだろう。そして新たな乗客を乗せて蒼穹を駆ける。
 それこそが、おまえさんの本当の望みじゃないのか?」
『……それもいいかもしれない』
 オブリビオンの気配のする黒い人影に油断なく目を配るユリウス。
 甲板上の物々しい雰囲気とは裏腹に、ノアの言葉は穏やかなものだった。
 これならば戦う必要はないか。そうは思いつつも、両腰の剣の柄に手が伸びたままではあるのだが。
『あなたからは、死の気配がする。とても多くの死に目に遭遇して、なお、それを糧に生きているのね。
 多くの死が、あなたの通った道の上で横切っていったことでしょう。
 それみな、意味のある死であったと思いたいのね』
「やりたいことを成し遂げて死ねる奴は、少ないだろう。
 だが、半ばで諦めることはない、と思っただけだ」
『たくさんの死を見て、なおそう言えるのなら、あなたはとても優しい』
 しかし、と彼女の意が示すかのように、人影たちが銃のようなものを一斉にユリウスへと向ける。
 それと同時に船の周りの嵐も勢いを増していく。
 これ以上強くなったなら、セントミラも危ないかもしれない。
『この姿を見なさい。私が完成するとしても、それまでに何人死ぬかしら?
 少なくとも今この瞬間、あなた達の船は危機に瀕しているわ。それでも、私を邪悪とは言えない?』
「そうか、そうかよ……わからずやめ!」
 偽悪的ともとれる少女の声に、ついにユリウスは説得を諦める。
 結局は彼女自身ですらも、己の力を持て余しているのだ。
 竜の巣そのものになり果てようとしているオブリビオン、ノア・アルクリアスは、破壊される以外の道を、もはや残してはいない。
 恐らくは、竜の巣の中に引きこもって島クジラの背の上で一人没しようとしていたのも、他の何者をも自らの天災に巻き込まぬためであったのか。
 そして今は、セントミラを引き合いに出し、自らを悪に仕立て上げようとしているではないか。
 奥歯を噛み締め、ユリウスはついに両の黒剣を引き抜き、人影たちに対峙する。
 【慨嘆の亡霊たち】によって、その周囲には実体を持たぬ亡霊が呼び出されその怨嗟と嘆きの声が聞こえるほど、ユリウスの装備は強化されていく。
「せいぜい、いい声で鳴いてくれよ?」
 誰に向かって言ったのか。もはや返答は聞こえない。
 彼に聞こえるのはもう、怨霊のむせび泣く声のみ。
 悪を偽り、それを討つというのなら、それもまた悪と言える。
 自らも悪を偽り、傍若無人に、こいつらを叩き、この船を墜とす!
「邪魔だ……どけぃ!」
 双剣がうなりを上げ、銃撃してくる人影たちを薙ぎ払う。
 魂を食らい、血を啜る二振りの黒剣を手に、ユリウスは甲板を駆け抜ける。
 目指すは、天使核を積んでいるであろう、機関室。
 そこを破壊し、この悲しき怪物を眠らせてやるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
アドリブ&合わせOK!

【空へ】

ノアの技術は欲しいし、見ていきたいけど、壊したくはないし……。
それに、ノアは空に行きたいんだよね?

だったら、最期なら、飛んでみようよ!ちょっとサイズは小さくなるかもしれないけど……。

ユーベルコヲド、厭穢欣浄パラダヰムシフト!
ノアをもう一度だけ飛べるように、設計してあげるよ!でも、最終飛行になるかもしれないから、ノアも後悔しないように、自分の力を信じて飛んで!

誰かのためじゃなく、ノア自身のために!最期の夢は空で果たそう
、君の遺した航跡をこの空で!

ノアの最期を見届けたら、天使核やノアの遺した技術、空を行く船の証、ぼくも持っていきたいね。

……あと烏賊って🦑食べれる?


ミフェット・マザーグース
わからない、わからないけど
ティエル(f01244)と一緒に、伝説のハコブネと戦うよ!

戦いに向かったティエルを応援して、リュートを奏でて唄おう
語られて聞いた沈むことのない船の物語で、その力を打ち消すね

UC【一人ぼっちの影あそびの歌】

♪雲海に浮かぶ旧きフネ 沈むことなき悠久の 時を経てなお空にあり
墜ちることなきそのすがた いかなるものも触れること能わず
されど蒼天の下にある すべてのフネもまた同じ
記憶の果ての悠久の 時を経てなお空にあり すべてのフネは蒼天にて等しく!

無事にぜんぶが終わって、ティエルが天使核を手に入れたら歌を送るね

♪はるか昔の母の歌 飛び立つフネを見送って その魂は再び空へ還らん


ティエル・ティエリエル
ミフェット(f09867)と一緒にセントミラの人達を守るぞー!

むむむっ、あいでんててぃーってヤツだね。
それじゃあ、悔いが残らないようにボク達が全力で相手するぞー☆
それで、自慢の天使核はボクがゲットしちゃうぞ!

浮かんだ飛空艇に攻撃だーとボクも背中の翅で飛び上がって接近するよ!
けど、弾幕がすごくて中々近づけない……!
むむむーと困ってたらミフェットのお歌が聞こえてきて弾幕が薄くなってきたぞ!
今だーと弾幕の隙間を飛んで一気に接近!
船内に飛び込んでうりゃりゃーと【お姫様ビーム】でそこら中を壊していっちゃうよ!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 ごうごうと空が鳴る。
 果ての無いような青く抜ける青空は、いつしか黒い黒い嵐に包み込まれ、島クジラの上空は暗雲がたちこめていた。
 雲海近辺を浮かび、そこよりも上へと昇る事の出来なかった箱舟のガレオン、ノア・アルクリアスは、未完成だった。
 いや、或はそれで完成だったのかもしれない。
 少なくとも、この空へと人々を逃がすという役目は遂げられたのだから。
 いやしかし、だからこそ、とうに役割を終えてしまい、尚、それ以上の役割を与えられなかった箱舟は、行き場をなくしてしまったのだった。
 それも、ただいかなる悪天候に於いても沈まぬという、只の箱舟に与えるにはオーバースペックな能力に、当時はだれ一人とて気づかぬまま。
 決して沈まぬ船は、いかなる悪天候をもものともしない。
 それは、特殊な天使核を搭載し、特殊な機能を用いることで、周囲の天候を操作するからである。
 天候を操作するのである。それは良くも悪くもできるということ。
 つまりは、人の制御を離れ、ただ有り余る能力のままにそれが暴走したならば、彼女自身がこの『竜の巣』そのものにもなれるということだ。
『あなた方に理解できて? この箱舟は、もはや災害そのもの。易々と人の手に触れていい財宝とは言い難いものだわ。でもだからこそ、竜の巣を超えてやってくる者には、その権利がある』
 島クジラの背の島、その上空を、古い古い箱舟が飛ぶ。
 何百年ぶりの航海なのだろう。
 その巨体を浮かべるのは、この雲海の近辺のみとはいえ、その威容は、同時に纏う嵐ですらもびくともしない。
 既に猟兵たちのいくらかが、彼女に乗り込み、或は箱舟の姿の彼女に戦いを挑んでいる。
 だがノアは予想以上に大きく、そして堅固である。
 何よりも、竜の巣そのものになり得るその能力、暴風雨を纏うその周囲に居るだけで、同行するガレオン船『セントミラ』の船体は、いよいよ悲鳴を上げ始めていた。
「うぐぐ、くそぅ、俺たちも連中を手伝ってやりてぇが……こ、このままじゃ船がいかれちまうぜ! 野郎、なんて頑丈な船してやがんだ……」
 セントミラの甲板の上に立っていられる者はほとんどいなかった。
 船長のエドワードですら、風雨を全身にびったびた受けつつ、その体はメインマストにロープでくくりつけている。
 沈むときは船と心中とばかり、弱音を吐きつつもその目は爛々とぎらついており、指示を飛ばす怒声は、嵐にも負けない。
 命知らずの船員たちは、悪態交じりに船長の指示に従い、誰一人退くことなく、ノアに追い縋ろうと必死である。
「わからない、わからないよ……どうして、戦うの? 空にキズアトをつけたいって、どういうことなの?」
 目を血走らせて、なおも財宝、いや古代の神秘、ロマンなどといった言うなれば自己満足に邁進する船員たちと共にセントミラに乗り込んだ猟兵の一人、ミフェット・マザーグースは、その船首近くの甲板で首を振る。
 猟兵でありながら、また自身も怪力の持ち主であったりしながらも、戦うことそのものを好まないミフェットにとって、敵意を持たぬノアとは、分かり合える気がしていた。
 それでもノアは、まるで自らの破壊を望むかのように、その身を変じさせて嵐を巻き起こす。
 まるで暴走したオブリビオンそのもののように。
 そして、自分自身の生き様を刻み付けるやり方として、空に傷跡を残すと言って戦いを挑んできたのである。
「わからねぇかい、お嬢ちゃん」
 取り乱すミフェットに声をかけるエドワードは、この嵐の中でも優しく、消え去りそうにすら感じるほどの穏やかな目を向ける。
 子供に昔話でも語って聞かせそうなそれは、空に生きる者たちなら、誰でもわかる様な理屈なのかもしれない。
「この竜の巣の光景を覚えてるかい。たくさんの船の残骸が漂っていたはずだ。
 大概の奴らはそうなる。
 誰にも……そうだな。隣の島、その更に隣の島の奴に名前を覚えられねぇまま、飛空士や船は死ぬ。
 この空に生きざまを刻むってぇのは、生半可なことじゃねぇのさ」
 雲海に沈めばどこに行くのか。
 屍人帝国の一員となって蘇るのか。
 いいや、大概の者は忘れられる。
 人は忘れられて、2度目の死を得るという。
 だがその2度目は、忘れられるから、何にも残らない。
 ノアは、誰かに見つけられたことを喜んでいた。そして、彼女は死にたがっていた。
「むむむっ、あいでんてぃてぃーってやつだね!」
「っへへ、難しい言葉を知ってるな。そうさ、誰だって、俺はここにいるぞって、叫んでいたいのさ!」
 ミフェット共に甲板で箱舟を見据えるティエル・ティエリエルが元気よく言うと、エドワードも負けじと声を張り上げる。
 でも、とミフェットはそれでも疑問を禁じ得ない。
 戦う必要が何処にあるのだろうか。
 彼女がその意志さえ見せなければ、嵐を起こすこともなく、その身を危険にさらすこともなく、ましてやオブリビオンであるにも関わらず誰にも迷惑をかける事すらなかった。
 現に、島クジラの背の島で、彼女は穏やかに暮らしていた筈だった。
「それじゃあ、悔いが残らないよう、ボクたちが全力で相手するぞー☆」
 どうして、と思うところではあったが、ティエルがもうやる気になってしまった。
 ミフェットとティエルは親友同士。しかしながら、同じ戦いの場に幾度と並び立っても、戦士にしかわからない境地というものは、共有できない部分があった。
 知識を扱うことが知性ではあるのだが、理性を介さない部分で通じ合う理解というものも間違いなく存在する。
 より直感的に物事を理解する事の多いティエルは、感じたままの素直さが自身の正義であり、間違いがあればそれを反省するのも素直さである。
 ミフェットは少し違っていて、知識と理性が伴い、善良さを維持しているようなものだった。
 無論、子供の素直さは持っているわけだが、本能とその境地を理解するには、蓄えた知識が邪魔をする。
 ゆえに、親友の直感が羨ましくもあり、そこに邁進するというのなら、彼女もまたその答えを見て見たくもなるのであった。
「でも、どうする? この雨風じゃ……それに、近づくにも反撃されるかも」
「そうだなぁ、流石にこれ以上近づくのは船がまずいかもしれねぇ」
 うーむむと思い悩むミフェットと、面目ないと項垂れるエドワード。
 竜の巣を乗り切ったセントミラとて、ろくな補修もままならぬままノアに近づくのは危険だ。
 それなら、ボク一人でー! と飛び出しそうになったティエルを、ミフェットは全力で引っ張って止める。
 さすがにこの嵐の中で迷子になったら、見つけるのが難しい。
『じゃあー、ぼくの出番だねぇー! この嵐、なんとかしようじゃないか!』
 あたりに響き渡る様なスピーカー音声と共に、セントミラに吹き付ける嵐の風が和らぐ。
 セントミラの前に躍り出たのはクジラのようなずんぐりとしたスカイクルーザー『ヨナ』と、それを駆る国栖ヶ谷鈴鹿であった。
 キャバリアを懸架輸送可能なほどタフなクルーザーは、この乱気流の中でも飛行可能である。
 更に、発明家、いや未来派芸術家である鈴鹿のちょっとあれな改造が随所に盛り込まれたヨナにとって、悪天候などなんのその。
「おお、子クジラだー!」
「たしかに、この船なら……」
 子クジラというには20m級のクルーザーは十分に大きいのだが、この船の下の方にはさらにでかい島クジラが浮いているわけで、どうしても比較せずにはいられないのだろう。
 とにかく助っ人の参戦にテンションのあがる子供二人だが、鈴鹿は『ただし』と二人を制する。
『手伝うのはいいよ。困ってるなら仕方ない。ノアを破壊するのも、止めたりはしないよ……でも、代わりにぼくの無茶に付き合ってほしいんだ!』
 必死さすら感じさせる鈴鹿の剣幕に、子供猟兵二人は顔を見合わせる。
 そして、その作戦、ぶっちゃけ鈴鹿のやりたい無茶のあらましを聞かされて、さらに驚いた顔になる。
 しかし、二人にとっては好意的に思えるほどの……いわゆるロマンがあった。
「ミフェットは、手伝いたい。ティエルは?」
「んー、見ていたいけど、中に飛び込むよ! だから、ミフェットが見てて」
『たぶん、ぼくもむこうも、長くはもたないと思うんだ。大技だからね』
 だからこそより確実に。
 そうして、簡単な確認と共に、3人とそしてセントミラの面々とは、その無茶を通しに行く。
 まず真っ先の行動するのは、鈴鹿の駆るヨナである。
『行こう、ヨナ。ノアの技術は欲しいし、でることなら詳しく見てみたいよ。でも、きっと、飛びたいんだよね……空へ!』
 そうして、鈴鹿はユーベルコードを発動すべく、鈴鹿は、いやヨナはハイカラさんの輝きをまるで太陽の如く激しく強くしていきつつ、ヨナを加速させる。
 【厭穢欣浄パラダヰムシフト】は、その輝きを戦場全体へと届かせる。
 その輝きの渦中にあれば、たとえ嵐の中であろうと、その空は凪ぎ、飛べぬ船であろうとも、空を飛行可能な船へと……まさに、鈴鹿の理想の世界へと作り替える事ができる。
 嵐のなかを太陽のようなクジラが通り抜け、そして追い抜くと、遥か頭上で照らす光を浴びた、ノアの嵐の防壁が剥がれていき、ノア自身もその光を浴び焼かれるような眩しさを覚えると共に、その鈍重で巨大な船体が徐々に浮いていくのが分かった。
『……これは……私の身体が……?』
 見上げるのは、抜ける様な空。
 幾度も、数百年もの間、見上げ続けた美しい青。
 ノアの船体は、ブルーアルカディアの空に舞い上がるために、急速に作り変えられていく。
 人員を乗せるための巨体を削ぎ、いかなる悪天候をもものともしない装甲は剥がれ落ち、軽くなっていく船体が翼を得たように空へと誘引されていく。
『貴女が、やっているの?』
『そう、飛べるようにしている。でも、飛ぶのはキミの意思だよ。最期だと思うなら、飛ぼうよ!
 誰かのためじゃなく、ノア自身のために! 最期の夢は空で果たそう、君の遺した航跡をこの空で!』
 叫ぶ鈴鹿の光は、徐々に弱まっていく。
 さすがにこの空域全てを賄うには、力を使い過ぎる。
 未完成品。とても魅力的な言葉だと思う。完成していない魅力というのは、確かに存在するからだ。
 でも、肝心の機能を備えていない未完成は、ダメだと思う。
 モノにもきっと思いがあるし、思いが込められている。
 だから、その思いが未然に終わっているのは、よくなことなんだと思うのだ。
「だから、飛んで。キミの意思で」
 ノアの船体に、本来は存在しない主翼が、天使核を伴った翼の様な光が空を掴む。
 ゆっくり、ゆっくりと、その苔生した船体が、空を掴んで上昇していく。
 その後ろを、一人の妖精が捉えていた。
 嵐の防壁の消えた今、ティエルたちを妨げるものはもうない。
 かに思われていた。
「うわわわ、凄い弾幕……!」
 鈴鹿のユーベルコードで、ノアの天候操作を相殺することまではできた。
 しかし、ノアに乗り込んでいる黒い人影たちが、箱舟の上からティエルや、鈴鹿に向かって射撃し始めたのだ。
 その人影は、まるで雲海の暗雲をぎゅっと凝縮して人型にしたような、オブリビオンによく似た気配の何かだった。
 この敵の存在までも鈴鹿のユーベルコードで退治できるかとも思っていたが、どうやらノアの改造に手いっぱいの様だった。
 このままでは近づけないどころか、鈴鹿も無防備な状態である。
 だが、ティエルは一人ではない。
 この広い空に、よく響く声と、リュートの音色がこだまする。
「ノアさん、飛べたんだ……とてもきれい。
 ティエル、今助けるよ!」
 翼を広げるノアの姿を見上げ、セントミラからミフェットの応援歌が、ティエルの突撃を援護する。
 正直、彼女を攻撃する事には、まだ迷いはある。
 しかし、鈴鹿のあの力も、長くはもたないという。
 倒す事ではなく、ノアを飛ばすために世界を変える力を使えば、鈴鹿の効力が切れたときに、再び暴走する可能性がある。
 何よりも、彼女は、ノアは、暗に、その力を壊したがっているように、今なら思えるのだ。
 だから、ミフェットは歌う。力の限り、【一人ぼっちの影あそびの歌】を。
「♪雲海に浮かぶ旧きフネ 沈むことなき悠久の 時を経てなお空にあり
 墜ちることなきそのすがた いかなるものも触れること能わず
 されど蒼天の下にある すべてのフネもまた同じ
 記憶の果ての悠久の 時を経てなお空にあり すべてのフネは蒼天にて等しく!」
 相手の力を模倣するその歌唱により、ティエルの突撃を援護すべく、黒い人影たちと同等の射撃を行う。
「よーし、いまだー!」
 それにより、ティエルはノアへと乗り込むことに成功する。
 なによりも、ノアが空へと飛び上がった事により、下への攻撃は薄く、ティエルは簡単に船内へと乗り込めたようだった。
「頑張って、ティエル……!」
 この空域を包み込む様な光は徐々に弱まって、それと共にノアの船体は軋みを上げていく。
『大した無茶をするものだわ……でも、それも長くはもたない……この身体も……』
 既に他の猟兵たちが乗り込み、黒い人影たちもその数を減らし、残すは堅固に守られた機関室を破壊するまでとなったが、ノアの軋みは不吉なうめきを上げるのだった。
『私が、完全に壊れる前に……ちゃんと、壊して』
 弱弱しくなっていく翼をあおぎ、ぎこちなく空を掻く。
 空を飛ぶことにまるで慣れていないような、その飛行、風を受けるその姿は、拙いながら、堂々としたものであった。
『私は、ちゃんと、空を飛べているのかしら……ああ、空がこんなにも、青かったなんて……』
『ちゃんと飛べてるよ。とても綺麗』
 その気配が、鈴鹿の方を向いた様な気がして、思わず答えてしまうが、ノアにはもう何も見えていないようであった。
 そして、彼女にとっての最後の懸念が、ティエルのユーベルコードによって、砕かれる。
「おりゃりゃー! きっとこの部屋だぁー!」
 お姫様の気合の入った【お姫様ビーム】が、船体から貫通し、軌跡を残すと、何か肝心なものが抜けてしまったように、ノアは動きを止める。
 そして、ゆっくりと箱舟は降下し始め、その過程でばらばらと機体を崩壊させていくのだった。
『ああ、よかった……これでようやく、眠れる。みんなの夢を……』
 砕けてばらばらに崩れていくノア・アルクリアスという名の箱舟を、猟兵たちは見守って、或は巻き込まれないよう離れるしかできなかった。
 しかし、空の藻屑と化してしまうかに見えたそれを、させまいと、晴れ渡った空に、灰色の塊が浮き上がってくるものが見えた。
 島クジラが、その巨体を雲海から浮き上がらせ、崩れる箱舟を受け止めようと、その背を晒したのだった。
 ここにオブリビオンは死に、敵を失った猟兵たちは、その一大スペクタクルとも言うべき、巨大生物の行動を目の当たりにし、疲れ果てた体を再びその島へと寄せるのであった。


 ここから先は、ちょっとしたおまけである。
 島クジラの上昇と共に、受け止められたノア・アルクリアスの残骸は、その背の島へと不時着し、結果的には彼女はまた島へ帰った形となった。
 戦いを終え、彼女の言葉の通りに、猟兵たちとセントミラの勇士達は、その古代の船に用いられた部品を、財宝として受け取る形となった。
 ノアに積まれていた天使核は多数あったが、最も厳重にされていたのは全部で6基。
 中核を担うメインの巨大な天使核と、その制御にやや大型サイズのものを用いていたようだが、機関部は完全に破壊され、天使核から切り離されてしまい、再現は不能となっている。
 天候を自由自在に、それこそ竜の巣を作り上げるような装置を作るのは、また1からということになりそうだ。
 それでなくとも、回収されたパーツや天使核はいずれも質がよく、数百年前に建造されたものとは思えないものであったという。
『大した船だぜ……約束通り、その名前も、アンタの一部も、奪っていくぜ』
「……うん、忘れない」
 分け合ったパーツと、その名を忘れぬよう、神代凶津は手に収まるサイズのものを、戦利品として回収していく。
「あんたらはいいのかい?」
「財宝も名誉も要りません。
 戦いの中で、大事なものが得られた気がしますから」
「セントミラの皆さん。彼女の天使核を丁重に「活かして」あげてください。空に生きるあなた方なら、わかるでしょう?」
 戦利品の仕分けを固辞するのは、ランケア・アマカと常田賢昭。いずれもこの空の世界出身である。
 ノアを倒すのに貢献した二人にもまた、その権利はあっても、受け取るべきはセントミラの乗員と思ったのだろう。
 ノアが活きる。傷痕を付けるという事は、誰かに彼女の欠片でも継承され、この空や、別の空に共に飛ぶことなのだから。
「ノア・アルクリアス。この名前を受け継ぐ船も、きっと現れる。
 ノアちゃんがノアの箱舟の名を受け継いだように」
 六島風音は、ノアが残した天使核を手に、思いを馳せる。
 雲海における、彼女の粘り強さ。そして老獪さを感じさせる操船。
 忘れることなどできまい。
「馬鹿な奴だ……だが、こうして誰かの手によって別の形で蘇るのが、願いだったのかも、な……」
 ノアのパーツをなるべく多く回収しようと奔走するセントミラの乗員たちを見やりながら、ユリウス・リウィウスは、小さく砕けた装甲板を手に思いを馳せる。
「一番でっかいの、ボクがもらっちゃっていいのかなー?」
「いいと思うよ。でも、ちょーっとまって。もう少し色々観察させてー!」
 ティエル・ティエリエルは、自身の身の丈以上の大きな天使核を抱え上げ、その重みと、飛び込む際に見た美しく翼を広げた箱舟の姿を思う。
 国栖ヶ谷鈴鹿は、あっちゃこっちゃに飛散した箱舟の部品や天使核を目ざとく見つけて回収しては、その技術やノアの残した証になる様なものを見出しているようだった。
 そして、そんな二人をどこか微笑ましそうに眺めつつ、ミフェット・マザーグースは、青く澄んだ空を仰ぎ、歌を捧げる。
「はるか昔の母の歌 飛び立つフネを見送って その魂は再び空へ還らん」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月17日


挿絵イラスト