花火を籠めた天燈は何処へ向かう(作者 鍵森
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#カクリヨファンタズム  #お祭り2021  #夏休み 


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 ひゅうひゅるる。
 笛の音めいた響きをさせて打ち上がる煌めきが、濃藍の夜空に金よ銀よと花開く。
 見る間に色を変えていくのもあるだろう、まるで色遊びの七変化。
 カクリヨの浜辺を彩る「妖怪花火」は親分衆の特製品だ。
 触れても熱くはなく、いつまでも形を残す、不思議な花火なのである。

 楽しみ方だって奇想天外。
 打ち上がる花火に乗って空中飛行を楽しんだり。
 夜空に模様を描いた花火の上を散歩したりと、様々な遊び方ができるのだという。

 一面の夜空に楽しげな声がして、美しい光景が広がって。
 それを見上げながら、誰かが――ふと想いをよぎらせたのだろう。
 「あの人にも見せてあげたかったねえ」と。

●夜空へ馳せて
「楽しんでおられるか」とクック・ルウは微笑んだ。
 その手には紙で作られたランタンのようなものを携えていて。
 あなたに見せるように掲げながら、ひっそりと言葉を紡ぎ始める。

「これはスカイランタンとか、天灯と呼ばれるものを模したものらしい。熱気球の一種で、これも妖怪たちが作った特別製だそうだ」
 紙の部分には文字を入れて、願いや、想いを、綴れるのだという。
「手紙でも、抱負でも、書くのは何でもよい……無論なにも書かないのでも」

 薄い紙を張って出来たようなランタンに、クックはなにやらキラキラしたものを注ぎ入れた。
 それが妖怪花火だということは、すぐに分かるだろう。
 ふれても熱くはない不思議な花火であるから、こういう事もできるという訳だ。
 片手にひと掬いした花火を入れたランタンは、赤や緑に輝いて浮かび上がる。
「このまま空に放てば、どこか遠くへ流れていく」
 そっと手を放すと、ランタンは天へと向かって飛びはじめた。
 一夜限りの美しい光景の欠片と共に。

 ここはカクリヨ、地球と骸の海の狭間にある世界。
 過去の思い出と追憶が浮かぶ場所。
 なればこそ『どこか遠く』は、人それぞれだろう。

「夏の夜の戯れに如何」
 ランタンを出す屋台が何処かに出ていると教えて、彼女はどこぞへと去っていく。

●もしかすれば
 あなたはしゃくしゃくと機嫌よくスイカを食べているクック・ルウ(水音・f04137)の姿を見つけるかもしれない。
 彼女はあなたに気がつくとゆるゆると近づいてきたりなどする。
「おや、面白いものを持っておるな。それはランタンか?」
 と、なにも知らぬような事を言う。
 けれど脳天気な顔にはからかっている様子もない。
「どうなされた。――まるで化かされたような顔をして」
 ぱちくり。大きな瞬きを一つ。

 なにしろ妖怪たちのすることだ。
 そんな奇妙な話もあったかもしれない。


鍵森
 一章完結の夏休みシナリオです。
 夏の夜空をしっとりと楽しむ感じになるかと思います。

●スカイランタン
 概ねOPにある通り。
 花火は空から拾うことも出来ますし、地上に零れ落ちたものを探しても見つかるでしょう。
 手持ち花火も屋台などで手に入ることと思います。
 好きな花火を入れてお楽しみください。

 ランタンは空にある花火の上から飛ばしても良いですし。
 もちろん浜辺からでも、海からでも構いません。
 妖怪製ランタンなので、濡れても大丈夫でしょう。
 思い思いにお過ごし下さい。

 皆様のご参加お待ちしております。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み2021』

POW妖怪花火で空へGO!
SPD妖怪花火の上で空中散歩
WIZ静かに花火を楽しもう
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


天城原・陽
【トモダチ】

一緒に来ていた学友達とはしゃいだ後、抜け出して一人になる
なんとなくそんな気分になった
浜辺を歩けばふと、視線の先にちょっとした人だかり…どうやら何かの催しらしい
「…精霊流し?」
が、似て非なるものらしい
どうしたものかと思いあぐねていれば見知った顔に出会う
「メル。」
互いに素性は知らない、でも友達
そんな奇妙な関係の少女と共にこの奇妙な風習に参加する事となった

戦死した都市の先輩達や大人達の名と彼らへ向けて『私達は大丈夫』とメッセージを添えた天燈をそっと送り出し
「生きてれば、見送る事もあるでしょうよ」
互いに詮索はせず、天燈を見送り
「来年も、一緒に見れると良いわね。」
そう告げて友達に別れを告げた


メルメッテ・アインクラング
【トモダチ】

浜辺でスカイランタンを作る際、偶然、友達の天城原様にお会いしました

私は、作ってみたくはあったのですが届けたい対象がおりません
代わりに地に零れ落ちていた花火と共に抱負を入れました
逆手でペンを掴み手首を動かし、紙に片仮名で一言『イキル.』と……拙い字でお恥ずかしいです
「天城原様はどなたへ?お答えできる範囲で構いませんが」
……では飛ばしましょう、ご一緒に。

最後に天城原様とお別れの挨拶を致しました
天城原様がどのように生きていらっしゃるのかを私は知りません
けれども1つ明白なのは。私が戦う事で私や友達の生きる世界も守れるという事
決意を新たにして背を向け天城原様とは異なる帰り道を歩き出すのでした


 はしゃぎ回った余韻がまだ残っているからか、海から吹く夜風が火照った頬に気持ちいい。
 本当に、なんとなく、そんな気分だったから。
 一緒に来た学友達から離れて、天城原・陽(陽光・f31019)は一人浜辺を歩いていた。
 なにか目的があるわけでもないけれど。
 絶えず聞こえてくる潮騒、不規則に打ち寄せる波、ゆるやかな漣痕を描く砂浜。
 今日、はじめて見た本物の海。
 夜空に広がる花火に照らされて輝く景色を足の向くままに、どこをどう歩いたのだろう。
「なんだろ、あれ」
 遠くに灯りを手にした妖怪の一群が海へと向かって歩いていくのが見えた。古いも新しきも様々な魑魅魍魎は、なにか儀式を思わせるような様相で波打ち際へと集まっては灯り――ランタンを空へ流しているのだ。
「……精霊流し?」
 似て非なるもののようだけれど、照らし合わせた情報に一番近い情景に思える。
 祭りのような賑わいとは異なる穏やかでひっそりとした気配はいっそ近寄り難さすら感じられ、陽は少し離れたところからその様子を眺める。
 どうしたものかと思いあぐねていれば、ふと薄桃色の髪色が目に止まった――。

 途方に暮れたようにメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)は浜辺に佇んでいた。
 手の中には紙のランタンが一つと、ペンがある。
 自分で作った、自分だけのスカイランタンを飛ばす。ささやかな催しを楽しむ風情に、興味を惹かれたのだけれど。
 控えめに視線を巡らせれば、浜辺に集まった妖怪たちは花火を集めてきては、思い思いにランタンを飛ばしている。
 メルメッテは彼等の仕草や表情に、誰かに気持ちを届けようとする空気を感じとり。戸惑ってしまった。
 そこへ。
「メル」
 愛称を呼ばれて、そっと振り返れば凛とした眼差しの少女が歩いてくる。
「こんばんは、天城原様」
 互いの素性も知らないけれど、こうして顔を合わせれば共に過ごすような奇妙な友達。
「天城原様もいらしていたのですね」
「なんとなく見掛けたから来てみたのよ。皆、何してるの?」
「私もよくは知らないのですが、このスカイランタンを飛ばすのだそうです」
「ふうん」
 周囲の雰囲気を慮って、二人は控えめな声音で言葉を交わす。
 奇妙な風習に巡り合ったようだけれど、それもまた縁なのだろう。
「私も参加してみようかな」
 陽がぽつりと言った。

 そうして自分のランタンを手に入れてきた陽は、ランタンにつらつらとペン先を走らせた。
 都市の先輩、大人達。戦いで散っていた者達の名は数限りなく。びっしりと紙面を埋めていく。
 面倒見の良い人がいた、悪態ばかり吐く奴も。子供ばかりを残して逝くことを悔やんでいた人、大人より先に死ぬなと盾になった人。……彼等の名を忘れてはいない。

 迷いもなく文字を書き込んでいく陽の様子を、メルメッテはなにか感じ入るような眼差しで見つめる。
 この場において彼女たちの姿はとても対照的であった。
 けれど、だからこそ、メルメッテもようやく何を書くかを決めたのだろう。
 逆手に持ったペンで一文字ずつ、不慣れな手付きで書き込んでいく。

 『 イ キ ル . 』

 片仮名の一言は不器用ながらも力強くはっきりとした筆跡を刻んだ。
 メルメッテにはランタンに託して言葉を届けたい対象がいない、だからこれは心中にある決意を記したもの。
 ……拙い字でお恥ずかしい。
 誰に見られる訳でもないが文字を隠すようにしてランタンを抱えながら、メルメッテは空から零れ落ちた花火を拾いあげる。
 ころりとした丸い花のような火は触れても熱くはなく、軽い感触がしていた。
 陽も同じように花火を拾い、手に乗せて暫く眺め。
「綺麗ね」
 さり気ない調子で紡がれる声は、どこか大人びた響きをさせる。
 花火を入れたランタンを携え、どちらともなく打ち寄せる波に足を踏み入れた。
「天城原様はどなたへ? お答えできる範囲で構いませんが」
 ささやくようにメルメッテが尋ねる。
 また波が来て、足元を過ぎていった。寄せては返すを繰り返して、際限もない。
「生きてれば、見送る事もあるでしょうよ」
 書き連ねた名前の最後に『私達は大丈夫』と書き入れたランタンの灯りが、陽の顔を淡く照らした。
 それ以上少女たちは互いになにも訊かず、言わず、ほんの少しの間、波に身を任せるような感触を味わう。

 ……では飛ばしましょう、ご一緒に。
 ……ええ。

 やがて二つのランタンが空へと昇っていくのを見送り。
「来年も、一緒に見れると良いわね」
 陽がそんな別れの言葉を告げれば。
 丁寧な辞儀でもって、メルメッテは応える。
 小さな笑みを唇に浮かべて、陽は来た道を引き返していった。

 陽がどのように生きているのかメルメッテは知らない。
 けれども一つ明白なのは、私が戦う事で私や友達の生きる世界も守れるという事。
 決意を新たに面を上げ姿勢を正し、去っていく背中にこちらも背を向けて、異なる帰り道を歩き出した。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

御園・桜花
「願いを懸ける…素敵ですね」
落下傘や手持ち花火、線香花火を思い浮かべ、線香花火選択
天灯に目立たぬよう記入
『凡ての世界でオブリビオンに転生が叶いますよう』

飛び行く天灯を見上げ小さく鎮魂歌を歌う
自分の願いは禁忌だろう
不死帝というオブリビオンフォーミュラが凡ての世界の王になるのと多分同義だからだ

死の前で後悔なく逝ける人は少ないと思う
自分を含めオブリビオンは誰でも成り得る未来の1つだと思うから
「満足して終わる形の1つに、誰にでも転生の機会が与えられると良いと思うのです…」
其れが叶うなら不死帝の尖兵になっても良いと思うのは猟兵への裏切りだろうか

天灯見送り鎮魂歌を歌い終わったら他の観光客に混じり花火楽しむ


 心の淵から浮かび上がる望みを、夜へ流すというのなら。
 密やかに、密やかに。

「願いを懸ける……素敵ですね」
 空と海の向こうへと、花火を籠められた天灯が一つ、二つと飛んでいく。
 浜辺を歩きながらそれを眺める御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の顔には、ほいやりとした笑みが漂った。
 腕には屋台で手に入れた天灯を抱えている。
 薄紙と竹ひごを用いて作られたようなそれはとても軽く、しかし頑丈そうな手触りをしていて。
「どうぞ遠くまで飛んでください」
 語りかけるように小声で呟く、内緒の約束をするように。
 紙に文字を入れても良いということだったから、桜花も片隅に小さく筆を走らせて願いを綴っている。
 それはあまり人目に触れぬほうが良いのだ。

 『凡ての世界でオブリビオンに転生が叶いますよう』

 幻朧桜の妖精たる者がその願いを持つことは、あるいは自然なことなのかもしれない。
 影朧と他世界のオブリビオンに違いはあるのかと、例えいくら考察を重ねても正確な答えはまだないのだ。
 それでも自分の願いは禁忌だろう、と桜花は承知している。
 一つの例外なく、等しくすべての存在に新たな生を迎えさせてあげるというのなら。
 不死帝というオブリビオンフォーミュラが、凡ての世界の王になるのと多分同義だからだ。
 そこまで解っていても、進むことをやめられない。

 人の群れから程よく離れたところで桜花は立ち止まり線香花火を取り出した。
 天灯に籠めるなら、大輪の花火よりも自分で火を点けたものが良い。
 それはこだわりであっただろうし、決意の表れでもあるのだろう。
 火を点けると、赤い蕾から小さな火花が飛び出して。
 分裂する火花は丸い菊花のような形を織りなし、それはいつまでも消えることなく盛りのままでいる。
「ああ……消えずに留まる花火とは、不思議なものですね」
 まさに妖怪の仕業。すうっと花火に指を近づけても熱くはなく、不思議な感触がする。
 実のところ、屋台には他の花火も売られていて、派手な色のものや、落下傘といったユニークなものが並んでいたが、思い浮かべて選んだのはこの線香花火なのだった。
「これは、だいそれた火ではいけないでしょうから」
 桜花は丁寧な手つきで花火を柄から外すと、天灯の中へと入れてやった。
 やわらかな黄金色を宿して、天灯は浮かびあがる。

 飛んでいく天灯を見上げる桜花はやがて小さく歌い始めた。
 控えめな声であったが、聞いたものはそれが鎮魂歌なのだと気づいただろう。
 彷徨う魂を自分の元へ導くような澄み透る歌声が夜の浜辺に広がっていく。

 なにも後悔なく逝ける人は少ないだろう。
 死を目前にすれば、誰しもがなにか思いを残すだろう。
 それでも生きとし生ける物はやがて死ぬのだ。桜の精である自分とていずれはその時が来る。
 オブリビオンは誰でも成り得る未来の一つだと思うから。
「満足して終わる形の一つに、誰にでも転生の機会が与えられると良いと思うのです……」
 ――其れが叶うなら不死帝の尖兵になっても良い。
 猟兵への裏切りともとれる思いを胸に秘めて、救いを与えたいという願いを謳う。

 そうして、歌が終わる頃には桜花の天灯はもう見えないところにある。
 来た道を引き返して、楽しげに花火を楽しむ人の喧騒の中へと戻っていく。
 きらびやかな景色の中、桜の花はにこやかに佇んで。
大成功 🔵🔵🔵

夜鳥・藍
ランタンに何を書けばいいのか……。いえ、何も言葉は書かない方がいいのかも。
しばらく考えてから描き込むのはそれっぽく見える月と彼岸花。そしてその中に落ちてきた花火を入れて。
影朧になるほどだった過去の私が残した感情を、今の私は終わらせる事ができた。
でもそこで終わりにしたくなかったの。
あの人は自分がどうなっても構わないと思い働いて、死を悟ってからは身の回りを整理して、その時を迎えて。
死と一緒に消えるはずだった。それでも消えなかった想い。それももう私の中に完全に溶けて消えた。
せめて弔いの意味を込めて月黄泉とも呼ばれる月と手向けの彼岸花を。
たった一人だったから、せめて私が消える時までは覚えておきたいの。


 夜天に広がる花火が華々しい模様を描く様子は幻想的な美しさに彩られている。
 きらびやかな光に照らされた空と海の彼方へと、思いを馳せながら。
 薄いヴェールの下で月光を解かしたような銀の髪が波風に揺れるのもそのままに。
 夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は浜辺に佇んで、しばし物思いに浸っていた。

 手にしたランタンになんと綴ろう。浮かぶ思いを言葉にしようとすればするほど、迷う。
 何を書けばいいのか。なかなかこの気持に当て嵌まる言葉は見つからない。
「いえ、何も言葉は書かない方がいいのかも」
 決めてからは迷いもなく、さらさらと筆を滑らせていく。ランタンの面に描くのは、月と彼岸花。
 それっぽく見えればいいのだと。その思い切りも良かったのだろう、見栄えのいい絵となる。
 一度空の光にランタンを透かして、出来栄えを確認すると藍は得心したように頷いた。
 これに花火を入れる。
 空から零れ落ちてきた花火を集めるのは難しくもない。
 小さな流れ星のように時折降ってくる花火を、逆さにしたランタンの口で受け止めては取り籠める。
 赤に、金に、青。
 花火の色を宿して、絵付きのランタンは益々情緒的な美しさを湛えるのだった。
「さあ」
 頃合いだろう、浮かび上がりはじめたランタンを風に乗せて空に放つ。
 手を離れていく刹那の感触が淡く指先に残るけれど。
 空高く昇っていく灯り見送る藍の眼差しは、穏やかなものだった。

 影朧になるほどだった過去の私が残した感情を、今の私は終わらせる事ができた。
 でもそこで終わりにしたくなかったの。

 言葉にするにはあまりにも複雑な心。
 この世に生まれた時から彼女の存在をいつもどこかで感じてきた。
 終わりは確かにあったのだけれど。
 過去世のあの人を、折に触れて想ってきたその心はもう藍の一部なのだろう。
 今一度、彼女を思う。
 自分がどうなっても構わないと思い働いて、死を悟ってからは身の回りを整理して、その時を迎えて。
 潔くすべて綺麗に終わらせようとした彼女の心。
 死と一緒に消えるはずだった。それでも消えなかった想い。
 けれど。
 それももう、私の中に完全に溶けて消えた。

 月は月黄泉、花は彼岸花。
 あの人へ向けて、せめてもの弔いになるように描いた絵。
 私だけが知るあの人。
 たった一人だったから、せめて私が消える時までは覚えておきたいの。

 次第にランタンは夜空へと吸い込まれていくように遠くなっていった。
 藍は胸の前に手を置いて静かに瞳を閉じ、少しの間じっと頭を垂れる。
 寄せては返す潮騒にまじって、どこかで花火の打ち上がる音がしている。
大成功 🔵🔵🔵

猫希・みい
【月猫】

スカイランタンだって、黎くん
とっても素敵ね
中に文字を書く事も出来るみたい
黎くんは何か書く?
私?私はね

『黎くんと両想いになれますように』

こう書くわ
私の気持ち
知らなかったでしょ?なんて悪戯に微笑んで
恋心って意味よ
―――うん、わかった
外の世界をもっと見て、証明するから
これからも黎くんが好きだって事
この気持ちが変わらない事
だからどうか傍で見守っててね

ふたり手を重ねて空へ打ち上げる
わあ…っ!
なんて綺麗なんでしょう
どこへ運ばれていくのかしらね
きらりら輝く空のひかりを見上げて
そうと手を繋いだなら
この温もりがずっと続けばいいと
この熱が私だけのものであればいいと
そう願いながら見守りましょう


月詠・黎
【月猫】

すかいらんたん…空の灯り
噫――綺麗だ
中には文字を綴るのか
俺はと答える前に、

恋心の意味は知ってる
俺が其の感覚に至れぬだけで

確かにお前の好意の意味は知らなかったな
月眸を微かに揺らし
(…俺が愛を紡いだ時は、届かなかった物が今になって何故?)
不要な物だった筈だと
既に埋めてしまった想の残滓に些か困惑する

みい、お前は俺に近すぎる
…俺が狭めてしまったからな
だから外を見ておいで
俺もその間に考え、手繰ろう
勿論、何時だって見守っている

何も綴らず白い紙
俺は叶える神
自らで辿り着かねば意味が無い

空へ打ち上れば
白き紙も綺麗に煌く
屹度、空の果て迄
繋いだ手のぬくもりに
いつかまた宿るかもしれぬ熱を想い馳せ
天燈を映し之く


 真砂に残る二人の足跡は寄り添い時に重なって。
 月と猫が夜を往く。
 まるできらびやかな装飾のようだと。花火に染まる天を二人で眺めるうち。
 ふいに好奇心をくすぐられたように、猫希・みい(放浪猫奇譚・f29430)がねえねえと声を上げた。
 指差す先には、空へ向かってふわりと飛んでいく小さな灯り。
「スカイランタンだって、黎くん」
 すかいらんたん……空の灯り。口の中でなぞり、月詠・黎(月華宵奇譚・f30331)も目を遣った。
「とっても素敵ね」
「噫――綺麗だ」
 どうやら誰でも自由に手に入れられる代物であるのだと知れば、やってみようと言い出すのはやはりみいの方からだっただろうか。愛くるしい望みを聞き届けるのは黎の役割でもあるから。

 竹ひごの枠組みに薄紙を貼り付けたランタンを手に、二人はすこし人の群れを離れた場所へと歩いていく。
「中に文字を書く事も出来るみたい」
 ランタンと一緒に渡された筆記具を手にしたみいが言う。
 文字を綴り空へと放つ。その行為はなにかしらの習わしを彷彿とさせると黎も物思う。
「黎くんは何か書く?」
 俺は。と黎が声にする前に、みいの囁くような声が耳朶を打った。
「私はね『 黎くんと両想いになれますように 』こう書くわ」
 渚を背に、花火の下でみいが微笑む。悪戯な仕草をしていたが、眼差しには一途な想いが浮かんでいた。
 黎は思わず息を呑んだ。
 小さいとばかり思っていた蕾が気づかぬ内に花開いていたような驚きが胸を衝く。
「私の気持ち、知らなかったでしょ?」
 柔らかな髪が波風に揺れて赤らんだかんばせにかかるのを手で払い。
 やわらかな声で、あらためて告げる。
「恋心って意味よ」
「恋心の意味は知ってる。……俺が其の感覚に至れぬだけで」
 答えに、みいの肩はわずかに跳ねた。
 月眸は微かに揺れて、しかし彼女を映したまま反らすことはしない。
「確かにお前の好意の意味は知らなかったな」
 ……俺が愛を紡いだ時は、届かなかった物が今になって何故?
 不要な物と既に埋めてしまった想の残滓にいささかの困惑を覚えながら。
 ただ優しく穏やかに、静かな言葉を継ぐ。
「みい、お前は俺に近すぎる……俺が狭めてしまったからな」
 すべては愛し猫へと向ける慈愛が故に。
 けれどもうこのままではいけないのだと、悟らざるを得ない。
 その恋心に応えられないのであるならば。どこかで手を離してやるべきなのだろう。
 世も心も移ろいゆく、それを識ればこそ。
「だから外を見ておいで。俺もその間に考え、手繰ろう」
「―――うん、わかった」
 今はそれでも良い。と、頷いて。
「外の世界をもっと見て、証明するから。これからも黎くんが好きだって事。この気持ちが変わらない事」
 みいは愛しげに月を見詰める。
「だからどうか傍で見守っててね」
「勿論、何時だって見守っている」
 まるで誓い合うように手のひらが重なり、淡い熱を交わした。

 花火を籠めたランタンは、空へと浮かびあがって。
 鮮やかな色変化を起こしながら輝くその様子は、幻想的な美しさを湛えている。
 わあ……っ! と、みいは歓声を上げた。
「なんて綺麗なんでしょう」
 どこへ運ばれていくのか、風に乗ってランタンはだんだんと遠くなっていく。
 隣に立つ黎の手にまた触れて、そうっと繋ごうとすれば、ゆるやかに握り返された。
 この温もりがずっと続けばいいと。
 この熱が私だけのものであればいいと。
 密やかに願いながら遠くなる灯を見守る。
 黎もまた想いを馳せながら、空の果てを見ていた。
 何も綴らず白紙のまま送り出したランタンも、花火の明かりを宿して綺麗に煌めいている。
 叶える神であるから、自らの願いは己で辿り着かねば意味が無い。
 繋いだ細い手のぬくもりに、いつかまた宿るかもしれない熱を想いながら黎は眦を細めた。

 どこからか月下美人の甘やかな花の香が二人の間をただよう。
 胸の裡をゆさぶるような波の音が、いつまでもさざめいていた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

テティス・カスタリア
【廻】
書く手紙はない
やろうとしたこと、終えた
元から縁は全部海の中
でも
「シェス」
振り向いて名前を呼ぶ
気配、覚えた
彼の首には返したペンダント
捨てられててもよかった
でもそれを持ってるからこそ
今日此処へ、来たからこそ
「これ、あげる」
ガーターリングから取り出した貝(装備8)を差し出す
「メガリス。んと…お金になる物、生むこともある」
嘘は吐いてない
けど何が糧かは内緒
「少し魔力つく、から。普通の宝石商よりそういうの見れる人に売ったらいい」
痛みも苦悩も無くなったら貝は何もしなくなる
そしたらきっとシェスは捨てる
それでいい

問いには静止
風の加護持つ少女に冒険の供を望まれ、けれど炉の火は消えた後
いつ泡となるかわからない


シェフィーネス・ダイアクロイト
【廻】今年の水着

(幽世…私にとって苦い記憶がある地)

人気が少ない深夜
漣の音が心地良い
妖怪花火が咲く中、ランタンを持って浜辺の近くを歩く
紙に綴る文字は無し
入れる花火お任せ

(託す思いも無駄
信ずるべきは金のみ
この世のメガリスを集めた果てに
何かがある訳で無くとも)

首に提げたペンダント握り
前方見ればセイレーンの姿

カスタリア(噫、奴にも逢いたくなかった
願いなど無きに等しい貴様が何しに此処へ来た
此れは?
…何故、其れを私に渡す
金も?…曰く付きか
貰える物は貰っておく
礼は云わん(彼の手から奪う様に

…貴様はこれから如何するつもりだ
未だあの船に居座り、彷徨い
彼奴らと見届けて何になる(元から希薄な彼が更に透けて見え
……


 真夜中の浜を彩るは、依然きらびやかな花火広がる幻想の天空。
 賑やかだった祭り騒ぎもこの時間ともなれば人も閑散として。
 それでも此処はアヤカシの世。深き闇に遊ぶ者共の気配を感じることもあるだろう。

 この世界に揺蕩うノスタルジアは折に触れては、シェフィーネス・ダイアクロイト(孤高のアイオライト・f26369)の心に苦いものを残していく。
 戯れに手に入れたランタンには海色の蒼い花火を籠めて、シェフィーネスは今にも浮き上がろうとする灯りを抱えながら人気のない方へと足を向けた。
 なにか郷愁めいた催しのようであったが。
 けれどこれは唯の灯りでしか無い。気が向けば空に放つだけだ。
 綴る願いも、託す思いも、無駄と切り捨てる。信ずるべきは金のみ。
 ――例えこの世のメガリスを集めた果てに、何かがある訳でなくとも。
 胸元に爪立てるように首に掲げたペンダントを握りしめた仕草は縋るような仕草めく。
 どこまでも、切っても切れない縁は纏い付くもの。
 心地の良い漣の音に誘われるようにして出会うのだろう。
 行く手に見えるのは銀糸のごとく滑らかな髪を風に遊ばせながら、ふうわりと宙に腰掛けたセイレーンの後ろ姿。
「シェス」
 しとやかな声をさせて、テティス・カスタリア(想いの受容体・f26417)が振り返った。
「気配、覚えた」微笑む顔はどこか得意げな気配がする。
 しかしかねてよりどこか泡沫めいた美貌は、夜のあわいに溶けていくような儚さを孕み。
 シェフィーネスの眦は、無意識に尖りを帯びた。
 逢いたくはなかったと歯噛みしながらも、近寄って。
「カスタリア。願いなど無きに等しい貴様が何しに此処へ来た」
 まるで詰問するような様子で尋ねても、気にした風もなくテティスは小首をかしげるばかり。
 視線がシェフィーネスの首筋をたどってペンダントに目を止めれば、ああ、と呼気だけで呟く。
 捨てられててもよかった。
 でもそれを持ってるからこそ。
 今日此処へ、来たからこそ。
 ほつほつと浮かび上がる思いはどこか淡い。
 指先を尾ひれへと伸ばし、ガーターリングから取り出すのは貝状の宝物。
 取り出したそれを怪訝な顔をするシェフィーネスへと差し出して。
「これ、あげる」
「此れは?」
 ……何故、其れを私に渡す。と彼は警戒に満ちた顔をする。
「メガリス。んと……お金になる物、生むこともある」
「金も? ……曰く付きか」
「少し魔力つく、から。普通の宝石商よりそういうの見れる人に売ったらいい」
 嘘は吐いていない。肝心なことを内緒にするだけ。
 心の痛みや悩みを感じると真珠を生み出すメガリス。
 ここで逢えたから渡すのだ。心の中に留めた毒蜜に彼が溺れてしまう前に。
「貰える物は貰っておく……礼は云わん」
 相手の心中など知る由もない、ほとんど奪うような動作でシェフィーネスは掌からメガリスを掠め取る。
 そうした態度を咎めることもなくテティスは軽く頷いた。
 彼から痛みも苦悩も無くなれば、貝は何もしなくなるだろう。
 そうして役目が終われば、きっとシェスは捨てる。
 それでいい。

 もう、伝えたから。

 地上でやるべきことは終えた、から。

「カスタリア」
 呼び止めねば、透明な水に溶けていくのではないかと感じさせるような気配だった。
「……貴様はこれから如何するつもりだ。未だあの船に居座り、彷徨い、彼奴らと見届けて何になる」
 シェフィーネスの問に答えることもなく、テティスは静かに双眸をゆっくりと閉ざす。
 風の加護持つ少女に冒険の供を望まれている。
 けれど炉の火はもう消えた後。
 元より縁はすべて深い海の中ならば、またいつ泡になるとも知れぬ身なのだろう。

 潮合の遠鳴りを聴く。
 海へ還るはいつの日か、星々の囁きも今はまだ告げてはくれない。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

明日知・理
ルーファス(f06629)と
アドリブ、マスタリング歓迎

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書くことは最初から決まっていた
迷うことなくペンを走らせ
書き終えたそれに満足げに瞳細めたところで
ルーファスの問いに視線が合い
込めた願いを口にするのは気恥ずかしくて

誤魔化すように貴方に問い返せば
近くなった距離と答えに返り討ちに合い
なんてなと笑う彼に揶揄われたのだろうかと
赤くなりながらつられて笑み

花火を決めながら触れたもう片方の手
指絡んで繋ぎ
相槌を打ちながらも
身体が熱く心臓がうるさい

見初めたのは紅蓮色の花火
ランタンに火を灯し
願いを込めてその背を押す

『これから先も、ルーファスやナイト、彼らの大切な者たちが幸せでありますように』


ルーファス・グレンヴィル
マコ(f13813)と

紙に書いたのは、──

なあ、マコ、お前なんて書いたの、
隣に居る彼をじっと見詰め
オレ? オレは、

こっそりと君にだけ耳打ち
これから先も、お前を離さねえ、
──なんてな
ふは、んな照れることじゃないだろ
くくく、と喉奥を震わせて

ほら、ちゃんと花火選ぼうか

どちらからともなく手繋ぎ
手持ち花火とかも今度やりてえなあ
まだ、やったことなかっただろ
折角なら色々夏を楽しもうぜ
高校最後の夏休み、だろ?

悪戯っぽく笑ってみせれば
地上から降る花火を手に取って
ランタンへと火を灯す

やがて、それは空へと還る
その様子を、ただ、じっと見上げ

──ランタンに込めた本当の願いは、
これから先も、理がしあわせであるように


 夏の夜の熱を帯びた空気が、妙に心を騒がせるのだろうか。
 空一面に広がる花火がきらめいて、二人は輝く夜を共に往く。
 祭り景色を楽しみながら、ふいに見掛けたランタンに興味を示したのはさてどちらだったか。

 薄紙で出来たランタンを手にして、明日知・理(月影・f13813)はすぐにペンを走らせた。
 書くことなら最初から決まっている。
 迷いのない筆跡で綴り終えると、文字を確かめ嬉しげにやわく細められる眦。
 そんな様子を隣からルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)はじっと見詰め。
「なあ、マコ、お前なんて書いたの」
 顔を寄せて問いかければ、目が合う。
 う、いや。と、もごもごとした声が、気恥ずかしげに呟かれて。
「そっちこそ、なんて書いたんだ」
 込めた願いを口にするのは気恥ずかしく、誤魔化すように問い返した。
 その様子を眺め、ルーファスは唇の端を吊り上げて笑む。
「オレ? オレは」
 ぐっと身体を近づけ、耳元に口を寄せて。
「これから先も、お前を離さねえ」
 吐息混じりの低い声で囁やけば、驚きに強ばる気配。
 跳ねる心臓の音さえ感じられそうだ。
 それ以上のことはせずに、するりと体を離して、悪戯げに片目を瞑ってみせる。
「──なんてな」
「お、……お前な」
 顔中を真っ赤にした理が、耳を手で抑え、切れ長の瞳で睨めつける。
 よほど驚いたらしい。
「ふは、んな照れることじゃないだろ」
 くくく。可笑しそうに喉奥を震わして彼が笑うから。
 どうやら揶揄われたのだろう、とつられるように理も笑った。

「ほら、ちゃんと花火選ぼうか」
「ああ」
 ランタンを携え、渚に向かって歩き出せば。
 波打ち際へと近づくに連れ、消えずに留まる花火が織りなす幻想的なパノラマが二人の上に広がる。
 いつの間にか重なった手に指を絡めて繋ぎながら、楽しげに交わされる声。
「手持ち花火とかも今度やりてえなあ」
「花火尽くしだな。そんなに好きなのか」
「だってまだ、やったことなかっただろ」
「え、ああ」
「折角なら色々夏を楽しもうぜ。高校最後の夏休み、だろ?」
「……そうだな」
 相槌を打ちながら、理は相手に気づかれぬように平静を装う。
 身体が熱く、心臓がうるさい。
 集中力は簡単に乱れて、話の内容を頭にいれるので精一杯だ。
「花火は、何色がいい?」
「さあ、適当に選ぶよ」
「へえ」
 どれほど心は乱されても繋いだ手を離さない。
 その様子をルーファスは優しく見守る。
「流れ星みたいだな」
「空から零れ落ちてきたんだろ」
 浜辺に、波打ち際に、点々と光る花火の色。
「……俺はこれにする」
 掬い上げるように理が花火を拾う。見初めたのは紅蓮色の花火。
 それならば、とルーファスが選ぶのは紫の花火だ。
 顔を見合わせて、小さく笑う。

 それぞれ選んだ花火をランタンに込めると、ランタンはすぐに浮かび上がった。
 背を押すようにして、風の中に送リ出す。
 ゆらゆらと灯が昇っていく。空へと還るのだと見送って。
 しばらく口を閉じ、佇んだ。

 『これから先も、ルーファスやナイト、彼らの大切な者たちが幸せでありますように』
 『これから先も、理がしあわせであるように』

 互いに願ったのは相手の幸せ。
 寄り添うように飛びながらランタンの灯りが空の彼方へと流れていく。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ヨハン・バルクレイン
今日は素敵な夜をありがとう。まるで空に花畑ができたみたいだね
ねぇ君、天灯を一つ貰えないかな?弟と一緒に書きたいから少し大きめだと嬉しいな

エレン、出てきなよ。嫌とは言わせないからね
ほら、天灯貰ったんだ。書くとこ半分こしよう。代筆?やだね、自分で書きなよ
『用意周到だな』

以下UCで分離

『揺らすな。書きにくい』
エレン、何書いた?俺はね、ほら「皆と仲良くいられますように」
『言わなくても分かるだろ』
まぁね。おいでボリス。似顔絵描いたげる
『ヨハン、動物たちを呼んでくれ。俺も描きたい』

『それで、花火はどこだ』
『…拾いに行くぞ橙色の奴』
空色のも探そうよ
ねぇエレン、少し多めに拾おう。せっかくだから持って帰りたいな


 妖怪花火が打ち上げられた夜空はきらびやかに輝いて。
 色とりどりの花火は消えずにいつまでも空に模様を描き、摩訶不思議なパノラマを広げる。
「まるで空に花畑ができたみたいだね」光景に思わず呟けば。
 本当にねえ、きれいな景色ですよ。なんて相槌もあるものだ。
 それは花火見物に集まった妖怪達の声。
 猟兵を歓迎する彼等は、異世界からの客人の反応をそわそわと伺っているようだった。
「今日は素敵な夜をありがとう」とヨハン・バルクレイン(ふたりぼっち・f13945)は笑い掛ける。
 妖怪達は嬉し恥ずかしそうに首を竦めては、その言葉ににこにことした。
 彼等は自分達に向けられた感情を糧にするので、大変満ち足りたのである。

 さて、賑やかなところへと足を向けたのなら。
 屋台を出す妖怪も珍しくはなく、様々な物売りが並んでいる様子だった。
 商売に精を出しているというよりは、ただ自分の楽しみでやっているのか。
 やれまんじゅうだ。金平糖だ。おみやげに持っていきな、と通りがかるだけで商品を渡してくる者までいる。
 見ているだけでも楽しい風情であったけれど、ヨハンが足を止めたのは天灯の屋台だ。
 木の立て看板に 天灯・ランタンあり〼 と書かれた屋台は狸が切り盛りしているようだった。
「ねぇ君、天灯を一つ貰えないかな?」
 はい畏まりしてございますよ。と狸の妖怪が頷いて、並べた天灯を見繕いはじめる。
「弟と一緒に書きたいから少し大きめだと嬉しいな」
 ビックサイズでございますね! かしこまりましたー! と張り切る狸。
 通常より二倍の大きさの天灯を持ってきて、ヨハンへと手渡すのであった。

 すこし人気のない入り江へと歩いてきて、ヨハンは片割れへ声を掛ける。
「エレン、出てきなよ。嫌とは言わせないからね」
 いつになく強い調子で呼びかけ、胸のあたりを軽く叩く。
 その様子にはこの景色はぜひとも見せてやりたい、という兄心を感じさせた。
「ほら、天灯貰ったんだ」
 大きいだろう、と見せてやり。
「書くとこ半分こしよう。代筆? やだね、自分で書きなよ」
 渋る様子に今夜は譲らないのだと。
 とうとうユーベルコードを用いて弟を連れ出した。
 ふうっと風が揺れるような気配があって、もうひとりの姿が現れる。
『用意周到だな』
 分離した彼はぶっきらぼうに言い、しかし兄の手からペンを受け取る。
 ヨハンは嬉しげに笑った。
 二人は浜辺に座ると天灯を真ん中に置いて文字を書き始める。
『揺らすな。書きにくい』
「エレン、何書いた? 俺はね、ほら『皆と仲良くいられますように』」
 兄らしい願い。
 エレンはそっと左右に首を揺らす。 
『言わなくても分かるだろ』
「まぁね」
 ヨハンもそれ以上は尋ねず。上衣の中にいる蒼色のトカゲに話しかけた。
「おいでボリス。似顔絵描いたげる」
『ヨハン、動物たちを呼んでくれ。俺も描きたい』
 いいよ。とヨハンが快く呼び出した動物たちが夜の浜に集まってモデルを務めるだろう。
 果たして賑やかでかわいい天灯が出来上がったものだ。

『それで、花火はどこだ』
 立ち上がったエレンは、あたりに視線を巡らせる。
『……拾いに行くぞ橙色の奴』
「空色のも探そうよ」
 弟の案外乗り気な様子にヨハンは胸の裡にひっそりとした喜びを広げた。
 天上の花火を二人で取りに行くのも楽しいかもしれないと思いながら自分も立ち上がる。
「ねぇエレン、少し多めに拾おう。せっかくだから持って帰りたいな」

 きっと今夜の思い出になるだろう。
 二人で過ごした夏のひと時を、花火が彩る夜だった。
大成功 🔵🔵🔵

蘭・八重
【比華】

まぁまぁ、とても綺麗ねぇ
空に花咲、花火
誰もが夢見る世界ね

ねぇなゆちゃん、お空のお散歩しましょう
貴女の手を引き花火への上へと
靴の音は響くのかしら?

ランタンに願い事
そうね、一つは隣に居るいとおしい子へ
この空の様に高く光差す場所へと導いて
願わくばその傍を誰よりも占領したい
嗚呼、貴女を手放すと決めてたのに貴女の握ったこの手が私を掬う
欲は深くなっていくばかりね
もう一つは混じり混じったもう一人の子
でも心は地の底へ
妖怪様なら届けて下さるかしら?

なゆちゃんの願いは何かしら?
嬉しいわ
貴女となら天も地も一緒よ
この時間を永遠に
誰にも渡したくない、愛しい子


蘭・七結
【比華】

花咲く空へと往けるだなんて
ふふ。背に翼が宿ったかのようね
天翔る夢を叶えに参りましょう、あねさま

あなたの手に、指さきを重ねて
そうと跳ね上がりましょう
もしも、空中に靴の音が響くのならば
高らかな音色を奏でるのかしら
さあ。如何なる音が聴こえるのでしょうね

願いごと……そうね、
懐いた願いは、わたし自身が叶えたい
ぎゅうと抱えた願いを渡しはしないけれど
一つを願うのならば――
わたしの、あなたの、館に住まうひとたちの
優しき日々を。安寧の時間を願いましょう

あねさま、だいじょうぶよ
わたしは――なゆは、ずうと共に居るもの
常なる夜の底で、ずうと一緒よ

移ろう時間が、止まってしまえばいい
そう感じるわたしは、我儘かしら


 瞬きの内に散るはずの花火は夜空に留めおかれ。
 まるであらゆる花を集めたような空模様は、瞬きすれば万華鏡の如くその色模様を変えても見せた。
 この世のものとは思えぬような光景を仰ぎ見れば麗しい微笑に吻と息。
「まぁまぁ、とても綺麗ねぇ」
 と、蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)は少女のような屈託のない様子を覗かせる。
「空に花咲、花火。誰もが夢見る世界ね」
「花咲く空へと往けるだなんて。……ふふ。背に翼が宿ったかのようね」
 応える蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)も、ころころと莞爾笑う。
 二輪の華のような二人は、仲睦まじく顔を見合わせてから。
 白い砂浜を歩きだして、波打ち際へと足を伸ばした。
 目の前には真砂のような光の粒が空への道をつくりだしている。妖怪花火の仕業であるから踏んでも沈むことはない。
「天翔る夢を叶えに参りましょう、あねさま」
「えぇなゆちゃん、お空のお散歩しましょう」
 八重が手を差し出せば七結も指先を重ねて、導かれるように。
 汐風に浮かんで、とん、とひと跳ね。
 ――もしも、空中に靴の音が響くのならば、高らかな音色を奏でるのかしら。
「靴の音は響くのかしら?」
「さあ。如何なる音が聴こえるのでしょうね」
 ヒールの先が花火に触れる。
 耳を澄ませば、漣の音に混じって微かに響く音がする。
 火の粉の遊ぶような音であったか、それとも風が歌うような音であったか。
 それとも星を鳴らすような音だったかもしれない。

 まるで身体の中まで軽くなったような心地で昇り上がったことだろう。
 夏の夜空は絢爛に輝いて、模様の上をそぞろ歩けば美しい景色が見る者を楽しませる。
 こちらは天の川を渡るよう、あちらはイルミネーションのトンネルをくぐるよう。
 手を繋いだまま、二人は光の中で戯れる。

 やがて。ランタンを飛ばしてみましょう。と、どちらともなく口にした。
 花を摘むように集めた花火の欠片を、薄紙のランタンへと籠めて。
 お願い事をしてから飛ばすのだと、まじない遊びをするように密やかに声を交わし。

 けれど。懐いた願いは、わたし自身が叶えたい、と七結は胸の裡で思う。
 ぎゅうと抱えた願いを渡しはしないけれど。
 それでも一つを願うのならば――。
 握った手に更に深く指を絡めて、八重の横顔へそっと視線を遣る。
 燃ゆるような紅の唇が不思議な笑みをたたえているのを見詰めながら。
 灯を籠めたランタンへ想うのは。
 わたしの、あなたの、館に住まうひとたちの。優しき日々を。
 安寧の時間を願いましょう。

 嗚呼、貴女を手放すと決めてたのに。
 繋いだ手と手、絡まる指が握りしめる私を掬うのと。
 深まる欲に、八重は憂うような、しかし熱帯びた心地を覚える。
 だからこそ、願いの一つは隣に居るいとおしい子へ。
 この空の様に高く光差す場所へと導いて。
 願わくばその傍を誰よりも占領したい。
 この手を放せるのはいつの日か。
 もう一つの願いは、混じり混じったもう一人の子へ。
 でもこの心は地の底へ運ばれなくてはいけない。
 妖怪様なら届けて下さるかしら? なんて、足元を見遣った。

「なゆちゃんの願いは何かしら?」
 浮かび上がるランタンを空の中へと放してやればふわりと飛んでいく。
 見送るようにミッドナイトブルーの沖を眺めながら、ぽつりと八重が零した声に。
「あねさま、だいじょうぶよ」
 甘えるような仕草で肩に頭を凭れかかせて、七結はやさしく囁いた。
「わたしは――なゆは、ずうと共に居るもの。常なる夜の底で、ずうと一緒よ」
 瞼を伏せると、八重の空いた方の手が七結の髪を撫でていく。
 移ろう時間が、止まってしまえばいい。
 そう感じるわたしは、我儘かしら。
「嬉しいわ」
 八重の声は美しく澄んだ響きをさせる。
「貴女となら天も地も一緒よ」
 この時間を永遠に、この花火のように留めておけたなら。
 誰にも渡したくない、愛しい子。

 どこかでまた花火の上がる音がしていた。
 いずこへ続くとも知れぬ海と空の交わる果てへ。
 ランタンが飛んでいく。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2021年08月07日
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵