Falling on the beach(作者 春待ち猫
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#カクリヨファンタズム  #お祭り2021  #夏休み 


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●グリモアベースにて
 ――その予知をした、グリモア猟兵の長い話を纏めるとこうだった。

 今年、バズリトレンディがカクリヨファンタズムに問答無用でビーチを作って開催した水着コンテスト会場。
 そこに、妖怪親分達の粋な計らいにより『妖怪花火』なるものを用意したらしい。
 妖力をまじえたその花火。打ち上げれば大小問わず、物の見事に流麗な花を咲かせるが、それだけではない。
 その花火には色鮮やかでありながら熱が無く。実際に肌に触れても害はない。
 更には妖力によって一種の力場が発生しているらしく、花火と共に打ち上げられるという、アトラクションめいた楽しみ方も出来るのだという。
 同時に、花火が上がる際に空へと浮き上がるという、階段にも似た美しい紋様を上り、歩く周囲にて花火が上がるという幻想的な空間の中を散歩まで出来るのだとか。

 現在、それを目玉に会場のビーチは普段着も水着も問わず、様々な人が集まり全力で遊んでいる最中なのだという。
 空は広がり海は何処までも澄み渡り、白い砂浜はゴミ一つ落ちていない。
 そして、集まる人を待ち構えるように、海の家の代わりには、無数の屋台が軒を連ねているらしい。

 しかし、
「妖怪花火の一部に、制作段階で妖力の込め方を間違えたものがあったらしいのよね」
 それを予知した猟兵は、それをどう判断したら良いものかとばかりに首を傾げる。
「その間違えた花火は、少し変わり種になってしまって――。
 打ち上げると『打ち上げた花火と一緒に、季節関係無く様々な花や花びらが降ってくるようになってしまった』の」
 これ、どう見ても明らかな事故なのだけれども、と予知した猟兵は言葉を続けた。

「一応、現状では、花が枝ごと頭に降ってくる惨事は起きていないのだけれども……。
 不幸中の幸いと言うべきか、それにより必要以上に華やかになってしまった結果、想定以上にお客さんが集まり、主に屋台の人達が『売り上げが伸びた!』と、嬉しい悲鳴を上げている次第。
 今回は――そんな賑やかなビーチへと、妖怪親分達から猟兵達へ『是非、遊びに来てほしい』という依頼よっ」

 そこまで告げると、予知した猟兵は力強く頷きつつ、ずっと抑えていたテンションをぶちまけた。
「夏と言えばっ! 花火! ビーチ! 屋台! ついでに花まで降ってくる!!
 ――疲れを取って、存分に羽を伸ばしてくると良いと思うわっ!」
 そうして一つおじぎをして。さっそく意気揚々と、集まってもらった猟兵達の転送を開始した。


春待ち猫
 この度は、ご閲覧ありがとうございます! 夏休みイベント楽しみにしておりました。春待ち猫と申します。どうか宜しくお願い致します。

●このシナリオについて
 一章形式のイベントシナリオです。
 シリアスなものから、ほのぼの、コメディまで、参加者様のプレイングに合わせさせて執筆させていただきます。
 ※グループでのご参加の場合、4名様以上のプレイングは力量不足で流れてしまう可能性がございます。

●プレイングにつきまして
 上記オープニング内容に沿ったプレイングであれば、内容はご自由にお書き添えください。
 花火鑑賞の他にも、一緒に打ち上げられるもよし。降ってきた花を拾うもよし。花びら舞う水面の海で泳ぐもよし。屋台で好きなものを食べ歩きしていただくのもご自由に。

 ※お手数ではございますが、プレイング冒頭に早朝、昼、夜などの【時間のご指定】をお願い致します。

 ご希望の方がおられましたら、OPのグリモア猟兵を出すことも可能です。あたまがわるいですが、賑やかしくらいは出来るかも知れません。

●執筆の方向性につきまして
 今回のシナリオは受付期間を設けております。期間内の参加者様の人数によりましては、再送をお願いする可能性がございます。詳細はタグとマスターページに記載させていただきますので、大変申し訳ございませんが何卒ご了承いただけましたら幸いでございます。
 プレイングの受付開始は【07/29(木)08:35~】となります。受付開始前のプレイングは流れてしまう可能性が高くなってしまいますのでご注意ください。

 それでは、ここまでご閲覧いただきまして、誠にありがとうございました。
 ご縁がございましたら、どうかよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み2021』

POW妖怪花火で空へGO!
SPD妖怪花火の上で空中散歩
WIZ静かに花火を楽しもう
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ラファエラ・エヴァンジェリスタ
ジュジュ(f01079)と

人生初の水着だ
プロフ参照
こうも肌を晒すのは落ち着かぬが、新鮮だな
ファビュラス…良い響きだ、もっとくれ
ジュジュの水着も愛くるしい
悪い虫など寄って来ぬよう私が目を光らせなければ…
…騎士?
別に喚ばずとも、…嗚呼、でも、ジュジュが言うなら…!

騎士は傍らに立たせた儘、トロピカルジュース片手にビーチチェアに腰掛けて寛ぐ
躊躇いつつもジュジュを真似て寝そべれば、真っ直ぐ仰いだ夜空に咲く花火も降る花も鮮やかで笑みが溢れる
女優のバカンス…か
確かにこれは贅沢だ

ふふ、ジュジュは器用だな
その花はメボンゴによく似合う
…そうだな
私も一輪欲しくなった
我が騎士よ、一番綺麗な花を私に献れ


ジュジュ・ブランロジエ
ラファエラさん(f32871)と
『』はメボンゴ(白兎頭のフランス人形)の台詞を裏声で
人形は白ドレス姿

水着描写お任せ
可愛い系希望

ラファエラさんの水着、女優さんみたい!
『ラファちゃ、ファビュラス〜!』
あっ、騎士さんも一緒にどうかな?
みんなでバカンスしよう!

メボンゴを抱っこしてビーチチェアに寝そべり花火観賞
サイドテーブルにはノンアルコールカクテル
優雅な気分だね〜
『女優のバカンス!』

花が降ってくるとウズウズして起きる
えいっ!と地に落ちる前に捕まえてメボンゴの頭に飾る
『メボンゴ、もっと可愛くなっちゃう〜』
ねね、騎士さんもやってみない?
宙に舞うお花をとらえてお姫様に献上するの!
二人の様子ににこにこしちゃう


●可愛い花を、綺麗な花を、大切な花を
 月明かりが大きく空を染める花火の色を邪魔しない、それはカクリヨファンタズムならではとも言える、少し不思議な夏の夜。
 その砂浜を、用意されていた更衣室から出た一人のデッドマンが歩いてきた。
 デッドマンの女性――ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)が隙一つ無い優雅さと共に道を歩けば、人混みは避けた人々も自覚がないほどに、自然と左右に割れては更なる道を開けていく。
 それは中々に盛大な光景ではあったが、不思議と不躾に彼女を目にする者はいない。
(人生初の水着だ、が――)
 その開かれた道を、当然とばかりに歩きながらラファエラは思案する。
 今着ているのは、己の人生における初水着。
 それは、ボディラインとして魅せるべき所ははっきりと出しながら。尚、それにより露わになるセクシャルを必要以上に振りまくことはよしとせず。水着と共に身に纏う、美しいレースの裏地を伴う薄布が身体を取り巻くことで、それらを完全には見せない計算され尽くしたデザインだ。
 しかし、デッドマンである前――過去から今まで、ラファエラは肌を曝すことなど殆どなかった。故に、ここまでの露出は正直、多少なりとも落ち着かないものがある。
 だが、一方において。その胸には新鮮さという風が駆け抜け、照れ恥ずかしくもその心には一際の清々しさがよぎっていった。

「あ、見つけたー!」
 ラファエラがそのような感銘と共に、更衣室前では混むからと、事前に少し離れた場を待ち合わせ場所として立っていた先。急に目にする視界まで明るくなるような、はつらつとした声が響いた。
 待ち合わせをしていた友人、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)が、人形遣いとして大切な相棒である、造形麗しい白兎の頭部に、同じく白のドレスを身に纏わせたフランス人形を抱えてやってくる。
 ジュジュの方も着替えて更衣室から出て来たばかり。その姿は、白みの強いうっすらとしたチェリーピンクを肩紐で止めるオフショルダーの水着の上下。それに、更に柔らかな色味を増して可愛さを強調している、丈が短く長袖の透き通るオーガンジーの羽織り物。それは、彼女の鮮やかな性格を表すかのような、深くも鮮烈に輝くシーグリーンの瞳をより引き立たせるようだった。
「ラファエラさんの水着、女優さんみたい!」
 その大きな眼差しがラファエラの水着を捉える。
『ラファちゃ、ファビュラス~!』
 連れ立つ相棒も、ジュジュの繰る糸の手を借り、ラファエラを称えるように傍らをクルンと回った。しかしその声ばかりは、華麗な動きと力量の乖離が若干激しく、ジュジュの裏声の面影がはっきりと残ってしまうのが少々残念なところ――しかしこれに関しては、この相棒にジュジュが付けた『メボンゴ』という、極めて前衛的なセンスの元に誂えられた名前と比べれば、どれも全てが些細なものとなるのは間違いのないところであろう。

「うん、本当に似合ってると思う!」
『ファ~ビュラス~!』
「ファビュラス……良く分からないが良い響きだ、もっとくれ。
 だが、ジュジュの水着も愛くるしい――。
 悪い虫など寄って来ぬよう私が目を光らせなければ……」
 ヴェールに隠された、ラファエラの瞳の奥が鋭い光を放つ。
 しかし、その様子に気付くことのないジュジュの心は、既に空からひらひらと舞い、風に吹かれる花びらから、屋台と共に広がるビーチや海へと完全に釘付けになっていた。
 翡翠よりも尚深い緑の目を輝かせたジュジュが、ふと名案を思いついた様子でラファエラに語り掛ける。
「あっ、騎士さんも一緒にどうかな?
 ――みんなでバカンスしよう!」
「……騎士? 別に喚ばずとも――」
 ラファエラが、完全に虚を突かれた様子で、この場に挙げられた己の騎士について思考を逡巡させる。
「うーん、だめかなー……?
 せっかくいつもと違う水着姿なんだし、いてくれたらきっと皆で楽しいと思うんだけど……」
「――!!」
 最初は、何故この場に喚ぶのかすらも、理解が及ばなかったラファエラであったが『いつもと違う水着姿なんだし』という、ジュジュが何気なく告げた一言は、ラファエラの心をまるで魔法ではないかと錯覚する程に、激しく大きく揺さぶった。
 思わず、それに対する言い訳を、ラファエラは胸の内で必死に理由として組み上げる。
『いつも同じ姿では、我が騎士も見飽きているのでは……? いや、それはもし自我があった場合であるが……否、多分無いであろうが、これは気持ち的な問題として――』等々、そのようなものを高速で。
「あ、でも、難しそうなら気にしな――」
「嗚呼、でも、ジュジュが言うなら……!」
『やったね~! バカンス~!』
 こうして、今宵のバカンス人数が確定した。
 ――せっかくの機会、バカンスと名のつくものは華やかな方が良いに決まっているのだから。

 夜風はほのかな涼しさすら伴って、ビーチを駆け抜ける。それでも夜の盛り上がりはこれからだ。人もまだまだ減る気配がない。
 ラファエラとジュジュは、恐らく新し親分バズリトレンディが用意したに違いない、ほのかにバブリーな気配を感じるビーチチェアの準備をする。
 ラファエラが、己の騎士にビーチチェアの組み立てを任せつつ。屋台と海の家が合体したような、不可思議な場所から買って来たトロピカルジュースを片手に持って。そこに腰掛けては、ふぅと一息などをついている間に。
 ジュジュは、既に手慣れた様子でチェアの側にサイドテーブルまで用意して。そこに、ブルーキュラソーのシロップとグレープフルーツがグラデーションを成して、混ぜれば綺麗な緑となるであろうノンアルコールカクテルまで傍らに置き、夏の風情あふれた完璧なシチュエーションを設えていた。
 そんなジュジュが、可愛らしいメボンゴを抱え、心地よさそうにビーチチェアに仰向けになって寝そべると、上空には花火の勢いと共に、時折吹く風に舞うかのように、ふわふわとその傍らに花や花びらが落ちてくる。

「これは、何とも言えない優雅な気分だね~」
『ね~っ』
 ジュジュと人形のメボンゴが、一人二役であるのが惜しいくらいに息のあった相槌を打つ。
 それを目にして、しばしじっと見ていたラファエラも、ジュジュを真似て、おそるおそるビーチチェアに横たわる。すると、仰向けにして飛び込んだ夜空の世界に浮かぶ、無数に散らばる花火はあまりにも豪胆かつ華麗であり。併せて一緒に降ってくる花や、舞い狂う花びらは風流を思わせるその一色。
 思わず感動を顔に浮かべたラファエラがジュジュを見やれば、彼女の代わりにビーチチェアの端で、メボンゴがクルクルと動きながら柔らかく繰り人形とは思えぬ動きでポーズを決めた。
『これは~、女優のバカンス!』
 口に出されるメボンゴの言葉は、場的に何故かジュジュが普通に口にするよりも的確に感じられる気がする。
「ああ、女優のバカンス……か。
 確かにこれは贅沢だ」
 二人とも、過去には観られていくらの世界を歩いてきた存在。そんな存在だからこそ、慰労としてこのような華やか過ぎる時間も、きっと許されるに違いない。

 ふわりと、また仰向けになっていたジュジュの前に花が滑るように流れていく――好奇心に疼く視線は、花を追っては右から左へ、左から右へ――。
「えいっ!」
 そして掛け声一つ。ジュジュは起き上がりざまに、地に着く前に何度となく舞っていた『白いガーベラ』の花一輪を潰さないように手で掬い上げた。
「はいっ、メボンゴ」
 上半身を起こし、綺麗に手にしたガーベラを身に置いて、足元にいるメボンゴを手にすると、その花を長く伸びる耳元へと飾り付けてあげる。
『やだ~っ。メボンゴ、もっと可愛くなっちゃう~』
 ジュジュの細い太腿に乗っていたメボンゴが、糸で操っているとは思えない程に可愛らしく、てれてれと頬に手を当て身をよじってみせた。
「ふふ、ジュジュは器用だな。
 その花はメボンゴによく似合う」
「ねね、騎士さんもやってみない?
 宙に舞うお花をとらえてお姫様に献上するの!」
 メボンゴの喜び舞う様子を表現しながら、ジュジュは名案とばかりに顔を輝かせて進言する。お姫様にお花を献上する騎士、それはとても素敵に違いない。
 ラファエラは、一瞬の無言を走らせその案について考える。物に触れられようとも亡霊に過去の意思はないだろう。きっと、何も語ろうとしない騎士は――ただラファエラ本人の心をユーベルコードで写し取っただけの存在に過ぎないであろうから。
 ――だとしても、もし我が騎士から、花を受け取れたとしたら。
 それはどれだけ嬉しいことだろう――。
「……そうだな。
 私も一輪欲しくなった。
 ――我が騎士よ、一番綺麗な花を私に献れ」
 己が主の言葉に合わせ、立ったまま微動だにしなかった騎士が動く。その首が僅かラファエラに捧げる花の為に夜空を見やる。
 ラファエラは、その一挙一動をじっと見つめていた。騎士は最初、ピンクの薔薇に手を揺らし、そして後にプリムラ・シネンシスと呼ばれると知った種類の花に手を伸ばしかけて――それを風が流すままに見送った。
「どうかしたのか、我が騎士」
 ラファエラは最初の、目につくピンクの薔薇でも捧げられるのであろうと思っていた。身近で一番綺麗に映える花であったから。
 しかし、騎士のその仕草は、まるで迷っているかのようにも見えた。そこに、意思などないはずなのに。
 ジュジュには伝わってきたその挙動の意味に、確信こそ出来なくとも思わずにこにことした微笑みが隠せない――しかし、当のラファエラには、最近依頼の戦闘で、騎士を酷使し過ぎただろうかとしか感じる事はなく。
 そして、今の状況も。大方、花を潰さぬように取ろうとして、取りそびれたのであろうに違いない。
 そう、ラファエラが己の中でその仕草の意を片付けた時。
 騎士は、その手に白の花火が開き続けているかのような――後に調べて『ナナカマド』と呼ばれる一房に近く連なる小さな花々を、そっと一輪も潰す事なくラファエラへと差し出した。
「……。フッ――舞う花が沢山あって混乱でもしたか? 我が騎士」
 自身には、豪奢で存在感あり華やかな花こそ似合う。ラファエラにはその自覚があった。
 故に、騎士が数多の中からこの花を選んだのは、きっと今回発動したユーベルコードの調子が悪かったのではないかとすら思う。
 ……恐らくはきっと、そうなのであろうと。
 だが、挙動はどうあれ、事実。それは時間を掛けて騎士が選んだ花であったから。
 ラファエラは最初に浮かんだ、多少の困惑が引いた先に残った笑顔でその花を受け取った――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

逢坂・理彦
【夜】水着なし
降る花:ブーゲンビリア花言葉『貴方しか見えない』など

煙ちゃんと(f10765)
煙ちゃんと海辺に来るのは初めてだね。
泳ぐのはちょっとなぁって思ってたけど今年は花火も素敵みたいだから一緒に見たいなって。

猟兵さんに聞いたけど本物のお花も一緒に降ってくるんだって。
(言いながら砂浜で花火を見上げて。降ってきたのは鮮やかな赤紫の花それを二人で手に取って)

サムライエンパイアじゃ見ない花だね。
でも、鮮やかだし華やかで綺麗な花だね。
花火も見たし喉は乾いてない?
何処かで飲みものを買おうか。

(出店で花の名前を教えてもらい花言葉を聞くと照れたようにに笑って)
ふふ、素敵な花だね。


吉瀬・煙之助
【夜】
理彦くん(f01492)と
(服装は浴衣で)

お祭りで花火を見る事はあったけど
こうやって理彦くんと海で花火を見るのは初めてだね
それにしても花火と一緒に花が降ってくるって…さすがカクリヨだね

理彦くんと一緒に静かな場所で花火を見ながら
降ってきた花を拾おうかな
いろんな花が降ってきてるけど、理彦くんどの花がいいかな?
(ブーゲンビリアの花を見て)
この花綺麗だね、故郷では見たことないかも
うん、屋台に飲み物買いに行こうか

ぶーげんびりあ?っていう花なんだね
花言葉は……全部理彦くんにピッタリかも…
(意味に照れながら目を逸らして)


●それは、自分達の想いの形
 夜の海に大きな潮騒の音が聞こえてくる。それでも、新し親分バズリトレンディの作ったビーチには、賑やかと言えるほどの人がおり、まだまだ親分達の作った花火は盛大に空を彩り続けている。

「煙ちゃんと海辺に来るのは初めてだね」
 そう告げて。その自然と出来た道筋を、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)が、ゆったりとした足取りで歩く傍らで。理彦は、その隣に並ぶ吉瀬・煙之助(煙管忍者・f10765)へと、いつもの飄々とした口調よりも、大事な人へと心を伝えるほんのりと浮いた様子で話し掛けた。
 それは、普通の人では気付かない、ほんの些細な機微の違い。それでも、煙之助はきちんとそれを察すると、嬉しそうに微笑んだ。
「そうだね。――うん、綺麗な花火。
 お祭りで花火を見る事はあったけど――こうやって理彦くんと海で花火を見るのは初めてだね」
 付き合いの長い二人であるから、これを聞けば驚く人もいるかも知れない。こうして海に来るのも、砂浜で花火をするのも初めてだと。二人も改めて実感する。

「海は、泳ぐのはちょっとなぁって思ってたけど、今年は花火も素敵みたいだから一緒に見たいなって」
「花火――」
 理彦の声に何とはなしに言葉を返せば、呼ばれたのかとばかりに綺麗な白い花一輪が、煙之助の胸元から足へと、槍梅紋様の浴衣に沿いながら流れるように落ちていく。
「猟兵さんに聞いたけど本物のお花も一緒に降ってくるんだって」
 側にいた理彦が煙之助を連れ立ち、人の少ない砂浜の区画を見出すと、そこに向かって立ち止まり、特等席とも近いその場で、大きく空を見上げてみせた。
 その言葉の最中すら。空からは、はらはらと、はらはらと。薄桃と透き通る様な白の花びらが風に乗って二人の上に落ちてくる。
「……花火と一緒に花が降ってくるって……さすがカクリヨだね」
 カクリヨファンタズムならば、もはや何があっても驚くことの方が少ない世界。それに改めて煙之助は感銘を覚えずにはいられない。

 人が少ない場所というのもあるのだろう。花や花びらが、浜を歩くのに足運びに少し悩む程、満遍なく降り落ちている。しかし一方で、不思議な事に、それ以上積もる様子も感じられない。
 一定以上咲き落ちた花は、事故で生み出された妖力切れと共に、消え去っているのかも知れない――そう煙之助が気付けば、これは積もらない雪のようなものであろうかとも、それともまるで『触れられるけれども、ただ消えるだけ』の儚さを、敷き集めたような光景のようにも思われて。
 そっと指先が、まだ落ちたばかりで誰も踏んでいない、煙管の紫煙にも似た柔らかな花びらを手の平の上に拾い上げる。
 そして、そっと風に乗せるように手を開けば、それは羽根を広げた鳥のように、煙之助の手の中から飛び立ち消えた。
「いろんな花が降ってきてるけど、理彦くんどの花がいいかな?」
「そうだね、一緒に拾おうか」
 上空で音と光が弾ける度に、花が花びらを伴い、まるで重力の存在を忘れかけたように緩やかな速度で落ちてくる。
 二人が、どれか素敵なものはないだろうかと、ゆっくり花の吟味を始める。
 その間、見掛けただけでも、二人の元へ、愛くるしい桃の花が花びらを連れて訪れた。去ったと思えば、理彦から煙之助の方へふわりと芙蓉の花がその浴衣の胸元を飾り。逆に煙之助から舞った桔梗の花びらは、そっと理彦の肩に乗る。
 本当に、少しずつ消えているのでもなければ、いつかは花に埋もれてしまいそうな光景だ。
「これは……あまりに多すぎて、とても手が出せそうにないね」
 理彦が困ったように笑い、そして相手も似た表情を浮かべていたのを目にして、二人揃って楽しそうに微笑み合う。
 これは諦めようと、地面から目を離した先――二人は、空から降る鮮やかな赤紫の色を目に留めた。
 無心に、二人が手を伸ばし。一輪の花をそれぞれの手で重ねるように受け止める。
 地に着かなかったままに、二人の手に収まったそれは、美しく咲き誇るブーゲンビリアの花一輪――。

「この花綺麗だね、故郷では見たことないかも」
 わずかな驚きを込めて、理彦がそれを目に留める。自分が生まれて、今まで一度も見たことのない花だ。
「サムライエンパイアじゃ見ない花だね。
 でも、鮮やかだし華やかで綺麗な花だね」
 理彦より歳を重ねた煙之助も、それに同意して名前も知らない花を見つめる。花は自分が目にしてきた花魁達が色鮮やかに飾っていたのを山と目にしてきたけれども、この花はサムライエンパイアでは本当に見たことがない。
 しかし、その花はとても二人の心を惹いた。この場の花と同じようにいつか消えてしまうものだとしても。だからこそ、余計にしばしの間くらいは持っていいかも知れないと心に思えて。
 そして、それはとても自然な流れで、煙之助より大きな理彦の手の内に収められた。

「花火も見たし喉は渇いてない?
 何処かで飲みものを買おうか」
 天上の花火を見て、地上に零れる無数の花を目に追い続け。どの程度の時間が過ぎたのかは分からないが、流石に喉の一つも乾くもの。理彦の提案に、煙之助もゆるりと微笑み頷いた。
「うん、屋台に飲み物買いに行こうか」
 そうして、可能であれば消えゆく花でも踏まないように、細心の注意を払いながら人の少ない場を抜けて、賑やかな屋台路地へと差し掛かる。ここにも花や花びらが吹き込んで来るようだが、この場ではそれ以上に人の流れが多く、花たちはその流れについていくように寄り添っては、何処かへ消えて行ってしまうようだった。その為、ここには屋台の端々に寄り添う飾り程度の花だけが残っており、それはそれでシンプルな存在感を放っている。
「ここの屋台の人なら、この花の名前を知っている人がいるかも知れないね。少し聞いてみても――ああ、そうだ。煙ちゃんは何飲みたい?」
「そうだね、理彦くんと同じものがいいな」
 まるで聞いている方が赤面してしまいそうな内容も、長い付き合いの二人には日常の会話となる。呼吸するようにそのような言葉を交わしながら、二人は同じ飲み物を一緒に購入すると、飲みながら何か軽く食べられるものと――『この手にある花』を知っている人はいないかと、いくつかの屋台を巡り始めた。
 最初に向かった飲み物屋は、二人と同じように「初めて目にした。花が降っているのは見ているが、そんな綺麗な花もあるんだな」と、感動しながら飲み物を売ってくれた。――二人も、心惹かれた花であるから。お互いほんの少し心をくすぐったくしながら、聞いて回るのも楽しくて、本格的に屋台巡りを開始した。

 それからしばらく。気が付けば、屋台路地も大分歩いた気がする――。しかし、この花の存在を知っている屋台は驚くほどに見つからなかった。
「これは――本当に知っている人を探すのは難しいかも知れないね」
 煙之助が、更に途中で購入したニ本目の飲み物を口にしながら、ほんの少し音を上げる。この美しい花の名前が分かれば、自分も嬉しく、煙之助にも喜んでもらえるだろうと思う理彦も、流石にその事実だけには同感だった。
 ここまで誰も知らないのであれば『本当に、誰も知らない花』という思い出も悪くないと思える程だ。しかし、思い出をそこで括ろうとした先、
「これは……すごいね」
 ――どちらからともなく呟いた。いつの間にあったのだろう、ほんの直ぐ隣では、大小さまざまに透き通る、綺麗な花の飴細工を作っている屋台があった。
 並べられているものは売り物と言うよりは、どれも芸術の領域だ。それを何とも思うところなしに自然に生みだしていく店主が、二人に声を掛けてきた。
「いらっしゃい。今回の祭は何だか凄いねぇ。お客さんもそう思うだろう? どれか気に入ったものはあるかい?」
「それが――」
 痛めてしまわないように気をつけていた理彦が、手にしていた花をそっと見せる。すると、店主は軽く声を上げてそれに応えた。
「ああ、ブーゲンビリアまで降ってくるのかい。凄いなぁこの花火は」
「ぶーげんびりあ? っていう花なんだね」
 サムライエンパイアの出身には、あまりに聞き馴染みのない名前を、煙之助がほんの少し辿々しく口にする。
「そうそう、カクリヨファンタズムはUDCアースと繋がってるから、花は似たようなものが流れてくるんだけれども、和の国の古いおひとほど馴染みは薄いかもしれないねぇ」
 煙之助のヤドリガミとしての雰囲気に、感じ入るところのあった店主はそう言葉を付け足して――さらに、理彦と並ぶ姿を目にすると、なにかを納得した様子で頷いた。
「ちなみに、それにも『花言葉』ってものがあるんだよ。知ってるかい?

 ――『情熱』と『あなたしか見えない』――。

 素敵な言葉だろう? ……どうかな、情報量代わりに、お客さん一つずつ何か買って行っちゃくれないかい」
 それを聞いた理彦と煙之助が思わず大きく瞳を開いて、店主と。花と。そして、お互いの顔を見合わせた。
 自分達は、そんな花の名前と言葉を、二人でずっと探してきたのだと思うと――理彦の顔が、恥ずかしそうにくしゃりと笑みを形取る。
「ふふ、素敵な花だね。これは一本取られた気がするよ、飴細工は買うしかないかな」
 煙之助の方は、理彦の顔から照れるあまりに目を逸らす。
(「情熱」、「あなたしか見えない」
 花言葉は……全部理彦くんにピッタリかも……)
 普段、色白の肌にかすかに血が上って熱くなるような気がしてしまう。
 その花の意味は、今更口に出して言うものでもないかも知れないけれども――改めて、自分の想いそのままだと。口にするのはあまりに恥ずかしいものだから。
 そして二人は、少しでも長く見ていられるようにと、同じブーゲンビリアの飴細工を作ってもらって、それを買って帰途につく。
 これならば、花が消えても――見ていられるこの思い出と、その花言葉の意味はずっと残るものだから――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

花色衣・香鈴
【月花】


「佑月くんと初めて会ったのはグリードオーシャンの海底でしたね」
あの日も今日も中々不思議な光景
降ってくるお花が後日わたしに咲くかは分からないけれど…咲いたら思い出にはなるかな
「え?」
今日もわたしの服は普段通り
確かに海辺では浮いている
でも…
「その、生傷状態ですし…」
植物の寄生箇所は水着なら確実に見えるし肉が裂けている
潮水と砂の痛みは耐えられる筈だけど裂け目に溜まる鮮血は古傷より生々しい
きっと人を怖がらせてしまう
「浴衣…」
生える植物次第で生地が破れるから職人さんに申し訳ない
だけど佑月くんはこの病身を気味悪がる人じゃないのも解ってる
「…佑月くんの前でだけなら」
知己の竜神さんに頼んでみようかな


比野・佑月
【月花】


「そうそう、深海のお祭り。いろいろ食べれて楽しかったな」
名前も聞かずに一緒に露店を巡ったあの日
ぶつかってしまった彼女の調子が悪そうで声を掛けたんだっけ。
日差しが無いとはいえ水着でもない彼女は今暑くないだろうか
心配を悟られないよう、明るく話題を作り
「……ね、俺香鈴ちゃんの水着も見たいな!」
「じゃあさじゃあさ!浴衣はどう?今度でいいからさ、俺香鈴ちゃんとお揃いがいいな」
言ってみた我儘にその返答はズルくない?
香鈴ちゃんの前では格好つけたいのにさ、尻尾が揺れるのは抑えられそうにない
「それじゃあ約束だ」
ああでも今が夜でよかった
花火は綺麗だし、締まりのなくなった顔までは見られずに済むかもしれない


●此処にあるのは、さくより美しい花ひとつ
「佑月くんと初めて会ったのはグリードオーシャンの海底でしたね」
 夕も暮れ、濃藍に染まりきった夜が空を満たしてしばらく。
 ビーチで配られていた半透明のビニールシートを敷いて。その身に咲く花が当たらぬように気をつけながら、ゆっくりと踏み入り腰を下ろす花色衣・香鈴(Calling・f28512)と、シート内からはみ出さないよう大きな尻尾を丸めて座る比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)が、二人並んで空を見上げた。
 天上には鮮やかな花火が上がり、上空からは花や花びらが合わせるように降り注ぐ。
 ――二人は以前も、同じように空を見上げたことがある。
 互いの名前も知らなかった。海底の島から光り輝く魚が一群となって泳ぐ、海の星とも呼べるような年に数回見られるかという稀少な光景を、最初は別々の場所から見上げていた。
 こうしていると、その日のことを思い出す。今日という日といい、猟兵をしていると、ときおり中々に不思議で幻想的な光景を目の当たりにする事があるものだ。
 特に、あの日は今でも思い出す。それは――今、並んで座る二人が初めて出逢った日のことだから。

「そうそう、深海のお祭り。いろいろ食べれて楽しかったな」
 その日は、海底から光る魚の流星群にあやかるお祭りをやっていて。空のように海を泳ぐ魚達と、地上の屋台に完全に目を奪われながら歩いていた佑月が、ついぶつかってしまった少女――それが香鈴だった。体調が悪そうであったのもあるけれども、続いた彼女のおなかの音にちょっとだけ安心して、一緒に屋台巡りを提案したのだ。
 名前も聞かず、顔だってもちろん合わせた事もない。それでも屋台は二人で巡った方が楽しいものであるから。存在柄、たくさんの物は食べられない香鈴の代わりに、食べ物の殆どは佑月の胃の中に入ったが。それだけ香鈴も日常では考えない程の、たくさんの屋台料理が味わえた。
 名前を伝え合ったのは最後。でも、何の不便もなかった。過ごした時間は、名前を知らなくてもあまりにも楽しいものであったから。
 ――あれから、ちょうど一年の夏の刻。様々な想いが重なって。二人は今、此処にいる――。

 流星とは趣は違えども、大きな音と共に煌めき、消える代わりに無数の花を残していく花火はとても綺麗で。
(降ってくるお花が後日わたしに咲くかは分からないけれど……咲いたら思い出にはなるかな)
 香鈴の金木犀を宿す瞳が、自分の手元まで流れてくる花の一つを映し出す。――道行く先の見知らぬ花が咲くよりは、今、こうして特別な存在と一緒に見つめている、降り落ちる花の一つでもこの身に咲けば、それに微笑み掛けることも出来るかも知れない、と。

「……」
 佑月は、空から花の流れた先。細く白い香鈴の手元へ同じく目を寄せて、それから辺りを見渡した。
 宵闇の中に日差しはなく、それでも周囲は水着で海に泳ぐには躊躇いのない程の暑さを残し。
 それでも、視線を香鈴に戻せば、今日現れた彼女は柔らかくも艶めく黒髪を三つ編みに――そして、薄手に流れる布を重ねたゆったりとした服。
 それは、きっと外に出るにあたって、人の目に触れないように。己に咲く花や葉、棘を隠しごまかす為の服――。
「(香鈴ちゃん、暑くないのかな……?)」
 ふと、口に出しかけた思いは、喉で留める。彼女は表情に出さないが、この気温だ。きっと暑くないわけがなく。
 そして、自分がそれを口にすれば、彼女はきっと自分を心配しているこちらに気を遣ってしまうだろうから。
(そんなの、気にしなくていいのにな……)
 一年の時間を経て、互いの距離が近くなっても、佑月にはほんの少しの瞬間に、こうしてまだ越えられないものを感じる時がある――自分の前では、気にしないでもらえるようになってもらえたら、と思うけれども。
「佑月くん?」
 気が付いたら、彼女の鮮やかな橙色の瞳がこちらを見ていた。
「……ね、俺香鈴ちゃんの水着も見たいな!」
 佑月は、己の心配をごまかし隠すように。慌てて大きく笑顔を作ってそれを上書きして、その沈黙を海に流すかのように新しい話題を置いてみることにした。
 純粋に、見てみたいと思うのだ――彼女の水着姿は、きっととても綺麗に違いないから。

「え?」
 佑月から振られた言葉に、香鈴は思わず相手を目にその瞳をしばたかせた。
 確かに、今日も香鈴の服は普段着と変わらない。花を隠す為の、長袖でゆとりのある服。夏であるから、空気が籠もるので少し暑くも感じるけれども、それはずっと昔に慣れてしまった。
 先程まで、彼が見ていたビーチに目を向ける。そこには水着姿の人がたくさんいて、確かに自分の姿は海辺としては浮いている。日差しがあれば、日避けとでも言えるかも知れないが、夜ではそれも通らないだろう。
 しかし、それでも――。困ったように、香鈴は佑月に告げた。
「その、生傷状態ですし……」
 ――水着は着られないのだ。
 己の身体に寄生している植物の寄生箇所は、右二の腕と左太腿に腰の後ろ側……どれも、水着を着れば隠しようがなく、その花も香鈴との感覚を共有している以上、水着の中に押し隠すという選択肢もない。
 何より、それらは身体から生え、そして咲いているのだ。そこは当然、皮膚が割れ、土を土壌にするのと同様に肉が裂けている――。
 海で考えられるのは、潮水と砂、場合によっては潮風も。どれもがそこに触れれば身体は痛覚による悲鳴を上げるだろう。
 ただ、香鈴にしてみれば己の身体の痛みなど、幾度となく裂かれてきたその痛みと、植物から受けるエネルギーの循環に比べれば、恐らくどのようなものでも耐えられる範囲だと思える。
 ――しかし、溢れることのないだけで、裂け目には常に植物に吸収される紅い血が滲み溜まっているのだ。それは、今までこの身体を裂き続けて残った古傷よりも、肉が見えて海を紅く染める分、おそらく遥かに生々しいものだろう。
 そのような身で、ビーチにでも現れようものならば、きっと――否、間違いなく人を怖がらせてしまうに違いない。
「……水着は……」
 それ以上の言葉を紡げない悲しみが、零れはしないけれどもそこに確かに存在する、今も花咲く宿り身より滲む香鈴の血のように伸し掛かる。
 その悲しそうな沈黙に、慌てた様子を隠すことも忘れてしまった佑月が、急いで己の案の代わりを考えて、香鈴の前へと聞こえるならば、まるで音でもしそうな勢いで言葉を置いた。
「じゃあさじゃあさ! 浴衣はどう?」
「浴衣……?」
 再び、不意打ちに近く。まるで投げられるように佑月から出された案を聞き――香鈴は再び驚きを露わに、その橙色の目を丸くした。
 浴衣を着るなど、香鈴の中ではそれこそ考えた事がなく、水着同様に浴衣自体の持ち合わせもない。
 ――ならば、仕立ててもらうところから考えなくてはならないが、如何せんこの身である以上、生えてくる植物によっては棘などで生地を傷めてしまうのは避けられない。安物であればあるほど破れやすい為、気軽な物を買うわけにはいかず。かといって、高級なものであればあるほど、もし生地を破ってしまった際には、その職人さんに申し訳が立たなくなってしまう。
「……」
「今度でいいからさ、俺香鈴ちゃんとお揃いがいいな」
 目の前の彼が、少し狼狽えた忙しない様子で、先から一所懸命に話題を変えようとしてくれているのが伝わってくる。
 ――幸いは……きっと自分にとって一番の幸運は――。
 ……今、目の前にいるこんなにも優しい彼が、この異端とも言える病の身を忌避する人ではないと知っていることだ。

 少し考えて、脳裏に知己の竜神の顔が浮かんだ。
 そこに、香鈴は浴衣が不可能ではないという可能性に気付く。少し前では、その『少し考える』ということすらも、やめていたというのに。
 先程から、目の前の彼は――水着といい浴衣といい、自分の人生では考えもしないような可能性を出してくる。
 ――それはまるで。次から次へとあふれてくる、光り輝く宝石箱のようだった。

「……佑月くんの前でだけなら」
 花びらが吹きつける風の中を、少し恥ずかしく、ぽつりと掻き消されそうなほどの小声で、俯いた香鈴が言葉を落とす。
 瞬間、それをしっかりと大きな耳で聞きつけた佑月の顔が、大輪の花火のように輝いた。

(――言ってみた我儘にその返答はズルくない?)
 水着の時は、本当に申し訳ないことを言ってしまった気がして、慌てて話題を変えたかったのが半分。それなら『お揃いの浴衣が着たい!』全力気味にそんなワガママを思った心も半分。
 それなのに――その返事が『自分の前でだけなら』なんて、ずるい。ずるすぎる。
 目の前の、彼女の前では年上で、歳相応の格好をつけたいと思うのに。既に大きな尻尾が『特別』と。暗にそう言ってもらえた喜びに連動して、嬉しさのあまりに、わっさわさと動いて抑えられそうにない。この大きさだと目に留めていなくても隠しようがないだろう。せめて尻尾が小さかったら誤魔化せたかもしれないけれども、小さな尻尾の自分は多分自分ではない気がするから。おそらくこれは、もうどうしようもない事だろう。

「それじゃあ約束だ」
 己の尻尾は諦めて、少し子供っぽいかなと思いながらも、香鈴に向かって小指を差し出す――彼女は少し躊躇った後、恥ずかしそうに微笑んで同じように小指を差し出した。
 ゆびきりげんまん。うその罰なんて此処には存在していないけれども。
 離れた小指。佑月は一瞬何処に向けるべきか迷った視線を、大きく空に向けて、まだまだ上がる花火を目にした。

 ――ああでも、今が夜でよかった。
 花火は綺麗だし、この幸せすぎて締まりのなくなった顔までは、見られずに済むかもしれない――と、そんなことを思いながら……。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

メルメッテ・アインクラング
キリジ様(f31149)と
時間帯:夕

屋台を閉店し片付けを終え後は帰るだけ
ですが、輝く海を離れるのが名残惜しく……
「キリジ様。いえ、ただ、飛び込んでみたいと感じただけで
ええ。確かに遊泳は禁止されておりませんが……
では、あの。問題なければキリジ様もご一緒にいかがですか?」

働いた熱い体に冷たい水が心地良いです
しかも通常の海ではなく、施設では見る事のできない多種多様なお花と花弁が舞う美しく澄んだ水の只中をゆったり漂えるなんて!

「キリジ様!見て下さい、こちらのお花!(※花はMSさんにお任せします)」
お花の詳細は不明ですが何となく心が弾みついキリジ様にお見せしたくなったのでした
メル、もう一泳ぎ致しますね!


キリジ・グッドウィン
メルメっち(f29929)と
(水着の有無はお任せ)
よ、メルメっちお疲れ。……海に向かって叫んでみたいとかそういう感じか?若い奴はよくそうするらしい

これ(義体)は防水だから問題はないぜ
監視員の臨時バイトしてるしこう見えて最低限程度には泳げる
海に花…生花なのか?やっぱ何でもありなんだな

水っていうか液体浸るのは懐かしくもあるが…こう、海の"生きてる"って否が応でも見せつけてくる感覚は逆に……なあメルメっち。あ、想定してるより近かったわ。もっと遠くで泳いでるかと思って
(メルメッテの花を見て)ぁ…、あぁ「綺麗」だな、それは

ん、オレはちょっと夕陽でも見てるわ
メルメっちの事も見てるぜ?溺れないようにな。冗談


●純然たる生命からの威圧
「ふぅっ……これで、と」
 クロムキャバリアからカクリヨファンタズムへと出張していた、屋台休憩所『おやつのお店 Einklang』も無事閉店。スイカのソルベも大盛況で、最後には己の主にも指示された通りに、そのメイドであるメルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)は、水着姿で『今日頑張った店の様子』や『可愛い貝殻』、『さざめく波』に『偶然、足元を横切った小さなカニ』など、夕暮れの砂浜で『自分で撮る【自撮り】』を純然たる思いで敢行し、その使命を果たしてほっと一息ついていた。
 お店の片付けも無事終えた。後は転送によって帰るだけ、なのだが――夕暮れのオレンジと濃くなっていく海の紺が入り交じり始め。それでも尚、水面に光り輝いている映像資料で見たような光景から離れるのは、少し勿体なく――そして、胸に小さく、じんと響くほんの僅かな名残惜しさを感じられて。

「……」
 じっと、少しずつ落ちていく夕日を見つめる。昼間から上がっていたらしいが、大量の客の姿にそこまで気が回らなかった、花火の音が今静かに聞こえ始める。ビーチの客層も大きく変わったようで、人はいても水着コンテストとは違う一抹の淋しさが伝わってくる。それが一際に、メルメッテの後ろ髪を引いてやまない。
 それらは、まるで見れば見るほど、誘惑としてこちらの心を誘っているような気すらして――。
「――よ、メルメっちお疲れ」
「キリジ様」
 アンサーヒューマンの性質が、背後の気配を無自覚の中に薄らと察知させ。思考は掛けられた声と共に即座に情報を一致させて、そこから驚きという感情の齟齬を消す。
 メルメッテが振り返れば、そこには『この場に合わせた、一応』として、黒のハーフパンツタイプの水着と、グレーの薄手のパーカーを羽織ったキリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)の姿があった。
「……海に向かって叫んでみたいとかそういう感じか? 若い奴はよくそうするらしい」
「そうなのですか? いえ、私はただ」
 ただ、この感覚は何であろう。ただ――そう、触れてみたいと。この広大な存在に、全身で触れてみたいと思って。
「ただ、飛び込んでみたいと感じただけで……」
「ここ、夕方、夜の遊泳大丈夫だっけか? 確か大丈夫だった気もするが」
「ええ。確かに遊泳は禁止されておりませんが……。
 では、あの。問題なければキリジ様もご一緒にいかがですか?」
 せっかく、知った存在が側にいるというのに、一人で海に飛び込むというのは、それはそれで寂しいものだ。メルメッテがそっと水着姿のキリジに声を掛けてみる――しかし、キリジは身体部位を幾度も換装している傭兵でもある。
 大丈夫だろうかと、少し語尾が小声になりかけたメルメッテに、それに気付いたキリジは「ああ」と適当に言葉を返した。
「これ――義体は防水だから問題はないぜ。
 監視員の臨時バイトしてるし、こう見えて最低限程度には泳げる」
 それを聞いたメルメッテの瞳がぱあぁっと光り輝いた。
「それでは参りましょう、キリジ様!」
 後はメイドの様相を残した水着を着替えるだけであったメルメッテは、最後の思い出とばかりに一気に海に向かって駆け出した。
 そして、ざばざばと躊躇いなく腰のラインまで進むと、胸元近くまで来て尚透き通った夕暮れのオレンジと薄水色が同居する海の中へと、跳ねるように飛び込んだ。
 現代UDCアースほどの湿度はなかったが、昼間の暑さは水着でいるくらいが相応とも言えるものだった。その日光に曝され続けて働いた身体に残る熱を、一泳ぎする都度冷たい水が一気にその体温を和らげ奪っていくのが、あまりにも心地良く感じられて――。
 軽く数回、水を掻いた手をとどめ、深くなっていく海の中程に浮いたメルメッテは、静かに膝を丸めて身を置いた。
 海の小さなさざ波以外の流れが滞る。漂っているのは魚ではなく、大小様々な花びらの群れ。
 そして最初にグリモアベースで聞いた妖力とやらにバラツキでもあるのだろう。花びらではなく一輪の形をしかと保ったものも、海中にこの上ないほど可憐なクラゲのように漂っていたり、岩の上に貝のように落ちてそこで花開いたりしている。
(……!)
 それが、どれもクロムキャバリアの施設では見ることも叶わなかった花。電子資料越しに見ることがやっとで、生涯触れる事もなかったのではないかという程の花が、惜しみなく目の前を漂い、触れる事を許してくれる。
(こんな多種多様なお花と花弁が舞う、美しく澄んだ水の只中をゆったり漂えるなんて――!)
 これは夜になれば、花びらは暗闇に隠れてしまうのだろうか。それとも月光に反射するようにその存在を一際に際立たせるのだろうか。きっと、夜までいては己の主様に心配を掛けてしまうけれども。それを想像するだけで、メルメッテの心は高鳴りと共に沸き立った。

「――――――」
 キリジがメルメッテを追い海に飛び込んだその場について。
 一言で表現をするならば、それは『海中に空間事故で生まれた花畑』のようだった。
 何故か浮力に負けない花が海の真ん中に留まるように浮かんでいる。自然摂理であれば即座に海面に浮かぶ花びらが、まるで水中に風吹くようにキリジの周囲を包み込むように流れていく。
 それらの光景を目にしたキリジの思考は――一瞬、ほんの一瞬。『プラントに浮かぶ生体パーツ』を思い起こし――それらは、映像言語化される前に、キリジの脳から掻き消えた。
「……?」
 その違和感に脳に必要とされる酸素を消費し、一度キリジは海面まで戻り顔を上げる。
「海に花……生花なのか? やっぱ何でもありなんだな」
 流石、カクリヨファンタズム。この現象についてはそれで片付け、キリジは改めて自分の立ち泳ぐ海を見た。
 海水は次第に透明の中に薄暗がりの色を濃くしていく。
「水っていうか、液体浸るのは懐かしくもあるが……」
 キリジはレプリカント故に、液体に浸る機会は殆どなく。その身体に至っても背骨と脳が残っていればほぼ復元に差し支えないと判断している。
 それ故に――それ故、か。
 ……仄かに闇に近い色が近づいてくる。
(……こう――海の"生きてる"って否が応でも見せつけてくる感覚は、逆に……)
 海は、夕日の色が消えるに合わせ。まるで――深い『原初の生命』の色を濃くしていくようで。
「……なあメルメっち」
「はいっ、お呼びでしょうか?」
「うおっ、……あ、想定してるより近かったわ。もっと遠くで泳いでるかと思って――」
「そうです、キリジ様!
 ――見て下さい、こちらのお花!」
 そう告げて、海面に上がり差し出されたメルメッテの両手に乗っていたのは、大きく、無数に花びらが重ねられそれでも堂々と開くコランバインの花――。
「……」
 原初の生命の海にあった、不可思議で、己の目にも造形に一つも文句はないのに……それは、妖力という全く『違うモノ』で生み出されて漂う、少しいびつな命の形――。

 一瞬、海から引き出されたものは、自分の生首にも見えた。
 指し示されたモノは――まるで、なにか気持ち悪くなるほどの。

「ぁ……、あぁ『綺麗』だな、それは」
 辿々しく、キリジはメルメッテの反応に、そう言葉を絞り出すのがやっとで。
「お花の詳細は不明ですが何となく心が弾みまして、そうしましたらついキリジ様にお見せしたくなったのでありました。
 ――メル、もう一泳ぎ致しますね!」
 夕日が沈むまであと十分とないだろう。それでも一つとしてメルメッテの見たことのない美しくも新しい感情を沸き立たせるものが、この海中には花開き、彼女を受け入れている。一人称から素の喜びを見せるメルメッテにとって、その魅力は計り知れないものに違いない。
「――――――」
 ――メルメッテは、気付いていない。この違和感に気付かれていない。自分一人の感情である事に、キリジは僅かに安堵する。
 こんな感覚は、己だけの物であり――そして、己一人で充分だ。

「……? どうか致しましたか? キリジ様」
「ん、オレはちょっと浜辺で夕陽でも見てるわ。ちょい疲れた。
 ちゃんとメルメっちの事も見てるぜ? 溺れないようにな」
「キリジ様! メルはちゃんと泳げます! 溺れたり致しませんっ」
「――ん、冗談」
 くるり、と。キリジは、珍しく元気に怒るメルメッテの姿に背を向けて。その背中越しに、片手を軽くひらひら振ると、そのままもう一度だけ海に潜り泳ぎ出す。
 そこには『一刻も早くここから出るには、泳いだ方が早いから』――それ以上の理由はなく。
 キリジは、酸素がないと呼吸器官が息苦しく脳に訴えても、息継ぎ一つなく、最速でそのノイズを振り払うように海から上がる。
 振り返れば、メルメッテが再び海の中に潜っては、時折人魚のように花と共に華麗な水音を立てて浮かび上がっていくのが見えた。

 キリジが砂浜に足を投げ出し、上空を見れば。
 先程以上の色味の艶やかさをもって――今はそういうタイミングなのだろう。大きな花火と共に、透き通るように美しく、他の色に染めようもない純白をしたスイセンの無数の花びらが、自分に向かって降り注いでくる。

 その花の意味を、その花びらの名前をキリジは知らない。
しかし――今、目に映るその光景は、まるで何かの悪夢のように。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

エインセル・ティアシュピス
【竜と白猫】アドリブ歓迎 ●夜
えへへ、はなびみるためにたっぷしおひるねしたもんね!
たのしみにしてたんだ~♪

ろしあんるーれっとたこやき?よくわかんにゃいけどおいしそーう!
ねえねえ、みんなでこれたべようよ!
(尚【幸運】により外れを決して引かない模様)
にゃーん、りょーがだいじょーぶ?ぼくおみずもらってくるねえ!(ぱたぱた)

にゃーん?おみずいがいもくれるの?わーい!ありがとー!
なんかいっぱいもらってきたよー!(水にかき氷に田楽にetc)
きょうのおゆはんはごうかになったね!

(帰りに寝こけておぶられている時に【指定UC】、未来の自分が後ろから声をかける)
ずっと俺を見守ってくれて、ありがとう。二人共。


地籠・凌牙
【竜と白猫】アドリブ歓迎
ちゃんとお昼寝できて偉いぞーエインセル。いっぱい花火見ような。(撫で)
はぐれないようにちゃんと手を繋いどこうな。

ロシアンルーレットたこ焼き……だと……嫌な予感しかしねえ……
だがエインセルが喜ぶなら外れぐらいいくらでも引いてやろうじゃねえか……!
(そして見事に外れを引く)
うわ……これなに……たばすことわさびがたいりょうにつまったかんじのやばさなんだけど……(涙声)
エインセルが引かなくてよかっtめちゃくちゃもらってきたな!?
きっとカクリヨの妖怪たちに気に入られてるんだなあ。

ん?花びらじゃなくて花が落ち……枝ないしいっか。
(アングレカムの花を手に取り眠る子猫をおぶって帰る)


地籠・陵也
【竜と白猫】アドリブ歓迎
ああエインセル、出る前にスプレーかけとこうな。蚊に刺されたら大変だ。
(虫除けスプレーをかける)
他の猫とは違うから刺されても酷いことになったりはしないが、痒くなると大変だからな。

(【幸運】により外れを引かない兄)
凌牙……大丈夫か……??流石カクリヨのロシアンルーレットだな……
ああ、すまないなエインセル…………何か収穫がたくさんだな???
(宇宙猫な顔になりかける兄)
お前はよくカクリヨに遊びに行ってるから、妖怪たちもきっと顔を覚えてくれているんだな。よかったな(撫で)

本当に綺麗だ。ずっと3人でこういう日を過ごせるといいな……
(花火を見ながら心の中で平穏を願う【祈り】を捧げる)


●永遠を紡ぐ言祝ぎ
「ふああ~……」
 今日は、ビーチでの花火大会。二世界を跨いだ戦争も終わった、猟兵達に与えられた大手を振れる休暇の日。
 カクリヨファンタズムへの転送前に、エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)が口元に手を当てて、ひとつ平和を象徴するような欠伸をした。そして大きく瞬きをすれば、そこにはぐっすり眠って、夕方過ぎて宵の口でも元気いっぱいの猫耳猫尻尾の少年の姿が。
「おぉ、ちゃんとお昼寝できて偉いぞー。エインセル」
 エインセルは元々、ドラゴニアンの兄弟の飼い猫でもある。その飼い主の一人、地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)が、そんなエインセルの可愛らしい様子に笑顔を向けた。
「えへへ、はなびみるためにたっぷしおひるねしたもんね!
 たのしみにしてたんだ~♪」
「よーし! いっぱい花火見ような!」
 凌牙が、えっへんと胸を張るエインセルの柔らかな白い髪を、愛情を込めてくしゃくしゃに撫でる。
「そんじゃ、陵也の準備が終わったら行くか。
 はぐれないようにちゃんと手を繋いどこうな」
 花火見物は大層賑わっていると聞いていた。うっかりはぐれてしまうかも知れないと、凌牙がエインセルの手をきちんと握る。
「ああ、待たせた。悪い!」
 そこから少しも待たぬ間に掛かった声。二人が振り返ると、そこには待っていた最後の一人、凌牙の兄である地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)の姿があった。
「エインセル、出る前にスプレーかけとこうな。蚊に刺されたら大変だ」
 そう告げると、陵也は虫よけスプレーをエインセルの手から丹念に掛けていく。
「他の猫とは違うから刺されても酷いことになったりはしないが、痒くなると大変だからな。
 ――ほら、凌牙も」
 陵也が『こどもむけ虫除けスプレー』という、如何にも『子供向けです』というスプレー缶を凌牙に向ける。あまりのファンシーな字面デザインに、凌牙も思わずためらいを見せた――当然、効果が無い訳ではない事は分かっているつもりだが、兄弟だろうがそれを人からスプレーしてもらうのは気が引ける。
「い、いや! 俺は少しくらい刺されても気にしな――」
「少しくらい? 昔から夏に外に出れば、いつも俺や皆の分まで刺されてたじゃないか。一番虫除けが必要なのは凌牙の方だろう?」
「うぉっ! 自分でやる! 自分でやるからいきなりぶっかけるな!」

 そうして転送で降り立ったカクリヨファンタズム。目の前に広がったのは、バズリトレンディが呼吸するように作ってしまった花火大会のビーチ会場。
 夕暮れ過ぎて既に夜の支配する時間の中で、花火の色目が無数に光り輝いている。そして、吹き抜ける心地良い夏風と共に駆け抜ける色とりどりの花や花びら――。
「にゃーんっ。ほんとうにおはながたくさんとんでるよー!」
 それは、大きな花火が一つ上がればポンと大きく。細やかなものがたくさん上がれば無数の花びらとなって降って来る。花の生まれに多少の規則性はあるようだが、一度でも風で空を舞ってしまえば何もかもが一緒くたの花嵐となって、もはや分別の付けようもない。
「花火じっくり眺める前に、先にちょっと腹に入れていくか」
 凌牙が、ビーチから少し遠目に出ている屋台路地を見つけて指を差す。
 エインセルを中心に三人で手を繋ぎながら、それでも通行の邪魔にならない端を気をつけながら歩いていく。
「エインセル、こういう道で走っちゃだめだからな」
「にゃーん。ぼく、まえのおはなしちゃんとまもってるよー」
 陵也の確認に、エインセルがこくこくと答えながら頷いた。
「うん、えらいな――言う相手、間違えたか……?」
 陵也のエインセルを抜けた先にある視線には、凌牙が。
「俺かよ!!!」

 屋台路地は花が舞う美しさで客が増え、とても売り上げが伸びているのだという。実際ここでは、食べ物と飲み物を買って、食べ歩きよりもビーチで食べて、花火と降りしきる花を見ようという客でいっぱいだ。
「食べ歩きも恵まれてるが、確かに花火も観たいよな」
 正直、どちらか一択とするにはあまりに難しい選択だろう――ならば、両方やればいい。そう決めた三人(二人と一匹)は、まずはさっそく食べ歩きから開始した。
「あ、ふたりともー!
『ろしあんるーれっとたこやき』? よくわかんにゃいけどおいしそーう!」
それは、通りすがりに視界から抜けた先の屋台。見逃しがないか何気なく振り返ったエインセルはピンポイントで、その『ハズレは激辛、当たれば天国、どちらに行ってもとても美味しいたこ焼きはいかが!?』という屋台に掲げられていた旗を見ていた。それに、凌牙の澄んだ翠色の目から一気に色味が消え去った。

「ロシアンルーレットたこ焼き……だと……嫌な予感しかしねえ……」
「ああ……」
 ここにおける凌牙と陵也の予感の先は、一方は黒の弟が所持する能力【《穢れを喰らう黒き竜性(ファウルネシヴォア・ネグロドラゴン)》】によって、基本的には自動吸収されてしまう『不運や呪いの大元の穢れ』を喰らう特性から『有害なものを引き寄せる』事に関しては他の追従を許さない。
 そして、もう一方の白の兄は、己の固有能力である、不運や呪いの原因になる穢れを浄化する【穢れを清める白き竜性(ピュリフィケイト・ブランシュドラゴン)】の力により【幸運】の恩恵を受けている。故に、それは『己は絶対にハズレを引かない』という確信として現れた、黒の弟への同情であった。
 ――始める前から敗者が決まった勝負程、それが身内であればあるほど哀しみに満ちたものはないのである――。

「ねえねえ、みんなでこれたべようよ! ――ちょうだいにゃーん!」
 そうして、さっそくホカホカの出来たてをもらってきた白猫はと言えば、その存在が持ち合わせる『幸運』の概念を知る兄弟から見ても、決してハズレを引くことはないだろう。
 むしろ、万一――エインセルがそんなものを引きそうな事態となれば、自分がそれを奪い取ってでも食べる――二人からは、そんなオーラすら滲み出ている。エインセルは、この家族における癒しアイドルであるのだから、仕方もないところであろう。むしろ愛しい飼い猫の為に、身を捧げるのは飼い主の義務とまで言える心意気である。

 開かれた箱の中身は、どれもがあまりに普通のたこ焼きだった。何も言わずに出されれば、この中にハズレが入っているなど誰も思わないに違いない。
 しかし、販売名が『ロシアンルーレットたこ焼き六個入り』である以上――ここに、一つ。間違いなく味覚ブレイクを想定した味をしているたこ焼きが潜んでいるに違いないのだ。
「……」
「……」
 それぞれの――覚悟故の沈黙が走る。
 弟は、自分を犠牲に差し出せるか。兄は、ほぼハズレ確定状態の弟を生贄に差し出せるか。
 じゃんけんで、誰が最初に食べるかを決める。そして、この段階から、既に凌牙が負けた。
 エインセルがたこ焼きの箱を、まるで宝石箱を目にするような瞳で見つめている――。
「――ッ、だが……!
 これでエインセルが喜ぶなら、ハズレぐらいいくらでも引いてやろうじゃねえか……!」
 備え付けられていた爪楊枝の先端を光らせながら、そうして凌牙はロシアンルーレットたこ焼きへと特攻を果たし――見事に散った。
「――!!!」
 真に身体にとって危険な食べ物は、口に入れても嚥下を拒否する。凌牙の様子もまさにそれであり、今まさに、悶絶にも近い状態で周囲を全力で駆けずり回り始めている。
「凌牙……大丈夫か……?? 流石、カクリヨのロシアンルーレットだな……」
 そのあまりの惨劇に、陵也が紡げた言葉もここまでだった。
 以降は完全な無言で一人と一匹が見守り続ける中、ようやく凌牙はゴクンと喉を大きく動かす。
「うわ……これなに……たばすことわさびがたいりょうにつまったかんじのやばさなんだけど……」
 声が震えて、瞳は海の潮の如く揺らいで、今にもこぼれそうになっている。
 この様な状態では、通常時のようにしっかり話すことなど不可能にも近く。それでも何とか言葉を形にした凌牙は――しかし、追い打ちとして現れた香辛料による辛味第二波により、今にも事切れん勢いでその場に片膝をつくと、胃の中まで焼けつきそうな破壊力にもんどりうち始めた。
「にゃーん、りょーがだいじょーぶ? ぼくおみずもらってくるねえ!」
 流石に、これは楽しそうという勢いを通り越している。大事な飼い主が『辛さで死に掛けている』となれば尚のこと。エインセルは、二人にそう告げると、陵也に凌牙の介護を任せてもらうと、急ぎながらも可愛らしいぱたぱたという足音を立てて、水をもらいに屋台路地の中へと駆け込んで行った。

「あのね、りょーががね! からいって! からいのたべてにゃーんってなってるから、おみずほしいの!!」
「おや、キミはこの世界を守ってくれた猟兵さんじゃないかい! お水だけと言わずにこれも持っていきなよ!」
 最初に立ち寄ったところは、零さないように蓋のついた容れ物にお水と、かき氷をくれた。
「にゃーん! こ、これでたりるかなー……? も、もう少しもらってこようー!」
 急いだ戻り際、ふとエインセルは不安に駆られて、他の屋台でもお願いしてみる。
「にゃーんっ、あのね、あのねっ。もうすこし、おみずがほしいのー!」
「もしかしたら猟兵さんかっ!? お礼! お礼をさせてくれないか!!」
 すると、今度は先の会話を耳にして、今回の戦争で猟兵にお礼を言いたい人が、エインセルを押しつぶさん勢いで、その屋台に一斉に集まって来るではないか。
 そして――最終的にエインセルの手元にあった物は、既に持てるかどうかも分からない量の水と、お礼として持てるだけ持たせた、食べ物からおもちゃまで、溢れんばかりの皆の屋台の商売品――。
 結果。エインセルは、食べ物以外は殆ど引き摺りそうになりながら、そうならないよう僅かに空を浮いて、必死になって兄弟二人の元へと戻って来た。
「なんかいっぱいもらってきたよー!
 きょうのおゆはんはごうかになったね!」
 無事戻って来たエインセルの様子に、それでも時間経過で大分まともにはなってきた凌牙が安心して息をつく。
「あー、死ぬかと思った……エインセルが引かなくてよかっ――めちゃくちゃもらってきたな!?」
「ああ、すまないなエインセル…………何か収穫がたくさんだな???」
 出された水は全部容器に収まっているが、全体質量としては、バケツ三杯分はあろうかという程。それは凌牙も驚かない訳がない。
 傍らではエインセルの抱えてきた、まるで屋台中の食べ物をかき集めてきたのではないかという程のバラエティあふれる、綿菓子やらチョコバナナやら焼きそばお好み焼き等々。
 ここで店でも開くつもりなのかと錯覚しかねない量を見た陵也が、その膨大な質量に『まるで理解が全く及ばない宇宙の壮大さに思考停止に陥り掛けそうな――』平たく言えば、スペースキャット顔で出迎える。

「あー! 水が美味い!!
 さて、これは……っと――」
 これは、よくエインセルの小さな身体で運んで来たというものだ。持ち帰ることが出来れば、確かに夕食は豪華になるが、問題は――。
「にゃーん……? もらってきちゃ……だめだったにゃーん……?」
 エインセルの、クリンとしたビリジアンの瞳が一気にウルウルし始める。
「ああ、違うッ! 違うって!!
 ――きっとカクリヨの妖怪たちに気に入られてるんだなあ」
 凌牙が、今にも泣きそうになっているエインセルの頭を優しくぽんぽんと叩く。
「ただ、ここまでもらうと、持って帰るまでに溶けるヤツがあるだろ? かき氷とか――それを先に食っちまわないとなと思ったんだよ」
「あ、うんっ! かきごおりははやくたべないととけちゃう!」
「それなら、荷物は溶けやすいものを優先にして、三人で持とう。その辺りをビーチで食べながら花火を見て――帰ったら、これも並べて夕飯。
 ……お前はよくカクリヨに遊びに行ってるから、妖怪たちもきっと顔を覚えてくれているんだな。よかったな」
 凌牙とは入れ違いに、陵也が微笑みを浮かべながらエインセルの頭を優しく撫でれば、エインセルの瞳から涙が引っ込む。そして、満面の輝きを伴う眩しいまでの笑顔を浮かべた。
「……うんっ、よかったにゃーん!」

 ビーチに足を踏み入れば、ぶわりと足元に散っていた柔らかな花びらが風に舞って二人と一匹の元へと巻き上がる。
 思わず、皆それぞれに感嘆の声を上げながら、持ってきていたビニールシートを敷いて、一緒に並んでかき氷をしゃくしゃく食べる。
 夏の暑さは夜の間だけとはいえ大分退き、心地良い気温の中で食べるかき氷はまた格別だ。
 最優先に溶けてしまいそうなかき氷だけは先に食べきった二人と一匹は、大きく上体を仰け反らし、空の花火をじっと見つめた。
 大きな花火、小さな花火と共に、一緒に揺らめき落ちてくる色とりどりの花と花びらの数々――。

「……本当に綺麗だ。
 ずっと3人でこういう日を過ごせるといいな……」
 ぽつりと、陵也が呟く。深く、そして取り戻せない過去を埋める事は出来なくとも。新たに柔らかな平穏を、せめてその傍らにそっと胸に置きたいと。
 静かに祈り願う――この刹那が、永遠であればよいのに、と。
 それは凌牙も同じ想いだった。その言葉は、同意を口にするにはあまりに重いけれども。心は――同じ。
 次の瞬間、ふわりと揺蕩いもせずに、陵也の元へ一輪の花が落ちてくる。それは『アングレカム』の花一輪――。
「ん? 花びらじゃなくて花が落ち……枝ないしいっか」
「にゃーんっ。りょーが、それなーに?」
 そっと、凌牙は、それは蝋細工で出来ているのではないかと思われる程に、しっかりと、そしてしっとりとした手触りの花を、ずっと興味に瞳を煌めかせていたエインセルへと渡す。
 相手の手ほどある大ぶりの星を思わせる花は、そうして新しい温かさを供えて、優しくエインセルの手の中に届いた――。

「あー、ぐっすり寝てるな。エインセル。
 背負って帰るか。急ぎじゃないものしか入ってねぇから、俺ら二人で運べるだろ」
「……そうだな。起きるまで待つのもなんだし、荷物は二人で分担するか」
 花火は続くが宴もたけなわ。だが緩やかながらもぐっすり眠っているエインセルを起こすのは忍びなく。二人は、凌牙が主に小さなエインセルを背負い、陵也が荷物の大半を持つ形で分担して、帰りの転送位置となる場所へと歩き始める。

 ふと、眠るエインセルの身体が、誰にも気づかれない程に、柔らかくも温かく感じられた。
 兄弟が気付くことのない、少し離れた背後にて。本人すらも知らないエインセルのユーベルコード【時空を超越せし護り手(クロノス・ヴァンガード)】が形取られ、眠るエインセルの青年姿が映し出される。
 ――それは、今のエインセルにおける、未来の彼――まだまだ弱くて、独りでは何も出来ない白猫を護り続ける兄弟へ、そっと未来の彼はその呟きを風に流した。

『ずっと俺を見守ってくれて、ありがとう。二人共』

 それは、未来の自分が紡ぎたかった、未来であれども尚心より告げたかったその想い。
 今日は疲弊が激しかったせいか、それとも今のエインセルが出した代価が気持ち少なかったせいか。――二人は、その気配に気付かないけれども。
 アングレカムの花を手に取り眠る子猫をおぶって帰る二人を、未来のエインセルは静かに瞳に充足を湛えて見つめ微笑む。
 そして幼いエインセルの手にある、星を思わせる大ぶりの白い花に、青年のエインセルがそっと指をかざせば。幽かな光と共に、その心は確かに、手に握られた星花へと優しさと共に静かに宿った。
 それは『いつまでも皆と一緒』という永遠にも近い約束と――何よりも深い、心からの祈りを共にして――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

フィッダ・ヨクセム

2021年水着姿で参戦

魔力で創り出した赤い紐で、イケメン格好良い黒豹のぬいぐるみを背負う形だな
ガキが大きな動物リュックを背負ッてるイメージだぜ?
俺様のお供だ、名前?(言い渋りながら)……クロだよ
汚れないよう、最大の注意は払うぜ

予知した猟兵は、アンタ?
変わり種の妖怪花火を"誰か"と見たい気がしてさア
黒豹とは一緒出来るけど、ヒトと一緒に見るほうが楽しい気がした!
花を見るのは好きだぜ?華やかだ、決して同じものはないし

……ん、黒豹の頭か首に飾れるくらい花びら拾い集めようかなァ
何色合うと思う?意見募集中だ

まあ黒豹がイケメン過ぎてなんでも似合うと思うけどな!
(大事なぬいぐるみを我が事の様にべた褒めする)


●大切な『ぬいぐるみ』
「ふゥ、こんなもんだろう」
 夜も賑やか、男性更衣室の入り口付近にて。淡いスレートグリーンのハーフパンツスタイルの水着を着用したフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は、恐らくその頭身と同じだけの背丈があろう、両手に抱えるほどの大きな黒豹のぬいぐるみを抱き上げていた。
「これを……ッと、こうして。
 ギリギリまで丈夫に、解けないように――」
 そして、何か思うところがあるのか、一旦ぬいぐるみを脇に置き。手に取り出したるは魔力を込めた万年筆『irony』――それを伴い、ユーベルコード【sura(スーラッダ)】によって一本の赤い線を引く。
 そこに込められた想いは深く。赤い線は太い紐となって自由に動き、ぬいぐるみをフィッダの背中に結びつけるように固定させた。
 何度かジャンプして、その黒豹が決して汚れることなく、背中から落ちないことを確認して。
「よッし。行くか」
 そうして意気揚々と、砂浜まで歩き出た。

 更衣室を出て、しばし歩けば。そのインパクトに注目されていた黒豹とフィッダに向けられていた視線も気にならなくなってきた。むしろ、フィッダとしてはもっと見られても良いと思うほど。
 ビーチの時間はちょうど、気兼ねなく身体を伸ばせるスペースで寛げるような、人が心地良く散った時間帯――。その中で、
「――デカい!!」
 その無礼なまでに大きな声は、何処から飛んできたものだろう。声のした方を見やれば、赤い瞳をらんらんと輝かせた一体のミレナリィドールが、顔に感動を隠さずこちらに駆け寄ってくるところだった。
 その顔には見覚えがあった。確か、今回の事変を予知した猟兵だった気がする。
「今回の予知した猟兵は、アンタ?」
「そうよ! お名前を覚えているわ、フィッダね! アリスティアと言うわ、宜しくお願いするわねっ」
 立て板に水の如く喋りながら、目の前の猟兵は白の水着姿で、その瞬間だけは一時、優雅におじぎをして見せる。
「ところで、その巨大黒豹はお友達かしらっ?」
 尋ねられれば、フィッダはこの上なく自慢げに胸を張った。
「俺様の『イケメン格好良い』お供だ。自慢のお供だから、ほんの少しだけなら触っていいぞ。ああ、でも抱き締めるのはだめだ! 俺様の特権だからな」
「えー」
 聞く前に両手を伸ばし掛けていたアリスティアが、諦めたように手を引く。そしてふと、
「――あら……?」
 アリスティア――ドールが不思議そうに、その黒豹ぬいぐるみの周囲をフィッダごとクルクルと周りながら観察し始める。
「右の紅玉と左の青玉。眉毛のピアス数と、左耳の青のピアス――まるで私の友人にそっくりだわっ。この子のお名前は何かしらっ?」
「名前? ……クロだよ」
 出来れば名前は語りたくなかった。口調に淀みと渋さを滲ませながら告げたフィッダのその名前に、ドールは大きな瞳を更に見開き、黒豹のクロを見つめ上げた。
「クロ!! まあっ、名前までそっくり!
 ここまで似ているのだもの、これはきっと【私の友人の生まれ変わりに違いな――】しまった!『あれはまだ生きている』ではない!!」
「……何だかよくわからんが、勝手に殺してやるなよ……」
 一瞬『共通の友人であったらどうしよう』という事をサラリと言われて、少しフィッダの血の気が引く刹那。
 空に一際、ポーンと大きく花を開いた花火が見えた。

「フィッダは、今日はクロと一緒なの? 自分は、一段落してしまったばかりでやることがなくて――良かったら一緒に見ない? 花火の堪能はまだなのよね……」
 そう告げて、むむむと首を傾げて悩むドールに「おォ」とフィッダが丁度良いとばかりに頷いた。
「丁度いいな。変わり種の妖怪花火を"誰か"と見たい気がしてさア。
 黒豹とは一緒出来るけど、ヒトと一緒に見るほうが楽しい気がした!」
「それならば利害一致ね! 是非見に行きましょう! 人も少なくて見晴らしの良い穴場を見つけたばかりなの!」

 それは、広がるビーチの少し端。ビニールシートを引いて座ってみれば、確かにアリスティアの言うとおり、人通りは少なく、それでいて豪奢な花火も、可憐な花も漂ってくるベストスポットだった。
「私、殆ど予知などしたことなかったのだけれども――こんな風情があるのであれば、たまにはこういう事も悪くないわね。
 ……一応、絶景スポットだと思うのだけれども、退屈ではないかしら……?」
 心なし不安に、こちらを覗き見るドールの姿に、フィッダは問題ないとばかりに頷いた。
「いや、花を見るのは好きだぜ? 華やかだ、決して同じものはないし」
 それを聞いたドールが、少し意外そうな様子で、足元に落ちていた傷のついていない花一輪を手にして呟く。
「そうね。よくよく見れば、何気ない花を一つ取っても、構成する花びら一つとして、一輪たりとも同じものは存在しないわ――奥深いわね。
 自分は遊びほうけて、すっかり忘れていたけれども。……フィッダは、そういうものを、ずっと見続けておられた方なのかしら?」
 疑問と共に、ドールがふとフィッダの姿を改めて人となりを確認するようにじっと見つめて。そこから一つ、何かを勝手に納得した様子で、彼の背後に背負われたクロの頭を軽く撫でた。

 花が降る。大小様々、色もとりどり。無い花など無いくらいの鮮やかさで降ってくる。
「……ん、黒豹の頭か首に飾れるくらい花びら拾い集めようかなァ」
「まあっ、クロの飾り付けねっ。手伝うわ!」
「そうだなア……まず何色合うと思う?
 意見募集中だ」
「――そうね。まずは『選べるだけの花を手元に集める』これねっ!」
 意気揚々とドールが立ち上がり、緑色をした魔力の塊と判断出来る鉱石の一つを手にすれば、それは軽くひび入り砕け散った。
 代わりに手元に吹き荒れる風属性の魔法が、激しい音を立てて、空を舞っていた花や花びらを、傷付けないよう一気に自分のビニールシート前へと引き寄せては並べ落としていく。
「――【目詰まりの心配の無い、風魔法!
 それは吸引力の落ちない、ただ一つのソウ――】!!」
「わーーーーッ!! いきなりナニカに引ッ掛かりそうなこと言うんじャねェ!」

 そして、集まった花の中から吟味して。
「……こんなに数があると、逆に迷うな……」
「そうね……。あ、でもこれなど良いのではないかしら?」
 そう告げてアリスティアが手にしたものは、大ぶりの形をした一輪の『赤い菊』。
「これは、キクと言うらしいわ! 後は、良く分からないけれども、この辺りの花とかを繋げられたら、綺麗な首飾りになると思う!」
 そうしてフィッダの前に差し出されたものは、先の赤が鮮やかな菊と、綺麗に花開いた白の『ハナミズキ』。
「まあ黒豹がイケメン過ぎてなんでも似合うと思うけどな!」
「こ、これでもセンスがない割に必死に選んだのよっ!」
 自分のクロを、意識があるなら褒め殺す勢いで、我が事のように褒め倒すフィッダに対抗するように、ドールも情けないことを力説で返す。
「しかし、この黒豹ならば何でも似合う! 納得するところではあるわ!」
 そんなドールの同意と共に、さっそくフィッダは最初のぬいぐるみ固定に使ったユーベルコードで、今度は細い糸を描き出して。赤い菊を中心に、白のハナミズキで一周を揃えるように繋ぎ止める。
 そして出来上がった首飾りを、そっとぬいぐるみのクロの首に掛けて完成――。

「素敵! とても似合うではないっ!」
「クロがイケメン過ぎるからな! でも、本当に何でも似合うな……!」
「……これならば、似合わない花を探した方が手間になるかも知れないわね……。
 これはいっそ、本当に似合わないものがあるかどうかを実験体的に、徹底的に調べ上げ――!」
「いや、いい! そこまで悪いモンまで徹底しなくていい!」
 そうして――夜空に輝く花火と、舞い落ちる花と共に。クロというぬいぐるみの首には、一つの首飾りが飾られた。

 その想いが、この心がどのような糸を辿るかは分からないが。少しでもこれが良き思い出になれば素敵だと、と――そう思いながら。
 帰りの準備を終えたフィッダを、アリスティアは元の場所へと転送して見送ったのだった。
大成功 🔵🔵🔵

紫丿宮・馨子
【馨桜】
わたくしの為に海に入らないでも楽しめる催しを選んでくださったのですね

地上からも…楽しみですね

見上げた空
手を包むぬくもり
そっと握り返して

夜来香の香りに昨年の猫の海を思い出し視線を彼へ

カイ様覚えて――

彼の表情がいつもと違って見えて口を噤む
一生懸命、ひとつひとつ伝えてくれる想いはわたくしにはもったいないほどのもの
でも彼に何か返すことができているのならば

……え?

告げられた言葉に戸惑い
嫌だとはは思わない
むしろ嬉しいけれど
彼のいうそれは、恋情なのだろうか
鼓動が早くなる
また勘違いするのは嫌
何よりわたくしは純粋な彼に相応しくない

嫌ではないと伝えたくて首を振る
彼の手を自分の頬へあて
言葉にならずただ微笑む


桜雨・カイ
【馨桜】
今回は地上でも充分楽しめるみたいですよ
自分からそっと手を握る
不安にさせぬよう、何より自分が繋ぎたくて

様々な花の中から忘れられない香りが(夜来香)
思い出が蘇る
クリスマスも夏の海も、そしてさらに遡れば…
少しづつ想いが積み重なり…そして今溢れそうになって

あのですね
馨子さんといるとどんどん心の中に花が生まれてくるんです
温かくて、甘くて、幸せな想いの花が
やっと「これ」が何か分かったんです

私は、馨子さんが…好きです

と、突然で驚きますよね
馨子さんにも色々な想いがあるのは分かってます
無理強いではなくそばにいられて幸せだと伝えたくてっ

…!?
言葉は返らずとも、伝えた想いに微笑んでくれた
今はそれだけで嬉しい


●それは、花よりもあたたかな
 広大な冥く深い海を前にして――それでも、見上げる月夜の中に花が降る。群れで泳ぐ魚のような花弁を連れ立ち、花が降る。
「花火から、華が……」
 淑やかに、柔らかな声音が木鈴の音色のようにこぼれ落ちる。紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)は、この会場へと誘ってくれた桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)にゆっくりと目を向けた。
「わたくしの為に、海に入らないでも楽しめる催しを選んでくださったのですね」
 ――海が、怖く。深く広い、まるで波一つもっても何処までも引き込まれそうな。たとえ夏の風物詩であろうとも、海への恐怖をその身に知る馨子のことを慮って、カイは今日、彼女をここへと案内した。
「今回は地上でも充分楽しめるみたいですよ」
 ここでは、海に入らずとも、遮る物のない闇夜の先から照らし浮き上がるような花が、色鮮やかな花火と共に、ゆるやかな雨雫のように落ちてくる。
 今も、ひとひら。馨子の足元に、雪のような花びらが一つ。
「地上からも……楽しみですね」
 紺碧の空をひとり、ゆるりと見上げる馨子の手に、カイは己の手を添えて、驚かせぬようにその細指を優しく握る。広すぎる天上は、闇を纏った海にも似て。目の前には波音を立てる海があり。
 ――それらにより、彼女を不安にはさせたくなくて。何より、己がその大切な人の手を繋いでいたくて。
 ふと、己の手を柔らかく包んだそのぬくもりは、相手を知る馨子にとっても心地良いものであったから。
 その様子を窺うこともなく。馨子からもそっとその手を握り返した。

 二人でしばし、空を眺める。
 降りそそぐ花は、とどまることを知らず。降り積もりきれば歩けなくなるのではないかと思いもしたが、地に落ちしばらくした花は、ゆっくりと霞むように空気に溶けて、その姿を消していくのを目にすると。二人はそっと瞳を合わせて、お互いが抱えていた疑念に対し小さな安堵を添えて微笑んだ。

 そのような、二人にとって。はなやかでもありながら、心穏やかな時間の中で。ふと、舞い落ちる花の香に、ひとつ心に宿るものがあることに気がついた。
 気が付けば二人の前に、黄色の無数の花をつけている、ひとつの花房が落ちていた。香りの強い花であるのか、足元にあれども、その香は確かに二人の元へと届いてくる。
「夜来香……」
 それは、昨年の海の香り。馨子にとって、その香は海ではなく、可愛らしくも華麗に泳ぐ猫達から発せられていた、甘くも少し響く東洋の香り。
 そこに沸き立つ馨子の心に残る記憶は、恐ろしい海と。それ以上に――こちらに手を伸ばし、助けてくれたカイの存在。
 香りは心に、古きも新しきも、何よりも早く記憶へと紐付けられる。
 夜来香の香りは、カイの元へもふわりとした存在感を伴って、その心をくすぐった。
 ――ひとつの香りが連鎖的に呼び起こす、馨子との思い出の数々。
 この香りを放つ猫が泳いだ海の世界も、クリスマスにマシュマロが乗ったホットココアのその味も……それは、つながり続ける想いの数々。
 止まらない。カイの想い出は今にも胸に、そしてこの手を握る存在へと向けて、その心から溢れることを止められそうになくて。
「この香り……。
 夜来香……カイ様覚えておられ――」
「あのですね」
 ふ、と。カイが馨子の言葉を遮った。
 今まで、ずっと今まで話をしてきて、そのような事は一度もなかったのに。
 わずかな驚きにきょとんとした様子を隠せない馨子が、改めてカイの顔をじっと見やった。
 ――そのカイの表情は、いつもとは明らかに違うもので。
 些細なこちらを喜ばせてくれる話とも。あのとき、自分の涙を聞いてくれた時とも違うものであったから。思わず、馨子はその先を紡ぐことなく口を噤んで先を待つ。

「馨子さんといると――どんどん心の中に花が生まれてくるんです。
 ……温かくて、甘くて……幸せな、想いの花が」
 相手の言葉は、流暢とは言い難く。
 それでも、心から一生懸命に。その言葉を心に、ひとつずつ伝えてくれる重ねられた出来事と共に綴られる想いは、耳にする馨子には勿体ないとすら思えるもので。
 無言で、その言の葉の続きを聞きながら。ほんの少し、馨子は安堵する。
 約束をした誓いはある。けれども、このような言葉をくれる彼に、自分も何かを返すことができているのであるならば。
 きっとそれは、とても嬉し――。

「やっと、『これ』が何か分かったんです。
 私は、馨子さんが……好きです」

 瞬間、声にならない沈黙が響いた。
 馨子の声が、その機能をすべて失ってしまったかのように。ただ、無言の時間が流れ落ちていく。
 ……じっと、馨子はカイの昼の光を宿す青空色の瞳を見つめた。
 その瞳には、冗談も、揶揄いも、偽りすらもありはしなくて。

「……え?」
 馨子が、小さく。絞るように、殆どが驚きのみで生まれた疑問の声を投げかける。
「と、突然で驚きますよね……!
 ……馨子さんにも、色々な想いがあるのは分かってます。
 ただ……無理強いではなく、そばにいられて幸せだと伝えたくてっ」
 宵の中でも分かる。
 彼は今、頬までをも赤く染め、そして冗談ではなく、何よりも真摯であって――。

「……」
 沈黙の中に、花火の無粋な音と、花びらが舞い落ちる中で。
 馨子の、声は。
 完全に詰まるように、声を発することをやめてしまった。
 ――戸惑いが、ある。
 彼から伝えられた言葉は、馨子には嫌だとは思わない。むしろ、純粋過ぎるまでに純粋に、透き通って聞こえたその言葉は、本当に自分に宛てられたのかと思うほどに、馨子の胸に響いては嬉しさを奏で始める。

 しかし――彼のその言葉は、『恋情』なのだろうか。

 馨子の胸は高鳴り、同時にギシリと罅入るような音を立てるのを、己の耳で確かに聞いた。
『好きです』と、告げられた言葉を。意識が勝手に反芻する度に、この心は早鐘を打つように、思考を埋めて、全身にまで鳴り響くような音を立てていくけれども。
 ――ぎしり。ほら、またひとつ、心が鈍く重く響く軋みの音を立てるのだ。

 過去に、馨子は涙した。悲しき想いの涙を流した。
 相手は、一人のヤドリガミ。
 彼は優しかった。理念があり、信念があり、馨子が心を寄せれば応えてくれた。
 そのような彼を、知れば知るほど惹かれていった。
 願わくは――彼の傍らで肩を並べて共に生きたい、と。
 馨子に、心からそう思わせるほどに、彼の存在は力強いものだった。そんな彼を、愛し支えたいと。ただ深く願い想うほどに。
 しかし、それは『世界の全てを背負うと決めた』彼の、覚悟であるが故の優しさだった。
 それ故に、彼は優しく――馨子の想いに応えながらも、同時にその願いを叶えることが出来なかったのだ。

 また、同じ想いを……勘違いを、するのは――いや。

 馨子の心にまた、きしりと一つ音が鳴る。
「……」
 ――何よりわたくしは、
 己の存在、心、総てにおいて。
 今、目の前で真摯にこちらの様子を見つめる、純粋な彼に相応しくない――。

 ……それでも……。
「……馨子さ、ん……?
 い、嫌だったら言っ――!!」
 それは、長すぎるまでに長い沈黙だった。
 馨子は、叫ぶようなカイの言葉に首を振る。
 ――彼の言葉への否定を口にするには。
 己の声は、今この瞬間に於いてすら、このようなことに心を巡らせることしか出来ない、醜い自分の声は聞きたくもなかったから。

 ……きっと。彼はそれでも良いと、優しく諭して言ってくれることであろうけれども。
 それでも、もう少しだけ。もう少しだけ――馨子は、この思いの丈を、言葉にするだけの時間が欲しかった。
 待っていて、もらえるだろうか。この想いを、温かさを。彼が放つ柔らかな光に、自分はこんなにも掬われているのだと……。
 そう――今、心にあふれそうな想いの総てを、胸を張って伝えられるようになるまで。

 握られていたカイの手を取りなおし、馨子が彼の手を自分の頬へと、愛おしそうに寄せて、そっと優しく触れ当てる。
「……!?」
 相手の動揺が伝わってくる。
 でも、今だけはこれで許して欲しい。
 形にならない言葉の代わりに、まだ開けることのできない瞳の代わりに。馨子は、カイの手の温かさを確かに心に届けながら、相手の言葉に応えるように、静かに優しく微笑んだ。

 カイは、頬を紅く染めながら。それでも、これが今の馨子の精一杯である事を、心の何処かで理解していた。
 言葉が返って来ることはないとしても。少なくとも今は――何よりも大切な存在が。たとえあまりに拙けれども、己の渾身の想いに、愛しいまでの微笑みを返してくれたのだ。
 嫌われたわけではなかった……この行き場のない想いは無為ではなかった。
 ――それだけで胸がじんとして、とても心が熱く感じて。
 そして……今は、それだけで何よりも嬉しくて。

 風が静かに。寄り添う二人の元へと名も無き花を寄せては、すぐにまるで邪魔することを赦されないかのように、あっという間に空気に掻き呑まれるように消えていく。
 不思議と、降り注ぐのは花びらばかり。二人の足元には、先一房の夜来香以外の花はなく。

 そうして――時間の経過で柔らかなものとなった香りは、こうして心ひそかに、さらなる二人の心を重ねていく……。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

灰神楽・綾
【不死蝶】夜
花が舞うビーチだなんて映えだねぇ
図らずもあの新し親分が好きそうな光景が出来上がったわけだ
すかさずスマホ取り出し華やかな浜辺や海を撮影
花火の光に照らされてロマンチックさ増し増し

そうだ、海行こうよ海
ぐいぐいと梓の腕を引っ張って海へとざぶん
これさ、巨大な花風呂みたいじゃない?
花を両掌いっぱいに掬い上げてみたり
何だかお姫様になった気分~とおちゃらけてみたり

このままぷかぷかと浮かびながら花火を眺めるのもいいねぇ
梓に促されるまま零の背に乗せてもらえば
少し高い位置から花舞う海面を一望出来て、見上げれば満天の花火
わぁ、まさに特等席だね
梓ってばお姫様が喜ぶことをよく分かっているじゃない?


乱獅子・梓
【不死蝶】夜
おぉ…これは確かにフォトジェニックな光景
特に女子供たちが喜んで集まりそうだ
そしてそれにナチュラルに混ざる綾…

お、おぉ、どうしたどうした?
またこいつ突拍子もないこと思い付いたな…と
思いつつ大人しく引っ張られていく
何だかはしゃぐ子供とその父親みたいな気分
いや、どう頑張ってもお前にお姫様要素は無いだろう
ははっと笑いながらツッコミ

ああ、それならもっと洒落た気分を味わえる方法があるぞ
仔竜の零を呼び出し、成竜へと変身させる
海に浮かばせ、その背に綾と共に乗る
どうだ、ドラゴンボートだ
ドラゴンに乗って花火を眺める贅沢な奴なんて
きっと俺たちくらいだろう(ドヤ
だからお前にお姫様要素は無いってーの


●『舞い麗しき花』と『おひいさま』
 ――それはもう。そもそも比較になんか成りもしない事だろう――

「うぉ……!」
 辺り一面に、七色と、まさにそう喩えるのが適切な花嵐が吹き荒れる。それに巻き込まれた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は、その中で息が止まるかという錯覚を受けつつ、思わず両手で顔を覆った。
 花の嵐が吹き抜けた先には、足元に残った嵐の残滓が、やはり様々な色の花びらを引き連れ、いたずらをしたとばかりに、梓の傍らから逃げるように駆け抜けていく。
「へぇ、花が舞うビーチだなんて映えだねぇ」
 花びらの風に巻き込まれることなく、外から梓が受けた光景を見ていた灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が、心なし赤レンズのサングラス越しの細い瞳を大きく、一度その場からビーチを見渡した。
 他の場所でも、時折吹く風は色を孕んだ巨大な波であったり、足元に些細な竜巻を起こしては、花や花びらを巻き込んで、鮮やかに己の存在をその空間に誇示している。
「これは確かにフォトジェニックな光景だな」
 息をついたように先程、風に軽く乱された髪を適当に整えながら、梓も改めて辺りを見やる。
 ふと――上空から、大きな光で描かれた花火が上がった。
 それに合わせて、宙からさらに弾けるような花と花びらが、一気にあふれて地上に舞い踊るように落ちてくる。
 目にしていた周囲の人々から、そのあまりの美しさに歓声が上がった。
 そして花火と同時にこの光景を写真に残そうと、このカクリヨファンタズムの住人である様々な存在が、あちこちで少しレトロなカメラを手にベストスポットを探したり、空を凝視したりし始める。
「なるほど。これは、図らずもあの新し親分が好きそうな光景が出来上がったわけだ」
 そう納得して、綾はスチャッと己の携帯を取り出すと、カメラモードで花舞う浜辺や、それらが数多落ちていく海を撮影し始めた。
 ――昔は『何かを記録に残す』――そのようなこと、考えもしなかったけれども。
「こりゃ、特に女子供たちが喜んで集まりそうだが……」
 梓が見れば、確かにその光景にカメラを構えているのは、この世界の住人である、外見様々な妖怪の女性や子供達が多く見受けられた。時折、心早るばかりに花嵐の中に特攻して、歓喜の声を上げている子供も多いが、現代UDCアースのように、邪魔だ何だと言われずに、それも周囲から微笑ましく一緒に写真に残されていく光景は、目にしている方もなかなかにして悪くない。

 しかし、そのような中に、
「ん、次はもっとゴウっとしたのが撮れたらいいのだけど――」
「……ものの見事に、ナチュラルに混ざってるな……」
 先程からずっと己の携帯を片手に、その合間にあまりにも自然に溶け込み混ざる相方の姿には、梓はしばし掛ける言葉が見出せなかった――。

 それからしばらく。梓を置いてきぼりにしての、綾の撮影会も一息ついて。ほくほくと充足感を表情に浮かべながら、綾が梓の元へと戻ってきた。
「いいのは撮れたか?」
「うん、花火の光に照らされてロマンチックさ増し増し――そうだ」
 ふと、綾は携帯をしまい。何かを思いついたその一言と共に、梓の手を取ると綾は強く腕を引いては歩き始めた。
「お、おぉ、どうしたどうした?」
「海行こうよ、海」
 それだけ告げて、腕を引かれて引っ張られるように歩き出した梓を連れて、綾は花びらが幾重にも打ち上げられている浜辺の向こうへと一直線。
 ふと。そのとき梓は綾に、そのサングラス越しに見える僅かな瞳の輝きを目に留めた。
(またこいつ突拍子もないこと思い付いたな……)
 ひしと伝わってくる――綾は心沸く何かを思い立ったときには、いつも思いが先立っているのか、己の言葉にその全容を語らない。
 しかし今回は、安全の確保はされており、戦場と違いこれといった危険も無い。
『まあ、それならいいだろう』――そのような事を思いつつ、梓が綾の手に引き摺られていけば。
 その行く先は、靴を濡らす波打ち際を軽く越え――お互い水着も用意していない海の中へ、ざぶんと。
「おい、こら。濡れるだろうがっ」
「――これを、こうして」
 水面には既に無数の花びらがたゆたって、濡れた二人を歓迎してくれる。水かさは少し増したが足がまだ余裕でつく砂に、綾は胸元近くまで水に浸して足を大きく伸ばすと、心地よさそうに座り込んだ。
「――これさ、巨大な花風呂みたいじゃない?」
 あっという間に服は海水を吸って、二人は見事に押し寄せる波の攻撃を受けて濡れねずみとなる。しかし、率先して海辺に座り込んでいた綾は、それを気にすることもなく、海面に浮かび上がっていた花を両掌いっぱいに掬い上げて掲げてみせた。
 嬉々として、花々と共にぱしゃんと心地良い水音を立てる綾。水と共に、掬い上げては零れるように落ちる花――喜びと共にそれを重ねて微笑む綾を目にすれば、梓はまるで水遊びに興じる子供を見守っている父親のような気分になってくる。

「ぜいたくで、何だかお姫様になった気分~」
「ははっ。いや、どう頑張ってもお前にお姫様要素は無いだろう」
 楽しさに冗談を紡ぐ綾に、梓が笑いながら的確なツッコミを入れてみれば。
「そうだけど~」
 そう言って、綾も笑って心隠さず同意した。

 ――一度、全身が濡れてしまえば、後はもうどうとでもなれというもの。
 実際、水を吸った服の重みで沈み負けるような猟兵がいても困る。二人は、先の場所から、気が付けば海辺から足のつかない所まで進み入り、海上から天に色散る花火を目にしていた。
 夜間の海に人はおらず、そこは海の区画を切り取ったかのように、殆ど完全なる貸し切り状態。
「このままぷかぷかと浮かびながら花火を眺めるのもいいねぇ」
 海に逆らわず、仰向けになって海面に浮かびながら。心地よさそうに海に全身を投げ出した綾が、保護者としてはまだそこまで海を堪能しきれずに立ち泳ぎをしている梓に向かって呼び掛ける。
 
「――ああ、それならもっと洒落た気分を味わえる方法があるぞ」
 確かにここは良い場所ではあるが、今の状態で花火を堪能するには、若干の荒々しさは否めない。梓はふと思い至ったように、わずかサングラス越しの瞳を閉じて。その目を開くと同時に、ポンッと中空に小さな青の仔竜を呼びだした。
 仔竜は、自分の浮いている場所が己の属性と等しい水面だと分かると、飛翔することなくぱしゃんと音を立てて海の中へと落ちるようにその身を沈める。
「零、お願いしていいか?」
 すぐに、再び心地よさそうに海面に姿を見せる仔竜――零に向かって、梓が声を掛けた。
 具体的な指示はない。だが、それでもその意を完全に汲み取ったかのように、零は海に浮かんだまま見る間に大きく、その姿を巨大な成竜のものへと変化させた。
「わ、わ」
 その波に流されそうになる、浮かんでいた綾の後ろ襟首をしっかり掴んで。梓は巨大化した零の上に乗り上げ、己と共に綾の身を引っ張り上げた。
「え? 乗ってもいいの」
「ああ」
 引き上げられた零の体の端。許可を得て、綾は成竜の零の体をよじ上るように、その背中まで梓と共に移動した。
 ――目に見えた景色は、まるで別世界のものだった。

 まず目に入るのは、水平線が見えるほどの闇色の深い海。しかし、映し出されるのは、月明かりに反射した数多数え切れないほどの花びらが、どこまでも散り広がっていくその姿。
 視点としては、桁違いの高さという程でもない。しかし、その海の大きさに心を揺らしつつ、綾は先の海面とは異なり自由に動かせる首を上げれば、海の上よりも遥かに近く視界の全てを埋め尽くすような夜空に、その目には収まりきれないのではないかと錯覚する程の、金色に輝く大輪の花火が見えた。
 そして空から降る花びらは、羽のように、大きな雪の結晶のように。その存在感を露わにしながらも、二人の周囲をすり抜けていく――。

「どうだ、ドラゴンボートだ。
 ドラゴンに乗って花火を眺める贅沢な奴なんて、きっと俺たちくらいだろう」
 梓もしばし、先の光景を無言で見つめていたが。
 その瞳から一時、花を逸らした綾の姿に、言葉と共に己の能力と竜の協力を得ての、渾身の自信に満ち溢れたドヤ顔を決めてみせた。
 ――確かにこの光景に至る手段として、それは称賛しても行きすぎではないであろう。
 先程のように、ただ夜の波間をふよふよと、猟兵だから死なないという危険と隣り合わせで浮かび続けるよりは、むしろこれは、己の能力をフルに生かした最高の手段と言っても間違いはない。梓のこの表情は、まさしくきちんと『立派な根拠にあふれたドヤ』といっても過言ではないのだ。

「わぁ、まさに特等席だね。
 梓ってば、お姫様が喜ぶことをよく分かっているじゃない?
 ――ちょっと、お姫様の襟首を掴むようなエスコートは雑だけど」

 せらせらと笑いながら、今広がるこの世界の満足に笑顔を見せた綾に一言。
 梓も――つられるように冗談めいた表情で、一緒になって笑ってみせた。

「だから、お前にお姫様要素は無いってーの」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

21年水着参照

…?
置いてくならむしろ剣と鎧じゃねぇのか
渡されたクリームソーダを飲みながら
首を捻ってアレスを待つ

途中声をかけられても
見てわからねぇか?
今俺はこれ飲むので忙しいんだ
ってスマートに追い…払えねぇ!?
あんまりしつこいから
アレスが来てちょっとほっとした

…けど、あんなどーでもいいことで
コイツがそんな顔するのは気に喰わねぇ
忘れるようにわしゃわしゃ髪をかき乱し
見せたいものって何なんだ?って
覗きこんで笑って見せよう

…これ
一面の広がるアレスの花―ネモフィラと別の花
ははッ!お前、天才!
衝動のままアレスの頭を抱き込んで
倒れるように二人で海へ
ありがとなアレス
いっしょがこんなにも嬉しい


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

21年水着参照

少し探したい花があるんだ
セリオスには預かっていてと
僕の上着を羽織らせ、飲み物を渡し
日陰で待ってもらう

戻ってみれば…あれは…
…。
こんにちは
失礼、彼は私の連れでして
先約があるのですが…お連れしても?
丁寧に一礼し、彼を連れ出す

上着はまだ君が着ていて
…1人にしてごめんよ
少しの間だったとはいえ…慣れないことをするものではないね
撫でる手に気にするなと言われてるようで
…うん。こっちだよ

連れてきたのはペチュニアナイトスカイとブルーペンタスシリウス…僕が君の花だと思った花とネモフィラが舞う
ふたりの花の海
ちょ、セリオス…わあ!
…よかった
その笑顔に手を伸ばす
一番見たかった花が見れた


●きみと、きみだけと

 数日にわたり続いてきた花火大会。その中日に遊びに来た幼馴染の二人組、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)とセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は、この与えられた休息を存分に堪能していた。
 共に並んで歩きながら、屋台路地でクリームソーダとアイスティーを買って、二人でビーチへと戻って来る。
 夏の陽光にも負けず色褪せることもないという、自然摂理を少し越えた大輪の花火が、何度も打ち上げられては様々な色で青空を染めては消えていく。
「……――?」
 その時――アレクシスは、陽光を交えながら降りしきる花雨の中に、ふと確かに記憶に残るものを見た。

「……セリオス」
「ん? なんだ?」
「――探したい花があるんだ。
 見せたいから、少し預かっていてもらっていいかな?」
 状況は飲み込めないが、アレクシスが言うのであれば、それは急を要する用事となる可能性もある。相手の性格もしかと把握している。セリオスは言われたとおりに、大きな南国風の樹が立っているその影へと身を寄せた。
 渡された物は、少し温くなったアイスティーと、彼が羽織っていた青特有の高貴さすら感じさせる上着――それを手渡し、上着はセリオスの身に羽織ってもらうと、そのまま樹の日陰から灼熱の下へと歩き出た。
「上着――?
 ……置いてくならむしろ剣と鎧じゃねぇのか」
 今年、アレクシスの水着には、剣と鎧の一部が装着可能となっている。
 泳ぐには向いていないが、あれば安心感が違うのであろう。アレクシスはそれらを身に着けたままに、樹の下に腰掛けるセリオスを置いて、何処かへと人混みを縫うように、見る間にその姿を消してしまった。
 仕方なく、セリオスは空に伸びる樹の根元に腰を降ろすと、クリームソーダに口を付けて、こくんと小さく喉を鳴らした。

「いつまで待たすつもりなんだ……? むしろ、アレス大丈夫なんだろうな――?」
 それから――セリオスの体感としては結構な時間が経過しても、アレクシスが戻ってくる気配はない。
 お互い、それなりに別行動を取ることはある。しかし、共に連れ立って遊んでいる中、ここまで一人で待ったのは初めてだ。
 大きな花火が上がり、目の前にどんなに綺麗な花が降ろうが、アレクシスがいなければ気分としては盛り上がれない。
 セリオスはその表情に不安を添えて、首をひねりながら親友の幼馴染を待ち続ける――そこに、

「ネェ、キミ一人? 一緒に遊ばない? 丁度遊ぶのに人数足りなくてさー。カワイイ子探してたんだよねー」
「……あ?」
「この際、男の子でもいいんだけどさー」
 男達がセリオスを取り巻き、何かを話し掛けてくる。――セリオスは、呼吸するように相手を殴り飛ばしたくなる衝動を、かなり必死になって我慢した。
 ――排除するのに暴力に訴えるのはあまりにも容易い。セリオスならば、掛け値なしの三秒で、ここの男達を砂浜に沈めることが出来るだろう。
 しかし、だからこそ――それは避けたく思われた。無傷で潰しても、戻って来たアレクシスに怪我はないかと心配を掛けるのはもっと嫌だった。
 その為、今回はどこかで見たような、よりスマートな方法でこの連中を追い払いたいと思ったのだ。
 セリオスは、自分であれば『どうすれば、無難に引き下がってくれるか』に珍しく思考を沿わせて相手に告げた。

「見てわからねぇか?
 今俺はこれ飲むので忙しいんだ」

 ――これで完璧である。
 何しろ自分は『天下のクリームソーダを楽しんでいる手前』なのだから。これで引き下がらないわけがない。
 これならばアレクシスも心配しない『無血開城』ならぬ、おそらくセリオス初の『無血解決』となるだろう。
 ――きっと惚れ惚れする程に、相手をスマートに追い払――
「クリームソーダ? 来れば新しいのを買ってあげるからさー」
(――払えねぇ!?)

 人の多いビーチを、気の急いたアレクシスがぶつからないように進んでいく。
 目的のものを見つけたから――本当は、心より急ぎたい気持ちを溢れさせながらも、いつも以上に気を遣いながらセリオスの元まで戻って来た。
「セリオス――」
 遠くからその姿を見掛けて、彼らしくもなく少し大きめの声で呼び掛けようとした時――見えたものは、
(………………)
 男に囲まれているセリオスを目にして、刹那、湧いた感情は何であろう。
 大切な幼馴染に触れようとする――ふつりと小さく沸き上がる、本来では抱くべきではない怒りや苛立ち、不快感と。
 そして、己では届かない所にある――それら全ての感情根源に紐付いている『セリオスを大切と定めた自分』が抱く、ほんの僅かな『独占』という心。

「こんにちは」
 アレクシスが、セリオスを囲む男の群れに声を掛ける。
「アレス!」
 途方に暮れかけたセリオスがアレクシスの名を呼んだ。
「あんだ、ニイチャン?」
 恐らくリーダー格なのであろう、セリオスの時とは全く異なる粗を見せた男がアレクシスに振り返り――そして、その顔を引き攣らせた。
 アレクシスは、確かに剣を所持している。だが、それは抜いてもいなければ手を掛けてもいない。それなのに。
「失礼、彼は私の連れでして」
 しかし、男が一見穏やかなその声を通して感じたものは、喉元に刃を突き付けられるような、有無を言わせぬ威圧感。
「先約があるのですが……お連れしても?」
 受けた威圧感は、主格一人に向けられたものではなかったのだろう。ガッと、セリオスを囲んでいた男達が一気に二人の間に道を開ける。
 アレクシスはそれ以上の言葉を発さず一礼すると、身動きの出来なくなった男達を後目に、その場からセリオスを連れ出した。

「あー、助かった。
 あんまりしつこいから、アレスが来てちょっとほっとした」
 そう告げながら、セリオスが相手から預かっていた上着を返そうとしたその手を、申し訳なさそうな様子を隠しきれないアレクシスが片手で制した。
「……上着はまだ君が着ていて」
 セリオスはその様子に、改めて自分の姿を見やる。上着を着ても今来ている水着の露出は隠しきれない。同時に、本人に自覚のない色香も隠しようがない。
「……一人にしてごめんよ」
「いや、マジで助かったから! けど――」
「少しの間だったとはいえ……慣れないことをするものではないね」
 小さな声。目に映るのは、セリオスを危ない目に遭わせてしまったと落ち込む様子のその姿。
(……けど、どうして――あんなどーでもいいことで、アレスがこんな顔することになるんだ)
 せっかく、彼を困らせない為に我慢したのに。
(ああ、気に喰わねぇ。やっぱ殴り沈めておけば良かったのかも)
 代わりに、心配どころかアレクシスを悲しませた――しかし、そんな胸に浮かぶ自分の為の苛立ちと後悔は胸に沈めて。
 代わりに、セリオスは『気にすんな』と――『もう忘れた』と言わんばかりに、アレクシスの頭をわしゃわしゃと髪をかき乱すように撫で回した。
「わ……っ」
 驚いた様子で、アレクシスが顔を上げる。
「で、見せたいものって何なんだ?」
 相手の顔を覗き込んで笑ってみせる。この話は、もうおしまい。
「……うん。こっちだよ」
 その幼馴染の笑顔に。つられるように、アレクシスもセリオスに、困った様子がまだ少し残る微笑みを浮かべて見せた。

「……これ」
 親友に連れて来られた先――セリオスが目にした光景は、まさに楽園のようだった。
 花火が打ち上げられる場所に偏りでもあったのだろう。
 そこにあったものは、セリオスが『アレスの花』と位置づけた、小さくも青く、そして茎葉が無くとも力強く咲いては風と共に宙を舞い続けるネモフィラの空。
 同時に同じ空を上下にふわふわ漂い、ふと広げるセリオスの手に収まった紫の中に白の模様を宿す花――ペチュニアナイトスカイが、ネモフィラの空に綺麗な星を形取り。
 そして地上には、恐らく元からこの地に群生していたところをビーチに巻き込まれたのであろう、凜々しく薄青の花弁を伸ばした星――ブルーペンタスシリウスが咲き誇る。

 それらの星を示す花は、どれもが全て。
 アレクシスが心に映す『セリオスの存在』を写し取ったかのような意が込められていて。

「……僕が『君の花』だと思った花と」
「――ネモフィラ」
 奇しくもそこにあったのは。アレクシスが偶然見つけて探した先にあったのは。
 ただただ――『二人の存在だけを、此処に示した花の海』――。

 セリオスの目が、その宵の瞳全てに舞う花を映し、歓喜に大きく輝き止まらない。
「――ははッ! お前、天才!」
 他に例えようも無い程の喜びが、感激が、感動が。心から溢れてくるのを止めようがない。言葉にするのもままならない、そのようなものでは到底足りない。
 そんな、まるで『自分を取り巻く、世界そのものの声』を聞いたかのように、セリオスは興奮と共に、アレクシスの頭を抱き込むようにその胸に押さえ込んだ。
「ちょ、セリオス……わあ!」
 そして勢いあまって、二人が揃ってバランスを崩して花の海へと落ちていく。水しぶきの代わりに上がったものは、無数の花片の乱舞。

 巻き起こる花びらで周囲を染める空の色、星の色。そして無数に添えられた小さな星と――『双星』という互いの存在。
 ここは今、確かに。全てが揃った二人の楽園の形であった。

「ありがとなアレス。
 ……いっしょがこんなにも嬉しい」
 星が集まる花の中、セリオスが世界のどのような華より眩しい微笑みを、アレクシスへと惜しみなく向けてくる。
「……よかった」
 後ろに倒れ、セリオスを支えていたアレクシスが、その笑顔に手を伸ばす――そこに浮かべられた笑みは、少年の無邪気さだけでは決してなく、青年の受ける慶びなどでは届きもしない。
 世界中の、どのような喜びたる感情を重ねても足りない程の笑顔を浮かべ、アレクシスもセリオスへと微笑み掛けた。

 一番見たかった花が見れた。
 否、それは花では到底足りない、世界で最高の星の輝き――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

辰神・明
【陽花/夜】
妹人格:メイで参加
2019年水着:
ふーちゃん(ぬいぐるみ)も同じ柄のレインコート

ふわぁ……!
栗花落おにーちゃん
花火がどーんって、お花がぶわわって……!

浮き輪を使って泳ぎながら
妖怪花火さんを……見るの、ですよ
お空に咲く花も、水面に浮かぶ花々も、キレーで
ふーちゃんも気になって、前足でお花をつんつん?

お散歩……?
首をこてんとしている内に、ふわりと身体が浮かぶ
はじめは、びっくりさん、だったけれど……
栗花落おにーちゃんの、やさしいの笑顔に、ホッとして

わ、わ……っ!
メイ、水の上を歩くの、はじめて……です!
キラキラと眩しい世界を、ゆっくりと歩いて、踊って
おとぎ話みたい、なんて……思ったの


栗花落・澪
【陽花/夜】
2021水着:月の女神がモチーフ

辰神さんと一緒に花舞う海を泳ぎながら
そっと夜空に開く大輪の華を見上げ
そっと花弁ごと水を掬い上げれば
手の中にも煌めく光が映り込む

花が降って来るなんて凄いよね
これは皆見たくもなっちゃうよね、綺麗だもん
あ…ふふ
髪、付いてるよ
ほら

辰神さんの髪に乗った花弁を取ってあげて
それからふと思いついたように

ねぇ、少しお散歩してみる?

にこりと微笑み
風魔法を纏ってふわりと浮かび上がって
降り立つのは水面の上
辰神さんの手も優しく引き上げ
同じ舞台へとご招待

一度だけ踊るようにくるりと回ってから
水の上を歩くのは初めてでしょ?
上も下もキラキラ輝いてとっても綺麗だよ
一緒に歩こ


●それは、まるでおとぎ話のような

 数日と続いた花舞い躍る花火のビーチ。
 今日は一際、月が大きく輝く夜だった。
 
「ふわぁ……!」
 身体に響く、深くてとても重い音。それを全身に感じ取りながら辰神・明(双星・f00192)――二つに存在する心の内の『メイ』は、可愛らしい無数の動物たちがプリントされている絵柄をあしらえた浮き輪に捕まり、既にどこまで広がっているかも分からない海から空を見上げた。
 遠くには砂浜と、更に離れた場所には点々とした屋台路地の光が見える。しかし、明の瞳は星以上にきらめき、そして消えていく花火でいっぱいだった。
 水着は薄ピンクの桜模様が描かれた可愛らしいオフショルダーのお気に入り。傍らでは、茶色いつぶらな瞳が愛くるしい、黒狐のぬいぐるみ『ふーちゃん』が、水着代わりに同じ柄のレインコートを着用しつつ、浮き輪の端に器用に座り、同じ花火の光が瞬く空を一緒になって見上げている。
 また一つ、空に大輪の花が咲く。それから数秒をおいて、一際大きな海風が吹くと、大量の実在する花を巻き込んだ花びらが、一斉に明の周囲をぶわりと飛び交い包んでは、更に先へ先へと何処かへ向かって消えていく。

「栗花落おにーちゃん……!
 花火がどーんって、お花がぶわわって……!!!」
 月光が照らす桃色の瞳を燦めかせながら、明が今日一緒にビーチへと遊びに来ていた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)へと、つたないながらも一所懸命に己が受けた感動を伝えようとする。
「そうだね。こんなに華やかだなんて思わなかったかも」
 明の隣で、同意を示した澪の柔らかなローブ調の白い水着が、ここでも波間に花開くようにふわりと広がった――澪の今年の水着は、義姉が選んだ『月の女神』をモチーフとしたもので、曰く無理やり着せられたものであるらしいが。彼女の見立ては間違っていなかったのであろう、それは澪の華奢な身体を包み、黄金色のアクセサリーと共にとてもよく似合っている。
 水面に白の布地を揺らし。明の隣を泳ぐ澪が、再び響いた音と共に、その姿に相応しい優美さすら伴って、大きく開いてはしだれるように散りゆく花火を目に留めた。
 そして、一緒に落ちてきた花片一つを主役に、その細い両手で掬い上げると、追い掛けるように再び咲いた空の大輪が、その手の中にある水面にも、同じように白と赤色に輝く華を映し出す。

「妖怪花火さんのお空に咲く花も、水面に浮かぶ花々も……とてもキレーなの、です……」
 上空には花火が上がり、浮かぶ海面には花と花びらが散り遊ぶ様があまりに綺麗で。
 そこには、上下何処を見ていいか困るように視線を巡らす明の姿と、浮き輪に座っては、そよぐように流れ着いてきた花を、傍らのふーちゃんが黒くて可愛い前足でつんつんと触れている姿が目に入る。
「……本当に、ここまで花が降ってくるなんて凄いよね。
 これは皆見たくもなっちゃうよね、綺麗だもん」
 澪が名残惜しそうに、手の平に収めて一度は捕まえ消えた花火の残滓を、花びらと共に海に還す。

「あ……ふふ。
 髪、付いてるよ。さっきの風かな」
「――えっ、え……っ?」
 先程受けた花びらを山ほど含んだ風を思い出して、明が自分では見えない髪をそわそわと触ってみる。手応えのなさに右往左往しているのを見て、澪がそっと明の傍らへと寄って、その柔らかな紫の髪に手を伸ばした。
「ほら」
 澪が取ってあげたのは、小さくも可憐な薄紅の花びら一枚と、それが引っ掛かるように乗っていた、ほんの数輪が一緒になったかすみ草の白い花。
「これなら、ついたままでも可愛かったかも知れないけど」
 そう告げて、指にしていたそれらを明の手に乗せる。
「わぁ……」
 その小さな手のひらに乗る、小さな彩りに明が微笑み、ふーちゃんも興味深そうにそれらを見つめる。しかし、ずっと持ち続けるには手に余るもの。髪飾りにするには少し安定感もたりなくて。しかたなく、明は少し残念そうにそれらをそっと海の水面に浮かべることにした。
 そよそよとした、先とは異なる優しい潮風が澪の頬を静かに撫でる。それに思いついたかのように、澪は月光と花火の光を何処までも反射する水平線を見渡した。
「ねぇ、少しお散歩してみる?」
「お散歩……?」
 きょとんと、澪を見つめる明に向かって、その表情が優しくも楽しげな微笑を浮かべる。そして、澪は相手を驚かせることのないように、柔らかな風として己の魔力を調整すると、海を華麗に跳ねる魚のように軽やかな水音を立てて魔法で宙に浮かび上がった。
 大きな羽根をふわりと広げて、爪先で僅かな空気の波紋と共に降り立つのは大海の上。
 微笑み一つ、澪は浮き輪で水面に浮かぶ明にむけて、その滑らかで先程まで濡れた雫が真珠のように月明かりに反射する手を差し伸べた。
 明は不思議そうに可愛らしく小首を傾げる。先にその意に気付いたぬいぐるみのふーちゃんが、明の手をちょいちょいとつついて、そっと澪の手の方へとその手を乗せるような仕草を見せた。
「あ……っ」
 それを目にして指し示された手の意味に、ほんの少し気づき掛けた明に向け、澪は一際の流麗とも言える文字通り天使のような微笑を見せると、何かが言葉になる前に、僅かに動いた相手の手をそっと掬って、まるで空気を持ち上げるかのような軽やかさで、その身を空へと――己と同じ高さにまで引き上げた。

「わ……っ、わ……!」
 状況を理解しきる前に、明の身体が、まるで空を飛ぶ許可をもらえたかのようにふわりと重い海の中から浮き上がる。
 そこは、海を地上に見立てた天を舞う天使の領域。
 驚きを隠せずにびっくりして慌てる明に向け、言葉よりも雄弁に、澪が包み込むような笑みを浮かべて微笑んだ。
「あ……」
 海の上。しかし、沈むことのない己の身体。澪の安心させてくれる笑顔に、心からの安堵と共に明は気付いた。

 ――もう海の中ではない。此処が自分に次の驚きをくれる場所――。

 くるりと、風魔法の影響を受けて既に乾いた澪の水着の裾が、羽衣すら彷彿とさせる優美さを伴って、一歩足を踏み出し身を翻すステップと共に、ふわりと中空に咲き誇る華のようにたなびいた。
「水の上を歩くのは初めてでしょ?」
 そのまま一歩、澪が明の元へと足を踏み出す。
 歩ける。その認識を受けた明が足を一歩前に進めると、空気による柔らかな抵抗を感じながら、確かにその足は海の上へと留まっていた。
「わ、わ……っ!
 メイ、水の上を歩くの、はじめて……です!」
 驚きに、明の桃色の瞳が、月光の燦めきを受けて宝石のように輝いた。
 浮かび上がる際に、浮輪から明の首元に移動したのであろう、ぬいぐるみのふーちゃんも、その首筋から落ちないように慎重にしがみ付きながら、雰囲気に感動を滲ませるようにあちこちを見渡している。
「よかった……です。ふーちゃんも、一緒……ですね」
 ――瞬間、思いの外この近くで上げられているのかも知れない、海に浮かんでいたときよりも、明らかに大きな音と共に、小さな花火を伴った大玉が一つ大きく上空で華開いた。

 二人の立つ世界が、一斉に舞いすさぶ花びらによって一瞬埋め尽くされるようにいっぱいになる。
「上も下もキラキラ輝いてとっても綺麗だよ。
 ――一緒に歩こ」
 とん、と。澪が海岸ではなく、更なる水平線の方へ一歩足を進める。
 そこには、月が海面を照らし長く伸びる一筋の道を――ムーンロードを生みだしていた。

 花火だけではない。花が視界の中を縦横無尽なまでに舞い。隙間からは月光が遙か彼方までの光の道を作り出している。
 いくら、カクリヨファンタズムだからと言っても、此処は本当に現実なのかとすら思える――明の思考ですらも、この世界を目にした先には、幻影や幻想の類を思い浮かばせた。
 それは夜なのにキラキラと、太陽よりも眩しくて優しい世界。その中を、ゆっくりと歩いてみて。一緒にいる相手と同じく、自分も踊るように身体をくるんと回してみせて。足元の波は空気の抵抗に反応して、その韻に波以外の綺麗な波紋を生み出した。
 日常から、たくさんの動物のぬいぐるみたちに囲まれる明は、目に見る者にとってはお伽噺の体現者のようにも思われるだろう。
 だが――その明ですら、この夢ですら見ることが適わないような景色を知らない。
 それはまさしく『おとぎ話』と称するに相応しいものに思われた。

 ――この世界は。
 束の間の休息のために用意された一時の幻影であるけれども。
 しかし、その心に残されるであろう情景は『ここに確かに実在したもの』として、戦い続ける猟兵達の心に残ることだろう――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2021年08月03日
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵