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夏一頁、花を酌む

#カクリヨファンタズム #お祭り2021 #夏休み

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 カクリヨファンタズムの夜空に、色とりどりの光の花が咲いては散る。
 妖怪花火というだけあって、色も形も様々だ。
 華やかな一花、勇ましい一花、和みをもたらす一花、郷愁を誘う一花。
 穏やかに波打つ海面に映る姿も美しい。
「せっかくです、グラスで一杯……いかがです?」

●花を酌む
「ヴァン氏の花火はまた格別さ。グラスの中に咲くんだよ」
 バーテンダーのような恰好の妖怪を紹介するハーモニック・ロマンティカ(職業プリンセス・f30645)はほろ酔いだ。既に一杯、ひっかけた後なのかもしれない。
 だからいつも以上のご機嫌ぶりで、猟兵たちへ呼びかける。
「君たちも一杯、どうだい? 味わいも、咲かせる花火も思いのままだよ」
 そういってハーモニックが掲げたグラスの中では、小ぶりの花火が七つ、咲いては散り、散っては咲くを繰り返していた。
 まるで仲の良い兄弟のようだ、と思ったなら、それは正しい。なぜならハーモニックのグラスで咲く花火たちは、彼が愛してやまない七人の子供たちをイメージしたものなのだから。
「これを飲むとね、可愛い子供たちの顔が浮かんでくるんだよ。ふふ、幸せだね」
「イメージした花火にまつわる記憶を呼び起こす作用があるんですよ。大丈夫、体に悪いものではありません」
 ハイビスカスを飾ったグラスに挿したストローに口をつけたハーモニックの言葉の先を、ヴァン本人が補う。
「投影する花火、などと私は呼んでおります。難しく考える必要はありません、ただ美しく、美味であるだけです。目にも心にも」

 グラスに花火を咲かせるのは簡単だ。
 ヴァンが用意したグラスの中から好きなものを選び、花火の形と味を思い浮かべるだけ。
「グラスに注ぐのはただの水です。もちろん、種も仕掛けもありますが。そこは私だけの秘密ということにしておいてください」
 小粋に右目でウィンクを決めるヴァンは、悪い妖怪には見えない。おそらく人を驚かせ、喜ばせることが好きな妖怪なのだろう。
「水は水。つまり水の色は透明。とはいえ、全ては皆さんの想像次第。アルコールを想像したら酔いもします。だから未成年の皆様は、くれぐれもジュースのお味を思い描いて下さいね」
 そこだけは、と念押して、ヴァンは浜辺に設えたバーカウンターへ猟兵たちを誘う。
「ああ、そうです。大事なことを忘れていました。もし誰かとグラスを交換されるおつもりなら、十分にお気を付けください。あなたが投影した記憶まで、味わわれてしまいますからね」


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 美しい花火を飲み干してみませんか? なお誘いに参上しました。

●シナリオ傾向
 心情系に寄りつつ、皆様次第。
 コミカルもシリアスも歓迎。

●シナリオの流れ
 当シナリオは一章シナリオです。
 思い思いに楽しんで下さい。
(POW/SPD/WIZは参考程度で)

●プレイング受付・締切について
 タグにてお知らせ致します。
 受付期間外に頂いたプレイングは一律お返しすることになると思いますので、予めご了承下さい。
 公序良俗に反するプレイング(未成年の飲酒など)もお返しします。

●採用人数
 がんばれるだけ。
 全員採用はお約束しておりません(採用は先着順ではありません)。

●同行人数について
 ソロ、あるいはペアまでを推奨。

●ヴァン
 お酒に纏わる西洋妖怪。
 特に彼に語りかける等のプレイングは必要ありません。

●プレイングにて指定して頂きたいこと
 花火の形と味わいは必須。
 グラスの形などは任意。
 水着イラストの指定も可。
 (指定頂いた場合、外見描写を取り入れるよう努力します)

●リプレイ文字数
 お一人様あたり600~800を想定。

●その他
 お声がけ頂ければ、当方のグリモア猟兵もお邪魔します。

 書けるタイミングで採用・執筆を行います。
 此方から再送をお願いすることはありませんが、お気持ちにお代わりがなければ、再送は躊躇なく・遠慮なくどうぞです。
 執筆が確実に滞る期間は、タグ等でお知らせします。その間はどれだけプレイングを送ってい頂いても執筆は出来ませんが、参考にはさせて頂きます。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み2021』

POW   :    妖怪花火で空へGO!

SPD   :    妖怪花火の上で空中散歩

WIZ   :    静かに花火を楽しもう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シェルゥカ・ヨルナギ
【花面】

不思議な花火だねー
澄んだ空に透かしたくなる

俺のイメージ?

綺麗だねー
何だかずっと見ていたいよ

君は…そうだなー
中くらいのが落ち着いたテンポで
幾つもかわるがわる楽しそうに咲く
でもそれだけではなくて
単方向から覗くだけでは気付けない
角度を変えた時グラスに伝わる光で初めて気づく小さなスパークル
小さいけれど見逃せないそれも含めた、この全てが、君の花火

受け取ったグラスの水は
優しい甘さと花束の様な芳香がふわり
なんだか安心できる感じ
…あれ
でも後味が
不思議な苦みを含んだスパイスの様
…これは、何
俺は君に何かしてしまったのかな
気がかりで、首を傾げ顔を見る

それでも大丈夫と君が言うなら
一緒に
グラスの花火も思い出に


エンティ・シェア
【花面】

真の姿を模して化けた、今年仕立てて貰った水着で

ねぇシェルゥカ
折角だから私は君をイメージしようと思うよ
君は、そうだね…少し小ぶりで、次々と咲きそうだ
カラフルな、スターマイン
飲んでみて。私の思う、君の味わい
君も、君の思う私を込めておくれよ

君がくれたグラス
爽やかな甘さは、楽しい心地と安堵を感じる
けれど後味が、なんだか少しほろ苦い
…はは、君には、色んな心配をかけてしまっているね

やはり、君への依存的な執着も伝わるか…
これも、心配させる元かなと心内で苦笑して
大丈夫だよと、笑いかける
私は、君が居るから生きていく気になった
それだけは確かな事
一緒に沢山の思い出を作って行こうよ
グラスを合わせて改めて乾杯を



 背を伸ばして寝転がれるビーチベットに浅く腰掛けたシェルゥカ・ヨルナギ(暁闇の星を見つめる・f20687)の目は、エンティ・シェア(欠片・f00526)が差し出すグラスに釘付けだ。
 フルート型のシャンパングラスの中は、頭上の夜空を注ぎ入れたよう。
 少し小ぶりな花火が次々に咲いては散り、散っては咲いてを繰り返している。
「スターマイン。カラフルだろう?」
「へぇ……不思議な花火だねー」
 赤く咲いた花火を赤い瞳に映していたシェルゥカの頬が、次に咲いた黄色に染められ、次は薄紅に移ろう。だがその薄紅は、花火の彩ではない。
「君のイメージだよ」
「え、俺のイメージ?!」
 エンティの言葉に、薄紅が仄かに色を濃くした。驚きと喜びに、シェルゥカの乳白色の肌の奥で、熱が躍ったのだ。
「綺麗だねー」
 長身を器用に丸め、シェルゥカは膝で頬杖をつくと目を細める。何だかずっと見ていたい心地だ。でも、贈られたのだから、贈り返さずにはいられない。
「君の思う私を込めておくれよ」
「まかせてー」
 シェルゥカの離席は瞬く間。ふらりと走った青年は、ゆらりと戻って、くしゃりと笑む。
「見て見てー。君っぽい」
 すっと伸べられたシェルゥカの手には、多角のロックグラス。中では幾らか落ち着いたテンポで、大輪一歩手前の花火が一発ずつ打ち上がっている。
「代わる代わる、楽しそうだね」
「でしょー。けどね」
 思い描いた通りのエンティの感想に、シェルゥカの口許が緩む。それはまだ、とっておきを隠した貌だ。
「ほら、今度はこっち側から」
 くるり。シェルゥカが掌中でグラスを回す。そこで初めて、エンティはグラスに映る小さなスパークルに気付いた。
「小さいけれど見逃せない。これも含めた、この全てが、君の花火」
 ――はい、どうぞ。
 差し出されたグラスを、エンティは受け取る。後は言わずもがなだ。飲んでみて、と促すシェルゥカの視線に応え、固い硝子の縁に唇をあてる。
 軽く煽ると、まっさきに来るのは爽やかな甘さだ。抱く心象は、楽しさと安堵――でも。
「……はは」
 後味に残った僅かなほろ苦さに、エンティは眉を寄せて笑ってしまった。
 どうやら自分は、シェルゥカには色々と心配をかけてしまっているらしい。否定できないのは、エンティにその自覚があるからだ。
「君も飲むかい?」
「もちろん!」
 ロックグラスを口に当てたまま水を向けると、弾かれたみたいな是が返る。
 細い首を指先で取り、シェルゥカは透明な水面を、くんと嗅ぐ。
「!」
 花束めくふわりとした芳香に高まるのは期待。目を輝かせて花火ごと口に含むと、優しい甘さが舌を撫でた。
 安心感を呼び覚ます味わいだ。しかし消えゆく間際の裏腹に、シェルゥカは首を傾げた。
「……これは、何?」
 不思議な苦みを含んだスパイスの様な後味に、シェルゥカはエンティの顔を覗き込む。
「俺は君に、何かをしてしまったのかな?」
「……ちがうよ。そうじゃ、ない」
 ぱたり、ぱたり。化けて模る長い猫の尻尾が、エンティの背で揺れる。頭上に立った耳もまた、神経質に尖った。
「大丈夫だよ」
 空いた手で精緻なレースの裾を摘まみ、エンティは内心の苦笑いを微笑みで覆い隠す。
 まさか、シェルゥカへの依存的な執着までもが伝わるとは思っていなかった。いや、可能性を全く想像しなかったわけではないが。それでも、決して。未必の故意ではない。
(これも、君を心配させる元かな)
 新たな芽を、エンティは綺麗な笑顔で摘み取る。
 ――私は、君が居るから。生きていく気になった。
 ――それだけは、確かな事。
「ねぇ、乾杯をしよう」
 エンティのありったけを込めた笑顔は、グラスの中で咲く花火よりも美しく。そういうことなら、とシェルゥカもようやく不安を解いた。
 大丈夫だとエンティが言ったのだ。黒髪の、エンティが。だからシェルゥカには、信じるくらいしか出来ることはない。
「一緒に沢山の思い出を作って行こうよ」
 気を遣わせた詫びに代え、エンティは先にグラスを掲げる。
 続くシェルゥカの表情にはもう憂いはない。
「そうだね、一緒に」
 鈴音に似た音を響かせ、杯が謳う。
 夜空に打ち上る花火と、グラスの中の花火と。鮮やかな二種の光花は、この夏を彩る二人揃いの思い出となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リンシャオ・ファ
なんか面白そうなことやってる!
おれも混ぜてもらお
カクリヨへ来るのは初めてだけど、不思議なものがいっぱいあるんだなあ

黄色い扶桑花を差した杯に咲いた花火は淡い赤や黄
長く尾を引いて、キラキラして、蔓花みたい?
透明なのにとろとろ甘いのは、多分、桃の味

なんだろ?
ずっと昔、食べたことがある気がする

落ちる火花の中に、浮かんで消えるのは人の良さそうな女の人と男の人、それから小さな子供達
みんなそれぞれ違うけど、どこかでおれと同じ
髪の色、肌の色、瞳の色

あれ?
これってもしかして――

届きそうになった所で、花火が終わっちゃった
たった今見た光景がぼんやり滲んで
おかしいな、これはもう一杯飲まないと!
ヴァンさん、おかわりー!



「ねぇ、おれにも一杯もらえる……じゃなくて、もらえますか?」
 バーカウンターに乗り上げんばかりだった勢いを慌てて弱めたリンシャオ・ファ(蒼空凌ぐ花の牙・f03052)に、ヴァンは孫を眺める目つきで微笑み返す。
「もちろん。あと、楽にしておいで」
 慣れない口調で無理をする必要はないのだと言われたのに気付いたリンシャオは、刹那の逡巡に視線を泳がせ――くしゃりと笑み崩れた。
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
 勧められたスツールに腰を下ろし、リンシャオはヴァンの手元を興味津々に見つめる。
 一見、くびれのあるゴブレットに水を注いでいるだけだ。
 だのに、ぱちり。リンシャオの視線を映したかの如く、光の花が咲き始める。
 面白そうなことをやっているとは思った。初めて訪れたカクリヨファンタズムは、不思議なものがたくさんだけれど、夜空を切り取ったみたいなグラスの中はまた格別。
「どうぞ、召し上がれ」
「すごい……」
 手元に押しやられたグラスに、リンシャオは言葉を失う。
 夏らしい黄の扶桑花を縁に飾ったグラスの内では、淡い赤や黄の光が長く尾を引いている。
 グラスを手に取り、目線の高さに掲げれば、チラチラと、キラキラと綺麗な光に重なる景色が思い浮かぶ。
(蔓花……みたい?)
 そろりと口へ運び、満ちる液体を花火ごと飲む。
(これは、多分……桃の味)
 透明なのに、とろりと甘い味にも覚えがあった。
(なんだろ? ずっと昔、食べたことがある気が、する)
 ――そこで、カチリ。
 記憶の錠に鍵が嵌る。

 無意識に落とした瞼に、静かに火花が流れ降る。
 そこに浮かんで消える、人の良さそうな女の人と、男の人――それから、小さな子供達。
 背格好はそれぞれだ。でも、どこかリンシャオと似通っている。
 ――金。
 髪の、色。
 ――胡桃。
 肌の、色。
 ――琥珀。
 瞳の、色。

「あ、……あれ?」
 目を開いた途端に消えた幻にリンシャオは息を詰め、含んだ甘さの余韻を噛み締めるみたいに首を傾げた。
 ――あれは、もしかして。
 届きそうで届かなかったもどかしさにグラスを見遣ると、すっかり空で。端に残った滴に、消える間際の光が滲んでいる。
 光とともに、見たばかりの風景が霞の彼方へ消えてしまう。
(だめ、だめ。これは、これは!)
 悲壮ではなく底抜けの期待に胸を膨らませたリンシャオは、見守っていたバーテンダーを振り仰ぐ。
「ヴァンさん、おかわりー!」

 そこから先は、視得ないかもしれない。
 でも、それでも。
 飲んだ花火は、リンシャオの夏を彩る記憶になる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百合根・理嘉
【海風】※水着は今年の!

ふぅん……
なんて気のない返事に聞こえたかもしれない
でもちゃんと気になってる事もある

それが俺の手でどんな色の、どんな味になるのか
上がる花火はどんななのか
その辺は気にするだろー
気になるだろー

こういう時、小学生男子みたいな落ち着きの無さになんの
なんだろなぁ

俺のは小さな花が沢山(彩色千輪)
色も沢山……でも、多いのは明るいオレンジ色

それは多分
夕暮れの空の……帰宅した時、窓から零れる灯りの色

どう……って味?味は甘い
甘くて……後味が少し苦い、酒
飲み始めは蜂蜜の甘さとかすげぇするんだけど
後味はちょっと苦い……?
んでもマズくはねぇ、カンジかな

つーか、昔懐かしむみたいな顔になってっぞ、湊偲


越喜来・湊偲
【海風】
水着は去年と同じもの
グラスはカクテルグラス

花火にまつわる記憶かぁ
俺は初めて花火を見た時っすかね
赤いやピンクのような、キマイラフューチャーらしい派手なでっかい花火

俺が生まれた所は花火とか祭りとか全然無くて
花火もでしたけど煌びやかな夜の祭りの光景は今でも覚えてるんです
見知らぬ世界にはこんなにも綺麗なもんがあるんだって

ははっ、やっぱり味はあの時食べたブルーハワイのかき氷の味っす
大人になったから、少しアルコールの風味もあるような

理嘉さんはどうっすか?
小さい花火が可愛いっすね
甘くて後味は苦い……大人の味っていうのですかね?
少し気になるけど飲むのは我慢

俺のは懐かしい味っすから、そうなるもんです



 金のガカールに黒い布。水着にクーフィーヤを合わせた百合根・理嘉(風伯の仔・f03365)は、まるでアラブの御曹司だ。
 対して、並ぶスツールに座した越喜来・湊偲(綿津見の鱗・f01703)はジップパーカーベストに青地にスプラッシュ柄のカラフルな水着――つまり、今どきの若者らしい海辺のスタイル。
 見た目には、ちぐはぐだ。
 カウンターテーブルに置かれたグラスを目にした反応も、真逆に近い。
 ぼんやりとした理嘉と、顔を輝かせる湊偲。にも関わらず、二人で居ることに違和感は欠片もない。
「花火にまつわる記憶かぁ」
 カクテルグラスの中で咲く、色鮮やかな大輪たちに湊偲の声は楽し気だ。それも当然、赤やピンクの賑やかな花火たちは、湊偲が初めて見た花火を映したもの。
 キマイラフューチャーらしい派手なそれらは、人の心を否応なしに浮き立たせる。例えどれほど餓え、疲れ果てた者の心であろうと。
「俺、めちゃくちゃ感動したんっすよ」
 海洋生物をかけ合わせた湊偲が生まれたのは、花火や祭などとは縁遠く。まともな食事など期待しようもない極寒の地。
 だからこそ、花火も、無数の電飾で彩られた煌びやかな夜祭の光景も、強く強く瞼に焼き付いている。
「見知らぬ世界には、こんなにも綺麗なもんがあるんだって――ねぇ、聞いてるっすか?」
「お、おう。聞いてる、聞いてる」
 ちらりと覗いた理嘉の横顔は、明らかな上の空だ。でも湊偲が気分を害することはない。
 何故なら、膝の上の理嘉の手は握ったり開いたりを繰り返しているし、赤い水着の裾から垣間見える膝小僧もそわそわと揺れている。
 理嘉の反応が薄いように見えるのは、それこそ『見える』だけ。内心は、小学生の男子みたいにこれっぽっちも落ち着いてなどいやしない。
 湊偲のグラスと比べ、なかなか花火が上がらないのが、気が気でなかったのだ。
 しかしその静寂も、ひゅるりと細く聞えた音色に打ち破られる。
「あ」
 ぱぱぱぱぱん、と連なる発破音に合わせて、細長いタンブラーの中に色とりどりの小花が無数に咲いた。
「可愛いっすね」
「まぁ、な」
 湊偲の褒め言葉が、ほんのり理嘉の耳には遠いのはご愛敬。今はすっかり、彩色千輪の輝きに目も心も奪われているのだ。
(これは、……そうだ。夕暮れ空)
 数ある色の中で際立つオレンジ色に、理嘉が思い出すのは帰宅後の窓から零れる灯りと空。
 グラスに咲(わら)う郷愁。惹かれるままに理嘉が口をつけると、湊偲もぐっと煽る。
「ははっ、やっぱり味はあの時食べたブルーハワイのかき氷の味っす」
 思い切りよくいった分、湊偲の方が味わいに声を上げるのも早い。そのまままた横を見遣ると、理嘉の横顔は何やら考え込んでいる風。
「どうっすか、理嘉さん」
「どうっ、て……甘くて、……後味が少し苦い――酒?」
 飲み始めは蜂蜜の甘さとかがすげぇするんだけど、と懸命に説明しようとする年下の友人の様子に、湊偲の目尻は自然と下がる。
 湊偲のブルーハワイも、アルコールの味がした。それはきっと湊偲が大人になった証拠。
 湊偲にはもう十分に、酒を楽しめる。だがようやく二十歳になったばかりの理嘉には、アルコール独特の風味がキツイのだろう。
「あーでも。マズくはねぇカンジ。うん、マズくはない――って、湊偲。昔懐かしむみたいな顔になってんぞ」
 ようやく自分のことを見た理嘉が発した科白に、湊偲は笑うのをぐっと堪える。
「俺のは懐かしい味っすから、そうなるもんです」
 理嘉の挙措を己の過去と照らし合わせて懐かしんでいるとは決して言わず、湊偲は自分のグラスに残る花火と酒を今度は飲み干す。
 理嘉のグラスの中身も気にかかったが、お裾分けを求めるのはぐっと我慢。
 これは理嘉が登るべき、大人の階段だろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
七結と(f00421)

花火を、飲むの?
教えてもらったことが信じられないまま七結と共に席に着く。

思い浮かべるのは七結と月を見た時間。
楽しい時間は勿論、静かな時も、穏やかで気にしなくて、無言も嫌じゃない。そんな時間が気に入ってるから。

グラスの中の鮮やかな翠と紫が弾ける
わあ、ほんとだ!七結、グラスの中に花火!
この色、あのマニキュアと一緒だ。
ふふ、僕らのアメジスト。

交換する?じゃあ僕のも。
同じ時を過ごした思い出だけど、なんだか恥ずかしいな。
けど、僕らの今までと、今日も楽しい思い出に。乾杯。


蘭・七結
ともえさん/f02927

焔の華を飲み干せるだなんて、ステキ
浮かべた光景に味が宿るのならば
それは、如何なる味覚となるのでしょうね

透き通る硝子の器を手繰り寄せて
思い浮かべるのは――そうね、
無二なるお友達であるあなたとのことを
お茶会も、お出かけも
嗚呼……共に立ち向かってくださったことも

ぱあと花咲くのは、紫と翠の双彩の一華
ふうわりと薫る茉莉花と、白葡萄の爽やかな味わい
これが、わたしとあなたとの思い出
アレキサンドライトの記憶

ねえ、ともえさん
もしよければ、飲み干してくださる?
他でもないあなたと、共有をしたいの

ともえさんの記憶のお味は――
ふふ、とてもたのしみだわ

今までと、これからを
よき思い出たちに、乾杯を



「花火を、飲むの?」
「そうよ。ステキでしょう、ともえさん」
「う、う、うーん。本当に?」
 日傘を預けた五条・巴(月光ランウェイ・f02927)の戸惑いを、瀟洒なヒールで半歩分だけ先を歩む蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は、くすりと笑う。
 巴の信じられない気持ちも、よく分かる。だが七結の胸では、期待の蕾の方が大きく膨らむのだ。
(焔の華を飲み干せるだなんて)
 しかも味わいまでもが、心を映す。
(如何なる味覚となるのでしょうね?)
 映し取られることに、不快はない。喩えあったとしても、きっと細波にも洗われてしまうくらい。
 そうして『此処にしましょう』と七結が択んだのは、特設バーカウンターの端。
 未だ疑心暗鬼の欠片を携える巴を促し、そっとスツールに腰を下ろすと、気の好いバーテンダーが二人の前にすっと立つ。
「ご注文はお決まりで?」
「ええ」
「え、あ。はい」
 七結はすらり、巴はとつり。それぞれ違う応えにも、バーテンダーは反応を変えず。柄に硝子の蔦が絡むカクテルグラスを取り出すと、透明な水色(みいろ)をとぷりとぷりと注ぎ入れた。
「ごゆっくり」
 仕事も立ち去りも早いバーテンダー、残されたのは二人と二杯。
 無言のまま、顔を見合わせた。少女めく七結の貌、珍しく緊張気味な巴の貌。
「これで、思い浮かべればいいんだよね?」
「そうお伺いしましたけれど」
 透き通る硝子の器に手を伸べたのも、やはり七結が先。しかし今度は遅れることなく巴もグラスを手元近くへ引き寄せる。
 何の変哲もないグラスの中を、巴は真上から臨む。だからだ、揺れる水面のさらに奥に、七結のサマードレスの長い裾が見えたのは。
 そこには形を変える月があった。
(月……そうだ、月。うん、七結と見た)
 蘇る、記憶。楽しい時間であったのは当然のことながら、静かでもあり、穏やかでもあり、無言で居ることが気まずくなかった――むしろ心地よかったひと時。
 途端、巴のグラスに鮮やかな翠と紫が弾けた。
 双彩の一華。巴のグラスにぱあと咲いた焔の花を見止めた七結の笑みが、さらに深まる。
「お揃い、ですね」
 そう。七結のグラスにもまた、同じ花が鮮やかに咲いていた。
 だって七結が思い浮かべたのは無二なる友人である巴のこと。お茶会にお出掛け、共に立ち向かった戦場に、あれやこれや。
「これが、わたしとあなたの思い出」
 ――アレキサンドライトの記憶。
 小さく呟いた七結は、ふうわりと薫る茉莉花に誘われ、グラスへ唇を寄せ――口いっぱいに広がった白葡萄の爽やかな味わいに酔い痴れる。
 と、そこへようやく聞えたは巴の感嘆。
「ほんとだ。ねえ、七結。ほんとにグラスの中に花火が咲いたよ。ふふ、この色はあのマニキュアと一緒だ」
 過日、夜祭で作った揃いのマニキュアもアレキサンドライトであった。
 どこまでの縁のある二つの彩。だからこそ慕わしく、心は和む。
「ねえ、ともえさん。もしよければ、飲み干してくださる?」
 咲いた花は同じでも、味わいまでもが同じとは限らない。ならばまたひとつ、新たに共有したくて、七結は指先で摘まむグラスを巴の元へと送り出す。
「じゃあ、僕のも。交換しよう」
 元から分かち合った時間だ。隠すものはないけれど、不思議な気恥ずかしさを覚えながら、巴も己がグラスを七結の手元へ押しやる。
「ともえさんの記憶のお味――ふふ、とてもたのしみだわ」
「あまり期待はしないで……じゃなくて、ぜひ期待して。七結との記憶だから、絶対に美味しいよ」
 今度は会話と共に視線を交わし、鏡合わせのタイミングでグラスを掲げ合う。
 カチリと打ち鳴らす鈴音に、花火がまた咲く。
 乾杯は、今までとこれからに。
 そして今宵もまた新たな二人の思い出となる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

幎・夕真
【おにーさん/ライアン(f30575)】

雀荘でやってる食堂の常連客であるおにーさん
名前すら知らない
俺が悪霊なのも彼は知らない
教える気もない
夜だけは外に出られるから誘ってみた

すげー…
ワイングラスを見てきらきら
思い浮かべたのは冷えた蜂蜜檸檬
なんだよ、酒飲まねえって
見た目は幼いからな…
グラスを手に取り、思い描いたのは線香花火

おにーさんが誘ってくれた花火
あれは俺にとって特別なんだ
…久々の花火、嬉しかったんだ
(火事が起きてから、料理以外は避けていた火
あんなに綺麗で、儚くて
線香花火に悪い思い出はないから)
目の前の彼との思い出と、幼い頃無邪気に楽しんだ花火がよみがえった

甘いはずの蜂蜜檸檬は、少し苦い味がした


ライアン・キャンベル
夕真くん(f32760)と

珍しい誘いに瞬きひとつ
仕事の帰り道に寄る食堂で働く君の
束の間の羽休みになればいいけど

実年齢は兎も角、
明らかに未成年の容姿だからな
まあ、でも飲まないのなら安心だ
オレも君と一緒にジュースを飲むかな
ここに注ぐのは、甘いアップルジュース

へえ、あの花火、
そんなに特別だったんだな
オレもあの日は久々に楽しかったよ
(普段から仕事ばかりだから、)
と、頭に過ったのはあの日の線香花火

あ、

意図せずして
揃いのような花火になって
くすくすと愉しげな笑みが漏れた

これはこれで良い思い出の一頁だな



 幎・夕真(廃墟・f32760)には秘密がある。
 見た目はごくごく普通の少年。年齢は十五くらい。親が営む雀荘に併設された食堂を手伝う、孝行息子。
 けどそれらは全て表向き。否、全部嘘ではないけど、本当でもない。
(教える気、ないから。なら、知ってても知らなくても同じだよな)
 抱えた秘密は夕真の胸の内だけに。
 でも、せっかくの夜だから。外に出られる、夜だから。
 だから食堂の常連客な、名も知らない『おにーさん』を誘ってみたのだ。

「すげー……」
 透明な液体で満たされたワイングラスに目をキラキラさせていたら、小さく吹き出されたことに夕真は唇を尖らせる。
「今、笑うトコあったか?」
「ごめんごめん。でも本当にお酒じゃないんだよね?」
「酒はのまねえよ。これは冷え冷えの蜂蜜檸檬。飲んでみるか?」
「いや、そこまで疑ってはないよ。じゃあ、オレも君と一緒にジュースを飲むかな」
 にこやかに緑の目を細める男は、夕真から見たら、とてもとても大人で。合わせて『これは甘いアップルジュース。甘いアップルジュース』なんて念じてくれているのが、少しばかり申し訳なくなる。
 しかしそんな逡巡も僅かの間。
 手に取ったグラスの中に散った光に、夕真の目は奪われた。
 ぱちぱちと、小さな炎の玉を中心にして、柳のように火花が飛び散り、流れてゆく。
 今にもぽとりと落ちて消えてしまいそうな繊細さは、線香花火そのものだ。
「これ、おにーさんが誘ってくれた花火」
 視線はグラスの中へ向けたままとつりと言うと、「へえ、あの花火」と高い位置から声が返る。
「あれは俺にとって、特別なんだ」
 無垢な少年の貌で夕真が呟く。いつまでも変わらない、永遠の少年のような横顔だ。
「……久々の花火、嬉しかったんだ」
「そんなに特別だったんだな。オレもあの日は久々に楽しかったよ」
 気負いのない大人なトーンの応えに、夕真の裡には様々が去来する。
 ――火事が起きてから、料理以外は避けていた火。
 ――だのにあんなに綺麗で、儚くて。
 ――線香花火の思い出は、どうしたって悪い思い出にはできない……。
「あ」
「え?」
 溺れかけていた花火の海。不意に夕真が浮上したのは、『おにーさん』の驚きの声に導かれてのこと。
「ほら、見て。お揃い」
 きっとこうなることを意図していなかったのだろう。『おにーさん』が漏らすくすくすとした笑いは心の底から楽し気で。
 夕真も素直に、大きな手の中のグラスで咲く線香花火に丸い息を吐く。
「これはこれで、良い思い出の一頁だな」
「うん、そうだね」
 肯定に嘘はない。
 でも、甘い筈の蜂蜜檸檬にほのかな苦みを感じたのは、夕真だけの秘密。

 ライアン・キャンベル(hell fire・f30575)の職業は刑事だ。
 困った人の味方でありたい彼にとって、それはきっと天職。おかげで多忙を極める日々。仕事帰りに寄る場所といえば、遅くまでやっている食堂くらい。
 そこで出会った手伝いの少年と線香花火をしたのは、過日。
(あの日は珍しく、帰宅後まで仕事に追われることはなかったな)
 思い出しつつ少年の珍しい誘いに乗ったのは、彼の束の間の羽休みになればいいと考えたから。自分の忙しさは棚上げにして。
 ライアンは年少者を気にかける、人の好い男だ。
 でもそんなライアンが、一度死した人間であることを少年は知らない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天音・亮
【欠片】
★F

今年仕立ててもらった自慢の水着を着ていくよ
ふふ、ロキのはやっぱりかわいい
きみが動くたび揺れるチェシャの尾のなんと愛らしいことか
あ、そんなリクエストしちゃう?
なんて取ってみたポーズは全力のモデルモード
やっぱりそこはモデルとして妥協できないでしょ?
なんて傾けたグラスで乾杯

細長いロンググラスに咲いていくのは
日向色の小さな大輪達
重なるように次々咲く花がもたらす思い出は
兄弟との記憶

ピアノを弾く優しい兄の笑顔
嬉しそうに歌声響かせる私
そんな二人の間で恥ずかしそうに小さく口ずさむ弟
私の幸福の欠片

問いかけるきみに差し出したグラス
あげる
私の家族を、紹介するね

爽やかで優しい味の幸せのかけらを
きみにも


ロキ・バロックヒート
【欠片】
★F

去年の水着着ていく
ふふー可愛いでしょう
その水着すごーく素敵だよね
夏と海辺がホント似合ってる~
ねぇねぇグラス持ってポーズ取ってみて、なんて
気軽に言ったけどプロの技に見惚れて思わず拍手
さすがだねって笑いながら乾杯しようか

花火は小さな花が綻ぶように咲いて
火花が散り底に沈むさまは舞い落ちる鳥の羽根のよう
酒精は微かで甘くて仄かな蜂蜜の味

歌が耳元で聞こえて
聞き覚えのあるきれいな声に思わず振り向けば
こちらに手を差し伸べる背高の男
手を取ろうと思わない程
かれはもう遠いけれど

ね、亮ちゃんはどんな味だった?
差し出されたグラスにいいの?って瞬く
…じゃあ、私も見せてあげる
少しの躊躇いを以て
神様の幸福の欠片を



 オフショルダーは確か今年のトレンドだったはずだ。向日葵を思わす黄色は華やかで、肩口を彩るフリルを甘くし過ぎない。紺をベースにしたアジアンテイストのビキニパンツがまた、天音・亮(手をのばそう・f26138)のボディラインを引き締めるのに一役買っている。
(まぁ、亮ちゃんは引き締め効果を狙う必要なんてないと思うんだけどね)
「その水着、すごーく素敵だよね」
 思ったままをロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)が素直に口に乗せると、真夏の女神のような同志の笑顔が弾けた。
「でしょ、でしょう? ふふ、今年のトレンドを押さえた自慢の水着だもん」
「うん、わかるわかる」
 と、ロキが頷いたところで、りりんと鈴が鳴る。途端、亮の笑みが甘く溶けた。
「きみの愛らしさも反則だよね。チェシャの尻尾、ズルイし。髪も猫耳みたい」
「ふふー、可愛いでしょう」
 りりん、りん。ロキが胸を張ると、尾につけた鈴が鳴る。ダメージジーンズな水着そのものはシンプルだけれど、パーカーと揃いの尾は今にも触りたくなるふわもこぶりだ。
 せっかくの夏、海辺が似合うおめかしは必須。それに渾身のお洒落をしてこそ、『夏』は満喫できる。
「ねぇねぇ、せっかくだからグラス持ってポーズ取ってみて」
 ロキの『お願い』はノリと勢いの延長線上。だってカクリヨファンタズムの夜の砂浜は、心にダイレクトに響く。面白おかしい花火に、快哉と感嘆。素足の裏から伝わる真昼の熱の余韻も手伝って、気持ちはどうしたって浮き立つ。
「あ、そんなリクエストしちゃう?」
 けれど受けた亮は本気も本気。腰で立ち、ロキへ対する角度は45度。僅かに首を反らし、グラスを持った手首を撓らせる。
 華奢なロンググラスの縁に一度口づけたなら、そこでターン。今度は背面ショットで、意味ありげな振り返り。
「さすがだねぇ」
「そこはやっぱり、ね? プロとして妥協は出来ないでしょ」
 即席ショウの終わりは、観客のスタンディングオベーションと共に。気軽な一言に端を発したにも関わらず、モデルとしての本領を如何なく発揮して魅せてくれた亮への賛辞をロキは惜しみない拍手で送り――ふっと笑み崩れ合い、流れに任せて杯を交わす。
 そして、静寂。一瞬前までの陽気さが嘘みたいな、しじま。

 グラスから裡に迎えた、向日葵めく小さな大輪たち。
 ふと目を閉じると、瞼の裏にも次々重なり咲いた太陽の花は、亮の心のスクリーンに兄弟たちとの記憶を映す。
 ピアノを弾く兄が、優しく笑いかけてくれている。
 それが嬉しくて亮は高らかに歌い。そんな二人の間で、弟は恥ずかしそうに小さく口遊む。
 穏やかなひと時。
 ――疑うべくもない、亮の幸福の欠片。

 小さな花が綻ぶように咲く花火は、仄かな蜂蜜の味わいを連れてロキの裡に流れ込んだ。
 心の夜の帳にも、火花が散る。
 散って、ゆらゆら沈む。まるで舞い散る鳥の羽のように。
 そのうち聞こえて来たのは、きれいな歌声。
 息遣いまで感じる近さは、幻ではない。だって酒精は微か。これくらいで酔うロキではない。
 反射的に振り返り、ロキは手を差し伸べてくれている背の高い男を視た。
 でも、手は取らない。取れない。取ろうと思えないほど、『かれ』は遠い。
 声はこんなに近いのに――。

「ね、亮ちゃんはどんな味だった?」
 夜空に打ち上がる花火と、グラスの中の花火と。それから砂浜を洗う波音に耳を傾けながら、ロキは並ぶ女へ問い掛ける。
 応えは、穏やかな微笑と差し出される細長いグラス。
「あげる。私の家族を、紹介するね」
「――」
 じゃあ、と切り返すまでの僅かな逡巡は、ヒトならざるロキの惑い。
 でも過去は過去。現在(いま)は現在(いま)。
「私も見せてあげる」
 意を決し、杯を交わす。乾杯ではなく、互いのグラスを持ち替える、という行動で。

 ――爽やかで優しい味の幸せのかけらを、きみにも。
 亮の想いは、彼女のままに伸びやかで。

 ――神様の幸福のかけらを、亮ちゃんへ。
 ロキの想いは、掛け値なしの慈しみ。神らしき気紛れの影のありやなしや。

 晴れ晴れしいショウタイムの後は、大人の時間。
 亮が羽織るシャツの裾をはためかせる潮風が熱狂を攫い、ロキの尻尾も躍らせる。
 然して煽る花火は、互いの幸福を分かち、記憶に沁ます。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
今年の和装水着

すごいね
グラスの中で花火が咲いているよ
楽しみだ

サヨ、駄目
サヨは酒癖がよろしくないんだから
酔えば共に過ごした時まで忘れてしまう
…余りに勿体ない

桜が乱舞する様な花火を見遣り
蕩けそうに甘い水を飲みながら
思いを馳せる
私が私になる前からの大切な象徴
行く場所も居場所もなくその日も祓いの儀に追われて飛び立ち─咲いた閃光に驚いて空から落ちた
誰からも厭われる不吉な厄神に手を差し伸べてくれたのは桜竜の君だ
君に出会って愛を知った楽しみを歓びを

あの頃は理解できなかった戀だって
そして
遺される孤独を

厄災は心を得た

今だって私に手を差し伸べてくれる
ほら!
…いいよ
私が憶えている

置いていかない
ずっと櫻宵の隣に


誘名・櫻宵
🌸神櫻
去年の白無垢風水着

投影する花火
どんな花火が咲くのでしょうね

お水がお酒だったらいいのにな
花火は私達の出会いの象徴
ずっとずっと、私が櫻宵として生まれる前からの

まさか、花火を眺めてたら神様が落ちてくるとは思わないわ
ぱちりと弾ける満開の桜の様な花火達に、まろやかで深みある味
脳裡に浮かぶのは私ではない私の記憶
…独りぼっちの竜神は花火の夜に独りではなくなった
和歌を詠み触れ合い心を学び
微笑み交わす日々の記憶が甦ってくる
咲くことのなかった桜が咲いた
あなたが、咲かせたのね


お水の筈なのに本当に酔ってきた
スリと猫のように神様に甘える
もう一人で旅になんていかないで

うん
眠って目覚めても
カムイは私の隣にいてくれる



 バーカウンターから少し離れたパラソルの下に、朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)と誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は並んで座る。
 陽差しのない海だ。日除けの傘は必要ない――だからパラソルは神域を為す礎。俗世から神と巫女を隔てる界。
 故に、どれだけ可愛らしい姿をおもてに晒しても、余人の目に触れる心配はない。
「ご覧、サヨ。グラスの中で花火が咲いているよ」
 サヨ、サヨ、と名は繰り返し呼んでいるのに、手にしたグラスに眸は釘付けになっているカムイの横顔に、櫻宵はうっとりと、うっそりと微笑む。
(本当に、かあいらしいこと)
 いつもより身を飾る布の量は少ないからか。夏の装いのカムイは、華やかさは常のままだが、幾らか少年めいて瑞々しさが増す。そんな姿でグラスに咲いた、満開の桜が如き花火たちに声を上げているのだ。櫻宵でなくとも、見惚れもしよう。
 なれど一向に応えを寄越さぬ櫻宵に、カムイは唯一の懸念を思い出す。
「サヨ、駄目」
「……え?」
 唐突な駄目出しに櫻宵は面食らう。だがカムイの方は懸命の体だ。
「サヨは酒癖がよろしくないんだから、お酒は駄目だよ」
 酒精を確かめるよう、カムイは櫻宵へ顔を近付け、くんと鼻を鳴らす。「まだ飲んでないわよ」と答えられても、まだ心配げだ。
 水がお酒だったら良いのに、と嘯きはすれど、櫻宵は酒にあまり強くはない。さらに言うと、酔ってしまえば記憶を飛ばす。カムイと共に過ごしたひと時さえも、忘れてしまう。
(……それは余りに勿体ない)
 そして今宵の櫻宵は花嫁と見紛う白の装い。うっかり他の神の目に留まって貰っては、カムイが困る。とても、困る。
「カムイは心配性なんだから」
「そうだよ、心配性なんだ。だから私を安心させておくれ」
 額を寄せ合ったまま、くすくすと。本気と冗句が綯い交ぜになった笑みを交わし、視線を絡め、どちらともなく硝子の杯に唇を寄せる。
 間近で眺めても、爛漫の桜によく似た花火が咲いていた。
 ――花火。
 其れは、カムイと櫻宵の出逢いの象徴。
 ずっとずっと、ずっと昔。櫻宵がまだ、『櫻宵』として生まれる前の記憶(おもひで)。

 ゆく場所も、還る居場所もない神は。
 祓いの偽に追われるある日、咲いた閃光に驚き空から落ちた。
 驚いたのは、花火を見上げていた独りぼっちの竜神。
 ――まさか、神様が降ってくるなんて。
 その夜から、神も竜神もひとりではなくなった。
 誰からも厭われる不吉な厄神は、桜の竜が差し伸べた手を取り、楽しみを知り、歓びを知り、愛を知った。
 竜紙もまた、和歌を詠み、触れ合い学び、そして心を学んだ。

「咲くことのなかった桜を、あなたが咲かせたのね」
 まろやかで深みのある味わいの余韻に浸りながら、櫻宵は甦ってきた日々に酔う。
 今の己では持ち得ぬ記憶だ。しかし魂に刻まれた記憶。
「もう一人で旅になんていかないで?」
 ただの水であったはずなのに、とろりと酔った櫻宵は、ネコのように唯一無二の神様に甘えてなつく。
「噫、ゆかないとも」
 縋るみたいに伸ばされた櫻宵の手をカムイは取り、今度こそ違えぬ誓いを捧げる。
 戀を理解できなかったのは、甘い水に振り返る過去の己。今はもう、数多を知った。
(厄災は心を得た)
 心を得たカムイは、分かっている。遺される、孤独を。
「安心してお眠り。私が全て、憶えているから」
「うん、そうね……ずっと、いてね。眠って、目覚めても。私の隣に」
「居るよ、必ず。二度と置いてゆきはしないとも」

 花火を飲み干した時は、甘く過ぎ行く。
 今生の約を互いの胸に、心に、記憶に、魂に刻んで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
いばらさん(f20406)と

今年の水着姿で、いばらさんを誘って
髪型や装いが目にも涼やかだね

幽世は花火まで面白いね
水の中で、咲いて
思い出で味が変わるなんて

こういうお水なら
常は酒を飲まない君も楽しめるかな
何を浮かべてみる?
僕は…海辺にいるからか
いばらさんや荒屋の皆と
海の世界で花見に行った時を思い出し
それを

口の広いぐらすに注いだら
4つの花と
周りに桜に似た火花もぱちぱち
見て、賑やかだよ
飲めばふわり軽い口当たりに桜の香
僅かに酒精を感じるのは
…あの日酔っていたからかなぁ
空に浮かんで楽しかったからか

君のは?
器に広がる景を尋ね
お裾分けには瞬いた後
有り難く少し頂戴し
優しい甘さだね
あ、僕のも一口だけ試してみるかい


城野・いばら
類と/f13398

新しい夏の装いでおでかけを
初めて見る大きな火のお花に、るんとパレオも靡いて
類もね似合っていて、素敵

うん
不思議なこの世界にピッタリね
水が好きな私への気遣いに有難うと眼細め
浮かべるのは
すこうし思い出と相談を

類のグラスを眺め
綺麗なお花達にわぁ
教えてくれたふわふわな海の味にふふっと笑い
そうだ、とグラスに四季色の花を点す
飲めば、ほんのり甘い薔薇水で
空から見た
四季に色付くお山と荒屋が浮かぶの

良ければとグラスを類へ
空飛ぶ日傘からの景色を、楽しいと言ってくれた貴方に
いばらのすきをお裾分け

一口と
頂いたお酒の味には…味音痴は首傾げるけど
鼻を擽る桜さんと皆の姿が本当に賑やかで
またね頬が緩んじゃうの



「この景色、アリスにも見せたいわ」
 夜空を彩る花火へグラスを掲げれば、サマーニットの裾と袖のレースが風をはらんだ。
 ふわり、と。全身に浴びた潮風が心地好い。つられるようにヒールサンダルで軽やかな一歩を踏むと、柔らかなグリーンのパレオがひるがえった。
「髪型も、装いも。目にも涼やかだね」
「でしょう?」
 冴島・類(公孫樹・f13398)の褒め言葉に、城野・いばら(茨姫・f20406)は向日葵めいた笑顔を返す。よほどご機嫌なのか、髪をアップにまとめたおかげであらわになっている首筋までもが、ほんのり薄紅に色付いている。
 けれど夏を満喫する装いなのはいばらに限らず。
「類も似合っていて、とっても素敵」
 タッセルが連なりさざめくパーカーは、異国情緒もあって類の胡桃色の肌と調和がとれている。額にサングラスと言う遊び心もあるのに、瓜江の面を腰から下げているのもまた、とても類らしいのだ。
「……少し、照れるね」
「照れるわね。でも、それ以上に嬉しくて楽しくないかしら?」
 まっすぐで、屈託のないいばらの喜悦に、自然と類の頬も緩む。
 そも、幽世の花火だ。水の中で咲いて、思い出で味わいまでも変える花火だ。
「こういう趣向なら、君も楽しめるよね」
「うん、有難う」
 常は酒を嗜まず、けれども水を好むいばらを思っての、類からの誘い。その気遣いもいばらの心を弾ませるひとつ。
 カクリヨファンタズムという不思議な世界に、ぴったりの花火。そして傍らには慕わしき友。疑うべくもなく、夏を彩る一頁になるのを約束されたようなシチュエーション。
 だからこそ、肝心の思い浮かべる『思い出』にいばらは迷う。
 咲いて咲って、好奇心赴くままの日々。捲る思い出の頁は少なくない――でも。
「わ、ぁ」
 類の手の中の、口の広いグラスに咲いた四つの花に、いばらの口からは感嘆がまろびでる。
「とても、とても、とても綺麗ね」
 大振りの四輪に、周りには桜にも似る小さな火花がパチパチと。
「海辺にいるからかな? いばらさんや荒屋の皆と、海の世界でのお花見を思い浮かべたんだ」
 見て、賑やかだよ――と類が寄せてくれたグラスをいばらは覗き、「あ」と思い出したように息を飲む。
 ――荒屋。
 ――類が設えた、憩いの地。
 途端、いばらのグラスにも四季色の花が点り咲った。
「空から見た、お山と荒屋よ。春の桜、夏の緑、秋の赤、冬の白」
 鮮やかに移ろう景をひとつひとつ唱えて数え、その延長線上でいばらはグラスをくいと煽る。広がったほのかな甘みと薔薇の香りに、いばらの頬は薔薇色に染まった。
「類のお味は?」
「え、あ。うん。僕のは桜の香りを感じるね。酒精を僅かに感じるのは、……あの日、酔っていたからかなぁ」
 ――空に浮かんで楽しかったからか。
 軽い口当たりにも関わらず、明らかな酔いを誘うグラスの中身に、類が終いに添えた呟きは自問のようなもの。
 だが、それこそがいばらに新たな歓喜を息吹かせる。
「え?」
 そっといばらが差し出したグラスに類は首を傾げた。受け取って、という風にとれる仕草に、確信を抱けずにいたのだ。
 しかし。
「貴方に、いばらの『すき』をお裾分け」
 ――空飛ぶ日傘からの景色を、楽しいと言ってくれたことが、嬉しかったの。
 目を細めるいばらに、類は得心を頷き。そういうことなら、と遠慮がちにグラスを受け取り、有難く少しだけご相伴に与る。
「優しい甘さだね」
 含み、転がし、喉の奥へと見送った薔薇水は、類を内側から癒し満たすよう。
 だからお礼に、類も己がグラスをいばらへ差し出す。
「一口だけなら、きっと大丈夫だよ。試してみるかい?」
「すこうしだけなら、きっと平気ね」
 返杯に、ふふといばらは小さく笑い、文字通りの一口を飲む。
 生憎の味音痴ゆえ、精緻な味わいには首を傾げるしかなかったが、でも、それでも。
「賑やかな、お味」
 鼻をくすぐる桜の香り、そして浮かぶ皆の姿。
 嬉しくて、楽しい思い出に、いばらはまた頬を緩め。そんないばらの笑顔に、類も大輪の花火を思わす笑顔になった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
【雅嵐】

グラスの中でとは粋よの
うむ、一杯貰いに行こ

グラスは丸みのあるもの
花火は燃えるようなのがばっと開いていく華やかさ
時折桜の花のような花火があがるのは友との時間を思って
酒はそんなに強くせずすっきりとした辛口
しゅわっと炭酸割り風でさっぱり度ましまし

せーちゃんのも汝らしい酒じゃな
甘いんか…?(酒の甘さなら大丈夫じゃろと思案し)
…まぁ、一口もらお
……甘っ!
激甘すぎではなかろうか!?
程よい? どこがじゃ!
わしのをすっきりさっぱり爽やかにしておいて正解じゃ…!(ぐびっ)

…白薔薇が咲きよるの
それはわしか?
ふふ、わしとの夏の思い出じゃね
わしのせーちゃんとの夏の思い出は…激甘に、染められんようにしたいの…


筧・清史郎
【雅嵐】
今年新調した水着で

花火咲く一杯か、夏らしくて良いな
俺達もいただこうか、らんらん

グラスはコロンと丸み帯びた愛らしいものを
そうっと手に取り見れば、咲く花火たちは春の彩や形
俺に縁深い桜
ポポ丸の様な黄色い蒲公英
さめさめの如き白詰草
出逢い、共に巡った春の季節の記憶たちの花火が咲き誇る

そっと口付けてみれば、好みな酒の味に笑みつつ
友はどのような花や味わいを咲かせているだろうか

俺のものも飲んでみるか?
俺のは、程良い甘さで気持ち良く酔える酒だ(微笑み
(超絶甘く、度数つよつよな酒

友の様子ににこにこしつつ、再び酒を楽しもうとすれば
ふいに開いた、白薔薇の如き花火
それはきっとこれから咲く、友との楽しい夏の思い出



 並べられたビーチベットの間隔は1m弱。サイドテーブルはそれぞれ外側に。
「なあ、らんらん。どうして同じテーブルでは駄目なんだ?」
「出来上がるまでは秘密の方が面白いからに決まっとるじゃろ」
 背中合わせの現状を尋ねる筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)へきっぱりと返しつつ、その実、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は僅かに巡らせた視線で友の姿を盗み見る。
 決して如何な花火が咲くかを先取りしようとしているわけではない。
(何がどうして、ああなるん?)
 常から雅な友であるとは思っているが。この夏、清史郎が新調した水着の雅ぶりといったら、格別だ。サイドや裾を飾り紐で留めた水着は、如何にも和。生地も紅、紺黒を重ねて、桜をあしらってある――つまり、日頃の装いと極めて近い。ならば布面積が減った分、雅加減も幾らか減衰しそうなものである。
(まあ、そうならんのがせーちゃんがせーちゃんである由縁なんじゃろけどね?)
 納得したところで、嵐吾の傾げた首は元には戻らず。戻らぬところで――。
「咲いたぞ、らんらん!」
 ぱっと振り返った清史郎の満面笑顔とかち合った。
「って、らんらんはもう出来ていたのか?」
「当然じゃろ」
 それまでの内心を綺麗に化かし隠し、ふふんと鼻を鳴らした嵐吾は、「よいしょ」と自分の方のサイドテーブルを持ち上げ、清史郎との間へ備え直す。
 たぷん。
 座の揺れに、小さな金魚鉢を思わすころりとしたグラスの水面が躍る。その滴に抱かれるのは、桜の花めく小振りな花火。
「ほう」
「なんじゃ、その笑いは」
「いや、何でもない」
 嵐吾のグラスで最も目を惹くのは、燃えるような赤の華やかな大輪だ。だがそこに時おり織り交ざる小花は、『友』と過ごした時間の顕れ。
 歓びを、声に出して求めるのは雅とは言い難い。だから清史郎は、酌んだ嵐吾の花火の意を裡に留め、自身のグラスを友のグラスの傍らへ並べることで会話を仕切り直す。
「これはポポ丸」
 まずは黄色い蒲公英風の花火を指差し、
「こちらはさめさめだな」
 次は白詰草のごとき小花、
「そして桜は――」
「せーちゃんじゃの」
 説明を受けるまでもない薄紅に、嵐吾は口の端を吊り上げる。成程、確かにこれは清史郎の春の記憶そのものだ。
「俺らしいだろう?」
 清史郎が自重しないのも、出逢い、共に巡った季節を慈しみ、愛おしんでいるからこそ。
 然して清史郎は、自慢の一杯を軽く煽る。
 含んだのは、ほんの一口。だのに嚥下の後に浮かぶ笑顔は爛漫の春。
 極上の美味を窺わせる清史郎の飲み口に、嵐吾の喉もごくりと鳴る。
「汝らしい酒じゃな。甘いんか……?」
 漂う酒精に、アルコールであるのは知れた。そして清史郎と言えば、大の甘党。とはいえ、酒の甘さならば――と考えてしまったのが嵐吾の運の蹲。
「程よい甘さだ、飲んでみるか?」
「……まぁ、一口もらお――――甘っ!! 甘っ!!! あっっっま!!!」
 たった一口。されど一口。清史郎が『程よい』と語った甘さは、嵐吾の舌には激甘に過ぎた。なのにアルコール度数もかなりきつい。
 蜂蜜を濃縮したかの如き甘さが、嵐吾の喉を焼き、胃を焼く。頭上の耳はこれ以上ないというくらいに立ち、自慢の尻尾はこれでもかと膨れ上がった。
 耐えがたき堪らなさに、嵐吾は慌てて自分の杯をぐっと煽る。こんなこともあろうかと、と思ったわけではなかったが、炭酸割りを思わすすっきりとした辛口の酒が、嵐吾の身と心を、普段の状態へと整えてくれるのがありがたい。
「程よい? どこがじゃ!」
「すまぬすまぬ、らんらんには少し刺激が強かったか」
「や? 刺激とか、そゆことじゃなくての――」
「……おや」
 尚も言い募ろうとする嵐吾を清史郎が、ひらりと掌で制したのは、その時。
「?」
 理不尽に会話の腰を折ることのない清史郎の所作に、嵐吾もすぐに甘すぎる酒の余韻を拭い去る。そうして清史郎の視線を追えば、真白の水中花火。
「……白薔薇が咲きよるの」
 清史郎の春に加わった豪奢な一輪に、嵐吾の唇から零れたのは礼賛にも似る感嘆。
 美しい白薔薇だ。なれどこの存在感は、清史郎の雅さというより――。
「らんらんが咲いたの」
「わし、か?」
 悪びれず、むしろにこにことした笑みに誇らしさを忍ばせた清史郎の一言に、嵐吾はぱちりと瞬く。
「これはきっとこれから咲く、友との楽しい夏の思い出だ」
 夏、と聞き、嵐吾は得心する。
 白は陽光、そして陽光に当てられた嵐吾の彩。
「ふふ、わしと夏の思い出じゃね」
 後追いで回り始めた酔いに、嵐吾は笑う。悪くない気分だ。心地よいといっても過言ではない。けれど。
(……激甘に、染められんようにせんとな……)

 グラスの中で花火が咲く夏の宵は、甘く、爽やかに、そして小粋に過ぎ行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
【双星】★
アドリブ◎

君らしい提案だな
受けて立つよとグラスを掲げ

迷ったけれど
夜のネモフィラ畑かな
星空と青い花、黒髪揺らす彼の姿を含めて
見惚れるほどに美しかったから
それを想像…

…しようとして
セリオスから贈られた指輪が視界に入る
そして思い出すは
僕の誕生日の夜の事
日付が変わってすぐに
おめでとうの言葉と
『俺がいちばん?』なんて
…一昨年だって君は僕の部屋で寝てしまっていたが
いちばんに来てくれた
大切に想ってくれてると感じて
嬉しかったんだ
僕もいちばんの君に伝えたいと…

…あ
グラスに一番星のような花火が咲く
飲めばどこか甘くて
これを本人に飲ませるのは…
…参ったな

あ…すまない。僕も殆ど…
そう、だね

(…今だけは内緒に)


セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎

せっかくならさ
それぞれ印象に残った景色を思い浮かべて半分こしねぇ?
勝負だと笑ってグラスを掲げ

俺は…やっぱネモフィラ畑かな
そこに寝転がるアレスも含めて
大好きな光景
その青を思い浮かべながら花火をグラスに入れようと―

…したところでアレスに貰った指輪が目に入った
瞬間思い出すのは
俺の誕生日の朝のこと
おめでとうって言ってくれて
『君がいちばんだよ』なんて
そりゃぁアレスに他意はなくて
アレスの誕生日にいちばんのりか聞いた自分への
返事の繰り返しだとしても
うれしかったから
すっげぇ甘い
これ…アレスには飲ませらんねぇよなぁ

あーうますぎて殆ど飲んじまった
もう一杯頼んで交換しようぜ
なんて

…今は俺だけの内緒



 即席バーは盛況なのか、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)とアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が席に着いた時には、グラスに選択の余地はなかった。
 バーテンダーが申し訳なさげに差し出したのは、風変わりな半月のグラス。弧の面はつるりと綺麗なのに、弦の面が歪んでいたのだ。
 不格好だと断り、席を立つこともできた。
 しかしそうしなかったのは、『光の反射が綺麗でいいじゃん』とセリオスが笑ったから。
 確かに規則性のない凹凸は光を幾重にも屈折させて、複雑かつ稀有なる煌めきを生み出す。そしてなにより一期一会だ。
『なぁ、せっかくだしさ。それぞれの印象に残った景色を思い浮かべて、半分こしねぇ?』
 提案は、やっぱりセリオス。
 二度とは廻らぬ機会に、見目麗しい男は子供のように目を輝かせ、そんな彼を誰より知るアレクシスは当然の流れで是を頷く。
『君らしい提案だな』
『どっちが最高の景色を作るか勝負だ』
『受けて立つよ』
 笑い合い、投合し。
 不格好なグラスを掲げて打ち鳴らしたのは、鬨の声。
 狭いカウンター席。互いに反対側を向いても、背中は触れたまま。

 透明な液体は、ただの水に見える。
 けれどセリオスが少し思いを込めた途端に、水中で青い火花と金色の火花が散った。
(……はは)
 分かりやすい光景に、セリオスは小さく吹き出す。
 そう、好きなのだ。大好きなのだ。
 ネモフィラの畑の光景が――そこに寝転がるアレクシスの姿含めて。
 だからこの青はネモフィラの青。
(金はアレスの髪だな)
 だが青はアレクシスの色でもある。ネモフィラの青とは違う、蒼天を突き抜けるような、青。アレクシスが翻す、青。
(あー……じゃあ、青は二種類で……って、あ)
 グラスの縁を指先で撫でたのは、花火の形を思い描く為であった。しかしその仕草のせいでセリオスの視界に、ひとつの指輪が映り込んだ。
 一等星と翼を宿す指輪。アレクシスから貰った指輪。
 刹那、セリオスの中で記憶が膨れ上がる。
(おめでとう、って言ってくれたよな)
 それはセリオスの誕生日の朝。
(『君がいちばんだよ』……なん、て)
 グラスを握る手に、つい力が籠る。
 分かっている、分かっているのだ。アレクシスに他意がないことくらい。
 アレクシスの誕生日に自分が尋ねた『いちばんのり』か否かのリフレイン。
 そう、ただそれだけ。それだけだと理解しているのに。
(ああ、うれしかったんだよ。うれしかったんだ)
 やけくそ紛れに自分の中の『想い』を肯定して、勢いに任せてセリオスはグラスの中身をぐっと煽る。
「……甘っ。すっげぇ甘っ」
 甘すぎて、体の芯まで蕩けてしまいそうなセリオスの心の映しは、とてもではないがアレクシスに飲ませられるようなものではなかった。

(夜のネモフィラ畑かな?)
 グラスの縁を指先で突いているセリオスの姿を盗み見て、艶やかな黒髪に夜の青を思い出す。
 星空と、青い花。
 そして黒髪を揺らすセリオス。
(うん、綺麗だった……見惚れるくらい、綺麗だった)
 反芻しただけで、感嘆が零れた。それを聞かれたくなくて、アレクシスは口元を手で覆い――指輪を見てしまった。
『俺がいちばん?』
 おめでとうと共に贈られた言葉が、アレクシスの耳朶の奥に甦る。
 アレクシスの誕生日。日付を跨いですぐのこと。
(……一昨年だって君は僕の部屋で寝てしまっていたが、いちばんに来てくれて)
 セリオスに、貰った指輪。セリオスの祈りと歌を込められた指輪。
(大切に想ってくれてると感じて、嬉しかったんだ)
(僕もいちばんの君に伝えたいと……)
「あ」
 気が付けば、グラスの中では一番星のような花火が咲いていた。
 何処から如何見ても、青い炎の一等星。
 おそるおそる口に運ぶと、仄かに甘くて。
「……これを本人に飲ませるのは……」
 参ったな、と渋面で髪を掻き混ぜるアレクシスの頬は、まだ酔ってもいないのに赤く色づいていた。

「すまん! あんまり美味くて殆ど飲んじまった!」
「え、あ……き、奇遇だね。僕も殆ど……」
 気まずげに相手を眺めてしまったら、ばちりと視線が合ってしまった。
 つまりどちらともなく詫び合ってしまったのは当然の成り行きで、空であるのを示すようにグラスをどんっとテーブルに置いてしまったのも必然。
 けれど、そこで二人は初めて気付く。
 歪なグラスが、実は二つで満月を描くペアグラスであったことに。
「……まぁ、なんだ。もう一杯、頼むか」
「そう、だね。そうしよう」
 今度こそ、当たり障りのない花火を――そう思うも、結局同じ『ネモフィラ畑』に帰結するのだけれど。
 今はまだ、互いに『自分だけの内緒』の話。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
こんばんは、希夜。
宜しければご一緒に如何です?

其方は…アルコール?
そも呑めるのか、興味津々。
でも、もっと興味を惹かれるのは…
勿論、そのグラスに何が咲くのか、ですとも♪

流石に交換まではしませんよー。
…ひとがご覧になるには、このグラスは少々心配が、ね。

始まりの記憶は一面の焔と、歪な子供。
一傭兵として過ごした二十年程。
元同胞に逐われ追われて、生きた痕跡を消し十余年。
およそひとの持ち得る嫌悪も罪悪感も無く、
傲慢に不遜に思うが侭に生きて来た…
そっちが浮かんでしまったら、味気無いですから。

…けれど。
夜を透かし浮かぶ花は――
ひかり。
咲いては散る花火なれど、次々、決して絶えず。
それは優しく甘い、ワインの味わい



「其方は……アルコール?」
「いんや。正真正銘ただの水……多分」
 宜しければ、と稀有なる花火に誘った青年は、眉間に皺を寄せてひたすらグラスを揺らしている。
 一向に口に含む気配はないのに、どうして『水』と言い切るのか――多分、とオマケ程度に言い足してはいるが――は謎だ。が、そんなクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の疑問を呈す視線に気付いたのか、連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は幾らか表情を和らげ、か細いくせにやけに芯の強い桔梗色の火の花が咲くグラスを無造作にクロトへ差し向ける。
「気になるなら飲む? ちなみにぼ――オレは呑めるよ」
「おや、ご明察」
 ひらり。返す掌で希夜の申し出をクロトは断り、子供じみた自己主張に相好を崩す。
 呑めないと思われたくないのは、まだ駆け出しな若者の虚勢。そこをわざわざ揶揄うほどクロトは大人気なくない。相手が苦いものを水の中に見ているようなら、なおのこと。
 それに元から交換するつもりはなかった。何故なら希夜のものより、自身のグラスの中身(きおく)の方が『ひと』へ見せるに憚られる気がしたから。
 ――ひかり。
 次々と光が咲くグラスを目線の高さに合わせ、ゆら、とクロトは水面を波立たせる。
 漂った香りは、甘い。
 美味の予感にクロトは、杯を傾けた。

 一面の焔。
 無慈悲な焔が全てを舐め、佇むのは歪な子供。
 場面は変らず、子供だけが瞬く間に長じる。
(一傭兵として過ごした二十年程)
(元同胞に逐われ追われて、生きた痕跡を消し十余年)
 まるで古い映画を見る心地で、再生される過去を瞼に映す。
 焔の海に立ち尽くす男は、背しか見えない。だが、どんな貌をしているか手にとるように分かる。
 およそひとの持ち得る、嫌悪も、罪悪感も無い。
(傲慢に不遜に思うが侭に生きて来た……)

 舌に残ったワインの味わいに、クロトは開いたばかりの目を細めた。
 味気無さを自覚する記憶(おもいで)だが、それでも豊かな味を、優しく甘い香りを醸す。
 そして何より。
 ――ひかり。
 咲いては散り、散っては咲く花火は、決して絶えない。散れども散れども、散れども、咲く。
(それが、ひとの生き様)
 良し悪しは知らぬし、問うつもりもない。
 然してクロトは微笑みながらグラスを干す。
 変わらずグラスに口をつけるつもりもないらしい『こども』へ、偉ぶった大人の真似事をすることもなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【戯】
…(物凄いジト目向け)
オレは女子を誘ったハズなんデスケド?
性悪狐はお呼びでないんデスケド~!

くっ…!良いさ、偶にゃ一人でしっとり飲…
おいどっかいけ折角の花火が思わずバッチバチに攻撃的に弾ける味になったらどーしてくれる!
(その悪どいツラ見てると碌でもない悪夢ばっか浮かぶんだよ!の意)
はっ?お供を人質にとるなんてとことん卑劣な!

もう…ヴァンサンタスケテ…干上がりそーなオレの心にこう、あの夏に見た美女のよーな大輪の華とあま~い味を…冗談デスヨ

(小さくも色とりどりの花と、優しい味で――と小さく告げ直し、お供達撫で
ささやかながらも楽しい、色んな人との、色んな思い出の彩を、と)

喧しいぞ誰が渡すかー!


佳月・清宵
【戯】
連中なら女子会で忙しいとよ
てめぇが独り哀しくならねぇ様に、態々代わりに来てやったんだぜ?
寧ろ優しさに感謝しろよ

(面白がる様に笑い)
放っといたら放っといたで、儚い涙味の線香花火を咲かせんだろ
それに今日は御目付役も頼まれてるんで、なぁ?
(徐に撫でた懐から伊織の雛と亀が現れ)浮気は許さねぇとよ

――おい、そりゃ塩っ辛い味(塩対応玉砕)の間違いだろ?妄想も大概にしとけ
(懐で始まる抗議に笑いつつ、此方も一つ
何の変哲もない花火だが、美酒の味わい咲く一杯を
ごく普通の其も格別に美味いのは、面白可笑しい連中と肴が絶えず在ったからだろう)

あぁ、毒味してやろうか?
否、するまでもねぇな(分かり易い反応に更に笑い)



 呉羽・伊織(翳・f03578)の目が、酔ってもいないのに座っている。所謂『ジト目』という奴だ。
 そんなあからさまな不平不満をぶつけてくる伊織に対し、佳月・清宵(霞・f14015)は嘲笑の一歩手前の笑顔で迎え撃つ。
「なんか言いたげじゃないか、おい」
「……言わなくてもわかるでショ?」
「敢えて訊いてやるのが武士の情だと思ったんだが? それとも俺の口から直々に言われたいのか? てめぇが誘った連中は、女子会で忙しくってそれどころじゃ――」
「あああああ! 性悪狐はっ、まったくもって、お呼びじゃ、ないんデス、ケド!!!」
 親の叱責から逃げる童のように、伊織は耳を塞いで大声を出し、今度は盛大に清宵をねめつけた。が、やはり清宵の方はどこ吹く風だ。
「こちとら、てめぇが独り哀しくならねぇ様に、態々『代わり』に来てやったんだぜ? そう邪険にせずに、寧ろ優しさに感謝しろよ」
 自ら代打であることを宣言することで、清宵は伊織の傷を抉っていく。
 せっかくの夏だ。しかも海辺だ。伊織が思い描いたのは、素敵女子との甘々アバンチュール。だのに現実は、ミステリアス美男子。美がついても、男なのだ。
 伊織、不本意極まりないと肩を怒らせそっぽを向く。しかし清宵にとってはまさに酒の肴。
 炭酸の泡が弾けるような音をたてて繰り返し咲く――けれど夏の夜空ではよくみかける特徴のない――花火が咲く杯を、清宵は心地よく呷る。その余裕が、伊織をまた煽ることになるのを確信して。
 案の定、伊織は背中を丸め、自身の杯を両手で包み、清宵の視線から隠す。
「っ、……良いさ、偶にや一人でしっとり飲……」
「放っといたら放っといたで、儚い涙味の線香花火を咲かせんだろ」
「んああああ、んなわけないだろっ。どっかいけ折角の花火がバッチバチに攻撃的に弾ける味になっちまうだろっ!」

 意訳。
 その悪どいツラを見てると、碌でもない悪夢ばっかり浮かぶんだよ!
 以上。

 分かりやすすぎる伊織の糾弾に、清宵の腹筋は崩壊寸前だ。ただし清宵は大爆笑するような男ではない。
 むしろさらにじわじわと真綿で首を絞めてゆくタイプ。だってそうした方が、伊織の反応が面白い。
「生憎だな。今日の俺は御目付け役も頼まれてるんで、なぁ?」
 誰から、という反論を待つまでもなく、清宵は己が懐をゆるりと撫でると、そこから雛と亀を抱き上げた。
「!!!!!」
「浮気は許さねぇとよ?」
「ヴァンサンタスケテ……」
 見覚えの有り過ぎる雛と亀の突き刺すような視線に、ついに伊織は突っ伏し、カウンターテーブルをずりずりと搔く。
 ちなみに雛と亀は、伊織のお供たち。小さくたってハートはでっかい。特に伊織の寵を競うことにおいてなら。
 で、あるからして。
「……ヴァンサン……アンタの力で、オレの干上がりそーな心にこう、あの夏に見た美女のよーな大輪の華とあま~い味を――」
 おい、そりゃ塩っ辛い味の間違いだろう――と、清宵が指摘するまでもない。何故なら、雛がぴよよと羽搏いた。亀がずりりと歩き出した。で、ずんずんずんずん伊織へ迫る。
「ヤ? 冗談デスヨ?? 本気じゃナイデスヨ? ネェ、わかってるでショ。ぴよこ???? 亀ええええ!?」
 取り繕ったところで、既に遅し。伊織の不貞の香りを嗅ぎつけた雛と亀は、全力で以て制裁に勤しむ。
 清宵にしたら、好い見世物。おかげで普通極まりないはずの酒が、矢鱈と美味い。
 そこで清宵は、気付く。
(――そういうことか)
 変哲もない日常が、極上の美酒の味わいなのは、面白可笑しい仲間との日々が絶えず在ったから。
 それはおそらく、とてもとても倖せなこと。

 亀と雛を撫でながら、伊織がようやく花火の酒にありつけるのは、清宵が己が幸運を悟って暫く後。
 小さくも色とりどりの花火が咲う酒は、優しい味。
 ささやかながらも楽しい、色々な人々との、色々な思い出の彩の投影。
 まぁ、それをちびりちびりとやっていたら――、
「あぁ、毒味してやろうか?」
「喧しいぞ誰が渡すかー!」
 ――こうなるところまでがお約束。
 世は全て事もなし。めでたしめでたし!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリエ・イヴ
【⚓】★
アドリブ◎
今年の水着

ガラスの盃に花火を入れてまず味見
甘い味に浮かぶのはロールボアの始まりの日
独りきりの船旅で得たメガリスを手に
船の墓場島に帰り、それをガイに押し付けた
『お前がいないと船が進まない』
俺だけでも…メガリスを手に戻ってくるくらいはできるけど
そうじゃない
真っ直ぐ、進みたい場所へ
どこへでも行けるのはガイが
家族がいるから
その日の海は、独りで見た海よりずっと綺麗で

…よーしここに全員足してくか
シェフィーも入れて7つ
ん?ガイの1個多くねぇか?
あ…そういやそうか
俺達、ならいるよな
すっかり忘れた自分の分も放り込み

何だよ犬じゃねぇんだぞ
ほら、ガイも
ひょいとグラスをぶつけ
乾杯といこうじゃねぇか


ガイ・アンカー
【⚓️】★
アドリブ◎
21年水着

ガラスの盃に打揚花火と爽快感ある味を想像するか
味見すれば
浮かぶのは始まりの日
…あの小さかった奴が
海を冒険してでかくなって帰ってきて
傷ついた船を蘇らせた上に
錆びつきかけてた俺に『お前がいないと船が進まない』なんてよ
その姿と言葉に海底から引き揚げられた心地がしたし
再び海へ漕ぎ出そうと決めた
アリエと家族<仲間>をまだ見ぬ海へ連れて行く為にな

…1つじゃねえな
7つの花火と1つのはぐれ花火を咲かせて
今度は蜂蜜林檎の味…あ?
合ってるだろ
『俺達』ロールボアの数だ
はぐれはあの眼鏡な
さては自分を入れてないな?

そうだ、それでいい。goodboy
アリエの頭をガシガシと撫でて
乾杯に応じよう



 それは、海賊団ロールボア始まりの日の物語(おもいで)。
 コイン一つを握り締め船の墓場に流れ着いた子供は、再びの海を経て、朽ち逝く船に囲まれた場所へ舞い戻った。
 ――あの小さかった奴が。
 きっと様々な冒険があったのだろう。逞しく成長したアリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)にガイ・アンカー(Weigh Anchor!・f26515)が最初に覚えたのは感嘆だった。
 だが再会が齎したものは、そんな生易しい感情ばかりではない。
『お前がいないと船が進まない』
 独りきりの船旅で得たメガリスを、アリエはガイへと押し付けた。
 メガリスを手に入れるくらい、ひとりだって出来るという顏で――その実、そう容易く得られる宝ではないのだが――、『そうじゃない』のだと。アリエだけでは、足りないのだと。
 ――真っ直ぐ、進みたい場所へ往くには。
 ――望むままに、海を我が物にするには。
 赤銅色の髪は、燃え盛る炎。榛色の眸は、小さな太陽。
 アリエが放つ強い光は、昏い海底をも照らし出し、ガイの胸を打った。
 傷付いた船を蘇らせた上に、他でもない自分を欲されたのだ。いったいどうして抗えよう?
 子供の頃のまま――いや、何倍も自信に満ちたアリエの笑顔に、海賊船の錨のヤドリガミであるガイは、海底から引き揚げられる心地を味わい、再び海へ漕ぎ出す覚悟を決めた。
 アリエと家族<仲間>をまだ見ぬ海へと連れて行く為に――。

 いつもと違う、白い海賊コートを羽織るアリエは、まさに洋上に浮かぶ太陽そのものだ。
 夜であるにも関わらず、空に咲く花火の光を受けてやけに眩しいアリエを横目に、ガイは軽く呷ったガラスの盃の味を反芻する。
 鮮やかに咲いた打ち上げ花火らしく、爽快感のある味わいだった。或いは、帆に受ける海風のようと例えるべきか。
 らしくない、やや丁寧な手つきでカウンターテーブルへグラスを戻すアリエの方は、幾らか甘い感じだったのだろう。
 なれど僅かに含んだ花火が、ガイとアリエに運んだ景色はきっと同じ、あの始まりの日。
 快活さの中にも懐かしさが隠しきれていないアリエの横顔を目に、ガイは錨型のペンダントに指を絡める。
 チャリ、とガイの胸元で鎖が奏でた音色に、アリエの眼差しがグラスの水面から上がった。
「よーし、ここに全員足してくか」
 あとはもう、いつものアリエだ。味見程度にしか減っていない透明な液体に、新たに咲かせる花火へ心は旅立っている。
 ひとり、またひとり。
 アリエが仲間の名を呼ぶ度に、アリエのグラスにもガイのグラスにも同じ花火がぱっと咲く。
 だのに。
「で、シェフィーも入れて七つ。これで完成――ん? ガイの一個多くねぇか?」
 はぐれ者の分もきっちり唱えたところで、アリエはガイのグラスの花火の方が華やかなことに気付いた。
 ひと、ふた、み。指折り数えた結果の差分は一。小さな世界でも見間違わなかったのは、見間違えようのない大輪が欠けていたせい。
「んんん?」
「さてはお前、自分を入れてないな?」
 にまりと年上の貌で頬杖をつくガイの指摘に、アリエは「あ」と息を飲む。
「……そういや、そうか」
「忘れるか? よりによって自分を」
「いや、自分だから忘れるんだろ?」
 冗句が冗句と分かる、他愛ないやりとり。指摘も、反論も、全てが風通しの良い家族のコミュニケーション。
「今度こそ完成だぜ」
 計、八つ。ようやくロールボアの数が咲いたグラスを意気揚々と掲げたアリエへ、ガイは日に焼けた腕を伸ばす。
「そうだ、それでいい。Goodboy」
「ちょっ、俺は犬じゃねぇんだぞ」
 ガシガシとガイに遠慮なく髪を掻き混ぜられたアリエは、たまったものではない。
 成長したのはアリエだけではない。ガイも、同じ海に繰り出す仲間もまた、其々の成長を遂げているのだ。
「あーもう、乾杯だ乾杯」
 力任せの愛情表現からどうにか逃れ、アリエは珍しくも何ともない普通のガラスのジョッキをガイの眼前へと突き出す。
 海賊に相応しい、豪快なグラス。
 中で咲くのは八輪の花火。水色(みいろ)は、夜空に染まった青。
(そうさ、俺はどこまでも行ける。真っ直ぐに、進みたい場所へ――ガイや、家族がいるから)
 乾杯に応えるガイと打ち鳴らしたグラスを、アリエは尊いもののように眺める。
 それは皆と見る――独りで見るよりずっと綺麗な海によく似ていて。
 そうして一気に飲み干した八つの花火は、爽快感と甘さが綯い交ぜになった蜂蜜林檎の味がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月06日


挿絵イラスト