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喫水線下の敵

#クロムキャバリア #アザリア皇国

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#クロムキャバリア
#アザリア皇国


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●いむべきもの
 過去の戦争によって分断され、2つのアザリアと呼称されるに至ったアザリア皇国とアザリア連邦共和国。
 オブリビオンマシンによる国家規模の精神汚染下にある連邦共和国が、皇国北方諸島を占拠することによって開かれた分断国家同士の戦火は、猟兵の助力を得た皇国軍による北方諸島の奪還と言う形で、1つの区切りを迎えた。
 それからしばし時を置いた某日。アザリア皇国本土からほど近い海域の水中に、1隻の潜水艦がその身を潜ませていた。
 その正体は、連邦共和国軍海軍に所属する攻撃型原子力潜水艦、<ゼーメル>である。
 皇国時代から受け継がれる造船技術の結集として建造された、攻撃型原子力潜水艦<ゼーメル級>。そのネームシップたる彼女は、水中排水量9000トン、最大水中速力40ノットを誇り、周辺地域に存在するあらゆる潜水兵器の頂点を皇国海軍の同類と競う攻撃型原潜である。
 彼女の艦尾から伸びる曳航ソナーが複数の音源を捉えたのは、夜空の底が徐々にしろみ始めつつある0530時のことであった。

「曳航ソナーに複数の感あり。潜水目標らしい。方位、080、085、090、100、260、265、270、280」
 水測員からの報告を受け、指揮所に緊張が走る。しかし、あらゆる意味において指揮所の中心にある壮年の男、<ゼーメル>の艦長を務めるクリストフ・ヴェーバー大佐はその例外であった。彼は祖国が2つに分かたれる前から潜水艦乗りとして海軍に奉職してきた生粋の潜水艦乗りである。
「半分は虚目標だろう。艦首アレイは?」
「探知できず」
 探知した音源の概略位置と速度を割り出すための目標運動解析の結果は、<ゼーメル>の指揮所を動揺させるに足るものであった。それぞれシエラ1、2、3、4と符号を割り当てられた目標の想定速度はおおよそ72ノット。時速にして約114キロメートルもの速度で海中を疾駆し、皇国本土へと向かっているのだ。
「水測、音紋解析結果はどうか」
「シエラ1、シエラ3、シエラ4、旧帝国製<底這>型キャバリアと同定。シエラ2……」
「シエラ2は旧帝国製<激浪>と同定! 間違いありません、<激浪>です!」
「<底這>と同種の音紋、さらに増える!」
 押し殺した悲鳴とも形容すべき報告に、指揮所内の緊張はピークに達した。1機で島1つ沈めるという<激浪>と、それに従う<底這>の群れ。海運国にとって忌むべき兵器を、かつての祖国であり敵国でもある皇国が手にしたのか、あるいは――。
 クリストフは殺意すら孕んだ視線を指揮所の奥に控える男へと向ける。周囲に詰める男女とは別種の軍服を纏った男の表情もまた、彼と似たようなものであった。
「政治委員。我が国は<激浪>を保有していない。そうだな?」
「少なくとも、我らが共和国の海軍には<激浪>を保有した事実はありません。……そして、確認できる限り皇国もまた同様です」
 反応兵器を運用する潜水艦には必ず搭乗する政治委員。その役割故に艦長であるクリストフ以上に機密に通じる彼は、その神経質さが見て取れる相貌を崩すことなく答える。
「結構。陸軍がエーゲル島で守った市街保護慣習を、海軍が破るなど冗談ではない」
 幾分か表情をやわらげたクリストフが口にしたのは、周辺地域の国家間で暗黙的に守られている、非武装の市街地に対する攻撃を禁じた慣習の名であった。エーゲル島を巡る攻防戦が同島に存在する大都市を巻き込んだ市街戦に発展しなかったのは、連邦共和国軍側がこの慣習を守り、市街地に兵力を展開しなかった点が大きい。
「本艦はこれより、皇国本土に向かう<激浪>を追尾。目的如何によってはこれを撃沈する。……5分後に通信アレイを放出しろ、目標の概略位置と音紋だけは平文でだ」
「しかし艦長、それでは――」
 クリストフの下した命令に、先任将校が抗弁の口を開く。機密の塊である<ゼーメル>が取る行動としては、あまりにもリスクの高い行動であった。
「……<激浪>が、あの旧帝国の亡霊が、敵意をもって皇国の沿岸都市近海に到達したならば、少なく見積もって30万以上の人間が都市ごと水底に沈むのだ。軍人、民間人を問わずにな」
 クリストフは職業的な義務から抗弁の口を開いた先任将校を手で制し、言葉を続ける。
「そうなれば、共和国周辺に潜んでいる皇国の戦略原潜がどのような反応を示すか、貴官ならわかる筈だ」
「小官も、艦長の判断を支持いたします。 祖国の統一は、あくまでも接触戦をもってなすべしというのが、政府の方針であります」
 指揮権の外から発せられた同意の声に、怒りと驚き、そして幾許かの安堵が綯交ぜとなった感情を抱きながらクリストフは軽く頷いた。
「感謝する政治委員。そして先任、貴官の義務に対する献身にも」
 自身の懸念を艦長が正しく理解していることを悟った先任将校は、身体を半歩後ろへと下げ、改まった所作で敬礼を捧げる。礼式にはない行動であったが、それがクリストフの行動に対する彼なりの意思表示であった。
「3、4番管、驟雨魚雷装填、咄嗟魚雷戦準備となせ」
 皮肉なものだと、クリストフは内心で自らの判断を反芻する。
 戦争が限定的反応戦にエスカレーションした場合に備え、<ゼーメル>には2発の水素式反応魚雷が搭載されていた。

●破滅の時は突然に
「状況を説明いたします」
 グリモアベースの一角に響くソプラノは、どこまでも無機的なものだった。
 奉仕人形ティー・アラベリアは、手にした銀の短杖を一振りすると、今回の戦闘の舞台となる海図を投影する。
「アザリア皇国本土にほど近い海域において、過去に存在した国家に所縁を持つオブリビオンマシンの反応が観測されました。今回の依頼は、当該オブリビオンマシンの撃破となります」
 曰く、此度の敵は連邦共和国が運用するオブリビオンマシンではなく、海底に没した亡国――現地では旧帝国と呼称される――の遺構が活性化した結果出現した機体であるとの事であった。
「幸いにして……といってはいささか語弊がありますが、目標群の進路上には、エーゲル島から輸送される捕虜と海兵隊とを本土へと帰還させる強襲揚陸艦とその護衛艦からなる艦隊が存在しています。彼らは既に不審な電波を傍受しており、まもなく対潜戦闘を開始するでしょう」
 ティーの言葉に連動するように、様々な深度に分布している赤い光点と、味方を表す緑の光点が示された地図上に被さるような形で敵戦力の情報が表示される。
「撃破目標は、<機動殲龍『底這』> および <機動殲龍『激浪』>でございます。どちらも水中、水上戦に適したキャバリアであり、両環境に適した装備があれば有利に戦闘を進めることができるでしょう。なお、敵機体は艦艇を攻撃する際には浮上を行うため、展開する皇国軍艦艇を足場にした戦闘も可能です」
「……<激浪>が防衛線を突破し、皇国沿岸部へと至った場合、周囲の都市は海中に没すこととなるでしょう。そうなった場合、その後の2国間の紛争がどのように推移するかは、皆様であればお察していただけるでしょう。どうかお力添え頂ければ幸いです」
 その言葉を最後に説明を締めくくると、ティーは相変わらず相貌に笑顔を張り付けたままグリモアを起動させる。
「ああ、それと。今回は、戦闘の後にささやかな休息の場を設けております。それでは、皆様、良い戦場を。どうかご無事で帰還なされますよう」


あーるぐれい
 ごきげんよう皆さま。あーるぐれいでございます。
 今回は、クロムキャバリア式夏休みシナリオ兼サメシナリオとなっております。
 海上または水中戦で皇国と連邦共和国を破滅から救いつつ、戦後はリゾートを楽しみましょう。
 過去のシナリオ「戦闘旗は天祐と共に」「ふたつの国旗、ひとつの祖国」からの続き物となっていますが、前回のシナリオの参加有無にかかわらず参加可能なシナリオとなっております。
 今回は、水上または水中というやや特殊な環境のため、章ごとに参加戦域の指定とプレイングボーナスに基準を設けております。
 こまごまと記載はしておりますが、基本的に大抵のUCは有効であり、生身での参加も可能です。
 詳細は【各章説明】と【貸与装備】の項をご一読いただければ幸いです。

●第一章
 <機動殲龍『底這』>との集団戦となります。
 戦域は三つに分かれており、「海上」、「水中(浅)」、「水中(深)」となります。
 「海上」及び「水中(浅)」は有視界による戦闘が可能であり、対潜魚雷またはそれに類する対潜装備、UCがあればプレイングボーナスの対象となります。
 「水中(深)」は有視界による戦闘が不可能な領域となります。他の戦域同様、水中戦用の装備に加え、ソナーまたはそれに類する装備、UCがあればプレイングボーナスの対象となります。

●第二章
 <機動殲龍『激浪』>とのボス戦となります。
 戦域は2つに分かれており、「海上」、「水中(浅)」となります。
 各戦域でのプレイングボーナスについては第一章と同様です。

●第三章
 皇国本土のリゾート貸し切っての休息となります。現実のリゾート地にありそうな砂浜やナイトプール、カジノやバー、レストランなど、大体なんでもあります。
 また、過去のシナリオに登場したNPC(捕虜や「触らぬ神に祟りなし」のボス敵搭乗者を除く)は大体現地に居りますので、登場可能です。
 お呼びがかかればグリモア猟兵も出張可能です。

●貸与装備
 環境に適した量産型キャバリア(対潜装備付き通常型、対潜装備付き航空型、ソナー付き水中戦型)をそれぞれ貸与可能です。
 また、水中戦用の水密加工等や、各種対潜兵装の弾薬、「驟雨魚雷」という超高速魚雷の補給を受けることも可能です。

●プレイング受付期間
 各章ともタグでお知らせ致します。
 また、再送をお願いする場合も同様にタグにてお知らせ致します。
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第1章 集団戦 『機動殲龍『底這』』

POW   :    グラビティカノン
【LV×100km/hに加速し潜航。口部】【重力砲で攻撃。外れても一定時間残留する。】【味方機とデータリンクし敵の行動を学ぶ事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    パラライズケージ
【LV×100km/hに加速し潜航。腹部】【敵にのみ効く複数個の時限式EMP機雷】【味方機とデータリンクし敵の行動を学ぶ事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    エアリアルバスター
【LV×100km/hに加速し潜航。空気を】【圧縮し放つ多数の副砲で攻撃する。】【味方機とデータリンクし敵の行動を学ぶ事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 <ゼーメル>から放出された通信ブイが放った通信波を傍受したアザリア皇国海軍第一機動艦隊は、対潜警戒用の艦隊序列を形成し、曙光が薄く照らす海原を航行していた。
 いささか雲は多いが、幸いにして天候は航空キャバリアの運用に差し障りない。傍受した通信に平文で示された海域に向けて、既に即応の哨戒機が向かっていた。
「哨戒機より報告。指定海域にて複数の水中目標とのパッシヴコンタクト。水中戦用キャバリアらしい。哨戒機よりデータ受信……。照合結果は旧帝国製<底這>と同定。我が艦隊へ向け、おおよそ70ノットで移動中」
 第一機動艦隊旗艦、戦艦<ヴィルヘルム>の艦橋にあって、同艦隊の司令長官を務めるグンター・ブルックナー中将は、禿げあがった前頭部をひと撫でした後、通信員からの報告にゆっくりと頷いて見せた。
 軍人というよりは気のいい商家の次男坊を思わせるようなその相貌の男であるが、額から側頭部にかけてはしる大きな傷跡が、彼に独特の凄みを与えている。事実として、彼の軍歴はその傷跡が物語るに足るほど壮絶なものであった。
「内容に偽りなしということだね。<激浪>はどうか」
「依然、確認できず」
「水中戦用キャバリアが母艦なしに外洋で活動できるとも思えんからなぁ。変温層にでも入ったか」
「無論、その可能性もありますが、やはりあの通信自体が何らかの陽動であるという線も否定はできません」
 軍帽を被りなおし、手を背の後ろで組みながら、グンターは自身の幕僚から発せられた至極常識的な意見に、そうだねと短く返答する。いずれにしろ警戒するにこしたことはない。グンターは後方に控える幕僚たちへと視線を向け、今この時必要な命令を下す。
「哨戒機に命令、コンタクトを継続すべし。可能であれば海域周辺に指向性ソノブイを投下せよ。対潜、すぐに出せる対潜哨戒用キャバリアはどれだけある?」
「<ヘルマン・ミュラー>に2編隊、既に即時待機状態にあります」
「素晴らしい、すぐに出そう。1編隊は先発した哨戒機の援護、1編隊は艦隊周辺に指向性ソノブイと念導ブイによるバリアを形成するように」
 念導ブイとは、水中では減衰著しい電波と異なり、水中でもある程度の通信が実現できる念導波を用いたデータリンク基盤を潜水艦や水中戦用キャバリアに提供する使い捨てブイの一種である。指向性ソノブイ以上に高価であり、1基で中小国が運用するキャバリア数機分のコストを要する。それらを惜しげもなく艦隊周辺に投下する様は、分割されてなお地域大国の一角を占めるアザリア皇国の国力を示すものであると言えた。
「第四戦隊司令より入電、"我、対潜戦闘の下命を待つ"」
 探知した<激浪>の群れに最も近い艦隊最右翼、即ち第四戦隊は、駆逐艦と軽空母を主体とする対潜戦闘の主軸となる戦力である。同戦隊の駆逐艦に配備されている驟雨魚雷が発揮する水中速力は220ノット(時速約370km)。現位置からでも十分に<激浪>を叩ける位置にあった。
「よかろう、麾下全戦隊通達する。第一種戦闘配置、対潜戦闘始め」
 どこまでも鷹揚に、グンターは戦闘開始を下命する。
「ああそれと、<オーデル>にいらっしゃるアーダルベルト中将へとお伝えしてくれ。"艦隊旗艦までお越しいただければ幸甚である"、と」
 なんにせよ、裏を取るに如くはない。グンター・ブルックナーという男は、勇猛さと慎重さを両立した艦隊司令長官であった。
※誤植訂正
探知した<激浪>の群れ → 探知した<底這>の群れ
<激浪>を叩ける位置にあった。 → <底這>を叩ける位置にあった。
ウィリアム・バークリー
水中(浅)

航空戦、陸上戦と来て、今度は海中戦ですか。どうにもアザリアは慌ただしい。
まあ、この季節の浅瀬です。そこまで冷えることもないでしょう。
普通のダイビングスーツで「水泳」し「水中戦」の活動をします。

今度の機動殱龍は『底這』。まったく、どれだけオブリビオンマシンになっているやら。

基本戦術は、敵機に密着して、スクリューや推進器に氷の「属性攻撃」を撃ち、海水ごと凍らせて動きを封じます。
そうしてから「全力魔法」のIcicle Edgeで機体を完全に破壊しましょう。

敵の攻撃は、氷の「属性攻撃」「オーラ防御」をかけた氷の盾で「盾受け」します。

次の相手には困らないようですね。本当にどれだけいるんだか?




 陽光が夜を完全に駆逐し、海面を鮮やかに照らし始めると同時に、海中を疾駆する<底這>の群れとそれを迎え撃つ皇国軍艦隊の戦闘が開始された。
 この季節であれば、地理的には温帯に位置するアザリア近海は海水浴やクルージングに適した穏やかな海として知られている。しかし、平時であれば平穏を象徴する穏やかな海は、今や海中から轟く魚雷の炸裂音と機動殲龍が放つ禍々しい推進音に支配された戦場と化していた。
(……航空戦、陸上戦と来て、今度は海中戦ですか。どうにもアザリアは慌ただしい)
 魚雷による衝撃波、艦隊護衛艦やアクティブソノブイが放つ探査音波、念導ブイによる思念波。人工的に作り出された不可視の波が駆け巡る海中に、ウィリアム・バークリーの姿はあった。彼はすらりとした体躯を潜水服で包み、入射する陽光によって淡く照らされる海中を慣れた様子で進む。
 周辺に展開されるアクティブソノブイによって探知された<底這>の速度と位置情報を、念導ブイを介して受け取ったウィリアムは、正面からまっすぐに迫る<底這>と対峙する。アザリアを巡る一連の騒乱に初期から関わる彼にとって、皇国軍との連携も慣れた物であった。
 念導波によって至近距離に存在するウィリアムの存在を検知した<底這>は、プログラムされた戦闘教義に従い機体側面に存在する副砲を起動し立ちはだかる脅威を排除すべく副砲による砲撃を実施する。
 水圧による速度減衰を受けながらも、並のキャバリアではれば一撃で四散するほどの威力を持った圧縮空気の奔流。しかし、その機動は直線的であり、発射点と距離さえ分かっていればウィリアムにとって回避は容易い物であった。
 自らの真横を通過した圧縮空気が作り出す水流を利用し、速度を緩めず突破を図る<底這>の真下に潜り込む機動を取ったウィリアムはすれ違いざまに自らが身に着ける宝石<フロストライト>に魔力を込める。
 氷の精霊を使役する触媒である<フロストライト>が、ウィリアムの魔力と感応し鋭い輝きを放つとほぼ同時に、周囲の水温が急激に低下する。発生した冷気は<底這>の姿勢制御と推進力の要たる大型の尾とスクリューを絡め捕り、瞬時に凍結、破断させる。
 姿勢制御の術と推進力を失い、今や慣性によって漂うだけの存在となった<底這>。ウィリアムはさらに<フロストライト>へと魔力を流し込み、氷の刃を形成すると、追い打ちの要領で撃ち放ち、その衝撃と冷気によって<底這>の躯体を粉砕した。
 時間にして30秒にも満たない、驚異的な早業によって<底這>を撃破したウィリアム。データリンク下に未だ存在する無数の<底這>は、彼に対する脅威度を修正し、必殺の意思をもって迫る。
(下から? 3機……!)
 念導ブイから齎される思念波とウィリアム自身の直感によって感じ取った敵の動きに反応し、<フロストライト>が再度輝く。それとほぼ同時に彼の直下に形成された氷壁が、急速に浮上してきた3機の<底這>によって放たれた圧縮空気を受け止め、そのエネルギーによって粉々に破砕される。
(砕けたなら――!)
 ウィリアムは砕けた氷壁を<フロストライト>を使用した精霊魔術によって補強し、即席の散弾を生成すると、真下から迫りくる<底這>の群れへと打ち放つ。
 自らが出しうる最大の水中速力をもってウィリアムに迫っていた<底這>の群れは、この不意急襲的な攻撃に対応しきれず、正面から氷結の散弾を浴び、キャバリアから水中を漂う鉄塊に変換されていく。
 最初の接触において、ほぼ完全といっていい勝利を手にしたウィリアム。しかし、周囲の念導波は未だに大量の<底這>が海域に蠢いていることを告げていた。
(次の相手には困らないようですね。本当に、どれだけいるんだか?)
 彼は潜水服に覆われた肩を小さくすくめると、次なる敵手に向けて水中を進むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミア・ウィスタリア
【水中(浅)】
潜水艦でサメ型ロボと戦え!って完全に夏のハリウッド映画じゃん。
サメ映画はともかく、アタシタクティクス系ってあんまり得意じゃないのよねー

自前キャバリアの【Gnosticis】で出撃。
事前に驟雨魚雷の補給は受けておく

レーダーで敵機と捉えたら即座に全方位に向かってEngagementを発射よ!
水中だと多少音波は減衰するだろうけど、EMPウェーブは届くもんね。
何をするつもりか知らないけど、死んだ魚みたいにしてから一匹ずつ魚雷で仕留めてやるわ。

まぁ戦術って言ってもそれだけだし、すぐ読まれるかもしれないけど。
そうなったら……そうね。それが90体から一斉に飛んできたらどうなるかしら?




「潜水艦でサメ型ロボと戦え! ……って完全に夏のハリウッド映画じゃん」
 海面から差し込んだ陽光に照らされ、異様な存在感と共に海中を移動する土偶型キャバリア<Gnosticis>。そのコックピットにあって、自らが置かれた状況に思わず突っ込んでしまうミア・ウィスタリア。
 シチュエーションは限りなくB級映画のそれであるが、迫りくるサメを阻止できなければ核戦争の危機であり、敵も味方も大真面目というのだから余計にたちが悪い。全米が涙する前に蒸発してしまっては元も子もないのである。
「サメ映画はともかく、アタシタクティクス系ってあんまり得意じゃないのよねー」
 水中戦は陸戦や空戦以上に戦場の霧……即ち不確定な敵の動きを如何に取り払うかが肝要である。要するにまどろっこしい戦術が支配する領域ではあるのだが、今回は幸いにして、背後に豪華なエキストラこと皇国軍第一機動艦隊が控えており、キャストに対するバックアップ体制は万全である。
 偏執的なまでの周到さでばらまかれたアクティブソノブイと念導ブイから情報を受け取り、敵の大まかな位置情報を把握したミアは、音波兵器である<Engagement>を機体周囲に射出し、迫りくる<底這>の群れに向けて特殊な音波を発振させる。
 <Engagement>から発せられる特殊な波は、水中での減衰をものともせずに<底這>の群れへと到達する。
 キャバリアの駆動信号を無力化する極めて特殊な音波を浴びた複数の<底這>の動きが俄かに鈍り、最終的には水揚げされた魚よろしく力なく海を漂うだけの存在と化すに至った。
 はたから見れば、土偶型キャバリアから発せられた怪音波を浴びたサメが、次々と失神してくのである。その光景は筆舌し難いものではあるが、ミアが選んだ対処法が有効かつ悪辣であるのは誰の目にも明らかであった。
 もはや無抵抗の存在と化した<底這>に向かって受領した驟雨魚雷を叩きこみ、順調に敵戦力を無力化していくミアと<Gnosticis>。しかし、対する<底這>も一筋縄ではいかない。
 データリンクによって<Engagement>の効果範囲をお互いに共有した<底這>の群れは、注意深く射程外へと起動し、全周から<Gnosticis>を圧殺する構えを見せたのである。
「おおっと、距離を取って着たわね。サメにしては頭が回るじゃん」
 自機積載レーダー上でその様を確認したミアであったが、その声に焦りはない。むしろ自信を深めた笑みを浮かべ、<底這>の包囲が完成していく様を眺める。
「だけど、これならどうかな!」
 <底這>の包囲が完成せんとしたまさにその瞬間、ミアは自らの能力によって周囲に存在する<Engagement>を複製し、さらに広範囲へと――即ち、自らを包囲せんとしていた<底這>を逆包囲する形で――展開する。
 展開のタイミングが早すぎても遅すぎても、ここまで見事な逆包囲はなしえなかっただろう。このタイミングの見極めこそ、彼女が熟練の猟兵である証左であった。
「流石アタシ、やっぱり天才ね。 それじゃ、後は派手に行くわよ!」
 その後の<底這>たちの運命は論ずるまでもないだろう。先だっての蹂躙を拡大した再現がミアの周囲で繰り広げられることになる。
 <Gnosticis>と皇国艦隊から次々と発射される驟雨魚雷が、水中速力220ノットという高速度で<底這>の群れへと殺到し、火球と衝撃波が周囲の海水を乱舞させていく。50キログラム近い炸薬量を持った魚雷が次々と炸裂していく様は、人間の獣性を刺激してやまない光景であるとも言える。
「ふー、スカッとしたわ! それじゃ、次行くわよ」
 <底這>の一群を悉く蹂躙したミアと<Gnosticis>は、次なる得物を求め、灼熱の海を悠然と進むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
水中(深)突撃


とんでもない相手だな
「大丈夫だよご主人サマ!メルシーは水中でもイケちゃうぞ☆」

UC発動
人魚の如く下半身を魚に変えて海中の機動力強化
射程を半減にして移動力を強化
またソナー発生装置も一部を変化させて展開

【属性攻撃・迷彩】
水属性を機体に付与し機動力を更に強化
音属性によるソナーを展開
更にに相手のソナーを相殺し此方の位置を把握させない

【情報収集・戦闘知識】
周辺の反応と敵の位置の把握に努め
また敵機の潜水用の装置の把握

【念動力・スナイパー・二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
静かに接近して念動力で敵機の細かい構造と状態を捕捉
潜水の為の装置を切断して強奪して強制的に海上に浮かばせに
沈むと哀れですしね




 天に輝く陽光すら届かず、全てを飲み込む静寂と過酷な水圧が支配する深海。
 ごく一部の例外を除くあらゆる生物にとって過酷なこの領域すらも、人間を突き動かす必要という名の神は戦場へと変貌させた。
 並の水中戦用キャバリアであれば圧壊を免れないほどの深度を、1人のパイロットとその愛機たるキャバリアが征く。
 正確には1人と1柱と表現すべきであろうか。強大な力を秘めた神機シリーズの1機、<界導神機『メルクリウス』>は、その主たるカシム・ディーンとともに、この過酷極まりない環境にその身を置いていた。
「……とんでもない相手だな」
 外部の光はなく、ただ計器の光のみが存在するコクピットの内にあって、カシムは無意識に言葉を零す。陸を征するために開発されたキャバリアは数あれど、このような環境を主戦場とするキャバリアはそう多くはない。しかも、1機で島1つ沈める程の能力を持つとなればなおさらである。
「大丈夫だよご主人サマ! この通り、メルシーは水中でもイケちゃうぞ☆」
 戦闘を前にした張り詰めた空気は、突如として響く場違いな程明るい声によって霧散する。声の主は、カシムの僕――それを彼自身がどう考えているかは別として――である<メルクリウス>そのものであった。
「わかった、わかったから声は抑えろメルシー。あんまり騒ぐと音を拾われる」
「はぁ~い」
 カシムと<メルクリウス>は、<底這>の群れから断続的に放たれるアクティブソナーを音属性を操作して生成した特殊な音波を用いて巧妙に欺瞞することに成功していた。彼らはあっさりとやってのけているが、この一事を以ても非常に難易度の高い技術である。しかし、受動的に音を拾うパッシヴソナーに音を拾われれば元も子もない。それを理解してか、<メルクリウス>は主の指示にあっさりと従う。
 界導神機の権能をもって脚部を魚の尾の様に変化させた<メルクリウス>は、高度な静粛性を維持した上で、前方に存在する<底這>の群れへと接近しつつあった。
「数は3……動力は尾と、これはスクリューか?」
 <底這>に感知されぬギリギリの距離まで接近したカシムは、音波ではなく念導波によって機体構造を把握する。どうやら<底這>は、一般的な潜水艦やキャバリアと異なり、バラストタンクではなくその機体に持つ巨大な尾とスクリューによって深度を調整しているようだ。
「ならやる事は一つだ。いくぞ、メルシー」
「はぁい、ご主人サマ。メルシーにお任せあれ♪」
 <メルクリウス>は自らの尾で水を蹴ると、猛烈な速度で<底這>へと迫る。
 <底這>が積載された念導探信儀で<メルクリウス>近接を検知した時には、全てが手遅れになった後であった。<メルクリウス>の補助によって増幅されたカシムのルーンシーフとしての技量は、瞬く間に<底這>の推進装置である巨大な尾とスクリューを刈り取り、哀れなサメ型キャバリアをただ浮かぶだけの鉄塊へと変えてしまったのだ。
「……気づかれなければ容易いものさ。まぁ、気づいたとしてもどうとでもするが」
「ふふん。ご主人サマ、メルシーを褒めてもいいんですよ?」
「よし、少し黙りましょうか。さっさと次に行きますよ」
 はたから見れば、カシムと<メルクリウス>の連携は大したものであると言えた。その性格的な相性が戦闘時の相性に等しいかは、また別の話であるけれども。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリア・ナイン
ディさんと一緒に

【SPD】

生まれて初めて、本物の海を目にしました
出来れば、戦闘とは関係無く目にしたかったのですが…いえ、泣き言を言っても仕方ありませんね
穏やかな海が戻るよう、出来る事をするのみです…!

自機で参加します…が、水中戦用機体では無いので、水密加工と魚雷の補給を受けておき、「海上」で戦闘を行います

まずは、UCを魚雷に対して使用します
魚雷自身の探知性能に更に私の誘導操作も加える事で、敵を海面近くに炙り出す作戦です
そのまま、魚雷で沈んでくれれば良いのですが…海面近くで上手く躱し続けられた場合は、自機で突撃して長剣で撃破します
ディさんとの連携を密にして、上手く立ち回ります…!


ディ・アルカード
イリアと一緒
【海上】

黒い狼のような四足獣型のキャバリア【ハウンド・ドッグ】で参加
水中戦用の水密加工及び各種対潜兵装の弾薬の補給を受けます

また海上戦を円滑に行う為
海水を使い魔化し
「スクラップ」として使役
海中からの攻撃に対しての盾役
兼沈まないように足場として利用します

敵の攻撃に対して【審判】を使用
攻撃を打消しコピーすることで
データリンクと加速潜航及び重力砲での迎撃を可能にします

データリンクが今回のキモ

オレを中継し『底這』と『イリア機』をリンク
彼女のハッキング能力で操作を乗っ取り
海上へ釣り上げるのが目的

可能であれば敵の作戦の概要など盗めたらと考えています

またコピーした能力で
味方の守備力を上げます




 少女が生まれて初めて見る海原は、眩いほどの光に満ちていた。
 波もなく凪いだ海面は、夏の強い日差しを不規則に反射し、深い蒼と陽光の白が入り混じった美しい色彩を放っている。
(嗚呼、とても――)
 きれいだな、と思考が零れる。
 乾いた荒野でただ一人目覚めたイリア・ナインにとって、眼前に広がる光景はどこまでも真新しい物であった。
 本来ならば、クルーズ船の甲板で眺めるべき外洋の景色を、イリアは愛機たるキャバリア、<ヒミングレーヴァ>の光学センサー越しに眺めている。純白のキャバリアがサイキックウィングの燐光を引きながら海上を舞う様も、ある意味では美しい光景ではあったが、それはこの美しい海が灼熱の戦場と化している証左でもあった。
 できれば、戦闘とは関係無く目にしたかった。それは彼女の偽らざる心境である。複雑な心境を払うようにかぶりを振り、再度海面へと目を向ければ、正面でいくつもの巨大な水柱が立ち昇る。背後に控える艦隊から発射された魚雷が炸裂したらしい。
 イリアはあらかじめ割り振られた周波数を設定し、背後に追従する僚友への回線を開いた。
「――ディさん」
「ああ、こちらでも見えた。そろそろやな」
 上空を飛翔する<ヒミングレーヴァ>のやや後方。自らの能力で海水を操り、陸上と遜色ない速度で駆ける獣型の四足軌道型キャバリア<ハウンド・ドッグ>のコクピットに合って、ディ・アルカードはイリアからの呼びかけに応える。
 周辺に散布された指向性ソノブイが探知した<底這>群との距離は5kmを切っている。先ほど炸裂した魚雷の位置からしても、キャバリア搭載型驟雨魚雷の射程内にあるとディは判断した。
 彼の判断を肯定するように、周囲に展開する対潜航空キャバリアの編隊が高度を落とし、魚雷を次々と投下していく。
「いくで、イリア。戦闘開始や」
「はいっ!」
 ディはイリアに声をかけると同時に、<ハウンド・ドッグ>に拍車をかける。"猟犬"の名に恥じぬ俊敏さで瞬く間に速度を上げた彼の愛機は、その運動エネルギーと共に増設された魚雷発射機構から驟雨魚雷を発射する。
 ディの動きに合わせる形でイリアと<ヒミングレーヴァ>もまた高度を落とす。機体が海面を叩くほどの高度で機体を水平に戻した彼女もまた、魚雷発射機構と連動したトリガーを引き絞る。
 通常、航空キャバリアは潜水目標からの対空迎撃を回避するため、雷撃後は速やかに高度を上げるのがセオリーである。しかし、イリアはあえて機体の姿勢を保ち、魚雷と並走するような軌道を取る。それは、彼女とディが示し合わせた策の一環であった。
「これだけの数があれば……!」
 低空を駆ける<ヒミングレーヴァ>の機上にあって、イリアは背後に追従する魚雷全てに思念波を送る。脳波コントロールによって兵器を遠隔操作することが可能な彼女の能力によって終末誘導能力が格段に向上した驟雨魚雷の群れは、従来型魚雷の4倍近い速度で海中を疾駆し、<底這>群の只中で次々と炸裂する。
 猛烈な勢いで立ち昇る水柱と共に飛散する鉄塊が、少なくない数の<底這>が爆散したことを示している。しかし、全機を撃破できたわけではない。
「……まだ数がいる。――正面!」
 水柱を引き裂くように放たれた複数の重力砲が、<ヒミングレーヴァ>に正面から襲い掛かる。ほぼ直角に近い角度で機体を機動させ、回避を試みるイリア。常人であれば臓腑が惜し潰れるような天頂方向への重力が彼女の身体をコクピットシートに張付け、視界を赤く染める。
 果たして、生半なパイロットと機体であれば確実に撃破されたであろう<底這>からの反撃を、<ヒミングレーヴァ>とイリアは回避して見せた。しかし、息をつかせる間もなく、彼女の回避方向に追撃の重力砲が放たれる。
「やらせるかよッ!」
 必殺を期して放たれた重力砲から<ヒミングレーヴァ>を守ったのは、ディによって操作され、急激に隆起した海水であった。機体の足場を形成することと同様の要領で操作された海水であるが、その体積は足場の比ではない。能力の代償として多量の血液を失う虚脱感に耐え、彼は見事にイリアを守り抜いて見せたのだった。
「ディさん!」
「大丈夫や、まだやれる。それに、これで……」
 ディの能力は、僚友を守ると同時に、その代償以上の成果を上げていた。彼の制御下にある海水が<底這>の能力を用いた攻撃を受けたことによって、ディと<ハウンド・ドッグ>は一時的に<底這>の能力を模倣することに成功したのだ。
「敵のデータリンクへのアクセス、確立完了や。イリア、後は頼むで」
「はいっ! 任せてください」
 近代的な戦闘において、情報的優位は兵力や発揮可能な火力以上に致命的な優位となる。如何に強大な火力や兵力があっても、その配置や火点が敵に暴露してしまえば、その戦闘効率は極端なまでに低下してしまう。それを知るディは、猟兵としての単純な戦闘力以上の優位を、味方全体に与える事に成功したのである。
 そして、ディが味方に与えた優位を、さらに増幅させるのがイリアの役割であった。
 電子戦型レプリカントとして調整されたイリアは、<ハウンド・ドッグ>経由で受信したデータリンクのアクセス情報を使用して<底這>群が形成しているネットワークへと侵入する。彼女は指揮統制を担っている複数のノードに対して電子攻撃を実行し、周囲に展開する<底這>に浮上を実施するよう偽造された命令を下したのだ。
 結果として生じた光景は、潜水という隠れ蓑を捨て、<底這>の群れが次々と浮上する様であった。潜水兵器とはその隠密性を生かした不意急襲的な攻撃を実施できるからこそ危険な存在なのであって、浮上させてしまえばその脅威は激減する。
 浮上した<底這>の1機に<ハウンド・ドッグ>から放たれた重力砲が命中し、その禍々しい外観をへし折りながら圧壊する。
「ひとまずは、作戦成功ってところやな」
 眼前の光景を前に、ディは一つ息をつく。傍らを見遣れば、回避機動から反転し、再び急降下した<ヒミングレーヴァ>が、二振りの高周波振動剣で<底這>を切り伏せる様が目に入った。
「おつかれ、イリア。先は長いようやし、無理したらあかんよ」
「はいっ! でも、この海、早く穏やかにしたいなって」
「そうか。……うん、たしかにそうだね」
 イリアの言葉を聞いたディは、改めて周囲の海原を見遣る。
 少なくとも、炸薬と衝撃によって人工的に作られた波に揺れる海よりも、穏やかな風に凪ぐ海の方が、彼女に相応しいことは自明であるように思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
※水中(深)

ロシナンテⅣは次章へ向け改修中●防具改造
自身は水中用追加装備とUC装着し潜航
ソナーモードマルチセンサーと暗視で情報収集
敵位置見切り捕捉

円錐状バリアで重力砲防御
脚と鋏折り畳む突撃形態で強襲し激突(水中機動推力移動盾受け)
格闘形態へ移行
脚で取り付き鋏で解体(怪力水中戦)

SSW産の装備ですが…私のグリードオーシャン戦闘データが反映されているのです
騎士の装いでない以上、圧倒出来ねば困ります

解体敵にワイヤーアンカー打ち込み強制有線ハッキング
リンク辿りデータ改竄
連携や戦術を機能不全にし各個撃破

腹に破滅抱えた兵器が蘇り…今は何を目的としているのか
感傷に過ぎますね
人々護る為、確実に無力化しなければ




 深海とは、宇宙空間と同様に、あるいは幾つかの面では宇宙空間以上に過酷な環境である。陽光がほぼ届かない故の暗黒と、過酷な水圧は言うに及ばず、海底火山の影響による部分的な高温域や有毒なガス、そして複雑かつ急激な海流と、人間にとって過酷な要素は枚挙に暇がない。
 その様な環境に、潜水艦でも特殊な改装を施したキャバリアでもない、1機の機影があった。即ち、ウォーマシンであるトリテレイア・ゼロナインである。
 無論、用意周到な彼は、このような戦場に備え、相応の水中戦用装備を用意していた。スペースシップワールドの技術を用い、グリードオーシャンでの戦訓を基に製造されたその装備は、深海という過酷な環境においても十全な性能を発揮しうるものであることは間違いない。しかし、使用者であるトリテレイアは、性能とはまた別の次元で複雑な感情を自身の水中戦用装備に抱いていた。
 彼の葛藤の原因は、水中戦用装備の外観にあった。騎士然とした上半身に接続された水中用の推進ユニットは、脚ではなく水生生物を模した多脚フロートのような形状となっており、推進ユニットから展開される巨大な鋏は、禍々しさすら感じさせる武骨さを備えている。鋏の周辺には長大な赤熱式のブレードが配置されており、尾とも脚とも見えるその様は、水中戦用装備の外見的な禍々しさに拍車をかけていた。
 そのような装備を接続して水中を駆るトリテレイアの姿は、機能的な美しさや猛々しさはともかくとして、少なくとも彼自身が理想とする騎士の姿とはかけ離れたものであることは自明であった。
「……実践テストとは言え、騎士の装いでない以上、圧倒出来ねば困ります」
 戦闘には不必要な感情の揺らぎも抱きつつ、トリテレイアはソナーユニットをパッシヴモードで起動し、海中で発せられる様々な音に耳をすませる。事前情報によれば<底這>が発揮する水中速力は70ノット以上。そのような速度ではまともにソナーなど使えるものではないが、用心するにこしたことはない。
 はたして、拍子抜けするほど容易に、トリテレイアは敵手の姿をに捉える事に成功する。<底這>の群れは発揮しうる最高速力を維持したまま、ただひたすらに皇国本土に向けて突き進む進路を取っているように思われた。
 相手が直線的に突き進むだけであるならば、取りうる手段は幾らでもある。トリテレイアは慎重に推進ユニットを操作し、<底這>の進路に対して斜め下から接触するような進路で前進する。
 外見はともかく、性能としては申し分のない推進ユニットは、高い静粛性を発揮し<底這>群に気づかれることなくその懐に潜り込むことに成功する。<底這>が近接検知用の念導波探信儀でトリテレイアの姿を捉えたのは、もはや白兵戦すら可能な程間合いが詰まったタイミングであった。
 接近する機影を探知した<底這>はその巨大な尾と後部スクリューを使用し散開を試みるが、それ以上にトリテレイアの行動は迅速を極めた。
 彼は接近が検知されたことを察すると推進ユニットの出力を上げ、<底這>に匹敵するほどの水中速力を確保すると、衝突直前に水中戦ユニットから鋏を展開。鋏を盾代わりに<底這>へと衝突し、その姿勢を崩すと同時に速力を減衰させる。
 奇襲に成功したトリテレイアは、姿勢を崩した<底這>に赤熱させた推進ユニットの脚部を食い込ませ、装甲に巨大な鋏を突き立てる。
 決して薄くはない<底這>の装甲を易々と貫徹した鋏を用いて解体を実施しながら、トリテレイアは同時並行で装甲の亀裂にワイヤーアンカーを打ち込む。彼が大型のキャバリア相手に白兵戦を挑んだ理由は、物理的な破壊ももちろんではあるが、取り付いた機体を介した電子戦を行うためでもあった。
 露わになった制御ユニットにアンカーを打ち込み、強引に<底這>の群れが構築するネットワークに侵入したトリテレイアは、電子攻撃によって周辺に展開する<底這>のデータリンクを破壊し、共同交戦能力を著しく低下させることに成功する。別機体のセンサ情報から敵の位置を把握する術を失った<底這>は、もはや自身に積載されたセンサのみでトリテレイアを発見せざるを得ない状態に追い込まれたのである。
 電子攻撃の踏み台として使われることとなった哀れな<底這>の制御ユニットを破壊し、1機の強力なキャバリアを無意味な鉄塊へと変じさせたトリテレイアは、再び鋏を水中戦用ユニットに格納すると、次なる目標に向けて推進ユニットを指向させる。
 動力が停止し、残骸として沈みゆく<底這>。その様を一瞥したトリテレイアの電子頭脳に、束の間感傷めいた思考が去来する。
「腹に破滅抱えた兵器が蘇り……、今は何を目的としているのか」
 あるいは、この哀れなキャバリア達もまた、今は亡き国の妄執に捕らわれた被害者なのかもしれない。その事実が奈辺にあるにせよ、彼らの目的が多くの人命を奪うことに変わりはない。
 人々の命を護り、主なきキャバリアをその無意味な任務から解放するためにトリテレイアは陽光すら届かぬ深海を駆けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
●WIZ「水中(深)」

海底に沈んだ過去の遺跡ですか…まだ機能が維持されてるのが驚きです
【水中戦】仕様への換装で【深海適応】した水中型ピースメーカー、メインスクリュープロペラユニットのウィングには驟雨魚雷を取り付けてお借りさせて頂きます

私が目指す場所は光がない闇の世界
ソナーの探知音を意識を集中して【聞き耳】し、【目立たない】ようにスクリューも極力音を出さないよう低速で【索敵】していきます
探知できましたらデータリンクされる前に撃破したいところですので、有視界に頼れない状況を逆手に取りましょう
敵機の周囲に『影の迷宮』を作り出し、出口付近にデコイを放出して【おびき寄せ】、驟雨魚雷による【制圧射撃】です




 陽光によって深い蒼で彩られた表層から、闇と静寂が支配する深海部へと、海上迷彩が施された1機のキャバリアが海水をかき分け進んでいく。その青い機影を徐々に黒く染めながら、着実に潜水を続けるキャバリアの名は<ピースメーカー>。秋月・信子が操る量産型キャバリアである。
 本来陸戦型のキャバリアである<ピースメーカー>がこのような戦場に登場するにあたってはちょっとした経緯がある。信子が某所で入手し、ミネルヴァ工業によって再調整された水中戦用フレームに換装することで、生半な水陸両用キャバリア以上の水中作戦能力を獲得していたのだった。
 既に一般的な水陸両用キャバリアの潜航限界を超え、水深200m近く潜航しているにもかかわらず、水圧による軋み一つ響かない。とても元が中古品のフレームであるとは思えない仕上がりであった。
(しかし、海底に沈んだ過去の遺跡ですか……まだ機能が維持されてるのが驚きです)
 計器の光のみが覚束なく周囲を照らすコクピットの内にあって、信子は迫りつつあるであろう敵手に対して思考を巡らせる。亡国の兵器が過去の妄執の具現であるオブリビオンマシンとして蘇るのは不思議な事ではないとしても、沿岸の人口密集地を海中に沈めるべく海中を突き進む無人機の群れは、如何なる意志のもとで作られたのか。真実が奈辺にあるとしても、その製造目的が穏やかなものでないことは想像に難くない。
(いずれにしろ、今やるべきことに変わりまない、か)
 深度計が220mを指すと同時に、信子は<ピースメーカー>の速度を10ノット程度にまで緩め、積載ソナーに連動したブロードバンドディスプレイへと目を向ける。時間と方位軸でパッシヴソナーが聴取した音を線上に表示するディスプレイには、<ピースメーカー>から見て正面方向から迫る<底這>の推進音がくっきりと浮かび上がっていた。
 暫し様子を見ても、ブロードバンドディスプレイ上に表示される線が別方位に移動することはない。徐々に表示される線が太くなっていくと言う事は、<底這>がまっすぐ<ピースメーカー>へと迫っていることを示していた。
(有視界の戦闘とは勝手が違いますが、やれそうですね)
 計器から敵の動きを正確に読みとり、目標の音紋と音源の大きさから大まかな位置を特定した信子は、目標の概略位置に向けて影の迷宮を作り出す。
 光に溢れ、多くの影が形成される地上とは異なり、闇に包まれた深海では生成される迷宮の構造は単純なものとなるが、彼女の目的は敵の進路を固定することにあった。
 信子は、スクリュープロペラユニットのウィングに吊架したキャバリアの推進音を発するデコイを迷宮の出口付近へと射出すると同時に、<ピースメーカー>の推進ユニットに伝達された動力をカットし、無音潜航へと移る。
 <ピースメーカー>の推進音を発しながら迷宮出口へと接近するデコイ。デコイと迷宮外壁との距離が1km程まで縮まったその時、ソナーが<底這>の推進音とは異なる複数の異質な音、<底這>群が放つ圧縮空気砲の発砲音を検知する。
(……捉えた!)
 信子は音源の位置を基に魚雷の炸裂距離を入力すると同時に、デコイと同様に吊架していた驟雨魚雷の発射トリガーを引き絞り、一斉に発射する。
 特殊なキャビテーション効果によって220ノットもの水中速力を発揮する驟雨魚雷は、入力された概略位置に向けて猛進し、念導波を用いた終末誘導に従い進路を修正すると、相次いでその内部に収めた高性能炸薬を炸裂させる。
 アザリアでは未だ発展途上にある念導波誘導ではあるが、複数の魚雷が一斉に炸裂することによって生じる水中衝撃波は、直撃せずとも<底這>の装甲を破断させることに成功する。
 浅瀬においては軽微な損傷であっても、過酷な水圧下にある深海においては致命的であった。装甲の破断点から侵入した海水と水圧は瞬く間に<底這>の躯体を圧壊させ、内部に存在する兵装の誘爆によって<底這>の群れは次々と内部から爆散していく。
 信子は深海という特殊な環境での戦闘を、見事にやり遂せて見せたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

玉兎姫・カグヤ
戦場「水中(深)」

海戦特化の敵か
EP対殲禍炎剣粒子装甲『ヒネズミノコロモ』の耐圧性能のテストにはうってつけね
行くわよ、ヴォルパーティンガー

事前にUCを発動して玉兎姫重工製深海戦闘用装備一式を送って貰いましょう
外付けソナー、手持ち魚雷ポッド、外付けスクリュー・プロペラ
こんなとこかしら
ヒネズミノコロモのシールドを展開して耐圧準備もばっちり
深海戦闘テスト開始!

ソナーで敵や地形を調査・索敵しつつ見つけた敵から魚雷で攻撃
真っ暗……ソナーしか頼りに出来ないのは不便ね
高速戦闘が有効な戦場とはまた違った戦場、もどかしい
敵に囲まれないよう立ち回り機雷も可能な限り排除しておきましょう




 常ならば陽光を跳ね返し、純白に輝く<ヴォルパーティンガー>の躯体は、今回に限っては暗闇によって黒く塗りつぶされている。理由は言うまでもない、玉兎姫・カグヤと<ヴォルパーティンガー>が今回身を置く戦場の特殊さ故であった。
 コクピットを照らす計器が指し示す高度はマイナス180m。常ならばクロムキャバリアの制限された空を駆ける<ヴォルパーティンガー>は、水深180mの深海にあった。
「正直、今回に限ってはお父様の過保護に助けられたわ」
 玉兎姫重工製のソナーと魚雷発射装置、そして外部取り付け式のスクリュープロペラを装備した愛機を操りながら、カグヤは苦笑を浮かべる。<ヴォルパーティンガー>が潜水能力を獲得するにあたって、彼女の父親が果たした役割と労力は並々ならぬものであった。愛娘のために水中戦用装備を調達し、尋常ならざる速度で改修を施させた父の様を目の当たりにし、カグヤは何ともむず痒い思いを抱きつつもその好意を受け取ることにしたのであった。
「ヒネズミノコロモ、動作良好。この調子ならもう少し潜れそうだけど」
 詮の無い思考を中断して計器を見遣れば、現在の深度は200m。潜航前に皇国軍が展開している念導ブイから受け取った情報が正しければ、周辺に<底這>の一群が存在する深度であった。一般的な水陸両用キャバリアの潜航限界を超え、水中戦に特化したキャバリアであってもこれ以上の潜航は難しい深度であったが、依然として<ヴォルパーティンガー>を過酷な水圧から守る粒子装甲"ヒネズミノコロモ"は安定した出力を保っている。
 パッシヴソナーの使用可能な速度までスクリュープロペラの推力を落とし、<底這>の群れが発する音を探知した結果として、どうやら敵は周辺を旋回するように索敵を実施している様であった。既に複数の猟兵が<底這>群と接敵していることを考えれば、妥当な行動と行ってよい。
(この様子だと周囲に機雷も展開してると見た方が良いわね。なら――)
 パッシブソナーの情報から3機の敵が一定の間隔を置いて周囲を警戒していることを読み取った彼女は、一つ息を吸い精神を研ぎ澄ますと、機体に外付けされたアクティブソナーを発振させる。
 発信された音波は独特の音を響かせながら周囲に拡散し、その反響によって特定した機雷の位置と<底這>の正確な位置をHUD上に表示する。
 受動的に音を拾うパッシヴソナーとは異なり、自ら特殊な音波を発振するアクティブソナーは、より正確に目標の位置を特定可能とする反面、自らの位置を敵へと暴露させる諸刃の剣である。その証左として、アクティブソナーの音源から<ヴォルパーティンガー>の位置を特定した3機の<底這>は、一斉に回頭を開始する。
「高速起動できないのがもどかしいけれど、やりようはある!」
 カグヤは推進ユニットの推力を限界まで引き上げ、急激に進路を上方へと変更すると、<ヴォルパーティンガー>が持つ魚雷ポッドから<底這>の進路上に存在する機雷に向けて魚雷を放つ。
 アクティブソナーと連動した火器管制システムから自動的に炸裂距離を入力された魚雷は機雷へと接触し、自らの炸薬と機雷の炸薬によって巨大な火球と衝撃波を生成する。
 火球の閃光によって、<底這>の姿が一瞬露わとなる。3機のうち最も接近していた1機は爆発によって生じた衝撃波によって装甲が損壊。そのまま水圧によって圧壊した様であるが、残存する2機は高温域を避けるよう進路を変更し、依然として<ヴォルパーティンガー>目掛けて突進を続けている。
 しかし、カグヤの表情に焦りはない。機雷に向けて放った魚雷は撃破を目的としたものではなく、敵の攻撃のタイミングを遅らせ、主導権を握るための物であるが故に。
「その隙、もらった――!」
 <ヴォルパーティンガー>から再び放たれたアクティブソナーが減速した2機の<底這>を捕捉し、即座に放たれた本命の魚雷が念導波による終末誘導によって直撃する。
 発生した2つの火球と、四散する鉄塊。それは、慣れぬ水中戦を潜り抜け、カグヤが勝利を手にしたことを示す何よりの証拠であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルイン・トゥーガン
アドリブ歓迎

自前のスーパーウォッグで出撃するよ
スーパーウォッグは2本の角状の水流制御装置で高い水中戦能力と隠密性を誇るし、腕部内蔵のフォノンメーザー砲は水中でも他のビーム兵器とか違って使用に問題はないと量産型のウォッグとは別物の高性能なクロムキャバリアさね
ただねぇ?それでも水陸両用機なんだよ、流石に完全な水中専用機と比べると水中戦能力は劣るねぇ
まぁ水流制御装置のお陰で隠密性はこっちのが上だし、やり方次第さね
動きは速いし武装も豊富だが、それだけに音やらなんやら派手に出しすぎだよ、オマケにデータリンクの交信をキャッチ出来れば場所が丸分かりじゃないかい
ほら、それじゃ狙ってくれって言ってるもんさね!




「流石、水中専用機。こんな深度でよくもまあ動き回るもんさね」
 深度170mという表層と中層域の狭間に、乗機たる<スーパーウォッグ>を潜ませながら、感心したように呟くは元軍人の猟兵、ルイン・トゥーガンである。
 クロムキャバリアにおいて広く用いられる<ウォッグ>。その設計を基にエース専用機として再設計された<スーパーウォッグ>は、あらゆる面で<ウォッグ>を上回る性能を持つ優秀な機体である。とりわけ頭部に存在する角状の装置による水流制御は、<スーパーウォッグ>に高い水中機動力と静粛性能を付与しており、その水中作戦能力は設計元となった<ウォッグ>の比ではない。
 しかしながら、<スーパーウォッグ>はあくまでも"水陸両用機"であった。その設計コンセプト上当然の事ではあるが、発揮可能な水中速力と火力については、水中戦に特化した<底這>に及ばない。
 彼我の機体特質を正確に理解しつつも、ルインの表情に焦りはない。仮に水中戦能力に劣っていたとしても、結局のところ潜水兵器の真価はその不意急襲性にあるのだから。
「こっちからは見えて、あっちからは見えない。なら、手の打ちようは幾らでもあるさね」
 音やらなにやら盛大に出しすぎんだよ。ルインはその相貌を楽し気に歪めると、パッシヴソナーとESMでそれぞれ探知した目標の概略位置を重ね合わせ、<底這>の進路と速度を導き出すと、数秒後の予測位置に向けて悠然とフォノンメーザー砲が内蔵された腕部を向ける。
「まずは、1機」
 ルインが引金を引き絞ると同時に発振された超高出力の音波は、その性質故に海水による減衰をほぼ受けることなく<底這>へと着弾し、その装甲を大きく破断させる。火力としては<底這>の重力砲や圧縮空気砲に劣るとはいえ、過酷な水圧下で生じた破断はキャバリアにとっては致命的であった。
 装甲の破断面を中心に<底這>内部へと侵入した水圧は、連鎖的に装甲の破断を誘発し、鋼鉄が引き千切れる胸の悪くなるような音と共にその躯体を圧壊させていく。
 フォノンメーザーの発射音から、一時は<スーパーウォッグ>の位置を特定し、データリンクを介して包囲せんと試みた<底這>であったが、それはルインもまた重々に承知している。
 彼女は優秀な潜水艦の艦長がそうするように、追撃を受けているという心理的な重圧を訓練と経験によって黙殺しながら、速やかに進路と深度を変更し、機体の動力を切り無音で潜行することで敵の追跡をやり過ごす。それらが戦術的に理にかなった行動であることは言うまでもない。しかし、海中という特殊な環境で、かつ敵の追撃を受けつつ実行するのは極めて困難な事である。
 常人離れした胆力で<底這>の追跡を振り切り、敵が自らを見失ったタイミングで再度攻撃を加える。単純ながらも極めて困難な戦闘を軽々と実施したルインは、<底這>の群れを無意味な鉄塊に変換することに成功するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・ウィステリア
【水中(浅)】
水中戦用のキャバリア……そんなのもあったんですね。
これは有用な戦闘データが取れそうです。
バカンス前に一仕事するとしますか。

自前のキャバリア【PROMETHEUS】で出撃します。
接敵と同時にUCを展開、360度カメラを仕込んだ小魚型ドローンを大量に海中に放出します。

流石に機動力では向こうにアドバンテージがあるでしょうけど、そう簡単にこの子の装甲は破れませんよ。
盾で防ぎつつじっくり行動パターンの解析をしたら、旋回時のスピードが落ちる瞬間を狙ってPROMINENCE KNUCKLEを射出して握り潰しちゃいましょう。
素潜り漁みたいですね。




「水中戦用のキャバリア……そんなのもあったんですね」
 海中に親和する蒼く塗装された機体、<PROMETHEUS>のコクピットにあって、ユノ・ウィステリアは物珍しい兵器に対する好奇心を抱きつつ、前方から迫りくる<底這>の群れと対峙していた。
 水中戦用キャバリアという存在は、陸軍がに大きな比重を置く国家の多いクロムキャバリアにおいて珍しいものであることは間違いない。
 高い水中速力と水中戦に特化した武装、そして軍艦に比べればはるかに安価な維持コスト。一見、海軍を持つ国家であれば有用な選択肢に思える水中戦用キャバリアではあるが、地域有数の海軍国として知られるアザリア皇国においても、その存在感は決して大きなものではなかった。
 作戦行動半径が広大なものとなる外洋海軍が運用する兵器として考えれば、キャバリアが持つペイロードでは単独で艦隊に追従することは叶わない。かといって、その運用に専用の母艦を作るくらいならば、水中戦用キャバリアに比して遥かに多様な用途に使用できる空母と航空キャバリアに投資を行う方がリターンが大きい。それが、水中戦用キャバリアに対するアザリア皇国海軍の評価であった。
「たしかに、珍しい理由はなくとなく理解できる気がします」
 航宙艦という高度な技術の結晶から生じたヤドリガミであるユノが、既に行われている猟兵達と<底這>群との戦闘を観察した結果として抱いた感想も、皇国海軍ガ下した判断と似たようなものであった。しかし、実際に現物と対峙する彼女は、<底這>が持つスペックについてより実際的な、戦闘を行うパイロットとしての意見も抱いている。
「あの水中速力と機動性は侮れませんね。それに発揮してくる火力も中々の物です」
 <PROMETHEUS>を囲むように展開した<底這>から波状的に放たれる圧縮空気砲を、巨大な腕部にマウントされた盾によって確実に受け流しながら、ユノは敵の機動と攻撃のパターンに対する分析を続ける。<底這>の群れが<PROMETHEUS>の重厚な装甲を前に攻めあぐねている間にも、ユノが事前に展開していた小魚型の分析用ドローンから送信される情報が<PROMETHEUS>のコンソール越しに表示され続けている。
「目標運動情報、起動パターン、解析完了。……想像以上に良いデータが取れました」
 バカンス前の仕事のついでに、思わぬ副産物を手に入れたユノは満足げに微笑むと、おもむろに<PROMETHEUS>の左腕部を射出する。<底這>の機動パターンをほぼ完全に解析した彼女が放った左腕部は、ワイヤー誘導によって目標の回頭予測地点に向けて誘導される。
 果たして、赤熱し周囲の海水を蒸発させながら進む巨大な腕部は、見事<底這>をわしづかみにすることに成功する。数千度の高温で<底這>の装甲に接触した腕部は、<底這>の躯体を溶断していく。その結果として残ったのは、飴細工のように握りつぶされたキャバリアの残骸であった。
「こういうの、どこかで見たことありますね。……素潜り漁?」
 キャバリアが握りつぶされていく様は、第三者から見れば壮絶な光景である。しかしながら、実行している当の本人が漏らした感想は至って長閑なものであった。
 それから四半刻ほどの戦闘の後、海面には見るも無残な姿となった残骸が大量に浮かび上がっていた事は言うまでもない。

成功 🔵​🔵​🔴​

テラ・ウィンディア
海中(浅)

海中戦か
得意じゃないが…それでもやり方はあるぞ!

【属性攻撃】
重力属性を機体に付与
【戦闘知識】
敵の機体の構造と動きを把握
UC発動
重力フィールドを纏って沈むぞ
敵の重力砲は己の重力フィールドで相殺
【見切り・第六感・残像・武器受け・オーラ防御・重量攻撃】
オーラで重力障壁を強化
敵の攻撃の癖を見切りながら常に動き回り
避けきれないのは此方の重力波砲で相殺
【貫通攻撃】
ドリルビット展開
魚雷の如く敵機に突撃して貫く
但し搭乗席は避け
沈みそうなのは海上に押し上げ

【二回攻撃・早業・串刺し】
剣での連続斬撃からの槍での串刺しで破壊
可能な限り潜航の為の装置を狙い潜航封鎖して海上に浮かばせることを狙う
不殺徹底




 水中におけるキャバリア同士の白兵戦についての戦訓は決して多くない。水中戦用キャバリアという機種がメジャーとはいないことは勿論、周辺地域における本格的な外洋海軍国である"ふたつのアザリア"が両国ともにその導入に消極的であるという点が、その希少さに拍車をかけていた。
 猟兵達と<底這>群の戦闘という世にも珍しい水中白兵戦によって齎された戦訓は、"キャバリア同士の水中戦において、機動力と静粛性・索敵能力はトレードオフの関係であり、彼我の念導・電磁スペクトラム能力が伯仲している場合、その一方に偏った能力はかえって不利をもたらす"というものであった。
 つまるところ、早く動きすぎるとその騒音によって簡単に発見されてしまうが、逆に静粛性を重視しすぎると探知された際に敵の機動力に対応できないのでバランスが重要であるということである。
 しかしながら、これらの戦訓は"スクリューや推進用の尾の様な既存の技術を用いたキャバリア"にのみ当てはまるものであり、今まさに<底這>の群れと接敵せんとしている1柱の神機、テラ・ウィンディアが操る三界神機<ヘカテイア>はその埒外の存在であった。
 主たるテラの戦意に比例して強固なものとなる反重力フィールドを展開可能な<ヘカテイア>は、重力操作による移動という推力装置を用いない移動方法によって、高い水中機動力を実現すると同時に、本来はそれとトレードオフの関係にある高い静粛性も実現するという、既存技術の制約に悩まされる人間から見れば理不尽の塊のような機体である。
「水中戦は得意じゃないが……これならやりようは幾らでもあるぞ!」
 常であれば人命を重視し、不殺を徹底するテラであるが、既に実施されている戦闘の結果として敵が無人機であることが確認されている以上、戦術の幅はさらに広がる。水中での<ヘカテイア>の機動力を確認したテラは、自信も新たに迫りくる<底這>群との戦闘を開始する。
 小刻みに進路変更を繰り返しながら水中を自在に舞う<ヘカテイア>に対し、<底這>は自らに積載されたアクティブソナーと念導波探信儀、そして他の機体からデータリンクを介した情報をもとに重力砲を撃ち放つが、その命中率は決して高いものではない。重力制御によって急激な進路変更を可能とする<ヘカテイア>の機動力と、テラ自身の技量によって回避されていることも無論であるが、同時にその高い静粛性が故に、<底這>が使用できる射撃諸元が曖昧なものとなっているためであった。
 確率論の微笑みによって<ヘカテイア>に命中した重力砲もまた有効打たりえない。あるものはテラの戦意によって高水準に維持された超重力フィールドによって相殺され、またあるものは射線を読んだが放った重力砲にかき消される形で消失していく。
 短時間の巴戦の後、<底這>の機動パターンをある程度予測することに成功したテラは、一転して攻勢に転ずる。
 オブリビオンマシンによる強化を受けているとは言え、クロムキャバリアにおける既知の技術によって作られた<底這>は、高い水中機動力を有しているとは言えそのむ技術的限界から逃れることはできない。<ヘカテイア>とすれ違いざまに重力砲を発射し、馬上試合の要領で回頭する際に生じる速度低下がまさにそれであった。
 その限界を突く形で<ヘカテイア>に拍車をかけたテラは、重力制御によって齎される急激な進路変更を実施し回頭中の<底這>へと肉薄すると、神機の手にある紅龍槍をその脇腹へと突き入れる。
 その名が示すが如く、灼熱と共に<底這>の側面装甲に接触した刃は、分厚い装甲を瞬時に気化させながら制御中枢に到達し、瞬く間に兵器としての機能を停止させるに至った。
 海面に向かって立ち昇る大量の気泡と共にキャバリアの残骸から離脱した<ヘカテイア>は、周辺に展開された念導ブイから齎される情報をもとに二対の小型ドリル型ビットを展開すると、あるときはそれを本命として、またある時はビットから発せられる音をブラフとして活用しながら、周辺に展開する<底這>を1機、また1機と無力化していく。
 闘気を身に纏いながら槍を振るい、自在に水中を躍動するその様は、力強くも洗練された三界神機の武名を轟かせるに十分なものであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『機動殲龍『激浪』』

POW   :    戦域一掃機構『激浪』
【背部激奔流砲と口内精密奔流砲】から【圧縮した水の大奔流】を放ち、【命中時大幅に対象を戦場外まで吹き飛ばす事】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    国土洗浄機構『国鳴』
【周囲の水を艦装化し全武装の一斉砲撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を一時的に海洋と同等の環境に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    無限起動機構『満潮』
【周囲の水を自身に変換する修復形態】に変身する。変身の度に自身の【生命力吸収能力を強化し、水の艦装化限度】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「寮長のおっしゃる通り、交戦中の<這底>と<激浪>は連邦共和国の指揮下にあるものではなさそうですな」
 猟兵の参戦もあり、目下のところ優勢に対潜戦闘を進めている皇国艦隊にあって、艦隊司令長官たるグンター・ブルックナー中将の仕事はそう多くない。
 実際の戦闘指揮は各戦隊司令やその配下にある艦長たちが行うものであるし、戦隊間の指揮統制は対潜戦闘調整官や電子戦調整官といった専任の士官がその任を担う。
 各級指揮官の自律性と積極性が何より重んじられる皇国艦隊にあっては、指揮官が手足のように艦隊を操るワンマンフリートは、その資質そのものを疑われる行為であった。
 そのような事情の中で、戦艦<ヴィルヘルム>の艦隊司令執務室に、エーゲル島を巡る攻防の結果として捕虜となったカール・アーダルベルト中将を招いたグンターは、国防大学校時代の関係を持ち出すことで、国家分断前に2人が構築した関係が継続していることを示していた。
「私に聞かずとも、大方見当はついていたのだろう? 茶飲み話にしては剣呑な話題とは思ったが」
「まぁ、念には念をということで。エーゲル島で律儀に市街保護慣習を守った国が、いきなり<激浪>を持ち出すのはどうにも理屈に合いませんからな。誓約連合にしても、あの国は旧帝国製の兵器を嫌っとりますから」
「皇国相手に反応兵器相当の物など使えば、統一以前に国が持たんよ。逆もまた然りだろうが」
 グンターから差し出された細巻きに火を付けながら、アーダルベルトは頷首する。統一後の事を考えるまでもなく、議会制民主主義国家である連邦共和国において、ルーツを同じくし、国民の親類縁者を多数抱える国に対して、反応兵器と同等の被害をもたらすキャバリアを差し向ける政府など存続しうるはずもない。オブリビオンマシンに毒されているとは言え、連邦共和国が掲げる祖国統一戦争の方針は非反応兵器戦による皇国の打倒であった。
 アーダルベルトは揺れる紫煙を眺めながら続ける。
「考えるべきは、何故今になって旧帝国の亡霊が姿を現したかだろう。個人的には、これが全くの偶然とは思えない」
「なにか、根拠がおありで?」
 探るような声色を隠さない後輩に苦笑いを浮かべつつ、アーダルベルトが先の短くなった細巻きを口元から放す。彼が口を開きかけたその時、執務室備え付けの艦内電が鳴り響く。
「……どうやら動きがあったようです。寮長、いかがでしょう、艦橋までおいで願えますか」
「私が構わないが、いいのかね?」
 もとは皇国軍人であるとはいえ、現在のアーダルベルトの立場は敵国の高級将校である。たとえ虜囚の身であったとしても、そのような立場の人間を戦闘中の艦橋へと招くことに、差しさわりがないとは思えなかった。
「賭けても良いですが、仮に捕虜交換の機会があったとしても、皇国はあなたを手放しませんよ」
 ニヤリと笑いながら、グンターは答える。その身も蓋もない返答に、アーダルベルトは一つ嘆息を漏らしながら、細巻きを灰皿へと押し付けるのだった。


「上がずいぶんと賑やかになってきたな」
 皇国海軍と猟兵達が<這底>との戦闘を行っている中、周辺海域に唯一存在する連邦共和国海軍艦艇である攻撃型潜水艦<ゼーメル>は、深深度に存在する変温層に身を隠した<激浪>を捉え続けていた。
「艦長、このままですと……」
 クリストフ・ヴェーバー大佐は、先任士官の懸念を理解して頷きつつも、呆れ半分関心半分といった様子で応える。
「あの巨体でうまく隠れるものだ。静粛性だけなら本艦並じゃないか」
 対潜能力に秀でる皇国海軍と派手に動き回る猟兵とやらが、<激浪>存在を認識していることは間違いない。しかし、問題は探知し位置を特定できるかである。
皇国軍艦隊の前衛まで残り20kmを切っている現状、探知したは良いが迎撃が困難な状況となってしまえば元も子もない。
かといって、<ゼーメル>の音紋を皇国艦隊に与えてやる義理もない以上、クリストフが艦長として決断すべき状況であった。
「……潮時だな。<激浪>の尻を蹴り上げてやろう。曳航アレイ格納、3、4番管前扉開け」
 咄嗟魚雷戦に備え注水が完了していた魚雷発射管が開扉し、潜水艦配備型の大型驟雨魚雷が露わとなる。
 特殊なキャビテーション効果によって水の抵抗をほぼ受けない驟雨魚雷は、発射から間もなく200ノット以上に到達し、ワイヤー誘導に従い<激浪>へと突き進んでいく。
「<激浪>に随伴する<這底>、回頭を開始した。方位085および095、急速に近づく」
「驟雨魚雷、自律念誘導に切り替え後、誘導ワイヤー切断。深度そのまま、進路265」
 魚雷発射後の潜水艦乗組員ほど、緊張を強いられる職はない。矢継ぎ早に下されるクリストフの命令を受けた乗員は、緊張と戦いながら、彼の意思を<ゼーメル>へと伝えるインターフェースとしての役割を果たし始める。
「驟雨魚雷より命中信号受信、同時に大規模な排水音を確認しました」
「よろしい、後は追手を片付けるとしよう。1番管よりデコイ射出。続けて後部1番、2番管、接近中の<這底>に向け、注水完了し次第通常魚雷を発射」
 高速で迫りくる<這底>の存在を背中で感じながらも、クリストフの声は平静そのものと言ってよい。彼自身が持つ潜水艦乗りとしての経験と、後天的に作り上げた艦長としての資質、そして、<ゼーメル>の性能に対する信頼が、彼にそのような態度を取ることを可能たらしめていた。
「諸君、気負いすぎる事はない。攻撃型潜水艦というものは、キャバリア数機でどうこうできる存在ではないのだ」
 数分の後、魚雷が炸裂する轟音が再び<ゼーメル>の船体を叩く。それは、クリストフの言が、虚勢でも励ましでもなく、ただ純然たる事実の宣言であったことを示していた。
 追手を手早く始末し、再び深海の闇へと消える<ゼーメル>。それと時を同じくして、文字通り魚雷によって尾を蹴り上げられた<激浪>が、数十トンの海水と共に、その圧倒的な躯体を陽光の届く海上へと浮上させたのであった。


 天を裂くほどの轟音と共に、一際巨大な水柱が立ち昇る。
 第4戦隊右側方15kmの地点に浮上した<激浪>は、喫水12m、全長200mという巨体を海原へと晒していた。
「……キャバリアという単語は含意が広すぎるな。あれでは戦略原潜といった方が通りがいいじゃないか」
 皇国艦隊が誇る超大型戦艦<ハルシュタイン>の艦長職と即ち艦隊と猟兵達との連携を統制する特殊戦力調整官を兼ねるエルウィン・ハルシュタイン大佐は、昼戦艦橋から高倍率双眼鏡を用いて<激浪>の姿を視認すると、機動殲龍の名に違わぬ威容を端的にそう評した。
 キャバリアの枠から逸脱した巨体には無数の砲門が備えられ、記録が正しければ周囲に存在する水を使用した自己修復能力すら保持しているという。
「哨戒機より報告。艦影照合、旧帝国製<激浪>に間違いなし! データベース上に存在する記録から見て、改装の形跡なしとのこと」
「戦隊司令より通信。麾下全艦は、出現した<激浪>に対し砲打撃戦を実施せよ。全レーダー、全火器使用自由」
 対潜戦闘においては短魚雷を投射するぐらいしか能のない戦艦であるが、相手が浮上しているのならば話が違う。通信員に頷いたエルウィンは、艦内電を手に取り、CICで激発寸前になっているであろう砲雷長に命ずる。
「艦橋よりCIC。砲雷長、射撃指揮を任せる。今まで溜まっていた分、あの化け物に打ち込んでやれ」
「ハッ! 砲雷長、射撃指揮いただきます!」
 射撃指揮権を受領した砲雷長は、歓喜も露わに復唱すると、手持無沙汰の対潜戦闘で溜まった鬱憤を晴らすかのような大声で射撃命令を下す。
「右砲打撃戦! 主砲斉発、戦術データリンク指示の目標。右75度、距離24000」
「右75度、距離24000。射撃管制レーダーによる測敵よし」
「主砲斉発、攻撃はじめッ!」
 短音が2回、長音が1回。主砲発射を告げるブザーが鳴りやむと同時に衝撃と轟音。第1戦隊に所属する戦艦が装備する長砲身48センチ砲から一斉に放たれた砲弾は、地域内では飛びぬけた性能を持つ射撃管制レーダーによる高い精度と共に飛翔し、<激浪>へと殺到する。
 900mmを超える装甲貫徹能力を持ち、直撃すれば一撃のもとに<激浪>を葬る程の威力を誇る主砲弾。しかし、それらは弾着直前に<激浪>の迎撃機構によって撃ち落とされる。
「やはり、一筋縄ではいかんな」
 半ばこの結果を想定していたエルウィンは、彼方で炸裂する火球を確認すると、すぐに艦内電を手に取る。
「砲雷長、構わんからそのまま打ち続けろ。目標を現在位置に釘付けにし、迎撃能力を飽和させるのだ」
通常戦力によってオブリビオンマシンを無力化することは、不可能ではないがあまりにも経済性が悪すぎる。それを幾度かの猟兵達との共闘で体感していたエルウィンは、現在<這底>との戦闘を実施している第4戦隊と第6戦隊との回線を開き、必要な調整を実施すると、猟兵達との連絡に使用している周波数に通信ユニットを接続する。
「艦隊特殊戦力調整官より、戦闘中の猟兵諸君に対し、セクターB-14に出現した<激浪>との戦闘加入を要請する。継続中の<底這>との戦闘は、第4戦隊および第6戦隊がこれを引き継ぐ。詳細な機体諸元はデータリンク上に後送するが、<激浪>の水上戦能力はキャバリアではなく戦艦のそれであり、加えて海水を利用した自己再生能力を有する。攻撃の際はくれぐれも留意されたし」
 これでまた猟兵達に大きな借りを作ることになる。これが最善の選択であると理性は理解していても、複雑な感情がないわけではない。しかし、余人がエルウィンの表情からその様な感情を読み取ることはできないだろう。それが、彼が大戦艦の艦長を務める資質を持った人間であることの証左であった。
イリア・ナイン
ディさんと一緒に

【SPD】

うーん…これはまた、清々しいまでに水の利用に特化していますね
生憎、私では水そのものに働きかける事は出来ません
ですので…お願いしますね、ディさん
私は、私に出来るやり方で、攻めてみます…!

水を徹底的に利用するならば、私もそれを利用するまで
海に電流を流して漁をするのは、禁じられていると聞きますが…生憎でしたね
平和を乱す機械の魚には、UC最大出力で容赦無く感電してもらいます…!
機能強制停止中であれば、ディさんの攻撃でUCを封じられる筈…あとは、全て斬り捨てていくのみ、です


ディ・アルカード
「海上」SPD

次から次とナンギな話や
提供された『激浪』のデータを
ハウンド・ドッグのモニターに映し出し、イリアと共有しながら戦略を練ります

なるほど
周囲の水を艦装化な、、、、
まぁええ、やって貰おうやないか

この海上は、もうオレの術式領域や
好きにできると思うなよ?

さーて、ほな始めよか?
オレの本気見せたるで!!

ユーベルコードは【吊られた男】
周辺の海水を全て使い魔化することで、自分に有利な任意の環境に作り替える!!
艦装化した海水の支配を奪取し
任意の形状の設置型トラップを設置
内容は
拘束のバインドと海上へ打ち上げるノックアップ

素材は周囲の海水や避けれるなら避けてみ!!
ユーベルコードを封じたるわ



「次から次と、ナンギな話や」
 半ば呆れたような声色で眼前の現実に対する率直な所感を述べつつ、ディ・アルカードはデータリンクから受信した敵機体諸元を確認する。
 先ほどの戦闘と同様、海水を使役し足場としながら駆ける<ハウンド・ドッグ>のメインカメラは、既に<激浪>の機影を捉えていた。彼我の距離は未だ数km程は離れているにも関わらず、はっきりとその巨影を見て取れる。
「うーん…これはまた、清々しいまでに水の利用に特化していますね」
 サイキックウィングを用いて<ハウンド・ドッグ>の上空に位置取る<ヒミングレーヴァ>を操るイリア・ナインもまた、<激浪>の動きを目視で確認しながらその能力を確認する。
 攻撃にしろ、防御にしろ、海上にあってその本領を発揮する<激浪>の能力は、周囲に海水が存在する限り無尽蔵と言ってよい。猟兵達が会敵するまでの時間を稼ぐために皇国艦隊から投射されている、1機のキャバリアに対して発揮されるものとしてはあまりにも過剰な火力。その悉くを迎撃している護りを打ち崩すには、如何に猟兵と言えど相応の対策が必要となるだろう。
「周囲の水を艤装化な。まぁええ、やって貰おうやないか」
「生憎、私では水そのものに働きかける事は出来ません。ですので……お願いしますね、ディさん」
「おう、任しとき」
 相手が無機物である水を使うのであれば、やりようはいくらでもある。ディは僚友であるイリアに請け負って見せると、<ハウンド・ドッグ>に拍車をかける。
「さーて、ほな始めよか? オレの本気見せたるで!」
「行きます!」
 <ハウンド・ドッグ>と<ヒミングレーヴァ>の突入を援護するように<激浪>周辺に着弾した砲弾がひときわ大きな水柱を立ち昇らせる。
 陽光を乱反射させる水しぶきを引き裂くように<激浪>へと接近する2機のキャバリア。その存在を積載したレーダーで探知した<激浪>は、即座に周囲の海水から迎撃用の砲門を形成していく。
「私は、私に出来るやり方で――!」
 水を直接制御することは叶わずとも、それを利用することはできる。戦場の環境と自らの能力に親和性を見出していたイリアは、機体から超高出力の電磁パルスを<激浪>周辺に向けて撃ち放つ。
 <ヒミングレーヴァ>から放たれた電磁パルスは瞬く間に<激浪>周辺の海水に伝導し、今まさに挑戦者を薙ぎ払わんとしていた無数の砲門へと到達する。
 高出力の電流が<激浪>の躯体内に流れ込むことによって生じる電子系統の損傷は火器管制システム動作不全を誘発し、<ヒミングレーヴァ>と<ハウンド・ドッグ>に向けられるはずだった砲撃を明後日の方向へと逸らすことに成功する。
 そして、<激浪>を襲った損害はそれだけに留まらない。制御された電磁パルスによって瞬間的に千度近くにまで熱せられた海水は即座に蒸発し、その体積を急激に膨張させる。その結果として発生した水蒸気爆発は、蒸発した大量の海水の体積相応の衝撃波を<激浪>の躯体各所に叩きつけ、胸の悪くなるような音と共に巨体を覆う装甲を破断させていく。
「海に電流を流して漁をするのは、禁じられていると聞きますが……生憎でしたね」
 電磁パルスによって生じた電子系統の損傷と火災、そして副次的効果として現れた水蒸気爆発による装甲の損壊は、<激浪>に修復能力を使用させるに十分なものであった。
 本来であれば<激浪>の能力を増幅させる警戒すべき状況。しかし、次の一手を放つディと<ハウンド・ドッグ>にとっては願ってもない状況でもあった。
「この海上は、もうオレの術式領域や。好きにできると思うなよ?」
 <激浪>が海水を操る能力を持つと同様に、ディが持つ能力もまた周囲の無機物を使い魔として使役する物である。彼は<激浪>が猛烈な速度で艦装化していく海水を使い魔として使役し、<激浪>内部に取り込まれた海水によって修復を阻害していく。
 ディの仕掛けた罠はそれだけに留まらない。彼は修復の妨害に並行して外部の海水を操作し、<激浪>の動きそのものを封じる拘束具を形成し全長200mの巨体へと水の縛めを打ち込んでいくのだった。
「さぁ、これで仕上げや!」
 ディは裂帛と共に、<激浪>周辺の海水すべてを使い魔化すると、それらすべてを間欠泉の要領で一斉に噴き上げさせる。大量の海水が吹き上がることによって生じた運動エネルギーは、果たして数千トンもの水中排水量を誇る<激浪>の巨体を一時的にしろ重力の軛から解き放つことに成功した。
「イリア!」
「合わせますっ!」
 空中に放り出された<激浪>の下腹部目掛けて、ディは海水を足場に<ハウンド・ドッグ>を跳躍させ、電磁パルスを発振させるブラストクローを叩きつける。
 それと同時に<激浪>直上から急降下した<ヒミングレーヴァ>は、その手に持つ二振りの長剣を、急降下の運動エネルギーと共に<激浪>の上面装甲板へと叩きつけた。
 轟音と共に分厚い装甲を引き裂いた2機のキャバリアは、その勢いをもって急速に離脱する。
 一拍おいて海面に叩きつけられ、大量の水しぶきを上げた<激浪>には、その再生能力をもってすら修復に相応の時間を要する損傷が刻まれていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウィリアム・バークリー
状況了解。海面へ向かいます。
足場になる小型艦を一隻都合してください。
艦ごと「目立たない」よう遷移し、それでも『激浪』に射線が通る位置取りをお願いします。

大物を相手するなら、相手の内部に入り込むか、圧倒出来るほどの打撃を加えればいい。ぼくが選ぶのは後者です。

原理砲『イデア・キャノン』用意完了。
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」「衝撃波」「貫通攻撃」、レディ。
トリニティ・エンハンスで攻撃力上昇。スチームエンジン、影朧エンジンを原理砲に接続。Spell Boost。
Elemental Cannon、発射準備良し。Mode:Final Strike。Idea Cannon Full Burst!




 損害を与えれば与える程に戦闘力を強化する<激浪>との戦闘において肝要なのは、再生しその戦闘力が強化される前に、それを圧倒する火力を投射し続ける事にある。
 海面へと浮上する途中で、配備された念導ブイから<激浪>の諸元を確認したウィリアム・バークリーはそう結論付けると、生身の身体を生かした内部からの破壊工作と大火力の投射という選択肢を秤にかけ、後者を選択した。
 彼のプランを実行に移すには、なんにせよ激浪に対しての射線と、大魔術を行使するための足場を確保することが肝要となる。
 ウィリアムから発せられた皇国艦隊に向けての要請に応えたのは、<激浪>に最も近い位置に存在する第四戦隊所属の第三二護衛隊であった。
 古くは艦隊決戦時において敵艦隊に肉薄し、魚雷攻撃を仕掛ける水雷戦隊をルーツに持つ第三二護衛隊は、艦載レーダーと精密誘導兵器によって同種の戦法が自殺と同意義になった現在においても、創設時の気風を色濃く残す部隊であった。
 四隻の対潜駆逐艦からなる第三二護衛隊は、第四戦隊の対潜警戒序列を一時的に離脱すると、ウィリアムの乗せた艦を最後尾とした単縦陣を生成する。
「キャプテン、要請に応じていただき感謝します」
「なに、生身で北の艦隊を無茶苦茶にした君の企みだ。共謀できるだけ名誉というものだよ」
 本来なら哨戒キャバリアを待機させる後部甲板において自らウィリアムを迎えた駆逐艦長は、交戦的な笑みを浮かべつつ続ける。
「これより本艦は単縦陣を離脱し、独航にうつる。先行する他艦が雷撃によって敵の注意を引いている隙に<激浪>へと接近し、君に一撃をかましてもらうという寸法だ」
 当然、接近する艦と同様、囮となる他三艦の抱えるリスクも相当なものだ。それを理解するウィリアムを慮ってか、壮年の艦長は笑いながら言葉を続ける。
「うちの隊は血の気が多くてね。隊司令なぞ、爺さんの代以来の対艦雷撃だと張り切っていたよ」
「それは、ますます期待に応えなければいけませんね」
 配慮を察したウィリアムもまた笑顔で答え、艦長の敬礼に対して一礼をもって応える。指揮のため艦内へと戻るその背を見送りながら、彼は自らの成すべきことを果たすため原理砲の詠唱準備を整えていく。
 後方から絶え間なく投射される戦艦からの砲撃と、対艦ミサイルを隠れ蓑にして接近した第三二護衛隊は、<激浪>をその主砲と艦載魚雷の射程内へと捉えると、ウィリアムが座上する艦の存在を気取られぬよう雷撃戦を開始する。
 確実に損傷を負っているとは言え、未だ<激浪>の迎撃能力は健在である。音速を超えて飛来する速射砲弾と時間差をおいて放たれた魚雷を、海水で形成した砲台によって迎撃しながら、接近する三隻の護衛艦に向けて高圧水の奔流を放つ。
 猟兵達の攻撃を受け、火器管制システムに部分的な機能不全が発生しているとは言え、連続して放たれる大奔流は、徐々に囮となった護衛艦を捉え始める。
 ウィリアムを乗せた護衛艦が、理想的な射撃位置への遷移を完了したのは、複数の奔流が先頭の護衛艦を挟夾したタイミングであった。
「トリニティ・エンハンスで攻撃力上昇。スチームエンジン、影朧エンジンを原理砲に接続」
 武器の威力を増幅させる魔導エンジンを原理砲へと接続し、ウィリアムは原理砲の詠唱を開始する。詠唱と共に練り上げられた魔力が積層型の立体魔法陣を形成し、魔力を収束し前面に投射するための仮想砲塔を形成していく。
「Idea Cannon Full Burst!」
 詠唱が完結すると同時に、互いに相反する精霊力が幾重にも多重展開された魔法陣によって強引に収束それる形で発現。意図的に不安定化された魔力の奔流は、音速を優に超える速度で一直線に<激浪>へと迫る。
 互いに反発しあう高密度の魔力は、<激浪>の背部装甲へと着弾。貫徹した衝撃によって一気に激発。強引に収束されていた不安定な魔力が連鎖的な反応を引き起こし、複数の精霊力による衝撃波が<激浪>の強靭かつ重厚な複合装甲を内部から引き裂いていく。
 ウィリアムと第三二護衛隊による共同攻撃は、損傷を負う<激浪>に対してさらなる大打撃を与える事に成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
海上

此奴の技なんかお前らと似てますね
此奴らも神機シリーズなんですか?
「いや流石に違うんじゃないかな?発想は向こうのが洗練されてるかもだけど☆」
んじゃ負けちゃうか?
「そんなわけないよ☆メルシー達はさいきょーだよ♪」

【情報収集・視力・戦闘知識】
機体の構造とシステム
特に人が乗ってるかと武装部分を捕捉

対国鳴
【迷彩・念動力・武器受け】
UC発動
暴走衛星に捕捉されない高度で超高速で飛び回り一斉砲撃を全力回避
避けきれないのは念動障壁を展開し更に鎌剣で防
【属性攻撃・弾幕】
超冷却凍結弾を砲撃兵装より怒涛の乱射
主に海を狙い凍結させて動きを止め
【二回攻撃・切断・盗み攻撃・盗み】
鎌剣での連続斬撃で武装を切り取り強奪!


テラ・ウィンディア
海上

うわー…でっけーな

だからこそ…此処で止めないとな
でも…なんでわざわざ浮かんできたんだろうな?

【戦闘知識】
敵機の構造と攻撃動作などを観察して分析
後は人が乗ってる部分の把握

【空中戦】
海上を飛行しながら突撃

UC発動
【弾幕・遊撃・貫通攻撃】
ドリルビットとガンドライド展開
弾幕で動きを止めながら
ドリル突撃で機体に穴をあける
【見切り・第六感・残像・オーラ防御・武器受け・属性攻撃】
土属性のオーラを機体に纏いながら残像を残して飛び回り回避に努め
避けきれないものは大地のオーラと武器で防ぐ

【二回攻撃・早業・串刺し】
剣による斬撃から傷つけた部分に槍での串刺し

【重量攻撃・砲撃】
最後にブラックホールキャノン発射!!


玉兎姫・カグヤ
戦場:海上
共闘アレンジ歓迎

デカブツが出張ってきたわね
周囲の水を艦装化し攻撃する……なら!
今回はいつもの空戦用高機動モード
高速三次元機動を行ながらバリアを張り
当っても支障の少ない攻撃をバリアで受けつつ
UCで転送してもらった冷凍光線砲で周囲の海ごと激浪を凍らせます
周りの海を凍り付かせればこいつの脅威をダウンさせつつ動きを封じることが出来る!
デカイ一発は持ってないから、とどめは他の人に任せて支援に徹するわ
天軍の剣は基本、対地対空で水の中には撃てないし
こういうデカブツを仕留める大火力を自前で用意できないのは今後の課題かしらね




「注文通り、届いてるわね」
 暗く息苦しい深海から、数刻ぶりに陽光が支配する水上へと帰還した玉兎姫・カグヤは、水中戦用装備の後追いで戦場に到着した<ヴォルパーティンガー>向けの使い兵装に対する出撃前チェックの最終段階、パイロットチェックを完了させつつあった。
 エーゲル島を巡る一連の戦闘によって、猟兵達が操るキャバリアの整備経験を積んだ強襲空母<ヘルマン・ミュラー>の飛行甲板上で換装された冷凍光線砲は、急ピッチの作業にもかかわらず問題なく機体に適合し、パイロットのカグヤの目から見ても十分に実戦投入可能と思われた。
これは、山と積まれた新兵器のマニュアルと格闘した彼女と整備クルーの努力と能力の結実であることは勿論であるが、玉兎姫重工製兵器の品質の高さの表れであるとも言えよう。
「<ヴォルパーティンガー>よりコントロール、最終チェック完了。出撃可能と認む」
「こちらコントロール、了解した。貴機の発艦を許可する。カタパルト誘導員の指示に従い、発艦を開始せよ。幸運を、<ヴォルパーティンガー>」
 カグヤはパイロットスーツの気密を確認すると、整備員との会話のため開いていたコクピットブロックを封鎖する。心地よく吹き付けていた潮風と陽光が遮断され、メインディスプレイ上に光学情報として処理された外界の光景が投影される。
 キャバリア発艦用の電磁式カタパルトに機体を固定したカグヤは、スロットルを操作し機体推力を戦闘推力まで上昇させる。コクピット内に伝わる振動から、甲板上ではで<ヴォルパーティンガー>の主機から発生する轟音が響いていることが容易に想像できた。
 機体の右下で合図を送る誘導員が、<ヴォルパーティンガー>のメインカメラに向けて敬礼を送ると、姿勢を倒れ込ませるように低くし、空母甲板の戦闘に向かって腕を大きく指し示す。それが、カタパルト始動の合図だった。
 空母の反応動力機関から動力を供給される電磁カタパルトが、<ヴォルパーティンガー>に猛烈な運動エネルギーを与えながら、空母前方へと射出する。前方から後方へのベクトルを持った強烈な重力耐えた後にやってくる浮遊感は、カグヤと<ヴォルパーティンガー>が本来の戦場、即ち大空へと戻ったことを示していた。


 猟兵達による<激浪>に対する飽和攻撃に加わるべく、戦場に現れた二柱の神機。
テラ・ウィンディアの操る三界神機<ヘカテイア>と、カシム・ディーンの操る界導神機<メルクリウス>は、損傷を回復させながらも間断なく降り注ぐ砲弾とミサイルを迎撃し続ける敵手を上空から見下ろしていた。
「うわー……でっけーな。たしかに、あれなら島一つ沈めるってのにも頷けるか」
 既存のキャバリアとは隔絶した存在感を持つ神機を操るテラの目から見ても、眼下に存在する<激浪>の存在は圧倒的であった。あんなものが沿岸に到達してしまえば、確かにその被害は甚大だろう。だからこそ、自分たちがここで食い止めねばならない。
「でも……なんでわざわざ浮かんできたんだろうな?」
 海上にその姿を現した現在であっても強大な戦闘力を発揮する<激浪>であるが、転送された諸元を見る限り、真にその恐ろしさを発揮する戦場は海中である筈。テラを含めた猟兵達にとっては都合のいい展開ではあるが、それ故になにがしかの作為を感じざるを得ない状況でもあった。
「味方の通信やデータリンクの記録を見る感じ、浮上直前にどっかから攻撃を受けてるっぽいんだよね。案外、見えないところに意外な味方が居たりして☆」
 テラの疑問に答える様に、場違いな程明るい声が無線越しに響く。声の主はカシムの相棒、メルシーこと<メルクリウス>である。
「まぁ、なんにせよ、此方に優位な状況であるうちに片付けてしまいましょう。こちらが先行して敵の武装を制圧します。後詰めはお任せしますよ」
 心得たとのテラの応答と同時に、カシムは<メルクリウス>へと拍車をかけ、猛烈な加速と共に<激浪>の懐へと突貫する。
 自らへと接近する神機を捉えた<激浪>は、即座に火器管制機構内の高脅威目標を変更し、先頭に立つ<メルクリウス>へと大量の砲門を指向させる。周囲の物質を触媒に自らの艤装を変換する様は、どことなく<メルクリウス>のそれと同質なものをカシムに感じさせた。
「しかし、此奴の技なんかお前らと似てますね。 此奴らも神機シリーズなんですか?」
「いや、流石に違うんじゃないかな? 発想は向こうのが洗練されてるかもだけど☆」
 確かに、あらゆる物質を対象に取る<メルクリウス>と比べ、水という物質に限定して変換する<激浪>の方が、物質の変換効率は優れているように見える。神機を持ってすら対応に難儀するほどの迎撃網は、その証左と言っていいだろう。
「なんだ、んじゃ負けちゃうか?」
「そんなわけないよ☆ メルシー達はさいきょーだよ♪」
 半ば予想通りの相棒の返答に、カシムは軽く微笑む。カシムもまた、思うところは同一であった。反応が面倒くさいことこの上ないため、決して口には出さないのであるが。
「あっ、その表情! やっぱり思うところは一緒ってことだね、ご主人サマ☆」
「ええい、うるさい。 余計な所にリソースを使うぐらいなら、敵の解析を急いでくれ」
 緊張感に欠ける問答を続けつつも、<激浪>の迎撃網を掻い潜ったカシムと<メルクリウス>は、有効射程に入ると同時に超冷却凍結弾を装填した兵装のトリガーを引き絞る。<激浪>そのものではなく、艤装変換の触媒となる周辺の海水目掛けて放たれた冷却凍結弾は、着弾と同時に海水を凍結させ、周辺に展開されていた<激浪>の兵装を使用不能へと追い込んでいく。
「やはり大本を封じれば一時的にでも無力化はできますか。そして――!」
 兵装が凍結することによって生じる部分的な迎撃網の間隙をついて一気に<激浪>の懐に入り込んだ<メルクリウス>は、機体を象徴する大鎌剣「ハルペー」を振りかぶると<激浪>本体に直接装備された兵装を根元から刈り取り、賢者の石の権能をもってその制御を獲得すると、即座に元の主へと打ち放つ。
 戦艦と同様の設計思想のもと、自らの主兵装の直撃に耐えられるよう設計された<激浪>の装甲ではあるが、ほぼ零距離で放たれた攻撃には耐えきれるものではなかった。命中個所には小さくない破孔が生じ、攻撃ではなく修復にリソースを割り当てる事を<激浪>に強制する。
「敵機内部の構造解析、八割方完了したよ! 正直信じられないけど、内部に生命反応ナシ。本当に無人で動いてるみたい」
「知れば知る程冗談みたいな機体ですね……! <ヘカテイア>、聞きましたね? 敵は無人です、加減はいりません」
「了解! 正直、助かる――っと!」
 率直に言えば、加減が効く相手ではない。カシムと<メルクリウス>から齎された情報に安堵しつつ、テラは前衛がこじ開けた防衛網の隙間から<激浪>に向けて一直線に突進し、二体のドリルビットを突撃させながら浮遊自走砲台を用いた接射を試みる。
 猛烈な運動エネルギーと共に<激浪>の側舷装甲に接触したドリルビットは、大量の火花と共に装甲を掘削し、<メルクリウス>が作り出した装甲の破孔をより大きなものへと拡大させることに成功する。
 ドリルビットの後を追うように接触した<ヘカテイア>は、その手に持つ星刃剣で装甲の一部を破断させ、破断面へと突き入れられた紅龍槍による超高温を伴った衝撃によって、分厚い<激浪>の装甲を完全に貫徹する。
 装甲ではなく<激浪>本体に備え付けられた砲門に向けて放たれた自走砲台による砲撃もまた、幾つかの砲門を無力化するという戦果を挙げていた。
 しかし、<激浪>の躯体はあまりにも巨体であった。凍結した海水を自らの排熱によって溶かす一方で、未だ凍結を免れている海水を用いて新たな砲門を生成すると、一時は自らに取り付いた二機の神機に向けて猛然と射撃を再開する。
「……どうにも、千日手のようになりそうですね」
 一足先に離脱し、テラの離脱を援護するため新たな氷結弾を海面へと打ち込むカシムと<メルクリウス>。確実に損害を与えてはいるものの、その修復能力を凌駕するほどの威力とは言い難い。
「高威力の攻撃なら、こっちに用意はある。一瞬でもあの迎撃を封じ込められれば、より確実に行けると思う」
 <激浪>の迎撃を完全に沈黙させるためには、一時的にせよ周辺の海水をすべて凍結させる必要がある。カシムが<メルクリウス>と共に実現方法を計算しようとしたまさにその時、かけていたピースを埋める戦力からの通信が二人と二柱へと届く。
「こちらは<ヴォルパーティンガー>、そちらの通信を聞かせてもらったわ。当機は冷凍光線砲を装備中。企みに乗れると思うけど、どうかしら」
 カシムは自身と同じ対策を講じていた猟兵の存在に感謝しつつ、<ヴォルパーティンガー>の存在を変数に加えて再度計算を実施する。結果として、先ほどに比べて大きく成算が増していた。
「<ヴォルパーティンガー>、騎兵隊はいつでも歓迎ですよ。こちらは敵右弦に仕掛けます、左舷はお願いしても?」
「承ったわ。こちらは十秒後に戦闘空域に突入する」
「結構。では行きましょう――!」
 カグヤが操る<ヴォルパーティンガー>が猛烈な速度で側方を通過すると同時に、カシムもまた再び<メルクリウス>に拍車をかける。
 最大戦闘推力を維持したまま<激浪>左舷側へと侵入したカグヤと<ヴォルパーティンガー>は、自らに向けられた無数の側舷砲からの射撃を三次元機動によって巧みに回避していく。
 上下左右から襲う強烈な重力負荷に耐えながら、<激浪>の頭部から尾部に向けての長大な面積に対し、カグヤは冷凍光線砲の引金を絞る。
 果たして、突貫で備え付けられたにもかかわらず、新装備はカグヤの期待に応えて見せた。<激浪>の頭部から尾にかけて縫うように照射された冷凍光線は、<メルクリウス>の冷却凍結弾と同等の速度で周囲の海水を凍結させ、<激浪>の左舷周辺に存在した海水を悉く氷塊に変える事に成功する。
 先ほどと同様の要領で突入した<メルクリウス>もまた、<ヴォルパーティンガー>と同様に<激浪>右舷周辺の海水を凍結させる。
 カシムとカグヤによる即席の連携は、見事に<激浪>周囲に存在する海水を無力化し、その迎撃網を一時的な麻痺状態に追い込むことに成功したのだ。
「リミッター解除……グラビティリアクターフルドライブ……!」
 二人の連携による成果を生かすべく、テラはブラックホールキャノンの砲門を<激浪>の機体中央へと向ける。
「とっておきだ! たっぷり味わえー!」
 <ヘカテイア>から放たれたブラックホールキャノンは、迎撃による妨害を受けることなく<激浪>へと命中する。強大な重力源の直撃を受ければ、如何に巨大な機体とは言え生半な被害では収まらない。
 氷塊となった周囲の海水共々、金属が引き千切れる轟音と共に<激浪>の装甲は次々と圧壊し、奇妙な程生々しい大きな傷跡を<激浪>の躯体へと刻み付ける事に成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
●SPD&水中(浅)、真の姿もとい【リミッター解除】

大きい…まるで戦艦、いえ戦艦そのものです
キャバリア程度の火力では一撃では落とせませんし、修復能力があるとすれば生半可な攻撃は弾の無駄になってしまいますね
それなら…『船』であれば必ずある弱点『竜骨』に狙いを絞ってみましょう

ピースメーカー、急速浮上開始
全ての水中推進用装置をフル稼働させて【水中機動】性を限界点を維持
迎撃の前兆をセンサーが感知しましたら、水中推進用装置を一部のみ残して緊急停止
全デコイをパージしてピースメーカーの擬音を響かせ撹乱させます
有効射程内に入りましたら連装スピアガンの【破鎧の魔弾】を船底に撃ち込み、そこへ驟雨魚雷の【追撃】です




「大きい……まるで戦艦、いえ戦艦そのものです」
 深海域から急速に浮上した<ピースメーカー>を操る秋月・信子は、機体の自己診断機能を用いて各部位の駆動に問題ないことを確認しつつ、受信範囲内に入った念導ブイから齎される<激浪>の諸元に目を通す。
 猟兵達による飽和攻撃によって、<激浪>の船体には夥しい損傷が刻まれている。にもかかわらず、依然としてその迎撃能力と再生能力は生半なオブリビオンマシンのそれを遥かに超越した水準を維持していた。
 恐るべきは、機動殲龍の性能か、オブリビオンの執念か。或いはその双方が<激浪>にカタログスペック以上の力を与えている。常人だけではなく、猟兵にすらそう思わせるだけの戦力を、手負いの<激浪>は有していた。
「未だにあれだけの修復能力を備えているとなると、キャバリア程度の火力では一撃では落とせませんね」
 <激浪>の特性を考えれば、生半可な攻撃はかえって害にすらなり得る。データリンク上から取得した諸元からそのように判断した彼女の見立ては妥当なものであった。
 周囲の水を艤装化し、損傷に応じて自らの能力を強化する<激浪>に対しては、その再生能力を超える損害を与え続けなければならない。しかも、その戦艦並みの対空、対水上、対潜迎撃網を掻い潜った上で、である。その難易度は、まさに至難と言うべきものであった。
「それなら……"船"であれば必ずある弱点"竜骨"に狙いを絞ってみましょう」
 信子の呟きは、彼女が<ピースメーカー>の現有火力で最大の効率を得るために為すべきことを理解していることを示していた。キャバリアではなくほぼ戦艦と評しても良い<激浪>の艦底部、復元力を司る部分を叩くことができれば、キャバリアが保持する火力でも相応の打撃を与えることが可能であろう。
 攻撃を加えるにあたって、まずは<激浪>の迎撃網を突破する必要があるが、幸いにして水上では皇国軍艦隊による援護砲撃が続いている。無数の砲弾が海面へと叩きつけられる騒音によって、<激浪>にも搭載されているであろうパッシヴソナーを用いた聴音はほぼ不可能と言ってよい。
 静粛性に気を使う必要はないと判断した信子は、<ピースメーカー>の水中推進装置をフル稼働させる。砲撃の騒音に紛れる形で<激浪>への接近を果たした彼女は、諸元上にあった念導波探信儀の探知限界直前で最低限の推進装置だけを残し動力をカットする。同時に残存しているデコイをすべて放出し、<激浪>の音響と念導輻射双方の探知能力を攪乱を図る。
 海上の騒音にもかかわらず、<激浪>の近接探知能力は大したものと言ってよい。複数展開されたデコイは一機、また一機と迎撃に晒され、囮本来の役目を果たし爆散していく。
 <ピースメーカー>が、その武装の射程内へと<激浪>を捉えたのは、残存するデコイの数が片手で数えるに足りる数まで打ち減らされた時であった。
 射程に入ると同時に引き絞られたトリガーと連動し、<ピースメーカー>の連装スピアガンから対装甲用に加工された大型の矢が射出される。
 信子の能力によって装甲貫徹能力が数十倍にまで引き上げられた複合金属の矢は、幾重にも張り巡らされた装甲を水のように刺し貫き、巨大な装甲竜へと突き刺さる。
「貫いた! 後はこれで――!」
 ヒルジキールと目される部分に等間隔で楔を打ち込み、その装甲に歪みを作り出した信子は、形成された脆弱部に向けて追撃の驟雨魚雷を撃ち放つと、機体を反転させ急速に離脱する。
 発射された驟雨魚雷は、発揮可能な最大水中速力に到達すると同時にスピアガンの命中個所に着弾。弾頭内に封じられた炸薬によって生じた衝撃波は、装甲の歪みを通して<激浪>の竜骨部の一部へと浸透し、その衝撃波によって完全に破砕することに成功する。
 戦場の環境と、自身の機体が持つ武装から最適な攻撃手段を選び取った信子は、単独のキャバリアとしては破格の損害を<激浪>へと与える事に成功したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
水中(浅)

ハルシュタイン大佐に通信

性能を鑑みて、沈んだ残骸すら二国の新たな火種となり得ると思われますか?
完全破壊の為ならば、案が御座います

(水中戦用改修終えたロシナンテⅣ搭乗)

驟雨魚雷で注意引き付け
奔流砲発射を水中機動推力移動で範囲外へ退避…!

沿岸部を一掃出来る代物ですね…

ですが、威力の観測で制限が解除されました
虐殺兵器は…あの方はお嫌いでしたね

電脳魔術でキャバリアサイズに電脳禁忌剣巨大化
次弾UCを限界突破した巨大電脳ゲートに吸い込み模倣

激浪の底部に座標再設定
奔流砲を乱れ撃ち

己の力で戦域外…殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)の領域へ向かって頂きます
或いは聖なる杯に…星の海に手が届くやもしれませんよ


ルイン・トゥーガン
【水中(浅)】
アドリブ歓迎

まったく、あれの何処がキャバリアだっていうんだい!
あの巨体でしかも自己再生だって?
フォノンメーザー砲やクローで多少穴開けても再生されるんじゃスーパーウォッグじゃ完全に火力不足だよ!
ったく、割に合わない仕事だねぇ!
水流制御装置を活かして隙を伺って潜んでいくけど……さて、火力をどうするかねぇ?
……チッ、最後の手段しかないかねぇ?
水陸両用核ミサイル、いや、この状況だとほぼほぼ核魚雷だね
一発だけ持ってきたこいつを使うしかないかねぇ?
ただ、後々の汚染やらなんやらで本当に使っていいのかね?使っちゃ拙いなら、精々支援ぐらいしかできないんだけどねぇ?
さて許可を取ってる暇があるかねぇ?




 ほぼ時を置かずして実行された猟兵達による飽和攻撃によって、<激浪>の発揮する交戦能力は、明らかな下降線を描きつつあった。
 既に<激浪>が持つ迎撃網にも明確な綻びが生じており、致命的な戦艦の主砲弾に対する迎撃こそ行われているものの、通常弾頭を用いた対艦ミサイルに対してはその能力の限界故に着弾を許している。
 既に原型を留めぬほどの破壊に晒されつつも、未だにその迎撃網を維持していること自体が驚異的であると言ってもよい。例えオブリビオンマシンとして蘇った過去の亡霊とは言え、機動殲龍<激浪>が繰り広げる戦闘は、海軍の禄を食む人間に羨望すら抱かせるものであった。
 しかし、事ここに至って皇国艦隊首脳の関心は、"どうやって沈めるか"ではなく"どのように沈めるか"に移りつつあった。存在そのものが戦略兵器級の代物だけあって、その後始末にも細心の注意を要することは論ずるまでもない。
 或いはその出自故か。トリテレイア・ゼロナインは、その危険性にいち早く気が付いた猟兵であった。
「ハルシュタイン大佐。<激浪>の性能を鑑みて、沈んだ残骸すら二国の新たな火種となり得ると思われますか?」
「やはり、気付かれますか。ええ、今のところの懸念はまさにそれです。処理の仕方を間違えれば、いらぬ火種が残りかねない」
 或いは、皇国海軍側にとっても、猟兵がその危険性に気が付くことは想定の内であったのかもしれない。トリテレイアから通信を受けた特殊戦力調整官、エルウィン・ハルシュタイン大佐は、至極あっさりとその危険性を認める。
「完全破壊の為ならば、案が御座います」


 トリテレイアの具申を受け、艦隊司令長官たるグンター・ブルックナー中将も交えて開かれた通信会談の席には、彼の他にもう一人の猟兵、トリテレイアとほぼ同時に意見具申を行っていたルイン・トゥーガンの存在があった。
「率直に申しますと、意外です。私の案が議論の俎上に上るとは」
 模範的な軍人を演じるルインではあったが、その提案内容はまさに究極的な解決であった。
 彼女の提案とは、彼女のスーパーウォッグに搭載された、皇国で言う所のキャバリア搭載型反応兵器の使用。即ち、小型核ミサイルによる、<激浪>に対する熱核攻撃である。
「まぁ、それが正しい反応だろうね。ただ、我が国の法に照らし合わせて、現在の状況においては、私の判断と責任において<激浪>に対する反応兵器使用は可能なんだ」
 クロムキャバリアという世界の制約上、本国とのリアルタイムな通信が難しい外洋艦隊を持つ皇国においては、戦闘が限定的反応兵器戦にエスカレーションした場合に備え、艦隊が保有する反応兵器の発射権限はその艦隊司令長官に属する。
 実際に使用可能となる要件は細かく存在するものの、戦略級以上の反応兵器と同等の扱いを受ける<激浪>が戦場に出現している以上、それらは全て満たされていると解釈されるのが彼と彼の法務幕僚とが出した結論であった。
「しかし、貴殿らが持つ反応兵器に対する懸念もまた、我々と同様です。そこで、皇国海軍としては、トゥーガン殿とトリテレイア卿の意見の折衷案を提案したい」
 グンターから言を引き継いだエルウィンが述べたのは、トリテレイアの能力と<激浪>の能力を利用し、殲禍炎剣の迎撃範囲まで<激浪>を打ち上げた後、ルインが保持する水陸両用核ミサイルを空中へと投射し、より致命的な殲禍炎剣の迎撃を誘発するという物であった。
 仮に、殲禍炎剣の迎撃が発生しなかった場合でも、小型核弾頭が炸裂すれば、至近にある<激浪>はほぼ間違いなく蒸発する。
 それなりにリスクの高い案ではあるが、どう転んでも<激浪>をこの世界から消失させる事が出来るものであった。


「……出来得ることなら、核など使わずに済ませたいものです」
 通信会談を終え、水中戦用改修を施した<ロシナンテⅣ>を操るトリテレイアにとって、それは偽らざる本心であった。
 キャバリアに搭載可能な小型弾頭とは言え、その危害半径は数キロ単位である。核実験も行われている国の領海とは言え、安易に炸裂させていいものでは決してない。
「いずれにせよ、まずは初動を凌がねば」
 どのような結果が待つにせよ、まずはトリテレイアと<ロシナンテⅣ>が<激浪>の持つ最大の兵装、「戦域一掃機構」による大奔流を凌ぎ切らなければならない。
 ひとまずは眼前の脅威に集中するべきと判断したトリテレイアは、戦闘に関わらない思考を一時的に打ち切り、意図的に援護砲撃が弱められたタイミングを見計らって<激浪>の懐へと突入する。
 未だ機能を保持している射撃管制レーダーが自らに照射されたことを確認したトリテレイアは、水上を蹴る推力偏向ノズルを操り進路を変更すると、<激浪>に向けて驟雨魚雷を発射する。
 猟兵達に対する戦力評価から、持てる全力を投入してトリテレイアと<ロシナンテⅣ>を排除すべしと判断した<激浪>は、苛烈な攻撃を受けてなお原型を残す背部激奔流砲と口内精密奔流砲を<ロシナンテⅣ>へと指向させ、大津波の濁流を連想させる程の大奔流を撃ち放った。
「これほどの威力……。その名の通り、沿岸部を一掃出来る代物ですね」
 <ロシナンテⅣ>の主機関を全力稼働させたうえで、推力ノズルの操作によって波に乗るかのように濁流の間を駆け抜けたトリテレイアは、辛うじて<激浪>の一撃を回避することに成功する。
「しかし、これで倫理制限が解除されました。願わくば、これで――」
 <ロシナンテⅣ>を<激浪>の方向へと再び反転させ、禁忌剣を抜刀する。
「不肖の騎士たる我が責において、貴女が厭うた悪夢を此処に」
 告解にも似た言葉と共に彼は自らが掲げる剣の能力を発動する。
 能力の発動と共に出現した巨大な電脳ゲートは、包み込むかのように<激浪>が撃ち放った大奔流を飲み込み、その威力を完全に模倣した大奔流をトリテレイアが複製した座標。即ち、<激浪>の直下へと発現させるのだった。


「第一段階は問題なく成功ってところかね」
 トリテレイアの能力によって複製された大奔流に突き上げられる形で、数千トンは優に超えるであろう<激浪>の躯体が上空に向かって跳ね上げられていく。
 たしかに、このままいけば殲禍炎剣の迎撃範囲に到達し、その鉄槌によって<激浪>は蒸発するやも知れぬ。
 しかし、いまだ多くの謎に包まれる殲禍炎剣を全面的に信ずるべきではない。ルインの提案は、より万全を期したい軍人たちにとって、何よりも魅力的なものであった。
「あの巨体、あの火力、おまけに自己再生。……まったく、あれの何処がキャバリアだっていうんだい」
 まったくもって割に合わない仕事だ。ルインは吐き捨てるように呟くと、一つ息を吸い、核弾頭の安全装置を解除する。
「……まったく、質の悪いB級映画だって、もうちょっとマシな結末を用意するもんさね」
 機体に施された対NBC処置を最終確認し、問題がないことを確認したルインは、弾頭の炸裂を既定の高度に設定すると、猛烈な速度で殲禍炎剣の御許へと打ち上げられる<激浪>に対して小型核ミサイルを発射する。
 周辺には、既に味方機の姿はない。対NBC戦の警報が発令された戦場は、不気味な程重い沈黙が支配していた。
「こちら、スーパーウォッグ。予定通り発射した。これより退避する」
 なんにせよ、これでまた一つの仕事が終わる。報酬の増額が確約されたことと、少なくとも此処には自分以外に責任を取る人間がいるのだ。それが彼女の心理にどのような影響を与えるかは定かではないが、少なくとも実害が降りかからないことだけは事実だった。


 猟兵達との戦いによって、まさに満身創痍となった<激浪>は、旧帝国の妄執から解放される時を待つだけの存在と化した。
 無論、機械に意思はない。しかし、その様を余人が見れば、幾許かの寂寥を禁じ得ないほどに、その姿は痛ましく、かつ勇壮であった。
 そして、その時はやってきた。
 クロムキャバリアの空を封じ、或いは守ってきた殲禍炎剣は、その超常的な探知能力によって迎撃範囲内に侵入した反応弾搭載ミサイルと大型のキャバリアを検知。ほぼ瞬間的に照準を固定すると、過去幾度となく不遜な挑戦者を葬ってきた鉄槌を下す。
 クロムキャバリアに存在した数多の人間たちが表現してきた殲禍炎剣の迎撃は、狙いをたがえることなく<激浪>とミサイルに着弾し、その熱量をもって存在そのものを滅却する。
 そこには人の意思も、オブリビオンの狂気も介在する余地はない。
 ただただ圧倒的な熱によって、機動殲龍<激浪>は、反応弾頭を共連れにこの世界から消失したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『バルコニーパーティー』

POW   :    機材を運び込み楽しむ。

SPD   :    細々した飾りを持ち寄り楽しむ。

WIZ   :    不思議な力で会場を盛り上げ楽しむ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 皇国と連邦共和国に破滅をもたらすはずであった<這底>と<激浪>の脅威を退けた猟兵達。
 戦いを終えた男女を乗せ、灼熱の戦場と化した海を後にした艦隊が入港するは、皇国本土に存在する都市、ハイリゲンシュタットであった。
 軍港都市という武骨な異名を持つハイリゲンシュタットは、湾岸部だけでも30万、周辺地域を含めれば100万近い人口を抱える大都市である。
 異名の通り域最大の軍港を持つハイリゲンシュタットではあるが、別の顔としてアザリア皇国随一のリゾート地としての側面も持っている。
 リゾート地としてのハイリゲンシュタットのはじまりは、艦隊と共に帰港する軍人たちに娯楽を提供するための歓楽街であった。
 海軍規模の拡大によって徐々に拡大していった歓楽街は、地域周辺に存在する数多くの景勝地に目を付けた企業による大規模な資本投下と都市整備を経てさらに肥大化。酒と娯楽を提供するだけであったかつての歓楽街は、今では独立して採算を維持できるだけの、ありとあらゆる娯楽を提供する大規模なリゾート地へと変貌を遂げたのであった。
 連邦共和国との戦時状態にある現在においても、その繁栄具合に目立った影は見られない。未だ皇国の経済体制が総動員状態に移行していない――あるいはその必要がない――という理由もあるが、戦時下の国民に対する一種のガス抜きとして、娯楽を提供する企業への助成が行われているのがその大きな要因であった。無論、交戦国である連邦共和国へのプロパガンダという側面も否定できるものではないが。

 そのような内情はともかくとして、エーゲル島を奪還し<激浪>という大きな脅威を退けた艦隊を迎えたハイリゲンシュタットでは、将兵への慰労と凱旋式を兼ねた式典が挙行されている。街全体がパレードの熱狂に包まれていると言っても過言ではない。
 皇国内の報道では猟兵達の存在も大きくクローズアップされており、どこに行っても歓迎されこそすれ、邪険にされるということはないだろう。
 巨大なリゾート地であるハイリゲンシュタットには、美しい砂浜は勿論、地域中の品物が集まる複合商業施設や、質の良いサービスと料理が提供される飲食店やクラブ、国営化されたカジノや美術館等、およそ沿岸部の観光地に存在する娯楽は全て揃っていると言ってよい。場所を探せば少々品のない娯楽にありつくことも出来る。
 また、望むなら海軍が保有する保養地――例えば砂浜や将校用のサロンなど――を貸切ることも出来るだろう。
 数日分の宿泊費も含め、滞在費はすべて海軍持ちである。戦火の絶えないクロムキャバリアにあって、平穏そのものと言っていい時間を過ごせる機会をどのように過ごすかは、猟兵達の嗜好次第であった。
●マスターより
 断章に記載している通り、現地には現実のリゾート地にありそうな施設は大体なんでもあります。
 また、過去のシナリオに登場したNPC(「触らぬ神に祟りなし」のボス敵搭乗者を除く)は大体現地に居りますので、登場可能です。
 猟兵が望む娯楽は公序良俗に反しすぎない範囲で実現できますので、めいめいに休日を過ごして頂ければ幸いです。
ウィリアム・バークリー
同行:オリビア・ドースティン(f28150)

戦勝会が開けるのも、あの『激浪』を完全破壊出来たからこそですね。
ここは、その功労者が集っているわけで。特に皇国海軍の方々に挨拶回りしましょうか。

服装はアルダワ魔法学園の制服で。ぼくの正装は、今はこれになります。
第三二護衛隊の隊長に、ぼくを乗せてくれた駆逐艦長を始め、囮を務めて頂いた他三艦の艦長さん達にも感謝の言葉を。
ハルシュタイン大佐とブルックナー中将にもご挨拶。
それにしても、皇国海軍の中でのぼくってどういう扱いになってるんですかと、苦笑してみせて。

こちらはぼくの恋人の、オリビアです。さ、挨拶を。

社交辞令はお終い。せっかくだ。オリビア、一杯食べよう。


オリビア・ドースティン
【同行者:ウィリアム・バークリー(f01788)】

服装は白銀レースのサッシュが入った真紅のドレス
「ウィリアム様はお疲れ様です」
ウィリアム様に労いの言葉をかけたら共に挨拶回りへ
「初めましてオリビア・ドースティンです。勇敢なる皆様に挨拶できて喜ばしい限りです」
綺麗なカーテシーをとります
挨拶を終えたらウィリアム様とパーティーを楽しみます
「クロムキャバリアでこういう機会に触れるのは初めてですが予想よりも活動しやすいですね。料理なども多種多様のようですし」
一緒に回りつつ料理に舌鼓を打ちましょう
「こちらのお料理も美味しいですね、ウィリアム様は気に入った料理はありましたか?」
二人でゆったり味わいましょうね




 海軍が国家を保有しているとも揶揄されるアザリア皇国にあって、海軍公会館という施設は特別な意味を持つ施設である。
 その伝統と同様の格式を持つこの施設は、すべての海軍軍人の棒給からその階級に応じて天引きされる会費によって維持運営される、海軍関係者であればその階級の別なく利用できる社交場であった。
 無論、羽目を外しすぎなければという但し書きが付くが、極端な例では海軍大将が会話するテーブルの隣で、新米少尉たちが酔いつぶれる情景すら発生しうるのだ。そして、海軍公会館で発生した不調法は、大抵の場合不問とされる。
 ある意味において、アザリア海軍のユニークな伝統を象徴するようなこの施設において実施されている戦勝会に、二人の猟兵の姿があった。
 一人は、この会場にいる大方の人間が既に知っているであろう少年、ウィリアム・バークリーである。
 彼にとっての正装であるアルダワ魔法学園の制服を身に纏うその姿は、戦う姿しか知らぬ他の出席者にとっては新鮮なものであると同時に、彼が未だ学生であるという事実を、改めて認識させることとなるだろう。
 もう一人、ウィリアムの傍らに立つ少女の名は、オリビア・ドースティン。
 彼女もまた猟兵であると同時に、ウィリアムのパートナーという立場でこの場に招待を受けた少女であった。
「ウィリアム様はお疲れ様です」
 楽団が演奏する弦楽合奏が響く会場にあって、暖色の光に照らされ、踊火のように煌めく美しいドレスの魅力を服従させているオリビアは、戦いを終えたウィリアムを労う。
「ありがとう、オリビア。 君の姿を見て、努力が報われた気がするよ」
 半ば当然の礼節とも言えるウィリアムの甘言を、オリビアは微かに口元を緩めて受け入れる。それが彼の本心であることは疑うべくもないのだから、それ以上の反応は不要であった。
「パーティを楽しむ前に、今回お世話になった人たちに挨拶がしたいんだ。良ければ付き合ってもらえるかい」
「ええ、喜んで」

 オリビアをエスコートする形で、ウィリアムはゆっくりと歩きだす。会場は規模相応に広いが、幸いにして探し人はすぐに見つかる。どうやら相手側、第三二護衛隊の首脳陣もウィリアム達を探していたらしい。
 ウィリアムは、一歩間違えば大きな損害を受けかねない状況で、自らの提案を受け入れた第三二護衛隊の面々に、あらためて感謝の念を伝える。
 対する護衛隊側の反応は、至極明快な好意の表明であった。どうやら、作戦時に駆逐艦長が話していた、祖父の代以来の対艦雷撃に喜んでいたというのは本当の事であるようだった。

「やぁ、ウィリアム君。楽しんでおるかね」
 第三二護衛隊の面々と別れた後、横合いからかかる声に振り向けば、そこには艦隊司令長官であるグンター・ブルックナー中将と、猟兵達と皇国軍との調整役であったエルウィン・ハルシュタイン大佐の姿があった。
「ブルックナー閣下、ハルシュタイン大佐。この度は、お招きいただき感謝いたします」
「なに、エーゲル島でも世話になった君を招待しなければ、罰が当たるという物だよ」
 そう言って笑うグンターを尻目に、紳士としての礼節を弁えているらしいエルウィンは、ウィリアムの傍らに立つオリビアを見遣ると、ウィリアムへと尋ねる。
「ウィリアム君。よろしければ、そちらのお嬢さんをご紹介願えるかな」
 ウィリアムはエルウィンの気遣いに感謝しつつ、傍らに立つオリビアに向けて体を開く。
「こちらはぼくの恋人の、オリビアです。さ、挨拶を」
「初めまして、オリビア・ドースティンです。勇敢なる皆様に挨拶できて喜ばしい限りです」
「お会いできて光栄です、フロイライン。我々はあなたのパートナーに恩義がある。パーティを楽しんで頂ければ幸甚だ」
 洗練された所作でカーテシーを取るオリビアの姿に感心したように頷くと、エルウィンはにこやかにそう応じる。
「ならば、こんなところで時間を取らせるわけにもいかないね。二人で楽しんでくると良い」
「ありがとうございます、閣下。ところで、差し支えなければご教示頂きたいのですが……」
 人好きする笑みでそう勧めるグンターに頷きつつも、ウィリアムは苦笑交じりで、少々気になっていたことを尋ねる事にしたのだった。
「――皇国海軍の中でのぼくって、どういう扱いになってるんです?」
 ウィリアムの問いを聞いたグンターは、僅かに眉を上げると口元を歪め、楽し気に答える。
「それは勿論、"間違っても敵に回したくない"だよ。交戦中に艦隊陣形を乱されるなど、悪夢以外の何物でもないからね」
 それを聞いてどのような感情を抱いたかはさておき、若干の知的好奇心を満たしたウィリアムは、オリビアと共に二人の元を辞する。
 仲睦まじく歩く二人の後ろ姿を眺めつつ、グンターは再び口を開く。
「まったく、敵に回したくはないものだよ」
 どこまでも実際的な軍人である上官の言を聞きながら、エルウィンもまた、猟兵という存在を象徴するかのような二人の背中を見送るのだった。

「さぁ、社交辞令はお終い。せっかくだ。オリビア、一杯食べよう」
 堅苦しい挨拶を終えたウィリアムは、せっかくの機会を十分に生かすことに決めたようだ。
 自らの手を取り、微笑む彼の様に好ましさを感じながら、オリビアは改めて周囲を見回す。
「クロムキャバリアでこういう機会に触れるのは初めてですが、予想よりも活動しやすいですね。料理なども多種多様のようですし」
 会場に揃えられた料理は、海洋国らしく海産物を主体とした物が多いが、それに交じって様々な地域から取りそろえたらしい果実や、大規模な牧草地帯無しでは生産しえない畜産類も多く見受けられる。
 周囲を漂う多様な香りから見受けられるように、海運国らしく様々な地域の食文化が集っている様は、キキーモラとして興味をそそられる空間であるとも言えた。
「こちらのお料理も美味しいですね、ウィリアム様は気に入った料理はありましたか?」
 料理に対するメイドとしての興味と、ウィリアムへの好意が綯交ぜとなった感情を抱きつつ、オリビアは彼と共に真新しい料理の味と香り、そして外観を楽しんでいく。
 戦乱が絶えぬクロムキャバリアにおいて、例外的なまでに平穏で豊かな時間。
 一つの戦いを終えたウィリアムは、恋人であるオリビアと共に、この幸福に満ちた時間を過ごすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イリア・ナイン
来ました、来てしまいました…!
生まれて初めての、リゾートに…っ!!
さぁディさん、行きましょう
労ってくれると言うならば、それに甘えなければ失礼というもの
まずは、そうですね…水着、水着が欲しいです
折角です、選ぶのを手伝ってくれませんか?
あと、私…泳げないので、あとで泳ぎ方も教えてもらえたら嬉しいな…って

…あれ、どうしたんですか?
顔が赤い、ですが…ざっとスキャンした限りでは、病気の類では無さそうですね…
そうだ、何か冷たい飲み物を飲んで火照りを治めてはどうでしょう?
あそこのお店なんて洒落てますし、料理もとても美味しそ…
えっ、わぁっ!?
きゅ、急に走り出すと危ないですよ~!


ディ・アルカード
さぁどないするか?

しかし陰キャに祝勝兼ねたバカンス求めんなや
自分で言うたけど
誰が陰キャやて煩いっての

はしゃいどるなぁ〜
水着やて!?ちょい待て男の俺に意見求めんな!?
あぁうぅぅ、、、シンプルに白いのでええんちゃうか?

まぁ何やイリアに変な虫つくのも腹立つし、軍部に頼んで思い切って砂浜を貸し切るか、、、
(あれ?何で腹立つんやろ?)

俺はそやな、モノクロの水着に黒地のパーカーでも着込んどくかな

イリアの水着姿を見て、、、

えっとな、よう似合ってる
綺麗やで

素直に口から感想が漏れて
真っ赤に顔を染めます

あーええわ、楽しもや
手を引いて砂浜に駆け出します




「来ました、来てしまいました……! 生まれて初めての、リゾートに…っ!!」
 建物に銃創はなく、行き交う人々が銃を携帯していることも無い。規格化とは程遠いデザインで立ち並ぶ建物が朝の陽ざしを反射する街路に、頬を微かに紅潮させたイリア・ナインの姿はあった。
「しかしなぁ、陰キャに祝勝兼ねたバカンス求めんなや。……いや、誰が陰キャやて、煩いっての」
 戦勝に沸く街の雰囲気に遠い目をしながら歩くのはディ・アルカード。周囲の浮き立つような空気に居心地に悪さを感じながら、イリアのやや後方で歩を進める。
 街の雰囲気から意識を前方を歩くイリアへと向ければ、よほど嬉しいのだろう、彼女の足取りは目に見えて軽い。
「さぁ、どないする? たしかに、なんでもありそうな街やな」
「労ってくれるのならば、それに甘えなければ失礼というものですからね」
 ディの問いかけに、イリアは悪戯っぽい笑みを浮かべながら振り返る。
「まずは、そうですね……水着、水着が欲しいです」
「あぁ、水着……。水着やて!? ちょい待て、男の俺に意見求めんな!?」
「折角ですから、選ぶのを手伝ってくれませんか?」
 いつの間にかすぐ傍に歩み寄っていたイリアは、拳一つ分低い位置からディを見つめている。
 駄目でしょうか? という彼女の瞳に見据えられたディに、拒むという選択肢は残されていなかった。
 何度か口を開きかけ閉じるという所作を繰り返したのち、ひとしきり覚悟を決めた彼はやっとのことで口を開く。
「あぁうぅぅ……シンプルに、白いのでええんちゃうか?」
 ディの言葉にぱっと表情をほころばせたイリアは、思い出したように顔を背けると、顔を赤らめながら言葉を続ける。
「あと、私……泳げないので、あとで泳ぎ方も教えてもらえたら嬉しいな……って」
 かくして、そのようになった。


 水平線で空と区切られた青い海と、白い砂。陳腐な表現ではあるが、事実として眼前に存在する光景はその様なものであった。
 押しては引く潮騒の音と、遠くから響く自動車の走行音だけが響く砂浜は、ディとイリアによって貸切られたという事実をその情景によって示すものであった。
「まぁ、何や。 イリアに変な虫つくのも腹立つしな」
 口に出した自らの言葉を反芻し、ふと疑問符に突き当たる。なぜ自分は彼女が他人に声を掛けられる様を想像して不快感を覚えるのか。
「――ディさん」
 水着とパーカー姿で海を眺めながら、とりとめもない思考に耽っているディの背中に声がかかる。振り返れば、共に選んだ水着を身に纏ったイリアの姿がそこにはあった。
「その、どうでしょうか?」
 選んだ水着は、白を基調としたいたってシンプルなものだった。しかし、それ故に、身に着けたイリアの肌の白さを際立たせ、美しい金色の髪との調和をより一層引き立てている。
 一度は試着した姿を見たはずのディであったが、砂浜に立つイリアの姿に言葉を失う。それ程までに、彼の眼前に立つ彼女の姿は美しかった。
 くるくると髪を弄びながら、自身を見つめる彼女の瞳を通して、自らの姿が見える。そうだ、彼女は感想を求めているのだ。
 ようやく回り出した思考と言語野を総動員して口にした言葉は、ひどく素直で、彼の本心を端的に表したものであった。
「えっとな、よう似合ってる。 ……綺麗やで」
 自らの口から出た言葉が、波音と共に砂浜に響く。実際に口に出すと同時に、遅れて正気を取り戻したらしい生理反応が、心拍の上昇と共に血液を彼の相貌へと送る。
「――! ありがとうございます。 ……あれ、どうしたんですか?」
 ある意味では残酷と言うべきか、イリアのセンサーは彼の心拍の上昇とほほの赤みを正確に読み取ることはできても、彼の心理状態を読み取ることまではできなかった。
 なにがしかの病気の類に罹患しているわけではないことに安心したイリア。夏の砂浜である、確かに身体も火照るだろう。そう考えた彼女は、硬直しているディに歩み寄るとその手を取って提案する。
「そうだ、何か冷たい飲み物を飲んで火照りを治めてはどうでしょう?」
 自らの手を取り、やや見当違いの気遣いを見せるイリアの姿を見て、混沌を極めた自身の思考をひとまず収めたディ。
(あーええわ、楽しもや)
「ほら、あそこのお店なんて洒落てますし、料理もとても美味しそ――えっ、わぁっ!?」
 どこか吹っ切れた思いで彼女の手を握ったディは、そのまま穏やかな海に向かって走り出す。
「きゅ、急に走り出すと危ないですよ~!」
「泳ぎ方、おぼえるんやろ」
 自らの手を取って走り出したディの背中を眺め、彼女は自らの頼みごとをいまさらながら思い出す。
 そう、今から彼に泳ぎを教わるのだ。たったそれだけの事実ではあるが、改めて認識すると、不思議と気分が浮き立つのを感じる。
 足が熱を持った砂から離れ、二人の素肌が海水へと触れる。
 久方ぶりに、あるいは初めて触れる海水は、その実際の温度以上に冷たく思えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(リゾートに食指動かなかった模様)

お見送り感謝いたします、ティー様
どうぞ、オフを楽しまれてください…折角のサマードレスですからね
良くお似合いかと

少々、与太話にお付き合い頂けますか
Oマシンが何故、人を狂わせ戦火を広げるのか

キャバリアの(そして私/戦機の)
究極的な存在意義は『破壊と闘争』
迂遠な手段を用いてまで、それを果たしたいのやも

“壊れた”身には多少、羨望の念もあるのです
…道に惑う演算負荷は少なかろうと

ああ、先の依頼で保護されたレプリカントの少女
その後はご存知ですか?

(彼らは人と同じ成長方式と機能…『無駄』を最初から備えた種族
故に様々な道を“選ぶ”事が出来ます
彼女の道が開けていると良いのですが)




 ハイリゲンシュタットの郊外に存在する、とある砂浜。
 猟兵によって貸切られたこの場所には、人影はおろか周囲にこの空間で起こることを検知できる物体は存在しない。
 先天的にしろ後天的にしろ、猟兵以外のあらゆる存在が排除された砂浜は、開けてはいるが一種の密室とも言うべき場所であった。
 穏やかに波が打ち寄せる美しさと、あらゆる監視を排除する剣呑な意志とが並在するこの空間に、二つの猟兵の姿があった。
 一方は、先だっての奇妙な戦闘を戦い抜いた機械の騎士、トリテレイア・ゼロナイン。そしてもう一方は、彼をこの戦場に導いたグリモア猟兵、ティー・アラベリアである。
 狭義の意味において、現在この砂浜に生きた人間はいない。トリテレイアの場合はその躯体そのものが、ティーの場合は球体関節が、自らが作りものであることを示していた。
「お見送り感謝いたします、ティー様」
 リゾートでの休息という行為に食指が動かなかったトリテレイア。早めの帰還要請を受け取ったティーから指定された場所が、この海岸と言う訳であった。
「どうぞ、オフを楽しまれてください……。折角のサマードレスですからね、良くお似合いかと」
 あえて平服でこの世界に姿を現したティーの目的が、単なる観光でないことを察しながらも、騎士としての礼節を弁えんとする彼の行動基準は、それを指摘する事を良しとしなかった。
 ティーがその事実をどう捉えているか定かではない。白いサマードレスに身を包んだ彼は、最適な形へと機械的に整えられた微笑と共に、トリテレイアの賛辞への礼を述べる。
 静かに波が打ち寄せる砂浜の情景は穏やかなものである。あらかじめ情報が無ければ、ここをクロムキャバリアの一部だと確信できるものはいないだろう。しかし、潮流によって運ばれてきたらしい装甲片が、先だっての戦闘が現実のものであることを示していた。
 血のように赤黒い錆が浸食しつつある装甲片を見やりながら、トリテレイアは発声機構を動作させる。
「……少々、与太話にお付き合い頂けますか。 オブリビオンマシンが、何故人を狂わせ戦火を広げるのかという話です」
 それは、クロムキャバリアに関わる猟兵であれば、誰しもが持つ疑問であった。
 数多ある世界に出没するオブリビオンであるが、クロムキャバリアに出現する物は、その機械という特性上、目的に不明瞭な点が多い。
「キャバリアという戦闘機械の究極的な存在意義は『破壊と闘争』。彼らは迂遠な手段を用いてまで、それを果たしたいのやもしれません」
 戦闘機械という言葉に、自らの存在もまた含まれていることを自覚しながら、トリテレイアは言葉を紡ぐ。
 無論、確証がある訳ではない。しかし、それは自身もまた戦闘機械であると同時に、数多のオブリビオンマシンとの戦いを繰り広げてきたトリテレイアだからこそ辿り着いた推論でもあった。
「“壊れた”身には多少、羨望の念もあるのです。……道に惑う演算負荷は少なかろうと」
 機械が惑うことはない。主から下された命令を果たすという絶対的な目的のために動く正常な機械から見れば、自らの状態は何と歪で、滑稽な物だろうか。
 叶うとも知れぬ理想を求めるトリテレイアにとって、純粋な戦闘機械としての目的を一途に果たさんとするオブリビオンマシンのあり方は、一抹の羨望を禁じ得ないものであった。
「やはり、貴方は美しい方でいらっしゃいますね。 トリテレイア卿」
「……美しい?」
 トリテレイアの推論を聞いたティーの口から発せられたのは、推論それ自体に対する所感ではなく、自らの状態とオブリビオンマシンのあり方を比較して推論を構築したトリテレイア自身に対する賞賛であった。
「機械は惑いません。しかし、貴方は今も自らが進むに足る道を探しておられる。その様を、ボクの疑似人格は美しいと感じております」
 感情を抱かぬ故に美しい人形の瞳が、トリテレイアの頭部センサへと向けられる。しかし、その相貌に浮かんだ笑みは、機械制御されたにしてはわずかに深いように思われた。
「いずれにしろ、これは人ならぬ人形の戯言でございます。どうかご放念くださいませ」
 人形の言葉に、トリテレイアがどのような感情を抱いたかは定かではない。しかし、その言葉が世辞や偽りでないことは事実であった。
「……では、最後に一つ。 先の依頼で保護されたレプリカントの少女。その後はご存知ですか?」
「彼女であれば、現地の国家……アルシェリア帝国政府によって保護されております。かの国はレプリカントにも完全な人権を認めておりますから、無体に扱われてはいない様です」
 レプリカントは、機械ではない。機械から見れば『無駄』な、人と同じ成長方式と機能を備えた種族である彼女は、様々な道を“選ぶ”事が出来る。
 願わくば、過去の妄執から解放された彼女に、新たな道が開かれてほしい。それが、トリテレイアの偽らざる本心であった。
「ただ、気になる点が一つ」
 転移に使用するグリモアを起動しながら、ティーは言葉を続ける。
「彼女が属していた亡国と、<激浪>を運用していた"旧帝国"。どうやら、この二つは同一の国家であるようなるです」
 まだ、争いの種は隠れている様ですね。そのように言葉を締めくくったティーの相貌には、先程と同様、機械的に制御された微笑が張り付けられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイン・トゥーガン
アドリブ歓迎

やれやれだよ、傭兵になってからの方が古巣で軍人やってた時より待遇がいいってなんないだい?
起爆はされなかったが核を使って、この歓迎だなんてねぇ
アタシがB級戦犯だって知ったらどう反応するんだか、戦勝国の属国になったズィガ共和国と戦勝国、どっちからも戦犯指定されてる身なんだがねぇ

こじんまりとしたバーで酒飲むとするよ
観光施設やら高級料理店なんかより、こういう場所の方がよほど馴染みがあるしねぇ
店主が裏に関わってそうなのも好都合だねぇ、色々と知りたいことや消費した核の補充先もあるしね
あぁ?あたしゃこれでも29だよ、ちゃんとした客だから酒出しな
遺伝子操作によって老化が遅いってのも不便なもんさ




「やれやれだよ、傭兵になってからの方が古巣で軍人やってた時より待遇がいいってなんないだい?」
 ルイン・トゥーガンは、自嘲的な気分を抱きながら、薄暗く人気のない路地を歩く。クロムキャバリアの内では例外的なまでの治安の良さを誇るハイリゲンシュタットとはいえ、既に夜も更けた時刻である。猟兵でもなければ、女性が独り歩きすべき場所ではないことは確かであった。
(しかし、起爆はされなかったが核を使って、この歓迎だなんてねぇ。 アタシの経歴をどこまで知っているやら)
 亡国となったズィガ帝国の不正規戦部隊に所属していた彼女は、その後継国と宗主国双方から戦犯指定を受けている身である。国際的な法執行機関など存在しないクロムキャバリアにおいても、大手を振って道を歩くことは憚られる身の上である。
 先だっての戦闘で行われた円滑な核使用の容認――それが、キャバリア搭載型の低出力核だとしても――や、その後の対応を含めて考えれば、表向き笑顔で差し出された歓待の手を無邪気に取る気にはなれなかった。

 此処まで大規模な商業地である。表通りに差す光が強い分、それ相応に後ろ暗い仕事を行っている組織や人間には事欠かない。これまで行ってきた非正規戦で身に着けた嗅覚と要領によって、適当な人物とのアポを取り付けたルインは、薄汚れたビルの地下に存在するバーへと足を踏み入れる。
 バーの内装は、ビルの外観に比しては小奇麗なものであった。後ろ暗いつながりを持つ店にも、或いはそうであるからこそ中身には気を使うのだろう。
 一見すれば未成年にしか見えない彼女の姿に訝しげな視線を送った店主に名を告げれば、店主は幾つかある個室の一つを顎で示す。
 既に到着していたらしい上質なスーツに身を包んだ男は、彼女の姿を認めると口にしていた細巻きを灰皿へと押し付ける。
「噂に聞いちゃいたが、本当に子供の様な見てくれだな」
「あぁ? あたしゃこれでも29だよ。ほら、ちゃんとした客だから酒出しな」
 渋々と言った様子で運ばれてきた酒で唇を湿らせたルインは、対面に座る男に向けて口を開く。
「それで、頼んでいた件はどうなんだい」
「察してるとは思うが、この国でどうこうするのは無理だ。ここと北の大陸に存在する反応兵器は大国ががっちりと握ってるからな、確保するそぶりを見せただけで、いいとこ数時間後には特殊部隊が挨拶に来る」
 こっちも危ない橋を渡ってるんだぜと続けながら、男は新しい細巻きに火をつける。
「それで? まさか、世間話をするために呼びつけたわけじゃないんだろ」
「普通は断るんだがね、アンタ達みたいな連中だから特別さ。 北と違って南の大陸はお決まりの小国が割拠する不安定な地域だ。うまくすれば低出力の反応兵器ぐらいなら手に入る。幾つか話を通しておいた」
 そう言って差し出された紙片に目を通したルインは、満足げに頷く。わたりさえつけば、消費した分の補充は可能だろう。
「まぁ、ギリギリ料金分って事にしといてやるさね」
「今後ともごひいきに頼むよ。新しいビジネスは何時でも歓迎だ」
 猟兵に興味を示すのは、なにも折り目正しい国家だけではない。その能力に後ろ暗い家業の人間が興味を示すのは、むしろ当然の反応と言っていいだろう。
「それで、一つ質問なんだが、その若さの秘密は幾らで買えるんだ?」
「なんだい、老いが気になる都市にも見えないがね」
「私はな。だが、欲しがる奴も多いのさ」
 ルインは、嘲るように鼻を鳴らすと、話は終わったとばかりに席を立つ。
「老化が遅いってのも不便なもんさ。そう伝えてやりな」
 消費した武装の補充の伝手さえつけば、こんな剣呑な国には用はない。全ての出口に控えているだろう尾行を巻く算段を整えながら、ルインは再び夜の街へ繰り出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
●SPD
『へぇ、キャバリア単騎で類を見ない大戦果、ね。確かにそうだけど結構盛りまくってるわね』
戦いから一夜明けた高級ホテルの一室
張り詰めた緊張の糸が切れて泥のように眠りについた後の記憶はなく、目が覚めたらいつの間にか私の影が瓜二つの姿を形取り、ルームサービスのコーヒーを飲みながら今朝の朝刊を読んでいた

『あら、やっと起きた?朝食は代わりに貰ってあげておいたわ』
双子のようで性格の違いから『姉さん』と呼んでいる影と一緒に席に付き、私は遅めの朝食をとる

「もうこんな時間なんですね」
『それだけ疲れていたのよ。後で観光して回らない?』
「そうですね…姉さんは行きたい場所があります?」
「ないわ。風の趣くままよ」




「へぇ、キャバリア単騎で類を見ない大戦果、ね。 確かにそうだけど結構盛りまくってるわね」
 泥の様な粘性を持つ睡眠の海から、秋月・信子は自らと瓜二つの声によって物理現実に引き上げられる。
 素肌に当たる質の良いシーツの感覚、開かれたカーテンから差し込む陽光とコーヒーの香り。知覚される情報から自らのおかれた状況を再構築した信子は、未だにぼやけた意識と共にもぞもぞと体を起こす。
「あら、やっと起きた? 朝食は代わりに貰ってあげておいたわ」
 素足で柔らかなカーペットを踏み、窓の外を見れば青空の下に聳えるビル群が一望できる。ここが海軍からあてがわれた高級ホテルの一室であることを思い出した信子は、自らの分身が座るテーブルへと目を向ける。
「もう、出てきたのなら起こしてくれてもいいのに」
「あんまりぐっすりと眠っているんですもの、そんな可哀そうな真似できないわ」
 肩をすくめる姉の姿に一つ溜息をつくと、そのまま姉の対面に腰を下ろし、ほんのりと熱が残る朝食に手を付け始める。
「もうこんな時間なんですね」
 時計を見れば、時刻はすでに10時を回っている。ホテルに付いてシャワーを浴びた記憶はあるものの、そこからの記憶はぷっつりと途切れていた。
「随分変わった環境で戦ったんですもの。それだけ疲れていたのよ」
 いたわるような口調で話す姉の声に頷きながら、黙々とカラトリーを動かし、少し濃いめに味付けされた朝食を口に運ぶ。濃い目の塩加減がちょうどいいと感じるあたり、確かに相当に疲労していたらしい。
 カラトリーの音だけが響く静かな室内で、暫し信子の様子を眺めていた姉が再び口を開く。
「ねぇ、後で観光して回らない?」
 観光という単語に信子は顔を上げる。そういえば、数日間の滞在日の話を聞いた気を記憶がある。たまにはゆっくりと羽を伸ばすのも良い選択なのかもしれない。
「そうですね……。 姉さんは行きたい場所があります?」
 頬に手を当てながら信子を見つめる姉は少し眉を上げると、片側の口角を軽く歪める。
「ないわ。風の趣くままよ」
 瓜二つの姉の返答を聞くと同時に、信子は窓の外へと視界を向ける。
 確かに、見るべき場所には事欠かないだろう。緻密な計画と操縦を要求された戦闘の後なのだ、たまには無計画な散策で時間を使うのも良いの、良い休暇の過ごし方であるかもしれない。
 信子は朝食の最後の一口をやや冷めたコーヒーで胃に流し込むと、立ち上がって凝り固まった背中の筋肉を伸ばす。
 どこに出かけるにせよ、まずは熱いシャワーを浴びたい気分だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年09月07日


挿絵イラスト