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カクリヨコンステレイション

作者：鷹橋高希

●グリモアベース
「水着コンテストお疲れさん。暑かったなぁ」
　猟兵達にグリモア猟兵の少女・カグラ・ルーラー（バスバリス・f21754）が声を掛ける。ラッシュガードを着て両太股に水鉄砲のホルスターという出で立ちだがカグラも水着姿であり、コンテスト会場で声を掛けられてグリモアベースに集まったのだ。
「オブリビオンのヤマじゃねェんだが、面白そうな話を聞いたんで、あんたらの夏の思い出にどうかと思ってな」
　カグラが掌の上にエネルギー体――グリモアを浮かべると、直径が軽く5メートルを超えるであろう煙突のような大きな筒がビーチにそびえ立っていた。「妖怪花火2021」と文字が入っており、これか、と猟兵達は察する。

「水着コンテストの会場となったビーチに、妖怪親分の奴らが『妖怪花火』を用意したから遊んでけ、って誘いだ。この妖怪花火は、猟兵も乗って一緒に打ち上げられたり、花火で空中に生じる模様の上で空中散歩を楽しんだりできるそうだぜ」
　グリモアに映るのは、まるでプラネタリウムのような夜空。

「空を歩くとか、何だかガキの頃に夢見たような話だが、せっかくだからもう少しカクリヨ的な遊びがしてェよな。そこでこいつだ」
　空いた手で、太股のホルスターから水鉄砲を取り出す。

「この水鉄砲、所謂『魔力を込める』とかそういう類いの力を加えると中身を空中に固定できんだよ。この性質を使って、星同士を結んで夜空に星座を創るなんてどうだ？　カクリヨファンタズムの星空ってのはつまり過去の星空だろ？　骸の海に流れてく前に遊ばせて貰おうぜ」
　グリモアには、カグラの手にする水鉄砲と同じ形のものがビーチで用意されている様子が映る。

「高ェトコが苦手とかなら別にビーチで撃ち合いだけやってもいいだろ。どうだ？　遊びに行くんなら、テレポート直行便はすぐ出るぜ？」

第1章 日常 『猟兵達の夏休み2021』

POW   :    妖怪花火で空へGO! SPD   :    妖怪花火の上で空中散歩 WIZ   :    静かに花火を楽しもう 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●星々よ結べカクリヨの絆！　発進！　超巨大イェーガーロボ！
「この美しい星の海、私達がオブリビオン星人から守ってみせるッ！」
　猟兵戦隊イェーガーレンジャーのイェーガーレッド――富井・亮平（イェーガーレッド・f12712）――は一言目からクライマックスだった。何故なら、星同士を線で結べるほどの宇宙空間にも似た特殊な空間でのアクションは、ヒーロー特撮ドラマにおける山場だからである。なお、本リプレイのフラグメントは「日常」であり、シナリオフレーム上もオブリビオンとは何ら関係ない。
「イェーガー・コンステレイション・ガン、チャージッ！」
　亮平は用意された水鉄砲の名前と力の充填を宣言し、妖怪花火に乗り込む。
「イェーガー・ヨーカイ・ファイヤーフラワー、射出ッ！」
　妖怪花火が打ち上がり、宙に躍り出る亮平。
「星々よ力を貸してくれ！　発進せよッ！　イェェェエガァァァッッッ！！　ロボッッッッッ！！！」
　亮平が水鉄砲にチャージしたのは、ユーベルコード「発進！　超巨大イェーガーロボ！」。水鉄砲にチャージされた魔力が放たれ星々を結び、巨大なロボットの星座が描かれる。星座は徐々に空とは違う色に染まり、超巨大イェーガーロボが具現化する。亮平は超巨大イェーガーロボのトラクタービームに乗って操縦席に着き、操縦桿を握り締めた。
「待ってろよ妖怪達。私達イェーガーレンジャーが、必ず助けてやるッ！」
　亮平の駆る超巨大イェーガーロボは星空を翔る。しょっちゅうカタストロフの発生するこの世界――カクリヨファンタズムを守るために。

成功 🔵​🔵​🔴​

●しあわせ座流星群
　あの空にいったい何があるんだろう――その想いを込めた妖怪花火がカクリヨファンタズムの空に咲く。花火の星は赤く輝き、帽子のような形で空に浮かんで鍔の上に古びた赤い帽子の女性――ヤドリガミであるアメリア・イアハッター（夢想空流・f01896）が本体を頭に押さえながら降り立った。
（知りたいんだ、空のこと、世界のこと）
　溢れんばかりに想っている空に近付くことができ、アメリアはいくつもの星々が瞬く空に手を延ばす。カクリヨファンタズムの空は「過去」のUDCアース――最も近い星である「月」へすら莫大なリソースと引き換えに辛うじて行き来できる程度の世界の空であり、その空に瞬く星に触れることは叶わない。
（星座も、空を知りたい人が考えたのかな）
　人は特徴ある輝き方の星を空想上の線で結び、動物や器物に例えた。その線を実際に結ぶことのできる水鉄砲をアメリアは地上で手にしている。どんな星座を描こう、どんな星座なら見た人を幸せに――。
（――皆が無事で幸せでありますように）
　アメリアが空に願いを投げ掛けると、星空に新たな星が灯る。その星はどれも優しい緑色に輝き、空一面に無数に灯っていく。この緑色の光の正体は魔法のランタン。アメリアのユーベルコード「想空溢」によるものだ。水着コンテストの盛況冷めやらぬ地上でも新たな星は認められ、多くの妖怪達と猟兵達で賑わっている。
　アメリアがランタンから漏れる光に向けて水鉄砲の引き金を引くと、緑色の星に帚が描き足され、幸せの流れ星が地上に飛んでいく。地上で沸き上がる声が聞こえると、アメリアは微笑んで踊るように次々と星を降らせ、誰もを幸せにする天体ショーが繰り広げられるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●妖怪花火、下から見るか
　カクリヨファンタズムの満天の星空の下、打ち上がる妖怪花火を眺めようと、響納・リズ（オルテンシアの貴婦人・f13175）はビーチに特設されたオープンカフェに入っていた。
「お待たせ致しました、お嬢様。本日のカフェラテでございます」
　丸テーブルに着くリズにカップを設えたのは、メイド服に身を包んだロザリア・ムーンドロップ（薔薇十字と月夜の雫・f00270）。
「お話がしたくて、私の分も作っちゃいました」
　ロザリアはもう一つのカップを起き、リズと向かい合わせで座る。その時、夜空を緑色の流星群が彩った。
「綺麗ですわね……これも妖怪花火でしょうか」
　リズは見上げて問い掛けるように呟いた。
「……ユーベルコードみたいです。あそこに」
　ロザリアの人差し指の先をリズが追うと、妖怪花火を足場にして星空に線を引く人影が、半分ほど「欠けた」月の手前に見えた。

「ラテアート、頑張って練習したんですよ！　自信作です！」
　ロザリアの言葉に、リズはカップを覗き込む。リズのカップには、ゴシックドレスに身を包む姉妹のような二人の可愛らしい少女が描かれていた。その精緻な描き込みはロザリアのユーベルコード「ＨＭＴ」の為せる業だ。
「まぁ……！　素晴らしいですわ！」
　感動に瞳を輝かせるリズを見て、ロザリアも頬が綻ぶ。しかしそれは一瞬だけだった。
「……猟書家、やっぱり来ましたね」
　ロザリアはリズにソーサーを寄せる。リズが覗き込んだそのカップには、はっきりと読める文字が並んでいた。

●ばくまおう
　リズもロザリアもグリモア猟兵である。グリモアの力でオブリビオン事件を予知する能力を有し、このカクリヨファンタズムでも大祓骸魂――オブリビオン・フォーミュラとの闘いにその予知能力を働かせ、猟兵達は勝利を収めた。しかし、フォーミュラ亡き世界の月は「猟書家」を名乗る者達の「骸の月」に覆われ、新たに月を巡る闘いが始まるようになった。ロザリアが描いた少女達はカクリヨファンタズムに侵略する猟書家の首魁――オウガ・フォーミュラである。

「せっかく平和を取り戻したのに……。予感はしてましたけど……」
　テーブルにはロザリアのノートが何冊も乗っていた。猟書家事件を意識的に追っているというロザリアの丸文字風の書体の「ぐりもあのーと」は猟書家事件のものが多い。だが、リズが見る限りでは大祓百鬼夜行――大祓骸魂との闘いのものも勝るとも劣らぬ冊数を数えており、それを悠々と後釜に座られては堪らない気持ちは理解できる。
「頑張ってますものね。同感ですわ。ですが、私達がやるべきことを力を合わせて一つ一つ解決すれば、きっと勝てますわ。一緒に頑張りましょう。『戦神のご加護がありますように……』」
「……はい！」
　微笑みかけたリズのユーベルコード「戦神のご加護を」は優しい光のオーラでロザリアを包み、少女の笑顔が咲く。

『ロザリアちゃ～ん代わってぇ～。ラテアート多くてワイちゃんBK5、バタンキュー5秒前やぁ～』
　一拍遅れて響いたのは、まさかの新し親分「バズリトレンディ」の悲鳴だった。
「今行きまーす！　それでは、失礼致します。お嬢様」
　立ち上がったロザリアはリズへ向けて満天の星空を湛えたスカートを広げカーテシーを行なった後、翻ってキッチンへ向かう。リズの見た花火は少女の可愛らしい笑顔であり、ロザリアのメイド服の胸の内には頑張る気持ちの花火が打ち上がっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●五線譜天の川
　デパートのエレベーターのように緩やかに上昇する妖怪花火が音もなく咲くと、星は綺麗な円形に広がり、白と黒の規則的に並ぶタイルを描く。紫野崎・結名（歪な純白・f19420）はタイルに降り立つ前にその規則を理解しており、降り立った足音は結名の想像通り「ラ」の音で星空に優しく響いた。白鍵と黒鍵の円形鍵盤が結名のステージである。
　妖怪と猟兵で賑わい過ぎる地上から離れようと妖怪花火に乗り込んだ結名は、星座を描く水鉄砲を受け取っている。こういうのも描けるかな、とカクリヨファンタズムの星空に向けられた水鉄砲が描いたのは五本の等間隔の線。そしてそれらの線の意味と「高さ」の象徴――ト音記号を描いた。
　握りこぶし程の小型浮遊スピーカー、Float on soundが円形鍵盤の周囲に等間隔で五つ浮かぶと、結名は肩掛けのキーボードを弾き始める。指を解すように始まるその旋律はユーベルコード名の通り「なんとなく行う即興の演奏」だ。楽譜も存在しない旋律がスピーカーから――そして星空の五線譜に新たな星を瞬かせ響く。
（それなら……今必要な『音』はコレだと思う……）
　五線譜を天の川のように星で満たすため和音を駆使した旋律を響かせ、アクセントを利かせたオクターブの外れる音を奏でると、一等星のように煌めく音が五線譜の外側に瞬く。一等星の音は結名の演奏で一音ずつ五線譜へと歩み寄り、鳥が群れをなして飛ぶようなグリッサンドの後に一等星は五線譜の中で和音を響かせた。
　星空を彩ると共に優しく響き渡った結名の演奏は地上でも観覧されていたようで、結名を讃える拍手や口笛が聞こえる。空中でこれだけ耳に届くのなら、もし地上だったら面食らうような音の圧だったかもしれない。それほどの称賛に応えるため、すっかり指の解れた結名は次の曲を奏で始めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●筋色のヒマワリ
「古き良き、ってやつなのかな。カクリヨはUDCアースよりも自然が豊かでいいね。星も良く見える。ちっちゃくてかわいく儚い僕にも優しい世界だよ」
　ビーチに特設されたオープンカフェで、一人のフェアリー――フルム・サーブル（森林の妖精さん・f03354）がコースターをクッション代わりにしてテーブルに腰掛けていた。
「せやろ？　ただし『ちっちゃくて』以降はワイちゃんクエスチョンやな」
　メイド姿の新し親分「バズリトレンディ」がオレンジジュースをフルムの傍に立てる。
「僕は君の5か6分の1の大きさしかない小さな存在だよ？　僕のどこに疑問の余地があるっていうんだい？」
「いや、ワイちゃんの中でのお宅のカテゴリーは『筋肉アクション映画』やで？」
　バズリトレンディの言う通り、ジュースグラスに映るフルムの姿は鍛え抜かれた筋肉が美しく、UDCアースにおける過去のアクション映画俳優にも見劣りしない肉体であった。
「ところで、この水鉄砲で星座を描けるんだってね」
　フルムは傍にあった水鉄砲を手に取る。
「せやけど、フェアリー用のサイズも用意してあったのにどうして人間用を選んだのか。そんなの水鉄砲じゃないわ！　足の付いたロケットランチャーよ！」
　手に取った水鉄砲（人間用）を肩に担ぐフルムの姿は、ますます筋肉アクション映画俳優と化す。銃口が真上に向き、怪力で引かれた引き金からは打ち上げ花火のように線が走る。
「ここから撃って届くのか……。やはり筋肉……！　筋肉は全てを解決する……！」
　穏やかな顔で呟くバズリトレンディの視線が追う、フルムの撃ち出したユーベルコードは「生きている生け花」。星空に描かれた星座は、花火に負けじと大輪の花を咲かせるヒマワリだった。
「『花は野にあるように』。星空も自然の一部なら、草木が根付いて花が咲くんだよ。花はいつか散って種を残す。未来のためにね」
「未来では何が流行りの花を咲かすのか、見せてみせろよ猟兵ィー！」
　無数のヒマワリ座が咲き誇る星空の下、猟兵と妖怪達の夏は鍛え抜かれた筋肉を伝う汗のようにゆっくりと過ぎていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2021年09月24日