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呑華臥酒

#カクリヨファンタズム #お祭り2021 #夏休み #\おいしい!/ #魚亭―ととにゃ―

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#魚亭―ととにゃ―


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●出張魚亭―ととにゃ―
 新し親分のビーチがあると聞きつけた。
 ここはひとつ、この美味しいおサカナを猟兵のみなさんに振る舞って、【魚亭―ととにゃ―】をアピールしようと、大将のミケは自慢の尻尾をぱたぱたさせ、屋台を引く。
「ととにゃのおサカナは世界一おいしいおサカナですにゃ! ビーチで遊ぶのも体力がいるにゃす! うちのおサカナでおなかいっぱい元気満点で、たっぷり遊んでくださいですにゃ!」
 愉快そうに声を弾ませて、ミケが詠う。
「おサカナー! おサカナー! おいしいおサカナー! 今日は特別! とびきりおいしいイカ焼きとー! やきとうもころし、」
 そこまで詠って、うにゃあ……とほっぺをむにむに。
「焼きもころし、もろこ、もこ……うにゃあ、難しいですにゃぁ……」
 ともあれ、自慢の網の上で焼かれるおサカナ(種類は判らないがどうやら青魚)と、イカの姿焼き、そうして焼きとうもろこしが、ビーチの食欲を掻き立てる。
 夜空に打ち上がるバズり妖怪花火の閃光に照らされて、ミケは笑う。
「さあさ! おいしいおサカナですにゃ! おサケもあるにゃす! こどもはおいしいジュースを愉しんでくださいですにゃ」
 【出張魚亭―ととにゃ―】、ここに開店。


「『うにゃ! らっしゃい!』だって……ほんっと、あのヒト、なんであんなかァいいン……」
 鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は手で顔を覆って、だらしなく弛んだ容貌を隠した。
 とんでも花火は打ち上がるビーチは夜。
 そこに漂う香ばしく旨い香りは、焼き魚の脂と甘いとうもろこし。
 提供される酒は、ととにゃ店主のお気に入り、銘酒【ねこたらし】。甘口でさらりとした飲み口の純米酒だ。未成年には有無を言わさず【とろぴかるミックスジュース】が出される。
 遊ぶには体力がいるだろう。
 遊んだからには腹も減るだろう。
 たっぷり遊んで、たっぷり食って、また遊んで。
「ミケサンとこは、ドリンク持ち込みオッケーだけど、食いモンはミケサンとこで頼んでやってよ」
 ととにゃの看板メニューは【焼いたおサカナ】だが、今夜ばかりは【イカの姿焼き】と、【焼きとうもろこし】も網に載っている。
「あとはァ、あっ、花火なんだけどォ、……かァいいのがバンバ――いや、にゃあんって上がってっからァ、楽しんでこいよ」
 誉人の掌上に蒼いグリモアがキラキラと輝く。
 繋がった先は、心地よい潮風が旨い香りを孕んで流れる賑やかしいビーチ――

●華火煌々
 ひゅぅ…ん……――天に引かれた一筋の光は、聴衆の耳目を惹き付ける。今に咲き誇る天花を待ち侘びて、息を飲んだ瞬間。

 にゃーん!

 ネコの鳴き声と共に咲くは、ネコのシルエットをした大きな花火。次々に打ち上がるネコ花火は、デフォルメされたネコの顔や、歩くネコの姿。
 丸い光と共に咲いたネコは、それをボールに見立てて遊んでいるような姿。
 それだけではなくて、ネコにまつわるさまざまな仕掛け花火が夜空を彩った。


藤野キワミ
水着でも浴衣でも普段着でも、花火とおサカナを楽しみませんか!
藤野キワミです。

▼プレイング受付期間
・断章追記後、プレイング受付開始をお知らせします。
・プレイング採用は先着順ではないです。全員採用のお約束はできませんが、頑張ります。
・受付終了は当マスターページ、シナリオタグ、ツイッター(@kFujino_tw6)にてアナウンスします。

▼お願い
・三人以上の同行プレイングは採用率が下がります。
・公序良俗に反するプレイングは採用しません。コンプラ的に!
・反映必須の衣装がある場合はプレイングで指定してください。
・鳴北が同行していますが、明確に名前を呼ばれない限りリプレイに登場することはありません。御用の際はお声がけください。
・その他のお願いは当マスターページに記載しています。

▼その他
・ととにゃで頼めるのは、焼き魚とお刺身ですにゃ。どれも絶品間違いなしですにゃ!
・しかも、今回だけの特別ご奉仕品! 焼きとうもろこしとイカ焼きも頑張るにゃす。出張限定品ですにゃあ!
・【魚亭―ととにゃ―】は「大祓百鬼夜行⑥~呑花臥酒」にて桜の下で屋台を出していました。

それではみなさまの、美味しい?かわいい?しっとり?ステキなプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み2021』

POW   :    妖怪花火で空へGO!

SPD   :    妖怪花火の上で空中散歩

WIZ   :    静かに花火を楽しもう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 漂う焼きサカナの香りに、店主のミケはそわそわとヒゲを揺らして網の上で、ごちそうを作り上げていく。
 普段扱わないとうもろこしを焦げないようにくるりくるりと回して、焼き目を均等につけて。こちらも甘く香ばしく頃合いを報せる。
「うにゃ、とうもころし、もこし、もろこ? やきもし……うにゃあ……やっぱり難しいですにゃあ……」
 言い慣れない言葉を上手く言えなくて、元気な尻尾がへにゃりと垂れる。
 そんなミケの小さな失敗(大変に微笑ましい)を掻き消す大華火は艶やかに、にゃあんと鳴く。
「くふふ……にゃーん!」
 華火の真似をして、サカナをつつく。
 焼けたイカをこれ以上焦げぬようにと、避難所――ホタテのような貝殻の上に寄せながら、垂れた尾がゆらりと揺れた。
 見上げれば、桜の天蓋ではなく、煌く華のパレード。
 楽しむ花は様変わりしたけれど、盛夏の夜に咲く満開の華火に酔い、酒に酔い、十分に愉しめるだろう。
 仕掛け華火は景気良く『にゃーん』と鳴き続けるが、ときおり腹に響く重低の炸裂音が混じった。
 ほんの少しだけ空を見上げたミケだったが、客の気配を感じて、そちらを見つめ、ぺこりとお辞儀。
「らっしゃいにゃ! なんにするにゃすか?」
黒葛・旭親
やあ大将、
大変佳い香りだ
お勧めの酒と焼き魚に刺身と……其の烏賊も貰おうか
だって美味い酒には美味い肴が必要だろう
倖せな屋台をありがとう、大将

屋台の傍でにゃーんと上がる花火を微笑ましく眺めつつ
酒を空けつつ
大将のことがちらちら気に掛かる
(三毛猫、ではなくとも)
(撫でさせてはくれないかな、いや矢張り其れは失礼だろうか、だろうな)
動物は好きだが好かれない性質がつらい

……美味しいなあ
花火に視線を戻して酒を呷り
ぱくぱくと肴を口にするけど
にゃーにゃー鳴く花火を観ていると如何しても脳裏に過るから

(意を決して振り返り、)
……大将、
……
……焼きもろこしも貰えるかな
(だめだ、矢張り好きこのんで嫌われたくはない)



●躊躇いに樺色
「やあ大将、お勧めの酒と焼き魚に刺身と……其の烏賊も貰おうか」
 ミケの大きくまんまるな双眸に映ったのは、黒葛・旭親(角鴟・f27169)の、くすんだ金の髪。掻き分けるように生える羅刹角は、華火の光を弾き返す。
「うにゃあ、そんなにたくさんですかにゃ!」
「だって美味い酒には美味い肴が必要だろう」
 樺色の双眸を僅かに細めて、驚くミケへと笑む。
「ありがとうですにゃ! ささっ、座ってくださいですにゃ」
 はわわわっと感激にヒゲを震わせたミケだったが、ちゃきちゃきと配膳し、食事の準備を進めていく。
 座るよう促されたのは、屋台横に設置された小さなテーブルとベンチ。
 なるほど、ここなら華火がよく見える。
「【ねこたらし】は冷で愉しんでほしいにゃす、冷でいいですかにゃ?」
「それが大将のお勧めの呑み方なら」
 肯けば、冷酒用の徳利がことんっとテーブルを鳴らす。仄かな黄金色の酒を、共に出されたガラスの杯へと注ぐ。
「ととにゃのおサカナにぴったりのおサケですにゃ!」
「そうか、其れは愉しみだ」
 焼かれたサカナ(たぶんきっと青魚)の脂の焦げた香りがあまりに強く、酒の香りは吹き飛んだけれど、
(「ん、……大変、佳い香りだ」)
 ほうと小さく吐息。さらりとした飲み口に雑味の少ない爽やかさに、いくらでも呑めてしまえそうだと、旭親は最初の杯を空けた。
 出されたサカナへと箸をつけ、脂が溢れる塩味のきいた腹身を食う。
 しっかりした旨味と、ぎゅっと締まった身の歯ごたえを堪能しながら、杯を片手に顎を上げる。

 ひゅぅ……ん――にゃーん!

 煌々と光る粒が夜空に猫を奔らせる。跳び上がった瞬間(或いはだらしなく両手足を伸ばし寝ている)の姿が堂々と打ち上がった。
 元来の動物好きだ。旭親の頬に微笑みが浮かぶ。次々に上がっては愛らしく啼いて散る猫の姿と、甲斐甲斐しく動き回るミケの姿とを見比べた。
 徳利を傾けながら、ちらとミケを盗み見る。
 耳の間にちょこんと乗った小さな帽子。器用に後ろ足だけで立って歩く絶妙なバランス。
 エプロンの止め紐は首の後ろで蝶々結び。首元が白いから、きっとエプロンの下の腹も白いのだろう。
(「ミケという名からして……」)
 彼の毛の色を数えてみたが、ふと思う。三毛猫のオスはとてつもなく希少だったのでは――三毛猫、か? 否、妖怪だろうからあまり関係はないのだろうか。
 両耳は黒だ。額は茶。首は白――背はどうだろう。
「うにゃ、おかわりですかにゃ?」
 旭親の視線に気づいた彼は、ふらふらと近寄ってくる。
(「……背中は、黒と茶が斑……矢張り三毛猫?」)
 見るからに柔らかそうな尻尾も一緒にゆらゆら揺れて、撫でたくなる。ふにふにだろう。やわいだけでなく、きっとしなやかだろう。
「な、いや、ああ、酒をもう一本」
「合点にゃ!」
 僅かに口籠って、誤魔化すために酒のおかわりを頼んだ。新しい徳利が届くまでに、残りの酒をぐいっと飲み干す――旭親自身は動物が好きなのだが、なぜか好かれない己の性質が恨めしい。 
(「撫でさせてはくれないかな……いや、矢張り其れは失礼だろうか」)
 ミケの尾と言わず、背や手で構わない――と願ってみるものの、それは仕事をしている彼の邪魔をすることになって、失礼か。そもそも、体を撫でさせてほしいというのは、失礼なのか。
 抜けない思考の袋小路に入り込んだ旭親に、新しい酒が届いた。
「おまたせですにゃ」
 短く礼を言い、受け取って杯を満たし、くっと呷った。
「……美味しいなあ」
 天に咲く華火に視線を戻して、ぱくぱくと肴を食い、杯を傾ける。
 刺身も焼き魚も酒も旨い。
 夜空を明るくさせる猫は、可愛くにゃーにゃーと啼き笑い――旭親の脳裏に過るミケのいかにも柔らかそうな毛。
 意を決して、ミケへとしっかりとした視線を投げる。
「……大将、」
「にゃす!」
「……」
「……??」
 樺色の星眸と、彼の翠色がぶつかって、しばしの沈黙。
「…………焼きもろこしも貰えるかな」
「合点にゃ! いま準備するですにゃあ」
 まあるい手をしゅぱっと上げて、網から程よく焼けている焼きとうもろこしを皿へと載せた。
(「だめだ、矢張り好きこのんで嫌われたくはない」)
 華麗に誤魔化せただろうか。
 旭親はふうと嘆息。愛想よく振る舞ってくれているのだから、今はそれを享受して噛み締める。
「うにゃ、お待ちどうさまですにゃ!」
 串に刺さったこんがり焼けたとうもろこしが載った皿が運ばれて、旭親の前に置かれた。途端に漂う甘いとうもろこしの香りが、旭親の心を弾ませる。
「倖せな屋台をありがとう、大将」
 その言葉は、ミケを存分にとろけさせる極上の言葉だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】黒系の浴衣で参加
わぁ、可愛らしい大将さんだねぇ
色んなビーチの海の家や屋台で色々食べてきたけど
そういえば魚料理はまだ食べてない気がする
それじゃあ焼き魚とお刺身注文しようかな
…でも焼きとうもろこしとイカ焼きも気になる
「今回だけの特別」というのがまた心惹かれるよね
よーし、じゃあそれも頼んじゃおう

ん~、この焼き魚ふっくらしてて美味しい
焼きとうもろこしとイカ焼きも
焼き加減やタレの染み込み具合が絶妙で
やっぱり全部頼んで良かったー

そして打ち上がる色とりどりのネコ花火
可愛い~とすかさずスマホ取り出して撮影会
次々と色んな模様のネコが現れるから目も手も離せない
あ、こらっ、ちゃんと俺の分も残しててよ梓


乱獅子・梓
【不死蝶/2人】灰色系の浴衣で参加
おー、食欲をそそる匂いが漂ってるな
ぜ、全部頼む気かお前!?
確かにどれも魅力的で、俺もどれにしようか決め難かったが…
まぁうちの食いしん坊達(綾&仔竜)ならペロリだろう
それと銘酒【ねこたらし】も頼む
このメニューに酒は外せないだろう
綾には有無を言わさずジュースで(酔っ払われたら面倒くさい

おぉ…これは確かに絶品…!
「世界一おいしいおサカナ」というアピールもこれなら納得
そしてこの魚をつまみに飲む酒が最高だ

ネコ花火にはしゃぐ綾の姿は微笑ましいが
せっかくの料理が冷めてしまっては良くない
おーい綾、写真ばっかり撮っていたら
俺と焔と零が全部食べちまうぞー



●黒灰の笑み
 白浜の穏やかなビーチ。
 屋台を引いて砂浜へ入っていくことは出来なかった【出張魚亭―ととにゃ―】は、車輪が砂地に入り込まない際で店を広げていた。
 しかし、少し離れた砂浜にととにゃの客用のテーブルや、シートが広げられている。
 そんな用意周到なビーチを横目に、下駄の音を高らかに鳴らし歩く。
 からからころり――そんな二人の頭上を彩るのは、おすましした座り姿の猫華火。そして、楽しげに飛び回る炎と氷の賑やかな影。
「わぁ、可愛らしい大将さんだねぇ」
 黒い浴衣に身を包んだ灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の声は弾んでいた。
 この夏、数々のビーチの屋台や海の家でいろいろと食べてきたが、魚はまだだった。
「うにゃ、らっしゃいですにゃ!」
 ぺこりとお辞儀をした大将のミケの手は、それでも網の上のサカナやとうもろこしが焦げてしまわないように世話をしている。
「おー、食欲をそそる匂いが漂ってるな」
 こちらは薄灰色の浴衣に黒緋の帯――乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)だ。綾の後ろから、ゆったりと追い付いてくる。
「おつれさんも、らっしゃいですにゃ」
 梓にもぺこり。律儀だ。
「ととにゃのおサカナは世界一絶品ですにゃ、おひとついかがにゃすか?」
「それじゃあ、焼き魚とお刺身……あ、でも、焼きとうもろこしとイカ焼き」
「にゃす! 今夜限りの特別ご奉仕品ですにゃ! イカ焼きと、焼きともこすにゃす!」
(「焼きともこす?」)
 上機嫌に焼いたサカナを皿に盛りつけているミケへ聞き返す機会は失ってしまったが、彼の「今回だけの特別」と言い切った限定品に心惹かれるのは、仕方のないことだ。
 今夜を逃すと、二度と味わうことはできないのだから。
「よーし、じゃあそれも頼んじゃおう」
「ぜ、全部頼む気かお前!?」
 気前よく頼んでしまった綾の上機嫌なこと――ほんの少し下で笑む彼を見返して、思わず声を上げてしまった。
「確かにどれも魅力的で、俺もどれにしようか決め難かったが……全部か」
「あっという間に食べてしまえるですにゃ、ととにゃのおサカナの魔法ですにゃ」
「へえ? そんなに美味しいのか」
「にゃす!」
 自信満々に拳を作って、ミケ。
「まぁ、うちの食いしん坊達ならペロリだろうけど。それと、【ねこたらし】とジュース」
「ジュースでいいにゃすか?」
「ああ、綾にはジュースだ」
 酔っ払われて介抱させられるのは、梓なのだから。

 ◇

「うにゃぁあ、おまたせですにゃあ!」
 ビーチのテーブル席についていた梓と綾へ届けられたのは、注文した贅の数々。
 四対の瞳が並べられた料理に釘付けになって、オアズケをくらっている今が解せぬ綾は、さっさと箸を割った。
 焼き魚の身を解して、口へと放り込めば鼻を抜けていくサカナの薫りは、芳醇に綾を愉しませる。
「ん~、ふっくらしてて美味しい」
 塩加減も絶妙で、脂の旨味を引き出して。
「そんなに美味いか」
 手放しで褒める綾の言葉に、梓も彼に倣ってさっくり箸を割り、(たぶん)青魚の身を解しにかかる。ぱりっと弾けた皮の隙間から、待っていましたとばかりに溢れ出す薄黄金色の脂。
 ころりと骨から外れた背身と腹身を一緒につまんで、咀嚼。一噛みごとに溢れる旨味に、思わず瞠目。
「おぉ……これは確かに絶品……!」
 感嘆の声を漏らした。自信たっぷりに「世界一おいしいおサカナ」と謳っていたが、これならば納得できた。
 ほわほわの白身魚(残念ながらコレがなんという名の魚か判らなかった)に、合わせられた【ねこたらし】の軽い飲み口は、爽やかでいくらでも食えそうで飲めそうだ。
 口の中の脂を酒と一緒に飲み込んで、次に箸を伸ばした刺身は、冷えたまま食えるように砕いた氷の上に並べられていた。
 あの猫の手が、この薄造りを拵えたのか――考えてはいけないことをふと思ってしまったが、口に含んで噛んだ瞬間、どうでもよくなった。
「綾、刺身も美味しい」
「ほらほらぁ、一緒に頼んで良かったよね」
「ああ、正解」
 醤油にちょこんとつけて、もう一口。
「んん~、ぷりぷり」
 言った綾の満足気な顔を見ながら、梓は杯を傾ける。
 絶品の魚をつまみに飲む酒――なんという贅沢。最高だ。
 串刺しにされたとうもろこしの焼き加減も、扱い慣れない食材だとは思えぬほどにちょうどよく焼かれていた。
 一口齧り付けば、ぷちぷちと小気味よく弾けて、甘くジューシーな汁が溢れてくる。
 仄かに焦げたバター醤油の香りがして、小粋なミケのイタズラにしてやられた。
 どれもこれも美味い。酒も旨く、徳利はすでに空。この杯を干せば、おかわりを頼みにいかねば――
「ああー、イカ焼きもいい……!」
 食いやすいように切れ目が入ったイカの姿焼きは、甘辛い醤油ベースのタレに浸されてしっかり味付けがされていて、それが絶妙にイカの甘みを引き立てる。
「やっぱり全部頼んで良かったー」
 【とろぴかるミックスジュース】を片手に、綾はほわりと笑う。

 ひゅぅぅ……ん――

 夜空を裂いた一筋の光が甲高く鳴きながら、刹那の消滅、その一瞬後には、にゃーんと可愛く鳴く。
 にゃーん!
 どんっ、にゃーん!
 景気よく上がり始めた猫華火に、サカナよりもそちらに釘付けになった。
「可愛い~! 写真写真……」
 いそいそとスマホを取り出して、写真を撮り始める。
 『へそてん』でひっくり返っているシルエットの猫、丸いボールで遊ぼうとしているシルエット、さらに打ち上がったのは、猫の顔のシルエット――次々に打ち上がる華火の可愛さに画面をタップする指は止まらない。
 しっぽをぴんと立てた猫華火を写真に撮りながら、可愛い可愛いと喜びはしゃぐ綾を見ているのも、なかなかに微笑ましいのだが、せっかくの絶品料理が冷めてしまっては、もったいない。
「おーい綾、写真ばっかり撮っていたら、俺と焔と零が全部食べちまうぞー」
 蒼い仔竜が、綾へと向かってガウっと一啼き。彼の周りを飛び回るのは、キューと甘えた声で啼く焔。
 赤い姿を追って、テーブルへと視線を戻せば、イカ焼きに食らいついている零と、焼きとうもろこしを揺らす梓の悪戯な笑み。
「あ、こらっ、ちゃんと俺の分も残しててよ、梓」
 綾は黒い浴衣の裾を捌き、スマホを濃紅色の帯に差してテーブルへと戻ってくる。
 またもや、にゃーんと鳴いた華火を振り返えれば、首を傾げて座る猫がそこにいて、慌ててスマホを構えて画面をタップした。
「可愛いのが撮れたー。見て、梓。ほら、消えていくところでも、可愛い」
「おぉ、本当だ」
「それは俺のとうもろこしじゃなかったっけ?」
「いや、俺のだ、なあ零?」
 綾が見せるスマホの画面を一瞥、とうもろこしへと齧り付けば、相棒がガウと同意の一声。
 ジュースのストローに口をつけ、一口。さっぱりと甘いフルーツのミックスジュースで喉を潤した綾は、
「まあ、いいか」
 あっけらかんとして、箸を持った。
 空でもう一度、にゃーんと華火が咲いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

香神乃・饗
誉人ミケさんの所でもこうにゃあっす
イエーガーカードの浴衣
誉人も浴衣でどうっすか

ミケさんお久しぶりっす
誉人は何にするっすか
俺は
\イカ焼き/\もこうにゃあ/っす(両手挙げ注文
もこうにゃあじゃないんっすか
限定品っす
にゃーっす

たーかとお代わり要るっすか
俺の差出し
俺もおかわりもこうにゃっす
美味しいっす

腹一杯食べねこたらしで乾杯
ミケさんも呑まないっすか
かんぱーいっす
たるたる
今日は笑い上戸

襟の合わせ持ちぱたた
アッツイっす

ミケさんって何猫っすか
又秘密っすか

たーかと
有難うっす
へへへ
美味しいっしゅ

にゃーん!
目キラ
かーわいぃっす!(たーまやの音程
美味い酒気が置けない友と花火背負い写真
ミケさんと3人で撮って良いっすか



●紺混じれば黒
 天高くの昇る金の粒が、にゃーんと爆ぜた。
「にゃーっす」
 真似して、見上げた空には、駆ける猫が一匹。
 隣からは、からころんと下駄の音。
「誉人、ミケさんの所で、もこうにゃあっす」
「……もこうにゃあ?」
 聞き返す鳴北・誉人に、香神乃・饗(東風・f00169)はしっかり頷いた。赤い浴衣に身を包む饗は、揃いの紺色の浴衣を着た友を連れて【出張魚亭―ととにゃ―】のカウンター前に立つ。
「ミケさん、お久しぶりっす」
「おにいさん! ご無沙汰ですにゃあ」
 先の戦乱の最中に繋いだ縁はいまだ健在で、彼はぺこりとお辞儀をした。饗も同じくぺこりとお辞儀。
「なににするにゃすか?」
「イカ焼きと、もこうにゃあっす!」
 諸手を上げての注文に、ミケは首を捻った。
「もこうにゃあはないですにゃあ……」
「もこうにゃあじゃないんっすか! コレコレ、限定品っす!」
「焼きもこしにゃ!……焼きもし、と? うにゃ?」
 だんだん【焼きとうもろこし迷子】になってきたミケの可愛さに悶絶した誉人は、掌で顔を覆ってなんとか立っていた。
「誉人はなに頼むんっすか、そんなことなってたら頼めないっす」
「――まって、おっけ……いや、まって、――焼きとうもろこしと、イカ焼きと、刺身とお酒」
「合点にゃ!」
 カウンターのベンチに座ったふたりの前に皿が用意されて、
「焼きもころしにゃす! 【ねこたらし】もどうぞですにゃ」
 そこにぞくぞくと頼んだものが載せられていく。
 そんな中、互いの杯を酒で満たして、夏の善き日に乾杯を。
「ミケさんも呑まないっすか」
「にゃにゃ! ミケさんはたくさんおサカナを焼くにゃす!」
 細い腕で力こぶを作って、やる気満々のミケは、大忙しに料理を精を出す。

 ◇

「たーかと、お代わり要るっすか」
「ん、いる」
 芯をころりと転がして、饗の差し出した新しいものに齧り付いた。饗も同じように芯をころり。
「俺もおかわりもこうにゃっす」
 饗も同じように歯を立てた。口の中で弾ける甘い小さな粒が、たまらない。バター醤油で薄く味付けされているから、なお香ばしい。
 ミケを交えた他愛ない話は淀みなく、ほわりと優しい倖せが揺蕩う。
 陽気に笑う饗と、まだけろりとして刺身を食う誉人。
 サカナの種類を訊ねることは、「ととにゃの絶品おサカナですにゃ」とはぐらかされるからやめた。確かに絶品だ。
 それに合わせる【ねこたらし】も美味い。さらりと軽く、爽やかで飽きがこない――だからつい飲み過ぎてしまう。
「かんぱーいっす」
 何度目かの乾杯に付き合って笑う誉人は、饗の顔を覗き込んでくる。
「今日はよく呑むねェ、大丈夫か?」
「へへ、だいじょぶっす!」
 たるたる、とろりと蕩けて笑う。やたらめったら愉しそうな饗は、徳利を取り上げられたことに気づかない。
「たーかとぉ、おさけおいしいっすねー」
 言って、(強制的に最後にされた)杯を干した。
「でもアッツイっすー……!」
 襟の合わせを持って扇ぎ、籠った熱を逃す。
 陽が落ちても、夏のビーチはまだまだ暑い。いくらぱたぱたと扇げども、動くから余計に暑くなる。酒も入っているから尚更で。
「ミケさんって何猫っすかー?」
「ととにゃのミケさんですにゃ! くふふっ」
「まーたひみつっしゅか……」
 しょんぼりした饗へ、誉人からよく冷えた【とろぴかるミックスジュース】が渡された。
「酒はもう終いな。それ飲んで酔いさまそォ」
 言われた通り、ちゅーとジュースを一口飲んで、へらりと笑う。
「へへへ、あまおいしいっしゅー……たーかと、ありがとうっすー」
「いいよォ、そんなん」

 ◇

 火照った頬を撫でる海風に、空を見上げる目を細めた。
「かーわいぃっす!」
 よく「たーまやー」と花火に向かって叫ぶごとく、饗が大声を上げる。蕩けていた黒瞳ははっきりとキラキラに輝いて。
 彼の声に応えるように、空からまたにゃーんと猫が啼く。猫じゃらしにじゃれつく瞬間の姿が、ぱっと咲く。
「誉人、写真撮るっす」
 肯いた彼は饗に身を寄せた。
 インカメラに切り替え、ふたりの顔が《報》の画面に映り込む。スマホは準備万端に、その一瞬を待っていた。

 ひゅぅぅ……――

「きたっす!」
 小さな画面に全てが映し出されている――可愛い猫華火と、気の置けない友にして大切な主のやわい笑みだ。
 カシャっと一瞬の電子音。
 いい写真になったと誉人に見せれば彼も肯き、「饗、じょーず」と腕前を褒めてくれた。
「ミケさん、またいっしょに写真撮るっす!」
 饗の提案に驚きと喜びに照れたミケは、うにゃあとほっぺをむにむにしながら屋台から出てくる。
 背景は猫華火、ミケを真ん中にして、さんにんの笑顔が夜空を彩った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花川・小町
【酔】
(天の花火に地の屋台――可愛らしいことこの上ない彩りと響きで満ちる舞台に、楽しげに笑んで)
ご機嫌良う、ミケちゃん
健勝で何よりよ、また会えて幸いだわ
ふふ、今宵も素敵なお歌と見事な香りに誘われてきちゃったの

さて、清宵ちゃん
絶品、特別、だなんて聞いたら――何よりこんなに可愛く頑張ってるミケちゃんを見たら、頂くお品はもう決まったも同然よね?(もころし、に頑張ってと小さくエール送り)
花火に負けず劣らず、盛大に、絢爛に――全て満喫させて頂いて、今宵も華やかな宴と洒落込みましょう

(極上の味覚と至福の光景に、心行くまで浸り)
ミケちゃんに、お店に、幽世に――賑わいと輝きが満ち続けますよう
噫、今日も万々歳ね


佳月・清宵
【酔】
(悪友がいつになく純粋に上機嫌なのも頷ける――成程、偶にゃ平和極まりねぇ一夜も良いか
――明るく響く花火や歌声に、ゆるりと浸り)
よお、変わらず繁盛してるみてぇだな
名店も名店主も健在の様で何より――コイツは今宵も楽しく過ごせそうだ

(投げかけられた言葉に、俺が頷くまでもねぇだろと笑って返し)
全く、腕の良い大将と景気の良い女が揃うと敵いやしねぇ
――無論、否やはねぇさ
定番も特別もとびきりも、目一杯頼むぜ、大将
(楽しげに弾む声につられるまま、注文もたんと弾んで)

(今宵は戦どころか平和の真只中――気の抜ける花火の音も悪かねぇ)
――間違いなく絶えやしねぇだろうさ
何せ、絶えさせねぇ女が此処にいるからなァ



●酔い知らず月輝
 星々は瞬き、濃紺の空を彩る。されど、今宵の夜はずっと賑やかだった。
 天に咲いて啼く華火も、地でも元気に愛らしく客を呼ぶ声も――可愛らしいことこの上ない。
 極上の彩りと響きで満ちる舞台に、そよそよと夏の浜風が流れていく。
 花川・小町(花遊・f03026)は上機嫌だった。彼女の隣を征く佳月・清宵(霞・f14015)とて、存外機嫌がいい。
 小町が純粋に心を弾ませている――それも偶には良いだろう。
(「平和極まりねぇ一夜も悪くねぇ」)

 ひゅるぅ……ん――

 まっすぐに伸び上がる金色の光が、刹那のうちに消えて、次の瞬間。

 うにゃーん!

 元気な猫の声と共に、香箱座りで眠る猫の姿が夜空に咲いた。
「おサカナー! おサカナー! ととにゃのおサカナですにゃー!」
 空の声だけでなく、ふたりの耳を愉しませる声がもうひとつ。景気よく詠っている。清宵の頬も緩み、甘ったれた平和に浸る。共に歩む彼女は、たまらずふふっと妖艶に笑声を上げた。
「よお、変わらず繁盛してるみてぇだな」
「うにゃ! あのときのおにいさんですかにゃ!? ご無沙汰ですにゃ!」
「ご機嫌良う、ミケちゃん。健勝で何よりよ、また会えて幸いだわ」
「にゃにゃ! おねえさん! はにゃあ、また来てくれてうれしいですにゃ」
 ぺこりぺこりと律儀に頭を下げるミケが微笑ましくて、
「ふふ、今宵も素敵なお歌と見事な香りに誘われてきちゃったの」
「お恥ずかしいですにゃあ……でもととにゃのおサカナは、香りも絶品ですにゃ! すぐに用意しますですにゃ!」
 先は桜の下で出会った名店も、名店主たるミケも健在だ。
 たった一晩、ただの一度訪れただけの客の顔を憶えている商売上手は、カウンター席へとふたりを導く。
「――コイツは今宵も楽しく過ごせそうだ」
 網の上には、やはり名も知らぬサカナが美味そうな脂を垂らしながら焼かれていた。
「さて、清宵ちゃん」
 腰を落ち着けるや否や、小町は流麗な金の眼差しを清宵へと投げ、
「絶品、特別、だなんて聞いたら――何よりこんなに可愛く頑張ってるミケちゃんを見たら、頂くお品はもう決まったも同然よね?」
「俺が頷くまでもねぇだろ」
 なんて笑って返し、紅玉が如き星眸を彼に向けた。黒いさんかく耳が清宵の言葉を待つように、ぴこんと立った。
「定番も特別もとびきりも、目一杯頼むぜ、大将」
「もちろん、お酒もね」
 楽しげに弾むミケの歌声につられるままに、多くはない品書きの端から端まで頼む。未だ酒は呑んでいなくとも、このやわく優しい雰囲気に、心は確かに弾んでいて。
「はにゃあ! たくさんですにゃ! 合点にゃ! おサカナと、イカと、焼きもころし……もこ、もう、んと、焼きともし! んにゃ?」
 首を捻りながら、ぶつぶつと「焼きもし? にゃ? もこし? んにゃ?」と呟くミケに、
「焼きとうもろこしよ、ミケちゃん、頑張って!」
 小町の小さな声援が届く。
「にゃす!」
 ぶつぶつと、呪文を唱えるように、絶妙に言えていない「焼きとうもろこし」が、サカナの焼けていく音に掻き消される。
「全く、腕の良い大将と景気の良い女が揃うと敵いやしねぇ」
 清宵の頬に刻まれた笑みも深くなるというもの。
 網を占拠したサカナとイカととうもろこし。イカのタレが炭に落ちた。ふわりと舞う火の粉に、香り立つ潮。
 上機嫌なままのミケがまず出したのが、銀皮造り。砕けた氷の上、銀色がきらりと光る刺身が小町と清宵の間に出された。
「太刀魚かしら?」
「ととにゃの絶品おサカナですにゃ!」
「企業秘密ってことか」
 くふふっと笑ったミケは、それ以上はなにも言わないで、醤油と山葵も用意して。
 一切れ食えば、旨味が舌に纏わりつくようで。さらっとした脂すら旨く、皮の歯ごたえも面白い。
「美味いなぁ……」
 ぽつりと漏れた感嘆に、小町は笑む。
 清宵の嘘のない言葉に肯ける。
 香ばしい甘辛い香りをたてるイカの姿焼きの隣で、ゲソが踊る。それを捕まえ、粗塩をぱらりと振りかけてもう一品が出来上がる。そうしてぞくぞくとテーブルの上が華やかに豪勢に彩られていった。
(「此れ程並べたところで、瞬く間に消えてくからなぁ……」)
 小町の淀みない箸は、皿と口とを往復している。休んだかと思えば、杯を持っていて――かくいう清宵とて、肴の旨さに箸はなかなか止められないでいる。
 硝子の涼しげな徳利を傾ければ、夜空に走る元気な子猫の群れ。
「花火に負けず劣らず、盛大に、絢爛に――全て満喫させて頂いて、今宵も華やかな宴と洒落込みましょう」
「――無論、否やはねぇさ」
 まだまだ、宴は始まったばかり。

 ◇

 ひゅるひゅるぅ……――にゃーん!

 空が啼く。ぐぐっと背伸びをして、しっぽを立てた猫のシルエットが夜空に現れ、その猫へと飛びかかろうと狙い澄ます一匹も打ち上がった。

 にゃーん! うにゃ、にゃーん! ドォ……ン!

 連発は猫の喧嘩へと発展して、最後は大きな菊が咲いて、喧嘩両成敗。
 血を流すような戦どころか、猫華火の喧嘩――まさに平和の真只中だ。星空を彩る猫の喧嘩を見上げて、愛らしくも滑稽な様子に笑ってしまった。
 腹に響くような低い炸裂と共に咲く大輪華も捨てがたいが、偶には気の抜ける華火の音も悪くはない――とうもろこしを齧りながら、ゆるりと酒に興じる。
 極上の馳走は、隅々まで小町を愉しませた。その上、夜空に繰り広げられた至福の光景。邪気の無いひとときは、なかなかどうして悪くない。
「ミケちゃんに、お店に、幽世に――賑わいと輝きが満ち続けますよう」
 そっと祈りを込めるのは、極上の酒が注がれた杯。
「――間違いなく絶えやしねぇだろうさ」
 清宵の手にも、硝子に煌く酒が揺れる。
 多くを語り合わずとも、その視線の飄然たる彩を見返して、一口に呷る。
(「何せ、絶えさせねぇ女が此処にいるからなァ」)
 深く息をついて、清宵。彼の胸の裡を知ってか知らずか、小町は、「ミケちゃん、お酒もう一本ね」と【魚亭―ととにゃ―】の輝きに貢献していた。
 繊指は徳利に残った最後の酒を、ふたつの杯に注ぎ切ってしまう。
 ぽたり。
 杯に立った波が静まるのを待たず、小町は早速口をつけた。
「お待ちどうですにゃ」
 追加された徳利が、カウンターにことんと置かれる。ちょうど、空の猫が『へそてん』でひっくり返ったところだ。
 空に遊ぶ猫たちの眩さに、ふたりの、趣の違う麗容は華やぐ。
「噫、今日も万々歳ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ジャンブルジョルト
ここの魚料理は絶品だが、限定品の魅力には逆らえねえな。イカ焼きと焼きとうもろこしを頼むぜ……って、ミケ、言えてないじゃん。正しい発音を教えてしんぜよー。
りぴーとあふたーみー! やきとうもろこし。
(耳を傾け)違う違う。やきとうもろこし。
や、き、と、う、も、ろ、こ、し!
……ダメだ、こりゃ。

じゃーん!
イカ焼き&もろこしの二刀流だぜ。残像が見えるほどの速度で顔を左右に動かし、交互にかぶりつーく!
そして、夏祭りのお供といえば、ラムネ……しまったー! 両手が塞がってるから、開栓できなーい!
誉人、代わりに開けてー。
くぅ~、ラムネ玉ポン!を人任せにするなんて断腸の思い……。

煮るな焼くなとご自由に扱ってください



●弾ける燻銀
 オトナのヨユーを醸しながら、屋台に近寄ってくるのは、さすらいの美食剣士(勝手に命名)ジャスパー・ジャンブルジョルト(JJ・f08532)、そのひとだ。
 【魚亭―ととにゃ―】のサカナ料理の旨さは知っている。絶品だった。文句なしに美味かった――だが、『限定品』の魅力には逆らえない。まずはそちらを攻めねばなるまい。
「ミケ、イカ焼きと焼きとうもろこしを頼むぜ」
「合点にゃ! イカ焼きと、やきもこしにゃ!」
「って、ミケ言えてないじゃん」
「うにゃあ……お恥ずかしいですにゃぁ……」
 てへへっとぴこんと立った耳を掻いて、くしゃりと容貌を崩した。
「ふっふっふっ、俺が正しい発音を教えてしんぜよー」
「はわわっ、いいんですかにゃ!? はっ、おにいさんは、あのときの!」
 ミケが初対面の仲ではないことを思い出した。
「俺のことは、今はいいんだよ。りぴーとあふたーみー! やきとうもろこし」
「やきもころし」
「どんな殺し方だ。違う違う。やきとうもろこし」
「やきとうもこし」
 至極真剣な翠の視線がジャスパーを刺す。やる気はあるようだが、その言葉は絶妙に間違い続ける。
「や、き、と、う、も、ろ、こ、し!」
「や、き、と、う、も、し、こ、もこ、んにゃ?」
 途中まで良かったのに! ダンっと地団駄を踏みかけて、オトナのヨユーを思い出し、深めの溜息をついて我慢した。
「……ダメだ、こりゃ――おい、誉人」
「あはっ、ごめ、なァにィ? JJサン」
 焼きとうもろこしの発音練習をしている間、テーブルに突っ伏して薄い背を震わせていた鳴北・誉人は、相も変わらずミケのいじらしさに悶え苦しんでいたようで。
「教えといてやれよ」
「え、かァいいからアレのままでいいじゃん」
 しれっと放置を決め込んだ彼は、既に酒が入っていて、やたらとゴキゲンだった。

 ◇

「じゃーん! 見ろ誉人、イカ焼き&もろこしの二刀流だぜ!」
 串刺しにされたイカととうもろこしを両手に一本ずつ持ち、残像でジャスパーがふたりに見えるほど高速で交互に串にかぶりつく!
「あああ! JJサン! そんなしたら!」
 自慢の銀毛がべったり汚れるよォなんていう誉人の言葉は聞こえていない――だって、この食い方、贅沢すぎやせんか。
 イカもろこしイカもろこしイカもろこしイカもろこしイカもろこし。
 口の中でイカの甘さとバター醤油が絡み合って、むちっと食感とぷちっと食感がジャスパーを楽しませる。
 うんまい。
 無限に食っていられそう。
 無限イカもろこしできそう。
「……しまったー!!」
「っくりしたァ! なに、どォしたの」
 口をつけかけていた杯を置いた誉人を見上げて、
「夏祭りのお供のラムネを開栓できなーい!」
 由々しき事態だ。無限イカもろこしの最中に気づくなんて。
「両手塞がってるもんなァ」
「くぅ~、ラムネ玉ポン! って出来ない……!」
「……そんなん、なるくらいなン?」
 想像以上の悔しがり方に驚きを隠せない誉人。
「当たり前だろ! この一本に一回こっきりの楽しみ! しかも一回したら元に戻らないんだぜ!?」
 だが、今ジャスパーの手は無限イカもろこしで忙しい。
 そんな折、ジャスパーの肩から茶色い影がぴょこりとテーブルに乗った。
 ジンクスだ。老紳士然とした佇まいの彼は、ジャスパーに手のものを皿に戻せと言わんばかりにヂューヂュー啼いているが、無視。
「この楽しみを人任せにするなんて断腸の思い……!」
 だとしても開いていなければ飲めない。
「誉人、代わりに開けてー」
「任せてJJサン」
 ジャスパーの勢いにやや気圧されていた誉人だが、瓶が倒れないよう支え、封のビー玉を落とす。
 ぽしゅんっと軽やかな甘い破裂音、しゅわりと泡の中をビー玉が落ちて、反対に中身がしゅわしゅわとせり上がって――それでも溢れ返ることなく、鎮まって。
「おおお! この瞬間、やっぱりいいなー! やりたかったー! やっぱりやりたかった! 俺がビー玉ぽんしたかった!!」
 無限イカもろこしにドハマりしてしまったばっかりに。
 楽しみが一つ減ってしまった!
 大袈裟に嘆息するジンクスと、ビー玉ぽんを代わりにしてくれと言われたからやっただけの誉人は、互いに見合って――片やもう一度肩を落とし、片や笑声を弾けさせて、ひいひいと苦しんだ。
「わァった! わァったよ、JJサン! それ食い終わってからもう一回ポンすりゃァ解決でしょ?」
 悲しみと悔しさが先行して、ワンモアを失念していた。なんたる失態!
 無限イカもろこしを、今は有限にして。新たなるポンしゅわわのために、ガツガツと食い始める。
「あ~、うま~い!」
 至福の時間は、簡単に終わりそうにない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴丸・ちょこ
【黒】
(元気な詠声や花火にぴこぴこ耳を傾けつつ、上機嫌に尾を揺らし)
よ、大将
相変わらずで何よりだ――今日も良い匂いをさせてるな
(魅惑の香りに誘われるまま、此方もまた舌がぺろり、目がきらりと)

注文は無論、決まりだ
おうよ、それ以外にねぇさ
自慢の逸品達、今夜も余さず全て味わわせてくれ
(“もろこし”を応援しつつ、おう俺にもそんな時期があったあったと笑って励まし)

酒もこりゃまた名前からして極上だな
一段落すりゃ、後で大将も一緒にたらしこまれようぜ
(お代と一緒に贈答用の酒器をちょいと添え――ミケにとっても最高の夜になる様にと)

にしても、本当に流石の腕だな
花火も肴も盛大極まりねぇ
(にゃーん!と満足げに重ねて)


呉羽・伊織
【黒】
(花火にミケに――愛らしい声に、今宵も早速ニャごみきって!)
ミケサ~ン、久しぶり!
また店やってるって聞いて、此方も今日も元気にこの通り――まっしぐらに飛んできたよ!

(やはり悩む間もない決まり文句に笑い)
ちょこニャン、此処はやっぱり“いつもの”で?
――んじゃ花火の如く、またぱぁっと豪勢に!
もころし、混乱しちゃうよな
でもニャんだって…コホン、何だって絶品に違いはないさ!
(ニャごみすぎたか、飲む前から緩みまくり)

ああ、お酒まで可愛いのなんの!
折角の夜だし、ミケサンも隙見て満喫してな!
(右に同じく楽しい夜を願って)

嗚呼、最高の一言に尽きるな
此処はたーまやー、に代わって――とーとにゃー!と行くか!



●鈴玲瓏と濡れ烏
「よ、大将」
 鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)の、苦み走った低い声に呼ばれたミケは、客呼びの歌をやめた。
「ミケサ~ン、久しぶり! また店やってるって聞いて、此方も今日も元気にこの通り――まっしぐらに飛んできたよ!」
 黒く長い尾を上機嫌にゆらゆら揺らすちょこと、夜空ではにゃーんと啼いてボールにじゃれる猫華火、そうして、さんかくの耳をぴこっと立てたミケ――この可愛いしか溢れていない空間に、呉羽・伊織(翳・f03578)は、すっかりニャごみきって。
「おにいさん方! お久しぶりですにゃ! らっしゃいですにゃ!」
 ぺこりとお辞儀。
 ちょこと、伊織を見上げて、こちらにもぺこり。やはり律儀。
「相変わらずで何よりだ――今日も良い匂いをさせてるな」
 魅惑の香りに誘われるままに、カウンター席へと腰を落ち着かせた。網の上のうまそうな様々なサカナと、イカの姿と、黄金色の夏野菜――これを今から食えるのだ。ちょこの金瞳はきらんきらんと輝いて、ピンクの舌がまたもやぺろんと顔を出す。
「今日は、おサカナだけじゃなくて、イカと、焼きもし……やこもし、やきもうこし……うにゃあ……」
「もころし、混乱しちゃうよな」
「おう、俺にもそんな時期があったあった、ゆっくり言えるようになりゃいいさ」
 上手く言えないほっぺをむにむに、項垂れた黒いさんかく耳だったが、「旦那もですかにゃ……?」と翠の目がきらりと光る。
「焦ることニャいってこと、ね、ちょこニャン」
 大仰に頷いた彼に、ぴょこりと耳が立ち上がった。
「でもニャんだって……コホン、何だって絶品に違いはないさ!」
 たとえ、焼きとうもろこしという言葉が言えずとも、網の上の野菜は濃い黄金に輝くのだ。
「注文はな、大将。既に決まってる」
「ちょこニャン、此処はやっぱり“いつもの”で?」
「おうよ、それ以外にねぇさ」
 迷うことない言葉に、伊織の様相はやわく弛んだまま。さすが揺るがない。
「いつもの?……前に出したカイは持ってきてないにゃす……焼いたカイはお留守番ですにゃ……」
 むろん『いつもの』とは、ちょこの注文の仕方だ。
 小さな体と侮るなかれ――この食欲を満たすには、少々の苦労がいる。
 ドヤァ……と、金瞳を細め、ふふんと鼻を鳴らした。
「ないもんを出せなんて言わねぇよ。かわりに大将自慢の逸品達、今夜も余さず全て味わわせてくれ」
「合点にゃ!」
(「ニャごみすぎちゃうな、なんだってこんなに可愛い……!」)
 やる気満々に細い腕で力こぶを作るように気合を入れたミケは、うにゃうにゃ鼻歌を歌いながら、甘辛いタレに付け込まれたイカと、生ゲソを網の上に載せる。
 炭に落ちればふわりと火の粉が舞った。その風情すら愉しんで。
「――んじゃ花火の如く、またぱぁっと豪勢に!」
 食らい尽くそうか。
 なにやらのサカナの一夜干しは、その独特の臭みすら旨み溢れ、薄皮の中でふつふつと脂が行き場を求めていた。
 ミケ鬼門の焼きとうもろこしも、こんがり黄金色。焦げた皮が殊更うまそうに見えるコントラストに、食欲をそそる甘い香り。
「旦那のマタタビ酒に勝るとも劣りませんですにゃ、おサカナによく合う【ねこたらし】にゃ」
 これは冷で愉しんでほしいと冷酒用の徳利で出された。ガラスの奥の薄琥珀の酒は今か今かとその瞬間を待っている。
「ああ……嗚呼、お酒まで可愛いのなんの!」
「こりゃまた名前からして極上だな」
 ねこたらしだなんて――ちょこを骨抜きにする魂胆が見えているではないか。ともあれ、伊織も酒にたらしこまれる気でいるのだが。
「ととにゃのおサカナをもっと美味しくするおサケですにゃ」
 杯に注いで、まずは味見――雑味が少なくクセも弱い。さらりと流れていく飲み口は、危険だ。
「飲みやすくてすぐツブれそう!」
 なんて――酩酊するまで飲むつもりのない伊織はくすくすと笑う。
 美味い。
 出すものすべてが、ちょこと伊織の腹へと消えていく。
 口に広がるサカナの脂も、むちっと弾力のあるイカも、ぷちぷち弾けるとうもろこしも――そうして、砕いた氷の上を泳ぐように盛られた白身魚(例の如くダレかは判らない)の活け造りに、醤油の深い甘味が合わさって。
 爽やかな【ねこたらし】が、いくらでも食えてしまえそうに、後味を軽くさせる。
 矢張り美味い。
 サカナの姿焼きがあっという間に骨だけになった。
「にしても、本当に流石の腕だな。花火も肴も盛大極まりねぇ」
「嗚呼、最高の一言に尽きるな」
 謙遜しながらも、くふふっと嬉しげに笑い、揺れる尻尾はゴキゲンだ。
「そうだ、大将。一段落すりゃ、後で大将も一緒にたらしこまれようぜ」
 少し強引にミケへと持参した土産を押し付ける。前回、注いだ一杯の酒でさえ、すんなり呑むことはなかったのだ。
「なんですかにゃ! にゃん、にゃあ! 旦那! お代だけ、おだっにゃあ!」
 慌てふためき渡された箱を持って、所在なげに伊織を見上げる。
「折角の夜だし、ミケサンも隙見て満喫してな!」
「うにゃああ! うに……旦那からのご好意ですにゃ……返せないにゃす……貰うのも忍びにゃいですにゃあ……」
「大したもんじゃねぇ、ちょっとした酒の彩りだ」
 粋な冷酒用の徳利を示して、「大将も使ってるじゃねえか、こういう彩りだ」――だから委縮するなと、ちょこ。
 極上のもてなしをするミケにとって、今宵が最高の一夜になるように――楽しい夜となるように。ふたりの願いが、酒器と共にその箱には詰まっていた。
 伊織とちょこを見比べて、手の箱へと視線を落とす。
「うにゃぁ……ありがとうございますですにゃぁ……」
 ほろほろにとけたミケの笑顔が咲いた。

 ◇

 ひゅるひゅる……――どっ、うにゃーん!

 打ち上がった華火二連発。大花は柳垂れに夜空に糸を引く――それでひっくり返って遊ぶ猫。
 にゃーんと啼いては、愛らしい猫華火が夜を明るく照らす。
(「妖怪花火かァ……見事だな」)
 躍動する猫のシルエットが次々に現れては、潔く散っていく。
「此処はたーまやー、に代わって――とーとにゃー! と行くか!」
 イカを頬張りながら夜空を見上げていたちょこは、伊織の提案にこくりと肯き、
 一直線に昇る金の光の甲高い合図に合わせて――息を吸う。

 にゃーん! とーとにゃー!

 陽気な二声が、猫とぴったり合わさって、思わず笑い出す。
「お上手ですにゃ」
 仰ぎ見る空を駆ける猫疾風。
 にゃーんと啼けば、手を伸ばし魚を掴み取ろうと必死の姿。
「あ、さっきのちょこニャンみたい」
「俺の方が勇ましいな」
 酒にたらしこまれながら、極上の浜風が流れた。

●おひらきですにゃ
 旦那方が席を立つ。
 ひとりでゆるゆると楽しまれてた旦那の、見事な食べっぷりに思わず握手握手と、旦那の手を取ってぶんぶん振ってしまった。
 ビーチに下りて楽しまれたふたりの旦那は、食事の礼を言いに戻ってきてくれた。赤い竜に頭に乗られたが、ふたりとも握手握手。
 今夜は再来店の旦那が多かった。
 美味そうに食って、幸せそうに酔って、愉しそうに笑って、嬉しそうに写真を撮った旦那とも握手。
 よく食いよく呑み、ほどよく喧々と言い合いをして、また笑う――とても不思議なふたりとも握手握手。
 ラムネ瓶をポンとしたいと大騒ぎしながら浜を楽しんだ旦那とも握手、ちいさなねずみがいたから、思わずひげがざわついたけれど、彼とも握手。
 そうして、酒器をもらってしまった。
 猫が好きなのだろう旦那と黒猫の旦那と、まったりした優しい時間をもらってしまった。
 去り際のふたりと握手をした。
 余ったおサカナを食いながら、まだ夜空に上がる華火を見る。せっかくもらった杯に酒を注ぎ、ちろりと舐めながら、がぶりとサカナを丸かじり。

「――……、とー、とー、とも、もし……と、う、も、ろ、こ、し!」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月14日


挿絵イラスト