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悲翼恋離の結び

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●前座
 廓の赤格子の中。其れが其処で生きる女たちの世界だった。傍から見れば煌びやかに見えるその世界も実のところ仄暗く。喜んでその世界に足を踏み入れた者はそう多くないのだから。
 女たちがこの世界に入った経緯は人其々。家が貧しく売られて来た娘。男に騙され売られてきた女。――今まで持っていた名を捨て、言葉を捨て、新たな女と成って今日も来た男たちを悦ばせる。
 何も顔が良いだけで過ごせる世界ではない。夢を売る世界なのだ。一夜限りの夜の夢を、その夢をもっと欲しい、恋しい、愛おしいと思わせるための技量を、磨かねばならぬ。
 器量も良ければ、廓の稼ぎ頭として見初められることも多く、其れに夢を抱く女は極僅か。其処まで頑張れる程までに心が折れてしまうか、病に倒れ伏してしまうか。
 見初められたとしても。その先に三下り半を突きつけられる女だっている。
 そんな女たちの末路は何時だって悲しきもの。

 常夜の夢で男も女も嘘の恋を、愛を囁く。
「こいしい」
「いとしい」
 そんなのどうせ口約束。
 髪切りでも爪剥ぎでも指切りだってしてやるのに。
 墓の下から掘り出したりしたりしないのに。

 恋に恋して。本気になって。わっちが阿呆でござんした。
 赫い糸でわっちと旦那の小指を結んで、何時でも離れないように。来世で結ばれれば。そうなれば良かったのに。
 蜘蛛の糸にも縋る様なこの想いを、お天道様は許しはしなかったのでありんす。

 わっちらが死んだあの樹の下に、どうか。どうか。
 離れ離れにならない様にと願いを込めて結んでおくんなまし。

 ――此れはそんな女達の、女の物語。

 さあさ嬢ちゃん坊ちゃんご婦人旦那。
 この恋、この愛、この舞台。どう演じて魅せてくれるのでしょうか。

●恋とは。愛とは。
「お集まりいただき、有り難うございます」
 ぺこりと頭を下げた少女はゆっくりと頭を上げて真っ直ぐに猟兵たちを見つめた。
「皆さん、舞台に立った経験はありますか? ……ある遊女たちの、影朧を舞台上で慰めてほしいんです」
 少女の口から飛び出た遊女の言葉がどういう意味をしているのかは、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)にとって未だ分からないものもある。けれど。助けられるものなら助けてほしい、と一枚のチラシを差し出す。紅い格子の向こうに頭に派手な簪を挿した着物を着た女の影絵のチラシには「悲翼恋離の結び」と書かれていた。
「強力な影朧だそうです。帝都桜學府が『魂鎮メ歌劇ノ儀』という舞台のの儀式の準備をしてくださってそれを使えば倒せるみたいですが……役に、なりきってください」
 影朧は遊女であるが、魂鎮メ歌劇ノ儀の影響か男女問わずに客や同僚である遊女、男衆などの廓の関係者として認知するらしく、舞台上の照明や音響機器に関しては帝都桜學府が補助を行うのでその辺りは安心してほしいと添えた。
「舞台の最後には観客の皆さんで結んでほしいものがあるんです」
 琴子からポケットから取り出したのはリボン。そのリボンは自分たちで持ち込んでもいいし、劇場でも用意しているから好きなものを使ってほしいと琴子は言う。
 もう二度と、そんな悲しい事が起きない様にと彼女達の願いや想いを結ぶ――終わらせるものだったがいつしか形を変えて縁を結ぶおまじないになったのだという。
「皆さんならできると、信じております」
 どうかお気をつけて。掌の上で新緑の若葉がくるりと回って輝いて猟兵たちを導いていく。


さけもり
 OPをご覧下さって有難うございます。さけもりです。
 廓という煌びやかな色彩な夢に何処か仄暗い世界が好きです。
 優しいシナリオにできたらいいなあと思っております。

●受付時間
 タグ、MSページ、Twitterのいずれかでご確認下さい。

●第一章『女郎蜘蛛』
 元遊女たちの成れの姿。
 男女問わずにお客人、同僚の遊女、廓関係者などお好みの役で演じてください。

●第二章『顔無しの悲劇』
 詳細は断章を追加致します。
 顔の無い私は一体誰でしょう。

●第三章『最近流行りの恋のおまじない』
 詳細は断章を追加致します。
 役者の皆さま、観客の皆さまで舞台に設置された樹にリボンや糸を結びましょう。
 それに何を願いましょうか。

 廓、遊女といったものが出てきますが助平なものは採用できません。

 一章のみの参加だけでもお待ちしております。
 皆さまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『女郎蜘蛛』

POW   :    操リ人形ノ孤独
見えない【ほどに細い蜘蛛の糸】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    毒蜘蛛ノ群レ
レベル×1体の、【腹部】に1と刻印された戦闘用【小蜘蛛の群れ】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    女郎蜘蛛ノ巣
戦場全体に、【じわじわと体を蝕む毒を帯びた蜘蛛の糸】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●開幕
 わっちらが何をした?
 わっちらは一夜の夢を魅せるために。願わくばわっちらも夢が見たいと、ただ願っただけでありんす。夜を共にしても、朝が来ればそんなもの叶わぬ夢だったとわっちたちは知っている。

 踏み入れた世界は過酷な世界だと気付いた頃には時既に遅し。
 客が取れなければ飯も食えん。病で痩せ細った遊女を何度も見てきた。年寄になっても尚見世にいて大往生した女なんて居たのだろうか。

 嗚呼でも。身請けされた友の顔は、此の世の世界のどんな行燈よりも眩く。同時に羨ましい。妬ましい。そう思えてしまった。

 自分にも指切りをしてくれる御方がいてくれたら。夜逃げを共にしてくれる御方がいてくれたら。共に死んでくれる御方がいたら。……なァんて、考える事も無くは無いけれど。でもそれって、夢でしかない。
 共に励む事のできる友がいてくれたら。自分を慕う禿の子がいたら。自分を贔屓にしてくれている御方がいたら。添い遂げたいと想える御方が、居てくれたら。
 こんな風に、ならずに済んだのかもしれない。

 ねえ、アンタ。
 あれやこれやと欲しがったばかりに。わっちらは蜘蛛になっちまったんかねえ。

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<補足>

・舞台の広さは十分にあります
・観客は帝都桜學府が守ってくれるので気になさらず

・純戦、心情、説得等お好きな様に
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籠野・つぼみ
来世でこそ結ばれるのなら。そんな気持ちになるのも、ええ、分かるわ。私だって、思ったことがあるもの。
私はきっと遊女を演じるのいいわね。聞き上手で、少し話しやすい同僚ね。声が届くところに行くわ。待っててちょうだい。
私は形こそ歪だったけれど、愛されたことはある。だからきっと、あなたたちの全てを理解してあげられないわ。だけど、分かりたいとは思っているの。
夢と現実の狭間のような、朧気な思い出。あなたたちもそれを見たのね。虚しくて、寂しくて、相手が目の前にいるのに空っぽになっていくような感覚。それを味わったのね。
あなたたちがそれを少しでも忘れられるように。傷を癒せるように。どうか、話してくれないかしら。



●壱幕
 ――来世でこそ結ばれるのなら。
 そんな気持ちになるのも分かってしまう。舞台上に用意された赤格子の向こう側、女郎蜘蛛たちを籠野・つぼみ(桜の精の妖剣士・f34063)は舞台袖から茶色の瞳で見つめた。
 自分だって嘗てはそうだったのだ。口を開いて餌を求めれば与えてもらえる籠の鳥。今は亡き恋人から解放されたつぼみの身は、もう自由だというのに。胸の裡は今も尚愛の苦しみに焦がされ、愛の甘さに飢えている。そんな人にまた出逢えたら。目を伏せて考えるも、自身を捕らえていた恋人も、捕らえられた鳥籠も既に無い。ゆっくり目を開いて用意された衣装に袖を通した。
 普段淡い着物をきっちりと纏う事の多いつぼみの衣裳は色彩の艶やかな赤で、少し空いた首回りが落ち着かない。だが今のつぼみの役柄は――『遊女』なのだ。落ち着かないなど、言ってはいられない。
「……待っててちょうだい」
 声を届けに行きましょう。一歩踏み出し、格子の向こう側にいる彼女らへと声を掛けた。
「今日の見世は? お客人は来たのかしら」
「……アァ、あんたかい。見て分からんかい」
「ええ、閑古鳥が鳴いてるわね。……時も過ぎて、そんな姿に」
「あんたは、わっちらの姿を笑うでありんすか?」
「愛されたかったと願った、わっちらを」
 つぼみは首を横に振るう。笑わない。だって、それは彼女らを否定する言葉になる。
「私は形こそ歪だったけれど、愛されたことはある。だからきっと、あなたたちの全てを理解してあげられないわ」
 そんな姿になるまで待ち続ける事無く。籠の鳥であった頃からつぼみは愛されていたのだから。
「だけど、分かりたいとは思っているの」
 空いた格子へとつぼみは手を伸ばし、女郎蜘蛛の手を軽く握る。
「ねえ教えて。貴女たちに何があったのか。どうか、話してくれないかしら」
 目を細めて呟くつぼみに女郎蜘蛛のひとりは口を開く。
「床を共にした御方と添い遂げたかった。嗚呼此の御方なら。身籠もっても善いと。そう、思ったでありんす」
 だけれどそれは叶わなかった。遊女は年季を明けなければ、その男に身請けして貰えなければ。遊女として、終わることができないのだから。ぽつりぽつりと零された言葉は顔の無い女郎蜘蛛たちの涙の様にも感じられた。
「だけど、あの御方は、わっちを、わっちらを。置いていくでありんす」
 夢と現実の狭間のような、朧気な思い出を語る彼女らの胸の裡は空いたまま。
「虚しくて、寂しくて、相手が目の前にいるのに空っぽになっていくような感覚。それを味わったのね」
 それを可哀想だとはつぼみは思わない。握った手は細く、荒れていて、触り心地が良いとはけして言えない。けれどその手を、心を慰めるように、傷を癒やせるように。つぼみは優しく撫で続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジーク・エヴァン
【設定】
仲間に誘われ初めて遊郭にきた若い剣客の客

今回はヒルデ(f34494)と一緒に儀式に参加しよう
演技なんてしたことないけど頑張ろう

…初めてこういう場所に来て緊張していて、女中さんが来るまでヒルデと話して緊張を解してると、何だか外が騒がしい
見れば外で影朧が人を襲ってる!
影朧を倒してヒルデを逃がさないと!
ヒルデ、俺の側を離れないで

迫り来る影朧達をアスカロンの破魔と浄化の白炎を纏わせた斬撃波や直接攻撃で切り裂こう

影朧達が糸の迷宮を作ってきたらUC発動!
聖なる炎は毒や邪悪のみを焼き払う
毒の糸を影朧達ごと焼き尽くす筈だ

…もう遅いだろうけど、せめて逝く時は寂しくないように
(燃える影朧の手を取って握る)


ヒルデ・ワーグナー
【設定】
姉さん女中が来るまで客をもてなす振袖新造

今回はジークさんと参加します
私も演技未経験ですが、ジークさん頑張りましょう!

姉さんがいらっしゃるまでお客様のジークさんをお相手します
…演技とはいえジークさんと話すのは楽しいです

外で姉さん達の悲鳴が聞こえ飛び出すと影朧達が!
ジークさんと共にここから出ましょう
勿論離れません
貴方は私が守ります

影朧達の攻撃を結界術で防ぎ、怪力で相手を投げ飛ばしジークさんを守ります

影朧が子蜘蛛を放ってきたら私も奥義を放ちます!
合体すれば炎は広がり、影朧を巻き込みますよ

…姉さん達
私はこの過酷な世界で人に夢を見せ続けた貴女方を尊敬してます
だから今は、一時の暇をお楽しみください



●弐幕
 腰に下げた刀――もとい、聖剣アスカロンを携えた若い剣客の男役のジーク・エヴァン(竜に故郷を滅ぼされた少年・f27128)の表情は硬い。演技をした事が無い自分だけれど、自分なりに頑張ってみせるつもりだった。
 そんな様子をヒルデ・ワーグナー(恋する戦乙女メイド・f34494)はジークの顔を覗き込む。共に演技は未経験。けれど二人だったらできると確かに感じているから、今真っ暗な舞台の上へと進んでいく。
 行燈を模したスポットライトが二人を照らせば、二人は襖のある一室の中で座っていた。
 目当ての遊女が何らかの事情で直ぐに来られない時。その間客を待たせるわけには行かず、姉の下についている振袖新造――ヒルデがジークを持て成しているのであった。
「……お客さん、こういう所に来るのは初めてで?」
「そ、そうだけど……」
 仲間に良い処だと言われ誘いに乗って初めて遊郭なんて来たけれど――こんな処に来た事が無いからどうしたらいいのかジークは戸惑う。着せられた振袖で口元を隠したヒルデは口許を隠す。
「ふふ。姉さんは人気者でありんす。暫しお待ちを」
 とは言えども。ヒルデにとってはこの時間が楽しいと感じるのは、相手がジークだからだろう。きっと他の男だったら詰まらないものだった筈。
 一方。ジークも緊張していたものの、相手がヒルデだからか。硬く強張った表情もゆっくりと緩やかに解けて柔和な表情へと変わっていった。
 そんな穏やかな時間が流れ、過ぎようとしていた頃。遊女たちの悲鳴が響き渡って、二人は襖の外へ出る。
 女郎蜘蛛たちが人を模した木造の招き人形に蜘蛛の糸を吐いており、ジークとヒルデの存在に気付いてくるりと首を其方へ向けた。
「ヒルデ、俺の傍を離れないで」
「勿論離れません」
 離れてたまるものか。ヒルデは一歩前へ出る。
「貴方は私が守ります」
 蜘蛛の糸を吐き出されると同時に指先で焔を燈したヒルデは焔の結界を張り防ぎ、蜘蛛の糸が効かないと気付いた女郎蜘蛛たちが突撃してくる――筈だった。其れをヒルデは掴んで投げ飛ばす。ジークには絶対触れさせない。けれどヒルデ一人では限界がある。投げ飛ばす途中のヒルデに向かってくる女郎蜘蛛をジークは聖剣アスカロンに宿った破魔と浄化の白き炎の衝撃波で怯ませ、その本体を切り裂いていく。
「嗚呼……新造が駆け落ちかい、年季が明けていないというのに!」
 嗚呼憎い。妬ましい。そんな憎悪を含んだ見えない蜘蛛の糸が二人に向かって放たれた。
「来たれ! 炎の理を秘めた宝珠よ! 悪竜を焼き付くす聖なる炎を解放せよ!」
 ジークの懐から取り出した宝珠が赤く光り、炎が蜘蛛の糸をちりちりと焼いて行く。可視化された蜘蛛の糸は女郎蜘蛛たちの邪な心も燃やしていった。
「私の魂の炎も存分に受け取ってくださいませ!」
 空中にヒルデがくの字に似た模様……ルーンのケンを描けば、ジークの炎に連なり、熱さを増していく。
「不思議、熱くないの」
「それどころか、心が」
「落ち着いて行く様で……」
 静かになって崩れていく女郎蜘蛛たちにジークは膝を突いて手を握る。――もう遅いだろうけれど、せめて逝く時は寂しくない様に。
 それを見たヒルデもまたジークの手の上に己の手を重ねた。
「……姉さん達。私はこの過酷な世界で人に夢を見せ続けた貴女方を尊敬してます」
 目を伏せて俯いたヒルデの白い三つ編みが揺れる。顔を上げて、女郎蜘蛛の顔を見詰めた。
「だから今は、一時の暇をお楽しみください」
 安らかな時など有っただろうか。過酷な職業だったと聞いている。だから今は、今だけは。ゆっくりおやすみなさい。ヒルデが囁くと女郎蜘蛛はゆっくりと瞼を下した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

俺の役はとある商家の若旦那
悪友に誘われ、初めて入った遊郭で出会ったのは
ヘルガ演じる儚げな遊女

遊女に情を移してはならぬと聞いたはずだった
だが、彼女の境遇と優しい心根に
俺はただの客を超えた感情を抑えきれなかった

待っていろ。必ずここから連れ出してやる。
だが、若輩の俺に彼女の身請けに必要な金を用立てることは叶わず

意を決した俺は、彼女の手を取り連れ出した
逃げよう
何もかも捨てて、新しい土地でやり直すんだ

だが、川辺の船着き場に着いたところで追手に追いつかれ
彼女一人を渡し船に乗せるのがやっとだった

心配するな。俺も後から必ず追いつく
お前は自由に生きろ
そう笑んで彼女を送り出し……

俺は斬られ、冷たい川に落ちた


ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

わたくしの役は年若き遊女
生まれは貧しい農家
家族を飢えから救うため、この身を差し出して

見も知らぬ男たちに春をひさぐ日々
華やかな地獄
その中で、あの人(ヴォルフ)だけが優しくしてくれた
ただ一条の光があれば辛い日々も耐えられた

いけないわ。そんなことをすればあなたが……
彼を案ずる気持ちと、共に添い遂げたい望みがせめぎあう

わたくしを送り出した彼が斬られ、川底に落ちるのを見て
涙と共に慟哭
たとえ自由を得たとても、あなたがいなければ意味がない
意を決し、渡し船から身を投げた

深く冷たい川の底
だけどもう、二人を邪魔するものは何もない
待っていて、あなた
たとえ行き着く先が地獄でも
これからは二人、永遠に



●参幕
 ――お前さん、白雪って知っているかい。
 商家の若旦那……ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)が悪友から耳にした話に因れば、真冬に降る雪の様に綺麗な女がいると言う。己に厳格なヴォルフガングは廓など興味は無かったがそこは仮にも商家の若旦那。付き合いが悪いとなれば今後の商売にも障ることから一度だけと足を運び、出会ったのが――白雪こと、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)であった。
 夜に振っても朝には消えてしまうその雪の様な姿にヴォルフガングは儚げな女が何故廓に。そう興味を持ってしまった。
 一夜の夢を魅る場所に身の上話など法度破りも良い処。けれどヘルガはその真摯なヴォルフガングの姿に、素直に吐き出してしまうのだった。
 身も知らぬ男たちに春をひさぐ日々。――華やかな地獄でも過ごしてこられたのは家族を飢えから救う為と此の身を差し出して、耐え忍んできたというのに。
 けれど。白雪も、若旦那も、それを知ってしまった以上、後には引けなかった。
 遊女に情を移してならぬと聞いた筈だったのに。ヘルガの境遇と優しい心根にヴォルフガングはただの客以上の感情を抑えきれず。ヘルガもまたただ一人、ヴォルフガングだけが優しくしてくれたと心惹かれて行く。遊女がそんな感情を抱いてはいけないと知っているのに。……ただ一条の光があれば辛い日々も耐えられたというのに。
「待っていろ。必ずここから連れ出してやる」
 だが若輩のヴォルフガングにヘルガの身請けに必要な金を用立てる事ができないのはヘルガも知っていた。
「いけないわ。そんなことをすればあなたが……」
 自分の事はどうなってもいい。ヴォルフガングを案ずる気持ちと共に添い遂げたい望みがせめぎ合う。――けれども、そんな事をしてしまった日には。自分は。彼は。碌な末路を辿らない事も知っている。
 ――此の華やかな地獄から抜け出せることができたのなら?
「ヘルガ!」
 其の時間は見回りが交代になる時間。警備も手薄になる今が逃げられる時だと。ヴォルフガングはヘルガの手を取り、走り出す。
「逃げよう。何もかも捨てて、新しい土地でやり直すんだ」
 あんな処はお前には似合わない。ヴォルフガングに強く握られたヘルガの手は、心臓の鼓動に併せて熱を帯びていく。嗚呼、此の人とだったら。
 そう、思っていた矢先。
 川辺について、船を指さすヴォルフガングの背中に熱が走る。女郎蜘蛛の、大きな爪だった。
「居た!」
「わっちらを置いて行くでありんすか」
 糸を吐き、ヴォルフガングの足の自由を奪う。もうこれ以上、何処にも行かせない様にと。
「行け、ヘルガ……!」
 軽いヘルガの体を押し出し、船に乗せて船場に繋がれた縄を斬ったと同時の彼女の船出を見送る。
「ヴォルフガングさま!」
「心配するな。俺も後から必ず追いつく」
「嫌! 貴方とじゃなきゃ……」
「お前は自由に生きろ」
 ヘルガを心配させない様、ヴォルフガングは笑みを浮かべるも、真正面から女郎蜘蛛の切り裂きを受けて川へ落ちて行く。
「嫌、嫌」
 例え自由を得たとしても、彼がいなければ意味が無い。ぽろぽろと零れ落ちる涙は川に流れて行く。
「……待っていて、あなた」
 一人じゃ嫌。けれど二人だったら。何所までも行けると思ったから。船から身を投げ、冷たい川に飲みこまれていく。
 もう二人を邪魔するものは何もない。例え行く着く先が地獄でも。
 ――此れからは二人、永遠に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
あたしには郭の世界はよくわからないけど…
でも、せめて同僚の遊女の役を

望むことは悪いことじゃない
願うことも悪いことじゃない
それすら奪われたら、わっちらはどうやって生きていけばいいのです?

選ばれるのは時の運
求める気持ちはけして罪じゃない
羨む気持ちだって罪じゃない

アンタは蜘蛛になったって綺麗だよ
だってこんなに気持ちに素直じゃないか
優しい気持ちを持っているじゃないか

わっちにはこうしてあげることしかできないけれど(UC使用)
でもね、アンタの心根が綺麗だったことは覚えておくよ
…わっちは、想いが腐ればアンタよりひどいことになるさ

アドリブ歓迎です



●四幕
 花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)の住むサクラミラージュに廓が無いわけではないが、自身とは無縁だったその世界の事はよく分からない。
 袖を通した衣裳は同僚の遊女を模した桃色の着物。彼女らを慰めるために舞台の上へ上がり、赤格子の中へと踏み入れた。
 ――身請けが決まったってよう。
 ――へえ、めでてえなあ!
 見回りの男たちの会話を耳にした女郎蜘蛛たちは嗚呼またかと項垂れるも赤格子の向こう側に手を伸ばす。女郎蜘蛛たちのどれも顔は暗く、中には嘆き涙を流す者も。まゆの姿に気付けばゆっくりその首を彼女の方へと向け嘆きの言葉を吐いた。
「望む事が悪いとありんすか」
「願う事が悪いとありんすか」
 望むことは悪いことじゃない。願いことも悪いことじゃない。そうではないとまゆは首を横に振るう。
「それすら奪われたら、わっちらはどうやって生きていけばいいのです?」
 希望が無ければ。叶うと願う事もできなければ。――ずうっと煉獄の中で待つ籠の鳥は息苦しくて、息絶えてしまう。それ自体は悪くないとまゆは説く。
 但し、選ばれるのは時の運なのだ。時機を狙えども狙えるものではない。
「求める気持ちはけして罪じゃない。羨む気持ちだって罪じゃない」
 誰にだって求める権利はある。求めなければ得られないものもあるだろう。誰にだって羨む気持ちは抱いていい。其処から湧き上がる感情を利用できるのなら使えば良い。
「アンタは蜘蛛になったって綺麗だよ」
 たとえ欲望を抱いて変わった蜘蛛の姿になっても。
「だってこんなに気持ちに素直じゃないか。優しい気持ちを持っているじゃないか」
 悪いと思っていながらも、その気持ちを素直に認める事のできるところ。なかなかできるものではないとまゆは思う。
「わっちにはこうしてあげることしかできないけれど」
 霊力を込めた刃は女郎蜘蛛たちの首元へと滑らされる。痛くない様に、楽に逝ける様に。
「でもね、アンタの心根が綺麗だったことは覚えておくよ。……わっちは、想いが腐ればアンタよりひどいことになるさ」
 其れを素直に認めることができても、何処か嫌悪感が残る。だからその心は美しいと思う。
「ほんとうかい? あぁ……そうかい、そうかい」
「ふふ、あんたの想いも叶うといいねえ……」
 ――こんな風に、なっちまったらいかんよ。
 女郎蜘蛛たちの邪心は切られ、蜘蛛の姿をしていた女たちは彩鮮やかな着物を着た女――遊女たちになって、舞台袖へと掃けて行く。隣には顔の見えない男と其々仲睦まじく、手を結びながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『顔無しの悲劇』

POW   :    理由無き悲劇の意味は
対象への質問と共に、【自身の身体】から【自身の一部である死霊】を召喚する。満足な答えを得るまで、自身の一部である死霊は対象を【自らの死因の再現】で攻撃する。
SPD   :    値打無き命の価値は
自身の【内の一つの魂】を代償に、【その魂を象徴する魔人】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【生前の特技】で戦う。
WIZ   :    稔り無き歩みの成果は
【何かを為しえた妄想の自分たち】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エルディー・ポラリスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 しとしと、ぴちゃん。
 ねえ姐さん。今日は雨が降っているね。客足が遠のいて暇になっちまうね。
 しとしと、ぴちゃん。
 ねえ兄さん。見廻りはどうだったかい。雨の中ご苦労様だよ。
 しとしと、しとしと。
 今日も姐さんは泣いてばかり。居なくなった兄さんの面影求めてしくしく、しくしく。ねえ姐さん。あたいがいるよ。あたしがいるから、泣かないで。
 しとしと、しとしと。
 今日も雨が降っているね。お天道様のお顔が見たい。てるてる坊主でも作ってみようよ。
 しとしと、しとしと。
 ねえ姐さん。何も姐さんがてるてる坊主になるこたぁないじゃないか。
 しとしと、しとしと。
 そんなにあの兄さんがいなくなっちまったのが哀しいかい。そんなにも会いたかったのかい。
 姐さん腹の中にいる私を、置いて逝っちまうなんて。

 産まれる前に死んじまったあたいの顔なんてわかんない。
 ねえ、あんた。
 あたしの顔は、どこにあるの。どこにいけばいいの。

●間~講談師の語り口~

 舞台上に足を付けて彷徨う彼女を何と言おう。それは遊女の胎の中に居たもの。生まれずに死んだ赤ん坊、の筈だった。
 客を取る遊女にとって胎の中の中に子が居ようが居まいが然程関係無い。それでも客を取るのが遊女というもの!
 堕胎というのは残酷で。母体を冬の川に身を晒したり。劇物を飲ませたり。時に母体に危険を晒すものである。
 ある遊女はそれに気づいていたのか気づいていなかったのか。定かではないが、それでも其処に居た赤ん坊は今こうして嘆き悲しみながらとして還って来た。
 何をしに来た? そう問えばどこへ行けばいいのかと彷徨う悲劇。
 親元にも還れず。舞台の上、格子の中を彷徨う彼女に、君はどうする。

----------------------------------------------------------------
<補足>

・前章同様舞台の広さは十分にあります
・観客は帝都桜學府が守ってくれるので気になさらず

・純戦、心情、説得等お好きな様に
・彼女のことは「悲劇」とも「彼女」と記載・お呼び頂ければ
----------------------------------------------------------------
 
籠野・つぼみ
 ああ、そう。ここにいたのは遊女だけではなかったのね。ごめんなさい。ここには悲劇があったことに、気が付けなかったわ。
 きっと、何もなかったことにしたいわけではなかったと思うの。ただ、許されなかっただけなのではないかしら。でも、悲しいわね。悲劇は見て見ぬふりをされ続けたのだから。
 わたしは母の代わりにはなれないけれど。愛おしい誰かにはなれないけれど。それでも、誰かの代わりに悲劇を見つめ続けるわ。そして、優しく抱きしめてあげる。見捨てたりなんか、しない。
 わたしのユーベルコードで、どうか、傷を癒して。温もりを知って。取り戻せないならせめて、良い夢を。


ハルア・ガーラント
『姐さん』を知る遊女役で参加

あなたてるてる坊主を見たの
姐さんは目から降る雨を止めたかったのかしら
それとも兄さんの姿がけぶり霞んでしまわないように?

そっと歩み寄ります
赤子のまま彷徨う彼女を驚かせたくない

貴女に顔もやらずにお空に還った姐さん、非道いね
兄さんとの別れが身と心を裂かれる痛みだったのだとしても

脳裏に浮かぶのは恋人の姿
彼がいなくなったら、わたしは――
涙が滲んでしまう

ここは嘘を誠に見せる場所
涙も演技の道具に

あなたの顔は姐さんがあの世に持って行ったんでしょう
だから早く閻魔様に顔を頂戴とお願いしておいで
あなたが其処に辿り着けるよう祈って見送る位ならわたしにもできるから――ね?

アドリブ・連携歓迎



●薄桃色の誘い
 ぺたぺたぺたぺた。ずりずりずりずり。
 二本の裸足が床を駆け、四本の手足が着物を引き摺って這いずりまわる。
 其れは赤子が掴み立ちを得てから走り回っていた姿が、足が縺れて四つん這いになったものだったら何と可愛いものだったのだろう。けれど其れは、赤子ではない。
 ――赤子にも成れず、産まれず、人にも成れなかった、顔の無い子供。
「ねぇ、さん」
 舌足らずの其れが喋る姿を見おろし、哀れみながら籠野・つぼみ(桜の精の妖剣士・f34063)は膝を突く。
「ああ、そう。――ここにいたのは遊女だけではなかったのね」
 廓と言えども禿と云う幼い子供は確かにいるけれども、つぼみが目にしたのはその禿よりも幼いものに見えた。その姿はおくるみに包まれて這いずる赤子の様な――。
「ごめんなさい」
 此の場所がそういう場所の由縁と成るのは薄々感づいていた。けれどそう云う悲劇が遭った事には気付けずにいて、つぼみは頭を下げる。
「きっと、何もなかったことにしたいわけではなかったと思うの。……ただ、許されなかっただけなのではないかしら」
 子を成して働く遊女は多い。しかしその胎の中の子は無事に生まれたとして、その先はどうなるのだろう。遊女が赤子を育てられるのだろうか。中には育て上げた者もいたかもしれない。けれど夜毎情事を行う女にそんな事を許す楼主がいるだろうか。――その多くは、きっとつぼみが膝を突いて目線を合わせた其れと同じだろう。
 目の前の見て見ぬ振りをされ続けて来た悲劇は矢張り悲しいと思い、つぼみは再び謝罪の言葉を口にした。
 どうしてあなたが謝るの? そう尋ねたそうな其れは首を傾げて上を見上げる。
「てるてる、ぼうず。ない」
 ちいさな人差し指は鴨居を指し、一筋の黒い痕を見つめているようにも見えた。
 その指さした矛先を赤い着物と白い着物を着た女たちが見つめる。月下美人の刺繍が施された真白の着物を身に纏った女は驚かせない様、ゆっくりと其れに歩み寄った。
「あなたてるてる坊主を見たの」
 髪を結いあげたハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)はその指先を見つめたまま。あの黒い痕はきっとてるてる坊主の――姐さんの死んだ痕だと。眉を顰めて目を細めた。
「姐さんは目から降る雨を止めたかったのかしら。それとも兄さんの姿がけぶり霞んでしまわないように?」
 其れは指をゆっくりとおろし、沈黙して俯く。
「貴女に顔をやらずにお空に還った姐さん、非道いね」
 姐さんの事だったら知っている。だってハルアはその『姐さん』を知る遊女だったのだから。懇ろな関係に成っているのだって知っていた。きっと幸せになるものだと思っていた。けれど。その相手との別れは身と心を裂かれる痛みだったのだろう。
「姐さんったら、貴女を置いて逝っちゃうんだもの」
 きっと胎の中に居たのだって、彼女だったんだろう。よく姐さんがお腹を擦っていたのを見た事ある気がする。そう呟いたハルアに其れは機嫌が良さそうに左右に首を振るう。
 もしも自分がその姐さんだったとしたら。ハルアの脳裏に浮かんだのは恋人である男の姿。隣を歩んでいる彼の姿が無かったらと考えただけでも涙が滲んでしまう。
 けれど此処は嘘を真に見せる場所。ハルアのその表情に其れは哀れんでくれているのだと思って自身の袖でハルアの涙を拭こうとした。
「有り難う。でも、大丈夫よ」
 にこりと微笑むハルアに其れは両袖を振るって喜んだ。
「わたしはお母さんの代わりにはなれないけれど、愛おしい誰かにはなれないけれど」
 それでも誰かの代わりにこの悲劇を見つめ続ける――忘れはしないと小指を差し出す。その仕草に其れは首を傾げるも、嗚呼見た事があると分かった途端に自身の小指を差し出した。指同士を軽く結んで、千切ったそれを誇らしげに小指を見せつけた。
「見捨てたりなんか、しない」
 きゅうとつぼみが其れを抱き締めるとひらり、薄桃の花弁と光の粒子が舞う。
「どうか、傷を癒して。温もりを知って」
 嫌々と首を横に振るっていた其れの動きは段々とゆっくりになるも首を振るうのを止めず。其れの手をハルアはそっと両の手で包み込んだ。
「あなたの顔は姐さんが持って行ったんでしょう。だから早く閻魔様に顔を頂戴とお願いしておいで」
「えんま、さま」
「貴女が其処に辿り着けるよう祈って見送る位ならわたしにもできるから――ね?」
「取り戻せないならせめて、良い夢を」
 うん、と頷いた其れから力が抜けて、彼女らに体を預ける様に静かに成る。
 ――本当だったら、母親の腕に抱かれた方が良かったのかもしれないけれど。かあさん。そう呟く聲に二人は目を伏せてふ、と微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花澤・まゆ
…悲しい子
でも、今のあたしは演技をしてるんだ、演じきらなくっちゃ

わっちらの子かえ
寒い思いをしただろう、こっちへおいで
わっちが抱きしめてあげるよ

赤い格子のこっちがわ
親のない、生のない、アンタも
わっちと同じ寂しい世界に入っちまったんだねえ

生きろと、出て逃げろと言うことも出来ぬ
ならばわっちが抱きしめ続けよう
そうして、少しだけ楽になるといい
(UC使用)

わっちも恋しい殿方がいるからね
姐さんの気持ちもわかるさ
恋しい、恋しい、置いていかないで
でも、アンタみたいな可愛い子を置いて
一人では逃げられない
…そういうこと、だったのかねえ

アドリブ歓迎です



●暖かな温もり
 悲しい子。
 目を細めて花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)は目を細めて哀れむ表情を見せるも、すぐに目を伏せた。
「でも、」
(今のあたしは演技をしてるんだ、演じきらなくっちゃ)
 今はそう云う表情をしている時ではないと首を左右に振り気分を切り替える。
「……わっちらの子かえ」
 赤格子の中、赤子に成る筈だったのに、成れなかった其れは首を傾げながらかあ、さんと呟いた。その声にまゆは両腕を伸ばして袖を広げ迎える。
「寒い思いをしただろう、こっちへおいで」
 ずりずりと這いずる事もせずに、両足で立って其れはまゆの懐へとゆっくり駆けていった。――そう成りたかった、そう在りたかったその姿にまゆは拒む事もせずに飛び込んできた其れに両腕で抱き留める。
 赤い格子の向こう側には観客達がいた。暗い観客席でもライトが当たっている舞台上からはよく見え、両親らしき人物に囲まれて観に来たであろう幼子の姿も見える。もしかしたらこの子はそんな未来を歩めたかもしれないのに。
「親のない、生のない、アンタもわっちと同じ寂しい世界に入っちまったんだねえ」
 其れの頭を二度撫でてあげるとまゆに懐いたのか膝の上に頭を乗せてきた。
 本当だったのならば。産まれて、育てられて、両親に手を引かれて笑っていたかもしれないその魂。
「生きろと、出て逃げろと言うことも出来ぬ」
 赤い格子の中、其処で育った女や子供が外に出て過ごす事など、円満に経たとしてもその末路の中には良いと思えるものは無いだろう。――何れにせよ、避けられなかった事。
 だから、まゆは膝の上で寝転がる其れの心臓の辺りを刃で一突きし、血も出ぬその身体をぎゅうと抱き締めつづけた。
 まゆには恋しい男性がいる。その後を追い掛けたい姐さんの気持ちも分かると目を伏せる。
「……姐さんの気持ちもわかるさ。恋しい、恋しい、置いていかないで。でも、アンタみたいな可愛い子を置いて一人では逃げられない」
 そういうこと、だったのかねえ。そう呟いた頃には膝の上で寝転がっていた其れの体は力なく項垂れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
1章とは別の遊女の亡霊役
ヴォルフ演じる僧侶の前に現れ

親から貰った元の名も
廓で名乗る源氏名も
とうの昔に忘れ果て
今は名もなき妖と成り果てた身

きっと罪も無き我が子を
生まれる前に殺めた罰でございましょう

お坊様、どうかこの子の為に経をあげては貰えませぬか
我が身はいずれ地獄に落ちる宿業なれど
現世の喜びも知らぬまま彷徨うこの子があまりにも不憫でございます

ああ、叶うならば生きてこの子を抱きしめたかった
誰が好き好んで我が子の命を奪えるものか
生きては廓に囚われて
死しては無念に囚われる
愚かな母を許してくれとは言いませぬ

ああ、ああ、だけどせめてこの子だけは
どうか来世で幸せに……

(成仏する際、UCで姿を消す演出)


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

1章とは別の人物、元女衒の僧侶の役

貧しい農村の口減らしのため、或いは借金のかたに売られた若い娘を
花街に引き渡すのがかつての生業

放っておけば野垂れ死ぬ運命だった娘の命を救い
廓の華と褒めそやされる輝かしき未来を与える
そんな風に己に言い聞かせてはいたが

娘の怨嗟、涙、失われる幼い命
そしてそれらに目を逸らし続けた己の欺瞞を
誤魔化すことは出来なかった
せめてもの贖罪に、俗世を離れ仏門に下り
小さな寺で身寄り無き無縁仏を弔う日々

(ヘルガ演じる遊女の亡霊と出会い)
何と哀れな……
その願い、聞き届けよう

読経は遊女の歌う子守唄と重なり響き
やがて鎮魂の旋律となる
哀しき母子の魂が、来世で報われることを祈って……



●幕が下りる
 しゃん、しゃん。しゃん、しゃん。
 手にした錫杖を鳴らし、嘗ては女衒を行っていたという僧侶――ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は笠を直しながらも山道でも歩みを止めない。
『お前が廓へ行けば家の暮らしは裕福になるのサ。それに廓へ行きゃあ真っ白いおまんまたんと食えるさ』――其れは貧しい農村の口減らしのため。まともな食事ができるかどうかなんてその日にならないと分からないのに。
『お、お前が廓にいきゃあい、お、俺はもう自由だ!』――或いは愛した男の借金のかたに売られた若い娘を。嘗ては愛した女だと云うのに自身の保身のために動く男を見てきた。
 其れらは全て、嘗てヴォルフガングが目の当たりにして、幾度も花街へと引き渡していたのが生業。
 放っておけば野垂れ死ぬ運命だった運命だった娘達の命を救い、廓の華と褒めそやされる輝かしい未来を与えていた。――けれど、それは本当に正しい事なのか? 否、正しい事なのだと言い聞かせてきた。
 しかし。
 娘達の怨嗟、涙、失われる幼い命。其れは、ヴォルフガングの目の前にゆっくりと現れて彼の歩みをぴたりと止めてしまった。
 其れらに目を逸らし続けて来た自分の欺瞞を誤魔化す事など出来なかった。せめてもの贖罪に、俗世を離れ仏門に下り小さな寺院で身寄り無き無縁仏を弔う日々だった。
「もし。もし。僧侶の御方」
 ちりぃん。鈴が鳴り、はっとヴォルフガングの前から其れが居なくなり。目の前に現れたのは遊女というには些か質素な女――ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)だった。
「あの子を、あの子を存じませんか」
「あの子、とは」
 それよりも女がこんな山道で何を。そう尋ねるよりも先にヘルガは口を開いた。
「分からないのです」
 ヘルガの身は今、親から貰った元の名も。廓で名乗った源氏名も。とうの昔に忘れ果て、今は名も無き妖と成り果てた姿。――だから、あの子の名前も分からない。
「きっと罪無き我が子を殺めた罪でございましょう」
「なんと哀れな……」
 静かに流れるヘルガの涙を彼女は袖でそっと拭うもその雫は留まる事を知らない。けれど、其れは、その子は、ヘルガの後ろにいた。ぴたり、ヘルガの足元へとしがみつく。それに気づいたヘルガはしゃがみ込んでその子の頭を撫でる。
「お坊様、どうかこの子の為に経をあげては貰えませぬか。我が身はいずれ地獄に落ちる宿業なれど、現世の喜びを知らぬまま彷徨うこの子があまりにも不憫でございます」
「その願い、聞き届けよう」
「有り難う、ございます」
 嗚呼、叶う事ならば。生きてこの子を抱き締めたかった。今でも抱き締める事はできる。けれど、それは死んだ今では叶わぬ夢。誰が好き好んで我が子の命を奪えるものか。生きては廓に囚われ、死しては無念に囚われる。
「愚かな母を許してくれとは言いませぬ」
「おかあ、さん」
「嗚呼、眠たいのね? 子守唄を唄ってあげるからね……」
 ヘルガの子守唄とヴォルフガングの読経が重なり、響き渡る。その子は首をかくり、かくりと船を漕ぎ始め、ヘルガは自身の髪から摘み取ったミスミソウを子の髪へと託す。
「ああ、ああ、だけどせめてこの子だけはどうか来世で幸せに……」
 すうっと透けて、消え行くヘルガとその子をヴォルフガングは静かに見つめていた。
「哀しき母子の魂が、来世で報われる事を祈って……」
 両手を合わせ、頭を下げたヴォルフガングは笠を直し、錫杖を手にした。
 しゃん、しゃん。しゃん、しゃん。静かに成り響く錫杖の音が消えて行く。
 そして舞台には誰も居なくなって幕が下ろされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『最近流行りの恋のおまじない』

POW   :    恋人とのスッテップアップを願っておまじないしてみる

SPD   :    恋が叶いますようにとおまじないしてみる

WIZ   :    好きな人が出来ますようにとおまじないしてみる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●結の産声
『おいで、おいで』
 産まれずに死んでしまったその身体は、丸まって舞台の上へと蹲る。その聲に体を起こせば、どくり、脈打つ心臓は音を鳴らし血潮が体を巡り。手招く手が見える。分かれた指を手を伸ばす。手招く声が聞こえる。口開き聲は喉から発せられた。肺に空気を吸い込んだのなら。
『おかあ、さん』
 母と呼ぶその聲に、おいで、おいでと手招いた女――姐さんと呼ばれていた母は、兄さんと呼ばれていた父の隣に並んで微笑んでいた。
『おいで、結』
『かえろう、結』
『私たちの可愛い可愛い結』
『私たちを結んでくれる結』
 差し延ばされたその手を、其の子――結は手を伸ばし、その両手を埋める。あたたかい、あたたかいと呟くその声は、嬉しそうにしていた。
『私、生まれ変わっても、お母さんとお父さんの子供がいい』
 黒い靄がかっていた表情は、母親と父親の手に触れられてざあっと晴れていく。その靄の下は、嬉しそうに笑いながらも涙を零す結の表情だった。
『生まれ変わっても、』
『また家族になろう』

 ――此れは、一つの噂話。
 ある所に男に恋した遊女が、いつしか胎の中に子を宿してしまったものの。その責任を男が取ろうと日夜問わずに働き詰めていたと云う。其れを女は何時しか置いて行かれたと思ってしまって首を吊って死んでしまった。その亡骸は何処かの幻朧桜の下に埋められたと云う。
 其の話を聞いた男は。腹を切って死に。其の亡骸は女が埋められた幻朧桜の下に埋めてほしいと云う遺言の元、埋められた。
 其れを憂いた女の楼主と男の親族は。
『せめて生まれ変わって、また結ばれます様に』
 そう願いを込めて、其の幻朧桜の幹に赤い紐を結んで、それが何時しか――縁結びの桜として扱われる様になったと云う。

 舞台の上には赤い組紐が結ばれた幻朧桜の模型。桜の花弁は絶えず振り続け、今も尚枯れる事の無い桜に紐を結び付ければその恋は、縁は、成就すると云う。

 ――此れが舞台の終わり。結び。

『役者、観客の皆さま、是非とも此の舞台の結びに、幻朧桜に組紐、織紐などを結びませんか。此の舞台は、そうして幕を閉じます。さぁ、願いを込めて。どうぞ、お結び下さいませ』
籠野・つぼみ
 悲しい物語だわ。悲しいわ。想いは同じだったのに、届かなかったのね。でも、結が報われたのなら、この物語にも救いはあったのだと思うわ。
 最後も、遊女の役で舞台に立たせてもらうわね。役をこなすうちに、思い入れが強くなってしまったの。彼女たちを見ていると、どうしても恋人のことを思い出してしまうから、かしら。もう昔のことなのにね。
 さあ、縁を結びましょう。生まれ変わって、もう一度愛し合えるように。二度と悲劇が起こらないように。幸せになれるように。この赤い組紐を結びましょう。
 恋も愛も、ただ甘く美しいものではないけれど。それでも想いを寄せる誰かがいたことはきっと、幸せなことなのかもしれないわね。


花澤・まゆ
振り袖姿で観客の皆様にお辞儀をして
遊女としての役はこれでおしまい
拙い演技、申し訳がなく

此処からは花澤まゆとして赤い紐を結ばせてもらっちゃおう

願いは二つ
どうか、あの子たちが生まれ変わって
また家族として巡り会えますように
そんなご縁も叶えてくれるでしょう?

そして…あたしのこと
友達以上恋人未満のあの人といつか結ばれますように
好いてくれてるのはわかってる
でも、傷つくのが怖くって
最後の一歩をお互い踏み込めない

勇気を、頂戴
遊女のように待ち続けるのは辛いから

きゅっと赤い紐を結びつけて
どうか、どうか、誰もが幸せになりますように

アドリブ、絡み歓迎です



●カァテンコヲル
 ぱちぱちと鳴り響いて止まない拍手喝采に役者たちは各々衣装を引き摺りながら再び舞台へと舞い戻る。
 身に纏った着物は少々慣れなかったもののあったけれど、今では思い入れが強くなってしまって再び遊女の役として戻ってきた籠野・つぼみ(いつか花開く・f34063)はゆっくりと頭を下げた。
 想いは同じだったのに、届かなかった悲しい物語。悲しい、けれどあの子――結が報われたのならば。この物語に救いはあったと思う。彼女たちを見ていると、どうしても昔にいた恋人のことを思い出してしまって、少しだけ苦しいけれど。ゆっくりと頭を上げ、舞台の上から見えた両親に挟まれて観劇する子供の姿は何処かあの子に似ていて。あったかもしれない未来に微笑む。
 続いて振袖姿で観客の前に姿を現したのは花澤・まゆ(千紫万紅・f27638)もまた、つぼみの後に頭をゆっくりと下げた。遊女としての役はこれでお終い。拙い演技で申し訳ないと思っていた。けれど十分に演じきったまゆに対して観客達は拍手で良かったと伝えて行く。その歓声が、喝采がその証明だった。けれどそれももうお終い。此処からは、花澤・まゆとして。ゆっくりと頭を上げてまゆ自身の笑みを浮かべていた。
「さあ、縁を結びましょう」
 手にした赤い組紐をつぼみは幻朧桜を模した枝へと結びつけた。
「……生まれ変わって、もう一度愛し合えるように。二度と悲劇が怒らないように。幸せになれるように」
 それは彼等、家族への願いか。もしくは自分の願いかもしれない。けれど、悲しい物語は厭だから。猟兵としての勤めを熟したのだから。彼等も、自分も。幸せになりたいと願ったって罰は当たらない筈。
「貴女は、何を願うの?」
 赤い紐を手にして枝へ結ぼうとするまゆへつぼみは顔を向ける。それに気づいたまゆは結ぶ手を止めた。
「私の願いは二つ」
 どうか、あの子達が生まれ変わってまた家族として巡り合えますように、って。小さな声で呟く声はつぼみだけに聞こえた。その声に良いと思うと頷いたつぼみはあとのもう一つはと首を傾げる。
「それはね、あたしのこと」
 友達以上恋人未満のあの人といつか結ばれますように。まゆのその願いをきっと隣にいるつぼみは笑ったりはしないだろうけれども、それは内緒と人差し指立てて唇に携えて片目を瞑る。
 好いてくれてるのは分かってる。けれど、傷つくのが怖い。一歩を踏み出してしまえばもう戻れないし、最後の一歩をお互いに踏み込む勇気が無い。だから願うのは――。
「……そういう事も、あるわよね。叶うと良いわね」
「うん、ありがとう」
 年頃に見えるまゆのこと。きっと口にしたら恥ずかしい事のひとつはあるのだろうとつぼみは目を伏せた。
「恋も愛も、ただ甘く美しいものではないけれど。それでも想いを寄せる誰かがいたことはきっと、幸せなことなのかもしれないわ」
 その言葉にまゆは目を丸くする。勇気が欲しかった。遊女の様に待ち続けるのは辛いから。つぼみのその言葉に、少しだけ勇気を貰えた気がした。
「どうか、どうか、誰もが幸せになりますように」
 枝には願いが込められた赤い紐が風に吹かれて、揺れていた。託された願いはきっと、何処までも広く響き渡って、届きますようにと誰もが願いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジーク・エヴァン
(引き続き若い剣客役)

無事に影朧も行くべき場所に向かったみたいだ
なら最期まで、この舞台を務めあげないとな

とはいえ、恋のおまじないかぁ
ヒルデはどんなおまじないをしたんだ?
え?な、なんでそんなに慌てて?

うーん…そうだなぁ
今すぐは難しいだろうけど、いつか、俺も誰かと一緒に歩めることを願おうかな

あの影朧達のように、誰かを好きになったり、その人と一緒になりたいと願うのは苦しいこともあるだろうし困難もあるだろうけど、でも俺は、誰かを好きになることは素晴らしいことだと思う

だからちょっと憧れるし、そんな恋をしてる人達を俺の剣で守りたいと思うよ
ん?そうだな
これからもヒルデがいてくれたら嬉しいな


ヒルデ・ワーグナー
(引き続き振袖新造役)

無事に姉さん達も、影朧も帰ることが出来たみたいですね
そしてこの舞台の結びは恋のおまじないですか

え゛?わ、私はその…何と言いますか…!
確かにその、こういうおまじないも好きというか信じてるというか…
そ、そういうジークさんはどんなことを!?

…ジークさんは優しい方ですね

私もジークさんと同じく、恋はいつも順風満帆とは行かないでしょうし、叶わなくて苦しむ人もいます
それでも私は、この胸の暖かさは素晴らしいことだと信じてます

あの、ジークさん、これからも貴方のお側で、いても良い、ですか?
(どうか、いつまでもこの方の側でいられますように。そしていつか、この想いを届けられますように)



●ダブルカァテンコヲル
 拍手喝采の嵐の中、舞台の上手からはジーク・エヴァン(竜に故郷を滅ぼされた少年・f27128)、下手からはヒルデ・ワーグナー(恋する戦乙女メイド・f34494)がそれぞれ姿を現した。腰元に両手を当て、頭を下げるジークと胸元に手を当てて袖を広げて膝を軽く折り曲げたヒルデが見たのは笑顔の観客達だった。
 無事に影朧も行くべき場所に向かい、最期までこの舞台を務めあげたことを誇りに思うジークの顔は誇らしく。手にした赤い紐は枝へと結ばれる。その表情を目で追い掛けたヒルデもまた、無事に影朧たちも帰る事が出来たと良かったと安堵の表情を浮かべて赤い紐を結び、共に舞台袖へと掃ける。
「ヒルデはどんなおまじないをしたんだ?」
「え゛? わ、私はその……何と言いますか……! 確かにその、こういうおまじないも好きと言うか信じてるというか……そ、そういうジークさんはどんなことを!?」
 顔を赤らめながら慌ただしく手をぱたぱたと動かし、話すヒルデの言葉は口は早く。ジークもそんな彼女の様子に驚きながらも少し悩みながらも答えた。
「うーん……そうだなぁ。今すぐは難しいだろうけど、いつか、俺も誰かと一緒に歩めることを願おうかな」
「……ジークさんは優しい方ですね」
 あの影朧達の様に。誰かを好きになったり、その人と一緒になりたいと願うのは苦しい事もあるだろうし困難もあるだろう。そう思うジークの顔を見詰めるヒルデの表情や柔く優しい。
「でも俺は、誰かを好きになる事は素晴らしいことだと思う」
 うんと頷くヒルデもまたジークの言葉に同意する。恋はいつも順風満帆とは行かないだろうし、叶わなくて苦しむ人もいる。それでも。
「それでも私は、この胸の暖かさは素晴らしいことだと信じてます」
 だってこんなにも。好きな人の隣にいる時の胸は、こんなにも暖かく、時に熱く、身を焦がす焔みたく感じるのだから。
「だからちょっと憧れるし、そんな恋してる人達を俺の剣で守りたいと思うよ」
「……あの、ジークさん、これからも貴方のお傍で、いても良い、ですか?」
「ん? そうだな。これからもヒルデがいてくれたら嬉しいな」
 だってこんなにも胸を焦がす焔は止められそうにないけれど。
(どうか、いつまでもこの方の傍でいられますように。そしていつか、この想いを届けられますように)
 今は、袖を摘まんで引き寄せる程度の仲かもしれないけれど。それでもいつかは――その手を取ったり、腕を組んだりする夢を、ヒルデは目を伏せながら夢を見ている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼
この舞台で演じた様々な愛の形

愛し合いながらも引き裂かれる
幼い子が親よりも先に逝く
それは往々にして物悲しい結末ではあるけれど

だからこそ人は、来世でも巡り合う永遠の絆と縁を信じるのでしょう
この幻朧桜はそれを可能にしてくれる

わたくしも猟兵になって、ヴォルフと出会い結ばれてからも
悪意ある敵に何度も二人の絆を引き裂かれそうになったけれど
その度に貴方は私を救ってくれた
愛してる

赤いリボンを結びましょう
あの子の髪に似合うように
そして将来、わたくしたちの間に可愛い娘が生まれたら
その子の髪に結べるように

胸に満ちる暖かな想いを紡いで
その温もりで寂しさを癒せるように
全ての愛に祝福を……


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

この舞台で演じた悲劇のひとつひとつは、きっと現実ではありふれた話で

人狼の俺は、恐らくそう長くは生きられない
だから限りある命を、彼女の願う理想のために燃やし尽くして
闇に閉ざされた世界に平和を取り戻すため使うと誓った

ああ、それでも叶うならば
一分一秒でも長く彼女と共に生きていたい
平和な世が叶ったならば、彼女と共に温かな家族を築きたい
お前と出会うまでは、こんな気持ちを知らなかった

そしてお前を失うことが
お前が悪意に引き裂かれることが何よりも怖い
だからこそ俺は、命を懸けてもお前を守る
何があろうと、絶対に

ヘルガが結んだリボンの隣に、寄り添うように赤い紐を結んで
いつか死が二人を分かつとも
結んだ絆は永遠に



●トリプルカァテンコヲル
 時に商家の若旦那、時に僧侶を演じたヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は若旦那衣裳を身に纏い、僧侶の時の錫杖を手にして舞台の真ん中へと立つ。自分が出てきた舞台袖の反対側から時に年若き遊女、時に遊女の亡霊を演じたヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)が出てくるのを待って手を取り、共に前へ出て二人で頭を下げた。
 この舞台においては一人二役という難しい役どころを演じきった二人に拍手の嵐が降り注ぐ。演じた様々な愛の形。悲劇のひとつひとつ。きっと現実でありふれた話を体現した二人への賛美だった。
 愛し合いながらも引き裂かれる。幼い子が親よりも先に逝く。それは往々にして物悲しい結末ではあるけれど、だからこそ人は、来世で巡り合う永遠の絆と縁を信じるのだろうとヘルガは後ろの幻朧桜を見上げた。猟兵となってから、ヴォルフガングと出会い、結ばれてからも、悪意ある敵に何度も二人の絆を引き裂かれそうになっても、その度に彼は自分を救ってくれた。
「――愛してる」
 人狼であるヴォルフガングは恐らくそう長くは生きられない。故に限りある命を、彼女――ヘルガの願うために燃やし尽くして闇に閉ざされた世界に平和を取り戻すため使うと決めた。この事に後悔などない。闇に閉ざされた世界に平和を取り戻すため使うと誓った。
 しかし。それでも叶うのならば、一分一秒でも長くヘルガの隣に、彼女と共に生きていたいと願う。平和な世が叶ったのならば、彼女と共に温かな家族を築いて――それからの事も考えてしまう。
「お前と出会うまでは、こんな気持ちを知らなかった」
 同時にヘルガを失うことが、彼女が悪意に引き裂かれる事が何よりも恐ろしい。だからこそヴォルフガングは、命を懸けてヘルガを守ると決めた。何があっても、絶対に。
「――俺も、愛してる」
 赤いリボンを幻朧桜に結わくヘルガは願う。産まれる筈だったあの子に似合うような。――もしも将来、自分達の間に可愛い娘が生まれたら。その子の髪に結わえる様に。それが近いものなのか、遠いものなのかは、分からないけれど。それでもヴォルフガングだったらと横目で彼の顔を見ながら。胸に満ちる温かな想いを紡いで、その温もりで寂しさを癒せるように。
「全ての愛に祝福を……」
 ヘルガが結んだリボンの隣、寄り添う様にリボンを結ぶと足をひらりとさせて彼女のリボンに触れ合い揺蕩う。
「いつか死が二人を分かつとも」
 この愛が語り継がれなかろうとも。結んだ絆は永遠に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
≪白い腰鞄≫から白のレース飾りを取り出し用意されていた薄桃色のリボンに縫い付けます

すれ違いが生んだ悲劇のおはなし
それでも最後に家族が出逢えて嬉しい
彼らの来世を願い
門出を祝い舞台へ

彼らが生まれ変わっても家族になることを願うなら
わたしはずっと一緒にいられますようにと願いを込めます
いちばんは彼らの為
――わたし欲張りだから、その次に自分の為

永遠なんてないって思っている、だからこそ願う
こんなこと願ったと知ったら彼は他力本願かって呆れるかな
そうなれたらいいなって困った顔で笑うかな?

このリボンは結さんを想って用意しました
レース飾り好きなんです、可愛いと思って

いつかどこかで
並び歩く三人を目にすることができたら



●スタンディングオベーション
 月下美人の着物を身に纏ったハルア・ガーラント(宵啼鳥・f23517)が顔を上げるとそこには観客のほとんどの人間が立ち上がって笑顔で、中には涙を流しながら拍手を送る観客達の姿だった。その姿に自分は舞台を、役を演じていられたのだと温かな誇りを胸に、両袖を広げて軽く膝を折り頭を下げる。
 舞台袖に掃け、學都兵に着物を返し、用意されていた薄桃色のリボンを手に取った。そして白い腰鞄から自分の白いレース飾りを取り出して、薄桃色のリボンに縫い付ける。桜の花弁にも似ていた。
 すれ違いが生んだ悲劇の話。それでも最後に家族が出逢えて嬉しく思うハルアは、彼らの来世、門出を祝い再び舞台へと向かう。
 沢山の役者。沢山の観客。沢山のリボン、紐、組紐を結ばれた幻朧桜は色の濃い枝垂れ桜の様にも見えた。
 彼らが生まれ変わっても家族になることを願うなら、わたしはずっと一緒にいられますように。それがハルアの一番目の願い。
「――わたし欲張りだから、」
 その次は自分の為。それは、演じきった、拍手を貰った自分なのだからもうひとつくらいと思わずにはいられない。
「永遠なんてないって思っている、だからこそ願う」
 ――彼に、永遠に寄り添えますように。こんなこと願ったと知ったらきっと彼は他力本願かって呆れてしまうかもしれない。もしかしたらそうなれたらいいなって困った顔で笑ってくれるかもしれない。どちらにせよ自分は、そんな彼の隣で笑っていたい。
「このリボンは結さんを想って用意しました」
 今何しているのだろう。家族三人笑っているのかな。可愛いと思ったレース飾り、きっと彼女が身に着けたら可愛いのだろうな。そんな事を想いながら幻朧桜へと緩く結んで。
 いつかどこかで。並び歩く三人を目にする事ができたのなら。その時は涙では無く、笑顔で出迎えて。

●何処かの家族の話
「初めての舞台どうだ? 楽しかったか?」
「むずかしいとこもあったけど、楽しかったよ!」
「あんなにも泣いちゃう舞台久々だったわね」
「お母さん泣いちゃったの?! お天道様にはらしてもらう?」
「ああ、大丈夫よ。あなたの笑顔見たらお母さん晴れちゃった」
「はは、お母さんは昔から泣き虫だからなあ。お前がいれば、お父さんもお母さんも笑っていられるんだぞ」
「本当? 本当? じゃあもーっと笑顔になれる様に、お手々繋いであげるね!」
 この手がずうっと離れないように。
 繋いで、結んで、笑っていようね。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月15日


挿絵イラスト