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南州第二プラント奪還

#クロムキャバリア #日乃和 #人喰いキャバリア

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#クロムキャバリア
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#人喰いキャバリア


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●国は沈み行く
 百年もの戦乱が続く世界、クロムキャバリア。とある大陸の東洋に位置する島国の日乃和は、大陸側より押し寄せるキャバリアの軍団による大規模な侵攻を受け続けていた。
 間も無く日付が変わろうとしている頃、日乃和の首都にある政府要人が犇めく施設は未だ照明が煌々と灯っており、窓からは内部の人間が寝食を惜しんで働き続けている様子が見て取れる。左右に守衛が立つ正門玄関の自動ドアも関係者が出入りする度に忙しく開閉を繰り返していた。この光景は数ヶ月前から続いている。海を隔てた大陸から人喰いキャバリアの集団に上がり込まれて以降、日乃和の政治機関は一睡もしていない。
「東雲官房長官、レイテナ他諸外国との交渉は破談に終わったとの連絡がありました。後ほど外務省が公式会見を行うそうです」
 政府高官に宛てがわれた執務室にて、堅苦しいフォーマルスーツに身を包んだ秘書官と思しき女性が第三者より受けた言伝をありのままに報告する。声音には若干の苦々しさが含まれていた。
「だから無駄足だと言ったんだ……」
 茶の注がれた湯飲みが置かれた長机を前にして、黒い革張りのソファに深く腰を沈めた中年男性が溜息を吐いて首を垂れる。たった今報告と共に茶を差し出してくれた女秘書と同じようにスーツを隙なく着こなしてはいるものの、纏う空気は堅苦しさというより疲労感を醸し出していた。
「逆に海上支援を強く求められたと」
「無理もない。向こうは化物どもが湧いて出て来る巣穴と地続きなのだからな」
 東雲は出された茶に口を付けた。濃い緑色の湯は日乃和を取り巻く情勢と同じ味がした。
「当初の予定通り、南州奪還は日乃和と内閣府直轄部隊だけでやらねばならなくなった訳だ。君も掛けたまえ」
 長机の側で立っていたままの女秘書は浅く頭を下げて応接用のソファに腰を落ち着けた。
「南州の件については与党内でも慎重意見が多いようですが……」
 女秘書が全ての言葉を言い終えるより先に東雲の頭が左右に振られた。
「先の愛宕連山の防衛線陥落より状況は日々悪化し続けている。日乃和が生き残るには南州ふたつのプラントの奪還が不可欠だ。少なくともまた愛宕連山が破られる前には済ませねばなるまい」
「ですが、今の日乃和軍に南州奪還に費やせるほどの余力があるのですか?」
「無いさ。特に人の力がな。この数ヶ月で人が死に過ぎた。だから男子徴兵年齢の引下げ、女子の徴兵免除条件の緩和、あらゆる手段を講じて確保せねばならん」
「……本当にこの国から男の子がいなくなってしまいますね」
「年端も行かない少年少女の首根っこを捕まえて親から引き離し、キャバリアの狭いコクピットに押し込んで人喰いの化物の眼前に放り出す。私は……我々は鬼だ。人の姿をした鬼だ。だがそうする他無いのがこの国の実情だ」
 様々な感情が混濁した東雲の瞳を、湯飲みに張られた緑色の水面が映し返す。
「確か、官房長官の御息女も前線におられたのですよね? それも愛宕基地守備隊の生き残り……」
「今は後方勤務だよ。兎も角、南州二つのプラントは如何に多大な犠牲を払おうとも絶対に取り戻さなければならん。あの化物どもが人だけではなく、エネルギーインゴットも餌にしているのは疑いようの無い事実だからな。奪還出来れば西州まで化物を叩き出す下準備も整う」
「苦しい戦いになりますね」
「それでもやるのだ。さもなくば、滅びるのみ。死中に活を見出す道は、これ以外にない……」
 東雲は黙して目を閉じた。国民を守るために国民を擦り減らす矛盾を抱えながらも、日乃和政府首脳部は今を繋ぐ決断を下す。東国の夜明けは遠い。

●南州第二プラント奪還作戦
 グリモアベースにて集った猟兵達を前に、水之江が緩やかな身振りで腰を曲げる。
「お集まり頂き感謝を。お仕事のご案内を始めるわ」
 長杖の穂先を宙にかざすと半透明の三次元立体映像が現れた。東西南北を海に囲まれた、大中小の列島からなる島国らしい。
「行き先はクロムキャバリアの島国、日乃和よ」
 日乃和を構成する島の一部を水之江が長杖で指し示す。列島を日本に見立てるならば四国に位置する箇所だ。
「ここ……南州って呼ばれてるエリアにあるふたつのプラントの内のひとつ、第二プラントがオブリビオンマシン込みの無人キャバリアの大群に占拠されちゃってるの。生産されるエネルギーインゴットを目当てにしてるんですって。第二プラントの奪還が今回のお仕事の目標になるわ」
 水之江の淡々とした声が続く。敵の占領下にある状況は南州第一第二両プラントで同じだが、オブリビオンマシンが存在しているのは第二プラント周辺のみ。第一プラント側は日乃和軍が単独で対応するため、猟兵達は第二プラントに専念する運びとなる。
 プラントを奪還後、工作部隊を送り込み電力供給を一時的に停止させてエネルギーインゴットの生産を断ち、無人キャバリアを飢死させる事が最終的な狙いだ。なお、両プラント共に遠隔制御による停止は現状不可能で破壊による物理的停止はあらゆる観点から論外との見解が日乃和より言い渡されていた。
 水之江が適当な動作で長杖を振るう。すると日乃和の立体映像が南州の拡大図に変容した。
「お仕事の段取りを説明するわね。先に大雑把に言うと、上陸して奪還して帰還する。この三行程になるわ」
 内閣府直轄の特務戦闘集団という扱いで猟兵達は南州の南海岸より強襲揚陸、周囲の敵を掃討しつつ北上し内陸部の第二プラントを目指す。
 揚陸地点となる南海岸は軍港で、整えられた平坦な地形と点在する格納庫建屋やガントリーなどで構成されている。キャバリアの行動を阻害する要素はほぼ皆無。射線は敵味方双方共に通り易い。
 内陸部の第二プラント周辺には日乃和軍の基地が隣接している。プラント奪還を巡る戦闘はこの基地の敷地内が主戦域となるだろう。
 奪還成功後はプラントの電力供給停止を確認次第速やかに撤退する。南州全域が敵の勢力下にあり、滞在できる時間は限られているのだという。
「今回の作戦では猟兵さん達の専属お手伝い係として、日乃和軍が空母の大鳳と戦艦の三笠を出してくれるわ」
 大鳳は猟兵戦力の海上輸送ならびに艦載機のヘリで補給コンテナを前線に投下し兵站確保を行う。三笠は艦砲射撃で揚陸時の橋頭堡確保を目的とした面制圧、要請に応じて火力支援を担う手筈となっている。
「行きも帰りも大鳳が運んでくれるんですって。乗る乗らないは自由だけれど船の旅も悪くないんじゃないかしら」
 大鳳の母港帰還をもって猟兵の作戦行動の全行程は完遂される。海上での襲撃はほぼ有り得ない。猟兵はただ乗船或いは同行しているだけとなるだろう。
「因みに南州の住民は皆逃げるか食べられちゃってるわ。つまり人的被害を気にせず思い思いに戦える。心配事が減ってラッキーね」
 現在日乃和を襲撃しているキャバリアの多くは人間を積極的に捕食する習性を持つ。人間を食い尽くした結果、次にエネルギーインゴットを餌にし始めたらしい。
「それと作戦開始時刻は朝早くだから前日に夜更かししないようにね。以上よ。オブリビオンマシンを懲らしめるために、ご協力の程をどうぞ宜しく」
 説明の締め括りに水之江が緩慢な身振りで腰を曲げて首を垂れる。一国の興亡を占う戦い。そこに介在する猟兵とオブリビオンマシンがどのような結末をもたらすのか。全ての答えは戦いの向こうにある。


塩沢たまき
 塩沢たまきです。宜しくお願いします。
 以下簡単な補足と注意事項となります。

●作戦目標
 南州第二プラントの奪還。

●日乃和
 オブリビオンマシンを含むキャバリアの襲撃を受けている国。

●大鳳
 日乃和軍が猟兵の支援に派遣した空母です。
 リニアカタパルトでの機体発進のほか、要請があればヘリで補給物資を投下してくれます。
 後述の第三章の舞台にもなります。

●三笠
 日乃和軍が猟兵の支援に派遣した戦艦です。
 第一章と第二章では要請があれば様々な砲弾で支援を行ってくれます。

●第一章
 『集団戦』です。
 軍港及びその周辺を戦域として大量に出現するオブリビオンマシンを掃討してください。単純に戦闘を行う他、派手に或いは静かに上陸するのもよろしいかと思われます。戦闘開始時の時間帯は朝となります。

●第二章
 『ボス戦』です。
 南州第二プラントに巣くうオブリビオンマシンを撃破してください。
 プラントに隣接して広大な敷地の基地があるので、そこを使用すれば戦い易いかも知れません。
 意図して破壊しようとしない限りプラントが傷つくことはありません。たぶん。

●第三章
 『日常』です。
 空母の大鳳と共に帰還の途に就きます。
 道中は非常に暇になるので、大鳳の艦内施設で休息を取ったり補給や整備を終わらせたりとりあえず警戒任務に付いたりと、自由にお過ごしください。自前の艦艇をお持ちであれば並走してもよろしいかと思われます。

●その他
 今回の舞台はクロムキャバリアとなりますので、高速飛翔体を無差別砲撃する暴走衛星『殲禍炎剣』にご注意ください。
 キャバリアをジョブやアイテムで持っていないキャラクターでも、キャバリアを借りて乗ることができます。
 ユーベルコードはキャバリアの武器から放つこともできます。
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第1章 集団戦 『エヴォルグ量産機』

POW   :    ヴォイドレーザー
【口内から無作為に分岐するレーザー】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    リボルティックスピア
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【自身から分離した触腕】で包囲攻撃する。
WIZ   :    EATエンジン
自身の【エネルギー補給機能を起動。自身】が捕食した対象のユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、[エネルギー補給機能を起動。自身]から何度でも発動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●碧色の空海
 東より陽光の気配が伸び、空が青白さを帯び始めた。作戦開始時刻丁度にして南州の南の海上を二隻の巨大な艦艇が白波を切り裂いて進み往く。
 その時期と合わせて軍港側にも動きが見られた。放棄されて久しく、潮風に煽られ赤錆びた格納庫やコンテナの影から、人間と蜥蜴を半々に合体させて頭部に顔無しの白面を被せた風貌の生体キャバリアが次々に現れる。エヴォルグ量産機だ。空母の大鳳と戦艦の三笠という巨大な質量の接近を感知して目覚めたらしい。
 エヴォルグ量産機の群は軍港の係留施設に押し寄せると、口腔内よりレーザーを放射した。示し合わせる訳でもない無作為な一斉攻撃。目標は水平線より姿を現した三笠と大鳳だった。
 標的とされた二隻の艦艇はレーダー等の情報収集手段を介してエヴォルグ量産機の動向を正確に把握していた。だが回避運動を取るでも無く悠然と海を進み続けている。敵機より放たれたレーザーが届くのにそう時間を必要とはしなかった。
 夥しい数の青白い光線が大鳳と三笠の船体を直撃する。しかしいずれも装甲表面に到達した途端に、壁にかけられた水のように四方八方に弾けて消え失せてしまう。三笠と大鳳の分厚い装甲には何層にも及ぶ耐ビームコートが施されていたのだ。
 そんな事には構わずエヴォルグ量産機はレーザー照射を継続する。この人喰いキャバリア達には戦術と呼べるものは存在しないとされている。標的を喰らい尽くすまでひたすら攻撃行動を繰り返し、その後休眠状態に入るのみだ。
 されど敵の動向に構わないのは二隻の艦艇も同様だった。レーザー照射を真正面から受け続けたままの両艦の足が止まる。波打つ音を押し除けて重い鋼鉄の作動音が海上に響く。三笠に搭載されている巨大な三連装砲が全て同時に各々の角度へと鎌首をもたげた。その後方には推進機関を停止させた大鳳が控えている。
 間を開けずに三笠の艦砲が有無を言わさず放たれた。全主砲の一斉射が船体を震わせ早朝の海に爆音を轟かせる。砲弾はエヴォルグ量産機が犇く軍港の係留施設に差し掛かると空中で炸裂、無数の鋭い金属片の豪雨となった。
 金属片をまともに浴びたエヴォルグ量産機の群は、深緑色の外皮をいとも容易く引き裂かれて、体液やキャバリアらしからぬ内臓機関を撒き散らして崩れ落ちる。軍港沿岸部には緑色の絨毯が出来上がった。
 三笠の砲撃がもたらした結果は、レーダー上で敵を表す赤い光点が一斉に消失した事で三笠と大鳳及びその他の友軍に共有される。だがすぐに新たな赤い光点が内陸側より次々に現れ始めた。先に殲滅した群は全体の一割にも満たない。元より今回の砲撃の目的は殲滅ではなく戦力を上陸させるための隙間を作る事。そしてその戦力こそが作戦の中核を担う猟兵達だ。
 遂に全ての猟兵に出撃要請が発せられた。時を同じくして大鳳の艦内と飛行甲板で船員が慌ただしく動き始める。軍靴とキャバリアのエンジンが奏でる音色が南州第二プラントを巡る初戦の合図となった。

●戦域状況
 初戦の舞台はグリモアベースでのブリーフィングにあった通り、南州南海岸沿いの軍港となる。戦闘の痕跡はあるものの整備された平坦な地形で、格納庫やガントリークレーンが存在している。
 放置されたコンテナの一部には弾薬が満載されているらしく、起爆すればそれなりの威力と殺傷範囲を持った武器にもなるだろう。
 係留施設にはエヴォルグ量産機の残骸が散乱しているがキャバリアの行動を阻害するほどのものではない。

●敵戦力
 軍港内では多数のエヴォルグ量産機との交戦が想定される。
 レーザーと触腕による遠距離攻撃手段を持ち動きは俊敏。されど耐久性は低く、その表皮はキャバリアの標準的な小銃であれば容易く貫通出来るだろう。警戒するべき点は数にある。
 軍港内で休眠状態にあったエヴォルグ量産機の殆どは係留施設に誘引された後に、三笠の砲撃で掃討されたが、新たに出現した多数の敵反応が周辺区域より軍港内へと侵入してきている。物量に押し潰される前に速やかな殲滅が求められるだろう。

●戦闘開始
 轟きに誘われた人喰いオブリビオンマシンの集団が、緑の波と化して一斉に軍港へと殺到する。猟兵もまた南州第二プラントの奪還を目指して行動を開始した。真正面から衝突し合う力と力。圧倒されるのは果たしてどちらか。言葉が意味を成さない戦場に於いて、結末をもたらすのは武力のみ。
寺内・美月
アドリブ・連携歓迎
・戦艦による沿岸部への砲撃要請
└第二薄明時は軍港地区に前段の準備砲撃(水際障害も有ればここで破砕)。
└第三薄明時はプラント方面に繋がる主要幹線等に後段の準備砲撃。
└日の出以降は地上での観測を元に適時精密射撃を要請。
・前段準備砲撃終了と同時に軍港に先遣として上陸し、指定UCを限定的に発動。第二波(主力)の受け入れ準備とヘリの降着地点を確保しつつ、対戦車砲連隊と自走砲大隊を軍港に展開(レーザーを少しでも反射させるため車体の鏡面加工や鏡等の設置は確実に実施)。
・爾後は支援砲撃により猟兵の前進支援を行いつつも、迂回浸透する敵キャバリアや触腕に対しては直接砲撃や車載機関砲で消し飛ばす。



●地獄雨
「三笠へ、沿岸部の指定座標にて砲撃を乞う」
 漆黒の軍装に身を包む少年武官、寺内・美月(霊軍統べし黒衣の帥・f02790)が、南海の潮風吹き付ける三笠の艦首に立ち、彼方を双眸で見据えている。彼の艶やかな黒髪が靡く後方では、三笠の巨大な三連装砲が発射角度の修正を終え今まさに咆哮を挙げんとしていた。
 直後に発せられた耳をつんざく爆音と衝撃波に軍装を揺らされども、美月自身は微動だにしない。その美月が見据えていた遠方で巨大な爆炎が立ち昇る。要請した砲撃は狙い通りの地点に命中、沿岸伝いに軍港への浸透を図ろうとしていたエヴォルグ量産機の一群を粉々に吹き飛ばした。だが後から続く敵群は艦砲に狙われている恐怖など感じるでもなく侵攻速度を緩めず、なおも軍港へと殺到する。
 美月は無機質なまでに沈着な表情を崩さないまま通信機越しに三笠へ向けて新たな要請を発した。
「続いて軍港地区外周へ砲撃を。弾種は対キャバリア散弾」
 粛々とした口調に三笠は素早い行動で返す。再度放たれた砲弾は軍港へと侵入しようとしている敵群の頭上に達すると炸裂、金属片の雨を降らせて群を掃討した。先の沿岸部砲撃と併せて大多数の敵侵攻の阻止に成功するも、未だ敵の勢いは衰えない。だが砲撃で得られた効力としては十分だ。少なくとも橋頭堡は確保されたと美月は判断した。
「三笠へ、支援に感謝する。此方はこれより軍港へと上陸、対地戦闘に移行する」
 予め打ち合わせていた通りに大鳳側より派遣されたヘリへと搭乗した美月は、そのまま軍港へと上陸する。縄梯子から飛び降りて地に足を付けた瞬間、飛び散った緑色の体液が靴の下にこびり付き不快な音を立てたが、気に留める素振りすら見せない。ヘリが離脱するのと合わせて格納庫の影から複数のエヴォルグ量産機が姿を現した。砲撃を掻い潜って軍港内に侵入を果たした一群らしい。美月を餌と見做しているようだ。
「全打撃部隊に発令……『地獄雨』発動」
 襲い来る深緑の怪物に対し、美月が腰に携えた霊兵統帥刀を抜刀し鋒を突きつける。飛び掛かるエヴォルグ量産機。突如としてその頭部が爆ぜて後方に吹き飛ばされた。
 美月によって喚び出された亡霊の対戦車砲連隊と自走砲大隊が榴弾を叩き込んだのだ。流石のキャバリアといえど対戦車砲の直撃は強烈らしく他のエヴォルグ量産機達も次々に砲撃の餌食となってゆく。ずらりと並べられた砲兵隊から投射される火力はまさしく地獄の雨と呼ぶに相応しい。エヴォルグ量産機も途切れる事なく襲撃を繰り返すが、美月が従える亡霊将兵の火力を封じるには至らない。
 とは言え向こうも撃たれてばかりでは無かった。エヴォルグ量産機と相対していれば必然的にレーザーでの反撃に見舞われる。しかし隊の車輌はいずれも鏡面装甲が施されており、まともなダメージは及んでいなかった。ならば触腕の攻撃はとなるが、これらも車載の機関砲で悉くが迎撃されてしまう。
「全打撃部隊、武器使用自由。接近する敵部隊を随時迎撃せよ」
 美月の口より短く発せられた命令を受けて、砲兵隊は機械的な精密すぎる動きで隊列を変更し横一杯に広がった。支援砲撃を行いつつ迎撃行動を取り敵を漸減、猟兵が前進するべき道を作るのだ。扇状に射角を取った隊列は迫る敵群を前に臆することなく冷徹に攻撃を加え続ける。真正面から向かってくれば直接砲撃で撃ち破り、触腕を伸ばされるのであれば機関砲で撃ち落として挽肉に変える。攻性防壁と化して物量による力押しを難なく弾き返した美月とその隷下の部隊は、軍港に於ける戦いの優勢を掴む初手となった。

成功 🔵​🔵​🔴​

テラ・ウィンディア
おれはキャバリアって格好いいって思ってるけど
こんな悍ましい奴らもいるんだな

だが…人が乗っていないなら…人を食らい尽くすならそいつは脅威すぎる
だから…容赦しないでいくな

【属性攻撃】
炎を機体と武器に付与

【戦闘知識】
敵陣とその状況と地形
己のUCでプラントを巻き込まない用にするための立ち位置だけは確実に把握

【見切り・第六感・残像・空中機動・武器受け・オーラ防御】
高度に注意しながらも残像を残しながら飛び回り攻撃を回避
武器とオーラで防御

【弾幕・貫通攻撃】
ドリルビットとガンドライド展開
弾幕とドリル攻撃で蹂躙

【二回攻撃・早業・串刺し】
剣による連続斬撃から槍で串刺し

【重量攻撃】
敵群を捕捉
UC発動
須らく圧壊しろ


ユーフィ・バウム
戦友のシル(f03964)さんと一緒に

事件は続いているのでしょうか
とはいえ、ええ、やることをやるのみですね
今日も行きましょう、「ブライト・ナイト」!

出撃後は、風の【属性攻撃】を機体全身に張って
高度に気を付けつつ【空中浮遊】し【ダッシュ】して
間合いを詰める

完全に近づく前に、ブリッツ・ファウストより
ビームをめいっぱい発生させ、【衝撃波】として
【なぎ払い】!
より多くの敵を巻き込むよう打ち込んだ後

シルさんの援護射撃を受けつつの
近接戦を狙っていきます
【功夫】での機体格闘戦で暴れつつ
よりシルさんの射撃に敵が
あたるよう角度に気を付け戦います

触腕は【見切り】逐次迎撃
避けきれない時は【オーラ防御】で防ぎつつ押す


シル・ウィンディア
ユーフィさん(f14574)と一緒に

この前の事件と関連あるのかな?
まぁ、わたしにできることをしっかりやるだけだね

ユーフィさん、行こうかっ!

出撃後は、水面上を高度に気を付けて高速で空中機動
ランチャーは狙撃モード
コンテナやガントリーを補足しつつ
コンテナ付近に敵機が固まっていたら
ランチャーでコンテナを撃ちぬいて、起爆させての範囲攻撃

その隙に魔力溜めを行いつつ、ランチャー・キャノン・ホーミングビームの一斉発射!
マルチロックで対複数戦だね

ユーフィさんが近接間合いに入ったら
援護射撃を続けつつ、30秒フルタイムで魔力溜め

溜まったら、避けるように伝えてから《指定UC》
マルチロックの範囲攻撃で一気に行くよっ!



●エレメンタルバースト
 空母大鳳より出撃した三機のキャバリアが軍港の方角に向かって海面を滑走する。テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)の三界神機『ヘカテイア』とシル・ウィンディア(青き閃光の精霊術士・f03964)の精霊機『ブルー・リーゼMk-Ⅱ』そしてユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)の輝闘機『ブライト・ナイト』だ。
「おれはキャバリアって格好いいって思ってるけど、こんな悍ましい奴らもいるんだな」
 ヘカテイアのコクピットの中でテラは誰に向けるでもない言葉を零した。モニターには望遠モードで捕捉したエヴォルグ量産機の姿があった。既にこちらの動向に感付いているらしく、係留地点より当たるでもないレーザー射撃を繰り返している。様子然り見た目然り、そして大鳳内での最終ブリーフィングで聞いていた習性然り、テラが既知しているキャバリア像とはあまりにもかけ離れたものだった。
「アックス&ウィザーズのバケモノって言われた方が、まだしっくり来るんだが……」
「これ、もしかしなくても愛宕連山で見たのと同じタイプだよね? エヴォルグだし」
 ブルー・リーゼMk-Ⅱに搭乗するシルには、同じルーツを持つ機体との交戦経験があった。厳密に言えば愛宕連山で散々交戦したエヴォルグ壱號機『Swollen』とエヴォルグ弐號機『HighS』と同種の機体だろう。
「間違いありませんね。つまり、事件は続いているのでしょうか」
 ブライト・ナイトを御するユーフィもシルと同様の反応を示した。拳を交えるまでもなく感じる奇妙な殺気。機械と生物の中間を行く形容し難いそれは、ユーフィの肉体に刻まれた戦いの記憶にしっかりと残されている。
「アタ……なんだって? なんかよく分からんけど、前科持ちの人喰いか……だったら容赦しないで行く!」
 テラが踏み込んだブーストペダルに呼応して、ヘカテイアの魔術動力炉が唸りを挙げる。機体と各種兵装に揺らめく緋色の炎が宿り、背面に朱雀を想起させる光の翼が広がった。
「まぁ、わたしにできることをしっかりやるだけだね。ユーフィさん、行こうかっ!」
「ええ、やることをやるのみですね」
 ブルー・リーゼMk-Ⅱがウイングバインダーよりスラスターの噴射炎を吐き出して加速するのと同時にユーフィが前傾姿勢を取る。すると搭乗者の挙動をトレースしたブライト・ナイトも速度を増加させ、巻き上げられた海水の飛沫を後方へ置き去りにしながら軍港へと突き進む。接近する三機を撃ち落とすべく、軍港方面より無数のレーザーが放射された。
「好き勝手撃ってきやがる!」
 正面から光線の連射に対しヘカテイアは鋭角な機体制動を繰り返し回避。直撃に至らないレーザーは背面より伸びる紅翼の守りで減衰させ軌道を逸らす。時折被弾しているように見えるが、機体を覆う炎が生み出す残像現象をレーザーが撃ち抜いているだけだ。
「流石に数が多いですね。だからこそ戦い甲斐があるというもの!」
 ブライト・ナイトは回避運動は勿論としてビームを纏ったブリッツ・ファウストでレーザーを打ち据えて対処している。滑らかな挙動は空気の整流すら味方に付けているが故だろうか。
「ちょっと待っててね! いいこと思い付いた!」
 ブルー・リーゼMk-Ⅱがブラースク改を狙撃モードに変更しトリガーを引いた。収束された魔力粒子弾が一本の光線となって軍港の沿岸へと延びる。その先はガントリークレーンが設置された荷下ろし場で、多くのコンテナが放置されたままだった。研ぎ澄まされた魔力粒子弾がコンテナのひとつを撃ち抜くと、内部より強烈な爆発が発生。弾薬に引火したらしい。爆発は周囲のコンテナを巻き込んで次々に連鎖し海面を震撼させるほどの大爆轟にまで至った。ガントリーごと吹き飛ばす爆発に多数のエヴォルグ量産機が巻き添えを喰らい、どこの部位とも知れない緑色の肉片をまき散らす。
「よし! 一気に詰めるぞ!」
 突入するには敵の群れに空白が出来た今が好機とテラは判断を下す。加速するヘカテイアから小型の自律兵器がリリースされた。三つの砲身を持つ小型浮遊自走砲台群が先んじて爆発で吹き飛ばされた沿岸部に到達し、なおも押し寄せるエヴォルグ量産機を撃ち抜く。更にドリルビットが続いて殺到しては乱舞しとどめを刺して回る。そこへ加速を伴ったままブライト・ナイトが突撃を敢行した。
「退いて頂きます!」
 軍港へと飛び込むのと同時に、より鮮烈な光を宿したブリッツ・ファウストが地に打ち据えられる。弾ける光と衝撃波。ブライト・ナイトに飛び掛からんとしていた敵群が一斉に吹き飛ばされ、四方八方に拡散したビームによって躯体を引き千切られる。
「ふたりとも! 援護するよ!」
 軍港に接近しつつも海上に留まったままのブルー・リーゼMk-Ⅱが、ブラースク改とリュミエール・イリゼ、テンペスタのトリプルトリガーによる斉射を加えた。連射と誘導と高出力の其々性質が異なるビームがマルチロックオンした標的へと次々に放たれる。幾つもの青白い爆発が生じるたびに、エヴォルグ量産機が撃ち抜かれては宙に投げ出された。
「押し込む!」
 一方の手に紅龍槍『廣利王』を、もう一方の手には星刃剣『グランディア』を携えたヘカテイアが尚も敵陣深く踏み込む。横から迫った敵機をグランディアで撫で斬りにし、正面から来る敵は廣利王で刺し貫いて投げ捨てた。
「殴りっこなら私の間合いです! 勝負!」
 ブルー・リーゼMk-Ⅱの火力支援を受けたブライト・ナイトも果敢に前へと戦線を押し上げる。実戦の中で磨き込まれたユーフィの功夫のモーションに合わせて、ブライト・ナイトが流れるような動きで格闘連打を繰り返す。ブリッツ・ファウストがエヴォルグ量産機の胴に打ち据えられ、闘気を込めたビームの炸裂が内部機構を粉砕する。直後に側面より触腕が迫るが直感で察知して身を屈めてすり抜け、そのまま一歩踏み込むだけで間合いを零に詰め、反撃のアッパーカットで白面を粉砕した。
 三機の連携により高速で掃討され続けている敵群だが、増援が途切れない。今のところ戦況は安定して推移しているものの、いつまでも持たせられるという保証は無いし、本命の南州第二プラントでの戦闘を考慮して余力は残しておきたいところだ。そしてこの状況をシル達は予め想定していた。
「チャージ終わり! アレやるよ!」
 シルは前線の火力支援に注力する傍らで最大火力の砲撃を行うべく、余剰魔力を蓄積し続けていた。それを開放するべき時が来たのだ。
「了解しました、お任せします」
 ブライト・ナイトが交戦中のエヴォルグ量産機に回し蹴りを叩き込んで跳ね飛ばすと、ブルー・リーゼMk-Ⅱの射線上より素早く退避した。
「わかった! こっちもやるぞ!」
 ヘカテイアが攻撃の手を止め後方へと飛び退く。両のマニピュレーターが握っていた紅龍槍と星刃剣が赤い粒子となって消え失せて、引き換えに大型の砲撃兵装が現れた。
「ヘカテ……おれと魔力を合わせろ……」
 魔力充填が開始されたブラックホールキャノン『プルートーの炎』が開く大口より紫炎の光が溢れ出す。それは須らくを縛り圧し潰す重力の光だった。迫るエヴォルグ量産機はその光が自らを圧殺するものだとは考えもしていないだろう。
「星さえ押しつぶす星々の海の力……テラ・グラビティブラスト……発射ぁ!!!」
 人機一体となった魔力を極限まで圧縮し重力波に変換、紫の光球と化してプルートーの炎より射出された。射線上に散乱する瓦礫や敵機の残骸を巻き込みながら直進、敵群の中央に着弾すると重力場の渦となって周囲の万物を巻き込み圧壊させて行く。
「全砲門、リミッター解除! ブルー・リーゼ、全力で撃ち抜くよっ!」
 そこへブルー・リーゼMk-Ⅱの全力砲撃が加わる。持ち得る全ての魔力火砲を介して、最大蓄積された魔力を転換したビームが放出された。青の雷光はテラ・グラビティブラストによって引き寄せられた敵群を直撃、更には渦巻く重力の波動に乗って次々にエヴォルグ量産機を引き裂く。
 重力と雷光の嵐が去った後に残されたのは、円形に削り取られたアスファルトと散乱するエヴォルグ量産機の一部だけだった。ユーフィの武術が押し寄せる敵の波を堰き止め、シルとテラの殲滅攻撃手段が波を打ち消し一時的にではあるが新たな増援の兆候を断った。局所的ながら確かな勝利が、第二プラント奪還への歩を進める切欠をもたらした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
命の音が消え続けているのですね。胸が潰れる思いでございます
「っ!は、ぃ。接続、安定。操縦者情報秘匿、マイクオフ、他全て確認完了
参ります、主様……サイキックキャバリア、ラウシュターゼ様!」
『私に恥を掻かせるなよ、メルメッテ!』

ウイングでの【空中機動】で敵の攻撃を【見切り】回避
ブレードビットを飛ばして触腕を切り刻みながら指定UCを発動。蝶を敵の口内へ入れ『――喰らったな?”それ”を!!』瞬時に炎に切替、過熱を加えます
即座に三笠の方々に合図し火力支援要請!『折角だ、コーラスを任せよう!』
間を置かず従奏剣ナーハ・ソードモードで一気に【なぎ払い】です!

皆様の生を守る為に戦います
この鼓動は止めさせません!



●四眼の機士と従者
 軍港の占有権を奪い合う戦闘は初動より時間を重ねる毎に激化の一途を辿っていた。三笠の砲撃で始まった猟兵の強襲揚陸と強行制圧。掃討速度は猟兵側が明らかに押してはいるものの、敵の増援はまだ途切れる気配は無い。故に戦いで生じる爆発音もまた止む事はなく、海上で待機している大鳳の元にまでそれは響き届いていた。
 その大鳳の飛行甲板上で静寂に佇む機体の姿があった。端麗なまでに研磨された白亜の装甲は鋭角なシルエットを織り成し、垣間見えるインナーフレームは有機的な印象を纏っている。
『ここでも随分と死んだものだな』
 光る四眼で軍港を見据えたまま、機体そのものが言葉を零した。厳密には発声したのではなく、コクピットに収まっている搭乗者の聴覚に対し直接言葉を聞かせていたのだが。
「主様……?」
 メルメッテ・アインクラング(Erstelltes Herz・f29929)が怪訝な表情で問い返す。彼女が主と呼ぶ相手とは、自らが搭乗している四眼の機体に他ならない。
『無様に喰い殺された者共の思念の残滓がな。どれほど無碍に死んだのやら』
 機体の声音は皮肉めいていた。メルメッテは胸元に緩く握った拳を当てて目を閉じた。サイキックを行使する者だからこそなのか、それとも機体を伝って届いているのか、軍港に残された思惟の淀みが重く苦しい波動となってメルメッテの身に覆い被さった。
「大勢の命の音が消えたのですね。そして、それは今も続いている……胸が潰れる思いでございます」
 怖気や怒りに悲痛といった死者の感情に浸されて、メルメッテの眉間が微かに顰められた。
『感傷など要らん。自身の役割、解っているのだろうな?』
 突如メルメッテが短い呻めきを漏らし身を跳ね上げた。機体と人体を結ぶフォアシュピールより流れ込んだ強烈な多幸感が胸中を圧迫していた重い思念を掻き消し、引き換えに戦意に近い異様な高揚感をもたらした。
「っ!は、ぃ。接続、安定。操縦者情報秘匿、マイクオフ、他全て確認完了」
 他者の干渉を全て拒絶し完全な戦闘体制へと移行する。この世界にいるのは自身と主のみ。乳青色の目には戦いの思惟が灯っていた。
「参ります、主様……サイキックキャバリア、ラウシュターゼ様!」
 機体の真名を呼べばラウシュターゼの背より真紅の双翼が広がる。サイキックエナジーにより形成された半実体の剛翼が大きくはためくと、赤い燐光を散らせて機体を甲板上より浮き上がらせた。
『私に恥を掻かせるなよ、メルメッテ!』
「仰せのままに!」
 翼が三度目の羽ばたきを見せるとラウシュターゼは急激に加速した。目標は軍港の沿岸部。海上を超高速で滑空していれば、当然の如く正面の方向より複数のレーザーが連続して照射され始めた。
『全て避けて見せろ。速度は落とすな』
「は、はいっ……!」
 出来て至極当たり前と言わんばかりに主人は従者へと制御権を譲り渡す。メルメッテは感受した殺気を率直に認識し、自らの直感を信じて機体の制動を行う。オクターヴェの片翼が宙を蹴るように羽ばたくと、ラウシュターゼが横方向へと空中を滑る。直後に数秒前まで機体が存在していた箇所をレーザーが通り抜けて行った。続けて同様の回避運動を繰り返し、程なくして軍港沿岸部が間近に迫った。レーザー照射があった時点でメルメッテもラウシュターゼも想定していた事だが、やはり沿岸部には既にエヴォルグ量産機が犇いていた。三笠と大鳳の接近を感じ取って周辺地域より浸透して来た増援のようだ。
『邪魔が多いな。まさか気色悪い怪物の只中に主を降着させるつもりではあるまい? 掃除しろ』
「心得ております! ここは……ベグライトゥングで!」
 軍港へ猛進するラウシュターゼの周囲に複数の円形陣が現れた。その陣より飛び出した刃型の自動攻撃端末が、刀身を赤熱化させエヴォルグ量産機の群れに襲いかかる。
 突然出現した動体に対し、エヴォルグ量産機達は殆ど本能的に注意を向ける。捕縛して餌にでもしようと企んだのか触腕を伸ばすも、触れた途端に高熱を帯びた刃に引き裂かれ緑の体液を撒き散らす。ベグライトゥングの襲撃は終わらない。触腕を切り刻まれた痛みに悶えるエヴォルグ量産機の群を取り囲むと刀身を展開、内部のヒートディスチャージャーを露わにすると熱線を放ち瞬く間に溶断して行く。ラウシュターゼが海上を進んでいた頃から煩くレーザーを照射していた一群は物言わぬ残骸と化した。
「主様、お掃除完了しました」
 メルメッテがそう報告したのとラウシュターゼが残骸の散乱する軍港沿岸部に舞い降りたのは殆ど同時期だった。ラウシュターゼはサイキックフィールドの翼を大きく羽ばたかせ、地上から僅かに足を離した状態で周囲を見渡す。
『結構……と言うとでも思ったか? 詰めが甘いぞ』
 点在する格納庫の屋根によじ登ったエヴォルグ量産機が機体越しにメルメッテを餌として品定めしていた。更に道路上から元気に走って駆けつけつつある集団も確認できる。掃討したのは全体の一群に過ぎない。後に支えていた次の群勢がラウシュターゼを取り囲みつつあった。ならばとユーベルコードの行使による迎撃の構えを取るメルメッテ。だが彼女の主は機体の制御権を強制返還させる事でそれを遮った。
「主様!?」
『気が変わった。私にも楽しませろ。メルメッテ、その力を寄越せ』
「っ!ぐ、はい……主様……!」
 魂が吸引されるような感覚がメルメッテの身体を襲う。だが拒む事なく任意の元に奪い取られるものを譲り渡す。ラウシュターゼはメルメッテの有するユーベルコードを外部から強引に発現させ、自らの機体を触媒として増幅し解放した。
 オクターヴェの双翼がより巨大に広がり旋風を巻き起こさんばかりに空中を打つ。すると翼より舞い散った燐光は淡い空色の蝶へと形状を変貌させた。ラウシュターゼを包囲していたエヴォルグ量産機達は突如眼前に出現しひらひらと漂う蝶形の発光物体を見た瞬間、反射的に顎を開いて食らい付いた。それが攻撃の意図を持ったものだったのか捕食可能対象と見做した結果の行動だったのかは定かではない。いずれにせよ確かなのは、ラウシュターゼの思惑通りだったという事だ。
『――喰らったな? ”それ”を!!』
 異変は間髪入れずに連続して発生した。光の蝶を喰らったエヴォルグ量産機の群が一斉にその場で仰向けに倒れて自身の腕部で腹を掻き毟り始めた。ラウシュターゼは想音色で放出した光の蝶をエヴォルグ量産機の腹に収めさせた直後、性質を炎に転換し内部より焼却処理を開始したのだ。
『見事なまでにまんまと掛かってくれたな。所詮は獣、罠を解す知恵など持ち合わせていないか』
 主はさぞ機嫌が良いらしい。フォアシュピールを介して背筋を震わせるほどの多幸感がメルメッテに逆流して来た。意識に反して口角が緩む。だが思考は冷静に周辺状況を読み把握していた。
「主様、増援が差し迫る前に掃討してしまった方が……」
『いいだろう、だが折角だ、コーラスを任せよう!』
 機体の制御権がメルメッテに移り変わる。同時に通信機能の遮断の一部が解除された。メルメッテは殆ど本能的にラウシュターゼの意図を察し、三笠へと火力支援要請の信号を発した。コーラスの指揮を務めるべく、メルメッテはラウシュターゼのマニピュレーターを経て従奏剣ナーハを抜き放つ。
「この一太刀は、皆様の生を守る為に!」
 内部より灼かれ、顎や避けた腹部から炎を噴き出してもなお悶えるエヴォルグ量産機の群れを前に、無数の凶悪な刃が連なる剣を構えたラウシュターゼが深く腰を落とす。
「命の鼓動は……止めさせません!」
『ならば狩り取れ! 私に仇なすものの命を!』
 渾身の力を込めて抜き放たれたナーハ。ラウシュターゼが物のついでのお節介にとサイキックフィールドを纏わせた一閃が迸る。紅の軌跡が左から右へと一直線に伸び、悶え足掻くエヴォルグ量産機の群を撫でるようにして両断した。噴出する緑の体液。そこへ三笠より発射された中型砲弾が降り注ぎ格納庫やアスファルトを吹き飛ばして視界を爆炎一色に染め上げる。ラウシュターゼがナーハを縦に振るうと、刃に付着していた液体が飛散し弾けた。不気味な光を宿す四眼には喜色が滲んでいた。果たしてそれはラウシュターゼのものなのか、それとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
我らメリアグレース、日乃和周辺地域の生体キャバリアによるバイオハザード対処に加勢を宣誓いたします
そんな無線が入った日乃和の艦隊2隻から遅れてメリアグレースの駆逐艦が接近
エヴォルグを蹴散らすように帰天を用いた魔術砲撃を行っていく

更に駆逐艦の甲板に低空飛行で白と金色のカラーリングの機械天使を思わせるサイキックキャバリア『ノインツェーン』が降り立つ
瞬間両肩部からそれぞれ莫大な熱エネルギーと電力エネルギーが迸り、放射。
それはエンジェリックSAA・ガイオウガとサイキ・レールガンによるもの
そこに虚空から空間に刻まれた斬撃がエヴォルグを切り刻んでいく

これ以上暴走したエヴォルグに命を奪わせはさせません



●メリアグレースの裁き
 南州第二プラントへの玄関口となる軍の港湾施設。内陸部へ押し入るべく強襲を仕掛けた猟兵と我が物顔で南州に居座る人喰いキャバリアの群れが熾烈な衝突を続けている。主戦域となっている軍港の南の海上では、援護砲撃を続けている戦艦三笠と、猟兵戦力の海上輸送及び雑多な支援を担う空母大鳳の巨大な船体が並んで浮かんでいた。その二隻の間を縫って比較的小型な艦艇が沿岸へ向けて高速で駆け抜けて行く。
「我らメリアグレース、荒ぶる生体機械の蛮行を裁くため、日乃和軍に加勢を宣誓いたします」
 三笠と大鳳へ高らかに声を上げたフレスベルク・メリアグレース(メリアグレース第十六代教皇にして神子代理・f32263)が使役する駆逐艦が白波を割いて早朝の海を走る。係留地点に横付けし上陸を図る見込みだ。されど軍港はエヴォルグ量産機が犇く魔の領域。駆逐艦の接近を察した深緑の怪物紛い達が係留地点に集い、レーザー照射を開始する。どうやら遠距離の動体への基本的な対処としてインストールされた行動らしい。
 無数のレーザーが海上に迸る。だが駆逐艦の速度は緩まない。フレスベルクは艦艇に搭載した砲に帰天の祝福を施すと、それを触媒に魔術に依る砲撃を行った。桜色の魔力の奔流が走り沿岸部をなぞると爆轟と共に火柱が立ち上がる。レーザーを無遠慮に発射し続けていたエヴォルグ量産機の一群が消し飛んだ。
 一時的にながら正面を遮るものが無くなった。フレスベルクの駆逐艦は悠々と係留地点に到達し船体を横付けする。時を同じくしてエヴォルグ量産機の新たな群が係留地点へと押し寄せて来た。迫る緑の波を見てもフレスベルクは動じる事なく両の手を胸元で結び、半神の名を呼ぶ。
「裁定を下すために、降りたまえ……ノインツェーン」
 駆逐艦の艦首に立っていたフレスベルクの姿が淡い光に包まれ消失した。引き換えに駆逐艦のやや上空に巨大な天輪が現れ、輪を潜り抜けるようにして機械天使が文字通りに降臨した。フレスベルクの神騎、ノインツェーンだ。
「悪虐には報いを」
 ノインツェーンの内に座したフレスベルクが静かに短く言葉を紡ぐ。神々しいまでの威厳など感じる由もなく押し寄せるエヴォルグ量産機の群れへ、両肩部の兵装が向けられた。攻撃は慈悲をかける事なく行われる。天使核によって駆動する魔導銃、エンジェリックSSA・ガイオウガが範囲こそ抑えられているものの戦略級の熱波を放出する。同時に碎輝の力を宿す電磁加速投射砲、サイキ・アンリミテッドレールガンより黄金の軌跡を残す弾体を発射。荒れ狂う熱と電流を纏った高速弾体の衝撃が迫る群を吹き飛ばす。なおも敵の後続が迫るが、フレスベルクは次なる奇跡の手を既に用意していた。
「現在と言う幹に未来と言う枝を伸ばす時間という名の世界樹は根たる過去があってこそ。故に消えざる過去にこそ救いと裁きは体現されるべし」
 フレスベルクが詩歌を奏でノインツェーンが片手をかざす。置き去りにされた時間に刻まれた刃が呼び起こされ、虚空に裂傷となって現じた。乱舞する姿無き過去の刃がエヴォルグ量産機の群勢の中で暴れ狂い、おびただしい緑の出血を強いて斬首の裁きを下す。ノインツェーンがかざした手を下ろした時には、係留地点に転がっているのは四肢を切り刻まれた生体キャバリアの残骸だけだった。
「生まれながらにして罪深き者達よ。これ以上、命を奪わせません」
 抑揚を抑えながらも重力を含んだフレスベルクの声音。メリアグレースの裁きは遍く悪意を討ち尽くすまで続く。南州の朝の陽光を浴びて、ノインツェーンが纏う装甲の金の縁取りが眩く輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
上陸作戦ですか。
まずは上陸地点の安全を確保しないとね。
まぁ、一旦は全滅させたようですが。
なのに外からおかわりがくるのが見えるのです。
これは軍港の外で倒すほうが楽かな?
とゆーことで僕は大鳳から援護するですよ。
アポイタカラを召喚して化身鎧装<与一>を展開。
キャバリアサイズの竜殺之剛弓。
量産機を破壊するくらい簡単なのです。
押し寄せる量産機を射程を活かして長距離狙撃。
誘導性を持たせた矢でバンバン射貫くですよ。
キャバリアで弓とゆーのも変な感じ。
まぁ、効率を優先せざるを得ない状況だから仕方ないねっ!
状況次第では弓は銃より優れた武器なのです。
敵の射程の外から一方的に射貫く。
これでイケルイケル!



●弓兵
 至極当然ながら、上陸作戦に於いて上陸地点の安全確保は最重要課題だ。けれど言うは易し。実行には多々な困難が付き纏う。此度の作戦でも、初動の艦砲射撃で上陸地点を確保したと思いきや数分後には増援に駆け付けた敵群が犇く事態に陥っている。
「まぁ、外からおかわりがくるのは見えていたのです」
 両の脚で大鳳の飛行甲板を踏み締める赤鉄の機体、アポイタカラの操者である露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、センサーカメラを通してモニターに映し出された軍港の有様をまじまじと眺めていた。鬼燈にとって想定通りの展開となっているらしく、事実初動の艦砲射撃で全滅させた敵群は全体の一部に過ぎなかった。猟兵とオブリビオンマシンの交戦は継続中であり、折角掃討された係留地点も軍港の外部より雪崩れ込んできた敵の集団によって占拠されては猟兵に駆逐されまた占拠されを繰り返している。総合的に見れば猟兵側が押しているものの、一見すると埒が明かないというのが鬼燈の率直な感想だった。
「これは軍港の外で倒すほうが楽かな?」
 戦術としてはアポイタカラで前線に参じて乱闘しても良いのだが、それよりも外側から崩して回る役に入った方が得策と鬼燈は判断を下す。現在地は空母大鳳の甲板上。足場はしっかりしており長距離攻撃時の狙いを定めるのにも支障は無い。
「とゆーことで僕はここから援護するですよ」
 そうと決めたらまずは準備と、鬼燈のユーベルコードによって生じた化身鎧装の生体装甲がアポイタカラへと纏わり付き、まるで平安武士の弓兵を模したかのような姿へと変貌させた。
「与一モードに移行かんりょー」
 気の抜けた声と裏腹にアポイタカラの武装は非常に厳つい。元々の機体の印象が鬼の空気を含んでいたが、弓武者の身なりを加えられた事で外観が与える威圧感が更に増しているようにも見えた。
 アポイタカラが竜殺之剛弓の本弭を大鳳の飛行甲板に突き立てると、背面の矢筒へと腕を伸ばす。竜殺しの巨大な弓だけあって矢も長く大型だ。もはや槍と形容してしまった方が正しいのかも知れない。
「これなら量産機を破壊するくらい簡単なのです」
 鬼燈が操縦桿のトリガーキーを押し込むとアポイタカラが矢を弓に番えた。狙う標的は深緑の人喰いキャバリアであるエヴォルグ量産機。機体の表面は装甲ではなく厚みのある皮膚状の半生体素材で覆われている。竜殺之剛弓の威力を以ってすれば容易に貫徹できるだろう。
 限界まで引き絞られた弦。アポイタカラは射撃姿勢のまま微動だにしない。操縦席の鬼燈は望遠で捉えた敵機へと照準を重ね合わせる。捕捉完了のインフォメーションが表示された瞬間にトリガーキーから指を離した。遂にアポイタカラが番えていた矢を撃ち放つ。風切り音などという生易しいものではない衝撃音を残し、剛弓から放たれた矢が超高速で海面を突き抜ける。向かう先の標的が動きを見せるも矢は自ら軌道を修正、文字通り吸い込まれるようにしてエヴォルグ量産機の胴を鏃で貫いた。巨大な槍で貫かれたも同然なエヴォルグ量産機は即死し、側の格納庫に磔にされた。
「バンバン射貫くですよ!」
 第一の矢が放たれた直後に、既にアポイタカラは第二の矢を番えて放っていた。海上からの一方的な長距離弓撃。矢が一本放たれる度に敵が一体ないし巻き込まれた複数体分反応を消滅させる。片や敵側は一応反撃らしき行動はしているものの、より大型で多数の人員を内包している三笠と大鳳に傾注し過ぎておりアポイタカラを明確に狙っている気配は見られない。海を踏破し艦艇に取り付くだけの能力も備えてはいるのだが、軍港内での戦闘が最優先事項らしく接近してくる兆候も無い。鬼燈にとって殺りたい放題撃ちたい放題の状況が成立していた。
「でもキャバリアで弓って変な感じ? まぁ、効率を優先せざるを得ない状況だから仕方ないねっ!」
 キャバリアライフルやパルスマシンガンを主兵装に選択していた鬼燈にとってはやや違和感のある戦法となったかも知れない。しかし戦果は上々を維持しており、竜殺之剛弓から速射される矢は敵戦力を外側から削り取り続けている。
 空母大鳳の主砲と化したアポイタカラ。与一の弓業が成す必殺の狙撃が、軍港を蝕む緑の怪物に死の旋風をもたらした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・千歳
敵制圧下の軍港に対する逆上陸ですか。久々に愛鷹の出番ですね。
サテライトドローン群を殲禍炎剣に引っ掛らない高度で軍港周辺に展開し、通信、観測網を形成、ドローン群からの【偵察】【索敵】と愛鷹の観測機器や味方の通信を使った【情報収集】で得た情報を元にUCを発動し、【戦闘知識】【瞬間思考力】で敵の動きを予測、【誘導弾】の【一斉発射】【範囲攻撃】による【先制攻撃】で敵集団が一か所に集まる様に誘導した上で、【砲撃】による【弾幕】【制圧射撃】で殲滅する。
砲撃時はリモート義体を通じて通信で該当エリアへの砲撃予告と警告を行い、味方を巻き込まない様注意する。敵の攻撃は電磁フィールドで防御します。



●面制圧
 陸と海上の両面より強襲を掛けた猟兵達によって、軍港に群がるエヴォルグ量産機の梯団は急速に殲滅されつつあった。無尽蔵とも思われた増援の密度にも限りが見え始め、もう一波の始末を終えれば南州第二プラントまでの道のりに足を掛けられるという段階にまで到達し掛けた頃、猟兵が所有する艦艇が大鳳と三笠を後ろに軍港へと接近を試みた。
 天城・千歳(自立型コアユニット・f06941)の陸上戦艦、愛鷹。おおよそ二百六十メートルの巨大な船体を海面より僅かに浮かび上がらせているのは、艦底部に備わっているホバークラフトによるものだった。夥しい量の海水の飛沫が巻き上げられ、船体下半分にあたかも白いベールを纏っているかのような霧を生じさせている。
 各種探知装置やモニターが奏でる無機質で冷ややかな機械音が充満する艦橋にて、千歳の人型リモート義体が艦長席に静かに腰を沈めていた。姿勢は微動だにもしないが双眸の中で目線だけが忙しく動き回っている。軍港内に飛ばした視覚から得られた情報を精査しているのだろう。彼女の見ている世界は愛鷹の艦橋ではない。
「サテライトドローン第二群は西部方面へ、広域データリンク中継機は格納庫街まで待避」
 感情の篭らない声音で子機端末へ粛々と指示を下す。千歳の視覚の中には、軍港の西側の光景が出力されている。恐らく現時点で最後の増援であろうエヴォルグ量産機の梯団が侵攻を果たしていた。他の猟兵や三笠ともデータリンクを介して状況を伝達している。千歳は友軍の展開状況を観測した結果、自らが処理に当たるべきと即座に判断を付けた。
 千歳の人工頭脳にラプラス・プログラムが走る。戦術立案に必要な因子は既に揃っていた。軍港各方面に散開配置したサテライトドローンが敵の動向を三次元的に捕捉していたのだ。
「VLS、一番から三番まで順次発射」
 千歳が命じれば愛鷹の煙突型垂直発射装置の扉が開き、噴射炎と共に三発の誘導弾が射出された。誘導弾は殲禍炎剣の照射警戒高度を避けて低空気味に飛翔し、軍港西側の格納庫が並ぶ区画に浸透したエヴォルグ量産機の集団中央に着弾、格納庫の一棟ごと爆炎の最中に飲み込んだ。しかし着弾したのは三発の内二発。一発は格納庫に接近した際に空中で爆散した。
「二番誘導弾の被撃墜を確認。レーザーによる自動迎撃と断定」
 着弾観測の結果を受けた千歳は現在に至るまでの情報と照らし合わせて敵機の習性を掴んだ。距離が離れており尚且つ高速で移動する対象をレーザーで自動的、或いは本能的に迎撃するよう作られているらしい。迎撃率からして照準の精度自体はまずまずと言った所だった。そしてもう一つ、千歳には仮説があった。その仮説はすぐに実証される事となる。
「敵梯団移動開始。移動経路算出……完了。軍港内沿岸部及び係留地点。目標は本艦と推定」
 他の人喰いキャバリアは定かではないが、南州で遭遇したエヴォルグ量産機はより大型の対象に積極的な攻勢を仕掛ける傾向があるようだ。三笠と大鳳への攻撃が異様に苛烈だった時点で見当を付けていたのだが、実地の情報収集とラプラス・プログラムの予測結果を合わせてほぼ確定となった。他の方面に残留していたエヴォルグ量産機の一部まで愛鷹に誘引され始めた。千歳はこの状況を初めから利用するつもりでいた。
 ミサイルの着弾を生き延びた梯団と各所に散っていた小規模な群れが合流し、深緑の波となって格納庫が立ち並ぶ広い通りを駆け抜けて、南の海が見渡せる沿岸部の係留施設に到達する。エヴォルグ量産機と陸上戦艦愛鷹が海を挟んで対峙した。先に攻撃を仕掛けたのはエヴォルグ量産機。我先にと争うようにレーザーの照射を浴びせる。無数の細く青白い光線が真っ直ぐに伸びて海上に浮かぶ愛鷹の装甲を貫こうとした。
「電磁フィールド、展開」
 千歳のリモート義体の口より無情に言い渡された指令。半透明の球状の力場が船体上部を円形に覆う。殺到するレーザーは力場に達すると軌道を歪曲され、もしくは急激に威力を減衰させた状態で装甲に着弾。焦げ跡すら付けずにか細い光になって消失した。宇宙艦艇の標準的なメガビーム砲を防ぐバリアフィールドを、五メートル級の機動兵器の携行装備に貫通を期待するのはあまりにも無理難題だった。
「フィールド出力安定。電磁加速砲及びCIWS起動、自動照準開始」
 浴びせられたレーザーを悉く遮断した愛鷹へ千歳は反撃の命令を与える。愛鷹の船体各所に配置された近接対空砲と艦の前部に搭載されている二基の三連砲が、係留施設から未だ喧しくレーザーを撃ち続けているエヴォルグ量産機の集団へと向けられる。なお、展開中の電磁フィールドが攻撃の妨げとなる事は無い。愛鷹から生じた斥力は外部へ押し出すような形で働いている。愛鷹から投射された物体がフィールドを通過する際にはむしろ加速による若干の威力増加が期待できる。
 果たして目標を射角に捉え得る全ての砲塔が照準を完了した時、愛鷹の艦橋に千歳の短い言葉が響いた。
「発射」
 けたたましい音を上げて高速回転する多銃身機銃が数秒の内に無数の弾丸を吐き出す。本来はミサイルの迎撃など対空防御を目的として使用される複合兵装だが、非装甲目標であるエヴォルグ量産機には十分な威力を発揮した。人とも爬虫類とも付かない緑の体躯は殺到した弾丸に射抜かれると、陸に上げられた魚のように跳ね回りながら肉と体液を撒き散らす。
 次いで四十一センチ三連装電磁加速砲から高速弾体が投射された。弾体は青い稲光の弾道の軌跡を後に引きながら群の只中に突っ込み、係留施設のコンクリート固めの地形ごとそれらを吹き飛ばす。エヴォルグ量産機の欠損した機体がコンクリートや残骸と混ぜこぜになりながら空中に放り出される。直撃地点に居た個体は原型を止めず細切れになって弾け飛んだ。艦砲の直撃、それも電磁加速投射砲を真正面からノーガードで受けてしまえば当然の結果だろう。されども恐れの概念を持たないエヴォルグ量産機達はひたすら盲目的にレーザー照射を繰り返す。中には直接取り付こうと入水を試みた個体も少なからず存在したが、前者と同じく砲火に曝され文字通り水際で阻止された。
 電磁フィールドで自己を保護した愛鷹の一方的な砲撃の嵐は、係留施設に群がったエヴォルグ量産機が消滅するまで続いた。敵反応が消失した時には、戦艦から空母に至るまで迎え入れていたであろう係留施設は無残に破壊され、緑の体液にまみれた死屍累々の光景が広がっていた。
「制圧完了、これで逆上陸の準備は整いました」
 愛鷹の暴力によって状況を進める最後の一手が押し進められた。千歳はデータリンクを介して三笠他友軍に掃討が完了した事を通告する。この好機はそう長くは続かないだろう。本懐を果たすべく、猟兵達は休む間もなく次なる行動を強いられる。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『エヴォルグ参號機『Lighting』』

POW   :    雷轟流基本ノ型・集雷
全身を【体を活性化させる雷】で覆い、自身の【速度をレベル倍にする。敵対者への畏敬の念】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    雷轟流奥義・雷迅
【体を雷で活性化する事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【レベル倍の速度で繰り出す武術】で攻撃する。
WIZ   :    雷轟流奥義・雷降
レベル分の1秒で【武術による攻撃と共にレベル発の雷轟弾】を発射できる。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●上陸成功
 南州第二プラントへの玄関口となる軍港の奪い合いは、海上からの火力投射と強襲揚陸して獅子奮迅の戦い振りを見せた猟兵側の勝利で終結した。初戦ではもしや無尽蔵なのかとさえ思わせたエヴォルグ量産機の集団を押し返し、殲滅に殲滅を重ねるという強硬手段で増援の波を打ち消したのだ。
 しかしこの凪は一時的なものに過ぎない。エヴォルグ量産機を始めとする人喰いキャバリアは南州全域に犇いているのだから。猟兵と彼らが繰り出すユーベルコードの力があれば直接の意味での全滅も不可能では無いだろう。しかし現状でそれをするのはあまりにも時間を浪費し過ぎてしまう。元より契約内容は南州第二プラントの奪還に定められているのだから無駄に給料以上に働いてやる義理も無い。
 果たして猟兵達の力は、エヴォルグ量産機を打破し南州第二プラントに至る道を切り拓いた。軍港内の安全が確保されたとして空母大鳳より出立した工作部隊と護衛役を務める予備戦力が上陸、猟兵達の後より続く。
 進むべき方角は北。仮初の静寂が訪れた軍港を後にして、猟兵達の鉄の背中は海上で待機する大鳳と三笠に見送られながら陸路を進み内陸部へと攻め上がる。辿り着く先には作戦目標の南州第二プラントがあるはずだ。時間的猶予はさほど無い。またエヴォルグ量産機が騒々しく群がって来る前に本懐を遂げなければ。

●南州第二プラントと天馬基地
 軍港を抜けた猟兵達の眼前に広がっていたのは、なだらかな傾斜が連続する平野部だった。軍港から南州第二プラントまでは直通の幅広い幹線道路が伸びている。その為進軍は極めて円滑に行われ、事前に示し合わせた予定通りの速度と時間で目的地へと到達を果たせた。なお、道中での敵との交戦は発生していない。周囲のエヴォルグ量産機を残さず誘引してしまうほど、猟兵達が軍港で繰り広げた戦闘は熾烈だったのだろう。
 目的地であり作戦目標である南州第二プラントには、日乃和軍の拠点である天馬基地が隣接していた。天馬基地は南州の一大軍事施設のひとつであり、南州第二プラントの直接防衛を担う他、平野部にある立地条件と広大な敷地面積を活用して新型機の試験場にもなっていたという。名残と思わしき管制塔や連なる格納庫の棟は、損壊の痕こそ刻まれているがしっかりと原型を留めていた。
 仰々しいまでに立派な天馬基地だったが、されど南州が人喰いの怪物を含む無人キャバリアの集団に攻め入られた際に敢えなく陥落してしまい現在に至る。そしてその天馬基地陥落の元凶の一端であった脅威と、猟兵達はすぐに対面する事となった。

●雷狐
 南州第二プラントを視界内に捉えた猟兵達の前に、単機の獣人型ジャイアントキャバリアと思しき敵反応が現れた。
 人体の如く筋肉が隆起した太い腕部の表皮は薄い青紫。アンダーフレームと呼んで適切なのか定かでは無い足には鋭い爪が生え揃っている。エヴォルグ量産機にも見られた頭部の白面は狐の意匠を汲んでいるようで、全体の風貌も相まって東洋の暗殺者であるシノビの気配を醸し出していた。
 エヴォルグ参號機『Lighting』が天馬基地の滑走路上で、四肢に青い雷電を帯びながら佇んでいる。感情の見えない頭部は確かに猟兵達へと向けられていた。明確に放たれる殺意の気配。オブリビオンマシンに違いない。恐らくは餌となるエネルギーインゴットを半無限供給し続ける南州第二プラントの番をしていたのだろう。
 幸いにしてLightingとの交戦記録は日乃和軍側にも残されていた。見た目に違わない俊敏な運動性と、それを駆使した近接格闘戦能力を有しているらしい。機体の各部に発電機関を備えており、雷球の射出や電力過剰供給による一時的な機体性能の増強を可能としているのだという。傾向を簡潔に表せば高速近接型の機体と言える。
 Lightingは猟兵達を交戦距離に捉えるや否や、まるで武人かの如き構えを取った。最早敵対の意図を疑う余地は無い。Lightingを倒さない事には南州第二プラントに工作部隊を送り込めず、電力供給の一時停止は見込めないだろう。作戦目標を達成する為には撃破が必須条件だ。
 既に工作部隊は大鳳が遣わした予備戦力と共に安全圏へと退避している。エヴォルグ量産機の増援の気配も今のところ無い。猟兵とオブリビオンマシンの戦闘を阻害する要素はほぼ存在し得ない。
 一方で支援の要素は健在だった。沿岸部を離れた内陸部ながら三笠の援護砲撃は天馬基地内であれば射程圏内だ。プラントの側なので強力過ぎる砲弾の使用は憚られるが、対キャバリアミサイルなどであれば問題ないだろう。戦いの下地は整っている。
 日乃和の末路を定める南州第二プラントの争奪戦。敵を撃ち破るのは猟兵達か、オブリビオンマシンか。青い稲光がLightingの四肢を巡り、外敵を排除するという研ぎ澄まされた純粋な殺意が膨れ上がった。初手を打つ者は果たして。天馬基地を舞台に本作戦最後の戦いが始まった。
ノエル・カンナビス
よそのお仕事が押してて、ちょっと出遅れましたね。
まぁとりあえず、目の前のこれを斃せばいいと。
単純な依頼で助かりました。

こちらも近接型でこそありませんが、高速戦闘は得意です。
回避力で圧倒出来るでしょう。
砲撃支援は逆に障害になるので、単機で行きますよ。

先制攻撃/指定UC。速いだけでは抜けませんよ。

筒先にプラントが入らないように位置を取りつつ。
貫通攻撃/ライフルでも範囲攻撃/キャノンでも、
どちらも鎧無視攻撃が乗りますので状況次第で。

ブレイド/切断でもいいんですが、近接型相手だと
避けられそうですねぇ。
ま、機会があれば使いましょう。
……少しは殴り合いしてみたい気もしますし。
良いデータが採れそうですから。



● フォックストロット
 「ちょっと出遅れましたが、目の前のこれを斃せばいいと。単純明快で結構です」
 バイブロジェットブースターの震えるフィンが奏でる衝撃波干渉音を引き連れながら、ノエル・カンナビス(キャバリア傭兵・f33081)のエイストラが低空を滑るように走る。追加戦力として参じた彼女の機体は既に戦闘態勢に入っていた。軍港方面より天馬基地の戦闘領域へ侵入したエイストラは、バックユニットを介して接続されている大口径プラズマキャノンの砲身を前面へ90度直角に倒すと、その大口より荷電粒子を迸らせた。
 太い光軸が真っ直ぐに向かった先には天馬基地の滑走路上に立つLightingの姿がある。Lightingは自らに攻撃を向けられた事を察するとすぐさま横に跳躍した。直後にエイストラが撃ち放ったプラズマビームが滑走路の路面を直撃し、アスファルトを砕いて青白い火柱を吹き出させた。
「反応速度はまずまずですか。このスピードなら、ある程度近寄らないと当たりませんね」
 想定していた結果を受けてノエルはコクピット内で呟く。メインモニターの端に表示されている選択兵装の項目がプラズマキャノンからプラズマライフルへと切り替えられた。合わせてエイストラがライフルを即時射撃姿勢に構える。
 戦闘領域に高速で侵入するや否や、挨拶代わりの荷電粒子を撃ち込んだエイストラをLightingは先に排除するべき対象と見做したようだ。機体各部に備えられた発電機関を震慄させ、人工筋肉の出力を活性化させると、地を蹴りエイストラ目掛けて跳躍した。
「単純な思考で助かりました。手間が省けます」
 エイストラもバイブロジェットが放出するけたたましい振動音を上げながらLightingに直進する。二機の相対距離は瞬時に縮まった。交差する白い機体。Lightingが武術紛いの高速連撃を繰り出す。エイストラは接触する寸前で半身を翻し鮮やかな挙動で避けて見せた。そしてLightingの側面から後方にすり抜けて振り向き様にプラズマライフルの速射を放つ。青白い光線が旋回しかけていたLightingの横腹を捉えた。命中した荷電粒子が忍者の装いめいた装甲を撃ち貫く。Lightingは僅かに身悶えする様子を見せたが地に足を付けた瞬間後方へとジグザグに跳び回り、反撃の雷球を連続して放った。
「当たりません。こちらも高速機ですので」
 低空に浮いたまま社交ダンスの如き軽やかな制動を見せるエイストラ。放たれた雷球を潜り抜けつつもプラズマライフルの連射を継続する。次はLightingが自ら接近を仕掛けて来た。牽制の雷球を飛ばし、稲妻のような速度で地を駆ける。
「……避けられそうですが、使ってみますか。切り合いで得られるデータもあるでしょうし」
 ノエルは左手が握る操縦桿のトリガーキーに軽く指を乗せた。ブーストペダルを踏み込み機体を急加速させる。迫る雷球をバイブロジェットブースターと通常エンジンのブースターを組み合わせた回避運動で軽やかにすり抜けて行く。再度両機の距離が詰まった。Lightingがマニピュレーターで保持する三連の刃を振るう。刃が装甲に届く前にエイストラの腕が横薙ぎに払われ、その後を青白い軌跡が追った。エイストラが腕部に秘匿していたビームブレイドを抜き放ったのだ。刃を弾かれたLightingは体勢を崩すがすぐさま逆手の刃を突き出した。エイストラが半身を翻して躱し、光刃を下から上へと切り上げる。切先がLightingの胴体に切創痕を刻んだ。
「意外と当たるものですねぇ」
 操縦桿越しに浅くとも確かな手応えを感じたノエルが意表を突かれたとばかりに反射的な呟きを溢す。Lightingの切り裂きをビームブレイドで受けるとエイストラは蹴りを繰り出した。打撃が命中した瞬間に各部のスラスターが噴射光を発し、瞬間的な加速エネルギーを加えて蹴り飛ばしをより強烈なものとする。胴体を直撃されたLightingは呻めきながら後方へと押し返される。開く相対距離。エイストラの追撃のプラズマライフルが重ねられる。回避不能距離で連続発射された光線に機体を貫かれ、ついに堪らずLightingは後方へと連続跳躍を繰り返し格納庫の影へと身を飛び込ませた。
「逃げるにしかず、ですか。その程度の知能は持ち合わせているようで。ま、殴り合いも出来ましたし良しとしましょう」
 戦いの初手を取ったノエルがLightingに刻んだ損傷は少なくない。一旦とは言え怯え竦ませ逃げ退かせるほどに。滞空するエイストラの甲高い翅音が、天馬基地の大気に響いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

天城・千歳
アドリブ、絡み歓迎

引き続きサテライトドローン群による通信、観測網を展開
ドローン群のレーダー、センサーと艦の観測機器を使って【索敵】【偵察】【情報収集】を行い、収集した情報を【戦闘知識】【瞬間思考力】で分析しUCを使い最適な迎撃ポイントに浮遊砲台群を展開、【先制攻撃】で【誘導弾】の【一斉発射】による【範囲攻撃】を行う。
同時に【ジャミング】を行い、相手の電脳への負荷を掛けます。
攻撃を抜けて来た相手に対し浮遊砲台群、対空砲塔群、近接防御システムによる【弾幕】【レーザー射撃】による【砲撃】で迎撃します。
敵の攻撃は主に電磁フィールドによる【オーラ防御】【盾受け】【見切り】【推力移動】で防御します。



●監視眼
 Lightingは攻撃から逃れ体勢を整えるべく、建ち並ぶ格納庫の狭間へと逃げ込んだ。無人機の電脳は一時的に姿を眩ませ、機を伺って奇襲を掛ける戦術を選択した。しかし逃げ込んだ先で、既にその姿は捉えられていた。
「目標捕捉、サテライトドローン群は相対距離を維持して追跡。自立浮遊砲台群は目標の予測移動座標に集結」
 天馬基地全域に千歳が放った無人機の目は、格納庫街の棟から棟を音もなく疾駆するLightingを執拗に尾行していた。無人機が捉えた映像はいくつかの中継機を介して戦域後方に控えている陸上戦艦愛鷹の艦橋まで伝達されている。千歳の思考を反映するかのように冷たい艦橋内では、艦長席に腰を据えた千歳のリモート義体が、瞬きひとつせず巨大なメインモニター上で分割表示された映像を注視し続けていた。
 不意にモニター越しにLightingとの視線が重なった。走行姿勢をやや屈めると腕に雷を纏い飛び掛かり、三連の刃を握る拳を突き出した。同時に分割表示されていた映像のひとつがブラックアウトする。サテライトドローンが発見されたようだ。されど千歳にとっては監視眼をひとつ喪失したところでさしたる損害にはならない。犠牲と引き換えに攻撃の準備が整った。
 知らず知らずの内にLightingが誘き出されたのは格納庫街を走る道の交差路。そこでは浮遊砲台群が待ち構えていた。敵の思考傾向をラプラス・プログラムで解析、最適な迎撃地点を導き出しつつ電子欺瞞で砲台群をひた隠しにしていたのだ。レーダーで察知できなかった敵機の突然の出現によりLightingの動きが止まる。千歳の冷淡な思考は隙を逃さない。
「浮遊砲台群、攻撃開始」
 端的に言い放たれた命令。千歳が従える自律攻撃端末がミサイルを放つ。白いガスの尾を引きながら複数の弾体がLightingに迫り来る。
 Lightingは青く帯電する腕を横に振るうと寸前まで引き付けたミサイルを打ち払った。だが爆炎に煽られ姿勢を崩したところに次なるミサイルが殺到する。Lightingは堪らず防御体勢を取った。四方を包囲した浮遊砲台群より波状に連射されるミサイルの雨が灰黒い煙を交差路に充満させる。
 突如爆煙から機影が垂直に飛び出した。これ以上ミサイルの雨を浴び続ける訳にはいくまいとLightingは強硬離脱の策を選んだようだ。格納庫の屋根に飛び乗ると、忍者めいた走行速度で飛んでは走りを繰り返す。だが千歳の浮遊砲台群が後を追い先に回り込む。サテライトドローンで得られた直接視認の情報とラプラス・プログラムの解析能力で次の動きが手に取るように予測できる。浮遊砲台群は攻撃手段をビームガンに切り替え、熱線の射撃でLightingの逃げ先を潰しながらとある場所へと誘導して行く。Lightingは遂に格納庫街を抜けて滑走路方面へと戻ってきた。執拗に追跡する無人機群のお陰でそうせざるを得ない状況になっていたのだが。そしてLightingは無人機以上の脅威を目の当たりにする事となった。
「誘導完了、愛鷹の全兵装照準合わせ始め」
 千歳は愛鷹の艦橋から遠方にLightingの姿を直接目視していた。かなりの距離はあるものの、愛鷹の射程圏内に違いはない。巨大な敵反応を確認したLightingが無人機群を振り切って距離を詰めながら雷球を連続して撃ち放つも、距離が開き過ぎているため威力減衰が著しく、愛鷹が纏う電磁フィールドに阻まれ敢えなく霧散した。青い稲光が粒子になって霧散したのと同時に、千歳の攻撃準備が整った。
「愛鷹、撃ち方始め」
 対地砲塔が、CIWSが、連装機銃が、速射型ブラスターが一斉掃射される。プラントの近場という事もあって流石に大火力すぎる兵装の使用は憚られるが、それでもキャバリアを対象とする攻撃手段としては十分過ぎる威力だった。実体非実体が混ぜこぜになった砲火の豪雨がLightingを容易く呑み込む。アスファルトが砕けて散ってその破片を駆け抜けたブラスターの光線が溶解させる。爆炎と噴煙の最中にLightingの姿が沈んで消えた。千歳のリモート義体は戦術の成功の可否に一喜一憂する様子は無い。ただ眼前の結果を現実として直視し、状況を解析するのみだ。
「攻撃は成功。ただし目標は未だ健在」

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
最初の襲撃はいい感じに乗り切った。
傷一つないよゆーのお仕事でした。
が、次はそう簡単にはいかなそうだね。
流石に一方的に攻撃するってのはムリっぽい。
んー、稀には味方なのサポートをがんばるのもありかな。
敵の力を削ることで他の猟兵さんがトドメをしやすくするですよ。
アポイタカラ、出撃するっぽーい!
ライフル&マシンガンに徹甲榴弾を装填して安心安全の引き撃ち。
正面から銃撃で、左右・後方・上方からは呪法<朧火>で。
保有する電気エネルギーを燃やすことで弱体化を狙うですよ。
その上で発電機関を破壊できれば…かなり有利になるはず。
敵の攻撃は展開した耐雷結界とダークネスウイングで防御。
冷静に対処すればイケルイケル!


シル・ウィンディア
これを倒せばいいんだよね
…人喰いマシンにこれ以上好き放題させてたまるかっ!

動きは素早そうだから、注意しないとね
目で敵の動きを見切り、攻撃動作や回避動作を瞬間思考力で判断して、こちらは回避・オーラ防御を適切に行っていくよ
動きが見切れないなら、自分の第六感を信じて動くね

敵攻撃は、高度に注意しての空中機動・空中戦で三次元回避
敵UCは残像も駆使して、攪乱しつつ回避だね

こちらの攻撃は手数勝負
ランチャー(連射)、ホーミングビームをメインにして攻撃
的が絞れなくてもいい、このまま射撃を続けて…
接近されたら、ビームセイバーで対応しつつ、蹴り飛ばすよ
近接攻撃が当たったら《指定UC》
わたしの全部だ、持っていけーっ!



●守護を破る
 辛うじて撃破を免れたLightingが灰煙の中を割って跳び退いた。損傷を受けているが、まだまだ戦闘続行は可能らしい。間を置かずに猟兵の攻撃が続く。
「これを倒せば! もう好き放題させない!」
 白青の精霊機が中ほどの高度を飛ぶ。操縦桿のトリガーキーを押し込むシルのブルー・リーゼMk-Ⅱがリュミエール・イリゼを発射した。単一目標を多重捕捉した非実体誘導弾が、流れる星の如く光の尾を残してLightingへと向かう。標的となったLightingは広大な滑走路帯を走り抜けながら雷球を連射し一部を撃ち落とし、続く複数を甘んじて被弾した。ホーミングビームがLightingの纏う電流と衝突し、幾つもの青い稲光を拡散させる。
「忍者っぽいけど結構タフっぽいー?」
 ブルー・リーゼMk-Ⅱとは敵機を挟んで斜向かいから鬼燈のアポイタカラが攻める。左右両方のマニピュレーターが握るパルスマシンガンと、背後両翼に浮かぶフォースハンドが携えているライフルを四門同時に放つ。夥しい弾幕を浴びせかけられたLightingは身を縮めて守りの体勢を取り、雷纏う腕部で重要機関を庇う。銃弾がLightingに命中するたびに徹甲榴弾が炸裂し、スパークの明滅と電流が弾ける音が連続する。
「んんん? 弾が刺さる前に爆発しちゃってるっぽいー?」
 違和感に気付いた鬼燈が眉間を僅かに顰めた。攻撃は命中しているものの、見た目ほどの損傷を与えるには至っていないようだった。事実Lightingは攻撃に曝されながらも守りの構えを解き、異常に強化されたアンダーフレームの人工筋肉を発揮して跳躍すると、アポイタカラとの距離を急激に縮めて刃を握る剛腕を振るった。
「おっとっと」
 地上を滑走するアポイタカラは片足を軸にくるりと半身を翻して回避、直後に雷球の連射が重ねられるもののダークネスウィングで機体を覆って防御した。耐電能力も有する翼状の力場は衝突した雷球を拡散させる。防御しながらもバックブーストをかけ、全門斉射を浴びせて追撃を阻止した。
「ビームも通りが悪いみたい……! 耐ビームコートされてるって訳じゃないみたいだけれど!」
 アポイタカラを追撃するLightingの側面より、ブルー・リーゼMk-Ⅱがブラースク改の連射を見舞う。数発の命中弾が追撃を中断させるも以降は跳躍機動で回避され、反撃の雷球が放たれた。シルはブラースク改の連射を続けたまま機体を左右に振って回避運動を取る。その最中でLightingの纏う稲妻がビームを弾いている事と、腕部や脚部より生えるコンデンサ状のパーツが電流を放っている事に気が付いた。
「ねえ、これって……」
「ビリビリをなんとかしなきゃダメっぽいー」
 ライフルとパルスマシンガンで横槍を入れたアポイタカラに搭乗する鬼燈も同様の着眼点を持っていたようだ。
「身体から生えてる変なのを壊せば、電気も消えそうなんだけれど……でもどうしよう? すばしっこいからテンペスタじゃ狙いにくいし」
「こんな事もあろうかと! 僕にいい考えがあるのです」
 アポイタカラが機動を止め、滑走路上に両の足で立つ。すると機体の周囲に浮遊する火球が現れ始めた。その総数は110にも至る。
「ビリビリが邪魔なら、ビリビリを直接消しちゃえばいいっぽいー……燃やせっ!」
 鬼燈の号令を受けてアポイタカラが片腕を薙いだ。合わせて火球が一斉に飛び去り、ブルー・リーゼMk-Ⅱと高速の撃ち合いを演じているLightingへと、誘導弾の如き意思を持った軌道を描きながら殺到した。火球はLightingを三次元的に取り囲み、その呪法を以って纏う電流を焼き尽くす。
「でもってビリビリ発生機関を壊すのです」
 再度アポイタカラがパルスマシンガンとライフルを連射する。装填されている弾種は徹甲榴弾。帯電の守りを一時的に喪失したLightingは直撃を受け、機体各所に小爆発の華を散らせた。その爆発にコンデンサが巻き込まれて損壊する。
「これでかなり有利になるはず!」
「攻撃が通るならぁー!」
 怯むLightingにシルが吶喊する。ブラースク改の速射を浴びせて磔にし、もう一方のマニピュレーターで握るエトワールよりビームの刀身を形成させた。Lightingは帯電フィールドを再展開しようとするも、先ほどアポイタカラにコンデンサを破壊されたため思うように出力が上がらない。ブルー・リーゼMk-Ⅱがスラスターの噴射光を背負いながらLightingに肉薄する。縦に鋭く振り下ろされたエトワールの刃がLightingを捉え、切創跡を刻み込む。報復の三連の刃が迫るのを感じ取ったシルは剣を返さず、ブルー・リーゼMk-Ⅱの片足を突き出してLightingの胴体を打ち据えた。敵機は蹴り飛ばされ、自機は反動でそれぞれ後方へと押し出される。互いの距離が開いた。
「今なら! 全部持っていけーっ!」
 ブルー・リーゼMk-Ⅱが搭載する全兵装の銃口より、圧縮された魔力粒子が一斉に迸った。それらは蒼の閃光となって先にエトワールが刻印した切創へと集約されて向かう。一点集中して連鎖する青い炸裂と爆風の向こうに、人喰い雷狐の機体が弾き飛ばされた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フレスベルク・メリアグレース
成程、徒手空拳特化型生体キャバリアという事ですか
ですが、如何なる技巧を以てしても……この『Ain』たる『無』を止める事は不可能でしょう
そう呟くと同時、わたくしの体からグリードオーシャンのオブリビオン・フォーミュラの一人『三の王笏』の力……UDCアースの力が原点たる『三の王笏』以上にわたくしに宿され……全てを貪るウロボロスの如き『無』がわたくしの肉体から展開していきます

これは、敵と味方を識別する権能が存在します……つまり、エヴォルグのみを無に帰すのです
そう味方に無線を通じて語り掛けると同時に、展開した『無』を以てエヴォルグに『エントロピー消滅事象』を付与し、消滅させていきます



●虚無の蛇
 吹き飛ばされたLightingは身を滑走路上に横転させる。されどまだ斃れるには至らないらしい。外観に違わず忍者染みたモーションで受け身を取ると素早く体勢を整え直した。
「成程、体が示す通りの徒手空拳特化型生体キャバリアという事ですか……」
 フレスベルクが座すサイキックキャバリア、ノインツェーンがLightingに正対する格好で滑走路上に降臨した。センサー越しに映像出力された敵機を見据えるエメラルドグリーンの瞳は、凜然としつつも何処か冷ややかな光を宿している。
 揺るがぬ視線の先に立つLightingは、現存するコンデンサより稲光を生じさせ再度四肢に電流を纏っていた。姿勢を落として敵意に満ちた臨戦の構えを見せるも、未だフレスベルクは動かない。ノインツェーンのコクピット内では作動する電子機器と微かな呼吸が規則正しく音を刻んでいる。天馬基地の滑走路上で間合いを開けたまま睨み合う二機。コンクリートに降り積もった塵が轟く横殴りの風によって巻き上がる。先に一足を踏み込んだのはLightingだった。青い電流を後に残して跳躍、ノインツェーン目掛け両手の刃を突き立てんと飛び掛かる。瞬時に詰まる距離。迫る雷電纏う刃の煌めきを見て、漸くフレスベルクが動いた。
「如何なる技巧を以てしても……この『Ain』たる『無』を止める事は不可能です」
 結ばれた口が解かれると毅然とした言葉が放たれた。緩慢な動作でフレスベルクの腕が前へと伸ばされる。
「無よ、其れは万有を残らず貪る全ての終わり。無よ、万象を礼賛する私は汝を征服する。無よ、全てを飲み込む汝を以て礼賛を証明しよう」
 詠まれた詩歌がユーベルコードの最先となって、フレスベルクを介してノインツェーンより無の化身が生じた。かつてグリードオーシャンに君臨していたオブリビオン・フォーミュラである三の王笏が宿した邪神の力。それと同等の力をより強くより色濃く灯したフレスベルクが放った無数の蛇は、飛び掛かるLightingに絡み付いてその行動を強制的に中断させた。
 Lightingは枷を解こうと足掻き、纏う電流の出力を引き上げて絡み付く蛇を焼き切ろうとする。だが無の侵食を及ぼす蛇の群れは、発せられるエネルギー自体を喰らって消失させてしまう。
「生まれ出るべきでは無かった貪食なる罪人よ、自らの業を体現したままその罪科を贖いなさい」
 フレスベルクは淡々と裁決を言い渡した。ノインツェーンの背面より這い出る蛇は全てを貪り無に帰す。Lightingの身に喰らい付くたびに、帯電する青い稲光が急激に減衰して行く。やがて雷の庇護を食い破った蛇の顎は、Lighting本体の表層保護皮膜へと達する。人喰いの雷狐は、メリアグレースの教皇が遣わした罪人を喰らう蛇によって自らの業を清算する末路となった。

成功 🔵​🔵​🔴​

テラ・ウィンディア
…なんだか今迄のと雰囲気がだいぶ違うな
だが…その立ち回り
挑ませて貰おうか

UC発動
【戦闘知識】
敵の動きと武術の癖
パターンを冷徹に分析

【見切り・第六感・残像・空中機動・オーラ防御・武器受け】

飛び回りながらも攻撃を見切り最小の動きで回避に努め
避けきれないのはオーラ防御と剣で受け止め耐え

【属性攻撃・重量攻撃・弾幕・貫通攻撃】
ガンドライドとドリルビット展開
弾丸に重力属性を込めて重力弾を展開
ドリル突撃でも貫き
屈辱だよ
武術だけじゃお前に勝てないって分かっちまったからな

【二回攻撃・早業・串刺し】
剣による連続斬撃から槍による刺突による猛攻
常に重力フィールドを拡大させて重力増強し敵の動きの制限を試み



●重力の呪縛
 発電機関を超過稼働させる事で瞬間的に莫大な電流斥力場を生じさせ、枷を強制離脱したLightingに追撃の一刀が迫る。
「今迄の量産機とは訳が違うな!」
 コクピットで操縦桿を強く握り込むテラが歯噛みする。着地の隙を付く形で切り込んだヘカテイアの振るうグランディアが星刃の軌跡を走らせたが、Lightingが寸前に身を躱したため、切先は纏う青雷を引き裂くに留まった。
「おお疾い疾い! だがな!」
 ヘカテイアが連撃を繋げるより先にLightingの反撃が割り込んで来る。テラはほぼ直感頼りの瞬間的な判断で剣先の軌道をねじ曲げると、Lightingの三連の刃をグランディアの刀身で受け流した。
「その立ち回り! 学ばせて貰おうか!」
 一合二合と剣と刃が打ち合わされ、三合目がぶつかり合う直前にヘカテイアがもう一方の手に携えていた長槍、廣利王を突き出した。意表を穿った鋭い刺突だったがLightingは刃で弾いて槍の有効攻撃範囲よりも内側へと押し入った。ヘカテイアは滑走路上に脚を付けないまま滞空状態を維持し、空中機動特有の滑りのある小刻みな回避機動を取り入れながら、機体自体のポジションを移動させつつ刃を打ち返す。
「無人機の癖によくやる……! いや、ホントに無人機か?」
 テラは回避と防御に偏重を置きながらもLightingの一挙手一投足をつぶさに熟視していた。無人機らしからぬ変則的かつ柔軟な格闘戦術。かといって生の操縦者であれば持ち得るであろう明確な癖も見当たらない。近接戦闘のセンスだけで言うならほぼ拮抗している。
「屈辱だよ、武術だけじゃお前に勝てないって分かっちまったからな……というワケで!」
 避けられる結果を覚悟して放たれたグランディアの一閃をLightingが刃で弾く。続けて廣利王が円形を描くように振り回されると攻撃範囲外へとLightingは飛び退く。
「行けよガンドライド! ドリルビット!」
 テラの意思に従いヘカテイアの背後より二種の半自律攻撃端末が射出される。先に三連砲身を持つガンドライドがLightingを取り囲み四方より重力波を伴った弾体を浴びせにかかった。Lightingは否応なしにそちらへの対処を余儀なくされる。一方を躱せば二方の攻撃が命中弾となり纏う電流と衝突し合う。更に時間差で回転衝角を搭載した攻撃端末、エンプーサ&モルモーが襲い掛かる。重力弾によって生じた体勢の崩れを文字通りに貫き、Lightingの身を削り取ってゆく。
「試合じゃなくて戦争なんでな! 勝つための手を打たせて貰う!」
 防戦一方となったLightingへ、ヘカテイアが星刃剣と紅龍槍を振りかざして突撃する。Lightingは攻撃端末への対処を止む無く中断してヘカテイアと切り結ぼうとするも、それは剣より迸った波動によって阻止された。
「グランディアよ……全ての存在がもつ原初の力よ、我が身に宿り力と成せ! グラビティフィールド! 展開!」
 ヘカテイアが前面へと突き出した剣より放出された黒い重縛結界が球体状に広がりLightingを結界内へと取り込んだ。空間自体が重くのし掛かりあらゆる行動を阻害する。そして音速を越えたスピードで猪突するヘカテイア。重力場を放ち続けるグランディアの刃が縦横無尽に駆け抜けた。
「切り刻む!」
 左から右へと鋭く走った横薙ぎ。Lightingは刃で受け止めようとするも重力の呪縛に囚われまともに動けないまま剣刃を刻み込まれる。グランディアは緋色の光を引きながら切り上げ袈裟斬りと連続斬舞を描く。
「そして貫くッ!」
 最大加速を乗せた廣利王の刺突。矛先がLightingの胴を捉えた瞬間、炎龍の加護が爆裂する業火となって轟いた。猛る龍の咆哮の如き打突音と共に、Lightingは身をくの字に曲げて後方へと吹き飛ばされ、格納庫建屋に激突すると灰色の煙と瓦礫に埋もれた。
「って、結局物理でぶん殴っちまった。まぁいいか」
 ヘカテイアがグランディアと廣利王をそれぞれ薙いで振るう。周囲では紅の火燐と霧散した重力場の黒い残滓が宙に散り踊っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリジ・グッドウィン
【特務一課】
日乃和がここを奪還できなきゃまたこの前のお嬢様達みてェな練度の低い奴等が戦場に赴く機会が増え続けるってこった。どうするギバ、マダラ……って聞くまでもねぇか
GW-4700031『(今回のキャバリア名、アドリブで)』で出撃
ハネムーンにしては手荒な降下だぜ……っし行くか

一つの所に釘付けにして動きを単純化させるか。とっとと足止めるぞ、マダラ
推力移動で接敵しBXS対装甲重粒子収束飛刀による先制攻撃
咄嗟の一撃やカウンターを駆使し応戦、相手を攪乱し注意を引きつける
かましてもらうにしてもプラントには当てねぇようにしないとな
腕部リミッター解除し【使用UC】あとは頼むぜ

「ぶち抜けギバ!」


天城原・陽
【特務一課】
(多目的高速輸送艇『鸛』にて日乃和南州へ侵入。赤雷号を含め三機、戦地へ輸送され)
「我らが『鸛』の前に障害物無し!エントリー!」
(ロック解除。キャバリア投下。高機動推進ユニット機動、戦闘機動開始と同時に宣言)
「第三極東都市より日乃和国へ。これより武力支援を開始する。遅れた分だけ仕事はする。オーヴァー。」
肩入れする性分じゃないんだけどまぁ、エヴォルグシリーズっての?あれは生かしちゃおけないわ

やるわよマダラ、キリジ。

オーヴァードライブ開始。超高速で敵を中心に周回軌道を取り、ギガントアサルト連射、敵を中央へ釘付け。その後直上を取り敵へ向け加粒子ビームと実弾の交互爆撃

「ブチ砕けなさいな!」


斑星・夜
【特務一課】

※キャバリア:灰風号搭乗

よーし!ちょっと遅れちゃったけど、その分、思い切り働くよ!
一度関わったんだ、もう他人事じゃないからね!

相手は高速近接系に電撃系ね、オーケー
電撃は俺もちょっと得意だよ(※電撃耐性)

オーケー、キリジちゃん!
EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』で戦闘状況を常時、情報収集
ギバちゃんとキリジちゃんにも情報を送り、二人の動きを確認しながら、ブリッツ・シュラークで攻撃します

電撃は効きにくいかもしれないけど、目的は相手の移動を阻害する事だ
収集した情報と合わせて、敵機の行動パターン予測
RESシルバーワイヤーで射出して『捕縛』を試みるよ!

ぶっ飛ばせ、ギバちゃん!



●東風
 早朝を越えた午前と正午の狭間。海原を映した青の空を切り裂いて鋼の翼が飛ぶ。多目的高速輸送艇『鸛』は甲高いジェットエンジン音を引き連れながら、サブ・フライトシステムとしての機能を遺憾なく発揮しキャバリア三機を空輸していた。第二プラント周辺は平野地帯という事もあって殲禍炎剣の照射警戒高度が高い。航空戦力もある程度は機能する。
「ちょっと遅れちゃったけど、まだ残ってるみたいだね」
 斑星・夜(星灯・f31041)は灰風号がセンサーカメラ越しに捉えた天馬基地の様子をモニターで確認していた。破壊された格納庫から灰色の煙が昇っている。その煙の中から獣人型のキャバリアがゆっくりと立ち上がった。
「日乃和がここを奪還できなきゃ、この前ん時と同じザマってわけか。でもってまたお嬢様みてェなシロウトガキ連中が修羅場に放り出されるんだろうな」
 灰風号と同様に鸛の機体底部のキャリングハンドルを握り、ぶら下がる格好で空輸されている黒鉄の機体。その機体へ搭乗しているキリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)も目標の動きを捉えていた。
「作戦領域に入った! 降りるよ! 我らが『鸛』の前に障害物無し! エントリー!」
 鸛の上面のステップに立つ赤雷号のパイロット、天城原・陽(陽光・f31019)の号令がエンジン音を割って轟く。待ってましたと言わんばかりに灰風号がキャリングハンドルよりマニピュレーターを離した。可変シールドを広げてエアブレーキを掛けながら降下する。装備の形状を利用した推進剤節約術だった。
「オーケー、お先に行くよ」
「ハネムーンにしては手荒な降下だぜ……っし行くか、メリンダ!」
 GW-4700031に付けられた今日限りの仮初の名を呼び、キリジも機体を空中へと飛び込ませる。灰風号とメリンダが降下した後に赤雷号は高機動推進ユニットの主機を稼働させて鸛より飛び立った。外観に違わずメリンダのスラスターは力強い唸りを上げている。
「第三極東都市より日乃和国へ。これより武力支援を開始する。遅れた分だけ仕事はする。オーヴァー」
 天城原の至極事務的な口調が日乃和軍の無線通信帯域に浸透した。あくまで業務としての作法に則っただけの事。特段肩入れする理由は無い。だがそれはそれとしてあのエヴォルグに連なるキャバリアは看過出来ない。戦術的、政治的、理由は取って付ければ幾らでも湧いて出てくる。だがそれらは纏めて簡潔に括り付けられた。
「生かしちゃおけないんだっての!」
 生存を賭けた戦いに於いて、敵をぶち殺すのにそれ以上の理由は必要無い。天城原が吼えると赤雷号のメインエンジンも呼応して吼える。機体に宿る意識がそうさせるのだろうか。オーヴァドライブによって生じた爆発的な推力が機体を突き進ませる。全身に重くのし掛かる重力加速度を歯を食い縛って受け止めながら、天城原は操縦桿のトリガーキーを引き絞った。スラスターの噴射光を連れて空中を猛進する赤雷号はギガントアサルトを連続して撃ち放つ。ロックインフォに従って率直な軌道を描くレールガンの高速弾は、天馬基地の滑走路帯を疾駆するLightingを的確に射抜く。すぐに反撃の雷球の対空砲火が浴びせられるが、赤雷号は更に加速してそれらを振り切った。
「こっちの方が速いのよ!」
 Lightingを中心軸として円形に側面へと回り込み続けるサテライト機動でギガントアサルトを撃ちまくる。人型機動兵器戦で古来より使われている常套戦術が赤雷号の加速力と相まってより効果的に作用していた。Lightingは高速で飛行し続ける赤雷号の捕捉に手一杯となり、必然的に円の中央に釘付けとされた。
「このまま足を止めるぞ! マダラ!」
「オーケー、キリジちゃん!」
 滑走路に降下したメリンダと灰風号がブースターの噴射光を爆ぜさせて駆け出した。Lightingは二機の接近を感知するも赤雷号に釘付けにされているため離脱出来ない。その場での対応を余儀なくされる。
「まずはコイツを食らっとけ!」
 肉薄に先駆けてメリンダが複数のダガーを投擲した。Lightingに命中すると敵機が纏う雷の力場とダガーの重粒子が互いに干渉し合い、スパークを明滅させる。
「どうだ? 足りねェってか? まだまだあるんだなァこれがッ!」
 気迫とは裏腹にキリジはすぐさま取って組み掛かることはしなかった。敵機が相応の格闘戦能力を有しているのは既知していたからだ。今もなお空中を旋回飛行して制圧射撃を浴びせている赤雷号と同じく、やや距離を開けて側面へと回り込みながら対装甲重粒子収束飛刀を鋭く投げ付け着実に損傷を重ねてゆく。
「相手は高速近接系に電撃系っと、うんうん、情報通り。後は慌てず騒がず観察して……」
 メリンダのポジションからやや遠巻き気味に灰色号はワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』にて戦術情報の統計と解析を行う。戦況は特務一課側が推してはいるが何せ相手は単機でプラントの番をしていたのだから油断は出来ない。幾ら警戒しても警戒し過ぎるという事は無いだろう。少なくとも最後の詰めで足を掬われる展開は阻止出来る。最適解を導くべく、斑星は天城原とキリジの攻撃に対するLightingのリアクションから戦術を組み上げる。
「釘付け作戦は有効だから……よーし、ギバちゃんはそのままバンバン撃っちゃって。キリジちゃんはこっちがアレを捕まえたら力押しを宜しく。でもってその後はギバちゃんの……なんだっけ、あの大きいの」
「ん? あぁ、二十二式複合狙撃砲?」
「そうそれ、そいつでズドンと」
「はいよ了解」
「力み過ぎてプラントにブチ当てるんじゃねェぞ?」
「やる訳ないでしょ、キリジじゃないんだから」
「んなヘマするかよ!」
「じゃあ始めるよー!」
 三者とも各々の戦術ポジションの維持に努める。三連撃の初手を担うのは斑星の灰風号だった。メリンダと赤雷号に夢中になっている。
「ちょっと効きにくいかも知れないけど、邪魔するのが狙いだから……ね!」
 Lightingの不意を突く形で雷の鞭が叩き付けられた。Lightingの帯電とブリッツ・シュラークが衝突し合って電流が激しく飛び散り、配電盤を開いた時のような独特のイオン臭が広がる。ねむいのちゃんによる情報収集で目標の行動傾向は把握していた。次はほぼ確実に灰風号が標的になるだろう。斑星の予測通り反撃の雷球が速射された。
「そういうのには耐性があるんだよねー」
 可変式シールドのアリアンロッドを連結させないまま半円の盾として使用し雷球を待ち受ける。盾に着弾した雷球は表面を擦過すると壁にかけられた水の如く飛散して消えた。そして反撃によって発生した隙に割り込み、ブリッツ・シュラークを巻き付けシルバーワイヤーを射出する。実体と非実体の拘束に捕らえられたLightingが事態を打開するべく発電機関の出力を上昇させ、ワイヤー伝いに灰風号へ高圧電流を流し込む。
「だからそんなに効かないんだってば。あ、でもやっぱちょっと痛いかも?」
 本来ブリッツ・シュラークの運用を前提としている事もあってか灰風号は通常の機体よりも優れた耐電能力を有している。流石に外部から流し込まれた高電圧を受ければ全くの無傷とはいかなかったようだが、異常電圧負荷を知らせるイエローアラートが鳴り搭乗者は若干ひりついた痛みを感じる程度だった。
「そのままひっ捕えてろ!」
 捕縛されたLightingにメリンダが喰い掛かる。左右のマニピュレーターに対装甲重粒子収束飛刀を握り込みその刃を滑らせた。Lightingに紫炎色の裂傷痕が刻まれる。Lightingはワイヤーに捕らえられながらも帯電した腕を振るって三連の刃で報復を試みた。ビームダガーとかち合い重粒子と青い雷光が無作為に散らばる。
「無駄に暴れやがる!」
 キリジが操縦桿を引き戻し、吐き出す呼吸と共に前面へ力強く倒す。合わせてメリンダが一足分深く踏み込んでビームダガーを突き刺した。僅かに怯む挙動を取ったLightingに続けて膝蹴りをぶつける。軟質素材と硬質素材が衝突した際の異質な打撃音と共にメリンダの黒鉄の機体がLightingを押し込んだ。
「必中コンボってな! 避けられるモンなら避けてみろッ!」
 腕部の出力制限をカットし開いたランブルビーストの爪でLightingの胸倉に掴みかかる。電撃を纏った爪がLightingの帯電障壁をものともせずに軽量な保護装甲に食い込む。握撃を繰り出した腕部をもう一方の腕で支えながら、キリジはトリガーキーを押し込んだ。
「弾けやがれよ!」
 腕部に固定兵装として搭載されているスクィーズ・コルクの砲口よりプラズマの炸裂光が迸った。至近距離で放射された荷電粒子は防御態勢が取れないLightingを直撃し宣言通りに弾き飛ばす。
「ぶち抜けギバ!」
「ぶっ飛ばせ、ギバちゃん!」
 キリジと斑星の声が重なる。メリンダが飛び退きLightingより大きく距離を離す。すると弾き飛ばされ再度立ち上がろうとしたLightingの周囲に黒い大きな影が広がった。Lightingは条件反射で白面を真上に向けると、空の頂点に昇りつつある太陽を背にした赤雷号の姿があった。機体の全長ほどもある長大な砲身を両手で抱え込み、左眼の複合センサーで照準を合わせている。
「ブチ砕けなさいな!」
 天城原が叩き付けるように叫び、二十二式複合狙撃砲が銃口より火線を伸ばす。大口径実体弾と高出力加粒子ビームが天雷の如く降り注いだ。Lightingは回避運動を取ろうにも灰風号の拘束とメリンダの連撃で受けた損傷があって叶わない。銃弾は情け容赦なく標的へと到達する。実体弾が着弾すると滑走路のアスファルトが粉々に砕け空中に無数の欠片が巻き上がる。その後を加粒子ビームがアスファルト片を赤熱に溶解させながら迸り、命中すると瞬時に膨張した熱エネルギーが大爆発を引き起こす。その光景はまさに赤い雷。もはや爆撃と形容するにふさわしい一方的な殺意の嵐が、Lightingの姿を塗り潰すまでに吹き荒れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

渡月・遊姫
【ガルヴォルン】初対面のスポット参戦
なるほど、アレがグリモア猟兵のおばちゃんが言っとった人喰いオブリビオンマシンやね。さあ、狩りの時間や。移動と攻撃はウチがやるさかい、遊姫、防御と索敵は頼んだわ。

『マーブルクラウン』に乗って登場。死神のようなフォルムの不気味な機体。徒手空拳で武器は持っていない(装備品参照)。
操縦桿はなく、思念で動く遊姫&ジョーカー専用機。パイロットは肩の上

ガルヴォルンに注意が向いているうちに、背後からUCで奇襲。

「なんや、味方もぎょうさんおるんやないの。ウチはジョーカー。よろしゅうな」
「渡月ですっ。よろしくお願いしますっ」(シャイ)

挨拶してガルヴォルンと合流。あとはお任せ


ミスランディア・ガルヴォルン
【ガルヴォルン】
「さて、少々出遅れてしまったが、敵の親玉との対決と行こうかの。
機動戦艦ストライダー、発進じゃ」

本来の艦長が不在なので、わしが機動戦艦ストライダーの艦長代理として艦長席に座って指揮を執るとしよう。
【機動戦艦戦闘機動】でクルーを戦闘配置につかせ、敵キャバリアと戦闘開始じゃ。

「理緒殿、ヴォルペ殿、ジョーカー殿、ストライダーからの砲撃で援護するゆえ、前衛は任せたのじゃ」

全身を雷で覆う能力を持った整体キャバリアか。
厄介な相手じゃが……
わしのソーシャルディーヴァとしての電脳戦能力を甘く見るでない。

「雷……すなわち電子の動き、読ませてもらうぞ。
皆のもの、わしの合図で攻撃じゃ」


菫宮・理緒
【ガルヴォルン】

遅れた分はここから取り戻せばいいよね。

今回は【lanius】で出撃するね。
ストライダーの甲板上から【ThorHammer】で狙撃していこう。

わたしの腕だと当たるかどうかってところだと思うけど、
ここは裏技使っちゃおうかな。

ミスランディアとリンクして予測データをもらったら、
さらに【フレーム・アドバンス】で相手のスピードを落とすか、できれば止めて、
そこに徹甲焼夷弾を撃ち込んで、命中箇所から燃え上がらせてあげよう。
炎と煙で目くらましにもなるしね。

え?2機乱入?敵ではないんだね。

ならちょっと強引だけど、
ハッキングして戦術コンピュータ、リンクさせてもらうよ。

目くらましと援護は任せて、ねー!


フィラ・ヴォルペ
【ガルヴォルン】(現地乱入助っ人)

変な噂を聞いてみりゃ…マジだったか人喰いキャバリア
アイツら置いてきて正解だったな
さて偵察任務は終了…なんだが
後顧の憂いを残すのもアレか

「おい、そこの一団!
こちらコードネーム・ヴォルペ!
勝手に乱入させてもらうぜ!
そっちには攻撃しないから安心しな!」
ってハッキングかよ!?
ちっ、表層だけとはいえ俺のカーネに侵入ってくるとは
やるじゃねーか、いいぜその作戦乗ってやる!

パターン確認…よしカーネ!
【蜘蛛】で仕掛けるぞ!

上からの支援砲撃に合わせてミサイルポッドから一斉射
弾幕を利用してガトリングぶち込みながら距離を詰める!!
この距離、もらった!
パイルバンカー!かわせると思うな!



●ガルヴォルンの旗のもとに
 度重なる苛烈な攻撃に曝され続けたLightingは、喪失したコンデンサからは漏電が生じ、血液のような青紫色の伝道液を機体各部から溢し流していた。にも関わらず戦意が衰えた様子は無い。機能不全の有無は別として、この機体にはそもそも撤退などという行動選択は存在しないのだろう。エヴォルグ量産機と同じく敵を殲滅するまで戦い続けるのみらしい。
「……変な噂を聞いてみりゃ、マジだったか人喰いキャバリア。あんなナリでまだ動けるのかよ」
 格納庫街の物陰に潜む機体が一機。フィラ・ヴォルペ(レプリカントのアームドヒーロー・f33751)のカーネだった。センサーカメラが微かに明滅を繰り返しているのは現在までの戦闘の一部始終を監視しているためだろう。
「アイツら置いてきて正解だったな。さて偵察任務は終了……」
 フィラは今回の作戦に於いてとある個人的な目的を果たしつつあった。それは猟兵とLightingの交戦状況を確認し続ける事で成された。フィラが操縦桿を引き上げると身を屈めたカーネの機体が立ち上がり、主脚走行で慎重に後退を開始する。だが瞬間、Lightingの挙動が変容した。四肢に青い雷を帯びて滑走路を駆け出す。こちらが勘付かれたかとも思ったが、どうやら新たな猟兵と交戦状態に入ったらしい。満身創痍にも関わらず忍者のような速度と姿勢で滑走路を走るLightingの先へ、フィラの視線が誘導された。
「……ピエロ?」
 Lightingが目指しているであろう先に立っていたのは、道化師としか言いようのない風貌のキャバリアだった。そのキャバリアは高速で迫るLightingを相手に、臨戦態勢で待ち構えるでもなく道化師がするようなモーションで礼の仕草を取って見せた。されど機体の外観以上に異質さを感じる要素がある。
「なんで肩に人が乗ってんだ!?」
 コクピットの中でフィラの驚嘆する声が上がった。見間違いかと身を乗り出すとカーネも後退を中断して一歩二歩と前に進む。センサーカメラの最大望遠で確認すれば、道化師型キャバリアの肩にはやはり人間が立っていた。しかも十代後半辺りの少女らしい。
「なるほど、アレがグリモア猟兵のおばちゃんが言っとった人喰いオブリビオンマシンやね」
 本人の耳に入っていたら意図的な転送事故を起こされていたかも知れない危険な言葉を溢した渡月・遊姫(二重人格の殺人姫・f19443)こと、人格の主導権を握っているジョーカーは迫るLightingを前に身構える素振りも見せない。死神にも見える機械道化師マーブルクラウンの肩に乗ったままだ。
「しょっぱなは小手調べのお遊びといこか。移動と攻撃はウチがやるさかい、遊姫、防御と索敵は頼んだわ」
「ええっ!? 両方!?」
「せや。ほな始めるで」
 二つの人格が出力される度に表情も忙しく切り替わる。電雷の足跡を残しながら高速で駆け抜けるLightingが遂に至近距離まで迫った。帯電した三連の刃が左右から襲い掛かる。マーブルクラウンは外観を裏切らない道化師染みた軽やかな跳躍ですり抜けるとLightingの背後に着地した。攻撃を回避されたLightingが振り向き様に放った旋回切り。マーブルクラウンはこれもくるりと身を回転させながら後ろに跳んで避けてみせた。
「そないズタボロでよう頑張るなぁ。血ぃ飛び散っとるで」
「ちょっと痛々しくて可哀想かも……」
「なに言うとんの遊姫、こいつ人喰いのバケモンやで? 不思議の国のオウガも真っ青やな」
 Lightingは代償を顧みずに強化した出力で迅速な連続攻撃を繰り返す。マーブルクラウンは時に手刀で受け流して回避と防御を繰り返す。機体の挙動は軽やかにしてなかなかに激しいものだが、肩に立つ遊姫の肉体はまるで足裏を瞬間接着剤で完全固定されているかのように微動だにしない。機体制御に関しても操縦桿の類を扱っている様子は無い。サイココントロールでの操縦方式を採用しているのだろう。
「すばしっこいけどやっぱ軽いもんやな。ほな、遊ぶのはこの辺にしといて狩りの時間……」
「待って! すごい大きい反応……南側から!」
「なんやて」
 攻勢を遊姫に遮られたジョーカーは取り敢えずと機体を後方へ連続跳躍させる。後をLightingが追撃するが、マーブルクラウンとの相対距離が開いた瞬間に割って入った荷電粒子の奔流により阻止された。
「えらい大物が湧いて出よったな。ありゃどこのお船やろな?」
 ジョーカーが首を向けた南の空には、巨大な強襲揚陸艦が大気を震動させながら悠然と航行している姿があった。
「うーん、やっぱり外しちゃったか」
 低空を往く巨大艦艇の甲板上では大型ライフルを構えたキャバリアが射撃姿勢で待機していた。先ほどの荷電粒子は菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)のMotorVehicle Type-lanius -R.I.O-が発射した試作ライフル、KAL-CAMR220“ThorHammer”によるものだった。
「敵の親玉の調子を崩したんじゃから十分じゃろ。さて、少々出遅れてしまった分を巻き返すとしようかの」
 南方面より現れた艦艇、ストライダーのメインブリッジの艦長席に座すミスランディア・ガルヴォルン(ガルヴォルンのメインサーバー・f33722)は、本来の役割である艦体制御人工知能の力を駆使し、各部署へと手早く情報伝達を行う。なお本来の艦長は不在であり、ミスランディアが代わってその役職を担っている。
「機動戦艦ストライダー、総員戦闘配置。これより本艦は敵と交戦に入る」
 砲座に就いたクルーが照準補正を開始した。合わせて理緒もThorHammerの出力をやや落とし、再充填時間を短縮した上で再度の攻撃態勢に移行する。
「先客がいたのじゃったな。理緒殿、繋いでくれるかの?」
「はいはい、ちょっと待っててね」
 ミスランディアの依頼を受けて、理緒は先に交戦していた一機と格納庫の影に潜むもう一機に戦術データリンクの接続を要求する。要求とは便宜上のもので実際のところは電脳魔術士の技術を有効利用した半ば強引な接続だったのだが。
「繋がったかな? もしもーし」
「なんや、でっかい船の船長さんかの? ウチはジョーカー。よろしゅうな」
「渡月ですっ。よろしくお願いしますっ」
 情報が繋がれた各機のモニターへ各員の様子が相互に表示された。変わらぬ調子で応答したジョーカーとは対照的に緊張しているらしい遊姫の声はやや上ずっていた。
「ううん、わたしはこの機体、laniusのパイロットの理緒でストライダーの艦長……じゃなかった代理は」
「ミスランディア・ガルヴォルンじゃ。訳あってこの船を預かっておる。宜しく頼む。そちらのガレージの側に隠れてる殿方もな」
「……気付いてたのか」
 一応とは言え隠れて様子を見ていた身の上としては、やや後めたい所があるようにも思えるフィラの声音は遠慮がちだった。
「表層だけとはいえ俺のカーネに侵入ってくるとはな」
 もはや様子を伺っている理由も無いとフィラは左右の操縦桿を押し込みカーネを前に進ませる。
「まぁ、電脳魔術士ですから」
「ご挨拶はそこまでにしとき。奴さんが性懲りも無く来よったで」
 ジョーカーの言葉に全員の意識が一斉にLightingへ向けられた。ストライダーという大質量物体の登場に暫く戦法を決めかねていたのだろうが、今までと変わらず取り敢えず破壊するという結論に至ったらしい。雷球が数発ストライダーへと放たれた。被弾した箇所の表面装甲に青白い爆光が咲き、一部が損壊する。
「忍者の如しというか雷神の如し、じゃな。厄介な相手じゃが……」
「何か策は?」
 フィラのカーネが滑走路上に飛び出してガトリングキャノンの砲身をLightingの方向へと構えた。
「雷……すなわち電子の動き、これを読めば動きも見えて来るじゃろうて」
 ストライダーの中枢を担うメインサーバーという役割もあってミスランディアには電子の流れを読み解く事など造作も無い。ましてや敵は高速機。頼まずとも動き回って読み解くための材料となる雷の軌跡を残してくれるのだから。
「じゃあ、そのデータ貰っていいかな? 裏技使うから」
「よいじゃろう」
 ミスランディアは敢えて理緒の意向を深く問わなかった。既に多くの戦闘で実績がある彼女ならば、裏技とやらで勝利に繋がる好機を作り出してくれる筈との信頼があったからだ。
「ヴォルペ殿、ジョーカー殿、ストライダーからの砲撃で援護するゆえ、前衛は任せたのじゃ」
「ちゃっかり俺のコードネームまで調べてたのかよ。いいぜ、その作戦乗ってやる!」
「ま、ええやろ」
 カーネとマーブルクラウンがそれぞの方角からLightingへ接近を仕掛ける。Lightingも両方の機体を蹴散らすべく雷球を半ば闇雲に撃ち散らしながら滑走路帯を疾駆する。纏う電流が残す動き。それをミスランディアが読み取り情報として理緒へ直接伝達する。
「皆のもの、わしの合図で攻撃じゃ」
 各員が頷いて声無き返答とした。前衛を務める二機とLightingの距離が狭まり始めた時、ミスランディアの号令が閃いた。
「今じゃ!」
「やるよ!」
 突如としてLightingの動作が急激に減速した。まるでスローモーションを掛けられたかのように軽やかな足捌きは鈍重に、纏う稲妻の流れすら酷く緩慢なものとなっている。方やガルヴォルンに限らずその他全ての事象に鈍重化は及んでいない。
「周りが速くなった? 違う。あなたが遅くなったんだよ」
 ミスランディアから予測データを受け取った理緒のフレーム・アドバンスによってLightingは情報上での減速効果を現実に出力されて受けていたのだ。高い機動性を謳っているならばそこを潰してしまえばいい。単純だが言うは易しな戦法を理緒は容易く実演してみせた。
「目くらましと援護は任せて、ねー!」
 更に駄目押しにとlaniusは徹甲焼夷弾を撃ち込む。長距離狙撃にはなるが異常減速した対象に命中させる事自体は難しく無い。予測データのバックアップもある。命中した弾体は着弾地点に食い込むと爆裂し、燃焼を開始した。炎と煙に巻かれたLightingの視覚情報は一時的にではあるが役立たずとなる。
「前座は良し……カーネ! 蜘蛛で仕掛けるぞ! 船長さんは援護頼む!」
 ストライダーの艦砲射撃とカーネがバックパックから放ったミサイルがほぼ同時に着弾した。爆光がLightingの姿を遮るが構わず突撃を強行、高速回転するガトリングキャノンが無数の弾丸を撒き散らす。晴れた爆煙の先にやはり健在だったLightingが見えるも、フィラは臆する事なくブーストペダルを踏み込み機体をより一層加速させた。
「この距離、もらった! かわせると思うな!」
 目標へ肉薄しながらフィラは選択兵装項目をパイルバンカーに合わせる。鉄の杭を撃ち込む単純明快な近接格闘戦用の武器が先端を滾らせる。
「バンカー! どんな相手だろうと、撃ち貫くのみ!」
 加速した機体の質量ごとカーネの腕がLightingの胴体に叩き込まれた。パイルバンカーの先端に確かな手応えを感じたフィラはトリガーキーを押し込む。炸薬が弾けた反動で鉄の杭が射突された。凄まじい衝撃音と共にLightingが浮き上がる。
「かーらーのー?」
 Lightingの背後に黒い道化の影が躍り出る。ジョーカーのマーブルクラウンだった。
「後ろの正面気ぃ付けや!」
 徒手空拳で戦っていたはずのマーブルクラウンのマニピュレーターには、命を刈り取る凶悪な形状をした殺戮の大鎌、ブラックレディが握られていた。機体の外観と相まって纏う空気は道化と言うより死神と言った方が合致しているのかも知れない。カメラアイに紅月の光が走るとブラックレディを仰々しく振りかぶって袈裟斬り一閃。Lightingの背面に赤い軌跡が走った刹那、青紫の伝道液が血飛沫のように吹き出した。
 人喰らいの怪物の血に濡れた死神道化師の物言わぬ鉄仮面は、どこかせせら嗤っているようにも見えた。それはそうとして、肩に乗っていた遊姫の肉体は悲惨な目に遭っていた。
「うへ、モロに被って最悪すぎるん。これ毒とか無いやろな?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
いけない。多幸感に流される様では主様のメイドは務まりません
鼓動を整え、主様の胸部内コックピットで操縦桿を握り直し。主様と同じく前を見据えて「かしこまり、ました!」

『お前に合わせて踊ってやろう。来い!』
敵の動きを【見切り】体術を剣で【武器受け】して捌きます
敵UCは思念式防御機構の【オーラ防御】も使い対処
一旦距離を取って再度ぶつかり合い、指定UC発動でございます『そのステップは見飽きたな!』
剣をウィップに変えて敵を捕え【逃亡阻止】し地へ叩き付け、ブレードビットで貫き縫い留め。真上へ飛翔しながら三笠へ火力支援要請を致します『さあ、紅蓮の喝采を!』
「刀身展開、出力上昇……放射!」『アーッハッハッハ!』



●捩伏せる者
 Lightingは数多の刃を刻まれ、銃創を穿たれ、それでも尚機能停止に陥る事は無い。戦闘によって荒れに荒れたアスファルト固めの滑走路上にて、戦いを継続するべく身構えている。燃え尽きようとしている蝋燭が最後の火を滾らせる瞬間のように、自らの全てを使い果たそうとしている今こそ最も手強い時期なのだろう。
『ほう? まだ動けるのか。しぶとい獣だな』
 ラウシュターゼが優美なまでの動作で滑走路上へと舞い降り、アスファルトの地面へと静かに爪先から足を降着させた。メルメッテが慕う主は傲岸不遜で気難しい。機体の制動ひとつでも相応しい振る舞いをしなければ叱責が飛んできてしまう。メルメッテはいつものように細心の注意を払いながら主その人である機体を操る。
『だが気性が荒れた手負いの獣ほど狩り甲斐があるというものだ。メルメッテ、解っているな?』
「心得ております、ラウシュターゼ様」
 聴覚に直接響く主君の問いかけにメルメッテは緩やかに首を垂れて礼を返す。フォアシュピールを介して自身に課せられている望みは感覚的にだが理解できる。主はこの尋常ならぬ粘りを見せる強敵と武闘し、屈服させ、完全な敗者と貶める事を望んでおられる。何よりオブリビオンを心底毛嫌いしている主は私にその務めを果たさせようとしているのだと。課せられた望みを満たすのが従者たるものの義務。メルメッテが選択兵装を従奏剣ナーハに合わせるとラウシュターゼは剃刀のような刃が連なる剣を身構えた。機体の制御権はメルメッテに預けられたままだ。
 ラウシュターゼが従奏剣ナーハの鋒を斜め下に下ろしたまま、Lightingが両手の三連刃を相対する敵機へと向けたまま、どちらも一定の間合いを維持し緩やかな足捌きで横へと進む。微かにLightingの三連刃が角度を変えた瞬間、メルメッテがブーストペダルを踏み込んだ。
「参ります!」
『お前に合わせて踊ってやろう。来い!』
 両機が地を蹴って瞬発的に加速した。一刀目の打ち込みはLightingの方が早い。しかしメルメッテの淡い瞳孔は走る刃の流れを見切っていた。しなやかな剣筋で振るわれたナーハが迅雷の如き刃を打ち返した。硬質な金属同士が衝突する甲高い音と弾けた雷の迸りが空中に拡散する。
「この負傷で、こんなに鋭い切り込みが……!」
 メルメッテは歯噛みしながら一瞬の間も置けない機体制動を繰り返す。
『気圧されたのか? まさか手負いの獣相手に仕損じる無様を演じさせるつもりではあるまいな?』
「そのような事は……っ!」
 切り結んでいた最中に突如としてLightingの挙動が変化した。電流を纏う腕を正面に突き出し雷轟弾を速射したのだ。メルメッテは殆ど本能のままに防御での対処を選択する。思念式防御機構から発生したサイコフィールドをラウシュターゼの腕部に集中展開させ機体を庇う。装甲表面を覆うフィールドに雷轟弾が連続して着弾すると、無数の稲光になって散り消えた。そして被弾の衝撃を敢えて受けて後退し間合いを離す。
『やれやれ、気圧されているではないか』
「いえ、先ほどの攻撃で敵の鼓動は見えました」
『ほう? だったら何だと言う?』
 挑発染みた主の声音を受け、コクピット内のメルメッテが前傾姿勢気味に身を乗り出す。
「次で終わらせます!」
『ならば殺って見せろ!』
「かしこまり……ました!」
 ラウシュターゼの背後にスラスターの爆光が炸裂した。生じた推力が機体を弾き飛ばすかのように加速させる。Lightingは雷轟弾で迎撃するもラウシュターゼはナーハで悉くを切り払う。両機の相対距離が詰まるまで数秒と掛からなかった。ラウシュターゼが加速を伴って押し切らんばかりの剣戟を叩き込む。Lightingは両手の三連刃で受け止め、衝撃を逃して反撃に繋げようと横へ飛び退いた。
「その鼓動は!」
『そのステップは見飽きたな!』
 人機一体と化したラウシュターゼが従奏剣ナーハを横に払った。ベリーベンとなった刀身は非実体の鞭に連なる凶刃を伸ばし、Lightingの胴に巻き付いた。捕らえられたLightingは発電機関を最大稼働させ、放電によって逆にラウシュターゼを損傷させようとするも等除却がナーハに纏わせたサイコフィールドで刀身伝いに流し込まれる電流を遮断していた。
『叩きのめせ』
「仰せのままに!」
 主の冷徹かつ短絡な言葉を受けて、メルメッテは操縦桿を限界まで引き戻すと、力を込めて前へと押しやった。ラウシュターゼがナーハを握る腕を上げて振り下ろす。拘束された状態のLightingは一瞬だけ宙に放り出されると直後に滑走路の地面に叩きつけられた。重い衝撃音と共にアスファルト片が舞い散った。これが止めとなったのだろうか、Lightingは内部骨格に致命的な損壊を受けたらしく行動不能に陥った。
『やはり獣は獣か。メルメッテ、もういい。これを処分しろ』
「はい……ベグライトゥング!」
 メルメッテの召喚に応えてラウシュターゼの周囲に複数の円形転送陣が出現する。その陣より熱飛刃型のサイコドローンが滲み出るようにして現れ、一部がラウシュターゼの指差すLightingへと殺到した。
 思念波を受けて小刻みに動き回る熱せられた刃がLightingの各部に深々と突き刺さる。機体を地べたへと磔にし、機体の動きを完全に封じ込めた。
『幕引きの準備は整ったな。では最後の仕上げだ』
 メルメッテは無言で頷くと、予め定めてあった通信信号を三笠へと送る。拘束の必要が無くなった従奏剣をノーテンモードに切り替え、鞭剣は鋸剣へと姿を転じさせた。ラウシュターゼの背より紅の双翼、オクターヴェが広がり力強く羽ばたく。磔にされたLightingを丁度見下ろす高度まで飛び上がると、機体の制御権をメルメッテより取り返したラウシュターゼがナーハの鋒を哀れな標的へと向けた。
『さあ、紅蓮の喝采を!』
「刀身展開、出力上昇……放射!」
 示し合わせていたかのように三笠から投射された対キャバリアミサイルの雨が降り注ぐ。メルメッテがサイココントロールしているベグライトゥングもLightingを取り囲んでヒートディスチャージャーの集中照射を浴びせ掛けた。爆ぜる火薬と灼熱、乱れ狂う爆轟の暴風圏内の中で、遂に粉々に粉砕されるLightingの姿が見えた。
『くくく……アーッハッハッハ!』
 人間がするようにしてラウシュターゼが肩を鳴らして愉悦に嘲笑う。主が感じているであろう歓喜の思意はフォアシュピールを介してメルメッテにも伝わっている。だが遣える身として情に感化されないよう、努めて冷静な思考と身の振る舞いを堅持しているつもりだった。
「鼓動が、消えました。撃破成功です」
『そうか、ではその緩んだ顔をどうにかしろ』
「はい?」
 意図を測りかねたメルメッテが問い返すと、メインモニターの端にサブウィンドウが表示された。その長方形に切り取られた窓の中では、薄桃色の髪の少女が口角を緩めていた。
「し、失礼しました主様。とんだご無礼を……」
 双眸をきつく閉じて頭を左右に振ると、しかと両眼を見開き鋭い視線で前を見据える。口は厳しく横に結ばれていた。
『破壊と蹂躙の悦楽を享受して良いのは強者である私のみ。解しているのだろうな?』
「心得ております」
 多幸感に流されているようではラウシュターゼに遣える者の義務は務まらない。常に氷の思考を纏わねば。
『だが』
「はい、主人様」
『及第点はくれてやろう』
「主様、なんと……?」
 聞き返された声にラウシュターゼが答える事は無かった。羽ばたくオクターヴェが紅の羽を散らせる眼下では、黒煙を上げて立ち昇る獄炎が砕け飛び散ったLightingの欠片を灼き続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『マシンも人も補給の時間』

POW   :    機体の搬入、重たい荷物を運ぶのを手伝う

SPD   :    燃料やパーツ、食料などの配給を手伝う

WIZ   :    電装、パーツの在庫などのデータ管理、ムードを盛り上げる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●南州第二プラント奪還成功
 無人の天馬基地で繰り広げられた猟兵とLightingの交戦に決着が付くや否や、工作部隊はすぐさま作業に取り掛かり始めた。大きな脅威が排除されたとは言えここは敵勢力の渦中に違いない。一秒でも早くすべき事を終わらせ離脱しなければ。猟兵達の分厚い警護網に守護られながら工作部隊は本懐である南州第二プラントの電源停止を試みる。
 緑豊かな土地であるにも関わらず、鳥の囀りひとつ聞こえない不気味な静寂の中、作業自体は規定手順に従って滞りなく行われた。電力供給は断たれ、エネルギーインゴットを無尽蔵に生産し続けていたプラントが暫くの間眠りに付く。これでもう人喰いキャバリアの餌場となる事は無い。いずれ人類が南州を取り戻した際にはまた目を醒まさせられるだろう。
 電源停止作業の終了から殆ど間を置かずに大鳳より緊急通信が入った。再びエヴォルグ量産機の集団が侵攻を開始した兆候を掴んだとの内容だった。震音探知であるため精度は曖昧だが、その数は測定可能値を優に越えているという。一方猟兵達も既に異変を察知していた。大地を叩く震動が、生身キャバリア問わず足を通して伝わってくる。恐らくはここ、南州第二プラントに向けて進軍しているのだろう。工作部隊は速やかに撤収を始め、猟兵達も周囲を警戒しつつ軍港方面へと帰投の道を急いだ。
 南州第二プラントと軍港施設の中間地点に差し掛かった時、突如として複数の光線が猟兵達と工作部隊に降り注いだ。発生元を辿ると、そこには小高い丘の稜線から姿を現したエヴォルグ量産機の梯団があった。先頭集団に追い付かれたようだ。猟兵達は迫るエヴォルグ量産機の群れを蹴散らしながら大鳳が待機している軍港施設へと疾駆する。三笠もそれを援護するべくミサイルや榴弾の雨を惜しみ無く敵集団の頭上へと浴びせに掛かった。
 敵を振り切って到着した軍港の係留施設では、敵に取り付かれる危険を承知の上で大鳳が入港を敢行していた。猟兵達はなおも追い縋ってくる敵の群れを迎撃しつつ大鳳へと収容される。工作部隊を含む全機全人員の収容を完了した後、大鳳は三笠と猟兵が運用する艦艇と共に軍港施設より急速離脱する。後にした係留施設に群がるエヴォルグ量産機から放たれる無数のレーザーは大鳳の装甲に弾かれ、海を渡って直接取り付けば猟兵達に斬り刻まれ撃ち貫かれた。やがて照射される光線の数は一本二本と減少し、南州が水平線の向こうに沈んだ頃には青く輝く海の波音だけが聞こえるばかりとなった。

●空母大鳳
 作戦開始時には東の空を青白く染めていた太陽も、今ではすっかり頂点に昇り切っていた。日乃和の現在の季節は夏真っ盛り。燦々と注ぐ陽光はひりつく程に眩しいが、ほどほどに出ている雲と吹き付ける潮風のおかげで体感気温はそれほどでも無い。疾風が轟き駆け抜ける大鳳の甲板上で、乗組員達と艦長と思わしき女性が集合していた。
「この度の御務め、大変ご苦労様でした。本作戦で得られた戦果は、必ずや我が国に吉兆をもたらす事でしょう。日乃和を代表して、心よりの御礼を……」
 猟兵達を前にして、日乃和海軍将校の白い軍服に身を包んだ女性がたおやかな動作で礼をした。膝下まで届きそうな長い濡羽色の髪はツーサイドアップに纏められ、房が吹き抜ける風に靡く。襟元には大佐の階級章が煌めいていた。
「初戦の中の多忙でご挨拶が遅れました。本艦大鳳を任されております、葵結城と申します。以後、お見知り置きを」
 薄気味悪くも蠱惑的に両の口角が持ち上げられる。蛇を想起させられる琥珀色の眼は、猟兵一人一人の視線をなぞるようにして重ね合わされていた。
「さて、ただいま大鳳は三笠と共に母港のある香龍都に向けて東進中でございます。到着までの時間は……おおよそ五時間といったところですわね。いささか退屈かと思われますが、その間は我が艦でどうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
 南州を抜けた後、大鳳と三笠は敵の勢力圏を完全に脱するために南方面へと大きく針路を取っていた。現在地点は南州沖合の遥か彼方。まるで陸地が全て沈んでしまったかのように錯覚するほど全方位を見渡しても海しか見えない。
「とはいえ、手持ち無沙汰では長旅も辛いばかりでしょう。機関室、それから重要物質搬入庫などの機密に触れる場所以外の船内施設であれば、如何様にもお使いください。資材や機材はもちろん、必要でしたら人員も。特に機体の手入れにはなにかと人手がご入用でしょうから」
 結城は含んだ柔らかな笑みを浮かべ話しを続ける。
「我が艦は日乃和海軍の中でも新鋭に類する船ですわ。猟兵様方の御眼鏡に叶うかは解りかねますが、艦内設備も相応しいものが取り揃えられております。それでは私は艦橋に戻りますので、これで失礼致します。何かあれば……いいえ、何もなくとも、いつでも声をお掛けくださいませ。どうぞごゆるりと」
 空母大鳳の艦長は最後に深く一礼すると、豊かな黒髪と胸元を揺らしながら去って行った。琥珀色の瞳は、背を向ける最後の瞬間まで猟兵達をじっとりとした視線で見つめていた。

●帰還の途
 大鳳の母港帰還を以て任務の最終行程は完了する。一応の便宜上では護衛している状況になるのだが、敵の襲撃の可能性はほぼゼロに等しく既に戦闘配備は解かれている。実質的に猟兵達は単に同乗、或いは同行しているだけとなるだろう。最大の敵は退屈な時間なのかも知れない。
 空白の時間を潰す手段は様々だ。居住区画を間借りして休息を取る、格納庫施設を使用して機体の補給と整備を行う、広大な飛行甲板で風に当たる、立ち入り禁止区域を除いて空母という空間の中で可能な行動は全て選択肢に入る。敵の勢力圏から外れているとは言え、油断ならないというなら警戒任務に就くのも良いだろう。
 また、必ずしも大鳳に同乗していなければならないという決まりも無い。そもそも自前の艦艇を保有していたり、機体の機密上の問題から大鳳に着艦すること自体が憚られるという場合もあるかも知れない。何にせよ時間の過ごし方は各々猟兵の裁量に委ねられている。
 上を見上げれば直上から照らす太陽と蒼穹の空、下を見れば白波立つ青い海。水平線の彼方まで同じ景色が続く大海原の孤島と化した大鳳と並走する三笠。南州第二プラント奪還という役割を終えた猟兵達と共に、今暫くの退屈な旅路が続く。
天城・千歳
絡み、アドリブ歓迎

愛鷹は大鳳と並走しつつCICにて船体及び兵装、ドローン群の損耗確認を行い確認完了後にサプライドローンを使用して修復を行います。
並行して上陸から基地奪還までの戦闘詳報を日乃和群の書式に従って製作。
書き上がった戦闘詳報は現地規格のUSBメモリに記録し、リモート義体に届けてもらいます。メモリでの提出が認められない場合に備え、書類印刷した物も持って行かせます。
リモート義体には大鳳の格納庫の様子も確認して貰い、猟兵の機体で修理のサポートが必要な物が無いか確認し、サポートが必要ならサプライドローンで修理を手伝います。
その後に大鳳の食堂で休息中の他の猟兵や兵員と会話して【情報収集】します。



●思考途切れず
 大鳳、三笠、そして愛鷹が等速で青い海原を進む。前者二隻と異なりホバークラフトで推進する愛鷹は海面着水寸前の高度を維持し、浮力によって生じた反発作用で海水を激しく巻き上げていた。
「愛鷹船体前面の装甲に若干の損傷を認める。他機関部等異常無し。ドローン群の損耗度は軽微、一部はこの場での修繕が可能」
 外界と隔絶された薄暗い空間、愛鷹のCICで席に座す千歳は自身の電脳を艦艇のシステムとダイレクトリンクさせダメージレベルの診断と損失した艦載戦力の確認作業を行なっていた。二度の戦闘で受けた傷はいずれも許容範囲内に収まっており、特別な対応を要するものではない。
「全項目のダメージチェックを完了。サプライドローンは修復要綱に従い愛鷹及びドローン群の修理作業を開始」
 粛々とした千歳の命令に沿って修理を担当する大型のドローンが愛鷹の格納庫より出立する。一部は船体の損傷箇所に向かい、一部は戦闘用ドローンが収容されている格納庫で予め定められた通りの修繕作業を始めた。後は全自動で作業が進められる。千歳は次なる業務に取り掛かった。
 CICの大型メインモニターに複数のウィンドウがポップアップした。枠内に表示されている内容は今回の戦闘の映像や戦域を二次元化し俯瞰状態で表した様々な集積情報だった。千歳のリモート義体は口を噤んだまま視線を左右に走らせる。戦闘結果を報告書として纏め上げているのだ。自立型コアユニットの彼女にとって直接キーボードを連打する作業は必要無い。
「完了」
 短く言い切られた言葉と同時に千歳は席から立ち上がると端末の前に向かった。そしてアダプターを介して差し込まれていた小型情報記憶媒体を端末から抜き取った。クロムキャバリアで普及しているUSBメモリだ。更にそのUSBメモリを異なる端末に差し込み、愛鷹のネットワークを介して操作を行う。程なくして端末は無数の文字列や表が印刷された白紙を吐き出し始めた。情報記録媒体での戦闘詳報提出が認められなかった場合に備えて、紙の媒体に出力していたのだ。千歳は印刷された用紙を手早くめくってミスが無い事を確認すると、辞典のように分厚い束として片手に抱えたままCICを後にした。これから大鳳に渡りこの戦闘詳報を葵結城とやらに届けに行くために。
 適当なドローンに乗って大鳳の甲板に降着した千歳は、そのまま艦橋に向かうのではなく敢えて遠回りをした。まず格納庫に向かい修理や補給の状態を確認する。戦闘終了後ということもあってか格納庫内では油塗れの整備班が慌ただしく走り回っていた。猟兵達の機体も幾らか補給や整備を受けているようだ。千歳は整備班の班長に、まだサプライドローンには余力があるため捗っていないようならば援助する用意があると伝えると格納庫を去った。
 次に千歳が向かった先は大鳳艦内の食堂だった。必然的に人員が多く出入りするこの場所であれば黙っていても勝手に情報の方から耳に飛び込んでくれるだろう。巨大な船体に似つかわしい広々とした食堂に足を踏み入れると、目を合わせた日乃和の兵員達が千歳に敬礼をした。千歳は表情を崩さず同じ形式の敬礼を返す。既に千歳が愛鷹の艦長であるという噂は広まっていたらしく、一人が気付くと二人三人と連鎖して兵員達が集まってきた。目を輝かせる若い兵員達にあっという間に千歳は取り囲まれて質問攻めに遭う。南州第二プラントを奪い返した猟兵達は英雄視されているようで、千歳も羨望の眼差しを受ける対象に含まれていた。しかし千歳のリモート義体は相変わらず表情を動かさないまま静かな声音でひとつひとつの質問に事実を返した。
 一方で千歳側にも得られた情報があった。第二プラント奪還作戦と並行して行われていた第一プラント奪還作戦について、こちらもプラントの電力供給を断つ事に成功し、南州に現存するふたつのプラントはいずれもエネルギーインゴットの生産を停止したのだという。代償に第一プラントを担当していた日乃和軍には夥しい損害が生じており、正式報告では無いものの艦隊戦力を含む全体の七割が失われ、プラント確保部隊と工作部隊は電力供給停止後の撤退を断念し全員がそのまま討ち死にしたらしい。なので極小の損害で任務を遂行した猟兵達はなお一層英雄視されているのだった。
 暫くの質問攻めの後、人の集まりがまばらになった頃合いを見計らって千歳は本来の目的地へと歩を進めた。
「あら、これは愛鷹の……お待ちしておりましたわ。どうぞお入りください」
「失礼します」
 葵結城こと空母大鳳の艦長の促しに従って千歳はブリッジへと上がった。作成した戦闘詳報を持ち込む事は前もって伝えてあったため、千歳は無言でUSBメモリと書面を手渡した。受け取った結城は琥珀色の目を伏せてたおやかに腰を折ると、静かに書面をめくり始めた。
「なるほど、貴重な資料をありがとうございます。第一プラントの確保に当たった部隊が全滅した今、人喰いキャバリアに占拠されたプラントの奪還に成功し、かつ生還できた者は私達と猟兵様達だけ……これは紛れもなく人の宝となりますわ。データの方もいただいても?」
「そのために用意しました。今後の戦術構築の判断材料にお役立てください」
 事務的な千歳の声音に、結城は口元に薄ら笑いを浮かべて首を垂れた。
「謹んでお受け取りします。これで死地に赴く若人達にも救いの光明が差すでしょう」
 千歳の双眸の中で瞳が右から左へと動く。視線が艦橋を一巡すると、船員の年齢層が十代後半から二十代程度に傾向している様子が見て取れた。
「若人達、ですか。つまり先達はもう?」
 それとなく質問した千歳に結城は頷きを返した。
「人喰いキャバリアの襲来が発生して数ヶ月の内に。初戦の敗退の連続で多過ぎる兵と民が失われました。ご覧の様に、今の我が国は未来を担う若者の血で保っている次第です」
 大鳳の艦橋はこの国の縮図か。千歳は特に感傷の概念を憶えるでもなく事実のみを情報として受け止め、視線を結城から外した。千歳のリモート義体の瞳は緩やかにうねる海原を映していた。戦いは終わった。だが生存競争はまだ終わっていない。次なる手は防衛かはたまた奪還か、真夏の日乃和の洋上において、千歳の電脳は氷の様な思考を織り続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレスベルク・メリアグレース
戦死した軍属の葬儀を終えた後、東雲官房長官か日乃和の高官と今回の生物災害に対する聖教皇国の人道的支援の会議を行いたいですね

我がメリアグレースは今回日乃和に降りかかった災難に対して支援を表明します
まず、若き学生を徴兵せねばならない事態に対する聖教皇国の騎士団と同盟国の軍属の配備。これによって若き者が食われて死す可能性は少しでも減るでしょう
無論、経済や物資的な支援も忘れません。食料や衣服等も日乃和に支給し、無辜の民の心を少しでも潤せるよう図らいます

東雲官房長官、貴公の子女は勇敢に戦っていました
彼女の様な少女が在るがまま生きていられるよう取り計らうのが我らの聖教の教えです



●手向け
 直上に昇った夏日の太陽が、日乃和の海を照らす。南州の沖合を緩やかに進む空母、大鳳の飛行甲板最後部にフレスベルクは潮風を受けて立っていた。薄く開かれた双眸の先には水平線に沈んだ南州がある。両手を胸元で組んで結び、か細い声が鎮魂の祝詞を紡いでいる。
「民のために大地を赤き血で染め、苦悶の戦いの中で死に斃れた英霊達に、微睡の向こう岸で永遠の安らぎがあらんことを」
 祝詞を締め括るとフレスベルクは両目を閉じた。耳元を過ぎる風と揺らぐ波の音だけが暗い世界の中に聞こえる。
「我が国の死者を悼んでいただき、ありがとうございます。彼らの御霊も浮かばれるでしょう」
 黙して最後の祈りを捧げるフレスベルクの後ろ斜めには結城の姿があった。結城はメリアグレース聖教の神子代理の背に向かって緩慢に礼をする。結んだ手を解いたフレスベルクは琥珀色の髪を風に踊らせながら結城の方へと振り返った。
「貴国では常態と伺っていますが、やはりわたくしと近い歳の者達の死を見送らなければならないというのは、心身が痛みに苛まれるものです」
「お心遣いに感謝致します。そうですわね。私としても同じ心境でございます」
 結城の目はフレスベルクから外れ、彼方の南州に向けられていた。
「我がメリアグレースは、此度の貴国への支援の意思を表明します」
 フレスベルクは再び後ろへと振り向くと、結城と同じく視線を既に見えない南州へと飛ばした。
「経済や物資面では勿論、聖教皇国の騎士団と同盟国の軍の戦力を提供し、軍事に於ける直接の援助もお約束しましょう。人々の心を少しでも潤せるよう、これ以上無辜の民の命が失われぬよう、子女が戦地に赴かせられることのないように」
「ありがとうございます。私の一存では受け入れを決めかねますが、帰投次第上申致しますわ」
 結城はたおやかに腰を折るとフレスベルクの隣に立った。
「貴国の白羽井小隊のような少女達が、在るがまま生きていられるよう取り計らうのが我らの聖教の教えです 」
「まあ、白羽井小隊をご存知なのですか? 元愛宕基地守備隊の?」
「その基地が陥落した時、わたくし達は共に戦場にありました。隊の子女達は皆巨悪に対し勇敢に戦っていましたよ」
「それはそれは、我が国の若き兵にお力添えを頂いた事、感謝しなければなりませんね」
 二人の間に暫くの沈黙が続く。追い風が轟きながら大鳳の甲板の表面を滑って行った。フレスベルクは語らず、ただ遙か青波の彼方を見つめる。彼女の双眸は果たして何を映しているのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノエル・カンナビス
SPD

お仕事中ですので三十分待機。

緊急発進用の五分間待機までする気もありませんが、
といって整備補給も要りませんし、ハンガーデッキの
エイストラの横で戦闘データを纏めましょう。
簡易テーブルに端末を置いて、アイスウォーターなど
飲みつつカタカタと。

報告書用の記録は自動ですので、あくまで自分用です。
エヴォルグ参號機は初見でしたから解析が急務です。
いつまた出会うかも知れませんしね。

場所が場所ですし、キャバリアパイロットなどが覗きに
来るかも知れませんが、別に気にしません。
なんなら以前に遭遇したエヴォルグ系列機の特性などを
解析データ付きでお見せしますよ。コピー要ります?

……あんまり揺れませんね。良いお船です。



●戦後の幕間
 南州の戦いを終えて以降、大鳳の飛行甲板直下にある格納庫内は喧騒が絶えない。金属がぶつかり合う音や溶接の光、フォークリフトが往来している横で作業着姿の整備員が忙しなく動き回っている。空調は効いているが、機動兵器や工作機械が発する熱と重油が焼け付いた臭いが充満しており、清々しい甲板上とはまるで異なる空間が広がっていた。
 その格納庫内のキャバリアハンガーのひとつにエイストラが収容されていた。だが補給や整備の類を受けている様子は見受けられない。コクピットハッチは解放されており、内部から外へ様々な色のケーブルが伸びている。ケーブルの先を視線でなぞるとエイストラの足元に辿り着いた。簡素な椅子とテーブルが立てられており、卓上に置かれた端末にはエイストラから引かれたケーブルが接続されている。椅子にはノエルが着席していた。
「どうぞ」
「どうも」
 大鳳の船員がテーブルに置いて行ったドリンクボトルにノエルが手を伸ばす。目線はそちらに一瞥もくれないまま、端末のモニターに貼り付けられている。片手で保持したドリンクボトルを口に運びながらもう一方の片手はキーボード上で五本の指を踊らせていた。口に含んだ経口補水液は冷たく無味だった。
「エヴォルグ参號機……交戦したのは今回が初ですね」
 ノエルはプラントに巣食っていた雷狐型の半生体キャバリアについての交戦記録を纏め上げていた。どこかに提出するというものでは無いが、自分用にしても今後に備えてデータを蓄積しておくに越した事は無い。
「完全消滅したという訳でもありませんし、戦うのはこれが最後とも限らないでしょう」
 オブリビオンマシンの性質上、特定の撃破条件を経ていないならば何度でも現れる可能性がある。再度の交戦を想定し、優れた運動性と格闘戦術、帯電能力の傾向を解析して戦闘理論を確立化しておくべきとノエルは判断していた。
「現状のエイストラでも十分対処可能ですが……」
 騒々しい格納庫の空間で、ノエルの居るそこだけが切り取られたかのようにキーボードを叩く音が響く。音然り様子然り相応に際立つものらしく、整備班や船員達が側を通り過ぎるたびに横目でノエルの姿とモニター上のデータを覗き込んでいた。ノエルは特に気にする素振りもなく報告書作成を進める。いつしか素通りしていた船員がひとりまたひとりと足を止め、ノエルの背後に人集りが出来つつあった。中にはエヴォルグ参號機を見知っていた者もいたらしく、単機に戦線を瓦解させられたなどと言った被害報告を語っていた。
「それほど気なるのでしたら、以前に交戦したエヴォルグ系列機のデータも見ますか?」
 ノエルは背後の人集りに目をくれずにモニターと向き合ったまま端末に小型メモリを挿入した。幾つかの操作を行うと画面上に複数の半生体キャバリアのデータが表示された。その内の二つは、以前愛宕連山で直接戦った大型種だった。するとギャラリーの一部から悲鳴とも呻めきとも付かない声が挙がる。外観の不気味さもあるが、愛宕連山の事件は日乃和軍の若年層の兵士達にとって色々と心的外傷を及ぼすものだったらしい。
「敵を知り己を知れば百戦危うからずです。戦闘履歴のコピー、取りましょうか?」
 是非頼みたいと声を掛けられたノエルは背後に手を伸ばした。開いた掌でフラッシュメモリを受け取ると端末に差し込んでコピー処理を始める。情報複製中を知らせるゲージバーの推移を眺めながら不意に視線を横にずらすと、中身が半分ほどになったボトルが目に止まった。水の表面は格納庫内の喧騒で波紋を広げているが、それ以上に傾いたり波打ったりする気配は見られない。
「……あんまり揺れませんね。良いお船です」
 巨大な船体も伊達ではないらしい。ノエルが静かに呟くと丁度データの複製作業が完了した。フラッシュメモリを端末から抜き取ると、先ほど受け取った時と同じように手を後ろへと伸ばす。相変わらず顔はモニターに向けられたままだ。ノエルは淡々とした表情で作業を再開する。エイストラの足元の空間では、キーボードの乾いたタイプ音が今暫く続いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
ふぅ、疲れたぁ~。
ブルー・リーゼは駐機させてもらって…
たぶん大きな損害はなかったと思うけど、念の為に見てもらおうかな?

整備員さん、わたしも手伝うので、リーゼのメンテナンスお願いしてもいいですか?
…ん?戦闘データ?
愛宕の時のと今回のやつでいいなら、もっていってもらっていいよ?
人喰いキャバリアに対抗できるならね

その後は甲板に出て風を感じるよ
ん-、気持ちいいっ♪
とっても気持ちい風が吹いているね。
ん-、あのキャバリア達、何が目的なんだろ…
ただ、人を襲って…
ご飯を食べることだけを目的にしているのかな?

…ま、答えが出ないものを、今考えても仕方ないか。
今は、のんびりここで過ごさせてもらうかな
気持ちいいなぁ~



●潮風は語らず
 整備員の手案内に従いブルー・リーゼMk-Ⅱが大鳳の格納庫を主脚歩行でゆっくりと進む。キャバリアハンガーまで行き着くとコクピットハッチを展開し、そこから青髪の少女が滑り落ちて来た。
「ふぅ、疲れたぁ~」
 シルが大きく背を伸ばす。早朝から現在に至るまで、休憩無しでコクピットのシートに磔にされていた身体は疲労と凝りで固まっていた。すると駐機場所までの案内を務めていた整備員がシルに足早に駆け寄って来た。
「お疲れ様でした。整備と補給の方はいかがしますか?」
 掛けられた声にシルは機体へと振り返る。外観を見た限りでは大きな被弾の痕跡は見られない。だが電撃攻撃を主体としている敵機との交戦を経ているため、内部の電装系の方まで無事とは限らない。
「念のために見てもらった方がいいかな? じゃあ整備員さん、わたしも手伝うので、お願いしてもいいですか?」
「了解しました。ですが戦闘を終えたばかりのパイロットに手伝って貰うわけには……」
 すると整備員は続ける言葉を言い澱んだ。
「失礼しました、機密保持上立ち会って頂いた方が適切ですよね」
「え? そういう訳じゃ……まぁいっか、リーゼはちょっと特別なところあるし」
 そうと決めるとシルと整備班は手始めにシステムチェックを開始した。診断プログラムを走らせ機能回りの不調の有無を確認する。コクピットからケーブルを伸ばし、端末に接続して整備士達はシル立ち合いの元縦に流れる診断結果のデータを洗い出していた。その時シルは不意に整備員のひとりから声を掛けられた。
「あの、すいません、葵艦長からの依頼で、可能であれば戦闘ログを頂きたいのですが」
「ログ?」
 シルは暫しきょとんとした表情で答えたがすぐに意図を察して表情を改めた。
「愛宕の時のと今回のやつでいいなら、もっていってもらっていいよ?」
 これが同種の敵機への対抗手段を作る材料となるのであればとシルは快諾する。それに対して整備班の各面々は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。他国では存じませんが、自分達の国ではとても貴重なものなので……」
「まぁ、そうだよねぇ」
 愛宕連山と南州の件で人喰いキャバリアが日乃和にもたらした被害の全容はそれなりに既知している。ならば皆まで言うまいとシルは敢えて先を語らなかった。
 その後ブルー・リーゼMk-Ⅱの整備は滞りなく行われ、手持ち無沙汰となったシルは大鳳の飛行甲板に上がっていた。
「ん-、気持ちいいっ♪」
 両腕を目一杯に広げて全身で風を受け止める。シルが立つ場所は船首に当たる。強く吹き付ける風圧が前から後ろへと通り過ぎて行き、青い髪を揺らす。夏の陽光と大海原を駆ける風が清々しく心地良い。シルは甲板の縁に腰を落ち着かせ、両脚を宙に投げ出すと、波打つ深い青の海面をぼんやりと眺めていた。ふと今回の戦闘の追憶が脳裏に浮かぶ。
「ん-、あのキャバリア達、何が目的なんだろ……」
 行動原理は人の捕食。それに違いは無い。実際シルはされたであろう現場を見ていたし自身が捕食対象と見做された経験がある。だが捕食の先の目的が一行に見えてこない。
「お腹が空いてるだけ?」
 生物であるなら当然なのだろうが、戦争の為に生み出された兵器にも果たして当てはまるのだろうか。キャバリアは兵器、兵器は敵を倒すもの、敵を倒すための手段として何故捕食行為を選択したのか。しなければならなかった理由とは何なのか。誰が何の為に作ったのか。シルには解せなかった。
「古い時代のプラントから湧いてるんだっけ……ま、答えが出ないものを、今考えても仕方ないか」
 立ち塞がるなら倒すのみ。話し合いの余地があるでもなく、どの道人類の天敵なのだからそうする他無い。解無き思考を蒼空に飛ばし、甲板の縁から宙に放り出している両脚を前後に揺らした。
「今はのんびりさせてもらおうかな。海の上って気持ちいいなぁ~」
 穏やかな波が大鳳とぶつかり合えば飛沫を上げて白波が立つ。潮風が頬を撫で、髪をそよがせる。空と海が水平線で交わる青の世界。シルの瞳は同じ青の煌めきを照り返していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メルメッテ・アインクラング
操縦者秘匿の方針により、警戒と称し主様に搭乗したまま低速飛行。艦と並走致しましょう
『ファンサービスだ。応えてやらねば男が廃る』
道中、乗員の方へ向け主様の手指を優雅に操作
主様が四眼のアイライトを意図的に動かしウィンクされたのが伝わりました

日乃和の皆様も戦いを重ねていらっしゃるのですね。疲労の色や女性の多さが気掛りでございます「……真の平和は訪れるのでしょうか」
『怒りや憎しみ。疑念や誤解。私利私欲、信仰、メイド服の丈の長さに至るまで。人は何時の世も争うものだ』
『お前は雑念を捨て、私の命令を全うしろ』
何よりも最優先とされている主様からの一つのご命令――『生きろ』。遵守を誓い直し最後まで任務に励みます



●海祇を飛んで
 猟兵が保有する機体の中には技術的或いは政治的、または想像し得る様々な観点から重度の機密保持が求められるものがある。メルメッテが主様と呼ぶ四眼の機体、ラウシュターゼもその内の一機だった。
 秘密とは秘密である事自体にも価値を有する。迂闊に駐機する事さえ憚れるため、哨戒任務という扱いで三笠と大鳳の二隻と速度を合わせ周囲を巡航している。
「やはり敵反応は依然としてありませんね」
 便宜上とはいえ周辺警戒を請け負ったメルメッテは、索敵の意味の有無に関わらず実直に役割を全うしていた。操縦桿を握る両手と肩から力は抜けているものの、眼差しは油断なく監視の光を湛えている。
『海底にプラントが沈んでいるでもなければ、こんな海原に戦略価値などあるまい。最も、人喰いの獣連中が漁師に鞍替えするのであれば話しは別だが』
 ラウシュターゼの口調には、やや鬱憤が含まれているようだった。オブリビオンマシンを狩れない事に退屈しているのだろうか。メルメッテが視線を横に傾けると並走している大鳳の巨大な船体があった。甲板上では何名かの船員がラウシュターゼを見物しているようだ。神話の大鷲の如くクラングウイングを力強く羽ばたかせ、海上を飛ぶラウシュターゼの姿は人目に非常によく目立つ。
『まったく、良い見世物だな』
 ラウシュターゼはメルメッテが見ている光景と同じものを見ていたらしい。こちらが向こうを観察している事に気付いたのか、船員が手を振っていた。
「主様の雄姿に羨望の念を覚えておられるのでしょう。メイドの身としても誇らしく思います」
『羨望か。ならば少々焚き付けてやろう。応えてやらねば男が廃る』
 メルメッテの制御を離れたラウシュターゼがオクターヴェをより強く、大きく羽ばたかせる。羽にも似た真紅の燐光を舞い散らせ、四眼が鋭い発光を示す。そして機体をやや加速させて大鳳を追い抜き前方斜めへと躍り出た。大鳳の甲板上のギャラリーはラウシュターゼのサービスに沸き立ち、歓声を挙げているようだ。その様子をメルメッテはセンサーカメラの望遠モードでモニターに映し出していた。するとある点に気がつく。
「日乃和の兵の方々は女性が多いのですね。それも皆まだお若過ぎる」
 甲板に集っている船員だけでも女性の比率が妙に多い。男性もいるが年齢層は十代から二十代が殆どのように思えた。
『戦が長引いたか、短期間で死に過ぎたか。どちらにせよ男手を使い果たすような有様では泥沼だな』
「泥沼、ですか。このまま戦い続けたとして、この国に安寧は……真の平和は訪れるのでしょうか」
『訪れるはずもない。キャバリアの襲来など切掛のひとつに過ぎん。怒りや憎しみ。疑念や誤解。私利私欲、信仰、メイド服の丈の長さに至るまで。人は何時の世も争うものだ』
「メイド服の……丈?」
 虚を突かれたメルメッテが反射的に問い直す。
『そうだ。どんな些事でも闘争の切欠となり得る。下らんと笑うか? だがそれが人の常だろう?』
「いえ、私は……」
 続く言葉をラウシュターゼが遮る。
『お前は雑念を捨て、私の命令を全うしろ。生き続ける事だ。私の従者であるならばな』
 生存せよ。簡素なまでのたったひとつの命令。メルメッテは主君より言い渡された全てに優先する命令を胸中で渦巻かせ、黙して反芻した。
「生き続けます。主様の仰せのままに」
『当然だ』
 メルメッテの硬い宣誓の答えは短く味気ないものだった。されどメルメッテにとって十分な重さと意味を含んでいた。ラウシュターゼの紅翼が羽先まで広げられ、孕んだ潮風を叩き伏せて飛ぶ。淡い瞳孔と光を引く四眼は、同じ水平線の境界を見据えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斑星・夜
【特務一課】

空母大鳳かぁ
キャバリアには乗っているけれど、こういうのに乗るのは初めてだ
自分が操縦していない物に乗るの時よく思うけど、不思議な感じがするねぇ

ちょっと甲板に海を見に行ってから、ギバちゃんとキリジちゃんに合流しようっと
……海の写真を撮るのはNGじゃないかな
問題なさそうなら、タブレット(EPワイズマンズユニット『ねむいのちゃん』)で写真を一枚撮ろう

あ、いたいた!おーい、二人ともー!
船旅って何かソワソワするねー!
って言いながら手を振って近づきます
ねぇねぇ、今日のご飯何だと思う?俺はカレーだと思うなぁ

……あ、俺も白羽井の子達が無事か気になるなぁ
状況が状況だからあれだけど、元気にしてるといいな


天城原・陽
【特務一課】
(大鳳にて折角なので機体の補給をお願いする)
「動力部は触らないで。生体部分は目に見えた損傷は無いけどほっとけば治るわ。人間で言う筋肉痛みたいなもんだし。武器弾薬の規格は?ああ、同じね。んじゃ補給宜しくどうぞ」
(整備兵とやりとりをした後、同僚と合流)

(適当な兵士や下士官辺りをとっ捕まえて世間話ついでに今後の作戦行動について。ついでに白羽井のお嬢様方の近況でも聞いておく)

※思う事
(この国は…国土に対してエヴォルグシリーズの個体発生数が多い…否、多すぎる。他の国と違う決定的な、呼び寄せる何かがあるのか…思考中断。これ以上は只の邪推だ)
「…後ろめたい何かがあるのは何処の国も同じか。」


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
着くまでどうせ暇だ。コックピットのメンテでもするか
(元々レプリカントを利用した生体CPUのみで動かすモノに、無理やりコンソール機材を外付けし搭乗出来るようにしたもの)
……コンソール群はともかく、オレと直接繋ぐカルトゥーシュ自体に大分ガタがきてるな。シンクロ率のばらつきが著しい
ま、今は無い国の半ばOパーツめいたモノに何年も乗ってればそうなる、か。



適当なところでギバとマダラと合流。はいはい、カレーかもな。
報告書に特記すべきことは…『鸛』の実戦投入、エヴォルグシリーズ、日乃和について…あとなんかあったか?あー、夕飯の食レポ書かなくていいからな。また直す羽目になるぞマダラ



●影の予兆
 大鳳の格納庫内の一角には、特務一課が運用する機体が三機とも揃ってキャバリアハンガーに納められていた。
 「動力部は触らないで。生体部分は目に見えた損傷は無いけどほっとけば治るわ。人間で言う筋肉痛みたいなもんだし」
 赤雷号の搭乗者である天城原が整備班に機体の扱いの要項を伝えている。
「日乃和で使ってる武器弾薬の規格は? ああ、同じね。んじゃ補給宜しくどうぞ」
 天城原が赤雷号を見上げる中、整備班達は早速作業を開始した。非生体部品を使用している損傷箇所からは溶接処理のアーク光が弾け、ガントリークレーンに吊るされたギガントアサルトと二十二式複合狙撃砲には次々に弾薬が再装填されて行く。
「こっちは放っておいても大丈夫、か。なら後に備えて適当に情報収集しとこうか」
 迅速に整備と補給が進む様子を眺めていた天城原が、不意に通り掛かった大鳳の船員へ声を掛けた。どうという事はない世間話から会話は切り出され、話題は今後の日乃和の作戦行動について流れる。
 天城原が聞き出したところによると、新型機の配備を完了した後、時期を置いてから南州全域の本格的な奪還作戦が計画されるという噂があるらしい。更にそれが成功すれば愛宕連山より西側へと敵の前線を押し返す切掛に繋がるとも。また、会話の中で偶然にも白羽井小隊のその後についても聞く事が出来た。地獄の死戦を極めた愛宕基地守備隊の数少ない生き残りと讃えられる一方、マスコミ関係からは敵前逃亡の疑いや愛宕基地失陥の元凶と目されたり、政府の徴兵政策についての批判を一身に背負わされ手痛いバッシングを受けているという。彼女らを批評する世論は様々だが、現在は最前線を離れて新型機の試験稼働部隊へ小隊ごと転属になったようだ。
「へえ、試験稼働部隊……ねぇ」
 天城原は得体の知れない突っ掛かりを喉と胸の合間に覚えながら整備が進められている赤雷号を見上げる。妙に神経が騒つく。赤雷号は左眼のセンサーレンズがアーク光を反射するばかりでただ黙していた。
「……キリジの様子でも見るか」
 赤雷号を整備班に預けると、機体を背に歩き始めた。向かう先はすぐ隣のキャバリアハンガーだった。そこにはキリジの黒鉄色の機体、メリンダがハンガーに納められていた。こちらも同じく整備班が群がり作業を進めている。開きっぱなしになっているコクピットハッチから明るいピンク色の髪が僅かに見えた。
「キリジ! そっちは?」
 メリンダの足元で天城原が声を張り上げて問うと、返事はすぐに戻ってきた。
「コクピットの中身がだいぶガタ来てやがる! こりゃ暫く時間掛かるな!」
 コクピットからキリジの手が伸びて何度か振られた。当面はメリンダに掛り切りになるようだった。
「甲板に上がってるから!」
「そうかい!」
 カルトゥーシュの接続確認をしている片手間に答えたキリジは、天城原の気配が遠のいて行くのを感じた。大鳳の母港に着くまでどうせ暇だからと始めたコクピットのメンテナンスだが、想像していた以上に骨が折れる。
「……コンソール群はともかく、カルトゥーシュ自体がやられまくってんな。シンクロ率のばらつきが酷えってモンじゃない」
 想定以上に重篤だとキリジは毒付く。接続テストを行う度に数値が変化し、振れ幅も大きい。メリンダのコクピットブロック自体が、元々レプリカントを利用した生体CPUのみで稼働するものに無理やりコンソール機材を外付けして搭乗出来るようにした代物という、かなり負担を強いている構造だった。そのツケが回ってきたのだろうとキリジは内心諦観に近い感情を抱いていた。
「大鳳の整備士連中に弄らせたら、余計ぶっ壊されるどころかどっから手ェ付けていいか分かんねェだろうしな。ここでこれ以上どうこうしても仕方無しってか」
 ならば部品を丸ごと取り替えるかという話しに行き着くのだろうが、それは難しい。なぜならメリンダ自体が今は亡き国のロストテクノロジー染みたキャバリアなのだから。となれば騙し騙し乗って行くしかない。やれやれと首を振ったキリジはカルトゥーシュの神経接続を解除すると、コクピットから滑り落ちるようにして表に出た。手近な整備員に後は良さ気に適当に頼むとだけ伝えると、首を左右に捻って骨を鳴らした。
「気分転換してくるか」
 気怠そうな足取りで甲板へ上がるためのエレベーターデッキへと向かう。ふと振り返ると、赤雷号とメリンダ、そして灰風号がキャバリアハンガーに並んで物言わず駐機されている光景が目に入った。
「そーいや、マダラのヤツどこいった?」
 キリジがそんな呟きを溢していた頃、斑星は空母大鳳の船内をエンジョイしていた。
「空母かあ、キャバリアには乗っているけれど、こういうのに乗るのは初めてだ」
 興味津々といった様子で船内のあちこちを散策し、先に案内されていた船内施設を既に一通り見て回っていた。
「へぇ、船内に売店なんかもあるんだね。生活はこの中で完結できるんだ。それにしても、自分が操縦していない物に乗る時によく思うけど、不思議な感じがするねぇ」
 船内だけでも報告書に書くネタには事欠かなさそうだ。見られる施設を全て見終えた斑星が最後に向かった先は甲板だった。耐熱アスファルトでコーティングされた滑走路に立った瞬間、潮風が身体を煽り清々しい夏日の陽光が頭上から降り注いだ。斑星は両腕を開いて大きく背を伸ばすと、タブレット端末『ねむいのちゃん』を取り出してカメラマンのように構えた。
「折角だし撮っておこうっと」
 撮影ボタンをタップすると、深い青が陽射しを照り返して輝き、穏やかに波打つ日乃和の遠洋の一部が静止画として画面の中に切り取られた。上出来だなと撮影結果に満足した斑星は、他に何か珍しいものは無いかと周囲を見渡す。するとよく見知った二人の姿を発見した。
「あ、いたいた! おーい、二人ともー!」
 斑星が声を上げて手を振ると海の景色を眺めていた天城原とキリジが振り返った。
「船旅って何かソワソワするねー!」
 斑星が二人に手を振りながら駆け寄る。
「そうか? まぁ海の上にいりゃ落ち着かねェだろうな」
 三名揃った特務一課の面々は其々に日乃和南州の海を眺める。
「ねぇねぇ、今日のご飯何だと思う? 俺はカレーだと思うなぁ」
「はいはい、カレーかもな」
「夕食の心配するのはいいけどね、報告書に書く内容はちゃんと考えたの?」
 天城原の言葉にキリジは腕を組み暫し唸る。
「あー、『鸛』の実戦投入は絶対だな。エヴォルグシリーズ、日乃和について……あとなんかあったか?」
「大鳳のご飯について」
「食レポ書かなくていいからな。また直す羽目になるぞマダラ」
「えー、ダメなの?」
 惜しそうに項垂れる斑星を横目で見た天城原が小さな溜息を漏らした。
「エヴォルグシリーズね……この国は国土に対して固体発生数が多い。いや、多過ぎる。愛宕連山も南州も」
「そんなモンか?」
 首を傾げたキリジに天城原はしかと頷いた。
「そもそもよ? 発生元の大陸側の制圧が終わっていないのにわざわざ海を渡って島国に侵攻する理由って何? 他の国と違う決定的な、呼び寄せる何かがあるんじゃ……」
「ふーん、例えば?」
 斑星の質問に天城原は言い淀む。
「……いや、これは只の邪推。それに後ろめたい事があるのは何処の国も同じ」
 極東より来たる三名の沈黙は言外の意味を含んでいた。
「愛宕連山と言えばさ、白羽井の子達って元気にしてるかなぁ?」
 沈黙を緩やかに解いたのは斑星の声だった。天城原は格納庫内で聞いた話しのあらましを斑星へ伝える。
「一方じゃ死地帰りの英雄で、もう一方じゃマスコミの叩きの標的。ま、ワイドショーの格好の餌食だったみたいね。しかも隊長だったフェザー01だっけ? その子が今の官房長官の娘ってんだから尚更じゃない?」
「そっか。でも全員まとめてテスト部隊になったなら、前みたいな危ない目にはもう遭わなさそうだね」
「さて……ソイツはどーだかなァ」
 斑星と天城原が視線で追ったキリジの表情は、無味でありながらどこか不穏な様子を含んでいた。
「アレかな? 新型機の事故とかそういう? テストパイロットには付き物だよね」
 斑星の問い掛けにキリジは微かに首を振った。
「そういう訳じゃねェんだが、妙な予感がすんだよ」
 誰とも目を合わせず水平線を見つめるキリジ。不思議そうに首を傾げる斑星。怪訝に目を細めキリジの横顔を見る天城原。吹き続ける風に流された大きな雲が陽光を覆い隠すと、大鳳の甲板を暗い影が駆け抜けるように侵食し始めた。その影は特務一課の三人も呑み込み、やがて過ぎ去った。天城原は、再び神経が騒めく感覚を覚えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
終わりか…そうだなー…
よし!探検だ!

こういうお船って実はあんまりなじみがなかった気がするんだ!

いくぞヘカテにゃん!(黒ちび子猫と化したキャバリアがにゃーん

食堂で此処の名物食べるぞっ
ついでにどういう工夫をしているかも色々分析してシル達にふるまうのも悪くはないなっ

後武装とか見せてもらえるものは色々見ちゃうぞ

後は国の歴史とか公的なものも聞いてみる事にするぞ

後は特に何も考えずうろちょろしているぞ

こういうのは無心ってので面白いものも見れそうだしなー

あ、もちろん禁止区域にはいかないぞ

流石にそういうのはばれたときに色々危ないだろうからな

(とまぁ…戦いの時とは打って変わってのエルフっ子だった



●金曜スペシャル大鳳の謎に迫る
「終わりか……そうだなー……」
 大鳳の格納庫内にあるキャバリアハンガーに搬入されたヘカテイアを前に、テラは両腕を組み思案を巡らせていた。任務は完遂され残すところは大鳳と三笠の母港帰還まで同行するだけとなった今、はっきりと明言してしまえばテラにはやる事が無い。残り数時間分の退屈な航海を潰す用事はないものかと考えていた時、テラは閃いた。
「よし! 探検だ!」
 大声で言い放ったため周りの視線が集中した。テラにとって大鳳のような空母艦は馴染みが薄い。どうせやる事が無いならこの溢れ出る探究心を満たすべきだと行動を開始する。
「いくぞヘカテにゃん!」
 そんな声を残して駆け出したテラの後ろを、どこから侵入したのか黒い子猫が追いかける。搬入されたヘカテイアが忽然と消えたと騒ぎになるのはテラが格納庫を去ってから数分後の事だった。
 テラは最初の冒険の候補地を食堂に定めた。その地の文化を知るにはまず食事から、という訳でも無いようだが、名物を食べる事は探検の一環と言っても差し支えない。大鳳の食堂は基地のそれと同じほどに広く明るい空間だった。後に聞けば日乃和は戦時こそ食事には特に力を注いでいるらしい。テラは食堂に入ると早速一番良いものを注文した。
「これが大鳳名物のスシってやつか」
 振る舞われたのは、酢を混ぜた白米に魚介類の切身を載せて握った寿司と呼ばれる料理だった。居合わせた船員に聞くところによると、日乃和にとって寿司とは旧文明時代より常食されている国民食であるという。作戦行動中の軍隊に於いても食べられる環境であれば食べるのが基本であり、大鳳の食堂の寿司は名物といって差し支えないほど取り分け美味と評判だった。
「ふーむなるほど、ただ切って乗せるだけってわけじゃないんだな。酢の加減やこの緑の辛いヤツの多い少ないで良し悪しが変わるのか。あとでシルにも教えてやるか」
 肩に乗っているヘカテにゃんが自分にも寄越せとごねるがテラは断固として譲らない。味覚を総動員して旨味を解析しながらしみじみと寿司を咀嚼している。海に囲まれた島国だけあって新鮮な海洋資源が取り放題。だからこそこういうものが食えるのだろうなと納得を付けたテラは、次なる探究先に向かった。
 そう言えば大鳳の艦長が特に用事がなくとも声を掛けてくれと言っていたようなと思い出し、思い付きで艦橋の扉を叩いた。艦長の葵結城は落ち着いた声音を返してテラを艦橋内に歓迎した。戦闘体勢が解除されて長らく経過しているのもあってか艦橋内の空気は穏やかだった。
「意外だな。こんなでっかい船なのに、武装が機関砲しかないなんて」
 大鳳に搭載されている武装を見たいとの要望はすんなりと受け入れられた。テラはこれほどの巨躯を持つ軍艦なら強大な砲を幾つも備えているのだろうと見当を付けていたが、モニター上で見た大鳳の船体では、実際の搭載火器は近接防御用の対空機関砲が数門備え付けられているだけに留まっていた。
「本艦はキャバリアやヘリなどの艦載戦力の輸送と発着が主な役割なのです。艦が直接戦うといった状況は想定されておりませんので、装備されている武器は自衛のための必要最低限となっていますわ」
「そういうもんなのか? なんだかよくわかんないなー」
 首を傾げるテラに結城は艦長席に座ったままで笑みを返すだけだった。どうせ話しを聞く機会ならばとテラの話題は日乃和の歴史に移った。聞かれた結城はどこから話したものかと些か迷っていたようだが、結局は成り立ちから話す事にしたようだ。
 日乃和の古くは神皇と呼ばれる王族が国を興し統治したところから始まり、神皇の血筋は現在にまで続いているという。近代では政の実権は国会に移譲されている。政治体制はUDCアースの日本によく似ているものだった。その後は小難しい史実の話しが続き、人喰いキャバリアの侵略が始まるまでは比較的平穏な技術と経済の先進国であったという締め括りで語りは終了した。
「なるほど、分からん」
 テラは話しの途中から腕を組んで唸っていた。
「ごめんなさいね、語り部は不得手なものでして」
 結城は変わらず薄ら笑いを浮かべている。
「まぁあれだ、その……折角超長い歴史があるんだから、途切れないようにしないとな」
「はい、そうですわね。古の先祖より受け継いで来た土地、そして民、どちらも守り抜かなければなりませんわ」
「うんうん」
 頷くテラの肩に乗っている黒い子猫が大きく欠伸した。紡がれている歴史の明暗はまだ定かではない。だがテラとヘカテイアが戦った記録は、その末端に確かに刻み込まれる事だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
あれだけの激戦でしたからね。
猟兵主体とは言え負傷者もでるか。
まぁ、しないといけないこともないし。
うん、場所を借りて医者の真似事でもしようかな。
<臨時診療所>を展開するですよ。
死んでさえいなければ何とかなる!
重症者もメディカルマシーンに入れておけばいい。
帰還にはまだまだ時間はかかるだろうしね。
母港に着く頃には通常の治療で済むところまで治るはず。
軽傷は医療魔法でサクッと治す。
病気の類はナノマシンをぶち込んでおけばおーけー。
生活習慣病?
ヤバい場合はナノマシンを処方するけどさー。
基本的には生活を見直すべきだと思うですよ?
まぁ、医者じゃないからうるさくは言わないけどさー。
ところで義体化に興味ない?



●医務室での戦い
 南州第二プラントを巡る戦闘は終了した。物量を質で押し返し、駄目押しの物量の波を退けながらの撤退戦で猟兵は兎も角、日乃和軍の工作部隊を護衛していた予備戦力部隊には相応の被害が生じていた。損失は軽微。だが無傷ではない。少なかれど死傷者が出ている。それらは大鳳艦内の医務室へと移送されていた。
「治療するっぽい! 死んで無ければなんとかなる!」
 手術衣に着替えた鬼燈は衛生班に紛れて医療業務に携わっていた。大鳳が香龍都の港口に到着するまで特にやる事がなかったため、気紛れで医師の真似事をするつもりでいた。医療に人手が多過ぎて困るという事は無い。技術があるのならば歓迎すると大鳳の衛生班に言われた鬼燈は、医務室の一角を間借りしてユーベルコードによる臨時診療所を展開していた。
「重症患者はメディカルマシーンにぽいっと」
 コクピット内で敵に齧りつかれたのだろうか、四肢がかなり悲惨な状態になっているキャバリアパイロットに即効性の麻酔を打って眠らせるとそのまま担ぎ上げ、緑色の液体で満たされた培養槽型の医療設備の中に放り込んだ。
「港に着く頃になれば形だけは元に戻ってるでしょー」
 培養槽の上蓋を閉じると次なる患者の処置に取り掛かる。薬を塗って包帯を巻いておけば良い程度の軽傷者には次々に医療魔法を施す。金属片が強化服のスマートスキンを突き破って肉に食い込んでいる痛々しい患部には、手早く金属片を抜き取った後に傷口をすぐに医療魔法で塞いで痛みを緩和しながら治療を行う。
「それにしても、みんな僕と同い年っぽい人ばかりなのですよ。体力が有り余ってるお陰でオペしやすいんだけども」
 医務室に担ぎ込まれている人員だけでも年齢層は十代から二十代に集中している。更に言えば女性の割合が明らかに多い。医務室はこの国の縮図なのだろうなと鬼燈は言外に付け加えた。
「すいません、この子を頼みます! ついさっきやっとコクピットから出て来れたんです!」
 キャバリアパイロットの少女が同年代の少女に肩を貸しながら医務室へと入ってきた。肩を担がれている少女を見れば呼吸は荒く、赤黒い血液が滴る強化服はあちこち引き裂かれ肌が露出している。日乃和で普及している皮膚密着型の強化服の保護被膜は小銃の至近射撃を受けても貫かれない。それが破られているのだから相当なダメージを受けているのだろう。付き添いの話しと合わせるにこれはコクピットに直撃打を貰ったなと見立てを付けた鬼燈は、負傷した若いパイロットを衛生班と共にベッドへと仰向けに寝かせた。
「い!? あ゛っ! 腕がぁ! 痛いの、足も、息も……助けてぇ……!」
「わーお、思ったより重症っぽい」
 少女はまな板に上げられた魚のように口を開閉して荒々しく胸を上下させている。時折咳き込んでは血を吐き出す。頭部から顔にかけて大きな裂傷痕が走り、腕は骨ごと潰され、足はあらぬ方向に折れ曲がり、肋骨は砕けている。プレスされる寸前を強化服の保護能力で踏み止まったのだろう。
「これは……肺に骨が突き刺さっていますね。すぐに開胸して処置をしないと……」
「お任せくださいなのですよ。すぐ終わるから全身麻酔はちょっとだけでいいっぽい。眠ったらパイロットスーツを脱がせてあげて」
 少女の有様を見て冷や汗を滲ませる衛生班とは対照的に鬼燈は気楽な様子だった。打った全身麻酔の作用で昏睡したのを確認すると、慣れた手付きでメスを握る。強化服を脱がされた少女の双丘の間に冷たく光る刃を走らせる。皮膚を切り開いて肺に食い込んだ肋骨の欠片をものの数秒で除去すると、衛生班が目を丸くしている間に滑らかな動作で縫合を終えた。
「はいオッケー、後はメディカルマシーンに入れてナノマシン漬けにしとくだけですよ」
「他の傷口の縫合は?」
「いらないいらない」
 衛生班の言葉を背後に鬼燈は血塗れの少女を担いで培養槽に放り込んだ。ナノマシンの液体に浸されて数分後、少女は昏睡から覚醒を果たした。目を覚ましたら水中だったという予期せぬ事態にパニックを起こすも、鬼燈がガラス越しに宥める事で一旦の落ち着きを取り戻した。
「おはよーなのですよ。もう大丈夫だけど傷跡は残るっぽい。ところで義体化に興味ない?」
 透明な壁一枚を隔てた相手に突然掛けられた言葉に少女は暫く硬直するも、口から空気の泡を溢しながら首を大きく横に振った。
「それは残念。じゃあ次行ってみましょー」
 鬼燈の血塗れの戦後処理はまだ続く。鼻腔に染み付く血生臭さも、はみ出た肉や臓腑も、彼には意識以上のものを向けるほどですら無い。悪鬼羅刹は時に刃を振るい時に魔術を駆使し、死や痛みという敵を捩伏せる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菫宮・理緒
【ガルヴォルン】

せっかくの機会だし、ここは大鳳さんのメカニックの人といっしょに、
船体や機体の修理をしながら日乃和の技術を教えてもらおう。
このために【ワークステーション】持ってきたんだしね!

軍事機密に触れないくらいで、教えてもらえると嬉しいな。
次に来たときにスムーズに整備に入れるしね!

なるほどなるほど……。
いろんな世界に行ってるけど、どこの世界も修理の基本はかわらない、ねー♪
これなら次回はもっと早くメンテナンスとかできそう。

ね、ね。こっちも直していい? あ、あとこっちもやっちゃっていい!?
改造とかはしないから、いじらせてー!

……してもいいなら、しちゃうけど!

え? ダメ? あはは、だよねー!


渡月・遊姫
さて、戦いの後は観光やね。せっかくやから、さっきのすとらいだー? 戦艦(ふね)の中を見学させてもらおかな。

え、その前に胸をしまえ? もう、しゃあないなあ、せっかくのワガママボディやのに(ボディスーツのファスナーを上げる)

さて、どこが面白いかなあ.....遊姫、自爆装置とか探してみる?
(遊姫から猛烈なツッコミが入る)
はいはい、そないなら、カジノとか売店とか、楽しそうな場所探してみよか。ブリッジで記念撮影とかさせてもらうんもええなあ。
というわけで楽しそうな場所を探してピチピチボディスーツでストライダーを徘徊するで。

連携、アドリブ歓迎


ミスランディア・ガルヴォルン
【ガルヴォルン】
「やれやれ、生体キャバリア、やっかいじゃのう。
まあ、戦闘データは取れたので、わしは、いつ艦長が帰ってきても大丈夫なように準備を進めておくかの」

新型キャバリアの設計図が表示されたモニタを消すと、艦長室を後にし、戦いに協力してくれた遊姫殿を迎えに出るとしよう。

「改めて挨拶しよう。
わしはミスランディア。
このワダツミ級戦艦ストライダーの艦長代理じゃ。
艦の中が見たい?
うむ、自由に見てくれて構わんぞ」

機密区画は厳重にロックしておるから大丈夫じゃろう。

さて、わしもしばらく休息するかの。
艦の甲板に出て、釣り竿から釣り糸を垂らして海釣りと洒落込もうかの。
今晩は魚料理じゃ。

趣味:釣り
好きなもの:魚



●モーター・プリパラタ
 日乃和が誇る新鋭空母、大鳳。特殊大型兵器の運用すら視野に含まれていると噂されるその船体の大きさは、日乃和海軍の従来の空母を軽く凌駕している。故に飛行甲板直下に内包する格納庫も広く長大だった。
 現在大鳳の格納庫には猟兵の機体の他、工作部隊を護衛するための予備戦力のキャバリアが駐機されている。いずれも最後の撤退戦で多かれ少なかれ損害を受けており、整備班が総出で修復作業に当たっていた。
 慌ただしく格納庫を行き交う整備班に紛れ、機体修理に取り掛かろうとしている理緒の姿があった。
「これは……早速ワークステーションが役立ちそうだね」
 理緒の目の前には大破と中破の間程度に破壊されたオブシディアンMk4が膝を付いた格好で駐機されている。理緒を案内していたメカニック曰く、この機体は修復後に部品取りとして解体されるのだと言う。日乃和の技術の吸収を狙う理緒にとって都合の良い好機と言えた。
 理緒は搬入していたワークステーションより工具類を取り出すと、整備班より解説を受けながら修理を始める。
「なるほどなるほど……前に白羽井小隊のオブシディアンMk4を整備したけど、構造はまるっきり同じなんだね。内部設定が違うだけかな?」
 まるで親の顔より見た部品と言わんばかりに手際良く分解と修理を進めて行く。なにせ理緒はかつて愛宕連山で繰り広げられた初戦で短期間の内に何機ものオブシディアンMk4を応急修理していたのだから。マニュアルなど見ずとも指先がパーツの構成を記憶していた。
「いろんな世界に行ってるけど、どこの世界も修理の基本はかわらない、ねー♪」
 頬に付いたオイルを拭いながら六角レンチを回しキャップボルトを緩める。破損が著しい箇所はプラズマ溶断機で切断するかサンダーで削り落として除去する。猟兵である理緒はキャバリアの整備技術だけではなくスペースシップワールドやその他様々な世界のメカニックスキルを有している。結局のところどの世界でも同じような進化を遂げた人間のテクノロジーが生み出した機械には、癖とも言うべきある一定の法則や傾向が存在する。どこがこうなるからそうなっているという理屈は直感的に理解出来ていた。とはいえそれも理緒個人の技術力と経験があってのことだろう。
「はい、終わりっと。次は? あっち?」
 早々に一箇所目の修理を終えると、すっかり助手扱いとなってしまった大鳳の整備班に次の修理箇所を問う。だが答えが返って来る前に理緒は自身でおおよその分析を終えていた。
「ね、ね。こっちも直していい?  あ、あとこっちもやっちゃっていい!? 改造とかはしないから、いじらせてー!」
 目を輝かせて捲し立てる理緒に気圧された整備班の面々は存分にどうぞと言う他に無かった。
「え? もしかして改造もいいの?……してもいいなら、しちゃうけど!」
 暫し顔を見合わせる整備班達。たぶん止めても止まるまいと考えた彼らの返事はまたしても存分にどうぞだった。
「本当にいいの? それじゃあ遠慮なく! やっぱりこのぐらい壊れてる方が、弄り甲斐があるよねー!」
 お墨付きを貰った理緒は心置きなく改造修理分解に没頭する。ワークステーションからは底なしに工作道具が引に出される。ひょっとしたら四次元に繋がっているのかも知れない。大鳳が香龍都の港に到着するまでの間、格納庫の一角では理緒がひたすら機体に取り付いていたという。

●ストライダー
 南州第二プラントの攻略を終えたワダツミ級強襲揚陸艦ストライダーは、三笠と大鳳と共に帰還の途に就いていた。全環境対応エンジンによって飛行も可能な艦艇だが、現在は省電力化と艦長代理のとある目的のため、船体の下半分を着水させた状態で海上を航行している。白波を切りながら進む姿は、ヒレのような安定翼を持つ船の形状と相まって巨大な海洋哺乳類を想起させた。
「やれやれ、生体キャバリア、やっかいじゃのう。近頃は日乃和に限らずあちこちで頻発しているようじゃが」
 ストライダーの無機質なメインブリッジでミスランディアが誰に聞かせるでもない言葉を呟いた。機動戦艦ストライダーの管制を司る人工知能の彼女は、現在レプリカントの義体に機能を移し替えている。
「まあ、戦闘データが取れた分には良しとするがの。後はいつ艦長が帰ってきても大丈夫なように準備を進めておこうかのう」
 ミスランディアが見つめる先は海ではなくメインモニターだった。表示されているウィンドウの中には、新たなキャバリアの設計資料と思しきものがあった。
「まったく、我らが艦長はどこをほっつき歩いとるんじゃろうな。悪い男に騙されてなければよいが」
 本来艦長の役を担うはずの者はここにはいない。暫く前に飛び出して行ったその者の顔を記憶情報から引き上げながら、ミスランディアはモニターに表示されている設計図を眺めていた。
「邪魔するでーって、ノックしようとしたら勝手に開いてもうたわ」
 沈黙を破ったのは艦橋と外界を隔てる扉の開閉音と遊姫の肉体に憑依したジョーカーの声だった。ミスランディアは特に動じる様子も無くウィンドウを閉じると、モニターを外部景観表示モードに切り替えた。
「おろ? なんか見とったの?」
「うむ、キャバリアの設計図をな」
「ほーん」
 ミスランディアが落ち着いた声音で答えながら振り返る。そこには胸元を大きく解放させた皮膚密着型スーツ姿の遊姫が立っていた。
「よく来てくれた、遊姫殿、ジョーカー殿。改めて挨拶しよう。わしはミスランディア。このワダツミ級戦艦ストライダーの艦長代理じゃ。先程の戦いでの助力、誠に感謝する」
「いえっこちらの方こそ……」
「そな畏まらんどいてぇな」
 遊姫とジョーカーが立ち代わりに喋るため表情と口調の変化が忙しい。
「んで艦長……ちゃう、艦長代理はん、せっかくやからこの船の中観光したいんけど、ええかな?」
「うむ、機密区画以外ならば自由に見てくれて構わんぞ。わしが案内しよう」
 すんなりと要望が通りこれは幸運とジョーカーが笑みを浮かべる。
「さて、どこが面白いかなあ.....遊姫、自爆装置とか探してみる?」
「やめなよスパイじゃないんだから!」
「冗談やって」
「あるぞ? 試しに起動してみるかの?」
「なんやて?」
「え?」
 真顔で答えたミスランディアに遊姫の表情が固まった。
「なあに、冗談じゃよ」
「艦長代理はん、人が悪いで」
「ジョーカーが変なこと言うから……」
 一瞬本気にして肝を冷やしかけた遊姫とジョーカーとは裏腹に、どこまで本当に冗談だったのか定かでは無いほどミスランディアは冷静に振る舞う。
「せや、船ん中見て回る前にブリッジで記念撮影とかどうやろ?」
「わしは構わんぞ。撮るならモニターを背にした方が良いじゃろうな。日乃和の海の景色はなかなかじゃぞ」
「ほな撮らしてもらうからちょいとそこで待っとってな」
 そうと決まれば早速とジョーカーは携帯端末を取り出してカメラモードに切り替える。適当なシャッタータイマーを設定すると艦長席に置いてミスランディアの隣に並び立った。数秒後にシャッター音が切られるとジョーカーは携帯端末を回収した。
「おっし、よく撮れとるな」
「……スーツの前、開けたまま撮っちゃったの」
 満足気なジョーカーに反して遊姫の表情は複雑そうだった。写真画像を見ればボディスーツのフロントファスナーを下腹部まで大胆に下ろし、豊かな双丘を主張する遊姫の姿がしっかりと映っていた。
「別にええやない。せっかくのワガママボディやのに」
「よくない!!!」
「そないムキに怒らんといてえな。もう、しゃあないなあ」
 遊姫の抗議に遭い渋々といった様子でジョーカーはファスナーを引き上げた。胸元に差し掛かった際にかなり息苦しくなったが半ば無理矢理押し込んで首の下まで閉め切った。
「さーてぼちぼち行くかいな、ミスランディアはん、案内よろしゅう頼むで」
「よいじゃろう。先に言っておくがストライダーは広いぞ。レクリエーションルームから売店もある」
「そりゃ楽しみやな。はよ連れてってや」
 遊姫はミスランディアに連れ立たれてメインブリッジを後にした。その後は立ち入り禁止区域を除く艦内設備の隅々まで堪能し尽くす事となる。なお行く先々でしばしば遊姫の身体がクルーの視線を集めていた。体型のラインがはっきりと浮き上がる皮膚密着型のボディスーツであちこち徘徊したのが主な原因だろう。内心赤面する遊姫など知らずに、ジョーカーは自慢のワガママボディを目に焼き付けておけと言わんばかりに堂々と胸元を揺らし歩き回っていた。
 二人は格納庫まで見学し終えると、船体中央部にある巨大なエレベーターデッキから長大な飛行甲板に上がった。そこでミスランディアは休憩がてら釣り糸を垂らし始める。これこそが先に述べたストライダーを海上航行モードに設定している理由だった。
「そない簡単に釣れるんかいな?」
 海釣り用のリールロッドでキャスティングしているミスランディアの横で、ジョーカーは甲板の縁から投げ出した足をぶらつかせている。
「この辺りは海洋資源が豊富らしいでの。ほれ、大鳳の甲板を見るんじゃ」
 遊姫は勧められた通りにストライダーの横を並走している大鳳の甲板を見た。目を凝らして見れば甲板上で何名かの船員がミスランディアのように釣り糸を垂らしている姿が見受けられる。中にはヒットを得た者もいるようだ。遠目からでも分かるほどの大物を釣り揚げている。
「ほー、なんかでっかいの釣っとるなぁ」
「あれはマグロかカツオじゃな。日乃和の海は獲っても獲りきれんほどに大物がうようよしとるらしいの。適当に網を投げ込むだけで何かしら掛かるとも聞いた……ぬお?」
 ミスランディアが握るロッドの先端が大きくしなり、リールのドラグが作動してラインが急激に引き出され始めた。すぐさまロッドを引っ張りながらリールを巻き上げる。だが食い付いた魚は右へ左へと泳ぎ回り、逆にミスランディアを海の中へ引き摺り込もうとする。
「噂をすればなんとやらでこりゃ大物じゃな! 遊姫殿! いやジョーカー殿か? 手を貸してくれんか!」
「手!? えっとどうすれば……」
「腰支えとくさかい! 踏ん張っときや!」
 一歩間違えれば海に転落しかねない程の強い引きに堪えるミスランディアの腰へジョーカーが両腕を回す。二人がかりとなってもまだ力の均衡は危うく、気を緩めれば二人共々海に落下しかねなかった。
「なんやこれ! サメでも釣ったんかいな!」
「いいや、鮫ならラインが切られとる。じゃがこいつの暴れ具合と速さは……」
 ミスランディアが言い掛けた瞬間、遠方の海面に盛大な飛沫が上がった。同時に巨大な背鰭を持った魚の姿が空中に躍り出た。
「やはりバショウカジキか。それにしても大物どころか怪物級じゃな」
「なんや偉い派手なのがかかったなぁ」
「長期戦は必至じゃな」
 魚が大きな水柱を立てて海中に没すると、ロッドはより一層激しく左右に振られ始めた。ミスランディアと彼女を支える遊姫は手に汗握る格闘戦を強いられる事となる。大海原で予想外の大物との激戦が繰り広げられたその日の晩、ストライダーの食卓にはバショウカジキのフルコースが登ったという。

●船旅の終わり
 日乃和の夏は陽が長い。直上で輝いていた太陽が西へ傾いた頃、水平線上に陸地が見えた。大鳳と三笠の母港のある香龍都だ。
 遥か遠方から肉眼でも確認出来るほどの摩天楼が密集してそびえ立つ巨大都市。国の経済と政治の心臓部は、知る者にとってどこかUDCアースかヒーローズアースの東京を彷彿とさせた。巨大都市に相応しく仰々しいまでの港湾に大鳳は進入すると、タグボートと作業用の水陸両用キャバリアに牽引補助を受けながら係留施設に横付けした。これで本作戦に於ける全ての行程は完遂された。猟兵達は各々帰るべき場所への途に就くだろう。
 港では日乃和海軍の高官達と東雲官房長官を含む政府関係者が肩を揃えて待っており、報道機関各社が人の壁を形成してシャッターのフラッシュを無遠慮に焚き続けていた。衆人監視の下、大鳳艦長の葵結城より略式の作戦結果報告がなされ、猟兵達には予め其々が希望していた形での報酬が引き渡された。東雲官房長官から形式張った謝辞の言葉が述べられ、南州第二プラントの停止という偉業を実現した猟兵達には民衆から拍手喝采が浴びせられる。
 与えられた報酬と栄誉がどれほどの価値を持つものか、それは猟兵個人個人の意思に依るところだろう。いずれにせよ本作戦の成功で日乃和は延命するための得難い時間を手に入れた。それは如何ほどの金銀財宝より重い価値と輝きを持つ。その輝きはやがて民衆の心にも光を宿す。いつか大きな絶望を打ち払う光を。

●舞台裏で疑念は蠢く
 南州第二プラント奪還が果たされたその日の深夜、大鳳の艦内は無人の空間となっていた。今回の作戦で受けた損傷の完全な修復と総点検のため、翌日からドッグ入りする予定となっていたからだ。ひっそりと鎮まり返った薄暗い艦内。無人であるはずのそこで、女性の声が響いていた。
 「了解しました。そうでしょう、当面は大鳳の機密区画でお預かり致しますわ。では」
 落ち着いた和風の調度品でまとめ上げられた艦長室には柔らかな光量の照明が灯っていた。長机を前に椅子に座る女性は入浴後だったのだろうか、バスローブに包まれた白くきめ細かな肌は湯気を帯び、長く艶やかな濡羽色の髪は雫を滴らせている。纏う香は石鹸のそれだった。空母大鳳の艦長、葵結城は手にしていた受話器型の通信機を降ろすと深い溜息を吐き捨てた。
「南州第一並びに第二プラントの電力供給停止は成功、そして我が艦はかつて南州陥落時に天馬基地から搬送に失敗した機密物質の回収にも成功……まったく、恐ろしいほどに都合良く事が運びましたわね」
 結城は虚に視線を漂わせ、濡れた黒髪を人差し指で巻き付けて弄ぶ。
「猟兵様の助力を取り付けた時点で、こそこそと動く由など無かったでしょうに。外の人間はそれほど信用できなかったと仰るのでしょうか。私からすれば、背広組こそ信用なりませんわ」
 椅子からゆっくりと立ち上がると緩慢な歩みでベッドへと向かい、バスローブをその場に脱ぎ落として背中をベッドに投げ打った。疲労した身体が重く沈み込むと、すぐに反発作用で浮き上がらせられる。仰向けになったまま片腕で目元を覆う。
「そもそもが機密物資だなどと大袈裟なのです。たった一機のキャバリアをそこまで丁重に運び込まなければならないものなのでしょうか、若人を生贄に捧げて……猟兵様に猜疑の眼差しを向けられる可能性さえ及ぼして……まるで何かに取り憑かれているかのよう……」
 愚痴に答える者はいない。腕をどかせば木目調のよく見知った天井が見える。
「如何に強力なキャバリアだったとしても、今の日乃和に光明をもたらすほどの物とは到底思えません。戦略兵器を搭載している訳でもない。利権が絡む訳でもない。政に影響を及ぼすでもない。まさか単にあの機体が可愛いだけなのでしょうか? 結城には何一つ解せませんわ」
 琥珀色の瞳に光は無く、疑念の影ばかりが渦巻いていた。やがて微睡が這い寄るまで、結城はずっと心なき虚に視線を漂わせていた。南州第二プラント奪還作戦は因果の鎖。そして因果は猟兵達の元で新たに連鎖する。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月14日


挿絵イラスト