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色彩に眠る黒

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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 美しい歌を唄い、幸せを祝福してくれる。
 鮮やかな色の光を見せて、世界を楽しく彩る。
 そんな存在に愛されたかった。私は、愛していたから。
 けれど、愛されなかった。
 だから──闇の奥に眠って、この世界を変えよう。
 全てが美しいもので満ちるように。もう何も、つらい思いをしなくていいように。

「お集まりいただきありがとうございます。本日は、アルダワ魔法学園──その迷宮へ向かっていただきたく思います」
 グリモアベースにて、千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は皆を見回す。
 用件はオブリビオンの討伐。
 迷宮の奥に眠るその存在を斃す為、地上から進軍し奥部を目指してほしいと言った。
「目指す敵は奥深くに位置します。道中にも数多くの敵がいることでしょう」
 またオブリビオンの影響で、迷宮自体の構造も特殊なものに変化している。
「それらに警戒しつつ、迷宮の攻略をお願いいたします」

 迷宮について判っていることを、とレオンは続ける。
「道が複雑というわけではありません。距離は短くはありませんが、奥部に行くまでに方向に迷うといったことはあまりないでしょう」
 問題は迷宮内に満ちる“あるもの”だという。
「それが“蒸気”です」
 視界を完全に塞ぐというものではないが──何か魔的な力を含んだものらしい。
「先んじて立ち入った生徒の方がいたらしいのですが……その方は“幻を見た”と仰っているそうです」
 他にも、幻ではなく実際に誰かに逢ったと言っている者もいるらしい。
「何か特殊な作用を含んだ霧か、それ自体が魔法なのか……詳細は判りません。何にせよ警戒して当たるべきでしょう」
 ここを突破すると、奥部を守る集団のオブリビオンと戦うことになるだろう。
「そこに出てくるのは『眠りネズミ』という敵であることが判っています。催眠や精神に働きかける能力に特化した個体なので、注意して当たると良いでしょう」
 集団を退けることができれば、目指すオブリビオンと戦える。
 強力な敵であることが判っているので、最大限の力をもって撃破してください、と言った。
 レオンはグリモアを煌めかす。
「では、参りましょう。戦いの場へ」


崎田航輝
 ご覧頂きありがとうございます。
 アルダワ魔法学園の世界での迷宮攻略となります。

●現場状況
 迷宮は蒸気に満ちています。自然や人工的な色合いの風景が混在するあべこべな空間ですが、基本的に蒸気で明瞭には見えにくい状態です。

●リプレイ
 一章は迷宮を奥深くまで進むことが目的です。
 内部は蒸気に満ちていて、触れると“求めたけど手に入らなかったもの”が本人の目に映ります。物体・概念問わず足止め、ないし精神攻撃を仕掛けてくる形を取ります。
 またそういったものが無くても何らかの形で幻は出てきます。
 精神的、物理的に克服することが対策法になりそうです。

 二章は集団戦。こちらを眠りの世界の誘う敵との戦いになります。
 三章はボス戦。鎮座するのは、精霊に愛されなかった少女のオブリビオンです。
 二章や三章からでもご参加頂ければ幸いです。
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第1章 冒険 『蒸気で満ちた迷宮を』

POW   :    蒸気を物ともせず、勢いで突き抜ける

SPD   :    なんらかの技か方法で蒸気を無効化し、先に進む

WIZ   :    蒸気が吹き出る原因などを取り除き、先に進む

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナナ・モーリオン
……もくもく、もくもく。
見づらいね。
でも、ボクは……ボクたちは、鼻も、耳も利くから、大丈夫(野生の勘)。
往こう。
眠れずに、過去から滲み出てきた子……ぐずってるのなら、また眠れるように。

……?
(目に映るのは無数の亡霊や人魂たち)
……ボクたちが、命が、憎い?そうだろうね。
ボクたちに、キミたちは救えないよ。
キミたちは……キミたちも、ボクも、いくら望んでも、戻ってくることはできないんだ。
だから……ごめんね。ボクは行くよ。
これ以上、キミたちのような人を、無暗に生み出さないために。

だから……キミたちは、ここで眠っていて。



 外光が届かなくなると、見えるのは靄ばかりだった。
 迷宮内部。
 そこは不思議な温度に満ちている。
 ひんやりとした空気に触れているようでありながら、寒気は覚えない。どこかあたたかな気持ちにもさせるけれど、暑さとは無縁。
 ただ深い闇に入っていっている──その実感だけが確かな空間。
 そして漂うのは、淡く視界を覆う蒸気だ。
「……もくもく、もくもく。見づらいね」
 ほわりとした声音と共に、その中を歩む少女がいる。
 ナナ・モーリオン(眠れる森の代理人形・f05812)。風とも凪とも言えない空気に銀髪を少しだけ揺らして、歩いていく。
 見通しは悪く、進んでいる方向も時折判別しづらくなるほどではあったが──。
「でも、大丈夫だよね」
 紅桔梗の瞳が横を向く。
 傍らには黒炎の大狼がいた。ナナよりも大きな体は、靄の中でも標のような存在感がある。
 この子と一緒なら耳も鼻も利く。
 元よりナナは、常人では垣間見えない死霊と交信する力を備えている。だから薄闇の只中でも、完全な孤独にはなり得ないのかも知れない。
 故に惑わず歩みゆく。
 往こう、と。
「眠れずに、過去から滲み出てきた子……ぐずってるのなら、また眠れるように」 
 と、直進していくと視界に瞬く物があった。
「……?」
 ナナは少しだけ瞳を細める。
 人ではない。それだけ意識すると、それが何かすぐに気づいた。
 揺蕩う淡いゆらめき。言葉にできぬ啼き声を零す歪み。
 ──無数の亡霊、そして人魂。
「……」
 この迷宮は、幻や失われてしまったものを見せるらしい。
 だから、あれもそうなのだろう。けれど、ナナにとってそれが幻かどうかを確かめることに意味はなかった。
 霊も魂も、いつだって世界を漂い、さまよっているから。
「……ボクたちが、命が、憎い?」
 ナナは問いかけた。
 それらはまるで呪いの言葉のように何かを訴える。
 そっと、ナナは頷きを返した。
「そうだろうね。でもね。ボクたちに、キミたちは救えないよ」
 伝えるのは紛うことのない真実。
 無限の魂が、ナナを自分達の方へ引き寄せる──それに後ろ髪を惹かれないように。
「キミたちは……、キミたちも、ボクも、いくら望んでも、戻ってくることはできないんだ」
 小さく首を振って。
 突き放すというよりも、寄り添って語りかけるようでもあったろうか。
 故に自分は前に歩んでいるんだと伝えるように。
「だから……ごめんね。ボクは行くよ。これ以上、キミたちのような人を、無暗に生み出さないために」
 ──だから……キミたちは、ここで眠っていて。
 薄っすらとした光も、透明に揺れる陽炎も、気づけば消えて無くなっていた。
 それが、侵入者を惑わず幻を振り払ったということなのかどうかは、定かではない。けれどナナは前へと歩を進める。
 ほんの少しだけ、視界が開けるようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
これが、地下迷宮。
初めて入ります。

中はふしぎなあべこべ空間
面白いな、と持ち前の旺盛な好奇心に駆られ
その中にひとつ、明るい灯りの差す窓を見つける
それは昔焦がれたもの
雪に閉ざされた村の中で
寒い外から覗き見たことがある、あたたかな『家』
自分に帰る家はなく、それはけして手に入らなかった

でも今は、
今でも帰る場所はないけれど、それでも
あたたかなものをひとつ持っている
だいすきな人がくれたお守りの石を握って
あの人のような赤い炎を練り上げる
幻生む蒸気を熱で撒いて、散らして、先へ進むよ

大丈夫。なつかしいものを、見ただけです
ずっと忘れていたものだから
見せてくれて、ありがとう。



「これが地下迷宮。何だか、ふしぎ──」
 少年の純な声音が薄靄に反響する。
 こつりこつりと足音を響かせて、ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)は進む。
 足元は宮殿を思わせるような、光沢のある床だった。
 けれど、少し歩めばいつの間にか岩肌にすり替わる。足を取られないようにそっと歩みを続けると、今度は石畳。そして気づけば草原だ。
「面白いな──」
 それを見つめるおおきくて深い瞳には、持ち前の旺盛な好奇心が浮かんでいた。
 迷宮に入るのは初めてだから、というのもあるだろう。
 その気持ちに駆られるままに視線は右左。ユハナは止まること無く、壁から生える樹木や頭上に波打つ水面、屋根で出来た地面を眺めていく。
 と、蒸気越しの景色の中にひとつ、光る物があった。
 ユハナは自然と、視線を吸い込まれている。
 それは目が眩むほどの光じゃない。
 明るい灯りの差す窓だった。
「ここは……」
 意識せず足を止める。
 そうだ、と思い至っていた。
 木造か、レンガ造りか。それすら判然としないのに、それが昔焦がれたものなのだとユハナには否定のしようもない。
 雪に閉ざされた村の中で、寒い外から覗き見たことがある──あたたかな『家』。
 入ってみたくて、けれど叶わなかったもの。
 願ったけれど、決して手に入らなかったもの。
 だからユハナはそこに触れたくなった。そしてその中に足を踏み入れたくなった。
 灯りに照らされたあの場所は、きっと温かいだろうから。その中でまどろめば、きっと幸せだろうから。
「──」
 けれどユハナは、それに手をのばさない。
 今だって帰る場所はないけれど。それでも自分は、あたたかなものをひとつ持っているから。
 手に握ったのは、大好きな人がくれたお守りの石。
 深くて美しい色のそれをぎゅっと握って、練り上げたのはあの人のような赤い炎。
 あたたかく灯すように。
 闇も靄も照らすように。
 幻を生む蒸気をその熱で撒いて、散らして、ユハナは前を見る。
 そこにはもう光の差す窓は無かった。
 こつりと足音を再開させる。揺らめく炎の温度に、ユハナはそっと呟きを落とした。
「──大丈夫。なつかしいものを、見ただけです」
 ずっと忘れていたものだから。
「見せてくれて、ありがとう」
 僅かにだけ振り返ってユハナは言った。
 それきり先へ進む。足も、視線も、心も前へ。
 収めた炎の残滓があたたかくて、それが心強かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茲乃摘・七曜
心情
私には何が見えるのでしょう?

幻影
造物主の老人
七曜の原型の家族、姉と慕い、妹と憂い、娘と愛し、求めた誰か
「やはり、記憶にありませんね
「…これは私が求めたのか求められたのか
「ただ、私は応えたくはあったのでしょう

行動
幻影の言葉を受け入れ聞き入れ迷宮の奥へと進む
※進むほど老人が若返り過去に遡る
「すまなかった。別の名前で生きてくれ…七曜

「…なぜ、私は満たされないんだ?
「…もう一度、名前の呼び方から始めよう

「…支払ったものは大きいが目途は立ってきたな
「…しかし、ずいぶんと姉さんの歳を超えてしまったな

「…もう、会えないって何だろう?
「…姉さんのミレナリィドールを作ろう!

蒸気対策
反響の福音で構造を探り歩く



 蒸気に彩られた世界は、茫洋としている。
 全ての色を混ぜ合わせたかのようで、明るくもなければ真闇でもない。
 その中に一人、艷やかな黒色を見せる影があった。
 茲乃摘・七曜(魔術人形の騙り部・f00724)。敵の牙城でも穏やかな歩幅を崩さず、仕草も何処か気品を失くさない。
 優美な造形のワイドブリムが黒百合を靡かせて、雅やかであるほどだった。
 口元に見える表情も穏やかなもの、だが──その心では気になっていることがあった。
「──さて、何が見えるのでしょう」
 靄に満ちた迷宮は、本人の内奥を映し出すという。
 過去の記憶が欠落している七曜は、それを見てみたくもあったのだ。
 だから緩やかに視線を巡らす。靄が何か意味のある形を取りはしまいかと。
「何も無い、ということは無いのでしょうが……」
 と、ふと呟きを零した時。
 視線の先に一人の老人が見えた。
 幻だとはすぐに判った。歩みを進めても像が消えることがなかったからだ。
 一見では、見たことのない人物だった。
 当然のこととして考えつくのは、古い知り合いだということ。或いは親類のようなものかも知れない。
「……やはり、記憶にありませんね」
 顔をよく観察しても、即断できない。
 全てが判然としない中で……しかし七曜にはまだ何かが見えるという予感だけがある。
 すると老人が瞑目するように、静かな声を紡いでいた。
『すまなかった。別の名前で生きてくれ……七曜』
 七曜は自分でも判らぬ内に、ええ、と応えて歩み進んでいく。そうすると──彼の姿が少しずつ若返っていく。
 まるで時間を遡るように。
 老人だった彼は壮年になり、どこか悲壮な表情を浮かべていた。
『……なぜ、私は満たされないんだ?』
 何かを成し得たようでも、逆に何かに挫折を感じたかのようでもある。老齢にはまだ先の、しわがれ始めた声に苦悩が滲んでいた。
 彼は首を振り、微かにだけ生気を籠めた声でいう。
『……もう一度、名前の呼び方から始めよう』
 彼が何かを言うと、七曜もまたそれに受け答えをするように言葉を発していた。
 そのまま足を動かしていくと、さらに彼は若返っていく。
 中年、そして青年とも言える年齢へ。
『……支払ったものは大きいが目途は立ってきたな』
 声音にはまだ才気が含まれており、何かの希望を抱いているような心が感じられる。
 そして彼は笑顔さえ垣間見せて、七曜と自分を眺めていた。
『……しかし、ずいぶんと姉さんの歳を超えてしまったな』
 未来を見たわけではないだろうけれど──その言葉の中に少しの陰りを含んで。
 七曜はいつしか、彼が若者と表現できる年齢になっていると気づく。
『……もう、会えないって何だろう?』
 そういう彼の声音は、まだ本当の哀しみも知らぬような、あどけなさの残ったものだ。
 そして彼はいつしか決断する。
『……姉さんのミレナリィドールを作ろう!』
 七曜は、それが自分自身の記憶なのかどうかとも、確かなことは言えなかった。
 けれど、この蒸気は求めたものを見せるという。
 自分が求めたのか、或いは求められたのか。
 ただ、この幻を見たことに理由があるとするのなら。
「私は応えたくはあったのでしょう──」
 不思議と、言葉が零れた。
 七曜は反響の福音(エンジェルスビットオーケストラ)を唄う。
 蒸気機関式拡声器は美しい歌声を反響させて、まるでレーダーのように通路の構造を詳らかにしてしまう。
 だから七曜は迷わなかった。足取りを一切淀ませずに。
 帽子の下で、瞳に如何な感情があるかだけは──誰にも知れなかったけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェレス・エルラーブンダ
【POW】
自分のことすら救えない
奪うことでしか生き永らえるすべを知らない奴に
『世界を救え』なんて、どうかしてる

なのに……私はどうして、此処に立っているのか

腰にカンテラ
ボロきれを頭まで深く被り出来るだけ蒸気を吸い込まないように
常にナイフに手を掛け、敵意のある存在が居れば即座に斬り掛かれるように
石灰で壁に印を付け帰り道がわかるように

親に手を引かれる子ども
あたたかい家、あたたかい食事
瓦礫の隙間からさすひかり
それは、眩しくて
とても、眩しくて

……うるさい、うるさい、うるさい

雨水で渇きを凌ぎ、他人を蹴落とし、縄張りの侵入者に怯え乍ら過ごす
甘い夢なんか、いらない
誰が何と言おうと、……私には、それしかないんだ



 歩速を緩めず、さりとて警戒心も解かない──そんな足音が蒸気の海に響く。
 靄を進むのは一人の少女。
 明瞭な標が無い中で、石灰で壁に印を付けて帰り道がわかるようにしながら、一歩一歩と前へ歩んでいた。
 フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)。
 足は止めない。けれど、傷ついた野良猫のように微かに不安定な瞳なのは……迷宮よりも、ここに立っていることそのものに困惑を覚えるからでもあったろう。
 ──自分のことすら救えない。
 ──奪うことでしか生き永らえるすべを知らない。
(「そんな奴に『世界を救え』なんて、どうかしてる」)
 猟兵とは襲来する過去を撃退し、世界を護る存在なのだという。
 自身とは相反する存在だという気がして、少女は未だそれに選ばれたことに違和感を覚えていた。
(「なのに……私はどうして、此処に立っているのか」)
 何故異世界に歩み、脅威から人々を守ろうとしているのか。
 前とは違う世界。
 前とは違う光。
 それに焦がれる部分が確かにあったからだろうか?
 フェレスは首を振る。
 ボロきれを深く被り、出来るだけ蒸気を吸い込まないようにした。腰につけたカンテラで靄を照らしながら、ナイフに手を掛けた状態を保つ。
 敵意のある存在が居れば即座に斬り掛かる心算。
 それは少女にとって、どこか慣れた行動だった。
 だからそのまま前進する。曲がりくねった道などはなく、凡そ直進してきている。距離が短くないとは言えど、そろそろこの階層を抜けることが出来ても不思議ではなかった。
「……?」
 だが、フェレスはそこで何かに気づく。
 蒸気の中を歩む影があった。
 猟兵の類で無いことは判る。視界の悪い中ではっきりと浮かび上がるように見えて、こちらの歩速にもそぐわないものだったからだ。
 ──幻。
 それは親に手を引かれる子供だった。
 楽しげで、どこか甘えるようで。幸せな空気を漂わせて。
 その像が消えてなくなると、代わりに団欒の景色が映る。あたたかい家、あたたかい食事。
 全て、少女が持ち得ぬものだった。
 そして目に射し込むのは、瓦礫の隙間からさすひかり。
「……っ」
 それは、眩しくて。
 とても、眩しくて。
 フェレスは一瞬はっとする。そして微かに歯噛みすると、ナイフで幻を斬り払った。
 次々に出てくる景色、光。その全てを撃退して足を速める。
(「……うるさい、うるさい、うるさい」)
 雨水で渇きを凌ぎ、他人を蹴落とし、縄張りの侵入者に怯え乍ら過ごす。
 ずっとそうやって生きてきた。
 ずっとそうやって歩いてきた。
 だから甘い夢なんか、いらない。
(「誰が何と言おうと、……私には、それしかないんだ」)
 光を斬るたびに、闇を進むたびに、少しだけ胸の奥で疼くものはあった。けれどフェレスは未だ仰がずに真っ直ぐ進む。
 何も映らない蒸気は、暗雲の下の路地裏に似ている──そんな思いを抱きながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・八重
愛されなかった…それは悲しかったでしょうね。
でも、全ては愛しては下さらないものよ。

凄い蒸気ね、それにそっと触れる
私の前に現れたのは、かつて私が愛した人。
彼は愛おしげに笑みを返し昔のように愛を奏でる

あら?お久しぶりね。
貴方は昔と変わらないのね

私は動じる事なく彼に微笑み
そして迷う事なく
【紅薔薇のキス】を与える

さようなら。と言葉と共に



 蒸気は世界を包んでしまうベールのようだ。
 美しい大理石の壁に、唐突に交じる樹皮。ダンスフロアのような床が途切れたかと思えば、鮮やかな花畑を歩んでいたりする。
「蒸気の晴れた姿も、見てみたいものね」
 足音と共に艷やかな声音が響く。
 夕日のような紅の髪、吸い込まれそうな美貌。蘭・八重(黒キ薔薇の乙女・f02896)は全ての景色が混在したかのようなその通路を進んでいた。
 この靄がなければ、景色はもっと目を惹きそうだ。
 なのに蒸気がその殆どを覆い隠している──それが敵の望みだからだろう。
 以前は迷宮はこうではなかったらしい。奥部にそのオブリビオンが居着いてから、全ては霧に包まれたのだ。
 話によれば、その少女は精霊に愛されなかったという。
「……それは悲しかったでしょうね」
 八重の心は一瞬だけ、素直な色を含んでいた。
 けれどすぐに呟く。
「でも、全ては愛しては下さらないものよ」
 それはその存在に語りかけるようでも、別の何かを諭すような口調でもあったろうか。
 総じて、八重は穏やかな表情を崩さなかった。
 それが心の一端を映し出す、そんな迷宮だと知っていても。
「それにしても、凄い蒸気ね」
 言いながら、手を伸ばしてそっと触れてみたりする。
 すると景色に波紋が生まれて、形を取り始めていた。
 蒸気の中に段々と浮かび上がってくる影。それは人の姿をしている。
 現れたのは見知った顔だった。
 ──かつて、愛した人。
 彼は愛おしげに笑みを返して、昔のように愛を奏でる。
 記憶にあるものと、寸分たがわぬ姿。
 だから八重はそれを見ていたけれど──。
「あら? お久しぶりね」
 と、八重はそんな声音を返している。
 確かに何時か愛した人へ──返す声音は瀟洒で優しく、妖艶で。その表情に動じる様子は少しもなかった。
 それは過日を過日と惑わず認識しているからだろうか。
「貴方は昔と変わらないのね」
 けれどそれは貴方だけよ、とでも言うように。
 八重は微笑むと、迷うこと無く歩み出る。
 そっと首を伸ばして、微かにだけ顔を傾けて。与えるのは紅薔薇のキス(ベニバラノクチヅケ)だった。
「さようなら」
 薔薇色の口づけは、まるで愛のように濃密な毒を齎す。幻はそれに侵食されるように溶けて消えていった。
 彼がどのような表情をしていたか。
 八重はそれをいつまでも反芻することをしなかった。
 或いはそれは──作られた幻だからという理由だけじゃなく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレッド・ピエタ
バカ弟子(f03401)と行動。

蒸気に触れなきゃ良いんだろ。
なら風の魔力を身に纏ってたら触れずに散らせるんじゃね?

後は吹き出す原因…管かなんかをネズミが食い破りでもしたのかね。
そういったのを探して氷の魔力で塞ぐぜ。

で?バカ弟子はどうしてっかね?
また何かに囚われてなきゃいいんだが。

…流石に学んだってやつかね、今回は何にも囚われてないみたいだな。
覚悟が出来た顔してんじゃん。
はは、そういう『強い』奴は好きだぜ。
俺を乗り越えて、殴りたいってんならそれくらい当然だよな。
今回は褒めてやるよ。

じゃあさっさと進むぞ。
こんな所で立ち止まってる場合じゃないしな。


アルバ・ファルチェ
師匠(f12537)と行動。

…何で師匠が付いて来てるんだろうね……ホントに面倒。
(嫌いではないけど殴りたい相手。昔殺されかけた相手でもある)

『求めたけど手に入れられなかったもの』か…。
幼い頃に守りたいのに守れなかったモノ、かな。
今もちゃんと誰かを守れてるか、僕は役に立ってるのか…沢山迷うよ。
でも【覚悟】は決めた。
僕は、今の僕に出来うる限りで守っていくんだって。
だから…【オーラ防御】も使って蒸気を弾く。
これなら直接触れなくて良いでしょ?

と、言うか師匠はホント一言多い。
あと別に褒められたくないので。

あー、はいはい。
いつか殴らせてもらうんで今は先に進みますよ。



 迷宮の入口に入ると、短い下り坂がある。
 そこを下りればすぐに通路に着き──視線の先に、空間を満たす蒸気があった。
「これは確かに、学園の生徒だけじゃ厳しそうだね」
 すたり、と平坦な地面に立ったのはアルバ・ファルチェ(紫蒼の盾・f03401)。
 ひらりと尻尾のようなつけ毛を揺らして、瞳の紫に無限色の靄を映す。顎に軽く指を当てながら、ふむと暫し思考していた。
「突っ切っていくこともできそうだけど、ね」
 造形美に見惚れてしまうほどの顔は、熟考の間でも表情を崩さない。
 ……だが。
 背後に一つの足音が響いた時だけ、気づかぬ程度に形の良い眉根が動いていた。
 はあ、と零れるのは小さくも確かなため息。
「……何で師匠が付いて来てるんだろうね……ホントに面倒」
「ああ、ここが噂の迷宮か。確かに蒸気だらけだな」
 アルバの声は聞こえたか否か。
 いや、きっと聞こえているのだろう──その上で遠慮なく歩を進めてくる影があった。
 流れる金髪。色白の肌。
 柔らかさの中に豪放さも垣間見せる美丈夫、フレッド・ピエタ(La debolezza e un peccato・f12537)。
「要は蒸気に触れなきゃ良いんだろ。なら魔法を使ってどうにかすれば良いんじゃね?」
 前を眺めながら言ってみせる口調は、爽やかな印象も抱かせる。
 けれどアルバはそれがただの一面に過ぎないと知っていた。
 師匠であるだけに、決して嫌いとは言わない……だが平素の扱いを考えれば殴りたくもなるというもの。そもそも昔に殺されかけた相手でもあるのだから。
 アルバは背を向けたまま歩み出す。
 するとフレッドは片眉を上げた。
「お? どう突破するつもりだ?」
「今から考えるんですよ」
 振り返らずに言って、アルバは蒸気のすぐそばに立つ。
 靄は壁のようになっていて、単純に避けることは難しいだろう。そして触れれば、幻を見てしまうという。
(「求めたけど手に入れられなかったもの、か……」)
 それが何なのか、アルバは自分で判る。
 ──幼い頃、守りたいのに守れなかったモノ。
 それを意識すると、考え込んでしまう部分はある。今もちゃんと誰かを守れているか、自分は役に立っているのかと。
 迷いは消えない。
 でも、今だからできることもある。それが、覚悟を決めること。
(「僕は、今の僕に出来うる限りで守っていくんだ」)
 心に言ってひとつ、頷いた。
 そしてアルバは蒸気に足を踏み入れる。
 同時に紫がかった淡い光を纏い、蒸気を弾いていた。
 それは薄く、しかし確かな力を持ったオーラの塊。膜のように体を包むことによって、靄を一切肌に触れさせなかった。
 アルバと時を同じく、フレッドも通路を進み始めていた。
 隙間なく窟内に広がる蒸気は、無論フレッドにも降り掛かってくるが──その細かな粒子の一つ一つまでが、吹き飛ばされるようにフレッドから逸れていく。
「これで、良さそうだな」
 呟くフレッドが展開しているのは、風の魔力だった。
 自身を渦巻かせるように広げたそれによって、周囲の蒸気を散らす。風の衣服を纏ったように、フレッドはしかと飛沫から逃れていた。
「あとは……」
 視線を巡らせて、蒸気の発生源を探ってみる。
 壁の見た目は場所ごとに違っていて、表面上に管のようなものは見られない。
 けれど噴き出ている以上はその出口がある。岩場ならばその隙間というように──そこを逐一氷の魔力で塞ぐことで、多少は視界も良くなってきた。
 氷自体は長時間持つものではないだろう。けれどこれで大きな不便はないはずだ。
「対策はひとまず十分だな。で、バカ弟子はどうしてっかね?」
 フレッドは見回す。
 蒸気の中に入った直後は、アルバの姿も見えなかったが……今はすぐに見つかる。きちんと蒸気を防いで真っ直ぐに歩むその姿が。
 また何かに囚われてなければいい──その心配が杞憂と知ってフレッドは息をつく。
「……流石に学んだってやつかね、今回は何にも囚われてないみたいだな」
 呟き、隣に並ぶ。
 ちらと視線を向けたアルバに、フレッドは笑いを見せた。
「覚悟が出来た顔してんじゃん」
 そういう『強い』奴は好きだぜ、と。
 それから歩みの速度を落とさず、軽く肩を竦めてみせる。
「──ま、俺を乗り越えて、殴りたいってんならそれくらい当然だよな。今回は褒めてやるよ」
「……ホント一言多い。あと別に褒められたくないので」
「そうかい。じゃあさっさと進むぞ」
 アルバの返した声も意に介する事無く、フレッドは前方へ目線を遣る。
「こんな所で立ち止まってる場合じゃないしな」
「あー、はいはい。今は先に進みますよ」
 いつか殴らせてもらうんで、と。アルバも劣らず付け加えてみせつつ。
 二人は歩む。
 その道筋に、幻の脅威は無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八重森・晃
【行動:WIZ】魔術知識を利用して霧の元を探しながら移動します、
迷宮がどういう技術によって作られているかは知らないけど、
ネズミが絡んでいるようだし、排水管、もしくは通気口にあたる部分があるんじゃないかと
想定しているよ。そしてそこを使って霧が循環しているのではないかな、と考えています
そういうものを重点的に探して、もし霧の吹きだす通気口的なものを発見できたなら
噴出穴を塞ぐ、それが難しかったら他の人に霧の出ている場所を教えて何とかしてもらう
方向で


ラスベルト・ロスローリエン
幻影映す蒸気の迷宮か……
一歩踏み入れた時、霧中に見える光景はさて何だろうね。

◇WIZ 自由描写歓迎◇
※蒸気が見せる幻は求めずともかつて当たり前に持っていたもの
懐かしい故郷。愛しい家族。親しい友――彩りに満ちた暖かい日々

思わず足を止め心地良い幻に浸ってしまいそうだけれど。
『生憎と。どれも僕の目の前で永久に失われた景色さ』
“翠緑の追想”に眩き明星の光を宿し迷夢を払おう。
アルダワの迷宮には幾度か潜ったし【世界知識】で機構を考えてみる。
“界境の銀糸”を床や壁に這わせ【地形の利用】で蒸気の噴出口を探り塞ぐ。

『昔日の記憶に揺蕩うにはまだ早い……何せ年若いものでね』
【勇気】の灯を抱き薄れる霧の先に進もう。


ボアネル・ゼブダイ
行動:pow
触れた者に幻を見せる蒸気か
不可思議な話だが、オブリビオンが絡んでいるのならばかなり危険性を孕んでいるのは間違いないな

あまりスマートではないが、一気に最深部を目指して駆け抜けるか
血呪解放で状態異常力を上昇、毒や呪詛の耐性を上げる
強化した状態で走り抜け野生の勘で蒸気の濃い場所を避けて進む
どうしても避けられない場合は風属性の憎悪する薔薇で爆風を発生させ散らしつつ一気に走りきろう
共に進む猟兵とも連携を取り、幻に囚われている場合は招き入れる歌声で回復も図る

手に入らなかったものか・・・吸血鬼と人間の融和を目指した父上と母上・・・私も、共にその理想を支えたかったが・・・

【連携・アドリブ歓迎】



 迷宮の中には静けさが降りている。
 ただ灰髪を撫でる程度の風音は聞こえたし、足音は遠くまでエコーする。騒々しさはないが、それでも音のない世界という印象も抱かせなかった。
「幻影を映す鏡としては、適しているのかもね──」
 そんな景色の中でも飄々と、ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)は歩みゆく。
 思うのは、わざと曖昧な印象を抱かせる風景を作ったのだろうということ。
 おそらくは、どんな幻影にも合うように。
 茫漠な印象はどこか霧がかった森を思わせた──だからこそ。
「僕が霧中に見える光景は、さて何だろうね」
 求めていたものを映す蒸気。
 それはまさしく、心の鏡。故に自分の中の如何なる部分が幻像に顕れるか、ラスベルトには好奇の心さえあった。
 と、歩んでいると蒸気の中に美しい自然の景色が浮かび上がる。
 雄大な広さが迷宮とそぐわないのは、それが幻である証。
 成る程、とラスベルトは思った。
 見知った眺め──それは懐かしい故郷の姿だったのだ。
 足を止めずに進めると、まるでその中を散歩しているような感覚に見舞われる。
 愛しい家族。親しい友。紛れもない、彩りに満ちた暖かい日々。
 求めずともかつて当たり前に持っていたもの。
「ああ、これは確かに幻なのだろうね」
 ラスベルトは呟いた。
 思わず足を止めて、心地良いその世界に浸ってしまいそうになる。
 幻としてこれ以上無いほどの魅力をもったもの。
 けれど、そうであるが故にそれは幻なのだ。
「生憎と。どれも僕の目の前で永久に失われた景色さ」
 ラスベルトは最後まで変わらぬ口ぶりであった。
 手にとったのは、故郷の形見でもある古木の杖。そしてそこに宿すのは、全てを照らす眩さ。
 明星の光──夜明けを告げる星の輝き。
 穢れなき灯りは幻を幻に、霧を霧に返すように迷夢を払っていく。一瞬後には、そこは不定色の蒸気だけが漂う空間に戻っていた。
「昔日の記憶に揺蕩うにはまだ早い……何せ年若いものでね」
 進むとしよう。
 勇気の灯を抱き、薄れる霧の先に。

「成る程、奥部に進むまではこの状態が継続するわけか」
 入口の付近。
 こつ、と蒸気の壁の前に靴音が止まる。
 腰まである銀糸の髪に美しい褐色の肌。静やかな紅の瞳で通路の始点を見つめている──ボアネル・ゼブダイ(Livin' on a prayer・f07146)。
 整ったおもては冷静で、表情に大きな変化を見せない。
 それでも、目の前の道が一筋縄でいかないものとは理解していた。
「触れた者に幻を見せる蒸気、か。不可思議な話だが──」
 オブリビオンが絡んでいるのならば危険性を孕んでいるのは間違いないのだろう。
 少なくともそれが、精神を侵す効果を持っているのは事実。
 ──ならば。
「あまりスマートではないが、一気に最深部を目指して駆け抜けるか」
 それは明快な対処法だ。
 蒸気が危ういというのなら、なるべく浴びぬようにするだけ。
 ボアネルはぱちりとアルミパックの封を切る。
 紅色に薫るそれは人工血液。多くの場でボアネルの力を解放する一助になってきた──そして今回もまた。
 肌にぽとりとそれを落として、染み渡らせる。
 まるでカフェオレにラズベリーが溶け込むような、美しくも一瞬の出来事。
 どくんと鼓動が高鳴る中で、ボアネルは奥に抑えていたものの蓋を取り払っていた。
 ──血の香りに狂う忌まわしき半身よ。
 ──人の理を外れた悍ましき吸血鬼の力よ。
 ──我が正義を示すためにその呪われた力を解放せよ!
 瞬間、吸血鬼としての魂が拍動し、全身に力が漲り始めていく。
 血呪解放(ブラッディ・インセンス)。
 状態異常力を劇的に向上させることで、毒と呪詛の耐性を高める。一時的に強力な防衛効果を得ると、ボアネルはそのまま蒸気の中へと入った。
 速度を落とさず、様々な形状の床を跳び、走り抜けていく。
 勘を働かせ、周囲を観察し、比較的蒸気の薄い場所があればそこを辿るように進んだ。
 あまりにも濃密な箇所があれば──憎悪する薔薇(スピット・ローズ)を放つ。鮮麗なる魔法の薔薇が弾けると、一時的に蒸気の晴れたその空間を進んでいった。
 と、そこでボアネルは仲間の猟兵の姿を見つける。

 ごつごつとした岩も、枝垂れる花が美しい自然も、等しく蒸気を吐き出している。
 その靄の中を少女は歩んでいた。
 八重森・晃(生存者・f10929)。壁沿いに手を這わせるようにしているのは、つぶさに調査をしているからでもある。
 この霧は、一体どこから生まれているのかと。
「判りやすい噴出口があるわけじゃないのかな──」
 視界の悪い中、紫の瞳を壁に近づける。
 迷宮がどういう技術で作られているか、それは判らないが……排水管や通気口に当たる部分はあるのではないかと考えてのことだった。
「ネズミが絡んでるみたいだしね……」
 でも、ぱっと見で判別できる発生源はないというのが感想だ。
 迷宮の壁や床は様々な形状をとっていて、そのどれからも蒸気が出てくる。即ち管のような目印はなくて、隙間らしい隙間から発生するというのが実情のようだった。
「うーん、でも、何かありそうだよね」
 晃も悪戯に推測しているわけではない。
 蓄えた魔術の知識が、これが魔法的な効力を含んだ蒸気だと告げている。
 即ち、細かな水滴自体は実在している。ならばどこかからそれが循環しているのは事実のはずだという考えだった。
 現状では噴出する部分を全て塞ぐというのは難しいが……決して出処を見つけるのは不可能ではないはず。
 自身も幻に当てられてしまう前に、早めに調査を続けようと思った。
 と、そこで濃くなってきた蒸気が一瞬だけ晴れる。
 時間差で迷宮に入っていたボアネルがそこに合流してきたのだ。
 晃が調査をしていると見てとって、ボアネルは尋ねる。
「何か、判ったことはあったろうか?」
「ううん、今のところは──と」
 晃はそこでまた別の人影に気づく。丁度、ラスベルトとも行き会ったのだ。
 ボアネルは目も向ける。
「蒸気に蝕まれては居ないか?」
「僕ならば平気。幻は幻さ」
 そう言ってみせると、ラスベルトは晃の方を見た。
「蒸気の調査を?」
「うん。どこかに供給しているところがあるとは思うんだけど」
「ふむ。言い得ていると思うよ」
 ラスベルトは頷いた。自身もまた、蒸気の出処は気になっているところだった。
 どれ、と呟くと、ボアネルの協力で一時的に蒸気を晴らし、少し見回すことにする。
 迷宮に何度か潜った経験を活かし、ラスベルトは少し考えてみた。
「オブリビオンによって構造自体も変わってしまうのが迷宮だから──」
 その言葉で晃は少し思い至ったように壁を見つめた。
「……単純に、見えないところに噴出口があるってことかな?」
「可能性は高そうだね」
 ラスベルトは界境の銀糸──自在に這う細糸を駆使して、壁をくまなく調べた。
 すると、おやと気づく。
「どうやら壁の向こうに仕掛けがあるようだ」
 言うと、そのまま地形利用の力を駆使して一部の壁を取り払った。
 するとそこにあるのは文字通りの噴出口。
 調べると、壁に守られた状態で、間隔を置いて噴出口が並んでいることが判った。
 ボアネルは目を細める。
「多様な見た目を持つ地形は、これを誤魔化すためのものだったのか──?」
 呟きながら、おそらくそれだけではないとも思っていた。
 蒸気の発生源を隠す必要があったのは確かだろう。
 だがそれ以上に、オブリビオンは不思議な世界を表現したかったのかもしれない。
 訪れる者に抵抗なく幻を見せる為に。
 求めたもの、なくしたもの。欲したもの、探したもの。
 それを与えることで安寧へと導くように。
 それでも、その仕掛けの一端は暴かれた。晃は霊符を取り出す。
「とりあえず、塞げるところは塞いでいこう」
 言って魔力を集中すると、土の属性の力を顕現する。
 働きかけたのは壁を構成する土や石だ。
 それを操って埋めることで、噴出口を塞いだ。すると、蒸気が薄くなり始めていく。
 うん、と晃は頷いた。
「ひとまず、効果はありそうだね。先に進もうか」
「ああ」
 ボアネルも頷き、適宜噴出口を塞ぎながら疾駆を再開する。
 蒸気の濃い地帯を抜けたのだろうか、いつしか自然と視界が開けるようになっていた。
 背後に消えた蒸気地帯を、ボアネルは一度見やる。
 幻を生む霧。
 それが恐ろしいものであることは事実だったろう。
 自分なら何を見ていたろうかと、少しだけ思った。
(「手に入らなかったもの、か……」)
 頭に浮かぶのは、吸血鬼と人間の融和を目指した父と母の姿だった。
(「……私も、共にその理想を支えたかったが……」)
 一度、目を閉じる。
 無念の内に死していった両親。その思い。それは確かに、求めたけれど手に入らなかったものなのだろう。
 けれどその幻を見る必要はない。
 過去は強く胸に刻まれている。そして今、自分にできることがある。
 だからボアネルは視線を戻した。
 そこに斃すべき、多くの敵が居る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『眠りネズミ』

POW   :    おやすみなさい、よいゆめを
全身を【ねむねむふわふわおやすみモード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    みんないっしょに、ねむりましょ
【ふわふわのしっぽ】から【ふんわりとつつみこむもふもふのいちげき】を放ち、【今すぐこの場で眠りたい気持ち】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    きらきらひかる、こうもりさん
対象のユーベルコードに対し【吐息からキラキラ光る小さなコウモリたち】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●微睡みへ誘う
 広い通路に奥まで満ちる敵影。
 それはどこか愛らしい魔物だった。
 思わず目を惹かれてしまうような。足を止めてしまうような。
 そして多分、それこそ魔物が求めることなのだろう。
 魔法のネズミは、眠りへと誘う存在。
 迷宮を進むものへ休息を与えるように。立ち止まらせ、その場から一歩も進ませないことを目的としていた。
 何にも目を向けず、眠りの世界に揺蕩う。
 そこに永遠の安寧があるのだというように。
フェレス・エルラーブンダ
手負いの獣でも迷い込んだのかと思ったら
そうか、これが、まものというやつか

ふん、見た目通りの甘ったるさだな
安寧などあるものか
さむくて、いたくて、つめたくて
……眠りにあるものは、それだけだ

身体中に仕込んだ投擲用の短剣を引き抜き千里眼討ちを主軸に
光る蝙蝠を撃ち落とし他の猟兵が戦い易いよう
前衛が眠ってしまった場合接敵して攻撃
眠りかけた猟兵に対して声掛けをして起こす

寝るな、起きろ!
おまえらの事情も理由もしらない、でも
おまえらは『なにか』があってここにいるんだろうが!

私にはまだ、わからない
どうして、名も知らぬ奴らに手を貸しているのか
死にたくない、それだけなら
……ここに立っていること自体、おかしいことなのに


ナナ・モーリオン
ねずみさん。
……キミたち?こんな事をしてたのは。
自分たちだけで眠るのが、寂しかった?みんなと一緒に寝たかったのかな?
でもね、ダメだよ。
ボクは知ってる。
静かな眠りは安らかだけど……人は、やり残したことがあると、安らかに眠れない。
起きてる者が、誰かの眠りを邪魔しちゃダメだけど……眠るべき者が、誰かの営みを邪魔してもいけないんだよ。
その秩序を守るのが、ボク『たち』のお仕事。……そうでしょ?森の王。

故に、我が狼爪を以て今一度骸の海にて眠りにつくが良い。

憤怒の狼爪(『呪詛』を纏った『怪力』の素手)で『串刺し』にして引き裂く。
苦痛の無いよう、極力一撃必殺。


ボアネル・ゼブダイ
おやすみモードに入られて下手に長引かせられるのも厄介だな
まずは無敵状態になっている眠りネズミたちを怪力で通路の横に放り投げよう
全く動かずに我々の邪魔をしなければ良し、奥に行くのを止めるために動くのであれば闇夜の眷属かコ・イ・ヌールによる範囲攻撃で蹴散らす
移動中に不意を突かれないために前はもちろん後ろにも気をつけて行動する
他の猟兵達とも連携を取り、死角がないように動く事が大切だろう
もしも自分を含め眠らされそうな猟兵がいたらグリッグスの鞄から気付け薬を出して覚醒させる
眠気なのでアンモニアが良いだろうな

オブリビオンの狂気に蹂躙されている世界は未だある
微睡みの中で夢の世界に耽っている時間は我々にはない



 通路を音もなく翔ける。
 浮かぶように跳んで巡る。
 行く手を塞ぐのは、夢の中の存在のような敵影だった。
 動物のようだけれど、決して路傍の生物ではありえない。だからフェレスは瞳を細め、警戒心をにわかに高める。
「手負いの獣でも迷い込んだのかと思ったら。そうか、これが、まものというやつか」
「ずいぶん、たくさんいるみたいだね」
 ナナは軽く視線を巡らせてから、肌に感じる空気を意識していた。
 眠りネズミ──その敵が漂わす魔力は、どこか蒸気に似ていると。
「ねずみさん。……キミたち? あんな事をしてたのは」
 ネズミ達は微睡んだ表情を見せるばかりで言葉を発さない。
 それでも、先刻の蒸気にこのオブリビオンの力の一端が作用しているのはおそらく事実なのだろう。
「何にせよ、長引かせられるのも厄介だな」
 ボアネルは広く目線を奔らせて、敵の様子を窺う。
 ネズミ達の中には動いているものもいれば、眠り状態になっているものもいた。
 眠っている敵は強力な加護を得るらしく、一見して攻撃が通りそうにない。下手に相手をしていれば、いつまでも迷宮を進めない──即ち敵の思い通りになるだろう。
「ならば一先ず、どいておいてもらおう」
 ボアネルはその個体へ疾駆。怪力を活かして躰を掴み、横方向へと放り投げていた。
 通路の幅は広い。そうして間合いの外に追いやることで、一時的に複数体を戦線離脱させることに成功していた。
 無論、こちらが前進を始めれば目を覚まして動き出す個体もいる。
 けれど攻撃が通るようになれば、それこそ好都合。
 ボアネルはこつりと地を踏み、闇色の光を浮かび上がらせていた。
「古き血で繋がれた眷属達よ……」
 ──混沌の扉を抜け、我の前に立つ愚かな敵を喰らい尽くせ!
 求めに応じて顕れるのは闇夜の眷属(ブラック・ブレード)──ばさりと音を立てて羽ばたく巨大蝙蝠の群れ。
 眼前の視界を満たしてしまうほどの大群は、敵へ飛びかかって鋭く牙を立てる。獰猛なる襲撃は周囲の個体も巻き込んで蹴散らし、敵陣の壁に大きな穴を開けた。
 そこへ喰い込むように猟兵は進んでいく。
 ネズミ達もまたきらきらと光る小さな蝙蝠を顕現し、こちらを阻害しようとしていた。
 優しく眠りに誘うように。
 安寧の時間を与えるように。
 眠ってしまえば楽になるんだよ、と言ってみせるように。
 だがフェレスの戦意はそれを目の当たりにして、鈍麻しない。
「ふん、見た目通りの甘ったるさだな。──安寧などあるものか」
 さむくて、いたくて、つめたくて。
「……眠りにあるものは、それだけだ」
 ほんの少しだけ、声音にはよどみもあった。だからといってゆるい眠りに浮き立つ程、フェレスのいる轍は浅くない。
 瞬間、フェレスは袖の内にあった投擲用の短剣で蝙蝠を撃ち落とす。
 一撃だけじゃなく、脇腹に潜めた刃、足元に隠した刃──身体中に仕込んだそれらを素早く引き抜き、雨のように注がせていた。
 剣先が蝙蝠を貫き、眠りネズミを穿つ。その間も足を止めず、フェレスは奔り続けた。
 それでも両脇側にいたネズミ達が少しずつ追いすがってくる。
 怒りというよりは、請うような色を浮かべて。
 行かないで、というように。
「自分たちだけで眠るのが、寂しかった? みんなと一緒に寝たかったのかな?」
 ナナはそう感じて呟く。
 そして小さく首を振っていた。
「でもね、ダメだよ。静かな眠りは安らかだけど……人は、やり残したことがあると、安らかに眠れない」
 起きている者が誰かの眠りを邪魔してはいけないけれど。
 眠るべき者が、誰かの営みを邪魔してもいけないから。
「その秩序を守るのが、ボク『たち』のお仕事。……そうでしょ? 森の王」
 黒いゆらめきが、ナナの体を包んでいく。
 自身に降ろしたのは死した魂の守護者たる大狼の守護霊──今は深淵を往く黒き森の王(イマハシンエンヲユククロキモリノオウ)。
「──故に、我が狼爪を以て今一度骸の海にて眠りにつくが良い」
 憑依によって剛烈なる力を得たナナは、呪詛を揺蕩わせた素手を突き出し、眼前の眠りネズミを串刺しにする。
 一瞬の間も置かずにその膂力で以て引き裂き、痛みすら感じさせずに消滅させた。
 ナナの面前から敵がなくなれば、フェレスも刃を投げ放ちその周囲の敵を払っていく。
「……」
 眠りにも光にも背を向ける自分が、どうして名も知らぬ猟兵に手を貸しているのか、フェレスには判らなかった。
 死にたくないという、それだけなら──。
(「……ここに立っていること自体、おかしいことなのに」)
 それでも体は目の前の敵を察知し、その危険を退けていく。
 心は未だ答えを出さない。
 だから今は振るう刃だけが確かなもの。
 壁のように立ちふさがるネズミ達へ、ボアネルもまた退かなかった。永久駆動の剣コ・イ・ヌールを携えると、その刀身を伸ばして一息になぎ倒していく。
「オブリビオンの狂気に蹂躙されている世界は未だある。──微睡みの中で夢の世界に耽っている時間は我々にはない」
 あくまで眠りを齎すなら、こちらもそれを打ち払うだけ。
 速度を落とさず、猟兵達は進行を本格化させていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレッド・ピエタ
バカ弟子(f03401)と行動。

安寧の休息ね…そんなもん欲しかぁないんだよ。
幻想を夢見て逃避するよりは、現実で辛酸をなめる方がよっぽど人間らしいってね。

可愛らしい見た目だろうが、俺にとっちゃどうでもいい。
…バカ弟子が1人で盛り上がってるが知ったこっちゃねぇな。

ふわもこがある意味武器だってんなら【属性攻撃】で燃やすか刈るか凍らせてやろうか。
そのついでに蜘蛛の糸を巻き付けて封じられる前にこっちがユーベルコードを封じてやるよ。

締め上げてる間に、バカ弟子がどれだけ腕を上げたか見させてもらおうか?
まさか、こんな状況でも相方の兄貴がいなけりゃ攻撃できねぇとかぬかさねぇよな?


アルバ・ファルチェ
師匠(f12537)と参加。

僕は安寧の休息があってもいいと思うけどな。
ただし、作られ与えられたものじゃなくて自ら作り得たものであればだけど。

もふもふ、もふもふ、可愛いなぁ。
うちのコルノには負けるけどね!

(こほん)気を取り直して、今回は攻勢に出るよ。
【鎧無視攻撃】【鎧砕き】【串刺し】で無敵は剥げないかな。
あとは【戦闘知識】を使って弱点を【見切ったり】、攻撃を【見切って】かわしたり。


師匠が寿命を削ってまで弟子の成長を見たいのなら、『攻撃は得手じゃない』なんて言ってないで【覚悟】を決めて攻撃しますよ。
セラが居なけりゃ何も出来ないなんて、言わせませんから。



 蒸気地帯はもはや遥か後方。
 敵陣の只中を進軍する猟兵達は、通路の中ほどまで辿り着いていた。
 無論、敵数は未だ多い。前方だけでなく左右や後方からも眠りネズミは迫り、こちらの気を惹くようにふわふわとしっぽを振るってきている。
 もこもこの毛並みは、目を取られてしまうような愛らしさもあったが──。
「見た目なんて俺にとっちゃどうでもいいな」
 言うに違わず、フレッドはへらりとした表情のまま疾駆。魅了されることもなく、敵をいなしながら前進していた。
 と、ちらと横を見る。
「……尤も、バカ弟子は一人で盛り上がってるようだが」
「もふもふ、もふもふ、可愛いなぁ──」
 その視線の先。敵を見渡して呟いているのはアルバだ。
 催眠行為にしてやられてるわけでは決してない。どちらかと言うと対抗するような素振りで、腕に抱く小竜を敵に示して見せていた。
「まあ、うちのコルノには負けるけどね!」
 もっふりと敵の前に現れたコルノは、子犬のような可愛らしさと、毛玉のような豊かな毛並みが特徴的。
 それは確かに敵のふわふわさ加減に勝るとも劣らない実力であった──けれどフレッドの視線を感じてか、否か。アルバはこほんと気を取り直す。
「──とりあえず、倒せる敵から倒していかないと」
「ま、あのふわもこ自体が武器だってんなら、まずはそれから取り除いてやるか」
 フレッドが魔力で生み出すのは炎の属性の塊。巨大な焔となったそれを射出することでネズミ達の毛並みを燃やして、攻撃を阻害していた。
「さて、休まずいくか」
 敵が火を消そうと尻尾をパタパタさせている内に、フレッドは次手を打つ。
 それは魔法の力で編んだ蜘蛛の糸。
 Ragno all'inferno(クモハジゴクヘイザナウ)──網のように放たれたそれは前方のネズミ達に命中すると、体を縛るように動きを止めていた。
 もふもふと藻掻くネズミ達。だがそれはあがけばあがくほどに絡みつくのだ。
 フレッドは涼しげなまま、隣に顔を向けた。
「じゃあ、バカ弟子がどれだけ腕を上げたか見させてもらおうか。まさか、こんな状況でも相方の兄貴がいなけりゃ攻撃できねぇとかぬかさねぇよな?」
「分かりましたよ」
 アルバはすらりと鮮やかな一振りを抜いている。
 Leone e Fanciulla──美しい装飾を抱いた星の剣は、構えると薄闇に眩いほどの星屑を零していた。
 反抗心、だけではない。
 フレッドの能力は使うほどに確実にその寿命を削っていくものだ。そうまでして弟子の成長を見たいというのなら、アルバもそれに応えるくらいはしようと思ったのだ。
 攻撃は得手じゃなくとも、覚悟を決めて。
 口ぶりには勿論、言い返すような色も籠めて。
「セラが居なけりゃ何も出来ないなんて、言わせませんから」
 瞬間、流星の如き剣撃でネズミ達を斬り伏せていく。
 眠っている個体がいれば、防御を砕くように狙い澄ました刺突を叩き込んだ。
 その攻撃自体ではダメージが通らないが──眠りを覚まさせるくらいの効果はある。そうなれば続く斬撃で散らせていくだけだった。
 ネズミ達はぴぃ、ぴぃと鳴く。
 安寧の休息はいらないの? と聞くように。
「……そんなもん欲しかぁないんだよ」
 フレッドはその声も惑わず背後に追いやっていく。
「幻想を夢見て逃避するよりは、現実で辛酸をなめる方がよっぽど人間らしいってね」
「僕は安寧の休息があってもいいと思うけどな。……ただし、作られ与えられたものじゃなくて、自ら作り得たものであればだけど」
 アルバもひたすら進む。
 無理矢理に与えられるものなんて、安寧では無いから。
 剣撃で道を拓き、前へ。二人は微睡みを斬り払い、焼き払って奔っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・八重
あら?ネズミさん??
ふふっ、ふわふわしてて可愛らしいわね。

奥に眠る子に用事があるの
私達の邪魔をするのはいけない子ね。

眠りの攻撃が来たら【オーラ防御】で回避
髪の薔薇をそっと触れ
あら?指に血が…ふふっ綺麗ね
(痛みで眠りを回避)

こうもりさんはルーンソードで【属性攻撃】

攻撃して来る子にはお仕置きが必要ね
拷問具に入る?【傷口えぐる】でちょっとチクッとするわよ。

それでも引かない子には
【紅薔薇のキス】で永遠の眠りを

おやすみなさい。
素敵な夢を貴方が見なさい


ラスベルト・ロスローリエン
幾ら愛らしいとて迷宮に巣食う魔性は魔性。
笛吹き男の逸話ではないが鼠退治といこうか。

◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
杖に宿した明光で通路の隅々まで照らし逃さず標的を見定めよう。
『散る花に誘われ不帰の旅路につくが良い……おやすみ』
【高速詠唱】で左腕に絡みつく“永久の白緑”から《落命花》を花開かせる。
通路一面に命散らす白き花弁を舞わせ鼠達を包み込む。

鼠のもたらす睡魔が忍び寄れば右手中指の“カラドベリア”が秘める【破魔】の光で退けたい。
『安息の地が冷たい迷宮の床なんて笑い話にもならないからね』
ついでに尖り耳も軽く抓っておくかな。

よし。迷宮から帰還した暁には柔らかいベッドで心ゆくまで眠りこけるとしよう。


茲乃摘・七曜
心情
見た目に騙されてはいけないというあれですね

指針
視界ではなく反響の福音で情景を把握し二挺拳銃で遠距離から攻撃
※仲間に注意し弾丸をばら撒く
「攻撃が通らなくなっている個体は後回しにして倒せるものから倒しましょう

行動:Wiz
数を減らし仲間が自由に動ける空間の確保を意識し行動
眠りたい気持ちにさせようと動く個体を優先し自身が狙われるなら引き撃ちで誘導しつつ撃破
「まずは身を守っている個体と襲い掛かってきている個体を振り分けましょう

対コウモリ
音の消しあいで情景把握できなくなった場合、瞳を開き対応
「眠りネズミに惹かれる前に対処致しましょう

Ex睡眠対策
激しい曲調のクラシックを迷宮内に響かせ目覚まし代わりにする


ルベル・ノウフィル
wiz 星守の杯使用

なんて愛らしい、それに眠くなって……。いやいや、なりません。先へ進まねば……

お味方様を回復援護いたします
余裕があれば墨染と彩花で攻撃もしましょう
僕が攻撃をする時は常に捨て身でございます
敵を仕留めるためにはわが身を顧みぬ意気をもって。

「あまり愛らしい見た目ですと、戦いにくいのでございます」
愛らしくても災魔、それは判ってはいるのですが。

キラキラコウモリさんは綺麗な技ですが、僕の金平糖だってなかなかの美しさでございましょう?
要するに相殺されるよりも多く生成すれば良いのでございます

それに、金平糖に気を取られてくれれば、味方の方が攻勢に出る隙となりましょうナ
連携プレイでございます



 長かった道も、その終焉が見え始めていた。
 遠くに望める通路の奥は、部屋となっているようだ。或いはそこに、夢と幻想の迷宮を創り出した元凶がいるのだろう。
 ただ、そこを守る眠りネズミ達はこれまでで最大の勢力だった。
 横だけでなく縦にも連なり──宛らもこもことした要塞のよう。
 八重はそっと首を傾けて、思わず柔らかな声を出す。
「あら、ネズミさんがあんなに? ふふっ、ふわふわしてて可愛らしいわね」
「ええ、本当に、なんて愛らしい……」
 こくりと頷き、ちょっとばかり前を見つめてしまう少年の姿がある。
 歳相応の小柄と痩身。美しい緋の瞳には少々、悩ましげな色も宿す──ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)。
 可憐な容貌の中で揺れるのは夜色の髪ばかりではなく、ぴこりと動く耳と尻尾も同じ。
 もふもふに目も心も奪われるように、その眉は少しだけハの字を描いていた。
「それに見ているだけでも不思議と眠くなって……いやいや、なりません」
 それでも意志強く、ふるふると首を振る。
 きゅっと唇を結んで星守の杖を握っていた。
「今は、先へ進まねばなりませんね」
「うん。幾ら愛らしいとて迷宮に巣食う魔性は魔性」
 頷くラスベルトは、あくまで悠々と。一歩前に出ると、杖に清らかなる明光を宿していた。
「笛吹き男の逸話ではないが──鼠退治といこうか」
 それは闇を裂く星の如き煌めき。
 広がった光は辺りを眩さで満たすと、通路の隅々までもを詳らかに照らしてみせ、敵の数も動きも皆に知らしめる。
 これでまず、準備は万端。
 全く同時、七曜も周囲の状態確認に移っていた。
 ただし視界ではなく、拡声器──Angels Bitに歌声を反響させることによる、聴覚を活かしたもの。美しい旋律が壁に跳ね、エコーする、その細かな度合いによって三次元的に空間を見取り、敵同士の挙動の差異も感じ取っていた。
 そのまま構えるのは二挺拳銃。
「まずは──身を守っている個体と襲い掛かってきている個体を振り分けましょう」
 狙ったのは、前面で活発に動いている個体だ。
 無駄撃ちにならぬよう、眠っている個体は後回し。無数の中から攻撃の通る個体だけを素早く狙い、発砲した。
 動きは最小限に、反動でドレスの裾だけを僅かに靡かせながら。銃弾の雨を降らせて確実に一体一体を穿ち、沈めていく。
 そうして敵の塊が急速に崩れ始めたところで──良好になっていた視界の中を、猟兵達は前進し始めていた。
 それを察知し、敵の眠っていた個体も醒め始める。
 が、ラスベルトがそこへ左腕を翳していた。
 起きる必要はないよ、とばかりに。
「散る花に誘われ不帰の旅路につくが良い……おやすみ」
 拘束詠唱により、左腕に絡みつく若木──“永久の白緑”から無数の白花を咲かせ始めていた。
 落命花(ラクメイカ)。はらりはらりと通路一面に舞うそれは、命散らす花弁。
 花嵐に吹かれたネズミはその文字通りに、眠りにいざなわれるように目を閉じて命を落としていく。
 前面の敵数が減ると、左右の敵が纏まって行く手を塞ごうとしてきた。最前の敵は煌めく蝙蝠を放ち、こちらを押し止めようとしてくる、が。
「──攻撃して来る子にはお仕置きが必要ね?」
 剣閃がきらりと耀く。
 八重がルーンソードを抜刀。流れるような動きのままに焔を刀身に纏わせ、蝙蝠を切り裂いていた。それでも蝙蝠が全滅しなければ──。
「拷問具に入ってみる?」
 艶やかに笑んでみせると、八重は鉄の棺桶で蝙蝠を捕らえ、その蓋を閉める。内部の棘は違わず蝙蝠の体を刺し貫き、その命を絶っていった。
 猟兵達は目指す部屋へと段々近づいていく。ただネズミ達も諦めず、残る個体で一斉に蝙蝠を放ち、数で押そうとしてきていた。
 それこそ夢中の光景のように、光を零して耀く蝙蝠達。
 けれど、そこにさらに美しい燦めきが重なる。
「──僕の金平糖だってなかなかの美しさでございましょう?」
 それはまるで星が降り注ぐように。
 ルベルが杖を掲げると、宙からきらきらと綺麗な金平糖が舞い降りてきていた。
 星守の杯(コンペイトウレイン)──星粒の雨が輝きの翼を退け、濯い流すように消滅させていく。
「さあ、今のうちです」
「ええ」
 七曜は既に引き金に指をかけている。
 二つの銃口からの絶え間ない銃撃。前方の敵を連続で蜂の巣にするように霧散させていた。
 それによって初めて、奥までの道が開ける。
 ネズミ達はそれでもふわふわと追いすがってきて面前に回り込み、組み付いてきた。せめて最後に眠りの安寧を教えるというように。
 だがラスベルトは右手中指の指輪“カラドベリア”が秘める破魔の光を顕現。睡魔を払って意識を明瞭に保っていた。
 ついでに尖り耳も軽く抓りながら。
「安息の地が冷たい迷宮の床なんて笑い話にもならないからね」
「ええ。寝室にはそぐわない場所だもの」
 言ってみせる八重は髪の薔薇にそっと触れ、その痛みで眠気を覚ましている。指に血が付けば、その紅色の綺麗さに微笑んで見せながら。
 七曜はレクイエムの怒りの日を歌唱。その激しい旋律で眠気の残滓までもを吹き飛ばしていた。
 皆の正気が保たれれば、八重はネズミへ紅薔薇のキス(ベニバラノクチヅケ)。
「おやすみなさい。素敵な夢を貴方が見なさい」
 毒を齎す鮮烈なる口づけで、真なる静寂へと眠らしていく。
 ルベルも墨染と彩花を手にしていた。
 それは美しくも冷え冷えとした黒刀、そして怨念の籠もった札。
「あまり愛らしい見た目ですと、戦いにくいのでございますが──」
 それでも災魔なれば、わが身を顧みぬ意気をもって。
 黒色の斬撃で一体を沈め、そして残る一体の命を札の霊力で吸い取り消滅させていく。
 静けさが満ちるとラスベルトは頷いた。
「よし。迷宮から帰還した暁には柔らかいベッドで心ゆくまで眠りこけるとしよう」
 そのためにも、と目を向ける。
 そこに目指すべき敵がいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『セイレイに愛された少女の亡霊』

POW   :    『黒き焔』と遊ぶセイレイ
【揺らめく複数の黒炎玉 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    『旧き幻想の知恵』のドレス
対象のユーベルコードを防御すると、それを【古代精霊言語に変換し身に纏い 】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    『私も精霊に愛されたかった』
自身に【数体の黒い生霊(セイレイ) 】をまとい、高速移動と【威力の高い魔術の衝撃波(ウェーブ)】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアサノ・ゲッフェンルークです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●闇に眠る
 それは色彩と祝福を夢見た少女だった。
 手が届かないから憧れたのかも知れない。或いは子供らしいただの純真な心だったのかも知れない。
 幼い少女は美しくやさしい精霊と友達になりたくて、ずっと時を過ごした。
 けれど成長しても、いつまでも、精霊に愛されることはなかった。
 少女を愛したのは、命を奪い焔を燃やす黒き生霊だけ。
 一番欲しいものが手に入らなかった少女は、失意の内に過去に消えた。
「それでも、夢と幻が世界を満たせばもう辛い思いをしなくて済むはずだった」
 そこならあらゆるものが手に入るから。
「……なのに、あなた達は夢も幻もいらないと言うの?」
 少女はそれが理解できないと言った。
 それが認められないと言った。
「私には、それが必要なの」
 安寧を感じられる世界が。
 だからそれを守る為に、と。少女は歩み出て、猟兵へと敵意を向ける。
ルベル・ノウフィル
pow

欲しいものが手に入らない、それはよくあること
愛を寄せたからと言って愛が返ってくるとは限らないのでございます
特に、精霊と名のつく者であれば人の性質をよく見て選ぶ者でしょうから……それゆえに、選ばれぬ時の哀しみも大きいでしょうが…

仮初の安寧は虚しいものではございませんか


僕の墨染と彩花は敵と近い心根かもしれませぬ
生奪を望む悲しき子ら
少し会話させてみたいもの

遠距離からは彩花を放ち
味方と連携しながら接近致しましょう
僕は第六感を信じます
一撃は捨て身で渾身のUC墨染を

もし味方に迫る危機があれば身を呈して庇いましょう
僕は我が身を気にしません、負傷歓迎です
敵の撃破とお味方のご無事を優先事項と考えます


ボアネル・ゼブダイ
先程も言っただろう?オブリビオンがいる限り、我々は夢の世界に耽るわけにはいかんのだ

彼方からの来訪者を発動
なぎ払うように口腔から怪光線を吐き出し、敵を遠距離から追い詰めるように指示を出す

夢を見ることも良いだろう、幻に一時の安らぎを求めることもあるだろう
だが、そんな場所へ閉じこもり、守るべき世界が崩壊して行くと言うのならば、夢も幻も我々には不要なものだ

魔術の衝撃を警戒しながら連携を取るように武器やUCで攻撃
一撃離脱を心がけるようにする

己の運命を儚み、散っていった哀れな少女よ
せめて永遠たる神の愛が、その魂を正しき場所へ導くように、私も心から祈ろう…

他の猟兵とも積極的に連携を取り、敵の撃破を目指す


茲乃摘・七曜
心情
夢も幻も否定はしませんが…生きる限り先に進まねばなりません
「誰だろうと過去に縛られ留まることは出来ません

指針
仲間の攻撃の機会を作る為に少女の行動を阻害
「炎に衝撃波も脅威ですが…技の模倣は厄介ですね

行動
Angels Bitsとの輪唱による氷礫や水槍で黒炎玉を牽制
※セイレイが火の玉に変わる・黒焔が燃え盛る等、予兆に警戒
Pride of foolsでの射撃で移動先に銃弾をばら撒き高速移動を阻害
「彼女に黒い精霊が集まったら等に注意しなければいけませんね

対SPD
仲間のUCが模倣された時、『流転』で発動を制すように阻害する
「模倣した技を使おうとする瞬間であれば旧き幻想の知恵も発揮しにくいといいのですが


ナナ・モーリオン
あなたは、わかっていない。
夢も幻も、それは手に入るものじゃない。
それは、ただ手に入れたつもりのだけ。

それに……なにも、違いは無いんだ。
ボクらも、この子たちも、精霊たちも……なにも。
ただ、住んでる場所が違うだけで、何も変わらない。
精霊を求めなくても、夢や幻に縋らなくても。
ずっと、傍にいてくれる子たちがいたのに。

行って、呪炎刃。
『呪詛』の炎で『追跡』『串刺し』にする。

黒い炎。ボクと共に在り、そしてきっと昔から、あなたと共に居たであろう者たち。
もう一度、この子たちと骸の海で眠るといい。
黒は、総てを受け入れる優しい色。
目を向けて見れば、結構居心地は悪くないと思うよ。


ラスベルト・ロスローリエン
君が何故精霊の声を聞けなかったかは分からない。
只、ね……誰しも割り切れぬものを心に抱え、それでも生きているのさ。

◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
迷宮に住まう精霊に呼び掛け《万色の箭》を紡ぐ。
『さあ、君が夢見たものだ。万色の彩り、四大の輩――夢現の狭間より我が手に集え』
疾風 岩塊 氷柱 烈火
迷宮を精霊の光輝で満たし形成した四矢を以て少女に纏わる黒き生霊を射抜く。
精霊の友として昏い炎に負ける訳にはいかない。
【全力魔法】【属性攻撃】で“翠緑の追想”に魔力漲らせ黒焔を滅そう。

『……君が生きていた頃に出会いたかったよ』
少女が消え逝く時“永久の白緑”に咲く花を捧げる。
せめてその終わりに精霊が寄り添うように。


フレッド・ピエタ
バカ弟子(f03401)と行動。
(他との絡み、アドリブ歓迎)

【POW】

愛されたくて愛されなかった、ねぇ…。
求めたら自動で与えられるもんでもないだろ。
与えられたら儲けものくらいなものを貰えずに嘆くのはナンセンスだと思うが。

その上夢や幻に逃げ込んでも腹は満たされねぇだろ。
っても、過去の亡霊にゃ通用はしねぇわな。

1番相性のいい水(氷)の魔力で攻撃力を強化。
2回攻撃と属性攻撃を仕掛ける。
俺のルーンソードは処刑道具も兼ねてるんでね、血を吸えば吸うほど切れ味が増すってね。

1度でも刺さりゃ、さらに傷口をえぐる。

こんな目にあってもな、精霊なんぞ助けてくれねぇよ。
無力を嘆きながらあるべきとこに帰りな。


蘭・八重
漸く貴女に逢えたわね。
あらあら、可愛らしいお嬢さんだ事。
ふふっ、妖精に愛されたかったのね
可哀想な子

でもね、辛さも悲しみもあってこそ綺麗な世界よ
何も無いじゃ面白くないでしょ?
お姉さんが教えてあげるわ

自分の身体から鋭い棘の茨の薔薇を取り出し彼女の身体に絡める
ふふっ、棘のある薔薇もね拷問具なのよ
貴女の血を一滴も残らず出してあげるわね

貴女の夢はどんな夢かしら?
動かなくなった彼女に【紅薔薇のキス】を与えて
本当に美しい世界の夢を永遠に


アルバ・ファルチェ
師匠(f12537)と参加。
絡み、アドリブ歓迎。

【POW】

欲しくて手に入らなくて、でも焦がれて…分からなくはないよ。
そして夢や幻に逃げ込んで安寧を求める事も。
でもね、だからって見過ごせない。
僕は与えられた幻で悦に入る趣味はないんだ。

基本的に防衛と援護を。
精霊は連れてないけど、人ならざるもののコルノとの仲を見せつけての【挑発】【おびき寄せ】とか【誘惑】【存在感】で意識を引きつけるよ。

師匠達に攻撃が向かえば【かばう】からの【武器/盾受け】【オーラ防御】または【見切り】。
隙があれば【カウンター】で【鎧砕き 】【武器落とし】【鎧無視攻撃】。

師匠、やり過ぎないでくださいよ?
貴方の攻撃たまにエグいんで。


ワズラ・ウルスラグナ
過去から這い出て今一度愛される努力をすると言うのならまだしも、な。
在るか無いかも分からぬ安寧を望むのなら、夢も見ない程に深く骸の海に沈むと良い。

敵は全て愛おしい。が、俺も要らんと言われるだろう。よくある事だ。
振り向いて貰えないと言うのは悲しいものだな。まあ気にせんが。
用いるのはブレイズフレイム。武器に地獄の焔を纏わせて戦う。
対応力が一番高いのが此奴だ。武器改造と武器受けの技能も用いて、敵の攻撃に応じて戦う。
ドレスで獄焔を奪われたなら、火炎耐性と捨て身の一撃を駆使して強引にカウンターを叩き込みに行く。
俺の焔が俺に効くと思うな。

精霊を愛した頃、まだ夢を見ていた過去へと還り、失意など忘れて眠れ。


八重森・晃
夢は必要だけど、ご飯を食べないと飢えて死んでしまうよ。精霊は自然の権化だと聞くよ、ならきっと、ご飯をたくさん食べる子の方が好きなんじゃないかな。まあ―今となって君に、そんなことを言った所で、なんだけど。私も安寧を感じられる世界が欲しいんだ、それを信じる…信じたい、もう一度。だから君は私によく似ているけれど―似ているからこそ、私の敵だよ。消えてくれ鏡映しの私、私の為に、私の夢の為に、忘却の世界で夢を見てくれ。塩の弾丸を打ち込みます、命中率の高い攻撃だから、回避しずらいだろうし、もし『古き幻想の智慧』を消費させることができたなら、それはそれでほかのメンバーの助けになるだろうし。


フェレス・エルラーブンダ
要るかそんなもの

手の届かないものなんて
ありすぎて、たくさん、ありすぎて――
もう、とうの昔にあきらめてしまった

被っていたボロ布を脱ぎ捨て
シーブズ・ギャンビットで攻撃に徹する
速さで劣ることのないよう
亡霊の気を惹く為に挑発、或いは本心の吐露を交え乍ら

……それの『聲』は、やさしいものではないのか
こころを交わせる存在が傍に居る
それは、おまえにとって慰めにはならないのか

安寧など存在しない
信じられるのは自分のいのちだけだ

なぜだ
その子どもの嘆きが獣の耳に響くたび
胸の奥が、いたくて、いたくて
歯を食い縛り乍ら、短剣を亡霊に突き立てた

夢なら『おまえたち』ふたりで見ていろ
幻想のせかいであれば
きっと、何の邪魔も入らない



 迷宮の奥部は黒色の空間だった。
 闇との境目のない天井。水中のような通奏低音。椅子がたった一つ。
 ただ自身の殻と夢想に沈むための部屋。
 それを眺め、そしてそこにいる元凶を見つめて。八重はあらあらと瞳を細めていた。
「漸く貴女に逢えたわね──それにしても可愛らしいお嬢さんだ事」
 確かにそれは、あどけなさすら残る少女だった。
 何時かは純真さあったろう。
 爛漫でもあったろう。
 けれど今は全てが過去に沈んで、昏い夢見の眼差しだけが残った亡霊。強い感情を吐露するように呟いていた。
「この世界は壊させない。あなた達ももっと夢を見れば、考えも変わるはず」
「──要るかそんなもの」
 強すぎるくらい、フェレスは自身の手を握りしめる。
 心は対照的でもあった。少女が進むのを止めて夢に沈んだのに対して、フェレスはただ現実を歩みながら、夢から目を背けている。
(「手の届かないものなんて ありすぎて、たくさん、ありすぎて──」)
 もう、とうの昔にあきらめてしまった。
 だから今更、夢幻の水底に沈んで微睡むことなんて出来ない。
 故にフェレスは被っていたボロ布を脱ぎ捨てた。身軽になり、ダガーを抜き放って一直線上に疾駆。斬閃を駆け抜けさせて一撃を見舞った。
 一歩下がった少女は黒い床に血の飛沫を零す。
 それでも瞳に鋭さを湛えて杖を取った。
「分かってはくれないのね。あなた達には欲しいものはないの──?」
「欲しいものがない人など、滅多にいないでしょう」
 ルベルは瞳を閉じて声を返していた。
「けれど欲しいものが手に入らないこともまた、よくあること。愛を寄せたからと言って愛が返ってくるとは限らないのでございます」
 精霊と名のつく者であれば人の性質をよく“見て”しまう筈。故に選ばなかったと知れば、その哀しみは大きいのだろう──それでも。
「……仮初の安寧は、虚しいものではございませんか」
「……」
 少女は俯いて口を噤んだ。
 それでもすぐに杖先を突きつける。
「私には、仮初しかないの」
 宙に現れるのは羽ばたく黒色だった。
 少女が愛したものとは相反したもの。生者を呪う生霊。それは深い殺意をもって漆黒の焔を湛え始めていた。
 だがそれが飛ぶ前に、宙に弧状の光が瞬く。
「だとしても──少なくとも我々は仮初に沈んでいる暇はない」
 剣を掲げるのはボアネル。刃先で魔法陣を描くと、そこに眩いシルエットを召喚し始めていた。
「来たれ異界からの魂よ……!」
 光が象ったのは四本の腕を持つ戦士。
 彼方からの来訪者(サモン・プレデター)。
 勇壮な威容を見せるそれは、敵の焔を見据えると大口を開けて口腔に力を集中した。
 刹那、薄暗闇の空間が発光する。剛烈なまでの怪光線が放たれたのだ。間合いのある位置から部屋を突っ切った衝撃は、薙ぐように横に奔って焔を吹き飛ばしていく。
 少女は一瞬はっとする、が、生霊が無事と分かれば再度焔を湛えさせようとした。
 しかしその隙を逃さずルベルは彩花を手にとっていた。
 紅硝子のような瞳で見据えるのは、少女と──傍らの生霊だ。
 生奪を望む悲しき子ら。
 世を嘆く剣と怨念に満ちた札は、あれと近い心根なのかも知れないとふと思う。
「通じるところがあるのならば──」
 ルベルは指先から札を飛ばした。
 満ちる怨念は生霊を惹きつけたのだろうか、それともその逆か。逃さぬように曲線の軌道を描くと、札は生霊の怨念を我が物にするようにその一体を消滅させた。
 けれど、生霊は一体だけではない。数体が新たに闇から顕現していた。
 少女はこちらが油断できない相手だと判ったのだろう。素早く呼び掛ける。
「彼らを、退けて。……皆に夢の世界を見せてあげるために」
「言ったろう。オブリビオンがいる限り、我々は夢の世界に耽るわけにはいかんのだ」
 が、その頃にはボアネルが黒剣を構えて肉迫している。
 声を荒らげなくとも、切れ長の美しい眼は厳然とした意志を顕していた。
 夢を見ることも良いだろう。
 幻に一時の安らぎを求めることもあるだろう。
 生きることが苦悩に満ちていることなど、ボアネルとて厭というほど識っている。
 それでも。
「そんな場所へ閉じこもり、守るべき世界が崩壊して行くと言うのならば──夢も幻も我々には不要なものだ」
 黒い流線が黒色を裂く。
 ボアネルは生霊を斬り捨て、返す刀で少女の躰に斬撃を叩き込んでいった。

 後退した少女の周りを、生霊が舞う。
 ただそれは祝福とは違う。生を奪う同族として、自身らを使役する存在として、その身を案じているに過ぎなかった。
 黒い影が落ちる中で少女は俯く。
「私が愛されなかった気持ちは、私にしかわからないわ」
「かもな」
 フレッドは肩をすくめて言った。
 さりとて、彼女の言に頷きはしない。
「だがそもそも、愛なんてのは求めたら自動で与えられるもんでもないだろ。与えられたら儲けものくらいなものを、貰えずに嘆くのはナンセンスだと思うが」
「……あなたは愛がいらないというの」
「受け取って当然じゃないって言ってるのさ」
 あくまでのらりくらりと言って、息をついた。
「大体、夢や幻に逃げ込んでも腹は満たされねぇだろ?」
「そうだよ。夢は必要だけど、ご飯を食べないと飢えて死んでしまうよ」
 と、頷いてみせたのは晃だった。
「精霊は自然の権化だと聞くよ。ならきっと、ご飯をたくさん食べる子の方が好きなんじゃないかな」
 伝えたのは、心にあった素直な言葉でもある。
 尤も、今となってはその言葉が通じないのは判っていた。彼女はもう今を生きている人間では無いのだから。
 少女は、小さく首を振って生霊に焔を生ませていた。
「一番欲しいものが手に入らないのに、他のものなんて……!」
 辺りに熱気が満ちる。
 それは少女の行き場の無い心の表れだったのかも知れない。
 だが、その炎の大波ですら熱せない程、清らかで冴えた歌声が響き渡った。
『────』
 それは七曜が織りなして、Angels Bitsにも輪唱させていた声音。
 涙の情景、氷の情景、嵐の情景──連作歌曲“冬の旅”。
 夢も現も詠ってみせるその唄は、厳寒を形にした氷礫と水槍を生んでいた。
 伸びやかなハイトーンで炎を払い、細かな節回しで火の粉の残滓も吹き飛ばす。冷たい旋律が悲嘆の熱を寄せ付けず、仲間に攻撃を及ばせなかった。
「あの焔は暫し、私が防いでおきましょう」
「ああ、助かるよ」
 頷くラスベルトは、杖に多色燦めく光を収束させている。
 呼び掛けるのは迷宮に住まう精霊達だった。
「さあ、君が夢見たものだ。万色の彩り、四大の輩――夢現の狭間より我が手に集え」
 闇すら裂いてしまうように螺旋を描いてくるのは、涼やかななれど鋭い疾風。
 硬質な床をも鳴動させて隆起させるのは峻厳たる岩塊。
 空気から生まれくる煌めきは冷気による氷柱。
 敵が操る熱気も凌駕するのは紅の烈火。
 ──この手に構えるは森羅の大弓。
 ──番えたるは万象織り成す四大の矢。
 ──言の葉の弦をいざ引き絞り、常闇穿つ黎明の嚆矢とせん。
 四大属性を司る精霊が、空間を光輝で満たし形成した四矢を形成していく。
 それを見つめた少女は何を思ったろうか。手を掲げ、生霊を更にもう一体喚び出して炎を撃ち出そうとしていた。
 だがラスベルトは既に四矢を差し向けている。
「精霊の友として昏い炎に負ける訳にはいかないんだ」
 瞬間、その全てを射出。虹描く光の大流として放っていた。
 万色の箭(バンショクノヤ)。押し寄せる精霊の力の塊は、炎を払って生霊を貫き、灼き、切り裂き、粉砕していく。
「君が何故精霊の声を聞けなかったかは分からない。只、ね……誰しも割り切れぬものを心に抱え、それでも生きているのさ」
「ええ。そして生きる限り先に進まねばなりません。誰だろうと──過去に縛られ留まることは出来ません」
 同時、七曜が注がせた氷雨がもう一体の生霊を討っていた。
「……っ」
 光と衝撃の嵐に吹き飛ばされ、少女もまた後退する。
 眩しすぎる力を正視できぬように、眼を細ませて。
 声音は憎らしげでもあったろうか。
「未来になんて、希望も、欲しいものも無いのに──」
「……皆が皆、そうじゃないよ」
 アルバは手元に乗ってくるコルノを見つめる。
「未来に歩みたい人もいる。少なくとも僕は、これからもコルノと一緒にいたいからね」
 コルノは腕を上って、肩に乗ってきた。
 アルバはほんの少しだけくすぐったそうにする。
 欲しいものに焦がれる気持ちは分かる。
 夢や幻に逃げ込んで安寧を求めることも。
 けれどアルバには今この時大事なものがあって、それは確かに未来に歩む理由の一つだった。
「だから、ここで留まるわけには行かないんだ」
「……だったら、それも全部に過去に追いやってしまえばいい」
 少女は、瞳に翳りを宿す。
 新たな生霊を三体喚び出すと、炎を弾丸のように圧縮して連射してきていた。
 だが、アルバは焦っていない。
 元よりこれは挑発行為。敵がつられて攻撃してくるのなら狙い通りだった。
 黒色の火の粉が爆ぜて消える。アルバは白銀の盾を真っ直ぐに掲げて熱の毒牙を受け止めていた。
 黒焔は途切れず、熱線のように襲いかかる。だがその温度も、弾ける火の残滓も、オーラを纏って欠片も後ろに通さなかった。
 その間にフレッドが横合いから疾駆するのを、アルバは見ている。
「師匠、やり過ぎないでくださいよ? 貴方の攻撃たまにエグいんで」
「さてね」
 軽く言って、フレッドは前進していた。
 佩いていた剣を握ると、その刀身に水流を渦巻かせて氷結の力を宿していく。鮮やかな蒼色を見せるそれを振り上げ、高速で少女へと踏み込んでいた。
 少女は気づいて生霊を差し向けようとするが、一瞬襲い。フレッドが縦一閃に斬撃を喰らわせ、肩口を裂いて後退させていた。
 相手も反撃しようと手を伸ばす、が、その動きが鋭い痛みで停止する。
「俺のルーンソードは処刑道具も兼ねてる。血を吸えば吸うほど切れ味が増すってね」
 フレッドの言葉通り、少女の傷は氷気で躰を抉り続けていた。空気中の水分を取り込んで鋭利さ強め、苦痛をいや増しているのだ。
 微かな呼気を零しながら、少女はそれでも炎撃を返そうとする。
 だが鋭い刃を持っているのはフレッドだけではない。自身に向いていた炎を弾ききったアルバが疾駆、獅子の星剣を抜き放っていた。
「僕は与えられた幻で悦に入る趣味はない。だから──他の人やこの世界が壊されるのだって、見過ごせないんだ」
 星が夜空に奔るような美しき剣撃。薙がれた刃は漆黒に光の線を描くように、痛烈な傷を刻んだ。

 かたりと椅子が傾いて倒れた。
 少女が夢を見るためだけに存在する、不確かな安息の地。
 倒れ込んだ少女は、それに縋るように起き上がる。零れる声は嘆くようでもあった。
「夢も幻も、意識しないくらいに世界に満ちれば。誰も世界が壊れたとも思わなくなるのに……。そのために、私はここに出てきたのに……」
「幻で世界を満たす、か」
 呟くワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)は、少女の言葉に夢を見ない。
「過去から這い出て今一度愛される努力をすると言うのならまだしも、な」
 と、声音に交じるのは獄炎の音。
 それは立ち昇ると大剣──暴風龍サルヴァを纏っていく。波打つ紅蓮は離れていても肌を刺すほどの熱気を孕んでいた。
 瞬間、床が踏み砕ける程に力を込めて、翔ける。
「在るか無いかも分からぬ安寧を望むのなら。夢も見ない程に深く骸の海に沈むと良い」
 まるで焔と同化するかのように、刃は熱の塊となっていた。刹那、大気が咆哮するが如き音を上げて一刀。少女の体に消えぬ焦げ跡を残す。
 苦痛に眉根を寄せながら、少女は生霊複数体を一気に差し向けた。
「安寧ならきっとあるわ。少なくとも愛のない現実で苦しむくらいなら──」
「現実に愛は無いか。俺にとっては、敵という存在は全て愛おしいものだがな」
 それはワズラにとっては偽らざる心だろう。
「だが、お前にとっては俺も要らぬ存在なのだろう。振り向いて貰えないと言うのは悲しいものだが──それも、よくある事だ」
 故にワズラは、それで夢に沈んだりはしない。
 強烈な払い切りを受けて少女はよろめく。息を浅くしながら、それでも抵抗の意思を絶やさず生霊を纏っていた。
 黒いゆらめきに覆われたその躰は、少女の姿に似つかわしくない力を得たことだろう。だが、フェレスは彼女に好きにさせるよりも早く──ただ問いかけた。
「おまえは何にも愛されぬと言った。だが、黒い存在。……それの『聲』は、やさしいものではないのか」
「……」
「こころを交わせる存在が傍に居る。それは、おまえにとって慰めにはならないのか」
 少女はほんの少しだけ惑う。
 その隙があれば、フェレスが駆けるには事足りる。刹那、距離を詰めたフェレスは刃を奔らせて一撃、靄に抉りこませるように斬撃を加えた。
 血を流しながら、少女はそれでも首を振る。
「それは求める愛じゃない……。私の欲しい安寧はそこにはないの──」
「ならば言ってやる。安寧など存在しない。信じられるのは自分のいのちだけだ」
 フェレスは言いながら声を微かに震わせた。
 それは確かに、敵の動きを制動するための挑発の言葉である筈だった。けれど、或いは本心の吐露であったかも知れなかったから。
 膝をつきながら、少女は口元からも血滴を垂らす。
 だが、歪んだ純粋さを持つ心で蘇った命は、簡単に消えはしない。執念にも似た様相を瞳に浮かべながら、衝撃波を放とうと手を伸ばした。
 けれど晃は既にそこに狙いを定めている。
「やらせない」
 指先を向けて、そこにちりちりと昇らせてくるのは白色の流砂──塩。
『塩の契約<ベリート・メラハ>によりて、弾丸よ、在れ』
 塩を生成し媒介にする魔術は、素早く粒を操作。瞬く間に弾丸へと形成していた。
 ──塩の弾丸(ソルト・ブリッド)。その射撃は精度の高い狙いによって少女の腹部を貫いていく。
「……っ」
「君のいいたい事、分かるよ」
 晃は少しだけ鎮まった声で言った。
「私も安寧を感じられる世界が欲しいと思っているから」
 晃にだって幾らでも、辛い記憶をたどることは出来る。それでもそれを信じるし、信じたかった。
 故に、ここで斃れるわけには行かないのだ。
「君は私によく似ているけれど。似ているからこそ、私の敵だよ。」
 だから──消えてくれ、鏡映しの私。
「私の為に、私の夢の為に、忘却の世界で夢を見てくれ」
 高速の弾丸は少女の胸部を貫いて、黒いゆらめきを祓っていく。
 少女は地に手をついて、苦悩の息を零した。
「過去に消えるなんて、嫌……。私は、ここにある幻を、手放したくはない……夢は、夢見たものは、ここでしか手に入らないのだから──」
「あなたは、わかっていない」
 呟いたのはナナだった。
 柔らかな口調で、しかし確かな現実を口にしている。
「夢も幻も、そこで見るものも。手に入るものじゃないよ。目に見えても、何かがあると思い籠めても。それはただ手に入れたつもりになっているだけ」
「……」
 口元を震わせる少女に、ナナは一歩近づいた。
 それに、と、周囲を見渡す。
 視線に映すのは生霊──そして、ナナの交信することの出来る霊魂、魂。
 精霊と同様に世界にどこにでも、漂っているもの。
「なにも、違いは無いんだ。この子たちも、精霊たちも……なにも。ただ、住んでる場所が違うだけで、何も変わらない」
 緩く首を振って目を閉じる。するとその魂の揺蕩いを感じた。
 少女が生霊の息吹をその身に感じるのと同じように。
「精霊を求めなくても、夢や幻に縋らなくても。ずっと、傍にいてくれる子たちがいたのに」
 ただ目に見える眩しい色だけを求めて──どうしてその事に気づかないの、と。
 言葉とともにナナは黒色の炎を形成する。
 それは呪詛を練り上げることで作った刃だ。
「行って、呪炎刃」
 無数の黒焔は鋭い切っ先となって宙に撃ち出されていく。風を裂き、短い距離を一瞬で飛来して少女に降り掛かっていた。
「黒い炎──ボクと共に在り、そしてきっと昔から、あなたと共に居たであろう者たち。もう一度、この子たちと骸の海で眠るといい」
 黒は総てを受け入れる優しい色だから。
「目を向けて見れば、結構居心地は悪くないと思うよ」
 強い熱を、そして少女には見知った感覚と苦痛を与えながら、刃は躰を抉っていく。

 溢れる血までもが過去に還っていく。
 自身の存在が薄まっていくことに、少女は恐れの表情を見せた。それを食い止めようと尚必死に、生霊に焔を発射させる。
 だが仲間へ飛ぶそれを、ルベルは身を挺して庇った。
 敵が命を賭したとしても、ルベルも元より我が身を案じない決意の持ち主。軽やかに、しかし意志強く飛び込んで炎を受け止めると、刃を下段に構えていた。
「行きますよ──墨染」
 黒剣は妖力を棚引かせて、怨嗟に啼く。その唸りが熱を裂くように火の粉を払うと、奔らせた剣閃のままに少女の片腕を斬り飛ばした。
 呻きながら、少女は斬撃を一部でも複写して返そうとする。
 だがそこに無数の銃弾が降った。
「動けなければ、力の利用しようもないでしょう」
 冬の水面のように揺らがぬ声音。七曜がPride of fools──二挺拳銃から発砲し、魔導弾による封印術式を展開している。
 ワズラがそこへ激流の如き獄炎を浴びせていた。
 衝撃に吹っ飛ぶ少女は、朦朧としてきた意識でその炎の残滓を返してくる。が、ワズラへの効果は薄い。元より黒龍は獄炎を体に宿しているのだから。
「俺の焔が俺に効くと思うな」
 直後に剣撃も返して傷を深めさせていく。
 少女は変わらず哀しげな声だった。
「なぜ夢を見ることも、許されないの」
「その夢が罪なものだからだ」
 フェレスは応え、刃を振り上げる。
 少女の嘆きが獣の耳に響くたびにどうしてか、胸の奥が痛くてたまらなかった。
 何かを求めることを否定することが、まるで自分を傷つけてもいるようで。
 だから歯を食いしばりながら、その亡霊へ短剣を突き立てる。
「夢なら『おまえたち』だけで見ていろ。──幻想のせかいであればきっと、何の邪魔も入らない」
 少女は倒れ込む。
 しかし未だ、這うようにして立ち上がろうとしていた。伸ばす手は、見えていないものを求めているかのように。
「──どこまでも、妖精に愛されたかったのね」
 可哀想な子、と八重は呟いた。
 けれど、しゃらりと自身の髪を撫ぜながら言ってみせる。
「でもね、一片の傷もない幻なんて味気のないものよ?」
 大輪の花が蕾に言い聞かせてあげるかのように、声音には笑みを含んでいた。
「辛さも悲しみもあってこそ綺麗な世界。何も無いじゃ面白くないでしょ? それを──お姉さんが教えてあげるわ」
 ゆらりと美しい翠が揺らぐ。八重が体から取り出した鋭い茨だ。
 鮮やかな色の薔薇をもつけるそれは、八重が放つと同時に少女の躰に絡みついていた。
「ふふっ、棘のある薔薇もね、私の拷問具なのよ」
 蠱惑的な笑みと共に薔薇は喰い込むように流動。棘で皮膚を破って血を流させる。
「このまま、貴女の血を一滴も残らず出してあげるわね」
「……っ」
 少女は歯噛みして、身動ぐ。だがそれに呼応して棘は尚全身を蝕んだ。
 ぽたりぽたりと、赤色が垂れては過去に消えていく。
 全身の力を失っていきながら、少女は最後まで抵抗しようとしている。だがフレッドがそこに斬撃を重ね、僅かの動きも許さなかった。
「無駄さ。──こんな目にあってもな、精霊なんぞ助けてくれねぇよ。無力を嘆きながらあるべきとこに帰りな」
「……いや、だ……私は精霊を……」
「ならば精霊を愛した頃、まだ夢を見ていた過去へと還り──失意など忘れて眠れ」
 ワズラも焔の剣で命を焼き斬っていく。
 意識を失っていく少女へ、八重はかつりと歩み寄った。
「貴女の夢はどんな夢かしら?」
 呟くと、顔を近づけて口づけをした。
 紅薔薇のキスは猛毒を運ぶ。それは消えかけた命を奪い切るには十分で──少女をここではないどこかへ運ぶに足りるものだった。
 ──本当に美しい世界の夢を永遠に。
 八重がそっと唇を離す頃には、そのオブリビオンは絶命していた。

 迷宮の蒸気はいつしか晴れていた。
 内部の敵がいなくなったことで、供給源もそれを運ぶ魔力も無くなったためだろう。
 少女の体は黒い靄になっていくように、段々と消えていっていた。
「……君が生きていた頃に出会いたかったよ」
 ラスベルトは呟いて、“永久の白緑”に咲く花を捧げる。
 するとその周りに淡く光るものが飛ぶ。
 ひらひらと、舞うように。
 ただそれも一瞬。程なく靄は消え失せ、跡形も残らなかった。
 透明さを取り戻していく空気の中で、ボアネルもしばしその跡を見下ろしていた。
「己の運命を儚み、散っていった哀れな少女よ。せめて永遠たる神の愛が、その魂を正しき場所へ導くように、私も心から祈ろう──」
 猟兵達は少しの後、迷宮から出る。
 その世界は眩しくて、色鮮やかだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月18日


挿絵イラスト