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Re:menber us

#スペースシップワールド #戦後 #ミディア・スターゲイザー #宇宙開拓者 #凶星のレオポルト

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●No one knows
 その船は、何の変哲もない宇宙船だった。
 居住可能惑星を探すことなど疾うに断念し、研究や開発、他船との技術連携によって生活の安定に励み、ささやかな平穏を甘受しているだけの船である。
 本業の開発区画はラボらしく、ひっそりとした静謐さに包まれているが。数多の人々が暮らす居住区は、まるで小さな町の様相。消灯の時刻まで賑わいが消えることは無い。様々なフェイクグリーンや造花で彩られた広場には、次代を担うこどもたちの燥ぎ聲が響き渡っている。
 其れは本当に何の変哲もない、豊かで、平和な船であった。ゆえにこそ、彼らは気付いていないのだ。その背後に迫り来るささやかな脅威の存在に――。

「あれが、標的の船か」
 旧式の小型戦艦の窓に張り付きながら、女は立派な佇まいの船を見遣る。口端は自然と歪な笑みを描いた。まるで、自嘲のような――。つぅと細めた双眸に、羨望と憎悪の彩が混ざるのは、なにを隠そう彼女が『過去』の人間だから。
「あたし達が乗ってた船より上等で、笑えて来るよ」
 当時の宇宙開拓は過酷であった。
 小回りが利くからと小さな船に詰め込まれて、何が原因かも分からぬシステムエラーに対処する日々。食糧と云えば、味気ないペースト状の栄養食ばかり。掘削機は碌に云うことを聴かず、挙句の果てに環境維持の装置まで暴走する始末。
 あの頃は技術が未熟だったから仕方ない、なんて。当事者がそう簡単に割り切れる筈も無く。行き場の無い恨みは募るばかり。逆恨みだと分かって居ても、沸々と湧き上がる怒りを抑えることは叶わない。
「嗚呼、呑気そうな航海で腹立つね」
「あたし達のことなんて、皆とっくに忘れてるのさ」
 標的艦へと接近する程に、窓へ群がる女の数は増えて行く。彼女たちは嘗て、人々の期待を一身に背負い、安住の地を求めて旅立った『宇宙開拓者』であった。勿論、居住可能惑星なぞ見つからず、終ぞ故郷に還ることも無く。彼女たちはただ、星海の塵と成り果てた。結局のところ、開拓者たちが命懸けの航海を通じて遺せたのは「次代の礎」なんて、虚しい賞賛の詞だけ。

「すっかり歴史の闇に葬られちゃったよねぇ。――俺も、君たちも」
 艦長席でゆったりと寛ぐ男は、青く塗った唇をにやにやと弛ませて、まるでチシャ猫のように笑う。彼の目許を隠す軍帽は、其の身から滲み出る悪意までは隠せて居なかった。
「それで、どーする? 影の英雄として、潔く沈黙しておくかい?」
 艦内に重々しい空気が流れる。誰一人として、肯定する者は居なかった。否、肯定など出来る筈も無い。なにせ彼女たちは、二度目の生を得て仕舞ったのだから。
「一度目は宇宙の塵と消えたんだ」
 艦内に流れる重々しい沈黙を引き裂いたのは、ぽつり、コンソールを操るひとりの開拓者が溢した聲。彼女の蒼い眸には、或る種の覚悟が宿っていた。
「次はせいぜい、派手に散ってやろうじゃ無いか」
 そう啖呵を切った刹那、轟音が響き渡る。
 小型艦が民間船へと思い切り、体当たりを喰らわせたのだ。艦内は忽ち赤く染まり、警報が喧しく鳴り響く。きっと、彼方の立派な船も同じ状態だろう。ひとつだけ違うのは、急襲した此方のほうにイニシアティブが存在すること。
 女たちは堀削機片手に、脱出口へと駆けて往く。そう間を置かぬうちに、彼女たちは標的の船壁に穴を開け、無事侵入を果たすだろう。皇帝の血族へ喧嘩を売り、ついでに平和を甘受する民を嬲り、挙句は派手に散って、汚名を銀河に轟かすのだ。
「いいねえ、そういう悲壮感は大好きさ!」
 黒い手袋を嵌めた両手を打ち鳴らし、ささやかな喝采の雨を降らせる男は、明かに面白がって居た。高揚の儘に吊り上げた口端から、ギザついた歯を覗かせて彼は笑う。
「君たちの断末魔にも期待してるぜ、レディース」
 煽るような科白を寄越す男へ軽蔑の視線をちらりと呉れ、コンソールを操る女もまた、己の席から立ち上がった。其の身に持て余す程に巨大な堀削機を引き摺りながら、女は胸の裡で憤りを謳う。

 ――さあ、我らを想い出せ。

●You all know
「普通に生きてるとさァ、先人の有難さとか忘れちゃうよねェ」
 グリモアベースの片隅にて。集った面々を前に、神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)は何とも神妙な貌でそう肩を竦めてみせる。
「まァ、だからと云って恨みに思うのは筋違いだがね」
 こほん。咳払いを溢して気持ちを入れ替えた常盤は、朗々と今回の任務についての概要を紡いで往く。胡乱な男いわく、スペースシップワールドでいま、一隻の宇宙船がオブリビオンの襲撃を受けているのだと云う。
「侵入者たちの狙いはミディア・スターゲイザー嬢の命だ」
 宇宙船の動力機械である『コアマシン』にワープ航法を与える事ができるのは、銀河皇帝唯一の血族である彼女、唯ひとり。故にオブリビオンたちは、ワープドライブ根絶のため、ミディアを暗殺しようと企てているのである。
「連中はきっと、乗員たちも殺すだろう」
 銀河帝国に逆らうと酷い目に合うのだと、星海にそう知らしめる心算なのか。或いはもっと別の意図があるのか。真相は定かでは無いが、オブリビオンたちは殺意に溢れているようだったと常盤は語る。
「今なら未だ、全員の命を助けられる筈さ」
 さいわい、敵の襲撃は開始されたばかり。直ぐに駈け付ければ、船に暮らす人々のいのちも、ミディアのいのちも救える筈だ。尤も、ミディアの方は或る程度、自分の身は自分で護れるようだ。ゆえに何方かと云うと「一般人」のいのちが脅かされぬよう、敵への対処に力を注いで欲しいと、胡乱な男は言葉を重ねた。
「信じて居るよ、諸君」
 それじゃァ、健闘を。そう鷹揚に笑う男の掌上で、血彩のグリモアがくるくる、くるくる、回り始める。猟兵たちが向かう先は、眩い星海の世界――スペースシップワールド。


華房圓
 OPをご覧くださり、有り難う御座います。
 こんにちは、華房圓です。
 今回はスペースシップワールドにて、冒険譚をお届けします。

●一章〈集団戦〉
 民間船を襲撃した、宇宙開拓者たちと戦っていただきます。
 船員や住民たちの避難誘導や保護などはミディアが行ってくれます。
 したがって、皆さんには存分に戦闘に集中していただけます。

 なお、『ミディア・スターゲイザー』はリプレイ本文には登場しません。
 その点のみ、予めご了承ください。
 代わりに皆さんの活躍をめいっぱい、描写させていただければと思います。

●二章〈ボス戦〉
 船に乗り込んで来た、ボスと戦闘していただきます。
 詳細は章進行時にまたお知らせいたします。

●〈その他〉
 プレイング募集期間は断章投稿後、MS個人頁やタグ等でお知らせします。
 キャパシティの都合により、グループ参加は「2名様まで」とさせてください。

 またアドリブの可否について、記号表記を導入しています。
 宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
 それでは、よろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『宇宙開拓者』

POW   :    味気ない宇宙食
戦闘中に食べた【チューブ入りの完全栄養ペースト】の量と質に応じて【逆境に立ち向かう開拓者精神が燃え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    暴発するレーザー掘削機
【レーザー掘削機から、四方八方に破壊光線】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    故障した環境維持装置
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Unbeknownst
 宇宙船のなかは案の定、喧騒に満ちていた。
 船の損傷を伝えるようにチカチカと赤く明滅する船内には、侵入者の存在を報せる警告音がけたたましく鳴り響いている。
 船が沈まぬように、操縦室でシステムの安定化に努めるクルーたち。一方で女こどもは、広場へと避難を始めている。平和呆けしている筈の船がどうにか運航を続けられるのは、標的である「ミディア・スターゲイザー」の的確な指示と手早い誘導の賜物だろう。

 そんなことなど知る由もないオブリビオン――「宇宙開拓者」たちは、重たげな堀削機を抱えながら船内を駆け巡る。
「見れば見る程、快適そうな船だね」
「まったく、羨ましいよ」
 溜息交じりに悪態を付き、味気ない栄養チューブを啜る女。行き場の無い苛立ちの儘に足許に転がる瓦礫を蹴れば、カラン、と硬質な音が船内に反響した。厭に静かな船だ。船内が恐慌状態に陥っている様子は未だ、無い。
「……嗚呼、護衛が居るのか」
 漸く其処に思い至った女たちは、諦観交じりに頸を振る。在り来りな船でありながら、何と云う厚遇か。躯の海から蘇ってなお、斯くも間が悪いとは――我が身の不運を呪わずには居られない。
「いいさ、派手に死ぬのがあたし達の目的だからね」
 何処までも報われぬ運命ならば、せめて一人でも多くを道連れに。願わくば、あの皇帝の血族の首を手土産に。盛大に一花咲かせて死んで往こう。
 後世に生きた証を遺せるならば、悪名だって構わない。
「さあ、往こうじゃないか」

 歴史の影に葬られた、『我ら』に相応しき死に場所へ――。


≪補足≫
・アドリブOKな方はプレイングに「◎」をご記載いただけますと幸いです。
・プレイングは心情よりでも、戦闘よりでも、どちらでも大丈夫です。
・避難誘導はミディアが担ってくれているので、一般人への対処等は不要です。

≪受付期間≫
7月18日(日)8時31分~7月21日(水)23時59分
菊・菊
◎#
リコ(f29570)と一緒

まあ、分からんでもない

でもうっせぇこの音何とかなんねーのかよ
先行するリコの尻尾を追いながら、しにたがりに迫る

花々しく死にてえなら、手伝ってやろうって話だ
俺はやさしいからな

『いい夢、見てけ。』

そら、よーく吸えよ
どうやって死にたいか、お前らの最高の死に方で殺してやる
まあ、夢の中だけど

実際は、狼の牙の餌食だ
お前らは平和ボケした奴ら誰一人殺せず死ぬ

でもよ、前よりちょっとは悪くねえだろ…満足したか?
菊紋様の鍔が音を立てた

血を吸ってご機嫌な妖刀と、船内の警告音
どっちもクソうるせえ

隣に立つリコに凭れ掛かって耳を塞ぐ
死に場所を選べないのは、俺たちも同じだ
忘れられんのは、クソだよな


唐桃・リコ
◎♯
菊(f29554)と一緒

派手に死にてえの
殺してえの
そうしたら、殺り合おうぜ
自分の中の人狼が戦わせろと騒ぐ

駆け出すと同時に【Fang】を発動
菊に先行して道を開く
喉元に迫って、噛み付いてやるよ

オレに迫る攻撃も
菊に迫る敵の攻撃も
全部受けて、相手が菊の毒に掛かれば
さあ、仕上げだな
ナイフを振るって敵の喉元へ飛び込んで
オレ達の痛みもテメエらの痛みも
全部纏めて刻みつけろ
はは、ははは、まだ足りねえ
もっと、もっと来いよ!
もう終わりなのか?
もっとやり合おうぜ!

……うるせえ?……確かにな。
凭れ掛かる菊に軽く頭をぶつけて

自分が生き方を貫いた
それを誰かに覚えていて欲しいんだろ
……覚えてられなかったら
ごめんな



●Fang of paradise
「漸くお出ましか、イェーガー」
 躯の海に、歴史の影に、露と消えた女たちの前。其の死出の行軍を阻むように、ふたりの少年が立ちはだかった。思わず脚を止めた女たちは、にやりと口角を上げて銘々に得物を構える。
「派手に死にてえの」
「ああ、この船の連中諸共ね!」
 唐桃・リコ(【Code:Apricot】・f29570)が淡々と編んだ問いに、女が高らかに肯定を紡げば、戦場にふと冷たい風が吹いた。其れが殺意を以て招かれた北風であることを、少年たちは知っている。ゆえにこそ、遠慮は無用。
「――殺り合おうぜ」
 己の内に鎖した人狼が、戦わせろと騒いでいる。
 其の衝動の儘、リコは白銀の髪を揺らして駆けだした。其の身に纏うは大切な花姫の守護。総てをくれた彼女を傍に感じるから、肌をひりつかせ、手指に霜を降らせる風すらも、此の身で切り裂いて往ける。
「うっせぇ……」
 其の身で以て道を開いてくれる相棒の尾を追い掛けながら、そう眉を寄せるのは菊・菊(Code:pot mum・f29554)である。船のなかに反響する警告音が、自棄に耳に障って仕方が無い。
「この音何とかなんねーのかよ」
 吐き棄てるように文句を溢しながらも、その足は決して止まることなく『しにたがり』の女どもの許へ迫って往く。吹き付ける氷雪の風に、ゆびさきはしんと凍えているが、手にした刀を落とす程では無い。ダメージで云うと、風除けをしている相棒の方が余程酷い有様だ。編んだ毛束に纏わせる霜は、何処か痛々しい。
「へぇ、根性あるじゃないか」
 歪に口許を弛ませた女は、堀削機を少年たちへ向ける。其の照射口から忽ち放たれるのは、赫々としたレーザービーム。敢えて其れに頬を穿たせ、リコは女の懐へと飛び込んだ。そうして、あえかな喉元へと牙を立てる。暴れる女を抑えつける腕は、幼げな見目とは裏腹に強固である。それも其の筈。受けた傷の分だけ、彼は強く成れるのだ。
「いいね、迷いがない」
「その調子であたし達を、盛大に散らせておくれよ」
 仲間が喰われていると云うのに、女たちの高揚は留まることを知らぬ。ただ歴史の影に消えることを厭い、派手やかな最期を求める愚かな「ひと」の姿が、其処には在った。
 ――まあ、分からんでもない。
 女たちの聲を聴き流しながら、菊もぼんやりとそう想う。次々に襲い来るレーザーは、少年の肩を穿ち、黒髪を幾束か焦がし、白頬に赤き絲を刻んで往く。けれども、其れだけだ。致命傷には至らない。
「俺はやさしいからな」
 花々しく死ぬことが彼女たちの望みなら、手伝ってやろう。血が滲むゆびで菊模様の鍔を撫ぜ、白妙の刀身を凛と掲げて、少年は詠唱を紡ぐ。

「――いい夢、見てけ」

 妖刀『寒菊』をひとたび振えば、鮮血が舞い、戦場には瘴気が満ちる。其れは対峙する者たちに幻覚を齎す、強力な猛毒。咳き込む女たちを見降ろしながら、少年は口許抑えて云い棄てる。
「そら、よーく吸えよ」
 きっと吸えば吸う程、各々が考える『最高の死に方』を呉れて遣れる。尤もそれは、夢の中の噺だけれど。
「そうだ、物寂しい最期など要らない」
「いっそ出立を見送る視線の中、船が爆ぜれば……」
 人知れず宇宙の塵と化すよりは、盛大な花火と化して散りたかった。そう語りながら床へと座り込む女たちを、ナイフ片手に見降ろすリコ。
「さあ、仕上げだな」
 夢に堕ちた敵の喉元に彼は其れを突き付け、柔い肌を裂く。そして飛び散る鮮血を拭うことなく、次の獲物へ飛び掛かり、またナイフを横にひく。それの繰返し、繰返し。まるで彼女たちの痛みも、自身と相棒が得た痛みも、全部纏めて刻みつけるように――。
「くッ……」
 喉を裂く刃の痛みで正気に返った女が、反射的に堀削機の引鉄を引く。其れは人狼の少年の肩を穿ち、壁に赤い鮮血を迸らせた。
「はは、ははは」
 されどリコは、まだ足りないと笑うばかり。想わぬ反撃に興が乗り、ナイフを手繰るゆびには熱が籠る。
「もっと、もっと来いよ! もっとやり合おうぜ!」
 少年はそう煽り立てながら、次の獲物へ飛び掛かって往く。歪な夢に堕ちた女たちを食らい続ける狼の凶牙は、彼女たちが倒れ伏すまで止まらない。

「……もう終わりなのか」
 漸く狼の饗宴が終わりを迎えた頃には、数多の女が血だまりに横たわっていた。その惨状を見降ろしながら、何処か残念そうにリコは零す。
「平和ボケした奴ら誰一人殺せず、お前らは死ぬ」
 一方の菊は未だ息の或る女の傍らに屈み、淡々とそう囁いた。悔し気な女の眸と目が合えば、ちいさく頸を傾けて見せる。
「前よりちょっとは悪くねえだろ」
 此の最後は痛々しく、血腥いものであるけれど。誰にも知られずに散って往くよりは、何倍もマシな筈だ。少なくとも、彼女たちにとっては。
「……満足したか?」
 かくり、微かな趣向を遺して女は息絶えた。
 鳴りやまぬ警報に紛れて不図、菊紋様の鍔がカチャカチャと謳う。新鮮な生き血を吸えて、妖刀も満たされたと見える。嗚呼、然しどちらの音も――。
「クソうるせえ」
「……確かにな」
 立ち上がるや否や、菊は傍らのリコに凭れ掛かって耳を塞ぐ。そんな彼に、コツンと軽く頭をぶつけて、リコは双眸を鎖す。散々喰らった彼女たちを、悼むように。
 きっと彼女たちは、誰かに覚えていて欲しかったのだろう。ひとつの『生き方』を貫いた、自分たちのことを――。
「忘れられんのは、クソだよな」
 死に場所を選べないのは、彼女たちだけでない。猟兵たちだって生き方は撰べても、死に方は選べないから。菊は何処か不快気に、そう吐き棄てる。
「……覚えてられなかったら、ごめんな」
 ぽつり。応えるように零されたリコの科白は、警報の耳障りな音色に掻き消えた。赤く染まった世界のなか、寄り添う互いの体温が、今は酷く心地好い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ガーネット・グレイローズ
◎☆

銀河帝国の残党も、まだまだ元気なようだな。
一度二度叩いたぐらいでは、大人しくはならんか。

ミディア・スターゲイザーをお守りせねば…
よし、たまこ。まずはこの船のデータ収集だ。
メカたまこEXを飛ばして《索敵》に必要な《情報収集》開始。

科学技術の進歩は、トライ&エラーの繰り返し…
頓挫した計画、失敗に終わった実験は数知れない。
先人達の歩んだ道のりは、平坦ではなかった。
勿論、私もよく知っているとも。

光線を躱しきれない場合はブレイドウイングによる《ジャストガード》。
マント内からヴァンパイアバットを放ち、《遊撃》をかける。
敵が怯んだ隙に【烈紅閃】を発動、宇宙カラテと《功夫》の併せ技で
迅速に叩き伏せるぞ。


仇死原・アンナ


船の住民とミディアを救う為に…
そして…貴様らを屠る為に私はここに来た…
我が名はアンナ…処刑人が娘也ッ!

鉄塊剣を抜き振るう[パフォーマンス]で
敵群を[威圧と挑発でおびき寄せ]よう

[オーラ防御]纏う鉄塊剣を盾代わりにし
敵の放つ破壊光線を[武器受け]で防御しよう

死に場所か…
いいだろう…貴様らの望みを叶えてやる…
私は処刑人…この身に灯すは地獄の炎…!

【紺碧の地獄の炎】を発動
地獄の炎を纏わせた鉄塊剣を振り回して
敵群を[斬撃波で範囲攻撃]しよう
紺碧の地獄の炎で跡形もなくなるまで[焼却]して殲滅してやろう…!

碧色の地獄の炎に焼かれて死んで逝くがよい…
派手に死ぬて貴様らも本望だろう…



●Red and Blue
 警報が鳴り響く船内に足を踏み入れたダンピールの麗人、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は、整ったかんばせに険しい彩を滲ませる。
「銀河帝国の残党も、まだまだ元気なようだな」
 嘗て此の世界で猛威を振るっていたオブリビオンたちだ。一度二度叩いたぐらいでは、大人しくなる筈も無し。現状としては、湧いて出てくる度に叩くほか無いのだ。
 ――ミディア・スターゲイザーをお守りせねば……。
 胸にそう決意を宿し、ガーネットはにわとり型のドローン『メカたまこEX』を船内に放った。重たげな翼を軽やかに羽搏かせながら、たまこは主の指示を待つ。
「たまこ、データ収集だ」
 機械仕掛けのにわとりは、電子の啼き声を響かせて船を往く。取り付けられた人感センサーで索敵する様は、なんとも頼もしい。
「よし、あっちだ」
「……分かった」
 ガーネットは偶々そこに居合わせた仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)と共に、迷いなく進み続けるドローンの背を追いかけて往く。

「なんだい、この玩具は」
 果たしてメカたまこは無事、任務を果たせたようだ。ふたりは曲がり角を進んだ先で、怪訝そうに堀削機の照射口をドローンに向ける女たちの姿を見つけた。
「よくやった、たまこ」
 おいで、と機械仕掛けのにわとりをマントのなかへ招き入れるガーネット。一方のアンナは鉄塊の如き剣を抜き放ち、黒き双眸に燃ゆる殺意を滲ませる。
「船の住民とミディアを救う為……そして……貴様らを屠る為、ここに来た……」
 ぶぉん――。
 大きく風を切るのは、彼女が振るった鉄塊めいた剣。その先端を女たちへ突きつけて、アンナは淡々と「罪人」どもへ宣告する
「我が名はアンナ……処刑人が娘也ッ!」
 放たれた殺気に、空気がひりひりと震える。されど対峙する女たちときたら、怯えた様子すら見せぬ。ただ気丈に得物を構え、喜色めいた歓声を漏らすばかり。
「処刑人か、そいつは上等だ」
「あたし達に派手な最期を誂えておくれよ」
 死に場所を見つけたりと、堀削機を引き摺りながらアンナへ迫る開拓者たち。されど此れも、策のうち。アンナは敢えて彼女たちを挑発することで、侵入者たちの意識を住民たちから逸らしたのだ。
 女たちが構える堀削機から、次々とレーザービームが発射される。其れは出鱈目な軌道を描き、ふたりの躰を穿とうとするけれど。
「その程度で……」
 守りのオーラを纏う武骨な鉄塊剣を盾として、アンナは破壊光線を難なく受け止めて見せる。一方のガーネットも、蝙蝠の如く軽やかな身のこなしで襲い来る光線を避けて行く。
「――おっと」
 然し、狂った堀削機が照射するレーザービームは酷く気紛れだ。あらぬ方向から光線を照らされて、赫き麗人はたたらを踏んだ。
「君たちの死出に、手品で花を添えようか」
 されど彼女は涼しい貌のまま、ばさりとマントを翻す。露わに成るのは、其の背に揺れる液体金属の翼。飛んでくる光線を其れで弾き飛ばした麗人は、もう一度マントをばさり。すると、其処から無数の吸血蝙蝠たちが、忽ち船内に放たれる。
「ッ、鳥といい蝙蝠といい、猛獣使いを気取ってるのかい」
「あたし達の苦労も知らないで、いい気なものだねぇ……!」
 蝙蝠の急襲に怯み、堪らずビーム照射を中断する開拓者たち。其の隙を突くように床を滑り、彼女たちの懐へと潜りながら、ガーネットは言掛りに否を唱える。
「勿論、よく知っているさ」
 科学技術と云うものは、「トライ&エラー」の繰り返し。この広い宇宙のなか、頓挫した計画、失敗に終わった実験は数知れない。数多の失敗を乗り越えて、此の世界の技術は進歩してきたのである。
「先人達の歩んだ道のりは、決して平坦ではなかった」
 宙船開発の会社を経営する彼女からすると、開拓者たちの苦労は身近なものに感じられた。ガーネットは、きゅ、と床を鳴らし、確りと脚を踏み締めて立ち止まる。
 敵と正面から向き合う彼女は、拳に鮮血の如き紅を纏わせるや否や、素早い突きを繰り出して開拓者の急所を一撃で貫いた。ひとりめが崩れ落ちる頃にはもう、床から飛びあがりふたりめの心の臓へと、拳を叩きつけている。

「死に場所か……」
 次々と崩れ落ちて往く女たちを横目に、アンナはぽつりと彼女たちの科白を反芻する。ガーネットと彼女が放った蝙蝠のお蔭で、敵の攻撃はすっかり弛んでいた。床に突き立てていた鉄塊剣を、ぐっと引き抜けば再度、ぶぉん、と風を切る。
「いいだろう……貴様らの望みを叶えてやる……」
 それで未練が断てるなら、安いものだ。アンナが其の身に灯すは、蒼き地獄の焔。さあ、罪深き者の業を『慈悲』を以て焼き払おう。
「私は処刑人……」
 “アンナ・アンダルシャナ”なのだから――。
 ぶわり、アンナが構えた剣に碧彩の焔が宿る。其れは、船旅の世界の蒼穹を想わせる、晴れやかで透き通った彩。されど、地獄の焔である。
「殲滅してやろう……!」
 ぐるりと大きく鉄塊剣を振り回せば、纏った碧き焔が衝撃波と化して飛んで行く。燃え盛る波は、ささやかな反撃とばかりに放たれた光線すら呑み込んで、歴史の影に沈んだ女たちを酷く情熱的に包み込む。
「地獄の炎に抱かれて、灰になるがよい……」
「……ッ、……!」
 派手に死ねて本望だろう、なんて言葉を重ねても。喉を焼いた女たちは、返事のひとつすら寄越さない。処刑人が生み出した焔は、歪な希いを抱いた彼女たちを此のまま燃やし尽くすだろう。
 文字通り、跡形も無くなるまで――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱酉・逢真

心情)一般人を気にかけずともイイかァ。そりゃア楽でいい。とはいえ船の中に居るってンなら、船自体を腐らすワケにもいかンか。ざァんねん。あの嬢ちゃんらァは覚悟を決めてきた。ああ、いとおしいなァ。善悪などどうでもいい。これもまた、"いのち"の輝きだよ。はるか昔に燃え尽きてなお、空に見える星のようだ。
行動)眷属どもに毒を、病を乗せて。《虫》に《獣》に《鳥》どもよ。群れとなり《過去》らを飲み込み食い散らかせ。あァ…なンか食うのかい。それにゃア俺からのギフトが混じってるのさ。空気に触れた時点でなァ。俺が俺の毒を疑うわけもない…中から腐るがいい。大丈夫、腐り果ててもかわいいよ。



●Sweet Poison
「――ざァんねん」
 死出の門出と洒落込む女たちの前に、ゆらり。煙のように現れて、その道行を阻むのは青年の容をした神――朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)。
 此度の仕事は、楽で良い。なにせ後方支援を担う者は他に居るので、一般人を気にかける必要は無いのだから。とはいえ、船の中に人が居ることは変わりない。此の鋼鐵の箱舟自体を腐らせる訳にもいかぬ。尤も手っ取り早い方法だと云うのに、なんとも惜しいことだ。
「あたし達の邪魔をする気かい、イェーガー」
「折角与えられた二度目の人生だ、せいぜい抗わせて貰うよ」
 鷹揚な逢真を前に、銘々堀削機を構えて気色ばむ開拓者たち。其の口ぶりからして、彼女たちは自らの勝利を信じていないのだろう。つまり女開拓者たちは死ぬ覚悟を決めて、此の船に乗り込んできたのである。
「ああ、いとおしいなァ」
 彼女たちの胸の裡に思いを馳せれば、口許が自然と弛む。彼にとって、「善悪」など如何でも良かった。己が末路を理解して尚、抗い続ける様は斯くもうつくしいのだから。これもまた、“いのち"の輝きに他ならぬ。はるか昔に燃え尽きてなお、鮮烈な輝きを放つ其の様は、空に見える星のようでもあった。
 その輝きに免じて、彼女たちに飛切りの最期を贈って遣ろう。
「虫に、獣に、鳥どもよ――」
 青年がゆるりと腕を広げれば、彼の影がごぽりと歪に蠢き始める。煮え滾るタールの如き其れは軈て、数多の虫や獣、鳥の容を為して行く。それらは総て、神たる逢真の眷属――毒と病をばら撒く、凶星の使者たちである。

「食い散らかせ」

 船に招いた眷属の群れは、畑を荒らす蝗のように女たちへと襲い掛かる。「ひっ」と息を呑む音が、気丈な彼女たちの喉から漏れた。されど、覚悟を決めたものたちが、むざむざと屠られる訳でもない。
 神の使者を拒むかの如く、破壊光線が四方八方にばら撒かれる。其れは宙を舞う鳥を撃ち落とし、地を駆ける獣を貫き、壁を這う虫を穿って往く。されど――。
「ちッ、数が多すぎる……」
「これじゃあキリがないじゃ無いか!」
 その数が減る度に、逢真が新たな眷属を生み出すのだから、幾ら叩いた所で徒労である。眷属たちが運ぶ病と毒に侵されて、ひとり、またひとり、女たちが床に崩れ落ちて往く。
「終わりを撰べる立場でもないが、――こんな死に方は御免だね」
 どうにか活路を観出そうとしたのだろう。開拓者のひとりが徐に非常食を取り出して、キャップを無造作に放り投げた。そのまま栄養チューブへと口を付ければ、味気ないペーストと共に、逆境に立ち向かう為の力が其の身に流れ込んで来る。
「あァ……ソレ食うのかい」
 されど逢真は、彼女の行動を咎めない。ただ口許に妖しげな微笑を刻んだ侭、其の姿を見守るのみである。果たして、栄養チューブの効果は直ぐに現れた。
「がっ、げほッ……」
 強化された筈の女が不意に、激しく咳き込みながら崩れ落ちたのである。ひゅう、と苦し気な息を漏らす彼女へと距離を詰めながら、青年はうっそりと哂う。
「それにゃァ、俺からのギフトが混じってたのさ」
 お味はどうだい、なんて。戯れてみせた所で、喉を爛れさせた女に返事が紡げる筈も無く。掠れた呼吸音だけが、只管に響くばかり。
 女が栄養チューブのキャップを外した時点で既に、勝負は決まっていた。
 逢真は毒に戯ぶ神。空気中に毒を潜ませることなど、造作もない。何より彼は、自身が司る「毒」威力を信じている。斯くして、ひとたび空気に触れたペーストは、喰らったものを中から腐らせる猛毒と化したのである。
「――大丈夫」
 どろり、ぼとり。指先から腐り落ちて往く己の躰を、絶望の眸で捉える女。そんな彼女の傍らに膝を付いた青年は、今にも崩れそうな耳許に貌を寄せ、ひどく優しく囁き掛けるのだった。

「腐り果ててもかわいいよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介

彼女らが宇宙開拓に出るまでにも多くの人々の努力や、或いは犠牲があっただろう
そういう歴史――礎が積み重なって歴史が出来ている
故に、彼女たちの犠牲も卑下すべきではない……ってのは当事者じゃないから言えるんだ。と言われれば返す言葉もないが

だが、気に入らないからと言って終わらせてしまおうってのはいただけない
自分達が積み重ねてきた道の先
それを無に帰そうってのは、自分達を否定するのと同じだろう

尤も、こんな事を言っても止まらないだろうってことは分かる
だから、力づくで止めさせてもらおう

鉄刀を抜いて、捌の型【水鏡】の構えで通路を駆ける
1人に斬り込み、即座に即座に刃を翻して次へ。流れるように倒していく



●Reflection
「嗚呼、このままじゃ終われない」
「そうだ、犬死のまま消えて堪るか」
 死の行軍を続ける女たちは銘々に、そんな未練を紡ぎ続ける。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は何処か苦い想いで、彼女たちの聲に耳を傾けていた。
 歴史とは、犠牲と献身の積み重ねである。
 女たちが開拓の旅に出れたのも、数多の人々の努力の甲斐があってのこと。或いはそこに、彼女たちすら知らぬ犠牲が秘められていたのかも知れぬ。
 結局は、誰もが次代の礎なのだ。そうして紡がれる歴史の一部と成れたことは、寧ろ誇るべきことではないか。
「犠牲になったことを、卑下すべきではない」
「“いま”を生きるあんたに、何が分かる……!」
 諭すように紡がれた鏡介の言葉を受け入れられず、開拓者は否と吠える。当事者ではない点を突かれては、彼としても返す言葉は無いけれど。
「だからといって、未来を鎖してしまおうってのはいただけないな」
 彼女たちが積み重ねてきた道の先に、いまのスペースシップワールドが在る。
 本人たちは何も遺せていないと思っているだろうが、それは大きな間違いだ。この世界を壊すことは、即ち。
「そんなこと、自分たちを否定するのと同じだろう」
「嗚呼、否定しているのさ」
「未来の為なんてきれいごとに乗せられた、嘗ての自分をね……!」
 幾らこころと言葉を尽くしても、在り方を歪められた彼女たちは止まらない。きっと、躯の海に還るまで――。
 鏡介もそんなことは承知していた。故に彼は躊躇いを見せることも無く、するり、鉄刀を抜き放つ。言葉で言って分からないなら、力づくで止める他あるまい。
 双眸を鎖せば心頭を滅却し、青年は捌の型――水鏡の構えを取る。そして、勢い良く床を蹴った。
「我が太刀は鏡の如く――」
 ひとりの女の懐へ脚を踏み入れるや否や、刀を大きく振り下ろす。ばっさりと袈裟切りにされた彼女は、鮮血を散らしながら崩れ落ちていった。されど、鏡介は其れを視界に捉えない。返す刀で次の獲物へと刃先を向けているからだ。
 女は慌てて堀削機を盾とするが、彼の太刀捌きの方が早かった。光線の照射口を突きつけた時には既に、彼女の腹は横一文字に捌かれている。力なく床に転がる女の姿を、彼は矢張り振り返らなかった。
 鏡介が脚を進める度、女たちはひとり、またひとりと崩れ落ちて往く。苦いものが胸に残る気もするが、寧ろ彼女たちの名誉を護ったのだと、そう想うべきだろう。
 ――……俺は、俺に出来ることをやるだけだ。
 未来へ道を繋げる為にも、立ち止まることは出来ない。
 こころの裡にそんな決意を秘めた儘、青年は鉄刀を振るい続ける。彼の行方を阻む者が、ひとりも居なくなるまで――。

成功 🔵​🔵​🔴​

メレディア・クラックロック
◎#

へぇ、じゃあ教えてくれる?
キミ達の航海の話。宇宙の果てに星と消えるまでのキミ達の日々って奴。

歴史は勝者と生者が作るもの。
死者と敗者側から見たモノなんて潰されるのが常。
それが当たり前だったことすら今となっては昔なんだぜ。
だから好きなだけ語るといい。
輝かしく爆散するまでの日々と、蘇って目の当たりにした今への不満を。
ああ、もちろん攻撃もお好きにどーぞ。
インタビュアが死んだらインタビューも何もないもん。
受けは心得てるって。

勝者には勝者の、死者には死者の言い分がある。
後者を聞けることなんてめったにないからさ。
キミが満足するまで聞いてあげる。
もっとも──ボクの好奇心は並大抵の話じゃ満足してあげないよ?



●Interview with Oblivion
 侵入者の存在を報せる警報は未だ、鳴りやまない。異常を知らせるように明滅を続ける灯も、船内を赤々と照らし続けている。其の様はまるで、「還って来た」ことを殊更に主張する“彼女たち”の想いを代弁するようですらあった。
「そうだ、あたし達が此処にいることを報せてやれ」
「あたし達の犠牲なんて、まるで無かったみたいに暮らし続けるアイツらにね」
 そして自分たちの“存在”を、平和ボケした後進たちに植え付けてやろう。重たげな得物を引き摺りながら、嘗て『開拓者』であった女たちは高らかにそう語る。忘れ去られた筈の彼女たちの聲は、誰にも拾われず星海に消えて往く――筈だった。
「へぇ、じゃあ教えてくれる?」
 彼女たちの行く手を遮るように、曲がり角からひょっこりと、メレディア・クラックロック(インタビュア・f31094)が其の貌を覗かせる迄は。
「キミ達の航海の話。それから、宇宙の果てに星と消えるまでの日々って奴をね」
 くるくる、くるり。ゆびさきで音声蒐集デバイスを弄びながら、物怖じひとつすることなく、開拓者たちに昔話を強請るメレディア。彼女の背後には、何百と云う数のドローンが控えていた。そしてそのどれもが、カメラとマイクの役割を果たしている。それは宛ら「パパラッチ」のようでもあった。一方の女たちは、折角関心を向けられたと云うのに、辛気臭い貌をするばかり。
「いまさら其れを話したところで、何になる」
「もちろん、意味ならあるさ」
 彼女たちの言い分に、娘は頭を振ってみせる。なにせ、「歴史」は勝者と生者が作るもの。其処に死者と敗者側の視点なんて、混じる余地すら無いのだ。幾ら生き足搔いたところで、潰されて“無かったこと”にされるのが常。ゆえにこそ、「敗者」側の視点から歴史を知れる機会は、たいそう貴重である。インタビュア兼ブロガーの血が騒ぐのも無理はない。
「キミたちにとって当たり前だったことすら、今となっては“昔”なんだぜ」
 だから、好きなだけ語るといい。そう促した所で、彼女たちが武器を降ろす筈も無く――無数の破壊光線が鉄で造られたメレディアの躰へと襲い掛かる。
「其処まで言うなら、冥途の土産に聴かせてやるさ」
「狭い船に詰め込まれて、碌に作動しない機械ばかり押し付けられて!」
「それでも未来の為と耐え忍んで――嗚呼、莫迦だったさ」
 眸に怒りを宿らせながら、女たちは斯く語る。輝かしく爆散し星海を彩る星屑のひとつに成るまでの、苦難の日々を。
「成程ね、序に蘇ったあとの不満も聴かせてよ」
 怒りと共に放たれる破壊光線を軽やかに避けながら、メレディアはカメラとマイクを回し続ける。出鱈目な軌道を描く光線が、時折腕や脚を掠って往くけれど。握り締めた音声デバイスを離すことは決して無い。
 未だ、耐えられるほどの損傷だ。
 インタビュアがいのちを落とせば、折角の記事も取材も水の泡。ゆえに受けの心得は充分にあった。光線に巻き込まれてドローンが幾つか弾けたが、「取材」に支障はない。未だドローンは3桁ほど残っているのだから。
「――ムカつくんだよ」
 苦労も知らずぬくぬくと生きる、その姿が。
 ぽつり。不意に零れた冷えた響きは、彼女たちの想いを何よりも表しているようで。マイクを握るゆびさきにも、自然と力が籠った。勝者には勝者の、死者には死者の言い分が其々に在るのだ。
「後者を聞けることなんて、めったにないからさ」
 歴史の影に沈んだ死者に話を聴ける点は、猟兵の役得であると云えるだろう。なにより、彼女たちの怒りはもっと根深いだろうから。

 キミが満足するまで、聞いてあげる――。

 いっそ慈悲深い程の笑みを咲かせながら、メレディアはそう囁いた。けれども、取材には妥協しない。彼女はカウンセラーではなく、インタビュアなのだから。
「もっとも――ボクの好奇心は、並大抵の話じゃ満足してあげないよ?」
 破壊光線を照射し続ける彼女たちは、きっと気付いていないだろう。パパラッチの如く控えたドローンたちが、その精神をウイルスで以て、じわじわと蝕んでいることを。限界まで揺さぶられた精神は、強がる化けの皮を剥がし、ただ事実だけを丸裸にして往く。
「あたし達は、もっと、何かを為せたはずで――」
 先ほどまでの気丈さは何処へやら。しおらしく零された呟きすら、インタビュアは聞き漏らさない。果たして彼女たちのフラストレーションが昇華されるのが先か、或いはメレディアの知的好奇心が満たされるのが先か。結果は眼に見えている。
 答えを、知りたい。
 屑石のひとつたる娘が抱くその希いは、未だ叶っていないのだ。幾千の「もしも」を積み重ねる迄、メレディアの探究は終わらない。

成功 🔵​🔵​🔴​

御形・菘

生きた証、か
お主らの気持ちはよ~く分かるぞ! 妾もまさに『そのため』だけに邪神と成った!
だからこそ、別に同情する気など無いよ
お主らはそちらに、妾はこちら側に立った!
善悪や倫理など語る段階ではない! ただ感動が生まれればよい!

右手で、眼前の空間をコンコンコンっと
はーっはっはっは! 妾の統べる世界へようこそ!
本物の花々を見たことはあるかのう?
ああ、カメラはあの飛んでるドローンだからな
映りは十二分に気にしてくれよ?

さあ前向きな気持ちで、存分に魅せつけようではないか
見る者全てを昂らせるバトルを!
数百億数千億(※自称)の妾の信者たる視聴者の心に! 永遠に刻みつけるとしよう!
妾は全力の左腕で歓迎するぞ!


トリテレイア・ゼロナイン
◎☆

船内監視システムハッキングし情報収集
隔壁閉鎖、精密機器区画の敵を足止めし急行

船の重要区画で派手に暴れる事の意味…私よりも遥かに宇宙での先人たる皆様は御分りの筈

これ以上、徒花を咲かせる訳には参りません

UCの妖精ロボ操縦
出力絞った頭部レーザーの乱れ撃ちスナイパー射撃でチューブ栄養食を武器落とし

ドーピングナノマシン…摂取させる暇など与えるとお思いですか

苦し紛れのレーザーを対光学兵器処理された大盾で防御
脚部スラスターの推力移動で急速接近
怪力で振るう電脳剣(通常は“頑丈な剣”として運用)と大盾殴打で撃破

(その孤独を、怨嗟を、掬い上げること出来ぬ以上)

…派手に死なせる事すら許す訳にはいかないのです…!



●Flamboyant Show time
 警告灯の光で赤く染められた船内。その中において、きらきらと蒼銀の輝きを放つのは、何処までも伸び往くワイヤーアンカーに連なる水晶だ。未だ無事な壁へと突き刺さった其れは、すぐさま機械的なリズムで明滅を始めた。
「それで、何か分かったか?」
 明滅を続ける水晶体を興味深げに覗き込みながら、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、アンカーを操るウォーマシンの騎士――トリテレイア・ゼロナイン(「誰かの為」の機械騎士・f04141)へ問い掛ける。
「彼女たちは精密機器の区画にいるようです。船がこれ以上の損傷する前に、足止めをするべきかと」
 背部機構から射出したアンカーを通じて船内監視システムへハッキングを果たした白騎士は、至極冷静に答えを返す。敵の居場所は分かって居るのだ、問題はどうやって彼女たちの進軍を止め、追いつくかである。
「お、その語り口……何か策があるのだな、うん?」
「恐らくは成功する筈です」
 やってみましょう、と首肯した白騎士は監視システムから抜け出して、次はセキュリティシステムへとハッキングを仕掛けて往く。権限を上書きし、侵入者対策用のプログラムを起動させれば、何処か遠くの方で轟音が鳴り響いた。
「矢張りあちらですね。参りましょう、御形様」
「うむ! 真なる蛇神の力、想い報せてくれるわ!」
 トリテレイアに促された菘はすっかりやる気満々のようで、悪役らしい高笑いを響かせながら、蛇竜の如き下半身を引き摺って敵の許へ向かうのだった。

「ちっ、路を塞がれたか」
「この辺に光線をぶち込んだら、面白いもんが視れたろうに」
 一方、その頃。女開拓者たちは精密機器が集中的に搭載された重要区画の周辺で立ち往生を喰らっていた。まるで彼女たちの行く手を阻むかの如く、轟音と共に床から隔壁が出現したのである。ビームレーザーを撃ち込んでみるが、びくともしない。
「はーっはっはっは! 追い詰めたぞ、観念するが良い!」
 女たちの間で漣のように広がって往く苛立ちを掻き消したのは、ひどく愉し気な高笑いだった。振り返った彼女達が目にしたのは、騎士めいた装甲のウォーマシンと、蛇竜の如き下半身を揺らすキマイラの姿。
「イェーガーか!」
「此処で派手に暴れる事の意味……私より遥かに先人たる皆様は御分りの筈」
 気色ばみ咄嗟に堀削機を構える女たちへ、諭すように言葉を掛けるトリテレイア。されど彼女たちが武器を降ろす気配は、一向にない。
「嗚呼、分かっててやってんのさ」
「呑気に生きてる後進たちに、あたし達が生きた証を刻み付ける為にね!」
「生きた証、か」
 ぎりり、奥歯を噛み締めながら吠える女たちの言葉を、菘はぽつりと反芻する。『いいね』の数を競うキャッチ―な世界で「動画配信者」として活躍する彼女にとって、女たちの未練には何処か感じ入るものが有った。
「お主らの気持ちはよ~く分かるぞ!」
 なにせ、菘はまさに『そのため』だけに『邪神』と成ったのだ。娯楽として消費されるだけなんて、そんなこと――余りにも惜しい。
「だからこそ、別に同情する気など無いよ」
 準備運動でもするように頸や指の骨を鳴らしながら、菘は長い舌を覗かせて不敵に笑う。互いの道がまじりあう訳がないことは、彼女もよく知っていた。
「お主らはそちらに、妾はこちら側に立った!」
 幾ら動機が同じであろうと、既に互いの道は分かたれているのだ。話し合うにももはや手遅れ。善悪や倫理など語る段階は、疾うに過ぎている。ゆえにこそ、菘が目指すものはひとつだけ。
「あとはただ、感動が生まれればよい!」
 コンコンコン――。
 人型の手で繰り出すのは未来都市ではすっかりお馴染みの動作、三度のノック。すると忽ち、殺風景な船のなかに艶やかなグロリオサが咲き乱れる。それはシステムフラワーズの力を再現し、世界を「エモ」に染める演出魔術。
「な、なんだこれは」
「船のなかに花を……?」
「はーっはっはっは! 妾の統べる世界へようこそ!」
 面食らう女たちに向けて、堂々と胸を張って見せる菘。その視線は、ちらちらと宙を飛ぶドローン『天地』へと向けられていた。既に「撮影」は始まっているのだ。
「その様子からして、本物の花々を見たことは無さそうかのう?」
「ああ、あたし達では見つけることが出来なかった」
「それを易々と咲かせるなんて、ほんっとうにムカつくね……!」
 花々のうつくしさに昂る菘のこころとは裏腹に、女たちは激昂した様を見せ堀削機のトリガーを引いた。途端、縦横無尽に飛び交う破壊光線。ふたりの猟兵は其れを易々と躱し、宙を飛ぶドローンもまた光線の軌道を目敏く察し被弾を避ける。迫力に満ちた線上の様子を、キマイラ達へ届ける為に。
「ああ、映りは十二分に気にしてくれよ?」
「宇宙船に花を咲かせただけでも、演出効果は充分だと思いますが。配信の邪魔に成らぬよう、善処いたしましょう」
 不敵に響いた蛇神の科白を律義に拾い上げ、トリテレイアはちらりとドローンへ視線を呉れる。騎士足らんとする彼は画面映りを気にする性分ではないが、人の配信を妨げるような無粋者でも無い。
「彩に溢れたこの空間で、徒花を咲かせる訳には参りません」
 何より、彼女たちのように不幸な末路を辿る人間を、増やす訳にもいかない。
 戦場に招いた妖精型のロボットがドローンの前で、ひらりと軽やかに踊る様を横目に捉えながら、白き騎士は女たちの前へ一歩踏み出す。
「そう簡単に散りはしないさ」
「せいぜい足搔いて、あんた達を巻き添えにしてやるよ」
 自らの劣勢を悟り自己強化の為に、栄養ペーストを取り出す女たち。然し、彼女たちが其れに口を付けるよりも早く。宙を遊んでいた妖精ロボットたちが頭部より放ったレーザーが、彼女たちが持つ栄養チューブを貫いて撃ち落とした。
「……摂取させる暇を与えるとお思いですか」
「ちっ!」
 チューブの残骸を投げ捨てるや否や、体勢を立て直すために女たちは再び堀削機からレーザーを放つ。出鱈目な軌道を描く其れを、ずしりと重たい大楯で防御するトリテレイア。対光化学兵器への処理が為された盾は、光線を見事に弾き飛ばし壁へと新しい穴を開ける。
 ――その孤独を、怨嗟を、掬い上げることなど出来ぬ以上……。
 立ちはだかる女たちを救えぬ無力感をこころの裡に秘めた儘、白き騎士は電脳剣を抜き放ち、脚部スラスターの力で床を高速で滑りながら女たちの許へ肉薄する。
「貴女がたを派手に死なせる事すら、許す訳にはいかないのです……!」
 一度それを赦せば最後、此の船の住民たちもまた星海の屑と成り果てて仕舞う。仕方ないことでは有るが、彼女たちの最期の望みすら叶えられぬ事実に、彼の演算が聴こえぬ悲鳴を上げた。
 自身の痛みに気付かぬ振りをして騎士が振うは、右手に持った電脳剣。頑丈な其れは女たちを強かに打ちのめし、骨を砕いて行く。せめてもの抵抗にと放たれた光線は、左手の大盾で弾き飛ばす。軌道が逸れた光線は咲き誇るグロリオサを散らし、鮮やかな花吹雪を戦場に降らせた。視界にちらつく花に気を取られることもなく、勢いを付けて左腕を伸ばしたトリテレイアは、盾で思い切り敵を殴打して床へと撃沈させる。

「さあ、前向きな気持ちで、存分に魅せつけようではないか」
 動画映えしそうな騎士の活躍に満足気に頷きながら、菘は腕を広げて笑う。邪神らしく悪辣に、鷹揚に。女たちの歪な希いを昇華させるには、自身の「配信」こそ最適解である。数百億――いや、数千億もの信者のこころに刻みつけてやろう。
「見る者全てを昂らせる、最高のバトルを!」
 それこそ、永遠に。忘れることなど、赦しはせぬ。
 高らかにそう告げる菘の許へ、白き騎士の猛攻を幸運にも潜り抜けた女たちが迫る。にぃ、と口端を吊り上げた彼女は、竜の如き獰猛な左腕を大きく振り上げた。
「妾は全力で歓迎するぞ!」
 ぶぉん、と強かに凶腕を振り回せば、女たちの躰が忽ち宙を舞う。爪に裂かれた柔肌から溢れた鮮血は、グロリオサの花弁を赫く赫く染め上げて往った。されど、真なる蛇神の活躍は終わらない。
 星海の平和を脅かす輩を総て、地に這い蹲らせる迄は――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

丸越・梓
◎#
NG:相手の顔を傷つける

_

彼女たちの抱く"恨み"を、想像できないわけじゃない
例え悪名だとしても、後世に名を残すこと
それが彼女たちの生きた証となるのだとしても
それはさせられない
彼女たちが必死に生きて、その末に向けられるものが憎悪などと
…そんなのは、悲しいから

だがこれは俺のエゴだ
相手には相手の正義が、覚悟がある
ならばしかと受け止め、尚も俺は立ちはだかる
その覚悟と生き様に敬意をはらい礼儀を忘れず
誠実に真正面から受け止める
此処は通せない
彼女たちに一人の命も奪わせやしない
唯断ち斬るは
オブリビオンたるその根源

赦せとは決して思わない
彼女達の覚悟を、生き様を
しかと記憶に刻みながら
心も思いも全て受け止める


スキアファール・イリャルギ
◎#
……"人間"は、何かを遺そうと足掻くものなのでしょうか
悍ましい怪奇たる己を何も遺したくないと願う私は
"人間"を名乗る資格は無いのでしょうか

私は影人間
影は影らしく静かに消えていきたいんですよ
しかし私はポルターガイストの如き存在でもある
ひとたび怪奇現象を起こせば派手になってしまいますがね――

怪奇らしく恐怖に陥れてあげましょう
逆境に立ち向かう精神すら削ぐように
UCは攻撃回数up、装甲down
捕らえて属性攻撃の炎と雷を放つ
宇宙食を追加で食べようとお考えなら
予め忍ばせたスプーキーシャドウで奪い取ってみましょう

……そうだな
もし、私も何かを遺せるのならば
只の"人間"としての――平凡に生きた証を……



●Silent shadow
「この船の連中も、あたし達と同じ目に逢えばいい」
「じゃないと安らかには眠れない」
 確かな殺意を纏いながら、死の行軍を続ける開拓者たち。彼女たちの想いを聴く度、丸越・梓(零の魔王・f31127)のこころは、ぎゅうと締め付けられる。
 彼女たちが抱く後進への“恨み"を、想像できないわけじゃない。
 未来の為と謳いながら道半ばでいのちを散らすのは、さぞ無念だっただろう。ゆえにこそ、例え悪名だとしても、後世に名を残すことに執着することは理解できる。そして其れが、彼女たちの生きた証になるのだと云うことも。けれども、
「――そうはさせない」
 否、“させられない”のだ。
 嘗て高潔な使命を抱きながら必死に生きていた彼女たちが、道半ばで果てた挙句、最期に向けられるものが『憎悪』だなんて。そんなこと、余りにも悲しいではないか。
「……“人間"は、何かを遺そうと足掻くものなのでしょうか」
 未練を謳う彼女たちを前に、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)はぽつり、胸に浮かんだ疑問を溢す。もしも其れが、人間の本能なのだとしたら。悍ましい怪奇たる『己』を何も遺したくないと、そう希う自身は“人間"を名乗る資格など無いのでは無いか。
 ――影は影らしく、静かに消えていきたいんですよ。
 スキアファールは自身が人ならざる者、『影人間』であることを自覚している。故にこそ、ひとり朽ちてひそりと表舞台から消えゆくことを願って已まないのだ。怪異に喝采など不要である故に。然し、其の力は必ずしも密やかなものでは無い。
「怪奇らしく、恐怖に陥れてあげましょう」
 自分とは違う生き物である彼女たちへ、影人間は静かにそう宣言する。ひとの容をした腕の擬態を解いたなら、其れは忽ち影と化しぶくぶくと膨張して行く。あくまで「手」の容こそ保ったままで――。
「逃がしませんよ」
 恫喝するように影の手で壁をごぉんと殴りつければ、船の中がガタガタとゆれた。まるで家鳴りのように。
 そう、スキアファールは確かに影人間であるけれど。ポルターガイストの如き存在でもある彼がひとたび怪奇現象を巻き起こしたなら、派手な結果を引き起こさずには居られないのだ。
「ッ、狼狽えるな!」
「この程度の脅しよりもクソッタレな修羅場なんて、幾らでもあっただろう!」
 まさに驚異を擬人化したような彼を前に、逆境に立ち向かうこころを燃やす女たち。彼女たちはせめて英気を養おうと携帯チューブを取り出すけれど。
 ――おゐで、おヰで。
「ひッ……」
 女たちの影に潜ませたスプーキーシャドウが、唐突に耳許で不気味な聲を響かせて、宇宙食を持つ手を弛ませる。悪戯な影は其の隙を突いて、チューブを奪い取って行った。
「さあ、立ち向かってみてください」
 立ち向かえるものなら――。
 影の手をぐいと伸ばしたスキアファールは、女たちを数人纏めてその腕に捉える。囚われて尚、藻掻き暴れ続ける彼女たち。武器を取り落としてなお影手に非力な爪を立てるけれど、彼に深手を負わせるには至らない。そうこうしている内に、影手は焔に包まれて、女たちを燃やし尽くして行った。
「……そうだな」
 影手からさらさらと零れ往く灰を見降ろしながら、スキアファールはふ、と口許を弛ませる。其れは、何処か自嘲にも似た微笑みだった。
 ――もし、私も何かを遺せるのならば……。
 只の“人間"として、平凡に生きた証を遺したい。茫とそんなことを想いながら、彼は怯んで後退る女たちへと、影の手を振り下ろした。星海を往く船に、雷鳴が轟いて稲妻が走る。

「クソッ……」
 影人間の射程から逃れたひとりの女が、歯噛みしながら堀削機を構える。碌に照準の合わぬ得物だが、彼に一撃でもくらわせられたら未だ勝機はある。一抹の願いと共に放たれた光線は、梓が盾と成って其の身で受け止めた。
「なっ……」
「その覚悟、しかと受け止めよう」
 信じられないと驚愕の表情を浮かべる女に、青年は真直ぐ向かい合う。穿たれた肩からじわりと血が滲むけれど、そんなことは如何でも良かった。腰に提げた鞘から妖刀を抜き放った彼は、凛と其れを構えただ前だけを見据える。
 ――これは、俺のエゴだ。
 彼女たちには彼女たちの正義が、そして覚悟がある。
 けれども梓にだって、守るべきものが、なにより譲れぬものが有るのだ。故にこそ、正々堂々胸を張って彼女たちの前に立ちはだかろう。それが、死ぬ覚悟を決めて戦場にやって来た、彼女たちへの礼儀だろう。
「此処は通せない」
「ならば力づくで通るまで……!」
 半ば自棄になって堀削機を振り被る女、梓はそれを妖刀で軽く撫ぜる。ただ其れだけで、彼女の得物はばらばらに成って仕舞った。反撃の手を喪い後退る彼女へと、彼は一歩ずつ近づいて行く。
「……赦せとは言わない」
 それを望むのは、二度も彼岸の為にいのちを懸けた彼女たちに対して、余りにも無礼である。
「だが、一人の命も奪わせやしない」
 未来の為に犠牲となった其の生き様への敬意を表し、彼女たちの凶行をいま此処で止めてみせよう。梓は妖刀を高らかに振り被る――。
「あ……」
 然して、女が崩れ落ちることは無かった。確かに其の切っ先は彼女の柔肌を撫ぜたのに、血飛沫のひとつも舞うことは無い。それも其の筈、彼が断ち斬ったのは、オブリビオンたるその根源。彼女たちが抱いていた、生への未練そのもの。
「――おやすみ」
 彷徨える魂を安堵させるように優しくそう囁けば、女の躰が指先から段々と、煌めく粒子と化して往く。その“かたち”が無くなるまで、梓は決して視線を逸らさずに彼女を見守り続けた。その生きざまを、覚悟を、記憶に刻み付けるように。
 醜いこころも、思いも、梓に総て受け止められたからか。完全にその躰が消え去る直前、女の表情が僅か和らいだような、そんな気がした――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

月白・雪音
…この高き空の民が今を生きるは、貴女がた開拓者が『其処に生きる地は無し』と突き止め続けていたからこそ。
されど貴女がた自身からすれば、それは空虚に過ぎる言葉なのでしょう。
故に自らの存在は、命は此処に在りと示す事を望むならば。
――我が武を以て、その想いに応えましょう。


UC発動、残像の速度にて距離を詰め怪力、グラップルを交えた高速戦闘にて状況展開
敵の攻撃は見切り、野生の勘にて察知し、隙を見てカウンター、部位破壊にて武器の破壊を狙う


貴女の名を聞きましょう。
今の時代に生きることは許されぬ過去の残滓にあれど、
その名を有する貴女は確かに『居た』のだと。

…ヒトの世が為に命を懸けた貴女を、私が覚え置きましょう。



●She knows
「ああ、いまを生きる連中が本当に羨ましいよ」
「あんたらみたいな精鋭に守られてるなんてね」
 眸に怒りを燃やしながら、重たげな得物を構える開拓者たち。彼女たちに向き合う月白・雪音(月輪氷華・f29413)は表情を変えぬ儘、淡々と言葉を紡ぐ。
「……この高き空の民が今を生きるは、貴女がた開拓者が『其処に生きる地は無し』と突き止め続けていたからこそ」
「きれいごとをッ……」
「あたし達は、もっと確かな証を遺したいんだよ」
 その犠牲は無駄では無いと諭した所で、女たちは「そんなことは関係ない」と気色ばむばかり。想定通りの反応に、雪音は僅か視線を伏せる。
 犠牲となった本人たちからしたら、如何なる慰めも空虚に響くのだろう。彼女たちと理解し合うのは不可能だ。二度目の生を賭してまで、自らの存在は、命は此処に在りと示すことを望むなら。彼女がやるべきことは、ただひとつ。

「――我が武を以て、その想いに応えましょう」

 云うが早いが、白虎の娘は勢い良く床を蹴った。その速さときたら、道程に残像を遺す程。当然、彼女の動きを肉眼で捉えられる筈も無く。女たちが慌てて放つ破壊光線は、彼女本体ではなく残像を打ち抜くばかり。あっという間に敵と距離を詰めた雪音は、きつく握り締めた拳で強かに女の躰を打ち貫く。
「御免――」
 そのまま流れる様な動作で手近な敵に掴みかかり、床へと思い切り叩きつける。再び放たれた破壊光線は野戦の勘でひらりと躱し、発射の反動で硬直した敵へと距離を詰めれば、助走の勢いを借りて堀削機を殴りつけた。
「なっ……!」
 忽ちスクラップと化した其れを前に、呆然とする女。されど武人は待ってくれない。有りっ丈の怪力を籠めた拳が、彼女の躰を強かに殴り抜いた。あえかな躰が宙を舞い、軈て壁へと叩きつけられる。
「貴女の名を、聞いておきましょう」
 ずるり。力なく床へと崩れ落ちる彼女の傍に膝を落とし、雪音は静かに問い掛ける。彼女たちは、今の時代に生きることは赦されぬ「過去」の残滓。されど、その名を有する女は確かに此の世界に『居た』のだと、知っておくこと位は赦される筈だ。
「あたし、は――……」
 雪音にしか聞こえぬ微かな聲で名を告げて、女はそのまま息絶えた。娘は彼女を見降ろしながら、其の響を口の中でちいさく反芻する。まるで己がこころに、刻み付けるように。
「……確かに、私が覚え置きましょう」

 ヒトの世が為に命を懸けた、貴女のことを――。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『凶星のレオポルト』

POW   :    元気ないぜ、もっと悲鳴を聴かせてよ
自身が装備する【黄金銃『フォボス』】から【弾丸の雨】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【爆発の連鎖による狂乱】の状態異常を与える。
SPD   :    安心しなよ、楽には死なせないからさ
【白銀銃『ダイモス』から放たれた弾丸】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
WIZ   :    さあ、愉しく壊し合おう!
自身が装備する【黄金銃と白銀銃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ジャック・スペードです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Demonstration
 猟兵たちの活躍により、二度目の生を得た女たちはとうとう、誰ひとり葬ることも出来ず躯の海へと還って往く。或いは手を汚さずに済んだことが、唯一の救いだったのかも知れない。
 しかし、一件落着には未だ遠い。
 彼女たちを率いている首領が、此の船の何処かに居る筈である。猟兵たちが其の居所を探る為に行動を始めた、その時。
 ――どぉん。
 雷鳴の如く轟いた爆発音とともに、船がぐらぐらと揺れた。間違いない、此れは敵襲だ。そして開拓者たちは既に一掃されている、ということは……。
 首領の暗躍を一早く察し、猟兵たちは瓦礫の転がる通路を駆け抜ける。音が聴こえて来た方向、女子供たちが避難している「広場」に向かって――。
 爆発の衝撃でシステムが狂ったのか、警報は既に止んで居た。

●Inferno
 嘗て地球に存在していたと云う「公園」を模した広場には、ミディア・スターゲイザーの指揮のもと女子供たちが身を寄せていた。船の深部に位置する其処は、最も安全な場所である筈だった。つい、先ほどまでは――。
「やあ、ちびっ子たちにレディース!」
 爆音とともに壁を蹴破って現れた男は、ひどく陽気な聲をしていた。しんと恐怖に静まり返った広場には、余りにも場違いである。青く塗った唇をニヤニヤと弛ませる彼が、高らかに掲げて見せるのは黄金の銃だ。
「怖かったねえ、未だ叫ぶ元気は残ってるかな?」
 いっそ優しさすら感じる程の聲彩でそう問い掛けながら、男は容赦なく引鉄を引いた。忽ち弾丸の雨が降り、着弾する傍から次々に爆発していく。
 ひとびとの憩いの場であった広場は、あっという間に地獄へ早変わり。フェイクグリーンは焔に包まれ、爆発が連鎖する程に子どもたちの泣き声が響き渡り、パニックに陥った女たちの悲鳴が響き渡る。
「英雄サマの御帰還だぜ、喜べよ……――なぁんて贅沢、云わないけどさあ」
 その狂乱を満足気に眺めながら、男は再び引鉄を引いて弾丸の雨を降らせて往く。着弾した弾丸が爆ぜる程に彼の笑みは深まるばかり。
「せめて、悲鳴を聴かせてよ」
 無反応じゃ寂しいだろ、なんて。ギザついた歯を覗かせて、舌なめずりをする其の姿に、英雄の面影は全く無かった。

●Fallen star
 広場へ駈けつけた猟兵たちが最初に目にしたのは、悲鳴と泣き声に溢れる戦場においても気丈に、住民たちの保護と避難に尽力するミディア・スターゲイザーの姿であった。「此処はお任せを」と視線で伝えて来る彼女に肯いた猟兵たちは騒乱を背に、広場の中央で銃を乱射する敵と対峙する。
「ははっ、やーっと来た来た。ようこそ、イェーガー!」
 大仰に両手を広げ、場違いな程に陽気な聲を響かせる男。彼こそが敵の首領、『凶星のレオポルト』である。レオポルトは猟兵たちを見るなり、益々たのしげに口許を弛ませた。其処で漸く、爆発の連鎖が止まる。
「先人として、ひとつアドバイスしてあげよう。民衆なんて守っても意味ないぜ?」
 目深に被った帽子越し、ちらりと逃げ惑う女子供たちを盗み見ながら、男は何処か乾いたように笑った。何せ彼は、その残酷さをよく知っているのだ。
「アイツらってほら、すぐ掌返すしさあ……」

 嘗て解放軍に、「英雄」と讃えられた男がいた。されど彼は、あろうことか自身を支持していた民衆に裏切られ、非業の死を遂げたのだと云う。
 その男の名前は、レオポルト――。
 歴史の闇に葬られし英雄は今、テロリストとして躯の海から蘇ったのだ。彼を突き動かす破壊衝動の正体は、きっと本人しか知らぬこと。ただひとつ確かなのは、今の彼は『悪意』の塊に他ならないと云うことだけ。
 「ま、いっか」と陽気な聲で不穏の彩を塗り消して、レオポルトはホルスターから銀の銃を抜き放つ。そうして二丁の銃口を猟兵たちに向ければ、堕ちた英雄はニヤリと笑った。ともすれば、弱者を追い立てる時よりも嬉し気に。

「さあ、愉しく壊し合おう!」


≪補足≫
・避難誘導はミディアが担ってくれているので、一般人への対処等は不要です。
・とはいえフレーバーとして、逃げ遅れた一般人を助けるなどの行動も可能です。
 →どういう行動をとり、どんな展開にするかは、参加者様のお好みでどうぞ。
 →なお、ミディアは引き続きリプレイには登場しません。

・アドリブOKな方はプレイングに「◎」をご記載いただけますと幸いです。
・プレイングは心情よりでも、戦闘よりでも、どちらでも大丈夫です。

≪受付期間≫
 7月26日(月)8時31分~7月29日(木)23時59分
ガーネット・グレイローズ

暗殺部隊の指揮官はあの男か…。
そういえば、聞いたことがある。かつての解放軍に、
凄腕のガンマンがいたと。彼もまた、銀河帝国との戦いで
散っていった一人か。私の第六感が告げている…あの男は危険だ。

【グラビティマスター】を使用、区画内の重力を無視して《空中戦》だ!
敵が複製した大量の銃に対処するため、回避率を強化して挑むぞ。
《瞬間思考力》《戦闘知識》で敵の得意な射撃スタイルを見抜き、
スラッシュストリングを《念動力》で操って銃を叩き落す!
ブレイドウイングによる《ジャストガード》で
跳弾を弾きつつ肉薄し、《功夫》による拳打と蹴りの《2回攻撃》
を主軸としたコンビネーションを叩き込むぞ。
歯ぁ食いしばれっ!



●Aerial Demonstration
 非難を急ぐ住民たちの喧騒を背に受けながら、ガーネット・グレイローズは凛と背を正し、敵の首領と対峙する。
「指揮官はあの男か……」
 隙のない深紅の双眸に映すのは、白き纏いを悠然と靡かせる男の姿。其の佇まいを観察しながら、彼の語る科白に耳を傾けている内にふと彼女の脳裏に蘇るのは、遠い昔の言い伝え。
「そういえば、聞いたことがある」
 かつての解放軍に、凄腕のガンマンがいたと――。
 あまりにも遠い昔の噺ゆえ、真偽のほどは分からないが。もしも其れが、眼前に居る彼なのだとしたら。彼もまた、『銀河帝国』との戦いで散っていった一人であるということになる。
「はは、俺のことを知ってるのかい」
 にやにやと唇を弛ませて猫のように嗤う男は、相変わらず陽気な態度だ。されど、猟兵として数多の場数を踏んだガーネットの第六感は、けたたましく警報を響かせていた。
 ――……あの男は危険だ。
 男の言動こそ緊張感とは程遠い鷹揚なものだが、其の裡側から滲み出る殺意は、彼女の白肌をビリビリとひり付かせる程に鮮烈である。
「光栄だなあ、お礼に鉛玉をサービスしてあげよう!」
 にやり、男がぎざついた歯を不敵に覗かせた刹那。彼の周囲に次から次へと金と銀の拳銃たちが顕現する。指揮官らしく腕を掲げた彼が、徐にそれを振り下ろせば、数多の銃口が一斉に火を噴いた。
「オブリビオンからの施しなど――」
 不要だ、と冷たい眼差しで男の軽口を一蹴すれば、ガーネットは床を蹴り高らかに宙へ飛ぶ。そして壁を足場として、さらに上へと飛び上がって往く。当然宇宙船のなかとはいえ、重力はある。その証拠に放たれた銃弾は勢いを弱めることなく、ガーネットへと向かってきていた。
 されど、いまの彼女は重力から解き放たれた身だ。封神武侠界で修業を重ねた結果、彼女は己の躰に働く重力を制御可能としたのである。
「曲芸でも披露してくれるのかい、レディー」
 そんなことを宣うレオポルトの聲を掻き消すように、次から次へと銃声が響き渡るが、ガーネットは銃の位置取りを観察しながら壁から壁へと跳ね伝い、飛び交う銃弾を軽々と避けて行く。
「お望みなら存分にお見せしよう」
 男の軽口に初めて答えた彼女は、ゆびを軽くクイと動かす。ささやかな其の動作ひとつで、戦場に顕現した金と銀の銃たちが、次次にばらばらと崩れ落ちて往く――。
「ああ、ワイヤーか!」
「そうさ」
 念動力で戦場に張り巡らせたブレードワイヤーは、宇宙怪獣の肉体さえ切り裂く特別製。ただの鉄で造られた銃が、堪えられる筈も無い。天秤が傾き始めたことに勘付いたレオポルトは、思考するよりも早くガーネットを視界に捉え、自身の両手に携えた二丁の引鉄を弾いた。同時にふたつの弾丸が、猛スピードで麗人に迫り来る。
「甘いな」
 然し、ガーネットは避けなかった。マントを翻し液体金属の翼を展開すれば、其れを盾として銃弾を弾き飛ばしたのだ。そのまま翼の力を借りて宙を泳ぐ彼女は、其の身に重力を纏いながら、男の許へ急転直下。彼が引鉄を引くより早く、其の懐へ潜り込む。
「歯ぁ食いしばれっ!」
「ッ……」
 突き出した拳で腹を穿ち、男の躰が浮き上がった所で其の顎へと膝蹴りを食らわせる。そんな見事な功夫術のコンビネーションをまともに喰らい、吹っ飛ばされるレオポルト。強かに壁へ激突し派手に砂埃を巻き上げる彼へ向き合いながら、ガーネットは再び構えを取った。
 静まり返った戦場に、決意を秘めた麗人の聲が凛と響き渡る――。

「此の船は護ってみせる、絶対にだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

唐桃・リコ
◎♯
菊(f29554)と一緒

説教聞きに来たわけじゃねー
遺言なら聞いておいてやる
ああ、行くぜ、菊

覚えておいて欲しいのか、壊してえのか
何がしてえのか、よくわかんねえけど
ああ、やろうぜ

オレはあいつとやり合いたいだけ
後は菊が何とかしてくれんだろ
牙と牙で、命と命で!やりあおうぜ!
あいつの牙がオレをかすめても気にならねえ
でも、喉元に届く力が足りねえ
もっと、力が必要だ

…あ?てめえ、菊に何しやがった
……気にくわねえ
【Cry】を発動
頭ん中の、どっかが白く焼けて消えた

終わっちまえば
ぜーんぶ静かで
オレは何かを手放した気がして

菊、なに、どーしたの
なあ、帰って肉食おうぜ、なあ


菊・菊
◎#
リコ(f29570)と一緒

先人の有難いお言葉をどうも
ひひ、悪いな
こいつアホだからわかんねーって

ま、暴れたりねえなら付き合ってやるよ
行くぞ、リコ

『衝動』
肌を滑る刃が血を啜って、嘲笑が響けば合図だ
リコが右なら俺は左

周りが見えねえアホに迫る凶器は弾いて潰す
仕方ねえから盾ぐらいなってやるよ
血肉が爆ぜようが構わねえ
だってリコがはしゃいでんの、可愛いじゃん

やってやれ、リコ

花が散った後、リコを呼ぶ
お前の中にまだ俺がいるか、確かめるために



もう薄々気づいてる、牙を剝く度に
何か零してること、忘れてくこと
リコの中の俺が、死んでくこと

2度目のはじめましてが来ないようにって、祈った

なあ、先人さんよ
痛いほどわかるよ



●Forget-me-not
「いやー……想像以上に活きが良いねぇ、イェーガー」
 口端から垂れた赫絲を手の甲で拭いながら、敵の首領――レオポルトは新たに戦場に現れた猟兵たちへと向き直る。彼が白いコートを翻せば、宙に埃がぶわりと舞った。銃口から煙を靡かせながら、堕ちた英雄はニヤリと笑う。
「いつか裏切る連中の為に命を懸けるなんて、どうかしてるぜ?」
「先人の有難いお言葉をどうも」
「説教聞きに来たわけじゃねー」
 揶揄するように吐かれた科白に、菊・菊と唐桃・リコは釣れない返事を寄越す。外道に堕ちたオブリビオンに教わることなんて、何も無い。勿論、敬意など抱ける訳も無し。
「遺言なら聞いておいてやるよ」
 もはや待ちきれぬとばかりに鋭い八重歯を覗かせて、ニィと不敵に口端を上げるリコ。やる気と殺気に溢れた相棒の姿を横目に、菊は可笑し気に肩を揺らす。
「ひひ、悪いな。こいつアホだから、そういう御託わかんねーって」
「別にいいさ、俺の目的はお喋りじゃ無いからね」
 君たちも楽しませてくれそうだ――。
 殺気を滲ませながらも、男は酷く愉し気にそう笑った。刹那、戦場に銃弾の雨が降り注ぐ。着弾した側から爆ぜる其れは、忽ち戦場を地獄めいた様相へと変えて往く。吹き抜ける生温い風に髪を攫われながら、少年たちは貌を見合わせ頷き合う。
「行くぞ、リコ」
「ああ。行くぜ、菊」
 嘗ての英雄が何を望んで居るかなんて、彼らには分からない。
 此処に至るまでに踏み越えて来た女たちのように「覚えていて欲しい」のか。或いは、ただ純粋に「破壊と混沌」を愛しているだけなのか。
 分かるのは、彼もまた暴れ足りないのであろうと云うことだけ。
「――やりあおうぜ!」
 そして、人狼の少年もまた同じ感情を抱いていた。背は相棒に任せて、本能と衝動の儘に彼は駈ける。いま此処に生きていることを、世界に向けて証明しよう。
 牙と牙で、命と命で!
「ははっ、血気盛んな子は大好きさ」
 サービスしてあげよう! なんて陽気な聲が響くと同時、世界が赤く爆ぜた。銃弾の連鎖爆発に、リコの纏う衣は所々が黒く焦げ、白肌は煤けて熱を孕む。じりじりと痛覚が悲鳴を上げるが、いまはそんなこと気に成らなかった。
 絶え間なく降り注ぐ銃弾の雨を潜り抜け、ただ只管に獲物を目指して人狼は走る。着実に距離は縮まっているのに、まだ、この牙は届かない。――もっと、力が必要だ。

『きゃはははっ』

 少年の視界の端でふと、赫い飛沫が舞った。続いて響き渡る鈴を転がすような聲の嘲笑は、相棒が放った合図。
「俺は左、リコは右な」
「……ああ」
 其の背を護るのを止め手負いの相棒の隣に並び立った菊は、裂いた掌から垂れる血を舐めとりながら、的確な指示を編む。独りでは届かぬ牙でも、ふたりなら届くと信じて。
「的を増やした所で無駄さ、ほら!」
 されど銃弾の雨は未だ止まず、爆音を響かせ続けるばかり。少年たちの脚許に堕ちた弾はどかんと弾け、衝撃で体が大きく傾いた。レオポルトは其の隙を逃さない。白銀銃のトリガーを即座に弾き、死に至る弾丸を放つ。
 標的は勿論、壊し甲斐のある人狼の少年――。

「仕方ねえな」

 ぽつり、紡がれた聲と共にリコの上へ影が落ちる。次いで、白頰に赫い飛沫の花が咲く。それが誰から零れたものか理解するまで、そう時間は掛からなかった。
「……あ?」
 銃声が聞こえた刹那、菊は彼の前へ身を投げ出していたのだ。まるで己を盾とするように。
 ――だって燥いでんの、可愛いじゃん。
 口に拡がる鉄の味に苦い笑みを溢しながら、菊は床へと伏せる。尚も降り注ぐ弾丸は、何処からか現れた『ピンチヒッター』たる箒が纏めて弾き飛ばした。これで、憂いは無い。
「やってやれ、リコ」
 血を吐きながらも凛と、そう相棒の背中を押す。目の前で起こったことを上手く呑み込めぬ儘、人狼の少年は怒りだけを抱いて駆け出した。
「てめえ……!」
「ざあんねん、外しちゃったか」
 まるで遊戯でも楽しんでいるかの如く、けらけらと緊張感なく笑う男を前に、リコの中でぷつりと何かが切れた。
「……気にくわねえ」
 それと同時に、頭の中の何処かが白く焼け消えたような、そんな気がした。

 それから先のことは、覚えていない。
 向けられた銃口に怯むこともなく、血に塗れながらも夢中で駆けたことも。敵の喉元に飛び込むと同時、ナイフを突きたてたことも――。
 暫くの間、少年の世界は静寂に包まれていた。
 ただ喪失感だけが胸に焼き付いて居て、何故だか息が苦しい。リコは無意識に、右手の小指を見降ろした。其処に刻まれた、痕は……。

「リコ」
 撃たれた右胸を抑えて立ち上がりながら、菊は相棒の名を呼ぶ。彼の中にまだ『俺』がいるか、確かめるために。
「――菊」
 リコもまた、確かめるように相棒の名を紡いだ。途端、冷め切っていた眸が、ゆっくりと弧を描く。戦場の狂騒など、すっかり忘れ去ったように。
「なに、どーしたの、なあ」
 早く帰って肉食おうぜ。そう云って笑う彼はきっと、今日のことなんて忘れている。リコは牙を剝く度に、何か零して、忘れていく。
 ――リコの中の俺が、また死んだ。
 苦い想いを抱えながら、菊は静かに瞑目した。胸の中で密やかに紡ぐのは、切なる祈り。どうか、2度目の「はじめまして」を迎える日が来ませんように。
 腹をすかせたリコは背伸びをしながら、広場の出口へと向かって往く。その後を追おうと数歩踏み出して、菊はふと背後を振り返った。深手を負ったレオポルトの姿が、其処には在る。
「なあ、先人さんよ」
「……なんだい」
 深く切られた肩を抑えながら、男は荒い吐息交じりに返事を紡ぐ。相変わらずニヤニヤとした笑みを口許に浮かべて居る彼だが、暫くは銃を操ることなど出来ないだろう。少なくとも、菊が戦場を後にするまでは。
「痛いほどわかるよ」
 忘却を良しとしないお前たちの想いが――。
 相棒と少しずつ距離が開いて行くのを背中越しに感じながら、菊はそう寂しげに笑う。鼻の奥がツンとしたのはきっと、戦場に立ち込める硝煙の所為。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御形・菘
◎☆#
先達の清々しいほどに無駄な助言、感謝するぞ
皆が妾を裏切るかどうかなど、心底どーでもよい!
妾が皆を絶対に見捨てん! 大切なのはそれだけだ!

右手を上げ、指を鳴らし、スピーカー! カモン!
はーっはっはっは! 本来この技は対スタジアム級用、此度は特別にお主だけに素敵BGMと妾のボイスを堪能してもらうぞ!
といっても、乱舞するスピーカーに隠れて、妾の居場所は分からんだろうがのう
そして一般人を、なんなら他の皆の身も隠すぞ

聴覚でも視覚でも索敵は不可能!
闇雲に撃とうが、一発やそこらの被弾で妾がどうにかできるわけもなし
接近できたら…スピーカーでブン殴る!
はっはっは、英雄に相応しく、カッコ良くブッ飛ぶがよい!


夜刀神・鏡介


あんたが裏切られた理由は分からないが、裏切られた事は正直ご愁傷さまって感じだし、苛立たしいって気持ちも理解はしよう
……が、そこまでだ
復讐だかなんだかしらないが、今を生きる人々に危害を加えようなんて、お門違いもいいところだ

神刀の封印を解除し、灰色の神気を刀身に纏ってダッシュで切り込む
視線や銃口の動きから狙いを見切りながら、白銀の銃から放たれる致命の弾丸のみ切り払いながら接近
ある程度の負傷は覚悟の上だが、その程度では止まらずに連撃を放つ――伍の秘剣【灰桜閃】

俺の人生の結末が、俺にとって受け入れ難い結末になる可能性もきっとあるだろう
だが俺は、この人生の結末が――誰かの礎になるのであればそれでいい



●Show Must Go On
「はは、想像通り容赦ないなあ」
 堕ちた英雄は深く切られた肩口から手を離し、楽し気に喉を鳴らして笑う。白いコートをじわり、染め往く赫は見ない振りをして。
「まあ、ご愁傷さまって感じだな」
 抜け目なく刀を構えた儘、夜刀神・鏡介は男と静かに対峙する。彼が民衆に背を向けられた理由は知らない。とはいえ、同情の念が湧かない訳でもなかった。
「裏切られて苛立たしい気持ちも、理解はしよう」
 眼前の彼もまた自分なりに、此の世界を良くしようと戦ったのだろう。それが裏目に出て仕舞ったことは、惜しいことにも想える。
「だが、そこまでだ。復讐だかなんだかしらないが――」
 彼を地獄に落とした民衆は、もう居ない。
 『今』を生きる人々に危害を加えようなんて、お門違いもいいところだ。
「はは、他人事だと想うかい。次裏切られるのはお前らだぜ、賭けても良いさ!」
「先達の清々しいほどに無駄な助言、感謝するぞ」
 逃げ惑う人々を横目にせせら嗤う彼が放った言葉を、御形・菘は一蹴する。この男は、菘がどんな人間であるかを全く分かって居ない。
「皆が妾を裏切るかどうかなど、心底どーでもよい!」
 過去に歪まされた古の英雄など、何を恐れることがある。邪神らしく堂々と胸を張り、菘はいっそ気持ちが良いくらい明朗に啖呵を切った。
「妾が皆を絶対に見捨てん!」
 菘にとって、遍くヒトは大事な視聴者である。喩え誰もが掌を返そうと、生粋の配信者――否、エンターティナーである彼女は、視聴者の為に戦い続けるのだ。誰かのこころの中に、鮮烈な己が雄姿を焼き付ける為に。
「大切なのは、ただそれだけだ!」
「それじゃあ今ここで、証明してごらんよ」
 レオポルトがゆるりと両手を広げれば、彼の背後に数多の拳銃が浮かび上がる。数百を超える銃口が、ふたりの猟兵の姿を捉えた。

 ――ぱちんっ。

「スピーカー! カモン!」
 高らかに右腕を天へ掲げた菘が指を鳴らせば、戦場に次々と巨大なスピーカーが顕現する。翼の生えた其れは爆音を掻き鳴らしながら広場を飛び回り、死闘を彩るに相応しいBGMで戦場を盛り上げて往く。
「――……ッ!?」
「はーっはっはっは!」
 思わず耳を塞いで爆音の圧に耐えるレオポルト。そんな敵の様子を眺めながら駄目押しとばかリに、菘は首輪を模したマイクを通じて高笑いを響かせた。
「此度は特別だ、お主だけに素敵BGMと妾のボイスを堪能してもらうぞ!」
「はは、俺はデスメタルより、優雅な戦争音楽のほうが好きだけどね……!」
「ならばそのリクエスト、応えよう!」
 ぱちんっ。再び指を鳴らせば、スピーカーから品の良い四弦の音が響き始める。何を隠そう、これは視聴者有史による素敵な生放送なのだ。よく訓練された彼らは、菘の要望に完璧に答えてくれる。
 とはいえ、幾ら優雅な旋律であろうとも、対スタジアム級の爆音である以上、癒されることは無い。男の神経と体力は、鼓膜を通じてガリガリと削られていく。
「ッ、そのイカした姿をみせてよ、レディー! 隠れちゃ寂しいぜ?」
 両手で耳を塞ぎながら、周囲に浮かせた銃を念動力で操り乱射するレオポルト。されど其の凶弾は、乱舞するスピーカーに弾かれて碌に的を狙えはしない。
「妾を視たくば全力でそれを壊すがいい。何年かかるか知らぬがな!」
 そう煽りながらも、菘は逃げ惑う女子供をさりげなくスピーカーで覆い隠す。これで流れ弾に当たる心配も無いだろう。
「それにしても、凄い音だな……」
「はっはっは、猟兵ならば堪えられよう!」
 鏡介もスピーカーの影に隠れながら、勝機を伺っていた。彼の得物は刀である故、空中でスピーカーを撃ち落とそうと乱舞している数多の銃の凶弾を掻い潜り、敵の懐へ飛び込む必要が有るのだ。
「敵とはまだ距離が在るな……」
「む、ならば妾が道を開こうぞ!」
 ぽつり。零された聲を耳聡く拾った邪神は、鏡介の返事も聴かずにスピーカーへとよじ登り、「はっはっは」と高笑いを響かせる。勿論、大音響で。
「はは、やっと会えたね、礼はたっぷりさせて貰うよ」
 片耳を塞ぎながら、男は白銀銃のトリガーを弾く。放たれた凶弾はスピーカーを次から次へ飛び移る菘の躰を掠り、褐色の肌に赤い絲を刻んで往く。されど、どっしりとした下半身を持つ彼女の体勢は崩れない。少しずつ敵へにじり寄る菘は、ニヤリと笑う。邪神らしく悪辣に――。
「英雄に相応しく、カッコ良くブッ飛ぶがよい!」
 また放たれた弾丸が頬を掠るや否や、菘は足場を蹴ってレオポルトへと飛び掛かった。宙で拳を突き出せば、蛇神の竜めいた拳が堕ちた英雄を思い切り殴り飛ばす。
「ちッ……」
 舌打ちをひとつ零した男は、蒼く塗った唇を血で染めながらも宙で何とか体勢を整え、床に着地する。流れる様な動作で、再び引鉄を引くけれど。眼前には既に、灰彩の神気を刀に纏わせた鏡介が迫っていた。
「――伍の秘剣」
 飛来する弾丸を刀身で一刀両断すれば、ふわり、灰彩の桜が舞った。心頭滅却して凪いだ心地の儘、神刀『無仭』の封印を解き、敵の間合いに入り込む。

 神刀解放、灰桜閃。

 それはまるで、闇を切り裂く様に鮮烈な太刀筋だった。正面から袈裟切りにされた英雄は、灰彩の桜を赤い飛沫で染めながら、ずるりと崩れ落ちて往く。
「俺の人生の結末だって、受け入れ難いものになる可能性はあるだろう」
 刀身に付いた血を振り払いながら、青年は床に伏すレオポルトを振り返る。こんな生き方を選んだ以上、彼が辿った末路は決して他人事では無い。
 然し、鏡介には『選ばれし者』としての『覚悟』と『矜持』が在った。
「それでも、誰かの礎になるのであれば――」

 己が人生の結末は、きっと、それでいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
◎☆

猟書家め…
これ以上貴様の好き勝手にはさせまいぞ…
ワタシは…処刑人だッ!!!

逃げ惑う人を敵の攻撃から庇いつ
仮面を被り真の姿の[封印を解き]相手をしよう

鉄塊剣を[武器受け]で盾代わりにして弾丸の雨を防ごう
攻撃を多少浴びようとも[激痛耐性]で凌ぎ
爆発の連鎖による衝撃は[オーラ防御と火炎耐性]で
撥ね除けてやろう

攻撃を防いだら
鉄塊剣と妖刀を抜き振るい敵を攻撃
鉄塊剣を振るい[怪力と鎧砕きでなぎ払い]
妖刀で[串刺し鎧無視攻撃で傷口をえぐり]
何度も何度も攻撃し【悪虐なる者に残虐な死を】齎してやろう…!

一人勝手に愉しんで逝け…貴様一人だけでな…!



●Sanction
 先行した猟兵たちの陽動により、広場に集った住民たちは順調に戦場から離脱して行く。未だ、犠牲者は居ない。何時しか子供の啼き声も、女たちの悲鳴も止んで居た。それに不満げな貌をするのは、此の船に地獄を生み出したレオポルトである。
「嗚呼……君達が邪魔した所為で悲鳴が止んじゃったよ」
 堕ちた英雄がひとたび黄金銃の引鉄を天に向けて弾いたら、銃弾の雨が広場中に降り注ぐ。連鎖するように爆ぜてゆく其れは、住民たちを恐慌状態に陥らせるには充分だ。瞬く間に、戦場には悲鳴と泣き声が伝染して行く。
「ははっ、ほらほら。みぃんな元気に成った」
 自ら引き起こした混乱を視界に捉え、たいそう楽し気にレオポルトは嗤う。その哄笑を引き裂くように、ぶぉん――。巨大な鉄塊の如き剣が振るわれて、降り注ぐ銃弾を斬り払い、爆発の連鎖は其処で漸く終わりを迎えた。
「これ以上貴様の好き勝手にはさせまいぞ……」
 逃げ惑う住民たちを背に庇うようにしながら、アンナは敵の前へと立ちはだかる。彼女の黒い双眸には、靜かな怒りの焔が揺らめいて居た。
「ヒーローごっこは腹いっぱいだぜ、イェーガー」
「それは違う……」
 揶揄うような男の聲に、アンナはゆるりと頭を振ってペストマスクを口許に嵌めた。すると忽ち、ふわりと揺れる漆黒の髪は、毛先から炎の如き赫彩に染まって往く。
「ワタシは……処刑人だッ!!!」
 吠えると同時、漆黒纏う処刑人は高らかに床を蹴って敵へ飛び掛かる。彼女を阻むように銃弾の雨が降り注ぐが、盾のように構えた鉄塊剣で其の悉くを受け止めた。
「やるねぇ、でも――」
 ひゅぅ、と男が口笛を鳴らした刹那、アンナの至近距離で爆風が巻き起こる。着弾と同時に弾丸が爆ぜたのだ。燃え盛る焔と襲い来る衝撃を漆黒のオーラで防ぎながら、彼女は空いた腕で妖刀を抜き放つ。
「この程度で……ワタシを止められると思うな……!」
 重たげな鉄塊剣がぶぉんと爆風を切り裂けば、妖刀が燃え盛る焔を真っ二つに斬り払う。熱を孕んだ刀身の切れ味は、尚も衰えることは無し。
「ホント退屈させないなあ、君たちは!」
 追い詰められて尚も不敵に口角を上げた儘、レオポルトは二丁の銃口をアンナへ向けて引鉄を弾く。されど、彼女の勢いは止まらない。
「勝手に楽しんで逝くが良い……貴様一人だけでな……!」
 決して誰も、道連れにはさせぬ。
 堕ちた英雄の懐に踏み込むと同時、鉄塊剣で其の身を強かに殴り付け、床へと叩き伏す。衝撃に起き上がること能わぬ男に、処刑人は容赦などしない。先行した仲間が付けたらしい肩の疵に目を付けたアンナは、其処へ思い切り妖刀を突き刺した。
「――……ッ!」
 余りの痛みに男の躰が跳ねるが、そんなことなど気にも留めない。何度も何度も、刀を刺しては傷口を抉り、また引き抜いて刺し貫く。ただ其れを繰り返すばかり。
 今のアンナは怒れる処刑人である。故にこそ、敵対者には無慈悲な報復を。
 そして、悪虐なる者に残虐な死を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン


あの方々は貴方を陥れた民衆では無い…という道理は通り越しておられるようですね
ならば、私が辿り得る未来である貴方に後進としてこう返しましょう
“貴方のようにはならぬ”と

返り血に塗れた英雄も、騎士も、戦が終われば無用の存在
人々の安寧乱すなら、眠りに付かねばならぬのです
その凶行、断固として阻ませて頂きます

民衆かばう為、銃の射線を巨躯で塞ぐように脚部スラスターの推力移動で急速接近

先程の非戦闘員への攻撃は悪手でしたよ
…この剣の機能制限が緩んだのですから

UC起動

弾丸の雨を盾と剣での防御で無力化し受け止め、加速し反射
反射した弾丸による爆発連鎖とダメージで体勢崩れた敵の隙を狙い怪力で振るう剣を一閃



●Sword for protection
「嗚呼、痛いなあ。おまけにまた悲鳴が途絶えてるし」
 赤く染まった肩を抑えながら、レオポルトはゆらりと床から立ち上がる。深手を負いながらも、青い唇をにやにやとチシャ猫のように弛ませる様は何処までも不敵で、「英雄」の面影は微塵もない。ただ悪辣なだけである。
「君たちと遊ぶのも楽しいけど、やっぱアイツら泣かせてやりたいなあ」
「あの方々は貴方を陥れた民衆では無い……という道理は既に、通り越しておられるようですね」
 戯れるように零された科白にそう応える、トリテレイア・ゼロナインの聲は明かに冷えていた。無辜の民を悪戯に嬲るその卑劣さは、『騎士』として到底見逃せるものでは無い。ゆえにこそ、男から視線を逸らさずに、トリテレイアは凛と語る。
「私が辿り得る未来である貴方に、後進としてこう返しましょう」
 “貴方のようにはならぬ”と――。
 対峙する敵へ正々堂々と向き直れば、騎士らしく剣と盾を構えてみせる。いつか自身も、彼のような末路を辿るのだろう。そんな予感めいたものを裡に秘めた儘、機械仕掛けの騎士は「騎士である為に」堕ちた英雄へと宣告する。
「その凶行、断固として阻ませて頂きます」
「君もヒーロー気取りかあ。そもそも、騎士道なんてもう流行らないぜ?」
 にやにやと厭な笑いを浮かべながらも、そう煽るレオポルト。されどトリテレイアは否定を紡ぐ所か、「ええ」と静かに首肯してみせる。
「返り血に塗れた英雄も、騎士も、戦が終われば無用の存在でしょう」
 裏切られた英雄に同情する心算などない。
 戦場の外で生きられぬ者は、平穏な世界には不要なのだから。そして其れは、己もまた例外ではなく――。
「人々の安寧乱すなら、眠りに付かねばならぬのです」
「ははっ、それなら俺に壊されてよ」
 諭すような騎士の言葉を跳ね除けて、堕ちた英雄はからからと笑う。未だ無事な腕に握り締めた白銀の銃口は、同じ彩の装甲を持つ騎士の姿を捉えていた。
「ウォーマシンは好きなんだ、的にしやすいからさ!」
 場違いな程に陽気な聲が響いた刹那、トリテレイアはスラスターの出力を上げて床を滑る。急速で接近する対象はレオポルト、ではなく――。
「私の後方へ。お急ぎください!」
「は、はいっ……」
 戦場から逃げ遅れた、女子供たち。
 トリテレイアの単眼は、ちゃんと敵の狙いを捉えていたのだ。堕ちた英雄が白銀の銃では無く、黄金銃の引鉄を弾いたところを――。
「あははっ、守り切れるかな?」
 彼女たちを庇うように立ちはだかった騎士の許へ、銃弾の雨が降り注ぐ。
 去来する弾丸を弾き飛ばすのは、どっしり構えられた盾だ。衝撃を受けて尚、弾丸が一向に爆ぜないのは、盾の表面に展開された魔法陣の加護によるもの。時折盾を擦り抜けて弾丸が飛んでくるが、其方は剣で纏めて切り落とした。
 民衆を背に庇いながら独り戦い続けるトリテレイアの姿は、まさに「騎士」そのもの。彼が仮に御伽噺の騎士ならば、このまま雨が止むのをじっと耐えるしか無かっただろう。しかし、彼は機械仕掛けである。
「先程の非戦闘員への攻撃は、悪手でしたよ」
 冷え切った聲に僅かに滲むノイズは、怒りと云う名の感情か。銃弾の雨が止む時を待たず、白き騎士はスラスターの出力をマックスにして、全力で加速する。
「この剣の機能制限が、緩んだのですから」
 
 ≫起動、銀河帝国未配備A式反射防衛機構。
 ≫敵性行動を確認、威力ならびに効力を解析……。
 ≫――リフレクション。

 勢いのままに突き出した盾から、彼が今まで受け止めていた弾丸が射出され、敵の頭上へ降り注いで往く。其れは連鎖的な爆発を誘発し、その衝撃で堕ちた英雄を吹っ飛ばす。
「ッ、意趣返しって騎士的にアリなのかな!」
 壁に激突しながらも呑気に抗議するレオポルト。彼が銃を構え直した時にはもう、目と鼻の先に騎士の姿があった。
「ええ、理想には程遠いやり方です」
 矢張り肯定しながらも、トリテレイアは剣を振う手を止めない。渾身の怪力を籠めて一閃すれば、宙に赫い飛沫が舞い、白き騎士の装甲を汚した。崩れ落ちる英雄を横目に、彼は淡々と言葉を編む。
「ですが、最も確実な手段でもあります」
 ウォーマシンたる彼は、そもそも合理主義者なのだ。現実に生きる騎士のお蔭で、戦場に悲鳴が轟くことは終ぞ無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)愛していたのだね、お前さん。何をって? 民衆をさ。裏切った民衆が憎いかね。それとも民衆を守っていた自分が(憎いの)か。見る目がなかったと? 世界そのものに絶望して、みんな壊れてしまえとヤケっぱちになったか。終わりたい? 気分の問題? ひ、ひ…テキトウ言ってるだけさ。俺はヒトじゃない、ヒトのこころはわからない。ただ慈しむかぎりだ。
行動)眷属ども。《獣・鳥・虫》どもよ。波濤のごとく盾となれ。雲霞のごとく盾となれ。死に死に死にて、その犠牲を持って残りを強化し、繰り返して"魔王"を生め。夢託し歌え、俺の《仔》ら。古き英雄を終わらせておやり。善も悪も知ったことじゃないのさ。どうか悔いなき死を。



●Song for You
「自分で自分の弾丸喰らうとか、間抜けにも程があるよねえ」
 嘆息と自嘲が入り混じったような聲でそんな独白を溢しながら、レオポルトは壁に手を付いて立ち上がる。ふと彼の脚許で、カランと空薬莢が転がった。すると男はギザついた歯を覗かせて、にやにやと笑う。
「俺が此奴を喰らわせたかったのは、アイツらなんだけどなあ」
「……愛していたのだね、お前さん」
 そんな彼を遠巻きに眺め、静かにそう語り掛けるのは朱酉・逢真。其の聲には、何処か慈愛にも似た彩が滲んで居た。
「んー……何を?」
「民衆をさ」
 ふたりの間に、一瞬の沈黙が走る。
 それを引き裂いたのは、ふっと噴き出したレオポルトの方だった。頭から垂れる血を拭うことすら忘れ、彼は腹を抱えて笑い狂う。
「あは、はははっ、ジョーダンきついぜ」
「裏切った民衆が憎いかね」
 口許に薄い笑みを湛えた儘、逢真は次の問いを編む。神たる彼は、此の男が裡に秘めたものを見透かしている。故にこそ「どうかなあ」なんて、はぐらかすことを、青年は赦さない。
「それとも――民衆を守っていた自分が、憎いかい」
「そりゃあ、ぶん殴って遣りたいさ。目を覚ませってね」
 碌に上がらぬ腕に握り締めた銃をくるくると弄びながら、そう相槌を打つレオポルトは楽し気だ。いまは、未だ。
「見る目がなかったと?」
「節穴で笑えないかい。俺のことは勿論、アイツらも」
 寄越される返事に耳を傾ける逢真の眼差しは、何処か生温い。或いは微笑まし気と評するべきか。なにせこの男、口では否定しておきながら、今もなお囚われているのだ。自身を裏切った「民衆」と云うものに。
 逢真は其れを、矢張り「愛」と形容する。故に、こんな考察が湧き上がるのもまた、仕方のないこと。
「世界そのものに絶望して、ヤケっぱちになったか」
 みんな壊れてしまえとばかりに暴れ回る其の様は、幼子の癇癪にも似ていた。ゆえに視線も益々生温く、口許は更にニヒルに弛むばかり。尤も、神である彼にとっては人の仔など等しく「赤子」のようなものであるけれど。
「まさか! 絶望を振り撒くのは、俺の方さ」
 こんな風にね、なんて。軽口を叩きながらも、堕ちた英雄は抜け目なく引鉄を引く。白銀銃から放たれた弾丸は逢真の許へ至る前に、顕現した彼の眷属――犬の容をした其れを穿つのみ。神そのものには、傷ひとつ与えられぬ。

「――終わりたい?」

 レオポルトは、答えなかった。
 その代わりに再び銃声が響き、次は神の御前に顕現した飛蝗が弾丸に貫かれる。手応えの無い其れを詰まら無さそうに眺めながら、レオポルトは肩を竦めてみせた。
「もういいだろ、お互い壊し合って楽しもうぜ」
 されど逢真は決して頸を縦に振らない。それどころか、更に敵の内心を深堀していく。まるで答え合わせのように。
「気分の問題?」
「まあ、ね。いま一番壊したいのは君だけどー……ほら」
 また銃声。次は雀が神の盾と成り、いのちを散らして往く。眷属を打ち抜いても手ごたえは一向にないらしく、レオポルトは嘆息するばかり。
「俺のこと知ってどうするのさ、伝記でも出してくれるのかい」
「ひ、ひ……テキトウ言ってるだけさ」
 朱酉逢真はヒトに非ず。故にこそ、ヒトのこころはわからない。わからないものは仕方ないから、責めも裁きもしない。ただ、慈しむかぎり。それが、病毒に遊ぶ神の、ヒトとの関わり方。

「俺は壊して遊んで楽しみたい、それだけだよ」

 醒めた聲でそう言い放って、男は白銀銃の引鉄を引いた。お喋りの時間は終わりだ。もう、ゆびは離さない。
「眷属どもよ――」
 次々と去来する弾から逃れる為、神は眼前に眷属たちを召喚する。次はシャチに、蜘蛛に、それからヒバリ。彼らは次々に撃ち落とされて行くけれど、代えならば幾らでも湧いて出て来るのだ。逢真の脚許に伸びる、歪な影のなかから。
「波濤のごとく盾となれ。雲霞のごとく盾となれ」
 謳うように朗々と、逢真は眷属たちを使い棄てて往く。次に招くは荒ぶる馬に、毒を持つ蛇、そして凶暴な鷹。彼らは銃弾の一発二発では、決して倒れない。
「段々と固くなってきてるねぇ。弾切れでも狙ってるのかい」
 不敵に笑うレオポルトの貌に、僅か焦りが見て取れる。彼もそろそろ勘付いているのだ。此れが、下位存在を贄とした召喚儀式であることに。
「死に死に死にて、貴き贄と成れ」
 眷属が撃ち落とされるほど、次に招く眷属のグレードは上がっていく。レオポルトも其れに気付いているが、荒ぶる眷属を前にすれば、引鉄を引き続けるしか無い。詰んでいるのだ、最初から。逢真を敵とした時点で、既に。
「夢託し歌え、俺の“仔”ら」
 一方の神は涼やかに微笑んだ儘、朗々とそう謳う。数多の骸を踏み越えながら、残酷なる「進化」の歌を。彼の狙いは唯ひとつ、代償を極めた頃に現れる、最上位存在を召喚すること。

 ――そうして幾度も繰り返し、“魔王"を生み落とせ。

 一体、何発の銃弾が放たれた頃だろうか。
 逢真の眼前には、禍々しい気を纏う「魔王」の姿があった。もはや、堕ちた英雄の銃撃だけでは、とても太刀打ちできまい。
「は、は、そんなのアリかよ……」
 もはや自棄を起こして銃弾を放ち続けるレオポルトは、いっそ哀れですらある。ゆえにこそ、凶星の神は慈悲を籠めて魔王に命じる。
「古き英雄を終わらせておやり」
 尊きいのちの輝きに、善も悪もない。そんなもの、知ったことか。
 引き攣った笑みを貼り付けながらも、嘗ての英雄は魔王に立ち向かっていた。その姿を眺めながら、逢真はささやかな祈りを紡ぐ。

「どうか、悔いなき死を――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

メレディア・クラックロック
◎#

うん、わかるよ。
民衆って奴は守ってやればすがりつてくるのに、平和になれば掌返して化物呼ばわり。
そりゃ庇っても意味がないとか言いたくもなるよね。

でもさぁ。
そいつらいたぶってニヤニヤしてるキミと、それを守って毅然としてるお姫様、どっちのが味方したいと思う?
つまり「一昨日来やがれゲス野郎」って意味。伝わった?

あはは、ほら怒った。
キミが排斥されたのはそうやって民衆に暴力揮ったからじゃないの?
何より危険に敏感だからね、市民。
英雄という称号に驕り高ぶれば怪物として見放されるのは当然の帰結。
そのスカした顔面、レーザーでブチ抜いてあげれば少しは涼しくなると思うよ。
だから避けないで、大人しく倒れて頂戴な!



●Task killer
「君たちは本気で此の船を護りたいみたいだね」
 爆発の余韻と喧騒が色濃く残る戦場に、醒めた聲が響き渡る。魔王の凶碗から生き延びたレオポルトは、軍帽を目深に被りながらもギザついた歯を覗かせて笑った。
「アイツらの為に命懸けるなんて、無駄なのになあ」
「うん、わかるよ」
 そう相槌を打つのは、此の船に乗り込んで来たインタビュア――メレディア・クラックロック。
「民衆って奴は守ってやればすがりつてくるけど……」
 平和になった途端に掌を返して、守ってくれた恩人すら「化物」呼ばわりする始末。メレディアの知っている「民衆」の在り方とは、得てしてそういうものだった。
「そりゃ庇っても意味がないとか、言いたくもなるよね」
 うんうんと頷きながら、堕ちた英雄の主張に理解を示すメレディア。されど、彼女の主張は未だ終わって居ない。
「でもさぁ、」
 かくり、と頸を傾けた娘は、翠の双眸に男の姿を映す。いま目の前に広がる地獄は、紛れも無く彼が生み出したもの。なにより、彼を貶めた民衆は過去の存在である。此の船の住民たちは関係ない筈で、どう見ても八つ当たりに過ぎないのだ。
 ニヤついた顔で無辜の民をいたぶる彼と、毅然とした態度で民衆を護るお姫様。
「どっちのが味方したいと思う?」
 レオポルトは何も答えず、ただニヤニヤと口許を弛ませるばかり。そんな彼に向けて、メレディアは冷たい視線と薄い微笑をくれてやる。
「つまり――“一昨日来やがれゲス野郎”ってこと」
 そう啖呵を吐き棄てれば「伝わった?」と娘は頸を傾けて見せた。レオポルトは矢張り何も答えず、ただ白銀銃を彼女へと突き付けるのみ。
「あはは、ほらほら怒った?」
「まさか!」
 漸く口を開いた男は、ひどく陽気な聲を響かせて頭を振る。獲物から視線を逸らしてもなお、その銃口はメレディアの姿を確りと捉えた儘であった。
「活きの良い子は大好きさ。元気に悲鳴を上げてくれそうだからね!」
 刹那、銃声が続けざまに鳴り響く。
 取材の終わりを悟った娘は、軽やかな身のこなしで去来する弾丸を避けた。掠った弾は、僅か一発。それも白頰に赫絲を刻んだだけ。余裕の貌をしているが矢張り、敵の消耗は激しいらしい。
「キミが排斥されたのは、そうやって暴力揮った所為じゃないの」
 尚も放たれる弾丸たちを避けながら、メレディアは煽るように問いを編む。
 市民と云うものは、何より危険に敏感だ。「英雄」という称号に驕り高ぶった者が『怪物』として見放されて仕舞うのは、或る意味で当然のことだろう。
「さあね」
 飄々とした男は矢張り、真実を語らない。
 ただニヤニヤと口端を弛ませた侭、撃って撃って撃ちまくるばかり。途切れることなく放たれる弾丸は、言葉の代わりに裡に秘めたものを吐露するよう。

 ――『英雄』であった“レオポルト”は死んだ。

「それ以上の事実なんて、今さら必要ないだろ」
 斜に構えた態度で、レオポルトはそう嗤う。トリガーを引き続けた甲斐もあったのか、弾丸は今や娘の頬だけでなく、肩口や脚まで穿っていた。
「スカしてるね」
 じわりと赫が滲む肩を抑えながら、メレディアはつぅと双眸を細めて見せる。幾ら手負いと云えども、相手はオブリビオン。此れ以上戦闘を引き延ばしては、“危険”だ。
 娘がそう思考した刹那、彼女の頭上を周回していた映像蒐集デバイスが軋み始めた。ギコギコと音を立てる其れは、忽ちレーザービットへと転じて往く。
「避けないで、大人しく倒れて頂戴な!」
 吠えると同時、レーザービットから光線が放たれる。勢い良く放たれた其れは、レオポルトを貫き、衝撃で其の躰を吹っ飛ばした。
 宙に、白い軍帽が舞う――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓


民を背に庇う

「守る意味は、自分で決める」



裏切られ殺される
その運命を
彼を思えば悔しく
彼を『悪』だとは決して思わない
弱者を追い立てるより嬉し気に笑む姿を見て安堵さえ覚え

…護った者から石を投げられる
その経験は俺にもあった
力を恐れ
化け物だと
それでも俺は誰かの役に立ちたくて
唯一俺が存在していい理由だと

然しそれ以上に
誰かを思い
涙溢し笑う人々が尊いと純粋に思う故
そんな人々を護ることこそ俺にとっての守る意味
己はどうなってもいい
護りたい人が笑ってくれたなら

彼の心を受け止める様
攻撃は受け
然し膝はつかない
俺が今護りたいのはレオポルト
彼を『英雄』のまま眠らせる
願うは安息を
例えこの行動が俺のエゴだとしても



●Reason to protect
「みぃんな、アイツらの味方するんだねえ」
 床に落ちた軍帽を拾い上げながら、レオポルトは冷え切った呟きを溢す。目深に帽子を被り直しながら「まあいいさ」と頭を振った彼は、丸越・梓と向かい合い口端をニヤリと弛ませた。
「どうせ君も守りに来たんだろ、ホント意味ないことするなあ」
「守る意味は、自分で決める」
 船内には未だ、逃げ遅れた住民が数名いた。彼女たちをレオポルトの視界から隠すように背に庇いながら、梓は凛と彼の言葉を否定してみせる。
 命を懸けて守った者に裏切られ、果てには殺された。
 そんな皮肉な運命を辿った「英雄」のことを思えば、悔しさが胸に溢れてくる。故にこそ梓は、彼を『悪』だとは決して思わない。
「いいね、その高潔さが折れるところ見てみたくなったよ!」
 獲物に銃口を向けながら、レオポルトはそう言って笑う。その様が弱者を追い立てる時よりも何処か嬉し気に視えて、梓はこころ密かに安堵を覚えた。この男は未だ、英雄の矜持までは棄て切れていないのだと。
「……護った者から石を投げられる経験は、俺にもあった」
 護る為に振った力を恐れられ、化け物だと蔑まれたことは、記憶の底にこびり付いて簡単には消えてくれない。それでも、梓は誰かの役に立ちたくて、今日も独り戦場に立ち続けている。それが唯一、自身が存在しても良い理由だと思っているから。
「しかしそれ以上に、誰かを思い、涙を溢し、笑う人々が尊い」
 故にこそ梓は、そんな人々を護りたいとこころから想うのだ。自身がどう思われるかなんて、彼には関係ないことである。
「俺はどうなってもいいんだ」
 護りたい人が笑ってくれたなら、それで――。
「どーせ最後は裏切られるだけだぜ」
 醒めた聲でそう言い放ち、堕ちた英雄は黄金銃のトリガーを引いた。忽ち銃弾の雨が降り注ぎ、着弾と同時に銃弾が爆ぜ、次々と連鎖するように爆発が誘発されて行く。
 それでも梓は決して逃げない。爆風を正面から浴びてなお、彼は己が膝を付く事すら許さずに、戦場に凛と立ち続けていた。
「俺が今護りたいのはレオポルト、お前の尊厳だ」
 彼を『英雄』のまま眠らせることこそ、梓が裡に抱く希い。
 堕ちた英雄に安息を与える為、梓は星の名を冠した拳銃を抜き放ち、トリガーにゆびを掛ける。
 ――例え、この行動が俺のエゴだとしても。
 彼を見捨てることは、出来ない。
「はははっ、救えるものならやって御覧よ!」
 眼前の男が晩節を汚さぬようにと願いを籠めて、梓は静かに引鉄を引いた。静まりかえった戦場に、鈍い銃声が響き渡る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
◎☆#
……今更な助言です
私は助けた人たちに怖がられ拒絶されてばかり
いつ背後から刺されてもおかしくはない
それでも、助けることを無意味とは思いませんよ
例え自己満足だと言われようと……助けた方が無事ならそれでいい

……あなたの最期がいかに非業だったのか、私は知る術をもちません
ですが、恐怖で以って"想い出す"ことを強いるあなたの思い通りにはさせたくない
すみませんが、私はあなたの戦法には乗りませんよ
UCで拡げた瘴気で、複製された銃を使用不可にさせます
これなら逃げ遅れた方が逃げる時間も稼げるでしょう
どなたかがあの男を攻撃してくださればさらに助かります

――そう
影は影らしく、歴史に遺らぬ行動をしますよ


月白・雪音

…彼女らを率いた首領。
なれば、貴方も嘗てこの高き空が為に命を懸けた者ですか。

良いでしょう。
この戦にて名を残すが望みとあらば、応えるのみ。


UC発動、残像の速度にて動きつつ、見切り及び野生の勘で銃撃の軌道を察知して
回避、避けた先に民衆が居るようであれば銃弾を掴み取り命中を阻止
怪力、グラップル、体勢を崩すによる投げ、固めの技を中心に
相手の射撃の妨害を行いつつ攻める


然り、民衆とは力を恐れるもの。
或いはいつか、私もそのように死ぬのやもしれません。

…されど、それが壊し、殺す力を恐れてのモノなればそれも良し。
戦こそ忌避すべきものと、ヒトがそう思う事を許される世界ならば。
――それが、私の想う理想の世です。



●For somebody else
 敵の首領――凶星のレオポルトは、もはや満身創痍だった。白い纏いを血で汚し、身体中に生傷を刻んだ其の様は痛々しく、彼のいのちが風前の灯火であることを表していた。
「貴方も嘗て、この高き空が為に命を懸けた者ですか」
「そ。そしてその末路がコレさ」
 月白・雪音の問いに、ニヤついた貌でそう答えるレオポルト。彼もまた薄々自身の終わりを察しているらしく、皮肉気に頸を傾けて見せた。
「君たちも多分、こーなるけどね?」
「……今更な助言です」
 スキアファール・イリャルギは、否定を紡ぐこともなく静かに双眸を伏せる。
 怪奇を其の身に宿した『影人間』である彼は、助けた人たちに怖がられ、拒絶されることも少なく無い。いつ背後から刺されても正直、おかしくはないと思っている。それでも――。
「助けることを無意味とは思いませんよ」
 例え、自己満足だと言われようと。助けた人が無事ならば、それでいい。彼もまた高潔な覚悟を抱いて、此の戦場に立っていた。
「ははは、じゃあ此処で君たちの理念をぶっ壊してあげよう!」
「良いでしょう」
 響き渡る男の哄笑に眉ひとつ動かすこともなく、雪音は首肯をひとつ。此の戦にて名を残すことが彼の望みならば、此方はただ応えるのみ――。
 最期の力を振り絞って、レオポルトは己の背後に何百もの金と銀の銃を複製する。彼がぱちん、とゆびを鳴らすや否や、それらは一斉に火を噴いた。
「……あなたの最期がいかに非業だったのか、私は知る術をもちません」
 白い肌を幾つもの銃弾が掠めても物怖じすることなく、己の躰に纏わりつく包帯を解くスキアファール。其の身に秘めた“怪奇”を開放すれば、戦場には徐々に瘴気が溢れて往く。それは、敵から幸運を奪う呪詛そのもの。敵にとって有利な状況すら、無効化して仕舞う奥の手である。現に複製された数多の銃は、玉切れを起こした様に沈黙していた。
「恐怖で以って"想い出す"ことを強いる、あなたの思い通りにはさせたくない」
 怪奇人間として、恐怖を手段として用いる彼のやり方には忌避感があった。淡々と言葉を紡ぎながら、青年はちらりと後ろを振り返る。其処には逃げ遅れたのであろう女子供たちが、数人ほど集って震えて居た。
「いまのうちに、逃げて下さい」
 なにせこの技は100秒が限界なのだ。努めて穏やかに促せば、彼女たちはこくこくと肯いて出口へと駆けて往く。その後ろ姿を見送ったのち、スキアファールは再び堕ちた英雄と向かい合った。
「影は影らしく、歴史に遺らぬ行動をしますよ」
 後世へ語り継がれる偉業など、遺せなくても構わない。
 スポットライトなんて、『影人間』には最も似合わないものだから。
「ふふ、そう簡単に逃がすと思うのかい」
 一方のレオポルトは未だ諦めていないようだ。彼はギザついた歯をちらつかせて笑いながら、白銀の銃を逃げ往く住民たちへ向ける。トリガーを引けば、鈍い銃声が響き渡った。されど、住民たちは誰も倒れていない。
「民衆とは力を恐れるもの――」
 精神を集中させることで身体能力を強化した雪音が、驚くべき反射神経で放たれた銃弾を掴んだのだ。カラコロと床に弾丸を転がしながら、娘は淡々と口を開く。
「ゆえにこそ、いつか私も、そのように死ぬのやもしれません」
「それが分かってるなら、どーしてアイツらを守るのさ」
 住民から雪音へと標的を変えたレオポルトは一心不乱に引鉄を弾き続けながら、不思議そうに問いを重ねる。されど、凶弾が彼女を捉えることは一向に無い。幾ら撃ち抜こうともその残像ばかりが消えて往くのみ。肝心の本体には既に軌道を読まれているようである。
「それが壊し、殺す力を恐れてのモノなればそれも良し」
 軌跡に遺した残像で翻弄しながら、気付けば雪音はレオポルトの懐へ。白銀の銃口が其の身を捉えるよりも早く、彼の襟首を引っ掴み、渾身の力で背負い投げる。
「ッ……」
「戦こそ忌避すべきものと、ヒトがそう思う事を許される世界」
 それが、私の想う理想の世です――。
 強かに床へと叩きつけられた男の腕に固め技を掛けながら、凛と己が理想を語る娘。踠く彼の腕から軈て拳銃がぽとりと堕ちようとも、彼女の攻撃は弛まない。
「ははっ、そんな世界、壊してやりたいなあ……」
 窮地に陥ってなお、レオポルトは不敵に笑う。空いた方の腕でゆびを鳴らせば、宙に顕現した拳銃たちが一斉に、雪音の方へと向いた。
 気付けば既に、瘴気は消えている。ゆえに彼は、賭けに出たのだろう。トリガーが引かれそうになった、その瞬間。
「すみませんが、その戦法には乗りませんよ」
 しゅるり――。
「がッ……」
 何処からか伸びて来た黒い包帯が、男の頸を強かに締め付ける。念動力で操られた銃たちは、術者の意識が散漫になってはトリガーひとつ引くことはできない。魔法が解けたように、ひとつ、またひとつと金と銀の銃が床へ落ちて往く。
「……どうかしてる、ぜ」
 ぎりぎりと頸を絞められながらも、最期まで口許にニヤついた笑みを刻んだ儘、堕ちた“英雄”レオポルトは息絶えた。皮肉気な科白を言い遺して。

●Somebody knows
 斯くして、此の船の平穏は護られた。
 猟兵たちの活躍は末永く語り継がれて行くだろう。星海に刻まれた歴史の“ひとつ”として。けれども、歴史の闇に再び葬られた者がいることを、住民たちはきっと知らない。侵入者たちが抱いていた想いは勿論、其の素性すらも。
 されど、猟兵たちは知っている。
 生きた証を遺す為に救いようの無い手段を取り、生き汚くも足搔き続けた、悲運の先人たちが居たことを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月02日


挿絵イラスト