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蒼域空挺冒険譚

#ブルーアルカディア #エイプリル・ミスト号の冒険

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#ブルーアルカディア
#エイプリル・ミスト号の冒険


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●冒険の先触れ
 雲海に無数の浮遊大陸が浮かぶ世界、ブルーアルカディア。
 蒼空の果てには竜の巣と呼ばれる危険な空域が存在していた。
 其処は名の通り、竜が住む場所。その空域は突然に変わる気流や浮遊する岩石、激しく巻き起こる嵐に覆われた空のダンジョンと化している。

 或る夜、ひとりの勇士が竜の巣の近くを航行していた。
 少年の名はラシャ。彼は若くして両親を亡くし、父から受け継いだ『エイプリル・ミスト号』という飛空艇の船主になった勇士だ。ラシャは現在、気流や岩石に巻き込まれないように注意しながら操舵を続けている。
「ちょっと危ない空路だけど、近道だからな」
 今日の仕事は浮遊大陸間の運送。
 荷物の到着を心待ちにしている人達のためにも一刻も早く空域を越えたいところだ。操舵輪をしっかりと握ったラシャは、竜の巣をギリギリで上手く回避する航路を取っている。しかし、ふとしたときに妙な違和感を覚えた。
『…………た……て』
「ん? 誰かオレを呼んだか? といっても空の中だし空耳か」
 エイプリル・ミスト号はそれなりに大きいが、乗組員や仲間などはいない。たまに他の勇士を飛空艇に乗せることはあっても、今晩は誰も同乗していなかった。だが、呼び掛けのようなものが再び響いてくる。

『――だれか、たすけて』

「声!? でも、何だこれ。耳じゃなくて心に直接語りかけてくるような……」
 驚いた少年は竜の巣の方を見遣った。
 助けを求める声めいたものが嵐が轟く向こう側から響いてきたように思えたのだ。その声は人間のものとは違うような気もする。男女どちらともとれず、若いのか歳を召しているのかも分からなかった。
 声らしきものは何度も助けてと呼びかけてくる。
「むむ……何か困っているなら助けてやりたいけど、急ぎの仕事もあるし、竜の巣に一人で突撃すると自滅するし……。そうだ、こういうときは!」
 ラシャは竜の巣とは反対方向に全力で舵を切った。
 勇士としての彼なりの大原則、ひとつ。
 無謀さは決して勇気ではない。困ったときは、まず――仲間に相談!

●救出の志
 ということがあり、少年は急いで仕事を済ませた。
 件の空域に何かがあると確信した少年勇士が仲間に相談を持ちかけた結果、今回は猟兵に話が回ってきたのだ。
「竜の巣からの助けを求める声! 放っておけないよな!」
 メグメル・チェスナット(渡り兎鳥・f21572)は仲間達に詳しい事情を語り、竜の巣に向かう予定の少年に協力して欲しいと願った。メグメルの隣に立っている少年の後方には、青い旗が飾られた飛空艇がとめられている。
「よお、オレはラシャっていうんだ。こっちの飛空艇はエイプリル・ミスト号! あんた達が竜の巣の探索を手伝ってくれる人達だな。助かるぜ!」
 ラシャは自分とガレオン船の紹介をした後、猟兵達に人懐っこい笑みを向けた。
 少年は竜の巣から感じた助けを求める声の正体を知りたいと願っている。そして、出来るならば声の主を救いたいと考えているようだ。
「それでラシャ、その声ってのは?」
「どうにもよくわからないんだよな。誰か、と助けを呼んでることはわかったんだけど、人の声とは言い切れない。意思がある武具とかアイテムとか、竜の巣に取り残された召喚獣とか……もっと別のものかもしれない」
 メグメルが聞いたことに対してラシャは難しそうな顔をした。
 何であれ、悪いものには感じられなかったそうだ。それゆえにこうして竜の巣を覆う嵐を突破するための仲間を集めたらしい。
「なるほどな。皆は声の正体は何だと思う?」
 何度か頷いたメグメルは猟兵達にも問いを投げかけてみる。そうして、そっと一歩引いたメグメルはラシャ本人に後の説明を任せる。真っ直ぐな眼差しを向けた少年は、これからの作戦について話していった。

「まず皆にはオレのエイプリル・ミスト号に乗り込んで貰うぜ」
 ラシャの飛空艇は嵐の中でも飛べる。
 だが、もし航行中に嵐による雷や、飛ばされてきた大岩が迫ってきたらひとたまりもない。ラシャは操縦に専念するので障害を退ける乗組員が必要だ。
「飛空艇の甲板やマストの上、どこでも使っていいからさ。皆はとにかく障害をぶっ壊してくれ。その間に一気に嵐を突破する!」
 嵐を抜けさえすれば航行は安定していくはず。
 されど、それで終わりではない。飛び込んだ空域には十中八九ドラゴンが待ち構えているだろう。竜は侵入者である此方に襲い掛かってくることが予想されるので、戦いの準備も整えておく必要がある。
「あとはぶっつけ本番、声の主を助けて帰還だ!」
 拳を握り締めたラシャの瞳は真剣そのもの。危険な空域だと分かっていても、勇士としての矜持が彼を突き動かしているようだ。
 少年は猟兵達の力をしかと感じ取っているらしく、強い信頼を向けている。
 ラシャは飛空艇に猟兵を誘い、明るく笑ってみせた。
「さあ、行こうぜ。霹靂の向こう側へ!」


犬塚ひなこ
 今回の世界は『ブルーアルカディア』
 舞台は竜の巣と呼ばれる危険な空域。その中から助けを求める何かを救い出すため、空の冒険に出発しましょう。

 今回は少数採用(成功度を達成できる人数+α)予定です。
 先着順ではありません。少数採用の分、出来る限り早めに章を進めていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします!

●第一章
 冒険『青天の霹靂』
 時刻は夜。舞台は嵐が激しく巻き起こる空の領域です。
 空域では激しい雷や暴風、岩石が縦横無尽に飛び回っています。
 15歳の少年勇士・ラシャの飛空艇『エイプリル・ミスト号』に乗って嵐の中を駆け抜けましょう。ご自分の飛空艇や嵐に耐え得る乗り物や能力がある場合は、そちらの方法で進んで頂いても大丈夫です。
 どのように嵐に対抗するか、どうやって飛空艇を守るか。あなたなりの行動や工夫をどうぞ!

●第二章
 集団戦『ブレイドホーク』
 嵐を抜けた先では、竜の巣に巣食うオブリビオンの群れとの戦いとなります。
 協力を願えば少年勇士・ラシャも援護を行います。彼は斧錨や飛空艇に取り付けたディバインデバイスで戦い、それなりの戦力になってくれます。

●第三章
 ボス戦『ガレオンドラゴン』
 天使核の暴走によって変異し、ドラゴンと化した飛空艇です。知能は高く、人語を解します。どうやら敵の内部から『何か』が助けを求めているようです。

 ドラゴンを完全に倒すと何かの正体が判明します。
 一章~三章の間、いずれかでその正体が何なのか予想してくださった場合、それが正答になるかもしれません。シナリオの都合上、正解者はお一人様、または同じ予想をしてくださった方のみになることをご了承ください。
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第1章 冒険 『青天の霹靂』

POW   :    激しい揺れに耐え、船内の物資や設備を守る

SPD   :    自ら上空へ飛び上がり、落雷を引き付ける

WIZ   :    雲や風の流れを読み、嵐の晴れ間を探す

イラスト:十姉妹

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ルーファス・グレンヴィル


こんな暗い夜だと
視界も悪くなりそうだが
この雷のお陰で何とか──

なりそう、と紡ぎかけた瞬間
吹き荒ぶ風に乗った石が頬を掠めた
つ、と頬から血が流れ落ちた気がする

──ッは!
上等じゃねえか!

荒れ狂う嵐の中、
甲板で仁王立ちをし
不敵に口角が上がった

オレらの航海を邪魔するのなら
遠慮なく全部ぶっ潰すだけだ

いつの間にか吹き飛ばされないよう
しがみついていた黒竜の爪が
肩に食い込んでいても気にしない
こんな痛みよりも──

さあ、どこも壊されねえよう守ろうか

相棒竜と目配せすれば
一瞬で変じた槍を手に持って
愉しそうに瞳を輝かせながらも
吹っ飛んでくる岩石を
容赦なく穿っては壊し続ける

オレらが居る限り、
ここに被害なんて出さねえよ!



●狂飆
 飛空艇、エイプリル・ミスト号が出航する。
 竜の巣の周囲に轟く嵐は激しく、辺りには浮遊岩石が飛び交っていた。時は夜になっており、蒼空は深い群青色に染まっている。
 少年勇士が操舵する飛空艇の甲板にて、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は目を凝らしていた。
 こんな暗い夜のうえに嵐となると視界も悪くなりそうだ。しかし、轟き続ける稲光が周辺を絶え間なく照らしているので、逆に視界は開けているとも呼べる。
「この雷のお陰で何とか――」
 なりそうだ、とルーファスが紡ぎかけた瞬間。
 甲板の中を横切る形で、比較的ちいさめの浮遊岩石が通り抜けていった。吹き荒ぶ風に乗った石の速さは鋭く、ルーファスの頬を掠めていく。
 つ、と頬から血が流れ落ちた気がした。
 だが、確かめる暇もなく更なる激しい風がルーファスの身に襲い掛かってきた。
「――ッは! 上等じゃねえか!」
 敵は荒れ狂う嵐。
 負けるものかと感じたルーファスは、甲板で仁王立ちをする。その眼差しは鋭く、口角が不敵に上がっていた。
 流石というべきか、エイプリル・ミスト号は暴風の中を進み続けている。
「オレらの航海を邪魔するのなら遠慮なく全部ぶっ潰すだけだ」
 なぁ、ナイト。
 黒竜に呼び掛けたルーファスの胸の内には高揚めいた感情が湧き上がっていた。ナイトは嵐に吹き飛ばされてしまわないようにしがみついており、その爪がルーファスの肩に食い込んでいる。
 今のルーファスはそんなことなど気に掛けていない。
 こんな痛みよりも、苦難に向かって進み続けることの方が今は重要だ。
「さあ、どこも壊されねえよう守ろうか」
 ルーファスの声に対して、相棒竜は鋭く鳴いた。このような業風に押し負けたりしない、という意思がナイトから伝わってくる。
 刹那、再び甲板部分に向かって岩石が迫ってきた。このまま何もしなければ甲板の床に大穴が開き、航行不可能になるだろう。されど、そうさせないためにルーファス達が此処に立っている。
 目配せをすれば、ナイトが一瞬で竜槍に変じた。
 船と共に潰されかねないほど大きな岩を前にしても、ルーファスの瞳は爛々と輝いている。愉しそうに細められた双眸がマストの天辺を捉える。
 勢いをつけて床を蹴ったルーファスは柱に飛び、縄梯子すら跳び越えて檣楼まで駆け上がった。まずはひとつめを真正面から貫き壊す。
 破片が四方に散って吹き飛ばされていく様は敢えて確認せず、次にふたつめの岩を横薙ぎに払って斜線を逸した。そのままルーファスはマストの頂上まで駆け上がった。
 そうした理由は更に大きな岩石が飛空艇に迫っていたからだ。
「来いよ、壊してやる」
 ――ナイト。
 ルーファスが槍に呼び掛ければ、即座に顕現した黒炎竜が咆哮を轟かせた。嵐の中でも響き渡る聲が止んだ瞬間、岩が粉々に砕かれる。
 其処から帆桁に跳んだルーファスは視線を巡らせた。貼られた吊り綱のロープからロープへ。雷鳴が鳴り響く中、駆け抜けるルーファスは次々と飛来する浮遊岩を容赦なく穿っては壊し続けた。
 操舵を続けるラシャは彼の動きを感じ取っているらしく、船首から呼びかける。
「ルーファスの兄さんもナイトも凄いな! そのまま頼むぜ!」
「オレらが居る限り、ここに被害なんて出さねえよ!」
 紅蓮の眼差しを向け、強く応えたルーファスは不敵に笑ってみせた。そして、ルーファスと次の標的に目を向ける。
 嵐を抜けるまで、否――駆け抜けた後もナイトと共に。
 風すら穿つ一閃が、其処から再び振るわれていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
連携・アドリブ歓迎
WIZ

自然との闘い、というわけか
なら、こういう時にはこれだ!風の疑似精霊、力を貸してくれ!
君の力でこの場を乗り切る!

携帯した飴を媒体に固有結界・黄昏の間を発動、風の疑似精霊を召喚

飛空艇の周囲へ風の結界を形成し、嵐による気流の影響を軽減及び、飛来する岩石の衝突から守る

更にその風の結界の内側上空には俺が【オーラ防御】を纏わせた結界を【結界術】で形成しよう
落雷の直撃を防ぐ為の結界だ
この2重の結界を【全力魔法】力を使ってでも維持し、飛空艇の移動をサポートしよう
俺だけじゃなく、ラシャさんも無事にこの嵐を突破する為にも…俺なりの全力を尽くすよ!


テンス・アーケイディア
※アドリブ歓迎、共闘可

SPD判定

・行動
人型でエイプリル・ミスト号に同乗して移動
竜の巣では自分の小型飛空艇「ヴァングアイン」を呼び出して乗り換え
UCを発動して自身と飛空艇の回りにエーテルのフィールドを展開
暴風を無視しつつ飛来する岩石を砕いて回り竜の巣への道を切り開きます
(スキル:義侠心、飛空艇操作、遊撃、道案内)

・セリフ
謎の声に助けを求められ前人未到の難所を乗り越える
それはとても素敵な行いよね
ぜひ私にも協力させて欲しいの

自身の仕事を終えてから仲間を募って挑戦する
そんな判断が出来る貴方ならきっとこの航海も成功させられるわ
その『謎の声』の主を助け出してあげましょう

この広い空で独りは寂しすぎるもの……



●守護と先導
 竜の巣の周辺は嵐が巻き起こっている。
 内部から助けを求めているという謎の存在のため、飛空艇の主である少年と猟兵達は竜の巣の空域へと突入した。
「これから始まるのは自然との闘い、というわけか」
 鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は進むたびに激しくなる暴風を見据えながら、強く身構える。
 雷鳴が轟く最中、エイプリル・ミスト号は果敢に航行していく。
 その中には同じ飛空艇乗りであり、ガレオノイドのテンス・アーケイディア(エターナルトラベラー・f33949)も同乗していた。
 今は人型になっているテンスも周囲の様子を確かめている。そして、テンスは船首で舵を取っているラシャ少年に語りかけた。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「頼んだぜ、テンスの姉さん! ひりょの兄さんも!」
 此処までの航路で互いに自己紹介は済んでいる。猟兵達を姉さんや兄さんと呼んだラシャも、操舵に力を入れていた。
 誰とも知れない謎の声に助けを求められ、前人未到の難所を乗り越えること。
 救いの手を伸ばしたいと願う、その心はとても素敵なものだと思えた。ぜひ私にも協力させて欲しい、とテンスが願ったときにラシャは満面の笑みを浮かべた。
 ただそれだけで少年とテンス達の心は繋がった気がする。
 飛空艇に乗る前のささやかな時間を思い出し、テンスは双眸を緩やかに細めた。
 船首付近の近い場所に陣取っていたひりょも頷き、遥か前方を見つめる。そして――猟兵達の嵐突破作戦が開始された。
 よりいっそう強い暴風の中にエイプリル・ミスト号が飛び込んだ刹那。
 テンスは自分の小型飛空艇、ヴァングアインを呼び出した。一人乗りの小型飛空艇に颯爽と乗り換えた彼女はエイプリル・ミスト号よりも先へと向かう。
 その背を見送ったひりょは両腕を胸の前に突き出し、力を紡いでいった。
「こういう時にはこれだ! 風の疑似精霊、力を貸してくれ!」
 ひりょは携帯した飴を媒体にして、結界を発動させる。
 ――黄昏の間。
 其処に風を操る能力を纏う疑似精霊が召喚され、ひりょの傍に寄り添った。
「君の力でこの場を乗り切る!」
 よく言うように、目には目をという精神だ。暴風には風をぶつけて相殺すればいいと考えたひりょは飛空艇の周囲に風の結界を形成した。
 エイプリル・ミスト号は勿論、ヴァングアインにも広がった力は強く巡る。テンスは仲間からの援護に感謝を覚えながら、自らも力を発揮していった。
「エーテリックセイル展開、サブエーテル空間への同調可能粋に到達」
 ――エーテリックドリフト、開始。
 自身と飛空艇の回りにエーテルのフィールドを展開したテンスは、拳大程度の浮遊石ならばこれで防げると確信した。
 しかし、嵐の勢いに乗った巨大な岩が飛空艇に迫ってきている。
「大丈夫? 防ぎきれるように風を送るよ」
「平気よ。私だって空を翔ける勇士のひとりだもの」
 その名の通り、超深部探査飛空艇アーケイディア級の十番機でもあるテンス。アルカディアを探す旅を思えば、このような嵐に怯んでなどいられない。
 テンスは突撃戦術を機動させ、一気に浮遊岩に突貫していく。
「わかったよ! 気をつけて!」
 甲板の上から声を張り上げたひりょは、嵐による気流の影響を軽減させていった。飛来する岩石の衝突から空艇を守り切る。
 ひりょの思いは疑似精霊にも伝わったらしく、風の障壁は雷すら防いだ。
 轟く雷鳴が飛空艇を貫いてもいけない。そう考えていたひりょは、雷撃に備えて己が紡ぐ結界の強度を調整していた。
 その最中、テンスのヴァングアインが大岩に衝突する。
 轟音が鳴り響いたが、彼女は無事だ。もしこれが意思のある敵の攻撃であったならばテンスは船体ごと衝撃を受けていただろう。
 だが、此度の相手は嵐。
 ひりょが先程に語った通り、自然物が相手なのだ。激突ダメージを無視することができる突貫こそ今のテンスの強みだ。
 風と雷に対しての守りに特化するひりょ。襲い掛かってくる浮遊岩に立ち向かっているテンス。偶然に近い場所に乗り合わせた二人の連携は見事に巡った。
「落雷は気にしないで、こっちに任せて!」
 テンスとラシャの二人に声をかけたひりょは、二重結界を全力で維持する。
 飛空艇の移動を妨げるものは決して通さない。無論、自分が倒れてもいけないので守護の力は常に解き放ち続ける。
「俺だけじゃなく、ラシャさんも……皆で無事にこの嵐を突破する為にも――!」
 ただ只管に、自分なりの全力を尽くすのみ。
 ひりょの頑張りを背に感じながら、テンスも次の浮遊大岩に目掛けてヴァングアインを移動させていく。風よりも疾く、雷よりも鋭く翔ぶテンスの軌道はまるで、戦場に駆けていく流星のようだ。
 テンスは激しい暴風をものともせず、飛来する岩石を砕いて回る。
 そうして、徐々に竜の巣への道は切り拓かれていく。彼女の道案内めいた飛行後を追いながら、エイプリル・ミスト号も進み続けた。
 後方の飛空艇の様子を確かめ、テンスはそっと思いを巡らせる。
 自身の仕事を終えてから仲間を募り、困難に挑む。そういった判断が出来るラシャならば、そして此処に揃った猟兵となら、きっとこの航海も成功させられるはずだ。
 そのとき、船首の方から声が響いてきた。
「ひりょの兄さんの結界は頼もしいな。けどテンスの姉さんも兄さん、絶対に無理はするなよ! 全員揃って向かいたいんだ!」
「もちろん、そのつもりだよ!」
 ラシャの声に頷いたひりょは静かに微笑み、テンスも大丈夫だとサインを出す。
「あの『謎の声』の主を助け出してあげましょう」
 テンスは竜の巣の奥を見据え、救いを求める存在に思いを馳せた。
 果てしない空の最中に取り残された何か。たとえ、それが何であったとしても。
「この広い空で独りは寂しすぎるもの……」
 だから、必ず救い出す。
 其処からも攻防戦は続いていき――。
 先導するヴァングアインに続き、エイプリル・ミスト号は嵐の空を往く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルビィ・フォルティス


竜の巣内部からの呼び声……人が暮らしていけるような環境でもありませんし、正体が気になりますわね。

エイプリル・ミスト号に乗り込んで出発
良い飛空艇ですわね。あなたの所有ですの?
きっとこの船なら奥に辿り着きますわ。
わたくしもお手伝いさせて頂きましてよ。

自身の翼で甲板からから空に飛びあがる
風を読み、暴風の中を舞うように雷や岩石を避けて飛び回る

風の流れ、速さ、分かってきましたわ。
参りましてよ。アドウェルサ。

天使靴シューズによる空中ステップで飛び交う岩石に接近、薔薇の剣戟による四連撃で破壊していく

まだ今夜のステージは始まったばかりですわ、退屈させないでくださいませ?


ナスターシャ・ノウゼン

誰ぞ助けを求める声、のぉ。
わざわざ姿も知らんもののために立ち上がるとは、ほんに人間というのは不思議な生き物じゃ。
だがまぁ、だからこそ面白い。どれ、暇つぶしに手を貸してやるか。

雷に暴風、岩石飛び交う空域。
うるさくて全然寝れんのじゃが!!現地に着くまで適当な部屋でごろごろ待ってようと思ってたのに台無しじゃ!

この鬱憤、誰にぶつけてやろうか。
荷物を守るとかどうでもいいんじゃが、飛んでくる岩石でも吹っ飛ばしてストレス解消じゃな。なんじゃったか、ばってぃんぐせんたー?みたいな感じで。斧錨で岩石をホームラーン!とな。



●花と炎
 荒れ狂う嵐と轟く雷鳴。
 竜の巣の周辺を覆う暴風域は危険そのもの。そのような場所から聞こえた声の主を救うために、エイプリル・ミスト号は出航した。
「誰ぞ助けを求める声、のぉ」
 ふぁぁ、と欠伸をしたナスターシャ・ノウゼン(召喚獣「イフリート」・f33989)は勇士の少年から聞いた話を思い返す。
 甲板の上に立ち、激しくなりゆく嵐を見据えるナスターシャ。彼女の隣では、ルビィ・フォルティス(空の国の家出娘・f33967)が静かに身構えていた。
「竜の巣内部からの呼び声……人が暮らしていけるような環境でもありませんし、正体が気になりますわね」
 ルビィも謎の声について考えを巡らせている。
「そうじゃの、この空域では普通の声など届かぬじゃろう」
 ナスターシャは疑問を抱いていた。
 声の正体はまだ知れず。助けを求めている誰かがいるのならば救うべきだろうが、今回の相手は声以外の情報が何もないのだ。
「ラシャ様も豪気ですわね」
「うむ、わざわざ姿も知らんもののために立ち上がるとは、ほんに人間というのは不思議な生き物じゃ」
「もし何かの罠でしたら……いえ、そんなことはありませんわね」
「少年も悪いものではないと言っておったからの。信じるとするか。それに……だからこそ人間は面白い。どれ、暇つぶしに手を貸してやるか」
「ええ、参りましょう!」
 ナスターシャが腕組みをすると、頷いたルビィが翼を広げた。とん、と床を蹴りあげたルビィが群青色の夜空に飛び立っていく様を見遣り、ナスターシャも構える。
 轟々と鳴る風は激しい。
 だが、ルビィはそのようなものに押し負けたりはしない。真っ直ぐに見据えるのは飛空艇に迫ってくる浮遊大岩。
 あの軌道を逸らすか、打ち砕くことが先ずやるべきことだ。
 そのように感じながら、ルビィは先程のことを思い返す。エイプリル・ミスト号に乗り込む前、ルビィ達とラシャは挨拶と自己紹介の後に言葉を交わしていた。

 遡ること、少し前。
「良い飛空艇ですわね。あなたの所有ですの?」
「そうだぜ、オレの父さんが遺してくれた大切な船さ!」
「よくお手入れされていますわね。きっとこの船なら奥に辿り着きますわ」
 少年に話しかけたルビィは、マストを見上げた。
 檣楼の部分には流れる霧を表した絵が描かれた旗が飾られており、青い空の下で悠然と風に靡いていた。
 船体からも幾多の嵐や空を駆け抜けてきた貫禄が感じられた。
「へへ、ありがとな。コイツの飛行速度はすごいんだ! ただ、ルビィ達には無理をさせちまうかもしれないけど……」
「ご心配には及びませんわ。わたくしもお手伝いさせて頂きましてよ」
「ああ、よろしくな!」
 ルビィとラシャは明るい笑みを交わしあった。
 その後ろでは、よろしくのぅ、と告げたナスターシャが船室に向かい、竜の巣の前に辿り着くまでのんびりとベッドで寝ていたという一幕もあった。
 そして――出発した飛空艇が空を渡り、竜の巣に飛び込んだことで空挺全体に轟音が響き渡ることになる。
「何じゃ、うるさくて全然寝れんのじゃが!!」
「ナスターシャの姉さん! もう竜の巣だぜ。寝てる暇は貰えないみたいだ!」
「現地に着くまで部屋でごろごろ待ってようと思ってたのに台無しじゃ! なんと不躾な嵐じゃろうか!」
 ――ということで、今に至るわけだ。

 稲光に暴風、岩石が飛び交う空域。
 此処は生半可な覚悟では通れないだろう。だが、ルビィはこの飛空艇が必ず危険域の奥に辿り着くと直感したのだ。
 こんな場所で空から落ちてしまう未来など、絶対に訪れないと知っている。
「風の流れ、速さ、分かってきましたわ」
 ルビィは風を読み、暴風の中を舞うように飛んだ。そして、風の長剣で以て自分よりも大きな岩に斬り掛かる。
 嵐に舞うのは薔薇の花弁。空中でステップを踏んで一撃、身を翻して二撃、三撃。轟く雷を避けたルビィは風の剣の名を紡いだ。
「参りましてよ。アドウェルサ」
 それはフォルティス家に代々受け継がれている刃。
 四撃目が目にも留まらぬ速さで叩き込まれた刹那、巨大な岩が粉々に砕ける。
 例えるならば、岩石としての死が訪れた瞬間だった。砂塵ほどに細かくなったそれらは嵐に紛れて何処かに散っていく。
 その後を追うように薔薇の花弁が空に舞った。
「なかなかやるものじゃの」
 ルビィの剣戟を見ていたナスターシャは感心の声を零した。気流は激しくなるばかりだが、彼女は少しも動じていない。
 寧ろ、確りと構えて渦巻く風の流れを読んでいるほどだ。
「しかしこの鬱憤、誰にぶつけてやろうか」
 炎斧錨の鎖を握ったナスターシャは周囲を見渡した。其処には丁度、横合いから迫ってきている浮遊岩石が見える。
 眠りを妨げられた今、飛空艇や積荷を守るということはナスターシャにとってはどうでもいいことになっていた。
「決めたぞ、飛んでくる岩石でも吹っ飛ばしてストレス解消じゃな!」
 じゃら、と斧錨の鎖が鳴る。
 次の瞬間、イグニスの名を冠する炎斧錨が勢いよく振るわれた。それは素早く飛び回っているルビィにも感じられるほどの業風を巻き起こしている。
「まぁ、かなりの威力がありそうですわね。頼もしいですわ」
 はたとしたルビィが振り返ると、ナスターシャは楽しげに笑ってみせた。
「そうじゃろう! なんじゃったか。人間が好んでおる、ばってぃんぐせんたー? みたいな感じでホームラーン、じゃ!」
 そして、轟音を立てながら一直線に飛んでいった錨が岩と衝突する。
 彼女の言葉通り、鋭い音と共に岩石は空の彼方に飛んでいった。遥か彼方できらりと光った岩はまさに場外ホームラン状態。
「あはは! ナスターシャの姉さんもルビィもすげー!」
 操舵に専念しているラシャは二人の活躍を見ていたらしく、明るく笑った。其処に不安などは少しも見えず、此方を信頼してくれていることが分かる。
「さて、次にいくとするか」
 炎斧錨イグニスを構え直したナスターシャは新たな大岩に視線を向けた。
 同時にルビィも天使核靴に組み込まれた魔力石を輝かせる。ルビィはアドウェルサを強く握り締め、暴風の向こう側を見据えた。
 轟き続ける雷鳴に負けぬほどの剣戟の煌めきを、今此処に――。
「まだ今夜のステージは始まったばかりですわ、退屈させないでくださいませ?」
 この場は宛ら嵐の舞台。
 猟兵達によって航路はしっかりと切り拓かれていた。
 荒れた空域を進む飛空艇はただひたすらに、次の領域を目指して翔けてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


リル!!
風に煽られ吹き飛んだ同志を担ぎあげ、もう片方には同じく吹き飛びそうなカグラを抱える
カラスは自力で頑張ってくれ
サヨ、サヨは大丈夫かい?
…はっ……茫然自失している……!
サヨ、しっかり!
乱れ髪のきみも美しいよ!

竜に囚われたものか……斯様な場所にいるのだ
逸れ召喚獣や天使核とやらとも関係があるのやも…とにかく助けてみなければ

歌うリルとカグラが飛ばされないよう結界を張り巡らせ、赫縄の約で捕縛し結ぶ
少しは嵐が防げるといい

サヨ、いくよ
桜龍に乗り進む
愛しいきみ害されぬ様にサヨが進む前にも結界の壁を

倖約ノ言祝

穹切り拓き進む船に幸運を約し迫る巨石や障害を切断していく

噫、斬って見せよう
きみが望むなら!


リル・ルリ
🐟迎櫻


あれが竜の巣?
何か……捕まってるのかな
なら助けなきゃ!

でもこの嵐っ…ほひー!飛ばされるー!
ヨルを抱え込んで吹っ飛んだところをカムイに助けてもらった
ありがとう、カムイ……うう、はっ!
櫻の桜が全滅している!髪型整えるのに2時間位かけてたのに!
いけない
この暴風から櫻とカムイを守らなきゃ


2人とも!僕に掴まって……いや
僕が甲板にくっつくよ
歌うのは「花籠の歌」
どんな風も嵐も岩石からだって守れる、軽くて強くて大きな水の水槽をイメージする
櫻宵もカムイも船ごと丸ごと
空の水槽に包んで守るよ
櫻とカムイが飛んできた障害物を斬ってくれる

雷はこわい
苦手だ
でも、風だけでも遮れるように頑張るんだ

怖くても僕はやるぞ!


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


凄まじい嵐だわ
リル!カムイ!無事かしら?!
はたと気がつく

なんてこと…
2時間かけ整えた髪もボサボサ
私の桜も全部散ったわ…
私、無事じゃないわ……

許せない!
こんな風は…約されないのよ

まさか助けてっていう声が罠だったりしないわよね?!
かぁいい召喚獣かもしれないわ
兎も角よ、私をこんなにした嵐は許せないし船を傷つけさせる訳にはいかない

竜の巣には龍よ
龍華──桜龍と変じてカムイを乗せて、飛ぶ
私はひとの姿では上手く飛べないの
カムイの結界とリルの歌の守りが防いでくれる
私だって、やるわ!
神罰巡らせ、飛んでくる障害物を桜に変える
雷は天候操作で弱められないかしら

ほらカムイ、斬ってしまって
嵐ごと斬って進むのよ!



●幸運を約す航海
 空を往く飛空艇は既に暴風域に入っている。
 雷鳴が轟き続ける領域の向こうには、たくさんの何かが蠢いている気配がした。
「あれが竜の巣?」
 危険しかないような場所に、何かが捕まっているのだとしたら。
 リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は雲海の向こう側を思い、助けを求めた声の主を救いたいと願った。だが――。
「でもこの嵐っ……ほひー! 飛ばされるー!」
「きゅきゅいー!?」
「リル、ヨル!!」
 いつものように宙を泳ごうとしたリルが暴風にさらわれそうになった。朱赫七・カムイ(厄する約倖・f30062)が即座に動き、風に煽られたリルを受け止める。
 リルは咄嗟にヨルを抱えて守っていた。ほっとした様子のカグラがリルから仔ペンギンを受け取って守ろうとしたのだが、再び鋭い風が甲板に吹き抜ける。
「カグラ!!」
 同じく吹き飛びそうなカグラに気付き、カムイがそちらも抱えた。
 右には人魚。左には荒御魂が宿る人形。両腕に守るべきものを抱えたカムイは、マスト近くの鐘楼に避難していたカラスを見上げた。
「カラスは自力で頑張ってくれ」
「ありがとう、カムイ。わあ……カラスはつよいんだね」
 カムイの対応の落差を不思議にも思ったが、リルはカラスが一羽で耐えていることに尊敬を覚える。そんな中、同様にマストの裏に隠れて暴風を凌いだ者がいた。
「凄まじい嵐と風ね」
 誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は風の直撃を避けて何とか立っている。はたとした櫻宵は柱の裏から顔を出し、リル達に呼び掛けた。
「リル! カムイ! 無事かしら?!」
「サヨ、サヨは大丈夫かい?」
「ええ、私は――……無事じゃないわ」
 大丈夫、と答えかけた櫻宵がへたりと甲板に座り込む。驚いたリルがカムイの腕の中から櫻宵を見遣ると、大変な事件が起こっていることが分かった。
「はっ! 櫻の髪が……桜が全滅している! いつも髪型を整えるのに二時間くらいかけてるのに!」
「なんてこと……」
 櫻宵の髪は、それはもう乱れに乱れきっている。軽く触れただけでも分かる髪の荒れっぷりに絶望した櫻宵。その瞳の焦点は何処にもあっていない。
「茫然自失している……! サヨ、しっかり!」
「桜も散って髪もボサボサよ……。噫、世界の終わりだわ……」
「乱れ髪のきみも美しいよ!」
「そうだよ、櫻! 僕達の櫻はどんな姿でも綺麗なんだ!」
 カムイとリルが本気の言葉を告げてくれたことで、櫻宵は我に返る。そして、櫻宵は荒れ狂う空を強く見据えた。
「許せない! こんな風は……約されないのよ」
 それゆえに突破して壊す。
 櫻宵が正気を取り戻したことに安堵したカムイも、嵐の奥に意識を向けた。
「竜に囚われたものか」
 人が生きられぬ斯様な場所にいるとなれば、それは召喚獣や天使核とやらにも関係があるのかもしれない。何であってもとにかく助けてみなければならないとして、カムイは鞘から刃を抜き放った。
 櫻宵も風に耐えながら、声の正体を思う。
「まさか助けてっていう声が罠だったりしないわよね?!」
「どうなんだろ。言葉がわかる何かかぁ」
「かぁいい召喚獣かもしれないわ。けれども兎も角よ、私をこんなにした嵐は許せないし船を傷つけさせる訳にはいかないわ!」
 リルが首を傾げると、櫻宵は意気込みを言葉にする。
 そのとき、更なる激しい風が飛空艇に迫る気配がした。いけない、と感じたリルは暴風から櫻宵とカムイ達を守りたいと思った。
「二人とも! 僕に掴まって……いや、僕が甲板にくっつくよ」
 即座に状況を判断したリルは飛空艇の床にふわりと下りる。
 歌い紡ぐのは花籠の歌。
 詩を重ねていくリルがイメージしたのは、どんな風も嵐も、岩石からだって守れるくらいに軽くて強くて大きな水槽の守り。
 ――君を守る、花籠を。
 触れている者をあらゆる攻撃から守る力が巡っていき、飛空艇そのものを守護する。
 カムイは歌うリルや、ヨルを抱えているカグラが飛ばされないように結界を張り巡らせていった。更に赫縄の約で捕縛して結べば、僅かでも嵐が防げるはずだ。
 先程よりも動きやすくなったことを確かめた櫻宵は、龍華の力を紡ぎはじめた。
「竜の巣には龍よ」
 桜霞の瞳を細めた櫻宵は瞬く間に桜龍に変じていく。
 ひとの姿では上手く飛べずとも、この姿になれば嵐の中でも進める。周囲の状況は危険なものだが、カムイの結界とリルの歌の守りが防いでくれるゆえ怖くはない。
「サヨ、いくよ」
「ええ。私だって、やるわ!」
 カムイは桜龍に乗り、桜が咲きはじめた角にそっと触れる。
 愛しいきみが害されぬように。
 櫻宵が進む前にも結界の壁を巡らせたカムイは、迫りくる大岩に目を向けた。倖約ノ言祝に籠めたのは幸運を祈る心。
 喰桜を構えたカムイが飛空艇に迫ってきた岩を両断する。しかし、襲い来る岩はそれだけではなかった。
「カムイ、櫻! 次はあっちからきてるよ!」
「右だよ、サヨ」
「わかったわ!」
 リルの呼び掛けで危機の接近に気付いたカムイは、櫻宵と共に急旋回する。その間にリルは更に歌を巡らせ、二人や飛空艇を丸ごと空の水槽に包んで守った。
 後はかれらが、飛んできた障害物をすべて斬ってくれると信じている。
 そして、櫻宵も神罰を巡らせた。
 カムイが斬って散らばった破片もエイプリル・ミスト号を傷付けかねない。その石や岩を桜に変えていく櫻宵は、櫻龍としての力をめいっぱいに広げた。
 そのとき、激しい雷鳴が轟く。
「ぴぃ!?」
「リル! 待っていて、あの雷もとめてあげる」
 雷に驚いたリルはぴゃっと飛び上がりそうになった。何とか耐えたらしいリルの様子を見た櫻宵は、天候操作の力を巡らせていく。
 そのお陰で雷鳴は収まったが、完全に嵐を止められたわけではない。
 雷はこわい。苦手なままだ。
 それでもリルは飛空艇が進む先から目を逸らさなかった。怖い気持ちは消えないけれど、せめて風だけでも遮っていけるように。
「頑張るんだ。怖くても僕はやるぞ!」
 リルが気合を入れたとき、夜空に漆黒の軌跡が疾走った。
 それは弾丸のように舞い飛ぶカラスだ。かれは比較的ちいさな岩を嘴で貫き、飛空艇への被害を抑えているらしい。
 カムイも合わせて穹を切り拓き、進む飛空艇に幸運を約していく。
 迫る巨石や障害は厄災そのもの。それゆえに自分が斬るべきだとして、カムイは刃を振るっていった。彼を乗せて飛ぶ櫻宵も障害物を見つめ、岩の方に飛翔する。
「ほらカムイ、斬ってしまって」
「噫、斬って見せよう」
「あの厄災を――嵐ごと斬って進むのよ!」
「きみが望むなら!」
 言の葉と意志を交わした二人を守る、人魚の歌が嵐の中に響き渡っていく。強大な自然を相手取る戦いの最中に桜が舞い、龍が翔ける。
 それはまるで大冒険のはじまりを物語るような光景だ。
 きっと嵐を越えるまで、あと僅か。
 思いを重ね合った猟兵達は、未だ見ぬ先を目指して進み続ける。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ベル・プリンシパル
竜の巣の向こうから声が聞こえてくるなんて、不思議なこともあるんだね
けど、声の主が何者であっても、助けを求めてるのなら行かない理由はないよ

よーし、飛空艇が安心して飛べるようにすればいいんだね、任せてよ!
自分の翼を使って飛翔、暴風にも負けないようにゲイルブーツの機能で風の魔力を纏おう
雷に気を付けた【空中機動】で飛空艇の周辺を飛んで、視界に入ってくる大岩に片っ端から狙いをつけるよ
アルテミスの出力を上げ、破壊力を増した魔法の矢を【乱れ撃ち】して障害物を粉砕だ!

それにしても…
誰であっても助ける、とは言ったけれど、実際声の正体は何なんだろう
…ううん、気になるけど、今は目の前のことに集中!


コッグレゥルス・ナーストレンド


風に覆われた竜の巣、のう。
飯とかどうしとるんじゃろ?美味い木の根とかあるんかの?
依頼の報酬目的じゃったがたまには未知の美食を探しに行くのも面白いかもの。

わしがやるのは突入して自然現象が激しくなってきた辺りの緩和策じゃ。
エイプリル・ミスト号に乗りつつ吹き飛ばされないように柱とかにつかまりつつ、
飛ばされそうになっても【空中戦】【空中機動】で体勢を整えてゆくぞ。
そして向かってくる雷や暴風、岩石に対してUC【捕食者の咆哮】を放ち道を開けるよう動いてもらう。
特に風に関しては追い風にできればいいの。

といっても一度の効果時間は71秒。
故に咆哮を放つと同時に船長に一気に突っ切るよう命じたいの。



●謳う矢と嵐の咆哮
 嵐の中を往く飛空艇が大きく揺れた。
 船尾楼甲板側に陣取っている猟兵達は周囲を見渡しながら、ベル・プリンシパル(いつか空へ届いて・f33954)とコッグレゥルス・ナーストレンド(ユグドラシルソムリエ・f33983)は身構える。
「風に覆われた竜の巣、のう」
「竜の巣の向こうから声が聞こえてくるなんて、不思議なこともあるんだね」
 気流が激しく移り変わる中、コッグレゥルスとベルは竜の巣の奥に目を向けた。轟音が鳴り響き、風が荒れ狂う中で聞こえた声とは一体、何なのか。
 耳を澄ましてみても今は何も聞こえてこない。
 声の主は生物なのか。それとも別の存在であるのか。それすらも分からない状況だが、勇士の少年は危険を顧みず仲間を募った。
「けど、声の主が何者であっても、助けを求めてるのなら行かない理由はないよ」
 救いたいと思ったのはベルも同じ。
 進む度に激しくなっていく暴風。その強さを感じながら、コッグレゥルスはふとした疑問を抱いた。
 それは竜の巣に棲むというドラゴンのこと。
「飯とかどうしとるんじゃろ? 美味い木の根とかあるんかの?」
 食を重んじるコッグレゥルスにとって食料事情は大事な部分だ。その辺りは嵐を越えた内部で確かめられるかもしれない。
「どうなんだろう。ドラゴン達が生きられる何かがあるのかも」
 ベルも一緒になって竜の巣の奥について考えた。
 果てしない空には知らない世界がたくさんある。コッグレゥルスは依頼の報酬を目的にしていたが、そう考えると違うやる気も湧いてきた。
「そうじゃのう、たまには未知の美食を探しに行くのも面白いかもの」
 コッグレゥルスは嵐の向こう側に期待を馳せ、しかと戦闘態勢を取る。召喚獣ニーズヘッグたる彼女は伝説の竜とも呼ばれた存在だ。
 意志なき嵐、即ち自然現象に押し負けるようなことはない。
 そのとき、船首の方で操舵に専念していたラシャ少年の声が響いてきた。
「皆、気流が変わったぜ!」
 気をつけろ、と呼び掛けられた声を聞き、ベルは腰翼を広げる。全てを吹き飛ばしてしまうような嵐の中へ飛び込む決意と覚悟は既に完了していた。
「よーし、任せてよ!」
 自分達の役目は飛空艇が安全に、安心して飛べるようにすること。
 見れば、気流が変化したことで浮遊大岩が船尾の後方から迫ってきているようだ。コッグレゥルスとベルは視線を交わしあい、それぞれに出来ることを行おうと決める。
 ベルは甲板を蹴り上げると同時に飛翔した。後方のマストを一気に飛び越えたベルは、ゲイルブーツの力を発動していく。
 天使核の力を根源とする風の魔力が翼状に放出される。それは暴風にも負けない強い巡りとなり、ベルの身体を押し上げた。
 大岩を壊すか逸らすことが一番の目的だが、障害となるものはそれだけではない。
 轟く雷は飛空艇に纏わり付くような勢いで響いていた。
 空中を素早く飛び回りながら、飛空艇の周辺を守るベルは視界に入ってきた大岩に狙いをつけた。アルテミスの名を冠する弓は神聖詠唱装置でもある。
 刹那、業風の中に澄んだ音が響いた。
「片っ端から撃ち落とすよ!」
 アルテミスの出力を上げたベルは、破壊力を増した魔法の矢を乱れ撃つ。それによってエイプリル・ミスト号に直撃しそうだった岩が粉々に粉砕された。
「うむ、良い調子じゃの」
 その様子を見上げていたコッグレゥルスは満足そうに頷く。
 彼女はただ戦況を見守っているだけではない。進むにつれて激しくなっていく暴風と雷鳴を抑えるという大切な役割を担うつもりだ。
 飛空艇の柱にしかと掴まっているコッグレゥルスは吹き飛ばされないよう気をつけつつ、機会を見極めていた。
 彼女が放つことが出来る捕食者の咆哮。その効果が続く時間には限りがある。
「闇雲に吼えても嵐の突破は叶わぬ」
 コッグレゥルスは飛空艇の様子を今一度確かめた。船首で戦う者、甲板で岩を迎え撃つ者、マストの上を器用に跳んで対応する者、自らの翼や小型挺で飛空艇の周囲を飛び回り遊撃に回る者。
 仲間の猟兵達は見事な連携で立ち回っている。
 共に船尾を守るベルも、絶え間なく矢を解き放っていた。謳うような音を奏でながら舞い飛ぶ矢は次々と岩を破壊している。
 だが、やはり奥に近付く度に風が激しいものになっていた。
 船体の破壊は防げても、このままでは風に飛空艇が流される可能性もあった。しかし、そうさせないためにも此処にコッグレゥルスが控えている。
「うむ、今じゃな」
 コッグレゥルスは空中に舞い上がり、思いきり息を吸い込む。
 そうして彼女は、向かってくる雷や暴風、岩石に向けて鋭い咆哮を響かせた。途端に大音波となった聲は嵐中に広がってゆく。
 それは生命体や無機物、自然現象すら友好的にする力を宿したものだ。
「道を開けてくれぬかの」
 コッグレゥルスが嵐に向かって告げると、岩石が船から逸れていった。それだけはなく、これまで向かい風だったものが追い風となって巡り始める。
「すごい! これなら突破できるね」
「うむ、長くは保てぬがこれで十分なはずじゃ」
 ベルは追い風を作り出したコッグレゥルスに称賛の言葉を向け、ふわりと笑った。彼女も笑みを返し、二人は風の先を見据える。
 このまま航行すれば、暴風の向こう側にもすぐに辿り着けるだろう。
「それにしても……」
 腰翼を羽ばたかせながら、ベルはふと思う。
 声の主が誰であっても助けるとは言ったが、実際の正体は何なのだろうか。囚われているのか、それとも動けないのか。考えてみてもやはり答えは出ない。
「……ううん、気になるけど、今は目の前のことに集中!」
 顔を上げたベルはアルテミスを握る手に力を込めた。自然現象が味方になってくれたとはいえ、細かな岩が飛んでくることは変わらない。
 やがて、コッグレゥルスの咆哮の力が消えてしまう十数秒前。
 飛空艇が進む先に一筋の光が見えた。
 きっと――否、絶対に。あの光明の向こうこそが嵐の出口であるはずだ。確信したコッグレゥルスは船首にいるラシャに命じた。
「船長、速度をあげてくれぬか。彼処に向かって一気に突っ切るのじゃ!」
「わかったぜ! 皆、しっかり掴まっていてくれ!!」
「うん……!」
 コッグレゥルスに答えたラシャが猟兵全員に呼び掛ける。船外に出ていた仲間が甲板に戻り、大きく頷いたベルもマスト部分の檣楼に降り立った。
 轟く雷鳴を背にして、エイプリル・ミスト号は全速力で進む。

 上昇気流に乗った飛空艇は光の中に飛び込んだ。
 澄んだ夜空が見えたかと思うと、これまで響き続けていた轟音が遠くなる。深い雲海が広がる夜の光景が視界に広がったことで、一同は嵐を越えたことを知った。
 そして――天を翔ける飛空艇は、竜の巣の最中を進んでいく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ブレイドホーク』

POW   :    テイルブレイド
【尾の先端の刃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    ホークフェザー
【羽ばたきと共に、刃の如く鋭い羽】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ホークウインド
【力強い羽ばたき】によって【強風】を発生させ、自身からレベルm半径内の味方全員の負傷を回復し、再行動させる。

イラスト:青空皐月

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ブレイドホークと謎の声
 飛空艇、エイプリル・ミスト号は無事に嵐を突破した。
 辿り着いた竜の巣の中心は、嵐と比べると比較的静かに思える。依然として空域内の気流の変化はあるようだが暴風の最中よりは穏やかな場所だ。
 周囲の様子を探るため、飛空艇の速度が落とされていく。
「風は強いけど、自動航行にしておいても岩にぶつかることはなさそうだな」
 ラシャはエイプリル・ミスト号の舵を離し、辺りの様子を見つめた。
 見えたのは数メートルほどの浮島が幾つか。
 その周囲には浮遊する岩石が多く存在している。浮島には木や草が生えているものもあり、そのひとつには鳥の姿があった。
 遠目だが、果物を啄んでいる様子は和やかに感じられる。だが――。
「へぇ、こんなところに鳥……じゃない!? みんな、ブレイドホークだ!」
 はっとしたラシャが戦闘態勢を取る。
 鳥に見えたそれはブレイドホークと呼ばれている魔獣の一種だ。
 ラシャが知る限り相手は雑食だという。食べられると判断すれば木の実でも肉でも、何だって食らうものらしい。
 性質は獰猛で夜目もきく。向こうがこちらに気付けば容赦なく襲ってくるだろう。
「まずはあの魔獣を退治しよう!」
 ラシャは猟兵に呼び掛け、斧錨を手にした。
 飛空艇はこのまま敵がいる浮島近くに進むので、甲板を拠点にして戦える。
 または周囲に浮かんでいる巨大岩石を足場にして移動したり、飛行できる者は自ら飛んで先手を取りに行ったりも出来る。その際に気流の変化にさえ気を付ければ、それぞれの戦いやすい戦法で向かっていけるだろう。
 身構えた勇士と猟兵達はブレイドホークに視線を向けた。
 しかし、そのとき。

『――だれか、たすけて』

 何処かから不思議な声が響き渡った。
 それは此処ではない遠い場所から、心に直接伝わってきたように感じられる。
「みんな、聞こえたか? あれがオレの聞いた声だ!」
 ラシャはどうしても、その声が悪い存在には思えないと語った。その言葉通り、悪意などは一切感じられない純粋な声だった。寧ろとても切実で、心の底から救いを求めている印象を受けるものだ。
 やはり気になることは多い。
 されどとにかく、あの声の主の探索は戦いを乗り越えてからとなる。
「皆、悪いがまた協力を頼むぜ!」
 ラシャは猟兵達に信頼を寄せ、ブレイドホークがいる浮島を強く見据えた。
 そうして此処から、次なる戦いの幕があがってゆく。
 
国栖ヶ谷・鈴鹿
連携OK

【POW対抗】

援軍として、自分の飛空艇スカイクルーザー・ヨナから出撃しよう。
なんだか冒険譚の薫りがしない?
こういうの、ぼくは好きだよ!

さてと、せっかくの出会いの呼び声、こんなとこで台無しにしちゃ無粋でしょ!

【鋼鉄ヲ纏イテ】
空中戦なら紅路夢の領域さ!
迂闊な接近はさせないよ!
機関銃を対空仕様に、突撃には重散弾モードで迎撃!(メカニックなど)

「どんどんおいで!ハンチングタイムってやつさ!」

気流の流れを読んで空中戦を挑めば、相手の突撃や攻撃も幾らか分かりやすくなるはず!

あらかた片付いたら、挨拶しておこうかなか?浪漫を愛するものとしてね!



●ススメ、ソラクヂラ🐋
 雷鳴が轟き、暴風が荒れ狂う嵐。
 危険な空域を無事に超えたエイプリル・ミスト号。この先の行く手を阻むであろうオブリビオン、ブレイドホークを前にした飛空艇は進んでいく。
 そして――。
 その後を追うようにして、激しい気流の中から飛び出してきた影があった。
「到着!」
 大嵐を抜け、単独で飛んできた影の正体。それは、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)が搭乗している航空巡航艇ヨナ。
 空飛ぶ鯨を意匠にしたスカイクルーザーはエイプリル・ミスト号の少し後に出航し、竜の巣の周囲に渦巻く嵐に飛び込んだ。
 そこから数多の浮遊岩石を越えてきた今、鈴鹿は援軍として参戦する心算だ。
「いいね、なんだか冒険譚の薫りがするよ!」
 先程までの嵐の領域もなかなかだったが、竜の巣と呼ばれる空域の最中に漂う空気は普通とは違う。移り変わる気流は厄介でもあるが、逆に利用することも可能だろう。
 ヨナの航路を見極めた鈴鹿は一気に気流の中に進み、ブレイドホークの浮島へ翔けていく。鷹めいた姿をしたオブリビオンは飛空艇の接近に気付き、鋭い鳴き声をあげた。
 向こうからは明らかな敵意が感じられる。
 おそらく此方を獲物として認識したのだろう。鋭利な尾が風に揺れているが、あんなものが直撃すれば飛空艇も勇士もひとたまりもない。
「こういうの、ぼくは好きだよ!」
 しかし鈴鹿は微塵も怯んでおらず、明るい笑みを浮かべている。
 この空域に飛び込んだとき、鈴鹿にも謎の呼び声が聞こえていた。助けを求められているのならば全力で応えるのが猟兵としての流儀でもある。
「せっかくの出会いの呼び声、こんなとこで台無しにしちゃ無粋でしょ!」
 鈴鹿はスカイクルーザーに搭載していたフロヲトバイ、百弐拾伍式・紅路夢に飛び乗った。そのまま彼女が発動させたのは鋼鉄のヲトメゴコロ。
 鋼鉄を纏った鈴鹿はブレイドホークに真っ直ぐな眼差しを向ける。
「空中戦なら紅路夢の領域さ!」
 鈴鹿にとって紅路夢は、名実共に一心同体の存在。
 飛空艇から一気に飛び立った鈴鹿は機関銃をオブリビオンに差し向けた。赤銅の機体が夜空に舞い、激しい銃弾の雨が敵を穿っていく。
 だが、まだ致命傷には至らない。
 翼を広げて飛ぶブレイドホークも尾の先端の刃で以て、鈴鹿を貫こうと狙っていた。されどオブリビオンは紅路夢の機動力をフル活用して飛び回る鈴鹿に追い付けない。
「遅いね! 迂闊な接近はさせないよ!」
 敵を翻弄するように舞う鈴鹿は高く飛び上がる。何羽かが此方に迫って来ていることを好機だと感じた鈴鹿は、ひといきに降下した。
「どんどんおいで! ハンチングタイムってやつさ!」
 相手の突撃と同時に重散弾モードで迎撃すれば、銃弾が敵の翼を貫いた。それによって戦う力をなくしたオブリビオンが落下していく。
 風の流れを読んだ鈴鹿はひらりと機体を翻し、エイプリル・ミスト号の近くへ飛行していった。そこには船首近くで身構えている少年勇士の姿がある。
 鈴鹿の戦う様子に気が付いていた少年は片手を上げ、声を掛けてきた。
「お前も手伝ってくれるのか? オレはラシャ! そっちは?」
「ぼくは鈴鹿だよ。よろしくね、ラシャ! 浪漫を愛するものとして、あの声の子を絶対に助けるから!」
「頼もしいぜ。ああ、よろしく!」
 二人の視線と笑みが重なり、同時に救いたいと願う思いが繋がった。
 そのためにもまずは次々と飛んでくるブレイドホーク退治だ。もっと蹴散らしてくるよ、と告げた鈴鹿は紅路夢の力を更に発動させていく。
 そして、少女は空の最中に翔け出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸迎櫻


リルもそう思う?嬉しいわ
カムイに髪を整えてもらいながらご満悦よ
あらカラスが?
流石ね
笑って撫でようと手伸ばし─とめられた
カムイ?

きっとリルとヨルが美味しそうって思ってるの
踊り食いしてやるって目付きしてる

あの声の主は…鳥に連れてこられたのかしらね
まさか餌に
冗談よ、リル

ええ飛べるわ
ゆきましょう、カムイ

とは言っても私の翼は飛行には適さない
カムイが切り開いてくれた路を舞うように飛んで追いかける
桜を舞わせて気流を読む

喰華

その羽根も全て喰らって咲かせてやるわ
……お腹が空いているのよ
…衝撃波を薙ぎ払い─一瞬よろけて

ひゃ、カムイ?!
もう過保護ね!

赫の斬撃と歌が私を守ってくれる
先へ進むわ
私だって守りたい


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


有難う、リル
リルの歌も見事だった
……カラスも?負けていられないな
ほらサヨ。髪を整えてあげよう
カラスに伸びたサヨの手を掴んでとめる
あの鳥、リルとヨルを見つめている気がする

慌てる同志が可愛らしい
食べさせないとも
サヨ、飛べるかい?
では共に参ろうか

助けを求める声が
斯様な場所にひとりとは寂しかろう

私は飛んでいくよ
浮島を利用しながら早業で駆けて
風ごと斬り裂くように先制攻撃
サヨが駆ける路を造ろう

再約ノ縁結

凡ての幸をきみに
翼も風も約されないのだと事象を否定して
朽ちる呪なる神罰と共に広範囲に斬撃波を放ち薙ぎ払う

リルの歌のおかげで狙いやすい
サヨを抱え躱し太刀筋合わせ切断を

この先に何が待つのか
心が踊るようだ


リル・ルリ
🐟迎櫻


櫻、カムイ!お疲れ様!
櫻の龍姿もカムイの剣戟もとってもかっこよかった!
カムイ、カラスも助けてくれたんだよ
カムイったらまたそんなに櫻を甘やかして…(あ、ヤキモチだ)

え?!やだやだ、僕らは鳥のご飯じゃない!
ヨルをカグラの懐に押し込んで守ってもらおう

今、声がした
助けてって……きっとこの先だよ
はやく行かなきゃ
ラシャの信頼だって裏切れないよ

僕は飛べないけれど
歌声はどこまででも飛んでいけるから
風にも負けないように歌うのは「魅惑の歌」
歌で搦めて翼を捉えて鈍らせる
櫻もカムイも吹き飛ばさせないんだ
きゅっとヨルが鼓舞してくれる
シャボン玉のようなオーラで2人を守るよ

空に咲く薄紅と赫…綺麗だな

僕も頑張るぞ!



●空舞う桜と重ね彩
 嵐の領域を抜けて先ずは一安心。
 先程までの空域に比べれば、移り変わる気流も穏やかに思える。
「櫻、カムイ! お疲れ様!」
 ふわりと甲板の上を游いだリルは櫻宵とカムイの勇姿を褒め称えた。龍姿の櫻宵も、其処に乗って戦うカムイの剣戟もとても格好良かった。リルがそのように語ると、櫻宵もカムイに同じ感情を抱いていたのだと話す。
「リルもそう思う? 嬉しいわ」
 微笑んだ櫻宵は現在、カムイに髪を整えてもらっていた。ご満悦な様子の櫻宵の髪は元通りとはいかないまでも、それなりにちゃんとしたものになっている。カムイはさらりと櫻宵の髪を撫でながら、リルに微笑みかけた。
「有難う。リルの歌も見事だったよ」
「ふふ! カムイ、カラスも助けてくれたんだよ」
「あらカラスが? 流石ね」
 櫻宵は笑い、カラスを撫でようと手伸ばしたが――。カムイはカラスに伸びかけていた櫻宵の手を掴んで止めた。
「……カラスも? 負けていられないな」
「カムイ?」
「いや、何でもないよ。ほら、もう少し髪を整えてあげよう」
 櫻宵が不思議そうな顔をしたことに対して、思わず誤魔化してしまったカムイは更に櫻宵の髪を梳いてやった。その様子を見ていたリルは双眸を細める。
「カムイったらまたそんなに櫻を甘やかして……」
「きゅきゅ!」
「ヨルもヤキモチだって思う?」
 その視線の意味に気が付いたらしき仔ペンギンが鳴く。リルはそっと声をひそめ、カムイがカラスに抱いている気持ちを思う。
 そうしている間に謎の声が櫻宵達にも聞こえた。
 行く手を阻むであろうブレイドホークとの戦いが始まるというとき、カムイがあることに気が付いた。
「あの鳥、リルとヨルを見つめている気がする」
「きゅ!?」
「きっとリルとヨルが美味しそうって思ってるのね。あれは絶対に踊り食いしてやるって目付きをしているわ」
 ヨルが驚いた声をあげる中、櫻宵はブレイドホークを見据える。
 形も意味合いも違えど、捕食者として理解できることもあるのだろう。櫻宵の予想は見事に当たっていた。
「え?! やだやだ、僕らは鳥のご飯じゃない!」
 びくっと身体を震わせたリルは、抱えていたヨルをカグラの懐に押し込んだ。其処が最近の絶対安全領域だと分かっているので、ヨルもぎゅっと収まる。
 カムイは身構えながら、慌てる同志と仔ペンギンが可愛らしいと感じていた。しかし、いつまでも捕食される恐怖を齎されているわけにもいかない。
「大丈夫だよ、食べさせないとも」
「冗談よ、リル。でも本当に食べさせたりはしないわ」
 カムイと櫻宵が敵に鋭い眼差しを向けたとき、不意に何かが響いてきた。

 ――たすけて。

 はっとしたリルは、再びあの声が心に響いてきたのだと察する。
「今、また声がしたよ!」
「あの声の主は……鳥に連れてこられたのかしらね」
 まさか餌に、と嫌な考えを浮かべてしまった櫻宵だが、ブレイドホークの近くには何の気配も感じられない。カムイとリルも同様のことを悟っており、浮島の遥か向こうに目を向けていた。
「助けを求める声か。斯様な場所にひとりとは寂しかろう」
「助けてって……きっとこの先だよ。はやく行かなきゃ」
 それにラシャの信頼だって裏切れない。
 リル達はこの先に進むため、オブリビオンを蹴散らすことを心に決めた。船首まで進んだカムイは振り返り、櫻宵に目を向けた。
「サヨ、飛べるかい?」
「ええ飛べるわ」
「では共に参ろうか」
「ゆきましょう、カムイ」
 視線と言葉を重ねた二人は一気に甲板を蹴りあげる。跳躍したカムイは、浮遊する岩石や島を足場として利用しながら早業で以て駆けた。
 櫻宵が駆ける路を造るかのように跳ぶカムイ。その後に続いた櫻宵も、桜翼で均衡を取りながら舞うように進んでいく。
 二人の背を見つめるリルは、高くは飛べないゆえに船首に留まったままだ。
 けれどもそのかわり、歌声はどこまでだって飛んでいける。
 ――僕をみて、僕の歌を聴いて。
 どんな風にも負けないように、リルは魅惑の歌を紡いでいく。それによってブレイドホーク達の動きが少しずつ鈍っていった。
 それでも、オブリビオン達は此方に迫ってくる。
 カムイは周囲で荒れ狂う風ごと斬り裂くように鋭い一閃を与えた。
 凡ての幸を、きみに。
 翼も風も約されないのだとして、事象を否定したカムイ。彼が巡らせるのは朽ちる呪なる神罰だ。斬撃波を放ち、敵を薙ぎ払った彼はリルの歌に耳を澄ませた。
 おそらく、何の援護もないままであればこれほど事は上手く進まなかっただろう。
 カムイを追ってきた櫻宵も舞わせた桜で以て気流を読み、蠱惑の龍眼を敵に向ける。途端に喰華の力が巡り、刃鷹達が桜獄にとらえられた。
「その羽根も全て喰らって咲かせてやるわ。……お腹が空いているのよ」
 櫻宵が薄く笑った瞬間、相手を桜花として咲かせる呪が発動する。
 花が風を受けて舞い上がる中、櫻宵の身体が一瞬だけよろけた。その様子に逸早く気付いたカムイは櫻宵に腕を伸ばす。
「サヨ、掴まって」
「ひゃ、カムイ?!」
「此方へ下ろすよ」
 姫のように扱う抱き方で櫻宵を抱えたカムイは、近くの浮島に着地した。突然のことに驚いてしまった櫻宵の頬は淡く染まっている。
「もう過保護ね!」
 けれど嫌な気はせず、寧ろ嬉しい。
 浮遊岩の上に立った櫻宵が屠桜を構え直した動きに合わせて、カムイも喰桜を強く握った。二人の視線の先にはまだ多くのブレイドホークがいる。
「ヨル、応援をお願い。絶対に櫻もカムイも吹き飛ばさせないんだ!」
 リルは仔ペンギンに鼓舞を願い、自らも更なる歌を奏でていった。歌の効力は敵を搦め、その翼を捉えてゆく。
 シャボン玉めいた泡で二人を守るリル。その瞳は空に咲く薄紅と赫を映していた。
「……綺麗だな」
 あのふたつの色彩が永遠に咲き続ければいいのに。
 ふとした思いがリルの裡に生まれたとき、ヨルが元気いっぱいに応援の声をあげた。
「きゅー!」
「僕らも頑張るぞ!」
 リルが意気込む中、櫻宵とカムイは次々とオブリビオンを斃す。
 赫の斬撃と響き渡る歌が、自分を守ってくれる。そう感じた櫻宵は思いを言葉に変え、桜花として咲かせ続けた。
「先へ進むわ。私だって守りたいもの」
「この先に何が待つのか、皆で確かめよう」
 櫻宵の声に応えたカムイは心が踊るようだと感じている。そう思う理由はきっと、此処に集った仲間達とならばすべてを救えると信じているからだ。
 空の冒険と戦いは、まだこれから。
 透明な泡沫と歌、薄紅の桜花と朱赫の神罰。重なり、響きあう三人の力は先に進むためのものとなって、遥かな空を彩っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナスターシャ・ノウゼン

風も穏やかになってようやく眠れると思ったら……次のお客さんとは。
はぁ、ゆっくり休むこともできんとは。やっぱり家でゴロゴロしてるのが正解じゃったか?
ま、過ぎたことを悔いてもしたないじゃろ。今はあの鳥を仕留めるとするかの。

甲板を壊すわけにもいかんし、適当な岩場を蹴って突っ込むとするか。
別に空を飛べるわけではないがの。そこはこう、炎を噴射したり、錨斧を投げて鎖を引いたりで上手いこと移動してみるのじゃ。

≪紅蓮天撃≫
いかに自分の傷をいやせようとも、恐怖まではぬぐえぬじゃろうて。永久に燃やされる痛み、味わってみるかえ?

しかしあの助けを求める声、正体はなんじゃろな。ま、この戦いが終われば見えてくるじゃろ。


テンス・アーケイディア


WIZ判定

・行動
船から飛び降りて飛空艇形態を開放、艦載機群を全機発進させる
UCを発動して、それぞれの艇を個別にコントロール

戦闘艇ヴァングは敵の群れを散らすように分断し集団行動を阻害

輸送艦ヴァングカーゴは味方の足場になるよう移動させて戦闘の手助け

本体は様子を見ながらエイプリル号に直接被害を及ぼしそうな敵を
レーザーカノンで迎撃する

・登場演出
本人が船から飛び降りると姿が雲間に紛れて見えなくなる
その後、大きなシルエットが浮かび上がり
雲海を割ってアーケイディア号が姿を現す(全長100mの大型船)

・セリフ
あの数を一体づつ相手にしていたら埒があきませんね
私が回り込んで追い込みますから挟み撃ちにしましょう



●紅蓮の夜空を往く船
 飛空艇が進む度に夜も深くなっていく。
 本来ならば草木も眠る時刻になっても航行は続いている。ふぁ、と出発してから何度目かの欠伸をしたナスターシャは片目を擦る。
「風も穏やかになってようやく眠れると思ったら……」
 彼女の視線は進行方向の浮島に向けられていた。其処には此方を睨みつけているブレイドホークの群れがいる。
 その様子を見ていたテンスは警戒を強めた。
「随分と数が多いようですね」
「やれやれ、次のお客さんとは」
 両腕を肩の上に伸ばしたナスターシャは軽い準備運動をはじめる。
 夜空に響き渡ったのは幾羽のもの鳥の羽撃き。
 此方の接近に気が付いたブレイドホーク達は、今にもエイプリル・ミスト号に突っ込んできそうだ。身構えたテンスはオブリビオンと飛空艇の距離を目視で計算しながら、敵の数を確かめていた。
「あの数を一体ずつ相手にしていたら埒があきませんね」
 猟兵や勇士の力を合わせれば地道に討伐していくことも出来るだろう。
 しかし、テンスには一気に敵を退ける方法と能力が備わっている。此処は未だ道の半ばであることを思えば、早々に切り抜ける方が賢明だ。
「ラシャさん、エイプリル・ミスト号を左に旋回できますか?」
「ああ、出来るぜ!」
「では私が合図をしたらお願いします」
 テンスは船主に呼び掛け、今後の飛空艇の動きを指示した。快く頷いたラシャは自ら舵を取るために動いていく。
 先程までの嵐との戦いもなかなかのものだったが、あれらは明確な意思のないものだった。しかし、次は明らかな敵を向けてくる者達が相手だ。
 戦いは更に熾烈を極めるだろう。
「はぁ、ゆっくり休むこともできんとは難儀じゃの。やっぱり家でゴロゴロしてるのが正解じゃったか?」
 ナスターシャの脳裏には、此処に訪れることを選ばずにゆっくりと眠っている自分の姿が浮かんでいた。想像の中の自分は実に気持ちよさそうだ。
 されど、ナスターシャは首を横に振った。過ぎたことを悔いても仕方がないと感じた彼女は気を取り直す。
 もし家でゆったり眠っていたとしても何事もなく次の朝が訪れるだけ。今のような出会いはなく、謎の声の話も不思議だというだけで終わってしまう。
「さて、今はあの鳥を仕留めるとするかの」
「行きましょう」
 ナスターシャとテンスは其々に狙いを定める。
 そして、二人の準備が整った次の瞬間。
 テンスはエイプリル・ミスト号の甲板を強く蹴り上げ、船外へと一気に飛び降りた。その先には広い空と雲しか広がっていない。一見は無謀な行為にも思えるが――そう、彼女はガレオノイドだ。
 テンスの姿が雲間に紛れて見えなくなったかと思うと、周囲の空気が変わる。
 夜空の最中の雲海。其処に大きなシルエットが浮かび上がり、雲海を割って巨大な船――アーケイディア号が姿を現した。
 それは全長百メートルもある大型の船だ。
 エイプリル・ミスト号を導くように進んだアーケイディア号、十番機。
 テンスそのものである飛空艇は全ての力が開放されていた。艦載機群を全機、余すことなく発進させたテンスは、一気にブレイドホークを蹴散らすつもりだ。
 同時にナスターシャも浮遊岩を伝って移動していた。
 飛空艇の上からでも戦えるが、此処は先手必勝。それに戦いの余波で甲板を壊すわけにもいかない。浮遊している岩場に跳躍したナスターシャは、敵が攻撃を仕掛ける前に一気に突っ込んでいく。
 其処にテンスの力が広がっていった。
「上位権限による執行権を限定発動、全天使核への直接リンクを開始します」
 ――ダイレクト・フルコントロール。
 ユーベルコードを発動させたテンスは、それぞれの艇を個別に操っていく。
 其処から放たれる黄金の光の波動、即ちエンジェリックヘイロー。その力を受けた戦闘艇ヴァングは敵の群れを散らしながら分断していき、ブレイドホークが行うであろう集団行動を阻害した。
 更に輸送艦ヴァングカーゴは味方の足場になるよう移動させていく。
 敵への牽制と戦力分散、更には戦闘の手助けを担うテンスの力は見事なものだ。ナスターシャはテンスの作ってくれた足場を用いて、颯爽と次に進む。
 炎を纏い、その勢いで次の岩場に着地した彼女は敵を捉えた。
「喰らうといい。これぞ、すべてを滅する地獄の焔よ」
 ナスターシャの声が響き渡った刹那、解き放たれた炎斧錨イグニスが空を駆ける。勢いよく飛んだ斧錨は紅の軌跡を描きながらブレイドホークを貫いた。
 直撃したのは二体。
 物質のみではなく、精神までをも灰燼と化す炎が刃鷹を包み込んだ。
 ナスターシャの一撃はそれだけに留まらない。弧を描く錨斧の鎖を強く引けば、更に軌道が変わっていく。
「どうじゃ! 努々、逃げられるとは思わんことじゃな」
 紅蓮を描く鋭い天撃巻き込まれたブレイドホーク達は躰に傷を負った。しかし、何とか耐えたオブリビオン達は力強い羽ばたきで強風を巻き起こしていく。
 それによって敵の傷が癒やされていった。
 敵はナスターシャの存在が厄介だと感じたらしく、一斉攻撃を仕掛けようと狙っているようだ。だが、ナスターシャの炎撃はただ衝撃を与えるだけのものではない。
 此方を睨みつけていたブレイドホークの瞳に畏れが混じっていた。身を蝕む炎が心まで浸食しているのだろう。
 鎖を引いたナスターシャは、手元に戻ってきたイグニスを構え直した。
「いかに自分の傷をいやせようとも、恐怖まではぬぐえぬじゃろうて。永久に燃やされる痛み、味わってみるかえ?」
 燃え続ける炎を思わせるナスターシャの瞳が鋭く細められる。
 躰を大きく震わせたブレイドホークは酷く怯み、なかなかナスターシャに向かってこなかった。だが、恐怖に支配された獣ほど危険なものはない。
 それはテンスも察しているらしく、レーザーカノンで以て敵を貫いた。
「私が回り込んで追い込みますから挟み撃ちにしましょう」
「分かった、頼むぞ」
 テンスが呼び掛けたことでナスターシャも更なる炎を紡ぐ。
 無鉄砲に突っ込んで来る前に決着をつけようと決め、ナスターシャとテンスは己の力を揮っていく。そのとき、再び遠くから心に呼びかける声が聞こえてきた。
 ――だれか。
「む? またあの声か」
「一体、どこから……?」
 周囲を見渡してみても此処ではない何処かから響いていることしか分からない。その間にブレイドホーク達は炎とレーザーによって落とされ、空に落下していく。
「あの声、正体はなんじゃろな」
「不思議でなりませんね。テレパシーのようなものなのかしら」
「ま、この戦いが終われば見えてくるじゃろ」
 ナスターシャは次の岩場に飛び移りながら、夜空の彼方を瞳に映した。テンスも先を目指し、残っているブレイドホーク達に意識を向ける。
 果てしなく広い空の向こう。
 其処で待つ新たな出会いが、どのような未来に繋がっていくのか。それが分かるのは未だもう少し先のことになる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル


今のがラシャの気になった声か
確かに悪い感じはしなかったが──
竜の姿に戻った相棒と視線を合わせ
もしかしたら、お前みたいな存在かもな
なんて揶揄すれば、べちんと尾で叩かれた
痛くもないそれに、くくくと笑って

ま、考えるのは後だ
まずはアイツらぶっ潰すぞ!

迫ってきた尾の先端
咄嗟に鉈を抜いて受け止めた
金属音の重なる音に口笛ひとつ

危ない刃、持ってるじゃねえか

もう片方も抜刀すれば
両手で構えて甲板を蹴り
周囲に浮かぶ巨大岩石へ移る
そこから落ちる勢いを利用して
真っ直ぐ敵の懐へ

──残念、オレは囮だよ

斬る瞬間に身を翻せば
自身の背後から現れる黒竜
開いた口から放つのは炎の吐息

丸焦げにしちまえよ、ナイト
空の支配者は、お前だろ?



●夜空に駆ける紅
 ――だれか、たすけて。
 不思議な声が心に響いてきたことでルーファスは顔を上げた。槍から竜の姿に戻ったナイトも、彼の肩の上できょろきょろと周囲を見渡している。
「今のがラシャの気になった声か」
 何処から聞こえてきたのかは不明だったが、進む先から伝わってきていることだけは分かった。確かに声からは悪い感じは全くせず、救いを求める思いそのものが届けられているといった印象だ。
 ルーファスは相棒竜と視線を合わせ、声の正体を思う。
「もしかしたら、お前みたいな存在かもな」
 そんな風に揶揄するとナイトは尻尾を左右に揺らした。ルーファスの頭が尾で叩かれたが、痛みを伴うほどの強さではない。
 くくく、と笑ってみせたルーファスはナイトが何を示したかったか分かっている。今は戦いに集中しようと呼びかける意味合いだ。
 ルーファスは此方に向かって飛んでくるブレイドホークを見据える。
「ま、考えるのは後だ。まずはアイツらぶっ潰すぞ!」
 エイプリル・ミスト号に狙いを定めたオブリビオン達は鋭く鳴き、刃状の尾を振り回しながら迫ってきた。
 甲板の端に駆けたルーファスは敵の目を引く。
 素早く動いたものに反応したブレイドホークは狙い通りに此方に向かってきた。ルーファスは軽く振り返りながら、敵の動きを確かめる。
 こっちに来い、と言葉にした彼が身を翻した刹那、鋭い尾の先端が迫った。
 だが、彼は咄嗟に腰に携えていた鉈を抜く。硬質な音が響き渡ったことで、ルーファスがブレイドホークの一閃を受け止めたことが分かった。
 次の瞬間、敵が躰を捻ったことで刃が再びルーファスに向かってくる。
「動きが大振りなんだよ」
 されどルーファスは二撃目の動きも察知していた。彼はもう片方の刃も抜き放ち、更なる一閃を受ける。
 再び鳴り響いた金属と金属が重なる音を聞き、彼は口笛を吹いた。
 二度も感じた衝撃の重さは甘く見ていいものではない。それでも余裕な態度は崩さずに、ルーファスは口の端を吊り上げてみせた。
「危ない刃、持ってるじゃねえか」
 紅蓮の刃を両手で構えたルーファスは甲板を蹴る。その勢いで横合いに浮いていた岩石に飛び乗った彼は、敵に視線を向けた。
 あの相手よりも、もっと高い所へ。浮遊岩石から更に次の岩場へ飛び乗ったルーファスは眼下のブレイドホークを見下ろした。
 彼は岩を軽く蹴る。其処からはただ落下していくだけ。しかし、彼の狙いは落ちる勢いを利用しての吶喊だ。
 真っ直ぐに敵の懐へ飛び込んだルーファスは薄く笑った。
 紅蓮の鉈が来ると察したブレイドホークは身構える。だが、その一閃は――。
「残念、オレは囮だよ」
 ルーファスは薄く笑み、敵を斬る瞬間に身を翻した。相手は知る由もなかったが、戦う彼の傍にはいつもいるはずの黒炎竜の姿がなかった。
 それが表すことは、即ち。
「丸焦げにしちまえよ、ナイト」
 ルーファスの背後から現れたのは鋭い牙をあらわにした黒竜。
 大きく開かれた口から放たれた炎の吐息は、オブリビオンを容赦なく包み込んだ。悲鳴めいた鳴き声が響き渡る中、滑空したナイトはルーファスを受け止める。
 共に大空を飛んだ彼らは再び視線を交わし、意思を交わしあった。
 ルーファスはそのまま甲板に着地する。
 エイプリル・ミスト号のすぐ傍を飛ぶナイトは、違う方向から飛んできた新手に視線を向ける。ルーファスも敵を見遣りつつ鉈を構え直した。
「まだ行けるよな。空の支配者は、お前だろ?」
 呼び掛けた声に対して返ってきたのは雄々しい咆哮。
 そして――果てしない大空に業火が轟き、激しい紅蓮が夜の一幕を彩っていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルビィ・フォルティス

ええ、わたくしにも聞こえましてよ。
不思議な声ですわね。「助けて欲しい」という気持ちをそのまま心と心で伝えられたような感じがしますわ。

そうそうエイプリル・ミスト号が落とされるとは思いませんけれど、帰りのことも考えると損耗は減らしたいですわね。こちらから仕掛けましてよ。

自前の翼で空を飛び、ブレイドホークに接近する
先ほどまでと比べたら、無風も同じですわ。

こちらに気付き、鋭い羽を放ってきたなら天使核シューズによる空中機動で回避しながら接近、霹靂の剣陰により蹴り飛ばし、周囲を浮遊する岩石や浮島の地面に叩きつける

しつこいアプローチは嫌われましてよ?
道を開けてくださいませ。


ベル・プリンシパル
俺にも聞こえたよ、不思議な声!
助けてって確かに言ってた!
よーし、早いところあの魔獣達をやっつけて、みんなで声の元へ急ごう!

【空中戦】なら俺にお任せ!自分の翼を使って空に飛翔するよ
相手は徒党を組んで、強風に乗って連続攻撃をしてくるみたいだけど…攻撃の軌道なら充分に読めるもんね!
アルテミスに魔力の矢をつがえて魔獣の進路上に向けて発射!
進路を塞ぐように矢を爆発させ、ブリザードスフィアを発生させて、突っ込んできた魔獣を氷漬けにするよ
全員巻き込めるわけじゃないだろうけど、氷の魔力を回避しようとしたらその分動きが単調になるはず
そこをアルテミスの魔力の矢で狙い撃つ!



●翼の導き
 飛空艇は薄雲が漂う夜空の中を進む。
 行く手を阻む敵を前にして、遥か彼方から届いた心の声。はっとしたベルとルビィは顔を見合わせ、頷きあった。
「俺にも聞こえたよ、不思議な声!」
「ええ、わたくしにも聞こえましてよ」
 その声は音ではない。
 テレパシーか、或いは何か別の原理の魔法的なものなのかまでは分からなかったが、それが切実なものだということは理解できた。
「助けてって確かに言ってた!」
「不思議な声ですわね。『助けて欲しい』という気持ちをそのまま心と心で伝えられたような感じがしますわ」
 ベルは声が響いてきた方向を見つめる。ルビィも其方に目を向け、進む方角があっていることを確かめた。
 しかし、そうなるとやはりブレイドホーク達が邪魔になる。既に此方に気付いている個体もいるらしく、翼を広げようとしている姿も見えた。
「よーし、早いところあの魔獣達をやっつけて、みんなで声の元へ急ごう!」
「そうだな、はやく助けてやりたいもんな」
 ベルが強く拳を握ると、船首の方で身構えていたラシャも意気込む。少年達の間には不安などは見えず、その遣り取りを見ていたルビィも静かに微笑んだ。
 此処に来るまでに飛空艇の頑丈さと速さは知れた。
 それゆえにそうそうにエイプリル・ミスト号が落とされるとは思わなかったが、帰りのことも考えると損耗は減らしたい。
 そう考えたルビィはアドウェルサの柄を握り、前を見据えた。
「いきますわ。こちらから仕掛けましてよ」
「空の戦いなら俺達にお任せ!」
「頼むぜ。ルビィ、ベル!」
 二人が背の翼と腰の翼を広げた姿を見つめ、ラシャは斧錨を構えてみせる。援護は任せておけ、という少年の声を背にした二人は一気に飛び立った。
 風の流れは速いが、先程に嵐を乗り越えてきたばかりだ。
「先ほどまでと比べたら、無風も同じですわ」
「そうだね、むしろ飛びやすいくらいだ」
 ひといきに飛翔したルビィに続き、アルテミスを構えたベルも敵を見遣る。
 既に他の仲間によって倒された個体もいるが、敵の数は多い。その動向から見るに、ブレイドホークは徒党を組んで来る傾向が強いようだ。
 そのとき、オブリビオンが翼を羽撃かせた。
 鋭い風が向かってきたが、二人は体勢を崩すことなくひらりと避ける。しかし、その風に乗ったブレイドホークが次々と迫ってきた。
「見て、あの強風に乗ってくるみたいだね。でも……風と同じ攻撃の軌道なら充分に読めるもんね!」
「そうですわね、怯まず参りましょう」
 ルビィは天使核靴で空中を蹴り、自らブレイドホークに接近していく。
 同時にベルがアルテミスに魔力の矢を番え、魔獣の進路上に向けて発射した。風を切る音を聞きながら、ルビィはぎりぎりまで敵を引き付ける。
 そして、ベルの矢が寸前まで迫った所でルビィが高く飛翔した。
「今ですわ!」
 ルビィの動きに目を奪われたブレイドホーク。目の前にはベルの矢が迫っていた。避けることの叶わぬ距離で爆発した矢は凍てついた魔力を広げていく。
 ――ブリザードスフィア。
 ベルの攻撃によって凍結させられた魔獣は、氷の球体に封じ込められた。氷漬けにされたブレイドホークを狙い、急降下したルビィが風の長剣を振るう。
 それはたった一瞬にも満たない間のこと。
 氷ごと斬り伏せられた魔獣は戦う力を失い、浮島に落下していった。
「良い調子だね。このままいこう!」
 ベルは更にアルテミスの弦を引き絞り、次のターゲットに狙いを定めていく。一矢だけですべてを巻き込めるわけではなく、今の効果を見た他のブレイドホークも警戒を強めているだろう。
 だが、ベルにとってはそれもまた狙いのひとつだ。
 氷の魔力を敵が回避しようとするなら、その分だけ動きが単調になるはず。ベルが矢を打ち続けることは前線で戦うルビィの援護にもなる。
 ブレイドホーク達はまずルビィを倒そうと考えているらしいが、ベルのアルテミスから放たれる矢が集中攻撃を阻んでいた。
 それでも接近してくる敵は素早く躱し、ルビィは空中で身を翻す。
 純白の羽が何枚か空に散った。空色の瞳をオブリビオンに向けたルビィは、剣を構え直しながら凛と言い放つ。
「しつこいアプローチは嫌われましてよ?」
 言葉と同時に放つ一閃は魔獣を穿っていった。刃を突き放つと同時に敵を蹴り飛ばしたルビィは、相手を浮遊岩石に叩きつける。
「やるな、ルビィ」
「俺達も行くよ、ラシャ!」
「おう!」
 ラシャが感嘆の声をあげたところにベルが呼び掛けた。少年達はそれぞれの獲物をしっかりと構え、一気にトドメを狙う。斧錨が飛び立とうとするブレイドホークを穿ち、よろめいたところにアルテミスの魔力の矢が放たれた。
 貫かれた敵はそのまま意識を失い、空の彼方に落ちていく。
 同時にルビィも霹靂の剣陰による突風を巻き起こし、行く手を阻む魔獣を穿った。
 矢が舞い、鎖が鳴り、羽撃く翼の音が夜空に響く。
 其処から戦いは続いていき、猟兵達によってブレイドホークは次々と倒されていく。やがて敵が最後の一羽になり、ルビィはアドウェルサの切っ先を差し向ける。
「さあ、道を開けてくださいませ」
 そして――。
 少女の剣戟が振るわれた刹那、夜の狭間で巡った戦いは終わりを迎えた。

 夜の最中に白い翼が舞う。
 声の主を目指して先導する天使達をしかと追い、飛空艇は更に進み続ける。
 エイプリル・ミスト号と不思議な声の主。
 引き寄せられる如く導かれた者達。果たして、この先で彼らが出逢うものとは――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ガレオンドラゴン』

POW   :    属性変換
【ドラゴンの牙】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【部位を持つ『属性ドラゴン』】に変身する。
SPD   :    ガレオンブレス
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【口】から【ブレス砲撃】を放つ。
WIZ   :    飛竜式艦載砲
【飛空艇部分の艦載砲】を向けた対象に、【砲撃】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:来賀晴一

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●悪竜砲艇討伐譚
 だれか、だれか、おねがい。
 たすけて、たすけて、ここにいるよ。

 飛空艇が竜の巣の奥に進むにつれて不思議な声が強くなっていった。その声は殆ど同じ言葉しか繰り返していないが、近付いていく度に必死さが伝わってくる。
 飛空艇エイプリル・ミスト号と共に進んだ猟兵達。
 激しく変わる気流を越えた一行は、往く先に大きな影が現れたことに気付く。
『ええい、うるさい! 黙れ!』
 ――たすけて。
 聞こえてきたのは激しい怒号と、更にはっきりとしたあの声だった。
 怒声をあげているのは竜と融合した飛空艇オブリビオン、ガレオンドラゴンだ。彼は声の主が発し続ける言葉に辟易しているらしく、眠れないでいるようだった。
『我が眠りを妨げるではない! 天使核ごと喰らってやったのが仇になったか!』
 ――このなかに。
 謎の声はガレオンドラゴンの内部から聞こえてきている。
『黙れといっておろうが!』
 怒るオブリビオンの言葉から察するに彼の内部には喰われた何かがいるらしい。エイプリル・ミスト号が近付いたことで、ガレオンドラゴンは船首の頭部を傾けた。
『む? ほう、飛空艇か……よい天使核もありそうだな』
「うわ! こっち見た!?」
 ガレオンドラゴンの言葉と威圧感に驚いた少年、ラシャが声をあげる。しかし、すぐに気を取り直した彼は猟兵達に呼び掛けた。
「アイツの中に何か……いや、『誰か』が閉じ込められてるみたいだ!」
 少年も猟兵も確信している。
 ガレオンドラゴンが飲み込んだものは意思あるヒトのようだ。どんな種族であるのか、どういった見た目なのか、どのような状況に置かれているかは不明だ。
 しかし、状況は明白。
 相手は悪いドラゴンであり、救出すべき対象は内部にいる。
「皆、アイツをやっつけてあの子を助けようぜ! オレはこの船のD.Dで援護する!」
『我を倒すというのか。面白い、出来るものならやってみるがいい』
 少年の声を聞いたガレオンドラゴンは牙を見せて笑った。おそらく自分の力に絶対の自信を持っているのだろう。
 ドラゴンは空中で巨体を翻して翼のような部位を羽撃かせる。それと同時に艦載砲が動き出し、エイプリル・ミスト号に向けられた。
 竜の巣領域には変わらず、幾つもの浮島や浮遊する岩が漂っている。
 最終的に何処かの浮島にドラゴンを叩きつけて落とすことができれば、内部に囚われている誰かを救出できるはずだ。
 ラシャは飛空艇に取り付けたディバインデバイスを起動させる。
「行くぜ、皆! 最後の戦いだ!」
『さあ、来るが良い。腹の中の此奴のようにお前達すべてを喰らってやろうぞ!』
 暗い夜の最中に竜の咆哮が響き渡った。
 風が鋭く巡る果てなき空で、救うための戦いが始まっていく。
 
鳳凰院・ひりょ


くっ、嵐の際に魔力を使い過ぎた関係で回復していたら、すっかり出遅れてしまったか…
これより戦線復帰します!

敵の体内に囚われの存在がいるのか…厄介だな
ひとまず胴回りを破壊する事は避けつつ、敵へ攻撃を仕掛けていこう

それにしても…敵の砲撃の命中は高いようだ
下手に回避を試みようとして失敗すればこっちも無事では済まないかもしれないな…
一瞬沸き上がった恐怖に反応し防衛衝動が発動

たとえ命中が高くとも連射性能が仮に高かろうと、この人数を捕える事は出来まい!
敵の砲撃に対し
・【オーラ防御】で守りを固めた防御専念
・精霊の護符の【乱れ撃ち】での攻撃専念
分身を上記の二つの役割に分けて運用
セットで行動させ敵を消耗させる


ナスターシャ・ノウゼン

なんじゃうるさいの。怒鳴り散らしおってからに。
短気は損気。長生きできぬぞ?
……まぁ、これから妾達に狩られる運命にあるのじゃから、結局今日までの命だし変わらんか。

しっかしずっとしゃべり続けて飲み込んだ相手を寝不足にするとか、なかなか根性あるやつじゃのぉ。一体どんな奴なのか。腹をかっさばいて、御開帳といこうか。

適当な浮遊岩を蹴って竜へと近づくかの。斧錨を投げて、適当な砲台の1つでも鎖でぐーるぐるっと。あとは鎖を引いて竜の懐までひとっとびじゃ。

≪ブレイズフレイム≫

近づく際に砲撃やら牙やらで傷ができるじゃろうが関係なし。いや、むしろ死期を早めたの。傷跡から地獄の炎を噴き出して、全力パンチじゃ!


国栖ヶ谷・鈴鹿
連携OK!

声が聞こえる!
ということは、あのオブリビヲンの中ってコト!?
……でも、ここまできて諦めるのは論外だね!

【綱】
すごい速度だ、制圧射撃で牽制して動きを制限しないと。
……いや、逆にこのスピードは命取りになる、ユーベルコヲド超統合群体機・零號展開!統合形態・四、力場結束、賽の陣!

25機を所定の位置に待機、射撃と空中機動で、回避しつつ誘導。
目標地点を通過する寸前では、零號を相互にレーザーで結び、レーザーの綱、結界を展開させて、激突させよう。
多分、囚われてるのは頭部や胴体船部、末端の翼や爪牙や足を切断できれば機動力もだいぶ落ち込むはず!
さぁ!一気に決めちゃおう!


ベル・プリンシパル
囚われのお姫様…ううん、ひょっとしたら王子様かな?
どっちにしろ、悪い竜から助け出すなんて冒険者冥利に尽きるね!
気合を入れていこう!

吞み込まれてる…ってことは、声の主は竜のお腹の中にいるのかな
だったら胴体への攻撃は控えて、まずは翼を穿って機動力を削ぐ!
自分の翼で飛翔して空中戦を仕掛けて、ゲイルブーツの風の魔力を放出
自分の機動力を上げて砲撃や噛み付きを掻い潜りながら竜の翼に向かって魔力の矢の乱れ撃ちを放っていくよ!
空中機動で攪乱をして、相手がこっちを見失った瞬間にアルテミスを変形
狙うはその大きな顔、最大速度で突っ込む!
迎撃が来たって怯まないよ。この一撃は誰にも止められないんだから!


テンス・アーケイディア


WIZ判定

・行動
敵の艦砲が届きにくい斜め後方をキープしながらエネルギー充填を開始
謎の声の主に自身の天使核を通じて呼びかけ
強い念をだしてもらって詳細な位置を特定
その部分を避けて範囲を固定したUCを発射
敵の船体を吹き飛ばして近くの浮島に落とす

・セリフ
私の声が聞こえますか……
あなたの声に導かれて私たちはやってきました
必ず助けますから
もう一度だけ全力を飛り絞って声を上げてください

そこっ!(敵の船体に小型機が次々に突き刺さる)

ターゲット座標ロック、疑似神威バレルの展開……
(船首像の前に立体積層魔法陣)

全てに滅びを与える神の嘆きを見よ、ディバイン・カタストロフ!
(命中した箇所が空間ごとえぐり取られる)



●開戦
 竜の巣に吹き荒れる風の中で、激しい咆哮が響き渡った。
 戦闘態勢を取ったガレオンドラゴンから向けられた敵意は強い。相手からは全てを飲み込まんとする害意と悪意が見て取れた。
 敵は巨大かつ獰猛。
 百人以上も乗せられるほど大きさの飛空艇が動けば気流も乱れる。それゆえに猟兵達は現在、自然と左右に散開していた。ひとかたまりになっていては皆纏めて砲撃やブレスの餌食になってしまうだけだからだ。
 飛空艇エイプリル・ミスト号は左へ。遺失級飛空艇アーケイディア、つまりテンスは右へ。それぞれの方向に別れることで猟兵達は挟撃の形を取った。

 そして――此方は右側での戦いとなる。
「あれが……この竜の巣の主?」
「なんじゃうるさいの。怒鳴り散らしおってからに」
 されど、テンスもナスターシャは驚きも怯みもしなかった。ナスターシャはガレオンドラゴンが巨体を揺らがせる様を眺め、双眸を鋭く細める。
 ――たすけて。
 その間も、あの心の声が猟兵達に届いていた。
「声が聞こえる! ということは、あのオブリビヲンの中ってコト!?」
「敵の体内に囚われの存在がいるのか……厄介だな」
 鈴鹿とひりょは声が響いてきた方向を改めて探る。やはりあの声はガレオンドラゴンの内部、それも中心付近から放たれているようだ。
「囚われのお姫様……ううん、ひょっとしたら王子様かな?」
 警戒を強めながらも、ベルは軽く首を傾げた。
 心の声だけではまだ正体は分からないが、何らかの要因でドラゴン艇の内部に取り込まれてしまった誰かがいることは間違いない。
 ナスターシャもガレオンドラゴンの中心を見据え、考えを巡らせた。
「ずっとしゃべり続けて飲み込んだ相手を寝不足にするとは、かなりのものじゃのぅ。相当な胆力の持ち主かもしれぬな」
「どっちにしろ、悪い竜から助け出すなんて冒険者冥利に尽きるね!」
「そうだね、ここまできて諦めるのは論外だね!」
 気合を入れていこう、とベルが告げると鈴鹿も意気込みを見せた。やっと声の主の前まで来たのだ。敵が巨大だからといって怖じ気付く者はいない。
 鈴鹿は紅路夢で、ベルは腰翼を広げてそれぞれに飛び立つ。
 ガレオンドラゴンが更なる咆哮をあげる中、テンスは内部の存在に呼び掛けていた。
「私の声が聞こえますか……」
 テンスは声の主に自分達の到来を知らせたいと考えている。されどあの声はずっと、ただひたすらに救出を求め続けているだけだ。
 おそらくドラゴンの内部からでは何も見えないのだろう。それゆえに絶え間なく、誰かに気付いて貰いたいという一心で声を発し続けているはず。
「あなたの声に導かれて私たちはやってきました」
 ――だれか。
 テンスの呼び掛けに対して、声の主が僅かに反応した気がした。だが――。
『何をごちゃごちゃ言っておる! 黙るがよい!』
 ガレオンドラゴンが発した声によって、テンスと声の主の言葉が掻き消された。
 そして、空挺竜は大きく口をひらく。
 刹那、素早く飛翔する敵からブレス砲撃が放たれた。
 轟音が響き、深い夜空に炎と風の吐息が広がる。鈴鹿とベルは高く飛び上がることでそれを避け、ナスターシャとひりょは攻撃範囲外になっていた浮島に飛び移ることでブレスを躱し、テンスはその挺体で以て攻撃を受け止めた。
 余波が熱を運んできたが、その程度で押し負ける者達ではない。
 やれやれ、と肩を竦めたナスターシャはガレオンドラゴンに語りかける。
「短気は損気。長生きできぬぞ?」
『ふん、戯言を』
 対するガレオンドラゴンは不遜な態度で返した。片目を軽く閉じたナスターシャはさほど気にしてはいない様子で答える。
「……まぁ、好きにいっておるがいい。これから妾達に狩られる運命にあるのじゃから、結局今日までの命だし変わらんか」
『なんだと? 小癪な召喚獣が!』
 するとドラゴンは再び物凄い速さで空中を飛び回りはじめた。
 鈴鹿は反撃の機を狙いながら、ガレオンドラゴンの動きをしかと捉える。
「わ、すごい速度だね」
 ならば大きなダメージを狙う反撃よりも、制圧射撃で牽制して動きを制限していく方が効果的だろう。鈴鹿は的確に現状を判断していく。
 ベルとひりょも、敵の素早さに圧倒されないように立ち回る。
「あの声の子が呑み込まれてる……ってことは、声の主は竜のお腹の中にいるのかな」
「そうみたいだね。ひとまず胴回りを破壊する事は避けて、攻撃を仕掛けていこう」
「うん! まずは翼を穿って機動力を削ぐ!」
 内部がどうなっているか分からない現状、万が一にでも救出対象を傷付けるようなことは避けたい。気遣いと心配、そして優しさを兼ね備えたひりょ達は注意深く戦うことを心に決めていた。
 テンスも仲間たちの優しさを感じ取っている。これならば事故が起こってしまうこともないだろう。そうして、テンスは声の主に呼び掛け続ける。
「必ず助けますから」
 テンスは敵の艦砲が届きにくいであろう斜め後方の位置取りをキープしながら、自らのエネルギー充填を開始した。
 先程、ガレオンドラゴン自身が言っていたことがある。
 天使核ごと喰らってやったのが仇になった、と。今、声が届かないのならば己の天使核を通じて語りかければいいはず。
 だから、もう一度。たった一度だけでもいい。
「お願いします、全力を飛り絞って声を上げてください」
 テンスが声の主に再び呼び掛けた、刹那。

 ――たすけて!

 ひときわ大きな助けを求める心の声が、周囲全体に響いた。

●呼び声
『うるさい、煩い五月蝿い!』
 内部からこれまで以上に大きな声が響いたことで、ガレオンドラゴンの叫びも大きくなる。だが、あの声のお陰で救出対象の正確な位置がわかった。
 囚われている場所はやはり、空挺竜の腹部分だ。
「なかなか根性あるやつじゃのぉ」
 先程の声に感心したナスターシャは、炎を放ちながら薄く笑む。ひりょもほっとした様子で頷き、何としても敵から声の主を救うと決意した。
「待ってて、すぐに助けるから!」
『邪魔な者共め。一気に喰らってやりたいが……こやつのように中で何かされても堪らんからな。殺してから喰ってやる!』
 ひりょが呼び掛けたとき、ガレオンドラゴンが此方への殺意を滾らせた。其処からドラゴンの砲撃がベルやナスターシャ、鈴鹿に向けて撃ち放たれる。
 皆、致命傷にならないように立ち回っているが、避け切れない攻撃も多い。
 ひりょも何発かくらってよろめいてしまった。だが、すぐにテンスが補助に入ることで空への落下は防がれた。
「敵の砲撃の命中は高いようだね」
「気をつけてください」
 ひりょはテンスと共に敵の動きを分析していく。
 下手に回避を試みようとして、失敗すればこっちも無事では済まないかもしれない。
 しかし、一瞬だけひりょの中に沸き上がった恐怖に反応した防衛衝動がユーベルコードとして発動する。
「大丈夫。――迎撃せよ、我が分身」
 其処に武装したひりょの分身が現れ、一気にガレオンドラゴンに向かっていった。対するドラゴンは猛スピードで対抗する。だが、其処に好機を見出した者もいた。
「やっぱり、あのスピードは命取りになるね」
 鈴鹿は砲撃をブレス砲撃の軌道を読みながら力を巡らせていく。
 ――ユーベルコヲド超統合群体機・零號展開!
「統合形態・四、力場結束、賽の陣!」
 彼女の声と共に二十五機の多目的立体機動型超機械群が所定の位置に待機する。その間に鈴鹿自身は射撃を続けた。
 敵の攻撃を回避しながらも、さりげなく誘導していく鈴鹿の空中機動の技は見事だ。
 更には目標地点を通過する寸前で零號を相互にレーザーで結び、レーザーの綱と結界を展開させる。そうして激突させたところに、機を掴み取ったベルが続いた。
「追撃、行けるかな!」
「もちろん! この勢いのままいけるよ!」
 鈴鹿からの呼び掛けに応えたベルはひといきに飛翔する。
 うまく気流に乗ったベルは其処から一気に、ゲイルブーツに宿る風の魔力を放出していった。そうすればあのガレオンドラゴンを追える速度が出せる。
『おのれ、ちょこまかと!』
「そう簡単に食べられたりなんかするもんか」
 鋭い牙がベルに迫ってきたが、ベルはドラゴンの噛み付きを掻い潜った。それから彼が向かったのは竜の翼。
 構えたアルテミスに魔力の矢を番えたベルは全力の乱れ撃ちを放った。
『――グアア!』
「痛がっている場合かの? その腹をかっさばいて、御開帳といこうか」
 其処に地獄の炎を放ったのはナスターシャだ。
 声の主は一体どんな相手なのか。興味と救出への思いを抱いたナスターシャは紅蓮の炎でガレオンドラゴンを包み込み、ブレスを相殺した。
 鋭い眼差しがナスターシャに向けられたが、そんなものは気にならない。ナスターシャは浮遊岩を蹴り、更に竜へと近付いていく。
 彼女はガレオンドラゴンの適当な砲台のひとつに斧錨を投げた。
「鎖でぐーるぐるっと!」
 あとは鎖を引けば、竜の懐までひとっとび。その際に砲撃がナスターシャの身を穿ったが、こんな傷なども関係ない。寧ろ好都合なほどだ。
『馬鹿め! 自ら死にに来たか!』
「いや、おぬし自身が死期を早めたの」
 ガレオンドラゴンが吼えたが、ナスターシャは全く動じていなかった。そのまま炎を解放し続ける彼女に続き、ひりょの分身体も飛空艇竜に攻撃を仕掛けてゆく。
「たとえ命中が高くとも連射性能が仮に高かろうと、この人数を捕える事は出来まい!」
 ひりょの分身体は敵に対し、オーラで守りを固めた防御に専念した。
 別の分身体には精霊の護符による乱れ撃ちでの攻撃を務めて貰い、二セットで行動させることで敵を消耗させる作戦をとっている。
 仲間達の連携や行動を確かめながら、テンスは先程の強い念を探った。
 やはり胴体部分から声の主は動けないようだ。其処だけを避けて範囲を固定したテンスは勢いよく攻撃を発動させる。
「そこっ!」
 敵の船体にテンスが発射した小型機が次々に突き刺さっていった。テンスは更に船首像の前に立体積層魔法陣を紡ぎはじめた。
「ターゲット座標ロック、疑似神威バレルの展開……」
 極大の一撃が放たれるまであと僅か。
 その間に少しでも敵の機動力を削ぎたいと考えた鈴鹿は、狙いを変えていく。
「ぼくは末端の翼に向かうよ!」
「それなら俺は足から回ってあの顔の方に!」
 ベルは彼女が考えていることを悟り、反対側に向かって飛翔していった。たとえ相手が巨体であろうと少しも怖くはない。むしろあれほど大きな敵だからこそ鈴鹿やベル達の攪乱が効いてくる。
「少しでも切断できれば機動力もだいぶ落ち込むはずだからね!」
「あの子を助けるために……絶対に――貫く!」
 其処から巡るのは、鈴鹿の制圧射撃とベルが打ち放つ矢の乱舞。
 ひりょと分身が敵の船上を駆け回っていき、ナスターシャによる焔が迸り、テンスの魔法陣が完成していく。
 戦いは確かな終幕に向けて進んでいるが、彼らの活躍はまだ終わらない。
 さあ――決着まで、あと僅か。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルビィ・フォルティス

ご機嫌斜めみたいですわね、ご安心あそばせ。
煩わしい声の主は、わたくしたちが連れて帰りましてよ。
これからはぐっすり眠れますわ。
目覚めることのない眠りになるかもしれませんけれど。

自身の翼で飛翔し空中戦
雷とのダンスも楽しませて頂きましたけれど、あなたと踊るのも悪くなさそうですわ。
浮島の真上で荊棘の剣障を使用
自身とガレオンドラゴンを風の障壁で囲み、高速移動で距離を取られることを防ぐ

天使核シューズによる空中ステップでブレスを避けながら飛行しガレオンドラゴンに接近
アドウェルサを振るい敵を切りつけると同時に、風の魔力で突風を起こし、ガレオンドラゴンを風の障壁にたたきつけ、かまいたちで切り裂く


ルーファス・グレンヴィル


雄々しい咆哮
夜の一幕を彩る紅蓮に
双眸を細めて現れた敵を見る

──その腹の中か、

意思あるヒトが
そこで生きているのなら
助けない理由なんてなくて

今、其処から救い出してやるよ

抜刀した双子鉈を構えて
肩に鎮座する黒竜に笑い掛けた
相棒が羽撃くのを合図にして

行こうか、ラシャ!

愉快げにドラゴンへと向かってゆく
ナイトが敵を惹き付けてくれてる間に
ぶんぶんと得物を振り回して力を溜めて

あ? 余裕だって?
──ああ、そうだな、
アイツがそうそう殺られる訳ねえから
くくくと喉奥が震えて口角が上がる

ナイトの力だけじゃなく
ラシャや他の奴の力も信じてるから

さあ、これで舞台は整った
あとは、もう全力で相手してやるだけだ
覚悟しろよ、ドラゴン


朱赫七・カムイ
⛩迎櫻


斯様な竜もいるのか
大丈夫、サヨ
きみの方が美しい龍だ
例え大食らいであってもいっぱい食べるきみが好きだ

早く助けなければ
カグラは結界を張ってリルや舟を守ってくれ

サヨ
共にいこう
リルの歌声に背を押されるように駆け飛んで
斬撃波で風も砲撃も切断して進む

何だ
カラス

また私に禍の扱いが下手だと言いに?
仕損じないか案じているのか
…成してみせる
今の禍津はカラスではなく私だ

災厄ノ抱擁

あらゆる不運を齎す神罰を降す
斬撃波を纏う禍殃の嵐を起こし竜の起こす嵐を
嵐ごと押し潰し浮島の方へ追いやるよう叩きつける
竜が齎す禍を私のものとして支配するよ

サヨ、有難う
私はきみの神だ
昔も今も

私は禍津
そして約倖
どんな災からも救える神になる


リル・ルリ
🐟迎櫻


舟が…竜になった!!?

櫻、カムイ!あの声の主はあの竜のお腹の中にいるみたいだよ
うう……食べられちゃったんだね
…櫻より食いしん坊なのかな
ともあれ、助けなきゃ!
ヨルは飛ばされないようにそのままカグラの所にいて

僕は飛べないからこうしてここから櫻とカムイを援護するんだ
声を張り上げ歌うのは鼓舞をこめた「月の歌」
癒しと強化を歌い上げて二人を守るんだ
僕は櫻とカムイを信じてる
二人がもっと強くなるように!
僕の大切な人達を穿つ砲弾も、風にだって邪魔はさせないんだから!
泡沫の守りは2人の為に
敵の攻撃や浮島の位置や周りの状況を二人に伝える

二人を、皆を食べさせなんてしないぞ!
そこの君も待っていて
すぐに助けるよ


誘名・櫻宵
🌸迎櫻


大きい竜ね
何だか嫌な気持ちになる
リルったら私が大食いみたいに
まぁ、カムイがそう言うならいいけど

あんなのに食べられるなんて
ついてない子もいたものね
閉じ込められてかぁいそう…はやく出してあげましょ
どんなかぁいい子かしら
私はもふもふしてると思うわ
軽口混じり、カムイと共に空をかける
さっきは不覚をとったけど今度は大丈夫よ!
逆にカムイがよろけたら抱えてやるんだから

思い切りなぎ払い、進む
生命喰らい桜咲く神罰と共に放つのは酔華─船って酔うのかしら?
ともあれ動きを封じて
衝撃波と一緒に斬り島に叩きつけてやる
リルにいいとこ見せなきゃね

カムイ?大丈夫よ
あなたは立派な神よ
救いましょ

神が育つのって
はやいのかしら



●刃を研ぎ澄ませ、風と踊る
 かなりの巨体を誇るガレオンドラゴン。
 その左右に分かれて挟撃の形を取った猟兵達は戦い続けている。ドラゴンが動く度に気流が渦巻いたが、飛空艇は揺らがなかった。
 そして――此方はエイプリル・ミスト号が進んだ左側での戦いだ。
 雄々しい咆哮と鋭い視線、響き渡る怒号。此方を喰らおうと狙うガレオンドラゴンが響かせた声は激しく、その声自体が風を起こすほどだ。
「へぇ、なかなか」
「ご機嫌斜めみたいですわね」
 夜の一幕を彩る紅蓮に双眸を細め、ルーファスは現れた敵を見る。ルビィも敵の姿を確かめながら、瞳に竜の姿を映していた。
 敵は飛空艇の形をしているが、内部は身体のようになっている。
「――その腹の中か」
 助けを求めるあの声の主は船の中央。即ち、腹部にあたる場所に飲まれていると予想できた。中がどうなっているのかは此処からでは見えない。
 だが、意思あるヒトがそこで生き永らえているのなら助けない理由などない。
 ルーファスが双子鉈を構えれば、ルビィも翼を広げた。
 相手はかなり怒っているようだが二人とも怯みなどしない。ルビィはガレオンドラゴンとの距離を縮めすぎないように注意を払いながら、大空に飛び立つ。
「けれども、ご安心あそばせ」
 ちいさく微笑んでみせたルビィは飛空艇竜に向け、アドウェルサの切っ先を向けた。それは宣戦布告でもあり、己の意思を示すための動作でもある。
「煩わしい声の主は、わたくしたちが連れて帰りましてよ」
『ふん、天使核ごと奪うつもりだな』
「かわりにこれからはぐっすり眠れますわ。ただし、目覚めることのない眠りになるかもしれませんけれど」
『エンジェル如きが我を沈めるだと? 片腹痛いわ!』
 ルビィの言葉を聞いたガレオンドラゴンは巨体を激しく揺らめかせると、敵意をあらわにする。ルーファスもその眼差しを害意を受け止め、刃を差し向けた。
「今、其処から救い出してやるよ」
「向こう側の皆も頑張ってくれてる! ルビィ、ルーファスの兄さん、頼むぜ!」
 飛空艇のディバインデバイスを起動させていくラシャも身構え、戦いは巡っていく。
 更なる竜の咆哮が響き渡った、刹那。
 純白の翼が夜を彩り、鋭い風が巻き起こった。飛翔したルビィが巡らせた風は気流を突き抜け、ガレオンドラゴンに向かっていく。そして、其処に問いが投げ掛けられる。
「あなたはわたくしを楽しませてくれまして?」
『楽しむ間もなく喰らってやろう!』
「急いては事を仕損じましてよ。雷とのダンスも楽しませて頂きましたけれど、あなたと踊るのも悪くなさそうですわ」
 吼えたドラゴンはブレスによる砲撃を周囲に広げた。
 しかし、すぐに身を翻したルビィは浮島の真上まで飛ぶ。先程に紡いだ問いかけによって風の障壁が形成されていた。
 ルビィは自身とガレオンドラゴンを剣壁で囲み、ブレスをかまいたちで切り裂く。更にそのまま高速飛翔することで距離を取られることを防いでいった。
 同時にルーファスも浮遊大岩に跳ぶ。
 肩に鎮座する黒竜に笑い掛ければ、その翼が大きく広げられた。羽撃いたナイトの動きを合図にして、ルーファスは少年に呼びかける。
「行こうか、ラシャ!」
「おう!」
 ディバインデバイスが奏でる音が全周囲に広がっていった。それはこの戦場にいる全ての仲間を鼓舞する旋律になる。
 ラシャの後押しを受けたルーファスは愉快げにガレオンドラゴンへと向かった。
 先行したナイトはあえて目立つように飛んでいる。その間にルーファスは鉈を振り回して力を溜めていった。
 相手取っているのはかなりの大きさを誇る竜だ。
 一撃ずつ斬撃を当てていくのも良い戦法だが、それは仲間がやってくれている。それならばルーファスはとっておきの大打撃を用意すればいい。
 彼が力を温存していると気付いたルビィは、状況を的確に判断した。
 ルビィの傍には黒炎竜のナイトが舞っている。ルビィとナイトは素早く目配せを交わしあい、それぞれが違う方向に飛び立った。
 もとより右と左で猟兵が挟撃している。そのうえで更にルビィ達が別の軌道を進むことで、敵の注意を一点に集中させない狙いだ。
 風を受けた天使核シューズが夜空に靡く。華やかとも呼べるほどの動きで空中を翔けたルビィは、次々と敵のブレスを躱していった。
「さあ、序幕は終わりましたわ」
 次は物語の中核へ迫る時。
 ルビィはステップを踏み、ガレオンドラゴンとの距離を詰めていく。振るわれるアドウェルサの刃は空挺竜の翼を切り裂いた。
 それと同時に風の魔力で突風を起こすことで、ルビィはドラゴンを風の障壁に叩きつけた。剣閃と風の刃が船体を貫いたことで敵から苦痛の声があがった。
『おのれおのれ、小癪な者共が!』
 しかし、怒りが更にガレオンドラゴンの力を強めていく。
 弱っていることは確かだが、追い詰められた者ほど何をしでかすかはわからない。丁度、前方を飛んでいたナイトとルビィがドラゴンの標的にされそうだ。
 はっとしたラシャは彼女達に呼びかける。
「ルビィ! もっと左へ!」
「承知いたしましたわ」
 その声を受けたルビィは攻撃範囲外に素早く翔けた。だが、ナイトは今も果敢に敵を引きつけようとしている。慌てたラシャはルーファスにも声を掛ける。
「ルーファスの兄さん、ナイトは大丈夫なのか? 何だか随分と――」
「あ? 余裕だって?」
「そうだな、そんな風に見える」
「ああ、そうだな。アイツがそうそう殺られる訳ねえから」
 くくく、とルーファスの喉奥が震えたかと思うとその口角が上がった。ナイトはルーファスが本命の一撃を叩き込む機会を狙っていることを知っている。それゆえに時間を稼ぐためにああして飛び回っているのだ。
「そうか……うん、誰も負けないよな!」
 ラシャが力強い笑顔を浮かべたことで、ルーファスも笑みを深めた。
「勿論だ。それに――」
 ナイトの力だけではなく、ラシャやルビィ、そして他の仲間の力も信じているから。
 ルーファスの眼差しはただ一点、倒すべき敵に向けられている。
 そのとき、右側に向かった仲間達の乱れ打ち攻撃がガレオンドラゴンを貫いた。
『――グアア!』
 激しい咆哮が響き渡ったことで、ルビィはラシャ達に呼びかけた。
「参りますわよ。あとひと押しですわ!」
 真白な翼が夜空に舞う。
 そうして此処から、終わりに向けての戦舞踏が始まってゆく。

●竜と龍
 ドラゴンの最初の咆哮が響いた、同じ頃。
 エイプリル・ミスト号と共に左側の陣についたカムイとリル、櫻宵もガレオン船の姿をした竜をしかと見つめていた。
「斯様な竜もいるのか」
「舟だと思ったら……あれも竜!!?」
 感心と警戒を同時に抱くカムイの隣で、リルは驚きを隠せないでいる。櫻宵は巨体が蠢く様を見て僅かに俯いていた。
「大きい竜ね。何だか嫌な気持ちになるわ」
 相手は命を呑み込む巨大竜。
 其処に何かを重ねてしまっているのか、櫻宵の顔は浮かないままだ。
「大丈夫、サヨ。きみの方が美しい龍だ」
「カムイ……」
 だから顔をあげて、と櫻宵にカムイが告げたそのとき。

 ――たすけて!

 先程から聞こえていた心の声がひときわ大きくなった。
 どうやら他の仲間が天使核を通じて呼び掛けたことで、声の主も応えたようだ。
「櫻、カムイ! あの声の主はあの竜のお腹の中にいるみたいだよ。うう……食べられちゃったんだね」
 きっとリルやヨルも、近付けば一口でぱくりと頂かれてしまうに違いない。
 エイプリル・ミスト号の柱にぎゅっと掴まったリルは櫻宵とガレオンドラゴンに交互に眺めて見比べた。
「……櫻より食いしん坊なのかな」
「リルったら私が大食いみたいに」
 櫻宵は頬を軽く膨らませ、もう、と笑う。先程のカムイとリルの言葉によって櫻宵の気持ちも持ち直したようだ。
「例え大食らいであってもいっぱい食べるきみが好きだ」
「まぁ、カムイがそう言うならいいけど。それにしてもあんなのに食べられるなんて、ついてない子もいたものね」
 カムイは、どんなきみでもいとおしいと、さらりと告げる。
 気分をよくした櫻宵の桜の角に花がふわりと咲き、リルも笑顔を浮かべた。そして、三人はガレオンドラゴンへ視線を向ける。
「ともあれ、助けなきゃ!」
「噫、早く助けなければ」
 リルはヨルをカグラに預ける。カムイはカグラに結界を張っていくように願い、リルやエイプリル・ミスト号そのものを守ってくれと伝える。
「きゅきゅ!」
 ヨルはあの声の主が気になるらしく、カグラの腕の中で両羽を動かした。櫻宵は頷き、必ず囚われの子を助けると誓う。
「あんな乱暴な航行をする所に閉じ込められてかぁいそう……」
 はやく出してあげましょ、と言葉にした櫻宵はカムイの隣に立った。カムイも身構え、咆哮を響かせるガレオンドラゴンを見据える。
「サヨ、共にいこう」
「彼処にいるのはどんなかぁいい子かしら。私はもふもふしてると思うわ」
「もふもふか、いいね」
 櫻宵の予想にカムイがそっと呟く中、結界を張り続けるカグラは仔ペンギンがいいと考えていた。それもヨルのお嫁さんになるような元気な女の子が良いだろう。
 という、カグラのささやかな思いはともかく。
 リルはエイプリル・ミスト号の中央に位置取り、花唇をひらいた。
「僕は飛べないから――」
 だから、やることは先程までの航海で行ってきたことと同じ。
 櫻宵とカムイを、そして皆を援護するために。竜の巣の気流の中で、声を張り上げたリルが歌い紡ぐのは鼓舞をこめた月の歌。
 幽玄の歌声は、飛空艇に取り付けられたディバインデバイスと共鳴しあっている。
「おお、リルの兄さんはやっぱりすげーな!」
「僕が出来るのはこれだけだからね」
 其処にラシャの声が響き、リルはふわりと微笑んだ。癒しと強化を齎す唄を歌いあげていくリルは二人を守ると強く思う。
「櫻とカムイを信じてるよ。二人がもっと強くなるように!」
 響き続けるリルの歌は気流すら飛び越えていく。
 頼もしいリルの歌声に背を押されるように駆けて飛んだカムイは、風を斬った。更に砲撃すらも切断して進むカムイの勢いは鋭い。
 だが、其処にカラスが飛んできた。
「何だカラス。また私に禍の扱いが下手だと言いに?」
 どうやら相手を仕損じないか案じているのだろう。だが、カムイは成してみせると視線で告げた。過去と現在という違いがあっても、今の禍津はカラスではなく己だ。
 それに今は櫻宵が隣にいる。
 櫻宵も桜吹雪を舞わせていき、酔華の花を戦場に広げていった。
「さっきは不覚をとったけど今度は大丈夫よ!」
 逆にカムイがよろけてしまったときは此方が抱えてみせる。そんな勢いで軽口を交えながら、櫻宵は空を翔けた。
「船って酔うのかしら? いいえ、酔わせてみせるわ」
 此の花と、此の力で。
 生命を喰らい桜を咲かせる神罰は櫻宵の剣閃から、華麗に広がっていった。
 其処からカムイも更なる力を重ねる。
 災厄ノ抱擁が齎すのはあらゆる不運を起こす力。降ろされた神罰はガレオンドラゴンに向けられ、斬撃による衝撃波が渦巻いた。
 禍殃の嵐は竜が起こす咆哮と砲撃の嵐を貫き、その力ごと押し潰していく。
 その狙いは、敵を浮島の方へ追いやっていくこと。竜が齎す禍すら自分のものとして支配する勢いでカムイは猛威を振っていく。
 しかし、カラスとの話があったからだろうか。僅かに、本当に少しだけだが、カムイの刃が鈍っている気がした。
「カムイ? 大丈夫よ、あなたは立派な神よ」
 そのことに気が付いた櫻宵は微笑みを向ける。神に支えられてばかりではなく自分も力になりたい。そんな気持ちが櫻宵の言葉から伝わってきた。
「サヨ、有難う。私はきみの神だ」
 昔も、今も――。
 カムイが笑みを返すと、櫻宵は満面の花を咲かせる。
「救いましょ、リルにいいとこ見せなきゃね」
 軽く振り返った櫻宵は歌い続けてくれるリルを見つめてから、カムイに呼び掛けた。神が育つのってはやいのかしら、と考えながら櫻宵は斬り進む。
 リルも櫻宵からの眼差しを受け、懸命に声を紡いだ。
「ふたりとも、僕の大切な人達なんだ!」
 その身を穿とうとする砲弾も、鋭く襲いかかってくる風にだって邪魔はさせない。泡沫の守りを宿した歌声は高く、夜空に澄み渡るように響いていき、そして。
『――グアア!』
 左右からの猟兵の攻撃を受けたガレオンドラゴンから苦痛に満ちた声があがった。

 巡る攻防。
 響く風の音と紡がれる音色。そのとき、誰もが同じことを感じていた。
 今こそ、決着を付ける時だ。

●空挺竜、撃破
 揺らぐ巨体、響き渡る咆哮。
 ひりょにナスターシャ、鈴鹿にベル。テンスとルビィ、ルーファスにリルとカムイと櫻宵。そして、ラシャ。
 ガレオンドラゴンに戦いに挑んだ者達は、最後が近いことを悟っていた。
「――さあ、これで舞台は整った」
 あとはもう全力で相手をしてやるだけ。
 行こうぜ、と仲間達を呼んだのはルーファスだ。振り回していた双子鉈にはもう十分に力が籠められている。
 苦しげに羽撃く空挺竜を真っ直ぐに映す紅蓮の瞳は、まるで燃えているかのようだ。
「覚悟しろよ、ドラゴン」
 ナイト、と相棒竜の名を彼が言葉にした瞬間、漆黒の軌跡が夜空に走る。
 合わせて駆ける同時に浮島を越えたルーファスが、ナイトと共に向かうのはガレオンドラゴンの頭部。どうやっても隠せぬ生物の急所――眉間に向かって素早く岩を伝っていく彼は、一気に地を蹴った。
「さあ、オレ達の全力を受けてみろ!」
 刹那、振り下ろされた刃がガレオンドラゴンの眉間を貫く。同時にナイトが焔を解き放つことで紅い軌跡が夜に躍った。
『ぐ、が……っ、何を、貴様ら――!?』
「畳み掛けていこう!」
 苦しむガレオンドラゴンの内部にはひりょ本体の分身が多く乗っていた。敵が体勢を立て直す暇すら与えないよう、ひりょは防衛衝動の力を更に強める。
 相手の船に飛び乗った所で声の主を救えればよかったのだが、やはりこの船体を完膚なきまでに破壊しなければいけないようだ。
 ひりょは分身達に願い、船上からの攻撃を止ませないようにした。
 やめろ、とガレオンドラゴンが抵抗しているが、ひりょ達の手は決して止まらない。その間にカムイと櫻宵が左側の竜翼に回り込んだ。
 彼らが風に押し戻されないよう、リルは歌に力を巡らせてゆく。
「二人を、皆を食べさせなんてしないぞ!」
 そこの君も、どうか待っていて。
 すぐに助けるという思いを歌に籠めたリルは懸命に、最後の時まで歌い続けることを心に決めている。
「私は禍津。そして、約倖だ」
 目の前で助けを求めている存在を救えずして、何が神か。
 どんな災からも救える神になる。約を結ぶ力は風と共鳴しあい、其処に櫻宵の斬撃が重ねられていった。
「行くわよ、カムイ。あの島に叩きつけてやりましょう!」
 櫻宵達が見据えているのは、ガレオンドラゴンの遥か下にある大きな浮島だ。浮遊岩を足場にして華麗に翔けていくカムイと櫻宵は、次々と斬撃を解き放った。
 そして、ルビィも果敢に敵を引き付けていく。
『いつまでも、うろちょろと!』
「わたくし達を追いきれていませんわね。そろそろダンスも終わりかしら?」
 吼えるドラゴンを引き付けるルビィは華麗に舞う。
 彼女は自らの軌道と風の障壁を用いて、決してガレオンドラゴンが浮島の範囲から出ないように調整していた。
 怒りに震えている敵にアドウェルサを差し向けたルビィは、一気に舞い上がる。
 その視線が自分に向いていることを確かめた彼女は仲間に呼び掛けた。
「今ですわ!」
「やっと倒せるかのぅ」
 荊棘の剣障が敵を穿つ最中、その声に応えたのはナスターシャだ。船上に飛び移っていたナスターシャは甲板を駆け抜け、先程の傷跡から地獄の炎を噴き出していく。
「見よ、これが妾の全力パンチじゃ!」
 焔が迸ったのはガレオンドラゴンのマスト部分。船の中心でもある主要部位が炎に包まれ、瞬く間に崩れ落ちていく。
『きさ、ま――よくも……ッ!!』
 地獄の業火は容赦なく竜を焼いていった。くるりと踵を返したナスターシャは船体が揺らぐ前に斧錨を解き、近くの岩場に退避した。
 見事な連携と行動を見た鈴鹿は明るく笑い、仲間に声を掛けていく。
「さぁ! 一気に決めちゃおう!」
 相手の体力もあと僅か。
 先ず動いた鈴鹿は射撃と同時に、一気にジヰニアスキューブを突撃させた。創造の可能性は無限大だと普段から彼女が豪語するように、この攻撃は未来を拓くもの。機械群はガレオンドラゴンの船体を次々と穿っていった。
 そして、其処にテンスが展開していた魔法陣が動き出す。
 テンスの狙いはもとより、敵の船体を吹き飛ばして下方の浮島に落とすこと。絶好の機会が訪れた今、彼女の力が解き放たれる。
「――全てに滅びを与える神の嘆きを見よ、ディバイン・カタストロフ!」
 凛とした言葉と同時に発動したのは、空間崩壊を起こすマイクロブラックホール弾。命中した箇所が空間ごと抉り取られ、極大の衝撃がガレオンドラゴンを貫いた。
『どうして、この我、が……このような……ぐ、あぁ、ア……!!』
 よろめいたガレオンドラゴンは崩れかけている。
 あと一撃。
 たった一閃で全てを終わらせられると察したベルは翼を大きく羽撃かせた。
 狙うは敵の頭部。其処に最大速度で突っ込んでいくベルは鏃のような形状に変化させたアルテミスを強く握り締める。
「やってくれ、ベル!」
『させるもの、か………!』
 ラシャの声が響き、最期のあがきとしてドラゴンが牙を剥いた。飲み込まれてしまいそうな勢いだが、ベルは決して怯まない。
「終わらせよう! この一撃は誰にも止められないんだから!」
 自分自身が、どんな闇も貫く矢になる。
 相手の強大さと、この一撃に賭けるというベルの想いの強さは今、激しく燃え盛る焔の魔力となった。そして、夜を照らす焔は一直線に翔けていき――。
 戦いに終わりを齎す一閃が、夜の闇を飾った。

●出逢いと始まり
 間もなく朝を迎える、白みはじめた空に断末魔が広がる。
 頭部や翼が穿たれたことでガレオンドラゴンは飛行能力を失い、轟音が響き渡ると同時にその体が大きく下降した。
『我も……これで、終わりか……――』
 最期の一言を遺した竜の命は、其処で終わりを迎える。
 飛空艇部分は崩れ落ち、残骸が空中に散らばっていく。落下地点は既に計算済み。猟兵達もエイプリル・ミスト号に戻っている。空艇竜はそのまま、竜の巣の中心に浮いていた島に叩きつけられるようにして墜ちるだけ。
「見よ、あそこに誰かが引っかかっておるぞ!」
 はたとしたナスターシャがガレオンドラゴンの残骸を指差した。落ちていく船体の中央に人影が見えたのだ。
「いけませんわね、このままだと……」
「俺たちが行くしかないね!」
 あの人影が浮島に叩き付けられてしまう。そのように察したルビィとベルは急いで飛び立った。崩れていく木の板や折れたマストを掻い潜った天使達は、落ちそうになった人影に手を伸ばす。
「捕まえましたわ……!」
「キャッチ!」
「二人共、こっちだ」
「ゆっくりと運んでください。どこか怪我をしているかもしれません」
 何とか声の主を抱えたベルをルーファスが呼び、人型に戻ったテンスが甲板を示す。エイプリル・ミスト号にふわりと降り立った天使達から、声の主を受け取ったルーファスは、そっと『彼女』を下ろした。
「――女の子?」
「…………」
 ガレオンドラゴンから救い出された声の主は少女だった。意識を失っているらしい金髪の少女は目を瞑ったままだ。
 その背には小さな翼があり、腕の中には金に光る天使核が抱えられている。
「あら、翼がもふもふね」
「この子は天使のようだね」
 櫻宵は少女が呼吸をしていることを確かめ、翼が傷付いていないか確かめる。カムイも傷がないか調べていき、リルも興味津々に少女を覗き込んだ。
「怪我はないみたい。この天使核があの声を届けてくれてたのかな?」
「そうみたいだね! でもご飯も食べてなかっただろうし、弱ってないかな」
 リルがほっとする中、鈴鹿が心配そうな目を向ける。
 するとひりょが大丈夫そうだと告げた。
「何となくだけど、そういうことも含めてこの天使核がこの子を守ってくれていたのかもね。意識を失っているのも、きっと――」
 眠りにつくことで余計な体力を消費するのを避けていたのかもしれない。
 勘だけどね、と付け加えたひりょだが、ラシャもそれで合っているだろうと話した。そのとき、少女が僅かに動いていることにテンスが気付く。
「彼女が意識を取り戻したようです」
「わ、大丈夫?」
 おそるおそるベルが問うと、天使の少女は眠たげな瞳をゆっくりと開けていく。
「わたし、たすかったの?」
「そうだよ、もうあの大きなドラゴンはいないからね!」
 ベルは天使の少女からの問いかけに答え、浮島に落ちた竜を示した。どこかほっとした様子の彼女はぎゅっと核を抱きしめる。
 ラシャと鈴鹿も安堵を覚え、彼女に質問を投げかけた。
「きみ、名前は?」
「……」
「お家はわかる?」
「……」
 しかし、少女はふるふると首を横に振るだけ。どうやら記憶喪失のような状態に陥っているらしい。そして、櫻宵とリルもそっと聞いてみる。
「竜に食べられる前の記憶はあるかしら?」
「辛いかもしれないけど、聞かせて」
「ええと……」
 少女はぼんやりしたままだが、ゆっくりと答えていく。
「地面がしずんで、なくなって、みんなおちたの。
 わたしはこれを……だいじな核をだれかからわたされて、がんばって飛んできた。
 でも、とちゅうでとってもつかれて、あたまがまっしろになって……。
 きづいたら、たべられてしまって――」
 核を失くさないように抱きしめて、ずっと助けてと願っていたという。
 そうして、猟兵達が訪れた。
 このこと以外は思い出せないと語った少女の傍に、ルビィがそっと寄り添う。
「そうでしたの……」
 皆が落ちた、というところでルビィはある程度の事情を察していた。寿命が尽きた大陸は雲海に沈むのがこの世界の理だ。テンスやベル、ナスターシャ、ラシャも少女が住んでいた大陸が失われたであろうことを理解していた。
「ということは、おぬしは帰る場所も行くところもわからぬのか」
「……うん」
 ナスターシャが問うと、少女は俯く。
 記憶がないことの不安もあるのだろう。状況や経緯は違うが、ルーファスにも記憶がない気持ちは少しばかり理解できた。だが、何か切っ掛けがあればいずれは思い出せるだろうことも分かっている。
「うーん、どうすればいいのかな」
「保護して貰えるところって……」
 ひりょと鈴鹿が考え込んでいると、ラシャが天使の少女に手を伸ばした。不思議そうな顔をした少女に笑いかけた少年は提案を言葉にする。
「オレはラシャ! 良ければ、このエイプリル・ミスト号の乗組員にならないか?」
 記憶が戻るまで。
 そして、君さえ良ければ。
 そう語ったラシャをじっと見ていた天使は、暫し考えてからこくりと頷いた。
「えーぷりる、みすと号。ラシャ。よろしくおねがいします」
「ああ、よろしく!」
 少女と少年の手と手が重なったとき、朝が訪れた。
 雲海から覗いた太陽の光がエイプリル・ミスト号を照らしている。猟兵達は微笑ましい光景を眺め、無事に救出できた少女を見守った。
 リルと櫻宵、カムイは微笑みあう。ひりょとテンス、ベルとルビィも新たな出会いを喜び、よかったの、と目を細めたナスターシャに鈴鹿が頷く。ルーファスも肩に乗ったナイトと共に少年達に笑みを向けた。
 ラシャとの握手を終えた天使の少女が此方に向き直る。
「わたしね、なんにもわかんないけれど、ひとつだけわかることがあるよ」
 彼女は天使核を大切そうに抱きしめながら、猟兵達を見つめた。
 だれか、たすけて、という声。
 たったそれだけの思いに応えてくれたあなたたちへ、心からの言葉をおくること。

「たすけてくれて、ありがとう!」

 そして、帰路につく飛空艇は朝を迎えた空を飛んでいく。
 今日というこの日、エイプリル・ミスト号にちいさな乗組員が増えたことで、不思議と謎に満ちた運命が動き出した。
 此の戦いの終わりは新たな冒険の続きがあることを報せるものだった。いずれ、彼らと再びの縁が交わるときも訪れるのだろう。
 きっと――蒼域を巡る冒険譚は、此処から始まっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月20日


挿絵イラスト