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月下、さいわいを君へ編む

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●式日
 月のあわいひかりが照らす、白と緑の花畑。
 誰かの君のため咲き枯れる、悲哀の引受手。

 僕は病に臥せる母さんに。
 それなら私は、やさしいあなたの幸を祈り。
 人々の声が近付く中。花々は、舞い降りた招かれざる客をもやわらかく包み込む。
 芳香は甘美なバニラのよう。
 ピキュイ――。
 高く澄んだ音が空気を震わせて。
 次の瞬間、巻き起こった嵐が花びらを巻き上げた。

●月下、さいわいを君へ編む
 彼の村には、この時節になると花冠を編んで贈りあう慣わしがある。
 冠に用いられる花は年に一度、月の特別大きい日にだけ咲き、月の移ろいとともに萎れる。
 一夜限り咲く花――そんなものが、集った面々の暮らす世界にも存在するかもしれない。
 花冠は、その者に降りかかる筈であったあらゆる災厄を引き受けて枯れる。と、そうした言い伝え。
「丘一面にわっさり群生してて。見た感じアレだ、シロツメクサ? に似てっかな」
 夜の世界ではあるが、灯りとなるものを用意せずとも月明りで十分。慣わしはひとつの祝事とされていて、風の便りに訪れた旅人もささやかながら歓待される。
 ここまで聞けばアビ・ローリイット(献灯・f11247)による、ただのイベント案内であるのだが。
「その花、香りまでいいらしくて。こんままだと、お散歩中の獣に気に入られて食い荒らされちゃうんだよな」
 襲来の予知された獣が、天魔と呼ばれる魔獣の幼体。
 今はまだ花にも似ふわふわと害のひとつ無さそうな見目ながら、放っておいたならば成長を遂げ、被害は草花だけにとどまらない。
 ――なにより、暗い世を生く人の心を支える慣わしが潰されてしまうのは、如何なものか。
「うまくいきゃ獣の降り立つとこ、丘手前の小川で迎え撃てっかもだ。腕の見せ所ってやつ」
 で、とアビは続ける。
「そこの村人の死体、ってももうホネなんだけど。ホネも花目当てで目覚めちゃいそうだから、ついでにも一度眠らせてきてよ」
 この一年、オブリビオンへの抗いや病により命散らしたものたち。
 彼らの眠る墓地は、花畑までの道中にあるらしい。
 ホネ……スケルトンとは、現世への未練により動くとされるオブリビオンだ。
「さぁ、死んだことにすら気付いてねえんじゃない?」
 花冠に纏わる想い。なんてのが死んだ後にも続いてるなら、そりゃそれでお綺麗だけどさ。
 いずれにせよ仕事内容は変わらない。各々好きに受け取りゃいいと、途がひらかれた。


zino
 閲覧ありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、いたいけなおまじないに夢見るダークセイヴァーへとご案内いたします。

●最終目的
 オブリビオンを撃破して、花畑を守る。

 第1章:集団戦(スケルトン)
 第2章:ボス戦(天魔の幼獣)
 第3章:日常(花冠)

●第3章について
 花畑を守ることに成功した場合、旅人として村の慣わしを体験できます。
 花冠を編む、花畑で休む、等々。第3章開始時の導入もご参考まで、お心のままにどうぞ。
 数時間で枯れる、また枯れることまでがまじないのうちのため、花冠を持ち帰ることはできません。

 お手数となりますが……。
 複数人でのご参加の場合、【お相手のIDと名前(普段の呼び方で結構です)】か【グループ名】をプレイングにご記入いただけますと幸いです。
 個人でのご参加の場合、シナリオの性質上、今回は個人単位で執筆させていただくことが多くなると予想されます。ですが行動次第では、他参加者様と時間を共にする場合もございます。確実な単独描写をご希望でしたら、【単独】とご記入ください。

●その他
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。

 以上、ご参加を心待ちにしております。
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第1章 集団戦 『スケルトン』

POW   :    錆びた剣閃
【手に持った武器】が命中した対象を切断する。
SPD   :    バラバラ分解攻撃
自身が装備する【自分自身のパーツ(骨)】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    骸骨の群れ
自身が戦闘で瀕死になると【新たに複数体のスケルトン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 花咲く丘へ続くゆるやかな上り坂。
 森を抜けたばかりの此処はちょうど、その始まりとなる地点。
 人の姿はまだ見えず。代わりにしんと存在を主張するものは、道沿いに刺された不揃いな木切れ。
 それこそが、件の墓の標だった。

『はやくはやく、もう満開だよ!』
 後方より村人の声が風に乗って届いた時、眼前で音もなく土が盛り上がる。
 赤錆びた鉄のつるぎ。握りしめ地の下から現れるのは玩具のような、白い。

 わタシ、の、――。
 まダ、――。
 
 ひとの声?
 まさか。風がコツコツと鳴らす音の偶然だ。
 これはただの、しあわせになれなかった骨なのだから。
緋翠・華乃音
……命も花も、無為に散らせる訳にはいかないな。
……さて、始めようか。

戦場を広く見渡せる位置(森の樹上など、可能な限り遠距離且つ高所が望ましい)に目立たぬように狙撃銃を携えて潜伏。
優れた視力・聴力・直感をフルに活用し、視野を広げて状況を広範囲に渡って把握。
"目"と"耳"と"直感"で敵の行動を見切り、予測を立て、先読み――そして遠距離から狙撃にて援護を行う。
ユーベルコードは必要と判断した場合に使用。


クロード・ロラン
ダークセイヴァーにも、花を愛でる習慣のある場所があるんだな
俺の故郷は、そんな余裕なかったけど……いいな、そういうの
俺も花畑見るのが楽しみだ、頑張るぜ!

なるべく村人には敵の存在知られないままに倒したい
真っ直ぐ墓地へ向かい、素早い撃破を目指すぜ
人狼咆哮を使用、少しでも多くの敵を攻撃する
骨で反撃されたら、走ったり跳んだりでかわそう
仲間の攻撃で弱っているやつがいたら、大鋏で斬りつけ確実に倒していく
戦闘の手助けしてくれる仲間がいれば、感謝の言葉を

お前らも、花の香りに誘われたのか?
残念、あれは生者が未来に夢見るためのものだぜ
それを邪魔する気がないから、もう一度おとなしく寝ててくれな


ジナ・ラクスパー
死者にまで届く希望の花の香
この地に亡くなった方たちの
形に見えない記憶に留まっているのだとしたら
…しあわせな寄る辺だったのですね
災禍を避ける花に悲劇は似合わない
もう一度、安らかな眠りにお連れいたします

早く止まってと祈るも攻撃は躊躇わず
仲間や人々の傷に繋がるくらいなら胸が痛んで構わない
ただ不要な破壊だけは、決して

生ききれない絶望や口惜しさ
そんな終わりがあったかは知らない
でもそれなら猶の事
その手で誰かを悲しみに落とすことなどさせたくないから
振るう杖に迷いはしません
花雨にお熄みなさいの一言だけ添えて

いつかこの地のくらがりが照らされ
悲しみながら生き終える人がいなくなりますよう
…きっと叶えてみせますから



「……しあわせな、寄る辺だったのですね」
 木々のつくる影から一歩。
 月光に溶けるジナ・ラクスパー(空色・f13458)の瞳には、骨の体を突き動かす、形に見えぬ記憶が霞んだ。
 きっと笑い合い花を選び。君に似合うと手を重ね。次の式の日を待ち侘びて――……譲り受けた本のおとぎ話ではなく、現実。だが死者にまで届く希望の花の香はまた、少女の決意をも確かにする。
 災禍を避ける花に悲劇は似合わない。ともすれば傾きすぎる心を抑えてそして、立ち塞がるべく指は杖へ。
「もう一度、安らかな眠りにお連れいたします」
 何故。ナゼ? シっていルノにジャマをする?
 がなり立てる音量で無粋に骨を鳴らしたスケルトンが躍りかかる。
「ジナ」
 真っ先に剣を弾くのは、突き出された薔薇の意匠の大鋏。下がっていてと横へ伸ばす片腕でも守り、ひとりの少年が歩み出た。
 ぐっと頑張って此処まで駆け来て、まだ肩で息していてもおかしくはないのに、戦場に在るのなら一人前の男の顔をしてみせる。
「ダークセイヴァーにも、花を愛でる習慣のある場所があるんだな」
 語り始めは、そんな。
 余裕などなかった自らの故郷を思い返して。微か甘い匂いが鼻腔をくすぐることに、生来の素直な部分が快く耳を伏せさせた。
「……いいな、そういうの。お前らも、花の香りに誘われたのか?」
 髑髏は何も答えない。それでもクロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)は、これをただの物だとは扱わない。
 人であった名残のひとつでもあるのなら――。
「残念、あれは生者が未来に夢見るためのものだぜ」
 この手で、別たれた真実を。死者のあるべき場所を教えねばなるまい。
 少年は吼えた。
 ビリビリと空気を震わせる狼の咆哮は、魂の抜け殻までをも揺さぶる。
 手近にいたいくつかの骨と骨の接合部は音の圧に耐え切れず、不整合を起こす体ががしゃんと落ちた。
 そうでなくとも身の振り方すら忘れ、儘揺られる様はゼンマイのほどけきった人形。恰好の的だ。
 キィン、と。
 ハウリングに掻き消されぬ冴えた音が空気に伝わる頃には、さらに数体のスケルトンが薙ぎ払われている。
 ひとの形を崩し次々に吹き飛ぶ。現象はクロードが息を継ぎ、得物を構え地を蹴るそのときまで絶えず続く。
 もしも彼らに時間のスロー再生能力があったのなら、為しているのは剣や魔術の類ではなく、ひとつずつの弾丸であると分かるだろう。
 降り注ぐ流星の鮮やかさ――贈るは、一等高く丈夫な樹上に身を潜めた緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)。
「……さて、始めようか」
 命も花も、無為に散らせる訳にはいかない。
 木立に射し込む細い月の線に、右の十字が在り処を示す。

(「早く、止まって」)
 葬るほどに滲み寄る悲哀は夜の足音か。それでも。誰かが傷付くくらいなら、この胸の痛みなど。
 俯かぬジナの杖が幾度目かの透き通る水弾を放ち、捉えたスケルトンを錆びた剣ごと貫いた。
 飛沫が跳ねる。月光透かして水滴はきんいろに。
 スコープ越しに覗いているとまるで星をちりばめたかのようで、華乃音は薄ら濃藍を細めた。
「こんなところで、星見まで出来るなんてな」
 骨に触れるより、風の揺らぎより先に辿り着いた実弾が、その形が歪んでしまう前に撃ち抜く。向こう側にいた白色が砕ける。
 ぱぁんと弾けて一層細かに散る水の粒。
 煌きは――己の手だけが造り出せる、夜空みたいだ。
 戯れるようでいて身体は"デザイン通り"に機能している。
 依然として骸骨は目の前の敵対者に夢中。波立つことなく狙い合わせる華乃音は、土から出たばかりの動きが特別鈍いもの、猟兵の後方を取ろうとしているものから沈黙させる。
 to be alone. 名を受けた銃が叩き出した次の弾は、別な一体を相手取る少年に迫りかけていた錆の塊を弾いて逸らす。
「助かる!」
 見舞う蹴りとともに正確な援護に礼を言い、振るわれた剣の軌道に潜り込むように飛び込んだクロードは、眼の位置にぽっかり空いた穴を見据える。これから翳す終わりを告げに。
 俺も花畑を見るのが、楽しみだから。
 大切な夢を邪魔する気などないから。
「もう一度、おとなしく寝ててくれな」
 開いて閉じた、大鋏が頸椎を断って首を刎ねる。
 確実且つ迅速な死をと望むのは、直にここを通る筈の村人を想って。
 大切なひとを目の前で二度も喪うのは……とても、辛いに決まっている。
 こころを、流れ途切れさせず踏み出すジナも汲み取る。
 死に逝く絶望、口惜しさ。知り得ない最期がたとえ、
「どんな終わりであったとしても」
 風化して尚も愛するもののさいわい祈り伸ばされる、その手が悲しみ振り撒くことなど。
 させたくない。させはしないから、揮う杖には迷いなく。
「お熄みなさい」
 真に掴むべきは、終の安息。
 そう――振るう一挙で浅く深く、今までに少女が刻みつけていた水滴の種が一斉に花開き。
 蔦絡め這い咲くは骸骨らの身を覆い尽くす青の花。うつくしく花弁が揃い、しかし一夜の夢の如く、瞬きののちには雨となって降り落ちる。
 眠りにいざなうまじない。花雨の静けさは子守唄に似て、死者をやさしく綻ばせ、寝かしつけてゆく。
 狙撃手たる男の撃ち込む弾丸があぶれた個体を躍らせて招き入れ、雫に触れる端から誰も彼もが花の下へと折り重なっていった。
 束の間の静寂を、警戒続ける華乃音は弾の補充にあて。
 またひとつ護った世界を、落とさず抱きしめ歩むため。少女は杖に添えた手指をきゅっとつよく握る。
 約束は涙する胸のうち。
 いつかこの地のくらがりが照らされ、悲しみながら生き終える人がいなくなるよう。次の目覚めこそ夜明けであるよう。
(「……きっと叶えてみせますから」)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

須藤・莉亜
「花を見ながらお酒飲むってのも風情があって良いかもねぇ。」
まあ、その前にお仕事かな。

眷属の腐蝕竜さんを召喚して彼に乗って戦う。
他の人の邪魔にならないように腐蝕竜さんに空へ飛んでもらい、僕は空から対物ライフルのLadyに血を与えつつ敵さんを狙撃していく。

腐蝕竜さんには【蝕む吐息】で敵さんを攻撃してもらう。

「んー、僕の眷属にするために、何匹か持って帰れないかなぁ。」
腐蝕竜さんの餌にするには肉が無さすぎるしね。


オルハ・オランシュ
生きていた頃の君達を、私は知らない
でも、こんな風に暴れるような人達じゃなかったことは信じてもいいよね?
一度命を落とした人はもう目覚めちゃいけないの
それが世の中の理だから
……起き上がりたくなるぐらい強い未練があったとしても、ね

ばらばらに飛んでくる骨はよく見て
【野生の勘】も併用して【見切り】を狙おう
――今の君、隙だらけ
体勢を整えられる前に【早業】の【カウンター】
【範囲攻撃】で他のスケルトンも巻き添えにしちゃうね
ごめん、巻き込んじゃった?

他の猟兵との連携は常に意識しておくよ
叶いそうなら協力して、息を合わせたいな


エンジ・カラカ
なァ……なーにのこのこと起き上がってンだ。
この世に未練があるのカ?それとも花冠が欲しい?
あげられないなァ……。

こんなヤツらは良く居たなァ……。間違えて起きて来る。
だからまた子守唄を歌うンだ。
先制攻撃で人狼咆哮。ささやく声なんかよりもずっと眠れそうだろ。

賢い君の出番ですらないなァ……。コレが眠らせる。
素早さを生かして敵を翻弄、または味方が攻撃しやすいように引き付ける。
ホネの相手はよーくやってたなァ……。
たまに声が聞こる気がしてウルサイウルサイ。
アァ……口から塞ごう。


絢辻・幽子
甘い香りは、色んなものを呼ぶんですね……
まぁ、私も呼ばれたモノですけど。

骸骨さんたちは、花をもらえなかったんでしょうか?
そんな事考えてたら、可哀想になってしまいますが
あなた達は、起きてきてはいけないです。

んーバラバラになられても困りますねぇ
私パズルとか苦手ですから……
糸でぐるぐるーっとしてしまいましょう

お眠り、お眠りよ。
寝不足の私に言われたくないと思いますけど
私はいいの、死んだらいーっぱい眠れるもの。ふふ。

(のらりくらり、とした狐。お好きなようにどうぞ)



 おぉー、と場違いにも間延びした声は上方から降った。
 だとして気分上々な色に程遠いのは性分。須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)はいま眷属である腐蝕竜の背にあって、この高さなら丘の花畑がすこしだけ見えるのだ。
 話通りの、海のような白が。
「花を見ながらお酒飲むってのも風情があって良いかもねぇ」
 ドラゴンゾンビの姿といえば、墓地の風景が似合いすぎていて。一目みたときは新手かと感じた猟兵もいたことだろうが、乗りこなす男の存在がなによりの証明であった。
「もうちょっとで槍投げちゃうとこだったよ」
「甘い香りは、色んなものを呼ぶみたいですからね……まぁ、私も呼ばれたモノですけど」
 冗談風味でありながらしたたかに骨の一体を叩き飛ばすオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)の声に、絢辻・幽子(幽々・f04449)はふふふと笑みを漏らす。
 取って食ったりはしない?
 いいや。影を引き摺って女が歩めば、じりと身を引くスケルトンは本能的な恐怖を忘れてはいない。
 艶やかに黒いドレスがナニを覆い隠しているのか。
「そう怯えないで。骸骨さんたちは、花をもらえなかったんでしょう?」
 私はそれがとても可哀想におもえます。
 照らされて尚の事白む頬に指を添え、離したとき、身の内から零れ出たかのように血の如くな赤糸が握られているのは上質なマジックか。
 それはぶわりと風に広がって――繊細に、紡ぎ獲物をとらえる蜘蛛糸。
 体の自由を奪われたスケルトンがもがく最中、だけれどもねと、銀の杭ほどの冷やかさで幽子は続けるのだ。
「あなた達は、起きてきてはいけないです」
 反発するみたく骨のガタガタ音が何重にも重なって、エンジ・カラカ(六月・f06959)が耳の調子を整える風に自身の頭の片側を叩いた。
 からから――なんて、内からはもちろん響きやしないが。
 骸骨どもの音。たまに意味のある声がきこえる気がして、うるさい。
「なァ……なーにのこのこと起き上がってンだ」
 地を這う温度感で向けるのは声の他に、瞳。
 漸く糸払い生者を抱き込もうと伸ばされた腕。刃を握る片方を、肘で打ってへし折る。
「この世に未練があるのカ? それとも花冠が欲しい?」
 もう片方の手指はこちらから握り込みにゆく。
 引く腕で、ぐっと寄せる体。食めるほどの至近距離。眼窩はどこまでもまっくら。
 あげられないなァ。
 囁き声ばかりやさしく。死者とのダンスにも慣れたもの、足払いひとつ、地面に叩き付ける褪せた体。それだけで軋む音とともに罅割れる。
 ゆぅるり睨め上げた視線をずらり取り囲む骨の群れはひとらしく、一体が気を引いているうちに大勢で叩いてしまえと考えたのだろうけれど――これもエンジの計算のうち。
「せっつかなくても、歌ってやろう」
 パーティには沢山で集まってくれなくては。
 選ぶのは、ささやく声なんかよりもずっと眠れそうな子守唄。途端、人狼である男が"歌った"咆哮がスケルトンらにぶつけられた。
 黒色の獣を中心として放射状に骨が飛び散る。
 眺めとしては花畑とさほど変わらない。などと莉亜は地上の戦いを見下ろして、ちょうどブレスで団体様を屠ったところの竜の首を撫でた。
「うん、お仕事はサックリザックリってね」
 酒と酒、ついでに本物を拝むためにもさっさと終わらせてしまおうか。
 触れる白き対物ライフル、Ladyは返事こそしないが従順に命をこなす。わざとつくった手首の切り傷から滴る赤が、色付けるごとに機嫌良く。
 常通りといえば常通り、貧血気味で感覚の怪しい莉亜を契約した精霊が補って力一杯に引き金が引かれる。
 ドォンと激しい衝撃音と反動があったとて、爛れた鱗にワイポッドで固定した照準はそうブレない。大体が下は墓墓墓、どこを撃ったって的な状況だ。
 伏射の腹這いで広い背から覗き込む下方、周囲の敵が根こそぎ払われ見上げる少女と目があった気がして男はゆるっと手を振った。あ、血が零れた。
「やほー、案外いい眺めだよぉ」
 なんて言ってるんだか。
 礼は後、オルハはふいと視線を脇へ外して。
 呼吸など必要としていなくとも、竜の毒の吐息は骨の内まで染み渡る。地に転がり、土塗れになって悶え苦しむものに僅かばかり表情曇らせ、少女の槍がとどめを刺した。
 ――生きていた頃の君達を、私は知らない。
 でも、こんな風に暴れるような人達じゃなかったことは信じてもいいよね?
 声にも出さぬ呟き。否定、肯定、どちらもなく次々に襲い来る攻撃だけが意志を持つ。
 イキタイ。
 イキテイタイ。
 イキテモウイチド、アノヒトト。
「だめだよ」
 一度命を落とした人はもう目覚めちゃいけないの。
 穿って聞かせる、翼の軽やかさで閃くウェイカトリアイナ。金の矛先は血に汚れることもないし、手応えだって軽い。
「それが世の中の理だから」
 それでもたしかにこの不条理を、伝える力を持って奔った。
 がらくた同然砕けた骸を踏み越えたなら、グリーンに光る瞳に翳りはない。敵はまだこんなに残っている。私は私の今日のため、過去を置き去りにする。
(「……起き上がりたくなるぐらい強い未練があったとしても、ね」)
 少女はまた、走る。

 バラバラに、或いは粉微塵になった骨たち。
 瀕死の状態――もっとも既に死んでいるが、二度目の淵で踏み止まったものたちは自ら体を分解して飛び道具として扱っていた。
「んー私、パズルとか苦手なんですよねぇ」
 せめてひとの形らしく終えさせてやろうと思っていた。かは定かでないが、垂れ眉の哀しげな幽子は迎え撃つ糸でとらえてゆく。
 一度触れれば粘着性でも持つみたく、再度飛び立つ前にぐるぐると巻き取ってしまう。
「ねぇ、そちらの暮らしはそんなにも悪いもの?」
 張り巡らせてあやす赤。抗いを忘れたのなら、深い眠りが待っている。目の下に濃い隈をつくった女は、私はいいのと微笑んだ。死んだらいーっぱい眠れるもの。
 いずれ誰もが抱かれる揺り籠ならば――お眠り、お眠りよ、そう繰り返す声は今だってひとの身のものであったろうか。
 月に雲はかからぬのに、器用な指先が編んだベールが地に映り込む影を増す。
 羽根を奪われた蝶の末路は?
 当然。
 オルハの反応が速い。回し持ち跳ね上げる柄で粉へ還す、中空で静止か漂う有象無象。支援に目配せ踏み込み一瞬、慌てて体を分けようとし始めた個体に暇与えず三叉槍が届いた。
「――今の君、隙だらけ」
 突いて、薙ぐ。鋭利な切っ先、乗せられた体重は薄っぺらな骨の胴では受け止めきれず。半円上、届く範囲なかよく地に伏せさせた。
 外れた小骨がこつんと頭にぶつかったのだけ目立った抗議。オルハはそれが落ち切る前に手に収め、持ち主に返してやって首を傾いだ。
「ごめん、巻き込んじゃった?」
「アァ……まとめてがイイ」
 ホネっていうのはよく知っている。じゃないとすぐに叫び出すんだ。叫ぶみたくに、哭く。ウルサイウルサイ口元をエンジの左手が鷲掴む。
 口から塞ぐのがもっといい、溜め息混じりひとりごちると右手に掴んでいたナイフじみた骨片を顎に突き立てて、二度とおしゃべりできないように。
「ありがたく甘えておけヨ」
 此処に来たのが"コレ"だけだったなら、こんなにも手厚く葬ってなどやりはしなかった。
 突き飛ばしたその空間に、濁ったブレスが吹きつけられる。
 なんとか体を組み上げ一矢報いんとしていたものたちが膝をついた。前のめりに倒れ伏す。ここから続く惨状は知っての通り――終わりにすべく、得物を構える面々に代わって弾丸が降った。
「あれ。眷属にする分のこってるかなぁ」
 とぼけ顔の莉亜。土の下で未だ目覚めぬものたちへ向け、おーいだとか声を掛けて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

キトリ・フローエ
幸いを願う花なんですってね
一夜限りで枯れてしまう…っていうのも
とってもロマンチック!
そういうの、あたし好きよ
だから、災いとなるものは全力で退けて、村の人達の想いも、花達も、守ってみせる

一緒にいる皆と協力して戦うわね
あたしはエレメンタル・ファンタジア(光の雨)で広範囲に渡っての属性攻撃を
出来る限り激しいものにならないよう、制御もちょっと頑張るわ
痛くしてしまってごめんなさいね
でも、あなた達は今、目覚めるべきではない
花に惹かれて目覚めてしまった人々の亡骸がもう一度穏やかに眠れるよう、祈りを込めて
攻撃を受けた仲間がいれば、シンフォニック・キュアで回復を
天魔を迎え撃つための準備、しっかり整えないとね


終夜・嵐吾
花冠、か……作ったこともない、贈る相手も、と思うのだが。
だが心惹かれるものがある。月の移ろいとともに萎れるは……それはよう、己をわかっておる花なのじゃろうな。
彼の村には大事な事、それが潰えぬようにわしも手を貸そう。

協力できる見知った猟兵がおればともに。
ホネ。ホネじゃな。
再度眠りにつけるよう手を貸そう。
まだ愛でていないゆえ、なれらが毎年見ていた花は見せてやれんのじゃ、すまんな。
かわりにカモミールの白き花を。
逆境に耐えてはてた慣れらの癒しになるように。
虚ろの主よ、たまにはこういうのもよかろうよ。なれは奪うだけでなく与えるものであっても良い。
再び安らかに、眠っておくれ。きっとそれがさいわいじゃ。


チロル・キャンディベル
1日、夜だけのお花なんてすてき!
村の人にとってもたいせつなお花だもの
チロ、がんばってお花のことまもるのよ!
みんなと力をあわせればだいじょうぶ
がんばるの、えいえいおー!

出会ったスケルトンさんはなんだか悲しそうに見えて
チロ、死ぬのとかあんまりわかんないけど…
見てるとさみしいって、思うのよ
助けてあげたいけど…たおすしか、ないのよね?
ごめんなさい

攻撃はエレメンタル・ファンタジアで風をおこすの
スケルトンさん足止めしちゃうのよ
みんなのだいすきなお花、あとでおはかに持っていってあげるの
っておやくそく

風にのって
せめてお花のかおりがしないかしら?
スケルトンさんのさいごの思い出になればきっとしあわせなの



 呼び声に反応したものかは、分からない。
 次の屍が土中から姿を見せるのにそう時間は掛からなかった。
 罅や焦げ、刀傷の目立つもの……村が現在の小康状態を手に入れるまでには、恐らく大きな戦いがあったのだろう。
 この道の先にあるものは、そうして守られた想いのひとつ。
「次はあたしたちが、守ってみせるわ」
 一夜限りで枯れる、幸いを願う花。ロマンチックな花達、村の人達の想いのどちらもとっても素敵だものと、そう妖精が運ぶものもまた祝福である筈だ。
 キトリ・フローエ(星導・f02354)の引いた星のあとを辿っていて、急に留まって杖を構えた彼女にちょっぴりつんのめりそうになりながらも、顔を上げるチロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)だって立派な猟兵。
「そうよ。チロ、がんばってお花のことまもるのよ! みんなといっしょに……でも、スケルトンさん、さむそうね」
 元気に拳を握ったけれど。こうして向き合えば見慣れたもふもふとは程遠い、剥き出しの骨の体を案じてしまって声と尾がしゅんとなる。
 帽子の下、やわらかな毛並の頭に安心させるように手を置いた終夜・嵐吾(灰青・f05366)が首を振った。大丈夫と、笑み。
「凍えることなぞないように、わしらで眠らせてやろうな」
 花冠。
 作ったこともなく、贈る相手も、と思うそれ。
 月の移ろいとともに萎れる彼らは、きっと自らのさだめをしっているのだろう。惹かれる心に正直に、潰えぬようにと未だ見ぬ花を想って並ぶ。
 うん。ちいさく、子狼が頷いたとき骸骨らも動きを始めた。
「いけるわね、チロ!」
「がんばるの、えいえいおー!」
 阻むのは、二人がともに唱えるエレメンタル・ファンタジア。キトリが光の雨を、チロルが風を呼び寄せる。
 ごおっ、と、土ごと巻き上げる嵐が雨脚をより一層強いものとして打ち付けて。
「痛くしてしまってごめんなさいね」
 囁きは風の音に負けてしまうかもしれない。でも、と。
 暴走しやすい力の手綱を強く握る自身をイメージし、妖精はFleur belle――想い通わす杖に両手と額を添える。祈る。祈り続ける。
 花に惹かれて目覚めてしまった亡骸に、今一度の穏やかな眠りの訪れを。
 そしてそれを為すための、力を。
(「……キトリ、飛んじゃわないかな?」)
 でも、嵐吾もいるから何かがあってもきっとだいじょうぶ。はたはた揺れる透かし翅から岩に木、地面にまで叩き付けられるスケルトンへと視線を戻すチロル。
 助けてあげたいけれど……倒すしか。
 "死ぬ"ってどんなことなんだろう? 心と意識をしゃんと保つためお気に入りのポンチョに皺がうまれるほど指を食いこませた。必要以上は傷付けない、ここへ来る途中、キトリとゆびきりで決めたもの。
「かなしいのも、さみしいのも、おしまいよ」
 そして、めいっぱいの明るさで言葉を贈る。これが辛い終わりでないと、届いてほしい。

 ちいさきものたちが体を張って尽くす姿をただ眺めている嵐吾ではない。もちろん妖精が吹き飛ばされぬようその後ろに立っていてあげたし、それに。
「花を咲かすには悪くない天気じゃの」
 贈り物の支度も済ませた。
 はらはらと男の周りに漂いはじめる花びらは白く、死者もが求めた夢の色。風がすぐに吹き消してしまうから、瞳から零れ落ちたものだとはずっと気付き辛い。
(「虚ろの主よ、たまにはこういうのもよかろうよ」)
 なれは奪うだけでなく与えるものであっても良い。今はうるわしく姿を変えた右目の怠惰へ念じておいて、行く末を見送って。
 髑髏が微笑って見えた。
 剣など放り、掻き混ぜる嵐の中を羽ばたくみたく両手ばたつかせ花集め。雨にも穿たれ隙間だらけの器には、なにも残せない。それでも何度も繰り返す。
 嘗て愛でたものにだけ化けることのできる制約の中、男が選んだ花はカモミール。逆境に耐えてはてた彼らの、癒しとなるように。華に喰われ、次第になくなってゆく"自分"に気付かず済むように。
「なれらが毎年見ていた花は見せてやれんのじゃ、すまんな」
「……嵐吾、もしかして、痛い?」
 不意のそれは、傍近くへおのずと舞い降りたキトリの声。
「ん……いや。ははっ、なんともない」
 痛みなど疾うに通わぬ筈の眼窩。花弁が掠める微かな痺れ程度、涙みたいだと案じられるまで気にも留めなかった。もしも激痛だったとて、身を裂かずして誰のいたみを知れようか。
 いつも変わらぬ朗らかな面持ちがそこにあっても、妖精の紡ぐ歌はシンフォニック・キュア。やさしい癒しのためのもの。仲間の言葉を疑うわけじゃない、友人が大事だから。
「すこしの無理も禁止。天魔との戦いもあるんだからっ」
「あぁ、ハイ、それは言えとる」
 それがどこかくすぐったい。またすぐに飛んで行ってしまう彼女へ礼も間に合わず、頬を掻いた嵐吾の指は次にとんと右目の洞に触れた。まだいけるかと尋ねる風に――もっとも、答えは知っていて。
 白蛇のように。零れ、集い、ひときわ色深い花渦が、口を開いて群れを呑んだ。
「安らかに、眠っておくれ。きっとそれがさいわいじゃ」
「みんなのだいすきなお花、あとでおはかに持っていってあげるの」
 死の、先を継ぐ狼娘のごめんなさいは、裏切りの無いおまじないとともに。

 まつりの日だと、朋の誘いに応えて目を覚ますものが幾つかいたがやがてそれもいなくなる。
「……あっ」
 ぽつりと声を落としたのはチロルだった。
 ほっとしていっぱいに深呼吸をした彼女はいちはやく、花連れ舞い起こした風と雨がバニラの香を濃く運んできていたことに気付いたのだ。
「お花のかおり、みんなのさいごの思い出になったかしら」
「なったわ。あたしが言うんだもの、ほんとうよ」
 自身のよれを差し置いて、頑張った少女の衣服を整えてあげながらキトリは声を大にした。
 偽りはない。どこにも、ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティアラ・パリュール
……悲しい、ですね。
亡くなった後、安らかに眠る事も出来ないなんて。
皆さん、もう十分に苦しんだはずです。
もう一度、今度こそ静かに眠っていただきましょう。

それには炎による浄化……火葬してしまうのが、やっぱり一番いいんじゃないでしょうか?
ふくろう型ガジェットのフクちゃんを、スケルトンに向けて飛ばしますよ。
フクちゃんが被ったシルクハットが少しだけズレると、その下から炎が出てフクちゃんの身体を覆います。
そのまま体当たりする事で、対象にダメージを与えて炎上させることができるんです(属性攻撃3、誘導弾1、空中戦1)
余計に苦しむことが無いように速やかに(優しさ2)、また炎を使うので風向きには注意してみますね。


氏神・鹿糸
シロツメクサ…に似たお花なのね。香りに誘われて来てしまったわ。
そろそろ春も近いし、花に会えるのは楽しみね。

「あなた達も花の香りに誘われて来たの?本当は一緒に楽しめたらよかったのだけど…」
未練のある骨ねぇ。
害がないなら一緒に楽しめたのだけど…せめて私が出す偽物の花で我慢してちょうだいね。

UCを使用。
日傘の先から、光線を発して攻撃。
一撃で終わらせるよう毎回[全力魔法]で行くわ。
……それぞれ攻撃しつつ、敢えて適当な処にUCを撃って小さな花畑を作ろうかしら。
花冠に惹かれた骸骨へ、偽物の花畑を。

もう一度、殺すなんてことをしてごめんなさいね。
せめて、花畑の中で休んで。

(アドリブ歓迎です)


クレム・クラウベル
朽ちた骨に魂は残っているものだろうか
……考えても詮無きことか
何にせよ、死者は生者に戻らない
そうして死したならば静かに眠るべきだ
あるべき姿へ還れ

差し向けるのは祈りの火
花でも送ってやれれば良かったが、今は手持ちがない
揺らめく炎を花の代わりに咲かせて
悪いがこれで容赦願おう
敵の周囲を囲うように炎を広げ、逃さず焼き尽くす
周囲に無駄に延焼せぬよう操作怠らず

未練を持つことを咎めはしまい
だが、過去が未来を喰い荒らすならば
見過ごすことは出来ない
今一度眠ると良い

再び目覚め彷徨うことがないように
祈りなら望むだけ捧げてやる
……花を求めるなら後で届けに行こう
それで満たされるかは分からないが
一夜ばかりの慰めにはなるだろう




「……ということは、こちら側の皆さんで最後でしょうか」
 嵐の巻き起こった側とは反対。
 タックルを入れ、戻ったふくろう型ガジェットが手に留まる。ティアラ・パリュール(黄金と蒼の宝冠・f00015)の呟きに、隣で敵の姿をじぃと眺め遣るのが氏神・鹿糸(四季の檻・f00815)。
 いきり立ち剣を振り上げる様子はどこからどう見ても、お友だちにはなれそうにない。
「そうみたい。本当は一緒に楽しめたらよかったのだけど……」
 ――ザン! 脈無しねと結んだ目と鼻の先を鉄が過ぎり、スレスレでひょいと頭を引っ込めた鹿糸に肝を冷やすのは当人というよりも周りだ。
「いっ、今のは切れていませんか……?」
「茶飯事なのだろう、掠りもしていない」
 あせあせと伸べかけた手の行き場を迷うティアラであったが、一瞥だけで落ち着き払ったクレム・クラウベル(paidir・f03413)がいたことで息つき胸を撫でた。
 さて。クレムの瞳はまた違った謎湛えスケルトンを捉える。
 朽ちた骨に魂は残っているものだろうか。オブリビオンに堕ちた今、ひととしての想いは。
「……詮無きことか」
 生も死も考えたところで。不可逆であるとこの身がよく知っている。
 過去は過去へ。未来を喰い荒らすならば、手向ける力はひとつ以外ない。
「祈りよ灯れ、祈りよ照らせ――……」
 オラティオ・イグニス。祈りの火。
 書の一ページ、淀みなく読み上げる祈祷文から沸き立つ炎は聖職など形ばかりの荒々しい劫火。じりじり身を焼く聖火とどちらが救いか。それは、浴びたものが決めればいい。
「花でも送ってやれれば良かったが、今は手持ちがない。悪いがこれで容赦願おう」
 彼らの寝床を覆う僅かな命までも奪うことを、男はよしとしなかった。
 瞳伏せ、徹底的に注ぐ集中。その刹那に寄りつくスケルトンや骨片は鳥と光とが弾き返す。そうして水の如くに地へ零れ、囲いと広がる白炎は狭まる度に死者のみを這い上る。
「お前たちが、遺せるものはないだろう」
 アアァァ、アア、――ァ。
 踊り狂うにかなしみもよろこびも違いはない。白く、しろく火だるまとなった骨は輪郭も朧。じゅうと、高温でものが炭化するときの音を上げて消えてゆく。
「……その代わり、洗礼は要らない」
 あるべき姿へ還れ。
 垣根なく、見送られるべきをおくる。クレムの"葬儀"は幾分と力技ではあったが、であればこそ神に見放された終焉にまで寄り添えた。

 きれいね。通る、拍手と数少ない参列者のことば。
「同じく手持ちはないけれど。選ばせてあげるというのも、素敵かしら」
 物言わぬ器物だった頃の鹿糸には、いくら望めど行けない場所がいくつもあった。
 死に場所もまた同じ? そうなのだったら、私がお花を咲かせるわ。
「たしかシロツメクサに似ているんだったわよね。じゃあ、見てて」
 前置いて狙いを外した光線は着弾地点に花畑を生む。墓上にまばらな白と緑の小花が咲けば、数体がぐるんと頭の向きを変えた。
 いのちを持って芽吹いた存在ではない。仮初だが、この嘘はだれかを不幸せになどしない。
「それと。……もう一度、殺すなんてことをしてごめんなさい」
 意識の逸れたものを順に撃ち抜くことは、驚くほど簡単だった。
 光線が突き抜ける。一体二体、倒れさせときに地面にまで浸みこんだそれが、また新たな三つ葉をつくる。
 本物の植物も――きっとひとの命だって、こんなに手軽なものではない筈と、分かるから。
 申し訳なさに我知らず下がった声のトーンは、よいものをよいと、ありのまま受け止める純粋さを持ったティアラが引き上げる。
「鹿糸さん。わたしは、初めてこのお話を聞いたとき、悲しいなって思いました」
 でも今はほんのちょっとだけ違います。
 ふくろう。フクちゃんと呼んでいるガジェットは、指を組み、等身大で言葉を紡ぐ少女のもとから休みなく勇敢に飛び立ってゆく。
「十分に苦しんだ皆さんが、今日、逢えたのがここに集まった皆さんでよかったと。……そう」
 現に鹿糸は常に全力で練り上げた魔法を操っていた。ティアラも同様、"くるしい"はもう必要ないからと持てる力を注ぎ込むのだ。二人には通ずるところがある。
 フクちゃんのおめかししたシルクハットがずれた隙間から炎が噴き出、すぐに体中に伝い、火球と化してスケルトンへ追い縋る姿はトラブルでなく仕様通り。これが二人のガジェットショータイム。
 思惑通りに一度で骨を崩す活躍にぴょんこ跳ねた少女は、自らの帽子もずり落ちかけたことにハッとして頭を押さえ。その流れで高くにある鹿糸のものと目合わせへへにゃりと笑ってみせた。
「なので……なのでっ。それにお花、とてもかわいいです!」
「ありがとう。ちいさな天才さん」
 それじゃあやっぱり、お別れは笑ってがいいわね。
 ふっと微笑返した女が傘を取りまわす。光線が灼く、少女の死角であった後方から迫るおかわりの一体。余波で結果飛びかけた帽子は、賢いふくろうが咥えて主の頭へ乗せ。
 さようならを、薄紅に形の良い唇がしらせた。
 塗り替えられるほど銀十字に緑の大地が青々と。黙するクレムは五指で胸元を握り包む。一面の赤よりは、触れていたい。
(「花か」)
 ダークセイヴァーに生きてきて、こうも華やいだ終の方が憶えがない。
 己が捧げられるとすれば、祈りなら望むだけ。
 尚も一夜の夢を求むるならば、届けに行こう。
 すべての後で――見つめる男の双眸の先、もっとも楽園へ近い墓の一画が蠢いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ペチカ・ロティカ
月明かりが、あんまりにもあかるいからかしら。
――夜の訪れに、気付かないのね。
ねぇ、”くらやみさん”
かれらの目を閉じさせて、夜の訪れをおしえてあげて。

自分の血で呼び出した”くらやみさん”――
骨に遺った想いごと、牙剥く影で飲み込んで
暗闇の腹のなか、そこで安らかに眠ればいいの。

……ペチカには、その未練だって、すごくまぶしいの。
ペチカにもいつか終わりが訪れたなら、そのときは
そんな”こころ”を、のこせるかしら。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。夜闇に覆われたこの世界でも珍しい、良い月夜ね
一夜限り咲く花。災厄を引き受けるっていう実利も気になるけど…
…ゆっくり眺めるのも悪くない…かな?

他の猟兵と連携。第六感が危険を感じたら回避優先で行動
私は暗視があるけど、念のため頑丈なランタンを用意しよう

敵味方の行動を見切り【限定解放・血の教義】を発動
一瞬だけ吸血鬼化した生命力を吸収して魔力を溜め
死者の呪詛を浄化する“光属性の風”で2回攻撃を行う

…ここは今を生きる人の幸いとなるべき場所
死者が居ては生者が安らげない。だから元いた場所に還って…

光の力の反動で傷口が抉られるような痛みに耐え
二度と迷いでる事が無いように祈りを捧げよう

眠りなさい。安らかに…


ニコラス・エスクード
末期の世界とは花に満ちているのであったか。
であれば此の世と彼の世を違えているのやもしれんな。
帰してやるのが宜しかろう。
その未練も愁いも散らしてくれよう。

人とは、どうにも花に魅せられるらしいな。
それが命尽き果てた先、
骨のみとなってもとは恐れ入る。

お前達の命が何故に散ったかは判らぬ。
その身に抱えたものが何であるかも知らぬ。
その未練が報復の意思を宿しているのなら、
此処で俺が喰らい尽くし必ずや果たしてやろう。
故に再度眠るが良い。永遠にだ。

我が身に流れる紛い物の血で濡らした刃を、
喰らい尽くすための刃へと。
向かい来る剣閃は払うに及ばず、
その凶刃ごと叩き斬り、食い潰してやろう。


グリツィーニエ・オプファー
過去に命を落とした者達
その亡骸であれど、災厄を引き受けるとされる花がよすがなのでしょう
――然し、それは生きとし生けるものへ託されるべき品で御座います
申し訳御座いませぬが、御引き取り頂きましょう

黒剣、ハンス――杖の精霊を黒藤の花弁に変え、攻撃致します
可能な限り複数を巻き込む様に御業を行使
無論、狙うは骸骨のみに御座います
数を増やされようとも、狙う個体が増えるだけの事
とはいえ高い戦闘力を有するのであれば油断は出来ませぬ
早急の撃破に向わなければ
死角より猟兵を狙う個体が御座いますれば声掛け、排除を行いましょう
共闘する猟兵方と行動を合わせられそうならば、積極的に我が力を御貸し致します

――さあ、お休みなさい



 ふぅわり、ふわり。
 焦がし、ひっくり返され、暴かれた土塊の上を、丸にほど近い月の落とした雫が滑る。
 ぽうとして熱を持つ橙の正体は、しかし近付けば月ではなく、ひとつのランタンだった。
 なきごえが、きこえたの。
 夢見る迷い子の覚束ぬステップ。ろうそくみたいに密やかな、乳白の髪を揺らしてのカーテシー。ペチカ・ロティカ(幻燈記・f01228)の訪れに、随分と遅れて骨の体が振り返る。
「――夜の訪れに、気付かないのね」
 月明かりが、あんまりにもあかるいから。
 影もずっと色濃くなる。
 ねぇ、――……あどけなくだれかの名が喚ばわれた刹那、伸びた影踏み、駆け来たひとの手が魔力孕んだ風を薙ぐ。その腰でも備えた灯が躍る。拡散する星が賑わう。
「……ん。この世界でも珍しい、良い月夜ね」
 吸血鬼狩り、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。本日の獲物はすこし毛色が違うけれど、花の噂に実利だけでなく惹かれるものがあったから。
(「ゆっくり花見も悪くない……かな?」)
 なんて年相応の好奇心も顔には出ずに。冷然と手繰るは加減知らずのリミテッド・ブラッドドグマ。
 まるで光の屈折がそうさせるように、瞬間だけ様変わりした瞳こそが真祖。
 ここは生きる人の幸いとなるべき場所。生者の安らぎを願うなら、死者にもまた同等の――ったんと、迫る骨を躱しより深く踏み込めばつむじが付き従う。
「迷わないようについてきて」
 祷りの純度で呪詛を以って呪詛を喰らう。光の旋風は二度撫でつけて、抗うものの頭を垂れさせる。つるぎ取り落とした体はカタカタと鳴りだしてすぐ、自壊を始めた。
 生じた大きな穴。
 非常事態時に、出入口へ群がる人々? もしくは垂らされた蜘蛛の糸?
 はじめに花園へ辿り着くのは自分だと、押し合いまろびで、一斉に雪崩れかかったそっくりさんたちは自らの首が刎ね上げられて稼いだ分の距離まで争っている。
 グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)は一本道を背に。足元まで転がってきた……否、転がした髑髏に、揮ったばかりで白化粧をした黒剣を突き立てた。
「申し訳御座いませぬが、御引き取り頂きましょう」
 常ならば艶やかに薔薇をはぐくむBarmherzigkeit。今宵散らすはよすがとあれば、あぁ、亡骸からすら奪うのか――藍色めいた吐息が零れてしまうものの。
「――彼の花は生きとし生けるものへ託されるべき品で御座います」
 砕けた骨がまっさらなままで黙するように、男もまた語らず世界を眺め見る。花天蓋は暮れる夜凪。そこに黒影落とすのは、濡羽をもつ鳥の子だ。
「ハンス。供を」
 主のまわりをくるり一周、それから脅威へと飛び掛かる嘴の先は啄むため開かれるのではなく、綻び、己が存在を花弁へとつくり変えるため。
 分け与える、黒き豊穣。
 骨の振り回す剣が鴉に触れたそのとき既に、四散した体は黒藤となりて。ただの花吹雪とは異なり思考を持ち、吹きつける檻に閉じ込め害を為す。
 体を細かに抜けんとすスケルトン。たとえ奇跡に近く趾節骨が逃れ出たとて、そこもまた暗闇のはらのなかに過ぎぬのに。

 ばくんっ。

「目を閉じなくてはいけないわ」
 おしえてあげて、くらやみさん。そう、ペチカが願うから夜より昏い影が膨れ上がる。
 まるごと喰らわれた骨は底の無い安寧へと引きずり込まれた。消える間際の指先の震えも余さずくるんで、遺った想いごと奥へ。……奥へ。
「……ペチカには、その未練だって、すごくまぶしいの」
 目立って小さかった手指のそばで、しゃがみこむ娘はさいごまで指を絡めていた。
 やさしさとはすこし違う――ペチカの手の腹には切り傷がついていて、くらやみさんに支払う対価が血であるから。
 ぽつぽつと。指伝いの給餌に過ぎなかったこの行為が、なんだかいつもと異なって思えるのは縋りつく力の強さ故だろうか?
 淡い橙があたためる、骨だけの体。ひとになれない体。
 そこに"こころ"は、あるのかしら。
 そんな"こころ"を、のこせるかしら。
 ペチカにもいつか終わりが訪れたなら、そのときは。

 亡者の嘆きは、目覚めの淵から遠くあったものをも揺さぶるようだった。
 一年の間に朽ちたものにしては風化の進んだ個体は土に親しんだか紫がかっている。
 ぎぃぎぃ継ぎ目が騒ぎ、自らの頭蓋を重たげに抱え上げ首の骨に乗せた……乗せた筈が、手首から先といっしょに直ぐどこかへいってしまった。
 断面を、ひんやりとした殺意で断頭台の鉄が舐める。
「此の世と彼の世を違えたか」
 ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)、同じくに未練も愁いも散らさんと馳せ参じた男の名。纏う甲冑が月や数多の光を吸って、逃さず殺す。そこに望まれた明けはない。
 ォ、オォォォ――!
 にくい。ニクイ、憎い!!
「人とは、どうにも花に魅せられるらしいな。末期の世界は花に満ちていると聞いたが」
 この分では癒しは与えてくれぬらしい。
 降りかかる火の粉がいくら跳ねたとて払うに及ばず。頑強な表皮を撫でるだけのなまくら、引き換えに、ニコラスが叩き込むは上段からの一振り。
 竹を割る小気味よい響き。跳ねた欠片が外套を突き破る。
 上から下まで縦真二つに割られた骸骨は裂けて熱したチーズの如く、支え切れなくなった自重に任せ、ゆっくりと左右へ傾いた。
 いつかは戦士だったのかもしれず。
 或いは、奪われるだけの無辜であったか。
 朋だったものの体を巻き込み、どっどっと続けて撃ち込まれる骨刃の鎌鼬もむなしいまでに、非力。
 未練――がらんどうの裡に報復の意思を宿すなら、分別なく喰らい尽くして抱え往くのが黒獅士の存在意義。
「お前達の戦いは終わっている。続きは、俺が。必ずや果たしてやろう」
 握る手などと掬い上げられぬものの代わり、屠る剣閃が誓う。掠って流れた紛い物の血に触れた刃は殺戮捕食に組み変わり。
 男が一度大剣揮えば、横殴りにする風圧も込みで無数の骨とつるぎが土へ還った。
 比較的距離のあって崩壊を免れたものらは、ふと、あたたかな日差しが降ることに気付き空を仰ぐ。
 聖者のもたらす奇跡か光芒。どちらでもなくそれは、限度まで高められたダンピールであり黒騎士、闇夜を褥とするリーヴァルディの力。
「眠りなさい。安らかに……」
 ……限定解放。テンカウント。
 光が溢れて風に溶ける。繰り返す相反する力の行使が術者の身をも蝕みはじめた。傷口を丹念に抉られる感覚――きつく肩肉に爪立てて、少女はだが呻き声など噛み殺す。
 血濡れた自らにはいまだ訪れぬ救済の日を、とどけ続ける。
「そろそろ、お分かりいただけたようで御座いますね」
 いま声を上げたらうわずってしまいそうだから……頷くだけ。
 疲労滲まぬ男の閑けき声通り、もぐらたたきよろしくぽこぽこと盛り返し続けていた土はこの数分沈黙している。
 鴉の姿に戻ったハンスが傾いた墓標に羽を休め毛繕い、最早終わった気でいて。だれかに似て気儘なそれに俄か目元綻ばせグリツィーニエは、リーヴァルディの前へ、花嵐の分も剣技で魅せる。
「今宵のことは、向こうで酒の肴とするといい」
 ほぼ同時にニコラスの得物が二体を崩し。彼の圧に追い立てられるようにして取り残された殻に、迎える刃身が触れんと滑って――肉のついた手が差しこまれる。
「まって。さいごにひとつ知りたいわ」
 こちらもみんな食べ尽くしてしまったから、と、刃と骨の合間、歩み寄るペチカだ。
 あなたはなにを願ったの?

 びゅう、びゅうと。
 高所から吹き下ろす甘い、甘い香。

 風が形取った想いは…………さて。 止んだ抵抗。厳かな式めいて、こころのあった空洞に、慈悲の刃が通される。
「――さあ、お休みなさい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『天魔の幼獣』

POW   :    白の嵐
自身の装備武器を無数の【羽毛を思わせる光属性】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    白の裁き
【視線】を向けた対象に、【天からの雷光】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    天候操作
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は宇冠・由です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ピ。
 ピキュ、ピィ!

 手堅い連携によって、村人が通りかかる前に亡者の相手を終えることが叶った。
 傾斜を駆け上るにつれて、風に乗って届くものが花の香だけではないことに気付くことになっただろう。
 やがてそこに水音が足され。草葉を掻き分け途中の獣道をすこし下った先、月の映り込む浅い川の流れと――まさに今、水から上がったばかりのような犬……狐。
 否、天魔の幼獣。体の程は、並の成人の二倍はあるが。

 ふるふると水滴飛ばした獣の毛並みが天使の柔毛の如くに膨らむ。
 キュウ?
 目が合った次にはどんな攻撃を繰り出してくるか。
 だが、構える猟兵らには一瞥をくれるのみ。鼻をひくり動かして、丘の上へと飛び立とうとするではないか。
エンジ・カラカ
アァ……いたいた。
ハロゥハロゥ、あーそーぼ。

こどもなのにでかいなァ……。
遊ぶより喰う方が良いのカ?遊ぶのも楽しいけどなァ。
賢い君賢い君、楽しい遊びを教えてやろう。

足止めは任せろ。牽制に賢い君の鱗を数枚やろう。
甘くてキレイだろ?アァ……味はしないだろうケド。
それとも賢い君の癖になるあまーいモノが良いカ?
属性攻撃は賢い君の毒。アノ花よりももっと美味いはずだ。

お前はどんな遊びを教えてくれるンだ?
つまらないつまらない、もーっとあーそーぼ。

避けはするが致命傷にならない攻撃なら受け止めるコトも視野に。
その方が賢い君が良く動く。


オルハ・オランシュ
わー!ふかふかな毛並み!
天魔って想像以上に可愛いね
……なんて、いつまでも見とれるわけにもいかないか
悪い芽は摘んでおかないと

この傾斜は走るより飛ぶ方が速いかな
翼を広げて空を駆けて、一気に間合いを詰めよう
逃がすわけにはいかないから
攻撃力強化のトリニティ・エンハンスは空中でかけ終わるように

……!
こんなに沢山の花びら、捉えきれない
そもそも詰めた間合いは無駄にしたくないから
敢えて見切りは狙わず【武器受け】でやり過ごして、【カウンター】
至近距離から【2回攻撃】!

生を強く願った亡者と同じように
この子にも意思や信念があるんだよね
ごめんね
それでも、請けた仕事をやり遂げることが、私の信念だから


須藤・莉亜
「逃がさないよ。もうちょいこっちで遊んでこ?」
腐蝕竜さんを壁にして敵さんを丘の上に逃がさないようにしてみよう。

僕は伝承顕現【首なし騎士】を使い、デュラハン化して戦う。

さらに大鎌を24本に複製して、20本を攻撃用に、残りは防御用に使う。

高速移動しながら複製した大鎌で衝撃波を放って攻撃。

防御用の大鎌は自分の頭上に展開して、いつでも防御できるようにしとこうかな。

味方の攻撃に合わせて大鎌を飛ばして追撃するのも忘れずにしとこう。

チャンスがあれば、左手に持った自分の首で【吸血】と【生命力吸収】を狙う。

「子供でこれなら、大人になったらどんだけ強いのかな?」
そっちの方が気になってきちゃったよ。



 獣の目当てはあくまで花か。
 阻止のため、数人が一挙に動いた。

「ハロゥハロゥ、あーそーぼ」
 言葉とともに、エンジの賢い君が解き放った赤い霧――にも似た鱗の集まり。最初はグー、じゃんけんパーと云わんばかりの先攻だった。
 おはようの挨拶は大事だから欠かさない。おやすみにだって同じように使うけれど。
 ぴくと羽耳震わせた獣が跳び退ろうと足を引くが、紅く時には紫めいて光る鱗片への興味が反応を鈍らせた。
『キュ』
 たしんっ。シンバルを叩く仕草で前足が数枚を押さえる。開いてやっと、べったり貼り付くそれがただのキラキラでないことに気付くのだ。末端から襲い来る痺れによって。
 足を振るが驚いたことに、剣を錆が侵食するみたく剥がれなくなっていた。賢い君……辰砂と名を持つ拷問具の、阻害を目的とした十八番。
「甘くてキレイだろ? アァ……味はしないだろうケド」
 ウキュゥ! 抗議の声が返り、くつりと愉しげにひとり抜けした男が嗤う。
 削ぎ落とそうと、身を岩肌へこすりつけ動く獣は尚の事もっふぁもふぁとして見えて。
「わー! ふかふかな毛並み!」
 坂の上から見下ろす位置にて、予想以上に可愛い姿にオルハの声色もついつい高まる。まんまるく開かれた瞳であったがしかし、またたくと依頼を抱えた何でも屋の貌となり。
 いつまでも見とれているわけにもいかない。
「悪い芽は摘んでおかないと、ね」
 たっ、た、お気に入りの丈夫な靴底が地を蹴って、二跳びで宙へ投げた背で大きく開かれる黒翼。滑空、空を駆けるように。獲物を狙う鳥のように。
 びゅんと人狼男の真横を突き抜ける。
 はためき解けかけた布を再度首にかけながらエンジは、ボールいったぞーなんて形ばかりの忠告をしてやったのだ。遊びともだちとして。
 ……なぁんてそれもまた、撹乱。
 空から落ちる影の近づきに、あとすこし此方に気を引けたなら"勝ち"と読めていたから。
「逃がさないよ。もうちょいこっちで遊んでこ?」
 とん、どぉん、との連続音はとある主従が立てるもの。
 地上数メートルの高さで腐蝕竜を乗り捨てた莉亜が、見かけによらず満点の着地を決め。手に、お次はかつんと地面に刺さる大鎌が握られている。
 竜の方は派手な土煙立てて獣の行く手を通せんぼ。荒っぽいつかわれかたで、垂れ下がる腐肉量も心持ちいつも以上。
「ああいう使い方で合ってるの?」
「うん、喜んでる」
 よろこんで、いるのだろうか――?
 とにもかくにも右から左から接触され、道を塞がれた天魔はうるるると喉を鳴らしてご立腹だ。今、意識は壁へと注がれていて。つまりはチャンスということ。
 この間数秒。
 莉亜をも抜いた"暖色の矢"は、風の加護をも孕んで分厚い毛皮に突き立った。三叉が食い付き血飛沫の他に毛を刈り落とす。

『キュイイ!?』
 仕掛けた槍の揮い手、毛皮へ半分身を埋めるほどに深く押し込んだオルハが、反撃に備え引き抜くのと天魔の力の発露はほぼ同時。
 点々と赤く染まった毛――羽毛たちが、地に堕つ前に逆再生の様相で舞い上がって娘を包んだ。
「……! そう、君にもあるんだもんね」
 必死に、生きようと抗うのだってそうだ。意思や信念、生を強く願った亡者と同じように。
 視界を覆う白い嵐に眇めた瞳。槍は抜けた。退くなら退ける――だが!
 請けた仕事をやり遂げる。オルハにもまた信念があった。
 ざりざりと肌を摩り下ろさんとするノイズの中、掲げたウェイカトリアイナを今一度向ける。
「なんだ遊べるじゃあないカ。仲間外れはさみしいなァ」
 つ。 辰砂を撫ぜたエンジの指が、新たな鱗を風に乗せる。こどもなのにでかいおかげで当てやすい。それに嵐は獣を目として巻いていた。
「お前もつまらないのはキライだろ? うんとあまーくしておいた」
 ひたひたひた、抉られた獣の傷口にまとわりつく鮮やかな欠片。埋め尽くしたなら今度は力を奪うだけでない。遅効性の毒じみて、先に仕込んだものと合わせて血液を沸騰させる。
 もーっとあーそーぼ。
 声掛けなど、かぶりを振って身を捩る天魔には届いてはいない。
「ごめんね」
 でも、ゆずらないよ。
 弱まった花びらの隙間をついて。うちいくつかを巻き込みながら、突き入れるオルハの二撃目が赤の面積を一層広げた。
「おじゃましまーすなんて」
 無気力との表現が似合う声は莉亜のもの。が、それは随分と下方から聞こえる。
 誰かが疑問を抱くより早く、ちょうど獣が体当たりをし娘が柄で受け、開いた空間に二十四本の白刃が並ぶ。今の断りは、これか。
 直後、回転鋸の真似事で旋回する鎌たちが真空波を生んだ。
『!!』
 胸元の豊富な飾り毛が束で切り払われて、いくつかは肉にも届いたのだろう。鳴いた天魔はたたらを踏むとキッと莉亜に視線を注ぎ、角を光らせ、いかづちでお返しをする。
 ぬるりとした身のこなしで回避、回避。獣が距離を取れば、その動きを逃さぬ鎌が四方と空から追いかける。完全に主よりも働いていた。
 ぴしゃんと世界が白んでこの通り、捉えられてもなんのことはない。頭上に展開させた防御用の四本が、避雷針にも近い役割をして崩れ落ちるだけだ。
「わぉ。子供でこれなら、大人になったらどんだけ強いのかな?」
 そっちの方が気になってきちゃったよ。嘯く男がひらり左手に翳すのは――己の、首?
 デュラハン化。流石のオブリビオンも、至近に招き入れたニンゲンからそれを傷に押し付けられるとは思っていなかったようで。その上更に、血をすすられるなどと。
『キュアア!!』
「あ」
 衝撃波以上に痛み喚き、だんっと高跳びされた衝撃で首から下とそろって牙を埋めた莉亜の頭部も振り払われる。
 身体の方はすぐに着地するが、小さい方が宙を舞い。
「――あ!?」
 反射的にも両手でキャッチしたオルハの槍が零れ、からんからん音を立てる。恐る恐る、瞑った目を薄目に開けて手元を見れば生首の口がにたぁと歪んだ。
「ナイスキャッチー」
「これどうなってるの? っていうか大丈夫?」
 いいなァそれ。欲しい欲しい。新たな呪物との出会いに指伸ばす人狼も居はするが、戦いを捨てる気のないらしい天魔のひと鳴き聴こえたならば、肉食の笑みで振り返る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氏神・鹿糸
【鷲穂(f02320)】と参加

綺麗な毛並みね。
花畑に誘われて来たの?一年に一度しか咲かないものね。でも花畑を荒らす、というのは絶対許さないわ。

戦闘ではもっぱら鷲穂の補佐に回るわ。
武器は縛霊手。花や蔦の絡んだ大きな爪よ。
[マヒ攻撃]で動きを鈍らせ、[グラップル]で掴み、そのまま[怪力]で抑え込むわ。

こう言うのはどうかしら……“綺麗な、白い花畑で過ごしたい”わよね。
UC『緊那羅の響き』で、花畑を守りたいという気持ちで共感した鷲穂の戦闘力をあげるわ。
共感…するわよね。するのよ。

ごめんね。予知では花が荒らされてしまうそうだから…せめて花の近くで眠りましょうね。


明石・鷲穂
「天魔って…もふもふじゃないか。どこ狙って攻撃すれば良いんだ?」
花見に着いてきたが……この白いのが花を荒らすのか?
さりげなく攻撃しながらもふもふできないか。

「はー…敵ながら綺麗な攻撃だな!」
武器の金剛杵で攻撃しつつ、鹿糸が捕まえるまで相手の気を逸らそう。

「花畑を守りたい……あ、いや、共感はするぞ」
「そうだな……綺麗な花畑で過ごしたいなら、俺は協力してやろう。」
鹿糸が捕まえたら、戦闘力を強化してもらって、敵の死角に回ろう。

「これは慈悲だ。」
ユーベルコードを使って、金剛杵で【騙し討ち】【串刺し】だ。

こんなふわふわな生物を倒すなんで心が痛む気がするが…友人の我儘なんだ。しょうがないよなあ。



 明石・鷲穂(門前の山羊・f02320)は瞬いた。
「天魔って……もふもふじゃないか。どこ狙って攻撃すれば良いんだ?」
 傷も増えてはいたが背面などは引き続き艶々なもので。くるくる遊ばれる敵の背後を取ることなった男にとっては、なんとも戦意の削がれる見目。この白いのが本当に花を?
「綺麗な毛並。でもこれは決定事項なの」
 誰のといえば、鹿糸の中の。
 花畑を荒らす存在は絶対に許さない。故に、その利き手はもふりと愛で戯れるには過激な巨大な武器の姿をしているのだ。
 がしゃっ。
 爪が、往くぞと語り。険を帯びた眼差しで駆けゆくため、顎を撫でつつ動物園の檻の中を眺む目でいた山羊の蹄も土を蹴りだした。
「突っ込んでね」
 花を害するもの絡みのこの女の性質はよく把握しているつもりで――つまるところ、今日ここに立つ自分はふわもふの"害"なのだ。はいよと応え金色を取りまわす鷲穂を、澄んだ青の双眸が見つめた。
『キュキュ!』
「わっぷ」
 ざわり、ざわり巻き起こった白色の嵐。真っ向から突っ切る形となる内から見たなら、花のトンネルのようで。
 はー敵ながら綺麗だなどと一足早く花見に興じる身の影から――便利な盾にも使いつつ――一拍遅れで飛び出す鹿糸が巨爪を振るう。
「自慢のお花を見せてくれるのには感謝するわ」
 確りと、食いこませた爪を巡るは毒花の持つ神経毒。腕の、祭壇を飾る花蔦がさやさや揺れ、残酷に甘く導く先は。
 好みの味ではなかったのだろうか? ゥユゥと短い叫びで前足が上げられ、女を踏み倒さんとする。
 だがそれは掲げた縛霊手の大きな手の中に、お手の流れですんなり収まってしまって。天魔の不機嫌がもっと強まったとき、天が割れて雷雨が降り注いだ。
「一年に一度……おいしく食べて"綺麗な、白い花畑で過ごしたかった"んでしょうけど、花にだって命はあるのよ」
 一夜の晴れ舞台、害されず生きる権利がある。
 光が服に、腕に肩に穴を開けても、鹿糸は掴んだ足を怪力でもって抑え込む。自由を奪う。
 水を吸ったかぬかるむ大地にくっきり足形を残して、真っ直ぐに伸びる、華のあるがままに咲く。
「そうよね。鷲穂?」
 囀る言の葉にひとつのまじないを唱えて。
 直上に迫る雷の筋が、身体の芯に触れようとしたときだ。
「そうだな……俺は協力してやろう」
 緊那羅の響き――女の声に"共感"した鷲穂が突進に近く、得物と身とで獣の体を薙ぎいかづちの制御を乱れさせた。
 銅鑼を叩いた風な鈍い音こそ金剛杵によるもの……鈍器か槍かのように扱われているが、徳の高い法具である。揮う男の力の程と合わせたなら、先端部の鉤爪は穂の役割を十分すぎる程こなす。
「なんだか声が小さいかしら」
 くすりと微笑めば、共感するするしてると返る縁が面白い。人の言葉が分かったならばきっと彼以上に同調したであろうオブリビオンへは、さいごの最後は花を好む同士として。
(「ごめんね、せめて花の近くで眠りましょうね」)
 見上げる――天魔は矛先変えた雷光を半獣へ浴びさせんとするも、先の言霊によって高められた身体能力が見切りを容易にした。加えて鹿糸はまだ、ぐっと強く離していない。
「懲りたなら次はおとなしいふわふわに育てよ。……あぁ、やっぱりやわらかいよなぁ」
 鷲穂が選ぶ、妨害なく開けっぴろげの毛の短い側面。すり抜け様尻尾に撫でられたのがさながら振り合う袖の代わり。
 同じ"しょうがない"なら、さっぱりとした方がいい。ひたり添える穂先。引いて――。
「これは慈悲だ」
 横腹へ。めいっぱい打ち付けた金剛が肉を貫いて殴り飛ばす。悲鳴すら殺す神速の突き、遠い悟り、滅ぼすものは煩悩ではなく。
 ぽんぽんと鞠と化して転がる天魔は止まれず、再び浸かることとなった川で飛沫を上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

絢辻・幽子
……あらまぁ、物凄くもふもふな子。
もふもふのよしみで丘の上に行かないなら
このまま見逃してあげてもよいですけど……
まぁ、そうもいきませんかねぇ?

……なら、そうね
あなたを繋いでしまいましょう、
ついでにその濡れた毛も乾くかもね?
あなたのその大きな体で、花の上をゴロゴロされたり
モグモグちゃうと、お花めちゃくちゃになっちゃいますし。

あら、ふわふわとした花……なんて思ってる場合じゃない時は
絡繰り人形を盾にしましょう、そうしましょう。

※真の姿は狐耳が出現して、尻尾が4つ。
(のらりくらり、とした狐。
自分の尻尾を汚されるとものすごく怒る女
お好きなようにどうぞ)


グリツィーニエ・オプファー
天魔と呼ぶには随分愛らしい幼子に御座いますが
元来、童とは無邪気に残酷なもの
――その残酷さが、民の心を挫くとなれば放置しておけませぬ

幼獣の扱う自然現象は発動するだけで花畑へ被害を及ぼしかねませぬ
ならばこそ――その動きを封じる必要が御座いましょう、ハンス
鳥籠より解放するは『母』たる神の残滓
【母たる神の擒】によって幼獣の足止めを試みます
…たとえ効果が不十分であったとして
獣の意識が花ではなく此方へ向けられたならば御の字
いずれ枯れる花であれど、無闇に散らすものでは御座いませぬ

共闘する猟兵方には引き続き惜しみ無く支援
幼子とはいえ、相手は魔獣――油断ならぬ強敵に御座います
各々の隙を埋め合うよう、最善の行動を


ペチカ・ロティカ
―きつね?ちがう。ふかふかの、大きなしっぽ。
ふかふかでもふもふのあたたかそうな姿は
ペチカの知っている「しあわせ」の形とよく似ているの。
さいわいと、祈りを喰んで、そんな姿になったのかしら。

でもね、そうね。だめなものは、だめなのですって。
影で目隠し、通せんぼ
不定の影を手に変えて、自由にさせないようにと掴みかかって

おこっているの?どうしてかしら。
あなたもそうして、食べるのでしょう?
このこもいっしょなの。ねぇ、”くらやみ”さん。



 ――ピイィィィ!!
 怒れる天魔が集めた雨雲が、厚く、月明かりを遮ってゆく。
 まだら模様になった大地を影から影へと渡り歩く妖狐の女は、びしゃびしゃにしぼんだ獣との距離を確実に詰めつつすぅと瞳を細めていた。
「毛並が汚されてご機嫌斜めでしょうか、分かります。えぇ分かります」
 蹴ったばかりの地面にいかづちが落ちる。
 目の前、右前方でも一本、二本。大地が揺れるほどの苛立ちを持ちはじめたそれに焦げる前に、生きものの如く揺らめいた狐火と毛艶のよい四本の尾。幽子の頭上には、いつしかぴんと立った耳が。
「丘の上を諦めるなら、もふもふのよしみで見逃してあげてもよかったのですけど」
 まぁ、そうもいきませんかねぇ?
 もふ度も下がったことであるし。せめて乾かしてあげましょう、そんな親切心を貼り付けて。
 奔る狐の道筋上に灯されていた火が、螺旋を描く火球群と化し一斉に獣へと踊り迫る。
「元来、童とは無邪気に残酷なもの。この場での幕引きが最善であると、私も」
 ――その残酷が、民の心を挫くとなれば。
 息を読み、意を酌んで。ともに月影のひとつとなりて、支援すべくグリツィーニエも抱く鳥籠の扉を開く。溢れいずる"母"たる神の残滓。青き蝶、心を捕らえる魅惑の呪。
「動きを封じる必要が御座いましょう、ハンス」
 鴉の鳴く闇夜。悠々と空舞う二色は幻想的ですらあった。
 それでいて、そのどちらともが戦いの道具。
『キュィ……』
 先に一度、うつくしい宝石に騙された獣は警戒していた。だが強い警戒心を塗り潰し支配するほどの鮮烈な暗示が、寄り付く蝶からは発せられていた。行使する山羊角の悪魔が、囁く。
 母の愛はここに。欲するならば望めばよいのだ――、と。
 蝶に鼻先を向ける天魔。彼は引っ込めた足で今すぐにその場を離れるべきだった。次々に、着弾する炎弾で身を焼かれることとなるのだから。
「火加減はいかがでしょう」
 キュウウウ、ウゥゥ……火柱の中心から漏れる涙声。良い塩梅らしく、狐女はぴこりと耳を揺らし。
 夢幻の体現、鱗粉を残し弾けた蝶たちが鳥籠のうちへ帰ってくる。幾匹かは花を愛でる様子でグリツィーニエの髪に。漆の黒へ、炎の彩が色移りしていた。
 薄らいだ雲の切れ間、月光がつくりだした天使の梯子。
 照らされて、牙を覗かせるのはペチカの影。
「ねぇ、泣かないで」
 しあわせの形をしたあなた。さいわいと、祈りを喰んで、そんな姿になったのかしら。
 大きな手と変じて伸びたくらやみは涙を拭い去ろうとしたのかもしれないし、瞳を抉り出そうとしたのかもしれない。それは誰にも、ペチカにだって分からない。
 いのち蝕む結果だけがある。

 肉に食いこみながらきつく施された影の目隠しが、天魔の混乱をぐっと高め。
『ピュキュ、ゥ!』
 当初に比べ随分と数の減ってしまった羽毛が花びらの嵐へ。どこに誰がいるのか見えぬ狙いはチグハグと、風の薄い点をついて抜け出すことが難無くできた。
 確かなもふふわ感とともに、浴びた面々の肌には細かな引っ掻き傷が残されてゆく。もしもそのまま佇んでいたならばやがて骨まで露出させたのだろうが、そんな悠長をするものはおらず。
「あぁ、このおいたはいけません。いけませんねぇ……」
 幽子。
 大事な大事な四尾の毛並みが逆撫でされることはすなわち、女の心模様も同様であって。
 壱の子、カラクリの球体関節人形に命ずる風除けの役割とは別に掌上へ特大の炎を生み出していた。
 薄色の目に感情は微かだが、名付けるのなら――うらみつらみか。風向きに逆らって炎が轟と、放たれる。吸い込まれるように的へ。爆風が花の多くを喰らい、黒衣のドレスの裾を翻す。
「お花ゴロゴロモグモグ以上に厳罰ものですよ。幽子おねえさんとの約束です」
「……人の心とは、己が宝の前に斯様に奮い立つもの」
 高い授業料になったろう。そう、機を見逃さず煙裂きて飛び入るグリツィーニエが最中、流れるが如く閃かすつるぎ。虚を突かれたものの跳ね躱すだけの余裕はあった筈の獣は、ぴんと張りつめ縫い止める、自らの足に絡んだ赫絲の存在を知る。
 そこへ重なる、深く囚う檻の羽音。
 間近に迫った術者にふよ、ふよ、つかず離れず漂う蝶が、透明な天色の硝子玉一杯映れば拒絶とは反対に大きく瞳孔が開かれて。雫が一筋。
 対する男の藤は憂いを湛えど零れない。磨がれた刃が整然と炎の生んだ傷痕をなぞり、結ぶ。故にと。
「いずれ枯れる花であれど、無闇に散らすものでは御座いませぬ」
 愛らしいと感じた幼子を自ら、ひととして守るべきこの一点で断たねばならぬように。焼き払われた皮は脆く、獣の胸元から前足の付け根にかけてがぱっくりと割れた。ついに零れ出た大粒の柘榴。
 ごちそうの気配に波打ち湧く地面。地面の、  影。
 そっと腰横の毛並みを撫でられる心地がしたから、瞠目した獣が視線を落とせば触れる距離にちいさななにかがいた。衣を纏っているが、ふわりとした毛髪はどこか同族みたいだった。だからキュイキュイと痛みを訴えるけれど、
「そうね。そうなの。だめなものは、だめなのですって」
 自分とは違った鳴き声で首が振られる。
 なにか――ヤドリガミのペチカと天魔の影がひとつに重なっていた。獣が炎に呑まれた瞬間に解いていた戒めは今やその足元に。いくつも伸ばした影の手が、鮮血求めて針山の如く腹を足裏を串刺しにする。
 毟れた羽毛が途端に新たな花吹雪と化すが、娘に差し向けようとするものまで欲しがりの影が食べてしまう。距離はこんなに近いのに、そこに大きな時空の歪みでもある風に。
 ……ランタンが浮かび上がらせる影が、ひとの輪郭を崩しながらゆらめく。琥珀がふたつ、悪意もなく。
「おこっているの? どうしてかしら。あなたもそうして、食べるのでしょう?」
 このこもいっしょなの。ねぇ、"くらやみ"さん。
 嫌なきもちも食べてあげて。
 どっと伸びた杭が、天魔の胸に穴を増やす。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ニコラス・エスクード
産まれ落ち幾許もない者に罪は或るか否か。
それが人を喰むものであるからと。
害を為すやも知れぬからと。
打ち砕くに正義はあるか。

これは報復に非ず。
されど暴威に人々が曝される前に止めるは、
我が主の生き様であり有り様であった。
であれば、俺が倣うもまた道理。
それが正義か否か等――論ずるに値せぬ。

その爪が人々を捉える前に、
その牙が人々を喰らう前に、
素っ首、叩き落とさせて貰う。

舞う踊る花弁は我が身たる盾と、同胞たる鎧にて受け止め弾き、
進み、踏み込み、捨て身の一撃を。
零れ落ちた己が血を刃へ纏わせ、
叩き込むはブラッド・ガイスト。

その身も、無念も、慟哭も、
全て喰らい尽くし、食い潰してやろう。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。相変わらず大きい。力も強い…。
これで幼獣、成長したらどれほどの驚異になるのか…。
…まぁ、ここで倒せば関係無い事だけど。

事前に防具を改造して第六感を強化
精霊の存在感を視覚化する呪詛を付与して、
敵の攻撃の予兆を見切り回避できないか試みる

目立たないように【見えざる鏡像】で不可視化し、
敵の追跡を振り切るように気配を消して接近
…眼はこれで潰した。耳は戦闘音でかき消される。
匂いは他の猟兵と同時に近付いて誤魔化そう…。

接近したら怪力任せに大鎌をなぎ払い生命力を吸収
力を溜めた大鎌で傷口を抉る2回攻撃を行い、
常に不意討ちを狙い行動する

…お前を花畑に向かわせる訳にはいかない
骸の海に還りなさい、天魔の幼獣…。




 産まれ落ち幾許もない者に罪は或るか否か。
 それが人を喰むものであるからと。
 害を為すやも知れぬからと。
 打ち砕くに正義はあるか。
「…………」
 ぜぇぜぇと息を荒げる幼獣を前に。ニコラスが双眸に灯す血の赤が、ひどく怯えた色と交錯する。
 たのしい散歩の途中だった筈で、なぜこうも激しく追い立てられているのか理解が及ばぬのだろう。ただこの男も自分を虐めるのだと――切り出した鉄塊然とした剣に纏わる死の気配が、揮う前から語るから白き嵐で我が身を庇う。
「これは報復に非ず」
 前へ。
 鋼の胸裡を占めるは、彼を彼たらんとす過日に遺されたもの。人々が暴威に曝される前にと駆ける、主の生き様であり有り様が失せず在った。
 花弁のやわさがそこへ届くことのないように、それが正義か否か等――論ずるに値せぬ。
「素っ首、叩き落とさせて貰う」
 前へ。前へ、前へ前へ。
 倣うために翳した矛と盾で、宣告、視界埋め尽くす花弁の海を断ち割って突き進む。
 攻防の最中ふと、風の届かぬ先でも緑葉が揺れる。
 だれもそれに気付かない、気付けない。
 またひとつ土を跳ねたのはユーベルコードによって姿を景色に溶かしたリーヴァルディ。道筋は組み上げた呪詛が耳打ちし、少女の瞳には花弁が道をつくって視えた。死を刻み付けるまでの花道が。
(「……ん。相変わらず大きい。力も強い……})
 これで幼獣。成長後の力の程へ巡らせかけた思考は、すぐに自身で塗り潰して否定する。必要がなかった。今日、ここで終わらせるのだから。
 たんたんと音も微かに次の二歩、末端まで異能を張り巡らせる。
 三歩。
 拒む未来など喰らって閉ざす大鎌携えて踏み切り跳び、躍り出た天魔の背後で腕を揮う。
 ズッ、と、縦に裂いた空間。秒よりも短な瞬間。正面から一閃捉うことが叶ったならば、見る者に月が半分ずつずれ零れ落ちるように錯覚させたことだろう。
 白の嵐は意識の中でしか"敵"を選べない。
 甲冑騎士が役目通り敵意を一身に引き受けていたため、獣は斬りつけられて初めて脅威の足音を知る。
『ピッ』
「しずかに」
 細身を宙でくるんと返し、地へ落つより、叫びが上がるより迅く横へ引くグリムリーパー。
 十字の斬撃。黎明を求め、四つに割られた月。
 噴き出す血も同じ軌跡を描いた。
「……お前を花畑に向かわせる訳にはいかない」
 骸の海に還りなさい、天魔の幼獣。
 襲撃者の言葉は綺麗な音をして。動転し瞬時に膨れ上がる大気の圧が、リーヴァルディをも呑み込まんと渦を巻く。だが力が結実することはなかった。ふおん、と、逆向きに体毛を波立たせる風。鉄の臭いを帯びた、風。
「全て喰らい尽くし、食い潰してやろう」
 花のすべてを退けたこころ持たぬ筈の盾が、鎧が語るのだ。
 その爪が人々を捉える前に、
 その牙が人々を喰らう前に、
 その身も、無念も、慟哭も、――差し出せと。
 ぬらりとした赤色は守護者ニコラスを高みへ導く。
 零れ落つ己が血を啜った刃のブラッド・ガイスト。小細工など要らない。ただ、揺らがずより前へと振り抜かれた首落としの両手剣。
 ダンピールの不可視の殺意が喉元に宛がわれたままの悪寒。
 背中の、体中の痛みがどこへも逃げ場はないと伝え、……何故だろうか。自身を映り込ませながら迫る刃を受け入れる他なかった姿は、ギロチンの前に粛々と項垂れるにも似ていた。

 刎ね上げられた首が転がる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)と、チロ(f09776)
それから他の皆とも協力して戦うわ

あれが、天魔…
そうね、見た目は可愛いと思うけれど
好きにさせるわけにはいかない
この世界に災厄をもたらす存在になる前に、ここで眠らせてあげる
ここから先に行かせるわけにはいかないの
あたし達が相手になるわ

シンフォニック・キュアで傷ついた皆を鼓舞しながら
ありったけの力を込めて、夢幻の花吹雪をお見舞いしてあげる
あたしの花はあの丘に咲く花みたいに強くは香らないけれど
あなたの遊び相手くらいは出来るはずよ
天候操作は同じ現象をエレメンタル・ファンタジアでお返し
アビは大丈夫だと言っていたけれど
花畑に害が及ばないよう、気をつけて戦うわね


終夜・嵐吾
先も共に戦った、ちいさきものたちのチロ(f09776)とキトリ(f02354)と。
他にも見知った者もおるので、必要あれば協力も

かわいらしいなりをしておるが……天魔の幼獣。このままにはしておけんのよな。
少々痛い目にあって去ってくれればよいのだが……まぁ、そうもいかんのじゃろう。
なれは今日は、招かれざる客じゃから。

花の香が欲しいのなら、好きならばわしの物で我慢はできんかの?
虚の主よ、あの幼きものに香りのよき――この時節であれば蝋梅か。
黄色い花と化しておくれ。

仲間達に危険があれば、かばう。
おおきなものの務めじゃからな、わしの背中のうしろにおってくれよ。
傷ついたものがおれば癒しを。


チロル・キャンディベル
嵐吾(f05366)とキトリ(f02354)と
ほかのみんなとも協力して、たおすのよ!

飛んで行っちゃう前に、ダメってあしどめ
ひつようなら、人狼咆哮も

ようじゅうさん、ふわふわ…
かわいいって思っちゃうけど、今日はダメ
だってチロ、スケルトンさんとやくそくしたのよ
お花を、おはかに持っていくって
それにチロは、お花だってだいすき
だから、お花をきずつけるようじゅうさんは
ぜったいぜったい、今日はゆるしてあげないの!

嵐吾とキトリがお花なら
チロのエレメンタル・ファンタジアははっぱ
はっぱの嵐で、ようじゅうさんの足止めしながらこうげきするの

バイバイってきもちをこめて
…いっしょにあそべたら、よかったのに


ジナ・ラクスパー
…!
なんてかわいらしいのでしょう…!
…駄目、駄目なのです。
ほんの少しだけ、あのふかふかを抱きしめてみたいとか
思ってしまうのですけれど
…あの習わしを守ると、誓ったのです

回り込み足止める皆様と連携
進路に回り込み、飛び立つそぶりが見えたなら
足許に水弾を放ちます
ほら、こちらもご覧くださいな
散らす花はせめてもの贈りもの

お腹が空いた貴方があの花を食べてしまうことも
自然の巡りのひとつかもしれない
森で生きてきた私には身近なことでもありますけれど
人々のささやかな幸せをなくしてほしくないのです
あれほど心惹かれる香りではないかもしれませんけれど
せめて、美味しくて幸せな夢となりますよう
ごめんなさいは心の内だけに



 だが、倒れ伏さずに足は歩みを続けている。
 やがて天へ至る魔獣の血統がそうさせているのか。
 ふらついて尚坂へ近寄ろうとした足取りは、頭を拾いにか塒を目指してか。いずれにしても、その先へは進む道などない。
「ダメなのよ」
「ここから先に行かせるわけにはいかないの」
 塞ぐ影は四つ。
 穴だらけの獣の体から流れ出た血は傾斜に沿って落ち、川の色まで染めている。
 たとえ、もしたとえいま見逃したところで死の訪れは避けられないだろう。暴走を始めた力が烈しく、人も花もすべて巻き添えに連れ逝くだけ――だから。
「ここで眠らせてあげる」
 キトリの声に連なるように、狼としてチロルが吼えた。
 チロはお花もだいすきだし、スケルトンさんともやくそくしたの。お花を、おはかに持っていくって!
 想いがまだ短い牙を尖らせる。音速を超えて伝わる一人前の衝撃波が、獣を後方へ弾き飛ばした。
 転げる獣の周囲に細かな月がぽつ、ぽついくつも点る。本体が立ち上がるよりも早く、そこから目映い光線が射出された。無差別に、狂暴に。
「私も、誓ったのです。……あの習わしを守ると」
 しかし月灯に煌く白銀。
 杖が象り、同じ数かち合わせるジナの水弾が逸らす。水を通った光は折れ曲がって明後日の地面を焼き、がら空きとなった獣にまで届いた弾丸。貫いて根を張る、蕾はすぐに開花した。
「ほら、こちらもご覧くださいな」
 そうして、果敢無く散る。
 花のさだめと同じように。腹を空かせた獣がそれを食むこともまた、自然の巡りのひとつかもしれない。森で生きてきた娘にとっては身近なことだ。だが――ひとえに。我を通してでも。
(「人々のささやかな幸せを、なくしてほしくないのです」)
 あれほど心惹かれる香りではないかもしれませんけれど、せめて、美味しくて幸せな夢となりますよう。
 貴方へ贈ると、しとしと熄みへ誘う雨花。きっと、今の獣がいちばん欲しかったもの。このまま眠ってしまいたい――霞んだ頭はまどろむのに、体は真逆に次なる攻撃を練り上げる。
「なれは今日は、招かれざる客じゃから。惜しい巡り合わせよの」
 互いに。そう言いたげな嵐吾は同時に虚の主へと誘いかけた。あの幼きものに香りのよき――この時節であれば、蝋梅を恵んでやろうと。
 先に一度揺り起こされたためか、随分とすなおにそれは応じる。
 まずは疎らな黄色の吹雪。敵と認めぬ限り害の無い花はほんのり春めいてあたたかく、妖精は手を添えて微笑みを浮かべたけれど……すぐに視線を天魔へ戻した。しらじらと空が割れ、稲光が細く針の雨へ姿を移ろわせ始めたとき高く飛ぶ。
「自然とおしゃべりできるのは、あなただけじゃないのよ」
 森を生く蝶の羽音を鳴らし、漂う精霊を呼びとめる。花畑を傷付けずに守りたいと心からキトリが願ったなら、彼女たちは快く力を貸した。
 視えないだれかがほうと息を吹きかけたようにごく緩やかに風向きが変わり、雷の針は雨脚を増して蝋梅とともに天魔の側へと降り注ぐ。足や胴を骨以外焼き落として、残っていた毛もあらかた剥いで。
 いたそう。
 苦しくなって、ちらりと傍のキトリを窺えばその面持ちも決して嬉しそうではなくて――チロルは、自分がいつしか息を詰めていたことに気付く。いつも守ってくれるキトリ。やさしいキトリ。
(「キトリも、がんばっているの」)
 だからチロも、バイバイを。  ちゃんと、言うんだ。
 重なる精霊術。
 チロルが呼び起こしたのは葉っぱ。瞳と同じ色をした鮮やかな若葉が、天魔を取り巻く刃に群れる。鋭利に、抉る。
 このとき重く轟いた空気の震えは、首をなくした獣が発した金切り声のようだった。
 自らの肉をも吹き飛ばしながら、踏みしめる四肢周辺の土が崩れめくれ上がる。地面ごとひっくり返すかの熱量で、ぶぅわりと白花の嵐が巻き起こる。生き足掻く、渾身の力。
 猟兵に叩き付ける精一杯の――!

 訪れる筈であった風に瞑った六つの目は、衝撃がないことを不思議と開かれて。はためく装束、流る灰青、仁王立つ、男の背を見ることとなる。
 ちいさきものたちを庇うべく矢面へ、華喰の嵐を連れて嵐吾が渦中へ開く手伸べた。
「さて、最後なら付き合うとくれ。花香も楽しみ足らんと見た」
 掴む。 歩めば、白一色の旋風の中に黄が溶け込みはじめる。だけではない。血の赤も。
 乱れ飛ぶ力がひとの身を傷付ける。肌にピッと赤線が走った。次々、右目の上にも同様に――好きにすればいい。扉を叩かれたところで、零れだすものは花以外もうそこにないのだ。
「嵐吾!」
 後ろから叫ぶ声が聞こえても男は道を譲らない。酷しさを逆手に取りて花弁撃ち交わし、その一片も通さない。
 犠牲を買って出て身を擲つ覚悟なんてヤワなものじゃない。
 自身も皆も共に生きて、花を愛でて帰る、頑固とも称すべき意志。
「おおきなものの務めじゃからな」
 喉を刺されて少々掠れても声色は、安心させる落ち着きを持って笑う。
 一等早く彼の意を酌んでジナが首肯した。
「これ以上、無用な血が流れることのないように」
 杖は使命に透き通る水を放つ。終わらせる術を哀しい程にしっていた。
 嵐吾の与えた蝋梅もまた獣に傷を増やしている。鈍った前進に、弾けた飛沫が大きく押し返し、続けざまにキトリとチロルの自然が舞った。先程よりもずっと強く、
「力を貸して、Fleur belle!」
「チロのだいすきを、きずつけるのは……ぜったいぜったいダメ!」
 全力で――!!
 吹きつける光輝の花と葉が獣の抗いと混ざり合う。
 強い嵐同士がぶつかり爆ぜる。
 ざあぁと音を立てて木々が揺れ、白と黄と緑と水とがあたり一面を撫で、それにどこからか降り来たまた別な白いひとひらが加わったとき――甘いバニラの香りがして。
 ふつんと糸が切れるが如く。天魔の足から力が抜けた。
 重力に従って崩れ落ちる。抜けすぎた血は海を増やさない。
 すべての風が止み、ゆめまぼろしの光とともに微かに音立て降り注ぐ色たちは、魂鎮めの奏でとなる。

 わずかな、無音の間。

 細く長く息をはいて、最初に動いたのは妖精。もしもに備え尚も敵の前にて構えを保つ血塗れた男のもとへびゅんと空駆け、
「~~っもう!」
 ばか! ぺちっ。小さな手で叩かれる嵐吾なのだが、次にはありがとうと続け癒しの歌声を披露してくれることを知っているので申し訳なさげにも嬉しげにも、痛いじゃろとへにゃり相好崩すまで。
 自分でも癒しの術は持っているのだが……たまには甘やかされる側に回るというのもいいのかもしれない。
 二人のいつもへ引き戻してくれるやり取りにほっとした顔のチロル、自分も飛びつきにいこうかどうしようかちょっと迷ってから、もう一度天魔の姿を瞳に映した。おわかれだから。
「……いっしょにあそべたら、よかったのに」
 そこに見るのは、なかよく駆けっこしたりお昼寝するビーストマスターのねがう幻。
 チロルが編んであげたお花の冠を嬉しそうに頭に乗っける、白くてかわいいふわふわな――若葉に露の膜が張りかけたとき、そっと背に触れてくれるひとがいるから、これ以上は夢見ない。
 ぎゅうと二人に抱き着く。
 よかった。
 あたたかな視線を送ったエルフの娘は、数歩歩いた先に膝をつく。
 そこには体と同じにはらはらと羽を零し消えゆく天魔の首があった。
 静かに伸ばす両腕で、収まりきらないそれを胸に抱きしめる。かわいらしい、抱きしめたいと、ほんの少しだけ思っていた毛並みはすっかり汚れてぼろぼろになっていたけれど――。
 ごめんなさい。 声無く紡いで、自然の巡りのひとつへ、還るまで。
 光を失った天色は濁りきって瞼を下ろし、娘の腕の中で、ちいさくひと鳴きしたのちに温度を失っていった。

 花を。
 終を。
 いのちを、等しくやさしく照らす月の下。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『ささやかな華やぎ』

POW   :    料理をいただく

SPD   :    会場作りを手伝う

WIZ   :    様子に想いを馳せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 月に近付く丘の上、一面。
 白と緑はひとつも傷付けられることなく、そこにある。

 村人はそれらのことを"花"とだけ呼ぶ。
 いつか旅人がさいわいの名だと教えてくれた。彼らにとっては、言い分ける必要などなくただこれだけが本物なのだ。
 猟兵が辿りついたとき、既に片手ほどの村人が花を選んでいた。此度の騒動には気付かずいたようで、目的を告げたなら手招いて迎え入れる。
「旅の人、あなたにも幸いを」
 誰もが満たされたように微笑んで。

 花は、夜はしずかに更けてゆく。
須藤・莉亜
【単独】

「あー、お酒が美味しいねぇ。」
花を見ながら飲むお酒は、風情があって普段より美味しいかも?

さてと、誰も見てないよね?
「条件は満たしてるはずだし、イケるよね?」

血盟召喚を使って、さっき戦ってた天魔の幼獣を召喚してみる。僕と戦ってくれたお礼に花でも見せてあげよう。

「まあ、ちょっとした夢みたいなものだしね。花見るだけなら怒られない、よね?」
もふもふを背もたれにして、花が消えるまで酒盛りといこう。



 とぷん。
 莉亜の手の中、揺らぐ水音。場所が場所なら缶ビールだって高級酒。
「あー、お酒が美味しいねぇ」
 染み渡る炭酸。
 背にした木陰にひとり、寛ぐに適したところを探す能力は備え付きか否か、なんにせよ男は邪魔の入らぬ酒浸りタイムを謳歌できていた。特等席というやつだ。
 星見酒ならぬ花見酒。その風情。薄暗い路地裏で嗜む酒との違いは分かるつもり。
 ……さて、と。
 やがて花から視線を外した木の向こうには、ぴょこりと白い翼が生えている。かさ、緑葉が揺れたかと思えばぐっと体を伸ばして、リラックスした様子のいきもの――天魔の幼獣が白に月の光を浴びた。
 澄んだ瞳も金の角も、もふもふ度合いもはじめ出会ったそのときとまるで同じ。
 だが仕留め損ねたわけではない。血盟召喚……先の吸血によってその条件を満たした莉亜が、ナイショで喚び出していたのだ。
「おいでよ。まあ、ちょっとした夢みたいなものだしね」
 ひとの言葉は解さぬようだったが、こうして主となった男の考えは読めるのか。首を傾いでいた獣は、たったか寄りつくと男の手にある缶に鼻先を近づける。
「おっとだめだめ、君いくつ?」
 ピュイ、と鳴いて手首にかけられた前足がそれなりに重い。どうやら好奇心旺盛っぷりもそのままらしく、零れる前に別な手へ持ち変える缶の代わりに白い花を差し出す莉亜。
「それよりもこっちでしょ。ほら、僕と戦ってくれたお礼」
 くるりと指の中で回せば、獣はぱくんとひとのみ。
 結局食べてしまうけれどそれ以上を求め暴れることはせず、満足げに莉亜の隣、花々のもとに腹を見せて転がった。どこまでが地面なんだか、かしゅん、快い音で新たな一本のタブを起こして男も白に身を預ける。
 ふわふわに沈み込む背もたれは、ゴツゴツな木の幹よりも更に酒を美味しくしてくれる心地。
「今日も働いたなぁ」
 このくらい世界に乾杯――なんて。
 花が消えるまで、今すこし。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルハ・オランシュ
綺麗な花畑だね
一夜限りの花なんて私の世界じゃ聞いたこともないよ
世界は広いなー

花冠を編んでみよう
でも初めてだから、手慣れた人に教えてもらえたらありがたいかも
贈り合う相手はいないんだけど……
仮に持って帰れたところで、先生に贈るのは照れくさいし、
長年会ってもない家族に贈るのも現実的ではないか

あっ……そうだ
誰へ贈るのかを決めたなら黙々と手を動かして
完成した、ほんの少しバランスの悪い花冠を
ゆるやかな坂道に持って行こう

生を願った亡者達への手向けのつもり
君達が愛していたであろうこの村で
生まれ変わってまた生きていけますように

柄にもないことしちゃったかな
今日くらいは、いいよね



 綺麗な、花畑。
(「世界は広いな」)
 一夜限りの花という存在は、オルハの世界では聞いたことのない代物。
 硝子瓶の繊細さを思い浮かべつつ手を触れる。漂う花の芳しい香から、すぐに味の程もが気になるのは職業柄かもしれない。
 だが手折った花は、今日はここで編むことに決めた。

 三本目絡めて、それから?
「むむ……」
「おねえさん、旅人さん? 教えてあげようか?」
 かかる声は現地の子ども、姉妹か何かだろう。花籠抱えた二人がオルハのもとへやってくると、こうやるんだよとテキパキ見本を作り上げてゆく。
 交差させて、巻き付けて、持ち変えて……。横目に確かめ手を動かすオルハの呑み込みも早いもので、徐々に形になる冠はすこし綻びはしたがはじめてにしては上出来だ。
「それにしても上手。二人で交換っこでもするの?」
「ううん。お墓で眠ってるおかあさんたちにね、あげるの」
「……そっか。うん、すごく綺麗」
 ひみつだよと照れくさそうに人差し指立てるから、オルハもまたそこにかなしみ注がぬよう小さく笑んで呟いて、そこからは黙々と。
 編み始めたときはなんとなくで、実のところ、贈り合う相手なんていなかった。
 仮に花冠を持って帰れたところで、先生に贈るのは照れくさい。それに、長年会ってもいない家族に贈るのも現実的でないからと――。
(「あいたくても、あえない人もいるんだよね」)
 花と戯れながらも色濃い骨砕く、感触。逃げず振り払わず、包む指先でもうひと絡め。
 きゅっ。
 余った茎を編みこんでの仕上げ。輪っかを腕にかけて立ち上がると、祝福のように花びらが少女らの髪にふわりと降った。
「ありがとう。先に行くよ」
 よろこんでくれるといいね、振る手に見送られ。その足はゆるやかな坂道を下る。辿った先、生を願った亡者達へと手向ける花冠に添える願いならばひとつ。
 君達が愛されていた、愛されている、
 ――愛していたであろうこの村で、生まれ変わってまた生きていけますように。
 柄にもないだろうか? だが、こんなにもしずかな夜なのだから。
「今日くらいは、いいよね」

成功 🔵​🔵​🔴​

エンジ・カラカ
さいわいの花。
アァ……そうだ。とても綺麗な花。

見よう見まねで花の冠を作ってみようカ。
賢い君の分。それから装う君の分。オーブの中で眠るあおいとりは相変わらず姿を見せないなァ……。
おーい、今日はおねむデスカ?
しかたがない、コレの分は――こうしよう。
花を思いっきり空に投げて浴びる。
あめ、あめ、さいわいのあめ。

寝っ転がって花を浴びるといつかの情景が眼裏に浮かんでくる気がした。
瞳を細めて空を仰ぐ。花だらけ。
アァ……おかしいなァ…。


いつかの誰かサンたちにさちあれ。



 ちょんとつつくと、ふよんと逃げる。それからゆっくり戻ってくる。
 狼男がひとり、花畑に座り込み手遊びに没頭していた。
 さいわいの花。
 とても綺麗な花。
「アァ……そうだ」
 そうだった、と。遠き牢獄が故郷、見様見真似、はじめての筈の手つきはまるで過日を辿るが如く花冠を編み上げる。
 御伽噺と同じに摘んだ花を欲しがる娘もいないなら、捧ぐ先は相棒たち。賢い君に、装う君。襤褸切れの端で磨き上げたところで、うつくしいオーブには覗く自らが瞬くのみだけれど。
「おーい、今日はおねむデスカ?」
 しあわせのあおいとりは、どこへいったのやら。
 ひとりでにへの字に曲がった口を指で持ち上げれば、向こうも笑み返す。
 周囲には絶えぬひそやかな笑い声。ここは広い空の下。エンジは、それでもなんだかひとりきりで、行き場のないあつめた花を見下ろした。
「働きモノのお花サン。祈りってのはむずかしいンだなァ」
 宛先ばかりは真似できず。戯れ程度、ちっぽけな動機には過ぎた重み。そのまま棄て去ってもよかったが、どうしてだろうか、風のぬるさとほんの少しの気紛れで。
「しかたがない、コレの分は――こうしよう」
 両手いっぱいのさいわいを、高く空へ。地へ、仰向けに倒れこむ視界埋め尽くす白。いくつかが新たに舞い立って、ほろほろ降っては止まぬ雨。
 あめ、あめ、さいわいのあめ。
 一瞬だとて月をも隠してしまうから、さようならを告げられたようで、好奇に細めた瞳は眠るみたくに伏せた。
 ゆるやかに握る手の中にはもう花のひとつ残ってはいないのに――ああ、これではまるで。
 おかしいなァ。だれにも届かない、だれかにしか届かない微かな掠れ声漏らす頬を撫で、落ちる花の柔さは、香りは、温度は声は。
 暗闇に灯る情景は。 ――なんだ。ひとつだけ、あったじゃないか。

 いつかの誰かサンたちにさちあれ。
 瞼の裏、ひとひら、薬指に刻まれた輪に寄り添うものとふたりきり。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティアラ・パリュール
お花畑も、村の皆さんも無事で済んでよかった。

それにしても、とっても綺麗でいい香りですね!
……"花"ですか? その名前は、なんだか、少し不思議な感じがします。

わたしは時間が許す限り、"花"で花冠を編んでいきますね。
スケルトンになってしまった皆さん、ひとりひとりに行き渡るといいんですけど、さすがに難しいでしょうか?
他に同じ考えの方がいらっしゃれば、なんとか間に合うかもしれませんね。
フクちゃんも、"花"を集めるのを手伝ってくれます。

それから最後に作る一つは、来年もまたこの慣わしが無事に行われますように、と願いを込めて。



 手と手をつなぎ、花冠を戴いて帰路を辿るもの。今来たばかりですれ違うもの、そのはやる足取りの軽さ。
 あちこちで紡がれゆく平和に、見つめるティアラの心も弾む。
(「お花畑も、村の皆さんも無事で済んでよかった」)
 帽子に乗った機械仕掛けのふくろうは、自慢の主を称えるように翼を広げる。お花を巻き込んじゃいやですよと、少女が見上げるとまさかと返す風に利口に鳴らされる喉。
 飛び降り、ぴょんぴょん地面を跳ねる姿はどうやら花集めを手伝うことにしたようだ。
「ふふ。フクちゃんも、同じことを考えていますか?」
 ティアラは丁寧に編む花冠の贈る相手を決めている。
 スケルトンとなって戦った村人たちひとりひとりへ。時間の許す限りと、自らを差し置いて安らぎを届けるべく。
 心にはいつも愛してくれた人々の笑顔があるから、何も要らないのだと屈託のない笑みこそが春の陽光とは知らず。

「それにしても、とっても綺麗でいい香りですね」
 花。
 そう名を聞いた白色はなんだか不思議な感じがしたけれど、こうして指に触れたなら、込められた意味にも隣り合える気がして。
 フクちゃんが嘴に挟み持ち来た一本を仕上げに使えば、持てるだけのさいわいたちが形になった。うち小さめなものを素早く咥えあげると、ふくろうはティアラの先を駆けてゆく。
「とってもやる気! よぉし、負けませんよっ」
 いっしょになって明るく足を踏み出した少女は、すこし行ってふと歩みを止める。
 かけた輪の一番端を抜き取り、花畑と土との境いの地面にそうっと置いたのだ。撫ぜて伝える、最後に作ったそのひとつに込めた願い。
 来年もまた、この慣わしが無事に行われますように――。
 ひとの手を離れさやさや吹く風が散らしてゆく白色は、大地へ還り、約束の日にかならずと芽吹くのだろう。やさしい君が、望むのなら。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。何をするでもなく花畑を眺めてのんびりする。
思えばここ二ヶ月ぐらい、ひたすら闘い詰めで
のんびりした時間なんて久しぶりな気がする…。

…ここでは皆が“さいわい”なのね。
他世界の人から見れば、ささやかな事かもしれないけど、
この世界…私の故郷の人達が笑顔を浮かべている…。

それだけで、私の誓いは間違っていなかったって…。
これから先も頑張ろうって気持ちになれるから不思議ね。

…ん。この世界を終わらせたりなんかしない。
どんな深い闇夜の中でも、消せないものがある事を私は今日、
再び知ることができたから…。

私に花冠を贈るような相手はもういないけど…。
…また来年もこの花をみる事が出来たら良いな。



 風に揺蕩う銀色も、月夜だけに咲くまぼろしのようだった。
 散る他にこの夜からどこへも行けないのは、似た者同士なのだろうか。

 屠るべきを屠り、もたらした安穏の中で双つ目はさいわいを眺むのみ。
 欲せず、されど遠ざけず。身を丸くして立てた膝に頭を預け、白を前にリーヴァルディは思考ばかりを巡らせる。
 思えばここ二か月ひたすら闘い詰めで、こうしたひとときなんて久しぶりなのかもしれない。その事実もがぼんやりと、ぽっかりと。
 故に知り得るものもある。
「……ここでは皆が"さいわい"なのね」
 失敗したからと恥じらう少女の手で贈られる花冠があった。
 それを頭に、神を前にしたかの如く破顔する少年があった。
 ダークセイヴァー、故郷でもある冥界めいた世に暮らす人々があんな顔も出来るだなんて。
 こんなにもまだこの胸は、震えることが出来るだなんて。
 暗夜のもとで戦い続けると選んだあの日から、もう随分と歩いてきたように思えたけれど。日の昇るべき方角へ、ふっと流す瞳にはひとつなぎの意志。
「私の誓いは、間違っていなかった」
 これから先も。想い確かに身を起こしたとき、花の側からいくつかがリーヴァルディへ降りかかる。険しい道行きへ、送り出すみたくささやかな華やぎ。
 どこへも行けぬのではなく、ここに在りたい者同士。勝ち取ってみせる誓いごと。
「連れてはいけないけど。そうね……もらっておく」
 握って歩み出せば、開く次には溶け失せるほどの祝福だって構わない。
 花冠を贈るような相手はもはやいないけれど、誰かのそれを手折らせぬための手ならば強く、確かに、ここにあるのだ。
「……ん。この世界を終わらせたりなんかしない」
 どんな深い闇夜でも、消せないものがある事を今日、再び知ることができたから――目深にかぶった外套の下、月にも呉れて遣らぬ咲い。
 また来年も、この花をみる事が出来たら良いな。

成功 🔵​🔵​🔴​

グリツィーニエ・オプファー
ゆらり、風に揺れる花々
あえか月光映る花を摘み、幸せを願う人々
その様子を遠巻きに眺めている事と致しましょう
…表舞台に立つのは、どうも気恥ずかしくていけませぬ故
そうで御座いましょう、ハンス

――ダークセイヴァー
明日の身をも知れぬ、絶望に満ち溢れた世界
然し、その中でも…ささやかな幸せを噛み締めて生きる人々
…その姿が、私には些か眩しいので御座います
旅人の幸いすら願う心優しき方々
ならばこそ、私からも彼等の幸いを願いたい
そう思いさえすれば身体は軽く
快く招き入れて下さった、暗い世を生く民の一人一人に一輪の花を添えましょう
…花冠と呼ぶには、あまりにもお粗末で御座いますが

――貴人方に、末永く幸福が降り注ぎますよう


絢辻・幽子
WIZ

あぁ、とても、甘い、甘いよい香りです

花と赤い糸を編んで、重ねて、蝶々を結び
尻尾へと
飾った尾をはたはた、揺らしてみる
でも……私の災厄はすべて
お人形さんが引き受けてくれてる気が

……そのせいか、私にはあまり似合いませんね?

(あなたに、幸いを。)
なんとなく見かけた子の頭へぽんと置いて
ゆうらりゆらりとお酒の気配を探してみましょう

ふふ。花見酒とか、素敵でしょうね

※真の姿は狐耳が出現して、尻尾が4つ
……ですが、とても場所をとりますので収納です
(のらりくらり、とした狐。
お好きなようにおまかせです)



 あえか月光映る花々とともに、人々はしあわせの中。
 災厄を祓うための儀式のさなか、早速一度オブリビオンの脅威から救われたのだと知ったなら、どれほどに驚くだろう。
 だが猟兵は多くを語ろうとはしない。グリツィーニエもそのひとり。見遣る……見守る眼差しには深い慈しみ、そう、男はこの光景を前に出来ただけでよかった。
 明日の身をも知れぬ、絶望に満ち溢れた世界でささやかな幸せを噛み締めて生きる人々。
「……表舞台に立つのは、どうも気恥ずかしくていけませぬ故」
 そうで御座いましょう、ハンス?
 囁くことで花の陰に紛れていた精霊が顔を出す。嘴に先刻までとは異なる白。
 編もうとでもしたのかもしれない、趾には押さえた花茎が幾本か絡まっていた。その面持ちまでもがどこかしらあどけなく、主の口元から吐息と零れた笑みがひかえめな賑わいのうちに溶ける。
「ふむふむ、カラスさんもお上手ですねぇ」
 近くに腰を下ろしていた幽子は感心した風に。
 常より糸を編んでは解くを繰り返す女の手元には、これでもう四つ目の冠。それは特別製で、紅糸と花との合わされた品に仕上がっていた。
 重ねて、編んで、蝶々結び。呪いと祝いはよく似ている。確たる対象がいなくては紡ぐ意味の薄れてしまうところなんて、特に。
 一本きりに落ち着いた尾に結わえてみるけれど、なんだかいやに軽いのだ。
「私の災厄はすべて、お人形さんが引き受けてくれてるからかしら」
 ひとりごと、はたはた。揺らす尾から数分と経たず抜き取る輪っかは、諦めず花を集めている鳥のもとへも翳される。
「いりますか?」
「身に余るお声掛けではありますが……」
 カァと欲しがる鴉を制しながらグリツィーニエは申し訳なさげにも。きっと、ずっと願われるべきひとがいるからと――幽子みたくには速く上手には編めない男は、口数少なに花を集めていた。
 一輪、一輪、贈る相手を思い浮かべる。旅人の幸いすら願う心優しき方々。ならばこそ、私からも彼等の幸いを願いたい……想い抱えて身体は軽く。
「なるほど。それはとても、強いまじないとなりそうです」
 色にそぐわぬあたたかみ持つ男の視線を辿ったそこに、通りすぎゆく親子連れ。察した狐は背中側から両手を伸ばして――ぽふんっ。なんとなくのおてつだい。
(「あなたに、幸いを」)

 小さな頭にのせた冠がやわい音を立てていた。はっとして絡む数十センチ下方のまぁるい黒目と反対に、幽子の花色は満足そう。
「ふふ」
 化かすのならばこんな夜くらいめでたくたって。ふたつみっつと、悪戯に重ねる花輪は盛り沢山に祈りを紡いで黒髪に咲く。それらを、仕上げとばかりにひと撫すり。
「では大人は大人の愉しみにでも。あぁ、とても、甘い、甘いよい香り」
 花見酒なんて素敵でしょうね。
 バニラの味も乙かもしれない。ゆらゆらり、気の向く儘に遠のく狐の背をぽかんと視線で追う幼子。代わって頭を下げる母の傍へ、グリツィーニエが差し出す一輪もまた芳しく。
 祈りの深度に大小はない。花冠に比べお粗末だろうと一度は迷いかけた指先に、贈り返されたものも同じ花一輪なれば。
 眩しくて――言葉を失った唇に寄せる。己のうちの、もっと奥。閉じ込めたなにかへ届かすように。
「ありがとう、御座います」
 そうして。配り歩きはすれど、沁み入るまでには暇を要した善意の念に、男はただゆっくりとこうべを垂れた。
 ――貴人方に、末永く幸福が降り注ぎますよう。 どうか、どうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

終夜・嵐吾
【喫茶】の皆と一緒に

皆、何も気づいておらんようじゃな…
うん、知らんでええことじゃ

や、メーリの嬢ちゃん(f01264)
ひとりか?
ならこのへんよう咲いとるよ、おいでおいで

アビ君も案内ありがとな
わしは払われるより災厄を払いたい
花冠を……どうやってつくるんかの……
なるほど、なんとなくわかった
ぐるぐるでぎゅっぎゅ……

……わしには?
チロ、キトリ、わしにはくれんのか?
ふたりから貰えて嬉しいわぁ
わしからも、不格好じゃがな

でもジナもわしよりちっちゃいしの…
クロ君ははよ大きくなるとええな
追い越される日が楽しみじゃ

にしても
一夜限りの花か、よう覚えておこう
皆からの手向けも大事に
一時だけ力の限り咲く花は美しいと思うんよ


チロル・キャンディベル
【喫茶】のみんなと

チロ、花冠作ったことあるのよ!
今日はチロがみんなの先生ね
お花ぐるぐるでぎゅっぎゅするとできるの!
さいしょにできたのは嵐吾に
さっきはありがとうと、だいじょうぶ?の気持ちをこめて作ったのよ

キトリくれるの?わーい、ソルベとおそろいね
嵐吾のも愛がいっぱいなの
あ、じゃあアビにおっきな花冠はチロがあげるのよ
ふふ、今日はありがとうーのきもちなの
メーリと他のみんなにもあげるのよ

花束にして、やくそくしたスケルトンさんにこのあと持って行くの
あまーいお花のかおりがそばにあれば
きっときっと、しあわせになってくれるの!

チロ、いたいのはやっぱりにがて
だからさいわいのお花さん、みんなをしあわせにしてね


キトリ・フローエ
チロに教わりながら
【喫茶】の皆と一緒に花冠を作るわ
チロとソルベと、ジナの分も!
…嵐吾もほしいの?いいわよ!

籠めた願いの大きさは同じだけど
一番上手に作れた花冠をアビ(f11247)にあげる!
…小さかったらその大きなお耳に飾るのはどう?
この花と出逢わせてくれたあなたにも
たくさんのさいわいがありますように
あたしからの祝福も一緒にしておいたから!

…いつか
全てがこの花のように消えてしまうとしても
あたしは今この瞬間の輝きを大切にしたいわ
アビ、これは皆には内緒ね!

その後は
チロと一緒にお墓にお花を
どうかたくさんの幸いが、チロの祈りが
それから、チロが傷つくことがないようにっていう
あたしの祈りも
空へ届きますように


メーリ・フルメヴァーラ
丘にあり、ひとり

よければ【喫茶】のみんなにご挨拶

わ、嵐吾(f05366)とキトリ(f02354)とチロル(f09776)だ!
また会えて嬉しかった
前に私が予知した時に戦ってくれた面々だ
きっと今回も守るべきものを、守ってくれたよね
うんひとり!
誘われるままにわーいとご機嫌に隣へ行こう

花を一輪、くるり回す
…災厄を引き受けて枯れる花冠
いのちを編み上げて
最後のひかりで照らしてくれるんだね
それ、こころに残ったらいいな
あったかい軌跡が

優しいにおいが
たとえ今宵だけの存在であっても
忘れないでいよう
しなやかな決意を湛える

みんなを嬉しそうに見つめて
私にもそこの花一本くださいな!
花譲りの優しさを一緒に私も編み込みたいの


ジナ・ラクスパー
閉店喫茶の皆様と

キトリ様(f02354)とチロ様(f09776)がいるから
大丈夫とは思いながらも
元気な嵐吾様(f05366)にほっとした途端
芽を出す負けずぎらい
どれほど優しく勇敢なことだったか
…ちゃんと、知って、います、けれど!
いつか嵐吾様より大きくなって大事なものを守りたい
知らんでええこと、は皆様にも知らないままに

密かに祈るだけは惜しくて
月下には賑わいのひととき
傍らのかわいらしい交換会につい緩む頬
贈れること、受け取れること
それだけで幸せは花開くから
祈りを込め、花一輪で編んだ指輪を皆様へ

ひときわ大きな花冠は天魔の子へ
煩いのない道行きになりますように
次の生にはきっと、一緒に遊んでくださいませね


クロード・ロラン
月灯りの中の幻想的な光景に目を奪われ
すげー、綺麗……それにいいにおい……
ガラにもないこと呟いて、へらり笑い

花を愛でたことがないから、正直どうしていいかわからない
【喫茶】の仲間がいたら、混ぜてもらって眺めていようかな

へえ、花冠ってそう作るのか
意外と簡単そう……思って作り始めるが、花の向きが思うこといかず苦戦
あー!俺こういうの向いてねえ!
諦めて、摘んだ花を手に座り込む
みんな器用だな。ん、よくできてる

む、嵐吾、笑ってられるのも今のうちだぞ
お前の背なんて、俺がすぐ追い越してやるからな!

仲間がいて、笑ってて、皆が皆を想ってる
こんな時間こそ、さいわいと呼ぶんじゃないかな
俺、今結構幸せだと思う



 はじめての光景にひとり、ただ、花畑と向かい合っていた。月の照らす横顔は鉱石の佇まい。故に光へ多彩にうつろう。
 聞き覚えのある朗らかな声に、メーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)は面を上げて。色付き、己の名を呼ぶ嵐吾へはつらつと手を振り返す。
「ひとりか? ならこのへんよう咲いとるよ、おいでおいで」
「わーい! わ、みんなも来てたんだね。すごいすごい、お花の輪っかがたくさんだっ」
 サークルを描くように囲まれた花の密集地帯。頼もしい面々のもとへと寄りつけば、彼らの手にする花冠たちもが目に入る。
 白に半ば埋もれながらぷちぷちと花を摘んでいた人狼の少女が、ぴくんと耳を揺らして身を起こし、きょとりとしたあとそれからえへん!
「あっ。メーリ、今日はチロがみんなの先生なのよ」
「チロったら教え上手なの、あたしにも出来ちゃった」
 ふふーと示す妖精の手にもひとまわり小さなつくりかけの花冠が。その度に瞳煌かせ、前のめりに輪へ加わるメーリの分もスペースをあけてやりながら嵐吾は、今一度あたりへ視線を巡らせた。
 あちらこちらで花と触れあう無辜の人々。仲間たち。そのどこにも悲しみの色はない。守りきれたという結果が今はなによりも、さいわいだ。
(「皆、何も気づいておらんようじゃな……うん、知らんでええことじゃ」)
 災厄は、払われるより払いたい。花冠。なれも同じ心持ちでいるのかと、心内問えど空白が返るのみ――微か、我にも無く笑う。
「にしてもむっずかしいのー。のぉ先生、ここのところもっかい教えとくれ」
「はーい。そこはね、お花ぐるぐるでぎゅっぎゅするとできるの!」
 なるほどなんとなくわかった。チロル先生の指導のもと極めて直感的な理解が要求される中、サイズ……の他にそんな彼女との付き合いの長さもあるのかもしれない、最も仕上げまでが早かったのはキトリで。
「チロ先生、ありがとね。ソルベの分と、しあわせ二倍でプレゼント!」
「キトリくれるの? わぁい、ソルベとおそろいね」
 ちょうどお耳の間におさまる輪っか。うっすら緑の映えるチロルの頭に飾られた花冠は、それ自体が幸せそう。きゃっきゃ笑顔が返ったならば、次はジナの分!
「……わしには?」
 が。
「チロ、キトリ、わしにはくれんのか?」
 放っておけば人差し指でも咥えはじめそうな声がすぐ隣から漏れだせば、娘二人はひそひその距離感でくすり笑いあう。さっきはありがとう、だいじょうぶ? の気持ちも込めて、うまくなってからあげようって、決めていたから。
「……嵐吾もほしいの? いいわよ! 最後ね!」
「チロがさいしょにあげるから、それでもいーい?」
 もちろん! うれしい!
 抱きしめ――はしないけれど。それに近く飛び起きる喜びのまま嵐吾は、編み上がったばかりの花冠を妖精にひとつと、ちいさな狼の子へともひとつ重ねた。
 よれた輪は不恰好?
 いいや、チロル先生もにっこり頷かせるほどの愛がいっぱいだ。

 なごなごとした交換っこにジナもメーリも口元を綻ばせる。
 ――――おかしい。
 とは、嵐吾やキトリと同時に花冠を編みはじめていた筈のクロードの心の声。
 意外と簡単そう。そう思っていた。実際最初の数本は余裕で。けれど進むほどに花の向きが……チグハグになってしまって。
 やっと十本絡め終えたなら、指を離した途端にびょんと不恰好に飛び出してしまって。これを戻せばもう一個前の花もいっしょに解けて? するとその前も――??
「あー! 俺こういうの向いてねえ!」
 崩れ落ちる勢いでクロードが座り込めば、実のところたまに覗き見ていて、ついに笑いを殺しきれなくなった嵐吾が励めよ少年と肩を叩く。助け舟? その顔は、どちらかといわずとも弟分をからかう気安さだ。励まし隊、チロルも横からずずいと身を乗り出して。
「クロード、クロード。先にお願いごとを決めたら、がんばろー! って思えるのよ?」
「ね、願いか。そうだな……そりゃもちろん、もう決めてるけどさ」
 視線が集まれば言葉尻へ向かうにつれごにょりと濁してしまう。逸らす風に手の内の花冠を見る。誰のものよりも歪だ。でも。
 仲間がいて、笑ってて、皆が皆を想ってて――こんな日々が続いてゆくことをさいわいと呼ぶと、当たり前でなんかない尊いものだと、狼少年は知っているから。
 がんばって、編む。キリリと顔を上げた瞬間と嵐吾の二の句が被さった。
「皆まで言うな。クロ君、はよ大きくなるとええな? 追い越される日が楽しみじゃ」
「むっ……ちが、嵐吾! 笑ってられるのも今のうちだぞ。お前の背なんて、俺がすぐ追い越してやるからな!」
 ていうか嵐吾縮め~って花にお願いしちまうぞ!
 それ呪いじゃろ、等とぎゃんぎゃん湧く場。
 そんな賑わいをもじ……と息潜め見つめていたジナは、やがて同じだけひそやかに吐息を零す。
 安堵。嵐吾が皆を気にかけるように、ジナも、庇いに立って痛みを引き受けた嵐吾のことがずっと気がかりだったのだ。今はおどけてみせるこの男が、あのひととき、どれほど優しく勇敢なことだったか。
(「……ちゃんと、知って、います、けれど!」)
 護る者になりたくて。別れを告げたいつかから、淑やかな娘の根幹は変わりなく負けずぎらい。私も――彼より大きくなって、大事なものを守りたい。
 強いおもいは努力もあってクロードほどに顔に出やすくはないが、代わりに花へ。丹念に織り込んでゆく。秘めるに適した小さなリングへ、ありったけの加護を。
 その隣。メーリはまだ花を選べずにいた。
 蝶の如くに触れては離れ、遊ぶ五本指で包みこんで。くるり。
 ……優しいにおい。
 災厄を引き受けて枯れる花冠。大層な役目を背負ったそれの香は、ここに居合わせた三人といっしょに食べた冬花の甘さにも似ている。惹かれるのは、つめたくないから?
 いのちを編み上げて、最後のひかりで照らしてくれるんだね。想いがそっと、手指を通して花にだけ伝わるほどに長く見つめ合っていたから、飛んだ妖精が窺う風に花序へと腰掛ける。かわいいリボンがついたみたいに。
「メーリ……この花食べられないわよ?」
「ふふふ、分かってまーすっ。食べたりしないよ。ただ、」
 ただね――こころに残ったらいいなって思ったんだ。あったかい、軌跡が。
 メーリがすべてを口にしなくとも、晴れ渡る水晶のきらめきはその芯までも透かすよう。顔を見合わせる影と影、直後、ふぁさっと娘の頭に指に贈られるのは、すこしやんちゃととても精巧な花輪たち。
「見た目はアレかもだけど! 込めるもんは込めたっつうか……」
「よろしければ、是非」
 ともにひかえめなクロードとジナ。僅かだけ呆気にとられたメーリはしかし、花より満開の微笑みで向けるありがとうの五音と。
「おかえし、させてくれるよね? 私にもそこの花一本くださいな!」
 手。 みんなの傍のと編み込んだなら、一段ときらきらに違いない。
 身にまとえばぐっと近く感じる芳しさ。たとえ今宵だけの存在であっても、忘れないでいよう。溢れんばかりにふる、つもる、花譲りの優しさを受け、しなやかな決意を湛えた乙女が編む冠はきっと誰もをしあわせにする。

「あたしの指にもちょうどだなんて、ジナ、すごいのね」
「悔しいけどみんな器用だよな。ん、よくできてる」
 そうして、それぞれがそれぞれに祈りを贈りあった。キトリの分のリングなんて針に糸を通すくらいの綿密さで、皆が目を丸くする中、ジナは頬の熱をはたはた仰いで逃がす。平常心、平常心……!
 でも、幸せだ。
 贈れること、受け取れること。自らの手で誰かを笑顔にできること。――幸せを、花開かせられること。
「気に入っていただけたなら、私もうれしいです」
 ほわりと木漏れ日めいた笑みも、箱の中では得られなかったもののひとつ。
 ちゃっかり耳に花冠を引っかけた犬男、アビ・ローリイット(献灯・f11247)は、彼らの顔を交互に眺め。
「もう職人ばっかじゃん。なんか通りすがりの俺までもらっちゃってよかったのかなぁ」
「それ、一番自慢の子なんだから大事にしてよね? あたしからの祝福も一緒にしておいたから!」
 花と出逢わせてくれたあなたにも、たくさんのさいわいがありますようにって。
 花冠をくれた、自信満々腰に両手をあてる絵本にいそうな妖精さんに言われてしまえば帯びる真実味。そこへどーーんと、もう二回りはおっきな花輪が。……頭を抜けて首にかかる。
「ふふ、今日はありがとうーのきもち!」
 チロルだ。ちょっと……全然、縦幅的に届かなかったから、絶妙なコントロールで通したのは嵐吾。あとはやくそくしたスケルトンさんにと、子狼の意識はまた花畑へ。手伝うおにいさんおねえさん。"さいわい"はとっくに、白一色に収まりきれず。
 ――いつか。 ふよふよ、宙から見守るキトリが小さく零した。
「全てがこの花のように消えてしまうとしても、あたしは今この瞬間の輝きを大切にしたいわ」
 これはみんなには内緒ね! 目配せを受けたアビが、恩も出来たしねとでも語るみたいに、随分あいらしい耳飾りをつっついて。
 エルフの娘の抱え上げた花冠も零れ落ちそうなほどに大きい。
「……さ、チロ様。キトリ様。途中まで、共に向かいましょうか」
「ジナはあの子にあげるのね? あまーいお花のかおりがそばにあれば、きっとしあわせになってくれるの」
 チロ、いたいのはやっぱりにがて。だからさいわいのお花さん、みんなをしあわせにしてね。
 前も見えなくなるくらい抱きしめる花束に伝え聞かせる純な声。耳に、妖精はあわく足元を照らす。どうかたくさんの幸いが、チロの祈りが、それから、チロが傷つくことがないように――この祈りは、空まで届きますように。
 転ばず、はぐれず、いつでも支え足りえる足取りでいたいから。ふたつの合間、ちいさな手はやんわりジナが引いた。
 きっと二人分、否、より多く。枯れ落つまえに祈りを念じる。彼の天魔の子にも、煩いのない道行きを。それから、それから、
(「次の生にはきっと、一緒に遊んでくださいませね」)

 やっぱり、綺麗だよな。
 俺、今結構幸せだと思う。その背中と月明かりの花畑をクロードは見つめて。
「……メーリさ、それ、ほんとに俺のでよかった?」
「うん! それにこれすごく被り心地もいいんだよ?」
 かぶってみる? いざ意識すればゆるく手を持ち上げるだけで頭に触れられる身長差、繊細な少年のハートが唸りを上げてはもうひと騒動。
 あぁ、快い夜。
 揺り籠に手をかけるように、右目の洞を撫ぜる花輪を飾った指。
「――――。一夜限りの花か、よう覚えておこう」
 一時だけ力の限り咲く花は美しいと思うんよ。
 内緒話がまたひとつ。 示し合わせずとも、一瞬一瞬きらめいて、こんなにも同じ今をいきている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

明石・鷲穂
【鹿糸(f00815)】と参加だ。
(WIZ)
おお、さすがに綺麗だな。
これを守れたっていうなら…もふもふを倒した罪悪感も薄れるもんだ。
俺は結構手先が器用でな。花冠、4つ目も完成したぞ。
鹿糸に付いて行動するが…どこ行くんだ?

墓地は……スケルトンの出現場所か。
再び眠りについた村人がまた起きてこないよう、合掌だ。
宗教が違うとかは瑣末な問題だろう。
完成していた花冠のいくつかは村人の墓へ、残るひとつは鹿糸の頭にでも乗せておこう。
花のために、戦ったんだからな。

そろそろ花畑に戻ろうぜ。
ああ、ほら朝日が昇っちまうぞ。

※アドリブ等はお任せします


氏神・鹿糸
【鷲穂(f02320)】と参加よ。

大きな満月。
無事にお花は満開になったようね。
お楽しみの、さいわいの花を見に行きましょう。

「此処まで来た甲斐があったわ。見て、花の海よ!」
村人の花冠を作る様子を真似してみるけど、……難しいものね。

「朝日が昇る前に、挨拶に行くわよ。」
「さっきは手荒くしてごめんなさいね。惹かれていたのは、この花よね?」
花冠が完成したら、村人の墓地へ。
お墓に花冠をいくつか備えるわ。
花に惹かれるものに、根っからの悪いものなんていないもの。……そう信じたいだけなのだけど。

残しておいた1つの花冠は、鷲穂の角にでも引っ掛けてやるわ。
此処まで付き合ってもらったお礼ね。

(アドリブ・連携歓迎)



 大きなお月様。
 満開の花の海!
 此処まで来た甲斐があったというもの。ご機嫌の鹿糸と、それに連れられた鷲穂の二人組も白と緑の花冠を編みはじめた……はよかったのだけれど。
「なんだかあなたの花と私の花、違うものだったんじゃない?」
「おいおい、どんな言いがかりだ」
 手慣れた様子で編み進める村人の、技を盗むのは案外と難しく。
 近眼も驚きの近さで眉間に皺、こんがらがったものと睨み合っている鹿糸の手からひょいと作りかけが抜き取られた。鷲穂だ。指先にそれを引っかけた男はしげしげ観察。――無慈悲にも口を開く。
「花は同じだがここで一回、こっちでも一回巻き忘れてるぞ」
「……おかしいわね、妖精さんの仕業よきっと」
 素早く奪い返すと、傾いだ首だがすぐ真っ直ぐへ。これはこれでお洒落だと思うの、そう、細かなことは気にせずに好きなように進めることにした鹿糸。鷲穂は鷲穂でそれにたしかにと返すが、既に自らの作業へ意識はもどって多分に上の空。
 お互いに、肩肘張らぬマイペース。近しい部分があるから、こうしてゆるりと時が過ぎゆくのかもしれず。

「でーきた、っと。四つ目も完成だ」
 ふたり合わせて五……六は編んだだろうか。
 月に翳して出来栄えを確かめ、納得のいく顔でいた獣人の隣。伸びをしながら鹿糸が立ち上がる。実は手先の器用な男が編み終えた四つ目は、彼女の元・三つ目だったりするのだが――それはそれ。適材適所。いつもとは逆、見下ろす位置にある山羊の身を揺すって。
「天職みたいでなにより。ほら、朝日が昇る前に挨拶に行くわよ」
「ん? どこ行くんだ?」
 花冠まで持って――尋ねてはみたものの、ついて歩くにつれその目当てが何であるかは読めてきていた。
 くだった坂の下には、和らいだとはいえ戦いの跡のこす墓場がある。
 覆う木々で幾何か暗く、肌寒い。スケルトンを眠らせた今、夜に相応しい静けさと空気が満ちていた。かつ、と小石を跳ねて、鷲穂が先に歩を止める。
 争いが止んだのなら。僧として経を読んではやれないが、個として手を合わせてやることはできる。眠りについた彼らが二度とは目覚めぬよう合掌――この地にも宗教の別があるのかは知れないが、瑣末な問題だろうとも。
「さっきは手荒くしてごめんなさい」
 そんな中、鹿糸の手は変わらず自由。合わせるよりもまず差し伸べることを選んで、香り立つ花冠をみすぼらしい木の板へと添わせるのだ。
 花に惹かれたもの同士。根っからの悪いものなどいない、……そう、信じたいだけなのだけれど。
 嘆きも怨みも喜びもなにも、土の向こうから返りはしない。しかし、後ろで微かに笑う音ならばずっと確かに。何か変か、ちらと半目に振り返った女の視界に白い、花が――花冠が、いっぱいに。
 ぽふっ。
「尚の事、生きてる方も幸せになっとかないとな」
 いくつかは連れを真似、残るひとつを投げた男が空になった手を払っていた。花のために戦ったんだ、浮かばれないだろうなんてからり笑って。
大味というか、斜めにずれて瞳にかかる冠を細い指がそっと直す。そうね。そう、
「彼らも、行きたい場所へ行けるかしら」
「ははっ。それ俺に聞くのかぁ? とっくに答えは出てるだろうに」
 "叶えてください"ではなく、"叶う"。 花冠。
 信じる者は――なんだったか。それはまた別な宗派の教えな気もしたが、この地の祈りの形がそうあるならば、受け止めるだけの寛容さを鷲穂は持ち。
 ああ、ほら。朝日が昇っちまうぞ。
 罪のない屍を獣を越えて咲いた花畑を、飽くまで拝もう。悔恨より感謝の響きで踵返した立派な角へも、ふわりと。白緑の輪が絡んだ。
 銀の瞳はまたたく。
「信じていいわ。ここまで付き合ってもらったお礼よ」
 ほんのついでのように。眦緩めたった追い抜くヤドリガミの髪に咲き、ゆっくりと深いねむりに落ち始める、花々をみる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クレム・クラウベル
……この世界にもまだ綺麗なものがあるものだな
月を宿したような、一面真白の群れ
ほんの一夜限りだから尚美しく思えるのかもしれない
一夜の刻限の儚さも重なれば、謂れの一つがつくのも道理か

今日は連れ合いもないなら枯れる前に送る宛もない
編む花冠は小さめに
自身で身につけるでもなく
やがて枯れるまでを見届ける為の輪

すぐに枯れるとはいえ
一夜限りなら墓へ運ぶくらいは持つだろう
景色を十分に目に焼き付けたなら
花をいくらか摘んで丘の下の墓標たちへ花を手向けに

この花に救われた心は如何ほどあっただろうか
巡る先でまた月下に花開ける様に
此度のような災厄がない事を祈ろう
尤も、再びがあるならまた払いにくるまでだが

左様なら、またいずれ



 ――この世界にもまだ、綺麗なものがあるものだ。
 月を宿した一面の真白はいま、まさに、クレムの眼前で明けようとしていた。
「賑やかになったじゃないか。ここもまた、花畑の続きかと見違えた」
 景色を焼き付け背を向けたばかりの丘の上ではない。花を摘み、辿り来た墓所にて。
 殺風景なはずのそこを彩るすべては、先客らが咲かせた白緑の花の群れらしかった。
 語り紡ぐ男の声は、生きたひとの耳が拾い得る音よりも、実のところは冷えてなどいない。長躯を屈め、背の低い墓標のもとへと傅く。
 わずかに盛り上がった土の上を撫ぜるように手向ける一輪。
「死したあとになって過ぎるほどに浴びるとは、皮肉な話だ」
 祈りを。
 それでもまたひとつ、祈りを。
 いつだって救いは生の速さに追い付けない。取り残されて、褪めた眼差しで追ってばかりの道行きにあって、今日は枯れ果てるまでに間に合った。

 この花に救われた心は、如何ほどあっただろうか。

 施し続ける最中、男の腕の中でもひとひら、汚れぬままでほたりと零れる。ほのかに淡くひかりが、もはや必要とせぬ黒衣のうちにまで沁み入る如くに。
 それを契機にほろほろ、落涙をとめられず解けるのは行き場なく残った花冠。終わりを見届けるためだけ編んだ輪は随分と幼く、けれどそのつとめを果たしたいと語って。
(「花に魂は――などと、な」)
 端まで行き着き、"さいわい"を寝かせる地面にはなにも埋まっていない。そうと知っていて見送った、さいごの白が、風に消ゆ。
「祈ろう。巡る先でまた月下に花開ける様に、此度のような災厄がない事を」
 尤も、再びがあるなら払いにくるまでとの強かで以て。
 神が居ずとも火は灯る。夢は咲く、
 ――左様なら、またいずれ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコラス・エスクード
こんな世界で或るからこそ、
人々には縋るものが必要なのだろう。
縋るための役割を与えられたものが必要だ。
この慣わしも、花冠も。
そのためのものなのだろう。

その身にて人々の願いを受け止める。
その身を賭して人々の災いを引き受ける。
この小さく幽き身で、儚くも尊き献身だ。

この昏き世界において、
こういった在り方もまた守護者の役割なのだろう。
であればこの小さき守護者を、
守り抜けた事が喜ばしく、誇らしい。

彼の役割は人々の為のものだ。
俺が受け取るものではない。
この光景で満たされているが故に。

彼のようなものがいるという事。
この世界で人々が幸せを抱いている事。
それこそが、それだけで、
我が身の幸いには十二分だ。



 こんな世界で或るからこそ、人々には縋るものが。そして縋るための役割を与えられたものが必要なのだろう。
 災厄は白く散り、残る緑も風に解ける。
 村人の多くにとって儀式の最後でしかないそれは、ニコラスのまなこには、志を同じにした朋の最期のようにも映っていた。
 触れられぬほどに小さく幽き身で、為す儚くも尊き献身。
 別れを惜しむべきか。――否。この小さき守護者を、この時まで守り抜けた事が喜ばしく、誇らしい。
 彼らの想いを、通り道をひとつとて妨げぬようにと端へ身をよけて随分と経つ。
「……騎士さま? どこかいたむの?」
 生気の感じられぬ鎧の身だ。微動だにせず佇む姿は一層、茫然として映ったのか。
 外套の端がくいと引かれたすぐそばで、褪せかかる花輪を手に握った娘がひとり、窺うように男を見上げていた。
 だったら、なくなるのを祈ってあげると健気に差し出されたそれをニコラスが受け取ることはない。ただ首を振る。次が、終わりを告げる風となるだろう。
「既にもらったのでな」
 もしも祈りの宛が必要とあらば、己自身のために願えばいいと付け添えて。痛むどころかずっと軽い身を翻した。
 ――主ほどには血の通う言葉を扱えずとも、その誇りが形を為した護り手たる盾は知っている。脅かされずに生くなら娘も、いつか巡り巡って誰かの光となるのだ。
 踏み出す足へ時に絡みながら、さあさあと開ける花の海に満たされる胸中。
 花、彼のようなものがいるということ。この昏き世界で人々が幸せを抱いていること。
(「それこそが、それだけで、我が身の幸いには十二分だ」)
 歩みが揺らぐことはない。故に報せぬほどささやか、祝福の溶かされた追い風はその背を触れるのみ。

 月明かりが地面へ届いて、花の失せたあとにも白を広げる夜だった。
 光をたどるように寄り添って、帰路へつく人々はわらって前を向いている。
 守られた今日という日が信じさせてくれる。
 君と歩む道行きは、絶えず、さいわいの中にあるのだと。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月20日


挿絵イラスト