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泡沫の深海市庭

#グリードオーシャン #猟書家の侵攻 #猟書家 #メリー・バーミリオン #冒険商人 #宝島

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 潮騒穏やかな島の一つは、本日も快晴。
 立ち並ぶ屋台の色鮮やかな中、行き交う人々は笑顔溢れていた。

 駆け回る子供が吹いたシャボン玉は陽光を受けて七色にきらめいては弾けたり、時に塀の上で欠伸をした猫がいたずらにつつく。
 楽し気に吠えた犬を追いかける子供に、忙しい店を切り盛りしながら見守る親たち。引っ張ってきた椅子に腰かけた老人は軒先でお喋りに興じている。
『新鮮なスパイスが入ったよ!早い者勝ちだぁ!』
『仕立てのいい服ならウチさ、さぁさ、見てった見てった!』
 ここにあるものすべてが、凡そ街で生きるもの達が思う人の営みで“日常”だ。
『新鮮な魚ならウチだよー!』
『さ、焼き立てのローストバードはいかがですかー?』
 日常の中で威勢の良い掛け声が飛び交う中、日常の明るさはなりを潜めたような目深にフードを被った人物が歩いている。
 人が行き交う中を慣れた足運びで行くさまに迷いはない。するするりと人込み抜けた先、ローブの人物は黒い門に行き着いた。
 襤褸紐に下がった小さなベルを鳴らせば、出てきたのは顔を隠すようにローブ纏った老婆。
『“口石”は持ったかぃ』
『“足枷”は付けてるぜ』
 しわがれた声の問いにも淀みなく答えれば、門が開く。
 一歩踏み入れば瞬く間に門は締まり、ランプを抱えた老婆がまるで地の底まで続く様な長い階段を照らしていた。

『……着いてきな』

 黙して追った先、待っていたのは暗き商いだ。
 命を売り買いする卓上で何かが成立し、一人の少年が暗い目のまま引きずられていく。酷く珍しい色の生き物が入ったままの籠はうず高く山を作り、怪しげな宝石の出所など誰も知らないまま、ローブの人物と然程変わらない素性の分からぬ恰好をした人々で溢れていた。
 いつのまにか、老婆は消えいて。
 ふいにローブの人物が足を止めたのは一つのテント。戸布をサッと上げ滑るように入り込み、入り組んだ棚を抜けたカウンターに置いたのは、金に輝く小さな鍵だ。
 甲高い音を立てて転がった先、目を剥いた男が太い指で繊細に摘み上げると片眼鏡でじっくりと覗き込み、顔を上げた時にはにまりと笑っていた。
『アンタ、探し物かい。こりゃあもう無ェ国の紋だが、まだ高く買うゼ?』
『……“口石”も“足枷”も付けたが、まだ沈みたい』
 値踏みするような顔で笑っていた男が、サァっと蒼褪める。
 摘まんでいた金の鍵を素早く、しかし丁寧にローブの人物の前へ戻すと手を引いた。
『ウチにそんなヤベェもんは扱っちゃいねェ!帰ってくれ!』
『オイオイ、アンタ……この私にそんな口きくのかい?』
 成っちゃいないねえ、と溜息交じりに発された言葉は女のもの。ばさりとローブを取った先にいたのは、太陽の如き髪をした女海賊――そう、メリー・バーミリオン!
 ヒュッと息を吞んだ男の前、勢いよくテーブルを叩いたバーミリオンがニイッと笑う。

『この私を呼んでる宝の地図、いただこうじゃァないか!』


●深海市庭の水先案内
 猟兵達を待ち受けていたのは、身の丈より大きなリュックに数多の世界の商品を詰め込んだ“猫人”と、大柄でヤギの如き角の目立つ男だった。
「よっ、オメーら。よく来てくれたにゃー」
 ふにゃふにゃと笑いながら席を勧めたこの猫人ことニールニャス・ヒサハル(全世界通貨マタタビ化計画・f33800)の横では、角の男は酷く沈痛な面持ちで座っている。
 ちらりと男を見やりながら、元の位置へ戻ったニールニャスは明るい笑顔で猟兵へ話しかける。
「俺様はニールニャス。で、こっちの角のおっさんはフェルバっていう商人仲間だにゃ。実は俺様の予知にちょっとヤベー女が引っ掛かったんだにゃ」
 紹介された角の男こと、フェルバが深々と頭を下げる横で猟兵もまた首を傾げた。“ヤベー女”とは一体……?
「メリー・バーミリオン……っつったら分かる奴らもいるにゃ?その女が、俺様達のグリモアベースの潜り込む鍵って噂のお宝のために、フェルバの島で秘密裏に開催させたブラックマーケットを荒らしてるんだにゃ」
『……はい。良い面、悪い面、全てあって商売。ですがこの度我が島で開催されたブラックマーケットは少々質が悪いのです』
 フェルバ曰く、元々彼が商売仕切るこの島では一切のブラックマーケットを容認していない。
 だが、密かにメリー・バーミリオンの部下たちが持ち込んだ出所不明の財宝を基軸に徐々にマーケットが大きくなり、とうとう彼女の目当てが売買されるほどの大きさまで成長してしまったのだと言う。
 その間フェルバはというと、新商品の開拓という長い航海に出て島を開けていたため、感知が遅れたことも要因の一つなのだと口にしながら、奥に情熱を携えた目で猟兵達を見た。
『皆様のお噂は伺っております。どうかこのブラックマーケットを挫くお手伝いをしていただけませんでしょうか。当方からの対価として、あなた方の“探し物”のお手伝いとさせていただきたく』
「そうにゃ。あんまこーいう商売経験のねーオメーらにこの“深海市庭”に行って、3枚の地図を探して“買って”ほしいのにゃ」
 それがバーミリオンの目指す場所を知る、残された唯一の方法なのだとニールニャスは言いながら、買う方法は“なんでもいいにゃ”と付け足して。
「悪いけど俺様、お宝の場所までは見えなかったんにゃ。だから、オメーらを案内できるのは島の入り口まで。その後のことはフェルバに頼ってほしいにゃ」
『島のことならは何でもお任せください』

 気を付けていくにゃー!
 そう笑ったニールニャスが錨の如きグリモアを床へ擲った瞬間、輝きの泡波の先に人の賑わいが猟兵達を迎え入れる。

『皆様ようこそ、商業島市アグリヴェラへ』

 


皆川皐月
 見つけたお宝は山分けだからにゃー!(byニールニャス)
 なんて猫の叫びを遠目にしまして、海です。

 お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
 お宝争奪戦と共に、ブラックマーケット制圧(ぼうりょくはよくない)withお買い物探索をお送りいたします。
 猟兵はとっても強くてヤバくてつよいというのはブラックマーケットで悪い商売をしている悪い人たちはよーく知っているので、猟兵が来た!ということが分かると、きゃー!と野太い悲鳴をあげて蜘蛛の子を散らす感じに逃げたりなんだりします。
 捕まえた場合、色々お喋りしてもらったり、出してもらったり引っ込めてもらったり出来るかもしれません。
 また、お喋りできる商品を助けた場合、その目線での情報を得られる場合もあります。
 そして“買う”予定の地図は全てきちんと並んで売っているものではありませんので、是非様々な角度から探してみてください。

 助けた品々(物品から命まで諸々)は同行する冒険商人 フェルバさんが上手に幸せな方へ始末してくれるのでご心配には及びません。

★プレイングボーナス!!
 全章共通して、冒険商人と協力すること。になります。

●各章の進み方
 頂いたプレイングの数によりますが、頂いたもの全て書きたいと思っているため、ややゆっくり進行かもしれません。
 プレイング募集期間は各章約2~3日ほどを予定しています。

●シナリオの流れ
 断章。
 第一章:ブラックマーケット 深海市庭 探索。
 断章。
 第二章:海賊 メリー・バーミリオン戦。
 です。

●注意
 複数人でご参加される場合、互いの【ID】または【旅団名】などをご記載いただけますと助かります。
 また失効日も揃えて頂けますとなお嬉しいです。
 第一章において、2人以上でのご参加予定の方はプレイング募集の最終日にお出しいただけると、締め切りの関係上執筆されやすいと思われます。

●おすすめ
 マスターページに文字数を省略できるマークについての記載があります。
 もしよろしければご利用くださいませ。


 各章ご参加は自由となっておりますので、お好みの場面にご参加いただけたら幸いです。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
 皆様の冒険が、どうか楽しいものとなりますように。
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第1章 冒険 『潜入・海賊マーケット』

POW   :    荒くれ者の雰囲気を出して、堂々と盗品のやりとりをする

SPD   :    店舗に忍び込んで探索したり、目的の物を盗み出す

WIZ   :    海賊マーケットの関係者を買収するなどして、必要な情報を集めていく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 “商業島市アグリヴェラ”。

 色取り取りの屋台とテントが立ち並び、賑やかなやり取りにあふれていた。
『改めまして、皆様ようこそ商業島市アグリヴェラへ』
 深々と頭を下げた冒険商人 フェルバはやってきた猟兵達を市場へ案内してゆく。
 飲食店の屋台から、色と柄に富んだ絨毯売りの店の隣には手彫りの家具職人の店が並び、手作りのアクセサリーを使う店の近くには原石を扱う店や、研磨職人、彫金職人など互いに助け合いながら商売をしていることが良く分かる。
 物にも人にも溢れた市場を抜けた先、店の数は徐々に減り居住区へ向かっていることが分かる。
『皆様、この青き門までが商業区画となり、この先中央は居住区となっています。そして――』
 “件の黒い門は居住区東、商業区から2ブロック入った一見は民家です”。
 そう猟兵達へ密やかに告げたフェルバが、瞬き程度の真剣さを引っ込め、また明るく案内をし始めた。
『既にお気づきとは思いますが、離れた此処からのご案となりましたのは、門を閉じさせないためです……――ああ、あの目立つ塔の下は学校なんですよ!』
 日常会話に混ぜる深海市庭の説明。
 次いで、合言葉は“口石は持ったかい”に“足枷は付いてる”になりますと記されたメモを猟兵に握らせ、さも何事もなかったかのようにフェルバは微笑んだ。
『学校では、通う子らが家の手伝いや自分で商売を持てるように、主に算術を教えているのです。――マーケットへの侵入は正式に黒門から。それ以外の道はありません』
 話に合わせて頷く猟兵達へ声を忍ばせながら、猟兵達へ自然に情報渡すフェルバの慣れたこと。
 辿り着いたのは、先ほど学校だとフェルバが言った建物の横、もう一つの塔の前。
『わたくしも同行いたしますが、バレぬ様に変装いたします。目印は……ああ、その“赤い月の旗”は当島のシンボルなのです!』
 観光客の案内が楽しい!という雰囲気は決して崩さず、目配せと含みある微笑みはそのままに自身の目印を見せながら笑うフェルバは、何も事情知らぬ者が見れば島のシンボルを観光客に自慢する商人止まりだろう。
『さて皆様、わたくしの案内にご同行くださりありがとうございました。では、これから自由時間といたしますね! ――是非、島の隅々までご堪能くださいませ』

 いってらしゃい、――また後で。
 入り方のヒントを手に、猟兵達は深海市庭へ向かってゆく。
ルカ・クルオーレ

ブラックマーケットかあ、こういう雰囲気も懐かしい感じがするよ。
最初は普通にうろうろして、あまり人のいない店を見つけたら、腰の宝剣を見せつけるようにしつつとっても良いものを探しに来たんだ、と。
抜く気は無いけど、殺気を隠すつもりも無いねえ。
暴れたり逃げられたら面倒だから、身動きできないよう威圧しつつお話を聞かせてもらおうかなあ?
僕の目的のものがある店を教えてくれたら、解放してあげるよ。
ああ、ついでに喋れる子が売っていたら解放してあげよう。フェルバだっけ、彼に預けて。
聞いた店へ向かって、手の中で宝石(趣味の収集物)を転がしながら話を聞いてみようか。
素直に出してくれればちゃんと払うよ。



 たおやかな銀髪を熱気に遊ばせながら、ルカ・クルオーレ(Falce vestita di nero・f18732)はマーケットを行く。
 未だ器物であったころ、マフィアの本拠地に飾られていたが故かブラックマーケットの薄暗く後ろめたい空気にルカは慣れていた。
 きょろりきょろりと見回して見つけたのはひと気の薄い通り。
 マーケットを行く流れに逆らわないようにしながらするりと入り込み、見つけたのは誰一人客のいない店。
「こんにちわ」
 一見女性とも思しき美貌で微笑めば、店主の男は咥えていた煙草をポロリと落とす。
『え、あ……あっつぁ!ええと、あンたァ……ウチは遊びじゃア』
「僕は少し、探し物をね?」
 柄に大粒の柘榴石飾った宝剣をちらりと見せれば店主の目の色が変わる。
 汚れた歯でニィっと笑い、嫌に恭しく礼をし揉み手擦り手で媚びを売り出したのだ。
『いやいや旦那お目が高い。ウチは宝石でも魔法石でもなんでも扱ってまして、へえ』
「それは凄い。でも――……」
 静かに言葉止めたルカを男が見上げた時、柘榴石より鮮やかな瞳に宿る殺気に腰が竦んでいた。
「僕が探しているのは、三部作の地図でね」
 知ってるかい? そう男の耳元でルカが囁けば、男は一も二も無く頷いて路地奥のババアが持っていると聞いた頃がありやす!とすぐに白状した。
「そう、ありがとう」
 微笑んだルカが、すいと視線滑らせたのを良いことに、にじりにじりと後ろへ逃げていた男のローブの裾をルカの長い脚が踏み止める。
「ああ、まだ話はあるし、個人的な探し物……君に手伝ってもらおうかな?」
『ひ、ひええ!勘弁してくだせぇ、だんなぁ!』
 泣きそうな声で縋る男などルカは気にしない。
 店に並ぶ宝石の質が良いことに気が付いてしまったルカに出会ってしまったのが、男の運の尽きなのだから。

「大丈夫、素直に出してくれればちゃんと払うよ。素直に、ね」
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ステフ・ウッドワード

うわあー!お店がいっぱい!
あたりをキョロキョロ猫一匹
熱気にあてられつい串焼き小魚の屋台で買い食いをしてしまうも目的地にはちゃんと向かい

深海市庭、マーケットで悪さしている商人さんのお店に忍び込んで地図を売ってるお店の情報を掴むまで探します
フフン、アタシの小ささと技能で商人の注意力なんてイチコロですよ!

お目当てのお店にたどり着いたら
UCで影を呼び出して暴れててもらいます
いきなりバケモノあらわれたらビックリですからね、いまのうちにカタクソウサクです!
地図はいただきです!

騒動の鎮火はフェルバさんにおまかせします!
めちゃ暴れたのでたぶん店の売り物もグチャグチャでしょうけど!ヨロシク!



 訝しまれながらもなんとか潜り込んだ深海市庭は、本当に海の底で光る海月が泳いでいるかのような世界であった。
 鮮やかな宝石のようなランプが下がり、きらびやかな鈴がいくつも揺れている。
「ん、しょ!」
 人の波をなんとかすり抜けながら歩く中はステフ・ウッドワード(夕暮れ森の花咲猫・f17855)の想像より遥かに夢と魔法、そして秘密に溢れている。
 上で買った小魚の串焼きをお行儀よく頭まで食べて、塩の付いた指先をぺろりと舐めた時、ステフの視界の先に眩いものが横切った。
「!」
 積まれた煉瓦から飛び降り駆けだした先では、ぼうっと吐いた炎を操る精霊が芸を披露していたらしい。
「うわあー!きれー!」
 パァっとアップルグリーンの瞳輝かせたステフに寂し気に微笑み手を振った途端、無理やり精霊の足に付いていた細い枷が引かれ、怪しげな店主のような男に殴られる。
『金にならなそうなガキに媚び売ってんじゃねえ!』
「……!む、むむむ!」
 離れていても、聞き耳を立てていたステフには全部聞こえていた。
 精霊が逃げようとして捕まる音も、宝石がぶつかり合うような精霊の悲鳴も涙も、小汚い商人の下衆な笑い声も!
 ステフの大きな耳は、悔しさと怒りにぴるぴる震えたのち、ピン!と立つ。耳を斜めに下げてなんていられない!これはもう“カタクソウサク”対象にするしかないのだから!
 ステフは猟兵だから、抜き足差し足忍び足、小さい体で潜り込み――……。
『やっぱり来やがったかクソガキ、お前何の用――』
「えーい! さあ、出番ですよ。出ておいでー」
 軽々と片手でステフを摘み上げ、睨みを利かせていたはずの店主も、今やステフの召喚した2mほどの巨影に首根っこを摘み上げられていた。
『ひ、ひぃぃぃいい!!なんだよぉこのバケモンは!!』
 誰か!と騒げど此処はブラックマーケット。面倒ごとには誰一人関わらないという暗黙の了解があり、助けに来るものなど居やしない。
「フフン、カタクソウサクが終わるまで大人しくしとくといいです!」
 胸を張ったステフが飛び出した先、きらきらの囚われ精霊達を助け出せば、にこにこと笑った彼女達が言葉は通じずとも身振り手振りや高所の捜索などを手伝ってくれる。
「ありがとう、妖精さん。あっ、影は暴れていていいですよー」
『お、おい!ふざけんじゃ……ぎゃー!やめろ!その蝋燭いくらすると……うわー!宝石踏んでんじゃねえ!』
 店主は大慌ての大騒ぎだが、またフフンとステフは鼻を鳴らしてちょっと悪い顔でニヤリ笑い。
 ひっくり返して掘り出して、その末出てきた中で一番目ぼしいのは《地図:重ね透かせよ神の書物なり》という古めかしいメモだけ。

 ぽてぽてと小さな足で近づき、ステフは商人を指先でつんつん。
「あなた、この重ね透かす地図ってなんですか?」
 教えてください、と微笑むステフと自由になった精霊達、そして蒼褪める店主の男による交渉タイムが始まった。
 その交渉は、激しい音と知らせを聞きつけたフェルバが急いで駆け込んでくるまでがタイムリミット。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

レイ・オブライト


「女を探してる」
『祷』を被り、人身売買の場を仕切る輩へ声掛け。卓に叩きつけるは【UC】で別個に動かす片腕。薬効高き不死者の呪物って体だ、そう嘘でもない
金の髪の修道女…が、見当たるとは元より思っちゃいない。裏手へ案内された先の品の拘束を『怪力』で壊し
本題といこう
悪事の背景を知らん限り、オレとしてもただの人間を殺すのは些か忍びないんだ
必要なら卓や壁程度は殴り潰すが、それ以前に『覇気』でおしゃべり出来りゃあいい
平和的に、な?

逃走は念動制御の『枷』とUC片腕で阻止
自慢の品同様転がし
近頃とびきりヤバい品の噂が飛び交ってないか探るか。やたら羽振りの良くなったお仲間を紹介してくれるでも構わねえが、どうだ?



 襤褸になり緩んだ織地の穴から覗いたこの世界は、地上を反転したかのような風景であった。
 歩く人々も何もかもが暗い目で物をみて濁った目で媚びを売る。弱いものは売られ買われ拒否権など無く、泣けば叱責と暴力を受け、黙せば無価値と捨てられる。
 そんな、いっそ生き地獄と呼んで差し支えない世界を、レイ・オブライト(steel・f25854)は静かな金の瞳で見ていた。
 辺りを探りながら目星を付けて辿り着いた先にそれはある。
『さぁ、今日の時分の目玉はセイレーン! 歌が得意な女だよ!他にも使い道が色々ある、さあ100からだ!いくら!』
『500』
『890』
 無駄に煌びやかなステージの前、手を上げ数字を競う男達の間を縫ってレイが進んだ最奥にソイツは居た。
 襤褸を纏いながらもキツく人々を見ては値踏みし、指先と視線で部下を使って細やかな差配をしている、男。
「女を探している」
『……何ができる若造』
 ちろりとレイを見上げた男はそう言ったきり、レイに見向きもしない。ステージ上、売れたのか下衆な笑いの男に引きずられていく女セイレーンを見ていた。
 仕方ないとレイが布に包まれたモノを男へ投げ寄こせば、男がレイに視線でモノを問う。
「生憎、もう死でてな」
『へえ……』
 そう言えば、包みを解いた男が興味深げな顔で出てきた“腕”を見た。
 屈強な男についていたであろう腕も今や黙して静かなまま男を見返せば、つうっと男の太い指が腕をなぞる。持ち上げてひっくり返し、切れた根本から、腕の筋、指を見て元に戻すと、男は今度はレイを見上げて。
『出所……は、聞かねえ。効果は』
「不死者の呪物。効果は相応だ」
 そうか、と呟いて再び腕をじいっと見つめること数分。男は腕を包み直して歩き出すと、振り返ってレイを手招きした。
『来な、奥だ』
 布戸を捲った先、待っていたのは商品らしい女達ばかり入れた檻の群れ。
 どんな女をお探しで?との問いに、金の髪の修道女とレイが答えれば男が金の髪の女、修道院に居た女、と様々な女を用意しては見せてゆく。皆々怯えた目をしていたが、男に促されレイに媚びを売る女達をそっと抱き寄せては手枷を怪力で摘まみ潰してやりながら“隠せよ、猟兵が来る”と囁いてはとっ替え、ひっ替え。すれば、女達が気に入ったのだと勘違いした男がニヤリと笑って更に奥へ。
 着いた先、待っていたのは質素な机と用心棒らしい男達であった。
『で、どれが良かった? 試しに“貸して”やることもできるが……』
「ああ、あんたの商品全部気に入った」
『そりゃあイイ、じゃあ――』
「オレとしては“ただの人間を殺すのは些か忍びない”んだが……猟兵だからな」
 瞬く間に部屋に鋭い緊張が走る。
『てめぇ』
「なあ、あんたは――」
『うるせえ!騙しやがって! 俺が拾った人間売って何が悪ぃ! “社会貢献”だろうが!!』
 悪人か?そう問いかけたレイの言葉は潰され、ナイフを向け叫んだ男の本音が晒された。
 ――瞬間、ドンッと揺れた。レンの放つ覇気が、テントを揺らしたのだ。
「そうか、そりゃあ残念だ」
 男が何か言葉を紡ぐ前に、包んでいた“不死者の腕”が突如動いて男の顔を掴み、勢いよく机に叩きつける。操った腕で無理矢理男の口を抉じ開けて、レンは言う。
「あんた、最近羽振りのイイ奴とヤバい品の噂は知らないか?」
『う、うぐ!ぐううぐ、ぐうあ!』
 そうかい。
 そう言って椅子を引き座り直したレンが得た情報は“最近、ガルリデルという男の羽振りがイイ”ことと“東の魔女ヴァユッテ”という店に透明な神の地図がある、という噂。
 この尋問は人伝に情報得たフェルバが駆け付けるまで、みっちりと行われていたのであった。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f09129/ユルグさん

天幕に並ぶ珍しき品々
心弾むよりも
肩を竦めたくなるのは
例え此れらを手に入れたとて
己を縛る枷にしかならぬと分かっているから

良心と言えば聞こえがいいけど
単に
寝覚めが悪い、という奴です

常のまま変わらぬ微笑も
声音だけは少し抑揚を欠いていただろうか

飾らぬ彼の気安さへ
零す吐息は柔らかに


きゅい、と
か細い声に振り向けば
山と積まれた檻の中
動物達が鳴いている

大丈夫、

囁きは人語に非ず
動物と話す技にて
怯える命たちに安堵を齎せたら良いな

猟兵ですと宣う混乱に乗じ
数多の檻を解放
宝の在処も教えてくださるなら重畳

御逃げなさいなと促せども
懐いて擦り寄る子を抱き上げつつ
ふわり笑く

そうね
こんな払暁なら、悪くない


ユルグ・オルド
f01786/綾と

非日常に足取り軽くも
眇めて思うのは出所も
知れたモンじゃアねえわ

幾分晴れない様子の隣へ
肩叩いて笑うのは
それを晴らしに来たんでしょ
安請け合いの自信なら任せて、と
努めるでなしの優しい男に

ひょいとしゃがんで目合わせて
こんな檻じゃア窮屈だよネ
名前も知らない子らへ手をひらり
威嚇すんならまだ元気
買えるンなら欲しかった、なんて
言ったら綾に怒られっかしら

さアさ大立ち回りは任せて
派手にやりゃ動けるモンもある
どっちが悪党か見せてやろ
逃げろや逃げろ
もうとっつかまんじゃねェよ
さア闇市も出すもん出して逃げ出しな

くるりシャシュカを回したならば
どオ、幾らか寝ざめは良くなりそうかい



 不思議と、胸躍らないのは何故か。
 周りに合わせて歩みは止めぬまま、滑らせた視線の先で売られるモノもヒトもイキモノも、笑顔が無く“終わり”ばかりを夢見ているように見える。
 ひどく、胸が詰まる。
「このままでは、」
 都槻・綾(絲遊・f01786)がそっと胸に当てた手を握った時、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)がその肩を二度叩いて、指差したのはユルグ自身の顔。
「それを晴らしに来たんでしょ?」
 大丈夫大丈夫、と明るく微笑む友の笑顔が、今の綾にはひどく逞しい。だが、頷く綾の目が酷く冷めたままであることを、ユルグはきちんと心得ていた。
 優しすぎるこのユルグの友には、少々この場は毒が過ぎる。
 ふと綾の足が止まり、視線を辿れば吊られた籠に傷ついた翡翠色の鳥が鳴いていた。
『キュイ、キュルル ピ ピ 、』
「キュイ」
 酷くか細い今にも途切れそうな声に綾が応えれば、バッと翡翠の鳥は目を見開き驚いたような表情。伝わっている――……そうすぐに理解した二人が入った店は、いわゆる珍しい生き物を取引しているらしい。
『キュ、ピルル ピュ――』
『うるせえ!! 黙れねぇならその嘴抜いちまうぞ!』
 必死に綾へ訴えていた鳥の籠が、綾達が近付く直前思い切り殴りつけられる。
 酷く暴力的な勢いで鳥を恫喝した男は察するにここの店の店主らしく、嫌に偉そうでなその様に眉を寄せた綾が口を開く前に、ユルグが音も無く前へ出た。
 ひらりと後ろ手に手を振る姿を綾が目で追えば、振り返って一言。
「(任せた)」
 と口の動きだけで言うと、そのまま店主の肩を抱き矢継ぎ早に話しかけ連れ去ってゆく。
 一方、任された綾は友の気遣いと策を察し、小走りに先ほど殴られたせいで激しく揺れる鳥の籠を止めると、再び声をかけた。
「キュイル、 ルル、ピーュ」
『っ、キーュ、ルルルピユ ピールル、ルル ピィキュイキュィキュ』
 鳥曰く、此処の店主は酷く乱暴なこと、皆攫われてきた者ばかりだということ、そして――みんなをたすけて。
 そううたった小鳥の涙は、宝石へと変わっていく。

「やあ、俺実は珍しい生き物を探しているんだが、何か面白いものはないかい?」
『あ? あンだぁてめぇ……』
 やあやあやあ、そう明るく笑いかけて突然肩を抱いたユルグにすぐ警戒を見せた店主だが、ユルグの纏う異国の雰囲気と装飾品から金があると即座に判断したのだろう、すぐに警戒を解きそれはもう溢れんばかりの笑顔で揉み手擦り手の万々歳。
『いやいやいやいや、旦那のお眼鏡に叶うなんざ光栄です! へえ!』
「そうかい、それは……ん? あれは――」
 ふと、酷く強い視線が気になりユルグが見た先には、つやつやと黒い毛の美しい猫のような生き物が襤褸けた籠に居た。
『シャァーーーーッッ!!』
『てめえ、何楯突いてやがる!』
 ユルグがしゃがみ覗き込めば、一瞬驚いたもののすぐに毛を逆立てるや紅玉の如き瞳を吊り上げ、金色の牙を剥いく。
 その姿に声を荒げた店主が籠を殴り飛ばそうとしたのを片手で制したユルグは、じっと猫を見た。すれば、黒い毛のせいで分かりにくいが後足を引き摺り、首に何か呪いらしい片鱗と店主が怖いのか震えている前足が腫れている。
 すうっと、心が冷えた。
「なあ、こいつは?」
『へえ旦那、売れねえうるせえ反抗的なもんで、躾けが行き届いてませんで、すいやせ……』
「そうじゃない、どこから連れてきたか――……猟兵の俺に言えるかい?」
『てめぇ……!』
 振り返ったユルグの顔を、ユルグ自身は気づいていない。
 僅かに朱に寄る瞳が煌々と静かな怒り湛えていたことに、気づいてはいなかったのだ。
「――ユルグさん、こちらは終わりましたよ」
『キュイ ピルルルル―――ヒューイ!』
 ハッとしたのは綾の声と、宝石鳴らすような鳥達の声に元気ないくつもの羽搏きが聞こえたから。
『な、な、なんてことを……くそっ!くそっ!!ちくしょう!!』
 男の想像では、この籠の鍵全てを開けられるのは自分だけだった。
 このマーケットで手に入れた呪いの銀鍵でのみ開けられる呪詛ある鍵穴。籠を集めるのに大変な苦労をしたが、逃げられる心配の無い商売ほど良いものは無かったのに!!
 頭を掻き毟りながら男は保身のため、目の前の籠に中身が居ようが居まいがお構いなく蹴ってでも退かして走り――出せなかった。
 ユルグの足に盛大に躓いたのだ。
「ああ、そんな焦りなさんなってなあ?」
「ええ、お話を――……私も猟兵としてお尋ねしたいことがいくつかありますので」
『どうか、どうか命だけはご勘弁を……!』
 そうしてこの交渉で得たのは、“東側の魔女の店にヤバい品が持ち込まれた”こと、そして“ブラックマーケットの元締めは奴隷商である”ことの二つ。

 それと、この店で怯え涙し縮こまっていた小さな命全てに朝が来た。
 後に訪れたフェルバの手配で自由なる生き物達は再び太陽の下を駆け、月を浴びてゆくものもいれば、誰かを思い寄り添うものも出たことだろう。

 全て、己の生き方を己が決めてよくなったのだから――!
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
【リュウグウ】

私らの世界でやってくれんじゃん
こりゃあ、それ相応のおもてなしして差し上げるしかねぇよなぁ

三枚の地図、ねぇ……
合言葉は頭に入れたし、【第六感】の導くままに行ってみっかな
ロクの勘も期待してるぜー

猟兵の身分をバラして追い込み漁と行くか
奴隷の保護は相棒に任せたー

猟兵が来たってだけで逃げ出すカワイ子ちゃんたちに、悪人の真似事はまだ早かったんじゃねぇの?
【早業、先制攻撃】で取っ捕まえ、商人に槍の切っ先を突き付ける
さぁて、お話しよーぜ
なぁ?私に教えてくれよ、テメェらのお宝って奴をさぁ
【挑発、恫喝、恐怖を与える】で威圧してみっかな
そう簡単に怯えてくれるなよ、【略奪】なんて珍しくもねぇだろうに


ヘカティア・アステリ
【リュウグウ】
あぁ嫌だ嫌だ、まったくアコギな商売しやがって
人を売った金で食うメシはそんなにうまいのかい

ひとりでも多くを助けてやろう、もちろん仕事もするさ
『リュウグウ』の名に懸けて、ね

合言葉でブラックマーケットに入ったら見える範囲で周辺を確認
悪い商売人は仲間に任せて生きてる商品の保護をするよ
こういう時の『拠点防御』だ

さぁ、もう大丈夫さ
水は飲めるかい?果物もあるよ
落ち着いたら色々と教えておくれ、探し物があるんだ

ルクス、ロク
おしゃべりできるくらいにしといてやんなよ
どうせリュウグウからは逃げられないんだ

必要ならいくらだって金は払うさ
ここにはここの流儀ってのはあるだろう、癪だがある程度は従ってやるさね


ロク・ザイオン
【リュウグウ】
(森には森ごとの営みがあり、それを森番は尊重する
此処にも、此処の秩序があるのかも知れないが)
…おれは、こどもがかわいそうなのがイヤだ。
(今日の己は「リュウグウの用心棒」だ
ならば、リュウグウ流に
好き勝手、大胆にやらせてもらおう)

探すのは、任せろ。
(どんなに混沌とした市場でも、己の【野生の勘】は誤魔化せまい
うすぐらい臭い、悲嘆の声を【追跡】しよう)
喋るのはルクスとヘカテに任せる。
おれの声は、向いてないし。
…手向かうなら、
(「惨喝」で【恐怖を与え】動きを止め
剣鉈二刀で【早業】の【なぎ払い】
ルクスの尋問のフォローをしよう)
逃さない。



 暗い階段を下りて抜けた先、腰を屈めて抜け出たヘカティア・アステリ(獅子頭・f26190)の姿に周囲の人々が驚いたのも一瞬だけ。
 巨人というのも、そう物珍しいものでもないらしい、が――妙な視線を密かに感じていた。
 ヘカティアの目配せでことを知りながらルクス・カンタレッラ(青の果て・f26220)は大きな溜息と共に頭を掻いた。
「私らの世界で、やってくれんじゃん」
「あぁ、まったくアコギな商売しやがって」
 少し苛立ちを見せたルクスと共に高所から周囲を見ていたヘカティアには、余計に見えるものがあった。東西に、奴隷商がある様子が。
 どうやら東側のそれは小さな騒ぎが起きているらしく、揉めている――おそらく、猟兵がいる。ならば、とルクスとロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)に合図しようとした時、バッとロクが西を見た。
「……――泣いてる」
 ロクの感はよく当たる。
 それなりの付き合いがあるヘカティアとルクスはよく知っていたからこそ、迷いなく歩き出したロクの足をすぐに追った。

 眼前の光景は、常人ならば悲鳴を上げていたかもしれない。
『ごめんなさい!ごめ゛ん゛な゛ざい゛っっ!!』
『やだやだ助けてっ、助けてぇっっ!!』
『おらとっとと並べ!!』
『いや、いやいやいやいや――』
『あー、壊れたか?』
 鞭打つ音、悲鳴、血が流れ命が零れそうになっている。数多の涙が零れ、下衆な笑いが撒き散らされていく。
 みしりと軋んだヘカティアの拳を、今にも引鉄引かんとするロクを静止して、ルクスは意図してワザとらしく踵を鳴らし商人らしい男達に“聞かせてやった”。
『あ゛ぁ? テメェ……商品じゃァねえか』
 ニヤリと嫌な笑いを浮かべた男が泣き続ける少女を投げ捨てルクスへ手を伸ばした時、ルクスは恭しく礼をして、―――告げた。

「よお、猟兵が来たぜ。バラされてぇのは誰だい?」

 蜂の巣を突いた様な騒ぎが起きる。
 奴らが“商品”と呼んだ子供たちが足場や足止め替わりに使われようとした時、ヘカティアの長い腕が壁のように遮った。
「あんたら、いいかげんにしな」
『くそっ、おいテメェら!!』
『いやっ、いやぁあ!!』
 遮られた“商品”は全てヘカティアの拠点の内で使えない――となれば、使うのは手持ちの駒だった。無理やり髪を引っ張り、後ろから引っ張り出した少女を盾にしようとした男は――……。
「離せ」
『ぐっ、ごえっ』
 真後ろから両腕が打ち上げられた瞬間には手元の子供は消えて居た。代わりに背の声に振り返った男に叩き込まれたのは、顔を潰す勢いで叩きつけられたロクの拳だけ。
「おいおいカワイ子ちゃんども、おもてなしして差し上げようじゃねぇか――私は水、私は生命……“海の怪物”を見せてやるよ」
 UC―海の怪物 シレーナ―。
 逃げるなよ、遊ぼうぜ? そう笑うルクスが歌うように水を呼び、逃げだす男達だけを捕らえ引き摺り吊るしてゆく。と、範疇外へ逃げた者が一人。
「おっと……おーい、ロク頼むぞー」
「任せろ」
 ルクスの声に応じたロクが込み入った路地を駆ける。
 森で生きていたロクにとって、込み入った路地は存外森より単純だ。人工物は自然より形が単純で、揃っているものが多い。だから――……。
『ハッ、ハッ、ハァッハァッ、くそくそくそくそっ!!!』
「逃がさない」
『ヒッ』
 瞬く間に追いついたロクに男が悲鳴を上げ我武者羅に腕を振り回すも、猟兵からすれば赤子に毛が生えた程度。ロクが素早く刃を逆に持ったクランケヴァップ 悪禍裂焦«閃煌・烙»で強かに側頭部を打てば、倒れた男は息があるようだが動かない。気絶したらしい。
 面倒だ――……とは思ったものの証拠の内と言い聞かせ、無遠慮に引き摺りながらロクはルクス達の所へ戻っていく。

 一方、予定通りヘカティアは保護した子供や女、男達を拠点防御を展開した中へ招いていた。
 皆を怖がらせないようにとしゃがみ、持ってきた水や果物を配り食べるように促してゆく。と、膝を叩く小さな手が。
『おねえちゃん、ありがとお』
「ゆっくりお食べ、もう大丈夫だからね。……落ち着いたら色々と教えておくれ、探し物があるんだ」
 ヘカティアが全てに平等に接し、怪我をしたものが居れば迅速に手当てをし、枷が外れない者には枷だけ指先で潰して……助け出した彼らの情報を統合すれば、“ターバンの男が大事そうに何かを持っていた”という情報が浮かび上がる。
「ルクス、ちょっと」
「ん?へえ……ありがとう、ヘカティア」

 吊し上げられた商人達が、呻き声をあげながら並んでいた。
 ニィっと悪い笑み浮かべたルクスがヘカティアからの耳打ちを受け、商人達に向き直る。
「んー……ああ、お前だ。そこのターバン」
『え?お、おおお俺がァ、何か……?』
「さぁてお話しよーぜ、なぁ? 私に教えてくれよ、テメェのお宝って奴をさぁ」
『ひ、ひぃっ』
 悲鳴が上がったのはものの数分だけ。
 丁度ロクが戻ってきたとき、“透けるような紙に描かれた地図”を一枚手に入れたルクスが略奪したソレを手に笑ってみせた。

 助け出された奴隷の全ては駆け付けたフェルバの手伝いもあり、傷の多い者から病院へ運ばれることだろう。
 一つ、悪しき者たちが粛清された。

 地図が一枚、猟兵達の手元へ揃った。残るは二枚。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
【不合格】
アドリブ、マスタリング歓迎

_

服装も目立たぬようTPOに合わせ

楽しそうなミュゲに瞳細め
はしゃぎすぎて転ぶなよ、と声掛けながら
椿のお願いを快く受け入れ、菊共々軽々抱き上げる
ルーファスの揶揄には溜息吐き
…せめてパパにならないか?

道中ブラックマーケットで子どもが売られていることを知れば
人知れず単独で裏から乗り込み無傷で全て捕らえる
怯え青ざめている彼らを静かに見下ろしながら
目当ての地図や情報について問い
然るべき者へ身柄を受け渡す
被害者たる子どもたちも解放しながら話を聴き
全ての後片付けを終えた後何食わぬ顔で皆の元へ

途中で会った菊の肩に腕回し
アイスでも食いに行くか、なんて


ルーファス・グレンヴィル
【不合格】◎

にやりと合言葉を口にして
ガキ共を引き連れマーケットへ
アキの慣れた足取りに笑い
それは頼もしいな
でも、ふたりの姫はお前が守ってやれよ

そうしてると親子みたいだな
ちゃんと面倒見てやれよ、梓ママ?
なんて笑いながら揶揄して
ミュゲにパパと呼ばれ瞬き一つ
ほら、来いよ、と軽々抱き上げた

肩上に座らせていた少女を降ろし
椿に指し示された店へと向かう
くくと喉の奥震わせながら
大丈夫、紳士的にやってやるよ

煙草を口許に咥えて紫煙ごと
店主へと挑発的な態度で声かけた
なあ、店主、地図はねえの、
不敵に紅蓮の瞳を細めて
嗚呼、しらばっくれるようなら、
肩の上の黒竜が大きく口を開く
僅かに炎の吐息が漏れた
──どうなるか分かるだろ?


花厳・椿
【不合格】◎
まぁ…とても賑やか
これでは何も見えないわ
少し考え前を歩く黒いコートの裾を掴んだ

「ん」

彼に向かって両手を上げる
梓お兄ちゃんなら、椿一人くらい持ち上げても大丈夫でしょう
うふふ、とても見晴らしがいいわ
あちらを探しましょう?
椿の【第六感】と【幸運】を信じてね

なんとなくあそこのお店
あそこで聞き込みしましょう?
ね、ルーファスお兄ちゃん
適材適所と言うでしょう
椿のような可愛い子供では舐められてしまうもの
あくまでも紳士的に、ね?

ミュゲちゃんのお仕事…?
可愛いものはそれだけで充分なのよ
えぇ、だからあなたのお仕事は可愛くある事
それでもお仕事が欲しいと言うなら
菊お兄ちゃんのおもりをしてあげてちょうだいな?


ミュゲ・ブランシュ
【不合格】◎

まあ…!なんてわくわくするところなの!
みんなまって!
…ねえ、きーちゃんのうりとばす、ってどういういみ?

そうだ!たからのちずをさがせばいい、のよね?
ええ、さがしものはとくいよ!
えっへんと胸を張って
それからあっくんに抱き上げられるつーちゃんを見て目をぱちくり瞬かせるの
ならあなたはパパね!
ふふ、るーくん。ミュゲも!ミュゲも!

…あら、もうおわり?いってらっしゃい!
店の中へと入って行くるーくんとお友達を見送るわ

これが、てきざいてきしょ…
ミュゲにもできることがある…ということかしら!…かしら?
つーちゃん、ミュゲにもおしごとちょうだいな!
……おもり?おせわのことね!
もちろん、まかせてほしいのよ!


菊・菊
【不合格】◎

任せろ、
賑やかで汚ねえとこの歩き方は、詳しいぜ?

おい、ミュゲ、売り飛ばすぞこっちこい

椿もミュゲもクソ可愛いからな
勝手に売られねえように、そっと背に
そうそう持っとけ梓
はあ?俺はいい、俺はいいって言ってんだろ梓!!!

はあ~?親子だあ?
……。悪くはねえけど

椿の感?恐ろし~よなあ、ぎゃは!
ルーファスと梓もどっかいったわ
俺も混ざりてえ~のにガキどもが暇暇うるせーから
しょうがねえ、買い食いすっか
そー。お前らはここでアイス食ってろ
おら、ママ来たぞ

おっさん、そこのガキにアイス
ん、俺?
俺はね、その古クセェかみっぺら、ちょーだい
ひひ、ガキの感、恐ろしいって言ったろ?

光ったコインは、子どもの瞳と同じ色だ



 深海市庭はアンダーグラウンドなブラックマーケットである、という事前の説明があったはずだが――……。
「まあ……! なんてわくわくするところなの! みんなまって!」
 パァっと花のような笑顔でミュゲ・ブランシュ(Code:Muguet・f29677)が瞳輝かせ歩き出そうとしたその手を、慌てて菊・菊(Code:pot mum・f29554)が掴めば、返ってきたのは不思議そうな顔で小首を傾げたミュゲの顔。
「あのなあ、」
「でもでもだって、みてっ、きーちゃん!きれいなようせいさんよ!」
 危ないだろうと叱ろうにも、こうも輝いた眼をされては菊も押し負けかけてしまう。
 そんな姿を喉鳴らして笑ったルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)がぐしゃぐしゃと菊の髪を乱しながら頭を撫でて言ったのだ。
「今日の頼もしいアキなら、ふたりの姫守るくらいどうってことねえだろ」
「それは頼もしい」
 やめろ、と頬膨らませた菊を微笑ましく見た丸越・梓(月焔・f31127)のジャケットを引く白い袖。
「ん」
 フリルたっぷりの袖に包まれた両手を差し伸べて花厳・椿(夢見鳥・f29557)が梓に抱っこを催促すれば、にっこりと笑った梓が手を伸ばし――。
「そうそう、椿は持ってた方がいいぞあず、さぁ!?」
「ああそうだな。心配は抱えておいた方がいいだろう」
 突然自分まで抱えられたことに驚いた菊が抵抗を見せれば、慣れた様子で抱えられている椿がフフンと笑う。抱えた梓はといえば、至極楽しそうなまま「そうだな」と答えたきり。
 その流れを終始見ていたルーファスは、その光景があまりに可笑しくなってとうとうしゃがんで顔を覆ってしまったのである。
「クククッ、ったく梓ママに抱っこされりゃ届かねえとこも見えんだろ。良かったじゃねえかアキ」
「ふふ、ならるーくんはパパね!パパ、ミュゲも!ミュゲも!」
「~~っ、だから、俺はいいって言ってんだろ梓!!」
 入り乱れる会話の賑やかなこと。
 ミュゲが梓に抱えられた椿に気づき、手の空いていたルーファスに強請ってみれば、さっきまで菊と梓を揶揄っていたいたとは思えないほど柔らかな声でミュゲを呼んだルーファスが、「ほら来いよ」と軽々ミュゲを抱き上げる。
 一方、下ろせ!とごねる菊をゆっくり下ろした梓が考えだしてから暫し。何処へ向かうか相談の結果、椿の勘を軸に――と決まったところでぽそりと。
「……俺もせめてパパには、なれないか?」
 ワンテンポ遅れてきた笑いの波が弾けてゆく。

 ルーファスに肩車されていたミュゲが、じいっと何かを見つめている。
 一方、椿は店頭に嫌に豪奢な小さな金の鍵を飾る店に酷く引かれていた。なんとなく感覚的に、何かがあの店にある――……そう直感した瞬間、今度椿が引いたのはルーファスの服。
「なんとなく、あそこのお店が気になるわ。ね、ルーファスお兄ちゃん」
「ん、あそこだな。よしミュゲ、ちょっと下ろすが……いい子で待ってろよ」
「……あら、もうおわり? いってらっしゃい!」
 ひらりと手を振ったルーファスが店に消え、残ったのは菊と椿とミュゲと梓――の、はずがいつのまにか椿は下ろされ、梓はいなくなっていた。
「あいつどこ行きやがった……ったく」
「ねえねえ、つーちゃんミュゲにもおしごとちょうだいな!」
「ミュゲちゃんのお仕事?そうね、じゃぁ……可愛いミュゲちゃんが可愛くあることと――」
 存外勝手な大人二人に、あーもうっ!と怒りながらも椿とミュゲとしっかり手を繋いだ菊はきちんと優しいのだ。一方暇になってしまったミュゲは悩んだ末に椿に尋ね、得たのは“可愛くある”仕事と――……。
「……を、…、で―――、してあげて?」
「……わかったわ!ミュゲにおもり、まかせてほしいのよ!」
「おい、おもりってなんだ」
 二人を見下ろした菊が尋ねれば、袖で顔隠した椿とパァ!っと表情明るくしたミュゲの正反対なこと。

 その頃、店に入ったルーファスは店主らしい老婆と睨み合っていた。
「なあ、さっきからオレは紳士的に聞いてるつもりなんだがな」
『へえ、そりゃあこんなババアに有り難いモンさねえ』
 ここまで既に幾度会話のジャブを飛ばし合ったものか。両者全く譲らず、平行線もいいところ。フン!と強気な老婆に、内心ルーファスはどうしたものかと悩んでいた。
 老婆相手にあまりやりたくは無いが、いかんせん仕方がない。手は尽くさ音が意味がない。するりと背から肩を伝ったドラゴンの形状を取っているドラゴンランスのDragon ことナイトが細い首をうねらせ顔を覗かせる。
 その姿に一瞬ぴくりと老婆は反応するも直ぐに元の様子に戻ってしまう。
「いい加減、地図出しちゃくれねえか」
「やだね帰りな」
 ルーファスは溜息一つ。頭を掻き、小さく舌打ちしてナイトに新しい煙草に一本火を付けさせた。ゆっくりと吹かし紫煙くゆらせながら、酷く冷たい瞳で老婆を見下ろし言葉紡ぐ。
「しらばっくれるってんなら話は別だ。――アンタにも店にも、薪になってもらわなくちゃならなくなっちまう」
『んな、何言ってんだいあんた探してんだろう!?』
 明確に燃す意思伝えれば、驚いたように老婆が立ち上がり、初めてルーファスと目を合わせた。そして――……。
『……わかった、わかったから坊やその顔やめな。外のガキ、あんたの子だろ』
「まあ、」
 曖昧な答えを返せば、投げ渡されたのは3枚の地図。
『悪いがあたしゃどれが本物かなんざ分かりゃしない。あとは手前でやりな』
 ルーファスが積んだ対価の金貨はすぐ老婆の懐にしまわれ、あとは追い出すように叩き出されてしまった。
 と、店を出たところでルーファスの目が丸くなる。
 いつの間にか襤褸を着た十数人の子供と梓と菊、椿とミュゲが居るではないか。
「おい」
「ああ……ちょっとな」
 ちょっとでガキが増えるわけねえだろ。赤い瞳でそう問うたものの、一向に目の合わない梓には伝わらず、幼い子供に囲まれげっそりとした菊に問えば、梓が連れてきたの一点張り。
 ミュゲは子供たちと遊びだして話にならず、椿に問えば――。
「ミュゲちゃんが気になったアイス屋さんがね、売ろうとしていたの」
「は」
 何を、と問わずともここにあるものが全てなのだろう。
 どの子供も疲れた顔に泣きそうな目や沈んだ眼、暗い目に虚ろな目……ああ、まったく。
 あの冒険商人を呼ぼう――4人の回答が一致した瞬間であった。

 かくして手に入れた“透けるような紙に描かれた地図”が三枚手に入った。
 真の物は一体どれなのか――……猟兵達が集うまであと少し。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『メリー・バーミリオン』

POW   :    野郎共、仕事の時間だ!
レベル×1体の【海賊船団員】を召喚する。[海賊船団員]は【したっぱ】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD   :    お宝発見アイ〜伝説の海賊を添えて〜
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【大海賊の霊】が出現してそれを180秒封じる。
WIZ   :    大逆転! 元の木阿弥大津波
自身の【サーベル】から、戦場の仲間が受けた【屈辱の数】に比例した威力と攻撃範囲の【津波】を放つ。

イラスト:和狸56

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は十六夜・巴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 “これは使える?”
 “地図一回ばらしてみて――”
 “いや、重ね方はさ――”
 “わかったー!”
 “はいはい見せて見せて!”

 揃った情報、そして地図を照らし合わせることで偽物をあぶりだそうと、皆で尽力していた時だ。

 “ねえ、ちょっと――”

 何気ない一言が新しいアイディアを生み出してゆく。
 おそらく線が揃っている――という理由を大前提に重ね合わせた地図と皆が集めたキーワードを照らし合わせる最中、あと一押しが足りない。
 あれやこれやとするうちに、ふと誰かが声を上げたのだ。

 “これを、こうして――……”

 出来上がったのは三枚重ねた一組と、透明な地図で包んだ発光する宝石。
 拾われたメモにあったように、重ね透かしたそれに発光する宝石を通して二筋のラインが追加されれば――……。
 映った全てが、答えを示してくれた。

『ここは――なるほど、盲点でした。皆様、この場所は以前ご案内した“学校”の地下です』

 開拓した一角だというそこは、誰もが思いもしなかった場所。
 曰く、どの歴史書にも無い不思議な地下神殿構造の建物が件の場所で発見されたのは、島を開拓していた頃のこと。
 これは危険と判断され、内密に封鎖と封印を施したうえに、学校という無関係の建物を建てることで全ての目を欺いていたのだと冒険商人 フェルバは言う。
 急がねば、メリー・バーミリオンは必ず別の地図を読み解き現れる。
 猟兵達の直感正しくフェルバと共に学校へ向かい、幾重にも掛けられた鍵と封印を解いた先に、それはあった。

 祭壇に祀られた、星の如き宝石。
 時折放つ火花に熱は無いが、まるで生きているかのように鼓動するそれは酷く神々しい。

『おいおいおい、アタシより先に“お宝”を嗅ぎ付けた輩がいるっていうのかい?』
 神殿の入り口から高飛車な声が響く。
 一瞬宝石に目を奪われた猟兵達の後ろから、突き刺すような怒り込められた声が向けられたのだ。
 海賊 メリー・バーミリオン。
 太陽のごとき髪色の女が、ギラギラとした瞳で全てを見ている。
 チッと神殿に響いた舌打ちはバーミリオンのもの。
『私はねぇ、先回りのうえ横取りっていうのが――いっちばんキライなんだよ!!』
 悔しさ交じりの怒りが迸った。
 釣り上がる山茶花色の瞳が冷たい鋼のサーベルを抜き打つとともに、激しい戦いの幕が上がる。
 
 
ルカ・クルオーレ
見た事無い宝石、か。これは是非持って帰りたいものだね。

この美しさに比べて…騒ぐ声の汚さは許しがたいねえ。
海賊が何甘い事言ってるんだろう?最後に手にしたものが勝ち、でしょ。
出遅れた癖に偉そうだなあ。

手下が何人いても、メリーだっけ――君がどれだけ暴れようが別にどうでも良い。
全部斬ってしまえば一緒だからね。
手にした武器…本体である大鎌を複製して、全て切り裂いてしまおう。
無数の大鎌を囲むように配置して、次第に輪を狭めて…さあ、安らかに眠れるよう祈りなよ。
楽団の指揮を執る様に…多少反撃されようがあくまで優雅に。

手にしたサーベルも君の命も折って捨ててしまおう。この場所は誰の目にもつかない、都合が良いね。



 メリー・バーミリオンと対照的なルカ・クルオーレ(Falce vestita di nero・f18732)の月のような銀の髪が、ルカの動きに合わせてふわりと泳ぐ。
 ルカの視線は祭壇の宝石に釘付けのまま、ほうっと吐いた吐息には色があった。
「素晴らしい……是非、持って帰りたいものだ」
 とくりと仄かに呼吸する宝石。
 まるで惑星として生まれる前の星の幼子のようなそれは、ひどくルカの心を擽って仕方がない。
 あれほど叫び、威嚇したメリー・バーミリオンの一切を意に介さない様は海渡る海賊女傑を煽るには十分すぎた。
『おいお前、私が――!』
「この美しさに比べて……騒ぐ声の汚さは、許しがたいねえ」
 柔らかくも冷めた言葉が二人の間を抜ければ、メリー・バーミリオンの口角が引きつる。
『お前っ……!!』
「海賊が何甘い事言ってるんだろう?最後に手にしたものが勝ち、でしょ」
 後先など、誰も手にしたことのない宝の前には無いに等しい言葉だ。
 お前お前と、何度も言われる謂れは無いと言わんばかりに、祭壇の高所からメリー・バーミリオンを見下ろすルカの紅玉の瞳が鋭くなる。
「出遅れた癖に偉そうだなあ……斬ってしまおうねえ」
『ハン、はなっから私を殺す気だったの間違いだろうが!!』
 ギィンッッと奔った刃ぶつかり合う音が地下洞に響く。
 メリー・バーミリオンが手首返し大鎌の刃を往なそうとすれば、ルカはそれを逃さず踏み込む。柄の先端尖ったそれで真正面から突けば、槍の如く。
『こ、のやろぉっ!』
「逃がさないからねえ」
 バランス崩したメリー・バーミリオンの足目掛けて、突き出した勢い殺さず柄の後ろ―紅宝石嵌まった部分―を突き入れ掃う。
 その時、歯を食いしばったメリー・バーミリオンが叫んだ。
『“野郎共、仕事の時間だ!”』
『待ってましたぜぇ、姉御ぉ!』
『ヒヒヒぶっ殺せ!奪い取れ!』
 海賊女傑の一喝に呼応するように影から出でたのは、したっぱ船員。にやにや笑いのそれらが――瞬く間に、“刈り取られた”。
 ルカの指先に合わせて踊る影の如き大鎌の群れ。名をUC―錬成カミヤドリ―。
『ハ――……?』
「僕、実はこの大鎌なんだ。切れ味は……祈り忘れるくらい安らかだろう?」
 ルカは“笑った”。
 彼の本質は切れ味麗しき大鎌―Falce della Morte―。ルカの瞳と似た色彩の宝石と肩のマントに刺繍された蔦模様は刻まれた装飾同じくして、白銀の刃は艶やかな髪が映した、紛うことなき“ヤドリガミ”。
「残念だけど……ここは“余りに都合の良い場所”だとは思わない?」
『――クソ野郎』
 引きつった顔を隠しきったメリー・バーミリオンは、流石に海賊女傑であった。だが、多対一と言うに相応しい戦場の苛烈さは舞踏会の如く。刃の踊り鮮やかに、咲く血飛沫が香る。
 その宴も太陽色の髪がふうわり石床を跳ねたその時、静かな終焉を迎えた。
 残ったのはルカの呼気だけ。


 とくりと脈打つ星の如き宝石は、変わらず微笑んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​


 苛立った様子でサーベルを抜いたメリー・バーミリオンを見下ろし、都槻・綾(絲遊・f01786)は上品に笑う。口元を袖で隠した笑みは海賊女傑の心を逆なでする。
『っ、お前、私を誰だと――!!』
「いえ……後れを取ったのはあなたの落ち度ですし、人海戦術は基礎ですし……」
 メリー・バーミリオンとて分かってはいたのだろう。ギリギリと噛みしめた苛立ちそのままに綾を睨み上げれば、フッと漏れた綾の最後の笑みは傍に立つユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)と交わされて。
「己のものでは無いのに横取りとは――……ねえ?」
「んふふ、まったく云う通りだわ。早いモン勝ちだし獲ったモンが……ッと、コレは行儀が悪いかな?」
 腕を組み黙して静観していたユルグが綾の正論に“降参”とジェスチャーしながら言った時には、メリー・バーミリオンは羞恥と悔しさからか顔を真っ赤にして唇を戦慄かせていた。
「おっと……傷口を抉っちまったかい?」
『うるさいっ!!』
 ユルグがワザとらしく口を押えて尋ねれば、間髪入れずに怒りの返答が飛ぶ。
『うるさいうるさいうるさいっっ!!だったら私が奪うまでだ!!!』
 怒りに震えるメリー・バーミリオンと対極に、余裕ある綾が肩を竦めて見せればユルグが静かに震えながらククク、と抑えきれない笑い声がくぐもった。
「やれ、ユルグさん嫌われてしまったようですよ?」
「参ったな。俺、美人の怒った顔も中々好きなんだが……」
 ユルグが言葉無くついっと顎で海賊女傑を示し、“綾は?”と問えば、意図に気づいた綾が瞳を細めてこそりと耳打つ。
「――私は“どちらでもいい”かしらね」
「やァね、綾、手厳しいわ」
 ギリ、と歯ぎしりが響く。
 恐ろしいほどの炎燈した瞳で二人を睨むメリー・バーミリオンが叫んだ。
『~~っ! いい加減にしろ!!野郎共、仕事の時間だ!』
『アイアイキャプテン!』
『仕事だ仕事だ!お宝目掛けて舵をきれ!!』
 影から湧くように出でた下っ端共の動きは軽快に、共に駆けだしたメリー・バーミリオンが軽やかに飛んだ。
『おっ、らぁ!!』
「いいねえ……奪って御覧、海賊らしくさ」
『後悔するなよ、優男!』
 叩き下ろすような一刀を抜き打った鍔無き己で受け止めてなお、ユルグは余裕を崩さない。
 片や下っ端共に囲まれた綾へナイフやカトラス、ラッパ銃が向けられていた。戦うというにはあまりに優美な装束の綾を見て、下っ端がニタリと笑う。
『ヒャハハ!そんなんでなんのお遊戯に来たんだよぉ!』
『奪っちまうぜ!引きはがせ!』
「……海で眠れば良いものを、陸へ這い上がるなど浪漫の無いこと」
 一斉に飛び掛かって来る下っ端を冴の居合抜きから始まり舞うように捌く綾の剣筋にユルグが口笛を吹く。
「お、――いやァ羨ましいね」
「無粋はいただけませんから」
『よそ見してんじゃねぇ!!』
 肉厚なサーベルの刃が二人の会話を絶つように閃く。メリー・バーミリオンの言葉は力任せだが、その刃は存外しなやかで抜け目ない。既に幾筋かユルグは斬られている。
 しかしユルグの瞳に悲嘆は無い。寧ろ燃えていた。綾の剣舞にも海賊女傑の剣捌きにも、刃根源に持つモノとして負けられないではないか――!
「ま、熱くなりすぎるよりか――……」
『させねぇよ!っ、と……!』
 鋭いユルグの突きをサーベルの湾曲した背で往なし弾いた、が、ピタリとメリー・バーミリオンの刃が止まる。
『な、何しやがった……お前っ!』
 まるで何かに捕まり引き上げられそうなその腕を、メリー・バーミリオン自身が必死に抑えているようであった。見えぬ何かに海賊女傑が吼え様とした時、弓なりに弧を描いた瞳でユルグは笑いながら引く、UC―梏 オリ―。
「――捉まえた。 ねェね俺ともやんない、綾」
『やめろ』
「ひとつ、ひらりと咲かせましょうか」
 とん、と地面を蹴り出したのはどちらだったか、ふわり舞う指先さえ柔らかに空を泳ぐ。綾のUC―一颯 カゼタチヌ―の刃が正確に閃く中、ユルグは友を信じて足を止めない。戒められた両手引かれて慣れぬ踊りに混ざる海賊女傑と共に、舞う。
 互いに斬って弾いて打ち上げて――……ガラン、と血に滑るサーベルが岩の床を叩いた時、全ての音が止まった。

 残ったのは、蒼紅の視線交差させ勝利確かめる友二人だけ。
 とくりと息衝いた星石の産声が、パチリと弾けて火花を散らす。
 
 
都槻・綾
f09129/ユルグさん

後れを取ったのは
あなたの落ち度ですし
人海戦術は基礎ですし
更に
己のものでは無いのに横取りとは
不思議なことを仰る

怒気に鈍く光る鋼を見遣り
肩を竦めて

やれ
嫌われてしまったみたいですよ
ユルグさんは彼女がお好き?

こてり
首を傾いだまま
傍らの青年へと問う

――私は「どちらでもいい」かしらね

興味がない、歯牙にもかけない、と
同義でもあるかしら

けれど
海賊は海に眠るべきで
這い上がって来るなど浪漫の無いこと
無粋は頂けませんね

故に倒してしまおうか、との言葉は発せずとも
海賊に向かって駆け出す一歩が
共に刃を揮う機を
伝えてくれるだろうから

鞘走らせた白刃に
詠唱の呪を纏わせ
命中確かな一閃を
ひらり、
咲かせましょ


ユルグ・オルド
f01786/綾と
んふふ、まったく云う通りだわ
早いモン勝ちだし獲ったモンが、……
ッとコレは行儀が悪いかな

さァさ宝物は見つけたしお開きとばかり
帰る気でいたところに同じ方へ傾げて

美人の怒った顔は好き
いらえてから声立てて笑って
やァね、綾、手厳しいわ

とんとんと靴音鳴らして
伸びを一度、良いじゃアない
まだチャンスはあるよ

奪って御覧、海賊らしくさ
指で招いたと同時に駆け出そう
下っ端なんかにゃ用事はなくて
打ち合うなら楽しませて

お、
隣が抜く刃に口笛一つ
閃く軌跡の合間に梏を
捉えりゃ一層やりやすいでしょ

――いやァ羨ましいね
横目に笑ったのは、
ねェね俺ともやんない、綾
なんて



 苛立った様子でサーベルを抜いたメリー・バーミリオンを見下ろし、都槻・綾(絲遊・f01786)は上品に笑う。口元を袖で隠した笑みは海賊女傑の心を逆なでする。
『っ、お前、私を誰だと――!!』
「いえ……後れを取ったのはあなたの落ち度ですし、人海戦術は基礎ですし……」
 メリー・バーミリオンとて分かってはいたのだろう。ギリギリと噛みしめた苛立ちそのままに綾を睨み上げれば、フッと漏れた綾の最後の笑みは傍に立つユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)と交わされて。
「己のものでは無いのに横取りとは――……ねえ?」
「んふふ、まったく云う通りだわ。早いモン勝ちだし獲ったモンが……ッと、コレは行儀が悪いかな?」
 腕を組み黙して静観していたユルグが綾の正論に“降参”とジェスチャーしながら言った時には、メリー・バーミリオンは羞恥と悔しさからか顔を真っ赤にして唇を戦慄かせていた。
「おっと……傷口を抉っちまったかい?」
『うるさいっ!!』
 ユルグがワザとらしく口を押えて尋ねれば、間髪入れずに怒りの返答が飛ぶ。
『うるさいうるさいうるさいっっ!!だったら私が奪うまでだ!!!』
 怒りに震えるメリー・バーミリオンと対極に、余裕ある綾が肩を竦めて見せればユルグが静かに震えながらククク、と抑えきれない笑い声がくぐもった。
「やれ、ユルグさん嫌われてしまったようですよ?」
「参ったな。俺、美人の怒った顔も中々好きなんだが……」
 ユルグが言葉無くついっと顎で海賊女傑を示し、“綾は?”と問えば、意図に気づいた綾が瞳を細めてこそりと耳打つ。
「――私は“どちらでもいい”かしらね」
「やァね、綾、手厳しいわ」
 ギリ、と歯ぎしりが響く。
 恐ろしいほどの炎燈した瞳で二人を睨むメリー・バーミリオンが叫んだ。
『~~っ! いい加減にしろ!!野郎共、仕事の時間だ!』
『アイアイキャプテン!』
『仕事だ仕事だ!お宝目掛けて舵をきれ!!』
 影から湧くように出でた下っ端共の動きは軽快に、共に駆けだしたメリー・バーミリオンが軽やかに飛んだ。
『おっ、らぁ!!』
「いいねえ……奪って御覧、海賊らしくさ」
『後悔するなよ、優男!』
 叩き下ろすような一刀を抜き打った鍔無き己で受け止めてなお、ユルグは余裕を崩さない。
 片や下っ端共に囲まれた綾へナイフやカトラス、ラッパ銃が向けられていた。戦うというにはあまりに優美な装束の綾を見て、下っ端がニタリと笑う。
『ヒャハハ!そんなんでなんのお遊戯に来たんだよぉ!』
『奪っちまうぜ!引きはがせ!』
「……海で眠れば良いものを、陸へ這い上がるなど浪漫の無いこと」
 一斉に飛び掛かって来る下っ端を冴の居合抜きから始まり舞うように捌く綾の剣筋にユルグが口笛を吹く。
「お、――いやァ羨ましいね」
「無粋はいただけませんから」
『よそ見してんじゃねぇ!!』
 肉厚なサーベルの刃が二人の会話を絶つように閃く。メリー・バーミリオンの言葉は力任せだが、その刃は存外しなやかで抜け目ない。既に幾筋かユルグは斬られている。
 しかしユルグの瞳に悲嘆は無い。寧ろ燃えていた。綾の剣舞にも海賊女傑の剣捌きにも、刃根源に持つモノとして負けられないではないか――!
「ま、熱くなりすぎるよりか――……」
『させねぇよ!っ、と……!』
 鋭いユルグの突きをサーベルの湾曲した背で往なし弾いた、が、ピタリとメリー・バーミリオンの刃が止まる。
『な、何しやがった……お前っ!』
 まるで何かに捕まり引き上げられそうなその腕を、メリー・バーミリオン自身が必死に抑えているようであった。見えぬ何かに海賊女傑が吼え様とした時、弓なりに弧を描いた瞳でユルグは笑いながら引く、UC―梏 オリ―。
「――捉まえた。 ねェね俺ともやんない、綾」
『やめろ』
「ひとつ、ひらりと咲かせましょうか」
 とん、と地面を蹴り出したのはどちらだったか、ふわり舞う指先さえ柔らかに空を泳ぐ。綾のUC―一颯 カゼタチヌ―の刃が正確に閃く中、ユルグは友を信じて足を止めない。戒められた両手引かれて慣れぬ踊りに混ざる海賊女傑と共に、舞う。
 互いに斬って弾いて打ち上げて――……ガラン、と血に滑るサーベルが岩の床を叩いた時、全ての音が止まった。

 残ったのは、蒼紅の視線交差させ勝利確かめる友二人だけ。
 とくりと息衝いた星石の産声が、パチリと弾けて火花を散らす。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト

POW対抗

やっと殴っていい奴のお出ましか
……族ってのはどこも似たようなもんだな
召喚される海賊船団員に対し『覇気』を纏った格闘およびその際生ずる『属性攻撃(電気)』混じりの『衝撃波』で応戦
死んでも顎で使われてるなんざゾッとしねえ話だ
負傷は構わず、肉を切らせて骨を断つ、カトラスの刃は避けるより掴み折る等と真っ向からの力技でいく
というのもある程度頑張ってもらった方が都合が良い
【Gust】
光の槍を形成
最終的にはそこまでの負傷分、手下を巻き込んだ上で親玉に一発お見舞いしたいところだ

胸糞悪い宝探しだったが、感謝しとくか
あんたがいなけりゃあ今も眠ったままの宝がいたろうからな ※奴隷たち



 威嚇するようにサーベル向けたメリー・バーミリオンを歯牙に掛けず、体慣らし始めたレイ・オブライト(steel・f25854)が息を落とす。
「……族ってのは、どこも似たようなもんだな」
 レイはメリー・バーミリオンを一瞥したきり返事をしない姿に舌打った海賊女傑が声を上げる。
『まァいいさ……さあ、野郎共、仕事の時間だ!』
「やっと殴っていい奴のお出ましか」
『ギャハハ、何でえ野郎傷だらけじゃねえか!』
『やっちまえ!』
 メリー・バーミリオンの掛け声に呼応するように、影から出た下っ端共がギャハハ!と洞窟神殿に下衆な笑い声を響かせた直後、音も無く迫ったレイが下っ端の頭を鷲掴む。
「ああ、遊んでやるよ」
 そう淡々と言ったレイが下っ端の頭を打ち合わせたのが、試合開始のゴング。
『舐めんじゃねえ!』
『おらぁ!』
 メリー・バーミリオンの召喚した下っ端がレイに殺到する。
 僅かな稲妻迸る覇気を纏ったレイが掴み掛る下っ端の胸倉を掴み、勢いよく頭突いた。
『ガハッ』
「っ、らぁ!」
 仰け反った下っ端を投げ飛ばせば、伸びきったレイの腕目掛け振るわれたカトラスが肉を斬る。
「――来いよ」
『ざっけんなおらぁ!』
 ずどん、と鈍い音をたて下っ端の腹突き抜けた衝撃。肩口に刺さったままのナイフをものともせず、頽れた下っ端をレイは投げ捨てた。
 そこからは総力戦だ。
 千切っては投げ、殴り飛ばしては打ち捨てて。幾つもの刃を突き立てられようと、レイは決して止まらない。まるで痛みを感じないかのようなレイの振る舞いにメリー・バーミリオンはごくりと唾を飲んだ。
 揮う拳に慈悲は無く、弾ける雷鳴は火花の如く。
 命を顧みぬその戦い方は、この洞窟神殿で眩く見えるほど燃えていた。
 幾拍か後にレイの息遣いだけが響き渡るほど静まり返ったその時、無骨なその手に光が宿る。
「そろそろだ」
 頃合い示す言葉と共に光は大きく紡がる。
 メリー・バーミリオンと周囲囲む下っ端を呑み込んで余りある一条の光槍。
 UC―Gust ディヴァウアー・ダークネス―。
「――こいつは礼だ」
 利き腕引き絞り躍動したレイの筋肉が寸分の狂い無く擲った一投は、悲鳴さえ灰にし海賊一党を焼き落とす。

「胸糞悪い宝探しだったが……あんたがいなけりゃ眠ったままだった宝、頂戴するぜ」
 暗闇に紛れたままだったはずの燈火を救い上げられた感謝が、レイが手向ける唯一の花。

 闇は開け、星の石が瞬く。
 温もり無き火花が微かにレイの白い肌を照らしていた。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

菊・菊
【不合格】◎

おいおいおいおい
地図の謎を解いて、儀式だのをやって、いざって時だぞあんた
…最高のタイミングじゃねーか

俺は先越して搔っ攫うのが、だぁいすきなんだよ
ぎゃは!

おら、可愛いお前らも、きりきり働けよ
ルーファスに負けてらんねーの

椿。あれやれ、ハイになるやつ。
宝さがしも楽しかったろ?なら、鬼ごっこも楽しいに決まってんじゃん

ひひ、『食えよ、寒菊。』
肌を滑る冷たい刃の感覚と、嘲笑が合図だ

俺が前にでる

後始末はオトナにやらせとけ、俺らは好き勝手すんのが正解
言わねえけど、解ってる

おいナイト、肩に乗ってんならてめえも働けよ
ぎゃは!俺らが見つけたんだから、俺らのもんに決まってんだろ

ガキ、舐めんじゃねえ


ルーファス・グレンヴィル
【不合格】◎

ガキでも此処に立つなら一人前だろ?
三人を見下ろして意地悪く不敵に笑う

アキ、椿、ミュゲ
お前らの力、オレにも見せろよ

一人前の戦士として
ガキ共を認めた上でけしかける

それでも何かあったらフォローするのは
梓やオレみたいな大人の役目だから

肩の上の黒竜と目が合えば
ふ、と穏やかに笑って、頼むよ、と
相棒竜しか分からない音を紡ぐ
バサリと肩から飛び立つ彼が向かうのは
ガキだと揶揄し奮い立たせた三人の傍

ちゃんと後ろから守ってやるよ
だから何でも、好きにやれ

──さあ、お宝争奪戦といこうじゃねえか!

腰の双子鉈を引き抜き
ぎらつく紅蓮の瞳を敵に向け
得物を振り回し力を溜める

この宝はコイツらのモンだ
手え出すんじゃねえよ!


ミュゲ・ブランシュ
【不合格】◎

まるでおもちゃのとりあいをするこどものよう、ね!
こわいかおして、すてきなおかおがだいなしよ!

それに…だれかをきずつけなきゃ、かいけつできないこと…かしら!かしら?
だってミュゲにもあなたにもくちがついてるのだわ!

……わあ!!ちょっと、なにするの!!
わからずやはあなたのほうよ!もうおこったわ!

るーくん、どうかみていてね
ミュゲもぎゃふんといわせてやるわ!

みんなのドキドキあなたにうばわせたくない!うばわせない!
ぜったいまもりきるの!ハートでしょうぶよ!
えへへ、ミュゲにもできるおしごとがまたふえた!
ねっ、つーちゃん!きーちゃん!

まあ!ひとのなみがひらけたわ!
あっくん、あっくん、いってきます!


丸越・梓
【不合格】

NG:味方を攻撃する、相手の顔に傷をつける
_

…元気でよろしい。
なんて、メリー・バーミリオンを見て思うが口にはしない
宝の争奪、常とは違う世界、物語の様な展開に
俺もどこか高揚していたのだろうか
喧嘩の気配に、押し殺していたやんちゃ癖が疼く
とは言え冷静な思考は変わらず
相手への敬意も忘れず
皆を最優先に庇い、護り、戦況を把握しながら
潤滑に、此方が有利になるよう影ながら補佐をする
言葉もタクトも無くとも
皆を導くように

……おてんばも、やんちゃも存分にやれ。
お前達のことは護るからと不敵に瞳細め

喚ぶは我が支配下たる夜
重く心臓が脈打つも
代償故の苦しさは全てひた隠して

皆へ襲い掛かる大津波を一閃し
道を斬り拓く


花厳・椿
【不合格】◎
あら…怖い、怖い
そんなに睨まないでちょうだいな、海賊さん
袖で口元を隠すと楽しげに笑う
こんな石ころの何がいいのかしら
椿は宝探ししてる時の方がキラキラしてて楽しかったわ

そのガキには椿も含まれてるのかしら?
椿はね、か弱いのだから守ってちょうだいな

むぅ、素直に指示されて言う事聞くのは
気に食わないけど
いいわ…椿の為に鬼になって菊お兄ちゃん
『鬼ごっこ』始めましょうか
簡単に捕まらないでね
うまく逃げてちょうだい
つまらないもの

ねぇ、あなた
海賊の末路ってどうなると思う?
ここには断頭台は無いけれど、椿の鋏はとてもよく切れるの
大丈夫よ、痛みは一瞬だから…多分ね
だって、戦いに勝った方がお宝を貰えるのでしょう



 メリー・バーミリオンがサーベルを向けた時、一番最初に楽しげに喉鳴らして笑った声押し殺す菊・菊(Code:pot mum・f29554)だった。
「おいおいおいおい、地図の謎を解いて儀式だのをやっていざ……って時だぞ、あんた」
「あらあら!こわいかおして、すてきなおかおがだいなしよ!」
 菊と手を繋いでいたミュゲ・ブランシュ(Code:Muguet・f29677)が花厳・椿(夢見鳥・f29557)の真似をして口元を隠しながらくすくす笑えば、ぎろりと二人を睨み上げたメリー・バーミリオンが舌打ちを一つ。
『ガキに用は無ぇんだよ』
 その様子に瞳を細めた椿も、真似っこミュゲとは逆側から菊に絡みつつ、同じくいつもの癖で口元を隠し上品に笑って指摘する。
「あら……怖い、怖い。そんなに睨まないでちょうだいな、海賊さん」
 ねー?と菊を挟んで少女二人は笑い合う。
 少女のように振る舞っていた椿がふと三日月色の瞳で弧を描き、酷く大人な顔をして囁いた。
「こんな石ころの何がいいのかしら」
 今度のメリー・バーミリオンは無言で静かに椿を睨みつけていた。じっと、黙して。
 ああ怖いなんて冗談めかして言う割には、尋常ではない眼力で見つめてくるメリー・バーミリオンから察すに地雷原で踊ってしまったか……椿は素早く菊を盾にした。
「おい、椿」
「まあ……うん、元気でよろしいじゃないか」
 暗に人を盾にするなと椿に言いながらもそっと隠してやる菊に、ふふ、と笑った丸越・梓(零の魔王・f31127)が順繰りに三人を撫でれば、撫でられたミュゲが“あっくん!”とパァっと顔を輝かせる。
 仲睦まじ気な様子に苛立ったメリー・バーミリオンがワザとらしく大きな溜息を吐くと髪を掻き上げ吐き捨てるように言った。
『私は此処にお遊戯会に来たんじゃない。子連れはさっさと帰っとくれ』
「待てよ。 ガキでも此処に立つなら一人前だろ?」
 なぁ、お前ら。そう笑いながらルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)がガシガシと菊を撫でる。
 ニィッと笑って見下ろせば、軽く見上げる一対の満月がルーファスを見ていた。
「アキ、椿、ミュゲ――お前らの力、オレにも見せろよ」
「あら……そのガキ、椿も含まれているのね?」
 可愛くてか弱い乙女に失礼しちゃうっ、とルーファスに頬膨らます椿の横では、既に寒菊の柄に手を掛けた菊が口角を上げている。
「……最っ高のタイミングじゃねーか。俺、先越して搔っ攫うのがだぁいすきなんだよ」
「悪い子ね、菊お兄ちゃんったら」
 まったくもう、なんて軽口もここまで。
 各々が得物を構え術式の準備に入る中、ただ一人俯く者が居た。
 さっきまでの明るさは形を潜め、もじもじと、どこかおどおどと泳ぐペリドットの瞳に不安の覗く顔。
「これって、……だれかが、けがをしなきゃいけないおはなしかしら?」
『おいおい甘ちゃんのガキがいるじゃねえか!!』
 小馬鹿にしたようにミュゲを笑ったメリー・バーミリオンを、小さい体を尚小さくするミュゲを、ルーファスは見ていた。きゅうっとエプロンの裾を握ったミュゲだけが、下を向いている。
 此処から先は喧嘩の先の先の先、痛くて怖くて――もしかしたら、誰かが怪我をしてしまうかもしれない、ミュゲにはちょっと怖いところ。
 そんなミュゲの様子を心配した梓が膝をついた時、梓の胸中を駆け抜けた不安が的中する。
「ミュゲ……――っ、危ないっ!」
 耳を掠めた発砲音から咄嗟にミュゲを隠して庇った梓が見つめた先には、惜しいことをした、と悔し気な下っ端の姿。
 ミュゲは、庇われながら見上げた梓の頬に赤いラインが走り、血が滴ったのを見た。
 ヒュッと息を呑み、ぎゅうっと手を握る。泣いちゃダメ、皆がよく言っていた。それに――先程、椿と約束したではないか。
(「ミュゲちゃんのお仕事は可愛くいることと、――――」)
 きっと相手は止めないのだろう。ミュゲが怒ったとて、泣いたとて、きっと変わることは無い。“戦う”しかないのだ。
「わからずや! あなたとってもわからずやよ!もうおこったわ!」
 こわいを気持ちの奥に押し込めて、叫ぼう。
 ミュゲが、ぜーんぶぎゃふんと言わせてしまえばいいのだから!
 我慢と勇気を学び、奮い立ったミュゲの姿に、誰もが内心ホッとした。
 もしも、もしもだが、目立ってミュゲだけが狙われでもしたならば――どうしてでも、全力でメリー・バーミリオンの首を一息に獲らねばならなかったから。
 これは後の成長物語。冒険譚たり得る一片に相応しい。
「ナイト、頼むよ」
 たった一言、ルーファスは肩で笑った相棒へ告げれば、全て察した次の瞬間ドラゴンランスのナイトは相棒が“ガキ”と呼んだ彼らの頭上を旋回していた。
「お前ら、準備はいいな?――さあ、お宝争奪戦といこうじゃねえか!」
 戦いの幕が上がる。

『おい野郎共、仕事の時間だ!』
『アイアイキャプテン!』
『ガキばっかじゃねえか!』
 既に現れている下っ端共がさらに追加される。無尽蔵とでも言わんばかりの奴らだが――ならば、それなりの戦い方というものがある。
「椿。あれやれ、ハイになるやつ」
「もう、仕方ないわね……菊お兄ちゃん、椿の最高の鬼になってね」
 お願いね、と椿が微笑んだ時既に菊の影は無い。
 どう、と地面蹴り出し跳ねる。下っ端共の上から、抜いた寒菊で――“己の腕を斬る”。瞬間、言葉正しく“菊は下っ端どころかメリー・バーミリオンの視界からも消えた”。
『ぎゃあ!』
『ぐげ』
『ひいいい!!バケモンがいる!!』
「ほらほら、喰われちまうか、燃やされちまうか――」
 視認するのも困難な速度で菊は触れた全てを斬り、時折肩に収まるナイトが炎を吹き付ける。
 椿のUC―鬼ごっこ オニゴッコ―にUC―衝動 ロックン・ロール―を上乗せすればどうだ、この世のものなど追いつけやしない。
 何せ命をガソリンに走り続けているのだから!
『くっそなんだあのクソガキ!』
「あらあら、あなたもミュゲのぶとうかいにきたいのかしら?いいわ、ハートでダンスしましょう!」
 不思議がる前に、真白い薔薇の花弁散る中、たっぷりのフリルに胸元には瞳と同じ色の宝石のようなハートと頭には繊細なシルバーのティアラ飾ったミュゲが、菊から逃げてきた下っ端に微笑んだ。
「さあ、おしたくできたらおどりましょう? ねっ、つーちゃん、きーちゃん!」
 舞踏会と化した戦場の賑やかなこと!椿の後押し受けた菊が散らす赤さえ花弁を染める材料に、ミュゲがきらきらなハートを擲って。
『チッ――これだからガキは嫌なんだ』
 その裏、下っ端を囮にメリー・バーミリオンは星の宝石の元まで迫っていた。が、伸ばしたその手が咄嗟に引っ込められる。
『くそ、居ねえと思ったら!』
「……おてんばもやんちゃも、していいのはあの子達だけだ」
「この宝はアイツらのモンなんでなぁ」
 門番の如く見下ろす梓とルーファスにメリー・バーミリオンは舌打ちした。だが、5人を相手にするより2人――そう、半分より少ない今こそ、好機。
 抜き打たれた水の気配逆巻くサーベルとルーファスの双子鉈とぶつかり合う直前、とくりと暖かな後押しを施された気がする。
 反射的にみれば、胸元を抑えた梓が微笑んでいた。
「(やれ)」
 唇だけで紡がれた言葉に、ルーファスは笑う。
『お前らなんざ、全部全部沈んじまいなぁ!!』
「笑わせんじゃねえよ」
 そう、逆巻く水の気配を“メリー・バーミリオンは大津波にして放ったはず”だった。跡形もない。何せ、梓の九重の斬撃が斬り飛ばしてしまったのだから。
「――ガキ共、仕上げと行くぞ!」
 ルーファスの声が、メリー・バーミリオン最後の記憶。
 白い花びらを突き抜け、蝶纏った菊が飛び込んできたときには彼の手中の寒菊は振り抜かれていた。
『ちくしょう』

 海賊女傑は洞窟神殿に沈み込む。
 瞬く星の宝石は、彼女の手中に収まることなく未だ輝き続けている。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘカティア・アステリ
【リュウグウ】
先回りも横取りも海賊の花だよ、お嬢ちゃん
欲しいなら奪ってごらん、そんなことも分からないわけじゃないだろう?
同じ海賊のよしみだ、遊んでもらおうじゃないか

さて、ここらでひとつ太陽でも沈めてみるかね

ロクとルクスが自由に戦えるように補佐に回るよ
したっぱが出て来たらカリハリアスを大きく振るって薙ぎ払う
体格差を存分に活かしてやるとしよう
【鎧砕き、蹂躙、怪力、重量攻撃】

味方に攻撃がいきそうならそれより先に鞭を奮うかかばうよ
思いきり遊んでやりな二人とも
海賊の流儀ってのをもう一度教えておやり
【かばう、鼓舞】

少しばかり痛い躾にはなるが、まぁ海賊らしいっちゃらしいだろう?
授業料はいらないよ、サービスだ


ロク・ザイオン
【リュウグウ】
それはまだ、お前のものじゃないだろう。
じゃあ、ほら。
「早いもの勝ち」だ。

(ああ、もしかして)
それとも、ルクスに勝てる気がしないのか?

(散々煽られれば、敵は屈辱のままに津波を喚ぶのだろう
怒りが全てルクスに向き、己を意識の外に置いたその瞬間を【野生の勘】で逃さない)

(「響徊」
ルクスを守るよう高く深い密森を喚び、木々で波を堰き止める
津波が苛烈な程、その反動は大きいはずだ
森の木々、逆巻く波すら【地形利用】
向こうの態勢が崩れた隙を【早業】で急襲する)

先回りも、横取りも、生きるなら当たり前だ。
お前は、海の底から生まれ直せ。


ルクス・カンタレッラ
【リュウグウ】

ふは、聞いたかよヘカテ
先回りしちゃやだー、横取りしちゃやだー、だぁってさ!
こりゃあ、とんだお嬢ちゃんだ
本当に海賊かい?君
何処の深窓のご令嬢かと思った!

UC、隙を縫って【早業+先制攻撃+略奪】で宝石を先に掻っ攫う
宝石片手に【挑発+誘惑】で笑ってやろう
さ、どうぞ横取りしにおいでよお嬢ちゃん
やれるもんならやってみな

役割分担なんて口にしなくたってふたりが何するかくらいお見通しさ
相棒と弟分だからなー
私にヘイトを向ければ向けるほど、ほぉら、意識がお留守になるだろ?
うちの山猫はさぁ、森歩きが得意なんだよ
森に囲まれ、津波も逸そ心地好い
セイレーンは水底から生まれるんだぜ?
津波なんざただの遊び場だよ



 サーベルの切っ先を向け、苛立った様子のメリー・バーミリオンに向かい合う三人は顔を見合わせた。
 それから最初に吹き出したのはルクス・カンタレッラ(青の果て・f26220)だ。
「ふは、聞いたかよヘカテ。先回りしちゃやだー、横取りしちゃやだー、だぁってさ!」
「先回りも横取りも海賊の花だよ、お嬢ちゃん」
 横から突かれたヘカティア・アステリ(獅子頭・f26190)は生まれ持った長身で遥か上から困ったように頭を搔いて告げた。
『何だとっ、この……!』
「ルクスに勝てる気がしないのか?」
「それとも、欲しいなら奪えっていう流儀が分からなくなっちまったかね?」
 じっとメリー・バーミリオンを見つめていたロク・ザイオン(変遷の灯・f01377)にヘカティアが言葉を重ねた瞬間、場が水を打ったように静まり返る。
『おい。……お前ら、今なんて言ったんだ?』
「なんだ、もう一回聞きたいのかい? “お嬢ちゃん”」
 メリー・バーミリオンの意識が自身達に釘付けと気付いたルクスが、ニィっと口角を上げてすかさず畳みかければ目を剥いた。
『ンだと……? 本気で言ってんのか?』
「おいおいおい、本当に海賊かい? 君。何処の深窓のご令嬢かと思った!」
 ケタケタ笑ったルクスがああ可笑しいというように腹を抱えて目尻の涙を拭った時、猛然と飛び出したメリー・バーミリオンが叫ぶ。
『ふざけんじゃないよ……その首、叩っ斬ってやる! 野郎共、仕事の時間だ!』
「――やれるもんならやってみな、“お嬢ちゃん”」
 けたたましい声と共にメリー・バーミリオンの影から現れた下っ端共が、いつのまにか狙いのお宝を手に笑うルクスへ殺到する。船長の怒りに呼応するようにギラついた下っ端共のナイフやカトラスの群れがルクスに刺さる直前、低い遠吠えが全てを制した。
「誰の許しで此処にいる」
 淡々としたロクの声に発動したUC―響徊 キョウカイ―。
 反響して降り注ぐ幾つもの遠吠えが篠突く雨の如く、まるで物理的に押さえつける感覚すら持たせる勢いだ――と意識してしまった瞬間、メリー・バーミリオンと下っ端共の視界がぐるりと一転する。
 森だ。
 いっそ密林と呼んで差し支えない鬱蒼とした森が、眼前に広がっている。
『なんだいこりゃあ……』
『姉御ぉ、一体どーすりゃ……』
「ほらほら、あんたらボーっとしてるんじゃないよ! そんなにお仕置きしてほしいのかい?」
 パァン!と響いた軽快な鞭の音。ヘカティアのUC―手厳しい躾 スクリロス―が吼えた。
 生前海を蹂躙していた巨大鮫は、今や編み上げられ鞭となりヘカティアの手元で暴威を揮う。密林にも関わらず、体亡くした今ならば縦横無尽と舞う鮫鞭が躊躇いなく下っ端共を打ち据え、重量級の一撃が骨すら砕けば、メリー・バーミリオンは歯を噛み焦る。
『ぎゃあっ』
『痛ぇ、痛えよぉ』
『お前ら、落ち着いてとっとと――』
「遅い」
 動揺する下っ端共を統率しようとした時、上空から落ちるように響いた声にヒュッとメリー・バーミリオンが息を呑む。海賊女傑の頭上ギリギリ薙いだ大剣鉈―悪禍裂焦«閃煌・烙»―を軽々振るったロクが上から急襲したのだ。
「逃がさない」
『やらせるかっ!』
 淡々としたロクの刃に迷いはない。木々ごと叩き切る大剣鉈をまるで手足のように扱い迫り来る。
 溜まる怒りと蹂躙される屈辱に、メリー・バーミリオンは叫んだ。
『ナメんじゃないよ。私はメリー・バーミリオン!海賊さ!』
 揮われたサーベルに潮の匂い。
 逆巻く大津波がロクを――呑み込むには至らない。森番ゆえに誰よりこの密林を把握したロクは枝を伝い、幹を蹴り、軽々と木の上へ回避したのだ。
 ドォン!と森が揺れたのは、一度だけ。
 大津波が薙ぎ倒した木々の先――足を組み悠然と祭壇に腰掛け、くるくると星の如き宝石を手中で遊ばせるルクスが居た。
「うちの山猫との散歩はどうだい? ああ、あと相棒の手解きは“お嬢ちゃん”にも勉強になっただろう?」
 笑っている。
 ルクスは、笑っている。
『っ、ざっけんじゃないよ!!』
 沸騰するような怒りを迸らせたメリー・バーミリオン、最大の大津波。
 巨人さえ呑み込まんと放たれた一撃に、水の娘はわらっていた。眼前の巨大な、常人からすれば暴力に等しい水塊にわらって。
「いーい悪戯場じゃないか」
『ぶっ潰れろ!!』

 大津波が爆ぜた。
 だが、立っている。
 水底より出でた娘も、聳え立つ巨人も、煩わしき山猫も!平然と、立っている!!

「喧嘩売る相手はちゃんと選びな、“お嬢ちゃん”」

 とんと、静かに響いたぼとりと鈍い音。
 ルクスの手中で変わらずに輝き続ける、星の如き宝石が静かに火花を散らした。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月22日


挿絵イラスト