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ヴリュの白き書物

#UDCアース #お知らせ|第三章導入追加 #▷第3章受付期間:1月18日8:31〜

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●ヴリュの白き書物
「——強さとは信仰たりえるのか」
 仄かな明かりに照らし出されたフロアに、男の声が響いていた。黒く、煤に汚れた床には割れた陶磁器と来訪者の胸を貫いたナイフがあった。
「美しさは矜持たりえるのか」
 テーブルに残ったのはフォークとスプーンだけだった。席に着くべきだった来訪者は今や黒檀の棚を濡らすだけのものとなった。伽藍の瞳に映るものなどなく、はく、はくと零れた息に煤の匂いが混じる。
「ぁ、ぁあ、あが、が」
「問いをもう一度。強さとは全てを陵駕するものたり得るか。選ばれるに値するか、選ばれずに値するか。——信仰、たり得るか」
 男の言葉は、正しく答えを求めるものでは無く、ただ一人も口を開く事が許されぬ空気がそこにはあった。囁き合う声も無く、吐息さえ殺すように男に付き従う者達は来訪者の末路を見守る。つい数時間前までは確かにあった熱狂は、今や恐怖に変わり——だからこそ、狂気と畏れの中、誰もが『男』を見ていた。
「——ボス」
「……」
「えぇ、どうぞ。話をお続けください。私共はただ、貴方様に渡すだけのもの。貴方様がそれを選ばれただけのこと」
 静寂の中、ひとつの影が血溜まりを踏んだ。足音一つ無く、水音ひとつ無いままに『商人』は微笑む。
「存分にお試しください。その為の私共」
「……貴様らは過程に興味は無いと」
「結果を回収させて頂くだけのこと。他は全てご随意に。貴方様の、天の差配を」

●占
「——凶星だ」
 艶やかな黒髪を揺らし、猫の耳を立てた瑞獣が薄く唇を開く。
「オブリビオン、この地の言葉で言えば、邪神たるものの復活儀式が行われようとしている」
 淡々と春・鷙呂(春宵・f32995)は告げると集まった猟兵達を見た。
「儀式場の詳細までは掴めてはいないが、場は判っている。さる国の言葉で星の名を持つ洋館だ」
 そこでパーティーが開かれている。
 表向き、慈善パーティーとされているが、実際に集まっているのは悪党ばかりだ。
「マフィア、とこの地では言うのだろう。周辺の街や、隣国、方々隣接した地域のマフィアやその関係者達が集まっている」
 何も交流会をしているわけでもない、と鷙呂は告げる。
「敵の敵は味方。彼奴等は今、勢いに乗っているギャングの取り扱いに困っているそうだ」
 勢いに乗ってきた男がいようが、事実私達が関与するものではないが——だがひとつ妙な話があった。
「その男が、妙な書物を手に入れたという」
 本名など消し去ったギャングの男・ヴリュは、妙な書物を手に入れてからのし上がったという。
「書物を与えた者がいるのだろう。そいつと共にヴリュは、会場に姿を見せるだろう」
 儀式を開始するその前に、儀式場を破壊することができれば、召喚される邪神は不完全なものとなる。
「これを滅してくれ。儀式場や奴に繋がる情報は会場で得ることが出来る」
 つまり襲撃されるだろう会場に、客として入れということだ。
「事が起きれば、彼らは上手く逃げる。こちらが率先して戦えば無駄に血は流れまい」
 忘れるな、と鷙呂は告げる。
「彼奴等はこの洋館を儀式場に定めた。無駄な血は状況を悪くする可能性がある」
 その言葉を最後に、鷙呂はグリモアの光りを灯した。
「刻限だ。武運を」
 短く告げた言葉ひとつ、金の光が見送りとなった。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

●各章
 第一章:真夜中の冒険
 パーティ会場で情報収集したり悪い人になったり。
 PSWは特に気にせずどうぞ。

 第二章:襲撃。敵の詳細は不明
 第三章:詳細は不明

 1章で会場で調査をしつつ儀式場についての情報を掴み、2章、3章はバトルとなります。

 各章、導入追加後、プレイング受付告知致します。
 プレイング受付期間はマスターページ、告知ツイッターでご案内いたします。
 受付前のプレイングは全てお返しします。
 年末のゆっくり運営です。

 状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。


●お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。

 それでは皆様、ご武運を。
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第1章 冒険 『真夜中の冒険』

POW   :    直感で進んでみる

SPD   :    身軽さや器用さで効率良く進める

WIZ   :    周囲の様子を注意して観察してみる

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●遠く、来訪者は眺める
 都心から離れた別荘地には、多くの客が集まっているようだった。誰もが着飾り、黒塗りの——見た目より随分と重く、頑丈な車でその館へと乗り入れていく。泥濘んだ地面に深く残ったタイヤの跡に、招かれざる客達が遠くで笑う。彼らの来訪は遠く——だが、何も知らずに慈善の名の下にパーティーは始まろうとしていた。

●Cowardice
 重厚な細工が施された両手開きの扉を抜ければ、中世の時代を思わせるような巨大なダンスホールが客人を出迎えた。
「あぁ、皆様。友人よ、よく来てくださった」
「貴方様のお呼びであれば、いつでも。……の長は、アルフォンス殿。やはり貴方様でなくては」
「なに、私も老いぼれてはいられぬと言うことですよ」 
 顔に、僅かに刻んだ皺は自ら老いぼれを名乗るには幾分かまだ早い男に、美しいドレスを纏った女。品の良いスーツの青年は、自社の商品をアピールしながらにこにこと笑う。
「流石、……は好調なことだ。……の事業を始めるとか」
「やはり、企業家というものは違うものかね」
 笑う青年を褒めそやしながら、声を潜める。信頼も信用も無いままに——だが、彼らは口を揃えて言う。
 あの男よりはマシだ、と。
「皆様、今日はお集まり頂き誠に感謝する。やはり、あれの動きは目に余るとお思いなのだろう。ギャング上がりの男、若い坊やには自由に育って貰うべきだと思っていたが……、やはり私が甘かったようだ」
 パーティの主催たる男が顔を上げる。
「最近、また勢いをつけてきているとは、ヴリュの在り方は目に余る。勢いに乗っているというよりは、あれは野獣だ。道理というものを知らない」
 考えようではありませんか、と主催は告げる。協力して、一つの勢力を潰そう、と。
 揃いも揃った悪党たち——マフィアに殺し屋、掃除屋たちが和やかな笑みを浮かべながら手を叩く。拍手喝采。腹の底は見えぬパーティーに、君達は悪党の姿を以て潜り込んでいた。
 目的は、この館のどこかにある儀式場についての情報だ。上手く話を聞くことが出来れば、様々な情報を得ることが出来るだろう。
 ——さぁ、どう動く。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第一章受付期間:12月29日8:31〜

●リプレイについて
パーティーに参加している状態からのスタート
従業員としての潜入は難しいです(チャレンジはOKですが、プレイング勝負で結構厳しく見ます)

●パーティーの客について
 勢いに乗っているギャングの男・ヴリュをどうにかしよう、の呼びかけに応じて集まったマフィアや殺し屋、掃除屋など裏社会の人々。
 共通の敵はいるが、互いは仲間じゃないぞ、な感じ。だいたいフレーバーです。

●潜入について
 他の客の雰囲気に紛れるような感じで、潜入してください。他詳細はオープニングをご確認ください。
 

◆―――――――――――――――――――――◆
八上・玖寂
出る杭は打たれるというのは、どこの国でも一緒のようですね。
この日の当たらない世界では特に。

普段通りのスリーピースのスーツを着て、潜り込みます。
飲み物でも片手に会場内を探索してみましょうか。
人に話しかける際は【礼儀作法】よく一礼して。

僕はフリーランスでして。荒事全般を承っています。
良い仕事があると聞きまして馳せ参じた次第です。
等と言って近づき、適宜【言いくるめ】たりしつつ
出来れば儀式場についての話を聞き出したいですね。

ヴリュとやら、さぞかし『運』が良いようですが、
この集会は感づかれてなどいないでしょうか?
等と、警備について囁いてみたりしたら何か聞けたりしないでしょうか。


※絡み・アドリブ大歓迎



●20:03:05
 嘗て、この洋館は国に連なる血を持つ者を歓待する為に使われたのだという。絵画に彩られた天井に、深い色合いの木が使われた窓枠。光を取り入れる作りは時代が理由か。別荘地としてもう長く様々な人の手にあった屋敷が、主催の一族に随分と昔のことだという話だった。
(「出る杭は打たれるというのは、どこの国でも一緒のようですね」)
 失礼、と男は唇に音を乗せた。するり、とグローブをつけたままの指先で、グラスを受け取れば、一礼と共にスタッフが去って行く。
(「この日の当たらない世界では特に」)
 八上・玖寂(遮光・f00033)は、ほう、と吐息でグラスに触れる。唇を濡らす程度にカクテルを揺らす。甘い花の香りは、この世界にひどく不釣り合いで——だからこそ、似合っていた。
「——おや、君は。何方かの連れでいらしたのかな?」
 自然と目の合わせるようにして、玖寂は一礼と共に男の言葉に応じた。普段通りのスリーピースのスーツが、美しいシルエットをシャンデリアの下に作り上げていた。
「僕はフリーランスでして。荒事全般を承っています。良い仕事があると聞きまして馳せ参じた次第です」
 穏やかな口調に、真心があるわけもなく。恭しく一礼をしてみせた玖寂に、男は笑みを返した。
「嗅覚が鋭いのは良いことだ。このパーティーは『そういう者達』が集まっているからね。アルフォンス殿も意思のある者を集める為に煌びやかな舞台を用意しているからなぁ」
 ゆったりとした語り口の向こうに、荒事になれた気配があった。向こうの言葉を待つように、玖寂はゆっくりと視線を上げる。
「招待状には、招く以外の意味もあるということだ。覚悟を見せろ、とね。だが、組織には向かない仕事も存在する。目立つからなぁ、やはりその筋のプロを正しく使うのもひとつだ」
 何より早い、と男は告げた。
「そういうものだろう? プロフェッショナルというものは」
「ご随意に」
 ただひとつ、玖寂は悠然と微笑んで見せた。男の話は、結局は自分の軍隊を動かす前に外の手が欲しい、という話だ。求めたのは単純な速度か、それとも自分の兵隊を動かせば目立つからか。
「ヴリュとやら、さぞかし『運』が良いようですが、この集会は感づかれてなどいないでしょうか?」
「はは、なに、我々がこうして慈善パーティーを行うのは珍しいことでもないさ。集まりそのものを感づかれたところで、意味に気が付けはしないよ」
 なにせ、と男は微笑んだ。
「アルフォンス殿も、表向きはヴリュの後援者のままだからね。遠縁だが……相変わらず交流はあるらしい。ヴリュも、自分が標的などとは思うまいよ」
 もし思えているのであれば、今回のような騒ぎなど起こさないだろう、と男は告げた。
「ギャングの跡目争いにさえ選ばれずに生きのこっただけの小僧が、この数ヶ月でいきなり変わった。運の良い男さ。全部食い荒らしていった」
 ヴリュは無茶なやり方をしているのだろう。成り上がりの最中は支援する者もいたが、手を出してはいけないところにまで、手を出しだした。良くある話だ。道中、諫める者も——その命を狙った者もいたが、その全てを躱して、返り討ちにしている、と。
「知恵が回ると思っていたが、あいつの運はロクでも無いさ」
 運、と男が言うのは、ヴリュの行動が直前だから、だという。もっと早く奴が気が付いていれば、損害も少なくて済む。だが、寸前のところで『運良く躱していく』のだという。
(「それは運の良さか、気がつける何かを持っているのか……。警戒している上での、このパーティーでしょうが」)
 饒舌に語る男に微笑を以て頷きながら、玖寂は思う。親戚筋であればヴリュがこの洋館を知ってはいる可能性は高い。その上で、儀式場となる可能性が高い場所は——……。
『古い屋敷だからね。地下に天然の貯蔵庫があるという話だ。勿論、警備は十分さ。昔は埋められていて使えなかったそうだからね』
「さて……、彼らが脳天気かどうかは分かりませんが……」
 埋められていた、と言うのであれば、埋められる前が『ある』のだ。ダンスフロアを眺めるように壁に立った玖寂は、静かに笑みを浮かべたままグラスを持ったスタッフが去る道を見ていた。——向かうべきは、地下か。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒金・鈊
血と肉で築かれた玉座で待つのは、王か。神か。

中世を意識した内装なら、こちらも時代遅れのスリーピース。
肩書きは参入したばかりの商人。
扱うのは、無論、暴力。
此度の集いから躍進しようという野心家。

振る舞いは紳士的に。しかし野心は隠さぬ。

少々短慮のように、その仕事は任せろと口を挟み、ひとしきり腕に自信があると売り込んでおく。
武器、兵隊揃えには自信がある。尻尾切りまで万全だ。
顔の知られた掃除屋が信用できるか?と。

標的に似た厄介者と思わせ、その場から離れて、聞き耳を立てる。
悪態に混ぜ、秘匿された作戦の断片、口を滑らせるものもいるだろう。
このやり方で得られるのは三流の情報だろうが、手がかりにはなるだろうさ。



●20:30:11
 高い天井には絵画が描かれていた。嘗て、この洋館は尊い血なる者を継ぐ者を招くために使われたのだという。嘗て、嘗て、と重ねられた言葉に寝物語ほどの良い終わりも無く、持ち主の変わった館を思えば残るのは血生臭さと人間の業程度のことだった。
(「血と肉で築かれた玉座で待つのは、王か。神か」)
 飴色の瞳を細め、青年はダンスフロアに足音を残す。固く、ひとつ。中世を意識した内装に似合いのスリーピース、艶やかな黒髪を結った姿は凡そ、この手のパーティーに似合いの姿ではあったが——はた、と揺れる片袖が、青年の印象をひとつ、変えていた。
「……」
 真っ当ではない、と。
 この会場に集まった者に、ただ一人も真っ当な人間など無く——だからこそ、ここまで饒舌なのかと黒金・鈊(crepuscolo・f19001)は内心、息をつく。耳をそばだてずとも入ってくる話は、皆、ヴリュという男についての話だった。
「皆様も、忙しいこの時期によく来て下さった。南では銀行にまで損害が出たとか、この老いぼれに出来ることがあれば何でも言って欲しい」
「アルフォンス殿の手を煩わせることになるなんて。私も、随分と学びましたわ。あの坊や、随分と荒稼ぎをするものだから……」
 真紅のドレスに身を包んだ老婦人が、ほう、と息をつく。
「坊やはつけ上がりすぎたわね」
 その言葉に、アルフォンスと呼ばれた主催は微笑だけを返す。口を開くその前に、鈊はカツン、と高く靴音を響かせた。
「その仕事は任せろ」
 会話の踏み込むように前に出る。大きく一歩、進めた歩は、広い会場にあって尚目立つ。立ち姿か。立ち居振る舞いこそ紳士的ではあったが、口の端に浮かべられた笑みは正しく野心家のものであった。
 ——黒金・鈊は、己をそう鎧う。
 主催たる男に一度視線を合わせ、老婦人に一礼をして見せると「片付けだろう?」と口の端を上げた。
「噂は聞いている。あぶり出すのは手慣れた者が良いだろう?」
 そちらは引き金を引けば良いだけだ、と鈊は飴色の瞳を細めた。半ば強引に会話に割って入った鈊に、先に口を開いたのは主催たる男の方だった。
「見ない顔だ。この一件、君のビジネスの範疇を超えないとでも?」
「あぁ。武器、兵隊揃えには自信がある。尻尾切りまで万全だ」
 ひらり、と主催が手を上げる。下がれ、ということだろう。静かにひとつ笑みを以て応じると、最後にゆるりと視線を上げて告げた。
「顔の知られた掃除屋が信用できるか?」
 ひとつ、感じた視線はこの場に招かれた掃除屋からの者だったのだろう。その場から離れ、壁に背を預けていれば判りやすい悪態が耳に届く。生意気だと真っ先に告げたのは殺気の主であった。
「随分と生意気が小僧がこの世界にも増えたなもんだな」
「なに、ファミリーの武器庫はお前だとも。使い捨ての兵隊としては良いのかもしれないがね」
「アルフォンスのおっさんよ、その考えがヴリュをつけ上がらせたんじゃねぇのか? あいつが運良く生き残っただけで面白がって拾うんだから」
 いくら、親族とはいえ。
 ため息交じりに聞こえたその声に、鈊はグラスを手にしたまま瞳を細めた。親族。ヴリュと主催は血縁関係にあるのか。話を聞く限り遠縁で、主催からして見れば「生きているから」拾ったのだという。
「生き残っている者は強いのさ。この世界においては特に、ね。なに、あの商人も妙な仕事をするようであれば片付ければ良い」
 何より、と主催は視線を上げた。
「野放しにして武器商人がアレの方に付いては困るからな。妙な古物商とは取引があったが……ヴリュめ、どうやってあれ程の武器を手に入れているのか」
「あぁ、読書家だったか? 紙じゃぁ指を切るんが精々だってのになぁ。腹も膨れねぇってのに」
「……」
 本、と鈊は口をつけないままのグラスを軽く傾けた。武器の調達に関しては、絡むものが絡んでいる以上、常識の範囲で考える必要は無い。ならば、妙な本、古物商が怪しいか。
「紙は指を切るだけ、か。それで首を落とされては笑えもしないだろうな」
 皮肉めいた笑みを一つ浮かべ、鈊は賑わいに意識を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

伊川・アヤト
【伊日】人格は凪
日下部君の付き人として潜入したは良いが此処じゃ人が多すぎるし会場から抜け出さないとな。

日下部君、お偉いさん方の相手はお願いするよじゃまた後で。

闇に紛れて抜け出したは良いけど問題はここからだ館の間取りに竜脈の流れ、生贄が集まった会場、そして星の名前ーーこれだけ情報があれば儀式場の特定はそう難しくない。
観察にかける時間は30分で十分だろうね
『嘘モ誠モ存在セズ』
解った事を日下部君に連絡して他の猟兵にも共有する様に指示する。

さてここからが本番だそれにしても邪神の書物か、欲しいね天蓋に蒐集したい所だけどできない可能性の方が高そうだ。

さあて今度の邪神は面白いといいけれど、どうなることやら


日下部・倫
【伊日f31095】
スーツにいつものローブ、フードを被って会場に赴く。フードは連絡用端末を隠してくれるだろう。ホールの片隅でタロットを広げる。

「占い師をしていますーーあなた方のような方々専門の。何でもご相談ください」

集まっているのはヴリュが邪魔な奴らばかりだ。「ヴリュを排除するには」という相談はやってくるはず。カードをシャッフルして数枚並べていく。占うには情報がいる。ヴリュの人となり、生業、最近の動向、そして妙な本…… カードを読み解くのに必要だと【聞き耳】と話術で聞いていく。腰は低く、相手を油断させるように。充分な情報が得られたら頃合いを見計らって店じまい。伊川さんと合流しよう。



●20:45:07
 招待状というものは、ただ、相手を招く為にあるわけでは無いようだった。応じるか、否かで味方か——或いは、有益であるかを示す。仲間でなくとも当面、同じ敵を持つかどうかのある種、確認の場であるようだった。
「——君は?」
 そんな彼らにとって、スーツ姿とはいえ目深に被ったフードに、ローブ姿の青年は物珍しく映っているようだった。
「占い師をしていますーーあなた方のような方々専門の。何でもご相談ください」
「……ほう。彼は?」
「付き人です」
 短く、占い師——日下部・倫(未来予知研究者兼占い師・f35887)は傍らの連れへと視線をやった。軽い会釈をひとつして、青年は、小さな笑みを見せる。にこり、としたそれは「彼」が『彼』であるが故のことだ。ダンスホールの一区画、占い師と告げた倫に最初に興味を示したのは老婦人だった。
「あなた、どのようなものでも占うのかしら?」
「はい」
「あら、この場でそう言うのは、随分と自信が必要なものだけれど……ふふ、気に入ったわ」
 アルフォンス、と老婦人が呼んだのは、このパーティーの主催である男だった。二言、三言、交わすとフロアの一区画にある席に招かれることとなった。
「昔は星を見るのに良い場所だって、言っていたのよ。随分と凝った作りをしてみせたようだけれど、もう随分と古くなってしまってね」
 饒舌な老婦人の語りは、人に話を聞いて欲しい、というよりはどこか倫を警戒しているようだった。本物の占い師かどうか、ということだろう。
(「それ自体は、不思議じゃないだろう」)
 自分が無表情なのも、淡々とした口調が故に怖がられる事が多いのも倫は理解している。ならば、今は相手に自分を信じさせることだ。
「あぁ、そうでしたか」
 腰は低く、相手を油断させるように倫は言の葉を選んでいく。ふいに、とん、と肩に手が触れた。
「日下部君、お偉いさん方の相手はお願いするよじゃまた後で」
 小さく告げられた言葉と共に伊川・アヤト(明星の旅人/白雨の探偵・f31095)が、パーティーの賑わいに紛れていく。人の間を擦り抜けるように、慣れた様子で進んでいく姿を見送ると倫は老婦人の招きに応じて席についた。

●20:55:40
「勿論、私の庭の手入れについても困ってはいるのだけれど……やはり、一番はあの坊や。ギャングのボスにさえなれなかった筈の子が、随分と運が良いものと思っていたけれど……やはり、星というものはあるのかしら」
「星、ですか」
「えぇ、あの子、随分と運が良いものだから……私も手間をかけさせられたのよ」
 星と、運と老婦人が言うのには、ヴリュとの話し合いが理由のようだった。尤も真っ当な話し合いではない。襲撃をしたが上手くはいかなかった、ということのようだった。
「本当に、直前になって気が付いたみたいにして全てをひっくり返すのだから。占い師さん、あの坊やを本当に排除するにはどうしたら良いかしら?」
「……」
 瞳で応じて、倫はカードをシャッフルする。数枚並べながら、あと少し、と薄く唇を開いた。
「情報をお聞かせ願えますか? 人となりでも、最近の動向でも……」
「そうね……、私もあまり詳しい訳では無いけれど随分とおとなしい子だった聞いたわ。アルフォンスに聞いた時は、自分に自信が無いような子だったそうだけど……親戚の見る目だから」
 親戚、と告げた老婦人に倫は僅かに視線を上げた。血縁関係にあるのか。老婦人の話によれば、ギャングの跡目争いに負けたヴリュを、アルフォンスは引き取ったのだという。生き残っただけだった青年は、親戚の援助を受けながらギャングを取り戻し——そうして、ある頃を境に『暴れるように』なったのだという。
「最近なんか特に、よ。どうやったのか、私の庭でまで荒稼ぎをして……。やり方なんてめちゃくちゃだっていうのに、最後には確かに稼いでいくのよ」
「それは、確かに星の巡りか月の巡りかのようで」
「えぇ、そうでしょう? 本当に、あの子が優秀であれば、あんなめちゃくちゃなやり方で最後に帳尻を合わせるような格好なんて必要は無い。本が好きな坊やではあったけれど、本で手に入れられるようなものでもないわ」
 本、ですか、と倫は視線を上げる。
「カードを読み解く為に、彼の読む本についてお聞きしても?」
「私も詳しくはないのだけれど、古書が多いそうよ。そういえば最近は、古物商が出入りしていたようだけれど……」
「古物商、ですか。古書のような……」
 本であれば、と倫は思う。そこが明らかに怪しい。問題は根が、本であるか、或いは古物商であるかだが——……。
(「詳しいところは、伊川さんと合流してからの方が良さそうだな」)
 ひっそりと、占い師は息を落とした。

●21:29:00
「さて、と闇に紛れて抜け出したは良いけど問題はここからだ」
 アヤト——凪は一人、洋館から抜け出していた。館の間取りは完全では無いが、多少は理解できた。洋館についての話は、フロアを移動している時にも随分と聞くことができたのだ。
「生贄が集まった会場、そして星の名前ーーこれだけ情報があれば儀式場の特定はそう難しくない」
 ふぅ、と一つ息を落とし、猟奇探偵は観察する。洋館の形、来歴、竜脈の流れ。星の名を持った理由は嘗て貴人を招いたからであり、ならば相応の場が此処にはあるはずだ。
「そこには事実だけが存在する」
 コツン、と足を進めていく。中庭へと足を進めて振り返れば、空に瞬く星がさっきまでいたダンスフロアの奥を示していた。
「あそこは……確か、厨房の近く。地下に貯蔵庫があるんだよね」
 だが、地下の貯蔵庫だけであれば土台にあそこまでの補強はいらない。恐らくあの周辺に地下の区域はもっとある。生贄を集めたのが箪笥フロアであれば竜脈との関係も合致する。
「灯台もと暗しだね。外には警備も見えるみたいだけど、何らかの理由で『あそこ』を知ってれば、ひとが守ったところで仕掛けは簡単にできるからね」
 さて、と凪はくぅ、と背を伸ばした。倫と合流して情報を共有した方が良いだろう。
「さてここからが本番だそれにしても邪神の書物か、欲しいね天蓋に蒐集したい所だけどできない可能性の方が高そうだ」
 ほう、と猟奇探偵は息をつく。
「さあて今度の邪神は面白いといいけれど、どうなることやら」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『風魔衆・下忍』

POW   :    クナイスコール
【ホーミングクナイ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【クナイ手裏剣の連射】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    サイバーアイ演算術
【バイザーで読み取った行動予測演算によって】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    居合抜き
【忍者刀】が命中した対象を切断する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●21:50:51
「さぁて、時間だ。もう良い時間だろう。老人達も楽しく話し合ったし、大人達だって話に花が咲いた頃だ」
 だからこそ、と男は告げた。手にした書物に書き綴られる短い文章に笑みを浮かべ、刻限だ、と告げる。
「——ボス」
「……か。貴様らは好きに結果とやらを回収するが良い。僕はこの家に戻り、私はあの日のやり直しをするとしよう。なに、ちょっとした興味心だ」
 ギャングの男・ヴリュは白いスーツが汚れるのを気にしないまま、泥濘んだ道に足を置いた。
「さぁ、選択の日を始めよう!」

●22:00:00
 ——その瞬間、洋館に小さな震動が走った。揺れか、震えか。賑わいの中、猟兵達以外にそれに気が付いたものはいない。だが『その声』がしてしまえば、誰もが異常に気が付いた。
「——やぁ、招待状は無かったけれど遊びに来ましたよ。アルフォンスおじさん」
「招かれざる客の自覚はあるようだな。話も無しにいきなり来るのはマナー違反だと……」
 忘れたのか、と言うつもりだったのか。或いは、知っているかと聞くはずだったのか。だが、どの言葉も開け放たれた扉を吹き飛ばした銃弾にかき消される。
「……」
 一拍の静寂。次の瞬間、生まれたの箪笥フロアからの迎撃だった。
「残念だよ、ヴリュ。お前にも、もう少し道理というものがあれば……な!?」
 息を飲む音がひとつ、硝煙の向こうにまで響く。ばらばらと落ちた銃弾。肩に羽織ったスーツを揺らしたヴリュの前に立ったのは彼の兵隊ではなく、少女の姿をしたサイボーグ達だった。
「攻撃の無力化を確認」
「いいね。いいねぇ、それじゃぁ、お集まりの皆様も含めて、選択の日を始めよう! 誰が生き残るに相応しいか」
 風魔衆を前に、ヴリュがテーブルに残ったグラスを取る。ちらり、と男の目が、猟兵達に向いた。
「——君達もだ。邪魔はしてもらいたくないからね」
「……」
 猟兵達が向かおうとしている「先」に気が付いたか。儀式場は、このダンスフロアの先、地下の貯蔵庫にある筈だ。昔は埋められていたというその場所は——だからこそ『嘗ては空いていた』のだ。
 抜け出すには、まず、あの風魔衆の下忍達を倒す必要があるだろう。幸い、マフィア達は下手にそれぞれの兵隊を出しては来ないようだ。上手く言えば、彼らに手出しをさせないようにもできるだろう。
 ——さぁ、どう動く。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第2章受付期間:1月8日8:31〜

●リプレイについて
ダンスホールでのバトルとなります。
襲撃側であり、邪教と何らかの関わりがあるヴリュも、風魔衆の下忍達に任せて自分の兵隊は下手に使わないようです。
参加者のマフィア達に上手く言えば、彼らも猟兵達に戦いを任せます。
(マフィア達が死亡しても、シナリオは成功します)


ヴリュについて……ギャングのボス。後継者に選ばれず、死にかけたが生き残った。主催の後援を受け、現在はボスになった。少し前から派手に動き、色んなシマを荒らしている。

パーティーの主催……ヴリュの親戚。叔父。元は後援だったマフィアであり、ヴリュの扱いに困り片付けようとしている。
 

◆―――――――――――――――――――――◆
伊川・アヤト
【伊日】人格交代→アヤト アドリブ歓迎
やはりコートだと動きにくい、一応戦闘服を用意しておいてよかったな。
用意していたスーツデザインのPolarisに早く着替える。
状況は芳しくないみたいですね、生憎守れる状況じゃない私は儀式場に向かいます日下部君また後で。

「時雨」出来るだけ無駄は少なく行きましょうか

PIECE/Monarchを抜き脳天を打ち抜く、弾は呪殺弾と召喚弾。召喚対象は黒い猛禽類の影、対象に命中した瞬間に傷を抉る。

この先が儀式場、まあこの後邪魔が入っても困りますし数人倒しておこうか。

MONOLITHを念動力で引き寄せPIECEと連結、大剣状にし数度銀の斬撃波を見舞う。


日下部・倫
【伊日】
儀式を止めることを優先する。今ここで流れるマフィアの血と邪神が復活して流れる血と、どちらが多いだろうか。闇の世界を暗躍してきた奴らだ、自分の身くらいは守れると信じたい。伊川さんと別れ、各々人の波へ消える。

UC【月】を発動。姿を消して儀式場へ、混乱の合間を縫っていく。周囲の動きを【見切り】、なるべく速く確実に。時間を食っていてはいけない。眠りの霧は広げて少しでも敵の数を減らしたいが。

飛んでくるクナイが何を手がかりにしているか分からないが視覚なら御の字。追いかけられずに済みそうだ。熱量などUCで消せないものなら、黒槍を顕現して【武器落とし】。

おちおちしていられない。急げ。


八上・玖寂
さてさて。主賓がご来場ですか。
邪魔をするなと言われましても、こちらも仕事なものですから。失礼。

ここはお任せください。
『プロフェッショナル』としての手腕、お見せ致しましょう。
とでも言って、マフィア達は遠ざけておきつつ。

『万天を断つ無明の星』を使用し、武装を不可視に。
飛んでくるクナイに対しては、暗器を投げつけて相殺できれば。

では反撃しますか。
不可視の鋼糸を繰り、相手を捕らえて拘束。
せっかくのダンスホールですが、これ以上踊られると厄介ですのでね。
止めのために指を引く。
雇い主は選ぶべきでしたね。


※絡み・アドリブ大歓迎


黒金・鈊
さて、俺の仕事が来たな。
庇ってやる義理もないが、邪神に餌をやることもない。
声かけ、遠ざけておく。

商売敵が減るのは有り難いが……賢い商人ならば、損得勘定は正しく弾くもの。
「生き残っている者は強い」のだろう?

右腕から炎を展開し、紅蓮の炎を纏う。
ついでにテーブルなどを燃やして、オーディエンスが近づけないように。

炎で身体を隠すことでクナイの命中率を下げたい。
とはいえ、完全回避も難しいだろう。
被弾は右腕で庇い受け、続く連射は剣で弾き、全弾命中しないよう務める。

疵を追ったとて、火勢が増すだけだがな。

忍ならば機動力も自慢だろうが、炎の柵の中で何処まで自在に動けるかな。
焦らず追い詰め、斬る。

いざ、押し通る。



●22:00:40
 一瞬、白金に似た光がホールを包んだ。先の銃弾でグラスが砕けたのだろう。宙を舞った破片さえ撃ち抜かれれば真面な形など残りはしない。真っ当な人間であれば、今頃ヴリュは二本の足で立つ事も無く——ダンスフロアにはガラス片の代わりに血肉が転がっていたことだろう。
「あぁ、やっぱり。『あれ』が示した通り、邪魔をするのか」
「邪魔をするなと言われましても、こちらも仕事なものですから。失礼」
 さらりと八上・玖寂は、ヴリュにそう言った。形ばかり口にした最後の言葉は、招かれざる客にも伝わっていたか。
「あの動き……」
「くそ、捉えきれん……!」
 パーティーの参加者達が逃げ惑うような騒ぎを起こしていないのは、動きやすくはあるが——御せると思っているのであれば、先に釘を刺した方が早いか。
「ここはお任せください。『プロフェッショナル』としての手腕、お見せ致しましょう」
 かつん、と敢えて靴音を一つ残す。見れば外から一人、ダンスフロアへと猟兵が戻ってきていた。軽く視線だけを交わした先で——僅かに雰囲気が変わった青年——伊川・アヤトは、外に出た時のコートとは違う、戦闘服に身を包んでいた。合流しているのは日下部・倫だ。
「左はそのままお任せしましょうか。そちらは?」
「……中央を貰う」
 短く一つ、言の葉を返した男の片腕で袖が揺れる。では、と微笑を以て応じた男を目の端で見送ると、黒金・鈊は僅かに口の端を上げた。
「さて、俺の仕事が来たな」
 揺れる髪をそのままに、鈊はパーティーの客達へと目をやる。ドレスコードを聞いた記憶は無いが、武器の所持は必須であったらしい。
(「庇ってやる義理もないが、邪神に餌をやることもない」)
 儀式場はすぐ傍だ。口を開いて待つ盃にわざわざついでやる必要も無いだろう。
「商売敵が減るのは有り難いが……賢い商人ならば、損得勘定は正しく弾くもの」
「小僧、お前、何を言って……」
 主催の前、盾となるように立っていた男に——組織の武器庫と呼ばれていた男に、鈊は不敵にひとつ、笑って見せた。
「『生き残っている者は強い』のだろう?」
 瞬間、鋼の焔が揺れた。ひらりとただ、柔く揺れていただけのスーツの片袖を這うように炎が上がる。肩口に触れ、青年の首を這うように焔は紅蓮の炎へと変わっていく。
「何故、お前、その状態で……ッ」
 ひゅ、と息を飲む音を、封じるように男が口を噤む。ふ、と一度だけ紅蓮を身に纏ったまま鈊は静かに笑う。纏う空気は緩く重く、然れど露悪には遠い笑みを以て炎を纏い——払う手でテーブルに炎を移した。
 ゴォオオオ、と一気に炎が上がる。テーブルからテーブルへ、柵のように炎の壁が出来上がれば間違い無くお喋りなオーディエンス達は近づけまい。構わず来るのは——敵だけだ。
「来たか」
「標的を確認」
 告げる言葉と同時に忍びの手が何かを放つ。クナイか。炎に身体を隠すように鈊は足を引いた。軽く後に飛ぶ。一撃、空を切れば軌道が床を叩く。キン、と響いたそれを合図とするように続けざまにクナイが放たれた。
「場を追うか」
 元より、命中率を下げようと思っていただけのことだ。身を横に振り、着地の足で身体を一度そこに留める。一瞬、その静寂を捉えるように来たクナイに鈊は右腕を振り上げた。
「——」
 クナイを、炎が飲む。巻き上げるように、飲みほすようにして鋼の焔が庇い受ければ、流れるのは血では無く——炎だ。ごぉお、と尾を引くように見えた焔に、忍びが放つクナイの軌道を変える。
「標的の再確認。殲滅を」
「生憎」
 一刀、薙ぎ払う。黒耀の刃を這わせるようにクナイを弾くと同時に身を沈め——前に、飛んだ。
「——!」
 続くクナイを払い、一気に間合い深くに踏み込む。低く床を滑るようにして振り上げた一撃で斬り倒せば、真横にいた忍びが鈊の後に飛んだ。背を狙うつもりか。だが、着地の先は——炎だ。
「忍ならば機動力も自慢だろうが、炎の柵の中で何処まで自在に動けるかな」
 刃を払い、鈊は風魔衆に告げた。
「いざ、押し通る」

●22:18:16
(「やはりコートだと動きにくい、一応戦闘服を用意しておいてよかったな」)
 謎解きも終えて凪はアヤトに後を投げて——、任せていった。アヤトはひっそりと息をついた。
「状況は芳しくないみたいですね、生憎守れる状況じゃない私は儀式場に向かいます。日下部君また後で」
「分かった。伊川さん」
 視線ひとつ、躱した先で日下部・倫が頷く。目深に被ったフードの下、一度探るように倫の瞳が周囲を見る。包囲されている、ということは無さそうだ。
「——では」
 短く告げた倫が、ローブの袖を引いていくのを目の端に、アヤトは掌をシャンデリアに晒す。
「洗い流しましょう」
 指先が黒く、染まる。爪を染めたような色彩は一瞬にして手を多い——アヤト自身を染め上げていく。
「……」
 まるで黒衣を纏ったかのように。黒い金属の鎧と、銀の皮膚で覆われた青年は、手にした武器も同じように黒と銀で染め上げる。ただの鎧ではない。視聴嗅覚での感知を不可能とするものだ。だからこそ、流れるようにアヤトはPIECE/Monarchを抜いた。
「——標的を確認」
 二発の銃弾の衝撃を以て、漸く忍び達はアヤトの姿に気が付く。
「被弾。銃弾の射線を計算する」
 存在を辿るように忍びはクナイを面で放つ。悟られる前にアヤトは再び銃口を向けた。使う銃弾は呪殺弾と召喚弾。ただの弾丸の軌道では——無い。
「これより殲滅行動にはい……」
 入る、と続く筈だったのか。一撃、最初のアヤトの銃弾を受けた忍びが、構わず踏み込もうとした先で、踏んだ影に囚われる。
「——な」
 ピィイイと風を切る音と共に向かった黒い猛禽類の影が忍びの腕に食らい付いていたのだ。ヒュン、と放つクナイの軌道が逸れる。空を切って落ちたそれを視界に戦場を抜ける。儀式場までの道は、分かっていた。
「この先が儀式場、まあこの後邪魔が入っても困りますし数人倒しておこうか」
 一度、瞳を伏せる。虚空より、引き寄せられたハンドガンが手に落ちる。黒と金を基調としたセミオート。手に馴染むそれをPIECEと連結する。
「——片づけよう」
 夜空の使者に似た姿を以て、青年は大剣に変じた武器を——振るった。
 薙ぎ払いが銀の衝撃波に変わる。衝撃に、音を辿ってきていた忍び達が崩れおちた。数体、飛び抜けてきた忍び達の放つクナイが浅く、アヤトの頬を掠る。避けずにいたのは、次の一撃の為だ。
「……」
 斬撃の音が、倫の居る場所まで届いていた。『月』の影響範囲を広げる必要があるかと思ったが——彼であれば大丈夫だろう。
(「今ここで流れるマフィアの血と邪神が復活して流れる血と、どちらが多いだろうか」)
 今のところ、鈊と八上が上手くパーティーの客達を抑えている。最初から敵対していた二派だ。妙な好機と勝手に捉えなければ良いが——一先ず、パーティーの客達の視線は猟兵の動きに注がれていた。最悪、このまま大騒ぎになっても——武器は持っている。
(「闇の世界を暗躍してきた奴らだ、自分の身くらいは守れると信じたい」)
 良くも悪くも、彼らはここまで生きて、生き延びている。一度、視界に彼らを捉えてから息を吸う。
「ゆっくりと──眠れ」
 ふわり、と倫の外套が揺れた。手にしていたカードが『月』を示すと同時に、霧が倫の姿を包んでいく。視覚嗅覚での感知を不可能とする霧だ。自らも、武装も包み込んでしまえば滅多なことでは、バレはしない。混乱の合間を縫うように倫は進む。
「……」
 なるべく速く確実に。時間を食っていてはいけない。剣戟の音は変わらず響いていた。まだ、数はいるのか。今は猟兵へと意識は向いているが——万が一ということもある。
「すこし……」
 眠りの霧の範囲を広げる。床を蹴って、背後に回ろうとしていた忍びが崩れおちる。意識ごと奪ってしまえば、オブリビオンとてそう簡単には立ち上がれない。
「——標的の存在を確認。感知不可」
「では——音を」
「——」
 来るか、と忍びの反応に、倫は戦場を抜けていく。熱量さえ相手が辿っていないのであれば、動きで対応はできる。ヒュン、と進む音を辿るように来たクナイが腕を掠る。カラン、と落ちたクナイの場所を探ったか。
「標的の痕跡を発見。これより殲滅に入る」
「……別に、見つからないとは言ってないだろう」
 静かに一つ落とす息と共に倫は視線を上げる。眠りの領域が一気に広がれば、放たれるはずのクナイが落ちた。視聴嗅覚での感知を不可能としている今、忍びが追跡に使うとすれば自分たちとその武器か。だが、それが分かっている以上、上手く使わせるつもりは無い。
(「おちおちしていられない。急げ」)
 人混みを縫うようにして、倫はダンスフロアを抜けた。
「——おや」
 二つ、合った筈の姿が消えていた。知覚させないようにしているのだろう。ばたばたと倒れた忍び達を視界に、玖寂はつい、と眼鏡をあげる。
「私も仕事と行きましょうか」
 水は流れるものです。僕も貴方も。
 暗器に、指を這わせる。つぷり、と肌を裂着零れ落ちた赤が鋼に染み落ちれば——姿が、消える。不可視となった武器を手に、玖寂は、トン、と最初の一歩の足音を残し——前に、出た。
(「派手な立ち回りには向いてはいませんが」)
 仮初めの顧客は派手な立ち回りを望むだろう。一歩、二歩、三歩目の足音を消す。着地の先、淡々とした声が耳に届く。
「標的を確認。殲滅せよ」
「殲滅せよ」
 波のように響く声に、玖寂は暗器を放つ。クナイと鋼がぶつかり、軌道が逸れる。続けざまに放てば、ギン、と鈍い音と共に相殺された。
「——!」
「では反撃しますか」
 指先で玖寂は空間を払う。不可視の鋼糸がダンスホールに統べる。しゅるり、と踏み込むはずの忍びを糸が捉えた。
「な……」
「せっかくのダンスホールですが、これ以上踊られると厄介ですのでね」
 男は、止めのために指を引く。クナイを放つ筈の身体はぐらりと崩れおち、続けざまに2体忍びは落ちる。
「ぁ、あ……標的、標的、は」
「雇い主は選ぶべきでしたね」
 少女の姿をしたサイボーグ達、風魔衆の下忍は斯くして崩れおちた。流す血の一滴さえ無いままに、鈍い光りの中に消えていけばダンスフロアにあった妙な空気が——変わろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『魔導書配りの男』

POW   :    コミックス66ページ
【相手の背後】から【呪われた泥人形】を放ち、【呪い】と【泥濘】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    文庫本311ページ
レベル×5体の、小型の戦闘用【に調整された使い魔】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    新書本296ページ
【猛毒の霧】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は鳶沢・成美です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●22:59:09
 ダンスフロアにあった妙な空気が消えていた。風魔衆を倒しきり、儀式場に向かう為に足を向けたその時に感じた違和感の正体はそれであった。溺れるような、熱で酸素を失うような息苦しさが僅かに残り——だが緩やかに消えていく。
「……此処が」
 滑るように賑わいの中を抜け、ダンスフロアの先、下るようにして辿りついたのは古い洋館にある貯蔵庫だった。ワインでも収められているのだろう。天然の洞窟に似たそこは、今や鈍い光を讃えていた。
「あぁ、そうか。君たちが辿りついたということは、私の選択は結論を得たらしい。この本も、綴る言葉も無くなった」
 そこに立っていたのは白のスーツを着た男・ヴリュだった。ダンスフロアにいた筈の男が、どうやって此処に先に来たのか。ヴリュの手元にある本が理由だろう。
 先の戦場にあっては何故か『視認できなかった』本が『今は』見えるのだ。明らかに真っ当ではない本だというのは猟兵達には良く分かった。
「なら、対価の時だろう」
 ヴリュの手にした本が揺れ——その腕がピシピシとひび割れるようにして枯れていく。
「存分に選択の日を楽しんだからね。あぁ、本当はもっと全部壊して、それでも何が生き残るのか見てみたかったけれど——上のダンスフロアで存分に踊ってもらうつもりだったけれど、失敗してしまったからね」
 儀式に必要な血と肉を、集めきれなかったのだからどうしようもない。
 ひび割れる。指先から崩れていく。
 その異常を、だがヴリュ・ヘリダットは楽しげに見ながら猟兵達を見た。
「君たちは知っているかな。古い物語に記された天罰で、凡てが亡びると言われたのに外界にて生き残った者がいたという」
 天罰も、神も蘇らせるには足らなかったが、とヴリュは崩れゆく身体で軽く肩を竦めた。
「——君たちの選択は、君たちを生き残らせるかな? それとも——……」
 その先は言葉となることは無いままに、男は砂のように崩れおちた。唯一冊、本だけを残して。
「……存分にお楽しみ頂いてようで、何よりです。ボス」
 その本を中心とするようにして、一人の男が突如姿を見せた。出現に猟兵達は驚きもしない。『此処』で見たヴリュは既に人の気配を感じられないモノになっていた。あの本が原因だろう。
「皆々様も、お出で頂きありがとうございます。私はただ、魔導書を配っているだけの男でございますが……此度は起こすべきものも起こせずに終わりましたので」
 バチ、バチと儀式場となった貯蔵庫に鈍い光りが生じる。儀式場自体は破壊された——だが、残された力が不完全な邪神として魔導書配りの男を成立させていく。
「少しばかり、お手伝い頂きましょう。貴方様型の血と肉を以て」
 魔導書配りの男が踵を鳴らす。無数の頁の幻と共に一冊の本を手にした男は、にぃ、と笑った。

◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第3章受付期間:1月18日8:31〜

●リプレイについて
破壊された儀式場での戦闘になります。
洞窟のようになっており、広いです。端のようにワインなどが貯蔵されているようです。

*一般人が駆けつけることは無いです
*上のダンスフロアの人達は良い感じにしてるので、シナリオが失敗しない限り死亡はしません。
 

◆―――――――――――――――――――――◆
伊川・アヤト
【伊日】アドリブ歓迎
ここからは私の仕事だ、本気で行く
貴方が此度の事件を引き起こした邪神ですか消えてもらいます、生憎つまらない神と一緒にいたくはないのでね。

『夜風』-目を布で隠し黒白の着物姿と和傘を持った真の姿-

目には目を神には神を、とでもいいますかこれで対等ですね、さあ彼奴を裂け凍星

避けようとしてる所失礼しますが、無理ですよ
生憎今の私の目は神の目でして空間を操るなんて簡単なんです、右左上下?それとも前後?
楽しい楽しいダンスのお時間です。

銃形態のPIECEで呪殺弾を死角から空間をつなげて撃ち接近し傘で殴りつけると同時に凍星を放ち肉体を貫通させる。


日下部・倫
【伊日】
後方でサポートに回る。
UC【審判】を発動。タロットカードを掲げると背後に巨大な天使が現れ、ラッパが高らかに鳴り響く。祝福のラッパは猟兵達の傷を癒すだろう。そして、天罰の雷が男と使い魔たちに襲いかかる。

審判は裁きと蘇りのカードだが……邪神など蘇らせてなるものか。正しきものは生き延びる、悪しきものには天罰が下る、ただそれだけのことだ。我らに祝福を、悪しきものに裁きを。

使い魔達はともかく、男には一発大きなのを落としてやりたい。タロットを男に向け、集中する。響くのはラッパか雷鳴か。儀式場を稲妻が一閃する。



●23:02:00
 バサバサと響く音は鳥の羽ばたきに似ていた。屋敷の地下——随分と古いその場所に、鳥の姿など無いというのに、古びたページが舞う様は鳥の羽ばたきに似る。
「皆々様も、お出で頂きありがとうございます。私はただ、魔導書を配っているだけの男でございますが……此度は起こすべきものも起こせずに終わりましたので」
 吐息ひとつ零すようにして笑う男の手に、ページが収まる。一冊の本へと変えれば、にぃ、と魔導書配りの男は笑った。
「少しばかり、お手伝い頂きましょう。皆々様の血と肉を以て」
「……」
 瞬間、空気が変わったと2人は思った。バチバチと崩した儀式場に溢れていた光が、天井まで一気に上がる。眩しさは無い。代わりに目の前の魔導書配りの男が『変わって』いるのが分かった。
「不完全な邪神、だな」
 静かに日下部・倫(f35887)が呟く。ばたばたと揺れる外套をそのままに、ほう、と息を落とせば傍らにいた伊川・アヤト(f31095)が、僅かに気配を変えていた。
(「……これは」)
 小さく視界に彼をいれる。ほう、と落ちた声ひとつ、聞こえてきた声が常より僅かに低く感じたのは吹き抜けた風の所為か。
「ここからは私の仕事だ、本気で行く」
 コツン、と一歩、アヤトは踏み込む。足音が妙に響き——同時に、青年の纏う気配が変じていく。
「貴方が此度の事件を引き起こした邪神ですか消えてもらいます、生憎つまらない神と一緒にいたくはないのでね」
「あぁ、成る程。つまらないと仰るということは、貴方様は面白い神をご存じと」
 くつくつとひどく楽しげに魔導書配りの男が告げる。それは、と薄く開いた口の端が上がる。
「神を知る者と未来を視る者の血と肉は、次の書物に役立つでしょう」
 さぁ、と告げる声と共に、男の手から無数のページが舞った。戦場に残っていた埃が切り裂かれる。あれより、問題なのは男が本を開いた時か。
「……帷が降り暗がりに白糸が走る、風が私の頬を撫でた」
 一度、アヤトは瞳を伏せる。息を吸う。迫るページを気にせずに、言の葉を紡ぎ続ける。
「冷たい風は恋慕う相手に触れる様に優しく、妙に心地よかった」
 それは、天蓋の名を持つ神、明星と合体するもの。しゅるり、と青年の瞳が布で隠される。衣が黒白の着物へと変われば、とん、とその手に和傘が落ちた。
「ほう、これは……」
 気配で察したか。その威圧を感じたか。極彩色の夜に染まった真の姿となった青年は、男の言葉にゆるり、と視線だけを向けて告げた。
「目には目を神には神を、とでもいいますかこれで対等ですね、さあ彼奴を裂け凍星」
 瞬間、力は前に走った。パン、とひらかれた傘を肩に隠された瞳を向けた先へと凍星が行く。風を切り進む音は高くあったか。躱すように一度後に飛んだ男へと、アヤトは薄く笑う。
「避けようとしてる所失礼しますが、無理ですよ
生憎今の私の目は神の目でして空間を操るなんて簡単なんです、右左上下?  それとも前後?」
 指先を示す必要など無い。力を重ねる必要も無い。ただアヤトが視れば良いだけだ。それだけで空を裂く凍星は敵を逃さず追う。
「楽しい楽しいダンスのお時間です」
「ははぁ、これは……困りましたな」
 躱すように男は戦場を駆けた。だが、永遠に逃げ回ることなど出来る訳も無い。着地の先、肩口を抉られれば、魔導書配りの男は赤黒い血を零しながらくつくつと笑う。
「あぁ、ふふ、ふふふふ。まさか、そのような『モノ』を見ることが出来るとは思いもしませんでした。これは、ボスにも感謝すべきでしょうか」
 この全ての騒ぎに、この日に至るまでの道中の屍達に。
「ですが、片鱗なれど邪神を宿した身。多少は遊んで頂きましょう。この新書本など」
 男の手に、トン、と一冊の本が落ちる。ばらばらとページが勢いよくめくられ——次の瞬間、猛毒の霧が戦場を覆った。
「——」
 痛みより先に、強烈な熱が体を襲った。痛いと確かに思うべきなのは零れ落ちた赤で分かっている。着物の下、肌が裂ける感覚と共に血溜まりが出来上がっていく。——それは、アヤトだけでは無かった。
「……」
 倫の衣が赤く染まっていた。は、と一度だけ息を落とした青年がゆっくりと口を開く。
「大丈夫だ」
 短くその言葉だけを告げて、倫はタロットカードを掲げた。
「裁きの時だ」
「裁き、ですか。それはそれは、何を以て……」
 どう、と続く筈であったのか。魔導書配りの男が瞬く。
「それは……、厄介なものをお持ちだ」
 慌てた理由は、倫の背後に現れたものにある。巨大な天使だ。祝福のラッパが鳴り響けば、アヤトと倫の傷が癒えていく。た、と一度距離を取り直すように床を蹴った男が、踵を鳴らした。
「手伝って貰いましょう。使い魔達、彼らを止めなさい」
「止める、か」
 男の手にした本から召喚された異形の獣たちが一気に床を蹴ってきた。グルァアア、と呻く声と共に爪が迫る。だが、倫の首を刈るよりも早く——稲妻が落ちた。
「な……」
「審判は裁きと蘇りのカードだが……邪神など蘇らせてなるものか」
 天罰の雷が、使い魔達に襲いかかる。雷光が異形を穿ち、飛びかかる四肢を紙に戻す。
「ぎぃいっぁああああ!」
「正しきものは生き延びる、悪しきものには天罰が下る、ただそれだけのことだ」
 人の叫びとも、獣の叫びとも似た声が響く。指先に構えたカードを、倫は真っ直ぐに男に向けた。
「我らに祝福を、悪しきものに裁きを」
 瞬間、雷鳴が響き渡った。ガウン、と重く。儀式場を稲妻が一閃する。穿つ一撃に合わせるように踏み込んだアヤトが傘を向ける。
「成る程。皆様は、不完全な復活程度では……ッく、ぐぁああ……!」
 雷光と凍星が魔導書配りの男を撃ち抜けば、儀式場に溢れていた光が——消える。ばたばたと男から零れ落ちる血が、鈍い紫に姿を変えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八上・玖寂
招かれざる客の多い夜ですね。
仕事のし甲斐があるというもの。嘘ですけど。

貴方も周りくどい方ですね。
わざわざ『本』を配って、為すべきことを為してもらおうとは。
まあ、オブリビオンとはそういうものなのかもしれませんが。

『朽ちる憧憬に灰を撒け』で暗器を複製、
【暗殺】するように操って使い魔共を蹴散らしましょう。
倒し終えたらそのまま魔導書配りの男の首筋に暗器を突き付け。

何かを為す信念も情熱も、この身にはありません。
あるのは掛かる火の粉を払う、もしくは依頼を受けてそれを叩き潰す力のみ。
故に貴方には滅んで頂きます。依頼人の標的として。


※絡み・アドリブ大歓迎



●23:10:49
 雷光と共に空を裂く光が戦場を駆けていた。地下のワインセラー宜しく、積みあげられた荷箱などとうの昔に壊れていた。中身が入っていないだけ幸いであったのは、洋館の主人か、将又管理を任されているであろう札付きの男か。戦場に不釣り合いな場所はあれど、似合わぬ場所など結局はこの世には無く——だからこそ、カツン、と男は一つ足音を響かせた。
「招かれざる客の多い夜ですね。仕事のし甲斐があるというもの。嘘ですけど」
 揺れる髪をそのままに、八上・玖寂(f00033)は視線だけを前に向ける。身を揺らし、蹈鞴を付いた魔導書配りの男から毀れていた血が、赤黒いそれから紫を帯びたものに変わっていた。それは異形を示していたか。一度だけ瞳を細め、玖寂は続く足音を儀式場に残す。血の色が変わろうが、相手がいるという事実に変わりは無い。
「はははは。パーティーというものは、サプライズが多いほど面白いものではありませんか?」
「生憎、面白いとはかけ離れた男で」
 血溜まりから笑う男に玖寂は軽く肩を竦める。魔導書配りの男の周りで、ばさばさと紙が揺れる。無数のページは、何事かを書き込んでは急速に消える。これが、ヴリュの手にしていた書物か、或いは不完全ながらも蘇った邪神の因子か。
「貴方も周りくどい方ですね。わざわざ『本』を配って、為すべきことを為してもらおうとは」
 その距離を、間合を図る。声を投げた先、男が動いた様子は無い。一気に距離を詰めてくる類いでは無いか。視線だけは外さずに、吐息ひとつ零すようにして玖寂は薄く唇を開く。
「まあ、オブリビオンとはそういうものなのかもしれませんが」
「なに、過程を楽しみ結果を収集する者です。私共の魔導書を手に入れた方が、その力によってどのような運命を辿るのか」
 にぃ、とおとこは笑った。
「愉しみなのです」
「随分と良い趣味をお持ちのようで」
 悪趣味の悪食を見られるとは、と落とす息と共に玖寂は指先で空間を払う。ぴん、とスーツが揺れれば、空間に暗器が複製された。
「花でも咲かせてみましょうか」
 鈍く光るそれは、刃物の類いだ。た、と軽く踏み込めば魔導書配りの男が笑った。
「ははは。これは怖い。まだまだ私共の収穫も足りてはいないので——遊ばせて頂きましょう。お出でなさい」
 男が踵を鳴らすと同時に、軋む儀式場から鈍い光りが毀れた。とん、と手の中に落とされた一冊の本が勢いよく捲られれば、ギィイイァアアと異形の唸り声が響く。
「……」
 来る、と玖寂は思った。舞い踊るページの向こう『それ』が形を得る前に複製した暗器の一つを指で浚って放つ。ひゅん、と一撃、突き刺さった刃に狼かライオンに似た何かが崩れおちる。
「ギィァアアア!」
「ルグァアアアァ!」
 散った獣を踏み越えるように一体が増えたか。だが、気にせずに玖寂は行く。 たん、と一気に踏み込んで群れの波の中、構えた暗器を低く放つ。足元を浚い、転けた一体を飛び越え、着地の足を引き背後から迫る一体に突きたてる。
「ギィイイァアア!?」
「失礼。足癖が悪いもので」
 着地の音など響きはしない。身を沈めるようにして、異形の獣に上を譲る。地を滑らせるようにして構えた暗器を上に放てば——闇だけが、玖寂の頬を撫でた。
「何かを為す信念も情熱も、この身にはありません。あるのは掛かる火の粉を払う、もしくは依頼を受けてそれを叩き潰す力のみ」
 男の使い魔の零す影を切り裂くようにして荒事師は行く。切り裂かれた異形から零れ落ちた灰を散らし——前に、出る。
「はは、これはこれは。私を叩きつぶすのであればもう少し——……な」
 カツン、と慣らす筈の踵より早く、玖寂は踏み込む。身を沈めた一瞬はこの時の為、相手の呼吸さえ奪うように、読み取るように玖寂は間合不覚に踏み込む。
「故に貴方には滅んで頂きます」
 男の首筋に暗器を突きつける。ひゅ、と息を飲んだ魔導書配りの男に、玖寂は悠然と笑い——告げた。
「依頼人の標的として」
 そして、暗器がオブリビオンの首に沈んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒金・鈊
只で寄越される本は、大概碌でもない。
彼は解って手にしただろうが。

……破滅願望を笑える立場にはない。
ああ、彼の望み通りに。全て無為へ。

天墜発動。
男へと仕掛けるが、使い魔が召喚されたならば、そちらへ先にぶつけて道を切り拓く。

抜刀し、男へと距離を詰める。
ユーベルコードが届くなら良し。逃れても、直接追撃できるように。
使い魔の接近を許しても、男への攻撃機会があるならば無視。
それ以外は剣で受け反撃を。

こういう輩は逃げ足も早いものだからな、しっかり追い込む。
鼠取りも出来ぬと商売仇に笑われぬようにな。

貴様が齎したもの、決して無駄ではないのだろうな。
楽しそうに枯れていったヴリュが……少しだけ、羨ましくもある。



●23:20:00
「これは、これはまた」
 派手な血飛沫は、次の瞬間には無数のページに変わった。不完全ながらも邪神の力を宿した魔導書配りの男は、紫に変じた血溜まりでトントン、と踵を鳴らした。
「どうです? 私共であれば、望みの本をご用意いたします」
「只で寄越される本は、大概碌でもない」
 落とす息はため息に似ていたか。冷えた空気を肺に落とし、僅かばかり黒金・鈊(f19001)は瞳を細める。
「彼は解って手にしただろうが」
 呟きは音となって響いたか。ひゅう、と吹き抜ける風に黒髪が揺れる。頬に淡く落ちた影と共に、失せた片腕を示すように右の袖が揺れた。
『なら、対価の時だろう』
 皮膚は砂のように罅割れていた。あの時、干涸らびるように、だが、笑いながらヴリュ・ヘリダットは死んでいった。
『存分に選択の日を楽しんだからね』
 そこに、確かな充足はあったのか。確かめる手など在るわけも無く、聞くつもりも無かった。ただ――そう、笑えぬだけだ。
(「……破滅願望を笑える立場にはない」)
 伏せた瞳は一度だけに、鈊の欠いた腕が鋼の焔を滾らせる。肩口に触れ、頬を這えば、艶やかな黒髪が――揺れた。
「ああ、彼の望み通りに。全て無為へ」
 瞬間、地獄の炎が燃え盛る。ゴォオオ、と響く音が一度響き――だが、次の瞬間には消え果てる。代わりに砕けた儀式場に響いたのは空間を裂く刃の音であった。
「視認さえできていれば――なんの問題も、ない」
 ゆるり、と鈊は視線を上げる。魔導書配りの男が、口の端を上げるようにして笑ったのを見ながら――炎を、放った。
 行け、と告げる必要など無い。ただ、視線ひとつ向けるだけだ。
 キィン、と空間を切り裂くように、戦場を仄蒼く燃える無数の刃が駆けた。た、と男が避けるように身を横に飛ばす。――だが、刃は届く。腕の一本、払い落とせば派手に吹いた血が次の瞬間には無数のページに変わっていた。
「……器用な男だ」
「お褒め頂き光栄です。それに、あぁ、炎は私共には荷が重い。このような時の為に、供えはあるのでしょう」
 トン、と男が踵を鳴らす。足元から湧き上がるように無数のページが舞い踊る。バサバサと鳥の羽ばたきにも似たその音が、嘗てのヴリュ・ヘリダットの名残さえ散らしていく。
「使い魔たちよ。仕事の時間です」
「グルルァアアアア!」
 咆吼と共にページから這い出てきた獣が、その形を完全に取るより先に、鈊は床を蹴った。だん、と踏みこみは重く――だが、二歩目で加速をいれる。接近に、男が、笑うように口を開いた。
「存分に持てなしを!」
「――間に合ってる」
 生憎、と吐き出した声と共に、鈊は炎の刃を異形の獣へと向けた。波のように一斉に襲いかかってきた異形達が散る。眼前、斬り伏せればただの紙が舞った。
「――」
 紙の合間に、男の姿を捉え――鈊は、踏みこみを選ぶ。紙の向こう、確かに飛び込む獣の姿を見ながら薄く笑った。
「腹が満たせるとも思わないが」
「ルグァアアア!」
 爪が届く。右腕の焔を通り越し、肩口に届いたそれを気にせぬまま鈊は踏みこみを選ぶ。こういう輩は逃げ足も早い。だからこそ、しっかりと追い込むのだ。身を沈め、軽く前に倒すようにして――行く。ギィイイ、と床を滑った切っ先が火花を散らす。
「まさか、私だけを追ってくるとは……!」
「鼠取りも出来ぬと商売仇に笑われぬようにな」
 一歩、二歩、最後の踏みこみで低く構えた真闇を振り上げる。ザン、と重く刃が沈んだ。半ば叩き付けるような衝撃に肉を裂く感覚と、硬い何かを砕く感覚が混じる。一拍の後に、魔導書配りの男が吹き飛ばされるようにして床に落ちる。
「く、ぁ……ッは、ははははは! 此度は、これにて終わり、ですか……」
 流れ落ちる血は、ページに変わることは無い。ただ淡い光を零しながら、狂気を招いた男は崩れるようにして消えていった。
「……」
 鳥の羽ばたきに似た音だけが、地下に残る。遠からず上も、騒ぎを始めることだろう。パーティには慣れた者達だ。最後には場を納めはするのだろう。相応の対価を以て。
「貴様が齎したもの、決して無駄ではないのだろうな」
 鈊はそう言って、鞘を床につける。楽しそうに枯れていったヴリュが……少しだけ、羨ましくもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年01月30日


挿絵イラスト