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腐り落ちる前に

#UDCアース

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#UDCアース


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 白い花が腐乱臭に落ちる。
「おお……」「やはり、あの方こそ、救いの方」「善悪もなく、全ての罪を浄化してくださる……」
 散った液体に触れた花は、黒ずみ、その生命を腐らせていく。
 それは、何もしていない。ただそこにあるだけだ。
 それだけで命を奪い、緑を宿す胡乱気な目を腐り散る花を向けるばかりだ。
 腐り落ちた残骸を、何か、植物のような動物のような化け物が数匹、木陰から飛び出して啜る。
 何をしたのだろうか。罪を、犯したのだろうか。
 小さな無垢な花は、幼子の姿をしていた。
 助けを求める声にそれが応えることは無い。手向けの言葉すらありはしない。
 今、それは罪を裁いたのだろうか。
「我々の神を笑うなど」「あんなにも美しいのに」「こんなにも慈悲深いのに」
 それは箱庭にいた。
 腐りゆく森の中にあったそれは、その土ごと、ビルの中へと運ばれ森を切り取ったような地下の箱庭にいた。
 半ば肉を失い、餓骨となりて、しかしまだ生き続ける。在り続ける。
「もっと、我々の神を満たすような贄を」「清廉に罪など無い等と嘯く贄を」「罪を知ろうとしない罪人を」
「ああ、神よ」
 それはその言葉を介そうとすらしていない。
 きっと、その必要性すら感じていない。
 ただ空虚に飢える。
 それは酷く美しい化け物だった。
 そして。
 それはとても醜い生き物だった。


 郊外のビルの前、長雨は立っていた。
 いや、ここは実際の場所ではない。グリモアベースが現場を映し出しているだけに過ぎない。
「失踪事件がUDCアースの街で起こってるんだ」と、彼は猟兵達に話し始めた。
 連続して人がいなくなる。自然にそんな事が起こる訳はない。
 警察も誘拐事件として捜査を行っているが、攫われる対象はばらばら。家族ごと連れ去られる事も多く、共通点は見つかってはいなかった。
 その巧妙に、綿密に標的を誘拐する事件に関わる予知をしたと、彼は言う。
 そして、なぜ誘拐するのか、という動機もその眼ではっきりと見ていた。
「攫われた彼らは、オブリビオンに捧げられている」
 予知の中で、少年が儀式場なのだろう箱庭に、放り込まれ、長い舌の化け物に襲われていた。
 きっと既に犠牲になった人はいる。
 だが、その光景だけは、避けることができる。
「このビル。表向きは地上階だけだけど、地下があるようだね。二階倉庫の奥の扉から地下へと続く階段がある」
 この信者たちの本拠地はそこ。
「ここに乗り込んで、連れ去られた人たちを開放してあげて欲しい」
 どこに閉じ込められているかは分からないが、探す方法は多い。探し出し解放し、安全な逃げ道の確保を行う事が何よりも重視すべきことだ。
 失踪者の数は、三十人にも及ぶ。その内何人かはもう、助からないだろう。
 そしてその人数が一か所に固められているとは考えづらい。複数人少人数で幾つかに分けられていると考えられる。
 人々を解放した後に、箱庭の儀式場に住まうオブリビオンを掃討する。人を喰らい、無為に消化し腐らせる怪物たちを無視することなどできない。
「どうやら、信者たちが神と崇める対象は箱庭の中央にいる一体だけで、他の下の長い化け物は神の使いっていう立ち位置みたいだね。
 中央の神とやらは動けないようだけど、回りの使い達は動き回っている。あれを逃がしてしまう方が被害の拡大速度は高い」
 周囲の使いを先に掃討し、中央の神を討伐する。救出後は、やる事は単純明快だ。
 長雨の手の中でグリモアが舞う。
 転移の準備が整ったのだ。
 長雨が髭を揺らし、言う。
「それじゃあ、行こうか」
 何の罪もない人々を救いに。


おノ木 旧鳥子
 おノ木 旧鳥子です。

●第一章では、探索と救出を行っていただきます。
 ビルは、郊外の雑居ビル。ですが、入っているテナントは、全て信者の関係者。無関係な人間はいません。
 地上部分の構造は、すべて判明しており、二階の倉庫の奥にある扉から階段が続いています。
 地下の構造は二階構造ですが、どこに人質がいるかは判明していません。

 また、フラグメント成功数とは別に、人質の救出パラメータを設定しています。
「逃げ道の確保(SPD)」「信者の制圧(POW)」「生贄の捜索、解放(WIZ)」の三項目の🔵の数に偏りがある場合、第二幕が不利になる可能性があります。
 偏りが発生しても、規定数🔵の確保が適えば、第二幕へと進行します。

●第二幕について、神の使いと呼ばれる怪物との戦い(集団戦)になります。
 連携描写に言及がなければ、個別の描写になります。

●第三幕について、信者に神と呼ばれる怪物との戦い(ボス戦)になります。
 こちらは、連携NG、アドリブNGなどの表記がなければ、「連携、アドリブOK」と捉え、そのように描写いたします。

●総じてではありますが、アドリブや連携描写がNGである場合
 お手数ですが「連N」「ア×」など短くで構いません、プレイング頭に表記いただければ、幸いです。

●章が進む前後に、断章として文章を挟みます。その章についての説明もございますので、ご一読いただければ幸いです。
 また、エンディングに何かしたい、という事がございましたら、何れかの章のプレイングの空きで構いませんので、記入いただければ出来るだけ描写いたします。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『生贄救出』

POW   :    力ずくで扉、壁などを破壊する。敵をねじ伏せ突破する。

SPD   :    思いもよらない侵入経路等を見つけ、身のこなしで突破する。

WIZ   :    構造上の不備を突いて侵入する。敵を騙して生贄を解放させる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鎧坂・灯理
なるほどなるほど、人を救いもしない“神様”の生け贄に、道理も知らんようなガキ共が捧げられていると。
…反吐が出るな。
神なぞこの世に居るものか。神を名乗るのは皆オブリビオンだ。絶対に殺してやる。死んだオブリビオンだけが良いオブリビオンだ。
【SPD】
とはいえ、私に戦闘力はあまりない……ここはサポートに回るとしよう。まずは非常階段の扉を鍵開け。小回りのきく小型バイク(怪物馬力)に乗って階段を登り、二階で大爆走してやろう。UCで小型機械をまき散らしたり投げ縄で信者共を引きずったり盾代わりにしたり。拳銃で敵を掃除するのも忘れずに。
敵を引きつけ時間を稼げば、優秀な猟兵殿らは必ず人質を助け出せるはずだからな。



「無防備だな」
 灯理は、建物一つ、恐らく建築会社すら取り込んで秘密の地下施設を作ったとは思えない杜撰な警備と施錠状態に呆れた声を吐く。
 非常階段の鍵は、内からドアノブを捻れば自動的に開く形のものだ。生贄として連れられた人々が混乱してしまわぬよう、念のためその解錠も済ませて彼女は一息ついた。
「さて、と」
 手を付くのは、廊下の端に置かれた物。屋内の、しかも二階という場所にはそぐわないそれは、しかし、確かにそこに存在している。
 彼女はそれに跨ると、エンジンを起こした。建物の廊下では先ず使用しない、小型なりともそれは、どう見てもバイクであった。
「一丁、暴れるか」
 二階に上がる時も、バイクで乗り込んだビルは既に騒がしい。
 というよりも、彼女の周りには既に気を失った信者たちが無造作に転がっているのだ。転がっている内の何名かは、重傷と捉えても問題のないような状態だが、バイクに跨った男装の女性はそれを気にも留めない。
 どころか、小型の機械を展開して怒号の元、上階から雪崩れ込んでくるだろう信者を歓迎する準備を整えた。
『道路』の具合は、良好とは言えなくとも、悪くはない。石ころ共は、他の猟兵達が邪魔だろうと、適当に端へ寄せてくれている。
 階段から無造作な足音が響いてくる。
「反吐が出る」
 彼女の背負った扉の奥。倉庫の奥から猟兵達が向かった地下施設にいるという神様とやらに悪態をつく。
「いたぞ!」
「殺せっ」
 声に、灯理の跨るバイクが盛大にエンジンを噴き上げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
罪の浄化、か
いつの世も人は悉く救いと赦しを求めるのだな
…本当に愛しく愚かで…妬ましいものだ

WIZ
ビル付近の路地裏にて『聞き耳』を立て暫く観察
もし一人で出て来る者が居れば『忍び足』で『追跡』
人気のない場所にてメイスで『気絶攻撃』後【赦しの秘跡】を使い洗脳を試みる
人気のない場所に行かぬ場合は『言いくるめ』
ビルの人間に路地裏に来る様伝えてくれと頼まれた旨を伝え、路地裏に誘い『気絶攻撃』後【赦しの秘跡】を
その後は操った信者に警備が薄く侵入できそうな場所を聞き、生贄の元迄案内させられたらと思う
途中見つかった場合は今の所属を抜け入団希望の為案内して貰って居ると『言いくるめ』よう
生贄の元に辿り着いたら解放を



 時は遡り。
 先行することになったザッフィーロは、ビルの裏で準備を進めていた。
「ああ、許してくださるのですね。私が罪を犯す事を」
 跪き、頭を垂れる信者の女性にザッフィーロは、気絶させた後に洗脳を行い、自らを信仰の対象へと誤認させているのだ。
 表向き雑居ビルであるこのビルは、郊外で人通りは疎らとはいえ、出入りが多い。いや、恐らく、本部として広く作られた地下に出入りする人間の方が多いのだろう。
 単独で行動する信者は、彼が想定していたよりも容易く見つかった。
「では、生贄の元へと案内してもらおう。警備の薄い場所を選んでな」
「はい……でしたらこちらに」
 案内されたのは、事前に聞いていた通り、二階の倉庫だった。
「ここ以外に出入り口は?」
「ございません。ここから繋がる一階部分には、窓も扉もありませんから」
 なるほど、と返しながら地下へ入る前に一階で小さなフロアがあるらしいという言葉を引き出せた事に手ごたえを感じた。
「おい、そいつは誰だ」
 と、警備員の姿をした男が彼に詰め寄る。見た限り、普通の男性だが、このビルにいるというだけで、違う禍々しさを放って見える。
「この方は……」
「入団希望の為、案内してもらっている」
「ええ、ほら、生贄の確保の最中、罪を深く理解している方を見つけたと言っていたでしょう?」
 女性が、何かを口にする前に、ザッフィーロは口を挟む。
 冷静で柔和な声色は、時によっては、不信感を与えるような割り込みも違和感なく成立させていた。
「……ああ、そうか。我らが神は慈悲深い、貴方もきっと救われるだろう」
「ええ、きっと。まずは欺きの罪を」
 警備員は、笑みを歪めてザッフィーロに道を譲った。
「人質の場所への案内を」
 再度、女性に指示しながら、ザッフィーロは彼らの言う救いに違和感を感じざるを得なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロジロ・ワイズクリー
【WIZ】
神を信じることを咎める事は出来ない。
が、…越えてはならない一線というのものはあるだろうに。

信者の変装をして生の気配を追うように野生の勘、或いは漂うならば血の匂いを頼りに地下へと進んで行こう。風の吹かない地下ならば、人の通る足跡もそれなりに残っているだろう。
「生贄を連れて来いという話だ」
信者へと言いくるめ混じりに語り掛け、案内と引き渡しが終わればその場で気絶して貰おうか。

退路の確保が出来次第、目立たぬように気を付けながら彼らの安全を優先しながら地上へと導こう。



「生贄を連れて来い、という話だ」
 ロジロは、一つの部屋の前に暇そうに立っている男に告げる。
「あ? ああ」
 と、男は眺めていた携帯端末をポケットにしまいながら、別のポケットへと手を突っ込んだ。
 若者だ。
 何の変哲もない若者だろう。とロジロは目の前の見張りを観察しながらそんな事を思う。
 少なくとも、街中を歩いているのを見たとしても、何とも思わないような若者。
 だが、ロジロの勘が告げていた。血の匂いを纏っている、と。
 この地下に脚を踏み入れた瞬間から感じていた、血の匂いに、気配に、彼は辟易と漏らしそうになったため息を呑み込んだ。
 越えてはいけない一線。などは疾うに越えている。染みついた血の気配はただ殺しに加担した程度のものではない。
 率先して殺し、暴虐し、血を浴びたものだ。
 階段で見張りをしていた信者の一人の服装を剥ぎ取り、変装しているロジロはそれを着ていた信者にも似たような感覚があった事を思い出しながら、あったあった、とカードキーを取り出した若者が動きをふと止めたのを見た。
「何の音、……」
 ロジロの目は素早く、扉を観察した。
 カードの読み取り機以外に入力機器は存在しない。扉の向こうには信者の物ではない気配が確かに存在している。耳に入る音は猟兵の誰かが信者たちを引きつけるために暴れている音だろう。周囲に他の信者はいない。読み取り機に近づけたカードに反応して鍵が開く音が耳を震わせる。
 乳白色の髪を揺らし、腕が奔る。
「そういや、あんた」
 瞬間、何かを言おうとした信者の顎を、隠し持っていたバールのような物が打ち抜いた。呆気なく気絶させたロジロは、信者を引きずりながら扉を開けて、その中へと入っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

多々羅・赤銅
どーーーもお邪魔しゃす。
お伺いしたいんですけどー。ここいらに邪神様がいるって聞いてぇー。

だから全員等しくぶちころがす。

【POW】
情報吐いてくれるかもだし殺さない程度に片っ端から転がすか。
鞘から抜かぬまま非殺傷の刀術稽古だ、オラ赤銅様の前に立つんじゃねえ!!
見切り、フェイント、敵を盾にするを駆使して乱戦になろうが立ち回ってやるとも。おい人質はどこにいる?刀丸呑み芸人の真似事させられたくなけりゃ教えな。てめえの言葉ひとつでてめえの命が助かるぞ〜おっ得〜↑

妙に気が立つ
どこかからする気配に心臓がざわつく、ような
嫌な予感といえば嫌な予感なんだが
何だかなあ
ああくそ、この正体を見ない事には気が済まねえ



「どぅもーお邪魔しゃす」
 と赤銅が、気さくに挨拶する。
 二人の信者たちに向けて、朗らかな笑みを貼り付けた顔面を向けながら、刀を鞘ごと肩に担ぎ首を傾げた。
「えっとだな、そう、お伺いしたいんですけど」
 間延びした声は緊張感なく、廊下に広がる。
 まるで押し付けた足と壁の間に、砕いた歯で口中から血を零す男の顔面が挟まっている事など気付かぬという具合に、長閑な声だ。
「ここいらに邪神様がいるって」
 聞いて。
 という彼女の声の最後が信者たちに聞こえたかは定かではない。
 壁から離した脚が、辛うじて気を失っていなかった男の頭をサッカーボール宜しく蹴り飛ばした音が、それをかき消していた。
 失神した男を邪魔とばかりに、鞘で脇に寄せた彼女は険呑な空気を垂れ流す信者たちに相対する。
 息をすれば、全力疾走した後の様な気管の痛みを錯覚する。妙な胸騒ぎだ。
 貼り付けた彼女の笑みは、気さくに殺気を呈している。
「う、ああ!」
 ナイフの切っ先が赤銅へと突きつけられる。突っ込んできた信者が握ったナイフの突きは、混乱した様子にも拘わらず正確に赤銅の眉間へと真っすぐに吸い込まれていく。
「はい、ようこそー」
 その手首を掴み、肩に担いだ刀を振るうことも無く膝蹴りを叩き込むと、蹲った信者の背筋を伸ばして、もう片方の信者へと蹴り飛ばす。
「っ!」
 拳銃を構えていた信者が、投げ飛ばされた信者の体当たりによろめいた刹那、その手を鞘が薙ぎ、骨をへし折る音が響く。
「いやあ、危ないだろ、なあ?」
「っ、ぁぐ」
 砕けた腕を押さえようとした信者は、しかし、叫ぶ事もできなかった。壁に背を突き、尻を床に付けた信者の口へと鞘が押し込まれていたのだ。
 少しでも赤銅が、柄頭を押せば信者の顎は外れ、喉が押し裂かれ窒息する。
「人質はどこにいる?」
 その表情は人好きのする笑みだ。細められた目の奥で隠しきれない複雑な感情が蠢いていようとも、その笑みは崩れない。
 否、蠢いているからこそ、崩れないのか。
 言葉一つで命が助かるぞー。と僅かに力を込める赤銅に、信者の目に恐れが満ちていく。
「フゥーッ、おっ得ー」
 跳ねる様な口調がちぐはぐな恐怖を掻き立てていく。
喉を押さえているが故に答えられない、と赤銅が気付くまで、男の恐怖は蓄積し続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゾーヤ・マハノフ
既に犠牲者は出ているのか……。
ならば、これ以上の犠牲を出さない為に、ワタシも微力ながら強力しよう。
邪神とやらも、なんだか悲しい宿命を背負っている気がするな。

【WIZ/生贄の捜索】
UDCアースのビル内にはネズミがたくさん住むと聞く。
ならば、『楽器演奏』で獣奏器(ティンホイッスル)を使い、ネズミ達から生贄の居場所を聞き出そう。
無線や携帯端末を用い、得られた情報はすぐに他の猟兵達へ伝える。
侵入経路や避難経路もついでに教えて貰えたら良いが……。

万が一敵に遭遇する事になったら、【サモニング・ガイスト】で相手をする事になるだろうな。
さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……。
(アドリブ、連携歓迎)



 無線から、報告が飛び交う。
「四、五人で分けられて四部屋で監禁されてんだってよ、んじゃ」
 背後で明らかに暴れながらの通話で、伝えられた情報に基づくならば、見つけるべきは五、六部屋。
 内、三部屋はもう解放が済んでいる。
 つまり、あと一部屋。見つかれば全て解放できたことになる。
 ゾーヤはそこまでを考え、導き出される計算に僅かに眉を顰めた。
「……やはり、既に犠牲は出ているのか」
 独り言ちる言葉通り、攫われたと見られる被害者は三十人程度。だが、報告から導き出される人数は二十人前後でしかない。
 獣奏器を奏でたゾーヤは、意外と綺麗にしていたらしい施設の中で漸く見つけた鼠に話を聞く。
「絶対入れない部屋」「餌を貰っている人間」「食べ物がよくある場所」
「食べ物がよくある場所」は、どうやらごみ捨て場、ダストボックスの事らしい。「餌を貰ってる人間」はきっと生贄の事だろう。どうやら、一応の健康管理はされているらしい。その場所を訪ねながら、避難経路等も聞こうとして諦める。
「ん、15㎝の抜け道は……使えないだろう」
「お前! 侵入者か!」
 鼠の道は、人にとっては狭すぎた。と同様に人の道は鼠にとっては広すぎるようだ。
 妙な所で価値観の違いを実感していたゾーヤの背後から息急いた男の声が覆い被さった。
「暴れまくりやがって……っ」
 怒号に鼠がたちまちに姿を消してしまった。貴重な情報源を、と太い尻尾を軽く強張らせるゾーヤに、額から血を流した男は、何かの残骸を両手に抱え持っていた。そして、それをゾーヤの頭上に振り上げた瞬間、壁にめり込むかと言う程強烈に吹き飛ばされる。
「……さて、助けに行こう」召喚した戦士の霊を従え、その装備した槍に突き飛ばされた男には一瞥だけをくれて、ゾーヤは立ち上がって無線通信を飛ばした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

真木・蘇芳
【Pow】
こんな所に隠れて集会とはご苦労な事で
で、ここから人助けて何もかもぶっ壊せばいいのか
んで捕まった哀れな奴らはこのビルのどこか
面倒臭い、いちいち確認していられるか
こんなものは片っ端から開ければいい
壁を吹き飛ばし「壁なんてどこにある?」

※アドリブ大歓迎、連携OK、チンピラを好きにして下さい



 さて、ロジロが気絶させた見張りの男が耳にした音が何のか。と言えば、それは蘇芳が壁を盛大に破壊する音であった。
 彼は、壁という壁を破壊していた。ビルが崩れない様、元々薄い壁だけを狙ってはいるのだが、その振動はビル全体に広がっている。
 ザッフィーロの報告に、まずこのビルの一階部分。二階から続く隠しフロアの壁をぶち壊し、本来無かった地下階段から直通の出入り口を作った彼女は、地下施設にも乗り込んでいた。
「おら、逃げろ!」
 と急かすのは、逃げたはいいが信者に取り押さえられていたらしい人質の姿だった。
 少年二人と青年。それを追い詰めていたらしい信者が壊した壁に巻き込まれてるのを見て、蘇芳は神も救いもあったもんじゃねえな、と心中嘲笑い、彼らを急かす。
 自らが壊した元・壁を親指で差すと「この道行きゃ階段だ」と告げた。
 階段を下りた直後から、むしろ壁しか壊していない彼女の背後には一筆書きのように階段までの破壊痕の通路が出来上がっている。
 壊れた壁、と書いて道と呼ぶそれを眺めた彼らは、反射的に頷く。
「……あ、ああ」
「いいから、そいつら連れてけっての」
 何とも物理的な問題解決力に、呆けた青年の尻を蹴りつけた彼女は再び壁の破壊を試みる。
 少年二人を引きずるように手を引く青年の背を少し見送る、事前に渡された無線から、後一部屋だという報告を受け、その方向へと拳を打ち付けていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

笹鳴・硝子
生に善悪などない
死に慈悲深いも無慈悲もない
生も死も、ただそこに在るものだ
血が通って温かい肌にひたりと当てられた刃が温まるように、常にはその刃の冷たさを忘れているだけで

神が贄で満たされるというのなら自らをこそ捧げるべきだ
それをしない言い訳に、誰かの罪を言い立てる――それが「罪」ではないわけがない


【WIZ】
潜入(目立たない、迷彩)後、信者を一人確保できたらペンデュラムを用いて催眠術、確保できなければダウジングで生贄の居場所を探索(失せ物探し、追跡)※併用有り
発見後は解放まで極力秘密裏に
信者に見つかった場合は失踪者達を逃がしつつ、信者を引き付けて(おびき寄せ)鈴蘭の嵐

解放まで、贄としての条件を探る



「そう、つまりここが最後ね」
 と実に冷えた声色で彼女は言う。
「ここには四人います」と催眠術によって案内させた信者が、ずれた返答をする事も気にせず、硝子は扉を開けさせる。
 中にいたのは、腕を拘束された少女二人と女性が二人。
「罪なき罪、ね」
「ええ、私達は罪深い存在です。罪深いからこそ私達は人間であり、罪を持たなければ人間でない。ならば我々は人間として、罪の意識を持って罪を背負うべきなのです。罪の意識なく生きる彼らの『罪なき罪』は死という最大の罪を犯す事によって浄化されるのです。何物をも死へと導く彼の方こそ、まさに――」
「もういいよ」
 既に展開させていた鈴蘭の花弁で、滔滔と語り始めた信者の体を壁へと叩きつけ、億劫そうに髪をかき上げた硝子は、怯えた様子でこちらを見つめる中の人質達にどことなく疲れた雰囲気を滲ませながら語り掛けた。
 相容れぬ主張を聴き続けたせいだろうか。
「助けに来ました」
「……あ、ありがとう……っ」
 信者を壁に叩きつけた花弁が柔らかく舞い、彼女たちの拘束を破壊する。
 近くの壁が破壊される音に、振り返ると現れた蘇芳を訝し気に見つめていた。
「どうか、しましたか」
 無表情に、硝子はその表情に尋ねた。
 人質を見る蘇芳の目は、被害者に向けるではない疑いの目をしていた。
「てめえか。良く見りゃ、ああ確かにな」
 蘇芳は、二人いた女性のうち一人の胸倉を掴んで額を打ち付ける。
 硝子は、その行動の真意を問おうとし、掴まれた女性の表情を見てその口を閉ざした。
 動じていない。他の三人は、怯えた表情をしているのにも関わらず、この女性は掴まれた事に対して驚きはしていても、疑問を覚えてはいない。
「そうですか、やっぱり居たんですね」
 冷たく、鋭利な冷淡さを以て、硝子の声は女性へと投じられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『くちなぜつづち』

POW   :    秘神御業肉食回向
自身と自身の装備、【自身が捕食している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    風蛞蝓
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    悉皆人間如是功徳
自身の身体部位ひとつを【これまでに捕食した犠牲者】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●POW=5 SPD=2 WIZ=9

 最初に気付いたのは、灯里だった。
 曰く、無線で告げられた数と、一階の崩壊した壁から逃げる人の数が合わない。と。
「二階まで上がる意味はないだろう? 迷っているのかもしれない」
 その無線に、蘇芳は首を傾げる。
 さっき、知らせた三人も上ってきていない、という。
「迷う筈がねえ、一本道だぞ」
 通信機からの蘇芳の声に、ザッフィーロは案内をさせた信者の零した「欺きの罪」という言葉を想起していた。
 欺くのは誰か、罪を重んじるのであれば。罪を犯すのは、先ず以て信者だ。罪なき者を欺く、という罪。
「内通者がいる」
 
「内通者」
 硝子の口にしたそれは、目の前の女性であり、少年二人を連れ去った青年であり。そしてもう一人。
「浄化は素晴らしいものです。死は何よりも人を罪深く染め、人間たらしめてくれるでしょう?」
 生贄として捕らえられていた女性は、否、それを偽っていた信者は、心酔した声で謳う。

 ロジロは灯里と合流した直後、入ったその報に一先ずビルの外へと誘導した生贄の元へと戻り、顔ぶれを確認していた。
「一人居なくなっています」
 だが、他の生贄は無事だった。ただ、一人だけどこかへ行ったのだという。

「儀式場の場所は分かっている」
 ゾーヤの声が無線を通じて伝わる。
 浄化の儀式は、最深部。箱庭で行われる。
 予知の光景だ。

「いや、はや、どうにも……なあ。気に入らねえ」
 赤銅は、無線の通話を聴き、頭痛の様な予感を覚えながら、気絶した信者たちに腰を下ろしたまま信者の胸ポケットからライターを捻りだすと、咥えた煙草に火をつける。
「ああくそ、この正体を見ない事には気が済まねえ」
 ただ、少なくとも、それが嫌な予感である事は、何故か分かっていた。



 箱庭。
 それは、50m程の立方体の空間に作られた森の姿を模した、鳥籠だ。
 神を中心に、使いが周囲の木々や茂みに隠れている。
 儀式は、罪無き罪を持つ者をその箱庭に放ち、死を与える事によって成り立つ。
 だからこそ、この箱庭には信者の立ち入りは許されていない。
 浄化は罪なき罪を持つ者だけが行うのだから。
 だが、この時。
 その信者は初めて、箱庭へと踏み入れた。
「我らが神よ! この者らに、救いを!」
 抵抗する少年と男性を箱庭へと連れ込んだ、信者の男女は高々に叫ぶ。
 物言わぬ神と、物喰らう使いに叫ぶ。
 この者らに救いを、と。この者らに、死を、と。
 もし、彼らを助けようというのであれば、神の使い、くちなぜつづちとも呼ばれる化け物から、彼らを守り、殲滅しなければいけない。



 集団戦:特殊ルール

  以下から二人、守る対象を選択できます。
  【A:少年1】【B:少年2】【C:男性】【D:信者1】【E:信者2】

  プレイングで得た🔵判定が、選択した対象に合計され、🔵🔵🔵🔵🔵以上で守り抜く事が出来ます。
   例:【B、C、A】と記載した場合
      判定🔵🔵🔴 → B🔵🔵 C🔵🔵 が加算されます。Aは無効となります。

 よろしくお願いいたします。
 震えている。
 虐食の悦楽に震え、救済の慈悲に震え、恐怖の絶望に震え、欠片の虚勢に、震えている。
 少年二人を庇うように先頭に立つ男。それを、背後から逃げない様に見張る男女二人が、嘆願する。
「救済を!」
「死の罪を!」
「哀れな落伍者へ!」
 その願いを聞き入れたのか。否、それは人の願い等という腹の足しにもならない者に頓着する事は無い。不気味な鳥の趾に似た二肢が、けたたましく土を蹴り上げた。
 体毛か、木葉か、それがくちなぜつづちが纏った何かが擦れあう音が響いている。
 背後で震える小さな体に、男性はそれを睨んでいた。
「……っ」
 さながら茂みの中に潜む大蛇が蠢くような異音が、自分の周囲から複数立ち上がるのを感じ、男性は身を強張らせた。彼の目には正面から走る二体しか見えないというのに、既にその音は左右からも聞こえている。
 柔い土に幾つもの足跡が穿たれているのを、彼は気付けただろうか。少なくとも、少年の一人は、何もないはずの大地に突如、紅葉の様な穴が穿たれたのを見て、喉を凍らせた。
「ひ、ぁ……っ!」
 数m。それが少年と足跡の距離だった。
 数秒。それで少年は死に呑み込まれて、終わる。
 それだけあれば、十分だった。
 救いの手を差し伸べるのには。
笹鳴・硝子
【SPD】

オブリビオンだとて、生きたければ喰らうだろう
喰らわねば死ぬし、喰らったとていつかは死ぬだろう
生きているということは、そういう事だ

そこに人の罪科穢れを背負う謂れはない
そもそも、他者に(それが『神』だとて)己の穢れを背負って貰おうとは図々しい

【A、B、C】
「生きたいなら死ぬ気でしがみつきなさい。――『晶』追いかけっこだよ」
召喚した『晶』に対象と共に乗り、互いに鬼の追いかけっこ(対象を庇いつつ)
『くちなぜつづち』が『晶』の攻撃を躱してジャンプする先を予測し、精霊銃で攻撃(2回攻撃、カウンター、援護射撃、スナイパー、見切り、早業)
足を止めれば赤銅ちゃんもいるわけですしね

※アドリブ・連携OK



 それは、真黒い塊だ。
 細い針金を、潰し丸めて、不器用にも捏ね作ったような獣だ。影が意志を以て一つに絡み合うように蠢く中に、金の瞳が浮かぶ。
 前かがみになるついでに振り下ろした前肢。その下敷きになって弾けた怪物の残骸にも目もくれず、硝子はその獣に跨ったまま、手を差し伸ばした。
「乗ってください」と、硝子が差し伸べた手に、少年たちは背を向けた男性を、一瞥しその手を握った。
「生きたいなら死ぬ気でしがみつきなさい」磁力に寄せられる砂鉄の様な体毛を握る少年達に言い放つと、彼女はその獣、晶の頭を撫でる。「追いかけっこだよ」
 男性の正面から走ってきていたくちなぜつづちが騎乗した彼女へと飛び掛かるのを、腕で薙ぎ払った晶は疾走を、追いつ追われつ鬼同士の鬼事を始めた。
 獣が土を踏む。風を切る速度で硝子の体長、二倍はある巨体が奔れば、それに追従する音が三つ。
 一体は、晶が方向転換する際に、後ろ脚で吹き飛ばし、黒ずんだ土の上に身を落としてその体を腐敗させていった。
 だが、その方向転換に素早く対応した一体が、硝子の後ろに捕まる少年へと飛び掛かる。 空間をこそげ取るように振るわれる晶の脚を、空中すら踏み躱し、餌を喰らわんとするくちなぜつづちへと精霊銃を向けた。
 晶の攻撃を躱された際の挙動は予想がついている。それが空中を足場にする事は、少年の横に突如として表れた足跡から推測していた。
 引き金を引く。その瞬間。晶の体が衝撃に、揺れた。
「――!」
「う、ああっ!」
 息を呑む。少年達の悲鳴が伸ばした腕の下から弾けた。
 衝撃の正体は、すぐに知れた。飛び掛かってきたくちなぜつづち、ではなくもう一体が晶の胴体に衝突してきたのだ。
 その衝撃に狙いが逸れ、地面へと落ちていくくちなぜつづちを撃ち貫いた硝子の意識は、しかし、くちなぜつづちには無い。
「ぁ……」
 背後から、少年の声が漏れた。一人分の声だ。
 振り落とされた少年は、速度をそのままに地面へと激突していた。打ち所が良かったのか、外傷は擦り傷程度しか見えないが、それでも走れるような状態ではない。
 そんな恰好の獲物へと、くちなぜつづちが迫る。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【A,B】

『聞き耳』『第六感』を使いつつ生贄と信者の声や物音がせんか捜索
聞こえる方へ急ぎむかおう
見つけた時皆が傍に居らんかったら皆に無線を使い連絡を
護る者は少年二人
…幼き者を護り導くのが大人の役割だと、聞いたことが有る
男性も大人として少年たちが無事生きて行くことが喜びであろう…故に、少年たちを守らせて貰う。

少年達を背に護りつつ戦闘
戦闘中も姿を消すのか?厄介故『聞き耳』にて常に居場所の把握を
又、少年を狙う攻撃が来たら『かばう』『盾受け』にて庇いつつ『カウンター』
基本的な攻撃方法は【穢れの影】で動きを止めつつメイスでの攻撃を試みる
…罪なき事が罪なわけなかろう
罪穢が好きならば好きなだけ受け取るがいい



「……少年たちを守らせてもらう」
 恐らく、手頃な獲物を優先したのだろう。男性へと近づいていたくちなぜつづちすらも、落ちた少年へと足先を向けたのを、耳に感じ取ったザッフィーロは、男性へと声を掛けた。
 彼は答えない。肯定も否定も、懇願も拒絶もしない。
 それが葛藤である事をザッフィーロは知っている。それが彼の答えである事も知っていた。
 だからそれを暴く事はしない。
 幼き者を護り導くのが大人の役割、であるとどこかで聞いた言葉も彼に伝える事も無い。
「すまない」とは言わない。
 彼は助けを求める者に手を差し伸ばす事を悔いてはいけないと、その葛藤に感じた。
 赦しを求めぬ者には何も出来ない。救いを求めぬ者に救いを与える事もまた。
 背を向ける男性から離れた一歩。その足元から影の様な何かが立ち上った。「助けて」と希う少年に応えたそれは、跳びかかったくちなぜつづちを絡めとっていく。
 姿を消したくちなぜつづちも、耳を澄まし感覚を研いでいたザッフィーロは把握しきっている。
「ひっ、ぁ……」
 蠢く口の中で、長い舌が揺らめく。その先で眼を抉り抜かんとばかりに、伸ばされるそれが、襲い来た黒い何かに縛り付けられる光景に少年は、息を呑む。
 だが、次の瞬間。振るわれたメイスが過った少年の恐怖を砕き潰していった。
「動けそうにないか」
「……、ぁ」
 声を擦れさせ、首を上下に動かした少年にザッフィーロは、そうか、と短く返す。
 ならば、体を呈してでも、守る。彼は、油断なく耳を澄ませながら、メイスを握り影を揺らめかせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎧坂・灯理
【守る対象:A,B,C】
戦闘:バイクで縦横無尽に走りつつ、怪物周囲の地面を巻き上げて目潰しならぬ視界潰し。森を模しているというなら水道や温度調節の機械があるはずなので、メガネ越しにハッキングして高温の蒸気を怪物に当てる。護衛対象に攻撃が伸びたら拳銃で舌を打ち、意識を引いてバイクで轢く。
「醜悪だな」
「申し訳ないが、私の故郷にデカい蓑虫をありがたがる文化はなくてね」



「醜悪だな」
 モンスターマシンを駆り、儀式場の扉を突き破った灯理は、バイクを斜に走らせ、後輪で土を巻き上げては、くちなぜつづちの進行を阻害して回っていた。
 透明化と出現を繰り返しながら、奇怪な音を掻き鳴らすくちなぜつづちを視界に収めながらも、箱庭全体へと視線を走査する。
 眼鏡の機能を起動させると、ビンゴと舌を打つ。
 この箱庭は、神と担ぐ中心に佇むオブリビオンの為に、森の環境を再現している。という話だった。
 ならば、あるだろう。
 そう確信していたものを見つけたのだ。
 日照は当然の事、湿度や温度、更には天候すら再現するべく天井付近、壁、そして地中にまで様々な設備が張り巡らされていた。
 ボイラーの調節を掌握し、噴霧口の圧力を最大にまで引き上げる。設備があれば、任意の場所に高温の蒸気を噴きだすことの出来る罠を作り出したのだ。
 噴射の角度や、噴射口の場所が植木や岩に隠れる配置で、使用に足る箇所は少ないが、それでも効果的な場面はあるはずだ。
 ついでに取得したカメラの映像も介して妨害を繰り返しながら、硝子の後ろ、少年へと飛び掛かろうとするくちなぜつづちを真横から轢き潰す。吹き飛び、ゴム風船を捻り破くような声を上げるそれに、灯理はもう一度、醜悪だな、と呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

真木・蘇芳
透明になって飛べるか、でも形があんならなんとかなるか?
ガキ共は他がする
とりあえず信者Dと信者Eを使うか
恫喝でスプリンクラーが動くか、水は通っているのか聞くぜ
誰かが蒸気を使ったみたいだが火傷してねぇかね?
水が無きゃまあ攻撃食らった時の血で姿が見えるんじゃねぇか?
捨て身の一撃だな
信者相手だからな、食われに行かれても面倒だ
戦闘始まったら突き飛ばすか
うるさい、来るなあっち行ってろ!

そういえばこいつ食った人間の顔が出るんだよな
俺が天使か何かに見えるのかっての
慈悲も容赦もなくぶち殺してやるよぉ!頭をかち割って!
つかさっきまでよくそんな図体隠していたなあんだけ暴れていて気が付かないとはな


※アドリブ連携大歓迎



「おお、おお!」
 信者が手を合わせ、その光景に感極まる声を震わせている。
「透明化に、空中跳躍。ったく、面倒な」
 角の横、髪を掻き梳いた蘇芳は、悪態を零しながら、少年達を襲う怪物を横目に歩を進める。
 明らかに異常な蒸気が時々噴き出しては、くちなぜつづちだけに噴きかかっている。猟兵が操っているだろう事は、蘇芳が深く考えずとも明白だった。
 ガキ共の世話は必要ねえだろ。と少年達への視線を完全に切った彼女は、感動に打ちひしがれる信者に詰め寄ろうとして。
「チ」
 舌打ちを放つ、と同時にその音すら追い越さんとばかりに、地面を蹴った。
 鬼を降ろした事で瞬時に強化した蘇芳の体は、瞬く間に信者の傍へと届く。その岩すら擦り傷一つなく砕くだろう拳を振り下ろしたのは、信者ではない。
 蹴るように押し飛ばした信者のすぐ傍に迫っていたくちなぜつづちが、その剛拳に打ち抜かれ、吹き跳んだ。地面と衝突したそれは、轟然とした勢いをそのままにバウンドし、二度目の着地で体勢を立て直すと、更に蘇芳へと突貫してきた。
「な、我々は、もう!」と叫ぶのは信者の一人だ。その声には焦りが浮かんでいる。あろうことか、この二人はこの場において化け物に狙われる事すらないと考えていたらしい。
 馬鹿か、と耳に入った戯言をため息一つに逃がした蘇芳は、突貫してくるくちなぜつづちへと踏み込んだ。
 切迫する瞬間、その彼女の耳に何かの呻く声。
「ぁ、アア、ぉあ? あ、あ」
 人の顔に化けて、体毛の一葉が蘇芳へと噛み付こうとし、直後、振り落とされた拳にその形を歪め。
「俺が天使か何かに見えるのかっての、よぉ!」
 幼子の形を模した肉塊を、砕き割る。
 蘇芳は、動かなくなったそれに一瞥のみをくれ、足で押し飛ばした信者の胸倉を掴み上げる。
「ひ、ぁ……」
「よぉ、クソ野郎」
 有無を言わさぬ恫喝が、信者に抵抗するという行動すら忘却させる。
「聞きてえことがあんだけどな」
 その問答に、恐怖に震える信者は、偽りを述べる事など出来なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 そりゃ、あるよな。それだけ聞けば十分だ。
 と、信者を突き飛ばして襲い来た化け物を殴り飛ばした蘇芳は、声を張り上げる。
「スプリンクラーだ! 雨降らせ!」
 逃げ惑う信者を目で追いながらの蘇芳の声に、灯理は瞬時に天井の降雨装置の掌握を完了させていた。
「ああ、成程」
 と、灯理は指令を下す。
 吹き荒れるのは大粒の雨。岩に弾け、葉を跳ね、視界を白く霞ませるその水の帳は、姿なくとも実態を持つ怪物の姿を、さながら白いクレヨンが置かれたキャンバスを絵具で塗りつぶすように如実に映し出していた。
 突如降り始めた雨に、信者は驚いていた。
 屋内に雨が降っているという現象に、ではない。それが透明化する神の使いの姿を晒し出すという目的を以て、猟兵達がこの施設を掌握しているという事に驚いていたのだ。
 彼らが家は、既に崩壊し始めている。
「どうして……」
 彼らは嘆く。
 彼らは、罪を赦されている。罪を犯す事を赦されている。
 なのにこの仕打ちはなんだ、と。嘆いている。そうして、逃げる事から意識が僅かに逸れた瞬間に。
「ッ!」
 ぬかるんだ土の上へと落とした足が、ずるりと滑った。
 走る勢いをそのままに、信者の体は倒れ転がっていく。その様子を見たもう一人の信者は、思わず立ち止まっていた。
 転んだ彼女の腕が、その信者の足を掴む。
「助、けて……っ」
「ぅ、あ」
 懇願の声に、信者は咄嗟にその腕を蹴り飛ばしていた。細い腕が鈍い音を立てて信者の足から剥がされ、反動でその信者の体も尻餅を付いてしまう。
「ぃあ……っぁあ!」腕を蹴られた信者は、その腕を抱えて痛みに苦悶の声を上げている。
 仕方がない。罪は赦されている。人を蹴り飛ばしても、それは赦されている。同胞を見殺しにしたとしても。
「ぁ、いあ……ぁ?」
 声はすぐ横から聞こえた。吐息すら感じられるほど近く。
 振り向けば、人の顔がそこにあった。見覚えがある。いつか浄化した青年の顔が、口の端を千切らんばかりに大口を開き、信者の喉元へと食らいつく。
 その時。
「見過ごすものか」
 骨の刃がその顔を、その体を、貫いて地面へと沈み込ませていた。
ゾーヤ・マハノフ
少年たちは守り抜けたと認識。
ならば、ワタシは現在守り抜けそうである【D、E】を優先的に守ろう。
……とはいえ、みすみすのCの男性を見捨てる訳にもいかないな。
【D、E】が敵に捕食されない程度に『かばう』、尚且つその標的が【C:男性】に向いたときは【咄嗟の行動】で『野生の勘』『ジャンプ』『ダッシュ』等、持てる技能をフル活用して私が男性の前に出よう。
他人を盾にされるよりは、自分が獲物になった方が戦い易いからな!

攻撃は獣の骨剣にて、『衝撃波』を用いながら。具現化用の代物だが、骨は刺さると痛いと思うぞ?
スプリンクラーで透明化無効は助かるな。おかげで狙いやすくなった。
全力でかかるぞ。
(アドリブ・連携歓迎)



 ゾーヤは、骨の剣を叩きつけ、衝撃波に土へと潰れたくちなぜつづちから視線を外し、へたりこんだ信者の男を見下ろした。
「あ、ありが」
「礼は、不要だ」
 短く言い捨て、彼女はぬかるむ地面を蹴る。
 自らを第一考えるのは理解できるが、切り捨てる瞬間、信者に感じたのは害意だ。
 ゾーヤは感じた鬱屈を振り切るように跳んだ。鍛えられた脚力で一足跳びに転んだ女性、その上を越えていった彼女は、降りかかる大粒の水滴の中で蠢く空白に剣を振るった。
 突きだした骨の刃に、何かに触れ裂く感触が伝わる。瞬間、透明化が溶けたくちなぜつづちが胴体から血を流しながら跳びずさると、様子を見るように、左右にとんとんと跳ねる。
 ひたり、とその動きが止まる。
「あ、ぎ……っ」
 直後、引きつった声が上がる。それはここに連れてこられていた男性の声だ。
 見れば、どうにか逃げのびていた彼が、転がっている。そのそばには透明な影。
 体当たりを受けたのか。うずくまった青年の姿を見たゾーヤの視界の端。
 こちらへと駆ける一体と、信者へ向かうもう一体が映る。
 ゾーヤの脳内で選択肢が踊る。どれを救うのか。どれを見捨てるのか。
 それらの選択肢を彼女が認識する、その前に体は反射的に動いていた。
 走り抜けた後に土が舞う。
 振るった剣は、くちなぜつづちの体を衝撃にもう一体へと吹き飛ばしている。
 男性に迫るくちなぜつづちが、砕いた足から流れる血を啜りながら体から人の顔を伸ばす。
 一歩目に舞った土が地面へと落ちすらしない刹那。吹き飛んだくちなぜつづちごと、それが衝突したもう一体をゾーヤの剣が刺し貫く。
 瞬間的に増大した彼女の膂力のよって、本来、切断に向かない骨の刃が破壊を繰り返しながら、くちなぜつづちの体を引き裂いていき。
 舞った土が、地面へと再び落ちた時には、彼女の腕は男性の目の前に差し出されていた。
「……っ」
 ぎごり、と骨が軋む。
 くちなぜつづちの作り出した人頭は、人外じみた力で、男性を庇ったゾーヤの腕に噛みつき、砕かんとしている。
 跳躍と疾走。咄嗟に動いた彼女の体は、認識した三体のくちなぜつづちを、一秒となく相手取ることを可能にしていたのだ。
「みすみすと……見捨てるものか」
 振り下ろした刃は、ゾーヤを呑み込まんとした怪物を穿ち、息の根を止めた。


「おいおい、平気かお前」
「問題ない。それより助かった」
 鉄拳にてくちなぜつづちを殴打し、排除を続ける蘇芳が、ゾーヤの腕から流れる血の量に肩をすくめ、返る言葉に、あん? と戸惑う。
「なんだそりゃ」
「スプリンクラー。お陰で狙いやすい……っ」
 言うや否や、地に沈むように身を屈めたゾーヤは、一歩踏み出すと虚空へと剣を振り上げた。
「ギィ、ッ」と、虚空が嘶けば、滲み出るようにくちなぜつづちが姿を現してくる。
 空中から奇襲したそれは、しかし、ゾーヤの刃に、人間でいうならばアッパーの軌道で打ち上げられたのだ。
 すかさず、蘇芳が裏拳を叩き込み、その胴体を衝撃で空中に縫いとめる。。
「ああ、大丈夫そうだな」と蘇芳は迎撃の冴えに、彼女の傷を気遣うことをやめた。
 実際、ゾーヤの傷は、血管を乱雑に噛み千切られ、かつ、降る雨に血が溶けて出血量が多く見えているに過ぎない。
 手傷で言うならばゾーヤよりも、否、この場の誰よりも傷を追っているのは誰あろう蘇芳自身である。
 特攻、捨て身の行動を取り続け、突進や噛みつきを受け続ける彼女の体は最早、全身打撲傷だらけだ。
 それでも彼女が握る拳は緩まない。唸る剛拳は弾丸の名を体現して、駆ける。
「全力でかかるぞ」
 直後の拳が空中のくちなぜつづちの体を押し潰しながら地面にめり込む。
 ゾーヤは、次の標的へと視線を送りながら言い、守りきれなかったという動揺を振り切り、剣を握った。

 湧き出でた影の腕に捉えられたくちなぜつづちが、獣の腕に叩き潰される。
 雨粒を吸った地面が、破裂するような甲高い音を鳴らして、弾けた。
「今度は離すな」
 土くれを穢れの影で食い止めたザッフィーロは、影の獣の背へと少年を乗せながら、その上の猟兵にも視線を向ける。
「安全運転で頼む」
「可能な限りは」
 無表情な硝子の唇から返された言葉に、ザッフィーロは分かったと頷く。
 ともすれば、拒否の意思表示にも聞こえるそれは、しかし、言葉以上の意味は無い。
 すなわち。
「ならば、可能にしよう」
「お願いします。行くよ、晶」
 降りしきる雨の中で、少年達は恐れか寒さにか、全身を震わせながらも、強く捕まっている。
 ザッフィーロは、再び少年二人を乗せた獣が駆け出したのを見送り、留めていた土を地面へと落とすと、持ったメイスを振るう。
 雨音の中でも、無遠慮に掻き鳴らされる足音は薄らがない。ザッフィーロへと跳び跳ねたくちなぜつづちが何かをする前に、メイスがその先を封じ叩き落とす。
「在る為に罪を犯す者が崇める神の、使者か」
 ザッフィーロは静かに嘆息する。
 あるが故に貪る怪物。それに、罪はなく、穢れすらない。
「ならば、救いも与えまい」
 救うために、メイスは振るわれる。

 走り出した晶の背で、硝子は精霊銃を構える手を少しばかり緩めた。
 油断ではない。連続して使用するならまだしも、ここまで敵の数を減しては、その出番も殆ど無くなっているだけの事であった。
「もうすっかり鬼だな」
「ええ、そうすれば」
 唸りをあげるバイクに跨がって晶と並走する灯理に、硝子は頷き森の中央へと視線を向ける。
 そこには雨に打たれながらも、この場を睥睨する姿があった。
 信者達に崇め奉られ、穢れの逃げ道とされた、彼らの言う神。
「喰らわねば死ぬ」
 それが生物というものだ。
 ならば、見る限り臓腑のないアレは生きていないのだろうか。
 過る考えを遮るように突っ込んできたくちなぜつづちが晶にすくい投げられ、並走する灯理のマシンが土の中へと耕し込んだ。
「あれで最後か」
 と灯理が示した先へと晶が泥を蹴飛ばし、方向を変えた。

 そこには、不意打ちに倒れた男性がその四肢の殆どを失って転がっていた。
 ゾーヤの守護も、しかし、四方から来る攻撃に間に合わず、透明化していたくちなぜつづちに拐われたのだ。
 体毛から生まれた人頭がその肉を喰らい、舌が血を啜り、口が骨を飲み込んでいく。
 雨に濡れた地面が、赤く染まっている。
 既に、息はない。
 喰らう体からは傷が消えていく。成る程、そうして命を得ているのだろう。
 ゾーヤは、思う。
 彼にも家族がいたのだろうか。
 ゾーヤの問いに答える者はここには居ない。
 少年達は既に気を失い、信者達は我を失して絵画を見るように呆然とその光景を眺めている。
 跳んだ。
 僅かに地面が低く見える。
 わずかな浮遊感の後、視界は地面に近づいていき、くちなぜつづちの体へと落ちていく。

「もう良くねえか?」
 と蘇芳が天井を指差すと、それに反応した灯理が首を振った。
「過剰使用で栓か何かが壊れたみたいだ、エラーが発生している」
「イカれたのか」
 いくらハッキングしようとも、物理的な故障は直しようもない。
 さて、と。
 猟兵達は、雨煙の中でそれを見る。
「……」
 大きな角を生やした頭部に、大型獣の胴骨。
 黒ずみ、滲む液体を溢すそれは、確かに猟兵達を見据えていた。
 その周りは、黒い液体に染まっている。土も木も、水でさえ変質させ腐敗させていくそれは、留まることを知らず浸食を続けている。
 その中で、黒ずみ陰に落ちていく中でなお、瞳の朽ちぬ緑は、呪いのように澄んで輝く。
 その眼は、歪み、揺らいで、何かを探すようでもあった。
 惑う。籠に響く雨音に、それは惑う。
 ぞぶり、と黒い液体が波を打った。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『緑の王』

POW   :    暴食
【決して満たされぬ飢餓 】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【辺り一帯を黒く煮え滾る消化液の泥沼】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    巡り
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【消化液 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    慈悲深く
【激しい咆哮 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は多々羅・赤銅です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 白い壁に囲まれた偽りの森。
 その誂えられた森の中に、それは在る。
 育み守る事を放棄した抜け殻。
 満たす事も、求める事も、とうに諦めた亡者。
 それが生み出すのは、全てを腐敗させ原初へと返す堕落のみ。
 己が己であるが為に、現在を見捨てた緑の王。上に立つのではなく、底へと沈み果てる王。
 流れ、滲み。
 それは、全てを緑の礎へと腐り落としていく、只の燃え滓であった。
 故に、それは叫ぶ。
 唯一空虚に残った、過去の残滓をかき抱いて。
 縁に残ったそれすらも、削ぎ流そうというのなら。
 何物すらも、望みはしない。
 自然律の成れの果ては、届かぬ声で叫ぶ。
 震える肺すら無くしたと言うのに。
 
 雨粒が頬を伝い落ちていく。
 恵みの雨は反転し、腐り落ちていく。
ロジロ・ワイズクリー
出遅れた。だが後悔は後でする。
今は目の前の神だという何かを屠るに傾注するのみ。

眦に己の血で朱を引き『オーラ防御』を纏い、ダメージを受けながらも泥沼を越えて緑の王へと肉迫しよう。
「獣か、ならば狩られるモノだ」
接近しながらマスケット銃を構え、咆哮を上げるその声を潰しに掛かろう。
無差別攻撃を止めさせる『援護射撃』ながら外さぬように、防がれぬように、【ブラッド・ガイスト】によって殺戮捕食態へと姿を変えた銃での『零距離射撃』を狙う。

「お前はお前の満たされる世界へと、いけ」
内臓ではなくその心が。少なくとも此処はそれではない。
最後まで撃ち漏らさず全て見送ろう。


鎧坂・灯理
真の姿:見た目変わらず。静かに激怒することでステータスが上昇している。
戦闘:バイク騎乗は変わらず。車輪が泥に掬われたり、メガネが濡れて視界不良に至らぬよう念動力で防御。敵の横を走り抜ける際にワイヤーロープを投げ縄の要領で角に引っかけ、思い切りのけぞらせる。抵抗するために動いたところをUC使用。可変式銃器を狙撃銃に変形させ、両目を狙い撃つ。
技能:クイックドロウ、念動力、騎乗、ロープワーク、敵を盾にする、目潰し、スナイパーなど
神を騙るだけあって醜悪だな、腐れ鹿め。鉛玉で腹を満たすがいい。
『泥海』に沈め、オブリビオン。


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
姿を捉えれば【蝗達の晩餐】を放ち『先制攻撃』を試みる
成功時は近接しメイスにて『2回攻撃』を
外れた場合は影の蝗が犇めく上に立ち回復、強化を
その後は『カウンター』と『2回攻撃』を使いつつ体力を削って行こうと思う
毒沼が厄介だが…『毒耐性』が多少あるからな
ダメージよりも殲滅を優先しよう
又、己の傷が増えてきたら【蝗達の晩餐】にて回復しながら攻撃を続けたい

無事殲滅出来たならば、切り捨てざるを得なかった男の為に祈ろう
俺にはこう在る様にと願われた様に生きてきた…故に、人の道理も心も未だ深く理解出来ん
だが…人として善き選択をした者が尊敬に値する事は、理解できる
故に、男性の安らかな眠りを心から、祈りたいと思う



 脱出した被害者たちを、通報を受けた警察組織に引き渡した後。
 ロジロは、再び施設の中、箱庭へと足を踏み入れていた。白い髪が、降り続ける雨に濡れそぼっていく。
「それで、あれが神だとかいう」
 問いかけは誰に対してでもない。
 彼が見たその姿は、獣であった。その眼に美醜は映らない。
 紫の色が映すのは、狩られるべき獣だ。
「……」
 マスケット銃の銃身を片手で握り、中指の腹を噛む。犬歯が鈍い電流をもたらし、傷から滲んだ朱を眦に引いた。
 マスケット銃を構えると、オーラが彼の体を覆う。
 彼が一歩を踏むと同時に、車輪が大地を抉る音が響いた。灯理がバイクを駆る。
 だが、彼女のバイクよりも先に飛び出した影が宙を踊った。
 ついさっきまでは、帯か、縄のように蠢いていた汚れの影が、煙が砕ける様に分散し小さな虫の群れとなって、オブリビオンへと襲い掛かったのだ。
「お前も生贄達を喰らったのだろう」
 その行為に貴賤も善悪もない。その影の一匹一匹が、鋭い牙を持つ蝗の群れ。渦を巻くようにオブリビオンへと群がり、その肉を削り取っていく。細かい肉片となって、流れる血すらも蝗達の血肉と化す。
 それが只の動物であったのならば、瞬く間に骨すら残さず消え去っていただろう。
 蝗が牙を立てた傷から、赤い血の代わりに真黒い消化液があふれ出した。幾百もの空いた傷孔から流れ出した液体が蝗を包み込んでいく。
 そこからの光景は、貪り合いだった。雨粒すら寄せ付けず、消化液の飛沫が宙を舞い、穢れの蝗の群れと混じり合い、侵し合う。黒一色に染められた帳は、しかし、瞬く間にその色を薄めていき。
「……」
 蝗に全身を齧られたオブリビオンは、巨大な角を揺らし変わらずそこに佇んでいた。肉と骨の体から消化液を滴らせながら、その獣は痛みの表情すら見せない。胡乱に、宙を見つめている。
「舐めてくれる……!」
 見る価値すら無いと、ばかりのオブリビオンに声。
 岩を跳び台にバイクを宙へと躍らせた灯理がワイヤーロープを放っていた。
 念動力で、バイクを含む全身の水滴を弾き、視界を良好に保つ彼女のロープの先端の輪は、狙いを違わず、オブリビオンの角へと巻き付いていた。
「そら!」
 バイクの異様な馬力をそのままに、引っ張られたロープはその勢いをオブリビオンへと伝え、強制的にその首をのけぞらせた。
 軽い。
 と灯理はその感触に、眉を顰める。重量がではない。まるで、抵抗の素振りすらなくその首が彼女が強制した方向へと捻られているのだ。
 天井を斜め下に見る様な角度に頭部を捻られているというのに、その視線はやはり彷徨い、口は何かを告げようとしたまま言葉を忘れたように、半ばに開かれたまま。
「なら、都合がいい」
 飛び出したバイクは重力に従って、落下軌道に入っている。そのバイクに跨ったまま、不安定なままに灯理は、可変式銃器を変形させる。重力を見失ったような最中の一瞬で狙撃形態へと変形させた灯理は、固定、照準を恐るべき速さで構築し、引鉄を引いた。
 彼女の眼鏡に触れた雨粒が、レンズに貼り付き、念動力で弾かれるその一瞬。その間に発射された弾丸は、振り向かせた頭蓋の眼窩に納まる球体へと至る。
 着弾。
 オブリビオンの頭が大きく揺れた。同時に繋がっていたロープが揺さぶられ空中姿勢が乱れ、バイクと共に地面へと衝突する。
「つ……っ」
 走る痛みに受け身を取った腕を見れば、消化液に焼かれ爛れる腕がある。だが、それよりもまず、彼女は自らが打ち抜いたオブリビオンへと視線をやった。
 地に散った影の蝗を踏み、治癒を行いながら消化液を超え、メイスを振り上げたザッフィーロがいた。
 打ち下ろしたメイスが揺れる頭部を掠り、その方へと落ちる。
 砕けたのは、肉か、骨か。その手に返るのは、柔らかく重い弾性。オブリビオンの腕が、粘り付いた破砕音を響かせ、力なく垂れ下がった。
 左右非対称に崩れ落ちた肩は張り詰められ、破れた皮膚から黒い消化液が噴き出して、ザッフィーロの顔目掛けて飛び散る。
 咄嗟に顔を腕で庇いながら距離を取ったザッフィーロにすら、オブリビオンは視線を向けず、しかし、目の前を埋めた鉄の色に、視線を彷徨う事すら妨げられた。
 消化液の溜まりをオーラの防壁で強引に抜けたロジロが、肉薄する。
オーラでは防ぎきれなかった消化液に足の半ば程の皮膚を腐らせながらも、片目から黒い粘液を零すオビリビオンへと触れる直前の距離で、そのマスケット銃の銃口を突きつけていた。
 彼の血液によってマスケット銃が鉄の花が歪に開くように、凶猛たる威容を見せている。
 オブリビオンの視界を埋めるのは、暗い銃口の穴。
「お前はお前の満たされる世界へと、いけ」
 語るや否や。
 躊躇いすらなく、僅かに頭を揺らす事すら困難な距離で引き金を引く。
 暴虐を体現する殺戮捕食態の影響を受けた弾丸が、銃口を抜け、空気を切り裂き、その額へと吸い込まれていく。
 突き抜けた弾丸が、皮膚を千切り、骨を砕き、その中身すら吹き飛ばし、黒い何かをばら撒く。額の中央へと突き立った弾丸はしかし、頭蓋の丸みに逸らされたのか、額を砕き、左の角ごと、頭部の一部を剥ぎ飛ばしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


「……」
 雨音が、支配する。
 刹那の静寂に、オブリビオンは仮初の空から落ちる雨を浴びる。痛みは無いのだろうか。
 頭部を打ち抜かれ、消化液と同化したその中身を零しながらも、その表情に変化はない。
 雨が降っている。
 僅かに、その緑の目が見開かれた。
 雨が降っているのであれば、その雲を晴らせば、その向こうにそれがある。

 ぞぶりと、黒が蠢いた。
 初めて、オブリビオンが口を動かした。
 声を発する為の、息を吐く為の肺も無いその口から音が紡がれることは無い。
 だが、その代わりにその骨が、肉が、過去が震える。
 それは音波ですらなかったかもしれない。だが、形容するのであれば、叫びに他ならない。
 肉薄していた猟兵達は、咄嗟にその場を飛びのくも、衝撃の壁に強打され、弾き飛ばされる。
直後、オブリビオンを、否、その周囲を黒が覆い尽くした。
 先のザッフィーロの放った影の蝗との攻防の比ではなく、煮え滾るような黒の液体が湧きだし、水柱となって天井へと噴きあがっていく。
 設備を破壊し、昼のように照らされた室内が点滅する。土は起こり、雨が荒れる。
 自身とまがうばかりの振動が施設を襲い、だが、それは唐突に止んだ。
 白い壁に囲まれた箱庭は、一変している。
 電源設備は破壊され、夜の暗がりが支配している。
 雨粒は降らず、しかし、オブリビオンを中心に円を描くように開かれた天井の穴の縁からは、溶けたような断面のパイプから何本もの滝が溢れ落ちている。
 灯りはただ一つ。
 刳り貫かれた天井の先。虚構の庭園にただ一つ、届かぬ空に浮かぶ白い石の光が、虚ろな穴に座り込むオブリビオンと猟兵達を照らしていた。
「……」
 それを見上げるオブリビオンは、肩を揺らしていた。言葉もなく、自らの頭蓋を抱きながら、叫びが響く。
 それは、悲嘆か、憤怒か。
 いかなる感情を持った叫びかなど知りようもないが、絶望の黒い色だけは、はっきりとその場の誰もの肌を粟立てていた。
「狂っている」その声は誰のものか。
 一頻り、体を揺らしたそれは、その何も見ていない片瞳を猟兵達へと向ける。
 漸く、自然律は敵を認知する。
 己が己であるために、それは全てを腐敗させる。
笹鳴・硝子
死を失くそうなどとは思わない
死は偏在するもの
各々の喉元に突き付けられた刃が、めぐる血潮の熱さに温められた一時のみ忘れられるものだ

偏在することは、何処にも無いことに似ている
そんなものを、『ここ』に留め置こうとした者にこそ咎がある

「『ここ』に在る限り、あなたは諦め続けるしかない」
つらかろう、と、言うのは傲慢で
終わらせてやりたい、と、願うのは不遜だけれど


【WIZ】
「畏怖と敬意を以て対し奉る」
『聞』『凝』『穿』『流』
すべてを鈴蘭に変えて
黒に白を纏わせる為に

結局のところ、花を贈りたいだけなのかもしれない
すべてを諦める前に望んだものはなんだったろう
王だとて、かつては命であった者ならば


真木・蘇芳
おいおい、遠距離出来る奴らが何やってるんだよ
無理すんな、怪我人運ぶ身にもなれっての
まず奴はあの場から動かない
攻撃は咆哮と消化液、しかも消化液にいたっては耐性ありがこの様だ
なら普通は近づかない
本来この手合いとは戦いを避けるべきだ
動かないなら床をぶち抜くか
埋めちまうのも手だと思うぜ
壊れかけのこの神殿ごと神さまをバイバイしてしまおう
今回は被害がでかい
咆哮は音を重ねりゃ打ち消せるだろ、科学的なら
消化液はよう分からん、中和出来そうにない
この傷は治るのか?
殴ってればいつか死ぬかもしれないが、俺らもその枠にいるんだ
触らぬ神に祟りなしだぜ?
後はあれだ、切り捨てた命に祈るな
許しを請うな、俺らがが選んだんだからな


六島・椋
【目立たない】場所から【暗殺】

どうも、お手伝いさんだ
手は多い方がいいだろ、多分

やあ、綺麗な、けれど半端な君
自分達とも踊ってくれないか

他に戦う人がいれば、その隙をカバーするように動く
骨格人形達とダガーで【二回攻撃】をしていこう
反応してくるようなら【フェイント】と【だまし討ち】を使い、簡単には見切られないように
消化液を放つと聞いた、攻防で発生した液の場所は頭に入れておく
本体に効くかはわからないが、できそうなら【怪力】でそちらに蹴り飛ばしてみるか

こちらへの攻撃は【第六感】を研ぎ澄ませた絶望の福音で対象

時の流れは代謝だと自分は考える
食ったものが元に戻らないように、君も消えるんだ

アドリブ可、一人称:自分


ロジロ・ワイズクリー
痛みを受け、衝撃の波を受けてなお倒れている余裕などない。
黒衣が黒へと塗り潰されぬよう、その怪異に巻き込まれぬよう、気合いで立ちながら改めて銃を両の手で構えようか。

「月、」
頭上に浮かぶ白色に、連想する単語を口に。
『暗視』を利かせ悲哀の叫びを耳にしながら、その敵意へと『先制攻撃』の引き金を引く。
『クイックドロウ』からの『2回攻撃』、接近する暇を惜しんで容赦なく弾丸を叩き込み。他に攻撃する者があれば、その『援護射撃』に回ろう。
「泣くな、啼くな、その嘆きを今、終わらせてやる」

世界に紛れた異物なれど、どうか安らかにと願って。



 一瞬、白夢に跳んでいた意識が頬に触れた水の冷たさで浮上する。
「……っ」
 叫びに吹き飛んだ全身は、痛みを主張している。ロジロは、脚を二、三度震わせながら立ち上がった。
 見れば、白い箱庭は、黒い穴底へと姿を変えている。破壊された施設の中で、揺れる作られた森の有様が、もはや滑稽だ。
「月、か」
 オブリビオンは、その中心に動かずにいる。それと目が合った。
「っ……」
 息を呑む。それが見つめていると、意思を持って見つめていると本能が叫んでいた。潰れた片目からは滂沱の黒い液体が流れている。
 尽きぬ黒を澱ませる片目に、闇中に爛爛と緑を滾らせる片目が見つめている。
 それは、黒に落ちる光に何を望むのか。
 月がきれいだ、等と嘯くつもりなど無いだろうに。
 銃を両手で握る。硬い感触が、それた思考を揺り戻していた。
 ロジロの見つめる穴底に、滝に返る月光を弾く白が躍る。
「何を、亡くした」
 纏う武装を鈴蘭に変え、月の下に花嵐を起こす硝子は、問う。その声はオブリビオンには届いていないだろう。
 諦めたのであれば、望むものがあったのだ。
 亡くしたのであれば、傍にあったものがあったのだ。
「……」
 届いたとして、返る言葉は無いだろう。
 白が舞う。オブリビオンが、不揃いな重みに首を傾げて、動く片腕を伸ばした。
 オブリビオンの周りを埋める様な消化液が、大きく泡立つ。
「たく、つくづく面倒な手合いだ!」
 声と共に、蘇芳が駆けだした。
 硝子の操る白の嵐に、湧き立ち、浮かび上がった消化液が迎え撃つ。攻防を貫いた花の刃がオブリビオンの体を裂けば、またそこから消化液が漏れ出し地を埋めていく。
 もはや、オブリビオンに近づく為に、その消化液を避ける道は無いだろう。蘇芳は、オブリビオンへの距離を縮めながら、周囲を確認し断定する。
 攻撃の余波で飛び散った飛沫に降りかかられただけで、全身が焼けるようにひりついている。どう考えても、近づくのは悪手でしかない。
 硝子の攻撃に抵抗を示している隙であってもそれは変わらない。
 緑色がぎょろり、と蘇芳を捕らえた。震える。オブリビオンが、震える。
「――っ」
 先の叫びだ。
「……チッ」
 一瞬、音波なら音をぶつけて相殺でもするかと浮かぶが、つい先ほどの感覚は、音に近いが、音ではない。聴覚だけでなく、五感を揺さぶり、魂すら砕かんとする形持たぬ壁だ。
 迫った爆ぜる様な衝撃が、蘇芳の体に衝突しその体を吹き飛ばさんとする。全身を軋ませる叫びに、浮きそうになる脚を地面へと踏みしめると蘇芳は、握った拳を震える大地へと突き入れた。
 腕を覆うパンツァーパトローネがその異名のままに、拳を弾丸と化して地面に衝撃を伝えさせ。
 轟音と共に、捲る。
 砕けた地面が着弾点から広がる罅に沿って、隆起してその断面を地上に曝す。
「こりゃいいっ」
 叫びも止まる、その瞬間に蘇芳は駆けていた。消化液に侵される土を避け、捲り上がった土中の壁を蹴り跳んでオブリビオンへと肉薄し。
「……」
 黒い槍がその眼に映る。
 否、それは蘇芳へと向けられ放出された消化液の水柱だ。跳び上がり、足場のない空中では身動きが取れない。身を逸らした程度で躱し切れない水柱が、蘇芳の姿を覆い隠した。
「……つつ、っぶねえ」
 直前まで自らがいた空間が黒に呑まれたのを、眼下に見下ろしながら表面の爛れる左足の膝下の痛みに顔を顰めながら、消化液の只中に佇むオブリビオンの真上へと蘇芳は落下していく。
 捲れた地中から顔を覗かせた岩を、消化液に呑まれかけた蘇芳に投げ飛ばした椋は、隆起する地面に隠れながら、彼もまたオブリビオンへと肉薄する。
「……」
「ばれてるか」
 頭上から飛び降りざま叩きつけられた蘇芳の拳に、半ばを破壊した頭蓋を地面に伏せたオブリビオンは片腕を地面に押し付けるように体を支え上げながら、背後に迫っていた椋へと瞳を向ける。
「やあ、綺麗な……けれど半端な君」
 椋は、手の内に刃を揺らし、軟派な言葉を放つ。
「――」
 それに頓着せず、息を吸うように開く唇。黒い消化液を口の端に泡立てながら、叫びを吐こうとしたその頭蓋に弾丸が滑り込んだ。
 ロジロの構えたマスケット銃から放たれたそれは、かつて角を生やしていた虚空に飛び込み、オブリビオンの頭部を内部から砕き揺らす。
 近づく暇すら惜しんだロジロの狙撃に、叫びを中断されたオブリビオンは、それでも消化液を蠢かせる。狙うのは咄嗟に距離を取った蘇芳ではなく、肉薄する椋。だが。
「それは当たらない」
 からからと、骨格人形の掻き鳴らす音が彼の声に重なる。
 咄嗟の攻撃なのか、照準精度の甘いその攻撃に、僅かに身を逸らすだけで躱した椋は、古びたダガーを突き出した。
 防ぐように、動く腕がそれを迎え入れる。まるで、動物が顔を守ろうとするような動きだ。
 その動作に、益体も無い感想を浮かばせながら椋は、思考する。
 ダガーが掌を貫き、裂かれた傷口から溢れた液体が、椋の顔と体を溶かす。それはいかに予測したとしても避けられる距離と速度ではない。
 眼球をそれに喰らわれれば、きっと二度と光を感じる事は無くなるだろう。
 だから、椋は自分の取った行動が正解であったと、刹那、確信する。
 突き出された椋の腕に、しかし、ダガーは握られていない。
 からからと、骨格人形の掻き鳴らす音が彼の背後に重なる。身を屈ませ伸ばされた腕を避けながら、椋は指を繰る。宙に踊る糸は、人形に繋がっている。その手には、直前まで彼が握っていたダガーが握られていた。
 オブリビオンの背後へと回り込む挙動の途中に、人形がその刃を振るう動作を刺し入れ、消化液が噴出する。肩と腕のつなぎ目、関節の隙間に刃を刺しこまれた腕は、がくんと力を失う。
「畳みかけよう」と、ザッフィーロが再び迫る。
 周囲では、湧き立つ消化液と鈴蘭の白、穢れの黒が乱舞している。月光を黒が食らい、白が弾いてる。
 だが、そこに美しさは感じない。あるとすれば、醜さでしかない。
 流れ落ちる滝が夜灯りを反射し、白黒の世界を映す。
「……醜悪だな」
 この夜は、酷く醜い。灯理は命ならざるその姿に悪態を吐きながら、狙いを定める。
 横たわるバイクに狙撃銃を固定した灯理が、輝く緑色を閉ざそうと弾丸を放つ、と同時に叫びが世界を揺らした。
 月光を泳ぐ弾丸が叫びにぶれ、確実に眼球を貫いていた弾丸は天井に火花を瞬かせる。
「泥海に沈め、オブリビオン」
 弾けた火花が、熱を失って影に落ちる刹那、もう一度放たれた弾丸が、オブリビオンに走る。
「が……、っ!」
 叫びの衝撃波に吹き飛ばされ、隆起した壁に激突したザッフィーロは、背を強く打ち、呼吸の仕方を忘れたような体を無理矢理動かし、追撃しようとした。その眼前で、オブリビオンの顎の下が弾け飛んだ。
 叫びの直後、撃ち出された狙撃銃の弾丸が、首の肉を吹き飛ばす。黒い肉塊を飛散させ、頸椎が現れる。明らかに重い角を持つ頭蓋を支えるには、酷く頼りない柱がしかし、その頭を落とす事は無い。
 在り続ける事は、まるで呪いだ。透くような緑は、そこに在り続ける。
 その様で、良く死なないもんだ。と蘇芳が、呆れ半ばに感心する。
 殴っていれば、いつあ死ぬ。じゃあいつまでだと、生物の枠から外れた姿の人型を睨む。
 爛れる脚は、しかしまだ立つ。
 蘇芳は、その傷跡がどう残るのかと、僅かに思案しながら、痛む脚で踏みしめる。道はまだある。ならば、彼女が為す事は一つだ。
「俺らが死ぬまで、殴り続けてやらあ!」
 殴り掛かる蘇芳の攻撃の合間に、椋が攻撃を挟んで動きを苛める。
 拳が砕き、短剣が削ぐ。その度に噴き出る黒を被った岩を諸共にオブリビオンへと蹴り飛ばした椋は、顔の半ばに被った消化液がオブリビオンを溶かさない事に、そうか、と独り言ちる。
 潰れた瞳を据えていない半顔を黒に染めたオブリビオンが、周囲の消化液を隆起させ、膨らませる。それは、天井を破った時と同様の膨大な消化液の波の前兆だ。
 叫びと消化液の波で、世界を腐り落とす、能動。
「時は巡るものだ」
 血流のように、食物連鎖のように、世界のように。
 生きる中で傷は治るが、それは決して失った細胞ではないように。
 食べたものが、決して元に戻らないように。
「君も消えるんだ」
 オブリビオンの周囲が黒に染まる。
 盃に並々と注がれた液体が、溢れる寸前に縁で膨らみ留まるように、黒が張り詰めていく。
 もし脚を踏み入れでもすれば、瞬く間に消化され、足先を失うだろう。呑まれた石も草も、瞬く間に腐り溶けて、消えていく。
 突っ込んだとて、欠損し役立たずになるだけだ。と肉薄していたケルベロス達がその黒円から逃れ、無事な地面に下した瞬間。
 銃声が響く。
 泣くな、と。
 重ねて、銃声が響く。
 啼くな、と。
 駆けた二つの弾丸は、オブリビオンの胸元に着弾し、穴を穿つ。捻じれ、肉をこそぎ取り、黒い骨髄を滾らせる骨すら砕き、弾丸はその体を貫き抜けていく。
「……」
 一瞬、その体が揺れる。震えが乱れる。
 そして、鈴蘭がオブリビオンを覆う。
 さながら、それは花弁を縫い合わせた死衣装のようだ。
「畏怖と敬意を以て対し、奉る」
 それが在るだけで命を奪うのなら。
 それが在るだけで諦め続けるしかないのなら。
 傲慢であっても、不遜な驕りであっても。
「終わらせましょう、ここに在る貴女を」
 纏う花弁が、四つの武装を散らし変化させた花弁が、首を、胸を、腕を、肉を、骨を、覆い隠した花弁が。
 その全てが、牙を剥いた。
 硝子は、その無数の刃が瞬く間に黒に呑まれていくのを見つめた。体が内側から弾けたように消化液を吹き散らしたオブリビオンは、全身を黒に染めている。
 変化を解いた武器が硝子の元へと戻る。
 刃が消えたオブリビオンの体は黒一色に染められている。
 一片とも、他の色は無い。
 月へと延びる様に伸びていた背が、曲がる。重い首が辛うじて骨に繋がったまま地面へと落ちる。
 頭に引かれた体ごとオブリビオンの体は、消化液の黒円に倒れ込み。
 ばん、と風船を針でつついたような衝撃音と共に、黒が弾け飛ぶ。天を砕いたような水柱が立つのか、と警戒した猟兵達は、しかしそれが杞憂であったと悟る。
 膨らんでいた水面が弾け、宙を舞った黒は、月の光に溶ける様に消えていく。
 気付けば、周囲に点在していた筈の消化液も、オブリビオンの体からも、呑み込んだ全てを一つと返すことなく、消え失せていた。
 施設の空いた穴の縁から流れる水は、透明なままに穴底に注ぎ込まれ、乾いた音を響かせる。
 崩れた地面、その中央に横たわるオブリビオンは、瞳を閉じていた。
 眠るように、静かに瞳を閉じている。
 終わった。
 と、誰もが口にしようとした、その直前に地面が震えた。
 それは叫びではない。
 ならば何かと、思考する頭に答えが、瓦礫となって降る。
「やべえ!」
 振り仰ぐ蘇芳が、声を上げる。
「崩れるぞ!」
「……っ」
 声に灯理は、バイクを立てるとエンジンを掛ける。丸く正円に天井を失った施設は、重力に従って、支えきれなくなった重量をその中央へと押し寄せようとしている。
「こっちは、私が!」
 と、壁際に避難させていた気を失っている少年に駆け寄って、抱きかかえたままバイクに跨った灯理は、もう一人を硝子へと任せる。
 幼い少年ではあるが、抱きかかえるとなると一人が限界だ。
「上は、危険か」
 ザッフィーロは、天井を見上げ、その穴から脱出する算段を浮かべそれを却下する。
 猟兵達だけであれば可能かもしれないが、四人を無事に脱出させようとするのは難しい。
「……」
 四人か、と僅かに過る胸の痛みを、あえて無視すると、入ってきた扉から最短のルートを想起する。
 蘇芳が壁を破壊したおかげで、ビル直下から離れた地下施設の中央部のここからでも、ほぼ直線で抜け出せる。
 その代わり、崩壊は早まっているだろうが、気にしている暇は無い。
「ったく、忙しねえ」と蘇芳が信者の一人を俵担ぎに抱えると、椋へと乱雑に放る。
「そいつ頼む、置いとくのも目覚めが悪い」
「ああ、了解した……おっとと」
 常人としての体躯から並外れた怪力を披露していた椋だ。人一人抱えて走るのは訳ないだろう。
 降る瓦礫を避けながら、椋は走る。
 もう一人の少年は硝子が呼び出した影の獣、晶の背に乗せられて、もう一人の信者も同じように転がされている。
「急ぐぞ」
 ロジロは、漏斗に注がれた水のように、崩れ始めた天井を見上げ、全員に告げた。
 瓦礫が、白い石光に抱かれるオブリビオンの骸の上に降り注いでいく。
 その姿を再び、穴底の闇の中へと鎖していく。
「お前はお前の満たされる世界へと、いけ」
 静かに呟いたロジロは、背を向けた。
 それが満たされるのはここではない。
 背後から崩落音が追いかけてくる。

 轟音、地響き。機器が発火したのだろう、土煙に混ざって黒煙が上がり、火の手が上がっている。
 地下施設は、ビルの敷地面積よりも広かったらしい。崩壊した施設は、周辺の空き地を窪ませていた。
「今度こそ、終わったか」
 ザッフィーロは、呟く。
 瓦礫に埋もれた空き地の穴を遠目に眺めた後、目を閉じる。
 戦闘の余波か、消化液に消えたか、あの男性の姿は欠片ともあの場には残っていなかった。
「……ああ、理解している」
 彼の行動は、少年達を優先した葛藤は、きっと尊敬に値するものだと。
「どうか――」
「やめろ」
 と、祈ろうとしたザッフィーロの耳朶を粗い声が叩く。
 蘇芳は、僅かに開いたザッフィーロの目に語る。
「切り捨てたものに祈るな。あれは俺らが選んだ結果だ」
 その結果を、他者に委ねるな。その祈りを叶えてくれるよう、神に委ねるな。と。
「……」
 だが、静かにザッフィーロは、目を閉じる。
 彼は、創られた役割を忠実に果たす。創られたように、そう在るように。
「どうか、安らかな眠りを」
 白む月明かりが冷たく、世界を見下ろしていた。


 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月20日
宿敵 『緑の王』 を撃破!


挿絵イラスト