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カース・トゥ・ニルヴァーナ

#ダークセイヴァー #第五の貴族 #異端の神々

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●スクリーミング
 取り替えてよという言葉が響く。
 この悲しみと憎しみを取り替えてほしいと願う声が聞こえる。己はもう残滓でしかないと知るからこそ、呪詛を撒き散らすことしかできない存在である己を嘆くのだ。
「取り替えて。この世界を憎む心を。誰かの綺麗なものと取り替えて」
 かつては純白であったであろう翼は煤に塗れたように薄汚れ、白き肌は浅黒く見る影もない。
 その心にあった世界を愛する心はもはやどこにもない。
 手にした呪詛を纏う紅剣が怨嗟の声をあげるように振るわれる。その一撃は地底都市の門を容易く破壊する。

 取り替えて。
 ただ、その言葉だけをつぶやき続ける。
 それは『狂えるオブリビオン』――『異端の神々』と呼ばれる超存在であった。
「――違う。これじゃない。こんなんじゃない。ごまかさないで。取り替えて」
『呪詛天使の残滓』ともいうべき存在を包み込むのは『死の罠の迷宮』であった。
 一歩を踏み出す度に『呪詛天使の残滓』の視界が切り替わっていく。
 自分の立っている大地が、上下左右に一歩を踏み出す度に入れ替わっていくのだ。三半規管を狂わす迷宮の力は、彼女の視界をぐるぐると取り替えていく。

 だから、これじゃないと叫ぶ煤の天使翼を持つ少女が手にした紅剣より呪詛を解き放ち、狂ったように斬撃を放ち続ける。
「これじゃない。これじゃない。私のはこれじゃない。私の心を返して。世界を愛していた頃の私を返して。こんな憎しみと悲しみに染まった瞳じゃない、綺麗なあの頃を返して――」

●デディケート
『死の罠の迷宮』を作動させた『第五の貴族』である『鳴響止酔』デルロッサは忌々しげな表情をしていた。
 苛立っていた。
 じくじくと痛む火傷の痛み。青紫色の凍えるような色をした炎が、その身を常に焼き続けている。
 胸に輝く『炎の紋章』をかきむしるようにしながら、苛立つ。
 しかし、その耳に届く『呪詛天使の残滓』の言葉に彼は笑った。それは残滓と言えど、悲鳴のようなものであった。
 悲哀に満ちていた。
 だからこそ、デルロッサの痛みは和らぐのだ。
 他者の悲哀、他者の苦痛にあえぐ声だけが彼の身を焼く炎の苦痛を一時忘れさせてくれるのだ。

 目の前には『死の罠の迷宮』を踏破してきた『呪詛天使の残滓』が、取り替えてと言葉を呪詛のように紡ぐ姿があった。
 すでに迷宮の罠に寄って消耗しているのだろう。その姿を見て、デルロッサは笑った。
「取り替えるものかよ。似合いだろうが。世界を恨み、己は悪ではないと叫ぶ幼稚性。自分だけが正しいと叫ぶ心など誰が共感するかよ。そんなもんはな、誰だって抱えて生きているから――」
 そう、誰もが抱えているものだ。
 誰だって負荷という影がある。その影は一体何の影か。そう、幸福の影である。人は幸福追求の生き物である。
 ならば、その影にあるのはいつだって負荷である。幸福と同じ量だけの負荷が在るからこそ、人は幸福になれる。

「そうやってな、正しく生きている奴らの悲鳴を聞くのが俺の楽しみなんだよ。それに酔うことだけが、俺の身を焼き続ける炎の痛みを忘れさせてくれる。ああ、そうさ。取り替えてやるものかよ」
 一切は燃えている。懊悩の炎によっても誰も彼もの世界は燃えている。
 だからこそ、デルロッサは『異端の神々』である『呪詛天使の残滓』を翼の炎でもって一撃の焼き尽くす。

 しかし、それこそが『異端の神々』の狙いそのものであった。
「――ッ! おい、なんだこれは。おい!」
 デルロッサが叫ぶ。
 己の身体が言うことを聞かないのだ。意識が染め上げられていく。
 呪詛に、燃える『炎の紋章』が己の精神を、魂を、その尽くを焼き尽くしていく。これが堕ちていくという感覚。
 デルロッサは知った。
 これが呪詛。
 世界そのものを恨む己とは違う一つの悟りであることを。
 他者を持って己の慰めとするのが、デルロッサであるのならば、世界そのものをもって己の慰めとするのが『呪詛天使の残滓』であった。

「取り替えて――」

●インライトメント
 グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はダークセイヴァー。『第五の貴族』が存在する地底世界での事件ですが、今回関与するのは『異端の神々』と呼ばれる超存在が地底都市へと侵入し、『第五の貴族』に憑依してしまう事件です」
 ナイアルテの言葉は端的であった。
 彼女の予知したのは地底都市に侵入した『呪詛天使の残滓』が『死の罠の迷宮』を踏破し、『鳴響止酔』デルロッサへと至るも殺され、逆に彼に憑依してしまう光景であった。

「狂えるオブリビオンは、これまでも存在が確認されてきましたが、どれもが地上世界におけるヴァンパイアに憑依したものばかりでした。紋章の力を持つデルロッサが狂えるオブリビオンへと変わった場合、その強大さはいうまでもありません」
 これまでも『第五の貴族』と戦ってきた猟兵達は、その存在の強大さを知っているだろう。紋章の弱点を突くことができたからこそ、辛くも勝利を納めることができたのだ。
 それが狂えるオブリビオンとなってしまったのならば……。

「はい、もはやまともな手段ではこれに対抗することはできません。故に」
 故に、狂えるオブリビオンである『呪詛天使の残滓』よりも早く『死の罠の迷宮』を踏破し、『第五の貴族』を先に打倒しようというのだ。
 言葉にすれば簡単なことである。
 だが、それが如何に困難なことであるかを最も理解しているのは他ならぬ猟兵達であった。
「それ以前に『死の罠の迷宮』が問題です。この迷宮は一歩を踏み出す度に、足を踏み入れた者の立ち位置を上下左右のいずれかに入れ替えてしまうのです。床を踏みしめていた足が次の瞬間には壁に。さらに一歩踏み出せば天井に。上下左右ランダムに入れ替わる迷宮は、皆さんの平衡感覚を狂わせ、迷宮踏破を阻むでしょう」
 これを踏破するための方策を練らねばならない。
 そして、問題である『第五の貴族』であるデルロッサの攻略。
 彼が持つ『炎の紋章』は、その性質から凄まじい攻撃力をもたらす紋章である。単純なバフ能力。単純であるがゆえに正攻法は難しいだろう。

「ですが、苛烈なる力をもたらす炎は、その身を苛む痛みによって維持されています。何らかの方法で痛みを除去する、もしくは炎を消す、という行いができれば、これを攻略することができるはずなのです」
 ナイアルテは頭を下げて猟兵たちを送り出す。
 いつだって、誰もの心に炎は燃えている。己の世界を燃やす炎が。
 その炎が生み出す影が如何なる深淵を持っているのだとしても、それと同じだけの炎が、灯火となって己の拠り所になることを彼女を知っている。

 だから、信じるのだ。
 送り出す猟兵たちを信じることだけが、きっと彼女の拠り所なのだから――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はダークセイヴァーに存在する『地底都市』へと向かい、支配者階級である『第五の貴族』を打倒し、迫る『異端の神々』をも打倒するシナリオとなります。

●第一章
 冒険です。
『死の罠の迷宮』を突破しましょう。
 この迷宮は一歩踏み出す度に皆さんの立ち位置を入れ替えてしまいます。一歩踏み出せば、次の瞬間には壁であった場所が床になり、もう一歩踏み出せば天井であった場所へと位置が入れ替わってしまいます。
 平衡感覚を失いながら、迷宮を突破するのは難しいでしょう。
 この後に控える『第五の貴族』との戦い、そして一刻も早く『異端の神々』に先んじてたどり着かなければならない状況と合わせて面倒な罠となっております。

●第二章
 ボス戦です。
『死の罠の迷宮』の最深部に待ち構えていた『第五の貴族』――『鳴響止酔』デルロッサとの戦いとなります。
『炎の紋章』によって攻撃力が強化された彼の攻撃は苛烈そのものであり、まともに戦っては勝ち目がありません。
 しかし、『炎の紋章』は彼を苛む火傷の痛みによって力を引き出されています。
 これをなんらかの方法で痛みを除去するか、炎を消すという行動を取ればプレイングボーナスとなり、戦いを有利に進めることができるでしょう。

●第三章
 ボス戦です。
『呪詛天使の残滓』は『死の罠の迷宮』を強引に破壊し、送れて迷宮を突破してきます。
 しかし、強引に迷宮を突破したことにより平衡感覚を失って消耗しています。
 非常に強力な存在ですが、迷宮を強引に破壊してきたがゆえに、消耗している隙を突きましょう。
 またこの『狂えるオブリビオン』である『呪詛天使の残滓』は理性はなく説得も通じません。

 それでは地底都市における『第五の貴族』を巡る戦いへと参じる皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
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第1章 冒険 『死の罠の迷宮』

POW   :    防御力を活かし、強引に罠を突破する

SPD   :    罠を解除しながら迷宮を踏破する

WIZ   :    迷宮の隠し通路や仕掛けを暴く

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 その迷宮は、あらゆる存在の立ち位置を入れ替える。
 一歩を踏み出す度に天地が逆さに、左右が逆に。
 自分がどちらを向いているのかという事実さえもわからなくなってしまう。
 単純故に打ち破ることは難しい。
 立ち位置が入れ替わる法則性は何一つなく、完全なランダム。
 当然のように周囲には数多のトラップが仕掛けられている。それらは猟兵達を傷つけるものであったし、同時に『第五の貴族』である『鳴響止酔』デルロッサへと至る道を塞ぐものばかりである。

 しかし、これらを踏破しなければならない。
 狂えるオブリビオンである『呪詛天使の残滓』よりも早く、『第五の貴族』へと至り、これを打倒しなければグリモア猟兵の見た予知が現実のものとなってしまう。
 そうなってしまえば、狂えるオブリビオンと化した『第五の貴族』が誕生してしまい、手のつけられない強大な存在へと変わり果ててしまう。
 これを今の猟兵たちが打倒することは不可能。
 ならばなんとする。
 そう、予知を覆す速度で駆け抜けるしかないのだ――。
村崎・ゆかり
オブリビオン同士の争いか。勝手に潰し合ってくれればそれでいいんだけど、放っておくとより強力なオブリビオンが生まれちゃうなら、放っとくわけにも行かないわね。

まずは『死の罠の迷宮』を踏破しないとね。
まともにいく気は無いわ。飛鉢法で飛行しながら、黒鴉の式を迷宮内に多数放って、正しい道筋を進んでいく。
足を前に出したわけじゃないんだから、迷宮の様相は変わらないでしょう?
ただ、迷わせるだけの罠なら、こうして飛んで抜ければいい。

どこかから、異端の神の声でも聞こえてこないかしら?
もちろん、近づく気は無いけれど。
先に迷宮を抜けて、『第五の貴族』を討滅しないとね。

そろそろ出口みたいね。待ってなさい、『鳴響止酔』。



 人の世であればオブリビオンの影は猟兵に任せておけばいい。
 しかして、この世界。常闇の世界であるダークセイヴァーにおいては、そうではない。この世界は人の世ではなく、吸血鬼――ヴァンパイアの世である。
 支配はオブリビオンにあり、人々は隷属こそが生きるたった一つの道。
 今はわずかにか細き光があれど、それらは吹けば消えるものならば、猟兵はこれを守らねばならない。
「オブリビオン同士の争いか。勝手に潰し合ってくれれば、それでいいんだけど……」
 すっかり地底都市に入り込むのも常となった転移。
 その一層暗き暗闇の中にあって村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は、破壊された地底都市の門を見やる。

 これを『異端の神々』に憑依された『狂えるオブリビオン』が破壊したのだと理解するのにそう時間はかからなかった。
 狂えるオブリビオンは、オブリビオンでありながら『異端の神々』によって理性を失った存在である。
 憑依するオブリビオンによって力の強大さが変わるのならば、『第五の貴族』に彼らが憑依したのならばどうなるのか。
「放っておくと強大なオブリビオンが生まれちゃうなら、ほっとくわけにもいかないわね」
 互いが潰し合うのならば、これに勝ることははい。

 けれど、放置すれば『第五の貴族』が憑依され、手のつけられない存在へと変わってしまうというのならば話は別である。
「とはいえ、これを踏破しなければならないというのは面倒極まりないわね」
 一歩踏み出す度に己の立ち位置が入れ替わる『死の罠の迷宮』。
 時折中から破壊の音が聞こえるのは、『狂えるオブリビオン』が迷宮を破壊してでも踏破しようとしているからであろう。
 これにより『狂えるオブリビオン』が消耗するのならば、それもよし。
 しかし、この立ち位置を入れ替える罠は、猟兵にも害を及ぼす。

「でも、一歩を踏み出すと立ち位置が入れ替わるというのなら――ノウマク サマンタ ブッダナーム バーヤベ スヴァーハー。風天よ! 天吹き渡る其の風の効験を、ひととき我に貸し与え給え! 疾っ!」
 ゆかりの瞳がユーベルコードに輝き、華麗な戦巫女の盛装へと姿を変えた彼女が乗るのは鉄の小鉢であった。
 飛鉢法(ヒハツホウ)。
 それは彼女のユーベルコードにして飛行する術であった。

 一歩を踏み出すことがトリガーとなって『死の罠の迷宮』の効果を発動するのならば、一歩を踏み出すことなく飛べばいい。
 至極単純なことであったのだ。
「足を前に出さなければ迷宮の様相は変わらない。簡単なことで。まともに行く気なんて最初からないんだから」
 ゆかりは鉄鉢に乗って迷宮の中を飛ぶ。
 迷宮というだけあって、入り組んだ迷図は踏破するのに時間がかかるが、式神を放って索敵していけばいい。

 途中、様々な罠が彼女を襲うが、飛行している以上躱すことは不可能ではなかった。
「――ッ!」
 声が聞こえる。
 あれが『狂えるオブリビオン』の声であろうか。
 入れ替えて、としきりに叫ぶ声が聞こえる。それが如何なる理由であるか、目的があるのかはわからない。
 けれど、近づく気はない。
 もとより目的は『第五の貴族』の打倒である。
『狂えるオブリビオン』が『第五の貴族』に憑依する予知を覆すためにゆかりは飛ぶのだ。

「どんな理由があるかわからないけど……どちらにせよ討滅するのが定め。そろそろ出口みたいね」
 この地底都市の更に最深部。
 そこに座すのは『第五の貴族』、『鳴響止酔』デルロッサ。
 言うまでもなく紋章の力によって強大な力を得ているオブリビオンである。

 これまで打倒してきた『第五の貴族』はどれもが強大な存在であった。
 けれど、決して打倒出来ぬ存在ではないのだ。これを打倒し、ダークセイヴァーを人の世に取り戻すための一歩をまた踏み出すためにゆかりは鉄鉢と共に空を舞うのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK

また罠か
好きだよね、この世界の奴らって、こういうの

POWで
とりあえず試しに一歩進んでみよう
解りやすい様に、進む前に黒剣を床に投げて刺して、方向だけ把握しておくよ
元の床に戻れるまで試して確認を済ませよう

というか、飛べば良い、のかな
踏むって行動がトリガーなのは間違いなさそうだし、他の猟兵もそういうの、やってるみたいだしね

私の方の問題があるとすれば、トラップの対応かな
無理矢理、最高速度で突っ切ってもいいかもだけど、行き止まりに激突は痛そうだ
出来るだけ回避、最悪我慢して前進、で、行くしかないかな



『死の罠の迷宮』。
 それは『第五の貴族』が展開した『狂えるオブリビオン』と接触せぬための方策である。
 直接的に戦闘をしてしまえば『異端の神々』によって肉体を奪われてしまう。ならば、『死の罠の迷宮』によって封殺してしまえばいい。
 しかし、グリモア猟兵の予知には『第五の貴族』は結局、『異端の神々』に憑依され身体を奪われてしまう結果になることが示されていた。
 ならば、どうするか。
 答えは簡単である。
「『狂えるオブリビオン』より先に『第五の貴族』を倒す……言葉で言うのは簡単だよね」
 肆陸・ミサキ(独りの・f00415)は、ダークセイヴァーの地底都市の破壊された門を見やりつぶやく。
 そう、言うは易く行うは難し。
『第五の貴族』を打倒するということがどんなに困難なことであるかをミサキは知っている。

 だが、どんなに困難だからといって手をこまねくことはない。
 彼女の意志は止まらない。どれだけ傷ついたとしても、彼女の足は止まらぬ。それを証明するように彼女の傷は完全に癒えぬままに次なる戦いを求めて駆け出すのだ。
「また罠か。好きだよね、この世界の奴らって、こういうの」
 目の前には『死の罠の迷宮』が広がっている。
 事前に情報を得ていたことは幸いなことであった。一歩を踏み出した瞬間、ミサキの視界がぐるりと上下が逆さまになる。
 あ、と気がついた瞬間ミサキは天井に足を付けていた。いや、天井に立っていたと言えばいいだろうか。
 重力が一気に身体の中にある血液を頭に集中する感覚を覚え、彼女は地面に降り立つ。

 なるほど、と思う。
 これは思った以上にキツい。
 上下左右に一歩を踏み出す度に立ち位置が切り替わってしまう。さらに言えば、前後さえも切り替わるのだろう。
 通常の人間であれば、一歩を踏み出す度に平衡感覚が喪われ、立っていられなくなるだろう。
 だが、彼女はただの人間ではない。
 見た目は少女であっても、彼女もまた生命の埒外にある者である。
「なるほど……上下左右だけじゃなく、前後も変わるのか」
 黒剣を突き立て、ひとしきり検証したミサキはくらくらとする頭を振って思考を取り戻す。

「というか、飛べば良い、のかな」
 どうやら『一歩を踏み出す』という行動がトリガーになっているようである。
 これは間違いない。
 歩幅が小さかろうが大きかろうが、速度が早かろうが遅かろうが、どちらにせよ立ち位置が切り替わる。
 ならば、一歩を踏み出さずに移動すればいい。
「簡単なことだ。でも、検証した価値はあったし――」
 問題なのは他のトラップである。
 しかし、彼女の瞳がユーベルコードの白夜(オールライトナッシング)の如き輝きに包まれ、白い灼光を纏うドレスと日輪に覆われていく。
 彼女が得たのは飛翔能力である。

 一気に迷宮を踏破する、とは言え此処が迷宮である以上、簡単に通してはくれないだろう。
 ならばどうする。
 どこか遠くで破壊の音が聞こえる。
 きっと『狂えるオブリビオン』である『呪詛天使の残滓』が迷宮を無理矢理に破壊しているのだろう。
 オブリビオンに倣うなんていうのは、業腹であるがミサキはもう飛んでいる。
「立ち止まっている暇はない。時間制限があるっていうのなら、最高速度で突っ込む!」
 ミサキは飛ぶ。
 飛翔する速度は凄まじく、壁に激突することは己の身体を傷だらけにしてしまうことになるだろう。
 だから、彼女は強靭な脚でもって激突しそうなる壁を蹴って方向を変える。

 降り注ぐトラップなど、今や意味を成さない。
 際限なく上がっていく体温は、彼女の戦闘力そのものを底上げしていく。
「身体が熱い……けど、行くしかない――!」
 白い髪をなびかせ、『死の罠の迷宮』を踏破し、最深部に存在する『第五の貴族』、その首をおとさんと迫りくるトラップを尽く躱して突き進むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…此度の狂えるオブリビオンは天使の似姿をしているという
ならば当然、翼がある訳で空を飛ぶことも出来るはず

…そして敵は腐ってもこの世界の支配者たる第五の貴族の一員
まさか"宙に浮いていれば一歩を踏み出していないからOK"みたいな、
頓知でどうにか出来る物に死の罠なんて大仰な名前を付けるはずが無い

………と思っていたんだけど、ね

先の猟兵が見せた攻略法を味わい深い表情で眺めつつUC発動
地の魔力を溜めた魔刃による集団戦術で地下迷宮の構造を暗視して見切り、
サーフボード型に武器改造した魔刃に乗り空中機動の早業で正解のルートを飛翔する
罠の類は壁や床を透過する地属性攻撃の魔刃のオーラで防御を無視して破壊しておく



 拍子抜けをしたというのが正直なところの感想であったようにリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は思った。
『死の罠の迷宮』などという大層な名前が付いた迷宮。
 その力をもって『第五の貴族』が『狂えるオブリビオン』を遠ざけようとしたのならば、それはあまりにも不可解な力の選択であったように思えた。

『鳴響止酔』デルロッサが、迫る『狂えるオブリビオン』である『呪詛天使の残滓』の姿を知っているのかどうかはわかないが先行した猟兵が見せた迷宮の攻略法を味わい深い表情で眺めたリーヴァルディにとはどうにも理解し難いものであった。
「敵は腐ってもこの世界の支配者たる『第五の貴族 の一員。まさか“宙に浮いていれば一歩を踏み出していないからOK”みたいな頓智でどうにか出来るものに『死の罠』なんて大層な名前をつけるはずがない」
 そう思っていたのだが、どうやら買いかぶりであったと彼女はつぶやいた。

 そもそも空を飛ぶ存在を想定していなかったのだろうか。
 それとも迷宮事態の難易度に自信を持っていたのか。
 どちらにせよ、その答え合わせは『第五の貴族』本人と対峙した時にとっておかねばなるまい。
「……この刀身に力を与えよ」
 リーヴァルディの瞳がユーベルコードに輝く。
 召喚された魔力結晶刃を魔法増幅能力を付与し、無数の刃を迷宮へと放つ。
 自身はサーフボードの要領で魔刃の上に乗り、先行した魔力結晶刃の後を追う。

 罠事態はありきたりなものばかりであった。
 もしも、この『死の罠の迷宮』の特性を知らずに踏み込んでいたのならば、躱しようのない罠であったかもしれない。
 けれど、それらは宙に浮かぶという方法で凡庸な罠でしかない。 
 魔力結晶刃が翔び、あらゆる障害となる罠を破壊し、リーヴァルディは最深部を目指す。
「考えすぎかしら」

 そう思わざるを得ない。
 大仰な名前の迷宮。
 これが『死の罠』であるとは到底思えない。言ってしまえば、『簡単すぎる』のだ。
 まるで最深部へと侵入者を『無傷』で届けること事態を目的としているような、そんな意図さえ見え隠れするようであった。
 あくまで奪うのは平衡感覚のみ。
 辿り着けようとたどり着けまいと『第五の貴族』には関係のないことであったのかもしれない。

「辿り着ければそれでよし。辿り着けなくても、別に興味はない」
 そういうことなのかとリーヴァルディは理解したかもしれない。
 ヴァンパイアはこの世界の絶対的支配者である。彼らにとって他者の生命など糧であると同時に弄ぶものである。
 ならば、この『死の罠の迷宮』は最深部に到達することで完成する。

「悪趣味ね。そしてどうしようもなく傲慢だわ」
 己たちが絶対的支配者であるからこそ見せる傲慢であった。
『第五の貴族』であるデルロッサはそういう敵だとリーヴァルディは理解しただろう。弄ぶのならば、強者がいい。
 それもとびきりに諦めの悪い、決して折れぬ心を持つものがいい。
 折れぬ心を折ることが最上の喜びであり、彼の目的そのものなのだろう。

「――ッ!」
 遠くで『狂えるオブリビオン』の咆哮が聞こえたような気がした。 
 取り替えて、と叫ぶ声は哀切そのものであったが、狂えるオブリビオンにとってそれが如何なる意味を持つのかリーヴァルディはわからない。
 けれど、今は『第五の貴族』を真っ先に成さねばならない。
 目的は違えない。
 リーヴァルディの瞳には、迷宮の出口にして最深部。
 その揺らめく炎の紋章が燦然と輝くのを見たのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん

潰しあい…まるで蠱毒のような。
厄介なものが生まれる前に、片付けませんとねー。
『死の罠の迷宮』ですかー。飛べばいいみたいですから…陰海月、頼みましたよー。

陰海月に乗りまして、空中浮遊ですねー。陰海月にとって、いい運動になるでしょうしー。

他の罠は…強化した結界術で守りますし、何なら天候操作で風も起こしていきますからねー。


陰海月、空中浮遊でふよふよダッシュ。迷路は好きなので、あまり迷わない。ぷきゅ。



『狂えるオブリビオン』と『第五の貴族』の争い。 
 それは予知によれば『狂えるオブリビオン』の敗北で終る。
 しかし、『狂えるオブリビオン』とは即ち『異端の神々』が憑依しただけの存在にすぎない。
 倒されても『異端の神々』事態を打倒できるわけではない。
『異端の神々』は打倒されるがゆえに自由となり、目の前の『第五の貴族』へと憑依を遂げる。
 まさにそれが目的であると言わんばかりに行いであり、その結果生まれるのが猟兵であっても打倒するのが不可能である存在への昇華だ。

「つぶしあい……まるで蠱毒のような」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の四柱の一柱『疾き者』がため息をついたようであった。
 それは度し難い行いであると断じるには十分なものであった。
 結果、生まれるのが世界にとっても、猟兵にとっても厄介極まりない存在であることは間違えようのない事実である。

 ならば、どうするか。
「生まれる前に片付けませんとねー」
 しかし、『第五の貴族』へと至るためには『死の罠の迷宮』を踏破しなければならない。
 上下左右、前後の立ち位置を一歩踏み出す度に入れ替える特性を持つ迷宮は、厄介極まりないものであった。
 しかし、『一歩を踏み出す』ことが特性のトリガーとなるのであれば、『一歩を踏み出さなければいい』。
 簡単なことであったのだ。
 些か強引すぎる理屈。頓智といわれても仕方のないことであったのかもしれない。

 けれど、事実として先行した猟兵達は見事に踏破している。
 ならばこれに習わぬ道理はない。
「『陰海月』、頼みましたよー」
『疾き者』の影より現れた巨大な海月の上に乗る。ふわりふわりと浮かぶ『陰海月』にとっては、これは良い運動に為るだろうという副次的な目論見もあったのは言わぬが花であろう。
 ぷっきゅいといつものように鳴いて『陰海月』が迷宮の中へと浮かびながら移動していく。

 思った通りであったし、先行した猟兵の行動が間違いではないことを『疾き者』は実感する。
 やってしまえば簡単なものであった。
 同時に他の猟兵も感じたであろうことを『疾き者』は感じる。
 普通の人間ならば脅威そのものであったことだろう。しかし、猟兵や『狂えるオブリビオン』にとってはあまり脅威ではない特性である。

 しかし、『狂えるオブリビオン』は理性を失った存在であるがゆえに、飛ぶという行為すらしない。
 だからこそ、これで十分といわれればそれまでである。
 だが、どうにも引っかかるのだ。
「罠も凡庸なものばかり。四悪霊・『界』(シアクリョウ・サカイ)によって強化した結界術も必要無い程度のものばかり……」
 天候操作によって迷宮内の空気の流れを操作して、浮かぶ『陰海月』の速度を上げる。

 どれほど簡単に特性を無視出来るとは言え、のんびりしている暇はない。
 今もなお『狂えるオブリビオン』は迷宮を破壊し、罠を強引に突破しているのだろう。時間の問題だ。
 ならばこそ、急がなければならない。
 あくまでも猟兵たちの目的は『狂えるオブリビオン』よりも早く『第五の貴族』を打倒することになる。
 これを為せなければ、なのために転移してきたのかわからない。
「迷図事態も至極単純なもの。『陰海月』も手応えがない様子……やはり、この迷宮……」
『疾き者』は忍びの者ゆえに違和感に答えをすぐに出す。

 侵入者を傷つけるつもりはない。

 平衡感覚を喪うことはあるだろうが、罠事態は猟兵や他のヴァンパイアであれば踏破することは不可能ではないはずだ。
 何故、こんな回りくどいことをするのだろうか。
「弄ぶことを主眼においているようですねー」
 ただ、ただ、迷宮より這い出てきた者たちを弄ぶこと、ただそれだけが目的であるからこそ、できるだけ長く『第五の貴族』である『鳴響止酔』デルロッサが楽しめるように、悲痛と苦痛でもって己の痛みを癒やすためだけに、この迷宮を生み出したのだとしたら。

「なんという傲慢ですねー」
 奢りきっている。
 いや、それは事実であろう。猟兵単体と『第五の貴族』の力の差は歴然である。支配盤石の地において、何を恐れる必要があるというのだろうか。
 その傲慢を突くことが猟兵にとっての勝機であるということは皮肉でしかない。
『疾き者』は、己には縁遠いことであるとかぶりを振って、最深部を目指すのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
ふむ…移動すると別の場所、か。

この手の迷宮の性質は毒にも薬にも成り得るが、
戦場になる事を想定し、検証を済ませておくべきか。

(他の猟兵を一瞥し)
まあ、歩行がトリガーとなっていそうではあるが…。
余力があれば敵の気配・方角も探り
ナイフを投げ目印を残し後続に共有するとしよう

▼動
先ずは刀剣を念動力で宙に浮かせて
それを足場に移動を試す。
これはダメ元だが…

(冷静に分析しつつ)
UCで周囲の気の流れを読み、罠を避けつつ最短を進む。

葬剣を蛇腹剣や鋼糸にして
障害物に引っ掛ける移動も試しておく。

…っと、検証はこれぐらいで。
折を見て単車を出し、一気に進もう。
カーブや溝は先と同様に葬剣を変化させて対処を。

アドリブ歓迎



『死の罠の迷宮』を次々と踏破していく猟兵たちを尻目にアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は、この迷宮に付与された特性を測りあぐねていた。
 確かに『一歩を踏み出す度に立ち位置が変わる』という効果は人の三半規管を徒に振り回し、平衡感覚を喪わせるだろう。
 ただ、それだけで『死』ぬことはない。
 罠と併用すれば、確かに進撃を阻むことになるだろう。

 だが、どうにもこの迷宮を『第五の貴族』が展開したことは別の意図があるように思えてならなかった。
 他の猟兵も気がついていることだろう。
「この手の迷宮の性質は毒にも薬にも成り得るが、戦場になることを想定し、検証を済ませておくか」
 どうにもこの迷宮は『傷つける』ことが目的ではないように思える。
 ならば、本来の目的は何であるのか。
 それは猟兵たちには理解できないことであったのかもしれない。

『敵を傷つけず』に最深部まで消耗させる。
 その目的はあまりにも不可解なものであったことだろう。傷をつけることを厭うが消耗させることはさせたい。
「ならば、後続のためにも通路に目印をつけよう」
 手にしたナイフを投げ壁面に目印を付けてアネットは一歩を踏み出す。
 瞬間、視界が切り替わる。
 自分が立っていた床が横に見えた。
 重力が己の身体を床に叩きつけんとするも、即座に体勢を整えて床に着地する。
 また一歩を踏み出せば今度は天井が床に為る。

 一歩、また一歩と踏み出す度に上下左右前後にと立ち位置が変わる。
 これがこの迷宮の特性。
 ぐらりと平衡感覚が喪われていく。
「なるほどな……立ち位置が変わるのは完全にランダム。法則性などはない。これでは目印は意味を成さないな」
 確かにこれならば飛んだほうがいい。
 己の刀剣を足場に念動力で宙に浮かぶ。これならば一歩を踏み出したことにはならい。他の猟兵も試していたことであるが、これが見事に立ち位置が変わることなく迷宮を進むことができる攻略法であった。

 確かに頓智の類。
 ダメ元だと思っていたアネットにとっては以外な結果であった。ならば、残すは罠のみ。
「【無式】俯瞰ノ眼(ムシキ・フカンノメ)」
 ユーベルコードに輝く瞳が見るのは、己の周囲にある全てのモノを完全掌握し、あらゆる攻撃を予想し回避せしめる力。
 蛇腹剣へと姿を変えた刀剣で障害物に引っ掛け、振り子のように移動してもやはり、『一歩を踏み出しての移動』の条件に引っかからないのだろう。
 悠々とアネットは迷宮を踏破していく。

「人型の足が一歩を踏み出すことだけを想定しているのなら、これはあまりにも時間効率が悪い」
 大型二輪にまたがり、一気に迷宮を走破していく。
 やはり同じ進むであっても、人間の足が一歩を踏み出すという条件にかかりさえしなければ、二輪であろうと四足の動物であろうと関係ないようであった。
「あまりにも簡単すぎる。消耗すれば良し。けれど、傷一つ与えずに自身のもとに敵を届けさせようとする思惑……」
 それは『第五の貴族』という圧倒的な力を持ち、猟兵単体を凌駕するがゆえの傲慢であろう。

 自分の欲求に従うだけの存在。
 強者にはそれが赦されているというのであれば、これほどまでに傲慢さを発露できるのは、どれほどの力を持っていれば可能であると言えるのであろうか。
 どちらにせよ、『第五の貴族』を『狂えるオブリビオン』より早く打倒しなければ、さらなる強大な敵を生み出すことになる。
 それだけは避けなければならず、同時に時間の問題であることをアネットは正しく理解していた。
 だからこそ、『狂えるオブリビオン』の怨嗟が迷宮に木霊するのだとしても、それを振り切って最深部へと迫るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

牧杜・詞
司(f05659)さんと

「目に頼るから惑わされるのよ」
目を瞑って【第六感】に従っていくわ。

通路の中央……。
四面の真ん中、空間的な中央前に向かって【ジャンプ】して進むわ。

着地したらまた同じように【ジャンプ】

壁でも床でも窓でも、着地できるならどこでも構わないしね。
「蹴飛ばしたらいけないものもないでしょう?」

【足場習熟】【地形の利用】【悪路走破】も使って、
これを繰り返して進んでいくわね。

「だまし絵にだまされたくないのなら、見なければいいのよ」

通路のつきあたりがちょっと危ないけど、
そこは【第六感】と【見切り】で激突を躱せばいいかな。

「ああ、司さんごめんなさい」

まだひとりの時のクセが抜けてないみたいね


椎宮・司
【牧杜・詞(f25693)】さんと

なるほど
面倒な作りになっているみたいだ
けどまあ、死ななきゃどうとでもなるサ
詞さん……ってもう行ってるか
いやー直感で生きてる娘は速いねえ
あたいも真似するとしよう

【擬・神懸かり】使用
さて、平衡感覚が狂うって話だが
『狂うまでに突き抜けりゃ』問題ないだろ?
まず一歩踏み出して
そこからは高速移動であたいも素早く行くとしよう

平衡感覚を視界が調整しかかる前に
目の前にある床に向かって飛べばいいだけサ
着地時間を極力少なく、ひたすら跳び続ければ足場はあるんだ
最後にゃ出口に着くだろ?

変な気配がすれば野太刀から剣気を飛ばして切断

ようやく追い付いたよ詞さん
速いねえ
これが歳の差か



 猟兵とは組織の名ではない。
 ましてや統一された何かが存在するわけでもない。
 己の正体すらも不確定であり、生命の埒外の存在であることしか共通点はなく。そして、同時に彼らがオブリビオンの敵であるという一点においてのみ彼らは猟兵としての戦いに身を投じる。
 まるでそれは、それだけが戦うに足る理由であると言わしめるようでもあり、オブリビオンにとっては不倶戴天の敵であることは疑いようがない。
 ゆえに滅ぼし合うのだ。
「目に頼るから惑わされるのよ」
『死の罠の迷宮』を前にして躊躇なくその一歩を踏み出したのは、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)であった。
 彼女は瞳を閉じる。
 立ち位置を入れ替える迷宮の特性を考えれば、視覚に頼りすぎるからこそ人は平衡感覚を喪うのだと彼女は言った。

 そして同時に重力を感じる三半規管もまた、それに頼ることがないようにと彼女は一歩踏み出した瞬間に自身が今踏みしめている大地を蹴る。
 それが床であるのか天井であるのか、それとも壁であるのかはわからない。
 けれど、彼女の中の直感が、第六感が言うのだ。
 前に進めと。
 たったそれだけでいいのだというように彼女は確信を持って走り抜けていく。
 飛ぶ。まるで、羽が生えているかのように彼女は迷宮の中を飛び跳ねていく。
「蹴飛ばしたらいけないものもないでしょう?」

 踏みしめる度に、彼女の足に伝わる感触が何を示しているのかを伝える。どうバランスを取ればいいのかを彼女自身は一瞬で理解したのだ。
「なるほど。面倒な作りになっているみたいだ。けどまあ、死ななきゃどうとでもなるサ」
 そう嘯いたのは椎宮・司(裏長屋の剣小町・f05659)であった。
 彼女の眼前にはすでに詞が飛び跳ねるようにして、直感によってのみ迷宮を踏破する姿であった。
 あ、おーい、と呼び掛けてみるが詞の背中はすでに遠くなっている。
「いやー直感で生きてる娘は速いねえ。あたいも――」
 真似をするとしようと彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
 自身に身に纏うのは開放された神気である。
 擬・神懸かり(シンジルモノハスクワレル)たる彼女の足は、まるで韋駄天の如き凄まじさであった。

 彼女は言う。
 一歩踏み出す度に立ち位置が入れ替わり、平衡感覚が狂うというのであれば『狂うまでに突き抜けりゃ』問題ないという強引そのものであった。
 詞の背中を追って走る司にとって、罠は問題なかった。
 罠が作動したとしても、襲いかかる前に彼女の身体は走り抜けていた。
 それにしても、と思う。
『死の罠の迷宮』という大仰な名前が付いているわりには、あまりにも温い。
 別段取り立てて強い力で自分たちを害する気など毛頭ないようなものばかりだ。せいぜい出来てもかすり傷程度。
 この程度の罠で自分たちを止められると思っているのだろうか。
 いや、思っていない。

「こりゃあ、一杯食わされるっていうより……」
 食い物にするための下ごしらえでしかないのだと知る。
 平衡感覚を失わせる特性もそうだ。傷はつけないが消耗はさせる。そのための装置にしか過ぎないのだろう。
 司は床を蹴って、飛ぶようにして詞の背中を捕らえる。

「ようやく追いついたよ詞さん」
「ああ、司さんごめんなさい」
 すっかり忘れていたと詞は微笑む。一人で戦うことが多かったからだろうか。その時の癖がまるで抜けていないのだ。
 それでも足を止めないところが彼女らしいし、これが年の差であるのかと司は肩をすくめる。
 問題ないよと、二人は息を合わせるでもなく迷宮を飛ぶようにして踏破していく。

「だまし絵にだまされたくないのなら、見なければいいのよ」
 簡単なことよね、と詞は言ったが、それができない者のほうが圧倒的に多いからこそ、この『死の罠の迷宮』はこれまで多くの生命を飲み込んできたのだろうし、もしくは……と、司は思う。
 そう、生命を飲み込み弄ぶのがヴァンパイアというオブリビオンであるというのならば、彼女の推察は正しいだろう。
「司さん?」
「ああ、いや。なに。面倒な趣向を凝らす相手ほど理屈っぽいのかねえ、とそんなふうに思ってね」
 司は笑ったが、これより先、最深部に存在するであろうオブリビオン、『第五の貴族』を思えば、苦笑いにしかならない。

「そんなに難しい事を考えなくっても平気よ。だって、オブリビオンだって過去の化身とは言え生きているのでしょう?」
 ならば、簡単なことよと司は微笑んでいた。
 だって、と微笑む彼女の瞳は笑っていなかったかもしれない。年の差とかそんなもの以前の問題であったのかもしれないと司は感じただろう。

「生きているってことなら殺せるってことよね?」
 単純な事実を告げるような言葉は、明確な殺意でもなんでもなくただ、ただ彼女が成さねばならぬことを成すためにひた走ることを知らしめるように二人の猟兵は最深部へと降り立つのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
猟兵として戦いを始めて2年以上。
この世界に生きる人たちの抵抗は実り始め、それを抑えるために第五の貴族が辺境伯へ紋章を授けた。
潜んでいた第五の貴族が表で動きを見せたことにより、地下都市の存在を暴き、異端の神と第五の貴族の戦いも起き始めた……確実に、この世界は未来へ進んでいます。
逸る気持ちはありますが、一歩ずつ進みましょう。

気持ちを落ち着かせ、一歩ずつ歩いて迷宮を進むことに集中します。
【狙撃待機】により罠による位置入れ替えの影響は受けずに済むでしょう。

他の罠で集中が乱されては危ないですし、その時は「フィンブルヴェト」の『クイックドロウ』で罠を破壊し、また集中してから次の一歩を踏み出します。



 ダークセイヴァー世界はオブリビオン支配盤石たる世界である。
 だからこそ、猟兵達は知らなければならない。この地底都市のことを、紋章のことを。
 他の世界のオブリビオンは滅ぼすばかりで人を隷属させることをしない。世界を破壊せんとすることはしても人を弄ぶことはしない。
 ヴァンパイアというオブリビオンだけがそれをするのであれば、その隷属から解き放たれたいと願う心は人として当然の帰結であったことだろう。

 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は猟兵として戦い始めて早くも二年が過ぎようとしていた。
 いや、早いのかそれとも遅いのか。
 それを証明するのは戦いを終えた時だけであろう。
 しかし、確実に言えることがたった一つだけある。
「この世界に生きる人達の抵抗は実り始め、それを抑えるために『第五の貴族』が辺境伯へ紋章を授けた」
 その事実は、小さな一歩であっても大いなる一歩であったことだろう。
 常闇の世界に漸く灯った篝火であった。

 だからこそ、今まで姿を見せることのなかった『第五の貴族』が表立って予知にかかるようになった事実は、確実に未来へと進んでいることをセルマに自覚させたことだろう。
 今もそうだ。
『第五の貴族』と『異端の神々』の戦い。
 それはきっかけに過ぎない。これより訪れる戦いの結末がどうであれ、未来は人々の前に徐々に拓かれ始めているのだ。
 気持ちが逸る。
 少しでも早くと思ってしまうのは、隷属を強いられた記憶を持つ者にとって当然であった。

「一歩ずつ進みましょう」
 心を落ち着かせる。
 いつだって師の教えが彼女の胸の中にある。獲物を狩る時に逸る気持ちをコントロールできぬ狩り人が獲物を得ることはできはしない。
 だからこそ、セルマは息を吐き出す。
 気持ちを落ち着かせ『死の罠の迷宮』へと一歩を踏み出す。

 彼女が一歩を踏み出した瞬間、『死の罠の迷宮』の特性が彼女を襲う。
 立ち位置を入れ替える特性。
 それは一歩を踏み出すという条件をトリガーにセルマへと襲いかかる。だが、それは彼女の瞳に輝くユーベルコードの理を捻じ曲げるには及ばないものであった。
 彼女はただ己の心を落ち着かせるのみ。
 ただその一点のおいて、彼女に作用する全ての攻撃は遮断される。

『死の罠の迷宮』の効果も例外ではない。
 ただ、落ち着く。狙撃待機(ソゲキタイキ)と同じだ。没頭し、何物にも感知されぬ狙撃者として彼女は己の身に降りかかるあらゆる障害を乗り越えていく。
 これまでもそうであったように、乗り越えられない壁はない。
 どれだけ強大な存在であろうとも、滅びは必定である。
 ならば、ヴァンパイア支配もまた同様であろう。
 必ず開放する。救い出す。
 人の世に再び世界を取り戻し、陽光をこの世界に取り戻すことこそがセルマの本懐でもあったことだろう。

 己が強いられた隷属の日々。
 救われたと思った日々も、それらが壊れてしまったことも。
 何もかもが今の彼女を形作るかけがえのないものである。だからこそ、目指すのだ。誰もが陽光のもとで自由を謳歌できる日を。
 迫るトラップなど障害にはならない。
 凄まじい速度で抜き放たれるマスケット銃の弾丸が、罠を討ち貫いていく。
 その氷の弾丸は真っ直ぐに進む。
 目指すべき日々へと邁進するように。

 いつの日にか必ず訪れるその時まで、セルマは片時も歩む足を止めることはない。
 ただそれだけが彼女の成すべきことであると知るからこそ、あらゆる障害は彼女の瞳には映らないのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
『異端の神々』が憑依するオブリビオンの行動は予測困難
それが『第五の貴族』となればその脅威は未知数です
誰かにそれが向けられる前に……時間との勝負になりそうですね

マルチセンサーでの情報収集と瞬間思考力で罠の位置や作動音を見切って脚部スラスターでの推力移動による跳躍も織り交ぜつつ迷宮を疾走

己が立つ場所が入れ替わること、重力がある事を除けば故郷の宇宙船の無重力区画通路を進むような物
前後上下左右無き宇宙空間と比べれば、余程目印に富んだ環境です
(環境耐性)

迷宮の通路の情報は電子頭脳内部で俯瞰視点が如くマッピング
迷う事や常人の生身の人間のように感覚を壊されはしません

走行による小回り活かし罠を避け迷宮を踏破



『狂えるオブリビオン』には理性がない。
 言葉も届くことはない。
『異端の神々』に憑依された『狂えるオブリビオン』は、どうあってもヴァンパイアであるオブリビオンを殺そうとする。
 または殺されたとしても、必ず相対したオブリビオンの肉体を憑依という形で奪ってしまう。
「それが『第五の貴族』となれば、その脅威は未知数です」
 グリモア猟兵の言葉を思い出し、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、その脅威を試算し現状の猟兵たちでは打倒することすら不可能であることを理解する。

 ならばこそ、今回の戦いにおいて最も重要であることは進撃の速度である。
 すでに『死の罠の迷宮』に『狂えるオブリビオン』は突入している。『死の罠の迷宮』の特性に寄って、ある程度の足止めを期待出来るが、構わず迷宮事態を破壊して進む『狂えるオブリビオン』にとっては時間の問題でしかない。
『第五の貴族』と『狂えるオブリビオン』を相対させてしまうことこそが、今回猟兵たちにとって最も避けなければならないことであった。
「誰かにそれが向けられる前に……時間との勝負となるのは明白。ならば」
 脚部スラスターが噴き、迷宮の中を飛ぶトリテレイア。
 しかし、彼のウォーマシンたる機体は、完全なる飛行を可能とするものではない。だからこそ、必ず着地という一歩を踏み出してしまう。

 一歩を踏み出すことがトリガーとなって迷宮の特性である『立ち位置を入れ替える』ことがトリテレイアに適応されるのであれば、彼の鋼の擬似天眼(マルチセンサー・フルアクティブモード)はなめられたものである。
 マルチセンサーによって得られた情報は光学的なものから音の反響まであらゆる情報を拾う。
 生身の人間であれば、その情報を受け取っていたとしても脳が処理しきれずに無視することろが、彼はウォーマシンたる電脳に寄って全ての情報を処理し、平行してタスクを積み上げていく。
 超高速演算による解析によって、あらゆる行動を確実のものとするのだ。

「――視界が入れ替わる。なるほど、これがこの迷宮の特性。生身の存在であれば、確かに混乱することは避け得ぬでしょうが」
 だが、己は機械騎士である。
 この程度の視界の混乱など、周囲から伝わる音の反響で自身が今どの位置に入れ替わっているのかなど容易に判別することができるのだ。
 一瞬で、壁を蹴ってトリテレイアは跳ねるようにしてスラスターを噴出させる。

 重力が在る以上、己が進むべき道は瞬時に理解することができる。
 なにせ彼が製造された世界は前後上下左右無き宇宙空間での戦いを余儀なくされた場所であればこそ、重力という下方に引っ張り込まれる力が作用する空間においては、処理する情報が一つ減るということに保管あらない。
「よほど目印に富んだ環境です。故郷の宇宙船の無重力区画通路を進むようなもの」
 すでに経験済みの事柄において、それらを正しくフィードバックし、最適化することこそ、ウォーマシンの本懐である。

 俯瞰した情報によって迷宮のマッピングを的確に記し、トリテレイアは一気に踏破する。
 迷うことも、平衡感覚を喪うこともない。
 生身の人間ではないからこそできることがある。
 できることを舌だけの話である。地面を蹴って、またもや入れ替わる立ち位置。しかし、即座にスラスターで制動を掛け、トリテレイアは飛ぶ。
「時間短縮、最適解ルートの選出。あえて言わせて頂きましょう。イージーであると」
 トリテレイアは罠をも避け踏破していく。
 多くの猟兵がたどった道筋。 
 そして、最深部に待ち受ける『第五の貴族』、『鳴響止酔』デルロッサの持つ『炎の紋章』が燦然と輝く光に導かれるようにしてトリテレイアは、降り立ち、そのアイセンサーの輝きで持って猟兵の成すべきを成さんと迫るのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『鳴響止酔』デルロッサ』

POW   :    従え
【翼の炎】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
SPD   :    捧げよ
【静寂を憎む暴虐】を解放し、戦場の敵全員の【希望の声】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ   :    躍り狂え
自身が装備する【炎の尾】から【絡み付く燃える茨】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【激痛】の状態異常を与える。

イラスト:香

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はエンゲージ・ウェストエンドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 じくじくと火傷の痕が痛む。
 その炎の痕を恨むわけでもなければ、厭うわけでもなかった。
 むしろ、『第五の貴族』――『鳴響止酔』デルロッサは喜びに満ち溢れていた。そう、幸せを感じるためには正しく己に『負荷』を掛けなければならない。
 この火傷の痛みは『負荷』なのだ。
 強大な痛み。
 常人であれば発狂してしまうほどの火傷の痛み。ヴァンパイアとしての肉体でもっても、再生できない痛みは、彼に苦痛を常に与えるものであったが、同時に幸福をももたらすのだ。

「ぐるりと取り替えられる視界を楽しんでいただけたかな……なんてわけじゃあねえか。そうだよな。まあ、そうだよ。あんなチンケな罠で消耗するやつには興味はねえよ」
 だって、そうだろう。
 強敵であれば強敵であるほどに万全な相手と戦いたい。
 智慧も技量も、肉体も精神も、全てにおいて強靭な相手の苦痛と悲鳴こそが、この火傷の痛みを癒やしてくれる。

 それだけ彼の喜びであった。
 ゆえに『鳴響止酔』。
 穏やかな心を得るためには、狂気に満ちた心もまた必要なのである。
「だが、その点お前らは十分すぎるほど合格点だよ。ああ、それもこんなにたくさんやってきてくれるとは。今日は酔い日だ。己の幸福に酔う日には最高の日だな」
 燃える胸の『炎の紋章』が彼の火傷の痛みに比例して力をましていく。
 もとより強大な存在である『第五の貴族』としてのデルロッサの力が、さらに膨れ上がっていく。

 苛烈な炎が翼と尾となって噴出し、凶悪なるプレッシャーを猟兵たちに与えるだろう。
 暴虐の徒にほかならぬデルロッサにとって、戦い、他者の痛みと悲鳴こそが己の身体の痛みを癒やす唯一の幸福。
「たまらないな。わざわざお前らは俺にやられるために、こんな地底都市くんだりまでやってきてくれたんだよなあ……感謝してもしきれねえ!」
 一歩を踏み出す度に、目の前のデルロッサの重圧がましていく。
『炎の紋章』の力だけではない。
 その力の源泉たるは、デルロッサの歪んだ悟りそのもの。
 己のために他者の一切合財を捨てさせる巨大な力は、今、傲慢なる炎となって猟兵たちを襲うのだ――。
村崎・ゆかり
『第五の貴族』ね。いつもならこれを討滅して終わりだけど、今回はこの後が控えている。余分な消耗は出来ないわ。

「結界術」「全力魔法」酸の「属性攻撃」「範囲攻撃」「仙術」「道術」で、紅水陣を展開。
紋章ごと、全身を酸で溶かしていく。

炎の尾から放たれる茨は薙刀で絡め取って。そもそも強酸に蝕まれた状態じゃ、万全の力は発揮出来ないわ。
「環境耐性」で自身を守りながら、あたしも陣の中へ。逃がさないよう、薙刀で白兵戦を挑む。「なぎ払い」「串刺し」にして、体力を削っていくわ。
そうでもしないと、すぐに陣から脱出されちゃう。
出来れば紋章を「串刺し」にしたいわね。

強者との戦いに燃えるのも結構。でも、それは今日で終わりよ。



『第五の貴族』――それは言うまでもなくダークセイヴァー世界における、これまで猟兵たちが出会ってきたヴァンパイアの中でも特筆すべき強敵であったことだろう。
 紋章の力。
『辺境伯の紋章』、『番犬の紋章』と続く彼らが持つ紋章の力は、あまりにも強大であった。
『鳴響止酔』デルロッサの持つ『炎の紋章』もまた同様である。
 胸に燦然と輝く炎のゆらめきは青から紫に。
 そのゆらめきこそが彼の力の源であると同時に、彼の身を絶えず焼き、火傷の痛みに寄って力を増幅させるものである。
「楽しませてくれよ。せっかく無傷で此処まで連れてきてやったんだ。早々にリタイアなんてことになったら、俺の気持ちは不完全燃焼過ぎてどうしようもねえからな!」
 吹き荒れる炎の尾がのたうち、炎の茨を解き放つ。
 それは絡みつき、人の肉を絶えず焼き続ける激痛を与えるものであった。

 放たれた炎の茨が張り巡らされた結界術によって防がれるも、すぐにヒビが入ったことに村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は驚愕したことであろう。
 全力であったし、仙術によって強化された結界は並のオブリビオンでは砕くこともできないものであった。
 しかし、目の前の『第五の貴族』は猟兵を遥かに上回る力の持ち主である。
 この後に控える『狂えるオブリビオン』との戦いを考えれば余分な消耗は控えるべきと考えた彼女にとって、それは誤算であったかもしれない。
「この後が控えているっていってもね――古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。魂魄までも溶かし尽くす赤き世界よ、我が呼びかけに応え、世界を真紅に塗り替えよ。疾っ!」

 瞳がユーベルコードに輝く。
 真っ赤な血のような雨が戦場を包み込み、その強酸性の雨でもってデルロッサへと降り注ぐ。
 雨を振り払うことができうぬように、ゆかりの紅水陣(コウスイジン)もまた防ぐことはできなかったことだろう。
 あらゆるものを腐食させる赤い靄は、その環境に適応したものでなければ、常に後手に回ってしまう。
 放たれた炎の尾を薙刀で絡め取り、ゆかりは叫ぶ。
「強酸に蝕まれた状態じゃ、万全の力は発揮できないわよね!」

 ゆかり自身が敷いた陣の中に引きずり込む。
 だが、それは引きずり込んだのではなく、デルロッサが踏み込んできたのだと、ゆかりは知る。
「万全? 万全ってえのはよ、痛みを感じない状態だってえのなら! 俺は今ずぅっと万全じゃあねえよ!」
 そう、常に火傷の痛みに寄って『炎の紋章』の力は増幅する。
 今更強酸性の雨によって身体が蝕まれたとしても、その肉体が発露させる力はまるで蝋燭の炎が消え失せる前に力強く燃え盛るようなものであった。

 振り放たれる拳の一撃が炎を伴ってゆかりへと放たれる。
「く……! 紋章の力ってわけ! 痛みを力に変える!」
「そういうことだよ。俺ぁな、痛みを負荷に変えて、今まさに幸福を感じているんだぜ? 俺が痛みを感じれば感じるほどに幸福を感じる。お前ら猟兵をいたぶることができるっていう幸福をな!」
 放たれた拳を薙刀で受け止めるゆかり。
 軋む骨と肉。
 薙刀の柄がたわみ、へし折れそうなほどの拳の一撃を受け止めながらゆかりは走る。
 体力を削る。
 削り取らねばならない。どれだけ『炎の紋章』が強力であろうが、デルロッサの体力は無限ではない。

 この強酸性の雨だって効いていないわけではないのだ。
 ただ、痛みによって力が増している状態。
 一瞬でも気を抜けば、即座に己の胴に穴が開くほどの一撃をまるで牽制の一撃のようにデルロッサは放ってくる。
「強者との戦いに燃えるのも結構。でも、それは今日で終わりよ」
 守れば負ける。
 ゆかりは瞬時にそう悟った。
 少しでも受け身になった瞬間にデルロッサの拳は己を貫くことを予見する。ならば、如何にするか。

 そう、攻めるしかない。
「終るものかよ。これだけの負荷だ。どんな幸福の光が俺を照らしているかわからない。そうだ、その顔だよ。そういう顔が――!」
 デルロッサは当然ゆかりの瞳が曇ることを期待していたのだろう。
 強者の苦痛と悲鳴、そして絶望に歪む顔こそが、己の火傷の痛みを癒やしてくれる。
 
 だが、ゆかりの瞳は未だユーベルコードに輝いていた。
 後続に続くであろう猟兵たちのために今はわずかでもデルロッサの体力を削らんとする彼女の戦いに絶望はない。
「絶望なんてしない。猟兵の戦いは常に不利と紡ぐ戦い。どれだけ強敵であっても――」
 今更、絶望したりなんてしないと、ゆかりは薙刀の一撃を持って己の信念を貫くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK

ドSなのかドMなのかわからない奴だな
自分好みの変態プレイに付き合わせる人を選り好みするとか迷惑でしかないよ、ホント

WIZで
と言うかこの相手、私との相性最悪でしょうね
燃やして喜ぶとか、流石に初めての相対です
こうなったら、大ダメージを狙うのではなく、関節を怪我させて、後の仲間が隙を付ける一助となれば幸いかな
出来るだけ茨は斬り払って進むけど、傷はもう諦めて行く

しかしあれだね、結局の所、第三者がいて初めて満たされるんだから、こいつ、結構寂しがり屋の構ってちゃんだね?
案外、人間らしい



「フハハハッ!! いいぞ、いいぞお前達! やはり、こうじゃなくっちゃあな! 戦いっていうのは、悟りの戦いというのは!」
『第五の貴族』、『鳴響止酔』デルロッサは叫んだ。
 猟兵たちの技量は、今まさに『第五の貴族』にも迫ろうとしているものがあった。
 しかし、どうあがいても単体での戦闘力は未だ『第五の貴族』に分があった。その如何ともし難い差を埋めるのは一体何か。
 意志か、精神か。
 それともユーベルコードか。

 燦然と輝く『炎の紋章』がデルロッサの胸に揺らめく。
 炎は彼の身を苛む火傷の痛みによってさらなる力を与え、噴出する炎の尾が猟兵たちを狙う。
 放たれた炎の茨が肆陸・ミサキ(独りの・f00415)に突き刺さり、その身を焼き焦がす。
 激痛が走り、ミサキは眉をしかめたかもしれない。
 けれど、彼女は何も放り投げたりはしなかった。
「まったくもって初めての相対です。燃やして喜ぶとか……ドSなのかドMなのかわからない奴だな」
 ミサキの瞳がユーベルコードに輝き、ヴァンパイア化した両腕から爪が鋭く伸びる。

 互いの拳が打ち合う度に骨がきしみ、肉が焼け焦げる。
 痛みが互いの力を引き出していくというのならば、ミサキとデルロッサの相性は最悪そのものであった。
「どうした! あぁ!?」
「いや、自分好みの変態プレイに突き合わせる人を選り好みするとか迷惑でしか無いよ、ホント」
 ミサキはこのまま打ち合っていては拉致があかぬと判断して、敵に大きな痛手を与えることを諦める。

 どれだけ強烈な一撃を放ったとしても、敵はその痛みの度に力を増していく。
 それが『炎の紋章』の力であるというのならば、一気に攻撃を仕掛けて下手に生き残られる方が問題である。
 ならば、自分が出来ることはなにか。
 ミサキは考えるまでもないと走る。
「全く忌々しいな、本当に」
 スカー・クロウの一撃が振りかぶられたデルロッサの尾の一撃をかすめながら、間合いを詰めて打ち込まれる。

 それは痛烈なる一撃とはならぬ一撃であった。
 狙っていたのは関節部。
 後に続く仲間たちが付け入る隙となるためにミサキは己の身を犠牲にしてでも、デルロッサの消耗を狙うのだ。
「みみっち真似してくれやがって! それじゃあ意味がねえだろうが。全身全霊で、ぶつかってこそ気持ちいいはずだ」
 デルロッサの咆哮と共に圧力が増す。
 しかし、ミサキは構わなかった。

「誰が変態プレイなぞに付き合うものか。そういうのは独りよがりっていうんだ。誰もが心の中の世界が燃えている。誰の心にも地獄がある。けれど、それを癒やすために誰かを利用するというのなら――」
 ミサキは踏み込む。
 己のヴァンパイア化した両腕から伸びる爪が炎の茨を払いながら進むのだ。
 打ち込まれた尾の一撃一撃が重たい。

 血が噴出し、骨が軋む。
 皮膚が焼けるし、痛みはもう己の意志ではどうにもならぬところまで来ている。
 そう、デルロッサは寂しがり屋の構ってちゃんだと、ミサキは持った。
 デルロッサの欲望は第三者が居て初めて満たされるものである。
 ならば、彼はきっとそういうものなのだろう。

「それは哀れだって、憐れんであげるよ」
 憐憫の情。
 それはきっとデルロッサは向けられたことのない感情であったことだろう。
 何を、と不意に揺れる彼の顔を見てミサキはわかってしまった。
「ヴァンパイアだ、なんだと言いながら、案外、人間らしいな――」
 放たれた爪の鋭き突きの一撃がデルロッサの肩を貫き、ミサキは己の身に刻まれた無数の傷と引き換えに、彼の腕を一本使い物にならなくさせたのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
期待も感謝も勝手ですが、あなたの望むようにはならないかと。
わざわざ応える理由がありませんし……私の技は、あなたに対して極めて相性がいい。

【大いなる冬】を使用、炎の紋章が生む炎を無力化し、さらに敵を凍てつかせる冷気の『属性攻撃』によって火傷した部位を凍てつかせることで一時的に火傷の痛みを緩和します。
火傷には冷却を。この世界の子供でも知っています。

燃えながらでも絡みつけるくらいの生命力があるようですし、この冷気の中でもすぐに枯れはしないでしょうが残るはただの茨。
「フィンブルヴェト」の銃剣で切り払い、射線が開いたら『スナイパー』の技術と氷の弾丸でデルロッサの胸部にある炎の紋章を撃ち抜きます。



 己の上がらなくなった片腕を見やり、『鳴響止酔』デルロッサは笑っていた。
 激痛が己の身体を走っているだろうに、それでも彼は笑っていた。狂気していた。ヴァンパイアである彼にとって、これほどまでに痛烈なる打撃を受けることは、これまでそう多くはなかった。
『第五の貴族』と呼ばれるヴァンパイアであれば、なおのことであろう。
「いい……実にいい! アハハ! いいじゃねえか! やるじゃあねえか! なあ!」
 動かぬ片腕は少しでも動かせば激痛が走るだろう。
 しかし、彼の胸に輝く『炎の紋章』は痛みを力に変える。

 関節部を貫かれた腕を無理矢理に動かす痛みは想像を絶するものがあっただろうが、彼にとっては関係のないことであった。
「期待が持てる。これだけの相手、これほどの相手! ああ、確かにお前たちは強く正しいのだろうよ。だが、それでこそだよ!」
 強く正しければ、それだけで極上である。
 そんな者たちが折れて傷つき、苦痛と悲鳴をあげる姿こそがデルロッサの望み。
「期待も感謝も勝手ですが、あなたの望むようにはならないかと」
 そうつぶやいたのは、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)であり、デルロッサより噴出する炎を前にしても一歩も退くことはなかった。

「なんでだよ、望み通りにしてもらうぜ。それが俺が俺であるための唯一なんだからよ」
『炎の紋章』から溢れる力は凄まじき、炎の熱波は対するセルマの肌を焼くだろう。
 だが、彼女の肌は焼かれることはなかった。
 そう、彼女は言う。
「わざわざ応える理由がありませんし……」
 デルロッサはおかしい、とようやくにして気がつく。
 彼の放つ炎の熱波は確かにセルマに届いていたはずだ。だが、セルマは悠々として泰然自若。
 怯むこともなければ熱波に歪む表情すらなかった。
 余裕そのもの。なんだ、こいつは、とデルロッサは己の望むものではない表情を浮かべるセルマに苛立つ。

「私の技はあなたに対して極めて相性がいい――手短に済ませましょう」
 大いなる冬(フィンブルヴェト)。
 セルマの瞳がユーベルコードに輝き、その身体から敵を凍てつかせる冷気が放出され続け、戦場にある炎や光熱そのものを無効化するのだ。
 しかし、そのユーベルコードの代償はセルマの生命そのもの。
 ゆえに、セルマは踏み出す。

 一歩を踏み出した瞬間、放たれたデルロッサの炎の尾を躱す。
 絡みつく炎の茨を踏み出しにしてセルマは飛ぶ。
 一瞬で氷漬けにされた茨は足場に。己を見上げるデルロッサの瞳から喜悦が失せるのをセルマは見た。
「ふざ――けんじゃね――!!」
 己の望んだものではない結果。
 他者の苦痛と悲鳴だけがデルロッサを癒やす。
 ならば、この現状は彼の望むものではなかったことだろう。『炎の紋章』の力は、彼の火傷や苦痛によって成り立つ力。
 セルマの放つ冷気は、尽くを冷却し続ける。
「火傷には冷却を。この世界の子供でも知っています」
 痛みが緩和されているがゆえに『炎の紋章』は輝かない。

 銃剣『アルマス』で迫る茨を斬り裂きながらセルマはデルロッサへと迫る。
 いや、射線が開ければそれだけでいいのだ。迫りくる茨の数々を斬り裂き、彼女の瞳に映ったのは紛れもなくデルロッサの憤怒なる表情であった。
 一瞬の射線。
 しかし、その刹那であってもセルマにとっては十分すぎる時間であった。

「私を前に逃げなかった勇気を蛮勇と呼びましょう。履き違えた欲望は、氷漬けにさせて頂きます」
 マスケット銃のスコープに覗く存在は唯一。
 そう、獲物でしかない。引き金を引いた瞬間、放たれた氷の弾丸は狙い過たずに駆け抜け、デルロッサの『炎の紋章』の中心を撃ち貫き、彼の胸に癒えぬ銃創を刻み込むのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
第五の貴族、か。
話には聞いていたが実際に相対するのは初だな。

…だが、俺も今を生きる武人の一人だ。
ここで苦戦をするようでは先に往った者達に顔向け出来ないからな。

素の力量で格上と言うなら、
胸を借りるつもりで挑むとしよう。

普通に考えれば炎には氷だが…ふむ。

▼動
予め葬剣をコートにして装備。

先ずは晶剣あたりで攻撃し敵の炎が来たら盾代わりに。
武器の制御が利かない時は換装も視野に入れておく。

【洸将剣】で書架の王の時間凍結氷結晶を模倣

氷属性と相殺の力を己と残った刀剣に込め、
念動力で一斉投射しながら連続剣戟で攻めよう。

余力があれば被弾を覚悟の上で
(葬剣を戻し)カウンターの貫通攻撃で紋章を狙おう。

アドリブ歓迎



 氷の弾丸に寄って『炎の紋章』輝く胸を撃ち貫かれた『鳴響止酔』デルロッサは、痛みにあえぐでもなく笑っていた。
 愉快極まりないと痛みに悶えるように胸をかきむしる。
 穿たれた空洞は痛みを彼に与えただろうが、噴出する炎が痛みを力に変える。
 凄まじい重圧は『第五の貴族』であることを差し引いたとしても凄まじいものだった。
「『第五の貴族』、か。話には聞いていたが実際に相対するのは初だな」
 アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)は胸を穿たれてもなお立っているデルロッサの姿を見た。
 人の形をしているが、人とは決定的に異なる存在。
 オブリビオン、ヴァンパイア。
 その力の強大さは言うまでもないだろう。
 だが、ここでアネットは退くことはない。

「なんだあ? ブルっちまってんのかよ、なあ、猟兵! これからだ! これからが一番のお楽しみだろうがよ!」
 噴出する炎の翼が広がり、戦場となった迷宮の最深部を高熱で包み込んでいく。
「……俺も今を生きる武人の一人だ」
 アネットは静かに儀礼剣を手にデルロッサと対峙する。噴出する炎の翼が放たれれば、受け止める。
 しかし、剣がガタガタと震えるのを見てアネットは炎を振り払ってから大地に剣を突き立てる。
 武装の制御を奪われる。

 それはアネットにとっては脅威であったことだろうが、さしたる問題ではなかった。
「ここで苦戦をするようでは先に往った者たちに顔向けできないからな……」
「ならよぉ! どうするよ!」
 迫るデルロッサ。
 個体としての能力の差は歴然であった。格上と呼ぶに相応しき力の発露。踏み込み、膂力、どれをとってもアネットよりも数段上であろう。
 これが世界を支配するオブリビオンの、ヴァンパイアの力であると知る。
 だからこそ、アネットは踏み込む。
 目の前の敵が格上であるというのならば、胸を借りるつもりで挑むのが武人としての心得であったのならば、アネットは正しく武人であると言えるだろう。

「【碌式】洸将剣(コウショウケン)」
 短くつぶやいた瞬間、彼の想像するのは、書架の王の力。
 普通に考えれば炎には氷である。先行した猟兵が見せたように火傷には冷却が常であるように炎には氷である。
 ならばこそ蒼氷に包まれた書架の王を思い描く。
 それは時間凍結氷結晶。彼のユーベルコードはそれを模様し、想像する。
 手にしたのは創造されし氷晶剣。己の武装全てに凍結の力をもたらし、念動力で一気に射出する。

 それは弾丸のように迫るデルロッサを迎撃するも、デルロッサもまた己の拳と尾でもってこれを撃ち落とし続けるのだ。
 まるで剣戟のような音が周囲に響きわたる。
 頑強なるデルロッサの拳は凍結の力を持ってして漸く『炎の紋章』による強化の力を削ぎ落とすにとどまる。
「生温いんだよ!」
 穿たれた胸から噴出する血潮を撒き散らしながら、デルロッサは笑っていた。狂気と言ってもいいほどの笑い声を上げながら、アネットに迫る姿は、彼がどこまでいってもヴァンパイアであることを知らしめる。

「ただいたずらに力を振るうだけであるというのなら、それはただの力だ」
 武ではない。
 己を武人であると定義するのであれば、その力こそを止める。
 そうすることが武であると言わしめるようにアネットは振り下ろされる拳を額で受け止め、距離を詰める。
 脳が揺さぶられる。けれど、構わなかった。
 念動力によって打ち出された氷晶剣がデルロッサの放った拳、その腕を串刺しにし、手にした銀翼刻まれし剣でもってデルロッサの胸を袈裟懸けに両断せしめる。

「ただの力であれば止められぬ理由などないよ――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』
武器:漆黒風、四天刀鍵

私との相性が最悪のようなー?
ですが、あとを考えると私が最適なんですよねー。
陰海月、今は影に待避しなさいな。燃えてしまいます。

【四悪霊・『解』】。相手も似たようなものを使いますから、運はとんとんですかねー?
ただ、私の方は生命力吸収しますけら、そこで差をつけられれば。

悲鳴はあげませんよ。誰があなたを癒しますか。
私はただ、風の結界術で己を守り、関節狙いで漆黒風を投擲し、四天刀鍵で打ち払うんですよー。
ああ、四天霊障にて内部三人も援護してくれてます。

ああ、本当にやりにくい相手ですねー。



『炎の紋章』輝く胸を両断した斬撃の一撃が咲かさせるのは血潮の華であった。
 しかし、『鳴響止酔』デルロッサはまだ笑っていた。
 耐え難い痛みを受けながら、悲鳴をあげるまでもなく笑っていたのだ。
「アハハッ! いいぞ、ここまで追い詰められるなんて、どれくらいぶりだ? ああ、夢心地とはこういうことを言うんだろうな!」
 火傷の痛みなんか比ではない。
 鋭い激痛が身体を走り抜ける。デルロッサは、それらを力に変えるように『炎の紋章』を輝かせる。

 重圧はとどまるところを知らず、デルロッサが追い詰められれば追い詰められるほどに力が増していくのを猟兵達は感じていただろう。
 これが『炎の紋章』の力。
 傷の痛みを力に変える炎の力。
 それは苛烈そのものであったし、しかし傷を与えねば打倒もできぬ相手となれば消耗戦に引きずりこむことも難しい。
「私との相性が最悪のようなー?」
 馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中の四柱、その一柱である『疾き者』は、自身たちとの相性の悪さを感じていた。

 静寂を憎む炎は、周囲の幸福を奪っていく。
 負荷によって幸福が得られるというデルロッサの言葉を信じるのならば、今まさにデルロッサは幸福の絶頂にいるのだろう。
 悪霊である『疾き者』たちにとって、これほどまでに相性の悪い存在もないだろう。しかし、それでも後のことを考えれば己が最適であると判断したのだ。
「陰海月、今は影に待機しなさいな。燃えてしまいます――四悪霊・『解』(シアクリョウ・ホドキ)」
 己が悪霊なりということを示すように戦場に満ちる幸福を奪っていく。
 それが『疾き者』のユーベルコードであり、封じてきた呪詛の力であった。

 互いの幸運を奪い合う戦いは拮抗していた。
「似たようなものを使うんだなあ! だがよ、拮抗しているってんなら!」
 残るのは単体としての力の差である。
『第五の貴族』と呼ばれるヴァンパイアと個としての猟兵。
 その力の差は紋章の力、ユーベルコードの力を抜きにして考えるのであれば、歴然であった。
 しかし、『疾き者』は悪霊である。
 ならば、その身に宿すのは生命を吸収し我がものとする呪詛の力である。
「悲鳴を上げてくれよ! なあ!」
 振るわれる拳を受け止めた刀剣が軋む。
『疾き者』は歯噛みしたが、それでも受け止められたこと事態が幸運であった。力の差は歴然であれど、その生命を吸収する力があればこそ、ここで互角に戦えるのである。

「誰が。悲鳴はあげませんよ。誰が貴方を癒やしますか」
 放たれる棒手裏剣がデルロッサへと突き刺さり、結界を持ってデルロッサの接近を阻む。
 内なる三柱たちも援護をしてくれているが、ここまでジリ貧であるとは思いもしなかったことだろう。
 だが、負ける道理はない。
 どれだけ強大な存在であろうと、あちらはたった一人である。

 対する自分たちは四柱。そして陰海月だっている。
 ならば、負ける道理はないのだ。
「いいぜ! そういうのが欲しいんだよ! 俺は! そういうやつこそ、叩き折り甲斐があるからよお!」
 振り下ろされる拳を受け止め、じわじわとデルロッサの生命力を吸収する。それはデルロッサにも気が付かぬほどの僅かなものであったが、確実に彼を消耗させているのだ。

「ああ、本当にやりにくい相手ですねー」
 互いのユーベルコードによる拮抗。
 それは他の猟兵にはできぬ力であったことだろう。その一点において『疾き者』はデルロッサを食い止め、これ以上の力を得ることを防いでいた。
 紡ぐ戦いが猟兵の本分であるというのならば、『疾き者』はこれを正しく果たすべく、後に続く者たちのために力を振るい、己たちの封された呪詛を解き放ち続けるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

牧杜・詞
司(f05659)さんと

『強敵と万全な相手と戦いたい』のは、
なにもあなただけではないわ。

だって殺しあいは、全力だから楽しいのだもの。

わたしはあなたを殺すために、ここまできたの。
殺していい存在になってくれて、こちらこそ感謝だけれど、
それは終わってからにしましょう。。
感謝できるのはどっちなのか、とても楽しみね。

【新月小鴨】を使って【命根裁截】で炎の紋章を狙い。

……さすがの速さと重さね。

相手の攻撃を弾きながら戦っていたら、
司さんの攻撃があたるように……?

連携なんて上等なものじゃないけど、
これを卑怯なんて言わないわよね。

肌くらいなんてことないけれど、
わたしのは避けてね。触ると命、持っていかれるわ。


椎宮・司
【牧杜・詞(f25693)】さんと引き続き

さて…悲鳴が好きな吸血鬼ってどこの眼鏡黒髪おっぱいなのか
あたいにゃわからん趣味だよ
敵なら叩っ斬るだけサ!

詞さんとコンビネーション
…ってガラじゃあないんだよなあ、あたいも詞さんも
だから野太刀を引き抜いて詞さんとは逆側から仕掛ける
刃が当たらない距離で一緒に仕掛ければ
それっぽい連携になるだろ?

翼の炎が命中した時には破魔込めた霊符で抵抗
詞さんに当たった時はさくっと肌の皮一枚を斬り付ける
「悪いね、綺麗な肌斬っちまって」
お詫びに後で奢るよ
意識を逸らす手助けにはなったかい?

ハハ、そう言われると気になるけれども
まずはコイツを仕留めようか
【剣小町の極み】かわせるかい!?



『鳴響止酔』デルロッサの哄笑が響きわたる。
 戦場に静寂など決して赦さぬと哄笑だけが響く。猟兵と戦い、傷つけば傷つくほどに胸に輝く『炎の紋章』の力は増していく。
 重圧はほとばしり、炎が渦となって満ち溢れる。羽撃く翼は青紫の炎を撒き散らし、あらゆる障害を吹き飛ばすには十分すぎるほどの力を持っていた。
「やはり強敵との戦いは心が癒やされる。肉体の痛みなど負荷にしかすぎない。この幸福、この充足。何もかもがお前たちが俺に与えてくれたものだ!」
 叫ぶデルロッサの肉体は猟兵たちの攻撃に寄って消耗し、傷跡を増やしている。

 しかし、身にまとう重圧は戦い始めてからずっとボルテージが上がるように上がりっぱなしでとどまるところを知らない。
「悲鳴が好きな吸血鬼って……あたいにゃわからん趣味だよ」
 椎宮・司(裏長屋の剣小町・f05659)はかぶりを振った。
 だってそうだろう。
 悲鳴を聞いて身がすくむことはあっても、心が奮えることはない。
 だというのにデルロッサはまるで真逆のことうぃうのだ。理解できないし、理解したいとも思わない。

「万全な相手と戦いたいのは、なにもあなただけではないわ」
 だって、と牧杜・詞(身魂乖離・f25693)は放たれる重圧を受け流すように前へ一歩を踏み出した。
 そう、彼女にとって殺し合いとは。
「全力だから楽しいのだもの」
 降りかかる重圧をものともしないのは、彼女もまた今という現状を楽しんでいるからだ。
 どうにもわからないなと司はつぶやく。
 やっぱり年若いものとのジェネレーションギャップというものなのだろうかと思う。けれど、それは詞であるからこそであろうと納得し詞の背中を司は見送る。

 互いの得物は短刀と野太刀。
 共に並び立つには互いの得物のリーチが違いすぎる。コンビネーションという柄ではないことは互いに理解しているし、司は構うことをしていなかった。
「楽しいよなあ、猟兵! 戦いはこうではなくてはならんよな!」
 振るわれる短刀を躱し、炎の潰さが司へと襲いかかる。
 だが、それらを躱し舞い踊るように詞は言葉を紡ぐ。
「わたしはあなたを殺すために、ここまできたの。殺していい存在になってくれて、こちらこそ感謝だけれど……それは終わってからにしましょう」
 微笑むまでもない。

 互いの意識は似通っているようで居て、あらゆる谷よりも深い隔絶した溝があるのだ。相容れることはない。理解しあうことなどできない。
 彼女とデルロッサの間でできることはたった一つ。
 そう、死合うことだけだ。
「感謝できるのはどっちなのか、とても楽しみね」
 拳と短刀がぶつかり合う。
 さすがの速さと重さであると詞は理解する。これが個体としての力量の差。一瞬で片がつかないのは猟兵の力がオブリビオンに迫っているからであろう。
 命根裁截(ミョウコンサイセツ)。
 
 彼女の振るう短刀の斬撃は生命だけを傷つける。
 肉体は傷つけず、その生命だけを切り裂く刃となっているのだ。そこへ司の斬撃がデルロッサに振り下ろされる。
 しかし、それらを躱す速度が未だデルロッサには健在であった。
 炎の翼が詞に触れ、彼女の意識を奪い去ろうとした瞬間、司が放った霊符が炎を散らす。

「おっと――! 悪いね、綺麗な肌を斬っちまって」
 野太刀の斬撃が薄皮一枚で詞の肌を切り裂く。血が吹き出すこともない。正真正銘の薄皮一枚の斬撃であった。
 しかし、詞はかまわなかった。
「肌くらいなんてことないけれど、わたしのは――」
 避けてね、とおぞけも走るほどの美しさで詞の唇が紡ぐ。触れると生命を持ってい帰れるとささやく唇の前に司は奮い立つ。

「ハハ、そう言われると気になるけれども。まずはコイツを仕留めようか――!」
 詞の短刀がデルロッサを釘付けにする。
 互いに致命傷にならぬ攻撃の応酬。しかし、確実にデルロッサを追い詰める生命のみを傷つける斬撃は『炎の紋章』の力とは相性の悪いものであったことだろう。
 どうしたって、消耗させられてしまう。
 あら、と詞は気がついた。

 漸く動きが鈍くなってきた、と。
「チッ……痛みも負荷もねえ攻撃なんぞに!」
「そうは言っても。これを卑怯なんて言わないわよね?」
 ぎしり、と空気が軋んだ気がした。
 詞もデルロッサもそれを感じたのだ。

「ハッ――! これを躱す減らず口が残っていたらいいがね!」
 軋む空気の源は野太刀を構えた司の輝くユーベルコードであった。
 曰く、剣小町の極み(サイコウノイチゲキ)。
 その斬撃は彼女の啖呵と共に放たれる。一刀両断の斬撃の一撃は空気も炎も、何もかもをも切り裂いて進む一撃。
 かわそうと考えたとしても、その一瞬を知らぬデルロッサにとって、不可避なる攻撃であったことだろう。

 空気が軋むほどの重圧を持って放たれた一撃を詞はひらりと躱す。もとより自身を狙ったものではないことは百も承知。
 しかし、その斬撃はともすれば詞ごと斬り裂き兼ねない斬撃の一撃であった。
 司が詞を信じるように、詞もまた司の斬撃を見送る。
 その一撃ならば十分であると詞はうなずくのだ。
「これが今のあたいの天辺だ! 持ってきな!」
 放たれた一撃がデルロッサの胴をは薙ぎ払い、その肉体へと一文字の斬撃を見舞い、不快な哄笑は送れて響く音速を超えた斬撃の轟音にかき消えるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
己が快楽の為に痛みを得る…私達の価値観は完全に相容れないようですね
貴方と『異端の神』…どちらが勝利しようと危険な事に変わりなし
討たせて頂きます

翼の炎を大盾で防ぎ…!?

瞬間思考力によるハッキングで己の演算に素早く電子防壁構築し盾受け
相手のUCクラッキングによる片腕の自壊行動を阻止

…厄介な
ですが!

先端をアーム状に変形させたワイヤーアンカーを素早く展開
物資収納SのUCを掴み炎の翼を避ける軌道で投擲し騙し討ち

それは本来、その最期を少しでも安らかな物にする為に他者の痛み取り除く刃
貴方に相応しくはありませんが…皮肉なものです
鎮痛剤と火傷の治療が効いているようですね

弱体化したデルロッサを近接戦闘で追撃



 剣が空気の壁を切り裂いた轟音が地底都市の迷宮、その最深部に響きわたる。
 それは雷鳴のようであり、同時に『第五の貴族』であるデルロッサの胴をなぐ一撃であったことをトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)のアイセンサーは捉えていた。
 しかし、それで終わらぬからこそ『鳴響止酔』デルロッサである。
 その胸に輝く『炎の紋章』は未だ潰えず。
 降りかかる重圧はさらなる痛みをもって吹き荒れるように。
「己が快楽のために痛みを得る……私達の価値観は完全に相容れないようですね」
「ああ、そうだろうな。だが、これもまた一つの真理だよ、猟兵。何も間違っては居ない。負荷なく幸福を、快楽を得ようとする行いはただ自堕落にするだけだ。生命とは得手してそういう存在なんだから、よぉ!」

 デルロッサの背から噴出する青紫の炎がトリテレイアへと襲いかかる。
 それを大盾で防ぎ、トリテレイアは一直線にデルロッサへと迫るのだ。だが、その炎を防いだ大盾がひしゃげ己の手から弾け飛ぶようにして宙を舞って大地へと落ちるのをトリテレイアは見た。
 不可解な現象であった。
 確かに炎は防いだ。己のマニュピレーターの動作がおかしかったわけでもない。 
 だというのに、己の大盾はひとりでに、そう、まるで意志を持ったかのように己の手から離れたのだ。
「……これが貴方の炎の力というわけですか」
 瞬時にトリテレイアは己の演算を行う電脳に電子防壁を構築し、ひしゃげた盾を諦めスラスターを噴出させる。

 あのまま電子防壁を構築しなければ、己の腕までもが自壊するところであった。
「そうだ。俺の炎に触れたものは全て俺の味方だ。素敵だろう。自分の思い通りならぬ身体に悲鳴を上げる姿は、俺の痛みを癒やしてくれる。それがたまらなく――」
 心地よいのだと、陶酔するようにデルロッサは笑っていた。
 だが、トリテレイアはそれに対して厄介であるという以上の感情を持ち合わせることはなかった。

 ワイヤーアンカーを解き放ち、物資収納スペースに存在している慈悲の短剣(ミセリコルデ)をアームに持たせ、炎を避けるように投擲する。
 本来であれば、このように使う手段ではない。
 同時に、かのデルロッサのようなオブリビオンにも使うものでもない。
 それは皮肉でしかないことであったが、『炎の紋章』を持ち、痛みを力に変えるデルロッサにとっては、これこそが致命的な攻撃に為ることを最適解を導き出したトリテレイアの電脳は告げる。

 慈悲。

 それはトリテレイアにとってオブリビオンに抱くことはないものであったことだろう。
 かつて使った相手は、オブリビオンと言えど人のためにと歪んだ思いを持つ者であったがゆえに。
 だが、目の前のデルロッサは違う。
 己の欲望のために、ただそれだけのために他の一切合財を捨て去り、利用する外道である。
 ならばこそ、慈悲という名は似つかわしいものである。
「何を――!」
 だまし討のように放たれた慈悲の短剣の一撃がデルロッサに突き立てられる。
 しかし痛みはないのだ。怪訝の思うのも無理なからぬことである。
 その短剣に秘められていたのは痛覚麻痺、睡眠誘発を同時に注入する薬剤である。
 オブリビオンが持つ悪影響を除去するナノマシンは、寄生虫型オブリビオンである『紋章』を休眠させ、その痛みに寄って力を発露する能力を奪うのだ。

「これは本来、その最期を少しでも安らかな物似するために他者の痛み取り除く刃――貴方にはふさわしくありませんが」
 だが、そのふさわしくない力こそがデルロッサを追い詰めるのだ。
 火傷の痛みを鎮痛し、紋章の力を不活性化する。
 それはデルロッサにとって弱体と呼ぶにふさわしいものであり、同時に彼の矜持をも傷つけるものであったことだろう。
「俺の、負荷を、俺の幸福を――! 奪うのか!」
「貴方がこれまで他者を弄んできたように。皮肉ではありますが」
 紋章の力を失ったデルロッサにトリテレイアが距離を詰める速度に反応することはできなかったことだろう。

 そうでなくても、これまで猟兵たちが追い詰めたきたのだ。
 振るわれた剣の一撃が弱体化したデルロッサの体を切り裂く。痛みはこれまで負荷としてデルロッサの体に蓄積されていた。
 けれど、力を失った今では、ただいたずらに消耗をもたらすものでしかない。
 ここに来て彼の瞳はようやくに憤怒に輝き、そして何もかもが手遅れであることを知らしめるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

学文路・花束
エレニア・ファンタージェンさん(f11289)と

(頷く)暑苦しい、確かに
貴女は涼やかだものな
ああ、対応助かる
僕個人としては嫌いでない在り方と姿だが
……もう少し、絵になる形がありそうだ

アート、マヒ攻撃、黒鉛の粉を床に落とし
【グラフィティスプラッシュ】
貴女が使役する亡者の手が命中しやすいよう
黒い湖で彼の足下を満たして絡め取り、火勢を弱めるよう試みる
スケッチブックを燃やされる訳にはいかない
攻撃にはオーラ防御、燃える茨を僕らへ寄せ付けまい
万一、防御を抜けたとしても
勘が鋭くてよかった

精神攻撃
炎を消されて濁り水に苦しむ姿
……やはり、同じ負荷でも
貴男は其方のほうが絵になるようだ
有難う、その勢いで頼む(描く)


エレニア・ファンタージェン
学文路・花束(f10821)さんと

嫌だわ!何だかこのひと、暑苦しいわ?
エリィ、痛みを知れぬ呪詛を予め自身にかけて痛覚を断っておこうかしら
花束さんにもかけてあげるわね

ねぇ、あの人、勝手に燃えているのは構わないけど、花束さんのスケッチブックに火の粉を飛ばすのは…ダメよ
エリィ、UCを使うわ
それで、その亡者の腕たちに、水属性攻撃を纏わせるわ
花束さんが支援してくださるから、きっと間違いないでしょう

エリィあんまり目はよくないけれど攻撃は第六感で見切るのよ
それに、花束さんのスケッチの邪魔もさせない
火が消えたお姿をこそ花束さんはお気に入りみたい
じゃあ、もっと、水をかけるわ
水もしたたる…というじゃない?



 ゆらり、ゆらりと揺らめく青紫の炎の勢いは消えず。
 しかして猟兵たちの追撃はやまず。その胸に輝く『炎の紋章』の力は今や失われてしまっていた。
「紋章の力を無効化するかよ。だがよ!」
 だからといって、『鳴響止酔』デルロッサの個としての力が喪われたわけではなかった。噴出する炎はヴァンパイアとしての力の発露であろう。
 あらゆるものを燃やし、あらゆるものが己の欲望を満たすためだけの道具に過ぎないと傲慢なる哄笑がほとばしる。

 もはや痛みは感じることはない。
 猟兵たちの攻撃の痕は痛ましいものであったかもしれないが、それでも他者の生命を踏みにじる快楽を忘れることはなかった。
 そういう生き物なのだ。
「なら、最期まで殺ろうじゃあないか! なあ、おい!」
 例え、ここで己が滅せられるのだとしても、デルロッサは笑っていた。あらゆる生命を蔑み笑っていたのだ。

「嫌だわ! なんだかこのひと、暑苦しいわ?」
 エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)は思わず、そう言葉を紡いでしまっていた。
 それを公開することなんてなかったけれど、痛みをしれぬ呪詛を自身と学文路・花束(九相図懸想・f10821)に施した。
 痛みがあるから人は足を止める。
 けれど、時として痛みは人を成長させるものであることをどちらも知っているだろう。

「暑苦しい、確かに。貴女は涼やかだものな」
 対応助かる、と花束はエレニアに礼を告げ頭を下げる。
 猛烈なる炎の噴出は尾となってデルロッサより二人に放たれる。二人は離れ、互いに駆け出す。
 彼のスケッチブックが開かれ、鉛筆が舞うように線を描く。
 黒鉛色の粉が床に落ち、地形すらも塗りつぶしていく。それが花束の呼吸そのものであったし、他愛のない日常そのものであった。彼の一部そのものであるスケッチブックと鉛筆が描くものは、黒い湖。
 黒鉛色の湖が炎を噴出させるデルロッサの力をそいでいく。

「なあ、おい! こんなのおかしいぜ! ちっとも面白くねえよ!」
 デルロッサはすでに『炎の紋章』の力を失っている。これまで紡いできた猟兵たちの戦いがそれを為したのだ。
 それでもなお青紫の炎が花束の持つスケッチブックを燃やそうと迫るのをエレニアは厭う。
「ねぇ、勝手に燃えているのは構わないけど――」
 花束さんのスケッチブックに火の粉を飛ばすのはならぬとエレニアの瞳がユーベルコードに輝く。
 千年怨嗟(アイノオワリニノコルモノ)。
 それは影がかたどる闇色の亡者の手の群れであった。
 纏う水の力はデルロッサの炎を鎮火させ、力を奪うだろう。次々とデルロッサの体に組み付く亡者の手は、まるで黒鉛色の湖の中に彼を引きずり込まんとするようでも在った。

「ありがとう。貴女のおかげで、今描くことがわかった」
 描くはやはり湖。
 しかして、グラフィティスプラッシュのユーベルコードに輝く花束の瞳が見るのは、溺れる傲慢そのものであった。
 描く度に、線が踊る度にデルロッサの体は黒鉛色の水によって炎を鎮火させられていく。望まぬ終焉にもがくようにデルロッサの咆哮がほとばしる。
「炎消されて濁り水に苦しむ姿……やはり、同じ負荷でも貴男は其方の方が絵になるようだ」
 炎に燃える男よりも。
 何よりも、もがき苦しむ姿こそがオブリビオンの終焉にふさわしいと描く指先は止まらない。

 それを何よりも、と思うのはエリィであった。
 黒鉛色の湖とは対象的な白い髪がコントラストを描き、その赤き瞳が花束の描くスケッチブックを見やる。
「じゃあ、もっと、水をかけるわ。水もしたたる……というじゃない?」
 彼のお気に入りの光景。
 それを少しでも長く、少しdも花束が満足出来るようにと務めるのがエレニアの今最も大切なことであった。

 だからこそ、花束は改めて礼を言う。
「有難う、その勢いで頼む」
 もう彼の瞳にはそれしかない。
 傲慢なる炎が消え失せ、黒鉛の底に沈む姿。
 それを描ききることしか彼の心にはない。湖面に打ち付けられる炎の尾も、茨が湖の縁に絡まって己の体を引き上げさせようとする姿も、何もかも亡者の手はそれを赦さぬとばかりに底へと引きずり込んでいく。

 結局行き着く先は同じだと彼はつぶやいた。
 その声を聞くエレニアは夢見るように、その声色を聞く。
 怨嗟の最期に訪れるのは、きっと湖面が波立つ音にしかほかならないのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…成る程。己が遊興の為に態と突破できる罠しか用意しなかったのね
ならばその傲慢の対価を刻んであげるわ。お前自身の肉体に…ね

積み上げた戦闘知識から敵の闘争心を捉えて攻撃を見切り、
"写し身の呪詛"の残像を囮に最小限の早業で攻撃を受け流しつつUCを発動

…確かに威力は大したものね。だけど、それだけで勝てるほど私は甘くない

…吸血鬼狩りの業、お前に見切れると思うな

実体化した109体の分身による集団戦術で敵を乱れ撃ちその場に捕縛させて、
その間に自身は大鎌に氷雪の魔力を溜めて怪力任せになぎ払い、
紋章を切断するように限界突破した氷属性攻撃の斬擊波を放つ

…我が手に宿れ氷雪の理。我に背く諸悪の悉くを静死せしめん



 震える黒鉛色の湖面が静寂に包まれ、『鳴響止酔』デルロッサは湖底に消えた。
 けれど、その燃え盛る炎の尾はしょうもこりなく湖のほとりにしがみつき、その体を強引に湖底から引きずり出させる。
 息を吐き出す度に悪態がこぼれてしまいそうになっているのは、彼の『炎の紋章』が、その力を失っているからだろう。
 負荷を得ることに寄って幸福を得る。
 そのためだけに『死の罠の迷宮』を容易に突破できるものしていた傲慢さのツケが今まさにここに結実していた。
「その傲慢の対価、刻んであげるわ」
 最期に立つのは、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)であった。

 如何に相手が紋章の力を失ったのだとしても、相対するのが『第五の貴族』である。
 紋章の力を抜きにしても強敵であることは言うに及ばず。
 傷を受けて消耗していたとしても未だリーヴァルディ本人の戦闘力を超えるものであった。
「……っ、ハァ……なら、やってみろよ!」
 放たれた炎の尾がリーヴァルディに迫る。
 敵の闘争心が揺らぐように、そして手にとるように彼女には判った。
 これまで数多の戦いがあった。ヴァンパイアを狩るための戦い。その最中で気がついたことがある。
 ヴァンパイアとは支配する者。
 傲慢さと悪辣さを煮詰めた存在であればこそ、そこに力の差があるのならば、必ず生まれる隙がある。

 彼らは己のミスを顧みない。
 そのミス事態が起こりえない間違いであると言うように、理解しようとしない。だからこそ、彼らは見誤るのだ。
 炎の尾から放たれた茨がリーヴァルディの体に絡みつき、引きずり倒す。
「猟兵程度が! 問題に為るものかよ!」
 振るう拳が叩きつけられ、地面に亀裂が走る。
 だが、デルロッサは驚愕する。己が拳を振るったのは確かに猟兵であった。しかし、拳に伝わる感触は地面の硬い感触だけ。
 肉を貫き、引き裂く感触ではなかったのだ。

「……確かに威力は大したものね。だけど、それだけで勝てるほど私は甘くない」
 彼女の言葉が背後から聞こえる。
 そう、デルロッサが拳を叩きつけたのは写し身の呪詛の残像であった。
 手応えがないのも当然である。
 リーヴァルディは一瞬で攻撃を見切り、己の瞳にユーベルコードの輝きを宿すのだ。

「……呪式奥義展開。逃れられると思うな」
 展開されるリーヴァルディの分身達。
 それは決して吸血鬼の存在を赦さず、逃さず、決して見失うことのない吸血鬼狩りの業・幻魔の型(カーライル)。
 彼女の瞳は、109対。
 幻影と見紛うほどの膨大な数。
 振るう拳がどれだけ頑強で強烈なものであったとしても、物量の前にはデルロッサも屈するほかない。
 それはこれまで刻まれてきた猟兵たちの攻撃があったことは言うまでもない。
 全ての猟兵がオブリビオンに個として敵うことがなくても、こうして紡ぐ戦いができる。

「お前自身の体に……その対価を刻んであげるわ」
 構えた大鎌に氷雪の魔力が溜め込まれていく。
 ほとばしる力が大鎌の刃を強烈なる一撃へと昇華させていく。言わば、分身達はこのための時間稼ぎである。
 そして、消耗したデルロッサにはこれを阻む手段がない。
「対価! 対価なら、俺はとっくにはらっているだろうが!」
 痛みを、常に。
 激痛にあえぐこともなく、常に体を焼く火傷の痛み。それが対価だというのならば、リーヴァルディは言うだろう。

「……それが人を弄んでいい対価などではない……我が手に宿れ氷雪の理。我に背く諸悪の悉くを静死せしめん」
 放たれた大鎌の一撃が音もなくデルロッサの肉体を凍りつかせる。
 氷像の如き姿となったデルロッサの瞳は驚愕が張り付いていた。しかし、リーヴァルディはそれを見ることはなかった。
 見る必要など無いのだ。

 そう、すでに決着は付いている。
 氷像となったデルロッサの身体がひび割れ、その身体が割れる。
 粉々になって霧散していく傲慢なる炎は、決して永遠などではない。氷雪の儚さのように、リーヴァルディはこれまでデルロッサが弄んだ生命の対価を支払わせるように己の氷雪によって生み出された粉雪に息を吹きかけるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『呪詛天使の残滓』

POW   :    呪詛ノ紅剣ハ命ヲ喰ウ
【自身の身体の崩壊】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【呪詛を纏う紅い剣】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    我ガ
自身が装備する【剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    黒キ薔薇ハ世界を蝕ム
自身の装備武器を無数の【呪詛を纏った黒い薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:狛蜜ザキ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアンナ・フランツウェイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『鳴響止酔』デルロッサは滅び去った。
 粉雪のように消えていった姿は、いっそ哀れであったけれど。その傲慢さの対価と呼ぶには、あまりにもあっけない幕切れであったことだろう。
 けれど、猟兵たちの戦いはまだ続く。
 まだ終わってなど居ないのだ。

 轟音が響き、『死の罠の迷宮』の最深部に降り立つのは、ふらつくように身体を傾がせた『呪詛天使の残滓』であった。
 黒く煤色に汚れた翼でもって降り立ち、呪詛に塗れた肌は浅黒く。
 その瞳にあるのは希望でも絶望でもない虚無であった。
「入れ替えて」
 その言葉はまさしく世界を蝕む呪詛であった。

 彼女の瞳には愛すべき世界はない。
 己をこうしてしまった世界に対する憎しみしかない。それを彼女は厭うのだ。
 どうしてこんなにも自分が変わってしまったのか。
 その理由すらわからずに、泣きわめく事もできずに呪詛を撒き散らす。
 鈍く輝く紅剣の刀身が煌めいて、一瞬で周囲に在った迷宮の破片を切り裂いて吹き飛ばす。
「入れ替えて――! 私の――! 全部を――!」
 理性無く、そしてどうしようもない存在を前に猟兵たちができることは、ただ一つである――。
村崎・ゆかり
そして、最後の敵――
ヒトは己の魂に相応しい精神しか持てないものよ。あなたの心はあなたの魂に相応しいものだってこと。
骸の海に還って、無に帰りなさい。

「結界術」「全力魔法」砂の「属性攻撃」「範囲攻撃」「破魔」「浄化」「仙術」「道術」で、紅砂陣展開。
何者をも蝕み風化させる紅き砂で、あなたの存在を消し去る。

呪詛の黒薔薇は「呪詛耐性」と「オーラ防御」で防ぐ。
剣も薔薇も、紅砂陣は等しく風化させていくわ。砂に足を取られ、砂嵐に飛行を制限され、それでも足掻くのね。

それなら、あたしも全力でお相手しましょ。
「環境耐性」の符を使って絶陣に入り、薙刀で剣と打ち合う。
「なぎ払い」「串刺し」にして、最後を飾りましょう。



 それは最後の敵と呼ぶにはあまりにも哀れな存在であったのかもしれない。
『取り替えて』と叫ぶ姿は、呪詛に塗れたかつてのオラトリオとしての存在を想起させる。けれど、それが正しい認識であるのかを誰が証明できようか。
 過去の化身として、そして『異端の神々』に憑依された『狂えるオブリビオン』である『呪詛天使の残滓』はまさしく残滓であったのだ。
「私の世界を返して。こんなにも灰色ではなかったはず。太陽の光を。私の心に浮かぶのは憎しみではなかったはずなのに」
 彼女の呪詛は尤もな理由があったのかもしれない。

 けれど、と村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)はそれを否定する。
「ヒトは己の魂にふさわしい精神しか持てないものよ。あなたの心はあなたの魂にふさわしいものだってこと」
 ゆかりの魂に対する観点は、彼女が語る通りであったことだろう。
 どうしようもないのだ。
 言葉は届かない。
 なぜなら『狂えるオブリビオン』には理性がない。
 どれだけ哀れな存在であっても打倒する以外の選択肢はない。もとよりオブリビオンと猟兵は滅ぼし合う関係であればこそ。
 憐憫の情は無用であるとゆかりは己の力の限り砂を呼び起こす。
 全てを急速に風化させる赤い流砂がユーベルコードの輝きと共に呼び寄せられ、砂嵐へと変わっていく。

「古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。貪欲なる紅砂よ、万物全ての繋がりを絶ち、触れるもの悉くを等しく紅砂へと至らしめん。疾!」
 紅砂陣(コウサジン)。
 それは絶対不可避たる砂嵐へと『呪詛天使の残滓』を飲み込んでいく。
 翼を持つものは失墜させ、その足は流砂が絡め取る。
 風化させる砂は、しかして『呪詛天使の残滓』が叫ぶ世界への怨念に吹き飛ばされる。
 彼女が手にした紅剣が黒薔薇へと姿を変え、ゆかりを切り裂かんと迫るも、あらゆるものを風化させる砂嵐の力が再び集って、これを散り散りに消し去っていく。

「無駄だと言うのに。何物をも蝕み風化させる紅き砂があなたの存在を消し去るのだとしても……」
 それでもあがくのかと。
 呪詛を吐き散らし、世界を憎むことしかできないのかと。
 そうまでして世界を滅ぼさんとする意志は、如何なる所業によってのことであろうか。

 それを解する時間もなければ、術もない。
 ゆかりはだからこそ、前に一歩を踏み出す。敵を打倒するだけだというのならば、このまま座して待てばいい。
 砂嵐の中で『狂えるオブリビオン』は自壊していくだろう。
 けれど、ゆかりは一歩を踏み出す。
 足掻き、諦めが悪いというのならば。
「さっぱりと後腐れなくしてあげようじゃない」 
 符によって陣に対する耐性を上げたゆかりは、砂嵐の中へと飛び込む。

 手にした薙刀でもって襲い来る黒薔薇を薙ぎ払い、『呪詛天使の残滓』が黒薔薇が集まった紅剣を振るって、薙刀と打ち合う。
「取り替えて。取り替えて。私の目と、髪と、羽と、身体を、全部入れ替えて」
 打ち合う度に彼女がどれほどの非業の死を遂げたのかを知る。
 あらゆる実験の残滓。
 それが彼女なのだろう。
 悪辣を煮詰めたような何事かの結果が彼女であるというのならば、本来ならそれを為したものを討つべきだろう。

 だが、それを今出来る者はいない。
 ならばゆかりは己の全霊を持って彼女を討ち滅ぼすしかない。そうすることでしか、その霊を慰めることができないというのであれば、ゆかりは己の力を振るうことをためらわないだろう。
「骸の海に還って、無に還りなさい。あなたの苦しみや悲しみや……憎しみがなかったことになってならないのだろけれど」
 それでも幾ばくかの時間は忘れられるだろうから。
 ゆかりの薙刀の一撃が『呪詛天使の残滓』を貫き、鮮血でもって煤色の翼を染める。せめて、その翼だけは別の色に。

 そういうようにゆかりは己の薙刀を振り払い、片翼を切り裂くのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

肆陸・ミサキ
※絡み苦戦ケガアドリブOK

またヤバい奴だ、こんな奴しかいないよホント、この世界がヤバいな
しかし、なんというか……取り替えてって、こいつもこいつで他人頼りとか、宜しくないよねぇ
自分が抱えたモノは自分にしか背負えないわけだし
僕が感じる憎しみも妬みも羨望も僕だけのものだし
だからまあ、もっかいなんというか、だけど
抱えたまま消えるしか無くない、君

SPDで
剣をどれくらい出してくるかわかんないから、UCの光線で範囲攻撃の迎撃しながら近付いてぶん殴りに行こう
攻撃回数を増やしたとは言え無限じゃないから、使い時は考えて、致命傷と動きに支障が無い攻撃は突っ切る



 ――またヤバイ奴だ、と肆陸・ミサキ(独りの・f00415)は思った。
 こんな奴しかいないよホント、と常闇の世界ダークセイヴァーを呪う。
 それほどまでにオブリビオン支配盤石たる世界は、混沌とした存在を容易にオブリビオンとして顕現させる。
「取り替えて。取り替えて。私の全部。私はこんなんじゃない」
 対話は不可能。
 そして理性なき『狂えるオブリビオン』である『呪詛天使の残滓』の姿は、ミサキにとって苛立ちを募らせるものでしかなかった。

『取り替えて』

 それは血虚kのところ他人だよりでしかない。
 宜しくない、とミサキはつぶやく。
 結局の所、自分が抱えたモノは自分にしか背負えないのだ。
『呪詛天使の残滓』が手にした紅剣が無数に複製され、宙に浮かぶ。その姿は、どれだけ狂っていようとも強大なオブリビオンでしかないことを知らしめるには十分であった。

 神とヴァンパイアを嫌うミサキにとって、『呪詛天使の残滓』は戦うに値する存在であったことだろう。
 彼女が感じる憎しみも妬みも羨望も、自分自身のものだ。
「そう、僕だけのものだ。だから」
 どうしようもない。
 どれだけ非業の死が彼女を呪詛に塗れせたのかは知らないし、理解できない。だけど、それでもって世界を破壊しようとすることは赦されない。
「取り替えて。だって、私はこんなんじゃない!」
 複製された紅剣が一斉にミサキを襲う。

 だが、ミサキの瞳は焦げ付いた陽光(ブラックサン)にかがやく。
 彼女の両眼が輝く間、彼女のユーベルコードに寄って生み出された漆黒の高熱球体がミサキを襲う紅剣の群れの悉くを撃ち落とし、破壊していく。
「だからまあ、もっかいなんというか、だけど……」
 歯切れの悪い言葉をミサキは紡ぐ。
 足は止めない。
 高熱球体から発せられる光線だって無限ではないし、万能でもない。だからこそ、ミサキは突っ切るように紅剣の群れの中を走り抜ける。

 多少の傷なんて気にしない。
 今更だ、とも思う。
 けれど、己の中にある感情には嘘をつけないし、偽るつもりもない。
 結局の所、己が神やヴァンパイアに感じる憎しみは他者に理解されないものなのかもしれない。
 だから『取り替えて』なんて言わない。
 これは――。

「僕だけの感情だ。だから、抱えたまま消えるしかなくない、君」
 きっとそれは自分も一緒なのだろう。
 瞳がユーベルコードに輝き、光線が最後の紅剣の群れを薙ぎ払う。
 一直線に、ただただ愚直にミサキは突き進む。
 肉を裂き、骨を削るような紅剣の痛みは、忘れる。放たれた光線が『呪詛天使の残滓』へと突き立てられ、その煤のような肌を焼く。
 黒焦げだ、と思った。

 ああ、と『呪詛天使の残滓』が呻くような、それでいてどこかホッとしたような声を出したのをミサキは聞いただろう。
 色が変わった、と彼女は微笑んだような気さえした。
 そう、どうしようもなく呪詛の塗れた身体。
 その煤こけたような色がどうしても『呪詛天使の残滓』は憎かったのだろう。己の身を焼く光線ですら、色を変えてくれるものであると認識して、彼女は微笑んだのだ。

 だから、ミサキは渾身の力でもって拳を握りしめる。
 自分ができることは唯一つだ。
 最速にして、最短。
 最大にして、最強の力でもって己の拳を振り抜くことだけ。
「ハッピーエンドには程遠いのかもしれないけれど――」
 けれど、それが君の救いになるのかもしれないというのならば、それを抱えたまま骸の海に還るしかない。

「けれど、君はそれを抱えたままいけ。他の誰にもその呪詛をもたらさぬことだけが、君のできる……君が愛した世界にできるたった一つのことだよ。何一つ取りこぼさずに……」
 呪詛は呪詛のままに。
 何か他のものに昇華することもあるかもしれない。
 けれど、ミサキは己にそれができるとは思わない。だからこそ、紅剣の群れの中をひた走り、己の渾身を込めた拳の一撃でもって『呪詛天使の残滓』を殴り飛ばし。ただ己の成すべきことを成さしめるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
…残滓、とはよく言ったものだな。
例えるならオブリビオンのツギハギと言った所か

彼女の願望を叶えてやりたい所ではあるが…
残念な事にそうした術は持っておらず
また知識を遡っても聞いた事が無い。

望みは薄いが…その苦痛や苦しみから解放する
手向けの剣を振るうとしよう

▼動
確か…足による移動はNGだったな。

刀剣を念動力で周囲に展開し足場利用を。
細かい移動や暗糸を投射し絡ませる事で
敵の方向感覚と体力の消耗を狙う。

折を見て結界術で透明な壁を作って
包囲や囮に使い、霽刀で【夢想流天】を放とう。
一撃でダメなら何度でも、な。

この世界は、報われない事の方が多い。

だからこそ挑むのだ。
決して叶わぬ彼女の願望に――

アドリブ歓迎



『呪詛天使の残滓』の咆哮が如き怨嗟は呪詛に変わる。
 きっとかつては、その瞳は曇りなきものであったことだろう。如何なる悲劇が、如何なる非業の死が、彼女をオブリビオンに成さしめたのか。
 それを知る者はここには居ない。
 理解するためには知が必要であるが、それだけで事足りるのであれば人は相互理解などとうの昔になし得ているだろう。

 だが、人は完全に互いを理解できないからこそ、そうである存在が目の前にいるとわかるからこそ思い遣るのだ。
 ならば、目の前の『呪詛天使の残滓』の言葉にアネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)はなんと応えるか。
 彼女の願望を叶えてやりたいと思うだろうか。
 しかしながら。
「残念なことにそうした術は持っておらず。また知識を遡っても聞いたことがない」
「取り替えて。取り替えてよ。私の目を、私の髪を、私の肌を、私の身体を、全部全部取り替えて」
 彼女の願いは叶わない。

 叶えられないと知るからこそ、アネットは刀剣を念動力で周囲に展開し、足場として利用する。
「私の世界はこんな煤色じゃあない。こんな色じゃなかった。こんなんじゃない!」
 彼女の紅剣が呪詛を纏う。
 それは世界そのものを呪う声であった。
 己をこのような姿にした何某かではなく、世界そのものを憎む怨嗟の声は、もはや呪詛そのものであり、放っておけば世界すら破壊してしまうだろう。

 それがオブリビオンという存在であることをアネットは知っている。
 だからこそ、ここで止めなければならない。
 彼女が感じている苦痛や苦しみから解放する。その手向けの剣を振るう。それをためらうほど、アネットは薄情ではなかった。
「取り替えて。どうしても、取り替えてほしいの。世界を愛したいの。こんなにも世界が憎いだなんて思いたくないのに」
 心の奥底から憎しみが溢れてやまないのだと『呪詛天使の残滓』が紅剣を振るう。

『狂えるオブリビオン』と呼ばれる『異端の神々』が憑依した存在。
 その力は凄まじいものであった。そうでなくても猟兵達は『第五の貴族』から続く連戦で消耗している。
 だが、アネットは結界術で透明な囲いを『呪詛天使の残滓』ん周りへと張り巡らせる。
「この世界は、報われない事の方が多い」
 純然たる事実だ。
 努力しても、より良くを求めていたとしても。
 期待は裏切られ、感情はささくれる。
 ささくれた心は誰かを傷つけ、傷つけられた傷跡は膿んでさらに傷を広げていく。

「だからこそ挑むのだ」
 決して叶わぬ『呪詛天使の残滓』、彼女の願望のために。
 もう一度世界を愛したいと願った彼女のために。
 アネットから噴出するのは闘気であった。けれど、その闘気は誰かを傷つけるものではない。
 誰かの苦痛や傷を解放するためのものであった。

 その太刀筋は静かなるものであった。
 風を斬る音すら響かぬ静謐そのもの。願わずには居られないだろう。
 己の身体が誰かを傷つける、己の呪詛が愛した世界を破壊する。
 それは自分自身を傷つけることと同義である。

 アネットは、そのために剣を振るうのだ。
 一撃にして残穢を祓う太刀筋。
 その名は【漆式】夢想流天(ムソウルテン)。
 未来や可能性を安らかに終息させる、生命だけを切り裂く慈悲なる斬撃であった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
なぜと問うならお答えしましょう。
命も心も理不尽に奪われる。ここはそういう世界だからです。
そうでなくすために……私はあなたを撃つ。

精神も不安定のようですが、体がふらついているのはその影響だけではなさそうですね。あの罠の迷宮を無理に突破してきたのでしょう。
そんな状態でも剣を振るえることには驚嘆しますが……その隙は逃しません。

「フィンブルヴェト」を手に、迷宮の罠により平衡感覚を失っている敵の振るう剣を『見切り』銃剣で『武器受け』して防ぎます。
体の崩壊を待つのも手ではありますが、この状態なら平衡感覚を取り戻されるより前に……!
隙を見つけて敵の剣を受け流し、ふらついたところに【アイシクル・エンド】を。



 常闇の世界、ダークセイヴァー。
 人が人として生きる権利すらない世界である。いや、権利と呼ぶことすらおこがましい。人は人であれど、人という種の一つにしかすぎない。
 人が家畜を飼うように。
 ヴァンパイアが人を隷属させている。
 時に食料として。時に玩具として。
 生命を弄ぶ権利があるのが上位存在としての特権であるというのならば、『呪詛天使の残滓』もまた、犠牲者の一欠片であり過去の残滓であったのだろう。
 そう類推するしかない。

 それくらいしかできない。
「どうして私の視界は、こんなにも。こんなにも煤色なの? 色鮮やかだった世界を還して。取り替えて。私の目はこんなものを見るためにあったんじゃない」
 呪詛は慟哭の如く。
 手にした紅剣は呪詛の塗れ、その禍々しい力を噴出させている。生命を切り裂かれても、肉体を傷つけられても。
 どうあっても『呪詛天使の残滓』は救えない。救うことができない。
 仮に救うことが出来たとしても、彼女を骸の海に還すことがだけが、たった一つの変わらぬ結末である。
「なぜ、と問うならお答えしましょう」
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は己もまた『そうなっていた』かもしれないという可能性を目の前に突きつけられていたのかもしれない。

「生命も心も理不尽に奪われる。ここはそういう世界だからです」
 純然たる事実。
 支配という力に押さえつけられた存在が辿るのは、理不尽という壁の目の前である。
 それを前にして立ち止まるか、それとも乗り越えるかは人の選択。
 しかして振り返ればそこにあるのは断崖絶壁。奈落の底まで堕ちるしかないのだ。
 ゆらりと『呪詛天使の残滓』が動いた。

 あれだけ『死の罠の迷宮』を強引に突破してきたのだ。
 平衡感覚が未だ戻っていないのだろう。ならば、セルマがすべきことは一つである。その決定的な隙を逃さぬこと。
「なんで。なんでそんなことになっているの。理不尽も、絶望も、憎しみも、ないほうがいいじゃない。私の世界はだって」
 かつてはそうであったはずなのにと、振るわれる呪詛に塗れた紅剣の残光がセルマへと走る。

 驚嘆すべきは、平衡感覚をうしなってもなおセルマに斬撃を振るう気概であったことだろうか。
 それほどまでに世界が憎いのかとセルマは思う。
 けれど、そう。
 セルマが戦う理由がまさにそれである。
 世界を、理不尽を、憎しみを、悲しみを。それだけではない世界にするために。
「……――私はあなたを撃つ」
 紅の残光走る刹那、セルマの瞳がユーベルコードに輝く。
 マスケット銃に装着された銃剣『アルマス』が紅剣と激突し、火花を散らす。明滅する光は一瞬、地底都市を照らすことだろう。

 銃剣で紅剣を受け流し、『呪詛天使の残滓』の身体を傾がせる。
 平衡感覚を失った相手にはこれで十分だった。どれだけ『狂えるオブリビオン』と言えど、平衡感覚を失っていれば、身体を支えきれない。
 外部からの衝撃が有ればなおさらである。
「あなたが世界を憎まなくて済むように……ここがそういう世界だからと言わなくてもいいように、私はする」
 彼女の憎しみも悲しみも尤もなことであったことだろう。

 生命を弄ばれた果てにあるのは、過去の化身として残った世界への呪詛だけ。
 涅槃へと至ってなお、憎しみに心が支配されることの悲しみは、想像を絶するものであったことだろう。
 だからセルマはせめてと思うのだ。
「そこです」
 短くつぶやいたセルマの瞳がユーベルコードの輝きで持って、アイシクル・エンドを告げる。
 突き立てられた銃剣『アルマス』の刀身が『呪詛天使の残滓』に突き立てられ、その身体を受け止める。

 まるで倒れ込む彼女を支えるようであったが、実際はそうではない。
 取り替えて、とつぶやく声が聞こえた瞬間セルマは引き金を引く。躊躇いはなかった。ためらうことだけはしてはならないと思ったのだ。
 氷の弾丸の零距離射撃の一撃が『呪詛天使の残滓』を吹き飛ばし、鮮血を迸らせる。
 その紅き血潮だけが、色を失った彼女のモノクロの世界を染めるたった一つの慰めになるようにと、セルマは願わずにはいられないのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

牧杜・詞
司(f05659)さんと

虚無がいまのあなただというけれど、それは偽り。

なにもない、なんて嘘ね。
あなたはこんなにも世界を憎んで、こんなにも厭っているじゃない。
変わってしまった自分を嫌って、助けを求めているじゃない。

だから『助けて』あげるわ。

あなたの望むようにしてあげる。
でもこれは慈悲じゃないわ。わたしは殺せればいいだけなのだから、

【鉄和泉】を構えて【識の領域】を発動。 『切り込』んでいくわね。
剣は、速度で躱しつつ、無理なときは【鉄和泉】で弾いていくわ。

今回は得物の長さも同じくらいだし、司さんと連携しやすいかしら。
司さんと逆に動きながら、攻撃のタイミングは合わせよう。

殺す瞬間は、譲らないけどね。


椎宮・司
【詞(f25693)】さんと引き続き

やーっと黒幕かい
本当にじれったいったらありゃしない
…と思っていたのはあたいだけだったようだ(汗
詞さんは元気だねえ…
歳が倍も違うと体力も勢いも違うか
ま、年の功ってやつをお見せしようかね

【擬・神懸かり】で仕掛けるよ

詞さんを追いかける形で残滓までの距離を詰めながら
野太刀を振るって突っ込んでいく詞さんのフォローだ
衝撃波みたいに剣気を放てば残滓の剣を弾く位なんとかなるさね
剣の間合いに入ったら詞さんと位置をずらしつつ
攻撃のタイミングを合わせる

いやー全然剣の形が違うけども
やってることが一緒ってーのはなかなか面白いもんだ
華はあげるよ
足元はあたいがもらう
ばっちり決めておくれ!



 虚ろな瞳が猟兵たちを見据えている。
 穿たれた煤色の肉体は未だ朽ち果てず。そして同じく煤色の翼は羽撃くことを知らない。
 彼女がかつて見た世界は薄汚れた世界ではなかった。
 彼女が愛した世界はきらきらと言葉にするのも難しいくらいに輝いていた。それを彼女は愛していたのだと理解していた。
 けれど、彼女にはもうそれらがない。
 如何なる非業の死が彼女をそこまで呪詛に塗れさせたのかはわからない。
 苦痛と悲しみ。
 そして、憎しみだけが『呪詛天使の残滓』の中にある。

 だからこそ、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)は、その器が虚無であることを偽りであると告げるのだ。
「なにもない、なんて嘘ね。あなたはこんなにも世界を憎んで、こんなにも厭っているじゃない。変わってしまった自分を嫌って、助けを求めているじゃない」
 複製された紅剣の群れが詞に襲いかかる。
 しかし、それらの悉くは椎宮・司(裏長屋の剣小町・f05659)が横合いから薙ぎ払うようにして解放された神気と清涼なる剣気によって防がれた。

「やーっと黒幕かい。本当にじれったいったらありゃしない……」
 そんなふうに思っていたのは自分だけであったことを司は恥じたけれど、目の前でむざむざ詞をやらせる道理もない。
 これもまた一つのおせっかいであったかなと、司は思ったけれど詞はかぶりをふる。
 歳も倍違うと体力も勢いも違うかと思うほどに詞の行動は即断即決であった。
 司の横を走り抜け、識の境界(シキノキョウカイ)へと至る詞。
 どこかで彼女の中の誰かが言う。
『根源を示せ』と。
 それがなんであるのかを正しく理解しているのは詞本人だけであったことだろう。
 凄まじい速度で駆け抜ける彼女目掛けて放たれる紅剣の群れ。
 近づくな、と言われているようであったが、詞は構わなかった。
「だから『助けて』あげるわ」

 濡れた深い緑色の輝きを湛える打刀が疾走る。
 己の中にある殺人鬼が目覚める。彼女の望むようにしてあげようという思いは、慈悲ではない。
 ただ、そう。
 ただ詞は――。
「わたしは殺せればいいだけなのだから」
 それはまるで舞踏のように。紅剣を弾く打刀の斬撃は紅の花弁を舞い散らすようでも在った。

 その死角を縫うようにして疾走るのは、擬・神懸かり(シンジルモノハスクワレル)し、司であった。
 背を追い、互いの得物の間合いを見きった斬撃の舞踏。
「いやー全然剣の形が違うけども、やってることが一緒ってーのはなかなか面白いもんだ」
「どうして。どうして取り替えてくれないの。私の世界、私の色、私の――」
 憎しみ。
 愛が憎しみに変わるように。憎しみがまた愛に変わることはあるのだろうか。
 誰も答えを出すことはできないだろう。

 人の心は強いものばかりではない。
 形それぞれにあれど、至るべき涅槃は一つである。ならばこそ、そこに思索の手を差し伸べることがまた救いであるのかもしれないが。
 それは今を生きる者たちに与えられたものであって、過去の化身に在るものではない。
「だから――殺す」
 それが彼女の望みを叶える唯一であると知るからこそ、詞は刃を振るうのだ。
「華はあげるよ。足元はあたいがもらう」
 司の斬撃が『呪詛天使の残滓』の紅剣の群れをかいくぐって、一足先に切っ先を向ける。

 煌めくユーベルコードの輝きは二つ。
 互いにまったく異なる力であれど、目指すべきは一つ。統制が取れているようで取れていないし、互いになにか言葉を交わしたわけでもない。
 けれど、彼女たちはもう判っている。
 言葉でなく、剣でもって会話をするのが彼女たちの流儀であるというのならば、この舞踏の如き剣戟の音の中でこそ伝わるものがある。
「ま、歳の功ってやつだよ」
 あっけらかんと笑いながら司の斬撃が『呪詛天使の残滓』の紅剣と打ち合う。しかし、その剣は受け止められるものではない。
 攻防万能たる剣気は、『呪詛天使の残滓』の動きを止めるのだ。

 殺す瞬間は譲らないと剣によって如実に語る詞。
 司は苦笑いをしながら、己の身体を倒す。瞬間、己の首があったところへと詞のz斬撃が一文字に切り結ばれる。
「あっぶな! なんてね。バッチシだね」
 攻撃のタイミングが此処まで合うのもまた珍しいものであったことだろう。

 鮮血がほとばしる。
 横一文字に結ばれた斬撃の痕が『呪詛天使の残滓』の煤色の体に朱を帯びたように咲く。

 それをきれいだと思う心があれど、しかして彼女の望みのままに詞と司は、確かにたった一色であれど彼女の視界に色を取り戻したのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

学文路・花束
エレニア・ファンタージェンさん(f11289)と

久方ぶりだ
蛇達は元気そうだな
では暫し、彼らにも痛み止めにも、世話になろう
単独で描くのも悪くないが
今日は腰を据えて対比を描きたい

【或る幻想】
幻想画として変わり果てる前の
煤汚れのない白翼白面の少女を描く
戻りたかったのは、入れ替わりたかったのは、これか
アート、精神攻撃、焼却
“付け足し”の上から、今現在の正確な姿形を描き出せ
再び煤で汚れていく身、浮かんだのは絵になる表情
……この対比を描くことができて幸いだ
少女も一時、入れ替えられただけでも幸いだろう
違うのか

僕の絵に何を見出そうとも構わないが、ひとつ
案ずるな
描き上がりの後には
憎悪や虚無ごと炭化しているだろう


エレニア・ファンタージェン
学文路・花束(f10821)さんと

取り替えて、ですって
…いやよ

引き続き痛みを知れぬ呪詛をエリィと花束さんに施すわ
絵と戦いを満喫するの

指定UC使用
見えないから花束さんの絵の邪魔にならない蛇たちです
あの子が花束さんの絵を邪魔しないようおとなしくさせてて頂戴ね
Sikándaは大鎌の形態にして刃に呪詛を纏わせて振るう
呪詛耐性はあるけれど他の防御は花束さんにお任せ

元の姿に戻してあげるだなんて花束さんは優しいのね
エリィ、思いもしなかったわ
でも、また今のありのままに戻すのね?
じゃあ、もう燃やしても良いのね?
刃に炎属性攻撃を纏わせて暴れるわ
疲れたら生命力吸収
仕上げの色塗りをお手伝いしている気分
楽しいわ!



 鮮血が『呪詛天使の残滓』の肉体から溢れていた。
 煤色の体はまさしく『色ある死』そのものであったことだろう。どうしようもない存在。滅ぼす以外の救いはない存在。
 それが過去の化身であるというのならば、御印が如き禁域の守り蛇(アウリン)が不可視の蛇たちが戦場に溢れ出る。
 それは痛みを知ることの出来ぬ呪詛と共に学文路・花束(九相図懸想・f10821)に力をもたらす。
 痛みをしれぬ呪詛は、痛み止め。
 世話になると、花束は這い寄る蛇たちとの僅かな時間で持って元気そうだなとつぶやく。
 彼らを描くのもまた悪くはないし、一人で描くことも嫌いではない。
 しかし今回は違う。
 どうせならば、腰を据えて。
 エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)と『呪詛天使の残滓』の持つ色のコントラストを描ききりたいと思ったのだ。
 グラデーションではなく、コントラスト。
 明暗別れる二人の姿はまさしく対比そのもの。
 ならばこそ、花束の瞳に輝くのはユーベルコードであった。

 或る幻想(ファントズム)を描ききることこそが彼のユーベルコードにして彼を猟兵たらしめるものであったことだろう。
 幻想画として変わり果てる前の煤汚れのない少女の姿を描く速度は凄まじいものであった。
「取り替えて。取り替えてよ。私の体を、私の色を、私の世界を。これだけじゃあたりないの」
 鮮血の赤だけが『呪詛天使の取り戻せる唯一の色であるのは皮肉でしかなかったことだろう。
 目の前の猟兵、エレニアの瞳は赤色。
 そして羨むほどの白色を讃えた彼女。

 対比の美しさに花束の息が漏れたかもしれない。けれど、その視線が揺れることはなかった。
「取り替えて、ですって……いやよ」
 エレニアの言葉は拒絶であった。
 彼女の目的はただ一つである。花束のスケッチを止めさせない。邪魔をさせない。そのために彼女のユーベルコードは不可視の蛇たちを呼び寄せ、封を解かれた呪詛塗れの紅剣と、それらを複製した無数の剣戟から守るのだ。
 大鎌の形へと変えた刃でもって、襲い来る紅剣を切り払う。
「取り替えて。取り替えて。その色がほしいの。こんな色じゃなくって! こんな色だけが私だなんて、そんなことないんだって教えてくれたのだから!」
『呪詛天使の残滓』の慟哭がエレニアの肌を焼くようであったが、エレニアは関知するところではないと受け流す。

 その背後で花束は頷いた。
「戻りたかったのは、入れ替わりたかったのは、これか」
 花束の手にしたスケッチブックの中にあったのは、まさしく『呪詛天使の残滓』が求めた姿であったことだろう。
 けれど、彼は微笑むでもなければ、蔑むでもなく己の描いた絵を燃やす。
「ああああああああ――!!!!!」
 ほとばしる絶叫が世界をゆうfわせる。
 燃えた先にあったのは、今の己の姿そのもの。
 煤色の姿。
 その表情が如何なるものであったのかを花束だけが知る。ああ、と息を吐き出す。

「……この対比を描くことができて幸いだ」
 書き足された煤色。
 それによって『呪詛天使の残滓』の心は散り散りになってしまったことだろう。
 一瞬でももとに戻るのではと思った願いは、そうはならないという現実に寄って幻想を凌駕する。
「もとの姿に戻してあげるだなんて花束さんは優しいのね」
 自分は思いもしなかったとエレニア微笑んだ。
 だって、そんなこと一つも思いもしなかったのだ。オブリビオンにできることは救いではなく滅び。
 彼女がかつて愛したであろう世界を滅ぼす呪詛を撒き散らすことなく、速やかに終わらせることだけが、彼女の救い。

 ならばこそ、この対比を描くことは花束の欲求一つであったことだろう。
 幸いであろうと思ったことは、他者にとってそうであったとは限らない。
 違うのだ。
 一時ではない。慟哭の如き叫びは、呪詛を伴って花束に迫るがエレニアの大鎌がそれを許すわけがない。
「僕の絵に何を見出そうとも構わないが、一つ。案ずるな。描き上がりの後には――」
「じゃあ、もう燃やしても良いのね?」
 大鎌の刃に炎が灯る。
 それがエレニアの答えであった。花束だってそうするつもりであったのだろう。

 この絵は憎悪と虚無を封じ込めたもの。
 骸の海にも、現世にも残してはいけないものだ。例え、それが別のものに昇華するのだとしても、何もかも残してはならない。
 過去の化身が骸の海より染み出すというのであれば、その呪詛の残滓こそ取りこぼしてはならぬものである。
「今を蝕む過去があるのなら。それを塗りつぶす今もある」
 燃え上がっていく『呪詛天使の残滓』。
 煤に塗れていく。
 一層塗れていく。それが耐え難いと叫ぶ声が響く中、エレニアの大鎌の一撃が炎を纏って『呪詛天使の残滓』へと振り下ろされる。

 それはまるで絵筆でもって絵画を炎色に塗りつぶすような弧を描いていた。
「仕上げの色塗りのお手伝いをしている気分。楽しいわ!」
 放たれた一撃が『呪詛天使の残滓』へと振るわれ、その炎の色が呪詛も憎悪も、虚無さえも塗りつぶしていく。

 昇華するまでもなく。
 けれど、常闇の世界にあって、その炎の色の揺らめく色あいの美しさを花束は己の瞳に焼き付け、再びスケッチブックを開くのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
類似した異なる個体と、嘗て相対したことがありましたね
…かの少女も苦しんでいました

【慈悲の短剣】を使い切るべきではありませんでした…!

平衡感覚喪失による敵のふらつき見切り、儀礼剣で切り結び
如何に強大だろうと打ち倒す覚悟あり
されど…

私の理想は…騎士は
苦しむモノにそれだけしか出来ない等と!

(A&Wで送り主と冒険した際に手に入れた物資収納SのUCが独りでに飛び出し手中に)

竜殺しは独力で行えるから、と寝てばかりだったというのに
…感謝を
(無言の発光)

貴女の呪詛は誰にも背負えません
ですが…抱えたままでは苦しいだけです

例え刹那であろうとも
その剣と、苦悩から解き放たれる事を願います

短剣突き立て



 鮮血と炎が色をなす体は、未だ燃え尽きず、滅び果てず。
 かの『狂えるオブリビオン』である『呪詛天使の残滓』は未だ世界に立ち、その呪詛を撒き散らすように紅剣を構えていた。
 その瞳に合ったのは憎悪にほかならず。
 しかして、その憎悪の理由さえも、彼女は思い出せないのだろう。それ以上にあったのは憧憬であった。
 かつて在りし日の世界への愛。
 そして、己の視界を染め上げる輝き。
 それらの悉くを失ったからこそ、彼女は嘆き苦しむのだろう。

 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はそう思ったし、類似した異なる個体……骸の海より染み出した別物であるはずなの何者かを思い出した。
「かの少女も苦しんでいました」
 彼の電脳は忘れない。忘れられるわけがない。
 何もできないし、彼ができることは一つしかない。オブリビオンと対峙した猟兵ができることはたった一つ。
 そう、滅ぼすことだけである。
 そうすることでしか救われぬ思いがあるのならば、トリテレイアは己の失策を憂うのだ。
「慈悲の短剣を使い切るべきではありませんでした……!」
 己が見誤ったのだ。

 誰が彼を責め、咎めることができようか。
 平衡感覚を失い、大量に失血し、炎に焼かれている『呪詛天使の残滓』の姿を認め、トリテレイアは考えるよりもはやく動いていた。
「如何に強大だろうと打ち倒す覚悟ありされど……」
 儀礼剣と紅剣がかちあい、火花が散る
「取り替えて。色を、視界を、心を、憎しみを、悲しみを、痛みを。全部取り替えて。私の心はこんなんじゃない。こんな瞳じゃない。私の世界はこんなんじゃない」
 煤色の肌に鮮血と炎だけが彩りをもたらしている。

 それが彼女の救いになるのかトリテレイアにはわからなかった。
 けれど、己の中の理想が言う。
 騎士道精神が言う。
 例え他の誰もが口を揃えてそういうのだとしても。己だけは最後まで立ち続けなければならない。
「私の理想は……騎士は」
 苦しむモノにそれだけしか出来ないなどとは言わないのだ。
 ゆえに。

 ――竜骸の彼方に、御伽噺は続く(ゲオルギウス・オーバーロード)。

 誰かがそう言ったような気がした。
 気がしただけかもしれないという不確定な要素をトリテレイアの電脳は是としないだろう。
 しかし、電脳演算のゆらぎが聞かせた言葉は、収納スペースより独りでに飛び出し、己の手中に在る。
 それを使えと誰かが言ったような気がしたのだ。
「……感謝を」
 蒼き燐光纏いし自我持つ滅竜の聖剣は、その手に。
 あまねく邪神を打ち払うのは、聖剣の務め。
 ならば、それを振るう己は如何なるものか。それを知るからこそ、トリテレイアは振るう。

「貴女の呪詛は誰にも背負えません。ですが……抱えたままでは苦しいだけです」
 その呪詛を吐き出さなければならない。
 重く、苦しいものばかりを抱えていることばかりを覚えているからこそ、彼女の姿は煤色にまみれているのだろう。
 それを悲しいと思う感情が在ると錯覚させるのが電脳であれど、己の中の騎士道精神は否と応える。

 それが錯覚であるはずがない。
 確かに其処に在るものなのだ。
 例え、刹那の瞬間であったとしても。誰かの苦悩を解き放とうして振るわれる一撃が錯覚であるはずがないのだ。
 振り下ろされた短剣の一撃が煌めき、『呪詛天使の残滓』へと突き立てられる。
 これで救われたはずだと断言できるほどトリテレイアは単純ではない。

 けれど、例え刹那であっても呪詛忘れるほどの蒼き燐光が世界に煌めくのならば。
 彼女の視界はきっと今、かつて望んだ世界の有様を見せているのだろうから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…生憎だけど、その望みを叶える気は無い
今の私は多くの人達から遺志を託されて此処にいるもの

…いくら憐憫の情を抱こうが彼らの想いを、
そして何より私自身の誓いを無視する事は出来ない

UCを発動して左眼の聖痕に取り込んだ霊魂を降霊し、
全身を浄化した霊魂達によるオーラで防御して覆い、
敵の攻撃は残像が生じるほどの超高速の空中機動を行い、
魔力を溜めた大鎌による早業のカウンターで迎撃して乱れ撃ち、
第六感が好機を捉えたら懐に切り込み、
大鎌を武器改造した手甲剣を怪力任せに叩き付け呪詛を切断する
戦闘が終わったら心の中で祈りを捧げるわ

…私に出来るのは貴女の想いも共に連れていく事のみ
眠りなさい。この地の底で、安らかに…



 一瞬の輝きは世界を本来の姿に取り戻すことができたはずだろう。
 常闇の世界にありて、陽光に輝く世界を知る者は多くはない。だからこそ、その刹那の間に煌めく蒼き燐光は『呪詛天使の残滓』の心に強烈なるものとして残ったことだろう。
 しかし、ゆえに。
 だからこそ、と言うべきであろうか。
 鮮烈なる世界の輝きは、きっと彼女の心にもまた色濃き影を写したことだろう。

 呪詛は消えない。
 紅剣の刀身にまとわりつく呪詛は、やはり世界への憎しみに溢れていた。
「どうして取り替えてくれないの。私の世界を、私の色を。こんなことなら、見なければよかった。知らなければよかった。世界がこんなにも」
 美しいのだと知らなければ、きっと絶望も憎しみもなかったことだろう。
「……生憎だけど、その望みを叶える気は無い」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は静かにそう告げた。
 彼女の背には、胸には多くの人々から遺志を託されているのだ。
 此処に在るという意味も何もかもを『呪詛天使の残滓』への憐憫の情とを天秤に掛けたとしても、それが傾くことはないのだ。
「……いくら憐憫の情を抱こうが彼らの想いを、そして何より私自身の誓いを無視することはできない」
 リーヴァルディの左眼の聖痕がユーベルコードに輝く。

 漂う死霊や怨霊の魂が彼女自身を覆っていく。
 今まで彼女が浄化した霊魂たちが彼女を守るのだ。振るわれた呪詛まとう紅剣の残光を弾き、しかして鮮血を迸らせ炎に塗れた『呪詛天使の残滓』は剣を振るうことを止めない。
「…………汝ら、この瞳をくぐる者、一切の望みを棄てよ」
 代行者の羈束・断末魔の瞳(レムナント・ゴーストイグニッション)。
 それは彼女の力を極限にまで増強させる。
 一瞬のまばたきも許されぬほどの速度でリーヴァルディは戦場を駆け抜ける。
 放たれた魔力の弾丸が『呪詛天使の残滓』の振るう紅剣と打ち合って、弾かれていく。

 その弾丸が地底都市の天井や大地を抉り、土煙を巻き起こす中、リーヴァルディは飛ぶ。
 残像すら残す速度で持って駆け抜ける姿は、まさしく吸血鬼狩りそのものであったことだろう。
「お前に必要なものは取り替えるものではなく……そう、安らかな眠り」
 己ができることは、それだけであるとリーヴァルディはつぶやく。

 大鎌と紅剣が激突する音、そして衝撃波が地底都市に吹き荒れる。
 一刻でも早く終わらせたい。
 目の前の呪詛に塗れた存在に掛けられる慈悲はとうに尽きている。だからこそ、リーヴァルディは疾走るのだ。
「取り替えて――!」
 呪詛に塗れた言葉。
 世界を憎しみで満たそうとする声。
 そのどれもがかつての彼女は望まないだろうとリーヴァルディは思った。だからこそ、祈るような気持ちで己の大鎌を手甲剣へと変化させ、その身にまとう呪詛を叩き切るように打ち付けるのだ。

 胸に打ち込まれた刀身が赤く濡れている。
「……私に出来るのは貴女の想いも共に連れて行くことのみ。眠りなさい。この地の底で、安らかに……」
 それだけが、祈ることだけがリーヴァルディに許されたことであるのならば。
 引き抜いた刀身のままに飛び立つリーヴァルディは眼下に見るだろう。

 煤色の身体が赤く染まり。
 けれど、常闇よりも暗き地底に咲いた一輪の華のように広がっていく『呪詛天使の残滓』、その倒れ伏す姿を――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
あとは、任せますねー(内部で睡眠体制)

交代
第三『侵す者』武の天才
一人称:わし 豪快古風
武器:黒燭炎

あやつ、無理しすぎなんじゃよ。
しかし、残滓か…やりにくいのう。

だが、取り替えてやるとこは出来ぬ。出来るのは、手向けに槍を向けることのみ。

残りの二人が結界術張っておるから、わしは炎属性攻撃と回避に専念できよう。
陰海月、下からの麻痺属性触手を頼むぞ。

剣を弾くようになぎ払い、さらにはそこからの最短距離指定UCつき刺突よな。
骸の海に帰るがよい。その感情は、お主のものだけゆえに。
わしは…わしらは、取り替えられぬのよ。


陰海月、静かに了解している。



 鮮血の華を咲かせた『呪詛天使の残滓』は倒れ伏していた。
 けれど、彼女は立ち上がる。
 その身を動かすのはもはや呪詛でもなく。ただの憎悪だけであった。器の中はもはや何もない。
 渦巻く世界への憎悪だけが彼女を突き動かすのだ。
 溢れるはずの呪詛は枯れ果て、紅剣はもはや輝くことはない。
 けれど、糸が切れた操り人形のように彼女はゆらりゆらりと立ち上がり、未だ満ちる憎悪のままに振る舞おうとする。
「とり、かえて、とりかえて……」
 哀れということなかれ。

 決して、憐れんではならぬと馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の四柱の中の一柱『侵す者』は思ったかもしれない。
『疾き者』と交代して顕現した『侵す者』は黒色の槍を構える。
 しかし、そこにあったのはもはや敵というには及ばない存在であった。
「残滓か……やりにくいのう」
 そう、呪詛に塗れた『呪詛天使の残滓』は、同じく呪詛を持って束ねられた四柱、複合型悪霊である己たちとある意味で同質。
 だからこそ、やりづらい。

 その身に宿していた呪詛の理由をしれば、確かにと思わないでもない。
 己たちの呪詛の向く先がオブリビオンであったからこそ、量へ至らしめていることを知るのならば、『呪詛天使の残滓』と己たちのどこに決定的な違いがあったのかと思わないでもない。
「取り替えてやることは出来ぬ」
 できないのだ。
 どうあがいても、どんなに望んでも。例え、それが救いとなるんだとしても。
 それだけはまかり通ることはない。

『陰海月』の触手が『呪詛天使の残滓』の身体を麻痺させる。
 影の中を移動する『陰海月』にとって、それは容易であったけれど、ここまで容易に接近できるのはこれまでの猟兵たちの戦いがあればこそであった。
「せめて痛みを感じさせぬことが手向けとしよう」
 構えた黒色槍。
 けれど、『呪詛天使の残滓』は反応すらしていない。
 だらりとした腕。
 力なく立つ足。

 言わば弱者そのものであった。
 剣を警戒するまでもなかった。そこに在ったのはまさしく『残滓』であったから。
 もうなにもない。
 呪詛も。憎悪さえも、今目の前で立ち消えた。
「骸の海に還るがよい。その感情は、お主のものだけゆえに」
 世界を憎むことも。
 世界を愛したことも。

 誰もが変えることのできないものである。
 だから、それは火のように(シンリャクスルコトヒノゴトク)放たれる一撃であった。
 穿たれた槍の一撃は地底都市そのものを打ち砕き、崩壊させていく。
 ばらりと砂塵のように砕けて霧散していく煤色の『呪詛天使の残滓』は、ひび割れるようにして『侵す者』の目の前から消えていく。

 なにか別の方策があったかもしれない。
 可能性を上げればきりがない。だからこそ、『侵す者』は誰に言うでもなく告げるのだ。
「わしは……わしらは、取り替えられぬのよ」
 かつて世界を愛したであろう『呪詛天使の残滓』。
 その残滓を見送り、ダークセイヴァーの闇の深さを知る。

 弄ぶ者がいる。
 生命を生命と思わぬ者がいる。
 猟兵たちの心を抉るのはいつだって、そういうものばかりであろう。
 けれど、立ち止まることは許されず。
 今を生きる者たちを守り、育むことでこそ猟兵達はかつて在りし『残滓』への手向けとする。

 涅槃は遠く。
 されど呪詛は届かず。
 救世は未だならず――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月26日


挿絵イラスト