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忘却のイースターリリー

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 ぽつぽつと、雨が降っている。
 降り止まない雫が地に伏した子供のまろい頬を滑り落ち。
 重なる様に伏す女性の背には剣筋鮮やかな一閃が刻まれていた。

 ぽつぽつと、雨が降っている。
 家紋のテッポウユリ刻まれたレリーフは無情にも斬り捨てられ泥にまみれたまま、無遠慮に踏みつけられて。
 汚れた、とでも言うかのように黄金の刃を振った黒甲冑の男―聖剣使いの吸血鬼・ブラック―が愛刀を鞘へ納めた時にはもう――……。
 ――村は、血臭に満ちていた。

 ぽつぽつと雨が降る。
 降り続けている。
『ブラック様、こいつで最後ですが……』
「う、ぁ……」
 容赦無く髪を掴んで一人の女を引き摺り上げた白甲冑の騎士―半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』―が嫌な笑いを受けべながらブラックに見せつけた。
 抵抗したのか、逆方向へ曲がった女の手には小さなナイフ。だがもうそれを振る力さえ無く、ラヴェントに勝てる力さえ無い女にブラックが興味を持つはずもない。
『……――』
 ふい、と一瞥もせずブラックは踵を返す。
 ブラックが求めるのは強き者。己と刃交えられるほど勇敢な剛の者。
 更に言うならば、己の命を天秤に掛けて良いと思える“戦い”のできる者。
 噂の“猟兵”ならばきっと、血沸き肉躍る戦いができるはず。斬り捨てた村一つ分の贄で、何人の猟兵が釣れるのか。
『……――、』
 考えただけで口角が上がるのを止められない。
 考えただけで胸の疼きが抑えられない。
 ああなんと、甘美なことか。
 今宵の殺戮など詮無きこと。弱きなど塵芥に過ぎず。
 さあよき贄となり、香り立つがいい。


 振り返りもしないブラックを見送り、ラヴェントは溜息を落とす。
 嫌な笑いもなりを潜め、冷たい目で呻く女の見下ろしていた。ああ、つまらない。張り合いの無い。吸うに値しない女の血で汚れた手を振り払い、舌打ち一つ。
『――やはりお前では駄目だそうだ』
 一刀。
 振るわれたラヴェントの刃が、女の命を刈り取った。

 ぽつぽつと、雨が降っている。


●遺却せし勲章
 猟兵達を迎えたのは、顔の白い壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)。
 どうしたのか、と問う猟兵達にゆっくりと首を振り、返せたのは微かな微笑みだけ。足取り重く席につき、目頭を押さえること数秒――、視線を下げたまま静かに口を開いた。
「村が……、村が、みんなが、焼かれてしまいます」
 消えいりそうな声で告げる予知。
 握った掌をなおも握りしめ、震えるような声で杜環子は続けていく。
「みなさま方を狙い、吸血鬼の一団が事件をおこしますの。……村を一つ、生贄にして」
 “生贄”。
 そう、村の犠牲はダークセイヴァーを牛耳る件の吸血鬼にとってはその程度。
 ある猟兵は悔し気に拳を握り、ある猟兵の目は冷えてゆく。またある猟兵は急ごうと口にし、またある猟兵は冷静に予知の続きを待った。

 赤い眦そのままに、杜環子は語る。
「小雨の中、村の第一襲撃陣は半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』です」
 今回の一計を案じた“聖剣使いの吸血鬼・ブラック”が村へ送り込んだ精鋭であり、ブラックの指示通り“猟兵を誘き出す”という名目の虐殺を行っている。そのため、猟兵が現れればすぐさま対象を変え襲い掛かってくることは間違いない。
 だが、ラヴェントを退けただけでは安心出来るはずもなく、続く二陣も苛烈だという。
「二陣は包囲網となっておりますの。……誰一人、生きて返すつもりなどないのでしょう」
 連戦は間違いなく苛烈になる。
 だからこそ、協力し合うことや一点突破などを視野にいるのもまた一計ですわ、と言いながら、握りしめていたらしい紙を広げ丸を描き“村”と書く。続いて入口のマークを正面に丸を一つ。
「ブラックは村の大門に待ち構えていますわ。ラヴェントを倒し、包囲網を突破したみなさまが来ることを、一人で」
 ブラックこと、“聖剣使いの吸血鬼・ブラック”。
 強敵を求めた末に猟兵を求めたオブリビオンの一人。
「……強いのですわ。でも、きっと」
 “みなさまなら、大丈夫”。
 伏せていた瞳を上げた杜環子が、猟兵を一人一人見た。
 そうして頷いたのち、深々と頭を下げる。
「みなさま、どうかお救いくださいませ……どうか、村を」

 祈るように願いを託し、杜環子は静かに鏡を撫でて猟兵を導いた。


皆川皐月
 はじめまして、皆川皐月(みながわ・さつき)と申します。
 この度は当オープニングをご覧下さりありがとうございます。

 今作は純粋な戦いをお送りしたいと思います。
 威厳も誇りも捨てた者達へ鉄槌を。

●各章の進み方
 成功数が集まった夜に章を進めていくことを検討しています。
 間に断章を挟み、また次の章へと進みます。
 頂いたプレイングは公序良俗に反さない限り全て執筆させていただく予定です。

●シナリオの流れ
 第一章:半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』戦。
 断章。
 第二章:包囲網戦。
 断章。
 第三章:聖剣使いの吸血鬼・ブラック戦。
 です。

●注意
 複数人でご参加される場合、互いの【ID】または【旅団名】などをご記載いただけますと助かります。
 また失効日も揃えて頂けますとなお嬉しいです。

●おすすめ
 マスターページに文字数を省略できるマークについての記載があります。
 もしよろしければお使いくださいませ。


 各章、ご参加は自由となっておりますのでお好みの場面にご参加いただけたら幸いです。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』』

POW   :    秘術・命喰らう強魔
対象の攻撃を軽減する【魔導鎧の効力全開状態 】に変身しつつ、【剣や指先から高密度の魔力の塊を放つこと】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    魔を宿す剣
【強化魔術を施した剣 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    騒めく魔の波紋
【召喚したレベル×1個の魔方陣から衝撃波 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は釘塚・機人です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●紅の涙雨
 何の感情もなく振り抜かれた刃の軌跡に沿って、紅い三日月が地面に映る。
 びしゃりと飛んだ血飛沫が白鎧に色を付けたことにピクリと眉を撥ねさせるも、舌打ちを一つしたくらい。
『まったく』
 紅い軌跡が一つ、二つ、三つ。
 悲鳴、怒号、命乞い。
 どれをとっても半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』の胸には何の一つも響かなかった。
 寧ろ不快そうに眉を顰め、また――。
『早く来るよう、もっと斬るべきか』
 面倒なことをと言わんばかりに溜息をつきながら、ラヴェントは無遠慮にドアを蹴破り中にいた女の頭を掴み、無理やり引きずり出す。
『俺に斬られることをありがたく――……』
『や、や、やめてくれぇぇ!!』
 必死に叫んだ夫と思しき男が家から飛び出し、ガクガクと震える手足で農具を構えた瞬間。
 ぐるりと振り向いたラヴェントは、笑っていた。

『諸共死ね、猟兵を恨みながらな!』

 雨は徐々に強くなる。
東天・三千六

うわあ、随分血生臭い空気の世界ですね
薄暗くしっとりとしたところは僕好み、ですが

ふむふむ、ではまずあの騎士殿にはご退場願いましょうね
遠くから呪殺を仕掛けましょう
…呪い、効きますかねえ?まあ人のため世のため容赦せずいきましょう
いま村の民を救えるのは僕達だけなんですから

離れたところから呪殺弾を途切れさせずに撃ちます
その場に足を止めさせられれば他の方の手助けにもなるでしょうか

身の内から呪いに蝕まれる君の痛み苦しみ、ふふ、是非教えてください



 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 血濡れた地面に東天・三千六(春雷・f33681)が眉を顰めたのも一瞬のことだった。
 村から絶えず響く悲鳴と怒号に齢とは似つかわしくない冷静さで、三千六は建物の影から半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』を見た。
 傍若無人な振る舞いは遠慮を知らず、見ている悪霊の自分さえ腹が立ってくる。ああ、呪ってしまえ呪ってしまえと、意識的に黒い染みのように祟り縄へ込めた“三血六の呪い”は呪殺弾の形を成す。
「ふむふむ、ではまずあの騎士殿にはご退場願いましょうね」
 放たれた呪殺弾は確かに白甲冑の肩を穿った。
 直後、空間を突き刺したラヴェントの剣が魔法陣を描き、切り抜く。
『物陰からなど無礼な真似を! ――来ぬならば、暴き出すまで!』
 三千六が悲鳴を上げるより先に、凄まじい衝撃が全身を駆け巡る。まるで銅鑼にでも放り込まれたまま幾度も打たれたような感覚と歪んだ視界、せり上がった血を吐き捨て、三千六は炙り出されるように家屋の影から飛び退いた。
 直後、脆い家屋は呆気なく崩れ去り三千六はラヴェントと向かい合う。
『なんだ猟兵、遅いではないか。俺はずいぶん待たされた』
「あー……僕はお前、いや、ラヴェントのようなのは呪いたくなるんです」
 静かに息を吐きだしながら三千六は次の手を模索する。
 自身は足止めをと考えていたのだ。そう、この呪いたくなる騎士を必ず倒すために。
「まあ、これも人のため世のためということです」
『ぬかせ!小賢しい龍風情!』
 にぃっと口角上げたラヴェントが鋼の刃振り上げ猛追する中、三千六は転がり避けてでも呪殺弾を撃つ。撃つ。撃つ。紫のマントを貫通させ白甲冑も打ち据えて。
 三千六自身も決して無傷ではない。斬られた身の傷み激しく、募る呪いが――……ああ、溢れる。

 雨が降っている。
「ああ呪われました? 蝕むそれは痛いですか?苦しいですか?」
『――は? あ、ぐ、ぅっ!』
 不意に飛んできた瓦礫がラヴェントの側頭部を打つ。苛立ち紛れにラヴェントの振った刃を三千六が紙一重で避ければ、放たれた呪殺弾が吸い込まれるように腹を打って。
「……ふふ、是非教えてください」
 呪いの連鎖は終わらない。
 引いて結んで縛って離さない、三千六の呪いはほどけない。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

尾守・夜野

「くそ共が…!」
純粋な怒りってのはこんななのかもな
…人格が複数ある関係上、何も感じない部分もあるがそれにすら俺はむかつくけど

村人が生きてりゃ救いてぇが…まぁ何言われようと、憎しみを向けられようと仕方ねぇとは思う
易々殺される気はねぇがまぁ殺しにくるくらいは許容範囲
俺が生きてる限り生きるの諦めないだろうし

生きてないなら…ただ目の前のを殺すのみ
「…覚悟は出来てんだろうな…!」
軽減されようと攻撃が通ってる事には変わらない
なら死ぬまで攻撃し続ければ相手は死ぬだろ!
剣や剣からのは避け、指からのがくるなら黒纏で包んでやり奴の自爆を狙う

その間もUCで攻撃はし続け体力や血を奪い戦線維持するぞ



 滲み湧く怒りが尾守・夜野(墓守・f05352)を突き動かす。
 痛いほど熱く、鼓膜を支配するほど響く鼓動に胸元を握りしめて、走る。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
「くそ共が…!」
『遅かったではないか! 猟兵よ!』
 飛び込み様に夜野が振り抜いた黒剣 怨剣村斬丸と半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』の剣が激しく鍔競り合う。
 にぃっと笑ったラヴェントに、夜野の苛立ちは最高潮――だが、夜野は頭の片隅でどこか冷静にこの場を見ていた。
 多重人格者ゆえ、夜野の中には別の人格が居る。その視点から見たならば酷くつまらなそうな目で、この村もラヴェントも見ていた――が、ただ一つ。今表に出ている夜野とその人格は共通した考えを持っていた。
「死ぬまで攻撃し続ければ、お前は死ぬだろ!」
『貴様もなぁ!!』
 いくつも剣戟が響く。
 瞬きの間にいくつもの鋼がぶつかり合い、雨の中にも拘らず飛ぶ火花が激しく咲いた。
 夜野が身を翻し、漆黒のマントがラヴェントの視界を一瞬奪うも、ラヴェントは尚も攻勢に出る。ギラギラとした殺気を真っ直ぐに、迷いなく。
 ラヴェントの魔を宿す剣が夜野を貫かんと閃いた。
『はぁぁあっ!!』
「易々させるか!」
 勢い殺さず突き出したラヴェントの刃を怨剣村斬丸の背骨鍔で引っ掛けるように逸らして弾き、夜野が踏み込んだラヴェントの間合い。
 捨て身などではない、幾重もの死線越えた夜野だから踏める一歩。
 いつの間にか、ラヴェントの腰当前にスキットルがあった。今にも落ち行くそれに今度は歯を見せて笑ったのは夜野だった。
「覚悟は出来てんだろうな……!」
 UC-ブラック・ガイスト―。

 殺戮と捕食に特化したそれが、ラヴェントの影すら食らいつくす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四・さゆり

気分が悪いわ、わたし
わたしが、気に食わないの
そう、それだけよ

主が為に先陣を行く、お前の心意気は買いましょう
だから、わたしが相手をしてあげる

そうね、邪魔な子たちは遠くにやりましょう
その刃が村人へ向かわぬように、気を引いて

あら、余所見だなんて。マナーから教えてあげましょうか
あなた、それでも騎士の端くれでしょう?
女の子の扱いも、知らないのね

ひらり、ひらり、刃の雨を弾いて、近づいて、踊るように
そう、

わたしの手が、傘が届く距離に、お前をエスコートしてあげたの

【篠突く雨】

ほら、お前は殺してきたのでしょう
弱き声を、その刃で、
ほら、我慢しなさい

まだ、お前を潰し足りないもの
わたし、許せないものは、許さないの



 月越しの雲の様なグレイの瞳は淡々と、しかして瞳の奥の熱は真夏より熱く。
「気分が悪いわ、わたし」
 振りくる雨粒よりも淡々と、四・さゆり(夜探し・f00775)は言った。
 半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』が剣を返すより早く得物を叩き込まんと、さゆりは真っ赤な傘―傷痕―を捻じ込むように突き出して。
 歯軋りをしたラヴェントが剣の鍔で忌々し気にさゆりの傘を撃ち落とした。
『貴様より、待たされた俺……いや、ここの領民の方がよほど気分が悪かろう!』
「……違うわね。やっぱりわたしが、気に食わないの。許せないの、」
 あなたのことが。
 小柄な少女のさゆりとて猟兵。大柄なラヴェントに恐れることなく隻眼で見上げれば、周囲に走るプレッシャーは凄まじいもの。だが気にした風も無く、にこりとすることもなく、さゆりの言葉の温度は変わらない。
「主が為に先陣を行く、お前の心意気は買いましょう。だから、わたしが相手をしてあげる」
『偉そうな……泣いて乞うても許しはしない』

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 向日葵に似た鮮やかな黄色のレインコートはさゆりにとって強気なレディの証。汗の代わりに頬滑る雨雫を頑張り屋のしるしに、踏み出した勢いで髪飾る雨粒は真珠の代わり。
 あくまでレディでありましょう?
「あなた、それでも騎士の端くれでしょう? 女の子の扱いも、知らないのね」
『貴様ァっ!』
 余裕のない男―ラヴェント―を一笑に付して、さゆりは踊る。
 振り撒かれた衝撃波を開いた傘で弾いて、力込めて突き出された魔宿した剣を傘地が捕らえてしまったのは、ほんの少しの誤算だけれど。
 捕らえた刃を巻き上げ、上空へと投げ捨てて。
 ねぇ、あなた?
「許さないって、言ったでしょ」
 隻眼の瞳がギラついて、ラヴェントは初めてさゆりの熱を知る。
 捻じ込まれる傷みに上げた悲鳴は、雨音に喰われて誰も聞くことは無いだろう。ただ唯一、一人の騎士の果てを覗き込んださゆりを除いて。

「ほら、我慢しなさい」
 あやす様な言葉で抉り込む。
 篠突く雨が、深々と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント

生贄、か…気に入らないな
わざわざ村一つ襲ってまで猟兵を呼び込もうとは酔狂な事だ
望み通り出向いてやるから覚悟しておけ

気を落ち着けて努めて冷静に、まずは襲撃の妨害を行う
敵が村人を襲うなら間に割って入り庇ってでも止める
村人の守りと同時に、猟兵が居ると認識させたい

敵に接近、そのまま近い距離を保つ
銃を扱うなら間合いを取るのも有効だと分かっているが、あえて近距離で戦い標的が村人に移らないよう気を引きたい

敵の間合いではあるが、ユーベルコードの効果で強化した剣の回避を試みる
更に剣を持つ腕を蹴り上げて剣の軌道を逸らし、零距離射撃の距離から鎧の継ぎ目を狙ってカウンターの射撃を叩き込む
的が近い分、いくらか当て易い



『さあ、死ね』
「させるか」
 ヴォンと咆えたカスタムバイク・レラから飛び降りたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の放った改良型フックワイヤーが、無辜の村人を殺さんと刃振り上げた半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』の腕を捕らえる。
『遅いぞ、猟兵よ!』
「ぬかせ」
 静かに歯を剥いたシキにラヴェントは至極楽し気に笑うや、掴んでいた女を投げ捨てると、矛先を変え刃を突き出す。
 ワイヤーを巻き戻しながら無理やり腕を引き上げ方向を変えさせられたラヴェントの刃がシキを頬を掠め切るも、シキは飛び込んだ勢いを殺さずシロガネの銃床でラヴェントの横っ面を殴り飛ばした。
「望み通り出向いたぞ」
『もうほとんど死んだがなぁ!』
 膠着は一瞬。
 一挙手一投足見逃さんと燃える様な怒り湛えたシキの目と、ぐるりと首回して睨み上げるラヴェントの視線がぶつかる。
 ここからは技術的な力技の殴りあいだった。
 ラヴェントがワイヤー引きちぎる勢いで袈裟に切り上げた魔剣を、シキのシロガネが零距離で撃ち抜く。すれば即座に返すラヴェントの魔剣が弾丸ごとシキの右脇腹を切り裂くと同時、ラヴェントの腹に穴が開いた。
「ぐ、」
『がはっ』
 しかして互いに距離を取ることを忘れたか。
 燃え上がる様にギラついた瞳は冷めることを知らず、シキがラヴェントの足を踏み止めた一瞬で太腿を零距離で撃ち抜けば、ラヴェントが柄頭で遠慮無くシキを殴りつける。
 至近距離で行われる殺し合いの、恐ろしく美しいこと――。
 
 雨が降っている。
 二人の体から溢れた熱が雨粒を湯気へと変え、白く立ち昇らせた。
『――フーッ、フーッ、おのれ、貴様ッ……!』
「ハッ、ハ――……あぁ腹括れよ。覚悟しろ」
 だんっ、と踏み込んだ一歩はどちらが先だったか。
 大上段から叩きつけるようにただ刃振り下ろされたはずの刃が瞬く間に強化魔術で覆われ、ほくそ笑んだラヴェントの顔を照らす。
『死ぬがいい、猟兵!』
「どんな技も当たらなきゃ意味は無い。だろう?騎士様」
 ラヴェントは、シキの耳が微かに風読み震えたことなど知らないだろう。
 超感覚と呼ぶべきか、野生の勘と言うべきか……UC―ワイルドセンス―は、本来なら避け得ない剣速の間合いさえ読む。
 一撃目を駆けるようにすり抜け、狙われた着地の瞬間シキは咄嗟に伸ばしたワイヤーで枯れ木を捕らえバランスを崩した――かに見えただけ。
 両手で剣を振り下ろす際、最も無防備なのは腕の輪の中だ。
 常ならば入り込めない間合いなれど、ワイルドセンスを発動したシキにとっては余裕の距離。
 跳ね起きざま腕の輪に足ごと入り込み、ラヴェントの首を捕らえ今度笑ったのはシキだった。
「酔狂な指示した主を恨めよ」
『おのれぇぇぇっ!!!』

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 悪辣なる騎士の首級へキス贈った銃口が硝煙を引く。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド

こんなことをせずとも、呼んでくれればすぐにそちらに行かせてもらいましたよ。
あなたたちを殺すためであれば、いつだろうと、どこへだろうと。

「フィンブルヴェト」から撃つ氷の弾丸で敵を狙います。
基本は他の猟兵の『援護射撃』もしくは敵の足元への『威嚇射撃』を織り交ぜることにより、接近されないように戦闘。

純粋な剣士というわけではないようですし、遠距離からこちらを狙う術もありそうですね。攻撃力重視の一撃は『見切り』回避、命中率、攻撃回数重視の技は銃剣で『武器受け』して切り払います。
近接戦闘もできないわけではありません。

攻撃を防ぎ、敵に隙ができたら【絶対零度の射手】を。氷の弾丸の連射で撃ち抜きます。



 雨が降っている。
 濡れた銀髪を払ったセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)の記憶の片隅に、この悍ましい光景の片鱗はあった。
 だが今は暗き郷愁に浸るべきではなく、行うべきは――。

「こんなことをせずとも、すぐ行きましたよ」
『こんなもの程度、切るも切らぬも同じことだ』
 淡々としたセルマの言葉を鼻で笑った半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』が、抜き身の長剣をゆっくりと構える。セルマもまた愛用のマスケット銃 フィンブルヴェトを構えれば先端に括られた刃 アルマスが雨雫に煌めいた。
『その首級を貰い受けてやろう』
「いえ、結構。撃ち抜きます」
 ラヴェントが踏み込むと同時にセルマが飛び退く攻防戦の距離は未だ縮まらない。
 スナイピングの技術高いセルマは村の枯れ木と廃屋を遮蔽物に行う射撃に足先を狙った威嚇を込めることで適度な距離を守り続けていた。
『くそっ、卑怯な真似を!』
「どうぞ、何とでも仰ってください」
 銃兵とは概ねそういうものだ。
 距離さえあれば、距離さえ保てれば、より有利なままであれる。
 拉げた枯れ木の間を抜けながら駆けるセルマはスコープを覗き迷いなく、しかして直感的に引き金を引く。
 すれば、セルマの放った氷の弾丸はラヴェントの肩を捉えて凍てつかせて。
『ぐっ、――逃がさん!』
 淡い光携えたラヴェントの剣が魔法陣を切り払った瞬間、放たれた衝撃波がセルマの全身を打つ。
「っ、あ」
 痛い。が、高所がない村構造であったとて障害物の枯れ木や廃屋を盾にセルマは足を止めない。
 ヴァンパイアを撃つことに躊躇いなどいらない。半魔だろうが半人だろうが、“オブリビオンとして蘇ったヴァンパイア”なのだから。
 刃が風を切る音が迫っている、ならば――。
「――逃げません」
『はぁぁあっ!』
 魔を宿す剣振り下ろしたラヴェントの剣筋はひどく愚直。“銃兵”が、“狙撃手”が、至近距離なら捉えられるとでも思ったのか。
「甘いです」
 セルマは呼気短く、直立。脇を締め垂直に構えたフィンブルヴェトの先端、銃剣の“剣”アルマスの刃で受けるや傾けた柄へ滑らせて受け弾く。
 銃剣格闘術と武器を受ける術を会得しているセルマにとって。周囲50センチ弱は絶対防御領域に近い。
『なんっ、』
「スコープの向こうの貴方が今日の獲物です」
 零距離でのUC 絶対零度の射手―アブソリュート・シューター―。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 息が凍てつくほど白い世界。凍った雨粒が宝石のように散る中、声も無く凍て散ったヴァンパイアをセルマの青は見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

丸越・梓


──…正義は心の数だけあるのだと思う
故に彼らにも彼らなりの標があり、剣を手にするのだろうと
だが俺は彼らの"正義"を受け入れられないから
彼らの前に立ち塞がる。…例え俺のこの"正義"が正しくなくても。
この村の人達が、子ども達が
犠牲になっていい理由なんてありはしないから


村人や子どもを庇いつつ、ラヴェントを彼らに近づけさせない様応戦
飛ぶ衝撃波あれば刃で弾き
又は庇って受ける
己より他者を最優先

どれだけ怪我を負おうが膝はつかず
凛と真っ直ぐラヴェントを見据え
再びの衝撃波あれば同時に此方も剣を抜く

闇を祓う様全ての衝撃波を斬り裂いて
流星の如く降り注ぐは
我が刃の軌跡



 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。

 すん、と丸越・梓(月焔・f31127)の気配嗅いだ半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』が忌々し気に舌打ちした。
 藍色の瞳で梓を睨め付けながら、掴んでいた女を捨てるように投げると犬歯を剥いたまま一歩一歩距離を詰める。
 抜き身の長剣は利き手らしい右で握ったまま、至近距離から梓を睨み煽る様に笑って見せた。
『半端者の分際で何をしに来た』
「ラヴェント、俺は君の“正義”が受け入れられない」
 だから、―――。
 梓の言葉は雨粒に掻き消えた。
 踏み出した足を泥が跳ね、黒い革靴を汚す。躊躇いなく抜き撃つように閃いた梓の妖刀―桜―の剣閃は音速を越えラヴェントに切り込む。
「……――ふっ」
『ぐっ、なめるな!』
 同じく踏み込んだラヴェントの白甲冑を泥が飾るも、互いに気にする余裕などない。
 時に力強く、時に嫋やかな梓の剣撃は舞うようにラヴェントの甲冑もその合間も切り込んでいった。と、その時だった。
『―――ぁ、う』
『邪魔だ!』
「っ、やめろ!」
 先程投げ捨てられた女性が苦しみ喘いだのだ。泥に塗れて尚、生きようと。
 だが、それに気づいたラヴェントが忌々し気に咆えたて切りつけようとした時、咄嗟に梓は身を挺した。
「ぐ、ぅ……っぅ」
『ほう、庇うか』
 肩に叩き込まれた魔を宿す剣が、梓の皮膚を裂き骨を軋ませる。
 攻撃力を重視したらしい一撃に呻いた梓の姿にラヴェントは恐ろしいほどの笑顔を浮かべながら、梓に告げた。
『ならば見せろ、貴様の信念か矜持とやらをなぁ!』

 ラヴェントが転がる幼子を踏み躙ろうとすれば梓の剣閃が威嚇し、伏した男性を貫こうとした刃を往なす。
『ちっ……――死ぬがいい!』
 舌打ちし、編んだ魔法陣を切り裂いて放った衝撃波を全身で受けた時、梓はふらりと傾いた。
 ニッと笑ったラヴェントは勝利と虫の息の村人を蹂躙する事だけを思っただろう。
 だが、未だ梓の燈火が消えることは無い。
「待て」
 だんっと衝いた桜の鞘を支えに、梓は立っていた。
 真白かった糊の利いたシャツは今や裂け血塗れなれど、着ている梓の気概は何も変わらない。“この程度”で梓の心が折れるなど、あり得ない。
『まだ立つか』
「……ああ、そうだ。まだ、終わってはいないからな」
 淡々とした口調で梓は言った。
 嘘偽りなく、心から。
『ぬかせ』
「もう花も咲いた頃だ」
 花咲くように梓の頭上でふうわり開いた鋼の蕾の名は、UC―絶華―。
 すべては刹那のことなれど、雨の如く降り寄せた鋼は八方へ飛び織上げるようにラヴェントを切り刻む。
『ぐ、うがぁぁぁぁああっっ!!』
 刻む、刻む、織り刻む。
 数多の鋼の花弁が地に突き立った時、立っていたのは梓一人。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 雨に濡れながら梓は静かに桜を振り払い納刀し、ただ一時の狭間に息をつく。

成功 🔵​🔵​🔴​

菊・菊
◎【蝶よ花よ】

「椿、」
呼んで、俺が前に出る
俺よりチビに前張らせるのは、気に食わねえから
騎士様のお相手は俺がしてやんの


「食え、寒菊」
刀に血を吸わせると、悲鳴がより鮮明に聞こえた
騎士様の動きが鈍く見える間に、浅くてもいい数入れりゃいい

痛みが長引くように、この苛立ちを刃を伝う

理不尽は、嫌いだ
ただ一人のために、冷たくなった肉塊が
誰かだったものが俺を見てる気がした
弱かった自分に重なって見えて、吐き気がする

「椿、」
呼んだ。視線を落とさずとも、そこに居ると
そう、わかる程に傍に置いていたから

白い蝶が、視界を埋め尽くして
俺の苛立ちを覆っていく

これが呪いだろうが言祝ぎだろうが、どっちでも良い
この羽搏きが俺を生かす


花厳・椿
◎ 【蝶よ花よ】
呼ばれて菊お兄ちゃんへ駆け寄る

えぇ、椿はか弱いの
だから守ってね
そうね、お手伝いはしてあげる

さよなら、坊や

昔、誰かが教えてくれた歌
ねぇ、人には命よりも大事なものがあるのでしょう
椿に見せて

白い蝶が守るように菊お兄ちゃんの囲む

倒れないでね?
あの子達みたいに
動かなくなった死体を見下ろす
椿はまだもっと菊お兄ちゃんと遊びたいから

駄目よ
傷ついたら
綺麗なお顔に傷がついたら勿体無いでしょう?

呼ばれて微笑む

なぁに?椿はここにいるよ
大丈夫、大丈夫
菊お兄ちゃんなら大丈夫

菊お兄ちゃんは強いわ
大丈夫、大丈夫
望み通り呪いのような祝福をかけてあげる



 小さな亡骸。大きな骸。つい先程まで――だったものが、転がっている。
 ここは地獄かと誰かに問うたなら、きっと凡その人間はそうだと肯定することだろう。
 そうきっと、ここは“そういう場所”なのだ。

「椿、」
 菊・菊(Code:pot mum・f29554)が小さく手を握ったり開いたりして花厳・椿(夢見鳥・f29557)を探し求めた時、ぴょんと距離詰めた椿が菊の指先に触れ甘い声で笑っていた。
「椿、」
「お兄ちゃん、守ってね」
 か弱い椿を、守ってね。
 雨降る戦場とは思ぬ柔く甘い音で椿は微笑み、前へ出た菊を見送った。一瞬ぶつかる様に触れた手をくすくす笑って、口元を隠しながら椿は思う。ちゃあんとお手伝いいしてあげるから、頑張ってね――と。

 菊と椿の姿を半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』が認めた時、抜き身の剣を携え一笑した。
『俺は子供を呼んだ覚えはないが』
「ラヴェント、アンタがお探しの猟兵だ」
 すらりと菊の抜いた日本刀には、菊の良く知る悪霊 寒菊 が憑いていた。眼前の悪辣な男と同じように血を好み、“殺戮する側”のような存在。ただ今この時封ぜられてる身だから菊に従うだけの悪霊。
 ひたりと、雨に濡れ冷たい鋼を菊は腕に当てた。
『なんだ貴様、なんのショーだ』
「――食えよ、寒菊」
「……さよなら坊や」
 ラヴェントが訝し気に出来たのもそこまで。
 眼前にあったはずの菊が消えると同時、群れる白蝶が雨より激しく迫って来る。ばさばさと明確に聞こえる羽音が顔中に。直後、反射的に構えた刃に斬り込んできたのは菊だった。
『小癪な真似を!』
 白蝶を切り払い舌打ったラヴェントが菊を認識しようと躍起に刃を振り回せば時折ぶつかる。右、左、下、上、左――……。
 早い。早いのだが、まだ拙い剣技をラヴェントの目は捉えた。
『逃がさん!』
「ぐ、がっ」
 狙いに特化させた魔宿した剣が菊を殴る様に斬り飛ばす。
「っ、お兄ちゃん」
 吹き飛ばされ肩で息する菊に畳みかけんとしたラヴェント目掛け手を翻した椿の白蝶が、ラヴェントの視界を奪わんと羽搏く。だが剣技を即座に切り替え、魔法陣切り裂き放たれる衝撃波が容赦なく椿ごと蹴散らした。
「あぅ、っぅ」
 吹き飛ばされた椿がふらりと膝をつきかけた時、視界の端でそれを見た菊が飛び出しすや、ラヴェントへ体当たりするように鍔競りあう。
「お兄ちゃん――」
『まだ立つか!』
 ぎ、と上から押し込まれるように菊が再びふらつく。
 だが、菊は耐えた。駆けだした時に見た“誰かだったもの”が頭にこびり付いて離れない。きっと奴らは弱かった自分だ。もしかしたらの可能性。だったかもしれない有りえた未来。
 ああ、理不尽なんて。
「……椿、」
「なぁに?椿はここにいるよ」
 鋼の擦れる音がする。蝶の羽搏きが聞こえる。
 ああこの羽搏きがあるのなら、あのほんのり甘い囁きが聞こえるから、きっと大丈夫。椿がいるなら、俺は――。
「菊お兄ちゃんなら、大丈夫」
 そう、大丈夫。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
『強がりは死んでからすることだ!』
「うるせえ」
 きゃははと耳元で叫ぶように笑った“コイツ”があんまり五月蠅いから、菊は刃を振りかざして叩き下ろして突き刺して抉って抜いて刺して抉った。
 ラヴェントの体が徐々に温度を無くしていく。冷えた蝶に囲まれて、食まれて、少しずつ。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

春乃・結希
これが罠なのは分かりきってる
普通ならわざわざ飛び込んだりしない
けど…この世界は別
大嫌いな絶望の世界で、希望を掴もうとする、私の大好きな人達だから
もうこれ以上、殺させない

『wanderer』の蒸気魔導力を移動力に回す
剣の切先、指先からズレるよう常に移動
放たれる魔力を回避し続け、隙が生まれた一瞬を見計らって一気に距離を詰め【ダッシュ】
すれ違い様に『with』を叩き付ける【重量攻撃】
軽減されてもいい。鎧を抜けるまで、繰り返すだけ【鎧無視攻撃】

誰でしたっけ?ブラック様?
あなたはそのヒトの言いなりなんですね
敵わないと分かってても戦おうとした、あなたが殺した人達
そっちの方が、よっぽど騎士らしいです



 罠と知りながら、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は走った。
 鼻を衝く血臭に顔をしかめた時、村の中央に立つ半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』が振り向き、ニッと笑って。
『遅いではないか、猟兵』
「これ以上はさせない。 アルダワの技術を使わせて貰います」
 アルダワとは、彼の魔法技術に溢れた一種の技術大国である。結希のブーツ、wandererの蒸気魔術回路は歯車からバネまで全てに特殊な文様が刻まれ、即時展開再構築からの最適解へ編成出来る優れものだ。
 ラヴェントにとってアルダワとは聞き覚えの無い言葉の域を出ないまま、躊躇したのは一瞬のこと。魔を宿す剣を振り下ろす。
『はぁあっ!』
「いこう、with」
 愛刀の鉄塊剣 withを手に結希は軽く地を蹴った――はずが、次の瞬間ラヴェントの背後に結希は居た。
「がら空きですよ」
『なっ、』
 本来、脚力強化に秀でたwandererを結希は全て移動力へ回したのだ。瞬きで回り込むほどの膂力で体を捻り、勢いよく振り抜いた鉄塊剣 withがラヴェントの横っ腹を殴り飛ばす。
 有り余る重量に凄まじい膂力が合わされば、そこに生まれるのは純粋な力。重力等諸々を味方につけた非常に科学的な戦い方だ。
「まだまだです!」
『が、っっつ、ゴホッ』
 ラヴェントは歯噛みした。斬るよりも打ち付けるように繰り出される剣撃は殴打に近く、凄まじい移動力を伴われれば重量級の大剣持ちを捉える隙を失う。
 あまつさえ、その大剣を軸に結希は時に身を翻し、時に盾のように扱うのだから、尚のこと翻弄される己の何と情けないことか。
 猟兵の厄介さは聞き及んでいたつもりなれど、これは――!
『勝手など、させるものか!!』
「勝手をしていたのはあなたたちでしょう……」
 結希の口を突いて出た言葉は本人も驚くほど冷たかったのは、倒れ伏す村人だったものを思えばこそか。
 それでもラヴェントは聞く耳を持たず、傷ついた体で展開したのは秘術・命喰らう強魔だった。
『く、ぐぅ……ク、クハハハッ! さぁ終わりだ猟兵よ!』
「あなたは所詮、ブラック様っていうヒトの言いなりなんですね」

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 ドン、と鈍い音が一つ響いた後。ラヴェントの刃が放ったはずの高密度の魔力が雲を突き破り天を刺す。
 深々とラヴェントを突き刺した結希の刃が、ほたほた滴り赤い水たまりを作っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
◎クロト様/f00472と

──神威同調、憑焔開始。

選ぶべきは近接戦闘。
猟兵の力が見たかったのでしょう?
でしたら好きなだけ味あわせて差し上げます。
わたくし以外に気を遣ることを許しません。
この焔と、刃とで。
好きなだけ斬って斬られて差し上げます。
わたくしの焔は生半可な攻撃は通しませんけど。

それに、ここは闇の世界。
焔の明るさは闇を塗り潰します。
夜の裡に潜んだ致命は見落としてしまうでしょう?

ねぇ、クロト様?

声の合図と共に交代。
ええ、わたくしは囮です。
けれど、想定通り、これでお終いです。

ええ?
今更惜しむものでもありませんし。
──それに、腸煮えくり返ってますから。
手加減なぞしていられない。それだけです。


クロト・ラトキエ
神楽耶嬢(f15297)と

先ず陣取るは建物上。
速度。利き手、構え、軸足。
視線。挙動の癖。攻撃の兆し…
敵を具に、視る。見切り、先へ繋ぐ為。
同時に放つ、光を弾かぬ燻し色の鋼糸。
周囲の建物、木々…数多障害物へ
敵が神楽耶嬢へ意識を向けている間に形成する、糸の檻。

合図は声。
敵の足元に極細の鋼糸。
攻め来る速度を利用した、単純な罠。
けれど、えぇ。
これ以上何も出来ぬとご承知置きを。

可憐なお嬢さんを危険に晒して、
卑怯?狡猾?
派手に出て来ればいいものを、
弱者を虐げて猟兵を嵌める様な臆病者よりマシでは?
にっこり笑って引く、鋼糸。
触れるモノを引き斬り、断つ、檻
――拾式

時に、穂結サン?
寿命は大物までとっときましょうよー



 鋼がぶつかり火花散る。
 降る雨さえ切り捨て、穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)は笑った。
「猟兵の力が見たかったのでしょう? ねえ?」
『ぐっ、 ハ、ハハハハ!待っていた、ずいぶん遅いではないか猟兵よ!』
 神楽耶の勢いに威勢のいい女が来たものだ、と半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』がニタリと口角を上げた。鍔競り合うままギリギリと拮抗する神楽耶とラヴェントの刃。
 ガァン、キインと時に凄まじく、時に軽やかな受け流しと、形の無い神楽耶の刃―結ノ太刀―はラヴェントを逃さない。
「さ、好きなだけ味あわせて差し上げます。わたくし以外に気を遣ることを許しません」
『いいだろう、逃げるなよ……!』
 闇には鮮やかする焔絡む刃と淡く光る魔宿した剣がぶつかり合う。

 その間に、廃屋に等しい屋根の上から身を低くしたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)が静かに戦況を見つめていた。
「なるほど……」
 目を細めてクロトは命削って戦う神楽耶を時に肉薄しながらも、返した刀に斬りつけられるラヴェントをただ静かに、見ていた。
 今回、まるで真逆の戦法を得手とする二人が組んだことには意味がある。
 強気を求めたならば惹かれてやまない強い輝きを放つ神楽耶を誘蛾灯に、クロトは廃屋の屋根から始め、枯れ木の間、柵の間、岩をの間と目につくもの全てに光を弾かぬ燻し色の鋼糸を絡めて垂らして掛けていく。

 神楽耶は信頼するクロトを決して振り返らない。
「……生半ですこと。わたくしが切ってばかりではなくて?」
『ハンッ! 貴様とて血達磨だろう!』
 まだ、燃やせる。斬りつけられた脇腹も、掠められた足の鈍痛は痛みの耐性が誤魔化してくれる。
 内心そう思いながら神楽耶はラヴェントを煽ることをやめない。目を逸らすな、こちらを見ろ!と振りかざす刃を一層強く燃やして、まだ。
 とその時だ。合図が聞こえる。
「……あなた様は闇に眼の慣れた方。わたくしの焔はさぞ眩しかったことでしょう。 そう思いませんか、クロト様」
『は?何を――』
「えぇ、えぇ、本当に。弱者を虐げ猟兵を嵌める様な臆病者には眩しすぎるでしょう」
 にこりと、神楽耶は笑って一人の男の名を呼んだ。
 すれば、呼ばれたクロトもまた微笑みをたたえたまま廃屋の影からひらりと手を振り現れれば、ハッと焦ったラヴェントが歯を噛みながら二人から距離を取ろうとした。
『臆病などと、貴様らの様な卑怯者に呼ばれる謂れなどない!』
「おや、開き直りですか?」
 残念です。などと表情と言葉がちぐはぐなままクロトは指を絡めた鋼糸――引いた。
 しゅるしゅると擦れる音が徐々に早くなる。
 焦ったラヴェントが走りだそうとした時にはもう、全てすべてが遅かった。
 ラヴェントが踏み出した瞬間、ピンと低く張った糸が足を引っかけ、転んだ先の鋭利な糸が鎧ごと身を傷つける。転がり逃げようとしたところで、転がるほどに糸絡んだからだが枯れ木に引っかかる。
 速度。利き手、構え、軸足。視線。挙動の癖。攻撃の兆し……更に甲冑の強度さえ。およそ予測して作られたクロトの罠こと、UC―拾式 ツェーン―。

『あ、あ、あ  あぁぁああああ!!』

 惨劇は鮮やかにして、終いまで精緻に。
 ふと神楽耶を見たクロトが軽く首を傾げながらどこか心配そうに言う。
「時に、穂結サン? 寿命は大物までとっときましょうよー」
「ええ? 今更惜しむものでもありませんし──それに、腸煮えくり返ってますから」
 言葉返した神楽耶の目の、何と冷たいことか。
 湛えた色の熱さよりも、冷めた炎が雨の中を行く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アストリーゼ・レギンレイヴ


……そう、そんなことの為だけに
罪もない人々に、このような非道を行う
お前たちのその傲慢こそ、度し難いわ

立ち向かうならば正面から
相手へと肉薄し、覚悟を以て剣を交えましょう
距離を離すいとまなど与えない
膂力(【怪力】)で圧倒して足を止めさせるわ
多少の負傷は気に掛けない、流れる血も厭わない
痛みこそあれど、この体はその程度では止まらない
……お前たちへの怒りが尽きぬ限り、この足は止まらないわ

暗闇の世界の中で、それでも日々を懸命に繋ぐ人々を
身勝手に害するお前たちを、あたしは決して許さない
どんな鎧を纏おうと、いかな剣を扱おうと
信念なき悪辣な騎士などに、負けはしないわ
……その首、貰い受けるわよ



 この傲慢を何とするか。
 眼前に広がる血とこと切れた村人達の姿に、アストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)は愛刀の黒剣―月闇―の柄が軋むほど握りしめた。
 無辜の民をこれほど簡単に切り捨て。これほど無残に晒すことの目的が“猟兵を誘き出すため”程度のこと。

 来るなら来いと、正面を切ればいい。
 回りくどいこのやり方が酷く、憎らしい。
『やっとお出ましか。遅かったではないか、猟兵』
「実に、度し難いわ」
 半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』がアストリーゼを認めた時、アストリーゼが猛然と突進する。
 距離など離してやるものか。必ず、そう必ずこの男を――。
「ハッ!」
 叩きつけるように月闇を突き出し、刃を滑らせ流されたならアストリーゼ持ち前の膂力で捻じ伏せるように切り込む。
『っ、おのれ』
「……お前たちへの怒りが尽きぬ限り、この足は止まらないわ!」
 踏み込む。
 叩き下ろした剣を引き様にラヴェントに当て斬り、引き戻し切った月闇を最大の膂力を以て大上段から――斬る。
 直前に、踏み込む。
「――フッ、」
『チィッ!』
 思い切り振り下ろした月闇と、のしかかる様にアストリーゼが押し込めば、体制が崩れかける。
 追い立てるように叩き込み、一歩でも相手が逃げるなら突進を。下がる余地を見出すならば一歩踏み出て斬らんとす。
 凄まじい気迫がラヴェントを焦燥へと駆り立てる。
 いくら切ろうと、魔力の衝撃破で打とうと、アストリーゼがピクリとも揺らがないのだ。痛みに耐え構えたまま正面からの突撃。

 風を切る月闇が、雨を切り散らした。
 再びラヴェントがアストリーゼから押し込まれた時だった。――ずるりと、足元が泥で滑っていく。
 まるでスローモーションのようだけれど、人体構造上咄嗟に何かを掴めたとて不意に崩れた体制を急に直すことは不可能だ。
『あっ』
「裁くわよ」
 間髪入れずに聞こえた言葉は、アストリーゼのUC―黒の断撃 ノー・マーシー―のキーコード。
 暗闇の世界の中で、それでも日々を懸命に繋ぐ人々を身勝手に害する罪を裁こう。
騎士の名を借り公正でなった罰を与えよう。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
「……その首、貰い受けるわよ」
 横合いに一閃。
 アストリーゼの扱いなれた黒剣の文様が血吸うように淡く光っただけ。
 この雨の戦いは終わらない。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル


…猟兵を誘き寄せる為に無辜の人々を犠牲にしようとするなんて…
お前達は何時もそう。力無き者達を虐げ己の欲望を満たそうとする…

…ならば半魔の騎士よ、お前に問うわ
無力とは悪なのか?力持つ者が正義なのか?
強者が弱者を食い物にするのが正しさならば、私はその正義に反逆するわ

積み上げてきた戦闘知識から敵の行動を暗視して攻撃を見切り、
魔力を溜めた大鎌から斬擊波を乱れ撃ちして衝撃波を迎撃して受け流し、
第六感が好機を捉えたら"雷の精霊結晶"を弾丸のように投擲してUC発動
雷属性攻撃の呪詛のオーラで防御ごと敵を捕縛し動きを封じるわ

…雨が降っているなら、この術が有効ね
奴の動きは私が止める。その間に攻撃の準備を…


カイム・クローバー

自分より弱い相手を虐めて得意気な面してやがるとは。
村の連中はアンタらにとっちゃ、撒き餌同然って訳かい?…大した騎士様だぜ。俺の一番嫌いなタイプだ。吐き気がする。

魔剣を顕現。猟兵を誘き出すのが狙いなんだって?遊んでくれる相手が欲しいなら此処に居るぜ。(魔剣を突き付け)
【見切り】で剣を躱しつつ、【怪力】を持って剣を返していく。シンプルな剣の打ち合い。反射神経と判断力と経験が生死を分ける緊張感とスリル…のハズなんだが。
――ハッ、アンタじゃ全然、ノらねぇな。
UCを叩き込んで下らねぇダンスを終わりにするぜ。

拍子抜けだぜ。ご自慢の剣技は自分より弱い相手専門だったかい?だとしたら――俺が強くて悪かったな。



 雨降る中、偶然にも同じタイミングで踏み出した二人の猟兵、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)とカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が共に駆けだしたのは自然な流れであった。

 大鎌型の黒剣―過去を刻むもの―の柄を握りしめたリーヴァルディが、ぎゅっと眉を寄せ呟く。
「……猟兵を誘き寄せる為に、無辜の人々を犠牲にしようとするなんて……」
「ほーんと、弱い相手を虐めて得意げな面してるとは」
 言葉を継いだカイムも担いだ鉄塊剣―神殺しの魔剣―を手に、顔を顰めた。
 村の中央に向かうほど陰惨な血の水たまりが点々と作られ、倒れ伏す村人の数が目に見えて増えていく。
「お前達は何時もそう。力無き者達を虐げ己の欲望を満たそうとする……」
 リーヴァルディの怒りはらんだ呟きは、雨に撒かれたまま半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』に届くことは無かった。
 ラヴェントはといえば、待っていましたと言わんばかりに笑った表情がリーヴァルディに気付くなり険しくなる。
『……なりそこないと、人間風情か』
「……お前には関係ない」
「お前、俺の一番嫌いなタイプだわ」
 言葉少なく、全員が地を蹴って。
 散った火花もそのままに、三つの刃がぶつかり合った。

『フッ――!』
「どこ見てんだよ、ノれねぇ剣しやがって!」
 魔を宿す剣を振り抜くも、カイムは雨で滑る泥の中を踊る様に避けてみせた。
 リーヴァルディもまたカイムが離れた隙とラヴェントが最大回数剣を振り回した
隙を狙って飛ばす斬撃波は確実にラヴェントを削っていく。
『ガッ、このっ……!』
「半魔の騎士よ、お前に問うわ」
 カイムと入れ替わったリーヴァルディが、ラヴェントの藍色の瞳を見た。リーヴァルディは何故純粋なヴァンパイアではないラヴェントがこうもヴァンパイアに添いたがるのか不思議だったのだ。
「無力とは悪なのか?力持つ者が正義なのか?」
 淡々と、大鎌の柄尻を蹴り上げ遠心力で軽々と回転させながらリーヴァルディは切り込む。
 返すラヴェントの刃が、リーヴァルディの頬を掠める。
『力があればこそ、成せることがある』
 直後返ってきたのはリーヴァルディの予想に反した温度の無い言葉だった。
『――貴様らには、関係の無い話だ!!』
 ドンッ、と発された騒めく魔の波紋をリーヴァルディの斬撃で相殺した二人は、徐々に這う這うの体になってきたラヴェントの姿に攻撃を切り替える。
 降る雨はまだ、止みそうになかった。
「……雨が降っているなら、奴の動きは私が止める。その間に攻撃の準備を……」
「最高のダンスを見せてやるよ」
 カイムがニカリと笑った瞬間、リーヴァルディは迷いなく雷の魔結晶を撃った。
 一見すればただ輝く石だが、しかし――。
「……我が手に宿れ雷の理。彼の者に雷霆の呪縛を与えよ」
 リーヴァルディの詠唱はUC―吸血鬼狩りの業・縛雷の型 カーライル―のもの。先に撃った雷の魔結晶のせいか空気が肌をピリピリさせた瞬間、殺到した呪符に似た杭と弾ける稲妻がラヴェントを締めあげた。
『グ、ガアアアァァァ!!お、のれ!離せ!!』
「おいおい今が最高の時間だぜ?お前も踊れよ」
 藻掻けば藻掻くほど捕縛の術式がラヴェントを食み、逃れえぬものが眼前にやって来る。
 カイムのUC―死の舞踏 ダンス・マカブル―は、雨の中大輪の赤を地に刻み込んだ。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
碌でも無い真似を仕出かしてくれるものだ……
そんなものに乗せられるのは業腹だが仕方ない
其の報いは確と受けて貰うぞ

此れ以上の狼藉はさせん
五感で得うる情報全てに第六感重ね、戦闘知識にて計り用い
致命と行動阻害と為る攻撃は見切り躱す事に努め
些細なものは武器受けにて弾き落とす
――遮斥隕征、無駄と知れ
囲う様に衝撃波を飛ばし逃げ場を塞ぐと同時、追って接敵
フェイント使って隙を抉じ開け
怪力乗せた斬撃で以って、鎧ごと叩き斬ってくれる
此の刃は成すべきを為す為にあると知れ

此の世界、今を生きるもの、其の未来
何れもお前たち過去の残滓如きの玩具では無い
精々骸の海で泥遊びでもしているのが似合いだ
相応しい場へと――疾く、潰えろ



 半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』と鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が相対した時、肌を刺すようなプレッシャーが場を鋭く占めていた。
 藍色の両目鋭く見やるラヴェントと、柘榴石の如き深赤の隻眼湛えた嵯泉。
 二人の戦いは酷く静かな、雨音さえ響きそうな静寂の中斬り結んだ。

 繰り出される嵯泉のサムライブレイド―秋水―は、両刃のラヴェントの長剣と違い一見して細身の刃である。
 だが斬り結んで初めて分かる。あの刃は嫌なほど撓り、折ってやろうと両刃を叩きつけたところで罅も割れも見込めぬ柔軟な鋼の刃だったのだ。
 無理に押し込めば、手首返した嵯泉の抜けるように刀が返されラヴェントの頬が切れた。
 ならばと叩き落そうとすれば、逆方向に手首返した嵯泉に受け流され、素早い一閃が鎧の隙間を走った。
 距離を取らんとすれば、長身の嵯泉は躊躇いなく大きな一歩で袈裟に斬り込んでくる。
『おのれ、貴様ァっ……!』
「――遮斥隕征、無駄と知れ」
 ひどく静かな声なれど、嫌に耳心地の良い声がした。
 いつの間に納刀していたのか、秋水の閃きがない。そう思った瞬間、ラヴェントは打って出た。が、嵯泉はこの間合いと時を、研鑽した感覚で待っていただけ。

 向かってきたラヴェントが刃を振り上げる前に、微動だにしなかった嵯泉が勢いよく踏み込みラヴェントの体制を崩す。斬るか結ぶかとまで接近した瞬間、入れ替わる様に避ければ恐ろしいほど素直にラヴェントは嵯泉を斬り損ね、ラヴェントが慌てて取って返し振り向いたところで、たかが知れたもの。
『――っ、くそ!』
「――何をしようが無駄だ」
 抜き打ち一閃。
 ほぼ零距離の居合が、金切り音さえ立てずに鎧ごとラヴェントを斬り捨てた。

「過去の残滓たる貴様は、――骸の海へ、疾く潰えろ」

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 振るわれた秋水は雨さえ斬って、今一時静かに鞘へ収まった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
◎ ●POW
人の道から外れた行いであればある程こちらとしても都合が良い
そいつの事情を考慮する必要がなくなるからな

可能なら住居などの生活圏から外れた場所で戦闘をしたい
例え目の前の脅威が去ったとしても人々の生活はここで続いて行く

〈冥府の槍〉を手に戦闘を開始
魔力の塊は[結界術]の力を混ぜ込んだ炎を槍に纏わせ即席の盾状にし上空などへ軌道を逸らそう
剣による直接攻撃は[武器で受け、カウンター]に繋げる
その命を削る鎧は身体の何処までを覆うのか試していいか

カウンター時に一際抉り込めると[瞬間思考力]で判断したものにUCをのせる
身体の表面と傷口からも侵入した炎で敵を拘束
爆破若しくは味方の攻撃の直撃を狙うよ



 雨の中、半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』と鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)が静かに睨みあっていた。
 ぼたぼたと雨降る中、相馬の火尖鎗―冥府の槍―が先端から青白い炎を滴らせて雨を焼き、ラヴェントが強化魔術施した長剣が分厚い雲の薄闇の下、怪しげな光を放っている。
 月より鮮やかな金瞳を吊り上げながら軍帽の鍔を上げ、口角だけを上げた。
「お前が人の道から外れた行いをすればする程、こちらとしても都合が良い」
『人の理がなんだ。下賤な人間など、俺には関係ない』
 犬歯を剥いたラヴェントが怒り交じりに言うや、猛然と突進し魔を宿す剣で繰り出した力任せの突き。
 半人の名を持ちながら人を嘲ったラヴェントに、相馬は口角さえ上げることをやめた。持ち上げた冥府の槍を当て半回転で往なし、そのまま拳で殴りつける。
『ぐあっ』
「一切、お前の事情など考慮しない。お前を裁く」
 相馬が顔を抑え呻くラヴェントにやったのは一瞥だけ。言葉通りに相馬は慈悲なく、ただ追い詰め容赦なく焼却するために拳を握る。
『っ、この』
「遅い」
 態勢を崩したままだったラヴェントがふらりと立ち上がりざま、相馬が渾身の力で冥府の槍を突き出せば、身を翻して転がり避ける。だが、踏み出した勢いそのままにドンっと踏み込んだ相馬が鉄板入りの軍靴でラヴェントを横合いから蹴り飛ばした。
 みしりと軋んだのはどこの骨か。
『あっ、ぐううううおのれぇぇえええ1!』
 ぎりぎりと忌々し気に歯を食いしばったラヴェントが盛んだ瞬間、ビキリと罅刻んだ白甲冑が伸び始める。
 ぐねぐねとラヴェントを覆うように伸び、広がったのそれがラヴェントの全身を覆い隠せば、相馬がほんの少し楽し気に目を細めた。
「“それ”はどこまでもつ?」

 ここから先は我慢比べに近かった。
 相馬の突きも、時に刃を、時に拳を往なすように当て回す槍に翻弄され続けたラヴェントが怒り任せに擲つ魔力弾だったが、それもまた全て相馬の予想の範疇で。
 薄くも堅牢な結界術の膜で覆った槍で滑る様に魔弾は上空へ往なされて。
『おぉぉぉぉおおおっっ!!!』
「……そろそろ終いにしよう」
 打ち合う間にラヴェントの鎧は罅割れ剥がれ軋んでいた。
 その姿に終わりを告げたのは淡々とした相馬の声。そこに抑揚は無く、慈悲と言うより義務的な青白い炎の執行。
 掴みかからんと伸ばされたラヴェントの手を弾き上げ、一歩。
 否、相馬は二歩踏み込む。
 いっそ呼気さえ聞こえそうな距離感から、限界まで引き絞った相馬の冥府の槍が燃えている。
 青白く、熱いはずなのに嫌に冷たいような地獄が、燃えている。
「大人しくしてもらおうか」

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 深々と冥府の槍に貫かれたラヴェントの秘術は解け、茫洋と地を眺める瞳に色はない。
 雨が少し強く降る。
 時折地獄の青白い炎に焼かれ音を立てながら、まだ、雨は降り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ


アァ……頭の高いヤツが今日も吼えている…。
賢い君、賢い君
アイツをやろう、そうしよう。

薬指の傷を噛み切って、相棒の拷問器具の賢い君を起こす。
剣は斬れる。賢い君が斬られる。
ならなら、アァ……腕を狙おう…。

属性攻撃は毒。賢い君の毒。
赤い糸を自在に操り腕を狙うンだ。
痺れて動きが鈍くなってきたら
腕から剣を引き剥がすコトを考えるンだ。

コレはあくまでも支援に徹する。
おびき寄せでコッチを向かせて隙を作るンだ。

鬼サンコチラ。コッチコッチ。

コノ世界は賢いヤツしか生き延びれない。
賢い君、賢い君
次はどうやって遊ぶ?遊ぶ?

アァ……イイネ…。
首を狙おうカ。

もっともっと、あーそーぼ。


鳴宮・匡


生きることは、殺すことと同じだった

だから、人の命の重さ、とか
それが喪われるのが許せない、とか
そんな“普通の人間”みたいなことは思えない

――だけど
だからこそこの指先は鈍らない
怒りで逸ることも、痛みに鈍ることもない

こちらの方が射程は長く、障害物もある
距離を詰められてもうまく地形を利用して引き離し
なるべく相手の得意な距離で戦わせないように立ち回るよ

剣筋にはその相手の癖が出る
どんな戦術を用いる相手でも同じだ
視線の動き、力の籠め方、姿勢、足の踏み込み
あらゆる挙動からそれを見切り
その隙をうまく衝いて狙撃していく

物事の帳尻は合うようにできてるんだ
殺したなら、殺し返されても文句は言えないぜ
ここで墜ちてもらう



 いとも簡単に人を斬り捨て高笑いした男の背。
 雨のカーテン越しでも嫌に鮮明に見える男―半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』―の背を、エンジ・カラカ(六月・f06959)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)は見ていた。
「アァ……頭の高いヤツが今日も吼えている……」
「……そうだな」
 エンジも匡も、ラヴェントの行いやラヴェント自身を忌々しいとは口にはしなかった。
 エンジはそこまで興味が無いのもあるが、匡は己の過去を見た時ラヴェントにとやかく言える立場ではないと、ふと頭を過ったからだ。そう、そんな“普通の人間”みたいなこと、言えるわけがない。
 それでも指先が白むほど無意識に握る拳には、匡の心があった。
 匡が静かに刃を構え、エンジが“相棒”と囁き合った時。
「賢い君、賢い君――アイツをやろう、そうしよう」
「エンジ、よろしくな」
 匡の言葉にエンジが瞳を弓なりに細めた直後のこと。エンジがぎりりと左手の薬指に歯を立てる。
 匡はエンジの動作に多少驚きはしたがその程度。猟兵ならばすぐ直る傷だし、やるからには意味があるのだろうと断じたのはすぐだった。
 雨の中でも半吸血鬼ゆえ、わずかばかりの血の匂いにすぐ気づいたラヴェントの方がぎょっとしていたのだから不思議なものだった。
『貴様、それは』
 エンジは口角上げたまま一切の迷いなく千切る勢いで薬指を食む。
 ガリ、ゴリ、ぶちゅぐちゅ、ぐ    ぶちち、ちり。
 およそ二拍ほどの間で躊躇いなく自身の薬指を噛み切り、付けたるは鈍く照る拷問器具―賢い君―、またの名を“辰砂”だ。
 猟兵が来るであろうということは想定していたが、まさか目の前で自傷されるなど、ラヴェントの予想の範疇外もいいところ。
『……――厄介な猟兵め』
「覚悟しろ、ラヴェント」
「ハロゥ。 あーそーぼー?」
 匡が間髪入れずにBHG-738C [Stranger]を発砲する中、エンジの指先がついと賢い君の先端を引けば、するすると出たのは赤い糸。決して切れぬように、離れぬように細く細く編まれた赤をラヴェント目掛けてエンジは擲つ。
 間断なく降る鉛の雨の中、咄嗟気付き弾いた糸の先端を往なしたつもりがラヴェントの頬は薄く斬られていた。
 双方ともに飛び道具か、と知ったラヴェントが舌打ったのは一度きり。
『斬る』
 どうと飛び出してきたラヴェントに、匡とエンジは自然と二手に分かれていた。
 冷静そうに見えて一手目から飛び出したラヴェントに余裕はあまり無さそうだと判断した匡はラヴェントの気を惹くように時折顔の近くや足元を狙って発砲。
 振り抜かれた剣にさえあえて弾を当ててみせれば、ラヴェントの苛立ちは徐々に募る。
「お前、癖が出すぎだぜ」
 全て見える。音も無く発動した匡のUC―千篇万禍 ゼロ・ミリオン―。
 スコープを覗くとも覗かずとも、匡はこの戦場で“一発も外していない”なにせ、全て“視て”撃っているのだから。
 元来戦場傭兵ゆえのセンスから放つ弾丸は常に鋭く、わざと追いつかせて転がり避けざまに撃った一発は剣の起動を逸らす為など、匡の射撃は全てに意味を持っていた。
『おのれ、貴様ら!』
「――ばあ」
 すい、と鎧の隙間をエンジの赤い糸が撫でた。
 追って切れた紺地の狭間、覗いたラヴェントの肌がすっぱりと切れている。
『……! っぅ、ぐ』
 いつの間に。
 一つの痛みを自覚してしまえば、ラヴェントは痛みに連鎖的に気付く羽目になる。
 反対の肘内側、手首、手首、手首、膝裏。全て恐ろしいほど正確に鎧の隙間を切っている。
 愚直で武骨な剣では行えない繊細な手口。歯噛みし叫ぼうとした時、はくりとラヴェントの口から音が出なかった。
『~~ぁ、っ、ぅぁ?』
 何故と問う事さえ、できない。
 にんまりと、エンジが笑っている。左手薬指の“賢い君”を指先でゆっくりと撫でながら、笑っている。
「コノ世界は賢いヤツしか生き延びれない」
「それと、物事の帳尻は合うようにできてるんだ」
 痺れる体に膝をついたラヴェントがいくら睨み上げようと、エンジの冷めた目と突きつける様な言葉も、諭すような匡の言葉は、怒りに燃えたラヴェントに届くことは無いけれど。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 タン、と軽い一発が、事も無げに一人の半吸血鬼を撃ち落とすも、降る雨が瞬く間に音を殺した。
 少し強く、雨が降る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル

ぽつぽつ、雨が降る
紫煙が漂う空を見上げ
騒がしい場所へ駆け出した

虐殺なんて、くだらねえ
戦いっていうのは
一対一で闘うモンだろ
誰の命も、奪わせねえよ

やがて辿り着くは戦地
今まさに村民が犠牲になろうとしていて
先に飛び立った相棒竜が
村民の首根っこを咥えて距離を取る

お前がラヴェントか

ぐしゃり、と
今まで吸っていた煙草を地面で潰す
双子鉈を引き抜き不敵に口角を上げた
いつの間にか戻ってきた黒竜は定位置の肩の上

なあ、オレと遊ぼうか

くるくると鉈を振るって
挑発するように意地悪く笑う
視線はラヴェントから逸らさず

肩から飛び立つ黒炎の竜
放たれる魔力の塊を得物で捌き
地を蹴って、懐で、また、にやり

──お前の命、オレが貰ってやるよ



 紫煙を伴いルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は雨の中を駆けた。
 降り立った直後微かに聞こえた悲鳴も今は無く、ああこの命の音無き村のなんと恐ろしいことか。
『さあ、死ぬがいい!』
「おい」
 村人の首を掴み、刃振り下ろさんとした半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』の真横に、ルーファスは居た。
 言葉の直後ルーファスが思い切りラヴェントの手首殴りつければ、痛みと衝撃でラヴェントの手から村人が離される。弱々しく崩れ落ちようとした村人をルーファスの相棒 ドラゴンランスの小竜 ナイトが攫っていった。
 得物逃がした苛立ちからラヴェントがルーファスの襟首を掴み上げる。
『おい、貴様なんのつもりだ』
「あ?くだらねえことしてんじゃねえ。戦いっていうのは一対一で闘うモンだろ」
 負けじとラヴェントの襟首掴んだルーファスの目は怒りにギラついてる。
 睨みあったのは数秒か数十秒か、妙に長く感じるその一瞬の直後、剣を抜く動作を大振りにした両者の拳が勢いよく互いの頬にぶち当たる。
『っ、やってくれたな』
「上等だ。なあ、オレと遊ぼうぜラヴェント」

 雨など関係なかった。
 口に溜まった血を吐き出した直後、抜き撃ったルーファスの一対の鉄塊剣 Hellと
ラヴェントの魔を宿す剣がぶつかり合う。
 ガァン!と激しい音立ててぶつかっては互いを押し合い、打ち合っては火花散る。
「おらぁ!」
『っ、なんの!』
 踏み込みざま飛び上がったルーファスが全体重乗せてHellを叩き下ろせば、避け損ねたラヴェントの顔が歪む。
 しかし負けじと刃捻ったラヴェントが往なそうとした時、ニィっと笑ったルーファスが叩きつけたHellを傾け、ラヴェントの刃の上を滑らせる。
『チィッ!』
「甘めぇンだよ1」
 踏み込み、斬る。
 一対の鉄塊剣が織り成す軌跡が鮮やかに、ルーファスは巧みな膂力で白い甲冑ごとラヴェントを切り裂いた。
『は、ぅ……まだ、』
「さあ、オレと一緒に遊ぼうか!」
 UC―遊戯 ブラッド・プレイ―。
 雲厚い曇天の薄闇の中、ルーファスの体に薄赤い羅刹紋が浮かび上がらせたまま、手中で扱いなれたHellの重さも気にせず、ぐうるりと回して。

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
「──お前の命、オレが貰ってやるよ」
 深紅の刃が振り下ろされた時、ごろりと首級が転がった。
 少し強く、雨が降る。

成功 🔵​🔵​🔴​

都槻・綾


噛ませ犬という言葉を、御存知?

淡い笑みで交わす、ささやかな問答

誘き出しは確かに成功しているのだけれど
騎士殿は単なる捨て駒な訳で
其れとも
殉ずることこそ本望と
端から散る覚悟なのでしょうか

何だか虚しいですねぇ

第六感で補う死角
我々の力を測る為の精鋭騎士だもの
慢心はしない

符を挟んだ指で宙に描く五芒星
呪力を高める祈りの紋

幾重にも編みし詠唱で
蔦蔓の檻に騎士を閉じ込めよう

身を蝕む幻は
罪なきいのちを奪おうとした分だけ
じくりと精神を苛み喰らう

ねぇ
どんな夢を見ていらっしゃるの

もはや聲は届かぬだろうけれど
痴れ者よとブラック卿に蔑まれる幻ならば
正夢に他ならず

やはり
虚しいですねぇ

今一度の呟きは
憐憫めいて残酷だったろうか



「噛ませ犬という言葉を、御存知?」
『何のつもりだ』
 都槻・綾(絲遊・f01786)の問いに憮然とした様子で答えた半魔半人の魔導騎士『ラヴェント』は不機嫌さを隠さず、吊り上げた藍色で睨みつけた。
 しかしそんな態度とて綾からすれば慣れたもの。おやおや、と湛えた微笑みを崩さず、綾は言葉を紡ぎ続ける。
 後ろ手に五芒星と桎梏の旧字書いた符を持ちながら。
「こうして確かに、誘き出しは成功しているのだけれど……騎士殿は所謂、先兵。単なる捨て駒――ああ、失礼を」
 フ、と口元を袖で隠して笑った、綾の目。
 心から己が笑われているのだと気が付いた時、先まで綾の言葉を聞いていたラヴェントは極限まで目を見開き、嘲笑の怒りに震えていた。
『……貴様は余ほど死にたいらしい』
「いいえ、まさか。私は死に急いでなどいません」
 ひらりふわりと言葉躱すさまは蝶のよう。
 差した和傘を手に、ずっと変わらぬ微笑みを湛えたまま綾は微笑み続ければ、更にラヴェントの怒りは加速する。合わせて、未だ気付かれない術式も、完成に近づいていた。
『猟兵の首ならば、あの方にもお喜びいただけよう!!』
 描いた魔法陣をラヴェントが切りつければ、即座に広がる波紋。
 しかし、その波紋は悲しいほどにあっけなく綾の式神と結界術が防ぎきった。一拍の間に、静寂。
 驚き呆気にとられたラヴェントがハッと秘術の鎧を纏う直前、綾の“籠”が織上がる。

「お疲れでしょう、騎士殿。さ――……其処は何処か籠の鳥、」

 甘い声がラヴェントの脳を揺らす。
 ぐわん、りん、からん、ころん。
 混ざった鈴の音を理解した時には、ラヴェントはもう籠の中にいた。
 入り口が無く、鍵も無く、もちろん出口もあるはずがなく。
 永遠の箱庭。主の御前。終わらぬ𠮟責。届かぬ忠心。
『アァァァアァアアアアア!!!』
 上がったラヴェントの悲鳴は、哀に満ちていた。
「どんな夢を見ておられるのやら」

 雨が降っている。
 ぼたぼたと時折大きな雨粒を混ぜながら、雨は絶えず降っている。
 ラヴェントの鎧を深々と蝕む蔦蔓の焼き印は色褪せない。命尽きるまで、夢と共にありましょう?
 雨が強くなる。ざあざあと、雨が。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『オラトリオの亡霊』

POW   :    おぞましき呪い
【凄まじき苦痛を伴う呪いを流し込まれ狂戦士】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    苦悶もたらす魔焔
【全身の傷から噴く魔焔 】が命中した対象を燃やす。放たれた【主すら焼き苦痛をもたらす、血の如く赤黒い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    汚染されし光条
【指先】を向けた対象に、【汚染され変質した邪悪なる光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 雨が強くなる。
 ざあざあと、雨が降る。

 一つの可能性が全てに、帰結する。
 そう、“ラヴェントが倒される”ことに帰結した瞬間だ。
『ァアアァァァアアアアアアッッッ!!!』
 耳を劈く様な雄叫びが、雨音さえ押さえつけて響き渡ったのは。
「これは――」
 誰かが息を飲んだ直後、紅い涙を流したオラトリオの戦士だった者が、覚束ない足取りで猟兵達を囲んでいた。
 そしてその奥、雨の中でも見える淡い黄金の剣携えた黒甲冑の騎士が、猟兵達を見てニッと歯を剥いたのが分かる。
 あれこそがこの作戦を指揮する者、聖剣使いの吸血鬼・ブラックなのだろう。だが、猟兵達を囲むボロボロのオラトリオ達の包囲は厚い。
 ラヴェントを倒した今、この包囲網を突破しかの騎士を討たねばなるまい。狙いの全ては、自分たち猟兵なのだから。

 切り抜けねば――……誰もが思い、得物を構えた。
仇死原・アンナ(サポート)
鉄塊剣『錆色の乙女』,妖刀『アサエモン・サーベル』、戦闘用処刑道具『赤錆びた拷問器具』、『鎖の鞭』等を使います

UCは指定した物をどれでも使用

普段の口調は(私、あなた、呼び捨て、ね、よ、なの、なの?)
戦闘中は(ワタシ、お前、呼び捨て、言い捨て)

処刑人として敵と戦います
同行者がいれば協力
メインは鉄塊剣等大剣で敵を攻撃
鉄塊剣の使用が不向きな相手・場所では刀剣をメインにし敵を攻撃
拷問具や鞭を使い敵の行動を阻害、鉄塊剣や刀剣で敵群を倒す
守護対象がいれば武器受けでかばい、敵をおびき寄せ注意を惹いたりします
キャバリアを操縦したり生身でも戦います



 徐々に強くなった雨は吹く風に乗り弾丸の様に当たっては散る。
 処刑人の仮面を伝い落ちる雨音を感じながら、仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)は隙無く包囲網を見た。
「吸血鬼め……」
 実に悪趣味だ。本当に、斬っても斬らずとも後味悪く災禍を残す可能性のある悪趣味さだ。
 きっと本来、アンナの目の前にいるオラトリオの亡霊は処す対象ではなく、被害者側にあるべきだった。だが、命を奪われ体さえも好き勝手に使われ――あまつさえ、刃を向けてくるというのならば。
「ワタシは処刑人として、お前達と戦います」
 これは慈悲である。
 アンナは静かに鉄塊剣―錆色の乙女―を握りなおした。

『アァアアァアアアッッッ!!!』
「っ、させない」
 一人のオラトリオの亡霊が絶叫しながら突貫する。
 穿つように振り下ろされた拳を錆色の乙女で受け止めれば、ほんの少しアンナの手に痺れるような感覚が襲う。
 見目に合わない剛力ゆえか、無理やり力を行使させられている反動か、オラトリオの手や腕から噴き出す血に一瞬だけ、アンナは瞠目した。
 対してオラトリオの亡霊は痛みを感じないのか気にも留めず、通らぬ攻撃に歯を食いしばって尚、唸り続ける。ギリギリと歯軋りした後、雨の中、小さな声がアンナの耳を掠めた。
『たぃ、いやいやいたいいたいいたいいたいいたぃぃぃぃいい』
「――もう、それも終わる」
 痛みも恐怖も全て灰燼へ。
 涙も苦痛さえも全て全てを、炎の中へ。
「地獄の炎にはこういう使い方もある……!」
 UC―ゲヘナ・フレイム―。
 アンナだけが扱えるユーベルコードが瞬く間にアンナの身を覆い、伝う炎が錆色の乙女をも包み込む。
「ハァッ――!」
『……ああ、やっと』
 剛剣一閃。
 焔巻く錆色の乙女がオラトリオの亡霊を斬る直前、全てを受け入れるようにオラトリオだった女性が微笑んだ。

 まだ雨は続く、強く打ち付けるように。
 前切り開いたアンナは、聖剣使いの吸血鬼・ブラックを目指し泥濘を駆ける。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

都槻・綾


亡霊となっても
生きていた頃の証と同じく
血潮が身を駆け巡るのね

まるで
いつまでもいつまでも
安らぐことのできぬ呪いのよう

乙女の頬伝う朱赤の涙は止めどなく
或いは
乾いて罅割れ
いっそう彼女達を苛むようで

痛みを忘れてしまえれば良かったのに
其れすら赦しては貰えなかったの
終わらぬ痛苦に
随分と嘆いたに違いなく

永き眠りを差し上げるから
どうかもう
泣かないでくださいな

広げた守護のオーラは翼の如く
ひらりふわりと攻撃を躱す

紡ぐ詠唱は子守歌
翻す帛紗は雨にも薫る

死人にくちなしという――山梔子の香が
優しい終焉の夢へ彼女達を導いたなら
おやすみなさい、と淡く笑み綻ぶ

もう
嘆きも呻きも
口を衝くことはないでしょう
安寧の無へと、還りなさい



 冷たい雨が都槻・綾(絲遊・f01786)の頬を涙のように滑り落ちる。
「その血潮は、生くるあの頃と同じですか……」
 ならばどれほど苦しかろう。
 ならばどれほど悲しかろう。
 これほど惨い行いを罷り通す権利など、本来ならば誰にもありはしない。しかしこの、力で言葉さえ押し退ける国ゆえか。
「永き眠りを差し上げるから、」
 おいで――ゆるりと掌を返して、綾はオラトリオの亡霊を手招いた。

『アァアァアアアァアアッッッ!!!』
「どうかもう、泣かないで」
 天に咆えたオラトリオの亡霊が綾目掛けて振り上げた拳がひらりと空を切る。
 しかし、舞うように避けた綾への猛追は恐ろしいほど俊敏で、空切った拳がすぐさま綾を追って横へ振り抜かれた。
「っ、逃げることさえ、赦してはもらえなかったのですね」
『ウアァァアァッッアツイアツイアツイアァァア!!!』
 オーラ防御と結界術重ねた盾が一枚脆くも崩れ去る中、僅かに抜けた痛みに眉を寄せながらも、綾は目の前のオラトリオを思う。
 己の身さえ焼く赤黒い焔を纏い迫る、女を。
 受け止めた袖が焼けた。燃える感覚がする。ほんの少し掠めただけで綾の肌さえ焼いたこの炎を、ああ。
「夢路に遥か花薫れ、――我が馨遙よ、今暫し」
 彼の女に慈悲深き夢の淵へ誘いたまへ。
 綾の翻した帛紗が馨しく雨にも薫り、オラトリオの亡霊を誘ってゆく。

『――あぁ、』
 赤に染まっていた瞳が閉じ行くその一瞬手前、元来の色を取り戻した気がした。
 ほんの少しの微笑みごと、一人のオラトリオが泥濘へと沈む。

 雨は止まず、綾の頬を打つ。
 走る足をもう止めてはならない。
 今はただ前へゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

東天・三千六

あらら、随分と可哀想なことになっている幽魂たちですねえ
呪いにまみれた霊の誼みでぜひとも〝終わり〟のお手伝いをさせてください

縄を鞭のように振るい一定の距離を取ります
四方に上方に縄をぐるりぐるり
ちょいとひとり捕まえてみましょうか?
ふふ、逃げないでくださいよお

動く物に攻撃を加える様子…ならば不可視の腕を呼び出します
頭、首、腕、胴、脚、翼、心臓、ぎゅうっと掴んで……
あは、一思いに潰し千切りましょうか
僕の腕はまだありますから、遠慮せず他の方も、ね

死霊となっても痛く辛い仕打ちを受け続けるあなたたちへ
僕なりの手向けです



 ぼたぼたと、降る雨は止まない。
 ふんわりとしていた東天・三千六(春雷・f33681)の髪も、今は雨が染み込み濡れそぼった花弁のごとくあった。

 既に戦闘は始まっている。
 殺到するオラトリオの亡霊を捌く猟兵を横目に、三千六もまた一歩を踏み出した瞬間、感知したオラトリオの亡霊が突進する。
「随分と可哀想なことになっている幽魂たちですねえ」
 止めどない赤い涙を流す白かった頬の哀れなこと。更に、三千六の目には嫌というほど重苦しく絡んだ呪いがオラトリオの魂を食んでいるのが見えた。
 蛇より質悪く、蜘蛛より陰湿な悪しき呪い。
 ああいやだいやだと肩を竦めながら突進するオラトリオの亡霊目掛け、三千六は腕に絡めた祟り縄―霊隷縛縄―で威嚇するように地面を打つ。
「呪いにまみれた霊の誼みでぜひとも〝終わり〟のお手伝いをさせてください」
 ね?と屈託無い顔で三千六は笑った。
 時間稼ぎの縄の扱いなれど、あくまで術の織れるまで。徐々に効かなくなる威嚇に内心焦りながらも三千六はオラトリオの拳を避け、編み上げた術式が完成する――その直前。
 ついと、オラトリオの指先が三千六を指した。
『ぁ、』
「っ、う!」
 暗き光が薄いその身を貫く。
 痛みに指先が震えるも、ぐっと痛みを飲み込み三千六はわらった。きっとこの痛みなど、目の前の彼女にとっては僅かにも満たないことだろう。泣きはしない。ただ――。
「あは、一思いに潰し千切りましょうか――あなたたちへ、僕なりの手向けです」

 死して尚、痛み苦しむ貴女へ捧ぐお呪い。
 細い三千六の指が一人のオラトリオを指させば、数多の腕、否UC―群腕 ハラカラ―の鱗に塗れた腕の波がそれを握り潰した。
 悪霊からのことほぎは痛みのなれど、どうか。

 どうか、これ以上の先はなきことを祈って。

成功 🔵​🔵​🔴​

シキ・ジルモント

鬱陶しいのは雨粒ばかりではない、包囲の向こうの吸血鬼の存在が気に障る
先の騎士もこのオラトリオ達も奴が差し向けたもの
…つくづく、人の神経を逆撫でしてくる

回避を重視して戦い、こちらを追わせ包囲するように仕向ける
先の戦いでの負傷を利用し、劣勢であるように見せかけて誘っても良い
出来るだけ多くのオラトリオを射程範囲に集めてユーベルコードを発動
耐久力が増した相手に対抗する為、大ダメージが望める急所を狙っていく

一人ずつ倒していては時間がかかり過ぎる、範囲攻撃で一気に数を減らしたい
長期戦にもつれ込み消耗を強いられれば後の戦いが不利になるからな
…それに、戦いを長引かせてオラトリオ達の苦痛を引き延ばす必要も無い


アストリーゼ・レギンレイヴ


つくづく悪趣味だこと
――反吐が出るわね、吸血鬼

いいわ、前に出ましょう
抜き放つは『夜茨』
平時と違い、相手の攻撃を受け流しながら
素早く動きつつ戦闘を運ぶわ

無論、無策で普段遣らぬことをするわけではない
見たところ呪いに侵され狂った者は、複雑な思考能力を残していない
此方が素早く動けば否応なく此方へ向くでしょう
そうして敵を引き付ければ、その分他の猟兵を自由に動かせる

返す刃(【カウンター】)は相手の動きを削ぐことを狙い
徹頭徹尾、他猟兵の援護を主として動きましょう

あたしの身体は痛みに強い(【激痛耐性】)から
多少の傷などものともしない
皆が受ける負傷を少しでもこの身に引きつけて
次の戦いへ力を温存して貰いましょう



 ほたりと刃先から雨雫が落ちた。
 握りなおした柄の、グリップの、慣れた重さが自分の心を保たせる。

「つくづく悪趣味だこと」
「同感だ。……つくづく、人の神経を逆撫でしてくる」
 アストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)の小さな溜息とシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の僅かな舌打ちは雨音に消えた。
 特段計画していたわけでも約束をしたわけでもないが、互いに歴戦の猟兵だ。口にせずとも伝わるもの、というのがある。
 今、アストリーゼもシキも目指す先は同じ彼の騎士の元ならば、為すべきは一つ。
「いいわ、前に出ましょう」
「行くぞ」
 ぬかるむ泥を踏み、二人は駆けた。
『ッ、ァァアアアアアァアアッッ!!!』
 瞬間、弾かれたようにオラトリオの亡霊達が二人を猛追する。
 
 走りざま、アストリーゼが鞭機構有する黒剣―夜茨―を抜き打つ。しなやかな刃が追い縋るオラトリオを打ち斬りりつければ、同じく追い縋る別のオラトリオの拳がアストリーゼを横合いから襲う。
「っ、」
 一瞬の判断が命取りになるような、怒涛の拳。オラトリオの指先が向いた折、捻り避け損ねた肩を汚染された光条が掠めれば、熱い痛みがアストリーゼの肌を焼く。
 シキもまた、波の如く追い縋るオラトリオの拳を捌くことに集中していた。
「終わらせてやる」
 正確な射撃は零距離だろうが離れていようが変わりはない。
 一撃で終わらせる――シキの決意は揺らぎなく、正確な射撃に全てが表れている。と、ふとオラトリオ越しに見えたアストリーゼが囲まれていた。
 素早く翻弄する彼女自身と得物たる蛇腹剣にオラトリオは誘われているらしい。
 一瞬の思案の末、シキは駆ける。
 だんっと踏み越え、オラトリオの翼を足場に上から飛び込んだのは渦中のアストリーゼの元。ハッと驚いたアストリーゼに、僅かに笑ったシキの視線は既に周囲のオラトリオへ向いていた。
 使い込まれた銀の拳銃―ハンドガン・シロガネ―の引き金をシキの指が引く。
「合わせられるか」
「いいけど、あなたこそあたしに合わせられるのかしら?」
 本来なら痛みに喘ぐほどの傷を物ともせず、寧ろ余裕とも取れる表情で笑ったアストリーゼの夜茨が、雨の中踊った。
 シキのUC―ブレイズ・ブレイク―の銀弾がオラトリオの頭と心臓を貫き、急所逃れた者へはアストリーゼのUC―黒の断撃 ノー・マーシー―が切り落とす。

 雨の中、白い羽が舞い落ちては泥に沈む。
 一も二も無く、強くなる雨の中を二人は駆ける。

 オラトリオの包囲網の一角が崩れ去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花厳・椿
◎【蝶よ花よ】
雨だわ
椿…雨は嫌いよ
やだわ
汚れちゃう

ねぇ、菊お兄ちゃんは椿が傷つくのは嫌でしょう?
椿が汚れるのは嫌でしょう?

…借りてあげるけど椿はガキじゃないもん
コートを頭から被るとむくれた

「火炎耐性」「呪詛耐性」「激痛耐性」
椿が持ちうるあらゆる祝福を、呪いを込めて菊お兄ちゃんへ

『鬼ごっこ』

遊ぼうか、菊お兄ちゃん
菊お兄ちゃんが鬼よ

あら、菊お兄ちゃんを傷つけるのは駄目よ
菊お兄ちゃんは椿のいっとうお気に入りなんだから

「浄化」と「破魔」を込めて菊お兄ちゃんの傷を癒す
鬼は菊お兄ちゃんなのよ
だから、あなたは逃げなきゃ

ねぇ、楽しい?菊お兄ちゃん
ふふ、そう
椿は菊お兄ちゃんが楽しいなら楽しいわ
次は何をして遊ぶ?


菊・菊
◎【蝶よ花よ】

泥と血に塗れた俺の横で、真白の椿が立っている

こいつには絶対に言わねえけど
俺は可愛いままのこいつのが好みだ
ガキはキレイにしてろ

コートをガキに預けて、また、一歩前へ

俺はまだ弱い
だから、まだクソ女の力を借りなきゃ、碌に戦えねえ
『衝動』

不思議と肌を裂く痛みはなかった
刃を振るう間も
地面を転がっていく間も
粉雪のような鱗粉が俺を包んだまま、なら

悪夢みたいな場所でかわいらしく笑うガキの、
お願いを聞いてやる

け、よくわかってんじゃねえか

俺は追われるより追う方が好みだ
さっきの男を殴るよりは、こっちのが楽しめそうだな
おら、逃げろよ
逃げねえなら、クソ女の飯だぞ

慈悲も躊躇いもない
お前の弱さを呪え



 雨は止まない。
 降る、降る、降る。

 前方での戦いにオラトリオの亡霊達は引きつけられてい中、空から無遠慮に降り注ぐ雨に花厳・椿(夢見鳥・f29557)は眉を寄せた。
「やだわ、汚れちゃう」
 大きくなる雨粒で着物が重くなってきた気さえする。
 ああいやだ、雨の場所も砂埃の空気も、痛そうな菊・菊(Code:pot mum・f29554)だって―――と、バサリと何か被る音と共に知った匂いと向日葵色が視界を埋めた。
「菊お兄ちゃん?」
「椿、――ガキはそれ被っとけ」
 目を丸くした椿と、フッと笑った菊の視線が交わったのは一瞬のこと。
 次には菊の視線は前の戦いへ向いていた。なによ、と椿が文句を言う隙も無いけれど、菊の場違いな柔らかさに頬膨らまして、椿はフードを深く被る。
 きっとこの僅かな和やかささえこの先は消えてしまう。
 雨と泥と菊の香りと、血の匂いが、鼻を擽るから。

『アァアアアアアアアァァッッッ!!!!』
「はは、来いよ。 そして――食えよ、寒菊」
 ほたりと菊の赤が刃伝った時、女が嬌笑する。このUC―衝動 ロックン・ロール―はいつ聞いても五月蠅くて叶わない。
 向かってきたオラトリオの亡霊の拳をひらりと躱せたのは、微笑む椿が離れ際にはなった“おまじない”のお陰だろう。
「ねえ、菊お兄ちゃん――祝福よりも甘い呪いをあげる。椿の為に鬼になって」
 拒否権の無い誘いは魔除けと痛みや呪詛、焔への耐性、そして僅かな防壁と共に織り込まれた強化が、菊の肉体を強靭にする。
『ンンンァアァアァアアアアア!!!!』
「チッ」
 風切るほどの拳を菊が一息に躱せば、名残の鱗粉が雨に舞う。
 振り返る暇の無い攻防戦の中だけれど、菊には見ずとも分かる。椿は“笑っている”この悍ましき戦場で、きっと菊好みのきれいな貌で、菊の被せたパーカーのままにこにこと。 
「……そうだ、そう。ガキは、お前はそうやって笑ってりゃいい」
 菊の耳元で雨音と女の嬌笑が混じり、視界を白い鱗粉が掠める。
 時同じく、白く細い指を大きなパーカーの袖口から覗かせながら、椿が呪いを蝶へ織り込む。前方右翼で包囲網の一部に穴が開いたのを雨越しに捉えながら、走る菊を付かず離れず跳ねるように追いかけて。
 オラトリオの亡者の注目はより激しく動く者達へ注がれている中だからこそ、接近戦に向かぬ椿は僅かな安堵を得られるのだから。
「ふふ、菊お兄ちゃん楽しそう……あら、あなた」
 菊の一撃に飛ばされ、虫の息のオラトリオの亡者が壊れた瞳で椿を見た。
「だあめ、ちゃんと逃げなくちゃ」

 ちょきん。
 椿の指が剪定鋏を動かしたのは一回。花のごとく落ちた首級が泥に転がった。

 降る雨が、滴った赤を流していく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

尾守・夜野
…死してなお狂わされるとは
策としては有効だろうがムカつく事にかわりはねぇよ
まぁ俺にとってはムカつくだけで思考まで狭まる事はねぇが

呪いを解くだとかそういった事は出来ねぇし今さら助けられる訳でもない
狂気に落ちた意識を掬い上げる何てできねぇし更に深い所に落とすしか出来ねぇが…
まぁ多分今よりはマシだろう

奴さんらに更に呪詛を重ねる
呪いを呪詛により塗りつぶし、切り捨て血を取り込んでいく

「…すまんな」
痛みから逃れたいからか発揮される力を抵抗を、すべて等しく無為に帰し呪われてるだけの奴にふるう
せめて苦痛が一瞬ですむように
一撃で送る事が情けだろう

端から見ればどちらが修羅か、わかりゃしない



 死して尚、自由になること能わず。
 躯の海より濁った中に、かのオラトリオ達は在るのだろう。
「策として、駒として……俺らに使うにはこれほど“効く”駒は無ぇだろうよ」
 ハン、と亡者の影の向こうに待つブラックを思いながら、尾守・夜野(墓守・f05352)は鼻で笑った。
 事実、目の前で苦しむ者を見て躊躇わない者などそう居はしない。
「……本当にムカつく野郎だ」
 降り止まないどころか強くなる雨も、オラトリオの亡者を差し向ける男も、そして――救うと言ってやれない、夜野自身の力も。

『ウ、ウゥゥゥウウァアアアアッッッ!!!』
「ぐっ」
 赤い涙を流しながら吼えたオラトリオの亡者の振るった拳が夜野を打つ。
 その拳は常人とは掛け離れた、いっそ馬鹿力と呼んだ方が正しい程の一撃が骨に響く。何とか黒剣―怨剣村斬丸―と添えた手で受け返しながら、追い縋るように迫る拳を往なし夜野は歯を噛んだ。
 この苦しみの海から無理やり掬い上げれば目の前の女はきっとその魂ごと瓦解する。在るまま、また死ぬ。
 ならば、夜野にできることは――。
『アアアアァアァアアアアアッ!!』
「そうだ、恨みの連鎖など断ち切らせるものかよ。尽きるまで付き合ってもらうぞ!」
 互いに楽になれる方法など分からないから、受け止める。その苦しみも辛さも怒りさえ、己が身一つで夜野は受け止める。
 おぞましき呪いに浸食されていたオラトリオの馬鹿力と鉄壁が破壊され、封ぜられていた僅かな理性が、視線ぶつかった瞬きの間だけ蘇る。
『っ、――ころして』
「……すまんな」
 淡い涙声を斬った。
 度し難い呪いごと、花より赤い怨嗟の鎖で絡め引いて。

 雨は降り止まず、次と襲い来るオラトリオの亡霊は未だ嘆きの海の中。
「どっちが修羅だか――」
 わかりゃァしない。

 夜野は頬を滑る雨を払い、走り出す。
 奥で笑う、忌々しき騎士目指して。

 

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希
生きてるヒトは殺す
過去になった戦士は苦しみで縛る
ほんとに、なんというか…ムカつくヒトですね

全員相手しようなんて思わない
ブラックだけを見据えただ進む
withを叩き付け、wandererで蹴り飛ばし道をこじ開ける【怪力】
戦士と同じように、増える負傷を焔で補い、雨の代わりに焔を降らせる【焼却】
これで相手が倒れたり、動きを鈍らせられれば
すぐに踏み込み前へ前へ
縛り付けるための焔に、旅人は焼かれたりしないから【火炎耐性】

こんな…こんな、痛みで従わせてる戦士なんかで、猟兵が倒せるなんて思ってませんよね?
そんなに猟兵と戦いたいなら、最初から自分が出てくれば良いのに
絶対、ぶっころしてあげますから


カイム・クローバー
獣染みた咆哮。全身の傷から噴く魔焔に眉を顰めちまう。あのオラトリオの戦士達も、包囲網を敷くだけに駒のような扱われ方をしてるわけだ。――笑えねぇな。

二丁銃でオラトリオの戦士の額目掛けて、銃弾をぶち込むぜ。
痛みも苦痛も最小限の穏やかな死。俺が彼女達にくれてやれるのは、そんなモンさ。銃弾に紫雷の【属性攻撃】を纏わせて、魔焔を突き破り、【クイックドロウ】とUCで出来るだけ多く、苦痛を取り除いてやる。
安くはねぇ特注の銀の銃弾だ。手向けに持っていきな。あの世の川の渡し賃ぐらいにはなるだろうぜ。なに、遠慮は要らねぇさ。
請求書は――(銃弾を放ち、ワザとブラックの頬を掠める程度に)――あの野郎にツケといてやる。



 今生を蹂躙しては嘲笑い、過去を痛みと恐怖で縫い留める。
 奥に待つ彼の者の矜持など、誇りなど、一切合切認められるものではない。

「ああもう、ほんとに、なんというか……ムカつくヒトですね」
「ほーんと―――笑えねぇな」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)の瞳は剣呑と、並び立ったカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)もまた笑わぬ瞳で最奥に立つ聖剣使いの吸血鬼・ブラックを見た。
 雨越しでも分かる、奴は“楽しんでいる”のだ。
 目の前で猟兵が苦悩しながら駒を潰す様を!己の欲から意図的に起こしたこの戦いを!
 ふーっと深く息を吐きだし、吸った空気は血と嘆きと雨に満ちていた。
 結希が愛刀の鉄塊剣―with―を引き抜く傍ら、カイムも手馴染みの二丁拳銃―双魔銃 オルトロス―を回す。
 一も二も無く、結希とカイムは泥濘を駆ける。

『アァァアアアッッッ!!!!』
「どい、て!」
 wandererを起動し蒸気魔導の力で走る結希に脚力を強化したらしいオラトリオの亡者が体当たるように組み付く。
 それを思い切り蹴り飛ばしてでも結希は足を止めずに直走る。
「おいおい早すぎ――……っと、俺もそうは言ってられないじゃん」
『ウウゥゥゥゥゥウウッッッ!!!』
 その姿を横目に、カイムもまた走っていた。
 すれば、結希に追いつけなかったオラトリオの亡者が押し寄せる。
「ったく、俺は笑顔の女のが好みなんだ。お前らが笑顔の時に、会いたかったぜ」
 カイムが素早い所作で入れ替えた銀弾は弾頭に小粒の紫電魔石を埋め込んだ特注品。当たる雨粒が鬱陶しいが、彼女たちの全てを薪に燃える赤黒い炎の方が余程鬱陶しいことだろう。
 降り注ぐ雨に負けじと、オラトリオだった者たちの咆哮に搔き消されぬようにと、カイムは声を張る。
「It's Show Time!ド派手に行こうぜ!」
 UC―銃撃の協奏曲 ガンズ・コンチェルト―が雨音さえ味方につけて歌うのは一撃で昇天できるほど鮮やかな射撃音。
 魔除けの純銀弾なら、二度と吸血鬼を寄せ付けることなどないだろう。だから――。
「あの世の川の渡し賃ぐらいにはなるだろうぜ――遠慮は要らねぇさ!」
『アウ、ガッ』
 厚い雲に閉ざされた地に迸った鮮やかな紫電が結希の視界を掠める。
 肌がヒリつくそれによって、自身を追うオラトリオが減ったことを知りながらも走り続けた先、まるで予想されていたかの如くオラトリオ達が配置されている。
「避けられない、なら――『狙って当てる』んやなくて、『狙わなくても当たる』って思えば大丈夫って、教えて貰いましたから!」
 先より近くなったブラックへ叫ぶ。
 “次はお前だぞ”という意思を込めて。
 じゅうっと降り注ぐ雨を焼きながら、沿うように降る炎の雫こそUC―焔の雨 ホノオノアメ―愛剣のwithを振るい、近づくオラトリオを叩き飛ばす。
 と、ふと感じた何かに結希が振り向こうとした時、弾頭に紫煌めいた銀弾が奔り抜ける。
「そ、ついでに請求書はテメェのツケだ」
 銀弾はカイムの物だった。
 雨の向こうで笑う奴へ立った一発のプレゼント。

 雨は降り続ける。
 向こうで笑う騎士が、今か今かと猟兵を待つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四・さゆり

ほら、雨が降るわよ。

恥ずかしくないのかしら
レディに囲まれて高見の見物だなんて

さ、並びなさい、かわいいわたしのよいこたち
『漫ろ雨』

わたしを囲むように並ぶ赤い傘たちは
わたしを守って、あんたたちへ降るのよ

弱きが利用されるのは、そうね、当然よ
けれど、許さないわ
わたしが、それを許さないの

ほら、死にたい子から、かかってらっしゃい
終わらせてあげましょう
突き刺して、開いて弾いて、薙ぎ払う
それでも、赤い軍隊を潜り抜けたなら
あんたは、わたしがこの手で殺してあげる

女である前に、戦士であったなら
そう、戦って尽きなさい

これが弔いよ

ええ、任せてちょうだい
あんたを殺した手で、わたしが吸血鬼を殺してきてあげる



 雨は止まない。
 黄色いレインコートに当たっては撥ね、赤い傘を伝っては落ちていく。
 紫電が奔り炎の雨が降る傍ら鉛の雨と剣閃が閃き走る最中で、四・さゆり(夜探し・f00775)は静かに傘を開いた。

 ぽん、と傘開く動作にさえオラトリオの亡霊は弾かれた用に向かってくる。
『アアアァァァアアアアッッ!!!』
「……ほんとうに恥ずかしくないのかしら。レディに囲まれて、高みの見物だなんて」
 奥に佇むブラックは嫌に楽し気で、赤い涙を流すオラトリオ達は誰にも止められずさゆりへ迫る。
 衝動。焦燥。反射。その言葉が全て綯交ぜになったような動作はオラトリオとも戦士とも懸け離れた、いっそ獣と言って差し支えのない所作で。
 さゆりの差す、陽光の余り刺さぬ薄暗いこの国では鮮やかすぎるほどの赤目掛けて拳を振り上げた――瞬間。
 折り目正しく綺麗に巻き上げられた赤い傘が、いつのまにか数多中空に浮いていた。
 ほんの一瞬の静寂。ほんの瞬きの間、居並ぶ赤が奔り出す。
 UC―漫ろ雨 ソゾロアメ―。
「さ、並びなさい、かわいいわたしのよいこたち……暴れていらっしゃい」
『ガ、グウッ……!』
 弾丸よろしく射出された赤い傘が次々オラトリオの亡霊を打ち据える。
 哀れと見下げることを、さゆりはしない。かわいそうと嘆く暇を、さゆりは作らない。
 彼女たちは気高く戦った末に敗者となったのだろう。
 負けなければこうはならなかった。弱くなければ利用されなかった。
「……女である前に戦士なら、もし戦ってこの子達を越えられたなら、わたしが相手をしてあげる」
 掛かってらっしゃい。

 雨降り続く中、弔いは続く。
 ひらりと開いた赤い傘が、戦い伏したオラトリオへ守るように差し掛かけられた。

 どうかこれ以上、気高い戦士のこころが汚れないように。そして――……。
「任せてちょうだい。……あんたを殺した手で、わたしが吸血鬼を殺してきてあげる」
 雨降り止まぬ中、さゆりは駆けだした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬

狂戦士化により理性を失うこと
彼女達にとってはかえって良いのかもしれないな
痛みも呪いも纏めて冥府へと送ってやろう

攻撃時の接近動作を捉え逃がさぬようにしたい
〈冥府の槍〉を[怪力]で捌き狂戦士の力に対抗、最低限の動きで攻撃を[見切り、武器受け]
そうすれば飛翔含め速く動き続けるのは彼女達だ
味方を手にかけようと芋蔓式に殺到するその陰に紛れ攻撃、動きを鈍らせていきたい
効果的に巻き込めると判断した時点でUCを発動
最大火力で一気に[焼却]

オラトリオの羽根の散るさま、白翼を捥いだ感触
[戦闘知識]として吸収する一方で滲み出した嗜虐心
無意識に笑んでしまいそうだ
槍に其れを喰わせながら次の標的に狙いを定めるとしよう



 ここはきっと、地獄より悍ましい場所なのだろう。
 罪なき者ばかりが蹂躙され、利用され、苦しみ喘いでいるのだから。

 獣の如く呻き唸るオラトリオの姿に、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は深く軍帽を被りなおせば、鍔伝った雨雫が集い大きな粒となり滴り落ちる。
 分厚い雲が覆ったまま、光の差さぬこの地で彼らを弔うならば。
「花の一つでも、くれてやれればな」
 叶わぬ願いが雨音に掻き消される中、相馬は走り出す。
 濡れて泥を嚙んだままの軍用ブーツが重いが、今は逆に丁度良い。重量級の火尖鎗―冥府の槍―を揮うにはお誂え向きの重たさだ。
『ゥアァアアアァァアアア!!!』
「来い」
 強化されたオラトリオの拳と構えた相馬の槍が激突する。
 ガァン!と響く音は鋼同士のぶつかり合いにも似ていた。そう、それほど強化されたオラトリオの亡霊はアンバランスで極端なのだ。
 冥府の槍とぶつかったオラトリオの拳は紺青の炎に焼かれ爛れるも、当のオラトリオは一切意に介していない。
 痛覚さえ狂気で上書きされているのか、と思えば、相馬の胸は僅かに痛む。
 だが、憐れんでなどいられない。迫る拳は一つなどではないのだから。右の拳を空いた手で叩き上げ、振り抜かれた右腕を冥府の槍で受ける。
「――その痛みも全て、冥府へ送ろう」
『ウ、ウ、ウゥゥゥウウゥ!!!』
 入り乱れ始める場に気付いた相馬が、オラトリオ貫いた冥府の槍を抜き一転させる。
 冥府の槍の炎が、零れた。
「逃げ場など、ない」
 ぐるりと地面向いた切っ先を勢いよく突き立て、発動するUCの名は―劫火境 ゴウカキョウ―。
 冥府の槍が突き立てられた箇所を起点に、放射状に広がったひび割れから冥府の紺青の炎が噴き出す。
『アッァァアアアアアアアァァア!!!!』
 絶叫。
 焼け落ち炭と化すオラトリオ達の中、焼け爛れた半身のまま、弱々しく拳突き出したオラトリオを避け、ふいに相馬が翼を掴んだ瞬間だ。
 ただ握った筈の純白の“翼”が、相馬の手中にあった。
「――は」
 赤が滴り泥に落ちる。
 曇天の中でも自然に輝いているのかとさえ思えるほど、あれほど呪われていた女の背にあったとは思えぬほど眩き白い、翼。
 ふと見下ろした先で、片翼失って這うオラトリオが一人。
『ウ、アァ……』
「……――ハ、ハハハッ」
 悪しことの甘美なこと!!
「ハハ……ああ、いや、いかん。いかんな」
 上がる口角を隠せないまま、相馬が手中の翼を中空へ投げた瞬間、紺青の焔が生き物の如く翼へむしゃぶりついた。
 咀嚼しているわけでもないはずなのに蠢き純白の翼を喰らったの炎が燃える。
 雨を焼き、微かな風さえ我が身燃えよと引き込んで。
「我が身は門番、閻魔王に仕えし一角―――……俺は、門番だ」

 紺青の焔が生き物の如く燃え立ち上る。
 上がったまま治まらない口角をなぞった相馬が自身に言い聞かせるように口にした役割は呪文のよう。
 雨は強くなる一方なれど、未だ終わらぬ戦いの中を相馬はゆく。

 雨は止まない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
まだ倒すべき敵はいます。
あなた方がもともとどういう存在であったかは想像がつきますが……憐れに思う時間も、感傷に浸る時間もここにはありません。

数が多い……ならば、逆に利用させてもらいましょうか。
【ファンブルの冬】を使用。氷霧を発生させて敵の視界を制限し、自分の身を隠します。
敵が同士討ちを恐れて行動を止めるのであれば「フィンブルヴェト」による氷の弾丸の射撃を。こちらからも敵の姿はよく見えませんが、運を吸い取っていますし、運悪く当たることはあるでしょう。
一方的に撃たれることを恐れて闇雲に炎を放とうとすれば他のオラトリオに当たってしまいますし、炎で場所を把握できる。『スナイパー』の技術で狙い撃ちます。


鳴宮・匡



戦場全体を見渡して、目と耳で敵の位置を把握
包囲網を破るにしろ、後背から攻められてもうまくはないだろう
こちらは味方の死角を埋めるように動いていくよ

数を相手にするのなら、こっちだ
自動小銃――Resonanceを構える
数を相手にするのなら、一体一体に時間はかけられない
既に消耗している個体や、他の猟兵を狙う相手など
落とせる敵から確実に撃ち抜いていく
自身が動くのは回避の為の最小限
こちらへ注意を引きすぎないように、殲滅に徹するよ

今更、この光景に同情できるような“ひと”ではないし
救ってやる、なんて綺麗事を言える立場じゃない
それでも、その魂を捉える楔から逃してやることくらいはできるから
……迷わずに往きなよ



 感傷の時間も、憐憫の時間も、戦い続くこの戦場にありはしない。
 何故なら、包囲網戦が激しさを増す中でセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は追われていたのだから。
『アアァァアアアア!!!』
「――フッ、くっ」
『ウゥゥウウウゥウゥウウウ!!!』
 タン、と乾いた音がオラトリオの亡霊の額に穴を開けた。が、次から次へと襲い来る拳が、焔が、セルマに良い位置を取らせない。
 ほんの僅かでも動いた瞬間から襲い来るオラトリオの亡霊は数が多く、それでいて走りだせば八方から迫られることは分かっていたが、ほんの僅かでも動き出せば再び止まれども結局は囲まれる。
「厄介なことです……!」
 大上段から叩きつける様に振り下ろされた拳を転がり避けて、なお走ろうとした時だ。
『アアアァァアアアアッッッ!!!』
「ぐっ……!」
 距離取ったオラトリオの亡霊が放った汚染された光条が、セルマの太ももを貫く。
 吐き出した息が熱い。焼ける感覚と痛む傷口が脈打つような感覚に歯を食いしばった時、セルマに影が被る。
「大丈夫だ。落ち着いて、前を見ろ……それと、そこ、貰うぜ」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)のUC―死神の咢 デストラクション―がオラトリオの亡霊の拳を撃ち貫く。
 狙い正しく狂いなく――凪の海にある死神の眼からは逃れられず、死の咢は狙った獲物を逃がさない。
 咄嗟にマスケット銃―フィンブルヴェト―を構えかけたセルマが見たのは、一人のオラトリオの亡霊を沈めた後も淡々と、迫る亡霊達を撃ち続ける匡の姿。
「……ありがとうございます」
「これで応急処置を。すぐに動くぜ」
 セルマを見ずに匡が素早く渡したのは癒しの術式が施された包帯だ。匡の時間稼ぎとて、そう長くは持たない。
 頷いたセルマが礼を言った後手早く最低限の処置を済ませたのを確認したところで、二人は互いの背を守るように構えながら立ち上がる。
「お前、もういけるな?」
「問題ありません。それに……ここから先、彼女達は進むか、止まるか、退くか。選んでいただきます」
 伏せていたセルマの瞳が再び前を見た時、生き白くなるほどの冬が辺りを満たす。だが、透き通るほど匡の体が冷えたのは一瞬だけ。雨粒をきらきらと落ち行く雪片に変えたセルマのUC―ファンブルの冬 ドウシウチノフユ―が奪ったのは亡霊の視界だけだ。
 不思議と匡は寒さを感じない。
 視界奪われた世界で強化と同時に狂化が施されるオラトリオの亡霊達は互いの拳で、焔で、光条で、傷ついていくではないか。
 と、セルマの背後に霧越しの影。
『ア、ウ、ゥゥゥァァァァアアアア!!!』
「……迷わずに往きなよ」
 タン、と乾いた音が一つ。匡のアサルトライフル―BR-646C [Resonance]―がまた一人の亡霊を撃ち落とした。

 まだ雨は続く。
 言葉少なくセルマと匡は走る。待ち受ける一人の騎士を目指して、まっすぐに。
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

穂結・神楽耶
◎クロト様/f00472と

…まかり間違っても女性に囲まれるような方ではなさそうですものね。
ええ、軽口で乗り越えられる包囲でもなし。
厚い壁を密やかに潜り抜けるより、
正面から堂々と路を拓いてご覧入れましょうか。

刃へ続いて、【焦羽挵蝶】!
五百の焔蝶は目眩ましも兼ねます。
こちらに向けた意識ごと羽撃きに散らす火の粉で惑わしてしまえば、此方を正しく指差せはしません。
仮に邪悪なる光が穿たれたとて焔が防ぎましょう。
あとは風に任すまま。
煽られ、熱を増し、混ざり合いて荒ぶるば、

――焔は、総てを滅ぼしましょう。

灰のひと欠片も残さず。
どうぞ空へ還りくださいませ。
弔いの首級はすぐにでも捧げて差し上げましょう。


クロト・ラトキエ
神楽耶嬢(f15297)と

オラトリオ…だったモノ。
またぞろ随分集めたこと。
モテない野郎だと自己紹介です?

まぁ軽口はこの辺で。
高耐久が多数となれば、一体ずつ相手は旨く無い。
…ですよね?

如何な堤も穴一つで決壊する様に、
如何に厚い包囲も穴が開けば路となる。

刃の投擲は駆けるより速い。
急所を狙い撃つは、攻撃より寧ろ、
敵の意識を其方へ向ける意図。

彼女の蝶が舞ったなら。
鋼糸へ通すUCは、攻撃力へ全て換えた風の魔力。
直線に放ち穿ち、尚拡げ…
優しき子の炎では足りぬなら、悪鬼の業をどうぞ。
風で煽り、熱を上げ、色をも変え燃え上がる業火へと。
骨さえ残さず燃えたなら、灰は天に散ればいい。
地は、あの男の墓場になりますので



 雨は未だ降り続ける。
 群れなすオラトリオの亡霊が幽鬼の如く佇む向こう側に、微かな光湛えた刃持つヴァンパイア 聖剣使いの吸血鬼・ブラックを見据えながら、喉の笑いを押し殺しながらクロト・ラトキエ(TTX・f00472)が目を細めた。
「またぞろ随分集めたこと。……モテない野郎だと自己紹介です?」
「ふふっ、まかり間違っても女性に囲まれるような方ではなさそうですものね」
 く、と同じく笑い忍ばせた穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)も先の戦闘で切れた頬撫でながら叩いた軽口は、ここまで。

 互いに抜いたままの得物を構えた瞬間。
 数多を踏み潰し、全てを捨てたオラトリオだったもの――そう、オラトリオの亡霊が僅かばかりでも動いた二人目掛け殺到する。
『アアアァァァアアアアッッッ!!!!』
『ウゥ、ゥウウウウウウ!!!!』
 慟哭。
 白い頬伝う赤涙の悲しいこと。
 だが、同情などしている暇はない。既に方々で包囲網突破戦は始まっているのだから。
「さあさ、参りましょう――わたくし達に、羽根を休める涯はいらないのでございます」
 磨き抜かれた神楽耶の結ノ太刀が降る雨ごとオラトリオの亡霊を斬った一閃を、濡れた炎の如き蝶が伝う。
 UC―焦羽挵蝶 コガレバセセリ―はかすかにジュゥッと音を立てて雨を焼きながら羽搏き、亡霊の傷口を、その命を焼かんとすれば亡霊達は蝶を払うのに必死になる。
『ウァアッ』
「神楽耶嬢の蝶が舞うなら」
 その狭間を音も無く――否、発動させたUC―トリニティ・エンハンス―により風の魔力で雨音に投擲音混ぜ消したクロトの鋼糸が抜けた。
 糸伝う風の魔力が、手袋越しに糸手繰るクロトの意思に呼応する。
「僕からは悪鬼の業をさしあげましょう」
 燃える。
 燃える。
『ッッ、アァァアアアア!!!!』
 焼け落ちる痛みに亡霊は絶叫した。
 降る雨さえ焼く焔は消えず、全てを風の声に共鳴して燃やし尽くす。
 慈悲というには聊か酷だが――。
 雨に濡れた眼鏡押し上げたクロエが踏み出し、ぽつりと零す。
「あなた方の灰は、空へ還ればいいんです」
「ええ、弔いの首級はわたくし達が、この地に捧げましょう」
 前を見据えたまま言葉添えた神楽耶も、迷いなく足を進める。
 目指す首はただ一つ、聖剣謳う刃携えたヴァンパイア。

 雨が降る。
 涙の如き大粒が、止まることなく降り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
死して後迄、他者の生を冒涜するか
相も変わらず不快な真似だけは得手としている様だな

其の姿に至っては、他にして遣れる事は無い
余計な痛苦は必要あるまい、早々に終わりを呉れてやろう
――弩炮峩芥、何をも逃さん
此の眼に映るならば総てが的、炎だろうが同じ事だ
視線に身体の動き、気配の変化から攻撃方向を見切り
カウンターで斬撃咬ませて斬り落としてくれる
些少の傷なら構いはしない、耐性で捻じ伏せ攻撃へ転じる
狙うは唯1点
速やかに其の首落とす――私に出来るのは其れだけだ

お前達が嘗て戦うもので在ったとして
志を継ぐ等と烏滸がましい事を云う気は無い
だが……無念を晴らす事くらいは出来よう
骸の海にて、彼の残滓の末路を見届けるがいい



 ぼたぼた降る雨が鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の顎を伝い落ちる。
 ぬかるむ泥に風に遊んだオラトリオの羽が落ち、沈む。
「死して後迄、他者の生を冒涜するか」
 嵯泉の言葉は雨に飲まれた。
 無意識に握る秋水の柄が微かな音を立てた時、首を巡らせたオラトリオの亡霊と嵯泉の隻眼がぶつかった瞬間――ぱかりと、亡霊が口を開いて嵯泉を指差す。
『ア』
「――っ!」
 たった一言から放たれた邪悪なる光条を嵯泉が捕捉し刃で跳ね返せたのは、積み上げた戦闘知識と猟兵的な第六感の賜物だろう。
 幽鬼の如き足取りで嵯泉を指差したまま幾度も光条を放つ亡霊達の攻撃全てを受け、跳ね返し、時に身を翻しながら嵯泉は思う。もう、してやれることなど無いに等しく、伝わる言葉などないのだろうと。
 何故なら亡霊達は笑うでもなく怒るでもなく、いっそ機械的に嵯泉を追い、撃ち、迫ってくるだけなのだから。
 痺れを切らしたかのように一人のオラトリオが駆けた。
 唸り迫る様に天使の面影など無く、あるのはせめても姿形だけ。
『ウウ、ウゥゥゥウウウウ!!』
「――逃れる事なぞ叶わん」
 ひゅう、と雨風斬った秋水が翻る。
 瞬間、斬撃がどうと地を奔った。数多のオラトリオを巻き込み、一直線に。

 止まぬ雨が音を立てて強くなり始める中、雨雫払った刃を静かに収めて嵯泉は告げる。
「骸の海にて、彼の残滓の末路を見届けるがいい」
 必ず。
 水平に視線滑らせた先に待ち受けるそれへ、嵯泉は一歩一歩迫ってゆく。
 確かな思いを胸に、一歩。

 雨が強く降っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル


外道に操られて、この世界の敵として消えるだけ…
そんな結末は貴女達も不本意でしょう?

…それに否を唱えるならば、私の声に応えなさい
貴女達に機会をあげる。今一度、この世界の為に闘う機会を

他の猟兵に討たれたオラトリオの亡霊達の霊魂を暗視してUCを発動
彼女達の魂を浄化し"光の精霊結晶"に降霊して"光の精霊"化して召喚

…我が手に宿れ、光の理。呪われし魂を浄化し、あるべき姿を此処に…!

敵の攻撃は複数の精霊による光の魔力を溜めたオーラで防御して受け流し、
光属性攻撃の光線を乱れ撃ちする集団戦術で他の猟兵を援護する
敵を倒したらUCを使い精霊の数を増やしていくわ

…包囲しようが、連携が取れていなければ、ね


丸越・梓


「──やめろ!!」
凄まじいのであろう苦痛に咆えるオラトリオを前に思わずそう叫び
ブラックへ斬り込もうと、強く、強く足を踏み出す
然し立ちはだかるは件のオラトリオ
ぶつかった互いの武器から火花が散る
「……ッ退いてくれ…!」
血を吐くような思いで言葉にするも
返ってくるのは暴力のみ

奥歯が砕けそうな程噛み締める
雨が睫毛を濡らし
頬を伝い滴り落ちる

──瞳閉じるは刹那
次の瞬間には眼前の天使を見据え
彼女の攻撃を真っ向から受け止める
そこに刃はいらない
唯、我が掌にて

…俺にはこんなことしか出来ない
けれど、酷く苦しんでいる彼女をもう傷付けたくなくて
その苦しみから、欠片でも救いたくて

「……もう、いいんだ」

──おやすみ



 雨は止まない。
 慟哭響く包囲網は未だ猟兵の心を蝕み続ける。

 やめてくれと、丸越・梓(月焔・f31127)は叫びたかった。
「っ、は――……て、くれ」
 痛む。
 喉が、胸が、足が、傷が、体が、痛む。全てが軋むように痛み、息をするたびに肺が痛む感覚さえする。
 ぐうっと喉を競り上がったのは、叫びではなく血だった。
 ごほりと吐き出したそれは生臭く頭の芯をグラつかせるには十分すぎる。踏み出す一歩に覚悟をもって。次の一歩は救いたいと願う勇気と共に。
「ゃ、め……て、くれ」
『ア アァアァァアァァァア!!!』
 雄叫びと泥踏みしめ迫る足音がする。
 なんとしてでも受け止めねばなるまい――そう梓が腹を括った時、横合いを抜けたのは涼やかな少女の声だ。
「不本意な悲劇を悲劇のまま……終わらせない。あなた達を、世界の敵にはさせないから」
 涼やかな声の少女ことリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が、すいと伸べた手から光の魔力と伸びたオーラが梓ごと守りを固め、振り抜かれたオラトリオの亡霊の拳を受け止めた。
「ねえ、あなたもそう思うなら……まだ戦えるの?」
 静かな目でリーヴァルディは梓に問う。
 唸りながら幾度も亡霊が叩きつける規格外の力宿す拳が光の膜を傷つけ、徐々に罅割れパラパラと散り始める。
「……救いたい。あの苦しみから、彼女たちを……すくいたい」
 未だ梓の体は軋む。
 それでも絞り出した言葉は存外すらすらと出るもので、梓の言葉に小さく頷いたリーヴァルディは言った。少しの時間稼ぎをお願いね、と。
 防御膜が光と散った。
『ウウウゥゥゥゥウ!!!』
「っ、もういい――もう、いいんだ」
 オーラが割れた瞬間、崩れるように迫る亡霊とリーヴァルディの間に梓は滑り込み、決して抜かぬと決意した愛刀そのままに組み合う。
 頬伝い落ちる雨雫など、梓は一切を気にする暇もなくオラトリオの亡霊を真正面からぶつかって。
 短く深呼吸し、体当たる勢いで組み合う手を外し踏み込む。吸った息を吐くのに合わせ、懐目掛けて一歩踏み込み放つ一掌。
「――おやすみ」
 弔いではなく深く覚めぬ眠りへ。そう願い打ち据えるUC―君影 キミカゲ―に込めた祈りは解放。とんと掌底で打たれたオラトリオの赤い涙が一筋落ちたのを最後に、ほんの少しの輝きを取り戻す。
『あ、あぁ……』
 梓の腕の中、一人のオラトリオが静かに息を引き取った。
 直後、感傷に浸る間もなくオラトリオの亡霊が迫りかけた時、リーヴァルディの秘儀が完成する。
「……限定解放。これは傷付いた魂に捧げる鎮魂の歌。最果てに響け、血の煉獄……!」
 リーヴァルディの足元に輝く白が奔り、ネモフィラの如き青白い花を咲かせてゆく。術式の名はUC―限定解放・血の煉獄 リミテッド・ブラッドレクイエム―。リーヴァルディだけが扱えるこれは暗きところに囚われたまま死したオラトリオ達の魂を救い上げ、光の精霊として昇華する秘儀だ。
 対価として、術式を展開するリーヴァルディの力を奪うことが唯一の難点なれども、今は。
「この結末に否を唱えるならば、私の声に応えなさい。貴女達に機会をあげる……今一度、この世界の為に闘う機会を」
「これは……!」
 梓の腕の中で死んだはずのオラトリオがから、ふうわりと起き上がる光の天使。
 このダークセイヴァーではあまりに眩い輝きが梓の背後を指差した瞬間、奔った真の光条が、未だ呪いに囚われる亡霊を撃ち落とした。

 ふわりふわりと光が起き上がる。
 元来ほどではないものの、真の輝き背負った戦士が一人、また一人と目を覚ます。
 止まない雨の中、梓とリーヴァルディ、そして光の精霊と化したオラトリオが、彼の騎士目指して進軍する。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーファス・グレンヴィル

強くなる雨足
首級が転がってから
おもむろに煙草を口に含むも
この雨だと火なんて点く筈もない
けれど上ってない葬送の煙を
まるで見詰めるように空を見上げ

周囲の気配に眉を寄せる
いつの間にか包囲されていた
プッと勢い良く煙草を吐き出して
双子鉈を引き抜いて構える

さあ、遊んでやるよッ!

元気良く大声で宣言すれば
肩から飛び立った黒竜が開けた大口
放たれた炎の吐息と共に
敵へと向かって斬り掛かる

お前が泣くほど辛いなら、

やがて彼女の目から
流れ落ちるのは紅い涙
自身の頬を伝うは返り血

──ゆっくり、寝とけ

呪いから解放されて
ただ静かに眠れるように



 目の前で女が泣くほど、いや、慰められぬ悲しみがあるなどただ苦しいだけだ。
 言葉を尽くせど届かずただ蝕まれている様を見ているしかできないなんて。

 点きもしない湿気た煙草を咥え、ルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)は空を仰いだ。
 重苦しい曇天に止まぬ雨。年中薄暗いゆえか湿気た臭いが鼻につく。
「見てるだけかよ」
 プッと煙草を吐き捨てた瞬間、ルーファスの耳を遠く雄叫びが打つ。
 実直なほど真っ直ぐ向かってくる気配は見ずとも把握できる。じめついた空気を肺いっぱいに吸い込んで、吐く。
 ここから先は修羅の道。必要なのは振り返らない覚悟で十分。
「さあ、遊んでやるよッ!」
『アァァァアアアアアッッ!!!』
 嘆きの叫びと共に振るわれた拳を、ルーファスは一対の鉄塊剣―Hell―で受け止める。
 刃食い込もうと悲鳴の一つさえ上げないオラトリオの亡霊の瞳は、狂気に吞まれていた。
「……チッ」
 ルーファスが奥歯を噛みしめた時、横合いからもう一体の亡霊が飛び掛かる。ハッと身構えたルーファスの視界を占めたのは、見慣れたナイトの赤い翼。
「ナイト……燃やせ!」
『ウ、あ』
 一鳴きして飛び立つと同時にナイトと呼ばれた竜型ドラゴンランスが亡霊へ焔吹けば、たちまち身を焦がす。
 身を焼く焔に、痛みに、オラトリオの赤く染まった瞳から涙が零れる。
 天を見上げはくりと空切る唇の悲しみはいかほどか……胸の内に沸く感情を飲み下し、ルーファスは精一杯の優しさと慰めをもってオラトリオを貫いた。
 ぐらつき、しな垂れかかる瞳が茫洋とルーファスを見つめる。
『ァ、ぅ……』
「──ゆっくり、寝とけ」
 苛烈な戦場とは思えぬほど柔らかい声が、オラトリオの瞳をとじさせた。
 骨張った手で肩を支え、刃を抜いて、ルーファスはそうっと一人の女性となったその身を寝かせてやる。
 Hell滴る赤を振り払い戦火の向こうの男を見れば、遠くとも感じ取れる狂喜の感情。いっそ精々しいほど戦いを求めてやまない者の気配。

「そんなに欲しけりゃくれてやる」

 目一杯力を込めて駆ける、包囲網の向こうの騎士目指して。
 必ずそのそっ首叩き切らんと、ギラつく感情そのままに。

 雨が強くなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『聖剣使いの吸血鬼・ブラック』

POW   :    こちらの番だ
【聖剣による一撃を何時でも放てる用に構えて】対象の攻撃を予想し、回避する。
SPD   :    避けられるか?
【殺意】を向けた対象に、【神速の速さで接近からの聖剣による連続攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    見切った
【聖剣】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【攻撃と防御】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシュバルツ・ウルリヒです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 音を立てて雨が降っている。
 猟兵達が辿り着いた先、この村の門前に男は居た。

 両脇に骸を積み上げ、地面に突き立てた剣真っ直ぐに立っていた。
『……待ちわびたぞ』
 男の、否―聖剣使いの吸血鬼・ブラック―が値踏みするような目で猟兵達を見ながら、淡く黄金に輝く剣をゆっくりと引き抜く。
 ブラックの静かな瞳には燃え盛る何かがあった。
 煮え滾るような何かが、猟兵達を見ている。

『――来い』

 たった一言。
 まるで幾年も待ちわびた様な響きを含んだ声で、挑発するような所作と共に猟兵を誘ったブラックが、無意識に口角を上げ告げた。

 それが始まりであり、終わり合図となる。
 この悲しみに満ちた全てを終わらせる、唯一との戦いの火蓋が下ろされた。

 雨は降り続けている。

 
カイム・クローバー

(雨で濡れた前髪を掻き上げて)
今日も俺は水も滴るイイ男――なんて。(肩竦め)アンタはこういう話に興味無さそうだな。興味あるのは『強さ』だけかい?
請求書、取り立てに来たぜ。

魔剣を顕現。
聖剣を【見切り】で躱しながら、【怪力】で魔剣を叩き付け。
…アンタなら少しはノレそうだ。
黒銀の炎の【属性攻撃】を刀身に宿し、【焼却】でブラックを動かす。
後の先を取る剣技ってのは卓越した技術の証だろう。ま、俺を斬るには――些か遅すぎるがな!
聖剣の一撃を迎え入れる前にUC。

ただ強いだけなんざツマらねぇ。力とそれを扱うに足る魂、その二つが揃って初めて意味があるのさ。それと、覚えとけ。
――そういう男はイイ男だって事をな。



●長雨散らす便利屋の神殺し

 雨は降り続いている。
 目の前に威丈高に立つ聖剣使いの吸血鬼・ブラックがカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)をまるで見下ろすように見つめていた。
 強さの圧が圧し掛かるように感じているのか、はたまた物理的……と言うほどの差はない。得物を構えないカイムにブラックは肩眉を上げた。凡そ、かかってこいとでも言いたげな態度に、雨に濡れ張り付く髪を掻き上げたカイムは肩を竦めブラックを鼻で笑う。
「今日も俺は水も滴るイイ男だが――あんた、随分とセッカチなんじゃねぇの?」
『弱くば退け』
 得物抜かねば興味は無い、とでも言いたげにブラックの一瞥を受けたカイムの頬は、ひくりと痙攣した。
「は? ―――ハハ、おいおい……俺はおまえの請求書、取り立てに来たんだぜ!」
『いいだろう。何かを買った記憶は無いがな……!』
 ガァン!と、振り抜かれたブラックの聖剣と背から抜き打ち様叩きつける様に振り下ろされたカイムの神殺しの魔剣がぶつかり合う。
 ギチ、と刃が唸ったのは一瞬。
 力の拮抗から互いの剣が震え、交差視線の高さはほぼ同等。カイムが軋む腕の痛みにほんの僅かに眉を寄せた瞬間を、無傷のブラックは見逃さない。
『――フッ、』
「っ、あぶねっ!」
 聖剣が少し傾けられた僅かばかりの隙を魔剣が滑った時、両手構えに変えたブラックが真正面から捻じ込んだ刃を何とか躱せば、掠めたカイムの頬が薄皮一枚切れた程度で済む。
 崩したバランスを後方へバックステップしたことで整えながら、カイムは考える。
 目の前の男は素直なほど殺すことに長けた、実践的な剣術を扱う。型が無く、癖が薄く、合わせて――……。
「くそっ、ああ、ならノるしかねぇってか!」
『――ハッ!』
 距離を取ったカイムが瞬き程度思考すると同時、ぬかるむ地面を厭わず刃ごと飛び込んできたブラックを力技で受け止めれば、まるで耐えることを利用するようにブラックが圧し掛かる。
「この、野郎……!」
 本来、この距離ならばカイムのUCが効果を発揮する範囲だ。
 だが今、もし攻勢に出れば紙一重で……いや、下手をすればカイム自身が二つに斬られるかもしれない。あまりに間が悪すぎる――ゆえに、カイムが選択したのは剣技でも弾丸でもなく己の地獄。
 身の内で燻る、黒銀の焔。
 先ほどから感じていたブラックの実直さとプライド、そしてその剣までもをカイムは獲物にする。毒を食らわば皿までならば、騎士ごと聖剣を圧し折ろうじゃないか。
 合わせた視線を弓なりに、精一杯笑ってやる。カイムにとって挑発ならいっそ特技と言って差し支えないのだから。
「ま、俺を斬るには――些か遅すぎるがな!」
 拮抗した剣を引き抜くフリして上へ滑り上げ、魔剣独特の形をした鍵のような部分で聖剣を引っ掛ける。
 生き物というのは、危険を感じれば咄嗟に逃げたがる――つまり、退きたい時に一瞬誤差が生じれば何が起こるか。
「強さにも、色々あるんだぜ!」
 驚愕に次いで動揺、そして間。たった一瞬、されど一瞬、外そうと躍起になったブラックを間ごと黒銀の焔が焼却する。
『っ、っぐぁぁああ!!!』
「強いだけなんざツマらねぇんだよ!」
 燃えたブラックが必死に飛び退きのたうった後、肩で息をしながら油断なくカイムに切っ先を向けた。
『フーッ、フーッ、き、ざまァ……』
「力に必要なのは腕っぷしだけじゃねえ、それに足る魂も必要なのさ」
 知ってたかい?とカイムが余裕の顔で笑った瞬間、歯を噛んだブラックが飛び込んでくる。両手で正眼に構えた聖剣眩く、咄嗟に構えたカイムの魔剣に触れることもなく避け抜いて――……。
『斬る』
「っ、ガッ――!」
 正に神速。
 軌跡残しながらもブラックの聖剣はただ鮮やかにカイムを斬った。だが、カイムは分かっていたのだ。この“ブラックが最大回数剣を振り切ったこの瞬間”こそが、最も無防備で最も弱い騎士様が拝めるのだと。
「なあ……二つ揃ったイイ男っての、見たくねぇか?」
 たった一回、有るか無いかの千載一遇をカイムは逃さない。
 カイムの魔剣は、既にブラックの懐にあるのだから。
「聞こえるかい?これが、死神の嘲笑だ――!!」
 UC―終末の死神 エンド・オブ・ジョーカー―。

 神殺しの一閃が雨さえ絶つ美しい軌跡をもって、一人の聖剣の主を斬る。
 ブラックの手より飛んだ聖剣が、ぐるりと空泳いだのち泥濘に突き立つ。

 雨は止まない。だが、カイムは確かな勝利を掴み取った。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

春乃・結希

私の大好きな希望の光…いくつ消したん…?
村を贄にしてまで、猟兵を呼んだこと
後悔するといいです

連続攻撃に対抗するため、大振りなwithはまだ抜かない
相手の接近に合わせ、こちらも踏み込む【ダッシュ】
あなたが私をころしたいと思ってるように
私もあなたをころしたいと思ってるんですよ
斬られても構わない。地獄の炎が塞ぐから【激痛耐性】
剣を腕で受け止めてでも、剣の間合いの更に内に潜り込み、拳を打ち込む
打ち込む度に焔鎖を繋ぎ、動きを鈍らせる

聖剣だかなんだか知りませんけど
withと比べたら、なまくらですね
殺意を抑える事なく、全力で振り下ろす【重量攻撃】
消えてください。希望へ向かう、この世界から



●鋼を愛せし旅人の雨宿り

 この雨の旅路で出会えた人は全て、“人だった”ものばかり。
 氷より冷たく、蝋より硬いそれは、ひとつもいきをしなかった。
 こんなにも星の無い夜など、あっただろうかと、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は愛刀の鉄塊剣―with―の柄を握る。
「私の大好きな希望の光……いくつ消したん……?」
『……これは光などではない、ただの撒き餌だ』
 結希が口をついて出た言葉で問えば、聖剣使いの吸血鬼・ブラックの答えは冷たいものだった。淡々とした声に後悔も無ければ疑問も無い。まして罪悪感など影も形もないことがよく分かる。
「――私達を呼んだこと、後悔してください」

 どうと地面を蹴りだした結希の歩みは早く、細い体は猫のように軽い。
『来い、』
「……――っ、!」
 身を低く踏み込み、泥で足が滑ることも振り下ろされる聖剣に斬られることも、全て覚悟の上。
 斬られ、じんと熱い腕から紅蓮の炎が吹く。胸の奥で燻る怒りを勇気で包んで前進の糧に。掴み掛りそうな口惜しさを指先に込めた怪力で重量級の一撃狙う直感へ。
『刃も抜けぬか』
「あなたになんかwithは抜かないっ……!」
 踏み込んだ瞬間、柄頭で側頭部を殴られるも結希は耐えた。音がするほど握りしめた拳を引き絞りながら、ブラックを見据えて告げる。
「あなたが私をころしたいと思ってるように、私もあなたをころしたいと思ってるんですよ」
 先ほどの感情など抜け落ちたかのような結希の声と言葉は、彼女を知る者が聞けば驚いたことだろう。だが、今この至近距離には結希とブラック、たった二人だけ。
 ゆえに、結希は慈悲を捨てる。
 仰々しいマントの胸倉を掴み上げ、2、30センチ低い結希の視界へ引き下ろし躊躇いなく放つのは――。
「捕まえた、逃がさない」
 UC―ブレイジングチェイン―。
 先まで余裕顔だったブラックが逃れようと身を引けど、結希の怪力は離さない。殴ろうと切ろうと、痛みに耐える覚悟と勇気は諦めを知らない。
「ハァァアアアッッ!!」
『っ、ガハッ』
 打って、打って打って打って、打ち転がす。
 容赦も慈悲も考えることも躊躇いも、何もかも捨てて、結希は打つ。
『ハ、ガッ……ハァッ、ハァ、ぐ……ウ、』
「ほんと、聖剣だか何だか知りませんけど、withと比べたら“なまくら”ですね」
 ハハ、と乾いた笑い零す結希の傍ら、炎の鎖に縛り上げられたブラックはもう手も足も動かせない。出来るのは呻くだけ。
 徐々に火力上げて燃え盛る結希の拳に鎧は無視され、逃れようにも掴まれた場所から力業で動けず、斬ったとしてもカウンターのように飛んでくる肘撃ちに時に昏倒しかけ、時に手首狙った一撃が重なれば絶叫して。
 息も絶え絶え満身創痍なブラックに、重く暗い影が被る。
『ハ、ハ、……ァ、ハハ』
「消えてください。希望へ向かう、この世界から」

 ごきぐじゃりと、圧し斬る音が一瞬だけ雨を喰う。
 次にはもう、場にあったのは結希の荒い呼吸とwithが泥を斬る音だけ。

 雨が降る。
 全て押し流すように、強く。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント

ようやく元凶にたどり着いた
奴の思い通りに動くのは気に入らないが迷わず交戦

まずは銃で応戦、相手の戦い方や癖を観察しておく
大技の連続攻撃は銃身で逸らして直撃を避けつつ、銃を取り落としてみせ油断を誘う
追撃に合わせてユーベルコードを発動
さらに真の姿を解放する(月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように変化し瞳が輝く)
二つの強化を重ねて速度を引き上げ、敵の目測を誤らせることが狙いだ
その隙を突いて連続攻撃から抜け出す

連続攻撃を躱したら狼獣人の姿に変身
側面や背後に回り込み、獣人の腕力を利用した爪の一撃を叩き込みたい
獣人の姿は好まないが、この吸血鬼に届くなら構わない
これだけの犠牲を出した報いは、必ず受けさせる



●月なき夜の遠吠えを聞け

 雨越しに距離が視認できた時既に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の足は走りだしていた。
 聖剣をこちらに向けた聖剣使いの吸血鬼・ブラックが笑っている気がする。口角を一つも上げず、嫌に楽し気に。
「会いたかったぜ、元凶」
『活きの良い狼ならば毛皮になれ』
 飾ってやる。
 そう笑った男の顔へ、シキは零距離で鉛玉をくれてやる。

 ブラックの頬の肉削いだ鉛玉は泥に紛れて消えた。
 だが、苛烈な戦闘はそんなものを過去として続いている。降り注ぐ雨など意に介さず、燃える炎のぶつかり合いの如く激しく。
「させるかっ……!」
『ほう、』
 正眼の構えから放たれる型に嵌まっているようで嫌に実践的なブラックの剣術がシキの肩を斬る。
 腹を狙った一撃をシロガネの銃身で削ぎ、叩き込まれた上段からの一撃を銃床で打ち逸らす折り、一発撃てば返すようにシキが斬られたのと逆のブラックの肩に穴が開く。
 一進一退の攻防激しく、打ち合った時だ。
 雨が悪運を生む。
「っ――、くそ!」
『避けられるか?』
 聖剣に押し込まれた際、シキの手からハンドガン・シロガネが滑り落ちたのだ。
 ハッとシキが息を呑んだ瞬間をブラックは逃さない。踏み込み斬る。斬る、振り上げ――られた隙に飛び退いたシキが、詰めていた息を吐きだし、笑った。
「あんたには、本当の俺とやりあってもらう」
『獣へ果てるか、ならば――』
 成る前に斬る――そう踏み込んだ刃は、シキに届かない。
 呼気短く、シキが月無き天を仰いだ。
「ウォォオオオーーーン――!!」
 UC―イクシードリミット―。
 雄叫びに雨が弾かれた後、現れたのは“狼獣人”と化したシキだった。
 硬さのある毛皮は艶やかに、薄暗いダークセイヴァーでも仄淡く輝く銀は目を惹く美しさ。シキの姿に感嘆の息をついたブラックは微かに口角を上げ、笑う。
『良い戦利品になるか』
「グルルルル……ウォウッ!」
 低く唸ったシキの口から生暖かい吐息が漏れる。
 笑ったブラックが聖剣構えた、瞬間――音も無くシキが飛んだ。成人男性らしい巨体の狼の一歩は大きく速い。
『ッ、な』
 狼獣人となったからと言って、中身は紛れもなくシキ。ゆえに、自身が飛び掛かる動作をすれば、咄嗟にブラックが聖剣を構えることなど予測していたのだ。
「――犠牲の報いを受ける時間だぜ」
 さっきまで唸っていたとは思えぬ流暢な言葉がブラックの耳元で笑った。
 獣は定めた獲物を逃がさない。
 神速で駆けるシキを捉えようブラックが凝視し剣を構えた瞬間、目を顰め足がふらついた。何故なら、ブラックには時折半歩身をずらしながら高速で動くシキが見えすぎるのだ。
 残像さえ追える目の良さは普通なら舌を巻くが、今は過ぎたる産物。
「終わりだ」
『――おのれ、』
 言えたのはたった一言。
 真一文字に振り抜かれたシキの爪先が、迷いなくブラックの首を飛ばす。
 切り口鮮やかに、滴ったのはほんの少しの赤だけ。

 雨は続く。
 UCを解いたシキの頬を、雨が滑り落ちた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
「(死体の)山ではなく谷にいるから猿山の大将じゃねぇってか?
自分から底が浅いと証明するような奴の安い挑発に乗る程俺様安くはねぇんだ

あぁお前さん、俺様達に殺されたくてこんな回りくどいなめ腐った事やってんだもんな
すまんな
阿呆の考える事はわからんのだ」
流れるように罵倒を重ね挑発
聖剣使いとか呼ばれてんだし煽り耐性は高そうだし挨拶みてぇなもん
先に仕掛けたの奴だしな

今は破壊大好きな俺様になってるぜ
普段の俺様の戦い方は先程見られただろうし

俺様殺意よりは長く遊び(壊し合い)たいが強いから目眩ましにはなりそうだし

来る攻撃はガードとかは自分じゃしねぇ
致命傷は黒纏とか時計が防ぐ
俺様が見きられ始めたら別の俺様に変わる



●黒き輝きの爆ぜる日

 ラヴェントを斬り、オラトリオの亡霊を斬り雨の中駆ける途中、ひたりと尾守・夜野(墓守・f05352)の足が止まる。
 冷える雨の中、静かに頭抱えたのは瞬き程度。次に夜野が天を仰いだ時、その瞳に映る人格はより明確に変わっていた。
「っ、……!ハ、ハハ……そうだ、俺様に似合いの仕事じゃねえか」
 自身を“俺様”と呼ぶその瞳は先程よりも燃える色を宿し、釣り上げた口角は狂笑に満ち満ちていた。握った黒剣を抜き身に、夜野は再び走り始める。

 吐き気を催すほど陰惨な光景。
 無残な死体を積み上げた狭間に立つ聖剣使いの吸血鬼・ブラックを見た時、ニィっと笑った夜野がわざとらしく肩を竦めて見せた。
「あぁー……お前さん、俺様達に殺されたくてこんな回りくどい舐め腐った事やってんだよなァ」
『……――、』
 小馬鹿にしたような調子で声をかけた夜野を、ブラックはちらりと一瞥しただけ。その様子に、ふぅん、と目を細めた夜野はなおも続ける。
「オイオイ、山の上じゃなく谷にいるから猿山の大将じゃねェってか? ハハ、てめぇから浅ーい底を見せつける安っすい挑発に乗るほど、俺様は安かねェんだが」
 そう言った夜野が横目で見たブラックが、じぃっと夜野を見たと思えば、クククと喉を鳴らして笑い始めた。
 そうして突き立てた聖剣を引き抜くと、切っ先で夜野を示し邂逅して初めて口を開く。
『どこで学んだか知らないが、随分と安価な挑発だ。――もっと上品に言え、浅学が過ぎる』
 夜野の頬が僅かに引きつり、ブラックの目は戦いの色を灯す。
「上等だ」
『来い』

 ぶつかり合う刃が雨の中火花を散らし、擦れ合っては悲鳴をあげる。
 決してガードしない、否――ガードは下げた懐中時計か、纏う襤褸布 黒纏に任せきりの夜野は、特殊な構えから放たれる神速の連斬を御しきれず傷を増やしていた。
『まだ息をするか』
「あー血が足りねえから、脱ぐわ」
 天を仰ぎ、注ぐ雨受けながら気怠く言った夜野が絡みつく黒纏を引っ張り捨てた瞬間、その顔に灯ったのは狂笑の輝き。
「……はははっ!こっから先は!ノンストップだ!ギア上げてくぞ!」
 多少の傷はあれど平然と立っていたブラックが、より殺意鮮やかにした夜野に笑う。
『いいや、こちらの番だ……!』
 いつのまにか纏う物だったはずの黒纏は夜野の得物たる怨剣村斬丸の柄頭に飾り紐――否、鞭の如く棚引いていた。
 揮われた刃の傷を追うように打ち据え、斬ろうとすれば空を泳ぎ抜けていく。
 より攻撃的になった夜野も、刃も、ブラックは止める術を持たなかった。躱せど追い縋る一撃に、ブラックがとうとう膝をついた時。
「おいおいおいおいコレで終わりかよ!つまんねェなあ!!」
 アハハハハ!と夜野の笑い高く、ぞぶりと騎士の首が転がった。
 
 雨が降っている。
 止まぬまま、ぬかるみ深く降り注ぐ。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド

時に、あなたは自分のことを「悪」だと思いますか?
実のところ……私はそうは思っていません。
人が家畜を飼うように、あなたは、吸血鬼は人をそうしているだけのこと。
そこに善悪はないでしょう。
ですが、それ故に種として私たちは相容れない。

【ニヴルヘイム】を使用、接近を防ぐのは難しいでしょうが、身体能力の差はこれで埋めます。
銃剣「アルマス」による『武器受け』で敵の連続攻撃を受け流すようにして防ぎ、今回の戦いではまだ見せていない「デリンジャー」の『クイックドロウ』で隙を作り、銃剣での『串刺し』からの絶対零度の弾丸の『零距離射撃』を撃ち込みます。
倶に天を戴かず……あなたは、ここで殺す。



●凍てつきし銀弾に輝ける聖剣

 奥、死体の山の狭間に立つ騎士を悪というべきか、迷っていた。
 いや、正確に言うならば目の前の騎士にセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)の思う“正義”を当て嵌めるべきか、考えていた。
 聖剣使いの吸血鬼・ブラックと向かい合い、その気持ちを確信する。
「私は……あなたを、“悪”だとは思いません」
『珍しい』
 セルマの言葉に淡々と返したブラックの瞳は凪いでいた。
 向かい合い、得物向けあうことを必然とするように、セルマを待っていたかのように地面に聖剣突き立てたまま黙している。
「人が家畜を飼うように、あなたは――……吸血鬼は、人にそうしているだけのこと」
『……ああ』
 雨の中、淡く微笑んだブラックをセルマは一瞥。
「そこに善悪はないでしょう。ですが……それ故に、私たちは種として相容れない」
 そうして浅い頷きを一つ返したセルマが向けたのは――絶対零度の銃口。
 既に降りている撃鉄が、セルマが心の奥に秘めたる怒りを表して。
『来るがいい、娘』
「あなたはここで殺す」

 UC―ニヴルヘイム―。
 息すら凍て落ちる冷気がセルマとブラックを包み込む中、地から抜かれた淡く輝く聖剣と引鉄から放たれた弾丸がぶつかり合う。
 深い踏み込みから振り下ろされるブラックの刃を銃剣 アルマスの先端に括ったフィンブルヴェトで受け、逸らす。深く短い呼気で規律正しいセルマの銃剣格闘術はなんとかブラックの刃からの致命傷を退けるが、逆に弾丸放つ隙を奪われる。
『どうした、もう弾切れか』
「――っ、いいえ」
 ぐっと歯を食いしばったセルマがタイミングを逸らすように膝を曲げ腰を落とせば、元より圧し掛かるように剣を揮っていたブラックの重心が逸れ、バランスを崩す。
『……!!』
「外しません」
 引き抜いたのはスカートの内に潜ませていたデリンジャー。小型なそれを真上に撃てば、狙いはブラックの頭。
『っ、ぐぅ!』
 絶対零度の弾丸が落としたのはブラックの髪一房。だが、この極冷空間はセルマの庭。セルマの為だけの、庭。
 足に力込めて後方へ蹴り出した低く乱れた姿勢のまま、セルマは愛銃アルマスを捨ててでも抜いた、もう一つのデリンジャー。
 ブラックの瞳孔が見開かれ、伸ばされた手は僅かに届かない。
「―――それも、計算の内ですので」

 音を立てて雨が降る。
 絶対零度の銀弾は突き出された掌から棚引いたマントの先まで瞬く間に凍てつかせ、吸血鬼の聖剣持ちし黒騎士を燈火を消し飛ばした。

 落ちた銃剣 アルマスを、セルマの細い手が拾い上げる。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ


…何も言うまい
貴様を屠るだけだ…ただそれのみ…!
ワタシは…処刑人だ!

処刑人としての[覚悟]を胸に灯し
仮面を被り真の姿の[封印]を解こう

[戦闘知識]を発揮し
鉄塊剣と妖刀抜き振るい敵の連続攻撃を
[見切りつ武器受けとジャストガード]で防御しよう
攻撃を受けようが[激痛耐性]で耐えてやろう

[不意打ち]で鉄塊剣を投げつけ敵の[体勢崩し]
その隙に妖刀による【剣樹地獄の刑】を発動
[殺気と呪詛]纏わせた妖刀で攻撃
何度もその身を[切断し串刺し傷口をえぐり]
聖剣諸共八つ裂きにしてやろうぞ…!

吸血鬼め…消え失せろ…!!!



●執行人の寿ぎを貴様へ

 ぼたぼたと雨が降る中、ペストマスクに似た仮面を付けた仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)はマスクのレンズ越しに聖剣使いの吸血鬼・ブラックを見た。
 死体の山の間に立つブラックの姿を見た時、アンナの怒りは頂点に達する。
「……何も言うまい」
『言葉などいらない』
 互いの言葉は尖り合い、その切っ先は勿論互いの首へ向いている。
 張り詰めた空気が尚張り詰め、キリキリと音を立て痺れそうなほど、緊張は最高潮。
「貴様を屠るだけだ。ただ、それのみ……ワタシは、処刑人だ!」

 アンナとブラックが地を蹴り出したのは互いに同時だった。
 ほの淡く輝く聖剣と妖刀 アサエモン・サーベルが激しくぶつかり合い、火花を散らす。
 半ば力比べのような打ち合いは、仮面を付けたときから出来ていたアンナの覚悟が上回る。更にアンナが横合いから抜き様、力任せに鉄塊剣 錆色の乙女で打つように投げ込めば、バランスを崩したブラックが吹き飛んだ。
「そんなものか」
『ハッ、ハ……ハ――ぐ、う』
 斬れども痛みに呻かず、激痛への耐性を持つアンナはビクともしない。
 剣での戦いを得手とするブラックにとって、非常にやり辛い相手に他ならない。しかも猟兵らしい力任せな攻撃は並ではなく、吹き飛ばされたブラックは何とか飛び起き、血反吐を吐いた口元を拭う。
『面白い……もっとだ。戦え、猟兵っ!』
「聖剣諸共八つ裂きにしてやろうぞ……!」
 淡く黄金色に輝く聖剣はその輝きごと血に塗れ、アサエモン・サーベルもまた滴らせた血で揮う軌跡に合わせた三日月を描く。
 全て全て、瞬く間に雨が上書きしていくけれど。
 再び打ち合い押し合った時、泥に滑ったブラックの体制が崩れた。
『――は、』
「この剣で貴様を突き刺し斬り刻む! 忌々しき吸血鬼め……消え失せろ!!!」
 UC―剣樹地獄の刑 ケンジュジゴクノケイ―。
 隙逃さず踏み込んだアンナの一刀が殺気と呪詛を綯交ぜにブラックを叩き切るのと同時、発動されたユーベルコードが斬撃を後押しする。
 鎧を無視し雨の如く降り注いだ斬撃が、ブラックの燈火を斬り消した。

 雨は止まない。
 アンナのマスクの嘴伝った雨が、ほとりと泥濘に落ちた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
――云われずとも
お前の存在、此れより先の未来から消す為に
私の刃は其の為に此処に在るのだから

もう二度と待つ事も叶わぬ様にしてくれよう
――逸捨煎離、来たれ獄炎
強化し集中した第六感に戦闘知識での先読み重ねて見極め見切り
致命と行動阻害へと至る攻撃は躱し、或いは武器受けにて弾き落とす
些少の傷なら構いはしない、耐性で捻じ伏せ前へ出る
なぎ払いでの牽制で以って隙を抉じ開け
全力の踏み込みにて怪力乗せた斬撃で素っ首を斬り飛ばしてくれる
強者を求めるが故の誤った愚行の責、確と受け取れ

世界はお前たち過去の残滓なぞが弄んで良いものではない
今を生き、未来を築くもの達の為にこそ在る
お前が在るに相応しいのは骸の海
疾く、潰えろ



●剣戟

『――来い』
「――云われずとも」
 ほのかに黄金の輝き纏う聖剣と、鮮烈な玉鋼の輝き放つサムライブレイド 秋水が鍔競り合い火花が散る。
 聖剣使いの吸血鬼・ブラックの赤い瞳とぶつかり合う鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の赤い瞳、互いに似た色なれど瞳に宿した酷く静かな炎の方向は違っていた。
 ぎりぎりと鋼が擦れ合う最中、とうとう動き始める。
 ブラックが刃傾け嵯泉がバランス崩すことを狙えば、嵯泉とて読んでいた。戦い方は違えども、ラヴェントとオラトリオの亡霊、そして今までの嵯泉が積んできた戦闘知識と継続戦闘力は並ではない。逆に刃を当てるように滑らせ、更に踏み込む。
「お前の存在、此れより先の未来から消す」
『出来るならやってみろ』
 低く耳通りの良い声同士が言い合った直後、ブラックの左肩深くを秋水が斬り、聖剣掠めた嵯泉の頬が薄く切れる。
 ふっと空いた間はたった一拍。
 まるで雨の止み間のような隙を経て、再びブラックと嵯泉がぶつかり合う。

 降る雨に、ブラックも嵯泉も濡れそぼっていた。
 幾度も鍔迫り合い、隙を探し合えど牽制し合う二人に隙あるはずも無い。互いに、剣に秀でた者同士ゆえの膠着。
 その膠着へ決着をつけたのは、嵯泉だ。
「もう二度と刃待つ事も叶わぬ様にしてくれよう――逸捨煎離、来たれ獄炎」
 立ち昇る炎が、ブラックの感覚を焼く。
 ブラックの経験の奥底が、危機感が、全てが彼の刃を受けてはならぬと警鐘を鳴らしている。
 だが――だが、不気味なほどブラックは口角を上げて笑っていた。この危機感、この焦燥、この動揺……全てを、猟兵と対峙したものは味わったのだろう。
 この貴重なる奇蹟を今、ブラックだけが味わっている。
『――すばらしい』
「疾く、潰えろ」
 全ての加護焼く輝ける焔へ飛び入るナニカは、わらっていた。

 雨の中、残っていたのは消し炭が一つ。
 祈る者もなく弔う者さえ無く、骸の海へ叩き込まれたのは一人の聖剣持つ男。
 嵯泉が秋水を一振り払えば、纏っていた焔も血も雨の中へ焼き溶けた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

東天・三千六

ああ、酷い雨ですね
こうも視界が遮られては……
件の首魁のお顔、近くにいかないと見えないですね、ふふっ

喪逢傘をくるり回して降る雨を弾き、傘に伝う雫を周囲に飛ばし
その水滴、雨という自然現象にUCをかけます

さあさ、あの吸血鬼をもっともっと、ずぶ濡れにして差し上げましょうね

周囲の雨を傘の上、一つ所に降るよう集めブラックに向かって弾きます
特大の水鉄砲ですよお
体勢が崩れた所を剣で斬りつけます

あなたのその剣、随分と長く共にいるようで……
僕も是非仲良くなりたいです
ねえ、あなた(・・・)は僕のお友達になってくれますか?

ブラックの持つ聖剣へUCで悪戯に無力化を図ります
ちょっと動かないでくださーい



●呪いの雨にうたう

 真っ赤な喪逢傘をくるり回しながら、陰惨な骸の山の狭間に立つ聖剣使いの吸血鬼・ブラックへにこりと笑いかけた東天・三千六(春雷・f33681)のユーベルコードは既に発動していた。
 UC―嫦娥炯眼 テンプテーション―。
 本来若草色の瞳孔を持つ三千六の瞳は、ブラックが認識した時には既に反転していた。
 本来白きを芽吹きの色に、眼の中を闇より暗く――わらっている。
「それにしても、本当にひどい雨だと思いませんか?」
『……――』
「ああ、残念。こうも視界が遮られては――……」
 一瞥の後無視するブラックを見て、三千六は笑う。良いのだ、あの男は何も気にしなくて気付かなくて鈍感であればあるほど、いい。思えば思うほど、三千六の口角はついつい上がってしまう。
「あなたのお顔、近くじゃなきゃ見られませんね?」
『!?』
 呪術掛けた雨は音も無く三千六の声をブラックの耳元まで運んだ。
 すれば、反射的とも言える速度でブラックは真横を斬る。何もない虚空を、斬った。聖剣を持つほどの実力者が!
「あははは!ふふ、うふふ!びっくりしました?しましたねぇ、じゃあ特大の水鉄砲ですよお、そおれ!」
 傘をくるりと回せば飾りが赤く舞う。激しい雨の中とは思えぬ軽やかさで、異質なほど柔らかに。
 きゃらきゃら笑った三千六がついとブラックを指差せば、瞬く間に集った雨雫が間髪入れずに打ち出される。
『――貴様』
 だが、相手とて手練れ。迫った特大水鉄砲を無傷とまではいかないが、聖剣で容易く切り裂いて見せた。
「あはははは!さあさ、お呪いをかけてあげましょう!」
 三千六の指先が悪戯にブラックへ局地的豪雨を降らせたり、雨に混ぜて斬撃破を打ち出したり。意図的にずらされた泥濘に足とられたブラックが屈辱的に膝をついたのは、くるりと傘回した三千六がくすくすと笑いを押し殺して立っていた。
『おのれ……!』
「ねえ、仲良くしましょう、ね?」
 ねえきれいな聖剣さま?
 つう、と白く細い指がブラックの剣をなぞった瞬間、鮮烈な光が悪霊の本質を持つ三千六の指を弾いたのだ。
 火傷した様に爛れた指先をぺろりと舐めた三千六の目は底冷えの色。
『我が聖剣を侮るな』
「ええ、そのようで」
 ブラックの振るった聖剣が三千六を斬った。が、三千六は避けないまま、ニィっと顔だけ笑った。
「仲良くできないこは、いりませんので」
 ばいばい。
 別れと共に雨に混ぜられた呪詛が、聖剣も使い手も呑み込んだ。

 雨が降っている。
 透明な雨が、真っ赤な喪逢傘を伝い落ちてゆく。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
細める双眸
落とす吐息
揮われる剣技に敬意を覚えたからでは無いの

胸の裡が褪せていく
酔いから醒める如くに色を失って
眼差しも冷えていく

ひらり
舞う足取りで躱す様は
あなたには腹立たしいでしょうか

聖剣とは
生者を護る心映えに耀くものであったろうに
罪なきいのちを弄んだ冒涜は
騎士の誇りを消滅させるばかり

――げに、あさましき

凛と研ぎ澄ました第六感
死角を補い
微かな機も逃しはしない

踏み込んで抜刀、一閃
更に
袈裟懸けに斬りあげる返し刃

具えし太刀は術師風情の鈍らか、と
嗤って居らしたかもしれぬ白刃で
永久に春へまみえぬ凍気をくれてやろう
此の冴こそが私の真なる得物

終焉、
はらはら零れる雪花の幻が
散らされた数多の魂への
弔いとなれば良い



●雨けぶる宵国に

 心が、冷えてゆく。
 軽んじられる命に、二度と動けぬ嘆きに、耐えた末の苦しみに。
 都槻・綾(絲遊・f01786)のこころが凍ってゆく。
 酷いことをと嘆き叫ぶ幼さは綾の裡には無く、ただただ降る雨がこの世界の色を流しいくような感覚が綾を包む。

 互いがぶつかり合うことに、何の挨拶も必要はなかった。
 雨の中にも拘らず、濡れそぼっているはずの綾の衣は不思議なほど軽やかに雨に踊る。
 ひらり、ふうわり、剣舞の如く身を翻して躱す綾の足取りの美しいこと。
『ちょこまかと……!』
「もし」
 雨の中、静かに静かに綾は問う。
「もし、その聖剣――……なぜ、貴方のお手に在るのです」
 綾の問いにブラックは黙した。
「もし、なぜ騎士の誇りを捨ててしまわれるのです」
 ただ止まぬ雨の中、じっと自身を見つめ返す赤い瞳を綾は見ていた。
 幾拍かの間を置いて、黙したまま瞳の奥に戦いの炎潜めていたブラックが静かに口を開く。
『何故問う』
「罪なき命を弄ぶ冒涜を目にしましたゆえです」
 そう綾が眉間に皺寄せ答えた瞬間、クッと喉慣らし笑ったブラックが天を仰いだ。その変化に一層眉寄せた綾を見て、釣り上げた唇でブラックは紡ぐ。
「我ら吸血鬼を“人程度の生業”に当て嵌め問うか!」
 叫ぶように言うと同時、眦釣り上げたブラックは綾から目を逸らさぬまま聖剣を構えた。雨が、一瞬だけゆっくり落ちるように見えるほどの殺意が綾を刺した、瞬間――。
『避けられるか?』
「……、あっ!」
 襲い来る神速の一刀は、視認するのが精一杯だった。
 ずぶりと脇腹を貫いた聖剣が抜けた直後、返す刃を何とかサムライブレイド 冴で受けられたのは綾の優れた第六感あってのもの。
「ハ、ぐっ……」
『耐えるか』
 嘲笑含むブラックの言葉に綾は歯を食いしばった。
 痛みに軋む身を支え、冴の構えは正眼に脇を締めて、真っ直ぐに立つ。そうして、受けた傷も言葉も返すように、遠くを見るようにして笑ってやる。
「――げに、あさましきあなたに、碎け散りて華の如し冴えを……魅せましょう」
 すいと綾の足が滑った瞬間、ブラックの視界から綾は消えた。
 UC―冰月イテハリ―。 季節外れの雪華纏った綾が暗き宵の国で舞い踊る。
 見切ったと言い張り逃げるのならば、冴え放つ三日月の一閃で追いたてよう。構えるならば、一閃見舞ってから斬りこむように。
『ぐ、貴様っ』
「永久に春へまみえぬ凍気をくれてやろう……此の冴こそが、私の真なる得物」
 切り結ぶ回数が増えるほど、ブラックは永久の冬に包まれる。
 一切の温もり許されぬ頂きへ着きかけた身を押したのは、晴れた峰の如し綾の玉鋼の一刀。
「おわりを」
 すぱりと、命脈を絶った。
 鮮やかでいて簡単な風に、待った血飛沫を赤の一片へ変えて。

 雨は止まない。
 この泥濘の下、幾多数多の嘆きがあることだろう。どうかどうか、散った赤きあれらが弔いとなりますよう――……綾は静かに、祈りを捧ぐ。
 
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

穂結・神楽耶
◎クロト様/f00472と

…何も。
言うことなどありはしません。
無辜の人々を巻き込んだ其の欲望が剣であるなら。
此で以て応じるだけです。

相手への応対は全てクロト様にお任せ。
気は進まないですが、あの殺意の煽り方は真似できませんから。
わたくしはこじ開けられる隙を狙うだけ。

一瞬でも足が止まれば追い越せる。
光の軌跡と薔薇の幻花がこちらの動きは隠してくれる。
だからケリを付けるのは一瞬です。

神器の爆風を背に加速。
凍り付いた地面を踏み締めて。
一刀の下、雨ごと切り払って差し上げます。

あなたの欲しい燃えるような闘いなんてあげません。
そうやって踏み躙った人々のように。
顧みられることなく骸の海に沈みなさい──!


クロト・ラトキエ
◎神楽耶嬢(f15297)と

なーにが『来い』ですか。
お山の大将が鼻高々、一丁前の剣士面…
新手の冗句です?
あ、ド三流の精一杯でした?これは失礼。

連戦中、此方の手も見ていた?
否、視せてはいませんとも。
笑顔を、余裕を、嘲りと挑発を、
受けて掛かっておいでませ。
侮ろうと憤ろうと、変わらずとも、
疾うに暗器使いの罠の上。

神速と謳うなら…
踏込みは予兆。見えずとも、加速の為自ずと機動は絞られ、軌道は単調となる。
加え。音、泥濘み、煩い殺意…
見切り対応し、嵌めるには丁度良い。

知ってます?
水って凍るんですよ。

己は元より足止め。
細剣よりUC放ち、最大火力は穂結さんに繋ぎ。

アンタが踏み躙った花の意は――威厳。
因果ですねぇ



●破滅の焔神と生かし屋の人の子

 相反する立ち位置なのに、二人は丁度良い均衡を保って引っ張り合いながら、落ちるか落ちないか瀬戸際の淵でタップダンスを踊る。
 穂結・神楽耶(あやつなぎ・f15297)とクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、ひどく不思議な関係であった。

 魂の根本を剣とする神楽耶は、“斬りたい気持ち”というものに人より理解がある方だ。だが、これは……この積み上げられた無辜の死を受け入れることだけは、とうてい出来るはずも無かった。
 この村に入った瞬間から、此処にあったのは無辜の死だけだ。
 意味のあるものなど、然るべき死など、ラヴェントとオラトリオの亡霊、そして――これから叩き切る、ブラックただ一人。
 握った得物の柄が軋む。
 同じくクロトもまた不愉快さを隠さず聖剣使いの吸血鬼・ブラックと対峙していた。
 先の二戦と打って変わって、此度前に出たのはクロトが来るかと身構えるブラックを一瞥後、わざとらしく肩を竦めて首を振る。
「なーにが『来い』ですか。お山の大将が鼻高々、一丁前の剣士面……新手の冗句です?」
 ハハハ、と発した乾いた笑いは雨に呑まれたが些末なこと。
 クロトの言葉にひくりとブラックが反応したのは瞬き程度だが、神楽耶達はそれを見逃さない。
 この“煽り”はクロトに任せ、神楽耶は静かに辺りを見ていた。雨の降る中、一体何が最善手の切欠になるのか、ぐうるり考えて――考えることをやめた。
 何故なら障害物など唯一ある無辜の亡骸の山だけなのだから、弔うことは出来たと手利用するなどもっての外なのだから。
 一方、一向に反応薄いブラックをクロトは訝しんでいた。
 もしやこちらの手を見ていたのか――と逡巡したが、視認するには距離が遠すぎる。いくらオブリビオンとはいえ、視力の異常発達など聞いたことがない。
 ふと、何んとなしにクロトは呟く。
「神速なんて、本当なんですかねえ?」
 瞬間、ぐるりとブラックの首が巡りクロトを見た。
 紅の瞳でじいっと、見ている――そう気が付けた瞬間、クロトの眼前にブラックの顔が至近距離にあった。
『我が業を愚弄するか』
「は、うっ……ぐっ、っ、ふ」
 気付けば構えから放たれた神速の突きが、クロトの腹を突き抜けている。
 一瞬呆気に取られたものの、呻いたクロトの声に現実へ引き戻され、背筋泡立つほど焦り驚いた神楽耶が咄嗟に結ノ太刀を振り抜けば、赤引く聖剣を手にブラックが距離を取った。
 まるでそれが回線の合図かのように激しいぶつかり合いが加速する。

 ガァン!とぶつかり合う鋼の火花は雨でもお構いなしであった。
 神楽耶が打ち合う中、腹の傷を抑えながら全てを見ていたクロトは確信する。
 腹の一撃を受けた時からそうだったが、神楽耶が受けた三撃目の神速で一つの確信を得られたのだ。
「はは、なるほど……っ、ぅ」
 あの神速の種も仕掛けも分かれば、あと必要なのは咄嗟に対応できる反射神経と仕掛ける大胆さがあれば良い。
 大胆さはクロトが。反射神経の良さと思い切りと持ち合わせているのは神楽耶。双方揃う今が一番の仕掛け時だ。
 今この一時だけ、腹の激痛を忘れよう。短く呼吸し静かに構えたのは妖刀 穿鬼。
「手早く、いこう?」
 そう呟き真っ直ぐブラックへ意識向けた瞬間、明確に相手が反応したことが分かる。来る――そうクロトが確信した瞬間、どうと迫る圧力。
 やはり、向かってくるブラックは深めの泥濘を飛ぶように避けながら向かってきている。そして深い泥濘の上に飛び込まねばならないと分かった瞬間――。
「上から飛び込むんですよねえ、あなた」
『っ、貴様』
 UC―薔薇の剣戟 バラノケンゲキ―が舞う。瞬きの間で飛び込んで放つ、光の一閃に芳醇な薔薇の馨。
 胸焼けしそうなほど甘いソレをブラックが払おうとした時、男はふと、先程まで向き合っていた女を頭の片隅に置いてしまった。
「まあまあ寂しいこと。目を離すなとあれほど申していましたのに……」
 ひどいひと、と笑った神楽耶の声にブラックは焦る。
 幾度も切り結びながら、確実に斬ったはずの女が立ち上がっているではないか。
 置いてきたはずの神楽耶は神器の爆風で飛ぶようにして来たのだが、クロトに意識取られていたブラックは、その一瞬を見逃していたのだろう。柔らかな笑みを携えた神楽耶がにこりと言う。
「ふふ、気遣い無用。──追い越します」
 あなた様の神速さえ。
 UC―影追白雨 カゲオイハクウ―。
 神楽耶の言葉は誠であった。爆風加速の余韻で神楽耶が着地した時既に、ブラックは斬られていた。
 聞くことができたのは、真の神速で居合抜かれた結ノ太刀が納刀される微かな音だけ。
 何か声を発すでもなく、ブラックがどさりと泥濘に沈む。

 雨が降っている。
 泥濘に沈んだ聖剣に、元の輝きなどありはしないまま雨に塗れていく。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
解釈お任せ
NG:味方を攻撃する

_

どんな相手であろうとも
同じ戦場に立ち、相対する相手へ敬意と礼儀だけは忘れず
真っ直ぐ彼を見据える

……ブラックにはブラックなりの正義があるのだろう
それを踏みにじるつもりもなければ軽視するつもりもない
だがその正義を行使させるわけにはいかない
護りたい人がいる、護らねばならない人がいる
故に俺は俺の『正義』を以て彼の前に立つ

神速の剣戟の後、喚ぶはひとひらの蝶。呼び覚ますは我が支配下の夜。
己の命など安いものだ。
当然味方に刃を向けることなく、命を削って、ひととき戦場を支配する

──彼の燃え盛る瞳、煮え滾る激情を唯静かに受け入れ
一つ鳴る鍔鳴り、
荒ぶ剣閃の嵐



●成すべき夜

 丸越・梓(月焔・f31127)という男はひどく実直で、純粋で、絵に描いたような真面目さのなかに溢れるほどの優しさを持った男だった。
 敵も味方も関係ない、きちんと理解しようと――どこか危うい必死ささえ感じさせる何かが、梓にはあったけれど。
 痛む全身にむち打ち、梓は礼儀正しく背筋伸ばして立っていた。
 降る雨は強く、その冷えが体力を奪うことを理解しながら、傘を差す手に愛刀を持ち、真っ直ぐに聖剣使いの吸血鬼・ブラックを見据え立っていた。
「……ブラックにはブラックなりの正義があるのだろう」
 穏やかな声でそう言った梓に、ブラックの眉がぴくりと反応する。
「それを踏みにじるつもりもなければ軽視するつもりもない。だが……その正義を行使させるわけには、いかない」
 ぎゅっと拳握り告げた言葉にブラックの瞳が細まった。
 梓の言葉を知っていたとでもいうような顔で見つめ続きを促せば、差した梓が静かに耳触りの良い声で刃構えながら告げる。
「俺には護りたい人がいる、護らねばならない人がいる。故に俺は……俺の『正義』を以て、立とう」
 真っ直ぐ。本当に真っ直ぐとブラック見つめる梓の瞳は黒くも夜より鮮やかにブラックの瞳に映る。
 くっと喉慣らし笑ったブラックが、解いていた構えを再びして。
『いいだろう――来い』

 雨の中、無骨ながら泥濘さえ利用した梓の舞うような剣技と神速謳うブラックの剣技が交差する。
 時に火花散らし、時に鍔迫り合うそれは一進一退……のように見えて、梓はじわりと追い詰められていた。
 何せ連戦なのだ。
 ラヴェント、オラトリオの亡霊たち、そしてブラック。ぐうっと、上から圧し掛かるように聖剣押し込まれたその時。
「っ、ぐ……げほ、ごほ、――あっ」
 負荷に耐え切れず梓が血反吐を吐き体制を崩したのを良いことに、思い切り押し込まれた聖剣が、ずぐり嫌な音を立てて梓の肩を斬る。
『もう終いだ』
「っ、まだ……!」
 ひらりと夜の欠片の如き蝶が羽搏いた。
 この地で飛ぶはずの無いソレにブラックが目を見開けば、梓は笑ったまま自身を軽やかに斬る。“己の味方は己である”そう定義すれば、この条件を達成するには十分。
 UC―侯爵 マルキオ―。
「青嵐の剣戟を、受けるがいい」
『―――っ!!』
 梓の織りなした九重の剣戟はまさに嵐と言って差し支えなかった。
 躊躇いの無い一閃を九重で一束に纏め上げた剣閃の花束は全て鮮やかに、しかして時に土砂降りの雨の如くブラックを切り捨てて。

 息もできぬ刃の雨に呑まれて、聖剣の主の燈火が斬り消された。
 止まない雨は未だ、降り続けている。

 ひらりと、一羽の蝶が雨厭わずに夜を泳いだ。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル


…言葉は不要ね。お前の望み、強者との闘争など叶えてやるつもりは無い
何も為せないまま終わらせてあげるわ、吸血鬼

"写し身の呪詛"を乱れ撃ち無数の残像を囮に攻撃を受け流しつつ、
光の精霊化した『オラトリオの亡霊』達を両掌に降霊して光の魔力を溜め、
両手を繋いで武器改造を施し巨大な光槍を形成

…さあ、約定の時よ。この世界の未来の為に、
そして散っていった貴女達の為に…共に戦いましょう

空中機動を行う"血の翼"を広げて上空に飛翔してUCを発動
吸血鬼が光の力を使う反動は闘争心を燃やす事で気合いで耐え、
限界突破し暴走寸前まで強化した光槍を怪力任せに投擲し、
光のオーラで防御ごと吸血鬼を浄化する"光の流星"を放つ



●一筋の救済

 闇だけが息衝くこの世界へ、一筋の光の救済をここに。

 雨降る世界で深呼吸したリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は正面を見据えた。聖剣を地面に突き立て、死体の山の狭間に立つ聖剣使いの吸血鬼・ブラックが黙してリーヴァルディを見つめている。
「……お前の望み、叶えてやるつもりなどない」
『そうか』
 互いの言葉は淡々としたものだったが、これ以上の会話など不要。
 雨音が強くなる中、聖剣と瞬く間に生み出された幻影がぶつかり合う。

「……出でよ写し身、連なり並びて狩り立てよ」
 短い言葉で起動する写し身の呪詛が雨の中僅かに光灯すと同時にリーヴァルディの言葉に合わせ、魔法陣を光の線が走りきる。
 生み出されたのはリーヴァルディを写した、戦闘力のあまり無い霞のようなもの。
 その陰に紛れ、ブラックからの距離稼いだリーヴァルディは重ねて降霊の詠唱をする。どのみち、あの写し身の群れなど騎士の前には僅かばかりの時間稼ぎにしかなりえないことなど重々承知しているのだ。
「……さあ、約定の時よ。この世界の未来の為に、そして散っていった貴女達の為に……共に戦いましょう」
『供を連れるか』
 光の精霊として昇華したオラトリオを降ろし手を取り合った時、真後ろから低い声がした。
 ハッとしたリーヴァルディが振り向こうとした時、弾けた光が聖剣をギリギリのところで弾き返す。
「あなた達……!」
『……あれほど、躾けたはずだが』
 咄嗟にリーヴァルディを守ったのは、手を繋ぐ光精オラトリオ達の輝きだ。
 リーヴァルディを斬り損ねたのが腹立たしいのか、ギロリと光精と化したオラトリオ達をブラックが深紅の瞳で睨みつける。
 小さく深呼吸し心を落ち着けたリーヴァルディがぎゅっと握った光精へ意思だけで指示を出すと同時に走りだした。
『逃がさん……!』
 いくつも放たれる光弾に足止めされたブラックと距離が出来たところで、トンと軽やかにリーヴァルディは雨空へ泳ぎ出す。
 限定解放・血の翼の空中機動力をフルに、ブラックを見下ろして。
『おのれ、逃げるか!』
「逃げてなんていない。私には私の戦い方がある……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!」
 どろりと、リーヴァルディの血ゆえに濃い吸血鬼の魔力を圧縮し軸として、光精オラトリオと共に織り上げる光の魔力で編み上げたのは極大の光の槍。
 リーヴァルディの頭は、限界超えて扱う光の魔力に沸騰しそうになるも、歯を食いしばり耐えた。先ほど救ってくれたこの光の精達に応えるため、元より呼応させるための約束の為、そして―――。
「私が、私達が、お前を倒す―――!!」
 綾織の光の魔力が成す極大の光の槍、そして余剰から生み出された輝きの流星がダークセイヴァーの夜を照らし、止まぬ雨を蒸発させる。
 眩く、いっそ神々しささえある幾筋もの光が、永久に暗き地に奇跡を降らせたのだ。

 降る槍と輝きは、抵抗するブラックも聖剣も、跡形も、その言葉すら影すら残さず焼き消した。

 ほたほたとまた、雨が降る。
 光の残照が淡くほのかに照らす地に、僅かばかりの救済の浄化が息をした。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーファス・グレンヴィル

さあ、これで終わりにしようか

肩に座る黒竜を一撫でして
ふ、と口角を吊り上げた
お前がブラックか、なんて
確認せずとも周囲の骸を見れば分かる
──胸糞悪い気分だ、と睨み付け

ナイトと相棒の名を呼ぶ
声に応じて槍の姿になった彼を
確りと握り込んで駆け抜ける

お前が待ち望んだんだろ?
この戦いを、この昂りを、

中距離から幾つも放つ突き
聖剣が鬱陶しくて仕方ないな

ざあ、ざあ、と雨が降る
空はいつまでも泣いている
ちらりと山積みの骸を見れば
沸々と込み上げる苛立ち
お前らの悔しさはオレが持っていく
この戦いが終われば火葬してやるから

槍を穿ち先端で抉る
容赦も遠慮も、しない

今日、この日がてめえの最期だよ
オレが引導をくれてやるから覚悟しろ



●雨中に龍の咆哮を聞け

 積み上げられた無辜の死の、なんと痛ましいことか。
 煮え滾り腹の裡で蠢く怒りを、なんとしたものか。

「――よお、てめぇも夜遊びか?」
 来いと言ったその騎士へ、燃え上がる怒りに無理やり蓋をしたルーファス・グレンヴィル(常夜・f06629)がニイッと笑いかける。
 すれば、傲岸不遜な態度でルーファスを見た聖剣使いの吸血鬼・ブラックがくれやったのは一瞥だけ。得物持たぬ者は興味などないと言わんばかりの態度に、ルーファスの口角が引きつった。
 改めてブラックを見た時、雨の中平然と屍の山を積み、その狭間に立っている姿は異様そのもの。そんな男に何か言ったからとて、何か得られる可能性など0に等しいのであろう。
 もし得られるものがあるとすれば―――。
「――胸糞が悪ぃから、やっぱ終いにしようか」
『ああ、来い』
 この激しくなるであろう戦闘の経験だけだろう。

 雨がどうと降る中、ルーファスは相棒の名を音にしなかった。
 声にせずとも、鮮紅の瞳にある意思をドラゴンランス ナイトが読み取り、肩から飛び立つと駆けるルーファスの速度に合わせ、最も手に取りやすい瞬間にその身を槍へと変える。
 自然に手中へ収まった手馴染みの良い槍を握り駆けた先、黒炎灯すドラゴンランスとブラックの聖剣が真正面から激しくぶつかり合った。
「てめぇが待ち望んだんだ。てめぇか俺か、どっちかが死ぬまで踊ろうぜ」
『遅れればその足を斬ろう』
「――上等!」
 言葉と共にルーファスは槍を突き出せば、流れるように往なした聖剣を槍刃の上滑らせ、踏み込むように袈裟の一閃がルーファスの服を裂く。
「っ、この」
『次は逃さん』
 ブラックにとって手慣れた聖剣の扱いは、もはや腕の延長に等しい。繰り出される突きと斬りの練度は並の者では比ぶべくもなく、退けば追われ突っ込みすぎれば回り込まれるのだ。
 加えて厄介なのは、学習されること。
 ルーファスの出方を学び糧として次は必ず切ると言わんばかりの斬撃ばかりが飛んでくる。時に苦汁を飲まされようと、ルーファスは決して退かなかった。
「っ、らぁ!」
『ぐっ』
 寧ろ打ち込みブラックの間合いに引きずり込まれれば、泥濘に槍を突き立て受け流した直後、ナイトには悪いが間髪入れず思い切り槍を蹴り上げ距離を取らせながら、蹴り出した勢い殺さぬまま重量級の一撃を突きこんでいく。
 ルーファスの流れるような攻撃はまさに戦場を経験した猟兵のもの。
 ――ブラックが求める“生きた戦い方”に他ならない。
『避けられるか』
「いいや、終わらせようか」
 ブラックの神速の連撃とUC―終焉 ブラッド・エンド―がぶつかる。
 ルーファスは神速の一閃避けなかった。逆に槍の身ゆえに避けていたはずの懐へ踏み込み灯したのは、槍の生命―ナイト―の燈火。二股に分かれた槍の切っ先が口の如く開く姿は、さながら龍の顎。
「今日がてめぇの命日だ」
 忘れんなよ。
 雨焼く音さえも揮発させる高温の黒焔が、全てを焼き消した。
 聖剣の残り香さえ消えたそこに、ふたたび雨が降る。しとしと、しとしと、静かな雨が降っている。

 ささやかな弔いは、湿気た一本が吸い終わるまで。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬

大門で待つ姿に興味が湧く
その出で立ち、まるで門番――いや、一緒にされたくないな

先刻の余韻が残る俺はどんな顔をしているんだろうか
槍で奴の攻撃を[武器で受け]ながら考えてしまいそうだ
俺の方がリーチはある分懐に潜り込まれると不利
[戦闘知識]を用い間合い等有利な状況を維持したい

[継戦能力]で分析するのは奴の行動の癖
俺の挙動に応える動き
目線、狙う場所
俺が放つ大威力の攻撃の回避と反撃を誘発したいんだ

その反撃は致命傷を避け敢えて喰らう
[怪力]で掴み至近距離で[頭突き]を放つよ
武器で正々堂々などと――卑劣な者同士何を今更、だよな
UCを発動し閻魔王の処へ送ってやろう

できるならば村人の亡骸は埋葬し弔ってやりたい



●冥府へ沈め

 鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)の槍に宿る冥府の焔が、翼を喰らった勢いそのままに青黒く燃えている。
 ジュゥッ、ジュッと雨を焼きながら、先より一層輝いて。
 門前に骸の山が二つ、その狭間に聖剣使いの吸血鬼・ブラックが聖剣を地に突き立て猟兵を待っていた。
「門番か」
 ぽつりと呟いた相馬の言葉は、降る雨に紛れて消える。
 いつの間にか、相馬の表情はいつも通りであった。ただ、裡に抱く冥府の焔だけが疼くように蠢き続けていた。

『――来い』
 低い声が相馬の耳を打つ。
 次に響いたのは、勢い良く突き出された冥府の槍の切っ先を聖剣の剣身が受け止める音だけ。
 余韻がわん、と響き空気を震わせたのも一瞬のこと。
「貴様は裁かれるべき罪人だ」
『我が聖剣の威光、見えぬか鬼風情が』
 相馬の金色がブラック睨み上げれば、睨まれたブラックはハンと鼻で笑い返す。
 会話らしい会話無く、ブラックの放つ神速の刃を相馬は受け弾き流せば、ブラックが踏み込んだ。槍の切っ先を剣身で打ち、ズレた槍の上を剣身で滑りながらブラックの最も得意な間合いを無理やり作り出す。
 が、相馬とて歴戦の猟兵。ただで踏み込ませるはずも無く、向かってくるブラックの勢いに口角を上げた。
 だんっと踏み込むや勢いよく地に冥府の槍突き立て、それを軸にブラックの腹を蹴り飛ばしのだ。
「遅い」
『ぬかせ』
 脇腹抑えたブラックが競り上がった血反吐を吐き捨てる。
 いつのまにか切れていた頬拭った相馬は口角を上げたまま、再び鋼がぶつかり合った。
 燃える冥府は待っている。
 命が落ちてくるのを待っている。 また、青黒い焔が雨を焼いた。

 打ち合い続けて数刻、相馬もブラックも息が上がり冷え切った空気の中吐く息が白く棚引いた。
「ハ、は、は―― ふー……」
『っ、げほっごほ、 ハ、ハ、っぐぅ』
 深呼吸して息とテンポを保ち続ける相馬の継続戦闘力は並ではなく、未だ力衰えない槍捌きにブラックは圧倒されていた。対して未だ速度落とさずいくら受け流そうと神速の斬りこみを仕掛けてくるブラックに相馬は舌を巻いていた。
 全て内心の話であるが、互いの力を互いに理解しつつある。
 その全ては終焉へと走りだしていた。
 紺青に輝いた炎が相馬の得物から立ち昇る。
「――やはりお前はよく燃えそうだ」
『随分と喋る。その喉を掻っ切るが……避けられるか?』
 ブラックの聖剣が淡く金色の輝きを燈す。


 雨が降っている。
 相馬が槍払えば、未だ埋め火燃える“ブラックだったもの”が泥濘を滑る傍ら、音を立てず相馬の脇腹から滲み滴る赤が芯まで冷えそうな雨の中、相馬の“生”を痛みと共に強くを訴えていた。

 雨が降っている。
 全て流すような涙のような雨が降っている。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

菊・菊
◎【蝶よ花よ】

大喰らいのクソ女のお陰で目の前が暗い
前に出れば、足手纏いだな

クソ悔しい
偉そうな鼻っ面をぶん殴ってやりてえのに

いつだって綺麗なままで笑っていれば良いと思うのに
白い蝶がちらつく度に
かわいいだけのガキじゃないってことを
まざまざと思い知らせてきやがる

『楽園』

流石に息は吸ってんだろ?
血の代わりだ
たっぷり吸ってけ
はは、どれが本物の蝶か
お前にはもうわけわかんねえか

好き勝手散らかすガキの姿を菊紋様はけたけた笑う

たまには気が合うな、寒菊
俺の蝶はさ、綺麗なのよ

抱き上げて頭を撫でてやる
「良い夢見てろよ、」

子どもには優しい夢を

てめえには特別だ
生温い夢をやるよ

ほら、鉄の香もしない
あたたかな

な、最悪だろ?


花厳・椿
◎【蝶よ花よ】
痛いわ、酷いわ
切られた所から溢れるのは血の代わりに真っ白な蝶の残骸
だって椿は人では無いもの

椿は赤が一番好きなのに

だから
あなたの血を見せて
赤い椿の花よりも赤い血を
人の血を沢山流した貴方の血はきっととても赤いのでしょう

「花から花へ」
【傷口をえぐる】【吸血】を使い襲いかかる

羨ましいわ
血を流す貴方が
痛みを感じる貴方が
同じ人では無いのに

椿はどれだけ喰らおうとも冷たいまま
血を流さない
人になれない

妬ましい
悲しい

ああ、とても眠たい



一言、そう告げて菊お兄ちゃんへ両手を差し出す
言わなくてもわかるでしょう?

頭を撫でる温かな手
心地良さに目を閉じる
だから人になりたいの
椿もこの温かさを教えてあげたいから



●泥濘に咲く菊華と雨蝶の羽搏き

 ふらつく足に菊・菊(Code:pot mum・f29554)は苛立ちながら歯を噛んだ。
 悔しい。悔しい悔しい口惜しい。
 未だくふくふ楽し気な女の笑い声が頭を離れず、吸われた血の多さに吐き気がする。
「クソ女……」
 ぼそりと零した言葉は雨に呑まれたが、微かな妖刀 寒菊の鍔鳴りがした気がした。
 ふと菊が横を見れば、先程貸してやったパーカーを被りながら、めそめそする花厳・椿(夢見鳥・f29557)が眉を下げ拳に握ったてのひらを振って怒っていた。
「痛いわ、酷いわ、信じられない」
「……、」
 傷口から小さな白い蝶零しながら頬膨らまして怒る椿の頭を、菊はフード越しに撫でる。
 菊が内心常日頃から綺麗だと思っている椿が珍しく頬膨らませば、見目の歳相応に可愛いのだ。でも、あえて言わない。
「なぁに、菊お兄ちゃん」
「別に」
 雨の中交わした会話が、冷えた二人の胸にほんのりと温かさを燈す。

『――来い』
 そう淡々と口にした男を二人は見た。
 雨に艶めく頑丈そうな甲冑に淡く輝く黄金の聖剣が煌めいている。大柄な男、聖剣使いの吸血鬼・ブラックが積み上げた屍の山二つの狭間、地面に聖剣を突き立て立っている。
 二つの屍の山を見た時、菊の頭を過ったのは先程の白い顔。骸の、白い――考えが奪われそうになった時、腕に絡む白。
「菊お兄ちゃんは、椿のなの。だからそっちには行かないわ」
 ねぇそうでしょう? と笑った椿の瞳は笑っていなかった。すればゆっくりと聖剣抜いたブラックが――既に二人の前に居た。
『ならば諸共死ぬがいい』
「っ、椿!」
 咄嗟に菊が椿を突き飛ばし、事無きを得たがそれも一回程度のこと。振り下ろされた刃が、今度は菊目掛け返すように切り上げられる。
「菊お兄ちゃん……!」
「くっそ、が!」
 転がり避けて尚、ブラックは執拗に菊を追う。
『逃げるか小僧』
「っ、のやろっ……!」
 寒菊を抜こうにも貧血と連戦の疲労が菊の視界をブレさせる。いつのまに斬られていた肩の痛みになんとか耐え、活路開こうと鞘に入れたままの寒菊を構えた―――その時。
 暗き世界ではいっそ輝いて見えるほど真白い蝶が幾匹――否、ブラックの視界埋めるほどの数が襲い掛かる。
「やめられないならやめさせてあげる。椿が……全て、すべてすべて夢に、儚い夢にしてあげる……!」
『……!』
 UC―花から花へ ハナカラハナヘ―。
 重なりすぎた羽音は雨すら巻き込みいずれ耳元で嵐の体を成すだろう。蝶たちにとって、小傷一つあればそこからブラックの血を吸い、その吸った口にまた蝶が殺到し悪戯に傷を突いて抉り出す。
 ブラックは払えば済むと思っていた。だが払っても。払っても払っても払っても終わらない。蝶が、蝶が蝶がちょうにくわれてしまう。
『~~っ、く!』
 斬り払おうとすれば、切れたのはブラックの腕だった。傷口に蝶が殺到すればもう蝶たちは虫らしさ等かなぐり捨てて血を飲み干してゆくではないか。
 脈打つものを得ながら、椿は思う。
「……うらやましい」
 ああなんて妬ましいものか。
 菊に会い、様々なことを経て椿は思ったのだ。人成らざる己が身が恨めしいと。人ならば、人ならばと祈れど器物は器物、物の怪は物の怪のまま。
 星に祈れど月に願えど、何一つ変わりやしない。
「……、きくおにいちゃん」
「椿」
 菊がおいでと言わずとも、椿は眠そうな眼で菊の手を取り握りしめた。離さないよう、ぎゅっと。
『ま、へぇ……き、ざまらぁっ!』
 口腔まで蝶が入り込んだのかブラックの滑舌はめちゃくちゃだが、赤い目だけはギラギラと戦意に溢れていた。
 未だ戦意削げぬブラックへ妖刀 寒菊がかちゃりと囁いたのは一回だけ、目には見えぬ狂気と猛毒撒き散らす“それ”を、ブラックは気付かず吸っていた、
『あ、』
『っ、ぐ、! ごほっげほっぐ、ぅ』
 吐いたのは嚙み潰した蝶の亡骸と、血。
 鮮烈な赤を吐いたブラックの足がおぼつかなくなる。がちゃん、と取り落とした聖剣は泥に塗れ、ふら、ふら、と前も見ずに無為に歩む足取りは赤子のよう。
 UC―楽園 バッド・トリップ―。
「良い夢見ていろよ、」
 その内死ねるさ。
 そう笑った菊の声は、永久に届かぬことだろう。
 何故なら屍の山に寄り掛かったまま、ブラックは天を仰ぎこと切れているのだから。

 雨が降っている。
 吐息薄く眠る椿を背負い、菊は歩く。痛む体を引きずって、帰り道へ。

 雨は降り続いている。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四・さゆり


待ち草臥れちゃったの?
良かったわ、まだ死んでなくて
餞の代わりに約束したのよ
わたしが殺すわ

だから、手伝いなさいね
何も言えないわたしの首無にそう命じる
赤い傘が指し示すのは、勿論、不愉快な吸血鬼

首無とダンスでも踊ってなさい
女の子の扱いもわからないお前の部下でも踊れたわよ

痛覚がないんだもの、お前の刃なんて響かないわ
大丈夫、壊れたってわたしがいくらでも直してあげるから

口が利けないだけよ、気も利かないけれど

この子、有能なの
お前とは違うのよ

ほら、殺しちゃだめよ
わたしが殺すの、譲りなさい首無

噛みしめなさい
お前の傲慢を
餞よ、わたしが殺したあの子たちと
お前が殺した全ての

安心なさい、わたし、傷を抉るのは得意なの



●赤い傘を差す

 門前で屍の山を二つ作り上げて待ち構えていた聖剣使いの吸血鬼・ブラックを見つめた四・さゆり(夜探し・f00775)の左目が弧を描いた。
 ダークセイヴァー特有の薄暗さの中、更に雨の御簾さえ下がる視界でもさゆりの黄色と赤は目立つ。
 赤目を細めて自身を見つめるブラックの姿に、傘を差したままゆっくりと距離を詰めながらさゆりは声をかけた。
「待ち草臥れちゃったの?良かったわ、まだ死んでなくて」
『今から死ぬのは貴様だが』
 眉寄せ睨みつけるブラックに、あらやだ怖い顔、と呟きながらさゆりは広げていた傘を閉じ、綺麗に巻き上げ止めなおしてから小首傾げて言いのける。
「それじゃあ駄目よ。餞の代わりに約束してしまったのだから……だからね、わたしが殺すわ」
『やれるものならば』
 突き立てていた剣を抜き、聖剣を振り上げるブラックを見てさゆりは言う。
「やっぱりそうよね、知ってたわ。だから、私も手伝いを呼んだの」
『……!』
 振り下ろした刃が何かに阻まれ弾かれる。
 反射的に飛び退いたブラックが見たのは、首の無い学生服のようなものを纏った少年風の人形。
「首無とダンスでも踊ってなさい。女の子の扱いもわからないお前の部下でも踊れたわよ」
 くつくつ笑ったさゆりに歯を噛みながら、ブラックは首無を見つめ距離を取る。いかんせん首無のギミックが分からないのだから、下手に手を出せない。
 だが首無はそんなものお構いなくブラックを追った。容赦のない拳は聖剣で何とか捌き、隙を見て距離を取れば飛び込むような蹴りが飛ぶ始末。
 厄介だからこそ、ブラックは無理やり首無を抜け術者のさゆりを狙うが……!
「ほんと、なっていないのね」
『っ、な……ぐぅ、がっ!』
 聖剣の切っ先は、さゆりに届く前に弾き飛ばされる。
 赤い傘で捌かれたことにギリリと奥歯噛んだブラックが、再び距離を作ろうと後方へ飛び退こうとした時、後ろから首無に羽交い絞めにされ慌てていた。
『は、な、っせえ!』
「その子、口も利かず気遣いも利かないほうだけど……この子、有能なの」
 にこりと笑ったさゆりがそういった瞬間、ぞふりとブラックの桃を赤い傘が射抜いていた。
 わたしの傘もね。
 そう楽し気に言った少女を見上げる聖剣騎士の瞳に、僅かな怯えが見えた。

 悲鳴など聞き飽きるほど聞いた。
 突き刺して抉って捻じ込んで抜いてまた突き刺して。幾度も幾度も、偶に順番を変えて傷を捻子くる。
 枯れ切って、ひゅうーと謳ったブラックの喉。
 茫洋と虚空――否、さゆり見上げたブラックの目は、濁り淀んでいたけれど。
「噛みしめなさい、お前の傲慢を」
『ぐ、ぅあっ……アアァァアッ!』
 傘を捻じ込み傷を搔きまわす。
 目の前の騎士が呻こうが喚こうが、さゆりの知ったところではない。この目の前で苦しむこいつは、殺したのだから。
 泣く人も喚く人も懇願する人も慈悲求めるそれも、何もかも無視して知らぬ存ぜぬと堂々と言い、踏みつけ足蹴にし蹂躙してきたのだ。
「フフッ……あなたは餞よ、わたしが殺したあの子たちと――お前が殺した全ての、敵」
『う、あっっ……、ぐ、ぬう、がっ』
 さゆりは呻きのたうつブラックを無視した。
 あまりに煩いから、少し指差し首無に締め上げさせて、わらう。
「安心なさい、わたし、傷を抉るのは得意なの」

 雨は終わらない。
 降って降って降り続けて、その果てに――こと切れ転がる聖剣騎士吸血鬼だったものが、泥に塗れて伏していた。

 雨が一段と強くなる。
 どうどうと音を立てて振り出す中、さゆりは差しなれた赤い……今日は一段と赤かった傘を差していた。
 傘布に打ち付ける雨の音は痛いほど。


 雨が尚降り注ぐ中、さゆりは静かに踵を返し泥濘の中をゆく。
 首無き相棒と共に雨の中を行く。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月08日
宿敵 『聖剣使いの吸血鬼・ブラック』 を撃破!


挿絵イラスト