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蛙の歌

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ

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#籠絡ラムプ


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●蛙の歌
 どれだけ帝都が華やかでも、うらぶれた路地裏の猥雑に並ぶ店の彩はくすんでいる。それでも、こんな場所にも幻朧桜は咲いていて。
 ぼこぼことイボの出来たぬめる膚はドブ色で、ひどいだみ声で人語めいたなにかを話す異形の姿を、興味本位だけで覗きに来た人々の目が怖い。
 侮蔑と嘲笑と共に札束をばら撒いていく姿を、憎らしいと思う。それなりに金を貰えるという一点だけで、煮詰めた憎悪は心の中に閉じ込めていた。
 そんな風に日々を重ねる僕だって、恋をしていた。これを、恋と呼んでいいかもわからないけれど。

「はい、ご注文繰り返させて頂きます。珈琲とホットサンドですね」
 いつもありがとうございます、と微笑む彼女と目を合わせられない。毎回同じ席に座る不気味な客を、朗らかな笑みは良いとも悪いとも思ってはいないようで、それが心地よかった。
 絵本に出てくるような王子様が、いつか彼女を攫っていくのだろう。なんて、ぼんやり思っていた。

 偶然手にしたラムプの灯りは、僕をなんでもない誰かにしてくれた。それだけでなく、美しささえ寄こしてくれて。
 侮蔑と嘲笑は、羨望と期待に変わった。陶器のようにしろい膚と、美しい歌声に人々は夢中になった。
 ――これなら。僕だって、彼女の王子様を名乗っていいはずだ。

 それからほとんど毎夜、彼女を桜降る宵の帝都へ連れ出した。彼女はいつも困ったような顔をするけれど、なんでもない王子様の僕を拒まない。
 大丈夫、これなら僕は、君の王子様になれるんだ。僕だって、君を。
 何故だか、ひきつるように胸が痛いことに気付かないふりをして。

 ――誰も居ない部屋で、蛙が鳴いている。

●哀の声
「サクラミラージュの事件だよ、手が空いてる人は居るかな」
 揺歌語・なびき(春怨・f02050)の声かけに集まった猟兵達に、男はありがとう、と礼を告げると、すぐに説明へと入る。

「まず、『篭絡ラムプ』って知ってるかな。オイルランプなんだけど、それを使うと危険な影朧をユーベルコードみたいに扱えちゃうんだよね。で、いわゆるユーベルコヲド使いでもない普通の民間人が、そのラムプを使って人気者になってるんだ」
 影朧を扱う、という言葉を耳にしただけで、猟兵達の間にわずかな緊張が走る。うん、と人狼は頷く。
「篭絡ラムプは幻朧戦線がばら撒いた『影朧兵器』だ。そう遠くないうちに、影朧は暴走する。皆は影朧を倒して、このラムプを民間人から取り上げてほしい」

 その民間人の特徴は、と猟兵の一人が問う。ちょっと待って、と、なびきが懐から雑誌を取り出すと、そこには黒髪の美しい青年の写真が載っていた。
「彼の名前は六連星・ヒカル(むつらぼし・ひかる)、本名は違うみたい。それに元々こういう顔じゃなくて、影朧の力で姿を変えてるんだよね。元は、ヒキガエルに変化する怪奇人間だ」
 六連星・ヒカルになる前は、見世物小屋でヒキガエルに変化するショーによって、そこそこの額を稼いでいたらしい。
「お察しの通り、人権は皆無だよ。おれもこういうのは反吐が出るんだけど、それはひとまず置いといて。美貌と美声を手に入れた彼はスタァの階段を駆け上って、いまや有名劇場のショーの主役を張ったりしてる。けど内心、身の丈に合わない立場で苦しんでもいる」
 ラムプを取り上げることは、彼を助けることにもなるんだ、と人狼の下がり眉が八の字に近くなって。

「彼は今晩、カフェーのメイドをデートに誘って帝都の街で過ごす。ヒカルになる前からカフェーの常連客みたいだから、うん、そういうことだと思う。高級ホテルのレストランでディナーを予約してるから、そこで皆はヒカルからラムプを取り上げてほしい」
 メイドの名前は夢子(ゆめこ)、明るく人気のある娘だという。二人がレストランへと到着するまでには時間があるため、それまでは猟兵達も思い思いに過ごしてくれて構わない、となびきは笑う。
「なにか買い物をしてもいいし、食べ歩きもいいんじゃないかな。勿論、ヒカルの足取りや評判を調査したり、猟兵ってバレないなら彼らに接触しても大丈夫。レストランではきっと戦闘になるけど、ヒカルの心を動かせるかもしれないしね」
 それに、と男は続ける。
「最後になるけど、これは大事なことだ。ラムプを取り上げたあと、レストランは大騒ぎになると思う。ヒカルの処遇をどうするかはきみ達次第だけど、相応しい罰を与えたり、立ち直らせる為の説得をしてほしい。……おれは、彼の気持ちをどうこう言えない気がするし」
 桜の瞳はゆるく伏せながらも、事件の解決について、グリモア猟兵はそこまでを望んでいる。
 人狼を血桜が咲かせる先、淡い薄紅の逢魔が時が見えた。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 オブリビオンを撃破する。

●1章『逢魔が時に街を歩く』
 おひとり、カップル、家族、友人同士と、ご自由にお過ごしください。
 お買い物や食べ歩きなど、帝都の街中でのデートや散歩のようなことは大抵行えます。
 イベント感覚のお楽しみ寄りですが、情報収集やNPCとの接触もある程度可能です。
 この章のみのご参加も歓迎しております。

 ※プレイング受付は7月7日(水)朝8時31分以降から。

 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『逢魔が時に街を歩く』

POW   :    片っ端から食べ歩き!

SPD   :    ウインドウショッピングと洒落こもう

WIZ   :    物思いにふけりながら適当にぶらつこう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

千束・桜花
時間までは自由、ですか
普段なら鍛錬で時間を潰すところですが、将校としては情報戦にも強くならなくては!

夜の帝都へ繰り出して、六連星・ヒカル殿についての情報収集をしましょう
彼らがデェトに使ったレストランなどを回って、スイーツを注文しながらヒカル殿についての評判を聞いていきますよ
美貌と美声を手に入れたとしてもヒカル殿の振る舞いには、きっと彼の心が滲み出ているでしょうから

帝都の良いところはやはり美味しいスイーツが集まってくるところですね
あっ、いえいえ、決してスイーツが目当てというわけでは……



 花降る帝都にも夜は訪れる。逢魔が時へと暮れていく街並みで、マントを翻し學徒兵の少女が靴音を鳴らす。
「時間までは自由、ですか」
 千束・桜花はふむ、と暫し考える。普段ならば鍛錬で時間を潰すところだけれど、将校としては情報戦にも強くなくては。そうして彼女は件の民間人、六連星・ヒカルの情報収集に繰り出す。
 大きな劇場で幾人に声をかけてみれば、すぐに彼がメイドとのデェトに使ったレストランやカフェーが何件か割りだせた。
「じゃあ、この季節のパフェとアイスティーを」
 落ち着いた店内で、かしこまりましたと注文を承る若いボーイに、そっと声をかける。
「ここのスイーツは絶品なのでしょう? なんたってあの六連星・ヒカル殿も、ちょっとした常連だと聞きましたから」
 おや、とそばかすの目立つ顔のボーイは瞬きして、にこりと微笑む。
「……はい、有難いことに何度も来店されています。正直、僕はあまりショーに詳しくないんですが、六連星様はいい人ですよ。僕、彼の接客時に大失敗してしまって。初日早々クビかと思ったら、彼が上司にとりなしてくれて」
 僕もあんな顔になれば、それだけ人にも寛大になれるのかな。ボーイの言葉を思い出しつつ、桃のソルベを崩してコンポートを口へ運ぶ。桃の甘さとさっぱりとした口当たりが、喉の渇きを潤してくれる。
「あんな顔になれば、ですか」
 美貌と美声を手に入れたとしても、ヒカルの振る舞いには、きっと彼の心が滲み出る。次に向かったカフェーでは、ぽっちゃりとした話し好きのメイドがすぐに口を開いてくれた。
「ヒカルさん、顔もよければ声もよくて、性格も優しいんですもの。転んでしまった私をそっと立たせてくれて。お連れ様の女性も一人しか見たことないから、完璧な王子様に選ばれて幸せでしょうね」
 私なんか、あんな王子様の相手にされないもの。メイドの言葉の意味を考えながら、はちみつ漬けのスライスがたっぷりのレモンパイを口に含む。爽やかな甘さに舌鼓を打って、ヒカルの評判を頭の中で整理する。
 それにしても、と呟いた桜花の眼差しはきりっとしていて。
「――帝都の良いところは、やはり美味しいスイーツが集まってくるところですね」
 あっいえいえ、決してスイーツが目当てでは。けれど彼女の調査は、引き続きスイーツ巡りと共に在る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉野・嘉月
見せ物小屋については悪趣味極まりないが…そう言う商売が成り立ってしまう現実だ。
ほんとグリモア猟兵が言うように反吐がでる。

とりあえず籠絡ランプを取り上げるとしてその後が問題だ…俺は彼に寄り添うような言葉を紡げるか…少し不安だな。
口八丁が苦手なわけでもないがそれで済ましてしまうのは誠意がない。

「六連星・ヒカル」についての【情報収集】をしようどんな人物なのか知っておきたい。
可能ならばヒカルになる前の彼についても知りたいところだがまぁ、この辺はサクラミラージュ生まれの探偵の腕の見せ所だな。

アドリブ歓迎



 しっかり敷き詰められた石畳の上を、こつこつと革靴が鳴った。くゆらせた煙草の煙と共に、宵の帝都を男がゆく。
 見世物小屋については悪趣味極まりない。けれどそういう商売が成り立ってしまう現実を、吉野・嘉月は知っていた。グリモア猟兵が言うように、
「――ほんと、反吐がでる」
 少しばかりくたびれたコートに身を包んで、事件解決に向けたこれからを考える。篭絡ラムプを取り上げるとして、問題はその後。ヒカルに寄り添うような言葉を紡げるか、嘉月には不安が残る。口八丁が苦手な訳でもないけれど、それで済ましてしまうような誠意のなさは、彼の中には無かったから。
 大きな劇場では、関係者の口も堅い。ならばと、男は六連星・ヒカルの人気が出始めたバーをあたることにした。ゆるい笑みを浮かべてカクテルを頼むついでに、何気ない客のふりをして。
「此処ってさ、六連星ヒカルが立ってたんだろう?」
「そうそう。ヒカルがインタビューで名前を出してくれたもんだから、前よりうんと客が増えたよ」
 へぇ、と相槌を打って目線を向ければ、ピアノの音色に合わせて若い女がステージで歌を披露している。
「たった半年位で、あっという間にスタァの仲間入りだよ。歌手を募集してたら、ある日ひょっこり応募しに来てね。まぁ俺達もどこの出身だとか、なんにも知らないんだけどさ。初めの頃は洗い物や片付けも言いつけてたが、文句言わずにやってくれたしさ」
 ――あのルックスに人のよさだ、ミステリアスなのも人気なんだろうよ。
 カクテルを飲み干し、バーを後にする。物凄く人がいい訳でもないが、決して悪い人間ではない。そういう性格に、どこにでもいる一般人が思い浮かんだ。
 次に嘉月がやってきたのは、華やかな帝都の路地裏。ここからが、サクラミラージュ生まれの探偵の腕の見せ所だった。
 何人かに数枚のお札を握らせれば、見世物小屋はすぐに特定できた。裏から出てきた身なりのいい中年の男を捕まえて、警察にも顔が利く探偵だと軽く脅す。
「ちょっとした人探しだ。蛙に変化する怪奇人間、此処に居たろ」
 あんたをどうこうするつもりはないから、と薄く笑ってみせれば、男はすぐに口を割る。
「マサオのことか……ったく、一体どこ行ったんだか、俺が知りてえよ。一番の金ヅルだってのに」
 人の言うことをよく聞く、醜い顔の大人しい無口な青年だったという。蛙と会話をする姿が不気味であったと。ある日突然姿を消して、それっきり。男はどこか嘲りを含む声色で続ける。
「あいつを見つけたら知らせてくれよ。どうせあんな奴、此処以外でやってけるわけがないんだ」
 ひらひらと手を振ってその場を立ち去る嘉月の胸に、煙草よりも苦いものが浮かぶ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神坂・露
レーちゃん(f14377)。
『あのねあのね。夏も近いし…水着でも買わない?』
ってレーちゃんをショッピングにお誘いするわ。
だって今年もレーちゃんと海に行きたいんだもん!

誘う時は水着って考えてたけど着物とか浴衣でもいいわね。
別依頼だったけどまたレーちゃんの可愛い浴衣姿がみたいわ!
とにかくお店が沢山並んでる場所へレーちゃんを連れて行くわね。
勿論。ウィンドウショッピングでもあたしはすっごく十分満足。
だってこの時点で買わなくても基準というかー目安というか…。
今年販売する水着や浴衣を観ておくだけでも参考になると思うの。

「あ♪ これ、レーちゃんに似合うかもしれないわ~」
なんて言うけど、どれも似合うのよね…。


シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
突如訪問してきた理由を朝食をしながら聞いていたが…。
何?これからの季節に向けて水着や浴衣を新調したいだと?
今年の夏は…今年こそは住処で何もせずに過ごしたいんだが。

…くっつかれて暑い…。
露に付き合って一軒ずつ露の興味をそそられた店をまわる。
興味があるのは水着や浴衣など夏物の衣服を扱う店のようだ。
入店する度に『なんでも似合うから困るわ~♪』などと喜ぶし。
面倒だから黒と言ってみたが『駄目よ~』と却下されるし。
やれやれ。私はなんでもいいんだがな。衣服に拘りはない。

これが不愉快にならないのは私の心に変化が生じたからなのか。
露が楽しければまあいいか…と思うところが甘いのだろうな。



 それは今朝のこと。シビラ・レーヴェンスの静かな一日の始まりは、突如訪問してきた幼馴染によって破られた。
「おはようレーちゃん、あのねあのね!」
 ――夏も近いし、水着でも買わない?
 朝食のスクランブルエッグを咀嚼しながら、彼女は怪訝な表情で断ろうとしていた。けれど実際は、薄青に満ちた帝都を二人並んで歩いている。
「今年の夏こそは、住処で何もせずに過ごしたいんだが」
「だってあたし、今年もレーちゃんと海に行きたいんだもん!」
 嬉しそうに笑顔を浮かべて、神坂・露は親友の腕にぴったりくっつく。暑い、と文句をもらしつつ、シビラも露を突き放そうとはしなかった。
 色とりどりの華やかな服屋が並ぶ道をゆけば、若者達が流行のモダンな洋装や和装を着こなしているのが目立つ。ゆきかう彼らの服装を見ては、露の目もきらきらと輝いて。
 誘った時は水着をと考えていたけれど、着物や浴衣を選ぶのもいいかもしれない。カクリヨで見た親友の金魚柄の浴衣姿がとても可愛かったから。おしゃれな帝都の服屋なら、きっと似合いのものがあるはず。
「さ、さ、まずは一件入ってみないと♪」
 からんからんとベルを鳴らして入店すれば、これからの季節にぴったりの水着を扱っている店だった。シビラが珍しそうに店内を見渡すと、帝都らしいレトロモダンなデザインが多い。下校帰りの女学生達も、きゃっきゃと笑い声を溢して水着を物色している。
 レーちゃん、と露の声がして振り返れば、胸元に大きなリボンのついた淡い桜色のワンピース水着を押しつけられた。
「これとってもかわいい、似合うわ~♪」
「随分淡い色だな」
 淡々と返すシビラに、そうかしら、と露は首を傾げて。じゃあこっち、と次に持ってきたのは鮮やかなレモンイエローと白を基調としたビキニ。
「やけに明るいな……」
「でもでも、これもきっと似合うと思うの。夏って感じだわ♪ あ、レーちゃん着てみたい色ってある?」
 そこから選んでみるのもいいわよね、と楽しげな露に、めんどくさそうにシビラが答える。
「黒」
「駄目よ~」
 即答だった。衣服に拘りのないシビラは、露の着せ替え人形と化している。暫く選び続けて、他の店も見てみましょうと、二人が次に入ったのは着物屋だった。
 夏本番を前にして、帝都は祭りや花火のような行事も多いのだろう。老若問わず、女性があちらこちらで浴衣を選んでいる。
 露といい彼女らといい、服を選ぶのがそんなに楽しいのか。シビラが不思議な気持ちで店内を少し見てまわると、すかさず露が一着手にして此方へ小走りでやってくる。
「これ、レーちゃんに似合うかもしれないわ~」
 選ばれた浴衣は、深い青緑に白の小鳥がふわりと飛び交うもの。小物に洋風の籠や麦わらの帽子を合わせるのもおすすめですよ、と、中年の女性店員が微笑む。
「そういう露は、自分の浴衣は選ばないのか」
 水着を選んでいた時も、幼馴染はシビラの着せ替えに夢中だった。何気なく疑問をぶつけると、露は、あ、と思い出したような顔をしている。
「レーちゃんのを選ぶのが楽しくて、忘れてたわ」
 だってどれを選んでも似合っちゃうんだもの。目を輝かせた姿に、はぁ、とちいさくため息をもらしたシビラは店員に話しかける。
「彼女に似合う物も探している。普段は暖かで落ち着いた色味の服を着ているが、私は淡い色も似合うと思う」
 露はぱちくりと瞬きして、きょとんとした表情を浮かべたのち、満面の笑みを浮かべて親友へと抱きついた。
「レーちゃんだいすき~!」
「暑い」
 これが不愉快にならないのは、シビラの心に変化が生じたからか。幼馴染が楽しければ、まぁそれでいいという甘さもあって。
 仲の良い二人の姿に優しい気持ちになって、店員は彼女達に似合う浴衣を探し始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

所謂蛙の王子様…の逆であるな。元が蛙なのであるしな。
この場合悲しみに胸が張り裂けそうなのは誰なのであろうな?

はあ、まあ、正直なところ、様々な観点から言って、見世物そのものが悪いと断言することはオレ如きには到底できぬのであるが。まあ、最低限の保証と双方の合意はなあ、必要であるよ。何事にも。
それがないとこのように事件が起きる。よくない。

さてまあ、それはそれとして、買い物か。この世界へ来る時はいつも買い物をしておる気がするが。ふむ…適当に屋敷で出すための茶や菓子でも見繕うか。買うのはまた今度か、事件が片付いた後とでもしよう。後は適当に小物なども見ておくか。面白そうならこれもまた買うとしようぞ。



 幻朧桜の癒しによって、サクラミラージュには様々な種族の者が闊歩している。それゆえに、奇妙な仮面をつけた男が歩いていても、帝都の住民はさして気にすることもない。気にはしないだけで、それとなく避けられることはあれど。
「所謂蛙の王子様……の逆であるな」
 葛籠雄・九雀の呟きは、桜の花弁にかき消される。あの童話との違いは、元々が蛙であるということ。
 ――この場合、悲しみに胸が張り裂けそうなのは誰なのであろうな?
 と、ほんの少し思いに更けてはみたものの、九雀には見世物小屋そのものが悪だと断じることは出来なかった。職のない者に仕事を与えている点など、様々な観点からその存在の必要性はいくらだって語れる。けれど何事にも、最低限の保証と双方の合意は必要であって。
 それがなかったのだから、こんな風に事件が起きる。よくない、と仮面は呟いて、ひょろりとした長身にうんと伸びをさせる。
 それはそれとして、と、立ち並ぶ店のショーウィンドウを眺める。思えば、帝都に来る時はいつもなにかしら買い物をしているが、それ以外にやりたいことも思いつかない。
「ふむ」
 何気なく入った店内は、ふわりとした紅茶の香りで包まれていた。いらっしゃい、と高齢の店主が静かに声をかけてくるのと、軽く手をあげ応じる。
 これといって欲しいものもないけれど、塒としている屋敷で少ない客人に出す茶や菓子があればいいと思った。異国めいた雰囲気を漂わせる内装も相まって、帝都のモダンな空気を感じられる。 適当に見繕ったのち、店主にすまないが、と挨拶を残して店を出る。
「用事があるのでな、後でまた買いに来させてもらう」
 こうしなくては、という強い意識ではないものの、客人に出すものなら、もう少しじっくり選んだほうがいい気がした。それこそ、王子様になった蛙の後始末のあとに。
 宵の帝都を散歩するように歩いていると、ふいに二つの白い眼は赤い屋根の玩具屋を捉える。入ってみれば、親子連れが何組も楽しそうな笑い声を響かせていた。
 がたんごとんと線路を走る汽車、歯車で動く犬のぬいぐるみ、愛らしいお姫様を模した人形。子供にはこういうものが好かれるのだな、と、仮面はぼんやり思って。
 気付けば、ネジを巻くと翼を羽ばたかせるブリキの小鳥を手にしていた。面白そうだとは思ったけれど、何故それを手にしたかはわからないまま、会計へと進む。
「プレゼント用のラッピングはいたしますか?」
「ああ――いや、結構であるよ」
 店員にそう断って、九雀は財布の口を開けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニールニャス・ヒサハル
アドリブアレンジ大歓迎!

ふむふむふむ
俺様、この国で何か仕入れてえって思ってたけど、にゃんか猫ちゃん猫ちゃん言って売ってもらえねえのにゃ
くっそー!確かに俺様かわいー猫ちゃんだけど、そこらのにゃんころとは一段も二段も違うにゃ!

もしヒカルを見つけたら、裾でも引っ張って
あのランプ買うのに手伝ってほしいにゃー
あれ、留守番の万華鏡の土産にするんにゃ
俺様、金はたんまりあるにゃ(にっこり

ふぅん、売れっ子かー……
流行りのイケメンってやつだにゃ?

ははーにゃあにゃあ、オメー俺様の船乗らねえか?
なんたって、商売ってモンは何でもどっか一個勝ってる奴が一番つえーんにゃから!
出世したら商売させてやるにゃ!

特徴:肉球ぷにぷに



 夏の夜の気配で騒ぐ帝都は、この時間でも買い物に心を奪われる人々が多い。しかし一軒の店から出てきた冒険商人のケットシーは、どうにも浮かない顔をしていた。
「此処も駄目だったにゃ……!」
 ふむふむふむと残念そうに唸りながら、ニールニャス・ヒサハルは立ち尽くす。この国で何か商品を仕入れたいのに、何故かどの店に行っても猫ちゃん猫ちゃんと可愛がられる。仕入れるどころか、お土産一つ買えていない。
「くっそー! 確かに俺様かわいー猫ちゃんだけど、そこらのにゃんころとは一段も二段も違うにゃ!」
「あっ猫ちゃん! かわいー!」
「ほんとだかわいー!」
 道端で嘆くニールニャスを見つけた女学生のはしゃぐ声に、うにゃーとまたひと鳴きして。さてどうしたものか、と頭を抱えていると、再び女学生達の黄色い悲鳴が聴こえた。喉でも鳴らしてやろうか、なんて思って振り返れば、その視線は二人の男女に向いていた。
 艶のある黒髪に淡い生成りのスーツを着こなした青年と、豊かな栗毛の髪をしたワンピース姿の若い娘。青年の顔は、グリモア猟兵が見せた雑誌の六連星・ヒカルで間違いない。
「やだ、六連星・ヒカルよ! 本物に会えるなんて!」
 ファンの声が聞こえたらしく、彼は女学生達へと微笑む。それがまた周囲に彼の存在を知らしめていて、ニールニャスは少しずつ人が集まっているのがわかった。
「あれがヒカルかにゃ……流行りのイケメンってやつだにゃ? ハッそうにゃ!」
 ぴん、と猫の髭がレーダーのように張りつめて、素早くヒカルの元へ駆け寄る。スーツの裾を引っ張れば、ヒカルは二足歩行の服を着た三毛猫に目を丸くした。
「まぁ、可愛らしい猫さん!」
 声をあげたのは娘のほうで、彼女が夢子だろう。ヒカルは、ええっと、と困った様子でニールニャスを見ている。
「にゃあにゃあ、あのランプ買うのに手伝ってほしいにゃー」
「ラ、ランプ……?」
 ニールニャスが指差したのは、先程彼が出た店のショーウィンドウ。色硝子で美しく彩られたそれは、明かりをつければ幻想的な影を作ってくれそうだった。留守番している万華鏡の少女の手土産にしてやるのだ。
「頼むにゃー。俺様、金はたんまりあるにゃ」
 ぷにぷにとした肉球に背中を押されて、ヒカルと夢子は店へと入る。無事にランプを購入できたことに素直に礼を言えば、二人とも笑みを返した。
「にゃあにゃあ、オメー俺様の船乗らねえか?」
「船……君、船乗りなのかい」
 不思議そうに問い返すヒカルに、ケットシーは自慢げに頷く。
「なんたって、商売ってモンは何でもどっか一個勝ってる奴が一番つえーんにゃから! 出世したら商売させてやるにゃ!」
 ふいに、ヒカルの顔に陰りが見えたものの、それは一瞬のこと。考えておくよ、と曖昧に返された時には、その表情はもう見えなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葬・祝
【赫月】◎

カクリヨとは違いますが、サクラミラージュもそれなりに慣れた空気の場所ですよねぇ
まだこの世界は平気ですよ

……あ、クロウ、見てください
指差すのはクレープの屋台
和の甘味には慣れがありますけど、こういうのは見慣れませんねぇ
好奇心でお店お勧めのクレープを頼んで食べ歩き
甘いものは好きですよ
そりゃあ、味覚もいちから作りましたもの
嫌いは作らなかったんですが、好きはあの子の味覚を基本にしているので甘党になるんですよねぇ

クロウも食べます?
はい、と何時もあの子にしているのと同じように手ずから差し出したのは無自覚の癖
断られてわざと少ししゅんとして見せたりして
くふふ、だって君があんまり子供扱いするからですよ


杜鬼・クロウ
【赫月】◎
中折れ帽に丸眼鏡
トンビコート羽織る(服好き

この世界にはやっぱこういう格好が合うなァ(街並み見て
祝はここの空気は大丈夫そうなのか?
おう、色々見てみようぜ

念の為、夜雀を召喚しヒカルの動向だけは追う
祝の後について行き散策
甘い香りに少し顰め面
前に甘くないサラダクレープを作って貰った事を思い出しそれを購入

嬉しそうだな祝
甘党なのかよ
えっ、アイツって甘いモノ好きだったのか!
知らなかったわ
祝の前だと、ねェ…?へーそいつはイイコト聞いたわ(企み顔

あァ、俺は逆に甘いモン苦手なンだ
…!
そんな顔するなや(しょんぼりされ焦り
俺の甘くねェケド、ちぃっと味見する?(自分のを差し出し
俺の反応見て楽しんでね?(ジト目



 昼の出番が終わって夜が桜と共に降りる帝都を、人々は思い思いに過ごしている。その中で、すらりと背の高い偉丈夫が、ちいさな少年と連れ立った様は年の離れた兄弟に見えただろうか。
「この世界にはやっぱこういう恰好が合うなァ」
 シックな黒灰の中折れ帽と、揃いの彩のトンビコートを羽織った杜鬼・クロウが、丸眼鏡越しに花咲く帝都の宵を見渡す。楽しそうですねぇ、なんて声をかけたのは少年のほうで、彼も黒を基調に赤の差し色が入った、和洋折衷のレトロモダンな衣服に身を包んでいる。
「祝はここの空気は大丈夫なのか?」
 クロウにそう問われて、葬・祝はそうですねぇとふわり笑んだ。
「カクリヨとは違いますが、サクラミラージュもそれなりに慣れた空気の場所ですよねぇ」
 まだこの世界は平気ですよ、と少年が返せば、ならいいんだ、と男は道端で立ち止まる。掌に収まるちいさな果実にいのちを吹き込むと、一瞬で果実は蝙蝠となって宙へ羽ばたく。
「例の王子の動向は追いたいからな」
「仕事熱心なこと」
 ヒカルの元へ飛び去った蝙蝠を見送って、ゆるり逢魔が時の帝都をゆく。薄紅の花弁がはらはらと舞う光景は、彼らが言葉を交わす紅葉の社と似て非なる世界であることを示している。不思議と鳴らない靴音を伴にして、少年の見目をした妖怪の後ろをヤドリガミがついていく。
 ふと祝の口から、あ、という声がもれて。
「クロウ、見てください」
 名前を呼ばれて祝のしろい指先が差した先を見れば、クレープの屋台が在る。此処からでもわかる甘い香りに、男は少しばかりの顰めっ面を見せつつも、二人揃って屋台へと足を運ぶ。
「いらっしゃいませ、ご注文お決まりですか?」
「こういうのは見慣れてないんですよ。お勧めをお願いできます?」
 そう告げた祝に微笑んで、店員は一番人気の苺のクレープを教える。お客様は、と問われたクロウは断ろうとして、以前甘くないサラダクレープを作ってもらったことを思い出す。
 手際のよい店員の作業によって、そう時間は掛からぬうち。祝の手には苺とホイップがたっぷり詰まったクレープが、クロウはハムと野菜のクレープを手にして、二人ベンチに座る。
「和の甘味には慣れがありますけど、やっぱり洋風の物は珍しいですねぇ」
「嬉しそうだな、祝。甘党なのかよ」
 どことなく弾んでいる声色に、男が何気なく問うと、甘いものは好きですよ、と少年が答える。
「そりゃあ、味覚もいちから作りましたもの。嫌いは作らなかったんですが、好きはあの子の味覚を基本にしているので、甘党になるんですよねぇ」
「えっアイツって甘いモノ好きだったのか!」
 祝があの子と呼ぶのは一人。此処には居ない社の主を思い浮かべて、クロウは彼の別の一面を知る。
「祝の前だと、ねェ……?」
 そいつはイイコト聞いたわとなにやら企む顔を見せれば、あまりいじめないでやってくださいよ、と祝も笑みを零す。
 はむ、とちいさな口がクレープを食べる。口いっぱいに広がるホイップの甘さと、苺の甘酸っぱさが絶妙に相まって。ふと思い出したように、はい、と少年は男に自分のクレープを差し出す。
「クロウも食べます?」
 その仕草はいつもあの子にしていたもので、祝にとって無自覚の動きだった。サラダクレープに齧りつこうとしたクロウが、空いた手をひらひらと動かす。
「あァ、俺は逆に甘いモン苦手なンだ」
「そうですか……」
 しゅん、と少し悲しげな少年の姿に、思わず男も焦って、代わりにと自分のクレープを差し出す。冗談ですよ、とけろっとした表情で返されて、クロウの眼差しがジトっとしたものになった。
「……俺の反応見て楽しんでね?」
「だって、君があんまり子供扱いするからですよ」
 悪戯っ子の顔を見せて、妖怪はくふふ、とわらった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
確かに顔は大切よな
私自身、見目好いものしか周りに要らぬし
綺麗ごとを言うほど蛙男は惨めであろう
どうしたものかな

だがそれよりも
私はいちど買い食いをしてみたかったのだ
それも思い切り
今なら行儀が悪いと咎めるものもない

屋台の焼きそばも
パン屋の焼きたての菓子パンも
和菓子屋のどら焼きも
駄菓子屋の飴も
あれも、これも
嗚呼、でも…立ち歩いて食べるような器用なことは出来ぬから
全て式神の侍女Wilhelmineに持たせて持って帰らせよう

おや、劇場のあのポスター、なかなかの美男子だね
いかにもファンと思しき近くのご婦人たちでも捕まえて少し彼のことを語って貰おうか
彼はどんな人?
顔が良いのはよく理解した
彼の一番の魅力は、何?



 夜の迫る帝都の街を、黒を纏った少女が優雅にゆく。すれ違う幾人かが目を奪われるのは、彼女の淑やかな仕草。
「確かに顔は大切よな」
 私自身、見目好いものしか周りに要らぬし。ラファエラ・エヴァンジェリスタはそう呟いて、王子様へと変わった蛙男のことを思う。綺麗ごとを言えば言うほど、彼も惨めな思いをするだろう。
 どうしたものかな、と再び呟いて、考えた様子をみせたのはほんの一瞬。それよりも、彼女には今重要なことがある。
「おぉ、あれは」
 ふんわりと漂うソースの焦げた匂いの先は、焼きそばの屋台。店主の手は休むことなく鉄板に広げた具材と麺を焼きあげている。
 そう、彼女はいちど、買い食いをしてみたかった。おもいっきりすきなものをどれだけ頼んでも、今なら行儀が悪いと咎めるものもいない。
 パックに詰められた焼きそばはまだ熱を保っていて、物珍しさに少女の胸はときめいた。けれど、食べ歩きなんて器用な真似は出来ないから、黒い影の式神の侍女に焼きそばを持たせることにする。
 次に見つけたのは、ショーウィンドウ越しに出来立ての並んだパン屋。迷わず店内に入れば、焼きたての香りが姫の食欲を誘う。自分で気に入った菓子パンを選ぶのは、なかなか楽しいものだった。
 和菓子屋のおすすめだというどら焼きも、駄菓子屋のかわいらしい形の飴も、全て珍しくて美味しそう。あれもこれもと買ううちに、侍女の持ち物はラファエラの食べたいものでいっぱいになっていた。
「これだけあると、どれから食べるか迷ってしまいそうだ……おや」
 どことなく上機嫌に歩いていると、大劇場のポスターが目に留まる。艶のある黒髪に、青い双眸としろい膚。端正な顔立ちをした青年が、舞台衣装を身に纏って此方へと微笑んでいた。
 それが件の六連星・ヒカルであることを知ってか知らずか、ラファエラは、ほう、と声をあげ。
「なかなかの美男子だね」
 次に目についたのは、ポスターの前で話し込む身なりのいい婦人達。彼のファンだろうとあたりをつけて、もし、と声をかけた。
「私は帝都の流行に疎いものでね、彼は人気があるの?」
「あら、お嬢さん。六連星・ヒカルを知らないなんて、郊外からいらしたのかしら」
「とっても美形でしょう、それに歌も上手くって」
 次々とヒカルの美しさについて語り始める婦人達に頷いて、姫は人差し指を唇にあてる。
「顔が良いのはよく理解した――彼の一番の魅力は、何?」
 少女の問いに、婦人達は顔を見合わせる。
「そうね……あれだけ人気なのに、謙虚なところかしら」
「ええ、それにどんなファンにも分け隔てなく接するところね」
 ――心が綺麗だから、見た目も綺麗なのかもね。
 ラファエラは婦人達に礼を言ってその場を離れる。一人が最後に言った言葉を思いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
願いが叶えられるのならと
ラムプの力に縋るのも
それが強い思いならばむしろ当然かもしれません

人の心に付け入るとは何と卑劣なことか
ヒカルさんをお助けしましょう

まずは件の見世物小屋へ
怪奇人間さんのことを
どなたかご存じないでしょうか

性格とか
本名とか
怪奇人間となられた所以とか
もし教えていただければ

もしかすると人よりも
小屋や近くに住む動物さん(蛙さん?
の方がよくお判りかも知れませんね

更に時間があるのなら
夢子さんのコイバナの情報取集

こちらもカフェ近くの動物さんたちに聞いてみたいです
人には言えずとも動物に本音を零すことはあるでしょうから

それではレストランへ
お二方を胸痛む時間から開放いたしましょう



 ハイカラな宵の帝都の裏側、くすんだ彩の路地裏をケットシーが歩いている。
 人には大抵、誰でもなにかしらの願いを持つ。願いを叶えるためにラムプの力に縋るのも当然かもしれない、と箒星・仄々は思った。
 ましてやそれが、強い想いなら。ヒカルの心を考えれば、人の心に付け入る幻朧戦線のやり方は卑劣で、誠実な彼には許せないものだった。
 ヒカルを助けたいと思った仄々が向かったのは、青年が働いていた見世物小屋。そうっと中へ入ってみれば、ちょうどショーの最中らしい。若い女が蛇へと変化する光景を、下卑た笑い声や嘲りが囲んでいる。
(「これは、ひどい……」)
 口には出さずに居たけれど、ひどく嫌な雰囲気に満ちていた。彼女のように、ヒカルも此処で傷ついていたのだろうか。ショーが終わったのを見計らって、見世物小屋の関係者の元へ近付く。
「こんにちは、少しよろしいですか?」
「へぇ、二足歩行で喋る猫か。ちょうどいい、蛇女だけじゃあ目玉が足りなかったんだ」
 危うく勘違いされる前に、人を探しているのだと伝える。ヒキガエルに変化する怪奇人間の青年だと特徴を言えば、関係者達は、ああ、と得心した顔をする。
「マサオだね。大人しいのに、急に居なくなっちゃって。死んじゃったのかね」
「さぁ? 座長の扱いに耐えかねて逃げたんじゃないの」
 大した情報は得られず小屋をあとにすると、ふいに猫の耳は蛙の鳴き声を捉える。細いコンクリートの水路を覗けば、一匹の蛙と目が合った。
「ヒキガエルに変化する、マサオさんという方をご存知ですか?」
 仄々の問いに、げろげろと蛙が答える。よく自分達と話をしていたこと、食事を分けてくれたこと。怪奇人間になった理由は、金目当ての親によって、幼い頃に受けた人体実験によるものらしいということ――周囲の人間の仕打ちを、憎んでいたこと。
「……ありがとうございます」
 蛙に礼を言って次に向かったのは、夢子の働くカフェーの近く。きょろきょろと見渡せば、店の裏で野良猫が数匹たむろしている。
「このカフェーの、夢子さんというメイドの話を聞かせてください」
 人には言えずとも、若い娘ならば恋の本音を溢すこともあるだろうから。すると、ふにゃふにゃと猫達のお喋りが始まる。
 夜毎デェトに誘う彼が気になりつつも、不思議と夢中になれないでいること。よく来ていた常連の青年が、ある日ぱったり来なくなったのが寂しいこと――元気だといいな、と呟いていたこと。
 情報はまだ少ないけれど、ケットシーはレストランへと向かう。二人を、胸痛む時間から解放するために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
【🌖⭐】
(風見くんと合わせて女学生風の衣装)
夕暮れ時の街も素敵だけど、ディナーにはまだ早いね
珈琲でも飲んで休憩しようかな
ふふ……僕なんかで良ければ喜んで

行き先は話に聞いたカフェー
夢子という人は今日はお休みのはず
探偵と助手……なんて設定で行ったら流石に怪しまれるから
これは、書生と女学生の秘密のデートね

夏報さんは目立たないよう聞き耳を立てて情報収集
女ってのはその場に居ない同僚の噂話をしたがるものさ
この格好の風見くんを前にしたら、メイドたちの口もいくらか軽くなるんじゃない?
……風見くんが喋る間は存在感を消しておく

お疲れ様、頭使ったから甘いもの欲しくない?
(メニューを手渡しながら)
そうだなあ
綺麗だよ


風見・ケイ
【🌖⭐】
(夏報さんと合わせて書生風の衣装)
逢魔が時なんて言うけれど、ランプが点き始めた町はどこか幻想的だ
ええ、まだ時間もありますし……お付き合いいただけますか、お嬢さん

素敵なお店
ここで少しでも夢子さんの情報が手に入ればいいんだけど
ふふ、学問より興味深い人に出逢ってしまったのかな

それらしい会話を交わしつつ、横目でメイドたちの情報収集
だといいんだけど……それより、夏報さんはどう思っているか気になるなぁ
――なんてね(お話好きそうなメイドに手を振り)
お嬢さん、珈琲二つ……ね、ここに六連星ヒカルが来るって噂、ホント?
お目当ての子でもいたのかな

ありがとう、慣れないことしたから余計だよ
……ずるいです、それ



 夕焼けが淡く落ちて、そろりと夜が迫る。女二人で連れ立って歩きながら、風見・ケイは傾けた帽子を少し傾けた。逢魔が時なんて言うけれど、ぽつぽつと街灯が点き始めた街並みは幻想的に思えた。
「桜が降るのも見慣れたけど……やっぱり、綺麗ですね」
 慧としての言葉に、そうだね、と臥待・夏報がゆるく返す。淡い橙に深緑色の袴を合わせた女学生スタイルで、菫色に黒の書生姿の慧と並べば、二人揃って帝都によく馴染んでいた。
 夕暮れ時の街も素敵だけれど、ディナーにはまだ早い。ふっと思いついたように、少女めいた仕草で小首を傾げる。
「珈琲でも飲んで休憩しようかな」
「ええ、まだ時間もありますし……お付き合いいただけますか、お嬢さん」
 眼鏡のレンズ越しに此方を覗く慧は、やわらかなふたいろ。その誘いが心地よくて、ふふ、と夏報も笑みを零す。
「僕なんかで良ければ喜んで」
 やってきたのは、メイドの夢子が務めているというカフェー。彼に誘われデェトに赴いているのならば、彼女は休みを取っているはず。
「素敵なお店」
 席に着いてからぽつりと呟く慧に頷いて、夏報もそれとなく店内を見渡す。決して広くはないものの、落ち着いた内装にクラシックのレコードが流れている。探偵と助手という設定では流石に怪しまれるから、
「これは、書生と女学生の秘密のデートね」
「ふふ、学問より興味深い人に出逢ってしまったのかな」
 囁く夏報に、慧が笑む。二人だけの内緒話は、次第に今回の仕事へと切り替わっていく。何を頼もうか、なんて会話をしつつも、夏報が目立たぬよう聞き耳を立てれば、奥から聞こえるメイド達の話し声。
「今日はヒカル様来ないのよね、がっかり」
「そりゃそうよ、夢ちゃんが居ないんだもん。というか、きっと今夜はデェトでしょう?」
「羨ましいわ……シンデレラみたい」
 いかにもな会話を聞きつけて、夏報はやっぱり、と呟く。だって女ってのは大概が、その場に居ない同僚の噂話をしたがるものだから。ねぇ、と慧を促す。
「この格好の風見くんを前にしたら、メイドたちの口もいくらか軽くなるんじゃない?」
「だといいんだけど……それより、夏報さんはどう思っているか気になるなぁ」
 ――なんてね。横目でちらちらとメイド達へ視線を向けていたのが幸いして、慧は一人に目星をつけて手を振る。ぽっと頬を赤らめて慌てて注文を取りに来たメイドに、珈琲を二つ頼む。
「……ね、ここに六連星・ヒカルが来るって噂、ホント?」
 どこかクールで中性的な書生に声をかけられて、メイドの口も軽くなる。
「はい、よくいらっしゃいます! もっぱら珈琲とホットサンドを頼まれてて」
 ふぅん、と涼やかな眼差しがメイドを見つめる間、夏報はそうっと存在感を消しておく。慧の魅力が十二分に引き出されるよう、女学生は今は壁の花よりも静かに佇んでいる。
「お目当ての子でもいたのかな」
「……ええ、一人。うちでも一番人気がある子なんですよ」
「へぇ、かわいい君より?」
 微笑をまぜて問い返せば、メイドの顔は更に赤く染まる。ええっと、と動揺しながらも、夢子の話を続けた。
「特別可愛いってほどでもないんですけど、愛嬌があって明るくて。嫌味なところがなかったし、正直、あの子に恋人が居ないのは意外だったので。けど、六連星さんほどのスタァがあの子目当てに通うのも、未だに信じられないんですよね」
 ――なにより、デェトに誘われるのが不思議だって、本人がそう言ってたんですもの。
「お疲れ様、頭使ったから甘いもの欲しくない?」
 労いと共に手渡されたメニューを受け取って、慧はありがとうと口にする。
「慣れないことしたから余計だよ」
 苦笑する姿を見て、夏報は先程の言葉を思い出す。そうだなぁ、と、さっきの続きのように呟いて。
「綺麗だよ」
「……ずるいです、それ」
 珈琲の香りが、ふわりと漂い始める。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『烏啼』

POW   :    欺瞞
命中した【深緋の月影で増幅or植え付けた対象自身】の【異能・異形・怪奇に対する負の感情】が【自死へと誘う花々(形状や種類は種々雑多)】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    零和
【周辺一帯を夜さりに変化させ、紺青の月影】を降らせる事で、戦場全体が【あらゆる攻撃・現象を無効・遮断する空間】と同じ環境に変化する。[あらゆる攻撃・現象を無効・遮断する空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    微睡
【異能・異形・怪奇を忘れさせ隠したい】という願いを【薄桜の月影から生命・霊体・創造物の無意識】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はスキアファール・イリャルギです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 シャンデリアの明かりが煌めいている。上品な食器に並ぶ美しいフルコースに、着飾った人々の談笑する声は礼儀正しく。あの頃の僕が夢見ることすらしなかったような世界に、今は彼女と居る。
 けれどやっぱり彼女はどこか困ったような表情で、いつだって胸が不安になる。美しい顔はそれを隠してくれるから、出来る限り頼もしいふりをして問う。
「……この店は、気に入らなかったかな」
「いいえ、そんなこと。とっても素敵です。ただ、ヒカルさんはどうしてそんなに、私を好いてくれるのかなって」
 きっと今まで、彼女はずっと黙って胸に秘めていた疑問だったのだろう。それは、と口にした時、異変は起きた。
 予約客しか入れぬ筈の店内に現れた彼らは、僕と彼女めがけて歩み寄ってくる。そうして誰ともなく、ラムプを渡してほしいと口にした。
「ヒカルさん、お知り合い? あの、ラムプって?」
 ああ、だめだ、だめだ、来てしまった。でもまだだめだ、待ってほしい。これを取りあげられれば、僕は醜い蛙に戻ってしまう。やめてくれ、でも、いや、本当は、
「――夢子さん、離れて」

 六連星・ヒカルがラムプの灯りを一振りすると、夜が満ちる。現れた黒衣の女は、静かに微笑んでいる。零れる月影の光が、シャンデリアに当たってきらきらひかった。

「隠しましょう、忘れましょう」

 すべての異能を、異形を、怪奇を。
 誰に指差されることもない、ただの人間となるために。

「最期まで嘘に塗れましょう」

 微睡みを招いて、女はただ笑む。ヒカルが幸せでも、そうでなくても。
 もしくは、猟兵達自身が幸せでも、そうでなくても。

 ――ただの人間であるために。
千束・桜花
貴女が、ヒカル殿にラムプを与えたのですね……!
まやかしで喜びを与えても、彼が救われるわけではないというのに!
そのような欺瞞ごと、私が斬り捨てて差し上げましょう!
狙うは後の先、敵の攻撃を捌いてから居合斬りを仕掛けます!

人を守るのは、人より強い力を持った者の責務!
それを果たさずして何がユーベルコヲド使いか!

たとえ嘘でも一度手にしたものを失うのは辛いでしょう
ですが、真に失われるべきではないものを守るために、いまはこの影朧を倒させていただきます!


吉野・嘉月
俺は猟兵っていっても探偵にちょっとばかり毛が生えたような程度だ。

それでもーー
『指定UC』

獅子へ誘う花に蝕まれる意識を保ちながらも【落ち着き】と【コミュ力】をもって話そうと口を開いて。

やっぱり素直にラムプを渡して貰えんかね?
あんたの話を色々と調べさせてもらった。
だからこそそのラムプを渡したくないと言う気持ちもわからんではない。
そのラムプを使って名声を得ようとした人間を何度か見てきたが…あんたは名声が欲しいわけじゃないんだろう…。
ところでお嬢さん…君はマサオと言う男を知っているか?あんたが働くカフェーによく来ていたんだが。

時間稼ぎ。そして…そこに光があってくれと願う俺の悪あがき。

アドリブ歓迎



「――皆さん落ち着いて。此処は俺達猟兵に任せてほしい」
 突然現れた影朧にざわめくレストランの客を、探偵はそっと宥めるように制止。夜の満ちた店内から避難させるのは難しいと判断し、店員達に客をなるべく影朧と猟兵達から離れてもらうよう指示をする。その間に、學府の娘が月影の女の前に出る。
「貴女が、ヒカル殿にラムプを与えたのですね……!」
 千束・桜花は、傷つくばかりのヒカルを想った。まやかしで喜びを与えても、彼が救われるわけではないというのに。まっすぐな薄紅の眼差しは、退魔刀をすらりと抜く。その姿に、影朧はただ微笑みを重ねるばかり。
「そのような欺瞞ごと、私が斬り捨てて差し上げましょう!」
 探偵がちらとヒカルを見れば、怯えと恐怖、意地のないまぜになった感情が見て取れる。厄介なものだと吉野・嘉月は頭を掻いた。幾度亡霊ラムプを取り上げる度、様々な感情で満ちた瞳を見てきたけれど。決して、慣れたことはなかった。
 ふいに、少女と男の目の前に真っ赤な月がゆらりと昇る。美しい夜闇は、一瞬にしてあかあかと鮮烈に色づいて。
「それがあなたの、隠したいもの」
 ぽつりと呟く女の言葉を合図に、月の彩が更に凄惨な赫を解き放った。
 桜花めがけて咲いたマリーゴールドが、刀を振るう娘の細い脚をぐるりと覆う。薄紅の花を纏う彼女には鮮やかすぎるそれへの違和感は、やがて桜花自身の心を蝕んでいく。影朧へと進めぬ脚に歯噛みした時、探偵がお嬢さん、と声をかけて。
「生憎と俺は攻撃役には不向きでね。時間稼ぎなら得意な方だ――暫くは俺が引き受ける、その間に行けるかい」
「――ええ、勿論!」
 穏やかな笑みを浮かべて提案する嘉月の腕に、彼には不釣り合いなちいさな白のチューリップがいくつか咲きこぼれている。彼の心にも死へと手招く毒が注がれていることはわかっていたけれど、共に並ぶ彼を信頼し、将校は強く頷く。
 ふっとちいさく息を吐いて、嘉月は月影の女の後ろに立つヒカルへと声をかける。
「なぁ、ヒカルさんよ。やっぱり素直にラムプを渡して貰えんかね?」
 突然名を呼ばれたヒカルは、手にしたラムプを自然と自身へ引き寄せている。そりゃそうか、と内心思いながら、探偵は再び頭を掻く。
「あんたの話を色々と調べさせてもらった。だからこそ、そのラムプを渡したくないと言う気持ちもわからんではない」
 ちかちかと視界が赤く染まり、時折目に入る腕に咲いた白がやたらと目に痛い。ぐらぐらと自身の在り方を揺らされる感覚を誤魔化すように、苦い煙草を吸う。
 俺は猟兵っていっても、探偵にちょっとばかり毛が生えたような程度だ。學府に務めている訳でもなし、世界を救う大冒険をしている訳でもない。
 ――それでも。
「そのラムプを使って名声を得ようとした人間を何度か見てきたが……あんたは、名声が欲しいわけじゃないんだろう……」
「それは、」
 言葉を濁して目を逸らすヒカルではなく、男は夢子へと視線を向ける。落ち着き払ったその姿は、街角で情報収集を兼ねたお喋りをしている時と変わりなく見えた。
「ところでお嬢さん、君はマサオと言う男を知っているか? あんたが働くカフェーによく来ていたんだが。いつも同じ席で、珈琲とホットサンドを頼んでいた奴だよ」
 不安そうな表情の娘は、突如言葉を投げかけられて身を縮める。けれど、ふと思い出したように目を見開いて、夢子の口からは、あ、と音がもれた。
「お、覚えてます。常連さんです。最近、来てくれなくなっちゃって、でも私」
「やめてくれ……ッ!」
 ひどく動揺した様子で叫んだヒカルの言葉をかきけすように、赤い月が再び灼ける。途端、退魔刀のひかりが瞬いた。テーブルを蹴って跳躍する桜花の脚にはマリーゴールドが咲いたままで、無理矢理引き千切った橙の花弁が散る。
「これ以上、照らさせてなるものですか!」
 迷わず駆けた少女の一刀が、真っ二つに月を断つ。この赫が蝕むのは、ヒカルの心だって同じだろう。
「人を守るのは、人より強い力を持った者の責務! それを果たさずして何がユーベルコヲド使いか!」
 たとえ嘘でも一度手にしたものを失うのは辛いでしょう。ですが、
「真に失われるべきではないものを守るために、いまはこの影朧を倒させていただきます!」
 マリーゴールドが散り消えて、彼女によく似た彩の桜吹雪がその身を包む。低い姿勢で一気にシャンデリアの真下を駆け抜ければ、軍帽にきらきらと虹がかかる。黒衣の女が避けるよりも早く、桜花の一太刀が居合を放った。
 ――夜に満ちた戦場を、櫻が舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
【🌖⭐】
罅割れた腕を覆い隠して
罪を犯した過去を話せなくて
想いは殻の中に閉じ込めたままで
私は嘘という殻に閉じこもった人間――人間ですらなかった

生を宿すこの星が引き寄せた、忘れられない死の記憶
また、繰り返す、くらいなら、いっそ

――なんて、何度も試したよ
手首を切り付けても胸を撃ち抜いても脳漿をぶち撒けても目が覚めた
わたしが私じゃなくなるためには、やっぱりこれしかないんだよ
お願い
この花も、あいつも、喰らい尽くして
代わりに好きなだけ、
(――綺麗だよ)
……ごめん、やっぱり左足(足首から先)だけ

ありがとう夏報さん……ごめんね
秘密のデート、夢に見るくらい楽しかった
あいつの紅い月なんかよりも眩しくてさ
綺麗だよ


臥待・夏報
【🌖⭐】
確かに僕の体は怪奇人間と大差ないけど
呪ったり願ったりするほど思い入れもない
笑い飛ばせる程度の誘惑なのに――嫌な、予感が、

……しまった、風見くん
風見くん!
さっきから何言ってるの

彼女に突き刺さった花は抜けないし、引き千切っても意味はないかもしれない
どうしよう、どうにかしないと、とにかく弾丸を影朧に撃ち込む
殺意を籠めて六発
――風見くんに触るな!

ああもう
お前が死にたがってるのは知ってる!
そんなもん見てりゃ分かる僕だって馬鹿じゃないんだぞ
でも今日じゃなくたっていいだろ
今日ぐらい楽しく終わろうよ
折角さ……こんな動きづらい服まで着てさあ……

ううぅ
こんな時まで馬鹿言うな
僕、今、絶対ひっどい顔してるぞ



 桜吹雪が散り飛んで、黒衣の女はそろりと胸に抱いた大きな硝子瓶を撫でる。赤く揺らめくそれが、再びシャンデリアよりも高く月を昇らせた。あわい薄桜に色づいた月影が、ふわりと臥待・夏報に囁く。
「眠らせましょう、あなたの秘密を」
 ――馬鹿らしい。女はそう思った。確かにこの身は、怪奇人間とそう大差ないだろう。継ぎ接ぎの記憶で埋めてはやりすごす大人のフリも、ごく普通のヒトならば必要のない作業かもしれない。けれど誰かを呪ったり、何かを願うほどの思い入れもなかった。夏報にとっては笑い飛ばせる程度の誘惑なのに、胸には重い不安がのしかかる。
 ――嫌な予感がしたと感じた次の瞬間、薄桜は真っ赤な月へと変化する。しまった、と思ったと同時に友達の名を呼んだ時には、もう彼女の目には夏報が映っていないのがわかってしまった。
「それが、あなたの隠しているもの」
「風見くん!」
 その場に崩れ落ちる長身に咲きこぼれるのは先程の薄紅によく似た花で、風見・ケイの胸を中心に、全身を喰い尽くすように密集している。ぐずぐずと女の心に溜まっていく澱みは、死への衝動を増幅させていた。
 誰かの眼から隠すように右腕を掴む左腕は、強く爪を立てている。荒い呼吸と共に、今といつかの記憶がぐちゃぐちゃにないまぜになっていく。
 罅割れた腕を覆い隠して、罪を犯した過去を話せない。想いは殻の中に閉じ込めたまま。誰一人にだってみせることができずに、慧はまともで頼れる大人のフリをしてばかり。ああ、そうだ。
「私は嘘という殻に閉じこもった人間――ううん、人間ですらなかった」
 生を宿す煌々ときらめく星が引き寄せた、忘れられない死の記憶。一生忘れちゃいけない罪を、癒えない傷と一緒に覚えている。また、繰り返す、くらいなら、いっそ。
「――なんて、何度も試したよ。でも、手首を切り付けても、胸を撃ち抜いても、脳漿をぶち撒けても目が覚めた」
「風見くん、」
 さっきから何言ってるの、と慧の身体を揺さぶりながら、夏報は必死にふたいろに呼びかける。けれど慧はぽつぽつと独り言を溢すばかりで、淡い色の咲くシバザクラは、夏報が引き千切る度にほろほろと同じように零れた。震える膝を立たせて、パニックになる頭を動かしても、冷静で理性的な解決法はひとつも浮かばなかった。
 どうしよう、どうにかしなきゃ、と考える間にも、そろりと黒衣の女が慧へと指先を伸ばす。反射的に拳銃を影朧へと向けて、一発、二発、三発。
「風見くんに触るな!」
 六発目まで撃ち尽くした時、ふるりと慧の唇が動く。
「わたしが私じゃなくなるためには、やっぱりこれしかないんだよ」
 お願い、と、少女は星に願った。菫色に隠れた右腕は静かに紫の光を洩れさせる。この淡い花の群れも、あいつも、あなたが喰らい尽くしてしまえば、きっと。代わりに、好きなだけ、この身体を。
「――ああもう!!」
 どれだけ呼びかけてもこちらを視ない友達の胸倉を無理矢理掴んで、少女は叫んだ。
「お前が死にたがってるのは知ってる! そんなもん見てりゃ分かる僕だって馬鹿じゃないんだぞ!! でも、今日じゃなくたっていいだろ……」
 視界が妙にうるんで歪んで、美しい思いやりの言葉のひとつも掛けてやれやしない。だけど、そんなものは無意味でどうでもいいと思った。
「今日ぐらい楽しく終わろうよ。折角さ……こんな動きづらい服まで着てさあ……」
 こんなの僕は似合わないのに、君のために着たんじゃないか。ぽたりと落とした女学生の涙の先、書生のおぼろげな意識にほんの少し前の言葉が刺さった。

(――綺麗だよ)

「……ごめん、やっぱり左足だけ」
 そう告げた慧の願いを、星が叶える。ひどく轟く岩の塊は、罅割れから紫の光を溢れさせた。獣は影朧へと素早く襲いかかれば、大きく開いた口で敵の腕を食い破る。それはもう、あっという間のことで。
「風見くん」
「ありがとう夏報さん……ごめんね」
 うぅぅと泣きべそをかいている友達を宥めるように、黒手袋を嵌めた右手が、夏報の頬をそっと撫でる。水は少しだけ丸い珠を作ってから、すぐに布地に沁みていく。
「秘密のデート、夢に見るくらい楽しかった。あいつの紅い月なんかよりも眩しくてさ」
 それに、今日の夏報さんは。
「――綺麗だよ」
「こんな時まで馬鹿言うな。僕、今、絶対ひっどい顔してるぞ」
 慧の左足首からつま先まで、いつの間にか罅割れた石に似ていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

葛籠雄・九雀
POW

ふーむ。
夢子ちゃんをエピフィルムで庇うように立ち回り、適当に強化された身体能力で投げ針でも投げておくか。怪我でもすると可哀想であるしな。
花は…まあ落とせるなら武器落としで弾く。無理なら勝手に刺せ。

ヒカルちゃん、オレは後ろ指さされるということがどれほど他者を傷つけるものか『よぅく』知っておる。
故にオレは、『そう生まれた』だけの貴様は絶対に否定せん。

だが、だからこそ、自分と他者に真正面から向き合わなければ、いつか必ず、失うことになるであるぞ。双方をな。
これでも経験者である、おそらくであるが。

オレたちを見ろ。『ただの人間』でないからこそのオレたちを。
僅かならオレを外して見せてもよい。内密にな。


箒星・仄々
マサオさんも夢子さんも
囚われの影朧さんも
皆、可愛そうです
お救いしたいです

夢子さんが
六連星ヒカルを好いてしまうのではないかと
ご心配だったのでは?

もしそうなったら
嘗ての夢子さんの微笑みが偽りだったことに
なってしまいますものね
さぞ苦しかったでしょう

もう終わりにしましょう
マサオさん

偽りで得ているモノは
貴男を苦しめているだけです

竪琴を奏で世界へ働きかけて
内装を3魔力へ変換

その炎の輝きが月影を消し
風が呼びかけを吹き消し
水の帳を下ろし無意識をあるべき場所へ

そのまま魔力の渦で
烏啼さんを海へ還します

終幕
全て終われば
食器もシャンデリアも元通り
マサオさんも、ですね
お帰りなさい

転生を果たせなかった影朧さんへ
鎮魂の調べ



 食い千切られた左腕は、血を流すことなく黒い袖ごと喪われている。それでも影朧の口元は、変わらぬ笑みが浮かんでいる。流血の代わりとでもいうように、真っ赤な月影は徐々に桜色のグラデーションを創りだしていた。
 ふーむ、と。そこまで困っていなさそうな声色で呟いた葛籠雄・九雀が赤と桜の夜さりを見渡す。ヒカルと夢子以外の一般人は店内の隅に逃げ込んでいる。テーブルや椅子が多少邪魔ではあるが、動けないほどではない。問題は、青白い顔をしているヒカルと、その想い人の身の安全だけ。
 箒星・仄々は、この場に居る彼らがかわいそうだと思った。ラムプを手放せぬマサオも、真実を知らぬ夢子も、ラムプという檻に囚われの影朧も。ただ、かわいそうだと思って、救いたいと心から思った。
「あなたは、夢子さんが六連星ヒカルを好いてしまうのではないかと、ご心配だったのでは?」
 名を呼ぶことなくケットシーがそう呟けば、びくりと肩を震わせたヒカルに、夢子はますます不思議な顔をする。それでも、その表情には何かに気付いてしまった素振りがあった。
「もしそうなったら、嘗ての夢子さんの微笑みが偽りだったことになってしまいますものね」
 さぞ苦しかったでしょう、と優しく呼びかける仄々を振り払うように、ヒカルはやめてくれと声をあげる。その背に手を伸ばして、夢子がおずおずと彼の偽りの名を呼ぶ。
「ヒカルさん、あなたは」
「違う、違うんだ、やめてくれ、やめろ……ッ!!」
 持ち主の悲鳴じみた叫びに呼応して、影朧の照らした深緋の月がシャンデリアを赤く染める。瞬時に黒衣の女は夢子へと近寄って、その手を伸ばす。
「夢子さん!」
 ヒカルがはっとした顔で彼女へと手を伸ばすも、届かない。頭が真っ白になった次の瞬間、影朧には無数の針が突き刺さっていた。身を捻って苦しむ女と夢子の間、仮面をかぶったひょろりとした長身が、夢子を背に庇うように立っている。胸元に咲いたキンセンカの彩は長身の髪色によく似ていて、鮮やかなそれは確かに仮面の心を侵食していく。けれどその程度、夢子が傷つくことに比べればなんてことはない。
「怪我はないか、夢子ちゃん」
「は、はい……でも、あなたは大丈夫ですか?」
「うむ、平気である。心配するな――と言っても、するであろうな」
 そう応えて、九雀は夢子を背にしたままヒカルへと向き直る。
「ヒカルちゃん、オレは後ろ指さされるということがどれほど他者を傷つけるものか“よぅく”知っておる。故にオレは、“そう生まれた”だけの貴様は絶対に否定せん」
 だが、だからこそ。
「自分と他者に真正面から向き合わなければ、いつか必ず、失うことになるであるぞ。双方をな。これでも経験者である」
 おそらくであるが、と付け足した言葉だけれど、確信があった。うすぼんやりとした傷めいたものが、ずっと心の奥底で癒えずに這いつくばっている。今だって、誰のものかわからぬ死の衝動が花弁と共に蠢いている。
 九雀は自律しない腕を動かす。褐色の膚が仮面を掴んで、それはほんの僅かの間。
「――オレたちを見ろ。“ただの人間”でないからこそのオレたちを」
 仮面の下、自律せぬ肉体のソレを少しだけ見たヒカルの目が大きく開く。心の天秤が、確かに揺れ動いているから。
「もう終わりにしましょう、マサオさん」
 仄々が、穏やかに彼の本当の名前を呼んだ。あぁ、とクイズで正解を言われたような夢子と、美しい顔をひどく歪めて涙を溢したヒカルに胸が痛む。それでもここでやめてしまうのは、もっと彼が痛いから。
「偽りで得ているモノは、貴男を苦しめているだけです」
 子猫のおさない胸に忍び寄る甘やかな秘密への誘惑が、少しも届かない訳ではなかったけれど、誰かの役に立つための力なら、隠したくなんてなくて。
 ぴんと尖った爪が奏でる竪琴の音色は、紅桜の夜へと働きかける。炎の輝きは月影をそうっと消して、風の囁きは仮面と子猫への呼びかけを吹き飛ばす。水の帳が静かに下りれば、澱みになりかけた無意識をあるべき場所へ。
 たん、と跳躍した長身が放った針が影朧の足を地に縫い留める。先程までの穏やかな魔力はごうごうと渦巻いて、女をいつかの海へ還すために鳴いた。
「ただの人間で在るように見せかける――貴様のそれが優しさなどではないことは、オレにもわかる」
 長身の胸に咲いたキンセンカが、散り失せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【赫月】◎
夜雀の元へ

…お前の想いは真っ直ぐだとは思う
自分だけを見て欲しい
近付きたい
故に禁断の力を借りた
でも彼女が見ているのは所詮、仮初のお前だ
それで本当にイイのか?
今の関係を崩すのは怖ェだろうが、
俺はお前なら…総てを曝け出しても悪いようにはならねェと思う

(祝も好みや仕草などを人から模した悪霊
だから、重ねてるのか)

祝にしか紡げない言葉に暫く黙して様子を見守る

…優しい嘘は、皆を救うコトもあれど
残酷にも更に心に傷を残す時もある
嘘を重ねて隠す程、きっと互いに辛くなる
もうラムプは使うな
お前と、彼女のこれからの為にも

ラムプを渡す様に言う
玄夜叉で敵と霊体達へUC使用
猛毒効果付与

後は二人の問題だ
邪魔はさせねェ


葬・祝
【赫月】◎

別に、外見を好きに変えるのは良いと思うんですけどねぇ
化粧をするのと大差ありませんよ
私のような不定形の妖が、人真似をして化けるのとも変わりません

くふふ、全て正直に曝け出せ、なぁんて私は言いませんがね
どうしても見せたくないものも、見せて受け入れられぬことも、良くあるものです
でも、君、それを安全に制御出来ないでしょう?
制御出来ない力は、災いでしかありません
災いは取り除かれなければならない
……君のその災いで、愛すべき者を傷付けてしまった時、殺してしまった時
君はそれを償えますか?それに耐えられますか?
君の大切なものは、彼女?それとも、自分?

UCで敵を拘束
あとはクロウにお任せしますね



 音もなく羽搏く蝙蝠に連れてこられた二人は、それぞれが対照的な表情をしている。杜鬼・クロウは少しばかり眉をひそめて、ラムプを手に涙でくしゃくしゃの顔をしたヒカルと、腕を失くした影朧を見比べる。黒衣の女がそれまでずっと浮かべていた微笑は、ぼんやりと崩れていて。
 ――大丈夫だ。だってまだ、彼は引き返せる。だから男は愚かな青年に言葉を投げかけた。
「……お前の想いは真っ直ぐだとは思う。自分だけを見て欲しい、近付きたい、故に禁断の力を借りた。でも彼女が見ているのは所詮、仮初のお前だ。それで本当にイイのか?」
 夢子に全てを知られてしまった彼に残った寄る辺は、決してそのラムプではないはずだから。
「今の関係を崩すのは怖ェだろうが、俺はお前なら……総てを曝け出しても悪いようにはならねェと思う」
「あなたに、なにがわかるんだ。僕の、僕のどうしようもない人生の、なにが、」
 恵まれた体格に端正な顔を持ったヤドリガミの言葉に、青年は悔しそうに呻いた。途端、影朧が残った腕で抱く硝子瓶が薄紅に染まった。シャンデリアよりも輝く月影は桜に色づき、ふわりと甘やかな夜を生みだし続ける。
「ずっとずうっと隠しましょう。忘れてしまいましょう、あなたの秘密を」
 女の囁きに囚われるように、ヒカルの全身が桜色に包まれる。やわらかく無意識に呼びかける誘いは、猟兵達は勿論、何よりもヒカルの心を責め立てる。ち、と舌打ちしたクロウが魔剣を振るうよりも先に、ぽつりと幼い声があがる。
「別に、外見を好きに変えるのは良いと思うんですけどねぇ」
 それまで黙っていた葬・祝が小首を傾げて微笑む姿に、ヒカルの恨めしげな視線が向く。
「化粧をするのと大差ありませんよ。私のような不定形の妖が、人真似をして化けるのとも変わりません」
 いきなりなにを、と制止しかけて、クロウは口を閉じる。祝という存在も、好みや仕草を人から模した悪霊であったから。
(「だから、重ねてるのか」)
 彼にしか紡げない言葉があるならと、男は影朧へと魔剣を構えたまま様子を見守る。くふふ、と、いたいけなのにどこか妖しい笑みを零して、祝は銀の瞳をゆるく細める。
「全て正直に曝け出せ、なぁんて私は言いませんがね。どうしても見せたくないものも、見せて受け入れられぬことも、良くあるものです」
 涼やかな声色が青年を肯定する言葉を紡いで、でも、と続けた。
「君、それを安全に制御出来ないでしょう? 制御出来ない力は、災いでしかありません。――災いは、取り除かれなければならない」
 そう告げた悪霊の眼差しがヒカルを見つめると、青年の肩がびくりと跳ねる。
「……君のその災いで、愛すべき者を傷付けてしまった時、殺してしまった時、」
 君はそれを償えますか? それに耐えられますか?
 祝に淡々と問われ、ああ、と声を洩らしたヒカルの脳裏には、先程起きた事故がよぎる。猟兵が居なければ、夢子は影朧の犠牲になっていたかもしれない。
「君の大切なものは、彼女? それとも、自分?」
「夢子、さん、」
「ヒカルさん……ッ」
 涙を流したヒカルに駆け寄ろうとした夢子より早く、黒衣の女がヒカルに寄り添うから。祝がしろい指先から散らした無数の呪符が、聴こえぬ鳴子の音を響かせれば、見えぬ呪詛が影朧を縛る。あとはお任せしますね、とクロウに微笑を送って、もう一層拘束を強める。
 優しい嘘は、皆を救うコトもあれど、残酷にも更に心に傷を残す時もある。
「嘘を重ねて隠す程、きっと互いに辛くなるんだ」
 クロウの身の丈ほどある漆黒の大魔剣は、白のクロスと豪華な食事に彩られたテーブルの群れをなんなくすり抜けていく。男の手慣れた剣捌きは、あらゆる戦場であろうと剣の不利にはならない。
「もうラムプは使うな。お前と、彼女のこれからの為にも」
 夜叉の名を持つ剣が振るわれて、桜色の世界に沈丁花の花弁が広がる。一閃と共にふわりと漂う甘い香りは、黒いドレスの細い身体を猛毒で蝕む。
「これ以上は二人の問題だ。お前にゃ邪魔はさせねェ」
 優しいですねぇ、と。厳しい顔で影朧を睨むクロウとは反対に、悪霊はわらう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニールニャス・ヒサハル
アドリブ歓迎

オメーは本当に全部知ってて、そいつに頼ったにょか

ヒカル、普通って何にゃ
二足猫の俺様から見りゃ、どんな成りでもオメーは人間
楽しかったか、オメーの思う普通ごっこ
息し易かったか、その空気
そのままの明日が来るって信じて、ゆっくり寝れたか?

この手、小さくて頼りにゃさそうか?
でも俺様一回握った手は離さねえから、来い
その井戸から飛べ。俺様の船に乗ってみろ

ビビにゃよ、なんたって――俺様の船は幽霊商船団だからにゃぁ!!

飃風の天候操作で風を起こし航海術で捌く
ユーレーはこいつらだけで十分!
ラッパを吹け!弾込めろ!爪を出せ!
色柄違えど、我ら三毛猫!
今だけ海賊…にゃからヒカル、そのラムプは俺様が貰い受ける!


ラファエラ・エヴァンジェリスタ
醜い者の嘆きなど知らぬ
我が身も我が騎士も美しいゆえに
…解るなどと言う方がおかしいだろう?

UCで騎士を召喚し、影朧に差し向け
「茨の抱擁」とオーラ防御を展開し彼を援護する

敢えてこう呼ぶが…蛙男よ
貴公の元の姿は醜いそうだな
その姿を蔑まなかった夢子に惚れたのだろう?
美しい姿となった今、どうだ
彼女の態度は変わったか?
別段浮かれているようには見えぬなぁ…なぁ、夢子?
夢子がここにいるのは蛙男、貴公が誘った
唯それだけの理由だろう?
それは姿ではなくその行動によるものだ

蛙男よ
貴公のファンは貴公の魅力をその心根と申したよ
本当に見た目が全てと思うかね?この場の見目好い猟兵の誰かが夢子を誘ったとして…
靡かぬだろう?夢子



 持ち主と離された影朧が、ふわりと宙に浮かぶ。未だ桜色に染まった月影と共にヒカルを見下ろして、赤い唇を動かす。
「あなたは隠していいの、忘れてしまえばいいの」
 だってそれが、あなたにとって一番良いことだから。
 薄紅の夜闇が何重にも覆われていく戦場を、駆け抜ける者が居た。強く清らかなひかりが飛んで、剣が影朧を切り裂かんと冴える。躱した黒衣の女が捉えた先、白銀の鎧に身を包む騎士が次の連撃へと繋げようとしていた。
 喪に服すラファエラ・エヴァンジェリスタの姿は、影朧とよく似ていたかもしれない。けれど纏う雰囲気は、影朧よりも冷たく淡としていて。
 少女は醜い者の嘆きなど知らない。彼女自身も、かの騎士も美しいのだから。
「……解るなどと言う方がおかしいだろう?」
 ラファエラの影から伸びる黒茨は、風を切る音と共に影朧めがけて奔る。茨が鞭のごとくしなると同時、無口な騎士の亡霊が剣で斬りかかると、黒衣の女は硝子瓶をひと撫で。生み出された形のない霊体が、苛烈な攻撃の群れをすばやく防ぐ。
 話をするなら今だろう、言葉にせずとも姫は三毛猫にそう促して。隠された眼差しから意図を読み取ったニールニャス・ヒサハルが、ヒカルの傍にあったテーブルに飛び乗る。
「オメーは本当に全部知ってて、そいつに頼ったにょか」
 憔悴しきった表情のヒカルがニールニャスを見る。街で出会った喋る猫だと気付いて、君は、と自然と口が動いた。
「ヒカル、普通って何にゃ。二足猫の俺様から見りゃ、どんな成りでもオメーは人間」
 やわらかで少し硬い肉球が、白いテーブルクロスを踏みつけた。金の眼は、どこか寂しそうにも輝いている。
「楽しかったか、オメーの思う普通ごっこ。息し易かったか、その空気」
 ――そのままの明日が来るって信じて、ゆっくり寝れたか?
 三毛猫の問いに青年の顔が歪む。それだけで、ニールニャスにも彼の気持ちを知ることが出来た。ことといを邪魔するように、再び淡桜の月影が重なり始めるのを鋭い一閃が裂く。赤薔薇の紋様めいたオーラは霊体を弾き飛ばして、しなる茨は騎士を援護し続ける。
「我が騎士との輪舞は不満かね? もう暫く踊れ、そう容易くは折れぬよ」
 影朧に言い捨てて、ラファエラもヒカルへと語りかける。
「敢えてこう呼ぶが……蛙男よ、貴公の元の姿は醜いそうだな」
 歯に衣着せぬ物言いに、青年は口ごもる。その瞳は貴人への怯えに満ちていたけれど、姫は気にも留めず言葉を続けた。
「だが、その姿を蔑まなかった夢子に惚れたのだろう?」
 全てが明るみになったのだ。どこか諦めたように、ヒカルは頷く。姫も、ふむ、と頷いて。
「美しい姿となった今、どうだ。彼女の態度は変わったか? 別段、浮かれているようには見えぬなぁ……なぁ、夢子?」
 ふいにラファエラの問いは夢子へと向けられた。再び注目の的を浴びた娘は、胸の前にあった自分の両手をぎゅっと握り直す。それでもしっかりとヒカルを見て、娘は強く頷いた。
「夢子がここにいるのは蛙男、貴公が誘った。唯それだけの理由だろう? それは姿ではなくその行動によるものだ」
 ラファエラの言葉を聞きながら、恋しい人を見つめる青年の様子を窺う。ああ、ならばもう一押し。姫の言葉はよどみない。
「蛙男よ、貴公のファンは貴公の魅力をその心根と申したよ。本当に見た目が全てと思うかね?」
 たとえば、そう。
「この場の見目好い猟兵の誰かが夢子を誘ったとして……靡かぬだろう? 夢子」
「――はい、ちっとも!」
 今までで一番大きな声をあげて、夢子ははっきり告げる。震えて新しい涙を溢した青年に、ニールニャスが手を伸ばす。
「この手、小さくて頼りにゃさそうか? でも俺様一回握った手は離さねえから、来い。その井戸から飛べ。俺様の船に乗ってみろ」
 ふわふわの毛並みに包まれたピンクの肉球へと、よろよろと青年の手が伸びた。もう少し、というところで黒衣の影が二人を分かつために自ら急接近する。けれどそれよりもはやく、三毛猫の手が青年をひっつかんだ。
「ビビんにゃよ、なんたって――俺様の船は幽霊商船団だからにゃぁ!!」
 掴んだ手とは反対に掴んだ指揮棒を振るえば、飃風とは思えぬ風雲の嵐が巻き起こる。現れた海賊船からは、にゃあにゃあと元気な鳴き声が響き渡って、風の恩恵を受けた騎士と共に海賊猫の亡霊達が影朧へと飛びかかる。
 ラッパを吹け! 弾込めろ! 爪を出せ! 色柄違えど、我ら三毛猫!!
「おやまぁ、元気な子猫達じゃないか」
「ユーレーはこいつらとおめぇの強そうな騎士だけで十分!」
 ふふ、と笑みを溢したラファエラが、赤薔薇の防護陣を三毛猫達にも重ねていく。轟々と吹き荒れる嵐が桜色をかき消して、姫の加護を得た猫達の銃撃と爪撃が次々と繰り出される。
「今だけ海賊……にゃからヒカル、そのラムプは俺様が貰い受ける!」
 身軽な動きでニールニャスがラムプを奪い去ったと同時、騎士の剣がいっとう閃く。猫達の大合唱と共に、影朧の胴を真っ二つに断つ。
「さぁ、これでカーテンコールだ」
 姫が閉幕を告げたと同時、亡霊達が役目を終えて静かに主達の元へ戻ったあとには、きらきらとシャンデリアの夜が遺った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 薄桜の月影が消え去って、手にしていたラムプは奪われた。桜の花弁が消えていくと同時に、僕のしろかった手がぼこぼこと膨らんでイボをつくるのが見えた。ぬめる膚に、ああ、と気付く。
 魔法が解けた瞬間だった。零れた言葉だって、ずっと聞きたくなかった懐かしいだみ声で、整えられていた筈の前髪も長く伸びて、湿気を帯びている。
 なによりも、聴こえてくる悲鳴と罵声がその証拠だった。

「ねぇ、さっきのって影朧よね!?」
「六連星ヒカル……あれが正体か、おぞましい」
「騙してたんだ、俺達を!」
「ひぃっこっちを見た! いやよ気持ち悪い、醜いにも程があるわ!!」

 そうだ、これが本当の僕だ。そうだ、それが本当のお前達なんだろう。
 知っていた。そんなのずっと昔から。吹き上がる憎悪と恐怖で背筋が凍って身体が震える。

 ――きみの顔を、見ることが出来ない。


 ヒカルであった青年マサオは、一般人達の奇異の目に晒されている。
 騒がしい店内で、夢子は立ち尽くしたまま。

 この物語の結末は、猟兵達次第。
臥待・夏報
【🌖⭐】
涙なんて流したのは随分久しぶりで
そこに温もりがある安堵と、失わせてしまった後悔が綯交ぜになって
ぐちゃぐちゃの頭の中に、耳障りな群衆の声が、嫌に響いて、

――黙れ
醜いだの!
騙されただの!
さっきからピーチクパーチク煩いな!
文句ばっか垂れやがってお前ら何か痛い思いをしたのかよ

元はと言えばお前らみたいなのが居るからこんな事件が起きてるんだろうが
無責任に他人の容姿や尊厳を消費しておいて、よくもまあ、ぬけぬけと、
お前らが代わりに傷付けばよかったんだ
お前らが――

――かざみ、くん
ごめん……今日は楽しく終わろうって、自分で言ったのにな

布越しに手を繋ぐ
変わらず君は綺麗だけど
綺麗だから、傍に居る訳じゃないよ


風見・ケイ
【🌖⭐】
星になるのはこれで何度目か
まだこの感覚には慣れない
喪失高揚嫌悪達成後悔安堵
己の物かもわからない感情の渦に眩暈がする

『あれが正体か』
『騙してたんだ』

私ではないとわかっているけど
無意識に左足に触れて、脱げた靴に手を伸ばすと
夏報さんの声
君の涙と怒りに触れて、後悔と……少しだけ嬉しくて
なんにも変わっていない自分が嫌になる

そんな君も格好いいと思うけど
もう十分目に焼き付けたから
君が君じゃなくなる前に

――夏報さん
手を貸して欲しいな……まだちょっと慣れなくて
……それなら、このあとデートの続きをしよう

マサオさん
自分にも嘘を吐き続けると
なんにもわからなくなってしまうから
今からでも、貴方の声を聴いてあげて



 獣が喰い散らかした影朧は、もう影も形も遺っていない。けれど風見・ケイの身体には、確かに先程新しく喪った感触が存在している。星になるのはこれで何度目だったろう、まだこの感覚には慣れなくて、でも、一生慣れたくなんかないような。
 喪失高揚嫌悪達成後悔安堵、己の物だと確信できない、誰の物かわからぬ感情の渦に巻き込まれて、慧はくらくらと眩暈に晒される。
「あれが正体か、おぞましい」
「騙してたんだ、俺達を!」
 聴こえる罵倒と蔑みが彼女に対する物ではないとわかっていても、しろいままの左手は、無意識に硬くなった左足に触れていた。静かにこみ上げる吐き気と寒気は、大人だから耐えられる。おとなだから、たえられる。
 そう思考を働かせて、脱げた靴に手を伸ばす。魔法の解けたマサオをふたいろが見つめたけれど、彼に掛けてやれる言葉が見つからなくて、次第に眩暈は強くなっていく。まずい、と思った矢先、
「――黙れ」
 女学生姿の女が、彼女にしてはひどく低い音色で唸る。途端、それまで喋っていた客達が一瞬静まり返る。その声に気付かなかったらしい中年の男が、不思議そうに周囲を見渡す。
「なんだ、今誰か」
「醜いだの! 騙されただの! さっきからピーチクパーチク煩いな! 文句ばっか垂れやがってお前ら何か痛い思いをしたのかよ!?」
 堰を切ったように溢れだす言葉には、群衆達への生理的嫌悪ばかりが詰まっている。臥待・夏報の瞳の奥は熱が遺っていて、目の下は少しばかりひりひりとしている。涙なんて流したのは随分久しぶりだから、そこにやわい温もりがある安堵と、友達に喪わせてしまった後悔がないまぜになってなんだか痛い。ぐちゃぐちゃになった頭の中に、耳障りな群衆の声が、いやに鮮明に鋭利に響くものだから。
 縮こまる青年の姿なんてどうでもよくて、彼のせいで彼女はまたひとつ失くしてしまって、だけど。
「元はと言えばお前らみたいなのが居るからこんな事件が起きてるんだろうが! 無責任に他人の容姿や尊厳を消費しておいて、よくもまあ、ぬけぬけと、」
 ぶちまけた感情はずっとめちゃくちゃにまっすぐで、大人のふりをしていた少女は怒りを撒き散らす。
 夏報の涙と怒りに触れて、ああ、と慧は心の中で息をつく。悲しませてしまった後悔と――少しだけ、嬉しい気持ちがぽつりと灯った。君は私のためにこんなにも怒ってくれるのに、なんにも変わっていない自分が嫌になる。
「お前らが代わりに傷付けばよかったんだ、お前らが――」
 そんな君も格好いいと思うけど、もう十分焼きつけたから。君が、君じゃなくなる前に。
「――夏報さん」
「かざみ、くん」
 穏やかに呼びかけられて、夏報ははっと振り返る。そこにはいつもよりほんの少し、弱い笑顔の慧が居て、右手を夏報に差し出している。
「手を貸して欲しいな……まだちょっと慣れなくて」
「ごめん……今日は楽しく終わろうって、自分で言ったのにな」
 それなら、このあとデートの続きをしよう。そう、今度はくすりといつも通り笑んでみせた慧の右手を、布越しに夏報の左手が繋ぐ。風見くん、とちいさく名を呼ぶ。
「変わらず君は綺麗だけど――綺麗だから、傍に居る訳じゃないよ」
 うん、と頷いて、慧は今度こそ探偵の顔で青年を見る。マサオさん、と呼ばれた彼が、びくりと身体を震わせた。
「自分に嘘を吐き続けると、なんにもわからなくなってしまうから。今からでも、貴方の声を聴いてあげて」
 静まり返った店内に、慧の言葉だけがマサオに響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ
醜い?
…貴公らには、そう見える?
愛する女の前で己の弱さ醜ささえも認めてみせたこの男は…顔はさておき性根はなかなかだ
冷めた目で見遣りながらUCを使用し、野次馬たちを黙らせたい

マサオ
それが貴公の名であったか
して、貴公は、どうしたい?

たとえ真に見目好い者であろうとも、襤褸を纏って意中の相手を口説くのはさぞ勇気が要るだろう
例えば、理想の姿をなくした今の貴公はその気持ちやもしれぬ
…が、先の夢子の返事を聞かずにいたわけでもなかろう?

夢子、彼をどう思う
斯様に初心で純真で、こうも泣き虫の男など、私は願い下げだが…貴公は?

蛙男…否、マサオ
貴公の健勝を祈っているよ
貴公が選んだ女にまともに見る目があることも



 一度は静かになった店内も、再びささやきが波となってマサオに降りかかる。
「何よ……結局あれは醜いだけじゃない」
「そうよ、不気味だわ」
「醜い? ……貴公らには、そう見える?」
 ひそひそと不躾な視線で青年を痛めつける婦人達に答えるように、女王の声があがる。ラファエラ・エヴァンジェリスタの隠された眼差しはひどく冷えきって、野次馬の群れの背筋を凍りつかせた。
「愛する女の前で、己の弱さ醜ささえも認めてみせたこの男は……顔はさておき、性根はなかなかだ」
 それが貴公らにはわからないのだね、と。どこか納得したような声色で紡げば、ささやきの波が止まる。喪服の少女は靴音を鳴らしてマサオへと近付くと、さて、と口を開く。
「マサオ、それが貴公の名であったか。――して、貴公は、どうしたい?」
「……どうって、」
 か細く聞き取り辛いだみ声が、ようやっと音に成る。こちらを見ない青年の態度に怒ることもなく、ラファエラは淡々と言葉を紡ぐ。
「たとえ真に見目好い者であろうとも、襤褸を纏って意中の相手を口説くのはさぞ勇気が要るだろう。例えば、理想の姿をなくした今の貴公はその気持ちやもしれぬ」
 マサオの自身を抱きしめる腕の力が強くなる。服から覗く手の甲がイボだらけで、じっとりと濡れているのが少女にも見える。けれど、それがどうしたというのか。
「……が、先の夢子の返事を聞かずにいたわけでもなかろう?」
 それまで床を見つめていた青年の視線が、わずかに娘の居る方角へと動いた。すかさずラファエラは夢子の名を呼ぶ。
「貴公、彼をどう思う。斯様に初心で純真で、こうも泣き虫の男など、私は願い下げだが……貴公は?」
 問われた娘は、あ、とちいさく声をあげて。私は、と続きを口にしようとしたところで、あえて姫君は自身の唇に人差し指をあてる。それ以上は、彼が自ら訊くべきだから。
「蛙男……否、マサオ」
 どこか不遜な物言いは淡々と、しかし群衆に対する冷ややかさは何処にもない。
「貴公の健勝を祈っているよ。貴公が選んだ女に、まともに見る目があることも」
 青年の瞳が、初めてラファエラの見えない貌を視た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【赫月】◎

うるせェぞ(外野の野次に恫喝
どちらが醜いか
非難浴びせてる今のお前らの顔を鏡で視てみるか
こっからは当人達の問題だ
各々思うコトはあるだろうが黙って見てろ

…お前が仮面を被った時点で
いつかこの時は訪れていたと思う
虚飾で自分を偽った結果
誰かに認められても
その幸せは長くは続かねェよ(嘘すら真実に出来ないなら
お前の本当の望みは、何だった?

祝…
(たった一人の傍、…お前もそうだからか
考えて
辿り着いて
今はそう願えるお前が、少し羨ましいよ)

夢子は最初から”お前自身”を見ていたンだと思うぜ
ちゃんと伝えてこい
怖い?馬鹿野郎
心底惚れた女を待たせンなよ
一握りの勇気でいい
本当のお前の口から伝えなきゃ、意味がねェンだ


葬・祝
【赫月】

ざわめきにわざとらしく五月蝿そうに片耳を押さえた
あら、随分と無粋ですこと
私たちに助けられて逃げ惑うだけだった背景端役の方々は、ちょっと黙っててくださいな
たかだか面の皮一枚で、人間って本当に喧しいですねぇ

くふふ、夢を見て、なりたいものになりたかっただけですのに、ねぇ
……見た目も中身も何もかもを変えて、自分ではない何かになってまでただ傍に居たいと願う、なんて、喧しい方々は知らないんでしょうね
でもね、私は君を肯定しましょう、マサオ
だって、好きなんですもの
ただ、たったひとりの傍に居たいだけなんですもの

ねぇ、舞台に上がった王子さま
ちゃんと言いなさいな
君の本当を欲しがってくれた子が、待ってますよ



「あら、随分と無粋ですこと」
 いやらしいざわめきがまだ残っているから、葬・祝はわざとらしく、うるさそうに片耳を抑えてみせる。猟兵達に助けられて逃げ惑うだけの背景端役は、大人しく黙っているべきだ。
「たかだか面の皮一枚で、人間って本当に喧しいですねぇ」
「な、なんだと!? 失敬な……!」
 服の袖で口元に隠していてもわかる、祝の皮肉に満ちた笑みに男達が怒りを露わにする。
「あいつが影朧を呼んで我々を危険に晒して、」
「うるせェぞ」
 低くドスの効いた声と、ふたいろの眼力が一気に男達を黙らせた。杜鬼・クロウには、この群衆達の愚かさがひどく腹立たしい。果たしてどちらが醜いか、青年に非難を浴びせる今の彼らを鏡の前に投げ飛ばしてやりたかった。
「こっからは当人たちの問題だ。各々思うコトはあるだろうが、黙って見てろ」
 そう言い捨てて、クロウはマサオへと視線を向ける。開いた口から出た青年の名は、先程とは打って変わってやわらかく響く。
「……お前が仮面を被った時点で、いつかこの時は訪れていたと思う」
 けれど、確かな事実は淡々と。だって男には、青年自身がずっとわかっていたことだろうと思ったから。
「虚飾で自分を偽った結果誰かに認められても、その幸せは長くは続かねェよ」
 嘘すら真実に出来ぬのならば――なぁ、
「お前の本当の望みは、何だった?」
 クロウの問いに、きゅっと唇を噛みしめ泣きだしそうな青年に、くふふ、と甘い少年の笑い声が届く。
「――夢を見て、なりたいものになりたかっただけですのに、ねぇ」
 見た目も中身も何もかも。全てを変えて、自分ではない何かになってまで、ただ傍に居たいと純粋に、たったひとつを願っただけ。なんて、喧しい愚かな群衆は知らないのだろう。
「でもね、私は君を肯定しましょう、マサオ」
 悪霊は音もなく青年に近付いて、ちいさな背で彼を見上げて微笑む。
「だって、好きなんですもの。ただ、たったひとりの傍に居たいだけなんですもの」
 その想いが間違いだなんて、祝には言えるはずがなかった。つい最近彼が知ったばかりの、ややこしくて面倒で、うつくしい感情と同じだった。紅の秋は、ふわりと胸に宿ったまま。
「祝……」
 ――お前も、そうだからか。
 口にはせずとも連れの言葉に、クロウは彼が考えて辿り着いた願いに気付く。今はそう願える彼が、少しだけ羨ましくて、ふいに桜色がよぎる。それを今は振り払って、青年に明るく声をかけた。
「夢子は最初から“お前自身”を見ていたンだと思うぜ、ちゃんと伝えてこい」
 でも、とか細く返す青年に、怖いのか? とふたいろを瞬いて。
「馬鹿野郎、心底惚れた女を待たせンなよ」
 彼が持つのは一握りの勇気でいい。頼もしい笑みと真心を込めた言葉は、怖がりの青年の心をあたためる。
「本当のお前の口から伝えなきゃ、意味がねェンだ」
「ねぇ、舞台に上がった王子さま」
 呼びかける祝は微笑を絶やさず、小首を傾げると鈴がちりんと鳴った。その音色は、あわくきよらに青年の心を癒す。
「ちゃんと言いなさいな」
 ――君の本当を欲しがってくれた子が、待ってますよ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千束・桜花
偽りの時は終わりました
ココからは真実の時間です!

夢子殿は、ヒカル殿の美声や美貌に貴方の価値を見出していたと思いますか?
聞き込みをしているときに、あなたたちがデェトで使ったレストランやカフェーにもいきました
話を聞かせてくれたボーイさんたちはみんな、ヒカル殿の優しい心を褒めていましたよ
貴方の本当の魅力は、声や顔ではなく、姿が変わっても変わらない胸の中にあるんだと思います

もし申し訳ないと思っているのなら、きちんと向き合ってください
自分の姿にも、夢子殿にも
希望はきっと、その先にありますから



 偽りの時が終わって、ココからは真実の時間。少女の揺るがぬまっすぐな正義感は、冷たい群衆の罵倒と侮蔑に静かな怒りを抱いていたけれど、声をかけるべき相手は彼らではない。
 あたたかなさくらいろを抱いて、千束・桜花は軍靴を鳴らして青年へと近付く。彼女の姿を見た群衆の何人かが、あれは學府のお転婆将校だと囁き合うのを見向きもせずに。
「――ヒカル殿、私はあなたのことを少しだけ知っています」
 それは、ほんの少し。逢魔が時に暮れた愛する帝都の街で、彼女自身がその足で探して知った彼のこと。
「夢子殿は、ヒカル殿の美声や美貌に、貴方の価値を見出していたと思いますか?」
「それ、は……」
 首を傾げて問うてみれば、青年のいまだ自信のない表情が不安げに少女を見つめ返す。重ねられた猟兵達の言葉がまだ足りないなら、私もいくらでも重ねてやる。それが、帝都の人々を守る學徒兵の役目だと、桜花は心から信じている。
「聞き込みをしているときに、あなたたちがデェトで使ったレストランやカフェーにもいきました。話を聞かせてくれたボーイさんたちはみんな、ヒカル殿の優しい心を褒めていましたよ」
 あくまで少女は、魔法の名で青年を呼んでいる。だってその心は、どれだけ姿が変わろうと、決して変わっていなかったから。
「貴方の本当の魅力は、声や顔ではなく、姿が変わっても変わらない胸の中にあるんだと思います」
 はきはきと素直で正直な桜花の言葉は、なんの陰も皮肉もない。少女が彼に抱いたそのままの感情が、怯えた青年の心に沁みていく。再び軍靴が鳴って、さくらいろが青年の前に立って揺れた。
「もし申し訳ないと思っているのなら、きちんと向き合ってください。自分の姿にも、夢子殿にも」
 朗らかな笑顔が、夢子へと視線を促すように綻ぶ。彼の心を救うのも、絶望に隠されてしまった道を案内するのも、學徒兵が忘れてはならない大切な役目。
「希望はきっと、その先にありますから」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニールニャス・ヒサハル
む。外野がうっせーにゃ
仕方にぇえ…俺様が一発、スゲーのかましてやるにゃ
シャーーーッッ

…と、言いてーのは山々にゃけど、

ぎゅとマサオの手を握り返す

大丈夫か、久々だとにゃかにゃか痛てーな、この目
……俺様な、昔はオフクロに捨てられた汚ねー小っちゃい猫だったにゃ
にゃーにゃーしか言えねーから、だーれも助けちゃくれねー汚ねー猫
にゃあ、マサオ。オメーお喋り出来るにゃ?
人に伝える言葉、持ってるにゃ?

にゃったら、言わなきゃならにぇえことがあんだろー
ほれ、ギリギリまで俺様が手ぇ繋いどいてやるから、とっとと勇気だすにゃ
オメーの言葉でオメーの気持ち言わにぇえと、誰も分かりゃしにぇえ

心配すんにゃ
大丈夫にゃから



 はじめの頃よりは随分と静かになったものの、やはりうるさい外野の声に、ニールニャス・ヒサハルは、む、と口をとがらせる。大声で青年を非難する者は居なくなっても、そのささやきは確かに彼を蝕む猛毒だった。
「仕方にぇえ……俺様が一発、スゲーのかましてやるにゃ」
 シャァア、と毛を逆立て威嚇してやろうと思ったが、三毛猫は行動に移さない。二足歩行で駆け寄って、有無を言わさずマサオの手を握る。青年は突然触れたやわらかな毛並みと、すこしばかり硬い肉球の感触に驚いたあと、それが先程繋いだものだったことを思い出す。
 テーブルに乗ったニールニャスの金の眼が、同じ目線で青年を見つめる。
「大丈夫か、久々だとにゃかにゃか痛てーな、この目」
 青年が受けるこの視線の痛みを、三毛猫はようく知っていた。幼い頃のさみしい記憶を取り出して、ぽつぽつと語り始める。
「……俺様な、昔はオフクロに捨てられた汚ねー小っちゃい猫だったにゃ」
「え……」
 にゃあにゃあしか言えないちいさな子猫。だぁれも助けちゃくれないきたない子猫。今ではなんともない、遠いかすかな思い出――と、言いきれるかは、彼自身にしかわからない。
「にゃあ、マサオ。オメーお喋り出来るにゃ? 人に伝える言葉、持ってるにゃ?」
 大きく目を見開いた青年に、にぱ、と笑ったニールニャスの表情からはさみしいものは見えない。青年に伝えられることを、三毛猫は三毛猫なりにわかっている。
「にゃったら、言わなきゃならにぇえことがあんだろー」
 ほれ、と繋いだままの手の力をわずかに強くする。
「ギリギリまで俺様が手ぇ繋いどいてやるから、とっとと勇気だすにゃ」
 う、とちいさく声をもらしたマサオに、まだ足りないかと、外野のささやきを殺すほどの声でわらう。
「オメーの言葉でオメーの気持ち言わにぇえと、誰も分かりゃしにぇえ」
 ぬめる掌に猫の毛がじんわりと張りつく。
「心配すんにゃ、」
 大丈夫にゃから。ふわふわ、三色の毛並みがぬくかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)。
買い物に集中し過ぎたようだ。申し訳ない。

六連星の今までの姿を見られなかったからなんともいえないが…。
私は今の姿でもそれほど醜くもないと思うがな。個人的には。
それはそれとして恋愛感情というヤツはやはりいまいちわからない。
…いや全く理解できない。好意的な感情はなんとか解るが。
故に六連星にどうをかけていいかわからない。
しかし。
私が解ることは夢子がそんなに不快な表情をしていないこと。
なんとなくだが露が私をみる表情と似ているような気さえする。
これは夢子に声をかけて貰った方が効果的かもしれないな。
「…彼を…頼む」
彼女に上手く説明できなかったが通じるだろうか。
こういう時に口下手は困るな。


神坂・露
レーちゃん(f14377)。
えへ♪ちょっと浴衣とか水着選ぶのに時間かけちゃったわ。
店内で他のお客さんが騒いでいるけど…なんでかしら?
確かに結構変わった姿だけどあたしは気にしないわ。

ててて…って六連星さんに近寄って手を取るわね。
あたし達はラムプを壊すことに参加できなかったけど…。
そして【錬成】でムーンストーンを創って渡すわ。
怒りや悲しみなどで情緒が不安定な時に整えてくれるらしいし。
出会いと恋愛を成就するとかってゆー効果もあるみたいだしね。
夢子さんに直接お話しできる勇気が少しでもでますように♪
影朧の力を使ってはいたけどその行動は間違いなく本物よね?
だったら…大丈夫だと思うわ♪ね?ってぎゅって握る。



「まったく、買い物に集中しすぎだ」
「えへ♪ だって全部かわいかったんだもの」
 幼い見目の少女二人が、六連星・ヒカルの居るレストランへと潜入すれば、殆どの大仕事は猟兵達が済ませた後だった。けれど、それにしては店内がどことなく騒がしい。なんでかしら、と小首を傾げた神坂・露の耳に、一人の青年を遠巻きに囲む客の言葉が届く。
「超弩級戦力の猟兵殿がどう言おうが、結局は化け物じゃないか」
「なんて醜い……」
「あんな男に好かれた彼女も可哀想だよ」
 ざわりと嫌な響きをもった声の数々に、シビラ・レーヴェンスは冷ややかな眼差しを向ける。露、と声をかければ、同じく全てを把握した友達は頷いて。
「露は彼を醜いと思うか?」
「そうねぇ。確かに結構変わった姿だけど、あたしは気にしないわ」
 のほほんと返した露が、ててて、と迷わず青年の元へ近寄っていく。三毛猫が繋ぐ手とは逆の空いた手を、少女はそっと取った。ぬめる膚を嫌がる素振りすら見せぬ幼い彼女を、青年は振り払えずにいる。
「君、達は……」
「はじめまして、六連星さん♪」
 ラムプを壊す仕事には参加できなかったけれど、できることはまだある。ぽう、と淡い光がまたたいて、いつのまにか青年の掌には、青白くやわらかな彩の石が乗せられていた。これは、と驚く彼に、露はふわりと笑む。
「ムーンストーンっていうの、気持ちを落ち着かせてくれるわ。それに、出会いと恋愛を成就するとかってゆー効果もあるみたい」
 恋する彼女と直接話せる勇気が、少しでも出ますように。
「だって、影朧の力を使っていたとしても、その行動は本物よね?」
 ふわふわと微笑む露を、シビラは黙って見守っていた。シビラにも、魔法の解けた六連星・ヒカルであった彼の姿は、それほど醜いものではないように思える。さて、それはそれとして、恋愛感情というヤツは、いまいち――いや。
「……全く理解できない」
 好意的な感情はなんとか理解できても、それ以上を少女は知らなかった。だからこそ、青年にかけるべき言葉が解らなくて。ふと、露へと呼びかける客の声がした。
「お、お嬢ちゃん、そんな奴から離れるんだ!」
「まぁ、汚い手で子どもに触れるなんて!」
 けれどそんな言葉には一切耳を貸さず、露は手をとったまま青年に朗らかに話しかけている。ちらりと視線を移してみれば、そこには二人を見つめる夢子が居て。
 ああ、と、シビラは何処か胸にすとんと落ちたものがある。自分に解るのは、夢子がそんなに不快な表情をしていないこと。なんとなく、だけれど。
 ――露が私をみる表情と、似ているような気さえする。
 ちいさな身体は人混みを抜けて、ととと、と夢子へ近寄る。露ができることをしたように、自分も自分にできることをするために。夢子を見上げたシビラを、娘は戸惑うように見つめ返す。
「……彼を……頼む」
 なにひとつ上手に説明できなくて、こういう時に口下手は困る。けれどシビラの不安をかきけすように、夢子は優しく笑みを返した。なんだかそれで、少女は自分の役目は果たせた気がした。
 夢子が親友に微笑むのを見た露は、もう一度ぎゅっと青年の手を握る。
「あたし、あなたなら大丈夫だと思うわ♪」
 ね? と、頷いてみせた表情は、ただ幸福な結末を信じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

いや、最早ここまで来るとオレがやることなどないと思うのであるが…。
結局ヒカルちゃん…否マサオちゃんか。マサオちゃんが行ったことに対して反応を返すのは既にオレたちではなく夢子ちゃんなり周囲の人間なりであるしな。

周囲を騙していたのは事実であるし、マサオちゃんの外見を醜いと感じる者がいるのもどうしようもない事実であるからなぁ。

ただまあ、オレたちが何もせずとも夢子ちゃんの行動は決まっておるのではないか?
正直決まっておらずとも構わぬし…オレはこの、逆様な蛙の王子様の行く末をただ傍観するのみであるよ。
ああ、もし何かしらマサオちゃんに危害を加えようとする者がいるならそれくらいは止めてもよいであるかな。



「いや、最早ここまで来るとオレがやることなどないと思うのであるが……」
 葛籠雄・九雀は実に正直な感想を口にした。結局ヒカル、否、マサオが行ったことに対して反応を返すのは、既に自分達ではなく、夢子なり周囲の人間である。周囲を騙していたのは事実であったし、彼の外見を醜いと感じる者が居るのも、どうしようもない事実。
 とはいえ同僚達は、今も青年に言葉を尽くしている。三毛猫のケットシーはずっと彼の手を握っているし、先程駆けつけてきた幼い少女も笑顔で何事かを話している。それだけでも十分であろうし、そもそも、猟兵達が何もせずとも。
(「夢子ちゃんの行動は決まっておるのではないか?」)
 正直、決まっていなくとも構わない。この仮面はただ、さかさまな蛙の王子様の行く末を観戦するのみ。
「――なによ、それ」
 若い女の声を聞きつけて、すぐさまその方角を見る。群衆の中でわなわなと震えた表情は、憎悪とも苦痛とも言えない感情を抱いているようだった。
「わたしのヒカル様は、幻想だったっていうの。わたしの恋は、あんな化け物に捧げてたっていうの」
 そんなの、そんなのってない。唇がそう動いたのと、つかつかと青年へ近寄ろうとしたのは同時。長身は素早く混雑をくぐりぬけ、女の腕を掴む。
「痛……ッ、何するのよ!!」
「その程度の刃物では、せいぜい切り傷しか付けられぬよ。それに、こうやってあっという間に取り押さえられる」
 女が握っていたカトラリーのナイフを取り上げて、淡々と事実を告げる。そう、マサオが彼女を騙していたのも、彼女が傷ついたのも事実だろう。
「その行動に意味があるかどうかは知らぬが、このまま続けると言うならオレも相応の対応を取る。まぁ、それでも試したいというなら自由であるよ」
 そこまで淡々と言葉にすれば、女は群衆の中で力なく崩れ落ちる。さめざめと涙を流す姿は隠れてしまって、おそらくマサオの視界には映らなかった。
「さて、」
 結末は、もう少しであろうか。白い紋様めいた仮面の瞳が、青年を観ている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉野・嘉月
マサオに戻った時のまわりの態度の変わりように
ギリリと歯を噛み締める。
『醜い』と言うだけで罪があるかのような態度。
ヒカルとなった彼はそれでも決して驕らなかった。焦がれた美しい姿を得てもなおだ。
そうやって醜いと態度を変える人間の心こそが醜い。

マサオ…それでも彼女はヒカルに靡かなかった。
お前が店に来なくなったことの方が彼女は気がかりだった。
きっと君が憧れた娘は君をみていてくれたよ。
いつも同じ席で、珈琲とホットサンドを頼む君のことを…。
俺から言えるのはこれくらいだ。

これからどうするかは君が決めるといい。

アドリブ歓迎



 なんだこれは、と、男は思った。魔法が解けて、六連星・ヒカルがマサオに戻った途端の罵声の嵐は、あまりにも惨かった。その態度の変わりように、吉野・嘉月は思わずギリリ、と歯を噛み締める。
「煌びやかなステージは、全部まやかしだったのね」
「そうやって人々の心を弄んで笑ってたんだろう……芯の腐った男だな!」
「ああ恐ろしい、今夜の夢に出てきたらどうしましょう!」
 ひどい悪意と差別意識に満ちた言葉と視線の群れは、“姿が醜い”と言うだけで罪があるかのよう。彼の犯した罪は篭絡ラムプに魅入られたことであって、対する罰がこれだというのか。
 既にその嫌な声達は、猟兵達が静めたことで薄い色をしているものの、群衆の視線は相変わらず鋭く不躾なものだった。
 今年で四十になる男は、それなりに酸いも甘いも噛み分けてきたつもりでいる。けれど、青年が一身に受けている憎悪を受け流せるほど、大人になんて、これっぽっちもなったつもりはない。
 ――否、そんなものが大人であるものか。
 言葉を重ねて尽くした猟兵達を想う。実年齢はともかくとして、嘉月よりも若い見目の彼らは、まっすぐにマサオに説いていた。そしてヒカルとなった彼自身も、決して驕ることはなかった。此方が想像するよりも焦がれた美しい姿を得ても、なお。
 愚かな群衆を一度だけ睨みつける。そうやって態度を変える人間の心こそが醜いのを、男は知っていた。
「マサオ」
 あわく光る石を握って、三毛猫と手を繋ぐ青年にそっと呼びかける。ぼさついた髪をくしゃりをかきあげて、嘉月は探偵として仕事の締めくくりにとりかかる。
「あれほどヒカルに熱狂していた彼らは、今まさに君を否定しているね。それでも、彼女はヒカルに靡かなかった」
 お前が店に来なくなったことの方が、彼女は気がかりだったんだ。夢子をちらりと見て、大人として言葉を紡ぐ。
「きっと君が憧れた娘は君をみていてくれたよ。いつも同じ席で、珈琲とホットサンドを頼む君のことを……」
 あ、と。青年の唇が震える。もうその時には、マサオの目は間違いなく夢子を見ていたから。探偵はへらりと笑って、軽く手を振る。
「俺から言えるのはこれくらいだ」
 ――これからどうするかは君が決めるといい。


 僕から魔法を取り上げた彼らは、何故だか不思議と僕を傷つけはしなかった。背中をうんと押されるようで、もたつく足が彼女へと向く。
「……夢子さん」
 彼女によく似合う名前を呼べば、はい、と変わらぬ声色が返ってくる。
「……騙していて、本当に、ごめん。僕は、」
 ぽつぽつと零れるのは、やっぱり大嫌いなだみ声で。なんだかもう、泣きだしそうだった。
 こんな弱虫を許してくれなくてもいい。けれど本当は、
「――マサオさん。あのね、」
 君が僕の手をとった。洗い物で少しあかぎれの残る指は細くて、だけどいい匂いがする。

「あなたの低い轟く声が、私はすきだったんですよ」

 魔法を使ってから、一度も見たことがなかった表情。毎回同じ席に座る不気味な常連客に見せてくれる笑顔よりも、もっとあたたかいそれを見て、僕は泣いた。


 猟兵達の計らいで、マサオの罪は軽いものとして扱われた。
 今日も夢子の働くカフェーで、青年は珈琲とホットサンドを頼んでいる。

 ――少しばかり、ぎこちない笑顔をのせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月13日


挿絵イラスト